茶トラ「ぼくのいちねんかん」 (23)

これは、ぼくが精一杯生きた1年のお話

ぼくが気づいたとき、そこは緑が生い茂っていた。
すぐ傍に、三毛模様の大きい猫がいた。

あぁ、これがお母さんかぁ。

ぼくにひっつくように、3匹の子猫がいた。

あぁ、これがぼくの兄弟かぁ。

ぼくの兄弟は、みんな違った模様をしていた。
兄は、さび模様がかっこいい。
姉は、お母さんみたいな三毛。
妹は、白色にブチ模様がかわいい。

でも、ぼくの姿はわからなかった。
おなかがすいてものどがかわいても
お母さんがおっぱいをくれるから。
ぼくたちはずっと、緑を眺めながらおかあさんと過ごしていた。

でも、お母さんはガリガリだった。
おっぱいもあまり出ないし、
お母さんはぼくたちがいるからご飯を食べにいけなかった。

ある朝、兄が目を覚まさなかった。
頑張って声を張り上げても、身体に噛みついても、
兄はそのまま起きなかった。

ぼくたちの声が、ニンゲンというとても大きな生き物に見つかってしまった。
ニンゲンは、兄を見つけると抱えてどこかに行ってしまった。

やめてよ、兄を連れていかないで。

兄は帰ってこなかった。
お母さんは何も言わない。

次の日から、ぼくたちの傍に何かが置かれていた。
お母さんが、それをカリカリと音を立てて食べていた。

これが、ご飯なんだね。
でも、ぼくたちが食べようとしても
固くて全然食べられなかった。

さらに次の日、何かいい匂いのするものが置かれていた。
ぼくたちはそれを食べてみた。柔らかかった。

どうやら、ニンゲンはぼくたちにご飯をくれたみたいだった。

ぼくたちにご飯が用意されているのがわかると、
お母さんは毎日どこかへといなくなった。
夜になったら帰ってきて、ぼくたちの身体を舐めてくれる。

緑がとても綺麗だった。
とても広いと思っていたそこは
気づけばぼくたちでも歩き回れるくらいの狭さだった。

ぼくは水たまりを見つけて、飲もうとしてのぞき込んだ。

オレンジ色が綺麗にうつりこんでいて、すこしまぶしかった。
ああ、これがぼくの姿なんだ。

ぼくは、茶トラの猫なんだ。

自分の姿を知ったぼくは、お父さんのことが気になった。
お母さんは三毛で、兄はさび、妹は白模様なんだもん。
どうしてぼくたちはみんな、色が違うんだろう?

ぼくたちは、お父さんを捜すために冒険に出ることにした。
緑を抜けると、そこは灰色だった。
まだ薄暗い夜明け、ぼくたちはお母さんが寝ている隙に
その灰色の世界に飛び込んでいった。

とたん、何かギャーギャーとした声が聞こえてきた。
びっくりして動けないでいると、黒い羽根を持った生き物が
姉を捕まえてどこかに飛んでいってしまった。

姉は必死で叫んだけれど、その生き物の声のほうが大きくて
気づいたら姉の声は聞こえなくなっていた。

ぼくたちは怖くなって、お母さんのところに急いで戻った。

やっぱりお母さんは何も言わなかった。

これで、もうぼくと妹しかいない。
ニンゲンは、ご飯をくれるときとくれないときがある。
くれないときは、ぼくたちはおなかをすかして
次の日がくるのを待つしかなかった。


ある日、お母さんがついてきて、と言って
ぼくたちを灰色の世界につれていった。

お母さんは、すごいスピードで走ったかと思うと
何かをくわえてぼくたちのところに戻ってきた。

「今のが狩りのやりかたよ。自分のご飯は自分で用意するの」

お母さんが口にくわえていたのは、小さくてしっぽの生えた
茶色い生き物だった。まだ生きていた。

ぼくたちは、動くそいつがおもしろくて
おもちゃみたいな感覚でそいつをつついたり噛みついたりしてみた。

いつのまにかそいつは動かなくなっていた。
なぜかはわからないけど、これを食べなくてはいけない。
そう思って、ぼくはそいつを食べた。
あんまりおいしくなかった。

ただ、「狩り」というものはとてもおもしろくて。
ぼくは速く動くものを見ると、つかまえたくなった。
最初にとれたのは、足が六本生えたちっちゃいやつだった。

妹に自慢したくてそいつをくわえて合流したら
妹はぼくよりも大きなものをくわえていた。

悔しくて、ぼくたちは毎日きそって狩りをするようになった。

お母さんは、だんだんぼくたちに色んなことを教えてくれた。

狩りをするときは、相手にきづかれてはいけない。
えものを捕まえたら、喉のところを噛んで殺さなければいけない。
灰色の部分はまだ絶対に行ってはいけない。
ニンゲンに見つかってはいけない。
雨が降ったら身体をぬらしてはいけない。
太陽がまぶしい日は水を飲まなければいけない。

いけないことだらけだった。

ぼくはお母さんにきいてみた。

ぼくたちのお父さんはどこにいるの?
なんでぼくたちは模様が違うの?

お母さんは、さぁね知らない。と言って寝てしまった。
ぼくは、お母さんと兄弟以外に猫を見たことがない。
お母さんがいうには「縄張り」というのがあって
決まった場所でしかぼくたちは狩りをしてはいけないらしい。

正直ぼくはよくわからなかったけど、お母さんの縄張りでも
虫という小さなものはたくさん取れたから気にしなかった。
でもお母さんがとってきたしっぽの生えた生き物は
頑張って探しても見つからないし、
見つけてもつかまえることはできなかった。

ぼくたちは、だんだん虫だけじゃおなかがいっぱいにならなくなった。
お母さんがいない時間も増えて、ぼくたちは困ってしまった。

だから大声でお母さんを呼んだんだ。

そうしたら、前にぼくたちにご飯をくれたのとは別の
ニンゲンに見つかってしまった。

お母さんは、ニンゲンに見つかってはいけない、と言った。

ぼくは必死でそいつに威嚇した。
こっちくるな!あっちいけ!こわい!やめろ!

ニンゲンはどこかに行った。妹とぼくは安心した。

と、思っていたらまた戻ってきた。
また精一杯威嚇していたんだけど、いい匂いがするのに気づいた。

そのニンゲンも、ご飯を持っていた。

でも、お母さんはニンゲンに見つかってはいけないと言った。
ニンゲンは悪いやつなんだ。
ぼくたちは急いでニンゲンの見えないところまで隠れた。

ニンゲンが少し残念そうな声で何かを言ってるのが聞こえた。

ぼくたちは、お母さんにニンゲンに見つかったことを言った。
それと、ご飯を持ってきたことも。
お母さんは、様子を見ようと言ってしばらくぼくたちを隠した。

ニンゲンは毎日、ぼくたちの寝床の近くまできて
ぼくたちを呼んでいた。ご飯の匂いもした。

お母さんがニンゲンのところに行くと言ったので
ぼくたちは影からこっそり覗くことにした。

ニンゲンはご飯を地面に置いて、少し離れたところから
お母さんに向かって何かを話しかけていた。
お母さんが、そのご飯に向かって歩いていく。

あ、もしかしてこのニンゲンは大丈夫なのかな?

そう思った瞬間、お母さんはニンゲンに飛びかかった。
するどい爪がニンゲンをひっかき、ニンゲンは驚いていた。
でも、また近づいてきてはお母さんを呼んで、またひっかかれて・・・。
そのうちご飯を残してニンゲンはどこかに行ってしまった。

お母さんはそのご飯の匂いをかいで、安全だと思ったみたいで
ぼくたちも呼んで三人でそのご飯を食べた。

虫とは違ってすごくおいしかった。

お母さんとニンゲンは、毎日同じやりとりをして
ニンゲンがどこかに行ってからぼくたちはご飯を食べた。

ぼくたちが生まれたのは、まだ少し風が冷たいけれど
おひさまがぽかぽか暖かい頃だった。
でも、今はとてもおひさまが熱い。
ぼくたちは狩りの練習をしながら、涼しいところを見つけては
こっそり練習をさぼってお昼寝をしていた。

だんだん、あのニンゲンは悪いやつじゃないんじゃないかと思った。

ある日、いつものようにお母さんがひっかいても
ニンゲンが逃げなくなった。
ひっかかれた手を差し出しながら、ご飯のところへやってきて
なんとそのご飯を食べたんだ。
でもすぐにはき出した。もったいない。

そうしたら、お母さんはひっかくことをやめた。
ぼくたちを呼ばないで、その場でご飯を食べ始めた。

ぼくにはその行動が、まるでニンゲンがお母さんと一緒にご飯を食べよう。
と言ってるみたいに思えて、やっぱり悪いニンゲンじゃないんだと思った。

だからぼくたちはお母さんに内緒でそのニンゲンのところに行った。
ニンゲンはすごくびっくりしていて、どこかに行ってしまったかと思うと
ご飯を持ってきてぼくたちに差し出した。

でも、ここはお母さんみたいにしないと。
そう思ってぼくはニンゲンの手を思いっきりひっかいた。
ニンゲンは、笑いながら少しだけご飯から離れた。

妹と顔を見合わせて、ご飯を食べてみた。
やっぱりおいしかった。

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