飛鳥「そのキャラクターって、つくっているよね?」 菜々「ギクッ!?」 (53)

短いですがお付き合いいただけたら幸いです。
当方SSに不慣れなため、キャラクターを違和感を覚えたり、いろいろと至らない点もあるかもしれませんが、どうぞ広い心でご容赦いただけると幸いです。

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 ボクこと二宮飛鳥は、思春期特有の悩みである『ああ、いつもと変わらない日々は退屈である』なんて、そんな事を考えながら街を歩いているところを一人の男性によってスカウトされる形で、肩書を得た。
 『アイドル』、――曰く偶像。
 いつだって液晶の向こう側にいて、けれど決して手の届くものではないのだろうと思えたそれは、ボクにとってまさしく『非日常』であった。だからボクはそれに飛びついた。
 その日、ボクは渡された名刺と連絡先をもって帰宅し、両親を説得、両親にはボクに声をかけてきた男性、プロデューサーからも説得をしてもらって、晴れて親の応援も得られたボクは地元を離れて事務所のあるという都心へと引っ越すことと相成った。
 あれよあれよという間に、ボクの周囲は色を変えた。
 新しい環境、毎日が大変で、レッスンや営業をトレーナーさんやプロデューサーとたくさんこなした。すごく忙しかったし、辛くなかったと言えば嘘になるけれど、それでもボクは事務所の先輩や、姉の様に優しい事務員さんのおかげでその全てを乗り越えることができた。
 そしてボクは、無事立派な『新人アイドル』になることができたんだ。


「――んだけれど、ちょっと聞いてくれないかプロデューサー」

「ん? どうしたんだ、思いつめたような顔して。なにか悩みでもあるのか?」

「そりゃあ人は常に悩みくらい抱えているさ、それを捨ててしまったら、それはもう自分じゃないよ。――って、違う違う、今はボクが相談をするところなんだった」

「おう、どんとこい」

「それじゃあキミ相手に遠回しな言葉なんて意味をなさないだろうから単刀直入に言うんだけど、ボクってここから先アイドルとして成功できるのかな?」

「……またすごい事を聞くな」

「なんだ、そこで歯切れ悪くなられちゃうとボクとしてはとても悲しいんだけど、あの日ボクに言ってくれた言葉は嘘だったのかな? やっぱりオトナは信用ならない」

「いやいや、嘘なんかじゃないさ! 俺はお前を一目見たときに確かに『ティン!』と来たんだ、お前はきっとトップアイドルだって目指せる逸材だよ、事実ここまでレッスンだってトントン拍子じゃないか、この前だってライヴもしっかり盛り上がっていたじゃないか」

「……そうだね、ああそうさ、ボクはしっかりアイドルだ」

「どうしたんだ? なんだか飛鳥らしくもないな」

「思春期の中学生にはね、たまにどうしても不安になってしまう時ってものがあるのさ」

「んー、なんでもないならいいけれど……なんかあったらすぐ相談してくれよな?」

「そうだね、キミは頼りにならなくもないから、その時が来たら頼らせてもらうことにするよ」

 ボクがアイドルを初めて数ヶ月、ボクはある事について考えることが増えていた。
 ――偶像のアリカタ。
 アイドルというのはポップカルチャーの中心だといっても過言ではないだろう、昨今アイドルという存在は多くの人々、様々な層に支持されて、認められている。ボクの学校のクラスでだって、その存在はしばしば話題にあがるし、人気の的であったりする。ボクが活動を始めてからボクに近づいてきたヤツらがいたりする辺りに『アイドル』が持つ力というのが見え隠れしている気がしないでもない。つまりそういう事なのだろうね。
 実際、ボクは自身もアイドルという存在は少なからず気になっていた。――ここでいう気になっているというのは決して『アイドルになってチヤホヤされたい』といった自己顕示欲を源とするそれではなく、よく目にする文化の一つとしてという意味だ。 その程度の『気になっている』であった。

 けれどどうにも、今ではその程度の関心では済まない話となってきてしまっているのだ。なにせ今のボクは当事者に他ならないのだから、当然と言えば当然である。いやがおうにも、そのアリカタについて考えてしまう。
 人々の想像の中に生き、人々の夢想を受け、幻想としてファンに応える、言ってしまえばマボロシのような存在、理想や夢を売る仕事とも言えるのかもしれない。それだけであるならば漫画や小説のような『創作物』といった例があるだけに納得するのは容易いのだけれど、だがそれらの物事は大前提として『メタ』から目を背けることによって成り立つものなんだ。
 それに対してアイドルとは、自らが偶像であると『メタ』を前提として提示した上で、つまり偶像を偶像であると自ら申告して、活動する存在であるのだ、それは冷静になってみればとても奇妙な存在だと言えるんじゃないだろうか。
 そんな役を演じている身としては、それなりに『偶像』として役を果たせるような煌びやかさを意識したりすることも大切だと、ボクは思うのだ。
 思うのだが、じゃあ果たしてボクにそれはあるのだろうか。

 アイドルであるための『個性』。
 プロデューサー曰く、ボクは十分に個性的であるらしい。自覚はある、ボクは所謂『痛いヤツ』であり、きっとそういうところが個性として受けているのだろう。
 けれどそれは、天然のものだ。
 思春期の少女のちょっとした至りである、周囲の話を聞いた限りでは一過性のものであるという話だ。ではボクが所謂『痛いヤツ』でなくなった時、ボクはどうなってしまうのだろう、そう考えずにはいられない。
 未来に不安を見出して震えることは愚かなことなのだろうが、それによって現在を害してしまっては本末転倒であるのだろうが、でもやっぱり気になってしまうのだから仕方ない。
 プロデューサーに相談して、一つ思ったことがある。
 ボクの信頼と信用の置くプロデューサーは、今回ばかりは当てにならない。なぜならば彼は今のボクに可能性を見出しているからである。未来のボクに期待を持っているのならば、どうしたって底を疑う問いに対して希望的観測以外の回答は得られないのだ。

「アイドルか。未知の存在さ、ボクにもね」




「先輩であるところの事務所の人気アイドル、前川みく……なるほど」

 手元の週刊雑誌を読みながら、ふむと相槌を打ってみる。

 同じ事務所のアイドル、ボクの先輩にあたるその人の特集記事が組まれていたから、コンビニで少し立ち読み中である。

 アイドルのアリカタについて考えるにあたって、なによりも参考になるのはやはり身近な――一般人とは違った意味で身近な先輩アイドルの存在だろう。

 そういった意味で、参考になるという意味で、彼女はとても良い人材だと思う。

 猫ドル。なんとも滑稽な響きであるが、彼女の個性を一言で表すならばそうなる。語尾に『にゃん』とつけたり、その身のこなしがであったり、彼女は名実ともに『猫の様に可愛らしいアイドル』である。

 実際、ボクは何度か事務所で会っていて面識もあるけれど、本当に猫のような性格をしていた。プロデューサーに過剰なまでに甘えてスキンシップを取って困らせたかと思えば、まるで何ともないように別の事に興味を示して去っていく辺りなど、まさに猫そのものであった。

 だが、それでいて彼女は自身のキャラクターを意図している節がある。完全な天然ではなく、かといって完全な作り物でもない絶妙なバランスで、彼女は『アイドル』となっていた。

 そんな彼女は、同性のボクから見てもとても魅力的であり――

「あれ、飛鳥ちゃんにゃ、奇遇だねこんなところで」

 ――突然の声に慌てて振り返ればそこには件の先輩アイドルこと前川みくがいた。びっくりである。 

 独特な語尾で語りかけてきた彼女は現在ピンクを基調とする私服に身を包んでおり、アイドルとしての彼女としてではなく、一個人としての前川みくであることが見て取れる――のだが、不思議なことに彼女の頭とお尻には猫耳と尻尾が見えた。

 いや、語弊がある、見える気がしたというほうが正しい。なにせ相手は自分より身長が低いと言えど高校生である、まさか私服で猫のコスプレなどするはずはないだろう。……ないと信じたいところである、でなければ痛いヤツであるボクをもってしても少しばかり痛々しいと言わざるを得ない。

 ともかく、それだけ彼女は自分の個性をキャラクターとして定着させているという事なのだろうか、オーラとか、その類のあれなのだろうか。その類のあれであってほしいところである。

「ああ、こんにちは前川さん」

「む、なんだか固いにゃー。みくの事は、みくにゃんって呼んでくれていいよ」

「そうですか?」

「敬語もいらないよ」

「そうかい、じゃあ普段通りにさせてもらうよ」

「それがいいにゃ。ああ! それみくの載ってる雑誌! 読んでくれてたのにゃ?」

「ああ、うん。たまたま目に止まってね、インタビューとか、まだボクは受けたことがないから参考にと思って」

「それはとっても嬉しいにゃ。ふふ、先輩をしっかりと見習って良いアイドルになるにゃあ」

「……良いアイドルか……、ねぇみくさん、ちょっと質問いいかな?」

「むむ、なんにゃなんにゃ、どんな質問もみくにまっかせなさーい、にゃ」

「良いアイドルってなに?」

「……にゃ?」

「だから、良いアイドルってなんなのかなぁ、って。ボクはずぅーと考えているんだ、いったいなにが正しくて、良いのか。アイドルのアリカタもそうだけれど、そこに世界の作った基準があるならば、それを知るのもまた一つの道だと思うんだ。だから尊敬するところである先輩アイドルであるみくさんに、意見を聞かせて欲しいな」

「え、えっとー、それはー」

「それは?」

「だからー、えっとー」

「…………」

「に、にゃあ☆」

「……はぁ」

「ため息!? 今みく後輩に呆れられたにゃ!?」




 よく考えれば、個性の大部分を無意識に培っている彼女は、言ってしまえばボクと同じ部類の人間であった。だから彼女の成功はなにかの理論に基くモノではなく、彼女の持つ感性によるところの結果であるのだろう。ならばそこからボクの得られるものはあるはずがなかった。

 彼女はとても素晴らしく、魅力的なアイドルである。だが、目指す場所は同じであっても、向かう方法は似ても似つかないのでは、参考にはならない。

 事務所のソファで次の仕事までの待機をしながら、自然とため息が漏れる。

 なかなかどうして、アイドルのアリカタとは難題だ。

 そもそも大衆に発信する側であるアイドルが呈する個性とは、即ち『受ける』イメージである。なにをするにもアイドルの性質上それが前提となるだろう、ならば過去にあったと聞くアイドルのイメージはどうであったのだろうか。

「――あ」


 一つだけ、心当たりがあった。

 その昔、昭和の時代を生きたアイドルは永遠の17歳と自らを称し、トイレに行かないだの、排泄物がピンク色であるだとか、挙句自らを遠い星のお姫様だと言い張ったりと、いろいろと突拍子もない設定を背負っていたと親から聞いた事があった。

 今を生きるボクからすれば、きっと昔は今ほどネットワークやコミュニティも広がっていなかったからこそ、より非日常的に写ったのだと思うのだが、それでもさすがにその設定は作る側も信じ込む側にも苦笑を漏らさざるを得ないと思う。

 だが、なるほど確かに一理あるのかもしれない。だってそれは全部意識して作られた個性であるのだから、つまり偶像であることを自称しなかった偶像が、昔のアイドルであったという事なのだろうか。

 今は偶像であって、それを理解されていても、そこには多少のリアリティがなければ『暗黙の了解』が保たれない。昔はその敷居が低かったということだろうか。だからといってボクはそこまで極度に偶像を演じる気はないのだが。

 どちらにしろ理解するには多少苦しむところであ――

「おっはようございまーす! 阿部菜々永遠の十七歳! 今日も元気にアイドルしますよー! キャハッ☆」
 
 ――あ……。

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