揺杏「腹減ったァ」 小蒔「ぺこぺこです…」 (236)

揺杏「終わったな。団体の決勝…」

爽「終わったなー」

揺杏「あれだって。初出場のトコが優勝って、確か…えっと……」

由暉子「何年前でしたっけ?どなたか、分かります?」

誓子「さあ…。なるかはどう?」

成香「分かりませんよ…。……はぁ」

揺杏「はぁ~……」

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成香「ごめんなさい…。私があの時、あそこまで削られなければ…」

由暉子「いいですよそんなの。辻垣内さんがいた卓で倍満アガれただけでも凄いと思いますよ」

爽「揺杏も気にすんなよー。愛宕もあのフランス人も化けモンみたいな奴だったしな」

揺杏「そういうのいいよ…。今更言ってもしゃーないし」

誓子「でも驚いたよね。成香と戦った清澄の先鋒の子…。…1年なのに、決勝でもチャンピオンや辻垣内さんに一歩も退いてなかった」

成香「どうすれば強くなれるんでしょう…。ユキちゃんや爽さん達は、どうしてそんなに強いんですか?」

由暉子「……」

爽「……」

揺杏「……ねえ!明日始まる個人戦って、いつからやんだっけ?」

誓子「10時からだね。初めに総当たり戦でやって、次の日に上位者でトーナメントだったっけ?」

爽「分からん。忘れた。まー、出番が来たら適当に打つよ」

由暉子「そんな心構えで大丈夫ですか?」

爽「安心せい。成香たち、前3人の恨みもきっちり晴らしてきてやるさー」

成香(恨んではないですけど…)

揺杏「昼前からならよゆーかな。…成香!ちょっと外出てかない?」

成香「はっ?な、何故私なんですか?」

揺杏「いーじゃんいーじゃん。風に当たりに行こうぜー」

誓子「…そうだね。なるか、ちょっと歩いてお菓子か何か買ってきてよ!」

爽「私コーラ欲しい。二人とも、頼んだぞ」

揺杏「あいよ。ユキ、お前はどう?」

由暉子「えーと……私は特に要らないです」

成香(もう行くことが決定的になってますか…)

揺杏「じゃー行ってくるよ。金は折半な。レシート貰ってくるから」ガチャ

誓子「ほらなるか、立って。お菓子の量とかは任せるから、適当に選んできてよ」

成香「はい…。…揺杏ちゃん、待ってくださーい!」タッ







爽「行ってしまったか…」

由暉子「あの…私もついて行った方が良かったですかね?1年なわけですし…」

誓子「ううん。ユキちゃんはついて行かなくていいよ。そっちの方がね」

爽「誓子の言う通りだな。ユキ、ここでのんびり二人を待とうじゃないか」

由暉子「はぁ…。先輩方がそうおっしゃるなら…」

揺杏「しっかし、ビミョーに遠いとこにコンビニあるよなぁ。まあちょうどいいけどさ」

成香「揺杏ちゃん…。どうしてあんなタイミングで?」

揺杏「『どうしたら強くなれるの』なんて聞いたところでさ…。あの二人はどっちかっつーとセンスで打つタイプなんだし、聞かれても答えらんねーでしょ」

成香「…………」

揺杏「明日も出番あんだし、難しいこと考えさせんのよそーぜ。特訓すんなら、インハイ全部終わってから付き合ってもらえばいいじゃん」

成香「…ありがとうございます」

揺杏「いいってことよ。気にすんなってば」

揺杏「…よーし、こんなんで十分かな。成香、まだなんか買ってった方がいいと思う?」

成香「十分すぎますよ…。袋の中身、重いです…」

揺杏「そりゃー明日も明後日もあるからな!どうせなら買いだめしとこうぜって話よ」

成香「別にいいですけど……途中で、ちゃんと代わってくださいね?」

揺杏「え~…。それはちょっとな……」

成香「ひどいです…」

揺杏「違うって。私、もうちょい外で歩きたい気分だからさ。悪いけど成香、一人で持ってってよ」

成香「……分かりました。ちかちゃん達には私から言っておきます」

揺杏「おりょ?思ったより素直だねー。感心、感心」

成香「揺杏ちゃん…。私が言うのもなんですけど、あまり背負い込まないでくださいね。責任は、皆にありますから…」

揺杏「どしたい藪から棒に?そういう話は今はいいって言ったばっかじゃんよー」

成香「ならいいですけど…。携帯持ってますよね?遅いですし、あまり長く一人でいると危ないですよ?」

揺杏「わーってるよ。んじゃ会計すませて、さっさと店出よーか」

成香「そうですね。よいしょ…!」

揺杏「さて一人になったわけだが……ふぁ。風涼しいなぁ、オイ」



揺杏(『背負い込むな』か…。どーしたもんかな、コレ…)

揺杏(あの試合…。ユキたちに回して追い上げることは出来たけど、結局臨海清澄にかわされてチームは負けた…)

揺杏(つーかよー。清澄の中堅、ツモはともかく私からアガるとかありえねーよ。敗退行為スレスレだろアレ。普通やんねーし)

揺杏(…でも普通にやってちゃ勝てないのかなぁ。つっても、普通以上のことが出来る気もしねーってのが問題で……)

揺杏(…………はぁ。こっからどうすんだ、私は。秋も、1年後の夏もあるってーのに…)



揺杏「……………………」

揺杏「……ま、悩んでても仕方ないな。折角東京来たんだし色々見てまわっか!成香、すまん!」

揺杏(とはいえ、東京も意外とパッとしないもんだなー。日本一の都会なら何かあるかと思ったけど…)

揺杏「雀荘でも……いや、今持ち金あんまないしなぁ。ノーレートでも打てるとこはねーもんかなぁ」

揺杏(こういう時はあれだ。人混みのあるとこでも潜って面白いもん探してみるのが定石か?まあ適当に歩いて…)

揺杏(歩いて……)

揺杏(歩いて………)

揺杏(歩いて…………)






揺杏「…っべーなこれ。迷っちゃったぞ。マジでどうしよう、これ…」





やっべ…超やっべ…。スレタイだけ考えたけど肝心の小蒔との出会い方がまったく分かんねー…


というわけで、中途半端だけど一旦切って飯食いながら考えます。立て逃げとかじゃなく、ちょっと更新して完結目指して頑張ります


とりあえず道には迷わせたのでなんとかなるかと……マジやべぇ

揺杏「もしもし、成香?…うん、そう。私、もうちょい外にいるから。…うん、うん。爽たちによろしく。んじゃばいばーい」ピッ



揺杏「さて…どうしようこれ。来た道もちょっと分かんない感じだぞ。うーん…」

揺杏「あー、そういやこの携帯ってGPS的な機能がー……付いてても使い方分かんねーしなぁ。んー……」

揺杏「…とりあえず、目印になりそうな建てモン探すか。この辺ホテル多いし、いざとなったらどっかのフロントで聞いてみてもいいかもな」

揺杏(にしても、ホテル入って『ここと別の宿の場所って分かりますか?』って……冷やかしか煽りっぽくねーかな?)

揺杏「……それはそれで楽しそうだしいっか!よし、歩こう!」



私は歩いた…。手元の携帯に載った地図、そこに記された名を、そこかしこにちらほら見える建物の看板と照らし合わせながら…



もう時刻は9時をとっくに回っていた頃だろうか、夏真っ盛りでも辺りは暗く、看板なんかを視認するのにも難儀した



そして10分ほどが経った時、私は直感した。これはマズい。マジでやばい



ゼロに等しい土地勘と視野を狭める暗闇、何より自らの焦慮が原因なのだろう。歩いても歩いても手掛かりは見つからず、徒に時は過ぎ疲労が蓄積されるばかりである



こうなったら仕方ない、最後の手段「すいませーん、道に迷ったんすけど〇〇ホテルってどう行けばいいですかねー?」を使う時が来たかと心構えを決めたその時、記憶にあった、夏の闇にもはっきり分かるあの服を着た集団が目に入ったのであった




揺杏「ねえ!おねーさん方!唐突で悪いけど、道案内頼まれてくれません!?」



姿を捉えて数瞬後。我ながら驚くほど躊躇いなく放った言葉に返事をしたのは、集団の真ん中にいた少女だった



「私たちでよろしければ!どちらへ行かれるおつもりでしょうか?」



そう言いながら近づいてくる少女は、画面越しに何度も見た印象そのままに、温和で柔らかな雰囲気を纏わせながら切り出した



小蒔「私は、この近くに宿をとっている永水女子の神代小蒔と申します。差支えなければ、貴女のお名前をうかがっても?」



揺杏「有珠山高校2年の、岩館揺杏ともーしますっ。神代さん、アンタがここにいてくれて良かったよ!」



私がそう言うと



小蒔「……~っ!?そそっ、それはどういう……///」



神代小蒔は困惑しながら、頬を可愛く赤らめてみせたのであった

初美「こんな夜更けにナンパですかー?都会の女子高生は精が出ますねーっ」

揺杏「やー、違うんすよー。今のは言葉の綾みたいなもんで、永水の皆さんに道案内してもらおうかなーと思いまして…」

初美「それは妙ですね。地元の方なら、私たちよりよほど詳しいはずですよー?」

春「……それ、違うと思う。さっき有珠山って言ってたから、ここ(東京)の子じゃないはず…」ポリポリ

初美「そういえばそうでした!それでは岩館さん、私たちに何の御用ですかー?」

揺杏「いやそれさっき言いましたよね?道迷ったんで案内してもらいたいなって…」

霞「あらあら…。そういうことでしたら、お役に立てるか分かりませんが、お話しだけでもお聞きしましょう。でもその前に…小蒔ちゃん?」

小蒔「はっ、はいっ!?なんでしょう?」

霞「この方の案内と私たちの用事……どちらを優先させるべきでしょうか?」

小蒔「あっ!そ、そうですね…………巴ちゃん、どうしましょう?」

巴「私に聞かれましても…。…あの、岩館さん?貴女って今急ぎでしょうか?そうでなければ少しお時間を頂きたいと…」

揺杏「いえいえ、5分や10分ぐらい余裕で待てますよ?平気っす、ええ」

揺杏(成香には後で電話しとこう)

初美「それはありがたいですねー。それでは皆、まずは私たちの宿へ行きましょう!」

春「……ん。歩こう…」ポリポリ

小蒔「で、ではそういうことで、霞ちゃん!」

霞「あらあら……」

霞「ご足労かけました。それでは、どちらへ行かれるのかお教えください」

揺杏「いやいや、んな仰々しくしてもらわなくても……ホント、ただの迷子にすぎないんで…」

巴「私たちにはこれが自然なので。気になさらなくて大丈夫ですよ」

揺杏「そうですかね?んじゃ、遠慮なく……」







小蒔「…………」ソワソワ

初美「…何をわくわくしてるんですか、姫様はー?」

小蒔「!!な、何もわくわくなんてしてませんよ?初美ちゃんのか、勘違いなのでは!?」

春「……怪しい」ポリ



永水の人達の用事は要するに、宿に荷物を置いてくるというだけのことだった。なんでも、今日まで地元の方で羽を伸ばしてたらしいが…



揺杏「へぇー…。海かー……」

初美「そうですよー!二回戦の後に知り合った方々と一緒に、思う存分泳ぎまくったんですー!」

揺杏「いいなぁー。羨ましいねー、ほんと…」

小蒔「北海道の方では、海水浴出来る場所はあるのでしょうか?寒くないですか?」

揺杏「なくもないって感じかなー。夏場なら、場所によってはそこまでもないよ?まあ北海道つっても、ピンからキリまであって…」

春「……広い県って色々大変そう…」ポリ



その話で、思いの外盛り上がって意気投合中である。うみの ちからって すげー

巴「こらこら、もう遅いんだから、エントランスで騒いでいると迷惑ですよ?大勢で話すなら抑えて…」

初美「巴の方こそうるさいですよー。将来は立派な小姑になれそうですねー」

巴「…………はっちゃん、そこに直りなさい?」



ギャーギャー!ソコダ、ヤレ!マダマダデスヨー!ミ、ミナサン、ヤメテクダサイ! ……モウオソイ…





霞「こ~ら!初美ちゃんも巴ちゃんも、静かにしなさい!……岩館さん。今、宿の人に道順書いてもらいましたから、その紙をお渡ししますね」

揺杏「そ、そうですか?こりゃご丁寧に、どうもどうも…」

霞「うふふ。そういうのはよろしいと言ったばかりですのに」

揺杏「いや~……」

揺杏(自分らで道分かんねーからって他の人に道順聞いてきてくれるとか…。親切にも程があんだろ……)

揺杏「えー…。…つーことで、お世話になりました。この恩はマジで忘れないんで、会場で会ったらなんかお礼さしてくださいね!」

初美「『袖触れ合うも多少の縁』といいますからねー。そんな他人行儀にしなくて結構ですよー」

巴「はっちゃんの言う通りです。岩館さん、お礼は気持ちだけで本当に充分ですので…」

春「……二人の言う通り。困った時はお互い様だから…」ポリポリ

揺杏「あ、ああ。そっすか……」



揺杏(…ってなんだよそれー!ここまでされると逆に困るんだけどー!!)



揺杏「……~~!」カーッ



霞「あらあら…」

小蒔「…………」

揺杏「んと…そんじゃ、さよーなら!お礼のことはともかく、また会ったら色々お話ししましょうね!」

初美「はいですー!楽しみにしてますよー!」

巴「さようなら。会場で見たら、すぐ声をかけてくださいね?」

春「……ばいばい」ポリポリ

霞「はい。またお会いできる日を、永水女子一同、心からお待ちしておりますね」ペコリン



揺杏(かーっ!最後までそれかよ、もー!)

揺杏「はあ…。まあ、優しい人らに会えて運が良かったな私は、うん」

小蒔「ありがとうございます。そう思ってくださるだけで、きっと皆も喜んでくれていると思いますよ」

揺杏「あーもうその言葉自体がやさしーっつーか……そだ。成香たちに連絡入れねえとな。流石に心配されてるかもだし」

小蒔「なるか……ああ!一緒に団体戦に出られていたチームメイトの方ですね!部屋は一緒なんですか?」

揺杏「え?チームの部屋割りは2-3で分かれてて…成香とは別部屋かな。そっちは?」ピッピッ

小蒔「私たちはこう見えて、仲の良さが自慢ですから!広いお部屋をとって皆で一緒に寝てます!」フンス

揺杏「へー、それもいいっちゃいいねー。……あ、神代。今電話かけてっから、ちょい黙っててくれる?」

小蒔「はい。…………」

揺杏「…あー、成香?うん。ゴメン。ちょい道に迷っちってさ。うん、だいじょぶ。道案内してもらったから、うん。今行くわ!」ピッ

揺杏「サンキュ、神代。もーいーよ」

小蒔「なるかさん、どうです?心配してらっしゃいました?」

揺杏「んー……「半々」って感じだったかな。あきれてんのと、心配してんので」

小蒔「あきれ…?岩館さん、普段からこういう……一人歩きなどなさっているのですか?」

揺杏「んにゃ。まー、普段から『そういうことしてもおかしくない奴』的な感じだからね、私は。別に気にしてないけど」

小蒔「なるほど…。部内でのキャラってやつですね!」

揺杏「あはは。なんでそんな力入れんだよ。……ところでさ、神代…」

小蒔「はい?なんでしょう?」




揺杏「お前……なんで私についてきてんの?」



小蒔「………………」


今日は終わりです。やっと小蒔出せました。今から寝ます。明日1限からだけど頑張ります。ではまた

小蒔「…逆にお聞きしますが、私がついてきてはいけませんか?もしかして迷惑でしょうか?」

揺杏「そうじゃないけど…。…ほら、永水の人らが心配してるかもだよ?今からだったらんな時間かかんないし、戻れば?」

小蒔「そういう訳には参りません!心配されているのは岩館さんの方なんですよ?女の子が夜に一人で出歩くなんて…」

揺杏「……わっーた。道分かってても、この暗さに一人で歩いたんじゃまた迷うかもしんないしな。頼んだよ、神代」

小蒔「…はい!道案内、任されました!!」

揺杏「うっお…。なんかお前、さっきからやけに張り切ってんなぁ…」

小蒔「えへへ…」

小蒔「実はですね。私、今日は東京へ戻ってくる間にいっぱい寝られたんです!夕方からぐっすりでした!」

揺杏「へぇ。神代、地元から戻ってきたってことは誰か個人戦に出るんだろ?そんなんで夜寝られんの?」

小蒔「ご安心を。私、こう見えても日付が変わる前には絶対に眠くなる体質なので!」

揺杏(それ自慢出来ることか?)

小蒔「それにですね……私、こういう風に夜に街を歩くのって初めてなんです!短い移動以外では、いつも皆に付き添われてましたから…」

揺杏「付き添い…?…何それ、神代ってもしかして、お嬢さま的なあれだったりするわけ?」

小蒔「そうですね…。…世間的に言うと、「良家の娘」とでも言うのかもしれません……」

揺杏「ふーん」

揺杏「つってもあれじゃん、もう高2だろ?よそ者の私が言う事じゃないけどさ…それ、微妙に過保護なんじゃない?」

小蒔「私には分かりません……。でも、皆が私を大事に想ってくれるのは嬉しいので、特に辛いと思ったことはないですよ」

揺杏「なーほどねー。巫女さんの恰好してんのも、家の掟的なあれがあったりとか?」

小蒔「一言では言いにくいですが、この巫女服は……制服と普段着の中間みたいなものでしょうか?強制されてるわけじゃないですよ」

揺杏「へー。じゃあ着心地もいいのかな?案外快適だったり?」

小蒔「そうですね。慣れれば結構……あ!よろしければ、岩館さんも着てみます?私の予備でよければ…」

揺杏「着ないよ?」

小蒔「それは残念です…」シュン

揺杏(つーか神代の予備って私に着れんのか?身長も大分違うけど、何よりあの部分が…)ジーッ

小蒔「?私の服に、何かついてますでしょうか?どの辺りです?」

揺杏「なんでもないよー、なんでもー。…うんうん。それにしても小蒔は良いもんを持ってるよなー」ジーッ

小蒔「……はっ!もう、どこ見てるんですか、岩館さんは!」サッ

揺杏「あらら、ばれちゃった。まー気にすんな。相手に関わらず、ガン見されちゃうのはデカい子の宿命みたいなもんだからさ」

小蒔「見た側が言う言葉じゃないですよ…」

小蒔「もう…。岩館さんは、エッチな子だったんですね。ちょっとがっかりです…」

揺杏「エッチってよ…。なんかその言葉、すげー久々に聞いた気がするなぁ…」

揺杏(つーかこういう子に『エッチ』って言われんのマジやべえな。ある意味女に生まれて損したわ、私)

揺杏「ごめんな神代。ここは素直に謝っとくよ。…神代、マジごめん」

小蒔「…仕方ないですね。今のは許してあげますので、代わりに……」

揺杏「代わりに?」

小蒔「あそこのコンビニで、甘いものを買ってください!岩館さんおすすめの、美味しいものをですよ?」

揺杏「あん?…まあ、そんぐらいならいいけどさぁ」

小蒔「ふふふ…。夜のコンビニでお買い物なんて、初めてでドキドキします!ね、岩館さん!」

揺杏「お、おう」

小蒔「さあ行きましょう岩館さん!早く早く!」

揺杏「待て待て待てって!自分で歩くから袖引っ張んなー!」

小蒔「わぁ…!やっぱりいいですね、コンビニは。クーラーが効いてて気持ちいいです…」

揺杏(コンビニにどんなイメージ持ってんだ神代は)

小蒔「あっ、凄い!見てください岩館さん!イクラのお寿司が売ってますよ、ほらほら!」

揺杏「分かったから一旦落ち着け。今適当なの選んでくっからさ」

小蒔「わ、分かりました。一人で騒いですいません…」

揺杏「そこまで落ち込まれっとこっちが困るよ。フツーにしててくれ、フツーに。な?」

小蒔「はい。岩館さんのおすすめ、楽しみにしてますね♪」ニコッ

揺杏(……これはこれで照れんな。なんでか知らんけど…)

揺杏「おーいじんだーい。会計終わったし、出るよー?」

小蒔「ま、待ってください。この大きさで120円のフライドチキン。買うか、買わざるか…」

揺杏「……寝る前に食うと太るぞ、そういうの」

小蒔「!!い、今出ますので待たなくて結構です!は、早く行きましょう!」

揺杏(マジちょれぇ。お嬢さまってのは皆こんなんなのか?……ん?そういえば…)





揺杏「……ここ、成香と寄ったコンビニか。…うん。とりあえず、帰れそうではあるな」





小蒔「岩館さん?早くしましょうよー!」

揺杏「はいはい。ごめんな、今出るよ!」

揺杏「ほれよ。これ私のおすすめ。値段の割に量多くて、味も結構イケんだぜ?」

小蒔「これは……私も見たことはありますが、なんと読むのでしょうね。『そう』?それとも、『さわやか』?」

揺杏「さーね。とりあえず、溶ける前に食いながら歩こうぜ。バニラと温州みかん、どっちがいい?」

小蒔「ばに…や、やっぱりみかんの方で!」

揺杏「ほいよ。ゴミはこの袋に入れっから、食い終わったら私に言ってな」

小蒔「はい!」

揺杏「………………」

小蒔「………………」

揺杏「………………どう、美味しい?」

小蒔「はい……。美味しい…です…………」

揺杏「夏場は……アイスが定番だから…な……」

小蒔「そうです……ね…………」

揺杏「……………………」

小蒔「…………ごちそうさまでした」

揺杏「…………ん。袋、入れて」

揺杏「…………あ、ごめん。今食べ終わっからね」

小蒔「急がなくてもよろしいですよ」

揺杏「ん……………………はー、美味かった!どう神代?そろそろ着きそう?」

小蒔「そうですね……あ!多分、あそこに見えるホテルでいいと思います!」

揺杏「おおー、やっと戻って来れたか!一応、成香達にも連絡しとくかな」ポチポチ

小蒔「…うん、間違いないみたいです。あともうちょっとですよ、岩館さん!」

揺杏「おう!」

揺杏「あっともっうすっこし……お?あれは…」

小蒔「?入口に立ってるあの方は、お知り合いなんですか?」

揺杏「チームメイトだよ。……おーい爽ー!成香ー!帰ったどー!」





爽、成香「「………………!!」」





小蒔「気付いてくれたみたいですけど、何言ってるのか聞こえませんね…」

揺杏「そーだね。まあ歩いてるうちになんとかなるさ。行こう!」

小蒔「はい」

成香「遅かったですね、揺杏ちゃん。電話かけてくれるまで結構心配してたんですよ?」

揺杏「ごめんな成香。だからってわざわざ出迎えなくても…」

爽「まー、道案内してくれた人にお礼はしないとな。それがどんな奴か見てみたかったのもあるが……って神代小蒔!?何があったんだ!?」

成香「えっ?神代って、永水の!?」

揺杏「やー、道迷った時にたまたま巫女服の集団発見してさ。それが永水の人らで…」

爽「そんなことはどうでもいい!いやよくないが!…そうか。永水の奴らが近くに来てたのかー……」ジーッ

小蒔「あ、あの。そんなに見られると少し恥ずかしいと言いますか…」

爽「ふーん、なるほどなー…。…ところで神代さん、永水の他のメンバーは今どの辺にいるんだい?」

小蒔「ち、近くの方に宿を取っております。岩館さんに会ったのも、その宿の近くです」

爽「ふぅ~む、なるほどなるほどなるほど~……」

成香「揺杏ちゃん、どうして神代さんも一緒なんですか?もしかして、有珠山高校に用があるとか…」

揺杏「んー?神代が、女の子が一人で出歩くのは危ないっつってさ。要は、道案内兼ボディーガードってこと」

爽「ふむふむ、これはこれはご丁寧に…」

小蒔「ど、どういたしまして」

爽「ふぅ~む…。わざわざ初対面の相手に付き添ってくれたのか……」

揺杏「いー加減やめろって、爽。神代が困ってんだろ」

小蒔「…………///」

爽「え、実際どう?揺杏と仲良くできた?道中はどんなかん…「やーめろってば。何度も言わせんな」……むぅ」

成香「あはは…。すみません、神代さん。本当にありがとうございました」ペッコリン

小蒔「…いえ、いいですよ。お礼の方は岩館さんに何度も言ってもらったので…」

揺杏「謙遜すんなよー。神代のお蔭で戻って来れたわけだし、マジであんがとな!ばいばい神代、一旦お別れだ!」

小蒔「は、はい!それでは皆さん、ご縁がありましたら、またよろしくお願いしますね!」

成香「はい。お気をつけてくださいね、神代さん」





爽「……おい、ちょっと待てお前ら」





成香「?」

揺杏「?」

小蒔「???」

爽「女子の一人歩きが心配でついてきてくれた神代に、一人で帰らせるつもりじゃないだろうな。なあ揺杏?」

成香「あっ」

揺杏「あっ」

小蒔「!」





爽「チャラチャラした格好の中途半端にデカい女より、無害そうで純朴そうな巫女さんが一人で歩く方がよっぽど危ないと思わないか。なあ?」

揺杏「オイてめえ今なんつったオイ」

爽「そういうわけで揺杏。今度はお前が送ってってやんなよ。今度は誰も一人にならんように私もついて行くから。な?」

揺杏「…………どう、神代?そうする?」

小蒔「そ、そういうことでしたら、私からも是非…」

爽「決まりだな。成香、お前は残って二人に今のこと伝えといてくれ」

成香「分かりました」

爽「よーし、行くぞー!目的地は永水のとってる宿だ!揺杏、神代、先導よろしく!」

揺杏「お、おう」

小蒔「任されました!」

爽「いざ、出発進行ー!さあ行くぞ二人とも!ちゃっちゃと動こう、ちゃっちゃと!」

小蒔「……いつも、こんなに元気な方なんですか?」ヒソヒソ

揺杏「いや…。なんか今だけ特別みたいになってんな…」ヒソ







揺杏(爽の奴…何考えてんだ……?)

今日分終わり。姫様は褒められ慣れてなさそうでちょろそう可愛い

爽「ところでさ、どーして永水の皆は夜に出歩いてたんだ?何か用事?」

揺杏「今日まで地元に帰ってて、夜に戻ってきたんだってさ。な、神代?」

小蒔「はい、そうです」

揺杏「海行ってたんだってよ、海!いかにも『夏』って感じで羨ましいよな~」

爽「海か~。そういや、高校入ってから全然水着買った覚えないなぁ。これってもしかしてやばい?」

揺杏「別に男欲しくないならいーんじゃねえの。女としてぎりぎりな気はすっけどな」

爽「何故!?寒いんだから海行かないししょうがないじゃん!いやプールとかは行ったりしたけどさ!」

揺杏「つかお前、高校3年間で買い替える必要性なかったろ。体のライン去年から全然変わってないし」

爽「………………」

爽「お前さ……いきなりそういうのかますのやめろよ。親しき仲にも礼儀ありって言うじゃんか」

揺杏「つまり、爽にとってユキは親しくない相手ってことだな。ユキも可哀想なやつ…」

爽「ばっ…セクハラじゃないさ!スキンシップだよ!先輩後輩の仲良しコミュニケーションの一部だって!」

揺杏「かんっぜんに犯罪者の台詞だなぁオイ。将来ニュース番組に取り上げられないように頑張れよ、マジで」

爽「大きなお世話だ!ていうかさ、セクハラしたの揺杏じゃん。なんで私が悪いみたいになってる?」

揺杏「しょーがねえよ。お前は存在がセクハラみたいなもんだから」

爽「揺杏はさ。そろそろ私が年上ってことに配慮してくれてもいいと思うんだ、うん」

揺杏「やーだね。つーかお前、それパワハラって言わねえか?」

爽「マジか…。袋小路じゃん、私……」

爽「大体お前、人の言えるのか人の事。私の存在がセクハラだとしたら、揺杏は存在がAカップじゃないか」

揺杏「爽だってCいかねえだろ。世間的に見たらどっちも『貧』の部類だかんな?」

爽「なんだよ…。そんなこと言ったら、ユキ以外皆お前と一緒になっちゃうじゃないか…」

揺杏「えっ。誓子ってそんなちっさいの?あれ少なくともCはあんじゃねえの?」

爽「どうなんだろう。流れで言ったけど、アイツはそこまで小さくもないような…」

揺杏「だからそれは……まあいいや。この話はやめようぜ、な?」

爽「あ?なんで急に……ああ、そういうことか」





小蒔「………………」

爽「ゴメンな神代さん。身内ネタなんてアンタにはちっとも分かんないし、聞いててもつまらんよなー」

小蒔「!!いっ、いえ!お気遣いなく!」

爽「いやいや…。これはアレだな、仲良し三人で帰ってる時とかに稀に発生するという…」

揺杏「あー、二人だけ盛り上がっちゃって残った一人がハブに…的な?お前そういうのやりそうだもんな~」

爽「そうそう。疎外感と心細さが時間と共に増幅していく感じが……もう二度と味わいたくない」

揺杏「…ってやられる側かよ!」

爽「それ以来、私は誓子や成香との間に壁を感じるようになったのだ…」

揺杏「そんな身近に犯人が!!……つーかお前、なんでわざわざその二人の間に入ろうとした?」

爽「アイツらいっつも仲良いから、ちょっと喧嘩さしたらどうなるのかなって思って…」

揺杏「よし神代、先急ごうぜー!」

揺杏「やー、ごめんな神代。よりによって部で一番ヘンな奴が一緒になっちゃって…」

小蒔「い、いえ。面白い方だと思いますけど…」

揺杏「いーよいーよ気ぃ遣わないで。さ、永水の人らも心配するしさっさと行こうぜ」

小蒔「は、はいっ!」





爽「ちょっと待った待った待ってくれ二人とも!あれだぞ!私みたいなの一人きりにしたら悪い男に持ってかれちゃうぞ!いいのかおい!」

揺杏「ちょっと獅子原センパーイ。神代さんがビックリするんで大声出すのやめてもらえますか~?」

爽「他人行儀になんのマジでやめてくれ。冗談だとしてもすっごい傷つくからな、それ」

揺杏「だってさ……部内で一番仲良い二人に喧嘩させようとか人間の発想じゃねえよ。お前頭イッてるんじゃねーか?」

爽「そ、それは言い過ぎじゃないか?な、神代さん。流石に、揺杏のコレは言い過ぎ…だろ?」

小蒔「え?えぇっと…」

爽「そもそも、古来より日本人は『完璧』を嫌う傾向があったんだ。満月を見れば欠けてしまうことの危うさを感じ、真っ直ぐな神社の柱も一本だけは変な形にするという……」

揺杏「その意味不明な説得やめろ。つーか、お前がそういうアカデミックなのやると違和感半端ねえし」

爽「神代さん、アイツは悪魔の使いだから耳を貸してはいけないぞ。自分で考えて決めるんだ…」

小蒔「はぁ……」

小蒔(………………)



~~~~~



春『黒糖……美味しい…』ポリポリ

黒糖『…………』

春『…この味、いつも安心する。……凄く、素敵』ポリポリ

黒糖『…………』

春『言葉は要らない…。……今私の目の前に、黒糖がある。それだけで十分…』ポリポリ

黒糖『…………』

春『…………ふふっ』

黒糖『…………』

初美『邪魔するですよー!はるるー、まだ黒糖食べているのですかー?』

春『!!?』

初美『もう、はるるったら。休憩時間はとっくに過ぎてますよー?早く持ち場に戻ってくださいー』

春『…待って。あと5、いや3分……』

初美『駄目ですー。今すぐ行かないと、黒糖は没収ですよー?』

春『……!!…あ、あと一つまみだけ……』

初美『はい没収ですー。返して欲しくば自分の役目を終えてくださいねー!』

春『待って…!黒糖……私の黒糖…!』



黒糖『…………』



~~~~~



小蒔(………………)

小蒔「…やはり、冗談でもそういうのは良くないと思います」

爽「」ガーン!

揺杏「当たり前のことにショック受けてんなよ。…そういやお前、なんでわざわざついてきたん?」

爽「え?神代を送った後の揺杏を一人にしないための…」

揺杏「それだけにしちゃお前、やけにテンションおかしくないか?何か別のこと企んでんだろ?」

爽「……まあ、向こうに着いたら分かるさ。今は気にしなくていいよ」

揺杏「…おう」

小蒔「…………」

小蒔「あの、さわやさん?もし永水のどなたかに用事でしたら、私が今の内に承っておきましょうか?」

爽「ああ、平気平気。神代さんてまだ2年でしょ?気にしなくていいよ」

小蒔「はぁ、そうですか。…ところで、さわやさんって漢字でどう書くのですか?『沢』と『谷』?」

揺杏「その『さわや』は苗字とかに使われる方だろ?コイツのは、『爽やか』の方だよ。さっき買ってやったアレと一緒」

小蒔「「アレ」……ああ、あのアイスですか。岩館さんお気に入りの」

爽「何?揺杏、またあのアイス買ったのか。じゃあ今持ってる袋の中は…」

揺杏「もう二人で食ったけどな。お前にやる分はないよ~」

爽「何ぃ~…?」

爽「というかお前、アイス買う時は大体それ買うよなぁ。…うんうん。私を慕う気持ちをこんな所で表すとは、愛い奴だねぇ」

揺杏「勘違いすんなっつーの。私はこっちの「さわや」じゃなくて、あっちの「さわや」が好きなだけだ」

爽「照れるな照れるな。大丈夫だ。お前の気持ちはちゃんと分かってっから」ガッ

揺杏「バカ。勘違いした上に肩まで組んでくんじゃねーよ、うっとうしい…」

爽「あんだよー、私らの仲だろー?照れんなってばー!」ウリウリ

揺杏「あーうぜー…。…じんだーい、こういう上級生とは知り合いになっちゃだめだぞー」

小蒔「あ、あはは…」

小蒔「…………」



爽「それより風涼しいな~。なあ揺杏、これ結構気持ちよくないかー?」

揺杏「いい加減離せやおーい。爽がくっついてっと暑くてむしろウザい」

爽「すーなおーじゃなーいなー!私のことが好きならそう言えってばよー!」

揺杏「なんだよもー!お前キャラ変わってねえか、なあ!?」

爽「いいじゃんいいじゃん。チューしようぜ、ほら」チュー

揺杏「するか!きめえ!おい神代、助けてくれ!コイツひっぱがすの手伝って…」



小蒔「…………」



揺杏「……神代?」

揺杏「あー、こりゃ…またやっちゃったか?」

爽「え?あぁ……。…ゴメンね、神代さん。わざとじゃないんだが、つい揺杏と盛り上がっちゃって…」

小蒔「いえ、そうではなく。……その、爽さんと岩館さんは、下の名前で呼び合ってるんですよね?」

爽「ん。まあ…普通、女子の間で「○○先輩」とか「○○さん」とか流行んないしな」

揺杏「どんな基準だよ。私がそういうの気にしないだけで、成香とかユキとか普通に使ってんじゃん」

爽「ああ、そういやそうだな。…で、それが何か?」

小蒔「仲が良いんだな、…って」

爽「…………」

揺杏「…………」

揺杏「あれ?でも神代もさ、3年の石戸さんにちゃん付けしてたじゃん。むしろ永水の方が仲良いんじゃね?」

小蒔「そうですけど……それとは、少しだけ違うんです」

揺杏「は?なんだそりゃ。言葉遣いがちょい違うだけで、そんな差なくね?なあ?」

小蒔「……はい。そう、ですね…」

揺杏「なんだなんだ?神代ってたまに変なこと言うのなー。面白くっていいと思うよ、そういうの!」

小蒔「あはは……はぁ」



爽「………………」

爽「なあ神代さん……いや、小蒔!」

小蒔「へっ!?さ、爽さん?いきなり何を…」

爽「えー?だって、小蒔は私のこと名前呼びなのに、私だけ『神代さん』なんて変じゃん。なあ?」

小蒔「そ、それは爽さんの上の名前を知らないからで…」

爽「いーじゃん別に。私らもう友達みたいなもんだし。…な、揺杏!お前もそう思うだろ?」

揺杏「えっ。…まあ、仲良いっちゃいいかもだけどさ…」

爽「細かいことは気にすんな。ほら、お前ら二人も下の名前で呼び合えよ!私よりは揺杏の方が小蒔と仲良いだろー?」

揺杏「いや時間的にはそうかもしんねーけどさ…」



小蒔「…………!」

揺杏「……あー、神代?こんな奴の言う事真に受け『揺杏ちゃん!!』…!?」

小蒔「揺杏ちゃん!爽さんの言う通り、私たちお友達になっているのですから、名前で呼び合いましょう!ね?」

揺杏「あ?なんだそれいきなり。私はそんなの…」

爽「いいから乗ってやれよ。小蒔的には、仲の良い奴らは下の名前で呼び合うんだろうよ。な、小蒔?」

小蒔「は、はい。…それとも揺杏ちゃんは、……もしかして私のこと、その……」グス

揺杏「な、泣くなバカ!わーった、わーったよ!呼ぶ!今から神代のこと下の名前で呼ぶから!な?」

小蒔「は、はい!よろしくお願いします!」

揺杏「あ、ああ。こちらこそ改めてよろしく。……その、こ、小ま…」




揺杏「…小蒔……//」



小蒔「…はいっ!改めてよろしくです、揺杏ちゃん!」



爽「………………」グッ


揺杏「てめえなんだよ今のガッツポーズ的なあれはー!人が頑張ってるとこ見て笑ってんじゃねーぞコラー!!」

爽「うるさいなー、もう。下の名前呼ぶくらいで照れるとかお前、今更そういうアピール要らないからな?」

揺杏「うっせ!…つーか、元はと言えば爽が変なこと言い出すからだろがよぉ…。なんなんだよ今のやり取り…」

爽「まー、元はと言えば揺杏が鈍感なのが悪いんだし。むしろ私に感謝しろ、感謝」

揺杏「はー?なーんかますます意味わかんねんだけど…」

小蒔「…………」

爽「それよりほら!アレが小蒔たちの宿じゃないのか!?見た目的には旅館って感じだなー」

揺杏「あ?……いや、アレじゃねーよ。見た目は似てっけど、もうちょい先の方だな」

爽「ふーん。でも近付いてはいるんだろ?ちゃきちゃき歩こうぜ、二人とも!」

揺杏「まーた変なテンションかよ……まあいいや。小蒔、急ごうぜ!」

小蒔「はい、揺杏ちゃん!……その前に爽さん?ちょっといいですか?」

爽「あー?なんだ、小蒔?」

小蒔「そ、その……」





小蒔「…さっきは、ありがとうございました!」

爽「……いいってことさ。仲良くしてやれよ、アイツと」

小蒔「は、はい!」

揺杏「おい二人とも、何話してんだー?あとちょいなんだし、急ぐなら急ぐではっきりしろよー!」

爽「なんでもないさ!行くぞ揺杏、小蒔!」

小蒔「はい!」

揺杏「んー?なーんか怪しいなあ、お前ら…」

爽「気のせい気のせい……おっ!なあ、今度こそアレだろ、なあ!?」

小蒔「……そうみたいですね。やっと着きました…」

揺杏「小蒔。今のうちに永水の皆に連絡しとけば?」

小蒔「そっ、そうですね!」ピッピッ

飯タイムなので一旦終わり。夜か明日の昼頃に続きかきます

霞「はじめまして、こんばんは。お話は小蒔ちゃんからうかがっております」ペコ

爽「……貴女が女将さんですか?」

霞「は?」

爽「いえ、つまりその…」

霞「……」

揺杏「爽。この人が永水の石戸さんだよ。小蒔の一個上の先輩」

爽「あ…ああー!なるほど、宿の関係者とかじゃ無かったんだな!」

霞「なにやら勘違いなさっているようですが…。…小蒔ちゃんを送ってくださり、真にありがとうございました」ペッコリン

揺杏「いえいえ、お互い様っすから。な、小蒔?」

小蒔「はい。有珠山のお二方とも仲良くなれましたし、却って良かったですね」

霞「それはどうも。岩館さんに…獅子原さんですよね?せめてもの礼に、お茶でも如何です?」

揺杏「だってさ。どうする、爽?」

爽「そうだな…。…折角だし、お邪魔しようか」

初美「粗茶ですが…」コトッ

爽「おお、どうも」

春「お茶請けもある…」サッ

揺杏「と、とりあえず一口貰うわ」パク

巴「熱さは大丈夫ですか?猫舌とかなら遠慮なく言ってくださいね」

爽「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」

揺杏「私も大丈夫っす」

巴「そう?なら良かったです」ニコッ

爽「…………」

揺杏「…………」モグモグ







爽(…この『おもてなし』空間……)

揺杏(マジぱねぇー…)

爽「……ふぅ。まああれだ、話したいことは色々あるんだけどさ…」

小蒔「なんでもどうぞ!」

霞「私どもに答えられる範囲なら」

爽「んな大したことでもないけどさ。まず、石戸はあれだ……私の名前、知ってたのか?」

霞「はい。臨海の辻垣内さん、清澄の宮永さん、真嘉比の銘苅さん。Bブロックでは、貴女はこの三人に並んで警戒すべき打ち手でしたからね」

爽「宮永銘苅はともかく、辻垣内と私は準決勝で当たるかどうかすら分からんかったろうに。よく調べたもんだね」

霞「当然ですよ。優勝するつもりで、決勝に進んだ去年以上の意気で臨んだのですから」

爽「……そっか」

霞「そうです」



揺杏「…………」

小蒔「…………」

爽「まあ今のは単なる好奇心だけどね。明日の個人戦、永水から出んのは…小蒔と薄墨だったっけ?」

小蒔「はい!」

初美「貴女には負けないですよー!」

爽「(私が出るって知ってんのか)…うん!なら丁度良いし、明日二校で集まって飯でも食わないか?」

揺杏「は?」

小蒔「え?」

霞「……?」



爽「個人戦は朝過ぎてから始まんだしさ。気分転換兼レクリエーション的な感じで、一緒になんか食いに行こうぜ、皆!!」



(シ――――ン…)



爽「……あれ?どうした?なんかレスポンスをくれよ、おい…」 



一同「………………」







小蒔「…揺杏ちゃんは爽さんから何か聞いてました?」ヒソヒソ

揺杏「なんも聞いてねえ。いきなり過ぎて私にも意味分からん」ヒソヒソ

霞「あの…。申し出自体はありがたいのですけれど…」

爽「!!」

揺杏(思わぬ好感触!?)

霞「私どもには何分唐突すぎる提案でして…。少しだけ、相談する時間をくれます?」

爽「お、おう!良い返事を期待してるよ!」

霞「…そういうことだから皆?少し集まってくれるかしら?」



永水一同「はい…」



~~~有珠山(二人だけ)会議中~~~



揺杏「おい爽ァ。おま、いきなり何言ってんだオイ」

爽「どうせ明日の朝はやることないし、気分転換兼個人戦の情報収集に精を出そうかと…」

揺杏「はぁ……。にしてもよぉ、もうちょい自然な誘い方はなかったんかよ…」

爽「まあ、揺杏と小蒔が一緒に居たんで思いついただけだしな。駄目なら駄目で、私に損は無いし」

揺杏「……ウチのメンバーはどう説得すんだよ」

爽「二人で突っ張れば楽勝だろ。アイツら、押しが弱いから大体は受け入れてくれるし」

揺杏「…イイ根性してんな、お前」

爽「ふふふ。そう褒めるなよ」

揺杏(褒めてねーし!)



~~~永水会議中~~~



初美「怪しいニオイがぷんぷんしますよー。私たちを罠にハメようとしてるかもしれませんー」

霞「そうかしら?…岩館さんの反応を見る限り、獅子原さんが独りで考えていたように思えるのだけれど…」

巴「獅子原爽の成績から考えても、小細工を弄するほどの小物とは思えません。ここは素直に乗ってもいいのでは?」

春「……個人的には、外食に行くのは賛成。…レストランとか、行ってみたい」ポリポリ

霞「春ちゃんは、去年東京に来なかったものね。私もそういう意味では楽しみなんだけど…」

初美「それより、一番重要な人の意見を聞いていませんねー」

巴「…そうですね。姫様、貴女は如何お思いでしょうか?」

小蒔「私ですか?私個人の考えは、初めから決まっています」

霞「……では、如何に?」






小蒔「春ちゃん。巴ちゃん。初美ちゃん。霞ちゃん。私は、私は――」



やっと姫様にお腹空かせられそうです。終わります

爽「おーい皆ー。そろそろ永水の人らが来るから出る準備しろよー」

揺杏「へいへい。ユキ、成香、ちゃんとトイレ行ったかー?」

由暉子「それ、確認する必要あります?子供の遠足じゃないんですから…」

成香「で、でも少し緊張しますね。優勝候補だった永水女子、一体どのような方々が…」

揺杏「んなつまんねーこと気にすんなよ!相手も私らとおんなし女子高生なんだからさ、力入れたってなんの意味もねーんじゃね?」

成香「だといいのですが…」

誓子「爽、今日の朝食ってどこで食べるの?永水の人達ともう決めてあるんでしょ?」

爽「普通のファミレスだよ。メニュー多いし財布も痛まないし、空気的にも大人数で話しやすいし。向こうも賛成してくれたよ」

誓子「そうなの?……うん。よかったぁ、まともな選択で」

爽「……そういう反応は地味に効くからやめてくれ…」

誓子「えっ、何が?」

爽「…まあいいや。おーい、そろそろ行くぞー!財布は持ったかー?」



揺由成「「「はーい」」」



爽「よし。あとは玄関まで行って、そっからは流れで行こう、流れで」

誓子(適当だなぁ……)

霞「どうもはじめまして、おはようございます。永水女子麻雀部の部長を務めております、石戸霞です」ペコリン

誓子「有珠山高校女子麻雀部の部長、桧森誓子です。唐突な食事会ではありますが、今日はよろしくお願いします」ペコッ

霞「うふふ。こちらこそよろしくね」

誓子「はい。お互い、出場選手が個人戦にも集中出来るように…『いいよ、んな堅苦しいのは!』……は?」



爽「そういうの要らないからさぁ。とっとと飯食って適当に駄弁って、キャッキャウフフしようぜって話なんだから、んな難しく考えんな、二人とも」



霞「…………」

誓子「…………」



爽「おらおら皆、さっさと行かないと席とられちゃうぞ。朝って言っても人の多い飯時なんだから、迅速な行動を心掛けろよ!ほら!」パンパン



一同「………………」ボーゼン



爽「ぼさっとするな!先導は誓子と石戸がやるから、この二人についてけよ!周りの通行人に迷惑かけないように二人ずつで並べ!早く!」



一同「………………」



爽「…よし、オッケ。近くにいる奴と積極的に話して仲良くなってけよ。じゃなきゃ意味無いからなー。…そんじゃ皆!出発だ、おーっ!」



一同「…………おー」

誓子「……本当にごめんなさい、石戸さん。あんな奴の思い付きに付きあわせちゃって…」

霞「いいえ、獅子原さんの言う通りよ。これから仲良くなろうというのに、堅苦しい挨拶は相応しくないもの」ニコッ

誓子「あはは…。嘘でもそう言ってもらえると気が楽になるよ…」

霞「あらやだ、本心よ?折角色々な人とお友達になれる機会なんですもの。尻込みしないで、どんどんお話ししましょう?」

誓子「そ、そうだね。……ねえ石戸さん。石戸さんはどんn『「霞」でいいわよ』…え?」



霞「私たち、同い年でしょう?仲良くなる第一歩として、お互い下の名前で呼び合うのは如何かしら、誓子ちゃん?」



誓子「…………」

誓子「……いっ、いきなりだとハードル高いので、「霞さん」で…!!」

霞「うふふ。まあ、ちょっとずつ慣れていけばいいわよね」

誓子「はぁ……。…話を戻すけど、霞さんはどんな料理が好きなの?巫女の恰好だし、やっぱり和食とか?」

霞「そうねぇ。私は色々食べる方だと思うけど、ファミレスに行った経験もあまり無いし…」チラッ

誓子「…ん?私の顔、何かついてる?」

霞「………………」

誓子「…ちょっと。人の顔見てばかりじゃなくて、質問に答えてよ」

霞「……決めたわ。アレにしましょう。うん、そうするわ」

誓子「アレって何のこと?意地悪しないでよー」

霞「え?そんなの決まってるじゃない」

誓子「??」

霞「まあ、それは行ってからのお楽しみということで。…大丈夫よ、そんなに変なもの頼まないから!」

誓子「……霞さんって案外ノリいいね…」

霞「あら?そう言ってもらえるとちょっぴり嬉しいわ。……ね、誓子ちゃん。着いたら隣同士で座りましょう?きっとよ?」

誓子「…えっ?あ、うん。そ、そうしよう、ね?」

霞「うふふ。もっとたくさんお喋りしましょうね、誓子ちゃん♪」

誓子「う、うん…」





誓子(一応私たちは大丈夫そうだけど……他の皆はちゃんと仲良く出来てるかなぁ…)



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」





由暉子(この子……どんなことを考えてるのでしょうか…)



春「…………」ポリ

由暉子(あ、食べ終わった)



春「…………」

由暉子「…………」



春「…………」チラッ

由暉子「…………?」



春「…………これ、食べる?」スッ

由暉子「…………!」

春「……要らない?黒糖…」

由暉子「…いえ、いただきます。まずは一つだけ…」パクッ

春「………………どう?」

由暉子「ふむむ……。……もう一つまみ、いただけます?」

春「……どうぞ」スッ

由暉子「…………」ポリポリ

春「…………美味しい、かな?」

由暉子「そうですね……」

由暉子「…普通、こういうお菓子って舌に変な感じが残って、私は好きじゃないんですけど…」

春「…………」

由暉子「この黒糖は、その欠点を正面から克服していますね。つまり、口どけを無理にあっさりしたものにするのではなく…」

春「…………!!」

由暉子「むしろ、豊かな甘さで食後の感覚を心地よくする…という感じでしょうか?香りもどこか上品で風味もあり…」

春「…それ以上、言葉は要らない。もっと食べるといい」ザッ

由暉子「あっ。美味しかったけどそれはもういいです」

春「!!」ガーン

由暉子「だって、朝食がまだじゃないですか。お菓子で満腹になってしまっては本末転倒です」

春「…確かに。私も、この一個で終わりにする」パクッ

由暉子(まだ食べはするんですね…)



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」ポリポリ

由暉子「…………」



春「…………」

由暉子「…………?」

春「…………」

由暉子「どうしました?」

春「その…。……仲良くしてね。ゆ、由暉子…ちゃ…」

由暉子「「ユキ」って呼んでください。そちらの方が、イメージが柔らかくて好きなので」ニコッ

春「……ユキ」

由暉子「はい、それでお願いします。……時に、滝見さんは愛称みたいなのあります?」

春「一応、「はるる」って呼ぶ……人もいる」

由暉子「そうなんですか。では、私も「はるる」と呼んでも?」

春「……うん。いい…」

由暉子「そうですか。…では、今日はよろしくお願いしますね、はるる」

春「こちらこそ……ユキ」ニコッ

由暉子「…………」

春「…………」





由暉子「…ふふっ。やっと笑ってくれましたね、はるる♪」

春「……照れる」

巴「え?じゃあ、成香ちゃんは『捨ての先鋒』だったの!?初出場校なのに勇気あるね…」

成香「その辺りは、爽さんのあれこれとの兼ね合いもあるんですけど……まぁ、私の実力じゃそう思われても仕方ないですよね…」グス

巴「ううん。そういう大変なポジションで打てるだけでも十分凄いよ。成香ちゃんみたいな子がいると、チームも凄くありがたいんじゃない?」

成香「そっ…そうですか!?お世辞でもそう言ってもらえると凄く嬉しいですっ!」パアッ

巴「え?私はそういうの全然考えてなかったけど……どの辺がお世辞っぽかった?」

成香「だ、だって私が先鋒だとチームが…………えへへ。嬉し過ぎて涙が出そうです」グスッ

巴「どっちにしても泣くんだね…」

成香「ご、ごめんなさい…。…私、辻垣内さんと二度も戦ったのに全然歯が立たなくて、準決まで行けたのも皆が頑張ってくれたからで…」グスッ

巴「…………」

成香「でも今、巴さんのお蔭で『私が先鋒でもいいんだ』って思えるように……すいません。すぐ、泣いちゃって…」グスッ

巴「…いいんだよ。そういう風に感情が素直に出るのって、一生懸命やった証だもの。だからもっと自信持とう、成香ちゃん!少なくとも、去年の私よりはずっと立派だし!」

成香「!!……そ、それ以上言われると、もっと泣いちゃうので、すいませんがやめてください…」グスッ

巴「あはは。お店に入る前に止めないとね、成香ちゃん」

成香「えへへ…」

揺杏「つまりだな。セックスアピールではなく、あくまでファッションの一環としての露出を追及することで新しい視点が…」クドクド

初美「なるほどー。最近のオシャレはずいぶん進んでるんですねー」

揺杏「オシャレというか、機能美にこだわる面もあるかなー。具体的には、夏物の服によくあるメッシュ状の…」ブツブツ

初美「機能美ですかー。私のこの服、動きやすくて可愛いと思うのですけど岩館さんはどう思います?」

揺杏「そうだな…。悪くないけど、袴の裾をもうちょい…『おーい、そこの二人、ちょっと待った!』…あ?」



爽「話が弾んでるとこに申し訳ないが、今から揺杏と二人で話すことがあるんで。すまん薄墨、ちょっと外してくれ」



初美「…分かりました。では、今から姫様の隣に行きますねー」タッ

爽「おう、助かる!」

揺杏「……?」

揺杏「いきなりどーしたよ。まさか、小蒔にセクハラして逃げてきたんじゃねーだろな?」

爽「いやいや、真面目な話。…あのさぁ揺杏。私以外では、お前だけがこの食事会の真の目的を知ってるだろう?」

揺杏「永水の二人……個人戦に出る、初美と小蒔の情報収集だろ?」

爽「そうそう。最初に行われる総当たり戦で上に行くには、カモが欲しいからな。なるべく生きた情報が必要なんだ」

揺杏「…で、それが今の横槍とどう結びつくわけ?」

爽「なーに、ただの確認ってだけさ。今から大枠だけ言うから、頭に入れておけ」

揺杏「へいへい」

爽「いいか?今から行く店のテーブルは、四人一組で使うデカいのと、二人一組で使うちっさいのとで大体二パターンしか無いんだ。ここまでは分かるな?」

揺杏「ん?……ああなるほど。予約入れてないから、大人数用のは使えねーだろってことね」

爽「そういうこと。デカい方のは頑張れば5、6人でも座れるんだが…まあ、そこは私が何とかして4―4―2に分けるつもりだ」

揺杏「ふーん。…で、分かれた後はどーすんの?」

爽「とりあえず、揺杏は小蒔と小さいテーブルを二人きりで囲んでくれ。私は薄墨と同じ組になってデカい方に座るから」

揺杏「なんで?さっきの並び順みたいに、私―初美と爽―小蒔でもいいじゃん。つかどーして二人きりじゃなきゃダメなん?」

爽「……ったく、仕方ないな。面倒だがもうちょい説明してやるか」

爽「いいか?永水は皆そんな感じの雰囲気があるが、小蒔は別格のお嬢様って感じだ。これはかなり確実と見てもいい」

揺杏(お嬢様……ね)

爽「その手のタイプがパーティーとか行く時は、ウザいテンションで盛り上げ役になるか縮こまって寡黙になるかのどっちかが多い。小蒔は恐らく後者だろう」

揺杏「なーんか、いかにも漫画とかでありそうな「お嬢様」だなぁ。前々から疑問だったけど、お前の分析ってアテになんの?」

爽「いいから聞け。要は、小蒔と仲の良い揺杏が、話しやすい状況で小蒔の聞き手になってやるのが重要ってわけ。分かる?」

揺杏「まぁいいけどさ…。…薄墨の方は、なんか考えはあんの?」

爽「ん?別に無いけど?」

揺杏「おいコラ。私にだけスパイ役押し付けてんじゃねえぞ!」

爽「まあ、そこは私の溢れるコミュ力で何とかするからいいとして…」

揺杏(……もう突っ込むのもだりぃな)

爽「問題はそっちの方だ!チャンピオンや荒川に次いで優勝候補に数えられる小蒔の強さを暴く役目は、お前にかかっている!ドゥーユーアンダスタン!?」ビシッ

揺杏「…っせーなー。わってるよ、そんなん。どこまでイケるか分かんねーけど、聞くだけは聞いてみるよ」

爽「うん、そんな感じでいいよ。分かったら儲けものってくらいの態度が一番自然にいけるからな。……質問とかない?」

揺杏「ん?そーだなー…」

揺杏「……爽はさ。さっきまで小蒔と話してたけど、アイツの強さの秘密ってなんだと思ってるわけ?」

爽「さぁ?実は小蒔にちらっと聞いてみたりしたんだが、麻雀打ってる小蒔にはたまに『神様』が降りてくるらしい。眉唾物の話だけどな」

揺杏「神様……ねぇ。爽を知ってる私らからすると、案外信憑性はあっかもな」

爽「バカ言え。麻雀の強さなんて、神様に決められちゃたまんないよ」

揺杏「…まー、そうだけどよ…」

爽「他にない?懸念があるならなるべく今の内に解決しないとだし」

揺杏「ん?んー……」

揺杏「……爽、お前はさ…」

爽「ん?なんだって?」

揺杏「…いや、なんでもない。まーお互い頑張ろうか、うん」

爽「おう。1時間以上話し込んでも余裕があるし、どっかで向こうもスキを見せるだろう。それを見逃すなよ」

揺杏「あいよ。んじゃ、初美呼び戻してこいよ」

爽「…………」

揺杏「どーしたよ。チェンジだっつってんの。チェ・ン・ジ」

爽「……今更だけど、お前他校の上級生も呼び捨てにすんのな…」

揺杏「向こうがいいって言ったんだもーん。ほら3年生、ちゃきちゃき動けーい」

爽「はいはい…」

揺杏「…で、どう?聞いてた?」

初美「なんのことですかー?私の耳には、「当たるかどうかも分からないたった二人の選手」の情報を必死こいて集めようとする方の声しか聞こえませんでしたよー?」

揺杏「……多分さ、アイツもアイツなりに頑張ろうとしてんだよ。他校のアンタに言っても分からんかもだけど…」

初美「そうなんですかー?…『頑張る』というのはつまり…」





初美「『団体戦で後輩をイジメたアイツらに目に物見せてやる!そのためにはまず上位を確保しないと!』……なんてことなんですかねー?」

揺杏「…………!」





初美「ふふふ。後輩思いの先輩がいて幸せですねー、岩館さんは!」

揺杏(……げっろ)

爽「……そんでな?ウチの高校では、麻雀部の部員があれやこれやでピンチになると「妖精」が来てくれるんだ…」

小蒔「!!よ、妖精……」

爽「……と、言われているが実際に見た者はいないんだなー、これが。ま、今のご時世にそんなのがいるはずもないけどさ」

小蒔「!!…そ、そうですよね……」ガクッ

爽「そう落ち込むなよ。あーいうスピリチュアルなのは目に見えないのが鉄板だろ?つまり、目に見えないだけで実際は…」

小蒔「そ、そうですとも!『火のない所に煙は立たぬ』って言いますもんね!」

爽「その通り。今の所実在するかしないかで意見は割れているが、現在有力な説では、奴はトイレに常駐していて…」

小蒔「と、トイレにいるのですか!?」

爽「うん。名前も、あくまで仮称なんだが決まっていてな?その名を「うんぽぽ」と…」

小蒔「うんぽぽ!可愛い名前です!」



誓子「皆ー!そろそろ着くよー!」

霞「おおまかでいいから、頼むものは決めておいてねー!」



一同「はーい!」



霞「いい、皆?一度にお店に入ると迷惑だから今並んでる順にふt『爽さん!もっとうんぽぽについて教えてください!』『バカ、今はよせ!』…?」

小蒔「何故ですか?一緒の席になれるか分からないですし、私、今の内にもっとうんぽぽに詳しくなりたいんです!」

爽「落ち着け小蒔!うんぽぽのことなんて知ったってウチに通ってないお前には意味がないぞ!それより、今は黙るんだ!」

小蒔「どうしてですか?うんぽp『小蒔ちゃん?』…はい?」

霞「さっきから連呼してるその、うん……何とかという名前は、どなたから聞いたの?」

小蒔「爽さんに教えてもらったんです!有珠山高校のトイレには、うんぽぽという妖精さんがいてピンチになった麻雀部員を助けてくれると…」





誓子「……爽?」

爽「…すまん。出来心だったんだ……」

揺杏(店に入るとすぐ、爽は3年生の皆にトイレへ連行されていった……)



由暉子「いきなり人数が半分に減ってしまいましたね…」

春「…でも、テーブルは確保できた……」

成香「お店が意外と空いてて良かったですね。皆さんはメニューはもう決まりました?」

小蒔「も、申し訳ありません。決めようと思うと却って目移りしてしまって…」

由暉子「構いませんよ。先輩達もまだ戻りませんし、ゆっくり決めましょう」

小蒔「はい!」



揺杏(…あれ?これ、地味にヤバくね?)

揺杏(んー…。爽が戻ってきてどうにかしてくれっかもだけど、戻ってきたら廃人になってる可能性もあるしな。ここは自力でなんとかすっか)



揺杏「…ねえ、小蒔!さっき言ってたその、うん何とかって奴の話だけど…」

小蒔「うんぽぽがどうかしました?」



由春成「ッッ……!!」



揺杏「(わーお、三人からの視線が痛いぜ)…あー、その妖精さんについてなんだが……私が教えてやっから、あっちのテーブルに移動しようぜ」

小蒔「??ここじゃダメなのでしょうか?」

揺杏「あ、あまり人に聞かせる話じゃないんで。じゃあ行くぞ小蒔」スクッ

小蒔「は、はい」タッ



由春成「…………」



由春成(……揺杏ちゃん(さん)、グッジョブ!)

揺杏「…ふー、腹減ったァ。さっさと頼んで食べよーぜ」

小蒔「ええ、私もぺこぺこです……ではなく。揺杏ちゃん、うんぽぽのことについて…」

揺杏「ちょっと待て小蒔。飯時にそういうこと言うんじゃないの。親に注意とかされなかったん?」

小蒔「えっ?……確かに。トイレトイレって何度も言ったのは、今考えると…」

揺杏(そっちじゃねーよ!)

小蒔「それより揺杏ちゃん!揺杏ちゃんはどういう事を知ってるんですか!?私、気になります!」

揺杏「…………はぁー…」

揺杏「…いいか小蒔。うんぽぽってのはな…」

小蒔「……ゴク」

揺杏「爽が考えた作り話だ。以上」

小蒔「…えっ?」



小蒔「……………………」



小蒔「……えっ?揺杏ちゃん、今なんて?」

揺杏「そもそも有珠山高校の妖精なんて聞いたことねーし。ああいう奴に騙されてるといつかエライ目に遭うぞ」

小蒔「……そうだったん、ですか…」シュン

揺杏「…ま、そんだけ。爽は面白い奴だけど、ノリで適当に話作ったりするからいちいち本気にすんなよ?」

小蒔「はぁ。…では、皆のテーブルに戻りましょうか」スクッ

揺杏「(あっ、やべ)も、戻らなくていいって!こういう店でちょこまか席変えたら迷惑だし、な?」

小蒔「揺杏ちゃんがそう言うなら…。……でも、いいんですか?私は平気ですけど、揺杏ちゃんは私よりも他の皆とお話が出来た方が楽しいのでは?」

揺杏「あ?別に、私は小蒔と二人きりで全然良いんだけど?…つーか、わざわざこのテーブルに移ったのもそのためだし」

小蒔「……そ、そうなんですか…///」

小蒔「そ、それよりご飯を頼まないとですね!まだ決めてないですし!」バッ

揺杏「あらら、真剣にメニュー見ちゃってよ…。何?小蒔って実は食いしん坊なキャラだったん?」

小蒔「違います!これは……か、顔を隠すためです///」

揺杏「ふーん……ま、そういうことにしといてやるよ」ニヤニヤ

小蒔「だから違いますって!」フスン!

揺杏「だいじょぶだいじょぶ。最近はそういうキャラもウケてるからさ」

小蒔「もう…」



小蒔(うぅ…。照れたのは誤魔化せたけど要らない誤解を招いたような……)

揺杏「あっ、そうだ。小蒔、私今からトイレ行くから、ついでに飲みもん取ってきてやるよ。何がいい?」

小蒔「ドリンクバーはまだ頼んでませんよ?」

揺杏「なら今頼みゃいいじゃん。…で、何がいい?」

小蒔「はぁ…。……じゃあ、普通のオレンジジュースでお願いします」

揺杏「はいよ。じゃ、私は行くから頼んだよ。頼み方は分かるよな?」

小蒔「えぇと……このボタンを押せば、お店の方が出てくるんですよね?」

揺杏「そーそー。そいじゃ行ってくらー」タッ



揺杏「ねえお姉さん方ー。いい加減テーブル来てもらわねーと下級生が困…」ガチャ







霞「(説教中)」     初美「(説教中)」


        爽「」


巴「(説教中)」     誓子「(説教中)」







揺杏「…失礼しましたー」バタン



(数分後)



爽「やー、きつかったぁ。会話にちょっと下ネタ混ぜただけでアレとか、どんな表現規制だって話だよなー」ガー

揺杏「んだよ、意外と元気じゃん。個人戦に出るからってんでお目こぼしでもしてもらったか?」

爽「初犯だしな。なんとか厳重注意ですんだよ」ガー

揺杏「あっそ。…ま、あの程度であそこまでやられるのはちょっとな、って感じだけど」

爽「そんだけ小蒔が大事にされてるって事だろ。それが本人にとって良いのか悪いのか、私には分かんないけど」ガー

揺杏「……まー、それはそれとしてさぁ…」

爽「ん?」ガー

揺杏「お前いつまでバー占拠してんだよ!こっちだって人待たせてんだから早くしろよ!」

爽「…っさいなぁ。ちょっとミスっただけでも配合が乱れるんだから、静かにしてくれ」ガー

揺杏「んな謎ドリンク提供したらまた囲まれんぞオイ。そーいうチャレンジャー精神は誰も要求してないから」

爽「いやいや、これで美味い飲み物出して評価稼げば大逆転だろ?警戒心も薄まって一石二鳥ってわけさ」ガー

揺杏「そう上手くいくかねぇ?」

爽「いかせるのが私の腕の見せ所……あっ!」ガタッ

揺杏「おっ。言ってるそばからミスったか」

爽「…………ま、成香がいるし別にいいか。次行こう、次」ガー

揺杏「お前最低だな」

揺杏「ごめんな小蒔、待たせた」

小蒔「揺杏ちゃん!確かに遅かったですが、何かありました?」

揺杏「どっかの馬鹿がドリンクバーに居座っててさ……まぁそれはいーや。何食うか決まった?」

小蒔「私としては、ハンバーグステーキか照り焼きチキンステーキがおすすめかと!」

揺杏「質問の答えになってないよ?」

小蒔「二人で一つずつ頼んで、一緒に分けましょう!」

揺杏「人の話を聞けってば」

小蒔「申し訳ありません…。私、久しぶりのファミレスで盛り上がってしまって…」

揺杏「別にいいけどさ。決まったんなら頼もうぜ」ポチッ



(ピンポーン)



小蒔「あれっ?揺杏ちゃん、まだメニュー見てないのに大丈夫なんですか!?」

揺杏「うん。サイドメニューとデザートだけなら、こっちにもメニュー表あるし。それ見ながら適当に決めるよ」

小蒔「…それだと、メインメニューが分からないのでは?」

揺杏「はぁ?いちいち何言ってんだお前…」

小蒔「?」

揺杏「メインメニューはハンバーグとなんちゃらチキンのステーキで、私と小蒔で一緒に食うんだろ?自分で言ったことじゃねーか」

小蒔「……っ!」

揺杏「どした固まって?まさか小蒔、頼むメニュー忘れたとか…」

小蒔「…いっ、いえっ!なんでもありません!」

揺杏「……あっそ。ならいんだけど…」





~~~~~





霞「あっ、すいません。私、こちらの方と全部同じメニューでお願いします♪」

誓子「えぇっ!?……まさか、アナタが来る途中に言ってた『お楽しみ』ってそういう…」

霞「うふふ。イケなかったかしら?」

誓子「そ、そういうことは無いけど…」

誓子「ほ、本当にいいの?霞さんの苦手な料理が混ざってるかもだよ?」

霞「いいのよ。メニューを見る限り、食べられなさそうなのはなかったもの。…それにもし、そういうのがあっても…」

誓子「……あっても?」

霞「きっと誓子ちゃんが食べてくれるもの。頼りにしてるわよ、部長さん?」ニコッ

誓子「!!……そ、そういうのはダメ!自分で頼んだものは、ちゃんと自分で食べなさい!」

霞「あらあら…。有珠山の部長さんは厳しい方なのね~…」

誓子「からかわないでよ~…!」



由暉子(……これは厳しいと言うより…)

春(…単に照れてるだけ……)

由暉子「…ところで、はるるはどんな料理にしたんですか?」

春「…………」スッ

由暉子「…私?もしかして、はるるも私と同じものを?」

春「…うん。こういう店はあまり来ないし、ユキの頼むものなら大丈夫かなって…」

由暉子「そうなんですか。じゃあ、はるるに苦手なものがあれば私が食べてあげますね」ニコッ

春「……ユキ、ありがとう…」







霞「…………」

誓子「…………」

霞「……誓子ちゃん?」

誓子「……その手には乗らないからね?」

霞「……確かに、ちょっとふざけすぎたかもしれないわね。ごめんなさい、誓子ちゃん」

誓子「えっ?いやいや、そんな気にすることないよ!このくらい、爽たちの悪ふざけに比べれば!」

霞「……苦労してるのねぇ…」

誓子「…えぇ。してます……」





~~~~~





爽「ういっくし!……やれやれ。どうやら誰かが私の噂をしているようだな」

初美「全国で活躍すると一気に知名度が広まりますからねー。私たちも去年は大変でしたよー」

成香「去年の永水はいきなり登場してベスト4でしたからね。…やっぱり、そういうのに苦労しました?」

巴「そうだね…。元々観光地に近いし、取材とかは普通の所よりは慣れてたけど…」

初美「やっぱり数が多いと大変でしたよー」

爽「そんなに取材が来たのか。…ま、永水はルックス良いのも多いし有名税ってとこだな」

巴「有名税ですか…。…あまり好きな言葉じゃないけど、言い得て妙ですよね」

初美「そうですよー。私や姫様みたいに個人戦に出るくらいだと、特に探りがしつこいですからねー」

爽「……薄墨も小蒔も、打ち方が独特だからな。研究しようとする奴がいるのも当たり前だろうな」

初美「中には、私たちに直接聞いてくるような厚かましい人もいますからね。獅子原さんや本内さんも注意した方がいいですよー?」チラッ

爽(……コイツ…)





~~~~~





店員「オマタセシマシター」



揺杏「おおっ、結構ウマそーじゃん!やったな小蒔!」

小蒔「はいっ!とても楽しみです!」

揺杏「うーん…ソースがいっぱいかかっててうめーなぁ。小蒔、ステーキ半分ずつ分けっこしようぜ」サクサクサク

小蒔「はいっ。私も今から分けますね!」サクッ



小蒔「…………」サクサク

小蒔「…………!」サクサ...

小蒔「…………えいっ」ギチッ、ザクッ



小蒔「……ふぅ。やっと切れました!」

揺杏「あははっ!じょーずじょーず」パチパチ

小蒔「もうっ。これくらい私にだって出来ますよ!」

揺杏「んーん。馬鹿にしてんじゃなくて、一所懸命な小蒔が面白かっただけだよ」

小蒔「やっぱり馬鹿にしてるじゃないですかぁ…。……はい、ハンバーグの半分です」スッ

揺杏「してないってば。……ほい、照り焼きチキンステーキの1/2」スッ

小蒔「…………それでは、どういう意味で…『面白かった』の……ですか?」モグモグ

揺杏「……あれ?そこ気にしちゃう?」モニュモニュ

小蒔「当たり前……です。私も人の目は気にします………から」モグモグ

揺杏「とりあえずさ…。…食ってから…………話そうよ」モニュモニュ

小蒔「そう……ですね……」モグモッグ

揺杏「うーん。実際、食べてみると見た目ほど量がないもんだな。今何時だっけ?」

小蒔「8時……40分くらいですね。ここから会場に行く時間も考えると…」

揺杏「1時間ないくらいか。まぁデザート食ったり適当に駄弁ってりゃすぐだな」

小蒔「そうでした!揺杏ちゃん、甘いものを注文しましょう!メニューを見た限りだと、この黒ごまあんみつというのがとても…」

揺杏「いい、いい。サイドメニューの方に団子あったからそれ食うわ。そのあんみつ、小蒔が頼みなよ」

小蒔「そうですか…。では、お店の方を呼びますよ?」ポチッ

揺杏「んー」

小蒔「さて揺杏ちゃん。注文も済みましたし、さっきの話の続きをしましょう」

揺杏「あらら…。ちゃんと覚えてたか」

小蒔「当たり前ですよ!揺杏ちゃんには面白くても、他の人からは変な風に見られてるかもしれませんし!」

揺杏「…ま、どってことない話だよ。よくコントとかであんじゃん?全然しょうもねー事でも必死こいてやるギャグがさ」

小蒔「ギャグ……ですか」

揺杏「……いやゴメン、違うわ。面白いは面白いんだけど、そーいう笑いを狙ったやつじゃなくてなぁ……」

小蒔「………………」

揺杏「……わり。自分でも分からねーから一旦整理さしてくれ。ついでにトイレ行ってくる」タッ

小蒔「…………はい」

揺杏「…はぁ。なーんか真剣な感じになってきちゃったなぁ。『面白いってどういうこと』なんて聞かれてもなぁ……」

揺杏(……でも、小蒔のあの感じはいつも感じてるのと似てる気もすんだよな。…いつも……誰から、何を?)

揺杏(…それよっか、小蒔本人からの印象のが大事か?…小蒔……小蒔…………)

揺杏(小蒔………………)





『私たちでよろしければ!どちらへ行かれるおつもりでしょうか?』



『…はい!道案内、任されました!!』



『それにですね……私、こういう風に夜に街を歩くのって初めてなんです!』



『あっ、凄い!見てください岩館さん!イクラのお寿司が売ってますよ、ほらほら!』



『仲が良いんだな、…って』



『爽さんに教えてもらったんです!』





揺杏「………………………」



揺杏「………………」



揺杏「………………」



揺杏「……………………爽、かなぁ。なんとなくだけど…」



揺杏「うん…。確かにそういう意味では爽に似てるわ。多分、間違いない」



揺杏「……でもこれ、結局小蒔を馬鹿にしてることになんないか?本人がどう受け取るか知らんけど…」



揺杏「んー………ま、大丈夫だな。アイツだって真面目に言えば分かってくれんだろ。うん、平気平気」



揺杏「さて…。こんなんで悩んでんのもだせぇし、そろそろ戻ってや……っ!?」ゾクッ



揺杏「……んだ、今のヤな空気?こっちの方から来たような…」チラッ



爽「……つまりぃー。東と北さえ握れば薄墨は「フツーの良い打ち手」に過ぎないっつってんの。分かる?」



初美「凡人の発想ですねー。暗カンや3枚引いてからの食い返しを考えない…のみならず、そもそも不要牌を抱える時点で私の術中ですよー?」



爽「抱えたまま聴牌すりゃいいだろって話。お前が南西持ってなければ最低5順、持ってたって和了るまでに何順かかる?お前の引きってそんなに強かったっけ?」



初美「ん?混一や対々を考えなくていいのですかー?四喜和に頼らなくても満貫くらいなら楽勝なんですけどねー」



爽「半チャン二回で四度しか来ないチャンスを捨てるほど賢くないだろ、薄墨は。こうして会ってみて確信したんだがな」



初美「四度『も』来ますよー。そこが分からない人の確信なんてアテになりませんねー」







巴「は、はっちゃん…」

成香「さ、爽さん…」



爽「…清澄と姫松の対策で二回戦の映像何度か観たんだけどさ。愛宕妹のあの和了、薄墨が差し込んだんだろ?」



初美「なんのことでしょうか?それだけ言われてもさっぱりですねー」



爽「とぼけんな。前半戦東四局、四度『も』来るチャンスにこだわった結果があれなんだろ?」



初美「あぁ、あれは痛かったですねー!…もっとも、北家が再び来て、私を邪魔する宮守の体力を削れたのはラッキーでしたけどねー」



爽「…まぁそれはいい。薄墨、私が言いたいのは『ストー--ップ』



爽「!!」

初美「!?」

揺杏「…あのさぁ。今日のコレは『仲良く朝飯食って個人戦一緒に頑張ろうね!』って話じゃなかったんかよ。何やってんのアンタら」

爽「怒ってる?」

初美「怒ってます?」

揺杏「……それで本当に3年かよ…。天然でやってんなら嫌んなるぜ、マジで…」

爽「天然もなにも…なぁ?」

初美「はい」

揺杏「…なに?」



爽「あんなの、普通の会話だろ?わざわざ止めるほどか?」

初美「ちょっと盛り上がっただけですよねー?」



巴「えっ」

成香「えっ」

揺杏「いやいやいやちょっとどころかめっちゃ盛り上がってたじゃん。100人いたら99人は同じこと言うわ」

巴「今にも一触即発な空気でしたよ?」

成香「お二人の言う通りです。私も、ちょっと怖かったですし…」



爽「何言ってんだお前ら。あんなのはほら……プロレスラーとかが、試合前によくやる…」

初美「マイクパフォーマンスみたいなものですよー。ああいう丁々発止のやりとりが出来るとお互い楽しいですよねー」



揺杏「えぇー…」

揺杏「…はぁ。だとしても、もー紛らわしいことすんな。怖すぎるってーの」

爽「悪かった悪かった。ゴメンなお前ら、脅かしちゃって」

初美「申し訳ありませんでしたー」

巴「……別に、そこまで畏まらなくてもいいですけど…」

成香「ひやひやしましたよ…」

爽「あっはっは。まー、仕方ないっちゃ仕方なかったかなー。だって…」



爽「私たちって『99人』の方じゃないからなぁ。今のは揺杏たちの方が一理あるよ」

初美「そうですねー」



揺杏「…………!」

揺杏(……爽のヤツ、こっちが油断した時に思い出させやがって…)



忘れもしない、爽と初めて打った1年のあの時

只事じゃない圧迫感と緊張を感じた私は、恐怖を感じるよりも先に胸が高鳴った

漫画やゲームで見た「気」をここに感じる。私はそれを感じられる

剣術の達人同士、その一騎打ちに漂うような空気を感じることが出来るのだ。自分も「その域」を垣間見られると知られたのだ。これに高揚せずしてなんとする



しかし、私は夢からすぐに醒めた



たまたま部の見学に来てた周囲の同級生……有り体に言って、大半が有象無象の凡人たち

傍目に見て、そいつらが怯えているのはすぐ分かった。「それ」が凡人でも感じられるものだと分かってしまった

転じて爽に目をやると、怯える下級生たちが面白いのかどこかおどけた笑い方をしてた。つまりいつもの爽である

要するに―

揺杏「―アイツにとって、あの程度は「なんでもない」って事なのだ。とか思ってみたり…」

小蒔「たり?」モクモク

揺杏「……んにゃ、ただの独り言。お気遣いなく~」

小蒔「ほうれふか。揺杏ひゃんも、お団子きへるのえ早く召し上がった方がいいれふよ」モクモク

揺杏「…だから、食ったまま喋るなっての。…いいトコの生まれなのに、そういう所は抜けてんのな…」パクッ

小蒔「お恥ずかしい限りです…」シュン

揺杏「それよりさ…さっき、話の途中で私が席立っちゃったっしょ?どうする?食ってからにする?」

小蒔「そ、そうですね…!…………やはり、ここは中途半端なままの話を…」チラッ

揺杏(あんみつ気にし過ぎだろ…。バレてないとか思ってんのか?)

揺杏「…じゃあさ、小蒔はそれ食べんの続けてなよ。私が一方的に話してくから、適当に聞いといて」

小蒔「はい!あんみつを食べながらですけど、本気で聞きます!」

揺杏「………………」



揺杏(…うんうん、それでこそ小蒔って感じだわ。「ながら」と「本気」が混ざってんのに気付いてんのか気付いてないのか、そういう所がメチャクチャ…)



小蒔「……揺杏ひゃん?まら考えごろれすか?」モグモグ

揺杏「…あぁ!悪い、今から話すよ!……えっと、私が小蒔のどこを『面白』がってんのかって話だったよな?」

小蒔「はい!」モグー

揺杏「いいか小蒔。私なりに真面目に考えたんだから、そっちも真面目に聞けよ?」

小蒔「……!」コクッ

揺杏「私から見た小蒔の、どこが面白かったか。…一言で言うとだな。小蒔、お前は単純に……」

小蒔「……」ゴクッ





揺杏「めっ…ちゃくちゃ子供っぽいっ!!!」ビシッ



小蒔「!!」ガーン

小蒔「……実は、そうなんじゃないかな、って思ってました。『一所懸命な』って聞いた時から、なんとなくですけど……」グスッ

揺杏「泣くな泣くな。話し始めたばっかなんだから、泣く前にちゃんと聞きなって」

小蒔「はい…」

揺杏「何から話すかなぁ。……そうだ。小蒔、お前自分をウチのメンバーに例えたら誰になると思う?」

小蒔「??……あの、よく意味が…」

揺杏「成香、誓子、私、ユキ、爽の中で、自分にいっちゃん近いのは誰だって聞いてんの。直感でいいから、答えてみ?」

小蒔「え?そ、そうですね……」ウーム

揺杏「んな考え込まずにさ、あんみつ食いながらでいいから適当に答えてよ」

小蒔「うーん……」モグモグ

小蒔「……本内さん……ですかね?」モグモグ

揺杏「そのココロは!」

小蒔「えっと…見た目で言えばユキちゃんに似てるって思うんですけど…。…この「似てる」はそういうのじゃないですよね?」

揺杏「うん。まあ、その辺はどうとってもいいんだけどね」

小蒔「だから、性格や話し方……どこかおどおどしてて、同い年の揺杏ちゃんとも敬語で話してた本内さんが一番私に似てるかな…と」

揺杏「なるほどねぇ。…うん。確かにもっともな理屈だけど、私は違うな。私が思うに、小蒔は…『ごめんね二人とも、ちょっといいかしら?』

小蒔「霞ちゃん?どうかしました?」

霞「あの、そろそろお店を出ようと思うのだけど……大丈夫かしら?」

揺杏「えっ、もうそんな時間!?すんません霞さん、今どんくらいですかね?」

霞「9時15分……会場に余裕を持って着くなら、そろそろ出た方が良いかと思いまして」

小蒔「会場って、ここから歩いて…」

霞「20分くらいかしら?大きい道路に沿って行けばいいから道順は簡単だけど、ちょっと遠いのよね」

揺杏「やべ…。まだ団子食ってなかったし!」パクパクッ

霞「あっ!そ、そんなに焦らなくていいの!なんなら、二人は後からついてきてもいいんだし…」

小蒔「…………」

霞「さっき言ったけど、道順が簡単でしょ?時間的にも余裕があるし、二人のお話が終わってからでも十分間に合うと思うの」

揺杏「…だって。どうする小蒔?」

小蒔「揺杏ちゃんはどうですか?」

揺杏「私?……話の続きは歩きながらでも普通に出来っし、私的には、デザート食ったらすぐ出た方がいいんじゃねーかなって…」

小蒔「…そうですか。揺杏ちゃん。霞ちゃん。私は―」

霞「…………」

揺杏「…………」






小蒔「―私は、揺杏ちゃんとお話が終わるまでここにいたいです。歩きながらではなく、揺杏ちゃんと向き合える、この席で…」



小蒔「私は、揺杏ちゃんともう少しお話を続けるので遅れます。霞ちゃん。申し訳ありませんが、他の7人にも同じように伝えてください」

霞「承りました。ただ、お時間がかかるようでしたらまた連絡を入れるので、お返事をよろしくお願いしますね」

小蒔「承知しました」

霞「はい。それでは、私たちは先に失礼させてもらいますね」スッ

小蒔「…………」

揺杏「……なあ、小ま『おっと、忘れ物!』…っな!?」

揺杏「…んだよ爽。人が話し始めようって時に…!」

爽「悪い悪い。言い忘れたことが一つあってさ。会計のことなんだけど…」

小蒔「そうでした!私たちの分は幾らくらいなんでしょうか!?」

爽「あー、そのことだけどな?私たち、テーブル毎にレシート貰ってたからそこまで気にしなくていいぞ。自分らの分だけ払えばそれで十分さ」

揺杏「あぁ、そうだったん?……で、それだけ?」

爽「なんだよー、大事なことじゃんかよー。冷たいな、ウチの後輩は~」ガバッ

揺杏「!?…だからひっつくなバカ、うっとうし……『このまま聞け、揺杏』…?」

爽(小蒔のスタイル、なんか目ぼしい情報はゲット出来たか?)

揺杏(……まだだけど)

爽(そうか。なんか掴めたら、話してる最中でいいからすぐメールくれよ。流石に時間がいっぱいいっぱいだからな)

揺杏(……分かった)

爽(よし。そんだけ)バッ





爽「…じゃあな二人とも!揺杏はともかく、小蒔は出番あんだから遅れんなよー!」





小蒔「はいっ!爽さん、また個人戦でお会いしましょー!」

揺杏「………………」

初美「伝言は終わりですかー。相手は姫様とはいえ、たかが一人にずいぶんこだわりますねー」

爽「当たってから後悔しても遅いしな。勝率はなるべく高めとかないと」

初美「あらあら…。貴女の映像は何度か観たことありますが、試合での印象とはずいぶん違う殊勝な発言ですねー」

爽「ふっふっふ、こう見えても有珠山の分析担当だからな。能ある鷹は爪を隠してるもんさ」

初美「そういう姿勢、素直に感心しますよー。目標は何ですか?誰を倒すつもりです?」

爽「んー?そうだな…。…とりあえず、成香イジメた辻垣内と、揺杏をカモにしやがった愛宕と、団体でのリベンジとして宮永咲と…」

初美「ちょっと多すぎやしませんかー?」

爽「…………ふん」

爽「まだまだいるぞ。ユキ相手に調子に乗ってた原村、薄墨と小蒔、それと…」

初美「ちょっ、ちょっと待ってくださいよー!今さっき多いって言ったばかりなのに自重しないのですかー?」

爽「いーのいーの。私は仲間の為に燃える少年漫画の主人公だからな。倒すべき相手が多いほど、力もやる気も湧いてくんのさ」

初美「だからといって、私たちまでカウントするなんて横暴ですよー。辻斬りか何かですかー?」

爽「いやいや、何言ってんだ。少年漫画の王道としてだな…」





爽「運命的な出会いをしたダチと戦りあえるなんて、燃えないわけが無いだろう?」





初美「…………!!」

初美「……運命、ですか…。私や姫様と、貴女との出会いは……」

爽「そうだよ。たとえ偶然でも幸運でも、それっぽければ全部「運命」でいいんだ。その方がカッコいいしな」

初美「…ぷふっ!いい加減な運命ですねー!そんな安っぽいもの、私の四喜和であっという間に吹っ飛ばしてしまいますよー!」

爽「思う存分暴れてくれて構わないぞ、薄墨。その前に私は5万点差つけて、安全圏にいるからな」

初美「世迷言を…。そこまで言えれば、道化としては一流と言っても過言だはありませんねー」

爽「聖人の言葉も最初は信じられなかったからな。だから私も、行動で示してやるよ」

初美「……楽しみにしてますよ、獅子原さん…」

爽「……おう。私に当たる前に負けんなよ、薄墨…」





~~~~~





霞「……はぁ」

誓子「ん?霞、どうかした?」

霞「いえ…。結局、誓子ちゃんに「あーん」出来なかったなぁ…って」

誓子「!!そ、そんな変なこと考えてたの!?まさか、テーブルについた時言ってた『苦手なものを』云々ってそういう…」

霞「だって~。会って一日もしないのにお互い下の名前で呼び合えるようになったのよ?そのくらいやっても普通でしょ?」

誓子「いや友達同士でも意味分かんないし。…ていうか、そんなことする気配はなかったんだけど?」

霞「お料理が皆美味しかったから。それはそれ、これはこれよ」

誓子「そ、そうなんだ…。そういう所の切り替えは出来るんだね……」

霞「…もしかして、残念がってくれてる?」

誓子「がってない!」

霞「…私は残念だわ。誓子ちゃんがどうあれ、折角出来たお友達と思い出みたいなことをしてみたかったもの」

誓子「思い出って…。そんな恋人ごっこみたいのが思い出?」

霞「ごっこ……。…私、誓子ちゃんが相手ならごっこじゃなくても『はいはい』

誓子「嘘でも本気でも、そういうのはやめ。霞さんも私に嫌われたくはないでしょ?」

霞「…はぁ。つれないわね、誓子ちゃんは…」

誓子「むしろ付き合ってあげてる方じゃない?……それにさ、ほら…」

霞「?」




誓子

霞「…そう。私は残念だわ。誓子ちゃんがどう感じてても、折角出来たお友達と思い出になることをしてみたかったもの」

誓子「思い出って…。そんな恋人ごっこみたいのが思い出?」

霞「『ごっこ』ね…。……私、誓子ちゃんが相手ならごっこじゃなくても『はいはい』

誓子「嘘でも本気でも、そういうのはやめ。あんまりしつこいと嫌いになっちゃうよ?」

霞「…はぁ。つれないわね、誓子ちゃんは…」

誓子「えっ?よく付き合ってあげてる方じゃない?……それにさ、ほら…」

霞「?」




誓子「今こうして、二人で並んで、お話しながら歩いてる…。…それが思い出じゃ、ダメかな?」



霞「…………!!」


霞「…やっぱり私、誓子ちゃんと会えてよかったわ。貴女みたいな人と仲良くなれて、本当に……!」

誓子「どういたしまして!……それにしても、霞たちもよく受けたよね。爽のいきなりな提案…」

霞「そうね。正直、受けるか受けないかは半々って感じだったわ。…ただね、あの子が…」

誓子「誰?」

霞「小蒔ちゃんよ。チームのエースなのに、どこかふわふわしてて頼りなかったあの子が―」

誓子「…………」



小蒔『春ちゃん。巴ちゃん。初美ちゃん。霞ちゃん。私は、私は……』



春巴初霞『…………』



小蒔『…私は、有珠山高校の皆さんと仲良くなりたいです!!今日知り合ったお二方も含めて、もっとあの方たちを知りたいし、一緒にご飯を食べてお話がしたいと思いました!だから皆さん、どうか、どうかあの方の申し出を……!』



霞「―なんて言うんだもの。正直、ちょっと感動したくらいよ」

誓子「へぇ…!神代さん、私たちのことそんな風に思ってくれたんだ。私ももっと話してみたかったな…」

霞「じゃあそうします?大会が終わったら、貴女達は霧島に、私達は有珠山にお邪魔するの。お互い名のある観光地ですもの、皆で一緒に…」

誓子「…だね。個人戦の後も半日くらいは空くだろうし、どこかに遊びに行けるかも!」

霞「折角東京に来たんですもの。ちょっとは遊ばないと…ねぇ?」

誓子「うん!霞、これからもよろしくね!」

霞「あらあら…。…こちらこそよ、誓子ちゃん」







霞(小蒔ちゃんは『有珠山の皆』って言ったけど……多分、あの子のことが大きいわよねぇ…)



霞(なんだか話が弾んでいたようだけど、どんなことを話しているのかしら……)

揺杏「あー……どこまで話したっけ?」

小蒔「私が本内さんに似ているかもしれないという所です」

揺杏「あ、そうそう。…確かに、性格的には小蒔と成香は似てるけど、私から見ると違うな」

小蒔「はぁ。では、揺杏ちゃんから見て誰に似てるのですか?」

揺杏「爽。理由は単純で、二人とも『子供っぽい』から」

小蒔「…またそれですか」

揺杏「仕方ないだろー。色々考えてたらこんな結論になっちゃったんだからさー」

小蒔「……もしかして、揺杏ちゃんは私が子供っぽいと言いたいだけなんですか?」

揺杏「いや違うよ。違わねーけど」

小蒔「…………」ムスッ

小蒔「…前々から思ってたのですが、そういうあやふやな言い方はよろしくないですよ!私をからかっているのか真面目な話なのか、どちらかはっきりしてください!」プンスコ!

揺杏「待った待った落ち着いて小蒔!私の言い方が悪かった。ふざけてるんじゃなくて、真面目なイミで『子供っぽい』って言いたかっただけなんだ!」

小蒔「!!……もしや、そのためにあのような言い方を?ごめんなさい揺杏ちゃん。私が貴女の意図を汲み取れないために…」

揺杏「いちいちおーげさ過ぎだっつの」ペシッ

小蒔「あうっ」

揺杏「『あうっ』っておま……そういうトコが子供っぽいんだよ…」

小蒔「…………」シュン

揺杏「だーからいちいち凹むなって。別に子供っぽいのが悪いなんて言ってねーし、むしろそこが可愛いんだから気にしないでいいって」

小蒔「うぅ……。…と、とりあえず揺杏ちゃんの考えた事を聞かせてください。『子供っぽい』の中身も含めて、色々…」

揺杏「おう。…えっとな、小蒔ってさ、機嫌がコロコロ変わりやすいじゃん。しかもそれが外目にも分かり易い」

小蒔「えっ?これでも私、周りの人たちからは『落ち着いている』とか『ゆったりしている』と言われるのですが…」

揺杏「そりゃ、小蒔はいいトコのお嬢さんで有名人だからな。大体の奴はあんま話もしないでイメージで考えちゃうでしょ」

小蒔「……!」

揺杏「あと、小蒔自身周りを気にして自重してるのもあんじゃねーの?ま、全部私の想像だけどね~」

小蒔「…………」

揺杏「どう?結構思い当たるっしょ?」

小蒔「……まあ、少しは」

揺杏「続きだけどな。さっきも言ったけど小蒔はなんつーか、すっごい一所懸命なんだよねー。良くも悪くもさ」

小蒔「良くも…悪くも……」



揺杏「うん。何でも本気でやれんのってめっちゃ良い事だと思うんだけどさ。小蒔の場合それが行き過ぎて空回っちゃうというか…」

揺杏「ほら、小蒔って話する時やけに力入ってる時多くね?イメージ的には、文字にするとやけにビックリマークが多くなるって感じ?」

揺杏「あと小蒔って、むっちゃリアクション良いじゃん。冗談も本気にしちゃうっつか……ぶっちゃけ、詐欺師とかに騙されそうで心配だわ」



小蒔「…………」

揺杏「あっ、わりぃ。最後のは言い過ぎだわ。詐欺師云々は完全に余計なお世話だったわ。ゴメン」

小蒔「…………いえ。大丈夫、です」

揺杏「……泣きそう?」

小蒔「泣いてませんっ!ここで泣いたら、また子供っぽいって言われますから!!」

揺杏「そっか。…怒ってない?昨日会ったばっかの私に、好き放題言われて」

小蒔「いいえ!揺杏ちゃんは私の質問に答えてくれてるだけなんですから、怒るわけがありません!」

揺杏「………………」







揺杏「……やべ。逆にこっちが泣けてくるわ」

小蒔「!?」

揺杏「やー、参った参った。こっちゃ怒られんの覚悟で言ったんだけどさー。小蒔が優しすぎて感動で泣けちゃうわ」グスッ

小蒔「えっ?ゆ、揺杏ちゃん。それは冗談で…」

揺杏「半分本気。なんつーかもう、母の日に娘からプレゼント貰ったお母さんってこんな感じ?」グスッ

小蒔「…も、もう!こんな時までからかわないでください!」

揺杏「いやいやいや。今私の言ったコレが、話の元になった『面白い』ってことに繋がるわけよ」

小蒔「……母の日が、ですか?」

揺杏「いやそっちじゃないわ。私が話すから聞いてて」

小蒔「はい…」

揺杏「小蒔ってさ、弟か妹かいない?なんなら、仲の良い後輩とかでもいいけど」

小蒔「後輩の方ならいますよ。春ちゃん、十曽ちゃん、明星ちゃん…」

揺杏「なんかさ、そういう年下の奴らを見守るのって楽しくね?動物とかを見てんのと近いんだけどさー…」

小蒔「?年下の子と動物が、どう関係するんですか?」

揺杏「だからさー……こう、ハムスターとかそうだけど、見てるだけでなんとなく微笑ましい気持ちになんのあんじゃん!分かんない!?」

小蒔「はぁ…」

揺杏「ほらアレ、チョイ可愛いめの後輩が、「○○先輩!」とか言って話しかけてくんのって偶にムズムズしなかった?私はした!」

小蒔「…まぁ、しましたけど」

揺杏「つーかさぁ!ダチの家行って、小学生くらいの子供とか赤ん坊とかいたらなんか楽しくなんない!?なるだろ!?」

小蒔「楽しい?……微笑ましくは、なりますね」

揺杏「あー、つまり……私が小蒔のこと『面白い』っつったのは、そういうこと。分かったか?」

小蒔「……揺杏ちゃんにとって、私は、見てるだけで楽しい小さい子供だということですか?」

揺杏「んー、まぁ…ちょい違うけどそんな感じ。『見てるだけ』っつか、偶に目やるとちょっと楽しくなったり面白い所とか、うん」

小蒔「それで子供っぽいと…」

揺杏「うん」

小蒔「……だとすると、揺杏ちゃんは私のこと…」

揺杏「んーん。それとは別に、小蒔のことはちゃんと同い年の友達だって思ってるよ。それプラス、子供っぽくて面白いって事」

小蒔「そうですか…。それなら、良かったです」

揺杏「…つか小蒔、反応薄くね?もしかして、私に気遣って相槌打ってるとか?」

小蒔「いえ。揺杏ちゃんの気持ちはちゃんと分かりますよ。例えばほら、店の外を歩いているあの子達……」スッ





ドウシタハジメ!?ハヤクコイトイッテイル!

ハイハイ。ホラジュンクン、ハヤクイコウ?

ヘイヘイ。ッタク、ガキノオモリハタイヘンダナー

コドモジャナーイ!





小蒔「お兄さんとお姉さんを急かす金髪の小さい子。見ていて凄くふわふわ、楽しい気分になってきます!」

揺杏「どらどら……。…いやー、ありゃ兄貴じゃなくて姉だろ。胸もあるっぽいし」

小蒔「そうですか?んー……」

揺杏「…あらら。あの三人、店に入って来るっぽいな」

小蒔「そうみたいですね。これ以上覗く(?)のはやめておきましょう」

揺杏「あっ。そういや、時間まだ大丈夫か?今何時?」

小蒔「9時…20分くらいですかね?もう少ししたら、出ないといけませんね」

揺杏「そっか。とりあえず、余った団子とあんみつでも食わね?ステーキの時みたいに交換して食べよーよ」

小蒔「いいですね!私、お団子も大好物なんです!」

揺杏「ははっ、そりゃ良かった!」

小蒔「えへへ。いただきまー…」



衣「おおっ!やはりいたぞ純、一!衣の言った通りだろう!」



揺蒔「!?」



衣「ふっ。神代小蒔、やはり先程の気はお前のものであったか。二回戦の時とは性質を異にするようであったが…」



揺蒔「……?」



衣「…いや、今更語るべき話でもないか。神代小蒔よ。唐突ではあるが、今から衣と…(ゴンッ!)」



揺蒔「!!?」



揺蒔「…………」ポカーン



衣「純、何をする!衣に非があるとしても、諭すより先に暴を振るうなど…ムグッ」

純「国広くん。衣はオレが抑えとくから、そっちの二人に謝っといてくれ。な?」

一「ボクが?…まったく、しょうがないな二人とも…」

純「…はぁ。オレは悪くないっての。な、衣?」

衣「ムーーー!」

一「分かった、分かった。じゃあ純くん、ちゃんと抑えててね?」

純「任された!」

衣「ム~~~~!!」

一「ころ…ボクの友人が、ご迷惑をおかけしました。本当にすいません、神代さんと……岩館さん、でしたっけ?」

揺杏「あぁ、いや…。…つかアンタ、私の名前知ってんの?」

一「この前の準決勝、観てたので。有珠山の中堅でしたよね?」

揺杏「あ、うん…」

一「……あの。厚かましいお願いですが、今言ったボクの友人と、少しだけお話ししてくれませんか?どうしても話したいみたいで…」

揺杏「はぁ…。小蒔、多分相手の目当てはお前だけど、どうする?」

小蒔「…で、では、少しだけなら…」

一「ありがとうございます!…ほら純くん、もういいよ!」

衣「ふぅ……。…先程は礼を欠く形になったが、大目に見てくれ。これでも、衣はお前たちと会うのを楽しみにしていたのでな」

小蒔「子供?」

衣「子供じゃない、衣だ!長野の龍門渕で大将を務めている!」

小蒔「あっ!覚えていますよ、昨年の…!今年は清澄に惜敗こそしましたが、団体戦ではとてつもない成績だったと聞いております!」

衣「ふっ…。…いや、チームの敗北は己の敗北と同じ……そこに賞賛さるべき点など、ありはしない」

小蒔「そ、そうですか…」

揺杏「…………」



衣「うむ。所でだ、神代小蒔。貴様、この店で……」



揺杏(これがチャンピオンと並び称された天江衣…。背格好の割に、カッコつけた奴だなぁ)



小蒔「どうでしょう?私の覚えている限りでは……」



揺杏(さっきの台詞からしてだけど、やっぱ天江の目当ては小蒔か。…つーか……)



衣「カクカクシカジカ」

小蒔「シカクイムーブ」



純「ピタットトマル」

一「ダイハツタント」




揺杏(今気付いたけど、この状況……!)



揺杏(…ああ、いかんわコレ。私孤立してる。完全にぼっ…『おい、岩館揺杏!聞こえているか!?』



揺杏「…あん?なになに、何の話?」

衣「だから……お前は、この店で気を巡らせた者に思い当たる節はないのかと聞いている。神代小蒔に心当たりはないそうだ」

揺杏「気を巡らすって…………あ、あぁ!思い出した!心当たりあるよ、うん」

衣「そうか!実は、衣はこちらの方角から得も言われぬ気が漂泊してくるのを感じてな。この店で姿を見て、神代小蒔のものだと思ったがどうも当てが外れたらしい」

小蒔「お役に立てずすいません…。気(?)のようなものは感じてはいたのですが……」

揺杏「あっ。やっぱ小蒔もアレ感じた?なんか無駄に迫力あったもんな、アレ」

衣「岩館揺杏!その気を発した者は誰だ!?」

揺杏「落ち着け落ち着け。今教えたげるからさ」

衣「う、うむ…」

揺杏「まあそれよりさ。お前、私らのこと上か下の名前で呼び捨てにしろよ。いちいちフルネームで呼ぶのダルいだろ?」

衣「…ではそうさせて貰おうか。こちらとしてもそっちの方が楽だしな」

小蒔「わぁ!私達、これできっと仲良くなれますよ!ね、衣ちゃん?」

衣「ちゃ、ちゃんではなく…!」

揺杏「なー衣。余りモンで悪いけど、このあんみつ食う?さっきまで小蒔が食ってたんだけどさ、結構美味かったみたいだよ」

衣「!!……い、いや。衣がここに来たのは強者と会うのを求めたからで…」

小蒔「ここまで歩いてお腹空いてませんか?なんなら、お団子もありますよ?」

衣「………………」

衣「モグモグモグモグ」

小蒔「ふふふ。衣ちゃん、美味しいですか?」

衣「うん!……って違うぞ小蒔!ちゃんではなく…」モグモグ

揺杏「ほらほら、食いながら喋んなって。タレが口元垂れてるぞ」ゴシゴシ

衣「うむ?…す、済まん……」







一「あの衣がこうも容易く…!」

純「…まあアイツ、ガキの釣られそうな手によく引っかかるしなぁ」

揺杏「…あー。こうやって小っこいの膝に乗せてると和むなぁ。ユキももうちょいチビだったらなぁ~」ナデナデ

衣「あう~~。な、撫でるなぁ~!」

小蒔「ふふっ。そうしていると、二人とも姉妹みたいですよ?」

揺杏「あ~、分かります~?コイツ、昔っからお姉ちゃんお姉ちゃん言ってくっついてきて大変だったんですよ~」ナデナデ

衣「嘘を言うなー!衣は龍門渕でも一番のお姉さん……あぅぅ…」







純「……もはや愛玩犬みたいな感じだな」

一「合ってるけどその例えはヒドイよ、純くん…」

純「おい三人さん、こっちのデカいテーブルの方に来いよ!ウチのがいつまでも膝に乗ってちゃ迷惑だろー?」



揺杏「いーえまったく!」

小蒔「揺杏ちゃんに、早く代わって欲しいくらいです!」

衣「ど、どういう意味だー!!」



一「……でも、その体勢だと話す時に困らないかなー?そもそもボク達、遊ぶ為にここに来たんじゃないし!」



揺蒔衣「…………むむむ」

揺杏「…つーわけで、井上とかいうデカい奴に椅子を持ってきてもらいました」スッ

衣「それは良いが、何故子供用の椅子なのだ!衣への当て付けのつもりか!?」

小蒔「しょ、しょうがないですよ。これしか無かったみたいですし…」

衣「承服しかねる!今の時間帯、大人用の椅子がないほど混んでるわけでもあるまいに!」

小蒔「そう言われましても…。料理が残っているのにテーブルを移るのも、お店の方に悪いですし…」

衣「…ならば衣が今から食べる!」モゴモゴモゴ

小蒔「む、無理しちゃダメですよ!」



揺杏「………………」

揺杏「……しゃーねーな、私が座るよ。これでも衣のお姉ちゃんだしな」

衣「先刻の嘘を続けるんじゃない!同い年だろうが!」

小蒔「…揺杏ちゃん、大丈夫ですか?バランスとか色々…」

揺杏「へーきへーき。むしろこういうのって楽し……おっ?」グラッ



蒔衣「!?」



揺杏「…っとぉ。何とかなった~」



蒔衣「……」ホッ

揺杏「ほれ衣、小蒔に話があんだろ?遠慮しねーでちゃちゃっと話しちゃえよ」ユラユラ

小蒔「…揺杏ちゃん、本当にいいんですか?心なしか、周囲から注目を集めてるような…」

揺杏「だって衣が嫌だっつーからしょうがねーじゃん。私、衣の姉ちゃんだし」ユラユラ

衣「その設定は要らんと…。…それと、衣の所為にしないでくれ」

揺杏「別に、これはこれで楽しいから気にしないでいーよ。それよっかほら、話進めろって」ユラユラ

小蒔「でも、見た目にもバランス悪くて倒れそうですよ…?」

揺杏「だーからそういう気遣いは要らんってば。ほら、さっさと話しな」ユラユラ

衣「…………」

衣「…代われ揺杏。やっぱりその、こ、子供用の椅子には……衣が、座る」

揺杏「いいっつってんじゃん。嫌なの無理に我慢しなくていいからさ」グラグラ

衣「喧しい!お前がその椅子に座っていると不安定な姿勢が目に付いて話が出来ぬのだ!い、いいからさっさと退け!」

揺杏「……はいはい。わーりましたよっと」スッ

衣「…ふ、ふんっ。最初から素直に応じればよかったのだ。無駄に強情を張って!」



揺蒔「…………」



衣「な、なんだその目はーっ!?」

小蒔「さて、衣ちゃんが子供用の椅子に座った所でお話しも再開しましょうか。どこからでしたっけ?」

衣「待て小蒔…。お前の今の言葉には悪意が感じられたぞ……」

揺杏「衣ちゃん、座り心地どう?」

衣「う、うむ。悔しいが幅も高さも合っていて良い……ってちゃん付けはやめろと言うに!」

揺蒔「……プクククク」

衣「笑うなぁーっ!」









一「凄い…。あの二人、さっきから衣を圧倒してるよ…!」

純「んなことより、オレらも何か頼もーぜ。メニュー見てたら腹減っちまったよ」

一「…ったく。しょうがないな、純くんは…」

揺杏「まー、ふざけんのもヤメにして言うとだな。衣が言ってるやつって、多分ウチの爽と永水の初美の所為だと思うんだよなぁ」

小蒔「そうだったんですか!?」

衣「ほう……咲やノノカと打ったあの三年達か!」

揺杏「うん。アイツら、単にテンション上がってそれやってただけで他意は無いと思うよ。質問の答えはこれでいーかい?」

衣「うむ。…いやはや、蓋を開ければ事実はそんなにも簡単であったとはな。衣もまだまだのようだ」

小蒔「衣ちゃんのような方でも、まだまだなんですか…」

衣「ふっ。今の衣など、麻雀に於いては精々秋津洲の頂に触れられる程度の者でしかあるまい。更に練磨せねば……って、」



衣「ちゃんではなく!小蒔!衣のことは、ちゃんと衣と呼べ!」



揺杏「諦めな、衣。小蒔はちゃん付けクセになってっし、今更改まんねーよ」

小蒔「というわけで……すいません、衣ちゃん」ペコッ

衣「むぅ~…!」

衣「…まあ、知りたいことは分かったし、此処にもう用は無い!」スクッ

揺杏「ちょっ……ど、どこ行くんだよ!」

衣「すぐ近くのテーブルだ!」タタタタ




~~~~~




衣「というわけで純、一!帰ろう!」

純「…んなこと言われてもよぉ。オレ、飯注文しちゃったしなぁ……」

衣「むぐっ!?」

一「あはは。純くんて、本当マイペースだよねぇ」

純「うっせ。…つーわけで衣、スマンが無理!どうしてもっつーなら国広くんを連れて帰りな」

衣「むむ。……では、一!純を置いて二人で帰……」

一「言っとくけど、ボクは三人じゃなきゃ動かないよ。誰かはぐれたりしたら困るしね」

衣「なっ……何だと……?」




~~~~~




衣「………………グスン」

揺杏「泣くな泣くな。私達がついててやっから、な?」ポンポン

衣「……うん」

小蒔「…衣ちゃん。残ってるあんみつとお団子、食べちゃいましょう。ね?」

衣「……うん」モグモグ

衣「…………」モグモグモグ

揺杏「…………」



揺杏(…どーすっかな、コイ…この人。結果的に、席離れてくれなくて良かった、って気もすんだけど……)



衣「…うむ。くちくなったお陰で、少しは落ち着いたぞ」

小蒔「それは良かったです。……ところで衣ちゃん。衣ちゃんは、どうしてわざわざこんな所へ?」

衣「ん?先刻言った筈だ。性質こそ違えど、二回戦の時の小蒔のような気が……」

小蒔「そうではなく、そもそも何故その気を追っていたのですか?麻雀の強い尋ね人でもいるのですか?」

衣「知れた事。麻雀の強い者に会い、話し、そして卓を囲むために決まっているだろうが」

小蒔「……?」

揺杏「んー?」

揺杏「あんだよソレ、『辻麻雀』てか?お前、同郷のよしみで清澄の応援に来たんじゃねーのかよ」

衣「それとは別だ。傑出した力を持ちながら個人戦で本領を発揮出来なかった者。或いは、団体戦のみに注力した者などが今、この近く……全国に近い場で退屈に倦んでおるかもしれぬ。そうした者達と打つのを愉しみにして、此処を訪っただけだ」

揺杏「たのしみ…?」

衣「うむ。衣の遊び相手になれる者は多くないのでな……衣と遊べる強者達の集う場に、そういう期待をしていたということだ」

揺杏「……あそび、ね」

衣「うむ」

揺杏「…………」

衣「…………」

揺杏「…………ぷっ!」





揺杏「あははははは!なっはっはっはっは!」






衣「?」

小蒔「!?」

揺杏「…ぶふっ!おま……『遊び』っておま、そりゃーカッコつけすぎだろオイ!あはははははは!!」

小蒔「ゆっ、揺杏ちゃん!」

揺杏「だっ、だってよ小蒔、何言うかと思えば『遊び』だって……ぷっ!『お前何様のつもりだよ』って感じじゃね?」

小蒔「で、でも…」

揺杏「いや分かるよ。確かに衣は去年インハイMVPの化けモンだよ、うん。これじゃまぁ、全国の暇人共じゃ遊び相手にしかなんねーわ」

小蒔「揺杏ちゃん!仮にも全国まで来ている方々にそういう言い方は…」

揺杏「このおチビがそう言ってんだろが。小蒔。お前、自分がガキのおもちゃと同列に扱われて何とも思わねーのかよ」

小蒔「……それはっ、んと…」

揺杏「…っはー、面白かった!あんがとよ衣。今の話、中々楽しめたぜ」

衣「……衣は与太や漫談を話したわけではないのだが……あと、チビって言うな!」

揺杏「はいはいゴメンなもー言わない。衣はリッパナオネエチャンデシュヨ、ウフフ」

小蒔「揺杏ちゃん!」

揺杏「なはは、冗談冗談。こんぐらいで顔真っ赤にすんなよ、小蒔」

小蒔「…………」ムスッ

揺杏「…ふぅ。私らもうそろそろ出ようと思うんだけど……二人とも、あとなんかお互いに話したい事あるか?」

衣「……先刻の、衣の言葉についてだが」

揺杏「うん」



衣「揺杏は『遊び』という言葉を嗤ったが、その表現は比喩でもなんでもない。衣にとって、強者達と打てる麻雀は真の意味で児戯に等しいものだ」



衣「語弊のある言い方であったことは否めないし、そのことが原因で揺杏が不快になったのならそれは詫びよう。…しかし、先刻の言葉を訂正するつもりは無いし、間違った事を言ったとも思っていないぞ」



衣「…以上だ。他に言う事は無い」



揺杏「……なるほど。小蒔、お前は?」

小蒔「え?…そ、そういう揺杏ちゃんは無いんですか?」

揺杏「私?私はなー……」

揺杏「なんつーかまぁ……言いたいことは山ほどあんだよな」

小蒔「はぁ…」

揺杏「……ま、敢えてなんか言うとすれば…」ズイッ

小蒔「揺杏ちゃん?」

衣「…どうした、揺杏?衣の顔に何かつい…」









揺杏「とっとと死ね、このクソチビ!私のいる前で二度と口きくんじゃねーぞ!」









衣「!!」

小蒔「……!」



揺杏「おめーよぉ。どんな肩書き経歴くっついてよーが、完全に調子こいてるウザキャラなんだよ。神かなんかにでもなったつもりか、ああ?」



揺杏「つーか何なの、さっきの政治家の言い訳的なアレ。結局意味分かんねえし、単に適当に謝っただけじゃねーか」



揺杏「おめーの言ってることって要は『退屈だから誰か私のあちょびにちゅきあってー』ってことだろ。キメーし臭えんだよ、カス!部屋にひっこんでろや!」



揺杏「大体、おめーみたいなクソガキに付き合う奴なんていねーよバカ。ボディーガードの二人と友達ごっこでもして遊んでろやこのウンコ野郎」



揺杏「いいかクソチビ、これ以上他人様に迷惑かけんなよ。お前は喋るだけで胸糞なカスなんだから、な?」



揺杏「つーわけでお前はとっとと死ね。さっさと家帰って自殺して、二度と外に出てくんなよ。分かったな」

                                                           ,斗ァ
                             >                          .xゞン´
                           > ´                           ,//
                        >,.イ                       ,//
                     ,xイ/           __    ,ァ=x、        ,//
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.          ,/.,4=ニ7./            .〈(∥ !:.i./マニニ只ニニニニア.、
.         ,//ニニ=7./             ゝ  .,爻心ニニ《;i:」ニニア._r心
      ,/./ニアー'../                   ,/rf `.7.マ7く八ニア / y爻ヽ__
     ././ニアγ⌒´             _,/イ´冫ノ-y!.ぷぴ¨´イ   ヽ    >--=r-心__,ィァ
    /./ニ7 /              r'^}f/{´ ,/,r勹´ふ7ヌゝぃぅン「_フ__ー-.、   ム.爻 _Ξラ
   ././ニ7.,′                ,/辻xr-'/   ¨´ rぷ℃   .(__f   )ぴzュ`-=-爻ー'
   φ,ニニ|..|   ム       .rx,イぅャ.ィ=辷x _xxrぷ/:}爻_/_ノ__ _xィ少ニニ≧、 _ィfマぷx、
. ..φ,ニニ=ム X__,ノ キ      ,辷圦≦ニニ>イ辷jぷぴソ: :.マュぷ辷vぷぴ<ニニニニニニ≧x マぷ7
  φ,ニニニ≧x、..ィム キ   ,_//辷入  .,4ニニニニア"7: : : 入ニニニニニ7   ヽ¨ ー--―==‐ }弋ヌ
....φ,ニニニニニニニニム.Ⅸ/ ソ´  廴入 ,4> ''"´ / .|; イ  .寸ニニア .{     ヽ       ,イ爻
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../..Ⅵ.マニニニニニニニニア ,斗.ァ===ュx     /  `¨´   .キ  i
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    Ⅵ マニニニニニ7 〃                        roy.ム
     V マニニニニ| .!{                     ム__.イ=!

      Ⅹ .マニニニ, ,                       {ニニニア

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