ジャイアン「ヒップホップ?」(18)
『空き地』
ざわざわ……ざわざわ……
ジャイアン「よーし、客も集まったしそろそろジャイアンリサイタルを始めるぞ!」
のび太「あはは……」パチパチ
のび太(はぁ、せっかくの日曜日なのに地獄を体験しなきゃならないなんて……)パチパチ
ジャイアン「ボエーッ♪」
のび太「う……」プルプル
のび太(相変わらず耳をつんざくような酷い歌だなぁ……) プルプル
のび太(ん?)チラッ
スネ夫「♪」シャカシャカ
のび太(げっ……スネ夫の奴……こっそりイヤホンなんてつけて別の歌でも聴いてるのか?)
のび太(ジャイアンリサイタル対策としては良い手だけど、ジャイアンにバレたらマズいぞ!?)
スネ夫「♪」シャカシャカ
ジャイアン「ありがとうございましたー!」
パチパチパチパチ
のび太「あはは……とっても素晴らしかったよ……」プルプル
ジャイアン「本当か!?のび太!」
ジャイアン「だったら来週の日曜日の分のチケットも買っていけよ!?」
のび太「えーっ!? 来週もやるの!?」 ガーン
ジャイアン「おい! なんだよその反応は! オレ様のリサイタルが素晴らしかったんじゃないのか!?」パキパキ
のび太「あ、いや、すごく良かったよ! 来週も絶対来るからっ!」ビクッ
ジャイアン「よし! じゃあチケット代は50円な!」
のび太(トホホ……)スッ
スネ夫「♪」コソコソ
ジャイアン「おいっ! 何でこっそり帰ろうとしてんだスネ夫! お前もチケット買ってけ!」
スネ夫「♪」シャカシャカ
ジャイアン「聞いてんのかスネ夫!」
スネ夫「♪」シャカシャカ
ジャイアン「あの野郎……オレ様を無視するとは良い度胸じゃねーか!」ダッ
のび太(あ、まずいっ!)
スネ夫「♪」テクテク
ジャイアン「待てぇ!」ガシッ
スネ夫「わっ!」グイッ
スネ夫「ジャ、ジャイアン!?」ポロッ
ジャイアン「ん!?」
ジャイアン「なんだよこのイヤホンは!?」
スネ夫(しまった……!)
ジャイアン「お前……まさかオレ様のリサイタル中に別の曲を聴いていたなんてふざけた真似をしてたんじゃないだろうな?」パキパキ
スネ夫「ち、違うよジャイアン! 今耳に装着したばっかりだって!」ビクッ
ジャイアン「覚悟しろよ?」パキパキ
スネ夫「ひいっ!」ガクブル
ボカッ バキッ
スネ夫「ぐぇっ」バタッ
ジャイアン「ナメやがって!」 パンパン
のび太「あちゃー……」
シャカシャカ シャカシャカ
ジャイアン「……」ピクッ
ジャイアン「オレ様の華麗なる歌を差し置いて一体どんな音楽を聴いていやがったんだ!?」スッ
ズンズンチッ! ズンズンチッ!
ジャイアン「──!?」
ジャイアン「な……なんだよこの音楽……!」プルプル
ジャイアン「重低音の響く伴奏……そこに乗る流れるような小気味の良い早口のフレーズ……!」プルプル
ジャイアン「おいっ! スネ夫!」ユサユサ
スネ夫「う……」ムクッ
ジャイアン「この音楽は何だ!? 」 グイッ
スネ夫「いたた……それはヒップホップっていうジャンルの音楽だよ」
ジャイアン「ひっぷほっぷ?」
スネ夫「うん、海外で生まれたジャンルなんだ」
スネ夫「こっちの国ではまだ全然普及してないからジャイアンが知らないのも無理はないよ」
のび太「へぇ、そんなのどこで買ってきたのさ?」
スネ夫「ハハッ、海外に住んでる知り合いのおじさんが、現地で流行ってるcdをたくさん送ってきてくれたのさ」 ドヤァ
ジャイアン「しばらくオレに貸しとけ」バッ
スネ夫「えっ!? ダメだよジャイアン! ボクだってまだ聴いてない曲が──」
ジャイアン「なんだよ!? 文句あるのか?」パキパキ
スネ夫「せ、せめてcdプレイヤーだけは返してよ!」
ジャイアン「うるせぇ!」ブン
スネ夫「いたっ」ボカッ
ジャイアン「あと、これ来週の分のチケットな! 明日までにチケット代50円持ってこいよ!?」 ポイッ
ジャイアン「じゃあな!」シャカシャカ
スネ夫「そんな……ムチャクチャだぁ!」 ポロポロ
のび太「うーん、これは嫌な予感がする……」
そして、次の日曜日──
『空き地』
ざわざわ……ざわざわ……
のび太「また今日も不快な思いをしなきゃならないのか……」ハァ
スネ夫「ボクも帰りたいよ……まだcdも返してもらってないし」ハァ
のび太「それにしてもジャイアン遅いね。 もうすぐ開演時間なのにまだ来てないなんて」キョロキョロ
スネ夫「いっそこのまま来なくていいよ」ハァ
ザッ
ジャイアン「yo! 待たせたなマイメン共!」チェキッ!
のび太「あ、来た──」
のび太「って、なんだよあのジャイアンの服装……」プッ
スネ夫「!」ピクッ
スネ夫「ダボダボのtシャツにダボダボの短パン、そして深めに被ったキャップ──」
スネ夫「まさに典型的なbボーイのファッション……!」クワッ!
のび太「び、bボーイ?」
スネ夫「のび太……今日のジャイアン……間違いなくやるぞ?」 ブルブル
スネ夫「ヒップホップをっ……!」 ドクンッ
のび太「……やっぱり」ガクッ
どよどよ……どよどよ……
「あれジャイアンなの?」ヒソヒソ
「なんだかおっきな服着てるね」ヒソヒソ
「間違えてお父さんの服着てきたとか?」ヒソヒソ
ジャイアン「ヒェー! お前ら調子はどうダッ!?」チェキッ
「……え?」ヒソヒソ
「どういうノリなのこれ?」ヒソヒソ
ジャイアン「ワッツァッ ピーポゥ!」チェキッ
のび太「くっ……」ププッ
スネ夫「ジャイアン……一体、どこでそんなスキルを磨いたのさ……」 ドキドキ
ジャイアン「yo! それじゃそろそろ始めるぜ? 」チェキッ
ジャイアン「ネオ・ジャイアンリサイタル……リッスン!」カチッ
ズンズンチッ! ズンズンチッ!
ジャイアン「オレ様は剛田武akaジャイアン♪ 実家は雑貨屋♪」チェキッ
のび太「うわ……!」ビリビリ
のび太(これは酷い……まるで聴く者の魂を地獄へ誘うかのような悪魔のお経……!) ビリビリ
スネ夫「イェー!」バッ
のび太(スネ夫は……ノってる!? バカかこいつ……) ビリビリ
「う……耳が……」ビリビリ
「誰か……助けて……」ビリビリ
ジャイアン「お前のモノはオレのモノ♪ オレのモノはオレのモノ♪」チェキッ
ジャイアン「オレはジャイアン、ガキ大将アーイ♪」チェキッ
のび太(も……もう限界……)ピクピク
ザッ
???「フッ、なんだか騒がしいと思ったから来てみたけど……」
のび太(あ……あいつは?)チラッ
???「全く……汚いラップだな。 ワックにも程がある」 クスッ
ザッザッザッ
ジャイアン「yo! オレ様はno.1 みんなに人気の野球少年♪」チェキッ
???「おい」スタッ
ジャイアン「ん? なんだよてめ──」チラッ
ジャイアン「お前は……出来杉!?」
出来杉「少しそのマイクを貸してくれないか?」ニヤリッ
スネ夫「あれ……出来杉じゃん!」
「出来杉くんだ……」ヒソヒソ
「ヤバい! ジャイアンリサイタルの邪魔をするなんて自殺行為だ!」 ヒソヒソ
のび太「よせっ、出来杉っ!」バッ
ジャイアン「おい……オレ様のネオ・ジャイアンリサイタルに割って入るなんて良い度胸してるじゃねーか……」 パキパキ
出来杉「……」バッ
ジャイアン「あっ! こらっ、マイク返せ!」
出来杉「マイクチェック、ワンツーワンツー!」チェキッ
ジャイアン「な……!?」
スネ夫「まさか……出来杉もヒップホップを!?」ドクンッ
のび太「え……えぇっ!?」ビクッ
出来杉「ジャイアン……君にホンモノのドープなラップを聴かせてあげよう」 カチッ
ズンズンチッ! ズンズンチッ!
出来杉「エイヨッ! 目の前のチ○コくせぇ奴♪ マジで騒音、近所迷惑♪」チェキッ
出来杉「ジャイアンまるでブタゴリラ♪ 黙ってその口に蓋をしな♪」 チェキッ
ジャイアン「……!」ビリビリ
「おぉおおお!」パチパチパチパチ
「なんかよくわかんないけどカッケー!」 パチパチ
のび太「僕もよくわからないけど、聴いててすごく気持ち良かった……!」 パチパチ
スネ夫「すごい……韻が堅いし流れるようなフロウも完璧だ……」ブルブル
ジャイアン「あ……」ガクブル
ジャイアン(今のは……まさにcdで聴いていたようなヒップホップ……!) ガクブル
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