あなたのめにうつるわたし(17)

暗闇の中から音がした

ピンポーン

これは玄関のチャイム

わたし「はい?」

警戒しながら声をかける

?「うぐっ…」

男の人の声

痛そうな声

わたし「どうかしたんですか」

頭ではかまわないでこの部屋に閉じこもってれば良いと思うけど声をかけた

?「ぐっ…すまない…ここら辺に家が有るとは…け、怪我をしているんだ…」

怪しい

わたし「ごめんなさい。家には入れれないです」

沈黙

?「ははっ…まあこんなご時世だ…ごめんな。無理言っちゃて…」

力なく笑ってそんな事言わないで欲しい

わたし「 ええ。こんなご時世ですから」

?「いや…良いんだ…どうせこの怪我はちゃんと消毒しないとあの世行きだ…このままじゃ俺の命もあと2日3日といったところだろう…」

わたし「そうなんですか」

感染症が怖いからねこのご時世

?「ああ…それまで…ここで君と話してても良いか…?」

わたし「なぜです?」

?「一人で死ぬのは辛いだろ…」

そうかな。わたしにはわからない

わたし「…」

まあ良いかって思った

人間なんだなわたしも

好奇心には勝てないね

わたし「…いいですよ」

?「…ありがとう」

わたし「お礼されるほどのこと、してません」

だってわたしは彼を見殺しにするんだから

だってわたしはちょっとした好奇心で了承したから

?「きみ…名前は…?」

わたし「無いです」

そう。わたしには名前はない

わたしはわたし

?「そうか…なんて呼んだらいいかな…」

わたし「ナナシで良いですよ」

?「そうか。きみがそう言うならそう言うよ…」

ちょっと後悔したかも

わたし「あなたの、お名前は」

?「俺は…男。そう男だ」

男か、ありふれた名前。なんて思ったのは失礼だっただろうか

わたし「そうですか。男さんわたしは寝ます」

男「そうか…おやすみ」

わたし「はい、おやすみなさい」

ーーおやすみ

この言葉を久しぶりに使ったな

**

暗闇のなかでわたしは外からもたらされる心地よい言葉に耳を傾けていた

その言葉はわたしのすべてで

わたしはその言葉のすべてだった

突然プツリと言葉が途切れた

**

= first day =

脳が覚醒する。

わたし「んっ…」

わたし「…」

わたしはこの感覚が好きだ。寝起きのふわふわしたこの感覚

男「…おはよう」

びっくりした

そうだ、この人が居たんだっけ

わたし「おはようございます」

男「ななしちゃんは良く寝てたね」

わたし「…男さんは寝てないのですか」

男「傷が痛んでね…」

力なくそんな事言わないで欲しい

わたし「わたしは朝ごはんを食べます」

男「そうか…腹減ったな…」

手を闇雲に伸ばして肉をとる

わたし「たべますか?」

男「えっ…?」

わたし「たべますか?」

男「できたら…嬉しいけど」

わたし「じゃああっち向いて居てください」

男「うん」

手を伸ばしてドアを探り

ドアを少しだけあける

こわい

怖い

この人が今すぐドアを強引に開け放ったらわたしはなす術が無いだろう

こわい

でも、わたしは人間だから、好奇心には勝てないのだ

ドアの隙間がある空間に肉を押し込む

直ぐに閉める

わたし「みてないですか」

男「あ、ああ。目を瞑ってたよ…」

どうやらわたしが思っていたよりも男さんは紳士的なようだね

わたし「いただきます」

男「いただきます」

ーーいただきます

この言葉を久しぶりに使ったな

なんか嬉しいね

男「たべた事ない味だ…」

わたし「サカナという生き物を燻製にしたものです」

まあ、わたしもサカナっていう名前を知ってるくらいだけど

男「ほぅ…」

食べ終わってぽーとして居た時に質問を投げかける

わたし「そういえば男さん」

男「はい…?」

わたし「なんで怪我が治ってないんですか?」

だいたい予想は付くけど

でも本当にそうだったら

どんなにわたしは嬉しいのだろう

男「俺は…治らない…体質。みたいなものですよ…」

心臓が早鐘を打った

やはり

やはりこの人も

わたし「それは…危ないですね」

男「ごめん…」

わたし「それは…危ないですね」

男「ごめん…」

男「だいたい、今の人達がおかしいんだよ…そんな…トカゲみたいに…」

わたし「昔は真逆だったみたいですね」

クスリと笑う

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