ハーピー「パパーだいすきーっ!」 (10)

男「部長、なんですかそれ。ダチョウの卵?」

部長「…………」

ふるふる。

男「えっ、違うって?じゃあ、なんなんだろう」

部室の机の上に置いてある謎の卵。
大きさは30センチ強。

男「にしても、よくここまで運んでこられましたね。大変だったでしょ?見るからに重そうですよこれ」

部長「…………」

男「えっ、執事さんにわざわざ運んでもらったって?そっか、そりゃそうだよな」

オカルト研究部の部室は、三階の教室だ。
女の子の力でここまで運んでくるのは相当根気がいることだろう。

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男「目玉焼きにしたら旨そうだなこいつ」

部長「……くすっ」

男「部長?」

部長は口元に手を当てて、お嬢様らしく上品に笑っていた。
俺、そこまで変なこと言ったかな?

部長「…………」

男「えっ、この卵のことで俺に頼みごとがあるって?」

部長「…………」

こくこく。

男「はあ、わかりました。俺にできることならなんでもどうぞ」

先輩からの頼みごとかぁ。
なんだろう?

男「ただいまー」

妹「おかえりお兄ちゃん。遅かったね」

男「まあな、いろいろあったんだよ。いろいろとな」

妹「ふーん?」

家に帰ると、妹は疑わしそうな顔で、両手に抱えている巨大な卵を見つめてきた。
そりゃそうだ。
気にならない方がおかしい。

妹「お兄ちゃん……?」

男「ああ、この卵のことか。これな、友達からの預かりものなんだ。明日からのGWは家族で旅行に行くんだってさ」

妹「友達って……オカルト研究部の人?」

男「そうだけど?」

妹「…………」

怒ってるのか?
今日の妹、なんだか怖い顔してるぞ。

妹「お兄ちゃん。ちょっとそこに正座しなさい」

男「ちょっと待て。まずはこの卵をどうにかしないと……」

妹「いいからっ!」

男「はいっ!」

思わず声が裏返ってしまった。
卵を玄関の隅の方におくと、俺はおとなしく正座をした。
ああ、そっか。尻に敷かれるってこういうことか。

妹「よいしょ」

妹も向かい合うように正座をした。
俺と違って背筋がピンと伸びている。

妹「お兄ちゃんがどの部活に入ろうと自由だよ。わたし余計な口出ししない。でもね、お兄ちゃんにはちゃんと自分の意思を持ってほしいの」

男「い、意思?」

妹「そう意思。お兄ちゃんはなんでオカルト研究部に入ったの?」

男「うーん……」

去年の新入生歓迎・部活動見学の光景を思い出してみる。
あのときはたしか……

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ポニーテール『きみ、そこのきみだよ。きみ、一年だっけ?』

男『はい、そうですけど』

ポニーテール『だよね。きみ、幽霊とか宇宙人とか興味あるかな?』

男『すいません、あんまりないです』

ポニーテール『まあまあそう言わずにさ。とりあえず見学だけでもどうかな?今ならカルピス飲み放題だよ』

男『見学だけですよ』

ポニーテール『いいね、そうこなくっちゃ』


――
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――――――――

男「なんとなく、かなぁ」

妹「なんとなく」

妹は呆れたような顔でため息をしている。

妹「なんとなく大学に行ってなんとなく就職する。それからなんとなく結婚してなんとなく子どもを産んで、なんとなく老後を迎える」

妹「それで死ぬ前になって後悔するの。ああ、俺はあの時ああしていればよかったのにって。お兄ちゃんの人生、それでいいの?」

男「は?」

呆れた。
なにを言いだすかと思ったら……
これ以上は付き合いきれないので、俺は立ち上がることにした。

男「馬鹿らしい。たかが部活動ぐらいでそんなおおげさな」

妹「おおげさじゃないよ。それによくないウワサだってあるんだから」

男「よくないウワサ?」

妹「うん。夜の学校に行くと、オカルト研究部の部室から変な物音がするんだって。ポルターガイストなんじゃないかってみんな言ってるよ」

男「ありえねー」

妹「ほんとだもんっ!」

男「そーいや、今日の晩飯なんだっけ?」

妹「唐揚げ。……じゃなくて、お兄ちゃん!わたしの話ちゃんと聞いてるのっ!」

男「聞いてる聞いてるー」

こんな感じで妹の追撃をやり過ごしながら、俺は食卓に向かった。

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