男「思い出消し屋、か」(161)

このssは

男「思い出消し屋……?」

の続編的なものです。
適当にググってくださればまとめが出てくると思いますのでよろしければご一読下さい。


――かん、かん、かん。

 剥げた塗装から錆が覗く屋外階段を登るのは、どうも慣れない。
 幾度と無く錆を踏んではいる。しかし時々、みしり、と嫌な音がする度に、耳の奥から脳に走る怖気を抑えられないのだ。

 それでも俺が登るのは、このビルのある一室に用があるから。
 より正確に言えば――自称、そこに巣食う生物に会いに行くため。

 彼女は自らの事を、ひとでなしだの人外だの化け物だのと言う。
 確かにまあ、人間ではない。となれば人外であり、他に類を見ない特性を持っているので化け物といってもいいだろう。

 大した問題でも無いだろう、と言ったかつての彼女は笑っていた。
 当時の俺は呆気にとられていたが、今なら一緒に笑えるだろう。

――かん、かん、かん、と。

 ビルの三階までたどり着くと、ちいさな影が一つ。
 俺を直ぐに見つけて、にやりと笑みを浮かべる。

少女「おや、男じゃあないか」

 そう、彼女が何かなんてどうでもいい。
 だって、彼女はこんなにも愛おしい。


男「よう、少女。ちょっと相談事があってね」

 言いながら、ゆっくりと歩み寄る。駆け出して抱きしめてもいいのだが、体格の差を考えるとそれは遠慮したい。
 自分より一回りも二回りも大きい男が駆け寄ってきたら、相手が誰であれ怖いだろう。

少女「ほう、相談事か。小卒の私にか。恥を知れ」にやにや

 ……最も、彼女にそんな気遣いは無用かもしれないが、まあ、念のため。

男「思いつく限り、お前しか相談相手がいないんだ。餅は餅屋とも言うし」

少女「……ふむ、まあ話は中で聞こうじゃないか」

男「あと会いたくなったから」

少女「なっ!? ……む、無駄口叩かずさっさと入れ」

 何度見ても、狼狽する彼女の姿は可愛らしい。
 まあ本来は相談に来たのであって、惚気ている場合ではないのだが。

――思い出消し屋――

少女「で、相談って何だ。悪いが誰かを不快にするための相談には乗れないぞ。私がやるから」

男「違うから安心してくれ」

少女「何だ。餅は餅屋だというから期待してしまったじゃあないか」むすっ

男「……どっちだよ」

少女「私はツインテールではないが、ツンデレ系超絶美少女ではあるから後者が本心だな」

男「ああもう、お前と無駄話をしていると面白すぎて本題に入れねぇ」

少女「む、それは申し訳ないやら嬉しいやら。間とって真顔になっておこう」

男「ありがとう。丁度真面目な相談だし」


男「……最近、妹っぽいのの様子がおかしくてな」

少女「まだ『っぽいの』つけてるのか。あいつもいい加減、お前を洗脳してしまえばいいのに」

男「本人がやりたければやるだろう」

男「で、妹っぽいのなんだが、ここ最近いつでもどこでもあの姿なんだ」

少女「着たきりか。同じ服を何枚も持ってるのか」

男「違え。前まで、二人で出かけたりするときは女っぽいのだったりしたんだけど、ここ最近ずっと妹っぽいののままなんだ」

少女「……ふむ、嫉妬しちゃうぞ。丑の刻に藁人形もって出かけるぞ。寝てるからやらないが」

男「他に移す気が無いほどお前に心奪われてるから安心しろ」

少女「ぬ、ぐぁ。やめろ馬鹿」

 言って、彼女は俯く。
 ……しまった。とても可愛いが、話が進まない。


少女「……う、うむ。いいぞ。続けろ」

男「ああ、すまん。……姿が変わらないほかにも、どうも調子が悪そうなんだよ」

少女「……む? それは、体調が優れないという意味でいいのか?」

 途端に、少女の顔が引き締まる。
 そこまで興味を持たれるところではないと思っていたので、少し驚いてしまう。

男「あ、ああ。だから病院とか行って欲しいんだけど、一応人間じゃないから普通の病院でいいのか気になって」

 姿かたちはまさに人間そのものではあるが、内部までは分からない。
 妹っぽいのも病院には行った事が無いらしく、戸惑いを露にしていた。その不安を解消するためにも、少女の助言が必要だったのだが――

少女「――いや、それはありえない」

男「……は?」

少女「人外が、体調を崩すなどありえないと言っている」

少女「そもそも私達は、永遠に不変の存在だ」

少女「ああ、ちなみに私の食事も、言ってしまえば趣味のようなもので必須のものではない」


男「つまり、妹っぽいのは」

少女「うむ。仮病か、あるいは何かあったのか」

男「……どっちかは判断できないけれど、一応後者である事を前提としてくれ」

少女「ああ。仮病だったら何をしても無駄だから相談の意味がなくなってしまう」くっくっ

少女「さて、と。言ったとおり、人外は基本体調を崩さない。よって人外専門の医者などいない」

少女「かといって、私達が病院に行ったところで、まともな診察が出来る医者もいなかろう」

男「つまり、俺達でなんとかしなきゃならないってことか」

少女「うむ。お前があいつを助けたいのであればな」

少女「といっても、解決策など無いのだが。そもそも私も体調不良になったことなんて――」

 そこまで言って、少女は僅かに眉間に皺を寄せた。
 数秒の沈黙の後、難しい顔をしたまま、少女は言う。

少女「ああ、言われてみれば、そんなこともあったな」

さっき前作読んできたけど面白かったので支援

あとちょいと質問があるので今回で明かされなかったら今回で明かされなかったら質問したいけどいいかね?

>>11
読んでいただきありがとうございます。
質問はおkです。が、遅筆なのでのんびりとお待ちください。


男「あったのか。参考にしたいんだが、それっていつ?」

少女「今は言わないで置こう。何せ不確定要素が多すぎる」

少女「そもそも人外だといっても、私と奴は別種だ。同じように扱っていいかもあいまいだからな」

少女「美貌もこのとおり、天と地ほどの差があるし」ふふん

 変幻自在である彼女と比べるのはナンセンスだと思うのだが。
 いや、それを含めても俺から見れば少女は誰よりも好ましい容姿をしているな。

男「それもそうか……、でも、それだと本当に手詰まりなんだけど」

少女「ああ。私も少し知り合いを頼ることにするよ」

男「わざわざありがとう。……失礼かもしれないけど、珍しいな」

少女「そりゃあ、その」

少女「……恋人が困っているのだからな。何かしてやりたいと思うのも当然だ」ぼそぼそ

男「……すまん。ちょっと抱きしめさせろ」ぎゅっ

少女「むぐ。存分に抱きしめるがいい。そして年上に甘えているのか幼女を愛でているのか分からなくなるがいい」

――自宅――

男「ただいまー」

妹?「おかえりなさい、男さん」

男「おお、妹っぽいの。調子は?」

妹?「はい、おかげさまで良くなりました。心配させてしまって申し訳ございません」

妹?「……って、あれ」ぐらっ

男「おっと」がしっ

男「……やっぱりまだ具合悪いみたいだな。無理せず休んでいてくれ」

妹?「はい。……すみません、男さん」

妹?「その、えっと」

妹?「身体が上手く動かないので、できれば、このまま部屋に」

――妹っぽいのの部屋――

妹?「男さん、男さん」

男「ん、何か取って来ようか?」

妹?「男さんは、あの方と付き合っているんですよね」

男「……ああ、少女と付き合ってるよ」

妹?「……男さん、もし、よろしければ――」

妹?「――い、いえ、なんでもありません」

男「……?」

妹?「どうか、お気になさらず」

妹?「でも、男さん。もし私にできることがあったら、何でも言ってくださいね」

男「病人は無理せずゆっくりしていてくれ。それが今、妹っぽいことにしてほしいことだよ」


妹?「いつも、本当に、ありがとうございます」

男「家族だし、当然だろ」

男「血のつながりが無いっていっても、一緒に平穏に暮らせる仲なんだから」

妹?「……っ、はい」

妹?「それではお言葉に甘えさせていただくことにしますね」にこっ

 崩れ落ちてしまいそうな微笑を作り、彼女は目を閉じる。
 そのまま死んでしまった、と言われても素直に受け入れてしまいそうなほどに、青ざめた頬。

 きっと良くなる。きっと、少女がなにか方法を教えてくれる。
 祈ることしかできない俺は、そのまま妹っぽいのの部屋を後にした。

 静かに閉じたはずの戸の音が。
 俺の背中に飛んでくる野次に聞こえるのを、そんなわけがないと押しつぶしながら、廊下を歩く。

……

妹?「――ごめんなさい、男さん。本当に、ごめんなさい」


 部屋に響かず、こもって消えた涙声を、男は知らない。

――翌日、思い出消し屋――

ばたんっ

男「……」はーっ はーっ

少女「……おや、息を切らしてどうした男」

少女「突如欲情してしまったから私に精処理をしてもらおうというのか。全く仕方の無い奴だ。てれてれ」

男「……いや、まあ、それも悪くない、けど」

男「……妹っぽいのが、いなくなった」

少女「……ん?」

 少女はぼんやりと虚空を眺める。
 汗だくで息を切らしている俺とは正反対に、彼女は非常に落ち着いた様子だ。

少女「ああ、まあ、そうだろうな」

 ぐにゃりとつりあがった口の端を見せつけながら、少女は言う。
 少女にとっては想定の範囲内だというのであろうか。そうであるならば――

男「何か、分かったのか」

少女「もちろん。いやはや、大したことのない、下らないお話だったよ」


少女「私達人外は、基本的に永遠の存在だ」

少女「腹がすこうが寒かろうが不衛生だろうが、不眠不休であろうが傷を負おうが、健康体でありつづける」

少女「……が、例外が一つ。それが今回問題になっているところだな。ほれテストに出るぞ」

男「……何なんだ。何が原因だ。俺はどうすれば妹っぽいのを救える」

少女「急かすなよ。ちょっと嫉妬しちゃうぞ。ぷりぷり」

少女「で、その例外だが」

 饒舌に語っていた少女が、一つ呼吸を置く。
 そして楽しくて仕方が無いとでも言いたげな顔で、告げる。

少女「――自分という存在の在り方が、大きく変わったときだ」

少女「要するに、人外を殺したければ自己啓発書でも読ませろという話なのかな」けけっ


男「……まさか、本当に、そんなことで」

少女「あほう。あんな本で人外が変わってたまるか」

少女「そもそも私達の本体は、肉体ではなく精神なんだよ」

少女「そしてそれぞれが、在り方を持つ。自分はかくある存在で、かくあるべき存在であるという心だ」

男「……だから、それが揺らいでしまえば」

少女「病は気から、というのをその身をもって思い知ることになる」

 自らの核になるほどの、強いアイデンティティ。
 それが揺らげば、大黒柱を失った建物のように、既存の肉体にも大きなダメージがあるということを少女が言う。

男「何とか、なるだろうか」

少女「ああ。大したことの無い下らない話だといっただろう?」にまぁ


少女「自らの存在を揺るがすほどの事態だ、何か原因があると見ていい」

少女「流石にその場ののりで変えていいものではないからな、自己同一性は」くくっ

 確かに、それはそのとおりだ。
 だが、原因があるといっても特定の仕様が無い。その上、特定したところでどうしようもない。

 その原因は、妹っぽいのの在り方を覆してしまえるほどのものだ。
 俺や少女が説得しようにも、効果があるかどうか。

少女「難しい顔をしているが、問題ないさ」

少女「原因があるなら簡単だ。私が食べればいい」

 あ、と思わず声が出た。
 少女ならば、できる。妹っぽいのの存在をまるごとひっくり返すような原因があっても、彼女を救うことができる。

 ただ、思い出を食べればいい。
 原因に対する思い入れを消し去り、関心を全くなくしてしまわせることが、少女には出来る。

少女「口に合うかは分からんが、まあ構わないさ。仕事だと思ってしまえばね」

男「――思い出消し屋、か」

 少女の瞳は爛々と輝いていて。
 それでいて、俺を安心させるような暖かささえあった。


男「いや、でも」

男「その原因が何なのか、分からないうちには食べようもないんじゃないか?」

少女「ふむ、それもその通りではある」

少女「だがな、自分の本体を揺るがすほどインパクトのある思い出だぞ」

少女「そういう目立つものを食べてしまえば済む話だよ」くくく

男「……ああ、そういえば記憶とかざっと見れるんだっけ」

少女「あくまで大まかな内容だけだがな。しかしまあ、十分だろう」

少女「さて、これで後はあの偽者をとっ捕まえればハッピーエンドだ」

少女「……あ。話をする前に君の心労を食べておけばよかったな」はぁ

男「代わりになるかは分からないけど、何か礼をさせてくれ。できる範囲で」

少女「む。……ふむ、ならば」

 頬を朱に染め、視線をそらしながらも少女は両腕を広げる。
 ああ、お安い御用だ。

……

少女「まあ、奴が逃げたのは」

少女「男が私に、奴の事を相談したと感付いたからだろうな」

男「……もしそうなら、妹っぽいのにとってその原因は大事なものなんだろうか」

少女「そういうことになる」

少女「……が、そんなこと、私が知ったことではない」

少女「そう遠くには逃げていないだろうからな。さっさと食い尽くしてしまうことにするよ」

 それほど、大切な思い出を。
 こちらの都合だけで、一方的に消してしまっていいのだろうか。

 しかし見る限りでは、このまま放っておいたら大変なことになるように思えるのも確かだ。
 病人に無理やり薬を飲ませるようなもの。……いいか悪いかは、俺には分からない。

少女「……ああ、そうだ」

少女「今後暫く、店の外で私を見ても関わるなよ」

男「? 分かったけど、どういうことだ」

少女「酷くいやな予感がしてな。……ああ全く、やはりあいつに相談するべきではなかった」ぶつぶつ

――翌朝、自室――

男「……」

 今日も、妹っぽいのはいない。
 このタイミングで現れる理由も思いつかないし、当然といえば当然だ。

 父さんも母さんも、今頃いつものように居間にいるだろう。
 当然だ。そもそも我が家に俺の妹はいない。

 妹っぽいのが妹として存在していたこれまでが異常だった。
 洗脳が解かれ、記憶も何事も無かったかのように改ざんされ、あるべき形に戻っただけの話。

 ……それでも。
 一度解いた洗脳は二度目は効かなくなる。

 そのことが示す意味を考えると、胸にちいさな穴が空いているように思えてしまう。
 妹っぽいのは、もう二度と妹っぽいのにはなれない。

――高校――

男「……」はぁ

ポニテ「どうしたの、最近元気無いみたいだけど」

男「いや、三年になっても隣はお前なんだなあと」

ポニテ「さらっと酷い!」

ポニテ「……でも、冗談抜きにしても本当に辛そうだし」

ポニテ「おねーちゃんも心配してたよ」

男「心配させてごめんな。でもきっと直ぐになんとかなると――」

男「――って、姉?」

ポニテ「うん。自分のことで手一杯のはずなのにすごく心配してた。罪な男めー」


男「ああ、うん」

男「大丈夫だって伝えておいてくれ」

ポニテ「はいはいっ、と」

 ポニテには、姉はいない。
 中学からあそこまで親しくしてきた俺ではあるが、そんな話は聞いた事が無い。

 そして、その姉とやらは自分のことで手一杯だそうだ。
 つまり、他人から見ても分かるほどの問題を抱えているということ。

 ……たとえば、酷く具合が悪いとか。

男「お姉さん、ここのところ調子はどうなんだ?」

ポニテ「あんまり動けないみたい。なんかふらふらしてるし」

ポニテ「いつもどおりといえばそうなんだけど、やっぱりちょっと心配にもなるよ」はぁ

 ……可能性は、十分にある。
 学校での俺の様子を探るのであれば、友人の家族というのはそこそこ有用な立場である。


男「……直接、顔を見せにいってもいいかな」


ポニテ「……あー。ごめんね」

ポニテ「ちょっとおねーちゃん、あまり人に会いたく無いみたいで」

ポニテ「お客様にみっともない姿を見せたくない、とかなんとか」

ポニテ「あと男の人を家に呼ぶとさ、彼氏がいじけそう」えへへ

 ……やはり、そう上手くはいかない。
 だがこれで分かった。かつての妹っぽいのは、ポニテの姉っぽいのになっている可能性が大きい。

 そしてもし本当にそうなのであれば、今の彼女は少なくとも誰かを洗脳することは可能である。
 外見を変えられるかどうかは実際に見ないと分からない。童顔の姉、という設定で通している可能性もあるし。

 ……分かったところで、どうすればいいかは分からないが。
 とりあえず、彼女が野晒しで倒れてしまうことはないということに安心しておくことにする。

男「おーおー、あんまり盛るなよ受験生」

ポニテ「なっ、さいきんは控えてるし! 減塩だし!」

 恋人との時間って甘いものだと思うんだが。

――翌日、高校――

男「おっす、ポニテ。お姉さんの調子はどう?」

ポニテ「あっはっは、うちのお母さんはお姉さんって年じゃないよ男」

ポニテ「……あ、それともそういう趣味?」

 違う。……というか、あれ?

男「……あれ、ポニテ、姉がいるんじゃなかったっけ」

ポニテ「いないいない。一人っ子だよー。言ってなかった?」

 昨日居た姉が、いないことになっている。
 ということはやはり、姉は姉っぽいので、その彼女は、もう。

男「……ああ、誰かとごっちゃになってたかも」

ポニテ「大丈夫? 調子悪そうだし、熱とかあるんじゃない?」

男「うん。大事を取って帰る」がたり

ポニテ「いやいや、今来たばっかりじゃないですか男さーん」けらけら

男「じゃ、先生によろしく!」ばっ

ポニテ「――って、ちょ、ええっ!?」


 恐らく、彼女はポニテの家を離れ、別の家へと移ろうとしている。
 それが上手くいっていれば俺がここまで急ぐ必要は無い。

 ただ、もしうまくいっていなかったら。
 ふらついて上手く動けない彼女が、もし移動中に倒れていたら。

 そうなれば、身体を癒す術も心を癒す術も無い。
 心身ともにぼろぼろになったら、人外はどうなってしまうのか。

 分からない。知りたくも無い。
 だから俺が今するべきことは、勉学ではなく、彼女を一刻も早く見つけ出すこと。

 そして、すぐさま少女の下に届けること。
 そうすれば、何とかなるはずだ。

 ……昨日の時点で彼女がポニテの家にいたということは、少女にも言ってある。
 タイミングが合えば、一緒に探し出してその場で処置をしてもらおう。

――一方、ポニテ宅周辺、路地裏――

少女「……っと」

 おやおや、あんなところでぶっ倒れているのは、もしかしなくても偽者ちゃんじゃないか。
 この家にいると男が言っていたからどこから進入しようか考えていたのだが、逃げようとしたのだな。

 さて、このまま煽るのもいいが、火事場の馬鹿力とやらで逃げられても困る。
 幾ら私が色白文科系細腕美少女といえども、あんな道端で倒れるような奴に逃げられるのは癪だ。

 つまり今、向こうがこちらに気づいていないうちにそっと近づいて、さくっと思い出を食べてしまうのがベストということだな。
 問題は私から溢れ出る美少女オーラが相手に届いて気づかれてしまうかもしれないということか。

 ……うむ、冗談ばかり言っていないでさっさと片をつけるか。
 主に私のために。


 足音を立てないように、ゆっくりと近づく。
 歩くたびにぷにぷに音が鳴るマスコット系美少女じゃなくてよかったぜ。

 こいつがこのまま、というのは、後々私にとって非常に迷惑な事態となりかねない。
 ただの推測でしかないが、念には念を推さなければならないのは小卒でも分かる。いや本当は学校とか行ったこと無いけど。

 そもそも私は生まれてから今までずっとこの姿だぞ。
 ぴっかぴかの一年生でこの色香を放っていたら社会現象を巻き起こす。

 偽者は、うつぶせのまま依然として動かない。
 まさか死んでるわけではあるまいな。人外の死体なんて見るのは初めてだからそれはそれで面白そうだが。

 ……さて、もう手を伸ばせば触ることができる。
 とっとと記憶を探って思い出を引きずり出して、皆満足なハッピーエンドといきますか。

 私の細く美しい指が、偽者の後頭部に触れる。
 すぐさま記憶を漁ってみると、思った以上に簡単に目的のものを探し出すことが出来た。




妹?「――まって、ましたよ、少女、さん」






 ×××××、ぐが、ぁ。
 何だ、何をされた。頭が。

妹?「申し訳、ありませんが」

 ×××××、っか。
 洗脳。近づけば声ナシで出来るんだったか。

 ×××××、げぼ。
 し、しかしこれ、私をどう洗脳しているんだ。

 ×××××、×××××、っつう。
 一度、手を離さなければ。距離をとらなければ。

妹?「もう少し、なんです」

 ×××××××××××××××、って、へぁ?
 わたし、もう、ふれてない。近づくだけでいいのかよ、おい。

妹?「だから、邪魔、させません」

 ××××××××××××××××××××××××××××××。
 ×××××××××××××××××××××××××、××××××××××。

 げ、が、ぐぃぉ。
 そーいや、おとこもいつか、たこさんみたいになってたなー。

 ××××××××××、×××××××××××××××、×××××。
 あぎゃははは。

――ポニテ宅周辺、裏路地――

男「……」ぜーっ ぜーっ

男「妹、っぽいの、どこに」

男「いや、もう妹っぽくは、ないけども」ぜーっ ぜーっ

男「……って、あれ」

 少し離れたところに、何か転がっている。
 もぞり、もぞりと蠢くそれは、人間の形をしているように見えた。

 妹っぽいのか、とも思ったが、違うような気もする。
 にもかかわらず、悪寒が全身を這い回っている。

 竦む足を頼れずに、目を凝らしてそれを、見た。

男「しょう、じょ」

 見た。
 アスファルトにへばりついて、その場で蠢く少女を、俺は見た。

 愛している人がそんなことになっていたら、迷わず駆け寄るのは当然の事である。
 故に足の竦みは消え、俺は彼女を抱きしめていた。

 それに応じてか、彼女も俺の身体に手を回す。
 弱々しい力で、必死に。


男「少女、少女、少女」

 優しく身体を揺らしてみるが、反応は無い。
 彼女は目を軽く開いているが、どこを見ているのかも定かではない。

男「妹、っぽいのか」

 妹っぽいの。彼女はその身を変え、相手を洗脳することで社会に溶け込む人外。
 ただその洗脳に副作用があるのは、俺も体験している。

 彼女の洗脳を何度も続けて受けると、精神の負担となる。
 それによって精神崩壊を起こした俺は、放っておけば突如人間になった蛸のようになるところだったというのは、かつて少女から聞いた話。

 今の少女の姿は、段々とそれに近づいていっているようにも見える。
 全身に力が入らず、ぐにゃぐにゃとその場でのたうつことしか出来ていない、姿。

 おそらく、まだ妹っぽいのは近くにいるかもしれない。
 だが少女をこんな姿にしてまで逃げたのだ。捕まえることができたとして、少女を治してくれるとは思えない。


 妹っぽいのに洗脳を解いてもらうことはできない。
 かといって、今の少女を治すにはそれ以外に方法は無い。

 もちろん、俺自身が彼女をどうにかすることはできない。
 人外でもなんでもない、ただの人間でしかない俺に、できることは。

 一つだけ、あるかもしれない。
 少女との約束を破るしか、ない。

――翌日、コンビニ――

 少女は、これから外で自分を見つけても関わるなと言った。
 そのときは理由が良く分からなかった。妹っぽいのが化けている可能性があるから、というのであれば、むしろとっとと捕まえてしまうべきだろう。

 そして、少女にそう言われた次の日から、少女のような何者かをこのコンビニで見かけるようになった。
 確かに、顔は少女のものと瓜二つ。髪型も髪色も、身長も少女そのもの。

 ただ、見分けるのは至極簡単だった。
 俺が近づいても、視界に入っても無反応だとか、そういった仕草で見分けるのではない。まして、愛で見分けるなどするまでもない。

 ――ただ、ひとつ。

男「おい、そこのアンバランス巨乳。ちょっとこい」

巨乳「……あら、貴方が男さん?」たぷん

 胸が、異様に、大きい。

――思い出消し屋――

男「――と、こんな状態だ」

巨乳「なるほどー。つまり貴方は、私が少女さんをなんとかできると思い、声をかけてくださったのですね」ぷにぷに

男「ああ。でもそれより前に、頼みたいことがいくつか」

巨乳「はい、なんでございましょう?」ぽよん

男「……その顔と背格好と巨乳を共存させるな。あとひたすら自分の胸をいじるのをやめろ」

巨乳「できることだけ、やりますねー」めごっ

男「……、めご?」

 ばきり、ごきりと。
 目の前にいる女の身体が、変わっていく。

 みしみしめきめきと音を立てながら背がのびて、ごりごりばきばきと音を立てながら顔が変わっていく。
 おまけに目の色、毛の色まで、澄んだ金色へと染まっていく。

 が、胸は大きい。

巨乳「変身は出来ますが、おっぱいは変えたくないんですよー」

巨乳「私らしくて、いいでしょう?」ぷにぷに

男「お前の事は一切知らないんだけれどな」


 ……しかし、様子は違えど、自分の姿を変えることが出来るという点においては妹っぽいのと同じ。
 ならば、可能性は十分にあるのではないか。

男「……それで、少女にかけられた洗脳を解くことは出来るか」

巨乳「出来ますよー」

 えらく、気軽な調子で言われた。
 拍子が抜けるやら、安心するやらで肩の力が抜けてしまう。

巨乳「私を誰だと思ってるんですか、まったく」もみもみ

男「だから知らんと」

巨乳「それで、あの子はどこにいるんですか?」

男「……ああ、奥の部屋に」

……

巨乳「なるほどー。これならぱぱっと治せますよ」

男「本当か。なら頼む、少女を治してやってくれ」

巨乳「ですが、……」

 柔らかな笑みを浮かべたまま、巨乳がこちらを向く。
 俺としては一刻も早く少女を元に戻して欲しいのだが。

男「何か、問題があるのか」

巨乳「いえ、善意の安売りというのも問題かな、と」

巨乳「安い女ではありませんからねー、私も」たぷたぷちらちら

 ……要するに、見返りを求めていると。
 しかし相手は人外。金は幾ら払っても惜しくは無いが、そんな分かりやすいものを求めるとは思えない。

男「……何でもする。だから、頼む」

男「俺から何を奪っても構わない。少女を、助けてくれ」

 ならば、全てに応じるのみ。
 俺に払えるものであれば、何でも捧げてやる。

 金とか、物とか、腕とか、足とか、内臓とか。
 命とか。


巨乳「そうですかー、何でもしてくださるんですかー」ぱあっ

 にこやかな表情をさらに明るくしながら巨乳は言う。
 ……表面上は善人のようだが、少女より性格が悪いのではなかろうか。

巨乳「それではー……、うーん、少女さんは何をすれば嫌がりますかね」

 ……、は?
 何を、言っている。

男「対価は、俺が払うんじゃないのか」

巨乳「ええ。ですから、貴方に何をすれば少女さんは嫌がるでしょう、と」ぷにょん

 ああ、分かった。
 こいつは、今まで会った人間、人外の中で最も悪い性格をしている。

巨乳「……ふむ、これでいいでしょう」

巨乳「貴方の、貞操を下さい」にこっ

 天女を思わせる、柔和な笑顔で。
 その売女は、そう告げる。


巨乳「あの子があんなに大切にしていた貴方が、私と性交する」

巨乳「しかも自分のために、止むを得ず私と性交する」

巨乳「あの子も恋する乙女のようになってきましたからねー、たいそう悲しむでしょう」うっとり

巨乳「ああ、もちろんするのはあの子を治してからで構いませんよ。見ている前でやったほうが楽しいですしね」にこっ

 ……こいつと、セックスする。
 無論、嫌だ。形だけとはいえ、こいつと肉体関係を持つなど。

 だが、そうしなければ、少女が危ない。
 これ以上放っておけばどうなるかなんて、俺には見当もつかないが、良くなることは無いということは分かる。

男「……分かった。それでいい」

 仕方の無いこと。
 仕方の無い、ことだから。


巨乳「まあ、交渉成立ですね」ぱあっ

巨乳「私も少女さんを助けてあげたかったので、とても嬉しいです」にこにこむにむに

男「そうか。ならとっとと助けてくれ」

巨乳「ああ、少し待ってください。前金をいただかないと」

男「まだ何かあるのか」

巨乳「口付けを、お願いします」

巨乳「ちゃんと口と口で、ね」

 ……ああ、いいだろう。
 ならば応じよう。

 これから俺は、この巨乳に口付けをする。

 こいつが愛しいからではない、こいつに欲情するからではない。
 ただ少女のため、少女を救ってもらうためにするのだ。

 故に何の情も無い。
 巨乳に対する恋情も愛情も欲情もない。憎悪も嫌悪もない。あるならば、少女を救えるという希望のみ。


巨乳「……へえ」

 珍しいものを見るような目をしている。
 それがどうした。

 巨乳の唇に、俺の唇を重ねる。
 以上。離れる。

巨乳「……足りませんよ?」にっこり

 言われて、再度唇を重ねた後、舌を入れる。
 以上。

 離れようとすると、巨乳の舌が絡んできた。
 以上。

 胸を押し付けられた。
 以上。

 首に腕を回されている。
 以上。

 唇が離れる。お互いの舌に唾液の橋が架かっている。
 以上。

 以上。それだけ。なにもない。


巨乳「男さん、貴方、とっても素敵ですね」にこり

巨乳「人外としての素質は十分にありますよ」

男「何を言っているのか分からないし、そんなことどうでもいい」

男「早く、少女を」

巨乳「はいはい」ぴとっ ぷるん

 青ざめた顔で横たわる少女。その額に、巨乳が右手の指を当てる。
 そして巨乳は持て余した左手で自分の胸を揉んだ。……まあ、それはどうでもいい。

巨乳「妹っぽいの、さんでしたか。彼女は偽者の人外ですから、他者を洗脳することが出来ます」

巨乳「しかしその洗脳は酷く雑なもので、乱用してしまうと対象の精神に悪影響を及ぼします」

巨乳「それは副作用ではありますが……、おそらく彼女はそれを狙って、意味の無い洗脳を繰り返したのでしょう」

 少女の額に手を当てたまま、巨乳はつらつらと語りだす。治すついでに記憶でも盗み見ているのだろうか。
 少女にも似たようなことが出来たし、かけた本人にしか解けない洗脳を解けるような人外なのだから、記憶を読むくらい出来ても不思議ではない。


巨乳「あら、男さん。中々いい身体をしていらっしゃるようですね」

巨乳「モノもいいようですし、その割に少女さんには手を出していないようですから、この後が楽しみです」ぽにょん

 巨乳の話を聞き流して数分後、少女の顔の筋肉が若干ながら動いたのを確認した。
 耳から入ってくるものを無視しつつ少女の顔を注視する。

少女「ん、くぅ」

 少女の桃色の唇が、小さく動く。
 それを見て、巨乳は一度少女から手を離し、居住まいを正した。

男「……少女、少女」

 思わず、彼女の肩をゆする。
 病人にするべきことではないのは分かっている。だが、早く目覚めて欲しい。早く。できるだけ早く。

 ぴくぴくと少女の瞼がゆれ、ゆっくりと開き、その黒い瞳を露にする。
 覗きこんでいる俺の顔が見えるほどに美しいその瞳が――途端に涙に濡れ、歪む。

少女「おと、こ。男」


 少女は仰向けのまま両手を伸ばしてくる。
 俺がそこに身体を近づけると、きゅう、と抱きついてきた。

少女「すまない、しばらく、このまま」

 くぐもった声であった。震えた声であった。
 しゃくりあげる音が、ちいさく聞こえた。

 俺は少女の背中に手を回し、支えながらゆっくりと身体を起こす。
 今にも壊れてしまいそうな彼女を労る為に、やさしく、抱きしめる。

 ぴく、ぴく、と震えるちいさな身体。
 荒く、不安定な呼吸音。

 何があったか、など、聞くまでも無い。
 辛い事があった。悲しいことがあった。それだけ分かれば十分だ。

男「大丈夫、大丈夫」

 詳細を知ったからといって俺に何か出来るわけではなく。
 俺に出来るのは、彼女を落ち着かせることだけなのだから。

……

少女「……っく、すまない。取り乱してしまった」

少女「もういいぞ。放してくれ」

 平静を取り戻した少女に言われて、俺は彼女を抱きしめていた腕を解く。
 ほんの少し名残惜しいような顔をされたのは気のせいだろうか。

少女「全く、私としたことが。ところで男、一体どうやって私を――」

 そう言いながら立ち上がった少女は、かがんでいる俺の背後にあるものを見て絶句する。
 ……おそらく、巨乳だろう。

少女「……男、歯、食いしばれ」

 そして俺は、約束を破った罰をうけることになるだろう。
 まあ、少女の細腕に何をされても対して痛くは無いだろうが。

少女「――美少女ヘッド!」ごぉんっ

男「へぁっ!?」

 ご尊顔が飛んできた。歯を食いしばった意味はあったのだろうか。
 フェイントのためとかあるのかもしれないが、脳がぐわんぐわんと揺れていてそれどころではない。


少女「この、馬鹿が。こいつと関わるなと言ったろう!」

 声を荒らげて少女が言う。普段不適な笑みを浮かべているか、赤面しているかが殆どである彼女がここまで怒りを露にするのは珍しい。
 多分、そう、俺が二度目の告白をしたとき以来か。

巨乳「まあまあ、少女さん。私じゃなきゃどうしようもない状態でしたよー?」ぷにょん

少女「……ちっ。それで、交換条件は何だ。私は何をすればいい」

巨乳「いいえ。少女さんは何もしなくていいんです。その辺は、男さんから」

 少女は再度驚愕し、俺を見る。
 非難と不安が入り混じっている目を見るのが、辛い。

男「……俺の貞操を、売る」

巨乳「そうですねー、男さんはー、私とセックスするんです」ぽよん

巨乳「汗を混ぜ、身体を重ね、唾液を交わし、肉を求め、種付けを行うんですよ、少女さん」ぷにぷに

巨乳「もちろん、貴女の目の前で。……ああ、私も男さんも悪くありませんよ。全部少女さんが原因ですから」ぷるん

 巨乳が饒舌に語る。
 以上。

少女「――ああ、そうかい」


 少女はそれだけ告げて、素早く手を伸ばす。
 咄嗟に巨乳も身を引くが、跳び上がって身体ごと突進してきていた少女の手が、巨乳の額を捕らえた。

巨乳「――あ」

 巨乳の額から、光り輝くものがずるりと抜き取られる。
 少女は少しよろつきながらも着地し、すぐさまその思い出を喰らう。

少女「ああ、不味い。好奇心の塊だ。悪意の汚泥だ」

少女「そんな感情で、私の男が汚されてたまるか」ぺっ

 そう、少女は食べた。
 俺を犯すことに対する関心、思い入れ、気分――思い出を。

少女「……って、あ、男。今の無しな。私の男が云々ってやつ。早急に忘れることを許可する」

 けれどそんな事はどうでもよくて。
 自分で言っておきながら赤面している少女が、愛おしい。


巨乳「……うーん、酷いですねー少女さん」

巨乳「男さんが断ったり、少女さんが男さんを連れて逃げたりしたら契約無視ということで仕返しもできたのですが」

巨乳「こうなってしまうと私のほうが報酬を受け取る気になれませんからー」はぁ

巨乳「……あ、折角だから使いますか? オナホとして」

男「やらなくていいならそれに越したことは無いんでやめとく」

少女「全くだ。というか男、私がもし何もしなかったらどうするつもりだったんだ」

男「……いや、したけど」

男「というより、少女が何とかしてくれるとは思いもしなかったし」

少女「……ほ、ほう」

巨乳「少女さん、初めては早めにもらっておいた方がいいかもしれませんね?」にこにこぷるん

少女「なっ、や、喧しいわ性悪系黒ずみ駄肉便器系売女が!」


少女「……っと、こうしちゃおれん。とっとと偽者ちゃんを捕まえてしまわなければ」

男「それもそうだな。でも大丈夫か? 病み上がりだろ」

少女「おいおい、不死身の人外を甘く見るなよ少年。では急ぐぞ」がたり

巨乳「あれ、少女さん。何をそんなに急いでるんですか?」

巨乳「――死ぬわけじゃないんですし、ゆっくりでもいいと思うんですけれど」にっこり

男「……、え?」

少女「……うぐ」ぎくり

巨乳「おやおや、私が懇切丁寧に説明したことを男さんには説明しなかったんですか?」にこにこたぷたぷ

少女「お、男よ。その売女は放って置いて偽者を探すぞ。おっぱいが見たければあとで偽者にでも頼め」


男「……少女、どういうことかな」

少女「あ、あーっと、その、だな」

少女「男よ、君は愛しの私を信じられないというのかな……ああ駄目だ、これでは私が悪者では無いか」

巨乳「確かに人外は、己の存在が揺らいだときに体調を崩しますけど」

巨乳「それは『新しい自分に相応しい自分』になるために身体を作り変えているだけですよ」ぽよん

男「……本当か、少女」

少女「……うむ」


巨乳「にもかかわらず、少女さんは妹っぽいのさんをとめようとしていらっしゃる」

巨乳「あらあら、これではただ、妹っぽいのさんの新たなる門出を妨害しているだけではありませんか」にこにこぼよん

少女「……おい腐れホルスタイン。それ以上言うなよ」

巨乳「でも男さん。責めないであげてください」

男「……?」

巨乳「だって、妹っぽいのさんがこうなったのは――」

少女「このっ」ぐいっ

巨乳「おっと。食べさせませんよ」ひょい ぽにょん

巨乳「――男さんの事が、大好きだからなんですから」にっこり

男「は、ぁ?」


 ――直後、爆ぜるような高音が響き渡る。
 咄嗟に振り返り、粉砕されたガラスが宙に舞うのを見て窓が叩き割られたと知った。

?「おっとっこ、さぁぁぁっん!」

 ガラス片が落ちる音に負けない声が轟き、その主はガラス同様宙を舞いつつずだんと着地する。
 染みのついた床が悲鳴を上げて、声の主は顔を上げる。

女?「大、っ好きです!」ぐあっ

 その顔は、その姿は。
 嘗て俺の『恋人』『だった』、女。

男「ええ、と、女、っぽいの?」

女?「いいえ、それは嘗ての私です。故に『っぽいの』などではなく――」

女!「紛れも無く! 女! です!」どぉん

少女「他人の家の窓叩き割っておきながら何を阿呆なことをいっている」ずがん

 テンションが許す限りの勢いで暴れる女の後頭部。
 少女は至極真っ当なことを言いながら、そこにパイプ椅子を叩き込むという非常識なことをして見せた。

 ……突然、賑やかになったなぁ。


巨乳「……へぇ、そういう方向に変化したんですねー」にこにこ

女!「……、あれ、私、貴女と会ったことありませんよね。初対面ですよね」

巨乳「ええ、勿論ですよ」にこにこたぷたぷ

女!「まあそれはともかくとして、男さん! 大好きです!」ぐぁっ

少女「恋人と一緒にいる奴に告白とはいい度胸してるな。紛れも無く女」

男「……何だ、何が起こっている」

 混乱はしているが、とりあえず紛れも無く女という呼び方はどうかと思う。

巨乳「要するに、あなたが知っている妹っぽいのさんは一皮むけたということです」

巨乳「あ、男さんのもむいてみましょうか。しっかり洗っていらっしゃるようですから汚れてないのが残念ですけど」

少女「黙ってろこの皮下脂肪」


男「ええと、その」

男「折角の好意はありがたいんだが、女。知ってのとおり俺は――」

女!「少女さんが、好きなんですよね?」

 笑顔を崩さず。活気に満ち溢れた顔のまま、彼女はそう言った。
 それを知っていて。それを覆せないと知っていて、何故そんなに明るく好意を表に出しているのか。

女!「大丈夫ですっ! 私は男さんが好きで、男さんは少女さんが好き」

女!「それだけですから! 私が男さんを愛してるってだけで、その事実だけで十分なんですっ!」ぱぁっ

巨乳「つまり、男さんからどう思われていようと、一方的に好意をぶつける」

巨乳「そこに快楽を覚えるような人外に、彼女はなったわけですね」ぷるん

女!「はい、だいたいそんな感じですそこのおっぱいさん!」

巨乳「それはどうも。揉みますか?」たぷん

少女「……待て待て、それはそれで迷惑だ」


巨乳「あら、何が問題だとおっしゃるのでしょう」

巨乳「彼女が意図的に略奪しようとする可能性は、もうなくなったんですよ?」

巨乳「当初懸念していらした、より男さんを求める人外になって強引に奪われるということはなくなったんですよ?」ぷるん

少女「ぐっ、だから、言うなと」びきびき

 青筋を浮かべる少女を見ていると、こちらの視線に気づいた彼女が振り返る。
 目が合い、途端に真っ赤になる彼女。やはりかわいい。

少女「ああ、そのだな」

少女「……恋人がどこぞの馬の骨に、執拗に好意をぶつけられてるんだぞ」

少女「……その、心配ないにしても、気に食わん」

巨乳「あらあら、少女さんったら」

 母性を孕んだ顔で、巨乳は微笑む。
 ただここまでで見たところの巨乳の性格からすると、実際に腹に何を抱えているのやら。


巨乳「そうですよねー、少女さんはもう、思い出を食べる人外とはいえませんものねー」にこにこ

 ……、は?
 どういう、ことだ。

少女「……よし、分かった。良く分かった。何でもしてやるから黙ってくれ」

 焦燥した様子を見せる少女。彼女は既に思い出を食べる人外では無いという。
 しかし先程も、巨乳の思い出を食べて見せたじゃないか。それを元に巨乳の発言は出鱈目だと否定すればいいだけの話。

 にもかかわらず、少女は冷や汗を浮かべ、巨乳相手に交換条件をだしてまで口止めしようとしている。
 ということは、本当だ、ということか。

巨乳「何でも、ですか」

巨乳「それでは、これから私がするお話に割り込まないで下さい」にっこり

少女「……こ、の、ド外道系家畜肉便器が」びきびき

 血管をびくびくといわせる少女。そんな姿も少女ならば可愛く見える。

巨乳「それでですね、男さん。今の少女さんは、強いて名づけるのなら――」にこにこ


男「……ちょっと待った」

巨乳「――、はい、どうしましたか?」

女!「男さんへの愛は止まりませんよ? 大好きです」

男「……ああうん、女はちょっと黙っててくれ」

女!「はいっ! むぐっ」

 案外素直に口を閉じてくれた。
 ……依然として輝きを失うようすのない瞳がこちらを見つめてくることについては、後回しにしよう。

男「巨乳、お前はなんでそこまで知ってるんだ」

男「少女の反応を見る限り、適当に言っているだけでは無いみたいだけど」

 そう、幾らなんでも不自然だ。
 少女が人に知られるのを恥じるようなことを、巨乳のようなものに教えるはずも無い。

 少女は巨乳が俺に関わることを避けようとしていた。
 つまり彼女にとって巨乳は信頼に足る人物――人外ではないといっていい。

 その理由を知りたかった――という建前と同時に。
 自然な理由で話題をそらし、少女に助け舟を出してやりたかったというのが本音。

巨乳「そうですかー、男さんは私に興味があるんですかー」ぷるん


男「正しくは、巨乳がどんな人外かってことだけどな」

 言いながら、横目で少女を見る。
 ……あれ、まだ安心できていないようだぞ。先程と変わらない。

巨乳「そうですよねー、少女さんを助けてあげたくて、話題を摩り替えようとしたんですからねー」にこにこ

 な。

男「なんで、それを」

巨乳「つまるところ、私は」

巨乳「相手の考えていることを読む人外であり」

巨乳「人外による洗脳を解く事ができる人外であり、姿かたちを自在に変える人外であり」

巨乳「過去を知り未来を知る人外であり、人外を人間にする人外であり、人間を人外にする人外であり」

巨乳「――まあ、いろいろできますが」

巨乳「他の人外の尻拭いをするのが役目である、おっぱいのおおきな人外」たぷん

巨乳「そう考えてくだされば、よろしいのではないかと」にっこり


巨乳「今、こうしている間にも」

巨乳「あらゆる国の、あらゆる場所で人外は生まれています」

 両手を広げ、胸を張って巨乳が言う。
 恐らく演出の一環なのだろうが、胸を強調しているだけにも見えるのが難点だ。

巨乳「男さん。私には、彼らの能力が全て流れ込んできます」

 腕を胸元に持ってきて、巨乳は言う。
 ……やはり真面目な話に見えない。とんでもないことを言っているのは分かるのだが。

巨乳「最も、今の女さんのような」

巨乳「特筆するべき特殊能力も無く、強烈な自我を持つだけの人外は例外ですが」

巨乳「暫く前から増え始めた、偽者の人外」

巨乳「彼ら、彼女らの能力を持っていることは、お見せしたとおりです」

 ……そういえば。女が妹っぽいのだったとき、変身は怪人のように行うと言っていた。
 巨乳が変身する様子はまさにそのようなものだ。つまりそういったところの誤魔化しが聞かないという点で『劣化』なのかもしれない。

……

少女「あー、あいつは尻拭いの人外と自称していたがな」

 巨乳と、それに連れられる形で女が思い出消し屋を出た後。
 俺と少女は二人きりで、隣り合って座っていた。

少女「とんでもない。あいつはただ、縋り付いてきたやつに交換条件を出していたぶるのが好きなだけ」

少女「かつての私同様、くそったれのひとでなしだ」

 巨乳が部屋を去る直前、俺の頭の中に声が響いた。
 ――見逃す、今後、期待、男さんの。
 
 俺の今後に期待して、話はすりかえることができたということにしておいてやる、という意味だろうか。
 ……俺がこれからどうなるのか、少し怖くなってきた。

男「そういえばさ、少女。結局、女の前の、妹っぽいのの核って何だったんだ?」

少女「ああ。嘗ての奴の、というより偽者の人外共通の核はな」

少女「その変幻自在な外見、立場から見て取れる通り、『なにもない』のだよ」

少女「確たる自己が無いということそのものがアイデンティティ――ふむ、そこはかとなく知的。流石私だ」


男「……そういうのもありなのか?」

少女「うむ。一切拘りがないということは、あらゆる状況に応じることができるということでもある」

少女「既存の社会集団に紛れ込み、馴染み、寄生する。そういった奴らに良く似合った自我だよ」

少女「……ついでだから話しておこうか。奴が何故、その変幻自在の自我を変化させたかを」はぁ

少女「さて男よ。聡い男よ。……奴は、お前の恋人になることを望んでいたな?」

 ――、ああ。
 巨乳が言ったとおり、やはり責任は俺にあったようだ。


 恋人になるということは、相手から特別に思われる存在になるということ。
 何者とも互換不可能な唯一の存在になるということ。

 だがそれを望むことは、彼女のアイデンティティと矛盾する。
 変幻自在、あらゆる他人の代理となりうる存在であった彼女は、『自分』というものを持たない。

 しかし誰かから特別に思われることを望むということは、他者とは違う特別な自分の存在を肯定することになる。
 故に、……その、俺と恋仲になろうとすればするほど、彼女は己のあり方を否定することになる。

少女「諦められなかったのだろうな。それどころか、想いを強めてしまったのだろう」

少女「ほれ、隣の芝生は青いというだろう。隣の牡丹は大きく見える、でも構わん」

少女「……ふぅむ、ことわざ辞典からの知識がここで発揮されるとは。恐るべし学研漫画」

男「ええと、学校には行って無いんだよな」

少女「ああ、勘違いした小学生が尻尾振りながらやたらと本をよこしてきた時期があってな」

少女「……あ、因みに伏線ではないので安心したまえ。番外編で出る予定も無いぞこの小学生」


少女「……ああ、くそ」

少女「また少し、思い出してしまった」ぼすっ

 少女の頭が、俺の二の腕に寄りかかる。
 手もしっかりと握られて、片腕が完全に封じられる形となった。

男「……ええと、少女?」

少女「……あのな。男よ」

少女「私はあの時、あいつにやられて倒れたとき。記憶を消されていたんだ」

少女「奴は既存の記憶に別の記憶を貼り付けることで洗脳を行うみたいでな」

少女「要するに、私の記憶の上に、白紙を貼り付けやがったんだ」

少女「――私の、お前に関する記憶に」

 握られた手は、痛いほど。
 それでも、俺はこれを振りほどこうなんて思わない。

少女「……ああ、巨乳にばらされるくらいなら、私から言ってしまうか」

少女「私は思い出を食らう人外ではない。私は、お前を望む人外となってしまったんだ」


男「……」

 どう反応すればいいか分からず、一瞬思考が止まった。
 ……確かに、それが核であるならば、俺に関する記憶を消されたらどうなるかくらいは想像がつくが。

少女「当然、お前に関する記憶が失われれば」

少女「私の核はよりどころを失い、瓦解する」

少女「……まあ、死ぬことは無いにせよ、また別の人外となっただろうな」

少女「だが、……不安だったのだ。柄ではないが、少し甘えさせろ」

少女「……その、なんだ。進んだことをしても構わんぞ」

少女「生殖行為の何が面白いのか未だに良く分からんが、お前の貞操をどこぞの腐牛に奪われるのは癪だ」

 ……俺が少女に、少女との思い出を奪われたときの虚無感。寂しさ。
 それを超えるものを、彼女は体感してしまったのだろう。

 優しく抱きしめて、あやす。
 子ども扱いとはいい度胸だ、何てことを彼女は言うが、暫くそれを続けると、静かに目を閉じて身体を預けてくれた。


男「……、あれ」

男「そういえば、何で思い出を食べる能力は残ってるんだ」

 少女は既に思い出を食べる人外ではない。
 にもかかわらず、妹っぽいのの思い出を食べようとしていたし、巨乳の思い出は食べているところをその場で見た。

少女「んー……まあいいか、言ってしまえ言ってしまえ。今日はデレ多めで接してやる」

少女「その、お前と会うきっかけになった能力だぞ。簡単に手放してたまるか、ということだ」

男「……気持ち次第で能力って選べるものなのか?」

少女「そんな事は無いはずだが、なんとかなった」けろっ

少女「まあ完璧では無いんだがな。正直、思い出を食べてもげろまずくなってしまった」うげ

男「……もしかしたら、俺の思い出なら美味しいかもしれないぞ」

 俺を求める人外が、思い出を食べる力を持っている。
 ということは、今の少女の能力は『思い出を食べる』というより『男の思い出を食べる』能力になっているのかもしれない。


 俺の言葉に対し、少女は少し困ったような顔をしてしまった。
 喜々として食べようとするかと思っていたのだが。

少女「ああ、実際にな」

少女「この人外になったとき、それは瞬時に理解した」

少女「お前の思い出こそが至福を与えてくれる、他は残飯にも値しないとな」

少女「誰に言われたわけでなくとも、本能的に察してしまった」

 人間が指の動かし方を知っているように。鳥が羽ばたき方を知っているように。
 あまねく生き物が呼吸の仕方を知っているように、少女はそれを知ったということだろうか。

 もしかすると、少女に限らず人外は共通して自分が何者かを生まれたときから知っているのかもしれない。
 でなければ、変身の仕方も洗脳の仕方も思い出の食べ方も知らないだろうし、自分にそんな力があるなんて思いもしないはずだ。

男「旨いと知っているなら、なんで食べようとしないんだ? 遠慮は要らないぞ」


少女「――怖いんだよ、お前の記憶に触れるのが。お前の思い出に触れるのが」

男「――、へ?」

 思わず、間抜けな声が出た。

 思い出を抜き取る際、彼女は対象の記憶を覗き見る。
 大まかなことしか分からないらしいが、そこから得た情報を参考にして抜き取る思い出を確定させているそうだ。

 俺の、記憶に触れるのが怖い。
 何故だろう。まさか俺が少女を裏切るようなことをしているわけが無いし、裏切ろうと思考することも無い。

 俺の、思い出に触れるのが怖い。
 美味しいと分かっているものを触るのが怖い、というのはあまりピンとこない。というより、全く分からない。毒があるわけじゃないだろうし。

少女「さて、この話はおしまいだ。折角のデレ期が無駄になってしまうぞ、男よ」くっくっ

 眉間に皺を寄せていると、少女は俺の頭をなでてくれた。
 髪を手櫛ですくように、やさしく、おだやかに。

 ……こうされていると、少女は俺と比べて遥かに年上なのだということを改めて実感させられる。
 可愛らしさと大人の魅力が合わさって最強に見える。

……

少女「さて、男よ」

少女「ちょっと素敵な口説き文句を思いついたので聞くがいい」

 ふふん、と鼻を鳴らしながら少女が言うので、俺は抱きしめていた腕を放して居住まいを正す。
 得意げな顔のわりに、朱に染まっている恋人の頬は見ているだけで幸せな気分になれる。

少女「まあ、私のデレ期の締めだ」

少女「これを逃すと言えなくなってしまいそうなのでな。それはそれでもったいない」

 うんうん、と自分で頷く少女。
 ……なんだ、やっぱり恥ずかしくてちょっと引き伸ばしているのか。

男「ううん、締めか」

男「嬉しいような、残念なような」

少女「わがままを言うなよ。甘いものはたまに食べるから旨いのだろう?」

少女「……あ、私がこの比喩を使っても説得力は無いか」くくっ


少女「……先程言ったとおり、私はお前を求める人外だ」

少女「だからな、男よ。……」

 すー、はー。
 少女の呼吸が、聞こえる。高鳴る鼓動さえ聞こえてきそうだ。

少女「私を離すな。私から離れるな」

少女「そうなれば……奴同様、体を壊してしまう」

少女「欲求が満たされず、より強くお前を求めるか、あるいは他のものを求めようとするだろう」

少女「前者はお前に何をしてしまうかわからん。後者は、……なんか、嫌だ」

 肩をすくめてみせた少女だが、相変わらず顔は赤い。
 おまけに目を伏せ、唇をすこし尖らせている姿は、見た目相応の年齢を思わせる可愛らしさ。

少女「……む、笑うなよ。柄じゃないのは分かっているさ」

 思わず口元が緩んでしまったらしい。少女が頬を膨らませている。
 ――時間が、ゆったりと流れる温水のようだ。


男「……ありがとう。きゅんときた」

少女「くくく、相変わらず直線的だな」

男「そりゃあ、真っ直ぐに愛してるからな」

少女「……なら、いいんだが」

男「?」

少女「なんでもないさ。ほれ、鈍感主人公らしく聞こえなかったふりをするがいい」

男「……少女がそういうなら、まあ、いいか」

少女「……そうとも。こんなことはどうだっていいことなんだ」

少女「私が求め、お前が応える」

少女「それさえしてくれれば、私は生きていけるよ」にこっ

 その時、少女が見せた笑顔は。
 普段のように人を小ばかにしたものではなく、機嫌がいいときのような愉悦に浸るものでもなく。

 美しくて、可愛らしくて、愛おしくて。
 
 ――砕けて、しまいそうで。

一部終わり。
後で番外編やら続編やらを書きます。
質問をいただければ、今後作中で触れる予定が無いことについてはお答えいたします。

乙!相変わらず面白かった、続編も楽しみにしてる!
で、自分は>>11なのだが、とりあえず今回の章の内容的にやはり触れられなかった疑問があるので質問良い?


・前作の『男「思い出消し屋……?」』の最後で>>1はポニテさんのことを報われない系女子と言ってたけど何故?

・それともう一つ、これは続編とかで明かされるのかもしれんが現・女、元・妹っぽいのは何故男に惹かれたの?単純な一目惚れって訳ではなさそうだったんだが


読解力が足りないのもあるかもしれんが、この二つがなんとなく気になった。答えてもらえると個人的にありがたいです

>>117
ポニテは報われない系、というのは
私がポニテを何かに使ってやりたいと思いそれなりに重要そうな位置づけをしてみたものの
劇中で本筋に関わることなく本編が終わったから番外編でなんか書こうとしたけれど
少女の回想書いて満足してしまったので
「ポニテ(を目立たせてやろうという私の努力)が報われませんでした」という意味です。

妹っぽいのの件については番外編でやります。

……

女!「……あれ」

 気づけば、私は嘗ての自分を上から見ていました。
 つまりこれは夢ってことですね。猫型ロボットからもたらされるテクノロジーが無い限り、過去の自分を見るなんてありえませんし。

 夢であるのなら話は簡単です。とっとと覚めてしまいましょう。
 だって自分なんて見ててもつまんないですし。

 特にこの私。妹っぽいのと呼ばれていた私は嫌いです。
 だから見たくありません。

 そんなものを見るより男さんの夢を見たいのです。
 という訳で、めざめろー、私ー。

 ……お、段々視界がぼやけてきましたね。
 夢から覚めるのでしょうか。はたまた、別の夢、というか男さんの夢に移行するのでしょうか。

 どちらでも得しかないのでいいのですが。
 ではさらば、私。

……

巨乳「……あら?」

 気づけば私は、……ええと、なんか人外を俯瞰してました。
 感覚としては、映画館の人外に回想を見せられているのに近いのですが、こんな子見たことありませんし。

 んー……、全知の人外。
 ああ、はいはい。妹っぽいのさん、つまり今の女さんですね。

 ということは、彼女がこの回想を観る事を拒否して、代わりに私が観るはめになったと。
 まあ核を作り変えた人外がその前の自分を毛嫌いすることなんてよくありますし、ね。

 それでは、自称尻拭いの人外として。
 彼女の過去を、振り返って観ましょうか。

――番外・生存欲が招いた死の話――


過去妹?「……うん、ここでいいでしょう」

 この台詞をこの家の前で言う、ということは、ここが男さんの家なんですね。
 少女さんに思い出を食べられた今となっては、あまり興味はわきませんけれど。

 ……玄関先で待ち伏せ、ですか。
 家に帰ってきた人を洗脳して、一緒に家に侵入する算段というわけですね。

過去男「……あれ、そこの子。どうしたんだ?」

 おや、男さんですか。
 夫婦共働きであれば一番帰りが早いのは息子、というのも頷けますが、これでは――

過去妹?「おかえりなさい、『おにーちゃん』っ!」

男「っが、……ああ、ただいま、妹」

 ……へぇ。
 なるほど、なるほど。

……

 む、早回しですか。ちょいとぶつ切りすぎやしませんか映画館さん。
 まあ、観客が何を言っても映画は問題なく進むんですけどね。

 ええと、一家団欒の風景ですね。
 男さんの両親と見える人、男さん、そして妹っぽいのさん。

 男さんを洗脳した後、家の中で待ち伏せ。
 その後帰ってきた両親を洗脳、無事にこの家に寄生できたといったところでしょうか。

 ……それにしても、男さんの顔から覇気を感じませんね。
 思考を読む人外。……やはり回想映像からは読み取れませんか。

 隣に座る妹っぽいのさんもあまり元気が無い。
 しきりに男さんの顔をちらちらと見ていますが、心配だということでしょうか。あるいは心配している妹を演じているだけなのかは、分かりませんが。


過去妹?(……おにーちゃんが、すごく、苦しそう)

過去妹?(自分からは何も言わないし、訊いても多分教えてくれない)

過去妹?(けれど、時々、すごくつらそうな顔をする)

 あ、考えてることもちゃんと聞こえるんですね。
 ……うーん、改めて考えると凄い能力ですねこれ。私より後に生まれてくれればよかったのに。

 男さんが辛そうな顔……ああ、そういえば少女さんの記憶にそんな感じのがありましたね。
 告白されて振って告白して振られもせず玉砕した話。少女さんは男さんから話を聞いて、その思い出を食べた。

 まあ、なんにせよ。
 口調が妹としてのものですので、思考の内容も妹としてのもの、つまり演技なんですけどね。

 頭の中でも演技とは、流石偽者の人外。
 役者魂、ってやつでしょうか。

……

 おや、また早回しですね。
 当事者ではないのでいつの事か分かりづらいのが難点です。クレームクレーム。

過去妹?「おにー、ちゃん。……男、さん」

 部屋の中には、妹っぽいのさんが一人。
 彼女の部屋ということでしょうか。それにしては殺風景な気も……ああ、本来必要無い部屋ですからね。

過去妹?(あの人は、今年度中)

過去妹?(ずっと、辛そうで、苦しそうで、悲しそうで)

過去妹?(……あんな顔、されたら)

過去妹?(何とかして、支えてあげたくなってしまうじゃありませんか)

 おや、人外にしては珍しい。
 私が知る限り、人外は自分のためにだけ動くものなのですが。

 もしかして私の知人が皆自己中心的なだけなのでしょうか。
 類は友を呼ぶといいますし。


過去妹?(……そうですね)

過去妹?(あんな顔を毎日見るのも辛いものがありますし、一肌脱ぎましょう)

過去妹?(ついでに伴侶にしてしまえば一石二鳥ですね)

 ……ええと、全知。
 ふむ、偽者の人外も結婚はするんですか。最も人間同士のものとは少し異なりますが。

 要するに、生涯寄生する相手のことですね。
 寄生している場所が何らかの理由で駄目になればどこかに移動する必要がありますが、予めそういう人を決めておけば問題ありませんし。

 で、偽者の人外は養われつつ、宿主が枯れ果てないようにケア。
 ちょっと特殊な手続きが必要みたいですね。ええと……あ、長い。パス。

過去妹?(……しかし、それだと妹という立場は邪魔になりますね)

過去妹?(義理の妹として再洗脳……いえ、似たような内容でも駄目なんでした)はぁ

過去妹?(……とりあえず、男さんの洗脳だけ解いて様子を見ましょうか)

……

 成る程、それで男さんの洗脳だけ解けている状態だ、と。
 しかし男さんも懐が深い。赤の他人、いえ人ですらない何かが住み着いているというのに平然と受け入れていらっしゃる。

 私の谷間とどちらが深いでしょうね。ジャンルが違うので比べようがございませんが。
 ……む、何かしら反応が無いとつまらないものですね。このネタ。

 さて、場面も変わったところですが……ふむ。
 男さんと、見知らぬ女性……ああ、黒髪さんですか。並んで歩いてますね。

 黒髪さんはかなり男さんに近づいてます。手を繋ぐより先に抱きつきそうなほどです。
 私も胸とか押し付けたいですね。

 で、それを影から見つめているのは……誰ですかコレ。
 って、ああ、変身した妹っぽいのさんですか。全く面倒くさい。

過去妹?(……仲、よさそうですね)

過去妹?(いえ、構わないのですが)

過去妹?(男さんと添い遂げようとは思っておりますが、恋愛感情に基づくものではなく)

過去妹?(私は私の生活のために、男さんと結ばれるのですから)

過去妹?(……、何も、感じませんね。やはり少女さんの能力は恐ろしい)


過去妹?(少女さんに、食べてもらったもの)

過去妹?(正体不明のまま、男さんに接近し、恋愛感情もなく自分の利益のためだけに篭絡することへの罪悪感)

過去妹?(……少女さんは、相手のことを考える人外なんて頭がおかしいんじゃないか、なんておっしゃっていましたけれどね)

 ああ、やっぱり自己中心的じゃない人外なんて珍しいんですよね。
 ……あれ、そもそも私と少女さんで共通ではない人外の知人なんているんでしょうか。むむむ……。

過去妹?(……確かに、罪悪感は感じなくなりましたが)

過去妹?(何なんでしょう、この胸に残る違和感は)

 胸に何か残るスペースなんて貴女には無いでしょうに。
 私の胸も満タンなので余分なスペースはありませんけど。

……

 おや、場面転換ですね。
 部屋には妹っぽいのさんと、男さん。告白でもするんですかね。

過去男「……昨日、黒髪の話しただろ?」

過去妹?「男さんにべったりな女の子のことですね。何かありましたか?」

過去男「いや、家に招待されたんだけど、断るべきかな」

過去妹?「――ッ、家に、ですか」

過去男「うん。親がいないから、遅くまで好き勝手騒げるよって」

過去妹?「……遅く、まで」

過去男「実は前々から誘われるたびに煙に巻いてたんだけど、流石にそうも行かなくなってさ」


過去妹?(――っ)ずきん

過去妹?(また、違和感が。普段感じるのよりも、もっと強い)

過去妹?(不安のような、怒りのような、悲しみのような)

過去妹?(……ああ、嫉妬という感情は、こういうものを言うのでしょうか)

過去妹?(……本来であれば、焦るだけだと思うのですが)

過去妹?(伴侶となる男が他の異性にかまけていては、十分に恩恵を得ることができませんから)

過去妹?(……でも、それ以上に)

過去妹?(くるしく、て)


過去妹?(――だから)

過去妹?「……ごめんなさい、男さん」

過去妹?(これは、私が伴侶をキープするため。強引に引き込むのは、何故だか抵抗がありますが)

過去妹?「それでもやはり、先手を打つ必要があるみたいです」

過去妹?(私がこの正体不明の苦しみから、逃れるためにも)

過去男「いや、何を言って――」



過去妹?「『私は』『貴方の』『恋人です』」


過去妹(貴方を、私のものにしたい。私を、貴方のものにしたい)

……

過去妹?「……男、さん?」

過去妹?「男さん、男さん」ゆさゆさ

 巻いてますね。要点だけ見れればそれでいいんですけれど。
 所詮番外編ですしー。

 さて、そこには妹っぽいのさんと男さん。
 男さんは……、あー、泡吹いて倒れてますね。目も焦点定まってませんし。

過去妹?(やりすぎた。失敗した)

過去妹?(はやく、洗脳を解かなきゃ)

過去妹?(男さんが、男さんが……!)

過去妹?(――、でも)

過去妹?(解けば、もう、男さんは私の恋人では無い)

過去妹?(私の恋人には、きっと二度となってくれない)

過去妹?(洗脳はもちろん無効だし、まともな恋愛も、こんなことをしてしまった私とはできないでしょう)

過去妹?(それは、困る、というより)

過去妹?「――いや、です」

……

過去少女「ほう、これはこれは」

過去少女「俗に言うアヘ顔というものかな。男のとか誰が得するのか分からんが」くっくっ

 白目むいて倒れてる男さん。
 その傍に、涙を流しながらうなだれる妹っぽいのさん。……ふむ、泣きついたってことですか。

過去少女「うーむ、携帯でも持ってればささっと撮影して世界につぶやくのだが」

過去少女「古風でおかたくて初心な垢抜けない系美少女である私は現代っ子では無いのでな。残念だ」

 ……うわぁ、今の少女さんからはどうやっても出ない発言。
 今なら真っ先に男さんを助けようとするんでしょうね。それとあの人の携帯の壁紙、男さんの寝顔ですし。

 ……すまーとふぉん、でしたっけ。私も買おうかな。
 体売ればぱぱっと稼げますし。

 あ、買ってくれるんですか映画館さん。
 ありがとうございます。揉みますか? いりませんか。


過去妹?「少女さん、なんとか、できませんか」

過去妹?「男さんを、助けられませんか」

過去少女「私に何かが出来るわけ無いだろう、戯け」

 そうそう、少女さんって結構酷な方でした。
 人外暦が私より長いだけあって、とても人外らしい薄情なひとでなしでしたね。

過去少女「自分で分かってるだろうに。この洗脳を解けるのはお前だけだ」

過去少女「なら簡単。解けばいいだけだ」

 私に頼ませる、という選択肢は無いんですね。
 全く、こんなところで私の楽しみを奪うなんて少女さんったら。もみもみ。

過去妹?「……そう、ですけど」

 それで二つ返事で洗脳を解けるのであれば、少女さんは呼ばれませんものね。


過去少女「ああ、そうだよな。仕方ないな」

過去少女「お前が洗脳したんだ。必要だから洗脳したんだ」

過去少女「――お前が、こいつの意思を踏み潰し」

過去少女「自分の意思を押し通すため、こいつを洗脳したんだ」

過去少女「そりゃあそうだよな。解けるわけ無い」けたけたけた

 ああ、実に愉快そうな少女さん。やはり彼女はこの顔のイメージがあります。
 最近は穏やかな顔ばかりでつまらないのですけれど。

過去妹?(……っぐ)

過去少女「おや、そう考えるとこれは都合がいいことになるのかな」

過去少女「こいつは今、お前には何の口答えも出来ない」

過去少女「お前が今どんなに無茶のある言い訳をしようと、黙って聞いてくれるぞ」にまぁ

過去妹?「……ぅ、ぁ」

過去少女「……あ、くそ。人外をこの方向性でいびっても意味が無いじゃないか」むすっ

 まあ、人外は利己的ですからね。基本的に他人の都合とか興味ありませんし。
 一般的には、ですけどね。


過去妹?(確かに)

過去妹?(私のような人外が、誰かを助けようだなんて考えるほうがおかしいのです)

過去妹?(伴侶候補がいなくなる、といってもまた他の人を探せばいいだけ)

過去妹?(男さんの洗脳を解くなり、ほうっておくなりして今回の経験を次に活かせばいいだけです)

過去妹?(――でも)

過去妹?(それは、なんだか、とてもいけないこと)

過去妹?(やってはいけないこと。やりたくないこと)

過去妹?(男さんを、助けたい。そして、男さんに、好きになってほしい)

過去妹?(……その前に、謝らなければ)

過去妹?(身勝手にわがままを通そうとして、そのせいで男さんをこんな目にあわせて)

過去妹?「……ごめ、ん、なさい」ぼろぼろ


過去少女「……お、おぉぅ?」

 泣きながら謝罪する妹っぽいのさん。それを見て困惑する少女さん。
 ふーむ、これはこれでそそりますね、二人とも。似合っているかは別として。

 妹っぽいのさんはそのまま右手を男さんの額へ。
 涙かぽたぽた、男さんの顔をぬらしています。

過去妹?(……傷つけたことが)

過去妹?(利用しようとしていたことが、騙していたことが)

過去妹?(搾取しようとしていたことが、自由意志を無視したことが、蜜だけを吸おうとしていたことが)

過去妹?(とても、申し訳なくて)

過去妹?(辛くて、痛くて、苦しくて)

過去妹?(――ああ、きっと、こういうことなのでしょう)

過去妹?(恋をするというのは、こういうことなのでしょう。愛するというのは、こういうことなのでしょう)

過去妹?(それを知らなかった私が、男さんに恋してもらおうだなんて)

過去妹?(そんなもの、出来るはず、なかったんです)

……

 ……いまいちよく分からない感情ですね。やはり恋する乙女を自称するには長生きしすぎたのでしょうか。
 ああ、でも年上である少女さんが男さんラヴですし、可能性はあるのでしょうか。別にいりませんけど。

過去妹?「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」ぎゅううううううう

 さて、場面が変わって泣き叫ぶ妹っぽいのさんと困惑する男さん。
 洗脳を解かれて男さんも回復したようですね。

過去男「わ、分かったから。痛いからそんなに腕を掴むな」

 涙を流して謝罪する妹っぽいのさんを落ち着かせようとする男さん。
 泣き止ませるのが目的か痛みから逃れるのが目的かは知りませんが、主人公ですし前者でしょう。

過去妹?(申し訳ないことをしました。傷つけてしまいました)

過去妹?(そんな私には誰からも愛される資格なんて無くて)

過去妹?(まして、男さんに好きになってもらうなんておこがましいにも程があって)

過去妹?(――けど)

過去妹?「きらいに、なら、ないで」ぼたぼた

過去妹?(せめてものわがままとして、これくらいは願わせて、ください)


 ほうほう、本当に男さんの事が大好きなんですね。
 さて、そんなこの子に対する男さんの口説き文句とは。てってれーん。

過去男「大丈夫だよ。実際にされたことはちょっと問題あるけど、それでも好きになってくれてありがとう」

 ……おおぅ。
 ちょっとクサめの台詞ですね。後で思い返してちょっと後悔する程度には。

過去妹?(――っ、あ)

過去妹?(おとこ、さん、だ)

過去妹?(ああ、この人は)

過去妹?(私が、大好きになってしまった、男さんだ)ぼろぼろ

 ……でもまあ。
 不安定なこの子を篭絡するには、これくらいが丁度よかったのでしょうか。

 確かにこういう状態でこんな事を言われたら私だって……ああ、経験が無いから分かりませんね。
 シュミレーションの人外とか生まれませんかね今度。未来予知では見えませんでしたし。

……

 ふむ、閉幕ですか。
 見てみれば分かりやすい理由でしたね。

 用は、近くで暮らし続けていくうちに男さんに個人的な興味がわいて。
 そのまま恋焦がれるようになってしまった、と。

 で、強引に独占しようとした結果失敗、罪悪感に苛まれて。
 それでも許してくれた男さんにさらに惚れ直してしまったということですかね。

 けれど、まあ、独占欲の強さは彼女の気質なのでしょうか。
 少女さんに男さんを奪われても諦められず、かえって想いを強めてしまい。
 
 しかし以前の失敗から、強引な手には出られなくて。
 結果として、自らを再構成するはめになってしまいました。

 ……そう考えてみれば、今の女さんの性格にも納得がいきますね。
 想いは強いけれど、相手を自分の物にはできないという葛藤を解消できます。
 
 そうですね、強いて言うのなら。
 想いを伝える人外、というのはどうでしょう。

――翌日、男の通学路――

巨乳「……ふーむ」もみもみ

 ……。さて。
 もう少しで、男さんがここを通りますね。

 未来を見た後に過去の傾向も見て、整合性は取れてますから今回の予知は外さないでしょう。
 いやはや、未来を知る人外と過去を知る人外が二人とも私より年下でよかったです。便利ですし。

女!「おっとこさーん、おっとこ、さーん!」くるくる

 ほら、いた。
 とても目立つ目印と一緒に。

 遠目に見ても男さんがちょっと気まずそうなのは分かりますね。
 素直に想いを伝えてくれてる子に応えられない、というのはどんな気持ちなのでしょうか。興味ありません。

 さて、私も用事はありますから、いつまでも見てないで接触しましょうか。

男「朝から元気だよなー……、っと、巨乳じゃないか」

巨乳「はい、おはようございます男さん。朝の一杯はいかがですか?」たぷん

男「遠慮しとく。……ってか出るのか、それ」

巨乳「そういう風に変身すればいけますよ」ふにふに


巨乳「ああ、そうではなくて、今日は女さんに用事があって来たんです」

女!「男さんへの愛は幾らでも語れますよ!」

巨乳「それはまたの機会にお願いしますね」くすくす

 一生懸命ですね。可愛げがあります。
 どこぞの中学校で下衆候補を誑かしているあの人外に紹介したらどうなりますことやら。

巨乳「あなたが偽者の人外であったとき、つまり妹っぽいのと呼ばれていたときのことを、覚えていますか?」

女!「……」

 覚えていらっしゃるようではありますね。ただ、予想通り思い出したくは無い、と。
 少女さんがまだ思い出を食べる人外だったなら良かったんですけどね。

 けれど今となってはどうしようもありません。
 その記憶を抱え、永遠を生きるほかありません。

巨乳「……あまり、彼女を嫌わないであげてくださいね」

女!「……?」


巨乳「今の貴女の核である、男さんへの想い」

巨乳「それを形成したのは間違いなく彼女です」

女!「……あ、あ」

巨乳「それにですね、それ以前にも」

巨乳「偶然ではありますが、男さんと出会ったのも、彼女のおかげです」

 過去を抱えて生きなければならないのなら。
 意識しないようにするよりも、その過去さえ愛してしまったほうが手っ取り早いでしょう?

巨乳「――ですから」



巨乳「過去の貴女は、今の貴女、さらに未来の貴女を幸せにしてくれたんです」

 尻拭いの人外として。
 コレくらいの世話は、見てやってもいいでしょう。

おわり。

続編、というか完結編も予定しておりますが、遅筆過ぎて笑えないため書き溜めてから新しくスレ建てて投稿します。
また、過去作に関して指摘や質問等ございましたら受け付けます。

乙乙

下衆を誑かすって別のssの話しだよね?

>>152
はい。酉でググって下されば弟が主人公のが出てきますが、それの図書委員さんです。

・・・ちょっと待って。>>153よ、弟と図書委員の話って弟が結構黒いと言うか、関係を滅茶苦茶にするのが好きなアレだよね?兄と姉・妹との関係の時みたいに。
あれに出てくる図書委員って人外だったのか!?てっきりちょっと考え方がおかしな奴だと・・・・

他には?

>>155
それですね。
本編では触れてませんが、彼女も一応人外です。

>>156
淫魔姫を重要キャラにしておきながらエロがない奴も書きましたが
あれとこれは世界観が別なので。

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