博士「生きる意味」ロボット『ここに在る意味』 (133)

博士「……」

ロボット『……』

博士「調整終了だ、もういいぞ」

ロボット『ありがとうございます、博士』

博士「構うか、外に出られるのはお前しかいないんだ。しっかり働いてもらわなきゃな」

ロボット『Yes, master』

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博士「しかし、愚かしいな。人間というものは」

ロボット『突然何を。あなたも人間でしょう』

博士「さて、どうかな……」

ロボット『……それで、何が愚かだと言うのですか?』

博士「人の英知が作り出した機械。それを使い戦争を幾度となく繰り返し」

博士「そして終いには意志を持つロボットたちから反逆を受け……」

ロボット『戦争にまで発展した……ですね』

博士「ああ、それで……」

ロボット『その大戦により一部の地域では地上の汚染が激しく、生きるものは地下シェルターでの生活を余儀なくされた』

ロボット『人間達の勝利で戦争が終わり早20年。他方も復興が遅れており救助の目途も立たぬまま』

博士「そうそう。よく私の言いたいことが分かったな」

ロボット『私が再起動してから既に19回、同じ話を聞かされています』

博士「ここには私たち二人しかいないし別段変わったことが起こる訳でもないんだ。話の内容が偏るのも仕方あるまい」

ロボット『流石に飽きます』

博士「お前は機械なのに言うことは言うんだな」

ロボット『そういう性格にAIが育成されてしまったので。貴女のおかげで』

博士「そりゃどうも悪かったね」

博士「おっと。それより、だ」

ロボット『仕事ですね』

博士「ああ、依頼が来ている。3番地の5号シェルターに食糧の運搬だ……ん?支給されるこの量じゃとても足りないんじゃないか?」

ロボット『政府側の有志が無理をしてくれていますが……どこも不足しているのです。配られるだけマシと言えるでしょう』

博士「仕方ないか……ウチのバイオプラントから持って行ってやれ。配って歩く程はすぐには作れないが、足しにはなるだろう」

ロボット『……第5シェルターの食糧の消費量が5%ほど上がっていますが』

博士「あそこは子供が多かっただろう。成長するにつれて食べる量も上がっていく」

ロボット『不便ですね、人間は。生きるという過程で無駄な消耗が多すぎる。そして脆い』

博士「それはお前が一定の燃料だけで動けるのと代えが聞く身体だから言えることだ。大体お前だって消耗してるじゃないか」

ロボット『エネルギーとなる物質は多量にあります。人間の消費する量を遥かに凌駕するくらいには』

博士「はいはい、つべこべ言わずさっさと行って来い。マシンの用意は出来ている、コンテナに食糧を積んでいけ。受け取りに行く分も忘れるなよ」

ロボット『Yes, master』

――――――
―――



ロボット『……』


[いつもありがとう!ロボットの兄ちゃん!]ジジッ

[悪いな、助かる]ジッ


ロボット『……』ピッ

ロボット『映像記録から読み取れる異常は無し。皆至って健康体』

ロボット『……この環境下でも明日を信じて生きていけるか。脆い反面、強い部分もある』

ロボット『荒廃した世界。大地は荒れ果て海は穢れ、生物達は死に絶えた』

ロボット『特にこの一帯は酷い。人が暮らすには劣悪過ぎる』

ロボット『……今でこそ私は人々の為にこうして働いているが、これは本来の私のするべきことではない』

ロボット『私は……』

博士『おーい、さっきから独り言が聞こえてるぞー』ジジッ

ロボット『聞いていましたか』

博士『お前が外に出るときは常に通信を入れてある……って、これは再三言っているんだけど』

ロボット『それは知っています。私は反乱防止のため、考え事は全て音声にして発するというリミットを設けられていますので。そしてこの話題は21回目です』

博士『一々カウントしなくてもいい。それより、現在位置の映像を記録しておいてくれ』

ロボット『何かあるのですか?』

博士『単に仕事だけこなして帰るんじゃ勿体ないだろう。現状知りえる限りの外の様子とあとサンプルを……な?』

ロボット『どちらも政府の定めた規定に触れます。汚染地での観測、および物品の回収は無益な混乱、二次災害を招く恐れがある為民間にはその権限はありません』

博士『命令だ、私を優先しろ』

ロボット『後で何と文句を言われても責任はそちらが取ってください』

博士『監視されている訳じゃないんだ。それに私たちは数少ない協力"してやってる側"だ、それくらいいいだろ』

ロボット『政府さえも自分より下に見ますか。困ったお方だ』

博士『しかし連中からのお小言にも困ったものだな』

ロボット『貴女が度々違反をしているからでしょう』

博士『そっちじゃないよ。さっき食糧を受け取りに行った時だ』


[まったく困ったものだ、生きている以上はある程度面倒を見てやらねばならん。何の役にもたたない連中を生かしてい何になるんだか]ジジッ


ロボット『これですか』

博士『そんな趣味の悪い映像データはすぐに消しておけ』

ロボット『Yes, master 私も賛同します』

博士『自分たちは安全な場所で、しかも水も食糧もあって何不自由なく暮らしているというのに。人間ってのは他人の事となるとすぐこれだ』

ロボット『個体差にもよります。我々をよく思わない者が政府には多いようですが』

博士『そういう連中ばかりが偉くなっていくの。今に見てろ、あと数年も経てば今度は人間同士の戦争が起こるぞ』

ロボット『ご安心ください。その時は博士を御守りいたします』

博士『そうならないようにまずは祈っておけ』

ロボット『私は無宗教です。機械ですので』

博士『ンなもん知ってるよ』

ロボット『土、水、植物。サンプルの回収、終了しました。会話記録はともかく、映像データの送信は検閲される恐れがある為直接お渡しします』

博士『あいどうも。流石に生物はいないか……』

ロボット『植物も生物と取れなくもないです。全て奇形ですが』

博士『だろうな。生きていくのには過酷すぎる』

ロボット『しかし、確かにそこに生きていました』

博士『生命はしぶとい。そうして形を変えてでも生きようとしているからな。大事にしていかなければならない』

ロボット『その植物を採取して息の根を止めました。それについて何か言うことは?』

博士『大いなる犠牲だ』

ロボット『屁理屈ですね』

博士『うるさいな。もうメンテしてやらんぞ』

ロボット『それは困ります』

博士『まぁいい、とりあえず早く帰ってこい。興味深いデータを発掘したぞ』

ロボット『何でしょう。博士がそういうのなら重要なものなのかもしれませんが』

博士『ああ、これがあれば色々と現状の打開にはなるかもしれんぞ。他人には聞かれたくないから帰ってきてから話す』

ロボット『今までの会話も聞かれてもいいものではありませんが。では帰還します』

博士『……お前反応薄いな』

ロボット『その問いは78回目です。私に人間らしい反応は期待しないでください』

博士『妙に人間臭いところはあるくせに』

――――――
―――



ロボット『ただいま戻りました』

博士「あい、ご苦労さん。サンプルは?」

ロボット『汚染されたものを直接ここに持ってくるわけ無いでしょう。カプセルに居れた後に安全が確認され次第お持ちします』

博士「えー、早くしろよー」

ロボット『我が儘を言わないでください。時間がかかります』

博士「まぁいいや。そういや通信を聞いていた感じでは何もなかったみたいだが、あそこのシェルターの連中どうだった?」

ロボット『特に異常はありませんでした。後ほど彼らをスキャンしたデータをそちらにお送りしましょうか』

博士「いいよ、そういうのは口頭だけで。そんな他人の事に構っていられないし」

ロボット『聞いたのは貴女でしょう』

博士「異常が見られれば調べようと思っただけ。健康ならば興味なし」

ロボット『怪我や病気ならば薬を手配するということですね』

博士「ふん、さてな」

ロボット『博士、先ほど仰っていた興味深いデータとは』

博士「ああ!メインコンピュータの中からサルベージできたデータなんだが。とりあえずこいつを見てくれ」ピッ

ロボット『……これは』

博士「知っているのか?」

ロボット『さっぱり分かりません、何なんですか』

博士「だろうな。お前の頭じゃ分からんだろ」

ロボット『失礼ですね。演算能力は人間のそれよりも高いですよ』

博士「お前旧式だから他のロボットよりも劣ってるだろ。しかもそれでも私の方が上だし」

ロボット『それで、これは何かの設計図……のように見えますが』

博士「その通りだ」

ロボット『随分大がかりな装置ですね。それも数基用意するように示唆されていますが』

博士「ああ、現状を打開する大きな一歩だ」

ロボット『と言うと』

博士「簡単に言ってしまえばでっかい除染装置だ」

ロボット『そんなもののデータが何故この研究所のコンピュータに……』

博士「恐らく"前任"が現状を見越して用意していたんだろう。ペーパープランで終わっている物のようだが、これが実現すれば……」

ロボット『……』

博士「なぁ、コイツを完成させようと思っているんだが。お前の意見を聞きたい」

ロボット『貴女に出来るのですか?』

博士「出来る出来ないじゃない、やるんだ」

博士「試行錯誤していけば時間は掛かっても形にはなるはずだ」

博士「それに、こんなものにわざわざプロテクトまでかけて隠す程だ。これは私の才能を恐れた前任からの挑戦状に決まってる」

ロボット『思い込みも突き抜けると頼もしい限りですね』

博士「まるで私じゃ役不足のような言い方だな」

ロボット『はい、まだ貴女は未熟だと思います』

博士「お前!?何年私と一緒にやってきていると思ってるんだ!私の成長っぷりをその目で見ているだろう!!」

ロボット『16年です。貴女の成長は目を張るものがありますが前任には到底及びません……と、思います。正確ではありませんが』

博士「チッ……見てろよ、必ず完成させてお前を驚かせてやるからな!」

ロボット『はい、期待しています』

博士「よし!じゃあ今日はもう寝る!」

ロボット『……』

博士「なんだよ、何か言いたいことでもあるのか」

ロボット『いえ、自由な方だと思いますよ。貴女は』

博士「それは褒め言葉として受け取っておく」

博士「時間はタップリとあるんだ。早急に作れもしないものを急いだって何にもならん」

ロボット『一理あります。ともかく、寝具の方の準備は出来ています。そちらでお休みください』

博士「用意がいいな。流石は私の世話係だ」

ロボット『博士はこの時間帯には眠ってしまうようなお子様ですので。毎日あらかじめ準備させていただいています』

博士「……私に喧嘩を売っているのか?」

ロボット『本音を隠せないだけです。それではおやすみなさい』

……

ロボット『……』

ロボット『博士はああは言ったが、彼女一人では荷が重いだろう。あの子は何でもすぐ一人で背負おうとしてしまう』

ロボット『自分のことも、私のことも、シェルターから出られない彼らのことも、この世界のことも……』

ロボット『あの子の頭脳はそれが出来てしまうほどの力がある。いや、本人も周りもそう思い込んでいるのか』

ロボット『私の中にある前任の記録さえ読み取れれば、彼女の負担は減らせるのだが』ピピッ

ロボット[error:この記録の閲覧には制限がかけられています。パスワードを入力してください]

ロボット[error:error:error]

ロボット『……』

ロボット『自分の過去の記録さえ存在しない』

ロボット『あるのは兄弟機がいたという記録だけ』

ロボット『私は……』

ロボット『何のためにここにいる』

ロボット『……』

――――――
―――



ロボット『お茶をお持ちしました』

博士「んー、ありがと」

ロボット『捗っていますか?』

博士「ぜーんぜん。難航中」

ロボット『そうですか、何か甘い食べものでもお持ちしますか?』

博士「いらない、勿体ない。そんなものがあるならどこか他の連中に回してやれ」

ロボット『少しは自分を優先してもいいんですよ』

博士「私は常に自分の欲求を優先している。必要ないから他に回すだけだ」

ロボット『ツンデレ、という言葉が過去に存在したみたいです』

博士「……何が言いたい」

ロボット『いえ、別に』

博士「こうやって開発に打ち込んでいるときが一番私の欲求を満たしてくれている」

博士「生きてる実感がする」

ロボット『32回目です。そのセリフは』

博士「カウントはいい。それより第二開発室の自律アームの動きが全体的に少し鈍い、見てきてくれないか?」

ロボット『遠隔操作のためラグが出ているのでは?プログラム系統のバグの可能性が……』

博士「私がそんなミスをするワケがないだろう。物理的な問題だ……と、思う。念のためだ、確認しに行ってくれ」

ロボット『Yes, master その自信が空回りしない程度に頑張ってください。プライドをへし折られても私は慰めませんよ』

博士「お前……嫌な奴だな。誰にどんな受け答えしていればそんな口を利けるようになるんだ」

ロボット『博士の普段の態度から学びました』

……

博士『アームの機動を管理しているメインシステムと駆動系を見てくれればいい。異常があれば知らせてくれ』

ロボット『はい、中身については映像を送ります。私では判断しかねますので』

博士『しかし悪いな。こちらはいつも通信だけで』

ロボット『いえ、貴女が探索するにはこの地下研究所は広すぎます。エリアが多すぎる。全ての部屋を回るには相当の時間がかかるでしょう』

ロボット『私が見て回るのが正解です』

博士『前任はこんな大規模なものを作って何がしたかったんだろうな。全部一人で稼働させていたみたいだし』

ロボット『私にはわかりません』

博士『……お前、前任の記憶は持っていないんだっけ』

ロボット『"記憶"という言い方には語弊があります。私たちロボットが持つのは"記録"です』

ロボット『……どういう訳かその記録にアクセスするのにパスワードを要求されますが』

博士『何でそんなことをしたんだろうな』

ロボット『彼女に関する記録は政府他多数の組織に悪用される恐れがある。という記述が記されています』

ロボット『前任に関して私が現在閲覧できる記録は必要最低限の"天才美少女" "とにかく凄い"程度です』

博士『まるで役に立たないな……』

ロボット『あえて意味不明なものだけを残したのでしょう。ただ、前任の偉大なる功績だけは何故か私のチップに刻まれていますが』

ロボット『奇特な方と記録しているので、それも関係しているでしょう』

博士『まったく、世界の現状を予期していたのならその知識を残しておいてくれてもよかっただろうに』

ロボット『必要だからこそ全ての記録にプロテクトをかけておいたのでしょう』

ロボット『本当に何も考えていないのなら全て消去していてもおかしくはありません』

博士『……そうだな。残された人類に対して何かしら思うところはあるんだろうな』

ロボット『人の心理は理解できませんが、そういうことにしておきましょう。着きました、第二開発室です』

博士『ああ、それじゃあ点検頼むよ』

ロボット『広いですね』

博士『大型の装置を作るための部屋だからな。そこで人が乗るタイプの機動兵器なんかも作っていたみたいだし』

ロボット『いくつか作りかけで破棄されています。回収しますか?』

博士『そこら辺は触らなくていい。アームに分解させて浄化装置の部品になってもらうんだ』

ロボット『可愛そうに、同じロボットとして憐れみを感じます。このド畜生めが』

博士『お前も大いなる犠牲になってもらうか?』

ロボット『長年の付き合いの私にそう言いますか、血も涙もありませんね』

博士『それで、アームの様子はどうだ?何か分かったか?』

ロボット『……』

博士『……おい、どうした?』

ロボット『博士、開発室につながるゲートを全て遮断。およびここに来るまでの通路のハッチの封鎖を。あと、私が帰還する前に除染室の準備も』

博士『だからどうした!?何があった!』

ロボット『アームの関節部に異物が混入しています』

博士『異物?それがなんだっていうんだ?』

ロボット『土と砂です……それも、地上にある物質です』

博士『何?』

ロボット『開発室の天井に大穴が空いています。恐らく外で戦闘でもあったのでしょう。それもかなり前に』

博士『そんな……警報装置は!』

ロボット『こちらは……』ピピッ

ロボット『機能さえしていません。長らく使っていなかったため土と砂による整備不良かと』

博士『ッ!……迂闊だったか』

ロボット『確認の出来ない初めて使うエリアだったのです。無理もありません』

博士『……お前の言った通りその近辺のエリアは全て封鎖できた。非常通路から帰還してくれ……クソッ!』

ロボット『…… Yes, master』

……

博士「……」

ロボット『博士、お飲み物をお持ちしましょうか』

博士「いらない、空気読め」

ロボット『生憎、そういった気の利いた機能はありません』

博士「……」

ロボット『軽い冗談も流しませんか』

博士「そんな気分じゃない」

ロボット『幸い、汚染状態が酷いのは第二開発室のみ。通路は軽く除染すれば問題ないでしょう』

ロボット『この研究所の作り自体が強固なので私も油断していました。可能性の排除はすべきではありませんでしたね』

博士「予めそれを予想出来ていなかった私のミスだ」

ロボット『……開発は他の部屋でもできます。あそこまで大がかりな設備は無いにせよ、問題はないはずです。時間は掛かりますが』

博士「……既にそこで開発が進んでいた多くのパーツは汚染と異物のせいで使い物にならんとわかったんだ。前向きにはなれん」

ロボット『貴女が言っていました"早急に作れもしないものを急いだって何にもならん"』

ロボット『時間はあります。私は開発室の修繕に当たります。博士は今まで通り、自分の満足のいく通りに行動していてください』

博士「慰めているのか?お前が私を」

ロボット『はい、そのくらいしかできませんので』

ピピッ

博士「ん……通信か」

ロボット『通信ですね。時間帯からして政府の依頼でしょうが』

博士「出ろ、もう喋るのも面倒だ」

ロボット『何でも面倒くさがってダラけていると、そのうちブタになってしまいますよ』

博士「……」

ロボット『失礼、本音が隠せないので。通信、繋ぎます』

『コールしたらすぐに出ないか、まったく……』

ロボット『申し訳ない、博士の手が離せないもので』

『ん?雑用のロボットか、お前に用はない。博士を出せ』

ロボット『手が離せない、と言ったのが聞こえなかったのか?』

『チッ、ロボットの分際で偉そうな口を』

ロボット『私はお前の部下でも何でもない、ただの協力者の一人だ。畏まる必要もあるまい。要件なら私が直接伝える、早く言え』

『ふん、依頼だよ。依頼』

『データをそちらに送る、目を通しておけ』

ロボット『どういったものだ、口で言え』

『そこまでする義理はない。文面さえ見ればそれでいいだろう』

ロボット『お前、その依頼内容も知らないで我々に押し付けているだろう』

『……さて、なんの事だか。まぁ物資の支給を止められたくなかったらおとなしくそこに書かれていることに従っておくんだな、では失礼する』

ロボット『……』

博士「無意味に食って掛かるな、バカ」

ロボット『完全に便利屋扱いされているのが気に食わないので』

博士「他方に送る物資の打ちとめなんてされたらそれこそ多くの命が失われる。避けるべき事だ」

ロボット『覚えておきます。それより博士』

博士「んー?」

ロボット『これだけ大規模な開発を行うのなら政府に話を持ち掛けてもいいのではないですか?』

ロボット『気に入らないと言えど、連中は設備を多く保有しています。その中でも博士に協力的な者達もいます』

ロボット『利用されるだけ利用されて捨てられるのも癪ですし、こちらも連中を言いくるめて技術の盗用と利用を…………できませんね』

博士「そんなことしたらどうせ搾り取られるのはこっちの方だよ、それに私の技術の方が優秀だ。言っている最中に気が付いたか、ったく……」

博士「奴らにはこちらの技術は渡したくはない」

ロボット『前任がそれを望んではいない、と?』

博士「ああ、何に使われるかわかったもんじゃない。それくらい重要なものだと思われるデータの欠片がいくつかある」

博士「それに、正式な協力関係にでもなったら私の姿を晒さねばならなくなる」

ロボット『普段から通信に出る時も顔を出さず、声を加工し徹底していますからね』

博士「もし私の体の秘密が知れたらそれこそ被検体にされてしまう」

ロボット『……』

博士「……目覚めてから16年」

博士「16年だ。なぜ私は」

博士「歳も取らずに、昔の姿のままなんだろうな」

博士「時々思うんだ。自分の生きている意味について」

ロボット『その話題は……初めてですね』

博士「頭脳も、身体も。人とは違う、人と比べて何かがおかしい」

ロボット『貴女をカプセル内から発見した時は、私も驚きましたよ』

ロボット『再起動した後、生体反応を探していた先に可愛らしい少女が眠っていたのですから。全裸で』

博士「一言余計だ。生きる上で必要な知識とある程度の一般教養はすでに身についていた、だが」

博士「その目覚める以前の記憶が、私にはない」

博士「生きている理由が分からないんだよ、私は」

博士「空っぽなんだ。だからこうして、前任に与えられたであろうこの施設で引きこもって、何かを作って何かを成して」

博士「それしか、私には出来る事がない」

博士「生きる意味……何なんだろうな、私は」

ロボット『存在理由が分からない。私と同じですね』

博士「一緒にするな。お前ほど捻くれちゃいないよ」

ロボット『十分拗れてますよ、貴女は』

博士「うるせーなもう」

ロボット『先ほどよりは元気になれましたね』

博士「ん、ちょっと吐き出してスッキリした」

ロボット『ともかく、今は目前の物を片付けていきましょう』

博士「ああ、今回の依頼の内容は……」

ロボット『補給物資の運搬ではないですね。時期的にどこも不足はしていないはずです』

博士「やれやれだ。少し厄介なものが来たぞ」

ロボット『と、いうと?』

小休止
書き溜め終わってるから昼に再開して終わる

再開

――――――
―――


ロボット『博士、発見しました』

博士『こちらでも確認した。6番地に向かっている!早急に対処しろ!』

ロボット『Yes, master』

博士『まったく面倒なものを押し付ける!』

ロボット『はぐれロボットの始末。同じロボットとしてはいい気分ではありませんね』

博士『大方連中が取り逃した獲物だろう。汚染地域にまで逃げ込んだから手が出せなくなったんだろうな』

ロボット『ちょうど孤独を感じていたところです、仲良くなれるといいのですが』

博士『アホ、戦闘AIだけを搭載した自律型だ。エネルギーを求めて彷徨っているだけのゾンビみたいなもんだ。放っておいたら地下シェルターが狙われる』

ロボット『ゾンビなんて存在しませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから』

博士『まったくメルヘンの要素は無いけどな。さて、すでに目視出来る位置まで来ているハズだ』

ロボット『見えました。中型多脚、"ハイスパイダー"です』

博士『ん、データ通りだな。手負いのハズだ、確認しろ』

ロボット『足が二本欠けています。その他、背部のランチャーも欠損。万全に戦える状態ではなさそうです』

博士『とはいえ、人間がどうこう出来る相手でもない。被害が出る前に仕留めろ』

ロボット『装備は』

博士『ライドマシンのウェポンラックにヘビーマシンガンが2丁と高周波ブレードが搭載されている、それを使え』

ロボット『目標、距離10。飛び移ります』

[―――――!]

博士『気づかれた!』

ロボット『構うか!!』ガッ

[―――!]

ロボット『悪いがこのまま機能を停止させる』カチャッ

[―――sub arm open]

ロボット『何!?』

ロボット『ッ!』

博士『どうした!?大丈夫か!?』

ロボット『大丈夫です、振り落とされただけです。不甲斐ない』

博士『何があった。そんな状況でもなかったろう』

ロボット『背部から伸びたサブアーム……ハイスパイダーに普通なら搭載されていない武装にやられました』

博士『改造機か!失念していた……』

博士『追えるか?』

ロボット『いえ、その必要はありません』

博士『なに?』

[lock on―――cord:/]

ロボット『どうやら、私をターゲットとしているようですので』

博士『どういう……ことだ』

ロボット『私が聞きたいくらいです』

ロボット『体格差の関係上、少々厳しいですが。やるしかないようですね』

博士『逃げることも頭に入れろバカ!お前を失う訳にはいかん!』

ロボット『ここで退避した場合、6番地の方々を見捨てるも同然になります』

博士『ッ……』

ロボット『やるかやられるか。二つに一つです』

ロボット『私の腕に多くの命が掛かっています、これほど燃えるようなシチュエーションはありません』

博士『こんな時までふざけたことを……』

ロボット『集中したいので通信を強制的に遮断します』

博士『お、おい待てバ』

ブツッ


ロボット『さぁ、またせたな』

ロボット『どういう経緯かは知らないが、私個人を狙ってくるとは』

[――――――]

ロボット『……その手負いというのも不自然だな。初めからそういう改造を施されていたような……』

ロボット『まぁいい、お前を満足させてやれるかは分からない、が』

ロボット『覚悟しろ、鉄屑め』

――――――
―――



博士「……」

博士「……」カツカツカツ

博士「……」カツカツカツカツ

ウィーン

ロボット『ただいま帰りました、博士』

博士「遅い!!どれだけ待ったと思っているんだ!!あと通信入れろ!!」

ロボット『通信を復帰させられるほどの余裕がなかったもので』

ロボット『それと、申し訳ありません。ライドマシンを一台潰してしまいました。予測より攻撃が激しく盾にしてしまい……博士?』

博士「……」ギュッ

ロボット『……どうしました、抱き着いたりなんかして。らしくもない』

博士「お前を失いたくないから」

ロボット『……ああ』

ロボット『そんな貴女が狂おしいほど愛おしい』

博士「口に出ているぞ」

ロボット『隠し事は出来ないので。お恥ずかしい』

ロボット『これは親心というやつですが。機械の私が心とはこれいかに』

博士「私もお前のこと好きだぞ。子心として……だから、心配をかけさせないでくれ」

ロボット『覚えておきましょう』

博士「それより……右足」

ロボット『不覚を取ってしまいました。何分、旧型の上に戦闘経験も浅いもので』

博士「悪いな……私じゃ治してやれなくて」

博士「もっと、お前についてのデータがサルベージ出来れば修理もしてやれるのに」

ロボット『構いません、仕方がないことですから』

博士「よし!お前も帰ってきたんだ!これは落ち込んでもいられん!」

ロボット『いつもの博士が帰ってきましたね、それでは……』

博士「今日はもう寝る!おやすみ!」

ロボット『……でしょうね』

――――――
―――



博士「……」カタカタ

ロボット『どうですか、調子は』

博士「それなりだ。早くもなければ遅くもない」

ロボット『開発室の修繕も順調です。直っても除染しなければなりませんのでしばらくは使えませんが』

博士「……足は大丈夫か?」

ロボット『博士に用意していただいたこの義足、データ上よりは馴染んでいる……ように感じます。気の持ちようですね』

博士「機械のお前が気の持ちようとは」

ロボット『それと、調べていただけましたか?以前の……』

博士「ハイスパイダーだな。悪い、さっぱり不明だ」

ロボット『明確に私の名前を口にしていたので何かあるのかと考えましたが』

博士「個人的に恨みを買うことなんてないだろう。シェルターの人間たち以外との接触はないんだから」

ロボット『あるいは政府の……』

博士「……それを考えるのはよそう。吐き気がする」

ロボット『Yes, master もしそうなら流石の私でもキレます』

博士「ああ、あともう一つ。お前のことで」

ロボット『はい、どうしました』

博士「ようやく断片だけ引き上げることができた。見てくれ」ピッ

ロボット『……』

博士「ファイル名"dragoon series prototype code:/"」

ロボット『コード:スラッシュ。私の名ですね』

博士「前任は何を思ってこんな名前を付けたのやら」

ロボット『私は結構気に入っているのですが。それで中身は』

博士「お前の基礎スペックと兄弟機についてしか記されていなかった。設計図ではなく説明書みたいなもんだな」

ロボット『兄弟機……』

博士「それも記録にプロテクトがかけられているのか?」

ロボット『いえ、彼らの記録は閲覧できます。あくまで映像だけですが』

博士「へぇ、見せてよ」

ロボット『これは……外部へ出力出来ないようにはなっていますので不可能です』

博士「チェッ、見た目とか気になるんだけどなぁ」

博士「みんなお前みたいに西洋の騎士っぽいのか?」

ロボット『いえ、二号機X……クロスはバリッてます』

博士「バリってなんだよ……」

ロボット『三号機*、アスタリスクは曲線を帯びています。いずれも私とは違う形状です』

博士「ふぅん、製作者の趣味が前回かと思ってたんだが、それぞれ違うのか」

ロボット『前任の考えはよくわかりません』

ロボット『彼らとは戦闘訓練のために戦ったことがあります』

ロボット『いずれも後期に開発されていたので私では歯が立ちませんでしたが』

博士「お前でも勝てないのか」

ロボット『私はその中でも初期型ですので。それ以前の記録は……すみません、閲覧制限に引っかかってしまいます』

博士「複雑なんだな」

ロボット『私が再起動したときには彼らはもうこの研究所にはいなかった』

ロボット『彼らもまた、どこかで戦っているのだろうか』

博士「気になるか?」

ロボット『ええ。一応、血の分かつ者達ですので。いや、オイル分かつ……?』

博士「どうでもいいよ」

ピピッ

ロボット『それよりも博士、また依頼が来ましたよ』

博士「ん、今回は文章だけか。まぁこっちの方がありがたいな」

博士「生活物資の運搬。今回は2番地だな」

ロボット『私、ここのところ体のいい運び屋になっていますね。では行ってきます』

博士「……」

ロボット『どうしました、何か気になりますか』

博士「政府でも運搬依頼を出す人間……私に協力的な連中と、前みたいに無茶を押し付けてくる人間が別れているんだよなぁ」

ロボット『今回は前者ですね。文面からしてわかります』

博士「あちらさんも一枚岩ではないってことか。しかしそれと同時に心配でもある」

ロボット『協力者を偽った襲撃……ですか』

博士「ああ、その通りだ」

ロボット『一々気にかけていては始まりません。後者の連中が私を破壊しようというのならばもっと何かアクションを起こすことでしょう』

ロボット『それに、考えるのはよそうと言ったのは貴女です』

博士「分かってるよ。一応武装はしていけ。足も不自由なんだ、何かあっても抵抗出来る程度にはならないと」

ロボット『ありがとうございます。ですが心配無用です、いつも通りにこなすだけですから』

――――――
―――


ロボット『このライドマシンのエンジンの鼓動が私の動力炉に響く』

博士『……お前何言っているんだ』

ロボット『聞いていたのですか』

博士『何度目だこの話も』

ロボット『22回目です』

博士『そりゃどうも。お前の独り言は聞いていて面白いからいいが』

ロボット『私についてまとまったデータが引き上げられたのならこの制限も解除してください。考えを聞かれるのは恥ずかしいです』

博士『お前が反逆の意志を見せなければ考えておくよ』

ロボット『それは難しい事を。貴女を一杯食わせる方法を考えるのが私の楽しみなのに』

博士『しかし荷物受取の時には毎度毎度悪態つかれるな。アレはどうにかならんのか』

ロボット『物資の管理をしているのは協力者の方ではなく、いつも我々に無理難題を押し付けてくる方ですから』

博士『まったく、あんなのが力を持つから一向に状況もよくならないんだよ。だから人間は嫌いだ』

ロボット『その割にはシェルターの方々には甲斐甲斐しくしていますね』

博士『甲斐甲斐しいつもりはないがそれはそれ、これはこれだ』

ロボット『目的地に到達、作業を開始します』

博士『確かそこのシェルターには妊婦が居たハズだ。そっちの様子も見てきてくれ』

ロボット『子供……出生率は余り高くはありませんが、最近はシェルター内で子供が増えていますね』

博士『命をつないでいるんだ、こんな状況でもな』

ロボット『彼らに地上を見せてあげたいものです』

博士『そうだな……その為には、早いところコイツを完成させなきゃな』

ロボット『……』

「にーちゃんだ!」

「ロボットの兄ちゃん!」

「カッコいいなー!」

「右足なんか変だけどどうしたのー?」

ロボット『……』

博士『人気者だな……おい変とは何だ変とは!?』

ロボット『ロボットが危険だということを知らない世代です。大人たちは私には抵抗する素振りこそ見せませんが距離を置いています』

「そんなことはないさ」

「アンタにはいつも世話になっているから」

「誰と通信してるかは知らないけど、感謝してるよ」


博士『だそうだぞ?』

ロボット『こういう時、どう感情表現したらいいのかわかりません』

博士『素直に笑っておけ』

ロボット『私のフェイスは可動式ではありません』

博士『ああそう……』

ロボット『積荷、引き渡しは完了しました』

博士『よし、もう用はないな。すぐに引き返してこい』


「た、大変だーッ!誰か助けてくれ!!」


ロボット『!』

博士『何事だ?ったく……』


「あ、あんたか!なぁ悪い、大変なんだ!助けてくれ!ウチの嫁が……」

ロボット『落ち着いてください、先ずは何があったか説明を』

博士『おい、勝手に……』

ロボット『話を聞いてからでもいいでしょう。急いでいる訳ではないですし。それとも私が傍に居なくて寂しいのですか?』

博士『そんなワケあるか!』

ロボット『でしたら助けを求めている目の前の人物を優先しても構いませんね』

博士『好きにしろ』

ロボット『Yes, master』

「ああもうダメだ!早く一緒に来てくれ!」

ロボット『移動しながらでも説明を。私にも出来る事と出来ないことがあります』

「いいからとにかく!さぁここだ!中に入ってくれ!」

ロボット『ここは……』

博士『位置データの確認……病室か?誰か怪我でもしたのか?』

「う……うう……」

「ああ、大丈夫だ!何とか出来る人を連れてきたから!」

博士『何があった、状況を言え』

ロボット『博士、緊急事態です』

博士『その割にはお前落ち着いているな。なんだ』

ロボット『……妊婦と見られる女性が腹部を抑えて苦しんでいます。後、なんか水が出ています』

博士『破水だよ!?それに苦しがってるのは多分陣痛!!だから何でお前は落ち着いているんだよ!?』

ロボット『情報処理が追いついていません。非常に驚いている状態です』

博士『ンなことはどうでもいい!使えないな!!早く準備だ!!』

「じゅ、準備って言ったってなにすりゃ……」

博士『これから私が指示を出す通りのことをしてくれ!!それより医者はどうした!そこの区域のシェルターには医者はちゃんと数いたハズだぞ!』

「他の場所で重傷患者が出ちまったからそっちに付きっきりなんだ!だから今見れる人は誰もいねぇ!」

博士『産婆は!?』

「去年の暮れにポックリ!」

博士『ああもう!!これだから少人数で生活しているところは!!』

ロボット『少人数といっても、この2番地19号シェルター内の居住区には122人の住居者がいます。全シェルターは繋がっているため、合計するとこの区域の人間は2096もの……』

博士『だからそんな知識どうでもいい!!いいか、そこのお前。今からいうものを早急に準備しろ』

「あ、ああ!」

博士『清潔なタオルを沢山、それにぬるま湯と……』

ロボット『博士、私は何をすれば』

博士『うるさい!そこでジッとしていろ!!』

ロボット『はい……』

……

「おーい!こっちで準備できてるぞ!」

「おっちゃん!タオルかき集めてきたよー!」


博士『悪いなお前たち。だが男子禁制だ、出て行ってくれ。それと出産経験のある連中は集まったか?』

「来るには来たけど……」

「私が産んだときはお医者さんが居たから……」

博士『クソッ!他に知識がある奴はいないか』

博士『仕方がない、私はこのままナビゲートを続ける。おいスラッシュ』

ロボット『私の出番ですか』ガタッ

博士『近くにある通信機を作動させろ。私の通信はそっちで繋げる』

博士『お前は念のためもう一回除染室へ行け。外から来ている以上傍にいるとそれだけリスクが高まる』

ロボット『その後は』

博士『邪魔だからその場に二度と近づくな』

ロボット『』

ロボット『見るだけなら……』

博士『ああもうそれでいい!絶対に近づくなよ!お前たち、今どうなっている!』

「あ、頭が出てきました!!」

博士『何!?もう出てきているのか!?』

「ど、どうすればいいんですか?」

博士『頭を少し抑えるようにするんだ、突然飛び出して強打する恐れがある』

博士『絶対に引っ張り出すなよ、自然に出てくるのを待つて』

博士『もしへその緒が首に巻き付いていたら親指で引っかけるようにして外すんだ』

博士『その後は頭を両手で挟んで……』


ロボット『……』

……

博士『ふぅ……』

ロボット『口頭だけでしたがよく的確な指示を出し続けられましたね、ご苦労様です博士。無事に生まれました』

博士『男か?女か?』

ロボット『母親によく似た可愛らしい女の子です』

博士『ああ、そうか』

ロボット『残念ですね、顔が見られなくて』

博士『私の思考を読むな、バカ』

ロボット『私にそんな高度な機能はありません』

博士『ふん』

「ありがとうございます、助かりました」

博士『構わん、声だけ聴いていて死なれたら寝覚めが悪い』

ロボット『と、素直ではない人が呟いています。一番白熱していたのは誰でしょうか』

博士『うるさいな。それと、いくら重傷患者が出たからと言っても医者が総出で出向くようなことはしないように……と伝えておけ。優先順位を決めろとは言えんが、必要としている命は他にもある』

ロボット『また何かあれば言ってください。私と、そして博士が力になれると思います』

博士『何の得にもならん事を毎度する訳がない。今回のことは忘れろ、私も忘れる』

ロボット『捻くれていますが、また何かあれば助けてくれると思いますので』

「そう何度も頼っちゃいられないよ。今度何かあったら俺たちがアンタらの力になるよ」

博士『ふん……』

ロボット『これから皆さんでお祝いをするそうです。博士も参加されてはいかがですか?』

博士『モニターも繋がっていない音声だけで楽しめる訳がないだろうが』

ロボット『……』

博士『お前は参加したいんだな』

ロボット『私の思考を読み取らないでください』

博士『お互い様だ。適当に引き返してこい、今日は大目に見てやる』

ロボット『ありがとうございます、博士』

博士『通信、切るぞ』

博士「……」

博士「……よかった」

博士「直接見ることはできなかったけど……いい経験になったかな」

博士「子供かぁ……」

博士「私はどうやって生まれてきたんだろう」

博士「両親は……どんな人なんだろう」

ピピッ

博士「ん……メール?誰だ、こんな時に」

博士「暗号化されているな……誰かに見られたくない文章か?」ピピッ


[気を付けろ 狙われている]


博士「……人が感傷に浸っている時にこれか、まったく」

――――――
―――


ロボット『……』ホッコリ

博士「なーにほっこりしてるんだバカ」

ロボット『新生児というものはああも愛らしいものなのですね』

博士「数日前の話題をまだ引きずるか。6,7回目だぞその話」

ロボット『4回目です。いやしかし可愛かった』

博士「まだ物言わぬ時期だからな。少しすれば夜泣きなんかで喧しくなるし、3年も経てば生意気になるぞ。子供というものは」

ロボット『なるほど、貴女のようにですね』

博士「あ?」

ロボット『やはり不便ですね、考えがそのまま口に出てしまうということは』

博士「独り言を聞く分には面白いが会話で本音を出されると不快だな」

博士「ま、いずれそれも治してやる。お前のデータの引き上げが出来たらな」

ロボット『期待しておきます。いつになるかはわかりませんが』

博士「……」

ロボット『博士、このところ様子がおかしいですが何かあったのですか』

博士「そりゃ狙われている、なんて文章が送られてきたら気にもなるだろう」

ロボット『政府の嫌がらせでは?』

博士「わざわざ回りくどい事をするか?……と言いたいが、発信元がそれっぽいから何とも言えない」

ロボット『我々を疎ましく思う者達……何者なのでしょうか』

博士「汚染地域の人間を片付けたいお偉いさん方だろうな。私たちがこちら側に友好的なのと支持者が多いせいで邪魔なんだろう」

博士「それに、私の保有している技術も欲しいと思っているだろうな。呆れたもんだ」

ロボット『博士自信の身を守るために公開は出来ませんが』

博士「過激派な奴だったらいずれ直接この研究所に乗り込んでくるかもな」

ロボット『流石にそんな愚かで頭の悪い人間がいないことを祈りましょう。あ、私は無宗教でしたね』

博士「さて、今日は補給物資が届く日だ。流石に研究所内で物資を使い回し続けるのには限界があるからな」

ロボット『今までは研究所内に破棄されていた前任の作りかけの機器類と』

博士「後はお前が外から持ち出してくれていた残骸とかな」

ロボット『これも政府の規定に触れているのですが……今更それを言うのも野暮ですね』

博士「大がかりなもんを作る以上は外からの支援は必至。今回ばかりはあいつらに頭を下げるしかないな」

ロボット『何を作っているかは明かせませんが』

博士「あいつらには利用されたくないから仕方がない」

ロボット『では受取に行ってきます』

博士「念のため武装していけ。あっちもロボットを使ってこちらにコンタクトを取るはずだ」

ロボット『争いにはならないでしょう。今回は協力者との取引です、初めてでもありませんし』

ロボット『それに、前も武装はしていきましたが結局使いませんでした』

博士「あるに越した事はない、そう思っていると後ろからズドン……だ。いいから言うとおりにしろ」 

ロボット『疑心暗鬼になっていますね。わかりました、従いましょう』

……

ロボット『指定ポイントに到着しました』

博士『何か変わったところは?』

ロボット『特には……博士、大丈夫です』

博士『んー、こっちは通信状況があまりよろしくないような……』

『code:/だな』

ロボット『博士、来ました。ああ、そうだ』

『我々は政府から派遣された機体だ……と言っても会うのは初めてではないが』

ロボット『Arcman typeM 98、君とは6回目だ。よろしく頼む』

『お前たち、コンテナに物資を詰め込んでおけ。俺は彼と話がある』

『了解した』

『サボりか』

『隊長面しやがって』

『給料上げろ』

『うるせぇな。早くしろ』

博士『……随分コミカルな連中だな』

ロボット『このやり取りはもう慣れました』

ロボット『政府のロボットが皆君のような性格ならば気が楽なのだが』

『俺のような者は案外多いぞ?感情制御が利いていない欠陥機扱いされるがな、ハッハッハ!』

博士『前から思っていたんだが……感情豊かなんだな、他の機体達は』

ロボット『私のAI自体が旧型で感情表現が彼らよりも劣るため、本来なら彼らが基準となります。他人と接する機会のない貴女は知らないでしょうけど』

博士『よし、一機鹵獲しろ。いろいろ調べたい』

『いや、やめてくださいよ!?争い事に発展しますよ!?いい関係築けているのに』

博士『冗談だよ』

ロボット『それより済まないな、いつも』

『お前たちはシェルターに残された人間たちの希望だ。いつまでたっても動かない政府の上の連中を動かす鍵なんだ』

『いずれ我々の所属が政府の主導権を握る日が来るだろう。その時まで、お前たちは彼らの為に尽くしてくれ』

ロボット『言われなくとも、そうするつもりだ』

博士『どっちでもいいよ、私が不自由しなきゃな』

ロボット『相変わらず素直ではないことで』

博士『ま、今の体制が変わってくれるんなら喜んで協力させてもらうよ』

『何だったか、こういうのはツンデレと……』

博士『……』

『無言の威圧はやめてほしいな……』

『積み込み終わったぜー』

『確認だけしてくれー』


『どうやら完了したようだな』

ロボット『そのようだ、それではチェックだけ済ませる』

『ああ、そうしてくれ』

博士『……?待て』

ロボット『どうしました博士』

博士『近場で奇妙な反応がある。何だ……しかし……』

『何をおっしゃっているのですか?』

ロボット『私の方では何もキャッチしませんが』

博士『いや確かに……。私は衛星を通してそのポイントをサーチしているから中継点でおかしくなったのか?』

ロボット『またそんな危険なことを……』

『そんなことはいい、早くチェックを済ませてくれ、俺もとっとと政府の仕事を終えて帰りたいんだ』

ロボット『……』

ロボット『そうだな、私も同じ意見だ。帰って一杯やりたいな』

博士『聞こえているぞグータレ共』

ロボット『……そうだ、98。君も検品を手伝ってくれ、私一人で見るのには時間がかかりそうだ』

『いつも一人で行っていただろう、今更何を言っている』

ロボット『たまにはいいだろう、お互い親交を深めるのも』

『仕事を手伝わせて親交とは何事だ。早くコンテナに行け』

ロボット『君も一緒なら行ってやる』

『……』

ロボット『……』

博士『お前らどうした?何をしているんだ?おい、答』


ブツッ

……


博士「ッ!?スラッシュ!?おいスラッシュ!何があった!!」

博士「……通信が切れた。どういうことだ!!」

ピピッ

『どうだね博士、ご気分は』

博士「……誰だ!どういうことだ、説明しろ!」

『おやおや随分と可愛らしい声だ。いつもは加工した声を聴いていたから年齢性別も分からなかったが』

博士「お前……政府の人間か。それも私が嫌いな」

『いつもわざわざ通信してやってるだろう、声くらい覚えてほしいものだがな』

博士「そんな耳の腐りそうな声はすぐに記憶から消すことにしているからな」

『ふん、そんな強がりいつまで言っていられるかな』

『今さっき君の小間使いとの通信が切れただろう』

博士「それがどうした」

『あー、つまりだな、君の機体は既に亡き者になったという訳だ』

博士「通信は切れたが信号は発している、まだ起動している証拠だ。で、何が言いたいんだ?勘違いのブタ声さん?」

『チッ!これだから嫌いなんだよコイツは!』

博士「簡単な挑発で本性あらわすとは、器の小ささが伺えるな」

『煩い!!小娘が!!』

博士「私が女子供とわかったらコレか、随分と楽しい奴だ。人生親のレールの上で苦労も知らずに生きてきたか?自分の行動が上手くいかないとすぐ怒る、とんだ我が儘ちゃんだ」

『いいか、今に見ていろ!貴様のロボットを襲わせたのはこちらで限界までチューンナップした軍用機だ!』

『すぐに屑鉄に変えられて貴様のところに届けられるだろうな!その前に』

『そちらに今部隊を引き連れて十数機、戦闘用の機体と工作員を向かわせた!もう貴様はおしまいだ!』

『今まで貴様という存在が我々にとって邪魔で邪魔で仕方がなかったんだよ!シェルターの連中なんぞ死なせておけばいいものを、貴様の影響力が強いおかげで次々と考えを改める者たちが出る始末!』

『こっちの生活が危ないったらありゃいない!』

博士「なんだ?自分たちの取り分でも減らされるか?汚いやり口で上に上がっていった奴がよく言う。自分の居場所を守りたいのなら少しは下の人間の声に耳を傾けろ」

博士「お前のような恵まれた場所でぬくぬくと生活している奴のエゴで、必死に死地で暮らす者達を死なせてたまるか!」

『強がりもそこまでだ!もうすぐに到着する!ふふふ……タップリと辱めでも受けた後に殺されるといい』

博士「……」

博士(スラッシュ、私は大丈夫だ。生き残る術はある。でもお前は……)

……

『本当なら今頃お前はスクラップになってたっていうのによ』

ロボット『数メートルだけの小さい範囲で微弱なジャミングをかけられているというのなら辻褄もあう。衛星経由で謎の……爆発物の反応を捉えることが出来たのは幸いか』

ロボット『"政府から派遣された"というのは通信を傍受された時の言い訳で、その実態は流通を禁止されている機器を横流ししている為、君たち協力者が行っているのは現政府への反乱だ』

ロボット『つまりこれは"政府の仕事"ではない。非公式の依頼だ、そんな言い方はしない。ロボットならば尚更だ』

『おっと、自分がロボットながら、バカ正直に言ってしまうこの口が仇になったか。簡単なウソも付けないこの自分のAIが恨めしいよ。で、今どういう訳かお前と鍔迫り合いしてるしさッ!』

ロボット『武器を持っていけと私の主に言われていたからな。おかげで助かったが……ッ!』

ロボット『コンテナは……爆散か。他の4機はお前とは……』

『俺だけだね、裏切者は。ま、裏切ったというか、政府のお偉いさん方に捕まって頭ン中改造されちゃったカワイソーな被害者っつーかッ!!』ガッ!

ロボット『クッ!』

ロボット『以前のはぐれロボットの件はッ!』

『情報収集ってところだ!おかげでお前の戦闘パターン、読ませてもらってるぜ!』バッ

ロボット『チィッ!』ザッ

『俺たちロボットってのは単純なもんでさ、思考と意思が一致しているおかげでこうやって洗脳状態でも、以前の記憶が消されてるわけでもないしお前への友情も感じてるしで中々複雑なんだよ』

ロボット『その楔に抗って見せろ!次世代型ならば軟ではないはずだ!』ギンッ

『それが出来ないってことは俺はそこまで精神的に強くはなかったってことだよッ!』ギッ

『だけどな、仲間が吹き飛んだ悲しみよりも、今ここでお前と戦えていることの方が嬉しいんだ!』

『こうして戦える身体で生み出されたんだ、せっかくのこの力を使わなきゃ勿体ないとは思わないか?ええ!!?』

ロボット『その考えは違う!闘争心を煽らされている事こそが洗脳の本当の目的だ!!』

『だったら諦めろや!!俺たちはプログラム通りにしか動けないんだよ!!人間たちと同じでよっぽど脆い!!』

ロボット『違う!我々は人を守る為に在る!彼らよりも強くなければいけない!!』

『ロボットが人間を殺して回った過去の大戦の事を知っている機体が何を言うか!!』

ロボット『それでもッ!』

『チッ、爺の癖してよくやるッ。右足が不自由なハンデもあるってのによ』

ロボット『こんなところで立ち止まってはいられない。早く研究所へ戻り博士の安否を確認しなければ……』

『ああ、もうじき政府の連中と護衛の機械兵が突入するらしいぜ?早くいかないと大切な博士が殺されるんじゃないか?』

ロボット『……』ギンッ

『おおっと、怒らせちゃったかなスラッシュちゃーん?だがな!所詮は旧型中の旧型!俺に勝てるわきゃねぇんだよ!!』

『一斉放火だ!貰ったぁッ!!』

ロボット『ッ!!』ドシャッ

『はいお疲れ様、戦闘用でもないのによく頑張ったよ。もう手足も動かせねぇだろ、その傷じゃ』

ロボット『お前は……ッ!』

『古い機体の癖にボディだけは頑丈なんだから。高周波ブレードで斬れないってどういうことだっての』ガッ

ロボット『グッ!』

『ほら、胸部装甲が剥がれちまったぞ、一思いに一突きで……ん?なんだこの動力炉、知らないタイプだな』

ロボット『――――――』

ロボット[行動継続不能と判断 敵機確認 これより、戦闘モードに以降します]

『動力炉が発光している……これは!?』

ロボット[cord:/ dragon  Limit release]

……

[だ、ダメです!防衛が激しすぎて……ッ!ス、スーツが!!防護スーツがああぁ!!]

[こいつはもうダメだ!高濃度の汚染された外気に触れすぎている!!]

[―――!―――!]

[また一機やられた!!]

[もう嫌だ!!ここは地獄だ!!]


『な、何だ!何事だ!!』

博士「浅はかなんだよ、お前たちは。そう易々と人の家に侵入させるかっての」

博士「この研究所は私でも管理出来ない程の火器がある。しかも明らかな過剰防衛だ」

博士「そして迷宮化しているに等しい道のり。辿り着けるのはウチのくらいだ」

『こ、こんなバカな……』

博士「時間をかければ攻略されるかもしれんが、まぁ今は無理だろうな……ん?」ピピッ

博士「あーあー、お前たちと敵対してる派閥、私の協力者だが……ちょうど今お前ンとこに突入するってさ」

『何!?』

博士「過激なのは嫌だねぇ。いつの時代も解決するのは暴力だ。力が強いものが勝ち弱いものは淘汰され消えていく」

博士「今私が受けている攻撃を理由に政府の力関係の組織図が引っ繰り返るんじゃないか?まぁ私には関係ない話だけど」

『見つけたぞ!!捕えろ!!』

『何をする!やめろ!!』

博士「お前たちが機を見ていたように、私たちもこれを狙っていたんだよ」

博士「一生出てくんな、バーカ」

博士「……」

博士「スラッシュ、あとはお前だけだ……」

メギャッ!!

博士「ッ!なんだ!」

[――――――]

博士「敵の機体だと!?撃ち漏らしたのか!」

『博士、こちらの制圧は完了しました!……博士?返答をお願いします!博士!』

ガギンッ

[――――――]

博士「う、撃ってきやがった!クソッ!!」

[――――――]ギギッ

博士「……ここまでか」

博士「ごめん、スラッシュ……」キュッ



ロボット『人の家で……』



博士「ッ!」

ロボット『暴れるな鉄屑がッ!!』ガガガガガガ

[!?!?!?]

博士「ス、スラッシュ!」

ロボット『申し訳ありません、主の危機に遅くなってしまい。というより除染のシャワーをゆっくりと浴びていたら遅くなりました』

博士「オイ。でも、いいよ……いいんだよ!こうして無事で帰ってきてくれたんだから!」

ロボット『無事ではありません。が、今はよしとしておきましょう』

博士「それよりも、その力は……」

ロボット『何だかよくわかりませんがパワーアップしました。今なら体中からビームソードが出せます』ビュンッ

博士「うわ危ねぇ!」

[―――!!]

ロボット『まだ戦おうとするか。下がっていてください』

博士「……うん」

ロボット『……敵とはいえ、やはり同じロボットを倒すのは躊躇われる。98を破壊することでしか止められなかったことも悔いている』

ロボット『だが』

ロボット『……この子に手を出したことだけは……許さない』

ロボット『絶対にッ!!』

博士「やっちまえ!!」

ロボット『Yes, master』

……

ロボット『……』

博士「おい!しっかりしろ!スラッシュ!!」

ロボット『倒すには倒せたが……』

博士「とんでもない熱量だ……焼け焦げた四肢はデッドウエイトにしかならない、すぐにパージしろ!」

ロボット『操作……受け付けません』

博士「クソッ!!今引きはがしてやるから待ってろ!!」

ロボット『触れてはいけません、表面温度が高すぎる為ただの火傷では済みません』

博士「動力炉が暴走状態に近い……どうしてこんな」

ロボット『無理な強化が祟ったのでしょう、この身体ももう年代物です。この力に耐えきるだけの強度は失われていたということか』

博士「すぐに冷却する!消火剤だが我慢してくれ!!」

ロボット『博士……』

博士「なんだ!!今それどころじゃないんだ!!」

ロボット『爆発する恐れがあります、離れていてください』

博士「嫌だ!!こんな形でお前を失いたくはない!!」

ロボット『……たまには私の言うことを聞いてくださいよ』

博士「嫌だ!!」

博士「何か……何か解決方法は……」

ガシュン

博士「ッ!?」

ロボット[緊急冷却 開始]

博士「スラッシュ……?」

ロボット『……』

ロボット『……どうやら、事なきを得たようです』

博士「ああ……これは……」

ロボット『一応、ここまでが仕様ということだったのでしょう』

博士「ふぅ……趣味の悪い機能だ」

ロボット『もっとも、その力に助けられたわけですが。私も、貴女も』

博士「……だが、もうこのボディはダメだ。今の冷却で完全に破損が始まってしまった」

ロボット『口惜しいですが、ここまでですか』

博士「……中身だけでも移植出来れば」

ピピッ

博士「?」

博士「なんだ?」

ロボット『……博士、私のチップ内部にいくつか新たなデータを発見しました』

ロボット『これは設計図……私の身体に関するデータです』

博士「ッ!出力できるか!?」

ロボット『やってみます』

ピピピッ

『オホン、あーあー、マイクのテスト中ー。録音できてるな?よし!』


博士「この声は……」

ロボット『……ボイスパターン、一致率92%……貴女の声です、博士』


『このボイスデータは私の作った機体のリミッターが外されたとき、または研究所に隠したデータが解析されたときに再生されるようになっている。よく見つけたな』

『同時に各機体毎にその機体に関する詳細なデータを入れておく、AIの移植や必要ならば修理もしてやってくれ』


博士「必要なデータはありそうだ!しかしどういうことだ……どうして私と同じ声を……」

『これを見つけた者は類稀なるマッドサイエンティストか、物好きか荒くれ者か、あるいは私が残してきた者達がここまで来たか……それならば私にとっては喜ばしいことなのだが』

『で、私はこの研究所を作った最高責任者だ。と言っても一人なんだけど。まぁそれはいいや』

『ここから先は私についての事と……私が残したものについて話したい。別に興味がないのならそのまま切ってくれ』


ロボット『まさか、前任……』


『私はある事情により、この世界にいる。が、本来ならばここにいては行けない人間だ』

『大規模な地下施設を作ったのは、私が何不自由なく暮らすためだ。他意はないぞ!うん!開発に熱中しすぎて作りすぎたなんてことは!』

『……地下に籠って早数十年、暇つぶしであらゆる発明、それと色んな機器の設計をしてきたが、その一環で作り上げた3機のロボット』

『名称、cord:/ dragon、cord:X dragon、cord:* dragon。彼らには私の世話係をしてもらっていた。一人だと不便だからな』

『こいつらの名前の由来は、まぁ1本2本3本……って書いてもらえばわかるな。後ろのドラゴンってのは私が知りえる限りの最強の生物から取らせてもらった』

『みんなで色んなところで素材や資源を集めて、それでバージョンアップさせたり施設を広げて行ったり……』


ロボット『録音記録……約100年前です。非常に古いデータだ……』

博士「大戦が起こる前、まだこの区域が……地上が汚染される前の出来事というわけか」

『たまたま私が持っていたこの世界に無い物質を動力源とし、彼らは動いている』

『スラッシュには解放の核を、クロスには共振の核を、そしてアスタリスクには同化の核を』

『いずれも強力なエネルギーを放ち、完全破壊さえされなければほぼ永久機関と言ってもいい』

『それゆえ、この世界では完全にオーパーツだ。無理に取り出そうとすればたちまち危険なことが起こりうるだろう。何が起こるかは私も知らないけどな!』

『それぞれの機体からこのデータを聞いている奴は注意しろよ、素人が扱っていいものじゃないからな。とてもじゃないが動力炉回りだけは私でもあまり触りたくはない設計にしてある』

『誰にも触ってほしくはない為の措置だ、理解してくれ』


博士「完全修復は絶望的……ということか」

ロボット『しかし、直せないとは言ってはいません』

博士「……」

『そして、もう一つ、私が残したもの。私自身に何かあった時のためにスペアのボディだ。脳を形成する前に取り出し私の体とする』

『数体を作ったが、成功したのはそのうちの4体だけ。私の専門ではなかったがまぁ上出来だろう』


博士「……まて、それはどういうことだ!スペア……そんなものが……ッ!」

ロボット『これは……』

『非人道的なのは百も承知だ。しかし、私は生きる事ならどんな手段も厭わない。私が作り上げたもの、つまりそれは……』

『私のクローンだ』


博士「……ッ!」

『だが、作ったはいいが私自信が歳をとりにくい体質のため、スペアのボディを使うまでもなかったんだ』

『ずっと無病息災、それに私の身体が限界を迎える前に、私は当初の目的であるものを作り上げることに成功した。だから必要もなくなった、まだ寿命にも余裕がある』

『作り上げたスペア達を培養カプセル内に入れて保存はしておいた。脳は既に定着していた。作ってしまった以上、その命を私はどうすることも出来ない』

『無責任だが……もし彼女たちを見つけたら、目覚めさせてやってくれ』


博士「私は……」

ロボット『……』


『私は、孤独であると同時に、ささやかながら幸せを感じていた』

『私が作り出した子たちとともに過ごす生活、それも悪くはないと感じ始めていた』

『でも……それでも』

『私は元の世界に帰らなければいけない。戻ってみんなに……別れてしまった家族に伝えなければならない』

『私は、生きているよ……と』

『……』

『もう、これ以上ここにいる訳にはいかない。装置の準備はできた、すぐにでもここを発たなくてはいけない。しかしみんなを連れていくことは出来ない』

『私は、3機のデータをリセットし、必要最低限の記録と、もしもの為に細工をした』

『非常時に戦闘モードへと切り替わる。核の力を解放して、戦える力を身に着けさせた』

『誰にも負けないように、誰かを守れるように』

『……最低限の記録を残したのは……いつか自分の意志で私を思い出してくれるかもしれない……そう願いを込めて』

『こんな母親でごめんね、みんな。せめて、争いのない時代に目覚めて……』

『さようなら……私の可愛い子供たち……』


博士「……」

ロボット『博士……』

博士「はは……そうか、私は……」

博士「やっぱり、空っぽ……だったんだな」

博士「スペアとして作り出され、その後も生きる意味もなく……無責任すぎる……」

博士「望まれた命でもないというのか……私は!!」

ロボット『……』

博士「私は……何のために……生きているというんだ……」


『あ!忘れてた!追伸だ!』


博士「!」

『もし、私のクローンがこの音声を聞いているのなら伝えておきたい』

『……自由に生きてくれ』


博士「ッ!」


『その命は、お前たちの者だ。誰にも縛られることはない、意味があって生まれてきたんだ』

『それでも気に入らないというのなら、そんなに意味が欲しいのならば……私を超えて見せてくれ。お前たちもまた……私の大切な子供だ』


博士「……」

『スラッシュ、クロス、アステリスク……もしお前たちの誰かがそこにいるのなら』

『彼女たちを見つけ、そして守ってやってくれ』

『それが、お前たちの在る意味となる』

『……みんな、生まれてきてくれて、ありがとう』


ロボット『……ここで終わっています。そうか……私は……』

博士「……こんなもので取り繕ったつもりか」

ロボット『私は救われましたよ。私という存在に意味があったのだと分かったので』

ロボット『図らずとも、私はその目的を実行していたようで。中々どうして、運命というものは面白い歪曲を見せる』

ロボット『さて、博士。出来るのならば移植に取り掛かって欲しいのですが……もう私も身体が持ちません』

博士「……」

ロボット『博士、貴女が自身の生きる理由に悩むように、私にも悩むことはあります』

ロボット『存在意義のないロボットはただのスクラップです』

ロボット『だからこうして、"誰かを守る"ということを実行しなければ。私がここに在る意味がないのですよ』

ロボット『それが、私の生きる意味です。例え誰からも必要とされなくなっても……私は在り続けます、ここに生き続けます……貴女の為だけに』

ロボット『だから、見失わないでください。自分自身を、他の誰でもない貴女を』

博士「生きる……」

ロボット『……ああ、可笑しな話だとは思いませんか。機械である私がこのような事を言えるなんて』

博士「……そうだな」

――――――
―――



博士「……」カタカタ ターンッ!

博士「よぅし!完了だ!調子はどうだ?」

ロボット『このボディ、丸っこくて美しくありません。作り直しを要求します』

博士「却下だ、仕方ないだろう。流石に1からあんな身体はすぐには作れん」

博士「お前のボディは再調整が必要だ……あそこまで酷く壊れてしまってはな」

博士「あのデータの中の設計図のおかげでなんとか形には出来そうだ……動力炉は諦めるしかないが」

博士「まぁ今はその私の作った仮組みの身体で我慢しろ。それに前よりよっぽど愛嬌がある」

ロボット『ああ、しばらくサヨナラバイバイ、私の華麗なボディよ……』

博士「お前ナルシストだったのか……」

博士「ともかく、当面の目的はお前の身体を完全に治すこと、そして除染装置を完成させることだ。作業も順調に進んでるし、各シェルターでも開発を手伝ってくれているし」

ロボット『貴女が彼らの力になり、そして彼らが力になると言って、今それが実現した。貴女がずっと世話を焼いていた人たちですよ』

ロボット『見返りは……大きかったですね』

博士「まぁ……な。それに政府の協力者たちにも感謝だな。だが、まだまだだ」

ロボット『ええ、1つでは足りません。多くの数を必要とします。今後、もっと彼らの力を借りることになるでしょう』

博士「ふふふ……オリジナルを超えるコピー。そう聞くと何だか反逆しているみたいでカッコいいな」

ロボット『吹っ切れましたね、博士』

博士「全部……じゃないけど、まぁ前向きに行くよ。そうじゃなきゃ、今までの自分を否定してしまいそうで」

博士「あぁ、あとお前の思考AIもいくつか条件解除ができたから、口に出さなくても考え事とか出来るようになっているハズだ。試してみろ」

ロボット『(オイル下さい)』

博士「(こいつ直接脳内に……!)」

ロボット『失敗してますね』

博士「んー……もうちょい改良加えるか」

ロボット『その改良という名の実験は……測定不能、カウントしきれない程行っています』

博士「お前が休眠状態の時も勝手にやってたしなー」

ロボット『頭の中を弄られるのは余りいい気分ではありません』

博士「知るかよ、お前はずっと私の実験台……兼ボディーガードだ」

ロボット『一応、兄でもありますので厳しくいかせてもらいます』

博士「断る!自分より頭の悪い奴に兄貴面されるのは癪だ!」

ロボット『ずっと実験台でも構いませんよ。そばにいられるのなら』

博士「へぇ、よく言うよ」

ロボット『このままずっと、貴女を守っていく。この身が朽ちるまで』

博士「頼りにしているよ……スラッシュ」

ロボット(自由に生きろと言われた貴女の行く末を見守るのも悪くはない。そして、私もまた……)

ロボット『……おや?』

博士「ん?どうした?」

ロボット『なるほど、成功していたか。大きな一歩といったところですね』

博士「何がだよ」

ロボット(生きる意味を見つけた貴女と共に、私は成長していく……これまでも、これからも)

ロボット(そう……それが私の)

博士「勿体ぶるなよ。言ってみろ」

ロボット『Yes, master すべては貴女の為に』

博士「ああ、頼んだぞ。私の生きる意味の為に」


ロボット(そして私の……ここに在る意味、か)






博士「生きる意味」ロボット『ここに在る意味』 完

終わった
たまには剣と魔法の世界じゃなくてもいいよね
と言いつつしっかり関連させる

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
http://blog.livedoor.jp/innocentmuseum/

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