雪歩「クレーム……?」 (31)

雪歩「おはようございます~!」

律子「……はい……ええ。ですから、それは弊社の商品ではなくてですね……」

雪歩「(あっ、律子さん電話中だ。静かにしないと)」

律子「……はい、お手数をおかけして申し訳ございませんが、販売元に直接お問い合わせください。それでは失礼します」

ガチャン

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律子「ふぅ~、ほんと参ったわ。まさかこんなことが起きるなんてね」

雪歩「どうかしたんですか、律子さん」

律子「あら雪歩。もう来てたの? 早いわね。仕事まで1時間くらい余裕があるわよ?」

雪歩「事務所でゆっくりしたいなって思って早くきちゃいました」

律子「なるほどね。それじゃ、もうそろそろプロデューサーが戻ってくるはずだから、今日のことはプロデューサーから聞いてちょうだい」

雪歩「どこか出かけるんですか?」

律子「ええ。ちょっと問題が起きててね。その対応で関係会社まで出向かないといけないのよ」

雪歩「プロデューサーと小鳥さん、社長もいないみたいですけど……」

律子「みんな今回の対応に追われて外出中よ。ほんと、厄介なことを起こしてくれたわ。これも有名税ってやつかしらね」

律子「……あ、そうなるとマズイわね」

雪歩「あの、事務所なら私が留守番してるので大丈夫ですよ」

律子「いえ、そうじゃなくて。留守番してくれるのはありがたいんだけど」

律子「さっきからクレームの電話がひっきりなしにかかってきてるのよ。私がいなくなったら誰も出られなくなっちゃうし、かと言って残るわけにもいかないし……」

雪歩「クレーム……?」

律子「いっそ電話線を……って、それもネタにされる可能性があるわね。どうしたものか……」

雪歩「クレームって、いったいどんな内容なんですか?」

律子「どうもどっかの会社が765プロにちなんだ商品を無断で販売しているみたいで、購入しちゃった人が販売元じゃなくてこの事務所に文句を言ってきてるのよ」

律子「結構な不良品ばかりみたいでね。無関係って言っても頭に血が上っているのかなかなか理解してくれないのよ」

雪歩「それでプロデューサー達も大変なことになってるんですね」

律子「そうなのよ……って、もうこんな時間!? ごめん雪歩、ちょっと頼まれてくれるかしら」

雪歩「えぇーと……もしかして、クレームのことですか?」

律子「ほんとにごめんなさい。765プロとは無関係ですって言ってくれればいいから、電話がかかってきたら出てもらえるかしら?」

雪歩「(うぅ……クレームなんて怖いからやだなぁ……)」

雪歩「(でも……みんな頑張ってるんだから、私もがんばらないと!)」

雪歩「は、はい。自信はないですけど、がんばってみます!」

律子「助かるわ! おぉっと、じゃあ行ってくるわね。プロデューサーには早く帰るよう伝えておくから!」

バタッ

バタン

雪歩「うぅ、勢いで引き受けちゃったけど、クレーム対応なんてしたことないよぉ」

雪歩「でも、かかってこなかったら何もする必要ないよね」

雪歩「お願い! かかってこないで!」

プルルルッ

雪歩「言ってるそばからっ! ……どうしよう」

雪歩「だけど出るしかないよね。どうか、優しい人でありますように!」

ガチャッ

雪歩「はいぃ、765プロですぅ!」

男1「あのですね、ちょっといいですか?」

雪歩「は、はい。なんでしょうか?」
 (すごい怒ってるよぉ……)
 
男1「先日765プロのアイドルをモチーフにした商品を買ったんですが、内容が商品ページの画像と思いっきり違ってるんですけど! どういうことですか?」

雪歩「え、えと。なんていう商品でしょうか」
 (間違えた! 普通に質問しちゃったよぉ)
 
男1「《天海春香なりきりセット》です」

雪歩「え」

男1「商品ページでは衣装が載ってたから安いと思って購入したのに、衣装はついてないってどういうことですか」

男1「確かに注意書きには『衣装は含まれません』って書いてありましたよ。ですけど、あんな小さい文字読むわけがないでしょう」

男1「おまけに5000円なんて値段なんだから誰だって衣装もついてるって思うでしょ! それがなんですか、リボンだけって。リボンだけでなりきれるっていうんですか? こんなの着ける髪なんて残ってないですよ! 馬鹿にしてるんですか!」

雪歩「えと……あの……もしかして自分で使うつもりだったんですか?」

男1「そうですよ! 悪いですか!? 買ったのは俺なんだからどう使おうと勝手でしょう?」

雪歩「ひいぃ、すみませんん! その、でも、男の人ですよね?」

男1「そ、そうだよ。別に問題ないだろ!」

雪歩「ひっ。すみませんっ! ……でも、男の人じゃ春香ちゃんにはなれないと思いますけど……」

男1「う……」

男1「……」

男1「……もういい、商品は返品することにします……」

ガチャン

雪歩「うぅ……全然うまく対応できなかったよぉ……なんか普通に喋っちゃったし」

雪歩「春香ちゃんの名前が出てるのに、765プロは関係ありませんだなんて言えないよぉ」

雪歩「どうしよう。律子さんに相談してみようかな」

雪歩「えーと、律子さんの番号は……あ、でも仕事中だったらどうしよう」

雪歩「ううん、こっちも一大事なんだから、きっと許してくれるよ!」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「通話中……どうしよう……もう嫌だよぉ」

プルルルッ

雪歩「またぁっ!? なんで私がこんな目に……」

ガチャッ

雪歩「はい、765プロですぅ」

女1「何なのその気の抜けた声は!? 貴方、まともに対応する気あるの?」

雪歩「うっ、すみません~!」
 (どうして私が怒られなきゃ……)

女1「なんなのよ一体! そんなんだから、あんなふざけた商品しか販売できないのよ」

雪歩「あの、その商品はたぶん765プロとは関係ありませんん!」

雪歩「(い、言えましたぁ!)」

女1「関係ないことはないでしょう!? 商品名にアイドルの名前が入ってるんだから」

雪歩「(えぇ~!! 駄目ですぅ律子さん!)」

雪歩「えと……、なんていう商品名なんですか?」

女1「《美希の美肌星井?》よ!」

雪歩「すごく胡散くさいですぅ」
 (あっ……)

女1「それはこっちのセリフよ! まったく、どうしてこんなの買っちゃったのかしら」

女1「気の迷いだったのよ。40代になって明らかに肌の質が落ちてきて、今までの化粧品だと隠しきれなくなって」

女1「親戚の子供にはおばさんおばさん言われるし、近所のおばさんには変な仲間意識もたれるし」

女1「試しに買ってみた胡散臭い商品でもやっぱり効果は全然得られないし。もう、なんなのよ! 私が何したって言うの!?」

雪歩「で、でも、外見だけが全てじゃないって思いますぅ!」

女1「そうやって言う人は多いけどねぇ! 結局内心では反対のことを思っているのよ! 貴方には分からないでしょうけどね!」

雪歩「うぅ、すみませんん……」

女1「まぁいいわ。なんか貴方に話したらすっきりしたから、改めて販売元に問い合わせるわ。それじゃ」

ガチャン

雪歩「……なんでこの事務所にかけたんだろう……」

雪歩「ちょっとお茶でも淹れて落ち着こうかな」

雪歩「……じゃなくてっ! 律子さんに相談しないとっ!」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「うぅ、まだ繋がらないよぉ~」

雪歩「プロデューサー、早く帰ってこないかなぁ」

雪歩「あっ! 律子さんが駄目ならプロデューサーに相談すればいいんだ!」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「なんでプロデューサーも通話中なんですかぁ!」

雪歩「じゃあ小鳥さんに……」

プルルルッ

雪歩「えぇっ! またですかっ! もういやだよぉ~」

雪歩「うぅ~」

ガチャッ

雪歩「はい、765プロですっ!」

男2「失礼する。待田と申す者だがね、少々伺いたいことがあるのだが、お時間よろしいか?」

雪歩「え、あっはい。だ、大丈夫ですぅ」
 (優しそうな声だなぁ……)
 
男2「ふむ。実は先程《超高級! 765プロ饅頭》なる物を購入させていただいたのだが、冷静に考えると値段がおかしいと思ってね」

雪歩「は、はい」

男2「いくら高級とは言え一個765円は高すぎないかね? 確かに見た目の出来は素晴らしいが、十三人分で9945円だよ? 本当に売れるのかね、これは」

雪歩「ちょっと高い気がしますね」
 (普通に感想言っちゃったよぉ! でも、だったらどうして買ったんだろう)
 
男2「やはりそうかね。私もつい気の迷いで買ってしまったが、家に帰って冷静に考えたら気づいてね。ああ、それともう一つ」

雪歩「ま、まだあるんですか」

男2「うむ。この如月千早の饅頭は三浦あずさ、四条貴音の物と比べると随分面積が小さいのだが、同じ値段で売るのは無理があるんじゃないのかね?」

雪歩「そ、それは……」
 (答えづらいよぉ……)

男2「できれば君個人の見解を聞きたいのだが」

雪歩「え、えーと…………ぜ、全部買ったら平均765円の価値になるって、ことじゃないでしょうか?」

男2「……ほぉ。これは目から鱗だ。確かに君の言うとおりかもしれん」

雪歩「えと、ありがとう、ございますぅ」

男2「それにしても君はアルバイトか何かなんだろう? 正社員は留守なのかね?」

雪歩「い、いえ、そうじゃなくて。その商品自体、765プロとは無関係なんですぅ!」

雪歩「(今度こそ言えた!)」

男2「む。と言う事は、どこか別の会社が無断で販売してるわけか?」

雪歩「はいっ! そうみたいですぅ!」
 (やっと伝わったよぉ!)

男2「なるほどそういうわけか。ではネットで調べてそちらに問い合わせるとしよう」

男2「無駄な時間をとらせてすまなかった。失礼する」

雪歩「ありがとうございましたっ!」

ガチャン

雪歩「色んな人がいるんだなぁ」

雪歩「お茶でも淹れよーっと」

トポトポトポトポ……

雪歩「ふぅ~、やっぱり落ち着きますぅ~」

雪歩「えへへ、結構うまく対応できたかな? この調子で行けたらいいなぁ」

雪歩「……って! 私は765プロの事務員じゃないよぉ!」

プルルルッ

雪歩「またかかってきたよぉ。プロデューサー……」

雪歩「で、でも、また良い人かもしれない。良い人でありますように!」

ガチャッ

雪歩「はいっ! 765プロですぅ!」

男3「ふざけんなっ!」

雪歩「ひぃっ!」

男3「なんだよこれ、ふざけるなよ。世間のにわかの耳はごまかせても、僕の耳はごまかせないんだからな!」

雪歩「な、なんのことですかぁ」

男3「とぼけるな! 《雪歩たんのボイス目覚まし》のことに決まってるだろ! 全セリフ新規収録で5000円もしたのに、全部ドラマで使ったセリフの流用じゃねぇかよ! 詐欺だろ、詐欺! 金返せ!」

雪歩「え、私の目覚まし…………あっ!」

男3「私ってなんだよ!」

男3「ん、え? そういえば聞き覚えが……。あ、あれ? も、もしかして本人?」

雪歩「あ、あの、そうなんですけど、その商品は765プロとはむかんけ」

男3「えっ! 嘘っ! マジでっ! なんで雪歩たんが電話に?」

雪歩「色々事情があって、あの、その商品は私とは関係が」
 (うぅ、すごい怖いよぉ……)
 
男3「おおおおおおお! じゃ、じゃあ今から録音するからさっ、僕の考えたセリフを言ってもらえないかな? それを目覚ましボイスとして使うからっ! それでチャラでしょ!」

雪歩「えぇっ! だから私は関係なくて!」

男3「えぇと、じゃ、じゃあね……」

雪歩「(聞いてないぃー!!)」

男3「どうしようかなぁ……ふぅ! ふぅ! ふひひ……」

雪歩「(鼻息がすごいよぉ……やだぁ……)」

男3「じゃ、じゃあ『錦織さん起きて! 起きないと悪戯しちゃうぞっ! ほら早く早く! 早くしないと脱がせちゃ」

ガチャン

雪歩「言えるわけないですぅ!!!」

雪歩「あ、反射的に切っちゃいました。うぅ、もうかかってきませんように」

雪歩「この間に律子さんに相談しないと」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「いつまで通話してるんですかぁ……」

雪歩「プロデューサーは……」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「えぇ……社長の番号は知らないし。あとは小鳥さん……」

雪歩「小鳥さんっお願いしますぅ!」

ガチャッ

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

プルルルッ

雪歩「……」

ガチャン

雪歩「どうして誰も出てくれないんですかぁ。ひっぐ……もぅやだよぉ」

雪歩「他に誰か相談できる人は……クレーム対応に慣れてて……」

雪歩「そうだ! クレーム担当のお弟子さんがいたはずだよね。その人にかけてみよう」

ガチャッ

プルルッガッ

雪歩「あ! もしもし雪歩ですぅ!」

雪歩「……はい……お久しぶりですぅ。……はい、元気ですよ」

雪歩「……えと、ちょっと相談があるんですけど…………」

……

…………

バタッ

P「はい、はい。では、そちらの方はよろしくお願いします」

P「はい、失礼します」

バタン

P「やれやれ、ようやくこれで収束しそうだな」

P「にしても完全にとばっちりだよなぁ。運がなかったと言うべきか」

P「おーい雪歩、いるのかー?」

雪歩「うるさい! 黙りやがれっですぅ!」

P「えっ?」

雪歩「うちは関係ないと何度言ったら分かるんですかっ! 筋違いなんですぅ!」

P「……ゆ、雪歩? だ、誰と話してるんだ?」

雪歩「おとといきやがれですぅ!」

ガチャンッ

雪歩「ふぅ、相手がすぐ切ってくれるようになりましたぁ」

雪歩「お弟子さんに聞いて正解だったかな? えへへ」

P「ゆ、雪歩どうしたんだ? さっきの電話はいったい……?」

雪歩「あっ、プロデューサー。ええっと、今のはクレームの電話ですぅ」

P「何っ!? クレームって、どうして雪歩が対応してるんだ? 音無さん、律子は? いやいや、それ以前にあの言葉遣いはどうし」

プルルルッ

雪歩「またかかってきましたぁ。プロデューサー、私が出てあげますね!」

P「ちょっ、待て雪歩!」

雪歩「心配しないでくださいっ! 私もう大丈夫ですから!」

ガチャッ

雪歩「はい、765プロですっ!」

雪歩「……うちは関係ないって分からないのか! ですぅ!」

P「あぁ……」

雪歩「……言葉遣いが悪い? それはこっちのセリフですぅ!!」

P「またクレームが増えそうだ……」

雪歩「うるさいですぅ~!!!」

Fin

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