P「トラベルプランナー」 (27)

PM6:30

ピピピッ ピピピッ

室内に響く電子音

お気に入りの目覚ましが壊れてから一週間、気に入る物が見つからないという理由から
今では携帯電話のアラーム音を使っている。
音は小さいが今まで起きることができているので問題はないだろう。



ピピピッ ピピピッ

アラーム音は、『固定パターン1』
何とも風情がない名前と音だ。
そろそろスマートフォンとやらに変えてみようか。
しかしボタンがないってのは不便ではないのだろうか。
……その前に目覚まし時計だな。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398512373

ピピピッ ピピピッ

「眠い……」

殺風景な部屋に鳴り続ける単調な音に
朝から感情まで支配されるようだ。

ピッ

『血でも魂でも何でも売っぱらって たった一秒でも長く眠りたい』
そんな大げさなことを思いつつ
俺は携帯のアラームを止め、未練がましく布団から体を起こす。

まだ少し肌寒い早朝に震えながら支度を済ませる。

「行ってきます」

当然返事はない
でも言いたくなった。

シャッフル再生の音楽プレイヤーを流しながら
両耳にイヤホンを付ける。
無精な性格と最近の忙しさから
曲のレパートリーはここ数年変わっていない。

プロデューサーともなると様々な業界の人と出会うようになる。
昨日は作詞作曲を手掛ける人と出会い、挨拶がてら色々な話をしてきた。

『イメージに真理を見る様になったら、一人前かな』

大笑いしながらその人は言った。
勿論俺には意味が分からない。

『歌詞……つまり幻想しか産めないような頭になってしまって』

『やがて曲にするためにフレーズにこだわるようになって意味やら理由には関心もなくなっていく』

『作詞と作曲を手掛けるということはこういうことだ』

終始おどけた表情の彼はどこか悲しげな表情をしていた。
相変わらずよくわからなかったが俺は

『そこに歌う子がいれば意味や理由が生まれたりしませんか?』

そんなことを言っていた。

その人は面食らった顔をした後、優しい顔になり

『そうかもしれないね』

と微笑んだ

「またこの曲か……」
昨日のことを考えつつ、うちのアイドル達を思い出す。
何回目になるかわからない
鼓膜に付着したメロディーを聞きながら
事務所へと足を進めた。



「おはようございます小鳥さん」

事務所に入ると小鳥さんがすでに机で事務についていた。
心なしか少し眠そうに見える。
彼女のほうが早く来ているのだから当然と言えば当然だ。

「プロデューサーさん、おはようございます。社長は大事な調整をすると言って今朝すぐ出て行っちゃいましたよ」

「ええ!?それはまた急ですね」

「最近みんな忙しいですから、社長も中々事務所に居れないんですって」

ここのところ765プロはとても忙しい。
みんなが本来の実力を発揮し始めてくれているおかげで
俺が入社した当時と比べると本当に見違えるようになった。

「プロデューサーさん、今日は早いですね」

「ええ、千早のレコーディングを早めて午後のロケに時間を当てないといけないので」

「え?それってもしかして明日のことですか?」

「……へ?」

自分でも思うくらい阿呆な声が出る。
直後あわててスケジュール帳を確認し……

「……やってしまった」

「フフ、プロデューサーさんも意外とおっちょこちょいですね」

微笑みながら小鳥さんは言う。
スケジュールを一日ずらして読んでいたなんて。
たまたま仕事がなかったからよかったものの。
気を引き締めなおさないといけない。

「予定が午後でよかったですね、プロデューサーさんもたまにはゆっくりしてくださいよ」

「お恥ずかしいです。でしたら暇になってしまったのでなにか手伝うことはありますか?」

「じゃあこっちの書類お願いします。私も急いでませんのでゆっくりのんびりやりましょう♪」

ニコニコと接してくれる小鳥さん。
事務仕事が多い彼女とすぐ外に出てしまう俺はなかなか一緒にはいられない。
たまにしかないこんな些細な機会が嬉しく思える。

小鳥さんから受け取った書類に目を通し終え一息つく。
朝もやとコーヒーの香りの相性はとてもいい。
二人だけの事務所で感慨にふける。

暮らしに膜を張るみたいに漠然と夢を見てしまう。
亜美と真美のお菓子置き場の下に埋もれる世界の街並みが移る旅行雑誌。
何気なく取って見たその風景。

例えばあの風車の町に漠然と夢を見てしまう。
皆が忙しくなり、今日も午前中に事務所に集まることはない。
すでに現場に立ってもらっている子、午後からの予定の子
昨日から泊まり込みでのロケにいる子。

仕事がなかった時はとりあえず皆が事務所に居た。
その時俺はそんな状況に焦りを感じていた。
一人で突っ走りミスをしたりしていた。

でも俺は好きだった。皆と一緒にいるこの空間が。
スケジュールが空いているから皆で海にも行けた。
俺はあんまり皆とはしゃいではないけど
皆が笑っているのを傍で見れた。

もう一度旅行に行きたい。
そう思っても手帳を見れば答えは出ている。
だから思うだけにする。
仕事があるのはいいことなんだ。

「プロデューサーさん?」

「おぉう!?」

小鳥さんが顔を覗き込んでくる。
心臓止まるかと思った……

「びっくりしすぎですよ。書類ありがとうございます」フフ

「あ、あぁ……いえこれくらい」

「何か考え事ですか?あ、この雑誌」

「えぇ、少し旅行について考え事というか……」

「プロデューサーさん旅行に行くんですか?」

「いえそういうわけじゃ……ただ最近行けてないなぁと思って」

「いいですね、私も行きたいですよぉ~。見てくださいここ!景色がすごくきれいですよ!」

そういって小鳥さんはページの写真を指差す。
浮かれた考えに突っ込まれるかと思ったが
小鳥さんはとても純粋に雑誌を見ていた。

しかしこの雑誌日本のページもあるのか、充実している。

「ご飯のことを考えると日本国内も十分素敵ですよねー」

そういうと小鳥さんは国内のグルメのページを読み始めた。
俺も楽しくなりあれやこれやと色々な場所や料理を指差す。

「行くとしたら夏とかですかね」

「いや冬に温泉っていうのもいいものですよ」

「美味しいものを食べまわるとか」

「俺が昔行ったところは……」

仕事がなかったあの日、喫茶店で
俺が侮蔑の目を向けた大人と同じ顔して
行けもしない旅行の計画を
立てて笑う。

「さて……そろそろお昼ですね」

「フフ、すっかり楽しんじゃいましたね」

そういうと小鳥さんは雑誌を本棚へしまう。
その瞬間になにかやるせない気持ちになる。
計画しているときが楽しいというが
それはその計画が実行される前提の話だ。

計画にもなっていない今小鳥さんと話していたことは
ただの空き時間のお喋りだ。

小鳥さんはそんな風に考えてはいないだろう。
純粋に楽しんでいたように見えた。
俺が嫌な考え方をしているだけだ。

「たるき亭でもいきます?」

「いいですね」

小鳥さんとお昼を食べに行く。
嫌な考えを払拭するように
たのしむために。

「いやぁおいしかった」

「また食べ過ぎちゃいました……美味しいけど太ってしまいそうです」

「確かに量は多めですが……小鳥さん気にしすぎでしょう」

「プロデューサーさんにはわかりませんよーだ」

少しすねた目をして非難されてしまった。
スタイルならアイドル達にも負けてないじゃないか。
おおっと、変な目つきだったかもしれん。

「……プロデューサーさん見すぎです」

……遅かったか

「やよいを迎えに行ってきます。そのまま簡単な取材があるので」

「はい。あとは任せてください!プロデューサーさん♪」

言い終わる前にわかっているとは……
本当に頼りになる。

「プロデューサーさん……行けるといいですね、皆で」

「……はい、行ってきます」




「お疲れ様です、お世話になりました」

その後響の現場に居合わせ近くのスタジオでレコーディングを終えたやよいと伊織と合流する。
相変わらずよくやってくれていたようで向こうの監督さんも終始笑顔だった。
彼女たちは俺と会うと笑顔で来てくれる。
もっと現場に居合わせてないといけないな。

「疲れた……」

家に帰り携帯で時間を確認すると11時を回っていた。
これでも早く帰れたほうだけど今日は一日が長かった……

寝る支度をし、明日の準備を済ませ布団に転がる。
つけっぱなしのテレビが視聴者に投げかける。

『もしも生まれ変われるとしたら、何になりたいですか?』

命を命題にしたドラマの冒頭はその文句から始まる。
あずささんが主役として登場するドラマだ。録画は小鳥さんに任せてある。
しかし今日は寝るだけだから見ておこう。

『精一杯生きた人は次の命でも素敵なものになれるんですよ』

彼女は共演者の男性にそんな言葉をおっとりと告げる。
なかなかに興味深いことを。



「うん、演技もずいぶん上達してくれている」

ドラマを見終わりテレビを消す。
よくできたストーリーだしきっといいドラマになるだろう。


目をつむりドラマの言葉を思い出す。
生まれ変わるとしたら……


消耗して
命を使い切って
新しい存在になれるのなら
真夜中一人きり呟いてしまう様な
俺は一節の言葉になりたい。

そんなロマンチストのようなことを頭にめぐらせつつ
微睡に落ちて行った。

笑った君の顔が好きで漠然と恋をしてしまう。
纏ってる雰囲気が好きで漠然と恋をしてしまう。
共通の話題が無い事に気づく前に。

なんてことない日常のワンシーン。

ただそこで笑っている小鳥さんはきれいで
雰囲気に癒されて
だけど何を話したらいいかわからなくて。

俺はもしかしたら漠然とだけど……




ピピピッ ピピピッ

お決まりの電子音が俺を覚醒させる。

「今日も忙しかった……」

ゆっくりと今日を振り返る。
レコーディングは早朝だというのに完璧な出来ですぐに次の現場に向かえた。
春香はロケでなんども転びかけたがどうにか頑張ってくれた。
ロケが終わり安心して俺の元へ来た時に初めて転んでしまった。
受け止められてよかった。

雪歩と真が二日ぶりにようやく帰ってきた。
二人とも本当にお疲れというと
笑顔でロケの思い出を語ってくれた。

美希は朝からモデルの仕事があり夕方に帰ってきた。
おにぎりを作っておいてやると飛びつかれた。
男冥利に尽きるが頑張って引き離す。
喜んでもらえてよかった。

コーイーヲーユメーミールオヒメサマハ

電話に出ると律子が明日の予定の確認をしてきた。
彼女も俺と小鳥さんを両方手伝ってくれた。
竜宮小町もあるというのに。

「全く感謝してるよ、いつもありがとう」

そういうと彼女はあわてた様子で要件をそそくさと伝えて切ってしまった。
忙しかったのかな?

そういえば社長はまた今朝からいなかったな。
小鳥さんが言うにはなんでも大きい番組の打ち合わせを中心に
色々駆け回っているそうだ。
社長に迷惑をかけないように俺も一層頑張らないと。

「……」

相変わらずの殺風景な部屋。
ただ一ついつもと違うのは
昨日小鳥さんと一緒に見てた雑誌。

今日事務所によって持って帰ってきたものだ。

「一人で旅行プラン考えるとかなんかなぁ……」

そういいつつページをめくる。

もし
行けるとするなら

仮定の話
それも叶わないなんてわかってはいるけど

ここもいいな
ここも行ってみたい
ここなんか楽しめそうだ
貴音がいたら言うかもしれないな
小鳥さんが温泉もいいって……

次第に意識がフェードアウトしていく。

ピピピッ ピピピッ

……
寝落ちするなんていつ以来だろう。

明かりもテレビも点けたまんまで疲れて眠ってしまった。
行けもしない旅行の計画を浮かべながら。
月でも城崎でも何処へでも飛び交うトラベルプランは
寝て起きたらいつもの朝が来て忘れちゃったよ……

「今日も頑張ろう」

行ってきます。

事務所のドアを開ける。
今日も小鳥さんは笑顔で俺を迎えてくれた。

「おはようございます、プロデューサーさん」

「おはようございます小鳥さん」

「早速ですが社長が呼んでましたよ。すごく楽しそうでした」

「本当ですか?ちょっと行ってきます」

なんだろう。社長が楽しそう?
心なしか小鳥さんも嬉しそうな表情だった。
そして久しぶりだからなんか緊張するな。


コンコンコン

社長室のドアをノックする。
古びたそのドアは趣がある反面月日を感じ少し寂しくなる。

「社長、私です。おはようございます」

「おおっ君か。入りたまえ」

ガチャ

社長室の真ん中の机の向こう側に座る社長。
相変わらず黒くてよく見えないが小鳥さんは楽しそうだと言った。

「社長、小鳥さんから要件があるとのことで……」

「そうなんだよ君ぃ。実はな私は最近ある計画のために動き回っていてね」

「計画ですか」

「君を含める我が765プロに所属する子達は本当に頑張ってきてもらった」
「今やトップアイドルとしての道を順調に進んでいる」
「だがしかしアイドルとはいえ少女たち……」
「せめて私からねぎらえることはないかと思って考えたのが始まりだ」

ハロー

「そこで私はアイドルたちのレギュラー番組をはじめ」
「固定やゲストとしての仕事先を渡り歩いた」
「スケジュールの調整なんて何年ぶりの仕事だったか……」
「君の苦労を改めて知ることができたよ」

グーテンターク

「そしてついに!先の話ではあるが3か月後、君たち全員分の休暇を同じ日に用意することができた」
「私の器量不足はもちろん彼女たちも売れっ娘だ……3日が限界だったが」
「君たちに感謝のしるしとして私から3日の時間をプレゼントしようではないか!」

「中々に大変な調整ではあったがこれも……って君?どうしたのかね!?」

「いえ……少し驚いてしまって……」

すべて諦めていた
彼女たちが頑張っている証拠だと
名誉なことだと
すべて俺のわがままだと
これがあるべき姿であり
いい年してみっともないと


涙が、止まらなかった。

「落ち着いたかね」

「はい、お見苦しいところを見せました」

「構わんよ、泣くほど嬉しかったとは……私もかいがあったというものだよ」

「社長、本当に、ほんとうにありがとうございます」

「うむ、それまでは調整の関係上今までより少し忙しくなるが我慢してくれよ?」

「はい!今まで以上に頑張らせてもらいます」

「765プロの慰安として最大限に生かしてくれたまえ!」
「私からは以上だ。あぁそうそう」

「?なんでしょう」

「765プロの慰安だからね、音無君も当然含まれている」
「二人で彼女たちにとっておきのプランを用意してくれたまえ」

「はい!まかせてください!」

「これからもよろしく頼むよ」

社長室を出て真っ先に小鳥さんの元へむかう。
小鳥さんはすでに何冊もの旅行雑誌を持っていた。

「気が早いですけど……早めのほうがいいかなって」

そう言って遠慮がちに微笑む彼女

「そうですね小鳥さん」

「この前の続きになりましたね」

「またたくさん話し合いましょう!」

「はい!」


「仲良きことは美しきこと……かな」


Dear トラベルプランナー

終りです
初投稿でした
短いうえに乱文失礼
ハヌマーン聞いてたらアイマスSS描きたくなったので

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