初めまして 剣です (13)


何時、何処で生まれたかと訊ねられれば、今、ここでと答えるのが正しいのでしょう.
炉で熱せられ、鎚で叩かれ、剣として形作られ、水で冷やされたこの瞬間に私は意識を持ち始めました.

水によって刀身が冷やされ、発せられる無数の気泡の数も落ち着いてきたころ、
おそらく私の創造主であろう大きな手が私を水から引き揚げました.


ドワーフ「……」


数多くの皺を顔に刻み、鋭いながらも確かな温かさを秘めた瞳をを持つそのドワーフは、
手に収まる私を一瞥し、一つ、大きく頷くと、丁寧に私を布で拭いていきます.


ドワーフ「えらく難産だったが……やっとできた.さて、後は仕上げを残すだけだ」

誰もいない鍛冶場でぽつりとそう呟くと、彼は私を大きな布で私を包みました.

ドワーフ「さて、願わくば、こいつの使い手がこいつを正しく使えるやつでありますように……」


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研ぎ師「で、こいつがお前さんの新作かい?」

ドワーフ「ああ、今朝生まれたばっかりさ.いつも通り、後は頼んだ.」


私が運ばれた場所はどうやら研ぎ屋のようでした.いくつもの砥石が並ぶ中、数人の男がひたすらに剣を研いでいます.
その中でも、もっとも年老いているであろう研ぎ師と、ドワーフは会話を続けます


研ぎ師「ふむ、こいつはバスタードか?にしちゃ軽いな.何を混ぜた、ミスリルか?」

ドワーフ「ああ、外にはミスリルを半分ほど.後は芯にオリハルコンを一欠けら混ぜてある」


どうやら私の元となった金属はとても値が張る物のようで、オリハルコンと聞いた研ぎ師は眉をしかめました.


研ぎ師「それはまた……いったい誰からの依頼だ」

ドワーフ「領主様だ、息子の一人が近々騎士団入りするそうでな.そのお祝いだそうだ」

研ぎ師「ああ……あの方の子煩悩っぷりは伺っていたがここまでとは……」

ドワーフ「悪い人ではないんだがなぁ」

研ぎ師「まあ、依頼主が領主様って事ならいつもより張り切ってやりますかね」

ドワーフ「よろしく頼んだ」

研ぎ師「任せとけい」


そう言って研ぎ師は私を作業台に運び、丁寧に丁寧に私を研ぎ始めました.
そして私は彼に身を任せながら、私を使う人が一体どんな人なのか思いを寄せるのでした.

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領主「おお、これが依頼の物か!なんと美しく、なんと鋭いのだ!!さすが名工の名に違わぬ出来まえよのう!」

ドワーフ「お褒めにいただき光栄でございます」

私は親であるドワーフの元を離れ、領主様に渡されました.私のことを絶賛していただいた領主は嬉々として語ります.

領主「いやはや、もし私が二十も若ければ、自ら使いたい程のも一品よ.この剣さえあれば一騎当千もの武勲を上げることも夢ではあるまい!のう息子よ!」

騎士「やめてください父上、僕はまだそんな器では……」


そう謙遜しながらも、恥ずかしげに微笑むこの青年が私の初の使い手となるそうです.


領主「なあに、謙遜するでない.騎士団での模擬戦、見させてもらったぞ.ただの一度も刃を受けることなく敵を打倒したその雄姿、お見事以外の言葉が浮かばんかったわ!
お主はその剣を扱うのに十分に相応しい.遠慮せずに受け取るがよい」

騎士「はい、ありがたく頂戴します.ドワーフ殿もこの様な素晴らしい剣を打っていただき、ありがとうございます」

ドワーフ「いえいえ、騎士殿のような素晴らしい方に使われるとなると、きっとその剣も喜ぶでしょう.どうか貴方に剣の神の加護があらんことを」


まだ使われたことが無いので良い悪いも判断できないのですが、まあドワーフがそういうのならばそうなのでしょう.


騎士「ありがとうございます.父上、そのさっそくなのですが……」

領主「うむ、そう言うと思ってすでに鍛錬場に準備させてある.存分に振るってくるがよい」

騎士「はい!行ってきます」


そういって彼は私を抱え、待ちきれないとばかりに走り出しました.
さて、彼と私自身のお手並みを拝見するとしましょう

騎士「すごい……」


そうぽつりと彼は呟きます.
領主が用意した的は藁束や丸太、挙句の果てには鎖帷子を着せた人型などがありましたが、そのすべてを彼は両断してしまいました.


領主「どうだ息子よ、その剣の使い心地は」

騎士「素晴らしいです……まるで自分の腕かのように馴染みます」


私としては比較するものがないので何とも言えません.しかし振るわれていて悪い気はしませんでした.
やはり剣という性分なのか、物を両断した時に何とも言えぬ爽快感を感じました.


領主「そうかそうか.ふふふ、やはりあのドワーフに頼んだことは正解じゃったな」

騎士「はい、彼は噂どうりの名工でしたね」

領主「うむ.さて息子よ.初陣はいつであったかな?」

騎士「たしか……明後日ですね.先日隣の村を荒らした盗賊団の居場所がわかったそうで、その討伐部隊に参加することとなりました」


彼の初陣が私の初陣となるわけですが、どうやら思ったよりも早くなるそうです.


領主「なんと、騎士団に入ってまだ数日しか経っていないというのにもう行くのか」

騎士「はい、模擬戦を見ていた隊長殿が僕は特例に……と」

領主「ほほう、その隊長とやらは人を見る目があるな!まあ、お主なら難なくこなせであろう、すこしは他の者にも手柄を残しておいてやるのだぞ」

騎士「ははは、気を付けます」

領主「では、期待しているぞ」

騎士「はい、必ずや父上の名に恥じぬ、そしてこの剣にふさわしい戦果を挙げてきます」

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雨が降る山の中、盗賊団のキャンプと思われる物からわずかに離れたところに騎士を含む討伐隊は潜んでいます.
騎士は間もなく始まる初の実戦に緊張しているのか私を握る手がカタカタと震えていました


隊長「いいか、斥候の合図と同時に突撃する.先方は班長、お前の班に任せた」

班長「了解」


自分が所属する班が呼ばれ、彼はびくりと肩を震わせます.
彼の戦果が私の戦果にもなるのですからもっとどうどうとしてもらいたい物です.


隊長「弓兵の班は隊員1たちの援護、槍兵の班は左から敵のキャンプに突撃.俺の班は左から挟撃する」

弓兵「わかりました」

槍兵「うす」

隊長「あとは元の作戦どおりだ、各員配置に付け!そろそろ合図が上がるぞ!」


各員が静かに移動していく中、緊張で固まっている彼に班長が話しかけてきました.


班長「さて、これがお前さんの初陣になるわけだが……緊張しているかい?」

騎士「は、はい……少しだけ」


私はというと初めて切るヒトというものに少しだけワクワクしています.


班長「はは、まあ初めは誰だってそんなもんさ.ただ一つだけ、敵を[ピーーー]ことに戸惑うなよ、戸惑った分だけ仲間が死ぬ確率が増える.このことを胸に刻め」

騎士「はい……」


[ピーーー]という行為がなぜ悪いのか分かりませんが、騎士にとっては戸惑う節があるのでしょう.
そのせいで気持ち良く切れないなんてことはやめてほしいですが

班長「まあせっかくそんな立派な剣を持ってるんだ.存分にそいつを働かせてやろう.」

班員1「その剣ってあの名工ドワーフさんの作品ですよね!!いいなー今度貸してくださいよ!!」


男の一人がそういってずいっと身を乗り出してきました.その眼はギラギラと私に向けられています.
その熱い眼差しはなんというか、すこし怖いです.


騎士「そ、それはちょっと……」

班員1「いいじゃないですか!ちょっとだけ!ちょっとだけですからぁ!!」

班長「班員1、声デカい.お前が剣が好きなのはわかったから落ち着け」

はははと苦笑いをこぼす騎士は、おかげで少し緊張が解れたのか、私をギュッと握りしめなおしました.
そしていくつかの盗賊団のテントから日が上がると同時にボンッっと言う爆発音が雨降る山に響き渡ります


班長「斥候からの合図だ!行くぞお前ら!!」

「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」

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雨が降る山の中、盗賊団のキャンプと思われる物からわずかに離れたところに騎士を含む討伐隊は潜んでいます.
騎士は間もなく始まる初の実戦に緊張しているのか私を握る手がカタカタと震えていました


隊長「いいか、斥候の合図と同時に突撃する.先方は班長、お前の班に任せた」

班長「了解」


自分が所属する班が呼ばれ、彼はびくりと肩を震わせます.
彼の戦果が私の戦果にもなるのですからもっとどうどうとしてもらいたい物です.


隊長「弓兵の班は隊員1たちの援護、槍兵の班は左から敵のキャンプに突撃.俺の班は左から挟撃する」

弓兵「わかりました」

槍兵「うす」

隊長「あとは元の作戦どおりだ、各員配置に付け!そろそろ合図が上がるぞ!」


各員が静かに移動していく中、緊張で固まっている彼に班長が話しかけてきました.


班長「さて、これがお前さんの初陣になるわけだが……緊張しているかい?」

騎士「は、はい……少しだけ」


私はというと初めて切るヒトというものに少しだけワクワクしています.


班長「はは、まあ初めは誰だってそんなもんさ.ただ一つだけ、敵を殺すことに戸惑うなよ、戸惑った分だけ仲間が死ぬ確率が増える.このことを胸に刻め」

騎士「はい……」


殺すという行為がなぜ悪いのか分かりませんが、騎士にとっては戸惑う節があるのでしょう.
そのせいで気持ち良く切れないなんてことはやめてほしいですが

班長「まあせっかくそんな立派な剣を持ってるんだ.存分にそいつを働かせてやろう.」

班員1「その剣ってあの名工ドワーフさんの作品ですよね!!いいなー今度貸してくださいよ!!」


男の一人がそういってずいっと身を乗り出してきました.その眼はギラギラと私に向けられています.
その熱い眼差しはなんというか、すこし怖いです.


騎士「そ、それはちょっと……」

班員1「いいじゃないですか!ちょっとだけ!ちょっとだけですからぁ!!」

班長「班員1、声デカい.お前が剣が好きなのはわかったから落ち着け」

はははと苦笑いをこぼす騎士は、おかげで少し緊張が解れたのか、私をギュッと握りしめなおしました.
そしていくつかの盗賊団のテントから日が上がると同時にボンッっと言う爆発音が雨降る山に響き渡ります


班長「斥候からの合図だ!行くぞお前ら!!」

「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」

幾つもの悲鳴とともにテントから盗賊が這い出てきます.慌てふためく一人に向かって班長が剣を振り下ろしました.


班長「ぜやぁっ!!」


気合とともに振り下ろされた彼の刃は容赦なく盗賊の頭を割ります.
私ならもっときれいに切れたのにと思いましたがそこは騎士に頑張ってもらいましょう


盗賊1「敵襲!!敵襲だ!!全員起きろ」

盗賊2「敵は少ない!!落ち着いて武器をガッッ」


指揮を取ろうとした一人を弓兵の放った矢が打ち抜きました.
無防備に出てきた盗賊たちを矢は狙い澄ましたように打ち抜いていきます.


盗賊1「くそっ!!こいつら騎士団だ!誰かお頭呼んで来い!!」

騎士「はあっ!!」

盗賊1「うおっ!あぶねえなこの野郎!!!」


騎士が放った一撃を盗賊はギリギリで躱しました.
やはり、人を殺すことに抵抗があるのかその一撃はいつもの切れがないように感じます.


騎士「くらえ!」

盗賊1「くそっ、こっちはてめえにかまってる暇はねえんだよ!!」


騎士は一合、二合と盗賊と剣を打ち合っていきます.この程度の敵、普段の彼なら難なく倒せるはずですがやはり動きは鈍いです.
そうしている間にも班長たちは次々と敵を打倒していきます.そして更にキャンプの右側から槍を持った隊長たちが突撃し、あっという間に盗賊を蹴散らしていきました.
まったく、しっかりしてほしいものです.

騎士「はぁ…はぁ…」


騎士の目の前には彼がやっとのこさ殺した盗賊が横たわります.
騎士のとどめの一撃によって盗賊の胸からは血がとめどなくあふれていますが、私は最後の一撃に納得がいきません.
私を初めて振るった時のような鋭さは無く、あの時のような爽快感は一切ありませんでした.


班長「まあ……初めは誰もそんなもんさ、気にするな」

騎士「はい……」


ぎしり、と悔しそうに歯を食いしばります.華々しいデビューを想像していたのでこの結果は彼にとって不本意なんでしょう.
むろん私にとってもです.


隊長「各員敵の数を数えろ!!各班長は被害の確認を!」


隊長が指示を飛ばす中、あの熱い眼差しの彼が話しかけてきました.やはり彼の眼はまっすぐと私に向けられています.


班員1「おつかれさま、いやー思ったよりあっけなかったですね」

騎士「……僕は何もできませんでした」

班員1「いやいや一人殺っただけでも十分でしょ.俺の初陣なんて腰抜かして震えてたら終わっちゃったんですよ?それに比べたら全然マシだよ」

騎士「そうですか……」

班員1「そうそう、にしてもほんと手ごたえなかったなこいつ等.えーと、ひーふーみーよー……たった八人?少ないな……」

騎士「そうですね、この数ならこんな大規模な討伐隊はいらなか」

隊長「おい!槍兵の班はどこだ!!」


騎士の声を遮って隊長の怒号が響きます.その声は焦りに震えていました.


班長「見当たりません!キャンプへの突撃もしていませんでした!」

隊長「何……総員けいかっ」


何かに思い立った班長が支持を飛ばそうとした瞬間、彼の頭を一本の矢が貫きました.

そこからは一方的でした.矢の雨が降り注ぐと同時に盗賊団の本隊が突撃、それは想定以上の数だったのでしょう.騎士団はあっという間に壊滅しました.
なんとか撤退しようとするも、盗賊は行く先行く先に現れ、騎士団は一人、また一人と数を減らしていき、とうとう騎士一人が崖に追い詰められてしまいました.


騎士「ううううぅぅぅぅ」

お頭「こんな若いあんただけがここまで生き残るなんて.まあおとなしく観念して殺されてくれ」

騎士「くそ……こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのに!」


騎士はガタガタと震えています.今回は緊張ではなく恐怖で.


お頭「なんだ、お前今回が初陣だったのか?そいつはついてねえな、初陣で俺らにあたっちまうなんてよ」

騎士「くそっくそぉおおおおおお!!」


やけくそになったのか騎士はお頭に向かって私を振るいますが.恐怖に震え、我を失った彼の一撃は簡単にいなされ、あっさりとお頭の剣を肩に受けてしました.
あまりの痛みの為でしょう、思わず騎士は私を落とし、肩を押さえます.
雨に土に落とされた私は泥によごれます.おい


騎士「あぐっ……」

お頭「まあ、恨むなら自分の運と、力の無さをうらんでくれよ」

騎士「いやだ……死にたくない」

お頭「誰だってそうだろうよ.じゃあな、来世で頑張れよ」

騎士「あ……」


そう言うとお頭は騎士を崖から突き落としました.なかなかの高さのある崖ですからまあ助からないでしょう.
お頭は泥の中の私を見つけ拾い上げます.


お頭「へえ、若造が持つにはずいぶん立派な剣だな.ありがたく使わせてもらうか.お前ら!!また騎士団共が来る前にずらかるぞ!!」


さようなら騎士、よろしくお頭.
あんたが私の二人目の使い手です.
願わくば騎士よりもマシな使い手となってくれるようお願いします

本日はここまで
できれば週1で更新したい

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