モバP「プロデューサー活動記」 (118)



ガチャ


凛「おはようございます」

P「……っ! あ……」



凛「ん……? えっと……あなた誰?」

P「あ……えと……お、俺は……」

凛「……」

P「そ……その……あの……き、今日……から……その…………」

凛「……怪しい」

P「えっ」

凛「誰かきてー! 変な人が事務所にいるー!」

P「え、ええっ!? ちょ、ちょっと待って……俺は変な人じゃなくって……」

 

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   その1 『渋谷凛』







 




ちひろ「おはようございます!」

未央「あっちひろさん! 丁度いいところに……」

ちひろ「どうしたの未央ちゃん。そんなに慌てて」

未央「不審者が出たんだよ事務所に!」

ちひろ「ええっ、不審者!? だ、大丈夫なの? 警察は?」

未央「意外と大人しい不審者だから、誰かが怪我とかはないけど……警察はこれから呼ぶとこ! とにかくちひろさんも来て!」

ちひろ「え、ええ!」

 






凛「……それで? ここで何してたの? 泥棒?」

P「そ、そんな……泥棒なんて……な、何もしてないです……」

奈緒「じゃあ何でウチのプロダクションに関係ないやつが事務所にいるんだよ?」

P「だ、だからそれは……」


ちひろ「みんな大丈夫!?」

P「あ…………ち、ちひろさーん!」

ちひろ「って……え? 不審者って……Pさん?」

凛「えっ? ちひろさん、この人の事知ってるの?」

ちひろ「いや……知ってるも何もその人は……」


 



『えーっ!? この人が新しいプロデューサー!?』


ちひろ「そうです! 彼はPさん! 今までは私の下で事務作業や、お仕事を取ってきたりしてくれてたけど、今日からあなた達のプロデューサーになる人……」

ちひろ「なんですけど……どうしてこんな騒ぎに!?」

奈緒「それは……凛がいきなり大声で叫ぶから! 元々は凛が勘違いしてこんな大事に……」

凛「ず、ずるい。奈緒だってこの人の顔見たら絶対不審者だって……」


P「す、すいません俺が悪いんです!」

全員『』ビクッ


P「あ、いや……お、俺が……怪しかったから……疑われて当然でした……す、すいません」

凛「……」

未央「ていうか……今日からプロデューサーが来ること知ってたのに、それを伝えてなかったちひろさんも問題な気が……」

ちひろ「ぎくっ! ……あ、あはは! いやー、まぁでも本当に不審者じゃなくてよかったじゃないですか! ね!」

ちひろ「という事でこのお話はおしまい! Pさん、今日からよろしくお願いしますね!」

 






P「……はぁ」

P「初日から……やってしまった……」


俺の名前はP。

アイドルを多く抱えているこのCGプロに入って、最初は事務的な仕事や雑用などの小間使いをしていた。

が、最近ウチの事務所はどんどんアイドルが増えていて、それを支えるプロデューサーの数が圧倒的に足りなくなってきているらしい。

そこで社長は、これまでアイドル達とは直接関わりのないところで仕事をしていた俺にまでプロデューサーを頼んできたのだった。

今日はプロデューサーとしての仕事の初日。最初からバッチリ決めて上手くアイドルの子達に溶け込む予定だったんだけどな。

P「はぁ……あれだけ動揺してたら、そりゃ不審者と間違えるよな……」


そもそも、元々俺が何故アイドルと接点を持たずに働いていたかを考えれば分かるのだが……俺は……



女性が……苦手なのだ。

 


これまでの人生でもほとんど女性と接する事なく過ごしてきたし、これからもきっとそういう人生なんだろうと思っていたけど……そうはいかなくなった。

正直かなり緊張する。

だけど……俺はもう女性アイドルのプロデューサーなんだ。

彼女達の魅力をしっかり近くで感じ、その良さを他の人達に伝えていかなければならない。

苦手なんて言ってる場合じゃないんだ……よし。


頑張るぞ!

ガチャ



未央「あっ、プロデューサー!」


P「っ!」ビクッ

 


未央「さっきはごめんね! 悪い人と勘違いしちゃって!」

P「あ、ああ……大丈夫……もう過ぎた事だし……ね」

未央「そう言ってくれるとありがたいよー!」

P「う、うん……」

未央「あ、私本田未央! 今日からよろしくお願いしまーす!」

P「あ、はい……よろしく……お願いします……」

未央「えへへ、何でプロデューサーが敬語なのー?」

P「あ、はは……」タジタジ



ダメだ、眩しい。眩しすぎる。

本田さんか……明るくて元気で、きっとすごくいい子なんだろうな。

だけど、その輝きはまだちょっと俺には強すぎるかな。

いかんなぁ……頑張るぞって決意した途端これか。本当、自分が嫌になる。

こんなんじゃすぐにアイドルの子達に失望されてしまうんじゃないだろうか?

 


そんな不安を抱えながら始まった日々だったが。


卯月「あっ、おはようございますプロデューサーさん! 私、今日も頑張ります!」


みく「おはようPチャン! 今日もよろしくにゃー」


奈緒「あ……Pさん……えーっと、この間は……アタシ達の勘違いで……そのー…………と、とにかくごめんなさい! そ、それだけ!」


茜「今日も元気に頑張りましょうっ!!!!」


杏「働きたくないー」


きらり「にょわー!」


蘭子「やみのま!」


瑞樹「わかるわ」


アイドル達はこんな俺に対して嫌な態度一つせず対応してくれた。
 



それにしても、分かってはいたがウチの事務所……本当にたくさんのアイドルが所属しているんだなあ。

しかも一人一人年齢も性格もバラバラ……強い、強すぎるくらいの個性を持っている。

みんなトップアイドルになれたらいいな……いや、俺がしなきゃいけないのか。

P「頑張るぞ!」バッ

凛「わっ、びっくりした」

P「へ? あ、し……渋谷さん! ご、ごめん……びっくりさせて!」

凛「本当だよ……顔伏せて立ち止まってたから落ち込んでるのかと思って近づいたら、急に大声出して顔上げるんだもん」

P「あ……ごめんね、心配してくれたんだ……ありがとう」

凛「え……そ、そういう訳じゃないけど……ちょっと気になったから」

P「そっか……」

 


凛「……」

P「……?」

凛「……あのさ、この前の勘違いの件……ごめんなさい。まだ謝ってなかったよね」

P「ああ、いいよいいよ……ていうか本当みんないい子だね……」

凛「え? な、何でそうなる訳? こっちはアンタを不審者呼ばわりしちゃったのに……」

P「しょうがないよ……だって、実際不審者だったし俺。あれだけ挙動不審な奴がいたら俺だって疑うさ」

凛「そういえば……どうしてあの時あんなに動揺してたの? あれを見て私てっきりアンタが後ろめたい事してるのかと思っちゃって……」

P「あ、はは……ごめん……実は、さ……俺、女の子が苦手なんだよね……」

凛「え……女の子が苦手って……な、なんでそれでアイドルのプロデューサーなんかやってるの?」

P「そ、そうですよねー……あはは」

 


凛「そういえば元々は私達と接点ないところで働いてたって言ってたね……そっか。人手が足りないから、仕方なくやってるんだ」

P「いや、そういう訳じゃないよ! 全然、嫌とかではないんだ! むしろ、すごく嬉しい!」

凛「そうなの?」

P「うん……でも、やっぱり今の感じじゃ不安だよね! 見てて、俺堂々とできるように頑張るから!」ガチャ


凛「あ、今そっちの部屋は……」

P「ぶはあっ!」

凛「あー……」


扉を開けた先にいたのは……何故か更衣室でもないのに服を脱ぎかけていたアイドルだった。

名前は確か、十時愛梨ちゃん。

……正直刺激、強すぎです。

 



それからも俺は、アイドルと馴染めるように頑張って……


菜々「ナナはウサミン星からアイドルをするためにやってきたんですよぉっ! キャハッ!」

P「へ、へー……う、ウサミン星ねー……す、すごいねー……」


くるみ「ふぇぇん……どうせくるみはバカだもぉん!」

P「え、えっと……泣かないで! 大丈夫だから……ど、どうしよう……」オロオロ


頑張って……


雪美「……………………………?」

P「……………………えーと」


のあ「私が輝く星となるのに、一体あなたはどれ程の道を指し示してくれるのかしら? ……いえ、なんでもないわ。この問いに決まった正解などないものね」

P「……………………はい…………はい??」


頑張ったん……だけど……
 




P「……うう」プシュー


凛「……あんまり上手くいってないみたいだね」

P「し……渋谷さん! そ、そんな事ないよ! みんな、とてもいい子達ばかりだし!」

凛「まぁ、そこは同意だけど……ちょっと、いやかなり個性的な子がたくさんいるでしょ?」

凛「それに加えてプロデューサーが女の子苦手ってなると……やっぱり色々無理があるって。やめといた方がいいんじゃない?」

P「そ、そんなことは……」

凛「あのさ、一応勘違いされないように言っとくと、私アンタの事が嫌いで追い出そうとしてる訳じゃないからね? 頼りない感じだけど、いい人そうではあるし」

P「あ、うん」


凛「ただね、やっぱ人には向き不向きがあると思うんだ…………私も……多分……」

P「……え?」

凛「だ、だから、アンタにはアイドルのプロデュース向いてないんだと思うって事! 悩みが大きくなる前に早めに諦めといた方が……」

P「渋谷さん……忠告ありがとね」


P「……でも……プロデューサーを諦める気は……全くないよ!」

凛「え……? な、なんでそんなに……」

P「それにまぁ大変なのは正直認めるけど、それを苦になんて思ってないよ」ニコッ

凛「…………」

 








凛(なんで……)

凛(どうして苦手な事を……自分に向いてない事を、あんなに頑張ろうと思えるんだろう)

凛(私は……私は……)



未央「……しぶりん? おーい、聞いてる?」


凛「……えっ? あ、ご、ごめん。なんだった?」

未央「だからー、しまむーにまた新しいお仕事入ったんだよ! すごいよね!」

卯月「えへへ、だんだんお仕事が増えてて嬉しいな」

凛「うん、本当……卯月はよく頑張ってるもんね」

未央「なーに言ってんのー! 私たちもしまむーに負けないぐらい頑張るんでしょー?」

凛「未央……うん。ごめん、そうだったね」
 


未央「よーっし! じゃ、今日のレッスンもバリバリやっちゃうもんねー!」


凛(……そんな未央も、この間雑誌の一コーナー丸々使ってグラビアの特集なんてやってたもんな)

凛(すごく明るい笑顔で映ってて、キラキラ輝くアイドルって感じだった……)

凛(卯月だって誰にでも愛想良くて……何をするにも一生懸命で……みんなが応援したくなるアイドルって感じ)

凛(私は……二人のような明るさは……持ってない)

凛(最近……こんな事ばかり考えてしまう……)

凛(自分は、アイドルに向いてないんじゃないかって……)

凛(そんな事を考えてしまう自分も、嫌で……)

 

 





レッスン後―


『お疲れ様でしたー!』

未央「さーて、しまむー、しぶりん、帰ろっかー!」

凛「うん……って、あれ?」

卯月「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「あ、うん。ちょっと事務所に忘れ物しちゃったみたい」

未央「えー、大丈夫? 貴重品?」

凛「ううん、すぐに必要って物でもないんだけど……一応事務所見てくるね」

卯月「もう事務所誰もいなくて開いてないかもしれないよ?」

凛「まあ、ここから事務所は割と近いし。開いてなかったら、また次の時に回収するよ。という訳で、悪いけど今日は先に帰っててくれる?」

未央「はいはーい。それじゃ、またね! しぶりん!」

 



事務所―


ガチャ

凛「あ……開いてた。正直もうかなり遅い時間だから閉まってると思ってたけど、まだ誰かいたんだ」



凛「えーっと、忘れ物はっと……」

凛「……あ、あった。やっぱりソファの上に置きっぱなしだったか」

凛「ん……あっちの部屋から明かりが漏れてる……ちひろさんかな……それとも……」



P「んー……この仕事は卯月のイメージとはちょっと違うかなー……」ブツブツ

P「やっぱこういうのは凛が一番合ってると……」ブツブツ

凛「プロデューサー?」

P「わっ!? ……って、え? し、渋谷さん!? なんでこんな時間に……」

凛(今凛って言ってたのに、渋谷さんに戻ってる)

 


凛「ちょっと事務所に忘れ物しちゃってね……レッスン終わりに寄ってみたんだ」

P「こんな時間までレッスンしてたんだ……お疲れ様だね」

凛「それを言うならアンタの方こそ」

P「え、俺?」

凛「今やってるのプロデューサーのお仕事でしょ? こんな遅くまで働いてるなんて知らなかったよ」

P「いやぁ、今日はたまたま……」

凛「嘘……そのデスクの散らかり具合とか、夜食とコーヒーを準備よく用意してあるのは、遅くまで働くのが習慣化してるって事でしょ?」


P「はは……本当渋谷さんはよく見てるなぁ……すごいよ」

 



凛「……ねぇ」

P「……ん?」

凛「私、アンタにプロデューサー向いてないって言ったよね」

P「え? うん……確かに、自分でもあんまり向いてないかもって思う。はは」

凛「なんで、自分に向いてない大変な道をそんなに頑張ろうと思えるの? ……教えて」

P「……そんなに凄い理由なんてないよ……ただ」


P「俺は昔、アイドルに救われたんだ」

凛「アイドルに……?」


 


P「うん……っていうと、ちょっと大げさかも知れないけど」


P「俺さ、一時期すごい暗くて落ち込んでる時があって、何に対しても気力が出ない時期があったんだ」

P「心を持ち直すために色々したんだけど……何をしてもダメで」

P「もう一生塞ぎ込んだまま終わっちゃうのかと、その時は本気で思ってた」

P「だけど、ある日……何気なくテレビをつけた時、当時の俺と同い年くらいのアイドルの子達がキラキラ輝きながら、歌に踊りに頑張ってるの見て……」

P「それまでがなんだったんだと思えるくらいスっと簡単に、胸の奥が熱くなるほどの楽しい気持ちになったんだ」

P「それから俺はそのアイドルをテレビで見る度に元気になって……気づけば、全力で応援してた」


凛「そんな事が……」

 


P「まあ、そんなこんなで応援だけじゃ物足りなくなった俺は、少しでもアイドルを助ける仕事がしたくてこのプロダクションに入ったって訳」

P「プロデューサーになるのが想定外だったのは間違いないけど……」


凛「そっか……でもそういうエピソードを聞けば、アンタのその頑張りも納得かな……」

凛「もし、アンタが向いてないこの仕事をすぐ辞めてたら、私もそれに合わせてアイドル辞めたかも知れないけど、もうちょっと頑張ろうかな……」

P「は? な、なんで?」

凛「え、だ、だから、アンタの頑張ってるのを見たからそれに感銘を受けて私も頑張ろうかなと……」

P「いや、そうじゃなくて! なんで渋谷さんがアイドル辞めようとしてたの?」

凛「だ、だから……私もアイドルに向いてないから……」


P「何言ってんの!? 渋谷さんはシンデレラガールになれる程の素質を持った子でしょう!」


凛「そんな訳ないじゃん! 私、卯月みたいに愛想も良くないし! 未央みたいに明るくもないから!」

P「そりゃそうだよ。君は君であって、島村さんでも本田さんでもないんだから」

凛「え……?」

P「そうか……何となく渋谷さん悩んでるのかと思ってたけど、そんな事で悩んでたのか」

凛「そんな事……?」

P「ああ、ごめんごめん。別に君の悩みを軽んじてる訳じゃないんだ。ただ、自分で自分のいいところは見えないものなんだなって思って」



P「いいかい? 確かに君は、島村さんのようなキュート系のアイドルでもなく、本田さんのようなパッション系のアイドルでもない」

P「いうならばクール系だよね、渋谷さんは」

P「だけど、クールって言っても決して冷たい訳じゃない。渋谷さんは、二人にはない凄いところが沢山あるよ」

凛「私の……凄いところ?」

 


P「うん、渋谷さんはすごく周りの事とかちゃんと見てるよね。俺が連日遅くまで事務所残ってるのもすぐ見破っちゃったし」

P「それに、俺がアイドル達相手に四苦八苦してるのを常に気づいて見てくれてた」

P「そして、必ず気にかけて心配してくれる優しさも持ってる」

凛「べ、別にそんなつもりじゃ……」


P「優しさだけじゃない。俺と初めて会った時、君はすぐに俺を怪しいと感じて、大声を出したよね」

凛「あ、あれは……ごめん」

P「あの場面、もし本当に俺が危ない奴だったら、あそこで大声を上げるのは相手を逆上させるかも知れないと思って、なかなかできない」

P「事務所を守ろうとする責任感や、強い心がないとね」

凛「ちょっと……買いかぶりすぎ……」

 


P「まだあるよ。君はしっかりした子だから、君と話す相手は安心して自然体で話せるんだ」

P「現に俺……もう渋谷さん相手だと緊張せず話せてるでしょ?」

凛「あ……そういえば……」


P「そして……これが一番渋谷さんがアイドルの素質を持つ理由だけど……」



P「渋谷さんは、すごく可愛い!」


凛「…………か、かわ……!? 急に何言ってんの?」

P「え、何って……大事な事だよね? 可愛さ」

凛「そ、そんなの……素質とか……全部アンタが一人で思ってる事じゃん……」

P「えー、そんな事ないって……それじゃ……これ見てみてよ」スッ

 
 


凛「え? これって……仕事の予定表? うわ、すごいいっぱい……これ、一体誰の……」

P「何言ってんの。渋谷さんのだよ」

凛「え……わ、私? 嘘……」

P「ほんと。どう? 少なくとも、これでこの人達もアイドル渋谷凛の素質を認めたって事にならない?」


凛「アンタが……取ってくれたの?」


P「渋谷さんの魅力を丁寧に伝えたら、皆さんすんなり分かってくれたよ」




凛「…………っ」



P「し、渋谷さん大丈夫? 急に俯いちゃったけど……」


  



凛「最近……ずっと自信がなかったんだ……」

P「……」


凛「一度不安に思いだすと、その気持ちはどんどん大きくなっていって……」

凛「好きで始めた筈のアイドルも……なんで続けてるか分かんなくなったりして……」


凛「ねぇ……もう一回だけ確認していいかな?」

P「なに?」



凛「私……アイドル、向いてるかな?」


P「…………当然! 渋谷さんは新しい時代の先に立つ、スーパーアイドルだよ!」グッ


 



凛「……ふふっ……ありがと……プロデューサー」



P「わー……笑ったところ初めて見たけど、笑顔も可愛いねー」

凛「う……だ、だから……そういうのは……ちょっと恥ずかしいよ……」

凛「ていうか、女が苦手な癖になんでそういう言葉はさらっと出てくる訳……?」

P「あ、ご、ごめん渋谷さん……つい口に出ちゃって……」

凛「凛でいいよ」

P「えっ?」

 


凛「これから長い付き合いになるのに、いつまでも苗字で呼んでちゃダメでしょ? ね、プロデューサー」

P「……っ! うん……そうだね……凛」

凛「ふふっ……」


凛「……アンタがプロデューサーに向いてないって言ったの……取り消すね」

P「……え」

凛「やっぱり、アンタも向いてるよ……プロデューサーに」

P「そうかな……ありがと!」

 





次の日―


P「おはようございます」

みく「おっはよーにゃ、Pチャン!」

P「うわっ! あ……お、おはよう……ま、前川さん……」

みく「んもう、そんなにびっくりしないでほしいにゃ。それに、みくの事はみくって呼んでいいのにー」

未央「えへへ、しょうがないよー。プロデューサーはそういうタイプの人なんだから……」



ガチャ


凛「おはようございます」

P「あ、おはよう凛」

 


凛「あ、プロデューサー。今日私お仕事入ってるんだよね」

P「うん、入ってるけど」

凛「プロデューサーも……現場まで付いてきてくれない?」

P「いいよ、っていうかそうするつもりだったけど」

凛「そっか……ならいいんだ」



みく「……」シーン

未央「……」シーン


凛「ん? あれ、いたんだ二人とも。どうしたのそんな黙ってこっち見て」

 



未央「……な、何でそんなフレンドリーに会話してんの!? プロデューサーがあんな流暢に喋るの初めてみたんだけど!」

凛「…………そう? 別に普通じゃない?」


みく「嘘にゃ! 大体、Pチャンがアイドルを名前で呼んでるのも初めて聞いたにゃ! 一体何をしたんにゃあ! 吐けー!」ガバッ

凛「ちょっ、二人とも……やめ……!」



ワーワーギャーギャー


P「……ん?」チラッ

P「あはは、なんかあっちでじゃれあってるや……仲いいなあ」





P「さて……今日もプロデューサー業、頑張りますか!」


 

つづく!





P「か、神谷さん……お、おはよう……」

P「ほ、本田さんは……今日も……元気だね……」

P「お、お疲れ様……島村さん……」

P「あ、よかったよ……前川さん……」

P「う、うん……よろしくね……城ヶ崎さん……」



P「よし。お仕事行こっか、凛。はは、分かってるって。頑張ったらジュース奢ってあげるからさ」



奈緒「……」

未央「……」

卯月「……」

みく「……」

美嘉「……」
 






未央「……おかしい……絶対おかしいよ……!」

凛「……え、何が?」

未央「何がって……しぶりんとプロデューサーの関係がに決まってるじゃーん!」

凛「またその話? だから別に何でもないって言ってるのに」

みく「いやいやいや! どう見たってPチャンは凛チャンに対してだけ心開いてるにゃ! 開きまくってるにゃ!」

卯月「凛ちゃんとプロデューサーさん、とっても仲良しさんです」

凛「卯月まで……なに? 私とプロデューサーが付き合ってるとか、そういう事を疑ってるの?」

美嘉「そこまでは……でも、少なくともプロデューサーのアタシ達に対する反応よりは大分いいよね」

美嘉「アタシなんか最初、この見た目と雰囲気のせいかめっちゃ目逸らされてたもん……結構傷ついたんだからね」

 


奈緒「あたしは別にPさんが誰と仲良くしてるとかはどうでもいいんだけど……それより最近凛の仕事がどんどん増えてきてるのが気になる」

みく「ま、まさか……Pチャンを誘惑して虜にして、自分に沢山仕事を持ってこさせるのが凛チャンの狙い……!?」

凛「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな悪女みたいな真似する訳ないでしょ!」

奈緒「なあ凛……本当にこの件に関して何か思い当たる節は無いか?」

凛「だから何も…………ま、まあ」

凛「私相手だと緊張せず話せるとは……言ってたけど」

奈緒「へー……他には?」

凛「えっと……優しいとか言われたかも」

美嘉「他には?」

凛「責任感がある……とか?」

 


卯月「他には他には?」

凛「あとは……あー…………か……可愛いとか……言われたけど」

未央「えーっ、何それー! ベタ褒めじゃん! 褒め殺しじゃん! 私なんて元気だね、しか言われた事ないのにー!」

みく「まぁ未央チャンはそれが取り柄だからにゃー」

未央「これはよくないね。こうなったらプロデューサーに私達の良さを知ってもらうため……スキンシップ大作戦を決行だぁー!」

卯月「おー!」

凛「……一体何するつもり?」

未央「別に、ただプロデューサーと仲良くしようってだけだよ……それじゃみんな、作戦の内容だけど……」



凛(……大丈夫かな……プロデューサー女の子苦手なのに)

凛(でも確かに……今のままよりかは、みんなと仲良くできた方がいいに決まってる……よね?)


 









   その2 『スキンシップ』







 






P「今日の予定は……本田さんをスタジオに送っていって……」

未央「おっはよープロデューサー!」

P「わっ……あ、おはよう……本田さん……」

未央「えへへ、今日も元気に頑張ろうねー!」

P「う、うん……よろしく……」ニコッ

未央(一応、最初に比べたら笑いかけたりしてくれるようにはなってるんだよね……でもまだまだ遠慮されてるなー……よーっし!)

未央「今日は一緒にスタジオまで行くんだよね?」

P「あ、うん……そうだよ」

未央「そっか、それじゃ……」


ギュー


未央「えへへ、早速向かおっか!」

 



P「……え!? な、な、なんで……」

何で急に腕に抱きついてきたのー!?





未央「……それでね、しまむーったら間違えて砂糖かけちゃったみたいで、すんごい甘いおにぎりができちゃって……」

P「…………」ドキドキ

未央「……そういえばこの間レッスンしてた時なんだけどー……」

P「…………」ドキドキ


未央(おかしいなー。これだけ密着すればもっと仲良くお話できると思ったのに、余計無口になっちゃったよー)

P「あ……あうぅ……」パクパク


 







みく「Pチャーン! これ見てー!」


P「ど、どうしたの前川さん……って、それ……」

みくを見ると、ねこみみとねこしっぽを付けていた。

みく「どうかにゃ? 可愛いかにゃ?」

P「うん……よく、似合ってる、よ」

みく「んふふ……Pチャン、ちょっとこっち来て?」

P「……どうしたの?」


みく「んー……すりすりにゃ」

 


P「……!? え、ちょ……」ドキッ

みく「にゃーん、今のみくは完全な猫チャンだにゃ」スリスリ

P「わ、わわ……」ドキドキ

みく「にゃはは。さぁ、みくを存分に可愛がるといいにゃ」スリスリ


P「あ、あの……じゃ、じゃあ…………お魚……お魚食べさせてあげるから、ちょっと……離れて……」


みく「にゃっ!? お、お魚を食べさせるなんて……Pチャンの鬼畜ー!」ダッ

P「えっ……な、何で……?」


訳が分からないが、とりあえず離れてくれてよかった。


 





卯月「プロデューサーさん!」

P「どうしたの……? 島村さん……」

卯月「私、頑張ります!」

P「えっと…………何を?」

ギュッ

P「えっ……」

突然俺の手を自分の両手で握ってきた。

卯月「プロデューサーさんとのスキンシップを、です!」

P「え、ええっ? 俺とのスキンシップって……」

卯月「……嫌、でしたか?」

P「そ、そんな! ……事は……ないよ」

卯月「えへへ……良かった……」

……ま、まあ腕に抱きつかれたり、すりすりされるよりは刺激も少ないし……手を握るくらいならいいか。
 




P「……」

卯月「……」ジー

P「……」ソワソワ

卯月「……」ジー



P「あ、あの……島村さん……」ソワソワ

卯月「はいっ、なんでしょうっ」

P「い、いつまで……この状態で……いるの?」

卯月「えへへ、私とプロデューサーが仲良しになるまでです!」

P「そ……そっか……」ドキドキ



結局、どのくらいそのままでいたか、時計で計っていた訳ではないので分からないが。

体感的には、5時間くらいは経っていたように感じた……。

 






奈緒「……なぁ、本当にあたしもやらなくちゃダメか?」コソコソ

未央「当然だよっ、奈緒ちゃんだけプロデューサーに避けられたままだったら寂しいでしょ?」コソコソ

奈緒「いや、あたしは別に……」コソコソ

卯月「奈緒ちゃん頑張って!」コソコソ

奈緒「はぁ……ったく、分かったよ」コソコソ





奈緒「おーい、Pさーん」

P「あっ、おはよう……神谷さん」

奈緒「あ、ああ、おはよう……き、今日もいい天気だなー!」

P「……? そうだね……」

 



奈緒「……」チラッ

P「ふー、次はこの資料を作ろうかな……」カタカタ

奈緒「ぴ、Pさん……」ポフッ

P「……え?」

体に重みを感じ振り返ると、奈緒が俺の体に寄りかかってきていた。


P「えっと、どうしたの神谷さん?」キョトン


奈緒「えっ? いや、その……」

奈緒(な、なんだよ! そんな真顔で聞いてくるなよ! 恥ずかしいだろ!)

奈緒「あ、あー……ごめん。ちょ、ちょっと体の調子が悪くて……もたれかかっちゃっただけだよ……はは」

P「え……大丈夫!? 病気!?」ガバッ

奈緒「えっ!?」ビクッ

 


P「熱は……ないな」ピタッ

奈緒「うひゃっ!?」

P「どうしよう……風邪かな? 他には何かない? 気持ち悪いとか、頭痛いとか!」ズイズイ

奈緒(顔近い! 何で急にそっちが積極的になるんだよ!)

P「と、とりあえず病院で看てもらうか……今病院に予約を……」

奈緒「わ、わああああ! だ、大丈夫! な、何か急に調子良くなってきた! もう元気いっぱいだー!」

P「ほ、本当に? 無理してない?」

奈緒「全然! 本当に大丈夫だから! それじゃーな!」ダッ

P「あっ……行っちゃった……」

 





美嘉(全く、奈緒ちゃんてばウブなんだから……)

美嘉(ここはアタシのセクシーな魅力でプロデューサーをメロメロにしちゃうしかないかー★)



美嘉「……という訳で」

美嘉「どう? プロデューサー。この衣装、刺激的で素敵だと思わなーい?」

P「あっ……う、うん……い、いいと思う……」ソワソワ

美嘉「もーっ、こっち見てないじゃん」

美嘉(へへへ、照れてる照れてる。何か可愛いなあ……こりゃプロデューサーも相当ウブだね)

美嘉「ねえねえ、もっとしっかりアタシの事、見て……?」スッ

P「わわっ、あう、その………………あ」


P「あの……城ヶ崎さん」キリッ

美嘉「……え?」ドキッ

 


美嘉(な、なに? あんなに照れてたのに、急に真剣な目つきでこっちの方を見て……ま、まさか本当にアタシの魅力にやられちゃったの……?)

P「ちょっと動かないでね……」スー

美嘉(て、手を伸ばして近づいてきた!? う、動かないでって……一体どうする気? まさか……あんな事とか、こんな事とか……!?)


美嘉「そ……そういうのはちょっと早いっていうか……」

美嘉「ま、まだ心の準備とかできてないからー!」ダッ

P「あ、ちょっと城ヶ崎さん……」




P「心の準備とか言ってたけどどうしたんだろ……頭についてたゴミ、取ってあげられなかったし」

後でその事を話して取ってあげたら、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしていた。

ずっとゴミ付けてたと思ったら恥ずかしくなっちゃったのかな?


 






P「はふぅ……」



凛「どうしたのプロデューサー」

P「あ、凛……」

凛「何だか久々にお疲れモードって感じだね」

P「はは……いやー、アイドルとの関係も慣れてきた……と思ってたんだけどねー」

P「最近結構積極的に接してくる子達がいて……やっぱり距離が近いとまだまだ緊張するなーって」

凛(未央達の事だな……)


凛「……大丈夫なの?」

P「うん……きっと彼女達はこんな不甲斐ない俺と少しでも仲良くしようと思ってしてくれてるんだろうし……その気持ち自体はとても嬉しいから」
 


P「すぐに慣れろって言われるとちょっと難しいけど、俺もみんなと仲良くなりたいからね」

凛「そっか……あんまり無理しないようにね」

P「心配してくれてありがとね……はは」

P「やっぱ……凛と一緒にいるとすごく落ち着くなぁ」

凛「……なっ! なに、それ。ど、どういう意味っ?」

P「え? どういう意味って……そのままの意味だけど」

凛「あ……そ、そう。ふーん……ま、まあ別になんでもいいけど」

P「……凛?」

 








未央「むむむ……あれだけ作戦を実行したのに、効果は無し、か」

みく「みくがじゃれてもダメだなんて、相当強敵だにゃあ」

奈緒「もう諦めるしかないんじゃないか?」

未央「いや、まだだよ! かくなる上は……全員で総攻撃だ!」




P「……」カタカタ

P「ふわぁ……んー、ちょっと休憩するか」


あくびをして少し体を伸ばしていると、突然部屋の扉がバンっと開いた。

P「な、なんだ……?」


 


未央「プロデューサー!」

みく「お仕事お疲れ様にゃ!」

卯月「今日はいつも頑張ってくれているPさんを、私達で少しでも癒してあげようと思うんです!」

奈緒「ま、まあ別に断りたきゃ断っても……いてっ! 叩くなよ美嘉」

美嘉「とりあえずこっちのソファにかけてよ、プロデューサー!」

何だか嫌な予感がしたが、5人の強い押しに断る事もできず、促されるままソファに座る。

P「えっと……一体何を……」

未央「ふっふっふ、最近仕事続きで疲れてるプロデューサーの身体を、私達5人で全身マッサージしてあげようと思ってね!」

P「ま、マッサージ!? い、いや……そんな……悪いから、いいよ……」

俺はその場から去ろうとしたが、

みく「まあまあ、遠慮しなくていいにゃあ」ガシッ

卯月「いつもは私達が面倒見てもらってますから、たまには恩返しです……ほら、横になって」ガシッ

すでに周りを包囲されていた為逃げる事も叶わず、四方から掴まれた俺は半ば強制的に寝かしつけられた。

P「あ……あうう……」

 




未央「お客様、揉み加減はいかがですかー?」モミモミ


みく「みくにマッサージしてもらえるなんて、Pチャンは幸せ者にゃあ」モミモミ


卯月「マッサージも頑張ります!」モミモミ


奈緒「ん……男の人の体って、やっぱり硬くてがっしりしてるんだな……」モミモミ


美嘉「こ、こんなに男のコの体触るの初めて…………じゃないけどっ、全然よくあるけどっ」モミモミ


P「あ、あわわ……も、もう十分……だから、ぁ……!」ドキドキ



5人の女の子達から体のいたるところをマッサージされた俺は、気持ちいいやら恥ずかしいやらでもう訳の分からない状態になっていた。

 


この天国とも地獄ともつかない場所から早く脱出しないと、頭か心臓あたりが爆発してしまう。

しかし逃げ出そうにも最早体に力が入らず、俺は実験されるマウスのごとく、彼女たちにされるがままとなっていた。


未央「えへへ、なんだか楽しくなってきちゃった……よーし、こっちもマッサージしてあげる!」

P「あ……そ、そこはダメ! あ、あの……もう、ホント……よくなったから……あの……!」

軽く涙目になって訴えたが、何故かみんなマッサージに集中し始めて誰も聞いていなかった。美嘉にいたっては無言で一心不乱に勤しんでいる。


P「だ……誰かぁ……た、助けて…………」






凛「アンタ達何やってんの!」バンッ



P「り……ん……?」


  



みく「な、何って……ま、マッサージを……」

凛「マッサージって……そんなに大勢でするものじゃないでしょ!」

未央「いや、みんなでやった方が気持ちいいかと思って……」

凛「はぁ……あのねぇ、プロデューサーは女の子が苦手なの! そんな事したら色々大変なの! 分かったら、どいてあげなさい」


『はーい……』


凛が一喝すると、5人は簡単に俺から離れてくれた……やっぱり、凛は流石だな。

P「た……助かった……」ホッ


 





凛「……それで? どうしてこんな事態になっちゃったの?」

未央「それは、そのー……プロデューサーと仲良くしようと思って色々スキンシップを試みたけど、あんまり効果がなくて……」

未央「みんなでやれば効果が出るかな、と思って……やりました」


凛「はー……悪気が無いのは分かってるけど、それでプロデューサーを怯えさせたら、完全に逆効果なんだよ?」

未央「うう……ごめんなさいプロデューサー……」

P「そ、そんな……謝らないで……むしろ、こっちこそごめんね」

P「俺がもっとみんなに普通に接せてれば良かっただけなのに……でも、俺と仲良くしようと思ってしてくれたってだけで、すごく嬉しいよ」

P「俺もみんなと打ち解けられるようにもっと頑張らなくちゃね……」

 



みく「……じゃあ名前……せめて、みく達の事も凛チャンみたいに名前で呼んで欲しいにゃ」


P「……! わかったよ、みく」

みく「……にゃはっ」

卯月「私も、名前で呼んで欲しいです!」

P「うん……卯月」

卯月「はいっ、私卯月ですっ!」


アタシモアタシモーナマエデヨンデー★

アッアタシハベツニ……


凛「……何か色々ドタバタしたみたいだけど……最終的には上手く収まった……のかな?」

未央「まだ終わりじゃないよしぶりん!」

凛「……未央?」

 


未央「私達がこんなに色々画策してやっと名前を呼んでもらえるんだから、当然しぶりんも名前を呼んでもらえる理由がある筈だよね!」

凛「またその話を繰り返すの? だから何もないって何回も……」

未央「そう、しぶりんに聞いたってそう言ってはぐらかすだけ……な、の、で」

未央「プロデューサーの方へ聞いちゃえー!」


P「ん? なに?」

未央「プロデューサー! ぶっちゃけ、凛ちゃんの事どう思ってますかー!?」

凛「な、何その、ストレートな質問……プロデューサーも、別に答えなくて……」







P「え、普通に大好きだよ?」ニコッ



凛「……なっ!」

 



未央「……わーお」

みく「……にゃにゃっ」

卯月「……わぁ」

奈緒「……ふん」

美嘉「……ひゅーひゅー★」


凛「ち……違う。この人の言ってるのは、アイドルとプロデューサーとしてとかのやつで……」

未央「そうか……しぶりんという絶対的存在がいたら、やっぱり私達が色々したって霞んじゃうよね! うんうん、納得できたよ!」

 


凛「だから違うってば! 話を聞いて。ぷ、プロデューサーも! 笑ってないで、もっとちゃんと説明して!」

P「……え?」ニコニコ

凛「あーもう……そこ! ニヤニヤしてこっちを見ない! 奈緒、分かってて乗っかってるでしょ!? 卯月もそんな満面の笑顔で祝福しないで……!」


P「……ふふ」


俺がヘタレなせいでアイドルの子達に苦労かけちゃったみたいだけど……

この一件を超えて、もっとみんなと仲良くなれたんじゃないかな……そう思った。









凛「……プロデューサーのバカ」


P「……えっ!?」


 

つづく!

皆さん乙感謝です!








卯月「プロデューサーさん、失礼します!」

凛「私達3人同時に呼びだして……何か用?」

未央「なになに? 楽しい話ー?」


P「うん、実はね……ウチの事務所にLiveの出演のお話がきてるんだ」

卯月「わぁっ! Liveですかー!」

P「Live自体は多分3人とも小さな規模で経験してると思うんだけど、今回はこれまでより大きめの規模のLiveになる」

未央「おおっ、この流れは……そのLiveに私達3人が出られるって事ですかー!?」

P「……うん。そういう提案をするつもりなんだけど……」

凛「……でもいくら私達に最近仕事が増えてきたからって、そんないきなり中規模のLiveに誘われるのはなかなかない……何か理由があるんでしょ?」

未央「理由?」

 


P「はは……本当察しがいいなあ凛は」


P「そう、今回のLiveはウチのプロダクションの単独Liveって訳じゃなくて、色んなとこのプロダクションのアイドル達と合同で行われるんだ」

凛「なるほど……合同Liveで呼ばれた訳か」

P「まぁ、それだけだったら別に問題はないんだけどね……他の事務所のアイドル達と一緒にLiveっていうのもいい刺激になりそうだし」

凛「何か他にもあるの?」

P「うん。実は今回のLive、ある決まりがあって……出演するアイドルはみんなユニットを組んで出なきゃいけないんだ」

卯月「ユニット……ですか」

P「ウチのアイドル達は、ソロで活動する事は多くてもあまりユニットを組んでLiveする子達はいない……」
 


P「だから、どの子達に任せようかすごく迷ったんだけど……」スッ


P「卯月……未央……凛……いつも仲良し同期3人の君達ならきっといいユニットが作れると思うんだけど……どうかな?」

凛「私達3人が……ユニット……」

卯月「頑張ります!」

凛「ちょ、卯月! そんなちゃんと考えもせず受けちゃっていいの? ユニットなんてやった事もないのに……」

未央「えへへ、せっかくプロデューサーが数いるアイドルの中から私達を選んでくれたんだし、その期待に応えなきゃ申し訳ないよね!」

凛「未央……」



凛「そうだね……どうなるか分からないけど、挑戦してみよう!」


 










   その3 『Liveバトル』








 






レッスンスタジオ―


P「今日からしばらくはいつものレッスンスタジオではなく、ここで今度のLiveに向けた専用レッスンを行うからね……」

未央「おー。何か普段のスタジオより豪華な感じするねー!」

P「あ、ちなみに……レッスンも、Liveで一緒に出演するアイドル達と合同でやるみたいだよ」

卯月「わぁ、みんなで一緒にレッスンですかー! 楽しそうです!」

凛「そう? 私は見慣れない人達と一緒にやるのは緊張するなあ」

P「ん……ここがレッスン部屋だね」


バタンッ


扉を開けると、とても大きな空間が広がっていた。

中ではたくさんのアイドル達が各々でレッスンを行っている。

 


未央「ひゃー、アイドルがいっぱいだー!」

P「お、女の子が、こんなにたくさん……」プルプル

凛「わっ、だ、大丈夫プロデューサー?」

ちょっとこの空間は俺にとっては危険かも知れない。

ウチのアイドルだけならもう大分慣れたものなんだけど、やはり知らない女の人はまだ緊張する……



トレーナー「あっ、CGプロの皆さんですか?」


P「あ、は、はいっ!」

トレーナー「どうも、私今回皆さんのレッスンを担当させていただくトレーナーです、よろしくお願いします」

P「ど、どうもこちらこそ、お願い……します……プロデューサーの……P、です」
 


トレーナー「それではPさん、早速今日のレッスンについてお話させていただきますね」ズイッ

P「あ……は……はい……」タジタジ

凛「……いいよ、プロデューサー」

P「……凛?」

凛「いつもと雰囲気が違うとはいっても、レッスンの勝手はもう分かってるからさ。わざわざプロデューサーを介さなくても私達だけで理解できるよ」

凛「プロデューサーは外で見ててくれればいいから……ね?」

P「……分かったよ……それじゃ頼みますね」ペコッ

トレーナー「え? あ、はい」

トレーナー(プロデューサー追い出しちゃった……仲悪いのかな)


P「……」テクテク


凛に、気使ってもらっちゃったな……本当にいい子だなあの子。

俺、もっとしっかりしなくちゃなー。


 




トレーナー「――はい、それじゃ個人での練習はそこまでにして……ここからは、ユニットでの練習をしていきますよー」

凛「……っ! はいっ!」

トレーナー「では大まかな陣形を決めてから、それぞれの振り付けを教えていきますから……」

凛(とうとうユニットの練習だ……初めての挑戦だけど……頑張ろう)



――しかし。


トレーナー「――はーい、ストップ、ストップー」

未央「はぁ、はぁ……」

卯月「ふぅ……どうでしたかっ?」

トレーナー「うーん……みんな、個人でやってる時はそれぞれの持つ個性をよく発揮できてて良かったんですが……」

トレーナー「ユニットで合わせてやると、まだまだ噛み合ってないですねー。もっと息を合わせていかないと」

凛「す、すいません……」

トレーナー「いえ、みんなまだ初めてですもんね。しょうがないです。ここからどんどん良くしていきましょう! ……という訳で一旦休憩入れます」
 






未央「はぁーっ、ユニットでやるの、思ってたより難しー!」

卯月「でもでも、ユニットだからこその良さもあると思う! 誰かがミスした時にカバーしたりとか!」

凛「そうだね……まぁ、まだLiveまで日はあるし、本番までに良くしていけば……」



「クスクス……聞いた?」

「あの子達、あんな呑気な事言ってるわよ」



凛「……なに? アンタ達誰?」


モブドル(モブアイドル)1「どうも、モブプロダクションのアイドルをやらせてもらってるものよ」

モブドル2「今回の合同Live、あなた達と同じタイミングでステージに上がらせてもらうの。よろしくね」

卯月「よろしくお願いします!」

凛「それで……そのモブプロの皆さんが、私達に何か用ですか?」
 


モブドル3「べっつにー。ただ、一緒にステージを盛り上げる子達が一体どれほどの実力なのか見させてもらってただけよー。けど……ぷっ」

未央「な……何が言いたいのかなー」カチンッ

モブドル1「あら? じゃ、はっきり言わせてもらうけど……全然レベルが低くて、開いた口が塞がらないって感じー? アハハハ」

モブドル2「ていうかアンタ達、ちょっと顔がいいからって最近ちょくちょく仕事貰ってるみたいだけど調子乗らないでよね」

モブドル3「アンタ達なんか、“アイドル”としてのランクはまだまだ底辺みたいなもんなんだから」

未央「むっかー! 何でいきなりそんな事言われなきゃいけないのさー!」プンプン


凛「わざわざ嫌われ役を買ってまで私達に叱咤激励してくれるのはありがたいけど、私達は自分のペースで成長していくから」

モブドル1「そんな悠長な事言われちゃ、私達も困るのよー」

凛「……どういう事?」

 


モブドル2「さっきも言ったけど私達とアンタ達は一緒に舞台に上がるの。もちろん、プロダクション毎に持ちスペースがあるから完全に混ざってやる訳じゃないけど」

モブドル3「でもLiveを見に来る人達は、コアなファンでもない限り私達とアンタ達を一緒くたにして見るわ」

モブドル1「お分かり? アンタ達がLiveで酷いパフォーマンスをしたら、私達の評価まで下げられかねないって事!」

未央「うっ……そ、そんなのお互い様じゃん! そっちがダメダメだったら、私達だって迷惑被るんだからね!」

モブドル1「あらー、なによ。お互い同意見だったのねー……じゃ、話は早いわ」

凛「……なに?」


モブドル2「私達はお互い相手に足を引っ張られたくない……ていうかそもそも仲間と認識されたくない……そんな時、ぴったりのLive形式があるのよー!」

凛「それって、まさか」



モブドル1「そう、“Liveバトル”しましょう? 私達」

 



未央「“Liveバトル”……って」



――Liveバトル……それは、文字通りアイドル同士がLiveでバトルを行うもの。
勝負方法は至って単純。アイドルがお互いに歌や踊りのパフォーマンスを行い、それに対し観客の歓声がより多い方の勝ちとなる。
勝った方のアイドルは、普通にLiveで成功させるより大きな印象を与えられるだろう。負けた方も然り。こちらは悪い意味でだが。
昔は斬新と言われたLiveバトルだが、アイドル戦国時代と呼ばれる現在では今回のような合同Liveは珍しくもなく、
必然的にLiveバトルも多く行われるため、今では一般的である……



卯月「……っていう、あのLiveバトルですか!?」

未央「あ、うん……わざわざ解説ありがと、しまむー」

モブドル1「どう? これなら相手の失敗に迷惑する事もないし、仲間と勘違いされる事もない……うってつけだと思うんだけど」

モブドル2「まっ……負けるのが怖くて怖気づいたってんなら……やめといてあげてもいいけどー」

未央「じょ、上等だよー! やってやろうじゃんその勝負……」

凛「ちょっと待って、落ち着いて未央!」

未央「どうしたの、しぶりん!」

 


凛「挑発に乗っちゃダメだよ……私達、完全にあっちのペースに乗っちゃってる」

凛「あちらの3人は恐らくユニットを組んでそれなりにやってきてる。かたや私達は今日初めて練習した即席ユニット……そもそもが不利な勝負なんだよ」

未央「で、でも、あんなに言われて悔しくないの!?」

凛「そりゃ私だって悔しいよ……けど今回のLive、私達はCGプロの代表として出演するんだよ?」

凛「私達だけの問題じゃない……事務所を背負ってるんだから、少しでもマイナスイメージに繋がりそうな選択は避けた方がいい」

未央「しぶりん……そこまで考えて……」



未央「うん……分かった。すっごく悔しいけど、大人なしぶりんを見習って私も我慢するよ!」

卯月「はいっ……という訳で、申し訳ないんですが、Liveバトルの話は無しの方向で……」


モブドル1「……ちっ、乗ってこなかったか……生意気なCGプロの奴らを潰すチャンスだったのに……」

 





そして―


トレーナー「……はいっ! それでは今日はここまでにしときましょう!」

『ありがとうございましたー!』


凛「ふぅ…………ん?」

モブドル1「あっ、プロデューサー!」

モブP「おう、みんなお疲れー」

凛(モブプロの方のプロデューサーか……)

モブドル2「私達の動きどうでした?」

モブP「うむ……みんな良くなってきてるよ。けど、まだまだ課題があるな」

モブP「モブドル1は課題だったダンスは良くなってるけど、そっちに集中しすぎて声が出てない時がある。モブドル2はまだまだ表情がかたいな。モブドル3は――」

『はい、ありがとうございます! 頑張ります!』

凛「……」
 




P「みんな、お疲れ様ー。どうだった、ユニット練習は?」


凛「あっ、プロデューサー」

未央「もー大変だよー。1人でやるのとは全然違うんだね。ユニットって難しいー!」

P「はは……まあ今日は最初だしね。でも、外からずっと見てたけど……俺は今日の動き、みんならしさが出てて良かったと思うよ」

卯月「本当ですか!?」

P「うん。あとはそのまま、しっかり技術を磨いていって……」

未央「わー……何だか自信無くなってたから、そう言ってもらえると安心するよー!」

凛「……ふふ」





モブドル1「アハハハ……みんならしさが出てて良かった……ですってー」

凛「……!」ピクッ

 



モブドル2「随分優しいプロデューサーさんなのねー。羨ましいわー」

凛「アンタら……まだ何か言い足りないの……?」ピクピクッ


モブドル3「いえね……アンタ達が所詮そのレベルなのも、そのプロデューサーを見たら納得だなー、って思って」

凛「どういう……意味よ……」プルプル


モブドル1「どうもこうもそのままの意味よ。あんな程度の動きを見て、良かったとか言っちゃうプロデューサーの元にいたら、そりゃ成長しないわよねー」

モブドル2「やっぱりウチのプロデューサーみたいに正確に良かったところや良くないところを指摘してくれなきゃ、出来る男じゃないわよねー」

モブドル3「っていうか、さっきからあのプロデューサー挙動不審でちょっと変っていうか……ダメダメそうじゃん」



凛「な……あ……アンタ達……さっきから言わせておけば……!」プルプルプルプル


 


未央「ちょ、ちょっと、しぶりん落ち着いて。我慢するんでしょ?」



凛「プロデューサーの事よく知らない癖に、好き勝手言わないで!」ドンッ

凛「プロデューサーはねぇ! ちょっと女の子が苦手なところとかあるけど、いつも私達の事をちゃんと見てやってくれてるの! ダメなんかじゃない!」


未央「あ、あれー? 大人な対応はー?」


モブドル1「……へー」

凛「謝って! さっきアンタ達が言った事訂正してよ!」

モブドル2「そーんな事言われてもねー。アンタの言う通り、私達はあのプロデューサーの事よく知らない訳だし……」

モブドル3「まあでも、手っ取り早く私達にそっちの実力を知らしめる方法……あったでしょ?」

未央「……! まさか、この流れ……」

 



凛「……分かった」



凛「やってやろうじゃん、Liveバトル! それで私達が勝ったら、さっき私達やプロデューサーに言った事、全部訂正してもらうからね!」

未央「わぁー、やっぱり受けちゃったし! ……ま、いっか! 私もムカーってしてたし! やっちゃおう!」


モブドル1「……決まりね」ニヤリ

モブドル2「それじゃ私達の舞台はLiveバトル形式って事で……楽しみにしてるわ」

凛「……絶対負けないんだから!」





P「……ちょっと卯月と飲み物買いにいってる間に……なんか一触即発っぽい空気?」

卯月「……えへへ、Liveバトル頑張ります!」

 

とりあえずここまで
1話分一気に更新できない時は分割して更新していきますー

丁度今日で二ヶ月か…
未だに保守してる人がいて驚きと申し訳ない気持ち

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