少女「マッチ。マッチはいりませんか?」(28)

とある街の、とある街角。

そこには一人のマッチ売りの少女がおりました。

少女「あーあ。全然売れないなぁ」

少女はそれはそれは白いため息をつきました。

その日もいつものように、雪が降るほどに寒い日でした。少女の体もどんどん冷えていきます。

少女「どうして売れないんだろう。場所が悪いのかな」

さっきから少女の前を通る人はいますが、誰も目もくれずに通り過ぎていきます。

少女「この街はマッチがよく売れるって話なんだけどなぁ」

少女は一人、首をかしげます。

この街には不思議な噂がありました。

それは、この街では冬の間だけマッチがよく売れるという噂でした。

今時マッチなんて売れるのだろうか。そう思っていた少女は、この噂を聞いてもあまり信じていませんでした。

少女「でも、このマッチを売らないと家に帰れないんだよなぁ」

少女はまたため息をつきました。

すると、どこからか声が聞こえてきました。

少女「なんだろう。行ってみよう」

マッチ売りに飽きてしまったのか、少女は誘われるようにその声の方へと歩いて行きました。

お嬢様「マッチ。マッチはいりませんこと? 一箱百万円ですわ」

そこにはマッチを売っているらしい、お嬢様がおりました。

金髪縦ロールの、豪華なドレスに身を包んだ、いかにもなお嬢様でした。

少女「あんな人もマッチ売ってるんだ。それにしても百万円なんてとんでもない」

しかし、なんとその百万円のマッチがよく売れているようでした。

お嬢様のドレス以上に豪華な衣装を纏った貴婦人や、高そうなスーツにシルクハットを被った紳士が買っていっています。

いったいどんなマッチを売っているんだろう。少女はマッチが見えるように、お嬢様の方へ歩いて行きました。

そして、

少女「――――っ」

絶句しました。

お嬢様が売っていたマッチは、金でできた箱が、銀細工や色とりどりの宝石で飾られた、それはそれは豪華で美しいマッチでした。

いったい中のマッチはどうなっているのか、少女にはもはや想像できませんでした。

少女「あんなマッチを売っているなんて……」

少女は自分が売っているマッチを見て、また大きなため息をつきました。

あんなマッチを見た後では、とてもみすぼらしいものに見えてしまったのでしょう。

少女はとぼとぼと、その場から離れて行きました。

しばらく歩くと、また誰かがマッチを売っている所に出くわしました。

幼女「ふぇぇ。マッチ。マッチ買ってよぉ~」

そこでは年端もいかない少女が、いえ幼女がマッチを売っておりました。

幼女の周りには男たちが群がって、我先にとマッチを買っています。

少女「――――」

男たちがはあはあと吐く息と熱気で辺りが白くなっているのを見て、少女は絶句しました。

さっきの紳士たちとは違い、男たちの格好はリュックを背負っていたり、バンダナを巻いていたり、寒いのにTシャツだったりとおかしなものでした。

少女はこの男たちならもしかしたらマッチを買ってくれるかもしれないと思いました。

しかし、男たちの一人と目が合った少女は、背筋がぞっとして、一目散にその場を離れて行きました。

しばらくして少女は、また誰かがマッチを売っている所に出くわしました。

ロボ少女「マッチ。マッチハイリマセンカ?」

そこでは、ロボットの女の子がマッチを売っておりました。

姿はほとんど人間と同じでしたが、その特徴的な耳と片言が女の子がロボットであることを示しています。

その女の子はどうやら実演販売をしているようでした。少女も観客の中に加わります。

ロボ少女「ココニアリマスハ未来ノマッチ。コノスイッチヲ押スト――」

女の子がスイッチを押すと、ポンと音がして、マッチの先に小さな火が灯りました。

観衆はそれを見ておおとざわめきました。

ロボ少女「スイッチ一ツデ火ガ灯ル、コンナ便利ナマッチガ今ナラ千円ポッキリ! サアサア買ッタ買ッタ!」

一人、また一人とマッチを買っていき、すぐにマッチは売り切れました。

ロボ少女「ソレデハ皆様ゴキゲンヨウ」

マッチが売り切れると、ロボットの女の子は意気揚々と去って行きました。

勢いでマッチを買ってしまった少女も、興奮冷めやらぬ様子で歩いておりました。

少女「いやー。いい買い物しちゃったなぁ」

しかし、歩いているうちにだんだんと興奮が冷めていきました。

少女は立ち止まるとマッチのスイッチをカチカチと押します。

ポン。ポン。と小気味いい音を立てて炎がマッチに灯りました。

少女「これ、ライターと変わらないじゃん……」

衝撃の事実に気づいてしまった少女は、とうとうその場で座り込んでしまいました。

少女「あーあ。マッチどうしようかなぁ」

少女は、今日一番のため息をつきました。

すると、またどこからかマッチ売りの声が聞こえてきます。

疲れてしまった少女は、もう興味を示すことはありませんでした。

しかし、だんだんその声が近づいてきます。

不思議に思った少女は、立ち上がって辺りをきょろきょろと見回しました。

幽霊少女「マッチ売れないなぁ……」

少女は、目の前を幽霊の女の子が通るのを見ました。

少女「――――っ」

びっくりしましたが、驚きすぎて声は出ませんでした。

ところが、どういうわけか少女は幽霊の女の子に気づかれてしまいました。

幽霊少女「あなた私が見えるんですか!? マッチ買ってくれませんか!?」

少女「え!? いや、あの……」

幽霊少女「あ、ごめんなさい……。久しぶりに見える人に会ったのでつい興奮してしまいました」

少女「そうなんですか」

最初は幽霊が怖かった少女も、しばらく話すうちにだんだんと怖くなくなってきたようでした。

少女「――ところで、幽霊さんはどうしてマッチを売ってるんですか?」

幽霊少女「それがよく分からないんです。気がついたらマッチを売っていたんです」

少女「やっぱり、生きてるときにマッチを売ってたんじゃないですかね」

幽霊少女「あなたもそう思いますか? 私、思うんです。自分はこの街の地縛霊で、マッチを売らないと成仏できないんじゃないかって」

少女「地縛霊って……。あなたはそんなに恐いものじゃないと思います」

幽霊少女「ありがとう。でもこのマッチを売らないことにはどうにもならないんです」

幽霊の女の子はそう言ってため息をつきました。

少女「じゃあ、私が一緒にマッチを売る方法を考えてあげる」

かわいそうに思った少女は、自分のマッチを売ることも忘れて、しばらく頭を悩ませました。

しばらく頭を悩ませていると少女たちの前を一人の女性が通り過ぎました。

幽霊少女「あっ、今の人悪霊に取り憑かれてます!」

少女「えっ?」

少女は女性の肩に、何か黒くてもやもやしたものが乗っているのを見ました。

少女「あの黒いやつが悪霊なの?」

幽霊少女「はい。人間に取り憑いて悪さをしてるんです。……そうだ」

何か思いついたのか、幽霊の女の子は持っているマッチに火を灯すと、悪霊の方へ近づいていきます。

すると、マッチの火に驚いたのか、悪霊は女性から離れてどこかへ飛んでいきました。

少女「すごい。魔除けのマッチなんだ」

戻ってきた幽霊の女の子は照れて少し笑っていましたが、しばらくするとうつむいてしまいました。

幽霊少女「でも、どんなにすごいマッチでも売れないと困るんですよねぇ……」

少女「あ、私もマッチ売らないといけないんだった……」

少女は自分の仕事を思い出して、同じようにうつむいてしまいました。

またしばらくして、体を冷やしてしまったのか少女は大きなくしゃみをしました。その拍子にマッチの箱が落ちてしまいます。

幽霊少女「あっ、マッチが」

もちろん拾えないのですが、それを拾おうとした幽霊の女の子も自分のマッチの箱を落としてしまいました。

すると、

少女「あれ?」

幽霊少女「くっついてしまいましたね」

なんと二つのマッチの箱はくっついて一つのマッチの箱になっていまいました。

幽霊少女「どうやら魔除けの力は失われていないようです」

少女「そうなんだ」

二人はしばらくマッチの箱を見つめているのでした。

―――――――――――――――――――――――

そこは、不思議な街。

毎日のように雪の降る、寒い寒い冬の間にだけ、どういうわけかマッチが売れるのです。

今日も、とある街角で、少女がマッチを売っています。

霊感少女「マッチ。マッチはいりませんか? あ、そこのあなた! 悪霊が取り憑いてますよ! 魔除けのマッチ、買いませんか?」

終わり

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