フリット「……何?母の日?」 (42)

宇宙

連邦軍・要塞内格納庫




連邦兵A「そうですよ。もうすぐそんな時期ですよ?お忘れでしたか?」

フリット(青年)「……」

連邦兵B「オイオイそう言うなよ! ……隊長も最近忙しくて日付なんて忘れちゃいますよね」

連邦兵A「あぁ……まぁ、ヴェイガンは休んでくれませんもんね」

連邦兵B「今年は……俺はずっとここで任務に付きっきりだから母ちゃんに顔見せも出来ねぇな……電話でもしてやるかな」

連邦兵A「……まぁ、言っちゃなんだけど、軍人なんていつヴェイガンが襲ってきて死ぬかもわかんないしな。親孝行は出来るときにしとかないと」

フリット「……」

連邦兵A「アスノ隊長は今年はどうされるんです?」

フリット「……」

連邦兵C「……っ!あ……オイ!新米ども!」

連邦兵A・B「「!?」」ビクッ

連邦兵C「アスノ隊長すいません!コイツらなんも知らないもんで……」

フリット「……いや、かまわない」

A・B「「……?」」

フリット「……」




フリット「……母はいない」

連邦兵A「……っ!」

連邦兵B「……えっ……」

フリット「……」

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数十年後……

ラ・グラミス攻防戦から数年が経過した地球圏

連邦軍戦艦内



キオ「母の日?……そっか、もうそんな時期だっけ」

ウットビット「そうそう。俺も母ちゃんになんか贈らねーとな……ずっと帰ってねぇからそろそろなんかしてやんねーとってさ」

キオ「……珍しいね。ウットビットがそんな話するなんて……」

ウットビット「……ロディさんがさ、『僕も随分と親不孝をしてしまったから、君は同じことをし過ぎちゃダメだぞウットビット!』って……だから、親孝行ってわけじゃないけど、な。……でさ、母の日ってなんか花を贈ると良いとか言うだろ?」

キオ「あぁ、うん。カーネーションを贈るといいんだっけ?」

ウットビット「あーそうそう!カーネーション!いや、なんの花か忘れちまってさ!」

キオ「あはは」

ウットビット「……」

ウットビット「……なんでカーネーションなんだろうな」

キオ「……さぁ?」

ウットビット「……キオもさ、今回の新型ファンネルのテストが終わったら1度帰るんだろ?」

キオ「……うん。心配してるだろうなぁ……母さんも、ばあちゃんも……」

ウットビット「……」

ウットビット「そういやさ、フリットさんももうすぐ火星から帰って来るんだろ?」

キオ「ああ、うん!じいちゃんも研究の途中だけど色々専門家と話し合わなきゃいけないとかなんとかでこっちに帰ってきてるんだ」

ウットビット「へぇ……じゃあ親父さんは?」

キオ「……父さんは……どうだろ?帰れるかな?」

ウットビット「……」

キオ「……」



キオ「家族皆で、揃えれたら良いんだけどね」

火星・地球間用ヴェイガン輸送艦

艦内



フリット「……まずは磁気嵐の問題をクリアせねばならないというわけだな」

ヴェイガン技術者「……そうです。まずマーズレイに侵されない拠点を火星付近に作らねば、何も出来ません。せめてコロニー周辺だけでもマーズレイから護る方法を考えねば……」

フリット「……問題は山積みだな。地表に降りるだけでも火星近くに拠点は必須だ」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……地球に戻ったら後、セカンドムーンの技術者や専門家と地球の識者とで話し合い改めて対策とプランを練らねば」

フリット「……」

フリット「……地球に着く時期と照らして予定を組まねばな……」

フリット「……っ!」




フリット「……5月の……第2日曜日か……」

フリット「……もうそんな時期か……」

キオ「母さん、ばあちゃん!母の日ありがとう!」

ロマリー「まぁ……っ! キオ……ありがとう」

エミリー「キオ、私にまで、本当にありがとうね」

キオ「うん。後、ユノア叔母さんにも……はい!」

ユノア「わー!私にも?ありがとう、キオ! ……ふふっなんだか変な感じね」

キオ「えへへ」


エミリー「……アナタ、ほら、キオがこんなに綺麗な花をくれたわよ」

フリット「……ああ……そうだな……」

エミリー「……」

キオ「……」


ロマリー「……」


ユノア「……ほんと、何処かの誰かさんは何をやってるんでしょうね」

キオ「……」

ロマリー「……」


ロマリー「……アセムったら……」

エミリー「……」

ユノア「……忙しいのはわかるけど、戦争も折角終わったんだし……ねぇ?」

キオ「……」

ロマリー「……」

ユノア「……花の1つでも、贈ってくれれば良いのに……」




フリット「……」




ピンポーン


ロマリー「……?はーい、今行きまーす!」

キオ「……誰だろ?こんな夜に……」

「お届け物でーす!」


ロマリー「ハーイ!」

ロマリー「……宅配?こんな遅くに来るなんて、少し非常識ね……」

ガチャッ

ロマリー「すいません、お待たせし……」

アセム「……やぁ」

ロマリー「」



ユノア「ロマリーさーん!どうしたの?」

アセム「……」

ユノア「」


アセム「……」

アセム「……どの面下げてって感じだけど……父さんも帰ってるって『聞いて』、な」


アセム「……入っても、いいか?」

エミリー「あぁ……アセム……っ!!」

ギュゥッ…!

アセム「……ごめん、母さん……」

フリット「……」ムッスー

アセム「……」

ユノア「……」クスッ


キオ「父さん!久し振り!」

アセム「……ああ、久し振りだな、キオ。ウットビット達も、元気か?」

キオ「うん!」

ロマリー「……心配ばっかりしてるのよ?」

アセム「……ああ……ゴメンよ、ロマリー……」

ロマリー「……もう、慣れちゃったわ」

アセム「……」

ロマリー「……こんなこと、慣れさせて欲しくなかったけど」

アセム「……っ ……すまない」

ロマリー「……もう!本当よ……」クスッ

アセム「……」



フリット「……」

エミリー「……夢みたい、だわ……こんな風に皆で食卓を囲めるなんて」

キオ「……うん、そうだね……僕も夢みたいだ」

アセム「……」

ロマリー「……そうね」

ユノア「ハイ、ひいじいちゃんの写真もここに置いて……」

ハロ『ゼンイン!ゼンイン!』

ユノア「うん!これで、全員だね!」

エミリー「……」ジワッ

アセム「……っ 母さん……」

エミリー「……あぁ、ごめんなさいね。……つい嬉しくって……」

アセム「……」

エミリー「……じゃあ、皆でいただきましょうか。……本当に、皆が帰ってきてくれて嬉しいわ」


エミリー「……本当に、ありがとう」






フリット「……」

ユノア「あーもうお腹一杯!」

ハロ『フトルゾ!フトルゾ!』

ユノア「ていっ」ゴスッ

ハロ『アーーーッ』

キオ「あはは……あれ?」

ロマリー「……?どうしたの?キオ」

キオ「……いや、じいちゃんと父さんは……?」

エミリー「……あぁ、おじいちゃんなら風に当たって来るって外に出たわよ」

フリット「……」



アセム「……久し振り、父さん……」

フリット「……フン」

アセム「……」

アセム「……俺は……」

フリット「……」

アセム「……父さん……俺は……随分と親不孝者だな」

フリット「……今更過ぎるな」

アセム「……そうだね」

フリット「……」



フリット「……アセム」

アセム「……? 何?父さん」

フリット「……お前にはいるんだ」

アセム「……」

フリット「……大切な母親が、いつでも、お前がどれだけ大人になっも待っているんだ」

アセム「……っ」

フリット「……それを、忘れるな」

アセム「……」



アセム「……ああ。わかってるよ……父さん」



アセム「……ずっと心配かけて、ゴメン」

フリット「……」

フリット「……フン」

フリット「……これでも、持っていけ」

アセム「……!」

フリット「……母親には、これを渡すのが……大昔から決まっている」

アセム「……」

フリット「……そう、言われてるそうだ」

アセム「……父さんは……」

フリット「……」

アセム「……いや、なんでもない」



アセム「……ありがとう、父さん」

フリット「……感謝する相手が違うわ……馬鹿者が……」

>>12
訂正
>フリット「……大切な母親が、いつでも、お前がどれだけ大人になっも待っているんだ」→×

フリット「……大切な母親が、いつでも、お前がどれだけ大人になっても待っているんだ」 →○

フリット「……」




数日前・地球近辺のコロニー内




ヴェイガン技術者「……これは、花……という奴ですか?」

フリット「……ああ」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……!ああ、失礼しました。……私は、実物を見るのは初めてなもので」

フリット「……火星には、花はないのか?」

ヴェイガン技術者「……えぇ、まぁ。何度かご覧になったでしょう?火星の首都コロニーですら、緑なんてありゃしませんよ」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……美しいですね。地球種……いや、失礼しました。地球圏で花を贈り物にする人間が多いのも頷けます」

フリット「……」

フリット「……」


店員「お兄さん!お兄さんも、カーネーションどう?母の日のプレゼントにさ!」

ヴェイガン技術者「……ハハノヒ?」

店員「そうだよ!あっはっは!お兄さん、日付も忘れちゃったの?」

フリット「……いや、結構だ」ジロッ

店員「」ビクッ

店員「……あ、あ~すいません!あはは、ありがとうございました火星には~!」


フリット「……」

ヴェイガン技術者「……」

>>18訂正
>ありがとうございました火星には~!」→×

ありがとうございました~!」→○

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……地球の、何か伝統行事なんですかね?」

フリット「……そうだ」

ヴェイガン技術者「……」


フリット「……人類が宇宙に進出する、遥か前から……」

ヴェイガン技術者「……?」

フリット「……5月の第2日曜日は……母親への感謝を表す日となっている」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……何故、そうなったのかまではわからないがな。……昔過ぎる」

ヴェイガン技術者「……」

ヴェイガン技術者「……なるほど、それで……母の日……」

フリット「……一般的には、カーネーションと呼ばれるこの花を贈ると言われている」

ヴェイガン技術者「……」

ヴェイガン技術者「……なるほど」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……はは、花を贈る文化か……俺達の故郷じゃ廃れるわけだ……」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……アスノさんは」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……アスノさんは、その花はお母上に?」

フリット「……」

フリット「……ああ、そのつもりだ」

ヴェイガン技術者「……そうですか」

ヴェイガン技術者「……正直、羨ましいです」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……」

ヴェイガン技術者「俺の母親は……マーズレイで死にました。……セカンドムーンが地球の近くに、地球が見える所まで移動するほんの少し前でした」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……」

ヴェイガン技術者「……戦争が、長引きすぎたんですかね……?全部今更だけど……何か変わったらお袋も青い宝石のような地球を見たり、こんな綺麗な花を見れたりしたんですかね……?」

フリット「……」

フリット「……」


フリット「……私を……」

フリット「……私を、恨んでいるか?」

ヴェイガン技術者「……」




ヴェイガン技術者「……はい 恨んでいます」

ヴェイガン技術者「憎んでいます」

ヴェイガン技術者「……貴方がいなければ、もっと戦争は早く終わったんじゃないか……形は違っても、それでも俺の家族は地球を見れたんじゃないのか、生きてたんじゃないのか、そう考えてしまう日が、今でも何度もあります」

フリット「……」


ヴェイガン技術者「……でも、貴方がいなければ我々は滅んでいました」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……貴方を恨んでいます。憎んでもいます。……でも、感謝もしています」

ヴェイガン技術者「……すいません……でも……」

フリット「……君達を助けたのは、私ではない。私の孫だ」

ヴェイガン技術者「……?」

フリット「……」

フリット「……」

フリット「……憎むのも当然……恨むのも当然……大切な人間を喪えば、誰でもそうなる」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……」

フリット「……私は、自分の憎しみと向き合い、赦すのに60年以上かかった」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……」

フリット「……私も君と同じだ。大切な人を戦争で喪い、憎しみを抱き続けていた」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……私が最初に喪ったのは……母だった」

ヴェイガン技術者「……っ!」

フリット「……7歳の時だ。……うなされ、憎み、何年も何年も夢に見続けた。そのお陰でガンダムを完成させることが出来た」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……皮肉な話だ」

フリット「……私はその後も、何人も喪い続けた。喪えば喪うほど、憎しみが強くなっていった」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……君のその感情は、人として当然のものだ。……人間である証だ」

ヴェイガン技術者「……っ!」

ヴェイガン技術者「……人間……」

フリット「……そうだ」


フリット「……大切な人と死に別れた者の喪失感と哀しみは……想像を絶する苦しみだ」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……喪った事の無い人間にはわからず、喪った人間は誰もがわかる想いだ」


フリット「……君は……私を憎む資格がある。その憎しみは、当然の感情だ」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……墓は……あるのか?」

ヴェイガン技術者「! ……えぇ、小さいものですが……セカンドムーンに……」

フリット「……」

フリット「……故人に、贈るカーネーションというものがある」

ヴェイガン技術者「……え?」

フリット「……通常、母に贈るカーネーションは赤いカーネーションとされている。……だが、故人に贈る時は白いカーネーションを贈る」

ヴェイガン技術者「……白い……」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「……」

フリット「……」

ヴェイガン技術者「今からでも……」




ヴェイガン技術者「……今からでも、母は……喜んでくれますかね?」

フリット「……」



フリット「……私は……そう信じている」

現在

アスノ家・墓前





フリット「……」

フリット「……母さん……久し振り……」

フリット「……ずっと会いに来れなくて、ゴメン……母の日は……少し過ぎてしまったけど……これを」

フリット「……」




『……母さん……僕は、もう赦したよ』

『……相手も、自分も、赦したよ……』

『……今、正しいことをしているんだ。正しいことをしたんだ。これで、良かったんだよね……?』

『……護れなくてゴメン……母さん……』




フリット「……母さん……結局僕は……昔のままだったんだ……家族が出来て、孫まで出来たのに……」

フリット「……母さんと過ごせた時間は、とても短かったけど……1日だって忘れたことは無かったよ」

フリット「……」

フリット「……」

フリット「……母さん……僕は……絶対に沢山の人を救って見せる。今やってる研究を成功させるよ」

フリット「……残りの人生を全て使って……必ず成し遂げてみせるから……」


フリット「……もしそれが出来たら……それを成し遂げられるような人間になれたら……」

フリット「……そうすることが、きっと私に出来る一番の親孝行だとも思うんだ」




フリット「……だから、もう少しだけ見守ってよ……母さん」

フリット「……もういくよ、母さん」

フリット「……母さん、ガンダムをくれてありがとう」

フリット「……家族を護る力をくれてありがとう。お陰で、私は今……沢山の家族に囲まれているんだ」


フリット「……今度は、もっと沢山の人の未来を……幸せを護るから……」


「……だから、ありがとう」

フリット「また来るよ。きっと」

フリット・アスノ

この後、彼は火星圏を長年苦しませた死病『マーズ・レイ』の発生を抑制するイヴァース・システムをヴェイガンと協力し開発することに成功

このイヴァース・システムにより火星の環境改善プロジェクトは大きく進展し、彼の研究は人類の新しい未来に大きく貢献した

本当の意味での火星移住計画のために、人類は動き出していた。全ての人間が安住出来る世界を求めて……


が、彼自身はプロジェクトの完遂を待たずこの世を去ったとされている

後に地球では、その生き様と功績を讃え、銅像が立ったと記録に残っている――





――見覚えのある、世界だった

青い森の中、綺麗な日差しが差し込んでいる

そこに、少年姿の……いや、幼児といって差し支えない年齢のフリット・アスノが立っていた

そこにいたのは、7歳のフリットだった

「ここはどこだろう?」

「なんだか、知ってる場所な気がする」



そんな彼を待つように、一人の女性が優しく彼を見つめていた

「……!」

「お母さん!」

彼は、迷わず駆け出した


「母さん!」

フリットは14歳のフリットになっていた

フリットは母親を力一杯抱き締めた。最後に手を握った時より、強く強く抱き締めていた

「……久し振り、フリット」

母 マリナが優しく語りかけた

「大きくなったわね……」

青年のフリットが母に優しく抱き締められながら立っていた

「……うん」


「長い間、待たせてゴメン」

フリットは壮年になっていた。だが、涙を浮かべた目だけは少年のような瞳のままだった

「いいえ、そんなことない。こんなにしわくちゃになるまで皆のために頑張って……」

老人になったフリットの頬に、マリナが優しく手を当てて、微笑みながら答えた



「……母さんは、お前を誇りに思うわ」



「ありがとう」

「優しい優しい……私の自慢の息子よ」


「愛してるわ フリット」




「これからも ずっと」

END

ここまでです。読んでくださってありがとうございましたm(__)m
無事カーネーションを贈れたので、思い付いた話をそのまま書きました

このSS自体は以前僕がVIPで書いていたAGEのSSの設定を引き継いでいます。読んでなくても成立する内容です。一応、タイトルだけ下に書いておきます
・フリット「こらアセム!格納庫は危ないから来ちゃダメだろ!」
・ゼハート「……老けたな、アセム」
・フリット「むぅ……クリスマスプレゼントか……」

AGEは個人的には一番好きなガンダムなので、これから少しでも好きな人が増えてくれれば嬉しいです。依頼を出してきます。オヤスミナサイですm(__)m

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