俺の気持ち(ニセコイSS) (185)

集「……で、俺に相談ってなんだよ?あ、もしかして小野寺の事ー?」

楽「半分正解。だけど半分は違う」

集「勿体ぶらずに教えろよー」

そこで、俺は言うのを躊躇う。これを聞いたら最低な奴と思われるかも知れない。
電話越しに聞こえる声は、ふざけてる様に見えて本当に大事な時は真剣に相談に乗ってくれる親友。
下手をすればコイツを失う。けれども相談出来るのもコイツしかいなかった。

楽「……俺、橘の事……」

楽「好きに……なっちまった……」

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集「……は?」

この反応をされるのは分かっていた。俺は少し前までは小野寺の事が好きだったから。
……いや、今も「好き」なんだ。

楽「……でも小野寺の事も好きなんだ」

集「え?は?ちょ、おまえ……ふざけてんの?」

「ふざけてる」そう思われても仕方ない。でも、でもこの気持ちはー

楽「この気持ちは本当だ。ふざけてなんかない」

集「おまえ、それ本気で……?」

楽「正直、自分でもバカだと思ってる」

集「だったら……」

楽「二人共同じくらい好きになっちまったんだよ!」

こんな気持ち許される訳がないのは分かってる。ましてや小野寺は俺に気がある様には見えないから、俺が小野寺だけを好きになったところで迷惑にしかならないかも知れない、けど

楽「どっちかを諦めろなんて……今は無理だ!無理なんだよ!俺、どうすれば良いんだよ!?」

心が苦しくて、切なくて。涙が溢れていた。

集「はあ……ったく、泣き止んだらしっかり考えてやっから落ち着け」

楽「……わりぃ」

取り敢えずここまで。

•因みにこれはマリーSSなので、そこは注意して下さい
•SS執筆経験が殆ど無く駄作になる確率高めですが暖かい目で見て下さい
•自己満SSなので展開は基本全てこちらで決めさせて頂きます。それと一日に書ける量も少ないのでご了承下さい。

ではまた来ます

数十分後

集「落ち着いたかー?」

楽「……ああ、何とか」

やっと落ち着いた時には、声は枯れていた。

集「そうか。んじゃ約束通りアドバイスを授けよう」

楽「良いのか……?俺、最低な奴何だぞ?」

集「楽……おまえ勘違いしてると思うけどさあ、最低だなんて思わねえよ?いや寧ろ正常だ」

非難されると思ってた俺はケータイ片手にポカーンとなっていたと思う。

楽「せ、正常って……それは無いだろ」

集「良く考えて見ろ楽。いくら橘さんがこの間転校してきたばかりと言ってもおまえにベッタリだしいっつも好き好きアピールしてるし、何より超美少女な訳じゃん?そん中で好きになるなと言う方が酷だ」

そんなもん、なのか……?

楽「……取り敢えず集、おまえが親友で良かったよ。ありがとうな」

集「……気持ち悪いぞ…………………こっちこそありがとうよ」

楽「なんか、話したら少しスッキリしたよ」

集「なあに、気にすんなって……っと、じゃあ俺から最後に幾つか質問して良いか?」

楽「あ、ああ」

今までの口調とは打って変わって、集は真剣な声になっていた。多分、これから質問されるのは重要な事だと思う。

集「まず一つ目。桐崎さんの気持ちには気付いてるのかって事」

楽「……ッ!やっぱり、千棘は俺の事……」

千棘の気持ちには薄々気付いていた。俺の言動で不自然に赤くなるとことか、演技も最近演技っぽくなかったから。

集「気付いてたか……じゃあ楽は桐崎さんの事、どう思ってる?」

たまに見せる笑顔は可愛い。容姿だって申し分ないと思ってるし、ビーハイブの連中もみんな良い奴なのは分かってる。

楽「俺はーー」

楽「友達で居たい。アイツとなら集と同じ様な関係になれると思ってる」

集「桐崎さんの気持ちに応える気は?」

楽「……無い」

確かにアイツは可愛いし人当たりも良いけど、俺はアイツにどうしても恋愛感情は抱けない。

集「ふーん……まあ、無理に恋愛感情抱けと言っても馬鹿なだけだし、おまえの青春にそこまで介入する気は無いから安心しろ」

楽「悪いな……」

踏み込み過ぎないのも、集の良いところかも知れない。

集「良いって事よ……次、二つ目な………………抗争はどうするつもりだ?付き合ってないのがバレたらそれこそ大変な事になるんだろ?」

楽「……」

はっきり言って小野寺か橘どちらかを選ぶには一番の関門だ。クロードと鶫は特に厄介な相手になる。事情を話したところでどうにもならない。
でも……

楽「……クロードと二人で話す」

集「うっわーマジかよ殺されても知らねえぞー?」

そんな事百も承知の上だ。実際やるのは勇気がいるし、逆上したクロードに何をやられるか分かったもんじゃない。けど小野寺に関しては高校卒業したら疎遠になりそうだし、橘もいつ俺に対する感情が冷めてしまうか……。


楽「分かってるよ……でも、こうしないと小野寺か橘を選ぶ前にそこにすらたどり着けない」

怖かった。小野寺と橘に見捨てられるのが。
被害妄想と言われればそれまでだが、今の状況だと有り得なくもない話だ。

集「ふむ、確かに正論だな…………じゃあ最後………………橘さんのどこを好きになった?」

楽「どこ、か……」

集「まあ、好き好きアピール全開だし顔も良いからそれなりには分かるけどさ、小野寺さんと迷う程って事はなんかあったんだろ?」

正直図星だった。好き好きアピールしてるところも顔も可愛い……そしてそれ以外にも好きなところが有る事も、勿論。
俺はゆったりと口を開く。

楽「アイツさ、昔の俺との思い出何も忘れてない、全て覚えてるって言ってくれたんだ。もう10年も前で、俺なんて何も覚えてないのに」

集「羨まけしからん!…………おっと、続けたまえ」

楽「えっと…………」

まだ一つ有るが、物凄く恥ずかしいし無闇に言って良いものか分からない。自然と口ごもってしまう。
だが親友なら、集なら話しても良いかも知れない。
俺は口を開いたーー

楽「……………………キスされた」

刹那ガタッと言う音が電話越しに聞こえてきた。

集「ああ、悪い悪い。ついケータイを握り潰すところだったよ」

楽「……」

集「勿論ジョーダンだ。驚きはしたけどな」

一瞬言った事を後悔したが、敢えて黙っておこう。

集「で、単にキスされたからじゃないんだよな?」

楽「勿論だ。キスされた時のアイツの顔、何か少し寂しそうだったから。と言うのもあれだ、俺が橘の事殆ど覚えてなかったからってのは分かってる。そしてアイツはキスの後……いや頬にだけど、昔の事は思い出さなくて良いって。だけど、やっぱり思い出してほしいんだろうなって。」

これから思い出を作って行けば良いと、アイツは言ってたけどどこか寂しげだったのは気のせいではないはず。

楽「その時思ったんだ。ああ、コイツ本当に俺の事好きなんだなって。そして」

楽「それが嬉しくて、気付いたら俺もアイツの事好きになってた」

集「鈍感なおまえにしてはやけに橘さんの心情は鋭く分かるのな」

楽「それもそうだな」

橘との記憶は無いけど、うっすら楽しかった気持ちを覚えている。

集「昔はよっぽど仲が良かったんだろうな」

……だとしたら尚更罪悪感が込み上げてくる。仲が良かったと言う事以前に、橘は俺に出逢った時から恋心を抱いていたのかもと思うと、橘の気持ちを考えれば……。

好きな人にやっと会えたのに、相手がそれを忘れていて平気な訳がない。

集「……なあ楽」

楽「……なんだよ?」

集「一回橘さんの家行ってみたら?ほら、昔の思い出とか橘さんなら残してそうだしおまえも何か思い出すかも知れないだろ?」

俺の気持ちを知ってか知らずか、集の提案は意外と名案じゃないかと俺も思った。

楽「それも良いかもな」

集「じゃ決定な」

楽「…………は?」

確かに名案だがおまえが決定したところで意味無いんじゃ……

集「まあまあ、後は俺に任しとけって……じゃ、消すぞ。グッドラック!……楽だけに」

楽「あ、ちょ!……切れたし」

意味不明な言葉を残し集との通話は終了した。

楽「集らしいと言えばそう何だが……まあ、良いか」

取り敢えず、アイツに相談した事で少しは気が楽になったかも知れない。

これでようやく、スタートラインに立つ為に行動が出来る訳だが……スタートラインに立つのはまだまだ先になりそうだ。

これで序章は終了ですかね。いやあ、ずっと楽と集だけだっただけにようやく序章が終わってほっとしております。
いつまで書き続けるつもりなのか、いつ終わるかは書き始めたばかりで分かりませんがこれからも下手は下手なりに頑張りたいと思います。

コメントどうもっす。これからも頑張ります。
ではでは、第一章千棘編(クロードと鶫も入って完全オリ話)書いてきます。

次の日

千棘&小咲「え?私達が10年前に会ってる?」

楽「ああ、確かに千棘の親父さんはそう言ってた。結構仲良かったって親父さんからは聞いてるけど、やっぱり覚えてないか?」

千棘「うーん……」

小咲「全く……」

予想通りと言えばそうだが、二人のうちどちらかでも覚えてりゃ少しでも手掛かりになると思ったんだが……。
てか橘、ち、近い!近すぎるぞ!そんな至近距離にいられると昨日の事思い出しちまうじゃねーか!

千棘「それよりさ、なんかアンタ顔赤くない?風邪でも引いたの?」

どうしてこういう時だけおまえは敏感何だか……と、取り敢えずここは誤魔化すに限る。

楽「い、いや別に……」

かなりオドオドしてるけど何とか誤魔化せた……って事で良いよな?
正直なところ橘にキスされたのは超嬉しかった。だがそれを小野寺に知られるのも何だかな……この気持ち分かる人いないのか?

小咲「でもなんだろう、千棘ちゃんを一目見た時、不思議と絶対仲良くなれると思ったんだよ」

千棘「うっそー!私もそう思ってたんだ!」

二人は二人で俺そっちのけで盛り上がってるし。
まあ、誤魔化せたのなら結果オーライ?

千棘「てか何でそんな大事な話今まで黙ってたのよ」

楽「その……話すタイミングがなかなか無くってな……」

俺だって早く真相知りたいし。怒られてもなあ。

ただやっとこの話が出来た事で千棘と小野寺の仲が更に良くなったみたいだし、何より本題はここからだからなあ。

千棘「それで」

千棘「これが問題の鍵?」

差し出された3つの鍵。それはつまり、この中の誰か一人が約束の女の子と言う事。

千棘「まさか小咲ちゃんまで持ってるなんて知らなかったわよ」

小咲「私も。どういう事なんだろう?」

千棘「みんな10年前にダーリンと会ってて、何か約束して、鍵持ってて……何がどうなってるのよ……」

んなもん俺に聞くなよ。こっちだってそれが知りたくておまえ等に聞いてるんだよ。

楽「そんなの聞かれたって知るかよ。大体俺が約束した女の子は一人のはずで」

千棘「そもそもその約束って一体なんなのよ?私どうしても思い出せなくて」

それは俺も同じなんだよな……。

小咲「私も覚えてない……」

小野寺も覚えてないか。もう随分昔の事だし仕方ないと言えば仕方ないんだがなあ。

マリー「あら、皆さんは覚えてらっしゃらないのですか?」

え?…………橘は約束を覚えてる!?もしかして……

楽「え!?おまえ覚えてるのか!?」
だとしたら一気に約束の女の子にたどり着ける可能性も高い!

マリー「それは勿論、結婚の約束に決まってるではありませんか」

小咲、千棘、楽「!?」

マリー「え?違うのですか?てっきり私は皆さんそうなのかと……」

いや、何か違う違わない以前に自分がもしかしたらその約束を交わしているのかも知れないのに、よく堂々と喋れるよな。
……それだけ俺の事が好きなのか?自惚れかも知れないがもしそうならかなり照れる。

マリー「わたくしは別れ際、楽様とその約束をしたのですっ!覚えておられないかも知れませんが」

めちゃくちゃ幸せそうな笑顔するよな、橘は。そう思うとやっぱり俺のこの気持ちに大きく罪悪感が押し寄せてくる。橘が幸せそうな笑顔をすれば、する程それは増幅し俺を苦しめる。

千棘「ダーリン……確か約束の女の子と別れ際にそんな約束したとか言ってなかった?それ、橘さんじゃないの?」

楽「いやあ、それはまだ……なんつーか……」

てか千棘は千棘で不機嫌そうに言うなよ、本心見え見えって事少しは気付けよ……。

マリー「~♪」

……ちょっと待て。それより何故橘は俺の腕にしがみついている!?てか胸!胸当たってるって!

小咲(結婚……も、もしかして私も一条くんとそんな大胆な約束を……?)

千棘(確かに大事な約束だったとは思うけど……まさか、ね)

二人は何をそんな真剣そうに……ってやっぱり煩悩が消えないいい!ダメだ、一回落ち着かないと!

楽「てか、それだと何で鍵が三本もあるんだ?橘は知ってるんだよな?」

マリー「……それが、ですね……私も分からないのです」

バツの悪そうな顔で答える橘。……あれ?これって振り出しに戻った?
またこうなるのか。

楽「えっ……と、それは一体……」

マリー「はい、それが……ですね、私以外に鍵を持っている人がいらしたなんて初耳だったのです……確かに昔の楽様との会話に他の女の子が登場した覚えはありますが」

楽「そ、そうか。なら仕方ないよな」

細かい会話の記憶まで鮮明に覚えてるのな。そう思うと何か本当照れる。

楽「……んで橘よ、真相ってのは?」

まあ、鍵が三本あるのが予想外だとしても橘は元々自分の答えは持ってる訳だし聞かない訳にはいかない。

マリー「それは勿論!わたくしが楽様をどれほど愛しているかに決まってるではありませんか!」

……受けてる自分が言うのもあれだが、物凄いゾッコンっぷりだよな。橘から好き好きオーラが全開になってるのが見えるし、な。

マリー「わたくしが知っているのはわたくしの答えだけですから」

楽「ふぅ……」

何か溜め息が出てしまう。答えが出なかった落胆と緊張から解き放たれた開放感からだろう。

マリー「まあ、何はともあれ楽様と結ばれるのはこのわたくしですから」

ああ、また腕に柔らかい感触……自分でも顔真っ赤なのが分かるし離れないといけないんだが……

マリー「もう、キスも済ませた事ですし♪」

…………あ!?ちょ、それは言っちゃ……

千棘「はあ、キス!?ふん、どうせまた嘘に決まってるわ。そうよね、ダー……リン……?」

あの時の事を思い出すと何も言えない。顔の表情が全てを語ってる。
……うん、分かってる。小野寺には嫌われるよな仕方ない事実だから。

千棘「はあ~~~!?したの!?」

楽「あ、いや、その……ポッ///」

小咲「…………(ショックで硬直状態)」

……あれ?千棘は思った通りの反応として、小野寺は妙に落ち込んでるように見えなくも……いや、現実逃避は良くないよな、うん現実を受け入れよう。

千棘「知り合って間もない女の子とキスするなんてさいってー!このけだもの!」

うっわー、我ながら酷い言われ様。でも事実だしまんざらでもないから仕方ない。

千棘「あなたもあなたよ橘さん!人のダーリンに手、出さないでもらえますぅ?」

マリー「あら~?そんな凶暴な方より楽様はわたくしを選ぶと思いますけど?」

……全国の夢見る男子(特に集)にはこれが羨むべき光景に見えるのだろうか。だがしかし!これが現状だ!
はっきり言うと、この後とばっちりを受けるのは紛れもなく俺だからである。

千棘、マリー「小野寺さんはどう思う?(思いますの?)」

小咲「え?わ、私?」

あーあ、小野寺もとばっちり受けちゃってるし……。

(ここから一時小咲視点)

うーん、私がどう思うかって聞かれてもなあ……いくら何でもここで私も、なんて言える訳ないしどうしようもないよぉ……。

マリー「あ、そうですわ。あなたは楽様の事どう思ってらっしゃるのですか?もしかしたらあなたも楽様を?」

小咲「え……」

その時、何故か一条くんの持っていたあの写真の事を思い出していた。千棘ちゃんの写った写真を大事そうに持つ一条くんは、顔を赤くしてたっけ。ニセとは言っているしいつもは悪口しか言わないけど、一条くんはやっぱり千棘ちゃんの事が……そう思うとますます自分の心に正直になれない。本当、私のバカ……。

小咲「私は、良い友達って思ってるよ」

出てきた言葉はこれだけ。もしかしたら私と一条くんは結婚の約束なんて大胆な約束をしてるのかも知れないけど、正直に言うのは恥ずかしいし、今一条くんは千棘ちゃんが好きな訳だし昔の約束に縛られちゃダメだよね……

(再び楽視点)

良い友達、か……嬉しい半分残念半分ってところか。でも諦めきれない決めきれない俺って優柔不断のヘタレだよな……。取り敢えず真相は俺のペンダントが戻ってくるまでお預けとして、鍵を持ってる女の子は三人……この中に約束の女の子がいるって事なのか?

でも、真相が分かったとして俺はどうする?今の俺は小野寺と橘両方好きで、だから選べなくて。

千棘だった場合でもどうする事も出来ない。アイツに恋心は抱いてなくても心情は理解しているんだ、分かっててあっさり振ってアイツの悲しむ顔も見たくない。

マリー「まあ、楽様と結ばれるのはこのわたくし」

千棘「全く覚えてなかったみたいだけどね!」

マリー「そいば言わんと!」

千棘「ん?」

マリー「ん?(すっとぼけ)」

……橘の奴感情が高ぶると無意識に博多弁が出るのな。なんかめちゃくちゃ可愛い。
…………ふぅ、こんなやり取りしてたら少しは気持ちも心なしか和らいだ気がした、かも。

(千棘視点)

何なのよアイツ……一番最後に現れてふざけんじゃないわよ!コイツ……楽は、私のもの!誰にも渡さない。

…………それが小咲ちゃんであっても、ね。

※作者は千棘アンチでは決してありません。流れ的に悪役にハマってるのが千棘だっただけなんで、誤解しないで下さいっす!

ーそれは突然だった。

マリー「楽様!今度わたくしの父に会っていただけませんか?」

楽「は?」

マリー「あ、あのですね……やっと再会も出来た事ですしその事を父に話したら一度楽様と是非お話しがしたいと言っていたものですから……あと楽様もわたくしの父に会いたいとおっしゃっていたと楽様のご友人から聞いたので……」

なんか黙って聞いてたけどものすごい事になってないか?橘の父親に会う!?それってあれだろ?恋人を紹介する的な……いや待て!それは早まってはいけない!色々な意味で!

そして俺橘の父親に会いたいなんて言った覚えはない……はっ!まさか!?

楽「橘、俺の友人って言った奴ってメガネ掛けててノリが軽い奴じゃなかったか?」

マリー「はい、そうですわ」

やっぱりアイツか集!「後は俺に任せとけ」この意味が今になってようやく分かった。

そしてとてもアイツらしい配慮でグッジョブだが何故か無性に殴りたい気分になったのはきっと気のせいではない。

だがありがとうよ、お陰で少し前進出来るぜ。

楽「分かった、今週末にでも橘の予定が空いてるなら良いぜ」

マリー「本当ですか!?ありがとうございます!楽様、大好きですっ!」

……急に抱きついてくる癖、どうにかしてくれ。いや、その行為自体は迷惑じゃない寧ろとてつもなくありがたい!が、周りの視線が痛い……特に小野寺はちょっと、な。
まあ幸い小野寺はいないし多少はデレても良いよな?

千棘「デレデレしてんじゃ……ないわよっ!」

楽「ふごっ!?」

嗚呼、千棘はいたのか。
ところでコイツ、橘がウチに転校してきて以来また暴力的になった気がする。橘が来るちょっと前までの1ヶ月かそこらはまあまあ大人しかったのに、急にだ。

おそらく嫉妬……しか考えられないだろう。
何故だろう、そんな事するはず無いのに千棘が一瞬その暴力的行為を俺以外に振るうんじゃないかと思ってしまった。……集は例外として。
いや、やっぱり気のせいだ。千棘は根は良い奴で優しいんだしそんなバカな事する訳ないよな。

マリー「あらあら、大丈夫ですか楽様?」

楽「気にするな、いつもの事だ」

心配してくれている橘が眩しかった。

(千棘視点)

何よ……楽はどうして私を選ばないの?
私の何がいけないの?
ねえ、教えてよ
あの女の何が良いのよ?
……小咲ちゃんに対してもそうよね
事ある毎に揃ってデレデレして、小咲ちゃんもあれで楽の事好きなのが私にバレてないとでも?

このままの状態が続くならクロードに言って橘さんをちょおーっとだけ、イジメちゃおっかな?
……小咲ちゃんは、出来るなら傷つけたくはないし、早めに釘を刺しておきましょうか。

……楽の隣にふさわしいのは私なんだから。

いやこちらこそ書いてる途中で完全オリジナルって書いたの大失敗だと思いましたよ……
まあ多分これから完全オリジナルになる……はずですから
いやホンマすいません

数日後

今日はいよいよ橘の父親に会う日。緊張し過ぎて一睡も出来ず寝不足なのを除けば体調は大丈夫。よし、頑張れー俺!

マリー「あ、楽様!お待たせしました」

楽「おう、俺も今来たとこ」

張り切り過ぎて実は二時間も前からいたなんて言える訳ないしな。

マリー「それでは行きましょうか」

楽「お、おう」

うわー、緊張が高まってきた……ヤバいかも、俺。確か橘の父親は警視総監……めちゃくちゃゴツい人だったらどうしよう(ガクガク)
いや、大丈夫だ。落ち着け俺。

そんな事をずっと考えながら歩いていた。

マリー「楽様~♪」

もちろん俺の腕に自分の腕を絡ませながら。これで良く理性が保つと思うよ、マジで。
……と、人気のない公園に着いた。多分もう少しで橘の家が見えてくるのだろう。

マリー「楽様、もうすぐ私のーーゲホッゲホッ」

楽「おい、大丈夫か?」

突然、橘が咳き込んだ。ヤベエ、無理させちまったか?橘の顔色はあまり良くない。

マリー「いえ……普段ならこの程度で薬の効果が切れる、訳が……ゴホゴホ……ない、のです……が」

楽「ちょ、顔色めちゃくちゃ悪くなってるぞ!?きゅ、救急車呼ぶから待ってろ!」

既に橘は虚ろな目で、多分意識を保つのが精一杯なのか最早殆ど口も聞けない状態になっていた。

マリー「あ……う、楽……様……」

この時俺は黙って頷き抱きしめてやる事しか出来なかった。119を押すとすぐに繋がった為、混乱しながらもなるべく冷静に事実と場所を伝えた。
オペレーターの話だと5分で現場に来れると言っていた。
電話を切った後、橘を見ると更に弱った表情になっていた。

楽「心配すんな、もうすぐ助かるからな?だから死ぬんじゃねーぞ!」

橘に対する励ましか、自分に対する励ましか……分からなかった。ただただ、それしか言えなかった。

マリー「らっ……くん……」

一瞬橘がホッとしたかの様な顔を見せたが、それとほぼ同時に橘の意識は途絶えていた。

楽「お……おい、橘?橘!?しっかりしろ!」

楽「橘ーー!!」

俺はどうしてこうも無力なのか、何も出来ないのか。
俺に出来たのは、救急車が来るまで橘を抱きしめ、死なないでくれと祈る事だけだったーー

千棘「ふふ、薬をすり替えさせておいて正解だったわ。流石は誠士郎よね。……さてと、これで……これで邪魔者は消える!楽は私の者!アハ……アハハハハハハハハハハハハハ!!」

ようやく橘万里花は消える。
この瞬間を待ち望んでいた。
やりすぎたなんて、後悔なんてある訳ない。
唯一あるとすれば……


 


 

消す事を迷ってた事かな? 

ー時は遡り一条楽が橘万里花に父親に会ってくれと言われた日の放課後

千棘「小咲ちゃん、ちょっと良い?」

小咲「なあに、千棘ちゃん?」

私は小咲ちゃんを屋上へ呼んだ。もちろん楽に対する想いを消してもらう為に。

千棘「ねえ、小咲ちゃん……楽の事どう想ってるの?」

単刀直入に質問しないと誤魔化しが利いちゃうからね。親友だからこそ早めに対処しないと後々……橘さんと一緒に消さないといけなくなるからね。流石に親友は消したくないもん。

小咲「へ?え?え~~~~~!?あううう……」

あらら、赤くなっちゃって。やっぱり小咲ちゃんは恥ずかしがり屋だからそう簡単には教えてくれないかな?
……仕方ない、私から攻めるしかダメね。

千棘「私は……好き、楽の事」

小咲「千棘ちゃん……私の思った通りだ」

へえ、私の気持ちには薄々気付いてたのね。

千棘「だから小咲ちゃん……分かるわよね?ああ因みに小咲ちゃんの気持ちには気付いてての発言だから」

小咲「そう…………うん、私は千棘ちゃんを応援するよ」

本当に小咲ちゃんが物分かりの良い子で助かったわ。おかげで敵があっさり減るどころか味方に付けられたんだから。

千棘「ありがとう、やっぱり持つべきものは親友よね」

今に見てなさい橘万里花……アナタを地獄に絶対落とす!

いえ、大丈夫なんすよ。批判やアドバイスとかは是非お願いします

まあ誉められたSSじゃないですし(文才とかは特に)自己満でしか書けないですが楽しみと言われると気合いも入りますね!
これからも応援よろしくっす!

それから私は橘万里花を貶める方法を考えた。ただ正攻法で攻めようものなら逆にこっちが危ない目に遭う。そこをポイントとして考えた結果、スパイ、侵入技術に優れた鶫なら使えると思った。

千棘「で、頼みたいのが橘家にある橘万里花の薬をすり替えてきてほしい訳」

誠士郎「……お嬢の頼みとあらば、例え非合法な手段でもどこまでも着いて行きます!」

失敗する確率なんて殆ど無い。
……失敗したら?自動的に鶫が濡れ衣を着てくれるだろうしどちらにしたって私にリスクは無い。
ただ決して私は鶫を道具としては見ていない……いや、そう思ってるだけで鶫からしたら道具同然に扱われてるかも知れないけど少なくとも私の中ではそうなってる。

千棘「決行は今週の土曜に日付が変わった瞬間。くれぐれも見つからないようにね」

誠士郎「お任せを!」

そう言って鶫は去って行った。
ま、でもどう見られていようと鶫が私を裏切る可能性は絶対無いし、さっきも言ったように濡れ衣を着るのだって私が言わなくてもやる。

千棘「利用出来るモノはとことん利用しなくちゃ、目標の為なら妥協なんてしない」

誠士郎視点

もう、お嬢の気持ちには全て気付いていた。気付いて尚、私はそれで良いと思っている。
お嬢の幸せが我が幸せーーなら、自分は犠牲になろうと利用されようと悔いはない。

誠士郎「お嬢、私は何があろうとお嬢の味方であり部下であります……」

夜空の下、決意をしてふと一度は恋をして、女として生きる機会を与えてくれた一条楽の事を思い浮かべる。

奴がいなかったら一時的にでも女として生きる事は出来なかった。
一条楽とのデート……きっとあれが最初で最後の自分が女として生きてる事を実感した時なのだろう。
……本人を目の前にしたら絶対言えない事、今は言える。何せ今日、今しか言えない事だから。


 


 


誠士郎「一条楽、貴方を好きになって良かった。ありがとう、そして…………」


 


「サヨナラ」そう心で呟いて、私は女としての鶫誠士郎と永遠の決別をしたーー

こうして実行された橘万里花暗殺計画は、暗殺とまでは行かなかったけど誠士郎が薬のすり替えに成功させた事で今橘万里花は意識不明になっている。

千棘「ざまあ無いわね」

面会終了間際の時間、私は橘万里花を見にきた。
建て前上楽との交代でのお見舞いになっていて、もしも橘が起きたら連絡をくれとは言っていた。
ま、起きたら誠士郎に殺させるだけだけどね。もちろん事故に見せかけてね、ああ確かここは四階で下はコンクリートの駐車場だし自殺に見せかけて突き落とすのが手っ取り早いかな。

全く……私に刃向かうからこうなったのよ?悪いのは全部アナタ、私は楽にくっ付く害虫を駆除しただけ。

看護婦「あの、もう面会時間が終了するのでそろそろご退室を……」

千棘「あ、はい分かりました」

私は笑顔でそう答えた。

(楽視点)

月曜日、俺は学校にいた。見舞いの方は竜達と橘の父親の側近とで交代でやるから心配せず学校に行けと言われてはいるが気が気で無かった。

集「おまえさあ、そんな顔するなよ。橘さんが悲しむぞ」

集や仲の良い奴等はいつもの感じで喋ってくれている。
まあ、集の言ってる事は正論ではあるんだけどなあ……

楽「……分かってはいるんだ、でもやっぱり心配でさ。もしかしてこのままもう起きないんじゃ……とか」

集「やれやれ……んなら俺等もお見舞い行って良いか?」

ルームメイトA「俺も心配だしな」

ルームメイトB「ま、集の友達だから少しは面識あるし良いだろ?」

おまえ等……

楽「ありがとうよ、恩に着るぜ」

小野寺は家の手伝い、宮本も用事……一人で見舞いに行くとどうしても暗い気持ちになってしまう今、本当に嬉しかった。橘もそれを聞いたらきっと喜ぶだろうな。
普段不良なルームメイト二人もいるが、根は良い奴等だって分かるし本当に善意で言ってくれてるってのも嬉しかったし、断る理由も無かった。

集「よし、じゃあ決まりな」

ルームメイトA「何か俺等に出来る事なんてこれくらいだからな……」

ルームメイトB「アホ、辛気くさい顔すんなよ」

集「じゃあさじゃあさ、見舞いついでにデートのお話でもお聞かせ願いましょうか!」

ルームメイトA「そうだな!それが良い!」

ルームメイトB「名案だ!」

……ったく勝手に盛り上がりやがって。
でもそう言うの悪くないな、こう男だけで無駄に盛り上がってるとこ見ると暗い気持ちは薄れていった。

病院内

楽「でさ、橘の作った弁当が美味くてさ」

ルームメイトA「ほう、やはり橘さんは料理上手だったか……羨まけしからん!」

橘のいる病室で、少なくはあるが橘との思い出話をしている。そうする事で、橘が早く目を覚ますのかは分からないが、なんかそんな気がした。

集「お、やっといつもの楽に戻ったな」

楽「そうか?」

ルームメイトB「そーだよ」

いつもの俺、か。あの感じだと橘にもきっと怒られてただろうからそれは良かったかな。

集「……橘さんなら大丈夫、きっと……いや絶対すぐ起きるさ。んでいつものように楽に抱き付き俺等はそれをちゃかす、と」

楽「はははっ」

ルームメイトA「まあ、おまえがどっちを選ぶかは知らんが」

ルームメイトB「俺等は応援するぜ、おまえの事」

楽「へ?」

集「あのなあ、俺の友人(ルームメイトA、B)がおまえ見て何も思わない訳ないだろ?特に好きな子の話になると超分かりやすいし」

マジかよ!?絶対バレてないと思ってた俺めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねーか!

……まあ、応援してくれるなら

楽「サポート頼むぜ」

三人「おうよ!」

ふと、橘を見る。その顔はやっぱり普通に眠っている様にしか見えなくて。

いや、今日は集達が来たからか少し笑っている気がした。

それから月日は流れた……と言っても1ヶ月だけだが、それでも俺にこの時間はとても長く感じた。
俺はちょくちょく小野寺や千棘、集達と見舞いに行ってはいるけど相変わらず橘は眠ったまま。

殆ど何も変わらず、橘が眠ってから2ヶ月目を迎えようとしていた。
……そう「殆ど」は。


鶫が一週間前から行方不明になっている事以外は。


 

時は遡り一週間前(鶫失踪当日)

楽「おはようさん」

集「よっす楽!」

橘が倒れてから集英組、ビーハイブと橘の父親率いる警官部隊が色々と調べ回ってくれていた。
ビーハイブは実質恋敵が消えたも同然の状態なのに、親身に橘の事を心配してくれている。

で、だ。調査の結果俺が橘の家に行く前日から日付が変わる頃にかけて偶々近くを歩いていた人が、何かが橘の家に入る瞬間を一瞬ではあるが見たと言う。

そして何より、中で何故か倒れていた警備員が意識を取り戻し、何があったか語ったそうだ。

話は「階段から音がしたから不審者かと思い見に行ったら、いきなり後ろから手刀を喰らってバランスを崩し階段から落ちて意識を失った。意識を失う直前に犯人の頭に付けていた髪飾りが見えた。暗くて顔は見てないが髪飾りは青くてリボンの形をしていた」

まとめるとこんな感じだ。


集「考え事か?」

楽「まあな」

こうしてHRの鐘がなり、意識は完全に戻された訳だが、俺が鶫が居ないのに気付いたのはすぐの事だった。

今回は短めですが、次話以降に繋げる為の話なんでご了承下さい

楽「なあ集、鶫は今日どうしたんだ?」

取り敢えず聞かずにはいられなかった。普通なら風邪か何かだと思うが、何故か嫌な胸騒ぎが止まらないでいた。

集「誠士郎ちゃん?……そーいやいないな」

この反応を見る限り集は何も知らない様子。
ここはやっぱり千棘に聞くのが一番か。

楽「千棘」

千棘「どうしたの楽?」

楽「鶫って今日休みなのか?」

千棘「さあ……連絡は来てないわよ?」

千棘も知らないとなると、気のせいだと思ってた偶然の一致は偶然ではない……のか?

この時俺が考えているのはそう、あの警備員の証言にあった「青いリボンの形をした髪飾りをしていた」襲撃者の事。
偶々鶫も証言とまるっきり一致する髪飾りを着けていただけだと思いたかった。鶫が消えた日の俺はまだ、ちょっとした憶測の域の考えだったが、一週間が経っても学校に来ないどころか千棘やクロードにすら連絡が行ってない事から、殆ど確定的に襲撃者は決まった。
鶫が失踪する前日に例の警備員が起き、翌日鶫が失踪したのも自分が捕まるのが時間の問題だから消えたと言う可能性は高い。

だが引っ掛かるところも一つある。そもそもどうしてわざわざ逃げる必要があったのか。
証言と一致する髪飾りを着けていたからと言って顔は見られてない。ならもし犯人だとしてもシラを切れば問題ない。

これだと露骨に「自分が犯人だ」とでも言っている様なもの。
まさか意図的か?いや、だとして鶫に利はある様には思えない。


そんな中、俺はクロードに呼び出されていた。

内容は多分俺の思ってる事と同じ……つまりは俺が話したいと思っていた内容と変わりない事のはず、と直感していた。

俺はふぅ、と息を吐きクロードの部屋へ入った。

コメント書いてくれた方々、本当にありがとうございます!
自分で見る限り上手く書けてるのかは自信無いけども、少しくらい自信持って良いんかな?(笑)

クロード「来たか、まあ座れ」

楽「……」

俺は無言で座る。いつもなら会ったらまず怒声罵声を浴びせてくるクロードが、真剣な顔をしているんだ……これでこれから話されるだろう話は確実に分かった。

クロード「では、早速本題を単刀直入に聞こう」

クロード「……お嬢との本当の関係を話せ」

楽「…………少なくとも、恋人と言うのは嘘だ」

クロード「貴様ッ!」

クロードは立ち上がり拳を握り締め震えていた。
無理もない。俺だってこの反応は予想が付いた。

クロード「一条楽……貴様はお嬢をたぶらかしたのか?」

楽「本当にすまなかった!」

クロード「な……それはどういう」

楽「お前や組のみんなも騙して……許されるとは思ってない。だけど!アイツを、千棘をたぶらかしたりはしていない」

今までの優柔不断な俺だったらこんな事出来なかった。だが今は状況が状況だ、橘が未だに起きない……即ちこれから万が一あるかも知れない最悪の事態を考えると、迷ってる暇など無かった。
土下座で許される問題である訳はないが、これが精一杯だった。

クロード「では!どうして貴様は!」

楽「……抗争を防ぐ為の方法として、俺が思い付いたんだ。千棘はそれに乗ってくれただけなんだ」

本当は双方のトップが決めた事だが、俺の我が儘で二人を巻き込む訳には行かない。

これが、最善だと思った。

クロード「そう……だったのか。私こそすまない、感情的になり過ぎて話を聞いてやれず……」

楽「クロード……」

なんだ、クロードもちゃんと話せば良い奴だったのか。
メガネ野郎とか影で言ったのはまたいつか直接謝ろう。

クロード「おまえはこれで自由の身。私も事情が事情だけに抗争を再開させようとは思わん。だが…………お嬢を悲しませるなよ?その時は……」

楽「わーってるよ」

こうして俺は、クロードとの和解に成功した。だが、俺にはもう一つの本題がある。


 


鶫誠士郎……アイツの事だ。

まあ、原作と違わないとこのままマリー殺されますからね……自分で書いてて言うのもあれっすけど

楽「クロード、ちょっと良いか?」

クロード「……誠士郎の事か?」

流石クロード、察しが良い。
ところでそう言えばここ最近クロードの顔色が良くないが、クロードにとって見れば鶫は子供同然の存在、心配なのは当然だろう。

楽「何か分かったのか?」

クロード「ああ、先程一旦席を外した時に部下から連絡が来て○○倉庫に人がいると情報が入った」

○○倉庫?あそこは確かもう廃倉庫になっているはず。
ましてや人が寄り付く機会は普通は無い。

楽「その人ってのは鶫なのか?」

クロード「いや、違う様だが……誠士郎の世話係を任した私の部下に似ているそうだ」

楽「その世話係もいなくなってたのか?」

世話係がいなくなれば普通気付く。それがクロードなら尚更。
となると……考えられるのは一つ。

クロード「アイツは数日休暇がほしいと言ったものでな、誠士郎がいなくなったストレスを考え休暇を数日やったんだが……まさか!」

楽「ああ、そのまさかだ」

その世話係が誠士郎側に付いたのは間違いない。
そして日本でも名高いビーハイブの名で勧誘を募れば簡単に勢力は集まると言う訳だ。

簡潔に言えば何らかのルートで誠士郎が実行犯だと確証を持ち、護る為に嘘をついてまで誠士郎の元へ向かい廃倉庫でいつでも長期間籠城出来るように物資の調達をしている、そんなところだろう。

そして調達中の姿を偶々クロードの部下が発見した、と。

クロード「ビーハイブ勢力同士で争う事にもなりかねんな……」

楽「取り敢えず今日の夜にでも偵察に行くってのはどうだ?鶫がいるのかの真偽、いたら勢力はどれくらいなのかは確認出来るかも知れない」

クロード「まあ、そうだな……だがあまり多勢で行くとバレかねない。部下はどうする?」

楽「無しで行こう。下手に連れて行っても意味が無い」

クロード「分かった。では今日は泊まって行け、あちらのボスに心配は掛けたくないだろ」

親父の事だから感づくかも知れないが、それしか手段は無いだろうし仕方ない。

同日PM11:00

クロード「時間だ、準備は済ませたか?」

楽「ああ、持って行く物は……これとこれ、だろ?」

俺が持って行く物ーそれは護身用の双方共に殺傷能力は極めて低いナイフと拳銃。
元々そんなもん使った事すら無いけど、万が一に備えてとクロードが半ば強引に俺に持たせた。

楽「てか拳銃の弾フル(6弾)で入れなくても……」

クロード「何を言う、おまえは見ての通り細くてまともに筋肉も付いていないのだぞ?」

うっ……悔しいが本当の事だから言い返せない。
……少しは運動しよう。

楽「わーったよ、文句は無い」

クロード「では行くぞ、楽」

お、今何気に名前呼びしたよなクロード。
和解して四半時程度しか経ってないが、ここまで親しくなれるとは。

クロード「……どうかしたか?」

楽「いいや、何でもねえよ」

本人自覚無いのが痛いけどな。俺みたく男同士なら良いが恋人だったら……おっと、そんな事を考えていたらどうやら目的地が見えてきた。

楽「ここ、だよな」

クロード「そのはずだ、それと今回の目的は誠士郎が居るか居ないかの確認だけだ。なるべく相手に見つからない様に、見つかっても無駄な戦闘は極力控え威嚇発砲も最低限に留める、良いな?」

楽「んな事分かってるっつーの」

本当過保護だよなあ、この人は。
最初会った時から今までの千棘への態度もそうだが自分がされて改めてそう思う。


だが悪い気はしない。

楽「ま、感謝するよ」

クロード「……まあ良い、行くぞ」

楽「暗くて良く見えねーな……」

クロード「ふむ、誠士郎は見当たらんが8人程人影を確認した」

メガネ付けてるとは言えしっかりクロードは見えるのな。
流石はプロ。

楽「何か話し声が聞こえるぜ」

クロード「静かに聞いてろ」

まあ、8人も人がいるならバレたら取り敢えずタダじゃ帰れねえからな、それは俺でも分かる。

「いつまでここに居るつもり何だろうな、俺達」

「んなの誠士郎の意志で決まるから分かんねーよ」

「俺たちゃ誠士郎に着いて行けば良い、事情も事情だしビーハイブの存続に関わる可能性もあるからな」


どうやら誠士郎の部下だろう奴らも自分の意志で付いてる様子だ。
と言うか「ビーハイブの存続に関わる」この言葉が妙に引っ掛かる。
普通に聞けば例の橘の事を鶫がやったからと聞こえるが、俺には何かそれ以外の意味に感じてならなかった。

クロード「……」

クロードもそこが引っ掛かるのか、首を傾げている。

「ところで誠士郎は?」

「ああ、奥の部屋で寝てるよ」

「そうか」

奥に部屋があったのか。アイツ、風邪とか引いてねえかな?

クロード「聞いたな?引くぞ」

楽「おう」

この偵察はあくまで「偵察」
無駄な事はしない。
誠士郎がいるのが分かったらさっさと撤収あるのみだ。

楽「よっ……う!?」

立ち上がると同時に立ち眩みがした。きっと長時間座っていたのが原因だろう。

楽「っとと、よし大丈ー」

カタン

楽「!?」

「なんだ今の音!」

「侵入者か!?」

「捕まえろ!おい、寝てる奴らも叩き起こせ!」

クロード「チッ……やはり楽の体力だと駄目だったか……!」

ヤバい、立ち眩みの衝撃で一瞬だが力を抜いたのが災いした!
手に持っていたナイフは重力に逆らわず地面に落ち、その音で気付かれた様だ。

とにかくここはー

楽「クロード、ここは俺が囮になるから先に脱出してくれ」

クロード「な!?お前何を……」

楽「このままだと二人共捕まる。俺はともかくビーハイブ幹部のクロードが捕まったらただでさえ不審な事が立て続けに起きてるのに人員が減っちまうだろ?」

そうだ、橘の一件からこの町全体に不穏な空気が漂っている。
いつ、誰が、何をするか分からない。
そんな時一人で場を抑えられるクロードが居ればまずは安心出来る。

小野寺や、まだ意識が回復していない橘、それにみんなもクロードが居れば安心するだろうし。

クロード「馬鹿者……無事でいろよ」
楽「分かってる」

そして俺は、奴らの目の前に姿を現せた。

「誰だ!」

「ライトを当てて顔を確認しろ!」

……クロードには言わなかったが、俺はわざと捕まった。簡単に言えばナイフを落としたのも、立ち眩みを起こしたのも演技。
まあ敵を欺くには何とやらと言うが生きて脱出したら謝っとくかな。

「な、集英組の二代目じゃねーか!?」

「おい、危害は加えるなよ」

だがかなり強引な形とは言え、誠士郎と久々の対面に加え直接話が出来る。
一種の賭けだが価値は大いにある。
勿論「橘の件の黒幕」の手掛かりもしくはそのもの自体が分かる可能性が大きいからだ。

「武器を降ろしてもらえないか?」

楽「……分かった」

武器は地面に置き、手を挙げる。
すると廃倉庫に灯りが灯った。

楽「電気、通るのな」

「立て籠もるにも電気が無いと不便でな、ああ勿論外に灯りが漏れない程度だが」

改めて俺は連中の顔を見る。
殺気立った様子は無く、少し困惑している感じが見てとれる。
中には見知った顔もあったりした。


ま、そんな事は今は置いといて本題に移ろう。

間違えてsageちゃってたんで一応ageとく
人気無いし一応、だけどね……

コメントありがとう

別に躊躇しなくてええんやで、こんなSSで良ければ気軽にレスして下せえ

楽「……それより、誠士郎はやっぱりもう寝てるのか?」

「ああ、さっき眠ったばかりーー」

誠士郎「どうした、何か騒がしい様だが」

「誠士郎!?お、起きてたのか?」

まさか自ら出てくるとは。
鶫はまだ俺の存在には気付いてないらしく、俺と話していたビーハイブの奴と話している。

誠士郎「ああ……ん?そこにいるのは…………一条楽!?」

やっと俺の存在に気付いたかと思うとかなり驚いた表情をした。
だが、それは違う意味で俺も同じ感情だった。

楽「鶫……かなりやつれたか?」

誠士郎「ふん……」

そこに1ヶ月前までの鶫の姿は無かった。
整って綺麗だった顔には隈、健康的だった体つきは細くひ弱な感じが見てとれた。

「俺達はもっと外に出て食料調達をしたらどうかと言ってはいるが、最低限の食料で良い、安易に外に出ると見つかると言われてな……」

言い訳にしか聞こえないが、鶫自身が言っている事にここにいるビーハイブの連中が逆らう訳ないよな。

「俺達は別に大丈夫だが誠士郎はまだ若くて食べ盛りだからもっと食べさせてやりたいんだが……」

誠士郎「お前達が我慢していると言うのに、私だけ多く食べて良い訳があるか!」

その言葉、やり取りを見て何だか俺はとても安心した。

楽「……変わってないな、鶫」

誠士郎「どういう意味だ?」

楽「やっぱりお前は優しい奴だなと、しみじみ思ったんだよ」

誠士郎「ーーっ!」

その言葉は、何の曇りも無く全て俺の気持ち。
だからなのか、俺は益々橘の一件を何故鶫がやったのか疑問でならなかった。

……鶫は今、何を考え思っているのだろうか。
ふと、鶫の顔を見る。

その顔が一瞬、悲しそうな顔に見えたのは気のせいなのだろうか。

あと、毎日チェックしてくれる人ホンマにありがとう。

鈍速更新やけど、その言葉がこれからも頑張れる力になるよ。

楽「……なあ鶫、橘の事は本当におまえが本心でやったのか?」

本題を切り出す。今が話すべきタイミングなのかは分からないが、多分今じゃないとこの先切り出す勇気は俺に残ってないと思った。

誠士郎「ああ、私の本心だ。橘万里花がお嬢の邪魔をし過ぎたのについ魔が差して……本当にすまない、許してもらう気は無いがどうしても謝っておきたかった」

楽「……俺に謝るなよ……」

誠士郎「……」

俺に謝るくらいなら橘に謝れよーーそう言いかけて止めた。
鶫はまだ本心を出していない。ここで俺が荒れても真実が暗闇に落ちるだけだ。
そして、さっきのは如何にも淡々と言っていたが、俺は一瞬だが話している時鶫が目を逸らし少し早口になったのを見落とさなかった。

楽「謝るくらいなら本当の事言えよ……」

代わりに出たのはこの一言だった。
橘には悪いけど、本当の事さえ言ってくれれば今回の事は水に流すつもりでいた。

誠士郎「あ、あれが本心に決まっているだろ!」

が、そう簡単にはいかないらしい。

楽「じゃ、真実聞くまでは帰らねえから」

誠士郎「……勝手にしろ」

ま、元々何日掛かるか分からない持久戦。

そっちがその気ならこっちも何日掛かってだって真相を聞いてやる!

はい、と言う訳で(どんな訳かは知らんが)ニセコイ遂にアニメ終わりましたな!
展開的に二期がありそうだけどね

……アニメは終わったけどこのSSはいつ終わるのかね?
自分で書いてて思う今日この頃である

ーー楽が突然消えてから、早3日経つ。
未だに何の音沙汰も無いのはどう言う事なんだ?

楽が小野寺さんや橘さんを無視して消える様な馬鹿じゃないのは分かってる、だからこそ自分から下手に動いたんじゃないかと思ってたりしている。
楽はそっちの意味では物凄い馬鹿だからな。

クロード「……時間を割いて来て下さった事、感謝します」

そんな時、小野寺さん、るりちゃん、桐崎さん、そして俺舞子集はクロードさんに呼び出された。

まあきっと楽の件だと思うけど。
それはともかく竜さんと楽の親父さんも居るが事情は知ってるっぽい顔してるな。

集「ねえねえるりちゃん、話って何だろうねぇ」

るりちゃんにしか聞こえない程度の声でわざとそんな風に、いつも通り聞いてみる。

るり「そんなの一条くんの事に決まってるじゃない……ってアンタ知ってて聞いてるでしょ」

流石にバレていた様子。でもこういう事で一番頭のキレるるりちゃんだし知ってて当然か……まあどっちにしても話しやすくなったのには変わりないな。

集「楽の奴は誠士郎ちゃんとこに居ると踏んでいる、しかも自ら飛び込んでったに違い無い」

るり「…………アンタと意見が合うなんてね」

俺の見解とるりちゃんの見解はやっぱり一緒だった。
……後のお二方は予想通りイマイチ掴めてない様子。

るり「で、なんでそんな事聞いたのよ?」

集「多分そこのお二方はここで説明聞いたら冷静じゃいられなくなると思うからさ、冷静になった後で説明必要じゃん?でも俺一人じゃキツいから」

るり「成る程ねえ……」

っと、何やらクロードさん達事情知ってる組でどう説明するか相談してたみたいだけど終わったみたいだな。

クロード「長らく待たせてすまない、では本題に入ろうーー」

ニセコイ二期には、春ちゃん以外にもポーラと羽姉が楽しみだったりする作者であった

クロード「ーー簡潔に言う、楽は今誠士郎に拉致されている」

やっぱりか。場は凍りつき、誰も何も言えないでいた。
勿論俺達も余計な事をこの空気の中喋る程空気が読めない訳がない。

小咲「……へ?」

千棘「嘘……でしょ?」

特に感が冴え渡る訳でもない二人は、予想通り混乱していた。

クロード「……そして楽が拉致されたのは私のミスのせい…………本当に申し訳ありませんっ!」

クロードさんが土下座をしていた。
俺には責める気持ちも恨む気持ちもなかった。

ただ、この人、本当に楽の事心配しているんだなと、少しばかしホッとしていた。

集「楽なら大丈夫っすよ。だいたい人質には手を出さず何らかの要求をしてくる事が定番っしょ?」

この中で身内の竜さん、親父さんに次いで楽との付き合いが長いのは俺。
身内には分からない事も、幼稚園の時からの付き合いだからこそ分かる。

小咲「でもやっぱり心配だよ……大丈夫かなあ?」

千棘「……」

二人共俺の言葉で多少は落ち着いたのか、慌てた様子ではなくなった。
だが桐崎さんは……黙って落ち着いた様に見えるけど、何か妙に焦り?そんな感じがしてならない。

集「クロードさんも頭上げて下さいよ。誠士郎ちゃんに限って楽を雑には扱えませんよ」

むしろ縄で縛られ双方顔を赤らめながらあーんされる楽と、食べさせる誠士郎ちゃんの絵図が思い浮かんだだが。
まあそれは置いといて。

小咲「そ、そうだよね。鶫ちゃん悪い人じゃないもん」

千棘「バカが勝手にヘマして捕まっただけだしクロードは悪くないわよ」

竜「そん通りだ。坊ちゃんは強い方だから心配無用ってもんよ!」

楽父「ま、失敗したら取り返すまで、じゃろ?」

クロード「舞子集……小野寺様……お嬢……皆様方……不肖クロード、全力を尽くして楽を救出してみせますっ!」


 


こうして集まりは終わり、残ったのはるりちゃんと俺だけになった。

集「なあるりちゃん……桐崎さん、見ててどう思った?」

るり「二回、怪しいと感じたわ、本人には失礼だけど」

集「やっぱりか……」

桐崎さんから感じた違和感は、るりちゃんも感じてたのか。
あの誠士郎ちゃんに捕まったと聞かされた時に感じた焦り様、そして何よりーー


 


 


クロードさんは「私のミス」と言っていたのにどうして桐崎さんは「楽のヘマ」と断言出来たのかーー

るり「私もそう、同じ箇所で違和感を覚えたわ」

桐崎さんの行動は明らかにおかしいと言うものではない。
だけど、だからこそ余計にモヤモヤするっつーか、何つーか。

集「……調べてみる価値は大いにあるよな?」

るり「アンタ、調べるったってどう調べるのよ?仮にも一条くんは拉致されてるんだし私たちだけで調べるのは無理よ」

集「そう言うと思ったぜ。勿論アテはある、しかもかなり期待出来る」

まあ、あの人の事だし楽の事となれば何でもしてくれるだろう……いや寧ろ率先してやりそう。

るり「本当に大丈夫なんでしょうね?そもそもツテが無かったらダメなのよ?」

集「大丈夫だって、何せあの人は楽の幼なじみで俺も小さい頃良く遊んでもらってたから。確か歳は俺らの二個上だ」

ただ楽を溺愛し過ぎて幾度となく俺は疎外感を感じずにはいられなかったがな……

るり「へー……因みに何やってる人?」

集「中国マフィアの首領(ドン)。因みにめちゃくちゃ可愛い女の人」

るり「!?」

るりちゃんには珍しく目が見開いてますな……そらまあ俺らの二個上の人間、しかも女の人がマフィアの首領なんて驚かざる負えないでしょ。

集「取り敢えず説明はこれくらいにして、早速連絡取らないと」

るり「…………そうね、詳しい話は本人に聞けば良いハズだし」

それにしても、何年か振りに連絡取るのが楽の事になるなんてな。

何か複雑な気分だぜコノヤロー……

最近このSSの方向性とエンドが見えて来なくなってたりする……
てか書いてて言うのあれだけどマリーの出番が……

同時刻、桐崎邸 千棘視点

昼間のクロードの話にはかなり驚いた。
何でアイツが誠士郎の居場所が分かったのか、何で捕まったのか。
何で誠士郎は連絡の一本も入れないのか。

ーーもしかして誠士郎は私を裏切って……

千棘「ーーまさか、ね」

ある訳が無い、誠士郎に限って……

でも、もし仮に裏切られていたら?
私は何もかも失う。この地位も、友達からの信用も、そして楽も。

前までは信用出来たクロードや他の友人も、信用出来ない。
一度疑いだすと歯止めが利かない、疑心暗鬼へと落ちて行った。

じゃあこれからどうする?

……答えは一つ。疑いが確信に変わったら、そしたら

千棘「……そしたら、みんな殺せば良い」

ーー楽の為、楽を手に入れる為ならどんなに汚れても、どんな犠牲を払っても良いと決めたから。

千棘「全ては楽の為、全ては楽の為……大丈夫大丈夫、ナニモコワクナイ……」

橘万里花を[ピーーー]と決めたあの日、私は悪魔に魂を売った。


 


 


 


だからもう、後戻りは出来ない

むぅ……やはり制限に引っかかってしまった
カタカナでやっとけば大丈夫やったんかね?

おっと、とにかくアドバイスやコメありがとう。
楽の回想シーンは取り入れてみようと思いますわ
後糖分過多なSSを書くのは特に苦手(読むのは大好き)で……てかまあこれ自体上手く書けてる自信は無いけど

とにかく、これからもアドバイスやコメントでの辛口批評などバンバン書いちゃってもらって構わないんで

では本日はこれにて

……誠士郎のとこに捕まってから早三日経った。時計が無いから何時かは知らないが、少し涼しいから早朝辺りだろうか。
と言うかまあ捕まったと言っても自ら捕まりに行ったんだけどな。

誠士郎「……」

予想通り、誠士郎の口は固く例の話題を出そうとすると何一つ喋らなくなる。
まあ、普通の会話なら意外と喋るんだけどな。


ふと、橘の事を考える。
アイツはもう起きたのだろうか
あの屈託の無い可愛い笑顔を見る事が、この先出来るのだろうか

楽「(……集は良いって言ってくれたけどよ、本当は俺はあの笑顔を見る資格ねえんだよ……)」

誰にも聞こえない声で、そう呟く。
俺は橘と小野寺で今も葛藤している。

橘は俺にストレートに好意をぶつけてくる。
それは嫌じゃ無いし寧ろ俺にはありがたい事だ。
だけど俺にはそれを受け止める資格が無い。

最初、橘と再会した時からーー

マリー「楽様~!会いたかったですわ!」

橘が、俺を見て言ったあの言葉
そして直後に抱きつかれた時の感覚

あれだけで気持ちは簡単に揺れ動いてしまった。
俺にとってみれば初対面も同然の相手に対して、だ。

アイツの純粋な「好き」と言う気持ちが、俺の胸に深く突き刺さる。

なんで、こんな俺を好きになったのか
冴えない男で、勉強も並みしか出来ないし、運動音痴で、ヘタレで。
こんな男のどこが良いと言うのか。

この際、こんな男のせいで命を落としかけたんだし嫌われたって何も言わないし、その方が橘に無駄に期待させないし良いかも知れない。

楽「(女一人守れてないのに、好きになってもらう資格も無いよな……)」

だからこれは、せめてもの罪滅ぼしとして


俺はこの件を解決しなければならないんだ。

楽が捕まり早2週間が経った。
今日も何気なく橘さんのお見舞いに俺達は来ていた。

集「いやあ、まさかるりちゃんと二人っきりで来る事になるなんてな」

るり「誤解を招く様な事言うんじゃないわよ……」

実際のとこ前言ってた「知り合い」と関係のあるところを訪問してて、その帰り道どうせならって事で来ただけなんだけどね。
その話はまた後日。

集「……気付けばもう8月、か」

るり「何よ辛気くさい顔して、らしくないわよ」

集「何つーかさ、三人が居ないだけで嫌に毎日が静かと言うかね……」

楽とは幼稚園からの馴染みだから余計感じるのだろうか。初めて会って以来こんなに長い期間顔を見ない時期なんて無かったからなあ。
橘さんも、来て時期はそんなに経ってなかったけどとっても明るくて、それだけで更に学校は賑やかになっていたと思う。
誠士郎ちゃんも何だかんだで人気者だったし騒ぎの中心にいる人だったしな。

るり「そうね、最近は学校のみんなも少し暗いと言うか、殺気立ってる人もいるみたいだし」

集「俺達の町であんな事件があったんだ、気楽にいられない気持ちは分かる」

正確には学校の生徒だけが暗い訳じゃない、この町全体の雰囲気が暗く、殺気立ってると感じる。
自分の物が無くなっただけで周りを疑い、悲観的になったりトラブルも絶えない。

今は橘さんの親父さんとこから派遣された警察と、集英組、ビーハイブが抑えているから怪我人はいないけど、それもいつまで持つか分からない。

集「せめて橘さんが意識を取り戻せば、学校の雰囲気は変わると思うんだけどね」

るり「いつ起きるかは分からないんだし、気長に待ってあげましょ」

俺は無言で頷く。異論なんて無いし本当にその通りだと思う。

るり「……ちょっと飲み物買ってくるわね、アンタは何が良いのよ?あ、自分の分は後で払ってもらうから」

集「おごりはやっぱり無いのね……コーラでお願いします」

るり「分かったわ」

そうしてるりちゃんは退室、俺と橘さんだけになった。

集「……改めて、楽が橘さんを好きになった気持ちが分かった気がするよ」

人は見た目で判断してはいけないとか良く言うけど、橘さんはとても優しい顔をしているし現にとても優しい性格。
そりゃあ、楽の事となると時々見境無いし暴言も吐くけど、でも卑怯な真似はしないし気遣いが上手い。

集「楽、早く帰ってこいよ」

ーーじゃないと他の奴が手え出すかも知れない程可愛いから。

マリー「………………ぅ」

集「……え?」


 


同時刻、廃倉庫 楽視点

ここに来て早2週間以上が経つ。
相変わらず鶫が例の事を口にする気配は無い。
だが収穫が無かった訳ではない。

楽(ただの憶測に過ぎないと言われりゃそれまでかも知れないけどな)

アイツは誰かを庇って嘘を付いている可能性が高い。
2週間考えたが、鶫が自分の保身の為に逃走しているとはやっぱり考えにくい。
じゃあ何故アイツは逃げているのか……
大事な人を庇う為と考えた。

鶫は実行犯でまず間違いないが(証言と鶫の自白で)、いくらアイツでも橘を消したい程憎んでいた筈がない。
確かに仲は良くないが、何だかんだで鶫と橘は俺達と一緒に連んでる時間が長い。

本当に憎んでる相手であるなら俺達が一緒でも近付きさえしないだろう、俺なら少なくともそうする。

楽(そろそろ多少強引にでも聞くしかないな)

その為にわざわざ乗り込んで2週間以上も耐えて、粘ってきたんだからな。

マリー「………………ぅ」

集「……え?」

それは突然だった。

今、微かに橘さんの意識が戻った様な気がした。
気のせい……?いや、気のせいであっても微かにでも意識があるなら確認しない訳にいくか!

集「た、橘さん!もし俺の声が聞こえるなら頷いて!」

橘さんは


 


 


首を縦に振った。

それはつまり…………橘さんが意識を取り戻したと言う事に他ならない……んだよな?

るり「買ってきたわよ。てな訳で早速ーー」

集「今はそんな事より、橘さんが意識を取り戻したんだよ!」

るり「!?橘さん、声聞こえる!?」

橘さんはそれにも僅かだけど頷く。
本当に……本当に意識を取り戻したんだな。

良かった……


 


今は喜びしか無かった。奇跡、魔法だとも思った。


 


でも、現実はいつも残酷でーー奇跡も、魔法も夢物語でしかなかったーー

コメントありがとう、ニセコイSSがあまり増えないのはどうしてなんすかね?

あとSS速報VIPに初めて来た人が読むやつ読んでなかった……トホホ……

集「本当に良かったよ、橘さん」

るり「私、先生呼んでくるわ」

綻んだ顔を見せるのが恥ずかしいのか、るりちゃんは早々に先生を呼ぶ為退出していった。

マリー「……私、一体どのくらい意識を失っていたんですか?」

集「1ヶ月以上は意識を無くしてたかな」

マリー「はあ、皆様と遊ぶ時間がそんなにも減ってしまうなんて……」

……何か、何かおかしい。少し元気が無いのは1ヶ月以上寝ていたから当然として、いつもの橘さんのテンションである事に違いは無い。
でも本当におかしいんだ、橘さんの中にあるはずの何かが無い様な、嫌な予感がした。

ーーまさか、な。有り得ない、そんなの俺の思い違いと言い聞かせる。


頭をリセットさせたところで、ふと楽の事が頭をよぎった。
アイツの事を話しておくべきか……いや、また後で良いだろう。

マリー「元気に退院したら皆さんで海に行きましょう!」

集「……う、うんそうだね」

ダメだ、頭をリセットさせてもこの嫌な感じが抜けない。
抜けないどころかそれは大きくなるばかりだ。


ーーそしてその不安は現実のものとなってしまう。

マリー「海には特別にあなたも来て宜しいですわ、お見舞いして下さったお礼として。後は小野寺さんに宮本さん、ついでに桐崎さんと鶫さんで良いでしょう」

橘さん、嬉しそうな顔してるなあ。楽も早く…………楽?


俺は、とんでもない事に気付いてしまった。
どうしてもっと早く気付けなかったんだ……いやそんなの分かりきっている、最初から不安を突き詰めれば早く気付いていたはずなんだ……

俺は、もう殆ど確定的になってしまった事を聞く。
口は、無意識にも震えていた。

集「ら、楽……の、事…………」


 


 


集「覚えて……ない、のか……?」

集「楽の事……覚えてないのか?」

俺の頭の中は殆ど真っ白だった。ただこれが嘘である事を願っていた。
でも現実は非情で。

マリー「誰……ですか?そんな人、私の記憶には……」

もう俺には、何か話す気力も、橘さんの話を聞く気さえも無くただ立ち尽くしている事しか出来なかったーー


 


 


医師「……これは一種の記憶障害ですね」

その後、橘さんの両親とその場にいた俺、るりちゃんは医師から説明を受けていた。

橘父「記憶障害、と言いますと?」

医師「ええ、取り敢えず親類の方々やそこに居るご友人の記憶は有るみたいですし、一部の記憶だけが抜けているものと思われます。原因は恐らく倒れる前日に今まで飲んでいらした薬を飲んでいない事、それとやはりすり替えられた薬物から検出された毒物が原因かと……」

るり「毒物?」

毒物が混入されていたのは俺も初耳だが、きっと橘さんの両親には話しているのだろう、二人共驚いた顔はしていない。

医師「ええ、それも複数の毒物の成分が検出されました。一つ一つはさほど毒性が強くはないのですが、合わさる事で毒性が増すので、今回橘さんが一部の記憶障害で済んだのも奇跡と言えるでしょう……ですが記憶が戻るかどうかは……」

医師は力無く首を横に振る。俺は、瞬間的に湧き上がってきたやり場の無い怒りを押さえ込む。
誰も医師を責めたりしないし何より医師が悪い訳ではない。
この医師は親身に橘さんを治そうと頑張ってくれた、だからこそ影響という影響がここまで記憶障害一つになったと思う。


 


だけど……なんでよりによって…………よりによって楽の記憶を……


 


神様よお、俺はアンタを恨むよ



毎日来て下さっているとは感激でございます!

次回は楽視点に戻りやす

楽視点

俺は鶫と例の件について話をしていたーーはずだった。

誠士郎「ふざけるな!私のせいと、何回も話しているだろうが!」

楽「んな事言っても隠してるのがバレバレなんだよ。おまえの目を見て確信した、てか最初からおまえの言葉は信じてなかったしな」

それが今は言い合いにしかなっていない。余程言いたくない事なのは最初から分かってはいたがここまで何も話さないとは。
俺だって焦る気持ちを抑えて冷静に聞いてるんだけど。

誠士郎「もう良い、帰れ」

楽「は?おまえ何を……」

誠士郎「良いから帰れ!おい、コイツの縄を解いて外に出せ」

どうして何も言ってくれないんだ……そう一言言おうと誠士郎の目を見て、気付いた。

鶫は泣いていた。

誠士郎「…………憎むべき相手は、案外近くにいるんだな」

その意味を聞こうとした時には、もう鶫は奥の部屋に消え鶫の仲間に俺は外に連れ出され、帰る事しか出来なくなった。

ーー鶫、おまえは一体何を隠しているんだ?


誠士郎視点

「良いのか、追い出したりして」

誠士郎「ああ、一条楽はここの事を言う奴ではない。だがーー」

最後一条楽に言ったあの言葉、あれは失敗だった。
どこか胸の奥底に、お嬢に罪を償ってほしいと思う心があったのかも知れない。

「どうかしたか?」

誠士郎「いや、何でもない」

まあ一条楽にあの言葉の意味は分かるまい。
分かっていたら……


その時は私が責任を取るまで。

私の命は、お嬢の為にあるのだから

楽「……ま、仕方ないか。ヒントは、貰ったんだし」

正直ヒントなのかは怪しいところだが、全く役に立たない訳でもなさそうだ。
俺は一つ息を吐き、家に帰る事にした。


楽「1ヶ月ぶりの我が家か……」

我が家を前に呟く。1ヶ月帰ってないだけでいつもは面倒と思う時もあるアイツ等に会うのが楽しみだ。
何だかんだ言ってもこの家が好きなんだなと、実感する。

楽「ただいま!」

出来るだけ元気に言う。俺なりの気遣い……かも知れない。

竜「ぼ、坊ちゃん!?坊ちゃんなんすよね!?」

楽「ああ、心配掛けて悪かったな」

竜「いえ、坊ちゃんが無事なら……おいテメエ等!坊ちゃんが帰ってきたぞおおおおおおお!!」

「坊ちゃん!無事で良かったっす!」

「俺、坊ちゃんに何かあったらどうしようかと……」

「うおおおお!坊ちゃん、坊ちゃ~ん!」

楽父「全くじゃ、心配掛けさせおって」

楽「親父……心配掛けてゴメン。そしてただいま」

楽父「無事だから許すが、今後は無茶するんじゃないぞ」

楽「ああ」

軽く返事をすると、親父はホッとしたのか奥に消えていった。

竜「今日は宴だああああ!!」

「うおおおお!!」

「祝いだー!」

みんなに押しつぶしされそうになるが、今日はコイツ等の好きにさせてあげよう。

楽「偶には……良いか」

みんな家族みたいな存在なんだなと、改めて思った。

朝方、病室


マリー「……」

一体私は何を忘れてしまっているのか、分からない。
記憶喪失と言われ、数日が経っても記憶を失くした実感はこれと言ってない。

お見舞いに来てくれた家族や友人はしっかり覚えている。お父様やその側近、小野寺さん、桐崎さん、宮本さん、舞子さんや学校の友人、お父様の部下で顔見知りの警官……全員を覚えている。
忘れている事なんて一つも無いはずだった。

「楽の事……覚えて、ないのか……?」

マリー「ーーッ」

なのにあの日言われたあの言葉を思い出すだけで頭が、そして胸が痛い。

まるで大事な事を忘れているかの様に、それを無意識に思い出そうとしている様に。

でも結局は思い出す事が出来ない。

私はそれでも良いと思った。こんな苦しい思いをしてまで思い出す事なんてない。無理やり思い出そうとするなんて馬鹿げているーー

だけど、そう思う度に何故か悲しい気持ちになり涙が溢れてくる。

おかしな話だと、笑われても仕方ない。
思い出したくないと今の自分は思っているはずなのに、そう思う度に悲しくなるだなんて。

ふと外に目をやる。

マリー(まだ、全然時間経ってない……)

うっすら明るみがかっていた外は、起きた時と変わっていない。

ーーもう一度寝よう。

変な時間に起きたから思い詰めてしまっただけに違いないと一つ深呼吸をし、半ば強引に再び眠りについた。

初めてこんな時間に書いたような気がする
てかマリー視点ももしかして初めてだったかも?

有り得ないーーそれが最初感じた思いだった。


千棘「……」

橘万里花の意識が戻ったと聞いてから数時間が経った。はっきり言って誤算だ。
もう起きないまで弱らせたはずなのに……

千棘「どいつもこいつも……」

どうして邪魔ばっかりみんなみんなするのか、そこまでして楽と私の仲を引き裂きたいのか。

そんな事を思っていると、ケータイに着信がきた。
私が潜入させている部下からだった。

千棘「もしもし?」

苛立っているのを抑えつつ出る。

部下「お嬢、橘万里花のその後の情報が掴めました」

正直聞きたくはなかった。
宿敵である橘万里花の情報なんて「死んだ」それだけで充分。
生きてる橘万里花の情報なんて殆ど必要ない。

部下「ーーどうやら一条楽の事を忘れている、つまり記憶喪失みたいですぜ」

千棘「……!」

しかしそれは意外にも私に好都合な内容だった。
橘万里花が楽の事を忘れている……そう思うと笑いが込み上げてきた。

千棘「ふふ……アハハハハハ!そう、橘万里花は記憶喪失なのね?ほんっと橘万里花もバカねえ、一番大切な人を忘れるなんてねえ」

部下「これで障害は無いはずです。一条楽がお嬢のものになるのも時間の問題かと」

部下の言葉を聞き、改めて楽を手に入れるのが近いと感じる。
ああ、楽……もうすぐ、もうすぐなのね……


しかし私はそれによって自分の首を絞める事になるなんて、思いすらしなかった。

第二章 小野寺小咲編


楽「昨日はハシャぎ過ぎたな……」

昨日は帰って早々復帰パーティーだったもんなあ、拉致(自分からされに行った訳だが)されてる時は殆ど動いてなかったからかいつも以上に疲れたし、何より集達に連絡入れる前に力尽きて寝ちゃったから今日の朝メールしただけ。

……悪い事したかも。まあ今日は公園に呼びだしたしそろそろ来る頃だろうか。


集「おい楽ううううううう!!」

楽「げ」

噂をすれば何とやら、全力疾走の集が物凄い形相で迫ってくる。
いつもの俺なら逃げるが何せ昨日まで拉致されて自由に動いてない、そんな中走れる訳なかった。

集「おま、戻ってたんなら連絡の一本くらいその日に送れよ!」

楽「スマン、色々あって連絡する前に力尽きた」

集「まあ、何があってそうなったか想像は付くから一応これくらいで目を瞑ってやる……で、誠士郎ちゃんから何か聞き出せたのか?」

楽「な……!?そうか、おまえにはバレてたのか……」

集「やっぱりそうだったか」

ん?やっぱり……やっぱりってコイツ、確信は無かったのかよ!?つまりあれか?カマ掛けられたってか……。

楽「一本取られたな」

集「なあに、念のためにカマ掛けただけで確信は無かったが予想はしてたぜ。んで、何か聞けたのか?」

「何か聞けたのか」か。俺がアイツから引き出せた言葉は無い。
ただアイツ自ら言った言葉なら一つあった。

楽「灯台元暗し、だとさ」

集「それ以外はナシ……か」

集が複雑そうな顔で呟く。鶫は想像以上に頑固だったからなあ、あれだけでも聞けたのは良かった方かも知れない。

……お、そうだ丁度集がいるんだしアイツの事聞いとくかな。元気だったら良いんだけど、そうだったら顔でも会わせに行くかな。

楽「集、そういや橘ってもう意識回復したのか?」


 


しかしその質問は、自分をどん底にまで突き落とす事になるーー

エア寺さんに大草原
小咲さんにはこの章でメインになってもらいます。
前の章出番が明らかに途中離脱のマリーより少なかったのは出すタイミングが無かっただけっす(多分)
だが!この章では大いにかまs……活躍させまっせ!

そう言えばマリーのSSって他メンバーに比べて多いキガス
マリー信者としては嬉しい限りであります!

集「ああ、意識は回復した……意識は、な」

意識が回復したと聞きホッと胸をなで下ろす。鶫のところにいた時、橘がどこか遠くへ行ってしまうのではないかと何回も頭をよぎった。

楽「じゃあさ、お見舞行きたいんだけど行っても大丈夫か?」

だからこそ早く会いたい、早く橘の声を聞きたかった。

集「…………今は、止めとけ。まだ体調があまり良くないみたい、だからさ」

集にしては歯切れの悪い喋り方だった。何かあったのか……?それとも気のせいか?

集「ま、また今度行こうぜ!」

楽「お、おう。まあ仕方ないか」

やっぱり気のせいだったか。俺はこれでも勘と心理に付いては人並み以上だが、違和感を感じたのは一瞬だったし少し敏感過ぎたのかも知れない。

もう橘はどこへも行かない、別に急いで今会わなくたって大丈夫だ。
……結構、残念ではあるけどな。

楽「……にしても何か俺が捕まってる間に随分町の雰囲気も変わっちまったみたいだな」

妙に静かと言うか、嫌な空気が立ち込めている感じだ。
まあそんなのは捕まる前から薄々は感じていたのだが……
いつもはもっと賑やかなのに、外にいる人さえ殆ど見当たらない。そんな現状は捕まる前には無かった。

集「橘さんが倒れてから色々あって、時間が経つにつれどんどん悪化していったんだ」

楽「……そうか」

集「まあな……っと悪いこの後用事あった……」

申し訳なさそうに言う。俺は文句は言わない。こんなに話してくれたのだから不満を言う必要はない。


そのまま集と別れ家路までの道を歩く。少し寄り道がてら遠回りの道で歩く。

楽「ん?」

そう言えばこの道……確か橘の居る病院があったんじゃ……

「…………今は、止めとけ。まだ体調があまり良くないみたい、だからさ」

楽「……こっそり顔見るくらいなら良いよな」

俺の足は必然と言うべきか、病院へと向かっていた。

病院内

楽「橘のいる病室ってどこだ?」

コソッと見るとは言ったもののここは県内屈指の大型総合病院、自力じゃとてもじゃないが探せる訳がなかった。

その辺の医者にでも聞くか……。

楽「すいません、橘万里花さんの病室ってどこですかね?」

歳は30くらいだろうか、メガネを掛けている医者を捕まえ聞いた。

医師「おや、橘さんのお友達かい?」

はい、一条楽ですと短く返事をする。しかし何故だかその言葉を聞いた医師が眉をひそめる。

医師「君が一条くんだったのか……すまないが君はしばらく橘さんには会わない方が良いだろう」

突然の面会拒否。確かに集も体調が悪いから会わない方が良いと言っていたが、何よりも「君はしばらく会わない方が良い」その言葉に不信感を抱いた。

楽「……どういう事だよ?」

苛立ちを募らせつつ聞く。早く会いたい気持ちが先走って敬語すら使っていないが口は無意識に動く。

楽「橘の病室はどこだ」

医師「……やれやれ、会わない方が良いとわざわざ忠告しているのに。後悔しても私は責任は取りませんからね?」

その後渋々と言う感じで妙に上から目線の医者から部屋番号を聞いた後、俺は小走りでその番号の病室へと向かった。

楽「ここか……」

また、楽しくアイツと話せるーーこの時まだ俺はそんな考えがある程余裕だった。


でも俺は後悔する


 

ーこの時会わなかったらどれだけ良かっただろうと

楽「コッソリ顔見るって言ったけど、流石に部屋入ったらバレるか?」

まあ入らずにどう見ろと言う事になってしまうんだがな、そうなると。
いいや、どうせ入らなくてもアイツには気配でバレるんだし、堂々と入るか。

楽「橘、見舞いに来たぞ」

…………しかし返事が無い。寝てるのだろうか。

ベッドに近づくと、そこには俺に背を向け寝ていると思わしき姿が。
個室だしその姿は確実に橘だと確信した。

楽「寝てるのか」

反応を示さないと言う事はつまりそういう事なのだろう。
見舞いの為に持ってきたフルーツやらを置き、その姿をしばらく見ていた。

楽「……そろそろどっちかに決めないとなあ」

色々あり過ぎて今まで忘れていた事、小野寺と橘どちらに好きと言う気持ちを伝えるか。
早く決めないとと思いつつも未だに決められないでいる。

楽「俺なんかのどこが良いんだか」

橘はいつもいつもベッタリと俺にくっついてた。
そんなオープンに好意を見せられてはいたが、具体的にどこが好きか聞いた事は無い。

俺が聞くと答えは決まって「楽様の全部に決まっているじゃありませんか!」としか言わなかった。
もしかして橘は10年前の俺に抱いた気持ちを勘違いしてるのかもしれない。
俺はただ、誰と接するにもあの頃は同じ感じだったと思う。

多分橘は、同年代の男子と接した事が無かったせいで少し優しくしてもらった事が嬉しくて勘違いしたんだと思う。

……ふぅ、大分思う事があったせいか予定より随分と長く居座ってしまった。
もう充分様子は見たし帰るか。

マリー「んぅ……んん」

楽「あ、ごめん起こしちまったか?」

どうやら橘が起きてしまった。出来る事ならバレずに退散したかったが仕方ないか。

マリー「…………え?」

橘はキョトンとした顔でこっちを見る。しかしいつもの橘ならそう言いつつも笑顔のはずだ。

それに若干の違和感を覚えながらも平静を装う。しかしそれはいとも簡単に崩れ去る。

マリー「あなたはーー」


マリー「誰、ですか?」

同時刻、集視点

集「楽には悪いけど、ちょっとだけ橘さんの様子見に行こうかな?」

楽には嘘付いちゃったけど正直やっぱり気になるからなあ。
体調の事もだけど、記憶の事の方も気になるしね。

集「しかしまあ、楽に嘘付くのは大変だな」

楽は並大抵の嘘や誤魔化しは通用しないし洞察力も対したもんだから表情に少し出るだけですぐバレる。

だがそこは幼稚園からの付き合いの俺、話すトーンから表情まで全て事細かに調整すると言う人間離れの技を楽との付き合いを通じて習得した。
さっきは一瞬バレかけたけどギリギリセーフだったみたいだし、流石は俺?

集「っと、着いた着いた」

いやあ、いつ見てもここの病院は大きいなあ。
県内屈指の総合病院とか言ってたけど全国的に見ても一桁台に入る大きさじゃね?

まあ良いや、取り敢えずササっと様子見て帰ろう。

医師「あ、舞子くんじゃないか!」

ばったり偶然主治医の先生を見つけた。どうやらあちらも同時に気付いた様子で、声を掛けてきた。

集「あ、どうもっす。今から橘さんのお見舞いに行こうとーー」

医師「それより、かなり厄介な事になった」

集「へ?」

いきなり変な事を言われたものだから変な声が出てしまった。
と言うか厄介ってなんだよ……。

集「なんすか?まさか楽が来てるとか?」

それは100%冗談で言ったはずだった。
だって楽はついさっき帰ったはずなんだし、来る訳が無いと思っていた。

医師「ああ、つまりは君が言った通りさ」

集「………………は?」

医師「私も止めたのだが……制止を振り切って行ってしまってね」

申し訳無い様子で謝る主治医の先生。勿論悪いのは主治医の先生じゃない。

集「あの馬鹿……!」

俺の足は既に駆け出していた。
もしかしたらまだ間に合うかも知れない、まだ事実を知らないかも知れない、そんな淡い希望を持って。

医師「最悪の事態になってなければ幸いなんだがね……」


その最悪の事態はーー 

 
楽「は……?」


既に、起きていたーー

今日は何だか手が進んだ気がした

てかやべえよやべえよ(出川風)
小咲ちゃんメインの章なのに始まって今まで(たかが5回だが)一言も喋ってないどころか一回も出てねえ!
これじゃあまるで前と待遇が……でもまだしばらく出る予定は無いと言う(白目)

楽「は……?」

あなたは誰ですか、その言葉の意味が分からない。だって、橘ならこっちが困るくらい抱きついてくるはずなのに、抱き付く以前にキョトンとした顔で聞かれたその言葉。

楽「は?おまえ何言って……俺だよ忘れたのか?」

マリー「……」

橘は首を横に振るだけだった。
これで脳内では状況を残念だが理解してしまった。だけど……だけど。
分かってるけど感情は「理解を拒否」している。

楽「あ……あーあー!ドッキリだろ!俺をびっくりさせる為にやってーー」

集「楽」

不意に俺の言葉を遮った声、それは紛れも無く集だった。
集のあの言葉……まさ、か……。
いや、集の言葉は俺を「俺の記憶の無い橘」から遠ざける為の嘘、俺がおかしくならない様にする為の嘘。

俺が気付きさえしていれば……俺自身を傷つけずに済んだのかも知れない。
でも、もう遅い。全て遅かった。

楽「……ぁ……嫌、だ……」

それと共に目の前が真っ暗になり、意識が途絶えた。


集「…………」


そろそろ小野寺さん出すはず、きっと出すはず
因みにここで原作の楽とここでの楽の違いを

直感、洞察力↑(あの難聴鈍感野郎から一転、ものすごい上がってるが集に対しては無効の模様)
メンタル↓↓(一章を見てれば分かる)

優柔不断なところは相変わらずなんやで
さて、更新しましょか

楽「ぅ……ん……」

集「目、覚めたか」

一体ここは……ああ、病院か。確か俺は橘の様子を見にきて、そこで……記憶を無くした橘を見て倒れたのか。
橘……ごめんな。

楽「……」

何も言えない。集も、あの医師も悪くない。
悪いのは俺だ、そう分かってる。

医者「一条くん、説明……したいんだが良いか?」

俺は何も反応が出来なかった。今頭にあるのは後悔だけだった。
どうしてあの時助けられなかったのか、どうして俺はあの日橘の家に行くなどと言ってしまったのか。

楽「俺のせいだ……」

医師「……確かに、君が事件当日に橘さんと会わなかったらああはならなかったかも知れない」

集「ちょ、先生それは……」

医師「だがね、それは結果論に過ぎない。結果、君がいる目の前で倒れた。だが君がいなくても倒れてた可能性は大いにある」

俺は黙って聞いていた。幾分か気持ちも落ち着いてきたが喋る気には一向になれなかった。

抜け殻……今の俺を表すに相応しい表現である。
無気力、無判断。全てにおいてのやる気を失った。喋る気力は勿論、動く気力や生きる気力すら殆どもう無い。

医師「……命は無事なんだ、そう思い詰めなくても良い」

その言葉さえも、俺に響く事は無かった。
いつの間にか、ただ虚空を見つめ、いつ死のうか……それだけを考えていた。

楽「帰る……」

唯一、それが言えたのは奇跡に近いと思った。
おぼつかない足取りと分かっているが、今は無意識に足が動いていた。


 


死に場所を求めてーー

いやあ、更新がどんどん遅れる……
最近特に忙しくなってきたしまばらになりそうです、すみません

因みに楽の株は故意に落とした(原作以上のヘタレじゃないとこの先やってけない)

そして今回はやっと小野寺さん登場の予定。
いつ以来の出演だよ……

フラフラと、町をさまよう。まるでゾンビの様に。
俺が生きてるという証拠は、心臓が動いている他無いに等しい。
いや、他に一つだけ有るか。

「死にたい」そう思っているという事は、生きてる証拠。
生きてしまっている証拠。

楽「本当馬鹿だよな」

もう、何も考えたくなかった。
考えれば必然と橘の顔を思い浮かべてしまう。
それは、死ぬと決めている俺には余りに酷だ。


せめて、最期は無心でーー


誰のせいでもなく自分の意志で決めた、それまで人のせいにしてしまったらとんだ屑野郎だ。

ー橘を助けられなかった時点で充分屑野郎だけどな。

楽「ここなら……人は来ないよな」

着いたのは町外れにある廃ビル。
来月取り壊し予定とか言ってた七階構造のビルだ、自ら命を絶つ場所としては絶好と言っても過言は無い。

カン、カンと鉄製の階段を一段一段ゆっくり上る。
聞こえるのはその上る音だけ、だが逆に何故かそれが安心出来た。

そして程なくして屋上に着いた。
もう覚悟はとっくに出来ている。
一つ、ふっと短く息を吐き屋上の手すりを乗り越えた。後は重力に身を任せるだけーーそう思った瞬間だった。

「ダメ!」

一つの手が、聞き覚えのある1ヶ月以上聞いていなかった声と共に差し出された。

俺はゆっくりと顔を上げる。
そこに見えたのはーー


 


 


楽「おの、でら……?」

ようやく登場しましたよ!(本当いつ以来だよ)
だがこれから進撃の小野寺さんが始まるのだ!

あと自分で書いててあれだがここの楽酷い重症ネガティブ野郎だよな

楽「おの、でら……?」

一瞬、もう俺は死んだのかと思った。それ程までに有り得ない光景と、そう思わざる負えない状況。
だが俺は生きている。じゃあ一体この状況は何なのか。
幻覚か、はたまた死ぬ間際に見る走馬灯を本物の映像と見間違えているのか。

いや、違う。確かに掴まれている小野寺の手には温もりがあった。そして何より胸の鼓動を感じていた。
俺の手が小野寺の胸に当てられている……小野寺自身、絶対無意識だろうな。
小野寺らしいな、と少し苦笑いを浮かべ俺は手すりの内側に戻ってきた。
何故だかついさっきまでの絶望感は消えていた。

楽「悪い……」

小咲「もうっ!本当に怖かったんだからね!もしも一条くんが自殺なんかしたら私一生一条くん恨んだんだからね!」

本当にものすごく心配させちまったみたいだな。
緊張の糸が切れたのか、いつも落ち着いた感じの小野寺からは想像も付かない早口、そして饒舌。
しかしいつもの小野寺なところは抜けてなくてーー


 


未だ、俺の手は小野寺の胸から解放されていなかった。

楽「え、えと小野寺さん?」

小咲「ふぇ?どうしたの?」

楽「あー、えーと……む、胸が……」

小咲「………………」

小野寺硬直。本当に天然で気付いてなかったんだな……。
そういうところが可愛いっちゃ可愛いんだけどさ。

小咲「」

って気絶してる!?
あー……もう、これじゃどっちが助けた側なのやら。


取り敢えず家、帰っか。


小咲side

小咲「ん、んう……?」

楽「目、覚めたか」

私、確か一条くんを追いかけて、助けたけど廃ビルの屋上で気絶しちゃって、それから……の記憶が無い。
と言うか見渡すとかなり見覚えのある景色ーーって!?

小咲「まさかここ一条くんの部屋!?」

楽「え?あ、悪いここしか空いてなかったから」

小咲「あ、ううん!別に嫌とかじゃないからっ!」

嬉しすぎて緊張してるなんて言える訳ないよぉ!
とにかく!冷静に、冷静に……

小咲「私一条くんの事が好き……」


 


楽「はい?」

小咲「え?」

久し振りのコメディ&まさかの小野寺さん爆弾投下(爆)

偶にはこんなコメディではじけても……良いよね?

それにしても天然小野寺さん可愛い、もうモブ寺さんとか呼ばせない小野寺さん株上昇になってれば幸い

楽「…………はい?」

今俺は何を聞いた?それこそ今度こそ幻聴か何かか?
しかし今回は意識がしっかりしてる時に、しかもはっきりと聞こえた。

だがそうだとして、どう反応すれば良いか分からない。
「好き」と伝えて良いのか……分からない。
小野寺が素で「好き」と伝えたのは分かる、が。

小咲「うわあああああああ!!私なんて事口走ってるのおおおおおおお!!」

明らかにこの反応を見る限り発言時の自覚症状無し。

無意識に同情が一時の流れで恋愛紛いのものに発展する事なんて良くある事。
小野寺の気持ちを考えればこそ振るべき、そんなの誰でも分かる。


 
楽「俺も……俺も好きだ、ずっと前から小野寺事好きだった!」

それでも、心に大きな傷を負っていた俺は小野寺に助けられ癒され、そして好きと甘い言葉を掛けられれば……理性なんてものはもう、無い。


 


 

小咲side

私は一瞬固まった後、自分が何を言ったのかようやく分かった。

私一条くんに告白しちゃった!?
気付いた時には既に遅い、一条くんも呆気に取られていた。
まさか、ずっと好きだった人にこんな形で告白なんて有り得ないよぉ……。

小咲「うわあああああああ!!私なんて事口走ってるのおおおおおおお!!」

自分でもこんなリアクションが取れるとは思わなかった、と思うくらいパニック状態。

もうダメかも……そう思った瞬間

楽「俺も……俺も好きだ、ずっと前から小野寺事好きだった!」

奇跡は、私に舞い降りてきた。

楽「ん……うーん」

いつの間に寝たのだろうか、気付くと夜だった外からは朝日が差し込んでいた。

楽「……体痛え」

そう呟くが、ふと隣を見れば天使の寝顔、もとい小咲の可愛い寝顔があった。
それさえ見れば体の痛みなんてすぐ無くなっていた。

楽「無理させ過ぎたかもなあ」

初めての夜は遅くまでコトにふけっていた。
まあ告白の勢いそのままにコトに及んだ訳だし男の俺がこんなだから、小咲はまだ起きないだろう。

楽「……こんなコトしたのバレたらアイツに殺されかねないしとにかく服は着せとかないと」

どこからどう洩れるか分からないし、帰って来たのが深夜……と言うのも家帰ろうと思ったんだけど安心したからか俺もその後寝てしまい気付いたら結構な時間だったと言う訳だ。
一応万が一を考えて部屋の両入り口にはつっかえ棒を立て掛け入れない様にもした。

うん大丈夫バレないはず。
取り敢えずこっそり服を着させてから

楽「……もう少し拝んどくか」

可愛い可愛い天使の顔をもう一度見て、朝食へと向かった。

竜「おはようごぜえます坊ちゃん」

楽「おう、おはよう」

次々といつもの面子が挨拶してくるいつもの光景。それを見る限り警戒はしなくてもーー

竜「坊ちゃん、腰の調子は大丈夫っすか?」

バレてた!?あれ結構ヤバくないかこの展開。

竜「……他の連中は気付いてないですし、言う気も無いっすから」

お、おおう……バレたのが竜で本当に良かった。
思わず安堵のため息を付いてしまう程に焦っていた様。

いや、本当に良かったよ。

書くの遅くなりました、サーセン
書く時間と気力が最近不安定なんす

……そして何だろうかまたおかしな方面に話が進んでる様な

その日の昼、今日は小咲との初デートを朝食後より満喫している。因みに小咲が部屋から抜け出す際竜が上手く誤魔化してくれたから難なく外に行けた。


楽「はい、あーん」


小咲「あ、あーん」


恋人同士と言えば「あーん」だろ!と言う事で昼間からイチャイチャしてます。それにしても恥ずかしがる小咲、めちゃくちゃ可愛いなあ!天使だよ!


「うわ……昼間からイチャイチャしてるし」


「最近の若い子は積極的だねえ」


「羨ましい」


「恨めしい」


「爆破しろ」


あちこちから声がするが気にしない、特に最後二つは気にしちゃいけないと俺の防衛本能が言っている。


小咲「あわわ、たくさんの人に見られてるよぉ」


楽「見られてても関係ねえよ、今は小咲しか見えないし」


二人はジッと見つめ合う、それだけで幸せなんだ。
久し振りの幸せ。橘が襲われて以降感じ得なかった幸福の二文字。


小咲「楽くん」


楽「小咲」


お互いの名前を呼び合う。流れ的にキスするところだろうが流石に公衆の面前でそれは無理なのでそこでストップ、少し物足りないが続きは家でやろう。


楽「……さて、行こうか」


小咲「うん」


俺達は満足げに店を出た。途中、何か呪文らしき言葉を呟いている奴と、某ノートに人の名前と殺し方を書いて殺す映画のノートらしきものを持っている奴が見えたがやはり気にしたら負けだろう。


楽「次はどこ行きたい?」


小咲「え、えと、その……ジュエリーショップ行きたいなあ……なんて」


女の子らしい可愛い答えにウル目と上目遣い。文句なしの特大ホームラン級に俺のハートが撃ち抜かれました。何を言ってるか自分でも良く分からないが、つまりそういう事だ。


楽「欲しいのあったら遠慮無く言ってくれ、何でも買ってやる」


小咲「ふぇ!?で、でもそれは……」


楽「良いんだよ、俺が好きでやる事だし」


だだ甘とか言われそうだけど、好きな人の前では見栄っ張りになりたい年頃なんです、分かって下さい。
……予算は10万円くらいかな。


貯金してて良かったとしみじみ思う俺だった。

本SS至上トップのイチャラブ回
楽くんは小咲ちゃんにゾッコンの様です。

作者本人、非リアなのに何故こんなリア充爆破しろ回を書いてしまったのか、書いた後虚しさだけが残りました。
糞お!非リア歴=年齢とか悲しすぎだろーが……

楽「えーと、こっから近いジュエリーショップは……と」

あれから十数分後、俺はスマホでジュエリーショップを検索していた。
今まで歩いて見つからないとか不覚過ぎだろ……まあそういうの疎かったし仕方ないと言えば仕方ないんだが。

小咲「見つかった?」

楽「お、あったあった!なんだ結構近場にあるみたいだな」

十数分とは言え今までこの辺探し回ってたのに何故すぐ近く……情けねえ……。

小咲「ねえ、楽くん」

楽「ん?なんーー」

小咲の方を向こうと思った瞬間に、俺の頬に小咲の唇が当たっていた。
マンガとかだと、男の方は何かしら反応を見せられるが……俺の場合石像もとい石像となっていた。
いや、自分でも言ってる事が良く分からないがつまりそういう事なんだ。

だって大好きな、いつもは恥ずかしがり屋の彼女に不意打ちのキスされたんだぞ?嬉しすぎて脳がショートするって!
何も考えられなくなるっての!

小咲「ふふっ頑張って探してくれたご褒美、だよっ」

そして顔を赤らめながらそんな事を言う彼女はどこか小悪魔っぽいものを感じた。


小咲の新しい一面は、俺にギャップ萌えを教えてくれたのだった。


 
楽「うし、もうすぐ着くぞ」

あれから数分後、まだドキドキが収まってないがジュエリーショップが見えてきた。

小咲「うん、そうだね……ってあれ?」

楽「どうした、小咲」

小咲が無言で視線を向けてる方向へと俺も目をやる。
そこには、俺の良く知るおちゃらけた雰囲気のメガネ野郎が。

集「あれ、楽と……小野寺さんじゃん!もしかしてデート?デートなのか?」

こちらから声を掛ける事も無くあっちが気付いたと思ったら即冷やかしかよ。
まあ集に小咲と付き合ってる事は言ってないしいつものノリだろうなあ。

さて……どうしよう?

今回も間が空いてしまったじぇ……

一番青春を謳歌したい年頃に出来ない悲しみが現在進行形で継続中……出来れば今、せめて女の子から多少でも男扱いされたい(切実)

なお、「爆破しろ」は作者の口癖の模様
要するに……?

あと「羨ましい&恨めしい」も作者の口癖だったりする

楽「……」

チラッと小咲を見ると、アイコンタクトで言っても良いよと伝えてきた。
心と心で通じ合うから出来るアイコンタクト……良いね!
っとそれはひとまず置いといて

楽「俺達、実は付き合う事にしたんだわ」

集「おー、そうかそうか」


 


 


集「ぬわああああああああにいいいいいいいいいいい!?」

そこまで驚くかよ……てか言い方がやけに某クールなんとかっぽいけど、別にやっちまってはいないからな?

集「おいおい、ちょ、マジかよ……何だかんだあっさり決めたじゃねーかよ」

小咲「?」

げっ……何口滑らしてんだよアホ!
俺がまさかここずっと二股問題抱えてたとか言ったら間違いなく殺されるぞ!
小咲ああ見えて依存系ヤンデレって事がコトをやって発覚したし。
その点では鈍感で本当に助かる。

楽「えっとな、小咲……告白いつしようかずっと悩んでて、集に相談してたんだよな?」

俺はニッコリ笑顔で語り掛ける。勿論相手もニッコリ笑顔だーー双方黒いオーラを出しアイコンタクトで喧嘩しているが。

楽「(テメェ何口滑らかしてんだ、ああ!?)」

集「(悪い悪い、俺の癖なんだ!テヘペロ☆)」

楽「(わざとやりやがったなこの野郎!あとテヘペロすな、真面目に吐き気がする)」

こんな感じだ。
勿論この間表情は双方一切崩していない。

集「でもまあーー」

しかし均衡は意外にもあっさり破られた。
集が自ら崩したのだ。
それは柔らかい笑顔になっていたが、集が何を考えてるかまでは読み取れなかった。

集「良かったんじゃん」

小咲「ありがとう、舞子くん」

集「んじゃ、お邪魔虫は退散退散っと、じゃな」

集は俺達の進行方向とは逆……つまり俺達とすれ違う形になった。
それじゃあ行くかなと、歩き出した瞬間だった。

集「ーーハンパな気持ちで付き合ってんなら別れろ。じゃないとおまえも小野寺さんも……絶対後悔する」

問いただせば、その言葉の意味を聞き出せたかも知れない。
何の為に言ったか分かったかも知れない。
でも聞き出さなかった……いや聞き出せなかった。

まるで石の様に自分の体が動かなかった。

ギャグからのシリアスと言う高低差あり過ぎて耳キーンなるわ展開にするつもりは無かった
どうしてこうなった

ーーあれからいくらか時間が経った。
予定通りジュエリーショップでのショッピングはしたが、集の言葉が忘れた頃に思い出し頭に残ってイマイチ楽しめなかった。
忘れかけても思い出してしまう、ずっと残ってるよりタチが悪い。

楽「……」

小咲「さっきからずっと浮かない顔してるけど、どうしたの?」

ああ、そうだ。小咲は下心は読めなくともそれ以外に関しては変化を読む力が高いのだった。
俺は、笑ったつもりで大丈夫だとだけ言った。

小咲「……全然大丈夫そうに見えないよ?」

誤魔化したつもりが更に心配されてしまった。
俺の大切な女の子(ひと)に大分心配を掛けてしまってる。
本当、迷惑掛けっぱなしで不甲斐ない。

楽「大丈夫だって、小咲が心配する必要は無いよ」

楽「……でも、ありがとな」

小咲の頭を撫でながら、心配してくれた事にお礼を言う。
小咲は気持ちよさそうに目を細め頬を赤らめていた。

こんなに愛しあっていて、どうして別れなければならないのか。どうして二人の将来を心配する必要があるか。


 


ーー小咲は、俺の前から居なくなったりしないよな?

短期間に全く別の想いを俺が持っていた二人ではあるが、大切な人を失った。
一人は狂気に塗れ、最早厳しく当たりながらも優しかったあの頃とは姿形だけそっくりの別の何かに、もう一人は自分の記憶だけ無くしまるで思い出が最初から無かったかの様になってしまった。

だから、怖くて。
もう大切な人を失いたくないから。

だからこそ、絶対に護ると深く心に誓った。

ギャグ&コメディとシリアスで書き方にすんげえ差が……


 


こんな展開で大丈夫か?

大丈夫だ、問題ない(多分)

楽「やっぱり小咲といると、嫌な事なんて全部忘れられるよな」

自分の部屋で呟く。
本当に小咲と付き合えて良かったと実感している……はずなんだーーある不安な二点を除けば。
一つは今日の集の言葉。まああれに関してはただの注意として聞こえなくもないかも知れない。
が、問題は二つ目だ。

楽「ーーまさかアイツから先に告白されるとは思わなかったよな……」

小咲より先に、俺に告白してきた相手がいた。
そしてその同日の夜に小咲に告白された。
そう、あの橘を見た後で小咲より前にアイツに会った。
偶然か?
必然か?
それは分からない、があの時のアイツはいつものアイツじゃなかった。
抜け殻ーーそう表現するのが正しいかも知れない。
そしてその抜け殻に取り憑いた狂気に抜け殻が動かされている様に見えた。


 


まさかまさかの前話にやっちゃいけないミスが……という事で今回から無理やりミスをミスじゃなくする超強引な暴挙に出る事になった……もうgdgdが止まらないよぉ……おおっ

あの時は冷静じゃなかったから、キツい言葉を掛けてしまった。
この世に絶望した俺に、気持ちに応える気は最初から無かったとは言えもっと優しい言葉を掛けるべきだったーー


あの日、俺は全てに絶望していた。
生きる事も面倒くさくなるくらいに絶望していた。

??「ーー楽?」

街中をさまよっている時、ふと声がした。
そこにはいつもツンとしてる癖して、大事なとこで優しいアイツがいた。

千棘「話があるの……」

ーー千棘だ。
そしてそんな言葉を発しながらアイツは半ば強引に俺を路地裏に連れ込んだ。
その後、予想通り告白され俺は無言で断った。

楽「用はそれだけかよ?」

早く死にたい、その気持ちしか無かった俺にはそんな話どうでも良かった。
だから俺は興味なさげにそう呟いた。
勿論、そう言えばアイツがどう出るかくらい想像は付いていた。
本当、いつになく無神経だったと今頃後悔している。

千棘「それだけって……バカにしないでよ!私がどれだけ楽を愛しているか分からないの!?」

分からない訳が無い。俺を好きな気持ちは橘、そして今だから分かるが小咲も含め三人共大差無いはずだと知っていた。

楽「……俺の事何も分かっちゃいない癖に」

千棘「いや、あのねえ私とアンタ結構長い時間過ごしてきたんだし……」

楽「じゃあお前に俺の何が分かる!?」

無論、俺の周り誰一人とて分かる訳が無い。
大事な人をはじめとする失った気持ちは、失った者にしか分からないのだから。
でもここで少なくとも理解したいと、そう言われてたら立ち止まった可能性は高いと思う。

千棘「…………ッ」

千棘のこの反応は悪くはなかった。
むしろ通常なら最善の判断。でも俺にとったら最悪だった。

楽「……」

俺は立ち止まる事なくその場を去り、そして死ぬ間際に小咲に助けられ今に至る。

しかしそのせいで千棘はおかしくなってしまった。

もうgdgdに歯止めが効かぬ……予定じゃパパッとサッと書いて終わらせるつもりだったのに……一体いつまで書き続ける事になるのやらw

そして時は戻り今になる。

ふとピピピピピ……と携帯からメールが来た事を伝える音がした。
俺は一瞬躊躇したが……見た。

楽「やっぱり、か」

それは千棘からのメール。
いつもならば他愛もないやり取りだが、今俺は千棘からのメールが怖い。

「ねえ楽今どこにいるの?何で私をフったの?何で私じゃダメなの?私は楽を世界一愛してるのにどうして?オシエテヨ、ネェナンデナノ?ナンデ?ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ」

吐き気がした俺は即座にアドレスを変えた。
これでアドレスを変えたのはこの数日で実に38回目。
小咲には今修理中と伝えているし、外出中はそもそもあまり持って行かないが、思い出の写真が結構残ってて破棄しようにも出来ない。

ピピピピピ……またメールが来た。
俺は静かに誰から来たかを確認する。
……千棘だった。

内容は見なくても分かる。どうせさっきと同じ内容だろう。
俺は一瞬恐怖を通り越し壊れた様に「ハハッ」と笑ってから、こう呟いた。

楽「何なんだよ……」

俺はそう言ってからベキッと携帯を折った。
思い出がどうでも良かった訳じゃ勿論ない。
全てが大切なもの。
だけど、このままじゃようやくの幸せまで壊されかねない。
小咲と付き合っている今、この事が千棘にバレでもしたら真っ先に狙われるのは他でもない小咲だ。
万が一携帯を奪われたらと思うとゾッとする。

そして今後、外で小咲と二人になっては千棘に怪しまれる。
悔しいが後で千棘の事は伏せて上手く言うしかない。
デートするにしても集に相談してカモフラージュになってもらうしか方法はまず無い。

後は……

楽「おい、竜」

竜「へい、どうか致しやしたか?」

楽「…………事情は聞かず、これから俺の許可した人間以外はウチに入れないでほしい」

竜「事情は……どうしても言えないんすか?」

楽「スマン……」

いつも頼りになる竜や俺のウチの奴ら。だがこればかりは個人の問題、竜達には頼めない。

竜「坊ちゃんの頼みと言うなら、喜んで引き受けやす!」

楽「ありがとよ、竜」

……せめてここ、俺の家の俺の部屋だけでも小咲と二人きりで居られる安息の地である様にと、心から願うしか今の俺には出来なかった。

どうやら作者はツンヤンがお好きな様です
ツンヤンって素敵だと思わないかね?


 


 


特にくえす様が

ー千棘視点ー

「お嬢さん、食事持って来ました」

千棘「……今食欲無いの」

「ですが3日もまともに……すいません、出過ぎた真似を」

なんで私は楽にフられた?
今まで仲良くしてきて、一番の敵も消してこれで行けると思った。
なんでなの?私の何がダメなの?
それとも……?
いやまさか、そんな訳……でもフったと言うのならそうとしか考えられない。

「取り敢えず食事は置いておきますので、俺はこれで……」

千棘「ちょっと良いかしら?」

「何でしょう」

ドアとの隔たりを無くす。そこに居たのは好都合な事に私直属の部下。
しかも一番私に良くしてくれたり、この前の橘万里花の事を連絡してくれたのもこの人だった。
だからーー


 


 


 


 


 


利用価値は充分にある。

千棘「楽と、小咲ちゃんーー小野寺小咲を監視してくれないかしら?」

「はあ、またどうして……って聞くまでもないですね」

長い付き合いの人間だと面倒くさい事を言わなくて済むし、この人はもとより察しが良い。本当便利な人。
ただこの人は真相を知らない。楽絡みなのは知ってても私が橘万里花を殺し掛けたのは今も行方不明の誠士郎とその部下しか知らない。
この人が知ってるのは私が楽を手に入れたい事と、橘万里花を「何らかの方法で殺す計画」をしていた事。
でもこれからの計画を知ったらこの人は、きっと私を止めるでしょうね。
それが私の為ーーとか言いながらね。まあもしそうなったら口を封じれば良いだけだし簡単だけど。


え?長い付き合いで自分に良くしてくれる人間をなんで簡単に殺せるか?
私の邪魔する奴は全員目障りなのよ。
ただそれだけ。

「ああ、でもーー」

でもね、今は一番信頼出来る人だから。
一番の理解者だから。
橘万里花暗殺用に用意した薬に致死量の毒が無かったのは実はこの人が調整して、わざわざ記憶を消すくらいの後遺症を残す程度にしたと聞いた時は驚いた。
何も話していなかったもの。
で、あの人曰わく「自分の大切な方を殺人犯にはしたくない」とか。
馬鹿と思いつつも少し嬉しかった。
私もこんな大切に慕われてるんだって。

「詳しい事は食事を食べてからにしましょう、お嬢さん」

若干笑いながら言うその人の姿で、もうしばらく出なかった柔らかい笑みがこぼれた。

千棘「ふふ、そうね。ありがと」

僅かな「日常」を私は取るのだった。

説明が足りない部分が有ると思うので一応

この部下は誠士郎が独断で橘万里花を殺しにかかったと勘違い、更に誠士郎が殺したとなると千棘が黒幕扱いされ兼ねないと考えあの行動に移った(千棘に殺意があったとは微塵も思っていない)


さて、説明が終わったところで

今回は珍しい事にコメントが三件も!
この過疎SSにしてはかなり多いと結構驚いていたりします、はい。

えー、本作の楽は自分からじゃ絶対動かない原作に増しての糞ヘタレですので、携帯は良くても対人(ほぼ異性)は無理なのでしょう、書いてても虫酸が走る程糞な性格です(マリーとの仲を深める提案をしたのは集だし、事故とは言え告白したのも小咲ちゃんからだったし)

ーー夏休みが開け、学校が再開した。
夏休み前に一騒動あってそれのおかげでみんなより長い夏休みだった俺に取っちゃ本当に久しぶりの学校。

でも、あの時とはかなり雰囲気も違うはずだ。
橘が居ず、鶫も居ない。
二人共転校して来てからこの僅かな期間で賑やかな騒ぎの中心にいつもいて、この学校をより一層盛り上げていたと思う。
まあこの二人が居なくても充分賑やかだったけど、それとこれとは話が違ってくる。

0が0になるのは元々0だったから何も無い。
だけど0から100になって、再び0になったら?
それは一度は得た物を「手放し」、最初に戻るという事だ。
何も無い訳が無い。

楽「……取り敢えずサッサと準備しないとな」

今日から学校と言えどまだ朝早い。
色々心配で早起きしてしまったのだろうが、眠気は無い。
……今日くらい遅刻ギリギリじゃないしのんびり準備しても良いか。

のんびり準備したおかげなのかは知らないが、家を出る頃には丁度良い時間だった。
玄関を開けると

集「よう、いつもより早いな」

るり「おはよう、小咲の彼氏さん」

小咲「あううう、るりちゃん恥ずかしいから止めてよ~」

いつもの面子が居たりした。
高校入ってしばらくした頃からこれが続いているが、いつからこんなに仲良くなったかは良く覚えてなかったりする。
まあ気付いたら集以外とも結構仲良くなってた感じだしなあ。

……ちょっと回想に浸り過ぎた。

楽「ところで宮本よ、それはいつ知った?」

あまりに回想に浸り過ぎてスルーし掛けるとこだったが宮本はいつ俺達の事を知ったんだろうか。
別に言わないつもりも無かったが言ってないし。

るり「小咲見てれば簡単よ」

楽「あー……」

集「そりゃ仕方ないな、うん」

納得してしまった。確かに小咲は隠し事苦手だからなあ。
そこもそこで可愛いけど。

小咲「うううー」

恥ずかしさからか、赤くなった小咲を見ながら「これもこれで……」と少し和みながら学校へ向かって行った。

※小咲ちゃんとは既にコトを済ませています

自分のに言うコメントかどうか知らんが凄くイライラするこの楽
まあその方が人間らしさが出ると思うから今更路線変更はしないけどね……

学校は、正直言うとパッと見た感じじゃ俺が居なくなった時と変わってない様に思えた。
いや、正確には


 


俺が居なくなった時と同じ雰囲気を全員が全員演技している様に感じる。
それはこの町全体にも言える。

傷害、拉致、殺人未遂と立て続けに平和だった町にこの2ヶ月足らずで三件もの事件が起きた。
集英組があるだけにヤクザの縄張りだから牽制していたのもあるだろうが、この町に世話になってる以上その恩返しとして町の警察と協力して犯罪撲滅に動いている。
その為もあって殆ど事件らしい事件はここ何年かは無かった。

今回、演技とは言え冷静に「いつも通り」をしているのもまた、竜達が呼びかけてくれたからだろう。

堤(ルームメイトA)「お、楽じゃねーか!」

高宮(ルームメイトB)「おまえも色々災難だったな……」

教室に入ると、橘のお見舞いに来てくれた友人二人が真っ先に話し掛けてきた。
正直なところ空気が悪い中話し掛けてきてくれたのは結構気が休まる。
空気を読んで話し掛けてきたのかは知らないが。

楽「心配掛けてすまなかった」

堤「良いって、こーやってまた話せてんだし」

高宮「そーそっ……それより小野寺さんと付き合う事になったって本当か?」

うげ……一体どこから聞いたんだその話!?
かなり秘密にしてたのに何故バレるんだ?

集「テヘペロ☆」

楽「おまえかー!」

黙ってろと釘を刺したと言うのに……こんの馬鹿は綺麗に約束を破ってくなあ本当に!
約束は破る為にある訳じゃねーんだからな!

堤「まあまあ、俺達以外は知らないし」

高宮「俺達は黙ってるから気にすんなっ」

楽「気にするわ!」

まあそんなこんなで復帰初日から騒々しい事にはなったけど、これはこれで良かった……かも?

ルームメイトA、ルームメイトBはモブキャラからサブキャラに進化した様です(ポケモンが進化した時の効果音)

しかし……あれだな。
橘が居なくて、鶫も居なくて、更に拍車を掛ける様に千棘すら居ないと嫌に静かだ。
千棘の方にはしっかり謝っておきたかったんだが……何回か千棘に会いに行っても拒否されたからしばらくは許してくれないとは思ったけど。

集「今は会わなくて良かったんじゃないか?」

集が俺にしか聞こえないくらいの声で耳打ちする。
それに対して俺は、表情にこそ出してないが驚いたし焦った。

集「なに、これは俺しか知らないし心配すんなーーそして後でちゃんと話を聞かせろよ?」

楽「おう……色々スマンな」

どこで知ったのは知らないが……とにかく知られたのが集一人で良かった。
本当に良かった。


 


千棘視点

千棘「やっと見つけたわ」

「…………」

私は二つの報告を聞いて、今その一つを自分で確認しある人物と対峙していた。
それは私の幼なじみで、護衛で親友であったーー

千棘「ーー鶫」

今はもう一つを達成する為だけの駒である鶫誠士郎に他ならなかった。

「お嬢!?どうしてここが……」

「まさか口封じに……」

「バカ、そりゃねえよーーた、多分」

鶫と対峙しているとは言え鶫に付いていった何人かも一緒にいる。
私は鶫と二人で感動の再会と言う名の形でサッサと消してもらいたい人物を消してもらいたいって言うのに。
まあ面倒だけどここは下がってもらわないとね。

千棘「別に口封じなんてマネしないわよ、ただ今は鶫と話がしたいから下がっててもらえるかしら?」

それで安心したのか、鶫の部下はなんだと言わんばかりに表情を和らげそそくさと下がってくれた。

千棘「さて……」

準備は整った。
後は……この駒を動かすだけ。

ここから先残酷な描写が出て来ます、ご注意下さい

誠士郎「ーーお嬢。私はお嬢に顔向け出来る存在では最早無いのです。サツに感づかれる前に帰って下さい」

千棘「アンタねぇ……人がわざわざ大切な存在なアナタが心配だから探して、それでここに来たってのに酷いわね」

そんなのは嘘だ、戯れ言による過ぎない。
でも鶫(駒)を動かすには充分過ぎる言葉だろう。
仮に私の本心を知っていたところで問題は無い。
だから今までの親友同士だった私達を完全に消去する為「コレ」……そう、「コレ」と鶫に対する最後の恩情を断ち切って呼ばせてもらう。

目的の為に、私情を少しでも入れない為に。

誠士郎「お嬢……こんな、人を二人も殺め掛けた私を親友と呼んで下さるなんて……」

千棘「あー、もう泣かないの。そう、私に取ってアナタは大切な存在よ、大事な大事な存在」

千棘「だから……そんなアナタにお願いがあるの」

ここまですればもう、二つ返事で大抵の願いは聞いてくれるところまで心を私一色に染めた。
私は慎重に、自然な流れで要求を口にする。

誠士郎「なん、ですか?」

千棘「殺してもらいたい人がいるの。出来れば心臓を撃ち抜いて痛み無く殺してくれると助かるんだけど」

誠士郎「…………お嬢の頼みとあらば。して、標的は?」

表面上取り繕ってはいるけど、結構緊張した。
何せ万が一でも拒否されれば部下ごとここに居る全員を葬る必要があったからだ。
こんな優秀且つ使いやすい駒を失いたくはないもの。
そして私は、すぅっと息を小さく吸い込み最後にこう告げた。

千棘「ああ、ごめんなさい。標的はーー


 


 


 


 


小野寺小咲」

集視点(楽拉致より3日後の時系列)

集「ええ、勿論……報酬は弾みますよそりゃあ裏社会じゃ東洋一の規模の……さん方に直接依頼してるんですから…………そうですか、ありがとうございます…………さんにも宜しくお伝え下さい……では、また後日連絡致します………………」

るり「どうだった?」

集「意外にも首領に確認取らなくても首領の友人の舞子集って言ったら依頼受けてくれたよ」

依頼内容?そんなの桐崎さんと楽に感づかれる事なく橘さん暗殺を目論んだ奴の証拠を取る事だ。
そしてその容疑者候補となるのが桐崎さん、誠士郎ちゃん、クロードさん、竜さんに絞られる。

この4人を挙げた理由としてはまずは竜さんだが、桐崎さんと楽が「偽りの恋人」と知らない事から橘さんを桐崎さんの恋敵と誤認し、万が一浮気だと本気で思われた場合抗争になりかねない、やり合うにしても集英組が不利だから殺害を企てた線
クロードさんも恋敵の線だがこっちはビーハイブボスの娘の好きな人を取らせまいと早まってやった線

そして誠士郎ちゃんもクロードさんと同じ線、もしくは裏で糸を引く桐崎さんに操られた実行犯の線
桐崎さんは言わずもがな、楽を独占しようと邪魔者を排除しようと誰かを操った線

まあいずれにしても俺とるりちゃん二人じゃ調べきるのが困難、そして警察に頼むとなると表立った行動しか出来ないから駄目だしビーハイブ、集英組の誰かに頼むとなるとビーハイブに至っては竜さんを除く容疑者に感づかれかねないし、集英組でも竜さんと、解決する前に帰ってきた場合楽にも感づかれる可能性がある。

となれば後俺の知り合いがいる裏の組織と言えば一つしかない訳だ。

るり「……良かったじゃない。それで、アナタとそこの首領との関係ーー改めて詳しく聞かせてもらえるかしら」

集「まあ隠すつもりは無かったし、るりちゃんになら話しても大丈夫そうだなーーとは言っても幼なじみと言っちゃえば殆ど全部だよ」

るり「それはさっき聞いたわ。本当にそれだけかの確認」

殆ど全部……だけど全部じゃない。
俺に取ってあの人は特別な存在だ。
それを敢えてるりちゃんに話しても大丈夫なのかと一瞬考えたが、るりちゃんは口固いし、何よりも……俺のあの人に対する想いを昇華させる意味でも話しても、話した方が良いと思えた。

集「あの人、俺に取ってあの人は………………初恋の人」

るり「初恋の人ねえ、アンタ見た目が良い子にはなりふり構わず声掛けるしイマイチピンと来ないわね」

集「そりゃそうだろうなあ」

あの人への想いを消す為、あの人以上に愛せる人を探して塗りつぶそうとしてるからな。
塗りつぶせば自然と昇華する、そう想い続けて。

るり「……意味深なぼやきはしておいて理由は言わない訳?」

集「ふふ、俺にだって秘密にしたい事くらいあるのさ」

正直なとこ、それを言うと笑われそうで恥ずかしい。
だからか、いつもの様におどけた感じで誤魔化していた。
俺がこういう反応する時って大抵本音が恥ずかしくて言えないから誤魔化してる時なんだが、それを知ってるのはあの人だけだ。
楽や家族だって知らない本当の俺は、すごく脆くて弱いと思う。

るり「そ。まあ話したくないそれなりの理由が有る事は分かったわ」

集「うっ……」

るりちゃん鋭いなあ。
何で分かっちゃうかなあそういうの。
恥ずかし過ぎる、今まで隠し通せてきたのもあってあの人以外で初めてバレたかもだけどかなり恥ずかしい……

るり「話したくないなら良いけど。私は別に強制させてネタにするバカじゃないし」

集「……お、おう」

この反応は予想外だった。
るりちゃんはいつも……今も素っ気ないけど人にかなり気遣い出来る。
そんなとこが可愛いと少し思ってしまった。

集「その内話すかもね、なんてな」

るり「何か言った?」

集「へへ、聞こえてないなら別に問題ないぜ」

るり「あ、そう」

集「うん、そう」

おおう、久しぶりのコメントやあ(歓喜)

鶫に幸せ……与えてあげたいがこのままの流れだとどうも……まだ確定じゃないけど高確率で……


 


このSS、かなり酷なものになりそうだしそれでも見たい人だけ残って、どぞ的な感じです、はい

目の前には大体10人くらい居るだろうか、いや確かに急に来られたのにも驚いたが何より……

集「羽姉直々に来るとはなあ……」

楽と橘さんが最悪の状態で再会してしまった直後ーーつまりはその一件があった翌日に俺とるりちゃんはビジネスホテルに呼ばれた。
無論、呼び出したのは羽姉だった。
急に電話が掛かってきたと思ったら「久しぶりね集くん!突然で悪いけど○○ホテルまで来てもらえる?」だから驚いたのなんの。

羽姉「サプライズ成功かな?」

一発軽くチョップ入れて良いかなあ!?

るり「こんなに早く来るなんて聞いてませんけど」

るりちゃんは動揺してない様子。
うーん、何で動揺しないんだろうか……っとまあそれは今置いておくとして、確かに何でこんな連絡も無しに来たのか知りたいところではある。

羽姉「善は急げと言う様に、早く終わらせて楽ちゃんに会いたかったからに決まってるじゃない」

うわあ……俺今めっちゃ頭痛い。
楽に会うのが半分目的な様なもんじゃないかそれ……。
悔しいとか嫉妬とか通り越して呆れしかない。

羽姉「取り敢えず他のメンバーは集英、ビーハイブ共に感づかれない様に10人1グループで違う便に偽装工作させて乗り込ませるし心配無いよ」

まあでもこの機転の速さは流石中国一のマフィア集団を束ねているだけはある、そして俺の尊敬する人だ。

羽姉「で、確かこっちに来るのが私達含め6グループと」

「いや7グループですよ……」

「ボ、ボス……」

夜「しっかりして下さいボス」

って俺が尊敬してたらやっぱり出ちゃったよ……中国マフィアの首領になってもそこは昔のままだなあ。
てかよく見たら結構小さい子まで居るのかこの集団。

集「小さい子も居るんだね羽姉」

夜「小さい子じゃない、夜(イエ)だ。あとボスとはいくら幼なじみとは言え敬語を使え」

なんか自己紹介したあと文句付けてきた!?
ああ、うん自分の尊敬する上司?つか憧れの人にタメ口は怒りたくなるのは分かるけどこびりついた話し方だから直すのは無理なんだ……!

羽姉「昔からこんなだし気にしないよ。逆に敬語だと気にしちゃうし」

夜「……ボスが言うなら仕方ない」

ナイスプレー羽姉!
おかげで助かったよっ!

夜「だが!もしもボスを泣かせたらーー


 


 


 


即死刑だからな」

助かったと思ってからのこの発言に、俺は心底この先が思いやられると痛感したのだった。

楽視点

楽「よ、今日もみんな早えな」

俺が学校の準備を終える頃にはやはりいつものメンバーが揃っていた。
そう思って俺はハッとした。
これはいつものメンバーであり、しかし千棘や橘が居ないといつものメンバーでない。
俺はいつの間にか「二人との思い出を無意識に消そうとしていた」のだ。

集「難しい顔してどうした?小野寺さん、心配そうに見てるぞー」

小咲「な、なにか困ってるなら相談してね、楽くん」

楽「ありがとな。でも今は大丈夫だから心配すんな」

るり「成長したわね小咲……」

小咲に心配させてしまってはダメだな。
いくらあの二人と言えど他の女の事を考えるのは小咲に失礼だしな。

集「じゃあ、行くか」

楽「そうだな」

こんな平凡で、柔らかくて、でも楽しくて平和な日常が今日も明日も、ずっと続くものだと思っていた。
平凡な日々をただ願っていただけだったのにーー


 


楽「おはよう」

「よう一条」

「今日も予鈴五分前か」

朝の何気ないクラスメートとの会話。
軽く済ませ席へ向かおうとした時だった。

千棘「みんな、久しぶり」

楽「千……棘…………!?」

集「おお、桐崎さん!体の調子はもう大丈夫?」

千棘「ええ、お陰様で」

小咲「うわあああん千棘ちゃん心配したんだよおおおお!お見舞い行っても会わせてもらえなかったし本当に心配したんだよ!」

千棘「小咲ちゃんに風邪移したくなかっただけだから、でも心配掛けてごめんなさい」

俺の杞憂か、最初一瞬だけ小咲に殺気を送ってた様に見えたがこれはいつもの千棘だ。
大丈夫……なはず。

なのに嫌な胸騒ぎがしてならなかった。

千棘視点

昼休み、私は小咲ちゃんを屋上へ呼び出した。
勿論、誰にも邪魔されない様一人で来る様に言ってある。

小咲「あ、どうしたの千棘ちゃん?何か相談?」

はぁ……この子自分が何をしたのか忘れているみたいね。
いくら可愛い親友でも実力公使で思い出させるしか無い様ね。
私は無言で小咲ちゃんの腹を殴った。

小咲「かはっ……」

千棘「楽を取っておいて良くもヘラヘラ出来てたものね」

乾いた咳をしていた小咲ちゃんの顔色が一瞬で青くなるのが分かった。
あまり傷つけたくはなかったから早く思い出してくれて、私の精神的に助かった。

千棘「ーー楽の恋人になれて幸せだったかしら?」

小咲ちゃんは俯き無言で体を震わせている。
私はそれを無視して続けた。

千棘「でもそれもおしまい。私に隠れて期間限定とは言えやってた罰はあの一発で許してあげるわ」

小咲「え……?」

千棘「……全く察しの悪い親友ねぇ。今日中に楽と別れさえすればあの一発だけで許してあげるってんの」

小咲「もしも別れられなかったら……?」

ネガティブ思考だとこれだから面倒くさい。
失敗するのを前提に話すとか、もっと努力してから言いなさいよ。
でもまあ、失敗したら……

千棘「失敗したら友達辞めるし1日ごとに脇腹の骨一本ずつだから。それでも無理だったら死刑、分かったわね」

小咲「…………うん、分かった。千棘ちゃんは親友だもん、少しだけでも一緒に居られただけ良かったよ」

ちょっとした脅し文句みたいだけど、早めに別れてもらわないと私の計画に支障が出る、本当にやる訳は無いけど言って損は無い。

千棘「もし今日中に出来たらずっと仲良しの親友だし、たまに私の家にも呼ぶわ。高い服もアクセサリーもあげる」

小咲「ずっと、親友……ごめんなさい楽くん、私は千棘ちゃんをもう裏切れないよ……」

アメとムチで小咲ちゃんは思い通り。
後は今日中に別れたのを見届けて、アイツを始末しよう。



 


友達って、対等な立場だから友達って言うんだと思うんだ。


 



す、少なくとも集るりコンビは正常な方だと思うんだ(震え声)

楽視点

放課後、何やら大事な話があるとかで俺は小咲に屋上に来てほしいと言われた。
何を話すのか、どんな話かは検討が付かないが言葉にならない不安だけが押し寄せて来ていた。

楽「ったく、何だってんだよ……」

ブツブツと喋りながら気を辛うじて紛らわせているのが精一杯。
それでも屋上が近付くにつれ、不安は大きくなるばかり。

楽「やっと着いたか……うっ」

屋上のドアに手を掛ける直前、激しい頭痛が一瞬した。
まるでこれからそれ以上の苦痛を味わう警告の様に。
それでも俺はドアを開けるのを躊躇わなかった。
そこには小咲が待っているのだからーー


ただその真っ直ぐな気持ちだっだが、その安直な気持ちこそが本当の悲劇への幕開けになる。

楽「小咲、待ったか?」

小咲「……ううん、私も今来たとこだし」

楽「そっか。やっぱ俺達お似合いだよな!なんつって」

小咲「……」

それをまだ

小咲「大事な話があるの……」

楽「おお、そうだったな」

俺は

小咲「私と…………別れてほしいの」

知らなかった。

昼間、家で俺は何をする事も無くただ自室に籠もっていた。
偶に竜や他の奴らが心配そうに見てる感じはするが今の俺にはどうでも良かった。
そんな時、ふと携帯から着信音がした。

楽「……」

集「ったく、今日は驚いたぜ?お前が朝一番小咲ちゃんを睨むなんてよ」

相手は集。本当は誰の声も聞きたくないが、コイツの場合何か知ってるかも知れないから都合が良かったと言える。

楽「お前は……お前は何か知ってんのか?」

自分でも驚くくらい、声はガラガラだった。
それ程泣いていた自覚は無かった。
しかし、そんな事を気にしてる余裕も無い。

集「さあな。大体予想は付くが確証は無い」

楽「…………千棘か?」

集と話して頭が落ち着いてきて、アイツが脳裏をよぎった。
だがアイツに小咲との事を話してはいない。
そしていつ、どこで知る機会があったのかが分からない為忘れていたと言う事でもある。

集「いつ、どこでーーなんて駒を使えば余裕だろ?更に言えば今回千棘ちゃんが仕組んでいたとして、それが無かっとしてもいずれにしてもアンタ等、近い内に同じ風になってたと思うぜ」

集「何せアンタ等ーー本当の恋愛してなかったんだからよ」

集のその言葉は、恋人であった俺達を否定してる様にしか聞こえなかった。
小咲と、恋人として過ごした全てを否定された。
勿論そんな事言われて、冷静でいられる精神状態ではない。

楽「何バカな事言ってんだよ?ふざけんな!何でお前に小咲との時間を否定する権利がある!?何を根拠に!?」

集「小咲ちゃんによお、どういう流れで楽と付き合う事になったか聞いたんだよ」

楽「テメェ、わざわざこんな時に……!」

集「勿論強制はしてない。ただあちらが聞きたいならと……ね」

集「いや驚いたよ、まさかあの日お前が自殺しようとしてたなんて。それを小咲ちゃんが助けてそのままの勢いでーーって聞いたが小咲ちゃん言ってたぜ「昨日の別れ話の時、このまま続けててもすれ違い起こして同じ事になってた」って」

頭が真っ白になった。
昨日のあの時まで何もかもが順調に進んでいたのに。
これから先も順調に、ずっと行けると思っていたのに。
別れたとは言え、極々最近まで愛し合っていたはずの相手からの言葉とはとても思えなかった。

楽「はは……小咲がそんなバカな事言う訳が無い。だって俺達愛し合って……」

集「確かに愛し合っていたな、別れ話になる前までは」

楽「お、おい……何を根拠に言ってんだ?そもそもおまえ、ずっと俺の恋路応援してきてくれたじゃねーか!」

集「俺もおまえがあんな中途半端な気持ちだったなんて思わなかったね……おまえ、恋って何だと思う?」

楽「は?いきなりーー」

俺は思わず言葉を呑んだ。
そこには今まで見た事の無い、怒りとも悲しみともとれる集の表情があった。
一体昨日の事を小咲がどう話したかは知らないがきっと大袈裟に話してしまったーーそう言おうとしたが上手く言葉が出せない。
とにかく、集の質問に答えようとゆっくり口が動いた。

楽「恋って……そ、そりゃあ、好きな相手を想うと暖かい気持ちになって、話が出来たりするだけで嬉しくなって、隣に居ると幸せになるーーこんな感じだろ?」

集「おまえはやっぱりバカだよ……本当の恋も知らないで……」

本当の恋じゃない?
じゃあこれはニセモノ?
いや俺は恋をしていたはずだ。
だって中学の時一目惚れして、それから優しいとことか良いとこ沢山見つけて、だからずっと好きでいて。
それがニセモノなんて有り得ない。

集「本当の恋ってのはなあ、苦しくてモヤモヤするんだよ。相手が気付いてくれない、優しくしてくれてもそれは周りにもやってる事だったり、自然にアピールしてもやっぱり気付いてくれない、こんな気持ち知らなきゃ良かったって後悔する事も多い。
恋ってな、短期間であってもこの内一つは絶対経験するんだぜ?」

分からない。
何で恋をすると苦しいのか。
何で恋をすると後悔するのか。
分からない。
理解出来ない。

楽「ーーこのまま話しても埒があかねえ。とにかく俺は今回の事は仕方ないと思ってる、だが絶対小咲とやり直せる、そう信じている」

俺はそう言い残し、半ば逃げる様にその場を立ち去った。


 


集視点

アイツは良い意味でも悪い意味でも一途だ。
一途に誰かを諦めず、一度別れた今もまだ一途に想っているその姿は格好いいと思うところもある。
が、アイツは知らない。
アイツ自身、恋をしている相手が小咲ちゃんじゃなく恋に恋していると言う事を。

集「ーーだから一度警告したんだけどなあ「半端な気持ちで付き合うな」って」

誰に言うともなく呟く。
あそこまで言って気付かないと最早それ以上何を言っても無駄。

まあ今は桐崎さんの件も有って時間は有る。
それと楽、おまえ自身本当の恋はしてるはずだぜ?
まあかく言う俺も楽のそれには最近気付いたがな。


そう、おまえの恋はすぐ近くに有るんだぜ?

俺は家に帰った後、静かに、だが感情を露わにして声を殺しながら叫んでいた。

楽「クソッ何なんだよ最近の俺の周りの連中は!鶫は勝手に居なくなる、橘は俺の事忘れる、千棘はおかしくなる、小咲とも付き合えたのに上手くいかない、集は俺の邪魔をする……何でだよ……いや、少なくとも千棘のはどっちも自業自得かもな」

そう、俺も千棘もこうなったのは双方自業自得だ。
俺もアイツの気持ちを知りながらフるのに踏ん切りが付かなかった。
千棘も、もっと早くにちゃんとした形で告白すればおかしくならずに済んだはずだろうし勝手に俺の事を誤解してたのも千棘の自業自得だ。

だがそれ以外は?
鶫があんな事をした真意は分からない。
確かに橘と千棘は恋敵だったのかも知れないが殺す必要性ーーしかも鶫が殺す必要性は理解出来ない。
俺の気持ちに気付いていたなら話は別だが気付いている素振りは二人共無かった。
じゃあそんなリスクを冒すメリットはやはり無い。

小咲が集に口にしたと思われる発言だって意味不明だ。
あんな言葉元々信用してないが万が一言ってても千棘への恐怖から出た言葉に違いない。

じゃあ集の発言はどう説明する?
嘘を言ってる風には見えなかったし、あの表情をしていた説明が出来ない。
結局頭が混乱して、訳が分からなくなる。

楽「せめて……せめてこんな時空気が読めない橘が、側で明るくしててくれたらな……」

ボソッと口にした言葉に俺自身驚いていた。
何で今更橘の事なんて……もう気にも留めてなかったはずなのに。
涙が出て、胸が痛い。

楽「ホント……何だってんだ」

そんな苦しみを誤魔化す様に言った後、そのままこの日は寝た。

楽「おはよ」

集「おう楽!昨日は悪かったな、何か奢るから許してくれー」

俺は小咲との一件以降一人で登校する事が増えていた。
まあそんな訳で集と教室でバッタリ鉢合わせてしまったんだが意外にも普段と変わらない感じで話し掛けてきた。
確かにあの一件で喧嘩みたくなったが、重くはならずに済みそうだ。

楽「じゃあ今日の放課後、ハンバーガーセットで許してやる」

集「うはっ容赦ねーな。でも許してくれてあんがとよ」

最後の一言だけは俺にだけ聞こえる様にポツリと呟いた。
俺だってあの喧嘩だけで集との友人関係も崩れるのはゴメンだ。
それに小咲とは必ずやり直すと改めて決意させてくれたしな。

楽「……小咲もおはよ」

小咲「…………」

でもまだまだ、関係を取り戻すには遠い。
それでも諦めなければ何とかなると俺は信じている。

千棘「あら楽、今日は一段と遅い登校じゃない」

ただ不自然なまでに関係が修復した奴もいた。
紛れも無く今話し掛けてきた千棘だ。
新しく買い換えたケータイにすら毎日届いていたおぞましいまでのメールは無くなり、小咲との一件の直後に謝罪のメールが来ていた。
俺も一応謝罪のメールを送ったが返ってきたのは何でもない柔らかい文章だった。
100%信じてる訳ではないが今の調子を見る限りでは大丈夫そうだ。

楽「朝は強くないのおまえなら知ってんだろ?」

千棘「そうね、なら私が起こしに行っても良いわよ?」

楽「起こし方乱暴そうだから遠慮しとく」

ーーまだ色々修復してない関係や、行方不明の奴もいるけども、全員が全員元気だ。
これからいくらでもやり直せる。

だからこの日常を大切に送っていきたいと、ずっと続くと思っていたーー少なくとも今この時は。

マリー視点

9月に入っても私は、まだ退院する事が出来ずにいた。
あるのは白い部屋に白い天井、薬品の独特な臭いだけ。
もう、それにすら慣れてしまっていた。

マリー「……海、行きたかったですけどこれじゃあ仕方ないですわよね」

海……その単語を口にした瞬間、何故か舞子さんのあの言葉が頭をよぎった。
舞子さんの言っていた「一条楽」については未だに何一つ思い出せていない。
でも前に比べて心境が何故か変わってきているのに、最近気付いた。

マリー「前は、興味すら無かったのに……不思議ですわ」

今は彼の事を思い出したいと思う様になってきた。
理由は分からない。
でも、過去の……10年くらい前の記憶から今までの記憶を辿っている内違和感を覚えた。

まず、元々私は内気な性格だった故に、新しい記憶にある様なアグレッシブな行動は絶対しないはず。
だとするならば、何かキッカケがあったはず。
だけどそれを思い出そうとすると、モヤが掛かった様に記憶が霞んでしまう。

そして今年……つまり凡矢理に行く事となった年だけどその理由も思い出せない。

この二つの思い出せない記憶が彼「一条楽」と繋がっているかは分からない。
そこの記憶と彼とは関係が無く、偶々彼の記憶とそこの記憶を一緒に忘れているに過ぎないかも知れない。
それでも私は、彼とこの記憶は繋がっていると何故か感じてしまう。

マリー「……今度、またお会いしたら謝らなければ」

そう言った私の顔は、ほんの少しだけ笑顔だったと思う。

いつ以来のマリー視点だろうか(遠い目)
メインヒロインのはずが全く動かせない現状

まあこの章もようやく終わりそうだし物語も中盤(?)に差し掛かってきてるしそろそろ本格的に出してかないと……後ポーラどうやって出そう

色々悩みどころ満載で頭が痛い。
後ストーリー上今まで出てきたサブ含めたキャラの中から何人か死亡確定せざるお得なくて胸が痛い(悲痛なボヤキ)

千棘視点

「お呼びでしょうか、お嬢」

私は見事に楽の心の傷に浸け込んで事件が起きる前よりも良好な仲を、他の邪魔者も居なくなった状態で作り上げた。
橘を殺し損ねたり、楽にフられたり、小咲ちゃんに抜け駆けされたりと予想外の壁が何枚と立ちはだかったがようやくここまで来た。

だけど私にはやり残している事がある。

千棘「……例の件、ウラは取れた?」

「はっ、鶫の部下に私の送り込んだスパイが居まして、随時連絡を取り合っていた所での情報ですので確かかと」

千棘「へーえ、用意周到なのね」

「他の各部隊にも数人ずつ居ます。次期頭首の座は全部隊のリーダーが狙ってますので」

こんなやり取りを聞いていると私が次期頭首を狙ってる様な言い回しになるけど、別に私は次期頭首を狙ってなんてはあまりない。
ただ家は実力主義な面があるせいか、直径の子供であろうと実力が無ければ小部隊だろうが動かす事は出来ない。
楽と良好な関係が築け、邪魔者を消せたのも実力があってこそ。

ただ、今回に限っては身内(ビーハイブ)の一人を消さなくては行けなくなった。
暗殺は勿論、バレれば子供だろうと除名は免れない。

まあ今回はスパイが意外なところで活躍したし、いざとなったら誰かが庇ってくれるだろうし実力は有るに越した事は無い。

千棘「そう、ウラも取れたなら殺してから後悔する事も無さそうね」

これは貴女の自業自得よ?
私の忠実な部下であるにも関わらず、私の大切なものを横取りしようとした罰。

千棘「それじゃあ行きましょうか」

「……お嬢が直接手を下さなくとも、私が確実にーー」

千棘「これは私の幼なじみとしてのせめてもの情け、だから今回は私がトドメを差したいの」

「……お嬢の望みとあらば」

ああ、それさえ終われば私は楽と良好な関係のまま、恋人になれる日もより近くなるはず。
だから……貴女には死んでもらう理由も必要も有るのよ?


 


 


 


千棘「誠士郎……」

第二章 小野寺小咲編
これにて終了です


 


……あれ?結局今回メインの小咲ちゃんどれくらい出て来たっけ……

結局今回も小咲ちゃんが中盤終わり頃からエア寺さん化してしまった事、何か無駄にダラダラしてしまった事、そして何より楽のキャラが初期設定と大きく異なってきてしまっている事、お詫び申し上げます。

次章 第三章もどうぞお楽しみに!

第三章 消えない想いは永久(とわ)に


誠士郎「私は……一体どうすれば」

潜伏先を転々と変え数ヶ月、お嬢から連絡は一本も無い。
私は殺人未遂と言う大きな失態を犯しているが、それでも尚橘万里花にトドメを差す機会を窺っている。
だがようやく届いた知らせには「上から指示が出るまで待機」だった。

「……偶には上からの指示なんて無視して自由に動いたらどうなの?」

そんな私に近付いて来た頭一つくらい低い身長で童顔な少女はポーラ•マッコイ。
ビーハイブの中でも数少ない同性であり、お嬢に匹敵するくらい腹を割って話せる相手でもある。

誠士郎「しかし上からの命令は厳守と……」

ポーラ「上は現場を知らない。でもアタシ達は現場にいる。時には自己判断で動かないといけないなんて事、黒虎(ブラックタイガー)なら当たり前に分かるはずよ」

そんな事言われなくとも分かっている事だ。
だが、だからこそ今回の件は私の自己判断で留まっているつもりなのだ。
私だって命のやり取りはいくらか経験した事がある。
だからこそ分かる「殺るか殺られるかの世界」。
何人も殺してきたし、仲間も何人も失ってきた。

ポーラも、何回か私と現場に行った経験こそあるが直接殺し合いの現場や死体を見る事は無かった。
いつも私の行く道を開ける為に下っ端ほぼ全員と闘い、私がポーラの開けた道を通り奥に逃げ込んだ敵幹部やボス格を殺してきた。

だが今回は訳が違う。
こちらの数30少々に対し橘の父親の警官隊の数は病院全域に配置され、分散されているとは言え病院周辺の警備も含めると500を超える。

誠士郎「無謀だとは思わないのか?相手はこちらの17倍近くの人数だ、それに……」

橘の父親が育て上げたチームは、チームワークもそうだが個々の強さも、下っ端ですらアメリカで見てきたそこら辺のマフィア幹部以上と推定される。

ポーラ「ならアタシ達が囮になる」

なのにコイツは平然とそんな無謀な事を言ってのけた。
こうなったしまってはポーラは一歩も引くまい。
私はそれに了承せざるお得なかった。

誠士郎「全く……では殿を私が務める事、少しでも不利になったら無理せず自主的に撤退する事。これを守ると約束するならば良いだろう、皆もこれを良く守ると約束してくれるか?」

ポーラ「勿論よ、ねぇみんな?」

「おう!」

「そうとなりゃ腕が鳴るぜ!」

「俺は良い上司を持ったぜ……」

やれやれ、こうもやる気があると殿も自主的撤退もしなくても出来るかも知れないな。
こんなキラキラした部下や心友を見ると負ける気なんてしないじゃないか。

まだどこか幼い考えだった私は、この時そう思ってしまった。


ーー現実は、無情だと誰より分かっていたはずなのに。

この章はかなり短い割に終わり掛けまでは第二章ほぼ未出演の誠士郎視点が続きます(多分)

それにしてもようやくポーラ出せましたよ!(だからこの際「え、誠士郎とずっと居たの?なんで出さなかったの?」は言わないで下ちい)

誠士郎「くそ……」

ポーラ「良いわね、これから撤退を行う、なるべく負傷してる奴を庇いながら逃げなさい」

焦ってはいけないと感じても、この失敗の責任を感じてしまう。
負傷者多数、幸い死者はいないが私達は一方的に攻撃を受ける形となっていた。

誠士郎「ポーラ、撤退状況は?」

ポーラ「深部にいた5人を除いては撤退完了よ。その5人が撤退完了したら私が足止めするからサッサと逃げる、良い?」

誠士郎「分かっている……しかし済まなかった、こんな失敗をするなんて」

侵入するまでは完璧だったが、罠だったらしく一気に攻めて来た。
最初こそ持ち前の機動力で倒していたがやはり数の力には勝てなかった。

ポーラ「……まあ、あれよ。今のところ全員生きてるってだけ運が良いのよ」

誠士郎「……ありがとう」

ポーラ「伊達に黒虎に鍛えられてないからね、ウチの部隊はーーん、どうした?」

話の途中でポーラの無線に連絡が入った。
少し声を聞いただけだが深部に行った部下の一人だとすぐ分かった。

「5人のうち4人と合流、撤退完了まで間もなくですが、一人が重傷で動けないとの事です」

ポーラ「……!すぐ助けに行きーー」

とっさに私はポーラの無線機を奪っていた。


誠士郎「おまえ達はそのまま撤退を完了させる事、良いな?」

「了解しました」

ポーラ「……見捨てるつもりな訳?」

見捨てる……それは一番冷静、且つ一番少ない犠牲で済むのだろうが、生憎私は自分でも分かるくらい部下想いが強すぎるみたいだ。

誠士郎「私が行く」

ポーラ「はあ!?アンタが行ったら司令官どうすんのよ!アンタじゃなきゃこの先やっていけないのよ!?」

誠士郎「ーーそこまで言うなら仕方ない」

ポーラ「じゃあーー」

私は諦めた振りをして、ポーラの気が緩んだ瞬間を見計らい間を一気に詰めた。
ポーラには済まないが、多くの死を見ているからこそ自分の部下を死なせたくない、その気持ちに嘘は付けない。

誠士郎「絶対帰って来る」

ポーラ「え?ーーうっ!?」

手刀でポーラの意識を失わせた。
……帰って来たらポーラの好きな食べ物を沢山奢ってやらないとな。
そう心の中で呟き、頭を撫でて私は病院内へと再突入したーー

誠士郎「はあっ!」
 
「ぐあ!」

中で待機していた警官隊との交戦。
しかしそれより不可解な事態になっていた事に気が付いた。
病院内に警官隊と私達以外居る気配が無い。
更に言えば、何故病院内で当たり前の様に交戦していたのかを疑問に思わなかったのか。
ーー否、思えなかったのだろう。

完全に戦う事しか頭に無かったと言う事でもない。
クロード様の研究所で作る薬にやられでもしない限りまずあり得ない。
……いやまさか。
そうは言っても可能性はそれしか考えられない。


誠士郎「ビーハイブに橘父親と内通している裏切り者がいる……?」

そんな訳無いと思いつつもそれしか可能性は殆ど無いに等しい。
ずっと家族同然で付き合ってきて、全員家族の様な存在であったから余計考えてしまう。
もしそうなら私はどうすれば良いのか、どう正せば良いのか。
分からない。

誠士郎「最深部まで来た様だな」

暗い地下倉庫部屋。
そこには私以外の影が二つあった。

「こ、ここは危ないから逃げてくれ隊長!」

一つは部下の物。
そしてもう一つが……

誠士郎「どうして……」

「どうしても何もーーゴミ(アンタ)を掃除(口封じ)しに来たのよ?」

金色(コンジキ)のロングヘアー、そして何よりその人を象徴する赤いリボン

誠士郎「どうしてよりによって貴女だったのですか

 


 

 

 

お嬢…「」

千棘「どうして?アンタは橘を殺し損ねた、ただそれだけの事」

淡々とした口調でさも当たり前の事を言っているかの様に話すお嬢を見て私の怒りはピークを迎えていた。

誠士郎「そんな……貴女はそんな人じゃなかった!」

千棘「はあ?本当にアンタは……昔から自分の先入観だけで物事見てるとは思ってたけど私の事すら先入観でしか見れてなかったのね」

違う……違う違うチガウ!
お嬢がそんな人な訳無い!
でも今この状態をそれ以外で表す事は出来ない。
いくら信じようとも現実は非情であり無情であった。

千棘「まあこんな戯れ言は良いから。今ならコイツの脳天撃ち抜くかアンタの脳天撃ち抜くか選ばせてあげるわ」

誠士郎「……ッ!?」

要するにどちらか一方は必ず死ぬと言う事だ。
堕ちるところまで堕ちた、と言っても過言は無いだろう。

「だったら自分が犠牲になります!」

誠士郎「おまえ……」

率先して犠牲になりにいく、行こうとするのはコイツの性格上まずあり得ないと思った。
それだけ信頼されているのだと実感する一方で何とか二人共に生きて、お嬢も生きて解決出来ないのかと思ってしまう。

……一つだけある。
ただそれはかなり賭けが必要だ。

でも……それでもやるしかない……

誠士郎「どうして……お嬢が」

千棘「アハハ、馬鹿じゃないのぉ?何せアンタ等のこの攻撃は私がリークしたのよ」

何を言っているのか分からなかった。
今まで一番信頼し、そして忠誠を誓った主であったはずだった。
その人が裏切るだなんてあり得ない、あり得てはいけない。
私の中の何かが壊れ始めていた。

誠士郎「嘘だ……嘘だと言って下さいお嬢……私は貴女を信じているんです!」

千棘「信じるねぇ。アンタ昔からそうだったわよね。だからいつまで経っても一流になれないのよ?」

誠士郎「へ?」

私のその気の抜けた返答にを気にする事も無くお嬢は話を続ける。

千棘「この世界……ギャングの世界で味方を信じるのは禁句、どれだけ上部信じ合ってる様に見えてても本気で信じては絶対無い。信頼は視野を狭くする」

誠士郎「……ッ!?」

千棘「アンタはもう戻れない。後戻り出来ない。ギャングとして致命的だからここでギャングとしてギャングらしい最期の舞台を用意したまで」

最期……?
私は殺される?
お嬢に殺される?
ダメだ……私は約束した。だから死ねない、それが私の答え。

誠士郎「私は……私は死ねない!例えそれがお嬢である貴女の望みだとしても!」

千棘(せめて……元親友として、引導はこの私が渡してあげるわ!)

今回は書き直し。
てか最近疲労溜まりすぎて書く気が起きない……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月13日 (火) 21:38:56   ID: V9-tTv1J

頑張ってください!
続きが気になる~><

2 :  SS好きの774さん   2014年07月06日 (日) 21:24:17   ID: Hz7jqn-k

続きを早く

3 :  SS好きの777さん   2014年07月21日 (月) 19:19:42   ID: 24IQbu7e

続きはやくー
小咲かわいい

4 :  SS好きの774さん   2014年07月28日 (月) 21:54:56   ID: B3mSLNbn

面白いです!
大変だと思いますが、書くの頑張ってください!

5 :  SS好きの774さん   2014年07月30日 (水) 10:06:13   ID: PIeGCKer

続き早よ

6 :  SS好きの774さん   2014年08月04日 (月) 00:35:25   ID: -42rVx59

俺はこうゆうの好きです

7 :  SS好きの774さん   2014年08月04日 (月) 00:54:37   ID: gUFXYANY

頑張れ~
おもろいぞ

8 :  SS好きの774さん   2014年09月11日 (木) 09:33:35   ID: A2nZBXCD

殺さないでくれ

9 :  SS好きの774さん   2014年09月11日 (木) 09:35:36   ID: A2nZBXCD

早く続きを、、笑っ

10 :  SS好きの774さん   2014年09月15日 (月) 11:40:09   ID: J2vYN8w9

小野寺さんころさないでーしく

11 :  SS好きの774さん   2014年09月22日 (月) 02:08:53   ID: CGabi8R6

小野寺さん死なない事を祈ります笑

12 :  SS好きの774さん   2014年10月04日 (土) 23:44:37   ID: AolZlpBM

やべえ
おもろいぞー
はーやーくー

13 :  SS好きの774さん   2014年10月13日 (月) 04:27:29   ID: 6Z6Elmja

応援します!
がんばってください!

14 :  SS好きの774さん   2014年10月13日 (月) 15:38:23   ID: xfn_Thv_

がんばってください!

15 :  SS好きの774さん   2014年11月11日 (火) 08:40:14   ID: _xAD4_3U

軽い気持ちで覗いたら予想以上にどろどろしてたwww
これからも胃もたれするレベルのどろどろを期待

16 :  SS好きの梛那伺さん   2014年11月13日 (木) 21:51:40   ID: 0ADv1liP

鴉慰挧慧惡架希倶戯拠嵯刺簀脊姐詑徴覩弖兜那邇駑禰篦玻披扶邊畆麼微鵡萠麼箭萸節騾狸鏤列艫萵

17 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 00:09:11   ID: h0lIc__s

頑張津手区打差異

18 :  SS好きの774さん   2014年12月07日 (日) 22:59:23   ID: IUyUCcSM

続き気になる!

19 :  SS好きの774さん   2014年12月10日 (水) 00:35:34   ID: Sj10On1C

早く続きが読みたいです

20 :  マリーの大ファン   2014年12月10日 (水) 00:48:54   ID: Sj10On1C

頑張ってください!応援してます!マリーの記憶戻って欲しいです!つぐみん死なないで!




















21 :  SS好きの774さん   2014年12月15日 (月) 23:19:51   ID: U7hZp2il

頑張ってください凄い面白いです

22 :  SS好きの774さん   2014年12月21日 (日) 11:24:40   ID: aRFOnMbL

面白い
続き期待

23 :  SS好きの774さん   2014年12月28日 (日) 02:38:08   ID: r7Zzj8Au

続き読みたいです!

24 :  SS好きの774さん   2014年12月30日 (火) 23:19:44   ID: s9excCtz

わくわくさん

25 :  SS好きの774さん   2015年01月03日 (土) 23:35:01   ID: J6mJHTt1

続きを書いて欲しいです

26 :  SS好きの774さん   2015年01月10日 (土) 00:17:36   ID: zvNY5Z30

お願い続きを恵んで!

27 :  千棘好きの加藤さん   2015年02月12日 (木) 09:16:15   ID: Ef8nZedK

ニセコイのこの手のssっていっつもドロドロになるよなw まぁ、ヤクザって設定があるから仕方ないがw
けど本来ニセコイってこんなんじゃない気がするw あ、別物として見ればかなり面白いです!

28 :  SS好きの774さん   2015年03月23日 (月) 04:28:29   ID: _FMHrqQH

エタってたと思ったら復帰しててくれた!

29 :  SS好きの774さん   2015年03月30日 (月) 19:25:26   ID: tJ9ERCd7

早く続きをー

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