勇者「天国に一番近い勇者」 (835)

勇者「……zzZ」


勇者「……zzZ」


勇者「!」パチッ


勇者「……12時か」


勇者「……腹、減ったな。そろそろ起きようかな?」


勇者「……」


勇者「……いいや。二度寝しよっと」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399317683

ーーーーー


道具屋の娘「あっ、勇者さんいらっしゃいっ!」

勇者「……カップラーメン、一つ下さい」

娘「毎日毎日、カップラーメンじゃ栄養偏りますよ!」クスクス

勇者「……大丈夫です。自分、若いんで」

娘「あっ、そうだっ!南の海に大きなモンスターが現れたらしくてですね」

勇者「……はぁ」

娘「そのモンスターのお肉がとっっっっっても美味しいらしんですって!?」

勇者「……ふ?ん」

娘「栄養も豊富らしいようで、勇者さんも一度行ってみたらどうで……」

勇者「あの、そういうのいいから、早くカップラーメン下さい。腹減ってるんですよ」

娘「あっ……!申し訳ありません……」アセアセ

勇者「……ったく、面倒臭ぇなぁ」

勇者「カップラーメンぐらい、ちゃっちゃと売れっての」

勇者「……」

勇者「……う?ん、肉かぁ」

勇者「……」

勇者「……いや、いいや。どうせ勝てねぇし」

勇者「早く帰ってカップラーメン食おっと」


名称:カップラーメン醤油味

原材料:国内産

内容量:128g

保存方法:直射日光を避けて、湿気の少ない場所で保存して下さい

販売者:株式会社 ファイナルクエスト 都街1ー10ー3

その他:お前の人生それでいいのか?

男「号外?!号外?!」

勇者「……んっ?」

男「あっ!勇者ちゃんじゃねぇか?」

勇者「……どうしたの?ビラなんか配って」

男「それがよ、大事件なんだ!南の海のモンスターいるだろ?」

勇者「……あぁ、道具屋で聞いたけど」

男「あのモンスターがよ、大量に仲間を連れてやって来たんだ!」

勇者「……へぇ?」

あっ、なんか化けてる……
やべぇな……よく使う記号なのに困ったもんだ

男「そのせいで冒険者達は全滅っ!大惨事だ!」

勇者「へぇー」

男「それで、緊急でモンスター討伐の招集がかかってるってわけだっ!」

勇者「……」

男「勇者ちゃんも、手助けに行ってくれよ!やられた冒険者の中に俺っちの友達もいるんだよ!」

勇者「……えっ?」

男「なぁ、頼むよ!敵討ちしてくれよ!詳しい事はそのチラシに書いてあるからよ!」

勇者「……はぁ、どうも」オドオド

ーーーーー


勇者「……ふーん、モンスターねぇ?」

勇者「……」

勇者「男さんの友人もやられたんだ……可哀想だな……」

勇者「……」

勇者「……まぁ、俺には関係ねぇか」

勇者「俺も怪我すんの嫌だし、それに俺がやらなくても誰かがやるだろ」

勇者「……」

勇者「……腹減ったな。帰ってカップラーメン食うか」ポイッ

『緊急告知!モンスター討伐部隊募集!』


我々に恵みのある食糧を提供してくれている冒険者達に大惨事が起きた

今、我々の新たな主食になろとしているモンスター『お前の人生それでいいのか?』が大群を連れてやってきたのだ

確かに、彼等の生体地に踏み込んだのは我 お 前 の 人 生 そ れ で い い の か ? である

しかし、魔族の侵略が及んお 前 の 人生 そ れ でい いいのか ?しか方法がないのだ

勇気お前の人生それでいいのか?お前の人生それでいいのか?冒険者お前の人生それでいいのか?

お前の人生それでいいのか?お前の人生それでいいのか?お前の人生それでいいのか?

お 前 の 人 生 そ れ で い い の か ?

尚、負傷した冒険お前の人生それでいいのか?も募集している

勇者「……あ~、もう二時半か~」

「あの~?」

勇者「ちょっと、寝すぎたな……頭痛ぇわこれ……」

「あの~?そこの貴方?」

勇者「あ~、ボーっとする……」

「あの~、もしもし~?聞いてますか~?」

勇者「……ん?」

男「どうも、私、こういう者です」ニコッ






天使
天童 世死見





勇者「あっ、名刺ですか……えっと、テンドウヨシミさん……?読み方合ってます、コレ?」

天童「はいっ!世の死を見る、天の童でテンドウヨシミです!」

勇者「……なぁ~んか、演歌歌手にそんな人いたような気がするんだけどなぁ」

天童「本日から貴方の天使となりました!これから、よろしくお願いしますっ!」

勇者「はぁ……?私の天使に……って、えっ?どういう事?」

天童「まぁ、ぶっちゃけ、担当なだけだから、お前専属って訳じゃないんだけどね?」

勇者「はぁ?」

天童「まぁさ、立ち話もなんだからさ?酒場でも行って話そうよ?おごってよ、ねっ、ねっ?」

勇者(なんだコイツ)

天童「ねっ、ねっ?早く酒場行こうよ?僕、お酒大好きな~んだ!」グイグイ

勇者「いやっ……!ちょっと……!ちょっと、待って、テンドウ……さん……?」

天童「どうしたっ!早く行かなきゃ酒場が逃げてしまうばいっ!」

勇者「いやいやいや……酒場は逃げない逃げない……え~っと……あなたご職業は……?」

天童「だから、名刺に書いとるでしょうが!天使の天童世死見ばい!」

勇者「ちょっと、その職業どういったものかよくわからないんですけど……お聞かせ願えます……?」

天童「なるほど!」

天童「では、お話しましょうっ!」

勇者「あっ……はい、よろしくお願いします……」

天童「人間というものは日々精進し、毎日全力で生きていくという生物ですっ!」

勇者「……はぁ」

天童「ましてや、この混沌とした世の中では当然の事です!一歩外に踏み出せば、南から魔物の脅威が、北から……」

勇者「……あの~、長くなりそうなんで、端折ってもらってもいいですかね?」

天童「……なんだよ、気分良く話してたのによォ~」

天童「まぁ、簡単にいうと……さ……?」

勇者「はぁ」

天童「お前、毎日毎日ぐーたらぐーたら、引きこもってるだろ?」

勇者「……うるせぇな」

天童「だから、こんな奴、生かしておいてもしょうがねぇって決めちゃったんだよね?」

勇者「……誰が?」

天童「神様だよ」

勇者「……神様が?」

天童「そうだよ、神様だよ」

勇者「……あんたが決めたんじゃないんだ」

天童「俺は天使だからよォ~、そんな決定権ねぇよ。決めたのは神様だよ、神様」

勇者「……俺、死ぬんだ?」

天童「うん。神様が決めちゃったからね」

勇者「ふ?ん……」

天童「あっ!お前、信じてねぇな!?本当に死んじまうんだぞ!?」

勇者「はいはい……信じてます信じてますよ」

天童「カァ~っ!そのバカにしたトーンっ!たまら~んっ!もう、たまらんっ!」

勇者「で、俺、いつ死ぬの?」

天童「え~っとね……ちょっと待っててね、手帳見るから……」ピラピラ

勇者「……何で天使が手帳持ってるんだよ」

天童「あっ、本日20時ですね」

勇者「wwwww」

天童「wwwww」

勇者「フハハwww俺、八時に死ぬんだ?wwwww」

天童「うんうんwww残念だけどねwww神様が決めちゃったからねwwwww」

勇者「神様って、きっついんだねぇwwwww」

天童「うんうんwwwやっぱり毎日毎日引きこもってるのはよくないからねwwwww」

勇者「フハハwww後、五時間半?wwwww」

天童「うんうんwww後、五時間半wwwww」

勇者「wwwww」

天童「wwwww」


勇者「バァァァァアアアーーーーカッ!!」

天童「!」

勇者「ふざけんじゃねぇ!お前、頭おかしい人だろっ!?」

天童「あっ!信じてねぇなてめぇ!」

勇者「そんなもんなぁ、いきなり見ず知らずの男が目の前に現れてよォ!」

天童「うるせぇな!こっちも仕事なんだよ!」

勇者「私はァ~、あなたのォ~、天使ィ~、ですゥ~」

天童「おい、そのバカにしたトーンやめろ」

勇者「貴方はァ~、後五時間半でェ~、死にますゥ~」

天童「だからバカにしたトーンやめろって」

勇者「こ~~~んな話、どうやって信じろっていうんだよ!バカか?お前、バカか!?」

天童「しょうがねぇだろ!こっちだって仕事でやってんだからよォ~!」

勇者「……あっ、わかった」

天童「……ん?」

勇者「コレ、宗教の勧誘だな?」

天童「違うって!お前、本当に死んじゃうんだぞ?いいのか!?お前の人生それでいいのか!?」

勇者「いえいえ、大丈夫です。私、そういうのは間に合ってますんで」

天童「だから、宗教じゃねぇっての!」

勇者「いえいえ、結構です結構です。私、これから私用がありますので……」

天童「引き篭もりのお前に用事なんてあるわけねぇだろが!」

勇者「そういうのは他の方を当たって下さい~。それでは、また~」

天童「おいっ!待てよっ!他の方って、お前みたいなクズ人間そうそういねぇよ!」

ーーーーー


勇者「……ったく、なんだよアイツ。おっかねぇよ」

勇者「追ってきてねぇだろな?気持ち悪ぃ……」キョロキョロ

勇者「……え~っと、俺は今日の8時に死ぬ?」

勇者「………」

勇者「フハハwww」

勇者「あるわけねぇよ、あるわけない」

勇者「……腹減ったし、帰ってカップラーメン食うか」グゥー

ーーーーー


勇者「……ただいま~」ガチャ

天童「おかえり」

勇者「何でお前がここにいるんだよ!?」

天童「お前が説明の途中で逃げたからだろが!」

勇者「お前、これ不法侵入だぞ、不法侵入!」

天童「うるせぇ!俺だって、好き好んでやってるわけじゃねぇよ!」

勇者「警備隊呼ばなきゃ……警備隊に連絡、連絡っと……」

天童「警備隊さん達は、街の警護の仕事が忙しいんだよ!くだらねぇ、手間かけさすんじゃねぇよ!」

勇者「だったら、とっとと出ていけよ!」

天童「……てめぇで追い出してみろよ?」ニヤニヤ

勇者「……はぁ?」

天童「勇者なんだろ?てめぇの力で追い出してみろよ?ほれ、カマンカマーン」クイクイ

勇者「……」

天童「ほれ、かかってこいよ?」

勇者「……」

天童「カマンカマーン、こっちは丸腰だぜ?」

勇者「……」

天童「勇者なんだろ?強さを見せてみろよ」

勇者「……いや、そういうのいいから」

天童「ヘイヘイ、チキンボーイ。カマンカマーン!」クイクイ

勇者「……いや、いいから出ていけよ」

天童「……」

勇者「……」

天童「……」ハァー

天童「いつからだろなぁ、お前がそんなに臆病になっちまったのは」

勇者「……」

天童「生まれた時から……?いや、違うっ!19XX年X月X日、産声をあげたお前は、未熟児だったにもかかわらず、この世の中を戦って戦って、がむしゃらに生き抜いてやろうという決意があったはずだ!」

勇者「……えっ?」

天童「では、いつ臆病になったか。幼少期……?いや、これも違うっ!」

勇者「……」

天童「幼少期のお前は6歳という若さにも関わらず、父親のような偉大な勇者になるべく、毎日毎日姉と修行に励んでいたはずだっ!」

勇者「……お前、なんで知ってんだ?」

天童「転機はそう!お前が10歳の時!」

勇者「!」

天童「お前の父が倒したはずの魔王が復活!そして討伐に行った父親も帰らぬ人となる!」

勇者「……」

天童「父親を失った事と周囲からの期待がお前を押し潰す!」

勇者「……」

天童「勇者の息子なんだからきっと大丈夫、きっとお前が魔王を倒してくれるという周囲の期待」

勇者「……ぐっ」

天童「それに追い打ちをかけるような、母親からの期待。毎日毎日、あなたも父さんのような立派な勇者になれると声をかけられ、お前の心の休まる場所はなくなってしまった!」

勇者「……」

天童「ちょっぴり同情!お前はそこで足踏みをしてしまう」

天童「次第にお前を追い抜いて行く周囲の人間」

勇者「……もういいから」

天童「それに追い打ちをかけるように、周囲からの冷ややかな声!」

勇者「……もういいから!」

天童「あの子は勇者なのにどうして引き篭ってるのかしら?毎日の様に繰り返される言葉!」

勇者「もういいから!」

天童「しかし、その一方、『勇者のあの子が動いたら世界はよくなるはず』という期待の声もある」

勇者「……ぐっ」

天童「そのジレンマで動けず、毎日毎日引き篭ってる勇者君よ……」

勇者「……なんだよ」

天童「お前の人生それでいいのか?」

勇者「!」

天童「……おっ?ピーンときたようだな、なっ?これで俺が天使だってわかっただろ?」

勇者「……確かに、ここまで俺の過去を知ってるのはこの辺の街にはいないはずだ」

天童「いや、違う違うっ!」

勇者「……えっ?」

天童「『お前の人生それでいいのか?』って台詞だよ!」

勇者「へ……?何、それ……?」

天童「バ、バカ野郎っ!カップラーメンにチラシ!散々、警告してきただろが!」

勇者「カップラーメン……?チラシ……?なんだそりゃ……?」

天童「バ、バカっ!あれ、結構経費かかったんだぞ!カァ~!もう鈍感~!たまらん、たまらんっ!」

勇者「?」

天童「でも、まぁ、これで俺が天使だって信じてくれただろ?」

勇者「う~ん……まぁ、半信半疑だけど……」

天童「なんだと、てめコノヤロ!だったらてめぇの痛い過去もっと言ってやろうか!?傷、エグり出してやろうか、オイ!?」

勇者「いや、ゴメンゴメン……それはやめて……あっ、でもさぁ……?」

天童「ん、どうした?」

勇者「あんたは、わざわざ俺が八時に死ぬって事だけを伝えに来たの?」

天童「!」

勇者「そんな手間隙かかる事してさぁ?俺、よくわかんないんだけど、天界のシステム大丈夫なの、それ?」

天童「違っ……!それはっ……!」アセアセ

勇者「こんな俺の素性まで調べてさ、わざわざこれだけって、神様も手間隙かけすぎだよ。きっと経営能力は三流だね」

天童「バカっ……!お前、神様にそんな事言ったら罰当たるぞ!それに、説明は途中だっての!」

勇者「……へ?」

天童「お前が説明の途中で逃げ出したからだろが!いいか、説明するぞ?」

勇者「お、おう……」

天童「コホン……人間というものは日々精進し、毎日全力で生きていくという生物ですっ!」

勇者「そこから!?」

天童「ましてや、この混沌とした世の中では当然の事です!一歩外に踏み出せば、南から魔物の脅威が、北から……」

勇者「いやいや!もういいから!簡潔に話してよ簡潔に!」

天童「そして、東に年老いた戦士がいれば、その者を……」クドクド

勇者「……」

天童「西に道を踏み外した盗賊がいればその者を……」クドクド

勇者(……長ぇな)

ーーーーー


天童「……という事で、そんな君を生かしておいても仕方がないと神様が決めてしまったのです」クドクド

勇者「はいはい、神様神様」

天童「だが、しかぁ~し!!」

勇者「!」

天童「本来の君は、もっとやる気に満ち溢れた、素晴らし~い人間なのかもしれない……」

勇者「ほぅほぅ」

天童「そこで、天からの『命題』で君のやる気を確かめてみようという話なのです!」

勇者「『命題』?なんだそりゃ?」

天童「そう……これは君に残されたルァーストチャァーンスっ!なのかもしれない……」

勇者「……まぁ、とにかく、その『命題』ってヤツをクリアすれば俺は生き続けられるんだな?」

天童「うん、そうだよー」

勇者「……で、命題って何だよ?」

天童「はい、これー」ガサゴソ

勇者「……この中にその命題が入ってるの?」

天童「うん、そうだよー」

勇者「……なんでこんな封筒に命題が入ってんだよ。あんたが入れたに決まってんだろ」

天童「バ、バカ野郎っ!神様に怒られんぞてめぇ!」

勇者「……はいはい、え~っと、なになに」ガサゴソ

天童「ねぇねぇ、なんて書いてあるの?なんて書いてあるの?」ヒョコ

勇者「……うるせぇな、近ぇよ、うぜぇよ」






勇者
X月X日 午後8時までに

引き篭もりをやめなければ即・死亡!






勇者「……なんだこれ?」

天童「ふ?む……『引き篭もりをやめなければ即・死亡』か……」

勇者「引き篭もりをやめる事と、死ぬ事って関係あるのか……?」

天童「よしっ、勇者!外出るぞ、外!」グイグイ

勇者「お、おいっ……!引っ張んなって!」

天童「バカ野郎っ!お前、引き篭もってたら死んじまうだぞっ!とにかく外に出るんだ!」グイグイ

勇者「いやいや……!八時までにやればいいんだろ?だったらまだ行かなくていいじゃん……」

天童「明日行動する明日行動するって言って、動かないのはお前らクズ人間の決まり文句だ!さぁ、今すぐ引き篭もりをやめるのだっ!」グイグイ

勇者「ちょっと待ってくれって!じゃあ、せめてラーメンぐらい食わせてくれよ!」

天童「ラーメンなんて外でも食えるばいっ!さぁ、今すぐ楽しい社会に飛び出そうっ!」グイグイ

ーーーーー


勇者「……腹減った」

天童「しょうがねぇだろ。あのまま、あそこにいたら死んじまったんだから」

勇者「……腹減った」

天童「じゃあさ、酒場でも行く?四時から飲むお酒ってのもオツでいいじゃん?」

勇者「……そんな金ない」

天童「あっ!そういえばさぁ?」

勇者「……ん?」

天童「お前の食費とか何処から出てんの?」

勇者「……」テクテク

天童「お前は働いてないし、親父さんは……って、お~い!追いて行かないでくれよ~!」

道具屋の娘「あれ?勇者さん、いらっしゃ~い」

勇者「……こんちは」

娘「あっ!もしかして勇者さんも魔物討伐に参加するんですか?」

勇者「……」

娘「だったら、まけておきますよ!え~っと……薬草セット80Gの所……72Gでどうですか?」

天童「話にならんねっ!」

娘「えっ……!?」

勇者「……うるせぇやつが来たなぁ」

天童「こっちは魔物討伐に行くってのに、たった72Gなんて高すぎる!あぁ、高すぎる!」

娘「むむむ……」

天童「60G!これでどうばいっ!」

娘「むむむ……70Gでどうでしょうか?」

天童「う~む……おたくも生活がかかっとるとはいえ、こっちは命がかかっとるばいっ!62Gだ!」

勇者「……」

ーーーーー

天童「65G!」

娘「くそう!商談成立だっ!もってけ泥棒ーっ!」

天童「ははは!おい、勇者見たかっ!65Gまで値切ってやったぞ!」

勇者「……」

娘「いや~、勇者さん、いい仲間見つけましたね?商人さんですか?この方、かなりの腕ですよ」クスクス

天童「あっ……自分は商人じゃなくて天使の……」

勇者「それじゃあ、ポテトサラダ下さい。薬草のセットはいいです」


娘「……へ?」

天童「……へ?」

娘「え~っと……ポテトサラダのみ……で……?」

勇者「はい」

天童「おいっ!せっかく俺が値切ったんだぞ!?買えよ!薬草セット買えよ!」

娘「ええ……私が言うのもなんですが、この薬草セット、かなりお得だと思いますよ……?」

勇者「いえ、結構です。ポテトサラダだけでいいんで、お腹減ってるんで」

娘「わかりました……ではポテトサラダで2Gになります」

天童「……」

ーーーーー


天童「……おい、コラ」

勇者「なんだよ」

天童「な~んで、薬草セット買わなかったんだよ?お前、魔物討伐で死んじまうぞ?」

勇者「はぁ!?魔物討伐!?行かねぇよそんなもん!」

天童「はぁ!何言ってんだお前!?」

勇者「あんな危険なもん行くかっての!薬草とか関係なく死んでしまうわ!」

天童「じゃあ、命題はどうすんだよ!?」

勇者「……はぁ?」

天童「だから~、『引き篭もりをやめなければ即・死亡』って命題だよ!お前、魔物討伐に行く前に死んでしまうぞ!」

勇者「なんで?」

天童「……へ?」

勇者「命題はもう、クリアしたじゃん」

天童「……へ?」

勇者「だから、外出たじゃん。これで命題はもうクリアだろ?」

天童「……ごめん。勇者君。僕、君の言ってる事がよくわからない」

勇者「だから~、引き篭もりってのは一日中、部屋から出ない人の事だろ?」

天童「うん、そうだね。勇者君みたいな人の事だね?」

勇者「俺は違うよ?だって、外出たじゃん」

天童「うん、そうだね。勇者君は外に出て、薬草セットを買わずにポテトサラダを買ったね。……それで、これからどうするの?」

勇者「ん、これから……?家に帰って食うんだよ。カップラーメンもあるし」

天童「てめぇっ!結局、引き篭もってんじゃねぇかよ!それが引き篭もりだバカ野郎っ!」ギャーギャー

勇者「なんでだよ!違うよ!俺は外に出たんだからさ!」ギャーギャー

女僧侶「あれ?勇者さんじゃないですか?」


勇者「あっ、僧侶ちゃん……」

天童「ん、誰?勇者君、この可愛いお嬢さんはいったい誰だい?」

女僧侶「私、この付近の教会で修行をしている女僧侶と申します。勇者さんとは幼馴染なんですの。ねっ?」ニコッ

勇者「……ったく、なんでわざわざこの街に修行にくるんだよ」ブツブツ

天童「……ん?」

女僧侶「……ところで、そちらの方は?」

勇者「えっ……あっ、こいつは……」

天童「どうも、始めまして。私、天使の天童世死見と申します」キリッ

女僧侶「……えっ?」

勇者「あっ、いや!違う違う!こいつはちょっとした知り合いの天童さんっ!天童さんですっ!」

天童「おいおい、なんだよそれ。俺は天使の……うぐっ……!」

勇者(バカ野郎っ!相手は僧侶なんだから余計な事言うんじゃねぇよ!)ヒソヒソ

天童(余計も何も、俺は本当に……)モガモガ

女僧侶「?」

女僧侶「ところで、勇者さんも魔物討伐に参加されるんですか?」

天童「あっ、はいっ!参加しますっ!世の為、人の為!そして己の命題の為に彼は参加しますっ!」

勇者「しねぇよ!勝手に決めんじゃねぇよ!それに命題はもうクリアしただろが!」

天童「だから、クリアしてないって言ってんだろが!お前、このままじゃ本当に死んじまうぞ、このダメ人間っ!」ギャーギャー

勇者「魔物討伐なんて行ったら、それこそ死んじまうだろが!それに、俺なんかが行ったってどうせ皆の足引っ張るだけだよ!」ギャーギャー

天童「うわっ!何、そのネガティブな考え方!?君、どこで性格そんなにねじ曲がったの?ねぇ、ねぇ?」

勇者「うるせぇっ!どうせ、あんたには俺の気持ちなんてわかりっこね~よ!」

天童「あぁ、あぁ!わかりたくもないね!こんなダメ人間の気持ちなんて!」

勇者「なんだと~?」


女僧侶「……え~っと、勇者さんは参加されないのですか?」

勇者「えっ……?あぁ、まぁ、俺は今回は見送るつもり……」

天童「参加しろっ!ちょっとは世の中の役に立ちやがれ!この引き篭もりっ!」ヤイヤイ

勇者「うるせぇっ!だったら、あんたが参加しろっ!」

女僧侶「え~っと……私も参加するんですが……よければ勇者さんも、参加しませんか……?」

勇者「えっ……?」

天童「あらっ、ご立派っ!こんなに若いのに!何処かの誰かさんとは大違いっ!」パチパチ

勇者「うるせっ!」

勇者「僧侶ちゃん、参加するんだ?大丈夫なの?」

天童「とても魔物と戦えるような風貌には見えませんが……あっ!ひょっとして実はテコンドーの達人!とか?」

女僧侶「あっ、いえ……私、戦闘の方はからっきしで……」

勇者「だったら、行かない方がいいじゃん。他の人の足引っ張るだけだよ」

天童「足引っ張ってるのはお前だよ。女僧侶ちゃんのやる気を削ぐような事言うんじゃねぇ」

勇者「なんだと~?」

天童「なんだよ?本当の事じゃねぇか?」


女僧侶「……え~っと、話続けてよろしいですかね?」

勇者「あっ、どうぞどうぞ」

天童「どうぞどうぞ」

女僧侶「今、あちらでは多くの冒険者達が負傷しているんですね。私はそれの治療と……」

勇者「ほぅほぅ」

天童「向こうでは派手にやられたらしいからね」

女僧侶「それに……魔物討伐の時にも多くの負傷者が出ると思うんですよね?私は戦闘力はからっきしですが、回復術で皆さんのサポートに回れると思うんですよ」

勇者「ふ~ん……」

天童「いやぁ~、ご立派!素晴らしいっ!」パチパチ

女僧侶「ですが……」

勇者「?」

天童「ん?」

女僧侶「私、修行ばかりで……実戦の冒険って始めてなんですよね……?」

勇者「ふ~ん」

天童「なぁ~に!最初は誰もがそうばいっ!気にしちゃいかん気にしちゃいかんっ!」

女僧侶「え~っと……いいですか?」

勇者「お前はちょっと黙ってろよ」

天童「あっ……すんましぇ~ん……」ペコッ

女僧侶「魔物討伐に参加される方は、年配の方ばかりで……若い人って、私一人ですから、ちょっと不安なんですよ……」

勇者「ふ~ん」

天童「そんな事気にしちゃいかんばいっ!」

女僧侶「だから……勇者さんも来て下さったら心強いんですが……」

勇者「えっ?」

天童「ふむ」

女僧侶「……勇者さんも参加されません?」

勇者「えっ……でも……」

女僧侶「……」

勇者「……俺はさぁ?」

女僧侶「……」

勇者「いやっ……そのっ……結構ブランクもあるしさぁ……?」オドオド

女僧侶「……」

勇者「女僧侶ちゃんみたいに、回復術も使えないしさぁ……?」オドオド

女僧侶「……」

勇者「……俺なんかが行っても、どうせ皆の足引っ張るだけだと思うんだよねぇ?」


天童「あ~っ!わかってねぇな、お前っ!」

天童「お前はどうして、そんなに卑屈なのかねぇ!?」

勇者「……なんだよ」

天童「足引っ張るかどうかなんて、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかよ!?」

勇者「それは……でも、ブランクもあるし……」オドオド

天童「そうやって、行動起こす前から足踏みしてよぉ!?」

勇者「……だって」

天童「だってじゃねぇよ!何ができるかなんてやってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかよ!?」

勇者「……」

天童「自分に出来る事を全力でやってみろよ!まずはそこからだろが!」

勇者「……」

女僧侶「私も……そう思います……」

勇者「……えっ?」

女僧侶「勇者さんって、その……あの、ずっと……あっ、いえ……」

勇者「……」

女僧侶「……今の環境を変えるにはいい機会だと思うんですよね?」

勇者「……」

女僧侶「皆で協力すれば、きっと大丈夫ですよ。だから……ねっ……?」

勇者「……」

女僧侶「……ねっ?」

勇者「……わかった」

天童「おっ!お前、参加するのかっ!?」

勇者「……うん。不安もあるけど、やってみるよ」

天童「ははは!なんだよ、お前っ!?出来るじゃねぇかっ!?これで命題もクリアだ!」ダキッ

勇者「うわっ!なんだよ、お前!?抱きつくな、気持ち悪ぃ!」

天童「ダメ人間から一歩前進したなっ!よくやったっ!」

勇者「やめろっ!離れろっ!気持ち悪ぃ!」


女僧侶「え~っと……それじゃあ、三人分登録してきますね?」


天童「……ん?」

天童「……お嬢さん、ちょっと待った」

女僧侶「?」

天童「今、何人分登録すると言ったのかね……?」

女僧侶「え~っと、三人分ですけど……?」

天童「三人……?おかしいな……?私には二人しか見えないんだがねぇ……」

勇者「お前だよお前」

女僧侶「そうですよ?天童さんも参加されるんでしょ?」

天童「えぇっ!俺も入ってるの!?」

天童「俺は参加しねぇよ!」アタフタ

女僧侶「えぇ!?だって、さっきあれだけ勇者さんの事煽ってたじゃないですか!?」

天童「いやっ……それとこれとは話が別で……」

勇者「ダメだよ。お前も道連れだ。自分に出来る事を全力でするんだな」

天童「俺がする事はお前の更生だよっ!それに職業欄どうすんだ!?天使って書くのか!?天使って書けばいいのか!?」

勇者「う~ん……商人でいいんじゃね……?」

天童「バ、バカっ……!商人みたいな職業嫌だよ!せめて、賢者にしろってんだ!?」

勇者「いや、お前は賢者顔じゃない」

天童「賢者顔ってどんな顔だよ!?窪塚洋介か?窪塚洋介みたいな顔の事か!?」


女僧侶「ふふ、おかしな二人」クスクス

酒場ーーー


主人「魔物討伐部隊参加者……まずは女僧侶っと……」カキカキ

女僧侶「はい、よろしくお願いします」

主人「え~、次に……おっ?お前、勇者の息子か?……勇者っと」カキカキ

勇者「お、お願いします……」

主人「え~、最後に……商人の……テンドウっと……」カキカキ

天童「あの、恰好書きでいいんで、『天使』って書いておいてもらえます?」

主人「……あぁ?」

天童「いや、だからぁ~『テンドウ:商人(天使)』って書いておいて下さいよ」

主人「……」

天童「あんた、頭悪いねぇ!?そこに天使って書けばいいだけでしょうが!?な~んで、そんな簡単な事が出来んとね!?」

主人「……」ギロリ

天童「あっ……すんましぇ~ん。自分、商人のテンドウです」

主人「よしっ……三名登録完了だっ!気をつけて行ってくれよな!」

女僧侶「はいっ!よろしくお願いしますっ!」

勇者「お、お願いします……」オドオド

天童「大船に乗ったつもりでいときんしゃいっ!」

主人「討伐部隊は八時から向かう。八時になったら、街の広場に集まってくれ!」

女僧侶「はいっ!」

勇者(……八時)

天童「ふむ」

ーーーーー


女僧侶「……八時まで、少し時間がありますねぇ?」

天童「う~ん……今、五時半だから……あっ、酒場でお酒飲んで時間潰そうか?」

女僧侶「う~ん、未成年なので……遠慮しておきます……」クスクス

天童「なぁ~に!硬いこと言っちゃいかんばいっ!ほれっ、行こうっ!飲みに行こうっ!」

女僧侶「ダメです~」クスクス


勇者「あ、あのさぁ……?天童……?」

天童「……ん?」

勇者「……買い物、付き合ってくれねぇかな?」

女僧侶「……買い物?」

天童「なんだおめぇ!?乙女か!?気持ち悪ぃぞ!?」

勇者「いや、だからさぁ……やっぱりこれから魔物討伐行くなら……薬草セット、買っておきたいし……」

天童「……お、おぉ!」

勇者「それに……装備も新調しておきたいししさぁ……?」

女僧侶「ふふ」クスクス

勇者「……また、値切ってくれよ」

天童「なんだおめぇ!?ついにやる気になったか!?よし、行こうっ!買い物行こうっ!三割値切ってやるぜっ!」

女僧侶「ふふ、頼もしい商人さんですね。私も付き合いますね」クスクス

ーーーーー


勇者「ど、どうかな……?似合うかな……?」オドオド

女僧侶「ええ、勇者さん、とってもお似合いですよ」

天童「やっぱり装備新調すると、お前みたいな奴でも格好良く見えるもんだな!ピッカピカの一年生みたいでいいじゃねぇか!」

勇者「……ねぇ、もっと別の例えないの?」

女僧侶「ふふ、まぁ、私達は冒険一年生なんだし、いいじゃないですか」クスクス

天童「よしっ!じゃあ、そろそろ行くかっ!」

勇者「えっ、行くって何処に?」

女僧侶「八時まで、あと一時間ありますよ?」

天童「カァ~!これだから一年生はっ!たまらぁ~ん!もう、たまらぁ~んっ!」

天童「はい、注目ゥ~!それでは先生が説明しますゥ~」

勇者「なんで、金八の真似してんだよ。嫌なセンコーだな」

天童「いいですかァ~?八時集合という事は、『八時に集まる』という事ではなく、『八時に出発』という事なのですゥ~」

女僧侶「……はぁ」

天童「『八時に出発』という事はァ~、それまでに全ての準備を済ませておくという事なのですゥ~」

勇者「いや、だから、装備も買ったし薬草も買った……準備終わってんじゃん……?」

天童「この、バカチンがァ~!」

天童「今回の場合~、討伐部隊は我々でなくゥ~、多くの方々がいますゥ~」

女僧侶「ええ、そうですね」

天童「準備とは、その方々への自己紹介や、実際の討伐の際の役割分担の確認などもォ~、含まれるのですゥ~」

勇者「なるほど」

天童「まっ、簡単に言うとよ、八時に集まってぺっちゃくちゃ喋ってたら、出発は八時半やら九時になっちまうだろ?」

女僧侶「ええ、そうですね」

天童「だから、それまでに色々な事を終わらしておいて、八時ジャストに出発できるようにしましょうって事だ!社会人の『三十分前集合』なんていうのはそういう事だね!」

勇者「なるほど」

女僧侶「それじゃあ、広場に行きましょうか?」

天童「美人な女の人がいるといいよな!?なっ、なんかワクワクするよな!?」

勇者「お前は何を考えてるんだ」

女僧侶「そうですよ。遠足に行くんじゃないんですから」

天童「いや、わかってるけどさぁ!やっぱり、こういうのっていいじゃん!ねぇ、ドキドキするじゃんっ!」

勇者「……お前はよぅ」

女僧侶「ふふ、でも……実は私もワクワクしてたりします」クスクス

天童「なっ!そうでしょ!?やっぱり、ワクワクするんもんでしょ!?おいっ、勇者っ!お前も実際の所、ワクワクしてたりするんだろ!?」ニヤニヤ

勇者「……う、うるせぇな」

勇者「な、なぁ……天童……?」

天童「……ん、どうした?」

勇者「いや……そのっ……あのっ……」モジモジ

天童「なんだぁ?お前、ビビってんのか?」

勇者「いやっ……!違う違うっ……!」

天童「……だったら、なんだよォ~?」

勇者「いや……なんと言うか……その……ありがと、な……」

天童「ん~?」

勇者「いや、だから……その、装備とか……他にも色々……ありがと……」

天童「ニヤニヤ」


女僧侶「ふふ」ニコニコ

広場ーーー


天童「あっ!ど~も、ど~も!討伐部隊参加者の方ですか?我々も今回、ご一緒させていただきます!」

男戦士「ん……?あぁ、あんたも参加するんだ……?」

天童「私、商人(天使)のテンドウと申しますっ!あの、(天使)忘れないでね?恰好書きで、て・ん・し!」

男戦士「あぁ、商人さんね……?じゃあ、金銭面の管理はあんたに任せるよ。え~っと……あの、ガキ二人も参加するの……?」

天童「あっ、はいっ!こっちの二人も参加します!これ、お前達!こっちにきて自己紹介をしなさいっ!」

女僧侶「は、はいっ……!」

勇者「お、おうっ……!」

男戦士「……」

女僧侶「私、そこの教会で修行の身の、女僧侶と申します」ペコッ

男戦士「あ~、僧侶さんね……」

女僧侶「戦闘の方はからっきしですが……今、あちらには多くの方々が負傷しているというので、今回自分の力が役に立てるかと思い、参加させて頂きました!」

男戦士「……」

女僧侶「戦闘の方でも、回復術で皆さんのサポートに回れたらと思っております。ご迷惑をかける事も多々あるとは思いますが、どうかよろしくお願いしますっ!」ペコッ

天童「よっ!女僧侶ちゃんっ!いいぞ、日本一!」パチパチ

男戦士「……まぁ、回復役は貴重だからなぁ」

天童「よしっ、勇者っ!次はお前の番だっ!自己紹介しろっ!」

勇者「いや……天童、天童っ……!ちょっと待って……!」アセアセ

天童「なんだよ、お前の番だから、早くしろよ」

勇者「いや……俺、あんな自己紹介なんて出来ないよ……!」

天童「はぁ!?何言ってんだお前っ!?」

勇者「自己紹介って、名前と年齢とかだけ言うもんなんじゃないの……?」

天童「そんな、自己紹介だったらわざわざこんなに早く来た意味、ねぇじゃねぇか!言ってやれっ!お前の決意をビシッと言ってやれっ!」

勇者「だって、俺僧侶ちゃんみたいに回復術も使えないしさ……どうせ俺なんて何にも出来ないないんだしさ……何言っていいか……」アセアセ


男戦士「何やってんの……?早く自己紹介してよ?」

天童「あっ、すんましぇ~ん……今、します……ほれ、勇者、いけっ!」

勇者「!」

勇者「え~っと……自分は勇者の……勇者と申します……」モジモジ

男戦士「……勇者?」

勇者「それで……あのっ……え~っと……ん~っと……」モジモジ

女僧侶「……」

勇者「自分はっ……!あっ……え~っと……ん~っと……」モジモジ

天童「何でもいいんだぞっ!お前の決意をビシッと言ってやれっ!」

勇者「決意……?あ~っと……あっ、でも……ん~っと……」モジモジ

男戦士「……」

勇者「ん~っと……ん~っと……」

男戦士「勇者君、勇者君、もういいよ。もういい」

勇者「……えっ?」

男戦士「あのさぁ……?こっちの立場にもなってよ。ガキのお守りなんかしたくねぇんだよね」

勇者「いやっ……!」

男戦士「俺、聞いた事あるよ。伝説の勇者様の息子が引き篭もりで、ぐーたらぐーたらしてるって……それ、君の事でしょ?」

勇者「!」

男戦士「そんな、一度も使った事のないような、ピッカピカの装備してさぁ?……君、冒険した事ないでしょ?大丈夫なの?」

勇者「……う、うぅ」

男戦士「周りに迷惑かけるぐらいだったらさ……?今回は、遠慮した方がいいんじゃない?こっちは遊びじゃないんだよね?」

勇者「ううっ……」ダッ

女僧侶「勇者さんっ!」

天童「おいっ!勇者っ!」

男戦士「あらら、行っちゃったね」

天童「あんたねぇっ!」グッ

男戦士「ちょっと……胸ぐら掴まないで下さいよ。痛いです。離して下さい」

天童「なんで、あんたはそういう言い方しかできんかねぇ!?」

男戦士「……だって、本当の事でしょ?」

天童「あんた、いい歳して言っていい事と悪い事の分別もつかんかねぇ!あんただって『おでこ広いね~?五年後にはツルツルのハゲになってそうだね~?』なんて言われたら嫌でしょうが!」

女僧侶「ちょ、ちょっと……!天童さんっ……?」アセアセ

男戦士「僕のおでこが広い事は関係ないでしょ。とにかく離して下さい」

天童「……くそっ!僧侶ちゃんっ!俺、アイツ追ってくるよ!」ダッ

女僧侶「は、はいっ!お願いしますっ!」

男戦士「……」

自宅ーーー


勇者「はぁ……何やってたんだろ……俺……」

勇者「そりゃ、そうだよなぁ……だって、俺引き篭もりだもん……」

勇者「魔物討伐……俺なんかに、出来るわけないもん……」

勇者「……」グゥー

勇者「……腹減ったな。そういや今日、何にも食ってなかったんだったや」

勇者「今日一日、何してたんだろ……お湯沸かしてカップラーメン食おっと……」


勇者「『メラ』」


パチパチ、パチパチ

天童「……お前、魔法なんて使えたのかよ?な~んで、さっきの自己紹介の時に言わなかったんだよ?」

勇者「あっ、天童……?唯一、使える魔法なんだけどね。こ~んな、小さい火なんてどうせ何の役にも立たないよ……」

天童「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかよ。戻って、それ使ってもう一度、自己紹介しろよ」

勇者「へへ……こんなの役に立つ訳ないよ……俺は、もういいから、さ……?」

天童「……じゃあ、命題はどうするんだ?」

勇者「……えっ?」

天童「このまま引き篭もってたら死んじまうんだぞっ!お前、また逃げんのかよっ!このままでいいのかよっ!」

勇者「うるせっ!」

天童「!?」

勇者「俺なんかが冒険に行っても、どうせ何も出来ずに死ぬんじゃねぇか!どうせ死ぬんだろ?だったら、もう好きな事やって死ぬよ!」

天童「お前の好きな事ってなんだよぉ?」

勇者「……えっ?」

天童「こ~んな、狭っ苦しい小汚ねぇ部屋でさ?……今、7時55分だから、後5分だ」

勇者「……」

天童「後、5分の間に何するんだよ!?カップラーメンは作るのに3分もかかっちまうんだぞ!」

勇者「……」

天童「なぁ……勇者よぉ……?」

勇者「……うん」

天童「悔しいかもしれねぇけど、あの戦士のおっさんの言ってた事は真実だと思うよ」

勇者「……」

天童「だってよぉ?お前は、他の人が一生懸命生きてる時間を、この小汚ねぇ部屋で何万時間も無駄にしてきたんだからよ」

勇者「……」

天童「やっぱり、ああいう目で見られるのは仕方ねぇ事だよ……でもよ!?」

勇者「?」

天童「お前は、その失った時間を今から取り戻しに行こうとしてんじゃねぇか!?なぁ、違うのかオイっ!?」

勇者「……」

天童「お前、今回の冒険はただの魔物討伐なんかじゃねぇぞ!?」

勇者「……えっ?」

天童「お前がこのダメ人間の生活からよぉ!まともな人間になる為の第一歩なんじゃねぇか!?逃げんのか!?ここでも、また逃げんのかおいっ!」

勇者「……」

天童「そりゃ、冒険なんかした事ねぇお前が、最初から上手くいく訳なんてねぇよ。……でもさぁ、ひょっとしたら何かビックチャンスが舞い降りてくるかもしれねぇじゃねぇか?」

勇者「……うん」

天童「俺も一緒に頭下げてやるからよぉ……?皆の所に戻ろうぜ?何ができるかなんて、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇか?」

勇者「……」

ーーーーー


女僧侶「あの……後、5分……いや、3分でいいから、待ってもらえませんか……?」

男戦士「う~ん……」

女僧侶「お願いしますっ!」ペコッ

男戦士「いや……八時出発だしね……他の人もいるし……」

女僧侶「そこをなんとかっ……!お願いしますっ……!」

男戦士「う~ん……でも、彼だけに構ってるのも……」


「いやぁ~、すんましぇ~ん!遅くなってすんましぇ~んっ!」


男戦士「……んっ?」

女僧侶「あっ!」

天童「いやぁ~、皆さん、すんましぇ~ん!どうやら、昨日食べたサバが当たってしまったようで!」

クスクス、クスクス

天童「トイレに篭ってクソしてたとですよ!こ~んなでっかいクソが出たばいっ!」

クスクス、クスクス

天童「あっ、自分、商人のテンドウと申します。『サバ糞野郎』とか変なあだ名をつけないで下さいね?」

クスクス、クスクス

天童「そして、私のクソに付き合ってくれた心優しい方っ!こちらはっ……!」


勇者「……えっ?」

天童「自己紹介だよ、自己紹介。お前の想いをぶつけてやれぃ」

勇者「う、うん……」

勇者「え~っと……自分は勇者と申します……」

天童「よっ!重役出勤っ!いいぞっ!」

勇者「お、お前っ、うるせぇよっ!え~っと……冒険するのは始めてですが……」

男戦士「……」

勇者「皆さんに迷惑をかける事も多々あると思いますが……」

女僧侶(……頑張って下さい)

勇者「と、とにかくっ……!自分に出来る事を精一杯してみたいと思いますっ!」

天童「よっ!いいぞいいぞっ!」

勇者「皆さんどうか、よろしくお願いしますっ!」ペコッ

勇者「……え~っと」ソローッ

シーン

勇者「……これで、よかったのかな」

パチパチ、パチパチ

勇者「……んっ?」

パチパチ、パチパチ

勇者「おぉっ」

女僧侶「ふふ」パチパチ

男戦士(初々しいね。自分の始めての時を思い出したかな?)パチパチ

天童「いいぞっ!新米兵日本一っ!」パチパチ


パチパチ、パチパチ、ザワザワ、ザワザワ……


勇者「……ん、ザワザワ?」

「大変だぁ~!火事だぁ~!家燃えてるぞ~!」

勇者(……えっ?火事?)

「大変だぁ~!警備隊を呼べぇ~!警備隊を呼ぶんだぁ~!」

勇者(……えっ?あれって?)

女僧侶「うわ~、火事ですって……私達も何か手伝います?」

男戦士「そうだね?僕達も手伝いに行こうか?」

警備隊「いえっ!あちらは自分達がしますっ!冒険者さん達は向かって下さいっ!あっちも大変なんですよっ!」

男戦士「あっ……そうですか。え~っと……じゃあ、皆さん……ここは警備隊の方々に任せて、我々は出発しましょうか?」


勇者(あれ、俺の家じゃんっ!)

天童「む……?8時ジャストだな!」

天童「はい、カァ~ットっ!」

勇者「も、燃えてる……俺の家が燃えてる……なんで……?どうして……?」

天童「お前、出来たじゃねぇかよぉ?引き篭もり、やめれたじゃねぇかよぉ!?」ダキッ

勇者「あわわ……燃えてる……燃えてるよぉ……」

天童「お前、あのまま引き篭もってたら、あそこで黒焦げになって死んでたんだぞ?えぇ?わかってんのかおいっ!」ニヤニヤ

勇者「いやっ……そんな事より……俺の家が燃えてるんだよ……」

天童「あぁ?どうせ、今から冒険者に行くんだからさぁ、家の一つや二つぐらいいいじゃねぇか?」

勇者「家は一つしかねぇんだよっ!」

道中ーーー


天童「さて、勇者君……」

勇者「あぁ、なんだよ?今、元気ねぇんだよ……放っておいてくれよ……」

天童「……君はXXXX年、X月X日」

勇者「あぁ……?」

天童「死ぬ」

勇者「……はぁ?」

天童「君はXXXX年X月X日、死ぬ」

勇者「大事な事だから、二回言ったんですね」

勇者「ちょっと待てよ!俺は命題クリアしただろが!」

天童「あっ、命題って全部で10個あるんだよ??だから、後9個だね。後9個」

勇者「!」

天童「言ってなかったっけ?うん、だからこれから頑張ろうねぇ~?」

勇者「ちょっと待てちょっと待て!聞いてねぇぞ!?」

天童「あれぇ~?おっかしいなぁ~?」

勇者「それに、俺は引き篭もりやめてちゃんとした人間になっただろ!なんで、まだ命題があるんだよっ!?」

天童「なっ……!バ~カ言っちゃいかんよ」

天童「お前はダメ人間から一歩前進しただけ!まだまだ、ダメ人間。うん、ダメ勇者」

勇者「ダメダメダメダメうるせぇなっ!」

天童「だからさぁ~、これから命題を一つずつクリアしてさぁ??一歩ずつちゃんとした人間に近づこうよ、ねっ?」

勇者「……後、9個。俺、もう嫌だよ」

天童「まぁさぁ?俺も手伝ってやるからよぉ?なぁ、元気出せよ?」


「お~いっ!最後尾遅ぇぞ~!」


天童「あっ、すんましぇ~んっ!おいっ、遅れてるってよ!勇者、走るぞっ!」ダッ

勇者「後9個……も~う……」シクシク

一話は以上です

深夜からの引越しです
2話のコピペ作業が残ってるのですがあまりに疲れたのでちと休憩します

男戦士「おいっ!冒険一年生っ!遅れてんぞ!ちんたら歩くなっ!」

勇者「は、はいっ……!すいませんっ……!」


ーー俺の名は勇者。元・引き篭もりの新米冒険者だ。


天童「ねぇねぇ、勇者君?君、どうしてそんなに体力ないの?やっぱり、ず~っと引き篭もってたからかな?ねぇねぇ?」

勇者「うるせっ!引き篭もりはもう卒業したよ!」


ーーこいつの名は天童。突然俺の目の前に現れて、俺はお前の天使だなんてわけのわからない事を言い出しやがった。


天童「ほれっ!口を動かす前に手と足を動かさなければいかんばいっ!はいっ、元気よく行進~!ほれっ、いっち、にっ!いっち、にっ!」

勇者「……うるせぇなぁ」


ーーしかし、こいつは俺の命の時間を知っている。

ーー俺は、神様から与えられた十個の命題をクリアしなければ、死んでしまうらしい。

天童「……おい」

勇者「なんだよ、うるせぇなぁ……」

天童「いよいよ、今日だな……?命題……」

勇者「!」

天童「……お前、気合入れないと死んじまうんだからなぁ?わかってんのか?」

勇者「な、なぁ……!?その事なんだけどよぉ?」

勇者「タイムリミットは今日だってのに、まだ命題届かねぇじゃねぇか!?」

天童「もうすぐ届くんじゃねぇ?」

勇者「本当に命題なんてくんのかよ?ひょっとしてあんた、天使なんて嘘で俺を騙してんじゃねぇだろな!?」

天童「なっ……!なんば言うとっか!おめぇ、この間あ~んな目にあったのに、ま~だ信じてねぇのか!?」

勇者「……いや、それは」モジモジ


男戦士「お~いっ!一年生~!な~に、やってんだぁ~!?」


天童「とにかくよぉ?命題はすぐ届くと思うから……なっ……?すんましぇ~ん!今行きます~!ほれ、勇者走るぞ!」ダッ

勇者「届くと思うって……も~う……いいかげんだなぁ……」

男戦士「遅ぇよっ、このノロマっ!なにチンタラ歩いてんだ!」

勇者「す、すいません……」

女僧侶「勇者さん、大丈夫ですか?あまり無理はなさらないで下さいね?」

勇者「あっ……うん……」

男戦士「ただ、歩いてるだけだろが!なんでそんなに体力ねぇんだ。お前は使えねぇなっ!」

勇者「す、すいません……」

女僧侶「戦士さん申し訳ありませんっ……!頑張りますので許して下さいっ……!」

勇者「す、すいません……」

男戦士「ったくよう……ん……?」

男戦士「おいっ、お前ら……あれ、見てみろよ……?」

女僧侶「……ん?」

勇者「あっ……!」

男戦士「野生のモンスターだよ」ニヤニヤ

女僧侶「図鑑で見た事はありますが、実際に見るのは始めてです……」

勇者「お、俺も……」

男戦士「よ~しっ!ちょうどいいっ!新米兵のテストだ!お前ら、アレぶっ飛ばしてこい!」

女僧侶「……えっ?」

勇者「えぇ……!?」


男戦士「なんだぁ?ビビってんのか?」

女僧侶「あの……私達、実戦経験がありませんので……」オロオロ

勇者「う、うんうん……!」アセアセ

男戦士「大丈夫だよ。小物だし、新米の練習には最適なヤツだよ。それに、あんなのにビビってたら、これから行く本番、何にもできねぇぞ?」

女僧侶「は、はぁ……」

勇者「で、でも……」

男戦士「ヤバくなったら、すぐ助けてやるからよ?お前らだけでやってみろよ?」

女僧侶「……は、はい」

勇者「……」

女僧侶「……ゆ、勇者さん?いきますよ?」ビクビク

勇者「う、うん……」オドオド

魔物「……グルルルル」

女僧侶「そ、そうだっ……!二人で同時に攻撃しましょう……ねっ……?」

勇者「う、うんっ……!」

魔物「……グルルルル」

女僧侶「い、いいですか……?いち、にの、さんでいきますよ……?ゆ、勇者さんいいですか……?」

勇者「わ、わかった……」コクコク

魔物「ピィイイイイっ!」

女僧侶「ちょっと……飛びかかってきましたっ!私達、数えてないのに、そんなのズルいですっ……!」

勇者「う、うわぁっ!」サッ

ポコッ


女僧侶「……あれ?」

魔物「ピィイイイイ!(な、なんだてめぇらっ!ビビってねぇぞ!?お、俺はビビってなんかねぇぞ!?)」

勇者「うわぁぁ……来るな来るな……」ガクガク

女僧侶「……痛くない」

魔物「ピィイイイイ!(お、お前ら、舐めんなよっ……?お、俺は通信空手やってんだぞっ……!?)」

勇者「くるなくるなくるな……」ガクガク

女僧侶「え、え~っと……」

魔物「ピギィッ!?(なんだよ、近づいてくんなよ!?危ないぞっ!危ないぞっ、そんな事したら……)」


ポコッ


魔物「ピギャァっ!(痛ぇっ!)」

ーーーーー


女僧侶「魔物さん、もう悪さはしちゃいけませんよ?」ニコッ

魔物「ピギャァ~っ!(すんませんでしたぁ~!これからは実家の農家手伝って、真面目に働きますぅ~!)」

女僧侶「……な、なんだか、呆気なかったですねぇ?勇者さん?」

勇者「あわわ……あわわ……」ガクガク

女僧侶「……あの~?勇者さん?」

勇者「あわわ……あわわ……」

女僧侶「お、終わりましたよ……?」

勇者「……えっ?」

ーーーーー

女僧侶「戦士さん……私達、どうだったでしょうか……?」

男戦士「う~ん……やっぱりまだ、動きが固いね。やっぱり一年生だね」

女僧侶「も、申し訳ありません……」

男戦士「でも、無傷で帰ってきたのは高評価かな?まぁ、75点って所じゃない?」

女僧侶「本当ですか?」

男戦士「まぁ、これから徐々に慣れていけばいいからさ?焦らず、頑張りなよ?」

女僧侶「は、はいっ!」

男戦士「……それと、勇者君?君はちょっと、ビビりすぎかな?まぁ、50点って所じゃない?」

勇者「……は、はい」

女僧侶「ふふ、勇者さん?私、なんだか自信がつきました」

勇者「……そう」

女僧侶「私、自分には回復術しか取り柄がないと思ってましたが……やれば出来るもんですね!」

勇者「……ふ~ん」

女僧侶「冒険初心者の私達でも、上手くいきそうですね?ふふ、勇者さん、これから頑張りましょうね?」

勇者「……そうだね」

女僧侶「私、あの厳しそうな戦士さんから、75点も頂きました。ふふ」ニコニコ

勇者「……どうせ俺は50点ですよ~だ」ボソッ

天童「……おめぇはよぉ、ほ~んと情けねぇ奴だな」

勇者「……なんだよ」

天童「なんだよじゃねぇよ。僧侶ちゃんの影に隠れてよぉ、ほ~んと、情けねぇったらありゃしないっ!」

勇者「……どうせ俺は50点ですよ~だ」

天童「バカ野郎、さっきの戦闘の何処に評価する点があったんだよ!?おめぇ、な~んにもしてねぇじゃねぇか!?」

勇者「……怪我しないで帰ってきたもん」

天童「そりゃ、 な~んにもしてないから、怪我しないのは当たり前じゃねぇか!?あんなもんなぁ、0点だ!0点っ!」

勇者「……うるせっ」

天童「ところでよぉ……ほれ、来たぞ……」

勇者「……えっ?」

天童「ほれ、命題だよ。ようやく、命題が届いたんだよ」

勇者「えっ、命題!?いつ来たんだよ、コレ!?」

天童「さっきの魔物のドロップアイテムだ」

勇者「な~んで魔物が命題入った封筒落とすんだよ!?」

天童「そんなもん、俺は知らねぇよ!神様に聞いてくれよ!……まぁ、とにかくさ?今回は何て書いてあるか、早く見てみようぜ」

勇者「う、うん……」






勇者
X月X日 午後10時までに

女僧侶と男と女の関係にならなければ即・死亡!





天童「ふ~む……『女僧侶と男と女の関係にならなければ即・死亡』か……」

勇者「えっ……?」

天童「今、午前8時だから後14時間……だな……?」

勇者「い、いやっ……ちょっと待って、ちょっと待ってよ天童」

天童「よしっ、勇者!とっとと女僧侶ちゃんと男と女の関係になってこいっ!」

勇者「いやっ、待ってよ!こんな命題、出来っこねぇよ!」アセアセ

天童「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかよっ!?」

勇者「い、いや……だって、さぁ……?これって……女僧侶ちゃんと……セ、セックスしろって事でしょ……?」

天童「……」

勇者「……」

天童「なぁ~に、ビビってんだよ!?」

勇者「い、いやっ……だってさぁ……?」

天童「女僧侶ちゃんとセックス出来て、命も助かる……こ~んな美味しい話ねぇじゃねぇか!この、スケベっ!」

勇者「なんで、セックスしたら命が助かるんだよ!意味わかんねぇよ!」

天童「……それはよぅ、神様に聞いてくれよ」

勇者「あんたの所の神様、ど助平なんだな!?溜まってんのか?神様は溜まってんのか!?」

天童「あっ……!おめぇ、神様にそんな事言ったら、罰当たんぞ!?」

勇者「とにかく!俺はこんな命題は出来ねぇよ!今回は降りさせてもらうっ!」

天童「……じゃあ、死ぬのかよ?」

勇者「……えっ?」

天童「お前、この命題クリアしないと死んじまうんだぞ?それでいいのかよ?」

勇者「いやっ……それは……」アセアセ

天童「……なぁ、勇者?俺も神様が何考えてるのかは、よくわかんねぇけどよ?」

勇者「……」

天童「こうやって命題が来たって事は、な~んか意味がある事だと思うんだよ……?」

勇者「……うん」

天童「俺は世の中に意味のない事なんてないと思うんだよ。……なっ?俺も手伝ってやるから、頑張ってみようぜ?」

勇者「……うん」

ーーーーー


勇者「……」テクテク

女僧侶「勇者さん、大丈夫ですか?疲れてませんか?」

勇者「あっ……うん、大丈夫……」

天童(おいっ!何やってんだよ、勇者っ!押し倒せっ!早く押し倒せっ!)

勇者(バ、バカっ……!お前、何言ってんだよっ!)アセアセ

女僧侶「……勇者さん、どうかなされましたか?」

勇者「あっ……!いや、なんでもない、なんでもない……」

天童(もうズボンとパンツ脱いじまえっ!強引にいけっ!勇者、強引にいってしまえっ!)

勇者「あっ、女僧侶ちゃん……ちょっと、ごめんね……?お、おい、天童~」

女僧侶「?」

勇者「なぁ~、天童~?やっぱり俺、無理だよ~?」

天童「なぁ~に、言ってんだよ!童貞じゃあるめぇし!お前、死んじまってもいいのかっ!?」

勇者「!」

天童「……ん、アレ?」ニヤニヤ

勇者「な、なんだよ……」

天童「その、リアクション……ねぇ、もしかして勇者君って、童貞……?」

勇者「どどどど童貞ちゃうわっ!」アセアセ

天童「あっ、そっか~、勇者君ってずっと引き篭もってたもんねぇ?そりゃ、女の子と知り合うきっかけもないし、しょうがないか~?」ニヤニヤ

勇者「そ、そんな事ねぇよっ……!彼女なんて、星の数ほどいたし……そ、それに、引き篭もりはもう卒業したし……!」アセアセ

天童「ふ~ん……」ニヤニヤ

天童「よしっ!だったら、おじさんに任せておきなさいっ!」

勇者「あぁ?」

天童「童貞の勇者君には、女の子を誘うなんてできないもんね?おじさんが、一つ手助けをしてあげようじゃありませんか!」

勇者「お、お前……なんか変な事、する気じゃねぇだろなぁ……?」

天童「バ~カっ!童貞のお前がそんな事、気にしてんじゃねぇよっ!まぁ、おじさんのテクニックで、一つ勉強しなさいっ!」

勇者「……お、おう」

ーーーーー


天童「いや~、なんだか、ただただ歩くのもつまんないですねぇ~!」

男戦士「……ん?」

女僧侶「ふふ、天童さん。始めての冒険の私は、こうやって皆と歩いてるだけで楽しいですよ?」ニコニコ

天童「いやっ!冒険ってのは、もっと和気藹々としないといかんですばいっ!皆さんでお話でもしながら、向かいましょう!」

男戦士「う?ん……そうだな……じゃあ、俺が昔戦ったキマイラの話でも……」

女僧侶「あっ、その話聞きたいです!キマイラって、珍しい魔物なんですよねぇ?」


天童「いえっ!その話はまた次の機会にしましょう!……そうだっ!初体験の話をしましょう!皆さんの初体験の話!」

男戦士「……えっ?」

女僧侶「……えっ?」

勇者(いきなり何言い出してんだ、コイツ!?)

天童「では、まず戦士さんっ!戦士さん初体験の話を聞かせて下さい!」

男戦士「えっ……お、俺……?」

天童「どうぞどうぞ!ほれ、詳しくお願いしますっ!」

男戦士「い、いや……なんで、そんな話……」アセアセ

天童「……ん?まさか、男戦士さんその年で『童貞』って訳じゃないでしょうねぇ~?」ニヤニヤ

男戦士「バ、バカぁ、言っちゃぁ、いかんよぉ~?」

勇者「ん?」

男戦士「俺のぉ~、初体験はぁ~、16の時でぇ~、地元のぉ~、女の子とだよぉ~?」アセアセ

天童「あら、地元の女の子と!?あらぁ~、そりゃ、いいですねぇ~?幼馴染ですか?幼馴染との初体験っていいですねぇ~!」

男戦士「ヨシコちゃんって娘でよぉ~、武道家の娘だったんだけどよぉ~、可愛くて優しくてぇ~、……ヨシコちゃん、いい娘だったなァ~」

勇者「……あの~?男戦士さんの地元って何処なんですか?」

男戦士「……ん、俺?俺ぁ、栃木だよ」

勇者「あっ、だから、そんなに訛ってるんですね?」

男戦士「!」

勇者「男戦士さん、話してる時、ず~っと訛ってましたよ?男戦士さんって、意外と田舎者なんですね?」

男戦士「……今、イナカモンって言ったね?」

勇者「……ん?」

男戦士「……栃木の事、バカにしたね?」ワナワナ

勇者「ちょ、ちょっと……戦士さん……?なんで、剣に手をかけてるんですかね……?」

男戦士「斬るっ!コイツをぶった斬るっ!」

勇者「わっ……!うわあぁぁぁっ……!」

天童「戦士さんっ!あんた、何しとっかね!落ち着きんしゃいっ!ちょっと、落ち着きんしゃいっ!」ガシッ

男戦士「だってよぉ~、コイツがバカにしたんだよぉ~、俺の事イナカモンってバカにしたんだよぉ~」シクシク

勇者「あわわ、ごめんなさいっ……!戦士さんっ、ごめんなさいっ……!」

天童「戦士さんっ……!こいつも悪気はなかったんですよっ……!?勘弁してやって下さいっ……!」アセアセ

男戦士「……俺ん事、イナカモンってバカにする奴はよぉ~?例え、モンスターでも魔王でも許さねぇよぉ~」シクシク

勇者(う、うわぁ……なんだか、とんでもない地雷踏んじゃったみたいだっ……!)

天童「せ、戦士さん……?落ち着きました……?勇者っ!お前もちゃんと謝れっ!」アセアセ

勇者「あっ……あのっ……すいませんでした……」

男戦士「……ったく、もういいっ!勇者っ!次はお前の話を聞かせろっ!」

天童「あっ!戦士さん、それいいですねぇ~?勇者く~ん、僕も勇者君の話聞きたいなぁ??」ニヤニヤ

勇者「えっ……?いや、そのっ……あのっ……?」

男戦士「ん……?お前、ひょっとして……童貞……?」

天童「あれぇ~?ひょっとして……勇者君って……童貞……?」


勇者「どどどど童貞ちゃうわっ!」

男戦士「うわぁwwwwそのリアクションwwwwお前、童貞なんだ?wwww」

天童「そうなんですよ、戦士さんwwww実はこいつ童貞なんですよwwww」

勇者「どどどど童貞ちゃうわっ!」

男戦士「だったらよ?お前、前戯の手順とか言えるのかよ?」ニヤニヤ

勇者「えっ……?」

男戦士「お前、前戯は何処から責めるんだよ?童貞じゃねぇなら言えるだろ?」ニヤニヤ

勇者「そ、それは……まず、おっぱいをですねぇ……?」アセアセ

男戦士「いきなりおっぱいからいくのかよwwwwダメだwwwwコイツ童貞丸出しだわwwww」

天童「そ~ですよねぇ?いきなり、おっぱいじゃないですよねぇ?あ~あ、こんな勇者君に優しく教えてくれる女の方って、何処かにいませんかねぇ~?」チラチラ

勇者「あの……前戯って、どういう風にするもんなんですか……?」

男戦士「……あぁ?そりゃまず、××××を××××ってなぁ??」

天童「あ~、何処かに勇者に××××を××××させてくれる女の方っていないかなぁ~?」チラチラ

勇者「えっ、そんな感じなんですか?漫画では××××を××××ってしてましたよ?」

男戦士「……バ~カ。××××を××××なんてしていいのは漫画だけだよ?」

天童「あ~、何処かに勇者君の××××を××××なんて、間違った知識を優しく修正してくれる女の方いませんかねぇ~?」チラチラ

勇者「えっ……?じゃあ、それからどうするんですか……?」

男戦士「そりゃあ、女が××××ってきたら×××してなぁ……?それから、××××して×××して……」

天童「あ~、何処かに……ん……?」


女僧侶「……」シラーッ

男戦士「あれっ?天童さん、どうし……あっ……」

勇者「ん、どうし……あっ……」

女僧侶「……皆さん、お話は終わりましたか?」シラーッ

男戦士「いやっ……あのっ……女僧侶ちゃん……?ごめんね……?」

勇者「ご、ごめん……」アセアセ

天童「す、すんましぇ~ん……」

女僧侶「……構いませんわ。街が見えてきましたので急ぎましょうか?」シラーッ

男戦士「は、はい……」

勇者「……はい」

男戦士「ちょ、ちょっと……僕達、はしゃぎすぎちゃったみたい……だねぇ……?」

勇者「は、はい……」

天童「女僧侶ちゃんの目ぇ、すっげぇ怖かったばいっ!あ~んな怖い顔見た事ないばいっ!」

男戦士「うん……僕達も、女性の前でどぎつい下ネタ言いすぎたよね……?反省しようか……」

勇者「お前のせいだぞ、このダメ天使っ!」

天童「バカっ!俺はお前の為を思ってだなぁ……」アセアセ

勇者「はぁ?何言ってんだお前!?」

天童「いや、だからよぉ……俺はてっきり、女僧侶ちゃんが『勇者さん……///私でよければあなたの初体験を……///』なんて言うかと思って……」

勇者「言わねぇよ!絶対言わねぇよっ!」

天童「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかよぉ!?」

勇者「わかるよ!エロ本でしか知識のない俺でもそれはわかるよっ!そんな事言う女はこの世にいねぇよっ!」

天童「おめぇは童貞だからわかってねぇんだよっ!あのなぁ?女心ってのは……」


男戦士「え~っと……まだ、下ネタ続ける……?」

勇者「あっ……いや……」

天童「す、すんましぇ~ん……」

街ーーー


男戦士「よ~し、ようやく街についたな」

勇者「うわっ、なんだココ!?」

天童「辺り一面、瓦礫の山ばい……魔物のヤツ、派手に暴れたみたいね……」

女僧侶「……そんな、酷い」

男戦士「……俺は街の代表と話をしてくる。お前らは、生き残った住民を手助けしてやれ」

女僧侶「は、はいっ……!それじゃあ、私、怪我人の治療をしてきますっ!」

勇者「あっ、俺も手伝うよっ……!」

天童「お~いっ!怪我人はこっちに集まるば~いっ!凄腕の僧侶さんが来てくれたから、もう大丈夫だぞぉ~!」


ゾロゾロ……ゾロゾロ……


女僧侶「大丈夫ですか……?今、回復魔法をかけますね……?」

街人「ううぅ……痛ぇ、痛ぇよぉ……」

女僧侶「んっ……!」

街人「ああっ……痛みが引いていくよ……ありがとう……姉ちゃんありがとうっ……!」ボロボロ

女僧侶「貴方に、神の御加護がありますよう……では次の方……?」

街人B「ううぅ……僧侶様……お願いします……」

女僧侶「はい、今、回復魔法をかけますね……?」ニコッ

天童「おいっ!勇者、何ぼーっとつっ立ってんだ!お前も何か手伝えよっ!」

勇者「あっ、うん……え~っと……どうしよ、どうしよ……?」モジモジ

天童「何、チンタラしとるばいっ!?怪我人はこんなに沢山いるんだぞ!?」

勇者「いやっ……でも、俺、僧侶ちゃんみたいに回復魔法使えないし……どうすればいいのか……」アセアセ

天童「回復魔法が使えなくても、何か出来る事ぐらいあるだろが!」

勇者「え~っと……じゃあ……え~っと……」モジモジ


女僧侶「……勇者さん、それじゃあ、木の枝を取ってきて頂けますか?」

勇者「木の枝……?そんな物、何に使うの……?」

女僧侶「骨折されている方も大勢いますし、当て木に使いたいのです」

勇者「当て木……?」

天童「おめぇはほ~んとに、何にも知らねぇんだな?折れてる骨ん所を木の枝なんかを使って固定する応急処置だよ!」

女僧侶「他にも……包帯や治療薬……それに、私の魔力回復薬なんかがあれば助かるのですが……」

勇者「う、うん!わかった、じゃあ探してくる……!」

天童「道具屋の瓦礫ん中にでも埋まってるだろ!?俺も手伝うばいっ!」

女僧侶「はい、よろしくお願いします」

ーーーーー


天童「え~っと……道具屋、道具屋……っと……」キョロキョロ

勇者「こう瓦礫だらけじゃ、何処が道具屋かさっぱり……ん……?」


「よ~しっ!じゃあ、この瓦礫撤去しちまうぞっ!」

「う~すっ!」「う~すっ!」


勇者「あれ、同じ討伐部隊の人達だよな?何、してんだろ……?」


「お前らは、仮設住居作る為の資材集めてこ~いっ!」「う~っす!」

「いいかぁ~?日が落ちるまで作業進めないと、ここの住人、寝る所ねぇぞ~!」「う~っす!」


勇者「……」

勇者「……ん?」


「……ダメね。町中探したけれど、ここの食糧、全部駄目になっちゃってるみたい」

「魔物討伐も大事だけど、住民の食糧確保も必要なんじゃない?私達はそっちをするべきよ」


勇者「あれも、同じ部隊の人達だ……」


「そうね、男戦士さんに報告してから私達は食糧調達に行きましょう」

「このままじゃ今晩、ここの住民の食べる物ありませんからね。大量に狩らなくちゃいけませんね……」


勇者「……」

天童「……おめぇだけだよ。何していいかわかんねぇなんて言ってんのは」

勇者「……えっ?」

天童「み~んな、自分で考えて、自分に出来る事をしてんだよ」

勇者「……」

天童「……おっ、ここじゃねぇか?ここ、道具屋っぽいんじゃねぇ?」

勇者「そうだね、道具屋の面影があるね……?」

天童「よ~しっ!じゃあ、犬みたいに掘り起こして、包帯やら治療薬やら、探すとしますか!」

勇者「うん」


「うぇ~ん、うぇ~ん」


天童「……ん、何だぁ?ガキが泣いてるぞ?」

勇者「ねぇ……?僕、どうしたの……?」アセアセ

子供「うぇ~ん!うぇ~ん!」

天童「坊主、お前、怪我してるじゃねぇか?大丈夫かぁ?」

勇者「あっちに、僧侶さんいるからね?怪我治してもらいなよ?」

子供「ううぅ……ひっく……ひっく……」

天童「お前、父ちゃんと母ちゃん、どうしたんだぁ?ガキが一人でいると危ねえぞ?」

勇者「僕がお父さんと、お母さん探してあげようか?」

子供「ううぅ……父ちゃんと……母ちゃん……」グスッ

天童「お前、男の子だろ?泣いてちゃわかんねぇぞ。父ちゃんと母ちゃんはどうしたんだよ?」

勇者「ま、まぁまぁ……天童……」

子供「父ちゃんと母ちゃん……その中にいる……」グスッ

勇者「……えっ?」

天童「中……?お前、まさかっ……!?」

子供「ううぅ……父ちゃんと母ちゃん……逃げ遅れて……まだ店の中に……」グスッ

勇者「君のお父さんとお母さん……この中にいるの……!?」

天童「勇者ぁっ!掘り起こすぞっ!」

子供「俺……助けようと頑張ったんだけど……重くて持ち上がらないし……返事してくれないし……」グスッ

勇者「だ、大丈夫っ……!僕達に任せておいてっ……!」

天童「お~いっ!しっかりしろぉ~!今、掘り起こしてやるからよぉ~っ!」ザッ、ザッ

子供「ううぅ……父ちゃ~ん……母ちゃ~ん……」グスッ

ーーーーー


勇者「あっ……!天童っ……!?」

天童「どうした?見つけたのかぁ!?」

子供「父ちゃんっ……!母ちゃんっ……!」

勇者「……あっ」

天童「……くそったれっ!」

子供「……えっ?」

勇者「……」

天童「……くそっ」

子供「ね、ねぇ……?父ちゃんと……母ちゃんは……?」

勇者「……」

天童「……」

子供「……ね、ねぇっ!?」

勇者「……ごめん」

天童「坊主……あっちに僧侶さんいるからよ……?お前の怪我治してもらいに行こう……?」

ーーーーー


女僧侶「あっ、勇者さん?見つけてきてくれましたか?」

勇者「うん……はい……」

女僧侶「助かりました。勇者さん、男戦士さんが探してましたよ?魔物討伐の事でお話があると」

勇者「うん……わかった……」

女僧侶「……勇者さん、どうかしたんですかねぇ?元気ないみたいですけど」

天童「……今はそっとしておいてやってくれ。あっ、僧侶ちゃん、この子の怪我も頼むよ」

子供「ううぅ……父ちゃん……母ちゃん……」グスッ

女僧侶「あっ……はい……わかりました……」

勇者「……」

天童「……」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……あぁ、何だよ?」

勇者「あの子のお父さんとお母さん……?」

天童「……気の毒だったな」

勇者「あの子のお父さんとお母さんも『生きてて意味のない人』だったの……?」

天童「……あぁ?」

勇者「『生きてて意味のない人』だから、ああやって、死んじゃったのっ!?そんなのおかしいよっ!」

天童「それは違う!」

天童「彼らはその人生の短さにもかかわらず、その人生を全うして死んでいったんだ」

勇者「……」

天童「きっと、あの子供を守る為に、人生の最後の瞬間まで必死に全力で生き抜いていったんだろう」

勇者「……」

天童「お前はなんかの場合とはぜ~んぜん違うの」

勇者「……でもさぁ?」

天童「……ん?」

勇者「そんな事だったら、俺より死んだ方がいいヤツなんて、い~っぱいいるじゃん?この街襲った魔物とかさぁ……?」

天童「お前は、余計な事を考えなくていいんだよっ!お前は人の事に口出ししなくていいの!」

勇者「……だって」

天童「とにかくよぉ、今は目の前の事に集中しようぜ?」

勇者「……う~ん」

天童「男戦士さんが呼んでるんだろ?魔物討伐の打ち合わせなんかするんじゃねぇか?」

勇者「……うん」

天童「カァ~っ!何、モジモジしてんだっ!」

勇者「……だって」

天童「お前だってよぉ?あの子の両親の敵討ちしたいと思ったりしねぇのか!?」

勇者「それは……うん……」

ーーーーー


男戦士「あっ、勇者君、それに天童さんも来てくれたんだね?」

勇者「はい」

天童「魔物討伐の打ち合わせですかね?」

男戦士「あっ、その事なんだけどね……実は困った事になってね……」

勇者「困った事?」

天童「どげんしたとですか?」

男戦士「いやぁ……思った以上にこの街の被害が大きくてね?ここの住民の宿や、食糧も足りてないんだよね……」

勇者「あっ、でもさっき、仮設住居作ろうとしている人達いましたよ?」

天童「食糧調達に走ってる人達もおったばいっ!」

男戦士「うん、そうなんだよ。彼らには彼らで動いてもらわなくちゃいけないし……でも、ね……?」

勇者「……でも?」

天童「何か問題でも?」

男戦士「そうすると、魔物討伐の人員が減っちゃうんだよねぇ?」

男戦士「結論から言うよ。男性陣には仮設住居の設置、女性陣には食糧調達の確保。……そして」

勇者「そして……?」

男戦士「魔物討伐部隊は僕と、勇者君」

勇者「えっ!?僕、魔物討伐部隊ですか!?」

男戦士「勇者君、暇でしょ?」

勇者「……い、いや、それはその」モジモジ

男戦士「それと、天童さん」

天童「えっ!?私も魔物討伐部隊ですか!?」

男戦士「天童さんも暇でしょ?」

天童「バ、バカァ~っ!俺はこいつと違って動き回っとるよ!失礼な……カァ~!もう、たまらぁ~ん!たまらぁ~んっ!」

男戦士「この三名で向かう事にする。……何か、質問はあるかな?」

勇者「えっ……い、いや……僕、冒険初心者なんですけど、大丈夫ですかね……?」

男戦士「どうやら、この街を襲った魔物は、デカイ奴が一匹と、あとは子供の魔物らしい」

勇者「は、はぁ……?」

男戦士「勇者君には子供の魔物を任せるつもりだ」

勇者「僕、子供魔物担当ですか……?」

男戦士「大丈夫。一度実践したでしょ?後は、勇気を持つだけだから」

勇者「は、はいっ……!」オドオド

男戦士「そして、大物の魔物は、僕と天童さんで片付ける」

天童「ちょ、ちょっとっ……!?大物担当なんですか、私!?」

男戦士「……ん?何か問題でも?」

天童「い、いやぁ……私も子供魔物担当じゃ、ダメですかね?ほらっ、コイツ一人じゃやっぱり心配ですし……」アセアセ

男戦士「何、言ってるんですか!?小物なんて、勇者君一人で十分でしょ?天童さんは僕のフォローに回って下さいよ!?」

天童「いやぁ~、私もそうしたいのは山々ですけど……ほらっ、コイツ、保護者いなきゃ!?コイツ、子供魔物相手でも心配ですよ!?」

男戦士「う~ん……確かに、そうだけどさぁ……」


勇者(俺、酷い言われようだな)

女僧侶「……では、私が勇者さんのサポートにつきます」

勇者「あっ、女僧侶ちゃん?」

男戦士「女僧侶ちゃんは、この街の人達の治療をしてもらわなきゃ」

女僧侶「いえ、怪我している方達の治療の方はもう済みました。私も手が空いたので、魔物討伐ご同行させて下さい」

天童「あれまっ?もう、終わったのかねっ!いやぁ~、女僧侶ちゃん、凄いねぇ~」

女僧侶「大勢の方を傷つけた魔物を、私は許しておく事ができません……私の手で、どうか裁きを与えさせて下さい……」

男戦士「……わかった」

男戦士「それじゃあ、小物は勇者君と女僧侶ちゃん……そして、大物は僕と天童さん。この四名で魔物討伐に向かう事にするっ!」

女僧侶「はい!」

勇者「は、はいっ……!」

天童「任せときんしゃいっ!」

男戦士「魔物は夜になると、海辺の洞窟に上陸するらしい。奴らが上陸してきた所を叩くっ!」

女僧侶「はいっ!」

勇者「は、はいっ……!」

天童「ふむ」

男戦士「我々は9時に洞窟に向かう。それまでは、各々他の部隊の作業を手伝うように!」

女僧侶「はいっ!わかりましたっ!」

勇者(9時……か……)

天童「ふむ」

そして9時前ーー


勇者「ひいっ……ひいっ……重い……重いよぅ……」

「おい、兄ちゃん!仮設住居の組み立てはもういいからよ!そろそろ魔物討伐に行ってこいよ!時間だぞ!」

勇者「えっ……?あっ、もう、こんな時間か……」

天童「それでは皆さん~!我々は魔物討伐の方に行ってまいります~!」

「お~うっ!こっちみたいに足引っ張るんじゃねぇぞ!?期待してるから、ど~んと暴れてこいっ!」

勇者「足引っ張るって……俺、頑張ったのに……」

天童「は~いっ!それじゃあ、世の為、人の為!我々正義の為に大暴れしてきますっ!」

「お~うっ!こっちも頑張るから、お前も頑張れよ~っ!」

勇者「な、なぁ……天童……?」

天童「あぁ、どうした?ひょっとして、お前ビビってんのか?」

勇者「いや、それもあるけど……その……命題……」

天童「しょうがねぇだろっ!女僧侶ちゃんは女僧侶ちゃんで忙しかったんだから!とにかく、最後の最後まで諦めんなっ!」

勇者「でもさぁ……?後、一時間だよ……?魔物討伐もしなくちゃいけないし、俺、どうしたらいいか……」

天童「あっ、そうだっ!おじさん、いい事考えちゃった!」

勇者「……ん?」

天童「ハイ、注目ゥ~!」

勇者「……だから、なんで金八なんだよ」

天童「今回のォ~、魔物討伐でぇ~、勇者君は女僧侶ちゃんの前でカ~ッコいい所を見せますゥ~」

勇者「……」

天童「するとォ~、女僧侶ちゃんはァ~、『勇者様素敵っ!もうあげちゃうっ!私の事好きにしてっ!』なんて言いますゥ~」

勇者「……あのなぁ?」

天童「へへへ……そしたらもう、あ~なって、こ~なって、昨夜はお楽しみでしたねだよ、このスケベっ!」

勇者「なんねぇ~よ!そんな事っ!」

天童「いやいや、女心ってのは頑張ってる男に惹かれるもんでよ……?」

勇者「だから、そういうのはエロ本だけだろが!」

天童「……でもよ、もう後、一時間。時間がねぇじゃねぇか」

勇者「……そ、それは」

天童「多分、これがラストチャンスだぞ?一か八かに賭けてみろよ?」

勇者「……確かに、もう時間は少ないけどさぁ」

天童「あっ、ホラ?あれ、女僧侶ちゃんだよ。お前、女僧侶ちゃんに決意でもビシッと言ってやれっ!」

勇者「えっ……?う、うん……」オドオド

勇者「あ、あの……女僧侶ちゃん……?」オドオド

女僧侶「あっ、勇者さん。どうしましたか?」

勇者「あ、あのさぁ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「え~っと……あの……その……」

女僧侶「……勇者さん、男戦士さんが待ってますよ?どうしました?」

勇者「あっ、すぐ終わるからっ!あの……え~っと……その、ね……?」

女僧侶「?」

勇者「俺、さぁ……今回の魔物討伐頑張るから、さ……?」

女僧侶「はい」

勇者「自分に何が出来るか、なんてよくわかんないけど……自分に出来る事を頑張ってみるからさ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「もし、うまくいったら……その……俺と、さ……?」

女僧侶「俺と?」


勇者「……セ、セックスしてくれない?」

女僧侶「え?」

勇者「うまくいったらの、話だよ!?ねっ、うまくいったら俺とセックスしてよ!?」

女僧侶「……」

勇者「ねっ!?お願いっ!俺さぁ、僧侶ちゃんとセックスしないと死んじゃうんだよ!?」

女僧侶「……」

勇者「お願いっ!お情けでいいから、やらせてよ!先っちょだけっ!先っちょだけでいいから!」


バチン


勇者「えっ……?」ヒリヒリ

女僧侶「……最低」ワナワナ

女僧侶「あ、貴方はっ……!」ワナワナ

勇者「い、いや……違うんだ……!」

女僧侶「多くの人が傷つき、苦しんでいるこの状況の中で……何を考えているんですかっ!?」

勇者「ち、違うんだよっ!俺、僧侶ちゃんとセックスしないとさぁ、死んじゃうんだよ!ねっ、お願いっ!」

女僧侶「もう、やめて下さいっ!私、そんな話聞きたくありませんっ!」

勇者「いや、違うの……ね、ねぇ……?」

女僧侶「……私、勇者さんの事、見損ないました」

勇者「……えっ?」

女僧侶「……バカ」

勇者「あっ……!女僧侶ちゃん……ね、ねぇ、待ってよ……!」アセアセ

天童「お、おいっ……勇者……!」アセアセ

勇者「……終わった。真っ白に燃え尽きた。真っ白にな」ガックリ

天童「何、言ってやがる!まだ一時間っ!最終ラウンドが残っとるばいっ!立てぇ、立つんだ勇者ァ~っ!」

勇者「……もういいよ。なんだかバカらしくなってきたもん」

天童「……あぁ、何がだよ?」

勇者「だってさ……みっともなく女僧侶ちゃんにセックス頼み込んでさ……嫌われちゃってさ……」

天童「……」

勇者「……こんなに辛い思いするなら、もう死んじゃった方が楽だもん」

天童「……」

勇者「……」

天童「……じゃあ、死ねよ」

勇者「……え?」

天童「もういいよ!俺もあっきらめたぁ~っとっ!」

勇者「……」

天童「まぁ~、お前って奴は何をやっても中途半端っ!」

勇者「……なんだよ」

天童「勇気もねぇ、力もねぇ!今日一日、おめぇ、何をした!?周りに迷惑かけてただけじゃねぇのか?」

勇者「……うるせぇな」

天童「お前みたいなダメ人間、生涯童貞だよ!この役立たず!もう、死にやがれっ!」

勇者「……」

天童「後、一時間だ、一時間。もうそこでボケっと突っ立って、そのまま死ね。このダメ人間!」

勇者「……」

天童「あ~ぁ……役立たずのお前がよぉ~、最後に人様の役に立つビ~ッグチャンス貰えたってのに勿体無ぇなぁ~」

勇者「……」

天童「どうせ、死ぬにしても、最後の最後ぐらい、人様の役に立ってくれると思ったのになぁ~!?」

勇者「……」

天童「ここまで期待外れだったとはなぁ~、カァ~、もう悲しかぁ~!」

勇者「……うるせぇ」

天童「……ん?」

勇者「やるよ。やってやるよ」

天童「……おめぇみたいな奴に出来んのかよ?」

勇者「うるせぇっ!俺だってなぁ?こんなに大勢の人を傷つけた魔物にはムカついてんだよ!」

天童「……へぇ~」

勇者「どうせ、死ぬにしても……最後くらいはこの街の人の役に立ってから死ぬよ」

天童「……ふ~ん」

勇者「それに、魔物討伐でカッコいい所見せたら女僧侶ちゃんとセックスできるんだし……魔物討伐して命題もクリア!女僧侶ちゃんにも、見直される……簡単な話じゃねぇか……」

天童「おい、勇者……それはだな……」

勇者「うるせぇっ!人がやる気になってるのに、余計な茶々入れるんじゃねぇよ!こっちはそういうエロ本、散々見てんだ!オラっ、天童、魔物討伐行くぞっ!」フンガフンガ


天童「あれまぁ……ちょっとやる気になりすぎちゃったみたい……煽りすぎちゃったかな……?」キョトン

ーーーーー


男戦士「よし、四名揃ったな。それでは今から我々は海辺の洞窟へ魔物討伐へと向かうっ!」

女僧侶「はいっ!」

勇者「は、はいっ……!」

天童「任せときんしゃいっ!」

男戦士「これからは遊びじゃない。昼間のような甘い戦闘ではない」

女僧侶「はいっ……!」

勇者「は、はいっ……!」

男戦士「困った時、『誰かがなんとかしてくれる……』そんな考えでは命を落とす事になる……」

勇者「……」

天童「なんだ、おめぇ?やぁ~っぱり自信がねぇのか?」

勇者「バ、バカっ!そんなんじゃねぇよっ!」アセアセ


男戦士「……あ~っと、勇者君?」

勇者「……はい?」

男戦士「君はここ数年……その……ブランクがあるらしいけど……」

勇者「……はい」

男戦士「……確か、小さい頃は父上に稽古をつけてもらってたんだろ?」

勇者「は、はいっ……!」

男戦士「きっと、その時間は無駄ではなかったはずだ。少なくても僕はそう思う」

勇者「……」

男戦士「君に足りないのは自信だけだ。大丈夫。君は絶対に出来る」

勇者「!」

男戦士「君に出来ない事を僧侶ちゃんが……僧侶ちゃんに出来ない事を君が……そうやって、二人で協力すればきっとうまくいくよ」

勇者「は、はいっ……!」

天童「カァ~!あんた、いい事言うねぇ!?お株取られちまったよ!」

勇者「僧侶ちゃん、二人で協力して頑張ろうね!」

女僧侶「……」

勇者「あ、あれ……?あの、女僧侶ちゃん……?」

女僧侶「……わかりました。ただし、変な下心は持たないで下さいね」

勇者「い、いやっ……あれは……違っ……!」アセアセ


男戦士「よしっ!それでは今から魔物討伐へ向かうっ!」

女僧侶「……行きましょうか?」

勇者「……」

洞窟ーーー


魔物「ピギャァっ!(隙ありっ!もろたでっ!)」

男戦士「ふんっ!」ガシッ

女僧侶「たぁっ!」バシッ

天童「こんにゃろ!こんにゃろめっ!」ポコポコ

魔物「プキュ……(アカン、やられてもたわ……三人がかりは卑怯やで、ホンマに……)」

男戦士「まず、一匹……」

女僧侶「……あの~?」

天童「おい、勇者っ!おい勇者ってばっ!おめぇ、何してんだよぉ!?」

勇者「……えっ?」

天童「僧侶ちゃんの影に隠れてよぉ!?おめぇも戦えってんだ!」

勇者「ち、違うよっ!いきなりだから、ちょっと、さ……?」

天童「おめぇはまだビビってんのか、このポンコツが!戦いはもう始まってんだぞっ!」

勇者「う、うるせぇな!俺はスロースターターなんだよっ!」

天童「カァ~!な~んで、お前は俺にだけ強気なんだよ!?魔物もその調子でやればいいじゃねぇかよっ!?」ギャーギャー

勇者「うるせっ!じゃあ、次からはやってやんよ!次からはっ!」ギャーギャー


男戦士「う、う~ん……」

女僧侶「……放っておきましょう。それより、男戦士さん、アレ」

男戦士「……ん?」

魔物「グルルルル……」

男戦士「……出たか、本命」

勇者「わ、わわっ……!」

男戦士「よしっ!僕が突っ込むっ!君達はサポートしてくれっ!」

女僧侶「はいっ!」

男戦士「いくぞ……でぇりゃぁっ!」ザッ

魔物「……ガッ?」

女僧侶「んっ!補助魔法っ!」

天童「よっしゃっ!あのデカブツに石ぶつけてやるばいっ!ほれ、勇者っ!お前も目ぇめがけて投げろっ!?」

勇者「……えっ、えっ?サポートって、そういう事なの?」

魔物「……グギャアアアァァっ!」

女僧侶「あっ、男戦士さんっ……!魔物が逃げていきますよ!?」

男戦士「よしっ!僕はヤツを追って仕留めるっ!天童さん、行きましょうっ!」

天童「任せんしゃいっ!」

男戦士「君達はここで他の魔物達が街に向かうのを食い止めるんだっ!」

女僧侶「はいっ!」

勇者「は、はいっ……!」

男戦士「いいか、勇者君。君に足りないのは自信だけだ!自信を持てば必ず大丈夫だっ!さぁ、天童さん行きましょうっ!」

天童「おいっ!勇者ぁっ!おめぇ、一人になっちまうけど、しっかりしろよっ!討伐も、命題もっ!」


勇者「う、うん……」

ーーーーー

勇者「……二人、行っちゃったねぇ?」

女僧侶「……」

勇者「あ、あのさぁ……?女僧侶ちゃん……?」

女僧侶「……」

勇者「さ、さっきの話なんだけど……さぁ……?」

女僧侶「……勇者さん?」

勇者「……ん?」

女僧侶「……今はまだ戦闘中です。もっと集中して下さい」

勇者(も~う……後、三十分で死んじゃうってのに、集中なんて出来ないよ……)

女僧侶「来ましたよ……?」

勇者「……えっ?」

子魔物「ガルルルル……」

子魔物「グルルルル……」

子魔物「キシャァ~!」

勇者「う、うわっ……あんなにいっぱい……」アセアセ

女僧侶「いえ、さっきのとは違い、子供の魔物なので、私達でも大丈夫でしょう……」

魔物達「ガルルルル……」

勇者「いや……でもさぁ……?数がさ……あんなにいっぱいだよ……?」アセアセ

女僧侶「……勇者さん、行きますよ?」

勇者「えっ?いやっ、ちょっと待ってっ……!まだ、心の準備がっ……」アセアセ

ーーーーー


男戦士「たぁっ!そりゃっ!せあっ!」

魔物「……ガッ?ウガッ!」

天童「ほ~れ、男戦士さんっ!回復薬で~いっ!使いなさい~!」ポイッ

男戦士「天童さん、ナイスですよっ!よしっ……!たあっ!せいやぁ……!」

魔物「……グギャアアア!(なんだ、コイツ!?田舎者臭ぇのに、凄ぇ強ぇじゃねぇか!)」

男戦士「……ぁん?」

天童「あれぇ~?男戦士さん……?いきなり固まってどげんしたと?」

男戦士「おい……おめぇ、今俺ん事イナカモンってバカにしたろぉ~?」ワナワナ

魔物「……ガッ?」

男戦士「うおぉぉ!うるぁっ!おらぁっ!」ガシガシ

魔物「ガッ、ガッ……?グギャアアア……!」

天童「うわぁ……まさに鬼神のような猛攻ばい……さては、アイツ男戦士さんの事、田舎者ってバカにしたな……?」

男戦士「俺は田舎者なんかじゃねぇよぉ~!栃木は田舎なんかじゃねぇよぉ~!」シクシク

魔物「ガッ、ガガッ……!(なんだ、コイツ!?泣きながら斬りかかってきて、コイツ危ねぇ人だっ!絶対、危ない人だ!」

天童「よっしゃぁ~!男戦士さん、やってしまえ~!」

男戦士「俺ん事田舎者ってバカにするヤツはよぉ~、例え魔物でも魔王でも許さんよぉ~!」シクシク

魔物「グギャアアアっ!(こりゃ、たまらんっ!ここは逃げるばいっ!)」

天童「あっ!男戦士さん、アイツ逃げよったよ!」

男戦士「ううぅ……俺はぁ……田舎者なんかじゃねぇよぉ……」シクシク

天童「カァ~、くそっ!こんな所に抜け道があったのかっ!」

男戦士「栃木はぁ……田舎なんかじゃねぇよぉ……」シクシク

天童「あんたもいつまで泣いとるかっ!」

男戦士「ん……?あれっ……?天童さん、どうしたんですか……?あれ、魔物は何処行ったんですか……?」

天童「この抜け道から逃げたんでしょうがっ!あんた、何も覚えてないの!?」

男戦士「……まずいっ!天童さん、勇者君達の所に一度戻りましょう!」

ーーーーー


勇者「……お、終わった?」

女僧侶「ええ……殆ど私、一人でやったようなもんですけどね……」

勇者「いや、俺も一匹やっつけたよ!」

女僧侶「……こんなに大勢いるのに、たった一匹ですか」

勇者「へへ……人間、やればできるもんだね?へへ……どう?女僧侶ちゃん、俺、格好良かった?」

女僧侶「貴方はっ!」

勇者「!」ビクッ

女僧侶「ずっと、私の影に隠れて!石を投げて!弱った魔物だけにとどめを刺して!一体、何を考えてるんですか!」

勇者「えっ……いや、それは……」

女僧侶「私、勇者さんの事、信じていたのに……!きっとやってくれるって思ってたのに……!」

勇者「い、いや……違うんだそれは……ん……?」

女僧侶「……ん?」


魔物「ガルルルル(……ったく、酷い目にあったぜ。ん?」

勇者「うわあぁ……さっきの魔物だ……」

女僧侶「えっ……?じゃあ、男戦士さんと天童さんは……?」

魔物「ガルルルル(ん……?ガキ二人がいるぞ……?あっ、こいつらさっきの田舎者の仲間だな!?)」

勇者「……そんな、やられちゃったの?」

女僧侶「……勇者さん、気をつけてっ!何かしようとしてますよ!」

魔物「ギャアアアッ!(ちょうどいいや。こいつらで憂さ晴らししようっと!)」

勇者「わっ……わわっ……!火、吐いてきたっ!」

女僧侶「危ないっ!」

天童「今、あっちで何か音がしたとね!?」

男戦士「まずいっ……勇者君達の方だっ……!」

天童「くそっ!アイツやっぱり、勇者達の方に行っったか!」

男戦士「とにかく、走りましょうっ!天童さん、急いでっ!」

天童「わかっとるばいっ!」


天童(くそっ……10時まで、残り一分……)

魔物「グギャァ!グギャァっ!(くそっ、ちょこまか逃げんなよ。鬱陶しい奴らだな……)」

勇者「うわっ……!僧侶ちゃん、危ないっ……!逃げてっ!逃げてっ!」

女僧侶「……痛っ」

魔物「ガッ?(……ん?)」

勇者「僧侶ちゃん……?どうしたの……?」

女僧侶「くっ……足を挫いてしまいました……」ジンジン

魔物「ガガッ(おっ、なんか知らないが大チャ~ンス)」ニヤリ

勇者「そんなっ……!わわっ、どうしよう……どうしよう……」

女僧侶「私の事はいいから……勇者さんだけでも……逃げて下さいっ……!」

魔物「ギャアアア!(戦闘中に動き止めちゃダメよ。二人纏めても~らいっと)」

勇者「うわあぁぁっ!火がこっちに……!」

男戦士「まずいっ!二人とも、逃げろっ!」

勇者「あわわっ……今から逃げても間に合わ……あわわ、どうしよどうしよ……」

天童「勇者ぁっ!」

勇者「えっと……ええっと……ストロー?……アストロ球団……ああっ!違う違うっ……」

女僧侶「くっ……勇者さんだけでも……逃げて……下さいっ……」

勇者「スカトロ……?ストラトキャスター……?ああっ、違う違うっ!そうじゃないっ!」

天童「やばいっ!」


勇者「『アストロン』?」ピカーッ

男戦士「……くそっ!」

魔物「グフフ(やったぜ。丁度いい感じに焼けてるといいな……ん……?)」

女僧侶「あ、あれっ……?私……生きてる……?」

勇者「……」

女僧侶「勇者さん……?その身体……」

勇者「……あれ?何が起きたんだろっ?」

魔物「ガッ!(なんだコイツ!?鉄の塊になってやがる!?)」

男戦士「うおぉぉ!アイツ、鉄の塊に変身して女僧侶ちゃんを守るとはやるじゃねぇか!」

天童「……10時ジャストっ!よしっ!」

男戦士「おいっ!勇者ァ!いけっ!そのままやっちまえっ!」

勇者「あっ、戦士さん……それに天童も……無事だったんですね?」

天童「そんな事よりよぉ!お前、そのままアイツぶん殴っちまえよぉ!」

勇者「えっ……?ぶん殴る……?」

魔物「!」ビクッ

男戦士「おおっ!魔物が怯んでやがる!今のお前の拳は剣より強ぇだろ!行けっ、行っちまえっ!」

勇者(二人とも何言ってんだろ……でも……)チラッ

魔物「!」ビクッ


勇者(何でだろ……さっきまでは、あんなに怖かったのに、勝てそうな気がする)

勇者「よしっ……」テクテク

魔物「……!(なんだよ、お前っ……!来んなよ……!気持ち悪ぃよお前っ……!)」

男戦士「よ~しっ!いけぇ~!」

天童「ぶん殴っちまうばいっ!」

勇者「……おりゃ」


ボゴォッ


魔物「グギャアアア!(痛ぇっ!)」

勇者「……なんでこんなに痛がってるんだろ?まぁ、いいや」ボゴォッ

魔物「ガッ……!グッ……!グハッ……!」


男戦士「よ~し!いいぞっ~!そのままやっちまえ~!」

天童「勇者ァ~!お前、今人生で一番輝いてるぞぉ~!いけぇ~!」

女僧侶「……す、凄い」

ーーーーー


男戦士「よ~しっ!勇者君の活躍でモンスターは無事退治したな。街に戻って報告だっ!」

勇者「い、いやっ……僕の活躍って……そんな、大した事してませんよ……」モジモジ

天童「バカ野郎っ!な~に、謙虚になってんだよ!胸を張れっ!」

勇者「なんか、お前に褒められると気持ち悪ぃなぁ……あっ……!」

天童「……ん、どうした?」

勇者「て、天童……?今、何時……!?」

天童「ん……今は、10時半だな……」

勇者「俺、なんで生きてるの!?俺、命題クリアしてないよ!?」

天童「……カァ~、バカだねぇ。お前」

勇者「え?」

天童「『男と女の関係』ってのはセックスの関係だけじゃねぇって事だよ」

勇者「え……どういう事……?」

天童「か弱い女の子を守ってあげるのも、男の役目って事だよ」

勇者「……はぁ」

天童「お前は今まで、戦闘になったら、女僧侶ちゃんの影に隠れて、女僧侶ちゃんを盾にしてただろ?」

勇者「……うっ!」

天童「だけどよぉっ!お前、出来たじゃねぇか!?自分の身を挺して女僧侶ちゃんを守ったじゃねぇか!なぁ!?」

勇者「い、いやぁ……あの時は精一杯だったから……」モジモジ

天童「『勇気』……クリアだなっ……」

勇者「ん……?でも、待てよ……?」

勇者「なぁ、天童?」

天童「あぁ、どうした?」

勇者「だったら、俺、女僧侶ちゃんとセックスする必要なかったって事だよねぇ?別に変な事頼みこまなくても、よかったって事だよねぇ?」

天童「それはよぉ……お前が勝手に勘違いしてただけじゃねぇか」

勇者「か、勘違いって……教えてくれてもいいだろがっ!なんの為に俺、恥かいたんだよ!」ギャーギャー

天童「俺が教えたら意味ねぇじゃんかよっ!あのねぇ、命題ってのは自分の力でクリアしないと意味ないの!」ギャーギャー

勇者「なんだと~!?」


女僧侶「あ、あの……勇者さん……?」

勇者「……ん?」

女僧侶「助けて頂いて……ありがとうございますっ……!」ペコッ

勇者「あっ……いや……それより、足は大丈夫?」

女僧侶「はい、街に帰る事ぐらいはできそうです……あ、あのっ……勇者さん……?」

勇者「……ん?」

女僧侶「身を挺して私を守ってくれた姿……あの……その……」

勇者「?」

女僧侶「……とても格好良かったです///」

勇者「え?」

女僧侶「そ、それじゃあ、街に戻りましょうか!」

勇者「あ、うん……」

天童「……なぁ、勇者?」

勇者「ん?」

天童「……あれ、いけんじゃね?」

勇者「!」

天童「女僧侶ちゃん、お前に心ときめいてたんじゃね?」

勇者「や、やっぱり!天童もそう思う!?なぁ、こういう流れからセックスするってエロ本の展開でよくあるもんなぁ!?」

天童「なぁ!お前の今日一日してきた事は無駄なんかじゃなかったんだよ!おいっ、勇者!女僧侶ちゃん誘ってみろよっ!」

勇者「う、うんっ…… !やったっ……これで俺も童貞卒業っ!あっ、女僧侶ちゃん~?」



バチン


天童「……あれ?」

勇者「……天童」

天童「お、おう……」

勇者「エロ本の世界と現実はやっぱり違うね……」

天童「お、おう……そうだな……」アセアセ

勇者「……」

天童「……」

勇者「……次の命題は、いつ?」

天童「え~っと……次はX月X日だ……」アセアセ

勇者「わかった、俺頑張るよ。でも次は童貞関連以外の命題にしてね……?」

天童「お、おうっ……!」


男戦士「お~い!お前ら、何やってんだぁ~!とっとと帰るぞ~!」

二話はここまで

深夜から引越しで持ってきたもんだからこんな一日170近い更新はもう二度とないと思う
それでも間を開けずにシコシコやるつもりだから付き合ってくれたら嬉しい

天国に一番近い勇者?heaven cannot wait?

第一話 「お前は今日死ぬ!」 >>1-85
第二話 「セックスしないと死ぬ!?」 >>86-179

ーー俺はこの数日間で二度、死にかけた


男戦士「いやぁ~、噂通りの味だなコレっ!凄ぇ、上手いぜっ!」ガツガツ

女僧侶「そうですね。皆さんお代わりも沢山あるので、遠慮なさらないで下さいね?あっ、ほら勇者さんも」

勇者「う、うん……」


ーー俺は神様から与えられた10個の命題をクリアしないと死んでしまうらしい。なんじゃそりゃ。


女僧侶「ふふ、こんなに美味しいお肉が食べられるのも、勇者さんのおかげですわ」

勇者「い、いやっ……そんな事、ないよ……」


ーーこ~んな、ややこしい事になった理由、それは全てこの男……


天童「何でも俺のせいにするなって」ニコッ

勇者「……」

天童「おい、なにチンタラ食ってるんだよ?いらねぇんだったら、お前の分、貰っちまうぞ?」

勇者「う、うるせぇな!食うから黙ってろよ!意地汚ぇ奴だなっ!」ガツガツ

天童「……あれ?お前、何か変わった?」

勇者「……えっ?」

天童「だ~ってよぉ!お前、この間までは部屋でチュルチュルみみっちくカップラーメンなんかすすってよぉ」

勇者「……」ムシャムシャ

天童「そ~んな、食い方じゃなかったじゃん?ねぇ、何か変わった?」


ーー確かに

天童「なんで変わったかわかるか?俺のおかげだよ?そうっ!俺のおかげだっ!」


ーー俺の中に何かが起こっている。今までの俺では考えられなかった『何か』が


天童「お前みたいな奴でも、やっぱり変われるもんなんだなぁ!クゥ~、やるなぁ、俺!……あっ、これって全部俺のおかげだからね?わかってる?」

ーーでも……


天童「『でも』じゃねぇんだよ~。お前は俺の言う通りにしてりゃぁいいんだよォ~。そうやって前向きに生きていけばさぁ……」


勇者「うるせぇなっ!お前はモノローグに入ってくるんじゃねぇよっ!」

女僧侶「男戦士さん、本日はいかがなされるんですか?」

男戦士「……ん?」

勇者「魔物は討伐したし、僕達もう帰るんですかね?」

男戦士「あのなぁ……バカかお前は!この街の状況見て、よくそんな事が言えなぁ!?」

勇者「……えっ?」

男戦士「確かに、魔物は討伐してこの街の安全は確保されたけど、この被害状況だろ?」

勇者「は、はいっ……」

男戦士「しばらくは、この街の復興を支援する事になるだろうな」

勇者「な、なる程……」

勇者「じゃあ、僕達は何をしたらいいんでしょう?」

男戦士「何をしたら~じゃねぇんだよっ!やる事は山積みだろうがっ!」

勇者「えっ……いやっ……」アセアセ

男戦士「なんでもかんでも俺に聞いてんじゃねぇよっ!ちょっとは自分で考えて行動してみろってんだ!この一年生っ!」

勇者「いや……でも……」アセアセ

男戦士「適当に空いてる部隊の作業手伝うとかよぉ?何かあるだろがっ!」

勇者「は、はいっ……」

男戦士「よ~し!じゃあ、食い終わった奴らはそろそろ作業始めるぞ~!それから、自分で食った食器は自分でかたしておけ~!」

勇者「え~っと……ど、どうしよ……?」

ーーーーー


勇者「え~っと……え~っと……」キョロキョロ


「よ~し、じゃあ作業始めるぞっ!号令っ!」

「安全第一っ!」「安全第一っ!」


勇者「う、うわぁ……」


「私達は他の街との連携が取れるようにしましょう。馬車はあるの?」

「いえっ……それが魔物の襲撃で馬さえも……」

「……困ったわねぇ。じゃあ、先ずは馬の確保からね」


勇者「う、うわぁ……他の部隊の人はもう、作業始めちゃってるなぁ……どうしよ……」アセアセ

天童「ねぇねぇ、勇者君、勇者君?」

勇者「……ん?」

天童「ハイ、これ」

勇者「ん……?何、コレ……?」

天童「コレに、勇者君の今日の作業内容が書いてあるよ?」

勇者「……えっ?マジで!?」

天童「うん」

勇者「なんだよお前っ!たまには役に立つ事してくれるじゃねぇか!?」

天童「なっ……!たまにはって事はないでしょうがっ!俺はいつもお前の役に立ってるぜ!」

勇者「よ~し……さっそく見てみるか……え~っと……ん……?」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後8時までに

男戦士に褒められなければ即・死亡!





天童「ふ~む……『男戦士に褒められなければ即・死亡』か……」

勇者「ちょっと待てちょっと待て」

天童「よしっ!勇者!とっとと男戦士さんに褒められて来いっ!」

勇者「これ、命題じゃねぇかっ!?」

天童「あっ、うん。さっき届いたの」

勇者「なんでこれが俺の今日の作業内容なんだよっ!」

天童「そりゃ、今日それをしなきゃ死んじゃうからでしょうがっ!今、8時だから……後、12時間だな……」

勇者「……も~う」

勇者「まぁ……この命題は簡単だから、いいけどさぁ……?」

天童「……ぬ?」

勇者「男戦士さんに褒められばいいんでしょ?こんなの楽勝じゃん?」

天童「おっ!?お前、なんか変な自信がついてるだろ!?足元救われんぞ!?」

勇者「俺が欲しかったのは、作業内容なんだけどねぇ……」

天童「あっ!お前っ!やれよ、命題ちゃんとやれよっ!」

勇者「わかってるわかってるって……とりあえずさぁ?男戦士さんに何したらいいか聞いてくるから、そのついでに褒められてくるよ」テクテク


天童「……あれまぁ、命題を『ついで』って。な~んか、嫌な予感しかしないんだけどなぁ」

す、すまんっ!寝坊したっ!
本日はここまでで許してくれ

ーーーーー


勇者「あの~? 戦士さ~ん?」

男戦士「……あぁっ!?」イライラ

勇者「えっ……? ちょっと……何、そんなにイライラしてるんですか……?」

男戦士「やる事多すぎて、大変だからに決まってんだろがぁっ! それよりお前っ! 何、こんな所でサボってんだ!?」イライラ

勇者「い、いや……サボってるわけじゃあ、ないですけど……」アセアセ

男戦士「じゃあ、こんな所で何してんだよ!? とっとと自分の持ち場に戻りやがれっ!」

勇者「い、いやぁー、その事なんですけどね……?」

男戦士「……あぁ?」

勇者「ぼ、僕何処の持ち場につけばいいですかね……?」アセアセ

男戦士「おいおい、一年生……オイコラ一年生よぉ……!」ズカズカ

勇者「えっ……? ちょ、ちょっと……戦士さん、顔が怖いです……」

男戦士「てめぇはよぉっ!」グイッ

勇者「……ひっ!」

男戦士「何でもかんでも俺に聞いてんじゃねぇよっ! ちょっとはてめぇの頭で考えろってのっ!」

勇者「ひっ……! ひっ……! すいませんすいません……!」アセアセ

男戦士「ったくよぉ……まぁ、やる事わかんねぇなら、とりあえず住居作りでも手伝ってこい! あれは力仕事だから、バカなお前でも出来るだろ」

勇者「は、はい……!」

勇者「あ、あの~? 戦士さん……?」

男戦士「……あぁ? まだ、何かあんのかこの野郎?」

勇者「い、いえっ……! あのっ、大した事じゃないんですけど……」アセアセ

男戦士「……大した事じゃねぇならさっさと行けっての。皆忙しいんだからよぉ?」

勇者「あっ、いえっ……そのっ……僕にとっては大した事で……それでも大した事じゃない話といいますか……」アセアセ

男戦士「……はぁ? 何、言ってんだてめぇ?」

勇者「あ、あのですねぇ……! ぼ、僕の事、褒めてもらってもいいですか……?」

男戦士「……はぁ?」

男戦士「……俺が?」

勇者「はい」

男戦士「……お前の事を?」

勇者「は、はいっ!」

男戦士「……褒めるの?」

勇者「よろしくお願いしますっ!」

男戦士「……」

勇者「……」

男戦士「……何処をだよ?」

勇者「えっ……?」

男戦士「俺が、お前の、何処を褒めればいいんだよ?」

勇者「え、え~っと……何でもいいんでお願いしますっ!」

男戦士「バカな事言ってねぇで、早く仕事しろ」プイッ

勇者「えっ……? ちょ、ちょっと待って下さいよっ! 僕、男戦士さんに褒められないと困るんですよ!」

男戦士「ふふふ……勇者く~ん……?」

勇者「あ、あれ……? 男戦士さん……? 何か顔が怖いです……」アセアセ

男戦士「そりゃ、顔も怖くなるわっ! 皆が仕事頑張ってる中、一人サボってるバカの何処をどう褒めろっていうんだよっ!? てめぇ、バカも休み休み言いやがれゴルァ!」

勇者「ひっ……! すいませんすいません……」アセアセ

男戦士「わかったら、とっとと住宅作りの手伝いしてこいっ! それが終わったら、嫌になる程褒めてやんよっ!」

勇者「は、はいっ……!」

ーーーーー


天童「……おい? 命題はクリアできたのかよ?」

勇者「う~ん……男戦士さん、今機嫌悪そうだったから無理だった……」

天童「……そうかよ」

勇者「また、時間置いて行ってみる……」

天童「……あぁ?」

勇者「多分、男戦士さんは忙しくてイライラしてたから、褒めてくれなかったんだと思う……だから、作業が落ち着いた頃にもう一度行ってみるよ」

天童「……あのなぁ? 勇者?」

勇者「とりあえず、住宅作りの手伝いして来いって言われたから、そっちの作業しに行こうっと……」テクテク

天童「おめぇ、何か命題の意味勘違いしてねぇか!?」

天童「『人に褒められる』ってのは、そんなに簡単な事じゃねぇんだよっ!」

天童「自分自身ががむしゃらに頑張って……無我夢中になって頑張って……そういう事をした時に、始めて認められんだよ!」

天童「それを今のお前はどうだ……? 認められた~い~、評価された~い~……そんな下心丸出しの感情でよぉ!?」

天童「そんな半端な気持ちで、誰かの心を動かせるとでも思ってんのかオイっ!」

天童「いいかぁ! 一つだけ言っておくぞっ!」

天童「今のお前は……! ん……? あれっ……?」

天童「え~っと……今の……お前は……」キョロキョロ

天童「……」

天童「……お、お~い? 勇者君~? おいて行かないでくれよ~!」

ーーーーー

作業員「おっ? なんだ? 兄ちゃんもここの作業、手伝ってくれんのか?」

勇者「はい。男戦士さんに人員が足りないそうだと言われたので……」

作業員「う~ん……人員、増えるのは有難ぇ話なんだけどさぁ……?」

勇者「どうか、したんですか?」

作業員「……兄ちゃん、そんな、きゃしゃな体で大丈夫か?」

勇者「……えっ?」

作業員「ほれ、あれ土嚢だけどさ……? 一番軽い奴でも15キロあるぜ……?」

勇者「……う、うわぁ」

作業員「……まぁさ? 自分の出来る範囲でいいからさ? とりあえず、やってみろよ? 無理そうなら男戦士さんに頼んで配置転換考えてもらうからよ?」

勇者「い、いえっ……! 頑張りますっ……!」

「おぉ~い! 新入り~! 何やってんだぁ~!?」

勇者「ひいっ……ひいっ……! 重いっ……重いよう……」

「な~に、やってんだぁ~! こっち、土嚢足りねぇから早く持ってこ~いっ!」

勇者「す、すいませんっ……! 今、持って行きますっ……!」

「……ったく、使えねぇな」「……おいおい、新入りなんだから勘弁してやれよ」

勇者「お、お待たせしまし……う、うわああぁぁ……!」ドシャァー

「な、何やってんだよっ! このマヌケっ!」「ま、まぁまぁ……」

勇者「わっ……! わわっ……! すいませんすいません……!」

「一つ運ぶのにそんなにチンタラしてんじゃねぇよっ!今度からは二つずつ持ってこいっ!」
「おいおい……無茶な事、言うなよ……俺たちとは違うんだからさ……? あの子には無理だよ」

勇者「……」

勇者「ひいっ……ひいっ……! 重いっ……重いよぅ……」

作業員「あ~、勇者君、勇者君?」

勇者「す、すいませんっ……! 今、運びますっ……!」

作業員「あ~、違う違う! もう、運ばなくていいからさ……?」

勇者「……えっ?」

作業員「今、男戦士さんに連絡してね? 勇者君の配置転換してもらうように頼んだからさ?」

勇者「えっ……? 配置転換……?」

作業員「うん。勇者君みたいな、きゃしゃな子にはこっちの作業はキツかったよね?」

勇者「……」

作業員「手伝ってくれてありがとね? それじゃあ、男戦士さんの所に行ってよ」

勇者「は、はい……」

ーーーーー


勇者「……」トボトボ

天童「お前、クビになったんだってな?」

勇者「……クビなんかじゃないもん」

天童「……そんな調子で大丈夫なのかよ? 男戦士さんに褒めてもらえるのかよ?」

勇者「次は絶対に成功させるもん……」

天童「あのなぁ!? 勘違いしてるようだから、一つだけ言っておくぞ! 『人に褒められる』って事は……!って……お~い……お~いっ! 勇者く~ん……?」

男戦士「……おぅ、さっき配置転換の要求の連絡があった」

勇者「す、すいません……」

男戦士「気にすんな。指示した俺の責任だ」

勇者「……えっ?」

男戦士「そりゃ、お前みたいな奴に力仕事やらしたって、上手くいきっこねぇよなぁ? 悪かったな」

勇者「……いえ」

男戦士「……下のもんを上手く使えなきゃ、人の上に立つ資格なんてねぇ。俺もまだまだだな」

勇者「い、いえっ……! そんな事はっ……!」アセアセ

男戦士「……次は馬の確保してこい」

勇者「えっ……? 馬……?」

男戦士「おぅ。魔物の襲撃で、この街の交通網がぶっ壊れてんだよ」

勇者「は、はぁ……」

男戦士「だから、馬車の確保をする為に、今数名が馬の確保に向かってんだ。お前、その部隊と合流して手伝ってこい」

勇者「は、はい……」

男戦士「この前の、鉄に変身する力使えば、お前も役に立てるだろう。今度はしっかりやれよ……?」

勇者「は、はいっ……!」

ーーーーー


勇者「よ、よろしくお願いしますっ……!」オドオド

女ハンター「ふふ、緊張しないで? 馬の捉え方は知ってる?」

勇者「い、いえっ……! 始めてですっ……!」

女ハンター「それじゃあ、説明するわね? 馬をある程度痛めつけた後、この『シビレ罠』にかけるの」

勇者「は、はぁ……」

女ハンター「そうして、馬の動きが止まった後に、この『捕獲玉』を二つぶつけるの。そうすれば捕獲完了よ」

勇者「な、なる程……」

女ハンター「今、私達のパーティーは、ガンナーが二人に、片手剣が一人……丁度前衛がいなかったから、君みたいな子がきてくれると助かるわ。ふふ」


勇者(あ、あれ……?俺、なんか別の世界に来てるような気がするぞ……?)

「隊長っ! 馬ですっ!」

女ハンター「よしっ! 勇者君、鉄に変身して攻撃して! 私達はサポートをするわっ!」

勇者「は、はいっ……! んっ……! アストロンっ! 」ピカーッ

馬「! (何だこいつ!? 鉄の塊に変身しやがった!?)」

女ハンター「いいわよっ! 馬が怯んでるわ! 勇者君、攻撃をお願いっ!」

勇者「……」

女ハンター「……あ、あれ?」

馬「? (何だこいつ? 鉄の塊になったのはいいが、まるっきり動きやしねぇ)」

勇者「……」

女ハンター「お、お~い……? 勇者君~?」アセアセ

馬「ヒヒーン! (こんな、バカみたいな連中に付き合ってはおれんよ。わしゃ、帰る)」

「隊長っ! 馬が逃げますっ! 大変ですっ! こりゃ大変ですっ!」

勇者「う、うおっと……! ようやく、動けるようになった……」

女ハンター「……勇者君~?」

勇者「あれっ? 馬は何処に行ったんですか? もう、捕獲したんですか?」キョロキョロ

女ハンター「とっくに逃げちゃったわよっ! ねぇ、どうして動いくれなかったの! どうして固まったままだったの、君!?」

勇者「い、いや……そんな事、言われても僕には何がなんだか……」

女ハンター「ねぇっ! 全部、勇者君のせいだよっ!? 馬が逃げちゃったのは! ねぇ、わかってるの!? ねぇっ、ねぇっ!?」

勇者君「い、いや……そんな事、言われましても……」アセアセ

女ハンター「もういいっ! 私、こんな子いらないっ! 戦士さんに頼んで配置転換してもらうっ!」

勇者「!」

ーーーーー


勇者「……」トボトボ

天童「また、クビになったんだってな?」

勇者「……クビなんかじゃないもん」

天童「……今度もそんな調子で大丈夫なのかよ? お前、今日中に男戦士さんに褒めてもらえるのかよ?」

勇者「あれは……あの女の人がちょっとヒステリックなだけだったもん……」

天童「あのなぁ!? 勘違いしてるようだから、一つだけ言っておくぞ! 『人に褒められる』って事は……!って……知ってる……流石に三度目になれば僕も知ってる……」

勇者「……すいませんでした」

男戦士「……気にすんな。俺も詳しくは知らねぇんだけどよぉ?」

勇者「?」

男戦士「覚えたての魔法ってのは普通の効果の他に特別な効果が出る事もあるらしいんだってよ?」

勇者「へ、へぇ~……」

男戦士「お前が、この前の魔物討伐で鉄になったまま動けたのは、その特別な効果なんだろうな」

勇者「な、なるほど……」

男戦士「その魔法の正しい効果は『鉄になって敵の攻撃から身を守る』ってもんなんだろうよ」

勇者「は、はい……」

男戦士「勉強になったな……? お前も……俺も……」

勇者「……はい」

勇者「あの……? 男戦士さん……?」

男戦士「あぁ?」

勇者「ぼ、僕はどうしたらいいですかねぇ……?」アセアセ

男戦士「う~ん、困ったなぁ……だって、お前何もできねぇしなぁ……」

勇者「……うっ」

男戦士「……あっ、そうだ! 僧侶ちゃんいるだろ?」

勇者「は、はいっ……!」

男戦士「あの子はよぉ、この街の子供達の面倒みるとか言ってたような気がするぞ!」

勇者「へ、へぇ……女僧侶ちゃん、ちゃんと自分で考えてやってるんだ……」

男戦士「お前、それ手伝って来いよ! なっ、ガキの面倒みるくらいならお前でも出来るだろ!」

勇者「は、はいっ……! わかりましたっ……! 行ってきます……!」

男戦士「……ったく、今度は失敗すんなよ~」

ーーーーー

女僧侶「……というわけで、魔族は無事退治され、王子様とお姫様は幸せにくらしました。めでたしめでたし」

「わ~い」「面白かった~!」「もっとお話聞かせて~?」

女僧侶「う~ん……それじゃあ、どうしましょうか……? あっ、勇気のない男の子の所に天使様がやって来て、成長していくって物語はどうですかね?」

「面白そ~!」「その天使様ってサングラスに黒服の人~?」「聞きたい聞きたい~」

女僧侶「それじゃあ、始めましょうか? 昔々、あるところに、勇気のない意気地なしの男の子がいました……」

勇者「……ん? 女僧侶ちゃん、何してるの?」

女僧侶「あっ、勇者さん? 怪我人の治療は粗方済んでいますし、私は子供達の相手をしてるんですよ」

勇者「ふ~ん……」

勇者「今、何の話してたの?」

女僧侶「あっ、作り話ですよ! 私、自分で物語を作って人に聞かせるのって好きなんです」

勇者「ふ~ん……女僧侶ちゃんって、落語とか、小話が好きなんだ……?」

女僧侶「ら、落語って……ちょっと言い方酷くありませんかねぇ……?」

勇者「よしっ! それなら俺にもできそうだな! ……実はね、俺も小話得意なんだよ」

女僧侶「だ、だから……小話じゃありませんってば……」アセアセ

勇者「よ~しっ! 皆、お兄ちゃんがもっと面白い小話を聞かせてあげるよ!」

「わ~い!」「聞きたい聞きたい~!」


勇者「……え~、これは私が先日、近所の吉野家に行った話です。吉野家」

ーーーーー

勇者「……ってなワケで、私はその親子連れに言ってやったワケですよ」

女僧侶「……」

勇者「お前らド素人は牛鮭定食でも食ってなさい……ってね……?」キリッ

女僧侶「……」

勇者「へへ……ねぇねぇ! どうだった!? 面白かったでしょ?」

「……つまんな~い」「コピペ乙」「今時、吉野家かよ」

勇者「あ、あれ……? なんか、反応悪いな? ひょっとして、皆吉野家行った事ないのかな?」

女僧侶「勇者さん、勇者さん……もう、いいですから……」

勇者「あっ! じゃ、じゃあ……君達、イチローの伝説って知ってる!? 全盛期のイチローの伝説、話してあげるよ!」

女僧侶「勇者さんっ!」

勇者「!」ビクッ

女僧侶「ありがとうございます……もう、いいですから、ね……?」

勇者「……」

女僧侶「ごめんね、皆? じゃあ、さっきの話の続きしようか?」

「うんっ!」「聞きたい聞きたいっ!」

女僧侶「じゃあ、始めますね? ……そんな、意気地なしの男の子の元に、ある日天使様がやってきました」

勇者「……」

女僧侶「天使様は男の子に言います……私は天使だぁ、お前に呪いをかけたぁ……と……」

勇者(凄いな……皆、聞き入ってるや……)

女僧侶「男の子は言いますっ! ふざけるなっ! なんで天使が呪いをかけたりするんだよ! お前は悪魔の使いなんだろっ! と」

勇者(……ここも、俺の居場所じゃないかな)

女僧侶「天使は言います。これは神様からの呪いである……お前が呪いを解く方法はたった一つ……!」

勇者(……)トボトボ

ーーーーー

勇者「……」トボトボ

天童「まぁ~た、失敗したのかお前はっ! いいかぁ!? 今度はちゃんと聞けよっ……!? 『人に褒められる』って事は……」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……ったく、なんだよっ!今、いい所なんだから、最後まで言わせろよっ!」

勇者「……俺はさぁ、一生懸命やってるんだよ」

天童「……あぁ?」

勇者「俺はさ……? 俺なりに一生懸命やってるんだ……でもさぁ、結局周りに迷惑かける事になっちゃってさ……?」

天童「……」

勇者「……なんで、上手くいかないんだろうね? 俺、もう、どうすればいいかわかんないよ」

天童「……死んだ魚の目だ」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇは、死んだ魚の目をしてやがる。そんなんじゃ、何やっても無理だ」

勇者「だってさ……どうせ、俺なんかが何をやっても上手くいかないし……」

天童「出たっ! 『どうせ星人』っ! 何かあったらすぐ、『どうせ』の一点張りだ! よっ、ネガティブ大統領っ!」

勇者「……だって」

天童「100回失敗してもよぉ!? 101回目に成功すればいいじゃねぇかっ!? 武田先生はそうやって成功したんじゃねぇのかよ!?」

勇者「……」

天童「お前、今日何回失敗した!? えぇっ!? 片手で数える程しか失敗してねぇじゃねぇか!? 皆、それくらいの失敗は経験してんだよ!」

勇者「うん……」

天童「お前はよぉっ! そ~んなに簡単に諦めちまうような人間なのかよっ!? えぇっ! や~っぱり、ダメ人間なのか、オイっ!」

勇者「違うよ……俺、二つの命題クリアしたんだし……! ダメ人間なんかじゃないっ……!」フルフル

天童「おっ、おっ!? ちっとはマシな顔になってきたじゃねぇか!? えぇっ!? それで、今からどうすんだよっ!?」ニヤニヤ

勇者「そんなもん……! 男戦士さんに仕事貰いに行くに決まってんだろがっ! 天童っ! お前もついて来いっ!」

天童「は~い! ……って、あっ! また、言えなかったや」

ーーーーー

勇者「男戦士さんっ!」ガラッ

男戦士「うおっ! おおっ、ビックリした~」アセアセ

勇者「仕事下さいっ!」

男戦士「仕事って……お前、僧侶ちゃんと、子供の面倒みるってのは、どうなったんだよ……?」

勇者「あの、仕事は僕には向いてませんっ! だから、何か他に仕事下さいっ!」

男戦士「向いてないって……お前、それ自信満々に言う事じゃねぇだろ……」アセアセ

勇者「いいから、仕事下さいっ! 仕事がないと、僕死んでしまうんです!」

男戦士「何、言ってるかわかんねぇよ……顔近ぇよ、怖ぇよ……」

天童「いやぁ~、すんましぇ~ん! 何でもいいんで、こいつに仕事与えてやってくれませんかねぇ?」

男戦士「あっ、天童さん? 天童さん、作業は……?」

天童「いや~、私の方も手が空いたもんですからね……? こいつのフォローしようと思いまして……」

勇者(うるせっ! 余計なお世話だよっ!)

天童(おめぇ、一人じゃどうしようもねぇからよ……俺も手伝ってやるって言ってんだよ! 感謝しやがれ!)

男戦士「……ん?」

天童「あっ、いや……なんでもありましぇ~ん。それより、何か作業ありませんかね……?」

男戦士「あっ……え~っとね……天童さんいるんだったら、丁度いい仕事があるや……」

天童(ほれ、俺のおかげだ。感謝しやがれっ!)

勇者(……うるせっ!)

男戦士「え~っとね……? お使い頼みたいんだけど……?」

勇者「お使い……?」

天童「焼きそばパンですか!? それとも、メロンパンですか!?」

男戦士「いやいや、そうじゃないそうじゃない……え~っとね、この街は物資がかなり不足しているんだよね」

勇者「そうですね」

天童「今、皆で必死になってかき集めとるばいっ!」

男戦士「それでね、この街からずっと東に行った所に街があるから、そこから支援物資をもらってきてほしいんだよ」

勇者「はぁ……なるほど……」

天童「結構、重大な任務ですね」

男戦士「その街には、僕の知り合いの武道家がいるから、そいつに頼めばなんとかなると思うんだけど……」

勇者「だけど……?」

天童「何か、問題でも……?」

男戦士「いや……そいつ、どケチで面倒臭い男でね……? だから、天童さん……ほら、商人でしょ? 上手い事言って、安く譲ってもらって来て下さいよ?」

天童「バ、バカ~ん! だから俺は商人じゃなくて、商人(天使)だってばよぉ~!」

勇者「よしっ! 海沿いの東の街ですね!? じゃあ、行ってきます!」

男戦士「おいおいっ! 地図は持ったのか!? それに金も持ってねぇだろ!?」

勇者「あっ……」

男戦士「ったく……今日一日、お前おかしいぞ……ほれ、金に、地図……使い混むんじゃねぇぞ!?」

勇者「わかってますっ! それじゃあ、戦士さん、行ってきます!」

男戦士「お、おぅ……ったく……急にやる気になってどうしたんだアイツ……」

勇者「おいっ! 天童、何やってんだっ! 行くぞっ!」

天童「わかってるよっ! あっ、男戦士さん、それじゃあ行ってきます! 上手くいったら、あいつの事、褒めてやって下さいね?」


男戦士「そんなに褒められたいもんなのかねぇ……? まぁ、今回は大丈夫そうかな……? あっ、お~いっ! 8時までには帰ってこいよ~?」

ーーーーー


勇者「え~っと……海沿いの街だから……よしっ! こっちだな!」

天童「……ん?」

勇者「天童っ! 行くぞっ!」

天童「おい、勇者……ちっと地図見せてみろ……?」

勇者「なんだよ、こっちは早く行きたいのに……ハイ、地図……」

天童「え~っと……ここが街で……ここが海だから……っと……」マジマジ

勇者「……何、やってんの? 早く行くよ?」

天童「あっ、コレ方向逆だな。こっちだよ、東はこっち」

勇者「……あ、あれ?」

天童「……ったく、おめえは地図もまともに見れねえのか?」

勇者「ちょっと、間違えただけじゃん……」

天童「バカ~ン! ちょっとの間違いって、全く逆方向に行こうとしてたじゃねぇか!? ちょっとじゃなくて、致命的な間違いだよっ!」

勇者「……うるせっ」

天童「あのなぁ、勇者~? お前が頑張ろうとしてんのは認めてやんよ。うん、認めてやる。……てもなぁ、お前、気合入りすぎてな~んか空回りしてねぇかぁ?」

勇者「えっ……?」

天童「おめぇにそんな、でっけえ仕事が出来るなんて、誰も期待してねぇよ! だから、男戦士さんはお前の身の丈にあった仕事を回してくれたんじゃねぇか」

勇者「……うん」

天童「ちっとは足元見た方がいいんじゃねぇか? ……じゃないと、今回も失敗しちまうぞ? この仕事も、命題も」

勇者「う、うん……」

天童「とにかく、今1時だから後、7時間だ……さっさと、街に支援物資貰いにいくぞ」

今ってもしもし規制でもかかってるんですかね?
それとも専ブラ入れてない情弱な俺がマヌケなだけだろうか?

ーーーーー

勇者「はぁ……はぁ……い、意外と距離あるね……?」

天童「な~に言ってんだ! まだ1キロも歩いてねぇじゃねぇか!? おめぇはほ~んと体力ねぇんだな!」

勇者「い、いや……多分、もう15キロぐらい歩いたはず……ん……?」

天童「……ん」


魔物「グルルルル……」

勇者「わっ、わっ……! 魔物だっ……!」

天童「……カァ~! 急いでんのにめんどくせぇなぁ。勇者ァ! とっととぶっ飛ばしちまえっ!」

魔物「グルルルル (お兄さん~? ちょっと、お金貸してくれな~い? 僕、財布落として困ってるんだよね~?)」

勇者「い、いやっ……天童っ……! お、お前も手伝ってくれよ……」アセアセ

天童「バ、バカっ……! 俺は天使だから、戦わねぇよ! お前一人でやりやがれ!」

魔物「グルルルル (おい、兄ちゃん……ジャンプしてみろよ? 小銭持ってんだろ、小銭)」

勇者「ちょっとぐらい手伝ってくれてもいいだろうがっ! このダメ天使っ!」

天童「なっ……! 誰がダメ天使だっ! おめぇこそダメ勇者じゃねぇか! 勇者だったら一人でなんとかしてみろよ!」

魔物「……ガル? (あれ? シカト? ねぇねぇ、僕の事シカトしてる? なんかムカついてきたぞ……?)」

勇者「な、仲間の良さを引き出してやるのも、勇者しての指名なんだよ……いいから、お前も戦えって……!」アセアセ

天童「な~に、都合のいい事、言ってんだ。おめぇ、ただビビってるだけだろがっ!」

魔物「グルルルル……(くっそぉ……舐めやがって……こんにゃろっ! でやぁっ!)」

勇者「わ、わわっ……!ヤバいっ……! ア、アストロンっ!」ピカーッ

魔物「……ガッ! (何っ!?)」

勇者「……」

魔物「グル……(鉄の塊に変身して、俺の攻撃を弾くとは、なかなかやるじゃねぇか……?)」

勇者「……」

魔物「グルルルル……(せやけど、舐めたらアカンでぇ? 俺には必殺のハイパーゴールドロマンシングときめきドラゴンパンチがあるんや!)」

勇者「……」

魔物「ガルルルル……? (おっ、ビビってんのか? 財布渡すなら今のうちやで!?)」

勇者「……」

魔物「ガル……(くっそっ! またシカトかっ! もう怒ったっ! ハイパーゴールド……ロマンシングときめきドラゴンパァ~ンチっ!)」

勇者「……」

魔物「ガッ……! (い、痛ぇっ! また弾かれてしもうたっ! ちくしょうっ! こんにゃろっ! こんにやろめっ!)」

ーーーーー

魔物「ガルっ! (でりゃ、でりゃっ!)」

天童「……空が青いねぇ」

魔物「グルっ! (おりゃ、おりゃっ!)」

天童「……風が気持ちいいねぇ」

魔物「キシャアァっ! (こんにゃろっ! こんにゃろめっ!)」

天童「30分……あいつ、しつこいねぇ……」

魔物「グルルルル……(はぁ、はぁっ……)」

勇者「……」

魔物「ガル……(ま、まぁ……今日はこれくらいで勘弁しとったるわ……)」

天童「カァ~……や~っと諦めてくれたか……アイツ、吉本新喜劇みたいなヤツやったねぇ……」

勇者「んっ……おっ、敵がいない……? 天童、終わったの……?」

天童「……お~う、殴り疲れて帰って行ったよ」

勇者「ね、ねぇ……天童……? 俺、一人で倒したよ? どうだった?」

天童「あぁ、なかなかやるじゃねぇか?」

勇者「……でしょ!?」

天童「今までのお前は、ビビって一人で戦う事も出来なかったからな……勇者、成長したじゃねぇか?」ニコッ

勇者「でしょでしょ!?」


天童「なぁ~んて、言うとでも思ったかっ! このバカっ!」

勇者「!」

天童「おめぇはよぉ! な~んで30分もかけて戦闘してんだよぉ!」

勇者「ちょ、ちょっと時間かかっちゃったかな……?」アセアセ

天童「ちょっとじゃねぇよっ! タイムリミットまで、後6時間半だ! 6時間半っ!」

勇者「うっ……!」

天童「あんなペースで戦闘してたらよぉ! 街に着く前に死んじまうじゃねぇか!」

勇者「ご、ごめん……」アセアセ

天童「時は金なり! タイム・イズ・マネー! 今はちんたらやってる場合じゃねぇのっ!」

勇者「う、うん……」

天童「もう、ここからはよぉ? 魔物からは全部逃げながら、街に向かおうぜ? あんな調子じゃ、時間がいくらあっても足りねぇよ」

勇者「そ、そうだね……そうしようか……」アセアセ

商業の街ーー


勇者「ふ、ふぅ……ようやくついたね……?」

天童「思ったより、魔物とエンカウントしちまったな……ねぇねぇ、勇者って、もしかして絡まれ体質……?」

勇者「う~ん……自称天使の変なおっさんに最近つきまとわれてるし、そうかもしれない……」

天童「バ、バカっ……! つきまとわれてるって、なんて言い方してんだよっ! それに俺は自称じゃなくて、本当の……」

勇者「とにかく、武道家さんを探そうよ? その人が支援物資をもってるんだったよね?」テクテク

天童「おいっ! 話聞けよ! ……まぁ、もう3時だし、時間ねぇからしょうがねぇか」

すまん、もう続けれそうにない

雑談スレで俺の不用意な発言から荒れる流れになってしまった
これからこのまま続けても一部の連中が荒らしに来てくれるだろうし
そんな中でお前らとコミュニケーションを取りたくはない

わざわざ深夜からついてきてくれた連中、本当にすまない

すまんっ!1から10まで話したいんだが、言葉足らずの俺には無理だ!

俺が雑談スレで不用意な発言をしたせいでこんな流れになってしまったっ!本当に申し訳ないっ!

勇者「え~っと……武道家さん……武道家さんっと……」キョロキョロ

天童「おい、勇者。早く探しちまえよ。時間がねぇんだからよぉ~」

勇者「わかってるって……え~っと……何処にいるのかな……んっ……?」


「あっ、この装備レアなヤツでしょ? 僕に売ってちょうだいよ」


勇者「……あの人かなぁ?」


「あっ、財布忘れた……ねぇ、悪いんだけどツケにしておいてよ?」


天童「……う~ん、面独臭そうな雰囲気は出てるなぁ」


「え~!? いいじゃん!? ねぇ、ツケにしておいてよ。僕と君の仲じゃん~!」

勇者「あの~?」

男武道家「……んっ? 何? 君、誰?」

勇者「もしかして……男武道家さんですか……?」

男武道家「うん、そうだけど? ねぇ、所で君は誰? 人に名を聞く時は自分から名乗るのが常識じゃん?」

勇者「あのっ! 男戦士さんから、貴方から支援物資を頂いてこいと言われまして……」

男武道家「あ~、男戦士君? あの田舎者でしょ? 懐かしいなぁ~、ねぇねぇ、所で君の名前は?」

勇者「あっ……! すいませんっ! 僕、勇者っていいます」

男武道家「ふ~ん……勇者君だね。じゃあ、勇者君? 申し訳ないけど、お金一瞬貸しといて?」

勇者「えっ?」

男武道家「いや~、だから、君は男戦士君の知り合いでしょ?」

勇者「は、はい……」

男武道家「男戦士君の知り合いって事は、僕の知り合いだよね?」

勇者「え、えっ……?」

男武道家「知り合いだったら、当然お金貸してくれるよね? ねっ? 僕、財布忘れてお金ないんだよ」

勇者「い、いや……このお金は支援物資の為に使うお金でしてね……」アセアセ

男武道家「あっ! 君、そんな事言うんだ? そんな事言うなら支援物資譲るのやめちゃうよ?」

勇者「えっ……! い、いやっ……! それは困ります……!」アセアセ

男武道家「だったら、お金貸してよ! ねっ、一瞬だから! 後でちゃんと返すから、一瞬貸しといて?」

勇者(う、うわぁ……この人、面倒臭い人だなぁ……)

ーーーーー


男武道家「いや~、ありがとうありがとうっ! 君のおかげでレアな装備が買えたよ!」

勇者「い、いえっ……」

男武道家「この剣はね? ロマサガ街のランスって所から流れてきた『Lv七星剣』って武器なんだよ」

勇者「は、はぁ……?」

男武道家「ねぇねぇ? どうしてこの武器レアなのか知りたい? 知りたいでしょ、君」ウキウキ

勇者「い、いやぁ……そんな事はいいから、早く支援物資譲ってもらえませんかね?」アセアセ

男武道家「え~っ!? そんな事言わず、聞いてよ~! あのね、この『Lv七星剣』っていうのは、普通にしてたら手に入らない武器でね……?」

勇者「は、はぁ……」

男武道家「この武器を手に入れるには『コマンダーモード』ってのを使わないといけないんだ」


勇者(う~ん……面倒臭いなぁ……)

ーーーーー

男武道家「それでっ! この武器は教団の連中に一度、奪われちゃったんだよっ!」

勇者「はぁ……」

男武道家「あっ! 勇者君、話聞いてないでしょ!?」

勇者「えっ、えっ……!? い、いやっ……そんな事ないです……」アセアセ

男武道家「いんや、聞いてないっ! もうっ! じゃあ、もう一度聖王様の所から説明するね?」

勇者「い、いやっ……!聞きましたよっ! その話、聞きましたって!」

男武道家「いやっ、聞いてない! じゃあ、説明するよ? 聖王様ってのは……」クドクド

勇者「……も~う」


天童「おい、勇者っ! おい、勇者っ!」ヒソヒソ

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、いつまで話聞いてんだよっ! そろそろ切り上げろよ!」

勇者「だって……あの人、マシンガントークすぎて言い出す暇ないんだもん……」

天童「そんな事言ってたら、あいつ一晩中、あの剣の話しやがるぞ!?」

勇者「……でもさぁ?」

天童「でもさぁ、じゃねぇよ! お前、もう話聞き続けて30分たってるんだぞ!?」

勇者「えっ、嘘? もう30分もたってるの?」

天童「おめぇも、あのくだらない話聞いたまま死ぬのは嫌だろうがっ! ほれ、とっとと話切り上げてこいっ!」

勇者「う、うん……」

勇者「あのぉ~、武道家さん……?」

男武道家「……ん、どうしたの? あっ、今度はアビスゲートの話、聞きたいんだ?」

勇者「い、いやっ……! そうじゃなくてっ……!」

男武道家「え~? そんな事言わずに聞いてよ~? ……あのねあのね、アビスゲートっていうのはね?」

勇者「武道家さんっ!」

男武道家「な、なんだよ……急に大きい声を出してさぁ……? びっくりするじゃないか?」

勇者「そろそろ、支援物資の商談の話したいんですけど……?」

男武道家「う~ん……じゃあ、アビスゲートの話、終わってから……」

勇者「武道家さんっ!」

男武道家「な、なんだよ……君、ちょっと怖いよ……?」ビクビク

勇者「商談の話をお願いしますっ! こっちは時間がないんですよ! 時間が!」

男武道家「……わかったよ。だから、そんな怖い顔しないでよ? アビスゲートの話は商談の後にしようか?」

勇者「……」

ーーーーー

男武道家「支援物資で欲しいのは、薬と食糧かな?」

勇者「そうですね、あっちでは薬と食糧が不足してます」

男武道家「ふ~ん……あっ、僕は薬と食糧にもこだわってるんだよ? ねぇねぇ、僕のこだわり聞きたい?」ウキウキ

勇者「い、いやっ……そ、それはまたの機会に……」

男武道家「そんな事、言わずに聞いてほしいなぁ~、……あっ、ついたよ? ここ僕の家~」


ドーンッ


勇者「!」

男武道家「ねぇねぇ、凄いでしょ? 広いでしょ? この家立てる為の僕の苦労話、聞きたい?」ウキウキ

勇者「うわぁ……大きいですねぇ……」

天童「いや~、こりゃ、たまげたっ! 牧場まであるね!」

勇者(……ん?)

男武道家「あの牧場は、僕の人脈を表してるからね。牛を10頭と、馬を8頭飼ってるよ?」

勇者(……馬?)

天童「はぁ~、それだけ飼ってると世話も大変でしょう?」

男武道家「う~ん、そうだね。世話は大変だけど、動物育てるのは……」

勇者「……あ、あのっ! 武道家さんっ!」

男武道家「ちょっと、何~? 毎回、大声出さないでよ? 怖いよ、君」

勇者「もし、良ければ……馬を売って貰えませんかね……?」

男武道家「えっ……? 馬、売って欲しいの?」

天童「お、おいっ! 勇者っ! おめぇ、無駄遣いしたら、男戦士さんにドヤされちまうぞっ!? 今回の命題は……」

勇者「違うんだよ、天童……馬は必要なんだよ……今、あっちの村では交通機関がストップしてるんだよ……」

男武道家「う~ん……確かに、最近世話するのも大変だしなぁ……」

天童「でも、金はどうすんだよ!? そんな金持ってんのかお前!?」

勇者「だからっ! 天童っ! 頼むよっ!」

天童「……ん?」

勇者「お前が、値切ってくれよっ!」

天童「だからよぉ! 俺は商人なんかじゃなくて天使……」

勇者「お前じゃなきゃ、無理なんだよっ! 俺じゃ、こんな事出来ないんだよっ!」

天童「……ぬ?」

勇者「俺、わかったんだよ……今日の俺は、男戦士さんに褒められよう、褒められようとして、自分に出来ない事ばかり、しようとしてた」

天童「……」

勇者「人に褒められるって、そういう事じゃないじゃん? 今日の俺は下心ばかりで、ずっと背伸びしてた」

天童「……」

勇者「俺がここで値切ったら、俺の手柄にねるけどさぁ……やっぱり、商談に向いてるのはお前じゃん!?」

天童「……」

勇者「だからさぁ? 頼むよ、これはお前じゃないと出来ないんだよっ!?」

天童「……勇者ぁっ!」

天童「お前、今、いい事言ったぞ!」

勇者「……えっ?」

天童「沢山、沢山いい事言ったっ!お前の心のノートにメモっておけ!」

勇者「う、うん……」

天童「……お前に、そこまで言われると俺もやるしかねぇなぁ?」ニヤニヤ

勇者「!」

天童「商人天童様の実力見せてやるからよぉ……? お前っ! これもしっかりメモっておくんだぞ!?」

勇者「うんっ!」


天童「……あっ、すんましぇ~ん! 武道家さん、ちょっとお話が~」

ーーーーー

男武道家「う~ん……じゃあ、二頭で、この値段で……」

天童「いや~、流石武道家さんっ! ヨッ! 次期部長っ!」

男武道家「……僕はまだ、課長なんだけどね。でも、君商売上手だねぇ? 負けたよ」

天童「いや~、いや~、全ては武道家さんの器の大きさのおかげでですよ!」

男武道家「えっ、本当……? な~んか、そう言われると照れちゃうなぁ……」

天童「よっ! 日本一っ! この色男っ!」

男武道家「ふふ、やめてよ……それじゃあ、牧場に連れていくからついて来て?」


天童(へへ、どうだ! 見たか!)

勇者(天童、ナイスっ!)

男武道家「君達に譲るのは、この二頭だね」

勇者「うわぁ……恰好いい馬……」

天童「こりゃ、凛々しい馬ですなぁ~、こ~んないい馬、譲って貰えるなんて光栄ですよ」

男武道家「……あっ、天童さん、やっぱりこの馬の良さが分かる?」ニヤニヤ

勇者「……えっ?」

天童「ん……?」

男武道家「この馬の名前はね、『フジエダ』っていってね? アスキー街のダビスタ牧場から譲ってもらった馬なんだ?」

勇者(お、おいっ! なんか始まっちまったぞ!?)

天童(止めるか!? あっ、でも、もしそれで商談破綻したら……)

男武道家「名前の由来なんだけどね……? フジエダマジックってのがあってね……?」

勇者(お、おいっ! どうするんだよっ! お前のせいだぞっ!)

天童(す、すんましぇ~ん……)

男武道家「あっ、先ず『藤枝マジック』から説明しようか? これは、絶不調の時に調教を……」ベラベラ

ーーーーー

男武道家「……という訳で、『フジエダ』はキングジョージを制覇して引退したってワケ」

勇者(……な、長かった)

天童(三歳新馬から引退まで……全て聞いちまったな……)

男武道家「じゃあ、『フジエダ』の説明は以上にして、次はこっちの馬の説明をしようか?」

勇者(えっ……!?)

天童(まだ、続くの!?)

男武道家「この馬は『けるべろ』っていってね? ラクーンシティのアンブレラ製薬会社から譲り受けた馬なんだ」

勇者「い、いやっ……! 武道家さん……!」アセアセ

天童「もう、説明はいいですばい! 我々、時間がないんですよ!」

男武道家「え~? アンブレラ製薬会社ってのは、薬品会社なんだよ? そんな所がどうして馬を飼育してるか気にならない?」

勇者「いえっ! 結構です結構でっ!」

天童「そ、それより、薬品とか食糧のこだわり聞かせて下さいよっ……!」

男武道家「あっ、そうだね。じゃあ、そっちの話にしようか?」

勇者「色々と物資、ありがとうございましたっ!」

天童「あんたの事は忘れんばいっ!」

男武道家「いや~、困った時はお互い様だよ。それより男戦士君によろしくね?」

勇者「はい、わかりました!」

天童「しっかり伝えておくばいっ!」

男武道家「あっ……そういえば僕が男戦士君と出会ったきっかけ話してなかったね? あのね、男戦士君と僕は……」

勇者「い、いえっ……! それはまたの機会に……!」アセアセ

天童「今度、時間がある時にゆっくりと! ゆ~っくりと!」

男武道家「そう……? じゃあ、君達、気をつけてね?」

勇者「はいっ! ありがとうございましたっ!」

天童「あんたの事は忘れんばいっ!」

フジエダ「ヒヒーンっ!」

けるべろ「……ガルルルル」

色々あった流れを消す為に終了まで書くつもりだったが、そろそろオネムです

変な流れを生んだのは全部俺の不注意からだし、その事から変に俺に気を使ってくれる必要もない
あの流れを見た上でこのレスまで付き合ってくれてる事がただただ、ありがたい

色々後押ししてくれた人もいたし、本当にありがとう

天童「よっしゃぁ! 勇者! 今七時だから、後一時間……そろそろ出発するかっ!」

勇者「そうだね。帰りは馬がいるから楽だね」

天童「あっ、おめぇ、最後の最後で油断してるだろ? いくら、馬がいるって言っても結構、タイムリミットまでギリギリだぞ?」

勇者「えっ、えっ……? そうかな……?」

天童「まぁ、な~んにも、トラブルがなかったら、ちゃ~んと時間通りに着くと思うけどよぉ……?」

勇者「な、なんだよ……急に不安になるような事、言うんじゃねぇよ……」

天童「まっ、大丈夫だと思うけどな! よっしゃ! そろそろ出発するかっ!」

勇者「うんっ! いくよっ! フジエダっ! けるべろっ!」

フジエダ「ヒヒーンっ!」

けるべろ「ガルルルル……」

その頃街ではーー


男戦士「う~ん……遅ぇな、あいつら……ちゃんとやってんのかな……?」

女僧侶「男戦士さんっ! 大変ですっ!」

男戦士「ん……? 女僧侶ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」

女僧侶「海岸の偵察部隊から連絡があったんですが、今海沿いの洞窟に魔物が上陸したらしいですっ!」

男戦士「なんだって!? この前、全部始末したんじゃねぇのか!?」

女僧侶「おそらく、先日討伐した魔物の父親かと……大きさもこの前の二倍程あるらしでいですっ!」

男戦士「……カァ~、家族の敵討ちに来たってワケか。嫌だねぇ?」

女僧侶「魔物は、この村に向かって来てるそうです! 男戦士さん、どうしますか!?」

男戦士「よしっ! 各自、自己判断で討伐部隊と防衛部隊に別れろっ! せっかく、建て直したんだ。魔物がここに入る前に始末するぞっ!」

女僧侶「は、はいっ……!」

ーーーーー


勇者「天童……!? 今、何時!?」アセアセ

天童「あぁ……? え~っと……今、7時半だから、後三十分だっ!」

勇者「く、くそぉ……間に合うかな……?」

天童「大丈夫だよっ! もう少しで街だっ! 最後まで諦めんじゃねぇ!」

勇者「うん、そうだよね……んっ……?」

天童「……ん?」

勇者「わ、わわっ……! 危ないっ……!」ガシッ

天童「うおっ……! なんだよ、勇者!? いきなり止めんじゃねぇよ! 危ねぇだろが!」

勇者「だ、だって……前に……」アセアセ

天童「……ん?」


魔物「ガルル(へへぇ~ん、また会ったねぇ? 今度はしっかりお金貸してもらうよ?)」ニヤニヤ

天童「なんだよ、またおめぇかよ!? こっちは急いでんだから、おめぇなんかに構ってる暇はねぇの」

魔物「ガル?(うわぁ~、何この物資? お前ら、凄え大量に持ってるじゃん? わっ、しかも馬まで)」

勇者「それは今から、街に運ぶ支援物資だから、君にはあげられないよ!? こっちは急いでるんだから、もう行くね!?」

魔物「ガルル~! (へっへ~ん! こ~んな美味しいもんを目の前に、みすみす逃がす事なんて出来ませ~ん! 俺っちの兄貴分達、カモ~んっ!)」

天童「……ん?」

勇者「……えっ?」

魔物「……ガルルルル」

魔物「……グルルルル」

魔物「キシャーッ!」


勇者「こ、こいつ……」

天童「仲間連れて仕返しに来やがった……」

魔物「ガルル……(おいコラ、クソボケ共よぉ……? さっきはよくも舐めた態度とってくれたじゃねぇか……? 覚悟はできてんだろなぁ……?)」

勇者「天童……どうしよう……? コレ、逃げれるかな……?」

天童「いや、完全に包囲されとまってるぞ……こりゃ、マズいねぇ……?」

魔物「ガルっ!(それでは、兄貴分達っ! こいつらをやっちゃって下さいっ!)」

勇者「う、うわっ! 来たっ……!」

天童「ま、まずいぞっ! とにかく、物資を守れっ!」

ーーーーー

男戦士「……ぐっ!」

魔物「グギャァっ!(おらおら、そんなもんか? お前、よくもワシの息子とカーちゃん苛めてくれたな?)」

男戦士「こ、こいつ……強いっ……!」

魔物「ギャアァスっ!(ちんけな人間の分際で調子乗ってんじゃねぇぞゴルァ!)」バキッ

女ハンター「……ぐっ!」

男戦士「くそっ……女ハンターっ! 君は一度下がれっ! 女僧侶ちゃん、彼女の回復をっ!」

女僧侶「は、はいっ……!」

魔物「グギャァっ!(痛いか? 痛いかワレ? でもなぁ、ワシの家族はもっと痛い思いをしたんじゃ、こ~んな風になぁっ!)」バキッ

男戦士「ぐ、ぐはっ……」

女僧侶「男戦士さんっ!?」

男戦士「く、くそぉ……こいつ、強い……何か弱点はないのか……?」

女僧侶「男戦士さんっ、弱点はありますっ! 私、この前の戦いの後、図鑑で調べました!」

男戦士「何!? 奴の弱点は何処だ!?」

女僧侶「あの魔物の弱点は頭部です!」

男戦士「なるほど……よくよく見れば、頭部はあの硬い鱗に覆われてないな……だが……」

魔物「グギャァっ!(あん? 何、ガンつけとんじゃワレっ!)」バキッ

男戦士「ぐ、ぐはっ……!」

女僧侶「男戦士さんっ!」

男戦士「あいつ、全長10メートルはある、化けもんだぞ……? あんな奴の頭部、どうやって狙えってんだよ……」ヨロヨロ

ーーーーー

魔物「ガルっ!」バキッ

勇者「……ぐっ!」

魔物「グルっ!」バキッ

天童「カァ~、痛かぁ~! もう、暴力反対ね!」

魔物「グフっ、グフっ!(へへ……兄貴ィ、そのままやっちゃって下さいな)」ニヤニヤ

勇者「く、くそぅ……仲間呼んで、こんな事して、卑怯なヤツめ……」

天童「勇者っ……! そんな事、言ってる場合じゃねぇぞ! このままじゃ、物資取られちまうっ! それに命題もっ……!」

魔物「グフっ、グフっ!(な~に、うだうだ言ってんだよ、この田吾作が! お前らの人生、ここで終わりだよ、バ~カっ!)」

勇者「くそっ……なにか方法はないのか……こんな所で終わってたまるかよっ……!」ブツブツ

天童「がっ……くっそぉ……! 何でお前らみたいな奴らが生きてるんだよっ! 神様は何考えてるんだっ!」

勇者「えっと……ええっと……リミテッド……? ビストロ……ああっ! 違う違うっ!」

魔物「ガルっ!」バキッ

天童「……ぐっ!」

勇者「レミパン……? 履歴書……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

魔物「ガルル (な~に、ぶつくさ言ってやがる! ついにイカレちまったか、てめぇ!?)」

天童「くそぉ……勇者ァっ……!」


勇者「『リレミト』?」ピカーッ

勇者「……ん?」フワーッ

天童「……何だぁ?」フワーッ

魔物「ガルっ……? (何だ、こいつら? 宙に浮き上がりやがった!?)」

勇者「わっ、わわっ……! ど、どうなってんだ、これ……?」

天童「おい、勇者? 俺たちだけじゃなくて、物質と馬車も浮いてるぞ?」

魔物「ガルっ? (な、なんかよくわかんねぇけど、ヤバそうな雰囲気だっ! 兄貴ィ! 早くやっちゃって下さいっ!)」

勇者「あれ、あれ……? 身体が……何かに引っ張られて……」

天童「なんか、街の方から引っ張られれてるぞ、おい……」

魔物達「キシャアアァァァっ!」


ギュイーンッ


勇者「う、うわああああぁぁぁ」

天童「な、なんですかコレぇぇぇぇ」

魔物達「!?」

魔物「ガルっ! (あっ、あの野郎っ! 空飛んで逃げやがったっ! くそっ、こうなりゃ、荷物だけでもっ……!)」ガシッ

勇者「うわあああぁぁぁぁ」

天童「のわあああぁぁぁぁ」

魔物「ガルっ! (フンがっ! 捕まえたっ! 逃してたまるかよっ! こんにゃろこんにゃろっ!)」ジタバタ


ギュイーンッ


魔物「グルル……(ちくしょう……また、逃げられたか……まぁ、馬一頭奪えたのは大きな収穫だな)」

けるべろ「……グルルルル」

ーーーーー


男戦士「はぁっ……はぁっ……くそっ……!」

魔物「グギャァっ! (お前、なかなかしぶとい奴だな? ちょっとだけ褒めてやるよ?)」

女僧侶「……男戦士さん」オロオロ

男戦士「くそっ……こうなりゃ、一か八か突っ込んで、あいつの脳天を……」

魔物「ギャアァス! (さっ、そろそろトドメとしようか? お前は特別に……ん……?)」キョロキョロ


「うわあああぁぁぁぁ」


男戦士「これは、勇者君達の声……? しかし、何処から……?」キョロキョロ

女僧侶「あっ! 男戦士さんっ! 上ですっ! 空を見て下さいっ!」

男戦士「……空?」

勇者「うわあああぁぁぁぁ! どいてどいてどいて! 危ないぶつかるうぅぅ!」ドギューンッ

魔物「!? (なんだ、こいつら!? まずいっ……! ぶつかる……!)」

ゴチーン


魔物「ガっ……ゴッ……」クラクラ

女僧侶「やったっ! 勇者さん達が、空から飛んで来て、魔物の脳天に突っ込みましたよっ!」

男戦士「……」

勇者「お、男戦士さぁ~ん……時間かかっちゃいましたけど……ただいま戻りましたぁ……」フラフラ

男戦士「……」

勇者「支援物資……そ、それに馬も……無事入手してきました……」フラフラ

男戦士「……」

勇者「俺……頑張りました……自分に出来る事を……精一杯やりました……」フラフラ


男戦士「よくぞやったぞ勇者君っ!」

天童「お、おおっ……8時……ジャストっ……!」フラフラ

男戦士「皆っ! 今が好機だっ! 魔物に攻撃をし掛けろっ! 奴は動けないぞ!」

女僧侶「はいっ! わかりましたっ! 皆さん、いきましょうっ!」

「お~っ!」 「お~っ!」

勇者「ん……? 魔物……? 今、何が起きてるのこれ……?」キョロキョロ

男戦士「おいっ! 何やってる一年生っ! お前も攻撃しろっ!」

勇者「えっ……?」

男戦士「この状況見てわかんねぇのか!? 緊急事態なんだよ!」

勇者「あ、あれぇ~?」

ーーーーー

男武道家「よしっ! 魔物も倒したし、支援物資も届いた! 先ずは復興の第一歩ってところだな!」

女僧侶「ええ、そうですね」ニコッ

天童「それに……馬も、ね……?」

フジエダ「ヒヒーンっ!」

勇者「あ、あのぉ~……男戦士さん……?」オドオド

男戦士「あぁ? どうした?」

勇者「本当は、馬二頭いたんですけど……道中、魔物に襲われて奪われちゃいました……」

男戦士「……」

勇者「……ごめんなさいっ!」

男戦士「……」

勇者「……」

男戦士「……くだんねぇ事、気にしてんじゃねぇよバーカっ!」

勇者「!」

男戦士「俺はね、支援物資を貰ってこいって言ったの。そんな、まさかお前が馬も捕まえてくるなんて思ってねぇよ」

勇者「あっ……いやっ……!」

男戦士「今は一匹で十分じゃねぇか? この街の復興はまだ始まったばかりなんだからよぉ?」

勇者「……はい」

男戦士「お前は……俺の期待以上の働きをしてくれたよ?」ニコッ

勇者「!」

女僧侶「ふふ」

男戦士「それよりさぁ? 俺、戦闘で疲れたから、早く帰って休もうぜ? あっ、女僧侶ちゃん、マッサージしてくれない?」

女僧侶「ふふ、セクハラはお断りします」クスクス

男戦士「セクハラなんかじゃねぇって! だって、魔物に殴られてさぁ……」


勇者「……」

勇者「困ったなぁ……男戦士さん、馬は買ってきたヤツなのに、捕まえてきたヤツと勘違いしてるや……」

天童「……まっ、いいんでねぇの? そういう事にしとけば」

勇者「天童……でも、それじゃあ、お前の手柄は……」

天童「な~に、おめえみたいなヤツが気を使ってんだ! それよりよぉ?」

勇者「……ん?」

天童「『誰かの為に行動する』ってのは……悪いもんじゃねぇだろ?」ニヤリ

勇者「あっ、そっか……俺、褒められて命題クリアしたんだった……」

天童「『献身』……クリアだな……」メモメモ

勇者「あっ! でもさぁ?」

天童「……ん?」

勇者「俺、前回と前々回は死にかけたのに、今回は死にかけてないよねぇ?」

天童「ん……? そういえばそうだな……?」

勇者「この命題って嘘でしょ? というか、お前が天使ってのも嘘だろ!?」

天童「バ、バカっ! 何、言ってんだお前はっ! ま~だ、信じてねぇのか!」

勇者「だって、今回は死にかけてないもん」

天童「お前が気づいてないだけで、死んじまう行動があったかもしれねぇだろがっ!」

勇者「だって……」

天童「『だって』じゃねぇよっ! とにかく、後命題は7個だっ!」

勇者「……も~う」

武道家邸ーー


男武道家「はい、もしもし~? 武道家です~?」

男武道家「あっ……ええっ……STARSさん……? え~っと、どういった御用件で……?」

男武道家「……はぁ? アンブレラ製薬は……はぁ、薬品製薬会社ではなく……はぁ、ウイルス研究……」

男武道家「ウイルスを……動物に注入して……ゾンビ化させている……!?」

男武道家「えっ!? じゃあ、あの、僕が譲り受けた『けるべろ』って、馬じゃなくて、ゾンビ馬なんですか!?」

男武道家「う、うわぁ……困ったなぁ……そんな事知らずに、勇者君達に売っちゃたなぁ……どうしよ……?」アセアセ

男武道家「……」


男武道家「……まっ、いっか。黙ってりゃわかんないよね」

魔物「ガルガル~! (馬刺し馬刺し~! 今夜のご飯は馬刺し~!)」

けるべろ「……ガルルルル」

魔物「グルル! (おいコラっ! 何、チンタラ歩いてるんだよ! とっとと歩けっ!)」

ケルベロ「ガルルルル……」

魔物「ガッ……? (あれっ? こ、こいつ……何か、様子が変だぞ……?)」アセアセ

ケルベロス「グギャアア……」

魔物「グガッ……? (あれっ? こいつって、もしかして今、巷で噂のゾンビ馬なんじゃ……?)」アセアセ

ケルベロス「グギャアアァァァっ!」

魔物「! (う、うわあああぁぁぁぁっ!)」



ムシャムシャ

数日後ーー


男戦士「お~い! 勇者に女僧侶ちゃん~! ちょっとこ~いっ!」

勇者「はい、どうしました?」

女僧侶「何か私達への指示ですか?」

男戦士「いや、そうじゃないそうじゃない。え~っとね、お前らクビ」

勇者「えっ!?」

女僧侶「ど、どうしてですか!?」

男戦士「だって、これからは力仕事がメインになりそうだし、お前ら使えないんだもん」

勇者「そ、そんな事ないですよ……!」アセアセ

女僧侶「私だって、頑張りますっ……!」アセアセ

男戦士「……お前らはここにいちゃいけないんだよ」

男戦士「この街はさ、魔物の被害を受けて……少しづつ、復興が始まってるけどさ?」

勇者「……はい」

男戦士「世界にはまだまだ、そういった事が進んでない街が沢山あるんだよ」

女僧侶「……はい」

男戦士「若いお前らがよ、こんなちんけな所で生涯を終えたら勿体ねぇよ」

勇者「……」

男戦士「世界にはまだまだ、困ってる人、苦しんでる人が沢山いるんだ。ここは、俺達に任せてよ、お前らはそういう場所に行ってこい」

女僧侶「……」

男戦士「世界を見てこいや」

男戦士「ほれっ、これは今までの給料と、餞別だ」ジャラッ

勇者「えっ……?」

女僧侶「わっ、凄い大金……」

男戦士「これからは、自分の力で考えて、自分で行動するんだ」

勇者「……」

男戦士「大丈夫だって。きっと、お前らなら出来るよ。それに……」

女僧侶「……」

男戦士「困った事があったら、すぐ駆けつけてやるからよぉ?」

勇者「男戦士さん……」

男戦士「俺達は仲間だろ?」ニコッ

ーーーーー

勇者「女僧侶ちゃん、これからどうする?」

女僧侶「そうですね……私、この討伐が終われば教会に戻るつもりだったんですが……」

勇者「そうなんだ」

女僧侶「やっぱり、男戦士の言う通り、世界で困ってる人達の力になりたいです」

勇者「……うん」

女僧侶「……勇者さんは?」

勇者「う~ん……俺はさぁ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「俺さぁ……ずっと引き篭もってたじゃん……?」

女僧侶「……はい」

勇者「どうせ、自分には何も出来ない……どうせ、自分には人の役に立てる訳ない……なんて、ずっと思ってた」

女僧侶「……」

勇者「でも、この数日間、がむしゃらにやってきて、自分にも何かが出来るんだ……って、思うようになってきた」

女僧侶「……はい」

勇者「今は……女僧侶ちゃんみたいに……立派な目標は持てないけど……」

女僧侶「はい……」

勇者「……とりあえず、世界を見てみたいかな?」

女僧侶「ふふ、勇者さん、変わりましたね?」

勇者「えっ……? そ、そうかな……?」

天童「じゃあさぁ!? 次は西の街に行ってみようよ? ほら、地図に街が書いてあるよぉ?」

女僧侶「あっ、天童さん?」

勇者「……なぁ~んで、お前がいるんだよ?」

天童「そりゃ、ダメ人間のお前の面倒を見なきゃいけないからでしょうが!」

勇者「俺は変わったよっ! 女僧侶ちゃんも言ってただろが!」

天童「うん。まぁ、スーパーミラクルダメ人間から、スーパーダメ人間ぐらいになったかな?」

勇者「大して変わんねぇじゃねぇかっ! てめぇこそ、スーパーミラクルウルトラダメ天使だろがっ!」ギャーギャー

天童「バ、バカ~ん! 誰がスーパーミラクルウルトラダメ天使だ! そんな事言ってたらなぁ? 命題手伝ってやんねぇぞ? 後、7個もあるんだぞ!?」ギャーギャー

勇者「あ~、あ~、やってやりますよ! 命題なんか一人でやってやりますよ!」

天童「カァ~! どうせ最後には俺に泣きついてくるんだろが! よっ、口だけ番長っ!」


女僧侶「ふふ、賑やかな旅になりそうですね」クスクス

三話はここまで

乙乙
ルーラじゃないの?って言うのは野暮だよな

危機的状況というダンジョンから脱出したんだよ、たぶん
1乙、テンポよくて面白い
次も期待

>>312
ほら、初めて使ったから変な効果でたんだよ

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~

第一話 「お前は今日死ぬ!」 >>1-85

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」 >>6-179

第三話 「褒められないと死ぬ!」 >>181-316


>>312
ルーラはこれから先の展開で、そこそこチートな能力だからね
リレミトぐらいの微妙さが有難かったんだ

>>313
>>315
俺の代わりに補足説明してくれてthx!

勇者「結構、街まで距離あるんだね……俺、もう疲れちゃったよ……」

女僧侶「ええ、もう野宿はこりごりです……シャワーも浴びたいな……」


ーー数週間前、俺の前に現れた自称天使の男、天童世死見


勇者「食糧も残り少なくなってきたよねぇ……? 腹減ったなぁ……」

女僧侶「次の街までの我慢です。頑張りましょう?」


ーー俺はこいつが現れてから三度死にかけた


勇者「そうだけどさぁ……? もう俺、腹減って力出ねぇよぉ……?」

女僧侶「……実は、私もです」


ーー 一度目は、火事の家の中に取り残されそうになって。二度目は魔物に焼き殺されそうになって。三度目は……よく、わかんないけど

勇者「……今日中に着くかなぁ? 早く、街に行って休もうよ?」

女僧侶「そうですね……地図を見る限り、もう少しのはずなので頑張りましょう」


ーー嘘か本当か……こいつが天界のものからだと言っている命題を、なんとかクリアしているから俺は生き残る事が出来ている……らしい


勇者「あ~、もう疲れた~! 腹減っった~!」

女僧侶「……私もです」


ーーその命題は……後……


天童「セブンだっ!」

勇者「わっ、わわっ! 急に大声出すなよ……びっくりしたなぁ、もう……」

天童「ハハハ! 相変わらずリアクションがワザとらしいな、勇者君」

天童「おい、ところでよぉ!?」

勇者「……何だよ、テンション高いなぁ」

女僧侶「天童さん、どうかしましたか?」

天童「おめぇらは、さっきから聞いてりゃよぉ? ブツクサブツクサ文句ばっかり垂れやがって!」

勇者「……だって」

女僧侶「……申し訳ありません」

天童「も~っと、ポジティブな考え方は出来ねぇのかってんだ! ほらっ! 空を見てみろ!」グゥー

勇者「……ん?」

女僧侶「……あれ?」

天童「この澄み渡る青い空っ! なぁ~んか、今日はいい事ありそうじゃねぇかっ! 空からでっけぇハンバーガーが降ってくるとか! なぁ!?」グゥー

勇者「……おっさん、おっさん」

女僧侶「……天童さん?」

天童「それに、この心地良い風! あ~、腹減ったなぁ~、牛丼食いてぇな~! この風に乗って匂いだけでもこねぇかなぁ!?」グゥー

勇者「……あのさぁ?」

女僧侶「天童さん、食事の話は今は控えて下さい……私も我慢してるんですよ……」

天童「あ~! カレーに、チャーハン、ハンバーグ! なんでもいいから食いてぇなぁ! そう考えると、お子様ランチって凄ぇなぁ? なっ、なっ!?」グゥー

勇者「おいコラ、おっさんっ!」

女僧侶「天童さんっ!」

天童「わっ……! ど、どしたの……? 二人して、そんな怖い顔して……?」ビクビク

勇者「飯の話はやめろっ!」

女僧侶「食事の話は控えて下さいっ!」

天童「えっ、えっ……? 僕、飯の話なんてしてたかな……?」

ーーーーー


勇者「……もう我慢出来ん。次に魔物見かけたら、どんな魔物だとしても、俺は焼いて食うぞ」イライラ

天童「……勇者、成長したじゃねぇか。俺も付き合うぜ」イライラ

女僧侶「……僧侶として、無益な殺生は認める訳にはいきませんが、今回は許しましょう」イライラ


「いらっしゃ~い! いらっしゃ~い! 道具はいりませんかぁ~!?」


勇者「……ん?」

天童「なんだ、ありゃ?」

女僧侶「ああ、あれは移動商店ですね。ああやって、色んな街を旅してる商人さんがいるんですよ」


女商人「いらっしゃ~い! いらっしゃ~い! 道具はいりませんかぁ~!?」

勇者「おいっ! 天童っ!? 飯売ってるんじゃねぇの、あれ?」

天童「おっ! そうだな! 勇者、行ってみようぜっ!」

勇者「こんにちはっ!」

女商人「あっ、お客さんですか!? いらっしゃいませぇ~!」ニコッ

天童「!」ドキッ

勇者「おおっ、凄ぇっ! パンにおにぎり……食糧がたんまりあるぞ、オイ!」

女商人「お安くしておきますよ~?」

天童「……」ドキドキ

勇者「じゃあ、俺はおにぎりと……後、パンと……おい、天童! お前はどうする!?」

女商人「はいはい、おにぎりとパンですねぇ~?」ニコニコ

天童「……春は恋の季節ばい」


勇者「はぁ……? 何、言ってんだお前……?」

勇者「……あれ?」

女商人「ん……? どうかしましたか、お客さん?」

勇者「ねぇねぇ、お姉さん……このおにぎり、賞味期限切れてるよ……?」

女商人「!」

勇者「あっ……! こっちのパンもだっ!? これ、全部賞味期限切れてるじゃないですか!?」

女商人「も、申し訳ありませんっ……! 今、ちゃんとしたヤツ探しますから、少々お待ち下さいっ……!」アセアセ

勇者「あっ、装備とかも売ってるんだ? え~っと……この武器は~っと……」キョロキョロ

女商人「え~っと……え~っと……」

勇者(うわっ、なにこれ!? 凄ぇ錆びてる)

女僧侶「……勇者さん、勇者さん」ヒソヒソ

勇者「……ん、どうしたの? 女僧侶ちゃん」

女僧侶「今、薬草や回復薬も見てみたんですが……これ……」

勇者「うわ……それも痛んでるヤツじゃん……」

女僧侶「私、この移動商店、駄目な店だと思います……」ヒソヒソ

勇者「う~ん……そうだね……? お腹減ってるけど、街まで我慢する……?」


女商人「あっ、お客さんっ! ありましたよ! 賞味期限の切れてないパンが一つ!」

勇者「あ~、いいです……僕達、街に行ってから食事とるつもりなので……?」

女商人「えっ……?」

女僧侶「三人で……一つのパンというのも……ごめんなさいね?」

女商人「あっ、待って下さいっ……! 今、探しますっ……!探しますから……!」アセアセ

勇者「あっ、いや……本当に大丈夫です……それじゃあ、また……」


天童「何を言っとるんだっ! 勇者君っ!」

勇者「……ん?」

天童「こんなに素敵で素晴らしい店で買い物をしないなんて、君はどうかしてるよ!」

勇者「……何を言ってるんだ。お前は」

天童「例えば、このおにぎり! と~っても、美味しそうじゃないか! 何で君は買わないんだ!?」

勇者「……だって、それ賞味期限切れてるもん。腹、壊したくないし、いいよ」

女商人「……うぅ」

天童「じゃ、じゃあ……この剣なんてどうだい? ほら、こ~んなに、格好いいんだよ?」

勇者「……錆びてて使いもんにならねぇじゃねぇか? 大根も切れねぇだろ、ソレ」

女商人「……うぅ」

天童「じゃ、じゃあ……この薬草っ! ほら、女僧侶ちゃんに回復任せっきりじゃ、悪いじゃん?」

勇者「薬草食って、毒くらいたかねぇ~よ」

女商人「……うぅ」

天童「え~っと、え~っと……じゃ、じゃあさ……? このアイテムバックは? お洒落で格好いいじゃん?」

勇者「……あっ、それはいいね? お洒落だし、痛んでないし」

女商人「!」

勇者「俺、このアイテムバック欲しいです。いくらですか?」

女商人「あ、あの……そ、それは……売り物じゃないんです……」アセアセ

勇者「え~、なんで? これ、いいヤツなのに、何で売ってくれないの?」

女商人「あの……それ……」

勇者「?」

女商人「……主人の形見なんです」


勇者「……えっ?」

天童「……えっ?」

女僧侶「……訳ありのようですね。よろしければ、お話だけでも聞かせてくれませんか?」

女商人「……うちは元々、鞄屋さんだったんですよ」

勇者「あ~、そうなんだ……このアイテムバック作ってたんだ……」

女商人「主人が獲物を飼って、材料を仕入れて……私が加工して鞄を作って……そうやって生計を立ててきました……」

天童「……ふむ」

女商人「でも、魔王の復活で……狩場にも魔物が現れるようになって……主人はそれで……」

女僧侶「……お悔やみ申し上げます」

女商人「それで、こうやって商人始めたんですけど……やっぱり、私向いてないんですかねぇ……? ダメな商品ばかり捕まされちゃって……」アセアセ

勇者「……」

勇者「……鞄屋さんを続けようとは思わなかったんですか?」

女商人「正直、考え直した事は何度もありました……でも」

天童「……でも?」

女商人「お客さんは、『頑張れ! 頑張って、移動商店続けろ!』なんて応援してくれるんです」

勇者「……」

女商人「それに、今は物資すらない街が沢山あります……そんな街に例え駄目な物資だとしても、支援すると凄く感謝されるんですよ」

天童「皆、危険な場所には行きたがらないからね~、ほ~んとに物資不足してるのはソコなのに」

女商人「やっぱり、今自分がやる事はコレなんだなぁって。きっと主人もそう言ってくれてるような気がします」ニコッ

勇者「……」

勇者「え~っと……じゃあ、このおにぎり二つ下さい……」

女商人「……えっ?」

女僧侶「私はこちらのパンを……」

女商人「えっ、えっ……? あの、賞味期限切れてますよ、それ……?」

天童「なぁ~に! 腹の中に入っちまえば変わらんばいっ! あっ、俺はおにぎり三つね!」


勇者「あっ! おっさん、三つも食うんじゃねぇよ! この大食い野郎っ!」

天童「俺はよぉ? 世の中の経済を潤わしてやってるんだよ! それに、女僧侶ちゃんは、一つなんだから、俺が三つ食ってもいいじゃねぇかよっ!」ギャーギャー

勇者「なんだよ、その理論っ! 意味わかんねぇよっ!」ギャーギャー


女商人「あ、ありがとうございますっ……!」

ーーーーー


勇者「ふ~う……食った食った……」

天童「味はそんなに変わらんもんね……女商人さんはこれからどうされるんですか?」

女商人「私は、物資が不足してる街に支援活動を続けます。でも、その前に西の街で商品を仕入れようと思んですよ」

勇者「あれ、そうなの? 俺達と目的地一緒じゃん?」

天童「よ、よければ、ご一緒しませんかねぇ?」ドキドキ

女商人「あっ! 是非お願いしますっ! 今度は変な商品捕まされないように頑張らなきゃ!」

勇者「おい、天童? お前、仕入れ手伝ってやれよ? そういうの、上手いだろ?」

女商人「えっ!? 天童さんも商人なんですか?」

天童「あっ、はいっ! 私、商人の天童世死見です! 仕入れましょう! 貴方の為に素晴らしい商品を仕入れましょうっ!」

勇者「……ん?」

女商人「じゃあ、天童さん! 是非お願いします! もう私、仕入れが下手で下手で困ってるんですよ!」

天童「任せときんしゃいっ! 三割、四割引きは当たり前っ! なんなら、店ごと買い占めてやりましょうっ!」

勇者「おい、天童……? お前、いつもの『商人(天使)』ってヤツはどうしたんだ……?」

女商人「えっ……? 天使……?」

天童「あっ! いや、なんでもありましぇ~ん! 勇者君~? ちょ~っと来てくれるかな~?」コソコソ

勇者「お、おいっ……! 何だよ……?」アセアセ

女商人「?」

今日はここまでっす

勇者「なんだよ、こんな所に呼び出しやがって……」

天童「……」

勇者「女僧侶ちゃん達に聞かれちゃマズい話でもあんのかよ? ……あっ、もしかして命題来たの?」

天童「……」

勇者「命題来たんだったらよぉ、早く確認しようぜ? もう、俺この数日不安で不安で……」

天童「……俺は人を愛しちゃいけないんだ」

勇者「……はぁ?」

天童「俺は天使だから、いくら人間の事を好きになっても、絶対に結ばれる事はないんだ」

勇者「……何、言ってんだお前?」

天童「それに、彼女が振り返ってくれたとしても! ……彼女の気持ちを弄ぶ事になってしまうんだ」

勇者「待て待て……話が見えん……」

天童「だけど!……この胸の高鳴り! そして、トキメキ! なっ、勇者君わかってくれるだろ?」

勇者「え~っと……お前、あの女商人さんに惚れたの……?」

天童「……」コクリ

勇者「それで……自分が天使だって事を、黙っておいてほしいんだ?」

天童「……」コクリ

勇者「なぁ~に、顔を真っ赤にして、バカな事を言ってんだおめぇは!」

天童「なっ……! そんな言い方しなくてもいいだろがっ!」

勇者「おめぇが天使だなんて誰も信じねぇよ! いつもみたいに言っちまえばいいじゃねぇか!」

天童「バ、バカ野郎っ……! 天使と人間との恋愛は天界で禁止されてるんだよ!」

勇者「おめぇみたいなヤツに振り向いてくれるワケねぇよっ! その怪しい風貌から『恋愛』だなんて、どの口が言ってんだよ、バカっ!」

天童「カ、カァ~! 悔しかぁ~! 悔しかぁ~! もう、たまらぁ~んっ!」

勇者「別に黙っておいてやってもいいけどよぉ~? どうせ、お前じゃ無理だぜ? 天界で禁止されてるんなら、あの人の事は素直に諦めろよ?」

天童「童貞のお前にそんな事、言われたくねぇよ!」

ーーーーー


女商人「……お話、終わりました?」

天童「いやぁ~! 急に勇者君がお腹が痛いなんて、言い出したもんですからね! そこの影で糞に付き合わせられましたよ! ハハハ!」

勇者「おめぇ、適当な事言ってんじゃねぇぞコラっ!」

女商人「えっ……! も、もしかしてさっきの賞味期限切れのおにぎりに当たったんじゃ……」アセアセ

天童「あっ! い、いやっ……! 違うんですっ! 勇者君、確か昨日拾い食いしましてねぇ……?」

勇者「おめぇはよぉ……次から次へと出まかせばかりよぉ……」

女商人「ど、どうしよう……? 薬あったかなぁ……? 勇者さん、今、薬出しますね……?」アセアセ

天童「あっ、いやっ……あのっ……! ち、違うんです……! 女商人さん! これは違うんですっ……!」

勇者「……ばーか」

ーーーーー


女商人「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」テクテク

勇者「あぁ、あれはこいつの出まかせだから、大丈夫です。それに、俺腹丈夫なんで」テクテク

天童「女商人さん、疲れてませんか? 結構歩きましたよ?」テクテク

女商人「あっ、大丈夫です、天童さん。私、結構体力には自信があるんです」

勇者「おめぇはさっきから、それば~っかりだな!」

天童「いや、レディにそんなキツい事はさせられんばいっ! そうだ! 荷物持ちますよ!」

女商人「あっ、大丈夫です……」アセアセ

勇者(必死だな、こいつ……)

天童「いやいやっ! 私が持ちますよっ! ほら、ほらっ!」

女商人「い、いえっ……本当に大丈夫ですから……」アセアセ

勇者(あ~んな事して、本当に好感度上がるもんなのかねぇ……? ん……?)


女僧侶「はぁ……はぁ……」

勇者「……」

女僧侶「はぁ……はぁ……」トボトボ

勇者「……」テクテク

女僧侶「はぁ……はぁ……」

勇者「……ねぇ、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「えっ……! どうかしましたか……?」

勇者「大丈夫? ちょっと疲れてるみたいだけど?」

女僧侶「ど、どうしたんでしょう……ここ数日、しっかり寝れてないからですかねぇ……少し、疲れました……」

勇者「……ふ~ん」

女僧侶「でも、街までもう少しですからね! 私、頑張りますよっ!」

勇者「……うん」

女僧侶「では、行きましょうか? はぁ……はぁ……」

勇者「……」

勇者「……俺、女僧侶ちゃんの荷物持とうか?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「疲れてるんでしょ? 無理はしちゃいけないよ? ほら、貸して」ヒョイ

女僧侶「あっ……ありがとう……ございます……」

勇者「街までもう少しだと思うからさ? あっ、そうだ! 今日ぐらい贅沢しようか? 男戦士さんから貰った餞別使ってさ!」

女僧侶「……はい、有難うございます」


勇者(こ~んなので、好感度上がるもんなのかねぇ~?)

天童「おい、勇者っ! 街が見えたぞっ! ようやく街だっ!」

勇者「おおっ! 街だっ! ついに街が見えたっ!」

天童「よしっ! 今日は宴会しようっ! 皆で酒場で飲むぞっ!」

勇者「てめぇが飲みてぇだけだろがコノヤロっ! でも、まぁ、今日ぐらいはいいよな?」

天童「なんだよ勇者君~、話がわかじゃないか~! さぁさぁ、女商人さんも早く行きましょう!」


女商人「……」

勇者「あれ? 急に、固まってどうしたんですか? 」

女商人「あっ、いや……!」アセアセ

女商人「……あそこにある高台、見えます?」

勇者「あっ、高台ありますね。それがどうしたんですか?」

女商人「そこに、大きな木があるでしょ? ほら、見えます?」

勇者「あぁ、あの赤い実がなってるヤツですね?」

女商人「あの実って、病に効く凄く希少価値の高い実なんですよ」

勇者「へぇ~」

女商人「……これから行く街で、仕入れる事が出来たらいいんですけどねぇ」

更新来てた!!
天童さんの恋(´;ω;`)

女商人「でも……希少価値の高い物ですし……仕入れる事が出来るかどうか……」

天童「なぁ~に! 俺に任せておけば100個でも200個でも仕入れてやるばいっ!」

勇者「……なんで、わざわざ買うの?」

女商人「……えっ?」

天童「そりゃ、俺がうまく事やって恰好いい所、見せてよぉ~? 女商人さんを……あっ、いや、なんでもないナンデモナイ……」アセアセ

勇者「あそこにいっぱいあるんだから、自分で取りに行けばいいじゃん。それが一番手っ取り早いじゃん」

女商人「そうか……商品って、仕入れるだけじゃなくて、自分で取りに行くって方法もあるんだ……」

天童「あのなぁ、勇者? あんだけ人目につく場所にあるのに誰も手ぇつけねぇんだぞ? なんか、あるに決まってんだろ! でっけえ魔物がいるとかよぉ!」

勇者「あぁ、そういう事か……でも、女商人さんが取りに行きたいなら、協力しますよ?」

どう考えても何かあるな

女商人「……えっ?」

天童「あっ、てめぇ! 何、格好つけてやがる! 女商人さんにいい所を見せるのは俺……あっ、いや、なんでもないナンデモナイ……」アセアセ

勇者「女商人さん、どうします?」

女商人「う~ん……気持ちはありがたいんですが……やっぱり、天童さんの言う通り、魔物がいたりしたら危険ですし……」

天童「なぁ~に! 俺が仕入れてやるから、大丈夫ですって! 大丈夫っ!」

勇者「でも、欲しいんでしょ……? あの実、物資が不足してる街に持って行きたんでしょ?」

女商人「はい……それじゃあ、今日はとりあえず、街に行きましょうか? 皆さんも疲れてらっしゃるようですし」

天童「……実は?」

勇者「……どうするんですか?」

女商人「もし、街で仕入れる事ができなかったら、明日の昼に取りに行きたいと思います。……その時は協力してもらっていいですかね?」

天童「なるほど」

勇者「わかりました」

今日はここまで
次回こそ命題届けようと思う

次回も待ってるぜー!
天童さんどうすんのかな(´・ω・)

街ーーー


勇者「ふう……ようやく街についたか……」

女商人「そうですね。いい商品があるといいんですが」

天童「じゃあ、早速仕入れに行きましょうか? 二人っきりで! ねっ、二人っきりで!」

勇者「おめぇなぁ……? ちょっと必死すぎやしねぇかぁ……?」

女商人「え~っと……勇者さん達は、どうされるんですか?」

天童「あっ、女僧侶さん。こういうのは素人がついてきても邪魔なだけすから! 僕と二人っきりで行きましょう! そう、二人っきりで!」

勇者「あのなぁ……?」

女商人「そ、そういうものなんですか……」

天童「勇者君、チミ達は先に酒場にでも行ってなさい。あっ、それと、これこれ……」ヒョイ

勇者「ん……? 何、これ……?」


天童「命題だよ。さっき届いたから、確認しておけ」

天童「じゃあ、僕達はこれから、商品仕入れに行くから! 勇者君~、頑張ってねぇ~?」

勇者「いやいや……!」

天童「うわぁ! なんだかこれって、デートみたいですねぇ? 僕照れちゃうなぁ~」

勇者「おいっ、天童っ! おめぇ、命題放ったらかしにしておいて何処行く気なんだよ!?」

天童「……勇者君」

勇者「な、なんだよ、急に真面目な顔しやがって……」

天童「……君はもう、成長した。一人前だ。だから……きっと、命題だって一人でクリアできるよ? ねっ?」

勇者「そっか、確かに俺、ここ数日で自分でも成長したと思うもんなぁ……」

天童「でしょ、でしょ? だから僕は……!」


勇者「なぁ~んて、言うとでも思ったかオイっ! てめぇも付き合えよ! このインチキ天使っ!」

天童「イ、インチキ天使って事ぁ、ないでしょうっ……!」アセアセ

勇者「今日のお前は、何かおかしいっ! なっ? 実らぬ恋はとっとと諦めて、ちゃんと命題をしましょうっ!」

天童「命題をやるのはおめぇだろうが! それに、実らぬ恋ってなんだよ!? おめぇみたいなダメ人間にそんな事言われたくねぇよ!」

勇者「はいはい……そのダメ人間を更生させるのが、あんたの仕事でしょ? 天使がそんな無責任な事、言っちゃいけません」

天童「おめぇはよぉ! 普段はインチキ天使、インチキ天使なんて言ってるくせに、こ~んな時だけ、都合のいいやつだな!」

勇者「都合のいいのは……おめぇじゃねぇかよ……」

天童「それにお前、この前『命題なんか一人でやってやる』って、言ってたじゃねぇかよ!」

勇者「えっ……それは……」アセアセ

天童「困った時はいつも、俺に頼るんだなぁ、お前は! 男だったらよぉっ! 命題くらい、自分の力でビシッとやってみやがれっ!」

勇者「……」

天童「なぁ~、勇者よぉ……勇者君よぉ……」

勇者「……んっ?」

天童「なぁ、頼むよぉ~? 今回だけは見逃してくれよぉ~?」

勇者「な、なんだよ……今度は泣き落としかよ……」

天童「そりゃさ……俺は天界の掟を破ってるよ……? でも、俺マジなんだよぉ~……」シクシク

勇者「おっさん、おっさん……」

天童「俺がさぁ……あの人を想う気持ちは嘘じゃないんだよ……だってさ? あの人、態度には出さないけど、旦那さん亡くして辛いハズだぜ?」シクシク

勇者「ええいっ! いい歳したおっさんが泣くな! 気持ち悪いっ!」

天童「誰かが、心の支えになってやらなきゃ、いけねぇよ、きっと~」シクシク

勇者「わかった! わかったよ! 今回は一人でやってやるからっ! もう泣くな、気持ち悪いっ!」

天童「えっ、ほんとぉ~? うわぁ、勇者君って優しい~! かっこいいなぁ~!」

勇者「おめぇ、絶対思ってねぇだろ? で、でもよぉ……やばくなったら手伝ってくれよな……?」

天童「任せときんしゃいっ!」

ーーーーー


勇者「……ったく、嬉しそうに仕入れに行きやがって。てめぇの面、よく見てみろっての」

女僧侶「勇者さん……私達はどうします……?」

勇者「酒場に行っておけって言われたけどなぁ……俺達、酒飲めないしなぁ……」

女僧侶「未成年ですしね……」

勇者「どうしようかな……? あっ、ちょっと待ってて? 命題だけ確認するから……」

女僧侶「……命題?」

勇者「あっ、なんでもない、なんでもない……! こっちの話!」

女僧侶「?」

勇者「え~っと……命題は……っと……」

勇者「んっ……?」

女僧侶「はぁ……はぁ……」

勇者「……」

女僧侶「はぁ……はぁ……」

勇者「……ここ暑いね? とりあえずさ、酒場でもいいから、涼しい所に行こうか?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「命題の確認は酒場でするよ。だから、早く休める場所に行こうよ」

女僧侶「……命題?」

勇者「あっ、いやっ……! なんでもないから、気にしないで……」アセアセ

酒場ーーー


酒場の主人「おっ、見ねぇ顔だな? 冒険者か? らっしゃいっ!」

女僧侶「はい、私達東の街からやってきました」

勇者「とりあえず、何か冷たい飲み物二つ下さい」

主人「はぁ~、東の街って魔物に襲われた所だろ? お前ら、大丈夫だったのか?」ガチャガチャ

女僧侶「ええ、私達その魔物の討伐部隊でしたの」

勇者「東の街は今、少しずつですが、復興も始まってるので、この街の皆さんも支援してあげて下さい」

主人「……お前ら、若そうに見えるけど、強いんだなぁ? へいっ、ドリンク二つお待ちっ!」

女僧侶「ありがとうございます。もう、私喉がカラカラで……」ゴクッ

勇者「じゃあ、俺も……あっ、その前に命題確認しておこっと……」

勇者「え~っと……封筒、封筒っと……あれ? どこやったっけ?」

女僧侶「……」ゴクゴク

勇者「あれっ、あれっ? 何処だ、何処だ? ひょっとして、無くした!?」

女僧侶「……」ゴクゴク

勇者「わっ、びっくりした……薬草の間に挟まってるじゃん……も~う、このアイテムバック使いにくいなぁ……」

女僧侶「……」プファー

勇者「え~っと……うわぁ、タイムリミットは明日かよ……だったら、明日に届けてくれよ……」

女僧侶「……」テクテク

勇者「でも、これって、どういう事なんだろ……?」チビッ


勇者「ブッ……! ちょ、ちょっとっ……! おじさん……!?」

主人「……ん、どうした?」

主人「おぉ、特製の麦焼酎だよ。臭いもなくて、飲みやすいだろ?」

勇者「い、いやっ……! あのですね……?」

主人「ウチはね、水にこだわってんのよ、水に。なんなら、ボトルキープしておくか? 気に入ったろ、ソレ?」

勇者「あ、あのっ……! 僕達、未成年ですっ!」アセアセ

主人「……えっ、お前ら未成年なの? だったら、先に言えよ。ここ、酒場なんだからさぁ?」

勇者「す、すいません……」アセアセ

主人「あっ、兄ちゃん! あんたの連れが他の客に絡んでるぞ! ダメだよ、うちは喧嘩はご法度なんだから!」

勇者「女僧侶ちゃんが……? って、女僧侶ちゃんのグラス、空っぽじゃんっ!? なんで!?」

女僧侶「そこの貴方達っ!」

「ん~?」「ど~したんですかぁ~?」

女僧侶「貴方達はどうして、そんなはしたない格好をしているんですかっ!」

「だって、私達遊び人だし~」「ねぇ~?」

女僧侶「そんな短いスカートでは、下着が見えてしまいますよ!」

「別に~、コレ見せパンだし~?」「パンツ見せてイケメンよってくるならいいよねぇ~?」

女僧侶「ふしだらな……本来、女性があるべき姿は私のようなこういった……」

「そんなダサい格好最悪~!」「そんなのじゃ、イケメンよってこないし~」

女僧侶「ダ、ダサい……」ピクッ

「あんた、彼氏いた事とか、絶対ないでしょ~?」「キスもまだなんじゃない~?」

女僧侶「……」ピクピク

「デートもした事ないでしょ~?」「マジウケるwww」

女僧侶「貴方達っ……!」

「きゃ~、怖い~」「最悪~!」

勇者「ちょ、ちょっと……女僧侶ちゃん、何してるの……落ち着いて……」

女僧侶「放して下さいっ! 勇者さんっ! 今から私が彼女達に女性の嗜みというものを……」

「遠慮しておきま~すwww」「私達、楽しくお酒飲みたいんで~」

勇者「あっ、うん……ごめんね……? 楽し~く、お酒飲んで下さ~い。じゃあ、女僧侶ちゃん、席に戻ろうか……?」アセアセ

女僧侶「放して下さい、勇者さんっ! 放して下さいっ!」ジタバタ

女僧侶「うぅ……」ヒック

勇者「女僧侶ちゃん、落ち着いた……?」

女僧侶「……マスター、さっきの飲み物、もう一杯下さい」

勇者「えっ!?」

女僧侶「早く持ってきて下さい……早く……早くっ……!」ヒック

勇者「い、いやっ……! 女僧侶ちゃん、もうやめた方がいいって! って、あんたも持ってくんな!」

女僧侶「ありがとうございます……」ゴクゴク


勇者(おいっ!)

主人(兄ちゃん、悪ぃなぁ? 俺も酔っぱらいの相手は怖ぇからよぉ? ここは大人しく従っておかねぇと……)

女僧侶「あ~、このお水、なんだか凄く美味しいです!」

ーーーーー


女僧侶「……もう一杯、くらさぁ~い」

勇者「女僧侶ちゃん、大丈夫……? 呂律が回ってないみたいだけど……」

女僧侶「大丈夫れ~す……それより、勇者さん……」グスッ

勇者「ど、どうしたの……?」

女僧侶「私……あの子達にバカにされちゃいました……」グスッ

勇者「いやいや、そんな事ないって!な、なにかの勘違いだって……!」

女僧侶「この服……ダサいって言われちゃいました……」グスッ

勇者「そんな事ないよ! 俺は可愛いと思うよ!?」

女僧侶「……本当ですかぁ?」

勇者「あぁ、本当、本当! 可愛い、凄く可愛いっ!」

女僧侶「……じゃあ、私とデートしてくれますか?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「私、あの子達に……デートもした事ないってバカにされちゃいました……」

勇者「い、いやぁ……バカにしてたワケじゃないと思うよ……?」アセアセ

女僧侶「そりゃ、私はデートした事ありませんよ……? でも、それは魔法学校に行って……教会で修行して……」

勇者「う、うん……! そうだね……!」

女僧侶「毎日が忙しかったからですよ……あの子達みたいに日々、ぐーたらぐーたら、過ごしてたワケじゃないからですよ……」

勇者(あれ? なんだか心が痛いぞ?)

女僧侶「それなのに……! あんな風にバカにされるって、酷すぎますっ……! だから、勇者さんっ! 私とデートして下さい!」

勇者「い、いやぁ……」

女僧侶「デートして下さいっ!」

勇者「いや……でもさぁ……?」

女僧侶「あっ、勇者さん嫌がってる……やっぱり、私の事ダサいって思ってるんですね……?」グスッ

勇者「いや、そうじゃなくて……デートっていうのはやっぱり、本当に好きな人とした方がいいと思うよ……?」アセアセ

女僧侶「私、勇者さんの事好きですよ?」

勇者「それは、友達として……じゃん……?」

女僧侶「いえ、異性として……一人の男性として、好きです」

勇者「ちょ、ちょっと……女僧侶ちゃん、酔っぱらいすぎだよ……! 俺みたいな奴の何処を好きになるんだよ……」アセアセ

女僧侶「……勇者さん、優しいから」

勇者「……えっ?」

女僧侶「だって、今日だって……私の荷物、持ってくれて……優しかったから……好きです……」

勇者(う、うおっ! アレって、本当に効き目あったのかよ!)

女僧侶「だから……私とデートして下さい」

勇者「う、うんっ……! そ、そういう事だったら……ぜ、全然いいよ……!」

女僧侶「ふふ、やっぱり勇者さんって優しいですね? じゃあ、明日のお昼にデートしましょうね?」

勇者「う、うんっ……!」ドキドキ

女僧侶「約束ですよ? 忘れないで下さいね?」

勇者「そ、そんなの忘れるワケないじゃんっ!」

女僧侶「じゃあ、指切り……しましょう……ゆびきりげんま~ん……って……ZZz……」スースー

勇者「あ、あれっ? 眠っちゃったか……飲み過ぎたもんね……」

天童「おぉ~い! 勇者いるかぁ~!?」ガラッ

勇者「わっ、天童!? 大声出すなよ? 女僧侶ちゃん、寝てるんだからさ?」

天童「……なぁ~んで、女僧侶ちゃんがこんな所で寝てるんだよ? そんなキャラじゃねぇだろ?」

勇者「まぁ、色々とあってね……」アセアセ

天童「?」

勇者「ところで……女商人さんは……?」

天童「あぁ、ちょっとショックな事があったみたいでよぉ……先に宿屋に行って休んでるってさ……こういう時には酒でも飲んでうさ晴らしした方がいいのによぉ……」

勇者「……仕入れでまた変な商品、捕まされちゃったの?」

天童「バ、バカ~ん! 俺が着いてたから、仕入れは上手くいったよ! 仕入れはね?」

勇者「?」

天童「ところで……勇者……」

勇者「ん……?」

天童「すまんかったっ!」

勇者「えっ、えっ? ちょっと、いきなりどうしたの?」

天童「俺は、危うく……天界の掟を破ってしまう所だった……俺の仕事はお前の命題をサポートする事なのによぉ……」

勇者「えっ? 急にどうしたの?」

天童「どうしたもなにも、僕は君の事を思ってですねぇ……!?」

勇者「あっ、わかった! お前、女商人さんに振られたんだろ?」ニヤニヤ

天童「ち、違ぇよぉ! なんで、お前そんなに勝ち誇った目ぇ、してんだよ! よくわからんけど、くやしか~! くやしか~!」

勇者「だぁ~って……急にそんなに態度が変わるっておかしいじゃん……」ニヤニヤ

天童「そ、それは……理由があってだな……」アセアセ

勇者「理由ってなんだよ?」

天童「……」ヒョイ

勇者「ん、封筒……? 何これ……?」

天童「神様から……俺に届いたんだよ……」

勇者「えっ? 命題がまた届いたの?」

天童「命題じゃねぇよ……まぁ、とりあえず、読んでみろよ……」

勇者「え~っと……なになに……?」ガサゴソ





天童

天界の掟を破ったら即・死亡




勇者「……これ、命題じゃねぇか?」

天童「神様には……全て見透かされてたってワケだ……こうやって、俺に警告してくれたんだなぁ……」

勇者「……だから、女商人の事は諦めるってワケね」

天童「あの人は、人間界でちゃ~ぁんと幸せになるべきだよ……彼女を幸せにするのは俺じゃねぇんだよ……」シクシク

勇者「ド、ドンマイ……天童……」

天童「うるせっ! おめぇに慰められたくねぇよっ! こうなりゃ、おめぇの更生、とことんスパルタでやってやるから覚悟しておけよ!」

勇者「お、俺に当たるんじゃねぇよ……」アセアセ

天童「うるせぇ! おめぇの命題はどうだったんだよ! とっとと見せやがれ!」

勇者「う、うん……はい、これ……」






勇者

X月X日 午後3時までに

一番大切な約束を守らなければ即・死亡!





今日はここまでだす
一分オーバーだったな

>>367>>368の間に

勇者「これ、お酒じゃないですか!?」

の一文を補足しておいてくれ
皆、前後の流れからもうしてくれてると思うんだけどね、一応

天童「ふ~む……『一番大事な約束を守らなければ即・死亡か』……」

勇者「約束……」

天童「まぁ、よぉ? 今回は楽勝そうじゃねぇか! 今、午後8時だから、明日の3時まで……後、19時間か……」

勇者「うわぁ……なんか今回は長いねぇ……?」

天童「まぁ、大事な約束を守ればいいだけの話じゃねぇか! ところで、お前……大事な約束って、何かわかってるよなぁ……?」

勇者「わかってるよ! 明日の昼に……」

天童「明日の昼~? バァ~カ! 何、言ってるんだおめぇっ!?」

勇者「……えっ?」

天童「勇者君……よく思い出しなよ……? 勇者君の『大事な約束』ってのは、今この瞬間だよ?」

勇者「えっ……? 今、この瞬間……? 俺、何か約束したっけ……?」

天童「ほらほら、街に着いた時に言ったじゃんっ! よ~く、思い出して? ねぇねぇ?」

勇者「街に着いた時……え~っと、俺何か言ったっけなぁ……?」

天童「も~う、勇者君は鈍いんだからぁ……じゃあ、ヒント出すね?」

勇者「お、おうっ……」

天童「ヒントは……宴会……」

勇者「……はぁ?」

天童「あれ、まだわからないの? じゃあ、も~っとヒント出すね? ……今日ぐらいは酒場でお酒を飲んでもいいって勇者君、言ってたよね?」

勇者「……あっ! そういや、俺、そんな事言ったかも!」

天童「という事で……マスターっ! 生中と枝豆をお願いしますっ!」

主人「あいよっ!」

勇者「おいおい、ちょっと待てちょっと待て……!」

天童「いやぁ~、久しぶりのお酒ばいっ……! カァ~! この日をどんなに待ち望んだ事か……」

主人「あいよっ! 生中と枝豆お待ちっ!」

勇者「いやいや、待て待て……! これは大事な約束じゃねぇぞ! 絶対っ!」

天童「なぁ~に、固い事言っちゃいかんばいっ! それじゃあ、いただきまぁ~すっ!」ゴクゴク

主人「追加の注文があったらどんどん言ってくれよな!」

勇者「あっ……! い、いやっ……! この一杯だけでいいですっ!」

天童「カァ~! 五臓六腑に染みるばいっ……! あっ、大将っ! 追加で生、ジョッキで下さいなっ!」

勇者「おめぇはよぉ! 調子に乗ってんじゃねぇぞっ!」

天童「うわぁ……勇者君怖~い……今日は宴会してもいいって『約束』したのに……」

勇者「これは『大事な約束』じゃ、ねぇよっ!」

天童「勇者君、勇者……」

勇者「……あぁ? なんだよ?」

天童「……本当にそう言える?」

勇者「……はぁ?」

天童「もし、これが『大事な約束』だったら、勇者君は死んじゃうんだよ? ねぇ、ねぇ?」

勇者「それは……でも……これは違うだろうよ……」

天童「ねぇねぇ、本当の本当にそう言える? 100%自信を持ってそう言える? もし、間違いだったら、勇者君は死んじゃうんだよ?」

勇者「……」

途中ですまん、投下中にレスする時ageた方がいい?sageた方がいい?
作者さんによって違うみたいなんで……特に問題ないならageていきたいんだが

天童「あらっ! 枝豆がもうないぞっ! 不思議だっ! こりゃ、不思議だっ!」

勇者「……おめぇはよぉ、白々しいヤツだなぁ」

天童「ねぇねぇ、勇者君~? 僕、追加で注文したいなぁ~? しても、いいかなぁ~?」ニヤニヤ

勇者「……」

天童「勿論、勇者君がダメって言うなら僕はしないよ? でも、僕勇者君と今日宴会してもいいって『約束』してような気がするんだけどなぁ~?」ニヤニヤ

勇者「調子に乗りやがって、この野郎……」

天童「ねぇ、勇者君? 追加で注文してもいい? ねぇ、ねぇ?」ニヤニヤ

勇者「す、好きにしろよ……」

天童「うわぁ~! 勇者君って優しいなぁ! ……という事で大将っ! メニューの端から端までお願いしますっ!」

勇者「お、おいっ……! そんな事したら、金なくなっちまうぞ……!」アセアセ

女僧侶「……ん?」ムクッ

勇者「あっ、女僧侶ちゃん、起きた……?」

女僧侶「……なんだか、美味しそうな匂いがします」

天童「ああっ、先に始めさせてもらってるよ! ホレ、女僧侶ちゃんも一緒に食べるばいっ!」

女僧侶「違います……天童さんの飲んでる……それ……」

勇者「!」

女僧侶「すみません、マスターっ! 私にも、これと同じ飲み物下さい~!」


主人「あ、あいよっ……!」アセアセ

天童「あらぁ~、女僧侶ちゃんって……酒いけるタチなのねぇ……」

勇者「感心してる場合かっ! おめぇも天使なんだったら、止めやがれっ!」

ーーーーー

女僧侶「ふふ、このジュースも、とっても美味しいですね?」ゴクゴク

天童「あ、あらぁ~? 女僧侶ちゃんって……お酒、強いんだねぇ……?」

勇者「女僧侶ちゃん、大丈夫? ちょっと、飲み過ぎなんじゃない……?」アセアセ

女僧侶「ふふ、大丈夫ですよ? 心配してくれてるんですか? やっぱり、勇者さんって優しいですね?」ニコッ

天童「あれ、あれ……? 何、このいい雰囲気……? ねぇ、君達、僕が来る前に何かあったの?」

勇者「えっ……! いやっ……! それは……」アセアセ

女僧侶「ふふ、天童さんには秘密です……ねっ、勇者さん?」クスクス

天童「あんらぁ……な~んか、よくわからんけど、くやしかぁ~! くやしかぁ~!」

勇者「……」

女僧侶「マスター、もう一杯いただけますか?」

主人「ごめん、姉ちゃん……もう品切れ……というか、あんたら飲み過ぎなんだよ……」

女僧侶「え~?」


天童「まぁまぁ、女僧侶ちゃん……それじゃあ、今日はそろそろお開きとしましょうか……」

女僧侶「私……もっと飲みたいです……」

天童「まぁ、またの機会があるからさっ? なっ、近いうちにまた宴会しようぜ、勇者?」


勇者「……ヤダ」

天童「……ぬ?」

勇者「……もう、安易な約束しない」

天童「そうそうっ! それだよそれっ!」

勇者「……はぁ?」

天童「俺がこの宴会通して言いたかった事……それは、安易な約束事は身を滅ぼすぞって事なんだよ!」

勇者「……はぁ?」

天童「おめぇもこれで懲りただろ? いやぁ~、結果オーライだったけど、勉強になったからよしとしようっ!」

勇者「……ん?」

天童「やっぱり、『大事な約束』ってのは、誰かの役に立ちたいとか、そういう気持ちから生まれる……」

勇者「……おい、お前、今結果オーライって言っただろ?」

天童「え、えっ……?」

勇者「結果オーライって言ったよなぁ? 確かに聞こえたぞ?」

天童「勇者君、君は何か勘違いをしている……よく聞いて下さい……『大事な約束』というのは……」

勇者「うるせっ! なぁ~に、綺麗事言って纏めようとしてやがる! あんだけ、ハメ外しておいてよぉ~!」ギャーギャー

天童「い、いいじゃねぇか! 久しぶりの酒なんだったんだからっ! それに、おめぇだって勉強になったんだからいいだろっ!」ギャーギャー

ーーーーー

天童「じゃあ、俺は先に女僧侶ちゃん、送り届けるから、お会計よろしくな?」

女僧侶「よろしくお願いします」ペコッ

勇者「もう二度と宴会はしない……絶対にだ……」ブツブツ

天童「おい、勇者? 『一番大事な約束』は忘れんなよ~? 明日の昼なんだからよぉ~?」

女僧侶「忘れないで下さいね?」ニコッ

勇者「あっ……う、うん……わかったよ……」ドキドキ

天童「じゃあ、女僧侶ちゃん行こうか……って、あんたもう、フラフラじゃないの!」

女僧侶「そ、そんな事……ないですよ……? ちょっと、ここの地面がグニャグニャしてるだけすよ……」フラフラ

勇者「お、お~い……怪我しないように帰りなよ~?」

勇者「え~っと……それじゃあ、お会計よろしいですか……?」

主人「……ほれ、代金表だ」

勇者「え~っと……ゲッ……!」

主人「……」

勇者「これ、マジっすか……?」アセアセ

主人「そりゃ、あんだけ飲んで食ったら、そうなるわなぁ……? 言っておくけど、うちは良心的な店だぜ……?」

勇者「えっ、いやっ……それはわかってますけど……あのっ……」

主人「……まさか、金ねぇってワケじゃねぇだろなぁ?」

勇者「いやっ、ある事はあるんですけど……そうなったら、これからの旅が……」アセアセ

主人「……」

勇者「な、なんとかなりませんかねぇ……?」

主人「……ったく、じゃあよ?」

勇者「まけてくれるんですか?」

主人「うちの麦焼酎は、水にこだわってるって言ってただろ?」

勇者「あっ、言ってましたね?」

主人「その水は、この街の近くの洞窟の中にある、地底湖の天然水なんだ」

勇者「へぇ~、そんな所から仕入れてるんですか……」

主人「ただよぉ……最近、魔物の動きが活発で、その水仕入れるのに、苦労してんだよ」

勇者「は、はぁ……」

主人「兄ちゃん、東の街の魔物討伐した猛者なんだろ? だったら、仕入れてきてくんねぇかな?」

勇者「……そうしたら、まけてくれるんですか?」

主人「あぁ、俺も男だよ。約束する」


勇者「!」

勇者「えっ……約束……ですか……?」アセアセ

主人「……なんだよ、いい話じゃねぇかよ? 不満なのか?」

勇者「い、いやっ……! そういう事じゃ、ないんですが……」

主人「?」

勇者「こ、これ……大事な約束なのかな……? それとも、お金払って済ませた方がいいのかな……?」

主人「?」

勇者「あぁっ! でも、もし『大切な約束』だったら、俺死んじゃうし……どうしよどうしよ……」アセアセ

主人「なぁ~に、ブツブツ言ってんだよ? どうすんの? やってくれるの?」

勇者「あっ……! そ、それはですねぇ……!」アセアセ

洞窟前ーー


勇者「も~う……深夜0時に洞窟探索なんてさぁ……」

勇者「暗いしさぁ……怖いしさぁ……眠いしさぁ……」

勇者「……」

勇者「……それに、女僧侶ちゃんとの約束もあるしさぁ?」シクシク

勇者「……」

勇者「もういいよっ! さっさと終らせようっと! じゃあ、行く……ん……?」


警備兵「……」

勇者「あの~? ちょっと、どいてもらえませんか……?」

警備兵「ん……? 洞窟探索の方ですか?」

勇者「うん、この洞窟の地底湖の水が欲しいんだ。だから、通してよ?」

警備兵「申し訳ありませんっ……! この洞窟は魔物の巣になっていて、危険ですので、現在封鎖しています!」

勇者「……危険だからさぁ? 冒険者の俺が取りに行くんじゃん」

警備兵「では、どうしてもというのなら……街長から、通行許可証を頂いてきて貰えますか……?」

勇者「えっ、何? 入るのに、そんなのがいるの?」

警備兵「はっ……! しかし、通行証さえあれば、探索を許可します。それは私の誇りにかけて約束させて頂きますっ!」


勇者「!」

勇者「あんたの誇りなんかいらねぇんだよっ! も~う……どうして、そんな約束、勝手にしちゃうかなぁ?」

警備兵「?」

勇者「あ~っ……これがもし『大事な約束』だったら、俺死んじゃうし……どうしよどうしよ……」アセアセ

警備兵「どうか……なされたんですか……?」

勇者「あぁっ! もうっ! 街長さんに通行証さえ、貰ってくれば通してくれるんだね!?」

警備兵「はっ! 約束しますっ!」

勇者「うるせっ! 約束なんかもうこりごりだよっ! じゃあ、街長さんの所へ行ってくるよっ!」

警備兵「はっ!」

とりあえず今日はここまで

>>401
名前覧で答えたんだけど、sageてて見逃してるんじゃないかと思ったからもう一度

俺の投下中は俺自身がageてしてるから好きにしてくれて構わないよ
投下中以外にageるのはローカルルール講座が起こりそうなので、控えてくれると嬉しいかな

街長家ーー


勇者「す、すいませんっ! 街長さん、いますかっ!? 街長さんっ!」ガンガンッ

街長「……」ムスッ

勇者「あの、 街長さんですか!? 実はお願いがありましてね……」

街長「……あんた、今何時だと思ってるの?」ムスッ

勇者「えっ……? え~っと……今は、1時前ですね……?」

街長「そうだね。1時前だね? ワシ、寝てたんだけど……」

勇者「い、いやぁ……申し訳ありません……」アセアセ

街長「……と、いう事で用件は明日にしてくれ。ワシ、寝る」

勇者「い、いやっ……! ちょっと待って下さいよっ……!」アセアセ

街長「も~う……何だよお前……ワシ、眠いんだからよぉ……」

勇者「あ、あのっ……! 地底湖ある洞窟の通行証貰えますか……?」

街長「あぁ? ダメダメ……あそこ、魔物の巣なってて、今は危険だから……」

勇者「いえっ、大丈夫ですっ! 実は僕、東の街の魔物の討伐部隊だったんですよ! 腕っぷしには自信あちますからっ……!」

街長「……本当? あんた、そんな風には見えないんだけど?」

勇者「い、いえっ……! 大丈夫ですっ! 僕、絶対に無事に帰ってきますから、通行証下さいっ!」

街長「う~ん……じゃあ、また明日来てくれる……?」

勇者「えっ!? いやっ! 明日って……なんで、今くれないんですか……?」アセアセ

街長「やかましいっ! こっちは眠ぃんだよっ!」

街長「明日来てくれたら、手続きしてあげるから……ちゃんと約束するから……」

勇者「!」

街長「ねっ? 今は寝かしてくれよ?」

勇者「……は、はい」

街長「だいたい、あんたさ? こんな時間に訪ねてくるって、ちょっと常識がないんじゃないの?」

勇者「も、申し訳ありません……」アセアセ

街長「わかったんなら、とっとと帰ってくれっ! ……全く、バカの相手は疲れるのぉ」

勇者「……」

宿屋ーーー


天童「おぉ、遅かったじゃねぇか? どうしたんだ?」

勇者「……」

天童「女僧侶ちゃんと、女商人さんはとっくに寝ちまったぞ? なにしてたんだ、おめぇ?」

勇者「うるせぇっ! 全部お前のせいだぞっ! たらふく飲みやがってっ!」

天童「な、なにそんなに怒ってるんだよ……あれ、八割ぐらいは女僧侶ちゃんが飲んだんだぜ……? それに、お前も結構喜んで食ってたじゃねぇかよ?」アセアセ

勇者「うるせぇっ!」

天童「ま、まぁよ……なぁ~んでお前がそんなに怒ってるのかわかんねぇけどよぉ……? 命題忘れんなよ……?」

勇者「……そのせいで明日はもう、大忙しだよちくしょう」

翌朝7時ーー


天童「……ふわぁぁ、よく寝たなぁ。 お~い、勇者起きろ~」

天童「今日の昼はよぉ……命題の……ん……?」

天童「……」キョロキョロ

天童「あ、あれぇ? 勇者のヤツ、何処行ったんだ……?」

天童「あいつが、こんな時間に起きるなんてねぇよなぁ……どうしたんだろ……?」

天童「……」


天童「……便所かな?」

勇者「街長さんいますかっ! 街長さんっ!」ガンガンッ

街長「……」ムスッ

勇者「あっ、街長さん!おはようございますっ!」

街長「……君ねぇ? 確かにワシは明日は来いといったけどさぁ?」

勇者「はいっ! だから、こうやって来ました!」

街長「……ちと、早すぎやないかい?」

勇者「えっ?」

街長「まだ、7時だよ君……? ワシ、朝飯も食っとらんよ……」

勇者「い、いやぁ……こっちは緊急なものでして……」アセアセ

街長「……とりあえず、朝飯食うから、待ってなさい」

勇者「い、いやっ……! 朝飯なんて後でいいじゃないですか! 先に通行証下さいよっ!」

街長「君、な~んでそんな必死なのよ? ちょっと、君常識なさすぎだよ?」

勇者「い、いやぁ……こっちは命が……」グゥー

街長「……ん?」

勇者「……あっ」グゥー

街長「……ねぇ、君朝飯も食わずに、どうしてそんなに必死なの?」

勇者「……い、いやぁ」

街長「とりあえずさ……? ご馳走してあげるから上がりなよ? 通行証の話はその後でいいでしょ?」

勇者「す、すいません……」

ーーーーー


勇者「な、なんか……突然お邪魔した上にこんな事までして頂いて、申し訳ありません……」

街長「なぁ~に、冒険者ってのはそれくらい生きのいい方がいいもんじゃよ。ワシの若いころを思い出すよ」

勇者「あ、ありがとうございます……」

街長「それで……確か、通行証の話じゃったよな?」

勇者「あっ、そうですっ! 通行証頂けますか!?」

街長「う~ん……」

勇者「あ、あれ……? どうしたんですか……?」

街長「いやぁ……君みたいな生きのいいヤツ、ワシは好きなんだけどねぇ……やっぱり、まだ若いし……どうしよう……?」

勇者「えっ、えっ……?」

街長「いやぁ……最近、この街はモンスターの巣になっている洞窟が近くにある街って、悪い噂が立っててね……まぁ、事実なんだけど……」

勇者「は、はぁ……」

街長「その洞窟で、死人が出たとなったらさぁ……? やっぱり、この街のイメージダウンは避けられないじゃん……?」

勇者「い、いやっ! 大丈夫ですっ! 僕、東の街を襲った魔物の討伐部隊でしたから!」

街長「えっ……? それ、本当……?」

勇者「はいっ! 腕っ節には自信はありますっ!」

街長「え~、そんなきゃしゃな身体で……? ちょっと、信じられないなぁ……?」

勇者「い、いやっ……! 本当ですっ! 信じて下さいっ!」アセアセ

街長「う~ん……」

街長「よしっ! じゃあ、こうしようっ!」

勇者「……ん?」

街長「この街から、さらに北に行った所に広~い平原があるんじゃ」

勇者「は、はぁ……?」

街長「そこのど真ん中に、青い木の実がなった大きな木が生えておる」

勇者「ま、まさか……ソレ、取って来いって話じゃないでしょうね……?」アセアセ

街長「おっ、物分りがいいじゃないか? しかし、最近その平原には魔物が溢れておるから、簡単にはいかんぞ?」

勇者「うわぁ……魔物もいるのかよ……」

街長「もし、その青い木の実を無事にとって来る事ができたのなら、君の力を認めて……」

勇者「……認めて?」

街長「この通行証を渡すと、や……」

勇者「わぁ~っ! わぁ~っ!」

街長「な、なんじゃ……急に大声を出しよって……心臓に悪いわいっ……!」ビクビク

勇者(もう、約束こりごりだよ……なんか、状況がどんどん悪化していってるような気がするなぁ……どうしよう……)

街長「ど、どうする……? このテスト受けるのか……? 受けないのか……?」

勇者(あ~、でも通行証がないと、洞窟には入れないし……もう、どうしよう……?)

街長「……なんじゃ? 急にしおらしくなりおったな?」

勇者「……街長さん」

街長「……ん?」

勇者「その青い木の実とってきたら、通行証を渡してくれるんですね……?」

街長「えっ……? ちょっと、顔近いよ……怖いよ……渡すからさ……?」アセアセ

勇者「とってきた後に、新しい条件つけるのは無しですよ? その青い実をとってきたら、通行証渡してもらいますよ?」

街長「うんっ、渡すっ! 渡すからっ! ちょっと、君怖いって……!」アセアセ

勇者「約束ですよ!? 絶対に守ってもらいますからねぇ!?」

街長「う、うん……約束するっ……! ワシ、約束するっ……!」

勇者「約束守れなかったら、即・死亡ですからねぇ!?」

街長「うわっ! 何、その脅し文句! 君、おっかないよ……」アセアセ

ーーーーー


勇者「あ~、もう……また約束しちゃったよ……もう、頭がこんがらがってきた……」

勇者「え~っと……一度、やる事を整理して落ち着こう……」

勇者「まず、青い木の実をとってきたら……街長さんに通行証が貰えて……」

勇者「通行証を渡せば……洞窟に入れるようになって……」

勇者「洞窟から水を取って、酒場に持って行って……」

勇者「……」

勇者「……女僧侶ちゃんとデートすると」モジモジ


勇者「あ~……とりあえずは木の実を取りに行く所からか……くそっ、時間ないし、出発するかっ!」

その頃ーー


女商人「あっ、天童さん……」

天童「あらっ! 女商人さん、どうしましたか?」

女商人「女僧侶さん、二日酔いが酷いようで……今日はちょっと……」

天童「あらぁ……昨日調子乗って飲ませすぎたかなぁ……? 女商人さん、すんましぇ~んっ!」

女商人「いえ、元々は私の我儘ですから。女僧侶さんは、今日はゆっくり、体調を整えてもらいましょう」

天童「本当、申し訳ありませんねぇ……俺の力不足のせいで……」

女商人「いえ、いくら天童さんでも、在庫のない商品は買えませんよ。昨日は勉強になりましたし、ありがとうございますっ!」

天童「い、いやぁ~」デレデレ

天童「まぁ、でもよぉ? 俺と勇者だけでも付き合うんで、今日は頑張りましょうよ!」

女商人「え、えっ……!? 本当に協力して頂けるんですか……?」

天童「だって、昨日『約束』したでしょ? 『赤い木の実を取りに行くのを協力する』って」

女商人「あ、ありがとうございます……」

天童「珍しく、勇者のヤツもやる気になってますから! 俺達に任せて下さいっ!」

女商人「ありがとうございますっ……! あの~、ところで勇者さんは……?」キョロキョロ

天童「あっ、アイツ朝から、姿が見えないんですよ……おっかしいなぁ……」

今日はここまでです

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……平原、平原……」

勇者「平原って何処だよ、も~う……一時間近く走ってるぞ……?」

勇者「北はこっちだから……方角はちゃんと合ってるハズだし……」アセアセ

勇者「え~っと、今、何時だ……? うわっ……! もう9時じゃんっ!」

勇者「も~う……後、6時間しかないじゃん……」シクシク

勇者「これ、時間間に合うのかなぁ……?」


魔物「グルルルル……」

勇者「……ん?」

勇者「う、うわっ……魔物だっ……!」アセアセ

魔物「ガルルルル……」

勇者「くそっ、アストロンっ! ……って、ちょっと待てちょっと待てよ……?」

魔物「……ガルっ?」

勇者「……そ、そうだ。 この前、この魔法使ったら、戦闘に30分近くかかったんだ」アセアセ

魔物「ガルル……」

勇者「こんなの使ってる場合じゃないよ……俺には時間がないんだから……」アセアセ

魔物「……キシャアっ!」

勇者「う、うわっ……! きたっ……! くそっ、怖いけどやってやるよぉっ!」

ーーーーー


女商人「あの~? 天童さん……?」

天童「は、はいっ! どうしたとですか!?」

女商人「勇者さん……どうしたんですかねぇ……? もう、9時半ですよ……?」

天童「あのバカ、なにしてやがるんだろ……? いくらアイツでも、忘れるわけないのに、おっかしいなぁ……」

女商人「正午には出発したいんですけどねぇ……」

天童「あっ、ハイっ! それぐらいには戻って来ると思いますよ!」

女商人「……何か急に予定でも入ったんでしょうか?」

天童「いやぁ~、いくらなんでも、それはないと思いますよ? 昨日、あれだけ忠告したんだし、命題ですし……」

女商人「……命題?」

天童「あっ、いやっ……! なんでもありましぇ~ん」アセアセ

女商人「……やっぱり、見ず知らずの私の為に、危険な事はしたくありませんよね」

天童「い、いやっ……! そ、そんな事ないですよ……! 女商人さんの為なら、こっちは命だってかけますばいっ!」

女商人「ふふ、天童さん? お気持ちだけで十分ですよ。これは私の問題ですし、勇者さんが正午までに戻って来なかったら、私一人で行きます」

天童「い、いやっ……! ちょ、ちょっと俺、アイツ探して来ますよ……! 多分、酒場にでもいると思いますからっ……!」

ーーーーー

勇者「はぁ……はぁ……」

魔物「ブギュ……」

魔物「キュ~ン……」

魔物「クゥ~ン……」

勇者「な、なんだよこいつら……仲間ばっかり呼びやがって……」

勇者「ち、ちくしょう……結局、30分以上かかっちまったじゃねぇか……」

勇者「くそぉ……こんな事してる場合じゃないのに……早く、青い木の実を取りに行かなきゃ……」

勇者「……ん? 木の実?」

勇者「あれっ……? 木の実って……なんかあったような……なんだったっけ……」

勇者「……う~ん」


勇者「……って、こんなもたもたしてる時間はないんだよっ! 早く青い木の実取りに行かなきゃっ! 時間がないんだからっ!」

酒場ーーー


天童「あの~? すんましぇ~ん?」

主人「おう、 昨日兄ちゃんの連れか! 水は持ってきてくれたのか!?」

天童「へ……? 水…… ? なんの事ですかね……?」

主人「なんだよ、まだなのかよ! まさか、約束すっぽかす気じゃねぇだろうなぁ……」

天童「!」

主人「あの兄ちゃん、人が良さそうだったから信用したのに……ちくしょう……俺、裏切られたのかなぁ……?」

天童「あ、あのっ……!」

主人「……ん? どうしたの? あっ、あんたが昨日の分のツケ払ってくれるの?」

天童「あ、あいつ……昨日、大将と何か約束したんですかねぇ……?」アセアセ

主人「あれ? あんた、仲間なのに聞いてないの?」

天童「す、すんましぇ~ん……詳しくお聞かせ願えますか……?」

主人「いや、だからよぉ? あの、兄ちゃんが、昨日の飯代払えねぇって言うからよぉ……」

天童「……あっ」

主人「地底湖の水、取ってきたら代金まけてやるって、約束したんだよぉ?」

天童「あ、あのバカっ……! 昨日、安易な約束事は身を滅ぼすって警告しただろがっ……! まぁ、俺にも責任はあるけどよぉ……!」

主人「?」

平原ーーー


勇者「はぁ……はぁ……」

勇者「あった……! あれが青い木の実のある大木だっ!」

勇者「よしっ……後は木の実を取って……」

勇者「……」

勇者「通行証もらって……洞窟で水取って……女僧侶ちゃんとデートして……」

勇者「……」

勇者「……やる事、多すぎて嫌になってきた」

勇者「……」

勇者「くそっ! 考えたら、負けだっ! ちくしょうめっ!」

勇者「……ん?」


魔物「ガルルルル……」

魔物「グルルルル……」

魔物「キシャアっ!」


勇者「そうだよ……この辺、魔物がいるって言ってたなぁ……」

勇者「魔物も倒さなくちゃいけないんだ……も~う……これ以上、やる事増やさないでくれよ……」シクシク

勇者「ええい! ダメだダメだっ! 考えちゃダメだっ! ちくしょうっ! 魔物共、かかってきやがれっ!」シャキン


魔物「キシャアァァっ!」

ーーーーー


天童「えっ!? それでアイツ、あんたとも『約束』したんですか?」

街長「あぁ、青い木の実をとってきたら、通行証を渡すと約束したぞ?」

天童「カァ~、バカ~ん! バカ~んっ! 酒場の件は、俺にも責任あるかもしれねぇけど、ここまでくると、もう俺関係ねぇよ~」

街長「?」

天童「それで……街長さん、アイツは今、何処に……?」アセアセ

街長「あぁ、ここからずっと北の平原に行っとるわ」

天童「な~んで、そんな所行ってんだよぉ……俺、もう嫌だよ……あぁっ! でも、あいつのサポートが俺の仕事だし……」イライラ

街長「?」

天童「それに、俺にも多少は責任あるし……ちくしょうっ!」

街長「お、おおっ……君も急に大声出して……君達って、ヒステリックなコンビだねぇ……?」アセアセ

天童「あ~んなバカと一緒にしないでもらいたいばいっ! ちくしょうっ! それじゃあ、俺も北の平原行ってきますわ!」

街長「お、おぅ……気をつけるんじゃぞ……?」






AM11:00

ーータイムリミットまで後、4時間





ちょっと変なタイミングだけど今日はここまで

ーーーーー


女商人「……」

女商人「どうしたんでしょう……天童さんまで戻ってこなくなっちゃいました」

女商人「もう、十一時なのに……なにか急用でも出来たのかしら……」

女商人「……」

女商人「……後、一時間だけ待って、戻ってこなかったら、一人で行きましょう」

女商人「やっぱり、勇者さん達に甘えてたら、申し訳ないないですし、これからの商売の為にも自分一人でやる力をつけませんとね!」

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……」

魔物「プギュ……」

魔物「キュ~ン……」

魔物「クゥ~ン……」

勇者「見たか、この野郎っ……! 俺だって、もう一人前なんだこの野郎っ……!」

勇者「ふ、ふぅ……まず、これで『約束』一つクリアだ……この、青い木の実を街長さんの所に持って行って……」

勇者「……しかし、これマズそうな木の実だなぁ? もっと赤とかだったら美味しそうなのに……」

勇者「……」

勇者「……ん?」

勇者「……あれっ?」

勇者「赤い木の実って……俺、何か大事な事を忘れてる気がするぞ……? え~っと、なんだろ……?」アセアセ

勇者「女僧侶ちゃんと約束して……違う、その前っ……! 天童と宴会の約束して……違う違うっ! もっと前っ!」

勇者「え~っと……え~っと……」アセアセ


勇者「あっ! そうだ女商人さんだ! 女商人さん! 女商人さんだよ、も~う……」

天童「やぁ~っと、思い出したか、このウスラ馬鹿っ!」ゼェゼェ

勇者「天童!?」

天童「な~んで……こんな事に……あっ、ダメ……ちょっと、お水飲んで休ませて……? もう、ここまで走って来て、僕ヘロヘロなの……」ゼェゼェ

勇者「……」

ーーーーー


勇者「……天童、大丈夫?」

天童「いやぁ……ちょっと休んだら、なんとか回復したばい……って、そうじゃねぇよっ!」

勇者「!」ビクッ

天童「何でこんな事になってるんだよ! 俺、昨日警告してやったのによォ~!?」

勇者「い、いや……それは……なんか俺にもよくわかんない……かな……?」アセアセ

天童「今回の命題は楽勝だったんだよ! 自分で自分の首、締めやがって!」

勇者「……だって」

天童「酒場の主人との約束……警備隊さんとの約束……街長さんとの約束……」

勇者「……うぅ」

天童「お前、今、いったいいくつ約束してんだよ!?」

勇者「うぅ……天童……ど、どうしよう……?」アセアセ

天童「どうしようじゃねぇよ! バカっ! 3時まで後、4時間しかねぇんだぞ! どれが一番大切な約束なんだよ!?」

勇者「……それは」

天童「……」

勇者「……一番大切な約束は」

天童「……」

勇者「女商人さん……女商人さん、一番一生懸命だったもん……」

天童「そう思うんだったら、それを信じて行けっ!」

勇者「……でも」

天童「……あぁ?」

勇者「それじゃあ、他の約束はどうすんだよ? 酒場の主人とか……」

天童「バカ~! も~うっ! バっバっバカ~んっ! もうっ!」

勇者「……」

天童「自分がお金まけてもらう為に水取ってくるのはなぁ! 『約束』って言わねぇんだよっ!」

勇者「……」

天童「『取引』って言うんだよっ!」

天童「ほいほい皆と約束しやがって……そういういい加減な安請け合いはなぁ? 結局、皆を裏切る事になっちまうんだよっ!」

勇者「!」

天童「……お前なぁ? そもそも、最初に約束したのは女商人さんだろ?」

勇者「う、うん……」

天童「女商人さんがよぉ……? 誰かの為に、必死になって行動をしてるのを見て、心打たれたんじゃねぇのかよ!」

勇者「……」

天童「それを裏切るだなんてなぁ……死んだ方がマシだっ!」

勇者「!」

天童「えぇっ!? これは俺があの人に抱いてる個人的な感情抜きで言ってんだぞ! わかってんのかオイっ!」

勇者「……」

天童「お前もよぉ? 誰かの役に立ちたいから、この旅始めたんじゃねぇのかよ……?」

勇者「えっ……?」

天童「この旅を始めた時の、その気持ち……ピュアな想い……お前、それ何処にいってまったんだよ!?」

勇者「……」

天童「お前はよぉ? 欲に塗れた最低の人間になっちまったんだよっ! わかるかぁ!?」

勇者「!」

天童「カァ~、決まったねぇ……格好いいねぇ、俺っ! 今の言葉メモしておこ~っと」メモメモ

勇者「!」グッ

天童「ん……? 急に立ち上がってどうした?」

勇者(女商人さん……女商人さん、ごめんっ……! 今、行くからっ……!)ダッ

天童「ったく、やっと気づいたか……あ~、また街まで戻らないといけねぇのか……カァ~! 辛かぁ~! 辛かぁ~!」

ーーーーー

勇者「はぁ……はぁ……なんとか、街に戻って来れたね……今、何時……?」

天童「12時……10分、って所だな……まぁ、後3時間近くあるし、よかったじゃねぇか!」

勇者「それじゃあ、女商人さんと合流して、赤い木の実を取りに行こうか? 女商人さんは何処にいるの?」

天童「あ~、宿屋にいるんじゃねぇか? 正午には出発するつもりって言ってたから、それまでは宿屋にいるだろ?」

勇者「……ん?」

天童「どうした? 早く宿屋に行って合流しようぜぇ?」

勇者「……天童? お前、今なんて言った?」

天童「だから……宿屋に行って合流しようぜ、って……どうした? でっけぇ耳糞でも詰まってんのか、おめぇ?」

勇者「ち、違う違うっ! その前だよ、その前っ! お前、その前になんて言った!?」

天童「だから……女商人さんは正午に出発するつもりだから……あっ……!」

勇者「……」

天童「……」

勇者「間に合ってねぇじゃん、俺達っ!」アセアセ

天童「わ、わからんっ……! ひょっとしたら、まだ宿屋にいるかもしんねぇ……勇者! 探してみるぞ!」アセアセ

ーーーーー


女商人「ここが……高台への入り口ですね……」

女商人「やっぱり、天童さんの言う通り、大きな魔物がいるんでしょうか……」

女商人「……」

女商人「でも……そんな場所じゃないと、いい商材なんて取れませんよね……!」

女商人「不安もあるけど……困っている人達の為です……頑張りましょうっ……!」

女商人「……」


女商人(貴方……どうか天国から、私の事を守っていて下さい……)

今日はここまで
最近スローペースでごめんね

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……」

天童「おいっ! 勇者、どうだった!? 女商人さんは宿屋にいたか?」

勇者「ダ、ダメ……いなかった……天童、そっちは……?」

天童「酒場にも、道具屋にも、何処にもいなかったよっ!」

勇者「えっ……じゃあ……」

天童「くそっ……もう、一人で行っちまったらしいな……ギリギリ間に合わなかったみたいだ……」

勇者「!」

勇者「な、なぁ? 天童……?」

天童「……あぁ?」

勇者「俺、死んじゃうの……? 今回の命題、失敗って事だよねぇ……?」アセアセ

天童「諦めんじゃねぇ! まだ、12時半だから、後2時間半あるじゃねぇか! とにかく最後の最後まで、諦めんなっ!」

勇者「う、うんっ……! じゃあ、俺達も約束してた高台に行ってみよう! 今からでも合流できるかもしれないよね……」

天童「よっしゃっ! その意気だっ! おめぇ、ちっとは成長したじゃねぇか!」

ーーーーー


女商人「……」

女商人「意外と……魔物は出ないものですねぇ……?」キョロキョロ

女商人「もっと苦労するかと思ってたのに……私、一人でも大丈夫そうですね……」

女商人「……しかし、この獣道は歩きにくいですねぇ? 頂上への道が全くわかりませんわ」

女商人「……ん?」

女商人「あら、別れ道ですか? 困りましたねぇ……?」

女商人「う~ん……」

女商人「……」

女商人「左……ですかね……?」

女商人「……」

女商人「そうですね。 なんとなくですが、左が頂上へと続いてる道な気がします」

女商人「あまり、時間をかけると、勇者さん達も心配しそうですし、急いで実を取って、帰りましょう!」

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……やっと高台への入り口についたね……」

天童「うわっ! 何、この獣道っ! 今日、俺走ってばかりなのに、またこんな所行くの?」

勇者「しょうがねぇじゃん……女商人さん、もう行っちゃたんだからさぁ……?」

天童「うるせっ! わかってるよ! 元はと言えば、おめぇの責任じゃねぇかっ!」

勇者「……だって」

天童「『だって』じゃねぇよっ! 今はとっとと追いつかねぇといけねぇんだから、無駄口叩くなっ!」

勇者「う、うん……」






PM1:00

ーータイムリミットまで後、2時間





ーーーーー

女商人「あら? 今度は三叉路ですか……? 困りましたねぇ……?」

女商人「右か……左か……真ん中か……」

女商人「う~ん……」

女商人「……真ん中ですかねぇ?」

女商人「……」

女商人「そうですね! 真ん中の道に行ってみましょう!」

女商人「……しかし、コレ頂上に近づいてるんですかねぇ? 一向に頂上が見えないんですが」

ーーーーー

勇者「あ、あれっ……!?」

天童「勇者、どうしたぁ!?」

勇者「天童……コレ、道が二つに別れてるよ……?」アセアセ

天童「右か左か……どっちかが正解で、どっちかがハズレだ……女商人さんは必ずここを通ったハズなんだからよぉ……?」

勇者「ど、どうしよう……天童、どっちの道が正解なんだろ……?」アセアセ

天童「そんなもん、勘で決めるしかねぇじゃねぇかっ! 勇者ァ! おめぇの冴えてる所をビシっと見せてやれっ!」

勇者「う、うん……じゃあ……」

勇者「……じゃあ」

天童「おぅ! どっちだ!? 女商人さんはどっちに行ったと思う!?」

勇者「右っ!」

天童「おぅ! 右の道だな!? こっちの道に行ったと思うんだな!?」

勇者「う、うん……俺の勘は多分、こっち……こっちの道で合ってると思う……」

天童「よしっ! それじゃあ、早いトコ追いかけるぞ!」

ーーーーー

女商人「……今度は四叉路ですか。ここ、迷路みたいですねぇ?」

女商人「帰る道も不安になってきましたし……でも、進むしかありませんね……」

女商人「う~ん……」

女商人「左から二番目……ですかねぇ……?」

女商人「……」

女商人「私、遭難とかしてませんよね……?」アセアセ

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……あれ……?」

天童「おいっ! いきなり立ち止まって、どうしたんだよ!? もう、残り1時間半しかねぇんだぞ!?」

勇者「なぁ、天童……? ここって……」

天童「……ん?」

勇者「……さっきの別れ道の所なんじゃね?」

天童「ん……? そういえば……なんとなぁ~く、見覚えがあるような……」

勇者「コレ、俺達戻ってきたんじゃねぇの!?」アセアセ

天童「バカ~んっ! もう、バカ~んっ! 一分一秒を争うって時に、おめぇは何、してんだよ!」

勇者「うぅ……」

天童「おめぇはよぉ!? 勘も鈍いんだな、このポンコツがっ!」

勇者「ごめん……」

天童「だから、俺は左の道の方が気になるって、散々言っただろうが!」

勇者「……えっ? お前、そんな事言ってたっけ?」

天童「細けぇ事は気にすんなっ! とにかく、左の道が正解だっ! 俺の勘を信じて行くぞっ!」

勇者「う、うん……」

ーーーーー


女商人「なかなか、頂上につきませんねぇ……」

女商人「天童さんが言ってた、誰も手をつけない理由がわかりました……」

女商人「これ、手をつけないじゃなくて……手がつけれないんですわ……」

女商人「多分、この迷路見たいな獣道のせいで、皆、頂上までのルートがわからないのでしょう……」

女商人「困りました……私もたどり着けるんでしょうか……?」

女商人「……」

女商人「……んっ?」

骸骨「……」

女商人「……ひっ!」ビクッ

骸骨「……」

女商人「こ、これは……遭難者の死体……でしょうか……?」ビクビク

骸骨「……」

女商人「早く、頂上までのルートを探さないと……私も同じようになってしまいます……急がないと……」

骸骨「……」

女商人「……どうか、安らかにお眠りになって下さい」

骸骨「……」ギギッ

女商人「……えっ?」

骸骨「……クイ……モノ」ムクッ

女商人「きゃあっ!」

骸骨「オンナノ……クイモノ……」

女商人「こ、こないで下さい……やめて下さい……」ビクビク

骸骨「オレ……ハラヘッタ……クイモノ……ホシイ……」

女商人「くっ……戦えますよ!? 私、商人ですが、戦う事だってできるんですよ!? それ以上近づいたら、斬りますよ……!」ビクビク

骸骨「……」

女商人「……」

骸骨「オマエヲ……」

女商人「……えっ?」

骸骨「クワセロオオオオォォォォ!」ガッ

女商人「き、きゃあっ……!」

ーーーーー


勇者「あれっ……? 今度は三叉路だよ……?」アセアセ

天童「カァ~! またかよ……」

勇者「右か……左か……真ん中か……どの道が正解なんだろ……」アセアセ

天童「勇者ァ! 今度こそはしっかり、一発で当てろよっ! もう、残り1時間しかねぇんだから!」

勇者「う、うん……」

天童「右か……左か……真ん中か……正解の道はどれだと思うんだ!?」

勇者「え、え~っと……」アセアセ

勇者「……真ん中?」

天童「よしっ! 真ん中の道でいいんだなっ! もう、後戻りはできねぇぞ!?」

勇者「ちょ、ちょっと待ってくれよ……! そんな言い方しなくてもいいじゃん……」アセアセ

天童「時間がねぇんだよ、時間がっ! お前、この選択間違えたら、死んじまうんだぞ!?」

勇者「……そう言われると、なんか間違ってるような気してきたなぁ?」

天童「カァ~! モジモジしてんじゃねよっ! 真ん中の道でいいんだな!?」

勇者「……あっ、待って! やっぱり、右の道にするっ! そっちが正解な気がしてきた!」

天童「よしっ! じゃあ、右の道だっ! 急ぐぞっ!」

女商人「たぁっ! やあっ!」

骸骨「……イタイ……ドウシテ、オレヲイジメル?」

女商人「はぁ……はぁ……」

骸骨「オレ……ハラヘッテ……ウゴケナイ……オマエクッテ……マチニカエル……」

女商人「くっ、動きは鈍いのですが……とにかくタフです……このままじゃ、こちらが先にバテてしまいますわ……」

骸骨「オレ……ミッツノサガシモノヲ……シテイル……」

女商人「……えっ」

骸骨「ヒトツハ……アカイキノミト……」

女商人「この方……やはり、私と同じように木の実を探しにきて、遭難されたんですね……」

骸骨「ヒトツハ……ショクリョウデアル……オマエダ……」

女商人「……ぐっ」

骸骨「ソシテ……サイゴノヒトツハ……」

女商人「……」

ーーーーー


勇者「あれ……? ここって、またあの三叉路じゃない……? また、戻ってきちゃったのかな……?」アセアセ

天童「勇者君……君、ホントにダメな男なんだね……絶対、ギャンブルとかしない方がいいよ……負けるタイプだよ……」

勇者「う、うん……そうする……」

天童「おめぇはよぉ! こ~んなに切羽詰まった状況なのに、勘の一つも働かせれねぇのか!」

勇者「ご、ごめん……」

天童「五感を越えた第六感ってヤツを働かせてみろよ! シックス・センスってヤツをよぉ! ついでに、体内のコスモを燃やして、セブンス・センシズってヤツも目覚めさしちまえっ!」

勇者「う、うん……」

天童「さぁ! 右の道は消えたから、今度は真ん中と左の二択だっ! どっちが正解だっ!?」

勇者「じゃあ……え~っと……」

勇者「……真ん中?」

天童「真ん中だと、思うんだな?」

勇者「うんっ、 真ん中っ! 真ん中の道だと思う! 間違いないっ!」

天童「……本当に真ん中だと思うんだな?」

勇者「うん、今度は真ん中っ! 絶対に大丈夫だと思うっ!」

天童「……よし! じゃあ、左の道が正解だな」

勇者「……えっ?」

天童「よしっ! 勇者! 今度は左の道に行ってみるぞ!」

勇者「いやいや、俺は真ん中って答えたじゃん? なんで左の道に行くのよ?」

天童「あのねぇ……? 今日のお前はとことん冴えてないの。だから、今のお前は何をやっても不正解なの」

勇者「そんな言い方しなくてもいいじゃんかよぉ……」

天童「だから~、勇者君が真ん中って答えたら、その逆の左が正解なの。これ、ギャンブルの『逆張り』ってテクニックね?」

勇者「でもよぉ~? もし、これで左の道行って不正解だったらどうすんだよ? 俺、死ぬんだろ?」

天童「じゃあ、どうすんだよ? このまま真ん中の道に行くのか!? 今日のお前の勘は冴えてないから、それこそ死んじまうぞ!?」

勇者「う~ん……」

勇者「う~んと……う~んっと……レミパン……? ドレミファ……ああっ! 違う違うっ!」

天童「……なぁ~に、ブツブツ言ってんだ、お前?」

勇者「ミラージュ……? ミラーマン教授……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

天童「おめぇは、何をもたもたしてんだ!? お前なぁ? 命題のタイムリミットまで……」


勇者「『レミーラ』?」ピカーッ

天童「……あぁ? 今、何したおめぇ?」

勇者「……天童」

天童「……あぁ?」

勇者「左の道はダメだよ。その先……崖になってる……」

天童「はぁ? なんで、お前そんな事がわかるんだよ?」

勇者「俺にもよくわかんないだけださ……女商人さんは真ん中の道を進んだ先の、四又路の少し先にいるよ!」

天童「はぁ? 四又路? なんで、おめぇそんな事わかるんだよ?」

勇者「俺にはわかるんだよ! いいから、真ん中の道を急ぐよっ!」






PM2:40

ーータイムリミットまで後20分





天童「おぉ、勇者! おめぇの言った通り、四又路についたじゃねぇか!?」

勇者「う、うんっ……!」

天童「なんか、急に勘が冴え始めたみてぇだなっ! 次はどの道だっ!?」

勇者「一番右は、モンスターの巣になっていて……その隣は、崖になってる……女商人さんがいるのは、その隣っ!」

天童「……左から二番目だな? よしっ! 行くぞっ!」

勇者「ち、違うっ! 天童っ! 行くのは一番左の道だよっ!」アセアセ

天童「はぁ? 女商人さんは左から二番目にいるんだろが?」

勇者「大丈夫……! 少し、遠回りになるけど……道は繋がってるから……! それに、左の道がには冒険者の遺品があるんだ……!」

天童「おめぇなぁ……? 今、遺品なんて漁ってる場合じゃ……」

勇者「天童っ!」

天童「!」

勇者「これは、必要な物なんだよっ! お前が、女商人さんを心配するのはわかるけどさぁ……?」

天童「……」

勇者「頼むよっ! 俺を信じて一番左の道に行ってくれよっ!」

天童「……」

ーーーーー


女商人「はぁ……はぁ……」

骸骨「ソロソロ……ウゴキガニブクナッテキタヨウダナ……」

女商人「はぁ……はぁ……」

骸骨「ソロソロ3ジ……オヤツノジカンニピッタリダ……」

女商人「……くっ」

骸骨「ヤットミツケタ、サガシモノ……オレ、ズットハラヘッテイタ……」

女商人(あなた……ごめんなさいっ……!)

骸骨「イタダキマースっ……!」


「おめぇの探し物はそれじゃねぇだろ」

女商人「!」

骸骨「ダレダっ!」

天童「おめぇの探し物は『コレ』だろ? ほれ、受け取りな!」ポイッ

骸骨「アアアアアアアっ!」

天童「3時ジャストっ……! ぎりぎり合流って所だな! あっ、女商人さん……遅れてすんましぇ~ん……」

女商人「天童さんっ……! 天童さん、今あの骸骨に何を投げたんですか……?」

天童「あぁ、あれ……? あれはね……?」

骸骨「アアアアアアアっ!」シュワシュワ

天童「ありゃ、『聖水』だよ?」

女商人「……聖水?」

骸骨「アアアアアアアっ……! アタタカイヒカリ……オレノサガシモノ……コレデオレモ……ジョウブツデキルっ……!」

天童「おめぇ、ずっとソレ、探してたんだってなぁ? まぁ、長い間野晒しでおかしくなっちまったのは気の毒だけどよぉ?」

骸骨「アアアアアアアっ……! アアアアアアアっ……!」

天童「おめぇが、病気の子供の為に赤い木の実を探しにやってきたって事は、ちゃ~んと神様に言っておいてやるから……大人しく成仏しろや!」

骸骨「アアアアアアアっ……! アリガトウ……アリガトウっ……!」シュワシュワ

骸骨「……」コロン

女商人「この方も……私と同じように……」

勇者「はい、彼の遺品にそう書いてありました……」

女商人「勇者さん……! 勇者さんも助けに来てくれたんですか……!」

天童「木の実探してるうちに倒れて……食料探してるうちに、てめぇの遺品も見失って……まぁ、それでもコイツは最後の最後まで必死に生きたんだろうな……」

女商人「……そうですね。私も一歩間違えれば同じように」

勇者「あのっ……! 女商人さんっ……!」

女商人「……ん? どうしたんですか、勇者さん?」

勇者「あのっ……約束破ってすいませんでしたっ……!」

女商人「……えっ?」

勇者「赤い木の実を取りに行くのを協力するって約束してたのに……こんなに遅れて……ごめんなさいっ……!」

女商人「……」

勇者「……」

女商人「ふふ、何言ってるんですか?」

勇者「……えっ?」

女商人「私を助けに来てくれて……こうやって協力して頂いてるじゃないですか? 感謝するのはこっちの方ですよ?」ニコッ

勇者「……」

女商人「あっ、でも……ここから頂上までまだ道があるんですねぇ……ちゃんと行けるかなぁ……?」

天童「いえいえっ! 女商人さんっ! 頂上まで、勇者君がしっかり、ナビゲートするので、安心して下さいっ!」

女商人「勇者さん、道わかるんですか?」

勇者「えっ……? まぁ……この先の五又路は右から二番目で……その先の六又路は左から三番目で……」

天童「うわっ、何ソレ!?」

女商人「まるで、迷路ですねぇ……私一人じゃ絶対遭難してました……」

勇者「帰りは僕の魔法使えば、高台の入り口に戻れると思いますし……」

天童「あっ、そういや、勇者君、この前変な魔法覚えたね? なんだっけ? 履歴書だったっけ?」

女商人「はぁ~、本当に勇者さんがいてよかったです~。ありがとうございますっ!」

頂上ーーー


天童「やっと頂上だぞっ!」

女商人「うわ~、いい景色……って、眺めてる場合じゃありませんね? さっそく、木の実集めなきゃっ!」イソイソ

勇者「……なぁ、天童?」

天童「あぁ、どうした? おめぇも木の実集めるの手伝えよ?」

勇者「……やっぱり、俺にはあんたがいないとダメみたい」

天童「……あぁ?」

勇者「女商人さんとの、一番大切な約束忘れてさ……皆との約束裏切る事になってさ……」

天童「……」

勇者「……やっぱり、俺にはあんたがいないとダメみたい」

天童「……」

勇者「……」

天童「やっと気づいたか……って言いてぇ所だけどよ……まぁ、今回はお互い様だな……」

勇者「……えっ?」

天童「俺の方こそ、女商人さんにうつつを抜かして……好き放題飲んでよ……悪かったな……」

勇者「……うん」

天童「本当はずっとお前のそばにいねぇといけなかったのによ……まっ、結果的に『判断力』……クリアしたから、よしとするか……」メモメモ

勇者「……うん」

天童「破っちまった約束はよぉ? 俺も一緒に頭下げるから、後で皆に謝りに行こうぜ?」

勇者「そうだね……裏切ったままじゃいけないよね……」


女商人「あっ! 勇者さ~ん! 天童さ~ん! ちょっと来て下さ~いっ!」

天童「……ぬ?」

勇者「……ん?」

女商人「ほらっ! ここ高台なのに、こんな綺麗な川が流れてますよ!?」

天童「あんらぁ~、綺麗な水ねぇ? なぁ、勇者? この水でいいんじゃねぇか?」

勇者「え~? でも、取ってこいって言われたのは地底湖の水だよ?」

女商人「この水、凄く美味しいですよ?」

天童「えっ? どれどれ一口……って、ありゃ、こりゃ上手いっ! 勇者、お前も飲んでみろよ!」

勇者「……あっ、本当だ。凄く美味しいや」

女商人「水が必要でしたら、私が持ってる容器使いますか? この水、凄く美味しいですよ?」

天童「……だってよ? どうするよ、勇者?」

勇者「う~ん……とりあえず、これ持って行ってみるか……?」

ーーーーー


天童「よしっ! 木の実も根こそぎ取ったっ!」

女商人「なんだか……泥棒みたいな言い方ですねぇ……?」

天童「なぁ~に、商人なんてのは、そんなもんばいっ! 水も大量に取ったっ!」

勇者「お、重い……」プルプル

天童「後は、帰るだけだっ! それじゃあ、勇者君、お願いしますっ!」

女商人「あっ、そういえば、勇者さん脱出魔法使えるんでしたね?」

天童「さぁ、女商人さん……僕の身体にしっかり掴まって……危ないですから……」キリッ

勇者「……おめぇはよぉ? じゃあ、行くよ! リレミトっ!」ビューン

酒場前ーーー


天童「なぁ、勇者? あの魔法、直接街に戻ってくる事とかできねぇの?」

勇者「う~ん……そういう魔法じゃないみたい……前のは偶然だったのかなぁ……」

天童「女商人さん、帰り道辛そうだったぜぇ? カァ~! 辛か~! 辛か~! 足が棒~! もう、たまらん、たまらんっ! って」

勇者「……それ、ずっと言ってたのはお前じゃん」

天童「でもよぉ? 街についたら、宿屋に直行だぜ? やっぱり、疲れてたんだよ? あの魔法、絶対改良する余地はあるぜ?」

勇者「う~ん……考えておくよ……」

天童「……っと、おっ? 酒場に着いたな? それじゃあ、水持っていくか!」

勇者「う、うん……」

天童「こんばんはぁ~! とりあえず、生……」ガラッ

勇者「バ、バカっ! もう酒はダメだよっ! 生、いりません! いりませんよ!?」アセアセ

主人「お、おいっ! やっと戻ってきたのか! 無事だったのか! 生き埋めになっちまったのかと思っちまったぞ!?」

天童「……へ?」

勇者「……生き埋め?」

主人「だからよぉ~、あの洞窟に魔物討伐するって魔法使いの親子が来てよぉ? 派手に洞窟ぶっ壊して崩れちまったじゃねぇか!」

天童「……えっ? あの洞窟、崩れたんですか!?」

勇者「俺、あそこ行ってたら、生き埋めになってたじゃんっ!」

主人「……あれ? 何、そのリアクション? もしかして、水取りに行ってないの?」

勇者「す、すいません……」アセアセ

主人「最悪だ……君を信じた俺がバカだった……まさか、こんな形で裏切られるとは思わなかったよ……」

勇者「ご、ごめんなさい……でも、代わりの水、持ってきたんで……」

主人「あのねぇ……? ウチの水は、そんじょそこらの水と違って、こだわりの……ん……?」

勇者「す、すいません……」

主人「……」マジマジ

勇者「……ん?」

主人「こ、これは……! もしかして、あの幻の『迷いの高台』の水ではないでしょうか……!?」

勇者「あ~、確かに迷路みたいになってたもんねぇ? あそこ、そんな風に呼ばれてるんだ?」

危機察知ならレミーラよりインパスの方が良かった気がしなくもない

主人「こ、こんな素晴らしいお水を持って来て頂けるとは……ありがたやっ……! 嗚呼、ありがたやっ!」

勇者「えっ? これ、そんなにいい水なの?」

主人「いいだなんて、とんでもないっ! 最高級の水でございますっ! このような水はただでは受け取れませんっ! どうか、どうかご馳走させて下さいっ!」

天童「えっ、ご馳走? お酒とか飲んでもいいの?」

主人「はっ! 本日は、食って飲んで騒いで踊って! お好きにして下さいっ! 全て、私の奢りとさせていただきますっ!」

勇者「いやいや、悪いですよ……天童、お前も調子に乗るなって……」

主人「いえっ……! いいのですイイノデスっ! このままでは私の気が済みませんっ! どうか、どうかご馳走させて下さいっ!」

天童「宿屋の連れも呼んできていいですかねぇ? やっぱり、お酒は皆で飲んだ方が楽しいと思うですよねぇ~?」ニヤニヤ

主人「ははっ! 是非、お呼びになって下さいっ! この私、精いっぱい腕を振るわせて頂きますっ……!」

勇者「お、おい……天童、調子に乗るなよ……」アセアセ

そしてーーー


女商人「Oh~♪ お願いさ~♪ Take me to heaven~♪」

天童「♪」


女僧侶「あらあら、女商人さんが歌って……天童さんがそれに合わせて踊って……」

勇者「……あいつは、はしゃぎすぎなんだよ」

女僧侶「お酒って、あんなに人を変えちゃうものなんですねぇ……? 美味しいんですかね……?」

勇者「あっ! いやぁ……女僧侶ちゃんは、飲まない方がいいと思うよ……?」

女僧侶「?」

勇者「あっ……それよりさぁ、女僧侶ちゃん……?」

女僧侶「どうしたんです、勇者さん?」

勇者「あの……今日は約束守れなくて……ごめんね……?」アセアセ

女僧侶「……約束?」

勇者「う、うん……?」

女僧侶「私、勇者さんと何か約束したんですか……?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「昨日、酒場に来た所ぐらいまでは覚えてるんですが……私、それからの記憶が全くないんですよ……」

勇者「あっ……そうなの……?」

女僧侶「今日は、頭がガンガンして、一日動けませんでしたし……やっぱり、旅疲れなんですかねぇ……?」

勇者「あっ……そうなんだ……」

女僧侶「私、何か勇者さんと約束したんですか……?」

勇者「あっ……! いやっ……! 覚えてないんだったらいいんだ……」アセアセ

女僧侶「え~? そんな事、言われたら気になるじゃないですか~。教えて下さいよ~?」

勇者「い、いやぁ……そ、それはねぇ……」アセアセ

天童「お~い、勇者~! 何やってんだ、お前もこっち来て踊れ~ぃ!」

勇者「あっ、 天童が呼んでるや! 俺、ちょっとあいつの所行って、付き合ってくるよ……」アセアセ

女僧侶「え~? 気になるじゃないですか~?」

勇者「ま、まぁ……また今度にでも話すよ……?」

女僧侶「……約束ですよ?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「だから~、約束して下さいね?」

勇者「も~う、わかった……約束ね……?」


天童「な~に、やってんだぁ、勇者っ! おめぇもとっとと踊りやがれっ!」

女商人「女僧侶さんも、一緒に踊りましょうよ~!」

翌日ーーー


女商人「皆さんには、本当にお世話になりました。ありがとうございますっ!」ペコッ

天童「な~に、困った時はお互い様ばいっ!」

勇者「これから、その木の実を物資のない街に持って行くんですか?」

女商人「はいっ! 今の私に出来るのはこういう事だけですから!」

天童「頑張って下さいっ……!」

勇者「俺達、応援してますから!」

女商人「本当に皆さんには、お世話になりました! お礼の気持ち言っちゃなんですが……コレ、受け取って下さい……」

天童「……えっ、コレって」

勇者「コレ、旦那さんの形見の鞄じゃないですかっ!?」

女商人「はい、やっぱり、鞄は飾るものではなく、使うものだと思うんです……だから、勇者さん、使って下さい」

勇者「い、いやぁ……でも、こんな大切なもの……」アセアセ

女商人「鞄はまた、作ればいいですから。それに……」

天童「……それに?」

女商人「私、主人の事を気にしてたような気がすんです……やっぱり、主人の事は絶対に忘れる事はありませんけど……」

勇者「……」

女商人「それで足踏みして、前に進めないのは主人も嬉しくないと思うんです」

天童「新しい一歩……って、ワケね……」ニコッ

女商人「本当に、皆さんにはお世話になりました! 皆さんのこれからの旅の無事を祈ってます!」

勇者「女商人さん、ありがとう」

女商人「何か困った事があったら、すぐ呼んで下さいっ! 今度はいい商品持って駆けつけますから! 勇者達は私の大切な仲間です!」

ーーーーー

天童「……まっ、これが永遠の別れってワケじゃねぇからな」テクテク

勇者「……そうだね」テクテク

天童「でもよぉ……でもよぉ……勇者君……」

勇者「……ん?」

天童「恋って辛ぇよなぁ~!」

勇者「うわっ! 何、その顔っ! 涙でぐちゃぐちゃじゃん!」

天童「苦しいよなぁ~! 切ねぇよなぁ~! もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対……なぁ~んて言っちゃう気持ち、わかるよなぁ~」シクシク

勇者「そ、そうかな……?」

天童「……ぬ?」

勇者「俺は……恋って……もっと、楽しいものだと思うな……」

天童「……おめぇ、なぁ~んか、気に食わねぇな」

勇者「えっ……?」

天童「コノヤロ……人が落ちこんでる所よぉ? こうなりゃ、残り6個の命題、とことんスパルタやってやるからな! 覚悟しとけよ!」

勇者「お、俺に当たるんじゃねぇよ……でも、後6個もあるのか……も~う……」

第四話はここまで

>>512
トルネコの大冒険的なイメージで補足してくれたら有難い

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」 >>1-85

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」 >>86-179

第三話 「褒められないと死ぬ!」 >>181-316

第四話 「約束破ると死ぬ!」 >>318-524

ーーまた、今日、運命の日がやってきた

勇者「あ~っ……もう朝か……」

ーーこの数週間、俺は天からの命題をなんとかクリアして、今、こうして生き残っている……らしい

勇者「ったく……やっぱり、野宿はゆっくり寝れねぇな……」

ーー後、命題は6つ……はたしてどんな試練が俺を待ち受けているのか

勇者「今日中に次の街についたらいいんだけどな……さて、今日も一日、なんとかやりますか……」

ーーそして……天童は本当に天使なのか……


天童「あっ、勇者君、起きた? ほらほら、見て見て? 天使っぽいでしょ?」

勇者「……」

天童「やっぱり、天使といったら、頭にわっかだよね? ほらほら、見て見て~?」

勇者「……おめぇは、頭にパルック乗っけて、朝から何をしてんだよ」

天童「だってよぉ! おめぇがいつまでたっても信用しねぇから、ちょっとぐらい天使っぽい所見せようとしたんじゃねぇかよ」

勇者「……そういう事じゃねぇだろ」

天童「まぁ、今日はよぉ? 待ちに待った命題の届く日だからよぉ?」

勇者「待ちに待ったって……そんなに待ってねぇよ……」

天童「おめぇは、朝から卑屈だなぁ! オイっ! もっと、元気出せよ、もっと前向きになれよ!」

勇者「……はぁ~い」

天童「そろそろ、届くと思うんだけどなぁ~? まっ、今日も一日頑張ろうぜっ!」

勇者「……はぁ~い」

女僧侶「勇者さん、天童さん、おはようございます」

勇者「あっ、女僧侶ちゃん、おはよう」

天童「おっはようっ! いやぁ~、今日もいい朝だね!」

女僧侶「あの~? 朝、起きたら私のテントの中にコレがあったんですけど……」

勇者「……ん?」

天童「あっ! それ、命題の入った封筒じゃねぇか!」

女僧侶「命題……? これって、勇者さん達の物ですかねぇ……?」

勇者「う、うんっ! ごめん! 多分、女僧侶ちゃんの荷物の中に紛れてたんだね……それ、俺のヤツ、俺のヤツ……」アセアセ

天童「あの~? 確認しておくけど……コレ、中は見てないよねぇ……?」アセアセ

女僧侶「ええ、中身を勝手に見るのは失礼だと思い、見てませんが……」

勇者「あっ、よかった! じゃあ、いいんだ! 女僧侶ちゃん、ごめんね?」

天童「神様、女僧侶ちゃんの寝顔見たって事になるなぁ……いくら、神様でもそいつは失礼なんじゃねぇかな……?」ブツブツ

女僧侶「?」

勇者「天童……! 今回はやけに届くのが早いねぇ……?」

天童「……それだけ、厄介な命題かもしれねぇって事だ。勇者ァ! 気合入れろよっ!」

勇者「お、おいっ……! 見る前に、そんな事言って脅さなくてもいいじゃねぇか?」アセアセ

天童「おめぇは前回、甘く見て痛い思いしたのもう、忘れたのかバカっ! おめぇは鶏かっ! ほれっ、鳴いてみろっ!」

勇者「わかったよ……今回はちゃんとするからよぉ……」

天童「ほれ、クックドゥードゥードゥーって! ほれっ! 言ってみろ、ほれっ!」

勇者「うるせぇよ……確認するから、もう黙ってろよ……え~っと……」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後8時までに

老人に優しくしなければ即・死亡!





天童「ふ~む……『老人に優しくしなければ即・死亡』か……」

勇者「出たよ出たよ……まぁ~た、曖昧な命題が出たよ……」

天童「今、午前7時だから……後、13時間……だな……」

勇者「最近、神様、ちょっと曖昧すぎねぇか……? もうちょっとわかりやすくさぁ……してくれてもいいんでねぇの……?」

天童「おめぇはよぉ! ほ~んとに、罰当たるぞ!? 知らねぇぞ? 神様、怒らせたらおっかねぇんだぞ!?」

勇者「……だって」

天童「文句ばっかり言ってても、しょうがねぇだろ! よし、とりあえず、命題やんぞ! ほら、肩揉めっ!」

勇者「……はぁ?」

天童「あ~、そうだねぇ……肩揉んだ後は、腰も揉んでほしいなぁ……」ゴロン

勇者「……なぁ~に、してんだおめぇは」

天童「腰が終わったら~、足ツボマッサージもしてほしいなぁ~」ゴロゴロ

勇者「……おい、起きろ。おめぇは老人じゃねぇだろ、おめぇは」

天童「それが終わったら~、朝御飯買ってきてほしいなぁ~……焼きそばパンと、コロッケパンと……あっ、ヨーグルトなんかも欲しいなぁ……」

勇者「やかましいわっ! おめぇは老人じゃねぇだろうが!」

天童「勇者君、わからないよ? もし、僕が老人だったら、勇者君は死んで……」

勇者「うるせっ! 前回、それで騙されて酷ぇ目に合ったんだっ! 今回は騙されねぇぞオイっ!」

天童「お、おおっ……おめぇ、一丁前に成長してるじゃねぇか……」アセアセ

ーーーーー


天童「よ~しっ! 荷物纏めたかぁ~? 朝飯も食ったし、そろそろ次の街に出発するぞ~!」

女僧侶「あっ、天童さん……ちょっと待ってもらえますか……?」アセアセ

天童「あれ? 女僧侶ちゃん、どうしたの?」

女僧侶「あの……テントが上手く畳めなくって……」

天童「あら~、女僧侶ちゃん苦手だもんねぇ? まぁさ、練習だと思ってゆっくり、慌てずにやりなよ?」

女僧侶「は、はいっ……! 申し訳ありませんっ……!」アセアセ


勇者「……なぁなぁ? 天童、天童?」

天童「……あぁ? どうした?」

勇者「これさぁ……? 命題は『老人に優しくしなければ即・死亡』じゃん?」

天童「おぉ、そうだよ。今日、一日気をつけろよ?」

勇者「これさぁ……? もし、今日一日、老人と会う機会がなかったら……どうなっちゃうワケ……?」

天童「あっ……そうか、確かにそういう事もあり得るなぁ……? そういう時はどうなるんだろ……?」

勇者「どうなるってよぉ……おめぇはいい加減だな! このダメ天使っ!」

天童「ダメ天使て事ぁ、ないでしょう……でも、まぁ老人に会う機会がなかったら……やっぱり、命題失敗なんじゃね?」

勇者「……あぁ?」

天童「だから……老人に会う機会がなかったら、それも命題失敗で、おめぇ死んじゃうよ」

勇者「!」

勇者「ちょっと待て、ちょっと待て! ここ、平原のど真ん中だぞオイっ!」

天童「なぁ? 俺もこんな所野宿なんてしねぇで、街の宿屋のふかふかのベッドで寝たかったよ、ホント」

勇者「いやっ……そういう事じゃねぇだろっ! こ~んな場所の何処に老人いるってんだよ! 老人がっ!」

天童「あ~、そうだねぇ……老人どころか……人っ子一人いないねぇ……?」キョロキョロ

勇者「こ~んな所で、モタモタしてる場合じゃねぇんじゃねぇのっ!?」

天童「あっ、確かに……凄いねぇ? 今日の勇者君、冴えてるよ。うん、冴えてる」

勇者「早く次の街に向かおうぜっ!」

天童「でもさぁ……女僧侶ちゃんがさぁ……」

勇者「……ん?」


女僧侶「え~っと……え~っと……」モタモタ

勇者「あぁっ……! も~うっ! 女僧侶ちゃんっ!」

女僧侶「あっ……今、畳みますので、ちょっと待ってて下さいね……?」

勇者「いやっ、いいよっ! 俺がやるっ! 俺がやるから、見て覚えてね?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「まずは……こうやって、フライシート前室のフレームを押し出すの! こうやってさ……!」グイッ

女僧侶「あっ、最初にやるのはそこだったんですね……」

勇者「そうしたら……ファスナーを閉めて……ベルクローテープを貼り合わせて……!」テキパキ

女僧侶「はいっ……! ありがとうございます! メモ取って、しっかり覚えますね」

勇者「それで……ここから畳むんだけど、畳み方の手順は……」テキパキ

女僧侶「はいっ! 勉強になりますっ!」


天童「……あいつ、優しくする相手間違えてねぇかな? だったら、俺の肩も揉んでくれてもよかったんじゃねぇの?」

ーーーーー


勇者「……と、こうやって、テントは畳むの。覚えた?」

女僧侶「はいっ! 次からは任せて下さい!」

天童「いやぁ~、意外な特技! ダメ人間のお前にも、一つぐらい、才能があるんだね?」

勇者「よしっ! じゃあ、次の街に行くよっ! 皆、急いで!」

女僧侶「えっ……?」

天童「いやぁ~、やっぱり、半分人生畳みかけてただけあって、テントの畳みかたは上手いんだなぁ! いや~、やっぱりおめぇは……」

勇者「おいっ、天童っ! 何、チンタラ喋ってんだおいっ!」

天童「!」ビクッ

勇者「……おめぇはよぉ? わかってんのかオイっ!」

天童「いやっ……勇者君、突っ込み待ち……突っ込み待ちだったの、本当に……」アセアセ

勇者「おめぇはよぉ……? 次の街には、困ってる人や苦しんでいる人が沢山いるかもしれねぇんだぞ、オイっ!」

天童「は、はいっ……その通りでございます……!」

勇者「そんな、人達に優しくしてやるのが、俺達冒険者の指名じゃねぇのかよぉ! おいっ!」

天童「うるせっ! おめぇは、老人探すのに、焦ってるだけじゃねぇか! 都合のいい言い方してんじゃねぇよっ!」

勇者「わかってんだったら、早く行くぞっ! こっちは命がかかったるんだからよぉ!」ギャーギャー

天童「おめぇ、そんな事言って、大変な事になっても知らねぇぞ! 俺に泣きついてきたって知らねぇからな!」ギャーギャー

勇者「泣きつくわけねぇだろが! ほらっ! 出発、出発っ!」


女僧侶「……」

女僧侶「……天童さん、天童さん?」

天童「……ぬ? 女僧侶ちゃん、どうしたね?」

女僧侶「勇者さんって……最近、変わりましたよね……? 前は絶対、あんな事言う方じゃなかったのに……」

天童「あぁ、アレね……? 大丈夫、大丈夫。ありゃ、今だけだから……」

女僧侶「……えっ?」

天童「ありゃ、昼過ぎにはいつもの勇者に戻って……8時前には、ダメな勇者に戻っちまうからさ……? 気にしちゃイカンばいっ!」

女僧侶「……そうでしょうか?」

天童「……ぬ?」

女僧侶「私、勇者さんと幼馴染だから、わかるんですが……あっちが本当の勇者さんの姿な気がするんですよねぇ……」

天童「……」

女僧侶「勇者さん、お父さん失う前までは……あんな前向きで……行動的な性格だったような気がします……」

天童「……まっ、そういう事だろうから、神様もあいつを選んだんだろうね」

女僧侶「……神様?」

天童「あぁっ、いや、なんでもないナンデモナイ……しかし、女僧侶ちゃん、あいつの事よく見てるねぇ? おじさん、ちょっと感心しちゃったよ」

女僧侶「はい、私……ああいう、前向きで行動的な勇者さんの事好きでしたから」

天童「あら!?」

女僧侶「勇者さんがもう一度、昔のように戻ってくれたら……って、あっ! 私、何言ってるんでしょう!」

天童「いや~、意外ねぇ~。意外意外」ニヤニヤ

女僧侶「天童さんって喋りやすいから、つい……あっ、あの! この事は勇者さんには内緒にしておいて下さいね……?」アセアセ

天童「大丈夫よ、大丈夫っ! おじさん、口固いからっ!」


勇者「お~いっ! 何やってんだよっ! 早く、次の街に行くぞ~っ!」


女僧侶「あっ……勇者さんが呼んでますね……? 天童さん、急ぎましょう!」

天童「……ったく、あいつはすぐ傍にこんなに見てくれてる人がいるってのに、なぁ~んで腐っちまったんだよ。勿体ねぇなぁ」

今日はここまでです

街ーーー


勇者「よしっ! 街についたな!」

天童「今日はやけに張り切ってるなおめぇ……しかし、なんていうかこの街……」

女僧侶「……なんだか、活気のない街ですねぇ?」

勇者「……えっ? そうかな?」

天童「なぁ~んか、じめ~っと、どんよ~り、してる気がするよ? うん、いつもの勇者君みたい」

女僧侶「……なにか、あったんでしょうかねぇ?」

勇者「なぁ? これって、ひょっとして困ってる人、いるんじゃね? 老人とかよぉ!?」

天童「……おめぇはよぉ! 何、瞳輝かせて、他人の不幸を望んでるんだよ!」

勇者「えっ……? あっ、いやっ……」アセアセ

天童「あのね、勇者君? 優しくするのと、不幸を望むのは、全~然違うのっ!」

勇者「う、うん……」

天童「やる気になるのはいい事だけどよぉ? 方向性間違っちゃいけねぇよ! おめぇはちったぁ、落ち着け! なっ?」

勇者「う、うん……ごめん……」

天童「まぁ、とりあえず、街の様子も気になる事だし……街長にでも、話を聞いてみるか? 俺達が力になれる事なら手伝えばいいしな」

勇者「そ、そうだね……街長さんの家に行ってみようか……」

ーーーーー


街長「……そうか、君達は冒険者か」

女僧侶「あの~、この街、なにかあったんですか? 随分と様子がおかしいみたいなんですけど……」

街長「……」

勇者「あのっ……! 僕達、何か力になれる事があれば、協力しますから!」

街長「……君達はまだ、若いじゃないか。未来ある若者を危険な目に合わす事はできんよ」

女僧侶「いえっ! そんな事、言わずにお話だけでも聞かせてくれませんかね?」

街長「……」

勇者「僕達、絶対に力になりますからっ……!」

街長「……街の外れにある、塔が見えるかい?」

女僧侶「あっ、何か高い塔がありますね……」

勇者「あそこに、何かあるんですか?」

街長「あの塔に強大な魔物が住み着いているんだよ……」

女僧侶「……えっ!?」

勇者「魔物!?」

街長「この街はその魔物に支配されている街なんだ……君達も彼らに見つかる前に、早い所他の街に行くんだね……」

女僧侶「で、でも……そんな事なら、その魔物を討伐しないと……」アセアセ

街長「多くの若者達が、君達と同じ事を考えて……そして、死んでいったよ……どうやら、塔にいる魔物はとんでもない力を持っているらしい……」

勇者「……」

街長「……しかし、彼らは人間界の支配には興味がないらしく、毎月一人の贄を捧げれば、それ以上の事は望まないらしい」

女僧侶「そ、そんな……! それじゃあ……」

街長「あぁ……我々は毎月、待人の中から一人、贄を出す事に決めたんだ……そして、今日がその日だ……」

勇者「……だから、街の人達は皆、元気がなかったんですね」

街長「あぁ……皆、心の中では納得してないのかもしれない……しかし、我々が生き残るにはそれしか方法がないんだ……」

女僧侶「そんなの、贄にされる人可哀想ですっ! 私達がその魔物を……」


「ええんじゃ、ワシらの事は気にしないでおいてくれ」


勇者「……えっ?」

婆「あんたらと同じ事を考えた、ワシの息子も、孫も……隣の家の坊主も……み~んな殺されちまったわ……」

女僧侶「……お婆さん」

婆「あんたらみたいな未来ある若者が命を粗末にしちゃ、イカン。死ぬのはワシみたいな老いぼれからでええわい……」

勇者(老人!)

街人「……と、いう事だ。彼女を含め、この街の贄に選ばれる老人達は、皆がこの事に納得している。……だから、君達は帰ってくれ」

女僧侶「そんなっ! 私達がなんとかしますよっ! ねっ、勇者さん!?」

勇者「……ぅ……ぁ」

女僧侶「……勇者さん?」

勇者「えっ……? あっ、はいっ! 僕達がなんとかしますからっ……!」

街長「……塔の強大な魔物は、二体いるんだ」

女僧侶「えっ?」

街長「彼らはお互いの力を共有するような、力を持っていて……同時に倒さないと再生する身体を持っているんだ……」

勇者「うわぁ……今回の命題ややこしいなぁ……コレ……」

街長「15人いる部隊ならともかく……たった、3人だろう……? 気持ちはありがたいが……未来ある若者が無駄死にするのを見るのは、もう沢山なんだっ……!」

女僧侶「……」

ーーーーー


勇者「おいおい、天童……どうするよ、コレ……」

天童「……」

勇者「老人には会えたけどさぁ……? 会えたけど、どうすんだよコレ……? 凄ぇ、魔物が二体もいるらしいぜ、コレ?」

天童「おめぇはよぉ! うだうだ言ってんじゃねぇよ!

勇者「!」ビクッ

天童「この街には困ってる人や苦しんでいる人が沢山いるんだぞ、オイっ!」

勇者「……う~ん」

天童「そんな人達に優しくしてやるのが、俺達冒険者の使命じゃねぇのかよぉ! おいっ!」

勇者「わかってるよ……わかってるけどよぉ……」

天童「わかってんだったら、早く行動しろよっ! おめぇは命がかかってるんだからよぉ! ……って、朝、勇者君言ってたよね?」

勇者「……えっ」

天童「あれぇ~? おっかしいなぁ~? 僕、朝に勇者君に同じ台詞言われたような気がするんだけどなぁ~?」

勇者「いやぁ~、それはさ……? いや、だって『老人に優しくしろ』なんて言われたら、普通重い荷物持つとかさぁ……そういう事、想像するじゃん……」アセアセ

天童「あれれぇ~? おっかしいなぁ~? 朝の元気な勇者君は何処に行っちゃたのかなぁ~?」

勇者「い、いやぁ……それはさぁ……?」


女僧侶「……」

短いですが本日はここまで

女僧侶「……勇者さん、やりましょうよ」

勇者「……えっ?」

女僧侶「私達だけでも……この街を救う為に、動きましょうよ」

勇者「いやいやっ……! でもさぁ? 魔物は二体いるんだよ? しかも、同時に倒さないといけないらしいんだよ?」

女僧侶「それは……そうですが……」

勇者「俺達、三人しかいないのにさぁ? どうやってやるんだよ、そんな事? パーティー、二手に別れるんだったら、一人で戦う人間が絶対、出てくるじゃんっ!」

女僧侶「……」

勇者「天童、一人で出来る?」

天童「バ、バカっ……! 俺はよぉ、天使だから、ノーカンだよノーカンっ!」アセアセ

勇者「……じゃあ、女僧侶ちゃんは?」

女僧侶「確かに、一人で……と、なると、私も不安ですね……」

勇者「ねっ? 俺もさぁ、一人は無理だと思うよ一人は! 俺達3人じゃさぁ……やっぱり、無理だよ……」


女僧侶「それじゃあ、この街の事は見捨てるんですか……?」

天童「そうだよ、おめぇこの街見捨てたら、死んじまうぞ……? どうすんだよ?」

勇者「い、いやぁ……それはさぁ……?」アセアセ

女僧侶「……勇者さん、今日の朝はそんな後ろ向きじゃなかったじゃないですか」

勇者「……えっ?」

女僧侶「今日の勇者さん、凄く前向きだったのに、どうしちゃったんですか……」

勇者「いや、それはさぁ……俺は冷静に現状を分析してさぁ……この人数じゃ難しいって事を言ってるだけだよ……」

女僧侶「……」

勇者「ちょ、ちょっと……! 何で、女僧侶ちゃん、そんなに悲しそうな顔してるの!? 俺だってさ、この街救いたいとは思ってるよ!?」

女僧侶「……本当ですか?」

勇者「いや、だって……この街、救わなきゃ、俺死んじゃうしさぁ……よしっ! じゃあ、こうしようっ!」

女僧侶「?」

勇者「街長さんは『15人いる部隊だったらなんとかなるかも』って、言ってたじゃん? だから、人数集めようっ!」

天童「おめぇ、15人って……後、12人だぞ!? そんなの、集めれるのかよ?」

勇者「う~ん……それは、わかんないけど……でも、この人数で行くのも無謀じゃん?」

女僧侶「街人が贄になる前に、私達の部隊を増やす、と……」

勇者「そうそう! え~っと、今1時だから、後6時間……! 7時までに、とにかく人を集めれるだけ、集めようよ!」

天童「……で、残り1時間で魔物を倒して、命題クリアってわけか」

勇者「多分、それしか方法はないと思うんだよ……ねっ? だから、とにかく皆で手分けして、協力してくれる人を探そうよ!」

女僧侶「わかりました。7時までに、出来るだけ多くの人を集めましょう」

ーーーーー


天童「おめぇはよぉ! 一人で勝手に問題ややこしくしていくんだなっ!?」テクテク

勇者「……えっ?」テクテク

天童「今回の命題の意味なんて、丸わかりじゃねぇか! 塔の魔物を倒してよぉ? 贄になる老人救ってクリアじゃねぇか!」

勇者「……そうだけどさぁ」

天童「それを、15人集めるだなんて、無茶な事言い出しやがって……出来んのかっ!? おめぇ、そんな事出来んのか!?」

勇者「いや……でも、そうしないとさぁ……死んじゃうじゃん……?」

天童「命題クリアできなきゃ、死んじまうのに、それをややこしくしてどうすんだよ! このバカっ!」

勇者「いや、俺はそうだけどさぁ……やっぱり、女僧侶ちゃんは違うじゃん……?」

天童「……ぬ?」

勇者「女僧侶ちゃんはさぁ……命題受けてねぇんだから、そんな俺の我儘に付き合わせちゃいけないよ……?」

天童「……」

勇者「やっぱり、女僧侶ちゃんが生き残る確率はちょっとでも上げないとさぁ……?」

天童「……」

勇者「やっぱり、その為には他に人が必要だよ? もし、集まらなかったらさぁ……?」

天童「……」

勇者「俺、一人でやってみるからさ……? 天童、その時は女僧侶ちゃんの事、頼むね……?」

天童「はぁ~ん……ダメ人間のお前でも、一応成長してるんだな?」

勇者「……そう?」

天童「でもよぉ!? おめぇ、やっぱり足りないよ! うん、何かが足りないね!」

勇者「な、なんだよそれ……」

天童「おじさん、言わないっ! おじさん、言えないけどね! やっぱり、おじさん、何かが足りないと思うな!」

勇者「な、なんだよ……いつもみたいに、言ってくれよ……」アセアセ

天童「ダメっ! それは約束だから、おじさん言えない!」

勇者「……神様から、何か言われてるの?」

天童「違うっ! 神様じゃないっ! おじさん、言えないっ!」

勇者「じゃあ、誰と約束してるんだよ……?」

天童「そりゃ秘密っ! おじさん、口固いから、絶対言わないよっ!」

勇者「もう、わけわかんねぇよ……ほら、とっとと協力者探しに行くぞっ!」


天童(もうちょっと、周りに甘えてもいい気がするんだけどねぇ……あいつ、この数週間の命題で、一人で背負い込む癖でもついたんじゃねぇだろなぁ?)

ーーーーー


勇者「……とまぁ、そういう理由で」

老人「……帰っておくれ」

勇者「いや、でもこのままじゃ、この街はですねぇ……?」

老人「ワシが犠牲になる事で、息子や孫が助かるんじゃったら、安いもんじゃ……帰っておくれ……」

勇者「しかし、それじゃあお爺さんの命は……!」

老人「もうええっ! 放っておいてくれっ!」バタンッ

勇者「……あっ」


天童「……お~う、またダメだったか」

勇者「……うん」

天童「これで何軒目だ? 老人に優しくしねぇといけねぇのに、老人怒らせてばっかりじゃねぇのか?」

勇者「……そうかも」

天童「もう5時だぞ……? このままじゃ、15人なんて夢のまた夢だよ」

勇者「……」

天童「後、2時間……どうすんだよ、ホントに。おめぇ、一人で行く気なのか?」

勇者「その時は……うん……」

天童「あのなぁ? そ~んな事して、女僧侶ちゃんが喜ぶとでも思ってんのか? 第一、お前一人でどうやって、二体の魔物を同時に倒すんだよ?」

勇者「……女僧侶ちゃんの方はどうだろ? 協力者、見つかったかなぁ?」

女僧侶「そこをなんとかっ……! お願いしますっ……!」

老人「……帰っておくれ!」バタンッ

女僧侶「うぅ、またダメでした……もう5時なのに……」

女僧侶「……」

女僧侶「……勇者さん、天童さんのいう通り、お昼にはいつもの勇者さんに戻ってました」

女僧侶「もし、天童さんの言った通りなら……8時前には、もっと後ろ向きな勇者さんになってしまうんでしょうか……」

女僧侶「……」

女僧侶「そんな事はありませんっ! 勇者さんはこの旅で変わりましたっ! だから、きっと大丈夫ですっ!」

女僧侶「7時まで……まだ、時間はありますっ……! だから、協力者を探さなきゃ……!」


「いや~、ここはなんだか活気のない街だね?」

「はい、そうですね。お父様」

女僧侶「……ん?」

男魔法使い「あら、 男賢者? あんな所に可愛いお嬢さんがいるよ?」

男賢者「お父様、その言い方は少しいやらしいです……」

女僧侶「あっ……!」

男賢者「……あれ? もしかして女僧侶ちゃん?」

女僧侶「男賢者さんじゃないですか?」

男魔法使い「ん? なんなの、君達? 知り合いなの?」

男賢者「はい、魔法学校の同級生なんです。ねっ、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「あ、あのっ! 男賢者さんっ! お願いがあるんですよっ!」

男賢者「……お願い?」

ーーーーー


男魔法使い「ふふ、あの~、私がねぇ、男魔法使い……それで、こっちが息子の……」

男賢者「男賢者です。よろしくお願いします」

勇者「うわぁ……賢者さんって、始めてみた……」

男魔法使い「あら、そう? 君、賢者をみるのは始めて? ウチの息子は私に似て優秀でねぇ~? ふふ」

男賢者「……お父様、やめて下さい」

勇者「……はぁ」

男魔法使い「この間も、地底湖のある洞窟の魔物の討伐をたった5分でしたんだよね? ふふ、洞窟ごと破壊して」

男賢者「ああいった魔物は、生き埋めにするのが一番ですから」

勇者「……ん?」

男魔法使い「聞くところによると、君達塔の魔物を討伐しに行くんだって? 私達も協力しようじゃないか!」

男賢者「女僧侶ちゃん、僕に任せておいて」ニコッ

今日はここまで

多分ネタバレ配慮してコメントに気を使ってくれたんだろうな~って思う
このネタはあっさり流すぐらいのつもりだったから、そんなに気を使ってくれなくていいよ

ネタバレしたとしても頑張ってそのネタを越えるネタ書いてみせるから、あまり気を使わなくてもいいよ

……でもちょっとだけの愛は下さいね
では再開

勇者「あれっ? 女僧侶ちゃんって賢者さんと知り合いなの?」

女僧侶「……はい」

男賢者「魔法学校の同級生だったんだよね?」

勇者「へぇ~、同級生なんだ……」

女僧侶「はい……」

男賢者「あの日の約束、まだ覚えてる?」

勇者「……ん?」

女僧侶「……あっ! そ、それは」アセアセ

男賢者「僕はまだ、覚えてるよ?」ニコッ

女僧侶「あ、あの……男賢者さん……?」

男賢者「わかってるって。今は魔物討伐の方が優先……でしょ……?」

女僧侶「は、はいっ……!」

男賢者「返事はまた、後でいいからさ……? 早く塔に行こうよ?」

女僧侶「……」

男賢者「それじゃあ、お父様……女僧侶ちゃん……勇者君……え~っと、それと……」


天童「私、商人(天使)のテンドウと申しますっ! あの、『天使』忘れないで下さいね! 格好書きで、て・ん・し!」

男賢者「え~っと、商人の天童さんですね……? とりあえず、街長さんの家に向かいましょうか?」


天童「……」

勇者「……諦めろって。一番近くにいる俺ですら、おめぇが天使だなんて、まだ半信半疑なんだから」

ーーーーー


街長「……3人が、5人になった所でなぁ」

男魔法使い「あのね? 貴方、うちの息子の事を舐めてるでしょ? うちの息子は私に似て凄く優秀なんだよ?」

街長「……と、言いますと?」

男魔法使い「うちの息子は魔法学校を首席で卒業した優秀な子なんだよ!? そこらのねぇ、冒険者なんかとはワケが違うよ!」

街長「!」

男魔法使い「だからさぁ、うちの息子に任せておきなよ? この子は私に似て、とっても優秀なんだから!」

街長「そ、それが本当なら……奴らを倒す事が出来るかもしれんっ……!」

男魔法使い「ねっ? だから、私達に任せておきなさいよ?」

街長「それでは皆さん……どうか、この街を……我々を救って下さいっ……!」

男魔法使い「任せておきなさいよ! 我々、魔法使い親子にね!」


街長「……あの~、ちなみにお父様も、魔法学校を首席で?」

男魔法使い「あっ、いや~、私はねぇ、大学出てないの」

街長「……」

男魔法使い「それじゃあ、道具も一通り揃えた事だし……もう7時だから、そろそろ出発しましょうか?」

男賢者「女僧侶ちゃん、僕が守ってあげるからね?」ニコッ

女僧侶「あっ……いえ、そのっ……」


天童「おい、勇者ァ! おめぇ、あの魔法使い親子にいい所、全部取られちまってるぞ!」

勇者「う~ん……」

天童「おい、『虎の威を借る狐』って諺知ってるか? 今のおめぇみてぇな事を言うんだけどよぉ? 意味わかってんのか?」

勇者「う~ん……」

天童「強いヤツの後ろについて! てめぇは、なぁ~んにもしねぇダメ人間の事を言うんだ! わかったか!?」

勇者「な、なぁ……天童……?」

天童「何だよ……話、聞いてんのかおめぇ」

勇者「あの、男魔法使いさん、いるじゃん……?」

天童「何だよ……あの人がどうしたんだ……?」

勇者「あの人って……老人……?」

天童「……ん?」

勇者「微妙な所なんだよなぁ……中年にも見えるし……老人にも見えるしさぁ……」

天童「た、確かに……言われてみりゃあ、そうだなぁ? もし、あの人が老人だったら……」

勇者「……ねっ?」


男魔法使い「君達、聞こえてるよ! 私はまだ、若いっ! ほらっ、何してんのっ!」

天童「もし、老人扱いだったとしたら……」

勇者「あの人にも優しくしないと……俺、死んじゃうよなぁ……?」

天童「……」

勇者「……ど、どっちなんだろ?」アセアセ

天童「本人は……まだ、若いって言ってるぜ、アレ……?」

勇者「いや、でも老人ってさぁ……? 皆、そういう事言うじゃん……?」

天童「う~ん」

勇者「……どうする?」

天童「よしっ! じゃあ、発想を変えてみようっ!」

勇者「?」

天童「はい、注目ゥ~! それではァ~、瞳を瞑って想像してみて下さいィ~!」

勇者「久しぶりの金八ネタだな……いいから、普通に話せよ……」

天童「文句を言わずに目を瞑って想像しなさい! このバカチンがァ~!」

勇者「わかったよ……やればいいんだろ、やれば」ギュッ

天童「いいですかァ~? 勇者君はァ~、今、満員の電車の中に乗っていますゥ~」

勇者「電車って何だよ……馬車だろが! 何処の世界の話をしてるんだおめぇは!」

天童「黙って話を聞きなさい! このバカチンがァ~!」

勇者「も~う……わかったよ……」

天童「さてぇ~、満員の電車の中に、あの男魔法使いさんが乗ってきましたァ~」

勇者「……おぅ」

天童「満員電車の中でぇ~、ご老人に席を譲るのはァ~、当たり前のマナーですゥ~」

勇者「う、うん……」

天童「さて……席に座っている勇者君の前にィ~、あの男魔法使いさんがやってきましたァ~」

勇者「う、うん……」

天童「その時ィ~、正しい行いをしなければならない勇者君はァ~、どのような行動をとったでしょうかァ~?」

勇者「……えっ?」

天童「席を、譲ったか……譲らないか……勇者君はどっちの行動を取ったでしょうかァ~?」

勇者「そ、それは……」

天童「……」

勇者「席を……譲った……!」

天童「……じゃあよぉ? やっぱり、あの人にも優しくしねぇと死んじゃうんじゃねぇか、おめぇ」

勇者「うぅ……やっぱり……」

天童「あの人はよぉ? 多分、老人扱いするなとか、余計なお世話だとか言うと思うぜ?」

勇者「……うん」

天童「でもよぉ、そういうのを越えた所にあるのが本当の優しさってヤツなんじゃねぇか?」

勇者「も~う……また、条件増えちゃったや……」

天童「ややこしくしたのは、おめぇだろうが! とにかくよぉ、男魔法使いさんに優しくしながら、魔物を討伐したら、命題クリアだ!」


男魔法使い「お~い、君達、何してるの~? そろそろ行くよ~?」

天童「あっ、すんましぇ~んっ! ホレ、勇者行くぞっ!」

勇者「……も~う」

塔内部ーー


天童「……ん?」カチッ


ヒュンッ


天童「うおおっ! トラップかっ! やべぇ、矢が飛んできたぞっ!」


男賢者「女僧侶ちゃん、危ないっ!」グイッ

勇者「うわっ……! 男魔法使いさんっ……! 危ないですっ!」グイッ


天童「おいっ! おめぇらっ! 俺はっ!? 俺は誰も守ってくれねぇのかよっ!」

勇者「……おめぇが、変なスイッチ踏んだのが原因だろが」

男賢者「女僧侶ちゃん、大丈夫?」

女僧侶「あっ……はい、男賢者さんのお陰で……」

男賢者「それは、よかった。ほら、僕につかまって、立って」

女僧侶「あっ……はい、ありがとうございます……」

男賢者「この先……僕が守ってあげるからね?」

女僧侶「……」

男賢者「……ねっ?」ニコッ

女僧侶「あっ……ありがとうございます……」

勇者「あっ……あのっ……! 男魔法使いさんっ……! 大丈夫ですか……!?」アセアセ

男魔法使い「いやぁ~、君のお陰だよ~、君、以外と使えるんだねぇ? ちょっと、起こすの手伝ってもらえるかしら?」

勇者「あっ……! はいっ……! じゃあ、僕の手につかまって下さいっ……!」

男魔法使い「それじゃあ、ちょっと、引っ張ってもらえるかな?」

勇者「うんしょ……うんしょ……って、わわっ!」ドシーンッ

男魔法使い「もうっ! 君、何やってんのっ!」

勇者「す、すいません……あの……この先、男魔法使いさんは僕が守りますので……」アセアセ

男魔法使い「そんな事言われてもねぇ、説得力ないよっ! 何、その引きつった笑顔! ちょっと気持ち悪いよ!」

勇者「……」


天童「……同じ事してるはずなのに、どうしてこうも違うかねぇ~?」

ーーーーー


勇者「あ、あれ……道が二手に別れてるぞ……?」

男賢者「多分、この先に魔物がいるんだと思います。 ここでパーティーを二手に分ける必要性がありそうですね」

天童「俺は、戦力不足の方につこうと思うからよぉ? 勇者、女僧侶ちゃん、男賢者さん、男魔法使いさん……この四人を、どう分担するか決めようぜ?」

男魔法使い「どういう風に別れるのがベストな選択なんだろうね……?」

女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さんと、私……男賢者さんと男魔法使いさんというのは、どうでしょうか?」


勇者「……えっ?」

女僧侶「こういうのは……やっぱり、信頼関係が一番だと思うんですよね……?」

男賢者「……」

女僧侶「戦闘の最中、お互いの至らない点をフォローし合うのは、長年の信頼が大切だと思うんです……」

男魔法使い「まぁ、確かに……男賢者の魔法をサポートするのに、最適なのは、優秀な私ぐらいしかいないだろうねぇ?」

女僧侶「だから……男賢者さんと男魔法使いさん……そして、私と勇者さんで……」

勇者「……」

女僧侶「これが、ベストな選択だと思うんですが……勇者さん、どう思いますか……?」

勇者「……いや、俺はそれはベストじゃないと思う」

女僧侶「……えっ?」

勇者「男魔法使いさんと、俺……そして、男賢者さんと女僧侶ちゃんがベストな選択だと思う」

女僧侶「……どうして、そう思うんですか?」

勇者「そりゃ、俺は命題がでさぁ……? あっ! って、そうじゃなくてそうじゃなくて……!」アセアセ

女僧侶「私の事……信頼してくれてないんですか……?」

勇者「い、いやっ……! そうじゃなくてさぁ、戦力的に考えてだよ! 戦力的に考えて!」

女僧侶「……」

勇者「それにさぁ……? 女僧侶ちゃんも、俺なんかといるより、男賢者さんといた方が安全だと思うんだよね……?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「だってこの人、魔法学校首席で卒業してるんでしょ? 俺、そんな人には勝てないよ」

女僧侶「……」

勇者「俺みたいな奴なんてさ……? どうせ、大した魔法も使えないし、優れた特技もないしさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり、男賢者さんと男魔法使いさんのサポートに徹した方がいいと思うんだよねぇ?」

女僧侶「……」

勇者「だからさぁ、この選択がベストだと思うな! 女僧侶ちゃんの為にも! 俺の為にも!」

女僧侶「……」

男賢者「僕は、その選択肢で構いませんが……お父様、どうします……?」

男魔法使い「え~? この子達使えないの? も~う……年寄りに戦闘させないでよ……」

男賢者「お父様は、いつもまだまだ現役……なんて、言ってるじゃありませんか」

男魔法使い「じゃあ、私達の方に天童さんもらうよ? 構わないかな?」


男賢者「はい、わかりました。では、僕と……女僧侶ちゃんで……こっちの道へ……」

女僧侶「……」


男魔法使い「私と……勇者君と……天童さんで……こっちの道だね?」

天童「任せときんしゃいっ!」

勇者「女僧侶ちゃん、気をつけてね?」


女僧侶「……はい」

今日はここまで

ずっと誘導があるもんだと思って前スレでわくわくしてた俺を誰か笑ってくれ
乙!

ーーーーー


男賢者「ねぇねぇ、女僧侶ちゃん?」テクテク

女僧侶「……」テクテク

男賢者「……女僧侶ちゃん?」

女僧侶「えっ……! あっ、どうしましたか、男賢者さん……?」

男賢者「君の好きだった人って、あの勇者君?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「魔法学校を卒業する日、僕が君に告白したのを『好きな人がいる』って、断ったよね?」

女僧侶「あっ……いや、それは……」アセアセ

男賢者「あれって、勇者君の事だよね?」

女僧侶「……」

男賢者「隠さなくてもいいからさ? 勇者さんの事なんでしょ?」

女僧侶「ど、どうして……わかったんですか……?」

男賢者「女僧侶ちゃんの彼を見つめる目を見てたら……なんとなくね……」

女僧侶「……」

男賢者「……それに」

女僧侶「……それに?」

男賢者「僕はまだ、君の事が好きだからね。好きな人の事はなんとなくわかるんだ」

女僧侶「……あの」

男賢者「……ねぇ、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「どうしたんですか?」

男賢者「……僕達と一緒に旅をしない?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「僕は君を必ず守る」

女僧侶「……」

男賢者「そして、世界を平和にもしてみせる……」

女僧侶「……」

男賢者「僕は君の好きだった『明るくて前向きな男』に、今ならなっていると思う。告白したあの時とは違う」

女僧侶「あのっ……! お気持ちは嬉しいんですが……」アセアセ

男賢者「……わかってる。君が好きなのは勇者君だよね?」

女僧侶「……は、はい」

男賢者「でも、彼はさ……?」

女僧侶「?」

男賢者「……君の好きな『明るくて、前向きな男』なのかな? 僕には、そう見えないよ」

女僧侶「!」

男賢者「……少なくても僕なら、こういう状況で、パートナーの君を守りたいと思うな」

女僧侶「……あ、あの」

男賢者「自分には力がない……なんて、言わずにさ? 好きな人を守りぬく事に全力を尽くす事を考えるな」

女僧侶「それは……! 何かきっと、理由があると思うんですよ……」アセアセ

男賢者「……どんな理由?」

女僧侶「それは……わ、わからないですけど……」

男賢者「……僕には彼の事は『後ろ向きでネガティブな男』にしか見えないなぁ」

女僧侶「……」

男賢者「僕は、絶対に君を守る。そして、君の好きな理想の男にもっと近づいてみせる。だから……」

女僧侶「……だから?」

男賢者「この討伐が無事に終われば、僕達と共に旅をする事を考えてほしい」

女僧侶「……」

男賢者「ごめんね? 急に混乱させる様な事を言っちゃって」

女僧侶「そ、そうです……こんな状況の中、そんな事を言われても……私……」

男賢者「……でも、やっぱり自分の気持ちはどうしても伝えたかったから」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「この魔物討伐が終わったら、女僧侶ちゃんとは二度と再会できないかもしれないのに、気持ちを伝えないまま終わるのは、やっぱり嫌だからさ……?」

女僧侶「……」

男賢者「後悔したまま人生終わりたくないじゃん? ……なぁ~んて、ちょっとキザな事を言ってみたりして?」

女僧侶「……男賢者さん」

男賢者「ごめんね、返事は後でいいからさ? 今は集中しようか」

女僧侶「……はい」

男賢者「……強い魔力を感じる。多分、この扉の先に魔物がいるんだろう」

女僧侶「……」

男賢者「……大丈夫。僕が必ず、君の事を守るから」

女僧侶「……はい」

男賢者「さぁ、魔物を討伐して、街に平和を取り戻そう!」


ギイィ

魔術師「おやおや……今回の贄は、随分と若いお嬢さんのようですね……」

男賢者「……残念ながら、彼女は贄ではない」

魔術師「……ほぅ?」

男賢者「我々は街を救う為に、貴様を討伐しに来た者だっ……!」

魔術師「おやおや、人間というのは愚かな生き物ですねぇ? 今までに何人の冒険者が私にその同じ台詞を言ったでしょうか?」

男賢者「……」

魔術師「……そして、後悔しながら、私に殺されていったでしょうか?」

男賢者「……僕達をあまり、舐めない方がいいぞ?」

魔術師「ふふふ……一つ、面白い事を教えて差し上げましょう……」

男賢者「?」

魔術師「私は魔術の達人です……そう! 天才なのですっ!」

男賢者「……」

魔術師「愚かな人間達が、一生かかっても、使いこなせない魔法を生み出したのですっ!」

男賢者「へぇ……賢者としては、興味がある話だな……」

魔術師「それが、このっ! 結界魔法ですっ!」ブィン

男賢者「……ほぅ」

魔術師「これは魔力以外の物を完全に防ぐ結界です ……つまり、貴方達の剣や弓の攻撃は私には通用しません」

男賢者「なるほどねぇ……確かに、厄介な魔法だ……」

魔術師「今までの冒険者達は、この結界魔法になす術なく、死んでいきました」

男賢者「……」

魔術師「貴方達も同様です……彼等と同じように死んでいくのです……」

男賢者「面白い魔法だと思うよ……だが、無意味だね……」

魔術師「……何?」

男賢者「僕は賢者だ……そして、彼女は僧侶だ……ここに、魔法以外を使う人間がどこにいる?」

魔術師「何だと……? 貴様、賢者か……!?」

男賢者「魔力が通るんだったら、そんなそんな結界など、無意味だっ! いくぞっ! 女僧侶ちゃん、サポートを頼むっ!」

女僧侶「は、はいっ……!」

魔術師「くそっ……! 面白いっ……! この天才魔術師の力を思い知らせてやるわっ!」

ーーーーー


ミノタウロス「ハッハッハっ! 愚かな人間共よ! 俺様の能力を教えてやろうっ!」

男魔法使い「あっ、聞きたい聞きたい」

天童「俺も! 自分で弱点言ってくれるなら是非聞かせて欲しいっ!」

勇者「……俺、あんまり聞きたくない」

ミノタウロス「俺様の能力はっ! 肉体を硬化させて! 全ての魔法を弾く力であるっ!」

男魔法使い「あら~、そりゃ、凄いわ……」

天童「あんら~、こいつ思った以上に厄介な奴ねぇ……?」

勇者「も~う……だから、俺は聞きたくないって言ったじゃん……」

ミノタウロス「ハッハッハっ! お前達も今までの冒険者と同じように八つ裂きにしてくれるわっ!」

男魔法使い「いや~……厄介な能力だねぇ……?」

勇者「そ、そうですねぇ……」アセアセ

男魔法使い「まぁ、でもなんとかなるでしょ? それじゃあ、勇者君、お願いね?」

勇者「……えっ?」

男魔法使い「私は今回、役に立たないねこりゃ……」

勇者「ちょ、ちょっと待って下さいよっ……! 男魔法使いさんも戦って下さいよ!」

男魔法使い「何、言ってんの君!? あいつ、魔法効かないんだよ? 私、何も出来ないじゃない!?」

勇者「えっ……!?」

男魔法使い「あのねぇ、私は肉体派じゃないの? もう歳だしね? こういう戦いは、君がやりなさい。君が!」

勇者「歳って……! さっきは、まだ若いとか言ってたじゃないですか!?」

男魔法使い「知らん知らん……ほら、とっととアイツを倒しちまいなさいっ!」

勇者「うぅ……何で、こんな時になって老人発言するんだよ……」ブツブツ

ミノタウロス「ほ~う……一番手はお前か……タイマン勝負を挑んでくるとは、ちょっとは根性あるじゃねぇか……」

勇者「い、いやぁ……俺は、そんな事したくないんだけどさぁ……そうだっ! 話し合いとかしようよ!」

ミノタウロス「リングに上がってんのにウダウダ言ってんじゃねぇよっ! おらっ!」ビュンッ

勇者「う、うわっ……!」

ミノタウロス「このチビっ! 逃げんじゃねぇよっ! おらっ! おらっ!」ビュンッ

勇者「ちょ、ちょっとタイムっ……! 話し合いしようよっ……! ねっ、ねっ?」

ミノタウロス「うるせぇ! おらっ!」ビュンッ

勇者「わっ……! わわっ……!」


男魔法使い「……なぁ~にを、やってんだ彼は」

天童「……でも、避けんのは上手ぇなぁ? 一応、成長してんのかな?」

ーーーーー


男賢者「はっ! たあっ!」

魔術師「ぐわぁぁぁ!」

男賢者「女僧侶ちゃん、魔力を分けてくれっ!」

女僧侶「は、はいっ……! んっ……!」

男賢者「よしっ……! これでとどめだっ! 僕と女僧侶の魔力を奴にぶつけてやるっ……!」

魔術師「くそっ……! この私が……この私が……! こうなれば、古の魔法を使って……」

男賢者「無駄だよ……貴方の攻撃は、もう見切っている……」

魔術師「それはどうかな……? 隕石をこの塔に落とし……この塔ごと……! そして、周囲の街ごと……! 貴様を潰してくれるわっ……!」

女僧侶「古の魔法……! 隕石を呼び寄せる魔法って……聞いた事はありますが、本当に存在するなんて……!」

魔術師「……時は来た」ブツブツ

女僧侶「男賢者さんっ! 呪文の詠唱を始めてますよ……! なんとかしないとっ……!」

男賢者「大丈夫っ……! それより、女僧侶ちゃん、僕に魔力を送ってくれっ! 奴を倒すには魔力がまだ、不十分なんだっ!」

魔術師「……許されざる者達の頭上に」ブツブツ

女僧侶「で、でも……隕石が降ってきたら……私達だけじゃなく、街の人達までも……」

男賢者「今は説明している暇はないっ! 奴を倒すのにはまだ、魔力が足りないんだっ! 僕を信じてっ!」

魔術師「……星砕け降り注げ」ブツブツ

女僧侶「……」

男賢者「いいから、僕を信じてっ!」

魔術師「来たぞ来たぞ……さぁ、これで貴様達も終わりだっ! くらえっ! はあぁっ!」


女僧侶「……んっ」

男賢者「よしっ……女僧侶ちゃん……魔力が……溜まってきたぞ……」

魔術師「バカな……何故だ……」

女僧侶「……あ、あれ?」

魔術師「何故だ何故だ何故だっ! 何故、隕石が来ないっ! 私の詠唱が間違っていたとでもいうのか!?」

男賢者「いえ……流石、天才魔術師です……まさか、古の魔法まで使えるとは……おそらく、詠唱も間違っていないと思いますよ……」

魔術師「では……何故……」

男賢者「それは……僕が、貴方の呪文を封じる魔法をかけているからですよ……」

魔術師「……何!?」

男賢者「天才魔術師相手に……それくらいの警戒は当然じゃありませんか……自分の能力を自慢気に語るのは関心できませんね……」

魔術師「……き、貴様ァ!」

男賢者「貴方の詠唱の間……こちらも十分力を溜めさせて頂きましたよ……」

魔術師「!」

男賢者「……くらえっ! これが、僕と女僧侶ちゃんの魔力だっ!」ゴオオオォォッ

魔術師「う、うわああぁぁぁぁ!」

女僧侶「やった……! 奴が燃えていきますっ!」

男賢者「その力……来世では世の為に役立ててもらいたいものです……さて、お父様達は大丈夫かな?」

ラストまでいきたかったけど、今日はここまで
半端でごめんちゃい

ーーーーー


ミノタウロス「ちょろちょろ逃げてんじゃねぇよっ! ゴキブリか! てめぇは!」ビュンッ

勇者「わっ……! わわっ……!」

男魔法使い「お~い、勇者君、何やってるのよ……」

勇者「い、いやっ……そんな事、言ったって……こんな奴に殴られたら死んじゃいますよ、僕……」

天童「蝶の様に舞い、蜂のように刺すんだよっ! おめぇはモハメド=アリ先生の試合を見た事ねぇのか!?」

男魔法使い「あ~、猪木との試合はよかったよねぇ? 当時は凡戦なんて言われてたけどねぇ?」

勇者「ちょっとっ……喋ってる暇があるならちょっとは手伝っ……」ガシッ

ミノタウロス「……」

勇者「……ん?」

ミノタウロス「へへへ……捕まえた~っと……」ニヤニヤ

勇者「い、いやっ……あのっ……」アセアセ

ミノタウロス「……」

勇者「や、やばい……これ、まずいかも……男魔法使いさんっ……!」


男魔法使い「……はあっ!」ドヒュンッ

ミノタウロス「……フンっ!」カキンッ

男魔法使い「あ、あらぁ~……やっぱり、魔法弾は弾かれちゃうねぇ……」

ミノタウロス「……言ったはずだ。俺には魔法攻撃は通用しないとな」


勇者「や、やばい……これ、まずい……」アセアセ

ミノタウロス「おい、坊主……? 今から、ちっと痛い事するから、気を失うんじゃねぇぞ……?」

勇者「えっ……? い、いやぁ……何、するつもりなんですかねぇ……?」

ミノタウロス「てめぇをよぉ……? ぶん投げて、壁に叩きつけてやるんだよ……こぉ~んな風になぁっ!」ブンッ

勇者「う、うわああぁぁっ!」

ドーンッ


勇者「……ガッ」

天童「お、おいっ! 勇者ァ、大丈夫か!?」

男魔法使い「ちょ、ちょっと……君……! こっちに飛んでこないでよ! 危ないじゃないっ!」

ミノタウロス「……うまい具合に、三人固まってくれたな」

天童「……えっ?」

男魔法使い「……えっ?」

ミノタウロス「我が肉体よっ……! より、硬化して我に力を与えたまえっ……!」ムキムキッ

天童「お、おいっ……やべぇぞ……」

男魔法使い「奴の身体が……どんどん膨らんでいく……」

ミノタウロス「我に力をっ……! 全てを砕くパワーをっ……!」ムキムキッ


勇者「ぐっ……ううっ……」

ミノタウロス「さぁ……これで最後にしてやる……」

天童「おいっ、勇者っ! 立てっ! あいつ、突っ込んでくる気だぞ!?」

男魔法使い「あんな大きな身体じゃ……逃げ道なんてないじゃないかっ……!」

ミノタウロス「いくぞっ! これでお前達も今までの冒険者と同じように死ぬのだっ……!」

天童「勇者っ! なんとかしろっ! おめぇ、男だろうがっ!」

男魔法使い「う、うわぁっ……! 来たっ……!」アセアセ

ミノタウロス「うおおおぉぉぉっ! ショルダータックルだああぁぁぁぁっ!」


勇者「ぐっ……うぅぅ……」プルプル

天童「男魔法使いさんっ……! こうなりゃ、あんただけでも逃げんしゃいっ!」

男魔法使い「に、逃げるって……何処に逃げるのよ……そんな、逃げ道何処にもないじゃないっ……!」

勇者「ぐっ……ううっ……バイアグラ? ……バイキンマン……ぐっ! 違う違うっ……」

ミノタウロス「うおおおおっ!」

天童「やべぇ! 来たぞっ!」

男魔法使い「このままじゃ、私達全滅してしまうよっ……!」

勇者「バイク王……? さよならBye-Bye(リーシャウロン)……? ぐっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

ミノタウロス「うおおおおっ! これで貴様達も終わりだああぁぁぁっ!」

天童「やべぇっ!」


勇者「『バイキルト』?」ピカーッ

ガシッ


ミノタウロス「……ぬ?」

天童「奴の突進が止まったぞ……? しかし、何故だ……?」

男魔法使い「勇者君……? 今、君何かしたの……? って、その身体っ!? どうしたんだね、君っ!?」

勇者「……えっ?」ムキムキ

ミノタウロス「何っ……? こ、こいつ……! 俺と同等の体格になって、俺の突進を止めやがっただと?」

天童「おおっ、勇者ァ! おめぇ、やるじゃねぇか!?」

男魔法使い「君の身体、壁殴り代行のAAみたいだよ! 凄いよ、凄い筋肉っ!」


勇者「う~ん……助かったのはいいけど……この身体、なんだか気持ちわるいなぁ……」アセアセ

天童「おいっ、勇者っ! 今、7時57分だから……後、3分だっ……!」

勇者「えっ……! もう、そんな時間なの……?」

天童「後、3分以内によぉ? そこのでか物を倒しちまえっ!」

勇者「おめぇは簡単に言うけどさぁ……?」

天童「なぁ~に、言ってやがる! 今のおめぇの身体だったら、楽勝だりうが! 三冠ヘビー級王座選手権、3分一本勝負だっ!」


男魔法使い「あら? 天童さんは、全日派なの? 私はねぇ、新日派なの。 勇者君、IWGP選手権試合期待してるよ!」

勇者「も~う……二人共、何言ってるかわかんないよ……まぁ、時間ないし、戦うけどさぁ……?」

ミノタウロス「!」

勇者「……」ズシンズシン

ミノタウロス「!」ビクッ

勇者「……じゃあ、いくよ?」

ミノタウロス「!」

勇者「……たあっ!」ズバーンッ

ミノタウロス「……ぐわぁぁぁっ!」

勇者「……えっ?」

ミノタウロス「ぐっ……な、なんて重いチョップだ……こいつ、俺の三倍以上の力がありやがるっ……!」

勇者「……えっ、嘘でしょ? ちょっと、軽めに叩いただけだよ、僕」

ミノタウロス「ぐぐっ……しかし、こっちも負けてはいないぞっ……! おらあっ!」

勇者「!」

ペチッ


ミノタウロス「はぁっ……はぁっ……」

勇者「?」

ミノタウロス「何……? こいつ、俺のチョップが効いていないだと……!?」

勇者「う、うん……あんまり、痛くない……かな……?」

ミノタウロス「そ、そんなはずはないっ……! くそっ! くらえっ、マシンガンチョップだっ! おらあっ!」


ペチペチペチペチペチペチペチペチ……


勇者「……」

ミノタウロス「おらおらおらおらっ……!」

勇者「……あのさ? 時間ないし、そろそろ終わらせてもいいかな?」

ミノタウロス「!」

ミノタウロス「こ、こうなれば……! 俺の必殺技、バックドロップで……!」

勇者「……ん?」

天童「おいっ! バカッ! 簡単に背後を取られてるんじゃねぇよっ!」

ミノタウロス「うおおおっ! くそっ……持ち上がれ……持ち上がれぇぇっ……」ググッ

勇者「あれ……これ……どうしたらいいのかな……?」アセアセ


男魔法使い「……あのね、あのね。勇者君?」

勇者「……ん?」

男魔法使い「あのね、あのね……こ~んな感じで、身体を横に逸らすような動きしてみて?」クイクイ

勇者「え~っと……こんな感じですかね……?」クルッ

ミノタウロス「……何っ!?」

男魔法使い「そうそう、そうしたら、相手の背後を取り返せるでしょ?」

勇者「あっ、本当だ……いつの間にか、俺が背後をとってるや……」

ミノタウロス「や、やばいっ……!」

男魔法使い「そしたらね、今度はブリッジする要領で持ち上げたまま、後ろに倒れてみようか? こ~んな感じで……」クイクイ

勇者「え、え~っと……こんな感じですか……?」ググッ

ミノタウロス「う、うおおおおおっ!」


ドシーンッ


ミノタウロス「……グギギ」

男魔法使い「そうっ! それが馳浩の得意技の『裏投げ』だっ!」

天童「1……2……3……! はいっ、カァ~ットっ! 8時ジャストに、勝利の3カウントだっ!」

ーーーーー


街長「本当に……皆さん、ありがとうございましたっ……!」

男魔法使い「いやいや、私は何もしてないよ! 今日のヒーローは、うちの息子と勇者君の二人だっ!」

勇者「……えっ?」

男魔法使い「いやぁ~、久しぶりにいい試合を見せてもらったよ! プロレス好きの血が騒いだねっ!」

勇者「い、いやぁ……」

男魔法使い「それに、男賢者もよくやったっ! いや~、やっぱり、君は自慢の息子だよっ!」

男賢者「……いや、今回の討伐は女僧侶ちゃんの力があったからです。お父様」


女僧侶「……えっ?」

男賢者「今回の敵は、強い闇の力を持っているのを感じました……それに対抗する聖なる力は私も、お父様も持ってはいません……」

男魔法使い「……ほぅ」

男賢者「今回の勝利は、彼女の協力があったからです。 彼女のなしでは、どうなっていたか、わからないでしょう」

男魔法使い「いや~、なるほど! じゃあ、女僧侶ちゃんも頑張ってくれたんだね! いや~、やっぱり、若い子達の力は凄いねっ!」


女僧侶「あ、ありがとうございます……」

男魔法使い「しかし、うちの息子は優秀な上に、謙虚だときたもんだっ! やっぱり、私にそっくりだねぇ! ハハハハハ!」

天童「ねぇねぇ、男魔法使いさん、男魔法使い? 俺は褒めてくれないの? 俺も頑張ったんだけど?」

男魔法使い「……天童さん、私と一緒で何もしてないじゃない?」

天童「バ、バカ~ンっ! 今回、俺も大活躍したぜぇ? カァ~! もう、たまらぁ~ん! たまらぁ~んっ!」

そしてーーー


勇者「……」

天童「まぁ、なんだかんだ、ややこしい展開にはなったけどよぉ……?」

勇者「……あっ、天童?」

天童「『思いやり』……クリアできてよかったじゃねぇか? なっ?」メモメモ

勇者「……うん」

天童「これで、命題は残り5つ……後半分だ……おめぇも順調に成長してるじゃねぇか?」

勇者「う、うんっ……!」

天童「……でもよぉ!?」

勇者「?」

天童「おめぇは確かに成長してるよ? だけどよぉ?」

勇者「?」

天童「なぁ~んか、大事な物、失ってねぇか? 胸に手を当てて、よく考えてみろよ?」

勇者「……えっ? なんだよ、ソレ」アセアセ

天童「さぁねぇ~、おじさん知らないねぇ~」

勇者「お、おいっ……! 大事な物ってなんだよ、教えてくれよ……!」

天童「……おじさん、疲れてるから今日は寝るわ~! まぁ、じっくり考えてみなさ~い!」テクテク


勇者「……な、なんだよ。アイツ」

女僧侶「……」テクテク

勇者「あれ? あれ、女僧侶ちゃんじゃん? お~いっ!」

女僧侶「……」

勇者「あれっ? 聞こえてないのかな? お~い、女僧侶ちゃん~!」

女僧侶「……あっ、勇者さん」

勇者「女僧侶ちゃん、今日はお疲れ様?」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり、俺のパーティー分けの判断正しかったでしょ? ねっ? ねっ、ねっ?」

女僧侶「……」

勇者「……あれ? どうしたの? 女僧侶ちゃん、ぼーっとして、話聞いてる?」

女僧侶「……」

勇者「……お~い?」

女僧侶「あ、あのっ……!」

勇者「……ん?」

女僧侶「あの……勇者さん……?」

勇者「……ん?」

女僧侶「勇者さんって……その……あの……」

勇者「……ん? どうしたの?」

女僧侶「あの……その……私の事……」

勇者「?」

女僧侶「……」

勇者「……どうしたの?」

女僧侶「あっ……いえっ……! やっぱり、何でもありませんっ……! 今日は私も疲れたので、もう休みますね……?」

勇者「あっ……うん……わかった……」

女僧侶「そ、それじゃあ……勇者さん……お休みなさいっ……!」


勇者「なんだろぉ? 逃げるように行っちゃったや……なぁ~んか、天童といい女僧侶ちゃんといい、皆おかしいな……?」

ーー五話 「優しくしないと死ぬ!」

今回優しくしなかったどう死んでたのか

>>642
優しくするってのとは少し違うきもするけど

でも、贄にねる老人を放置してたらミノタウロスと戦わなくて済むんだから死ななくね?

>>644
神様の目的は勇者君に「老人に優しくしてもらう」事ではなく、
「思いやり」の心を学んでもらう為に「老人に優しくする様」命題を出した……って感じかな?

本当は俺がこういう事言うべきじゃないんだけどね。次回はもうちょっと丁寧に書こうと思うよ
補足してくれた人達もthx!

>>640
>>645
この辺は次回の宿題にさせてもらうわ

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」 >>1-85

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」 >>86-179

第三話 「褒められないと死ぬ!」 >>181-316

第四話 「約束破ると死ぬ!」 >>318-524

第五話 「優しくしないと死ぬ!」>>526-646

>>592
本当に申し訳なかったな
前スレ誘導出来てるのか?なんて意見もあったが、誰も口に出さないし場所の質問も出てなかったから、てっきり皆来てくれてると思ってたわ

話を言い出したのは俺なんだから、俺がもっとお前らに注意深く歩み寄るべきだったよ。本当に申し訳ない

とにかく、20日ぶりぐらいの再会だから、これからお前に満足してもらえる様頑張るよ

俺はこういう雑談の場をあまりつくらないし、読んでるお前らに歩み寄ろうとしないけど
いつも読んでくれてる常連さん、気になった点を素直に口にしてくれるお客さん、それをフォローしてくれるお客さん、その他色々……いつも
皆には感謝してるよ、ありがとう

……な~んか、長文になって臭くなっちまったな。まぁ、これっきりにするだろうから勘弁してくれ

勇者「……zZZ」

「……勇者君、起きなさい」

勇者「……zZZ」

「勇者君、もう朝ですよ……起きなさい……」

勇者「んっ……もう朝か……いやぁ、昨日の一件でまだ筋肉痛だよ……痛ててて……」

「……昨日はお疲れ様でした。流石、私の勇者君です」

勇者「……ん? ところで、あんた誰?」

「私は神様です」

勇者「えっ!?」

神様「今日は貴方に、お話があってやってきました」

勇者「えっ……? 神様がわざわざくるってなんだよ……俺、何にも悪い事してねぇぞ!?」アセアセ

神様「いいえ。違います、その逆です」

勇者「……逆?」

神様「最近の勇者君の頑張りはとても素晴らしいです。もう、勇者君はダメ人間なんかじゃないでしょう」

勇者「あっ……ありがとうございます……」

神様「もう……勇者君は一人前です……」ニコッ

勇者「……えっ?」

神様「もう……勇者君には命題なんて必要ありません……あなたはこれから、自由な人生を歩むべきでしょう」

勇者「!」

神様「……」

勇者「マ、マジかよっ……! やったっ! これで俺もついに命題から解放されるっ……!」

神様「……きろ」

勇者「うわぁ……こんな夢みたいな話……俺、信じられないやっ!」

神様「……きろ……んだ……きろ!」

勇者「あれっ……? 神様、急に変な事言い出してるけど、どうしたの……?」

神様「……起きろ……起きろ」モヤモヤ

勇者「あれ……? 神様の顔がぼやけて……な~んか、見た事のある顔に変わっていってるような……」アセアセ


天童「おいっ、起きろっ! 何、都合のいい夢みてんだよっ! とっとと起きろっ!」

勇者「!」

勇者「うわあああっ!」ガバッ

天童「……おめぇはよぉ、複雑な夢を見るんだな!?」

勇者「えっ…… あれ? ど、何処までが夢だ……? 命題は……? もう、やらなくていいのかな……?」

天童「おめぇがよぉ! 天界からの命題をクリアしないと死ぬってのは明白な事実なのー! これが現実なのー!」

勇者「……なんだよ、夢かよ。 せっかく命題なしになったと思ったのに」

天童「もっと、ポジティブシンキングになれよ! もっとやる気を出せよ! 朝からグズんなよ!」

勇者「……おめぇが朝から元気すぎるだけだろが」

天童「……で、今日はどうするんだ? おめぇのポジティブシンキングな考えを聞かせてくれよ?」ニヤニヤ

勇者「う~ん、そうだな……そろそろ大陸移動してみようかと思ってる……」

天童「あらっ、意外? まさか、そんなしっかりした計画があるなんて!」

勇者「……そう? やっぱり、こっちの大陸に魔物が増えたのもさぁ、あっちの魔王城がある大陸から、流れてきてるんだし、向こうの大陸をなんとかしないといけないじゃん?」

天童「……おめぇ、成長してきたなぁ?」

勇者「……そう?」

天童「あぁ、そうだよ。一昔前までのおめぇなら『魔王城がある大陸なんておっかなくていけんば~い』なんて言ってただろ?」

勇者「……言わねぇよ。それに博多弁も使わねぇよ」

天童「まぁ、そういう事なら早い事出発するか!」

勇者「そうだね……あっ! でも、街長さんにお礼だけ言っておこうか?」

天童「……ん?」

勇者「いやぁ……塔の魔物を倒したのもあるけどさぁ……流石に、こんないい部屋に泊めてもらって、ご馳走にまでなってさぁ……?」

天童「……おぉ」

勇者「やっぱり、人としてさぁ……? お礼の一つでも言っておくってのが筋ってもんでしょ?」

天童「……なぁ~んか、真人間に近づいてるじゃねぇか? いい事だけども~、ちょっとムカつく~」

勇者「……なんだよ、ソレ」

天童「……しかし、勇者?」

勇者「……ん?」

天童「真人間になってるおめぇには悪いが、朝から一つやる事があるぞ……?」

勇者「えっ……? あっ、まさか……!」

天童「……それは」

勇者「まさか……命題……」ゴクリ

天童「……」

勇者「……」

天童「うんこっ~!」

勇者「……はぁ?」

天童「ちょっと五分だけトイレ行かせてよ? 朝からどぎついのかましてきますばいっ!」

勇者「……」

天童「テッテテレッテ♪ テッテレッテッテ♪ お~い、ちゃ~んと、待っておいてくれよ~! どぎついうんこかましてくるからよぉ!?」


勇者「……あいつ、絶対天使じゃねぇ。うんこする天使なんて、いるわけねぇ」

ーーーーー


街長「いや~、君達には本当に助けられたよ! ありがとうっ!」

天童「いやいや~、まぁ、全部この私のおかげですばいっ!」

勇者「……おめぇは、何にもしてねぇだろ」

街長「それで……これから、君達はどうするんだね……?」

天童「あっ! 魔王城のある大陸に移動して人助け等をしたいと考えておりますっ! ちなみに、これも私が考えた計画ですっ!」

勇者「……おめぇは、本当によぉ?」

街長「大陸を移動する……? ちょっと、それはマズいかもな……?」

天童「?」

勇者「……どうかしたんですか?」

街長「大陸に繋がる橋があるだろう……? どうやら、あの橋が昨日、君達が塔に行ってる間に嵐で破壊されたらしい」

天童「あらっ?」

勇者「うわぁ……」

街長「ひょっとしたら、昨日塔に行かずに大陸に向かっていたら、巻き込まれていたかもしれないね?」

天童「あら~」

勇者「あ、危なかった……」

街長「君達が我々を助けてくれたおかげで、そういう自体を避けれたのは、不幸中の幸いだけれども……」

天童「……」

勇者「……」

街長「橋の修理や、船の準備が整うまで二三日はかかりそうかな……? まぁ、それまでは私達が面倒をみよう」

ーーーーー


女僧侶「……勇者さんと天童さん、部屋にいませんね? どうしたんでしょう?」

男賢者「女僧侶ちゃん、おはよう」

女僧侶「あっ、男賢者さん! おはようございます」

男賢者「ねぇ? 昨日の話、考えてくれた?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「僕と……冒険するか……それとも、勇者君と冒険するか……」

女僧侶「いえっ……あのっ……急にそんな事、言われても……」アセアセ

男賢者「あんまり、悩んでるのは女僧侶ちゃんらしくないんじゃない?」

女僧侶「でもっ……あのっ……私、勇者さんの気持ち、はっきり聞いてませんし……」モジモジ


男魔法使い「話は聞かせてもらったよっ!」

男賢者「あっ……お父様……?」


男魔法使い「あのねぇ、男賢者? いくら、君が私に似て男前だからと言って、人様の彼女を取っちゃいかんよ! 人様の彼女を!」

女僧侶「あっ……! いえっ……! 私と勇者さんは付き合ってませんっ……!」アセアセ

男魔法使い「あら、そうなの? だったら、私達のパーティーに加わりなさいよ? 私達も回復役が欲しいと思ってたんだよ」

女僧侶「あの……でも……私、勇者さんの気持ちがちょっとわからなくて……」

男魔法使い「……?」

女僧侶「男賢者さんは私を必要としてくれていますけど……勇者さんが私を必要としてくれているのか……よく、わからなくて……」

男魔法使い「あ~、なる程! じゃあ、こうしようっ!」

女僧侶「?」

男魔法使い「決闘しようっ! 決闘! ねっ?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「うちの、男賢者と勇者君で、決闘して……勝った方が、女僧侶ちゃんをパーティーに入れれる、と!」

男賢者「……お父様? なんですか、それ?」

男魔法使い「あれ、知らない? WWEってプロレス団体ではね、こういう勝者が女性をモノに出来るって試合形式が結構あるんだよ?」

女僧侶「……は、はぁ」

男魔法使い「それにね……この試合形式ただ強いだけじゃダメなんだ」

男賢者「ほぅ……どうしてですか……?」

男魔法使い「彼女のを必ず、自分のモノにするという前向きな思いっ……! そして、愛がないと絶対に勝てない試合なんだっ!」

女僧侶「前向きな気持ちと……愛ですか……」

男魔法使い「ねっ、面白そうでしょ? ちょっと、WWEに興味持ってくれた?」

男賢者「それなら……僕は負けない自身がありますね……」

男魔法使い「おっ? なんだ、男賢者、やる気になってくれたか? いや~、これはいい試合が見れそうだな~」

女僧侶「……」

男魔法使い「……女僧侶ちゃん?」

女僧侶「……はい?」

男魔法使い「君が二人の事を心配するのはよくわかるけどさ……?」

女僧侶「……」

男魔法使い「君達はまだ若いんだ……言葉を知らなさすぎるんだ……お互いの気持ちを確認し合うのには、こういう方法もあるんじゃないかな?」

女僧侶「……」

あっ、くそID変わったか
今日はここまで

ーーーーー


天童「カァ~! 二三日足止めかよ、どうする? 勇者?」

勇者「う~ん……でも、最近ずっと冒険してたから、骨休みってのも悪くないんじゃい?」

天童「おめぇはよぉ? ちっとは真人間になってきたと思ったのに、ま~だ、そんな事言ってんのか!?」

勇者「……えっ?」

天童「ぐーたらぐーたらしようとあいてんじゃねぇよ! こんな世の中だってのに、休んでる暇なんかねぇだろ!」

勇者「……じゃあ、どうしたら」モジモジ


街長「……それでは、一つ頼み事をしたいのだが」

勇者「……ん?」

街長「塔の魔物を倒してくれた君達に……続けてこんな事を頼むのは申し訳ないんだが……」

天童「あっ、構いませんよ! なんでも、引き受けるんで、どんどん頼んで下さい」

勇者「……どうせ、おめぇはやんねぇんだろ。でも、話は聞きますよ?」

街長「ありがとう……助かるよ……」

天童「……で、頼みってのは何なのですか?」

勇者「あんまり、ややこしい事はやめて下さいね……?」

街長「いや、塔の魔物を倒した君達なら、簡単な事だ。見ての通り、我々の街には老人が多い」

天童「そうですね、可愛いお姉ちゃん、いませんよねぇ!?」

勇者「……おい」

街長「……」

天童「あっ、 すんましぇ~んっ! どうぞ、話を続けて下さいっ!」アセアセ

街長「彼等の中には健康状態の思わしくない人間も大勢いるんだ」

勇者「そうですね……やっぱり歳ですもんね……」

街長「我々の街では、彼等の治療にこの薬草を使っている」

天童「あらっ? 綺麗な薬草。 ピンク色の薬草なんて珍しいですね?」

街長「この薬草は、過酷な環境の中成長した薬草でね……非常に高い効能を持っているんだ」

勇者「……えっ? 過酷な環境?」

街長「そんなに心配する事はない、ただの洞窟だ。 まぁ、小物の魔物なんかはいるだろうがね」

勇者「うわぁ……魔物がいるのか……」

街長「若い連中は随分と準備をして行っていたようだが……それでも、怪我人や死者などは、一人もでなかったよ?」

勇者「……う~ん」

街長「それから……塔に魔物が住み着いて……若い奴らは、皆命を失って……薬草を採りに行く人間がいなくなって……」

勇者「なるほど……」

街長「……もう、この薬草が殆ど残ってないんだ」

勇者「……そういう事だったら、しょうがないのかなぁ?」

街長「勿論、引き受けてくれたら、この街にいる間……そして、これからの冒険……我々は全力で支援させてもらう」

勇者「う~ん……」

街長「塔の魔物を倒した君達なら、簡単だと思うんだが……やってくれないかな?」

勇者「……」

ーーーーー

天童「……どうすんだ?」

勇者「う~ん……どうしよかなぁ……」

天童「……おめぇはよぉ?」

勇者「……まぁ、でもさ?」

天童「……ん?」

勇者「今日一日暇だし、別にやる事ねぇんだから、引き受けてもいいんじゃね?」

天童「おっ!」

勇者「たまにはこういう事もしないとね! 良くしてくれた街長さんに恩返しってのもいいでしょ?」

天童「おめぇ、成長したなぁ! でもよぉ! 一つだけ、警告しておく事があるぜ!?」

勇者「……警告?」

天童「……じゃ~ん」スッ

勇者「あっ……! その封筒っ……! それって……!」

天童「そうです、命題です! さっき神様から届きました」

勇者「おい、待てよ……命題は昨日、やったばっかりじゃねぇか!? 連続なんて聞いてねぇぞ!?」

天童「まっ、来たもんはしょうがないね……とにかく、今日一日暇……って、ワケじゃなくなったからよ? 気をつけろよ?」

勇者「も~う……」

天童「まぁ、とりあえず、何て書いてあるか見てみようぜ?」

勇者「も~う……え~っと……」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後6時までに

一番大切な物を守らないと即・死亡!





天童「ふ~む……『一番大切な物を守らないと即・死亡!』か……」

勇者「えっ……?」

天童「今、午前9時だから後9時間……だな……?」

勇者「ちょっと待てちょっと待て! 今回、タイムリミット短ぇぞ、おいっ!」

天童「いや~、やっぱり……これくらいがいいんじゃねぇか? おじさん、そう思うよ?」

勇者「何だよ! 連続の命題でよぉ、しかもタイムリミットは9時間だなんて、どんだけ緊急の命題なんだよ!?」

天童「緊急の命題なんだよっ! 神様、ちゃんと見てるんだと思うぜ!?」

勇者「なんだよそれ……も~う……」

天童「まぁ、でもよぉ? 今回の命題は簡単だから、とっとと始めちまおうぜ?」

勇者「……はぁ?」

天童「まず、勇者……おめぇの大切な物って、何だ……?」

勇者「そうか……まず、何を守らないといけないか考えなきゃいけないよな……」

天童「そうそう! そこからさ、ゆっくり思い出してみようよ?」

勇者「え~? でも、俺の大切な物って、大体は家が家事になった時に燃えちまったからなぁ?」

天童「……おめぇ、あの小汚ぇ部屋に何があったんだよ?」

勇者「えっ……? エロ本コレクションとか……カップラーメンの容器コレクションとか……」

天童「……おめぇは根暗だねぇ? そんなゴミ集めて何になるんだ」

勇者「あっ! 人の趣味、馬鹿にすんじゃねぇよっ!」

天童「……次ィ!」

勇者「次って……もうねぇよ? だって、全部燃えちまったんだから……」

天童「じゃあさ? そこからさ、今までの旅で手にした物とか順々に言ってみなよ!? そしたら、バカな勇者君でも思い出すでしょ?」イライラ

勇者「えっ……? まず……おめぇと出会って胡散臭い名刺貰っただろ……? あっ、一応ね、まだとってあるよ?」

天童「だから、俺は本物の天使だって言ってんだろがっ! 『名刺とっててくれたんだ?』なんて、褒める気にもならんわっ!」

勇者「それで、そこからお前と装備買いに行って……」

天童「……抜けとる抜けとる。もう、抜けとる」ブツブツ

勇者「それで……そこから、魔物討伐して男戦士さんに餞別貰ったでしょ……まぁ、殆ど使っちゃたけど」

天童「……なんで、そんなどうでもいい事は覚えてるんだよ」

勇者「それで……女商人さんと出会って……あっ! そういや、鞄もらったやっ!」

天童「!」

勇者「俺の持ち物って言ったら、これくらいだし……これか!? 大事な物ってこの鞄か!?」

天童「……女商人さん」グスッ

勇者「って、事はこの鞄を後、9時間守れって事なのか!? おい、天童! そういう事なんだろ!?」

天童「……勇者」

勇者「……ん?」

天童「その鞄は……大事にしないといけない……だって、それには女商人さんの気持ちが女商人さんの気持ちが詰まってるんだからよぉ……」グスッ

勇者「でしょ? 守らなくちゃいけない物って、この鞄でしょ!?」

天童「おめぇはバカかっ! なんで、鞄が一番大事なんだ! もっと大切な物、あるだろうがっ!」ギャーギャー

勇者「だから、俺の大切な物は家が燃えてなくなったって言ってんだろがっ!」ギャーギャー


「あっ、勇者君ここにいたんだ?」


勇者「……ん?」

男賢者「少し、話があるんだけど……いいかな……?」

勇者「……どうしたんですか? 真面目な顔して」

今日はここまで

男賢者「君は女僧侶ちゃんの事をどう思っているんだい?」

勇者「……はぁ?」

男賢者「僕は……彼女の事が好きだ。彼女の事を守ってあげたいと真剣に思っている」

勇者「……はぁ」

男賢者「彼女は……僕にとって、大切な人なんだ」

勇者「はぁ……大切な人ですか……んっ……?」

男賢者「……君は、彼女の事を大切にしている?」

勇者「ちょっと待て……大切な物って……あ、あれっ……?」アセアセ

男賢者「いくら自分に自信がないからって……魔物討伐で大切な人と協力し合わないなんて……僕には考えられない……」

勇者「い、いやっ……! 違うんですよっ……! あれには理由がありまして、ね……?」

男賢者「僕の方が絶対に、彼女を大切にするという自信があるよ」

勇者「いやいやいやいやっ……! 俺だって、大切にしますよ!? 女僧侶ちゃんは大切な仲間ですもんっ!」アセアセ

男賢者「……僕はそれ以上の感情を彼女に抱いている。仲間以上のね」

勇者「いや……でも……」

男賢者「……君にはそんな感情が彼女にあるのかい?」

勇者「……えっ?」

男賢者「……彼女の事をどう思ってるんだい? 仲間以上の感情が君にはあるのかい?」

勇者「そ、それは……」モジモジ

男賢者「……君にはないんでしょ?」

勇者「そ、そんな事ありませんよっ……!」

男賢者「……」

勇者「俺……童貞だから、愛だとか恋だとかは、よくわかりませんけど……」モジモジ

男賢者「……」

勇者「女僧侶ちゃんは……俺が引き篭もってダメだった時も……ずっと側にいて、優しくしてくれたし……」

男賢者「……」

勇者「冒険始めて……右も左もわからなかった俺に……ずっと優しくしててくれたし……」

男賢者「……」

勇者「恋愛とかは……よく、わかりませんけど……とにかく! 女僧侶ちゃんはただの仲間なんかじゃありませんよ!」

男賢者「……」

勇者「俺にとっても、大切な仲間なんですよ! 貴方には渡しませんよ!」

男賢者「……そう言うと思ってたよ」

勇者「……」

男賢者「だから……僕と君で決闘をしよう?」

勇者「……はぁ!?」

男賢者「僕と君で……勝負して、勝った方が女僧侶ちゃんをパーティーに加える事が出来る……どうだい?」

勇者「あのですね……? 女僧侶ちゃんは物じゃないんですから……こういうのは、本人の意思が一番大事でしょ?」

男賢者「……女僧侶ちゃんは、この条件に納得している」

勇者「……えっ?」

男賢者「僕と君で決闘して……勝った方のパーティーに加わるそうだ……」

勇者「……嘘、でしょ?」

男賢者「決闘の時間は5時からだ……お父様曰く、女僧侶ちゃん争奪1時間一本勝負だそうだ……」

勇者「!」

男賢者「5時になったら、街の広場に来てほしい。 伝えたからね?」

ーーーーー


勇者「うわぁぁ……一番大切な物って……コレかぁ……」

天童「……」

勇者「決闘の時間も……タイムリミットとぴったりだし……間違いねぇよなぁ……」

天童「……まぁ、そういう事だね? 気づくのが遅ぇんだよ、バーカ!」

勇者「そういや、ここ数日、女僧侶ちゃんの様子がおかしいと思ってたんだよ……」

天童「……」

勇者「でも、なんで女僧侶ちゃんがあんな条件飲んじゃったんだろ……? 俺、なんか嫌われる様な事、しちゃったかなぁ?」

天童「あのな、勇者……?」

勇者「?」

天童「永遠に変わらねぇ関係なんてねぇんだよ? ましてや、男と女の関係だったら、尚更だよ」

勇者「……えっ?」

天童「人と人の関係ってのは、毎日同じ様に接していても、やっぱり、ちょ~っとずつ変わっていくもんなんだよ?」

勇者「……」

天童「ちょっとした優しさで、好きになったり……ちょっとした誤解で嫌いになったり……な?」

勇者「……うん」

天童「そういうのを、何度も何度も繰り返しながら……より良い人間関係ってのは出来ていくんだよ」

勇者「……」

天童「おめぇと女僧侶ちゃんはよぉ? 多分、もう次のステップに行く時期なんかじゃねぇか?」

勇者「……えっ?」

天童「このまま、グズグズグズグズよぉ……? 幼馴染の関係を続けても、お互いの為にはなんねぇんじゃねぇのか? ……って、神様は思ったんじゃねぇか?」

勇者「……うん」

天童「さぁ、後9時間だ……どうするよ?」

勇者「どうするって……そんなの、どうもこうもないでしょ……?」

天童「……ん?」

勇者「女僧侶ちゃんは……やっぱり、俺にとっても必要な人だし……決闘するしかないでしょ……?」

天童「……おっ?」ニヤニヤ

勇者「今回の件はさぁ……? 命題なんて関係ないよ」

天童「おっ? おおっ!?」

勇者「女僧侶ちゃんを失うのはさぁ……俺、絶対嫌だもんっ!」

天童「おっ!? おめぇ、珍しく気合入ってるじゃねぇか!?」

勇者「命題なんてただのきっかけだよ……俺は女僧侶ちゃんの事……あの人に負けないぐらい、想ってるよ!」

天童「カァ~! いいねぇ~! 青春真っ盛りっ!」

天童「よしっ! じゃあ、5時まで後8時間っ……! 特訓でもするかっ!?」

勇者「そうだね! あの人、強そうだし、特訓でもしなきゃっ! 天童、悪いけど付き合ってくれっ!」

天童「よ~しっ! じゃあ、『ロッキー』式と、『ベスト・キッド』式! どっちがいいか選べっ!」

勇者「へ……? ロッキー……? ベスト・キッド……? 何、それ……?」

天童「おめぇ、知らねぇのか!? 名作なのに、なぁ~んで観てねぇんだよ!?」

勇者「映画か何かの話……? じゃあ、よくわかんねぇけど……『ベスト・キッド』式でお願いします……」

天童「よしっ! じゃあ、勇者っ! 先ず、服を脱げっ!」

勇者「まぁ、修行っていったら、脱がないとね……はい、脱いだよ?」ヌギヌギ

天童「よしっ! じゃあ、次はその服を着なさいっ!」

勇者「……はぁ?」

天童「服を着るんだよぉ? ほれっ! とっとと着ろっ!」

勇者「……なんで、脱いだもんまた着るんだよ? 意味わかんねぇよ?」

天童「いいから、早く着なさいっ! このバカチンがぁ~!」

勇者「わかったよ……わかったから、着ればいいんだろ……よっと、服着たよ?」

天童「よしっ! じゃあ、次はその服を着なさいっ!」

勇者「……はぁ?」

天童「いいから、早く服を脱げってんだよぉ!」

勇者「おめぇ、さっきから服を脱がしたり、着させたりしてるけど、何がしてぇんだよ?」

天童「大丈夫だって! これが『ベスト・キッド』式練習方法だから!」

勇者「これ、なんの意味があるんだよ?」

天童「……信じられねぇかもしれねぇけどよぉ? この特訓終わる時には、カン・フーの達人になってるんだぜぇ?」

勇者「……はぁ?」

天童「映画の俳優もよぉ? おめぇと同じリアクションしてたよ? でも、ちゃ~んとカン・フーの達人になったからよぉ?」

勇者「……本当?」

天童「いいからいいからっ! 騙されたと思って、やってみなさいっ! ほれっ! 服を脱ぎなさいっ!」

勇者「……う、うん」ヌギヌギ

二時後ーー


天童「いいですかぁ~? 勇者君~? 貴方はもう、カン・フーの達人です……」

勇者「服を脱いだり着たりを繰り返してただけだけどなぁ?」

天童「いえっ! そんな事は、ありませんっ! これがベスト・キッド式練習方法っ! ィェァ、ビバ、カン・フー!」

勇者「……俺、強くなった気が一切しねぇんだけどなぁ」

天童「そんな事はありません~。 今から、私が勇者君目掛けて、パンチをしますが……勇者君はカン・フーの力によって、見事に受け止める事ができま~す」

勇者「……嘘臭ぇなぁ」

天童「では……いきますよ……?」

勇者「お、おう……」

天童「……」

勇者「……」

天童「……ホワチャッ!」シュッ

勇者「……ぐべぁ」


バターンッ


天童「ア、アレ……? おっかしいなぁ……ジャッキー先生の映画じゃ上手い事いったんだけどなぁ……」アセアセ

勇者「おめぇはよぉっ!」

天童「おっ……おおっ! 勇者、大丈夫だったか!?」

勇者「なんだ、この特訓はっ! 二時間丸々無駄にしたじゃねぇかよっ!」

天童「映画では上手くいってたんだよ、映画では。 面白い映画だからさ? 勇者君も、『ベスト・キッド』見てみなよ?」

勇者「うるせっ! おめぇのくだらねぇ特訓のせいで、後7時間しかねぇじゃねぇかっ!?」

天童「……やっぱり、無難に『ロッキー』式の方がよかったかな?」

勇者「うるせっ! おめぇの話はもう信用しねぇぞっ! このダメ天使!」

天童「あっ……また、おめぇダメ天使って言いやがったな?」

勇者「今の特訓は完全にダメ天使だろうがっ! 何処で覚えたんだよ、あんな特訓!?」グゥー

天童「だから、ジャッキー先生の映画じゃ上手くいってたんだよぉ!」グゥー

勇者「……ん?」

天童「……あれ?」


勇者「……とりあえず、飯でも食いに行こうか?」

天童「……そ、そうだね」

勇者「え~っと……飯屋……飯屋……っと……」

天童「今日は特訓で頑張った自分への御褒美に、特大パスタな気分♪」

勇者「うるせ、バーカっ! ……ん?」

天童「おい……どうしたんだ……?」


「ゴホッ、ゴホッ……」

「……お婆ちゃん、大丈夫? 最近、咳ばかりしてるよ?」

「ゴホッ……大丈夫じゃ……ゴホッ、ゴホッ……」

「……ねぇ、街長さんの所に行って、薬草を分けてもらおうよ?」

「ゴホッ……な~に、ワシはまだ大丈夫じゃよ……ゴホッ……それに、薬草も残り少ないんじゃ……ワシみたいなもんに使うのは勿体ない……ゴホッ、ゴホッ……」

「……でも」


勇者「……」

天童「おっ? お~い、勇者! 飯屋あったぞ! 早く行こうぜ!」

勇者「あっ……う、うん……」

ーーーーー


天童「飯も食って12時か……タイムリミットまで、後6時間……決闘までは後5時間だな……」

勇者「……」

天童「午後の特訓はよぉ? 『ロッキー』式にしようと思うからよぉ? おめぇも、頑張ってスタローンみてぇになれよ?」

勇者「……」

天童「おい……おめぇ、話聞いてんのか……? あっ、それともスタローン知らねぇのか?」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……ん? どうした?」

勇者「……午後の特訓はもう、いいよ」

天童「……はぁ?」

勇者「……さっき、病気のお婆ちゃんいたの覚えてる?」

天童「……おぉ」

勇者「凄く辛そうだった……でも、他の人に気を使って、薬草を使うのは遠慮してた……」

天童「……そうだな」

勇者「薬草はさぁ? あるんだよ! 俺達が採りに行けば、皆救われるんだよ!」

天童「そうだな……でも、命題はどうすんだ……?」

勇者「……えっ?」

天童「薬草を採りに行くのはいいけどよぉ……? 時間内に帰って来れなかったら……おめぇ、女僧侶ちゃんも失っちまうし……死んじまうんだぞ……?」

勇者「……そ、それは」モジモジ

天童「……ど~うすんだ? 勇者?」

勇者「……」

勇者「女僧侶ちゃんは……俺にとって、大事な人だから……絶対に失いたくはないっ……!」

天童「……」

勇者「命題だって……それ、やらなきゃ死んじゃうんだから……無視する事なんて出来ない……」

天童「……」

勇者「でもさぁ……? 俺、無理だよ! やっぱり、無理だよっ……!」

天童「……」

勇者「大事な物は沢山あるけどさぁ……? それの為に、目の前に起こってる事を無視するなんて、俺には出来ないよっ!」

天童「……」

勇者「天童……ごめんっ……! 俺、ちょっと、洞窟に行って薬草採ってくるよっ……!」ダッ

天童「勇者っ! 待てっ!」

勇者「?」

天童「……おめぇの言うとおりだよ」ビリビリ

勇者「えっ? 天童、なんで命題の紙破ってんの!?」

天童「こ~んなもんに、かまけてらんねぇだろ? 今から、二人で薬草採りに行くのによぉ?」

勇者「……天童」

天童「今回の命題はよぉ? 失敗しても、俺が神様に頼み込んでやるからよぉ? おめぇは思った通りに行動しろっ!」

勇者「天童……ありがとう……」

天童「でもよぉ? 命題クリアする事に越した事はねぇからな? おめぇだって、死ぬのは免除されたけど、女僧侶ちゃんを失いました……ってのは嫌だろ?」

勇者「う、うん……じゃあ、5時までに……なんとか薬草を採って来なくちゃね……」

天童「よしっ! 勇者っ! そうと決まれば、急ぐぞっ!」

勇者「う、うんっ……!」

ID変わったかな?
今日はここまで

ーーーーー


女僧侶「……あっ」

男魔法使い「ん……? どうしたんだい、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「あっ……今、勇者さんと、天童さんが街の外へ出て行ったんですよ……」

男魔法使い「5時から決闘だってのに?」

女僧侶「はい……何処へ行くつもりなんでしょうかねぇ……?」

男魔法使い「う~ん……まさか、うちの男賢者にビビって逃げたってワケじゃないだろうねぇ……?」

女僧侶「……」

男魔法使い「……まぁ、あの二人の事だからさ?」

女僧侶「……」

男魔法使い「『ロッキー』とかの真似してさぁ? 街の外でおバカな特訓でもしてるんじゃないかな?」

女僧侶「……ロッキー?」

男魔法使い「『エイドリアンである女僧侶ちゃんを取り戻す為に特訓だぁ!』なんて、言ってさ?」

女僧侶「……エイドリアン?」

男魔法使い「あれ? 女僧侶ちゃん、もしかして『ロッキー』知らない?」

女僧侶「え~っと……映画の話か何かですかね……?」

男魔法使い「超名作だよ、超名作っ! あのね……ボクシングの話なんだけどね……」


女僧侶(勇者さん達、どうしたんでしょう……? 気になりますね……)

洞窟前ーー


天童「はぁ、はぁ……よしっ、洞窟についたぞ」

勇者「天童、今何時!?」

天童「時間は、気にしなくていいかよぉ……? とっとと薬草、採りに行こうぜ……?」

勇者「いや、でもさぁ……? 一応、確認だけ……? 今、何時?」

天童「……」

勇者「うん、わかってるっ! 時間は気にしないからさ……? 確認だけ……」アセアセ

天童「……今は、1時だ」

勇者「って、事は……来るのに一時間かかったから……帰りも、一時間かかるんだな……」

天童「……」

勇者「え~っと……5時から決闘だから、4時には戻らないといけないだろ……?」

天童「……」

勇者「そうなると……洞窟にいられる時間は……え~っと……」アセアセ

天童「……なぁ、勇者?」

勇者「え~っと……え~っと……」

天童「おいっ! 勇者っ!」

勇者「あっ……天童、どうしたの……?」

天童「……早く、洞窟行こうぜ?」

勇者「えっ……?」

天童「おめぇ、頭悪ぃんだからよぉ? そうやって、計算してる時間が勿体ねぇよ」

勇者「あっ……ごめん……」アセアセ

天童「パッと行って、サッと採って、ガッと帰ればいいだけだろ?」

勇者「う、うん……」

天童「そんでよぉ? ボゴッて男賢者さん倒して、ギュッて女僧侶ちゃん取り戻すだけだろ?」

勇者「な、なんか変な擬音多いね……?」

天童「簡単な話じゃねぇか? なっ? あんまり難しく考えんなって?」

勇者「う、うん……そうだね……」

天童「よしっ! じゃあ、行きますかっ! チャチャっとやりましょう! チャチャっと!」

勇者「うんっ……!」

ーーーーー


男賢者「……お父様」

男魔法使い「んっ……? どうしたんだい、男賢者?」

男賢者「……少し、稽古をつけてもらってよろしいでしょうか?」

男魔法使い「え~!? ヤダよ~! 男賢者、私より強いじゃん~!」

男賢者「お願いします……」

男魔法使い「……」

男賢者「……」

男魔法使い「……」

男賢者「……お父様、お願いします」

男魔法使い「……ねぇねぇ、男賢者? どうして、君そんなに気合入ってるの?」

男賢者「……」

男魔法使い「そこまでして、あの子パーティーに入れたいの? 私だってね、多少は回復魔法使えるよ?」

男賢者「……」

男魔法使い「恋は盲目……なんて言葉もあるけどさ……? あっ、私と母さんの馴れ初めの話でも聞かせてあげようか?」

男賢者「……お父様、稽古をお願いします」

男魔法使い「……」

男賢者「……」

男魔法使い「……もう、しょうがないなぁ。付き合ってあげるけど、あんまりいじめないでね?」

男賢者「……ありがとうございます」






PM2:00

ーータイムリミットまで後、4時間





天童「……ったく、迷路みたいな洞窟だな? 薬草は一体何処にあるんだよ?」

勇者「そ、そうだね……早く探さなきゃ……んっ……?」チラッ

天童「……おっ? どうした?」

勇者「……あっちに、何かピンク色の物が見えた」

天童「おっ!? ピンクっていったら、薬草じゃねぇか! 意外と早く見つかったなっ!」

勇者「行ってみよう!」ダッ

天童「おうっ! なんか、思ってたより、簡単だったなっ!」ダッ

蝶「……」


勇者「……あっ」

天童「ん……? どうした……?」

勇者「天童……さっき見えたピンクのは薬草じゃなくて、蝶々だったみたい」

天童「こ~んな洞窟に蝶々なんているのか……って、あら、本当だ」


蝶「……」


勇者「これ……ピンクの綺麗な蝶々だけど、何か薬草と関係してるのかなぁ……?」

天童「……とりあえず、捕まえてみっか?」ヒョイッ


蝶「……」ヒラヒラ


勇者「……あっ、逃げちゃった」

天童「ビエックシっ!」クシュンッ

勇者「うおっ! 汚ねぇなぁ……! どうしたんだ、おめぇ!」

天童「鱗粉が……鼻に入って……花粉症っ……! ビエックシっ……!」クシュンッ

勇者「……あら、綺麗な五・七・五」

天童「……おう。季語は『花粉症』だ。どうだ、上手いだろ?」

勇者「でもよぉ? 鱗粉は花粉症とは違うんじゃねぇか?」

天童「粉を吸いこむから、似たようなもんなんじゃねぇのか……? まぁ、じゃあ別パターン考えてみっか……?」

勇者「いや、もういいから……ほら、早い所薬草探しに行くよ……」テクテク

天童「え~っと、え~っと……蝶々の……鱗粉吸って……ビエックシっ! あっ、これどうよ!? ねぇねぇ、勇者君、コレ上手くない?」テクテク


蝶「……」

ーーーーー


女僧侶「……やっぱり、勇者さん達の事が気になります」

女僧侶「街から出て行った勇者さんの顔……あれは昔の勇者さんの顔でした……」

女僧侶「何か、特訓とか……そういう事ではなく……他に理由があるような気がします……」

女僧侶「私も、こんな所でただ待っているのは、自分らしくありません……」

女僧侶「男魔法使いさんに話して、決闘なんて、中止してもらいましょう」

コンコン


女僧侶「……あれ?」


コンコン


女僧侶「あれ……? どうしたんでしょう? 男魔法使いさん、入りますよ~?」


ガチャ


女僧侶「……あ、あれ?」

女僧侶「……」

女僧侶「男魔法使いさん……どうしたんでしょう? 男賢者さんの部屋ですかね……?」






PM3:00

タイムリミットまで後、3時間





勇者「な、なぁ……天童……? なかなか見つからないね……?」アセアセ

天童「……勇者、焦るんじゃねぇよ。まだ、時間はあるんだからよぉ?」

勇者「……でもさぁ?」

天童「おめぇは余計な事を考えんなってのっ!」


「グルルルル……」


勇者「……ん?」

天童「今、何か声がしたなぁ……? くそ、魔物か……?」


魔物「グルルルル……」

勇者「も~う……時間がないってのに……天童っ! 戦うよっ!」

天童「まぁ、今回特別に俺も手伝ってやるよっ!」

魔物「ガル? (あれっ? この冒険者達、『アレ』準備してきてねぇのか?)」

勇者「……おめぇさぁ? 弱そうな魔物だから、そんな事言ってんだろ?」

天童「バ、バカ~んっ! 時間がねぇから、特別出血大サービスしてやってんのに、なんでそんな言い方しかできねぇかねぇ!?」

魔物「グル(あっ、わかった……こいつら、知らねぇんだ……って、事は……)」

勇者「あっ、そうだ……! 時間ないんだ……早くしなきゃ……!」アセアセ

天童「あっ……! いや、時間はよぉ? べ、別に焦らなくてもいいんじゃねぇか? なっ、なっ?」

魔物「ガル(って、事は……ここは一時撤退ですな……)」ヒョイ


勇者「……あ、あれっ?」

天童「あいつ……勝手に逃げていきやがったぞ……?」

勇者「あいつ……何だったんだろ……?」

天童「……まぁ、でも余計な事で時間とられねぇでよかったんじゃねぇか?」

勇者「そうだね……じゃあ、早い所薬草を……ビエックシっ!」クシュンッ

天童「うおっ……! 汚ねぇなぁ! 何してんだよ、お前!?」

勇者「いや、だってさぁ……? この洞窟、なんか蝶々多くない? 俺も、鱗粉吸いこんじゃってさぁ……?」

天童「よしっ! じゃあ、今の気持ちを五・七・五で言ってみろっ!」

勇者「……な~に、言ってんだ。ホレ、とっとと薬草探しに行くぞ」

天童「まぁ、いいじゃんいいじゃん! 余計な事を考えるよりかはさ? こういう事、言ってた方がいいって!」

勇者「え~っと、じゃあ……蝶々が……多くて俺も……ビエックシっ……」テクテク

天童「あっ! おめぇ、人のネタパクってんじゃねぇよっ! オリジナリティを出せ! オリジナリティをよぉ!」テクテク

勇者「……うるせぇ。さっさと行くよ」


蝶「……」

本日はここまで

ーーーーー


男賢者「……はっ!」ドヒュンッ

男魔法使い「……ぬぅんっ! 結界魔法っ!」

男賢者「くっ……流石、お父様ですね……」

男魔法使い「……ねぇ、もう疲れたからさ? そろそろ休憩しない?」

男賢者「しかし……これだけの力を溜めた魔法弾なら、いくらお父様の結界でも……」

男魔法使い「ちょっと、ちょっと……ここ何処だと思ってるのよ!? そんな魔法弾撃ったら、死人が出るよ!?」

男賢者「……うおぉぉっ!」

男魔法使い「はいはいっ! ストップストップっ! 私の負けっ! 私の負けだから、もうやめなさい!」

男魔法使い「う~ん……まぁ、それだけ出来れば、勇者君にも勝てるよ。きっと」

男賢者「……ありがとうございます」

男魔法使い「やっぱり、君は私に似て優秀だね? 凄い力を持ってるよ」

男賢者「……全ては、お父様の教育のおかげです」

男魔法使い「……でもさぁ?」

男賢者「?」

男魔法使い「力の使い方は間違っちゃいけないよ? 君、その力何の為に使おうとしてるの?」

男賢者「それは……」

男魔法使い「うん」

男賢者「……大切な物を守る為です」

男魔法使い「そんなにあの子の事が大切なんだ? そんなにあの子に惚れているんだ?」

男賢者「……はい」

男魔法使い「まぁ、惚れた女を守る為に力を使う……なんてのは、言い方は格好いいんだけどね……」

男賢者「……」

男魔法使い「……君、誰から守るつもりなの? その力、誰にぶつけるつもりなの?」

男賢者「……」

男魔法使い「あの子は迷ってるみたいだから、父さん、決闘とか提案したけどさぁ?」

男賢者「……」

男魔法使い「万が一、勇者君に大怪我とかさせちゃったら、その後……上手くいかない気がするよ?」

男賢者「……」

男魔法使い「……あんまり熱くならずに、ちっとは頭冷やしなさい」

男賢者「……」






PM4:00

タイムリミットまで後、2時間





勇者「なぁ、天童!? 今、何時!?」

天童「……あんまり、時間は気にしねぇ方がいいんじゃねぇか?」

勇者「いや、でもさぁ……命題クリア出来なきゃ……女僧侶ちゃんがさぁ……」

天童「……なぁ、勇者? 不安なのはわかるけどよぉ?」

勇者「……う、うん」

天童「あれも、これも……なんて、色々考えててもさぁ? 絶対、いい結果なんて出ねぇよ」

勇者「……う、うん」

天童「それよりさぁ? 目の前の事に集中して、一つ一つの事をちゃ~んとしていこうぜ? なっ?」

勇者「……」

天童「今、おめぇはよぉ? 命題無視してるよ? やべぇ事かもしんねぇよ?」

勇者「うん……」

天童「……でもよぉ? 間違いなく、正しい事をしてると思うからよ! 今は余計な事を考えんなって!」

勇者「ごめん……」

天童「何かあっても、俺が全部ケツ拭いてやるからよぉ! 今は目の前の事だけに集中しようぜ?」

勇者「わかった。天童、ごめんね?」

天童「おぅ! 気ぃ使ってんじゃねぇよ! 気持ち悪いからやめろよっ!」

勇者「あはは、それもそうだね? じゃあ、薬草探そうか?」


天童(……くそっ、4時か。そろそろやべぇな。でもよぉ、神様、今回はアイツ間違ってねぇぜ!?)

勇者「……あっ! 天童っ!」

天童「どうした、勇者っ!?」

勇者「ほら、見て!? 薬草あったよっ! ほら、こんなに沢山っ!」

天童「よしっ! これで、爺婆救う事ができるなっ!」

勇者「じゃあ、さっさと摘んで帰ろ……ん……?」


魔物「グルルルル……」

魔物「ガルルルル……」

魔物「……キシャー!」

勇者「うわぁ……魔物だぁ……」

天童「……まっ、しょうがないね。でもよぉ、小物だから早い所、片付けちまおうぜ?」

勇者「よしっ! じゃあ、天童! お前も手伝ってくれっ!」

天童「……まっ、今回は特別だからな? その変わり、後で酒奢ってもらうからよぅ!」


魔物「グルルルル……」

勇者「よしっ……いくぞっ……! たあっ!」


スカッ


勇者「……あれ?」

天童「おめぇはよぉ! 何やってんだよ! バカが!」

勇者「あれっ……あれっ……?」

天童「チンタラ鈍い動きしやがってよぉ! もっと気合入れろってのっ!」

勇者「あれっ……何か、おかしい……なんだろ……」アセアセ

天童「俺がよぉ? 手本見せてやるから、よく見とけっ! おりゃっ!」


スカッ


天童「あ、あれ……?」

勇者「お、おい……天童……? おめぇも、動き鈍いぞ……? どうしたんだ?」


魔物「ニヤニヤ」

魔物「ガアアアッ!」

勇者「……ぐっ!」

魔物「ギャアアッ!」

天童「うおっ……!」


勇者「ど、どうしたんだろ……? なんか、身体が重い……」

天童「くそっ、なんでだ……毒でも受けてんのか、コレ……」

勇者「でも、毒なんて受けた覚えないし……どうして……」

天童「くそっ……わからんっ……でも、この身体の異常は何か理由があるだろ……!」

勇者「理由って……なんだよ……」


蝶「ヒラヒラ」


勇者「……ん?」

勇者「……なぁ? 天童?」

天童「……どうした!?」

勇者「もしかして……この蝶、毒持ってるんじゃね……?」

天童「そ、そうかっ……!」

勇者「ほらっ……俺達、この蝶の鱗粉沢山吸い込んじゃったし……」

天童「効能のいい薬草がこんな場所にある、ってのも……この毒に耐える為の免疫力、って考えれば納得がいくな!」


魔物「グフフ……(や~っと、気づいたか、遅ぇんだよ、バーカ!)」

魔物「グフフ……(俺様はお前達に毒がまわるのを、この場所でじっくり待ってたってワケさ)」

勇者「く、くそぉ……天童、解毒薬とか持ってねぇの……?」

天童「くそぉ……今までは女僧侶ちゃんに任せっきりだったからよぉ……そうそう都合良くあるってワケじゃねぇな……」

魔物「グフフ……(この洞窟に来る冒険者達は、皆この薬草目当てだからなぁ? 飛んで火に入る夏の虫ってヤツですな)」

勇者「くそっ……なんで、こんな肝心な時に持ってねぇんだ、お前!」

天童「うるせっ! 俺はドラえもんじゃねぇ~んだからよぉ! 文句ばっかり言ってんじゃねぇよっ!」

魔物「グフフ……(しかし、お前ら間抜けだねぇ? 今までの冒険者達は、マスク持ってきたり、僧侶連れてきたり、してたぜ?)」

勇者「街長さんが言ってた『準備』って……この事だったのか……!」

天童「くそっ……とにかく、今は出来る事をやるしかねぇっ! 身体はダルいけど、戦うしかねぇよっ!」

魔物「グフフ……(まっ、準備を怠ったのがお前らの敗因だね。それじゃあ、久しぶりのご馳走……いただきますっと!)」

ーーーーー


男魔法使い「……うんしょ、うんしょ、あ~重たいっ! どっこいしょっとっ!」

女僧侶「……男魔法使いさん、椅子なんか運んで、何してるんですか?」

男魔法使い「あ~、女僧侶ちゃん? いや~、もう1時間で決闘始まるでしょ? だから、会場作りしてるのよ」

女僧侶「……会場?」

男魔法使い「まっ、折角だからこの街の皆さんにも、楽しんで貰おうと思ってね? 小規模だけど、格闘大会みたいなもんだよ」

女僧侶「……はぁ」

男魔法使い「やっぱり、こんな世の中じゃ娯楽も少ないからね? 我々冒険者が、こうやってバカやって、少しでも笑ってもらえれば嬉しいじゃん?」

女僧侶「……そういう事なんですか」

男魔法使い「……まっ、ウチのが無茶しなければ、いいんだけどね?」

女僧侶「?」

男魔法使い「……ところで、勇者君と天童さんは?」キョロキョロ

女僧侶「あっ……それが、街の外に行ったっきり、戻って来ないんですよ……」

男魔法使い「ええっ!? 彼らがいないと、このイベント成立しないじゃん!? どうしたものかなぁ~」

女僧侶「男魔法使いさんは……勇者さん、私の事なんてどうでもよくて……逃げたと思います……?」

男魔法使い「……ん?」

女僧侶「それとも……他に何か、理由あると思います……?」

男魔法使い「……う~ん」

女僧侶「……」

男魔法使い「まぁ、正直私は、ウチの息子にビビって、逃げたと思うね!ワハハハハ!」

女僧侶「……」

男魔法使い「いやぁ~、なんたって、ウチの息子は私に似て優秀だから! 私に似てね!」

女僧侶「……じゃあ、やっぱり」

男魔法使い「……まぁ、でもそれは私が男賢者の方が付き合い長いからだね」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「やっぱり、昨日会ったばかりの勇者君の事なんて、よくわからないよ。そういうのは女僧侶ちゃんの方がよくわかるんじゃない?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「君の方がずっと付き合い長いでしょ? 君はどう思うの?」

女僧侶「……私は」

男魔法使い「……逃げたと思う?」

女僧侶「……」

男魔法使い「それとも、君の為に……ここに戦いに来ると思う……?」

女僧侶「私は……」

男魔法使い「うん」

女僧侶「最近、勇者さんの考えてる事がよくわからなくて……勇者さんとの距離が離れてるような気もするんですが……」

男魔法使い「……うん」

女僧侶「やっぱり、勇者さんは逃げてないと思います。前向きな気持ちで、ここに戦いに来ると思います」

男魔法使い「うんっ! じゃあ、待とう! 彼を信じて待とう!」

ーーーーー


魔物「ガアアアッ!」

勇者「……ぐっ!」

魔物「ギャアアっ!」

天童「くそっ……身体が重くて動かねぇ……」


魔物「グフっ!(あら~? 意外と粘るねぇ? かなり、毒回ってきてるはずなのにねぇ?)」


勇者「くそっ……天童、このままじゃ……」

天童「あぁ……このままじゃ、ジリ貧だよ……」

魔物「グフっ!(よしっ! じゃあ、あっちの若い兄ちゃんからやっちまうかっ! 皆、意外にかかれっ!)」


魔物「グギャアアっ!」

魔物「ギャアアっ!」

魔物「ガアアアッっ!」


勇者「!」

天童「まずいっ……! 勇者、来たぞっ!」

勇者「……ぐっ! アストロンっ!」ピカーッ

魔物「……ガッ?」

魔物「……グッ?」

魔物「……グフ?」

勇者「はぁっ……はぁっ……よしっ……!」

天童「お、おおっ……なんとか、耐えたじゃねぇか、勇者……成長したな……?」


勇者「……うおおおっ! 『バイキルト』!」ピカーッ

天童「!?」

勇者「うおおっ!『バイキルト』『バイキルト』!」

天童「お、おいっ……! 何、やってんだよ、おめぇ? そんなに、連発して魔法使って大丈夫なのかよ?」アセアセ

勇者「天童……この、魔法……前みたいにムキムキの身体にはならないね……?」

天童「おいおいっ……! おめぇ、大丈夫なのかよ!? 変な副作用とか出てないだろうなぁ?」

勇者「大丈夫……身体は痛むけど……力が溢れたのが感じる……力が湧いてくるのが感じられるんだ……」

天童「……おいおい! 大丈夫か、おめぇ!」

勇者「身体は重いままだけど……これなら、一撃当てさえすればっ……!」ブンッ


魔物「!」ビクッ


勇者「く、くそっ……かすっただけか……でも、天童? あいつはもう動けないよ?」

天童「……えっ?」

魔物「……ガ、ガガッ」ピクピク

勇者「俺は、動き回ってる魔物をなんとかするから……天童は動きの止まった魔物を頼むよっ……!」

勇者「よしっ……いくぞっ……!」

魔物「!」ビクッ

勇者「うおおっ!」ブンッ

魔物「!」

勇者「……くそっ! 外れたか! もう一発っ!」

魔物「!」

勇者「うおおおっ!」

魔物「!」

勇者「くそっ……! 身体が痛いっ……! うおおっ!」

魔物「……グガッ!」

勇者「よしっ……! やっと、当たった……」


天童「お、おい……勇者……あんまり、無茶はすんなよ……死んじまうぞ……」

勇者「そうだね……やっぱり、俺には女僧侶ちゃんが必要だよ……帰ったら、自分の気持ち、ちゃんと伝えるよ……」

天童「……よしっ! じゃあ、無事に帰る為に、もう少し踏ん張れっ! おめぇは確実に成長してるぞ、勇者ァ!」

勇者「天童……ありがとう……うおおおっ!」






PM5:00

タイムリミットまで後、1時間





ーーーーー


男魔法使い「え~、試合開始時刻となりましたが……ね……?」

男賢者「……」

女僧侶「……」

男魔法使い「え~、選手の方がまだ到着してませんのでね……それまでは、私の漫談の方で、皆様お楽しみ下さい」


ブーブー、ブーブー


男魔法使い「ちょ、ちょっと……! まだ、何にも話してないじゃない……? 話す前から、そんなにブーイングしなくてもいいんじゃないかなぁ?」

「うるせぇ! ワシらは格闘技が見れると聞いて集まったんじゃ! 選手がいねぇなら、あんたが戦えっ!」

男魔法使い「……同じ老人じゃない? なんで、そんなに苛めるかねぇ?」


ブーブー、ブーブー


男魔法使い「も~う……困ったなぁ……」

男賢者「……お父様?」

男魔法使い「……ん、どうしたの?」

男賢者「勇者君は……逃げたのではないでしょうか……?」

女僧侶「!」

男魔法使い「う~ん……どうなんだろね……?」

男賢者「ブーイングも酷くなってるようですし……もう、中止した方がいいんではないでしょうか?」


ブーブー、ブーブー


男賢者「……そもそも、このような事にどのような意味があるんですか?」

男魔法使い「……ん?」

男賢者「ここに集まっている方々達に与えるのは、このような余興ではなく、平和な世界なんじゃありませんかね?」

男魔法使い「……私は平和の為に日々の娯楽を捨てるのもどうかと思うけどね」

女僧侶「あ、あのっ……! 皆さんっ……!」

「どうした~! 姉ちゃんっ!」

女僧侶「勇者さんは、必ず帰ってきますっ! だから、もう少しだけ、待っていただけないでしょうか!?」

「なんで、ヒロインのあんたがかばうんだよ!? あっ……もしかして、姉ちゃん、勇者ってヤツに惚れてんのか!?」

女僧侶「……えっ?」

「おっ! 顔、真っ赤にしとる! こりゃ、間違いないな!」

女僧侶「い、いや……あ、あの……」アセアセ

「そういう事やったら、一時間ぐらいは待ったるわっ! いや~、なんだか、面白そうな展開になってきたなぁ!」


男魔法使い「……ほらさ? 例え、余興でもさ? こういう風に希望を持てる事なんて、なかなかないよ?」

男賢者「……」


婆「……ゴホッ、ゴホッ」

ーーーーー


天童「おいっ! おいっ!」

勇者「……」

天童「おいっ、勇者っ! しっかりしろっ!」

勇者「……」

天童「魔物はもう、倒したっ! 薬草も集めたぞおいっ!」

勇者「……」

天童「後は、街に戻って、女僧侶ちゃんに気持ち伝えるだけだっ! おいっ! 起きろっ!」

勇者「……」

天童「何、寝てんだよバカっ! 副作用でおかしくなっちまったのかっ!?」

勇者「……」

天童「まだ、1時間あるだろがっ……! 起きろっ! 寝てんじゃねぇよ、このダメ人間っ!」

勇者「……」

勇者「……ごめん、もう動けそうにない」

天童「何、言ってんだよっ! もうちょっとじゃねぇかおめぇっ!」

勇者「ダメだ……毒が身体に回って……上手く呼吸もできないんだ……」

天童「おい、この薬草食えば、回復するんじゃねぇか?」

勇者「……ダメだよ。それは、街の人達に渡さなきゃ」

天童「おめえが死んじまったら、意味ねぇじゃねぇかおいっ!」

勇者「街まで戻るのに一時間かかるんだよ……? どうせ、間に合わないよ……」

天童「こんな状況でまだ、『どうせ』なんて言ってんのか! このどうせ星人がっ!」

勇者「ハハっ……大丈夫だよ……やる事はちゃんとやるから……ぐっ、『リレミト』!」

天童「!」


ヒューン

勇者「洞窟の入口に戻ったよ……これが最後の力だ……」

天童「おいっ! まだ、一時間あるっ! 街まで急げばなんとかなるだろっ!」

勇者「もう……動けそうにないよ……天童、薬草……皆に届けてくれ……」

天童「おめぇが届けろよっ! なんで、そんな簡単に諦めるんだよっ!」

勇者「俺だって……街に戻って女僧侶ちゃんに想い伝えたいよ……でも、もう身体が動かないんだ……」

天童「……」

勇者「天童……ごめん……」

天童「……おめぇ、街に戻ったら、女僧侶ちゃんにちゃんと想い伝えるんだな?」

勇者「……えっ?」

天童「……今回は特別出血大サービスだからよぉ? 感謝しろよ?」グイッ

勇者「……えっ?」

天童「あ~、くそっ……重てぇな、おいっ! ちったぁ、ダイエットしやがれっ!」

勇者「お、おい……天童……おめぇも毒、くらってんだろが……」

天童「うるせっ! おめぇをおぶってよぉ、一時間以内に街に戻れば命題クリアだっ!」

勇者「天童……無茶するなよ……」

天童「うるせぇっ! 今回はケツ拭いてやるって言っただろがっ! 死にかけてんのに、無駄口叩いてんじゃねぇよっ!」

ここらがいい切り具合かな?
今日はここまで






PM5:30

タイムリミットまで後、30分





ブーブー、ブーブー


男賢者「……お父様、どんどんブーイングが酷くなっている様ですが」

男魔法使い「……私の漫談受けないねぇ? 鉄板ネタなのに、ちょっと自信なくしちゃうなぁ」

男賢者「いえ、そういう事ではなく……」

男魔法使い「……ん?」

男賢者「……もう、中止した方がいいんじゃないでしょうか?」

男魔法使い「……」

男賢者「このまま、彼が戻ってこないと……ここの方達の希望すら、裏切ってしまう事になりませんかねぇ?」

男魔法使い「……う~ん」

男賢者「……彼は逃げたのではないでしょうか?」

男魔法使い「……女僧侶ちゃんはどう、思うかな?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「だから……勇者君の事……彼、本当に逃げちゃったと思う……?」

女僧侶「……そ、それは」

男魔法使い「それとも……ここに来れない理由か何かがあるのかねぇ……? 何か、心当たりはないかな?」

女僧侶「あっ!」

男魔法使い「ん……? どうしたの? 何か、心当たりでもあった?」

女僧侶「そういえば、勇者さん……昼に街の外に出て行ったんですけど……」

男魔法使い「……うん」

女僧侶「あれは、逃げたんじゃなくて……他に……何か理由があったんじゃないかと……思います……」

男賢者「……どんな理由?」

女僧侶「えっ……? そ、それはよくわかりませんが……」アセアセ

男賢者「……」

女僧侶「……」

男賢者「……仮に、何か理由があって、街を離れる事になったとしよう」

女僧侶「……はい」

男賢者「でも、そんな場合でも、仲間である女僧侶ちゃんには、理由を話してから、行くんじゃないかな……?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「……少なくても、僕ならそうするよ。女僧侶ちゃんの事を信頼してるのならね」

女僧侶「……」


男魔法使い「まぁまぁ! 勇者君にはさ、勇者君なりの考えがあるんじゃないかな? とにかく、後30分だけ待ってみようよ? ねっ?」

ーーーーー


天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「お~いっ! まだ、生きてるかぁ~?」

勇者「……」

天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「……おいっ! 返事ぐらいしろってんだ!」

勇者「ううっ……大丈夫……まだ生きてる……」

天童「よ~しっ! 生きてんなら、それでいいっ!」

勇者「天童……お前は……大丈夫か……?」

天童「……あぁ? 死にかけてる奴が、人の心配なんかしてんじゃねぇよっ!」

勇者「……ごめん」

天童「俺はよぉ? 大丈夫だからよぉ? とっとと街に帰って……う、うおっと……」クラッ

勇者「お、おいっ……!」

天童「カァ~! 珍しく、足滑らしちまったな……こりゃ、昨日飲み過ぎたかね? まいったな、こりゃ!」

勇者「無茶すんなよっ……! おめぇも毒受けてんだろがっ……?」

天童「大丈夫、大丈夫っ! 後、五分ぐらいで街だからよぉ! それまで、意識失うなよ!」

勇者「まだ、半分も進んでねぇだろがっ……! もう、俺はいいからよぉ……!」

天童「うるせぇっ! ここまで来て諦めれっかよっ! そんなネガティブな発想だから、おめぇはダメ人間なんだよっ!」

勇者「天童……ごめん……」


天童(くそっ……俺も毒が回ってきやがったな……こりゃ、やべぇかもな……)






PM5:50

タイムリミットまで後、10分





天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「はぁっ……う、うおっ……」クラッ

勇者「……」

天童「お、おいっ……勇者……大丈夫か……?」

勇者「……」

天童「……おいっ!」

勇者「……」

天童「おいっ……! 勇者ァっ! 生きてんなら、返事ぐらいしろやっ!」

勇者「……」

天童「おいっ! しっかりしろっ……! くそっ……!」

勇者「……」

天童「……神様ァ! 冷ぇじゃねぇかっ! こいつは間違いなく正しい事をしたってのによォ!」

勇者「……」

天童「くそっ……勇者ァ……!」

勇者「……もういいよ」

天童「……おっ、勇者、まだ生きてたか」

勇者「天童……もういいよ……おめぇもフラフラじゃねぇか……」

天童「……」

勇者「もういいからさ……? 天童……ここで、お話しよう……?」

天童「……」

勇者「……なっ? もう、おろしてくれて、いいからさ?」

天童「……」

勇者「……後、何分?」

天童「……後、10分だ」

勇者「……」

天童「……」

勇者「楽しかったなぁ……この数週間……」

天童「……」

勇者「お前が現れて……色んな事があって……」

天童「……」

勇者「……俺、始めて生きた」

天童「……」

勇者「お前がいなかったらさ……俺、今頃まだ引き篭もったままだったしさ……」

天童「……」

勇者「女僧侶ちゃんとも、こんな仲になる事もなかっただろうしさ……?」

天童「……」

勇者「想いを伝えられないまま終わるのは残念だけど……」

天童「……」

勇者「もう、十分だよ……俺は満足してる……後は男賢者さんに任せるよ……」

天童「……勇者」

勇者「ははっ……思えば、この旅……色々な事があったなぁ……」

天童「……」

勇者「魔物討伐で……男戦士さんと出会ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「あの人、厳しい人だったけどさぁ……? 色んな事を教えてもらったよ……」

天童「……そうだな」

勇者「今頃、街の復興を頑張ってるんだろうね……?」

天童「そうだな……あの人も精一杯に生きてる……」

勇者「それからさ……? 女商人さんとも出会ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「……優しい人だったよね?」

天童「……あぁ。立派な人だ」

勇者「木の実をさ……? 一緒に取りに行ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「物資が不足してる街に運べたかな……? あの人も立派な人だったよね……?」

天童「……ん?」

勇者「あの人にも……色んな事を教わったよ……」

天童「……おい」

勇者「それから……」

天童「おいっ! おい、勇者っ! おいっ!」

勇者「……どうしたの?」

天童「おめぇよぉ……? 女商人さんと、木の実取りに行った時の事、覚えてるか!?」

勇者「うん……俺が約束忘れて……お前と走り回ってた時の事でしょ……?」

天童「バカッ! 違うっ! 帰りだよ、帰り道の話だよっ!」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇよぉ? あの時、魔法を改良する……とか、言ってなかったか?」

勇者「……えっ?」

天童「おいっ! 言ってたよなぁ!? 直接、街に戻れるようにする……とか、言ってたよなぁ!?」

勇者「!」

天童「その魔法、完成してんのか!? これだっ! これしか方法はねぇっ!」

勇者「……そ、それは」アセアセ

天童「お前っ……まだ、できてねぇのか……!?」

勇者「うん……できてないけど……でも……!」

天童「……」

勇者「今まで……失敗ばかりだったけど……もし、ここで成功したらっ……!」

天童「……勇者ァ!」

勇者「ぶっつけ本番だけど……そうだ……! これで成功すればっ……!」

天童「後、5分っ……! ここが正念場だっ! 勇者ァっ!」

勇者「えっと……ええっと……ルーマニア?……ルー大柴……ああっ!違う違うっ……」

天童「……勇者ァ! 落ち着けっ! 時間はまだあるっ!」

勇者「ルート33……? カレールー(辛口)……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

天童「おめぇの底力を見せてみろぉっ!」


勇者「『ルーラ』?」ピカーッ

勇者「……ん?」フワーッ

天童「よしっ……! 身体が浮いてきた……! いいぞっ……!」フワーッ

勇者「これで……大丈夫なのかなぁ……」

天童「これで……後は街に戻るだけだっ……!」

勇者「で、でも……天童っ……! ぶっつけ本番だから、どうなるかわかんないよ……? もしかしたら、とんでもない所に飛ばされちゃうかも……」アセアセ

天童「なぁ~に、言ってんだっ! 今日のおめぇなら、間違いなく成功するばいっ! よ~しっ! いくぞっ!」


ギュイーンッ


勇者「ぐっ……身体がっ……」ビキビキ

天童「勇者ァ! 耐えろォ! ここが最後の踏ん張り所だぁっ!」

ーーーーー


男賢者「……お父様?」

男魔法使い「う~ん……そうだね……これ以上、待たせるのもね……」

女僧侶「……」


男魔法使い「え~、皆さんっ……! まことに残念ですが……本日の試合は勇者選手の危険という事で……」


ブーブー、ブーブー

男魔法使い「いやいや……もう、ブーイングばっかり、やめてよ? 私だってね、一応頑張って仕切ってんだよ?」


ギューンッ


男魔法使い「あれ……? なんかブーイングに混じって、変な声が聞こえるんだけど……?」キョロキョロ


勇者「ぐっ……! うわあああっ!」

天童「爺ちゃん、婆ちゃん、お待たせしましたぁっ! 勇者選手っ! 空からのリングインでございますっ!」

女僧侶「勇者さんっ!」

勇者「……ぐっ!」

女僧侶「勇者さんっ……! ど、どうしたんですか、その顔色っ……!」

天童「おいっ……勇者っ……! 後、3分だっ……! 早く、想いを伝えろっ!」

勇者「ぐっ……! 女僧侶……ちゃん……」

女僧侶「勇者さんっ……もしかして……毒ですか……!? 今、治療しますね!」

勇者「ぐっ……そんな事より……女僧侶ちゃん……」

女僧侶「勇者さんっ……! 回復しますから……! 動かないで下さいっ!」

天童「いや、回復しないけど、死んじゃうけどさぁ? 今はその前にする事があるんだよねぇ?」アセアセ

勇者「そう……女僧侶ちゃん……これを……この薬草を……あのお婆ちゃんに渡してくれない……?」グッ

女僧侶「……えっ?」

天童「……バカっ! そうじゃねぇだろ! 想いを伝えんのが先だろっ! おいっ!」

婆「ゴホッ……ゴホッ……」

女僧侶「あの……お婆さん……コレ……」

婆「これは……薬草じゃないか……なんで、あんたがこんな物、持っとるんじゃ……」

女僧侶「いえ、私の持ち物ではなく……勇者さんがお婆さんへ、と……」

婆「あの、空から飛んできたお兄ちゃんが持ってきてくれたんか?」

女僧侶「……はい」

婆「あぁ……この薬草、取りに行っとったから……あの兄ちゃん、こんなに遅れたんか……」

女僧侶「……」

婆「でもなぁ、お姉ちゃん? あんな危険な洞窟に、若いお兄ちゃんが行ったら危ないで! お姉ちゃんも、無茶せんように、言ってやりやっ!」


女僧侶(勇者さん……この薬草を取りに洞窟に行ってたんですね……)

女僧侶「……勇者さん、どういう事、理由を聞かせてもらってもいいですか?」

勇者「う、うん……あまり、上手く説明できないかもしれないけどさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「女僧侶ちゃんは仲間だし……やっぱり……謝らなくちゃいけないからさ……? 聞いてもらいたい……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「俺さぁ……今日、薬草取りに洞窟に行ってたんだよ……」

女僧侶「……はい」

勇者「洞窟にはさぁ……毒を持った蝶々がいて……こんなに、ボロボロになっちゃったんだ……」

女僧侶「……」


天童「おいっ! 後2分だぞっ……! ちんたら喋ってねぇで、『好きだっ!』とか言っちまえよっ!」

勇者「俺、一人じゃ……やっぱり、なにもできないよ……」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり、女僧侶ちゃんが側にいてくれないと……俺、ダメみたい……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「なんかさぁ……? 最近、俺達、変な壁できてたよね……?」

女僧侶「……はい」

勇者「そのせいで……女僧侶ちゃんに話しかけ辛くてさぁ……? 一人で背追い込んでさぁ……? こんな事になってさぁ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「今日一日で、女僧侶ちゃんが俺にとって、大事な人なんだな……って、感じたよ……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「ごめんね……? これからは、もっと思った事ちゃんと言うようにするし……女僧侶ちゃんの話もちゃんと聞くようにする……」

女僧侶「……はい」


天童「後1分っ……! 後1分っ……!」アセアセ

勇者「俺さぁ……? 男賢者さんみたいにできる人じゃないけどさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり……女僧侶ちゃんを大切にする気持ちは負けてないと思う……」

女僧侶「……はい」

勇者「今まで……俺を支えてくれたのは女僧侶ちゃんだし……これからもそういう関係でいたい……」

女僧侶「……はい」

勇者「俺さぁ……頑張ってダメ人間から抜け出すからさぁ……? ちゃんとした人間に戻るからさぁ……?」

女僧侶「勇者さんは……もう、変わってますよ……」グスッ

勇者「これからも……女僧侶ちゃんと旅を続けたいな……」

女僧侶「はい……私もです……」ニコッ


天童「カァ~っ! 情けねぇ、告白っ! まぁ、いいやっ! はい、カァ~ット! 6時ジャストだっ!」

男魔法使い「……ねぇねぇ、『相思相愛』って言葉知ってる?」

男賢者「……」

男魔法使い「君、あの関係に割り込もうとしてたの? そりゃ、無茶だ。私も若い頃はモテたけど、流石にありゃ、無茶だ」

男賢者「……」

男魔法使い「ほらっ? 周りの方々達、見てごらん?」

男賢者「?」


「お~! 若いのにやるじゃねぇか兄ちゃんっ! 薬草ありがとよっ!」

「なぁ~んか、ロミ男とじゅりぇっとみたいじゃの? いや~、ええもんが見れたわい! 姉ちゃん、回復してあげろや!」


男魔法使い「ねっ? 力ってのはこういう事に使うんじゃないかな? まぁ、結果的にはいいショーになったんじゃないかな?」

男賢者「……」

男魔法使い「……勉強ばっかりさせてた、父さんの責任かもな? お前をヒールにしてすまなかったな」

男賢者「……いえ」

数日後ーー


男魔法使い「君達は大陸を渡るようだね?」

勇者「はいっ! 船の準備が整った様なので……あちらの大陸に移りたいと思います」

男魔法使い「勇者君、身体は大丈夫? 病み上がりなんだから、無茶はしちゃダメだよ?」

勇者「あっ、大丈夫ですっ! 女僧侶ちゃんに回復してもらいましたから!」

男魔法使い「ハハハ! 私はいいカップルだと思うよ! 二人共、仲良くね!」

勇者「えっ……カップルって……ま、まだそんな関係ではないですって……」アセアセ


男賢者「……勇者君?」

勇者「あっ……どうしたんですか……?」

男賢者「……色々迷惑をかけて、ごめんね?」

勇者「えっ……いやっ……」

男賢者「女僧侶ちゃんを大切にしてあげてね?」ニコッ

勇者「は、はいっ……!」

男賢者「彼女も……きっと君を必要としているはずだからさ?」

勇者「あの……男賢者さん達は、これからどうするんですか……?」

男賢者「僕はこの街に残って、力の使い方を学ぼうと思う」

勇者「……力の使い方?」

男賢者「君の採ってきた薬草あるだろ?」

勇者「あっ……はい……」

男賢者「あれを、僕と父さんの魔力でなんとか量産できないかなと思ってね」

勇者「そうですね……あの洞窟、危険ですしねぇ……?」

男賢者「まぁ、父さんの提案なんだけれどもね。目の前の事を一つ一つ取り組む事の大切さを学ばせてもらったよ」

勇者「学ばせて、って……これから、学ぶんでしょ……?」

男賢者「……君は鈍感だねぇ? そんな勘違いで、女僧侶ちゃんとすれ違いしないようにしなよ?」

勇者「なぁ~に、言ってんの、アンタ?」

男賢者「ちょっと、君に負けたのが悔しいなぁ……まぁ、何かあったら、すぐに呼んでよ? 父さんと二人で駆けつけるからさ?」

勇者「だから、勝負もしてないでしょう? あんた、何言ってるんだ?」

男賢者「もういい。これ以上話しても、腹が立つだけだ。 とっとと次の大陸へ行ってくれ」クスクス

勇者「?」

ーーーーー


天童「お~うっ! 勇者っ! 魔法使い親子との別れの挨拶は済んだかぁ~?」

勇者「……あの、男賢者さん結構天然な所、あるみたいだな?」ブツブツ

天童「……おめぇが何か変な勘違いしてるだけじゃねぇの? 俺にはしっかりしてるように見えたけどなぁ?」

勇者「う~ん……そうかなぁ……? あっ、そういやさぁ? 天童?」

天童「んっ……? どうした?」

勇者「もしさぁ? あの時、洞窟いかないでさぁ? 男賢者さん決闘してたら、俺どうなってたんだろ?」

天童「う~ん……どうなんだろ……?」

勇者「今までのパターンから、考えると……俺、殺されてたのかなぁ……?」

天童「いやぁ……流石に、あの人もそこまで無茶しないと思うぜ……? でもよぉ……?」

勇者「?」

天童「おめぇがさぁ? 薬草の事、無視して決闘に行ったらさぁ? 女僧侶ちゃん、どう思ったんだろな?」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇがさ? 勝ったとしても、女僧侶ちゃんは喜ばなかったんじゃねぇかな?」

勇者「……そうかなぁ?」

天童「やっぱりよぉ? 裸の想いを伝えるのが大事だと思うぜ? そうじゃないと、何処かでまたすれ違いが起きてたと思うぜぇ?」

勇者「……そういうもんかねぇ?」

天童「それよりよぉ……?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、女僧侶ちゃんの事、好きなんだろ? 『好き』って言わなくていいのかよ? 言っちゃ悪ィが、情けねぇ告白だったぜぇ?」

勇者「あぁ……それね……別にいいよ……」

勇者「俺、童貞だからさぁ……? やっぱり、今は愛だとか恋だとか、そんなのよくわからないよ」

天童「……てめぇで、自信満々に童貞って言うのはどうかと思うぞ」

勇者「女僧侶ちゃんとはさぁ……あの一件で、距離が縮まったような気がするし……」

天童「……」

勇者「そういう風な関係になるのはさぁ? 自分のペースで……俺のペースでゆっくやっていくよ」

天童「カァ~! 童貞の考え方だねぇ!」

勇者「な、なんだよ……」アセアセ

天童「そういう風に言ってる奴に限ってな、横から来た男にささっと取られちまうんだよ」

勇者「……そんなのわかんねぇだろ」

天童「いんや、皆、そうっ! 『俺のやり方で音楽界を変えるっ!』な~んって言ってる奴も……」

勇者「……」

天童「『俺のやり方で小説界に革命を起こすっ!』な~んて言ってる奴も……」

勇者「……」

天童「み~んな、ダメ人間の言い訳だよ! 自分のダメな考えを棚に上げてるだけだね!」

勇者「……そんな言い方しなくてもいいじゃねぇかよ」

天童「勇者君、恋愛感、改めた方がいいんじゃないかなぁ?」ニヤニヤ

勇者「……うるせっ! 大きなお世話だよ」

天童「まぁ、でもよ……? 俺は優しいからよぉ?」

勇者「?」

天童「勇者君がその考えで奇跡の成功を掴む事を祈っておいてやるよ」ニヤニヤ

勇者「……奇跡なのか? 俺の恋愛は奇跡なのか?」

天童「そりゃねぇ……その考え方ではねぇ……? まぁ、頑張って革命を起こしてくれ」

勇者「……革命なのか? 俺の恋愛は革命なのか?」

天童「そりゃ、その考えでさぁ? 突き抜けて成功したら、革命だよ」

勇者「バカにしてんじゃねぇぞ! おめぇだってよぉ! 女商人さんに振られたのに、偉そうに言ってんじゃねぇよ!」ギャーギャー

天童「俺は振られてねぇよっ! おめぇの恋愛感を心配してやってんだから、感謝しろよっ!」ギャーギャー


女僧侶「勇者さ~ん? 何してるんですかぁ~?」

勇者「あっ……女僧侶ちゃん……」

女僧侶「何、話してたんですか?」

勇者「いや~、天童のね……よくわからない恋愛感を聞かされてた……」

女僧侶「面白そうな話じゃないですか?」

勇者「い、いや……ダメだよ……あいつ、ぶっ飛んでるからさぁ……?」アセアセ

女僧侶「勇者さんは恋愛感とかあるんですか?」

勇者「えっ……! 俺っ……?」

女僧侶「ちょっと興味あります。聞いてみたいです」

勇者「い、いやぁ……俺はさぁ……なんて言ったらいいかなぁ……やっぱりさぁ……?」アセアセ


天童「う~ん……まぁ、一応距離は縮まったな。 『チームプレイ』……クリアだっ!」メモメモ


天童「さぁ、 命題は後4つ! 勇者が女僧侶ちゃんとくっつくのが先か……それとも、死ぬのが先か……こりゃ、面白くなってきたな!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

ーー完

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」 >>1-85

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」 >>86-179

第三話 「褒められないと死ぬ!」 >>181-316

第四話 「約束破ると死ぬ!」 >>318-524

第五話 「優しくしないと死ぬ!」>>526-646

第六話 「大切にしないと死ぬ!」 >>653-819

いきなり反応きて少しビビったよwww

頭から考える作業とオチから考える作業を平行して進めてるんだけど
その境目の次の七話……これ、全く発想が出てきてませんwww

ここ乗り越えれば、ラストまではスムーズにいけると思うわ
……という訳で、3日から7日程休載期間を頂きたい

それと170レス前後で纏める自信もどっちにしろないので、7話以降は次スレ立ててやる事になるかな?

……という事で、ここからは雑談スレになります

今、発想が堂々巡りしてる状態なので「こんな命題はどうだ?」なんて提案してくれたら嬉しいし
何か、SSの補足情報など、質問があれば答えますよ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年10月18日 (火) 17:22:19   ID: 7BLf7pVs

無駄に多いハテナマークと天使の口調がどうしても受け付けない

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom