スライム「ボク、ムキムキマッチョマン」ムキッ!! (59)

勇者(男)「あ? 何だ、このスライム?」

僧侶(女)「ちょっと普通とは違って……色が黒い、かな?」

魔法使い(女)「賢者、どう思う?」

賢者(男)「何とも……。そもそも喋るスライム自体、私、初めて見ましたからね……」


全員「……だよな」


スライム(マッチョ)「ねえ、ボクを仲間に入れてよ//」キラキラ


魔法使い「……メチャクチャ綺麗な目で見られてるんだけど」

僧侶「どうします? 勇者?」

勇者「いや、そう言われても……何せスライムだし」


全員「……だよな」


スライム「」ブー、ブーッ

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スライム「ボクは普通のスライムじゃないんだよ」

スライム「見てよ、このボディィィ///」ムキムキッ!!


勇者一同「…………」


スライム「毎日プロテイン飲んでるし」キラン

スライム「力の種とタウリン20000ミリグラム配合の最高のボディィィィィ///」ムキムキッ!!!!


勇者一同「…………」


スライム「この鍛え上げられた肉体美を生かして色んな事が出来ると思」


勇者一同「」スタスタ


スライム「ま、待ってよお!!」ウルウル

勇者「いや、だってモンスターじゃん、お前」

スライム「筋肉で差別するのは良くないと思うんだ」

勇者「何の話だよ。そんな筋肉談義してねーよ」

スライム「///」ムキムキッ!!!

魔法使い「アピールの仕方がよくわかんない……。何がしたいの、結局」

スライム「だからボクを仲間に入れてよ//」キラキラ

僧侶「あのね、私たちのパーティーはもう一杯だから……。悪いけど今回はね」

スライム「筋肉なら誰にも負けないよ//」ムキムキッ!!!!

賢者「そもそもそれ、筋肉なんですか?」

スライム「え……?」

賢者「私にはゲル状の黒い固まりにしか見えないんですが……。少なくとも筋肉ではないですよね?」

スライム「?」

スライム「意味がよくわかんないよ??」

賢者「いや、ですから。それ、筋肉ではないですよね?」


スライム「…………」

賢者「…………」


スライム「見てよ、このボディィィィィ//」ムキムキッ!!!

賢者「黙れ、ネバネバ」

勇者「大体、何で仲間になりたいんだよ? お前、モンスターじゃないか」

スライム「だってさ……///」モジモジ

スライム「カッコいいじゃん?/// 勇者とかさ」キラキラ

勇者「気に入った。今日からお前は仲間だ」


魔法使い「はえーよ、おいコラ勇者死ねよ」

僧侶「あの……勇者さん。魔物を連れて歩くのは評判というものがありますし……ね?」

賢者「そもそも戦力にならないでしょう。役立たずをこれ以上養う訳にはいきません。お金だって無限にある訳ではないのですから」


勇者「いや、そう言われてもさ……っていうか、さりげに酷い事言ってない? 約二名ほど」

僧侶「ダメですよ、お二人とも。勇者さんに対して役立たずとかそんな事を言っては」

勇者「何でそこボカしてくれないの、僧侶。そんなはっきり言わなくてもいいじゃん。何気にダメージでかいよ、俺」

賢者「才能にあぐらをかいてふんぞり返ってる人ですから仕方ないですね」

魔法使い「何でも出来る代わりにどれもほとんど役に立たないからね。器用貧乏の見本みたいな」

僧侶「一昔前ならそれでも良かったんですけどね……。今はスペシャリストじゃないとキツい時代ですから……」


勇者「何で俺の弾劾裁判的なものが始まってるの?」

魔法使い「ま、それでもアタシはアンタの事が気に入ってるけどね。色々、便利だし」

賢者「人柄だけはいいですからね。単なるお人好しともとれますが」

僧侶「みんな、それなりに好きなんですよ、勇者さんの事を。だから頑張って下さいね」ニコッ


勇者「励まされてるのに、何だか泣きたくなってきたよ、ありがとう」


スライム「きっとその内いい事あるよ、勇者さん」ニコッ


勇者「お前は黙ってろ」


スライム「」

勇者「まあ、とにかくさ」

賢者「君を仲間にする訳にはいかないんだ」

勇者「いや、流れおかしいよ。仲間にしようよ。何か俺、嘘つきみたいな感じになってるじゃん」

スライム「……えと、あの」オロオロ

魔法使い「お前は魔物でアタシ達は人間だ。後は言わなくてもわかるだろ?」

勇者「いや、いいじゃん。種族の壁なんか越えようよ」

スライム「ど、どっち……?」オロオロ

僧侶「それに、私達はこれからどんどん危険な場所に行くようになるからね。これはあなたの安全の為でもあるのよ」

勇者「いや、俺達といた方がある意味安全な様な気もするけど……」

スライム「あ、あの……」オロオロ

賢者「つまるところ、足手まといはいらない、とそういう事です。この先、あなたを守る余裕なんかなくなってくるでしょうからね」

スライム「ボ、ボクは強いよ!」ムキムキッ!!!!


賢者「そうですか。ならば証明をしてもらえませんか?」

スライム「証明?」

賢者「ええ。あなたが強いという証明を」

スライム「どんな風に?」

賢者「……次に出てきた魔物。それを単独で全滅させる事で」キリッ

スライム「!?」


魔法使い(証明ってよりは……試練?)

僧侶(恐らく、踏み絵も兼ねてますね……。裏切り者となる覚悟を見せろと、そういう事ですか……)

勇者(流石、賢者。えげつないな……)

スライム「わ、わかったよ。次に出てきたモンスターをボクだけで倒すよ。そうしたら仲間にしてくれるんだよね?」

賢者「考えておきましょう。……もしも、本当に倒せたらね」キラン

スライム「ボ、ボクの筋肉はスゴいんだよ! それぐらい出来るよ!」ムキッ!!


勇者「いや、スライム……そこまで無茶しなくてもいいぞ。俺はお前の事を信用す」

賢者「勇者は黙っていて下さい。今回の件は私が判断をつけます」

勇者「いや、でも……可愛そうじゃないか、そんなの」

賢者「勇 者 は 黙 っ て い て 下 さ い」キリッ

勇者「ぐっ……」

魔法使い「勇者……賢者の判断に従いなよ」

僧侶「そうですよ、勇者さん。これまで賢者が間違った判断をした事なんて一回もなかったじゃないですか」

勇者「だ、だけどさ……」チラッ


スライム「大丈夫だよ! ボクの筋肉はスゴいんだから!//」ムキムキッ!!

勇者「いや、そういう問題じゃなくてさ……」

【数分後】


賢者「おや……向こうから来ましたね。魔物が」


トロル「」ノッシノッシ

パペット「」クルクル


魔法使い「うわ……」

僧侶「これはちょっと……」チラッ


スライム「…………」


僧侶「スライム君、悪い事は言わないからやめといたら? 君じゃ絶対に無理だよ、あの魔物二匹を倒すのは」

スライム「ううん! やるんだ!! ボクはやるって決めたんだから!!」


スライム「行くぞっ!! そいやああああっ!!!」ムキムキッ!!!! ムキムキムキムキッ!!!!


勇者一同「!?」

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ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー



【その日の夜。宿屋】


スライム「」グスッ、ヒック

スライム「うっ! うぅっ!!」グシュッ、エグッ



賢者「…………」

魔法使い「…………」

僧侶「…………」

勇者「…………」

【深夜。宿屋のロビー】


勇者「」テクテク……


魔法使い「あ、勇者」


勇者「魔法使い? こんな所でどうしたんだ?」

魔法使い「ちょっとね……。寝れなくて夜酒を。そう言う勇者は?」

勇者「俺も寝れなくてね……。月でも見ながら散歩でもしようかなって……」

魔法使い「似合わない、というかキザだね、その言い方。勇者のくせに生意気。痔にでもなって苦しめばいいのに」

勇者「ひでえなおい。何でそこまで俺が言われなきゃならんのよ、ちくしょう」

魔法使い「まあ、ともかくさ。勇者も一杯どう? 散歩よりは寝つけると思うよ」

勇者「ん……じゃあ一杯だけ。酒はあまり呑まない事にしてるからさ」

魔法使い「相変わらず固いねえ。こんな時間にこんな場所で魔物の襲撃なんかまずないっていうのにさ」

勇者「油断は禁物だよ。俺の親父はそれで死んでるからさ」

魔法使い「はいはい。仕方ないね。じゃ、ちょっとだけ」ニコッ

勇者「ありがとう」

勇者「そういえばさ……」

魔法使い「うん……」

勇者「スライムは……あの後どうだった?」

魔法使い「……泣き疲れたのか、すぐに眠っちゃったよ。寝ている間も僧侶がずっと抱きしめてたから、多分今は一緒に寝ているんじゃないかな」

勇者「そうか……」

魔法使い「うん……」


勇者「…………」

魔法使い「…………」


魔法使い「昼間のあれ……本当にすごかったね」

勇者「ああ……」



あの時。

あの瞬間。


トロルとパペット、この二匹のモンスターは完全に思考停止状態となった。

彼ら二匹は全く動けなかった。

状況が理解出来なかったというのもある。


しかし。

それ以前に。


蛇に睨まれた蛙。

それと全く同じ状態。

圧倒的な恐怖。そして、威圧感。



目の前の一匹の黒いスライム。

それが一瞬にして自分達の倍にも近い大きさに膨れ上がったからだ。



ナンダ、コレハ……?

ナンダヨ! コレハ……!!?


スライムの、ゲル状だった体はいつの間にか固形物のそれへと移り変わっていた。

まるで鋼鉄の様な光沢を放っていた。

その変化は、時間にするとほんの一瞬の間に行われたのだったが、間近で見ていたトロルにはそれがスローモーションの様に映った。


膨れ上がった体がほんのわずか、ゴムまりの様に弾んだ。

そして、その体全体がすぐさま握り拳の形へと変わって眼前へと迫ってきていた。

奇妙な事にもずいぶんと落ち着いた気持ちで、パペットはそれを眺めていた。


そして、他人事の様に思った。



ああ、オレは今日死ぬんだな、と。





そして、その予想は的中した。

魔法使い「……一瞬、だったね、本当に」

勇者「瞬き一つしてる間の出来事だったな……。次に目を開けた時には……」

魔法使い「うん……」


勇者「酷いものだったよ……」

魔法使い「昔さ、よく川で遊んだものじゃない。平べったい石を探してさ」

勇者「…………」

魔法使い「それで水面に向かって水平に投げて、ぴょんぴょんぴょーんって跳ねさせて遊んだでしょ?」

勇者「……ああ」

魔法使い「見てみてー! 私の五回も跳ねたよー! ざーんねん、私のは七回だよー! ってさ」

勇者「…………」

魔法使い「……今日、水平線の彼方まで吹き飛ばされていくトロルとパペットを見て、私はそれを思い出した」

勇者「…………」


勇者「……魔物の墓を立てたのは、俺、今日が初めてだよ」

魔法使い「あれは可哀想だったからね……本当に」

勇者「可哀想……と言えばスライムもか」

魔法使い「そうだね……」


勇者「賢者が珍しく落ち込んでたな。あいつ、一言も喋らなかった」

魔法使い「そりゃあね……」

勇者「順当に考えればわかる事だよな……。スライムは……今日初めて仲間を殺したんだから……」

魔法使い「私達が人間を殺す様なものね……」

勇者「あいつ、今まで戦った事、一回もないって言ってたからな……」

魔法使い「剣を持った無邪気な子供が、人を刺して殺してしまいました……か」

勇者「そんなつもりは多分なかったにせよ、な……」

魔法使い「まあ、それは賢者にも言える事でしょうけどね……」

勇者「想像がつくわけないもんな、あんな力を持っていたなんて……」

魔法使い「賢者も賢者だけど……私達もあれは悪かったわね……。反省してる。止めるべきだった……」

勇者「…………」

勇者「どうすればいいんだろうな……あいつの事」

魔法使い「…………」

勇者「今更ながら俺も反省してるんだ。かかわり合いを持たずに無視するべきだったと思ってる」

魔法使い「後悔、先に立たず……だね」

勇者「耳が痛い……」


魔法使い「どうあれ、それを決めるのはあの子だと思うよ」

魔法使い「今は仲間を殺してしまった怖さやら、罪の意識やら、もしくは自分の力に対しての恐怖だとか……そういったもので頭がオーバーヒートしてるだろうから……」

魔法使い「冷静な判断を下せるかどうかはわからないけど……」

魔法使い「それでも、決めるのはあの子だと思う。少なくとも私達にはないよ」

魔法使い「決定権も、拒否権も」

魔法使い「私達は加害者側だよ……。魔物に人権があるのならの話だけどさ……」

勇者「…………」

勇者「いや、魔法使いの言う通りだと思う。そうするよ。とりあえずあいつの今後が決まるまではここに留まろう」

勇者「明日、賢者にもそう伝えておくよ。賢者もきっと反対はしないだろうし……」

魔法使い「もしするようなら、その時は私も多分僧侶もあの子の味方につくよ。……ま、賢者は反対しないだろうけどね」

勇者「あいつも、根はいいやつだからな。ちょっと融通がきかないけど」

魔法使い「そうだね」クスッ

勇者「それじゃ、俺はもう行くよ。お酒、ご馳走さま」

魔法使い「どういたしまして。さて、私もそろそろ寝ようかなっと」スクッ


勇者「じゃあ、また明日」

魔法使い「うん。また明日」


勇者「」クルッ、スタスタ……


魔法使い「…………」

魔法使い「喋る魔物、か……」ボソッ

魔法使い「今まで……私が殺した中にもいたのかな……」ボソッ


魔法使い「……でも、仕方ないじゃない」ボソッ

魔法使い「あなた達とは……敵なんだから……」ボソッ

魔法使い「種族が……違うんだから……」ボソッ

【女の子用、寝室】


ガチャッ……

魔法使い「」ソーッ……

魔法使い「」トコトコ……



僧侶「」スヤスヤ……

スライム「」クークー……


魔法使い「うん……寝てるね、二人とも」


スライム「っ……」ビクッ

魔法使い「?」


スライム「う……や……助け……!」グシュッ


魔法使い(寝言……? うなされてる?)


スライム「ごめ……ん……なさい……!」ポロポロ……

スライム「許……して……!」ポロポロ……ポロポロ……



魔法使い「…………」

魔法使い「」ソッ

魔法使い「」ナデナデ


スライム「許……して……! た……すけ……て……!」ポロポロ……


魔法使い「……ごめん。私達の方こそ……許して……」ボソッ

魔法使い「ごめん……」ボソッ

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【数年前。スライムの故郷】


スライム「ピキーッ♪ ピキピキ!!」
(訳:お母さん、聞いて聞いて!! ボク、水の四天王様のお城に家来として呼ばれる事になったよ!! 大出世だよ!!)


スライム母「ピピッ!? ビピーッ!!」
(訳:えっ!? ちょっとそれ本当なの!?)


スライム「ビピーッ!! ピピッ! ピッピー!!」
(訳:本当だよ、お母さん! ほら、これ証拠の魔石! 使いの人がくれたんだ!!)


スライム母「ピピッ……! ピーッ!」
(訳:あら……本当じゃないの! ちょっとお父さん、お父さん!! 大事件よ!!)

【出発の日】

『以下、全て翻訳』


スライム母「失礼のないようにね。それと、お城ではちゃんと行儀よくよ」

スライム父「四天王様に立派に仕えてくるんだぞ。どうせ回ってくる仕事といえば雑用ばかりだろうが、それでも我慢しなさい。最初はみんなそんなものなんだ」

スライム「わかってる! ボク、頑張るよ!!//」キラキラ


スライム母「お前が出ていくと淋しくなるねえ……。無理かもしれないけど、たまには家に帰ってきなさいよ」

スライム父「いや、帰らなくていい。一人前になるまでは帰ってくるな」

スライム母「お父さん、もう……やめて下さいよ」

スライム「」クスクス


スライム「それじゃ、行ってくるね! ボク、頑張るよー!」ニコッ


スライム父「ああ、行ってこい」

スライム母「体には気を付けるんだよー!」

【水の四天王の城】


スライム「ここが四天王様のお城かあ……」

スライム「やっぱり広いなあ!// スゴいなあ!//」

スライム「今日からボクもここで働けるんだ!// 楽しみだなあ!//」


ザワザワ……


スライム(に、しても……)キョロキョロ

スライム(ボクの他にもかなり一杯呼ばれたんだね……)

スライム(周り中スライムだらけだから、気を抜いたらくっついて合体しちゃいそうだよ)

スライム(んーっ……ガマンガマンと……)


ザワザワ……


スライムナイト「静かに!」

リップス「水の四天王様がいらしたぞ! 静かに!」

水の四天王「フフフフっ。よく来てくれた、諸君」

水の四天王「お前達を呼んだのは他でもない。これから全員に重大な任務を与える為だ」


ザワザワ……

ニンム? ジュウダイ?


水の四天王「フフフフっ。そうだ。諸君らにはこれから敵のスパイとして、魔王軍の為に役立ってもらおうと考えている」


ザワザワ……

スパイ……


水の四天王「ククククククっ……」

水の四天王「今、魔王軍は少し困った状態になっている」

水の四天王「何故なら、東西南北の国王どもが一斉に同盟を結んで我々魔王軍に対し攻撃を始めたからだ」


水の四天王「もちろん、人間の力など、我々魔族からすれば大した事はない」

水の四天王「しかし、数の暴力と四方からの波状攻撃はなかなかに面倒ではある」

水の四天王「そのせいで、これに足止めを食らっている間に神の加護を受けた勇者なる存在が何百人も生まれてきてしまった」

水の四天王「こいつらは、軍に属さず独自に動く。狙いは魔王軍の壊滅ではなく、魔王様の暗殺にあるからな」

水の四天王「魔王様は神の加護を受けた人間にしか倒される事はない。だからこそ、魔王様はこの勇者達を警戒しておられる」

水の四天王「そこでだ、スライムの諸君」

水の四天王「ここで君らの出番が来たのだ」

水の四天王「諸君ならば、勇者に警戒される事はないだろう」

水の四天王「そして、無闇に襲いかかられもしないはずだ」

水の四天王「だからこそ、油断が生じる」

水の四天王「君達が信用を得て、勇者に取り入れば……」

水の四天王「奴等の動きは全てこちら側に筒抜けとなる。加えて……」

水の四天王「勇者を葬る最大級の罠となる」


水の四天王「クククククっ」

水の四天王「諸君らが勇者に信用を得るまでの筋書きは、もう全て出来ている」

水の四天王「そして、勇者を殺すための算段も、その手段も」


ザワザワ……


水の四天王「お前達は強くなりたくないか?」

水の四天王「勇者を倒した英雄として、世界中からの脚光を浴びたくはないか?」

水の四天王「スライムが弱い……なんていう常識を覆したくはないか?」


水の四天王「私に任せてもらえば、その全ての望みを叶えよう!」


水の四天王「君達は強くなる!」

水の四天王「そして、勇者を倒し国中の英雄となる!」

水の四天王「富も! 地位も! 名誉も! その全てを約束しよう!」

水の四天王「それだけではない! これは全ての魔物を救う大事な任務だ!」

水の四天王「諸君らも、勇者や人間の手から守りたい仲間や家族がいるだろう!!」

水の四天王「種族の為に! 国の為に! 家族の為に!」

水の四天王「そして、自分自身の為に!」

水の四天王「この任務を受けよ! そして成功させよ!」

水の四天王「諸君らの輝かしい未来を私が叶えようではないか!!」

水の四天王「ククククククっ」

ーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー



スライム「そうだよ……! だからボクは……ボクは……!!」

スライム「こんなにも強い体を手に入れたんだ!」ブルブル

スライム「お父さんも、お母さんも最初はびっくりしてたけど、でも……!」

スライム「ボクが強くなったって……! 国の命運に関わる大事な大事な任務についたんだって言ったら喜んでくれたんだ!!」

スライム「笑って、励ましてくれたんだ!! 頑張れって言われたんだ!!」

スライム「だからボクはっ……ボクはっ!!」ガクガク、ブルブル

トロル「……たしかに」

パペット「オマエはそれでいいかもな……」


スライム「」ビクッ!!


トロル「おれたちはどうなんだろうな?」

パペット「スライムが人間達に拐われたから助けてこいって四天王様から命令されて……」

トロル「味方のはずのオマエに殺された」

パペット「オレたちは世界平和の為のほんの一握りの犠牲か?」

トロル「おれたちは殺される為だけに今まで生きてきたのか?」


スライム「た……助け……て……!!」ガクガク、ブルブル

スライム「知らな……かったんだ……ボクは……!!」ガクガク、ブルブル

スライム「そんな事は何も……!」グシュッ



スライム「ごめ……ん……なさい……!」ポロポロ……

スライム「許……して……!」ポロポロ……ポロポロ……



魔法使い「…………」

魔法使い「」ソッ

魔法使い「」ナデナデ


スライム「許……して……! た……すけ……て……!」ポロポロ……


魔法使い「……ごめん。私の方こそ……許して……」ボソッ

魔法使い「ごめん……」ボソッ

翌朝……。

起きると、僧侶さんがボクの事を優しく抱き締めてくれていた。

「ずっとうなされていたみたいだったから……」

彼女はムリヤリな笑顔を見せてそう言った。

ボクはまたむせび泣いた。

不思議と涙が止まらなかった。


何で泣くんだろう。理由なんかわからない。

とにかく、頭の中がくっちゃくちゃで。

悲しいのか、悔しいのか、怖いからか、優しくされたからなのか、まるで何も……。


理由なんかわからなかった。

勇者「よう。お早う」

スライム「」グスッ……

勇者「……うん。悪かった。とりあえずさ、飯を食えよ。どんな時にだって腹は減るんだ」

勇者「俺たちは生きてるんだから……飯を食わなきゃいけないんだ。生きるために」

スライム「」グスッ……


魔法使い「勇者……キザ過ぎ。ウザい」

勇者「あれ、何か酷くね? 俺、いい事言ったつもりなんだけど」

魔法使い「正直、引いた」

勇者「ちょっとちょっと魔法使いさん、もう少し手加減ってものを覚えてくれない? 俺の心、そこまで強くないよ」

僧侶「ほら、スライム君。あの空気読めないお兄さんの言う通りだよ。ご飯は食べよう。生きるためにさ」

勇者「僧侶。俺、何か君に対して悪い事した? 割と本気で悩んでるんだけど」

賢者「気にする事はありませんよ。お二人とも毒舌なのは、勇者への親愛の表れですから」

勇者「お前は適当に言ってるだけだよね? 絶対そうだよね?」

【朝食後】


勇者「でさ……スライム」

スライム「な、何……?」グスッ


勇者「お前はこれからどうする? というか、どうしたい?」

スライム「…………」グスッ


勇者「ま、焦る事はないからじっくり考えてくれて構わないけどな」

勇者「多分……昨日の事で考えが少し変わっただろうからな……」

スライム「……」コクッ……

勇者「うん……」

勇者「俺たちと旅をするって事はさ」

勇者「お前にとっては仲間を殺していく旅だよ」

勇者「辛い言い方かもしれない。でもそれが事実だ」



勇者「それでもいいのか? それでもまだ本当に俺達についてきたいのか?」



スライム「ボ、ボクは…………」グシュッ


勇者「…………」

勇者「俺たちの敵は魔王だ。つまり魔物達だな」

勇者「そこに戦う理由なんか実はないかもしれない。魔物たちが襲ってくるから俺たちは戦う。俺たちが戦うから魔物達は応戦する」

勇者「理由もないし、恨みもないし、回避する方法さえないのかもな」

勇者「そんな下らない殺しあいをやっている訳だ、俺たちは……」


スライム「…………」


勇者「でも、魔王を倒すまでは……」

勇者「違うか……。だからこそ、だな」

勇者「だからこそ、魔王を倒さなきゃならない」

勇者「魔王さえ倒せば、こんな下らない殺しあいはなくなる。平和がくるんだ」

勇者「お前に同情はしてる。でも、その邪魔をするって言うなら俺は多分お前を斬れる」

勇者「そんな人間と無理してまで……それだけ辛い想いをしてまで来る必要なんかないんじゃないか?」

勇者「どこか人里離れた場所で大人しく暮らしていれば、殺したり殺されたりする事だってないはずだ」

勇者「望めばそこまで送ってくよ。それぐらいはする」

勇者「そして、そうじゃなくて、それでもまだ俺達の仲間になりたいって言うなら歓迎もする」

勇者「とにかく、今回の一件はさ……。俺達にとっても君にとっても良い事なんか一つもなかったはずだ」

勇者「だから、君が望む事をしてあげたいんだ」

勇者「君は……どうしたい?」


スライム「…………」グシュッ

結局、ボクは……。

勇者達の仲間になった。


それでも、勇者達と一緒に行きたいとボクが言ったら……。

勇者は優しい笑顔をくれた。


「今日から俺達は仲間だ、よろしくな」


ボクは、喉が詰まって答えられなかった。

僧侶さんがボクをそっと撫でてくれた。

でも、ボクは……!



それでも、魔物だから……!!


引き返せれないって……わかってた。

勇者に……人間の仲間になってボクに幸せなんか来ない。

それに、死んだあのトロルさん達に何て言って詫びればいいの?


このまま勇者の仲間になったら……!

ボクは、仲間殺しの裏切り者でしかないんだ……!

人間たちからも、裏切り者だと心の中では蔑まれるに決まってる……!


だから……!

だから……!!!



ボクの為にも……!

みんなの為にも……!!



ボクはスパイであり続ける……!!


そうでなきゃダメなんだ……!!

勇者「とりあえずさ……スライム」

スライム「……うん」グシュッ

勇者「名前……っていうか、お前にあだ名をつけなきゃな」

スライム「あだ名……?」グスッ


勇者「そう。仲間になったんだ。いつまでもスライムじゃ良くないだろ?」

魔法使い「スライムってのは種族の名前だからね。私達の事を人間、人間って呼んでるようなものだから。それじゃさ、仲良くなれないじゃん?」

スライム「仲良く……」グスッ

僧侶「そう。仲良く」ニコッ


スライム「…………」

賢者「人間というものは、例えそれがうわべだけであろうとも仲良く振る舞う種族なのですよ。……あなた方には理解できないかもしれませんが」

勇者「おい、賢者。そんな言い方はないだろ」

魔法使い「ただまあ、全面的に否定出来ないのが辛いところだよね」

僧侶「心の中でどう思っているかなんて、誰にもわからないですからね」

スライム「…………」


勇者「でもなあ、それでも」

魔法使い「それでも?」

勇者「仲良さそうに振る舞ってればだよ」

僧侶「……ええ。振る舞っていれば?」

勇者「いつかは本当に仲良くなれるんじゃないかって俺は思ってるんだよ」

賢者「…………」

勇者「だって、そうだろ? どれだけ仲良しな人間だって、お互いに仲が悪い様に振る舞ってれば、その内本当に仲が悪くなる気がしないか?」

魔法使い「……まあ、そうだろうね」

勇者「それとおんなじでさ、仲が本当はそんなに良くなくても、ずっと仲良しな感じでいれば自然と仲が良くなるさ」

僧侶「そうだといいんですけどね……」

勇者「そうだよ。そうなるさ、必ず」

賢者「……勇者は単純ですね、相変わらず」

勇者「うっさい!」

魔法使い「ま、それがアンタのいいところだね。悪いところでもあるけどさ」

勇者「何で余計な事を一言付け加えるんだよ」

勇者「とにかく、スライムにあだ名をつけよう」

魔法使い「ま、そうだね。それについてだけは大賛成」

僧侶「あだ名……どうしようね?」ニコッ

スライム「え。あの、ええと……」オロオロ


賢者「スライムなのでスラーイムでどうでしょう?」

勇者「それあだ名か?」

魔法使い「スラキチとかは?」

勇者「何か印象悪くないか、それ?」

僧侶「スラスラは?」

勇者「擬音だよね、もう、完全に」


賢者「では何ならいいと言うのですか」ハァ……

魔法使い「いい加減にしなよ、勇者」

僧侶「突っ込むだけの存在ならあなたは必要ないんですよ」

勇者「何で毎回俺だけアウェーな感じがするの? おかしくない?」

僧侶「それで結局?」

勇者「スラりんでどうかな? 良くない?」

賢者「無難ですね」

魔法使い「悪くはないね。言いやすいし」

勇者「じゃあ、スラりんで決定!」

勇者「改めてよろしくな、スラりん」ニコッ


スラりん「う、うん……」


魔法使い「固い、固い。もっとリラックスしなよ。とって食いやしないよ」

僧侶「そうよ。安心して。スラりん」ニコッ

賢者「さて、あだ名も決まった事ですし、今度は歓迎会の準備でもしますか?」

魔法使い「お、いいねえ、それ♪ 今日一日はどうせこの町で過ごすつもりだったし、丁度いいんじゃない」

僧侶「じゃあ、早速お買い物に♪」

勇者「酒は買いすぎないでくれよ、僧侶。魔法使い、底なしだからさ」

魔法使い「ちぇー。先に釘を刺されたか」

僧侶「ふふっ。わかりました♪」

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