女賢者「人間、ということ」 (34)

初めてのssです。

初めてであるが故に、ミスが多く目立つと思いますので、皆様の辛辣且つ的確なご指摘をお願いします。

なお、このssには一部、過激と感じる表現が含まれている可能性がありますので
免疫のない方はご自身のために閉じて頂ければ幸いです。

では、投下を開始致します。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397647962

 あれは、私が10歳の誕生日を迎えた日の夜の事でした。

友達たちと遊びまわって、家ではお誕生日会。
疲れるのも無理はないと悪魔でさえ頷くほど、ぐったりしていました。

 そのとき丁度、ベッドに大の字で俯せになっていた私は、このまま寝てしまおう、そう思っていました。



――刹那、眩い光をこれでもかという程、辺りに撒き散らし部屋を駆けていく乱暴な稲妻が現れたのです。



 私は驚き、疲れも忘れて飛び起きるとすぐさま両親が寝ている部屋へ向かおうと思っていました…

が、それを阻止せんとする稲妻が、部屋の唯一の出入口を塞ぎました。

 稲妻は蒼く輝き、閃光を発し、僅かばかりに熱を持っているのも感じられます。

無論、当時の私は恐怖し、ただ稲妻の動きを慎重に伺っていました。

 

 そうして、ゆっくりと、稲妻は正体を現し、その姿を私に晒すのでした…


女性「…ふぅ。やっと人の姿に戻れたわ」バチバチ

少女「え…? えぇ?」ビクビク

女性「ん? ああ、ごめんなさいね。まだバチバチ鳴ってたかしら…」

少女「いや、そうじゃなくて、ですね… 貴女は…?」

女性「…ふふっ 私はね――」




女性「――選ばれし者、つまり貴女を迎えに来たのよ。 さあ、手をとって貰えるかしら?」スッ





少女「うぇぇ!? な、何の事だかさっぱし…」

女性「……ほら、ずっと手を差し出しているのも疲れるのだけど?」プルプル

少女「あっ ごめんなさ――」スッ



 私が急いで女性から、差し出された手を握ると、丁度握手しているかのような形になりました。



――そう、握手した瞬間から、私の体は、真っ白の光に包まれて、自分の部屋から何処かに、移動したのです。



少女「――いっ!?」

女性「転移魔法ってのは久し振りだけれど、以外とうまく行くものね… って……」

少女「うぐっ…」オロロロロ

女性「あちゃー、やっぱ吐いちゃったのね… でも大丈夫、気にやまないで! 私も最初はこうだったから!」

少女「ぉえ…」オロロロロ

少女 (そういう問題じゃないですってばっ!)

__ __ __ __


 吐瀉物をサッと、本当に女性が手を振り上げた瞬間にサッと片付けられてから。

戸惑ってる私の手を引いて、女性はにこやかに言ったのです。

「今から連れていく場所は、本当に特別よ。選ばれた貴女しか訪れた事のない、秘境…」

 何故か、女性の表情は段々と、雨が振りだしそうな顔になって…

「正直、ちょっと哀しいわね…」

この言葉はきっと、僻みなんだろうなって。

 その頃の私は、幼いながらもそう感じたのです。



 物思いに耽っているうちに、どんどん何かの建物の奥を進んでいって、それと同時に改めて自分の現状を理解していきました。

 しきりに紡がれる言葉、選ばれし者。
気のせいか、無愛想なレンガの壁でさえ、私を崇めているかのような、そう思っていました。




ーーそうこう考えている間に、突然かけられた女性の言葉ではっと意識が戻り、視線は目の前の光景に奪われました。

ーー魔方陣の間


女性「ここがその神聖な場所…。 私ら一族が、代々選ばれし者を連れてくる場所」

少女「ええと…。 さっきから言われてる通り、私が何故か選ばれたのは理解しました、けど…。」

女性「?」

少女「選ばれし者、って何ですか…?」

女性「……選ばれた者、それは神の理想とする、力、頭脳、心が備わった者の事よ」

少女「ち、力…?」

女性「確か、貴女の場合は頭脳を評価されて、ここへ連れてこられたのよ…そうーー」




女性「ーー我らが神、魔神様に…!」




少女「っ…!」ビクッ


 魔神、という響き。
それは、まるでよく育てられたはずの華が呆気なく散るのと同じく、悲惨で残酷な響きでした…

しかし、それと同時に、私の中で… そこから甘美な香りが漂いつつもあったのです。

女性「…さあ、その魔方陣に飛び込みなさい。人間の世界と魔界を繋ぐ架け橋へ…!」

少女「え…? 帰れ、ますよね? 朝までに…。」

女性「ふふふ…。帰れると思うのなら、そう思ってれば良いんじゃないかしら?」ニコニコ

少女「うぐっ…!」ギュッ

少女 (…お母さん、お父さん、大好きなお兄ちゃん…! いつか、いつか帰りますからっ!)

女性「覚悟は出来たかしら?」

少女「…! ーー」グッ




少女「ーーええ、出来ましたとも…!」




 今思えば、あそこで思いっきり駄々をこねてですね、あの女性に呆れられたら、帰れたんじゃないかって…
もう、遅いですが、そう思いますよ。今でも…。




ーーそれから、非情にも、魔界にて10年の月日が流れました。

ーー10年後.魔王城.通路


女賢者「……」ゴゴゴゴゴ

竜王「……」ゴゴゴゴゴ

女賢者「あの、退いてくれませんか?」

竜王「ふんっ…。人間風情が…。 魔王様のお気に入りとて、容赦はせぬぞ?」

女賢者「…でしたら、実力行使で?」

竜王「…臨む所だっ…!」

女賢者「竜族というのは、本当に血の気の多い事で…! 」

竜王「ふんっ! そのキレモノだと噂の頭から喰らってやるわッ! ーーっ!」ガブッ

女賢者「……」シュンッ





竜王「ーーぬ? 手応えがない、だと…? 一体どーーググオオッ!」




女賢者「ふふ、後ろががら空きですね…! ちょっと個人的にムカついたので、キツいのを二発ぶちこみましたから…。ごめんなさいねっ?」ニコニコ

竜王「なっ いつの間にぃ…!」ボロボロ


鬼「ーーガハハッ! 竜よ、侮ったな? この娘は魔神様の次に強いぞ?」


女賢者「…兄様っ!」ダッ

鬼「おうおう、ガハハハっ! 可愛い奴じゃのう!」

女賢者「ハァハァ…!」ギューッ

竜王「……っぬ、分からぬ、分からぬぞ…! 何故、人間がァ…!」

鬼「そんな事よりも、放ったら死ぬぞ。医務室へ急ぐんだ」

竜王「っぐぐぅ! 言われなくともっ!」ダッ

女賢者「ハァハァ…。兄様ペロペロ…。」ギューッ

鬼「な、何か毎回妙な抱きつき方だな…。」


ーー少女は魔界にて。
より大きく、女性的に可愛いらしく、かつ凛々しく、そしてちょっぴり大胆に…

強大な魔力を培って、魔界四魔王のトップにまで成長した。

 魔物は皆、彼女の前では恐れ戦き膝まずき、一心に崇める。

いつしか、少女は尊敬と畏怖の念を込めて……


ーー『賢魔王』、と呼ばれていた。

早いですが、これにて今日はもう休ませて頂きます。

また、明日の夜頃、就寝前に更新する予定です。

つまらない、帰れ、と言われようが完結させる腹積もりですので、放置のご心配はございません。

では、おやすみなさい。

大幅に遅れましたが、投下を開始致します。

ですが、本日はもう遅いので僅かばかりの投下となります。ご了承下さいませ。

明日は恐らくたっぷり時間が取れるので、あるだけ投下致します。

そして、休日の間に投下し続けて、このssの完結が早まり、5月入る前に終わるのが理想です。

──魔界四天魔王…。


 それぞれが魔神に追随する力の持ち主であり、魔王城の兵を統括し、いずれ人間世界に攻め上がる時に中心となる存在。



──『拳魔王』
力で敵を捩じ伏せ、逆らった魔物の鎮圧に向かう第一の魔王。
四天魔王に最初に任命された魔物であり、以後二人目が現れるまでの500年、魔神を支えた偉大な鬼。



──『賢魔王』
小さき人の体に、無尽蔵の魔力と邪心を宿し、魔神に次いで強いと云われる魔王。
聡明な頭脳と麗しい容姿と高い戦闘力で、魔王城の兵士からの憧れは強い。



──『狷魔王』
気高い気質と高貴なる血により、高名な魔物の一つと謳われる竜の王。
賢魔王がやってきた数年後に、魔神によって導かれ魔王となった。



 このように、近年集まりつつある四天魔王に、魔界の民は四人目を待ち焦がれ、眼を離せずにいた。








──四天魔王

それは魔神の目的遂行の駒であり、魔界の希望の象徴である。

──魔王城.会議室


女賢者「……。」

魔物大臣A「…あ、あの、魔王様?」

魔物大臣B「何故、黙りと…?」

女賢者「……魔物大臣。これは、一体どういう事なのです?」

魔物大臣A「で、ですから、先程も言った通りですね?」

魔物大臣B「……各地の剛の魔物が四天魔王決定戦なるものを、ですね、勝手に開催しまして、この内容が──」

女賢者「──四人目を決定してしまおう、と。まあ、随分と浅はかな考えですね」

魔物大臣A「はい…。それで、この魔王城の兵士逹も、ですね…。あろうことか、それに向かってしまって…。」

魔物大臣B「それで、負傷者だらけなので、戦力の著しい低下が──」


バンッ


女賢者「──それがおかしいと言ってますッ! 何故勝手に城から外出することを許したんですか! ああ、もうッ!」ゴゴゴゴゴ

魔物大臣A「あぐぇ…。すみ、まぜぇん…!」ガクガク

魔物大臣B「ひぃ…! ごろざない、でぇ…!」ガクガク

鬼「お、おい! お前の僅かな魔力の放出だけで、こいつらが死んでしまう!」

女賢者「あっ! 兄様…! す、すみません…」シュン

魔物大臣's「ほっ…。」

鬼「まったく…。お前が感情を昂らせるなど珍しいな、何があったんだ?」

女賢者「それが、魔物の民の中だけで、四天魔王決定戦なるものが行われていて…。」

鬼「ガッハッハッ! 愚かだが、面白いではないか! それの何がいけない?」

女賢者「…問題なのは、うちの兵士までもそれに参加した事ですっ! 無事に帰ってくるならまだしも、かなり大きい怪我を負って、ですよ!?」

鬼「ふうむ……。」

女賢者「ああ、魔神様には何と伝えれば良いのでしょうか…! 近々、人間の国の一つでも落としたいと仰っていたのに…!」

鬼「いや、それは俺ら四天魔王が向かえば、どうとでもなる。 それよりも、気になる事がある…。」

女賢者「…はい?」キョトン





鬼「──何故、魔王城の兵士を倒せる者が民の中に居るのだ…?」

 城の兵士相手に修練を重ねてきた鬼が言うのだ。
信用に充分に足る言葉であった。


──何故、城の兵士に勝てる民が居るのか。


 この疑問と新たな疑問が、女賢者の中で膨れ上がり、辛抱ならなくなった。


──では、その『四天魔王決定戦』は一体いつ、何処でやっているのですか?


 最強の一角に君臨するものに、やや威圧的にそう尋ねられれば狼狽えるのも道理。

そして、応えるのも道理である。
 魔物大臣は、ひきつった顔で質問に応える。


──き、北の山頂の村の地下闘技場…! 一週間後に、準決勝が執り行われるはずです…!


 それを聞くや否や、一礼して会議室を出る女賢者。
その背中を見てホッとするも、鬼の『暇になったなら修練に付き合え』との一言で、安堵していた心は裏切られた。



 魔物大臣の魔王城 勤務678日目。
まだまだ慣れというものが分からない彼らであった──

──魔王城.地下.魔神の祭壇


女賢者「……おお、地底におわす我らが神、魔神よ…!」

女賢者「我が声に、応えたまえ…!」

女賢者「《テンダマ・ミイホマ》っ!」


──ゴゴゴゴゴっ…


魔神『ふしゅー……』

女賢者「ああっ 魔神様…! お久しぶりですっ」

魔神「……む、我を呼び出したるは汝か。久しいな…。あの頃とは見違えたぞ」

女賢者「お褒めにあずかり光栄にございます…! 実は、お頼みしたい事が…。」

魔神「ふむ、他ならぬ汝の頼みだ。聞こう」

女賢者「ありがとうございます──」




女賢者「──では、私に魔王城から外出する事をお許し願えないでしょうか?」




魔神「ぬう、なんと…。」

女賢者「願えない、でしょうか…。」

魔神「…驚いたな、我の知っている汝は、魔界に怯え日々魔王城に篭りっきりのいたいけな少女だったのにな…。」

女賢者「……。」

魔神「この変わり様、やはり『素質』があったのだな。…よいだろう、外出を許可する」

女賢者「…! あ、ありが──」

魔神「だが、気を付けるが良かろう……。」




魔神「──汝はまだ、やはり『少女』なのだ」





女賢者「……ええ、重々理解していますよ、魔神様…。」

──魔王城.城門前


鬼「おいおい、もう向かうのか? いくらなんでも決断が早いんじゃあ…。」

女賢者「兄様…。私は気になったらとことん何があっても調べるのです。それに、私には力があるので何の心配も無いですよ?」

鬼「…ガッハッハッ! それもそうだな、お前はここに初めて来たときからそうだった! 気を付けて行けよ?」

女賢者「ええ、兄様も修練のし過ぎで壊れたりしないで下さいね…? それでは──」ペコッ スタスタ

鬼「ああっ!」フリフリ

鬼「……」




鬼「──行ったか…。それにしても……。」




鬼「『兄様』、とは一体何なのだろうか…。」ボーッ


鬼「…ぐっ! いかんいかん!」ブンブン

鬼「俺はあれこれ考えるのは苦手だっ! ──ええい、誰か居るかァ!」

下級魔物「──はい、ここに…!」スッ

鬼「修練に付き合えい! 今日と明日にかけて鍛えあげるぞっ!」

下級魔物「あっ…。はい…。」

下級魔物 (……やっちまったなぁ。出てこなければよかったか…。)



鬼「……。」

(人間…。それは一体どのくらい強いのか…。未知だからこそ、怖い。怖いからこそ、修練を繰り返す…。)

(女賢者が考え、竜王が前線にて闘うのなら──)





鬼 (──俺は更にその前へ出るのだッ! この溢れんばかりの力を、惜しみ無く、余すことなく発揮してッ…!)



──魔界
広大な暗黒の世界、地面の材質は粉末状のオリハルコンと呼ばれる硬い金属。

 多くの魔物の学者が世界を隅々まで回ろうとしたが、広大かつ過酷な環境で、到底なし得ないものだった。

 気候は温暖。雨などは降らず、常に乾燥しきっているため、水は大変貴重である。

 水源は魔神の作りし闇の海にしか存在しておらず、民は魔神の『人間世界奪取』計画の遂行を、今か今かと待ち望んでいる。

 
 先程も言った通り、魔界は広大で歩き回るのは困難である。


そのため、情報が魔界全土に行き当たる事は極めて困難で、有名な魔界四天魔王の存在を知らない、という者も居るのだ。



──『魔界四天魔王決定戦』


 
 四人目を待ちきれない民が各々で勝手に開いた行事。
 
これが執り行われていたのは魔王城の背後に聳え立つ、山。

何故、情報の伝わりにくい魔界にて、あまつさえ山中に、剛の者が集まれたのか。
 
 この疑問が女賢者の中で渦巻き、暴れ、掻き乱す。


──通称『魔仁山』


 この山の山頂、遠目でもそこには塔が建っているのが見える。
それこそ、地下闘技場の存在する村、強者が集まる場。

 そこに、女賢者の脚が向かう。

 ゆっくりと、だが確実に。

 その思いには僅かな迷いもなく。



──物語は急速に大きく揺れ動こうとしていた……。

今日の分は以上となります。

それでは、おやすみなさいませ。

やってしまいました。
書き溜めていたもの、全部消えてしまいました…。

それに気づいた昨日からコツコツ書いていますが、今月中に終わるという夢は淡い幻想に終わりそうです。

とりあえず、今日の夕方頃に少し投下します…。

「今日は月が綺麗ね…。」

 夜空に色づく黄金の月に照らされて、彼女の銀の髪はサラサラと風に揺られる。

「そうですね…。」

 そう応えると女は、風で揺られる自らの黒髪に手をかけた。

「ですが、今日は風が強いです…。体を悪くするので、一旦中に戻りませんか?」

「それも併せて良い夜なのに…。でも、貴女が言うならそうするべきね」

 銀髪の女はそう残念そうに言うと、夜空を少しの間仰いでから宿に戻った。



「ふぅ…。相変わらずロマンチックで女性らしい人ですね…。私も見習わなければなぁ…。」

 一人テラスに残った黒髪は、一人の男を思い浮かべ顔を紅潮させた。

「あぁ…。兄様と離れた『七日間』が…。もう、過ぎたのですね」






「──明日に来たるは『四天魔王決定戦』…。楽しみにしていましょうか…。」

 黒髪、もとい賢魔王は月を背に部屋へ戻る。



 背にある月はただ静かに、黄金を魔界に振り撒いていた…。

──翌朝 魔仁山 山頂の村のお宿


女賢者「ぐぅ…。ぐぅ…。」zzz

銀髪エルフ「……本当にだらしのない寝相ね…。ほら、起きなさいよ」ユサユサ

女賢者「ぬぅ…。なんれすか…寝かしてくださいよ…。」

銀髪エルフ「ふう。今日が何の日か…。忘れた訳では無いでしょうね…。」

女賢者「むにゃ……?」

女賢者「……っ!」ムクッ

銀髪エルフ「思い出したかしら?」

女賢者「……ええ、すいません。この私ともあろうものが、無防備過ぎる所を晒しました…。」

銀髪エルフ「ふふっ…。ええ、確かに隙だらけだったわね…? もう、襲っちゃいたいくらい…。」ニヤニヤ

女賢者「おおう、それは怖いですね」

銀髪エルフ「あら、もうこういう冗談には慣れたの?」

女賢者「そりゃあ、今年で20の大人ですからっ!」

銀髪エルフ「……その割りには口回りの涎とか凄いけれど」

女賢者「っ!」サッ

──山頂の村 空き地


女賢者「あの、朝からやるんですか…?」

銀髪エルフ「何言ってるのよ…。今日は当日なのよ? 体を慣らさないと駄目じゃない。」

女賢者「ふう…。さすが、準決勝まで登り詰めた人ですね…。闘志が違う…。」

銀髪エルフ「ええ、当たり前よ…!」






銀髪エルフ「──もうすぐ、魔王の座にありつけるのだからっ…!」





女賢者「……そうですね」

銀髪エルフ「さあ、早く臨戦態勢に入ってくれない? 体を動かしたくてウズウズしているの…!」




女賢者 (…言えない。この催しは非公式で、勝ち進んでも魔王になんかなれやしない、などと…。)

女賢者 (…私がこの村に来て七日。情報を集めると、この催しは不可解な点がいくつもあった…。)

女賢者 (北の巨人族から、西の竜族、南のエルフに、東のアンデッド…。)

女賢者 (魔界全土の民がこの催しを認知しており、勝ったら魔王だという情報を盲目的に信じている…。)

女賢者 (…主催者は一切不明、情報伝達の手段も銀髪エルフに聞いたが、『頭に語りかけてきた』などと不可解過ぎる答えが帰ってきた…。)

女賢者 (……この遥か広大な魔界全土に『念』を伝えられるような、力を持つ者…。)





女賢者 (それは一体何者なのか…。何の目的でやっているのか…。私には分からない…。)

 私が物思い耽っていると、目の前の彼女は剣を既にこちらへ向けていた。


「さあ、行くわよ…! 貴女の実力、それを上回って今日の試合に勝つ…!」


 実は私は彼女に正体を明かしていない。

 私がこの村に来た当初、準決勝の日までどうしようかと困っていた時、彼女は私に声を掛けてくれた。

 私が実は人間だという事には気付いたみたいだけれど、別にそれだけで差別するわけでも無く、それ以上深くは聞いて来なかった。

 しかし、私が『魔力』を宿している事には気付いたようで、それからというもの、鍛練に付き合わされている。


「はぁ…。今日は少し手加減出来ませんよ…? 寝起きは魔力の抑えが利かなくて…。」


 私がそう言うと、彼女は不適に笑ってみせて


「むしろ私相手にどうして手加減をするのかしら…? 練習の時の私とは、違うわよ」


「そうですか…。では遠慮無く──」






「──極大閃熱呪文《ベギラゴン》ーッ!」





 私の半径16mは紅蓮の炎の竜に包まれた。
高熱を含むそれは、術者以外を焼き尽くし消失させる…。

 我ながら物凄い一撃をいきなり出してしまったと悔やみ、目の前に注意を向けていると──

「っち! 狙いが外れた…!」


 背後から私の頬を掠めて、剣の先が私の目の前に現れた。


「あ、危ないじゃないですか…! 今のが直撃したら…!」


「貴女だって…死ぬ程熱いのを浴びせてきたじゃない…! お陰で冷や汗が止まらないわ…。」


 後ろを見れば、焦燥しきった彼女の姿が目に入った。
その姿から、あの炎の竜を必死に潜り抜けたという様子が伝わる。

「それで、貴女はもうチェックメイトなの…?」

 刃を私の首に当てながら、彼女は僅かに笑みを浮かべて尋ねます。

「そうですね…。実の所まだ──」





「──満足してないんですよッ! 飛翔呪文《トベルーラ》!」






 私は呪文によって空へ飛び上がり、彼女から少し離れた所に着地する。

「まだそんな芸当が出来るのね…。貴女、本当にただ者じゃないわ…。」

「……で、まだ続けますか?」

 そう尋ねると彼女は小さく笑って。






「まだまだァ…! 食らいついてやるわ!」










──数時間経過 夕方 地下闘技場にて





受付「うーい、賭ける選手の札を買っていけよ」

女賢者「あの、『銀髪エルフ』の札をお願い出来ますか?」

受付「はいよ、いくら賭ける?」

女賢者「そうですね…。では、『この位』で」

受付「な、なんと…! こんなに賭けるのか…?」

女賢者「ええ…。それでは」

受付「あ、あぁ…。」

受付 (一番弱そうなエルフ女に10万Gだと…? イカれてるぜ、あの女…。)



女賢者 (朝は正直やり過ぎた…。回復魔法で応急処置はしたけど…。)

女賢者「うう、すみません…。銀髪エルフさん…。」

隣の客「おい、姉ちゃん。俺の席を譲るから、泣くのは止めな」

女賢者「あ、ありがとうございます…。でも、良いんですか?」

隣の客「隣で泣かれると、選手を応援しようにも出来ねえからな…。もっと、盛り上がって行こうぜ」

女賢者「は、はい…。」

隣の客「そらっ 司会が出てきたぞ…!」

女賢者「……。」ゴクリ

女賢者 (始まるのか…。)

司会「──お待たせしましたァ! 皆さまァ! 今宵、『四天魔王決定戦』…準決勝を開始致しますっ!」



観客「「ワァァァァー!」」




司会「それでは第一戦目ェ…。『銀髪エルフ』と『剣士』のカードですっ!」

司会「…選手ゥ…入場ーッ!」




観客「「ワァァァァー!」」

オークA「おらぁ、剣士ィ! 賭けたんだからしっかり勝てよォ!」

オークB「剣士ィ! またお前の虐殺劇を魅せてくれェ!」

オークC「銀髪エルフゥ! こっち向いてェ!」




女賢者「凄まじい熱狂ぶりですね…。」

隣の客「それもそうだろうな。何せ四天魔王決定戦なんて大掛かりな催しの準決勝…。嫌でも盛り上がるさ…。まあ、ほとんどの奴等は賭けた金が倍以上になって戻るのを楽しみにしているがな…。」

女賢者「貴方は…?」

隣の客「俺は違うさ。新しい魔界の民の心の拠り所…。希望の星となる魔物が決まる様子を、この目で見たいだけだ…。」

女賢者「……なるほど」





女賢者 (ただ純粋に四天魔王が決まると聞いて、期待を胸にやって来たという人も居るのに…。何故、開催者はこんな催しを…!)





女賢者 (段々腹が立ってきました…!)

──司会の掛け声で現れた二匹。



 右は、冴え渡る剣術で他を圧倒し、女ながら準決勝まで残った銀髪エルフ。

 足や腕に火傷の跡や切り傷が見えるが、痛そうにする素振りは見せず、銀色の艶やかな髪を後ろに結び、女賢者にウィンクをする余裕まであった。



 左は、魔獣の皮で作られたローブで顔が見えず、女か男かで議論を呼ぶ剣士。

彼(彼女)の戦闘スタイルは多くの魔物の眼球に焼き付けられ、深く印象付けた。

 剣士はただ静かに、銀髪エルフを睨みつけている。





──両者は徐々に殺気を抑えられず、闘志を剥き出しにし始めた。





 そして司会のアンデッド族の男は、声高らかに宣言する。





──「では、準決勝Aグループッ! 試合開始ィ!」

本日はここまで…。

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