木場真奈美「のあの事件簿・佐久間まゆの殺人」 (158)

あらすじ

封じられた山荘で起きた殺人事件、その容疑者は佐久間まゆ。
探偵高峯のあは真実に辿り着き、彼女を救えるか。



高峯のあ「のあの事件簿・東郷邸の秘密」
高峯のあ「のあの事件簿・東郷邸の秘密」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396432268/)
佐久間まゆ「のあの事件簿・この町のテロリスト」
佐久間まゆ「のあの事件簿・この町のテロリスト」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1397732897/)
の設定を引き継いでいます。
ネタバレや設定の引き継ぎを平然とするので、先読み推奨。
引き継ぎ重要事項:探偵高峯のあはまゆにデレデレ。

グロ注意

あくまでサスペンスドラマです、のあさんは己の限界に挑戦しています。
あと、のあさん含めて各人の設定もドラマ上のものです。

前2作と比べると展開が遅いかつ、オマケ合わせて約5万7千文字あるので御承知を。
NG集欲しいとか言われたので、オマケはメイキング映像っぽいものにしてみました。

それでは、投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399097311

キャスト

探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美

佐久間まゆ

刑事第一課柊班

警部補・柊志乃
巡査部長・和久井留美
巡査・大和亜季

生活安全課少年班

巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

星輪高校

総合科2年A組B班

担任・川島瑞樹(家庭科・マナー)
副担任・相川千夏(英語)

高森藍子

緒方智絵里
北条加蓮
長富蓮実
浅野風香
堀裕子
工藤忍
脇山珠美
今井加奈

如月千早(特別出演)

同行教師

篠原礼(数学)
服部瞳子(国語)
沢田麻理菜(体育)
柳清良(化学)
クラリス(道徳・宗教)

署長・高橋礼子

まゆの元同居人・藤原肇

のあの大好きなアイドル・前川みく

古澤頼子



古澤頼子「皆様、ごきけんいかがでしょうか」

古澤頼子
犯罪提供者。数多の事件に関わっているとされる、正体不明の女性。高峯のあの影。

頼子「本日は、炎と記憶についてお話しましょう」

頼子「炎と記憶の共通点はなんでしょうか」

頼子「そう、揺らぐこと」

頼子「炎の揺らぎは人々に安寧をもたらします。記憶の揺らぎも同様です」

頼子「しかしながら、炎も記憶もそのものは人間に有害です」

頼子「例えば、こちらの映像をご覧ください」

頼子「これは4年ほど前に起こったマンション火災のものです」

頼子「建物全体が大きく燃えています。この火災の特徴として、黒煙が多いことがあげられるでしょう。つまり、中毒死者が多かった」

頼子「私?関連しておりません。放火したいと申されても、私がいなくても出来ますから。崩壊させたい、皆殺しにしたいと申し上げられたなら別ですが」

頼子「それに、この火災が大災害になった理由は私が産み落とされる以前から存在していましたから」

頼子「この火災は、とある階のガス漏れ、タバコ、管理不十分による荷物の散乱、そして防火を意識していない安普請、それらの組み合わせの結果でした。そして、もっとも最悪だったのが不完全燃焼で燃え続ける防寒剤」

頼子「燃えるだけで全部が毒ガス室になるなんて、私も見習いたいものです。長いスパンで培われた、その悪意を」

頼子「死者の過半数は中毒死。当時は話題になりましたから、知っている人も多いことでしょう」

頼子「多くの人が、大切な人を失いました。夕方時でした。父、母、夫、妻、兄弟、子供、友達、多くの人が命を落としました」

頼子「呆然と火災を見上げる人々の中に混じり、少女は何を思うのでしょうか」

頼子「そして、この記憶はこの少女を痛めつけるかもしれません」

頼子「それなら揺らいでくれればいいのに、消えたくれればいいのに」

頼子「炎も記憶もそのものは危険です。この少女の場合、炎の記憶ですけれど」

頼子「この少女がどこの誰なのか?ふふふ、知りません」

頼子「今宵も良いことが起こりますように。それでは、また会いましょう」

高峯探偵事務所

佐久間まゆ「真奈美さーん、お弁当包んで良いですかぁ?」

佐久間まゆ
高峯家の居候。事件が起きた東郷邸の元住人。家事と編み物が好きな優しい女の子。

高峯探偵事務所
高峯のあが所長を務める探偵事務所。高峯ビル3階がリビング兼事務所、4階が自宅。2人の居候に宿泊客がいてもまだ平気な広さ。

木場真奈美「ああ。のあとお友達の分も包んであげてくれ」

木場真奈美
高峯のあの助手。海外帰りで家事含めた多彩なスキル持ち。本職はスタジオボーカリストや歌の先生。

まゆ「はぁーい♪」

高森藍子「ごめんなさい、木場さん。お泊りもして、こんなにいいものまで準備してもらって……」

高森藍子
まゆが4月に転入した高校のクラスメイト。全身から優しいオーラが漂う。昨日は高峯家にお泊り。

真奈美「なに、たまにはイイトコを見させてくれ。それに、こんな時は感謝の言葉が欲しい」

藍子「えっと、ありがとうございます」

真奈美「そう、それでいい」

まゆ「真奈美さん、とってもお料理上手なんですよぉ。期待しててね♪」

藍子「知ってます。だってお夕飯、とっても美味しかったぁ……」

高峯のあ「ついでにこれから運転してくれるんだから、それ以上褒めない方がいいわ」

高峯のあ
高峯探偵事務所所長。容姿端麗なうえに頭脳明晰。ただ興味のあるものが偏っており、それが性格も偏らせている。

真奈美「遅いぞ、のあ。十分後には出るぞ」

のあ「……本当?」

真奈美「昨日あれだけ言っただろうが」

のあ「わかった。すぐに支度するわ」

真奈美「まったく……」

藍子「あの……」

まゆ「なに?」

藍子「高峯さんって、可愛いもの好きなんですか?とっても可愛い、その、みくにゃんの絵がプリントされたパジャマ着てました」

前川みく
高峯のあが愛してやまない人気上昇中のねこちゃんアイドル。のあ曰く、大規模なライブの開催が決定しているらしい。

真奈美「可愛いものが好きというか」

まゆ「みくにゃんが大好きというか」

藍子「そうなんですか。とってもクールな人だと思ってたから、安心しちゃった。可愛い人なんですね!」

真奈美「……この子、もしかして猛烈にいい子か?」

まゆ「はい。とっても」

アッキー「くぅん」

アッキー
太田優の飼い犬。ご主人様が藤原肇の凶行の被害者となったため、まゆに引き取られた。

藍子「あ、アッキー、おはよう」

真奈美「さて、アッキーも準備しようか」

まゆ「ゲージ持ってきますね」

のあ「思えば、昔から聡明ではあったようね」

大丈夫、暮らしていけるよ。

のあ「これは夢なんでしょう。中学生の頃の私の、声と姿まで客観的に覚えているあたりが私である所以かしら」

寂しくなんか、ないよ。だから、ここで暮らす。

のあ「強いわ、本当に」

のあ「内心すべて包み隠して、誰にも本心は悟らせなかった」

のあ「この時、誰かが泣いていいと言ってくれたら」

のあ「……」

そんな所で何してるのかしら。

のあ「懐かしいわね。松葉杖片手の真奈美は目立ってたわ」

何って、休んでるんだ。

のあ「ふふ。何も変わらない」

住むところがないなら、ここに住みなさい。

のあ「……なんで、こんなこと言ったのかしら」

まゆ、また、何もなくなっちゃいました……

のあ「私は十分に知っていた。それがどんなに辛いことか」

そんなに寂しいのならうちに来なさい、まゆ。

のあ「わかってるわ、私。私が孤独に未だに慣れてないことに」

のあ「あの頃とは変わった。心を慰めるものが、事件しかない頃とは」

のあ「真奈美、まゆ、志乃とか、あとは留美もかしら」

ねえねえ、のあちゃん、みくは?

のあ「もちろん、みくにゃんもよ」

にゃふふ……

車内

のあ「ん……」

真奈美「起きたか」

のあ「どれくらい寝てたかしら?」

真奈美「40分くらいか」

のあ「結構寝ていたのね」

真奈美「随分と幸せそうな顔をしてたぞ。いい夢でも見たか?」

のあ「……ええ、とても」

真奈美「前川みくでも出て来たか?」

のあ「出てたわ。しまった、抱きつけば良かった。私の夢なら抱き心地ぐらい完全再現可能だったのに」

真奈美「なに言ってんだ」

のあ「それより、あとどれくらいで着くの?」

真奈美「あと30分くらいか?」

のあ「山奥ね」

まゆ「そうなんですよ。山荘は電波も届かないって」

藍子「ちゃんと連絡しておかないと」

のあ「そうだったわね、すっかり忘れてたわ。真奈美、何かした?」

真奈美「とりあえず柊警部補には連絡しておいたぞ。山荘は有線の電話しかつながらないみたいだし」

のあ「流石私の助手、仕事が早いわ」

真奈美「決まってから何週間たってると思ってるんだ」

まゆ「ねぇ、のあさん、まゆは?」

のあ「もちろん、まゆもよ。学校の行事とはいえ、温泉山登り付きでただで山荘に泊まれるのも珍しいもの。ありがとう」

まゆ「ふふ、こちらこそ♪」

藍子「私もありがとうございます。お母さんが忙しくて……」

のあ「気にすることはないわ、高森さん。山荘の当番も運転も真奈美がすることよ」

真奈美「運転は私がするが、山荘の当番はのあもするんだぞ」

のあ「冗談よ。私も楽しみなのよ」

真奈美「もう少し嬉しそうに言ったらどうだ、のあ」

のあ「……ふふ」

まゆ「あらぁ……」

藍子「まぁ……」

真奈美「本当に嬉しそうに微笑まれると、こっちが困るんだが……」

星輪高校椋鳥山荘・駐車場

真奈美「到着、っと」バタン

藍子「ありがとうございました!」

のあ「いい所ね」

藍子「はい!花も木も綺麗にしてるとは言ってましたけど、本当にいい所です」

のあ「山荘は階段を登った丘の上なのね、もっと眺めが良さそうね」

まゆ「よいしょ、っと。あらぁ、先生達はもう来てるのかな?」

藍子「あのマイクロバスはそうだよね」

真奈美「なんだかシックな外車も止まってるな、その後ろは教会か?」

まゆ「礼拝堂ですよぉ。車はシスタークラリスのものです」

クラリス「おはようございます、佐久間さん、高森さん」

クラリス
星輪高校職員のシスター。道徳や宗教の授業を担当している。

星輪高校
まゆが転入した私立女子高。難関大進学やスポーツ等コースがとても多いのが特徴。まゆのクラスは家政、マナー、華道等が多めの、心身共に淑女を目指すが合言葉の総合コース。

藍子「シスタークラリス、おはようございます」

まゆ「おはようございます。シスタークラリス、こちら高峯のあさんと木場真奈美さん」

のあ「高峯です」

真奈美「木場です、お世話になります」

クラリス「こちらこそ。三日間の短い間ですが、よろしくお願いいたします」

まゆ「シスタークラリス、皆様はお揃いですか?」

クラリス「揃われてますよ」

藍子「大変、早くしないと」

クラリス「まだ慌てる時間ではありませんよ。さぁ、お荷物を運びましょう」

まゆ「はーい」

真奈美「私達も荷物を運ぶぞ」

のあ「わかってるわ」

椋鳥山荘・玄関

川島瑞樹「おはよう!佐久間さん、高森さん」

川島瑞樹
まゆ達A組の担任。家庭科とマナーの教師。よく喋る花の28歳。

まゆ&藍子「おはようございます!」

瑞樹「はい、おはよう!部屋はわかってるわね?まずは荷物を置いてらっしゃい、ジャージに着替えたら1階の教室に集合ね」

まゆ「わかりましたぁ。あの、川島先生、こちら……」

瑞樹「あら!高峯のあさん、木場真奈美さん、今日はありがとうございます!」

のあ「よろしく」

瑞樹「今日はお忙しい中、ありがとうございます」

真奈美「実は忙しくもないんだがな」

瑞樹「またまた!最近はお二人とも話題ですよ、名探偵、しかもとびきりの美人ですもの。来てくれて嬉しいわ!」

相川千夏「川島先生、お話は後で」

相川千夏
まゆのクラスの副担任。英語教師。落ち着いたメガネのレディ。

瑞樹「もう、相川先生、高峯さんですよ。もう少し話してもいいじゃないですか」

千夏「知ってます。先にお部屋に案内してあげたらいかがでしょうか」

瑞樹「それもそうね。ささ、こちらにどうぞ!部屋は3階です、眺めがいいお部屋なんですよ」

椋鳥山荘・3階

瑞樹「3階まで登ってもらうと、まずはラウンジに出ます。給湯器のある簡易キッチンがあるので使ってください。高峯さん達のお部屋は、東側のお部屋です」

のあ「西側は、個室?」

瑞樹「はい。3階の西側は個室で生徒の宿泊室です、北と南側で三つずつ、6部屋。2階もほぼ同じ構造ですね。1階は西側は大教室、東側は1階と2階は内階段でつながってる私達教師の部屋ですね。ささ、こちらへどうぞ。一番広い部屋ですから、くつろいでくださいな」

真奈美「おお、広い。出るか、アッキー?」

アッキー「わん!」

のあ「満足そうよ」

瑞樹「二人部屋ですけど、良かったですか?なんだったら、生徒に変わってもらうようにいいますけど」

のあ「大丈夫よ。真奈美なんていてもいなくても同じだし」

真奈美「問題ない。のあに気を使うだけ無駄だ」

瑞樹「ふふ、仲がよろしいんですね。いいなぁ、私もそんな人が欲しいわ。出来れば、旦那さんがいいけれどね。あ、そうだ!今からの登山には参加されるんですよね?」

のあ「そのつもりよ」

瑞樹「それじゃ、お二人も着替えてもらって、1階の大教室に来てもらってもいいですか?私達は先に生徒達にオリエンテーションをしてますから。それでは、失礼するわね」

真奈美「よし、それじゃ準備するか」

のあ「ここで待ってるのよ、アッキー。いいわね?」

アッキー「わん!」

のあ「いい子ね」

椋鳥山荘・1階ロビー

のあ「本当に電波が入らないのね」

真奈美「小さな山だし、ここ近辺は一切の民家がないらしいからな。連絡はそこにある電話しかないぞ」

のあ「今は使用中」

千夏「それでは失礼します」ガチャン

のあ「どちらに電話を?」

千夏「あら、高峯さん。学校ですよ。逐一連絡できる環境ではないですから」

のあ「賢明だわ」

千夏「そろそろ生徒への説明は終わりますので、お二人のご紹介しましょう」

椋鳥山荘・一階大教室

瑞樹「オリエンテーションは以上です、何か質問はあるかしら?ないわね、それじゃ、皆さん、後ろを向いてくださーい。今回の合宿に同行する先生方とお手伝いしてくれるお二人を紹介するわね。まずは、相川先生」

千夏「有意義なものにしましょう」

瑞樹「数学の篠原先生」

篠原礼「よろしくね」

篠原礼
星輪高校数学教師。色香漂う女教師。女子校であったのは幸か不幸か。

瑞樹「国語の服部先生」

服部瞳子「みんな、がんばりましょう」

服部瞳子
星輪高校国語教師。とある理由で、朗読がものすごく上手いらしい。

瑞樹「体育の沢田先生」

沢田麻理菜「みんな、がんばろうね!」

星輪高校体育教師。皆のマリナ姉さん。今回の主なお仕事は炊飯と登山。

瑞樹「科学の柳先生」

柳清良「よろしくお願いします」

柳清良
星輪高校化学教師。穏やかな目をしているが、笑ってても時々怖いと評判。

瑞樹「今日はシスタークラリスがいらっしゃいます」

クラリス「良い日でありますように」

瑞樹「それと、今回の合宿で、あなた達のご飯と身の回りのお世話をしてくれるのが、そこにいるお2人です。見たことある人もいるんじゃないかしら、高峯のあさんと木場真奈美さんよ」

のあ「高峯です、よろしく」

真奈美「木場だ、何でも言ってくれ」

瑞樹「それじゃ三日間よろしくお願いします」

みんな「よろしくおねがいしまーす!」

まゆ「……」フリフリ

のあ「……」フリフリ

瑞樹「それじゃあ、最初のスケジュールに行くわよ!まずはハイキングから、みんな準備はいいわね!いくぞー、おー!」

登山道

のあ「楽しそうね、みんな」

真奈美「最後尾で眺めてるのも悪くはないだろ」

のあ「そうね。頂上までどれくらいかしら」

真奈美「どんなに遅いペースでも正午にはつくだろう。もう疲れたのか?」

のあ「違うわ。そんなにヤワじゃない」

真奈美「体力も割とあるよな、のあ」

のあ「真奈美に言われたくないわよ。何者よ、あなた」

真奈美「何者って、ただのスタジオボーカリストさ」

のあ「……」

真奈美「そんな不服そうな目をするな。お前こそ、何者だ」

のあ「私はただの探偵よ」

真奈美「自分の持ちビルで探偵事務所開いてる人間を、ただの探偵とは呼ばないだろ」

のあ「それもそうね」

真奈美「なぁ、のあ」

のあ「何よ、改まって」

真奈美「聞いていいか」

のあ「何を?」

真奈美「のあ、両親や家族はいるのか」

のあ「……何を聞くかと思えば」

真奈美「なんとなく聞けなくてな。そっちはずけずけ聞いてきたが」

のあ「真奈美の場合は秘密にしてたわけじゃないでしょう。私の場合は……」

真奈美「場合は?」

のあ「そうね、あえて言いたくはなかった。でも、今なら話してもいいわ」

真奈美「……そうか、無理には聞かないが」

のあ「聞いてちょうだい。あまり他人には話したことがないから、拙いけれど」

真奈美「……わかったよ」

のあ「家族はもう誰もいないわ。14歳の時に両親を失って、それっきりよ」

真奈美「……そうか。親族も、か?」

のあ「18歳までの後見人だった父の妹がいる。ひさしく会ってないけれど」

真奈美「18までは叔母の所にいたのか」

のあ「……違うわ。ずっとあそこで一人暮らしだった」

真奈美「昔からふらふらとしていた私が言うのも難だが、大変じゃなかったか?」

のあ「お金だけは十分にあったわ。苦労したことはない」

真奈美「違う。それ以外だ」

のあ「……正直に言うわね、私は寂しかったからあそこにしがみついたのよ」

真奈美「……」

のあ「吹っ切れたら叔母の所に行ってたと思うわ。真奈美みたいに、満足できなかったから、ずっとあそこにいるのよ、私は」

真奈美「そうだったのか」

のあ「……私は自分は理論的で聡明だと思うわ」

真奈美「……自分で言わなくても」

のあ「どうやっても単純な答えに出るのよ、とっても簡単な感情に」

真奈美「……」

藍子「あ、見てください!綺麗なお花がありますよ!写真を撮らなくちゃ!」

まゆ「あ、待って、藍子ちゃん!」

瑞樹「高森さん、あんまり奥に行かないでくださいね!」

真奈美「見かけによらずおてんばさんなんだな、高森君は」

のあ「まゆも、同じ感情を感じてるかしら」

真奈美「そんなこと考えてたんだな、のあは」

のあ「私は、私が欲しかった人を演じられてるかしら」

真奈美「演技じゃないだろ。理由も昔への復讐でもなんでもいいさ。佐久間君に、お前は必要だよ、のあ」

のあ「……真奈美」

真奈美「なんだ、改まって?」

のあ「ありがとう。まゆもそうだけれど、あなたが来てくれて、良かった」

真奈美「いや、私は何もしてないさ」

のあ「これからもよろしく、ね」

真奈美「もちろん」

山頂付近

真奈美「名前は覚えたか?」

のあ「まゆから聞いてるもの、すんなりと」

真奈美「まさか、如月千早がいるとはなぁ」

のあ「あの、細くて、髪の長い子ね。私も見たことあるわ」

真奈美「そりゃ、現役アイドルだからな。2週間くらい前に会ったばっかりだったんだが」

のあ「それは初耳よ」

真奈美「レッスン受けに来たからな。海外時代の話もしたよ」

のあ「……聞いていい、真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「もしかしてだけど、みくにゃんと会ったことある?」

真奈美「……」

のあ「やはり黒だったようね」

真奈美「いや、ほんとーに売れてない時期に一回だけ指導しただけだぞ」

のあ「見そこなったわ、真奈美。そんな自慢げに語るなんて……売れてない時代から知ってんだぜ、とか言う人間だと思ってなかった」

真奈美「くそ、話が通じない。そうだ!如月君と仲よさげに話してる背の低い子の名前は?」

のあ「脇山珠美」

如月千早「ふふ、珠美さんは本当に可愛らしいです」

脇山珠美「もー、珠美は千早ちゃんよりお姉さんなんですから!」

千早「そうでしたね。よしよし」

珠美「頭をなでないでください!」

如月千早
まゆのクラスメイト。現役アイドル。最近海外進出のウワサあり。今回の合宿にはスケジュールを合わせて、無事に参加できた。

脇山珠美
まゆのクラスメイト。まゆから見ても小柄なクラスのペッ……アイドル。クールな女性に憧れているらしく、普段はクール、だそうだ。

真奈美「その隣は、えっと何かその、オシャレな花柄のジャージを着てるのは?」

のあ「昭和のニオイがするわね、生きていたことはないけど。長富蓮実ね」

長富蓮実「機嫌を直して、ね、よしよし」

珠美「蓮実さんまで!」

長富蓮実
まゆのクラスメイト。趣味はボーリングだったりと、色々と昭和。日課は指と腕の筋トレ。

のあ「先頭の沢田先生の後ろにいるのが、工藤忍と北条加連」

工藤忍「あついなー」

北条加連「帽子脱げばいいのに」

工藤忍
まゆのクラスメイト。出身は北国。帽子がお似合い。

北条加連
まゆのクラスメイト。イマドキの女の子。意外と合宿には乗り気。

のあ「はい、木を眺めながら仲良さそうにしてるのは誰と誰?」

真奈美「えっと」

のあ「時間切れ。浅野風香と今井加奈よ」

浅野風香「綺麗です……」

今井加奈「そうだね!」

浅野風香
まゆのクラスメイト。読むことと書くことが好きなメガネ女子。加奈とは幼馴染で、偶然にも同じ高校に。

今井加奈
まゆのクラスメイト。明るく元気な女の子。仲良くおしゃべりすることが大好き。

麻理菜「頂上がみえたわよー!」

まゆ「ほら、もうちょっとですよ、のあさん」

藍子「まゆちゃん、あんまり疲れてないように見えるよ」

真奈美「表情はそんなに変わらないからな、内心はへろへろかもしれん。励ましてくれ、高森君」

藍子「そうなんですか?高峯さん、ファイトです!」

のあ「素直ね。励ましてくれて、ありがとう。さ、もう少しでお昼よ」

山頂

瑞樹「とうちゃーく!みんな、怪我とかないかしら?ないわね!雨が降る前に登れて良かったわ!さぁ、みんな、お昼にしましょう!」

一同「はーい!」

瑞樹「あんまり離れちゃだめよ!あと勝手に下山しないでねー。集合は1時間後よ!」

真奈美「さて、私達もご飯を食べるか」

のあ「ええ。私秘蔵のみくにゃんレジャーシートを披露する時が来たようね」

真奈美「そんなのあるのか」

のあ「真奈美のお弁当を食べれる日を楽しみにしてたのよ。さて、準備しましょう」

真奈美「面と向かって言われると照れるな」

瑞樹「高峯さーん、一緒にご飯を食べませんか!色々と聞きたいお話があるんです」

真奈美「どうする?」

のあ「お招きに預かりましょう」

オン・みくにゃんレジャーシート(完全受注生産)

瑞樹「まぁ!これ、真奈美さんが作ったお弁当なんですか?」

真奈美「そうだ。ちょっと張り切り過ぎてしまったかな」

瑞樹「凄いですよ!私もちょっとは料理に自信があるけど、妬いちゃうなぁ」

真奈美「家庭科の先生に褒められる日が来るとはな」

のあ「モグモグ」

真奈美「そちらこそ、先生方のお弁当は川島先生のお手製でしょう?」

瑞樹「そうなんですよ!これは……」

のあ「口達者な先生ね」

千夏「慣れました」モグモグ

麻理菜「半分くらい私が作ったんだけどなー」

のあ「あら、そうなの?」

瞳子「いっぱい作らせたら川島先生より上手いと思うわ」

麻理菜「女子力ってやつよ♪」

礼「だいぶ体育会系な女子力ねぇ……」

麻理菜「いーじゃないですか、篠原先生!今日のご飯は私にかかってるんですよ、機嫌を損ねたらどうなるかわかってます?」

のあ「まぁ、それは大変。真奈美、こき使われなさい」

真奈美「ん?なにか言ったか?」

のあ「こき使われろ、って言ったのよ」

真奈美「そのために呼ばれたんだから文句はないが、のあが言うな。お前も手伝ってもらうんだからな」

のあ「わかってるわよ。ごちそうさま、美味しかったわ」

真奈美「どういたしまして」

瑞樹「ねぇねぇ、高峯さん!解決した事件の話とかしてくださいよ!」

のあ「人に話すようなことでもないわ」

真奈美「そう言うなって。面白い話のひとつやふたつあるだろう」

瑞樹「そうですよ!なんでもいいですから!」

のあ「そう。最近思い出した話をしましょうか。真奈美が来る少し前の話だけれど……」

山頂

真奈美「なぁ、もっといい話はなかったのか?常に微笑んでる柳先生とシスタークラリス以外はまったく同じ表情だったぞ。まさに、苦虫を噛んだような」

のあ「おかしいわね。最近話した時はオチが大好評だったのに」

真奈美「誰に話した?オチが腐乱死体の詳細描写なのに喜ぶ奴は」

のあ「久美子と志乃だけど。実に興味深そうで、そこから話が弾んだわ」

真奈美「例外中の例外だぞ、その人物達は。食事後で良かった」

のあ「久美子と志乃とは食事中だったけど」

真奈美「いや、あの人たちは特殊だからだ。のあ、交遊範囲は広げた方がいいぞ」

のあ「うーん、普通の人には何が面白いのかしら。私には皆目見当がつかないわ」

真奈美「まぁ、時期にわかるさ。おや?」

緒方智絵里「……」ゴソゴソ

岡崎泰葉「……」ゴソゴソ

真奈美「何か落としたか?」

智絵里「……あ、こんにちは。違いますよ、四つ葉のクローバーを探してるんです。泰葉ちゃんに手伝ってもらって」

泰葉「はい。だから、大丈夫です」

緒方智絵里
まゆのクラスメイト。四つ葉のクローバー集めが趣味の大人しい女の子。

岡崎泰葉
まゆのクラスメイト。元子役。前髪ぱっつん、可愛いわね……、と高峯のあは初見で呟いた。

のあ「そう、お邪魔したわね。ちょっと待って」

真奈美「なんだ、じっと地面を見て」

のあ「3つ以上はあるわね。がんばって」

智絵里「え?」

のあ「岡崎さん、目の前にひとつ」

泰葉「あ、本当だ……」

のあ「それじゃあね」

真奈美「……口から出まかせじゃないのか」

のあ「基本的に私は嘘をつかないわ。嘘をつくのは苦手だし、嫌いよ」

真奈美「そうだったな。探偵高峯のあは真実を愛す、ってとこか」

のあ「そんないいものじゃないわ。真実の方がよっぽど気が楽なだけ」

真奈美「まったく、のあらしいな」

山頂・見晴らし台

堀裕子「ヤッホー!」

ヤッホー……

のあ「あら、気持よさげね」

裕子「おや、高峯さん!」

のあ「確か、堀さんね」

裕子「はい、エスパーユッコとは私のことです!」

堀裕子
まゆのクラスメイト。自称エスパー系女子。それはともかく、明るく楽しい人物であることは間違いない。

のあ「何をしてたの?」

裕子「サイキックトレーニングです!遠くの山々に反響する特殊なサイキックボイスのトレーニングなんです」

真奈美「それって、ヤマビコ……」

裕子「どうですか?一緒にやりましょう!」

のあ「遠慮するわ。叫ぶのは苦手だし。それなら、真奈美に教わりなさい」

裕子「まさか、こんな近くにエスパーが!?」

真奈美「エスパーじゃなくて、声を出す方の専門家だ」

裕子「おお!ぜひご指導お願いします!」

のあ「乗り気よ、真奈美」

真奈美「サイキックトレーニングじゃないぞ。ものすごい肉体よりだが、いいのか?」

裕子「もちろんです。真のサイキッカーは、心身ともに優れてるんですから」

真奈美「まぁ、いいか。じゃあ、まずはだな……」

千早「こんにちは、高峯さん。あら、木場さんは何をしてるのかしら?」

のあ「ボイストレーニングらしいわ」

千早「羨ましい。木場さん、とっても教え方も上手くて、自分も上手なんですよ」

のあ「……仕事中の真奈美はどんな感じなの?」

千早「そうですね、厳しくても最後は優しい、って感じかしら」

のあ「そう。がんばってるのね」

真奈美「よし、いくぞ」

裕子「はい、師匠!すうー、ボエエエエエエ!」

のあ「……」

千早「……」

真奈美「……」

裕子「今まで出したこともない声が出ました。凄いです、師匠!」

真奈美「……逸材だ、ある意味」

山頂

瑞樹「しゅうごーう!みんな、お昼ご飯とお休みは十分に取った?点呼取るわよ!浅野さん」

風香「はい……」

瑞樹「あら、疲れちゃった?次、今井さん」

加奈「はーい」

瑞樹「岡崎さん」

泰葉「はい」

瑞樹「緒方さん」

智絵里「はい♪」

瑞樹「ご機嫌そうね。工藤さん」

忍「はい」

瑞樹「如月さん」

千早「はい」

瑞樹「佐久間さん」

まゆ「はぁい」

瑞樹「高森さん」

藍子「はい」

瑞樹「長富さん」

蓮実「はい」

瑞樹「北条さん」

加蓮「はい」

瑞樹「堀さん」

裕子「はい!」

瑞樹「元気でいいわね。最後に、脇山さん」

珠美「はい」

瑞樹「全員集合オーケーね!高峯さん、木場さん、教師諸君、全員集合してるわね!はい、天気がこれから悪化することが予想されるので、これから下山しまーす。行く前にもいったけれど、先週続いた長雨で足元が緩んでるかも知れないから気をつけるのよ、いいわね?それじゃ、出発!」

登山道

風香「きゃっ!」

真奈美「おっと、危ない」

風香「あ、ありがとうございます」

のあ「ふむ、緩んでいる所がやはりあるようね」

加奈「風香ちゃん、大丈夫?」

風香「うん、木場さんが止めてくれたし……」

真奈美「おしゃべりも良いが、足元にも気をつけるんだぞ」

加奈「はい!行こう、風香ちゃん」

のあ「仲がいいのね、あの二人は」

真奈美「昔は同じマンションに住んでた幼馴染だったらしいぞ。親の事情で離れたが、高校でまた一緒になったそうだ」

のあ「そう。それはいい事ね」

真奈美「みんな仲の良いクラスで良かった」

のあ「そうかしら?」

真奈美「なんだ?」

のあ「……いいえ、なんでもないわ」

まゆ「……」

星輪高校椋鳥山荘・駐車場

瑞樹「はい、お疲れ様でしたー!しばらく休憩です。次の集合時間は放送で流すから、その時まではゆっくりと休んでね。その後は特別授業だからよろしくねー。それじゃ、解散!」

真奈美「さて、これからどうする?」

のあ「あたりでも散策しましょうか」

真奈美「了解だ」

のあ「礼拝堂の後ろにある古い建物はなにかしら?」

クラリス「旧山荘ですよ。昔はあそこを使っていたようですね。小さな二階建てのですが、多くの人が一度に泊っていた、そう聞いています」

のあ「そう。今も使えるのかしら?」

クラリス「電気と水は通ってますし、使おうと思えば。今は倉庫代わりになってますが、掃除は定期的にしているようですね。今日も私がカギを開けて換気しております」

のあ「ありがとう。シスタークラリスはどちらにお泊まりで?」

クラリス「私は礼拝堂奥にある執務室におります。お探しの時はお訪ねください」

のあ「では、最後に。道を登っていたら何かあるの?」

クラリス「何があるのか、はたまた何も無いのか行って確かめてみたらいかがでしょうか。時には答えがわからないことも良いでしょう」

のあ「それもそうね。行きましょう、真奈美」

クラリス「お気をつけて」

廃神社

のあ「これは長い年月放置されてるようね」

真奈美「山荘からは歩いて5分だが、それくらいしか周りにないからな。昔はここに人が多くいたのか?」

のあ「昔はパワースポットとかでありがたがってここまで来る人も多くいたんじゃないかしら」

真奈美「そうかもな」

のあ「お稲荷さんの社もボロボロね。せっかく眺めがいい所にあるのに」

真奈美「電波も公共機関もないような所だからな、仕方がないさ」

のあ「そうね。もう少し上に行ってみましょう。川島先生が言っていた施設があるはずだわ」

温泉施設

のあ「神社から約3分、5年も経ってない建物」

真奈美「カギがかかってるな。星輪高校の持ち物なのか」

のあ「湯量はあまりないと言ってたわね。施設案内も入れて3人入れるくらいの湯船しかないようね」

真奈美「でも、完全な天然温泉だろ?」

のあ「らしいわ。使えるとか言ってたし、そもそも教師陣の目的はこっちよ」

真奈美「ついでに授業もするのか」

のあ「そうみたいよ。明日は数学と英語で夕方まで潰れるとか、まゆが言ってたわ」

真奈美「大変だな」

のあ「学べる今のうちが花よ」

真奈美「そうだな。もう少し上まで行ってみるか?」

椋鳥滝

真奈美「道の終わりからしばらく歩いて、この滝に出るのか」

のあ「神社と同じくらい放置された看板がなかったら、見落としていたわ」

真奈美「道自体は間違いようもないくらい一本道なんだけどな」

のあ「名前は椋鳥滝、のようね」

真奈美「なんで椋鳥なんだろうな」

のあ「わからない。多く居たのかしらね。少なくとも山荘の名前はここが由来なのは間違いないと思うわ」

真奈美「まぁ、そんなもんか。どこにでもありそうな感じだしな」

のあ「そんなに気張って見に来るところでもないわね。もう少し暑くなったら、水浴びをしてもいいかもよさそう」

真奈美「確かにな、滝壺もそんなに深くないみたいだし」

のあ「ここで終点かしら?」

真奈美「そうみたいだな。どうする?」

のあ「雨が降り出しそうだし、帰りましょう」

真奈美「了解だ。夕食の準備もあるから、帰るとしよう」

星輪高校椋鳥山荘・1階ロビー

加蓮「まずい、ギリギリだ。おっとっと、すみません!」

のあ「そこまで焦らなくても」

加蓮「川島先生、結構厳しいんだよ」

のあ「そうなの?」

加蓮「普段は優しいんだけどさ、マナー講座の時とか人が変わる、っていうか」

蓮実「北条さん、間に合いませんよ」

加蓮「しまった。それじゃ」

蓮実「……まったく」

のあ「……?どうしたの?」

蓮実「いいえ、なんでもありませんよ。それでは」

のあ「……」

真奈美「おーい、のあ!」

のあ「なに?わざわざ階段の上から言わなくてもいいじゃない」

真奈美「降りて来たんだから文句を言うな。さっさと着替えて手伝ってくれ。汗が気になるなら一階のシャワーを使っていいらしいぞ」

のあ「わかった」

真奈美「準備出来たら、一階の東側の部屋に来てくれ」

のあ「ええ」

瑞樹「あら、お疲れ様」

のあ「これから授業ですか?」

瑞樹「せっかくまとまった時間がとれるから、淑女を目指したスペシャルコースよ」

真奈美「それは大変そうだ」

瑞樹「一緒に受けますか?」

のあ「食事の準備があるので」

瑞樹「あ、そうでしたね。下準備をお願いしますね」

真奈美「任せてくれ」

瑞樹「ふふ、真奈美さんがいるなら全部任せてもいいかも。それじゃ、失礼いたしますわ」

のあ「……服装もメイクも変わってたわね」

真奈美「北条さんが言ってたのも嘘じゃないのか。心なしか喋り方も違うし」

のあ「マナーの先生って、なんであんなに怖いのかしら」

真奈美「さぁ?なんかトラウマでもあるのか?」

のあ「……ちょっとね。昔に嫌なことがあったのよ」

真奈美「へぇ、聞かせてくれよ」

のあ「……そのうちね」

椋鳥山荘・1階東側

麻理菜「木場さん!食材は全部ありましたか?」

真奈美「あったぞ。そろそろ下準備をしないといけないな」

麻理菜「ええ。段取りはお任せしますので作業に取り掛かってもらっていいですか?」

真奈美「了解だ」

麻理菜「私もすぐに取り掛かりますから!」

のあ「東側1階はキッチンと和室だったのね。内階段もある」

真奈美「おお、やっと来たか。なにしてたんだ?」

のあ「アッキーと遊んでいたら、思ったより時間が過ぎてたわ。犬も悪くないわね」

真奈美「猫派だと思ってたんだが」

のあ「そうね、猫派ではあると思うわ。でもね、真奈美、勘違いしないで」

真奈美「何をだ?」

のあ「みくにゃんは、そういう段階を飛び越しているのよ。そう、人や猫では計り知れない魅力を持つのが……」

真奈美「長くなりそうだからやめよう。手を洗って準備してくれ」

のあ「そう、残念。何をすればいいの?」

真奈美「野菜を切ってくれ。出来るよな?」

のあ「……」

真奈美「切るだけだぞ。料理は出来ないのは知ってるから」

のあ「久しぶりすぎて緊張するわ。何を切ればいいの?」

真奈美「とりあえず、タマネギを」

のあ「タマネギ……」

麻理菜「よいしょ!豚肉も持ってきました」

のあ「ニンジン、タマネギ、豚肉、大きな鍋が二つ、そして、粉末状の何かが詰まったビン。これから導き出される結論は」

真奈美「そんな仰々しく言わなくても。ただのカレーだよ」

のあ「カレー、良い響きね」

麻理菜「よし、準備しましょう!」

こら、堀さん!はしたない!

のあ「あっちも頑張っているようね」

真奈美「大変そうだ。せめてご飯くらいは良い物を提供してあげないとな」

椋鳥山荘・1階ロビー

裕子「うう、珠美殿、私はもうダメだ……」

珠美「裕子殿、諦めてはいけません!」

裕子「犯人は、カワシ……ガクッ」

珠美「裕子殿ー!」

忍「……なにやってるの?」

裕子「鬼教師カワシマにこってりやられた今の心境をメロドラマ風に表現しました」

珠美「珠美は、なんとなく流されました……」

蓮実「ふふ、面白いですね」

忍「……あっそ」

蓮実「?」

のあ「くっ、やられたわ……」

まゆ「の、のあさん、目が真っ赤ですよ!」

のあ「まゆ、良かった、伝えて」

まゆ「なんですか……?」

のあ「私、タマネギに弱かったみたい。あと意外と涙腺がもろいわ……」

まゆ「……」

忍「なんで、三問芝居を二つ続けてみないといけないんだろう……」

裕子「むむ!サイキックレーダーが反応!カレーのニオイがします!」

忍「あ、復活した」

瑞樹「今日は私特性のスパイスブレンドよ!真奈美さんが微調整してくれるし、大量炊飯なら沢田先生がいるし、いいものが期待できるわよ!」

裕子「ユッコ、感激!」

のあ「……古すぎないかしら」

蓮実「蓮実、感激!……えへへ」

のあ「あなたもなのね……」

忍「……」

瑞樹「わかるわ。さーて、私も手伝いに行かなきゃ!みんな、今日の授業はお疲れ様!特に、堀さん、頑張ったわね。普段は、いつもの堀さんでいいけど、マナーを守る所はきっちりとね」

裕子「ありがとうございます!」

瑞樹「ふふ。それじゃ、待っててね。準備ができたらアナウンスするわ!」

椋鳥山荘1階・大教室

クラリス「私達は今ここに食事を頂きます。神に祈りを、神と地より与えられた惠に喜びを、この食事を与えてくださった人々の勤労に感謝を。アーメン。いただきます」

みんな「いただきまーす!」

クラリス「優しい味のサラダ、食欲を増進するスパイス豊富なカレー、そして、大盛りのご飯。なんと幸せなことでしょう」

真奈美「一口が大きいなぁ……あの盛り方であってたのか」

クラリス「ありがとうございます。炊きたてのご飯は私にみなぎる力をくださいます」

のあ「……見かけによらず和風なのね」

瑞樹「シスタークラリスは日本生まれの日本育ちですものね。どうですか、今日のカレーは?」

クラリス「非常に美味しいです。おかわりをいただきたいほどに」

瑞樹「まぁ!そんなに多くはありませんが、どうぞどうぞ!」

裕子「むふー、カレーと言えばスプーン。見ててください、エスパーユッコのスプーン曲げを!」

まゆ「あらぁ」

藍子「相変わらず腕の力で曲げてるね……」

のあ「真奈美、お手本を見せてあげなさい」

真奈美「なんで私が」

のあ「出来るでしょう?」

真奈美「まぁ、出来るんだけどな」

裕子「本当ですか、師匠!?」

真奈美「よーく見てろ、こうだ!」

まゆ「おぉー」

藍子「わー!」

裕子「おおー!ご教授ください!」

智絵里「……凄い指に力が入ったのが見えたような」

加奈「スプーン曲げって、指の力でやるものらしいよ」

智絵里「そうだったんだ……」

加奈「だよね、風香ちゃん?」

風香「……」

加奈「風香ちゃん?」

風香「あ、ごめんね」

加奈「疲れちゃった?」

風香「ううん、違うよ。ありがと、加奈ちゃん」

瑞樹「こら!食べ終わってもいないのに、スプーンで遊ぶんじゃありません!」

裕子「す、すみません!」

クラリス「すみません、おかわりを」

瑞樹「はいはーい、待っててくださいね!高峯さんもいりますか?」

のあ「ありがとう。でも、遠慮しておくわ」

千早「珠美さん、一杯食べないと大きくなれませんよ」

珠美「千早さんこそ」

千早「……どういう意味かしら?」

珠美「ち、違います!そんな意味はありませんから!」

のあ「ふふ。楽しいクラスね」

まゆ「そうですねぇ……」

のあ「まゆは、どう?」

まゆ「大好きですよ。とっても楽しいです、藍子ちゃんもいるし」

藍子「私も楽しいよ、まゆちゃん」

のあ「私も、こんな学校生活がしたかったわ」

まゆ「のあさん……」

のあ「でも、今が楽しいからそれでいいのよ、まゆ」

まゆ「……はい」

椋鳥荘1階・大教室

クラリス「食事を頂き、今私は心は豊かに、体は力を得ました。己が務めを果たし、惠を与えたもうた主に報わん事を。アーメン。ごちそうさまでした」

みんな「ごちそうさまでしたー」

瑞樹「はい!今日はこれから自由時間です!大浴場の準備は出来てますか、柳先生」

清良「ええ」

瑞樹「ということで、お風呂に入りたい人は入ってね。消灯時間は10時だから、そこまでには部屋に戻るように、いいわね?」

みんな「はーい」

瑞樹「よろしい。それじゃ、コイバナでもなんでもしてねー」

まゆ「もう、川島先生ったら……」

のあ「お風呂は山荘にあるやつよね?」

真奈美「私達と先生方は上の温泉を使っていいとよ」

のあ「あら、それは喜ばしい」

まゆ「えぇー、ずるいですよぉ、のあさん」

のあ「ふふ、また今度ね。真奈美が広い温泉を探してくれるわ」

真奈美「私任せが過ぎるぞ、のあ」

のあ「費用は全部出すわ」

真奈美「早く言え。わかった、検討する」

藍子「……お金って怖い」

椋鳥山荘・1階ロビー

まゆ「あらぁ、のあさん、真奈美さん、どちらへ?」

のあ「上の温泉へよ。まゆは?」

まゆ「まゆはトイレに来たところです。1階にしかないのって不便ですよね」

のあ「そう。あなたも行く?」

まゆ「お風呂に入っちゃったから遠慮しますね。そろそろ消灯時間だから、お部屋に戻ります」

のあ「わかったわ、おやすみなさい」

真奈美「おやすみ」

まゆ「おやすみなさーい♪」

のあ「さて、大人は長い夜を楽しむことにしましょう」

真奈美「佐久間君には悪いがな」

のあ「さて、行きましょう。雨が強くなる前にね」

温泉施設

のあ「いいお湯だわ……」

真奈美「ふむ、手狭ではあるが、いいお湯だ」

のあ「10時は過ぎたみたいね」

真奈美「ああ、帰ったら暗いだろうな。雨も強くなりつつあるし」

のあ「時間を気にしても仕方がないわね」

真奈美「せっかくの機会なんだ、楽しめ」

のあ「そうね。たまには全てを忘れて、頭を休めた方がいいわね」

真奈美「ああ。気になることは色々とあるだろうけどな」

のあ「古澤頼子の事とか、ね」

真奈美「進展はあったのか?」

のあ「ないわ。あれからというもの影すらつかませない」

真奈美「高橋署長から連絡は?」

のあ「いいえ。何者なのかしら。名前も本名とは思えないし、手掛かりはないようなものよ」

真奈美「……むぅ」

のあ「今は忘れましょう。せっかくの温泉だもの」

幕間

頼子「皆様、ごきげんよう」

頼子「先日も言いました通り、マンション火災では多くの人が死に至りました。しかし、それだけでは終わりませんでした」

頼子「火元はとある一室のタバコ。消し忘れて灰皿に放置していたことが原因でした。普通なら家事には至らないでしょう。しかし、不幸は重なった。ガス漏れが起こっていたから」

頼子「その事実は、ある警察官の活躍によって突き止められました」

頼子「しかし、そのおかげで、家族はどこにも行きようのない怨嗟を一身に受けることになりました。そして、一家は離散した」

頼子「ある警官は悩んだようですね。そして、その悩みが解決しないまま、ある警官も凶刃に倒れた」

頼子「目に見えない所でも不幸は続く。その悪意、憧れます」

頼子「今宵はこれまで。雨が強くなり、そして良い夜になりますように」

幕間 了

おお、来てるじゃん
と思ったら登場人物増えたなおい。出演料どんだけやん
画像が多分ないと思うので貼れる人がいたら他もはってちょうだい

古澤頼子(17)
http://i.imgur.com/D3sKjs6.jpg?1
佐久間まゆ(16)
http://i.imgur.com/QSykdnv.jpg
木場真奈美(25)
http://i.imgur.com/TbANLp9.jpg
高森藍子(16)
http://i.imgur.com/BiICExF.jpg
高峯のあ(24)
http://i.imgur.com/qeWQ5ot.jpg
クラリス(20)
http://i.imgur.com/mBOTE3H.jpg
川島瑞樹(28)
http://i.imgur.com/wZ6QfXa.jpg
相川千夏(23)
http://i.imgur.com/KLJSKoK.jpg
篠原礼(27)
http://i.imgur.com/SKw1uY0.jpg

服部瞳子(26)
http://i.imgur.com/T4Pqgkb.jpg
沢田麻理菜(26)
http://i.imgur.com/fxax6Rv.jpg
柳清良(23)
http://i.imgur.com/Fs2g65z.jpg
如月千早(16)
http://i.imgur.com/yhUIVgq.jpg
脇山珠美(16)
http://i.imgur.com/QwRPt8J.jpg
長富蓮実(16)
http://i.imgur.com/pcJVjT0.jpg
工藤忍(16)
http://i.imgur.com/djwRxxG.jpg
北条加連(16)
http://i.imgur.com/5yMe1uZ.jpg
浅野風香(16)
http://i.imgur.com/0oEPfCV.jpg
今井加奈(16)
http://i.imgur.com/W87FxQu.jpg
緒方智絵里(16)
http://i.imgur.com/TSpiOey.jpg
岡崎泰葉(16)
http://i.imgur.com/Z3ysp6R.jpg
堀裕子(16)
http://i.imgur.com/GnMyZI0.jpg

椋鳥山荘・駐車場

のあ「雨が強くなってきたわね」

真奈美「そうだな。随分と暗くなってきたな」

のあ「そうね。やはり、早いうちに寝ましょう。朝食の準備もあるんでしょう?」

真奈美「その通りだ。ちょっと待て」

のあ「なに」

真奈美「階段」

のあ「……緒方智絵里?なにしてるのかしら、傘も持たずに」

真奈美「ま、たまには冒険したい年頃だろう」

のあ「肝試しとか?」

真奈美「そんな所じゃないか。懐中電灯持ってたろ?」

のあ「持ってたわね」

真奈美「無事に帰ったので、不問にしようじゃないか」

のあ「ええ、わかったわ。私達も部屋に戻りましょう」

椋鳥山荘・3階東側ツインルーム

のあ「真奈美、飲み物を買ってくるわ。何か飲みたいものある?」

真奈美「飲み物?どこに?」

のあ「1階に自動販売機があるわよ」

真奈美「そうなのか。ミネラルウォーターを頼む」

のあ「わかったわ。あと、テレビはつかないわよ」

真奈美「なんだ、そうなのか。仕方がない、寝るか。11時も過ぎたしな」

アッキー「zzz……」

のあ「行ってくるわ」

椋鳥山荘・1階ロビー

のあ「ミネラルウォーター、っと。ふむ、お堅いお嬢様学校だけあって炭酸飲料はないのね……」

加奈「あっ」

のあ「こんばんは。あなたも飲み物を買いに来たのかしら」

加奈「そ、そうです」

のあ「嘘ね。サイフも持ってないみたいだし」

加奈「……そうです」

のあ「責めるつもりはないわよ。ご馳走しましょうか」

加奈「いえいえ、とんでもないです。あの、風香ちゃん見ませんでしたか?」

のあ「浅野風香?見てないけれど」

加奈「その、こんなことだめなんですけど、消灯後に部屋で会おうって、言ったのに、いなかったんです」

のあ「ロビーには?」

加奈「いませんでした」

のあ「別の部屋は?」

加奈「電気が消えてるから、みんな寝てるのかな」

のあ「ふむ、ならどこへ……」

キャー!

のあ「まゆ!?」

加奈「ひ、悲鳴!」

のあ「外の方から聞こえたわ。加奈さん、真奈美を呼んできて」

加奈「わ、わかりました!」

のあ「旧館、電気がついてる」

テレビはあるのか。荘内放送用かビデオの貸出しでもあるのか
それともワンセグの事か

椋鳥山荘・旧館

まゆ「風香ちゃん、風香ちゃん!」

のあ「まゆ!」

まゆ「の、のあさん、まゆじゃない、まゆじゃないんです!」

のあ「まゆ、その手、血まみれ、よ」

まゆ「違う、違うんです!」

のあ「落ち着きなさい」

まゆ「違うんです、殺したのはまゆじゃない、信じて、のあさん!」

のあ「落ち着きなさい!」

まゆ「……だって」

のあ「私はあなたを疑ったりしないわ。だから、落ち着いて」

まゆ「……はい」

のあ「浅野風香……」

のあ「呼吸停止、瞳孔拡大、心停止、死んでいるのは間違いない、か」

のあ「まゆ、手を見せて」

まゆ「……」

のあ「大丈夫だから、ね?」

まゆ「……うん」

のあ「いい子ね。乾ききっていない血がまゆの両手に付着している。付着しているのは、掌の方だ」

まゆ「あの、のあさん……」

のあ「少しだけ待っていて」

のあ「浅野風香の死因はおそらく背中に突き刺されたナイフ。犯人の手形とおぼしきものがついている、血のおかげで」

真奈美「のあ!」

のあ「真奈美、警察に連絡を。浅野風香が殺されたわ」

真奈美「本当か……」

のあ「見ればいいじゃない」

真奈美「わかった。他には?」

のあ「全員の安否の確認を。そして、監視を」

真奈美「……さらりと言うなよ」

のあ「もう一つ、まゆを連れて行って」

まゆ「……」

真奈美「佐久間君、その手……」

まゆ「真奈美さん、殺したのはまゆじゃない……」

のあ「わかってる。少しだけ落ち着いて、まゆ。真奈美、血は取ってあげていいわ」

真奈美「いいのか?」

のあ「いいわ。急いで」

真奈美「了解。行くぞ、佐久間君」

まゆ「……はい」

のあ「さて、と」

のあ「事件現場は旧館一階。土作りの玄関を入った先の和室。浅野風香はナイフで背中を刺されて、死亡していた」

のあ「外傷は背中に突き刺さったナイフ。他は見当たらないことから、死因はほぼこれと断定」

のあ「ナイフは突き刺された後に左周りに多少ひねられている。犯人には明確な殺意」

のあ「死体は和室に横向きに倒れていた。吹き出た血が和室と浅野風香を濡らしている」

のあ「浅野風香に触れた形跡がある。誰かが触れたため、血に手形がついている」

のあ「その誰かは、その後に叫んだ。それはそうでしょう、彼女は死体を見たことはないはずなんだから」

のあ「物音」

加奈「風香ちゃん……」

のあ「今井加奈、見ない方がいいわ」

加奈「どうして、風香ちゃんが死んでるの……」

のあ「今井加奈!しっかりなさい」

加奈「なんで、風香ちゃんまでこんな目に会わないといけないの!」ダッ

のあ「待って、今井加奈!」

のあ「気になることが増えてしまった。真奈美に連絡を……ケータイ電話が使えないのよね」

クラリス「……」

のあ「シスタークラリス」

クラリス「息はあるのですか……」

のあ「残念ながら」

クラリス「……神よ、哀れな御霊を救い給え」

のあ「シスタークラリス、彼女達を山荘から外に出さないように、手伝っていただけますか」

クラリス「かしこまりました。夜道は危険ですから」

のあ「よろしくお願いします。すみませんが、ひとつだけ。先ほど争うような声などは聞きましたか?」

クラリス「いいえ。聞こえたのは佐久間さんとあなた、木場さん、それと今井さんのものだけです」

のあ「ありがとう」

クラリス「行って参ります」

椋鳥山荘・旧館

のあ「特に争った様子はない。後ろから刺された、それだけのようね」

のあ「しかし、誰が」

のあ「いや、まだだ。この状況から可能な限り読み取れ」

のあ「旧館と山荘は階段でつながっている。礼拝堂は隣。移動するならば、誰かに見られる可能性もある」

のあ「だが、中に入ってしまえば別。わざわざ人が来る理由がないうえに、山荘と礼拝堂から共に中の様子は見えにくい」

のあ「浅野風香の死体の付近に懐中電灯。犯人が利用と推測」

のあ「暗闇の中でナイフ一閃。避けられはしないでしょう」

のあ「しかし、今は電気が付いている。スイッチは、ここね」

のあ「……スイッチに血が付いてる」

真奈美「のあ、警察に連絡は付いたぞ!」

のあ「到着までどれくらい?」

真奈美「ざっと見積もって30分」

のあ「そこまでは何とかしましょう。まゆは?」

真奈美「浴場で血を洗ってる。川島先生と柳先生が付き添いだ」

のあ「正解。少なくとも一人にさせてはダメよ」

真奈美「他の人は、大教室に集めた。シスタークラリスが見てくれてる」

のあ「今井加奈は?」

真奈美「酷く動揺してるが、大教室にはいる。受け答えも出来てる」

のあ「そう」

真奈美「のあ、何があった?」

のあ「ここで起こった事は単純よ。浅野風香が不意打ちで背中を刺されて殺された、それだけ」

椋鳥山荘・1階ロビー

のあ「雨が強くなってきたわね」

真奈美「いいのか、現場はそのままで」

のあ「何をしてもいけないわ。ナイフも残っている以上、久美子でも来ればすぐにこの事件は解決するでしょうし」

真奈美「しかし、あの子達になんて説明する?」

のあ「……それは雰囲気を見てから考えるわ」

瑞樹「高峯さん!」

のあ「川島先生」

瑞樹「浅野さんの様子はどうなんですか!ねぇ、どうなんですか!」

のあ「落ち着きなさい」

瑞樹「落ち着いていられるわけないでしょう!だって、私の、私の大切な生徒が殺されたのよ!」

のあ「……わかっている」

瑞樹「一体誰が、もしかして、部外者が潜んでるんじゃ……」

のあ「真奈美、調べたかしら」

真奈美「先生方と分担して調べたよ。誰かが山を登ったとかそんな話はないぞ。そもそも、この山荘は一本道でそこに入る車でもない限り、他人は来ない」

瑞樹「そう、いや、待って、でもそれって、まさか、私達の中に犯人がいるってことじゃない!」

のあ「そんなことは言ってないわ」

瑞樹「探偵さんは事件が起きて、むしろウキウキしてるんじゃないかしら、いい御身分なことね」

のあ「……違うわ」

瑞樹「なにがよ。そんなに落ち着きはらって!」

のあ「聞くわ。今、誰が犯人だと思う?」

瑞樹「誰って……」

のあ「血まみれの手を見てるでしょう。そう思ってるんじゃないかしら」

瑞樹「……佐久間さんが、そんな、いやでも」

のあ「これは意地よ。同居人が疑われる状況下になるのは間違いないでしょう。だからこそ、いくらでも冷静になるわ」

瑞樹「……高峯さん」

のあ「真犯人を見つけ出す、必ず」

椋鳥山荘・大教室

真奈美「良い雰囲気になるわけはないが、それでもな」

のあ「まゆ含めて、全員いるわね。真奈美は入口で待ってなさい」

真奈美「了解。どうするんだ?」

のあ「どうもしない、今の状況を説明するだけよ」

藍子「高峯さん、あの」

のあ「何?」

藍子「いえ、なんでもないです。何があったんですか」

のあ「今から言うわ。みんな、聞いてちょうだい」

智絵里「……」

のあ「単刀直入に言うわ。浅野風香が殺されたわ」

加奈「風香ちゃん……」

のあ「場所は旧館、おそらく死因は背中に刺されたナイフ」

加蓮「……」

のあ「聞かせてちょうだい、犯人につながることを」

裕子「それって、犯人がこの中にいるってことですか!」

のあ「そうは言ってないわ」

裕子「そうですよね、このクラスに人殺しなんて出来る人はいません!」

加蓮「……本当に、そうかな」

裕子「えっ、何ですか、加蓮ちゃん」

加蓮「いるんじゃないの。ねぇ、岡崎さん」

泰葉「北条さん、何を言ってるんですか」

加蓮「別に。あなたが恨んでて、それで殺しちゃったとか」

蓮実「……あなたが言える立場なの」ボソ

泰葉「デタラメなことを言わないで。疑うなら、他にもいるのに。一番怪しいのは佐久間さんでしょう」

まゆ「違います!」

泰葉「どうだか。あの人、探偵さんと共犯だって、おかしくないのに」

まゆ「……違う」

泰葉「信じれない。でも、他にも汚い手段が好きな人もいるみたいだし」

千早「なぜ、私を見るのかしら」

泰葉「ふん」

千早「岡崎さん、言いなさい」

泰葉「いいんですか。あなたは誰かを殺したんでしょう」

千早「……あれは事故だったのよ」

泰葉「不幸な事故だったの、本当に?」

智絵里「泰葉ちゃん、やめたほうが……」

千早「何が、言いたいの」

泰葉「あなたが、そういう人だってことよ」

千早「岡崎さん、言っていい事と悪い事があるわ!」

藍子「待って、こんな時に言い争っても……」

千早「あなたは黙ってなさい、高森藍子!」

藍子「……うぅ」

珠美「千早殿、落ち着いてください!」

裕子「そ、そうですよ!」

千早「優……」

のあ「今井加奈、聞いてもいいかしら」

加奈「……なんでしょうか」

のあ「この中に、浅野風香に恨みを持つ者はいるの」

加奈「……」

忍「いるの……?」

のあ「……わかったわ。言わなくていい」

ガラガラガラ!!

のあ「なんの、音?」

麻理菜「土砂崩れの可能性があるわ!見てくる!」

のあ「真奈美、行きなさい!」

真奈美「了解だ!」

のあ「これからは絶対に一人で行動しないこと。ロビーに一人以上の人を置くから、何かあったらすぐに言いなさい、いいわね。川島先生」

瑞樹「なんでしょうか」

のあ「電話が鳴ってるわ。受けてきて、服部先生、同行を」

瞳子「わかりました」

加蓮「聞いていい、探偵さん?」

のあ「どうぞ」

加蓮「佐久間さんは犯人じゃないの?」

のあ「私のやることは、犯人を見つけることよ」

加蓮「否定はできないのね」

のあ「……」

加蓮「わかった。そういうことなんでしょ。殺されないように、気をつけるわ」

まゆ「……のあさん」

瑞樹「なんですって!車が入って来れない、って!殺人が起こってるのよ!私達を殺人犯と閉じ込めるってことなのよ!わかってるの!」

のあ「……全部聞こえたわよ」

真奈美「のあ!土砂崩れだ。登る道がすべて塞がれた」

のあ「真奈美、川島先生と電話を替わりなさい」

真奈美「了解」

のあ「あなた達は部屋に戻りなさい。絶対に一人では移動しないこと、いいわね。ロビーに一人以上は人を置くから、絶対に人目があることを理解しなさい。以上よ」

椋鳥山荘・3階ロビー

真奈美「コーヒー入れたぞ、飲むか?」

のあ「いただくわ。状況は?」

真奈美「道は完全に塞がれた。警察の車両は入って来れない」

のあ「徒歩では入れそう?」

真奈美「無理そうだ。ただでさえ雨が強いうえに、もともと斜面が急だ。2次遭難の危険がかなり高い」

のあ「一人でも増えればよかったのだけれど。警察がいれば安心もするでしょうし」

真奈美「無理なものを期待してもしかたない」

のあ「どれぐらいで道は復旧しそう?」

真奈美「明後日の昼までには。雨次第ではあると思うが」

のあ「長いわね」

真奈美「ロビーの待機要員は決まったか?」

のあ「ええ。しばらくしたら、3階には沢田先生と篠原先生が来るはずよ。今は2階に相川先生、1階にもシスタークラリスがいるわ」

真奈美「ふむ。それで、犯人の目星は?」

のあ「まだ付いていないわ。今から話を聞きに行く所よ」

真奈美「……佐久間君が犯人という可能性は」

のあ「状況からしても、安易に考えるならそうでしょうね」

真奈美「……違うんだな」

のあ「おそらく、既に死んでいたのは間違いないからよ」

真奈美「理由は?」

のあ「血の乾き方。でも、油断はしない方がいいわ」

真奈美「何があった?」

のあ「旧館に電気ついてたわよね?」

真奈美「ああ」

のあ「スイッチに血がついてたのよ。単純に考えれば、両手が血に濡れた後に触れたと考えるのが妥当でしょう」

真奈美「佐久間君を犯人と考えるには、楽な根拠だな」

のあ「誰かが浅野風香を殺したのは間違いない。だけれど、それ以上の何かがこの事件にねじ込まれているわ」

真奈美「何か、か」

のあ「先生方が来たようね。行くわよ、真奈美」

椋鳥山荘3階・如月千早の部屋(北側西)

千早「解散後に何をしていたか、ですか?」

のあ「ええ」

千早「そうですね、一度部屋に戻って、すぐにお風呂に入りました。ちょうど、緒方さんと一緒だったかしら」

のあ「そう。その後は?」

千早「ずっと部屋にいました。音楽を聞いていたんです」

のあ「何か、物音とか気になる人の動きとかは?」

千早「特にはありません」

のあ「消灯時間後は外へ出た?」

千早「いいえ。寝ることも大切なトレーニングですので」

のあ「浅野風香が殺された理由に心あたりはある?」

千早「……ありません。いくら恨んでいても、人殺しなんてするでしょうか」

のあ「……私にはわからないわ」

千早「恨んでも憎んでも、過去は変わりませんよね。だから、そんなことするなんて、無意味だと思いませんか」

のあ「そうね。でも、止めらない感情くらいあるでしょう」

千早「……そうですね。今でも、時々思い出しますから」

のあ「岡崎泰葉との仲は?」

千早「私ですか?なぜか避けられています。まさか、あんなこと言われるなんて……」

のあ「支障がないなら、詳しく聞かせてちょうだい」

千早「昔の話です。私、妹がいたんです。事故で、亡くなってしまいました」

真奈美「……辛いなら言わなくてもいいんだぞ」

千早「言われない誹謗も受けました、でも本当は……」

のあ「本当は?」

千早「やめましょう。何でもないですから」

のあ「……そう」

千早「はやく犯人を見つけてください」

のあ「最後に聞くけど、犯人は誰だと思うかしら」

千早「……わかりません。でも、佐久間さんを発見者に出来るような人だと、思います」

のあ「ありがとう。お邪魔したわ」

椋鳥山荘3階・堀裕子の部屋(南側西)

裕子「むー」

のあ「落ち着かないわね」

裕子「大弱りです……」

のあ「どうして?」

裕子「殺人が起こって、今こそ協力する時なのに、あんなこと言うなんて」

のあ「予想してた?」

裕子「知らなかった。みんな仲良かったから……」

のあ「そう。堀さんは、食後は何をしてたの?」

裕子「えーっと、そうそう忍ちゃんと加蓮ちゃんとトランプをしてたんですよ」

のあ「どこで、どのくらい?」

裕子「この部屋です。9時過ぎには終わりにして、お風呂に入りました」

のあ「他に誰かいた?」

裕子「忍ちゃんと加蓮ちゃんが一緒だったけど、他の人はいなかったような」

のあ「わかったわ。浅野風香について知ってることは?」

裕子「風香ちゃんは、本が好きな大人しい子でした……殺される理由があるとは思えません」

のあ「犯人に心当たりはある?」

裕子「ありません!きっと、侵入者がいるんです!……そうだったら、いいのに」

のあ「……そうね。堀さんは消灯後は何をしてた?」

裕子「サイキック予知夢の訓練中でした。急に起こされてビックリしました」

真奈美「寝つきがいいんだな……」

椋鳥山荘3階・北条加蓮の部屋(南側中)

加蓮「お風呂にいつ入ったか?9時過ぎだったかな。それまではユッコの部屋で忍とトランプしてたよ」

のあ「誰かとすれ違った?」

加蓮「自動販売機の前に、礼先生がいるのを見たぐらいかな。お風呂の帰りはユッコと忍の二人と一緒だったけど、誰にも会わなかった」

のあ「そう。消灯後は?」

加蓮「どこにも出てないよ。大人しく寝てた、疲れてたし」

のあ「教室で言ったのはどういう意味?」

加蓮「……どっちのこと?」

のあ「まゆの話はいいわ。私が共犯と思われようが、あなたの身が危険に及ばなければ、それでいい」

加蓮「良かった。じゃあ、岡崎さんのことね」

のあ「そう。何か、犯人に心あたりがあるの?」

加蓮「犯人に心当たりがあるわけじゃないの。でも、岡崎さんはやりかねない」

のあ「どういうこと?」

加蓮「あの子、元子役ってこと知ってる?」

のあ「さっき真奈美から聞いたわ」

加蓮「そのね、言えないこともやってたんだって」

のあ「それは本当なの?」

加蓮「……私の友達はね、それで夢が断たれたんだよ」

のあ「……そう」

加蓮「でも、殺人犯呼ばわりは酷かったかな」

のあ「後で謝りましょう。浅野風香にそんな感情を持っている人はいる?」

加蓮「……いないと思う。でも」

のあ「でも?」

加蓮「人を恨むのも、人に恨まれるのも、いつどこで起こるかわからない。誰が、何かを知ってしまって、変わってもおかしくないと思うよ」

のあ「わかったわ。それじゃ、おやすみなさい」

椋鳥山荘3階・工藤忍の部屋(北側中)

忍「トランプしてて、9時過ぎにお風呂に入ったよ」

のあ「誰と?」

忍「ユッコと加蓮ちゃん」

のあ「誰かが移動してる所を見た?」

忍「篠原先生と階段ですれ違ったよ。飲み物持ってたかな。あと、寝る前、トイレに行く時に、藍子ちゃんを見かけたよ」

のあ「高森さんは何をしてたの?」

忍「何をしてるわけでもなかったよ。普段もたまにぼーっとしてるから」

のあ「どこにいたの?」

忍「2階のロビー。紅茶でも飲んでたのかも」

のあ「そう。あなたはその後は?」

忍「部屋に帰ったよ。みんな疲れてるから、遊べるわけでもないし」

のあ「あなたは、浅野風香が殺された理由に検討はつく?」

忍「ううん、風香ちゃんが殺される意味なんてわかんない。そんなに恨んでたのかな……」

のあ「誰が犯人だと思う?」

忍「……言っていいの」

のあ「……ええ」

忍「犯人はまゆちゃんだと、思う」

のあ「……理由は?」

忍「だって、旧館に行く理由を持ってる人がいないから。目撃者を装って、とか良くあるパターンだし」

のあ「そうね」

忍「あとね、風香ちゃんとそこまで仲良くなかったの。なんというか余所余所しいというか」

のあ「そうなの?」

忍「気のせいだと思うけど」

のあ「……そう」

忍「ねぇ、探偵さん」

のあ「なに?」

忍「恨み過ぎて、殺人に至るのって普通のことなの?」

のあ「何件も見て来たわ。過去も未来も消し去るように、殺人とは重い行為なのよ」

忍「……わかった」

のあ「お邪魔したわ。次の事件は起こらないようにするから」

忍「……お願いします」

椋鳥山荘3階・今井加奈の部屋(北側東)

のあ「大丈夫?」

加奈「……大丈夫です」

真奈美「大丈夫には見えない。親友を失って辛いのはわかる。後にするか?」

加奈「いいえ、話します。話さないと」

のあ「わかったわ。まずは、夕食後の行動を教えてちょうだい」

加奈「部屋に戻りました。明日も授業があるから、予習をしようかなって」

のあ「いい心がけね。部屋の外には出た?」

加奈「お風呂に入る時だけ、かな」

のあ「何時くらい?」

加奈「9時より前でした」

のあ「その時、誰かを見た?」

加奈「行く時に、珠美ちゃんとすれ違いました。それくらいです」

のあ「そう。私と会ったのはその後ね」

加奈「はい。風香ちゃんとは部屋に戻る前に約束したんです。消灯後に風香ちゃんの部屋で会おうって」

のあ「約束は何時頃?」

加奈「11時過ぎぐらいに行くって」

のあ「行ったが、いなかったのね」

加奈「はい。カギは開いてて、電気もついてたから入ったのにいませんでした。それで、自動販売機かトイレかな、って思って……」

のあ「そこまでで浅野風香とは会っていないのね」

加奈「はい」

のあ「浅野風香の行動を知ってる人がいなくなる可能性があるわね」

加奈「……」

のあ「聞いていいかしら、浅野風香のことを」

加奈「……どうぞ」

のあ「出あったのは昔?」

加奈「小さい頃に同じマンションに住んでたんです。そこから、高校から一緒になって、また友達に」

のあ「あなたは現場に来た時に言ったわ、風香ちゃん、まで、こんな目に、と。何かあるの?」

加奈「……風香ちゃん、お母さんを亡くしちゃったんです」

のあ「親との死別は辛いわ。だけれど、それじゃそうは言わない。何があったの?」

加奈「火事があったんです」

のあ「火事?」

加奈「住んでたマンションが家事になったんです。その火元が、風香ちゃんのお母さんが残したタバコってわかって……」

のあ「誹謗や中傷があったのね」

加奈「私はそんなこともういいのに……まだ、恨んでる人がいるんだって」

のあ「あなたのご家族は」

加奈「うちは無事でした。でも、多くの人が死んで、もっと多くの人が悲しみを背負いました」

のあ「殺人は怨恨、だと」

加奈「わからない、わかりません……」

のあ「ありがとう、話してくれて」

加奈「まだ恨んでる人がいる、もしかしたら私も恨まれているのかもしれない、だって、私は誰も失わずに、ここにいるから……」

のあ「自分を卑下してはダメよ、今井加奈。恨みに溺れず、あなたは赦した。それはとても強い決断なの。誇りを持って」

加奈「……」コクリ

のあ「誰をも守り、犯人を見つけるわ。最後に、聞いていいかしら」

加奈「はい」

のあ「誰か心あたりはあるかしら」

加奈「……ありません」

のあ「ありがとう。ゆっくりとお休みなさい」

椋鳥山荘3階・佐久間まゆの部屋(南側東)前

のあ「まゆ、出て来てくれるかしら」

まゆ「……のあさん」

のあ「3階のロビーで話しましょう。真奈美もいるわ」

まゆ「……わかりました」

椋鳥山荘3階・ロビー

のあ「お疲れ様です」

麻理菜「お疲れ様」

礼「お疲れ様」

のあ「部屋から出た人は?」

礼「如月さんがトイレと飲み物を買いに行ったくらいかしら」

のあ「ありがとうございます。お二人も同席してくれると助かります」

麻理菜「まゆちゃん、ね」

のあ「お座りなさい、まゆ。何があったか、聞かせて」

まゆ「……はい」

のあ「順番を追いましょう。夕食後はどこにいたの?」

まゆ「お部屋にいました」

のあ「外には出てない?」

まゆ「お風呂に行った時と、寝る前に」

のあ「寝る前はすれ違ったわね。10時前といったところかしら」

まゆ「……はい」

のあ「その時、私達以外の誰かを見た?」

まゆ「いいえ」

のあ「そう。お風呂に行ったのはいつ?」

まゆ「8時半より前かな。藍子ちゃんを呼びに行って、一緒に行きました」

のあ「他に会った人は?」

まゆ「1階ロビーで、先生方4人と」

のあ「誰?」

まゆ「川島先生、相川先生、清良先生、服部先生の4人だったかな」

麻理菜「ちょうど温泉帰りと行きのところでしょうね」

のあ「他には?」

まゆ「いいえ」

のあ「本題に入るわね。どうして、あそこに?」

まゆ「消灯前に部屋に戻ったんです。でも、寝付けなくて起きてたら、ドアがノックされて」

のあ「ノック?」

まゆ「コンコンとかじゃなくて、ドンって感じで……」

のあ「ふむ。誰がノックしたかを見た?」

まゆ「……見てません。そのまえに、ドアの下から便箋が入れられたから」

のあ「実物はある?」

まゆ「これ、です」

真奈美「なんの変哲もない便箋だな」

礼「学校の備品ね。マナー講座で使うから、みんな持ってると思うわ」

のあ「のりづけすらされてないわね。開いていいかしら」

まゆ「どうぞ」

のあ「『11時に旧館に来い、でなければお前の大切な人が死ぬことになる』か。先に相談してくれれば良かったのに」

まゆ「……その、いつものイタズラかと思って。肝試しみたいな」

麻理菜「珠美ちゃんを怖がらせるのもほどほどに、って言ってるのに」

のあ「PCで作成、レーザプリンタで印刷したA4、紙は普通紙。ネットカフェだろうがどこでも作れるわね、これは」

まゆ「そのあとに、ドアを開けてみたんですけど、誰もいませんでした」

のあ「そうでしょうね。実際に向かったのは何時頃?」

まゆ「11時ちょうどくらい、でした」

のあ「私が部屋を出たより、少しだけ早かったのね」

まゆ「階段を降りて、旧館に行ったんです」

のあ「傘は?」

まゆ「持ってないので、濡れて行きました」

のあ「そうね。濡れてたわ。続きを」

まゆ「旧館の扉を開けて、電気をつけました」

のあ「場所はわかったの?」

まゆ「階段近くに電灯があるから、スイッチが近くにあるのを見つけて……」

のあ「そこで、浅野風香が倒れているのを見つけた」

まゆ「イタズラかと思って、和室に上がりました。それで、ナイフが刺さってるのを見つけて……」

のあ「触ったのね」

まゆ「本当に、血だなんて、触るまで実感がわかなくて、でも、本当に死体だってわかったら、怖くなっちゃって……」

のあ「もういいわ。ありがとう」

まゆ「……なんで、こんなことに、誰が」

のあ「最後に一つだけ聞いていい?」

まゆ「……なんでしょう」

のあ「スイッチに違和感は感じた?」

まゆ「……なんの話ですか?」

のあ「ありがとう。真奈美、先生方に話を聞いておいて」

真奈美「了解。のあは?」

のあ「少しだけ現場に行くわ。すぐ戻る」

椋鳥山荘1階・ロビー

のあ「真奈美、次第は?」

真奈美「先生方の行動はウラが取れたぞ。というか、基本二人で行動してて、部屋も相部屋だから相互にアリバイがあるぞ」

のあ「でしょうね」

真奈美「夕食後、柳先生と服部先生、川島先生と相川先生、篠原先生と沢田先生の順で温泉に行ってるな。私達はその後だ」

のあ「生活用品のある部屋だものね、動いてもいないのでしょう?」

真奈美「そうだ。見周りも行ってないようだし」

のあ「あの子達にそこまでの制約が必要はないものね。厳しく接する必要がない、そういう校風だものね」

真奈美「それが仇になった」

のあ「無理よ。殺人を警戒するなんて不可能だわ」

真奈美「そうだよな……」

のあ「シスタークラリスからはお話は?」

真奈美「シスタークラリス、私からお話してもいいですか?」

クラリス「どうぞ」

のあ「ここに座ってから、外に出て行った人はいますか?」

クラリス「一人だけ。あなただけですよ」

真奈美「シスタークラリスは礼拝堂の部屋に戻り、9時半から10時頃に山荘の浴場を利用したそうだ」

のあ「誰かと一緒になりましたか?」

真奈美「岡崎泰葉と同じになったそうだ。他は誰ともすれ違ってない」

のあ「まゆとは?」

クラリス「いいえ」

真奈美「こっちはこんなもんだ。そっちは?」

のあ「スイッチに血が付いていたわ。それに指紋が付いてた」

真奈美「つまり?」

のあ「血をつけたあとに、触った」

真奈美「佐久間君が後に来たことの証明になるか」

のあ「それと、ひとつ。真奈美、ナイフを両手で思いっきり突き刺す動作をしてみなさい」

真奈美「こう、か」

のあ「手の高さは?」

真奈美「のあの腰かその下、こんなもんだな。腰を落とすにも限界があるし」

のあ「犯人はそんなに背が大きくないわ。浅野風香よりも小さい、もしくはそれを偽装してる」

真奈美「浅野風香は私の見立てだと160センチくらいだぞ。そこまで大柄でもない」

のあ「それ以上に小柄な人が多いでしょう」

真奈美「……だな」

のあ「行くわよ。続きをするわ」

椋鳥山荘2階・長富蓮実の部屋(南側東)

蓮実「夕食後ですか?」ニギニギ

のあ「筋トレは止めなくてもいいわ」

蓮実「ありがとうございます。すぐに部屋に戻って、のんびりしてから、お風呂に行きました」

のあ「何時頃?」

蓮実「9時よりは前だったような」

のあ「誰かと一緒になった?」

蓮実「お風呂場では珠美ちゃんと一緒でしたよ。出るのもほぼ一緒だったかな」

のあ「他に誰かを見た?」

蓮実「いいえ。今日はお部屋でみんな大人しくするって」

のあ「そうね。その後は?」

蓮実「部屋に戻りました。寝る時間が人より早いから、もう寝てました」

のあ「わかったわ。浅野風香を殺した犯人に心当たりはある?」

蓮実「……」

のあ「なにかあるの」

蓮実「風香ちゃんが殺される理由なんて思い浮かびません。けど」

のあ「けど?」

蓮実「……私は」

のあ「言いにくいことなら……」

蓮実「私は、人を恨む理由があります」

のあ「浅野風香を?」

蓮実「……違います」

のあ「あなたは、それを行動に移すつもり?」

蓮実「そんな気はありません。でも、いつか、正しい手段で」

のあ「正しい手段、ね」

蓮実「人殺しなんて絶対にしませんから」

のあ「信じるわ」

蓮実「……探偵さん、私が恨んでるように私も誰かに恨まれているんでしょうか」

のあ「……わからないわ」

蓮実「その時は、守ってください」

のあ「約束する」

椋鳥山荘2階・浅野風香の部屋(北側東)

真奈美「大人しい子だと思ったが、中に激情を抱えてるんだな」

のあ「誰の話かしら」

真奈美「長富蓮実だよ。あんなこと言うとはな」

のあ「真奈美の見解は?」ゴソゴソ

真奈美「普通、犯人だと疑われるようなことを言うか?恨みがあるだなんて。でも、彼女は言い切った」

のあ「妙に断定してたわ。あれで犯人だったら名女優になれるわ」

真奈美「だよな。名女優が過ぎるぞ」

のあ「追い詰められたら、誰でも名女優になるけれど」

真奈美「どっちなんだ」

のあ「真奈美、浅野風香の部屋で気になる所は?」

真奈美「率直に言うぞ、ない」

のあ「なさすぎるわ。まゆを呼び出したように紙の一枚や二枚あってもよさげだけれど」

真奈美「ないよな。教科書と着替えくらいしかない」

のあ「……慣れてたのかしら」

真奈美「何に?」

のあ「旅行に行くとか、こういう施設とか」

真奈美「……かもしれないな」

のあ「犯人につながる手掛かりは、なしか」

椋鳥山荘2階・岡崎泰葉の部屋(北側中)

泰葉「夕食後ですか?なんですか、疑ってるんですか」

のあ「違うわ。少しでも犯人に近づきたいだけ」

泰葉「夕食後は部屋で寝てしまったんです。起きたら、10時前で、急いでお風呂に入りに行きました」

のあ「誰かと一緒になった?」

泰葉「シスタークラリスがお風呂場にいました」

のあ「何か、話をしたかしら?」

泰葉「そうですね。他愛もないこととか、悩みのこととか」

のあ「そう」

泰葉「そのあとは部屋に戻りました。お風呂上がりは消灯後だったので、もう暗かったですね」

のあ「誰か他の人は見た?」

泰葉「いいえ……いや、ちょっと待ってください」

のあ「ええ」

泰葉「帰りに見ました。風香ちゃんが、下へ降りて行くのを」

のあ「詳しく」

泰葉「暗くて様子はわかりませんけど、階段を降りて行くのを見ました」

のあ「どこから?」

泰葉「ロビーと部屋の境目くらいですかね」

のあ「待って。それは不自然でしょう」

泰葉「何がですか?」

のあ「浅野風香の部屋と、この部屋は隣じゃない。浅野風香はどこから出てきたの?」

泰葉「あっ!そういえば、なんで3階から降りて来たんだろう」

のあ「でも訪ねたと証言した人はいなかったわ」

真奈美「誰かが嘘をついた?」

のあ「いや、何かを確認しただけとも考えれる。聞くわ、見たのは浅野風香で間違いないわね」

泰葉「はい。顔も体格も似てる人がいませんから」

のあ「ありがとう。となると、やはり犯行は消灯後か」

真奈美「そうなると、厳しいか」

泰葉「どういうことですか?」

のあ「アリバイがないわ。犯人を誰も見ていないし、誰も犯人から除外できない」

泰葉「……」

のあ「岡崎さん、如月千早とは何かあるのかしら」

泰葉「別に直接かかわりがあるわけではありません。でも、人気アイドルです。それだけで、敗れた人も多くいるんです」

真奈美「席が小さい世界だからな」

泰葉「……時には命を絶つことも」

のあ「……そう」

泰葉「私も悩んでます。私だって、あのステージに戻りたい。守られてることもしらない、あの人が、その」

のあ「羨ましい?」

泰葉「……かもしれないですね」

のあ「ありがとう。悩みを言える人を見つけておくのはいいことよ」

泰葉「……はい」

のあ「ありがとう。お邪魔したわね」

椋鳥山荘2階・脇山珠美の部屋(南側中)

珠美「珠美は知りません」

のあ「まだ何も言ってないのだけれど」

珠美「珠美は何もわかりません、みんなのことなんて何にも知らないです」

のあ「……ショックを受けるのも無理はないわ」

珠美「なんでこんなことになったのでしょう」

のあ「わからない。でも、つきとめてみせるわ。夕食後になにをしてたか教えてちょうだい」

珠美「部屋に戻って、日課の体操をして、それぐらいです。お風呂は9時頃、消灯前には寝ました」

のあ「浴場に行く時に誰かと会った?」

珠美「今井殿とすれ違いました」

のあ「浴場では誰かと一緒になった?」

珠美「蓮実殿と」

のあ「他に部屋の外には出た?」

珠美「出ておりません」

のあ「誰か、動いている所を見た?」

珠美「いいえ」

のあ「ありがとう」

珠美「探偵殿、犯人をいち早く見つけてください」

のあ「了解したわ」

椋鳥山荘3階・高森藍子の部屋(南側西)

藍子「……高峯さん、何かわかりましたか」

のあ「決定的なものはないわ」

藍子「……そうなんですか」

真奈美「憔悴してるな。無理なら明日にするが」

藍子「大丈夫です」

のあ「夕食後は何をしてたの?」

藍子「お部屋でゆっくりしてました。今日撮ったデジカメの写真を見てたり……」

のあ「そう。写真を見せてもらえる?」

藍子「はい、山の写真しかありませんけど」

のあ「そのようね。ありがとう。部屋の外には出た?」

藍子「8時半くらいに、まゆちゃんが呼びに来たので一緒にお風呂に行きました。それと、消灯時間の前に2階のロビーにいました」

のあ「ロビーでは何を?」

藍子「紅茶を飲んで、ぼーっとしてました」

のあ「時刻はどれくらい?」

藍子「9時50分ぐらいからかな」

のあ「誰かを見た?」

藍子「あんまり神経をとがらせてなかったから……、でも、高峯さんと木場さんが出て行くのを見ましたよ。あと、その後にまゆちゃんが登って来るのを見ました」

のあ「まゆは、そのまま部屋に?」

藍子「ええ。階段を登って行きました。こっちには気づかなかったと思います」

のあ「ふむ。浅野風香は見た?」

藍子「……見てないです」

のあ「部屋に戻ったのはいつ?」

藍子「消灯されたから、その時に戻りました」

のあ「真奈美、消灯ってどうやるのか知ってるかしら」

真奈美「放送は聞いたか?」

藍子「はい。川島先生のですよね」

真奈美「放送後、1階東側の部屋に電源板があるからそこで廊下とロビーの電源は落としたらしい」

のあ「見周りもしてないのね?」

真奈美「そうだ」

のあ「消灯直前の行動は、高森さんの記憶にかかってるのね。もう少しだけ、思い出せない?」

藍子「うーん、わかりません……」

のあ「思いだしたら教えてちょうだい。話はかわるけど、浅野風香が殺される理由に心当たりは、あるかしら」

藍子「……ありませんね。少なくともみんな、仲良かったのに」

のあ「……もう一つ、あなたには聞きたいことがある」

藍子「なんでしょうか」

のあ「まゆに、罪をかぶせる理由はなんだと思う?」

藍子「……そんなもの、あるわけありません」

のあ「ごめんなさい、忘れて」

藍子「高峯さん、お願いがあります」

のあ「なにかしら」

藍子「お願いします、真犯人を見つけて、まゆちゃんを助けてください」

のあ「ええ」

藍子「何があってもまゆちゃんを信じてください。私も信じるから」

のあ「もちろんよ。この事件の真実を見つけ出して、まゆを救うわ」

藍子「……お願いします」

椋鳥山荘2階・緒方智絵里の部屋(北側西)前

のあ「緒方さん、高峯です、お話をお聞きして……」

智絵里「来ないで、聞かないで!」

のあ「緒方さん、どうしました?」

智絵里「……私じゃない、私じゃない!」

真奈美「どうした?」

のあ「ごめんなさい、開けるわよ」ガチャガチャ

智絵里「……」

のあ「カギが閉めてあるわ。緒方さん、落ち着いたら出てきて。2階のロビーにいるから」

智絵里「……」

のあ「何に怯えているのかしら……」

真奈美「どうする?」

のあ「待つわ。真奈美は先生方と協力して、ロビーの人員を配置して。2階には私がいるわ」

真奈美「了解した」

椋鳥山荘2階・ロビー

真奈美「4時か」

のあ「真奈美も寝た方がいいわよ」

真奈美「そこまでヤワじゃないさ。のあこそ平気か?」

のあ「ええ」

ガチャ

のあ「緒方智絵里」

智絵里「……こんばんは」

のあ「こんばんは。寝れた?」

智絵里「寝れません、でした」

のあ「そう。コーヒーかお茶でも飲む?」

智絵里「……うん」

真奈美「お茶でも淹れようか。のあも飲むか?」

のあ「お願いするわ。お座りなさい、緒方さん」

智絵里「……はい」

のあ「聞いていい?」

智絵里「どうぞ……」

のあ「犬と猫だとどっちが好き?」

智絵里「え?」

のあ「私は猫派よ。縁あって飼ってるのは犬だけどね」

智絵里「ああ、アッキーちゃん、ですね」

のあ「そうよ」

智絵里「どうして飼ってるんですか?」

のあ「前の飼い主が飼えなくなったからね」

智絵里「もっと一緒にいたかったのかな、その飼い主さん」

のあ「……きっと、ずっと一緒にいれると思っていたでしょう。見送るのは自分の方だと、思っていたでしょうね」

智絵里「……そうなんですね」

のあ「四つ葉のクローバーは見つかった?」

智絵里「4つも見つかりました。でも、幸せじゃありません」

のあ「そうね。でも、きっと効果があるわ」

智絵里「……はい」

真奈美「淹れたぞ」

のあ「お飲みなさい」

智絵里「……ありがとう」

のあ「どういたしまして」ズズ

智絵里「……」ズズ

のあ「落ち着いた?」

智絵里「うん……」

のあ「昨日のことを聞いていい?」

智絵里「……はい」

のあ「夕食後は何をしてたの?」

智絵里「すぐにお風呂に行って……」

のあ「行って?」

智絵里「帰ってきたら、机の上に、こんな紙が」

のあ「見せてちょうだい」

智絵里「……お前をお父さんと同じにするって」

のあ「便箋はあった?」

智絵里「ないです」

のあ「便箋の有無を除けば、まゆに送られたものとほぼ同じね。PCで作成した印刷物」

真奈美「お前が父親と同じ目に会いたくなければ22時半に旧館へ一人で来い、か」

のあ「中身に心当たりは?」

智絵里「お父さん、刺し殺されたんです」

のあ「……聞かせてくれる?」

智絵里「ナイフを振って暴れてた男の人を止めようとして、殺さ……れたんです」

のあ「勇敢な人だったのね」

智絵里「……もっと、一緒にいれると、思ったのに」

のあ「……」

智絵里「なんで、こんな場所でいきなり……」

のあ「22時半にあなたは旧館へと向かったのね?」

智絵里「はい。でも……」

のあ「でも?」

智絵里「カギがしまってたんです。だから入れなかった……」

のあ「電気はついてた?」

智絵里「ついてませんでした。しばらく待っても誰も来なくて、戻りました。良かった、ただのイタズラだった、そう思って……」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「旧館の玄関ってどんな感じだった?」

真奈美「古い引き戸だったぞ」

のあ「カギ穴は確かにあったわね。でも、そもそものカギはどこに?」

真奈美「シスタークラリスが開けたと言っていたな」

のあ「真奈美、シスタークラリスに確認を。まだ一階にいるはずよね?」

真奈美「さっきは服部先生と見張り番を変わってソファーで寝ていたはずだ。確認してくる」

のあ「緒方さん、他に気づいたことはある?」

智絵里「……いいえ」

のあ「浅野風香が殺されなければいけない理由に心あたりは?」

智絵里「……ないです。でも、少しだけ気持ちはわかります。私もお父さんを殺した犯人とか、その家族を許せない時があったから」

のあ「……今は違う?」

智絵里「そんな事をしたら、お父さんが悲しむから。私は、お父さんの娘だから」

のあ「そう、いいお父さんだったのね」

智絵里「……うん」

真奈美「のあ」

のあ「仔細は?」

真奈美「カギはシスタークラリスがずっと持っていた。カギは閉めた覚えがないそうだ」

のあ「つまり」

真奈美「内側からかけるしかないだろうな」

智絵里「……それって」

のあ「中に犯人がいた可能性があるわ」

智絵里「……もしかしたら」

真奈美「滅多なことを言うんじゃない。大丈夫だよ、緒方さん」

のあ「あるいは……」

真奈美「あるいは?」

のあ「いいえ。なんでもないわ」

智絵里「……何があったのでしょうか」

のあ「わからないわ。緒方さん、今日はお休みなさい」

智絵里「はい」

のあ「お父さんに恥じないように、ね」

智絵里「はい。おやすみなさい」

椋鳥山荘1階・西側調理場

真奈美「朝食まで手伝ってくれる日が来るとはなぁ」

のあ「特例よ」

真奈美「何かわかったか?」

のあ「わからないことがわかったわ。無知の知よ」

真奈美「随分と高尚に聞こえるな」

のあ「犯行はおそらく10時以降。岡崎泰葉、シスタークラリス、そして高森さんの目をかいくぐるのは難しいでしょうね」

真奈美「工藤忍も10時頃、1階に降りてるしな」

のあ「岡崎泰葉の証言を信じるなら、浅野風香が旧館へと移動したのは10時を過ぎてから。次の行動は?」

真奈美「緒方智絵里が呼び出された。10時半頃か。しかし、カギが閉まっていた」

のあ「そうね。カギの所在は?」

真奈美「塩とコショーを取ってくれ。シスタークラリスの服の中」

のあ「どうぞ。なら、カギはどうやって閉めた?」

真奈美「内側からだ。閉めたのは犯人か浅野風香か」

のあ「もうひとりいるでしょう」

真奈美「……誰だ」

のあ「緒方智絵里」

真奈美「お前、疑ってるのか」

のあ「彼女が嘘をつけばそれで終わりよ。旧館に行ったことが確定しているのは3人だけ」

真奈美「浅野風香、緒方智絵里、それと」

のあ「まゆ」

真奈美「浅野風香が誰に呼び出されたかは、謎のままだな」

のあ「風穴は開かない。だけれど、これでいいわ」

真奈美「どういう意味だ?」

のあ「次さえ起こらなければいいのよ。久美子でもいれば、悩む必要もなかった」

真奈美「つまり?」

のあ「見てきたでしょう。藤原肇のように証拠を消し去る人物もいないし、安部菜々のようにそもそも足のつかない殺し方をしてるわけじゃない」

真奈美「凶器も残っているからな」

のあ「……そのまま寝かせてある浅野風香には申し訳ないわ。それと、誰も安心出来ないこの状況も」

真奈美「そうだな」

のあ「可能なら、早い解決を目指しましょう」

真奈美「ああ」

椋鳥山荘1階・ロビー

のあ「もしもし、志乃。こちらは無事よ。事件に進展もないけれど」

のあ「久美子は道が復旧したらすぐ来れる?科学課の車は下で既に待機してるのね、わかったわ」

のあ「復旧はいつ?わかった、明日の昼には、ね。着くまでにはなんとかするわ」

のあ「少年班……、そうね、来てもらって。それじゃ」

真奈美「柊警部補か?」

のあ「そうよ。教室の様子は?」

真奈美「普通に授業してるぞ。半分は夢の中だが」

のあ「それは仕方がないでしょう。相川先生に感謝すべきだわ」

真奈美「今こそやるべきです、と言うとはな」

のあ「意識を向けること、集めることが両方出来るもの。時間つぶしにもなるわ」

真奈美「そうだな」

のあ「真奈美も休みなさい。私も今のうちに休むわ」

真奈美「了解だ」

椋鳥山荘・旧館

のあ「ごめんなさいね、浅野風香」

加奈「……高峯さん」

のあ「今井加奈、それとシスタークラリス」

加奈「毛布をかけてくれたんですね」

のあ「このままじゃあまりにも寒過ぎるもの。もちろん、ただの自己満足よ」

加奈「……ありがとうございます。また、何かを探してたんですか?」

のあ「そうね。なんでも良いから、見つけたかった」

加奈「犯人の手掛かりはありますか」

のあ「ごめんなさい」

加奈「そうですか……」

クラリス「休憩時間が終わりますよ」

加奈「はい」

のあ「……犯人の手掛かりはない」

椋鳥山荘1階・大教室

クラリス「自らの罪を知り、人は真に許されるのです」

クラリス「特別なことを言っているわけではありません」

クラリス「例えば、この食事も同じです」

クラリス「命を食らうのですから。アーメン。いただきましょう」

のあ「……辛気臭いわ」

真奈美「しかたがないだろ。ちゃんと食べろよ、のあ」

のあ「わかってる」

椋鳥山荘1階・ロビー

忍「あの……」

のあ「なにかしら?」

忍「気分転換に外に出ていいですか」

のあ「どうぞ。出来れば、先生方の一人と一緒にお願い」

忍「シスタークラリス、お願いしていいですか」

クラリス「もちろんですよ」

忍「駐車場の所まで行きましょう」

クラリス「はい」

真奈美「まぁ、頭には入らんだろうな」

のあ「何の授業だったの?」

真奈美「数学。2次関数だよ」

のあ「懐かしい」

真奈美「のあは数学が出来そうだよな。今日の内容とか余裕だろ?」

のあ「出来ないわよ」

真奈美「おや、学校の成績は悪かったのか?」

のあ「悪くはなかったわよ。興味がなかっただけ」

真奈美「また極端な奴だな」

まゆ「……ここ、座っていいですか」

のあ「どうぞ。気分はどう?」

まゆ「……」

のあ「良いわけはないでしょうね。みんなに変わった様子はある?」

まゆ「ないと思います」

のあ「工藤忍とシスタークラリスは駐車場の所にいるのね。まゆも外に出る?気分転換になるわよ、晴れてるし」

まゆ「はい。藍子ちゃんも一緒に」

真奈美「そうしよう。高森さん」

藍子「……はい」

真奈美「外に空気でも吸いに行こう」

藍子「わかりました」

椋鳥山荘・駐車場

忍「シスタークラリス、また後で」

クラリス「わかりました。次はお二人で来てくださいな」

のあ「気分転換は出来た?」

忍「はい。先に戻ります」

のあ「わかったわ」

真奈美「重機が動いてるのが見えるな」

まゆ「明日のお昼には、全部出来るでしょうか……?」

のあ「その予定よ」

藍子「あんな事件がなければ、もっと、良かったのに」

のあ「……そうね」

まゆ「……」

のあ「どうしたの、まゆ?」

まゆ「いいえ、なんでもないです」

のあ「何かあったら何でも言うのよ。だって、私達の仲でしょう?」

まゆ「……はい」

真奈美「よーし、少し体操してから戻るか」

椋鳥山荘2階・ロビー

千夏「zzz……」

真奈美「お疲れのようだな」

のあ「表情には出ないけど、気張っていたものね」

真奈美「毛布、あるか?」

のあ「あるわよ」

真奈美「もう少しゆっくりしてください」

のあ「3階は?」

真奈美「今は沢田先生がいるぞ。まだ元気そうだ」

のあ「そう」

真奈美「のあも大丈夫か?」

のあ「そっちこそ」

真奈美「私は平気だ」

のあ「私もよ。犯人に近づかないことにモヤモヤとしていること以外は」

真奈美「誰にも犯行の証拠はないし、犯行をしてない証拠もない」

のあ「とりあえず、一階に降りましょうか」

椋鳥山荘1階・ロビー

のあ「お疲れではありませんか、シスタークラリス」

クラリス「いいえ。おかまいなく」

のあ「生徒達の様子をどう見ますか?」

クラリス「悩んでいるでしょう。どうふるまえば良いのか、わからないでしょう。でも、時期にそれも終わります」

のあ「事件後のケアをお願いします」

クラリス「かしこまりました。自分を見つめ直し、善とは何かを考える機会だった、と振り切るくらいでいて欲しいものです。もちろん、簡単なことではありませんが」

のあ「ええ。シスタークラリスも2階でお休みください。ここは私達が」

クラリス「お言葉に甘えます。それでは」

真奈美「さて、そろそろ私も食事の準備をしないとな」

のあ「1階は、柳先生が入ってくれるのね」

真奈美「そこまでは待つとするか」

椋鳥山荘3階・東側ツインルーム

のあ「……そろそろ、真奈美の手伝いにいかないと」

アッキー「くぅん」

のあ「おいで、アッキー。気分が晴れないわ。なんででしょうね」

アッキー「?」

のあ「あなたに聞いても仕方がないわね」

キャァー!

のあ「外!?礼拝堂前に、長富蓮実」

加蓮「な、なに?」

千早「蓮実の声が……」

のあ「事情はわからない。礼拝堂の前よ、急ぐわ」

クラリス「何が、あったのでしょうか」

のあ「シスタークラリス、礼拝堂には?」

クラリス「今から行くところでした」

のあ「今は誰も?」

クラリス「いないはずですが」

のあ「では、何が……」

真奈美「のあ!」

のあ「いい所に来たわね、急ぐわよ」

椋鳥山荘・礼拝堂

のあ「長富蓮実、何が……」

蓮実「あ、あれ……」

のあ「えっ……」

真奈美「工藤忍!おい、大丈夫か!」

のあ「……」

真奈美「くそ、酷い傷だ。このナイフで大きく振り下ろされたんだな……」

加蓮「し、忍!木場さん、忍は生きてるの!?」

真奈美「……残念だが」

加蓮「嘘、嘘でしょ!」

クラリス「……そんな」

真奈美「のあ、どう思う?」

のあ「……」

真奈美「のあ!」

のあ「……被害者は工藤忍。凶器はナイフ。シスタークラリスのローブ、その予備が血まみれで放置されている」

真奈美「あれほど、一人で行動するな、と言ったのに」

加蓮「佐久間、佐久間さんはどこにいるの!」

まゆ「……ここに」

加蓮「あなた、じゃないの?」

珠美「だって、さっき一緒に来ましたよ」

加蓮「じゃあ、誰なのよ!」

のあ「……落ちつきなさい。現場を検証するわ。長富蓮実だけはここに残って。真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「皆を戻らせて、証言を取って。授業が終わったあとの行動をまとめて」

真奈美「了解した。ここはのあに任せろ、行くぞ」

のあ「長富蓮実、こっちへ」

蓮実「は、はい」

のあ「ごめんなさい、少しだけ待っていて。ブツブツ言うけど、気にしないで」

蓮実「はぁ……」

のあ「被害者は工藤忍。発見者は長富蓮実」

蓮実「……」

のあ「腹右部に刺傷。抜かれたため血が吹き出た。その血はシスタークラリスのローブについている。もちろん、シスタークラリス本人についているわけではない」

のあ「犯人がこの服を着て犯行を行った。犯人は、工藤忍から刃物を抜いたあとに、彼女の右肩から斜めに躊躇いなく袈裟切った」

蓮実「……ひどい」

のあ「……」

蓮実「どうしました……?」

のあ「何でもないわ。犯人はローブを脱いで、工藤忍と凶器を放置」

のあ「工藤忍は何故手袋をしてるのかしら。左手が丸まっている気もする。調査が必要」

のあ「場所は礼拝堂。シスタークラリスも山荘に移動していたから、無人だった」

のあ「人目を盗んだ犯行。長富蓮実、なんで発見に至ったの?」

蓮実「呼ばれたんです、忍ちゃんに」

のあ「工藤忍に?」

蓮実「はい。シスタークラリスも一緒だから、礼拝堂で話そうって」

のあ「内容はわかる?」

蓮実「わかりません。最近、忍ちゃんも悩んでいたみたいだから、そのことかな」

のあ「シスタークラリスにも聞いてみましょう。その前に話をしていたはずだわ。では、発見時に何故礼拝堂へ?」

蓮実「シスタークラリスも忍ちゃんもいなかったから、先に行ったのかな、と思って……」

のあ「シスタークラリスは2階にいたのよ」

蓮実「忍ちゃんもシスターが先に行ったと思って、礼拝堂に行ったのでしょうか」

のあ「その可能性はあるわ。そして、シスターに変装した犯人に殺された」

蓮実「……」

のあ「工藤忍と犯人が先に来たわけよね。あなたは見た?」

蓮実「見てません。出るまでは2階の自分の部屋にいたから……」

のあ「南側の部屋なら、見える可能性があるわ」

蓮実「窓の外なんて気にしてなかったから……」

のあ「出て行く時、誰かとすれ違った?」

蓮実「玄関フロアで藍子ちゃんと。忍ちゃんが外に行ったかも、って言ってて」

のあ「1階にいた先生は、誰だった?」

蓮実「川島先生だったかな」

のあ「授業の終わりで見逃した可能性があるわね。12人以上が一度に動くわけだし。犯人と工藤忍はその隙に移動した」

蓮実「礼拝堂へ?」

のあ「そうよ」

蓮実「探偵さん、犯人、わかりますか」

のあ「……確証はないわ」

真奈美「のあ!」

のあ「早いわね。どうだった?」

真奈美「犯人がこっちに来たのを見た人はいない」

のあ「工藤忍は?」

真奈美「そっちは高森君が見かけたらしい」

のあ「そして、全員が長富蓮実の声を聞いて礼拝堂前に集まった、とかでしょう」

真奈美「その通りだ。のあ、何かわかったのか」

のあ「いいえ。真奈美、長富さんを連れて戻って。長富さん、真奈美にもさっきの話をしてあげて」

蓮実「はい」

のあ「もう少しだけ調査を続けるわ。そっちは頼んだわよ、真奈美」

椋鳥山荘・礼拝堂

のあ「シスタークラリスの執務室。想像通り、一つのローブが取られてるわね」

のあ「質素な部屋。でも、パソコンくらいはあるのね」

のあ「キーケースがある。空きがひとつ、か」

のあ「裏口がある」ガチャ

のあ「山荘から見えない所に出てくるようね」

のあ「礼拝堂と旧館の間には細い道か」

のあ「これ、灯油ね。夜は寒いのかしら」

のあ「……あら、旧館にも勝手口がある」

のあ「旧館の裏も回れるのかしら」

のあ「大丈夫ね。このまま、旧館の周りを行きましょう」

のあ「足跡、残ってるわね」

のあ「自分で指示しておいてなんだけど、一人で行動が許されるのは、私だけ」

のあ「ストップ」

のあ「真奈美が階段から降りてくるわね」

真奈美「のあ!のあ、ちょっと来てくれ!」

のあ「真奈美」

真奈美「うわ!後ろから出てくるなよ、びっくりしたじゃないか」

のあ「ごめんなさいね。それで、何の用かしら?」

真奈美「緒方智絵里が話したいことがあるから、のあを呼んでくれ、だと」

のあ「……わかったわ」

真奈美「緒方智絵里は部屋にいる。よろしく」

のあ「真奈美、調査のほどは?」

真奈美「もう少し待ってくれ。まとめて報告する」

のあ「お願い。私は緒方智絵里に会ってくる」

椋鳥山荘2階・緒方智絵里の部屋(北側西)

のあ「緒方智絵里、入っていい?」

智絵里「……どうぞ」

のあ「お邪魔するわ」

智絵里「カギ、しめてくれますか」

のあ「ええ」

智絵里「座ってください……」

のあ「話というのは?」

智絵里「……お父さんの話、しましたよね」

のあ「ええ」

智絵里「私はしてません、だって、だって……」

のあ「どうしたの?」

智絵里「……誰にも言わないでくださいね」

のあ「約束するわ」

智絵里「私が恨んでいたのは、忍ちゃん、でした」

のあ「……あなたのお父さんを殺した犯人と彼女は関係があるのね」

智絵里「……はい。彼女のお父さんが、私のお父さんを……」

のあ「そう……」

智絵里「でも、忍ちゃんは忍ちゃんなんだって、気づけたから。それから、学校に行くのも苦じゃなくなって、なのに」

のあ「殺されてしまった」

智絵里「殺したのは、私じゃない」

のあ「わかってる」

智絵里「願ってすらいなかったのに、なんで、なんで……」

のあ「今回の犯行の動機があるのは、あなたなのね」

智絵里「……はい」

のあ「言ってくれて、ありがとう。やはり、あなたは強いわ」

智絵里「そんなんじゃ、ありません。ずっと、恨んでいられるほど強くなかったんです」

のあ「……あなたは凄いわ。一つ、聞いていいかしら」

智絵里「なに、でしょうか」

のあ「あなたは誰かにこの話をしたことがあるの?」

智絵里「何人かに……」

のあ「聞かせて」

智絵里「えっと……」

椋鳥山荘・大教室

夕食後・教科:宗教

クラリス「主は言いました……」

のあ「……聞き取りありがとう。真奈美、流石だわ」ボソボソ

真奈美「……犯人を特定するまでには至ってないぞ」ボソボソ

のあ「……十分よ。ひとつのファクターを変えればいいだけ」ボソボソ

クラリス「汝、悪魔にたぶらかされることなかれ。己が信に従え」

真奈美「……わかったのか」ボソボソ

のあ「……後は、犯人の意図だけを特定できれば」ボソボソ

クラリス「汝が罪を知り、汝が咎を知れ。全能なる主は汝を救うであろう」

真奈美「……はやく安心させてあげないのか」ボソボソ

のあ「……私を信じて、真奈美」ボソボソ

真奈美「……わかった。信じるよ」ボソボソ

のあ「……明日10時まで待って、お願い」

椋鳥山荘3階・ロビー

のあ「まゆ」

まゆ「のあさん」

のあ「大丈夫?」

まゆ「……大丈夫じゃありません」

のあ「そうよね。みんなの様子は?」

まゆ「……気落ちしてます」

のあ「安心して。明日には道路も復旧するわ」

まゆ「そうしたら、帰れますか」

のあ「ええ。だから、安心して。そして、私を信じて」

まゆ「……はい」

のあ「今日はゆっくり寝なさい。おやすみなさい、まゆ」

まゆ「おやすみなさい、のあさん」

幕間

藤原肇「こんばんは、お久しぶりです」

藤原肇
東郷邸近辺で発生した連続殺人事件の犯人。自身の作品のために4人を立て続けに殺害し、一部を持ち去った。

相馬夏美「こんばんは」

相馬夏美
生活安全課少年班所属巡査部長。少年犯罪、特に傷害事件担当。

肇「警察の人も来なくなりました。今は相馬さんだけですね」

夏美「あなたは大々的に報道されてしまったけれど、本来は少年犯罪で処理するべき事項よ。私しか来なくなるのは、正しい方向へ行った証」

肇「そうなんですか」

夏美「ここはどう?」

肇「土を触りたいですね。あとスケッチをしたいかな。差し入れてくれませんか」

夏美「考えておくわ」

肇「ありがとうございます。ところで、今日はなんのご用ですか?」

夏美「あなたとあなたの事件については十分に聞いたわ」

肇「そうですか。では、何を?」

夏美「東郷あいについてよ」

肇「あいさん?そんな話してませんでしたか?」

夏美「いいえ。聞きたいことは、どうしてあなたの犯罪を隠ぺいする気になったかよ」

肇「私の作品が好きだったから、というのもありますけど。もっと簡単な理由じゃないでしょうか」

夏美「何?」

肇「単に私が捕まって欲しくないから、とか」

夏美「ふん。自分についてあなたは饒舌だし、過剰な自信があるわよね」

肇「芸術家とはえてしてそういうものですから」

夏美「聞くけれど、あなたは愛されていたの?」

肇「そうでしょうね。だって、とってもいい人だもの」

夏美「あなたの感覚を鵜呑みにすると間違うわよね」

肇「ええ。でも、間違いないことがあります」

夏美「なに?」

肇「人の愛情って、怖いくらい強い原動力ですよね」

仙崎恵磨「お疲れ様です」

仙崎恵磨
生活安全課少年班所属巡査。相馬夏美のバディ。先の事件では刑事課にいたが、大和巡査の復帰と共に職場復帰。

夏美「待っててくれて、ありがとう」

恵磨「藤原肇の様子はどうでしたか?」

夏美「いつも通りよ。困るぐらい冷静なのよね、いつも」

恵磨「そうでしたか、会わなくて良かったです」

夏美「苦手そうだものね」

恵磨「血が通ってないというか、なんというか……」

夏美「仕方がない。そこら辺にはいないもの」

恵磨「……そうですかね」

夏美「朝、早めに迎えに来て」

恵磨「了解です」

夏美「目的地はここね」

恵磨「大和巡査から聞いております」

夏美「よろしく」

幕間 了

椋鳥山荘3階・東側ツインルーム

真奈美「……のあ」

のあ「何よ」

真奈美「寝たか?」

のあ「寝てないわ。今、何時?」

真奈美「9時になるぞ。あれだけ寝ろ、って言ったのに」

のあ「……そう。志乃から連絡は?」

真奈美「さっきあったぞ。正午には着く」

のあ「潮時ね。始めるわよ」

真奈美「何をだ?」

のあ「真奈美、全員を大教室に集めなさい」

真奈美「わかった。でも、老婆心で忠告しておく」

のあ「何?」

真奈美「顔を洗え、ひどい顔をしているぞ」

のあ「ええ、そうするわ」

真奈美「……なぁ、のあ」

のあ「一度現場を見てくるわ」

真奈美「なんのために?」

のあ「私がなにもしてないことを、確認するため」

椋鳥山荘・大教室前

真奈美「集まったぞ」

のあ「確認して」

真奈美「如月千早、今井加奈、堀裕子、北条加蓮」

のあ「次」

真奈美「緒方智絵里、岡崎泰葉、脇山珠美、長富蓮実」

のあ「はい、次」

真奈美「高森藍子、佐久間まゆ」

のあ「生徒は全員ね。次」

真奈美「川島瑞樹、篠原礼、沢田麻理菜、柳清良、服部瞳子、相川千夏」

のあ「そうね。後は」

真奈美「シスタークラリス。これで全員だ」

のあ「真奈美、お願いがあるの」

真奈美「なんだ?」

のあ「少し気合いを入れて」

真奈美「……眠いのか。しっかりしろ、高峯のあ!」バチーン!

のあ「いった!本気で痛くする必要はないじゃない!」

真奈美「ほら、目が覚めたろ」

のあ「ええ、もちろん。ありがと」

真奈美「どういたしまして」

のあ「行くわよ」

真奈美「ああ」

椋鳥山荘・大教室

のあ「全員揃ってるわね」

瑞樹「揃ってるわ。高峯さん、犯人がわかったの!?」

のあ「ええ。でも、そう急ぐことじゃないわ。全てを話すわ」

瑞樹「……あの、もしかして」

のあ「犯人はこの中にいる」

藍子「……」

のあ「ここで起こった殺人事件は二つ。浅野風香と工藤忍の事件の二つよ」

智絵里「……どうして」

のあ「まずは浅野風香の事件。午後11頃、旧館で血を流し倒れているのをまゆが発見した。まゆには便箋が届けられていた、そうね?」

まゆ「はい」

のあ「印字された文書により、まゆを第一発見者にしたてた。次。浅野風香が旧館に移動したのはいつだったかしら、岡崎泰葉」

泰葉「消灯時間過ぎてから、10時10分とか」

のあ「そうでしょうね。犯行時刻はおそらく消灯時間が過ぎたあと。何らかの手段で呼び出された浅野風香は旧館に出向いた。次。緒方智絵里、あなたが旧館に行ったのはいつ?」

智絵里「10時半頃です」

のあ「その時既に旧館の電気は消えていた。カギもしまっていたようね。そのことから推測されることはただ一つ。その時点で既に殺害されていたということ」

真奈美「カギはシスタークラリスが持っていたことから、内部に潜んでいたと考えられるな」

のあ「違うわ。もっと簡単よ」

真奈美「何だ?」

のあ「内側から玄関のカギをかけて、旧館にある勝手口から出た。あるいはスペアがあったとか。それだけよ」

真奈美「ふむ」

のあ「おそらく犯人には11時まで発見されたくない理由があったのでしょう。まゆ、聞いていい?」

まゆ「はい」

のあ「カギは開いていたのね?」

まゆ「カギは開いてました」

のあ「……そうでしょうね。玄関から入らないと電気はつけられない」

加奈「……でも、それじゃ」

のあ「その通り。これでは、私は犯人を確定できない。私は、警察の科学部ではないから現場の状況等からも推測はできない」

加奈「……」

のあ「慌てなくていいわ。久美子は信頼できるから。次の事件へ行きましょう」

加蓮「忍の事件、犯人は一緒なんですか」

のあ「私の見立てでは同一犯でしょう。理由はナイフがほぼ同じ高さに突き刺されたこと。話を戻しましょう。シスタークラリス」

クラリス「なんでしょう」

のあ「工藤忍と会う約束をしてましたね?」

クラリス「ええ」

のあ「会う時間は休み時間」

クラリス「はい。長富さんと一緒に礼拝堂まで行くつもりでした」

のあ「だけれど、工藤忍は一人で行ったのね。高森さん?」

藍子「は、はい。一人で外に出たのを見かけました」

のあ「シスタークラリスは1階にいなかったので、一人で行ったと考えるのが普通でしょうね」

クラリス「私は2階で相川先生と休憩中でしたから」

のあ「その通り。犯人は、1階にいた川島先生の目をかいくぐり、いち早く礼拝堂へと移動した」

瑞樹「私が見つけていれば……」

のあ「気を病むことはないわ。おそらく見つけていても、犯行は行われていたはず」

瑞樹「どういうこと?」

のあ「別に奇襲ならどうやっても出来るから」

真奈美「どういうことだ?」

のあ「この犯人はシスタークラリスを装って殺害したけど、そもそも顔見知りだもの。顔見知りなら、行動から何から操作できるのよ」

瑞樹「じゃあ……」

のあ「犯人は大胆に行動出来た。何故なら……」

真奈美「何故?」

のあ「この話は置いておきましょう。ローブを着た犯人は工藤忍を、ナイフで突き刺し、袈裟切り、殺害した」

加蓮「……」

のあ「そして、犯人はナイフと脱いだローブを放置した。そして、執務室を通り、裏口から出た」

クラリス「……裏口から」

のあ「そのあと旧館の裏を回り、息を潜めた。長富蓮実」

蓮実「はい」

のあ「あなたが礼拝堂を訪ねた理由は?」

蓮実「忍ちゃんが見つからなかったから。シスタークラリスは2階にいたけど……」

のあ「それだけじゃ一人で行かないわね?」

蓮実「はい。藍子ちゃんから一人で礼拝堂に向かった忍ちゃんのことを聞いたから、礼拝堂に降りて行きました」

のあ「そこで、死体を見つけ、叫んだ」

蓮実「……はい」

のあ「悲鳴を聞きつけた私達は礼拝堂前に集まった。犯人は、それに乗じて姿を現した。何くわぬ顔をして、人波に混じり、あたかも山荘から来たかのように見せかけた」

加蓮「……それなら」

のあ「これでも誰が犯人か特定できない。むしろ、犯人候補から削れる人物すら少ない。混乱の中で人物の動きをすべて把握するのは難しい」

加蓮「探偵さん、さっきからそればっかり!」

のあ「その通り」

加蓮「本当に、犯人がわかってるの?」

のあ「……わかっているわ」

加蓮「じゃあ、なんですぐに言わないのよ!」

のあ「理由は一つだけ」

加蓮「なに?」

のあ「私のアリバイを作るため」

瑞樹「どういうこと?」

チリリリリ!

のあ「真奈美、電話よ、出てきなさい」

真奈美「了解した」

瑞樹「あの、探偵さん、どういうことなんですか?」

のあ「真奈美が帰って来てから、続きをしましょうか。少しだけ待ちなさい」

椋鳥山荘・大教室

真奈美「柊警部補から連絡だ。1時間もしないうちに来れるそうだ」

のあ「ありがとう。核心へと入りましょう」

瑞樹「あの、その前に聞きたいことがあるんですけど」

のあ「どうぞ」

瑞樹「高峯さんのアリバイを作るって、どういう意味ですか?」

のあ「これで犯人の目的は潰したわ」

瑞樹「やっぱり、よくわからない」

のあ「それでもいいわ。核心へと行きましょう。犯人を特定するわ」

智絵里「犯人……」

のあ「さっきまではわからない、確定出来ないと言ったわね?」

加蓮「ええ」

のあ「全ての証言を合わせるとそうなるわ。何故か。一人だけ嘘をついたからよ。両方の事件でね」

麻理菜「嘘?」

のあ「別に共犯ですらないわ。見てしまったから嘘をついた」

真奈美「……」

のあ「そうね、高森藍子」

瑞樹「高森さん……?」

藍子「……そんなことしてません」

のあ「工藤忍の事件の時、あなたは玄関近くにいたのよね」

藍子「はい」

のあ「犯人を見たのね」

藍子「……」

のあ「浅野風香の時点であなたには犯人の目星がついていた。だから、その時も嘘をついた」

藍子「……そんなんじゃ」

のあ「でも、玄関近くにいたのも見てしまったのも、それも偶々よ。あなたに過失はない。私は警察ではないから、罪でもない」

藍子「……全部わかってるんですね」

のあ「そして、浅野風香の事件。私の取り調べで嘘をついたのはあなたと犯人だけよ」

藍子「高峯さん」

のあ「何かしら」

藍子「わかってるなら、言わないで」

のあ「しかし、犯人が証言した一連の行動そのものに嘘はない」

藍子「高峯さん!聞いて!」

のあ「言ったでしょう、高森さん。もう、私は何も出来ないの」

藍子「今、言わないでください!お願い、お願いです!」

のあ「私は高峯のあ、よ。それは出来ない」

藍子「お願い、誰も、誰も幸せになれないの。お願い!」

のあ「犯人は消灯前に旧館へと向かい、浅野風香を待ち伏せして殺害した。しかし、この時間はあなたが2階にいた。犯人は気づかなかったでしょうね。何故か」

藍子「やめて!私は赦したの!あなたも赦して!」

のあ「犯人は2階に登りきる前に引き返したからよ。私達に会ってから、すぐに」

藍子「もう、やめて……」

のあ「犯人は犯行後旧館のカギを閉め、部屋に戻った。キーは礼拝堂の執務室から取っていったスペアキーよ」

藍子「また、失わせる気なの!高峯さん!また、居場所がなくなっちゃう!」

のあ「犯人は夜11時に、スペアキーでカギを開けて電気をつけた。そして、自らの両手に血をつけた。そして、叫んだ」

真奈美「おい、待て。それじゃ……」

のあ「犯人はあなたよ」

藍子「だめ!」

のあ「……まゆ」

椋鳥山荘1階・大教室

藍子「やめて……」

まゆ「のあさん、まゆじゃ……」

のあ「黙りなさい!」

まゆ「え……」

のあ「聞きたくない、聞きたくないわ!なんで、なんで、こんなことになってるのよ!」

真奈美「のあ……」

のあ「犯行そのものは単純よ。こんなの、単独犯で隠し通せるわけないじゃない!凶器に、状況証拠、なんでもありだわ!」

まゆ「……」

のあ「しかし、この状況下なら違う。無事に私と真奈美がいる状況で殺人を起こした。そして、警察が入れない状況にクローズされた。私に猶予は丸2日あった。いや、一晩でもあれば十分でしょう」

真奈美「土砂崩れは、人為的なものか」

のあ「私は無事にあなたが犯人だと、わかったわ、まゆ」

まゆ「……さすがですね」

のあ「だけど、それは折り込み済みよ。あなたは、私の能力を信頼してはいた。だから、何個か隠ぺい工作とか嘘の証言もあったけれど、無事に答えにたどりついた」

藍子「……」

のあ「そうなると、状況は変わる。私はあなたの殺人に気づいたら、どうしたらいいの……どうすれば良かったのよ!」

まゆ「……」

のあ「他人は先生方と真奈美に相互に監視させておいて、あの状況下で自由に動けるのは私だけ。そして、私は全員の行動を指示し、制限し、確定できる。なぜなら、私は探偵高峯のあだからよ。この中でもっとも信頼される存在だった」

真奈美「……なるほど」

のあ「なんだってできたわ!凶器に、血痕に、死体に、これらになんだって出来たわよ!旧館と礼拝堂に火でもつければ全ては迷宮入り。状況証拠だけなら、誰にも証明できない」

真奈美「それって……」

のあ「藤原肇にとっての、東郷あいの役割を私に担わそうとしたわね、まゆ。私だって、悩んだわ。まゆも、もう誰も失いたくないわ!」

真奈美「のあ……」

のあ「全て消し去れば続けられた。犯行に加担した以上、ずっとあなたを傍に置いておくことだって出来たわ。あなたとの生活は、私にとっても良いものだったから」

まゆ「……のあさん」

のあ「でも、私は嘘をつくのが嫌いなの、法を犯した者を見逃すほど、慈愛に満ちていない。あなたにだってどんな嘘もつきたくない。だって、私は高峯のあ、だから……」

藍子「高峯さん……」

のあ「高峯のあは自分を曲げなかったわ。時期に警察が来て、全てわかるわ。以上よ、まゆ。何も間違ってないわね」

まゆ「……」

真奈美「佐久間君、どうなんだ……?」

まゆ「やっぱり、のあさんはのあさんですね」

藍子「……まゆちゃん」

まゆ「そうです。まゆがすべてやりました」

真奈美「……嘘だろ」

まゆ「まゆは、肇ちゃんが羨ましかったのかもしれないです。あいさんみたいな何をしても守ってくれるような人がいて、人を殺せるような状況が……」

加蓮「殺したかったから、忍を殺したの?」

まゆ「うふふ……」

加蓮「あ、あなたは……!」

のあ「あれは嘘よ、北条加蓮」

加蓮「え……?」

のあ「するなら、もっと良い演技をしなさい、まゆ!」

まゆ「……!」

のあ「なめんじゃないわよ!あなたと一緒に暮らしてたのよ、私は!あなたはシリアルキラーでも何でもないわ!」

まゆ「……理由は言えません」

のあ「聞いていい、まゆ。あなたが家族を失った理由は、火事なの?」

まゆ「知ってたんだ……。そうです、マンション火災で私は家族を失って、色んなところを転々としました。ずっと家族が、欲しかった」

のあ「それが理由なの?」

まゆ「はい。浅野風香は私から家族を奪った張本人なんですから」

のあ「なら、なら!私じゃダメだったの、私は家族になれなかったの、ねぇ、まゆ!」

まゆ「……ごめんなさい。家族は一つだけだから」

のあ「私は悔しいわ。そんなこと思うのも、言われるのも!ダメなの、やっぱり、私は、人間として何かが欠けたままなの!」

真奈美「そんなはずはないだろ、のあ!」

ピーポーピーポー

のあ「来たようね」

まゆ「……そうですね。のあさんは、のあさんだった」

のあ「私は自分がふがいないわ!なんでか、教えてあげる、なんで、なんで、この期に及んで嘘をつくにょよ、まゆ!」

まゆ「え……」

のあ「工藤忍殺害の理由は何よ!あなたは何も言ってない!」

まゆ「……」

のあ「あなたはそんな子じゃない、恨みとかそんなもので、動かないのに!誰にも、優しくて、家族が欲しくて、守ってくれ、る、存在が欲しかった、ただの女の子じゃない!何を隠してるの、何を隠してるのよ、まゆ!」

藍子「のあさん……」

のあ「お願い、まゆ、言って!」

まゆ「ごめんなさい。言えない……」

のあ「まゆ!」

まゆ「言えない!言えないの!この気持ちは誰にも言えないの!絶対に、どこにも漏らさない!」

加奈「……まゆちゃん」

まゆ「お願い、のあさん、お願い……」ポロポロ

のあ「まゆ……」

まゆ「ごめんなさい、ごめんなさい……」ポロポロ

ピーポーピーポー

真奈美「……こんな終わりか」

椋鳥山荘・駐車場

夏美「お疲れ様です。被疑者は少年班が責任を持って保護します」

のあ「……お願い」

夏美「行きましょう」

まゆ「……のあさん、さようなら」

のあ「……」

バタン

恵磨「署に向かいます」

夏美「先にデコイを送ったわ。それとは別ルートで」

恵磨「了解です」

ブロロロ……

のあ「……終わったわ」

真奈美「……そうだな」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「胸を貸して」

真奈美「ああ。こんなんでいいなら」

のあ「……ぐすん」ダキ

真奈美「……」

のあ「どうしたら、良かったの……」

真奈美「お前は正しいことをしたよ。探偵高峯のあを貫いた」

のあ「私は真実を愛して、悪とか嘘とか、嫌いだったわ。だって、だって、真実の方が、いつも優しいから」

真奈美「そうだな……」ポンポン

のあ「でも、こんな真実ならいらなかった……全部、嘘にしてしまえば良かった……」

真奈美「のあ……」

のあ「こんな所で、私は失いたくなかった!昔なら、こんなこと感じなかったのに!どうして、どうして、今になってこんな気持ちにならなくちゃいけないの!」ドンドン!

真奈美「つうっ……、痛いぞ。あまり叩くな」

のあ「まゆ、まゆぅ……」

真奈美「一つ言っていいか」

のあ「……なに」

真奈美「道理と感情があわずに、処理できない波に襲われた時、人は何をするか、知ってるか?」

のあ「……わかんない、考えられない」

真奈美「泣くんだ。好きなだけ、泣け、のあ。自分の気持ちに整理がつくまで泣け」

のあ「……真奈美」

真奈美「お前が言ってたろう。泣けと言ってくれる人が欲しかったって。お前はがんばったよ、のあ。だから、もう泣いていい」

のあ「まなみぃ……」

真奈美「そうそれでいいんだよ、のあ」ナデナデ

のあ「わあぁぁぁん!」

主題歌

『嘘』

歌 柊志乃

椋鳥山荘・礼拝堂

松山久美子「お疲れー、のあさんは?」

松山久美子
科学捜査課所属。常に白衣をまとった美人。車中泊程度では美貌は崩れないご様子。

真奈美「泣きつかれて、寝てるぞ。昨日一睡もしてないみたいだし」

久美子「……こんなことになるなんてね。残ってる人は?」

真奈美「高森君が残ってくれて、警察に聴取を受けてるよ。そっちの状況は?」

久美子「先ほど、浅野風香の検分が終了。死亡推定時刻は一昨年10時前後。死因はナイフの傷による出血多量によるもの。突き刺さったままのナイフには指紋と手形がついてるから、すぐに証拠になるわよ」

真奈美「のあの言ってた通りか」

久美子「色んなところから指紋も見つかってるしね。あと、灯油が見つかったわよ。旧館とここから」

真奈美「灯油?」

久美子「火でもつける予定だったのかしら」

真奈美「……さぁな」

久美子「さて、続きっと。工藤忍の遺体は、これね」

大和亜季「木場殿!」

真奈美「やあ、大和巡査。調子はどうだい?」

亜季「気力体力共に十分であります!」

大和亜季
刑事第一課柊班所属巡査。無事に職場復帰。意外にも休職の理由が彼女を奮い立たせてくれた。

真奈美「それは良かった」

亜季「惠と話したんです。私は励まされてしまいました。私は、惠のためにも警察を続けるであります。しかし、この度は……」

真奈美「気にしないでくれ。何か聞きたいことでも?」

亜季「はい!足跡が続いていまして、高峯殿はどこに行ったと言われておりましたか?」

真奈美「礼拝堂から出て、旧館を回ったとか言ってたぞ」

亜季「ありがとうございます。佐久間まゆのものと思われる足跡が多く見つけられそうです」

真奈美「……そうか」

久美子「ねぇ、真奈美さん」

亜季「松山殿が呼んでおりますよ。それでは」

真奈美「ああ。何かあったか?」

久美子「あのつかぬことを聞くんだけど」

真奈美「なんだ?」

久美子「のあさん、いつ犯人に気がついてた?」

真奈美「いや、わからないな」

久美子「……この遺体を見た瞬間じゃないかしら」

真奈美「どういうことだ?」

久美子「ナイフの傷よ。この振り落とし方は、左利きじゃないとつけられない」

真奈美「まさか、浅野風香の傷は……」

久美子「右手に持って、背中の右側に突き刺した。ひねりの方向から右利きでしょうね」

真奈美「……思い出せば、そうだな。私くらいには言ってくれれば、良かったのに」

久美子「でも、何か変な気がする」

真奈美「どうした?」

久美子「なんで被害者の左手の手袋に血がついてないのかしら。まぁ、調べればわかるでしょ」

椋鳥山荘・駐車場

柊志乃「真奈美さん」

柊志乃
刑事第一課所属警部補。柊班班長。車内泊2日目。現在、アルコール非摂取時間が50時間を突破。

真奈美「お疲れ様です」

志乃「大変なことになったわね」

真奈美「……ええ」

志乃「警察として法に基づいてすべて行動するわ。いい?」

真奈美「もちろんです」

和久井留美「柊警部補、お伝えしたいことが」

和久井留美
刑事第一課柊班所属巡査部長。みくにゃんのライブが婚活パーティーとかぶり、前者を選ぶことにした。

志乃「なにかしら」

留美「爆発痕を見つけました。人為的なものと見て間違いないでしょう」

志乃「案の定ね。滑るには範囲が狭すぎるもの」

留美「引き続き調査を進めます」

志乃「お願い」

留美「失礼いたします」

志乃「知らなければいけないことが多そうね」

真奈美「……ええ」

志乃「高峯のあは目覚めるかしら」

真奈美「どういう意味です?」

志乃「なんでもないわ」

椋鳥山荘3階・ロビー

夕方

藍子「……」

真奈美「……」

ガチャ

真奈美「起きたか、のあ」

のあ「顔だけ洗わせて」

真奈美「わかった」

藍子「……どうですか」

真奈美「表情はいつもどおりだが、内面はどうやら」

藍子「……そうですね」

真奈美「君も無理しなくていいのに」

藍子「いいえ、私、言いたいことがあるんです」

真奈美「何を?」

のあ「真奈美!」

真奈美「早いな。どうした?」

のあ「木場真奈美、私は誰?」

真奈美「私は誰って、探偵高峯のあ、だ」

のあ「その通り。私は高峯のあだ。高森さん」

藍子「は、はい!」

のあ「あなたは私に何があっても、まゆを信じろって、言ったわね?」

藍子「はい」

のあ「いい目よ。私も信じるわ」

真奈美「どういう意味だ、のあ」

のあ「もちろん、殺害の事実は変わらない。でも、何かを隠してるわ」

藍子「そう思います」

のあ「私は高峯のあよ。こんな所では止まらない」

真奈美「のあ……」

のあ「行くわよ、二人とも。全ての真実に辿りつく。このまま、まゆを暗い谷に落としたりしないわ。私は、まゆを救ってみせる」

藍子「のあさん……!」

のあ「まずは、あなたが知ってる事を聞かせて」

藍子「はい」

のあ「真奈美、車を出して」

真奈美「了解」

のあ「それと」

真奈美「また何かあるのか?」

のあ「警察に山荘内を調べさせて。特に電子機器を」

高峯探偵事務所

のあ「ありがとう、志乃」

真奈美「なんの電話だったんだ?」

のあ「緒方智絵里の父親についてよ。警視だった」

真奈美「二階級特進か」

のあ「ええ。真奈美、頼んでいたものは?」

真奈美「出来たぞ。ほら」

のあ「ふむ。まゆの事を調べるのは気が引けたけど、今となっては仕方がないわね」

真奈美「これで、つながったか?」

のあ「ええ。もうひとつ、如月千早まわりのウワサは?」

真奈美「それも仲間に調べてもらった。結論は最後に付けてある」

のあ「よし。これで高森さんまで安心させられる」

真奈美「これで全部か?」

のあ「火事、浅野風香、工藤忍、緒方智絵里の父親、高森藍子とまゆの関係、行けるわ」

真奈美「元気になったな、のあ」

のあ「気のせいよ。電話をかけるわ」

真奈美「はいよ」

のあ「もしもし、夏美、今から佐久間まゆに会えるかしら」

面会室

夏美「どうぞ」

まゆ「……のあさん」

のあ「こんにちは。まゆ」

まゆ「……こんにちは」

のあ「体に変わりはない?」

まゆ「何しに来たんですか……」

のあ「全てを言いに」

まゆ「……まゆがしたことは変わりませんよ」

のあ「それは知ってるわ。でも、私の気持ちが満足しない。あなたの動機を」

まゆ「……言いません」

のあ「あの場所では言えないわね。特に、今井加奈のいる前では」

まゆ「……」

のあ「佐久間まゆ。マンション火災で両親を失う。その後、親族の家を転々としたのちに、東郷あいに認められ、東郷邸へと身を移す。あってるわね?」

まゆ「はい……」

のあ「マンション火災時はたまたま外へと遊びに行って難を逃れた。そのマンション火災の原因をあなたは知ってるわね?」

まゆ「……」

のあ「浅野風香の母親が残したタバコが原因で、ガス漏れに引火した。浅野風香の母親は自殺したわ。人々の怨嗟の念は強すぎた」

まゆ「そうです、だから」

のあ「まだ話さないで。その原因は、とある警察官によって突き止められた。当時、緒方警視、つまり、緒方智絵里の父親よ。知ってたかしら?」

まゆ「……」

のあ「そこまでは知ってたのね。いや、調べられるでしょうね。緒方警視、その時は警部補ね、彼にも不幸が襲う。この辺も知ってるかしら」

まゆ「……」

のあ「暴漢を捕らえようとして、刺殺された。緒方智絵里が好運とか四つ葉のクローバーに執着するのはそれが理由かもしれないわね」

まゆ「……」

のあ「その暴漢が工藤忍の父親よ。もともと精神的に不安的な人だったみたいね。では、その理由は知ってるかしら?」

まゆ「……」

のあ「ここまでは知っているのね。長富蓮実の両親と確執よ。工藤忍にとっては、自分がそこにいたかもしれない幸福な少女が長富蓮実だから」

まゆ「……」

のあ「マンション火事を巡る確執は以上よ。世代は娘に降りているけど、あなたは原因の浅野風香を、浅野風香は家族離散の理由となった緒方智絵里を、緒方智絵里は父の仇である工藤忍を、工藤忍は長富蓮実に対する動機がある」

まゆ「だから、そう言って……」

のあ「でも、違う。緒方智絵里は言ったわ。殺したいほど憎んでいても、そんなことはしない、と」

まゆ「それは、智絵里ちゃんだから……」

のあ「だからこそ、浅野風香と工藤忍がポイントになるのよ」

まゆ「……わかったんですね」

のあ「最初の事件、一人だけ登場する必要のない人物がいる。それが緒方智絵里。なぜ、あの場所に緒方智絵里が呼びだされたのか」

まゆ「……まゆは許されようとか思いません。だから、言いません」

のあ「いいわ。理由は簡単よ。浅野風香が緒方智絵里を殺そうとしたから」

まゆ「……のあさん、それは誰にも言わないで」

のあ「その計画を知ったあなたは、先回りして浅野風香を殺害した。そうね?」

まゆ「……はい」

のあ「でも、それだけじゃないわ。殺害計画なら止めるだけでいい。浅野風香は、もう落ちていた」

まゆ「……」

のあ「何個かの放火が彼女の仕業よ。彼女は誰かを殺した、ともあなたに言ったのね」

まゆ「……」

のあ「だから止めるしかなかった。あなたといい太田優といい、自分の保身に走らなさすぎよ」

まゆ「のあさん、この事実はまゆは秘め続けます。だから、言わないで」

のあ「私からは言わないわ。今井加奈にも。でも、法の場ではそうはいかないから」

まゆ「……はい」

のあ「工藤忍も激情を秘めていた。浅野風香よりもっと感情としてはプリミティブで主体的よ。理由はさっき言った通り」

まゆ「……」

のあ「工藤忍はあの混乱に乗じて、いや、もともと計画していたのかもしれないわ。そして、あの時、長富蓮実の殺人計画を実行した」

まゆ「……それを止めるために殺したとか、まゆは言いません」

のあ「あなたはそれを止めたわ。殺人でしか止めようがなかった、とは言わないわ」

まゆ「……なんで、ですか」

のあ「あなたが話さない限り実証は出来ないけれど、工藤忍が先制した可能性もあるわ。なぜなら、工藤忍は死亡した時何か握っていたから」

まゆ「……」

のあ「あなたがナイフを振り落とした時、工藤忍はナイフを握っていたのでしょう。手袋までしてた左手の平には血が付いていなかった。あなたはそのナイフは隠ぺいした。でも、近くの山の斜面で見つかったわよ」

まゆ「……」

のあ「そして、もう一つだけ」

まゆ「……なんですか」

のあ「盗聴器や隠しカメラを使ったわね。椋鳥山荘で多く見つかったわ。犯行の実行に役立て、工藤忍の計画を知るに至った」

まゆ「……はい」

のあ「以上があなたの起こした事件の全容よ」

まゆ「まゆは全てのことをしました。殺人に関しても殺意を持っていたことを認めます。だから……」

のあ「全ては司法にゆだねるわ。あなたの罪を消そうとは思わない」

まゆ「……」

のあ「だから、裁きを受けなさい。私はあなたのことを許さない。あなたのしたこともね」

まゆ「……はい」

のあ「ある少女の話をするわ。彼女は、大切な人を失った交通事故に学校の友人が関わっていることを知った。でも、彼女はそれを赦したわ。あなたの新しい罪までも、よ」

まゆ「え……」

のあ「待っているわ、まゆ。いつまでも、私は覚えているわ。あなたの気持ちもよ」

まゆ「のあさん……」

のあ「それじゃあね、また来るわ」

まゆ「のあさん、なんで、まゆは……」

のあ「知っている。それでも、待ってるから」

まゆ「……うぅ」

のあ「一つだけ聞きたいことがあるわ」

まゆ「……なんですかぁ」

のあ「土砂崩れを起こすのはあなたでは無理よ。盗聴器と監視カメラをつけるのも、過去の因縁を詳細に知るのも。いるわね、あなたに全てを吹き込んだ人物が。教えなさい」

まゆ「……」

のあ「言っておくわ」

まゆ「なんですか」

のあ「ある少女の行動は本当だけど、そもそもの話が嘘だったわ」

まゆ「……え」

のあ「まゆ、言いなさい」

まゆ「……はい」

夏美「終わり?」

のあ「ええ」

夏美「甘いんだから」

のあ「あなたもよ。語学堪能で異動も簡単にできるあなたが、少年班に留まっているのは何故?」

夏美「理由なんてないわよ」

のあ「そんなに痩せてまで、打ち込んでるのに」

夏美「これはダイエット!心労じゃないわ」

のあ「そういうことにしておくわ」

夏美「まったく……」

のあ「次があるの。また今度ね。真奈美、終わったわ。車を寄こして」

夏美「次はどこへ?」

のあ「星輪高校よ」

星輪高校・敷地内教会執務室

のあ「シスタークラリス、あなたに聞きたいことがある」

クラリス「なにかご用でしょうか」

のあ「座ったままでいいわ」

真奈美「聞きたいことがある」

クラリス「なんなりと、どうぞ」

のあ「では言わせてもらうわ。全ては偶然ではなかった」

クラリス「何のことでしょうか」

のあ「あなたは因縁ある生徒を集めたわ」

クラリス「何をおっしゃって……」

のあ「そして、それぞれの因縁を吹き込んだ。互いのことは知らせないで」

真奈美「佐久間君には浅野風香のことを。浅野風香には緒方智絵里のことを。緒方智絵里には工藤忍のことを。工藤忍には長富蓮実のことを教えた」

のあ「あなたは復讐と殺人の土壌を作った」

クラリス「それは理由があります」

のあ「それを聞く意味はないわ。信念とか宗教に興味はない。あなたは黙って私達の話を聞きなさい。そして、最後の質問にだけ答えればいい」

クラリス「……」

真奈美「さっき言ったのは誇張があるにしろ本当だった。しかし、これからは嘘だ。長富蓮実に吹き込んだ北条加蓮がイジメへ加担したというは嘘だ。北条加蓮の芸能界の友人と岡崎泰葉は一切接点がない、もちろん岡崎泰葉の暗いウワサは事実無根だ」

のあ「岡崎泰葉の仕事を如月千早が奪ったという事実はない。如月千早の妹の死に、高森藍子が関わったのも嘘。そして、高森藍子の大切な人の死にまゆが関わったのも、嘘よ」

真奈美「シスタークラリス、目的がなんだか知らないが、あなたは思春期の娘達に言うべきことではないことを吹き込んだ」

のあ「そんな秘密は共有できない。どんどんと気持ちは醸成されていく。あの年齢なら、言葉は悪いけど殴り合ってわかりあうことだってできるはずよ」

真奈美「あなたは、それを承知で伝え、学生達を精神的不安定に押し込んだ。予想された事態だったんだ」

のあ「実際に浅野風香の計画は知っていたし、まゆの事件は隣の旧館で起こった出来事を言わなかった」

真奈美「工藤忍の殺人計画を示唆したのもあなただ。長富蓮実を呼び出せるように仕向けたのもあなた」

のあ「まゆの行動も知ってはいたのでしょう。だって、協力もしてるんだから」

真奈美「山荘の礼拝堂、床下から盗聴器や監視カメラあるいは無線等の簡易アンテナが見つかった」

のあ「私も時代に毒されすぎたわ。ケータイ電話以外の通信手段はいくらでもあるのに、電波が入らないことで思考停止してしまった」

真奈美「佐久間君にスペアキーの場所を仄めかしたのもあなただ」

のあ「そして、一番大きな仕掛け」

真奈美「土砂崩れのための爆弾を準備した。通信機も礼拝堂内にあった、起爆装置もあったんだろう」

のあ「以上よ。相違ないわね?」

クラリス「私は、人々は罪を知り……」

のあ「そんなことは言わなくていい。私が聞きたいのはただ一つよ」

クラリス「……何を」

のあ「一介の高校勤務のシスターに、情報を集めることも装置を作ることも無理よね」

真奈美「……」

のあ「シスタークラリス、あなたの後ろに誰がいるのか、教えなさい」

パチパチパチ

頼子「そこまでにしておきましょうか。おわかりの通り、全ての情報と道具、そして計画の一部は私がご提供したものです」

のあ「……古澤頼子」

真奈美「物理的にシスタークラリスの後ろから出てくるとは……」

頼子「さすがです。そうでなければ、興醒めでした。この衣装も無駄になってしまいましたから」

のあ「随分と珍妙な格好ね」

頼子「あなたのために作ったんですよ。青い闇に紛れる怪盗服。片眼鏡も特注、探偵のライバルと言えば大泥棒ですから」

のあ「そんなことはどうでもいいわ」

頼子「どうでもよくありませんよ。ほら、シスタークラリスはお体がお悪いんですから」

クラリス「……ハァハァ」

頼子「ね?」

のあ「あなたはまた……」

頼子「違いますよ。もともとです。ストレスがたまると喘息が出やすいんですが、それ以外にも体のご病気を抱えております」

のあ「そんなこと信じるとでも?」

頼子「言い方を変えましょうか。時間がないから、たった一人でも多くを救おうとしたのです」

のあ「だから、教えたのね」

頼子「人々の罪を。罪を知り、赦すことが魂の救済ですから」

のあ「そんな詭弁を信じたのですか、シスタークラリス」

頼子「ほら、そんなに責めないでくださいよ。全ての情報源は私ですから。シスタークラリスは、真偽を知らなかったのです。ね?」

のあ「あなたは……!」

頼子「美しいお顔が台無しですよ。せめて、私との舞台に来るまでは綺麗に保ってください」

真奈美「なんて奴だ」

クラリス「……うっ」バタリ

真奈美「シスタークラリス!」

頼子「おっと、近寄らないでくださいな。近づくと私のワルサーがシスターの頭をぶち抜いて、脳髄をばらまきなされてしまいます」

真奈美「くっ……」

のあ「ひとつ聞きたいことがある」

頼子「なんでしょうか。答えてあげるのも今はやぶさかではありません」

のあ「浅野風香の殺人は、彼女は直接手を下してないわ。でも、対象は死んだ。あなたが、やったのね」

頼子「まさか。殺してほしいと聞いたので、やらせました。私が直接するわけないじゃないですか」

のあ「そのせいで、浅野風香は心を病んだわ。自らの罪だと思い込んだ。そして、殺人犯へと身も心も落とした」

頼子「まぁ、そうだったんですか」

のあ「工藤忍にも接触したの」

頼子「いいえ。あり得たかもしれない未来を教えてあげただけです。無料の善意で」

のあ「なんて悪意なの、古澤頼子」

頼子「ふふふ。高峯のあ、合格です。今度は直接お相手しましょう。では、舞台の案内状はこちらからご送付いたします。だけれど、ひとつだけ言っておきますね」

のあ「何を」

頼子「佐久間まゆがあのクラスに転入になったことも偶然じゃありませんよ。それでは、ごきげんよう!」

のあ「窓から逃げたわ!」

真奈美「シスタークラリス、大丈夫ですか!」

のあ「真奈美、連絡を!」

真奈美「わかった!」

頼子「みなさま、さようなら!」

のあ「……随分と派手な青い改造バイクね」

真奈美「くそ!」

のあ「志乃、私よ、古澤頼子が現れたわ。ええ、星輪高校付近を派手な青いバイクで逃走中」

真奈美「……ついに直接かまをかけてきたか」

のあ「シスタークラリスは?」

真奈美「あの女、去り際に止めを刺して行った。首に針の痕が残ってる……」

のあ「くそっ……」

真奈美「のあ」

のあ「わかってるわ。全ての悪意を醸成させた根源よ、彼女は。少女の未来を壊した、あの女を私は絶対に許さない。そして、私からあの子を奪ったことを後悔させてやる」

ウォンウォンウォン……

EDテーマ

The brightNess

歌 高峯のあ&木場真奈美

高峯探偵事務所

のあ「古澤頼子は捕まらなかったのよね」

真奈美「高台まで追い詰めたけど、そこから飛んだらしいな」

のあ「あれがウィングスーツになるとは……」

真奈美「それでビルに着地して、変装後何くわぬ顔で出て行った、ってところか」

のあ「でしょうね。何故か怪盗であることに妙にくくっていたもの」

真奈美「何が目的なんだろうな……」

のあ「わかりたくもない。そう言えば、高橋署長がカンカンらしいわね」

高橋礼子
署長。階級は警視正。古澤頼子とそのグループを追っているうちにキャリアから外れた経歴がある。

真奈美「どうもそうみたいだな。自分のキャリア捨ててまで追ってる相手だしな」

のあ「ええ」

真奈美「これから、だな」

のあ「そうね」

高峯さーん、電報でーす!

真奈美「電報、今どき使う人がいるのか」

のあ「オシャレな名前になって存続してるわよ。貰ってくるわ」

ありがとうございましたー。

のあ「なんだか豪勢なのが来たわ」

真奈美「ドライフラワー付きとは」

のあ「内容は、なるほど。読むわ」

真奈美「ああ」

のあ「来る、満月の日、王の宝を頂きに参らん、怪盗、古澤頼子」

真奈美「……来たか」

のあ「まさか、犯行予告とはね」

真奈美「やってやろうじゃないか」

のあ「もちろんよ」

真奈美「でも、まずは飯にしよう。満月まで3週間はあるしな」

のあ「ええ。ハンバーグが食べたいわ」

真奈美「……優しい味がいいか?」

のあ「それは、いつまでも待ってるわ。あなたの味で良いの」

真奈美「わかったよ」

のあ「私は負けないわ、まゆ……」


製作 tv ○sahi

次回予告

美術品を次々と狙った犯行予告、人々の前に姿を晒した怪盗の目的とは?

古澤頼子「怪盗古澤頼子、参上」

同時に犯罪組織の瓦解がはじまった

高橋礼子「……つかまり過ぎて気味が悪いわ」

一方で、評価をあげていく高峯のあ

南条光「お姉さんは本当にヒーローみたいだな!」

しかし、そこには罠が

八神マキノ「探偵高峯のあ、その光と影。これはスクープだわ」

古澤頼子「私は、本当の私でいたいだけなのに……」

前川みくの出番はあるのか?

前川みく「みんなー!みくのライブに来てくれて、ありがとうだにゃー!」ニャー!

古澤頼子の真意とは……

古澤頼子「聞こえませんでしたか。私はあなたに死ねと申し上げました」

古澤頼子「次回、最終話」

古澤頼子「のあの事件簿・サイゴの事件」

近日放映予定

オマケ・メイキング

メイキング・1

死者の声

太田優「おはよー♪アッキー連れてきたよ☆」

真奈美「お、来たか」

久美子「メインキャストのご到着ね。アッキー、今回私より出番があるんでしょー」

優「そうなんだよねー。ねぇねぇ、真奈美さぁーん。私も出たいなー、アッキーと一緒に出たいなー、エキストラでもなんでもいいからぁ♪ねぇー、Co君に言ってよー」

真奈美「そうは言われても……」

久美子「ドラマのあなたは死んでるじゃない……」

優「……あはっ☆」

メイキング・2

高校と山荘の名前

クラリス「クラリス。星輪はスター・リング、椋鳥もスターリング……」

加奈「クラリスさん、何をぶつぶつ言ってるんですか?」

クラリス「なんだか、羊達の沈黙が聞こえてきそうでして……」

加奈「……?」

メイキング・3

お弁当のシーン前

のあ「……みくを尻に敷く。たまらない」

真奈美「なに言ってんだ」

メイキング・4

弟と妹

千早「あの……」

真奈美「どうした?」

千早「基本的にキャストに合わせるのに、何故弟から妹に変更されてるのでしょうか?」

真奈美「あー、それは」

千早「それは?」

真奈美「諸事情だ。上からの指示だ」

千早「はぁ……?」

メイキング・5

犯人に全てを言った後のセリフについて

のあ「……のあは自分を曲げないにゃん」

真奈美「ぷふっ!本番で言ったらぶっ飛ばすぞ!しかも、それめちゃくちゃクライマックスじゃないか!」ハハハハ

のあ「……わかるわ」

瑞樹「私のセリフまで!」

メイキング・6

真奈美の胸で泣くシーン

カットカット!

のあ「……ヒックヒック」

真奈美「あー、これガチな泣き方だな」

のあ「…ごめんなさい。痛かったでしょう」

真奈美「正直、本当に痛かった」

CoP「あー、ちょっと無理かな。休憩でいいですか」ハーイ

真奈美「毎回見てるが、実物とギャップがあり過ぎて凄いな。そう思わないか、プロデューサー?」

CoP「そりゃ思いますよ。一番のミスキャストだったはずですもん」

のあ「……あなたが望み、……私は演じた。それだけ、ヒック」

真奈美「ほら、タオルやるから休んどけって」

のあ「……わかったわ」

CoP「むー、真奈美さん、ひとつご意見聞かせてもらっていいですか?」

真奈美「なんだい?」

CoP「このシーンのあと、のあさんの歌が入る予定だったんですけど」

真奈美「『嘘』だったか。この時の探偵の感情そのままの歌詞なんだよな」

CoP「ええ。でも、あの流れでのあさんの歌に入るのは変ですよね。歌えそうもないし」

真奈美「確かにそうだな。まだ収録してないんだろ?変えるなら今のうちだな」

CoP「よし。ディレに言って変えてもらいましょう。誰か候補は……、あ、志乃さーん!」

オマケ・P達の視聴後

PaP「とりあえず、サービスシーンがあったな」

CoP「最初の一言がそれですか、普通?」

PaP「だってよ、のあちゃんと真奈美ちゃんの温泉シーンだぞ。普通の男子は平静を保つのが難しい」

CoP「まぁ、否定はしませんよ」

PaP「話は変わるけどよ、のあちゃん途中でガチで泣いてるだろ」

CoP「あ、わかりますか」

PaP「撮り直し出来ないし、そういう演技だと思えるから、かんでも繰り返し言ってもそのままだし」

CoP「そうですよ。渾身の一発撮りです。16歳組の方がこれは失敗出来ないって緊張したらしいですから」

PaP「へー」

CoP「あと、CuPなんですけど」

PaP「どうした?」

CoP「まゆちゃんの役と演技が気に入ったらしく、焼き肉を僕とのあさんにおごってくれました」

PaP「そりゃ良かった」

CoP「次でラストですから、頼子ちゃんにも頑張って貰います」

PaP「おう。楽しみにしてるよ」

おしまい

各担当プロデューサー、ごめんなさい。特に風香Pと忍Pは色々とごめんなさい。

16歳組だから高2という設定で書いてたら、CDで加蓮が高1だって言ってて驚いた。

16歳組で出てないのは、都ちゃんとライラさん。ちょっと雰囲気違いすぎて……、ごめんね。でも12人にしたいから、ちーちゃん入れたのは完全に趣味。

なんか16歳組小さい人ばっかだな、珠美145cmから始まり153cmが4人もいるし、一番身長が高いのちーちゃんだし、風香ちゃんぐらいしか大きい人がいない…
と思ってたけど、一作目で、瑛梨華、保奈美、雫と大きい人出し切ってるからだった。
あと、クラリスさんは166cm。けっこう貫禄ありそう。

それじゃ、最終話もよろしくです。
終始頼子さんが暴れまくってる感じの予定です。

>>2
書き損ねた

科学捜査課・松山久美子

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom