錬金術師「俺は医者じゃないんだよ」(56)

錬金術師「まして、便利屋でも神でもない、覚えておけ」

青年「そんな!僕の婚約者の病は…医者も手の施しようがないって言ってるんだ!奇跡を起こせるのは…あんたしかいないんだよ!」

錬金術師「さっきから言ってるだろう。医者が無理なら俺も無理だ。金を積んだってダメだ」

青年「…くっ!もういい!」バタン

錬金術師「やっとアトリエが静かになるな」

錬金術師「全く、こっちは兵士の痛み止め作りがあって忙しいというのに」

錬金術師「この素材なら…いや、こっちか」

青年「錬金術師さん!」ガチャリ

錬金術師「またお前か」

青年「僕は決めたんだ。なんと言われようと、彼女を治せる薬を作ってくれるまでここから動かない!」ドサッ

錬金術師「迷惑な奴だな」

青年「…………」ジッ

錬金術師「わかった、わかったよ。作ってやるよ」

青年「本当に!?」

錬金術師「ああ、ただし、素材はお前が集めるんだ」

青年「もちろん、それくらい…」

錬金術師「人間の心臓だ」

青年「えっ…」

錬金術師「しかも、死後一時間以内のな」

青年「そ、そんな!心臓なんて…」

錬金術師「医者も治せないなら、難病中の難病だ。病が蝕むより早い再生力を与える薬を調合するなら、人間の心臓が必要だ」

青年「……」

錬金術師「うなだれてる場合か?」

青年「わかった…行ってくる」バタン

錬金術師「やれやれ…今度こそ静かになるな」

錬金術師「あの青年が心臓を手に入れるような度胸があるようには思えないがな」

青年「錬金術師さん」ガチャリ

錬金術師「ずいぶん早かったな…と、その車椅子の女性は?」

青年「僕の婚約者だよ…もう、口もきけないほど弱っている」

錬金術師「で、素材は手に入ったか?」

青年「僕の心臓を使ってくれ」

錬金術師「ほほう…本気か?」

青年「……」コク

錬金術師「婚約者が悲しむぞ」

青年「僕の分も、幸せになってほしいから…」

錬金術師「お前のエゴでしかないな」

青年「良いんだ。僕は彼女を失うのが、一番怖いから…」

錬金術師「わかった。この睡眠薬を飲め。痛まない方法でやる」

青年「…僕の心臓で、彼女は元気になるんだ…僕の分まで、幸せに生きてくれ…」ゴクッ

青年「…くっ…」バタッ

錬金術師「かなり疲弊していたようだな、ただの砂糖水で眠るなんて」

錬金術師「青年、お前の覚悟は無駄にしない」ザクッザクッ

錬金術師「出来たぞ…」

しばらくして…

錬金術師「血なまぐさいアトリエを掃除するのに一週間かかってしまったな」

錬金術師「全く、これでは痛み止めの納期に間に合わん」

青年「錬金術師さん!」ガチャ

錬金術師「なんだ騒がしい」

青年「彼女も元気になって…無事に結婚式も行えるようになりました!」

錬金術師「ほう、良かったな」

青年「でも、僕はこの通り生きているし、僕が寝ている間に、一体どんな事をしたんですか?」

錬金術師「今は戦時中…そこらの兵士の死体から少しばかり…な」

青年「そ、そうですか…おかげで助かったんだ、その兵士さんに感謝しないと」

錬金術師「ま、今時代に式が開けるのは富裕層だけだ。俺は金持ちは嫌いなんでね、さっさと帰りな」

青年「いや、でも、何かお礼を」

錬金術師「いいから帰れ、仕事の邪魔だ」ドン

青年「うわっ、…分かりましたよ、でも必ずお礼はしますから…」

錬金術師「好きにしろ、ただし俺が暇な時にな」

錬金術師「この薬草が一番効果的か…ならこの素材と」ブツブツ

第一章 終

第二章

兵士「失礼する、錬金術師殿」ガチャ

錬金術師「待ってたぜ、これが例のブツだ」

兵士「…誤解を招くような言い方はやめていただきたい」

錬金術師「素材は用意してあるな?」

兵士「ええ、こちらが」ドサッ

錬金術師「確かに…約束通りだな」

兵士「それでは、今後ともよろしくお願いいたします」ガチャ

錬金術師「これだけあれば、研究もはかどるな」

錬金術師「…さっきからコソコソしているのは誰だ」

少女「…!」

錬金術師「いるのは分かっている。硫酸を浴びたくなきゃ出てこい」

少女「ご、ごめんなさい」

錬金術師「子どもじゃないか。何の用だ?アシスタントは募集していないぞ」

少女「ち、違うの…お父さんが…おかしくなったから…助けてほしくて…」

錬金術師「そういう事は医者に言ってくれ…近頃、そういう輩が多くて困る」

少女「ううっ、うわぁーん!」ボロボロ

錬金術師「ええい、うるさい!わかった!お前の父親の場所へ連れていけ!」

農村にて…

錬金術師「馬車で3日かかるとはな、とんだ田舎まで連れてこられたものだ」

村人達「あぁー」ズリズリ

錬金術師「なんだこの光景は…獣のように這いずって…まるでゾンビだ」

少女「わからないの…みんな、こうなったの…はじめは、一人だけだったのに」

錬金術師「感染するのか?医学の知識は多少あるが…こんな病は見聞きしたことがない」

少女「お父さんは、こっち」

錬金術師「この家か」ガチャ

少女の父「あぁぁ…」

錬金術師「…おい、みんなこういう状態か?」

少女「そうなの…」

錬金術師「詳しく調べる必要があるな。食物はなにを摂取したか…土壌、水源に、こいつらの血液の成分と…」

少女「??」

錬金術師「数日はかかるな…お前は俺のアトリエに行ってビーカーを取ってきてくれ」

少女「私、アシスタントじゃないよ?」

錬金術師「チッ、生意気な…父親を治して欲しくないのか?」

少女「チェッ、いじわる…行ってくる」

数日後…

錬金術師「この井戸が水源か…ん?」

少女「取ってきたよ」

錬金術師「悪いな」

錬金術師「ほお…ようやく分かったぞ…井戸水の寄生虫が原因だ。寄生した生き物の脳を蝕むようだ」

少女「?…それって治せるの?」

錬金術師「………ん、ああ」

少女「ほんと!?」

錬金術師「しかし、お前に寄生されていないのが不思議だ…この村の出身なんだろう?」

少女「そうだけど、私は街に出稼ぎに行かされてるの。あまり村には帰れないの」

錬金術師「そうか…だからか…」

少女「それより、治せるんでしょ?お父さんを…」

錬金術師「治せる。だが…」

錬金術師(症状がここまで進行していると、あれを使うしかないか…)

錬金術師「もし、治らなかったり、治ったとしても…元の生活が出来ないかもしれないが、いいか?」

少女「うん、いいよ。今より酷くならないなら」

錬金術師「年の割にしっかりしているな…では、薬を注射する。外で待っていてくれ」

少女「うん」

翌日

少女の父「あなたが村を救って下さったのですね!ありがとうございます!」

錬金術師「思ったより回復が早かったな…それより、あんたの娘は行動力があって優秀だ。俺のアトリエで働いてもらいたい」

少女の父「ええ、いいですとも!」

少女「アシスタントはいらないって言ったよね?」

錬金術師「まだ報酬は貰ってないぞ?体で支払え」

少女「いじわる」

錬金術師「行くぞ」

少女「じゃあ、お父さん!またね!」

少女の父「ああ、しっかりやれよ。錬金術師さん、娘をどうかよろしくお願いします」

錬金術師「任せておけ。馬車に乗るぞ」

錬金術師(あらゆる生物をジワジワと殺す薬を井戸に放り込んだ)

錬金術師(村人には直接注射し…寄生虫ほどのサイズなら1日で死滅…人間なら持って数週間か)

錬金術師(どのみち、寄生虫に侵されているあの村はダメだったんだ。あのままにするより、俺の手で滅ぼした方が良かったろう)

錬金術師「…俺のエゴなんだろうがな」

少女「どうしたの?」

錬金術師「いや…」

錬金術師(この子の面倒を見ることが、罪滅ぼしになるかな)

第二章 終

第三章

錬金術師「素材の買い足しに行ってくる」

少女「はーい、留守番してるね」

錬金術師「…」スタスタ

錬金術師「待てよ、あいつに買いに行かせれば良かったか、失敗したな」

町人男「おい、見たか?この号外」

町人女「ええ、物騒よね」

錬金術師「新聞がばらまかれているな。紙資源の無駄だよ」ピラッ

錬金術師「なになに…」

錬金術師「切り裂き魔現る、か…フン、関係無いな」

素材屋「いらっしゃい」

錬金術師「…ん?珍しい素材があるじゃないか」

素材屋「ええ、最近仕入れました」

錬金術師「それを頂こう」

素材屋「毎度あり!」

錬金術師「戻ったぞ…何だこれは!」

錬金術師「アトリエが滅茶苦茶だ!何もかも切り刻まれている!」

錬金術師「!?手紙が落ちているぞ」

「お前の愛しい子は預かった。今のアトリエみたいにされたくなければ、夜中に町外れに来い。…お前に人生を狂わされた者より」

錬金術師「ほう…この俺とやるつもりか」ビキビキ

錬金術師「幸い、薬品は無事だな…」

町外れ…

錬金術師「お前か…アトリエを滅茶苦茶にしてくれたアホは」

女「フン、お前は私の人生を滅茶苦茶にしたろう」

錬金術師「覚えがないな」

女「お前が私の恋敵の病を治したろう!」

錬金術師「意味が分からない」

女「黙れ!あの日から、各地の錬金術師を斬り刻んできたがようやくお前であることを突き止めた」

錬金術師「早口言葉か?…落ち着いてくれよ」

女剣士「覚悟しろぉ!」ジャキッ

錬金術師「やれやれ、言葉が通じないとは。同じ人間なのか疑わしい」

女「うおおぉ!」ドドドド

錬金術師「そらっ」ポイッ
バシャッ

女「うおっ、何だこの水は!鎧が錆びて…動けん!」

錬金術師「なあ、切り裂き魔ってお前だろう?それと、助手を返してくれないか?今なら牢に入らないで済むぞ」

女「くそっくそっ!」

錬金術師「おい、聞いているか?」

女「動けぇぇ!」

錬金術師「おい」

女「ぬぅああああ!」

錬金術師「…」ブチッ

錬金術師「オラァッ!」バキッ

女「ぎゃっ!」ドサッ

錬金術師「お前のエゴに付き合ってられないな…力ずくで吐いてもらおうか」ゴゴゴゴ

女「ひっ」ガタガタ

翌日

少女「錬金術師さん、頼まれた素材と新聞買ってきたよ!」

錬金術師「悪いな、どれ」パサッ

錬金術師「切り裂き魔公開処刑、か」

錬金術師「殺人と誘拐を犯しているからな…当然と言えば当然だ」

錬金術師「しかし、前に面倒を見てやった青年のストーカーだったとは」

錬金術師「逆恨みとはまさにこの事だ」

錬金術師「ま、お前が無事で良かったがな」

少女「え?」

第三章 終

その言葉が聞きたかった!って言いそう

少女がアッチョンブリケって言うんですね

第四章

錬金術師「はかどらないな、全くはかどらない」

少女「錬金術師さん、お客さんがー」

錬金術師「追い返してくれ!怪我や風邪なら町医者に見てもらえと伝えろ!」

少女「あっ、窓から入ってきた」

貴族「やあ、錬金術師」

錬金術師「チッ…窓から侵入してくる知り合いはいないぞ」

貴族「いや、君みたいな人にぴったりの、ちょっとした儲け話を聞かせてやろうと思ってね」

錬金術師「どうせろくでもない話だ」

貴族「どうかな…まあ聞き流してくれて構わないよ」

少女「私は知りたいな。錬金術師さん、お金になること全くしないんだもん」

貴族「お嬢さん、物分かりがいい。…実は私の祖父も錬金術師でね。今は亡くなったが…素晴らしい才能があったよ。そう、君よりね」

錬金術師「…」

貴族「祖父は、ただの石を金に変えてしまう、正真正銘の『錬金』が出来たのさ」

錬金術師「ほほう、そうか!それでお前ら親族は金持ちって訳だ!自慢話はもう結構!帰るんだ!」

貴族「まあ待て。最後まで聞いてくれたまえ。祖父は金を作るための調合書を残したのだが、私や、そこらの錬金術師じゃ全く解読できない」

貴族「そこで、祖父ほどではないが優秀な君に、調合書を使って錬金して欲しいのだ」

錬金術師「馬鹿馬鹿しい…金がそう簡単に出来てたまるか。金の価値が暴落して、一銭の価値もなくなるさ」

貴族「…違うんだ。物分かりが悪いね、君。調合書が誰も解読出来ないから、金の価値は高い」

貴族「調合書は貸すよ。解読できたら、二人で分け合おう」

錬金術師「いらん。帰るんだ」

貴族「ふふっ、君はそう言うが、本当は興味があるはずだ…調合書は置いていくよ」パサッ

紳士「アディオス!」バッ

少女「窓から出て行ったよ」

錬金術師「はぁ、やれやれ」パラッ

少女「あ、見るんだ…」

錬金術師「…ずいぶん簡単だな。しかも…フッ、そういうことか」

少女「?」

錬金術師「おい、あの勘違い野郎の連絡先は分かるか?」

少女「うん、教えてくれたよ」

錬金術師「この手紙を渡してくれ。それと、アトリエを移動する準備とな」

少女「な、なんで?」

翌日…

貴族「やあーやあー錬金術師!やはり解読したんだね!調合書!」ニタニタ

錬金術師「ああ、完璧にな…今すぐやって見せようか?」

貴族「素晴らしい!なら、このステッキを金に変えられるかな?」

錬金術師「任せろ。この薬液に浸すだけだ」ビチャッ

貴族「…ほぉ…おお!?」

錬金術師「ほらよ」ポイッ

貴族「危ない!っと、おおぉ…この重量感!輝き!まさに金製だ!凄いぞ!そうだ、この指輪、眼鏡、それから…」

錬金術師「まあ落ち着け」

紳士「いやあ、ありがとう。早速、街に行って見せつけてくるよ。威厳溢れる新しい自分をね」

錬金術師「…せいぜい楽しめよ」

紳士「アディオス!」バッドシャッ

少女「あっ、足が引っかかって転んだ」

錬金術師「よし、アトリエを移動するぞ」

少女「うん」

貴族「やあ、愚民よ!この純金のステッキを見ろ。…お前ならいくつの宝石と取引するんだ?」

素材屋「純金…?はっ、笑わせてくれますね。金メッキじゃないですか」

貴族「はおあっ?」


素材屋「金メッキ!表面に金が薄く塗られているだけーっ!」

貴族「なんだとぉーっ!?騙しやがったなぁ!」

周囲の人「クスクス…」

貴族「おい!錬金術師!!恥をかいたぞ!よくも騙しやがって!」ガチャ

貴族「いない…家具も、何もかもない…?」

貴族「ん?調合書とメモが落ちているぞ」

「調合書は金メッキに似た塗装薬だったよ。お前の爺さんは、姑息な金儲けをしてたって訳だ。今じゃ通用しないよ。他の奴が解読出来ないんじゃ無くて、あまりに下らない内容なんで、わざと解読出来ないフリをしてたんだよ。これで満足したか?クソッタレ成金野郎」

貴族「この…、畜生めがぁー!」

錬金術師「あのエゴの塊は今ごろ歯を食いしばっているだろう……新しいアトリエはこの家でどうだ?」

少女「いいんじゃない?」

錬金術師「生意気な奴め、当分給与は無しだ」

少女「いじわるな奴め」

第四章 終

第五章前編

少女「錬金術師さんって、何の研究をしてるの?」

錬金術師「言ってもわからんさ」

学者「失礼する」ガチャ

錬金術師「本当に失礼な奴だな、ノックも無しに」

学者「最近、評判の錬金術師だね?」

錬金術師「悪い評判だろうな。なにせお前みたいな変人しかやってこない。そもそもアトリエに人を入れたくないんだが」

学者「態度が悪いが、お前が腕の良い錬金術師だと聞いている。仕事を依頼したい」

錬金術師「俺を便利屋と勘違いしていないか?」

学者「世界樹の調査だ」

錬金術師「世界樹?おとぎ話の?」

少女「樹液に不老不死の力が宿る神木、でしょ?意味はわかんないけど」

学者「調査隊の一人がその世界樹の存在を確認したと報告を受けた」

錬金術師「胡散臭い。調査ならお前達だけですればいい」

学者「それもそうだが…世界樹の樹液を持ち帰り研究したいが、道中、毒を持つ虫や植物だらけ…雇いの兵士だけでは調査が困難だ」

錬金術師「俺は確かに毒や植物の対処は出来るが、俺が行くメリットが無い」

学者「…もし調査に同行してくれたなら、お前の研究に全面的に協力しよう」

錬金術師「ほう?悪くない条件だな。わかった、行こう」

少女「また留守番なの?」

錬金術師「いい子にしてろよ」

翌日…

学者「待ってたよ」

錬金術師「ああ…それより、この森は王国の許可が無いと入れないんだよな?」

学者「許可証はある。おい、兵士」

兵士「錬金術師さんの許可証です、どうぞ」ピラッ

錬金術師「ん?…雇いの兵士か」

学者「ああ、私より軽装だが、腕は立つ。マスケット銃と短剣を携帯させているから、獣なら彼に任せろ」

錬金術師「そうか。期待はしないがな」

学者「時間が惜しい、早く行くぞ」

錬金術師「当然と言えば当然だが、珍しい植物があるな」

学者「持ち帰るなら、王国の許可を得てくれよ」

錬金術師「ふん、分かってるさ。全く、規制だらけだよ、王国に属する地域は」

学者「見ろ。毒のイバラだ、我々のブーツなんて紙切れ同然の鋭さだ」

学者「除草剤か何か作れないか?イバラを取り除くんだ」

錬金術師「人間のエゴで自然を傷つけたくはないね。避けて通ればいい」

学者「避けきれないだろう」

錬金術師「解毒薬がある」

学者「足を傷つけながら行くのか?ナンセンスだ。兵士、イバラを切ってくれ」

兵士「…はい」バサッ

学者「はぁぁ、全く、失望したよ、錬金術師!」

錬金術師「…チッ」

学者「ふうっ、少し休憩しよう。あそこの池の辺りだな」ドサッ

兵士「フーッ」ドサッ

錬金術師「だらしないな、お前達は」

学者「お前は何もしていないだろう!」

錬金術師「同行するのが条件だ。開拓なら木こりでも連れてこい」

学者「いちいち角の立つ言い方をするな…ぎゃっ!?」

学者「な、何かに足を噛まれた!」

錬金術師「どれ…毒グモだな。あと5分で全身麻痺、呼吸困難で死ぬだろう」

学者「な、なんとかしてくれ!」

錬金術師「断る。さっきも言ったが、同行するだけだ。助けるとは言ってない」

兵士「おい、黙って聞いていれば、貴様!」

錬金術師「俺を斬るのか?ここで全員が植物の養分になるぞ?」

学者「わ、私が悪かった。別料金を支払う。だから、薬をくれ…」

錬金術師「…仕方ないな…血清がある。そこの薬草と煎じて飲むんだ」

学者「す、すまないな、ははは」

兵士「…」

錬金術師「いつになったら着くんだ?」

学者「この先を、あと数分だな」

錬金術師「…あれか?」

学者「これだ!間違いない!」

錬金術師「確かに、他の木々より大きいが、それ以外に変わった所はない」

学者「これが世界樹だ…兵士、短剣を貸せ」

兵士「…どうぞ」サッ

学者「むっ?傷一つ付かないな」ガッガッ

学者「銃を貸せ、兵士」

兵士「撃つのですか?」

学者「そうだ、早く貸すんだ」

兵士「……どうぞ」

学者「そらっ」ズダダーン

錬金術師「くだらないな」

学者「む…銃でも無理か。さすがは世界樹だ」

錬金術師「樹液を採取したいんだろう?もう少し良く見ろ」

学者「?」

錬金術師「はぁ…上だよ。虫が集まっている。わずかだが、皮がめくれて樹液が出ているぞ」

学者「おお、素晴らしい!早速採取しよう」

錬金術師「採取したか?」

学者「残らずな。これが、不老不死の樹液…まるで琥珀の様だ。舐めてみるか?」

錬金術師「止めておけ。殺菌処理をしていない。得体の知れない虫がまとわりついていたんだぞ」

学者「それくらいわかってるよ、後は引き返すだけだな」

錬金術師「やれやれだ」

学者「おい、兵士が居ないぞ!どこに行った?」

錬金術師「さっきまで居たのにな…」

ゴゴゴゴゴゴ

錬金術師「地震だ!大きいぞ!」

学者「うわぁぁっ!世界樹が…森が!腐っていく!?」

錬金術師「…腐食した土に触れた動物が死んでいく…!」

学者「に、逃げた方がいいぞ!」

錬金術師「そうだな」

学者「わ、私が樹液を採ったせいじゃないよな!?」

錬金術師「どうかな、否定はできない。にわかに信じがたい事だが…うーむ」

学者「よく冷静にっ…いられるな!はぁはぁ…」

錬金術師「よし、森を抜けた!」

学者「腐食も止まったようだ…ぜぇぜぇ」

錬金術師「久々のフィールドワークは大変だな」

学者「あっ、そこにいるのは兵士じゃないか?」

錬金術師「先に森を出ていたか」

兵士?「学者よ…よくも森の聖域を汚してくれたな」

学者「な、何を言っているんだ?」

兵士?「世界樹の養分となれ」カッ

学者「があっ」グシャッベシャッ

錬金術師「お前は…一体…?」

兵士?「私は世界樹の守護者だよ」

第五章前編 終

第五章後編

錬金術師「おい学者、大丈夫か?報酬を支払えそうか」

学者「くっ…」クタッ

錬金術師「足が溶けている…兵士、何をした?」

守護者「汚れた心と体を、聖水で浄化したのさ」

錬金術師「なんだと…?」

守護者「世界樹を狙う悪しき者をおびき寄せ、浄化するのが使命…」

学者「そ、そうか…優秀な兵士を雇ったと思ったが…正体はこんなクソ野郎だったか…」

守護者「ただ、世界樹の命を奪われた以上、お前達には新たな世界樹の養分となってもらおう」

学者「や、やめてくれ…」

錬金術師「…フッ、妄言は終わったか?」

守護者「妄言、だと?」

錬金術師「まず、世界樹なんて嘘だ。さっきは気付かなったが、あの樹木には硬化剤を塗ってあったんだろ?だから傷が付かなかった」

守護者「…何?」

錬金術師「樹液を採取した瞬間、お前は俺から除草剤と毒を盗んで、辺りにばらまいて逃げたな?」

守護者「それこそ妄言だな」

ゴゴゴゴゴゴ

守護者「見ろ、世界樹の怒りで、大地が揺れているぞ!」

錬金術師「地下に爆薬を仕込んであるんだろう。収まった後に火薬の臭いが漂ってきた」

守護者「貴様、いい加減に」

錬金術師「お前も錬金術師だろう?」

守護者「!」

錬金術師「俺の目は欺けないぜ…こんな手口で今まで何人殺したんだ?」

守護者「貴様も浄化してくれる!」バシャッ

錬金術師「なにが聖水だ、強力な酸をばらまきやがって…さっきの湖の水で中和できる」

守護者「くそっくそっ!」

錬金術師「お前みたいな同業者には、お仕置きが必要だな」コキッコキッ

守護者「や、やめてくれ…」

数日後…

錬金術師「やはり世界樹はおとぎ話だったよ」

少女「そうなんだ…」

学者「失礼する」ガチャ

錬金術師「…お前か。もう足は良くなったのか?」

学者「いいや、感染症により、切断しないと命が危ないそうだ」

錬金術師「良く歩けるな」

学者「いいさ、今の内に歩けるだけ歩くさ。手術すれば、フィールドワークに行かずに済むからな」

錬金術師「…そうか、それにしては悔しそうな顔だな」

学者「うるさい。調査の礼金だ、受け取れ。ではな」ガチャ

錬金術師「大金だな…この金で義足を買うか」

少女「明日、あの学者さんに届けるね」

錬金術師「フッ、わかってるじゃないか」

第五章後編 終

ふむ

ツンデレやな

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