真美「姉と姉」 (31)


「今日からデュオで活動してもらう」

ある日の朝、プロデューサーの兄ちゃんから突然そう告げられた。
兄ちゃんからしたら事前にちゃんと準備していたのかもしれないけど、私にとっては突然の出来事だった。

「誰と?」

狼狽えながらなんとかそれだけ絞り出す。
私が望む相手ではないと分かっていても、わずかな期待を抱いて聞かずにはいられなかった。


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「千早だ」

けれど兄ちゃんの口から出た言葉は、やっぱり期待通りの名前じゃなかった。
分かっていたけど、それでも私は亜美と。自分の妹と一緒に活動したかった。

「そか、うん、わかった!」

空元気。
そんな返事をして、私はソファーに転がった。


分かってた。
亜美は竜宮小町で活躍して、私はレッスンと小さな仕事を繰り返すだけ。
そんな私と亜美でユニットを組む筈がない。

「千早お姉ちゃん……か」

何となく、一緒に活動していく事になった相手の名前を口に出してみる。

「呼んだかしら?」

意識の外から急に声をかけられソファーから飛び起きた。


「ち、千早お姉ちゃん!」

これから一緒に活動していく相手が目の前に立っている。

「何か用?」

呼ばれたことに対して怪訝な顔を浮かべる千早お姉ちゃん。
意図して呼んだ訳ではないので何か用かと聞かれても言葉に詰まってしまう。
しかし、このまま何も言わないのも気まずいので何か話題を振ろうと頭を捻る。


「あ~、え~っと……」

急な事だからめぼしい話題は思いつかず、手元にある話題といえばデュオの件だけだった。
仕方無しに切り出してみる。

「兄ちゃんから、聞いた?」

「プロデューサーから?」

「うん、真美達デュオを組むんだって」

「そう……」


どうやら知らなかったらしい。
言ってしまって良かったのかと思ったけど、どの道兄ちゃんから聞かされるんだから同じ事か。
当の本人はあまり気にしていない様子だ。

「これからよろしくね、真美」

千早お姉ちゃんはそう言った直後に兄ちゃんに呼ばれて行ってしまった。
デスクへと向かう千早お姉ちゃんの背中を見送りまたソファーに寝転がる。


どうして兄ちゃんは私と千早お姉ちゃんを組ませようと思ったんだろう。
正直、千早お姉ちゃんならはるるんと組むのが一番良いように思う、私よりもよっぽど理解してるのだから。
けど、理由よりも目の前に転がってきたチャンスを無駄にはしたくない。
亜美と一緒に活動できないのはもうしょうがないのだから、今は千早お姉ちゃんと一緒に頑張る事を考えよう。


千早お姉ちゃんと活動を初めて数週間が経った。

「準備はいいか?二人共」

この日はテレビ局で歌番組の収録。
歌に全力な千早お姉ちゃんは見るからに気合が入っていて、見るからに緊張していた。

「はひ!だ、大丈夫でひゅ!」

こんな感じに。
兄ちゃんも困った顔をしている。


「千早、そんなに気負い過ぎなくていいからな?レッスンの通りリラックスして」

「はひ!だ、大丈夫でひゅ!」

緊張を解そうとした兄ちゃんの言葉もあんまり耳に入っていないようだった。

「765プロさん、スタンバイお願いします」

そうこうしている内にとうとう収録開始の時間がやって来てしまった。
兄ちゃんが心配そうに見つめる中、スタジオに入った私達は共演者に挨拶をして自分達の席に座る。
カメリハとリハを終え遂に本番スタート。


色んな出演者が順番にトークと歌を披露していく中、私達の出番がやって来た。
司会者の隣に座って紹介をされる。

「結成間もないデュオだけど、緊張してる?」

「ひへ!し、してません!」

ガチガチに緊張している千早お姉ちゃんは見ていられなかった。

「も~、めちゃ緊張してんじゃん!司会のおっちゃんごめんね~

 こう見えて千早お姉ちゃんシャイなんだ~」


司会と千早お姉ちゃんの会話に割って入る、どうにか話の主導権を私に持ってこれたので千早お姉ちゃんは頷いたり一言二言受け答えするだけで済んだ。

「それじゃあスタンバイお願いしま~す」

会話がそこそこ盛り上がったところで促されてステージの方へ向かう。

「真美」

移動中に千早お姉ちゃんに声を掛けられた。

「ありがとう、助かったわ」

「へ?」


まさかお礼を言われるなんて思いもしなかったから、間の抜けた声が出てしまう。

「私は、話をするのが苦手だから真美がいてくれて助かったわ」

恥ずかしそうに俯きながら千早お姉ちゃんはそう呟いた。
そう言われて悪い気はしないから釣られてこっちまで恥ずかしくなる。

「んっふっふ~。真美達は一緒に活動してんだから助けるのは当たり前じゃ~ん」

照れ隠しに抱きついてみた。
驚いた様子の千早お姉ちゃんだったけど、何故か私の頭を撫でてくれた。


「千早お姉ちゃん?」

「あっ、ごめんなさい。さぁ、行きましょう」

今度は焦ってステージまで駆け出していってしまった。
私も追いかけて、センターバミリの位置まで来るとスタッフさんから指示を受けて収録が始まる。

さっきまでの緊張した様子が嘘みたいな歌声とパフォーマンスを披露している千早お姉ちゃん。
私はそれに着いていくだけで精一杯だった。


「はい、OKです!」

収録は一発OKで周囲の評価も良好で、兄ちゃんからも褒められた。

「お疲れ、千早お姉ちゃん!」

収録が終わり楽屋に戻ってから千早お姉ちゃんに声をかけた。

「お疲れ様、真美」

疲れているのかどことなく声が沈んでいる。
聞いてみると、どうも今日のステージに納得がいっていないという事だった。


「声は震えてしまったし、もう少し出来たはずだと思うとやっぱりね……」

一緒に立っていた私が感じなかった部分で千早お姉ちゃんは不満を感じている。
個人的にはあれだけのパフォーマンスを披露できれば充分な気もするけど、千早お姉ちゃんには物足りないようだった。

「真美も今日は千早お姉ちゃんに着いていくだけで精一杯だった」

私も自分の実力を出し切ったとは言い難い出来だと思っている。
そう言うと千早お姉ちゃんは何か考える素振りを見せてから口を開いた。


「確かに今日の真美の出来はそんなに良くなかったかもしれないわね」

自覚はしていても人から、特に相方から言われるのは堪える。
その言葉に思わず視線が床を捉えた。

「真美ならもっと出来るはず、練習ではちゃんと出来てるんだもの」

叱られると思っていた私は予想もしていなかったその言葉に千早お姉ちゃんの顔を見る。
怒るどころか千早お姉ちゃんは微笑んでいた。
クールで、ともすれば近寄りがたい雰囲気を持っている千早お姉ちゃんの優しい微笑みを見たのは初めてだった。


その日から千早お姉ちゃんは優しくなっていったように思う。
何かと私を気にかけてくれるようになった。

テレビ番組の収録が始まる前には

「真美、そろそろ出番よ。衣装とメイクは大丈夫?」

ライブの前には

「真美、水分補給は小まめにね。動くと沢山汗をかくんだから」

こんな調子だ。
優しくされるのは嬉しいけど、何だか子供扱いされているようで胸がモヤモヤする。


一緒に活動を始めて数ヶ月。
お互いの家に遊びに行ける位に仲良くなった私達だけど、千早お姉ちゃんの私の扱いは変わらなかった。
あんまりにも子ども扱いが過ぎるから、ある日千早お姉ちゃんの家に遊びに行った時に訳を訊ねてみた。

「ねぇ千早お姉ちゃん。何か最近優しくなったよね」

「そうかしら?」

私の問いかけにまるで見当もつかない様子の千早お姉ちゃん。

「なったよ、終わったら絶対頭撫でてくるじゃん」

「嫌だった……?」

「え?いや、そうじゃないけどさ……」


どうにも無自覚らしい。
別に嫌って訳じゃないから撫でられること自体は良いんだけど私としては理由が知りたかった。
理由を尋ねられた千早お姉ちゃんは何かを考えるような素振りを見せた後少しだけその表情を曇らせる。

「私ね」

表情を変えることなく千早お姉ちゃんは喋り始めた。

「弟がいたの」

初耳だった。
驚いて、その後違和感に気づく。


「いた?」

自分の家族を過去の物としている。
それは一体何故なのか。
答えは単純だった。

「亡くなったの。私が8歳の時に」

私は、何も言えなかった。
千早お姉ちゃんの微笑みの裏に、こんなにも重たい過去が隠されていたなんて知らなかったから。

「今、分かったわ。私は……」

言葉に詰まった千早お姉ちゃんは俯いてしまった。
それから少しして




―――――私は真美に、弟を重ねていたのね……。



小さな声で、そう呟いた千早お姉ちゃん。
よく見ると肩が小刻みに震えている。

千早お姉ちゃんはかすかな声でごめんなさいと謝っていた。

「真美は……千早お姉ちゃんの弟にはなれないよ……」

そんな当たり前の事しか言えない自分が嫌になる。
俯いた千早お姉ちゃんを見ている事しかできなくて、それ以外何も言えず、何もできなかった。


「ごめんなさい……私……」

普段と違う弱々しい口調の千早お姉ちゃん。

「間違っているわよね……気持ち悪いわよね……」

普段からは想像もつかない口調に、戸惑う。

「弟は、私を迎えに来て亡くなったの……。私が殺したのよ……」

それは違う。
そう言えたら良かったのに、私の口は動いてくれなかった。


「……こんな話をしてごめんなさい。気分を悪くしてしまったわよね、今日はもう帰った方がいいわ。私は大丈夫だから」

大丈夫と言った千早お姉ちゃんはまるで大丈夫な様には見えず、このまま一人にしたくない。
自分のせいで家族を亡くしたと苛む千早お姉ちゃんを放っておくわけにはいかなかった。
けど、こんな状態の千早お姉ちゃんに対して、私に何ができるだろう?
考えても答えは見つからず、ただ立ち竦む。

千早お姉ちゃんはもうずっと俯いて、自分を責めている。
そんな姿は見たくなかった。
いつもの優しい微笑みが見たい。
気持ち悪くなんてない。
胸に浮かんだ気持ちを言葉にしたくても、喉でつっかえたように出てこなかった。


私はどうすれば良かったのか。
正解なんて分からない、だから私は泣いている千早お姉ちゃんをただ抱きしめることしかできなかった。
そうしていつも千早お姉ちゃんがしてくれるみたいに頭を撫でる。

「真美……」

震える声。
私を見上げる瞳は涙に濡れている。
その顔を見て、やっと想いを言葉にすることが出来た。


「真美は気にしてないよ、辛い話させちゃってごめんね」

「本当に?」

千早お姉ちゃんが弱々しい口調で確認をしてくる。

「本当だよ」

私がそう言うと安心したのか千早お姉ちゃんは涙を袖で拭って微笑んで見せてくれた。

「ねぇ千早お姉ちゃん」

「何かしら?」


腕の中で千早お姉ちゃんの眼が私を捉える。

「真美の方が年下だけど一応さ、真美だってお姉ちゃんなんだよ?

 だから、もっと真美を頼ってくれたっていいんだかんね」

私の言葉に千早お姉ちゃんはふっと微笑んで頷いた。

これで良かったのか分からないけど、千早お姉ちゃんには笑っていて欲しい。
そしたら、私も笑っていられるから。




おわり

終わりです。

真美、誕生日おめでとう!

短めですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

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