ジャン「カレー・ライス?」(362)

※進撃の巨人で、ベン・トーのパロディです。
※進撃の巨人10巻までのネタバレがあるかもしれません。
※ジャン「ベン・トー?」の続きです。
前回(ジャン「ベン・トー?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1372165068/))


休暇日

ジャン 「トロスト・マムが半年間の営業停止?」

マルコ 「あぁ、何でも店内の匂いに、問題があったらしい」

ジャン 「匂いって、どういうことだよ」

アルミン「僕もその話は聞いたよ。祭りの日に食欲増進効果のある香料を焚いてたらしい」

ジャン 「別に良いんじゃねえのか、そのくらい」

マルコ 「それだけなら良かったんだけど、どうやら幻覚作用もあったみたいなんだ」

アルミン「それに、それ以前にも弁当の中に、食材として一部入ってたんだって」

ジャン 「おいおい、何度か弁当を食っちまったぞ」

マルコ 「でも、対象の弁当はひとつだけで、しかもかなり特殊らしいから」

ジャン 「すげー嫌な予感がする」

アルミン「名前は、超大型巨人弁当……」

マルコ 「メガネで、動きのキモい、性別不明の怪人が、買って行ったらしい」

ジャン 「そうだと思ったよ、畜生」

アルミン(僕が中身を考えた弁当だとは言えない)

マルコ 「毒性は弱いみたいだけどね」

ジャン 「そうは言ってもよ」

マルコ 「ちょっと勘違いすることが多くなったり、人の名前を間違えたり、その程度らしいよ」

アルミン「でも即効性が強くて、長く幻覚が続くこともあるんだって」

ジャン 「お前らも、祭りの日に、かなり吸っただろう。その香料」

マルコ 「そうだと思うけど、実感は無いかな」

アルミン「僕も、その日はそれどころじゃなかったし」

ジャン 「オレもない、……いや、待てよ?」

ジャン (超大型巨人弁当は、ハンジさんが取って、オレとミーナ、リヴァイ兵長が一緒に食べた……)

ジャン 「なぁ、お前ら、祭りの日に出てた弁当覚えてるか?」

マルコ 「当たり前じゃないか」

アルミン「忘れるわけ無いよ、憲兵団弁当だろう?」

ジャン 「じゃあ、どんな弁当だった、中身は?」

マルコ 「決まってるじゃないか、バラの憲兵団……あれ?」

アルミン「バラは、駐屯兵団……だよね?」

ジャン 「あぁ……憲兵団は一角獣だ」

マルコ 「もしかして、それが……?」

ジャン 「多分、そうだ。ミーナやリヴァイ兵長達と、巨人弁当を食べていたから、
     憲兵団と駐屯兵団を取り違えて、何の疑問も持っていなかった」

アルミン(僕は、弁当を試作するときにつまんでたからか……)

マルコ 「僕は、トロスト・マムが去年、憲兵団を売っていたから、今年も売っているものだと思い込んでいたよ」

アルミン「じゃあ、僕らは憲兵団弁当を取っているつもりが、駐屯兵団弁当を争っていたのか!?」

マルコ 「おかしいな、確かにバラの憲兵団弁当と書いてあったのに……」

アルミン「人間の記憶力ほど、不確かなものは無いからね、脳内で勝手に書き換えてしまうんだ」

ジャン 「美味かったから、別に良いけどよ。これは人には言えないぜ」

マルコ 「ああ、そうだね。あの日あったことが全て嘘になってしまいそうだ」

アルミン「このことは、僕らの胸だけに秘めておこう」

ジャン 「そうするのが一番だな」

アルミン「決して、悪意があって間違えたわけでは無いから、仕方ないよね」

マルコ 「奇妙な香辛料を店で焚かれたんだ、仕方ないよ」

ジャン 「弁当の食材で入れられたら、そんな幻覚を見ても仕方ない」

アルミン「そう、誰も悪くないんだ。これは、不幸な事故だったんだよ」



マルコ 「誰も、悪くない。いいね?」

ジャン 「誰に言ってるんだ?」

マルコ 「一人で確認しただけだよ」

アルミン「確認は大事だよね。本当に」

ミーナ 「あ、3人で何してるの?」

ジャン 「確認の大切さを、再確認してたんだ」

ミーナ 「?」



ミーナ 「そういえばジャン、今日はお弁当取りに行くの?」

ジャン 「ああ、そのつもりだ」

ミーナ 「トロスト・マムが営業停止ついでに改装するらしいから、今日は違うお店に行かない?」

ジャン 「他の店を知ってるのか?」

ミーナ 「お祭りの日に、私とリヴァイ兵長で行った所なんだけど」

ジャン 「憲ぺ…駐屯兵団弁当と、訓練兵の弁当を置いてた店か」

ミーナ 「そうそう。お弁当に無理なルビを振りたがる店」

ジャン 「あの弁当も美味かったな」

ミーナ 「でしょう? 調査兵団の人の行き着けなんだって」

ジャン 「リヴァイ兵長や、ハンジさんも、戻ってきたら、そこに行くかもな」

ミーナ 「まだ、戻って来るのは暫く先だけどね……」

マルコ 「僕も、ついて行って良いかな、知らないお店みたいだ」

ミーナ 「勿論だよ」

アルミン「エレンと特訓する予定があるから、僕はまた今度かな」

ジャン 「アイツは、変身は、使いこなせてんのか?」

アルミン「それは、次に夕市で会ったときの、お楽しみかな」ウフ

マルコ (切迫感から解放されて、前よりも余裕があるように見える)ゴクリ

ジャン (コイツは、大分自信があるってことだな)ゴクリ

ミーナ (なんかアルミンが妙にエロい)ゴクリ

夕市 トロスト・キッチン

ミーナ 「ここがその市場だよ」

ジャン 「トロスト・マムに比べると狭いな」

マルコ 「天井も少し低いみたいだ」

ミーナ 「お弁当見に行こうよ」

ジャン 「あぁ、月桂冠でねえかな」

マルコ 「そうそう出ないから、ありがたみがあるんだよ」

ミーナ 「」チラッ
ジャン 「」チラッ
マルコ 「」チラッ

ジャン (おあつらえ向きに、弁当は3つ。2種類か)

        ストロングストロガノフ
     "強力火力で煮込んだ牛肉弁当"

        コールドホットコールドロン
     "冷製加熱魔女の大釜弁当"

ジャン (牛肉煮が2つ、魔女の…なんこりゃ?)

マルコ 「僕は牛肉煮」

ミーナ 「私は魔女の大釜」

ジャン 「オレも牛肉煮だな。牛肉が食いてえ」

ミーナ 「男の子って、牛肉好きだよね」

ジャン 「牛肉が一番、肉って感じがするんだよ」

マルコ 「分かるよ、命を貰ってる感じがするよね」

ジャン 「……例えが重いぞ」

ミーナ 「他の餓狼は来てないのかな?」

ジャン 「俺の知ってる奴らは、居ないみたいだな」

マルコ 「二つ名持ちは……これは!?」

ジャン 「どうした、マルコ?」

マルコ 「馬鹿な、調査兵団は壁外調査に行ってるはずだ」

ミーナ 「誰か、知ってる人が居たの?」

マルコ 「悪い知らせだ、二つ名持ちがいる。名うての餓狼だよ」

ジャン 「もしかして、調査兵団の人なのか?」

          ドッペルアードラー
マルコ 「あぁ、"双頭の鷲"と呼ばれている」

ミーナ 「何それ、カッコイイ」

ジャン 「双頭ってことは、二人組みか?」

マルコ 「調査兵団の男女二人組みだと聞いているよ」

ジャン 「リヴァイ兵長もハンジさんも、俺たちが足元にも届かない強さだった」

ミーナ 「その調査兵団に居る人たちなら、その人たちもきっと……」


バタン


マルコ 「半額神が来た……」

ジャン 「随分と、筋骨隆々のオッサンだな」

ミーナ 「トロスト・キッチンの半額神だよ。マッチョでしょう」フフン

ジャン 「なんでミーナが自慢げなのか分からん」

マルコ 「3つとも、赤いリボンを巻いてるね」

ジャン 「オッサンに、赤いリボンというのが、全く似合わないな」

ミーナ 「えー、そんなことないよ、可愛いじゃない」

マルコ 「二人とも、始まるよ」

ギィ

バタン

ドドドドドド

ジャン「マルコ、ミーナ、二つ名を相手にするのは不利だ。速攻で、取れるなら取っちまえ」

マルコ「分かったよ」ダダダ

ミーナ「りょーかい!」ダダダ

ペトラ「ふーん、逃げるんだ」スタッ

ミーナ「なっ! 上から!?」

オルオ「お前達が、何故戦おうとしないのか分かるか?」スタッ

マルコ「僕たちより前に飛び出してきた!?」

ジャン「止まるな!突っ込め!」

マルコ「うおおおおお!」

ミーナ「やあああああああ」


オルオ「それはお前達が、俺の域に達していないからだ」ドンッ

ペトラ「それ、リヴァイ兵長の真似してるつもり?」バン

ミーナ「ゲフッ」
マルコ「ゴホッ」

ジャン「マルコ!ミーナ!」

ペトラ「リヴァイ兵長が、珍しく人を褒めるから、どんなヤツかと思えば」

オルオ「まだまだ小便くさいガキだったとはな」

ジャン(ハンジさんやリヴァイ兵長みたいな、突き抜けた強さではない!)

ジャン(腹の虫の加護があれば、勝てる相手だ!)

ジャン「マルコ、"天使"を思い出せ!」

マルコ「人使いが荒いなぁ!」ゲホッ

ジャン「はっ!」ダッ

ペトラ「一人が足場になって、高く跳躍?」

オルオ「・・・何にせよ俺の思惑通りだな」

ジャン(トロスト・マムよりは天井が低い、出来るか!?)

ペトラ「て、天井にぶつかる直前にで回転した!」

オルオ「あれは、リヴァイ兵長の…!?」

ジャン(使わせてもらいます、リヴァイ兵長!)ガッ

ジャン「はぁああああ!」ゴスッ

オルオ「調子に乗るなよ訓練へィ゙」ガチッ

ペトラ「うなじ狙ってるの分かってるのに、何で喋ってるの!?」

ジャン「成功した!」

ペトラ「オルオ倒したからって、いい気にならないでよね!」ズビシッ

ジャン「一人だけなら、力押しで!」

オルオ「……戦友へ向ける冗談にしては笑えないな……」ガッシ

ジャン「なぁっ!?」

ペトラ「調査兵団はね、あんな一撃で潰れるほど、やわじゃないのよ!」

ジャン「クソッ、足を掴まれた!」

ペトラ「オルオ、腕が千切れるまで、その足離さないでよね!」

オルオ「俺を束縛するつもりかペトラ? 俺の女房を気取るには、まだ必要な手順をこなしてないぜ?」

ペトラ「オルオごと倒れろ!」グボン

ジャン「グホッ」バタン

オルオ「これが調査兵団の力だ!!舐めてんじゃねぇぞこのバカ!どうだ!?わかったか!?」

マルコ(この人、必死すぎる……)

ペトラ「お弁当は貰っていくわ、それと、リヴァイ兵長が戻ってきたら、報告しておいてあげる」

ジャン(……な、に?)

ペトラ「例の訓練兵は、大したことありませんでした。って」

オルオ「ついでに二つ名もくれてやろう。
    勝てないからと言って、逃げの一手を打つお前は"敗北主義者"だ」

ジャン(ダメだ、腹の虫の加護が切れる……体が動かねえ……)

~~

ミーナ「ジャン、起きてー」ユサユサ

ジャン(……ん?)

マルコ「ジャン起きられるかい?」

ジャン「あぁ、何とかな」ムクッ

マルコ「済まない、僕がもうちょっと粘っていれば」

ジャン「いや、実力差だ。ハンジさんやリヴァイ兵長と比べれば、まだ現実的な差だけどな」

ミーナ「起きられるなら、ご飯食べようよ」

ジャン「あぁ、そうだな。弁当は逃したけど、うどんでも……」

ミーナ「ん? 私お弁当取ったよ?」

ジャン「は?」

マルコ「ミーナは、ジャンが足を掴まれている間に、お弁当を取ってたんだよ」

ミーナ「ペトラさん?って言う人が、すっごい顔して睨んできたけどね」

マルコ「オルオさんって人も、

     "弁当を取る気配が全くなかった……犬、いや家畜以下だ!"

    って騒いでたよ」

ジャン「とんでもねー二つ名つけられたな」

ミーナ「え、嘘、それって二つ名になるの!?」

ジャン「これからもよろしくな、家畜以下」

マルコ「頼りにしているよ、家畜以下」

ミーナ「もー、二人にはお弁当分けてあげない!」

ジャン「悪かったよ、パンだけ買って行くから、弁当分けてくれ」

今日はここまでです。途中でスミマセン。
続きは明日の予定です。

兵舎食堂

              コールドロン
ジャン「これの、どのへんが魔女の大釜なんだ?確かにでかいけどよ」

マルコ「冷製ってのは、中身が冷えてるからだろうけど、加熱というのは?」

ミーナ「もしかしたら超大型巨人弁当みたいなのかと思ってさ」

マルコ「前に話していた、自動加熱式弁当だね」

ミーナ「とりあえず箱を開けてみよう」

マルコ「具がいくつかと、大きい紙が入ってるね」

ジャン「紙は……広げると、でかい器になるな」

ミーナ「あ、説明書が入ってるよ」

ミーナ「んーとね、小分けにされた具を取り出して、まず容器を水で洗います」

マルコ「洗ったよ」

ミーナ「そしたら、スープを入れます」

マルコ「スープが入った容器なんか無いよ?」

ミーナ「え、うそ?」

ジャン「水筒みたいな密封の容器でないと、漏れちまうだろ」

マルコ「そういうのは入ってないみたいだなぁ」

ミーナ「あ、多分これだ。冷たくてプルプルしてる」

ジャン「何だこれ?これがスープなのか?」

マルコ「これは……寒天かな?」

ミーナ「カンテン?」

マルコ「天草って種類の草を煮詰めると、こういうゼリー状のものが取れるんだ」

ジャン「それが混ぜてあるのか」

ミーナ「頭の良いこと考える人がいるもんだね」

マルコ「じゃあ、これを容器に入れて、次は?」

ミーナ「そしたら、直接これを火にかけるんだって」

マルコ「これって、紙製の容器じゃないか、燃えちゃうよ!」

ミーナ「そうしろって書いてあるんだもん」

ジャン「燃えたら、店に文句を言いに行けばいい、まずはやってみようぜ」

マルコ「勝手に火を使うのはまずいんだけどね」

ミーナ「サシャが、しょっちゅう何か焼いてるし、大丈夫だよ」

ジャン「あの女、相変わらず好き勝手に生きてるな」


ボォ

ジャン「おぉ、本当に火にかけても大丈夫だった」

マルコ「熱でゼリーが、どんどん溶けてきてるよ」

ミーナ「スープが溶けてきたら、具を入れてください」

ジャン「どれだ?」

ミーナ「最初に、野菜を入れるんだって」

ジャン「モヤシとニラ、ニンジン、キャベツ、定番だな」

マルコ「全部入れたよ」

ミーナ「蓋をして、5分くらい待ってください」

ジャン「思ったんだけどよ、これって弁当なのか?」

マルコ「ジャン、それ以上いけない」

ミーナ「美味しければ何でも良いんだよ」

ミーナ「蓋を取って、お肉を入れます」

マルコ「肉っぽいのは、これだけど、タレに埋もれてるよ」

ミーナ「あ、そのタレごと入れるんだって」

ジャン「嗅いだことの無い匂いのタレだな」クンクン

マルコ「蓋を取るね」カパッ

ジャン「さっきより、ずいぶん水かさが増えてるな」

ミーナ「野菜から水分が出たんだ」

マルコ「じゃあ、肉を入れるね」

ミーナ「また蓋をします」

ジャン「やたら手間がかかるな」

マルコ「ここまできたら、もう退けないよ」

ミーナ「3分経ったら、出来上がりだってさ」



マルコ「よし、3分経った」

ミーナ「蓋を取るよ」カパッ


フワァ

ジャン「!?」
ミーナ「!?」
マルコ「!?」

ジャン「何だこの匂い……凄く懐かしい気がする」

マルコ「強烈な匂いじゃない、むしろ優しい香りだ」

ミーナ「なんだろう、これ……分からないけど」


(食欲がそそられる)グゥゥ

サシャ「お味噌の匂いがしますよ?」ヒョイ

ジャン「どっから沸いて出た、芋女」

ミーナ「サシャ、この匂い知ってるの?」

マルコ「オミソって言ってたね」

サシャ「ええ、味噌です、大豆を発酵させた保存食ですね」

ミーナ「へぇ、聞いたこと無いけど、美味しそうだね」クンクン

ジャン「お前はこんなところで、何してるんだよ」

サシャ「ちょっと、夜食を作ろうかと思いまして」ヘヘヘ

ミーナ「サシャも一緒に食べようよ」

ジャン「おい、こんな奴いれたら、すぐになくなっちまうぞ」

サシャ「む、失礼な。ちゃんと晩御飯食べてますから、そこまで意地汚くないですよ」

マルコ(ちゃんと晩御飯食べたのに、夜食は作りに来るんだ……)

ミーナ「私のお弁当なんだからいいの。ほら、サシャも食べよう」

サシャ「いやぁ、何だかスイマセンねぇ」グヘヘ

ジャン「仕方ねえな、少しは遠慮して食えよ」

マルコ「お皿を配るよ」

ミーナ「じゃあ、せーの」


「「いただきます」」

ミーナ「はぁ、いい香り。こういうのを、芳醇な香りっていうのかな」スンスン

マルコ「野菜の甘みと、味噌のしょっぱさが、上品に混ざり合ってる」クンクン

ジャン「そこに、豚肉の旨みが溶けて加わって、香りに深みがあるな」フンフン

サシャ「皆さん、お肉に火が通ってますよ」ヒョイヒョイ

ジャン「おお、肉に味噌が染み込んで、噛む度に旨みが染み出る」ムシャムシャ

ミーナ「ずっと味噌に包まれてたから、ここまで染み込んだんだね」モグモグ

マルコ「半額弁当になるまで、時間を置いたからこその味だね」ハフハフ

サシャ「うーん、久しぶりですけど、美味しいですねぇ」パクパク

マルコ「野菜も、十分に煮えて、柔らかくなってる」

ミーナ「人参って、ここまで甘くなるんだぁ」ホゥ

ジャン「ガキの頃に、これを食ってれば、お袋に小言を言われることもなかったな」

ミーナ(人参嫌いだったんだ……)

ミーナ「キャベツと味噌の相性が最高だよ」モグモグ

ジャン「味噌ってのは凄えな」

サシャ「これは、味噌のほかに、鶏がらの匂いがしますね」クンクン

マルコ「最初に入れたゼリーに、鶏がらのスープが溶けてたのかな」

ミーナ「野菜から染み出したスープが、また美味しいね!」フーフー

ジャン「あぁ、この甘みは砂糖でも生み出せない」ズズズ

マルコ「ふっと溶ける程度の甘みが、後を引いて止まらないよ」ハフハフ

サシャ「あ、皆さん、スープは残して置いてください」

ジャン「何だ?一人で全部飲むつもりか?」

ミーナ「あとで喉乾いちゃうよ?」

サシャ「違いますよ、私だって貰いっぱなしは気になりますから、これを提供します」スッ

マルコ「それは……?」

サシャ「オニギリといって、お米を丸く固めたものです。
    本当は夜食にするつもりだったんですけれど」

マルコ「どれだけ食べるつもりだったの? それ何人前?」

ミーナ「確かに、このスープにはお米が合いそうだね」

サシャ「チッチッチ、そうじゃないんですよ」フゥ

ジャン「相変わらず、むかつく顔が似合うな、お前は」

マルコ「それを、どうするんだい?」

サシャ「こうやってですね、網の上に乗せて、直火で炙って、表面におこげを作ります」

ジャン「おぉ、綺麗にキツネ色に焼けていくな」

サシャ「これも結構、コツがいるんですよ?」

ミーナ「こんがりと満遍なく焼けたね」

サシャ「そしたらですね、アツアツのうちに、先ほどのスープに落とします」

ジュゥウウウウウウ

マルコ「味噌の匂いと、焼けたお米が香ばしい!」

サシャ「仕上げに、オニギリを4等分して、良く混ぜます」

ジャン「ん?なんだ、赤い油が浮いてきたぞ?」

マルコ「スープ全体も、赤く染まってきた!」

ジャン「てめえスープに何しやがった!」

サシャ「落ち着いてください、今説明しますから」フゥ

ミーナ「何だろう、辛い感じの匂いが……」クンクン

サシャ「ええ、これはニンニクと唐辛子をごま油に漬け込んだ、ラー油というものです」

マルコ「ラーユ? なんでそれが?」

サシャ「私は、そこに刻んだ玉ねぎなどを入れて、食べられるラー油を発明しました」

ジャン「その努力を、訓練に生かせよ。大したもんだけどよ」

ミーナ「よく、そんな材料を買えたね」

サシャ「ごま油以外は、余った野菜の切れっ端を、市場で貰ったんですよ」

マルコ「……涙ぐましい努力だね」

サシャ「その食べられるラー油を、オニギリの具として、包み込んでいたのです」ドヤァ

マルコ「そうか、ニンニクか、道理で……」

ジャン「あぁ、今食べたばかりなのに、胃袋を刺激してきやがる」

ミーナ「サシャ、これはもう食べても良いの?」

サシャ「ええ、ラー油を良く溶かしてから食べてください」

ミーナ「うわぁ、さっきとは全然違う香りがする」スンスン

マルコ「ごま油、ニンニク、唐辛子……食欲をガンガン攻める食材だね」ゴクリ

ジャン「あぁ、それに味噌のスープの柔らかさが絡み合って、たまらん」ハァ

パク



ミーナ「オニギリのおこげが、パリパリだぁ!」

マルコ「おこげの内側に、スープが染み込んで!」ハフハフ

ジャン「ラー油の辛味の染み込んだ米が、クソ、なんて言うんだこれ!?」フゥフゥ

     カラウマ
サシャ「辛旨ですね。もう手が止まりません!」パクパク

ミーナ「おこげじゃない部分が、スープに混ざっていくね」

ジャン「だが、それがスープを吸って、新しい食感になってる」

サシャ「私の村では、オジヤって呼んでました」

マルコ「さっきの味噌のスープも美味しかったけど、一気に止めを刺された気分だ」

サシャ「最後にお米食べると、お腹いっぱいになるんですよね」ズズズ

ミーナ「あー、暑い、辛い、けど美味しい!」

マルコ「ふぅ、汗が止まらないけど、これは食べるのを止められない!」

ジャン「スープを吸った米が、スルスル口の中に入ってきやがる!」

ミーナ「ああ、辛味が胃の中に落ちていく」スルスル

マルコ「明日、口臭が大変なことになりそうだ」ズルズル

ジャン「明日のことは明日でいい。今はただ……満腹だ」フゥ

ミーナ「スープの最後の一滴まで、美味しかった……」

ジャン「あー、食った。久しぶりに、こんなに食った」

マルコ「もうダメだ、何も食べられない……」

サシャ「いやぁ、美味しかったですねぇ」

ジャン「美味かったけどよ、これが何で魔女の大釜なんだ?」

ミーナ「さぁ……?」

サシャ「紙と少しの水で、お料理できちゃうからですよ」

マルコ「そういえばサシャは、随分手馴れてたね」

サシャ「狩りに出ると、何日も戻らないこともありますからね。
    重いお釜もって移動できませんよ。
    燃やしてよし、煮てよし、の紙が便利なんです」

ミーナ「そういえば、紙製なのに燃えなかったね」

サシャ「紙がお水を吸って、燃えるより先に湿っちゃうからです」

ジャン「すげぇな、今初めて芋女を尊敬したぞ」

サシャ「狩猟民族として、当然の知識ですよ」キリッ

マルコ「そうか、だから保存食の味噌で肉を包んで、日持ちするようにしてあるんだ」

サシャ「ええ、さっきのオニギリを焼いたのも、元は保存するための技術です」

ミーナ「ふーん、色々考えられてるんだねぇ」

サシャ「移動中は飲み水も貴重ですからね、
    お野菜から水分も取れちゃうので、効率いいんです」

ジャン「そう考えると、これも確かに弁当なのかもな」

サシャ「そうですね、携帯することに重点を置いているんで、お弁当と言えるかも知れません」

マルコ「紙の容器と少しの水で、ここまで豪勢な料理になるんだから、
    本当に魔法みたいだったよ」

サシャ「そこまで言われると、私も鼻が高いですね」

ミーナ「なんでサシャの鼻が?」

サシャ「皆さん、これをトロスト・キッチンで買ったんですよね」

ジャン「あぁ、そうだが……?」

サシャ「私が、野菜の切れ端を貰いに行ったときに、店の人に、これの話をしたんです」

ミーナ「じゃあ……」

サシャ「今度、お店で売るって言っていましたから」

マルコ「それなら、確かにサシャのお手柄だね」

ジャン「そうだ。パンを買ったけど食わなかったな、お前にやるよ」

サシャ「パァン!? いいんですか!?」

ジャン「あぁ、オレはもう食えねえからな」

サシャ「ありがとうございます!後で美味しくいただきます!」

マルコ(まだ食べるんだ……)

ミーナ「サシャのお腹の中のほうが、何でも入る魔女の釜みたいだね」クスクス

(つづく)

[次回予告]
"双頭の鷲"に、成す術無く敗れたジャン。
新たな戦略を求めて、エレンと特訓を続けるアルミンを尋ねる。
しかし、そこにはエレンに色目を使うペトラの姿が!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
エレン「うっ、蜂に刺された!」

ペトラ「それは大変!すぐに治療しないと!」スルスル

エレン「え、何でズボンを、脱いでるんですか!?」

ペトラ「アンモニアがね!アンモニアが効くからね!」ハァハァ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※全てウソです。

今日はここまで。嘘ついてスミマセンでした。
続きは明日の予定です。

休暇日

ミーナ「今日も、キッチン・トロストに行くの?」

ジャン「あぁ、昼飯を抜いたからな、腹の虫の加護は前よりも強いはずだ」

ミーナ「それくらいで、埋められる差ならいいんだけど」

ジャン「一朝一夕なら、それくらいしか対応策は無い」

ミーナ「そうなんだけどね、決め手に欠ける感じだよ」

ジャン「あぁ、分かっているけどな。無いものねだりだ」

ミーナ「今日は、マルコは来ないの?」

ジャン「腹の虫が騒がないらしい、元々気まぐれなんだよ」

夕市 キッチン・トロスト

ミーナ 「あれ、アルミンがいる?」

ジャン 「一人か?ミカサは?」

アルミン「今日は一人だよ、新しい戦術を試しに来たんだ」

ジャン 「珍しいこともあるんだな、マルコに聞いていた話と違うぞ」

アルミン「僕も、一人で戦える道を模索しているんだ」

ミーナ 「ねえ、お弁当見てこよう」

ジャン 「そうだな」

アルミン「僕も行くよ」


ジャン(今日は、弁当が3つ、全部違う種類だ)
ジャン(魔女の大釜みたいな、変り種じゃない、オーソドックスな弁当だな)

     トライアングルフォーメーション
    "三色鶏弁当"

     スクエアフォーメーション
    "幕の内弁当"

     ペンタゴンフォーメーション
    "五穀米美容弁当"

ジャン (ルビの方が長ぇじゃねえか!)

ミーナ 「私は、五穀米弁当」

アルミン「僕は、幕の内弁当」

ジャン 「俺は、三色鶏だ」

アルミン「共闘、成立だね」

ジャン 「だが、今日も来ているようだ、"双頭の鷲"が」

ミーナ 「昨日は勝てなかったけど……」

アルミン「大丈夫、勝てるさ。僕がいる」

ジャン 「すげぇ自信だな」

アルミン「元々、僕は弁当取得率100%だよ」

ミーナ 「そういえば、そうだったね」

アルミン「それを破った1%に、あんまり負けて欲しくないんだよね。
     僕が弱いと思われるじゃないか」

ジャン 「そういう悪役みたいな台詞、似合わないぞ?」

アルミン「ほっといてよ」

ミーナ 「あ、クリスタとユミルがきた」

ジャン 「クリスタが凄い勢いで走ってくるぞ」

クリスタ「アルミーン、今日はコニーは一緒じゃないの!?」

アルミン「今日は一緒じゃないっていうか、今までも一緒だったことはないけど」

クリスタ「ちゃんと、やさしくしてあげてね?」

アルミン「え、うん。わかった、やさしくする、よ……」

クリスタ「うん、何かあったら教えてね///」ニヘラニヘラ

アルミン「ねぇ、ジャン。クリスタはコニーのことが好きなのかな?」

ジャン 「違うだろ。何か薄ら寒いものを感じた。きっと、ハンジさんと同じ病気だ」

アルミン「僕もコニーも巨人じゃないよ?」

ジャン 「自分の趣味に盲目的になってる人種だ。もう気にするな」

アルミン「…うん」

アルミン(そのうち、ちゃんと話したほうがいいかな)

ミーナ 「どうしよう、クリスタも二つ名持ちだよ、絶対にかち合うから共闘できないし」

アルミン「うん、これは困ったね」

ジャン 「アルミンもお手上げか」

ミーナ 「もしかして、万事窮すってヤツ?」

アルミン「参ったよ、まさか弁当取得するまでに、12手も掛かるなんて」

ジャン 「!」

ミーナ 「!」

ジャン 「弁当、取れるのか?」

ミーナ 「本当に?」

アルミン「僕の言うとおりに動いてくれれば、二人とも食事に困ることはないよ」

ジャン 「何か、凄い頼りになるな」

ミーナ 「アルミンが、カッコよく見える」

アルミン「"城砦"と"僧侶"が手駒にあるんだ、"王"は勤めを果たすのみだよ」


バタン

ミーナ 「半額神だ」

ジャン 「3つとも、半額になってるな」

アルミン「二人とも、これをもってて」

ジャン 「何だこれは?」

アルミン「お守りだよ、首から下げてて」

ミーナ 「うん、つけたけど」

アルミン「争奪戦が始まったら、まずはユミルを狙うんだ」

ギィ

バタン

ドドドドド

ジャン 「いくぞミーナ」ダダダ

ミーナ 「うん!」タタタ


ユミル 「げっ、狙いは私か!?」

クリスタ「ユミル、危ない!」

ジャン 「少し寝ててくれや!」ゲシッ

ユミル 「狙いが甘いんだよ!」

ジャン 「知ってる」

ユミル 「!?」ゴフッ

ミーナ 「後ろからごめんね!」

クリスタ「ユミル!」

ジャン 「いくら"天使"でも、翼が無いと飛べねえな」ドンッ

ミーナ 「一人じゃ、高く飛べないんでしょう?」バシッ

クリスタ「うっ」バタッ

アルミン「二人ともそのまま陳列棚に向かうんだ!」

ジャン 「おう!」ダダダ

ミーナ 「アルミンも、はやく!」タタタ

ペトラ 「今日は、違うお友達連れてきたの?」スタッ

オルオ 「ガキ共はすっかり腰を抜かしたんだろうな」スタッ

アルミン「ジャン、ミーナ、挟撃だ!」

ジャン (腹の虫を意識するんだ!昨日よりも強く!)ドゴッ

オルオ 「くっ、こいつ昼飯抜いてきやがった!昨日よりも強い!」

ペトラ 「落ち着いて対処しなさい!」ベシッ

ミーナ 「はあ!」ゲシッ

ペトラ 「利かないよ!」ボスン

ジャン (昨日とさほど変わらないぞ、本当に勝てるのかアルミン!?)

ペトラ 「少し寝てなさい、"家畜以下"……!?」

オルオ 「ペトラ、お前、顔色が」グラッ

ペトラ 「オルオこそ、足元が……」フラッ

アルミン「二人ともお疲れ様、下準備は完了した」

ジャン 「なんだ…?」

ミーナ 「どうしたの、これ?」

アルミン「マダムが市場の改装で暇してたからね、ちょっと協力して貰ったんだ」

ペトラ 「なに……これ……おかしい」フラフラ

オルオ 「腹の虫が……消える?」フラフラ

アルミン「調査兵団の人たちは大人だから、きっと効果があると思ったよ」

ペトラ 「う、胸がムカムカする……」

オルオ 「この感覚は……」

アルミン「二日酔い、経験ありますよね?」

ジャン 「どういうことだよ……?」

ミーナ 「何か匂いがするけど、これが関係あるの?」

アルミン「アルコール、酢酸、汗、その他もろもろの香辛料、深酒が過ぎたときの、体臭さ」

ジャン 「それを……ばら撒いたのか?」

アルミン「ばら撒いたのは、ジャンとミーナ。君達だよ」

ミーナ 「もしかして、さっきのお守りって」

アルミン「匂い袋だよ、黙ってて悪かったね」

ジャン 「俺たち二人と戦うと、少しずつ匂いを吸ってしまうのか」

アルミン「マダムの店で食欲増強効果のある香料を焚いてたろう?
     それの逆が出来ないかと思ったんだ」

ミーナ 「大人にだけ、効果のある匂い」

アルミン「十分に吸い込んだはずだ」

ペトラ 「ひ、膝に、力が……」ガクガク

オルオ 「もう、立ってられん……」フラフラ

アルミン「腹の虫の加護を、強制的に失わせて、無力化する」

アルミン「名前は……そうだね。武器を持ち込めない空間、"玉座の間"かな」

ジャン 「アルミンって、技の名前とか付けるんだな。気持ちは分かるけどよ」

ミーナ 「意外とオトコノコだね。アルミンって」

アルミン「名前は大事だからね!?」

ジャン 「さぁ、ここは"玉座の間"だ。"王"の前に、跪け」

ペトラ 「くっ」ガクッ

オルオ 「うぐっ」バタン

ミーナ 「アルミンが、凄く悪い顔してる」

ジャン 「こういう展開は、後で絶対失敗するぞ」

アルミン「さっきから煩いよ、二人とも!?」

アルミン「ほら、今のうちにお弁当とっちゃって」

ジャン 「はいよ」スタスタ

ミーナ 「どこまでが11手目だったんだろうね」テクテク

オルオ 「……なんてなっ!」グッ

ペトラ 「調査兵団が、こんなことで、立ち上がれなくなると思った?」フラ

ジャン 「なっ!立ち上がった!?」

ミーナ 「思ったほど効果が続かなかったの!?」

アルミン「……」

ペトラ 「大人を、舐めないことね!」

アルミン「舐めてません。予定通り、ここでチェックメイトだ」スッ

オルオ 「どういうことだ!?」

ペトラ 「オルオ、また変なことする前に、潰すわよ!」ダッ

オルオ 「おい、妙な動きはするな!」ダッ

アルミン「ジャン、ミーナ!今のうちにお弁当を!」

ジャン 「アルミン、お前最初から囮になるつもりで!?」

ミーナ 「自分は、弁当を取れないことが、前提の作戦だったの!?」

アルミン「多分、数秒しか持たないけど、十分だろう?」ニヤリ

ペトラ 「くっ、2つ持っていかれる!」

オルオ 「嵌められた!陳列棚に戻るぞ!」

アルミン「させませんよ!」ガシッ

ペトラ 「こら、離しなさい!どこ触ってんの、エロガキ!」バキッ

オルオ 「ペトラ! そいつの歯を抜いてやれ! 前歯と奥歯を差し替えてやれ!」

ジャン 「させるかよ」バキッ

ミーナ 「見くびらないでよ」ゴスッ

ペトラ 「ゴフッ」

オルオ 「ガハッ」

アルミン「何で……戻ってきちゃうんだよ…!?」

ジャン 「あのまま弁当食っても、美味くねえ」

ミーナ 「アルミンの作戦なんだから、食べるなら3人一緒だよ」

アルミン「もう、駒が勝手に動いたら、ダメじゃないか」ハハハ

ペトラ 「チィ、全員潰す!」ガスン

アルミン「ゲホッ」バタ

オルオ 「……打たれ弱い何てもんじゃないな」

ジャン 「アルミン!」

コニー 「お、三色鶏弁当が美味そうだな」ヒョコヒョコ

ミーナ 「え!? コニー!?」

ペトラ 「どこから沸いて出た!?」

オルオ 「ダメだペトラ、もう弁当を取っている、手を出すな」

ユミル 「そんで、これでおしまいだ」ヒョイ

クリスタ「何か変な臭いしたから、目が覚めたんだよね」ヒョイ

ペトラ 「なっ!?」

オルオ 「弁当が、全部っ!」

ジャン 「……」

ミーナ 「……お弁当、無くなっちゃったね」

ジャン (アルミンの匂い袋は、大人向けに調合したものだ。
     若年者には、嗅ぎなれない匂いから"気付け"の役割を果たしてしまったのか)

オルオ 「チッ、もうやるだけ無駄だ」

ペトラ 「はぁ、骨折り損ね」

グンタ 「それは我々に対する嫌味か?」

ジャン (!? ……誰だ?)

ペトラ 「グンタ、戻ってたの!?」

オルオ 「予定よりも、大分早いんじゃないか!?」

グンタ 「あぁ、今回は何故か巨人が全く現れなかった」

ペトラ 「そんなことが……」

グンタ 「おかげで、ハンジ分隊長がご乱心だ」

ペトラ 「あー、荒れてそうね」ヤレヤレ

グンタ 「俺は今来たところだが、お前らは、弁当を取り逃したのか」

オルオ 「そこの訓練兵のガキ共にな、してやられた」

グンタ 「将来有望じゃないか」フフ

グンタ 「二人が迷惑をかけたな」スタスタ

ジャン 「貴方は……?」

グンタ 「調査兵団のグンタ・シュルツだ」

ミーナ 「じゃあ、あのお二人の同僚の方ですか」

グンタ 「オルオとペトラは、内地の仕事で拘束されてな。
     今回の壁外調査には、参加しなかったんだ」

ミーナ 「道理で、リヴァイ兵長がいないのに、調査兵団の人がここにいたんですね」

グンタ 「二人とも、置いていかれたと思って、不貞腐れて、君達に絡んでいるんだ」

ジャン (大人気ないのは、伝統なのか?)

グンタ 「あいつ等、自分達が"双頭の鷲"なんて呼ばれていい気になっているのさ」

ジャン 「でも、名前に見合った実力はあるんじゃないんですか?」

ミーナ 「とっても強かったですよ」

グンタ 「あいつ等が"双頭の鷲"と呼ばれだしたのは、ごく最近だ」

ジャン 「そうなんですか」

ミーナ 「それまでは二つ名が無かったんですね」

グンタ 「いや、二つ名はあった」

オルオ 「ちょ、まった!それは!グンタ!」

ペトラ 「ダメ!絶対ダメ!言わないで!」

グンタ 「"小便小僧"と、"小便少女"だ」

ジャン 「しょうべ……ん?」ププ

ミーナ 「しょうじょ……?」プ-クス

オルオ 「オイ! やめろ……聞くな!」

ペトラ 「ダメって言っただろおおお!?」

グンタ 「オルオは、初戦で"大猪"に襲われ、あまりの恐怖に失禁した」

オルオ 「何で普通に続けてるんだよ!?」

ジャン 「……」プルプル
ミーナ 「……」プルプル

グンタ「ペトラは、初戦で弁当を入手したが、あまりの歓喜に、嬉れションを漏らした」

ペトラ「ぎゃあああああああああああああああああ」

ジャン「……ウレション」ゲラゲラ
ミーナ「……モウダメ」フフフフフ

オルオ「なんだよこれ……ふざけんなよ、ほんと、なにこれ……」

ペトラ「言うなよ!威厳とか無くなったらさぁ!!!どうするんだよグンタ!!!」

グンタ「俺は漏らして無い」キリッ

ミーナ(大人気ないのは、伝統なんだな)

グンタ「いつまでも遊んでないで戻るぞ」

オルオ「うるせーな……」

ペトラ「何で仕切ってるんだよ!いくけどさぁ!」

ミーナ「行っちゃったね」

ジャン「嵐みたいな人たちだったな」

ミーナ「アルミンは、まだ倒れてるの?」

ジャン「おい、アルミン起きろ!」

アルミン「ん……?」

ミーナ 「目、覚めた?」

ジャン 「弁当は、ユミル、クリスタとコニーに取られちまった」

アルミン「コニーがいたの?」

ミーナ 「いつの間にか、フラフラーって取ってた」

ジャン 「ほら、飯食いに行くぞ」

アルミン「え、でも僕は……」

ジャン 「ミカサ達と食う約束してるわけもないんだろ?」

アルミン「そうだけど……」

ミーナ 「はいはい、そしたら一緒に行こうよ、ね?」

アルミン「うん……」

ミーナ 「調査兵団の分隊長さんに教えてもらった安くて美味しい麺屋さんがあるんだ」

ジャン 「うどんって知ってるか?」

アルミン「小麦の粉を水で練って、熱いスープに入れたものだね」

ジャン 「食ったことねえのは分かったよ」ハッ

うどん屋 ”ドンベエ”

アルミン「カウンターの席しか無いんだ」

ジャン 「パッと来て、パッと帰るところだからな」

ミーナ 「常連さんになると、長居できる店の奥の部屋に案内してもらえるんだって」

ジャン 「俺は、月見うどんにする」

ミーナ 「私、キツネうどん!」

ジャン 「アルミンはどうする?」

アルミン「えーと、どうしようかな……」

ミーナ 「初めてだよね、それならかき揚げうどんがお勧めかな」

ジャン 「俺達が、初めて来たときに食べたヤツだ」

アルミン「じゃあ、それで」



ミーナ 「アルミン、フォーク使う?」

アルミン「あぁ、二本の木の棒で食べるんだっけ」

ジャン 「言えば、フォークも出してもらえるぞ」

アルミン「いいや、僕も作法に則って、オハシで食べてみるよ」カシカシ

ミーナ 「初めてなのに、お箸使うの上手だねぇ」

ジャン (指先使うから、頭の良さと関係あんのか?)

アルミン「来たみたいだよ。これは……パンが入ってるの?」

ミーナ 「ふふふ、これはキツネうどん。パンじゃなくてお揚げだよ」

アルミン「お揚げ……原材料は?」

ミーナ 「んーなんだろうね?」

アルミン「何か、キツネ由来のものなのかな、肉じゃないみたいだけど」

ジャン 「難しいこと考えんなよ、美味いから良いんだ」

アルミン(帰ったら調べてみよう)

ミーナ 「これは、玉子が入ってるね。ジャンの月見うどんだ」

アルミン「あぁ、これは分かりやすいね。玉子の黄身が月に見立ててあるんだ」

ジャン 「そういうこった。さっきのキツネも大した意味無いぜ、きっと」

アルミン(……調べるのはやめよう)

ジャン 「そんで、かき揚げうどんだな、アルミン食えよ」

アルミン「これが、かき揚げ……大きいね、中身は野菜かな?」

ミーナ 「ここのは特別大きいんだよ、確か海老も入ってたよ。小さいの」

ジャン 「いいから食えよ、熱いうちに」

アルミン「うん、それじゃあ、いただきます」

アルミン(このかき揚げから、食べてみようかな)

ザク

アルミン「ふほふはふい(凄く熱い)」ハフハフ

ジャン 「はははっ、そうだろう。初めてのヤツは、それで火傷するんだ」

アルミン「ふぅ……ふう、はふぅ……ふぅ」ホッフホフ

ミーナ (アルミンが無駄にエロイ)

アルミン「……熱かった! でも、美味しいね!」キラキラ

ジャン 「ちょっと汁につけてから食べるのがコツだ」

アルミン「そうなんだ……これを、汁につけて」チョイチョイ

ザク

アルミン(さっきよりは熱くない……舌に触れる部分だけ、汁で温度が下がったんだ)

アルミン「……ん!?」

アルミン(噛む度に、汁が染み出てくる! 揚げたての油と、汁が合わさって口に飛び込んできた!
      すごく脂っこいはずなのに、でも全然嫌じゃない。熱くて、美味い!)

アルミン「」ザクザク

ジャン 「うどんも食えよ?」

アルミン「はっ!?」

ミーナ (可愛いな、この生き物)

アルミン「お箸で、麺を掴んで食べるんだっけ」

ジャン 「あぁ、麺を啜るんだ」

アルミン「空気と一緒にひも状の食物を吸い込むことだね」

ジャン 「……まぁ、やってみろよ」

アルミン「……ん」

ズ、バ…ズ

アルミン「案外、難しいね。食べるだけなのに」モグモグ

ミーナ 「すぐに慣れるよ」

ジャン 「どうやって食うのも自由だけどよ、うどんはこうやって食うのが一番美味いと思う」

ミーナ 「食べるのって、口に入れて噛むだけなんだけど、食べ方で味が違うんだよね」

ジャン 「あぁ、うどんに出会うまでは、食べ方に種類があるなんて、考えもしなかった」

アルミン「この、うどんの食感、今までに食べたことが無い、何て表現すれば良いんだろう」

ミーナ 「これはね、モチモチっていうんだって」

アルミン「……モチモチ」

ミーナ 「私も、教えて貰うまで知らなかったんだけどね」

ズ・・ズズ……

アルミン(うどんを啜ると、一緒に汁が吸い込まれて、口の中で風味が霧散する。
     塩味なのに、数々の薬味を入れてあって、とても複雑な風味だ。
     そこに、うどんの食感。このモチモチは癖になる)

ザクザク

アルミン(そして、かき揚げのザクザクとした歯ごたえ、海老の香ばしさがふんわりと広がる。
     汁を吸ったかき揚げも、また美味しい。びちゃっとした舌触りだけど、決して不快ではない)

アルミン「……ん」ズズ

ジャン 「一気にズバっと食うのが男らしいぞ」ズバズバッ

アルミン「確かに、豪快な感じがするね」モグモグ

ミーナ 「別に音は無理に立てなくてもいいんだよ?」チュルチュル

アルミン「あ、そうなんだ」チュル

ミーナ 「私のお揚げと、かき揚げ半分こしよ?」

アルミン「うん、いいよ。実はさっきから気になってたんだ」

ミーナ 「はい、じゃあ器くっつけて、汁が垂れるからね」

アルミン「う、うん……」

ポタタタ

ミーナ 「あー、結構垂れちゃった」

アルミン「すごい水分を吸うんだね」

ジャン (俺も、分けられるのにすりゃ良かったかな)

ミーナ 「いきなり齧り付くと、また火傷するから、気をつけてね」

アルミン「うん、気をつける」フーフー

ハム

アルミン(じゅわっ、と汁が染み出てくる!)

ミーナ 「お揚げに染みた汁が美味しいでしょう」

アルミン「柔らかくて、じゅわっとしてて、何だろう、凄く美味しい」

ジャン 「パンとは比べものにならない、綿密な謎の物体だからな」

アルミン「本当に、綿を揚げたみたいな食べ物だね」モグモグ

アルミン(唇で挟むと、ぎゅっと汁が絞り出される。口の中で弾けるように飛沫が溢れる)

ハフハフ

アルミン(柔らかくて弾力のあるお揚げだけど、簡単に噛み切れる。
     香ばしくて、まろやかな、不思議な味だ)

ミーナ 「この汁もさ、あんまり無い味付けだよね。鶏でも無いし、豚でも無いし」

アルミン「昔読んだ本では、魚を干したものを燻製にして、煮詰めて作るって書いてあったよ」

ミーナ 「へー。お魚なのに、特有の川の臭みが無いね」

アルミン「乾燥させて、燻製にしているのと、あとはネギとか生姜で臭みを消してるみたい」

ジャン 「本当に色々知ってるな」

ミーナ 「汁作るだけなのに、手間かかってるねぇ」モグモグ

ジャン 「この間の味噌といい、まだ知らない食べ物は多いな」ズルズル

アルミン(こんどエレンとミカサも連れて来よう)チュル

チュルチュル…


ザクザク

アルミン「ふぁ!?」

ミーナ 「どうしたアルミン?」

アルミン「野菜と海老のかき揚げ、真ん中に柚子が入ってる!」

ジャン 「あぁ、いきなり柑橘の風味で驚くよな」

訂正
×→ ミーナ 「どうしたアルミン?」
○→ ミーナ 「どうしたのアルミン?」

アルミン(油っこいだけ口の中に、爽やかな柚子の香り。
     全く違う種類なのに、お互いを邪魔しあわないで共存してる)

ミーナ 「私、柚子の匂いって苦手なんだけど、ここのかき揚げだけは別だよ」

ジャン 「油、うどん、油、うどん、ときて、柚子だからな。口の中が一気にリシュレッシュする」

アルミン「僕は半分にしたけど、脂っこいのが苦手な人でも、
     ここでリフレッシュして、もう半分食べられるんだ」

ジャン 「あぁ、それだけじゃないぜ。うどんも食ってみろ」

アルミン「……ん」チュルチュル

アルミン(うどんの小麦が、しっかり感じられる。
     かき揚げの油の匂いで隠れていたのが、柚子で吹っ飛ばされたんだ!
     あぁ、モチモチの食感、ほのかに汁に染みた柚子の香り、かき揚げの油。
     この啜るという独特の食べ方といい、最大限に美味しく味わう方法が確立されている。
     うどんは、この器だけで、完成された世界なんだ!)

ジャン 「汁を飲んでも良いが、後でのどが渇くから注意しろ」

アルミン「ちょっとだけ飲んでおこうかな」

ミーナ 「備え付けの七味唐辛子をかけても美味しいよ」

アルミン「じゃあ、それもちょっとだけ」パラパラ

ズルズル

アルミン(ピリっとくる刺激! でも辛すぎないで、味覚を敏感にさせる!
     濃い味付けだから、汁も少しだけにしておこうと思ったけど、器を持ち上げる手が止まらない!
     微かに残る柚子の香り、かき揚げの油が、汁と一緒にのどに流れ込むっ!)

ゴクゴク

ハァ

アルミン(結局、全部飲んじゃった)フゥ

ジャン 「夜中、のどが渇いて目が覚めるぞ」ニヤニヤ

ミーナ 「うどん屋の通過儀礼だね」フフフ

アルミン「とっても、美味しかったよ」

ミーナ 「ミカサとエレンにも教えてあげなよ」

アルミン「うん、二人とも絶対に気に入るよ」

ジャン 「そろそろ帰るか、すいません」

店員  「はい、お待たせいたしました」ニコニコ

ミーナ 「ごちそうさまでした、いつも通り美味しかったです!」

店員  「毎度、ありがとうございます。先ほどまで、奥の席にリヴァイ兵長がいらっしゃってましたよ」

ミーナ 「あ、そうか、グンタさんが戻ってるんだから、兵長も戻ってたんだ」

ジャン 「声かけてくれりゃ良かったのに」

店員  「奥の席にご案内しようかとも申し上げたのですが、
     ご友人とご一緒なら気を使わせるから、と仰りまして」

ミーナ (……大人だ)

ジャン (……大人だ)

アルミン「あの、お会計をお願いします」

店員  「皆様の分、既に頂いております」ニコニコ

ミーナ 「へ?」

ジャン 「そんなはずは……?」

店員  「リヴァイ兵長が、自分の連れだから、と」

ミーナ (カッコイイ)
ジャン (カッコイイ)
アルミン(カッコイイ)

帰り道

ミーナ 「リヴァイ兵長にお礼言わなきゃね」

ジャン 「あぁ、明日夕市に行く前に、詰め所に寄ってみよう」

アルミン「僕は、またエレンと特訓に戻るよ。リヴァイ兵長には、こんど改めて御礼に行くね」

ミーナ 「ハンジさんと、リヴァイ兵長と、一緒にお弁当食べられるね」

ジャン 「しかし、"双頭の鷲"に勝てなければ、食べる弁当も無いぜ」

ミーナ 「双頭の…」

ジャン 「……」

ミーナ 「……ウレション」

ジャン 「……」プルプル
ミーナ 「……」プルプル


フゥ

ジャン (そういえば、確か……やってみる価値はあるか?)


(つづく)

[次回予告]
アルミンが死んだ!悲嘆に暮れる残されたエレンとミカサだったが、
夢枕に立ったアルミンに、墓前に弁当を備えることを頼まれる。
そして、アルミン最後の作戦が始まる……

エレン「………お前の作戦、確かに受け取った!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アルミン「名前は、大事だよ!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エレン「そうだったな、アルミン」

エレン「これは、オレの、親友が遺した、最後の力だ!!」

     アルレルト
エレン「"賢者の意思"ッッ!!!」

カッ

エレン『うおおぉぉぉぉお!!!』


※全て嘘です

遅くなってスミマセン。
続きは明日の予定です。

休暇日

ミーナ「休暇日ばっかりな気がするね」

ジャン「この間も、勢いで連休になったしな」

ハンジ「やあ、君達。何の話だい?」

ミーナ「あ、ハンジさん。お久しぶりです」

ジャン「取り立てて意味の無い話です。掘り下げる必要はありません」

ハンジ「そう? まぁ、詰め所に寄ってってよ。リヴァイもいるしさ」

調査兵団 詰め所

ハンジ 「リヴァイ、お客さんだよ」

リヴァイ「あ? 帰らせろ」

ジャン 「す、済みませんでした」

ミーナ 「ごめんなさい、出直します」

リヴァイ「何だ、お前らか。入って来い」

ミーナ 「いいんですか?」

ハンジ 「偉いオッサンの相手ばっかりさせられて、疲れてたんだよ。
     自分も偉いオッサンなのにね」プークスクス

リヴァイ「死ぬまで口を閉じてろ、クソメガネ」

ジャン 「はははっ……」

ミーナ 「何時も通りだね」

ミーナ 「ハンジさん、リヴァイ兵長!」

ハンジ 「うん?」

リヴァイ「……?」

ミーナ 「おかえりなさい。約束、守ってくれて、ありがとうございます」

ハンジ 「うん」

リヴァイ「ああ」

ジャン 「予定よりも大分早かったですね」

ハンジ 「今回は、ウォールマリア奪還の為の拠点作りが目的だったんだけどね」

リヴァイ「お前らも知ってるだろうが、基本的に壁外調査は蛇行しながら進行する」

ミーナ 「あー、ちょっとだけやった記憶があります」

ジャン 「確か、巨人を避けながら移動するから、とか」

リヴァイ「そうだ。今回は距離も短いから、遭遇してもタカが知れてたが、
     全く巨人に遭遇せず、ほぼ直進で行って帰ってこられた」

ハンジ 「巨人に会えない壁外調査なんてさ、何の意味も無いよ。
     馬に乗って、移動して、荷物置いて、帰ってきて、何だよ!
     巨人に会わせろよ!馬鹿にしてんのか!?」

ミーナ 「ハンジ……さん?」

リヴァイ「大分落ち着いたと思ったが、まだ荒れてるな」

ジャン 「荒れてるんですか、これは?」

リヴァイ「ほっとけ、そのうち治る」



ハンジ 「取り乱して済まなかったね」

ジャン 「いいえ」

ミーナ (今更ですし)

リヴァイ「お前ら、晩飯はこれからだな?」

ジャン 「ええ、今日も弁当を取りに行こうと思っていました」

ミーナ 「最近は、トロスト・キッチンに行ってます」

ハンジ 「もし良ければだけど、ここで一緒に食べない?」

ジャン 「ええ、それは勿論。弁当を取れればですけど」

ハンジ 「いや、そうじゃないんだ。今日はもう食べる物はあるんだよ」

ミーナ 「もうお弁当買ってきたんですか?」

ハンジ 「壁外調査時の食糧事情を解消しようという動きがあってね」

リヴァイ「今日は、その試作品が届いている。お前らの意見も聞かせろ」

ミーナ 「え、いいんですか!?」

ハンジ 「勿論だよ。良いものなら、調査兵団に限らず流布されるべきものだし」

ジャン 「壁外調査ということは、携帯食ということですか?」

ミーナ 「干し芋とか干し肉はまだマシだけど、木の実を油で固めたようなのだったら苦手だなぁ」

ハンジ 「あー、アレは美味しく無いねぇ」

リヴァイ「あんなもん出すようなら、躾が必要だ」

ミーナ 「こういうものも、技術班の方が作るんですか?」

ハンジ 「内部で造ることもあるけど、今回は民間に委託してみた」

ジャン 「民間ということは、市場ですか?」

ハンジ 「そう。君達にも馴染みのトロスト・キッチンだよ」

ミーナ 「もしかして、この間食べた"魔女の大釜"って……」

ジャン 「そう言われれば、野外向けだな……」

ハンジ 「え、何?君達もう食べたの!?」

ミーナ 「いやぁ、たまたま半額になっていたので」

ジャン 「間違いなく美味しかったですよ」

ハンジ 「えー、なんだよー驚かせようと思ってたのに」

リヴァイ「お前ら、もう帰って良いぞ」チッ

ミーナ 「そんなぁ」

ジャン (……伝統の体現者)

ハンジ 「どうせ、量は多いんだから、一緒に食べてもらおうよ」


ゴロゴロ

ジャン 「緑色の、葉っぱが巻いてある包み……?」

ミーナ 「これは何ですか?」

ハンジ 「何って、新しい携帯食さ」

ジャン 「これは、俺達が前に食べた物とは別ですね」

ハンジ 「そうなんだ、色々と試行錯誤してるんだね」

ハンジ 「まあ、そういうことなら是非、忌憚の無い意見を聞かせてくれたまえ」

ミーナ 「この葉っぱは何ですか?」

ハンジ 「笹という植物の葉っぱだね」

ミーナ 「うーん、良い香りですね」クンクン

ジャン 「この葉っぱには、意味があるんですか?」

ハンジ 「中には蒸したお米が入っているんだけど、笹には殺菌効果があるらしくて、
     最大で一ヶ月の保存が利くそうだ」

ミーナ 「この香りだけで、木の実の塊よりは上ですね」

リヴァイ「いい加減に食うぞ」

ハンジ 「はいはい、待たせてごめんね。縛ってある紐を解いて、中身を食べるんだ」

ジャン 「中身が……湿ってますね、蒸しているんですか」

ハンジ 「それも殺菌の為だそうだよ」パクッ

ミーナ 「頂きます」パクッ

ジャン 「頂きます」パクッ

リヴァイ「貰うぞ」パクッ

ミーナ 「うーん、笹の香りが中のお米にも染み込んでいて、爽やかです」

ジャン 「このお米、普通のお米じゃないですね。蒸してるからなのか、
     うどんみたいに、モチモチの食感です」

ハンジ 「お米自体に、味が付けてあるね。うっすらとだけど、ダシが利いてる」

リヴァイ「……」パクパク

ジャン 「あ、中に豚肉が入ってる。小さく刻んであって、食べやすくなってます」

ハンジ 「それに、しいたけの香りもするね、人参や筍も刻んで入っている。
     米の中に、筍のコリコリした食感があるから、食べていて飽きないよ」

ジャン 「携帯食で、これを持たせてもらえるなら、喜んで行っちゃいますよ」

リヴァイ「……」パクパク

ミーナ 「もう一個、頂きます」

ジャン 「静かだと思ったら、黙々と食ってたのか」

リヴァイ「」

ミーナ 「いいじゃない、美味しかったんだから」

ハンジ 「ははは、いいよいいよ。沢山あるから、どんどん食べて」

ジャン 「じゃあ、オレももう一つ頂きます」

リヴァイ「美味いが、同じ味ばかりだと飽きるな」パクパク

ハンジ 「そうだね、私も二つ食べたら十分だ。もう少し色んな味付けがあると」

ミーナ 「あ、これ中に餡子が入ってます」

リヴァイ「」ガタッ

ハンジ 「え、本当に? どれが餡子だろう?」

ジャン 「縛り方で分けてるみたいです。三角のが肉で、丸いのが餡子です」

ハンジ 「あ、丸いのあった、食べてみよう」

リヴァイ「おいメガネ、今すぐそれを寄越せ」

ミーナ (……伝統の体現者)


シュルシュル

パク

ハンジ 「あー、モチモチのお米と餡子がよくあうね」

ミーナ 「笹の香りとも、相性がいいですね」

リヴァイ「美味いな」パクパク

ジャン 「温かいお茶が欲しくなりますね」

ハンジ 「そういえば、あるよ。お茶も」

ミーナ 「私、入れてきますね」

コポポ

ミーナ 「わぁ、このお茶も笹の香りがする」

ハンジ 「笹の葉を、乾燥させて刻んだものらしいよ」

リヴァイ「美味いな」ズズズ

ジャン 「餡子の甘さが、お茶で流されてサッパリしますね」
ハンジ 「このお茶自体も、かすかに甘みがあるよ」

フゥ

ミーナ 「あれ? 結構食べたのに胃が軽い?」

ジャン 「そういえば俺も、満腹なのに、軽いランニングなら出来そうだ」

ハンジ 「お茶の効能かな、胃もたれや、消化促進に効果があるそうだよ」

リヴァイ「食った後、すぐに移動できる」ズズズ

ハンジ 「うん、中々よかったね。」

リヴァイ「他の班員にも食わせておけ」

ハンジ 「そうだね、概ね問題ないだろうから、採用する方向で進めておこう」

ミーナ 「美味しいものを、ご馳走様でした」

ジャン 「いつもご馳走になってばかりで、申し訳ないです」

リヴァイ「なら、たまには返してもらおうか」

ミーナ 「へ?」

リヴァイ「今回壁外調査の報告で、俺たちは数日間、内地へ行く」

ハンジ 「すぐに戻ってくるんだけどね」

リヴァイ「だが、ここへ戻る日、トロスト・キッチンに新作の弁当が出る」

ジャン 「新作、ですか?」

リヴァイ「あの店は、たまに実験的な弁当を作る」

ミーナ 「それがその日、店に出るんですね」

ハンジ 「腹を減らした餓狼なら、多少変り種でも食べるだろう。という見込みで、
     当日は、出来立てが、いきなり半額になる」

ジャン 「そんな馬鹿な」

ミーナ 「そんなの、いいんですか?」

ハンジ 「おかしいと思うだろう? おかしいんだよ、あのマッチョ」

リヴァイ「だが、そこまでする新作弁当は、必ず美味い」

ハンジ 「今までも、間違いなくそうだった」

ミーナ 「もしかして」

ジャン 「またそれを取って来いというのでは」

リヴァイ「お前ら、うどんは美味かったか?」

ミーナ (大人って)

ジャン (……汚い)

ハンジ 「それは別としても、君達は気にならないのかい? 新作弁当」

ミーナ 「それは勿論」ニヤリ

ジャン 「なります」ジュルリ

ハンジ 「じゃあ、決まりだ。頼んだよ」
ジャン 「はいっ」
ミーナ 「はいっ」

(つづく)

[次回予告]

コニーが死んだ!
そのとき、"大猪"として暴走していたサシャに異変が起こる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
サシャ「とっくにご存知なんでしょう?」

サシャ「私は、弁当を取るためにダウパー村からやってきた少数民族…」

サシャ「激しい空腹を持ちながら、穏やかな心に目覚めた伝説の狩猟民族……」

    スーパー
サシャ「超サシャ人です!」ドヤァ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※全てウソです。

短くてスミマセン。
続きは多分、明日です。

お腹一杯食べると、食物の表現に影響が出ると気づきました。

数日後

ミーナ「今日が、新作弁当の日かぁ。どんなお弁当だろうね」

ジャン「出来立てが半額だからな、色々常識外れなんじゃないか」

ミーナ「今日は、マルコは?」

ジャン「コニーと別の店に行くってよ」

ミーナ「あの二人が一緒って、珍しいね」

ジャン「他の店でも、携帯食の新作が出るって話だ」

ミーナ「え、そうなの?」

ジャン「俺たちの食った、笹の葉の携帯食の話をしたからな。二人して勇んで行った」

ミーナ「そっちも気になるね。後でコニーとマルコに話を聞いてみよう」

ジャン「それよりも、今日は絶対に新作弁当を取らなければいけない」

ミーナ「うん。ハンジさんやリヴァイ兵長も、楽しみにしてるからね」

ジャン「しかし、"双頭の鷲"も間違いなく同じものを狙ってくるはずだ」

ミーナ「何か、作戦はあるの?」

ジャン「一応、手は打ってみたが、どう転ぶかは分からない」

ミーナ「私もアニみたいに変身できればなぁ」

ジャン「無いものねだりしても、仕方ねえだろ」

ミーナ「そうなんだけどねぇ。私って、影が薄いし」

ジャン「……立体起動のコツを教えてやるよ」

ミーナ「え、何で今?」

ジャン「立体起動は、誰よりも先に巨人を討伐するのが目標だが、
    その直前までは、誰かの後ろに居たほうが良い」

ミーナ「そうか、そうだね。ありがとう」

ジャン「そろそろ行くか」

ミーナ「うん!」

夕市 トロスト・キッチン

ジャン「来てるな、"双頭の鷲"」

ミーナ「他に、アニとサシャもいる?……二つ名の無い餓狼も結構いるね」

ジャン「"家畜以下"の存在感でいい、気づかれないように、奪取すれば、勝ちだ。
    俺も、"敗北主義者"と呼ばれようが、逃げ切って弁当を取る」

ミーナ「うん、そうだね」ゴクリ


バタン

ジャン「半額神だ。弁当を3つ持ってる」

ミーナ「湯気が出てる。出来立てだね」

マッチョ「……」サササッ

ジャン「並べて、戻っていった」


バタン

ジャン「まだ、半額じゃねえな、見に行くか」

ミーナ「……うん」


ジャン「新作弁当、どんな中身なんだ?」テクテク

ミーナ「なんだか、凄く、胃が刺激される匂いが……」テクテク

ジャン(これは……?)


      カレーライス
    "エル・ドラド"


ミーナ(ついに、ルビの方が商品名になった!?)

ジャン(しかし……カレー・ライス?)

ジャン(ライスは、米のことだ。でもカレーって何だ?くっそ、中身が見えねえ!)

ミーナ(匂いだけが、強烈に自己主張してる!)

ジャン(エルドラドって、黄金郷だっけか?黄金色なのか?)

ジャン(……だが、すげぇ美味そうだ)

ミーナ「……」

ジャン「なぁ、ミーナ」

ミーナ「……どうしたの?」

ジャン「俺は、あの弁当を、逃げ切りで獲って良いのか?」

ミーナ「……ジャン」

ジャン「俺は、あの弁当を、誰かの陰に隠れて、こっそり奪取して、
    リヴァイ兵長やハンジさんと一緒に、笑って食べられるか?」

ミーナ「……私ね」

ジャン「……なんだよ」

ミーナ「あのお弁当の匂い嗅いだ瞬間、誰にも……負ける気がしなかった!」

ジャン「そうか……」

ミーナ「……うん」

ジャン「俺もだ」ハッ

ミーナ「ふふふっ」

バタン

ジャン「半額神だ」

ミーナ「手に、リボンを持って……あれは?」

ジャン「マジかよ、月桂冠だ。三つとも!」

ミーナ「本当に……?」

マッチョ神「……」ニカッ

ミーナ(満面の笑みで、こっちを見た)

ジャン(月桂冠は、自信の現れ。それだけモノだ!)

ギィ

バタン

ドドドドドドドドドド

ジャン(今までに無い緊張感!この場に居る誰もが、あの弁当の特別感を確信している!)

ペトラ「今日は、金髪のエロガキいないんだ」

ミーナ「アルミンのことですか?」

オルオ「お前らだけじゃ、勝てねえよ」

ジャン「知ってますよ!」

ジャン「サシャ!こっちに来い!」

サシャ「呼ばれて飛び出ました!」ダダダ

オルオ「104期生ってのは、どっからか沸いて出るのが得意なのか?」

              タイムボカン
ジャン「その女の二つ名は、"時限装置"です」

オルオ「あ?どういうことだ?」

ジャン「空腹が一定以上になると、"大猪"になるんですよ」

オルオ「オオジシ!?」ビクン

ジャン「今は、まだ正気を保っていますが、いつ"大猪"になるか」

サシャ「む、失礼ですね。今日は、お昼に多めにご飯食べたから大丈夫ですよ」

オルオ「オオジシ、コワイ」ビクンビクン

ペトラ「あんたは、助っ人いないの?」

ミーナ「……今日は、トイレは済ませましたか?」

ペトラ「ぶっ殺すっ!!!」

ミーナ(ひぃ怖いぃい)

「大体ね!いつの間にかリヴァイ兵長と仲良くなってるのが気に食わないのよ!」パァン!

ペトラの平手打ちが、ミーナの左頬を打つ。あまりの勢いに、顔が右にぶれる。

「そんなの、私の勝手じゃないですか!」パァン!

すかさず、ミーナが右手で平手を打ち返す。

「リヴァイ兵長は、優しいから言わないだけで、迷惑してんのよ!」パァン!

まだ頬にミーナの手が残っている間に、ペトラが叩き返す。

「そんなことないです!絶対に戻ってくるから、お弁当食べようって約束しました!」パァン!

ミーナも負けじと、左手で先ほどとは逆の頬を叩く。

「リヴァイ兵長はそんなこと言わない!」パァン!

ひたすら、同じところを叩き続けるペトラ。

「そんなにリヴァイ兵長が好きなら、告白すればいいじゃないですか!」パァン!

左の次は右、交互に頬をはたくミーナ。

「はあ!?はあああ!?はあああああ!?そんなんじゃないし!?」パァン!

スナップを利かせた右腕を振り続けるペトラ。

「自分に自信が無いのを、人のせいにしないでください!」パァン!
「何で、アンタみたいなブサイクにそんなこと言われなきゃいけないのよ!?」パァン!
「私は、美人じゃないかもしれないですけど、おしっこ漏らす人に言われたくないですよ!」パァン!
「その事に触れるんじゃないわよ!」パァン!
「人に勝手な二つ名つけておいて、随分勝手ですね!」パァン!
「ああ、分かったわ!今日、お弁当取れたら、違うの付けてあげる!」パァン!
「絶対ですよ!絶対ですからね!?」パァン!

パァン!
パァン!パァン!

ジャン(女の喧嘩、恐ぇ……)

オルオ「ふっ、よそ見している場合か?」ボスッ

ジャン「あ、後ろに"大猪"」

オルオ「何度も引っかかるかよ!」

サシャ「パァン?」

オルオ「マジダ」

ジャン「どうしたんですか!?腹の虫の加護が減ってるんじゃないですか!?」

オルオ「うるせえ!」

サシャ「パァン……」フラフラ

オルオ「まだ、暴れまわるほどじゃねえ!今のうちに潰す!」ゴスッ

サシャ「……パ」ガクン

オルオ「よし、やった!俺はやったぞ!」

ジャン「よかったですね!」バキッ

オルオ「ごふっ、このガキぃ!」ベコッ

ジャン「ガキにやられんでくださいよ!」ゲシッ

オルオ「口だけは達者だなぁ!」ビシュッ

アニ 「付き合ってらんないね」

カッ

ジャン「あの光は、変身!?」

ミーナ「ネコを呼ばれちゃう!」

アニ『ニャアアアアアアア』

ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、
ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア

ペトラ「なにこれ、ネコ?」

ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、

オルオ「ペトラ、動くな!他の餓狼がネコに襲われてる!」

ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、

ペトラ「所詮はネコよ!」

アニ 「忠告しておくけど、この猫達は訓練しているから、
    1匹につき巨人の討伐数5は軽く超えてる」

ペトラ「じょ、冗談でしょう?」ブルッ

ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、

アニ 「じゃ、弁当は貰っ」
ネコ 「ふぎゃあああああああ」タタタタッ

アニ 「あ、あれ?ネコちゃん?」

ミーナ「……ネコちゃん?」

アニ 「////」

ミーナ「可愛いねっ!」

アニ 「ちっ、覚えてな!」ネコチャーン

ジャン(何で急にネコがいなくなったんだ?)

オルオ「とんだ邪魔が入ったな!」ブン

ジャン「げふっ」

オルオ「どうした?もう終わりか?」

ジャン(何だ、何でこんなに、さっきのネコのことが気になるんだ?)

オルオ「手も足も出ないようだな!」ドスッ

ジャン(……もしかして)

ジャン「スパイスの匂いだ!」ガンッ

オルオ「じゃあな、寝てヘブ」ガチッ

ジャン(湯気の出るほど、ほかほかの弁当から、強烈なスパイスの匂いがする!)

ジャン(なんだこれ、嗅いだことねえ)

ジャン(でも、間違いなく美味そうだ)グゥ

ジャン(これだけ離れてて、こんなに匂うんだ。中はどんだけなんだよ)ギュルルル

オルオ「テメェ、よくもぉ!」

ジャン(あぁ、腹が減った!)グゥウウウ

オルオ「調子に乗るなよ訓練兵!」

ジャナ「邪魔すんじゃねえ!」ゴスン

オルオ「んなっ」ゲホッ

オルオ(コイツの力が、急激に増した!? いや、俺が舌を噛んだから、血の匂いで加護が…)

ジャン「カレーライス、獲ったぜ!」

ジャン(ミーナはどうだ?)


ミーナ「どりゃああああああ!!!!」バキィ

ペトラ「げはっ」

ミーナ「はぁ、はぁ。約束ですよ!」

ペトラ「何なの、この子!」

ミーナ「女の意地です! カレーライスは、貰いました!」

ペトラ「……はぁ。約束だからね、二つ名つけ直してあげる」ゲホッ

ミーナ「本当ですか?」

ペトラ「但し、家畜以下は譲らないわ」

ミーナ「えー」

     ラクーン
ペトラ「"洗い熊"よ。いつの間にか畑を荒らして作物を盗む害獣」

ミーナ「"あらいぐま"」

ミーナ(……まぁ、"家畜以下"よりは、可愛いかな)

オルオ「ペトラ、帰るぞ。俺もカレーライスを一つ獲った」ゲホッ

ペトラ「え、私の分がないじゃない!」

オルオ「俺のを半分やる」

ペトラ「私が先だからね!アンタの後なんて御免だから!」

調査兵団 詰め所

ジャン 「この容器、フタ越しでも香ってくる、スパイシーな匂い」

ミーナ 「一つ一つが強い匂いなのに、ここまでまとまって、
     それでも絶妙に混ざり合わずに自己主張してる」

ジャン 「はぁ、何だろう。匂いだけで、口の中の涎が止まらない」ジュルリ

リヴァイ「お前ら、冷めたら元も子もないぞ」ソワソワ

ハンジ 「今回ばかりは、茶化さないで同意するよ」ソワソワ

ジャン 「じゃあ、ふた、とります」

カパッ

スゥウウウウウウ

ジャン 「白銀の米に、黄金色の輝き!これが、カレーライス!?」

ミーナ 「ああ、この匂い!深呼吸せずには居られない!」ニヘラ

ハンジ 「何て情熱的な香りなんだ!ふた越しでも届いていた、匂いが!今!ダイレクトに!」ニヘラ

リヴァイ「いっそ、暴力的と言っても良いくらいだ」ピクピク

ジャン 「うぅ、胃が、早く食わせろって、キリキリしてる」ニヘラ

リヴァイ「お前らの弁当だ、先に食え」ソワソワ

ハンジ 「うん、それで、早く、次に食べさせてね」ソワソワ

ジャン 「は、はい。頂きます」

ミーナ 「頂きます!」

ジャン (米の上に、シチューのようなものが掛かってる。
     多分、スプーンで同時に口に入れるのが正しい食べ方だ)

パクッ

ドカン!

ジャン(今、爆発した!)

ジャン(口の中でほとばしるスパイス!強烈な香りに、鼻どころか、目からも突き抜け出ていきそうだ!

    アツアツのカレーに、ほかほかのライス!スパイスも合わさって、爆発を錯覚する!

    はぁ、沢山味わいたいのに、口の咀嚼が止まらない!飲み込みたい!喉に通したい!)

フゥ

ジャン(食べ物で、感動して涙が出たのは、初めてだ……)

ジャン(具も、食べてみよう)

ジャン(これは、ジャガイモ、人参……それに、まさか牛肉か!?)

ジャン(マジかよ、こんなでかい牛肉の塊が、ゴロっと入ってるのか?)

ジャン(いや、まて。俺は今まで、この展開に騙されて生きてきた。
    デカイ牛肉が入ってるときは、年老いた牛の肉だ。
    硬くて、筋ばかりの肉だ)

ジャン(俺は騙されない。騙されないが、覚悟した上で食う)

パクッ


フワッ

ジャン(ふわぁ!?)

ジャン(何だこれ、何だ!?何だ!?柔らかい!柔らかすぎる!ふわふわだ!

    噛み切れるなんてレベルじゃない!口に入れた瞬間、ほどける!

    それでも確かに牛肉の味だ!噛み締めるたびに、肉の味が広がる!

    あぁ、惜しい!肉の味をもっと味わいたいのに、肉が解けてなくなる!)


ハァ

ジャン 「美味かった……」

リヴァイ「もう、いいか?」

ジャン 「……はい。すげー美味いです」

リヴァイ「……」

リヴァイ「」パク

リヴァイ「!!!」

ジャン (あ、爆発してるな)フフフ

ミーナ 「……私、美味しすぎて、”どうしよう!?”って思ったの初めて」

ハンジ 「……」モグモグ

ジャン (ハンジさん、食べながら泣いてる)

ハンジ 「私が、今まで食べてきたものは何だったんだろう。
     このスパイスの嵐に巻き込まれると、全てが味気ないものに思える」

ジャン (美味すぎて鬱になる人も、はじめて見た)


リヴァイ「おい、メガネ。明日これを買い占めて来い。金はいくらでも出す」フゥ

ミーナ (大人だけの、大人気なさだ!)

ハンジ 「明日は無いよ、実験弁当だからね」

リヴァイ「使えねえ」チッ

ジャン 「絶対、これ。定番化しますよ。嘆願書を書いても良いです」

ハンジ 「あぁ、誇張じゃなく、世界が変わった」

リヴァイ「ジャン、残りはお前の分だ」

ジャン 「はい、頂きます」ゴクリ

パクッ

ジャン (スパイスの衝撃を受けた後だと、2度目はそれほど驚かない。
     じっくりと、味わうことが出来る。
     何十種類入っているか分からないスパイスの中に、何か、食べたことのある味が……)

ジャン (これは、牛肉の風味か? 濃厚な牛の脂が溶け込んで、コクがスパイスをまとめ上げている)

ジャン (それだけじゃないな。これは何だ? 上に掛かっているカレーじゃないのか?
     もしかして、ライスの方か?)

ジャン (そうだ、これはライスの味だ!)


……ハッ!

ジャン 「この米……バターが入ってます……」ガクガク

ハンジ 「じょ、冗談じゃ!す、済まされないよ!?」ガタン

リヴァイ「っ……ふざけんなっ……!」ガタン

ミーナ 「……あ、本当だ」パクッ

ジャン (濃厚なミルクをさらに凝縮したような、脂のコーティングが、米を、包み込んでる)
ジャン (甘さを感じるほどのまろやかなバターライス、その上に牛脂が溶け込んだカレー)

ドクンドクン

ジャン (やべえ、心臓が、はちきれそうだ!
     俺は、カレーライスが美味すぎて、死ぬかもしれない!)

ハンジ 「ミーナ、ごめん!一口!もう一回!」

ミーナ 「はい、どうぞ」ウフフフ

リヴァイ「……」ギロリ

ジャン (ここで差し出さなかったら、俺は殺されるかもしれない)

ジャン 「……どうぞ」

リヴァイ「ああ」パクッ

ハンジ 「本当だ、カレーのスパイスが強烈過ぎて気づかなかった」

リヴァイ「かなり、たっぷりとバターが溶け込んでいるな」

ミーナ 「はぁ……もう、ため息しかでない」

ジャン (カレーとライスが、とろけて一体化する。

     飛び上がるほどスパイシーで、それでいてまろやかだ。

     相反するような二つの特性が、矛盾せずに共存している。

     これが、奇跡で無いなら何だ。これがカレーライスか!)

ジャン (この赤いのは…?)

ポリッ

ジャン (酸っぱい!けど、ちょっと甘みもある。付け合せのピクルスみたいなもんか?
     ポリポリした食感がたまらない。これ単体でも食べられそうだ)

ジャン (あぁ、美味い。カレーにも良く合っている。酢のシンプルさが、
     複雑なスパイスに対抗せずに、口の中をリセットさせる)

ハフゥ

ジャン (美味かった。心の底から、そう思う。
     辛くて美味かった。水を飲もう)


ゴクリ

ジャン (水が……甘い!)ハッ

ジャン (スパイスで舌が痺れているから、無味無臭の水が、甘く感じるんだ)

ジャン (この水は、間違いなく、カレーを完成させる、最後の一品だ)

ジャン 「ごちそうさまでした」

ミーナ 「私、生まれて来て良かったです」グスン

ハンジ 「私もだよ」

リヴァイ「あのマッチョ、頭はおかしいのに、作るものは確かだな」

ジャン 「俺、定番化するように、マッチョ神に直談判してきてます」

ハンジ 「あぁ、私達は、そのうちにまた壁外調査に行く」

リヴァイ「戻ってきたときに、このカレーが食べられるようにしておけ」

ミーナ 「はい、私も食べたいですから、がんばります」

ハンジ 「期待してるよ」

ハンジ 「さあ、もう戻らないと消灯に間に合わないよ」

リヴァイ「また、弁当を獲ったら来い」

ミーナ 「はい、おやすみなさい」

ジャン 「失礼します」

帰り道

ミーナ 「カレー、美味しかったね!」

ジャン 「あぁ、美味かった」

ミーナ 「みんなにも食べさせてあげたいね!」

ジャン 「明日にでも、マッチョ神に頼みに行くか」

ミーナ 「私もいくよ!」

ジャン 「弁当も獲ってこよう」

ミーナ 「うん!そしたら、またみんなで食べようね!」

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ペトラ・ラル
 カレーライスの、あまりの美味さに失禁しそうになるが、何とか堪える。

オルオ・オザド
 自身が食べた後の、2回目のカレーをペトラに薦めるが、拒否される。
 しかし、カレーの誘惑に負け、ペトラ屈辱の間接キス。

-------------------------------------------------
アニ・レオンハート
 しばらく、ネコが寄ってくれなくなった。

サシャ・ブラウス
 目が覚めたら、誰もしなくて少し寂しい思いをするが、
 ポケットに笹にくるまれたオニギリが入っていたので、
 誰かに感謝しながら食べる。

アルミン・アルレルト
 最近よく、エレンとミカサと一緒に、うどん屋に行く。

-------------------------------------------------
マルコ・ボット
 コニーと一緒に無事に新作携帯食を入手する。

コニー・スプリンガー
 新作携帯食は、束ねた藁の中に、腐った大豆が入っているもので、
 その匂いに、マルコと共に悶絶。

-------------------------------------------------
ジャン・キルシュタイン
 もう"敗北主義者"と呼ぶものは居ない。
 正式な二つ名が付く日も近いのでは、との声も多い。

-------------------------------------------------
ミーナ・カロライナ
 人の生まれた理由は、誰にも分からない。
 けれどきっと、皆で笑いながら毎日の夕食を食べて、
 凄く楽しかったのは覚えているのだけれど、
 後から思い出しても、何で笑ってたのか思い出せないような、
 そんな何気ない瞬間の為に、自分は生まれたのではないかと、彼女は思う。

-------------------------------------------------
(おわり)

前回、書き忘れたから、書いておきます。

 スーパーダッシュ文庫刊 アサウラ先生 著作
 ベン・トー 1~10巻 大好評発売中

>>1です。
少し雑談させてください。

前回含めて、一番美味しそうだった(食べてみたい)ものがあれば、
今後の参考までに、教えてもらえませんか。

本編のカレーの付け合せって福神漬け?
たまに少しだけ欲しくなるんだよね、あれ

>>357
福神漬けのつもりでした。
個人的にはココイチの福神漬けが好きです。

何度もid変わってますが、>>1です。

皆さん、ご意見ありがとうございました。
何時になるか分かりませんが、続きがあれば反映させていただきます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2019年04月04日 (木) 12:00:29   ID: KgVnA7Gi

サシャ「カツ・ドン?」http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=22106

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