少年「騎士見習いとして師匠に着いて、オーク軍の討伐に参加したのはいいけれど、乱戦になって師匠とはぐれて、オーク軍に連れ去られて捕虜になってしまった…」
オークA「ぶーぶー(久しぶりに肉が食えるな)」
オークB「ぶふー(しかも柔らかそうな子供だぜ)」
少年「僕はどうなってしまうんだろう…」
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オーク軍の司令室
……
オーク将軍「部隊の様子はどうだ?」
オーク副将「人間の捕虜を捕まえたと大騒ぎしています」
オーク将軍「捕虜と言っても子供一人だけだろう……」
オーク副将「せめて人間共にこれ以上攻めさせないための人質として取って置きたいのですが……」
オーク将軍「無理だろうな……」
オーク副将「全軍疲弊し尽くしていますからね、恐らく食してしまうかと……」
オーク将軍「ここまで統率が取れなくなってしまうとは……」
オーク副将「返す返すも悔やまれるのは、ゴブリン共がここに来て、我々に本格的な攻撃を仕掛けてきた上に、逃げた先に人間共の国があって進退極まってしまったこと」
オーク将軍「これも運命というものか……!」
オークA「将軍様!大変でごぜえます!」
オーク将軍「どうした?」
オークB「ゴブリンの戦車部隊が現れました!すぐ近くまで来ています!!」
オーク将軍「まさか!ここは平原だぞ!歩哨は何をしていたんだ!?」
オークC「それが、姿が見えたと思ったらあっという間に接近されてしまったんでごぜえます!」
オークD「白い戦車の大軍です!」
オーク将軍「白い戦車……?まさか、『女王』直属の戦車部隊か!?」
オーク副将「そんなバカな……こんな人間共の領地ギリギリまで『女王』が自ら……っ!」
オークE「将軍様!戦車がこっちに突っ込んで来ますだ!」
オーク将軍「『女王』直々の参戦か……おもしろい、受けて立とう!勝とうが敗れようが、武人として名誉なことだ!」
……
少年「……zzz」
少年「……!」ムクリ
少年「ここは……どこだろう……」キョロキョロ
少年「ベッド……?僕はオーク達の捕虜になって、檻に入れられていたはず……」
少年「なんでベッドに寝かされているんだろう……」
側近「失礼いたします」
少年「ッ!」Σ
側近「よくお休みになられていましたね。結構なことです」
少年「……(ゴブリン……が、王国語を喋っている……)」
側近「どうなさいました?ゴブリンが王国語を話すのが、そんなに珍しいですか?」
少年「い……いや、そんなこと……!」
側近「普段はゴブリンの言葉を話しておりますので、お聞き苦しい時があるかもしれませんが、ご容赦ください」
少年「そんなことないです!とても上手です!」
側近「それはそれは、ありがとうございます。申し遅れました、わたくし、ゴブリン国の女王に仕えております、側近と申します」
少年「ぼ……僕は少年といいます。人間の王国で、騎士の師匠に仕えています」
側近「では未来の騎士様ということですね」
少年「は……はい」
側近「結構。まずは朝食をご用意しました。お口に合うかどうかわかりませんが、ご賞味ください」
少年「はい」
側近「その後早速ですが、我らが女王が、貴方にお目通りをお許しになられましたので、ご用意をお願いします」
少年「え?」
側近「貴方はオーク達の軍の捕虜だったのでしょう?ですが、オーク軍は私共によって滅ぼされ、貴方は私共に保護されたのです」
少年「ちょっと待ってください!」
側近「何か?」
少年「僕はただの騎士見習いです!それなのに女王様に謁見するなんて……」
側近「貴方の身分など関係ございません。貴方が人間であるからして、我らが女王は貴方を見たいと仰られておられるのです」
少年「……?」
側近「どういうことなのか訳がわからない……という顔をなさっていますね。我らが女王の御前にいらっしゃればわかります」
そうして僕は女王の前に通された……
側近「女王陛下の御成ぃぃぃ!」
女王「……」
巨大な広間で、大勢のゴブリンたちが傅く中、ゴブリンの女王は、宝石が散りばめられた綺麗な王冠を被り、ぶ厚いマントを羽織って、大きな玉座の肘掛けに右肘を置いて頬杖をつき、黙って僕を見下ろしていた
僕はゴブリンの女王を前にして、言葉を失った
その威厳ある姿に気圧されたというのもあるけれど、それ以上に驚いたのは、女王が白くてのっぺりとした仮面を被っていたこと、そして何よりも、間違いなく、女王はゴブリンではなく、人間の女性だったこと
体格から考えて、歳の頃は僕よりも四、五歳上だろう
背が高く、細身の身体で、足を組んで玉座にデンと鎮座していた
『彼女』はその、衣装とはチグハグにチープで、困ったような表情をしている仮面の下から、暫く僕の顔をジッと見ていた
やがてスックと立ち上がり、僕を見据えてこう言った
女王「決メタ」
少年「えっ」
女王「オ前、ワタシノオムコサン」
少年「えっえっ!?」
女王「ワタシノオムコサン!」ギューッ!
女王は言うなり玉座から飛び出し、駆け寄って来て、僕を抱きしめた
少年「な、何するんですか!?」
女王「ニンゲン、好キナ人ニコウスル。側近言ッテタ」
少年「ちょ、ちょっと!側近さん!」
側近「ごぶごぶ(陛下、少年様が驚かれております。すこし落ち着かせてあげましょう)」
女王「ごぶ?ごぶごぶ(そうか?それは残念だ」
女王「オムコサン、ココデ暮ラス、イイ。ワタシトイッショ」
少年「ちょ…ちょっと何を言っているのかわからないです」
女王「ごぶ(側近)」
側近「ごぶー!(はっ!)」
ゴニョゴニョ
側近「少年様、我らが女王は貴方様と寝食を共にしたいと仰られております」
少年「……は!?」
側近「とりあえず、お部屋のご用意をいたしますので、お二方でお待ちください」
少年「側近さんもなんで女王様の言うことを聞いてるんですか!?止めてくださいよ!」
側近「女王様の意思は国民の総意ですので……」
女王「ワタシ、オムコサントイッショ!」
少年「大体なんで、ゴブリンを人間が治めているんですか!?」
側近「それはゴブリンの伝統なんです。詳しくお話致しますと……」
そこで、僕は側近に色々な話を聞いた。これまで王国の歴史しか聞いたことのない僕には、新鮮な話だった
今から遥か昔、伝説の時代、世界を闇に包もうとした魔王がいた
魔王は四人の勇者によって滅ぼされたが、その勇者の中に一人、赤ん坊の頃に両親に捨てられ、あるいは離れ離れになってゴブリンに育てられた人間がいた
彼は魔王との戦いの最中に命を落としたが、その後世界を救ったゴブリンの英雄として、ゴブリン達に認められた
ゴブリン達は、人間をゴブリンが育てると英雄になると信じ、捨てられた人間の赤ん坊を一人、拾ってきて育てた
そうして赤ん坊が成長すると、英才教育を施して王にした
人間の王を戴いたゴブリンの国は、みるみるうちに発展し、それまで彼らを支配し、暴虐の限りを尽くしていたオーク達を凌ぐ勢力となった
そういった経緯から、ゴブリンの王はゴブリン達に拾われ、育てられた人間の捨て子がなるという伝統が出来上がった
ゴブリンの国には王しか人間がいないので、代々の王に血の繋がりはなく、ゴブリンの王は人間の王国にある『子捨ての谷』で捨てられた赤ん坊を拾い、後継者として育てるのだ
側近「とまぁ、かいつまんでお話しますと、こういったわけで我らが女王はここにおられるわけです」
少年「へぇ……じゃあ女王様はここで産まれたわけじゃなくて……」
側近「その通り。貴方がたの王国でお生まれになられました」
少年「ところでなぜ、女王様は仮面を被って……?」
側近「我々が『偉大なる母』と呼んでおります、太古の英雄を育てられたお方が、英雄が子供の頃に、仲間のゴブリンに虐められないようにと与えた、当時お祭りに使われた仮面です」
少年「そうなんですか……」
女王「ワタシ、キレイチガウ。ダカラコレ被ル」
少年「え……?」
側近「少年様、少しこちらへ。陛下、少々お待ちください」
女王「ワタシノオムコサン、ツレテッチャダメ!」
側近「ごぶーごぶ(少年様には色々と事情の説明が必要なのです)」
女王「ごぶー(ではここで話せば良かろう)」
側近「ごぶごーぶ(一度外に出た方が、少年様に落ち着いて戴くのにも好都合なのです)」
女王「……ごぶ(わかった)」
……
側近「さて、少年様。少し難しいところなのですが、陛下はご自分を醜いと思い込まれておられます。しかし、人間の王国に滞在経験もあり、人間の美醜も学んだ私が見た限りでは、陛下のお素顔は大層お美しい」
少年「どうして女王様はそんなふうに思っているのですか?」
側近「先程、太古の英雄は常に仮面を被っていたと申し上げましたが、本来ゴブリンにとって、人間の姿は奇怪に見えるのです。」
側近「ですから、太古の英雄はゴブリンから迫害を受けないように仮面を被っていたわけです。そして、我らゴブリンの価値観で育たれた陛下は、ご自分を醜いと思い込まれておられるのです」
少年「……それで、なぜそんな話を僕に?」
側近「これはごく個人的な要望とも言えるのですが、少年様には陛下の心の支えとなって頂きたいのです。陛下は普段、私たちゴブリンを思いやり、国の発展に腐心しておられます。しかし、ご自分のことを顧みることなく、ご自身の幸せというものが無いようにも思えるのです」
少年「……」
側近「陛下にも、私たちが陛下からいただいているような幸せを感じて頂きたいのです。これは我々ゴブリンの総意です」
少年「……わかりました。僕にできることであれば、させてください」
側近「感謝いたします」
……
~その頃、王国では~
女騎士「大臣!」
大臣「何事ですか、女騎士。王宮で騒がないでください」
女騎士「騒がずにいられるか!私に暇をよこせ!」
大臣「またそのお話ですか……。ダメだと何度言えば解っていただけるのですか?」
女騎士「何故だ!?私は少年を探さなければならないのだ!!」
大臣「少年とは、あなたがいつも連れて歩いていた見習い騎士のことですか?」
女騎士「そうだ、当たり前だろう!」
大臣「当たり前かどうかは知りませんが、先日の戦いで行方不明になったではありませんか」
女騎士「だから探さなければならないと言っている!」
大臣「戻って来なかったということは、恐らくオークの残党に捕まったということでしょう」
女騎士「そうかもしれない、だから私はあの子を助けに行かなければならない!」
大臣「何を言っているのですか、あなたは……」
女騎士「だいたい、何故あと一歩でオーク共を全滅させられるというところで撤退命令など出したのだ!?」
大臣「ゴブリン達がオークを追撃しにやって来たからですよ」
女騎士「そんなことはどうだっていい!少年だ!オーク共に捕まって怖いだろうに……。それに、今頃きっとお腹を空かせている!何か食べさせてやらないと!」
大臣「そういえばあなた、見習い騎士は騎士の身の周りの世話をしなければならない筈なのに、逆に少年の世話をせっせとしていたそうですね……。まあ、それはいいとして、オークは人を食べますから、もう既に食べられてしまっているのではないですか?」
女騎士「貴様!いい加減にしろ!」
大臣「もう諦めてくださいよ」
女騎士「諦めるなんぞできるか!少年は世界に一人しかいないのだぞ!?」
大臣「うるさいなぁ……」
……
少年「僕の師匠の女騎士さんは、あまり喋らなくて、時々何を考えているのかわからない時があるんですけど、ご飯を作ってくれたり、稽古で破れた服を縫ってくれたり、すごく優しくしてくれるんです」
あっという間に用意された、僕と女王の部屋で、女王は巨大なベッドの上に胡座をかき、僕をその上に座らせて、背後から僕の頭の上に顎を載せて抱きしめ、時折頷きながら、僕の話を黙って聞いていた。
少年「時々一緒に寝てくれるとまで言ってくれるんです。僕が父や母と離れ離れになって寂しいだろうと思ってくれてるんだと思います。流石に気を使わせすぎだと思って断ってますけどね」
女王「女騎士、ヤサシイ」
少年「そうです。とても優しい人です」
女王「ワタシモ、オムコサン、ヤサシクスル」ギュッ!
少年「わっ!女王様!?」
女王「オムコサン、私ノ名前、女王デイイ」
少年「女王さん!なにをするんですか!いきなり強く抱きしめて……」ドキドキ
女王「私、オムコサン、好キ」
書き溜め終わり
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