双葉杏「ぬいぐるみ」 (43)

杏「ZZZ...」

モバP「おーい、杏~?」

杏「Z...ん、ん?どしたのプロデューサー...ふぁあふ」

モバP「ほら、コレやる」ポイッ

杏「??何これ。飴?じゃないよね。大きいし」ガサガサ


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杏「...ぬいぐるみ?」

モバP「おう。ロケ現場の近くにあったファンシーショップに飾ってあったんだよ。どうだ、良い抱き心地だろ?」

杏「うん。モフモフだね」モフモフ

モバP「そうだろうそうだろう」

杏「じゃあこの子は返って家の枕元に飾るとしよう」モフモフ

モバP「なんでだよ!」

杏「は!?」ビクッ


杏「いやだって、レッスン終わったし...杏、今日はサボらず頑張ったよ?」

モバP「そうだな。お疲れ、よく頑張った」ナデナデ

杏「うぇへへ...じゃなくて」

モバP「なんだ」

杏「なんで杏が家に帰っちゃ駄目なの?」

モバP「は?あぁいや、そんな事言ってないぞ。俺が言いたいのはぬいぐるみの事だ」

杏「ぬいぐるみがどうしたの?ありがたく貰うけど」モフモフ

モバP「...持ち歩かないのかい?」

杏「んー、そのつもりだけど」

モバP「...どうしてだい?」

杏「いやだって、コイツいるし」ヒョイ

モバP「そうだよ。そのウサギだよ」

杏「なんだよ」

モバP「杏、そのウサギ、ポイしなさい」

杏「はぁ!?やだよ!」

モバP「なんでだ!お前が雑に扱うからボロボロじゃねぇか!」

杏「コイツはこれで良いの!」

モバP「良くねぇ!プライベートとは言えアイドルなんだから、持ち歩くにしてももっと綺麗なぬいぐるみを...」

杏「あ!まさかプロデューサー、最近杏に何個かぬいぐるみくれたのって...!」

モバP「あぁ、お前にウサギ離れをさせようと思ってな」

杏「ふざけんなー!!!」

杏「コイツは杏の大事な物だ!いくらプロデューサーが可愛いぬいぐるみを寄越そうと、コイツは手放さないぞ!!」ギュッ

モバP「大事な物っつったってなぁ。ゲーセンの景品じゃん」

杏「あ!そんな事言う!コイツの価値が分かってないな!」

モバP「うーん...だってそのウサギ」

杏「杏の故郷北海道は人が少なく、交通の弁が悪かったので...」

モバP「は?何?語るの?」

杏「杏はあまり都会の方へ遊びに行く事も無く、裏の家に住む年上の兄ちゃんとばかり遊んでいました」

───
──



──
───

杏「兄ちゃん、ベビースター取ってきて」ピコピコ

青年「対戦中によくそんな事言えるな」ピコピコ

杏「だってどうせもう負けるでしょ?ほいほいっと」ティロリロン

青年「くそっ、棒が...棒が来ない...!うわー!何段押し付けんだよお前!」ブブーッ

杏「兄ちゃん棒に頼り過ぎ。だから弱いんだよ。さぁ台所からベビースターを取ってきてよ」

青年「よっこいしょ。そもそも何で俺の家にベビースターがあるの知ってるんだよ...」

TV『目と目が逢う~瞬間に~♪』

杏「......」ボーッ

青年「ほらよ。って何だ、テレビ点けたのか」

杏「...兄ちゃん、この人何て名前だっけ」

青年「如月千早。やっぱ上手いなー歌」

杏「即答。さすがドルオタ...兄ちゃん、これ開けて」

青年「それくらい自分でやれよ」

杏「めんどい」

杏「それにしても、アイドルねぇ...」

青年「お、なんだ、興味あんのか?」バリリッ

杏「まさか。私は何が何でも働かないよ」

青年「またそんな事言って...将来どうするんだよ」

杏「んー...お嫁さん?」

青年「...ほらよ」

杏「兄ちゃん、養ってよ」ボリボリ

青年「やだよ。家事もしない嫁さんなんか」ボリボリ

青年「冗談抜きでどうするんだ?高校もやめちまったし」

杏「だって、メンドかったんだもん...」ボリボリ

青年「そうやってすぐ怠ける」

杏「なんだよ。兄ちゃんだって杏と一緒にダラダラしてんじゃん!」

青年「俺は大学卒業したんだっつーの!」

杏「そりゃ~立派でござんすね~」ボリボリ

青年「お前そんなんだとなぁ、ロクな大人になれないぞ!」

杏「最初からなる気無いもーん」

青年「勿体無いだろ!杏は無駄に色々とポテンシャル高いんだから、それを活かせば...」

杏「あーあー聞こえなーい聞ーこえな~~い」

青年「ちゃんと聞け!」


青年「いいか杏、よく聞け」

杏「...どしたの兄ちゃん。いつにも増してメンドい感じだけど」

青年「...俺な、春から東京行く」

杏「.........は?」

杏「...お、おー、何?卒業旅行?お土産よろしくー...」

青年「ふざけんな。向こうに就職決まった。向こうで一人暮らしするし多分一年は帰ってこない」

杏「......聞いてないけど」

青年「あぁ、今初めて言ったからな」

杏「おばさん達は知ってんの?」

青年「当たり前だ。俺が機会伺って言うからって、おふくろには口止めしてあった」

杏「......ふ」

青年「...」

杏「ふざけんなー!!」ブンッ

青年「って!ベビースター投げんじゃねぇ!」

杏「帰る!」バタバタ

青年「ちょ、待て杏!」

バタンッ

青年「......」

~~~

杏「...」ゴロゴロ

杏「...ふざけんな...」

杏「...ん?」ポロポロ

杏「んっ...ぐしゅっ...ふざげんなぁ......ぼけぇ...」ボロボロ

~~~

翌日

青年「...」ゴソゴソ

ガチャ

青年「?」

杏「...」ズカズカ

青年「...よう」

杏「...コタツ、ついてない」

青年「あぁ、俺使ってなかったからな」カチッ

杏「何してんの?」

青年「荷造り」

杏「...あっそ」

青年「おう」ゴソゴソ

杏「...」

青年「...」

杏「...お母さんがさー」

青年「んー?」

杏「お母さんが、向こう行く前にいっぺんご飯食べに来いって」

青年「おー。杏のかーちゃんの飯美味いもんな」

杏「ん...」

青年「...」


杏「......」

青年「.........」


杏「............」


青年「...あぁーーーーーーっ!!!!」

杏「何!?」ビクッ

青年「杏!遊びに行くぞ!!」

杏「...はぁ?」

~~~

青年「...」

杏「...電車、五分前に出てるんだけど」

青年「...そうだな」

杏「次、五十五分後なんだけど」

青年「...そうだな」

杏「全く、突然遊びに行くとか言い出すからだよ...あーさぶっ...」ポスッ

青年「隣座れよ」

杏「やだよ。ベンチ冷たいもん」

杏「ジム・キャリー」

青年「リリーフランキー」

杏「キム・ガンモ」

青年「モーガン・フリーマン...あっ」

杏「はい杏の勝ちー」

青年「お、電車来たぞ電車」

杏「ちょっと、無視?」

タタン…ガタタン…タタン…

杏「兄ちゃんさ」

青年「ん?」

杏「東京までの新幹線とか、調べてあんの?」

青年「…あー、まだだ」

杏「早めにしないと困るよ」

青年「そうだな…」

杏「うん」

青年「杏はしっかりしてんなー」

杏「…してないよ。兄ちゃんがいないと何にも出来ないから」

兄ちゃん「そんなことないって」

杏「ホントに何も出来ないし…」

~~~

青年「とうちゃーく」

杏「で、何すんの?」

青年「...ゲーセン」

杏「オーケー。何も考えて無いんだね」

青年「悪ぃ」

杏「良いよ別に。適当に何か見ようよ」

青年「おう」

~~~

杏「...とりゃっ」ペタン

スコア『18』パフパフー

杏「…これ低いの?」

青年「さぁ?知らねぇよ」

杏「兄ちゃんやってみてよ」

青年「おう…むんっ!」ドゴン!!!

スコア『99!』ニューレコード!

杏「…これ高いの?」

青年「高いんじゃね。新記録だし」

杏「へーすげーすげー」ペチペチ

青年「適っ当だな…いや別にどうでも良いんだけどさ」

杏「お、新記録の名前を記入しろだって」

青年「ん?ん~……anzuchangっと」

杏「いや何でさ!」

~~~

杏「よっはっ」タタンッ

青年「何だよコレ!どこ踏めば良いの!?」ドタドタ

杏「だから画面のパネルが光った所だって」スタタンッ

青年「知ってるアイドルの曲ならなんとかなると思ったんだがな…!」バタバタ

杏「言っとくけど杏も初見だからねこの曲」タタタンッ

青年「ほんっとただのニートにしとくには勿体無い才能だなおい!」ピョンピョン

杏「疲れた~まだ曲あんの~?」タタタタタタタタ

青年「疲れてる様には見えない足捌きだよ…」ドタタ

~~~

ウィーーーン

青年「…おぉぉ…もうちょい…」

ポテッ

青年「ああ!もっとしっかり掴めよ!」

杏「下手だねぇ兄ちゃん。変わってあげようか」

青年「…いや!コイツは俺が取る!」チャリン

杏「兄ちゃんがそんな可愛いの取ってどうすんの」

青年「待ってろよぴにゃこら太…!」

杏「え!?そのブサイクなの狙ってんの!?」

青年「え?おう」

杏「意味分かんない!手間のウサギの方が百倍可愛いよ!」

青年「え、そう?じゃあコッチで…」

ウィーーーン

ガコンッ

青年「…一発かよ」

杏「あのブサイクな方のぬいぐるみ重たいんじゃない?」

青年「やれやれ…ほらよ」

杏「ん?」

青年「ウサギ」

杏「え、杏にくれんの?」

青年「俺がコレ持っててどうすんだよ」

杏「…じゃあ貰うけど」

青年「アレだよ。それを俺の代わりだと思って大事にしてやってくれ」

杏「…何それ」

青年「はは、そんなウサギじゃあ俺の代わりは務まらないかな?」

杏「…コイツで充分だよ。枕ぐらいにはなるんじゃない?」

青年「俺枕レベル!?」

杏「あははっ」

青年「…帰るか」

杏「うん…」

~~~



青年「それじゃ、行ってくる」

青年「え?あぁ、多分来年だけど、休みとか取れたら連絡するよ。うん」

青年「…杏?まだ寝てるんじゃね?」


青年「分かったって。ちゃんと挨拶ぐらいしてくるから」

青年「うおーさびー…」ガララ

青年「…お?」

杏「…よう」

青年「よう、早起きだな」

杏「全くだよ」

青年「…駅まで来るか?」

杏「……うん」

青年「…そのぬいぐるみ、持ち歩いてんのか?」

杏「うん。兄ちゃんの代わりって言ったじゃん」

青年「そんなに四六時中一緒にいた記憶ねぇけど」

杏「杏からしたら四六時中だよ。生まれた時から一緒でしょ?」

青年「…あぁ」

~~~

青年「…あんまり昼寝ばっかすんじゃねぇぞ?夜眠れなくなるからな?」

杏「大丈夫。コイツ枕にしたら眠れるから」

青年「寝ながら何でもしようとするなよ?ジュースとか零したら大変だからな?」

杏「大丈夫。コイツで拭くから」

青年「寒いからってコタツで寝るなよ?風邪ひくからな?」

杏「大丈夫。コイツと一緒なら寒くないから」

青年「…なんだ、俺いなくても安心じゃん」

杏「うん大丈夫大丈夫。だから早く行け」グシグシ

青年「泣くなよ。あとウサギで拭くなよ」

杏「泣いてないし拭いてないよ…っ!」

青年「…電車来たわ」

杏「うん…」

青年「んじゃあ…また来年な」

杏「うん…」

青年「楽しみに待っとけよ?」

杏「…うん?」

───
──


──
───

杏「だから、このぬいぐるみは兄ちゃんの形見なのです」

モバP「兄ちゃん死んでねぇだろ。勝手に故人扱いすんな」

杏「とにかくコイツは手放さないから」

モバP「はいはい。そこまで言うなら止めませんよ。ほら、送ってくから車乗れ」

杏「うぃーす」トテトテ








モバP「…やっぱ東京も寒ぃな~…」


杏「…あ、そうそう『兄ちゃん』」

モバP「んー?」

杏「今度帰って来たらご飯食べに来いってお母さんから電話来たよ」

モバP「おー。杏のかーちゃんの飯美味いもんな」

杏「ん…」






~おわり~

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