魔王さま「勉強をしたい」(11)

『はたらく魔王さま』

初投稿の素人ですが、宜しくお願いします。

ここは「魔王城」と呼ばれるアパートの一室。

家主は真奥貞夫。
かつて魔王サタンとして異世界に君臨した男は地球の人間世界に身を置き、
フリーターとして全力で生きている。

もう一人は芦屋四郎。魔王に仕え、知将と呼ばれた悪魔大元帥アルシエルは、
今や主夫として魔王城の家事全般を取り仕切っている。
口うるさいママである。

三人目は漆原半蔵。天使だったルシフェルも悪魔大元帥として
魔王と共にあったが、今やパソコンがお友達の引きこもりである。
ニート最高!

そんな三人が、人間の青年として東京に片隅である
この狭い6畳一間で肩を寄せ合って暮らしている。

「勉強したいな」

洗いさらしのtシャツにパンツ一丁の真奥が、畳に寝転がったまま呟く。

「魔王様?」

彼に尋ねるのは、エプロンをつけたまま隣に座ってお茶をすする芦屋。、

「何を仰います。かつて魔王様は魔界とエンテ・イスラを制し、
今やマグロナルドの時間帯責任者ではありませんか。悪魔としても
人間としても、この世を生き抜く術はお持ちかと」

「エンテ・イスラの次がマグロナルドねえ」

「ルシフェル、お前は黙ってろ!」

大好物のから揚げをつまみながらパソコンに向かう漆原の呟きに、
芦屋が怒る。

「この世を生き抜くすべも大事だが、もっと基本的な。
芦屋、漆原。俺は学校で勉強をしてみたい!」

真奥は起き上がると、二人を交互に見ながら話す。

「魔王様」

「日本に来て驚いたのは、高度な教育機関があるってことだ。
子供は小さいころからみんな9年間義務教育を受け、高校、
そして大学に行く。魔界は人間みたいに文明は高度じゃないし、
学校なんてない。俺も勉強なんかしたことがない。
みんなが勉強できる環境って素晴らしいと思わないか?」

「勉強ねえ。何の役に立つのやら」

真奥の熱弁もニート漆原は興味がわかないらしい。

「確かに、生きるために直接役にはたたねえかもしれないが、
魔界は殺伐として理性のない欲望しかねえ。
だが、日本の人間は暴動なんか起こさないし、礼儀正しく真面目だ。
仕事も一生懸命だし、人に気配りもできる。
それって、全員が勉強できる環境のお陰だからじゃないか」

「確かに仰る通りです。文明は教育が作るのかもしれません。
さすが魔王様でございます」

「暴動が起きないのは、日本が豊かで危機感がなく平和ボケ
しているだけなのかもしれないよ」

「む、ルシフェル!」

真奥に賛同する芦屋とどこか冷めた目の漆原。

「日本が今の反映を手に入れたのは、明治維新以来の勉強とたゆまぬ努力だ。
努力に関しちゃあ俺は誰にも負けねえ。だが、学がない。
この国の支配者はみんな東大や一流大学卒業だ。
学歴が全てじゃないっていうが、民衆は学歴というステータスに弱い。
俺はいずれこの国とエンテ・イスラを征服するつもりだが、
その為に学校で勉強して君主論を学び、
大卒というステータスを手に入れたい」

真奥はいつの間にか立ち上がり、拳を握って熱弁を振っていた。

「魔王様!このアルシエルお見それ致しました。
征服の為にそこまでお考えだとは」

「で、どうすんの。そんな図体で幼稚園から行くの?捕まるよ」

茶々を入れる漆原であった。

「さすがに中学生程度の学力はあるはずだ。日本に来た当初、
俺と芦屋は少し勉強したからな。それより、漆原は漢字の勉強をしろよ」

「読めてるからいいじゃないか!」

日本に馴染み過ぎている真奥と芦屋が凄すぎるのだが、
漆原はひらがなしか書けない。

ならば高校からですか。しかし魔王様。理想は立派なのですが、
我々には軍資金がございません。ここはルシフェルも働かせて、
学費を稼がねば」

「えー、僕も働くの?」

ここぞとばかりに漆原を働かせようとするママと
働いたら負けだと思っている息子。

「そうなんだよな・・・学費がネックなんだよな」

家計の話題に敏感になる魔王と悪魔大元帥。

「ならば定時制はいかがでしょう。昔通えなかったお年寄りや、
社会人が通われているとか」

「・・・」

「魔王様?」

「真奥、何か露骨にいやな顔してない?」

「いや!なんでもねえ!よし、バイトに行ってくるぞ。
ちぃちゃんに高校の様子とか聞いてみよう!」

真奥はジーンズに足を通して靴下を履くと大慌てで、
玄関から出て行ってしまった。

その様子に面食らった芦屋と漆原であったが、
芦屋が真奥の居た場所で何かを見つけた。

「ん!『俺の彼女は女子高生』?何だこの本は?」

「それ、最近真奥がはまってるライトノベル。
あのさあ、真奥が学校に行きたいって言ったのってさあ・・・」

「ルシフェル、それ以上言うな。さすがの私でも解る」

とりあえず、以上です。

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