勇者「僕の魔王討伐の旅がなんかおかしい」(132)

王様「勇者テオよ! おぬしには今日から魔王討伐の旅に出かけてもらう」

勇者「わかりました国王様! 必ず魔王を倒し、人々を苦しめる魔族どもを始末してみせます!」

王様「これは餞別じゃ、取っておけ」

勇者「ありがとうござ…」

>10Gもらった!

勇者「………」

王様「さぁ、行ってくるのだ勇者!」

勇者「え? あ、あの…立場上こんなこと言うのもなんですが…いくらなんでも少なすぎません?」

王様「む…やはりそうか」

勇者「やはりって…」

王様「しかし、すまん…わしに出せるのはこれが精一杯なのだ…」

勇者「なんでですか…? こんなの、端金で国から追い出されるも同然…」

王様「一人息子を旅に出すのだからと財産を根刮ぎ奪われてな…おぬしの両親に」

勇者「あのさ…」

勇者(結局、10Gに加えて王様が持っていたひのきの棒を貰った。凄まじい罪悪感だった)

・ひのきの棒
長い!固い!重い!

勇者「僕を理由に国の財産を奪うなんて…何考えてるんだよ一体!」

バンッ

勇者「父さん! 母さん!」

シーン…

勇者「あれ…? 家に誰もいない…」

幼馴染「いる」ヌッ

勇者「うわっ! リリカか、びっくりした…」

幼馴染「テオ。これ、お義母様から」

勇者「母さんから…手紙? なんだろ…」ビラッ

『私達は旅行に行きます。魔王を倒すまで帰ってこないでね☆ 母より』

勇者「あのさ…」

勇者「あの屑共、旅先で出会ったら海に沈めてやる…!」

幼馴染「テオ…本当に旅に出るんだ」

勇者「うん。この町の近くにも魔族が増えてきている、このまま黙ってるわけにはいかないだろ」

幼馴染「…わかった。じゃあ、これ持っていって」

>幼馴染から手作りパンを受け取った!

・手作りパン
焼きたてのパン。とてもおいしそう。

勇者「パンか。ありがとう、リリカ」

幼馴染「これを私だと思って大切に持ってて」

勇者「いや…食べるよ。腐るよね、途中で」

幼馴染「私、テオに食べられちゃう」

勇者「誤解を招くような言い方はやめよう」

幼馴染「私は血となり肉となりテオの中で生き続ける」

勇者「発想が怖いよ…なんか心配になってきたな、中に変な物入れてないよね」

幼馴染「………」

勇者「あのさ…」

勇者(リリカに別れを告げて、僕は旅の準備にとりかかった)

勇者(しかし、10Gじゃ何も買えなかった)

勇者「まぁいい、これから僕の旅が始まるんだ!」

魔族「おうおう兄ちゃん、今、旅に出るとか言わなかったか?」

勇者(魔族…! 町の中に来ていたのか!)

魔族「旅って、今のご時世人間が何しに行くんだ?」

勇者「…お前らのボスを倒すためだよ」

魔族「へぇ…それなら、金もたんまり貰ってんだろうな?」

勇者「いや、あんまり」

魔族「またまたぁ。なぁ兄ちゃん、ちょっと金くれねーか? クスリを買う金が足んねーんだよ」

勇者「ふざけるな! 誰がやるか!」

魔族「ヘッ、だったら力づくで奪ってやる!」

>魔族が襲いかかってきた!

勇者「たぁっ!」ボコッ

>勇者はひのきの棒で殴った! 18のダメージ!!

魔族「ぬわーーっっ!!」バタン

>魔族を倒した!

勇者「よし、倒した…」

>98G手に入れた!

勇者「町の外には、もっと魔族がいるだろうな。やっぱり、何も用意せず旅に出るのは危ないかも…」

勇者「よし、お金も手に入ったし準備してから行こう!」

勇者「まずは、装備でも買って…」

警察「待て!」

勇者「はい?」

魔族「この人です! 俺に暴力を振るって金銭を奪い取りました!」

警察「通り魔め、強取の罪で逮捕する!」

勇者「あのさ…」

警察「すみませんねぇ、勇者様が民家のものを漁ったり魔族から金銭や物品を奪い取るのは法で認められてるんですよー」

警察「ほら、勇者様がつけてるこの紋章。これが目印ですよ」

魔族「くそっ、何が勇者様だ!」スタスタ

勇者「えーと、その…ごめんなさい」

勇者(おかしいな…なんで魔族が人間の公共機関使ってるんだ…?)

勇者「はぁ、なんか疲れたな。でも、宿屋に泊まってたら装備を買う金がなくなっちゃうし…」

勇者「そうだ、リリカから貰ったパンがあった」

勇者「…ちょっと不安だけど、大丈夫だよね…?」パクッ

>勇者は手作りパンを食べた!
>勇者のHPが全回復した!

勇者「おっ、ちゃんと回復し…」

>勇者の幼馴染に対する愛情が100上がった!
>勇者は幼馴染の幻覚が見えるようになった!
>勇者は幼馴染の事しか考えられなくなった!

勇者「あのさ…」

勇者「神父様、お祓いありがとうございます」

神父「いえ、私はお金さえ貰えれば。また何か呪いを受けたら、ここに来てください」

カランカラン

勇者「また無一文になっちゃったよ…これじゃいつまで経ってもこの町から出られないぞ」

幼馴染「出なくていい」

勇者「わっ、リリカ…!」

幼馴染「テオは魔王なんて忘れてここで暮らせばいい。そしてこの教会で私と式を開けばいい」

勇者「おかしいな…町から出られないって話だったと思うんだけど、いつのまにか結婚式の話になってるぞ」

幼馴染「私、待ってるから」スタスタ

勇者「金もないし、リリカもあれじゃ頼れないな…どうすればいいんだ…?」

ピラッ

勇者「ん? なんだ、チラシが落ちてる…」

『バイト募集中! アットホームで楽しい職場です! 時給80G~』

勇者「こ…これだ!」

勇者(こうして、僕のバイトが始まった…けど…)

勇者「ここは始まりの町です」

勇者(その内容は、通行人に向かってひたすら同じ事を言うだけの仕事だった…)

村人A「新人! なんだそれは!」

勇者「あ、はい! もっと声を出した方がいいですか!」

村人A「違う! もっと感情を込めず、淡々と言うんだ! 自己主張しすぎだ!」

勇者「は!?」

村人A「お前はただ機械のように『ここは始まりの町です』とだけ言ってればいいんだ!」

勇者「やってられるか!」

村人A「おい、こら新人! 給料は先に払ってあるんだ、逃がさんぞ!」

勇者「くっ…そもそも、なんなんですかこれは!? こんな仕事、誰も必要としてませんよ!」

村人A「そんなことはない! これを絶対に必要としている人がいる!」

勇者「誰なんです、その奇特な人は?」

村人A「そりゃもちろん、勇者様さ!」

勇者「あのさ…」

勇者(僕は嫌々ながらも数日間バイトをして、金を稼いだ)

勇者(そして、この町で一番いい装備を揃えた!)

・青銅の剣
銅の合金で作られた剣。鉄より強度は劣るが錆びにくい。

・鉄糸の盾
木の盾に鉄糸を編み込んだもの。軽くて強い。

・皮の鎧
動物の皮で作られた鎧。冬は暖かく、夏は暑苦しい。

勇者(これだけあれば大丈夫だろう)

勇者「さぁ、今度こそ旅立ちだ! 魔族達め、来るなら来い!」

ゾロゾロ

勇者「………」

魔族A「よぉ兄ちゃん、久しぶりだな」

魔族B「こいつをボコボコにして金をぶんどったんだって? この屑野郎が…」

魔族C「ダチの受けた屈辱は俺達が晴らすぜ」

魔族D「ボッコボコにしてやんよ」

勇者「あのさ…」

勇者「人聞きの悪いこと言ってるけど、先に襲われたのは僕だよ」

魔族B「テメェ、こいつの事情を聞いてもそんなことが言えんのか!?」

勇者「クスリを買う金が必要だったんだろ?」

魔族B「なんだ、ちゃんと聞いてるんじゃねぇか」

勇者「は?」

魔族C「こいつの妹さんは病気でな、人間の薬を買うために金が必要だったんだ」

勇者「クスリってそういう薬かよ!」

魔族B「俺達も金を出したが…所詮、そこらの魔族が手に入れられる金など高が知れている」

魔族D「人間達は、魔族ってだけで俺達には仕事をくれないからなー」

勇者「それはそうなんじゃないかな…」

魔族A「だからどうしても、金が必要だったんだ! でも、結果はあの通り…そして妹は…くっ」

勇者「あのさ…」

魔族A「確かに、強盗まがいのことをした俺も悪かった…だけど、金まで持っていくことはないじゃないか!」

勇者「ここは始まりの町です」

魔族B「こいつの妹ちゃんもあんなことになって…どう落とし前つけてくれんだ?」

勇者「ここは始まりの町です」

魔族C「おい…こいつ、ごまかすつもりか?」

勇者「ここは始まりの町です」

魔族D「もう、やっちまおうぜ!」

勇者「ここは始まりの町です」

>魔族達が襲いかかってきた!

勇者(やっぱり駄目か! くそっ、戦うしかない!)

勇者「く…」ボロ…

魔族B「はぁ、はぁ…こいつしぶといな…」

魔族C「だが所詮は多勢に無勢よ」

勇者(駄目だ…旅を始めたばかりの僕じゃ、一人で四人に勝てるわけがない!)

魔族D「フッヘッヘ、コイツ結構可愛い顔してるなぁ…売り飛ばせば金になるかも…」

勇者「あのさ…」

勇者(ヤバい、色々な意味で…)

??「そこまで」ザッ

勇者「へ?」

魔族B「誰だテメーは!?」

??「そう言うと思って…既に名刺を配っておきました」

魔族C「ハッ、この紙は…いつの間に俺の手に!?」

勇者(なになに…『旅の賢者 クレイ』?)

魔族B「賢者が俺達に何の用だ!」

魔族D「魔族だからって差別しやがってよぉ!」

賢者「大勢でよってたかって一人を責める…」

賢者「魔族であれ人間であれ、このような光景を見逃すわけにはいきません」

魔族D「うるせぇ! お前もやっちまうぞ!」

>魔族Dは賢者に飛びかかった!

賢者「行きますよ…」ゴォォォォォ

>賢者はテンペストの魔術を唱えた! 嵐が吹き荒れる!

魔族D「ザルソバッ!!」

>魔族Dに188のダメージ! 魔族Dを倒した!

魔族B「ヒヤムギッ!!」

>魔族Bに161のダメージ! 魔族Bを倒した!

魔族C「レイメンッ!!」

>魔族Cに147のダメージ! 魔族Cを倒した!

勇者「つ、強い…!」

魔族A「く…くそぉっ! よくも俺の仲間達を…!」

賢者「あなたは…まだ戦うつもりなのですか」

魔族A「当たり前だ! こいつの、こいつのせいで俺の妹が…!」

賢者「そう言うと思って既にあなたの妹さんを治しておきました」

魔族A「え?」

魔族E「お兄ちゃん…」

魔族A「お、お前! 動けるのか!?」

魔族E「うん。お兄ちゃん、今まで迷惑かけてごめんね…」

魔族A「バ…バカヤロォ! 迷惑だなんて、そんな、そんなの…!」

魔族D「よかったな~」

魔族C「妹さんが無事なら、もう戦う理由はないな」

魔族B「ったく…見てらんねーぜ、行くぞてめーら」

勇者「あのさ…」

>魔族達は、満足そうな顔で帰っていった!

賢者「やはり、無駄な争いなどない方がいいですね」

勇者「そうですね。なんであんな魔術で攻撃したのかはわからないけど」

賢者「それにしても、危ないところでしたね」

勇者「はい。賢者…クレイさんが来てくれなかったらどうなってたか…」

賢者「礼はいりません。当然のことをしたまでです」

勇者「でも、よくこんなところに通りがかりましたね。今の時代、人はほとんど町の外には出ない滅多に出てこないのに」

賢者「それは…」

勇者「もしかして、僕が勇者だから、何かを感じ取って…?」

賢者「いえ、町を歩いていたら私好みのいい尻をした少年がいたので…」

勇者「あのさ…」

賢者「なんと、勇者様でしたか。なるほど、確かに勇者の紋章を持っていますね」

勇者(これって、もしかしたらさっきより危険なんじゃ…)

賢者「どうかしました?」

勇者「いえ…」

勇者(何かあったら逃げよう、そうしよう)

賢者「ところで、勇者様は一人で旅をしているのですか?」

勇者「ええ…旅を始めたばかりですし、外に出たがる人もいないので…」

賢者「なんと、一人旅とは! いつ、さっきのような危険があるかもわからないのに!」

勇者「………」

賢者「ああっ、せめて一人でも仲間がいれば…! あのような大勢に囲まれて窮地に陥ることはないのに!」

勇者「……………」

賢者「攻撃魔術と回復魔術…パーティには両方なくてはならない! 両方を使えるような人が仲間にいれば!」

勇者「…じゃあ、クレイさん。仲間になってくれますか?」

賢者「無理です」

勇者「あのさ…」

賢者「申し訳ないのですが、私は色々と忙しい身でして。誰か特定の人の仲間になるわけにはいけないのです」

勇者「じゃあ煽るなよ」

賢者「代わりと言っては何ですが、私の聖水を差し上げましょう」

>勇者は聖水を10本貰った!

・聖水
魔族を遠ざける清められた水。下の水ではない。

賢者「これを使って他の町に行ってください。他の町に行けば、仲間になってくれる人もいるでしょう」

勇者「それなら、いいんですけどね」

賢者「では、私はこれで」

勇者「はい、色々とありがとうございました」

賢者「あ、そうそう」

勇者「?」

賢者「勇者様…あなたのことはいつでも見守っていますからね」ポッ

勇者「あのさ…」

その頃、魔王城…

勇者『とりあえず、次の町に向かうか…』

>水晶玉に勇者の姿が浮かんでいる…

魔王「また、勇者が出てきたか」

<魔王三十二世 魔王ゼクス>

魔王「今度は骨のある奴ならばよいがな。退屈しのぎにはなってくれよ?」

勇者『これ、ただの水だ…』

魔王「しかし、勇者に選ばれたようだが…こいつはどういう奴なのだ?」

魔王「レイク! レイクはいるか!」

部下「ここに、魔王様」

魔王「最近、よく姿を消すが…何をしているのだ? 貴様は」

部下「ちょっと、副業に」

魔王「…まぁ、いい。こいつのことが知りたい、データを集めておけ」

部下「そう言うと思って魔王様の部屋に勇者の写真集とポスターを置いておきました」

魔王「おのれ…」

魔族A「………」ジリ…

魔族B「………」ジリリ…

魔族C「………」ジリッ…

勇者「………」スッ

>勇者は聖水のボトルを見せた!

魔族A「なんだ、聖水かよ…」

魔族B「聖水ならしょうがねーな」

魔族C「帰って麻雀でもしようぜ」

ゾロゾロ…

>魔族の群れは逃げ出した!

勇者「………」

勇者「あのさ…」

勇者(1人2人なら、戦いながら…大勢で来られたら、聖水を見せながら…)

勇者(僕はなんとか、ニールの町にやってきた)

勇者「さてと、まずは…」

魔族「オラァ!!」ブンッ

勇者「うわ!?」サッ

>魔族の攻撃! 勇者は身を躱した!

勇者「ま、町の中にまた魔族が…!?」

魔族「チェイサー!!」ブオン

勇者(なんて、言ってる場合じゃない! 反撃しないと…)

>魔族の攻撃! 勇者は盾で攻撃で受け止めた!

魔族「何!?」

勇者「せいや!」ブンッ

魔族「ぬわーーっっ!!」ザシュ

>勇者は青銅の剣で斬りつけた! 魔族に37のダメージ! 魔族を倒した!

パチパチ

勇者(え…周りの人が僕に拍手している…?)

魔族B「ハラショー!!」パチパチ

勇者(ま、魔族!? 魔族まで…)

村人「ヒューッ、やるじゃねぇか兄ちゃん!」

勇者「あ、あの! なんで、町の中に魔族がいるんですか?」

村人「ん? もしかして兄ちゃん、外から来たのか?」

勇者「は、はい。イチャインの城下町から来たところで…」

村人「そうかい。なら知らないのも無理はないな」

>村人は拳を突き出した!

村人「このニールは武闘の町! 戦うことで上下関係を決めるんだよ」

勇者(そういえば…)

村人「魔族だろうが同じさ。強い奴が偉い! 種族も生まれ持った身分も関係ねぇ、この町は、強い奴が正義なのさ!」

勇者(なんで町なのに「村人」なんだ…?)

<武闘の町 ニール>

村人「ん? 兄ちゃん、その紋章は…」

勇者「はい、僕は勇者です。先日、魔王討伐の旅に出ました」

村人「そうか…それは、厄介な時に来ちまったな兄ちゃん…」

勇者「厄介?」

村人「ランク1位の奴が、外出禁止命令を出したんだよ」

勇者「命令? どういうことです?」

村人「この町に入った奴は、全員ランクが設定される。自分より上位のランカーの言うことを聞かなければならないんだ」

勇者「え…1位の人が外出禁止命令を出したってことは…誰もこの町から出られないってことですか!?」

村人「ま、このご時世好き好んで外に出たがる奴はあんまりいねぇが…そうか、勇者様が来ちまったのか…」

勇者「ど、どうすれば…」

村人「それはもちろん、誰かがランク1位になって、命令を解くしかないな」

勇者「誰か、勝てる人はいないんですか?」

村人「1位の奴…アズールはここ1年間負け知らずだ。町の連中じゃ誰も勝てんよ。それに…」

勇者「それに?」

村人「さっきも言ったが、ここは武闘の町…ランク戦を行うことで、相手のランクを奪うことができる。3位の奴が1位に勝てば、そいつが1位だ」

村人「だが、このランク戦にはルールがあってな。1日に戦えるのは3回までだ。そして、自分より上には10位以内でないと挑めない」

村人「そして…人間魔族合わせて、この町の総人口は10000を越える」

勇者「そ…それじゃ、もし下位に誰か勝てる人がいても…」

村人「ああ。最下位の奴は、最低でも1年近く戦い続けないとアズールに挑むことすら出来ないんだ」

勇者「そんな…」

勇者「僕がそいつを倒して1位になる…ってのも、すぐにはできないのか…」

村人「いや、兄ちゃん。新しく入ってきた奴はノーランク…誰とでもランク戦が出来るんだ。負けたら最下位だがな」

勇者「なんだって!?」

魔族A「………」

勇者(くっ…こいつと戦わなければ1位の奴に挑めたのか…)

勇者「…今、僕のランクは何位なんですか?」

村人「今倒したこいつが2位ランカーだったから、兄ちゃんは暫定2位だな」

勇者「あのさ…」

勇者「ま、まぁ…これで1位の奴に挑めるみたいだし…行くぞ!」

魔族B「おい、ちょっと待ちな!」

勇者「へ?」

村人B「俺とも戦ってもらおうか」

勇者「え…ちょっと…」

村人A「ああ、やっぱりな。1桁ランカーは狙われやすいんだよ」

勇者「な、なんだって…?」

村人A「1日経ってもすぐに3回戦いを挑まれてランク戦を消費してしまう…」

勇者「そんな…それじゃ、ランクが高くても上げられないじゃないか…」

村人A「そういう理由もあってアズールは半年間戦ってすらいないんだ」

勇者「あのさ…」

村人C「ちょっとちょっと! 俺も2位になりたいわよ!」

村人B「何言ってんのよ、12位の私が戦うべきでしょ!」

魔族B「あんた達、俺より下位なんだからどきなさいよ! この泥棒猫!」

勇者「あのさ…」

ミスった

>村人B「何言ってんのよ、12位の私が戦うべきでしょ!」

村人B「何言ってんのよ、12位の俺が戦うべきでしょ!」

村人A「言っておくがランク戦だけは上位の命令でも禁止できないぞ」

勇者「逃げるしかないのか…!」タッ

>勇者は逃げ出した!

村人B「逃がさん……お前だけは」

>しかし回り込まれた!

魔族B「飛連斬! 逃がさん!」

>しかし回り込まれた!

村人C「呪縛! 逃がさん!」

>しかし回り込まれた!

勇者「だめだこりゃ」

魔族B「さぁ、観念して俺と戦え!」

勇者(何か…何か方法はないか…)

勇者「はっ…そうだ!」

キュポッ パシャ

>勇者は聖水を取り出し、自分に振りかけた!

勇者「………」

魔族B「なんだ、聖水かよ…」

村人B「聖水ならしょうがねーな」

村人C「帰ってリンボーダンスでもしようぜ」

勇者(この聖水って一体なんなんだ…?)

勇者(さて…1位の奴の居場所を調べないとな…)

勇者「あの、1位ランカーってどこにいるんですか?」

村人D「ああ、アズールさんなら…」

魔族C「おい話しかけんな、あいつ聖水使ってるんだぞ!」

村人D「え!? あっ…す、すみませんでしたぁ!」

>村人Dは逃げ出した!

勇者「あのさ…」

勇者(聖水が乾くまで、情報収集も出来ないのか…でも、乾いたらまた襲われるぞ…)

勇者「ん?」

勇者(裏路地か…ここに身を隠せば、見つかりにくいかな?)トテトテ

ガッ

勇者「うわっ!?」

>勇者は何かにつまずいた! 勇者は転んだ!

勇者「いたた…なんだ?」クルッ

女の子「………」

勇者(え…女の子!? なんでこんなところに倒れて…)

勇者「き、君…! 大丈夫!?」

女の子「お…」

勇者「え?」

女の子「お腹減った…」

勇者「………」

女の子「な、何か食べ物…持ってない…?」

勇者「え…えーと…」

女の子「うぅ、駄目だ…死ぬ…」

勇者「そ、そんなこと言われても、僕だって武器とお金以外は何も…」ゴソゴソ

・手作りパン
焼きたてのパン。とてもおいしそう。

勇者「あのさ…」

女の子「ふぅ、ごちそうさま…ありがと!」

勇者「…大丈夫?」

女の子「お陰様でね! ふーっ、生き返ったわ!」

勇者「いや、そうじゃなくて…どうだった?」

女の子「え? うん、美味しかったよ?」

勇者「本当に大丈夫なの? どこも悪くなってなってない?」

女の子「あんた私に何食わせた」

勇者「何か異変あったら聖水もあるけど…」

女の子「本当に何食わせたの!?」

勇者「いや、大丈夫ならいいんだ、うん」

女の子「なんか、腑に落ちないなぁ…」

武道家「ま、いいわ。何か、礼をしなきゃね」

勇者「い、いや…礼なんていいよ」

武道家「いいから。私は武道家のチサトよ」

勇者「チサト…?」

武道家「こっちでは、珍しい名前かもね。私、ナナリタの方から来たから」

勇者「え…ナナリタって…海の向こうの!?」

武道家「そうよ。修行のために、この大陸に来たの」

武道家「それなのに、こんなところで引っかっちゃってさ…さっさと他の町に行きたいのに」

勇者(今の時代…町の外に出る人だって少ないのに、海の外からなんて…)

武道家「それで?」

勇者「へ?」

武道家「あんたの名前。まだ、聞いてないわよ」

勇者「あ、ああ。僕は…」

武道家「え、嘘…勇者なの? あんたが?」

勇者「正真正銘の勇者だよ。紋章だって、ほら」キラッ☆

武道家「へぇ…人は見かけによらないものね…」ジロジロ

勇者(か、顔が近い…)

武道家「まぁ、なんでもいっか。とりあえず、パンのお礼をしなきゃね」

勇者「だから、礼なんていいって」

勇者(あんな怪しいもの食わせた罪悪感が…)

勇者「そもそも、空腹になるくらいなんだから何も持ってないでしょ」

武道家「私、ランク17位だから大抵の奴に言うこと聞かせられるわよ?」

勇者「僕は2位だけど」

武道家「それじゃ、元気でね! バイバイ!」

勇者「あのさ…」

武道家「に、に、に、2位!? ほ、ほんとに…?」

勇者「うん、まぁ…」

武道家「勇者って、本当なんだ…」

勇者(これで納得されても、なんか困るな…)

武道家「ということは…あのアズールと戦え…」

武道家「…ないか。1桁ランカーって戦い挑まれるらしいし…」

勇者「大丈夫だよ。まだ1回しか戦ってないから」

武道家「そ、それじゃ…!」

勇者「ああ、1位の奴を倒す。最初からそのつもりだよ」

武道家「そっか…」

武道家「そっかそっか! うんうん!」

勇者(嬉しそうに頷いている)

武道家「それにしても、2位って…凄いなぁ。私なんて2ヶ月いてやっと17だもん、どれくらい頑張ったの?」

勇者「さ…さっき来た…ばかりです…」

武道家「よし! それじゃ行きましょ、アズールの奴を倒しに!」

勇者「そのアズールって奴はどこにいるの?」

武道家「それは…知らない…」

勇者「って、駄目じゃないか!」

魔族D「むっ、そこにいるのは何者でごわすか!」

>魔族に見つかった!

勇者「あ、まずい…聖水が乾いてる」

武道家「え…なんか濡れてると思ったら、聖水だったの? やば、話しちゃった…」

勇者「………」

魔族D「ほほう、おぬしは噂の2位ランカーでごわすな!」

魔族D「おいどんと堂々と勝負するでごわす! どすこいっ!」

武道家「戦ってたら、また明日まで待たなきゃならなくなるわよ!」

勇者「逃げるしかないか!」ダッ

魔族D「あっ、待つでごわす!」

タプン タプン

勇者(あんな図体してるんだ、簡単に逃げられる!)

魔族D「逃がさんごわす!」バキュン!

勇者「うわ!?」

>魔族Dの銃撃! 勇者は身を躱した!

魔族D「おいどんは銃の名手でごわす」

勇者「あのさ…」

魔族D「さぁ、背中を撃たれたくなかったらおいどんと戦うでごわす」

勇者「くっ、これじゃ迂闊に背中を見せられない…」

武道家「しょうがないな…」スッ

勇者「えっ? チサト…」

武道家「私が行くか」グッ グッ

魔族D「お、おぬしは…」

武道家「人に言うってことは、あんたは堂々と勝負してくれるのよね?」

魔族D「くっ!」スチャ

勇者「あ、危ない! 相手は銃を…」

武道家「ふっ!」ヒュッ

魔族D「ああん」グキ

>武道家は目にも止まらぬ蹴りを繰り出した! 銃を弾き落とす!

武道家「何が危ないって?」

勇者「は、速い…」

武道家「ふふん」

魔族D「やはり、ナナリタの悪魔でごわすか…」

勇者「悪魔?」

魔族D「圧倒的な強さで相手を叩きのめし、たった1ヶ月で二桁ランカーまで上がってきた悪魔のような女でごわす」

勇者「そうなんだ…」ジーッ

武道家「な、何? 悪い?」

勇者「チサトって、凄いんだね」

武道家「え…」

勇者「よくわからないけど、それだけ努力してるってことでしょ?」

武道家「う、うん! これでも、凄く鍛えてるから!」

勇者「でも、そんなに強いならなんで17位止まりなの?」

武道家「誰も戦ってくれないからよ。みんな私を見ると、すぐ逃げるの」

魔族D「おいどんも逃げていいでごわすか?」

武道家「だめ」

魔族D「そこの方、おぬしからも言って欲しいでごわす!」

勇者「え、僕に言う?」

魔族D「ぬぅぅ、これだから人間は!」ダッ

>魔族Dは逃げ出した! しかし回り込まれた!

魔族D「ひぃ!」

武道家「もう、あんまり意味ないと思うけど…ランク、上げさせてもらうわ」

魔族D「じゅ、銃さえ、銃さえ拾えれば…」

武道家「銃ねぇ…」ツカツカ

グシャア!!

>武道家は銃を踏み潰した! 銃は壊れた!

魔族D「ぬおおおおおおお!!」

武道家「これで、よし」

勇者(どっちが魔族だかわからないなぁ…)

あ、こいつのランク設定するの忘れてた

>>41
魔族D「おいどんと堂々と勝負するでごわす! どすこいっ!」



魔族D「ランク11位のおいどんと堂々と勝負するでごわす! どすこいっ!」

~~~~~~~~~~~~~

銃『あなた、最近太ってるわよ。そんなんじゃ、動けないんじゃないの?』

魔族D『動けなくても、銃があれば問題ないでごわす!』

銃『まったく、私がいないと駄目なんだから…』

~~~~~~~~~~~~~

魔族D「銃の仇ー!!」グワッ

武道家「ふっ」ピョイン

>魔族Dのつっぱり攻撃! 武道家は跳んで躱した!

グルン

武道家「せい!!」ダスン!!

魔族D「メポョァ!!」メキョ

>武道家の円月! 魔族Dに31のダメージ! 魔族Dを倒した!

勇者(跳んで攻撃を躱したら、そのまま前方に回転しながら…遠心力を使って踵落としか!)

勇者(…痛そうだなぁ)

武道家「これで、11位! 私もアズールに挑めるわ」

勇者「強いね、チサト…」

武道家「まぁね、もっと褒めていいわよ」フフン

勇者「でも、1位の奴の居場所がわからないんじゃ、どうしようもないな…」

武道家「う゛っ…」

勇者「どうしよう…」

賢者「そう言うと思って既に手段は考えております」

武道家「ひゃっ!?」ビクッ

勇者「ク、クレイさん!」

賢者「勇者様、お久しぶりですね」サワサワ

勇者「尻に触らないでください」

賢者「失礼。お詫びに私の尻をお触りください」プリッ

勇者「あのさ…」

武道家「えーと…テ、テオ。誰、この変な人」

賢者「おや。勇者様のお仲間でしょうか?」

武道家「武道家のチサトよ」

武道家「仲間かどうかは…うーん、今は一応、仲間なのかな…?」

賢者「そうですか。私はこういう者です」スッ

武道家「名刺!? ど、どうも…」

勇者「直接言えばいいじゃないですか。チサト、この人は旅の賢者の…」

武道家「えーと…『カンフーマスター クレイ』?」

勇者「肩書き変わってる!?」

武道家「そうだ、手段って言ってたよね。それって…」

賢者「ええ、アズールを呼び出す手段のことです」

武道家「本当に!? この町の誰も、この半年間戦ってないってのに…」

勇者「本当に、1位の奴を見つける手段があるんですか!?」

賢者「あります。まずは、中央管制塔に行きましょう」

勇者「中央管制塔って?」

武道家「この町の中央にあるでっかい塔のことよ」

ズーン…

勇者「わ。あんなのがあったのか、気づかなかった…」

武道家「あそこで、町の住民のランクや戦闘回数を管理しているの」

勇者「そうなんだ…そこに行けば、1位の奴に会えるんですね?」

武道家「でも、私が行った時にはそれらしき姿は見なかったけど…」

賢者「まぁ、とにかく来てみてください」

<中央管制塔>

ピンポンパンポン♪

『ランク1位のアズール様、アズール様。ランク2位のテオ様がお待ちです。至急、中央管制塔までお越し下さい』

賢者「これでよし」

勇者「あのさ…」

武道家「これで本当に来るの…?」

賢者「来ますよ」

勇者「いや、来ないって…」

タ タ ターン(←切ない感じのBGM)

勇者(そう…)

タラララ-ラーン

勇者(来るわけないよ…)

タタター タラララー

勇者(だって、だってあいつは…)

(BGMが止まる)

コツ コツ…

勇者「え…?」

1位「………」

勇者「あ…」

デーデーデーデーン デデデデーン デーン(←盛り上がる感じのBGM)

1位「…待ってて、くれたのか」

勇者「なんだこれはっ!」

1位「チョコパフェッ!!」バキッ

>勇者は素手で殴り掛かった! 会心の一撃! 1位の奴に76のダメージ!

1位「ぐっ、テメェ…せっかく来てやったのに何しやがる…」

武道家「あんたが、外出禁止令を出した、1位のアズールね?」

勇者「命令を解除しろ! さもないと…」

1位「ククッ、落ち着けよ勇者様」

勇者「!」バッ

1位「隠さなくていい。紋章なんかなくても、テメェが勇者だってことはとうにわかってるんだ」

勇者「お前、何者だ…?」

1位「オレの名はアズール」

勇者「それは知ってる」

1位「魔王軍四天王の、一人だ」

勇者「え!?」

四天王「ククッ…驚いたか? 驚いたよなぁ?」

勇者「魔王軍四天王って…何?」

武道家「っていうか、魔王軍って?」

四天王「てめぇら…」

四天王「いいか、魔王軍ってのは…」

賢者「魔王軍というのは、暗黒大陸に居を構える魔王の直属の配下達を指す言葉です」

武道家「単なる魔族とは違うの?」

四天王「そりゃ…」

勇者「そりゃ、違うよ。この辺にいる魔族達はいわゆるチンピラみたいなものだけど…魔王軍は本物の悪。血も涙もない軍隊なんだ」

武道家「ふーん…ナナリタじゃ聞いたことないから、知らなかった」

勇者「この大陸で2ヶ月以上も過ごしてるのに聞いたことないの…?」

武道家「うん」

四天王「そして、四天王…」

賢者「四天王は、魔王軍の中でも最強の実力を持つ4人です。つまり魔王に次ぐ実力を持つ者達ということですね」

勇者「そんな奴がどうしてここに!?」

四天王「てめぇら…」

四天王「オレはな、てめぇを待ってたんだよ。勇者」

勇者「僕を? どういうことだ?」

四天王「いいか? 今の…」

賢者「なるほど! 今の時代、外出禁止命令なんて出しても困る人はほとんどいない!」

賢者「でも、勇者様がこの町に来ればそうはいかない…この町のランク制度のせいで、縛られることになる…」

賢者「さらに、あなたはこの町に来たばかりの勇者様をいきなり2位の人をけしかけて最下位に落とそうとした!」

賢者「まぁ、予想外にも勇者様が勝ってしまったわけですが…しかし、それでも自分が残っている!」

賢者「そうやって、勇者様をここで足止めするつもりだったんですね!」

四天王「テメェいい加減にしろ!!」

武道家「うわ、いきなりキレた…」

勇者「カルシウム足りてないんじゃないかな?」

賢者「アーモンド小魚食べます?」

四天王「ぐぐぐ…」

勇者「って、ちょっと待ってよ。チサト、こいつは、1年以上前からここにいたんだよね!?」

武道家「そうね。私が来る前から、ずっとこいつが1位よ…」

勇者「ってことは…魔王軍は、1年前から僕が旅に出ることを知っていたのか!?」

四天王「ハッ、人間どもが何をしようが魔王様にはお見通しなんだよ」

武道家「ふーん…テオとは関係なく、弱いからこの町に追いやられたのかと思った」

四天王「あ…? テメェ、今なんつった」

武道家「だってさ。半年間誰も戦ってないんだよね? それって、どっかに引き蘢って隠れてるからでしょ?」

四天王「は? ちげーし、隠れてなんかねーし。誰も挑んでこないだけだし」

武道家「へぇ、じゃあなんで私は外であんたのこと見たことないのかしらね?」

四天王「それは…ちょっと外に出るのが面倒なだっただけだし」

勇者「あのさ…」

武道家「あんた、本当に強いの?」

四天王「あん?」

賢者「ま、最初の四天王なんて、『奴は四天王の中でも最弱…』とか言われるのが役目ですからねぇ」

四天王「フン…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

武道家「え、地面が揺れてる…!?」

勇者「な…!? なんだ、この圧力は…!!」

賢者「勇者様、私怖ーい」

勇者「近寄らないでください」

四天王「てめぇら…何か、勘違いしてるようだな」

勇者「なに?」

四天王「何故、オレが最初の四天王だと? 何故、オレが四天王で最弱だと思った?」

勇者「そういうものなんじゃないの?」

四天王「違うね」

勇者「僕の魔王討伐の旅がなんかおかしい」

四天王「そもそも、オレ達四天王の中で強さの序列は存在しない。皆等しく最強だ」

勇者「どういうこと?」

四天王「体術、武器術、魔術、科学…単純に強さと言っても、様々な分野があるだろ?」

武道家「それは、確かに…」

四天王「強さってのは一面的なものじゃねぇ。オレ達四天王は、それぞれの分野で最強の力を持つ」

勇者「な…」

四天王「そして、1つのことならば…魔王様をも凌ぐ力を持つんだよ!!」

勇者「なんだって…?」

四天王「そして、オレは四天王の中で一番…」

勇者「…!」

四天王「歌が上手い!」

勇者「………」

>勇者は四天王を倒した!
>勇者はレベルが上がった!

>>58
一行目ミス。ミス多すぎィ

四天王「フン…勇者って奴も、なかなかやるじゃねぇか」

四天王「いいだろ。今日のところは、引き上げてやるよ」

勇者「いや、そっちの負けでしょ?」

四天王「負けてない、負けてないから。よくて引き分けだから」

四天王「って言うか、武力勝負だなんて最初から言ってないし? そっちが勝手に勘違いしただけだし?」

四天王「仕方ないから外出命令は解除してやるわー。オレもこんな町にいつまでもいられないしー」

賢者「ランカーが外に出たら、命令は解除されます」

四天王「じゃ、そういうことで。また今度決着つけてやるよ」

スタスタ…

勇者「………」

賢者「アズールはこうして、負けを認めないことで自分のランクを守ってきたんです」

勇者「くそっ…魔王軍め、なんて卑劣な奴らなんだ…!」

武道家「子供っぽいだけじゃない?」

賢者「では、私はこれで」

勇者「はい。まぁ、ありがとうございました」

賢者「感謝していると言うのなら、その証拠に…」

勇者「嫌です」

賢者「何も言ってないのに…勇者様のい・け・ず」

>賢者はワープの魔術を唱えた! 賢者は飛んでいった!

勇者「………」

武道家「さて、と。私も行こうかな。もう、この町にいる意味もないし」

勇者「あっ! チサト!」

武道家「? なに?」

勇者「チサトは、どこに行くつもり?」

武道家「うーん、そうね…特には決めてないわ。ぶらぶらと、強い奴探すつもり」

勇者「それだったら、さ…僕と一緒に旅しない?」

武道家「あんたと? ってことは、魔王討伐の旅になるのよね」

勇者「うん、勇者だからね」

勇者「きっと辛い旅になると思うけど、チサトが一緒なら心強いと思う」

武道家「うーん、どうしよう…」

勇者「お願い! チサトに来てほしいんだ!」

武道家「魔王を倒せば私が世界最強ってことになるわね…」

勇者「え?」

武道家「わかった、いいよ!」

勇者「あ、ああ…うん? ありがとう?」

武道家「それじゃ、改めて…よろしくね!」

>武道家が仲間になった!

その頃、魔王城…

魔王「アズールの奴が負けたか…」

部下「いえ、負けていません。本人はそう主張しています」

魔王「…何故、奴が四天王なのだ? 奴より力の勝る者などいくらでもいるだろう」

部下「彼はあれでなかなか有能な男ですよ」

魔族「行動力は認めるがな。魔族は力が全て、旅を始めた勇者も倒せぬ奴など…」

部下「でもカラオケだと魔王様、アズールには絶対勝てませんよね」

魔王「ぐ…」

部下「と言うか…魔王軍の全員と比べても、下から数えた方が早いですよね」

魔王「ええい、黙れ! 機械での採点など何の参考にもならん!」

魔王「そもそも歌など所詮人間どもが作った娯楽ではないか! 魔族になど必要はない!」

部下「そう言うと思って世界中のカラオケを破壊しておきました」

魔王「おのれ…」

武道家「さぁ、しゅっぱーつ!」タッ

ピタッ

武道家「…で、どこに行くの?」

勇者「うーん、そうだなぁ…何も考えず進んでも駄目だよね」

村人「おう兄ちゃん、魔王討伐の旅をしているんだって?」

勇者「あ、はい。どこで聞いたのかわかりませんけどそうです」

村人「魔王の下に辿り着くには、この光の大陸から魔王城のある暗黒大陸まで行かなきゃならないぜ」

村人「西へ行けば、シライムの港町に着くが…今は魔族の船しか出てないんだ」

勇者「今の時代、外に行く人もいないし水棲魔族やらもいるからね…」

村人「残念なことに、人間は魔族の船には乗せてくれねぇ」

勇者「そりゃ、そうですよ」

村人「大金を払わなけりゃな」

勇者「あのさ…」

勇者「金払えば乗せてくれるんだ…」

武道家「そうそう、あいつらめっちゃ高い金要求するのよね」

勇者「そういえば、チサトはナナリタ出身ってことは…自然大陸から来たんだよね。魔族の船で来たの?」

武道家「いや、泳いできた」

勇者「そうなんだ…」

村人「ここから南にあるサンバルトの町に行ってみな!」

武道家「サンバルト? そこに、何かあるの?」

村人「そこに住む富豪達なら、何かいい手段を知ってるだろうぜ!」

勇者「何かいい手段って、曖昧だな…賞金でも出してるんですか?」

武道家「それとも、誰かが船持ってるとか?」

村人「サンバルトの町に行ってみな! そこに住む富豪達なら、何かいい手段を知ってるだろうぜ!」

勇者「あのさ…」

武道家「よし、次の行き先はサンバルトね!」

勇者「いいのか…? こんなんで…」

武道家「どうせ、他に行くあてなんてないんでしょ? 港町に行っても、今のままじゃ暗黒大陸に行けっこないし」

勇者「それはそうだけど…」

勇者「いや、そうだね。悩んでるくらいなら行ってみた方がいいか」

ガラガラ…

御者「そこのお二人さん!」

勇者「はい?」

武道家「馬車だ。初めて見た」

御者「サンバルトに行くんだろう? 歩いていくつもりかい?」

勇者「そのつもりですけど」

御者「外は危険だよ! 馬車に乗っていった方がいいよ!」

馬「ヒヒーン」

勇者「馬車だってさ。どうする、チサト? 乗っていこうか?」

武道家「いいんじゃない。この辺、あんまり強い奴とかいなさそうだし」

勇者「そこなんだ」

御者「どうする? 1人10Gだよ!」

勇者「安いな…じゃあ、せっかくなので乗っていきます」

御者「そうですか! ありがとうございます!」

武道家「急に敬語になったわね」

御者「2人で20Gです!」

勇者(20Gくらいなら、僕が払うか)

勇者「はい」チャリン

御者「では、後ろの客車にお乗りください!」

勇者「わかりました」ガタッ

勇者(ありゃ、結構狭いな…)

武道家「よっと」

勇者「わ!?」

武道家「うわ、狭っ。テオ、もうちょっと詰めてよ」グイグイ

勇者「え、ちょ、ちょ、ちょっと…!?」

武道家「何? どうかした?」ムニュ

勇者(当たってる…鍛えてるとか言ってる割には、柔らかいぞ…)

勇者「い、いや、なんでもない…」

武道家「私、馬車って乗るの初めて」

勇者「へ、へぇ…そ、そ、そうなんだ。僕もそうかな…」

武道家「どうしたの、テオ? なんか変だよ」

勇者「ば、馬車、もう出してください!」

御者「はい、今出します!」ガシッ

馬「ヒヒーン」ストッ

勇者「…ん?」

御者「では…」

>御者は体にロープを巻いた!

馬「さてと…」ヒョイ

>馬は鞭を持った!

馬「オラ、さっさと歩け!」バシッ

御者「はいぃ!!」グイッ

勇者「あのさ…」

馬「コラァッ! 何足止めてんだ!」バシッ

御者「ひぃっ! ありがとうございます!」

ガラガラ

勇者(なんか色々とどうでもよくなってきた…)

御者「ぜぇ、ぜぇ…」

ガラガラ…

勇者「あの…大丈夫なんですか? これ…」

武道家「めっちゃ肩で息してるけど…」

馬「あ、やべ」

勇者「ど、どうかしました? やっぱり、何か…」

馬「俺、蹄だから鞭とか持てなかったわ」ポイッ

勇者「あのさ…」

御者「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

馬「ご搭乗ありやとやんした。気をつけてお降りくだせぇ」

勇者「どうも…」

馬「なぁなぁ兄さん、馬車の中で女の子と密着してたでしょ? どうでした? 刺激的でした?」

勇者「馬が喋ること以上に刺激的なことなんてないよ」

馬「冗談の通じねぇ方だ」

勇者「存在自体が冗談みたいなくせに…」

武道家「テオ、何話してたの?」

勇者「なんでもないよ。ここがサンバルトか…」

<富豪の町 サンバルト>

武道家「何十人が住めそうな豪邸が並んでるわね…」

勇者「富豪達が集まる町って言ってたね。きっと住んでるのは金持ちばかりなんだろう」

武道家「そっか、こんなにいるんなら、中には船持ってる人もいるかも!」タッ

勇者「あ、ちょっと待ってよチサト!」

武道家「え、何?」

勇者「今日はもう遅いよ。あそこにある宿屋に泊まろう」

武道家「うーん、それもそうね。じゃ、そうしましょ」

勇者(あれ? でも…宿屋って、どうするんだ?)

勇者(まさか、チサトと同じ部屋? いやいや、そんなの駄目だろう…)

勇者(しょうがない。お金はかかるけど、別々に部屋を取ろう…)

カランカラン

宿屋「いらっしゃいませ」

勇者「すみません、部屋を二つ用意してもらえますか?」

宿屋「部屋二つで一泊200000Gになります」

勇者「あのさ…」

武道家「200000Gとかナナリタなら家が建つわよ」

勇者「どこでも建つよ…国の予算が10Gしかないところだってあるんだから」

宿屋「まさか、200000Gも払えないのですか!?」

勇者「そもそも、そんな大金持ち歩く人いないと思うんだけど…」

宿屋「だったら…」ゲシッ

勇者「わっ!?」

宿屋「金のない奴に用はないぜ! 出て行きな!」

勇者「くそっ、覚えてろよお前…」

武道家「どうする、テオ?」

勇者「こんなところにいられない、他の所に行くか…」

宿屋「うちはこの辺で一番安いんだ、金のない奴は貧民街にでも行きな!」

武道家「貧民街?」

宿屋「町の裏の方にある、金のない連中が集まる集落さ! そこならお前らみたいな貧乏人でも泊まれる宿屋があるかもな!」

勇者「くそっ…あいつ、微妙に親切にしやがって…」

武道家「いいじゃない、別に」

勇者「ひとり一泊100000G…それがこの辺で一番安い、か」

武道家「こういう町なんでしょうね。よく見れば、悪趣味な装飾してる家が多いわ」

勇者「で、こっちにあるのが貧民街…か…」

<サンバルト 貧民街>

勇者「…なんだ、見た目は案外普通じゃないか。僕が住んでたイチャインの城下町より一回り二回り小さな村って感じ」

武道家「ほんと。貧民街とか言うくらいだから、もっとボロっちいの想像してたのに」

勇者「まぁ、よかったね。廃墟みたいなところで寝るのもなんだし」

武道家「私、そういうの気にしないよ。屋根さえあればオッケー」

勇者「少しは気にしようよ…」

タタタ

ドンッ

勇者「わっ!?」

「ご、ごめんなさい!」

タッタッタ

勇者「痛いな、もう…」

武道家「今、ぶつかった人…声と身長を見るに、女の子かな」

勇者「急いでたのかな?」

武道家「怪しいわね、こんな夜中に一人でなんて」

勇者「言われてみれば、そうだね。布なんて被っちゃって」

武道家「ねぇ、テオ。ちょっと追いかけてみない?」

勇者「え? まぁ、気にはなるけど…」

勇者「追いかけようにももう行っちゃったし。暗くて見えないよ」

武道家「これくらいの暗さなら、充分見えるし追えるわ」

勇者「え、そうなの? 僕は全然見えないけど…」

勇者「いや、でも今日はもう遅いし、休んだ方がいいんじゃない?」

武道家「うーん…まぁ、それもそっか」

勇者「あ、ほら。宿屋があるよチサト!」

カランカラン

宿屋「あっ、いらっしゃいませ!」

勇者「やっぱり、普通の宿屋だね」

武道家「外見はハリボテってわけじゃなさそうね」

宿屋「え?」

勇者「2部屋お願いします」

宿屋「あ、へい。2部屋で4Gです」

勇者「安いな!」

宿屋「ハハッ、安さだけが取り柄なもので」

勇者「それにしたって安すぎますよ…他のところは安くてもひとり一泊50Gはしますよ」

宿屋「え…そう? じゃあ50Gで」

勇者「あのさ…」

宿屋「外の値段を知ってるってことは、お客さん旅のもんでしょ? ケチケチしないでくださいよ」

勇者「まぁ、確かに旅してますけど…」

宿屋「うちはボロでさぁ、誰も寄り付かないんですよ。こういう時に取っておかないと」

武道家「ボロ? 宿屋って、こんなもんじゃないの?」

宿屋「お客さん、向こうの富裕層のとこの宿屋見てないんですか? すごいですよ」

勇者「200000Gとかいう正気とは思えない価格設定のショックでまともに見てませんよ…」

宿屋「あっちに比べればうちは馬小屋みたいなもんですよ」

勇者「どうしてあんなに宿代が高いんですか?」

宿屋「宿代だけじゃないですよ。物価も何もかも高いんだよこの町は」

武道家「なんでそうなっちゃったの?」

宿屋「物資が足りないんですよ。今までは他との貿易でまかなってきたけど、最近は魔族が外にいるから」

勇者「魔族…」

武道家「そっか。そうなれば、富豪達が物資を独占するために…」

宿屋「奴ら、金は腐るほどありますからね。消費した分もどんどん回ってくる」

宿屋「技術者も、生産者も…みんなあっちに行っちまった。明日食べるものにも困ってる有様で」

宿屋「作物を育てようとしても、魔族が荒らしにくる。金を持ってりゃ用心棒も雇えますが、それもできない」

宿屋「宿の値段を上げようにも、金持ってる人はあっちの宿屋行っちまうしこんなボロ宿じゃどうしようもないんですよ」

勇者「魔族の影響はこんなところにも出ているのか…くそっ!」

カランカラン

魔族「すみませーん、一部屋お願いします」

宿屋「へい、2Gです」

勇者「あのさ…」

宿屋「それでお客さん、泊まるの? 泊まらないの? 二部屋で50Gね」

勇者「泊まりますよ。今の光景見たら凄い理不尽に感じますけど…」

ゴソゴソ

勇者「ん」

勇者「ん、ん、あれ」

武道家「どうしたの?」

勇者「金が…ない…ど、どこかに落としたのかな…」

武道家「ええっ!?」

勇者「あの、こんなこと聞くのもなんだけど…チサトはお金持ってない…?」

武道家「ニールの町にいた時は、金とか必要なかったから」

勇者「ああ、そう…」

宿屋「金のない奴に用はないぜ! 出て行きな!」ゲシッ

勇者「あのさ…」

勇者「くそっ、覚えてろよあの野郎…」

武道家「しょうがないなぁ。宿屋で寝るのはもう諦めるしかないわね」

勇者「え…いやいや、駄目だってそんなの」

武道家「大丈夫よ、慣れてるし。金がないんなら仕方ないでしょ」

勇者「そ、それは…そうだ、装備を質に入れよう!」

武道家「装備って…その剣とか盾とか?」

勇者「物価が上がっているってことは、これでも買った時より凄い値段になるはずだ…ふふふ…」

………

質屋「うーん…全部で20Gってとこだね」

勇者「え」

質屋「中古だし、このままじゃ誰も買わないし値段つかないよ」

質屋「この盾の鉄の部分だけは融かして再利用できるかもしれないから、職人が買うだろう。これで20G」

勇者(そうか、富豪達は人の手についたものはよほど『いいもの』でなければ買わないのか…)

勇者「仕方ない、鉄の部分だけでも質に入れよう…」

武道家「だから、大丈夫だって。そこまですることないわよ」

勇者「でもチサト、このままだと野宿することになっちゃうよ」

武道家「野宿?」

勇者「さっきの宿屋だってあんな態度だったし…一文無しを泊めてくれるところなんてないよ」

武道家「この町にも教会はあるでしょ」

勇者「え…教会?」

武道家「教会ならお金がなくても一晩くらいは泊めてもらえるし、毛布くらいは貸してもらえるわよ」

勇者「あ。そうか、その手があった! よくそんなこと思いついたね」

武道家「こっちの大陸に来た時、お金とか持ってなかったから。しょっちゅう泊めてもらってたのよね」

勇者「なるほどなぁ、それなら金なんていらないよね! よし、教会に泊めてもらおう!」

武道家「現金だなぁ」

スタスタ

質屋「………」

<サンバルト教会>

勇者「お邪魔します」ギィ…

僧侶「あら…」

勇者(シスターさんかな? 見たところ他に人はいないようだけど)

僧侶「迷える子羊さん達でしょうか?」

武道家「はぁ」

勇者「えっと、僕達泊まる場所がなくて。ここで一晩、泊めてもらえませんか?」

僧侶「泊まる場所なら、貧民街に安い宿がありますよ」

勇者「実は、お金を落としてしまって…」

僧侶「え? あ…」

武道家「…?」

僧侶「そうでしたか、それは災難でしたね…」

勇者「じゃあ!」

僧侶「でも、教会に泊まるのは駄目です」

勇者「あのさ…」

勇者「チサト、話が違うじゃないか」

武道家「大丈夫よ。教団は教えにより同族に武力行使はできないはずよ」

勇者「? だから?」

武道家「居座りましょう」

勇者「あのさ…」

僧侶「よいしょ…では、こちらに」

勇者「? どうしたんです、荷物まとめて」

僧侶「私の家にどうぞ。ちょうど2人くらいなら泊められますから」

武道家「え、いいの?」

勇者「そ、そこまでしてもらわなくても。チサト…こっちの子はともかく、僕は教会のイスで充分ですよ」

僧侶「そもそも私に権限はありませんから」

勇者「あ、流石にシスターさんが勝手に決めるのはまずかったりするんですか?」

僧侶「いえ、私別にシスターでもなんでもないペーパー僧侶ですから。ここにはたまたま寄っただけでして」

勇者「あのさ…」

僧侶「ここが私の家です」

武道家「へぇ、割と大きいわね。家族で住んでるの?」

僧侶「今は、一人ですね」

勇者「一人暮らしなら、やっぱり知らない人を泊めるのってまずいんじゃ…」

僧侶「そうですね…私はこの町の僧侶でエルナールと言います」

勇者「へ?」

僧侶「私の名前です。どうぞ、エルと呼んでください」

勇者「あっ…僕はテオ、勇者です。魔王討伐のためイチャインの城下町から旅をしてます」

武道家「チサトよ。ナナリタ出身」

僧侶「勇者様だったんですか!? それにナナリタって…遠い所から来てるんですね」

勇者「あの…?」

僧侶「なんにしても…ふふっ、これで知らない人じゃないですよね?」

勇者「はぁ」

勇者(変な人だ…)

僧侶「なるほど…海を越えるために船が必要なんですね」

武道家「そうそう。私は泳いでいってもいいんだけど」

勇者「無理だよ。暗黒大陸にいる魔族はこの大陸とは比べ物にならないよ」

僧侶「ふふっ」

武道家「それにしても、この野菜のスープ美味しいなぁ…久々に人間らしい食事ね」

勇者「よかったんですか? この町じゃ食料代も馬鹿にならないんじゃ」

僧侶「自分の畑を持っていますから。慣れないことであまり質はよくありませんが、そうでもしないと食べていけませんし」

勇者「泊めてくれるだけでなく、こんなによくしてもらえるなんて…僕達、一文無しなのに」

僧侶「いえ、だ…」

勇者「?」

僧侶「…今の時代、旅の方なんて珍しいですから。お話を聞かせてくれるお礼ですよ」

勇者「そうですか…?」

武道家「むにゃむにゃ…」

勇者(チサトは食べたらすぐ眠ってしまった。猫みたいだ)

勇者(それにしても…)

勇者(ノリでここまで来てみたけど、一文無しに船を貸してくれるところなんてあるのか?)

勇者(いや、そもそも相手は富豪なんだ。金があっても…)

僧侶「勇者さんはまだお休みにならないのですか?」

勇者「あ、エルさん。ちょっと考え事があって」

僧侶「船のこと、でしょうか」

勇者「はい。よく考えたら、僕みたいな人間に無償で貸しても何も得することないし…」

勇者「船を貸してくれる人なんていないんじゃないかって思って」

僧侶「そうでもないですよ」

勇者「へ?」

僧侶「富豪達は金銭感覚が壊れてますから。相当の金額でなければ何かを売ったり貸したりすることはないでしょう」

勇者「う…やっぱりそうかな…?」

僧侶「ですが、今は魔物達のせいで閉鎖的な時代。金でなんでも手に入るというわけではありません」

勇者「僕、これと言って何も持ってないけど…」

僧侶「勇者さんは旅をしているんですよね?」

勇者「ええ、そうですけど」

僧侶「それだけで、彼らにとっては充分価値はあります」

勇者「どういうことですか?」

僧侶「富豪達は危険な外に出ることはしませんが…この町では手に入らないもの、外の話など欲しいものはたくさんあるはず」

勇者「! そうか…」

僧侶「今、持ってるかは関係ありません。外に出られる人間ならば投資する意味は充分あると言えます」

勇者「それじゃ、僕が頼めば貸してくれるって人は結構いるかもしれないのか」

僧侶「はい。勇者さんはその紋章もありますから、信用も充分だと思いますよ」

勇者「そっか…それならなんとかなるかもしれない」

僧侶「よかったら、私が知っている富豪の方に紹介しましょうか?」

勇者「本当ですか! 何から何まで助かります」

僧侶「…いえ、これくらいはさせてください。それより…」

勇者「?」

スッ

僧侶「紹介料」

勇者「無一文なんですけど」

僧侶「冗談です。富豪の方からたっぷり搾り取るので大丈夫ですよ」

勇者「あのさ…」

僧侶「さて…そうなると明日は早いですよ。勇者さんもそろそろお休みになられては?」

勇者「そうですね、寝るとするか…」

勇者(…そういえば)

僧侶「?」

勇者(エルさん…エルナールって言ったっけ。この人)

勇者(なんだろう、どこか見覚えがあるな…)

僧侶「あの…」

勇者(どうしてだ? 幼馴染のリリカ…とは特に似てるわけじゃないし)

僧侶「なにか?」

勇者「へ? あっ…」

僧侶「あまり見つめられると照れてしまいます」

勇者(顔をじっと見てるのを気づかれたか…なんか恥ずかしいな)

勇者(直接聞いてみようか)

勇者「あの」

僧侶「はい?」

勇者「僕達、どこかで会いませんでした?」

僧侶「あら…もしかして私、口説かれてます?」

勇者「!?」

僧侶「勇者さんったら、結構だいたんなんですね…」

勇者「違う! 口説いてるわけじゃない!」

僧侶「でも、ごめんなさい。私、たくましくて男らしい人が好みなんです」

勇者「だから…」

僧侶「勇者さんはちょっと童顔すぎて」

勇者「あのさ…」

勇者(くそっ、勘違いされた上にフラれた…なんだこれは…)

勇者(そして次の日、僕達は豪邸の建ち並ぶ町の中でも、ひときわ大きな屋敷に連れて来られた)

僧侶「ここです」

武道家「こ、こんなところ入って大丈夫なの…?」

僧侶「ええ、大丈夫ですよ。失礼しまーす」

ギィィ…

メイド「ようこそいらっしゃいまし…げっ」

僧侶「おはようございます」

メイド「エ、エルナール様…おはようございます」

僧侶「今日はそっちの目的じゃないので安心してください。ご主人は在宅ですか?」

メイド「は、はい…こちらへどうぞ」スッ

勇者「…そっちの目的?」

僧侶「こっちの事情です」

武道家「『げっ』て言ってたけど」

僧侶「こっちの事情です」

ガチャ

メイド「旦那様、お客様です」

富豪「おやぁ…?」

勇者(そこにいたのは無駄に着飾った脂ぎったデブだった。見るからに成金って感じの人だ)

僧侶「おはようございます」

富豪「おやおや、エルナール。何の用かね? カノンなら今はおらんぞ」

僧侶「いない? …いえ、本日は別件ですよ。紹介したい方々がいまして」

富豪「紹介? ふむ…」

勇者「は、はじめまして」

富豪「! その紋章は…もしかして、貴方様は勇者では!?」

勇者「は、はい。イチャインから来た勇者テオです」

富豪「ほうほう、と言うことはイチャインの国王に任命されたのですか…」

富豪「こちらのお嬢さんは?」

武道家「ナナリタから来た、チサトよ。テオの仲間」

富豪「ナナリタ…自然大陸ですな。それはそれは、この光の大陸まで遠かったでしょう」

武道家「はぁ」

富豪「しかし…いやはや! まさか、このようなせせこましい場所に勇者様が来てくださるとは!」

武道家「イヤミか」

富豪「ほ?」

勇者「チ、チサト! やめなってそんな堂々と言うの」

富豪「いえいえ、正直でよろしいことです」

勇者「ってことはあなたもせせこましいってのは厭味みたいなものだとわかってるんですね…」

富豪「え?」

勇者「いえ。なんでもないです」

富豪「しかし、旅をしているというのなら…何か一つ、土産話でも聞かせてもらいたいものですな」

勇者「土産話ですか…? それじゃ、城下町の生活と、これまでの旅のことを」

武道家「じゃあ、私はニールで一ヶ月過ごした話とか」

勇者(僕とチサトは、これまでのことをまとめて話した)

富豪「ほほう、今、他の町はそうなっているのですか…なるほど興味深い」

勇者(富豪の人は本当にこのサンバルトから外には出ないようで、大した話でもなさそうなのに、何度も頷いていた)

富豪「これは心ばかりの礼です、どうぞお収めください」ドサッ!

勇者(目の前のテーブルに、札束が山積みにされた!)

勇者「そ、そ、そ、そんな! 貰えませんよこんな!」ススッ

武道家「そ、そうよ! こんな話だけでポンとこんな大金出すなんて…」ススッ

僧侶「二人とも、ちゃっかり懐に入れてるじゃないですか」ススッ

メイド「あなたも入れてますよね…」ススッ

富豪「いえいえ、私の退屈を紛らわせてくれたのですから。これくらいは端金ですよ」

武道家「イヤミか」

富豪「ところで、お二人は何故私のところへ?」

武道家(ねぇ、このお金で魔族の船に乗せてもらえるんじゃない?)

勇者(どうだろう…お金があっても、チサトはともかく、勇者の僕を乗せてくれるとは思えないな…)

勇者(乗せてもらえても何をされるかわからないし、安全のためにはやっぱり自分で船を用意した方がいいと思う)

富豪「あの?」

勇者「あ、すみません。僕達、暗黒大陸に行くために船が必要なんです」

僧侶「船、持ってましたよね? 勇者さん達に貸してもらえませんか」

富豪「魔王討伐の旅、ですか…ふーむ…」

武道家「お金なら出すわよ」スッ

富豪「それ、私が先程出したお金ですよね?」

勇者「暗黒大陸に行き、魔王を討伐するためにもあなたの協力が必要なんです。お願いします!」

富豪「うーむ…」

武道家「何か問題でもあるわけ?」

富豪「いえいえ、私としても勇者様のお役に立てるのであれば協力したいのは山々なのですが…」

僧侶「外部の人間との取引で儲けてきた身としては、魔王がいなくなったら困りますか?」

富豪「ぬ?」

僧侶「みんなが簡単に外に出られるようにならば、今までのように閉鎖的な場で稼ぐことができませんからね」

富豪「まさか。私はもう何が起ころうと使い切れないほどの金を得てるのですよ? 何が困ると言うのです」

武道家(この二人、なんかギスギスしてない?)

勇者(うん…何かあるのかな)

富豪「その前に、勇者様に一つ頼みたいことがあるのですよ」

勇者「なんですか?」

富豪「実は…今朝起きたら、ペットのミリーちゃんがいなくなっていましてね」

僧侶「………」

富豪「ミリーちゃんの身に何かあったらと思うと、不安で不安で…何も手につかないのです」

勇者「はぁ」

富豪「どうか、お願いします! ミリーちゃんを探してきてください!」

武道家「そこまでヒマじゃないって…むぐっ」グイ

勇者「そのミリーちゃんを見つけたら、船を貸してくれるんですね?」

武道家「むー!!」

富豪「ええ、ええ! 見つけてくださればそのくらい、喜んで用意させてもらいますとも!」

勇者「よし、決まった。どこら辺にいるか、見当はつかないんですか?」

富豪「そうですねぇ…いなくなったのは昨日の夜から今朝までの間ですし、このご時世ですから。あまり遠くには行ってないかと思われます」

勇者「じゃあ、町の中にいるかもしれませんね」

富豪「いえ…起きてすぐに、家の者にミリーちゃんの捜索に行かせましたが…町の中にはいませんでした」

勇者「じゃあ、魔族のいる外に行ってしまったかもしれないと…?」

富豪「だから、勇者様にお願いしたいのですよ」

富豪「この町の東に森があります。ミリーちゃんは自然が好きですからね…そこにいると思います」

勇者「森ですか…わかりました」

僧侶「…! ちょっと待ってください!」

勇者「エルさん?」

僧侶「カノンがいないって…まさか、あの森に行かせたんですか!? あそこがどんな場所かわかっていて!」

富豪「ええ。ですから、ミリーちゃんに何かあったら大変ですからね」

僧侶「くっ!」ダッ

勇者「あ、エルさん! …行っちゃった」

勇者「カノン…って誰なんです?」

富豪「カノンは我が家のメイドの一人ですよ。エルナールの妹です、そこのチサトさんより小さいのではないでしょうか」

武道家「そんな子供を外に出したの?」

富豪「ミリーちゃんを逃がしたのはエルナールでしょうからね。その責任はカノンに取ってもらいますよ」

勇者「エルさんが…?」

武道家「ねぇ、東の森って何かあるの?」

勇者「まさか、魔族達が潜んでいるんじゃないか? そんな所に女の子一人やったらどうなるかわかっているのか」

富豪「いえ、あの森に魔族達はいないでしょう」

勇者「え、あれ、そうなの?」

富豪「コンパスがないとあの森からは出られませんから。あの森には神聖な力がある、魔族が何日も生き延びることはできませんよ」

勇者「魔族だって、コンパスくらい持ち歩くと思うけど」

富豪「それはないです。ミリーちゃんに森林浴を堪能させるために、この大陸のコンパスを買い占めましたから」

勇者「あのさ…」

勇者(そして、僕達は富豪の人からコンパスを貰って森に向かうことになった)

武道家「ペットの森林浴のためにコンパスを買い占めるって…」

勇者「元々、魔族達のせいで人は外にはあまり出られないし…コンパスがなければ出られない場所だっていうなら、そんなところには誰も寄り付かないだろうからね」

武道家「何も、森に入るためだけに使うものじゃないでしょうに」

勇者「ペットのミリーちゃんが余程大事なんだろうね。…人間よりも」

武道家「なんか、気に入らないわねああいうの。反吐が出るわ」

勇者「そんな人から貰ったお金を懐に仕舞った時点でもう説得力ないよ」

武道家「テオだって、そうじゃない。それに、結局言われた通りペット探しすることになってるし」

勇者「まぁ、あの人の機嫌とって船が貰えるなら安いもんだよ。他にあてもないしさ」

武道家「テオも結構現金よね…」

勇者「僕達の目的はあくまでも魔王討伐だからね」

6時間後…

武道家「あ、テオ! 森が見えてきたわよ!」

勇者「遠いよ!!」

武道家「わっ」

勇者「何が東の森だよ! 気軽に言いやがって、これほど歩かされるとは思わなかったよ!」

武道家「徒歩なら、こんなもんじゃないの?」

勇者「そうかもしれないけどさ…うぅ、森に入る前なのにもうクタクタだよ」

武道家「ほら、しっかりしてよ。これから、ペット探ししなきゃいけないんだから」

勇者「チサトは平気そうだね…すごいな」

武道家「鍛えてるからね」

勇者「僕も鍛えてる方だと思ったんだけど…」

武道家「装備の差もあると思うけどね。荷物は、全部テオが持ってるでしょ」

勇者「あ、そうか。なるほどなぁ。そう思うなら少し持ってよ」

武道家「はいはい」

勇者(こうして僕達はペットのミリーちゃんを探すために森に足を踏み入れた)

勇者(森は中々に大きく、僕達はあてもなく彷徨っていた…)

武道家「テオ、大丈夫? 大分疲れてるみたいだけど」

勇者「はぁ、はぁ…こんな時、回復魔術でも使えればよかったんだけど」

武道家「回復…あ、そうだ。いい方法があるわよ」

勇者「え、何?」

武道家「人間の体には、いくつか力の流れをコントロールできるポイントがあるの」

武道家「そこを突くことで、一時的に活力を取り戻すこともできるのよ」

勇者「へぇ、そんなことができるんだ。それじゃお願いしようかな」

武道家「わかった。そこっ!」ヒュッ

勇者「うご」ドボォ

>武道家の水月! 会心の一撃! 勇者に84のダメージ!

勇者(僕の腹にいい感じに突きが刺さった)

武道家「ん…? あれ…ちがったかな…」

勇者「あのさ…」ガクッ

武道家「どうしよう、これ…」

勇者「………」

武道家「それにしても、ちょっとおかしいわね。いくらここまで来るのに疲れてるって言っても、森を歩いただけでここまで消費するなんて」

ガサッ

武道家「! 誰!?」

魔族A「あぁ…? 人間だ…人間がいるぞ…」

武道家「ま…魔族!?」

魔族B「しかも女の子ですぜ…へへっアニキ、やっちゃいます?」

魔族A「馬鹿野郎!」

魔族B「!」ビクッ

魔族A「俺は女なんかに興味はねぇよ。あるのは、お前だけさ…」

魔族B「アニキ…」キュン

勇者「あのさ…」

武道家「テオ、気がついたのね」

勇者「うん、なんか言わなきゃならないような気がして…」

魔族A「ん? その紋章…勇者か?」

魔族B「なんだと! 勇者が俺達の愛の巣に何の用だ!」

武道家「愛の巣とか言うのやめてくれない? 気持ち悪いから」

勇者「この森は神聖な力があるから魔族は留まれないんじゃなかったのか…?」

魔族A「はぁ、神聖な力だぁ? この森は闇の魔力に満ちた暗黒パワースポットだぜ?」

勇者「暗黒パワースポット…!?」

魔族A「我ら闇の者は力を得て、勇者、おまえのような光の者は力を奪われるんだ」

魔族B「光の大陸じゃ、ここほど快適なところは他にないぜ」

勇者「全く逆じゃないかあのクソデブが…」

勇者(この世界の生き物は、光と闇の二極が存在する)

勇者(その存在が極端に正に近ければ光、逆に極端に負に近ければ闇とされる)

勇者(光の者は神に祝福された存在と言われ、この光の大陸ではどこでも重用される。一般的に、風や雷などの無形の魔術を得意とする)

勇者(また闇の者は災いを呼ぶと言われているため、魔族だろうが人間だろうがそこらの犬だろうが、忌み嫌われる傾向にある。炎や氷など有形のものを歪める魔術を得意とする)

勇者(魔族は度合いは違えど、全員闇だ。これは魔族が特殊なだけで、他の生き物はすべて光の場合もあれば闇の場合もある)

勇者(ちなみに僕は…と言うか、歴代の勇者はみんな純度100%の光の者だ)

勇者「森に入ってからの妙な疲れはこのせいか…」

武道家「私は特になんともないけど」

勇者「チサトは自然なんじゃないの。自然大陸出身だし」

勇者(また、どちらにも属さない者もいる。光と闇の中間…自然だ。極端な正や負でなければ、自然とされる)

勇者(自然は、なんと言うか…普通の人だ。自然の力である水や地の魔術を得意とすることから光や闇とこう呼ばれている)

手が滑った

>勇者(自然は、なんと言うか…普通の人だ。自然の力である水や地の魔術を得意とすることから光や闇とこう呼ばれている)

勇者(自然は、なんと言うか…普通の人だ。自然の力である水や地の魔術を得意とすることから光や闇と分類するためこう呼ばれている)

魔族A「この森は、いわば魔族のホームグラウンド…そんな雑巾同然の勇者が俺達に勝てるかな?」

勇者「くそっ、いつもの力が出せればこんな奴らなんかに…!」

武道家「こんな雑魚ども、私が蹴散らすわよ」

魔族B「アニキ、俺こわーい」

魔族A「よしよし、俺が守ってやるからな」

武道家「」イラ…

シュボッ!

勇者「何!?」

>魔族A・Bの愛の炎! ラブファイヤーが巻き起こる!

勇者「ぬわーーっっ!!」

>勇者に24のダメージ! 勇者は倒れた!

武道家「きゃ!」

>武道家に27のダメージ!

魔族A「どうだ、これが闇の力だ!」

勇者「あのさ…」ガクッ

魔族A「クックック、勇者の奴は倒れたな! 次はお前だ!」

魔族B「へっへっへアニキ、俺達の無敵の愛を見せつけてやりましょうぜ」

武道家「くっ、こんな気持ち悪い連中に…」

魔族A「食らえ、愛の炎!」

??「シールド」ボソッ

>??はシールドを発動した! 魔族達の周囲に、ドーム状のシールドが展開される!

魔族A「何!?」

魔族B「こ、これじゃ炎が外に行かねぇ、この中に…」

>魔族A・Bの愛の炎! ラブファイヤーが巻き起こる!

魔族A「熱ゅい、熱ゅい!」

>魔族Aに49のダメージ! 魔族Aを倒した!

魔族B「ア、アニキィィィィッ!!」

>魔族Bに49のダメージ! 魔族Bを倒した!

ピーポーピーポー

救急隊「大丈夫ですか!? 気をしっかり持って!」

ピーポーピーポー

>魔族達は救急車で運ばれていった!

勇者「なんだ今のは…」

武道家「そんなことより…さっきの魔術は誰が?」

僧侶「あら…」

勇者「エル…さん?」

僧侶「魔族に襲われているから、もしかしたら、と思いましたが…違ったみたいですね」

勇者「今のは、あなたが? ありがとうございます」

僧侶「………」スタスタ

勇者「あれ?」

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