弥子「学習塾?」 (26)

弥子「そんな場所聞いたことないけど・・・そこがどうかしたのー?」フンフフーン

ネウロ「ハエの分際で今日は随分とご機嫌ではないか。犬の糞でも見つけたか?」ピン

弥子「私そんなものにたからないし、っと・・・何これ、封筒?」

ネウロ「今朝方仕事の依頼が事務所に届けられたのだ。ご丁寧に匿名でな」

弥子「中身は手紙か・・・えっと何々『カツラギヤコ、アスノヨルマデニガクシュウジュクヘコイ。デナケレバキサマノイノチハナイ』
うわ悪質ないたずら・・・って仕事関係ないじゃん!」

ネウロ「鈍い雑巾め。その紙切れに宿った謎の気配がわからんのか」

弥子「いやいや、私そんなもの感知できないし・・・ってことはもしかして!?」

ネウロ「すぐに出るぞ。2秒で支度しろ」

弥子「ちょ、ちょっと!私これからミスドの100円セールに――」

ネウロ「さぁ行きましょう先生」ガシッ

弥子「いやあぁぁぁぁぁぁ!」


強引なネウロに連れ出され、いつもの様に事件へと向かう私。
きっといつも通りこの魔人はあっさりと事件を解決して魔力で腹を満たすのだろう。
そう、心のどこかで安心していた。
今回私達が相手にする『鬼』が抱える闇の深さも知らずに。

ハートアンダーブレード「ほぅ。それで結局儂の体を取り返すのには失敗したということか?」

阿良々木「あぁ。ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッター。僕にあの3人を同時に相手にするのは無理だ。さっきだって忍野が助けてくれなきゃ多分殺されてたしな」

忍野「助けてないよ。阿良々木君が勝手に助かっただけ」ゴロン

阿良々木「・・・・まぁともかく、このままじゃお前の体を取り返して力を戻すこともできないし、お前に血をやって吸血鬼になっちまった僕も人間には戻れない」

ハートアンダーブレード「ふむぅ。一人一人にバラけさせてしまえば勝機もあるんじゃが・・・待つしかないのかのう」

阿良々木「そんな悠長なことしてるとこんな学習塾の廃墟、すぐ見つかっちゃうんじゃないか?」

忍野「あぁ、それについては大丈夫。僕が結界を張っといたから。奴らは入ってこれないし見つけられない」ゴロゴロ

阿良々木「結界ってお前・・・今は机の上でゴロゴロしてるだけの小汚いおっさんにしか見えないのに・・・一体何者なんだ?」

忍野「ひどいなぁ阿良々木君。でもそうだね、僕は君達の敵でも味方でもないし君達を助けるつもりもないよ」

阿良々木「じゃあなんで結界を張ったり、あの3人から僕を守ったりしたんだよ?」

忍野「僕はね、バランスを取りたいんだ。それが仕事でもあるしね」

阿良々木「バランス?」


忍野「そう。こちらとあちらの橋渡し。だから3人相手に勝ち目がないっていう問題もなんとかしてあげられるかもしれないね」

阿良々木「なにが『だから』なのかはわからないけど・・・できるのか?」

忍野「はっはー、僕の役目は交渉人だからさ。とりあえずは――おっと」ピク

阿良々木「どうした忍野?突然変な体制で固まって」

忍野「んー、別に大した問題じゃないよ」

阿良々木「なんだよ、何か問題が発生しちゃったのかと思っただろ。足でも吊ったのか?」ハハ

忍野「いや、結界が破られた」

阿良々木「大問題じゃないか!!」

忍野「おいおい僕の足が無事だったんだからこれもひとつのハッピーエンドだろう」

阿良々木「お前の足よりも僕にとっては結界のほうが死活問題なんだよ!どうすんだ忍野、このままじゃ僕達全員デッドエンドだぞ!」

忍野「元気いいなぁ阿良々木君。何かいいことでもあったのかい?それに安心しなよ、入ってきたのは奴らじゃないみたいだ」

阿良々木「え?普通の人間なら結界を破れるのか?」

忍野「いや、異邦人はもちろん地元の人間でも無理だろうね。ここを見つけられるのは洒落にならない程の土地勘がある奴か、あるいは――」チラッ

ハートアンダーブレード「・・・・」

忍野「そんな結界なんて力でねじ伏せてしまう魔人のような奴かな」

弥子「ハァ、やっとついたー。変だね、地図じゃそんなに離れてないはずなのに・・・」

ネウロ「フン、何やら小細工が仕掛けられていたようだが・・・まぁいい。それでこそ『謎』の喰いがいがあるというものだ」

弥子「それに塾って言ったって見るからに廃墟だし怪しさ満点だよ・・・もう帰らない?」

ネウロ「漂う瘴気も実に我輩好み・・・この一件にカタがついたらこの廃墟に新たな事務所を構えるのも悪くない」

弥子「聞いてないし・・・で、恐ろしい事言ってないでこれからどうすんの?」

ネウロ「決まっているだろう。突入だ」ガシッ

弥子「いや、それはいいけど何でいちいち私の頭をつかんで・・・いやぁぁぁぁぁぁ!!」

阿良々木「ねじ伏せるって・・・そんなヤバイ奴ならどの道僕らは――」

ネウロ「失礼します」ブンッ

阿良々木「ヘブチッ!」ドサッ

ネウロ「こちら、学習塾と聞いたのですがよろしかったでしょうか?」

忍野「そうだよ。今は廃墟だけどね」

阿良々木「・・・ったく、突然なんだよあんたら」

弥子「そうだよネウロ!常識を持ってここはちゃんとわけを話さないと!」

阿良々木「出会い頭に僕へのフライングクロスチョップをお見舞いしてきたお前に常識を語る資格はない!」

弥子「おっしゃるとおりです・・・」

ネウロ「これはこれは、大変失礼しました。私は桂木弥子探偵事務所で助手を務めさせていただかせております、脳噛ネウロという者です」ペコ

ネウロ「そしてこちらにおられるのが探偵、桂木弥子先生でございます。どうですか?この凛々しいお顔、見覚えはありませんか?」ギュウウゥ

阿良々木「いや、あんたの掌で顔が圧迫されすぎて判別できないんだが」

忍野「桂木弥子・・・歌姫アヤ・エイジア、電人HAL事件を始めとした様々な難事件を解決しているっていう女子高生探偵だね」

阿良々木「ふーん。詳しいな忍野」

忍野「僕くらいの年の人間はみんな女子高生の話題には目がないのさ。ていうか阿良々木くん、君が知らないことのほうが驚きだよ」

阿良々木「フン、僕はあまり世俗には関わらないんだ」

弥子「中二病、ってやつですか?」

阿良々木「うるせぇ。でその有名な探偵様がこんな廃墟に何の用だ」

ネウロ「先生としてもこの様に薄気味悪い場所からは一秒でも早く立ち去りたいのですが、こんな物が事務所に届いていたのです」ペラ

阿良々木「『カツラギヤコ、アスノヨルマデニガクシュウジュクヘコイ。デナケレバキサマノイノチハナイ』か・・・随分安っぽい脅迫状だな」

ネウロ「性質の悪い悪戯だとは思いますが、何分先生は血の気の盛んなお方。『俺様にこんな舐めたマネをするような奴はミンチにして腹に収めてやらねぇと気がすまねぇ』と今朝から怒り狂っておりまして・・・」

阿良々木「随分、アグレッシブなんだな・・・」

弥子「私そんなこと一言も言ってなモガッ!」

ネウロ「そしてやって来てみれば皆様何か取り込んでおられるご様子で。察するにただならぬ事件なのでは?」

阿良々木「・・・・・」

忍野「・・・・・」

ハートアンダーブレード「・・・・・」

ネウロ「ここで巡り合ったのも何かの縁。どうでしょうその事件、我々にもお聞かせ願えませんか?」ニヤッ

阿良々木「・・・ダメだ。あんた達は帰ってくれ。ここには殺人だとか、誘拐だとかそういった類の事件はない」

ハートアンダーブレード「儂の手足は誘拐されとるがの」

阿良々木「バカっ!余計なこと言うなキスショット!」

ネウロ「ほほぅ。それは穏やかな話ではないですねぇ」

阿良々木「・・・っ」

忍野「いいんじゃない、別に話しても」ゴロン

阿良々木「忍野・・・?あといい加減机の上で寝転がるのやめろよ」

忍野「実際、事件も起きてるわけだし解決しなきゃいけない問題もあるんだ。その点彼女達は協力を申し出てくれているんだから都合がいいじゃないか」

弥子(私はまだ何も言ってないけど・・・)

阿良々木「だからってこんな普通の女子高生じゃ・・・・!」

忍野「おいおい彼女達は僕の丹精こめて作った結界を突破してるんだ。もう十分普通じゃないよ。君と同じようにね」

阿良々木「・・・・」

ネウロ「えぇ、お望みとあらばさらに何かご覧に入れましょうか?」

弥子(ちょ、ちょっと!勝手に何させるつもり!?)ヒソヒソ

ネウロ(心配するな。貴様の目からレーザー光線を発射して山一つ消し飛ばして見せるだけだ)

弥子(お断りだよ!!)

阿良々木「・・・いいよ。忍野がそう言うなら勝手にすればいい」

忍野「はっはー、アリガト阿良々木くん」

阿良々木「まったく、交渉人って言うから僕はてっきりあの3人に話をつけてくれるのかと思ったぜ」

忍野「うん。まぁそういうのもありだったんだけど今回は交渉する相手がちょっと違うみたいだね」

阿良々木「・・・・?」

ネウロ「話は纏まりましたか?それではお聞かせ願います。この事件の発端を――」

かくかくしかじか、で伝わるような世界ではないので僕は今までのあらすじというやつを端から端までかいつまんで説明した。
三日前の夜にキスショットが道端で死にかけていたこと、僕がそこでキスショットに血をやり助けたことでキスショットの従僕となり吸血鬼化してしまったこと。
元に戻るためにキスショットから両手両足を奪ったドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターという吸血鬼ハンターの3人から体を取り戻さなければいけないこと。
当然余計な部分は省略した。例えをあげるならばあの夜にキスショットと出会うことになった理由とか。


僕がたどたどしい口調で必死に説明していると板チョコという名のお菓子を噛み砕きながら適当に相槌を打つだけの探偵・桂木とは対照的に
助手の脳噛という男はどこか不気味な笑みを浮かべながら興味深げに僕の話に耳を傾けていた。

もしかすると桂木は後でもう一度事件の概要をあの不気味な助手に説明でもさせるのかもしれない。
女子高生探偵なんておかしな肩書きを持つ奴は事件に対する構え方もおかしなものだった。

ところで、何故僕が一見真面目な青年にしか見えないあの助手を名乗る男を警戒しているのかというと具体的な理由はあまり言葉では表せない。
なんというか、纏っているものが妙なのだ。空気というか見えない力というか。
人間だった頃の僕ならば何も感じなかったのかもしれないが、その肩書きを捨てた今の僕にはそういったものが感じ取れるのかもしれない。

ハートアンダーブレード「魔力じゃろ、それは」

阿良々木「魔力?もしかして、あいつらも怪異とかいう化け物なのか?」

忍野「いやぁちょっと違う。それに男のほうはともかくとして探偵ちゃんのほうは普通じゃないけどれっきとした人間だよ。君と同じようにね」

阿良々木「・・・・」

ハートアンダーブレード「まぁ奴がなんであろうと今は問題ではない。それに儂はもう眠い。寝るぞ」ゴロン

阿良々木「あぁ、吸血鬼は夜寝るんだったな・・・じゃあ僕も寝ようかな」ゴロ


机でできた簡易ベッドの上で横になりながら、僕は先ほどの探偵たちとのやりとりを回想することにした。

昼じゃね

>>21 その通りだわ、ありがとう


弥子「へぇー、吸血鬼なんてホントにいたんだねー」

阿良々木「なんだ、あんまり驚かないんだな」

弥子「え?いやぁ!あはは、私ってば顔に出ないタイプだから!」

弥子(魔人だの怪物強盗だの新しい血族だのを見てきたからすっかりそういう耐性ついちゃったよ・・・!やばいやばい)

ネウロ「なるほど。それであなた方はその3人への対応に困り果てていたというわけですね」

弥子(だいたい魔人にいたってはすぐ隣にいるし・・・・)

阿良々木「これでわかっただろ。ここにはあんたらの求めてるような事件はない」

ネウロ「いえいえ!たとえ手に余る事件であろうとも困っている人を見過ごせないのが先生の性分でして!ねぇ先生?」ギリギリ

弥子「はい・・・そうでふ・・・」

ネウロ「それに、先生にあのような手紙を送りつけた人間を見つけ出さなければ先生も腹の虫が納まらないというやつです」チラッ

忍野「・・・・」

ネウロ「とりあえず今は時間も時間なので我々は一旦帰りますが明日の晩またお邪魔させていただきます。ご心配なさらずともこの事件必ずや先生が解決してご覧に入れましょう」

弥子「ねぇネウロ」トコトコ

ネウロ「なんだヤコ」

弥子「ドラム缶見ながら返事すんな!・・・吸血鬼の話なんだけどさ」

ネウロ「フム、まさか我輩もこんな片田舎で見れるとは思ってはいなかった」

弥子「あれも魔人なの?」

ネウロ「いや・・・毎日毎日懸命に生きている我輩のような魔人と違って、怪異と呼ばれるアレは死んでいるのか生きているのかさえ曖昧な存在だ。どこにでもいてどこにもいない地上にもいる魔界にもいる」

ネウロ「中でも吸血鬼とは珍しい。我輩でさえもまだ数えるほどしか見たことがない怪異の王と呼ばれるような存在だ」

弥子「ふーん」

ネウロ「人が至極丁寧に説明してやっているというのに何だその薄いリアクションは。貴様のそのゆるい脳味噌の変わりにニンニクをその頭蓋に詰め込むぞ」

弥子「死ぬわ!いやなんだか王って呼ばれるほど凄い存在なのにさ」

ネウロ「?」

弥子「ちょっと、寂しそうな顔してたなって」

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