咲「京ちゃん、私達の名前の由来ってさ」 京太郎「うん?」 (66)


・独自解釈、独自設定、キャラ崩壊あり
・短編
・メタ・パロ多め
・こじ付けまくり注意
・京咲

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 ――とある日の午後。

 本のページを捲る音だけがぱらぱらと不規則に響く、そんな須賀京太郎の自室。

 京太郎が自身のベッドに座り壁にもたれながら、雑誌を読んでいた時。


咲「改めて考えると、何だと思う?」


 突然――そう、本当に突然。

 京太郎はそんな事を、隣でベッドに腰掛け、新書サイズの本へ目を落としていた宮永咲に、ぼそりといった風情で尋ねられた。



京太郎「ふむ……親に訊かないと正確にはわからんけど」


 唐突な問い掛けに疑問を覚えなくもなかったが、壁にもたれていた背を離して居住まいを正し、思索を巡らす。

 結果、あまり意味が無い名付けの可能性が十分ありはするものの――両親が出会った場所にちなんで等――無難な解答を選択してみる。


京太郎「まあ、俺の名前なら、字的には広い交友関係をもって、心身共に健康にありますようにって感じだろ」


 『京』――中心を意味し、交友関係の広さ、才能の豊富さ、あるいはそれらを希求する気持ち等を強める名前漢字。

 『太郎』――長男の意味。力強くしっかりした者。心身共に健康の意味。

 故に、至って一般的な見解だろう。



京太郎「咲なら花の様な笑顔とか、花の様に可愛らしくとか、そんな意味合いじゃないか?」


 『咲』――花がさく。笑う。前者に関しては『鳥鳴花咲=鳥なき花わらう』という慣用句から、日本で「さく」の意に転用されたもの。

 これもまた一般的な見解の筈だ。

 名は体(てい)を表すというが、恰も花が綻ぶ様な彼女の笑みを、京太郎は好んでいた。

 正に彼女に相応しい名前だと、京太郎は思う。


咲「京ちゃん、そんなの判ってるよ。ありきたりの意味じゃない方」


 ――だが、しかし。

 わかってないなーと言わんばかりに、咲が「ちっちっち」と、したり顔を向け、人差し指を京太郎に振ってきた。



京太郎「じゃあ、何だ? あと、その仕草と表情は咲に似合ってないぞ、部長ならともかく」

咲「むっ――――何それ? 二人っきりの時に別の女の人の話を、ふつー出す?」


 頬をぷくっと膨らませて、じとっと睨め上げられた。

 地雷を踏んでしまったようだ。

 確かに、デリカシーに欠ける行為ではあった気はする。

 でもちょっと嫉妬深くないかと、思わないでもなかったり。


京太郎「あー、いや、別にそういう訳じゃなくてな――――」



 サーセン――。

 と、心中で部長こと竹井久へ、これから当て馬にする事を謝罪。


 まあ、部長といっても現在は京太郎、久、共に清澄を卒業しているので、部長部員の関係ではなかったりするのだが。

 進学先が別れた片岡優希、原村和、染谷まこと同様に、電話やLINEで連絡をとったりする程度だ。

 地元で会う機会が出来た時、同窓会染みた事をしてみたり、母校の麻雀部へOBOGとして顔を出してみたり、そんな関係である。

 現在、かつての清澄高校麻雀部のメンバーで、須賀京太郎と同じく地元の大学へと進学したのは、宮永咲だけであった。

 宮永咲がプロへ行かなかった理由は、高校二年~三年の間にあった出来事に端を発し――。



 長くなるので――閑話休題(それはさておき)。

 何はともあれ、京太郎は踏んでしまった地雷を除去しようと試みる。

 咲とはそれなりに長い付き合いなのだから、手慣れたものだった。

 まずは、と考え、隣の彼女の両頬をそっと摘み――むにむにと柔らかく解し、軽く引っ張り手を離す。


京太郎「意地悪な部長と違って、咲は名前通り笑ってた方が俺は嬉しいって意味な」


 至極真面目に告げるのがポイントだ。

 続いて、無駄に爽やかに歯を光らせてみたり。



京太郎「――笑顔の方が似合ってるぞ」

咲「きょ、きょうちゃん……」


 ぽっ、と赤らめた頬を手で隠す様に押さえ、いやんいやんと首を左右に振っていらっしゃる。


 そんな咲の様子に、京太郎は『こいつかわいーな、おい』と思いながらも、確信した。

 ――ちょろい、と。


 『計画通りっ』って感じで、黒の騎士団総帥並の邪悪な笑みが溢れそうになり、更に高笑いしたくなるのを、必死に堪えたりもしていた。

 何となく竹井久を彷彿とさせる、小狡いかつ、たらしぽいやり口なのだが、京太郎本人は気付いていなかった。

 彷彿とさせる点に関しては、別世界線及び高校一年の時に、先輩後輩であった事が影響しているのかもしない。



京太郎「ま、話を戻すけど……その名前云々っていうのは、どういう意味だ?」

咲「私達の原作での由来の事だよ」

京太郎「……パードゥン?」


 あまりにメタ過ぎて、思わず訊き返してしまった。

 しかも英語で。


咲「京ちゃん、何でいきなり流暢な英語なの?」

京太郎「いや、特に意味はないから、そこは突っ込まなくてもいいからな」

咲「そうなの?」


 そうなのである。



京太郎「あー、まあ……原作での由来ってのは、具体的に何だ?」

咲「ほら、連載当初はともかく、今は意味がなさそうなキャラ設定関連での名前付けの事」

京太郎「……方向性が変わる事は良くある事なんだから、毒を含ませるのはやめとけ」

咲「えぇー……」

京太郎「何でそんな不満そうなんだ」


 ちょっとキャラ崩壊激し杉内――と、思いつつ溜息を一つ。

 そうして、馬鹿話に付き合うのも一興かと判断し、訊いてみる。

 本題開始という訳である。



京太郎「キャラ設定関連での名前つーと、あれか。俺なら名字関連か」

咲「そうそう、京ちゃんなら――須賀だから良く連想考察されるのが、“須佐之男命(すさのおのみこと)”かな」

京太郎「有名な日本神話の神様だな」

咲「うん、『日本書紀』では“素戔男尊(すさのおのみこと)”、『古事記』なら“建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)”って表記されてるよ」


 ――『須賀』。

 日本の地名や名字。

 由来は幾つかあるが、ここで良く連想・考察されたのは、『古事記』による地名の由来だ。

 “須佐之男命”が出雲国の当地に至り「吾此地に来て、我が御心すがすがし」と言った事から、由来するものであるのは有名な話だろう。

 当然、当地にある須賀神社における主祭神の一柱は“須佐之男命”である。



咲「そして、私は名前と能力から“木花咲耶姫(このはなさくやひめ)”って良く連想考察されてて……」

京太郎「ああ、その神様も知ってるぞ。日本神話の女神様だろ?」

咲「うん、桜の神様でもあり、山の神様でもある女神様。詳しくは省略するけど――――」


 “木花咲耶姫(このはなさくやひめ)”。

 霊峰富士に鎮座するとされる女神。

 浅間神社に祀られている。

 浅間神社の総本山である富士山本宮浅間大社の社伝では、“木花咲耶姫”は水の神でもある。

 ちなみに、大層美人――ってか美神。

 また、“木花咲耶姫”の姉は『甚凶醜(いとみにく)』と表現される程の醜女だ。つまり超絶ブサイクである。神話級のブスなのだ。



咲「こんな感じの神様だね」

京太郎「姉云々は置いとくとして、咲って名前と嶺上開花から考えると、ぴったりに思えるな」


 宮永照はむしろ可愛いだろう――否、断言しておこう、間違いなく可愛い。

 麻雀の時、人を射殺せそうな目をしてるのや、公式で顔芸してたりするのはともかくとして。


京太郎「山の神様で花の神様って事は……名前付けに関連するのは、ほぼ間違いないだろ」

咲「京ちゃん、ちょっと待って」

京太郎「ん……何かあるのか?」

咲「今回は“木花咲耶姫”以外でアプローチしてみようと思うんだ」



京太郎「ふむ、なるほど……でも、該当しそうな神様はいるのか?」

咲「ん、それは後々……順を追わないといけないから、まずは――昔の話だけど、私達が高校一年生の時のチーム虎姫で考えてみて」

京太郎「……照さんを筆頭にって事か」


 白糸台、チーム虎姫。

 宮永照、弘世菫、渋谷尭深、亦野誠子、そして大星淡である。


京太郎「あー、でも俺、そういうのに疎いしなぁ……」

咲「京ちゃんはもうちょっと本を読んだ方がいいと思うよ」

京太郎「……まあ、オススメの本でも教えてくれ」

咲「私も新刊で欲しいのがあるし……後で一緒に買いにいこっか?」

京太郎「だな、そうするか」



咲「うん、約束――それはともかくとして、話を戻すけど、チーム虎姫は星に結び付くと考察される場合が多いんだ」

京太郎「ふむふむ」

咲「良く考察されてるもので、各メンバーを当てはめると――――」


 宮永照――『太陽』。

 弘世菫――『天王星』もしくは『火星』、『月』の可能性も。

 渋谷尭深――『木星』。亦野誠子――『水星』。

 そして、大星淡――『金星』


京太郎「なあ、これってさ、某セーラー服な感じの何かを彷彿と……」

咲「京ちゃん、それ以上は言っちゃ駄目!」

京太郎「コスプレが趣味な人とかこの中にいたりするんだろうか……」



咲「この中で私達に大きく関連するのが、お姉ちゃんと淡ちゃん」

京太郎「照さんは言わずもがなとして、咲と大星さんは大将同士だったもんな」

咲「うん。でね、まず淡ちゃんを、更に日本神話で考えると、“天津甕星(あまつみかぼし)”が関連するって良く考察されるの」

京太郎「お、ペルソナで見た事がある神様だな」

咲「この神様も有名だね、簡単に解説すると――――」


 “天津甕星(あまつみかぼし)”。

 日本神話に登場する星の神。『日本書紀』にのみ登場。

 一説では、“武葉槌命(たけはづちのみこと)”、別名“倭文神(『しず』のかみ)”に征服されたとされる。

 平田篤胤は、神名の『ミカ』を『厳(いか)』の意であるとし、“天津甕星”を金星であるとしている。

 神仏習合の発想では、北極星を神格化した妙見菩薩の化身。

 また、大星淡に関しては考察として、金星等からルシファーとも関連付けられる。



咲「でね、“天津甕星”って神様は、“天津赤星(あまつあかぼし)”って神様と同一神格の存在として語られる事が多いんだ」

京太郎「なるほど、なるほど――って、その神様は俺聞いたことないぞ」

咲「あはは……んー、まあ有名じゃないから仕方ないのかな。簡単に説明すると――――」


 “天津赤星(あまつあかぼし)“。

 “饒速日命(にぎはやひのみこと)”に付き従って天から降りた神の一柱。


京太郎「“饒速日命”? この神様も知らないな」

咲「えっとね――――」



 “饒速日命(にぎはやひのみこと)”。

 『先代旧事本紀』では“天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊(あまてるくにてるひこあまのほあかりくしたまにぎはやひのみこと)”。

 『十種神宝』を天神御祖から授けられたとする。ここでは天神御祖とボカしたが、そうでない文献もある。

 また“天火明命(あめのほあかり)”と同一神とされる。

 『新撰姓氏録』において、両者は別であるとする。

 “天火明命”の別名は“天照御魂神(あまてるみたまのかみ)“。

 太陽の光や熱を神格化した神。


 『十種神宝』。

 鏡2種、剣1種、玉4種、比礼3種となる。

 これを三種の神器に対応させて、鏡は八咫鏡、剣と比礼は草薙剣、玉は八尺瓊勾玉であるとする説もある。



咲「――こんな感じかな」

京太郎「“天照御魂神”……照って入ってる上に、太陽の光や熱を神格化した神って事は……」

咲「京ちゃんの察しの通り、お姉ちゃんは“饒速日命”と“天火明命”も関係してると思う」

京太郎「一緒なチームにいるってのもネックってやつか」

咲「うん。あと、お姉ちゃんの関連としては“天照大神(あまてらすおおみかみ)”」


 “天照大神(あまてらすおおみかみ)”。

 日本神話に登場する三貴子の一柱。

 太陽を神格化した神。

 また太陽神であると同時に、神御衣を織らせ、神田の稲を作り、大嘗祭を行う神である事から、祭祀を行う古代の巫女を反映した神とする説もある。 



京太郎「ああ、超有名だな。まあ、太陽の関係としてはありきたりか……しかし“天照御魂神”と名前が似てるんだな」

咲「ん、その辺りは色々あるんだ。『ホツマツタエ』関連も考慮して総合的に考察が必要だから長くなるし、興味が出たら調べてみるのもいいんじゃないかな」

京太郎「なるほど」

咲「まあ、衣ちゃん、お姉ちゃん、淡ちゃん、神代さんで天照大神となるのは保留しておいて――」

 
 『天』江衣、宮永『照』、『大』星淡、『神』代小蒔。

 原作通りである。


咲「――お姉ちゃんの設定に“天照大神”そのものが含まれても、おかしくないと思うよ」

京太郎「ごちゃごちゃしてきて、びっみょーに頭がこんがらがってきた訳だが」



咲「あはは……えっと、それでここからが私関連の本題!」

京太郎「前置きが長かったなぁ……」

咲「文句言わない――――“天照大神”をお姉ちゃん、もしくは四人全員で見るにしても、清澄からすればライバルポジションになるよね?」

京太郎「ストーリー的には、主人公チームつまり清澄、ひいては咲が天照大神に挑む図式か」

咲「うん、そう――京ちゃん、私の能力とかを考慮して、“天照大神”に匹敵する神格で逆になる神様って何だと思う?」

京太郎「ん、いきなりだな…………匹敵して逆っていうと、すんごい適当な知識だけど“月読(つくよみ)”か?」


 “月読(つくよみ)”

 日本神話に登場する三貴子の一柱。

 月を神格化した夜を統べる神とされるが、異説もある。



咲「三貴子、月を神格化だから匹敵して逆は満たすんだけど、私の特性からしたら、素直に考えると可能性は薄いかなぁ」

京太郎「あー、嶺上開花か」

咲「んー、まあ異説とかと組み合わして、これからの話と総合的に考えれば強ち間違いではないんだけど……他にない?」

京太郎「うーん…………思い浮かばん! ってか、俺の知識じゃ無理ゲーなわけだが」

咲「ん、まあ、そうだよねぇ」

京太郎「なんか微妙に馬鹿にしてないか?」


 つ――と、咲に目を逸らされた。

 こいつ覚えてやがれよ、と胸中で呟きながらも、先を促す。


京太郎「はぁ……で、その“天照大神”に匹敵する神格で逆になる神様ってのはいるのか?」



咲「うん……“瀬織津姫(せおりつひめ)“って神様がいるんだ」

京太郎「これまた、俺は聞いたことない神様だな」

咲「えっと、“瀬織津姫”っていうのは――――」


 “瀬織津姫(せおりつひめ)”。

 『大祓詞』に登場する神。

 『古事記』、『日本書紀』には記されない神名である。

 “天照大神”の『荒魂(すさたま)』“撞榊厳魂天疎向津姫命(つきさかきいつみたまあまさかるむかつひめ)”とされる事も多々ある。

 廣田神社は“天照大神”の荒魂を主祭神としているが、戦前の由緒書きには、“瀬織津姫”を主祭神とすることが明確に記されていた。

 その他に“天照大神”の荒魂としての“瀬織津姫”を祭神とする神社、伊勢神宮内宮第一別宮荒祭宮、等々。


京太郎「『荒魂(すさたま)』?」

咲「うん、『荒魂』。神道における概念で、神様の霊魂が持つ二つの側面の一方の事。もう一方は『和魂(にぎたま)』。詳しくは――――」


 『荒魂(すさたま)』。

 神の荒々しい側面、荒ぶる魂。

 天変地異を引き起こし、病を流行らせ、人の心を荒廃させて争いへ駆り立てる神の働き。

 
 『和魂(にぎたま)』。

 雨や日光の恵みなど、神の優しく平和的な側面。

 神の加護は和魂の表れである。


 『荒魂』と『和魂』は、同一の神であっても別の神に見えるほどの強い個性の表れであり、実際別の神名が与えられる事がある。

 正宮と荒祭宮といったように、別に祀られていたりする。



京太郎「荒ぶる魂って……あー、清澄の魔王ってそういう……」

咲「ま、まおうじゃないもん!」

京太郎「……まあ、冗談は置いとくとして、“天照大神”に匹敵する神格で逆になる神様は満たしたけど、咲の能力とかはどうなるんだ?」

咲「京ちゃん、後で追求するから覚えとくよーに……能力については――――」


 “瀬織津姫”追加情報。

 “祓戸四神”の一柱で災厄抜除の女神。

 また水神として知られるが、瀧の神・河の神でもある。

 小社・松熊神社、同社境内の案内で“瀬織津咲神”と表記され、桜神を彷彿させるものもある。

 事実、山桜を象徴とする山津見神族であり、『ホツマツタエ』等では桜に関連し、また所以地に桜谷が存在する。

 “天照大神”の荒御魂、“撞榊厳魂天疎向津姫命”、“向津姫(むかつひめ)”として、六甲山、旧名向津峰に鎮座する女神でもある。


 また“木花咲耶姫”が浅間大社に祀られるようになったのは、江戸時代とされ、かつては“瀬織津姫”が祀られていた説もある。

 浅間大社の社伝で、“木花咲耶姫”が水の神とされるのは、“瀬織津姫”に取って代わり祀られるようになった為等の推測もあるが、定かではない。



京太郎「“天照大神”に神格的に匹敵して、花と山の神様で更に咲って付くこともあるのか……嶺上開花的にも、なんかそれっぽく見えてきたぞ」

咲「だよね! だよね! “木花咲耶姫”よりも、それっぽいよね!」

京太郎「……何でそんなに嬉しそうなんだ?」

咲「あっ――な、なんでもないから!」

京太郎「そうか? ……しかし、『荒魂』って割には悪い神様に見えないな」

咲「それはここからの話が関係すると思われるんだ……京ちゃん、嶺上開花以外に私を象徴する事がもう一つあると思わない?」

京太郎「もう一個か? うーん……迷子に良くなって本が好きとかか?」

咲「それも間違いではないけど、麻雀の話!」



京太郎「……ああ、もしかして、プラスマイナスゼロか? 普通に勝つより遥かに難しいよな」

咲「正解! それに関しては――――」


 “瀬織津姫”:更に追加情報。

 『中臣祓訓解』等では、“天照大神”の荒御魂を祀る荒祭宮の祭神の別名を、“瀬織津姫”、“八十禍津日神(やそまがつひのかみ)”とする。

 つまり“瀬織津姫”と“八十禍津日神”は同神格とされる。


 “八十禍津日神(やそまがつひのかみ)”。

 『禍津日神(まがつひのかみ)』の一柱。

 神道の神である。災厄の神。もう一柱は“大禍津日神(おおまがつひのかみ)”。

 この事から“瀬織津姫”は災厄抜除の女神でありながら、災厄の神の側面も持つ。



 その他習合については、“瀬織津姫”が、“弁財天”として祀られる例も存在する。

 事実、『六甲比命神社』の主祭神は、“六甲比命大善神”(弁財天)であるが、かつては“向津姫”つまり“瀬織津姫”を祭神とする事が推測できる。

 廣田神社においても、“廣田明神”(弁財天)が甲山、六甲山に出現されたことが記され、関連性が伺える。

 かの有名な役行者は廣田神社社領、六甲山とその付近においても修業を行ったとされる。

 それ故だろう、役行者由来の天河弁財天は「天照大神別体不二之御神」と記され、これは“天照大神”の荒魂つまり“瀬織津姫”と習合している例となる。
 
 また、天武天皇と役行者は、天河では“弁財天”=“吉祥天”としても祀った。

 加えて、宇治の橋姫神社において“瀬織津姫”は“橋姫”と習合されている。



京太郎「あー、“橋姫”って嫉妬で有名な神様で……なんか納得した」

咲「……どういう意味?」

京太郎「いや何でも……あと災厄の神って、やはり魔王か――」

咲「もうっ! 京ちゃんしつこい!」

京太郎「すまん、すまん」


咲「えっと、つまり“瀬織津姫”は禍事・罪・穢れ祓い(プラス)の神様でもあり、禍事・罪・穢れ(マイナス)の神様でもあるって事だね」

京太郎「プラス(祓い)もマイナス(穢れ)も自由自在ってやつか、変な神様だなぁ」

咲「『大祓詞後釈』では深い理由があるって書かれてて、実際かなり複雑な経緯を持つ神様なの」



京太郎「というか、色々結び付きすぎ、こんがらがってきた」

咲「習合まで含めちゃったからね……一応まとめると―――」


 “天照大神”の荒御魂=“瀬織津姫”=“八十禍津日神”。

 “橋姫”=“瀬織津姫”=“弁財天”≒“吉祥天”。


京太郎「お、すっきりしたな」

咲「うん……ここで一旦“瀬織津姫”は置いておいて、京ちゃんに戻るね」

京太郎「“須佐之男命”についてか?」

咲「だね。“須佐之男命”についてなんだけど――」


 “須佐之男命”。

 日本神話に登場する三貴子の一柱。

 “天照大神”の弟。

 八岐大蛇退治の伝説は、あまりに有名であろう。

 平田篤胤によると、『禍津日神』は“須佐之男命”の荒魂であるとされる。


 “須佐之男命”の習合について。

 仏教における祇園精舎の守護神である“牛頭天王(ごずてんのう)”と習合して祀られる。

 また、“牛頭天王”は、蘇民将来説話の“武塔神(むとうのかみ)”と同一視されている。



 “武塔神(むとうのかみ)”。

 北海の神で、嫁取りに南海に訪れたとされ、自ら「吾は速須佐能神(すさのおのかみ)なり」と称した。

 故に“須佐之男命”と同一視される。

 また、道教の神である“托塔李天王(たくとうりてんのう)”と関連付ける説もあり。

 “托塔李天王”とは“毘沙門天(びしゃもんてん)”と唐代の武将李靖が習合した、道教の神である。


京太郎「こっちも、一気に増えたな」

咲「“瀬織津姫”と一緒にまとめると――――」



 “天照大神”の荒御魂=“瀬織津姫”=“八十禍津日神”。

 “橋姫”=“瀬織津姫”=“弁財天”≒“吉祥天”。


 “須佐之男命”=『禍津日神』

 “須佐之男命”=“牛頭天王”=“武塔天神”≒“托塔天王”=“毘沙門天”


京太郎「禍津日神なとこが同じなんだな。別神格と取るなら“須佐之男命”は“大禍津日神”ってとこか」

咲「……京ちゃん、ここで凄く、そう本当にもの凄く重要なポイントがあるの」



京太郎「いきなり、めっちゃ真面目な顔になったな……何なんだ?」

咲「まず――――」


 “八十禍津日神”(瀬織津姫)と“大禍津日神”(須佐之男命)。

 生まれた順序が“八十禍津日神”→“大禍津日神”である為――――姉弟。


 “吉祥天”(瀬織津姫)と“毘沙門天”(須佐之男命)。

 ――――夫婦(または兄妹)。


京太郎「!?」

咲「つまり――京ちゃんと私は、この神格的に姉弟で兄妹で夫婦!」



京太郎「ちょっと属性多すぎない!?」

咲「京ちゃんと龍門渕さんの中の人繋がりでの、属性過多っぷりよしかはマシじゃないかな?」

京太郎「あれはちょっとおかしいから!」

咲「私なんて中の人的にはそうないのに……あっても幼馴染なのに原作で大敗北とか……」

京太郎「ちょっとメタ過ぎるんですが、それは」

咲「何はともあれ、次!」

京太郎「まだあるのか……」

修正と投げてた追加入れながらですね

※訂正

×咲「京ちゃんと龍門渕さんの中の人繋がりでの、属性過多っぷりよしかはマシじゃないかな?」
◯咲「京ちゃんと龍門渕さんの中の人繋がりでの、属性過多っぷりよりかはマシじゃないかな?」



 “須佐之男命”=“牛頭天王”。

 “牛頭天王”は牽牛星であり、牽牛つまり彦星とされる。


 “瀬織津姫”=“弁財天”。

 “弁財天”は織女星であり、織姫である。


 当然――牽牛と織姫は夫婦だ。


 役行者由来の天河弁財天社の七夕祭では、牽牛は“牛頭天王”、織姫は“弁財天”として執り行われる。

 この事から役行者も“瀬織津姫”と“須佐之男命”を結び付けていただろうという事は、推測可能な筈である。


京太郎「ファッ!?」

咲「つまり、こっちでも恋人! 淡ちゃんが織姫役をもらったとしても、私だって京ちゃんにとっての織姫なの!」

京太郎「だからメタな別世界線ネタは危険過ぎるからやめろと」



咲「更に名字ネタだって、私と京ちゃんは繋がりがあるんだから!」

京太郎「えっ、マジ?」

咲「それはね――――」


 東京都文京区根津における、『根津』の地名の由来について。

 根津権現社の祭神は“須佐之男命”。

 これは、かつて日本武尊(やまとたける)が、東征の際に戦勝を祈願して、千駄木の地に根津権現社を創祀したからである。

 そして、日本武尊が千駄木にて“須佐之男命”を祀った際、『ここは国の根、国の津たり』と語った為、「根津」と名付けられたとされる。

 現在は根津に統一されているが、旧町名のうち,根津『宮永』町,根津八重垣町,根津『須賀』町などは“須佐之男命”に由来する。



咲「つまり、宮永と須賀は最終的に一緒に……」

京太郎「こじ付け入ってきてないか?」

咲「私が“須佐之男命”関連の考察を受けるのは、私達が東京へ向かう事と、この地名からだからいいの!」

京太郎「あー、まあ確かに一理ある……のか……?」

咲「この事から、京ちゃんが“須佐之男命”とすると、“須佐之男命”関連とし一緒にいる私は当然“櫛名田比売(くしなだひめ)”だし……」

京太郎「いや、なんで当然なんだ?」

咲「一巻的に嫁さんだから! という訳で――――」



 “須佐之男命”と“櫛名田比売(くしなだひめ)”――夫婦。

 習合神格的に“須佐之男命”と“瀬織津姫”――夫婦。

 つまり、“櫛名田比売”=“瀬織津姫”。


 宮永咲の由来――“瀬織津姫”&“櫛名田比売”

 須賀京太郎の由来――“須佐之男命”


咲「ふぅ……Q.E.D.証明終了……」

京太郎「流石に最後の“櫛名田比売”はこじつけ過ぎだろ……」

咲「だって最後も繋げとけば完璧だもん。姉弟で兄妹で夫婦×3だよ!?」

京太郎「何が完璧なのか意味わかんねえ!」



咲「この理論はきっと間違いない筈なの!」

京太郎「……理由は?」

咲「神咒神威神楽で凶月兄妹が、姉弟で兄妹で恋人で夫婦で、陽伝とか設定から考えると牽牛で織姫なのが全て説明が付くから」

京太郎「全く関係ねえ! しかも考察的にそこから来てるのかよ!」

咲「正田卿理論的に言えば間違いないよ、きっと!」

咲「それに仮に、お姉ちゃんが“天照大神”だとすれば……」

咲「京ちゃんを“須佐之男命”とした場合、姉弟(ただし義理なのには目を瞑る)でぴったり当てはまる事から正しい事は明らか!」





咲・京太郎「「……」」




京太郎「ちなみに何を思っていきなりこんな……」

咲「だって――――私達そろそろ就職だし……同棲してるし…………その………………」

京太郎「あー、なるほど……わかった、咲、皆まで言うな」




咲・京太郎「「……」」




京太郎「今度一緒に、お前の家に正式に挨拶に行くか……」

咲「京ちゃん!」


 一際、艶やかな大輪の花が咲き――。

 ひしっ――と抱きついてくる彼女を受け止めつつ、まあいい区切りだしなとか、京太郎は考えてたりしましたとさ。 



■□■


 そんなわけで、後日。

 須賀京太郎は宮永家で『娘さんを下さい』の儀式をする事になった。

 尚、事前に宮永咲に内緒で、彼女の父親、宮永界に話を通した際――。


「俺一度やってみたかったんだよな。お前に大切な娘はやらん的なアレ……須賀君やっていい?」

「ええ、勿論です――お義父さん、受けて立ちます。俺も喰い下がってみせますよ!」


 といった男二人でのアホなやり取りが、あったとかなかったとか。


 そして、実際の『娘さんを下さい』の儀式の際、盛り上がってテンションが上がった将来の義理の父(宮永界)に、京太郎はガチ殴りされ――――

 界さんに対して、娘二人がガチ切れしたりして、宮永さん家の家庭の事情的に、ややこしい事態になるのだが、それはまあどうでもいい話だろう。



                                                                  ――――槓ッ!

終わり
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