GACKT「輝きの向こうへ?」 (85)

GACKT「今度は何?」

セメナ祭が終わった日の翌日、YOUが突然、映画を見たいと言い出した。
これからDVDに起こさなきゃいけないというのに、なんだというのか。

YOU「ほら、がっくんアイマス全クリしてから何か元気無かったみたいだし。
良かったら、見に行こうよ!」

元気が無い。そうかと聞かれれば、悔しいがそうかもしれない。
なんせ一年も一緒にいて、切磋琢磨していった仲間達なんだ。
胸に穴が開いたようだ、という表現が正しいと思う。

GACKT「で、それと映画が何の関係があるの?」

YOU「あれ?てっきりアニメの方も見てたと思ったのに、違うんだ?」

アニメ?あれアニメもやってたんだ。知らなかったなあ。

YOU「本当、そういうの疎いんだからなぁ。この映画は、それの劇場版だよ」

GACKT「そっか。じゃあまずは、アニメを見なきゃだな」

YOU「良かったら、貸すよ」

GACKT「いや、いいよ。買ってくるから」

YOU「豪快だなぁ…」

家に帰り、ついでに買ったテレビにDVDを入れる。

どんなアニメなのだろう。
パッケージもロクに見なかったから、分かんないや。あはは。

すると、まさか。
懐かしい光景が広がっていた。

「これ…たるき亭じゃないか。
…あれ、何だか」

僕のあの時にそっくりじゃないか。
何だかもどかしいなあ。

あはは。確かにあの双子、こんな事してたなぁ。

そうそう。雪歩はすぐ倒れてたっけ?

伊織達の背伸びは面白かったなあ。

そうそう。この民宿だ。
ここで美希が入ってきたんだっけ。

ああ。竜宮小町、遅れてたよね。そうか。この辺からは違うんだなあ。

あはは。あの悪徳記者、もっと虐めておけば良かったな。

貴音はほんと、ラーメンが好きなんだなあ。

響、そうか。こんな事もあったんだ。

小鳥のあの姿は、美しかった。

真のお姫様は、面白かったな。

千早の歌声、まだまだ改善すべき所があるなあ。

春香、メインヒロインという割には、お前のが一番世話が焼けたよ。


「………………」

何だろう。ハッピーエンドで終わった筈なのに。

「…………………」

何で僕は、頭を抱えてるんだ。

「…………………」


認めるわけにはいかない。認めてしまえば、僕らしくなくなる。






「…………………!!」






僕は、彼女らに会いたかった。

「がっくんお早う。すごいクマができてるよ」

愛知での仕事帰り、YOUと夕方5時に、映画館で待ち合わせをしていた。

物凄い人集りだ。
彼女らは、こんなに人気があるんだな。

嬉しいよ。あはは。

「がっくん。実はね、今日、特別試写会なんだ!」

特別試写会。それが何なのかは知っている。

キャストが出てきて、挨拶をする、という奴だ。

だが、僕は声優に関しては、ジブリ程度のキャストしか分からなかった。


「あ、あの~もしかして、GACKTさんですか!?」

映画館のスタッフだろうか。
僕に恐る恐る話しかけてくる。

「そうだよ。今日はこれを見にきたんだ。親友とね」
「えへ」



「…もし、良ければなんですが~」

案内されたのは、キャスト達の控え室。

声優の人達は、一室だけなのか。

今回は三人のキャストがいるらしい。


ドアをノックして、入る。

「お邪魔しまーす」

彼女らが、ポカンと口を開けた。
あはは。だろうなぁ。

数秒後、彼女らが動揺しながらも、僕に何度もお辞儀をしてきた。

とても、聞き慣れた声で。

「わ、私!星井 美希役の長谷川明子と言います!」

「我那覇 響役の沼倉愛美です!」

「四条 貴音役の原由美です!」

「GACKTでーす。こっちは親友のYOUね」

三人と握手を交わす。

サイン交換。



でも、僕にはちょっと辛かった。

彼女らの事は知らなかった。
でも、この声は知っている。

一年も一緒にやってきたんだから。

だからこそ、辛かった。

それを、口に出した所で彼女らは恐らく、ゲームをプレイしたくらいにしか思われないだろうから。

参ったなあ。

「ねえ。一つ頼んでもいいかな?」

「はい!何でもどうぞ!」

由美がハキハキと喋る。




「今から、僕の事をプロデューサーと思って会話して欲しいんだ」


三人の頭上に?マークが浮かぶ。

しかし直ぐに合点がいったようだ。


まあ、僕の想いと彼女らの想いは違うんだろうけど。

君達にとってはただ試されている、としか思えないんだろうけど。

僕は、とにかく。
寂しさを紛らわせたかっただけなんだ。
ごめんな。

「ねえハニー!今日は美希達の晴れ舞台に来てくれてありがとうなの!」

「自分、張り切っちゃうからな!プロデューサー!」

「あなた様。どうか楽しんでいってくださいね」


いけない。年をとると、涙腺が緩むというのは本当らしい。

平静を取り繕い、彼女達に礼を言う。

YOUは終始興奮気味だった。

それが普通なのかな。あはは。


「ありがとう。じゃあ、これからも頑張って」

「「はい!ありがとうございました!!」」


映画を特別席で見せてくれるそうなので、甘えておくことにした。

映画が始まる前に、キャストの三人が舞台に立つ。

観客達が凄まじい勢いで声を上げる。

彼女達、人気者なんだなあ。

これからが楽しみだ。

映画が始まると、何やら見慣れないキャラクターが出てきた。

ああ。バックダンサーか。

もう彼女らも立派なトップアイドルの仲間入りを果たしたんだな。

あはは。確かに彼女らも初めのうちはたった一日のレッスンで筋肉痛になってたっけ?

誰だって初めのうちはそうなんだよな。

しかし、伊織は先輩面が似合うなあ。

あはは。もうあきらめちゃうのか。
この可奈と言う子は、初めの頃の雪歩にそっくりだ。

さて、ここから彼女らがどうするか、だな。

アイドルを夢見て、道半ばで諦める者は珍しくない。

彼女らもそうだったのだから。
けれど、それを乗り越えてトップアイドルとなったのだ。

同じ道を歩んでいるからこそ、気持ちが分かるんだろうな。

春香。随分と器が大きくなったじゃないか。

何だか鼻が高いよ。

でも、ええと。
名前は分からないけど、このプロデューサー。
少し頼りがいがないな。

僕だったら、どんな方法を取るのだろう。

この場面にいないから、何とも言えないけど。


あはは。随分太っちゃったな。
まあ。世の男達は、少々肉付きが良い方が良く見えるんだけど。

それでも彼女達にはキツイものがあるんだろうな。

でも、スタートが遅れたとしても、取り戻せないわけではない。

可奈はきっと、凄まじい努力をしたのだろう。

最期には、アリーナLIVEを成功させてみせた。

よく頑張ったな。
僕の後ろの席の男達が泣いてるよ。

エンドロールが流れ、明るくなると、盛大な拍手が巻き起こった。

YOUも拍手してたよ。全く。



本当、良かったよ。

「ねえ春香。奇跡って信じる?」

学校の友達が不意に口を開く。
何かあったのかな?

「いやねぇ。直美が隣の男子校の学年一のイケメンに告白するんだって。
でも話したこともない相手なんだから、無理だって言ってんだけどさあ…」
「分かんないじゃん!信じれば奇跡は起きるんだぞ!」

ははは…そうだね。
100%駄目ってことじゃないし。

「やってみないことには分からないと思うよ」

「でしょ!?春香はやっぱり話が分かるねぇ!」

うん。
だって私もその奇跡に出会ったから。

そして、今この瞬間も、その奇跡の再来を信じてる。

私だけじゃない。
765プロのみんなが信じてる。

扉を開けたら、いつものように。
足を組んで、優雅にコーヒーを飲む彼がいることを望んでる。

そして、いつものように不敵な笑みを浮かべながら。

「お早う春香。仕事、頑張れよ」

って言ってくれることを信じてる。

GACKTさんが元の世界に消えてからも、私達は彼がいつでも戻ってこれるように、デスクの掃除をして、彼専用のコップを買って、そしてプロデューサーを雇わずに自分達だけの力でやっている。

いわゆるセルフプロデュースというやつだ。

世間では、GACKTさんが消えた事を知るものはいない。

それは私達だけの秘密だから。

知ってるのは、私達と黒井社長くらいだろうか。

黒井社長と高木社長はあれからよく二人でバーに出かけているらしい。

黒井社長曰く
「相手がいつまでもしょげていてはつまらんからな!」
らしいが。

分かっている。
彼はきっと、高木社長を慰めたいんだろう。

ただ、素直じゃないだけだ。
何だか、伊織みたいだなあ。

美希はというと、GACKTさんが消えてからしばらくは、仕事が手に付かない程やつれてしまった。

しかし、みんなの世話の甲斐あってか、何とかいつもの調子を取り戻した。

大丈夫ですよ、GACKTさん。
いつでも戻ってきてください。

それとも、そっちでアイドルのプロデュースでもしてるんでしょうか。

だったら、嫉妬しちゃうなあ。





やっぱり、会いたいですよ。
GACKTさん。

今、どこで何をしてるんですか?

映画を見終わった後、家に帰り、もう全てクリアしてしまったが、もう一度、あのゲームを起動させた。

いけないなあ。
良い年した男が、逆ホームシックだなんて。

『プロデューサーさん!』

あはは。
僕も、まるでオタクだな。

まあ、悪くないかな。

それに、僕のやる事はもう終わったんだ。

後は、彼女ら…しだ……い……zzz

「ハッ!!?」

いけない。
ゲームの最中に寝ちゃうなんて。
僕らしいけど、この癖は治さなきゃダメかなあ。

あれ?コントローラーが無い。

なんだ?僕は今までソファに座ってたのに。

何でこんな小さいベッドで寝ているんだ?

…いや、このベッドは。
知っている。
そうだ。思い出した。

なんせ一年も住んでたんだから。

忘れるはずがないよ。

仕方ないな。
行くとするか。


その前に

たるき亭のご飯抜き定食でも食べるとしようかな。あはは。

先日の夜だろうか。
社長から電話があった。

今日は全員、事務所に集合してほしいという。
声が弾んでおり、何かのサプライズがあるようだ。

…まさか。
いや、今まで期待して、何度もへし折られてきた。

でも、直美が言っていた。
信じていれば、奇跡は起きる、と。

なら、今度こそ。

自然と私の足は、駆け出していった。
一切転ぶ事なく、ただ事務所を目指して。

階段を駆け上がる。
息を切らしながら。

呼吸を整え、深呼吸をする。
来てくれた。今日こそ、来てくれたんだ。

ドアを勢いよく開ける。





「お早う春香。元気にしてたか?」

いた。

どれ程待っただろう。
どれ程泣いただろう。

おかしい。
口が開かない。

涙で前が見えない。

目の前にいたのは、灰色のスーツに、金のネクタイ。

サングラスをかけて、不敵に笑い、コーヒーを優雅に飲む。

「GACKT……さん……!!」


私は、膝から崩れ落ちてしまった。

「どうしたんだ。らしくない」

「違うんです…嬉しくて……!」

「僕も嬉しいよ、また会えて」

GACKTさんが、優しく私を抱き締める。

そうだ。幻じゃない。
体温があって、力強く、それでいて優しい感じ。
これだ。GACKTさんである何よりの証拠。



「おかしいなぁ…」
「?」

「GACKTさんに会ったら、何を言おうか、ずっと考えてたのに、あった途端に、全部忘れてしまいました」

「僕もだ。お前の顔を見た瞬間、忘れてしまったよ。…だから、これしか言えないな」

「…ただいま。春香」
「…おかえりなさい。GACKTさん」

GACKTさんの顔を見た瞬間。
皆私と同じように、泣きじゃくった。

抱きついて話さなかったり、その場でへたり込んだり。

貴音さんが泣くなんて、珍しいなあって思った。

美希なんて、何処から出るのってくらいの大声で泣いていた。

やっと、やっと帰ってきてくれた。

胸に空いた穴が、静かに埋められていく感じがした。

「しかし、君が帰ってきてくれて、本当に良かったよ」

社長が口を開く。
聞けば春香達は、今までプロデューサーを断っていたそうだ。

いつでも僕が来れるように。
何だか照れるなあ。

「そこで、だ。GACKT君。早速なんだがねぇ。これを見てくれないか?」

手渡されたのは、企画書。
…あはは。僕は、これを知ってる。

アリーナLIVE。
そこで、バックダンサーを研修生から7人程取る。

そうか。まだ僕は、この世界に必要とされていたんだな。

なら、全力を尽くすとしよう。

「任せてくれ。最高のLIVEにしよう」

一年以上ぶりの、握手を交わした。


「い、痛いよGACKTくん!?」

「「…」」

春香達と顔を合わせる前に、プロデューサーである僕と面談をする。

どういう子達なのか、まず見てみたいからだ。

運命のイタズラか、はたまたこれは決定事項とでも言うのか。

しかし、緊張しているのか、僕の顔色を伺いながら押し黙っていた。

「じゃあ、一人ずつ自己紹介して」

誰から、とは言わない。
意地悪かもしれないけど、こういうのは初めが肝心だから。

ある程度グイグイ来るほうがいい。

そうすると、あの子が口を開いた。

「や、矢吹 可奈です!」

この子か。
果たして僕が来た事で、どうなるか楽しみだ。

そして、一人が口を開くとたちまち二人目三人目と喋り出す。

すると、最期に喋った子が僕の目に止まった。

「北沢 志保です」

伊織と何度も衝突したあの子か。

さて、どう関わってくるのかな。


何にせよ、明日の顔合わせが楽しみだ。

「あ、あの人が春香ちゃん…」

「や…やっぱ風格あるなぁ…うちら、ほんまにトップアイドルの人達とLIVEするんやなぁ」

合宿先で、先に待っていた彼女達がウサギのように耳をたてながら壁の向こうからこちらを見ている。

あはは。可愛らしいなあ。

これからが楽しみだ。

「はぁ…」

やはり、食事も喉を通らないようだ。

僕はあまりダンスレッスンには関わらない為、どの程度なのかは分からない。

一度トレーニングを見てくれと言われたので、僕がやっている事をそのままやらせたら、真以外の全員がダウンしてしまった。

それ以来、ボーカルレッスンしか教えさせてもらえなくなった。あはは。

「…」

とりあえず、彼女達の席に座る。

一同がビクッとして、僕にお辞儀をする。

気を使っているのは容易に見て取れた。

「今日一日、どうだったかな?」

聞かなくても顔色や箸を手につけないことから、すぐに答えは分かるが、とりあえず聞いてみた。

「あはは…やっぱすごい大変ですねぇ…」

関西の方の子だろうか。
少々訛りながら呟く。

「あはは。誰だって初めのうちはこうだよ」

飴と鞭、という言葉がある。
今この場合は、律子が鞭かな?

なら僕は、飴にでもなろうか。
飴といっても、舐められるのは嫌だけどね。

「少しずつ、少しずつ慣らしていけばいいさ。時間はたくさんある。
雪歩なんて、すぐにへばって弱音を吐いていたからな」

「ぷ、プロデューサーぁ…恥ずかしいからやめてくださいぃ」

「ええー!?雪歩さんもそうだったんですかー!?」

途端に皆が雪歩に注目する。
雪歩の顔がみるみるうちに真っ赤になる。

あ、これフラグたったかな。

一度笑いが起きれば、後は成り行きに任せればいい。

皆の緊張がほぐれていくのが分かった。

そう。これでいい。
僕が765プロが学んだこと、それは、皆で切磋琢磨しあうこと。

最後は皆でゴールすること。

以前の僕だったら、こんな事は考えられなかった。

後は、この子達のモチベーションが沈まないよう気をつけるようにしよう。

「はいそこ!動きが遅れてるわよ!」

律子の指導は、研修生にとっては地獄の様なものなんだろう。

しかし、プロの世界では当たり前の事だ。
むしろ今、その片鱗を味わっている事で彼女らの将来にも貢献できる何かがある筈だ。

例えこの研修生たちがアイドルの道に進まなかったとしても。

そんな事を思っていると、ふいに響が妙な事を言い出した。

「なあプロデューサー!プロデューサーのダンスも見せてあげようよ!」

何を言い出すのかと思えば。
僕にお前達のダンスをやれというのか?
それは無理だよ。やったことないし。


……ああ、そういえば、一つだけあったかな。

「だけど、あれはLIVEでは必要無い曲だし、何よりなんの見本にもならないだろ?」

「いいからいいから!ほら、真も貴音も美希も!
…覚えてるだろ?」

「へへーん!当然!」
「ハニーの歌なら全部覚えてるの!」
「ええ。それに今の私達なら、何度でも大丈夫です」


律子も苦笑いしながら僕を見る。
そうだなあ。
765プロの実力を見せつけるのも、練習の一つ、というやつかな。

だったら、やってみようか。

http://www.youtube.com/watch?v=3KQSrnylJi4

「「わぁ…」」

驚嘆の言葉。
けれど、驚いたのは僕の方だ。

以前の彼女達なら、この一曲だけで疲れ果ててしまっていた。

だが、今は笑顔で僕を見ている。

知らない間に、随分成長したものだ。
嬉しいよ。あはは。


「…と、まあうちはプロデューサーから違うからね。

あんた達も、将来的にはこれくらいなってもらうわよ!」

律子が拳を握って言う。

彼女達はというと、若干引いていた。
やはり、自信が湧かないのだろう。

実力の無いうちに圧倒的なものを見せつけられてしまうと、萎縮してしまう者はよくいる。

そこで何くそ、と頑張れるもの達がトップへの切符を手にするのだ。



「…皆、才能だけでここまで登りつめたわけじゃない。
勿論僕もだ。

それに、765プロの中でも実力の差はある。

だけど、彼女達は、それを努力で埋めてきたんだ。

だから、諦めないで頑張れよ」

言葉では通じないかもしれない。
けれど、いずれ分かるさ。
そんなもんだよ。

束の間の休息時間。

彼女らは水鉄砲で遊んでいた。
やはり、まだまだ若い子供達だ。

若いのは特権だし、何よ…



「ふん。ぼーっとしてんのが悪いのよ!」

「…………………」

「な、何よ…」

「…………………」

「そ、そんな見ないで、わ、悪かったから」

「…………………………」

「ふえぇ…ごめんなさいぃ……」

伊織。悪ノリは良くないぞ。

そういえば、春香の姿が無かったので、見回してみた。

すると、体育館裏で、可奈と話していた。

「何か、話してたのか?」

近づくと、二人してオーバーな反応をする。

何か見られたくないものを見られたような感じだ。

…ああ。そういうこと。

「お菓子が好きなのか?」

「は、はい。す、すいません」

「節度を持ってくれればいいよ。
だけど、食べたら食べた分だけ動いてもらおうかな」

「ひえぇ…」

この子は、春香のファンだという。

しかし、春香というより、雪歩に通ずる物があるな。

とてもいじりがいがある。
ゾクゾクするよ。あはは。

合宿が終わったのち、規模は小さいが、アリーナの宣伝目的の小ライブがある。

そういえば、映画ではここで可奈が事件を起こすんだっけ?

…参ったなあ。
すっかり、忘れてたよ。
うかれてたからかな。







『765プロのオーバーワークのせいか?アイドル研修生、ライブ中に転倒事故!』

週刊誌の765プロへのバッシング記事を見ながら僕は激しく後悔していた。

レッスンスタジオに思い空気が漂う。

「可奈ちゃん。今日も来ませんでした…」

春香が俯きながら呟く。
こうなることは分かっていたのに、止められなかった。

反省しなければならないな。


すると、研修生の一人が口を開いた。

「放っておけば良いと思います」

北沢 志保。
彼女だった。

「そ、それはダメだよ。可奈ちゃんだって、きっと辞めたくないはずだよ」


「でも、一人に付き合わせてたら全員が遅れてしまいます!

ヤル気が無いなら、辞めてもらった方がいいですよ!」

「…でも」

「貴方、リーダーじゃないんですか!?どうして、チームより個人の事を考えるんですか!?」

「……」

助け船でも出してやろうか、そう考えていると、伊織が喋り出す。

「志保。あんたが何を言おうと、リーダーは春香よ。

私は、春香に従うわ」

「……!?どうして、そんな甘いんですか…」




「志保。少し話を聞いてくれ」

「?」

志保が、納得のいっていない表情で僕を見る。

今の志保の気持ちはよく分かる。
だって、僕もそうだったから。

「もう結構前になるんだけどね、765プロの年末感謝祭ライブ直前、僕は一度春香を追い出したことがある」

「!?…どういうことですか?それは」

春香は、複雑そうな顔をしていた。
あまり思い出したくないのだろう。

だけど、これは言っておく必要があると思うんだ。

「春香は、たった一人で忙しい合間をぬって、練習に励んでいた」

「けれど、思うように皆で練習ができなかった」

「その時は、バラバラで仕事をする事が多かったから、あまり集まれなかったんだ」

「だから、何とかして皆で練習したいと僕に相談してきた」

「……」

皆、押し黙っている。
あの時の事を思い出しているのだろう。

「その時の僕には、春香の気持ちが分からなかった」

「アイドルの絆、というものをあまり信じていなかったからだ」

「765プロの経営方針は、皆で仲良く楽しく仕事をすること。

僕には到底無理だと思っていた」

春香が不安げな顔で僕を覗く。
肩が少し震えていた。

ごめんな。もう少し続けさせてくれ。

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