安部菜々「やさしい魔法の記念日」 (24)

きっと嘘なんてそう、意味をもたないの。





たまに悔やんだりしてる、そんなRoling days。

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灰色の空の下。女の子三人。

「朝起きた時はそうなるかと思いましたけど、降り止んでよかったです」

「そうだね。せっかく夕方までオフなのに、傘片手に歩くのはちょっともったいないし」

第三回総選挙、ユニットメンバーの親睦会……ということで、私達は都内の遊園地に遊びに来ていた。

「ナナもですけど、学校休んで来てる子も多いですからねえ。夜までもってくれるといいですけど」

卯月ちゃん達の休みを正当化するために、一応夜にはトークショーとミニライブを行うらしいけど……

完全招待制という話だし、おそらく形式的なものなのだろう。トークショーの打ち合わせもしてないし。

「でも、こうやってカメラもマイクも無しで遊園地に来るなんて、久しぶりですね」

「ナナちゃんもですか? 私も、オフにこういうとこに来る機会ってあんまり無くて」

「確かに、藍子は静かな雰囲気の場所でのんびり過ごしてるイメージかな」

未央ちゃんの「九人が一度に動くと目立つし並びづらいから、三班に分けよう」という提案で、
三人ずつのグループに分かれたのが、数十分前のこと。

私、凛ちゃん、藍子ちゃんの三人は、先におみやげを買っておこうということで、
キャラクターもののお菓子やぬいぐるみを見て歩いていた。

Tシャツやクッキーにプリントされた緑の生き物は「ぴにゃこら太」という看板キャラクターらしく、
藍子ちゃんの話では、最近中高生の間で密かに人気が出ているということだった。

最近の若い子の感性ってよく分からないな……なんて思ってしまったけど、

「いや、私もこういうのはちょっと……奈緒辺りは気に入るのかな」

と凛ちゃんも言っていたし、人を選ぶクセの強いキャラクターらしい。

……ちょっと、親近感湧くかも。

「……未央、大丈夫かな」

お会計をしながら、凛ちゃんはぼんやりとそう呟いた。

未央ちゃんといるのは……楓さんと、智絵里ちゃんだっけ。

「楓さんですか? 友紀ちゃんもそうですけどこの後仕事ですし、さすがにお酒は心配いらないかと」

「え……あ、そうだね。まあ、未央ならなんとかしてくれるかな」

「……?」

妙な違和感を覚えながら、私はそれを特に気にしなかった。

それは多分、イヤな予感の類ではなかったから、なのだと思う。

空には相変わらず、黒い雲が広がっていた。
日光が無い分、普段よりも少し涼しい気がする。

「菜々ちゃん、この後何か乗りたいものとかありますか?」

「ナナは特にどこでも……あー、フリーフォール系はその、今日はちょっと」

「そっか。菜々……さん、この間無重力体験したんだっけ」

自称宇宙人のアイドルが宙に浮いている光景は、かなり反響があったらしく。
CDのプロモーションとしては大成功だった、とプロデューサーさんは喜んでいた。

……パンチラ疑惑の映像は、ちひろさんに頼んで全力で握りつぶしてもらっているけど。

「無重力って、どんな感じですか?」

「慣れてからは、ふわふわ浮いてる感じで結構楽しかったですよ。
 ただ、浮く直前の内臓がせり上がるような感覚は、しばらく遠慮したいかなー、なんて」

それにアレを経験してからだと、数秒間の垂直落下じゃ無重力を楽しめないだろうし。

……いや、ほら。通勤に使ってるのは宇宙船だけど、ウサミン星の宇宙船には重力装置があるし。
決して、宇宙に行ったことが無いというわけではないのだ、うん。

「じゃあ、それ以外で適当に回ろうか。藍子は、絶叫マシン得意な方?」

「そうですね。あまり激しいものじゃなければ好きですよ?」

「ナナもコースター系なら大丈夫なので、その辺りから行きますか」

まあ、テーマパーク系の遊園地だし。
バラエティのランキングに出てくるような、物騒なコースターは無いだろう。

「このぴにゃこらマウンテンってアトラクション、テレビで乃々ちゃんが乗ってましたね」

「ああ、アレが……放送事故みたいになってたよね、乃々」

……無い、よね?

……数時間後。

「菜々ちゃん、大丈夫ですか?」

「あはは、運動するわけじゃないですからね。結構楽しんでますよ?」

ジェットコースターに、コーヒーカップ、お化け屋敷。

この歳でメリーゴーランドはちょっと恥ずかしいところもあったけど、
なんだかんだ、私は久しぶりの遊園地を満喫していた。

「コーヒーカップに乗ったの、小学校以来だよ……」

「久しぶりに乗ると、結構楽しいですねー」

凛ちゃんは、少し藍子ちゃんの空気に飲まれているようだった。

「少し休みましょうか? ここ、カフェみたいですし」

藍子ちゃんは、独特の空気を持っている子だ。

気がつけばみんな、彼女のゆるやかな雰囲気に飲み込まれている。

競争の世界であるアイドルの世界における、彼女の魅力。

「なんていうか、その……ファンシー、だね」

「全体パステルグリーン……目に優しそうですね、あはは……」

オススメのケーキセットと、ミルクティー。

「菜々ちゃんは、ウサミン星人なんですよね?」

「え……まあ、はい。そうですよ?」

凛ちゃんが目を逸らす。
彼女はきっと鋭いから、私の正体にもいろいろと察しがついているんだろう。

みくちゃんや卯月ちゃんは、私の正体に関係なく、友人として接してくれている。

「宇宙人の知り合いって、初めてなんです、私。写真、撮ってもいいですか?」

茜ちゃんや藍子ちゃんは……全面的に、私の発言を信じているようだった。

「ナナでよかったら、喜んで! ほら、凛ちゃんも一緒に」

「いや、私はいいよ……」

時々、茜ちゃんや年少組の純真な瞳が眩しかったりするのだけど。

「加奈ちゃんや夕美ちゃんが、菜々ちゃんはすごいよって言ってたんです。
 だから今回一緒にお仕事できて、とっても嬉しいなって」

「そ、そんなことないですよ。ナナなんて、まだまだ大したことなくて」

今回も選挙の上位に選ばれて、こうしてユニットを組むことはできているけど……
上には上がいることも、私はよく分かっている。

「菜々ちゃんの作るお菓子や紅茶、とってもおいしいって!
 さすがメイドさん、ですね」

「……え、そっち?」

「あ、ありがとうございます……あはは」

……そちらはそちらで、かな子ちゃんや愛梨ちゃんには及ばないと、私は思っているんだけどな。

「……それで、そこの公園の通りに、おいしいパン屋さんがあって」

「ひょっとして、あのメロンパンで有名なとこ? 配達の手伝いするとき、たまに見るけど」

「さすがにパンは専門外ですね……みちるちゃんが詳しいと思いますよ?」

……なんでパン屋さんの話になったんだっけ。
あ、このネコ型のクッキー結構おいしいかも。

「私も、最近は卯月にお菓子作り教えてもらってて……」

「あれ? 凛ちゃん、携帯鳴ってません?」

「え……うそ、もうアラーム鳴る時間?」

つられて時刻を確認する。
……なるほど。これが噂のゆるふわ空間。

「藍子と一緒だと、なんだか調子が狂うんだよね……不思議と、悪い感じはしないんだけど」

「ごめんなさい……自覚が無いから、調整とかできなくて」

……うちの事務所、実は超能力集団だったりするのかな。

「いいよ、それも計算に入れてアラーム用意したし、藍子に来てもらったんだから」

「えーと……集合時間、何時でしたっけ?」

意味深な会話を続ける二人に割って入る。
なんだか、油断しているといつまでもここに居座ってしまいそうだった。

「あと……三十分くらいですね」

「慌てず歩いてでも、間に合うような時間に設定したからね……
 どうする? 会計済ませて、もう控室に移動しようか?」

「あ……最後にもう一つ、乗りたいものがあるんですけど……いいですか?」

先に準備に行ってるので、ゆっくり回ってきてください。

そう言って卯月ちゃん達と合流しに向かった藍子ちゃんと別れて、二人きり。

「凛ちゃんも、先に行っててよかったんですよ? ナナのわがままですし」

「せっかくだし、付き合うよ。ナナが迷子になったら困るし」

「もう……子どもじゃないんですから、迷子になんかなりませんよーだ」

「ふふっ。じゃあ、乗ろっか。観覧車」

私をエスコートする凛ちゃんは、やっぱりかっこよくて。

敵わないなあと、思ってしまった。

ゴンドラに乗って、少しずつ上へ、上へ。

雲の切れ間から差し込む赤が、辺りの景色を照らしていた。

「好きなの? 観覧車」

「ナナ、小さいころから背が低くって。
 だから遊園地に連れて行ってもらった時は、必ず観覧車に乗っていたんです」

こんなに大きくない、小さな遊園地の観覧車。

幼かった当時の私は、空に近づこうとしていた。

お父さんの肩車、学校の屋上、遊園地の観覧車。

高い場所から見える景色が、とても綺麗で大好きで……憧れていた。

そんなわけないのに、雲にも月にも、手が届きそうな気がして。

「菜々さんは、すごいよね」

「……え?」

ゴンドラの中に、視界を戻す。

「私、最近ようやく気づいたんだ。
 一人で前だけを向いて走ってるんじゃなくて、本当はいろんな人が、私の背中を押してくれてること」

凛ちゃんは、微笑んでいた。

「菜々さんは、事務所に入った時からそのことを知ってて……だから、すごく楽しそうにライブするんだよね。
 ……菜々さんは、素敵なアイドルだよ。外野がどう騒ごうと、隣で歌った私が、それは保証する」

「凛ちゃんだって……きっと、前から気づいてて、それを自覚できるようになっただけなんですよ。
 独りで勝手に突っ走るような子なら、シンデレラになんかなれていないはずなんですから」

悔しい気持ちは、もちろんある。もう少しで手が届く高さまで飛べたから、なおさら。

でも。

「私はね。シンデレラガールは、終わりじゃないと思ってるんだ」

それはきっと、愛梨ちゃんも蘭子ちゃんも、同じ。そして、私も。

「だって、アイドルだもの。こんなに楽しいことを知ってしまったら……
 一番上に辿りつくまで、走るのを止めることなんて、できないよ」

ゴンドラは、一番上に辿りつく。

「ナナの夢は……宇宙一のアイドルなんです。
 事務所のみんなと一緒なら、どこまでも高く……お月さまの上までだって、跳べるって信じてますから」

凛ちゃんと見つめた夕暮れの景色を、私はきっと、忘れないと思う。

「すみません~! 思ったよりも、時間がかかっちゃって……あれ?」

凛ちゃんと一緒に控室に駆け込むと、室内にはちひろさんしか居なかった。

「あれ……ちひろさん、卯月ちゃん達はどこに……?」

「みんな、もう準備終わってますよ。ほら、菜々さんも衣装に着替えてください」

「え……でもナナ、打ち合わせとか何もしてないですよ?」

首をかしげる私に、ちひろさんはため息を返す。

「……まさか、最後までサプライズを隠し通せるなんて……」

「え……サプライズ?」

「ふふっ。ひょっとして菜々さん、忙しすぎて今日が何の日かも忘れちゃった?」

「何の日、って……」

今日は……五月十五日、木曜日。

特に語呂合わせがあるわけでもないし、至って普通の平日……

……五月、十五日?

「え……ぁ……」

「今夜のシンデレラは、菜々さんなんだよ。じゃあ、私は先にステージで待ってるから」

手渡された、真っ白なドレス。

「……凛ちゃん!」

「ナナは、凛ちゃんみたいにかっこいいアイドルにはなれませんけど……
 ナナなりのやり方で、いつかトップアイドルになりますから!」

「……菜々さんみたいなかわいいアイドルは、向いてないからね。
 でも絶対にいつか、私もトップアイドルになるよ」

ドレスを纏って、ステージに立つ。

凛ちゃんと笑っていた藍子ちゃんが、こちらに小さく手を振ってくれた。

客席にいるのは、私が今までお世話になった人達で。

「菜々ちゃんっ!」

卯月ちゃんの笑顔が、ユニットのみんなが、歓声が、私を出迎えてくれた。





――誕生日、おめでとうっ!



終わりです
誕生日の日付に気づいたのが5日前でしたがなんとか間に合ってよかった

菜々もニュージェネも智絵里もトライアドも大好きなんですよね
早くユニット曲聴きたいです

改めて菜々ちゃんお誕生日おめでとう!結魂しよ!
スペースウサミンの肩書はボックス回すまで待ってね!(白目)

http://i.imgur.com/xd0g4xX.jpg

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