【まどか】承太郎「うッとおしいぞこのアマ!」杏子「あァ!?」【ジョジョ】 (388)

”町に住んでいるとそれはたくさんの人と出会う”

”しかし普通の人たちは一生で真に気持ちがかよい合う人が一体何人いるのだろうか…?”

”母には父がいた。父には母がいた”

”自分はちがう”

”TVに出ている人とかロックスターはきっと何万人もいるんだろうな”

”…自分はちがう”


膝を抱えて私は考えていた。


”自分にはきっと一生、もう誰一人としてあらわれないだろう”

”なぜなら…あの敬愛していた先輩と分かたれた今、魔法少女の友だちなんて、誰もいないのだから”


発作のように訪れる暗い感覚が、私の胸を内側から突いていた。

折しくも、あの出会いの日…その前日の夜のことだった。『あの時』若干ながら情緒不安定だったのは、今考えるとそのせいかもしれない。

素肌では夜の外気がまだ仄寒い季節のことである。

その夜、悪い子の私に、日の出はずいぶん遠かった。


”目的が一致していた初めての『仲間』だった。先輩は、わずかな間だが気持ちが通い合った『仲間』だった”


心の奥底で静かに待ち望んでいた『救い』が、もし…もしも、私なんかの所に来てくれるなら…

それはきっと、似たような、魔法を扱う…少女の形をした……




【ジョジョ3部のネタバレあり】【あんこ】

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日本  ある市と市の境目の霊園



ザッ ザッ…

承太郎「…」

承太郎「墓参り…なんてのはやっぱりガラじゃあねーな…」

ジョセフ「なんじゃあ浮かない顔だのお承太郎?不満かァー?」

承太郎「…霊園ってのはどうにも空気が良くねえ」

ジョセフ「シミッたれたツラをしおって…オラッ!墓前じゃ!シャンとせんかい!」

承太郎「あのアマがギャーギャーと騒がなけりゃ俺はこんなところにはいねーぜ」

ジョセフ「まったく…旅から帰って大分落ち着きが出た…と!思ったらすぐこれじゃわい!大した孫だ」

ボッ… フワァ~…

ジョセフ「線香?っつったかな?こりゃーたまらん!カビの匂いじゃ!これを最初に仏にささげようとのたまった人間の精神を疑うな」

承太郎「おいジジイ…いつまでぼさっとしゃがんでやがる…”水撒き”はとっくに終わってるぜ」

ジョセフ「…せかしおって…風情を理解せん奴だのう」

ジョセフ「ちいとくらい感傷に浸らせんかい…」

承太郎「…」


ビュォオオ…  ザァアアァアア――ッ…


ジョセフ「花京院…もうずっと昔のことのようにも思えるの…」

ジョセフ「…」

承太郎「…」クイッ

ジョセフ「イ良しッ!」ザッ!

承太郎「…行くか」

ジョセフ「と言いたいところなんじゃがの…承太郎。もうちっとだけステイじゃ」

承太郎「…何ィー?」

ジョセフ「へへ…”風で身体が冷えちまったらしい”…」

承太郎「………」


ド ド ド ド ド 


ジョセフ「ちと”催し”ちまってのォ~!!」

バーン!!


承太郎「…さっさと行ってこいッ!!」


ジョセフ「わ、わかっとるわい!怒鳴らんでもええじゃないかァ~ッ!」

スタスタ…


承太郎「…」

承太郎「…」チラッ

承太郎「…用意したっつう供え物が…まさか”饅頭”とはな…」

承太郎「あのジジイのセンスに任せた俺がバカだったぜ…ま、許してくれ、花京院」クイッ

承太郎「…」

承太郎「帰るか…」スッ

承太郎「ジジイは…放っておいても帰ってくるだろう。ボケてなけりゃあな…」

承太郎「アブドゥルと…イギーにも宜しく言っといてくれ。あばよ」

クルッ


…ササッ

「ッとぉ、ごめんよ~オッサン。後ろ失礼するな」

承太郎「…?」

「ンー?このビミョーな時期に饅頭とは迷惑な供えモンだな…」ジロジロ

承太郎「…」チラチラ


「えへへ…ま、”食っちまえば関係ないか”」

ヒョイッ


承太郎「…オイ」

「おっと!悪いね!また後ろ失礼するよっと…」

承太郎「オイ」

スタタタ…


承太郎「…待たねえか」

ガシィ!

「ぐえっ!」フラッ 

「んだよオッサン!いきなりなんなんだ!離せって!」ジタバタ

承太郎「…テメーなかなか良い根性してやがるぜ…いや、ただのバカなのか」

「バカァ!?今バカっつったか私のことを!…ともかく離せって…!」バタバタ

承太郎「…」パッ

ドシャッ!

「ぎゃんっ!」ベターッ!!


「…脈絡なくいきなり離すんじゃねえ!いくら”私たち”でも反応できねえっつーの!」ゲシッ!

承太郎(く…こ、このガキ…)

「だいたいお前…!」


承太郎「――やかましいッ!うッとおしいぞこのアマ!」

「ッ!?」ビクッ


承太郎「フー…」

承太郎「どうにも…ガキのお守は苦手なんだがな…」

承太郎(親はどこだ?…何て教育してやがる…人のことは言えねーと自負する俺から見てもオカシイぜ…こいつは)

承太郎(一言文句でも言ってやりてえもんだが…見当たらねーな…1人で墓荒らしに来てたのか?)

承太郎「…」ジッ

「…な、なんだよ」

承太郎(やれやれだぜ…)


承太郎「…俺は…別に供えられたもんがカラスにつままれようがガキにつまみ食いされようが…文句はねえ」

「…」


承太郎「”腐って消えようが”正直知ったこっちゃねー…むしろ”それが当然”くらいには思ってる」

「…」ピクリ



ドドドドド…!


承太郎「だがな…備えたもんを間髪入れずに持ってかれんのを見て黙ってるお人よしはいねーぜ…!」

承太郎「そういうことは…『誰も見てねー時にコソコソと』やるもんだ…コソ泥はコソ泥らしくな…!」

「…待てよ」

承太郎「…?」


「オッサン今…なんつった?腐って消えようが知ったこっちゃねえと…確かにそう言ったよなァ~」

承太郎「…それが何か――」


「――食べ物を粗末にすんじゃねーッ!ブッ殺すぞッ!テメエェ――!!」


承太郎「…!?」

「”誰も見てねえときに!?”そりゃあこっちのセリフだ!目の前で食われもしねえ食べもンが放置されて腐るのを黙って指くわえてみてろってか?!ふっざけんじゃねえ!」

承太郎「オ、オイ…」

「いわゆる”フツー”の人間は非常識だのなんだっつって私に説教垂れるけどなぁ!私から見りゃ非常識なのはテメーらだっつーの!」

「…死人に口はねえ!何も食わないし文句も言わない!飯ってのは生きてる人間が食うために用意されてんだッ!」


ドドドドドドドドドド

承太郎(な、なんだこいつは…!)

「あんたみたいな奴は知らねえかもしれねえけどよォ~…日々食べることすら苦労してるってのは実在するんだぜ~?!この現代の日本にッ!そういう連中にさぁ!ちょっとでも申し訳が立たねえとは思わねえのか!なあッ!!」


承太郎(『食べ物を粗末にするのは許さない』ってことか?いきなり虎の尾でも踏んだみてーに怒り始めやがった…!)


「…努力や人柄の問題じゃねー、いつだっているんだ、そういう報われない人間は…」

「…くそ…何言ってんだ、あたし…!」ガシガシ

承太郎「…」

承太郎(と、思いきや急にクールダウン…こいつの”性格”!あるいは”精神状態”!…何だかわかんねーが)


承太郎(…厄介だぜ…)

ゴゴゴゴゴ…

承太郎「お前…」


スタスタ!

ジョセフ「―――おおーい!イヤァースマンスマン!待たせたのお承太……おや、誰じゃそっちの女の子は」

承太郎「…ジジイ」クルッ


「!」

ダッ!


ジョセフ「お?お??」

承太郎「! 待…ッ!!」

「――あばよオッサン!饅頭!ありがたくいただいてくぜッ!」


ズダッ!!ドシュウゥーン!!

承太郎「…!!」


タッ! タタ! タタタタ!! …



ジョセフ「オオッ!?は、早い!なんじゃアあの身のこなしは!」

承太郎「猿みてーに素早い女だ…あっというまに墓石に隠れて…!」


ポツーン…

承太郎「…見えなくなっちまった」


ジョセフ「お、おい?承太郎?今のは…」


承太郎「…帰るぜ」スッ

ジョセフ「?じょ、承太郎?…おーい…ジョータロオーウ??」スス


承太郎(俺は別に何も間違っちゃいねー…筈だ)

承太郎(だってーのに…この妙に後味が悪いのは…何だってんだ?一体…)


『…努力や人柄の問題じゃねー、いつだっているんだ、そういう報われない人間は…』


承太郎(ガキだと思って接してりゃあ急に…”あんな目”をしやがる…)


承太郎「…やっぱり…子どもってのは苦手だぜ」スッ

ジョセフ「…?…??」

『見滝原霊苑』…

見滝原郊外の雄大な森林の一部を切り開いて作られたこの霊園は…関東、いや日本という規模で見ても指折りの大霊園である。

ちょうど市と市の境目、町から町へ至る山道の途中にデンと身を横たえた墓石の群れは、もともとの景観の良さもあいまり、一風変わった観光地としても名をはせている。

春の新緑、秋の紅葉の季節にはそれはそれは数えきれないほどの人間が飲み、食い、笑い、自然の風に心を癒す…


しかし…その霊園から見滝原への道の途中、どこまでも広がる木々に隠れるようにして広大な工場地跡が存在すること…

それが急成長のストップと同時に破産したとある会社の夢の残骸であり…今は『心霊スポット』『自殺の名所』に形を変え、その道の玄人たちに愛されていることを知っている者は…数少ない。


――そして更に!

故人達の負の感情に満ちたこの場所を『狩り場』とすべく集う”人ならざるモノ”のこと!

更に更にッ!!『ネズミ』を狙う捕食者としての『蛇』が、狩りの瞬間見せるわずかな隙を…天空から見定める『鷹』のように…その”モノ”達を狩ろうと息巻く少女たち!


人間をも組み込んだ食物連鎖!そのトップに君臨する『彼女たち』の存在は!!

ほんの一握りの者しか知らないのである!



バアアアァアア―――――ン!!!



ブロロロロォオーーン


ジョセフ「林道ってのはいいのォ~!心洗われるようじゃ!空気がウンマイッ!実に清々しい!」ブワーッ!

承太郎「窓を閉めねえか…虫が…入ってきてるだろう…」

プイーン…

ジョセフ「だがこの…肝心の道路!どうして日本の道ってーのはこうも狭っくるしくて曲がりくねっとるんだ―ッ!?」

ジョセフ「わし自慢の”リンカーン”が泣いとるわいッ!!ええい忌々しい――ッ!」

承太郎「…聞こえなかったのかッ!俺は窓を閉めろと言ったんだぜ!」

ジョセフ「やかましいのォ~聞こえとるっちゅうの!こんな気持ちイイ風がふいとるのにこの上窓を閉めてなんぞ居られるかッ!」

ジョセフ「虫ってェ!?んなもん"入ってくる前に”摘まんでポイするくらいわけないだろう!お前のスタンドの目ならなーッ」

承太郎「チッ…くっだらねえ…ゴメンだね」


ボロロブロオオォーン…



ゴゴゴゴゴゴ…

??「………」



ド ド ド ド ド ド ド

プイーンプイィイーン…!


承太郎「…オイッ!ジジイ!さっきから尋常じゃねーぜこの”虫”の量は!」

ジョセフ「さ…流石にうっとおしいナ…しょーがない、閉めるとするか」


ウイーン…

承太郎「最初からそうすりゃあいいんだ…」

ジョセフ「しかし車内に残った連中が五月蠅いのおォ~文字の通り…承太郎!!」

承太郎「…オラァッ!!」


ドシュシュンッ!!

承太郎「………」

…ピラッ

ジョセフ「ひい、ふう、み…何だ数にすればこんなもんか。ご苦労じゃったな孫よ」

承太郎「二度とこんなしょうもねー用途に”スタンド”を使わすんじゃあねえぞジジイ…」

承太郎「一つ貸しだ…俺はもう寝る」クイッ

ジョセフ「お?何ィ!?オオーイ道は長いんじゃ話し相手くらいせんかァ!」

承太郎「…」

ジョセフ「やーれやれじゃわい…」

ジョセフ(まーしかし…渋々とは言え大人しくわしの言うことを聞くとは。このやんちゃ坊主も大分角が取れた感じがするなァ~…)

ジョセフ「わしの若いころはどうじゃったかな~…もう碌に…思い出せんが」チラ


承太郎「…」

ジョセフ(…ふふん、ちょっと位将来を楽しみにしてやってもいいかもしれんな)

ボロロロロ…


ジョセフ(しかし不思議だの…この季節にあんなに虫が湧くもンかァ?)

ジョセフ(近くに動物の死骸でもあったのか…?にしちゃーずいぶん長いことフロントガラスにぶつかる虫がバシバシと煩いしの)

ジョセフ「まあ、気温とか土地柄とかそういうので羽化の時期が変わることもあるよなァー!何にせよやっぱりこの島国は好かんッ!」



ブルルウウウゥーン…

承太郎「…」

ガタン!ゴワン!


キキキ…ギキュルルルルウン!!


パチッ!

承太郎「…ジジイ…さっきからちょっと…運転が荒えんじゃねえのか」

ジョセフ「う、うん?そうだのォ~?いや、ちゃんとフツーに運転しとる筈なんだが」

承太郎「勘弁しやがれ…”ぶっ壊す”乗り物は飛行機だけにしろ」

ジョセフ「い、いや、待て…わしのせいじゃあない…わしはさっきから何も変わらず運転しとる」

ジョセフ「この車…”何かがおかしい”」


ブウウウゥ…グイイィーン…

ジョセフ「オオッ!…とお!?」ググググ

承太郎「…対向車線まではみ出し始めたぜ。ちょっと休憩するか…俺に運転を変わりな」

ジョセフ「お前は免許をもっとらんじゃないか!!」

ジョセフ「なんていっとる場合じゃない!今明らかに!”ブレーキ”が不調だったッ!」

ジョセフ「カーブでちゃんと”減速”したと思ったのにまるで速度が落ちなかったッ!原因が分かったッ!この車ッ!ブレーキが故障しとる!!」

承太郎「…車を止めろッ!サイドブレーキでも何でもつかってな!」

ジョセフ「さっきから…ずっと使っとる…」

承太郎「…何?」


ド ド ド ド ド ド ド


ジョセフ「な、何だ…これは…速度が…早くなっていく…!?そんなバカなッ!下り坂でもないのにィ――ッ!!」

承太郎「…!」タラリ

ジョセフ「そ…そして…おかしいのは”ブレーキ”だけじゃなかった!」

ジョセフ「―――”ハンドル”も効かなくなっておるッ!!い、イカン~~~ッ!」


ガクゥーン!!キキキキキ…!!


承太郎「!!」

ジョセフ「ガードレールの外は…切り立った崖ッ!!」


バアアァーーーン!!

ジョセフ「バカなッ!!ハ…ハンドルが…ハンドルが曲がっていくゥウ~~!!まるで何かに”吸い寄せられている”かのようにィイ――ッ!!」


ガッシャアァア―――ンッ!!

ドバァアー!!


ジョセフ「や、やったッ!ガードレールを突き破って…う、オオオ」


ゴオオオオオ―――ッ!!!

ジョセフ「お、落ちるぞ――ッ!!ウオオオオオ!!」




承太郎「…やれやれ…”扉は弁償しねーぞ”」

承太郎「――――『星の白金(スタープラチナ)』ッ!!」

ドゴッシャアァアン!!


承太郎「ドアををふっ飛ばし…」

ガシィ!!

ジョセフ「ぬげッ!」


承太郎「ジジイをひっつかみ!車が崖に接触し転がり落ちるその前にッ!」


ドォーン!!


ジョセフ「のおおおオオオーーッ!!」グググググ

承太郎「…脱出するッ!」


ヒュウゥ… ドグシャアッ!!

ガラ…ガラガラガラガシャ――ンッ…


承太郎「間一髪だな」

ジョセフ「ひいい…わしの車が…」

ヒュゴオオオ

承太郎「…車の一つや二つでボサッとすんじゃねーッ俺たちはまだ崖から落下中なんだぜ!」

ジョセフ「―――ああわかっとるわい!SHITッ!!」


ジョセフ「『隠者の紫(ハーミットパープル)』!!」ドオオーーンッ!!


バシューッ!!


ジョセフ「イバラの蔓ッ!!崖から生えとる木にテキトーに絡みついて落下を止め…!!」

ジョセフ「止め…」

ジョセフ「……」


ヒュウウウゥ


承太郎「…」

ジョセフ「な、なあ承太郎…この崖の壁…”ヘン”じゃぞ…」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

ジョセフ「むき出しの岩でも落石防護されたコンクリート壁でもない…」

ジョセフ「ま、まるで厚さの分からないつんつるてんの真っ黒な壁に…薄気味の悪い昆虫の様な…植物の様な絵が…びっしりと描かれている!」


ド ド ド ド ド ド …


承太郎「周りも…よく見てみな……」


ジョセフ「…ッ!!?な、なんじゃこりゃあア――ッ!!」



ドオオオーン!!


ジョセフ「円筒状に!我々を包むようにして!!”全面”!!さっきの黒い壁がッ!!」

ジョセフ(さながら垂直に立った巨大なパイプの中を落下しているように…!これは…いつの間にッ)


承太郎(ジジイがスタンドを出すまさにその時まで…俺たちは”普通の光景”の中を落下していた…)

承太郎(スタンドが出たまさにその瞬間…テレビのスイッチを切り替えたみてーに周りの風景が一変した…!ジジイは見てなかったみたいだが…!)


ジョセフ「…人通り少ないこんな場所に…こんな構造物をおっ建てるモノ好きがいるとはとても思えん…」

承太郎「さっきの車の故障も…不自然だらけだった…」


承太郎「そう…”俺たちをこの場所に叩き落とすのが目的だったみたいに”だ…」


ドドドドドドドド


ジョセフ「最早間違いないッ!!DIOを斃した今刺客が来たとも思えんが…!!これはッ!!」




アハハハハハ…

ウフフフフ  キャヒヒヒヒヘホホーーッ…



承太郎・ジョセフ「「―――――”スタンド攻撃”ッ!!!」」



バアアアアアァーーーーーーーンッ!!

少女は…植物を愛していた。

しかし それはただの植物ではない。もっぱら彼女が愛情を注いでいたのは『食虫植物』だった…


学校では密やかに陰湿ないじめを受け…家庭では母と義父の暴力にさらされ、服の下には傷跡と青痣が絶えない日常だった。

彼女は…食虫植物のあり方に『あこがれていた』。虫は植物を食べる…実際は蝶などをはじめとして植物と虫とは蜜月の共生関係であるのだが 彼女にとって大事なのはそこではなかったのだ。

食われるだけの弱者である筈の植物が捕食者である虫を逆に食べるという、ある種の『下剋上』…彼女はそこに常人には理解しがたい尊敬を覚え…鉢の上の彼らに惜しみない情熱を向けていた。


そんな彼女の前にあの白い悪魔が現れたのは…親がギャンブルに負けた腹いせに”鉢植え”を割られたある夜のことだった。


少女の両親が惨死したのは数ヵ月後のことである。発見者は隣人であり、死体は全身に食い破られたような穴があったという…

少女はこの難事件の行方不明者として処理され…捜索も成果を上げず、事件は人々の記憶から忘れ去られた…



彼女が何を願い、何に絶望して『魔女』になったかはもう誰にもわからない。



彼女がこの場所に根城をあしつらえたのは、『ときおりふらふらと迷い込む餌』がいること、腹がすけば近くの山道に向かってすこし触手をのばせば『車に乗った餌』がいること…


何より『人がいなくて、植物たちに囲まれ、静かで心休まる鬱屈としたこの土地が好き』だからという理由による。



この魔女は肉を食らう。主食である精神と同時に、餌の肉体も彼女の”満足感”を満たす薬味となる…


根を張った魔女は哀れな『餌虫』を待ち続ける… その姿はまるで… かつて彼女が愛した鉢植えの友人に―――





ゴオオオオォ―――ッ!!!


ジョセフ「新手のスタンドが現れたッ!!それしか考えれんッ!!」

承太郎「『星の白金(スタープラチナ)』ッ!」

ドドンッ!!


承太郎「壁を掴んで…腕力で落下を止めるッ!!」


ドシュンッ!!ガッ!!



―――ブジュルゥ~ッ   ブヅブヅブヂブヂィ!!


承太郎「何ッ」

ジョセフ「か、壁が…見た目の割に脆いッ!?しかも黒い表面がはがれて中から出てきたのは…!」

承太郎(柔らかい…掴んだっつー手ごたえがまるでねえ…!)

ジョセフ「脂身のような…『肉』!?この壁の中身は!肉でできているのかッ」

キャッハハハハハハッ


ホヒホヒホヒィーギャヒヒー!!!



ジョセフ「!?」


ガブゥ!ブチッ!

承太郎「ぬうッ…!」ブシュッ


ジョセフ「き、気をつけろッ!承太郎ッ!!この薄気味悪い空間!これだけじゃないッ何かいるぞッ!!」



キャヒキャヒキャヒ…

ブウウウウワワーン…

??「ゲヒャヒャシャアアアアーーーッ!!!」

ブウウゥン!!


承太郎「……!」

ジョセフ「見えたッ!こ、こいつらは…昆虫ッ!!カブトムシの様な…!」



??「オギョギョーッ」ブジュルブジュル

ジョセフ「し、しかも…ゲエー気持ち悪いッ!!顔だけ人のツラじゃーッ!!人面犬ならぬ『人面虫』ってとこかァ―――ッ!?!?」



「ガガガガガ…」「オロロロロローーッ!!」「ゲギャギャギャギャッ!!」


ジョセフ「そいつらが…無数に!わしらの周りを飛びかっとるッ!」

承太郎「――ジジイ!!こいつらちょっとばかり素早いぜッ!テメーのスタンドじゃあ相手にするのは無理だッ」

ジョセフ「何!?」

承太郎「…巻き込まれたくなきゃあじっとしてな!」


ドウンッ!!

ジョセフ「…ああわかった!さっさと頼むぞッこのままじわじわ空中で食われていくなんざゴメンなんでな!!」


承太郎「フウウーッ」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …



「ギャアアアオオオー!!」「KUAAAAAッ!!!」「シャアアラァ!!」

シュンッ!シュンシュン!



承太郎「―――オオオーラアァ!!」

ドンッ!!

「ギャアアアーースッ!!」ブチイッ



ジョセフ「あっさり潰れたッ!こいつら数は多いが一匹一匹は全然大したことはないッ」

ジョセフ「―――つまりッ!!」




承太郎「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!」



ドドドドドドドドドドドドドゴドゴドドドッ!!!


「ブッギャアアアアァ―――ッ!!」ブチュチュチュチュチュンッ!!



ジョセフ「…スタープラチナの敵じゃあないッ!ざまあ見おったか気色悪い虫どもめーッ!!」

シュウウゥー…


ジョセフ「あらかた潰し終わったの」

承太郎「ああ…だが、問題はまだ何も解決しちゃいねー」


ゴオオオオオ…

承太郎「どこまで続くんだ…この『縦穴』は…?そして落ち切った先には何が有る…?」


ジョセフ「さっきは明らかにスタンドの本体じゃあない…ならば…!!」


承太郎「! 底が…見えてきたぜ」



ゴオオオオオオ  ド ド ド ド ド ド ド



「HUSYUUUUUUUUUU…!!」

ウジュル…ウジュル…



承太郎「ぬうッ…」

ジョセフ「こ、こいつが…『本体』ッ!!」


ドオオオオォオオーーーン!!!

ジョセフ「あれかッ!!穴ッぽこの底に悠然と潜んでおるッ!!」

承太郎(あれは…花?花のつぼみのように見えるが…しかし…!!)


ドクン!ドクン!ドクン…!

「URRRRRR…」


ジョセフ「なんじゃ!?花弁が開いて…ひ、開いたァーその中にはアアアアーーッ!!!」


グパアアァア――ッ

「UUUGOOOOOAAAAAHHHHH―――――ッ!!!」


ジョセフ「口が有る!牙が有るッ!!植物だというのにィ――!!」

承太郎「…チッ」



ジュルウゥ ドロドロッ ベタベタベタ~~ッ



ジョセフ「食、食べる気か!?我々を!?何じゃアこのスタンドはァ―――ッ!!」


承太郎「もう落下は止められねえッ!!『着地』と同時にスタンドをぶっ放して衝撃を和らげ…」

ジョセフ「――攻撃も兼ねるッ!!それしかないッ!!」



ゴオオオッ!!

「WRYYYYYYYY――――ッ!!!!」



ドワ!!ドワワン!!



ジョセフ「ヌオオオオ『隠者の紫(ハーミットパープル)』ッ!!わしと承太郎の身体を包めーッ!!」


シュルシュルシュルルッ!



…ベシャアッ!!ギャルギャルギャル…!!

「UGHOOOOOッ」ビチビチビチ


ジョセフ「外に向けた茨のトゲを花の口内に引っかけたッ!そしてェエエ―――ッ」

承太郎「オラオラオラオラオオラオラオラオラオラァ―――ッ!!!」




ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!

「…………!!」


承太郎「…!?」

ジョセフ「よ、良し!牙をぶち折ってやったッ!!このまま本体も…!!」

ド ド ド ド ド ド


承太郎「ぶち折った…?そいつは違うみてーだぜ、ジジイ…!」


ジョセフ「…何!?」


ド ド ド ド ド ド ド ド

「RRRRRRRR…」


承太郎「こいつの身体…どうやら”壁”と同じ肉で出来てやがる…牙も口も花も偽物(イミテーション)だ…こいつはッ!!」




グニョンッ!


ジョセフ「は、花の形が…崩れるッ」




「キシャアアアアアアアーーッ!!」

ブワッ!!


ジョセフ「ノオオオオーーッ!!」


ベチャベチャベタリッ!!

ジョセフ「あ、熱いッ!?これは…表面に液体が…!酸!?いや…『消化液』が滴っておる!!」


承太郎「のヤローの食事には…口も何も必要ねーってわけだ…いわばこいつは全身が『胃袋』…」


承太郎「そう…だいぶん前に図鑑で見たことがある…”ウツボカズラ”みてーなァ~…!」



ジョセフ「い、一杯食わされたってわけかァ~わしらは…この空間に引きずり込まれた時点で…『詰んでおった』ッ!!」


ドォーン…!

承太郎「…」スッ ブニュル…

ジュウウゥ…

承太郎(…”力を吸い取るよろい””攻撃する防御壁”…『黄の制約』と同じだ…殴っても…衝撃が吸収されてダメージにならねえ…)

承太郎(ジジイのスタンドじゃ…本体を…この壁をぶち破るだけのパワーは…ない… 本体は…見つかりそうもねえな…肉の海の中か?)

承太郎「…」


ジョセフ「に、肉がまとわりつく…!イバラの防御も意味をなさんッ!!隙間を縫って入ってくるッ!!」


ジュルジュル…!


ジョセフ「…ウ、ウオオ熱いッ!!熱いぞーッ!!」ドジュウウウ…



承太郎「だが…衝撃が逃げちまうなら…”逃げられない”くらいラッシュをぶちこんでやればいい…」


ジョセフ「…ンン!?」

承太郎「『時を止めて』…一点集中でラッシュを打ちこめば…あわよくば弾けてくれるかもしれねーからな…”針で刺された風船”みてーに…!」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…

ド ド ド ド ド ド ド ド …


ジョセフ「オオッ!!じょ、承太郎――ッ!!やってくれるのかーッ!?『あれ』をッ!!」


承太郎「…」クイッ




承太郎「―――オオオッ!!」


ドンッ!!!


承太郎「―――『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!!!」

シイイィーーーン…



承太郎「………」


ジョセフ「………」


承太郎「………」


ジョセフ「…?…おい」


承太郎「…出ねえな」


ジョセフ「で、出ない~~~~ッ!?!?何をいっとるんじゃァ~~~!?!?」


承太郎「スタンドの能力は…使い手の精神状態に影響される…」

承太郎「DIOのヤローの時の…極限状態とは…勝手が違うってことか?やれやれだぜ」


ジョセフ「こ、このバカタレッ奮起しろッこの不良が――ッ!!今だって命の危機に変わりはないじゃろうが――ッ!!」


承太郎「出ねえもんはしょうがねえな…」


ジョセフ「………!!」

ジョセフ「ひ、ヒイーッ!もう終わりじゃー!!こんな死にかた嫌だよォオ~~ん!!しょーもなさすぎるーーッ!!」

ジュウウ…

承太郎「うるせえな…黙って作戦を考えねえかッ」

ジョセフ「ヒョエエエ~~ッ!上からッ!垂れてきたアーッ!!」

承太郎「やれやれだ…さ~て…」




ゴオオオオオ…

承太郎「…ン?」



ヒュウウウウ…!

承太郎(上から…オレ達の時のように…”何か落ちてくる”)



?「ヘッヘッヘーッ!!」


ビュウウウウッ!!!


承太郎「! あのヤロー…いや、あのガキは…!」





杏子「いい『餌』見っけ~てかっ!永遠におネンネしてな―――ッ!!この魔女ヤロー!!」






ドオオオオーーーン!!

ド ド ド ド ド ド ド ド


承太郎「あいつ…!」

承太郎(服装は違うが…墓場の饅頭泥棒!…何故ここに?ヤツもスタンドの攻撃に巻き込まれた『被害者』…?」


杏子「らああああ―――ッ!」


承太郎「…ってわけでもなさそうだな」

承太郎(一般人がこんなわけのわかんねー状況に巻き込まれたとして…”笑いながら”…”自分の体調ほどもある大槍”をひっさげて落下してくるか?)


承太郎「……」

承太郎(まさかとは思うが…あの子供が…この趣味の悪いスタンドを操る『本体』…?)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …


承太郎(だがそれなら…このタイミングでヤツが落ちてきた意味は?)

承太郎(とどめを刺しに来たってのも…違うな…このままほっといても『消化』されるだろうオレ達に止めを刺す必要があるか…?)


承太郎(そうだ…『本体』が姿を現す理由がねえ)


ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ …!!


承太郎(この”肉花”のスタンドとは無関係…”別のスタンド使い?”目的は…何だ…?)


承太郎「相手は空中…ジジイは『隠者の紫』の維持で手一杯…応戦は…」

承太郎「…”ヘビー”だぜ…」スウッ…

杏子「―――ハアッ!!」ジャッ!

ズバァアーーッ!!


承太郎「!」

承太郎(”肉花のスタンド”を切りつけやがったッ!やはりこのまとわりついてくる奴とは別!…また”新手”かッ)


「グ…ググググウウウウ~~~ッ!!」

ググググ …グチュル ピタァーッ


「ハアアァア~~~…」


杏子「…チッ、切り口がすぐ元通りか…すげー再生能力だな」




承太郎「こっちに目もくれね―と思ったら…幸か不幸か…まだこっちには気がついてねえ…まあ、ほとんど埋もれちまってりゃあそうなるだろうが…」



杏子「よっ…ほッ!」

タンッ!!タタンッ!



ジョセフ「!?オオッ!?何か今わしのイバラを蹴ったぞォ――ッ覆いかぶさった肉の上からッ!何がおこっとる?!”肉で見えん”ッ!!」


承太郎「…肉に足を取られる前にステップを…ッ!?墓場でも身軽だったが…それ以上!なんつー身体能力してやがるッ」



杏子「ならッ…これならどーだい!?」



バッ



ビシュンッ!!ビシュシュシュン!!


ズララ―――ッ!!



承太郎「”槍”!!数えきれね―ほどのッ!!いきなり空中に現れたッ!」

承太郎(あれがヤツの能力!確定的!間違いねえ…ヤツも”スタンド使い”ッ!そして敵は俺たちではなく…この肉花のスタンド…!!)

ジョセフ「承太郎オオオオーーーッ!!どうなっとるんじゃ!?そっからならまだわしより良く状況が見えるじゃろう説明しろ―――ッ!!」



杏子「そら!食らいやがれ―――っ!!」



グンッ…!!


承太郎「………!!」

承太郎(ま…”まずいぜ”…!)ドドドドドドドド…


承太郎(この肉を蹴散らしてくれるっつーンならありがたいが…しかしッ!!だとするとヤツがとる次の行動は―――!!)



ジョセフ「オオオイ承太郎―――ッ!!もう支えるのも限界じゃ~~~~ッ!!」グググ…!

承太郎「―――――ジジイッ!!身体を丸めろッ!!」

ジョセフ「エッ!?」




杏子「槍のシャワーだッ!!」


シュゴゴゴゴオオオオオオオオオ――――ッ!!!!

ドスゥ!ドスドスッ!!ズドドドドドド――――ッ!!


「KUAAAAAA―ッ!!」ブヂャブヂャブシイイィ―――ッ



ジョセフ「う…ッ!?オオオオオオオッ!?!?」

承太郎「…オラオラァ!!」


ガンッ!ドガガンッ!!

カラーンッ!!



「WRRRR…グウウウゥウ… ウウウォオオオォォォ…」



シュウウウゥ…


承太郎(オレとジジイの周りに降ってくる分は…弾き飛ばした…怒鳴ることもなかったな)

承太郎「…しかし、一瞬であの肉の山を細切れにしちまった…この攻撃密度…『銀の戦車』を思い出すぜ…」


ジョセフ「…お?急に軽くなった…? お、おおーッ!!」


ブワーー…


ジョセフ「肉が消える!!景色が”戻っていく”!!やったか!承太郎ッ!」


承太郎「いや…俺じゃあねーぜ…」

ジョセフ「…ンン?何じゃとォ?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド


承太郎「…なあ…たいした槍捌きだったじゃねーか……ガキ……」





杏子「………」




ジョセフ「?…女の子?きっつい目つきでこっちをにらんどるが…なんじゃ?ン~…?ついさっきどっかで見たよーナ…」


承太郎「下がってな…ジジイ」





杏子「………」スッ  




承太郎「おおっと…妙な動きをするんじゃあない…その地面に落ちてる黒いモンを拾うのは…俺の質問に答えてからだぜ」

承太郎「……『星の白金』」

スウウウゥ…


杏子「…………!!」ピタリ



承太郎「…『見えてるな』…もうしらばっくれも効かねーぞ…」




杏子「『男』だしさー…魔法少女としては『魔力の波長』も変な感じだった…結界が崩れるときに一瞬見えたあの『腕』も見間違えかと思ったんだがな……」



スウッ…  ジャキイィーンッ!

杏子「こっちからも一つ質問さ…”オメーら…一体何なんだ?”」



ジョセフ「…!どこからともなく…槍ッ! おい、承太郎…まさかとは思うが…!」


承太郎「”そのまさか”だ…こんなチンチクリンと…戦わずに済むならそうして―もんだがな」




承太郎「場合によっちゃあ…”コイツ”とはオレがやる」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …

きょうはここまで 

作品・キャラ・ファンをバカにするようなもん書いといて「二次創作に文句言うな」とかいくらなんでも虫が良すぎるだろ
だいたい「目に付いたから文句言った」ってだけだろう
嫌なら「見ない」のも「文句言う」のも選択肢の一つであるんだし何を書こうが自由

人は…己の理解を越えた現象を目の当たりにしたとき、それをどうにかして自分の知っている尺度に納めて『納得』しようとする…


たとえば「トリック」「見間違い」「幻覚」… 実際、世の中のほとんどの未知とされる出来事は…世間一般の概念を覆すことはない。



しかし…数は少ないが、いずれの尺度でも説明しきれない本当の超現実は確かに存在する! 


一般人にとっての『スタンド』『魔法』などというのはその最たる例である!


―――が!!


『スタンド使い』『魔法少女』もまた人間ッ!…むしろ、自分自身が現代科学で説明不可能な能力を持つが故の”誤認”!


あらゆる超常現象を”自身の能力に類するナニカ”であると考えてしまう『危うさ』は、いまここに現実の危機へと昇華した!



それは出会ってはいけない”不思議と不思議”!



場所は森林に佇む朽ち果てた廃工場!天井は腐り落ち、壁は最早その役割を果たさず鬱屈とした風は横たわる鉄骨に遠慮なく打ちつける!



距離にして約10m!!魔法少女とスタンド使いッ!!



―――両名はッ!!最悪の形でここに相対したッ!!




ドッギャアアアアァアアア―――――ン!!

承太郎(肉のスタンドは何だったのか…考えるのはひとまずお預けだな)

承太郎「今は目の前のこいつを…どうにかしねーとだぜ…」


ジョセフ「……!」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



杏子「『結界』がさー…割れるときに…見ちゃったんだよね~あたしも…」


杏子「あのぶよぶよした『魔女』の身体の一部がばくっと割れたと思ったらさァ」


杏子「そっから出てきた…”腕”が……あたしの槍を弾き飛ばした…まるで”何かを守るように”」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


杏子「あれ、やっぱりさ…今あんたの出した…その『魔力』でできた”大男”の腕なんだろ?え?」


承太郎「…」


杏子「『魔力の波長』は…ちょっと強くなったが変わりねえ…魔女のものとも『魔法少女』のものともまるで違う…でも確かに感じる!」



ジャカッ!!


杏子「―――もう一度聞くぜ!答えろッ!お前らは一体何だ!?」

承太郎「……同じ質問を…そっくりそのまま返すぜ…ガキ」


ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ


杏子「あにィ~?」



承太郎「……」


承太郎(コイツ…”しらばっくれてやがる”のか…?いや、にしても様子が妙だ…)

承太郎(さっきのこいつの話には…聞きなれねー言葉が多かった)

承太郎(『魔女』『結界』『魔力』…止めに『魔法少女』ときやがる…)


承太郎(ついでに…さっきはじっくり見る余裕がなかったが…こうして向かい合ってみると…なんだ?この格好)

承太郎(”センス”で片付けるにゃあちょっと違和感だぜ…!日曜の朝っぱらからやってる小っ恥ずかしい”アニメのキャラクター”みてえなこの衣装は!)


承太郎(何だ…!?何かがおかしい…”オレ達”と『このスタンド使い』…決定的に何かがズレているッ!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド


杏子「……」


杏子(さっきから何だ?こいつ…黙ってじろじろこっちを見てきやがって…)

杏子(いや、問題はそこじゃないな…さっきの何者だ?という問い…このオッサン達、どうもこたえる気はないらしい)


ド ド ド ド ド ド ド ド


杏子(そう…”オッサン”!男なんだよ!コイツらはっ!)

杏子(常識的に考えてこれが同類…魔法少女だなんて考えれるか!?無理だね!)


杏子「…」

杏子(…いや、いやいや)


杏子(だが待てよ…”有り得る”? そう、例えばだ…コイツらは本当は女で、変身の時に男に化ける…そうすれば肉体的には戦いに有利になるかもしんねーし…『同類』相手には不意だってつける)

杏子(あるいは…コイツらがどこか他の魔法少女の『魔力』を受け取って…本体の魔法少女の代わりに戦ってグリーフシードをぶん捕ってくる『分身』である可能性…)



杏子(どっちであってもおかしくは…ない。魔法少女なんてそのものが常識はずれなイキモンなんだ。常識でこの状況は語れない…)

杏子(まあ、こいつらは魔法少女か…魔法に関係する何かであることは確からしいとして)


杏子(…あの魔女の身体の中になんて隠れて…こいつら一体何をたくらんでやがった?)



杏子(目当てはおそらくグリーフシード…そうだ。なら、なんでわざわざ”魔女を倒しもせずに体内なんかに潜んでいた?”)

杏子(コイツら…片っぽは今はとぼけてやがるが…どっちも歴戦のベテランだ。魔力の大小じゃねえ…目つきと身のこなしでわかる…!あんな魔女に後れを取るとは思えねえ!)



杏子(…グリーフシード…!そうか…分かったぞ!このヤロー共ッ!)




杏子「ははーん…分かったぜ…あんたらの正体はともかく…目的はなーっ!」


承太郎「……?」

ジョセフ「……!?」



杏子「テメーら…このあたしを不意打ちで殺して『グリーフシード』とっ!この『縄張り』をまとめてぶん捕る気でいやがったな!」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド …



ジョセフ「ヌウッ…殺気が膨れ上がりおったッ!こっちはまだ何が何だかわからんというのに…!か、勝手にヒートアップしておるッ!クレイジーッ」


承太郎「……おい、待たねえか…何を言ってる?『縄張り』?殺す…?お前…!」


杏子「そっちこそしらばっくれんじゃねーッ!!”それ以外考えられねえだろう”!来るなら来いっ!」

承太郎(…やれやれだぜ…いきなりやる気満々って感じだな…最初っから喧嘩腰でコンタクトしたのは失敗…だったか?)




杏子「マミも気づいてない穴場だ…!この狩り場は絶対に渡さねえからな…!」




ジョセフ「…ま、待ていッ!こちらには…ひとまず戦う意思はないぞッ!ちょいと話し合わんか!!」


杏子「くどいっ!その手にはのらねーッつーの!」




ジョセフ「うーむ…の、のお承太郎…あの女の子…さっきから会話がまるでわからん!噛みあっておらんッ!」

ジョセフ「ひょっとして…何か重大な勘違いをしとるんじゃないのかァ~?あの子は…」

承太郎「……」

ジョセフ「そう…例えば人知れず1人で”スタンド”に目覚め…”スタンド”が何なのかもわからんままで居た…」

ジョセフ「その後最初に”引かれ合ったスタンド使い”がたまたま悪人で、他のすべてのスタンド使いを敵だと認識してッ!それからずっと1人でつっぱって生きてきたッ!とかのォ~!!」

ジョセフ「それなら説明がいく!あの肉のスタンドを攻撃したことも!この敵対的な態度もッ!意味不明のワードも思春期なりに彼女が”スタンド”について勝手に思い込んどる設定というヤツかもしれん!」


承太郎「…んなわけねー…とも言えそうにねーな…」

承太郎「ジジイらしい強引すぎる解釈だが…確かに”その可能性はある”…」


ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ

承太郎「なら尚のこと…ここでオレ達が引きさがってコイツを野放しにするっつー選択は…ねえわけだぜ…!」


ジョセフ「うむッ!!」


ザンッ



杏子「!!」

ジョセフ「あまり気はすすまんがのォ~…この状態じゃお前さん話を聞きそうもないしのォ!」


バッ!!


ジョセフ「お嬢さん!これは他のスタンド使い達と…他ならんお前の為でもあるんじゃ!!怨むなよッ!」

ジョセフ「ちょっと大人しくしてもらうぞッ!『隠者の紫(ハーミットパープル)』ッ!!」


ドバアアアァア―――ッ!!



杏子「…!?手から…妙な魔力を帯びたイバラっ!!やっぱりか!あっちのジイさんも『魔法』を使う…!」

シュルルルルルルッ!!!


ジョセフ「そら行けーッ!絡めとれッ!!」


ギュオンッ!!


杏子「…チィ!」


タンッ!


フゥワアアアァ~~ッ!! …スタッ


ジョセフ「跳んで避けたッ!レディに使う言葉じゃないが本当に”野生の猿"のような俊敏さよ!」

ジョセフ「しかしィ~『隠者の紫』は逃がさんッ!」


シルシルシル…!!


杏子「へっ…なんのこっちゃねえ…落ち着いて見りゃあスットロイ動くだけのツタじゃねえか!」

杏子「そんなんで私の動きに…付いてこれるかなーッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド 

タンッ!!ズタンッ!!

ジョセフ「ぬっ…右…!ひ、左ィ!?」


ダンッ!ズダッ!タタタタタタ~~~ッ!!


ジョセフ「は…早いッ!早すぎるッ!”猿”!あの表現は間違いじゃ…!地球上の!いかなる野生生物もこんな…こんなァ~!!」


ドンッ!!

杏子「―――ここだッ!!イバラの間隙ッ!!一気に接近して…!!」



ジョセフ「―――こんな動きッ!”重力を無視したような軌道”は不可能じゃ―ッ!!追い切れん!ぬゥおおおおおおッ」




杏子「ぶッ貫いてやるぜェ―――ッ!!」


ゴオオオオッ!!

ゴオオオオ…!

ジョセフ「…しかしのォ~素早いだけでは…このジョセフ・ジョースターを倒すには足りんのだなァ~これが…!」


ジョセフ「…嬢ちゃんの動き!早いが…しかし直線的ッ!”隙”を作ればそこめがけて一直線に向かってくるってことは…わかっておったッ!!」


ユラッ…!


杏子「…!?」

ジョセフ「そして”わかっていたのはわしだけじゃあないぞ~”!!当然わしの孫も以心伝心よォ――ッ!!」




ジョセフ「―――――承太郎ッ!!」




ドォオオオーーーン!!!

承太郎「……」


杏子「…!!」

杏子(勢いをつけようと跳んだのが裏目に出た!私がいるのは空中ッ!軌道修正はできない…!)

杏子(ジャンプして超加速し!…ジイさんをブッ貫く最速の一本道!その道の上に…オッサン!と”大男”…ッ!!)

杏子(…読まれていた!!あたしは張られた罠にイノシシみてーにつっこんだんだッ!)


杏子(な、なら…やべェ~ッ!次は必ず…あのオッサンから…)


承太郎「オラァア―――ッ!!!」

ドシュンッ!!!


杏子「―――来るに決まってる!”大男”のカウンターパンチッ!う…わああああッ」

ガァアアアアーーーンッ!!!

杏子「くぅっ………!!」ズザザザザザーーーッ!!



承太郎「…!!」

ジョセフ「…な、なんとッ!」


杏子「あ、あぶねえ…危機一髪…だった…」シュウウゥ~…




承太郎(こ、コイツ…あの距離から見切りやがった…”全力ではなかった”とはいえ…!)タラリ

ジョセフ(あ、あの状況から…冷静に槍の切っ先を切り返し…!槍の柄でッ!スタープラチナのパンチを受け止めおったァ~ッ)


ジョセフ(な、なんという”反射神経”!…”肝っ玉”!そして…”耐久”ッ!)



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …



シュウウウゥ…

杏子(な、なんてこった…歪んでやがる…!!マミの砲弾でもかすり傷一つ付かねえ自慢の魔槍が…!なんて”パワー”だあの”大男”…!)

杏子(…そして”スピード”…!が、ガードで精いっぱいだった…ライフル弾の軌道すら見極める魔法少女の動体視力でも追い切れねえ…なんて…!)


タラリ…!

杏子(…身体に食らったらひとたまりもない…よな、これ…?いくら魔法少女でも…まともにイッたら胴体にドでかい風穴があいちまうぜ…!?)タラタラ

承太郎「やれやれ…”ガキでアマ”だからと言って…ちと甘く見てたかもしれねーな…」

承太郎「手加減は…してやれねーかもしれんな…このガキは――――!」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド



杏子「はァ…ベテランっぽいけど…『所詮は紛いモン』ってさァ~…ちょっと油断してたかもな~…ったく」

杏子「…認識を改めるか…癪だけどな~…このオッサン共は―――!」




ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ  ・・・!!



承太郎「―――――”やる”ぜ…!」

杏子「――――”できる”っ!」



ドドオオォ―――ンッ・・・!!

これはいいss。
戦闘描写やキャラクターの雰囲気がぐんぐんと物語に引き込んでくれる。
文字数的にはかなりの数のはずなのに、たったこれだけかと物足りなく思えるほどの面白さ。
続きが気になる締め方も素晴らしい。
乙です。

>>119
くっせえな
クロスだからってまどマギ側のキャラの口調を歪めるのもどうかと思うんだけど?
それから杏子はここまで短絡的じゃないだろ
クロス側を引き立てるための道具にでもしたいのか>>1は?

最近香ばしいの増えたな
vipあたりから来たんだろうけどss速報はそういう板とは違うんだよ

>>122
自治厨乙

ド ド ド ド ド ド ド ド



杏子「……」

杏子(インファイトは…さっきので分かった。”危険すぎる”…得物の有利が有ろうが…ラッシュの勝負に持ち込まれたらあたしに勝ち目はない)

杏子(と、くれば…)



承太郎「…どうした…? 顔色が優れねーが…”かかってこないのか?”」

ジョセフ「フ、フフ…」

ジョセフ「フフフ…!イヤイヤ承太郎!来ないのは無理もない…”これは当たり前の判断じゃ”」


杏子「…?」



ジョセフ「だってのォ…当たり前じゃあないかァ~~?あれを見て『ビビるな』なんて…そりゃァ~チビッコには酷だわいッ!」

杏子「…ハァ!?」

ジョセフ「いやァ~わかっとるわかっとるッ!何も言わんでいい!無理もない話じゃあないか?ン!?『星の白金』のパワーを体感しちまったらなーッ」

ジョセフ「…『次の餌食はワタシかな?』と!腰が引けちまうのも当然よのオオォ―ッ!ワハハーッ!!」



杏子「……くぉの…」イラッ

杏子(いや…落ちつけよあたし…ああやって考えなしに突っ込んでくるのを誘ってやがるんだ…コイツら…っ)


杏子「フゥ―…」

杏子(そういや”聞いた”っけ…こういう、自分の得意が通用しない相手への対処法…)


杏子「……」


杏子(ああ、そうだ…同じ時に言われたっけな…あたしの欠点…『佐倉さん、あなたのその…テンションが上がると見境なく突っ走る癖、治した方がいいわ』って…マミの野郎から…)

杏子(マミの……)

杏子「………ッ」イライラ

杏子(クソッ…なんだってこんな時に思い出すんだ…『昨日の夢のせいか』…!ああ…畜生っ!またイラついてきやがった…!)

杏子(ああもう!思考がまとまんなくなってきたッ!怨むぜ巴マミ…!)



杏子「…関係ねえ、もう関係ねえ…あんなヤツのことなんか……!」ボソボソ

承太郎「…?」


ジョセフ「ほぉ~らほらァ~ッ!!逃げ帰っちゃってもイイんだよォ~~?ン~?お家までなッ」

杏子「るせえな…まだやってたのかよ?…そんなモンあたしには通用しねえと……!!」

ジョセフ「ほゥれ、今すぐ回れ右して帰って抱きついておしめを替えてもらえばよかろう…!」





ジョセフ「”お母ちゃん”や”お父ちゃん”だっているんだろう?」


杏子「…あ…………?」


ジョセフ「悲しむじゃろうなァ~どっちも…"娘がこんな闘いに身を投じとると知ったら”…それはもうさァ~~ぞ……!」




杏子「―――――――――――」



プ ッ ツ ―――――――― ン ・・・

・・・・ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



承太郎「―――待てッ!その話すのをヤメロッ!ジジイ!」

ジョセフ「じゃから今のうちに…エ?」




杏子「―――…ろしてやる…」


ド ド ド ド ド ド 


ジョセフ「……あ、ありゃア…?な、何かやばいフンイキ…」

承太郎「今度こそ…マジにオレの後ろに引っ込んでな!ジジイ…!」




杏子「許さねえからな…!お前ら絶対…絶対に………!!」



ジョセフ「…ちょ……ちょっとばかし効き過ぎたかの~ッ!?わしの挑発がァーッ!!」

承太郎「ジジイの安ッぽい挑発が効いた…て訳じゃなさそうだな…コイツは…そう!”あの墓場で見たときと同じ”ッ!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・ ! !




杏子「――――――ブッ殺してやるッ!!!」



承太郎「オレ達は今ッ!”踏んじゃいけねえ何かを踏んだッ”!」



バアアアァア―――――――ン!!

たぶんきょうはここまで
どういう流れでも乙の一言があればずっと頑張れるというものですありがてェ~ッ

「荒らし」と「そうでない意見」の差はわかる…
「荒らし」についても逆に考える…レスが増える→「オッ!やってるねッ」と思い人が来る→読んでくれる…という流れをもたらしてくれると思ったら…なかなかいいもんだ、愛情すら湧くじゃあないか

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・


杏子「やッすい挑発でこのあたしを怒らせたこと…後悔させてやるッ!」


スゥーッ…


承太郎(身をかがめて…片手を地面につけた…?)

承太郎「何か…来るぜ…!」


杏子「…食らってくたばりな!」


パンッ!!


ミシ…ミシミシペキッ!  

ジョセフ「ヌ…振動?地震か…!?」


ベキ…ベキベキベキィ~

ジョセフ「い、イヤ違う!ヤツの足元の床にひび割れッ!これは…!」



…ド―――ンッ!!

承太郎「……!」

ジョセフ「オオオッ…!コンクリートの床を突き破って…強大な槍ッ!!」

杏子「”断罪の礎柱”…当然ッ!一本だけじゃあ終わらないよ!」



ドゴッ!!ドゴンッ!ボゴボゴベキッ!! ドッコオオオン!!



ジョセフ「き、木が生えるように…地面から垂直に!無数の槍が超スピードで”生えてくる”ッ!!や、ヤツの方から…な、波のようにィイーっ!こっちに向かって押し寄せてくるッ!」



ズゴンッ!ボゴンッ!ボゴボゴボゴッ!!



ジョセフ「…まずいッ!!走って逃げてもここは『廃工場の中』!!いずれ壁にぶち当たるッ!!壁をぶち壊して屋外に逃れる時間は…ないッ!…逃れられんッ!」

承太郎「なら”逃げなきゃいいだけのことだぜ…!”…ジジイ!もっと近くに寄れッ!」

ジョセフ「!」




ザンッ!!ドボゴオーッ!!ズザ!ザン!ザザボゴアアアア―――ンッ!!


杏子「…ヘッ!観念したかァ!?もうすぐ槍が辿り着くッ!!串刺しになりやがれ―――ッ!!」


ドッゴォオオ!!



ジョセフ「オオッ股下から…槍ィイ―――ッ!!」

承太郎「オオ―――ラアアァ!!」


ゴガッシャアアアン!!

バッキイイン…バラバラバラァ~



杏子「………」

ジョセフ「う、ウムッ…!流石じゃぞ承太郎ッ!的確に!わしらに向かって生えてくる槍だけを叩き割ったッ!!」

ザンッ!ザザザンッ!… ドゴドゴボゴ…   ゴッシャァアーーン… ガラガラガラ…


ジョセフ「…この音…!槍の波が建物の向こうっかわの壁まで辿り着いて破壊したか…?見た目は派手で威力もある…」

ジョセフ「ちょいとタマキンもヒュンとなった…じゃがッ!いかんせん精度が足りんなァお嬢さんッ!」

承太郎「………」



杏子「今の大槍…ジイさん…お前らを仕留めることを狙ってぶっ放ったと…本気でそう思ったのかい…?」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・



ジョセフ「…なんじゃと?」

杏子「…あんたらの真下から生えた槍は…あくまで”囮”さ! あたしの”本命”は…!お前らを取り囲む大量の槍のほうさ…!」

ド ド ド ド ド ド ド

承太郎「……」

ジョセフ「へ、ヘッ…はったりを~既に”生え終わり”エネルギーを失ったでかいだけの槍の群れを!どうしようと言うんじゃ…!?」



杏子「…どう?どうするってェ?」

杏子「はは…あんた…まだ気付かないとは…年の割にキレてるかと思ったけど…案外ボケてんじゃない?」トントン

ジョセフ「…にゃ、にゃにィ~!?」


杏子「…槍が地面を埋め尽くすほど”びっしり”じゃあなく…適度に…”隙間からお互いの姿が見える程度”に生えてる理由…ホントーに思い当たらない?」



承太郎「……ジジイ、『隠者の紫』を使ってガードに徹しな」

ジョセフ「………」タラリ… タラタラ

承太郎「…予想が正しけりゃ…この”槍の林"は―――!」



杏子「わかんねーなら…今見せてやる…ぜッ!!」



ダ―ンッ!!


ジョセフ「おおッ!ま、また跳んだッ!?」

承太郎「――――ヤローにとって格好の…狩り場になるッ!」

ゴオオオッ…   フッ


ジョセフ「!? 消えた!?ば、バカなッ」

承太郎「違うな…消えたんじゃねえ…周りを良く見てみなッ!」



ダンッ! ガンッ! ドンッ! ダダンッ!!

シュン! シュンシュンッ! シュウウウウ――ッ…!



ジョセフ「こ、これは!この…槍の周りを駆け巡るように…!縦横無尽に跳び回る…影ッ!!早すぎて良く見えんが…これはまさかァ―――ッ!!」

承太郎「ああ…ヤツはずっと見えている…ジジイの眼には捉えられねーだけでなァ~」


…シュンッ!!ダンッ! ドシューッ!!



杏子「―――おおおお~~~~ッ!!」



ドオオオオオ――――ンッ!!!



承太郎「槍を蹴って…”林”の間を縫って空中で翻り!また別の槍を蹴ることで勢いをどんどん増しているッ…!」

承太郎「…角度も計算されつくしていやがる…速度の減衰しないピンボールのように…オレ達からは予測不能!だが正確な軌道ッ!」


ジョセフ「さ、さっき『隠者の紫』をかわされた時も思ったが…!これはッ!もう”身体能力が高い”などという言葉では表し切れんッ!」

ジョセフ「…間違いない!これも娘っ子のスタンドの能力ッ!」

ゴオオオオオオッ…!



杏子「………フンッ!」

杏子(魔力を足と目に集中…その分防御は疎かになるが予想通り!オッサン達はスピードを更に上げた私の軌道を追い切れていないッ!)

ガンッ! ドシュウウゥ――ッ


杏子(さっきは平面的な制限が有って動きづらかったけど…今度の動きは立体だッ!もう作られた隙を突くようなヘマはしない!”隙を作らせるような暇も与えねえ”!)

ダンッ! シュゴ――ッ!


杏子(…この状態は…魔力を大量に消費する)

杏子(その上…手数が大事な大概の魔女戦…”撃退”がメインになる魔法少女との戦いでも『一撃必殺』に主眼を置いたこの技に出番は全くねえ!…だが!)


ギンッ!


杏子(―――あんた達はッ!触れちゃいけないあたしの過去に触れたッ!最悪のタイミングで!…最悪の形でッ!)


杏子(人殺しをしたことは…ない…!ここで殺っちまったら…)

杏子(……きっとあたしは…”もう戻れない”…!)


ギュッ…!


杏子(だが、今回に限っちゃ初めて!禁を破ることに戸惑いはない!)

杏子(そうさ…そもそもあたしは…あの場所に戻るつもりなんて、もう無い!)


…ダンッ! ドシュ――ッ!!


杏子「――――あたしは今ッ!マジに『プッツン』しているッ!!」




ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・ !

シュンッ!!  シュンシュンッ!! 



ジョセフ(さっきから…どんどん速くなっておる…ッ!プロ野球選手の投げる剛速球のように…纏っている風切音もどんどん鋭くなっていく!ヒエエッ)


ズバッ!ズババッ!!

バチバチバチッ…!


ジョセフ「ぬうっ…!すれ違いざまに…じ、地面がえぐられていくッ!飛び散ってくる土さえ痛いッ!い…『いつでも切りかかれるぞ』ということかァ~!?いっちょ前にふざけおってェ~!」

ジョセフ「ともかくこのデタラメな機動を止めねばならんッ!『隠者の(ハーミット…!!」



シュルル…  ズバッ!!ズバズバアアァ――ッ!!


ジョセフ「…だ、ダメかァ~~!すぐ切り刻まれてしまうッ!!ヤツは一瞬で向きを変えてやってくるッ!まさに変幻自在の…ッ!」



シュン…   ゴオオッ!!

承太郎「! ジジイ!さっきのは誘いだッ!!”一歩出ちまってる”!!すぐに下がれッ!」

ジョセフ「え?」



シュカッ…  ズバアァ~~~ッ!!



ジョセフ「ぐ…ウオオオオオ―――ッ!!」ブシューッ!!

承太郎「ジジイッ!!」


ザッ!



杏子(―――!!)


杏子(来たッ!この瞬間を…待ってたッ!!)

杏子(ジイさんに与えた傷は大した深手じゃない!しかしオッサンの注意は今!完全にジイさんの方に向いている!!)


杏子「―――この隙だッ!今度は罠じゃないッ!!今度こそ仕留められる!」



ダンッ!    ズゴオオオオオ――――ッ!!!



ギラアァ―ンッ!!

ジョセフ「!! じょ、承太郎―――ッ!わしに構うなッ!後ろじゃあああアア―――ッ!」


杏子「くたばれ―――ッ!!」



ドオオオオオ――――ッ!!



ゴオオオオ…!!


承太郎「ジジイ…あのガキはともかくテメーまで…ド忘れしたか…”マジにボケたのか”?」

ジョセフ「エ!?」


承太郎「やれやれ…知らねえとは言わせねえぜ…オレのスタープラチナは…!」

ジョセフ「……アッ!!」



承太郎「パワーとスピードだけじゃねえ!目も抜群に効くんだぜッ!!」

クルッ!!


杏子「……!!」



ド ド ド ド ド ド ド



承太郎「素早く変則的な動きだが…逆に言っちまうとさっきと違うのは『それだけ』だ…槍を蹴ってからの移動の軌道さえもッ!”見えていたッ!”最初からな…!」


承太郎「槍の強度はさっきのでだいたいわかってる…今度は加減もバッチリだッ!くらいなッ『星の白金(スタープラチナ)』ッ!!」


ドシュウウウ――――ッ!!




杏子「最初から…?じゃ”お互い様”だな?オッサン…」

バラッ

承太郎「…!?」


杏子「…見えている…そうだな…”そういうこともあるだろうな”ってさァ~…思ってたよ、あたしは…!最初からなーッ」


バラッ!バラララララ――――ッ!!



ジョセフ「…バカなッ!! や、ヤツの持つ槍は…!!」

杏子「あのスピードを操る”大男”に!!それを制御するための視力がないなんて…!そっちのが不自然だろうがこのアホンダラ――ッ!!」



ジョセフ「―――『多節棍』ッ!!空中で槍をバラバラにしてエエエ―――ッ!!」


杏子「そら―――ッ!!」

グイイイィーン…!



ジョセフ「荷重の重い先端をッ!!横に振りッ!!その反動で軸をずらし…!!」


承太郎「……!!」


スカ――――ッ!!


ジョセフ「ぱ…パンチから逃れおったッ!!あの体勢からッ!なんという器用なッ!」

杏子「ヘン…のがれただけじゃあないね…あたしのこれは”攻撃ッ”!詰めの一手は…こうさッ!!」

ジョセフ「ナニッ!」


ギュルギュルギュルッ!! 


承太郎「…チッ!」バッ

杏子「―――もう遅いっ!対処不能よ!…巻きつけッ!!槍よォ――――ッ!!」


シャラアアアンッ!! …ガッチィイイイーーーン!!


承太郎「ぐ…オオオッ」


ギシ…! ギシッ…!



杏子「最終的に…捉えたのは…!こっちだったな…ええ!?オッサンッ!!」


ドォオオオオ―――ン…

ジョセフ「あの数の節を自在に操り…!承太郎とスタープラチナを同時に巻きつけて動きを封じおったッ!何という妙技…!」

ジョセフ「ハッ!…『隠者の紫』ッ!!承太郎を――――!!」シュル…!



杏子「お前も!さっきからノロいんだよオオォ―――ッ!そらァ!!」


ギュンッ!! ブオッ

ジョセフ「ナッ…!」


ドシャアアァン!!

ジョセフ「ぐあああ――ッ!!」

承太郎「ぐうッ」


ズシャアア…

ジョセフ(承太郎を巻きつけた槍をォ~ッ…バットのように振りかぶって…わしに…!)

ジョセフ「――ゴホォッ!…当たり前じゃが…怪力じゃのォ…お前さん…」

ジョセフ「…またしても…いっぱいくわされた…な…ゲボッ」

杏子「へ…肺をうちつけたな…ジイさん…しばらくは”呼吸もままならないだろ”?お前はあとでゆっくり料理してやる…!」

杏子「…でも、その前にッ!」

ギロッ



承太郎「……ぬ、う…!」


杏子「まずはオッサン!テメーからだッ!…”このまま絞め殺す”!!」


ギシ…ギシ…!!ビキッ!


承太郎「ぐ、グブッ」

ポタポタ…


杏子「口から血が垂れてるな…!内臓を傷つけたかよ!?オラ、もうヒト捻りだ…!」

杏子「ほんのもうちょっと力を込めたら…私は、ほんとに!お前を…!!」グググ…!


ポタ ポタ…

承太郎「や…めろ… お前… に…」

杏子「…何だよ、今さら命乞いしようったって遅いんだよッ!コラッ!」




承太郎「…”殺し”は出来ねえ… オレ達を殺すことは… お前には… 出来ない…」


杏子「……あん?」

承太郎「勢いはあるが… お前には…"覚悟”がねえ… それじゃ…殺せねえなァ~…オレ達は」


杏子「…覚悟…?何…何わけわかんないこと言ってんだッ!」


ド ド ド ド ド ド ド ・・・


承太郎「…でだ…ここで…オレらしくもねえが…出血大サービスってやつでな~ッ」

承太郎「…今なら…”再起不能”未満で勘弁してやる…痛い目見たくなけりゃあ…!今すぐこれをほどきな…!」



ズ ズ ズ ズ ズ 



杏子「あ、に…言ってんだ…オイッ!状況分かってんのかよオッサン!」


グウウゥーッ!


ギシギシ~ッ

承太郎「グ、ムッ…!」ボダボダッ

杏子「現にこうして!お前らはあたしに…こ、殺されそうにッ…なってるじゃねーか!」


承太郎「やれやれ…なら…仕様がねえ…」

承太郎「それじゃあ…ついでにひとつ… 教えてやるぜ… ガキ…!」


ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ 


杏子「…!?」

杏子(な、なんだよ…このプレッシャー…!)

杏子(現実と”まるで逆”!今追い詰められてるのはあたしのような…!そんな…馬鹿げたことだけどッ!そんなふうに思わせる”気迫”を!目の前のオッサンから感じるッ!)



承太郎「世の中…”覚悟”も無いヤローが勝ち誇れるほど…甘くねーッってことをなァ~ッ!」

承太郎「勝利を確信したなら…”テメーはすぐオレ達を殺すべきだった!” オ、オオオオオッ!」



グッ… ググググググウウゥ――ッ



杏子「や、ヤベエッ…!あの”大男”!何かするッ…槍よッ!さっさと絞め落として……!!」


ビキッ…ビキビキビキッ!


杏子「……あ?」

承太郎「槍の柄は堅くても…『多節棍』…その連結部分の鎖は…やはりッ!そこまでじゃあねーみたいだな…!」


杏子「……そんな…あ、有り得ねえ…」

杏子「”鎖が弱点”!?それを差し引いても…そんなパワーが!”全力全開あたしの槍を引きちぎるほどの力が”…!」



杏子「その大男にイィ―ッ!有るはずなんざ――――!!」



ビ シ ッ !!

「ウオオオオオオオオラアアアア――――ッ!!」



杏子「――――」



―――”覚悟”ッ!

”大男”の咆哮を耳のみならず全身で受け止めながら!ほんの一瞬!しかし確かに佐倉杏子は考えた!

『男の言う覚悟とは一体何か!?』…実力では決して自分は引けを取っていない!しかし目の前の男に有って自分にないものが確実に存在する!

この男!自分の戦いとはまた別種の修羅場を”経験”してきている!…しかしそれだけではない!”この逆転劇は経験の差によるものだけではない!”



論理的思考ではない…しかし佐倉杏子は直感で悟ったッ!


自分は…この男に負けるッ! 


そうッ!―――”覚悟”の差によってッ!!


バッキィイイ―――…ン !!    パラパラパラ…


杏子「…バカ…な…!」



承太郎「…これが『星の白金』…オレの”スタンド”の…手加減なし本気のパワーだ…さっきは加減して悪かったな」

…スタッ



承太郎「―――オオッ!!」

ド ン ッ !



杏子「―――!!」

杏子(い、いけねえ…一瞬!一瞬呆けちまったッ!だがこの『一瞬』!致命的…!大男が地面を蹴って…今度は向こうの方から急接近してくる…!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド


杏子(『回避』――――間に合わない…!『防御』――――!そうだ!槍を…!新しく作って…!受け止めるしか…ない!)

杏子「…くうっ!」

メギャンッ!!



承太郎「槍を一から作ってガードか…?たいした生成の速度だ…」

承太郎「だがその槍の強度は…もう学習済みだぜッ!……次は全力で行くッ!」

杏子「き、来た…!」

承太郎「――――オオオォーラアアアァ―ッ!!」


ズドシュウウゥ―――ンッ!


杏子「…きたきたきたきたァ―――ッ!耐えてくれ…あたしの槍ッ!!」


ゴワッシャアァ―――ン!


杏子「………!」ビリビリビリ…



ピキビシッ

承太郎「……!?」

承太郎(…この槍を打つ感触ッ!手ごたえが…”軽すぎる!”さっきパンチを受け止めたとは思えねえスカスカな…!いけねえッ!”やりすぎだ”ッ!)



パリィイイイ――――ン…

杏子(あ、ぁ…ダ、メだ…急ごしらえな分…練り込んだ魔力もさっきとは比にならない…全く…”足りない…!”)

―――ボゴオッ!!

杏子「…ご…ぼッ…!」


メキメキメキミシッ


承太郎(”腹に入った”…予想通りッ!しかしコイツの槍!計算よりも脆かったッ!殺される予定だった拳の勢いが…死んでねえッ!止めるのは…もう無理ッ)

承太郎「―――これは誤算ッ!”殴り抜けちまうッ!”」


ボキッ! グボオオォム


杏子「ぐぅ…あああ―――ッ!!」


ドッコオオオオォォ――――ンッ!



杏子「うグあああアアアアッ――――ッ!!」



ドシュウウウゥ―――ッ!!   …ドゴシャアァン!


カラァーン… カラカラカラ

シィーン…


ジョセフ「……!」タラタラ

承太郎「……!」タラ~リ


ジョセフ「や、やった…!…が…」

ジョセフ「…さっき…割とガッツリと…殴られたように見えたが…?じょ、承太郎?お前…まさか本気でヤッちまったのか…?」

承太郎「……」


ジョセフ「しかも吹っ飛んで…コンクリートの壁に叩きつけられおった…!あ、あれでは”再起不能”…いや下手をすれば死んでおるやもしれんぞッ承太郎ッ!」

承太郎「”死んでる”…どうやらその心配はないみたいだぜ…今のところはな」

ジョセフ「…ぬ?」



グ…


ジョセフ「ムム!?」




グググググ…!

承太郎「…野郎…どこまで…」




「…覚悟だなんだってさァ~…わけわかんねーことばっか言いやがって…」




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


承太郎「…しぶとい…なんてもんじゃねーな…コイツ…『バケモン』だぜ…!」

ジョセフ「…ま、ま、ま!!まだ動くのかァ―ッ!?」

杏子「…終わってない…まだあたしは…終わってないっ!」


ボダッ! ボダボダボダ…



ジョセフ「いッイカン!やはりダメージは負っておる!あの出血!壁に叩きつけられた時の傷によるものッ!」

ジョセフ「…スタープラチナの一撃で内臓にも傷がイッとるだろう!動くんじゃあないッ!これ以上は…いくら頑丈でもッお前さん!死ぬぞォオーッ!」



杏子「―――うるせえぇっ!…覚悟がどうしたって言うんだ…あたしだってあたしだってなァ…ゴボッ!」


……ビチャビチャアッ!


杏子「…っぐ…!とっくにプッツンきちまってるんだよォ――――ッ!うらああああッ!!」ダッ!






…ズルンッ!


杏子「―――タコスッ!」ダゴォッ!



承太郎「……!?」

ジョセフ「……!?」

シイ――ン…



杏子「ふ…っぐ…ふぐうぅ…!」ポロ





ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・



承太郎(…?…!? こ、転んだ…!?のか…今?…自分の血で滑って転んで…したたかに…顔面を打ったように見えたが…)

ジョセフ(か…感じるッ!”空気が凍るッ!”…この言葉の意味を!わしらは今身をもって体感しているッ!)



杏子「ぢ…ぢくじょう…!ううッ!こ…こ…”こけにしやがって”…!」



ジョセフ「…ホ!ほ、ほらァ~もうやめようじゃないか?…な?勝負はついた…お前さんもう碌に立って歩くこともできんじゃあないか…」

ジョセフ「アー、それに何だ…エーッと…その格好がのォ~…オホン!こう控え目に言って…痛々しい?というか…」



杏子「やめろ…やめろッ…!そんな目であたしを見るな…!私たちは…『魔法少女』はっ!ナメられたらおしまいなんだよっ!…うう…!ゲホッ」



ジョセフ「デタッ!ま~たそれか魔法ナントカ!!どうやらお前さんにはいくつか言って聞かせんといかんこともあるようだしのォ~」

ジョセフ「そこで黙ってじっとしてたら…治療もしてやる!いいか?今から近づくが…危害は加えん!…だから噛みつくんじゃあないぞ?」



杏子「勝手にまとめてんじゃねえっ!…情けなんていらねえ…殺すなら…さっさと殺せよ…!クソジジイ…!」ギュッ



ジョセフ「…まいったなァ~…意地か…プライドってヤツかァ~?…根性は大したもんじゃがの…」

承太郎「やれやれ…毒気を抜かれちまったな…」


杏子「ハァ…っう…!ハァッ…!」

ポタポタ…


承太郎(だがさっさと…ナントカしねーとダメなことに変わりはねえ…見た目より遥かにタフなのは十分わかったが…このケガ、場合によっちゃ”最悪の展開”にもなりかねねーからな…)

承太郎(『黙ってオレ達に救助されることを受け入れさせる』…ひょっとして”戦ってブチのめすより難しい問題なんじゃあないのか?”…コイツは… さて、どうしたモンか…)

グラッ… グララー~…


承太郎「……!」


ガラッガラララァア――ッ!


ジョセフ「…オ!お嬢さん!上じゃーッ!!さっきの衝撃で傾いた鉄骨がッ!降ってくるッ!」


杏子「あ…あアッ!?あ…!」



承太郎「―――ガキッ!避けろ―ッ」



杏子(いや…避けろっつッたって…動けねえ…)



ガラガラガラ ・・・



杏子(……死ぬ?…あたしが…こんなしょーもないことでか…?)



杏子(…なーんてな…お似合いの末路か…あたしなんかには… このオッサン達にやられるのも癪だし… これでいいのかも…)

杏子(…ああ、倒れてくる鉄骨も…ぜんぶが、スローで見えやがる… 錆びてるけど…ありゃあ重そーだな…)


ガラララララァアアア――ッ ・・・


杏子(…オヤジ… 母さん…  モモ…   マミ、さん)


杏子(あたし――――)



…ドガゴォオオオ―――ン!  

きょうはここまで
駆け足だッ

ブワアアアァ~ッ ガラーン・・・


ゴオオオオオォ…


杏子「……」

ジョセフ「フゥ~……間一髪ッ!間一髪で間に合ったようじゃのォ~」


承太郎「これは…!」



ジョセフ「『隠者の紫』…娘っ子との会話の最中に!既に地中を這わせておったッ!」

バ―――ンッ


ジョセフ「もともとは娘っ子を拘束する為に用意しておったんじゃが…まァ結果オーライじゃろう」

ジョセフ「しかし…倒れてくるすべての鉄骨を防ぐことは『隠者の紫』のパワーとスピードでは出来なかった…!頭は守れたが”下半身”は分からんッ」

ジョセフ「どうだ?承太郎!」


サッ

承太郎「…予感的中だぜ…ジジイ!思いっきり挟まれている…鉄骨と地面にッ!ガキの”両足”がな…! オオッ」


ガシィッ!


承太郎「オラァ!」



ポイイイィ―――ッ!!


ジョセフ「エッ」


ヒュウルルルッゥ~ン!


ジョセフ「OH!MY! …G O O O O O D!!」


ドガラッシャァ~ンッ!!


ジョセフ「ヒイイイイィ――ッ!!」


ガラァア――ン…



承太郎「フウウゥ…」

ジョセフ「…こッ!このバカたれ―ッ鉄骨を!娘っ子の足から除けるのはいいが!」

ジョセフ「あまりに粗雑!少しは投げる方向を考えんかァ―ッ!潰れるところだったぞッ」

承太郎「チッ…ギャーギャーとうるせえな…”避けれたんだから問題ねえだろうが”」

承太郎「…」ジッ…


杏子「……」

承太郎(気を失っている…死んでるわけじゃねえから一安心…が)

ドク… ドク…

承太郎(足が思ったより酷いな…これは『開放骨折』…おまけに動脈も傷つけたか?出血も激しい…)

承太郎(背中と腹の負傷も併せて…ボサッとしてる暇はなさそうだぜ…!)


クルッ!

承太郎「ジジイッ!電話は持ってんだろうッ!?”救急車”を呼べ!」


ジョセフ「フン!舐めて貰っちゃあ困るのォ~!抜かりはない…もう送っとるわい!”財団”への救急要請はなァ~!」


承太郎「そうか…なら良…」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


承太郎「…オイ待て…”財団”?」

ジョセフ「左様!日本の救急車みたいなチャッチいもんじゃあないぞ!”スピードワゴン財団お抱えの医療専用車列”が市街地から今!フルスロットルでこっちに向かっとるッ!」

ジョセフ「どんな状況でもコールを送ると飛んでくるプロフェッショナルッ!精鋭の集団!あの過酷な旅の…こういうのも”遺産”というのかのォ~?エ?褒めてもいいぞ?わしを」


承太郎「……」

承太郎「…ひとつ聞かせてもらうが…”なんでそんなもんが都合よく…市街地なんざに待機してる”…?」



ズ ズ ズ ズ ズ ズ ・・・



ジョセフ「……」

承太郎「……」



ジョセフ「…承太郎…お前~…頭がどうかしたのか?」

ジョセフ「よもや今日が何の日だったか…忘れたわけじゃああるまい」

承太郎「…?…何を言ってる…」

ジョセフ「オオット~”墓参り”なんぞという寝ぼけた回答はいらんぞ、そういうボケはイラン」

承太郎「…知らん…心当たりは…まるでねえな…」

ジョセフ「はァアア~~ッ!?」


ジョセフ「―――今日はッ!ホリイイィの健康診断の日だろうがッバカモンがアアァ―――ッ!!」


ドォオ―――ン…!

承太郎「…?…?…それで何故…わざわざ財団が出張る…?」

ジョセフ「そんじょそこらの病院なんか信用できるかいッ!わしにはわしの考える”最高の検査”をあいつに受けさせる義務があるッ!父親としてな!」

ジョセフ「へへへ…そして医療車両といっても…格が違う!最新のCTスキャン!造影機器!手術用無菌室ッ!…そしてSW財団の信頼すべき医師達!検査から治療までのすべての工程が可能な云わば”動く病院”!」

ジョセフ「それがちょっとした隊列を組んでやってくるンじゃからのォオーッ!え!びっくりしたろう!わははははは!」


承太郎「…たかが健康診断に…その設備の内のどれだけが必要だってんだ?」

承太郎(―――”親バカ”!!…おふくろがオレに対して”こう”じゃなかったのには感謝しねーとな…ついでに”同情”もか…やれやれだぜ)クイッ

ジョセフ「まァ”スタンド”の後遺症がいつ出るやもわからん。万全を期すに越したことはないということよ!」

ジョセフ「それにホレ…こうして今役に立っとるだろう?全くの偶然じゃが」


承太郎「…」


ジョセフ「…お前さんこの娘のケガの事情をどう”普通の医者”に説明する?”スタンドバトル”なんぞ頭のおかしい変人の発想としか思われん…最悪しょっぴかれるかわしらも”病院”に送られるぞ!」

ジョセフ「何より…わしらにはこいつとゆっくり腰を据えて話す時間と場所が必要だ…病室で逃げたり暴れたりせず大人しくしてくれる…という保証もないしのォ~」


承太郎「言ってることはごもっともだ…だがその”場所”…この国にそんな都合のいいモンがあるのか?」


ジョセフ「オオーイオイオイ~!あるじゃろうが!治療もできて周囲の眼を気にせず話せて多少ぶっ壊してもごまかしが効きナオカツわしらの眼の届く場所ッ!」




承太郎「……」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

承太郎「…テ、テメー…まさか…」




ジョセフ「そのま・さ・かじゃよオォ――!」

ジョセフ「連れてくのは…承太郎!お前の”家”じゃーッ!」



ドド―――ン…!

「人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる」

誰の言葉だったか…ヒトという生き物の行動の基本を、これほどサックリと…しかし的確に指摘したセリフはそうないだろう。

結婚したり友人をつくったりするのは”安心”のためだ。

ヒトの為に役立つだとか愛と平和のためにだとか…全て自分を”安心”させるためだ。

安心を求めることこそが人間の最大の目的なのだ。あたし達のあらゆる行動は、この『原理』から逃れることはできない。

例外も存在するだろう。しかしそれは…振りかかる不安や恐怖を越えた確固な意思を湛える…そう、”人間離れした”誇り高さと強さをもった、ごく一部の人間だけだ。



…あたしはその”例外”にはなれなかった。


あたしはただ家族と笑って生きたかった。

戦うことに恐れや後悔はなかった。どんなにあたしが傷付こうとも、家族がそれを知らなくても…オヤジや、母さんや、モモが笑って傍に居てくれるなら それがあたしの”安心”だったからだ。



信じていたオヤジも”例外”ではなかった。積み重ねられた歪みはほんの些細な亀裂から溢れだし…津波のようにあたしの全てを持ち去った。



…何もかも失ってようやく気付いたんだ。あたしは別に特別な存在じゃなくて、ちょっと『力』を持っただけの何でもないひとりの少女だったってね。

あたしには”恐怖”を跳ね除けて進む強さはなかった…このままでは”恐怖”に押しつぶされて、消えてなくなってしまう…そう思った。


だからあたしは…ヒトの為に生きることをやめた。


パチン



杏子「……」

杏子(木目の…天井?廃工場から見える…青空じゃねえってことは…あはは、なんだ…やっぱり死んだのか。あたし)


杏子「……」

杏子(変な感じだよなぁ…宗教が宗教だっただけに…こう”地獄”ってのにはもっとオドロオドロしい何かを想像してたんだけど…)


杏子(なんというかこう…日本家屋みたいだな?この被さってる『布団』も暖かほわほわで気持ち良……)


杏子(……『布団』?)




ジョセフ「気がついたか…娘っ子」


杏子「ハッ!?」


承太郎「手間かけさせやがって…」


杏子(…”オッサンとジイさん”!あの世にしたってこの人選はおかしい…これは!まさか…!)


杏子「い…生きてるのか…!?あたしは…!?」


ジョセフ「おかしなことを聞く奴じゃの…それ以外に何が有るっていうんじゃ全く」

杏子「…クソ…あたしはあの時…負けたはずだろッ!…トドメも指さずになに考えてんだおま…!」ググッ

ズキイイィーン…


杏子「――っがぁう…!?イ、痛っ…!」

ドサァ!


承太郎「暴れんな…って忠告はイラネーな…この調子じゃ」

承太郎「今ので分かっただろうが…お前は今スタボロの雑巾みてーな有様だ。一応言っといてやるが”歩くこともできねー大ケガ”だぜ…『逃げよう』なんて思わねえことだな」


杏子「……!」プルプル


ジョセフ「”治療”は済んでおる…が、元のように動けるようになるまではしばらく要るじゃろうなァ~」

ジョセフ「もっともあの状態から助かった上に…全快する可能性が高いってダケでも驚きじゃが」


杏子「…”治療”!?治療っつったか今!」

杏子「な、『縄張り』も『グリーフシード』も奪わずに…!?お前らマジなのか!?ホントに…何たくらんでやがる…ッ!?」


ジョセフ「”何もたくらんどりゃあせん”…と言っても今のお前さんは信じんじゃろうな」

承太郎「……」


ドッカリ!


ジョセフ「ひとつ腹を割って話そうじゃあないか…そうすると見えてくるものもあるだろう!」


杏子「…なにを…!」

ジョセフ「―――『隠者の紫』ッ!」

承太郎「…『星の白金』」

シュウウウ…!


杏子「…!!」ビクッ



ジョセフ「これがわしらの『能力』…お前さんの力と同じッ!力の扱い方は知っておるようだが…”正体を知らんようだから教えてやる”!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


ジョセフ「わしらの『これ』も!お嬢さんの『槍』も!生命エネルギーが生み出すパワーある像(ヴィジョン)なのじゃ!!」

ジョセフ「そばに現れ立つというところからその像(ヴィジョン)を名付けて…!!」



ジョセフ「――――『幽波紋(スタンド)』!!」


ド  ン  ン ッ  !!


杏子「…」


承太郎「……」

ジョセフ「……」


杏子「…お、お前ら…」


ジョセフ(フッ…決まったなァ~完全に決まった!)

ジョセフ(このお嬢ちゃん!次にぶったまげた顔をして『なんだそれは!私は知らない!もっと詳しく教えてくれ!』…と言う!)

ジョセフ(わしの長年の経験が告げておる!縋り付くように聞いてくるに違いないッ!ヌフフ)





杏子「―――バ、バカにすんのも大概にしやがれ―――ッ!」

ガオオオァアア―――ッ!



ジョセフ「…エッ」


杏子「んなわけわかんねー嘘ばっか抜かして”ガキ”だと思って適当言ってッとすり潰すぞ!こらァ!!」

ググググ…! ズッキィイーン!


杏子「い、痛いーっ!うぐううッ畜生っ!」ビグビグ



ジョセフ「じょ、承太郎~…このちっこいのコワイッ!わしの読心術が通用せんッ!」

承太郎「…ジジイ…テメーが『説得は任せろ』と言ったからオレは黙って見てたんだぜ…『テメーのケツはテメーで拭け』」

杏子「ハァ…ハァ…ッ!ネタは割れてんだ…ごまかせると思うな!その力!『魔法』だろうがよぉ!」

杏子「”すたんど”!?…ハッ!なんだそりゃ!?…この世にそんな摩訶不思議パワーが何個も何個もあってたまるかっつーの!」バンバン!


ジョセフ「『魔法』ゥ~!?またそれか!?お前さんこそ現実を直視せんかい!」

ジョセフ「そんなファンタジーやメルヘンみたいなモンは無いッ!頑張って練った設定がフイにされて腹の立つ気持ちは分かるが駄々をこねるなッ!!」


杏子「お、おお~まだ言うか…まだ言うかよジイさん!何も知らねえと高をくくってるようだから全部知ってるところを聞かせて分からせてやらあ!」


杏子「…あたし達は『魔法少女』!『キュウべえ』と契約して願い事を何でも一つかなえてもらう代わりに『魔女』と戦う運命を背負わされた者達!」

杏子「『魔女』と戦って得られる報酬『グリーフシード』で!この『ソウルジェム』を浄化することによって…」


コオオオォッ…


承太郎「…!」

承太郎(『指輪』から透き通った紅色の宝石!…浮き上がるように突然現れた!)



杏子「…あたしらはずっと『変身』して魔法を使うことができるのさ!…好き勝手にな!」



ジョセフ「『変身』~~ッ!?気を失ったら服装が変わったのがそれか!?そんな能力もあるのかお前さんの”スタンド”には!」

ジョセフ「しかし意識を失ったら解けたのが何よりの証拠!それも”スタンド”能力じゃろうがーッ」



杏子「…あーわかったよジイさんの話はもう聞かねーッ!お前らの正体も正直に話す気はないみたいだしな!」



ジョセフ「『無視』!?無視をする気か貴様ッ!それはわしがもっとも嫌いなことのひとつだぞ―ッ!調子に乗るなガキんちょが!」

ギャアギャア!


承太郎(…おかしい…『妙だ』)

承太郎(スタンド能力は1人ひとつ… その基本を外れることはない…あのDIOですらそうだった)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


承太郎(『槍』…『身体強化』…『変身』…あるいは『物体を別のものに化けさせる力』!)

承太郎(どれか一つでもスタンドの能力として十分に成り立つ…それが”こうも連続することがあり得るのか…?”)


ド ド ド ド ド ド ・・・ !


承太郎(あの鬼気迫る様子を考えても…もうしらばっくれているとは思えん。そしてガキの妄想にしては矛盾なく話が練られ過ぎている…)

承太郎(『魔法少女』…と言ったな…コイツ…まさか…”マジにスタンド使いではない…?”)

承太郎「ジジイもガキも…ひとまずクールダウンだ…」


杏子「はあ…!はあ…!じ、ジイさん…いや…クソジジイ~ッ!」ギリギリ

ジョセフ「止めるな承太郎!お前さんさっき言ったよなァ~『テメーのケツはテメーで拭け』と!その通りじゃ!わしはァアアこのガキんちょをォオオ~~ッ…!」


承太郎「―――やかましいッ!うっとおしいぞ!オレは一旦黙れと言っているんだッ!!」


ガルッ!!



杏子「……!」

杏子(な、何だかな…このオッサンに黙れって言われるとつい黙っちまう…クソォ…ムカつくムカつくムカつく!…どいつもこいつもちょ―ウゼえ!)


ジョセフ「……!」

ジョセフ(ど、怒鳴らんでもええじゃないかぁ~!とは言えない雰囲気!ムキになったのは悪かったが爺さん相手にそんな怒るか~!?トホホ!)

承太郎「…やれやれだぜ…」

…ジロリ


杏子「……っ!何だよ…!」


承太郎「ガキ…名前を聞いてなかったな…名はなんという」


杏子「…」

杏子「『キョウコ』…『佐倉杏子』!それが親からもらった…あたしの名前だ!」

ド ン ッ!


承太郎「――空条承太郎!」

ド ド ン ッ!


ジョセフ「…ハッ!…ジョセフ・ジョースター!…ンン!お嬢さん!”クソジジイ”ではないぞ」

ド ド ド ン ッ!


承太郎「さて…簡単に自己紹介も済んだところでテメーにはオレから話が有る」

承太郎「お前の話…『魔法』…信じてやってもいい」


杏子「…」

ジョセフ「!?ショ、正気か~承太郎ッ!?」


承太郎「…だが!テメーの話…理解はできるが納得できねえ点がいくつかある」

承太郎「だから”全て話しな”…といっても今度は本当に一から全部だ…お前が『契約』とやらをして、いかに今に至るか…”始めから余さず全て教えな”」


杏子「……!!」

ググッ…


承太郎「……」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・


杏子「…土足でさ~…ヒトの心にずけずけと…そういうのを人間は『無礼』って言うんだぜ?…オッサン」


承太郎「…承知の上の『無礼』だぜ」


杏子「…全部言えば納得するってんならあたしはここで…全部話すべきなんだろうな…それが”賢い選択”」


承太郎「……」


杏子「―――だけど!こんなあたしにも譲れない一線はあるんだ!あたしの回答は……!」





「そうだね杏子…君が答える必要はない…魔法少女についての疑問には…僕が回答するとしよう」

承太郎「!!」

ジョセフ「!!」



ババッ!!


ジョセフ「――何者…!エ?」



杏子「…あんた」


「ここで話がこじれて…”スタンド使い”により『魔法少女』がひとり滅ぼされるのは…とても惜しいことだ…大きな損失…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


「それは避けねばならない……ならしょうがないさ。”僕が出るしかないだろう?”…やれやれ」




ジョセフ(ね、猫!?いや犬!?…何だかわからん!こいつも新手のスタンドかァ~!?)

承太郎「…悪いが自己紹介は…とっくに終わった後でな~」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


承太郎「名乗ってねーのは!テメーだけだぜ…!」




「オット、これは失礼したね…」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ  ・・・!!




キュウべえ「キュウべえ…”僕達”はそう呼ばれている。お初にお目にかかるね…スタンド使いの諸君」




ドオオオオ――――ンッ!!

きょうはここまで

黄金週間は…ペースが…下がるだろう

ド ド ド ド ド ド ド 


ジョセフ「ぬ、ぬう…!コイツ…!」

ジョセフ(『キュウべえ』!わしはさっき娘っ子から全く同じ名を耳にした!そして今!この生き物はそれと同じ名前を名乗ったッ!)


ジョセフ(…そうッ!『名乗った』!”喋ったのだこの動物は!)」


ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ


ジョセフ(動物の形を模したスタンドならば喋るくらい何ということはない…刀剣が意思を持ったスタンドであった例もある!…身も蓋もないがスタンドだというだけであらゆる不思議は説明できる)

ジョセフ(ならばコイツもその一種と考えるのが妥当…しかし…キョウコという存在…今コイツが喋った内容!『魔法少女』というワードッ!)

ジョセフ(…゛引っかかる”!わしの『勘』と『経験』が…コイツをスタンドに分類するなと告げているッ!)




杏子「珍しいね…あんたが魔法少女同士のいざこざに口を出すなんて」


キュウべえ「その認識は…『正確』ではないね、杏子…」


キュウべえ「彼らは『魔法少女』ではない。彼らの言っていること…”スタンド使い”の存在は…真実だ」


杏子「…あんだって?」



承太郎「――オイッ!」

ザンッ!


杏子「!」



承太郎「ワンころ…いや、猫か?…”そういうのには慣れてる”から外見については何も追求しねーが…俺たち抜きで話を進めて貰っちゃあ困るぜ…」

キュウべえ「…」

承太郎「キュウべえっつったな…そこのガキ…サクラキョウコもついさっき同じ名前を出していた」

承太郎「たしか…テメーと『契約』するだとか何とか言ってなァ~…」



キュウべえ「…」

ド ド ド ド ド ド ド ド 


承太郎「テメーの御大層な登場の時…魔法少女とやらだけでなく”スタンド使いを知っているような口ぶりだった”…忘れたとはいわせねえ」

承太郎「そのガキと親しげな様子を見ると…どうやらお前は魔法少女側のナニカらしいが…ずいぶん『物知り』みてえだなァ~…」


キュウべえ「……」


承太郎「”スタンド”で済ますにはこのガキの能力は違和感がデカい…『魔法少女』の詳細はオレ達も聞きたいところだが…今から話すだろうお前の説明ッ!全部鵜呑みにする気もねーぜ…!」

承太郎「お前が何者なのかは”まだ”知らねえが…そもそも畜生の分際で態度がでけえのも気に入らねー」

承太郎「これからの話に…ちょっとでも矛盾や不自然があるなら…」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


承太郎「その瞬間に…”オレのスタンドをテメーにぶち込む”」





キュウべえ「……」


承太郎「このガキとの戦いからお前の登場まで…”全ての状況がお前というスタンドに仕組まれた攻撃である”っつー可能性もあるんでな…情け容赦はしねー」

承太郎「そこんとこをよーく考えて…喋りなッ!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ  ・・・


杏子「…」

杏子(ジョータローつったな…このオッサンのセリフ…嘘じゃない)

杏子(キュウべえのヤツにほんの少しでも疑いを抱いたなら!このオッサンは…!アッと言う間に”大男”を使ってキュウべえをひき肉にするだろう!)

杏子(血を求めて腕にとまった蚊を反射的に叩き潰すように…微塵の戸惑いもなく!…そう思わせるだけの『スゴ味』がこのオッサンにはあるっ!)



キュウべえ「…」


杏子(そしてキュウべえ…こいつ…スタンド使いは真実?だとかぬかしやがって)

杏子(…キュウべえが『嘘』をついたって話は…聞かない。コイツらは少なくともあたし達に『嘘』はつかない)

杏子(”スタンド使い”…スタンド…魔法少女とは違う…!?一体…?)




キュウべえ「ふう…やれやれ…」

キュウべえ「”スタンド使い”…往々にして戦いの対象が『同族』である以上仕方ないのかもしれないが…君達は”いつも”攻撃的だね…」


キュウべえ「だがスタンドの出番はないよ。僕の話に…きっと君達も”納得”してくれる筈さ」


承太郎「……」


ゴ ゴ  ゴ ゴ  ゴ ゴ
 

キュウべえ「いいだろう。ではまずは…世の中にはびこる『魔女』についてから…順を追って説明して行こうじゃないか」






キュウべえは…とつとつと語った!

絶望から出づる『魔女』がもたらす災厄、それにより人類が被る被害のこと…

魔女を狩る者『魔法少女』の願いと役目、その戦いの重要性と危険性について…

そして『ソウルジェム』とその浄化…

最後に…自分が『契約』と『グリーフシードの回収』を担う存在であるということ!


ファンタジーやメルヘンではない、現実の人間社会に根ざし、隠れ動く『魔法少女』という存在!その響きから想像されるのは”陰なる栄誉と煌びやかさ”!


――しかし現実は修羅であるッ!



スタンド使いふたりが最初に出会い、戦った魔法少女は杏子であった!誤った先入観が割り込む隙はない!あの戦いは…皮肉な話だが…スタンド使いふたりが魔法少女の実情を理解するこの上ない助けとなった!


『縄張り争い』『グリーフシードの奪い合い』『私欲のための魔法利用』…歴戦の経験を持つ二人は、いずれ魔法少女が直面するであろうこれらの『暗部』について”瞬時に正しく理解した”!!




理想と現実の剥離!そしてそれらを叩きつけられるのは、清濁呑み込んだいい大人ならともかくまだ年若い『少女達』である!


空条承太郎とジョセフ・ジョースターがまず最初にこのシステムに抱いた感情は”戦慄”ッ!!



そして!あらゆる感情を見せることなく『事実の説明』を終えた…目の前の『媒介者』に対する…じんわりと染みわたるように心に広がった”異物感”ッ!

承太郎「…!」

ジョセフ「…!」


シィイ~~~ン…


杏子(なんだこいつら…いきなり黙りこくりやがって)


キュウべえ「理解してくれたかい?魔法少女は僕達が導き出した『叡智』…魂の鼓動を源流とするスタンド使いと根幹は似ているけれど…より『効率的』でありその力は応用性に富む」

キュウべえ「多彩で強大な『魔女』に立ち向かうには…これは非常に重要なことなのさ」



ジョセフ「…ン!ア~!オホンッ!」

キュウべえ「?」



ジョセフ「あー、その…なんだっけ?そうじゃ…キュ…キュウべえよ…ひとまずお前の話…わしは信じよう」

ジョセフ「『魔女』と『魔法少女』についてはもう身をもって体験しとるからのォ~…最初は”スタンド”としか思わんかったが…よくよく考えればおかしいことだらけじゃし」

ジョセフ「…無論ッ!まだ頭っからケツまで全て信じ切ったわけではないぞ!…ということだけ念を押しておいてだな、ひとつ聞きたいのだが」


キュウべえ「何だい?」


ジョセフ「…魔女と戦うのは本当に魔法少女でないといかんのか?例えば…アー、軍隊とか…」


キュウべえ「魔法少女でなく一般の…という意味なら前例はないね…そもそも普通の”素質を持たない”人間では魔女や…『僕』を知覚すらできない。君達は例外なんだよ…」


ジョセフ「例外ィ?」


キュウべえ「…魔法少女はその『魂の輝き』を使って魔法を行使する。君達が操るスタンドも闘志で制御する『魂のビジョン』であるから…そういう点では似通っている。"波長”が合いやすいのさ」


ジョセフ「フ~ム…」


キュウべえ「よしんば見えたとして、奴らは数も多いし…戦うにしたって現代の技術レベルでは対応しきれないだろう」


キュウべえ「あと…先手を打って付け加えておくと…”波長”や”素質”が似ているからと言って、ではスタンド使いが”契約”できるか?と言われると”そうではない”」

キュウべえ「僕らと契約して計算通りの力を発揮できるのはあくまで第二次性徴期の少女のみだ… 性別が異なり、年齢がずれれば…契約できても魔法少女の『なりそこない』にしかならない。大体はね」



キュウべえ「これでわかったかい?魔女を野放しにすれば人類は大きな被害を受ける…”狩らねばならない”。しかし魔女を狩れる者は魔法少女をおいて他にないのさ…少なくとも、今の人間社会の上ではね…」

ジョセフ「……」

承太郎「……」



コッ…   カポ――ン…



ジョセフ「…わしも…もう長い。大概のことでは驚かんと言う自負もあった…」

ジョセフ「が…そんな自負は…今この瞬間”ぶっ壊された”わい…粉々にな」


承太郎「…」


ジョセフ「わしらや…スピードワゴン財団の者たちも知らんだろう。あらゆる権力者を探ったところで知っておるのは一握りに違いない」

ジョセフ「ヒト社会の裏の立役者…命をかけて戦う少女達…!わしらはその存在すら知らずにのうのうと暮らしていたというわけじゃ…」

ジョセフ「…『知らんで当然』などと言うのは簡単だが…ハア、やっぱり大ショックだのォ~…」




杏子「…言っとくけど、安い同情なんてすんじゃねーぞ…ジイさん」


ジョセフ「ム…」


杏子「確かにあたし達は…契約したその時から危ない橋を渡ってばっかの人生になる…でも、それ相応の見返りはもらってるつもりさ」

杏子「何でも一つ願いを叶えれるし、魔法を使ってズルだってできる」


杏子「…中には願いをフイにしたり、私利私欲の為に魔法を使うことをとことん嫌うようなヤツも居る……で、結局魔法少女になったのを後悔したりね…バカな話だけど、全部自業自得さ」

ジョセフ「”自業自得”ゥ~ッ!?抜かすわい小娘が知ったふうにッ」


杏子「…はァ?」イラッ



ジョセフ「『自業自得』なんざ分別付いた良い大人の概念だ!ろくに『間違い方』も勉強しとらんガキんちょが…たった一度誤ったくらいで人生棒に振るっちゅうのはナァ~そういうのは”理不尽”と呼ぶッ!」

ジョセフ「お前さんもそのうち知るだろうが世の中にそういう”理不尽”はいっぱいある…が!コイツはわしの知る限り最も性質(タチ)の悪いものッ!」


ジョセフ「何もわからん子供を…しかも少女をッ!孤独な戦いの最前線に送り込むっちゅうのはなーッ!わしは心底胸糞悪いぞッ!」


杏子「……あー!どうにも噛み合ってねーなジイさんッ!」

ジョセフ「なにィ!?」



杏子「いわゆる良い子ちゃんの魔法少女ほど自業自得…あんたの言うところの理不尽を被るさ!他人の為にたったひとつの願いまで使っちまったりね!」

杏子「…でもな!そういう連中も考えようによっちゃ魔法を使って…”あたしみたいに”『釣銭』を取り戻すこともできるんだ。それをせずにバカ正直に生きてること自体が自業自得だっていうのをあたしは………!」

杏子「―――ハッ!」



承太郎「……」

ジョセフ「…”あたしみたいに”?」


杏子「…」

杏子「…やっぱ…何でもねえ。続けろよ…キュウべえと話の途中だったろ」

ジョセフ(……)



ジョセフ「…話がそれた…ということでだ、スマンがやっぱりわしはお前のことをどうにも好きになれんようだ…エ?キュウべえとやら」


キュウべえ「?」


ジョセフ「…お前さんのやっていることがコーキョーシャカイの為になるって言うのは重々わかっとる…わかっとるんじゃがのォ~…やっぱり『少女』にろくでもない力を与えて戦わせるってのは…わしは受け入れられんなァ」

ジョセフ「こればっかりは孫の言う通りじゃが…わしはどうにも頭の硬いジジイらしくてな」


キュウべえ「…そうかい。まあ僕としては君達の中の杏子に対する敵意が消えてくれたら…それで良かったんだ。対象が『僕』ならいくら憎んでもらってもかまわない」


ジョセフ「…気丈なヤツじゃの~…お前こそわしに『代替案もないのに理不尽だ』…とツバのひとつでも吐きつけて帰れば良さそうなものだが」



ゴ ゴ ゴ ゴ  ゴ



ジョセフ「…何だかまるで…”感情がない”ような反応をするなァ~?お前さん…」


キュウべえ「………」




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・

キュウべえ「…敵をつくらない態度は重要さ…なんせ僕は…”なんの武器も持たないか弱い存在”…拳を振るわれてはたまらないからね」

キュウべえ「人間もやるだろう?仕事や社会で…そういう立ち回りは」


ジョセフ「…ケッ!まーすます気にくわん!」


キュウべえ「…やれやれ。ともあれ君たちから『杏子が敵スタンド使いである』という疑惑が晴れたところで、今度は杏子に"スタンド使い”について…」




ザンッ!

承太郎「――オット待ちな!…オレの質問はまだ終わっちゃいねーぜ!」



キュウべえ「…」

ジョセフ「? 承太郎…?」

杏子「?」



承太郎「確かにそこのが『スタンド使い』…『敵』じゃあないってのは良く分かった…しかしそれとは関係なく『魔法少女』について…もうひとつ聞いてねえことがあったぜ」


キュウべえ「…何だい?」




承太郎「テメーはスタンドが魂のビジョンであることを知っている…それを操るのに”精神力”以外は特に必要とされねーこともな」



キュウべえ「……」


承太郎「魔法少女は…魂の輝きを使って魔法を使うと言ったな?そして”ソウルジェムは魔法を使うと濁っていく”…」



承太郎「当然…”輝きを失ってな…”」



キュウべえ「………」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド  ・・・



承太郎「ちょっと考えれば誰でも思いつきそうな素朴な疑問だ…お前は説明を省いたが」



承太郎「…『ソウルジェム』が濁りきったら…”魔法少女はどうなる?”」




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ  ゴ ゴ  ゴ   ・・・  

きょう(?)はここまで


キュウべえさん喋らせたら通常の10倍くらい時間かかること発覚

キュウべえ「”どうなる”…とは?」


承太郎「言葉の通りだぜ…”浄化しなきゃならない”ということは当然『ある』んだろう?マズイことがな~ッ」

承太郎「”浄化しなかったらどうなるか?”というデメリット…俺はどうも…」


承太郎「追及されたくないから省いた…そう感じたぜ」


ズ ズ ズ ズ ズ ズ ・・・



キュウべえ「…」

キュウべえ「僕には…そういうふうに君が『疑い』を持つとは予想できなかった…そうだね、説明しよう」


承太郎「…」


キュウべえ「濁りきるということは…”二度と魔法少女として魔法を使えなくなる”ことを意味する」


キュウべえ「スタンド使いの君達には…少し考えづらかったかな?ガソリンが底を尽きた車が止まるように、能力の使用そのものに制限が有るというのは…”それくらいは説明しなくても想像はつくだろう”と思っていたんだが…」

キュウべえ「説明をしなかった理由…”僕にとっては”それが全てだ。何か…不満があったかい?」


承太郎「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・

キュウべえ「…そうか…じゃあ杏子」

杏子「え?」


キュウべえ「君はどうだい?濁りきったらどうなるか…確かに君に説明したことはなかったが…”それほど意外なことだったかい?”」


杏子「…いや、正直それほどでもねえけど…」

杏子「魔力がスッカラカンになっちまえば魔女を狩ることもできなくなるし…狩れないならグリーフシードも手に入らないわけだし…ドン詰まりだ。そりゃ当然魔法も使えなくなるだろーさ…って感じ」


キュウべえ「…だそうだけど、承太郎」


承太郎「…」ジロリ

杏子「…なにガンくれてんだよ」


承太郎「そういう小学生でも出せるような答えを聞きたかったんじゃあねえんだがな…」

承太郎「…ちょっとばかし質問を変える…キュウべえ…テメーは魔法を”二度と”使えなくなるとか言ったが…」

承太郎「それはキョーコが言った理由が全てか?『お前の口から』聞かせてもらいてーな…」


キュウべえ「…」

キュウべえ「…正確には…違うね」


杏子「…なに?」


キュウべえ「ソウルジェムに宿る魔力が底を尽きると…全く別のものに”変質”してしまう。そうなればもうグリーフシードでの浄化は意味をなさない。”二度と”というのはそういう意味さ」


杏子「ちょッ…ハァ!?」

杏子「それってぇとナニ!?…例えば他の誰かにグリーフシードを分けて貰ったりして…もっかい”浄化”しようとしても利かないってこと!?」


キュウべえ「まあ…そうなるね」


ジョセフ「オイオイ…割と大事そーなことだが…まさかお前さん教えとらんかったのか…?」


キュウべえ「…このことを教えれば、魔女との戦いで『いざ』という時に委縮してしまうかもしれない。そうして魔法を使うことを戸惑えば…最悪命にかかわるわけだしね」

キュウべえ「特にルーキーの精神は繊細だ。”真実”が魔法少女の心に及ぼす影響は時に無視できないほど大きい」

キュウべえ「要は"濁りきらない”ように魔法を使ってもらえれば”本人に”問題はないわけだし…」


杏子「…何?あんたあたしをその辺のルーキーと同じくらいヤワだと思ってたから教えてなかったってわけ?」

杏子「あははは…ア~…ちょ―イラつく」


キュウべえ「それは誤解だよ…ルーキーだろうがベテランだろうが聞かれない限りは答えないようにしてるだけさ」

キュウべえ「もちろん”取り返しのつかないこと"になる直前になったら警告くらいはするよ」


杏子「チッ…余計なお気遣いどーも」

キュウべえ「…まあ、そういうわけなのさ。理解したかい?承太郎」


承太郎(………)

承太郎「…そうだな…お陰さまで魔法少女についてはよく分かったぜ……」



承太郎「だがまだ一つ…」



ジョセフ「オ~イ…まだ続くのかァ~?…わしゃいい加減疲れてきたぞ…承太郎よ」

承太郎「…チッ…!じゃあテメエひとりで寝てりゃあいいだろうがッ!」



承太郎「続けるぞ!…オレにはまだ根っこの問題…肝心の敵が見えてこねえ」

承太郎「…魔法少女についてそんだけ詳しいなら…当然宿敵らしい『魔女』について何も調べてないわけがねえよな…?」

キュウべえ「…」


承太郎「”呪いから生まれて絶望をまき散らす”…それだけじゃなんのこっちゃ分からねえぜ」

承太郎「こっちはその魔女とやらのせいで一度死にかけてるんでな…知ってる情報は提供してもらいてえな」


キュウべえ「『結界』だとか『使い魔』だとかについては説明しただろう?防衛の役に立ちそうな情報はそれで全てさ」


承太郎「…」

キュウべえ「魔女は…実は僕たちにとっても重要な興味の対象でね…その”もととなるモノ”や”行動原理”については…”僕らには理解できない概念が多分に含まれている”」



キュウべえ「こう見えても魔法少女と魔女の関係性をいかに”効率良く”できるか…日夜努力しているんだよ?」




コッ…   カポォ―――ン…


承太郎「フン…”効率良く”か…」



ズ ズ  ・ ・



キュウべえ「そうさ…”効率良く”ね…」



ズ ズ ズ ズ ズ ズ  ・・・

――パンッ!

ジョセフ「ほらッ!話は終わりじゃ!これでお前も満足しただろう承太郎!」



承太郎「…」


ジョセフ「というわけで説明が終わったんだからキュウべえ…お前はさっさと出て行かんかッ!お前の会話のトーンはどうにも不安になって敵わん!」


キュウべえ「待ってくれ…えっと…僕はまだ杏子にスタンドの―――」


ジョセフ「”スタンド使い”については改めてわしからサラッと要点をまとめた美しーイ説明をするわいッ!お前の話は長くてイカン!」


杏子「!? ちょ…ジイさん!?あんたまさか!?」


ジョセフ「そうじゃ…承太郎とわしの!タッグでな~~ッ!!」



ガララ…


ジョセフ「…オロッ!承太郎お前どこへ…」


承太郎「聞きたいことは聞いた…そんでテメーらにはやかましくて付き当ってらんねーんでな…”そのガキについては任せた”。オレは出ていくぜ」


ガラピシャンッ!




杏子「……お、おい…」

ジョセフ「なんだァ~?長話を振ったのはあいつのくせして勝手なヤツじゃわい…まあいいか」

ジョセフ「…”マンツーマンでみっちり教え込んでやる”…エ?覚悟しろ」


杏子「”みっちり!?”…よ、要点まとめんじゃなかったのかよ!お…オイッ!キュウべえ!やっぱりあたしとしてはお前から…!」

キュウべえ「うーん…」


ジョセフ「お前さんはま~~だおったんかいッ!今さらだがキサマ土足だろう!『畳』が汚れるッ!タダでさえ洗いづらいのだ…足跡がこびり付かんうちにさっさと失せんか!!」


キュウべえ「…というわけだから…すまないね杏子。まあ命の危険はないだろう」


杏子「…………!!」

キュウべえ「じゃあね。後の説明は宜しく頼むよ」

ジョセフ「おう、任せておけ」


トタ トタ スイ~ッ…

杏子「ま、待てよ!待てって行くなって!」

ジョセフ「これで邪魔者は居なくなったッ!また勘違いで切りかかられたらたまらんからなァ~!!キッチリ認識は改めさせる!」


杏子「別に話が長いのはいい…ただ!あんたと二人だけでってのはイラつくし落ち着かねー!」


ジョセフ「…加えて!ず~っと思っとったが年上に向かってなんじゃその口のきき方はッ!」

ジョセフ「放っておいてもいいがそれではお前の為にならんからな…せっかくだからそれについても『指導』してやる」

杏子「余計な御世話だっつって…!……?」



ジョセフ「…」


ズン!


杏子「…な、なんだよ!何で近づいてくんだ…?」


ズン!ズン!



ジョセフ「わしが言うのもなんだがホリィは少し…甘やかし過ぎた感が有る」

ジョセフ「当然”体罰”などはやったことがない…だから加減を誤るかもしれんが…悪く思うなよ」


杏子「お、オイ…何言ってる…あんた…何する気だジイさん…」


ズンッ!


ジョセフ「日本じゃ…悪い子には”おしりペンペン”なんてのをするって聞いたもんでのォ~…エェ?”ひとつやってみようじゃないか”」


杏子「は…」




ジョセフ「おっと決して”仕返し”とかそういうのではないぞ?お前さんに切られた傷はまだしつこくジクジク痛むが…そういうのではない。断じて」


杏子「や…やめろ…ヤメロッ!近づくんじゃねえ!こ、コラァ!」



グワシッ!

ジョセフ「凄んだって無駄だぞ?今のお前さんなんか怖くもなんともないわい」

杏子「ひっ…こら!さ、さわんじゃねぇッ!やめ…やめろってやめ…ああッ!」



ジョセフ「フ、フ…そんで抵抗するな…フフフ…傷に!障ったらッ!!イカンからなァアア――ッ!わはははは――ッ!」


杏子「あ、あ!…うわああああっ!あ、あたしの!あたしのオオォ―――ッ!!」







――――  あたしの側に近寄るなああ―――――ッ!! ―――…



…トッコ トッコ

キュウべえ「やれやれ…障子の外に居ても聞こえてくる。ずいぶんと騒々しいね…」


キュウべえ「察するに『君』はそういうことを嫌っているみたいだが…ここに留まっているということは…まだ何か僕に用が有るみたいだね。…そうだろう?」


ズ ズ ズ ズ ズ ズ  ・・・


承太郎「…」

キュウべえ「……承太郎」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ  ・・・




承太郎「…ココなら…ジジイにもガキにもオレ達の話は聞こえないだろう…」

キュウべえ「…」


承太郎「さっきテメーが話すのを躊躇ったことがあるとしても…”それが例え魔法少女の目の前で話せないようなことだとしても…今なら話せるぜ”」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



キュウべえ「……」

承太郎「……」

キュウべえ「ひとつ…君に分かっていてほしいのは…」

キュウべえ「今日の問答において…僕はひとつも”嘘”を喋っていない…」


キュウべえ「同時に…杏子の眼の前で話せないが君にだけ教えられるような事案…ここで君に話すべきだと判断する事実は…僕は何一つ持ち合わせていない」



コッ… カポ―――ン…



承太郎「…」

キュウべえ「君が何を警戒し何を恐れているかは知らない…だが、これだけは信じてほしい」


キュウべえ「…僕は君たちの『敵』ではない」


承太郎「……」

承太郎「…ああ、覚えておくぜ」


キュウべえ「…そっか。”良かったよ”」

キュウべえ「では、そろそろ本当に僕は去るとするよ…君も早く屋内にひっこむといい。この時期とはいえ…夕暮れ過ぎは流石に冷える」

承太郎「…」



キュウべえ「じゃあね。”いずれまた会おう”」


スウウウゥ~ッ…    …





ヒュウウゥ…ザアアァアアァアァァ…




承太郎「…よーく覚えておくさ…”テメエが全く微塵も信用に値しねえヤローだってことはな”…」


承太郎「…やれやれだぜ」




ゴ オ オ オ オ ォ ・・・


きょうはここまで


スタ スタ

ホリィ「カモンベビィドゥーザ」



スッタ スッタタ~

ホリィ「ロコモーション…」


ス…

ホリィ「…シーッ!お静かにあたし!ここから先は鼻歌は厳禁よ!なんちゃって」

ホリィ「忍び足で行きましょう…もし見つかっちゃったらつまらないもんネ?フフッ」



ソロソロソロォ~~リ



ホリィ(パパと承太郎ってば急にお医者さんを引き連れて帰ってきたと思ったら『絶対に近づくなよ!』って部屋に引っ込んじゃうんですもの…)

ホリィ(あーいうことを言う時のパパはなにか企んでるのよね~!アヤシイ)

ホリィ(何よりここのところいつもいつもふたりばっかり訳知り顔で…仲間はずれはさびしいモン!)



ソロソロ…




ホリィ「見えてきたわ~この奥の部屋ね?さっき離れに居てもドタバタと楽しそうな音がしてたもの」

ホリィ「そっと近づきましょ~っと…何か『隠し事』なら気付かれてトボけられちゃってもつまらないし」

…スッパァーーン!!


ホリィ「!!」サッ!


ホリィ(障子が開いたッ!出てきたのは…)



スタスタ

ジョセフ「…――ンッン~…――♪」

スタ スタ スッタタァ~!



ホリィ(…パパ?えらく機嫌がよさそうだけど…承太郎がいないわねー?まだ中に居るのか先にでちゃったのかしら?)

ホリィ(あの物音といい…やはりあの部屋!”何かあるわ”!フフ…ビンビンに冴えたあたしのカンがそう言っている!)


ホリィ(人間近づくなって言われたら近づきたくなっちゃうものよね~!ああッ!なんて危険な好奇心!)


ホリィ「パパは…角を曲がってもう見えない!部屋に入るなら今だわ!」


スタタタタタ ガッ!


ホリィ「ヘイ障子ィ!オープ~~ンッ!」


スパ―――ン!

『ドやかましい物音』『1人で出てきたジョセフ』『近づくなという意味深なセリフ』…

そして自分の眼の届かないところで何やらやっている二人!ホリィの興味を惹くにはこの数点で十分に過ぎた!


これらと関連付けることのできる適当な答えはホリィの中にはなかった…がッ!ホリィは漠然と思った!!

『この障子を開ければ、その答えは分かるはず。つまらないことでもびっくりするようなことでも、それであたしの好奇心は満たされる!』


ヒトが自分の眼で確かめて理解できない事柄などそう存在しない!(例外はある。突然背中から生える不気味なイバラなど)

開けた視界の先に存在するものが自分に答えを与えてくれる!確信のもとにホリィは障子を開け放ったッ!



…かくして目に飛び込んできた光景!




杏子「!?」


ホリィ「!?」




―――― 意外!それは女の子ッ!!

杏子「…ハァ…はぁ…」ジロォ!



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・


ホリィ(…”女の子”!小学生…いや中学生くらい?妙に息が荒いし肌着もはだけてるし変な感じ…それにロングで”赤毛”…!ニホンでこういう髪色の子はちょっち珍しいわよね~)


ホリィ(じゃなく!”何故”見知らぬ女の子が家に!?)

ホリィ(この子!おそらくさっきまでパパや承太郎と一緒に居たはず!)



杏子(また新手かよ…今度は…オバサン?親族か?)

杏子(勘弁してくれよクソッ…!あのクソジジイから”スタンド”について…け…ケツを弄ばれながらッ!じっくり講義を受けたばっかで心身ヘロヘロだってのにさァ~!)

杏子(『痛み』とジジイへの『殺意』を抑えながらスタンドについて整理する為にあたしは今かなり脳ミソを使ってる!)

杏子(…めんどくせえっ!これ以上新しい火種を持ち込んでくんなら追い出してやる!誰だか知らないけど!)



ホリィ「…」

杏子「…」



シィイイ~~~ン…




時間にすれば一瞬…数秒にも満たない静寂!

心中図る事柄は違えど、ある種の『膠着』と『牽制』の雰囲気がそこにはあった!


そして!静寂の水面に石を投げたのはッ!



ホリィ「ハ…」


杏子「…?」


ホリィ「ハロォ~?ナイストゥミーチュゥ…?」




ホリィ・ジョースター…否! ”空承ホリィ”ッ!!

ホリィ「…ハッ!」


ホリィ(し、しまったァ~!つい畏まって英語であいさつなんてしてしまったワ!いくら一瞬フリーズしてしまったからと言って…”焦り過ぎた”!)

ホリィ(も~あたしのバカバカッ!絶対変なオバサンだと思われたじゃなーい!)



ズ ズ ズ ズ ズ ズ


杏子「えっ…」


杏子(い…『英語(イングリッシュ)』!いや…当然のことだ!このヒトの髪の色!目の色!どーみたって”ガイコクジン”!)

杏子(たださっきまで似たよーな爺さんと普通に日本語で喋ってたから感覚がマヒしていた!そしてマズイ!”あたしは英語なんてほとんどしゃべれない”!)


杏子(追い出すにしたって言葉が通じなけりゃ今のあたしにはどうしようもねえ!クソォ…昔っから英語の授業なんて全然聞いてなかったもんな…!)

杏子(こ、こういうときって…最初に何て言うんだっけ!?た、確か…え~っと…!)


杏子「ふ、ふぁ…」

ホリィ「!」



杏子「ふぁいん…せんきゅー…?」



シ~~ン…


ホリィ「…」



杏子「…ッ!」



杏子(う…”薄い”っ!ま、間違えたかな…!?)

杏子(…ち、畜生!なんだこれ!?別にこのオバサンにどう思われようが関係ないけど妙に気恥ずかしいぞ…)

杏子(くそ…なんなんだよこの家の連中は!あたしに恥ずかしい思いばっかさせやがって…!)イライラ


杏子(――もう知らねえ!言葉は分かんないけど怒鳴れば『敵意』は伝わる!)



杏子「あのさぁ…!」ググ…!

ホリィ「―――あら、あらあらァ~ウフフ!ごめんなさいね!」


杏子「!?」


ホリィ「こういうシチュエーションは想像してなかったからちょっとびっくりして変な言葉が出ちゃったけど…忘れて頂戴!」ヒラヒラ

杏子「?…!? あ、アンタ…普通に日本語…」

ホリィ「喋れるわよ~そりゃあペラペラよ?何年日本に住んでると思ってるの!」

杏子(イヤ、知らねえけど…)


杏子「無駄に身構えちまったじゃんか…つーかまたいらない恥を…」


ホリィ「うん?でも英語に英語で返してくれて本当に助かったわ~”何奴!?”っていう緊張も一瞬でほぐれちゃった!こういう時”無言”の空気が一番辛いのよね~」

ホリィ「そしてさっきの返事でわかったわ!心で理解した!あなた悪い子じゃあなさそうね?」


杏子「え?」


ホリィ「パパや承太郎と”何をしてたかは知らないけど”…そのケガと関係あったりするのかしら?」

杏子(…?)


杏子「な、なあ…ひとつ聞きたいんだけど」

ホリィ「お!なあに?何でもイイわよ?」


杏子「あんた…”スタンド”とか『魔法少女』って知ってる…よね?」



ホリィ「? いきなり変な質問ね?」

ホリィ「スタンド…stand?”立つ”とかそういう意味の英語よ~そりゃ知ってますとも!日本語が喋れると言って英語を忘れたわけじゃあないのよ!バイリンガルなの!」


杏子(…)

ホリィ「魔法少女というのは…ごめんなさい、わからないわ。あたしに娘は居ないし、最近の若い子が見る”アニメ”とかって知らないから…くすん」



杏子(…このオバサン…スタンドを知らない?この場面で嘘をつく意味もなさそうだし…今回の件とは完全に部外者なのか)

杏子(パパ…ってのはさっきのジョセフとかいうジイさんだよな?ならこの人…まさかあいつの娘?似てねえな…)ジ~ッ…

ホリィ「…そう、『知らない』の。でも知らないことって”裏を返せば話題になる”って思わない?」

杏子「?」


ホリィ「やっぱり年頃の女の子と話す機会なんてめったにないし…あなたみたいなカワイイ『娘』も欲しかったのよ~?息子に満足してないとかそういうのじゃないんだけれど」

ホリィ「ここのところその息子も相手してくれなくて寂しいの…いっぱいお話をしましょう?」

ホリィ「これは全くのカンで…何となくだけど!あたし達ッ!仲良くなれると思うの!」


ガシィ!


杏子「うわっちょ…!」


ホリィ「年の差なんて気にしなくていいのよ!さァ!じゃんじゃんいっちゃいましょう!」


杏子「…~~!」

杏子(…あのジイさんと言いこの家には変なやつしかいねえのか?初対面だってのになんというかスゴイ”ガンガン”来るな…このオバサン)

杏子(…)



ホリィ「…ネッ!」

杏子「…」


杏子(…足をやられて逃げることもできない…不本意だけどどうせしばらくは”されるがまま”なんだ。…ったくもうどうにでもなれ!)


杏子「…いいよ。どうせ暇だし」


ホリィ「…本当!?キャーうれしいわ!じゃあまずはお互いの自己紹介から始めないとね!」


ホリィ「あたしの名前は―――!」


……



杏子にとってのホリィとの会話は…時間にすれば大したことのないものであったし、内容も些細なことばかりで…はっきり言ってしまうと”何の実にもならない”ものだった。


だがしかし、同時に杏子は奇妙な感覚を覚える。




出会いがしらに抱いた無遠慮で無思慮な話好きの女性であるという大雑把なイメージ…杏子は、いざ話してみるとこの印象は大間違いであるとすぐに悟った。

魔法少女のこと、ここにいる理由、親兄弟の存在… 目の前の女性、ホリィがそういう”触れてほしくない部分”に突っ込んでくることは決してなかった。

時に機関銃のように喋り、時に小鳥のように笑い、聞く時は真剣に耳を傾ける。

その全ての過程で彼女がこちらを不快にさせることはなかった。『触れてほしくない話題』の端に流れがゆけば、彼女はこちらのほんの僅かな表情、口調の揺らぎを汲みとり、すぐさま会話の方向を変えた。


…そこに計算高い”わざとらしさ”はなかった。ただ純粋に、自然と彼女は全ての流れの中心に居て…優しく、快活に、抱き込むように杏子を会話の渦の中に誘った。


話の中、杏子は不意に…自分がほほ笑みを漏らしていると気付いた。

平素の彼女であればそんな”自分”に対するいら立ちの一つでも感じそうなものであるが…ああ、何故だろう。その時、その場所において…不思議とイヤな感覚はなかったのだ。



ハリネズミのように護身の針を心に纏った自分にすら、”それ”は優しく温もりを分け与えてくれる。まさしく『太陽』のようだ。


この女性は…ひとの心を和ませる女の人だ。そばにいるとホッとする気持ちになる。


その元気な笑顔が見たいと思う。”守りたいと思わせる”。



”母”とこの人では性格が違う。容姿も違う。しかし短い会話の間、ずっと杏子は感じていた。


この人の傍に居ると…母親の腕に抱かれてモモと眠ったあの頃のような”安心”を覚える。

あの頃のような優しい温もりが… 涙が出るほどに、どうしようもなく心に打ち寄せて仕方がないのだ。




ホリィ「フフフウフフハハ…!あ~オカシイ!」


杏子「へへ…信じられないな~!”クラッカー”でかい?ホントかよぉ…うっくく…!」


ホリィ「アハハ…あら、もうこんな時間!時がたつのは早いわね~!そろそろ夕食の準備をしなくちゃ」

ホリィ「よっこいしょっと!」

スッ…


杏子「ああ…もう行くの?」

ホリィ「ええ!承太郎もパパもお腹をすかせてるころだろうしネ!」

杏子「そっか…」


杏子「あの、ちょっとだけいいかい?」

ホリィ「? なあに?」



杏子「…今日はいろいろわけわかんない事だらけでさ…正直”自棄”になってたとこもあったんだけど…」


ホリィ「…」

杏子「…ちょっとだけ、ちょっとだけ気分が紛れたよ。…ありがとう、おばさん」


ホリィ「…ユアウェルカム!”こちらこそ”ってね!あたしも楽しかったからおあいこさまじゃない?…ウフフ!」

杏子「そっか…なら良かったよ、あはは…!」

スタスタ…  スーッ ピタァ!


ホリィ「…あ、忘れてた!もうひとつだけ」

杏子「?」


ホリィ「今日の夕食はハンバーグよ!”食べていいのは病人食だけ”ってわけでもないんでしょう?一緒に作って持ってきてあげるから!」


杏子「…晩飯?ごちそうになっちゃっていいの?」

ホリィ「そりゃあね!他に食べるアテもないでしょ?」

杏子「そりゃそうだけど…」

ホリィ「心配無用!味の方は期待しておいてね?腕によりをかけて作るから!」

杏子「はは、味の問題じゃないんだけど…まあいいか。御馳走してくれるってんならありがたく御馳走になるさ」


杏子「…どうぞよろしくオネガイシマスッ!」パンッ!


ホリィ「ええ!まかせんしゃいッ!」グッ!


スーッ トン…

スタスタ

ホリィ「フンフフ~ン…♪」


ホリィ(ケガのこととか、パパ達に連れられてきたこととか、どうして病院じゃなく我が家に…とか)

ホリィ(聞きたいことはいっぱいあったけど…別にいいわ!今となっちゃ)


スタ スタ


ホリィ(杏子ちゃんは良い子で、あたしは承太郎やパパを信じている…それで全てだもの。悪いようになるはずないわ!だから―――)


ホリィ「この新しい出会いに喜びと…感謝を!それだけが今あたしがすべきこと!」



ピタッ!

ホリィ「ア…でも近づくなって言われたのに部屋まで入っちゃったのはばれちゃうわよね…?パパに怒られるかしら?」

ホリィ「まいっか!別に悪いことはしてないんだし。現にあたしは何ともナイ!」



スッ

ホリィ「フ~ンフンフン… オ~ベイビィ~♪」



スタスタスタ・・・

杏子「…」




…ボフッ


杏子「…ン~ッ…!」ノビィイイッ…


杏子「はぁ~…」バタム


杏子(なんか…現実感がねえよな… ”夢から覚めた気分だ”)


杏子「…」


ギュッ…


杏子(アハハ…我ながら矛盾じゃんか…”覚めた”?違う…どっちかって言うとこっちが”夢の中”なんだ…)

杏子(…あたしに家族や仲間はもういない。あの戦いの毎日の方が本当で…こっちは…そうさ、すぐに消えて無くなっちまう儚い”夢”)


杏子(魔法少女はケガの治りも早い…さんざっぱら看病させといてケガが治れば黙っておさらばしてやるさ。それが当然…)



杏子(…)


杏子「ハンバーグ、か…」


グウウウゥ~ッ…


杏子「……」ジュル

杏子「…へへ、考えようだな。魔法を使わなくてもメシにありつける…たまにはこういう”夢”だっていいもんさ」



ゴロン…


杏子「…今日は…本当に疲れた…」


杏子「…すげえ眠ィ…ご飯まで… ひと眠り…」


杏子「…」

スゥ… スゥ…スゥ…






なあ? こんなあたしだって 少しなら…幸せな夢を見たっていいよね?


いつかは泡みたいに消えて、その後にやってくる現実はきっと、とても重くて、辛いんだから。


だから、せめて夢の時間くらいは… ぐっすり眠っても 許してくれるよね?



そうだよね? マミさん… 




きょうはここまで

5月…平日は…忙しい…

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