アニ×エレン ~私の宝物~(255)

再編したので再挑戦します。

エレンが相談にのってくれなんて珍しいね。
そう言った幼馴染のアルミンの言葉に夕食を食べながら俺はため息をつく。

「仕方ねえよ。この気持ちに気付いてから、何をやっても上の空になっちまってよ」

俺は胸中をさらけだす。相談なんてのは口実で自分の気持ちを受け入れ、整理をつけたがっているのだ。

「アニは少なからずエレンに対して気持ちがあると思うよ。ただ、それでも通じるかどうかは僕にもわからないけどね」
アルミンの意見を聞いた俺は少し気が軽くなった。

「・・・こんな気持ちになったのはあいつだけだからな」

味気ないパンを齧りながら、俺は初めてアニと接した日を思い返していた。

「いてて・・・アニの奴、無茶苦茶強いな・・・」
宿舎のベッドに身体を預けた俺は一人呟いた。ライナーと二人してアニに負かされた日の晩のことだ。


同室のライナーやベルトルトは風呂に行って間もない。部屋には俺一人だけだ。
少しの痛みと女の子に負かされた悔しさが巡る。

いつか勝ちをもぎ取ってやる。頭の中でアニの動きをイメージする。何をされて、どう倒されたか。

しかし、イメージした回数と同じだけ地面に転がされた自分の姿が見えてしまう。

「負けっぱなしは癪なんだよ」

イライラが募る。どうにも考えるというのは性に合わない。

「そういや明日は対人格闘の訓練があるな・・・よし・・!」

とにかくアニの動きや癖、技に慣れることだろうと思った俺は布団をひっかぶると眠りについた。

翌朝、俺は朝食の時間になると真っ先にアニを探した。
食堂を見渡すとお目当ての人物はすぐに見つかった。

窓際のテーブルの端で一人、朝食を食べるアニに話し掛ける。
「ようアニ、おはよう」

仏頂面のアニはムスッとした顔をする。
「・・・朝からうるさい」

かなり寝起きが悪いようだ。寝ぼけ眼にうつらうつらとしている。

「半分寝てるみたいだな」

「そりゃどうも・・・」

どうにも虫の居所が悪いらしい。

「ま、いいか。横、座るぞ」

「・・・どうぞ」

淡々とした会話だ。ミカサも無愛想な類いだがアニは違う類の愛想の無さだった。
人に対して一線を引いていると言うか、壁を作っているというか・・・


俺がそんな事を考えている間にアニは食べ終わったのかさっさと席を立とうとする。

「あ、ちょっと待ってくれ!」

慌てて引き止める俺にアニは露骨に嫌そうな顔をする。

「・・・まだ何か用なの?」

取っつきにくい奴だなあと思いながらも俺は用件を伝える。

「あのさ、よかったら今日の対人格闘の訓練、俺と組んでくれよ」

アニはそれまで眠たそうだった眼を瞬時に起こした。
平時は何事に対しても無関心だが『格闘』に関してだけは違うみたいだ。

「別に構わないよ」

アニはそれだけ言うと踵を返して歩いて行った。

何はともあれこれはチャンスだ。そう思った俺はその日の大半を医務室のベッドで過ごす羽目となった。

「なぁエレン、もうアイツに関わるのは止めたらどうだ?」
医務室に運び込まれた俺を心配したライナーがそう言う。
なんでも『今回は今までの中で一番高く』放りあげられたそうだ。

ったく、アニの奴。あんな小さな身体でどれだけの力があるんだ。

「お前の強くなりたいって気持ちは分かるさ。けど理想と現実は違うんだからよ?・・・」

俺は一も二もなく反論する。
「だからって諦めちゃ一生、勝てないだろ!見てろよ、今度は必ず・・・」

息巻く俺の言葉にライナーの隣にいたベルトルトが苦笑いする。
「そう言えるだけでもエレンは強いよ。僕なら最初からアニと戦おうなんて思わない」

「まあまあ、エレンは言い出したら聞かないからね」
そう言うアルミンも苦笑いだ。

ミカサに至っては「怪我をしては元も子もない」だと。

俺は何も言わずにふくれっ面を見せつける。
そう言われれば俺が俄然やる気になるって事をお前達にみせてやるからな。
そう思うと俺は握り拳に力を込めた。

悔しさで夕食を食べる気分にもならなかっ俺は何をするでもなく外に出た。

夕日を背に修練場へ行く。ただ何の気なしに足が向いただけだった。
足がぴたりと止まる。

アニが居た。ただ黙々と一人、修練に打ち込んでいた。
思わず俺は岩影に身を隠した。何となく今は顔を合わせにくい・・・というよりも悔しいからだ。

観察と言えば聞こえが悪いが俺はアニの見せる動きの虜になっていた。
1つ1つの様が流水のように滑らかで素人目にも洗練された動きだいうことは明白だ。

一通りの練習が終わったかに見えたその時。
「いつまで隠れているつもり?」
アニが俺の方に向かって言った。

俺は突然の呼びかけに動転していた。背中を嫌な汗が伝う。
だが、理由はどうあれ事実にはかわりない。素直に謝ろうと岩肌から乗り出した。

「・・・あんただったの」

アニは俺と気付くとため息をついた。
「悪い、覗き見をするつもりじゃなかったんだけどつい・・・」

「別にいいよ。それより打った頭は大丈夫?」
アニは俺の頭に巻かれた包帯を見やった。
したたかに打ちつけられた時の痛みを隠し、俺は当たり前だと虚勢を張った。

「そう、ならいいけど。じゃあね」
足早に兵舎へ戻ろうとするアニ。

「なあ、明日も対人格闘の訓練はあったよな!?」俺はアニに問いかける。

俺の思惑に気付いたアニにはぽかんとした顔で俺を見るとため息をついた。

「あんた今日、私に散々にやられたろう?それ以上やったって無駄さ。それにあんたにはセンスがないよ」

「センスがなけりゃ諦めろってか?そんな腰抜け俺はごめんだ!」

自分でもカッとなってわけのわからない事を口走っている事は分かっていた。

「迷惑なのは分かってる。けど俺は強くなりたいんだ!頼む!アニ!」

恥も外聞もあるかと俺は深々と頭を下げた。

翌日の対人格闘の訓練、俺はアニと対峙していた。
頭を下げた俺を見て呆れ顔で渋々ではあるが了承してくれたからだ。

砂埃が舞う。唾が喉を通るたびごくりと音をたてる。

俺は必死で前日のアニが見せた動きを思い返していた。
どんな人間でもあくまで生き物。相手を倒そうとする時に最も隙が生まれる。
その時が
「・・・来ないならこっちから行くよ」

思考に割り込むアニが迫る。
頬を伝う汗を振りほどくように俺も動き出す。

俺はアニの動きを捉えながら身体を反らした。
細い腕、小さな手が蛇のようにするりと俺の襟元を捉えようとする。
「今だ!」

俺はアニの手を取ると一気に引き、崩し投げた。

景色がスローモーションに揺れる。

何度も投げ飛ばされた技だ。
もう嫌でも俺の身体に染み付いているだけはある。

手応えを、その掌から感じ取り俺は初めての勝利を確信した。


しかしそう思えたのはその時だけだった。
猫のようにしなやかな動きが宙で姿勢を整え、アニは膝をついただけにすぎなかった。

瞬間こそ狼狽の色を見せたが、スッと立ち上がると手を取り合ったままの俺を睨みつける。

「う・・・」

たじろぐ俺を悲鳴とともに投げ返すアニ。
畜生、また負けた。

地面に大の字になって倒れている俺をアニの顔が覗きこんだ。
ひどく嬉しそうな表情をしている。

『冷血女』『鉄仮面のアニ』

人並み以上の容姿とそれに似合わない格闘技術。他人を寄せ付けない冷たさ。
妬みや畏怖、好奇の目が一部の連中から囁かれた不名誉な二つ名。
普段のアニに関しては、そうなのかもしれない。が、「この瞬間」だけは同一人物とは思えない。

きっと本来は、俺と同じ位負けず嫌いなんだろうな。

「参ったよ。本当に強いな」
そう思いながら俺は素直にアニを称えた。


お世辞でもなんでもなく、こいつには敵わないかもなと思ったからだ。

けど、そんな俺にアニは透き通るような瞳で俺の目を覗きこみながら言った。

「そんなにこの技を教えて欲しいの?」

それからの俺は痣と生傷の絶えない日々を過ごした。
青く腫れた瞼。擦り傷と打撲に覆われた身体。綺麗な場所を探す方が簡単な位の悲惨な有り様だった。

それでも周囲の心配をよそに挑み続けていく内、俺は少しずつアニの教えを身に付けていった。

身体で覚える1つ1つの動作や姿勢。時にはあのアニから誉め言葉すら貰う事すらあった。

そして一年の月日が流れた――

「もうあんたに教える事はないよ」

アニは1日の訓練を終え、兵舎へ戻ろうとする俺に冷たく言い放った。

俺はすかさず抗議の声をあげた。今でこそ互角に渡り合えこそすれ、未だにアニに勝った事が無い。

「確かにあんたは私と五分の技術を身に付けた。けどあんたはどこか足りない」
返す言葉のない俺を見ながらアニは続ける。

「どうにも心ここにあらず。と言うより迷いしか感じられない」


思い当たる節はあった。数日前の事だ。

俺は就寝前の僅かな自由時間をテラスで過ごす習慣があった。
時には一人で、またある時はミカサやアルミン達と。といった具合だ。

その日も一日を終え、いつもの場所でのらくらしようと俺は「指定席」へ向かおうとした。

進む足が止まる。どうやら先客がいるようだ。
俺は渋々、兵舎へ戻ろうとした。

背中から話し声が聞こえる。

「・・・それにしても、今日はあの冷血女のせいで散々だったぜ」

俺の足が止まる。アニの事を言っているのだ。

「あの野郎、最初の頃は体よくサボっていやがった癖に、最近じゃ真面目ぶりやがって。」

「こっちは立体起動の補習訓練でクタクタなんだ、融通の聞かない女だよ!」

「ああ全くだ。こっちがのたうち回ってる姿を見ても顔色一つ変えやしねぇ」
会話から察するに二人の訓練兵が愚痴をこぼしている。

盗み聞きをする趣味は無いが思わずため息をつく。

ようは自分達の不出来や不平不満をアニに丸投げしているだけのお門違いな八つ当たりなのだ。

相手にするだけ後が面倒だ。そう思った時、いつだったか、アニが本音をもらした事を思い出した。

「私は誰かに好かれたくて生きているわけじゃないよ」

立体起動装置の整備をしながらアニは俺に呟いた。
本来ならグループを組み行うはずが一人、孤立していた。

露骨な迄に周囲に避けられているアニを強引にペアに誘った時の事だった。

「ただね・・・嫌われる為に生きているわけでもないから、やっぱり辛いよ」

アニは自分が周囲から浮いている事を十分、承知していた。
小柄な体躯、優れた格闘術、冷たい瞳。

畏怖と好奇の視線はいつしか不名誉な通り名を生み出した。


「まあ、自分で選んだ生き方だからいいんだけど」

うつむき加減の横顔から俺は初めてその本心に触れた気がした。

ハッと顔をあげたアニは顔を紅潮させたかと思いきや次の瞬間には普段のポーカーフェイスに切り替わっていた。

「このことは誰にも言わなくていいからね」

そう言うと、一方的に話を切り上げた。




何故アニはあの時、自分の本音を教えてくれたんだろう。
その時は何気なしにと思い、流したつもりだった。

けれどあの時、一瞬見せた寂しげな瞳にはうっすらと涙が浮かんでいたように見えた。


あの日の瞳が忘れられなかった。

俺はアニへ悪態をつく奴等を殴り飛ばしてやりたい気分に襲われた。
握り拳に力を込める

沸々とこみ上げる苛立ちを強引に押さえ付けると、その場から逃げるように駆け出した。

殴る事は簡単だ。実際に俺にかかれば相手が二人いようがコテンパンにしてやれる。

けど俺がそんな事をしてはやぶへびになる。
アニの名を貶めてしまう事は避けたい。

ああくそ、何で俺が泣いてんだ!

俺は気付いていた。
普段のアニは氷のように冷たく、他人にも自分も厳しく決して人を寄せ付けない。

けど、それは優しさや弱さの裏返しで本来は年相応の女の子に他ならないと。

時折、垣間見せる優しい瞳や傷付いたような寂しげな瞳がそれを裏付けている。

兵舎に戻り、仲間達に平常を装いながら俺は思った。

なんだ俺・・・一日中、アニの事ばっか考えてやがる・・・

「悪い・・・最近、考え事してたから。真面目に教えてくれてたのに、悪かったよ」

思い出しながら俺は頭を下げた。

素直に謝る事でアニの顔から険が消えた。

「・・・いいよ。私も言い過ぎたみたいだ。さっきの発言は取り消すよ」


それが数時間前の事だった。俺はアルミンに心境を吐露する事で区切りをつけつつあった。

「・・・そうだね、エレンがそれだけ言いきるなら間違いないよ」

アルミンはそんな俺の胸の内を理解した上で背中を押してくれた。

俺は自分自身の気持ちについていけず、もて余していた。

それは身勝手で我儘でとんでもなく厄介な代物だった。

ああ、分かっている。俺はアニが好きなんだ。
畏怖と憧れは淡い思慕になり、果ては好意に、恋慕に形を変えていた。

後は俺自身の問題だ。

アルミンはその気持ちアニに伝えるのかと尋ねてきた。

俺は考えるより先に勿論だと答えた。

アルミンは俺の答えを聞くと笑って答えた。
「エレンならそう言うと思ったよ」

話しはそれで終わった。
アルミンは決して多くは語らず、けれど俺の心を理解した上で、最小限の言葉で最大限のエールをくれた。


想いを言葉にして伝える事は難しい。それが大切な人や、特別な想いなら尚更だ。

どんな結果になったとしても、この想いだけは真っ直ぐに伝えたい。

眠れない夜を過ごし、夜明けを迎える頃、俺は上着を手に宿舎を後にした。

朝靄に霞む視界とは裏腹に俺の心は穏やかに、そして晴々としていた。

腹を括ると人はこんなにも変わるものなのか。そう思いながら、ゆっくりと歩く俺の前に何者かが立ち塞がった。

「ようエレン、随分と早いお目覚めだな」

聞き覚えのある声とシルエット。
声の主はライナーだった。


挨拶の割にはやけにその声が硬い。
何か言いたそうだなと言うとライナーは少し照れくさそうに笑った。

「お前にゃかなわんな。ん、まあアニのことなんだが・・・」

ライナーは一気に吐き出すように続けた。
「エレンが盛大にぶん投げられて医務室行きになった時、アニには関わるなって言った事、悪かったな」

俺自身はすっかり忘れていた事だと言うとライナーは破顔した。

「あいつは不器用な奴だからな。」
俺がそう言うとライナーはどこか納得のいく表情を見せた。


「あん時はお前に怪我させちまったから同郷の身としては謝っとかないと気か気じゃなくてよ」

言いたい事はわからなくないが今、話す事か?そんな俺の疑問符に気付いたライナーは一気にまくしたてた。

「ん、まああれだ、お前のお陰であいつは救われたんだと思ってるんだよ」

「あいつの事、これからも頼むわ」

そう言うとライナーは俺の反応を待たずに宿舎へと戻って言った。

「なんだあいつ・・・」
一人きりになった俺はぼそりと呟いた。朝靄はいつしか消え去っていた。

俺は朝食を終え食堂をさっさと出るアニにならびかけた。

無言の二人。並んで歩を進めるものの俺はどう切り出すか、何から話そうか、タイミングを模索していた。


「なんかようなの?」

しびれを切らしたアニの声が聞こえた。

「あー・・・おはようアニ」

「・・・おはよう」

拍子抜けしたアニは肩の力を抜いたようだ。

意を決した。俺には理屈だの打算だのは向いていないんだ。
ありのままに伝えるしかない。

「なあ、アニ」
アニの目を見つめる。

「何?」
俺の眼差しに目を背ける事なくアニが答える。

「あのさ、俺、ここんとこ何かにつけて上の空だったよな?」

「・・・そうだね。で、済んだ話を蒸し返してどうするの?」


「いや、ちょっと話がしたくってさ、今度の休暇に時間、貰えないかな?」

少しばかりの沈黙に不安の影がよぎる。頼むから首を縦に振ってくれ。そう思った時だった。

「それってもしかしてデートのお誘い?」

アニは目に意地悪な笑顔を浮かべながら俺に聞き返してきた。

核心を突かれて心臓の鼓動が加速する。
ああ、くそ、筒抜けなんだろうが、こうなったら出たとこ勝負に出るしかない。
「・・・おう、一年も相手してもらって来たんだからな。」

舌が上顎に張り付いてしまいそうなくらいの緊張が俺を襲う。

アニはそんな俺に近付くと上目遣いに見やった。
長い睫毛、空のように澄んだ碧い瞳、そして・・・匂いたつような色気と香り。

口の端を少し吊り上げてアニは答える。
「ま、気分転換にはなるかもね・・・」

アニは踵を返すと俺をその場に残し去っていった。

そして約束の日、俺はアニと街へ繰り出していた。

冷たい眼差し、人を寄せ付けない強さ。時折、垣間見せる寂しさやか弱さ。

道行く仲睦まじい家族を羨ましく見る横顔を俺は見逃さない。

俺は何故、アニを倒せないか。ずっと前からその答えに気付いていた。
けど気付かないふりをしていた。

好きだと言う気持ちが怖かった。失う怖さ、変わる怖さ。

上手く言葉に出来ないが、伝える事の難しさも手伝って尻込みしていたんだと思う。

誰が何時、命を落としてもおかしくないこの時代で、共に生きたいと思った人だから・・・

どんな結果になろうとこの気持ちを伝えたい。

街の丘にアニを連れて歩く。
雑踏を抜けてたどり着いた場所。俺はくるりと振り返るとアニを見据える。

長い髪を耳にかけながら、不思議そうに見やるアニを見て、少しくすぐったくなる。

ああ、その目だよ。俺が好きな仕草は。
本当は誰よりも臆病で、けど不器用な位に真っ直ぐなお前が誰よりも好きなんだよ。

心地よい風が吹いた。俺はゆっくりと息を吸い、ゆっくりとはく。
「アニ、俺はお前が―――」

想いを言葉に乗せて・・・



to be continued

~ani side~

初めて好きって気持ちに気付いたのはいつ?

第104期訓練兵団の解散式が終わり、それぞれが思い思いの夜を過ごす中、食堂のテーブルを挟んで向かい合わせたミーナが好奇心で問いかけてきた。

「いつっていうか・・・」

私が答えに詰まっている様子が彼女には珍しいようで目を丸くしている。

「なんにせよお似合いのカップルだと思うよ!」

本心から言ってくれているのだろう。私と彼女は親しくはないが本心で言ってくれている事くらいはわかる。
例えそれが上辺だけの言葉だとしても悪い気はしない。

「でもアニは憲兵団に行くんだよね?じゃあエレンとは・・・」

ミーナは言って後悔したのか口をつぐんだ。

「ゴメン・・・当事者でもない私が言う事じゃないのに・・・」

バツが悪そうにミーナは黙りこくってしまった。

「気にする事ないよ、それが別れじゃないから」

ミーナの緊張を解いた私はじゃあねと席を立った。

いつもより食堂が騒がしいのは皆ですごす最後の夜だからだろう。
皆が知っている。二度と全員が顔を合わせる事の無いことを。

賑やかなのは嫌いじゃない、けど私の柄じゃない。
出口のドアに手を掛けた時、視界にエレンが入った。

アルミン、ミカサと楽しそうにうお喋りをしている。
三人は昔からの幼馴染であり苦楽を共にした仲間だ。話も弾むだろう。
そんなところに水を差すほど私は無粋ではない。

ドアを開け私はかがり火が照らす薄闇の中に出た。澄んだ空気が心地よい。
私は広場の中心に組まれた焚き火の前に腰を下ろした。

燃える炎を見つめながらエレンの顔を、しぐさを思い浮かべる

「最初はただの暇つぶしだったのに・・・」

エレンと初めて向かい合ったのは対人格闘の訓練の時だった。
適当に流してやり過ごそうとしていた私に突っかかってきた事が全ての始まりだった。

もちろん私はそんなエレンを一蹴した。
お父さんから教わった体術が有無を言わさず放たれる。

女に負かされた顔はさぞかし滑稽だろう、私は鼻で笑ってやろうとした。
「今の技、凄いな!誰かに教わったのか!?」

ぎょっとした。エレンは痛みも忘れ私に近づくと目を輝かせながらそう言った。

「・・・お父さんに・・・」後ずさりながら私は答えた。

それからエレンは事ある毎に私の所へ来ては這いつくばらされていた。

「懲りない奴」「猪突猛進」当時はそんな印象しかなかった。

だが繰り返えされる習慣。慣れとは恐ろしいものだ。何度も何度も倒されるだけだったエレンは
次第に私の動きを、癖を、技術に順応し先手を打った

膝をつく私に息を弾ませながら勝利を確信したエレン
瞬間、彼は悲鳴と共に地面に転がされていた。小手先の技を見切ったからといって調子にのらないでほしい。

悔しがる彼にちょっとした気紛れを覚えたのか私は本来なら口にしないであろう台詞を口にした。
「そんなにこの技を教えてほしいの?」

訓練兵団をその熱『弁』で指導したキース教官はエレン・イェーガーを努力の人と評した。
その人物評価は確かな物だった。

一年後、エレンは私と対等に渡り合える唯一の同期生へと成長していた。
膂力だけならば同期の中でも首席を争うミカサ、ライナー、ベルトルトの三人もひけをとらないが――
積み重ねてきた努力、私と同等の技術はその比ではない。


私は感情をコントロールする事を得意としていた。感情は私情を生む。


心が波立つと隙を生む。目的を果たすために私は心を閉ざしたはずなのに・・・
戦士としての自覚と誇りを持っていた・・・それなのに・・・

私はいつしかエレンと過ごす時間を楽しみと感じていた。

「アニ、俺はお前が好きだ」
あくる日の休暇にエレン私を呼び出したかと思うと公衆の面前できっぱりと言い切った。

「・・・・・・っ!」
絶句した私は思うが先か移すが先か、エレンに平手を振りかざした。

「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」
私の手を取りエレンは哀願した。

「頼むから落ち着いてくれ!話だけでも聞いてくれよ!」

やがて落ち着きを取り戻した私は手の力を抜く事で戦意の喪失を示した。

そして無言の私を公園のベンチへ促すとエレンは話を続けた。

「・・・最初はさ、スゴイ奴だって思ってたんだ。」
「まがりなりにも男の俺を簡単にいなしたんだからさ?」


「まがりなりにもか弱い乙女に投げられるアンタが弱すぎるんだろう?」
意地の悪い返しをしたはずなのにエレンの表情は緩んでいた。

「ようやく笑ってくれたな」

私は鳩尾がひやりとした。
したと同時に激しい動悸を覚えた。

「続けるぞ?」

エレンは遠くを見つめながら言った。

「人より優れた力があるのにそれを表に出さない」
「それどころか親父さんの教えを無意味と言った」

「けどアニはそう吐き捨てた時、他の誰よりもいきいきとしていたし嬉しそうだった」
胸がちくりとする。

「嘘をつくのが下手な奴って思った。そしたらさ・・・」
「毎日アニと他愛無い話をしたり、一緒に訓練をするのが楽しくて」
心臓の鼓動が早まる。

「でも強くなっていく度に、アニを怪我させたくない、傷つけたくないって」
「アニを仲間としてじゃなく、女の子として意識していたんだ」

涼やかな風が吹いた。
私はエレンの横顔を眺めながら相槌をうつ。

「それにこんな時代だ、何時、誰が命を落としても不思議じゃない」
「そう思ったら、どんな結果になろうとこの気持ちだけは伝えなきゃって・・・あ、いや、あれだぞ!?別に俺は付きあいたいとかじゃ、」

「いいよ付き合おうよ」
エレンが言い終わる前に私は返事をしていた。
きょとんとするエレン
まるで信じられないといった彼にしては珍しい、間の抜けた表情だった。

「ほっ、ほんとにいいのか!?」

エレンの再度の問いに私はうんざりとした口調と態度で手を差し出した。
「はいはい、これからよろしくねエレン」

その日、部屋に戻った私は誰にも見られないようにベッドへ潜り込んだ。
そして明け方まで眠れず、それからの数日間エレンとまともに顔をあわすことすらできなかった。

「なんとなくから始まったんだね・・・」

私は誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
ほんの気まぐれから始まった関係は少しずつ、少しずつ育まれていった。
「そうだ・・・あの頃はまだ引き返せたんだ・・・」

それから私とエレンは周りに冷やかされながらも今日まで特別な関係でいた。
もっとも男女の付き合いなんてのはそこにはなく気兼ねのない付き合い程度なものだった。

エレン、ミカサ、アルミン。この三人の輪にエレンを介して私が溶け込んだ狎れ合い。
ただそんな日々は確実に私の心へ沁み渡って行った。

やがて訪れる解散式の日。そしてその後はそれぞれの道へ・・・それでお別れにすればいい。

私は憲兵団へ。エレンは調査兵団へ。何も問題は無い。これが私の進む道・・・

なのに・・・どうして心がざわつくのだろう?こんなにも苦しいのだろう?
焦燥感や苛立ち、不安。別離の日が近づくにつれ私は冷静でいられなくなった。

私は・・・何を望んでいるのだろう?
答えの出ない問いかけにため息をついたその時、聞きなれた声が私を呼ぶ。

「ここにいたのか」

その声を聞いた瞬間、それまでの心のざわめきはやんだ。

「よ・・っと」

エレンは私の横に腰かけるとグラスを手渡した。
女を一人にさせてごめんの一言もないのかと噛みついてやる。

「悪かったよ、ただこれが皆で過ごす最後の夜だと思うと・・・さ」

そう言われれば私が矛を収めるしかないだろうと分かっていなくても言えるのがエレンの才能なんだろう。
と言ってやりたかったがさすがにこれは胸の内にしまった。
どうにもエレンは私の心のツボを知らず知らずの内に押す。

それよりもエレンから手渡されたグラスの中身に気付く。
酒のしたたかな匂いがした。

「とある先輩からの受け売りなんだけど・・・」
「特別な日に特別な人と酒を酌み交わしてこそ一人前の兵士の嗜みって聞いてさ」
「まあ俺も飲むのは初めてだけど折角ならアニと。ってな」

訓練兵を卒業する者達への先輩達からの粋な計らいとは聞いていたが・・・
それみしても随分と砕けた風習もあるものだ。
もっともそうでもなければこの世界でやっていけないのだろう。

抗議の声をあげるもそれは空しい徒労に終わった。
『抗議』といえば聞こえが悪いが私自身エレンと杯を酌み交わす事に不満はなかった。
素直に言ってしまえば私なりの照れ隠しなのだ。

そんな内心を悟られていると知りつつも呆れ顔の私はやれやれと言わんばかりにグラスを挙げる。

「それでイェーガー訓練兵殿、何に乾杯を?」
皮肉を込めて言ってみる。

「そうだな・・・あっ」
エレンが頭上を見上げた。

「・・・!」

見渡す限りの空に星が輝いていた。

最後に空を見上げたのはいつだったろう。

思えば私は何もかもが宙ぶらりんのままだった・・・

無言の私にエレンが話しかけた。

「なあアニ」

「何?」

「お前さ、憲兵団に行くんだよな」

ドキリとする。
「・・・うん」

「俺は調査兵団だ・・・結構離れちまうよな」

胸が締め付けられる
「・・・そうだね」

「この空ってさ壁の外も内も包んでいるんだよな距離なんか超えて」

「俺はどこにいてもお前を思って空を見上げる。だからお前も・・・」

この馬鹿さ加減がいつだって私を巻き込む。

「わかったよエレン。じゃあ・・・」

「「この空に・・・」」




グラスの中身を一息に飲み干した私はふとエレンの顔を見た。
いっそ見なければよかったのかもしれない。

エレンは真っ直ぐに私を見つめていた。
お互い、酔いにかまけている余裕なんてなかったのだろう。

初めての飲酒なんて比較にならないくらい甘美な空気が流れていた。

「アニ・・・」

そっと私の顔に手を伸ばす。

私は一瞬迷ったがエレンのまっすぐな瞳を見ると意を決した。


私は初めてエレンの唇を受け入れた。
それはごく自然な――とても当たり前の事のように。

どれくらいの時間が過ぎただろう
エレンとの口づけは数秒にも、数分にも感じられた。

そっと離れる唇。私とエレンはお互いの視線を絡ませたままだった。

「のっ、喉っ、渇いたな!俺、水持ってくるよ!」

エレンは早口にまくし立てると逃げるように駆け出した。

分かりやすい照れ隠しだ。けどそれは私にとっても好都合だ。

早鐘を打つ心臓、震える足。今にも消えてしまいたくなる程の恥じらいと私は戦っていたのだから。

呼吸を整え座りこむ。ゆっくりと息を吸い、吐く。

恋人としての二人の行いに私は静かに浸っていた。

「こんな所にいたのか。探したぞ」

背後から浴びせられる聞き覚えのある声
私は背を向けたまま無言で応えた。

「エレンには随分と骨抜きにされたようだな?どうやらお前は戦士である事よりも女である方が・・・」

言葉は遮られた。私が振り向きざまに渾身の力を込めて地面の砂を投げつけたたからだ。

ゆっくりと立ち上がり私は声の主を、ライナーを睨み付ける。

丸太のような太い腕で砂つぶてを防いだライナーは私の目をみるやそれに応える。

「今にも俺に襲いかかりそうだな」

私の殺気を理解しているのだろう

無言の押し問答の中ライナーが口を開く

「悪ふざけが過ぎたな、すまない。用件を伝えに来たんだ」

私の反応に意を介する事なくライナーは淡々と事務的に続けた。

「近々、ベルトルトが事を起こす。チャンスとみれば俺がそれに続くつもりだ」

幸せな夢から冷たい現実に引きずりだされたような気持ちだった。

「お前は俺と同じ班だ。・・・『誰が相手であろうが』その時は頼むぞ」

「それまでは・・・精々、束の間の蜜月を楽しんでくれ」

ライナーは無言の私に念押しをすると闇へと沈んで行った。

膝が崩れる。
私はその場にへたれこんだ。

何も考えれない。何も考えたくない。
五感全てが失われたようだ。

「・・ニ!アニ!」

エレンが私の肩を掴んで呼び掛ける


はっとした私は目覚めていながら意識を遮断していた事にようやく気付いた。

「エ・・・レン・・・」

エレンの顔を見ながら答える私

「驚かせないでくれよ。声をかけても近付いても上の空だったからさ」

「ごめん・・・考え事してて・・・」

「・・・そっか」

力ない返事。エレンがそんな私の態度に気付きながらも深く追求してくれなかったのは幸いだ。

「ん・・・じゃあ、はい、水・・・・・・アニ・・・」

エレンは私を見つめると静かに口を開いた。

「・・・どうして・・・泣いてんだ?」

「えっ?」

そう言いながら私は咄嗟に自分の目に手をやった。

・・・冷たい感触。
私はエレンに指摘されて、初めて自分が泣いている事に気付いた。

「あっ・・・あのっ、これっ・・・ち、違うの!」

何が違うのだろうか。

「やっ・・・こ、れっ、は・・・」

言葉を取り繕うとすればするほど言葉にならない

「アニっ!」

エレンは私の名を言うと抱きしめた。
振りほどこうとする私の腕。それを遮るエレンはそっと口を開く。
「・・・俺には言えない事があるんだろ?」

私は答えることが出来ずにいた。
離れなければ。今、別れなければ私は・・・
エレンは続ける。

「それがどれだけアニを悩ませてるか俺にはわかってやれないけど・・・」

「それでも俺はアニと一緒にいたいんだ」

涙は目に溢れ、やがてこぼれた。同時に私の腕から力が抜けた。

「お前と生きて行きたいんだ」

限界だ。

私はひゅうっと息を吸った。
そして次に鳴いた。大声をあげて鳴いた。

溢れる涙と叫び声。エレンはそんな私を優しく抱きながらゆっくりと身体を揺らしてくれた。

それは恋人同士が抱きあうというよりも我が子をあやす親のような優しさだった。


やがて涙は枯れ、鳴き声は泣き声となり嗚咽となり止んだ。

私は泣き腫らした目のままエレンをまじまじと見つめる。

エレンは優しく微笑んでいた。

「・・・エレンのせいよ・・・」

エレンは不思議そうに私を見つめる。

「・・・エレンを想えば想うほど、私は私でいられなくなる」

「けど・・・私はそれが幸せよ」

エレンは相変わらず不思議そうだ

私は何度も、何度も壁を作った。誰も触れる事の出来ない壁を。

心を許してしまえば決心が鈍る。
私は戦士なのだから。

それなのに・・・エレンは私の壁を壊す。何度も何度も私の心を包みこむ。
私がずっと探していたものをエレンは持っていた。

「エレン・・・」

私はエレンの目を見つめて呟いた。

エレンは何も言わず優しく私を見つめる

私は今までの人生で一番の勇気を振り絞った。

唇が重なりあう。二度目の口づけは私からだ。

この先、何が起ころうと私は悔いを残したくない。

エレンの背に回した腕に力を込める。

随分と長く抱き合っていたのだろう。
風に乗って微かに流れてきた喧騒も今では静寂に包まれている。

私はエレンの背中に回した腕からそっと力を抜く。
エレンは名残惜しそうに私から腕を離した。

かがり火の前に寄り添う私達はたった一夜にして深く結びつけられた恋人にほかならなかった。

エレンの肩に頭を乗せる私は何も言わない事にした。想いを言葉にするよりも今はこうしていたかったからだ。

「・・・なあ、アニ」

ふいにエレンは口を開いた。

「巨人を駆逐して全部終わったら・・・」


「迎えに行くから、さ」

叶わない想いでも、儚い願いでも、そう言われるだけで私は幸せを感じる。
感じるからこそ耐えがたい悲しみがある。

私はそれでも――戦士なのだから――

私はエレンの手を強く握る。
エレンは優しくそれを包み込む。
「エレン・・・」

私の目的は・・・願いは・・・

「ん?なんだ?」

「強くなってね。私よりも、誰よりも」

――あなたは必ず強くなる――
――それはあなたのひたむきな心と同じ新しい世界を切り拓いていく力――

「あたり前だ。必ず外の世界にいくからな」

――私『達』の力は滅ぼす為に――


「約束だぞ?アニ、俺達は・・・」


それを知った時、あなたはどんな答えを出すの?


「ええ、分かっているわ」


それでも敢えて私の手をとってくれるの?――



to be continued

番外編~とある彼女の恋愛観~

ある昼下がりの街の往来――
私はエレンと街にくり出していた。


「そう言えば恋人になってからのデートって初めてだよな」

屈託のない笑顔を向けられ反射的に顔を背ける。
「うん・・・今までは訓練、訓練でそれどころじゃなかったからね」

ぎこちない私の態度にエレンはけらけらと笑う。

二人で並んで街中を歩くなんてそうあるもんじゃない。私は内心、小躍りしていた。

「それで?買い物に行くって言ってたけど、何処に行くの?」

私の質問をはぐらかしながら、エレンはカフェに寄ろうと促す。

程なく歩いた先にある街の丘に位置するカフェへと導かれた。
テラスからは見事な眺望が開ける。

来てよかったろ?どこか自信ありげなエレンの声に素直に喜んだ

「口コミで聞いたんだけど、恋人同士でしか注文出来ないメニューがあるんだってよ」

笑顔で語るエレンを他所に私は心臓の高鳴りが彼に聞こえやしないかと内心ヒヤヒヤしていた。

「そうだね・・・って何にする?も聞かないんだから私の選択肢は最初からないじゃない」

照れくさいながらも思わず突っ込んでしまった。

ああもう、エレンといるといつもこうだ。知らず知らずの内にペースを狂わされる。

やがて運ばれて来た注文の品に目をやる。


「・・・あのねぇ・・・」
頬を赤くしながら私はエレンを非難した。


「たはは・・・」エレンは苦笑いをするのみだ。
その目が泳いでいるのを私は見逃さない。


何がたははだ。心の中で悪態をつく。「これ」を公衆の面前で飲めと?

私とエレンは向かい合わせでテーブルの上に鎮座するグラスを見る。

大きな器に波打つ色鮮やかな果実を絡めたカクテルジュース。

そしてハートを模る二本のストロー

ええと・・・つまり、二人でひとつのグラスを・・・で、ストローを吸うと口に微妙に入ったジュースもグラスに戻って・・・

ああ、穴があったら入りたい。寧ろ匿ってほしい。

狼狽に狼狽を重ねる私を余所にエレンが照れくさそうに話す。

「ほら、俺達ってさっきアニが言ったように訓練、訓練の毎日でろくに恋人らしい事もしてないだろ?」



馬鹿を言え、解散式の夜に『二回も』・・・キスをしただろうが

腹の内から叫んでやるがその叫びが届くはずもない。

恥ずかしさに顔を赤くしながらエレンへ目を向ける。


視線が合ってしまった。すかさず目を逸らす。
あの夜の勇気は本当に何処に行ったのだろう。

そんな私を見てエレンは笑いかける。

「今日、初めて目が合ったな」

「べっ、別につまらないとかそんなんじゃなくて・・・楽しいっていうか、恥ずかしくてエレンの顔が見れないと言うか・・・でもほんとはもっと見ていたいなーって・・・」


言ってしまったと同時に、激しい自己嫌悪に陥った。何を言っているんだ・・・支離滅裂もいいところだ。

俯く私を見てエレンが口を開く。

「ほんと言うと俺もちょっと恥ずかしいんだ。でもアニと一緒だと当たり前のような事でも楽しくってさ・・・」

少しの沈黙の後、ようやく平静を取り戻す。
「ん、私も楽しいし嬉しい。それはまあちょっとは・・・恥ずかしいけど・・・折角だから・・・もう!飲むんでしょ!」

半ば強引にエレンを促す。

「お、おう」

二人は恐る恐るストローに口を当てた。
おでこがぶつかるんじゃないかという距離に頭がくらくらしそうだ。

正直、味なんて感じる余裕があるはずもなかった。
きっとそれが泥水だったとしても飲んでいただろう。

それから私達は会計を済ませるまでの間、一言も喋らなかった。

私だって年頃の女の子だ。エレンとのデートや将来を妄想したりする。


だが、いざとなるとこの胸の高鳴りが私から勇気を奪うのだ。

あの夜はお互い、お酒の勢いを利用しただけなのだろうか?

道すがら、お互いの手が触れる。

揃って飛び上がる二人。
ふと、それがなんだか可笑しくなって笑いあう。

涙が出るくらい笑いながら思った。
あれこれ考える必要はない。
私はエレンが好きだしエレンも私を好きだと言ってくれる。今はそれだけでいいんだ。

ようやく気持ちが落ち着いたところで、お目当ての店へ辿り着いた。

装飾品を扱うそのお店は小さいが、よく手の行き届いたお店だった。
「ああ、これこれ」ショーウインドウに飾られた髪飾りをエレンが指差す。


薄く碧い石が散りばめられた髪飾り。
「これ、綺麗だろ?」


エレンの問いに私は一もニもなく頷く。

「この碧い部分、アイオライトって石らしいんだけど夢だとか、目標へ進む力を意味するんだってよ」

エレンの語る蘊蓄に相槌をうつ。
「それもなんだけどこの碧、アニの目と同じに見えてさ」

思わずうっとりとする私を見るやエレンは店主を呼び、買い付けた。

「ほら、やっぱり似合ってる」店主の好意でその場で髪飾りを着けてもらった私を見てエレンが賛辞の言葉をくれた。

何処で知った蘊蓄か聞きたくなったが慌てて言葉を飲み込む。
そんな事をしたって角がたつだけだ。

思ってもみないエレンからの贈り物。素直に喜べばいいのだ。

そして私は今がチャンスとばかりに予め用意していた贈り物を渡す。

エレンが中身を開け、その顔が喜びの色に染まる。私は肩を撫で下ろした。

革紐に結ばれた純銀のメダルが光る首飾りは少しばかり値のはる品だったが、こんな笑顔を見れるなら安いものだ。

私はエレンに近付き革紐を首へかけ結う。

「ん?このメダル、裏に彫り物があるな」

エレンが刻まれた模様に気付く。

買った時に無理を言って彫ってもらったのだ。

「花・・・かな?なんかおしゃれだな」
エレンがメダルを指で愛でる。

「ホトトギスっていう花よ」
つい言ってしまって口をつぐむ。

「へぇ、アニって物知りなんだな」
興味津々のエレンから話を逸らそうと私はあたふたした。

そうこうしている内に帰りの時間が近付いてきた。
私はエレンと過ごした一日を心から堪能した。
難を言うなら・・・その・・・未だに手を繋いでいないという事だ。


帰路をゆく中、何度か横並びに歩く際、手が触れあう(もっとも私からわざと触れたのだが)も、反応が無い。

・・・らしくない私もいいかもね――

思い立ったかのように口元が緩む私は、エレンの腕にするりと絡み付いた。

恋人なんだから、腕を組む位いいじゃない。

エレンはようやく私の態度に気付き少し頬を赤らめる。

私は神様を信じた事が無い。お祈りなんかすがるためのものとしか思っていなかった。

けど、ほんのすこし祈りたくなった。
我が儘で自分勝手だけど・・・

もうすこしだけこのままでいさせてくださいと。

夕陽に照らされる街並み。肩を寄せあいながら歩く。
次の角を曲がれば兵舎は目の前だ。

私は渋々、エレンの腕から離れる。
「じゃあ、またな」
言われた一言がなんだか寂しい。



私は風が通り過ぎるようにエレンの唇に軽くキスをした。

「お、おまっ・・・!」あまりにも
意外で大胆な私の行動に呆気にとられているエレンはしどろもどろだ。

まあ、お互い様と言う奴だ。
私だって心臓が飛び出してしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしているんだから。

私は恥ずかしさを隠しながらエレンにはにかむと、女子寮へ歩きだした。

明日も、明後日も笑って会おう。そんな事を想いながら。




――エレン、知ってる?アイオライトの石言葉は「初めての愛」って言うのよ――

――そしてホトトギスの花言葉は――



――「永遠にあなたのもの」――



bgm zard  don't you see!
http://www.youtube.com/watch?v=so9t1ly-b3q



~ani side~

解散式の夜、私とエレンは約束をした。どれだけ離れようとも同じ空を見上げる事。そして生き抜く事を。

夜明け前の宿舎に戻った私は鏡を見るや、改めて自分の泣き腫らした目に落胆した。

「よくもこんな顔で・・・」

薄明かりの中だからこそ私は逃げ出さずにすんだのだ。
太陽の下でなんか絶対にあんな事出来ない。

エレンから告白されて私の気紛れから始まった関係は解散式の夜を迎えるまでついぞ大きな変化などなかったのだ。

それが一夜を共に過ごした事で二人の関係は大きな変化を遂げた。
最初のキスはエレンから。二度目のキスは私からだ。

「冷血女」「鉄仮面のアニ」訓練兵団に入った当初、同期生が密かに囃し立てた私の二つ名。

それが今では誰がどう見ても恋する乙女だ。

我ながらくすぐったくて笑ってしまう。

そして当の私といえば朝日が覗く頃、ようやく眠りへとついた。
このまま眠り姫になるのも悪くない。そう思える程、心は穏やかだった。

昼を過ぎる頃、ドアにノックが響いた。
別室のクリスタに起こしてもらうように頼んでおいたのは正解だった。

低血圧で寝起きが悪い私は誰かにたたき起こされでもしなければこうは起きられない。

眠たい目を擦りドアを開ける。
クリスタは笑顔で笑いかけてくれた。

「おはようアニ!昨日は随分遅かったみたいだけどちゃんと眠れたの?」

目が好奇心で輝いている。
このままだと昨夜の事を根掘り葉掘り問いただされる事が容易に想像できる。


まあ、私とエレンの関係を祝福してくれている彼女だ。それに応える位、やぶさかでない。

欠伸をしながら私は制服に着替えると少しばかりの談笑に花を咲かせた。

遅い食事の後、私は仲間達と班毎に割り当てられた作業を言い渡される。

もっとも駐屯兵団見習いの任務に就く事など、憲兵団への配属手続きが済むまでの間だけだ。

私は黙々と立体起動装置のメンテナンス作業をこなす。ふと建物の外に目をやる。
人々の往来を見て私は少し憂鬱な気分になる。


晴天に紅い稲妻が走る。衝撃が大地を伝い足下にやってくる。

私は仲間達を見やる。不測の事態に戸惑いを隠せない周りを余所にライナーは不気味な位、無表情だった。

数十分前まで同じ班で作業をしていたベルトルトの不在を確認する。

ライナーと目が合った。何か言いたげな表情を無視すると私は仲間の一人、マルコに話し掛ける。

「地震みたいだね。外に出ようか」
自分で言ったその台詞に苛立ちを覚えながら私は足早に建屋を抜け出す。


けたたましい騒音と立ち上る砂煙。
再来した超大型巨人は壁に穴を開けると、続けざまに壁上に固定された大砲をその腕で薙ぎ払っていた。


街の人々の悲鳴と怒号が響く中、私は浮き足立つ仲間達を見つめていた。

とうとうこの日が来たのか。そう思った私は何故かエレンの顔を思い出していた。

むっちゃにやにやする

期待やで

先が怖い…

ツンデレの落差に期待

第104期訓練兵団の一部を除く全員が駐屯兵団の司令部へ召還されたのは超大形巨人によって開閉扉を破壊されてから一時間後の事だった。

超大型巨人の襲撃により、命を落とした同期生が数名・・・

私は微かに罪悪感を覚え、それを隅に追いやる。

そんな心を見透かしたようにライナーが背後から耳打つ。

「以前にも言ったが、俺とお前は同じ班だ。『誰』と戦う事になっても・・・腹を括れよ」

振り向きざまの一瞬、睨み付ける。彼は肩をすくませると元の配置へと戻っていった。

私はエレンを視界の隅に捉えた。

この状況で私は、明らかに場違いな感情を抱いていた。

自分の命をなにより最優先に考えなければならないのに。

自身を叱責し平常心を取り戻す。

無表情の顔をあげると正面に位置する壇上を見据えた。

壇上の上では、トロスト区の駐屯兵団を指揮する青ざめた表情のキッツ・ヴェールマン氏が震え声で私達に指示を下す。


虚勢にまみれたその金切り声に思わず嘆息が漏れる。

私達は駐屯兵団の指揮の下、前線を援護する中衛の遊撃隊となった。

人目を憚る事も出来ないこの状況下でエレンはこちらに目で一瞥をくれると真っ先に飛び出していった。

違う班となった以上、私に出来る事といえばエレンの無事を信じるほかない。

祈りはしない。


「さあアニ、僕達も行こうか」

振り返るとベルトルトが無機質な瞳で私を見ていた。

「ああ」
私は答えながら白刃を鞘に収め、歩き始めた。

私達の班が持ち場についた時、既に前線は瓦解していた。

実戦経験の乏しい駐屯兵団に巨人が抑えられる筈もない。無理からぬ話だ。

空気を伝い聞こえる悲鳴。巨人の闊歩から発せられる地響き。火の手があがった街からは微かに血の臭いが漂う。



物見の兵から前進の指示が出る。

ベルトルトとライナーを除く班員は死刑宣告を告げられた罪人のような表情だ。

私はライナーに道化は御免だと目で合図を送る。

ライナーはやれやれといった表情をすると叱咤の演説を始めた。

続くベルトルトの激励に戦意喪失の新兵達が自らを奮い立たせる。

街を駆け抜ける私は違和感を覚えていた。
立体起動装置で空を飛ぶ時、エレンの事を想うと地の果てまでも駆け抜けられるのではないかと錯覚するほどの高揚感に包まれる。


だが、この二人と飛んでいると悪心が私の胸を締め付ける。


先程の御高説に加え、彼等の『目的』に対する怨念ともいえる執念に気後れすら覚えた。

ライナーとかは壁内に自分の居場所を作ろうと思えなかったのかな。

その後、他の班と合流する私はエレンの死をアルミンとミカサの会話から知った。

灰色の空から降りしきる雨。
身体にまとわりつく脱力感。ひどく心が重い。

窓に映る自分の瞳。とても虚ろだ。エレンと出会う以前と同じ冷たい眼差し。

私は再び心を閉ざした。そうでもしなければ、この身を投げ出していたのかもしれない。

トロスト区の住民の避難作戦はひとまず達成された。

しかし前衛部隊の全滅という憂き目に加え中衛の訓練兵団もその多数が命を落とした。

そして幸か不幸か死線を潜り抜けた訓練兵達は再び命の瀬戸際に立たされていた。
退却の際に壁を登る為のガスが尽きかけていたのだ。

更に悪い事は続く。ガスを補給する任に就いた訓練兵達は襲来した巨人に恐怖し籠城を決め込むといった有り様だ。

皆が一様に青ざめ、絶望の色に染まる。


どうしたものか。私は無機質な瞳のままライナーに今後の展望について「どうする?」と尋ねた。

「『やるなら』人が集まってからだ」と答えるライナー。頑として己の道を貫くのだろう。

それは恐らくベルトルトも同じだろう。かつての仲間達を・・・


私にそれが出来るのだろうか。自問自答する思考を打ち消すかのように、ミカサが皆に発破をかける。

ミカサは絶望的な状況の中、死を待つばかりの彼等を奮い立たせた。


周囲に合わせざるをえない状況。
ライナーとベルトルトは肩透かしを食らったのだ。


駐屯兵団の本部を目指し、立体起動で雨の中を飛び交う。

ガスが尽き墜ちて行く者もいれば巨人の手に捕らえられる者も居た。
そんな彼等を犠牲にする事で活路が開かれた。

補給施設の窓を目がけ飛び込む私達。それを嗅ぎ付けた巨人達が後を追うように殺到する。

煽動者のミカサの姿が見えない。
私は思わず歯軋りした。
言いたい事だけ言って、さっさと死ぬなんてあんまりじゃないか。内心、悪態をつく。

窓際の巨人と目が合う。咄嗟に刃を抜いた次の瞬間、その顔はひしゃげた。

衝撃音と共に吹き飛ぶ巨人。

何が起こったのか理解出来なかった。
突然現れた黒髪の巨人は私達の周囲に群がろうとする巨人に襲いかかる。

蹴り破られた窓からミカサが同期のコニーと一緒にアルミンを連れて現れた。

恐怖に慌てふためく仲間達をなだめながらアルミンから黒髪の巨人について語られる。


安堵する周囲と裏腹に動揺を隠しきれない『私達』
何者かが、巨人の力を?


疑問符に頭を抱える間もなく、アルミンの口からこの窮地を脱する為の妙案が持ち出された。

より、多くの人間に引き付けられる巨人の習性を利用したアルミンの策はこれ以上無い程の成果を納めた。


駐屯兵団のガス補給室を占拠した巨人を悉く討ち果たし、九死に一生を得た私達は屋外へ飛び出した。

建物の上から黒髪の巨人を見やるミカサとアルミン。押し寄せる巨人の群れに四肢を食らい付かれていた。
二人はあの巨人を保護、延命出来ないかと提案した。

人類の味方ではないかと。

ベルトルトとライナーが賛同した。巨人でありながら巨人から獲物と認識される。
自分達と同じ性質を持つ者と理解しているのだ。

私にとっても興味深いものだ。

そんな事を考えていた時だった。

隅から新たに出現した巨人。黒髪の巨人はそれを見るや咆哮と共に駆け出した。

両腕を引きちぎらせ、枷を外した『彼』は血に飢えた猛獣のように殺戮の限りを尽くした。


「おいお前等・・・あんな化け物の何を助けるって?」
青ざめた表情のジャンが皮肉った。

やがて黒髪の巨人はついに力尽きたのか大地に突っ伏した。蒸気が吹き出す。

うなじを突き破る人影。私は我が目を疑った。

蒸し返す蒸気の中に、先の戦闘で死んだと聞いたエレンの姿がそこにあった。

エレンは巨人の力を持っていた? 困惑に思考のままならない私を尻目にミカサが駆け出す。

エレンを抱き止めたミカサは心臓の鼓動を確かめると声をあげて泣いた。

やがて引き上げられたエレン。私は背を向け、誰にも見られないよう静かに泣いた。

本来ならミカサやアルミンと一緒に泣いてもいいはずだった。


涙は見せられなかった。
少なくとも私を戦士と扱う者達の前でだけは。

素直に泣けるミカサが羨ましかった。

雨が降っていた事に救われた。
私の涙を降りしきる雨が洗い流す。

悟られないよう、敢えて無関心を装う。
案の定、ベルトルトとライナーが私を猜疑の目でこちらを見ている。


小さく鼻を啜り、彼等を睨み付ける事でようやくその疑惑を晴らした。

エレンの顔を見下ろす。私は去来する様々な感情や思考を無理矢理押し退けた。
生きていてくれた。それだけで今は十分だ。


雨は止み、雲の切れ間から光が差し込む。空は私の心を映す鏡のようだった。

エレンの生還からほどなくして私は生き残りの者達と合流した。

一様に口を紡ぐ私達へ皆の視線が注がれた。私は殊更、無関心を装う。

エレンの力を見た者、それに準ずると判断された者達には守秘義務が課せられた。

妥当な判断だろう。人が巨人になるなんて話が漏れようものなら、収集などつく筈もない。


疑わしきは罰せずを地で行く駐屯兵団の性質をありありと感じながら私は腰をおろす。

私はエレンの力について考察すると同時にようやく、一人の女としてエレンの身を案じる事が出来た。

一方で私は答の出ない堂々巡りに陥っていた。
自分の選んだ道が正しかったのか。確証が欲しかった。

エレンと過ごした夜を境に私は今まで目を背けてきた自分と向き合うようになっていた。

そしてその度に自分を戒め、律していた。

自分の心を閉ざす事で、その先にある目的を盲信し、それが大義と思い今日まで生き永らえてきた。
それを戦士の強さと思ってきた。

――私は、間違っているの?――

未だ答えを見出だせずにいる私は自嘲気味に俯く。


不意に爆発音が響いた。

不測の事態に周囲はたちまち混乱の渦に巻き込まれた。

エレン、ミカサ、アルミンが尋問を受けているであろう壁の内側から煙があがる。

壁上へ私が飛び立つや否やベルトルトとライナー、そしてジャンが続いた。
彼等もまたエレンに対する様々な憶測を確証にしたいのだろう。

壁に降り立ち現状把握に神経を注ぐ。


煙と蒸気から顔を覗かせる巨人の顔。
それを取り囲む兵士達には恐怖が伝搬している。

先程の爆発音は大砲による砲撃の音。そしてエレンは巨人の力を使用したという事は明白だった。

多くの兵士が刮目する中、煙の中から解き放たれたアルミンは鬼気迫る表情でエレンの嫌疑を晴らす為、正に命懸けの演説を展開した。

巨人と化したエレンが巨人のみに対して殺戮を行った事、そしてエレンが巨人から捕食の対象と見なされていた事。


アルミンの理論はこの場にいる大半の兵士を屈服させただろう。

だが最もその声を届かせなければならないヴェールマンには届いていない。
むしろ耳障りな雑音とすら感じている。

遠目にも彼が怯えきっているのがとれる。
思考を放棄した人間に何を言っても無意味だ。

側近に何かを指示したかと思うと尚も抗うアルミンの声を遮るように砲撃を宣言する。

私は壁上に配置された大砲へ目を配る。

見つけた・・・!

壁上の一角、榴弾の装填作業に取り掛かる二人の兵士を確認した。


その瞬間、私は上着から懐剣を取り出し、自らの手を刺し通そうとあてがう。

無我夢中だった。なりふりなど構っていられなかった。


エレンを死なせたくない。確かにエレンには巨人の力がある。

だが、その力に目覚めたばかりであろう彼が砲撃を続けざまに受けて無事でいられるのだろうか?

保証など何処にもないのだ。


私の力と速さなら、例え榴弾が放たれようと吹き飛ばせる。

この身体に眠る巨人の力。滅びの力を呼び起こす為の自傷。

ヴェールマンに目をやる。やってみるがいい。攻撃の合図を確認した瞬間私は真っ先に彼に地獄を見せてやろう。


あてがう懐剣に力を込めようとした。

懐剣は死角から奪われた。


相手に目を向ける。犯人のライナーが私を睨み付ける。
まるで親の仇を見るような眼差しだ。



間に合わない!悲痛な面持ちでヴェールマンへ視線を戻す。

エレンを砲撃すべく合図の動きは一人の老兵によって封じられていた。


一触即発の事態は彼により、ようやく静けさを取り戻したのだ。


思わず安堵の息をついた。そして私は我に帰った。

思い出したかのように凍りついた。
――私は何をしようとした?――

私をライナーが困惑した表情で私を見る。


―気付いていた。けど気付かないフリをしていた―


「すまない、ライナー」

私はそう呟くとその場を逃げるように去った。



シリアスだな

エレンを処刑しようとしていた駐屯兵団。

恐怖と怯えが渦巻く空間を諌めた人物こそ駐屯兵団の司令官ドット・ピクシスと知ったのはその後のトロスト区奪還作戦の概要を伝える部隊長からだった。


飄々とした風貌に見せる老獪さ。そして目的の為なら自らを含め、どんな犠牲をも厭わない。


私の印象は見たまま、聞いたままに過ぎないがおそらくはその通りの人物なのだろう。

そしてそこからは彼が司令官たるその資質と能力を目の当たりにする。

ピクシス司令は悪魔のような人心掌握で、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う兵士達を束ねあげ、彼等を死地へと向かわせた。

そして新兵に過ぎないアルミンの献策を良しと思うや、あっさりと採り入れエレンに人類の希望たれと説いた。

作戦内容はシンプルそのものだった。

風穴を空けられた壁へ巨人化したエレンに大岩を持たせ、穴を塞がせる。

街へ侵入した巨人の多数は壁上に集結させた兵士達で引き付け、少数精鋭でエレンを護衛するといった内容だ。

そして私に与えられた任務はエレンへ向かう巨人の足止めだった。


我が身を餌に巨人の囮となる。
多くの危険が付きまとうが、その効果はリスクに伴うだけは有るだろう。

また夜に投下します。

読んでくださっている方に感謝です。

おつおつ

作戦に対する一抹の不安が頭を過った。が、そんな暇を与えられるはずもなく戦地へと投げ出された。

市街地を駆けずり回り、立体起動で飛び交い、ようやく私はエレンを見つけ出した。

周囲に神経を張り巡らせる。大岩を隆々とした身体に背負うエレンへ向かいつつある巨人達を視認する。

護衛を務める駐屯兵団の誇る精鋭班の姿が見えない。私は高台へ場所をうつす。

戦況は思った以上に悪かった。辺りの巨人が多すぎる為に精鋭班は護衛を務めるところか攻めあぐねている有り様だった。

ミカサの姿を視認したが彼女もご多分に漏れず苦しい戦いを強いられている。

恐らくは、エレンの発散する命の匂いに引き寄せられているのだろう。

目を背けたくなるような状況に思わず頭を抱えた。

精鋭班がエレンの元に辿り着くには時間も人員も足りなさすぎる。

そして今も穴からは新たな巨人が湧き出ようとしている。
いずれエレンの死を目の当たりにするであろう事は火を見るよりも明らかだった。



私はそっと瞼を閉じた。頬を伝う汗を風が拐う。

閉じた瞳に映るのは、いつか見たエレンの横顔だった。

目を見開くと私は最後の迷いを打ち消し、掌を噛み切った。

身体を駆け巡る力の濁流。私は脚に力を込めると大地を踏みしめ、堰を切ったように走った。

今まさにエレンに殺到しようとした巨人を間一髪、足蹴にすると文字通り血祭りにあげた。

そこからは瞬く間の出来事だった。
頭蓋を力任せに引き千切ぎる。蹴りあげる脚で延髄を割る。

噛みつこうと開いた口に拳を打ち込みうなじを砕く。


皮肉な事に私がお父さんから刻まれた闘争の『いろは』はこのような事態に遺憾なく発揮されたのだ。


壁上から沸く驚愕と驚嘆の叫びが鋭敏な聴覚に響く。

私はエレンが大岩で穴を塞ぐ姿を見届けると足下の石畳に爪を立てる。

力のかぎり引き上げ膨大な土煙をたてるとその身を覆わせた。

ピクシス司令は聡明な方だ。後事は彼に託せばいい。
そう思うと、何とはなしに満たされた気持ちに包まれた。

来た来た

大地を踏みしめたのだから、恐らくは路地裏の死角辺りで巨人化したんだろうけど、
それでも誰に見られるかも分からない場所でやって大丈夫なのか?
エンディングが怖い(でも支援

夕陽がその姿を地平線に沈ませようとする景色の中、私は壁上の一角でベルトルトとライナーの二人と向き合っていた。

「何故」「なんの為に」「何を思って」彼等がそう言うのは当然だろう。

当の本人ですら自分の行動に驚いているのだから。


葛藤がなかったわけではない。
しかし、そこにあった。私は自分の行動に後悔をしていない事、そして二人と道を違えた事だ。

もはや私は戦士になり損ねた。いや、エレンに惹かれた瞬間、既にそうだったのだろう。

ただ、けじめだけはつけなければならない。

私は両足の鞘から白刃を取り出すと一本づつ彼等に投げ渡し、背を向けた。

「言い訳をするつもりは無いよ。好きにしな」
そう言うと私は地平線の彼方へ目をやった。

複雑な気分だが、後悔は不思議と無かった。
自己犠牲のつもりもなければ、酔狂でもない。私はエレンを守りたくて動いたのだ。


沈みゆく夕陽を何とはなしに美しいと思った。そして今日、ここで斬られる。

それが袂を分かつ二人への詫びであり、私なりの誠意なのだ。




一向に刃は降りかからなかった。
思わず振り返る先に二人はいなかった。
彼等との決別と直感した。そしてこれが最後の情けだと。

地面に横たわる白刃は紅い空を映していた。



to be continued

乙!

次回投下は明日の夜中になると思います。

ちょっとだけ性描写というかアニとエレンのエッチなシーンがあるのでご了承ください。

毎度の支援、ありがとございます。

wafflewaffle

おつおつ



>>1
もうすぐ夜だぜ期待

遅くなりすいません。投下していきます

~elen side~

あれから何日がたっただろうか。
トロスト区奪還作戦は俺の巨人の力と多くの兵士達の犠牲、そして突如として現れたもう一体の巨人の力によって成功を収めた。

目撃者達の証言から女の姿をしたその巨人は女型の巨人と名付けられた。
女型の巨人に於いては様々な波紋を呼び、あらゆる憶測が飛び交ったがついぞ結論を見い出すには至らず今に到る。

最終的には極秘に行われてきた巨人化生体実験の『サンプル』と発表され作戦完了後ただちに死滅したとの公式発表が出され一応の終結を迎えた。
多くの疑問を残しつつも・・・


そして俺、エレン・イェーガーは紆余曲折を経てついに調査兵団への入団が認められた。
勿論、一言では言い尽くせない程のすったもんだがあったが・・・



トロスト区の壁に空けられた穴を防いだ直後、帰還した調査兵団に保護された俺は憲兵団に拘束された。


審議所での俺への処遇については調査兵団と憲兵団の意見が見事に別れた。

俺の持つ巨人の力を調べた上で始末しようという主張の憲兵団。
逆にその力を活かし人類の力に加えるべきと主張する調査兵団。

そして王侯貴族を筆頭とした保守派や壁に対して狂信的なまでに信仰を捧げる謎の教団。

それぞれの思惑や欲望、疑念、主張が交錯する中、一貫してミカサ、アルミンは俺への弁護を続けた。

終わりなき議論は堂々巡りとなる。
何故、同じ人間同士でこうも罵り合えるんだ?辟易した俺は堪らずその場にいる全ての者へ一喝した。

一瞬の静寂。そして間をおいて一斉に俺への罵倒と怒号が響き渡る。

一人の男が身を乗り出すと突然の『実力行使』によってその場を収めた。

調査兵団に属する人類最強と呼ばれる男、リヴァイ兵士長は大勢の人間が固唾をのむ中、俺を散々に痛めつけた。
顔を蹴り上げられたと思えば、頬を張られ、後頭部を踏みにじられた。

鼻血が吹き出し大理石の床に飛び散る。

荒縄で後ろ手に縛りあげられた俺はあっという間に満身創痍となった。
それは兵長なりの手荒な幕の引き方だった。
誰もが呆気にとられ、鮮血に塗れる俺の形相にもはや声を上げる者はいなかった。
機を見計らったかのように同じく調査兵団のエルヴィン団長がその雄弁を展開した。


そして遂に様々な条件が科せられはしたものの俺は自由の翼を与えられた。

俺は自身の知りうるその全てを団長と兵士長に語った。
父親の差し金により巨人の力を得た事。生家の地下室に巨人の謎が封印されている事。

どれだけ記憶のドアを開けようとしても、断片的に情景が浮かんでは消える。
その後には決まって猛烈な疲労が押し寄せる。それは幾度となく刑罰のように続けられた。

そして数日後、俺は、調査兵団の入団式でようやくかつての同期生達と顔を合わせた。

勿論、そこにアニの姿は無かった。


少しばかりの寂しさはつきものだと思考を振り払うと俺は努めて明るく振る舞った。
生きてさえいれば必ず会えるのだからと。

戸籍や兵籍、その他諸々の手続きを終えた俺はアニへの想いを忙殺するかのように一も二もなく壁外調査へ血気をはやらせた。

だが、そんな俺の思惑は見事なまでに打ち砕かれた。


奪還したトロスト区の被害は著しく、それに伴う諸々の後始末や作業を調査兵団にも要請されたのだ。
破壊された家屋の整地。移住を望む者が後を絶たずそれらに労力を割かれる数日間が続いた。


そして復旧の目処が立ったあくる日、ようやく俺が望んでやまなかった壁外調査の許可が上層部より下りた。

しかしそれは茨の道だった。
以前まで模索されてきたトロスト区からのウォール・マリア奪還の為の遠征ルートは壁の崩壊により使用が出来ない。
故に、これまでの多大な犠牲の上に構築されてきた拠点、経験は水泡と帰した。

新たな代替え案としてウォール・ローゼの東、カラネス区からの活動を余儀なくされた。
誰もがため息をつく。不可抗力とはいえ到底、納得のいかない現実に歯軋りすら覚える。


それでも俺は・・・人類は進まなければならない。巨人の謎を解き明かし、この世界を知るために。

壁外調査の前夜のカラネス区。俺は間借りした住居で一人の時間を過ごしていた。

最前線の街は否応なしに兵士達が多くなる。
王政からの補助金や待遇といった対価を目当てに家を明け渡したり、貸し出したりする事は珍しくない。

開閉扉の正面にある区画が一時的に前線基地となったのだ。無論、俺に家屋を貸し与えるという事に疑問の声が上がった。

俺個人は地下室だろうが牢だろうが一向に構わなかったが、リヴァイ兵長の鶴の一声でそれは取り下げられた。
「見張りを置くのも面倒だ。最悪、俺が始末する」俺が巨人の力を暴走させた時の事を言っているのだ。


調査兵団に入団した当初、俺は当然の如く得体の知れない化け物として扱われていた。
別に先輩達を責めているわけじゃない。
俺が逆の立場なら、やっぱり同じように畏れていただろう。

兵長はそんな俺を嬲る事で均衡を保とうとした。結果、だれもが日常を取り戻した。

リヴァイ兵長から指名された少数精鋭からなる特別部隊。通称『リヴァイ班』
その中に俺は配属された。巨人の領域に進みながらも俺の命を何より最優先とする為に。

明日の出陣で多かれ少なかれ人が命を失う。願わくば、とは言わない。
俺はその人達の命に応えるだけの働きをしなければならない。それが俺に出来る事。



不意に玄関のドアにノックが響いた。俺は突然の来訪者に驚いた。
来訪なんてのは突然で当たり前だが、真夜中に。なんてのは誰しも警戒するだろう。

もう一度ノックが鳴る。
簡素なベッドとダイニングテーブルが置かれただけの小さな間取りの家に緊張が走る。


静かにノブへ手を掛ける。気配からして相手は一人だろう。
万が一を想定し闘争心を引き起こす。鬼が出るか蛇が出るか。

深く息を吸うと俺はドアをゆっくりと開けた。

蝋燭が照らす薄明かりにその姿を捉えた。

夢か幻か。そこにいたのはアニだった。

「ア・・・!」
開いた口にそっと人差し指を当てられる。

アニは少し遠慮しがちに笑うと、会いに来たと口を動かした。

俺は通りを見渡しながらアニを引き入れる。
こんな所を誰かに見られてはどうやっても言い逃れなんてできない。


招き入れた俺はあまりの展開に戸惑うばかりだった。何故、こんな時間に?
どうやって俺の居場所を?憲兵団は?

聞きたい事は幾らでもあるのに言葉が出ない。

戸惑う俺にアニは体を預けて来た。背中に小さな手が回される。

「ごめんね」申し訳なさそうに耳打ちされた。

聞きたい事は山ほどあったが、そんな気持ちを押し退けるとアニを抱きとめた。

甘い香りがする。懐かしいその香りは俺の心のざわめきを鎮めた。

それからしばらくして、アニは俺の質問に順を追って答えてくれた。

憲兵団に入団してからミカサと手紙のやりとりをしていた事。

それによって俺が何処でどう過ごしていたかを知った事・・・そして、同じ空を見上げていた事。

時折、照れくさそうに、嬉しそうに話すその表情にミカサに心から感謝していた。


やがて沈黙が訪れた。しんと静まり返った部屋はまるで時間が止まったかのようだった。

うつむき加減のアニに目を落とす。
その頬を涙が伝いぽつりと零れる。

俺はその涙を指で掬った。
顔をあげたアニは俺の顔に手を伸ばす。

潤んだ瞳のアニがまじまじと俺を見つめる。
その頬は紅潮し、それが何を意味するのかはどんな鈍感な人間にも分かるだろう。

アニがそっと俺の胸に顔を押し付ける。

「エレンといると、何もかもが満たされてしまうの。そして今日、会わなきゃ一生後悔する。そう思ったら、居ても立っても居られなくて・・・」

そう言って俺を見つめるアニの潤んだ瞳に目をやる。

胸の内から湧き上がる衝動。


どちらからともなく唇を重ねあっていた。

俺とアニはベッドの上で抱き合っていた。

「灯りを消して」と言われ燭台の蝋燭を吹き消す。
窓から射し込む月明かりは雲がかっているがうっすらと部屋を照らす。

服を脱がせあう手はがちがちと震え、ぎこちない。
髪留めを外した肩甲骨まで伸びるその綺麗な髪がはらりと垂れる様子は淫靡ささえ感じさせる。

やがて裸体を晒したアニをベッドに横たわらせる
初めて見るその身体を目に焼き付けんばかりに見つめる俺の心臓は不整脈を打ち、生唾がごくりと喉を鳴らす。



触れようと手を伸ばした身体がぴくんと震える。

「あ、あの、エレン?」

か細いアニの声に手が止まる。
「その、わ、私・・・は、初めてで・・・」

突然の告白にどきりとする。だがこちらも言わなければフェアじゃないと思い返事を返す。

「いや、俺も初めてだよ」

上ずった声にむくりと体を起こしたアニが本当に?と目を丸くする。

「悪いか」俺はぶっきらぼうに頬を膨らませる。

愛なら街で買える。夢など明日変わる。
とある詩人が残した歌だ。

訓練兵時代、年頃の男子が抱く好奇心、そして過酷な訓練の毎日に耐えかねた一部の連中はしばしば街へ繰り出しては文字通り、金で一時の愛を買った。

あかん、眠気の限界。残りはお昼にでも・・・
中途半端でごめんなさい

おつおつ



勿論、俺も興味がない訳じゃない。
男子連中の猥談に耳を傾けることもあったし、女も知らずに死ねるかと冗談混じりに宣う彼等の気持ちも分からなくはない。


ただ、俺はそういった事はなんと言うか・・・断固として愛する人としたい。って思っていて・・・

ありのままの気持ちをそう伝える。
アニは優しく微笑むと「私も初めての相手がエレンで良かった」といい頬に口付けてきた。


醸し出されていた妖しい雰囲気は立ち消え、生娘の恥じらいを感じた俺はことさらいとおしく感じ抱き締めた。

俺はおおよそ目に見えるほぼ全ての箇所を愛撫した。

耳たぶからうなじの生え際。背中から腰のラインをなぞり、内腿から足の指先まで、何度も繰り返し愛でた。

時に優しく、時に少し乱暴に。
やがて乳飲み子のようにアニの乳房に吸い付く。たわわに実るその果実は甘美な程に誘いやまない。

されるがままのアニは吐息を漏らしながらみじろいでいた。


そして遂に内腿の間に顔を近づける。


「あっ・・・そこ、はダ・・メ」
俺の動きを止めようと手を伸ばすアニ

その手をとり指を絡め、ほんのすこし力が入る両足を肩口で割って入る。

薄闇の中、アニのもっとも大切な場所に舌先を這わせる。

「んっ・・・・・・は・・・あぁっ」
甘く淫らなその声が一層の興奮を呼ぶ。

薄い恥毛から覗きだす秘部からはとめどなく蜜が溢れだす。

舌で掬い、舐めとりながらその奥へと滑り込ませる。
抗うアニはとうとう屈したようだ。太股が小刻みに震える。

小鳥の囀りよりも小さく淫らな音だけが狭い部屋に響き渡った。



「あっ・・・んうっ・・・エレ・・・ン、わ、たし・・・もう・・」

月を隠していた雲が晴れ、窓から射し込む月明かりが強くなる。

アニは濡れた瞳と火照る顔で哀願を続ける。

俺はアニに目で問いかける。

アニは俺の表情を読み取り頷く。

隆々と怒張する自身をアニの秘部へとあてがう。
身体の奥から溢れだす歓喜に身震いすら感じた。

俺はアニの体内へ一息に自らのそれを押し込んだ。
「くっ・・・う・・んうっ!」
小さな悲鳴と共に背中にたてられた爪から痛みが走る。


「わ、悪い、大丈夫か?」そんな俺の気遣いにアニは涙目で答える。

「ち、ちょっとだけ痛いけど・・・大丈夫」

ちょっとどころでは無いようだ。
中止を提案する俺の意見を聞くやアニは組み敷かれた身体で俺の腰に足を回す。

痛みを堪えながらアニは潤んだ瞳と甘い囁きで俺を促す。

「大丈・・夫・・・私は・・エレンと一つになりたいの・・・だから・・・私の身体を、エレンの好きにして・・・」

その言葉を聞くや、俺は本能の赴くままにアニの身体を味わった。

心底、惚れた女にそこまで言わしめ心が燃え上がらない男なんているだろうか。


誰かに教えられたわけでもなく、俺は本能の訴えに忠実に動いた。
アニの体内は熱く絡み付き俺を離さなかった。



やけつくようなそのうねりは俺から全てを奪い、同時に全てを満たした。

炸裂する快楽の波が押し寄せては引き、また押し寄せては引く。
獣のように俺は思い付くかぎり勝手気ままに振る舞った。

アニは涙声で何度も俺の名を呼びながら背中に手を回し、唇に吸い付く。

絡め合う舌、交じる唾液。迸る汗。
頭の中の理性は消し飛んでいた。

やがて下腹部からどす黒い欲望が込み上げて来た。

猛り狂うほどの熱情を押さえきれない。
俺はアニに終わりが近い事を告げる。


「エ・・レン、私・・・身体が、変・・なの・・あ、んっ・・・ああっ!」
か細く悲鳴をあげ、弓なりにのけ反ったアニの細い首筋が目に視界に入るのと俺がアニの体内で果てたのは同時だった。

荒く息をつく二人を邪魔するものは何も無かった。
空気さえも入り込める余地の無いほどに重なり合う。

それから俺とアニは朝が来るまでの間、色んな事を話した。

お互いの故郷や家族の事。会えない間、どんな気持ちだったか。・・・そして、これからの事。

「なあ、アニ」俺の胸に額を押し付けるアニに話しかける。

「なあに?」アニは優しく微笑む。

「いつだったか前に全部終わったら迎えに行くって言ったよな?戻って来たら、俺と結・・」

言葉は遮られた。アニはまた人差し指を俺の口に押し付ける。

「エレンが無事に帰ってきてくれたら私はそれでいいの」

俺は拒否されたのかと狼狽する。

それを見たアニは意地悪そうに笑うと口を開いた。
「だから、必ず迎えにきてね」



to be continued

今日の分はここまでです。真昼間にねぇ・・・


あ、乙ありがとございます。正直、すごい嬉しいです。
次回も明日の夜中になるとは思いますがよろしくお付き合いください。

真昼間になんつードデカイ爆弾投下しやがる

おt ふぅ…

ふぅ・・・乙

すげえ引き込まれるな…!
パンツ3回は弾け飛んだわ

やべえわ
パンツが太陽系1周したわ

スルスル


ファサ

>>148
貴様女かッ?!

パンツが陰毛ごと吹っ飛んでいった

降りしきる雨。私は寒さに震える身体に鞭を打ち戻るべき場所へと足を速めた。

深夜に加え、雨だという事は幸いした。
こんな時間に警らに進んで行こうと思う兵などそうはいない。

例え鉢合わせしたとしても同じ憲兵団だ。何も恐れる事はない。
敢えて言うならあれこれ詮索される事が嫌なだけだ。これはもう性分としか言いようがない。

エレンとの逢瀬を果たした私は、日が昇る少し前に帰路に就いた。
カラネス区から私の所属する憲兵団の寮があるストヘス区へは最短の経路を選んでも、大人の足で一日半はかかるだろう。


定期便の馬車を乗り継ぎ、最後には徒歩を選んだ。与えられた二日間の休暇を使った往復は流石に堪えた。

限られた時間の内、私がエレンと共に過ごした時間はものの数時間。

往復の殆どに時間と、莫大な労力を費やす事は始めから分かっていた。
以前の私ならこんな非合理的な事はしなかっただろう。自嘲気味にくすりと笑う。

それでも私は満たされた心に幸せを感じていた。
太腿の付け根に残る痛みを少しばかり気にかけ一日がかりで寮に辿りついたのは真夜中の事だった。

気配を押し殺し、物音一つたてずにドアを開け部屋に入る。
相部屋の住人は幸い眠りについているのか寝息をたてている。


私はずぶ濡れのマントとジャケットを椅子に掛けると浴場へ向かった。

熱いお湯が冷えた身体に沁み渡る。汗と埃・・・そして混じり合った体液と血の付いた下着を念入りに濯いだ。
エレンと過ごしたベッドのシーツは途中、なんとか処分できたがこればかりはどうにもできない。

数時間後にはまた億劫な任務が待っている。
部屋に戻り、ベッドに倒れこむと私は泥のように眠りこけた。


私は深い眠りの中、夢を見る。
遠い日の我が家、お父さんに散々に罵られ泣きじゃくる私。
否応なしに構えさせられ体術を叩き込まれる。繰り返される拷問のような日々。

私はそんなもの望んでいなかった。時折温かな手で頭を撫でられる。
そんな些細な事に嬉しさを感じられる日々が続いてほしかっただけだ。

目を見開き飛び起きる。


思い出すまいと誓った過去。最近、見慣れつつあった部屋の景色がようやく私を現実へ連れ戻したと実感する。


額に滲む汗を拭いながら枕元の懐中時計に目をやる。


ああ、急がなきゃ。私はため息をつくとクローゼットへ向かい、いそいそと制服に着替えた。
髪を梳かし、後ろにまとめ結う。

ふと思い立ち、隅に置いた鞄からごそごそとお目当ての物を取り出す。
いつかエレンからプレゼントされた髪飾りをその手に持ち、殊更、いとおしげに眺める。

窓から差し込む朝日が髪飾りにちりばめられた碧い石をキラキラと輝かせる。
本来ならこんな事をしている場合では無い。時間はぎりぎりだというのに。


だが私はそうせずにはいられない。自分自身でも呆れるくらい、私の心はエレンで溢れていた。

私は髪飾りをしまうとようやく部屋を出た。階段を下り、同僚達と顔を合わせる。

申し訳程度の会釈をすると何食わぬ顔で朝礼の列に加わる。


監督役の上司の不在と、このだらけた雰囲気をみるに上官方は今日もカードゲームの徹夜明けで今頃は夢の中なのだろう。

今に始まった事でもない。安全な内地へ近付けば近付く程、人は心根を腐らせていく。

憲兵団の腐敗は私の想像を遥かに超えていた。

「あ~、アニ間に合ったねぇ。起こそうかなと思ったんだけど忘れちゃったぁ」
同僚でルームメイトのヒッチがへらへらと笑う。

私は無表情で愛想の一つもなく会釈する。

「・・・なーんかアニって感情が乏しいっていうか、生きててつまんなさそうだねぇ」
歯に衣着せぬヒッチの挑発的な態度に目を合わせずにいた。
この類いの手合いは関わるだけ面倒だ。


「おい、ヒッチ。言い過ぎだぞ」
同じく同僚で、新兵のまとめ役のマルロが間に割って入る。

マルロは少し苛つきながらも兵士とは~と持論を説く。

ヒッチはうんざりとした顔で、すごすごと退いた。

やがて矛先はこちらへ向けられる。

「アニ、お前もだぞ。上官が来てまいが定刻ギリギリは弛んでいる。憲兵としての自覚を持て」

それだけ言うとマルロは列に戻って行った。

よく言えば実直。悪く言えば融通の利かない男だ。

ギリギリ間に合った。は彼の中では認められないらしい。

それから私達は、二日酔いの上司から街の警ら、住民からの不平不満の対応といった雑務を言い渡された。

そして上司は私達に崇高な任務を与えるや迎え酒と勤しんだ。
ご立派な職務に励まれなによりだ。


同僚達はその姿を見送ると罵詈雑言の嵐を浴びせる。

私は事務的に、割り当てられた作業をてきぱきとこなす。

別に他意があるのではない。機械的にこなす方が気が楽なのだ。

ふと、エレンが居たら、どんな顔をするだろうか思ってみた。

きっと彼の事だから上司を殴り付ける勢いで食って掛かるだろう。
そして腐る同僚達に一喝し、腐敗した制度に一石を投じようとするだろう。

思わずくすりと笑みがこぼれる。
私の知る限り、エレンはまず間違いなくそうするし、たちまちその立場は危うくなる。

ほとほと安寧とは程遠い性格だ。だからこそ私は惹かれたのだろうが。


そして、そんな性格だからこそ絶えず命を危険にさらす。

私にはエレンの帰還を願うことしか出来なかった。

調査兵団の帰還の一報が届いたのはそれから数日が過ぎてからだった。

憲兵団、駐屯兵団のあらゆる支部に報告書が行き渡る。

エレンを始めとする面識のある人間はみな生還を果たしたのだ。

そして中央へ詳細な報告の為に召還された調査兵団の一行はカラネス区からストヘス区を通る。

私はエレンにまた会えるのではないかと内心、穏やかではなかった。

しかしそれは期待外れに終わった。
一行を導く任務は私に回ってはこなかった。

私に与えられた任務は、山積された書類との睨めっこに明け暮れる毎日だった。

もはや、兵士とは名ばかりの事務員だ。

同僚への応対も程々に、私は日々を忙しなく過ごす事を余儀なくされた。


そんな中、繰り返えされる調査兵団の遠征。
私はエレンが旅立つ度に波打つ心に震えた。

そして帰還を知らされる度、杞憂であった事に安堵する。

ある時、私は久しぶりにエレンと顔を合わせることが出来た。本庁へ向かう調査兵団一行の護衛任務の事だった。

ほんの一言、二言を交わしただけの会話。けれどそれで充分だった


カラネス区から始まった壁外調査は三ヶ月目が過ぎようとしていた。


そして運命の日が訪れた。

ごめんなさい、限界なので寝ます。

エッチなシーンに燃えてくださった方がいてありがたいです。

おつ。

いいわぁ

私はその日を迎える前日から微熱と気だるさに襲われていた。

連日に渡る昼夜逆転の生活と雑務に追われる日々に疲れていたのだろう。

今日を終えれば、纏まった休暇が貰える。ゆっくり休んで、羽をのばそうと思った。
そんな矢先の事だった。


夜明け前のストヘス区。私の元へピクシス指令の使いがやって来た。


困惑する私に告げられたのは調査兵団の救出作戦への参加だった。

カラネス区へ向かう馬車の中、幕を張った車内で内容のあらましが伝えられる。

調査兵団はウォールマリア奪還のルートを模索し続け、遠征の果てに新たなる拠点を作り続けてきた。

そして遂にマリアの壁へ差し掛かったところで突如として現れた大規模な巨人の群れと遭遇。

精鋭リヴァイ班の奮戦とエルヴィン団長の陣頭指揮も虚しく調査兵団は困難とされる退却戦を強いられていた。

これら一連の内容を前線に滞在していたピクシス指令に持ち帰った兵士は報告の任を終えると共に力尽きた。

早馬を昼夜問わず走らせ、馬を潰すと自らの足で駆け出し、巨人に襲われ半死半生となりながら尚もその使命を果たしたのだ。

ピクシス指令は兵士の屍を弔うと、近隣の憲兵団、駐屯兵団に在籍する対巨人の実戦経験を持つ者の召集を側近に命じた。

私も例に漏れずその声がかかったということだ。


不眠の上の戦いなどまともに動けるのだろうか?

そう思ったと同時に苦笑いする。
いつから私は民が上げるような一般論をかざすようになったのだと。

戦いなどというものは初めから万全でないからこそ戦いなのだ。
そして力を持つ者として責任を果たさなければならない。

戦士ではなく兵士として・・・

カラネス区とマリアの前に位置する開閉扉の前に敷かれた陣幕に導かれる。

即席の作戦本部に整然と並んだ兵士達。薔薇と一角獣の軍旗が風に靡く中、作戦が伝えられる。

斥候の兵による報告でエレンの無事を知ると私は胸を撫で下ろした。

しかし詳細が明るみになるに連れ、状況は決して楽観視できるものではないと知る。

カラネス区へ目と鼻の先という地点で調査兵団の殿が追走する巨人に追い付かれ交戦中と伝えられた。

疲弊の著しい事に加え背後からの襲撃。その被害が深刻である事は想像に難くない。

誰もが不安の色を浮かべる中、ピクシス指令から百十数名からなる救出作戦の先陣を切る部隊への志願を促す声が上がった。

先陣を仰せつかる切り込み部隊。

聞こえは良いが、碌に面識すら無い者同士が連携をとれる筈もない。



思わず眉をひそめる。

烏合の衆、もしくは自殺志願者と言う方が正しいのかもしれない。

だが私は迷うことなく手を挙げた。
それに続く者が数名。功名心か、自惚れか、或いは義侠心か。

こうして調査兵団の救出作戦は開始された。

壁上から壁に群がる巨人達へ容赦無い砲撃が降り注がれた。

周囲を焼き払う瘤弾の一斉掃射に轟音が響く。

残響がこだまする中、壁上に立つ物見の兵が掃討を確認した後、開閉扉が重苦しい音をたてて開かれる。

地獄の釜を開けるとはこの事だろうと私は思った。火の海と化した草原に朽ちゆく躯。

馬上から白刃を突き上げ追従する部隊へ合図を送る。

鐙を蹴ると馬は私の意思を体現するかのように嘶き、疾駆した。

焼け野原を駆け抜け草原を過ぎ、市街地へ進行した私は視覚と聴覚を研ぎ澄ませた。

遥か地平線へと目をやり、そよぐ風に耳を傾けた。

生身で扱うには過ぎたるその力が身体へ負担をかける。

眼から染み出す血を拭い頭痛を堪える。状況は斥候の報告通りだ。


こちらへ向かう土煙を上げる一群が次第に迫る。私は空へ信号弾を放つ。
後続の本体が左右へ展開する。



やがて眼前に現れた自由の翼。敗走する調査兵団は、私達の存在に気付くや息を吹き替えしたように雄叫びをあげる。

かつての仲間達とすれ違う。

クリスタ、サシャ、ジャン、そして、ライナーとベルトルト。

救援部隊の先陣を切るのが私である事に皆一様に驚きの眼差しを向ける。

視線を掻い潜った先に見える一団。
私は調査兵団の殿までたどり着くと、正面に立ち塞がる巨人に斬りかかった。

どうやら既の所で間に合ったようだ。

エレンは精鋭班と共に奮闘していた。


「アニっ!お前、何でここに!?」
気付いたエレンが叫ぶ。視線が絡み合う。


悲痛な姿のエレンに目を覆いたくなった。息も絶え絶えな土気色の顔色で頬を痩けさせている。
ここに来るまでの間に何度も巨人の力を使ったのだろう。

私はエレンに話は後だと目で訴える。

エレンの横に立つ鋭い眼光を放つ男。彼が噂に聞くリヴァイ兵長なのだろう。

傍らのアルミンとミカサの存在を確認出来た。


一瞬の間を置いて切り込み隊が玉砕覚悟で巨人の群れに斬りかかった。

続いて左右から後続の本体が合流する。


戦いの場は倒し倒されの乱戦となった。やがて機を見計らい放たれた退却の煙弾が立ち上る。

本懐は遂げられた。長居は無用だ。

私は馬首を返すとエレンの方へと目をやる。

立体起動で空を舞い、15メートル級の巨人へ斬りかかるエレンの背後にもう一体の巨人が見える。

誰もが退却に気をとられその存在に気付いていない。

私は目を見開き飛び上がった。

手持ちの刃を使い果たした私に出来る事は一つしかない。

巨人となる事も考えた。けど選べなかった。エレンにだけは禍々しいその姿を見せたくなかった。

ガスを全開で吹かし空を駆け抜ける最中、様々な情景が走馬灯のように浮かんでは消えた。

初めての出会い。伝えられた想い。二人で歩いた街並み。解散式。結ばれたあの夜。

巨人を倒し宙で無防備になるエレンに迫る新手の巨人。

私はエレンを突き飛ばした。そして私の身体に衝撃が走った。

景色がこま送りのように揺れ動く。
腕どころか指一本、動かすことが出来ない。

巨人の一撃が私の身体を薙ぎ払い虚空へ舞い上げる。

視界の隅にエレンが駆け付けたリヴァイ兵長とミカサに力づくで拐われて行く姿が見える。

エレンは声にならない叫びを上げながらその身を傷付けている。

現実は非情だった。気力のみでその身を支えていたエレンは立ち上がる事さえままならない程に消耗していた。

全軍が決死の退却へ急ぐ中、私の口から吹き出した血が飛沫となり、風に流された。

わかっていた。自分が綺麗なままで生きていけるはずが無いと。


生まれた事への呪詛。人間への失望。生きる事に意味も価値も無いと思っていた。

そんなからっぽの私にエレンがくれた物は私の心を締め付け、苦しめ・・・温めてくれた。

エレンを愛し、そしてに愛されるために私は生き永らえてきたのだと今になって思う。

私は既に欲しかったものを手にしていた。


人類を滅ぼす事で希望を見いだそうとした『彼等』に手を貸したわけでは無い。

だが、結果として多くの命が奪われた。加担したも同然なのだ。
これはきっと、神様が私に与えた罰なんだろう。人でありながら人に在らざる私への・・・



――ごめんなさいエレン。あなたとの約束、守れない――


途切れゆく意識の中、私の目に悲しい程に碧く澄んだ空が映った。



to be continued

続きは明日か?
とにかく乙

ちょっと~~切なすぎんよ~~~


いつも読んでくださってありがとうございます。

明日か明後日には完結の予定です。

切ない。期待

まて。
ほんとまて


期待

このアニは幸せになるべき

おはようございます。

本日の分は2回に分けて投下します。

~elen side~

身体が動かない。鉛のように重く冷たい。

馬車の荷台に揺られる俺は突っ伏したまま、アニの名を繰り返し譫言のように呟いていた。

混濁しながらも途絶えない意識。力尽きたこの身体は身動き一つ許してくれない。
舌を噛みきる事すらままならなかった。

巨人の手に落ちようとした刹那、アニは危険を省みず俺の命を救った。
その身を代償に・・・

目から止めどなく流れる涙が熱い。

カラレス区の開閉扉を越えた所でようやく俺の意識は途切れた。

ぷっつりと落ちるように。

その後、誰も彼もが慌ただしく諸々の作業に追われる一日を俺は馬車の荷台で過ごした。

死亡者や行方不明者の集計から始まり破損、消失した装備や備品の確認作業に疲弊した兵士達は目を回した。


意識を取り戻すや否や、アニの捜索を嘆願した。独りでも俺はそうするつもりだった。

そんな俺の胸中を見透かしたように、リヴァイ兵長は、俺を散々に痛めつけた後、猿轡をかけ手足を縛り上げたと思うと荷台へ放り込まれた。

「今のお前にゃそうしてるのがお似合いだ」吐き捨てる兵長はさっさと戻っていった。

自分がどれだけ無謀で途方の無い戯言を吠えているのかは自身でも承知していた。

巨人の一撃をその身に受けたアニが生きている筈も無い。誰の目にも明らかな致死の打撃だった。

よしんば生きていたとしても、手負いの身で馬を呼べるはずもなく、自力で巨人の群れから脱する等、現実的ではない。

縛り上げられた俺に出来る事は何一つ無く、ただ自らの無力を呪い、咽び泣くことしか出来なかった。

母さんの命を奪われた時と同じだ。
俺は、また大切な人を喪った。その無力の為に・・・


夜、誰かが荷台へ乗り込んで来たと思うと俺を強引に引き起こした。


手に持つ松明が眩い光を放つ。その正体は、同じリヴァイ班に属する先輩のオルオ・ボザドだ。

「ったく、無様な格好晒しやがって」

オルオさんは俺の猿轡に手をかける。

「おう、エレン。今からこの猿轡を解くが舌を噛んだり、逃げ出したりしないと誓えるか?・・・最も、俺ぁお前の言葉を信用するしかできないんだけどよ」

俺は静かに頷いた。冷静さを取り戻した。と言うよりはアニの後を追う気力すら無くしていたと言う方が正しいのかもしれない。

「よっしゃ、んじゃ縄を切るから大人しくしてろよ?」
オルオさんはそう言うとナイフを取り出し、猿轡を力任せに切り落とした。

続いて、後ろ手と足にかけられた荒縄にもナイフを向ける。

ようやく俺の身体は解放された。猿轡の跡が残る口元をさする。

「シケた面してんじゃねえよ!」
ぶっきらぼうに怒鳴りながら俺に何かを差し出した。

酒瓶だった。

ぽかんとする俺に向けられた瓶からは猛烈な酒の匂いが放たれる。
相当きつい酒だとは容易に想像がつく。

「ごちゃごちゃ考えてねぇで、とっとと飲みゃあいいんだよ!」

強引に瓶を押し当てられると有無を言わさず酒を流し込まれた。

喉がやけつくように熱い。思わず吹き出す。

「あーっ!このばっきゃろう!幾らすると思ってんだ!!」

オルオさんの罵声が飛ぶ。だけど普段の先輩らしくない。

乱暴な態度だが、それはどこか優しげだった。

「ったく、勿体ねぇ」
オルオさんはぶつぶつ言いながら、残りの酒をぐびぐびと音を立ててあおる。

「くっはあああ!!こりゃ美味ぇ!」感嘆の雄叫びを挙げながら、どっかりと俺と向かい合う形に腰を下ろした。

物怖じする俺を見ながらその口を開く。


「いい仲間を持ったな」

俯き加減の俺がハッと顔を上げる。

「お前の同期の奴等だけどな、ありゃ揃いも揃って馬鹿ばっかりだ。自分達も多かれ少なかれ怪我してやがるのに、口を開きゃあエレン、エレンってよ」

酒瓶を空けたと思うと懐から新たな酒瓶を取り出した。

「話は聞いたよ。大切な女を喪ったんだってな」

目頭が熱くなる。俺は答えずにいた。

「いいか、エレン。お前が喪った者の辛さだとか、悲しみだとかを分かる事は誰にも出来ねぇ。ま、分かった所で俺の知ったこっちゃねぇけどな」

思わず飛び掛かろうとする俺を制止しながらオルオさんは続ける。

「だがな、今回の遠征でもそうだが、これまで死んでいった者の殆どの奴等にゃ、お前にとっての大切な女と同じ位に家族だの、恋人だの、友が居たんだよ」

至極まっとうな言葉が心臓を鷲掴みにするようでどきりとした。

ちゃんと先輩してるオルおさん

「いいか、俺もお前もちっぽけな人間に過ぎやしねぇ。お前の持つ巨人の力を抜きにしなくてもだ」

「だがな、生きている以上、俺達は戦わなきゃならねぇ。それがどれだけ危険な代物だろうがだ」

俺は瞬きすら惜しむようにオルオさんの目を見る。

「お前を守る為に女に命を捧げさせたんだったら、そいつの為に生きて戦いやがれ!泣きべそこいてる暇なんざねぇぞ!」

吐き捨てたと思えば一息に酒を飲み干した。

顔色が忽ち青ざめる。無理をして飲めない酒を呑んでいるのだろう。

「あぁ、くそ!お前がウジウジしてやがるからぶん殴って目ぇ醒まさしてやろうと思ったのに、柄にもねぇこと言ったから悪酔いしちまった」

オルオさんは相変わらずの悪態をつきながら胸元のポケットから四角いブリキの箱を開けると煙草を取り出した。

口にくわえると松明に先を近付ける。
先端に紅い火がぼうっと灯ると共にちりちりと音が聞こえる。焦げ臭い。


「どわぁ!!おっ、俺のダンディな前髪がっ!チクショー!」

前髪を少し焦がした滑稽な先輩に思わず吹き出す。
正直、兵士ではなく、三枚目の役者なら大成するんじゃないかと失礼とは思いながらも妙に納得がいく。

たっぷりと吸いこんだ煙を顔に吹きかけられる。

オルオ△

煙草の濃い煙に思わず顔をしかめる俺にオルオさんが吸いかけの煙草を差し出す。


「吸え。こんな時位、吸っちまえ」


「頂戴します」
そう言った俺は初めての煙草を目一杯、肺に吸い込んだ。そして案の定、思いっきり噎せ返った。



「お前の面見てたら分かるよ。本当に好きな女だったんだな」
不意に呟いたオルオさんの何気無い一言がアニを思い出させた。


溢れる涙がどうにも止まらない。

「ったくこの青二才が。煙草の煙が目に入った位で泣くんじゃねぇ!」

見え透いたそんな言葉に今だけは甘えようと思った。

月の光は優しく辺りを照らしていた。


脳裏に浮かぶいつかの日々。頭の中で浮かんでは消えゆく。

共に歩いた街並み。初めてのキス。ささやかなプレゼント。結ばれた夜。そして俺にしか見せない笑顔。

二度と戻らない冷たい現実を俺は受け入れようと泣いた。

夜明けを迎えてから俺は、真っ先にエルヴィン団長とリヴァイ兵長の元へ向かった。

深々と頭を下げ、全体の士気を身勝手な感情から疎かにした事、そして今後の忠勤に身命を尽くす事を宣言した。

泣き腫らした赤い目に何かを感じ取ったのかそれ以上は追求される事はなかった。

そして仲間達と顔を合わせると俺は、気丈に振る舞った。

――この心の傷が癒えるのはずっと先だろうし、もしかしたら永遠に癒える事は無いのかもしれない。

それでも俺は、人類は前に進まなければならないんだから――

それから俺を含む調査兵団の面々はウォール・シーナの中央へ向かい、報告の地へ足を進めた。

ウォール・マリアへ遂に到達し、残すはシガンシナ区と言う所での敗戦に肩を落とす人がいれば、それ見たことかと息を荒げる人もいる。

しかし、それらの質疑応答に団長も兵長も凛とした対応で臨んだ。

毅然とした態度が幾ばくかの波紋を呼んだが調査兵団はシガンシナ区遠征の任の続行を許された。

これまでとは比べ物にならない多くの報告業務の為、ウォール・シーナに滞在する事が一月を超えたあくる日、一人の憲兵が俺を訪ねてきた。

残りは晩に投下します。8時位には再開します。

毎度、毎度の乙と支援ありがとうございます。リアル豚小屋(畜産業)出身の自分には過ぎたる光栄にございます。

おつでした

くそう、悲恋で終わっちまうのか・・・?
こんな残酷な世界でもアニは報われないのか・・・?

進撃!巨人中学校を読むと幸せになれるよ

期待
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4336101.jpg


遅くなりました、再開します

年の頃は俺とそう変わらないであろう憲兵はストヘス区の憲兵団所属のマルロと名乗った。

ストヘス区と言えばアニが配属されていた地区だと思い出す。

ここ数日はその忙しさと仲間達との日々にようやくアニの死をゆっくりと受け入れて来れた、そんな矢先の訪問に俺は眉をひそめる。

マルロは俺に一枚の書類を手渡した。

アニの戦士報告書と兵籍の抹消の通知に目をやる。

翌日、俺は団長の許しを受けストヘス区の憲兵団支部の一角にある女子寮を訪ねた。

マルロは支部の入り口で俺の姿を見るや、案内役を請け負ってくれた。

「遺品の整理ですが、ベッドの側にある個人用クローゼットに有る物が全てです。又、お持ち頂けない物に関しましてはこちらで全て破棄させて頂きますのでご了承下さい」

道中の説明は事務的そのものだったが俺は彼が気遣ってくれている事に感謝した。

ある時、思い人がいる。とアニにしては珍しく口を滑らした事が発端だったとマルロは言った。

それから彼はあらゆる伝を頼り、俺を探し当てたと言うのだから頭が上がらない。

「失礼ですが、興味があったんです。アニはその、あまり他人と打ち解けるタイプじゃなかったので・・・」

マルロは少し罰の悪そうに弁明する。

静まり返る建物の階段を登り、少し歩いた先でマルロは立ち止まった。

「こちらがアニが暮らしていた部屋です」

そう言いながらドアを開け、中へと招かれる。

「自分は他の業務が有りますので一旦失礼致します。一時間程で戻りますのでご容赦ください」

マルロはさっさと戻っていった。

ぼうっとした面持ちで部屋を見渡す。

簡素な二段式のベッド。小さな机。訓練兵時代を彷彿させる。
微かにアニの匂いが幽霊のようにふわふわと漂っていた。

窓のカーテンを開けると眩しい陽射しが、しんとした部屋に暖かさを与える。

bgm置いておきます。
イメージがよく合っていたので
http://www.youtube.com/watch?v=g7bzev0ggg0&list=plc6404b5c5467f869


俺は思い出したかのようにアニのクローゼットを開けた。

折り目の着いた何枚かの洋服。制服は既に引き取られたのだろうか、ただの一着も無い。

洋服を手に取り、抱き締める。

鼻孔を擽るアニの匂いを感じる。ただそれだけで傍にいれた気がした。

ふと隅に置かれた鞄に目をやる。

片手でひょいと持ち上げられる程軽いが何かしら入っている事が取れる。

壊れ物を扱うようにそっと取り出し、机の上に置く。

最初で最後のプレゼントになってしまった髪飾りを見つけ、手に取る。

窓から射し込む光を浴びてアイオライトが碧く輝く。

この髪飾りは二度と戻らない主の帰りをこれからもずっと待つのだろうか。

そう思うと薄寂しい気持ちになった。

髪飾りを懐に仕舞いこむと、鞄の底に手を伸ばし小さな紙袋を掴む。

袋の中から布切れと封の破られた一通の手紙が姿を現した。

消印の日付は二月前。差出人の名を見るとそこには内地のとある医院の名があった。

どこか怪我をしていたのだろうか?

そう思いながら何枚かの便箋を取り出し目を向けた。


身体が引き裂かれたような衝撃に俺は呼吸を忘れた。



――アニ・レオンハート様

先日の検査の結果をここに通知致します。



血液検査、尿検査、精査の結果、妊娠を確認――



――本通知書と同封の認知書に父母の署名と押印の上、次回検査時にご持参して頂き――


俺は文章を全て見るよりも先にもう一枚の便箋を捲った。

――母 アニ・レオンハート――

――父 エレン・イェーガー――


アニの筆跡で書かれた二人の名前。


記憶の奔流がいつかの景色を思い出させる。

消印の日付の数日後、俺は内地へ報告に向かっていた。
そしてアニはその護衛任務で俺と顔を合わせていた。

ほんの一言、二言の他愛の無い会話の最後――

「ねぇエレン、私・・・ううん、なんでもないの・・・」

何か言いたげなアニは声を押し殺し笑って見せた。

震える手を無理矢理抑え込む。

心臓の鼓動は激しく締め付けるような痛みを覚えた。

俺は紙袋の中身に手をやる。
小さな布切れを手にした。タオルか何かかと思い引き伸ばす。


俺の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。




それは赤ん坊の肌着だった。



アニの顔を思い出す。
どんな思いでこの服を買ったのだろうか。

おい




おい……

アニなら周りが引き上げた後に巨人化して治癒してる可能性あるよね、とか思ってたのに……

寂しく悲しい笑顔が再び浮かんだ。

俺はアニが身籠っていた事実を今になって漸く知ったのだ。

アニは何度も俺に伝えたかったに違いない。そしてその度に俺の邪魔をしまいという気持ちがその心を挫いていたのだと。

何度も何度も・・・


「・・・畜生・・・!!」

俺は腹の底から叫んだ。
獣の断末魔のような雄叫びを上げると足下の床を殴り付けた。

二度目で拳が裂け鮮血が吹き上がる。
三度目で拳が砕ける音がした。

失神するであろう激痛。意に介さず、今度は額を打ち付ける。

異変に気付いたマルロが額を割り、血まみれの俺に仰天しながらも羽交い締めにする。


――どうして俺はこうなんだ。俺はアニと約束を守るどころか、その命も、心も――

喪われたアニとその身に宿った小さな命の重さ。
崩れる俺は意識を失った。


覚めない眠りにつく事を願いながら。

ストヘス区のアニが過ごした部屋での一件からほんの少しの月日が流れた。

あの日、半狂乱となった俺がしでかした事件でマルロは同僚達に頭を下げ、なんとか事は穏便に済まされた。

勿論、俺が再び自暴自棄になったのは言うまでもなかった。

だが、俺はその想いを胸に秘めた。
俺の為に多くの人が命を捧げた。今はその命に応えなければならない。

それが俺に出来る弔いだからだ。


そして今、カラレス区から俺を含む調査兵団の面々が多くの人に見送られながら壁の外へと馬首を進める。

アニ・・・(´;ω;`)
エレン・・・(´;ω;`)

俺を挟むようにライナーとベルトルトが見合わせる。


アニの死を知ってから二人は俺を呼び出すと敬礼を向けてきたのだ。

―自分達のしてきた事を今更、詫びる事は出来ない。時期が来たら全てを話す。だから今は俺達の命を使ってくれ―

そう言うとライナーは俯いた。渇いた地面にぽつぽつと染みを作る。
ベルトルトは背を向けると肩を震わせていた。

…こらキツイわ

俺は詮索をする事を止めた。

アニの死が俺と同じくらい何かを変えたんだろうと思った。
だから二人の思うようにしてくれればいいと言った。

何よりこの二人が一緒に戦ってくれるという事に武者震いすら起こした。


ミカサやアルミン達の班と目配せをする。

ジャンとコニーは前衛の班だがあいつ等ならどんな戦地だろうと生き延びるだろう。

(´;ω;`)

音楽合うね…

開閉扉をくぐり抜けた所で鐙を蹴る。

愛馬は俺の意志を敏感に察知すると駆け出した。

心地よい風に目を閉じる。
アニに想いを告げたあの日と同じ涼やかな風だ。

そんな思い出がアニの息遣いを一瞬、思い起こさせる。

結ばれた首飾りに目をやり、なんともいえない気分になる

「エレン!護衛は俺とベルトルトに任せて居眠りしてるんじゃねぇぞ!」
ライナーの発破に思わず目を開け苦笑いする。

「まあまあライナー、今回はエレンの生家まで向かう長旅なんだ。少しでも体力を温存してもらわないと」
ベルトルトがライナーをたしなめる。

前を行くリヴァイ兵長率いるリヴァイ班の面々は二人の会話にあきれ笑いを隠しきれない。

馬の速度を落として俺に近付くリヴァイ兵長が横並びに迫る。


「お前が救われた命、今度は失う事無く活かせ」


それだけ言うと兵長は元の位置へと戻って行った。



――この世界には多くの謎がある。だからって、立ち止まってどうする?残酷な運命があるのかもしれない。それでも人は新たな世界を見ようとしている。
だから俺は前を見て歩いていこう。いつか夢見た世界の果てを目指して――


アニ、いってくるよ――

~epilogue~

壁上から出陣する調査兵団を見下ろす。

多くの人々に見送られるその勇壮な様は人類の希望を一身に引き受けていた。

「いいのかい、本当に会わなくて。今回はシガンシナまで行くんだ、長い旅になるよ」

ユミルがそう言った。
くすりと笑いながら首を横に降った私は当時を思い返す。

巨人の一撃を受け、大地に叩きつけられようとした刹那、ユミルが馬上から私を抱きとめてくれたのだ。


即死を免れた私は意識を失う直前にどうか私の死を偽装してくれと口を動かした。

騒音にかき消されるか細い声。
彼女は唇を読み、私の願いを叶えてくれた。

彼女曰く、「すれ違った時のあんたの顔は死相が出ていた。最初は知ったこっちゃないと思ったのに自分でも気付かない内に、巨人の群れが迫る殿へ引き返していた」

奇跡か幸運か、私は救われたのだ。

驚異的な生命力と回復力を見せる私の正体に気付いたユミルは自身の身の上と、その正体を打ち明けた。

「あの時、あんたを助けに引き返した訳のわからない理由はそう言う事だったんだね」

ユミルは私に負けず劣らずの合理主義だ。
それを曲げてまで取った自分の行いとその結果に合点がいくのか、その表情は素直なものだった。

どちらにせよ私はその身に秘めた力によって命を繋いだのだ。

皮肉ではあるが、私が死を偽装してくれと望んだのはそれが原因だ。

誰の目にも明らかな致死の一撃を受けて無事に生きていたとなると話しは別だ。

切れ者や知恵者揃いの調査兵団が私の正体に気付かない訳がない。

正直に告白し、エレンと共に戦う道もあるのかもしれない。

だが、その力に懐疑を抱く者も決して少なくない。

いたずらに刺激してしまうわけにはいかないのだ。曖昧な形にはなるが、人類にとっても、私にとってもそれが最善だと思った。

「命短し、恋せよ乙女・・・か」

思いにふける私を現実に連れ戻したユミルの一言。

彼女は思い出したかのように続ける。

「あ、あんたの場合は恋よりも愛だったね。」

そう、私はエレンを愛していると同時に恋をしている。
今も、そしてこれからも・・・

満更でもない表情の私にユミルはぽかんとする。

「あんたのそんな顔、初めて見たわ」

そう言われ少しだけ照れくさくなる。

「さあて、私はクリスタと一緒に後詰め部隊だ・・・ぼちぼち出発の時間だね」


懐中時計を見ながらユミルは私達に一瞥をくれると立体起動で自らの戻るべき場所へ戻って行った。

開閉扉を過ぎた兵士達は土煙をあげ、馬を走らせる。

私はそれらを見送るとそっと目を閉じる。

小鳥の囀り。木々のざわめき。そして人々の息遣いに耳を傾ける。


不意に傍らで寝息をたてていた赤子が目覚め、のびをする。
まだ薄いが、父親譲りの黒髪が風にそよぐ。

私は赤子の頬をいとおしく撫でる。

「今日はいい天気ね」

そんな私の言葉につぶらな瞳が不思議そうに向けられる。

私はにこりと笑いかけると碧い空を見上げた。

全てが終わったその時こそ、エレンに打ち明けよう。

・・・そして、私の全てを彼にささげよう。




――エレン、あなたに出逢えてよかった――




アニ・・・(´;ω;`)
エレン・・・(´;ω;`)
ユミル姐さん(´;ω;`)



くぅ~疲なんたらかんたら

やっぱアニに退場してもらえませんでした。楽しんでいただけたら幸いです。
たくさんのコメント、ほんとありがたいです。

乙!(´;ω;`)乙!

おわった……乙でした

よかったです。乙。

あれ...
目から汗が...?

ハッピーエンド厨の俺にはモヤモヤした終わり方だった
でも良かった。何この気持ち

いつの日か全てが終わって平和になった日に、エレンがアニと再会して
自分の子供を抱く場面を妄想しても良いよね...

>>237
もちろんだ

スゲー悲しいよな。幸せな家庭も書いてほしいと願いたいよ

結果的にアニの行為がベルトルトとライナーを変えた。
エレンとアニが幸せに暮らせるのもそう遠くない話だろう。

>>237
それは>>1にその事を書けと言う話でしょうか?

1乙!!

>>237
俺的には十数年後に人類最強を継いだエレンが、たまたま立ち寄った訓練兵団入団式で
自分の子供と互いを知らないまま出会ってしまうシーンが思い浮かんだ。

>>241
勿論そうして欲しいが無理は言わないさ・・・

>>242
それもなかなか良いな
エレンはアニ譲りの格闘術を見て自分の子供と気付く、みたいな
何故かエレアニの子供として、黒髪で青い目の、マザコン寄りの男の子を想像してしまったw

ここにまた一つの名作か生まれた...

>>242
結局アニとあえねぇんじゃん……

これ続編はないのか?

乙!ここで終わるのは美しすぎるが続編を求めずにはいられない。

>>245
会えないけど、同じ世界に生きてるという事実だけで
エレンの見ている世界はきっと美しくなると思うんだ。

これはこれで綺麗に終わっているので(>>242みたいなの書いてるけど)、
個人的には続編は蛇足かなぁと思う。

>>248
アニが生きてるって知らないんだからエレンは「同じ世界に生きてる」とか思えんだろ

まぁss的には綺麗な終わり方だと思うが、エレンの立場で考えると辛いものがある

>>249
ああ悪い。
>>242を書いて>>243を踏まえた上での>>248だと思ってくれ。
間接的でもアニが生きていると知れば、
例え(今は)会えなくても希望はあるんじゃないかと思えるんだ。

長いけど、これはまとめられて他の人にも読んでもらいたいなぁ。

続編を期待したいがこれで終わりでもいいかも

>>250
あぁ、なるほど納得

でも子供の立場からしたら、教官だと思ってた人が実は親父とか気まずいなww

こんなにコメントを頂戴するとは・・・

エレンとアニの物語はこの先、幸せな結末を迎えると願ってあげて頂ければと。

機会があれば同時期のベルトルトとライナー視点の物語も書いてみたいなーと思っております。

待ってる

ベルライ視点期待

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