春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」 (130)

春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」
春紀「暗殺に成功して帰ってきたのに厄介なことになってた」

の続編

のんびりやる

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あたしの名前は寒河江春紀。元十年黒組の生徒だ。
先日あたしはとある事情であの学園を辞めた。というか退学になった。
そして今、思わぬ形で再び足を踏み入れようとしている。

「嬢ちゃん。俺は車回してくるから先にお客さんと落ち合ってくれないか」
「はい!」

退学になってあたしが真っ先に始めたこと、それはバイト。厳密に言うとバイトの面接、だけどな。
実際バイトを始めるまでに色々あったけど、今はこうして引っ越しの業者として段ボールやら家具やらを抱えている。
単身赴任や、新居への引っ越し、色んな現場を回った。
そして今回はまた初めてのパターン。
それは寮から実家への荷物の運搬だった。

おっちゃんから渡された伝票の名前を見て、誰に言うでもなく「なるほど」と呟いた。
こんな時期に学校の寮から出て行くと聞いて、まさかとは思っていたが…そうか。
笑いを噛み殺しながらあたしは待ち合わせ場所として指定されていた寮の玄関に向かった。

「ちーっス!わざわざ悪いっスねー!」
「いえいえ、こっちも仕事なんで。……アンタもしくじったんだな」

深々と被っていた帽子のつばを持って瞳を覗かせると、金髪の女は心底驚いたように目を見開いた。
あたしはこいつを知っている。そしてこいつもまた、あたしのことを知っている。

「えっ、春紀さん!?」
「意外だな。アンタのことだからあたしが来るのもお見通しなのかと思ってたぜ」
「いやぁー、うちも立ち会いを頼まれただけっスからね。そこまで把握してなかったっスよ」
「……?」
「言っとくっスけど、しくじったのはウチじゃないっスよ?」
「ふぅん。まぁいいさ」

あたしは手短に話を遮ると握っていた拳を鳰に目掛けて振り下ろした。
いわゆる拳骨だ。自分で言うのもなんだが、あたしのこれは相当効く。


「ったぁー……!」
「言ったろ。次会ったら殴るって」
「拳骨はないっスよぉ……」
「うっせ」

そうして間もなく、おっちゃんが合流した。
あたし達は鳰の後に続いて、荷物を運び出す部屋まで歩く。
途中、二号室の部屋の扉が視界に入ったけど、なんてことないって顔で無理矢理振り切った。
そうしてしまった理由は、あたしは仕事としてこの学園に来たからに他ならない。
あくまで荷物運びとしてやってきただけなんだ、遊んでいる暇はないだろ。

「……」

ということにしておく。
別段顔を合わせてはいけない理由なんてないくせに、
理由探しに執着している自分が妙で滑稽だった。

「春紀さーん。伊介さんと連絡、取ってるんスか?」
「はぁ…?取ってる訳ないだろ」
「すぐそこに」
「うるさいな。あたしは業者として来てるんだ。余計なこと言うなよ」
「……了解っス♪」

おっちゃんはきょとんとした顔であたし達の会話を聞いている。
履歴書にはこの学校に入学したことは書かなかった。だって不自然だろ、入学してすぐに退学なんて。
本当の事情を説明することだってもちろんできない。

おっちゃんはこのことを社長に報告するだろうか。まぁ、適当に言って取り繕えばいいだけなんだけど。
鳰の奴め、次から次へと面倒を起こしてくれやがる。
二人きりになれたらもう一発拳骨だな。


・・・

・・・


春紀「……と、こんなもんか」

鳰「いやぁーご苦労様っスー」

春紀「にしても……剣持が、な」

鳰「そうなんスよー」

春紀「本人も入院とは……随分派手にやったんだな。惜しかったのか?」

鳰「何がっスか?」

春紀「晴ちゃんの暗殺に決まってるだろ」

鳰「惜しいも何も……剣持さんは何もしてないっス」

春紀「は?」

鳰「予告票渡すだけ渡して毒で入院っスから」

春紀「オイちょっと待てよなんだよそれ不憫過ぎるだろ」


鳰「言ってなかったっスね」

春紀「いや、別に剣持がどうなろうと、アンタに報告義務なんてないんだからいいんだけど」

鳰「そうじゃないっスよ」

春紀「?」

鳰「誰が毒でやったと思います?」

春紀「……?さぁ、そういえば誰だ?東も晴ちゃんも、そういうタイプには見えないけど……」

鳰「桐ヶ谷さんっスよ」

春紀「はぁ!?」

鳰「桐ヶ谷さんと生田目さんは……もう………」

春紀「は……?桐ヶ谷は剣持を殺して…その桐ヶ谷も生田目と死んだってことか……?三角関係?」

鳰「動揺してるのはわかるっスけど、相当アホなこと言ってるっスよ。いま」


おっちゃん「よっ!もう忘れ物はないかい?」

鳰「あっ!はーい!いま点検してたんですけど、大丈夫みたいっスー♪」

春紀「……まぁ、いいや。それじゃな、鳰」

おっちゃん「っと、寒河江。お前、今日はもう上がれ」

春紀「へ?でも」

おっちゃん「荷物も大した量じゃなかったしなー」

春紀「い、いやあたしは」

おっちゃん「安心しろ。社長には積み降ろしが終わったあとに最寄り駅で降ろしてやったって言っとくから」

春紀「いや、バイト代の心配してるんじゃなくて」

おっちゃん「……色男に会ってこいよ。っじゃなー」

春紀「あっ!おい!待ってよ!」

鳰「……行っちゃったスね」

春紀「……お前がおっちゃんの前で伊介様の話するからだぞ」

鳰「ありゃ完全に男だと思われてるっスね」

春紀「はぁ……ややこしい名前だよなぁ……」

鳰「春紀さんにそれ言う資格はないと思うっスけど」


鳰の部屋



春紀「おっちゃんの中じゃあたしが伊介様に……ってことだろうな……」

鳰「だと思うっスよー♪いやぁー面白いことになっちゃいましたねー」

春紀「……」ゴスッ!!

鳰「いったぁああ!!!」

春紀「お前、うるさい」

鳰「うぃっす……」

春紀「大体、あたしはもう伊介様に会う理由なんてないしな……」

鳰「まぁまぁ。さっきの話じゃないっスけど、生きてる内に会っておいた方がいいんじゃ?って思うんスよねー」

春紀「……生田目と桐ヶ谷のことか」

鳰「そうっス」

春紀「詳しく聞かせてもらえるか?」


鳰「えぇ。まず、生田目さんの狙いは最初っから晴じゃなくて桐ヶ谷さんだったんスよ」

春紀「はぁ……?どういうことだ?じゃあずっと仲のいいフリをしていたということか?」

鳰「いやいや。生田目さんはとあるアサシンを追ってたんスけど、そのアサシンの顔まで知らなかったんスよ」

春紀「……すごい偶然だな。何も、その二人じゃなくてもよかったのに」

鳰「桐ヶ谷さんは千足さんと暮らすことを条件に晴に予告票を渡したんス」

春紀「そう、か……」

鳰「で、学園祭の劇の本番中に、桐ヶ谷さんこそが自分の追い求めているアサシンだと知った生田目さんは、断腸の思いで桐ヶ谷さんを手にかけたんスよ」

春紀「生田目……つらかったろうな」

鳰「って言っても、最後の一押しは桐ヶ谷さん自身でやったんスけどね」

春紀「……」

鳰「で、生田目さんは桐ヶ谷さんの武器である毒を飲んだ。これにてロミジュリ閉幕っス」

春紀「………」

鳰「みんな本当に死んじゃったのかと思ったーって喜んでたっスけど、まー演技じゃないっスからね。ヒヤッとしたっスよー」

春紀「……」


春紀「代金は振込だろ?」

鳰「へ?」

春紀「荷物の運搬代だよ」

鳰「あ、あぁ。そうっスよ」

春紀「んじゃ、これ請求書」

鳰「はい。えっと?」

春紀「あたし、行くから」

鳰「伊介さんのとこっスか?」

春紀「あんたにゃ関係ねーだろ」ガチャ

バタンッ

鳰「……素直じゃないっスね。あの人も」


2号室


春紀「……」コンコン

春紀「………」

春紀「……」コンコン

春紀「………」コンコンコンコン

ガチャ

伊介「何よー、さっきからしつこいわね!伊介は今そういう気分じゃ………え」

春紀「よっ。覚えてる?あたしのこと」

伊介「………ギリギリね」

春紀「ははっ、そうかい。ま、覚えててくれてよかったよ」

伊介「そうね、感謝した方がいいわよ。アンタ」

春紀「あぁ、そうするよ。……入っていい?」

伊介「…………好きにすれば」


春紀「よいしょっと」ドカッ

伊介「ちょっとー、そこあたしの場所なんだけど?」

春紀「そうなのか?」

伊介「そうよ」

春紀「……ベッド、位置替えたのか」

伊介「………別に、そっちの方が何となく落ち着くから、そうしてるだけ」

春紀「そっか。あぁ、あたしな、昼の仕事でたまたまここに来てさ。引っ越し屋やってるんだけど」

伊介「別に、聞いてないー♥っていうか見たら大体わかるし」

春紀「…そっか、そうだよな」

伊介「……家族は?元気なの?」

春紀「……!」

伊介「何よー」

春紀「いや、ただ、伊介様がそういうこと聞いてくると思わなくて」

伊介「ちょっとそれどういう意味?ムカつくー♥」


春紀「家族は元気だよ。伊介様は?」

伊介「は?伊介は問題ないに決まってるでしょー♥マジ舐めんな♥」

春紀「はは、そうか。悪かったね、変なこと聞いて」

伊介「………んで……のよ……」

春紀「え?」

伊介「なんでアンタが謝んのよ……」

春紀「え?だって……」

伊介「……はぁ。とりあえず、元気ならいいわ」

春紀「あぁ。……あたし、ここに来るの迷ったんだけどさ」

伊介「へ、へぇ。何よ……じゃあ来なきゃ良かったのに……」

春紀「来てよかった。あたし、多分……ずっと、伊介様に会いたかったんだな」

伊介「……!」


春紀「それじゃ、あまり長居しても良くないし。あたし、行くから」

伊介「……ふぅん」

春紀「なんだ、見送ってくれないのか」

伊介「窓の外眺めてたい気分なの。行くなら早く行って」

春紀「……わかったよ。それじゃ」ガチャ

バタン

伊介「……伊介が、言いたかったこと、全部言っちゃうんだもの……」

伊介「……伊介もアンタにずっと会いたかったって言ったら、アンタはどんな顔するのかしらね」

伊介「…………」


春紀の家



春紀「ただいま」

乙哉「おかえ」

ボーン

春紀「おい、おかえボーンってなんだよ」

乙哉「……香子ちゃんが台所にいたから、もしかしたらそれかも」

春紀「ふざけんな」ダッ!

ズカズカ……

春紀「おい!大丈夫か!?」

しえな「みそ汁を爆発させるってすごいな」

神長「すまない……」


春紀「」


しえな「全く、何やってるんだよ。もう」

春紀「………『何やってるんだよ、もう』はアンタだよ!!!」


しえな「?あぁ、春紀、帰ってきたのか」

春紀「帰って、きたとか、じゃ、ないだろ!!ちょ、ちょっと待て……」

乙哉「え!?なんで!?なんでいま春紀さんのこと呼び捨てにしたの!?」

しえな「これからしばらく一緒に暮らすんだし、家主とは打ち解けようと思って」ドヤッ

春紀「一緒に暮らす!?」

乙哉「元々一緒に暮らしてたのはあたしだよー!本妻はあたし!」

しえな「別にそういう仲になろうとは思ってないって」

神長「というか本妻は学園にいるだろ」

乙哉「だよねー。あの人には勝てないかなー、おっぱいとか!」アハハ

冬香「……………ねぇ、お姉ちゃんってソッチなの?」

春紀「そんなワケないだろ。いいか、ここは姉ちゃんが片付けておくから冬香はちょーっとあっち行ってような」ニコッ


・・・

・・・



ゴンッ!

乙哉「~~~~~!!!」

神長「………」

しえな「いっだぁい……………!」

春紀「反省したか?」

乙哉「なんで香子ちゃんだけデコピンなの!?ズルくない!?」

春紀「うるさい。主に騒いだのはアンタら二人だろ」

しえな「っていうかボクも別に騒いだりしたわけじゃ」

春紀「アンタの場合はそれ以前の問題だ。病院はどうした」

しえな「……抜け出してきた」

春紀「戻れ」


神長「私もそれについてはかなりしつこく聞いたんだが…答えてくれなかったよ」

春紀「そうか……」

しえな「すまない、ボクにもボクの事情があるんだ」

春紀「まぁいい、抜け出したことについては何も言わない。アンタの勝手だかんな」

しえな「……!」

春紀「ただし、なんであたしの家に来た?行くところだったら」

しえな「……紹介されたんだ」

春紀「…………………また鳰の奴か」

しえな「え?いや、武智だけど」

乙哉「いやぁ~ついねー」アハハ

春紀「歯ぁ食いしばれ」


春紀「はぁ……まぁ、もういいや……今日アンタの荷物、運んだぞ」

しえな「え?」

春紀「バイトでミョウジョウ学園に行ったんだよ、アンタの部屋の荷物を運びにな」

しえな「そうだったのか………え!?」

春紀「なんだ?」

乙哉「あー、もしかして、何か見られたらマズいものでもあった?」

しえな「いや、それは……」

春紀「あぁ、もしかしてあの漫画か?確かにいっぱいレズもがっ」

しえな「あーーーー!!!あーーーーーーー!!!!!!!!!」ガシッ

春紀「痛い痛い!言わないから離せ!」


神長「ところで剣持」

しえな「なんだ?」

神長「お前、病院を抜け出して平気なのか?」

しえな「……まぁ、もう峠は越えたし」

春紀「普通はヤマ越えたからってそんなケロっとしてないんだけどな」

しえな「病院から薬を結構くすねてきたし。あとはここでのんびり治療するさ」

春紀「 誰 が そ れ を 許 可 し た ? 」


神長「じゃあ聞くけど、追い出すのか?」

春紀「それは」

神長「私にはわかる。お前はそれをしない人間だ」

春紀「……………」

神長「というか、そうじゃないと困る」

春紀「どういうことだ?」

神長「さすがに4人であの布団に入るのはキツいだろうと思ってな、さっきもう1組布団を買って来たんだ」

春紀「ねぇホントお前らはどうしてそんな自由なの?」


春紀「はぁ……アンタ、本当に病院戻らなくて平気なんだな?」

しえな「あぁ。薬さえちゃんと飲めば平気だ」

春紀「………わかったよ。もう好きにしろ」

しえな「おぉそうか!助かる」

乙哉「それ、飲み忘れたらどうなるの?」

しえな「次第に呼吸が荒くなり痙攣が起こり吐血が起こり臓器の機能が著しく」

春紀「やっぱアンタ病院戻れよ!!!!!」


冬香「はーちゃん、ご飯できたよ」

春紀「お、もうそんな時間か」

乙哉「冬香ちゃんのご飯ちょー美味しいよねー♪」

神長「あぁ、こんなに料理が出来るなんて羨ましいくらいだ」

冬香「そ、そんなに褒めても何もないですよ?」

しえな「ボク、まだ普通のご飯食べちゃ駄目ってお医者さんに言われてた」

春紀「酔っぱらいのゲロでも食っとけよ」


冬香「あ、大丈夫ですよ。しえなさんの分は別に作ってあるんで。お口に合うかわかりませんけど」

しえな「女神だ……ここに女神がいる……!」

乙哉「ねぇ、春紀さん。あたしに妹ちゃんくれない?」

春紀「殺すぞ」

神長「私も欲しい……」

春紀「物じゃないっつの」

しえな「ボクも欲しいな……なんでも出来そうだ、すごい」

春紀「冬香はドラえもんじゃないんだぞ」

冬香「でも、それならはーちゃんがいい……」

春紀「冬香、しっかりしろ。それ色んな意味でヤバいぞ」


夜 春紀の部屋


春紀「なんていうか、あたしの部屋がどんどん狭くなってくな」

しえな「大変だな」

春紀「とりあえず昨日より狭い原因はアンタなんだけどな」

しえな「まぁそう言うなよ、しばらくの間仲良くやろう、春紀」

春紀「なぁアンタ、前にイジメ嫌いって言ってたよな?」


神長「剣持が寒河江のことを下の名前で呼んでるの、いまだに違和感あるんだけど……」

乙哉「あたしはいいとは思うけど、正直面白くないかなー」

しえな「お前は黙ってろ」

乙哉「ねーねー、しえなちゃん」

しえな「……なんだよ」

乙哉「……ごめん、やっぱなんでもない」

しえな「は?」

春紀「武智、どうしたんだ?」

乙哉「ううん。それよりもあたし春紀さんと寝ていい?」

春紀「え、何その話の逸らし方。内容がエグ過ぎるんだけど」


・・・

・・・


しえな「あ、ちょっと待ってくれ」

春紀「なんだよー電気消すぞー?」

しえな「あぁ、もう平気だ」

春紀「はいはい」カチッ


「そろそろ鳰ちゃんから連絡がくるタイミングだと思わない?」

「おい、冗談でもそういうこと言うなよ……」

「あたしは冗談のつもりじゃないけど」

「どういうことだ?ボクにもわかるように説明してくれ」

「私は前回が初めてだったんだけど……到着してから走りから連絡があって……」


「……ということがあったんだ」

「なるほどな。でもボクが来たのは流れが違うじゃないか」

「流れ?」

「あぁ、ボクは武智の紹介でここに来たわけだから」

「あたし的にはもうその段階で腑に落ちないんだが、まぁそうだな」

「だから、走りが何かをしてくる可能性って少ないんじゃないか?」

「まぁ、確かにな……」

「それにそんな一仕事してこいって言われたって……ボクは病人だぞ?」

「だからなんで抜け出してきたんだよ、バカかよ」


「そういえばしえなちゃん薬飲んだ?」

「あぁ、もちろん」

「偉いな」

「神長の場合、すぐ飲むの忘れそう」

「なんでわかるんだ」

「認めるのか」

「わからない方がおかしいだろ」


「それじゃもう寝て大丈夫そうだな。おやすみ」

「………」

「………」

「………」

「いやアンタら寝るの早過ぎだろ、若干寂しいだろ」

「え、いま春紀さん寂しいって言った?♪」

「起きてんじゃねーか」ガスッ

「たっ!」


翌日 昼食後



春紀「なぁ。走りから電話とか、ないのか?」

乙哉「ないよー、なんで?鳰ちゃん不足?」

春紀「そんなわけないだろ。昨日会って来たばっかだっての。っていうかあいつのことが不足するとか有り得ない」

神長「あぁ。もしかして、仕事か?」

春紀「そうだ。よく考えたら、どうせこれから三日間休みだしな」

しえな「そんなんで稼げるのか?」

春紀「アンタにそんな心配されたくないっつの」

乙哉「でも実際深刻な問題でしょ?」

春紀「あぁ。入ったばかりでシフトの調整にある程度、時間かかるみたいなんだ」

乙哉「そういうもの?」

神長「……さぁ?」

しえな「ボクもよくわからない」

春紀「羨ましいわ」


prrrrrrrr♪

春紀「?誰だ?」

乙哉「あたしー。あ、鳰ちゃんだ!」

神長「噂をすれば、だな」

しえな「どこかから見てるのか?ってくらいのタイミングだな」

ピッ

乙哉「もしもーし」

鳰『鳰っスー!』

乙哉「うん、鳰ちゃんから掛かってきてるからそんなのいちいち言わなくてわかってるよ」

鳰『これ断言するっスけど、武智さんってウチにだけ特別厳しいっスよね』


春紀「スピーカーにしてくれ」

乙哉「はいはい」ピッ

春紀「よぉ、鳰」

鳰『みなさんお揃いっスか?』

神長「あぁ」

鳰『ちょうどよかったっs』

しえな「ボクもいるよ」

鳰『なんで!?』

しえな「なんでって、そんなのボクの勝手だろ?」

鳰『え!?だって、毒で……まぁいいっス。頼りになりそうっスし』

しえな「なんだ?ボクが?」

乙哉「それは間違ってるよ、しえなちゃんは頼りにならないよ」

しえな「わざわざマイナス方向に訂正することないだろ」


鳰『暗殺の依頼じゃないんスがー……』

春紀「なんだ?また誰か家に引き取れとかそういう話だったらお断りだぞ」

乙哉「ただし、伊介様なら大歓迎だぜ」ドヤッ

春紀「武智あとでゲンコツな」

神長「っていうか伊介様は早くあたしの家に来いってんだ」キリッ

春紀「神長お前今日の晩飯抜きな」

しえな「むしろ嫁に来いってんだ」ニカッ

春紀「……」スパァ?ン!!!!

しえな「いったぁ!!?!なんでボクだけ即ツッコミ!?」


鳰『っていうか、そもそも誰かに春紀さん家紹介するなら許可とか取んないっスよー』

春紀「アンタ次会ったとき酷いかんな」

乙哉「じゃあ鳰ちゃんはどういう用事があるの?」

鳰『いやぁーちょっとお願いなんスけどぉー』

しえな「なんだよ、歯切れが悪いな」

鳰『学校のすぐ近くに墓地があるのは知ってるっスか?』

神長「あぁわかる。心霊スポットで有名らしいな」

春紀「言われてみれば聞いたことあるな」

乙哉「えー、知らないのあたしだけー?」

しえな「お前は退場が早過ぎたんだよ」


鳰『とにかく、そこで人影が発見されてるんスよ』

春紀「別に普通だろ、墓地に人がいるなんて」

鳰『普通じゃないっスよ。あの墓地は正規の入り口からじゃないと入れないようになってるんス』

しえな「つまり?」

鳰『多分、ホームレスか何かが不法侵入してるんじゃないかなーっていうのが上の見解っスね』

春紀「ふぅん、追っ払えよ」

鳰『はい~そりゃも~』

神長「………まさか、私達に?」

鳰『おぉ~さっすが、察しがいいっスね~♪』


春紀「おい、そんなの警備員にでも任せとけよ。あたし達は」

鳰『明日の深夜に行って来て欲しいんスよ。駄目っスか?バイト代は一人1万っス。どうっスか?』

春紀「深夜に墓地の見回りしただけでバイト代1万だと……?最高だろ!!」

鳰『春紀さんって案外チョロいっスよね』

春紀「金の為ならなんと言われようと構わねーよーだ」

乙哉「レズ」

神長「ドジ」

しえな「不憫」

春紀「お前らそれあたしに言うんじゃなくて鏡に向かって言えよ」


春紀「よし、それじゃ」

神長「ちょちょちょちょちょっと待て!!!!私は行くとは言ってないぞ!?」

春紀「うん、でも行くぞ」

神長「!?」

乙哉「あたしも行かないと駄目?結構そういうの苦手なんだけど……」

春紀「変態シリアルキラーにも苦手なものってあったんだな」

しえな「ボクは別に構わないけど……ほら、安静にしてないと」

春紀「いいからついてこい」

しえな「えー」

神長「なんでそんな強引に参加させたがるんだ」

春紀「バイト代の半分はこの家に入れろ。いいな」

乙哉「春紀さんのそういうナチュラルにジャイアンなとこ、あたし結構好きだよ」


鳰『んじゃ、4人が見回りに行ってくれるってことでいいっスね?』

春紀「あぁ。明日の晩だろ?任せとけ」

神長「………………」

乙哉「ホントに行くのー?」

しえな「薬持ってくの忘れないようにしないとな」

鳰『それじゃ、明日の深夜0時、受付の人にはウチから言っとくっス』

春紀「了解。あの墓地って広いのか?」

鳰『そんなに広くはないと思うっスよ。ただ端から端まで歩くのは結構骨が折れると思うっス』

乙哉「へー?じゃあ手分けした方がいい感じかな?」

鳰『そんじゃ、作戦会議に移るならウチは電話切らせてもらうっスよー』

しえな「あぁ、手分けするのが一番妥当だろう」

春紀「どういう割り振りにする?」

鳰『あの、このタイミングの無視結構つらいんでやめて欲しいっス』


春紀「あー、そうだ」

鳰『なんっスか?』

春紀「その墓地の地図とか無いのか?」

鳰『いやぁ、ないっスよ」

しえな「使えないな」

鳰『何もしないで入院になった人には言われたくないっス』

しえな「お前、そうやって本当のこと言うのイジメだからな」

鳰『そんじゃ、切るっスよー』

しえな「あ、おい!」


乙哉「うーん、切れちゃったね」

神長「まぁいいさ。で?どういう風に振り分ける?」

しえな「え?」

春紀「いや、え?じゃなくて。手分けして行くんだろ?」

しえな「???みんなバラバラじゃ駄目なのか?」

乙哉「しえなちゃん頭大丈夫!!?!?そんなの無理に決まってんじゃん!!!」

神長「わわわ私は無理だぞ、一人でなんて、そんな」

しえな「お前ら……春紀は?」

春紀「あたしはー……まぁ手分けした方が早く済むとは思うけど、迷子が出ると面倒くさそうなんだよなぁ」チラッ

神長「迷子…?さすがにそれは無くないか?」

しえな「神長は春紀の視線に気付くべきだと思う」


しえな「はぁ……じゃあここは二組に」

乙哉「しえなちゃん一人で大丈夫みたいだから3人で行こう?」

しえな「え」

神長「あぁ、それがいいな」

春紀「ま、剣持なら一人でも平気だよな」

しえな「ちょま」

乙哉「あったり前じゃん!しえなちゃん『霊感とかないし』って言ってこういうの全然ビビんないんだよ!?すっごいんだから!」

神長「それは心強いな」

春紀「なるほどなー」

乙哉&神長&春紀「じゃっ!♪」

しえな「待て待て待て待て!!!!」


春紀「なんだよー。怖くないんじゃなかったのか?」

しえな「そうだな!お前らの残酷さの方がよっぽど怖いよ!」

神長「なんの話だ?」カチャカチャ

しえな「神長は爆弾作りながら雑談に参加しない!」

乙哉「しえなちゃんも怖いならやっぱり皆で行く?」

しえな「だーからおかしいだろ!なんで二人ずつに分かれようとしないんだよ!」

春紀「剣持をぼっちにしたくて」

しえな「素直だな!?」


春紀「ま、冗談は置いといて。明日は二手に分かれような。というわけで神長。よろしく」

しえな「やだやだやだやだ」

神長「小学生みたいなダダのこね方するなよ……」

乙哉「いや、大人のダダのこね方ってのもちょっと意味不明だけどね……」

神長「最近、お前……私に対しても手厳しくないか?」

乙哉「んー、可愛く見えてきてるってことじゃないかな?」

神長「………」

乙哉「でもー、あたしの一番はしえなちゃんだから。ねー?♥」

しえな「なにそれこわい」


春紀「ちょうどいいじゃんか。二人で墓地デートでもしてこいよ」ハハハ

しえな「いい、い、嫌だよ!」

乙哉「やったー♪しえなちゃんとデート♥」ギュ?

しえな「お前なぁ………」

神長「私達もでーとなのか?」カチャカチャ

春紀「なんでだよ。あとその爆弾しまえ」


乙哉「なんで爆弾なんか作ってるの?」

神長「え……?お化けにあったら爆破するためだけど………?」

春紀「そんな『お前そんなこともわからないのか?』って目で見るなよ、さすがに武智が可哀想だろ」

しえな「理不尽過ぎる」

乙哉「っていうか爆破するのは構わないけど、墓地だよ?吹っ飛ばしちゃいけないもの吹っ飛ばしそう」

春紀「むしろこいつなら器用に吹っ飛ばしちゃいけないものだけを吹っ飛ばしそう」

しえな「あぁ、それ今ボクも言おうとした」

神長「おいお前らさっきから言い過ぎだろ」



・・・

・・・


春紀「で、これでいいな?」

神長「あぁ。私と寒河江が敷地左側」

乙哉「で、あたしとしえなちゃんが敷地右側、だね」

しえな「先に帰ったりしないで、入り口で待ってるんだよな?」

春紀「あぁ、そうだ。置いて帰ったらさすがに可哀想だしな」

乙哉「明日の準備しよー♥」

しえな「待て武智。なんでハサミの手入れをする必要がある」ガシッ


神長「明日に備えてもう寝よう」

乙哉「ちょっと待って。それはおかしい」

神長「はぁ?」

乙哉「その理屈はおかしい」

春紀「はぁ……?」

乙哉「ううん、今のは言ってみたかっただけ」

しえな「おい」


乙哉「でもさー、明日の深夜0時からなんでしょ?見回り。明日に備えるなら逆に今日は夜更かしすべきだと思う!」

しえな「………お前でもまともなこと言うんだな」

乙哉「なんで!?よりによってしえなちゃんがそんな反応とか酷くない!?」

春紀「レアだよな、まともな武智」

しえな「あぁ、ものすごく」

乙哉「香子ちゃんはそんなこと言わないよねー??????」

神長「あ、えと、その……」

春紀「やめてやれよ」


しえな「じゃあ今日はもうちょっと起きてて、明日の深夜に眠くならないようにするってことでいいか?」

春紀「それは構わないけど、静かにしろよ?」

乙哉「あぁ、弟君達?」

春紀「そうだ、あいつらはまだ幼いんだ。夜更かしに巻き込む訳にはいかないからな」

神長「じゃあ何する?」

春紀「いや何って……神長が爆弾さえ作らなければそれぞれで時間潰しててくれて構わないよ」

しえな「そういえば、ボクの荷物を運ぶのに学園に行って来たって言ってたな」

春紀「あ?あぁ。そうだな」

乙哉「そのときの話聞きたい!」

春紀「はぁ!?」


神長「まぁいいじゃないか。私も久々だし、どうなってるか気になるな」

春紀「って言っても、鳰とい……にしか会ってないけど」

乙哉「におといって誰?」

しえな「さぁ、転校生か?」

神長「誰だろうなぁ?」チラッチラッ

春紀「……別に、この話はあんたらにする必要はないからいいんだよ。えっと」

乙哉「待って待って!そんな風に言われたら気になるって!」

しえな「ヤバいな……犬飼とのことは聞かない方がいいんじゃないか……?」

神長「私もそう思った……もしかしたら、破廉恥な話かも」

春紀「神長、ゲンコツな」


乙哉「で?何があったの?」

春紀「いやホントに何もないさ。剣持の部屋の荷物をトラックに運んだだけだ」

神長「でも走りに会ったって…」

春紀「あいつはただの立ち会いだ。生田目と桐ヶ谷のことは聞いたか?」

しえな「ひっ」

春紀「どうした?」

しえな「いや、なんでもない…」

春紀「桐ヶ谷」

しえな「や、やめろよ!!」


乙哉「どうしたの?」

神長「さぁ…」

春紀「こいつ」

しえな「わぁー!!!っわぁーーー!!!!」

春紀「……二人共、剣持から入院の事情、なんて聞いてるんだ?」

乙哉「え?えっと、いいところまでいったんだけど毒でやられちゃったって」

しえな「……」

神長「東が毒を使ったんだろ?」

春紀「……」ジトー

しえな「……」サッ


春紀「えーと…」

しえな「すまない、あれは嘘だ」

乙哉「へ?」

神長「というと…?」

しえな「ボクは桐ヶ谷に毒でやられたんだ」

乙哉「え!?」

神長「桐ヶ谷こわっ…」

春紀「しかも予告票を出す直前に」

しえな「それは言わなくてもいいだろ!!!」

乙哉「だっさ」

神長「そんなの有りか…」

しえな「死にたい」


春紀「で、生田目と桐ヶ谷は心中だってさ」

乙哉「はい?」

しえな「あの二人、死んだのか!?」

神長「訳がわからない…」

春紀「剣持はなんでやられたんだ?」

しえな「ボクは、予告票出すタイミングが桐ヶ谷と被って…それで…」

春紀「なるほどな。それで学園祭の劇でなんやかんやあって二人は死んだ訳か」

乙哉「なんやかんや!?」

神長「話が飛びすぎだ!」


春紀「………………………………ってことがあったらしい」

乙哉「そんな……もったいない…」

しえな「そう、だな。ボクも桐ヶ谷にやられた身だけど、何もそんな死に方……」

乙哉「せっかく殺させてくれるのに…ナイフで一刺しなんて…あたしだったら…」

神長「この人こわい」

春紀「残念がるポイントが異質過ぎる」

しえな「ボクこいつと同室だったからな」


神長「武智は置いといて…なんか残念だな」

春紀「だな。この業界にいるとそういう話はゴロゴロ転がってるけど、二人のことを知ってる分、ショックだよな」

乙哉「でもさー、それってつまり二人は愛し合っていたってこと?」

しえな「野暮な事言うな。わざわざ心中したんだ、そういうことだろ」

春紀「まぁ、そうだろうな」

乙哉「つまりあたしとしえなちゃんも……?」

しえな「なんでそこでボクの名前が出てくるんだ、やめろ」


神長「で?」

春紀「で?って?」

神長「犬飼に会ったんだろ?」

春紀「……別に」

しえな「あーあ、こりゃチョメったな」

春紀「その言い方やめろ」

乙哉「やらしー」

春紀「クレイジーサイコレズに言われたくない」


春紀「何にもないっての。普通に会って、ちょっと話して、それでおしまいだ」

乙哉「ヘタレ」

春紀「死ね」

神長「期待はずれだ」

春紀「くたばれ」

しえな「お前それでもちんこついてるのか」

春紀「ついてねーよ殺すぞ」


しえな「でもその様子だと本当にそれだけなんだな」

春紀「他になんかあってたまるかっての」

乙哉「無いことはないんじゃない?ほら、あたしとしえなちゃんみたいに♥」

しえな「何もないだろ暴れるぞ」

神長「なんか首藤に会いたくなってきた」

春紀「アンタら楽しそうでいいな」


乙哉「しえなちゃんはどうやって晴っちを殺すつもりだったの?」

神長「あぁ、気になるな」

しえな「それは」

春紀「っていうかアンタ、武器とか持ってないのか」

しえな「特には、ないけど」

乙哉「そうなの?」

しえな「ぼ、ボクは分析が得意で…!」

神長「桐ヶ谷の毒でやられたのに?」

しえな「…少し泣く」スクッ

春紀「待て、部屋の隅に移動しようとするな」ガシッ


・・・

・・・


神長「いい加減眠いな…」

乙哉「もう3時だよー」

春紀「そろそろ寝るか」

しえな「……」Zzz…

乙哉「んもー♥」

神長「剣持はこういうところ抜けてると思う」

春紀「アンタに言われるって、相当終わってんな」


翌日 深夜 墓地前



春紀「んじゃ、ぱぱっと見回って帰るか」

乙哉「これで1万って言うんだから破格だよねー」

神長「みんな、準備はいいか」

しえな「神長、その…それは?」

神長「あぁ、念の為にな」

春紀「こないだ施設を爆破したときより重装備じゃねーか」

神長「いざとなったらこれでお化けと刺し違える…!!」

乙哉「それ、一緒に行動する春紀さんも死ぬよね」


墓地内



春紀「頼むから、テンパッてその爆弾使わないようにな」

神長「大丈夫だ、すぐに起爆出来るように作ってきた」

春紀「話を聞け」

神長「だって…」

春紀「にしても、足場悪いな」

神長「そうだな、転ばないように気をつけろ」ドテッ

春紀「なんで言いながら転んでるんだよ斬新過ぎるだろ」


春紀「鳰の奴、全然広くないって言っておいてこれか…」

神長「かなり広いな……懐中電灯の予備の電池持ってくればよかった…」

春紀「そういう普通の備えはしてきてないのか」

神長「爆弾作るので精一杯だった」

春紀「精一杯の発揮の仕方がおかしい」

神長「…っわぁああああ!!!!!!!!!」

春紀「!!?!?ど、どうした?!」


神長「懐中電灯が切れたぁ……!!!」

春紀「落ち着け!あたしの分があるから!」

神長「ああああああ!!!」

春紀「どうした!」

神長「そこに誰かいる!!!」

春紀「あれは木の枝だ!安心しろ!」

神長「っひいいいいいい!!!」

春紀「今度はなんだよ!」

神長「月が光ってるぅうぅぅ!!!」

春紀「当たり前だろ!光ってない方が怖いわ!!!!」


神長「ふぇ……えぐっ……」

春紀「はぁー…もう、歩きにくいったら」

神長「だって…」ギュー

春紀「全く……転ぶなよ?」

神長「あっ」コケッ

春紀「!?」

ドシャ!

春紀「いった……気をつけろって言ったr」

神長「ああああああ!!!!」

春紀「っるっさいな!今度はなんだよ!」

神長「お墓がある!!!!!」

春紀「おうおうそりゃ墓地だからな!!」


春紀「ったくもう…」

神長「すまない……でも、よかった…」

春紀「何がだ?」

神長「転んで爆弾が爆発したらどうしようかと」

春紀「怖すぎる」

神長「二回も転んだのに爆発しない、普段の行いがいいからかな」

春紀「あたしだってそれなりな筈なのになんで知らず知らずの内に二回もそんな危機に直面してんだよ……」

神長「あああああああ!!!!」

春紀「っるっさい!」

神長「だ、だ、誰だ!!!!」

春紀「!!?!?」バッ!!

「何やってるんだ?二人共」

「随分賑やかだと思ったら…」


春紀「アンタらは…!」

神長「出たぁあああ!!」

春紀「待て待て落ち着け!!」

「何!?何が出たんだ!?」

「大ですか?」

春紀「勝手にうんこ漏らしたことにするなよ、可哀想だろ!」

「でもぉ」

神長「生田目!桐ヶ谷!お前ら、無事だったのか…!?」

千足「あぁ。なんだ?死んだことになってたのか?」

柩「失礼ですね…」

春紀「心臓刺されたって聞いてたから…」

柩「えぇ、大変でしたよ。峠はもう越えましたけど」

春紀「剣持と同じようなこと言ってる…」


神長「お前は平気なのか?生田目」

千足「あぁ、峠は超えた」

春紀「アンタら峠越えすぎだろ」

千足「?じゃあ死んでいた方が良かったか?」

春紀「別にそういう訳じゃないけど…」

神長「にしても、何故こんなところに?」

千足「ここには私の師匠の娘さんの墓があるんだ」

春紀「あぁ…!そうだったのか」

柩「はい。それで、一緒に謝りに行こうって話になって」

神長「なるほど。私はてっきりお化けかと…」

春紀「神長、その手に持ってる爆弾を今すぐしまえ。今すぐだ」


春紀「じゃあアンタらは今日初めてここに来たんだな?」

神長「昼間に来ればいいのに…」

千足「いや、私達は3日くらいここにいる」

春紀「なんでだよ」

柩「迷っちゃって…」テヘッ

春紀「限度があるだろ」

神長「も、もう、二人共ドジだなぁ!?」

春紀「随分と嬉しそうだな」


春紀「じゃああたしらと一緒に行くか」

千足「いいのか?」

神長「まぁ人数は多いほうがいいし、な」

柩「お二人はどうしてここに?」

春紀「あたし達は墓地を彷徨いてる奴がいるってんで、依頼されて見回りに来たんだよ」

千足「すまない…」

春紀「まさかアンタ達だったとはな…」

神長「でも入る時はちゃんと受付を通ったんだろ?出ていてないってわかりそうなものだけどな」

柩「さぁ?管理が杜撰なんじゃないですか…?」

春紀「まぁ、確かに。ちゃんと管理されてるようには見えないな」

神長「ちゃんと管理しないと…!お化けが出るから…!」

春紀「落ち着けって」


春紀「……」

神長「……」

春紀「なぁ」

千足「なんだ?」

春紀「アンタら、こんなところでも手を繋ぐのか」

千足「桐ヶ谷が迷子になったら困る」

神長「それで二人して迷子になってるんだから呆れるよ」

千足「返す言葉もない…」

柩「やっときます?」シュッシュッ

春紀「なんだよその引き金を引くジェスチャー、やめろ」

神長「こわい」


千足「いいか、桐ヶ谷。この人達を攻撃しちゃダメだ」

神長「原始人に言い聞かせる理解者みたいになってるんだけど」

柩「でも」

春紀「反論頂きました」

千足「もう殺しはしない。そうだろ?」

柩「…はい」

春紀「あぁ、足洗ったのか」

柩「そうじゃないと墓前で謝れませんよ」

神長「確かにな。ということは生田目も」

千足「?私は足を洗ってない。これからも殺す」

春紀「ゴーマニズムを垣間見た」


千足「…!この道!」

柩「どうしたんですか?」

千足「見覚えがある……!」

春紀「どうする?」

千足「すまない、私達は」

神長「あぁ、行ってくるといい」

柩「す、すみません」

春紀「いんや、気をつけろよー」


しえな「……」

乙哉「……」ギュー!

しえな「なぁ、武智」

乙哉「な、何…?」

しえな「本当にこういうの苦手なのか?」

乙哉「苦手だよー!」

しえな「人のこと仏にしてるくせにお化けには弱いのか…」

乙哉「それとこれとは別だよ!」

しえな「祟られそうなこと散々しておいて……」


乙哉「……」

しえな「……あ、ここ右だから」グイッ

乙哉「う、うん……」

しえな「……武智」

乙哉「……」

しえな「武智ってば」

乙哉「な、なに?」

しえな「そのハサミを今すぐしまえ」

乙哉「……」チョキンチョキン

しえな「いやチョキンチョキンじゃないから」


乙哉「ねぇしえなちゃん」

しえな「なんだ?」

乙哉「生きてて良かったね」

しえな「なんだよ、急に」

乙哉「ううん。しえなちゃんから連絡をもらったとき、あたし本当に嬉しかったんだよー?」

しえな「心配かけた、のか?」

乙哉「いや別に心配はしてなかったけど」

しえな「不条理だ」


乙哉「だってまさか毒でやられちゃうなんて想像してなかったし」

しえな「それはボクも想像してなかったぞ」

乙哉「……あのさ」

しえな「?」

乙哉「春紀さんのこと、名前で呼んでるでしょ?」

しえな「うん。その話はこの間もしただろ?」

乙哉「あたしのことも…」

しえな「……」

乙哉「ダメかな?」

しえな「……そんな風に真面目に聞かれると、困る」

7話終わる前に終わらせたかった
頑張ったけどダメだった
明日の深夜に来る

乙です
このシリーズ大好きなんですが、この話の一部をイラストや漫画にして渋に投稿してもよろしいでしょうか?
ほんと面白いので宣伝したいっす

>>88
全然おk
むしろ嬉しい


それじゃまた夜に

ただいま
今日中に終わらす


乙哉「ねぇちょっと呼んでみてよー」

しえな「……いやだ」

乙哉「なんで!?」

しえな「今更だろ」

乙哉「春紀さんのは変えたくせに」

しえな「春紀は、ほら、あまり関わってこなかったから。呼び名が定着してなかったっていうか」

乙哉「あまり関わってこなかった人の家に転がりこむってよく考えたらすごいよね」

しえな「そうだな、ウケる」


乙哉「……」シュン

しえな「はぁ………乙哉」

乙哉「!」

しえな「これでいいだろ!はい、おしまい!」

乙哉「えー!これからもそうやって呼んでよー!」ギュー

しえな「わかったからくっつくなって!」

ガサッ…!

乙しえ「!?」

ガサガサ・・・!!

千足「さぁ、ここを抜ければすぐd」

乙哉「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ブオンブオン!!

しえな「危ない危ない!ハサミを振り回すな!」ガシッ!

千足「!?!?!」


柩「きゃあ!」

千足「桐ヶ谷!大丈夫か!」

柩「ぼ、ぼくは大丈夫です」

しえな「!?」

乙哉「え……?…………???何?どういうこと………?」

千足「お前らもいたのか…!」

乙哉「ぎゃああぁぁぁお化けじゃん!!!」

千足「失礼だろ」


千足「………というわけで。私達はその墓を探してるんだ」

乙哉「なるほどねー」

桐ヶ谷「……」

千足「桐ヶ谷、どうかしたか?さっきから様子が……って!この傷はなんだ!?」

桐ヶ谷「さっき、剣持さんが……」

しえな「ボク!?」

千足「剣持、貴っ様……!!!!」

しえな「おかしいだろ!!はぁ!?さっきハサミを振り回してたのは乙哉で」

乙哉「あたしに罪を着せるんだ……」

しえな「それはボクの台詞だ!!!」


千足「言い訳はあの世で聞く」ジャキッ

しえな「その剣、本物なのか……?」

千足「それはお前の体で確かめてみたらどうだ?」

乙哉「いい感じでポンコツってる」アハハ

しえな「しー!乙哉!しぃー!!」

柩「剣持さん……いま、千足さんのことポンコツって言いました………?」

しえな「言ってない!言ってないです!!はぁ!?」


千足「やぁあ!」シュ!!

しえな「!?」バッ

千足「私は、剣持………お前を許さない!」

しえな「もうなんなんだよ!」

乙哉「安心して!しえなちゃんはあたしが守るから!」バッ!

しえな「一瞬感動したけど、よく考えたらおかしいだろ」


乙哉「ちょっと言ってみたかっただけー」

しえな「おい」

千足「邪魔するならお前も……!」

柩「千足さん、やめてください。武智さんは悪くないです!」

しえな「悪いだろ。むしろこいつだけが悪いだろ」

千足「しかしだな、桐ヶ谷……!」

乙哉「柩ちゃん……ごめんね……。怪我、見せてくれる?」

柩「…はい」スッ

しえな「かすって赤くなってるだけじゃないか!!」

乙哉「あたし達このかすり傷のせいで殺されるところだったの?」


千足「まぁ、愛ってそういうものだから」

しえな「どういうものだよ」

千足「殺すこともある」

乙哉「わかる」

しえな「共感するなよ、こわいよ」

乙哉「どうってことないsympathy♪」

しえな「それお前の曲じゃないだろ」

柩「あと、愛によって死ぬこともありますね」

しえな「お前らの唱えるものが愛の全てだと言うならボクは死ぬまで愛なんて知りたくない」


千足「いいか、今度桐ヶ谷を傷つけたら……」

乙哉「わ、わかったわかったよ、ね?しえなちゃん」

しえな「というかボクが桐ヶ谷を傷つけるような真似するわけないだろ」

乙哉「そういえばしえなちゃん、さっきから柩ちゃんのこと見ようとしないね?」

しえな「別にそんなことない」

柩「寂しいですねぇ。ぼくと目を合わせるの、そんなに嫌ですか?」ズイッ

しえな「ごわいがらぢがよるな!!!!」

乙哉「濁点欲張り過ぎ」


しえな「……」ダッ

乙哉「え、ちょ、ちょっと!?しえなちゃん」

しえな「お前はそれ以上ボクに近寄るな」

乙哉「ちょっとあたしを盾にしないでよー」

柩「大丈夫ですよ、武智さんは撃ったりしませんから」ニコッ

乙哉「え?!武智さん”は”!?しえなちゃんのことは!?」

千足「偉いな、桐ヶ谷」ナデナデ

柩「千足さん……///」

しえな「ピンク色のオーラ出してるとこ悪いけど、ボクは説明を求めるぞ、そこのレズ二人」


柩「ちょっとしたジョークですよ。ぼくが意味なく剣持さんを撃ったりするわけ」ブシュー!

しえな「っぶねぇええ!!!!」サッ!!

乙哉「おぉ、今のよく避けたね」

しえな「『よく避けたね』じゃないだろ!あいつ撃つ訳ないって言いながら撃ったぞ!」

乙哉「すごいしえなちゃん、怒鳴りながら泣いてるの?可愛いね?」

しえな「うるさい!っていうか生田目!どうにかしろよ、この危険人物!」

千足「?私にとっては危険じゃない」ナデナデ

しえな「お前そんな自己中な奴だったか??????」


しえな「いたたた………」

乙哉「!!!し、しえなちゃん?薬、飲んだ?」

しえな「飲んだよ……ただちょっと騒ぎ過ぎたみたいだ……具合悪くなってきた」

千足「毒なのに病院抜け出したりするからだ」

しえな「お前だけはそれをボクに言っちゃいけない立場だろ」

千足「私はすぐに解毒剤を飲まされたし、入院してるところを抜け出したりしてない」

柩「っていうか病院を抜け出すって……バカなんですか?」

乙哉「ごめん、あたしこのことについては何もフォローできないや」

しえな「お前らの言葉が毒になってボクの中を巡ってくよ」


乙哉「えっと、とりあえず休もう?」

しえな「頭痛い……」フラフラ

千足「………剣持、ほら」

しえな「……え?」

千足「遠慮するな。私は鍛えてるし、体調も万全だ」

しえな「………え、えと、ありがとう」ギュッ

千足「うん、立つぞ」スクッ

しえな「しばらく頼む」

千足「お安い御用だ」

乙哉「……」シャキンシャキン

柩「……」カチッ……カチッ……

しえな「おいその物騒な物音やめろ」


千足「桐ヶ谷、どうしたんだ?何故剣持をPOISONしようしている?」

しえな「POISONするってなんだよ」

乙哉「でも意味はわかるから怖いよね」

柩「ぼ、ぼくはそんなつもりじゃないです……ただ、千足さんのおんぶ、いいなって思って……」

乙哉「思って?」

柩「POISONしようって思いました」

しえな「完全に”そんなつもり”だろ!!!」


千足「大丈夫か?あまり騒がない方がいい」

乙哉「そーだよー体に毒だよー」

柩「また毒ですか」プフッ

しえな「はいイジメ、今の完全にイジメだからな」

千足「まぁまぁ。で?これはまっすぐでいいのか?」

しえな「あぁ。この一帯を回ったら最後、かな」

千足「最後なのか」

しえな「あぁ」

千足「……いいや、なんでもない」


柩「なんであの人が千足さんの背中に……」ボソッ

乙哉「柩ちゃんったら、しえなちゃんの悪口言うの?また怒られるよ?」

柩「武智さんだって一緒になって言ってたじゃないですか」

乙哉「んー可愛いから、ついね」

柩「可愛い……?あぁ、千足さんのことですか?」

乙哉「千足さん……?あぁ、あの男装()の麗人()みたいな人のこと?」

柩「あ?」

乙哉「は?」

しえな「生田目、後ろの二人の会話が怖いからなんとかしてくれ」ボソッ

千足「私だって聞こえないフリしてるんだから…無茶言わないでくれ……」


・・・

・・・



千足「見回りはこんなものか」

しえな「あぁ、そうだ。あとは出口を目指して歩けばいい」

千足「じゃあ」

しえな「いや、もう平気だ。ありがとう、生田目」スタッ

千足「どういたしまして」

柩「あ!千足さん!」

千足「なんだ?」

柩「この道、さっき千足さんが言ってた目印と一致しません?」

千足「あぁ、言われてみれば……今度こそ墓参りが出来るかもしれないな……!!」


しえな「お前らはそっちの道に行くのか」

千足「あぁ。またな」

柩「……」パシュッ!!!

しえな「どぉぉいい!!!!?!?」サッ!!

乙哉「あの二人、散々迷子になっておいて、まだお墓参り終わってなかったんだっけ……」

しえな「そんなことよりボクが殺されかけたことに対して何かないのか!?」

乙哉「避ける時の動き、江頭2:50みたいで可愛かったよ♪」

しえな「お前ってホントムカつく奴だよな」


神長「ううぅぅぅぅぅ………………!!」ギュー!

春紀「離れろって!!子泣きジジイかよ!!」

神長「わ、私は女だからババアだ!」

春紀「そこそんな真面目なテンションで主張するとこか!?」

神長「こわい……これから来た道を帰らないといけないだなんて……」

春紀「あぁ、もう。あとは帰るだけだろ?そんなに怖いなら歌でも歌ってたらどうだ?」

神長「るーるるー………るるるるーるるー……♪」

春紀「震えた声で徹子の部屋のテーマ歌うなよ、怖いだろ」


春紀「もっとさ、明るい歌歌えよ。な?」

神長「え、え?えーと……例えば?」

春紀「うーん、手のひらを太陽にとか?」

神長「太陽が見えないのにその歌を歌うミスマッチ感がすごいし、そもそも歌い出しが『僕らはみんな生きている』って、
生きているんだったら墓地なんて必要ないだろ。なんだ?ゾンビか?ゾンビなのか?ボコって土を破って出てくるのか?」

春紀「想像力豊か過ぎだろ。ゾンビじゃないっての。普通に曲として」

神長「じゃあなんだ?手のひらを?太陽は無いから月に透かすのか?そうしたら何が起こるんだ?何かの封印が解かれて」

春紀「だからいらん想像するなって。ただ歌詞は歌詞として、それ以上深読みするな。な?」

神長「みんなみんな♪生きているんだ 友達なんだー♪」」

春紀「おぉ!そうだそうだ」

神長「だけどお前は生きてもいないただの赤の他人だから!!!」ビシッ

春紀「人様の墓に向かって指差すな!どんだけ罰当たりなんだよアンタ!!!」

ガサッ

春紀「っわぁああ!?!?!」ビクゥッ!!

神長「悪霊退散悪霊退散!!!」


「うるっせぇなぁー…………なんなんだよ、あんたら」

春紀「……………アンタこそ何者だ」

神長「ただのホームレスだろ。見たらわかる」

春紀「気持ちはわからんでもないけど失礼過ぎだろ」

神長「私はこいつに脅かされて心底イラついている」

春紀「うん、まぁ……」

「他に行く場所がねぇんだ。ここはいい穴場なんだよ」

春紀「それはこの墓地の管理人と話し合ってくれ。ついてきてもらうぞ」

「はぁ?」

春紀「あたしらは見回りとして雇われた人間なのさ」

「歌ってたくせに……?」

春紀「忘れろ」


「ったぁーーーく、めんどくせーーーなーーーー」

春紀「あたしらだって面倒だっての」

神長「ほら、行くぞ」

春紀「神長はそろそろあたしの背中から降りような」

「あいあい、行きゃいいんだろ。ぃやー、次の寝床どうすっぺか」

春紀「そんなのは歩きながら考えてくれ」

神長「次の寝床……あぁ、寒河江の家は?」

春紀「アンタ本気でぶっ飛ばすぞ」


墓地 入り口前



春紀「なんだ、あんたらの方が早かったのか」

乙哉「まーねー♪で、この人は?」

神長「不法侵入者の山田太郎さんだ」

しえな「ある意味壮絶な名前だな」

「うっせーよ」

春紀「おっちゃん、管理人さんはこっちだ」グイッ

「はいはいはいはい」

神長「私達はここで待ってよう」

しえな「そうだな。みんなで行っても意味ないし、春紀なら何かあっても平気だろ」

乙哉「それよりもあのおじさん、よく大人しくついてきたね?」

神長「私が爆弾をちらつかせて脅した」

しえな「なんでスライム相手にメラゾーマ使ってるんだ、可哀想だろ」


乙哉「あ、おーい!」

春紀「お、おぉ。お待たせ。さ、帰るか」

神長「……?寒河江?」

春紀「なんだ?」

神長「いや、なんだか様子が変だと思って」

春紀「変?そうか??」

しえな「もしかして眠いのか?」

春紀「あー…そうだな。それだ」

乙哉「だよねー。あたしも眠くなってきちゃったもん。香子ちゃんは?」

神長「私も……少し眠い、かな」

春紀「あれだけ騒げばな……」


あたし達は出口に向かって歩いた。
おっちゃんの身柄は臨時で待機していた管理人に渡して無事完了。
ったく、図太いオッサンだぜ。
ここぞとばかりに管理人に食料をねだってやがった。
あの様子ならほっといても死なないだろう。

おっさんは二週間前に受付から入って、それから居着いてしまったと言っていた。
なんでも、入る時には名簿にフルネームを書かなければいけないらしい。
そこまで聞いたあたしはふと気になって、生田目と桐ヶ谷の名前を探した。
名簿の最も新しいページに二週間前のおっさんの記名が残っているんだ。
この中にあるはずだ、そう思った。

だけど見つからなかった。二人の名前は何処にも。
念のため、遡ってページを確認したけど、それでも彼女達の名前は見当たらなかった。
あたし達はもしかしたら、有り得ないモノとこの墓地を見回っていたのかもしれない。

生きているのか、それともそうじゃないのか、あたしにはわからない。
確かに鳰は一度も「死んだ」という直接的な表現はしてなかった気がする。
だけど、浴びただけで重体になるような毒を直接飲み干したら、心臓をナイフで突き刺したら、普通は……。

「……よーし、忘れもんないか?」
「へーき!」
「ボクもだ。ただそろそろ薬を飲まないとヤバい」
「飲めよ」


そうして敷地を出る前に、あたしは最後にもう一度だけど振り返った。
入るときはおどろおどろしい雰囲気すら漂っていたのに、そんな気配は微塵もなかった。

「……」

心なしか、来たときよりも月が明るく感じる。
あたしは桐ヶ谷と生田目の邪魔をしないよう、出来るだけそっと鉄扉を締めた。


帰り道




しえな「桐ヶ谷め……絶対許さない」

春紀「どうしたんだ?」

しえな「これがポケットに入ってた!」ズイッ!

春紀「!?!?」

神長「ポイズン……?」

しえな「あぁ!これ、ボクを重体にしたのと同じ毒だ!」

乙哉「ポケットに入ってたってことは、柩ちゃんからのプレゼント、かな?」

しえな「嫌過ぎるだろこんなプレゼント!!」

春紀「………(どういう、ことだ?二人とも、まさか、本当に生きて……?)」

「おぉおぉ、やぁーっときよったか」

神長「……!!首藤!!!」

首藤「久々じゃの、香子ちゃん。他の皆も、元気じゃったか?」

春紀「あ、あぁ。それより……一つ、確認させてくれ」

首藤「なんじゃ?スリーサイズは秘密じゃぞ?」

春紀「……何しに、きた?」

首藤「あっはっは。お主も分かっておるんじゃろう?ワシだけ除け者なんてあんまりじゃ。しばらく世話になるぞ」

春紀「ですよねー!!!」




おわり

といわけで終わり
続編は気が向いたら書く
そんじゃ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月18日 (日) 11:33:56   ID: ehawKzS3

面白かった!!
続編待ってます!

2 :  SS好きの774さん   2014年05月19日 (月) 16:09:59   ID: lYLRq3kP

相変わらず安定して面白かった!続編期待してます!
春紀ちゃんかわいいよ春紀ちゃん

3 :  イーク   2014年05月29日 (木) 02:16:50   ID: pLWy0J_2

首藤さんを混じえての話を読みたいので是非お願いします!

4 :  SS好きの774さん   2014年06月01日 (日) 08:19:07   ID: XavqL6M-

面白かった!
>>88の渋のユーザー名が知りたい。

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