男「見られてない?」イケメン「…」じぃー(591)

男「…っ…」ゾクゥ

男「……!」チラリ


イケメン「…」じぃー


男(み、見てるよなっ? 俺のことすっげー見てるよな…っ?)

男(ここ最近やけに視線を感じてたんだが…やっぱアイツか…俺を見ているのは何故だ…)

男「はぁ~…」

男(この学校に入学してから早二年。彼女おろか友達も出来ぬまま過ぎ去っていく日々)

男(いや、それは俺の自主性が無さ過ぎるってのもあるんだろうけど、うん、今は別にいいや)フルフル

男「いっ……今の今まで俺は、教室内で…なるべく空気になろうとしてきたつもりだったんだが…っ…」

トントントン トン

男「…」チラッ

イケメン「…」じぃー

男(なんでコッチ見てるんだよ!?)

男「ぐぅっ…なんだ俺をそんなに見つめて…ッ!」

男(ハァッ!? も、もしや何時の間にかいじめの対象として観察されている、のか?)

イケメン「…」じぃー

男(あ、ああっ…違いないぞあれは…完全に俺を標的として見定めてる目だ…俺には分かる…!)

男(比較的この学級は殺伐とした人間性を持った奴は少ないと思ってたのにっ)

男「やっぱ顔なかァ! 顔が全てを制する手段なのかよ…ッ! 馬鹿野郎、神さはなんにも見ちゃくれてねぇ…!!」ボソッ


イケメン「何が顔なの?」


男「どぅあッッ!?」ガタタ

イケメン「やぁ! どうも! さっきから視線を感じてたから、こっちから話しかけてみたんだけどさ」

男(いや! いやいやいやいや! お前のほうが見てたじゃん! 滅茶苦茶俺のこと観察してたじゃん!)

イケメン「何かオレに用事? ん?」

男「あ…いえ…別になんも用事ないっすケド…」

イケメン「へぇーそうなんだぁー。んじゃオレの勘違いってことね、ごめんごめん」

男(なんでお前が納得してんだよ! お前がまず説明しろよッ! そのすまし顔もイケメンだな畜生!)

イケメン「んーあのさぁ君って、前から思ってたんだけども」

男「えっ?」

イケメン「なんで何時も怒ってんの? なにかイラつくことでもある感じ?」

男「えっ!? おっ!? 怒って? …る?……ないけど、なに、怒ってる……見える…?」

イケメン「うんすっげー見えるよ。日常的に誰か構わず呪って生きてるように見える」

男(うぇぇぇっ!? 別に怒ってないけど…むしろ静かに生きたいと願ってる方だけど…)

イケメン「だからオレ的には君が一回笑ってる所見てみたいなー」

男「はぁっ!? な、なんで…」

イケメン「ほらほら。人の笑顔って周りを幸せにするって言うしさ、そういったことも含めて一つ、どう?」

男(そういったことって何なんだ…)

イケメン「え・が・おっ! え・が・おっ! それっ!」パン パン

男「うぇっ?! あ、いや! そんな急に言われても無理っ」

イケメン「出来る出来る君になら普通にできるって。口角上げて、にこーってするだけだしさ」

男「口角上げて…にこー…?」

イケメン「そうそう。やってみ、簡単だから」

男「……に、にこー」プルプル

イケメン「……」

イケメン「怖ッ!!」

男「ッ…!」ブツン

男「テメーがやらせたんじゃねーかアホ!!」

パァン

イケメン「──………」くらぁ

男「あ…」


「い、今…ウソでしょ?」

「あいつイケメン君のこと叩かなかった…?」


男(や、やばっ俺はなんてことをっ!? あ、謝らなければっ)くるっ

男「ご、ごめなひゃっ! しょなつもりふぁんてっ!」

イケメン「…」

イケメン「キタァ────!!!」

男「ほぁいっ!?」

がっしぃいいい

イケメン「ちょっとこっち来て」ぐいぐい

男「…っ? …!?」ズリズリ


廊下


男「さ、さっきのことだけど…えっとアレは別に悪気があってやったわけじゃあなくて…っ」ダラダラ

イケメン「聞いてくれ。いいから黙って聞いててくれ」

男「な、なんしゅかっ?」

イケメン「オレの頭叩いたよね」

男「うひっ! あっ、えっと、ごめんなさい…!」

イケメン「フンスー! 最高だったよ! マジでドンピシャクリーンヒットだった!」

男「ついイラッと来て思わず…」

男「は?」

イケメン「小気味よい打撃音。手首の効いたスナップ。淀みない発言。そして──最高のタイミング」

イケメン「とうとう見つけた…君がオレにとっての最高の救世主! ノアの方舟! マリア様!」

男「のあ…のあ…?」

イケメン「以前から目をつけていたんだ。もしかしたら君がオレの欲望を解消させてくれる人じゃないかってさ」

男(なにこの人怖いよッ!)

イケメン「聞いてくれ…是非にと聞いてくれ…オレの抱える闇を…オレの抱える思いを…」

男「やっ……やだ!」

イケメン「やだって言うなよ! お願いだ! オレの気持ちを解消させてくれるのは君だけなんだ…っ!!」

男「やだやめて…っ…お願いします何でもしますから…っ」

イケメン「何でもするって、何もそこまで怯えなくてもいいじゃないか…」

男(分からねえだろうな! お前にはわからないだろうな! 久しぶりにクラスメイトと喋る奴の気持ちなんて!)サメザメ

ヒソヒソ ヒソヒソ

イケメン「むっ? 流石にここまで騒ぐと人目を引くか…」

男(お前だからだよ…)

イケメン「ここじゃあんまり詳しく話せないな。付いてきてくれ、説明させて欲しい」グイッ

男「ちょ、ちょっと…マジでなんなんすか…っ」

イケメン「えっ? オレのコト知らない? …結構クラスじゃ目立ってる方だと思うけど」

男(知ってるよ!)


屋上


男「寒い…」ブルル

イケメン「──あれは、この高校に入学してすぐだった…」

男(勝手に語り始めたよ…)

イケメン「俺は入学してすぐに友人が出来た。両手で数えられないぐらいに、たくさん出来たんだ」

男「…さよですか」

イケメン「オレは素直に嬉しかったよ。これはウソじゃない、友好関係がたくさんあったほうが楽しいからな」

男(泣いていいかな)

イケメン「けど直ぐに気づいたんだ。満足行く高校生活を送れると思っていた矢先、オレはとあることに…」

男「…なんすか」

イケメン「それは……それはっ!!」ガンッ!

男「っ」ビクッ

イケメン「くっ…くそっ…なんでだッ…どうしてこうなったんだッ…!!」

男「お、おい」

男(急にどうしたんだ? そ、そんなたいそれた悩みを抱えてたのか…?)

イケメン「オレはただ…ただみんなから…ッ!」

男「……」ゴクリ

イケメン「突っ込みを貰いたいのに…っ! なんでみんなオレのギャグをスルーするんだ…っ」

男「あの。帰っていいですか」

イケメン「ただオレは何気ない会話で、軽くポイっと突っ込みを入れて欲しいんだよ!!!!!!」

男(知らんッ!)

イケメン「考えてみてくれッ! 『最近筋トレハマってさーマジ鍛えまくってんだよねぇ』と言われて俺が何気なくッ!」

イケメン「あーじゃ亀のうんことか食べると筋肉育ちやすいらしいぞっ? っと言ったら! みんな…みんな…」

男「…………」

男「え、喰ったの?」

イケメン「……」コクリ

男(クッ! だ、誰だそいつの名前超知りてぇ! 後で影からこっそり顔確認したい!)

イケメン「これだけじゃない…まだまだたくさんある…オレがボケたいがゆえに不幸のどん底に落とされた友人たちがな…」

男(ボケなきゃいいじゃん…)

イケメン「今ッ! だったらボケなきゃいいだろって思ったろッ!」

男「ぇうっ!? お、思ってないデス…!」

イケメン「いやー……いいんだ、君の気持ちもわかる。だったらオレがボケなくていい、ただそれだけで済む話だ」スッ

イケメン「このメモ帳を見てくれ。どこからでも読んでくれていいから」

男「は、はぁ」ペラ

男「…なんすかコレ」

イケメン「オレのボケ手帳だ」

男「え、えー………」

イケメン「引くだろう。ああ、ドンドン引いてくれて構わない。オレもメモ帳が出来上がった時は三日三晩悶え苦しんだ」

男「で、あの、これが何か?」

イケメン「………」

男「?」

イケメン「今期。オレは放送部員となった、クラスの委員会のな」

男「それは駄目だやめろッ!」

イケメン「それだ───ァッッ!!」

男「はぃいいいぃいっ!?」

イケメン「即座の理解力。そして的確な突っ込み。あっ…ぁぁあっ…ぞくぞくするねぇっ…いいよきみぃ…!!」

男(きめぇ…)

イケメン「ふくくっ…その通り…君が予想したことが現実に起こりえるんだ…この手帳のネタを放送時に使ってしまうかもしれない…このままではッ!!」

イケメン「けれど君の突っ込みがオレの欲望を癒してくれる! こんなものちっぽけだと思い知らせてくれる!」ギュッ

男「………いやいやいやいや……」

イケメン「お、お願いだ! オレのどうしよもない欲望を…受け止めてくれッ! お礼はなんだってする! 本当だ!」

男「ご、ごめんなさい…他あたってくれませんか…」

イケメン「何が欲しい!? 出来る限りのものなら奢ってやるから! お金なら……うん、バイトするから!」

男「い、いえいえ…そんな金なんて…」

イケメン「じゃあ彼女か!? 彼女なのか!? だ、だったらどーにかして君のこのみにあわあわあわせて紹介してあげるし!」

男「か、彼女ぉ? そ、そういうのって自分で作らないと意味ないと思うし…」

イケメン「…意外と理想が高いんだな」

男「うっさいわ!」

イケメン「ふほぉぉぉぉっ」キラキラキラ

男(し、しまった! 余計な突っ込みを…!)

イケメン「ジュルリ。や、やっぱり君じゃないと駄目だ…っ…オレの高鳴った鼓動は君じゃないと収まり用がない!!」

男「マジ勘弁してください…」

イケメン「ぐぅうぅぅっ…なぜだ何故こうも頑固なんだ…っ」

男(必死過ぎて怖すぎる)

イケメン「あ。そうだ、だったこれはどうだっ!」

男「…なんすか」

イケメン「友達!」

男「んっ」ぴくっ

イケメン「おっ?」

男「……」プイ

イケメン「おっ? んっ? なぜだろう、君が一瞬反応したかのように見えたんだが?」

男「…な、なんでもねぇよ…」ボソボソ

イケメン「友達、欲しい?」

男「…………イラナイ」

イケメン「やれやれ。ウソが下手くそだなぁ君は」

男「ぐっ、う、うるさい! 俺は怒ってんだよ! 友達欲しいって馬鹿かッ! 俺が友達居ないみたいな言い方するな!」

イケメン「………」

男「うっ……あっ………その………え、居るのとか…惨めになる質問……してくれなくてありがとう……」かぁぁぁ

イケメン「これでも友人は多いからね。うむうむ」コクコク

イケメン「はてさて。これで君とオレの利害は一致したわけだが」

男「ま、待ってくれ! 俺は別に友達なんて要らないし…!」

イケメン「本当に?」

男「いらない!」

イケメン「一緒に放課後買い食い」

男「ぐぉっ?」

イケメン「宿題を忘れて写させてもらう」

男「ぬぉおっ…」

イケメン「購買部の好きなパンを語り合ってみる」

男「…や、やりたい…っ」

イケメン「え? なんだって?」

男「……………」

イケメン「ふむ本当に君は強情なやつだ。じゃあ最後に──これはどうだ?」

男「え?」

イケメン「これからの残り高校生活、オレと一緒に青春をしよう!」

男「……青春……?」

イケメン「君には大変醜いところを見せ続けたけれども、これでも、人を楽しくさせる自信はある!」

イケメン「知っているよ。君のことは入学当時から見ていた、君がどんな生活を送っていたかは、どんなことを望んでいたかは──君よりも知っている!」

イケメン「オレは君を満足させる! だからオレを満足させてくれ!」



イケメン「──それがオレと君との契約だ!!」



男「……」

イケメン「ど、どう? やってみたいとか思ったりする、かな?」

男「…は、はは」


入学当時の俺は、
それはそれは何事に対してもわくわくしていた。

桜が散る校庭。
賑わう新入生との声。
見慣れぬ見新しい校舎。

それら全てが俺を祝福してくれてるように思えて、心から期待に身体が震えた。

ここから新しい自分がスタートする。
昔の自分を捨て去るつもりなんて無いけれど、また新しい自分が始まっていくのだと。

けど──現実はそうじゃない。

期待だけでは何も変われない。
凝り固まった自分は自分のままで、時間の経過と共に輝かしい高校生活は終わりを告げる。

そのまま、ずっとそのまま、俺は俺のままに。

何も手に入れることもなく、こうやって人生も終わるのだろうと思っていた。


けれど消えていく希望の光りの先に、
俺は何かを追いかけるように──とある生徒の背中を見ていた。


イケメン「どうする?」


俺は、一歩だけ近づけたのだろうか。
わからない。とても怖くて足が震えている。

どうしようもなく苦しくて、今にも逃げ出したかった。


男「……駄目だ」

男「なに、言ってるんだよ。俺がお前と友達…? ハッ、んなの周りから同情されるに決まってんだろ」

男「あーやっぱイケメン君ってかっこいーあーんな根暗な奴も友達にしてあげるなんてー、てさ」

男「影でブチグチ言われるんだろどうせ…それに、お前だって何処まで本気かはわかんねぇじゃん」

男「友達? 友情? バカ言え、んなもんどうせうわべだけの都合のいい関係だろ…」

男「俺は気づいてんだよ。現実なんてツマンネーことばっかで、良いことはお前みたいなイケメンが全部かっさらっていくって」

男「俺は俺用のステージが用意されてんだ。俺は俺だけの誰でもない演技をしていかなくちゃ駄目なんだよ…」

男「カッコイイやつはスポットライトを浴びて…いっぱいいっぱい沢山の歓声を貰える…けど、俺はそうじゃない…」

男「……俺はそこら辺の草役なんだって…」

そう、俺はそんな奴だった。
希望なんて感じずに、暗闇でじっと根を張ってギリギリのラインで生きながら死んでいく。

それが、俺なんだ。


イケメン「だからなに?」

男「…っ…お前に!」

イケメン「そうだな。オレにはわかんないよ、けど、だからなんなんだ?」

男「だから何…だと…?」

イケメン「それが君だったとして、草役やスポットライトを浴びなくて、それがなんだって言うんだ?」

男「ッ…お前には到底わかんねえだろうな! イケメンでイケメンで女子やら友達やら全てうまく行ってて!」

イケメン「……」

男「そんな奴と俺が友達なんて、ムカつくんだよ! 俺が惨めになるんだよ!」

イケメン「なんで?」

男「だからッ」

イケメン「周りだろ。だからどうした」

男「だから、どうしたって…お前…」

イケメン「周りから惨めに思われて何なんだ。周りから馬鹿にされてなんなんだ」

イケメン「君は周りから見られないと生きられない人間なの?」

男「ちがっ」

イケメン「俺は君だけが欲しいんだよ」

イケメン「周りなんて関係ない。俺は君だけが必要としている。君のその素質を、君の突っ込みを、ただ君だけを…なのに、君は」

イケメン「どうして───オレ以外のことで悩んでるんだッ!」

男「おおっ…?」

イケメン「なら俺は君の友人となるために周りの友人を全部裏切って見せる」

男「ちょ、それは…」

イケメン「女子も含めるぞ。だったらメルアドも全部消そう、君との通信手段用にしてもいい」

男「ま、まって…」

イケメン「これでいいんだろ。これで君は満足なんだろう? じゃあ、オレと契約しよう」

イケメン「──今のオレは君だけが欲しいんだ」

男「……ぐっ…がっ…ごっ…」

イケメン「オレは真剣だぞ」

男「ぐぎぎっ、じゃ、じゃあ今消してみせろ! メルアド全部!」

イケメン「いいよ」ピッピッ

男「お、おう」

イケメン「…」ピッ

男「……っ…」

男「ま、待った! 分かったお願いしますそれだけはちょっと…!!」

イケメン「ん。じゃあやめる」ピッ

男(よくよく考えたら俺が後で周りから恨まれる結果になってたんじゃ…?)ダラダラ

イケメン「じゃあどうする! 後は君の答え待ちだぞ!」

男「どう、するって…」

イケメン「オレと友だちになって青春を謳歌する。けれどオレの欲望を解消させてもらう」

男「………」

男「……俺は…っ」


希望の光りは何処にある。。
こんな変態野郎と共に、残りの高校生活を過ごして何かを得られるだろうか。



『──……かっこいいな、君は』



男「…!」

男「………わか、った」コクリ

イケメン「え? 本当に?」

男「お、俺がお前に突っ込みをするッ! その代わり……ッ…ちょ、ちょもだち! になる!」

イケメン「友達な。友達トモダチ!」

男「そおっ! トモダチ!」

イケメン「トモダチ! トモダチ!」

男「トモダチ! トモダチィ───!!」



ああ、なんだろう。
少しだけ良いなって思ってしまったからには、仕方ない。きっと仕方ない。



イケメン「ありがとう…っ! ありがとう! 本当にありがとう!」

男「な、なんだよ…喜びすぎだろ…」

イケメン「これでやっと夜ぐっすり寝れるしさ…うんうん…ありがとぉ…」

男「寝ろよ…」

イケメン「うんうん…今日から寝る…っ」

男「……くす」

そんなこんなで、
とんでも無い変態イケメン君が俺の友達となった。

これが後に待つ怒涛の高校生活になるとは、思いもよらなかった、程でもない。

何となく予想はついていた。つきまくっていた。

突っ込みだけに、つきまくっていた。


数日後、


俺とイケメンが恋人関係になったと噂されたのが、
つきまして最初の問題なのだろうと俺は思った。


プロローグ『俺のツッコミ待ち』



気まぐれに更新していきます
ではではノシ

自販機前

男(珈琲飲もうっと)チャラチャラ

チャリーン コロコロ

男「しまっ…」


男(──落ち着いて見届けるんだ俺……)ジィー


コロコロ…

男(放っておけば壁にぶつかって止まる。誰かこの様子に気がついた者は居ない)チラチラッ

男(気の利いた優しい生徒が拾うとことも無い。俺が注視してないからだ、それが俺の懸念…)

男(だって俺は拾ってくれた相手に、気軽にお礼を言える自信無いからな!)

チャリン

男(拾いに行こう)スィー

男「よいしょっと…」


バン! ぐりっ!


男(えっ? 誰かに百円踏まれた──)

女「………」ジロッ

男(だ、誰だ!? 全然見たこと無い女子生徒だ…)

男「あの、その足どけてもらってもいいです、か…?」

女「………」

男「下にお、俺の百円があるっていうか、その…?」

女「……アンタ」

男「な、なに?」

女「アイツと付き合ってるんでしょ。全然信じらんないけど、あの顔だけ良い変態とアンタって」

男「つき、へっ? なに? だれが?」

女「しらばっくれるんじゃないわよ! もう学校中に広まってるんだから!」

男「うひッ!」

女「こんの変態ッ! 男同士で付き合うとか頭どうかしてるんじゃない?! 変態は類を呼ぶって本当だったのね!!」

男「なにそれ……え、別にそんな言葉ないけど……」

女「うるさいわね!! なによ!! なんか文句あるワケ!?」

男(わ、わけがわからん…! とりあえず百円を貸して欲しい…!)

女「あ、そう? あくまでしらを切るってワケね!! へーそーなの、ふーん」グリグリ

男「俺の百円…」

女「いい? べっつにあたしはどーでもいいんだけどさ。心から心底どーでもいいんだけど!」

女「──これ以上アイツをおかしくさせたら、末代まで祟るわよ!」

~~~~

男「…ということがあったんだ」

イケメン「へぇー大変だったなぁ」ほのぼの

男(訳が分からなかったが明らかにお前が原因だろう、と流れで突っ込みたい)

イケメン「それからどうなった?」

男「勝手に怒って勝手にどっか行った…」

イケメン「ははっ。アイツらしいな」

男「え、知り合い?」

イケメン「多分幼馴染。隣のクラスの委員長だな」

男「…。なんでその人が俺のこと怒るんだ?」

イケメン「さー?」

男(さーじゃねええええ! 滅茶苦茶怖かったんだぞ! うわぁぁあっ…女子に怒られるのキツイんだからな…っ)サメザメ

男「と、とにかく原因はあると思うんだ。確か俺が誰かと付き合ってる…とか言ってたから」

イケメン「付き合ってるの? 嘘、初耳だぞ何故黙ってた!」

男「だ、誰とも付き合ってねーよ…っ! それに声でかいから…!」

イケメン「オレというものが居ながら…」

男「誰の許可も貰う必要ねーよっ」パシッ

イケメン「うっひッ!」ビクン

男「ど、どうした?」

イケメン「……いまのグット!」グッ

男(きめぇ…)

イケメン「まあ気にしないで良いと思うけどな。すぐに飽きて関わってこなくなるぞ、多分」

男(最後の一言で不安なんだけど…)

イケメン「それよりもさっ? 今日は何処に行くんだ? そろそろゲーセン行ってみようか?」

男「! い、行きたい!」ピクン

イケメン(嬉しそうだなぁ)

男(ゲーセン……そもそも一度も行ったことがないけど、お金は大丈夫だよな…ちゃんと貯金箱から出してきたし…)ワクワク

イケメン「じゃあ帰るか。そういえば君は部活はやってる?」

男「え、やってないけど…お前は?」

イケメン「全部辞めてきた」

男「うぇっ? なんでっ?」

イケメン「飽きたから」

男(なんですかそれ…そもそも全部って、幾つ掛け持ちしてたんだよお前…)


スタスタ ガラリ ピシャッ


「…ねえ聞いた? やっぱ噂って本当だったんだねぇ~!」

「あの二人ガチで付き合ってたの? 急に仲良くなったとか思ってたけど…」

「オレというものがありながら、なんて言っちゃってたな…うっわーっとと、」

バン!

女「……」キョロキョロ

「おー女じゃん。どうした?」

女「…アイツは? 何処行ったの?」

「イケメン君か。さっき愛しの恋人と一緒に放課後デートに、」

女「チッ! 出遅れたか…これだから売れ残れ教師のhrの長さは嫌なのよ…ッ!」ダダダ

「行っちまった…」

「女も大変だねぇ。昔ながらの幼馴染が同姓に取られるなんてさ~」

「え? 付き合ってたの二人って?」

「いやいや。勘違いされやすいけど、あの二人って───」


ゲーセン

男「ふわぁー………」キラキラキラキラ

イケメン「とりあえず何がしたい?」

男「ふぇっ? じゅるる、あ、えっと、うんっ! 色々とやりたい……です」

イケメン(普段死んだ目をしているのに…なんてきれいな目を…)

イケメン「……あ。じゃあプリクラを撮ろうか?」

男「ぷ、ぷりくら?」

イケメン「高機能射影遊戯機体なんだけど」

男「こうきしゃえ…ゆうぎ…?」

イケメン「うんうん。じゃあ早速行こう、きっと君も気にいるよ」ズイズイ

男「ま、待って! ちょっと本当に一人にしないで…!」オロオロ


ヒョコ

女「…居たわ」

女(なかなか楽しそうに遊んでるじゃない。なによ、久しぶりにアンタの笑顔なんて見たわね…)

女「だからって認めないわよ…ッ…お、男と付き合うなんてどーかしてるわ! 頭に蛆が湧いてるんじゃないっ!?」

ソソクサ…


男「こ、これ押すのか?」

イケメン「そうだよ。そして次に、ここに立ってくれ」

男「お、おおっ? これはどういった遊びなんだよ? 説明をちゃんとしてくれないと…」

イケメン「大丈夫。オレに任せとけって」


女(ここに入っていったわ。プリクラ? はぁっ!!? 男二人でプリクラァ!? ば、ばっかじゃないの!?)ソソソッ

女(中でどんな会話してるのかしら…聞き耳立ててやるわ!!)


スッ


男「俺は初めてなんだよ! もっと優しく、」

イケメン「優しくしてるだろ。君がもっと柔らかくしないからだ」


女「」ピキーン


男「柔らかくってなんだよ! お、俺は理解力には定評はあるぞ…!」

イケメン「だったら最初の優しい説明でわかると思うけどな。それに定評って、誰からの?」


女(コイツ等中でなにやってんのよ────ッッ!)【後半を聞いてない】

女(変態! 変態変態変態ッ! ところかまわず盛ってるのねド変態共…ッ!!)


男「くそぅ…お前のほうがデカいな…」

イケメン「そう? 別に大きいからって良いこと無いと思うけどなぁ」


女(!!??!?!?!!?)


男「…男にとって身長ある方がいいだろっ」

イケメン「い、いまはそうでもないけど…屈まなきゃ映らじゃないかコレ…」


女(へっ変態どもがぁ……なに比べ合ってんのよ…っ…最悪ッ! 耳が腐るッ!)


男「うわっ! いきなりだなオイ…!」

イケメン「ははっ。びっくりした? オレも最初の頃は驚いてさーこんな急にくるもんなのかって」


女(……へ、へぇ~……そ、早漏なのねアイツ……)

男「普通はカウントダウンとかしないか…」

イケメン「実はしてたよ。君がテンパってて聞いてなかっただけだ」


女(なんなのよッなんなのよこいつ等ッ! 付き合ってまだ間もないはずじゃなかったの!? この発展具合はなんなのよッ!!)


男「まだやるのかコレ」

イケメン「それだけお金を払ったんだから、一回だけじゃないさ」


女「………えっ?」


男「そうはいっても…俺はもう一回だけで十分だ…」

イケメン「場慣れの問題だって。いつかは慣れると思う」


女「なに、それ…えっ? お金……払った……まだやるのかって………」

女(あの変態…まさかお金を掴ませて……無理やり付きあわせてるってコト…?)

女(確かにあの目つき悪い奴は、たかが百円で必死になってたけど……嘘、嘘嘘……)

男「…そういうもんか」

女(! 流されちゃダメよバカ! アンタはもっと身持ちを良くしなさい!!)

イケメン「たかが五百円じゃないか。大丈夫大丈夫」

女(五百円で身体売ったの!!? やっぱアンタばっかじゃないの!!?)

男「そうはいっても、俺にとって五百円は大きいんだよ…」

女(大きくないわよ全然小さいわよあんぽんたん!!)

イケメン「えっ? …案外君って家系苦しい感じ?」

女(そこを付け込んだんでしょアンタが!!)

男「…いや、バイトしてるし平気」

女(そのバイトで五百円しか稼いでないけど平気なのそれ!!)

イケメン「へぇー気になるなぁどんなバイト?」

女(アンタサイテーよ!! そうやって問い詰めてプレイってこと!? そういうプレイってこと!?)

女「はぁっ…はぁっ…だ、ダメよ…もうダメ…止めなきゃ駄目…!!」

女「ッ───アンタ達!! 淫行はそこまでよ!!」

ガバァ!

女「あれ?」


イケメン「こっちで今度は絵を描けるんだよ。おいでおいで」

男「そうなのか。へぇーすげぇ~ほぉぉー」


女「い、居ない…そうかタッチコーナーに行ったのねっ!」ババッ

女「今ならまだ間に合う──」

警備員「キミ。ちょっと良いかな」

女「えっ? な、なによ!? あたし急いでるんだから…!」

警備員「さっき報告を受けてね。話を聞かせてもらってもいいかな」

女「嫌よ!! 今止めないと何時止められ、ちょまっ! 放しなさいよコラ───ッ!!」


男「ん? なんだか外が騒がしいな…」

イケメン「ふふっくくっ」

男「…なんで笑ってんだお前」

イケメン「いやいや…やっぱり君と友達になれて良かった」

男「はぁ?」カキカキ

イケメン「オレの日常で埋まっていた面白ものがドンドン発掘されてるんだ。笑わずにいられない、くくっ」

男「訳のわからないことを言うなよな」コトリ

イケメン「…確かに、ごめんごめん」

カキカキ

イケメン「もう少し待っててくれ。君にきっと楽しい青春を送らせて見せるから」

男「お、おおっ?」

イケメン「…待っててくれ」

コトリ

男「…わかった。それと何気なく相合い傘書くなよきめぇ!」

イケメン「マジ突っ込みラブリーっと」

男「やめろーっ!」

~~~~

女「……やっと開放された…」ボー

女(こんな店二度と来ないわ絶対に! 周りの友達にも言いふらしてやる…ッ!)

女「あ……そういえば、変態と目つき悪奴は………」

キョロキョロ


男「フンスー」テカテカ

イケメン「フィギュアとれてよかったな」


女「居た!!」ダダッ

女(やっぱりアイツは変態だった──昔から顔だけは良くて周りからはチヤホヤされてたけど……)

女(隠された本性をあたしは知っている! とんだ変態で馬鹿でアホなやつだってことを!!)

女「けど…ッ」

女「ぐっ……!!」


だだだっ

男(まさかここでレア物が手に入るとは…!)

イケメン「そんなに嬉しいの?」


「──そこの二人止まりなさいッ!!!」


男「えっ?」

女「っ……!!」ダッ


だきっ ぎゅうううううう


男「うぇえええっ!!?」

女「ばかっ…何やってんのよ、馬鹿じゃないのアンタはっ! 苦しいなら頼りなさいよ! もっと周りに相談とかしなさいよ!!」ギュウウ

男「!?!!??」

女「そうやって自分を汚しても何の解決にもならないよッ……例え言いづらくても、例えそれが嫌なことであってもよ…!!」

ポロポロ

女「正直に話せば……ちゃんと人は助けてくれるんだから!!」ポロポロ

男「…え、えっ、えっ?」ドキドキドキ

女「ばかっ……ちゃんと自分の幸せを考えなさいよ…っ」ぎゅっ

イケメン「あのー」

女「黙れ早漏野郎ッ!!」キッ

イケメン「え、なに早漏…?」

女「アンタには心底失望したわ腐れ外道っ!! 昔から変態だって思えば……なんでこんなんなっちゃったのよ!!」

イケメン「……」

女「あたしは…っ……あたしは昔からアンタのこと大っ嫌いだった!! こんな幼馴染が居るなんて最悪だったわよ!!」

女「けどそれでも! アンタはちゃんと真面目に考えてる、そこだけは認めてあげなくもなかったわ!!」

女「でも……さいあくよっ……なによ、なんなのよっ……それじゃあ駄目じゃない……!」

女「今回のことでアンタのこと……心から嫌いになったわ……本当に…本当によ……」

イケメン「……そうか」

女「なにがそうなのかよ……ッ!」

イケメン「なぁ女。聞いてくれ」

イケメン「──お前勘違いしてるぞ」

女「…え?」

イケメン「予想するにオレが金を払って、う、うん、身体を買ってると思ってるだろうけど」

イケメン「ただプリクラ撮ってただけだからな?」

女「え……え……」

男「あわわっわわっ」

イケメン「そろそろ離してやってくれ。気絶しちゃうぞ」

女「……」ドサ

男「あ痛っ!」

イケメン「そういうこと。全然違うから、お前の勘違い、だからさ──」スッ

男「い、今なにが起こったんだ……え?なに?今から言うことを言えって? わかった…」

女「……」

男「このド変態女がッ!」

イケメン「ブフッ」サッ

女「」

男「……。あれ!? 今俺何言った!? ちょ、違うんですごめんなさ…っ!」ハラリ

ハラリ ハラリ パサッ

女「……」スッ

【相合傘プリクラ】

女「っ……っ……」プルプル

イケメン「それ撮ってただけだよーん?」

男「ちょ! 良くわからないけど煽るんじゃないっ!」

女「──こんの…ッッ」ばっ!


女「ド変態カップルが!! 死ね!!」ガン!

男「ふぃぎゅあー!?」


ひゅーん ボゴォ!


女「死ね死ね死ね変態変態変態!! ばーかばーか!! 腐れホモ野郎ども! 死ね、しねぇ───!!! ば──かっっ!」ダダダダダダダ

イケメン「気をつけて帰れよー」フリフリ

女「ば───かっ!! ホモ!!」

イケメン「ふぅ~さてさて…」

男「」チーン

イケメン「そんなにショック受けるなって」

男「何が悪いんだ…俺に何の非があったんだ…」シクシク

イケメン「敢えて言うならタイミングかな」

男「意味が分からん…ううっ…フィギュア…俺のフィギュアが…」

イケメン「大丈夫だって。また来ればいいじゃないか」

男「え…っ?」

イケメン「何時だって来れるんだ。今日だけじゃない、いや、明日にまた来よう」

イケメン「──オレと一緒にさ」

男「っ……そ、そんなこと言ってもだまされないぞ!」

イケメン(嬉しそうだなぁ)

イケメン「あ。そうだついでにアイツも連れて行く? 女のやつもさ」

男「お前は恐れというものを知らないのか…」

イケメン「いやいや楽しいことになるって絶対に」

男「……やめてください、お願いします」

イケメン「ん? もしや抱きつかれた時に……惚れたか!? そうなの!?」

男「ち、ちがっ」

イケメン「友人としてアドバイス。本当にアイツはいい子だから、おすすめする」

男「違うって言ってんだろボケ!」

イケメン「うひぃ~~~っっ」

男「うわぁ…」

なんやかんやあって、ひとつの問題が終わったということになる。
なんやかんやあっても、楽しくなかったといえば嘘になる。

嘘と真はまさに表裏一体。

真が増えればまた嘘も増える。
──この日を境に『俺とイケメン君と女さん』の三巴の戦いになったと噂されるのは、そう遅くはなかったのだった。

一話『俺の突っ込み無し』



次からは
一週間に一回投稿出来たら良いなって

ではではノシ

帰宅路

イケメン「帰りに何処かよっていく?」

男「あ、うん」

イケメン「そういえば駅前に美味しいクレープ屋できたんだって。オレ、甘いのに目がなくてさ」

男「じゃ、じゃあ行ってみるか」

イケメン「君も甘いのいけるの? おおっ、じゃー行ってみようぜ」

男「…うん」チラリ

イケメン「ははっ」

男(コイツはいつも幸せそうだな…なにか悩みとか無いんだろうか…)

男「なぁお前ってさ…」

イケメン「どうした?」

男「その、なんていうか」

男(恥ずかしくて聞きにくい…どうやったらそう楽観的に生きられるのか、なんて…)

イケメン「おいおい。どうした急に、一段と目が死んじゃってるぞ」

男「…死んでるのは元からだし、これ以上酷くなったら困る…」

イケメン「たしかにな」ウムウム

男「その、いきなりこんなコト聞くのもなんだけど……お前って」

イケメン「うん?」

男「えっとあのその~……う、うん……」ポリポリ

イケメン(…? 何でアゴを掻いてるんだ?)

男(どうしよう、もうここまで言いかけたのなら言ったほうがマシだよな)

イケメン(あごを──ハッ!!? まさか髭の剃り残りあったのか!?)ササッ

イケメン(元より生えにくいけれど、剃り残りはどうしようもない…)サワリサワリ

男「ううっ…あ、あのっ…さ、お前って悩みとか……あったりしないの、かなっ……て」ブルブル

イケメン(それとなく教えてくれてたのか、あれ? 触った感じ感触が……)

イケメン「なにも無いな…」

男「ええっ!? ひ、ひとつ足りとも…っ?」

イケメン「え、うん? 無いけど…」

男(精神力バケモノかよ! す、すげぇ…これが顔も性格もイケメンってやつか…)ドキドキ

イケメン(えらく驚いてた。そんなに長いの生えてたのか…?)サワサワ

男「………」ズーン

イケメン(あれ、何か落ち込んでしまったぞ。…もしかして髭に憧れてる?)

男(一方俺は悩みだらけで首が回らないぐらいだしな。あー人生もっと楽に生きられないかなー)

イケメン「大丈夫、年を取れば案外増えていくもんだって」ニコリ

男「ッ…!? こ、これ以上増えても困る!!」

イケメン「ええっ? じゃあ結構、朝とか大変な方だったり…?」

男「あ、朝? ああ、うん…まぁ…毎朝ベッドから出たくなくなったりするかな…」

イケメン「出ること拒むぐらいもじゃもじゃになるのかっ!? しかも毎朝っ!?」

男「…うん、もじゃもじゃになる。こう色々といっぱいいっぱいになって…」

男「それでもやっぱり学校には行かなくちゃって、気になる」

イケメン「が、頑張ってるんだな。オレはそういった経験がないからさ、上手くアドバイスできないけど…」

男(みたいだな…悩みが無いっていうぐらいだし…)

イケメン「……。でも、やっぱ男同士そういったこと隠して生きるの無しにしよう」

男「えっ…?」

イケメン「いくら恥ずかしくても、それが自分のコト──なんだって思わなくちゃな」

男「……」

イケメン「だって自分は一人だけなんだ。ちゃんと向き合って生きていかないと、うん」

男「お前…」

イケメン「なっ?」

男(な、なんて良い事を言うんだろう…やっぱ悩みがない奴は凄いこと言うなぁ…)

イケメン(だから毎日顔に生えわたる剛毛を、どうそこまでツルツルに剃れるのか方法を是非に聞きたい)ソワソワ

男「そ、そうだな。確かに一人で抱え込んでも……良いことなんて無いよな」

イケメン「っ! そうそう!」

男「その、あの、さ……俺とお前はと、トモダチュ…トモダチ…なんだし…一つ試しに…」ドキドキ

イケメン「うんうん。試しになんだ? もしかてオススメのシェービング…」

男「お、おおっ……そのす、素直をだなっ!」

イケメン「砂をッ!?」ビク

男「あ。うん…そういったのって難しくてさ、俺にとってはさ」

イケメン「誰だって難しいぞそれっ!? す、砂をなんて…無理無理ッ!!」

男「そ、そお? 結構お前とか……そうっぽく見えるけど…?」

イケメン「どんな風に見てるんだオレのこと!?」

男「お前…」

イケメン「なっ?」

男(な、なんて良い事を言うんだろう…やっぱ悩みがない奴は凄いこと言うなぁ…)

イケメン(だから毎日顔に生えわたる剛毛を、どうそこまでツルツルに剃れるのか方法を是非に聞きたい)ソワソワ

男「そ、そうだな。確かに一人で抱え込んでも……良いことなんて無いよな」

イケメン「っ! そうそう!」

男「その、あの、さ……俺とお前はと、トモダチュ…トモダチ…なんだし…一つ試しに言いたいことがあるんだが…」ドキドキ

イケメン「うんうん。試しになんだ? もしかてオススメのシェービング…」

男「お、おおっ……そのす、素直…とかの…やり方だな…!」

イケメン「砂のやり方ッ!? え、砂っ!?」ビク

男「あ。うん…そういったのって難しくてさ、俺にとってはさ」

イケメン「誰だって難しいぞそれっ!? す、砂をなんて…無理無理ッ!!」

男「そ、そお? 結構お前とか……そうっぽく見えるけど…?」

イケメン「どんな風に見てるんだオレのこと!?」

男「えっ? …ち、違うの?」

イケメン「違う違う! お、オレは君とその、根本的に違うしさ…!」サスサス

男「あ……うん」ズキン

イケメン「だからやめたほうがいいと思うな…」

男「……そ、そっか。ごめん、変なコト言って」しょんぼり

イケメン(びっくりした~砂を使って髭を剃るとか、オレには高等技術すぎる…)

男(まぁその…分かってた、うん、俺が素直になるなんて…向いてないし、相談したことが間違いだよな…)

イケメン「えっと、君のことを思って言ってるんだよ? そういうのやっぱ良く無いと思うからさ…」

男「……うん、ごめん、ごめんなさい…」ギュッ

イケメン(ううっ、凄くしょんぼりしている…案外オススメの方法だったのかな…?)

男(もう帰りたいな…家に帰って好きな本読んで飯食べて、寝たい)

【クレープ屋】

イケメン「あ、ほら着いた。ここだよココ」

男「………」

イケメン「えっと、言ってた評判良いクレープ屋なんだけど、その…一緒に食べる?」

男「………」コクリ

イケメン「あ、うん。じゃあ食べよっか…うん…」

男「………」ズーン

イケメン(ど、どうしようっ!? 凄く傷つけてしまったらしい!! 砂でするのはそこまでの性能を秘めているのか!?)

男「あ」

イケメン「ど、どうしたっ?」

男「えっ? あ、いや…なんでもない…」スッ

店員「いらっしゃいませー何をご注文されますか~?」

イケメン「っ! え、えーっとそれじゃあ──」

男(今の今まで気づかなかったけど、アイツ、うなじに白髪が一本…)

イケメン「──クレープを一つと、あとは~」

男(取ってやろうか。でも、他人に何気なく触れるのは…ちょっと気まずい…)ソワソワ

イケメン「そうだ、君は何を食べるんだい?」くるっ

男(まー……別に良いか、コイツならそう気になったりしない、と思うし)スッ


イケメン「…なんでそこでオレを指差すんだ?」

男「えっ?」びしっ

店員「──……ッ!?」ドキン


イケメン(ハッ!? そういえばまだ剃り残しの件が残ってたじゃあないか! それを指さして…ッ?)サスリサスリ

男(指差し、ああ、取ろうと伸ばした指先がそう見えるのか…)ニギニギ

店員(な、なんなのこの子達ッ!? 男二人でクレープは珍しいと思ったけど、ええっ…た、食べちゃうの? 今晩君はこの子を食べちゃうの…!?)ドキドキ


イケメン「あ、ありがとう。わざわざ言ってくれて、感謝するよ」

店員(感謝しちゃうのね! そこは嬉しがっちゃうのね!?)

男「あ、いやっ……まだ言うのは早いっていうか…」

店員(そ、そうよねっ!!! そういうのは今夜になって、二人で分かち合ってからいうものよねっ!!)

イケメン「確かにその通りだ。出来れば詳細に言ってくれないかな、頑張って…一人でやるから」

店員(おぅおえっ!? こ、今晩のプレイを妄想しつつ先に独りで…ッ!? なんてもうやらしい子だーぁ!!)

男「でも結構難しい、と思うけど。だって後ろだし」

店員(バック!? そりゃちょっと独りでやり切るのは問題があるわー!)

イケメン「後ろっ!? もうそれは違うものじゃないかな…!?」

店員(そうよそういうのは違うわ目つきが悪い子君! 愛が無い! ラブがないわ! …じゅるる)

男「違う? まぁお前の年齢だと…そうでもないんじゃないか、結構見かけるし」

店員(どういうことぉぉ! バックでぱんぱかしちゃうのは高校生では流行りなの!? きゃーなんつー時代だよまったく!)パン

イケメン「結構見かけるのか…君が言うのなら…君のほうが詳しいしみたいだし、うん、そうなんだろうね…」

店員(お、押し切られちゃうのね!? 今晩はバックでこんばんわってか! なーにいってんだ私! あはは!)

男「お、おう。だからちょっと試しに……後ろ向いてくれないか」

店員「ッ!?」

イケメン「ああ、良いよ。出来れば優しく頼むな…結構痛むから」

店員「ッ……!!?」

男「うう…っと、届かないから屈んでくれない?」

イケメン「こう?」スッ

店員「────」

男「もうちょっと下。そうそう、右にずらして…」

イケメン「こうかな」ススッ


店員「」サラサラサラ…


男「えいっ」

イケメン「あ、痛ぁ!? ちょ、髪の毛をどうして抜くんだ!?」

男「は、はぁ? だから白髪が──」

イケメン「白髪? …全然違うじゃないか、君が抜いたのは真っ黒だ!」

男「え? あ、本当だ……光の反射でそう見えただけか…あっと、ご、ごめっ」

イケメン「ッ──君はオレにムカついてるはわかってるけれど、そういった返しは酷いと思うぞ!?」

男「えっ? ええっ? い、いや別にムカついてなんか…ただ俺は…」

イケメン「君が当然と思ってることでも、オレにとっては無茶だってこともあるんだ…っ」

男(何言ってんだコイツ…)

イケメン「そうか、そうなんだなっ…君はどうしてもやってほしいんだな…砂を……!?」

男「っ……そ、その話は………もう終わったろさっき…」プイッ

イケメン「──そんなワケないだろっ!?」グイッ

男「ええっ?」ドキ

イケメン「君があれだけ言いたかったことなんだ! それをオレにやって欲しかったんだろ…!?」

男「やって欲しいって…別に俺はそこまで相談したかったことじゃ…」

イケメン「っ……そうか、君は相談したかったんだな」

男「あっ…ち、ちがっ…」かぁぁぁ

イケメン「それがいつも通りだったとしても、これは間違いじゃないかって気にしてたんだ…それを教えると言いつつ知りたかったのか…っ」

イケメン「──ごめん、友達になろうって言っときながら君の気持ちが理解できてなかったよ…すまない、本当に…」

男「……あぁあううっ…」プシュー

イケメン「これからもよろしく頼む。こんなオレだけど、君と仲良くしたいんだ」

男「は、はいっ」コクリ

イケメン「おっと。そういえば注文途中だった、すみません長話をしてしまって…」

店員「」ボタボタボタ

イケメン「店員さん!? どうしたんですか!?」

店員「………」グッ

イケメン「え?」


~~~~~


イケメン「なぜタダでクレープをくれたんだろう…」

男「…美味しい」

イケメン「おっ? だろうだろう?」

男「お、おう。クレープで美味しいと思うの…初めてかもしれないな…」

イケメン「なんだかエラく気合を入れて作ってれてたから、一味違うのかもしれない」

男「………」ぱくぱく

イケメン「美味しいかい?」

男「あ。うん、美味しいっていうか…」

イケメン「うん?」

男「…その、なんていうかさ、こう…あのさ、あれっていうか…」

イケメン「どうしたどうした。オレらは友達だろう、もっとハッキリ言っても平気だって」

男「……えっと、友達と食べるのは……美味しいと、おもう、です…」

イケメン「……」

男「やっぱ無し! 今の忘れろーっ!」ブンブン

イケメン「いやいや。オレも君と食べれて、普段よりも美味しいと思えるよ」パクパク

男「……そ、そうっ?」

イケメン「うんうん」

男「あ──そっか……へへっ」

イケメン「おっ? 今笑った!? すっげー普通に笑ったよね!?」

男「ち、ちがっ笑ってねーよ!!」

イケメン「くっそーもっと近くで見とけば良かった」

男「か、からかうなよ……って、相談のこと聞きたいんだが…」

イケメン「相談? ゴクン、ああそうだった」

男「こ、答えてくれるのか?」

イケメン「勿論。君とオレは友達だ、だから助言してあげるよ」

男「は、ハッキリと頼むっ。曖昧に言われると……寝る前とかで、もじゃもじゃになるから」

イケメン「それは大変だ。じゃあハッキリと言わないとな」

男「お、おう」ドキドキ

イケメン「君の相談の答えだけど──うん!」


イケメン「やっぱ君には砂を……ってのは無いな!」

男「」



【この誤解が解けるまで一週間程かかりました】

第二話『俺の今晩の突っ込み(仮)』

また一週間後に
次は三本立てです宜しくお願いします。

ではではノシ

図書館

男(今日は図書室で読書をして過ごそう…)ガララ

男(最近はよく人から視線をもらって疲れるし…まぁアイツとつるんでたらそうなるわな…)

男(ここは唯一、ゆっくりと落ち着ける場所だ。憩いの場所だといえるだろう)

男「さて…」チラ


眼鏡「…」パラ


男(おっとと、先客さんが居たか。珍しいなこんな放課後に)ガタ

眼鏡「…」チラリ

男「…!」ペ、ペコリ

眼鏡「…」コクリ

男(目があってしまった…ていうか、足なっがー足長おじさんかよ)

眼鏡「…」パラリ

男(普通に読書に戻ってしまったし、俺も静かに本を読もう…家から持ってきたこの──)


【君に恋して三千里走ったけど本当の大事な人は海から覗いてた!?〈Ⅲ〉】


男(という究極にまどろっこしいタイトルのラノベだ。実は大好きなんだコレ…)ワクワク

男(陸上部でエースだった主人公は、大会のゴール直前でアワビの殻を踏んで大怪我をしてしまう)

男(その怪我で選手生命を頓挫。部員や両親からも見放され、生きる希望すら無くしかけた時──)

男(──海で不正にアワビを踊り食いしている思い出の少女と再開する)

男(そして、淡い初恋と過去に持ちえていた熱き情熱を胸に、あまんちゅへと捧げる─ハートフルラブコメグルメスポーツ小説…)

男(最高だ。何もかも新天地すぎてうまく言葉すら浮かばない。ただただ、最高だ)ブルブル…

男(今作で三巻目を迎えるのだけれど、タイトルにもある【君】という女の子がやっと活躍するシーンがあるんだ…!)

男(お馴染みのツンデレ具合。素直になれない不器用さ。主人公のことを陰ながら見守り続け…)

男(己と主人公との逆境と漁業法の罪に苛まれながらも、彼女は胸に秘めた強き想いを…やっと彼に…!)

男「ムッフー…読ませてもらおう…」パラリ



眼鏡「…」じぃー



男「…、………、……?」チラ

眼鏡「…」フィ

男(今…あれ…ん…?)

眼鏡「…」パラリ

男(き、気のせいか? 多分気のせいだろう…うん…そうだよな…)パラリ

眼鏡「…」チラッチラッ

男「…………」

眼鏡「…」じぃー

男「…………………………」



眼鏡「…」じぃ─────



男「…っ?」チラリ

眼鏡「…」フィ

男(見てたよな絶対に! 凝視レベルで観察されてた!)

男(な、なんだ俺に何か用でもあるのか……じゃあ何で目を逸らすんだろうか……っ?)ズーン

眼鏡「…」パラリ

男(ちょっとこのまま見続けてみよう、かな)じぃー

眼鏡「…」

男「…」じぃー

眼鏡「…」パラリ

男「…っ…」じぃぃー

眼鏡「…」チラリ


男「っ!」ビクゥ

眼鏡「…」ビクッ


男「っ…っ…っ?」ドキドキドキ

眼鏡「…」カ、カチャ フィ

男(いや無理がある! 何事もなかったように眼鏡の位置なおして逸らしたけど無理がある!)ドッドッドッ

男(やっぱり俺を観察していたんだ。なんだよ、これで二人目だよ…どういうことだよ…)


「──げっ! なんでアンタがここに居るのよ!?」


男「えっ?」

女「最悪…静かに勉強できるのココぐらいなのにっ」

男(……うっわーココに来て一番会いたくない人来た~…)

女「な、なによその顔はっ! なんか文句あるわけ!? あるならはっきり言いなさいよ!」

男「……ぅ…」ガタ

女「ふんっ。言っとくけど、この前のことは謝らないからっ。アンタ達が男同士で卑猥なことするから悪いのよ!?」

男「………」イソイソ

女「そ、そりゃまぁフイギュアを蹴ったのは悪いと思うけど──えっ? ちょ、ちょっと何処行くのよ…?」

男「…帰るんだけど…」

女「は、はぁ? なんでよ急にどうして帰っちゃうわけ? 良いじゃない別にここに居たって…」

男(苦手過ぎるんだよこういうタイプの人…というか女子って時点で苦手なので…)スィー

女「あ…」

男(本は帰ってから読もう。そうしよう、そうしよう)

女「ッ~~~~! ま、待ちなさいってば!!」ぐいっ

男「うわぁっ!?」

女「そんな嫌そうな顔しなくたっていいじゃない…! そ、その…えっと…だからあれよあれ!!」

男(なんですか…っ!?)ドッドッドッ

女「…………えっと」シュン

男「…?」

女「とりあえずべ、勉強をあたしに教えなさいよ! 何も聞かず教えなさいッ!」

男「……は、はい?」

女「いいから、つべこべ言わず、教えなさいっ! ───わかった?」

数分後

男「そこは一旦置いといて、次の式に振り当てて…」

女「うん」サラサラ

男「…違う違う。そうじゃなくて、求めた答えは置いておく感じで…」

女「う、うん」サラサラ

男「あれ? 答え最初から間違ってない?」

女「……」ブルブルブル

男(あ。怒りそう)

女「っはぁ~……そう、ね…間違ってるわ多分…わからないけど…っ」

男(数学苦手なのかこの人…つか教えるのが怖すぎる…爆弾処理してる気分だ…)

女「あー駄目駄目。今日は乗り気じゃないわ、うん、気分が空振ってる感じよね」ポイ

男(気分てなんだろう)

女「…気になったんだけど、あんた今日は一人なワケ?」

男「え、あ、うん」

女「へぇ~いつも一緒だってワケじゃあないのね」

男「…まぁ」

女「………」

男「………」

女「…あの、さ」

男「な、なにっ?」

女「いったいアンタってば。どんな魔法使ったのよ」

男「魔法…?」

女「……。アイツをあんな楽しそうにさせるなんて、魔法以外に何があるっていうのよ」

男「意味がわからないんだけど…」

女「そ。わからないなら良いわ、べっつにあたしが気にすることじゃないし。どーでもいいしあんな変態なんて」

男(変態、ってことはアイツの事なんだろうけど。何が言いたいんだこの人)

女「ただ出来ればその、なんていうのかしらね、ああいったアイツも良いなって思うし」

男「は、はあ」

女「楽しくないよりは楽しそうな変態を見てたほうが安心できるから、アンタにはこれからも──」チラリ

男「っ……」ドキン

女「──待ちなさい、それって【恋覗】じゃない?」

男「へ? こ、こいのぞ?」

女「あたし見たことあるわよ、そのアニメ。深夜に何気なくテレビ見てたらやってたわ、原作なのそれ?」

男「ああ、うん、そうだけども」

女「へぇーちょっと見せなさいよ。ふーん、へぇ~ほぉ~このへんはまだアニメ化されてないわね」パラパラ

男「…そういうの抵抗、とかないの?」

女「抵抗? なにそれ、絵柄とかのこと? …フツーに可愛いじゃない」

男(…少しだけ自分の中の好感度上がった)

女「あたしの姉がこういう系好きで、良く買ってるのよ。読ませてもらってもいるし、アニメも見たりしてるわよ」パラパラ

男「え、結構詳しかったり…?」

女「別にそこまで趣味じゃないし、けど、まぁー面白いか面白く無いかぐらいは言えるわね」

男「ほ、ほう。ちなみにその…こいのぞは…?」


女「うん。笑えるぐらいに面白く無いわよね~あっははー」


男(好感度急降下)

女「絵柄は可愛くて好きだけど、内容が駄目。盛り込み過ぎて起承転結どころか転転転転、まさにてんで駄目ってやつねぇ~」

男(そこが面白いというのに…)

女「しかもこのメインヒロイン! なにアワビ食ってんのよばっかじゃない? 腹壊して死んじゃうわよコレ~! あははは!」

男(そういった好奇心の塊であるからこそ、他を惹きつける魅力に長けているんだ…!!)ブルブル

女「くっくっ…確かにギャグとしてはセンスあるかもね、あたしは好きじゃないけど」

男「っ……その辺にしておいてく、」



ぞわぁあああぁぁあ



男「!?」ビクゥ

男(きゅ、急激に立ち込めた負のオーラは何だ…っ!? 恐ろしく寒気がする…!!)



眼鏡「───」ぞぞぞぞぞっ



男「……っ!? め、……眼鏡の……人……ッ!?」

眼鏡「…」ぞぞぞ!

男(今まで静かに読書をしていたのに何故…!? そんな強烈な雰囲気を醸しだして…っ)

女「それにさぁ~グルメとか銘打ってる癖に、なんら味に関しての描写がなってないの。くっく」



眼鏡「…」ゴォォオオオ!



男「…!」

女「多分この作者、陸上おろか運動もやったことないと見た。心理描写が甘すぎ甘すぎ」



眼鏡「…」ギュインギュインギュインギュイン!!



男「…!?」

女「しかも恋愛も未経験じゃないのこれ?」

眼鏡「………」ドドドドドドドドドド

男「…や、やめとくんだ、そろそろ…」ダラダラダラ

女「はぁ? 急に何よあんた──あ、ごめ……そういえばあんたの本だったわね」

男「う、うん。俺は別にどうだっていいんだ、違う、心配するところはそこじゃない…!」

女「そ、そお? あんたが好きで買って読んでるわけじゃない、それをあたし…」

男「い、良いんだ! 俺のことは!」

女「えーっと、じゃああんたも同意見ってコト?」




眼鏡「…」ボッッッ! ドゴゴゴゴゴッゴゴゴッゴオッゴゴ!




男「違う!! 俺は違う!!」ガタタ

女「な、なによっ?」

男「はっ…はっ…はぁっ……お、俺は大ファンなんだ……この作品の…!!」

女「そおなの?」

男「あっ、ああ……だからそういった人もいるわけでっ……一々気にしてちゃ駄目だと、俺は思うんです…!!」ドッドッ


眼鏡「……」しゅるるるるるるる ぽんっ!


男「───ッ……! ……っ…はぁ~…」ストン

女「なんで最後敬語だったの?」

男「…気にする、な」ダラダラ

男(分かった。分かってしまった、あの人多分、この作品の大ファンか、それ以上の人だ)チラリ

眼鏡「…」パラリ

男(予想では作者様じゃあ無いだろうか。本当に予想だけれども、間違ってるかもだけど)

男(だからさっきから読んでいる俺を気にしてたんだ…なるほどな…そりゃ気になるわな…)

女「じゃあさ、そんな大ファンなら好きな所教えなさいよ?」

男「……!」

眼鏡「……」ぴくっ

男「えっ? ちょ、何言って…」

女「なによー答えられないってワケ? 大ファンなのに? 実は面白く無いのに惰性で買ってるとか?」


──ヂリッッ…


男「違うっ!! ちゃーんと答えられるぞー!? あったりまえだろ!?」

女「じゃあ教えなさいよ。どんな所が好き?」

男「──ゴクリ……」

男(どんな所が好き!? 言えばなんだって言える! けれどこれを作者様かも知れない人が聞いてるんだぞ…!?)チ、チラ


眼鏡「…」わくわく


男(わくわくしてらっしゃる! 肩がウキウキしてるんだぞ! こ、ここで失礼なことを言ってみろ…今後楽しく読めなくなるだろ!!)

男(どうすればいい!? 何を言えばいい!? 俺はこの作品で何を愛し感動し感銘を受けたか───)

男「俺は…っ」


『素直が一番だぜ?』


男「っ──………頑固で融通が聞かなくて、けれど結構他人のことを良く見てて」

女「うんうん」

男「勉強は苦手だけど、唯一取り柄の運動だけは頑張ろうという強い意志を持っていて…」

女「ほうほう」

男「昔っからの幼馴染のことを大切に思ってるけれど、そんな素直な言葉は恥ずかしくて出せれない…」

女「…うん?」

男「けれどずっと心配はしていた…人知れず抱えてしまった悩みを、解決できるチカラを持っていないことに悔やんでる…!!」

女「えっ」ドキッ

男「そんな幼馴染を他の誰かに───救われていたことが気に喰わないけれど、けれどやっぱりそれでも素直になれない!!」

女「……」

男「そんな!! そんな…!! その娘が、大好きなんです……っ!!」

男「──こいのぞの幼馴染キャラのツンデレが!!」

男(言った──言ってやった──俺の素直な感想を…!)

男「ど、どうだっ? これが俺の…!」

女「あ、その……えっと…」もじもじ

男「…?」

女「あ、あたしは別に、どんな所が好きって、あたしのことを聞いたんじゃないんだけど…っ」カァァァ

男「………」

女「ばっ何よ急に恥ずかしいこと言って! アンタなんか全然タイプじゃないし…っ…目つき悪いし…でも、あの…」てれてれ

男(いったい、彼女は、何を言っている?)

女「あ、アンタって変態と付き合ってたんじゃ───」



眼鏡「……」ガタタタ!!



男&女「!?」

眼鏡「……」ズンズンズン

男「えっ? な、なになにっ? なんですかっ!?」ダクダクダク

眼鏡「───」スッ

だきっ ぎゅううううううううう

男「うぇぇぇぇええええええ!?」

眼鏡「……」ギュウウウ

男「な、なにっえっ!? なにっ!?」

眼鏡「……──」ボソッ



───アリガトウ…


男「……は、はいっ!! 俺も嬉しいです!!!」

眼鏡「…」コクコク

女「」

【この後ド変態ホモビッチと叫ばれました】

第三話『俺の素直な突っ込み』

教室

イケメン「……」

イケ友「どぉ? 見てよこの上腕二頭筋! キレてないッ? 超絶きれてないッ!?」

イケメン「ああ来てるよコレ。果てしなく来てるねコレ」

イケ友「だろ? ここまで来ると俺も良く分かんなくなっちゃってるからマジやべーよコレ」

イケメン「ふむ。じゃあ続けてるんだ」

イケ友「……ああ、続けてるぜ?」キラリン

イケメン「こうやって効果を目に見えて確認できると、オレもアドバイスしてよかったと思うな」

イケ友「あんがとなー! メキメキ育ててやるぜー? ちょーやるぜー?」



男(コイツかよ亀のウンコ食ったやつ…)チラリ

イケ友「そういや亀ちゃんの方も元気でなぁ。写メ見る写メ見る?」

イケメン「おお。可愛いな」

男(…どうしよう案外笑えない。気になってたけど実際分かると引いちゃうわコレ…)

イケメン「さて、今日はもう帰るから。お前は部活だろ?」

イケ友「そなのよぅ。バスケの先輩が今日は来いってうるくてさぁ、んじゃまたな~!」ブンブンブン

イケメン「またな」

男「……」チラリ

イケメン「ん。さあ帰ろう、今日は何処へ行こうか?」

男「な、なぁ…もしかしてアイツが前に言ってた亀のうんこの…」

イケメン「──あれは悲しい事件だった。忘れたほうがいい、オレも無かったことにしたいんだ」

男(じゃあ今からでも止めてあげろよ…)

イケメン「そんなことより、誤解が解けて久しぶりの一緒に下校だ。とことん楽しもう」

男「…ああ、うん」ガタ

イケメン「近所のディスカウントショップ行ってみるかい?」

男「…!」ぴくっ

イケメン「ははっ。君ってああいった店好きだろう? 実はオレもなんだ、買わなくても見まわってるだけで楽しいし」

男「い、行きたい!」

イケメン「うん。じゃあ早速行こうか──」


イケ友「イケメン~やっぱ今日は一緒に帰ろうぜ~」ガラリ


男「…あ」

イケ友「なんか部活休みだったわ~最近行って無くて知らなかったんよ~ナハハ」

イケメン「おお。そうか」

男「……」

イケ友「おっけ~じゃあ準備してくるぞっ」ダダダ

イケメン「了解。玄関で待ってるぞ」

イケ友「ういっす~」

男「…じゃ、じゃあ俺は先に帰るな」

イケメン「うん? 待つんだ、君も一緒に帰るんだよ?」

男「いやいやいや…! 俺アイツのこと全然知らないしっ! …だから、その」

イケメン「オレは君と帰るんだよ。アイツはおまけだろ」

男「おまけって…」

イケメン「大丈夫、平気だよ。心配しなくてもオレが付いてる。寂しい思いはさせないさ」

男「あ。うん…」


~~~~~


俺は過去に経験したことがある。
あれは小学生の頃。当時はまだ友人と呼べる人も居たのだった。

幼きゆえの無邪気さで、相手もまた大人しい俺を仲間に引き入れてくれて。

俺の友達の友達。そんな知らない人たちと遊べる時間が──とても楽しかった事を覚えてる。

男「…」

それと同時に、凄く悲しかった事を覚えてる。
俺を友達と読んでくれた当時の友人。彼が俺以外の友人と居るときは、

本当に、本当に、楽しそうだった。

わかっている。知っていたんだ、自分が相手を楽しませることが出来ないことは。
不器用で盛り上がる話題も振れないし、共通の趣味も持ち合わせてなかった。

ただ彼の優しさで付き合ってくれていただけなんだ。
なんら自分の魅力ではない。だから、彼が心から笑うあの表情を見るのが──辛かった。

自分の知らない彼の顔を見るのが、俺は嫌だった。
俺も彼を楽しませたい、けれどやり方がわからない。

なのに、周りは当然のように──彼を笑わせる。

自分の情けなさに、無価値さに、当時の俺は恐ろしく諦めてしまったのだろう。

──何も出来無い、ただのでくのぼうだと。

男(今だって忘れられない…)

あの頃から何も変わってない。自分は一人ぼっちなのだ。

楽しい思い出なんて、結局、俺なんかが作れるわけがないと。

~~~~

男「…………」

だから、今もまたそうやって彼の知らない顔を──


イケメン「どう思う? あれはオレの間違いじゃなかった筈なんだ」

男「……」

イケメン「あそこでバヒューンと蹴ったボールは確かに入らなかったけれど」

男「……」

イケメン「あのシュートは正解だった。なのに何故怒られるのだろうか、オレはそれが気に食わないんだよ」

男「……」

イケメン「だからオレは審議を申し立てるんだ。今度の体育でまたああいったチャンスがあるなら…」

男「…あ、あのさ」

イケメン「なに? どうした?」

男「その……俺にだけ話しかけ過ぎじゃない…?」

──だと思ったんだけど。コイツは例外らしい。

イケ友「……」ぽけー

男「ほ、ほら! あの人もさっきからぼけっとしちゃってるし、話についていけてないし!」

イケメン「ついていけないのは、アイツが体育サボるから悪いんだろう。オレは関係ない」

男「そりゃそうかもしれないけれど…っ…もっと共通の話題とか、友達なら、知ってるだろ色々と…?」

イケメン「…?」

男「お、俺はっ……別に良いんだって、お前らが会話してるのを傍から聞いてるだけで…その、楽しいからさ…」

イケメン「……」

男「そいつは昔からの友人なんだろっ? 俺は知らないけれど、えっと、だから…やめとけって、そういうの」

イケメン「…君は」

男「な、なんだよ」

イケメン「優しいんだな。知らない相手まで気を使うなんて」ニコ

男(その知らない奴を引き入れたのは何処のどいつだよ! …ま、まぁ俺には関係ないけど…怒ることでもないし…)

イケメン「オレは君と会話したいんだ」

男「えぅっ…なんだよそれ…っ」

イケメン「今日はそもそも君と帰る予定だったろ? アイツはオマケだとさっき言ったじゃないか」

男「で、でもっ」

イケメン「だってもでもじゃない。それに、君が気にするほどイケ友はやわじゃないぞ」

男「…そ、そうなの?」

イケ友「はっ!? またぼんやりしちまったー…ジュルル、なに話してたん? んっ!?」

イケメン「な? だって──亀のウンコ食うやつだぞ…」ボソボソ

男「ブフッ」

イケ友「ちょ、なに人の顔見て笑ったん!? なになになに!?」

イケメン「何でもないさ。そういえば彼のことを紹介してなかったね、彼は男君だよ」

イケ友「おー最近イケメンと仲いいやつだよなっ! よろしくっ!」

男「よ、よろひゅくっ!」

イケ友「よろちくび!」

男「…古ッ!?」

イケ友「えっ? なははーちょいとネタ古かった? わかりにくい感じだったかー」

男(しまった、何気なく突っ込んでしまったっ)ドキドキ

イケメン「オレが思うに君とイケ友は相性がいいと思うぞ。案外、すぐに仲良くなれると思う」

イケ友「マジでー? でもでもコイツのこと全然知らないぜ?」

男(初対面でコイツとか…いや、初対面じゃないけど…)

イケメン「おいおい。初めて会話するのにコイツ呼ばわりするなよ、失礼だろ」

男「…!」ぴくっ

イケ友「おわぁっ!? し、しまった! ごめんよ男ぉ~おれってばすぐに、こうなんつーの……やっちゃうからさ~」

男「い、いや! 気にしてないんで…大丈夫だし…」

イケ友「やっさしぃ~! ありがとうマジ感謝すっべ! いい友だちできたなぁ~イケメン~」

イケメン「だろう」ドヤッ

男(…照れる)

イケ友「そういえば一つ気になったことがあるんだけどさ、男」

男「な、なにっ?」

イケ友「もしかして……と、飛び級なの?」

男「は?」

イケ友「背小さいし、なんか幼いし、前髪長いし、なんかこう──天才中学生みたいなっ!?」

男「ち、違うけど…同じ高校生だけど…?」

イケ友「うっそマジで!? まぁ目つきが人の血を飢えてる気がするしな…もしかして殺し屋?」

男「違うわ!」

イケ友「わっ」

男「……っ……あ、ごめっ、急に怒鳴って」

イケ友「だよなぁ~めんごめんご~なわけないよなぁ? じゃあ飛び級は当たってたかぁ」

男「それも違う!」

イケ友「えっ? じゃあ高校生、なの?」

男「高校生、立派な高校生だって! アンタと同じタメ……はっ!?」ビクゥ

イケ友「マジかよおれやっぱ馬鹿だなぁ! なはははは! ばっかでぇおれぇ~」ゲラゲラ

男(危険だ…何故か素でツッコミを入れてしまう…! 段々とアイツのせいでおかしくなってきてる…!)チラリ


イケメン「……………」


男「……?」

イケ友「タメなら趣味もあいそうだなぁ! ちょい男、好きな楽曲はなんだべ?」

男「え、あんまり聞かないけど…」

イケ友「実はおれもなんだよぉ~! やべぇやべぇ! 趣味合いすぎぃ~!」

男「じゃあ聞くなよ…!」

イケ友「だよなぁ聞くなって話だよなぁ! なははははは! ひぃーお腹痛いっ」

男(何か良くわからない人だ…けど、不思議と嫌な気分じゃない、気がする)

イケ友「面白いわぁ男。是非におれとも友だちになってちょんまげ!」

男「! …あ、えっと、その親父レベルのギャグをやめたら、いいけど」

イケ友「うわっ辛辣なコメント! 傷つくわ~めっちゃ傷付くわ~」

男「あ…ご、ごめん…」

イケ友「でっも、グッドよそれ。ナイスな突っ込み、でもおれの性分なんで無理なんよ」

男「そ、そうなの?」

イケメン「あのさ、そろそろ店に着くんだが…」

男「お、おう? わかっ──」

イケ友「──なぁなぁ好きな漫画何読むんだ? ワンピース? ナルト?」

男「えっ? いやー漫画は読むけどそこら辺は…詳しくない、かも」

イケ友「んじゃ今度かすべ! めっちゃ泣けるから! ごうきゅうもんだから!」

男「い、良いの? ありがとう…」

イケ友「良いの良いの。あ、でも、兄貴達に読まれてボロボロだけどオッケ?」

男「全然平気…うん」

イケ友「おー!! 心広いぜー! イケメンなんてボロな奴は嫌だ! なんて言うんだぜ~」

男「へぇ~」

イケメン「偶にお菓子の食べかす入ってるだろ。そういうの君は許せる?」

男「…うーん、俺は平気かな。ものは大切にして欲しいけど」

イケ友「だっよなぁ~! 平気平気! 読めなくなるわけじゃねぇっつの! なぁ?」

男「お、おう」

イケメン「…………………さ、行こうか」

男(なんか、良いなこう言うの。むふふっ)


店内


イケメン「お。これなんて君に合いそうだな」

男「どれどれ。なんでハリセンだよ馬鹿」

イケメン「実にいい組み合わせだろう? これでオレの頭を…くっふふ」

男(変態…)

イケメン「それに、こう言ったので今度──」

イケ友「ほらみてみぃー男! ほらほらこのマスク! めっちゃ似合ってない!?」ダダダダ

男「ぶっほっ! なに、それ…!?」

イケ友「ハルクだよハルク! ウォォォォオオ! 食べるぞー!!」

男「ハルクは人は食べないだろ…」

イケ友「え、そうなの? マジかー」スポッ

男「ぶふぅ! なんでまた下に仕込んでるんだっ」

イケ友「え? なにかまたおれ被ってる…!?」

男「あ。ごめん、普通の顔だった…」

イケ友「ちょー!? そりゃ失礼だっつーの! 激おこぷんぷん丸だぜぇ!?」

男「ははっ、ごめんごめん」

イケメン「……!」

イケ友「おー? 男ちゃん、笑った顔素敵じゃーん。いつもしかめっ面で怒ってると思ってたわー」

男「怒ってないけど…それに、お、男ちゃん?」

イケ友「気に入った奴をおれはちゃんづけするのだ。なはは、どうだい嬉しい?」

男「気持ち悪いかも…」

イケ友「えー!?」

男(──なんだろう、何故か普通に会話出来ている気がする。本当に、本当に普通に会話をしてる気分だ)

男(いつもだったら上手く言葉が出なくて、苦しくて、大変で、そのままきゅっと閉じこもるのに)

男(…これも、コイツのお陰かな。コイツと知り合って、と、友だちになって、だから──)チラリ


イケメン「……………」ぐぬぬ


男「…?」

男(やっぱり変だ。コイツさっきから顔が強張ってる気が、する?)

イケメン「………」プルプル

男「ど、どうした? お腹でも痛い…とか?」

イケメン「おれよりも…」ボソボソ

男「えっ?」

イケメン「ふぅ。いや、なんでもないさ」

男「そ、そっか」

イケメン「ちょっとトイレに行ってくる。ここで待っててくれ」くるっ

男「あ…」

男「……どうしたんだろう、アイツ」

イケ友「いやー楽しいわぁ! こんな楽しいのってどれぐらい久しぶりだろうなぁ」

男「え?」

イケ友「最近はおれも私生活が忙しくて。あーバイトしてんのよおれっち」

男「へー…」

イケ友「それも含めて、イケメンの様子も気がかりだったし。ここんところ元気なかったしなー」

男(あれ、確かあの人も…女さんも言ってた気がする)

イケ友「けど、なはは。こうやって出掛けて寄り道して、ワイワイとふざけあって笑いあうっつーの?」

イケ友「──良いよなやっぱ。楽しいよな!」

男「………」


ああ、そうだ、これは楽しいことなんだ。
ふざけあって笑い合って会話して。仲良く買い物に出かけること、それは、楽しいことなんだ。


男「…なのに」


アイツは何故か苦しそうだった。
いつもらしさが無くて、それはまるで──自分の知らないアイツの一面を見ているようで。

男(多分周りが心配してることって、突っ込み成分が足りなくて元気なかったことだと思うけども)


今は違うはずだろう、なんて。
今は俺が居るじゃないか、なんて。

俺ばっかり楽しい気分になってちゃ、駄目なんじゃないかって。


──俺はアイツを喜ばせることが、出来るんだから。


男(だって俺はアイツの……と、友達なんだから…!)

イケ友「どったの? 男ちゃん?」

男「…ごめん、俺アイツの事追いかけなくちゃ」

イケ友「えっ?」

男「帰ってもいいから、もしかしたら、逸れるかもしれないし……だから、その、じゃあ!」ダダダ

イケ友「おー? バイバイ! 今度漫画持ってくるからよー!!」

男「あっありがとう! それじゃあ!」

~~~~

イケメン「ふぅ」キィ

イケメン「…らしくないこと考えてしまったな。気をつけよう」


「──おい…! 見つけた!」


イケメン「うん? ああ、男君。わざわざ迎えに来てくれたのか」

男「はぁはぁ…ち、違う、そうじゃなくて…」

イケメン「そうなのか? あれ、イケ友の奴は?」

男「そ、それは今は置いといて…はーぁ、ふぅ。俺の話を聞いてくれ…!」

イケメン「あ。うん、どうした?」

男「……っ…」

コイツは昔の俺と同じなんだ。
自分の知らない友人の顔を見たくない。それはコイツであっても、同じこと。

イケ友とコイツは仲が良かった。
なのに、俺ばっかりイケ友と話してしまって、だから。

『──最近は私生活が忙しくってよ』


忙しくて笑えてなかった彼の笑顔を、見てしまったから、
なのにぽっと出の俺が彼を笑わせてしまったから。


男「ごめん。何もお前のこと考えてられてなかった」

イケメン「え…」

男「お前だって思うところはある、はずなんだよな。そんなの俺が一番解ってることなのに…」


気にすることなんてない。
コイツは俺よりも人間関係が豊富で、自分よりも強いメンタルを持ってるはずだ。

けど、俺は謝りたいんだ。だって、俺はお前の──


男「…と、友達だからちゃんと言っておきたいんだ」

イケメン「……」

男「だ、大丈夫! あの人は…お前の友達は、ちゃんとお前の友人だよ。お前のことを気にかけてて、大切に思ってた…」

お前が元気がなくて、彼を笑わせてやれなかったとしても、
今は俺がいる。だからお前は元気じゃないか、だから何時だって──

男「…そう、悲しむなよ。お願いだからさ」

イケメン「男君…」

男「なっ?」

イケメン「…そうか、気づかれてしまったんだ。ははっ、情けないな本当に」

男「……」

イケメン「じゃあ君は察しててくれたんだ。オレの気持ちを」


ああ、お前はとんでもなく変態だけど。
友達を、あのイケ友を大切に思ってるぐらいは分かってたさ。

やさしいやつだって事はわかってる。


イケメン「そっか。じゃあ君にお願いしても良いんだね」スッ

男「うん?」

イケメン「──このハリセンで思いっきりオレを叩いてくれることを、望んでもいいんだね」

男「…………」

イケメン「ああぁぁぁあああ…ぞくぞくするよぉ……いや、本当に悔しかったんだ。実にね」

イケメン「アイツはオレよりも君の突っ込みを引き出せている。くっそ、なんだよアイツはぁ…!」ギリリ

イケメン「紹介しておいて何だけど、今は凄く後悔しているんだ。君の突っ込みはオレだけのものなのに…っ!!」

男「えっと……」

イケメン「さぁ早くオレをこれで叩いてくれ! かまわないさ、人目があろうとオレは今は望んでいる!」

イケメン「そして誓おう! これからはアイツよりも数倍良くボケてみせると! さぁ男君! さぁ!」

男「……」スタスタ

イケメン「えっ……ど、何処行くんだいっ?」

男「……」チラッ

イケメン「うんっ? はぁはぁ…」

男「……変態ッ!!」

イケメン「ふぉぉぉぉぉおおお!!」

男「俺が馬鹿だった! お前がこんなことで悩んでたなんてッ…てっきり俺はイケ友のことを思ってたとばっかり…!」

イケメン「え? まぁ嫉妬してたけど…」

男「突っ込みにだろ!」

イケメン「うぅんうん…むひっ…いいよぉ…その突っ込みぃ…」ニヨニヨ

男「きめぇ!」

イケメン「ははっ。今に始まったことじゃあないだろ?」キラ

男「ううっ…俺の心配を返してくれ…っ」

男「ん?」チラリ



イケ友「はわわっ…イケメンが男ちゃんに調教されてる…!!」ガクガクガク



男「えっ!? ちょ、まっ!」

イケ友「ご、ごめんそんな関係だったんだな…う、うん…お、お幸せに!」ダダダダ

イケメン「ふぅ。オレと君の関係におそれをなしたか……所詮アイツはその程度だ」

男(友達……やっとまともな友達が……)


【次の日はちゃんと漫画本を貸してもらえました。けれど新品でした】


第四話『俺のツッコミ依存症』

ちょい休憩

教室 放課後

男(最近よく周りから視線を感じる)

男「……」チラリ


「キャーあの男子がそうなの?」

「マジで~なにそれ~」


男「うっ……」ササッ

男(はぁ~なんでだろう、やっぱりアイツとつるんでると目立っちゃうのか)

男(まぁ仕方ないこと、だよな。俺みたいな根暗な奴が…こう…調子に乗ってるとか思われるだろうし)

男(分かってたことなんだよ。そうそう、分かってたことなんだって)ギュッ

男(……ただ友達になっただけなんだけどな。違うんだけどな)

「こらホモ野郎」

男「……うぇ?」

女「アンタに頼みたいことがあるんだけど……なによ、その顔は?」

男「え、あ、あれ? …俺に言ってる?」

女「ハァ~? アンタ以外に誰が居るのよ」

男(ホモ野郎って。まぁ図書室での件を見ればそう思われるかもだけど…)

男「へ、変なことを言うなよ…俺はホモじゃないっ」

女「いやホモでしょ」

男(ぐぬぬ)

女「それで、今日の放課後空いてる? またちょっと勉強教えて欲しいんだけど」

男「えっ? なんで俺が…一人でやればいいじゃん…」

女「一人で勉強して何が変わるっていうのよ。ばっかじゃないの?」

男(そうかもしれないが、実に態度が気に食わない)

女「だからあんたに──」

「ちょいとお待ちな。お嬢さん」

女「──……あんたはお呼びじゃないわよ変態」

イケメン「おやおや。どうやらオレが知らないうちにお二人さん、随分と仲がよろしくなったようで?」

男「ち、ちがうっ」

女「……。そうよーあんたが愛しい彼氏を放っておいたうちにね」

男「おまっ!? しかも彼氏ってなんだよ…!」

イケメン「……」じぃー

女「なによ」

イケメン「何考えてるんだ?」

女「あんたには関係ないことよ」

イケメン「彼のことでオレが関係ないことなんて無いけどな」

女「あら? 案外あんたって束縛すんのね。そういうの嫌われるわよ」

イケメン「友人として単に疑問を持っただけだ」

女「友人? ハッ! 一緒にプリクラ取りに行っておいて、友人? もう少しまともな冗談をつきなさいよ変態」

イケメン「……」

女「……」

男(な、何だこの状況は…っ)アワワ


「ねぇーあの状況なになにっ?」

「女とイケメン君が取り合ってるんだってー」


男(何を!?)

イケ友「あああっ…とうとう女っちが乗り出してきたんだ…っ…どっちが飼い主として格があるか勝負をしに…!」

男(あんたは何を言っているんだ…!)

男(こ、ここは両方の知人として仲裁に入らなければ…っ)

男「あ、あのー二人共…」

イケメン「なに、男君」

女「なによ、男」

男「あのさ、その、取り敢えずこっち見てくれない二人共…?」

イケメン「用がないなら口を出さないでくれないかな」

女「あんたが入ってきちゃ面倒になるのよ、黙ってて」

男「ご、ごめんなさい………」

男(やっぱり二人には勝てなかったよ…)

イケメン「…女。君は昔からオレのことを嫌ってたよな」

女「へぇーあんた気がついてたの? びっくりしたわ、アホだと思ってたのに」

イケメン「モチロン。君はすぐに表情と口が出るからね、まるわかりだった」

女「なによそれ。あたしのことアホだと言いたいワケ…?」

イケメン「オレは何も言ってないよ。ただそう思ったのなら、くく、そうなのかもな」

女「よく言えたものねあんた…ッ…顔は良いもんだから、見境なく変態行為をしまくってたあんたがよく…!」

イケメン「勝手な解釈だ。とんだ君の勘違いだと思うけどな」

女「勘違い? 小さい頃の数々の変態行為を、あたしの勘違いだと言い切る気? バカ言わないでよ、全てをここでばらしてあげましょうか? ん?」

イケメン「ああ、良いとも。オレは何も恥じゃあない」

女「……。そう、あんたはそういうふうに割り切るのね。それが【正しいこと】だと思うことにしたのね」

イケメン「………」コクリ

女「あっそ。それもあれなワケ、コイツのお陰ってワケ?」ビシッ

男「…?」ビクッ

イケメン「どう捉えるかは君の勝手だ。昔と同じく、君の勝手だ」

女「そうねあたしの勝手だわ。それにあんたにどう思われようとも、あたしは勝手に動くだけ」

イケメン「…なにを」

女「いい? あたしはずっとあんたの【ああいった所】が嫌いだった。それをアンタ一人で納得されても、こっちが納得できない」

女「──何時かまた後悔するかもしれない。そんなの、見ててムカつくのよ。苛つくのよ」

イケメン「……」

女「コイツに何を救われたかは知らないけれど。ハン! どこぞの知らない男性と直ぐに抱きつくやつよ? あんたを裏切るかもしれないじゃない」

イケメン「なんだそれ。初耳だぞ」

男「…」ギクリ

女「うるさいわね。今は関係ないでしょ」

男(じゃあバラすなよ…)

女「あたしは納得するまで絶対に目を離さないから。あんたがまた変態行為に走らないよう、あんたと──コイツから目を離さない」

男「……」

女「憶えておきなさいよ」

イケメン「……」

女「………」

イケメン「…ははっ、オレのこと心配しすぎだろ女」

女「ばっ違うわよ変態! 何よ心配なんてしてない! ふざけるな変態!」

イケメン「はいはい。わかったわかった、君は本当に優しいやつだよ。幼馴染でよかった」

女「してないってーの! こんのっ……あんたからも何か言ってやりなさいよ!!」

男「お、俺っ!? いきなりこっちふるなよ…!」

女「あんたの言ったことなら犬になれって言っても、コイツは犬になるわよ!?」

男「ならねーよ!」

イケメン「わん」

男「なるんじゃねーよ!」

イケ友「ッ…!? や、やっぱり…!!」ガクガクガク

男「ち、ちがっ」

女「ほーらやっぱり変態じゃないっ!! そうやっていっつも変態プレイしてるんでしょ!? そーなんでしょ!?」

イケメン「舐めるなよ。こんな程度でオレと彼の関係を見破ったつもりか」

女「なんっ…!?」

イケ友「首輪…ムチ…ロウソク…?」

男「違うから!! ちょっと二人共黙ってくれ! あと君も!!」


シ───ン…


男「あ……」

女「び、びっくりした」

イケメン「ど、どうした大声をあげて…?」

イケ友(あ! そういえばまだトイレ行って無くね!? 漏れる漏れる…!)ダダダ


男「あっ…いや、その…えっと…」

男(教室中が静かに…もともとこの二人の会話に聞き耳立ててたし、俺が大声をあげたせいで…っ)



じぃー
    じぃー  じぃー

  じぃー   じぃー  じぃー  じぃー  じぃー



男「俺はっ…違う、から……ホモでもなくて…それに飼い主でも…」

男(きもち、悪い……頭が痛くて、視線が、見られてて、ずっと我慢してたけど、やっぱ)

男「そんなに怒るなって、コイツは……色々と悩んで、たから………」

男「だから、だから、俺は友達だから……ちゃん、と……とも……だち………」ガクッ

男(あれ───視界が、まっくら───)

ガタタ!

イケメン「……!! 男君!!」

女「きゃあ!? ちょ、あんた大丈夫!? ねぇ! ねぇってば! ちょっと……! 早く保健室!」

イケ友「スッキリスッキリ──んっ!? 男ちゃんどったの!? みんな退け!! 早くおれの背中に乗せろ!」

イケメン「しっかりしてくれ! くそっ、なんでこんなこと───」

男(──声が遠く…)


プツン

保健室 昼休み

男「モグモグ」

イケメン「ほぉー」じぃー

男「モグ…モグ…」

イケメン「ふーん」じぃー

男「ゴクン」

イケメン「ふむふむ」じぃー

男「なんだよ…!」

イケメン「どうした?」

男「食べてる様子をマジマジみるなっ」

イケメン「何でこんな所で食べてるんだろうと思って」

男「俺の勝手だろ…あと見るな、気が散るから…」

イケメン「そんなの俺の勝手だ!」

男「ああ勝手だなッ!」ドン!

イケメン「くぅぅうう~~~~っっ!!」プルプル

男(気持ち悪いな相変わらず…)

イケメン「一旦倒れた後でも、君はキレッキレだなっ! んん~~~!!」

男「な、なぁお前さ…」

イケメン「おお。どうした? まだオレはボケてないから喋らなくてもいいぞ」

男「いや喋らせろよ。会話はさせろよ」ダン!

イケメン「んふふっくふふっ」

男「今の何が嬉しかったの…?」

イケメン「いつものことだ。君が突っ込んでオレが喜ぶ。ただそれだけのこと」

男「ぐっ…!!」

イケメン「おっ? どうした?」

男「そ、それだよそれぇ! お前はなんとも思ってないのかよぉ!?」

イケメン「ああ『あの噂』か。オレと君が付き合ってるとか何とかの」

男「ッッ…!!」カァァァ

イケメン「何故照れるんだい?」

男「照れてないわッ! 恥ずかしがってるんだよ! ああもうっ…それが原因で周りから見られてたのかよ…!」

男(さっき女さんが全部説明してくれた。くそぅ…なんだよそれ…付き合ってるとか頭おかしいんじゃないか…!)

イケメン「人の噂も七十五日。いつの日か廃れていくさ、ズズ、お茶美味しいな…」

男「なっげーよッ! 七十五日って一学期過ぎるわ終わるわ勝手に茶を飲むなっ!」ぱしっ

イケメン「ほぅ…いいなぁ…こうやって君のツッコミを聞き入れながら、昼過ぎの一杯…ふむふむ」

男「だからお前はそれで良いのかよっ…周りからほ、ほもぉ…ぅ…あ、扱いされてるんだぞ…!」

イケメン「別に。そうなる時は、それなりの覚悟はしてたつもりだった」

男「えっ?」

イケメン「オレにもわかってたさ。あの時に、あの【契約】のために君を呼び出して、大声でああいったことを言ってしまって…」

イケメン「こうやって連れ添っていればな…些か勘違いされてしまうことぐらい」

男「お前…」

イケメン「だけど収まりが聞かなかった。あの時のオレはオレじゃ無くなっていた」

イケメン「仕方ない、仕方ないことだったんだよ。それはきっとな…」

男「……」

男「うん。しかたなくねぇよ? 分かってたならもっと上手く伝えられただろっ」

イケメン「あ。やっぱり?」テヘペロ

男(コイツ…ッ)ピキィ


「はいはい騒がない青春ボーイ共」ガラリ

男「せ、先生…」

イケメン「あ。先生こんちにわ」

先生「こんにちわ。さてキミ、キミだよキミ」

男「え、はい? 俺…?」

先生「ここは人が居なくても保健室。騒いじゃ駄目だし、復活したなら出て行きな。飯も食っていいとは言ってないけど」

男「…それは今更じゃないですか…」

先生「そりゃそうだ。今更言い出したんだ、今更ながら認めて出て行ってもらわないと」

男「お、俺はここでの昼食が当たり前だったから…」

先生「私も当たり前だったよ。けど、それは今までのキミだ。今のキミはきっと以前とは違ってる」

男「………」

先生「こんな立派な友達ができたんだ。とっとと屋上でも教室でもいいから、そこで食べておいで」

男「…と、トモダチ…」チラリ

イケメン「トモダチ?」

男「と、友達だろ!」

イケメン「イェース!」

男「いちいちキメ顔するなっ!」

先生「…おやおや、キミがこんなに大声を出すなんて」

男「くぅぅッ!」カァァァ

イケメン「侮っちゃ困りますよ先生。彼の実力はこんなもんじゃあない、未だオレにだって計り知れないものがあるんです」

男「かっ過大評価するなって! そりゃお前が言ってるだけだろ…!!」

イケメン「オレだけが認めて何が悪い。また他人か、オレじゃなくって他人が大切なのか」

男「そのまた勘違いを引き起こすようなことを…っ!」

イケメン「事実を言ったまで。オレは嘘付かない、ただボケたいだけだし」ムッスー

男「お前がそうで良いとしてもだなぁ!? 俺はどれだけの問題を背負わなきゃいけないか!」

イケメン「じゃあどうしたら良いか言ってみてくれ。君はオレにどうして欲しいのか言ってみてくれよ」

男「ええっ? じゃ、じゃあその…友達なら…一緒に飯食べに行ったり…その、ゲーセン巡ったり……?」

イケメン「ああ、一緒に池袋でクレープ食べて服を買ったり?」

男「そうそう。そして最後は観覧車に乗って互いの、これデートじゃねーか!!」

イケメン「なんだよオレにとやかく言う割にはノリノリだな」

男「意味のわからないこと言うなよ…」

イケメン「じゃあ一回辞書でノリノリって言葉調べてこい!」

男「ノリノリの意味で困ってるんじゃないッ!」ダン!

先生「ブフッ」

イケメン「おっ?」

先生「あっははは! なにキミ達、漫才でも目指す気っ?」

男「えっあっちょ…聞かれてた…っ」ボッ

先生「そりゃ大声でやられたら聞きたくなくても、くすくす、なーんだ案外楽しそうじゃんキミ」

男「楽しそうなんてっ」

先生「いやいや。やっぱり前と変わってキミは一段と面白くなったね。先生安心したわー」

男「ううっ…からかわらないでくださいよ…」

イケメン「褒めてくれてるんだと思う。素直に受け止めよう」ぽん

男「黙っとけ変態…!」

イケメン「なんと失礼な」ゾクゾク

男「お前っ…この状況を楽しんでるだろっ? 自分がホモだって疑われても、それを楽しんでやがるだろ…っ!」

イケメン「またとないネタじゃないかっ!」

男(………くそぅ…もうこいつの友達やめたい…)サメザメ

イケメン「ふっふっふっ」ニコヤカ

先生「……。あーれれぇー? そういえばーぁ? プランターに水あげるの忘れてたかもーぉ?」

男「? 何急にアホの子みたいになってるんですか先生…?」

先生「アホの子いうな。って違う、さっさと入れて来なよキミ。それがキミと私の約束でしょ」

男「えっ? あ、良いんですか……?」

先生「いいよ別に。水あげるぐらいキミにならきっと出来ると先生信じてるし」

男「出来ますから……じゃ、じゃあやってきます」チラリ

イケメン「ん? いってらっしゃ~い」ヒラヒラ

男「う、うむ」ガララ

ピシャ

イケメン「………さて」

先生「おっと。キミから話ふる? いいよ別に、手間が省けるし」

イケメン「結構これでも交友関係広いんで。先生、オレのこと怒ってるでしょう?」

先生「誰から聞いたの?」

イケメン「先生の顔を見て判断しました」

先生「ああそういった意味で広いと…うんうん、面白い子だ。実にあの子向きだよ本当に」

先生「コーヒーいる? 特別に作ってあげるけど」ガタ

イケメン「オレ飲めないんで大丈夫です」

先生「そ。まー私が淹れても美味しくないし、後であの子に入れてもらおっと」

イケメン「…先生はいたく気に入ってるんですね、アイツのこと」

先生「そう見える?」

イケメン「見えるから聞いてます。ま、それでも譲りませんけどね。オレのですから」

先生「キミも大層入れ込んでるみたいで。クスクス」ギィ

イケメン「ええ、まぁ…それなりにですけど」

先生「一応先生だからね。教師としてキミに言っておかなくちゃいけないことがあるよ。平気?」

イケメン「……。はい」

先生「ホモなの?」

イケメン「…ツッコミはオレの持ち場じゃないんですけど?」

先生「その反応は違うみたいね。残念残念」

イケメン(何がだ…)

先生「冗談だってば。とにかく色々と噂になってるのは知ってるよ。些かいい噂だとは先生は思わないな。キミがどんなつもりかは知らないけれど」

イケメン「アイツに迷惑は掛けないつもりです」

先生「……」

イケメン「もう掛かってる。なんて言わないでくださってありがとうございます、けど…オレはそうしてみせます」

イケメン「オレは約束をしました。アイツにはとびっきりの楽しい青春を送らせてやるって、そう、誓ったんです」

先生「じゃあ今の状況はキミにとって……?」

イケメン「はい! またとないチャンスなんですよ! これでアイツの周りに異変が起こり続けて…」

イケメン「──今までにない青春が訪れるはずなんです!!」

先生「すごい自信だ」

イケメン「自信がなきゃやってられません。だってホモだって疑われてるんですよ? ははっ、本当にまいってしまう…くふふっ」

先生(その割には嬉しそうだけど)

イケメン「…けど、今回のことは本当にオレの失態です。最悪すぎて、彼のことをちゃんと見れてなかった」

先生「……」

イケメン「ここまで彼を苦しめていたなんて。本当にっ…本当に……っ」ぎゅっ

先生「そうだね。君は後先だけを考えてて、今の彼を見てやれてないと思う」

イケメン「…はい」

先生「あの子にとって人の視線は毒だよ。慣れてないものを摂取しすぎていたら、そりゃ倒れてしまう」

イケメン「っ……はい、すみません…」

先生「…あの子はさ、あんな顔で人付き合いが不器用だけどね」

先生「結構頑張り屋なんだ。誰よりも人を見ているし、そして誰よりも寂しがり屋」

先生「自分なんてこの世に必要なんてない。なんてこと、考えちゃったりするんだよ。中二病だね」

イケメン「…ははっ、そうですね」

先生「この学校に入学してから一年間ちょっと。ずっとあの子と、この保健室で会話し続けていたけれど」

先生「…見てて分かる。あの子は少しずつ明るくなってきてるんだ」

イケメン「そう、ですか?」

先生「うんうん。なってるよ、だから君はもっと自信を持って、言い切ってほしい」

先生「──今、本気で君をあの子から引き離そうと思ってる、この私の気分を遮るほどの、言葉をね」

イケメン「言葉を……」

先生「どうかな、私は一度決めたら本気でやるタイプだし。必ず君とあの子を引き離すよ」

イケメン「………」


それはオレの希望だった。
薄い膜の中で一生閉じこもってるはずだったオレの唯一の希望。


イケメン「──オレはアイツと人生が関わったことだけに感謝したい」


彼の言葉だけがオレにとって必要であって。
空気や食事や己の価値でさえ、きっと彼には敵わない。


イケメン「…オレを怒るなら、もう少しだけ待ってください。オレとアイツを引き離すなら、もう少しだけ猶予をください」

イケメン「アイツは……アイツは凄いやつなんだ…」


だから、もう少しだけ希望に寄り縋らせて欲しい。

彼がオレで困ったら、命懸けで助けよう。

彼がオレを嫌っても、命を賭けて謝罪しよう。

彼がオレを好きになったら、命で駈けて寄り添おう。

イケメン「──オレは必ず満足の行く高校生活を送らせてみせますから」


それがオレの【誓い】であって【契約】で──

──心からの償いだ。



先生「…その心意気よし。特別に怒らないで置いてあげる」

イケメン「! そ、そうですか…?」

先生「うんうん。キミは正しい。だから自信を持ってあの子に青春を送らせてあげて良いよ」

イケメン「あり、がとうございます…なんだかやっと落ち着けたような、気がします」

先生「……。頑張りな、応援してあげるから」

イケメン「はいっ!」

先生「さて、外で気まずそうに佇んでるあの子を呼んであげないとね」

イケメン「んっ?」


男「っ~~~!?」ビクッ


イケメン「なんだよ、早く入って来なよ」クイクイ

男「……っ…」プイ

先生「あの子には保健室で昼食を食べる条件として、花に水をやること…と私が言ったんだよ」

イケメン「そうなんですか。じゃあ今度からオレもやっていいですかっ?」ガタ

先生「良いけど二人もいらないよ?」

イケメン「オレも今日からここで飯を食べるんで。んじゃ決まりってことで!」ガララ

男「……な、なんだよ…っ」

イケメン「オレも今日からここで昼食食べるよ」


オレは知っている。君は優しい人間だ。


男「なっ…こ、ここは…っ……俺の特別な場所でそうそう他人は…」ゴニョゴニョ

先生「あらま。特別な場所だなんて嬉しい事言ってくれるね」

男「ぐっ!」カァァァ


教室で倒れ目覚めてから、君はずっとオレのことを心配してて。
わざと大声を出して突っ込んでくれていたことを、オレは気づいてる。


イケメン「オレは特別じゃないの…?」

男「特別なんかじゃねぇよ! お前なんてただの……た、ただの…っ」

イケメン「ただの?」

男「……ト、トモダチ…だけど…」


知っているんだ。君のやさしさを。
だからもっと周りにも知ってもらおうよ、君の凄さを。

イケメン「じゃー良いじゃん決まりだ!」ガシッ

男「ちょっ!」

イケメン「オレは今日からお前と食べる! お前とたーべるたべたべたーべるっ!」クシャクシャ

男「か、髪をくしゃくしゃにするな…っ」


まだまだオレと君の──青春は続くのだから。


イケメン「そういえばそろそろ…みんなが来る時間か」

男「え…?」チラッ


女「い、いま……男を食べるとか言ってなかった……?」カタカタカタ


イケメン「それがどうした?」

男「ちょっちがっ…!」

女「ッ……このホモ野郎ども!! 全く懲りてないじゃない死ね!!」

イケメン「誤解するな女。オレはホモじゃない。オレは、な」

女「……まさかアンタがガチなの……?」

男「違う!! それはさっき前説明した…!?」

女「少しでも一回でも信用した自分が馬鹿だった……死ね変態!! 腐れもげろ!!」ダダッ

男「ちっちが…なんだよもー!? お前のせいだぞ!? お前のせいで!」ばしばしばし

イケメン「はっはっはっ」

男「ったく……それに、その…急にお前、とか呼ぶなよ…っ」

イケメン「嫌だったかい?」

男「なんか、お前らしく、ない…と、思う」

イケメン「そっか。でもそれがオレだよ男君」

男「そ、そおなの? まぁー悪くないけどな…うん…」

イケメン「……」

男「で、でもちょっと心の余裕とか欲しい…」

イケメン「ん、そっか。じゃあしばらくは元通り、君でいいかな」

男「…お、おう」テレテレ

先生(ホモっぽいなー)ズズズ

イケメン「よし。じゃあ昼食を食べようか、弁当を持ってくるよ」

男「う、うん」

イケメン「待っててくれ。おっ? イケ友じゃないか」

イケ友「おっすー! 男ちゃん元気なった?」

イケメン「ああ、これから弁当を取りに行く所だよ」

イケ友「えっ……取りに行かされてる……そういった命令を…?」

イケメン「えっ?」

男「なんか聞こえたけど、予測で答えるけど、違う!」

イケ友「あわわわっ」ガクガク

先生「クスクス、ほらほら青春ボーイ共。あとそこの壁に隠れてるガールも」パンパン

女「…!?」ビクゥ

先生「昼食べるなら、さっさと食べよう。先生もお腹すいたからね」

男「い、良いんですか?」

先生「今日だけ特別ね。あとで美味しい珈琲入れてもらうから」

男「っ…ありがとうございます」ペコ

イケメン「どっか行ってたじゃないのか」

女「う、うるさいわねっ! あんたには関係ないでしょ!」

イケ友「きょ、今日の新刊っす男ちゃん! 読んで読んで!」

男「だからなんで新品なのこれ…?」


ガララ ───……パタン


【この後みんなでワイワイ昼食を取りました】

第五話『俺の突っ込み仲間』

ここまで
時間通り出来ないくせに3話連続とか言ってすみませんっした


まだまだ続きます
読んでいただけたら幸いです。


また来週に会えたら ではではノシ

図書室

男「…えっと」

眼鏡「……」

男「ど、どうも…その先日はご迷惑をお掛けしました…」

眼鏡「……」

男「色々とお騒がせしたっていうか、あの、えっと…」モゴモゴ

眼鏡「……」ガタ

男「っ!」ビクゥ

眼鏡「……」スゥ

男「えっ? 隣に? あ、ありがとうございます!」ペコォ

ストン

男「えへへ」ニマニマ

眼鏡「……」じぃ

男「あっ! そのですね…! あの、実は貴方が…実はこの作品の作者様なのかって事を…」

眼鏡「……」じぃー

男「聞きたくて、です、ね…えっと…」

眼鏡「……」コクリ

男「やっぱりですかっ!? うわーぁ! やっぱりそうだったんですね! うお~…っ!!」キラキラ

眼鏡「……」スッ

男(うぉぉっ…マジかぁ…俺の予想はあたってたのかぁ…! あの時キチンと感想言っといてよかったぁ!)

眼鏡「……」サラサラ

男「この前はゴタゴタしすぎてて聞きそびれちゃってて、すみません、ご迷惑じゃなかったら…」

眼鏡「……」スッ

男「うぇ? ええええええっ!? こ、これって恋覗の新刊…ッ!? し、しゅひゃもサイン付き!?」

眼鏡「……」コクリ

男「なぜゆえにこのようなものをっ!?」

眼鏡「……」カチャ

男(発売日は二週間後だというのにお、俺はその新刊を手にして!? しかもサイン…!?)パァァァ

眼鏡「……」ゴソゴソ

男「と、とにかくありがとうございます…!! もう感動してて、俺あの、その、ありがとうございます…!!」

眼鏡「……」スッ

男「家宝にします──……え? なんですか、コォッ!? コココココ!? コレは!?」

眼鏡「……」コクリ

男「恋覗のツンデレ幼馴染、十六分の一ふぃぎゅあ!!!!???」

眼鏡「……」スッ

男「つ……たぁっ…なん、て…クオリティなんだ……嘘だろうっ…え、なんですかっ? …えっ? くださるんですか!?」

眼鏡「……」コクリ

男「ちょ、ちょっとそれは! 流石にこのようなモノをタダでもらうなんて…!」

眼鏡「……」シュン

男「!? いやっあのっ違います! 欲しくない訳じゃなくって、」

眼鏡「……」チラ

男「ううっ」

眼鏡「……」スッ

男「…い、頂いてもいいんですか?」

眼鏡「……」コクコク

男「ありがとうございますゥ…!! ぐっ、なんて素晴らしい出来なんだ…!」

眼鏡「……」ゴソゴソ

男(テレビの上に置こう。うん、そうしよう)キラキラ

眼鏡「……」スッ

男「っ!? なんですかそれ!? アワビの形をしたペンケース! ヒロインの持ち物じゃないですか!」

眼鏡「……!」パァァ

男「作中で一行ぐらいしか説明されてないマイナーネタを商品化したんですか…!? な、なんて無謀な…」

男(だがそんなチャレンジ精神旺盛が大好きだ!)

眼鏡「……」ぐいっ

男「んんっ!? い、頂いても…!?」

眼鏡「……──」


眼鏡「……」コックリ!


男「ありがとうございます!」

眼鏡「……」ゴソゴソ

男「うぉぉぉっ一見機能性皆無の商品なのに…凄くペンが吸い込まれるかのようにしまえる! 凄い!」

眼鏡「……」ヒョイ

男「それはまさか!? 主人公があまちゅを目指すために、気合を入れる証として作ったTシャツじゃあ…!?」

眼鏡「……」ゴソ!

男「ヒロインのお面!? それにこれは…互いの約束を指し示すあわびペンダント!?」

眼鏡「フンスー」ガサガサ

男「…っ…」ドキドキ

眼鏡「……」スッ

男「ッ───……!? なんだって、それはまさか作中で極秘中の極秘。主人公のあざの原因を作ったもの…?」


~~~~~


男「まさか…これを全部頂けるなんて…あ、あはは…ありがとうございます…」

眼鏡「……」コクリ

男(重い…持って帰れるかな…というか何処に持ってたんだこの量を…)

男「あの、何時もこんなに商品を持ち歩いてるんですか…?」

眼鏡「……」フルフル

男「えっ? じゃあなんで今日は…」

眼鏡「……」スッ


びしっ


男「お、俺? ──あ、もしかして…俺のために持ってきてくれたと…!?」

眼鏡「……」コクリ

男「嘘。本当ですか? うわわっ、なんでそこまで…?」

眼鏡「……」

男「っ…?」ワクワク

眼鏡「…~~~っ……」ボソボソ

男「えっ? 嬉しかったって──この前の俺の感想が……?」

眼鏡「……」

──コクリ

男「そ、そんな! 俺にとって当たり前な感想を入ったまでですし…!」

眼鏡「……」

男「あの、あんな俺の感想で喜んでいただけたのなら、えっとファン冥利に尽きますっ」ドキドキ

眼鏡「……」テレテレ

男「……」

男「…先生は凄いですね。若いのにこうやって仕事をしているなんて」

眼鏡「?」

男「あ。勝手に先生って呼んじゃってますけど、大丈夫ですか…?」

眼鏡「……」コクリ

男「ありがとうございます。その、先生ってまだ高校生ですよね? 図書室に居るってことは」

眼鏡「……」コクリ

男「…なのに素晴らしい作品を書いて、世間に認められて、自分の力で活躍している…」

男「自分と年がひとつしか変わらない。なんて信じられないです、むしろ同じ人間なのかって思うぐらいに…」

眼鏡「……」

男「俺は全然人とも上手く喋れなくって、考えや思いを他人に伝えるのが苦手で…」

男「…最近は色んな人と出会って、ちょっとかわれたかな、なんて思ったりするんですけど」

男「けれど色々と周りが凄いのに、自分はやっぱりいつも通りの俺なんだなぁーなんて…」


男「……結局は迷惑をかけてしまうんだなって」


眼鏡「……」

男「ごめんなさい、なんか愚痴っぽくなってしまって。こんなこと、言うつもりじゃなかったんですけどね」

眼鏡「……」

男「俺、先生の作品が大好きです。キャラクター皆が思い思いに生きてて、自分に嘘なんてついてない」

男「逆境も後悔も全て押しのけて、自分の幸せを追い求める姿が──俺は大好きなんです」

男「俺だったらあの時絶対に挫けてる。けど先生の書くキャラは皆乗り越える、頑張って死に物狂いで立ち向かうんだ…」

男「だから大好きなんです…頑張ってください、大変でしょうけれど応援してますからっ」ペコリ

眼鏡「……」

男「だっ、誰よりも応援しますから!」

眼鏡「……」カチャ

男「…?」

眼鏡「……」ポロ

ポロポロ…

男「えっ!? ど…どうしたんですかっ!? 俺変なこと言っちゃいましたっ!?」

眼鏡「……」フルフル

男(あわわっ! お、俺が変なことを言っちゃったから…先生が泣いてしまった…!!)

眼鏡「……」ぐすっ

男「あの、そのぉ~…す、すみません! なんか、困らせてしまいましたか…?」

眼鏡「……」カチャ

ゴソガサゴソ

男「本当にごめんなさい! あーもう変なコト言わなければ良かった…っ」

眼鏡「……」スッ

男「…え? なんですかこれ、色紙───」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


男「これ…主人公がライバルに言い放った名台詞……」

眼鏡「……」

男「俺、このセリフ超大好きなんです……無理だって解ってるのに、あまんちゅになんかなれないって…」

男「主人公が一番わかってて、それを指摘されてもなお……ライバルに言い返したシーンで…すっごく心に響いて…」

眼鏡「……」ポンポン

男「あっ……俺にくれるんですか…? でも何で俺なんかにコレを…?」

眼鏡「……」


──君に贈ろう。この言葉を…


男「……」

先生は一言も発しなかった。
けれど綺麗に整った横顔は、眼鏡の奥にある澄んだ瞳は、

そして風に流れる前髪はさらさらと音を伝えてくる。

──そして微笑んでくれた。

眼鏡「……」ニコ

男「あ…」


先生は応援してくれた、のだろうか。
こんなチンケな一般人を、何も出来ない一人のファンを。


男「…あ、ありがとう…ございます…」


感謝することしか出来ない。
ありがとうございますと、連呼することしか出来なかった。


眼鏡「……」ファサァ

男「え、あっ…」


彼は着ていた上着を俺に、羽織らせると。
静かに足音をさせないまま去っていった。

男「………」

眼鏡「……」フリフリ

段々と小さくなって、ドアに隠れて見えなくなるまで、俺は見届け続けた。

けれどその背中はいつまでも大きく見えた。


男「グス、っはぁー……なんか慰めてもらった……」


いつか先生に御礼をしなくては。
だからまた今度会えた時、沢山の感想をあの人に伝えよう。

それが唯一出来る、俺の素直な言葉なのだと思ったから。


男「──ありがとうございます、先生」


「…なにやってんの、あんた」

男「ん?」

女「……」ジィー

男「ああ、居たんだ…気付かなかった」

女「そう。けどその前に、あんた何やってるか教えなさいよ」

男「え?」

女「…男子生徒の上着を大切そうに抱きしめて」

女「ペアネックレスっぽいものを握りしめ、ティシャツも手袋も靴下もペアルックっぽいので」

女「しかもアワビの形した…ものにペンを何本も突っ込んでて」

女「どーして嬉しそうに笑って、ちょっと泣きそうになってるワケ?」

男「ちっちが!」

女「……」スッ

女「……変態」

男「待って違うこれは色々とワケがあって…!」

女「…ワケ?」

男「そうだっ! ほらこの前の眼鏡の人いただろ…っ? その人にもらっ…」ギクゥ

女「……」ソロリ

男「最後まで聞いて! 貰ったとしても理由がある!」

女「…なに?」

男「それは──」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


男「───っ……それは! 眼鏡の人を俺が喜ばしたから!」

女「…悦ばした?」

男「そ、そうそう! 感想を言って、ああっえっと…今日はたまたま出会ってから…」

女「…感想…たまたま出会った…」

男「それからサインを書いてもらって…色々高価なプレゼントを貰って…」

女「悦ばせる…感想…サイン…高価なプレゼント…」

男「あの人はすごい人なんだ、ほら! 知ってるじゃん…っ! 俺が好きだって…!」

女「……好き?」

男「だからあの人も悦んでくれてて、俺もそういったふうに喜んでくれてたなんて思わなくて……ふふっ」

女「…そう」

男「それからあの人も応援してくれたんだ。俺のことを、こうやって」スッ

女「色紙…?」


『正直に生きることに躊躇いを持つな!』


女「……………………」

男「…俺も頑張ろうと思ったんだ。自分に正直に生きようって」

女「そう。そうなのね、あんたはそうなろうと決めたワケね」

男「お、おう。まぁ…難しいと思うけど…」

女「別に良いんじゃない。あんたが本当に決めたのなら、本気でそうなると思ったのなら」

女「──男性とイチャコラして感想を言い合って、その御礼にプレゼントを貰うことに躊躇いを持たないのなら」スッ

男「……」

女「けど。まぁ………」

女「……あたしは変態だって思うけど」

スタスタスタ ガラリ パタン

男「………」

男「………あれ?」


【ファンと作家の流れを説明するべきだと気づいたのは数日後でした】


第六話『俺のツッコミ不在』



来週は二本立てですよろしくお願いします
質問あったら聞きます故に、

ではではノシ

朝 下駄箱

女「おはよー」

「おはようさん」

女「よいしょっと」ガタ

パサリ

女「ん」ヒョイ

【ラブレター】

「おっ? おやおや~?」

女「…………え?」


昼休み


男「ええっ? 今日は保健室駄目なんですか…?」

先生「身体検査の準備があるからね。ということで、今日は違う所で食べな」

男「…そうですか」

先生「じゃあ全学年女子のパロメーター覗き見してく?」

男「じゃあってなんですか、じゃあって。んなの見ませんよっ」

先生「残念、まぁまた明日おいでー」

男「……」フリフリ

男(はぁ~、今日は屋上で食べるか。でもあそこ時折、カップル居たりするんだよなぁ)スタスタ

男「その時は黙って教室で食べよう──」

ガチャ

男「──うっ…太陽が眩しい…」

男(お。誰も居ないじゃん、らっきー)キョロキョロ

男「…今日は一人でお昼ごはんだ」ストン

男(アイツ昼は用事あるって言ってたし、でも、あれ?)もぐもぐ

男「でも俺に何か言いたいことあるって言ってた気が……なんだっけ?」


イケメン『言い忘れそうだから、誰かに頼んで君に伝えるよ』


男(あー…そんなこと言ってた気がする。でも誰かって、誰だろう?)

男(話しやすい人だったら良いな。けど大丈夫だろう、アイツはそういう所配慮してくれる奴だし)

ギィ ガチャ

男「…ん」チラリ

女「……」コソコソ

男(うわぁ…またこの人かよ…)

女「っ!」ぴくっ

男(知らないふりしとこう。黙って黙々と食べていよう)モグモグ

女「……」キィ パタン

男「もぐもぐ」

女「……」スタスタ

男「こくっこくっ、ぷはぁ」

女「……」ストン

男「…っ」ビクゥ

女「…ちょっといいかしら」

男(なっ何で隣に座る…? なんで話しかけてくる!?)

男「な、なに?」

女「あんたしか居ないから聞くんだけど。あたしを屋上に呼び出したのって、あんたなの?」

男「えっ……呼び出してないけど……?」

女「……」チラリ

男「っ?」

女「そ。良かったあたしの勘違いで」プイ

男(なんだよ急に…呼び出しなんて俺がするわけ──ハッ!? もしかしてアイツからの言付け役は…この人!?)

男(なんつー人選してるんだよ! 信じた俺が馬鹿だった! アイツは何も分かってない!)ブルブル

男(くそぅぅっ……今度買ってもらったハリセンで…っ)

女「悪戯だったのかしら。うん、そうよねきっと」スッ

男「え…あ…ま、待って!」

女「なっなによ?」ビクゥ

男「その…やっぱり俺…かもしれない…かも…?」

女「えっ!? 呼び出したのあ、あんただって言うの…!?」

男「いや、正確には俺じゃないって言うか…」

女「なによそれ……どっち!? どっちなのハッキリしなさいよ!」

男「うっ」

女「いちいち怖がるなっ! あんたのそういう所前々からどうかと──」

女「ぐっ──違う違う…そうじゃなくって、あたしも怒るなってば…っ」イライラ

男「…ごめん」

女「えっ? い、いや別に謝らせたい訳じゃなくて…そのぉ…えっと…」

男「…ハッキリ言うから。その呼出は……多分俺だと思う」

女「え──……ちょっと多分って何よ。全然ハッキリ言ってないじゃない! どっちなのよ!?」

男「お、俺ですっ」

女「うっ」ドキッ

男(覚えとけよあの野郎…)サメザメ

女「そっそうなんだ…へぇー…」

男「…ごめん、迷惑だったと思うけど」

女「えっ!? まっまーねぇ! このあたしに時間を取らせるなんて、ほんっとばっかじゃないのっ?」

男「あ…うん…」シュン

女「ばっ違う違う違う!? 今のは言い過ぎたってあたしも思ったから! うん!」わたわた

男「いやそれぐらい言ってもらったほうが助かるっていうか…時間を取らせたのは悪い気分になるし…」

女「そっそこまで卑下しなくても良いんじゃない…っ?」

男「え、そう?」

女「まぁうん……そういうのって大切だと思うし、ううっ、きちんとした想いだから、何言ってるのよあたし…っ」

男「…………」じぃー

女「なっなによ!? そんなにコッチを見ないでよっ…! あたしだって変なコト言ってるのわかって…!」

男「い、いやいや…違うちょっと感動してて、いい人だなって思って」ボソッ

女「っ……何よそれ! あたしのこと今までどんな風に思ってたワケ!?」

男「言っちゃなんだけど……怖い人だと思ってた」

女「何時も怒鳴って悪かったわね! 生まれつきこんな性格なのよっ! というかあんたが変態なことばっかしてるからじゃない!」

男「ぐっ…確かにそのとおりだ…けどだからこそ色々勘違いのせいもあるかなと…」

男「俺ってあんまり女子との会話が上手く出来ないし、そもそも会話自体苦手で…誤解を弁解するあれもなくて…」

男「段々と勝手なイメージが出来上がっちゃってたんだけど……そっか、そうだよな、だってアイツの幼馴染なんだもんな」

女「……」


男「──悪い人じゃないことぐらい、わかってたのにさ」


女「………あ…」ドキ

女「な…何よ急にわかったようなこと言って──そんな事言ったらまた、前みたいに勘違いされるわよあたしにっ」

男「え? 前みたいに?」

女「なっ………ナンデモナイワヨ…」ゴニョゴニョンニョ

男「お、俺は素直な感想を言ってるまででっ……別に勘違いされるようなこと、言ってない、と思うけど」

女「ふぇっ!?」

男「俺だって不仲な人が居るのは嫌だ……うん、嫌だって思う」

女「…………」

男「だからもう少し、嫌なら断っていいけど、その……仲良く慣れたらなぁ~って…思ったりはするんだけど…?」

女「…な、なによ…変なこと言わないでよ…っ」かぁぁ

男「…変なことだと思ったなら…ごめん」かぁぁ

女「あ、アンタはあの変態が好きなんでしょ…?」

男「だっだからそれは勘違いなんだってば! 前に保健室でも言ったけど、アイツはタダの友人関係だって…!」

女「全然信用出来ないわよ!! いっつもあーんなにべったりくっつき合ってるじゃない!」

男「そう見えるだけだって! だぁーもう、さっきも言ったけど俺は単純にあんたと──」がばぁ

女「っ!」

男「──なかっよく、なりたい、って……思っただけ、なんだけど……っ?」

女「ッ…ばっかじゃないの」プイッ

男「だって俺は素直に生きるって、心がけようと決めたんだ」

女「素直にっ? ……あーあの図書室でのやつ? 色紙に書いてあった…」

男「そう。あの時もちょっとした勘違いがあって、またすれ違いが起こったんだけど…」

女(じゃあ結局あの眼鏡の上級生は誰なのよ…)

男「…けど俺はわかったんだ。勘違いも、すれ違いも、そんなのって俺がしっかりすればどうにか出来るんだって」

女「…どうにか…?」

男「素直になれば、ちゃんと思いの丈を言い合えば──俺が明確に言い切ればよかった話なんだよ」

女「素直に言い切ればって───」

男「………」じっ

女「あっ……」

男「…だから、さ」ポリポリ


女(うそっこれってもう告──嘘嘘嘘嘘!? えーっ!? あっやばっ顔が熱い…っ)

男(女子生徒の友達か……保健室の先生以外にやっとまともに話せる女性が出来る、のか……?)ドキドキ


女「…じゃあなによ、あ、あたしと仲良くなって…」ボソボソ

男「う、うん」

女「あんたは…それがいいって決めたワケ…? す、すすすっ素直なっ! 気持ちってワケ!?」びっしぃぃぃ

男「ま、まぁそうなるかな」コクリ

女「………ぉぉぉ…っ」パクパク

男「…駄目、かな」

女「づぁっ!? っ!? あのーそのーっ……えっと、ぐぬぬっ! だぁああああああああ!!」

男「!?」

女「だめだめだめだめ!! まだよく互いに知り合って無いっていうのにっ!! そういうのは早いと思うわけよ!?」

男「そ、そこまで考えることか…?」

女「ッ!? そこまで考える事でしょ!? 何言ってんのよあんたばっかじゃない!?」

男「ッ……! そうだよな、何言ってんだ俺……ごめんっ」ペコリ

女「そーでしょ…! ほらまたそうやって勘違いであたしを怒らそうとしてる!」

男「あ、ああ…そうだよな……俺が一番わかってなきゃいけないことなのにな…」

男(忘れてた。忘れてしまっていた、友人ってのは簡単にできるものじゃない。そんなの俺が一番理解してたことじゃん…)

女(びっくりした…付き合うってことは簡単な事じゃないでしょ! ……べ、別に付き合うって決めたワケじゃないけど…)


男「アンタの言うとおりだ。俺またやっちまうところだった、許して欲しい」

女「ま、まぁ理解してくれたのならイイケドっ? 今度またやったらゆるさないわよ…っ!」

男「うん。だからはっきり言うべきだよな、こういう時はきっちりと」

女「あぇっ?! あ、あああうんうんうん…っ」

男「…聞いてくれ。俺はアンタと仲良くしたい、けど、今がまだ駄目って言うのなら──」

男「──ど、どうか…それまで…待っててくれたら…その、嬉しいっていうか」

女「っ~~~~!」ドッドッドッドッ

男「…いいかな?

女「おっ…にっ……なッ……うううっ…!」

女「にゃっ! ういっいっあっ……」

男「……っ…」ドキドキ

女「…………………………ハイ」コクリ

男「ほっ本当に? 良いの!?」

女「何よ……別に良いわよ……後に決めるのはあたしだし…っ」

男「うぉぉっ……良かった、はぁー……」

女「………っ……」モジモジ

男「じゃ、じゃあさ。お近づきの印にっていうか、まぁ単純に聞きそびれたことがあるんだけど」

女「なによっ?」キッ

男「うっ。何で怒ってるんだ…?」

女「怒ってない!」

男「そ、そうだよな。勘違いしない勘違いしない……よし、今更申し訳ないけど聞かせて欲しいんだ」

女「えっ?! な、なにを…?」

男「え、だから──俺に言うべきことっていうか」

女「言うべきことって──……っ!? 今の気持ちを言えってこと!?」

男「気持ち? いやいや、言葉だよ言葉」

女「言葉って──このヤロウまたあたしを辱めるつもり!?」

男「アイツにどんなことを言うように頼まれたんだ!?」

女「あんたが言ったんじゃないの!!」

男「はぁっ!? 俺は別に何も頼んじゃ……もしかしてお、俺に大きく関することなの?」

女「そうに決まってるじゃない! あ、あんたがこうやって……コクハク…シテキタンダカラ…っ」

男「え? なに?」

女「ばぁ──言わないわよ変態!! 何言わそうとしてんのよッ!」バシッ

男「痛ぁ!? そ、そんな怒らなくてもいいだろっ? 少しだけでも仲良くなったんだから、別に怒らなくても…っ」

女「怒るわよッ!? 怒るに決まってるじゃない!! 乙女の感情もわかったもんじゃないわねほんっとばっかじゃないの!!」

男「ええー……ご、ごめん…そんなに言いにくいことを頼んだのか俺…」

女「そうよあったりまえじゃない! ったく、これじゃ先が思いやられるわねっ! なっ仲良くなんか、なれないわよ…っ」

男(女友達難しすぎない!? …気軽に言付けすら出来ないのかよ…うぅっ…本当に先が思いやられる…っ)

女「っはぁーもうやだやだ…」パタパタパタ

男「……。何も顔真っ赤にして怒ること無いのに…」ボソッ

女「べっ別に真っ赤になんてなってない!!」

男「…なってるよ」

女「ぐっ……もうサイテーよあんた! デリカシーがなさ過ぎっ! あっ…あたしだって、ちゃんと応えたいのにっ、あっ違くて、そのっ」

男「えっ?」

女「っ~~~~ッッ……だからぁっ! そのっ、あたしだって、このままじゃダメだと思うし…っ」

男「…え、何が?」

女「あ、ああ、あああんたがっ? きちんとこうやって想いを伝えてくれたのにっ! あたしがっ…ココで何も言わないのは、失礼だなっておもうワケ!?」

男(何のこと? 言わないとって、ああ、アイツからの伝言のことか?)

女「と、とりあえず今の気持ちを…えっと言葉だっけ…? いっ言わなくちゃなって、思うわけよ………」プッシュー

男「…どうも。じゃあ教えてくれたら」

女「っ! あ、ああうんっ……そのぉ~……」モジモジ

男「…?」

女「あっあたしはっ! こんな性格だからっ、自分でも他人に迷惑をかけてしまうってのはわかってるし…」

女「たまに感情を上手くコントロールできなくて…い、色々と間違ったことをしちゃうのは重々承知なんだけど…っ」

女「で、でも……あんたがちゃんと想いを伝えてくれたこと、ってのには……す、素直に……っ」

女「…………うれしかった、ワケよ……」

男「あっえっ? そ、そっか……さっきの俺の言葉、嬉しかったんだ」

女「ま、まぁね! …経験ほぼ無いからかもしれないけどッ!」

男(え、意外に友達少ないのかこの人…共感持てるな…)

女「だから別に嫌だってわけでもないしっ、これを機に色々と───気まずくなるのも嫌だって思うわけよ…っ」

男「…難しいもんだよな。俺も思う」ウンウン

女「で、でしょっ? けどね、だからこそ今ここで言わなくちゃイケナイと思うのよ。ちゃんと…しっかりと、でしょ?」

男「おおっ! そうだよな……しっかりと、だ」

女「ハッキリと言っておくわ──」


(──あんたには少しだけ興味はある)

(あいつを、幼少期から変わってしまった変態を、今の今になってどう変えたのか)

(もう誰にだってあいつを治せないと思っていた。身の内に閉じこもったアイツを助けだした、この男は──一体何者なんだろうって)

女(──もしかしたら、あたしもまた……)


この目付きの悪い男と、付き合ってしまう未来の果てがあったとして。
そんなありえない結果から、また手が届かないと信じきっていた──思い描いた理想のあたしを。

あたしは見つけ出せるかもしれない。


女(…なんてね)

男「おーい?」

女「ううん。別に、ちょっと考えこんでただけ。何もない、けどただ一つハッキリと伝えられることはあるわ」

男「…ああ、うん。頼んだ、そろそろ聞いておきたいと思うから」

女「……」チラリ

男「………?」

女「……はぁー」


「これから弁当作ってあげよっか?」

男「……え…」

女「その、あんまり上手じゃないけど、どうかなって思う───」


男「めっちゃ気持ちわるッ!!」


女「───…………ん?」

男「なにそれっ…えっ? 言いたかったことって、それ!? 人に頼んでまでやることかよ…っ!!」ガクブル

男「何考えてんだアイツ…いやマジでごめんなさい…そんなこと言わせるぐらいなら…ちゃんと俺が聞きに行くべきだった…ッ」

男「──本当にごめんっ! 気持ち悪いから、そのこと忘れてくれ! 俺も後でちゃんと怒って───おく……から………」


女「……」ポロポロ


男「……なん、で泣いてるの……?」

女「そっか。ごめん、あたしが急にこんなことしても、ひっく……ぐすっ…よねっ? だから、忘れて、今のも、ぐしゅっ」

男「ま、待って。ちょっと待って…なに、何が起こってるんだ…?」

女「違う…あたしが悪いんじゃない、やっぱり言うんじゃなかった───」くるっ

男「あ…」

女「──もう金輪際付きまとわないから、安心して」

ダダッ

男「…………何が起こったんですか……?」



きぃ …パタン


女「ひっぐっ…ひっぐっ…ばか、ばか、ばかっ……気持ち悪いなん、て…そこまで言わなくてもいいじゃない…っ」ポタポタ

女「あたしなりに頑張って考えてっ……けど、違う、文句言うのは違うわよねっ…あたしが悪いんだもん…」カサッ

女「あ……ポケットの中に…らぶれたー……ッ…! こんなの、」

女「……………あれ? 放課後に待ってます?」

女「……」

『放課後、五時に屋上にて待ってます』カサリ

女「……………うぅんと、えぇと」


ポクポクポク チーン


女「あ~あ! 時間、間違えたんだっ!」ポン

女「って、何やってんのよあたし─────ぃぃぃぃ!!!」

女「あわわっ! あわあわあわわっ!! ちょー!? こりゃ勘違いってことで済まされる問題じゃ──ううぅー!?」

女(じゃ、なに、さっきまでのアイツとの会話、勘違い!? なによどうやってそう器用に勘違い起こる!?)

女「泣いて、出てきちゃったじゃないの……あたし……っ」

女(やばいやばいやばい)カァァァ

女「絶対に変な女子だと思われたっ! あーうー! どうしようどうしようどうしよう!」ぐしぐし

女「ッ……」グググ

女「───に、逃げないっ! あ、あああああやまりいくわよっ! 当っ然じゃない!!」

女「っ……!」くるっ

ガシッ

女「はぁーふぅー、回して開ける。回して開ける。そして謝る、謝る、謝る。……お、おっけ」グググ

女「──ご、、ごめんさっきのことなんだけど、」


ガチャッ! 


男「待ってくれ! やっぱさっきのは何処か勘違い──ごはぁっっっ!!」ズドゴン!

女「……」

男「」ピクピク…ピク…

女「……あっやぱっ凄い鼻血の量──って!? ちょっとー!?」゙ダダッ

女「ごめっごめんなさい! こんなことになるなんて、うそっ! 本気で大丈夫っ!?」ユサユサ

男「…ひと、ごろし…」

女「ちょ、しっ失礼なこというなっ! あーもう、ごめんなさいってば!」

男「」ガクリ

女「まっ…待って気を失うのはほんっとやばいと思うわあたし! 保健室に行かなくちゃ──」


イケ友「よーっす! 先生に聞いてここに居るって聞いたんだけど、男ちゃーん」


女「…」

男「」ダクダク

イケ友「イケメンが放課後はゲーセンに……行こうぜって頼まれて………」

女「…」ダラダラ

イケ友「……WINNER、女っち」びしっ

女「違うわよアホ!!!!」


【この日を境に少しだけ彼女は優しくなりました】


第七話『俺の洒落にならないところだった突っ込み』

ちょい休憩

突然ですか大昔の過去作を紹介。

男「中学の時の奴が集まってカラオケ? 行く行く!」
球磨川(女装)「ねえねえ善吉ちゃん、超大好きなんだぜ?」

一週間の合間に暇つぶしとしてお読みいただけたら。

放課後

イケメン「ラブレター?」

男「そう。貰ったらしいんだよ、どうも」

イケメン「そうか。さて何処のどいつかな、オレの男君を奪う輩は」

男「……」しらっ

イケメン(スルーなんて高等技術を使うようになったんだね君は…っ!)ゾクゾク

男「…それじゃ本題に入ろうと、思う」

女「……」

男「…本当に俺らを頼るの? なんか、間違ってないそれ?」

女「だ、だって他にお願いできる人居ないじゃない…」

男(仲の良い友達とかに頼んでもらえばいいじゃん…)

女「……」シュン

男「…えっと…」

イケメン「ふむ。とりあえず要点をまとめてから話を進めよう──女はこのラブレターの相手に、お断りを告げたい」

女「……」

イケメン「もともと断るつもりだったが、放課後になって今更怖気づいてオレらに助けを求めてきたと」

男「お、おい。もっと言葉を選べよ」

イケメン「もちろん選んでるさ。ただ、相手の想いを切る勇気を忘れかけている女には、ちょうどいいと思うけどな」

女「…うっさいわね、余計なお世話よ」

イケメン「そうか」

女「………」

イケメン「………」

男「…喧嘩するなって」

イケメン「ははっ。してないさ」

女「…はぁ。確かにあたしはお願いしたけどさ、今からでも断ってもいいのよ。明らかに面倒臭がってる奴もいるし」

イケメン「誰のことだろう?」

男(お前だお前)

「──うぇっ!? おれはめちゃくちゃ乗り気よっ!? みんなも同じっしょ!?」

イケ友「なぁなぁ告白だぜ愛のコクハク! しっかも今どきレターときたもんだ、すっげー!」

イケ友「なぁっ! 男ちゃんと女っち?」

男&女「う、うん…」

イケメン「? どうした二人共?」

男「…べ、別になんでもない」

女「……」プイッ

イケ友「おや~? おれ嫌われちゃったべか~ぁ…?」

イケメン「ともかく。幼馴染として言えることだけれども、女なら普通に断るぐらい出来るだろう?」

女「……」

イケメン「なんだその顔。初めて見るな」

女「うっうっさい!」

イケメン「そうか。うるさいなら帰るとしよう、男君ゲーセンでプリクラ撮りに行こう」

男「ま、待て待て。ちゃんと話聞いてやれって…幼馴染なら分かってやれるだろ…?」

イケメン「……。思ったんだがやけに彼女のかたを持つね、君。なにかあったのかい?」

男「なっなんでもないって……俺のことより彼女のこと、心配してやれよ。そんなつっけんどんしないでさ」

イケメン「…………………」じっ

男(めっちゃ見てる…なんだよ…!)ドキドキ

イケメン「…わかった。君がそうまで言うのなら協力しよう」コクリ

イケ友「おれも全力ですけっとするぜー?」

女「あ……ありがと」モジモジ

男「…良かったな」

女「っ……う、うん」

男「お、おう」

イケメン「………」じっ

男(だからそんな見るなってばっ…!)ドッドッドッドッ


~~~


イケ友「てぇーことでっ? 調べてきましたぜ、相手の情報!」

男「え…?」

イケメン「ありがとな。いつも助かるよ」

男(何時もってなんですか…?)

女「あ。コイツ同じクラスのやつじゃない」

イケ友「だべ。ちなおれのダチでもあるぜい」

男「…というか、そもそもなぜ手紙に名前を書いてなんだろう…」

イケメン「緊張して忘れてしまったんだろう。あるある、オレだってたまに君への思いが空回りして──」

男「面識はある感じ? いや、同じクラスならあって当然か…」

イケメン(ふぉぉぉぉっ)ゾクリ

女「…えっと」

イケ友「ちっちっちっ。男ちゃーん、その質問はなっちゃいないぜっ?」

男「えっ…なんで?」

イケ友「コイツは学校でもゆーめーな、ガチでやばめの極道モンって言われてるわけよ~」

男「えっ!?」

イケ友「…と、噂されるほどに顔が怖いやつなのだ」

男(なんだそれ…全然他人事に感じない…)

女「何度か会話したことは、ある、と思う。けどラブレターなんて貰うほど仲の良いワケじゃないけど」

男「…ラブレターなんてその程度の関係で十分じゃないか…?」

女「そ、そうなの?」

イケメン「本当に?」

イケ友「マジかーさっすが男ちゃん! ものっしりーぃ!」

男「えっ待ってなにその反応! 皆違うの…?」

女「あ、あたし全然経験ないし…告白されるなんて、今までほぼ無かったからなんとも…」

イケメン「誰からでも普通に貰ってたな」

イケ友「左に同じく!」

男(この相談解決無理な気がしてきた)

イケメン「さっきイケ友が言った通り。男君には敵わないが、彼もまた中々の凄みを持っている。それ故にか、堅物として噂は聞いてるよ」

男「おい何て言ったお前。でも、そんな人が…告白するってなると、わっ、やばいっ、すっげー想いが強そうに思えてきた…っ」

女「ちょ、ちょっと!? 不安を煽るようなこと言わないでよ…!! 今でもいっぱいいっぱいなんだから…!」

男「ご、ごめん」

女「えっ? あ、うん…」

イケメン「……。まぁ結果は決まってるんだ、ここは一つ作戦を決めよう」

イケ友「なになになにっ?」

イケメン「女は元より断るつもりだ。なら、断ることを援助する形で手伝えばいい」

男「どうやって?」

イケメン「──偽物彼氏だ!」

女「…え」

イケ友「はいはいはいっ! おれやりまーす!」

イケメン「却下。友人なら交友関係バレてる可能性がある」

イケ友「なっなるほど…っ! す、すっげーな思いつきもしなかったぜ…ッ」ゴクリ

男(今の当たり前じゃん!)

イケメン「消去法としてオレか男君。どちらかが嘘の彼氏を名乗り、堅物君をどうにか諦めさせるしか無い」

男「…待って、ちょっと待って。そういのって後腐れなく終われるものなのか…?」

イケメン「まぁ禍根は残るだろうね。偽彼氏を名乗った奴も、そして女の方にも」

男「…もっと他の方法を考えようって。なんか、そういうの嫌だ」

女「……」

イケメン「いやこれしかない。正直に言えばオレはこれしか譲歩しないつもりだよ」

男「お、おい。だからそういう風に邪険な扱いするなって…っ」

イケメン「ならオレらを頼らず友人を頼るべきだ。そもそも自分で自分のことを出来ない奴に、有無を云わせる必要はない」

男「…お前」

イケメン「違うかい? 男君?」

男「……かもしれない、けど」

女「良いわよ別に。あたしだって他人事みたいな立ち振舞するつもりなんて、これっぽっちもないし」

イケメン「……」

女「文句も言える筋合いがないのもわかってる。けど、これだけは言わせて」

イケメン「…なんだ」

女「ニセ彼氏、変態がやりなさい。絶対にそれだけは譲れない」

男「おい…誰も特をしない作戦なんて…!」

女「あんたは黙ってて。ごめん。お願いだから」

男「…うっ」

イケメン「偽彼氏はオレをご所望か」

女「けどあんたはそれでいいの? 明らかに面倒臭いことが待ってそうだけど」

イケメン「慣れてるさ。構いやしない」

女「…そう。ありがとう、感謝するわ」ペコリ

イケメン「後でジュース奢れよ。缶じゃなく、ペットボトルだ」

女「箱買してあげる。なら、とっとと台本みたいなの決めちゃおうかしら」

男「……」

チョンチョン

男「…な、なに?」

イケ友「こっちこっち」くいくいっっ

~~~

自動販売機

ガチャコン ガタガタ

イケ友「ほい男ちゃん。珈琲好きっしょ?」ヒョイ

男「うっわっとと」

イケ友「いっひひ~おれは普通にファンタグレープだぞ~」ピッ

男「あ、ありがと」テレテレ

イケ友「いーのいーの。こーいうのって、持ちつ持ちつじゃん?」

男「…持たれず、かな」

イケ友「そうそれそれ! だぁーやっぱ頭いいよなぁ男ちゃんはっ」カシュッ

男「……」

イケ友「ぷっは~ぁっ」

男「…あの二人ってさ」

イケ友「うん?」

男「…なんであんな仲が悪いんだ?」

イケ友「えっ!? 仲悪いのかアイツ等!? うっそーん!?」

男「…ごめん忘れて今の」

イケ友「そりゃないでしょ男ちゃん。仲が悪い、そりゃ駄目っしょ男ちゃん。だから聞けなかっとことにはしなーいの、わかる?」

男「うぇっ? い、いや…単純に俺の気のせいかも知れない。仲悪いならニセでも彼氏彼女なんてやらないだろうし…」

イケ友「ビンゴ。だよなー仲悪いなら、あんな風に語り合ったりしないわけなのだってばよ」

男「……」

イケ友「べつに男ちゃんが気にすることなーいんじゃない? 二人の問題、アイツ等の問題、おれら無関係だべよ」

男「…うん」コクリ

イケ友「それよりも今だぜ今! この作戦無事に終わらせてやろうぜー?」

男「…そうだよな」

男(けれど──それでいいんだろうか? なにか、上手くいかない気がする──なんて……)

吹けば吹き飛ぶようなチリにも満たない、小さな予感。
たかが出会って一年にもならない俺が二人を心配しても、何ら無意味だということは理解している。

暖簾に腕押し。本当にただ空回りしてるんだと。だけど、

彼女が抱える問題。
アイツが抱える問題。

それはきっと、見て見ぬふりをして、なかったことにしてはいけない。
長年取り除かれることもなくただ溜まり続けていたモノは決して──

単純ではなくて。現実を見定めることが難解なものへと変貌する。
ただえさえ、俺が認識する世界も重くて大変なのに。辛くてキツイのに。

─このままでは簡単に失敗するんじゃないかと、そう思えてきてしょうがなかった。

男(…その時は)

俺に何が出来るだろう。
彼ら二人に、いや、彼にとって──友人の俺は。

友達として何をしてあげられるだろうか。いや、しなくちゃいけないだろうなって。

柄にもなく頑張ろうと思っている事自体、既に失敗へと近づいているんだと──今の俺は気づいては居なかった。

屋上

女「居ないわね」

イケ友「相手は堅物くんだぜ。どうせ時間ピッタリに来るはずだと思う、一秒たりとも遅れたりしないなー」

女「…そう」コクリ

イケ友「つぅーこって。お二人さん頑張ってちょ、おれと男ちゃんは陰ながら見守っとくから」チェキン

イケメン「わかった。男くん、さっさと終わらせてゲーセンでも行こうな」

男「…頑張ってくれ、もし何かあったらその…早く合図を送ってくれたら、すぐに駆けつける」

イケメン「ははっ心遣い感謝するよ、きっとそうならないようオレは頑張ってみせるから」

男「……」コクリ

女「……」じっ

男「…その、頑張ってなんていうのもあれだけど…そのっ…が、頑張れ!」

女「…あ、ありがと」モジ

イケメン「…」

イケ友「おっ。そろそろ時間だぜ、男ちゃんおれらは隠れて、んじゃいっちょ作戦開始だ!」ババッ

女「…? 何その手?」

イケ友「えいえいおーだっべ!? 皆で手を合わせて、空に向かってドーンする奴!」

男「ど、どーん…?」

イケメン「時間がないぞ皆。どうせなら始まる前に、もう一度気合を入れなおそう」すっ

女「はぁ!? 意味わっかんないけど…まぁそう言うなら…」すっ

イケ友「ばっちこい! 男ちゃんもほらはやくっ!」

男「…う、うん」すっ

ぴと!

女「っ~~~!?」ババッ

男「ぇっ?」ビクゥ

女「なっなによっ!? どうしてっ…い、いきなり手に触れるわけ!?」

男「いやいやしかたないじゃん…! 今のどう考えても不可抗力…!?」

女「そ、そうよね……ごめん、何言ってるんだろうあたし。だーもう、さっさとやるわよ」ぐっ

男「…お、おう」すっ

イケ友「むっふふーじゃあじゃあじゃあ作戦の成功を願ってぇ~?」


えいえいおー!


男「…これでいいの?」

イケメン「案外なんとも、うん」

女「……」

イケ友「なにその微妙な空気! ったぁー乗り悪いってみなさんよー!」

男「今は隠れよう。何時来るかわかったもんじゃないし、出入口辺りの壁の裏にしとこう」

イケメン「オレ等は奥のフェンスで待ってよう」

女「わかったわ」

イケ友「なんだろなー…時代の流れつーの? 寂しいよなー悲しいよなー」トボトボ

~~~~

イケメン「…惚れたのか」

女「は?」

イケメン「分からないでもない。ただあまりにも予期してたものより──早くて正直驚いてる」

女「待って。何を言ってんのよあんたは」

イケメン「男くんだよ。お前惚れてるだろう」

女「な…っ!? ば、ばっかじゃないの!? 例えそれが冗談だったとしても…あたしは絶対にゆるさないわよ!?」

イケメン「違うのか?」

女「…ち、違うわよ」

イケメン「その表情はなんだ。それにさっきから煮え返らない態度も気になるし」

女「…そんな表情に出てる? あたし?」

イケメン「不自然さは、当然のように男くんも気づいているよ。二人に何があったかは知らないけれども」

女「………」

イケメン「仲良くなることは構わない。けれど、不仲になるのは些かどうかと思う。まぁオレが言えたことじゃあないけど」

女「べっ別に仲が悪くなるわけじゃないけど…っ」

イケメン「気まずくなってぎくしゃくとした関係になる可能性はあるだろう。そういうのって、彼は人より気にするはずだ」

女「あんたに言われなくたってわかってるわよ…!」

イケメン「ほう…よく男君のこと知ってるんだな女」

女「ばっ!! 違うってば!」

イケメン「くくっ」

女「チッ…馬鹿にしてるんでしょ、またあたしのこと」

イケメン「してないさ。さっきも言ったけど、初めて見るその表情は──悪いとも思ってない。むしろ面白いと思ってる」

女「馬鹿にしてるじゃない! こんの変態! 死ねあほたりん!」

イケメン「…なぁどうした。何かあったのか?」

女「っ………べ、別に。ただちょっとした勘違いというか…その…」モジッ

イケメン「へぇーまた?」

女「またって、い・う・な。そうかもしれないけど、言うんじゃないわよ!」

イケメン「……」

女「はぁ~…そうねここまで手伝って貰うんだし、言っておいても別にいっか」

イケメン「ああ。どうした」

女「…か、勘違いしちゃったのよ。昼休みに、時間間違えて屋上に来ちゃって」

女「こっこのラブレター? の相手っていうの? それを……あの目つき悪いやつが送ったんだと、思っちゃって」

イケメン「……」ぽかーん

女「色々と会話して、なんかすれ違いが起こって、そこでっ……あたしっ……ああっ…思い出しちゃった…っ」カァァァ

イケメン「…お、おお」

女「引いてんじゃないわよ! 引いちゃうのもわかるけど…っ!」

イケメン「いや。まぁ今はオレのことはどうだっていいけど、それで? 今はその誤解は解けたけれど、いまいち気まずいまんまだと?」

女「っ……怪我もさせちゃったし、ろくに顔も見れないっていうか…っ」

イケメン「実に面白いな。どうしてオレが側に居ない時に限ってそんなこと…」ボソリ

女「ちょっとー!?」

イケメン「冗談じゃない。もっとオレが側位に居るときにやってくれそういうのは」

女「ここは冗談だって言っときなさいよ! サイテーよそれって!」

イケメン「ただえさえ見過ごせない人物が何人か居るっていうのに…」

女「えっ?」

イケメン「いや、なんでもない。そうか、そんなことがあったのか。それじゃあ仕方ないな」

女「…この際だから聞いておくんだけど。アイツってホモじゃなかったの?」

イケメン「ははっ。違う違う、彼は普通に一般的な男だよ。ただまぁ些か恥ずかしがり屋過ぎるところもあるけれど」

イケメン「勘違いしないでやって欲しい。彼は普通に優しいやつで、普通に可愛いやつだ」ニヨニヨ

女(ああ、コイツが怪しいのか。やっとわかった気がするわ)

イケメン「その気まずさ直ぐに解けるといいな」

女「…無理でしょ。互いにそんな雰囲気感じないし、このまま微妙になっていくわきっと」

イケメン「なわけない。それは流石に男くんを見くびりすぎだ」

女「…なによそれ」

イケメン「彼は意外に粘り強いってことだよ。すぐに怯えて一歩引いたところに逃げ込んでるように思えるけれど──そうじゃない」

イケメン「彼はなんたって──アレがあるから」

女「あれ?」

イケメン「そう。オレが待ち望んで、それはもう長年ずっと恋い焦がれてきた──あの言葉を、彼は言える人間なんだ」

女「…それって」

イケメン「……」

女「…アンタが救われた理由?」

イケメン「ああ。そうとも、オレが彼に求めたものはそれだけだ。それだけで、たったそれだけで──」

イケメン「──世界は変わったんだよ、女」

女「……一体なによ、それって」


きぃ ガチャ


女「!」

イケメン「来たか。さて、さっさと終わらせようか」

女「…う、うん」

「…時間通りに来たのだが。なにゆえ此奴が居るのだろうか」

イケメン(此奴!?)

女「……ゴクリ」

「私の恋文は読んでいただけたのだろうか。委員長」

女「読んだわ。だからこそここに居るわけじゃない」

「…なるほど、な。では一体この輩はなぜここに居る。理由を問う」

女「それは…」

イケメン「ん、話が早く済みそうで助かるよ。実はね堅物くん」

「……………なんだ」

女(えっ? コイツの名前堅物じゃないでしょ…!)

イケメン「コイツとはオレが付き合ってるんだ。すまないけれど、ラブレターの件は無かったことにして欲しい」

女「っ……」

「…。事実か委員長」

女「…そ、そうよ。今、あたしはコイツと付き合ってんのよ

壁の裏

男「…」ズーン

イケ友「どったの男ちゃん?」

男「…いや、上手く聞き取れないけど。あんな風に告白された時、付き合ってる人物紹介されたら…滅茶苦茶凹むなって…」

イケ友「お~?」

男「勇気を出して手紙を出したのにさ、いざ出向いてみたら、約束の場所には──彼氏と一緒にいる。トラウマもんだなって…」

イケ友「そお? おれ別に平気だけど、そういうの?」

男「……」

イケ友「ん~っ……あのさ男ちゃん、好きになるってのは別にただ一生一人の女ってわけじゃないっしょ?」

男「…そうかもしれないけど」

イケ友「んだからよーそもそも傷つくってのを恐れてんのはさ、ハッキリ言って、今の現状を壊したくないやつが思うことのワケよ」

男「…おお?」

イケ友「それに関しては堅物君は平気。あいつは通名のとおり、駄目なものは駄目。はっきりとした答えを望んでんの」

イケ友「壊れてもいい覚悟をしてるんしょ。好きよそういった覚悟、だからダチになったわけだべっ」ニカッ

男「…まるでふられる覚悟を最初からしてるみたいんだ、それって」

イケ友「イイトコつくね男ちゃん。おれっちも、最初からそう思ってたところ」

男「え? それってどういう…」

イケ友「振られるために告白したんだってば。多分、振られると分かってて女っちを呼び出したんだと思うべ?」

男「…可能性すら考えずに?」

イケ友「そうそう。曖昧で踏ん切りつけれない感情とか言葉とか、そういうの嫌うやつだから」

イケ友「今回の告白で自分に決まりをつける、なんて考えてそうだっちねぇ~……」

イケ友「やっぱ女っちは良いおんなだなぁ。良い奴に好かれるよ、ほんっと」

男「……」


なにか嫌な予感がした。
根本的に何かが異なってるような、遮蔽物を感じる決定的な壁が見えた気がした。

自分の想いに踏ん切りをつける。
告白を利用して、イベントを起こすことによって曖昧な感情に終止符を打つ。

何故だろう。なぜだかそれは─自分はとても傲慢な気がしてならない

何もしないよりはマシなのだろう。
うじうじと悩み続けて終わりの見えない終わりに身をおくことが絶対的に正しいとは思えない。

やらない後悔よりやって後悔。
彼女に告白した彼は信念にも近い感情でここに出向いてるのかもしれない。

そして友人もまた美徳としてそれを捉えているのだろう。


男(…けどたまったもんじゃ無い。それじゃあやる方だけが満足だ)


じゃあふる方には何も考慮は向けないのだろうか。
告白して満足感を得られるだけに頭がいっぱいで、ただえさえラブレターを貰っただけで戸惑い、勘違いすら起こしてしまう彼女のことを。


一体誰が助けてくれるのだろう?


告白がそれだけ正義となるのだろうか。
思いを伝えることだけが、全てにおいて優先された特別なことなのだろうか。
チャンスは一度きりなんて告白する方だけが持つ特権なんかじゃない。ふる方もまた、一回限りの特別な特権なんだ。

そしてそれはきっと、告白する人間よりも重たくて辛いことなんだ。
相手の感情を無碍に断る。とても、とても、大変なことなのに。

もしかしたらモテる自分に得意げになる人間だって居るだろう。
他人から察する己の価値に酔いしれることも出来るに違いない。

けど、きっと彼女は違う。
心から申し訳ないと思うはずだ。ごめんなさいって、許してくださいと。

貴方の思いを断ってしまって、なんて。

男(じゃなかったら、あそこまで俺に対して申し訳ないと思うはずがない)

他人の思いに敏感なのは、凄く共感できる。
そしてまた──俺だけじゃなく、アイツもきっと──



「…あヤバイ」

男「え? ど、どうしたの?」

イケ友「雰囲気悪くなった…なんでだ…イケメン怒ってる…?」

男「っ…!」


嫌な予感は的中した。


~~~~

イケメン「…どういう意味だ?」

「最初から良い答えがもらえると思ってなかった、と言っているんだ。やはり恋文を送って正解だった」

イケメン「最初から断られるとわかった上で、告白したのか?」

「無論だ。じゃなければ、そもそも告白すらしなかった。断られると理解していたからこそ、私はここに居る」

「何も付き合えるとは思ってない。元より恋人関係になれるとも思っていない」

「ただそんなことを思い描く己に──ただいっぺん足りとも肯定する要素がなくなれば、私は決着をつけられる」

イケメン「なるほどな。自分が救われたいがために、女に告白をしたのだと」

「ああ。そして願いは達せられた、実にいい気分だ。ありがとう委員長」

女「えっ……あ、うん…」

イケメン「何かいうこと無いのか、お前には」

女「べ、別に……あたしは無事に終わればそれだけで…」

イケメン「何が良いんだ。お前はどうする、ここまで悩んで考えた全ては全部ドブに捨てるつもりなのか」

女「ちょ、ちょっと…! いいんだってば、これですませられるなら──あたしは普通に大丈夫だから…」

イケメン「同じクラスなんだ。まだ数ヶ月と顔を向き合わせることになる。体育祭だって文化祭だって、イベントもまだ残ってるんだ」

女「…っ」

イケメン「振った奴とそれら全て満足に過ごせられると思ってるのか。ましてや、こんな一方的で、なんら──」

女「…違うわよ、それは違う。そういって貰ったほうがあたしだって、早く立ち直れる」

女「これで満足できた…なんて言われたら、それでいいじゃない。もうこれっきりだって思えるじゃない」

イケメン「…………」

女「ありがたいけど、そろそろやめてよ。良いから、大丈夫だから」ぎゅっ

「どうした? 何か問題でも?」

イケメン「………いや、何もない」

「そうか。最後にひとつだけ君に言いたいことがあるんだが」

イケメン「オレに?」

「噂はほんとうだったのだな。君と委員長が付き合っていることが。一つ違う噂も耳にしていたが…まぁいい」

「お幸せに願う。私はそう願っているぞ」

イケメン「………」

イケメン「……勝手に決め付けるな…」ボソリ

「ん?」

イケメン「そうやってオレをお前が定めた形に収めようとするんじゃない」

「なにを…」

イケメン「他人の意見に流されていれば心底楽だろう。けど、現実はそうじゃない」

イケメン「──オレは違う。お前が考えてるような、オレじゃない」

「っ……」ぞくっ

イケメン「自分の想いすら他人の意見で踏ん切りをつける人間に──」

イケメン「──わかったような事を口にされたくはないんだよ」

女「っ……」

イケメン「君は本当に信じてないのか? ありえない未来なのだと、何一つ考慮にいれることもなかったのか?」

イケメン「女と付き合える答えを。君は少しでも信じられなかったのかい?」

イケメン「──だとしたら正真正銘の馬鹿だ。オレは心から君を軽蔑しよう。そんな奴に告白された女が可哀想で仕方ない」

イケメン「身勝手に他人の価値観に付き合わらせたんだからな。一人よがりにも程がある、そんな他人を思いやれない人間が二度と女に近づくな」

~~~

イケ友「……」ぐっぐっ

男「な、なにやってるの…?」

イケ友「ん。喧嘩する準備、どっちも収まりつかないだろうし。イケメンも堅物くんも」

男「喧嘩っ? だ、だめだってそんなの!」

イケ友「んなこと言ったって…」

男「っ……」

イケ友「このままじゃ酷いことなるぜ? あそこまで言われちゃ、納得しても売られた喧嘩は買っちゃう奴だし」

男「…それでも、駄目だってば。喧嘩はよくない」

イケ友「じゃあイケメンに言ってやってくれよん。アイツ多分、やる気だぞー?」

男「そん、なこと! ない、だろ…?」

イケ友「わからん。けどありえなくは無いとおもうべ?」

男「ぼ、暴力で解決したら…それこそ、なにも上手くいかないだろ! それに彼女はこんなこと望んじゃいないっ!」

イケ友「──じゃあ答えろ男ちゃん」

男「っ…」ビクッ

イケ友「男ちゃんに何が出来る? この状況であの雰囲気を割って入る程の、何かを持ってるワケか?」

男「…俺は…」

イケ友「うーん…おれっち馬鹿だからさ、殴り合いなんて慣れてるし、口争いも結構するけども」

イケ友「あはは。何が違う答えがあるっていうのなら、うん、おれっち信じてみてもイイケド?」

男「…イケ友…」

イケ友「おっ? 今はっじめて名前呼んだっしょ? やっりーイケメンより最初~!」

男「え?」

イケ友「むっふふぅ。男ちゃんに内緒にしてたんだけど、イケメンと名前呼ばれるのどっちが最初か勝負してたワケよぉ」バシバシバシ

男「あいたっいていてっ」

イケ友「なぁ男ちゃん。できるか? あの状況を変えること、できちゃったり出来る系?」ガシッ

男「……っ…」

イケ友「おれで準備運動は出来たっしょ? なら、あとはアイツの事も頼んだぜぃ。くははっ、本当にいい友達できたなぁアイツ…」

男「なっ何を言ってるんだ?」

イケ友「わかるわかる。顔にかいてんよ、んじゃ、いっちょ行って来い!」ドン!

男「どぅあっは!?」だだっ たっ…たたっ

男「………うっ」


イケメン「……」

「何が言いたい。それは私にたいして喧嘩をふっかけているのか」

女「…!」


男(まだ気づいてない──今なら戻れる、けど…)

男「……っ…」ドッドッドッドッ

男(俺に何が出来る──何も出来無い、怖くて足が震えてる。喧嘩なんて嫌だ、言い争いなんて嫌だ)

男(傷つけたくない。よく知らない人相手に、何かできることなんて無い…自分は何も出来無い───)


『──だからオレを満足させてくれ!』


男「…俺に出来ること…」

男「ッ……!」ダダッ


「──おい、イケメン!!」

イケメン「っ……男くん…」

男「……」

イケメン「どうして──」

男「…どうしてって、わかるだろそれぐらいっ」

イケメン「っ…オレはただ、」

男「良いから黙ってろ、ここは……その、俺に任せとけ」ぐっ

イケメン「任せとけって…」

男「っ~~…!」


やばい。何も考えてない、けれど言うしか無い。口を開くしか無い。
俺が出来ることは、これしかない、はずだから。


男「…」


信じて言ってみるんだ。大丈夫、ほら今だってアイツは──物欲しそうに、笑ってる。


男「…調子に乗ってんじゃねーよバーカ」

「ッ…なにを貴様!?」

男「お前じゃない。黙っとけヘタレ野郎」

「なっ──」

男「そこの二人に言ってるんだよ。なに勝手に話し進めてるんだ? 違うだろ、そうじゃないだろ」

男「イケメンは俺のモノなのに、勝手に彼氏にするんじゃない」

女「…は?」

イケメン「…………」

男「つまりはそう…うん、そういうことだ。わかってるだろイケメン?」

イケメン「………は、はいっ」

男「違う」

イケメン「えっ?」

男「──わん、だ」

イケメン「わんわんっ!!」

女「ちょっと───!!!?」

男「三回回って…」

イケメン「わん!」

女「なっ何やってんのよあんたらは!? いきなり現れて、いきなりド変態なことっ!」

男「…変態? はっ、何言ってんだよ俺は別にふつうのコトをやってるだけだ」

女「どこをどーみて普通だと言い切れんのよばっかじゃない!?」

男「誤解がないように言っておくけれど。まぁ誤解されても仕方ないけれど」

男「…俺はしっかり事実を言ってるだけ。しっかりと、本当のことを」

女「っ……あ、あんたそれって…!」

男「だから気にしない」

女「…!」

男「こんなのは嫌だ。喧嘩だって、不仲だって、周りくどい誤解もされたくない」

男「…俺は素直に仲良くなりたい」

女「………」

男「あの時のこと。俺は嘘はいってないよ、誤解や勘違いはあったかもしれないけど……その」

男「た、互いに素直な言葉だったら……嬉しいと思ってる」

女「…ばっかじゃないの…っ」プイッ

「こ、これはどういうことだ!? なにがどうなって…!?」

男「…アンタはお呼びじゃないってこと」

「なにを!?」

男「あんたの都合すら意味が無い。必要ない。着けはいる隙すら無い」

男「思いも感情も全て──解決すらならない」

男「勝手に告白して、勝手に思い破れてるだけ。彼女は振ってもなく、むしろ興味すらあんたには無い」

男「彼女はずっと今まで、俺ら変態に興味津々だから」

「っ……」

男「あんたは一人ぼっちなんだよ。誰にも関心を持たれてない。だから自分の感情の踏ん切りは、一人でつけろ」

男「まだ説明は──必要か?」

「なっ…にを、言って…」

イケメン「へっへっへっ」

男「…よしよし」ナデナデ

女「ど変態ども! ホモホモ!! ふざけるんじゃないわよ!!」

「ま、待て! 本当に意味がわからない! 私は一体何を見ているんだ…!?」

男「それは…」

イケメン「現実だ。これが本当のオレたちなんだよ」

「これが、だと…っ?」

女(しゃがみ込みながら、そんな表情されても説得力が…)

イケメン「振られていいと覚悟をしていたお前には見えなかっただろう、本当の現実だよ」

イケメン「…そんな現実を見たくないと、だからあえて告白して、振られて、見えなくさせようとしていた」

イケメン「──女の本当の姿だ」

女「ちょ、違う違う違う!」

男「…女」

女「うぇっ? あ、あああっうんうんうんっ! マジでこいつらド変態だから! あたしが着いてないと駄目なよ!」

「……それが本当の…?」

女「…うん」

「…………そうか、そうだったのか」

女「だから…ごめんなさい。正直こういうの慣れてなくて、上手く言えないけれど」

女「…そんな告白のしかた、嫌だなっておもう、から」

「……」

女「…だから、その」

「私は君をもっと知るべきだったのだろうか」

女「ふぇっ!? そ、そんなたいそれたこと求めてるわけじゃなくって、あのっ、ううっ上手く言えないっ! けど!」

女「しっつれいじゃない!? 振って当然みたいな風に思われてるのって!? なんかこー…釈然としないっていうか!」

イケメン「そうだそうだー」

男「…黙ってて」ぱしっ

イケメン「フヒヒw」

女「気持ち悪いわよそこッ!」

「………よくわからないが、多分、こういうことなんだろう」

「半端なことが嫌いで、曖昧な感情を断ち切るつもりが、どうやら最高に半端な気持ちだったようだ。」

女「…あ、うん。けど…告白しようと思ってくれたことは、嬉しかったから」

「ありがとう。だけどムリだろう?」

女「…ごめんなさい」ペコリ

「了解した。面倒をかけた」ペコリ

イケメン「…一件落着か」

男「大変になったのはお前が暴走しかけたせいだけどな…」

イケメン「ああ、すまない。けれど…ありがとう男君」

男「…お、俺は別になにも…」

イケメン「わんわん」

男「ちょっ」

女「コラ変態ども! まだやってんの!?」

男「違う俺は違う! コイツが勝手にやってるだけだ!」

「ふむ。なるほどな、確かに──こう見ると」

「──確かに変態だな、三人共」

~~~

女「…」ズーン

男「ど、どうした?」

女「…やっぱ一人で頑張るか、友達頼ればよかったなって」

男(だから言ったじゃん…)

イケメン「行くのか」

イケ友「ダチが悲しんでたらカラオケ十時間コースだかんよ! んじゃなっ! あーそれと男ちゃん!」ポン

男「な、なにっ?」

イケ友「良かったぜ。しびれた、惚れちまうところだったぜい!」びっ

男「嬉しいけど、惚れるなよっ」

イケ友「なはは!ばいびー!」

イケメン「くそっ…また突っ込みを取られた…っ」ギリリ

男「もうやめて…今はそっとしておいて俺のこと…」

女「あーもう、こんな時間なのね。早く帰ってお姉ちゃんに晩御飯作らないと」

男「…俺も帰って晩飯作らないとな」

イケメン「自炊なのか二人共」

女&男「まあね」

女「…なによ」

男「え? なにが…?」

イケメン「くくっ、こんなこと普段なら知り得ない情報だからな。うん、もう帰ろうか」

女「……」くいくいっ

男「…なに?」

女「……」じっ

男「ど、どうした? 今更文句言われても俺は…!」

女「ちっちがう! そうじゃなくって、その……」

女「ちゃんとあんたにはお礼行っとかなきゃなって、思って、それに…」ボソボソ

男「それに?」

イケメン「ふんふーん」スタスタ

女「……、これだけ言っておこうってと思ったのよっ」キッ

男「あっハイ」ビクゥ

女「っ……えっと、その」

男「……」ドキドキ

女「こ、今度っ? お弁当作ってきてあげよっか…っ?」

男「……」

男「…ははっ」


【この日を境にもう少しだけ彼女は優しくなりました】


特別話『俺の洒落にならないところだった突っ込み、その後』



まったやっちまったぜ!
すみません、猛省して今度は日付を守りたいです。

来週にまたお会いできたら。
質問は答えきれる限り随時返答しますゆえに

ではではノシ

保健室

男「こんにちわ。今日も食べに来ましたー」ガラリ

イケメン「お邪魔します」

男「あれ先生居ない…珍しいいなこの時間に居ないのって…」キョロキョロ

イケメン「ふむ。今日は止めておくかい?」

男「多分大丈夫だと思う、けど。今日は平気って言ってたし」ガタ

イケメン「へぇーそうのか──おや、この机に置かれた丸い物体は…?」

男「…おにぎり?」

イケメン「みたいだね。それにしても量が多いな…一個二個…七個もある」ヒョイ

男「誰か置いていったのかな…」ヒョイ

ガララ

女「あ。もう来てたのね、あんた達」

イケメン「ん? 珍しいな君が来るなんて、それに何か用事?」

女「用事も何も、お礼よ。あんた達にお礼を改めて言いにきたの」

男「昨日の件……ああ、告白の」

女「うっ、ほんっとデリカシー無いわよねあんた…! 言わなくていいのよ、口に出さなくていいのっ!」

男「すっすみません」

イケメン「約束のジュースは?」

女「…それはバイトの給料入ったら渡すから安心して。けど期間空いちゃうし、眼つき悪男との約束も兼ねて一応あんたの分も作ってきた感じね」

男「えっ? この、おにぎりってもしかして」

女「そう、あたしが作ってきたの。さっき置きに来てたってわけ」

男「…覚えててくれたんだ」

女「当たり前でしょ! あんたあたしのことバカにしてるのっ!? すぐに忘れるアホだって言いたいわけっ?」

男「違います違いますっ」

イケメン「君との約束ってなんだい?」ニコリ

男「い、色々とあるんだよっ」

イケメン(またオレが知らぬ所で…)

男「それにしても凄い量…全部一人で?」

女「まぁね。いつもお弁当作ってるし、手慣れたもんよこれぐらい」ニコニコ

男「そっか。ありがとう」

女「ん、まぁ約束したしね」

男「…う、うん」コクリ

女「なーによ。嬉しそうじゃないわね、あたしが作ったのは食べたくないってワケ?」

男「いっいやいや! その、人から作ってもらうなんて経験なくてさ…その、嬉しいって思う、から」

女「そ、そお? …そっか、うん」

イケメン「エッホン」

男&女「っっっ!?」ビクゥ

イケメン「さてさてオレは何から頂こうかなぁ。なぁ女、これの中身は?」

女「えっ? あっそれはえっと~……おかか? しゃけ、だと思う……うん、しゃけよしゃけ!」

イケメン「本当か~? これでもし梅だったら怒るぞ、梅苦手だから」

女「知ってるわよ! だから梅入れてないし!」

男「あ。そうなんだ……俺、好きなんだけどな梅…」

女「ふぇっ!? あっ、えっと……んなこと知らないわよ馬鹿!! だったらちゃんと言っておきなさいよ予めに!!」

男(流石にそれは理不尽過ぎると思う)

女「その……おかかじゃ、だめ?」チ、チラッ

男「全然いいよ。ありがと」ヒョイ

イケメン「それじゃいただきまーす」

男「あー…」


イケ友「ちょっと待って!! なぁオレのマッスル育成オカズおにぎりしらねっ!?!?」ガララ!




  シィ─────ン………



女「び、びっくりしたー…いきなり現れて大声出さないでよアホ!」

イケ友「うぇぇ~ん女っちぃ~…怒るなってばぁ、おれ困ってんよ~っ」

女「え、なによ急に…おにぎりがなんだって言うの?」

イケ友「それがなぁー今朝に作った『筋肉育成オカズ』を入れた、おにぎりがどっか行っちゃんだぜっ!?」


男「………」

イケメン「………」


女「はぁ? 何処に置いたか検討もつかないわけ?」

イケ友「う、うーん。多分後で皆で食べようと、保健室に置いてた気がして……こうやって来たわけよ~」


男「……」ソッ…

イケメン「……」ソッ…


女「えっ? じゃあもしかしたら、あたしのと混ざって──なにそっとおにぎり戻してるの…?」

男「……なんでもない」

イケメン「……なんでもないな、うん」


女「え、えらく顔が死んでるけど大丈夫…?」

男「…ちょっと静かに」

イケメン「なあイケ友…参考までに聞きたいんだが、何個作ったんだ、そのおにぎりは…?」

イケ友「いっこ…」グスッ

男「今ここには七個──…元のおにぎりの数は?」

女「そういえば一個多いわね。気付かなかったわ、あたしが作ったのは六個よ六個」


男「………」

イケメン「………」


女「だから何なのよその間はっ!」

男(彼が言うその『筋肉育成オカズ』とは──正しくはイケメンが起こした過ちの一つであろうもので、)

男(彼はイケメンがアドバイスと称して『亀ウンコ食えば筋肉育つ』というボケを心から信じる人だった)

男(つまりはそう──言わずもがな、そのオカズ入りが──可能性ではなく、絶対に)チラ

イケメン「っ……」コクリ

男(ああっわかってる。どうやらいつの間にか、俺は魔境へと足を踏み入れてしまったらしい)

女「どうしたのよ?」

男「…えっと」

女「?」

イケメン「イケ友。お前の見解ではどれが自分のおにぎりだと思う?」

男(ナイス!)グッ

イケ友「けんかい…?」

イケメン「この中で一番、イケ友のおにぎりだと思うのはどれだ」

イケ友「えーと…多分…これだと思う…?」ヒョイ

男「ほっ…本当に!? 絶対にそれが自分のだと言い切れる!?」

イケ友「おおっ? なんか握り方がおれっぽいと思うわけですよ…うん、やっぱこれだ!」

女「じゃあそれなんでしょ」

イケメン「食べてみてくれ」

イケ友「うっし。んじゃいただきまーす、もぐもぐ」

男「ど、どう?」ドキドキ

イケ友「もぐ……しゃけっすなコレ」

イケメン「ぐッ!」

男「あぁ…」

女「ねぇ。このままアホに食べさせて確認させるつもり?」

男(出来ればそうしてもらいたい…)

イケメン「そうしてもらうとも」

男(言っちゃうんだ…怒るぞ絶対に…)

女「ちょ、ちょっと! それじゃあ外れっぱなしだと全部食べられちゃうじゃない!」

イケメン「後は六分の一。外れるわけ無いだろ」

女「そうだとしてもよ! 次に当たる確証なんて無いし、そもそも皆で食べて確認すればいいじゃない!」

イケ友「おー? おれは別にいいぜ、こやって女っちのおにぎり食べさせてもらったし。満足満足なり」

イケメン「なんっ…そんなワケないだろう? やっぱり自分の食べたいって──」

男「イケメン。諦めよう、もう無理だ…」ポン

イケメン「諦めるんじゃない男君…! これは、これは…!」

男「…罰だと思う。今までイケ友を騙してきた、罰なんだ」

イケ友「?」

イケメン「くっ……ううっ…すまない、君まで巻き込んでしまって…っ」

男「それは良いんだけど、あのさ、女…さん?」

女「なによ?」

男「これ全部俺達が頂いてもいいかな? その…自分用の弁当とか、用意してるんじゃないの?」

女「もちろん用意してるけど、出来れば皆で食べようと思って…おかずだけしか」パカ

男(やっぱりか。仕方ない)ガサゴソ

男「…はい、これ。女さんの弁当」ヒョイ

女「えっ? なっなによこれ、あんたが作ってきたの…?」

男「うん。昨日の約束から試しに自分でも作ってみたんだ。出来ればもらってほしいなって…思うんだけど、駄目?」

女「だ、駄目じゃないけど。その……あたしがもらってもいいの?」

男「もちろん」

女「えっと…隣にすっごく貰いたがってる奴が居るんだけど…?」

イケメン「ぐぬぬ」ギリギリ

男「お前は駄目。約束してないし」

イケメン「えー」

男「じゃあ…どうぞ、味付けは普段と違って凝ってみたから、その、口にあわないかもだけど」

女「あ、ありがと…」ヒョイ

男(これで、よし。女さんを巻き込むことはなくなった。本当は自分の弁当だけど、致し方ない)

イケメン「あ。そういうことか、なるほど頭が良いなぁ男君」ポン

男(…なんだかコイツがイケメンらしい所見てないけど、最近大丈夫かよ…)

イケ友「おっしゃ。次は誰から頂くんだぜ?」ワクワク

男「次は俺から行く」

イケメン「!」

男「…じゃあこれだ」ヒョイ

イケメン「だ、大丈夫なのか? 絶対にそれがセーフだと言い切れるのかい…!?」

女(セーフ?)

男(っ…言い切れるわけがない! 俺だって超不安だよ! けど、いくしかないだろ!)

ぱく!

男「もぐもぐ……もぐ…」

イケメン「っ~~~…!」ドッドッドッドッ

男「、ごくん」

イケメン「ど、どうなんだい?」

男「………っ」ホロリ

ポタポタ…ポタ…

男「おいひぃっ…美味しいよぉっ…ひっぐ…うぇ…っ」ポロポロ

女「なんで泣くのよっ!?」

男「昆布、なんだ…とても美味しくてっ……今まで、ぐすっ、無いってぐらい…っ」ぐしぐし

女「そ、そおなの?」

男「っ…ありがとう、こんなに美味しいおにぎり食べたの初めてだ…!」

女「ふっ! フッツーのおにぎりじゃない! 感謝しすぎでしょ!!」テレテレ

イケメン(緊張の糸が切れて、耐え切れず感情が爆発して待ったんだろう…よくやった男君)

イケメン「次はオレだな。よし」

イケメン(どれだ、どれが悪魔のおにぎりなんだ? ぱっと見全部普通のおにぎりだと思える…はっ!?)

イケメン「こ、これは…」

イケメン(ひとつのおにぎりの中身が突出しているじゃないか! これはセーフだ!)スッ

イケメン(ッ──!? ち、違う! 隣のおにぎりもオカズが出ている! まさかここから付着しただけの可能性も…?)ドドドドドドド

イケ友(なんだイケメンの奴…凄いオーラを感じるぜ…!!)

イケメン(どれだッ…どれなんだッ…どちらかがセーフだということはわかっている…!!)

イケメン(コッチかっ!? それともコッチなのか!? ぐぉぉッ──神様我に救いあれ────)

イケメン「───…………ふぅ」



イケメン「オレはこれを頂こう」ヒョイ



男「ッ……本当にそれでいいのか?」

イケメン「ああ。いいんだよ男君……オレはわかったんだ。真理ってやつを」

男「え、真理?」

女「何いってんのコイツ…?」

イケメン「どちらだっていいんだ。オレは受けるべき罰を、今やっと行われているだけなんだ…」

イケメン「今までずっと蔑ろにされていた…己の過ちの報いを…この瞬間に…」

男「イケメン…っ」

イケメン「…すまない君まで巻き込んでしまって。オレは本当にだめなやつだ、本当に、本当に」

ぐいっ

イケメン「──しかしこれまでなんだよ。オレは全てを受け入れて、新しい自分へとステップアップさせる」あーん

男(お前はわざと亀ウンコ入のおにぎりを…!!)クッ

イケ友「おー?」

イケメン(神よ──我に栄光あれ───)

ガラリ

先生「うぃーっす。来てるねガール&ボーイズ」

男「あ。先生」

先生「君たちもう花に水をやった? その条件はきちんとやってもらわないと───あれ? なにそのおにぎり?」

イケ友「チッス先生。なんか女っちが作ってきたものらしいっすよー?」

女「先生も食べます?」

男「なん、っ!」

先生「良いの? ありがとーんじゃ遠慮無く…」ヒョイ

男「まっ──」

先生「もぐもぐ」

男(あーっ!? やってしまった!! 先生が…!)

先生「…もっく…」

男「せ…先生…?」

先生「うん。美味しいね」ニパー

男「うっ…おおっ…!?」

先生「うーん、先生はおにぎり作っても上手く三角に出来ないからね。羨ましい」

女「こういうのってコツを掴めば簡単ですよ」

先生「へぇーそうなんだ」

男(先生もセーフだったか…ふぅーじゃあこれで四分の一。あとはイケメンが持つものがあたりの可能性が濃厚に)チラリ

イケメン「……」

男(お前の志は立派だ。尊く、そして儚い…間違いなくこの状況はお前のせいだけど、その姿勢は褒められるべきことだと思う)

男(あとは、その握ったおにぎりを食べるだけだ…! イケメン! その意思を胸に──)

イケメン「……」ソッ…

男(──意思揺らいじゃってない!? 戻すなって!)

イケメン「お、男くんっ…どうしよっか…っ?」プルプル

男「なっ泣きそうになるなよ! つ、辛いなら……もう諦めたらいいだろ…っ?」

イケメン「ううっ…だってだって…!」ブンブン

男「だってもクソもない。いやくそはあるかもだけど…」

イケメン「ボケはオレの担当だろう…ぐすっ」

男(切り返す余裕はあるんだ…もう食べろよ…)

イケメン「じゃ、じゃあ一つオレと約束してくれないか…一個だけでいい、してくれたら…オレはちゃんと食べるから…!」

男「…なんだよ」

イケメン「今度オレにも弁当…作ってくれないか…?」

男「はぁ? な、なんで…!」

イケメン「だって食べたいんだもん! 女のやつが羨ましいじゃないか…っ!」

男「だもんて…そんなに俺の弁当食べたい?」

イケメン「…だめかい?」

男「うっ…別に駄目じゃないし、一人用作るよりは二人分作ったほうが楽だけど…」

イケメン「本当かい!? じゃあじゃあ! 食べさせてくれるんだね!?」

男「い、イイケド?」テレテレ

イケメン「よっしッッ! ありがとう! 楽しみに待ってるよ!」グッ

男(喜びすぎだろ…ふへへ)ニヨニヨ

女(またホモっぽいことを…)ジィー

イケ友(え、ええ餌付けだ!)

先生(二人共、素でこれだもんね。そりゃ誤解もされる)

男「え、なに皆して…?」

女「べっつにー。あんたのお弁当って、そんなに安売りされるもんなのねって」ツーン

男「えっ? ち、ちがっ」

女「違わないでしょ。あーあばっかみたい、これからのやる気が削がれちゃうわ」

先生「ん、拗ねてるの?」

女「ばっ!!? ち、違います!! 拗ねてなんかいませんってば!! このホモ共に言ってやりたかっただけですって!!」ビシッ

男「ほ、ホモじゃない!」

女「あんたは黙ってなさい! てゆーか、そうやっていっつもいっつも周りを誤解されるよーなことばっかりするからじゃないの!」

男「そ、それは仕方ないことっていうか…っ…特に誤解するのはお、女さんのほうじゃないか…!」

女「はぁっ!? あたしに問題があるって言いたいワケ!? よく言えたものねこんの変態がっ!」

先生「おやま。ふーん、ほぉ~」ジロジロ

男「うっ…な、なんですか先生?」

先生「二人、付き合ってる?」

男&女「付き合ってません!!」

先生「なるほどね。犬も喰わないってか」スタスタスタ

女「ちょ、話し聞いてください最後まで…!!」

男(分かってて楽しんでるな先生…)

イケ友「およよ。イケメン、そろそろ食べないとおにぎりカピカピしちゃうぜ?」つんつくつん

男「あ…そうだイケメン、覚悟は…?」

イケメン「大丈夫だ。今、しっかりと持てた」キリッ

男「行くんだな…そしたら…!」

イケメン「ああ。オレは敢えてこのおにぎりを選ぶ」ヒョイ

男(そ、それは! 自分も一番怪しいと思っていた──この中で特別大きいおにぎり…!)

イケメン「…行くぞ、見ててくれ男君。これがオレの覚悟だ──」

男「ッ……イケメ…」


ぱくん!


イケメン「もぐもぐ」

男「あ…」

イケメン「もぐ、もぐもぐ」

男「っ…」ドキドキドキ

イケメン「ごくん」

イケメン「…………………」

男「い、イケメン? どうだったんだ、中身は」

イケメン「………じだ」ぼそっ

男「えっ?」

イケメン「ッ…牛すじが入っていた! オレは外れていた…!!」

男「っ~~~!! イケメン…!!」

イケメン「ああっ…! 神様はオレを許してくれたようだよ男君…!! オレは…オレは…!!」

男「うん…うん…そうだな、よくやったよお前は…」ポンポン

イケメン「うぉぉぉっ! やったー!!」

【BGM・Gonna Fly Now】

男(──そうして俺らは魔境となる苦難を乗り越えて、無事に日常へと生還できたのだった)

男(──この事件は俺とイケメン。どちらにも深いキズを負わせるものとなったが)

男(──しかしそれもまた、終わってみれば楽しい昼休みのひと時なんだと、思えなくもないのだ…)


女「それじゃあ後3つだし。アホと変態と目つき悪いので、わけあって食べるんでしょ?」

男「…………」

イケメン「…………」


男&イケメン「えっ?」


女「え、違うの?」

イケ友「よし。じゃあおれは、これもーらい」ぱくっ

男「あぁーっ!?」

イケメン「っ……!?」

イケ友「もぐ、これって……いくらぁ!? いくらが入ってんぜ!? なんつー豪華ですか女っち!!」ガーン

女「んふふーでしょでしょ?」

男「おっ…おおっ…!?」

イケメン「じゃあオレはこれを貰おう…」スッ

男「ま、待てよイケメン! 何勝手に取ろうとしてるんだよ…!」

イケメン「………」フイッ

男「そっと目をそらすな!」

女「早く食べちゃいなさいよ。昼休み終わっちゃうから」

男「うぐぐっ」

男(もう駄目だ…どちらかの手に、あの魔のおにぎりが握らている…)

イケメン「………」ダラダラダラダラ

男(そうだ、俺みたいな奴が友達を作ったからこうなったんだ。もう、もうどうしようもない…)スッ

男(これが終わったら俺…ちゃんとイケ友に謝ろう…黙っててごめんなさい、って…)


ぱくっ


男「……あれ?」モグモグ

イケメン「ん?」モグッ


男「おかかだ…」

イケメン「たらこ…」


男(ど、どういうことだっ!? なんで無事なんだ二人共!?)

イケメン「っ!? っ……なぜだ、なぜ入ってないんだろう…?」

男「わからない。けど、確かにイケ友のおにぎりは入ってたはずなのに…」

先生「うッ」

女「ぇ、先生?」

先生「なんかお腹痛くなってきた…」

イケ友「大丈夫っすか!? 保健室連れて行かなきゃ…! ハッ! ここだ!」

先生「なんだろうね、何か変なもの食べたかな───んっ!?」ギュルルルルッル

女「変なもの──」サァー


男「………」

イケメン「………」


先生「うッおッ、駄目、お腹が痛く、きゅー」バタリ

イケ友「先生ぇええええええええええええ!!」


男「…そ、そういえば…先生はオカズの中身……言ってなかったな…」

イケメン「…………」ダラダラダラダラ

先生「君…中々やるじゃあないか…保健室の先生を殺るなんて、ね」ガクリ

イケ友「女っち殺ったの!?」

女「やるってなによばっかじゃないの!? あたし、なにもっ…変なの入れて! ない、のにっ…うぇえええええんっ!」ポロポロ

イケ友「え、じゃあおれのおにぎりが──うぉぉおおおおおお!! すまねぇえええ先生ぃいいいいいいいいいい!!」ダバァー


男「……謝ろう」

イケメン「……うん」


【全部話したら案外許してもらえました】


第八話『俺の突っ込みロシアンルーレット』



また来週に会いましょう
次回はイケ友メインです

ではではノシ

コンビニ

男「店長。お疲れ様っした」

店長「はいお疲れさん。今日もがっぽり稼いでくれちゃったね」

男「俺はもう上がりですけど、店長は?」

店長「なにせ店長だからね。残らないとね、仕事だからねウフフ」

男「…そうですか、じゃあ自分はこれで」ペコリ

店長「来週もよろしくぅ~」

男(……。店長今日は非番なのにな、なんで居るんだろう?)ウィーン

男「え、暗っ」

店長「そうだよねぇ~最近はめっきり日が落ちるのも早くなっちゃったからねぇ~」

男「そ、そうですね…季節の変わり目って、ヤツですか」

店長「ウフフ」

男「……なんですか?」

店長「いやね。うんとね、君とこうやって季節のお話ができるなんて、夢みたいだよねってと思いましたね」

男「うぇ、そんな節操ない人間だと思われてたんですか?」

店長「ウフフ。逆よ逆、信念やら固定概念が強うそうに見えて、店長話しかけづらいなって思ってたのよね」

男(ソッチの方が立ち悪そうに思える…)

店長「けれど、君ってば近頃とんと親しみやすくなっちゃったから、店長嬉しくなっちゃってよく話しかけちゃうのよね」

男「嬉しいだなんて、まぁ、その、ありがとうございます」

店長「良いってことよぉ~」クネクネ

男(いい人だなぁ。ムキムキマッチョの見事な逆三角形を所持し、立派な髭を蓄えた人だと忘れてしまうぐらいに…)

男(いやいやいや、人を見かけで判断するのは良くない。このような人で良いんだ、自分が言えたものじゃないしな)

店長「時間は遅くないけれど、表通りに出るまでちょっとばかしデンジャラスな通りだからね。気をつけて帰るようにね、それとも家来るぅ?」

男「えっ? いや、晩御飯作らないといけないんで。また今度お願いします」

店長「いやだもぉ~振られちゃったのねぇ~ウフフ、じゃあ気をつけてね」

男「? じゃあお疲れ様です、店長」

店長「お疲れ様~」

~~~~

男「…親しみやすくなったか」

男(バイトは入学当初から続けていた。かれこれ一年以上の付き合いの人も居る。店長なんかがそうだ)

男(けれど付き合いと言っても仕事場で顔を突き合わせるだけ。自分が出来る限り支障をきたさないよう気を張っていたから)

男(会話もせず。口にするのは業務上の内容だけ、終始無言に徹し、無駄なものは極力排除していた)

男「まさにバイトマシーンと化していた──なんて、今だからこそ分かることだけど」

男(当時の自分は、それが酷く歪だと言うことも気づかなかった。周りから見れば、ただ単に取っ付きにくい奴。面倒そうなやつ、だなんて)

男(まさに店長が言ってくれた通りのこと。なんか頑固そうなやつ、面白みが無さそうで、関わった分だけ損をしそう)

男「…分かってた、わかってるんだけども。何も出来ないのが自分だった」

男「ふぅ…」

男「変われたんだろうか。あの日から自分は昔の自分よりも、明るくなった……とか」


そう、あの日のことは忘れられない。

凝り固まった世界を割って入ってきた、不躾な視線。

己でさえ怖くて手を出されなかった、新しい自分を欲しがる輩。

男「…………」

その変な契約から生まれた──新しい人間関係。

男「ははっ。そりゃ変わりたくなくても、変わっちゃうか」

男(楽しいんだろうな。きっと、これが楽しいってことなんだろうな)

男(ずっとずっと続いたら良い、残りの学校生活が全て同じように続いたら、さぞ──)

男「──ううっ…それはちょっと高望みし過ぎか…?」

イケ友「タカノゾミ? なにそれ、AV 女優?」

男「どぉっうわっ!?」

イケ友「ちぃーす。男ちゃんこんな時間に、こんな場所で何やってんのー? ナハハ」

男「いっ、イケ友!」

イケ友「そうです私がイケ友さんです! なは!」

男「っ…びっくりした、急に後ろから話しかけるなよ…!」

イケ友「イっケ友さんったらイっケ友さん。ん? おーごめすごめす、久しぶりにこの通り歩いたら見覚えある背中が見えたからさ~」

男「…。心臓止まるから、今度からは止めて」

イケ友「了解ぃ~! んで、どしってここに居るの? 男ちゃん、夜遊びにはお馬鹿の原因になるぜ~?」

男「ならないならない」

イケ友「おお? その感じ、信じてないだろ? じゃあ証拠材料として──おれを進呈する!」

男「え、それはちょっと怖いかも…信じざる負えない…かも」

イケ友「そうそうそう! だからこれからは気をつけるようにって、まってーい!」

男「あはは。冗談、冗談だよ」

イケ友「あの目はガチだったさ!? こっわー男ちゃんすぐにマジで受け取るんだもんよ、こっわー」

男「……」

イケ友「およ? どったの?」

男「いや、普通に俺はバイトでこの通りを使っただけなんだけど、イケ友の方はどうして…」

イケ友「ん? あー前にバイトしてるって言ってたっけ。じゃあ男ちゃんと一緒だわ。おれもバイト帰り」

男「……」

イケ友「…どったの? そんな見つめて、惚れちった?」

男「…じゃあ、なんで」

イケ友「?」

男「あ。そうだ、確か店長から貰った奴が──」ガサゴソ

イケ友「なによどしたのよ。急に黙りこくっちゃって、おれにも分かるように言ってちょ?」

男「黙ってて。良いから」ヒョイ

イケ友「おぇ?」

ぴとっ

男「…血が出てる。こめかみ部分、気づいてないのかよ」ポンポン

イケ友「………」

男「バイト先で余ったポケットティッシュ持ってきてよかった…ふぅ、じゃあこれ全部あげるから。垂れてきたら使って」

イケ友「………」

男「………」

イケ友「………」

男「な、なに? 貰わないの? …余計なお世話だったら、ごめん、謝るけど…」

イケ友「あっ。いや、すまん……ありがたく頂戴いたしまする、ははーっ」

男「お、おう」

イケ友「いやーまいっちんぐマチコ先生だわ。変な所見られちまったぜ、ナハハ」

男「…そっか」

イケ友「そうとも! んー男ちゃんすげーな、ほんっと。マジでリスペクトもんだわ」

男「え、なにが?」

イケ友「なんも聞かねーで、すぐさまティッシュ取り出して、他人の血なんて気にせず拭いてくれたじゃん?」

男「…いや、気にせずなんてことないけど」

イケ友「けれど手を出してくれた。だろ?」

男「まぁ、うん、だけど…気になるのは嘘じゃない。なんで血が出てるのかって、怪我した理由も聞きたいけど」

イケ友「うんうん。けど男ちゃん、んなこと咄嗟にできるやつはそう居ねえのよ。
    つかおれの周りには居なかったね、まるで祭りごとかとやんややんやと騒ぎ出すのが、目に見えてるぜ」

男「それはそれで凄いと思うけど……咄嗟というか、」

ただ単に怖くて聞けなかったのが、本音だ。
沈黙は美徳。なんて、そんなたいそれた心構えを持ってるわけじゃない。

人気の少ない路地裏から、血を流して歩いてきた。
バイトは多分うそだ。そして怪我に対して無頓着な態度。

男(いくらでも想像することは出来る。けど、)

どうしたものかと、思い悩む。
けれど結局は答えなんて導き出せない。滞って、停滞するだけ。

男(あれ? そういえば…)

なにか、思い出そうと、した気がする。

けれど手がかりはするりと滑り落ちて、暗闇の中へ消えていく。
そういえば俺って、人と関わることをやめた理由は───


イケ友「こりゃお礼も兼ねて説明しなきゃだめかーふぁぁ~調度良かった、誰かに聞いて欲しかったし」ポリポリ

男「えっ?」

イケ友「ここから近くにベラボウ美味いたこ焼き屋あるんだけど、ちょっと時間ある? 無いなら断ってちょー、全然構わないからよ」

男「……教えてくれるのか?」

イケ友「あったりまえじゃん。聞きたくないなら別に構わないぜ? ナハハ」

男「…なんかその言い方は卑怯だ」

イケ友「ええっ!? そおっ!? マジかー…うーん…」

男「ははっ。わかった、聞かせてもらえるなら是非とも無いよ」

イケ友「おっ? マジで! じゃあ早速行こうぜ! ほらほら!」ぐいぐいっ

男「ちょ、ちょっと押すなって…!」


~~~~


イケ友「ここよここ。これがまた美味いのなんのって、すんませーん」

店員「はいはーい。やってるよーって、何よ、あんたか」

イケ友「なによとは何だなによとは。客だぜこっちは」

店員「ろくに金払わずツケしまくってる奴が客なわけ無いっしょ。泥棒と変わんねーよアホタレ。ったく───」チラリ

男「あの、どうも」

店員「……」

男「…?」

店員「おっおっおおおおおおっ!? この前の子だぁああああああああああああ!」

男「ええっ!?」

イケ友「んあ、知り合いなん?」

男「えっ? いやっ! 俺は全然見当も…っ!」

店員「あれれー? 覚えてないっ? ほらほら、駅前での!」

男「あ──もしかして、クレープ屋の?」

店員「そう! 昼間はクレープ作ってんのよ! 夜はたこ焼き!なになになに!?
   今日はどったの?! どったの?! この前の超絶イケメン君は!? まだ関係は続いてる!?」

男「えっ、あのっ、えっと」

店員「きゃーマジかぁ~再度会えるなんて思わなかった、あのねあのね、あれから知り合いとかに君たちのことを話して、」

店員「あ。知り合いってのはとある同人作家なんだけどね、こりゃまた腐りまくってるのってなんの面白いやつなんだけど──」

イケ友「ハイハイ。ストップストップ」ぐいっ

店員「むごぉ!? むぃー! むぃー!」

イケ友「姉ちゃん。明らかに姉ちゃんのトークが男ちゃんのキャパ超えちゃってるから、わかってるかー?」

男「」

店員「ぷうはぁ! あ、ごめん。ちょい興奮しすぎた、いやー参った参った。んふふ」

イケ友「大丈夫か男ちゃん? 姉ちゃん何時もこんなかんじだからよ、気にしたら負けだぜ」

男「リョウカイシマシタ」

イケ友「ほらみろ怖がってるじゃん。つーこって、今回はタダにしてちょ」

店員「なにが、つぅーこってだよ。テメーはさっさとツケ分両耳そろえて払え馬鹿野郎。あ、君はいいよ。むしろサービスしちゃうから」

男「あ、ありがとうございます…」

店員「ん。良いってことよ、なになにー? 今日は弱気なのね、タチだと思ってたけど案外ネコ?」

男「え?」

店員「ぐふふっ」

イケ友「良いから作れっての。ほらほら」

店員「言われなくても。腕によりをかけて、作らせてもらうっての」

男「………」

イケ友「ったく」

男「…あのさ、一つ聞きたいんだけど、姉ちゃんて…」

イケ友「んお? そうだぜ、こん人はおれっちの姉ちゃん」

男(全然顔が似てない…)

イケ友「ナハハ。今顔が似てないって思ったっしょ? まぁ当たり前なんだけどな、血つながって無いし」

店員「アンタと血が繋がってたら一生モンの恥だわ」クルクル

男「…そ、そうなんだ」

店員「ん? あれ、アンタこの子に【アノ事】言ってないの? めーずらし、友達できたらすぐ言うクセに」

イケ友「だって友達じゃねーもんよ」

男「っ……」ビクッ

店員「え? 違うの?」

イケ友「おうよ。男ちゃんは親友だばっきゃろい!!!」

男「…ぇ…」

店員「あーはいはい。わかったわかった、少し口閉じてな面倒臭いから」チラリ

男「……」

店員「あのね、こんな奴だけど嫌わないでやってね。案外、良いところもあるからさ」

男「…あ、はい」

イケ友「えっ!? お、男ちゃんおれってば何か嫌われることしちゃったか…?」

男「し、してないしてない! むしろ…色々と申し訳ないことしてるの、俺だと思うし」

イケ友「申し訳ないこと? あーこの前のおにぎり? ナハハハハ! ありゃおれが悪いだろー! ばっか過ぎるだろおれぇ~!」

男「わっ、笑って済ませられることじゃないだろっ?」

イケ友「あー思い出しただけで腹がいてぇ。保健室の先生には悪い子としたけど、ありゃ一生モンだわ。もう絶対に忘れないと思うわ」

男「ごめん…」

イケ友「気にしてないっつーの! つか、聞いて聞いて! 冗談だったかもだけど、マージーで! 筋肉育っちゃったから! ウンコ喰って!」

男「ぶふっっ! う、嘘だろ流石に!」

店員「うんこ…?」

男「あっ! いやっ、その、なんていうかー…!」

店員「アンタそれどういうこと? うんこって、なに?」

イケ友「前にな、ウンコ喰ったら筋肉育つって言うから喰ったら、マジで育っちまったって話」

店員「…だ、誰の?」

イケ友「えーっと、確か…」スッ

イケ友「これこれ。この写メ見てちょ」

店員「…………………………」

イケ友「およ? どったの姉ちゃん?」

男「ちょっと見せて写メ」

イケ友「おっけ。ハイ」スイッ

男「……………うん、これ俺だよね。この前遊んだ時の写メ」

イケ友「え? ちゃんと亀ちゃんだろ、あれ? 選択先間違ってるわー!」

男「………」チラリ

店員「君…」

男「違います! 絶対に違います! ええもう本当に! 常識的に考えてください!」

店員「なるほど、そういう方向性もアリ……?」

男「納得しかけてる! 凄く待ってください! いや、ほんっとに!」

イケ友「そうだぜ姉ちゃん。流石に男ちゃんのうんこは喰えないぞ!」

男「っ…そう! 流石に喰えない! 俺のうんこは!」

店員「じゃあ誰の喰ったのよ、アンタは」

イケ友「これこれ」ピッ

店員「………………………………………」

イケ友「あれ? どったの?」

男「もう一度みせろーっ!」ぐいっ

男「──これイケメンじゃん! イケメンの写メだぞ!」

イケ友「なはー! また間違えてしまったぜ!」

店員「三角関係……?」

男「違う!! 違うったら違います! だぁーもうっ……良いから俺に説明させろー!!」


~~~~


男「お、美味しい……」

イケ友「だろだろっ? ナハハー良かったなぁ姉ちゃん、もう一人リピーター様が付いたぜ?」

店員「ありがとねー」

男「あ。いえ、またこんど買いに来ますんで…」

イケ友「これからもタダで貰えばいいじゃん。もぐもぐ」

男「そんなワケいかないだろ。むしろお金を払いたいよ、これだけ美味しいたこ焼き食べれるなら」

イケ友「おー……」

店員「おー……」

男「え、なに、この反応」

店員「アンタにしちゃ珍しい友達出来たものね。いいこと言ってくれるわぁ、マジで」

イケ友「だから親友だっつの。だろだろっ? えへへー、マジ男ちゃんすっげーから」

男(良くわからないけど、照れる)モグモグ

イケ友「もぐもぐ」

男「あの、それでさ、話したいことって何?」

イケ友「おお? そうそう忘れてた、ん~~どこからはなしたもんかな」

男「俺は怪我のことを知りたいけど…」

イケ友「まっそうなるわな…怪我したのは単純明快、ちょっと喧嘩してきたからだぜ」

男「………」

イケ友「あ。怒った? 怒っちゃってる?」

男「…喧嘩は良くない、前にもそう言ったはずだけど」

イケ友「慣れてるから平気だっての! …あ、ごめんマジで怒ってんな男ちゃん。すみません、なはは~」

男「聞いていいなら聞くけど、その理由は?」

イケ友「んー端的に言えば、仲裁? だったけど、最後はおれ個人の問題になっちまってたなぁ」

男「仲裁…? 他人のいざこざに巻き込まれた、みたいなの?」

イケ友「………。いや他人じゃねえよ、兄弟だ」

男「兄弟の…」

イケ友「そうとも。ちっとばかしお転婆な弟が居てな、やんちゃばっかりするもんだからよ。兄として出向いてたってワケ」

男「…それで怪我をしたのか」

イケ友「あーいやいや。怪我はおれのせいだわ、なはは! 弟と相手が口論になったときによ、おれが思わず殴っちまった」

男「な、殴った? ちょ、なんで殴るのさっ?」

イケ友「ムカついたからだけど?」

男「…お前」

イケ友「そりゃ大した話じゃ手も出ねえけど。アイツは言っちゃ駄目なことを言った。だから殴った、それがおれのポリデントだから」

男「ポリシー?」

イケ友「それだそれ! まぁーびっくしりしてたよ、アイツも。急におれが暴れだしたもんだからよ。ま、どっちも悪いってことで勘弁してちょ」

男「…どんな理由があっても、喧嘩は駄目だと思うけど。手を出したら、そこでイケ友の負け…じゃないのか」

イケ友「おー? 面白いこと言うな男ちゃん、手を出したら負けか、んふふ、考えたことも無かったぜ」

男「……」モグモグ

イケ友「けど、違うんだ男ちゃん。オトコってもんにはよ、絶対に引いちゃなんねえところはあるモンなんだ」

男「…どんな理由で?」

イケ友「もちろん。大切なやつをバカにされた時だ」

男「…大切な、奴」

イケ友「ああ。おれはそれだけは唯一、心に決めてる。おれを馬鹿にしたっていい、あほだの間抜けだの文句をたれても手は出ない」

イケ友「けど駄目だ。おれがカッコイイと思ったやつ。面白いって思ったやつ。一生ダチで居ようと思った奴を……」


イケ友「──馬鹿にした奴は、絶対に許しはしない」


男「っ……」ビクッ

イケ友「つーこって。おれは喧嘩をしちゃったわけなんだぜ、けど、男ちゃんが言ってんのも一理あるってことも分かる」

イケ友「そいでもよ。人ってのは絶対に譲れない部分があるもんじゃね? 他人から言われてもどーしても変わる気がしないって、奴」

男「…そうかな」

イケ友「男ちゃんが喧嘩許せないってのも、そうだろ? 違うか?」

男「あ、うん。そう言われるとそうだと思う」

イケ友「人それぞれ、頑固な自分って奴を持ってるもんなんだ。人にどうこう説教されても、自分がこう決めたんだから勝手に解釈すんじゃねーって」

イケ友「そーいうの、なんつーんだっけ。かち、かち? カチカチ?」

男「価値観?」

イケ友「そーだよそれそれ! カァー頭いいな男ちゃん、会話がスムーズに進むわ~」

男「そ、そうかな?」

イケ友「おうよ。おれはさ、そういった価値観がめっちゃカッコイイ奴。大好きなんだ」

イケ友「自分の想いすら踏ん切りつけないとダメな奴。他人のことをずっと思いやれる優しいやつ」

イケ友「大好きな子供を作ることに躊躇いなくやってのけるやつ。喧嘩することに立派じゃねーけどポリシー持ってる奴、とかさ」

男「なんか例題がすごい人ばっかなんだけど…?」

イケ友「なっ? すげーと思うだろ? だからカッコイイんだよ、つえーと思えて、おれは心から憧れる」

イケ友「自分がやりたいことを絶対にやりきる。周りの奴らから何て言われようとも、自分がそうなんだからやる、って……かっこいいじゃんか」

男「……」

イケ友「なはは。分かれって言わねえけど、やっぱこういうのって分かりづらいよなぁ」

男「いや! すっごく分かる!」フンスー

イケ友「おおっ?」

男「俺も思うよそういうの。問題やら逆境やら、自分を苦しめることばかりのなかで…」

男「…自分を突き通せるのって、かっこいいし、憧れる!」

イケ友「………」

男「誰にだって言葉に出来ない瞬間、ってのはあると思うんだ。怖いとか、他人に迷惑に思われたら嫌だとか」

男「だからココで黙ってるのは何の罪でもないし、後は勝手に周りが解釈して問題は解決するんだって……」

男「そうやって楽に生きることは駄目なことじゃない。むしろ誰だって思うことだけど…」

イケ友「…そうやって自分に嘘をつけるのは、嫌だって?」

男「そうそう! それが自分の甘さだと思ってしまうんだ。けど結局は誰もそんなの望んじゃいない、きっとそれは本当に迷惑なんだ」

男「他人の意見なんて、人は望んじゃいない。なんて、そう思われてるからって、自分に言い聞かせて何もしないのが……俺はちょっと嫌だ」

男「──だからイケ友が言うこと、俺は分かるよ。やりたいことを言い切れる人ってのは、かっこいいと思う!」

イケ友「………はぁ~」

男「えっ、あっ! ごめん! なんか熱くなりすぎたかも…知れない」

イケ友「うんにゃ驚いてるわけじゃないのよ、呆れてるわけでもないし、ただ、うん、やっぱ男ちゃんに言ってよかったぜ…」

男「え、どういうこと?」

イケ友「…おれは自分に自信がない、って言ったらどう思う?」

男「………信じない、かな」

イケ友「だろー? なはは、けど本気で自分が強いやつだとか思ったことねーのよ。実はな、にひひっ」

男「そんなわけ…無いと思うけど、俺か見ればイケ友は色々と強いやつだと思う」

イケ友「そりゃ強くなろうと思ってんかんな。喧嘩だってするし、口論だって負ける気がしねえよ」

イケ友「だから言ったじゃん。おれは、おれを馬鹿にしたやつを本気で怒れないって」

男「あ……けど、それは」

イケ友「単純に、ああそうなんだろうなって。思っちまうんだ、おれは大切にしたい奴らよりも…馬鹿だし弱いって」

イケ友「だから普通に納得しちまう。おれは、誰よりも弱い人間だってな。カァーカッコ悪いこと言っちまったぜ、マジで」

男「…………」

ああ。多分、この時がそうなんだ。
分かってしまう、自分が黙ってれば正解だってことを。

人が悩んでいても迷惑にならない言葉を口にするのは難しい。
自分の常識は他人の非常識。なにが正解で、何が間違いなのか。

言葉にしてしまった時点で答え合わせが出来てしまう。

なら何も思わないまま、口を閉じて見過ごすことだけ。


人は迷う。最善で最良の答えを導き出そうと──躍起になって、失敗する。


間違えたくない。だから言葉にしないで、無言に徹する。
大切に思いたい人ほど、苦しめたくないと想いやりたいほどに、空回りしてしまう。


ああ、なんて不器用なんだろう。
言いたくても言い切れないでいる自分が、本当に道化じみている。


男(───けど、何だろうか)


思い出してしまう、あの表情を。
この瞬間に何故そんな顔を思い浮かべてしまうのか、わからないけれど。




『──それがオレと君との契約だ!!』



あの言い切った時の、アイツの表情は特別おかしかった。
あんなにも堂々と言い切ったのに、自信の塊のような人間が、なのに、


───どうしようもなく、不安そうだったように思えるのは、何故なんだろう。


男「……」

誰にだって怖いものはある。
信じたいけれど、信じ切れないでいる不確かなものが、誰にだって存在している。

だから、だから何でだろう。



男「…なわけない。イケ友は凄いやつだって」

自然と言葉は出てしまっていた。

男「俺は思うよ。イケ友は凄くて、カッコイイやつだって」

男「だって俺に持ってないものは沢山持ってる。強いし、えっと、自信も喧嘩もってこと」

男「確かにその、馬鹿かって言われれば……うん、そうかもしれない」

男「けどさ。それもまたイケ友の魅力なんだと思う」

男「……そうじゃなきゃ、誰もイケ友と仲良くなろうと思わない」

男「強すぎるのも駄目だと思うから。それじゃあ誰も寄り付かない、コイツは一人で生きられるんだって、そう勘違いされちゃうんじゃないかな?」

男「だから……俺が言うのもなんだけど、イケ友はイケ友だから。カッコイイんだ、それでいい、それだから良いんだって───」


男「──し、親友の俺は思うよ?」


イケ友「………………」

男「ほ、ほら! 分かりやすく言えばさ、大切な友達が馬鹿にされたのは嫌だから手が出るってのは……うん、凄いことだって!」

男「俺は駄目だって思うけど、けど、それはイケ友の魅力だろっ? だったら自身を持っていいと思う! …うん、それじゃあ俺の言い分が滅茶苦茶か…おう…どうしよう…」

イケ友「………………」

男「たっ、単純な話! 俺はー…そのー……そうだ、そうそう!」

男「───逆に言ってやる! イケ友が周りを凄いって言うのなら、俺はイケ友が凄いって思いたい。だから、もっと自分に自信を持って欲しい!」

男「じゃなきゃ、俺がバカみたいだろ? …俺に思われる程度なら、別にどうってことないだろうけども…」

イケ友「………っ……」ググッ

男「あっ…えっと…ごめん、変なこと言って…」

イケ友「っはぁ~~~~~!!! マジかぁあああああああああああああああああ!!」

男「うわっ!?」

イケ友「はぁーあ。本気で言ってくれてる? マジでおれ超かっこいいとか、思ってくれるの?」

男「う、うんうん!」コクコク

イケ友「くっくく……男ちゃん、それあんま他の奴らに言わないほうが見のためだぜ。いや本気でさ」

男「いやいや! こんなこと…! い、言うわけ無いだろ…?」

イケ友「へぇーそお? おんなじこと言って、おれみたいな奴を宥めてるとかじゃなく?」

男「ぐっ……お、俺にそんな知り合いがたくさんいると思ってんのか!」

イケ友「居ないほうがおかしいとおもったんだけど。そっか、なはは、おれが初めてか」

男「…なんか文句でもあるのかよっ」

イケ友「いーや、全然。むしろヤバイぐらい楽しいわ。おいおい、マジかよ…ダチにも兄弟にも言われたことねぇってば…」ニヤニヤ

男「へ、そうなの…? こういうこと、結構言われ慣れてるかと…だから別にあれかなって…」

イケ友「うんにゃ、面と向かって堂々と言われたのは初めてだっつの。カァーやることやるねぇ男ちゃん、そうやってイケメンも落としたってか」

男「ぶぅー!! ちょ、お前まで何言って…!!」

イケ友「くくっ…あははっ…」プルプル

男「イケ友…?」

店員「はいよ。おまち」ヒョイ

男「うわっ?」

店員「コイツそーなったら長いから放って置いていいよ。うん、男君でいいんだよね?」

男「え、はい、なんですか?」

店員「持って行って。お姉さんからのお礼、温かい内に食べちゃってね」

男「…これって…というか凄い量のたこ焼きなんですけど…?」

店員「んふふー出来の悪い弟持つとさ、お姉さん大変でしかたねーのよ。ま、血の繋がりもないけどさ」

店員「仲良くしてやってね。出来る範囲でいいからさ、いやほんっと、ガチで言ってるからね? 関わったら分だけ男君、絶対に大変な目に遭うから」

男「……」スッ

店員「上等。たこ焼き貰ってくれたってことは、いいや、言うまでもないね。あー若いっていいなぁ~……んじゃよろしくぅ」

~~~~~

イケ友「一生分笑ったかもしれねぇなこりゃ」

男「…ううっ」

イケ友「ひひっ。あんがとな男ちゃん、いやほんっとに。やっぱ言ってよかったぜ」

男「……」

イケ友「つーこって。これからもよろしく、おれのこと周りにカッコイイやべぇやつだと言いふらしても良いんだぜ?」

男「…そんなこと今更言わなくても、周りは知ってると思うけど」

イケ友「……。だぁーもうほんっと言ってくれるわー! 男ちゃん、マジラブリー!」

男「ち、ちがうっ! 本気で言ってるんだからなこっちは!? 今更って話は、自分だってわかってるだろ!?」

イケ友「わーかるわけないじゃん。やりたいようにやってるくせに、周りから好かれてるとか思わないっつーのよ」

男「うっ…!」

イケ友「けど、んふふ、男ちゃんが言ってくれるなら信用するわ。おれ、カッコイイやつだと思われてるってな!」

男「……」コクリ

イケ友「んん~~~~!! っはぁ~……あ、そうそう。言っておかなくちゃいけないこと、言わないとな」

男「え、なに? 言わなくちゃいけないことって」

イケ友「おれの話。ダチやもちろん、イケメンも知ってることだけど──まぁ単純な話」

イケ友「おれには二十人以上の兄弟がいまっす!」

男「は?」

イケ友「そういいますとな、おれの母親が頭がイッてるレベルの──大のこども好きで」

イケ友「十二回ほど再婚してるワケよ。その度に子供作ったり、相手方の兄弟が居たりで……」

男「……それで、兄弟が二十人…?」

イケ友「そうそう。さっきの姉ちゃんも六回目の再婚の時に居た人ってワケ」

男「おおう…それはまた…」

イケ友「あ。別におれは苦に思ってねーのよ? 兄弟増えるのはすっげー面白いし、母親の事悪く思ってもない」

男「…それは良かった」

イケ友「だからよ、今度ウチに遊びに来いって男ちゃん」ぐいっ

男「うわわっ!」

イケ友「今回の家は豪華だぜー? 高級マンションの最上階! なんとおれ専用の部屋まである!」

イケ友「そこで八人ぐらいの兄弟いっから、全員紹介するわ~」

男「あ、ありがと。その…本当に兄弟仲が良いんだ」

イケ友「あったりまえじゃん。仲悪い奴いたら、殴ってでも仲良くなるわ」

男(それはどうなんだろう…)

イケ友「にっひひ。面白い奴ばっかりだから、男ちゃんも気に入るぜ?」

男「……」

単純にふと、思いつきだった。
こんな奴でもあるのかと、ただひとつの、ひらめきだった。

男「…なぁイケ友でも苦手な人なんて居るの?」

イケ友「居ないな」

男「断言するのか…」

イケ友「モチロンよ。苦手なんて、むしろおれが好きになる要因だっつのよ。むしろ燃えるっていうか?」

男「…ははっ、イケ友らしいよ」

イケ友「だろだろー?」


──けど、それは予兆だったんだ。

イケ友「……あ。でも居たわ」

男「え?」


これからずっと続くと思っていた、楽しい学校生活。
なんら滞り無く終わると思っていた、けれど。

問題は問題のままで、見過ごすことしか出来なかったものは。


イケ友「九回目の再婚で──出来た【姉】なんだけどさ、そん人が、なんつーか、苦手だった」

男「え…どんな人だったんだ?」



──ストン、と。
音もなく静かに現れる。



イケ友「良い意味でも悪い意味でも、凄い人だったつーか。まぁ男ちゃんでも会えるとおもうべ」

イケ友「だって───」


イケ友「──同じ学校の生徒会長やってる人だもんで、しかも」

イケ友「──イケメンの元カノだしな」






第九話『俺の突っ込みの意味』



上手く話をまとめられなかった。
ただ、それだけが原因なんだ……


また来週にお会いしましょう。何があろうと月曜日です。
次は物語のラスボスが出ます。

ではではノシ

教室

男「今年の文化祭は何をするんだろう」

イケ友「お化け屋敷がいいぜおれっち!」

イケメン「どうだろうか、今年は他組での要望が多いらしいし、無難にお笑い劇場とかは?」

男「いやそれ無難じゃない。ハードル高過ぎる」

イケ友「そうなんかぁ~残念っすわ……あ、そういや去年っておれら何やったっけ?」

男「えっと…」

イケメン「…ふむ」

男&イケメン「劇?」

イケ友「あーそうそう! そうだったわ! なっつー! つか、今頃気づいたけどおれら一年も同じクラスだったべ!」

男(あぁ…忘れられてたんだ…)

イケメン「……」

イケ友「んふふー! けどけど? 今年は男ちゃんも居るし、おれっち断然楽しみが違うっしょ! ねー? 男ちゃーん?」

男「ちょ、急に肩を組むなって…! 暑苦しいっ! というか一年の時も居たから! 今年だけじゃないから!」

イケメン「………」スッ

イケ友「んなこと言うなってば~、なはは。なんせおれらは互いに秘密を言い合った仲だぜ?」キラリン

男「だぁーもうっ! イケメンの方からもなにか言ってやってくれ、って……」

イケメン「………」

男「どうしたイケメン。変に浮かない顔してるけど?」

イケメン「ん? いや何でもないさ、ただ昔のことを思い出していただけだよ。一年前の文化祭のことを、少しだけね」

男「……。一年前の文化祭といえば、イケメン。あの時の劇で主人公を演じてたよな」

イケメン「ッ!?」ビクゥ

男「あの時のお前って───え、なに?」

イケメン「…ッ…今…」

男「あ、うん。だから去年の文化祭の時は主人公演じてたよなって…」

イケメン「あ、ああ、うん。確かに演じてたよ、それがどうかした?」

男「いや特に話したいことがあるわけじゃないけど、その、大丈夫? 具合悪い?」

イケメン「ははっ。そんなワケないじゃあないか、うん。オレはいつもどおり元気だよ」

男「…そう?」

イケメン「勿論。おっ? 先生が来たみたいだよ」

男「……」

イケ友「うっし! じゃあじゃあ何にすっかなー!」スタスタ

~~~

「ということで、今年の文化祭実行委員はこの二人です」


イケメン「あはは」

男「えっ?」


パチパチパチパチワーパチパチパチパチ

男(いつの間にか俺が実行委員になってるーーーー!!)

イケメン「さて、今年の文化祭は二回目。一回目と違って楽しむことが前提になると思う」

イケメン「一年目は成功させようと頑張る。三年目は最後だと記憶に残そうとする」

イケメン「けれど、二年生は唯一三年間の中で──悔いなく楽しめる時期だ」

イケメン「クラスの皆! 全力を持って楽しもう!」

ワーワーワーパチパチパチパチ

男「お、おおっ…?」

イケメン「一緒に頑張ろう、男君」ニコリ

男「え、あ、うんっ?」

イケメン「よし! じゃあ俺らのクラスで催すモノは───」


数時間後


イケ友「おー? 何か良くわからない内に、決まっちまったなぁ」

男「喫茶店…」

イケメン「まさかこれほどまで要望が多かったなんてね。投票の八割が喫茶店だったよ」

男「…なんか難しそうだ」

イケ友「でもでも男ちゃんならやってくれるっしょ? 信用してるぜ、おれっち!」

男「…信頼されるのは良いけど、でもさ、俺だってうまく出来るか自信が…」

イケメン「大丈夫さ。オレだっている、わからないことがあったら皆で話しあおう」

男「……おう」

イケ友「うっし。明日にはおもしれーメニューとか、考えてきちゃるぜ!」

イケメン「期待してるよ。じゃあ男君、生徒会に報告をしに行こうか」ガタリ

男「え、でも喫茶店だけしか決まってないけど?」

イケメン「内容は後で十分さ。そもそもクラスごとの催しを、まず報告しとかないとね」

男「なるほど…じゃあイケ友、今日は先に帰っててくれたら」

イケ友「え? 待ってるよおれっち?」

男「そ、そお? じゃあ待っててくれたら…うん、嬉しい」

イケメン「では、ちゃっちゃと報告をしてみんなで帰ろう」


~~~~~


イケメン「……」コンコン

男(ここが生徒会…在学してながら一度も見たことなかったな、俺)


「鍵は開いてるわ。入って」

男(女の人の声…)

イケメン「失礼します。文化祭でのクラスの催しするものを報告しに来ました」ガラリ

「そう。ありがとう、何年何組かしら」

イケメン「二年B組です。今年は喫茶店を──」

男「……」

「はい、無事に受理したわ。今年は一般のご来客も多いから、無茶なことはしないように」

男(…って、あれ? この人って──生徒会長さんじゃあ…無かったっけ?)

会長「競争意識で盛り上がるのは結構だけど、もし怪我人が出ればそれだけで文化祭は跡の残るものになるのだから」

イケメン「わかってます」

男(えっと…イケ友が言ってた通りだとすると、この二人って…)

イケメン「さて、帰ろう男君。イケ友が待ってる」

男「うぇ? あ、うん! じゃあこれで…」ペコリ

会長「…………」ジッ

男「……?」

パタン

イケメン「ふぅ」

男「な、なあイケメン…」

イケメン「うん? どうしたんだい?」

男「…そのあの人って生徒会長さんだよ、な?」

イケメン「ああ。今年で連続三回目の会長さんだよ、凄い人だ全く」

男「本当だよな……連続三回の会長さん!? なんだそれ!?」

イケメン「おや、知らなかったのかい? あの人は、入学して一年目から会長になり──」

イケメン「最後の三年目までずっと会長を務めきった。結構学校じゃ有名な話だけど」

男(全然興味なかったから気付かなかった…けど、一年生から生徒会長とかどんだけだ…)

イケメン「おやおや~? もしかして、男君はああいったクールなお姉さん系が好み?」

男「ち、違うってば」

イケメン「なんだ、違うのか」

男「…違う。間違ってもあんな──その……あんな人を好きになること、ないと思う」

イケメン「え?」

男「なんか上手く説明できないけれど、その、なんつーか……」

男「っ……眼が怖い」

イケメン「…君に言われたらどうしようもないね」

男「う、うるさいな! 冗談で言ってるんじゃないぞこっちは!」

イケメン「ははっ。わかってるさ、そうか君にはそう見えたのか──ふむ、やっぱり君は凄いよ」

男「え、なんで?」

イケメン「オレも同意権ってコト。あの人の眼はどこまでも他人を見通そうとするような、うん、変な感じがするから」

男「……」

イケメン「さーて。今日はもう帰ろう、話し合いで疲れてしまったし」コキッ

男「ああ、うん…帰ろうか」

イケメン「ふんふーん」スタスタ

男(あーもう、上手く聞けなかった。俺が言いたかったのはそうじゃなくって──)


『イケメンの元カノだしな』


男(──……なのに全然そんな空気感じなかった、むしろ他人に近いような接し方)

男(一旦別れた関係性って、あんなモンなのかな。わ、わからん…付き合ったことも別れたこともないし…)スタスタ

イケメン「ぶはぁっ!? な、なんだそれ!?」

男「ん?」

イケメン「ちょ、男君!? こっちこっち来て早く! コイツ逃げるから!!」

「あっ!? ちょ、ばか……! 呼ぶんじゃないわよヘンタイ!! やめ、放しなさいよコラ───ッッッ!!」

男「どうしたんだよ一体、騒いでたら怒られる………」

女「あ」

男「……なに、その格好」

イケメン「ぶふっ! め、メイド服似合ってるぞ…女…ぶふふっ!」

女「ッ~~!! 見るんじゃにゃい!」

男「…噛んでるよ」

女「うるさいうるさい!」

イケメン「そういえば、女のクラスじゃメイド喫茶だったか。噂では男子もメイド服を着るとかなんとか…でも、ははっ」

女「っ! な、なによっ!?」

イケメン「いやいや。オレは言うこと無いさ、けれど男君はどう思う?」

男「お、俺に振るの!? えっと、そのー……」チラリ

女「っ………」びくぅ

男「とても似合ってる、っていうか、うん」

女「…うるさいわね…っ! なにバカ正直に感想言ってるのよ…っ!!」

男「ええっ!? だって普通に可愛いって思うし…っ?」

女「! だぁぁぁあああもうっ! だからコイツに見せたくなかったのよ! 絶対に惜しげも無くいいそうで!!」ブンブンブン

男「ちょ! なに、やめろって殴るなよ!」

イケメン「それが男君の良いところだ」ムフー

男「なんか俺が馬鹿みたいな言い方はやめろ…! ちょ、痛い痛い!」

女「ふーっ! ふーっ!」

男「その格好で暴れると、待って、本当に危ないから!」

男(スカートが短いから! み、見えちゃうから!)

イケメン「なにはともあれ。どうしてこの時期にその格好してるんだ?」

女「っ……実行委員会の子が着ろってうるさかったのよ! だから、仕方なく…!」

イケメン「なるほどな。けど周りから見られたくないのなら教室から出なければ良いだろう」

イケメン「ああ……もしや誰かに見せたかったのか?」

女「ち──違っ…!」

イケメン「恥ずかしがるなよ。お互い、幼馴染だ。阿吽の呼吸で分かることもある」

女「ッ……いい度胸じゃないド変態…! そこまでハッピーに脳味噌腐ってれば、殴っても痛みを感じ無さそうね…ッ!」

男「あ。なんか後ろから沢山の人がやってきたけど…あれって女さんのクラスの人?」

女「ぇ」くるっ

「女ぁー? 写メちゃんと撮れてないんだから逃げるんじゃない!」

「無駄に男子のキモい女装ばっかじゃ空気死んじゃうわ! 早く戻ってこい!」

女「ひっ」

男(ああ、逃げてきたのか…)

女「あ、あああ、あんた達! もう金輪際着ないわよ絶対! 本番はあたしを除いだ女子全員で着なさいよ!?」

「無理無理ー」

「どーでもいいけど、恥ずかしいならむしろ出回らないほうがいいよ? なんか既に写メがラインで回されてるし」

女「な、なによそれ──!! ちょっと、どういうことよ───!!」

男「……」

イケメン「さて帰ろうか。明日は女のクラスに負けないほど盛り上げていこう」

男「そ、そうだな。それじゃあ女さん、また明日…」フリフリ

女「っ……ああ、もう! じゃあね男!」

男「………え」

男(今、初めて名前で呼ばれた…気がする)

ワイワイガヤガヤ

男「……へへ」

イケメン「? どうしたんだい?」

男「い、いや! なんでもない…うん、なんでもないっ」スタスタ

イケメン「……。ははっ」


帰宅路


イケメン「ったく、イケ友強すぎやしないか?」

男「ゲーセンに入り浸ってるみたいだし、結構やりこんでると思うけど」

イケメン「それにしたって強すぎる。こっちは千円もつぎ込んだのに、アイツは百円だけで……」

男(まぁそれでもイケメンが格ゲー弱すぎるってのが問題だけど…言わないでおこう)

イケメン「……。明日からは忙しくなるね。お互いに実行委員だから助けあって行こう」

男「あ。うん、そうだな……というか何で俺実行委員になってるんだろう」

イケメン「おや覚えてないのかい? オレが推薦したんだ、男君が良いってね」

男「お前…何時の間に…!」

イケメン「ふふん。これは見過ごせない青春事項だからだよ、君との契約は守らないとね」

男「せ、青春? ただ問題を起こしただけだろ…!」

イケメン「大丈夫。君だけに押し付けることはしない、オレは一年の時も実行委員だったからね。やることの勝手はわかってるつもりさ」

男「…ま、まぁお前が言うなら…けど、足引っ張っても怒るなよ…俺あんまり自信ないから…っ」

イケメン「──……いやむしろ君が……」

イケメン「…そうだな。わからないことがあったら是非に聞いてくれ、全力で頼っていいぞ!」

男「…お、おう」

イケメン「今年は楽しめるといいね、文化祭」

男「…? そうだな、きっと楽しくなると思う」

イケメン「……。ああ、絶対にそうしてみせる」

男「なんだそれ、契約だからってお前が頑張りすぎても駄目なんだぞ…? 疲れて倒れでもしてみろ、周りから俺がなんて言われるか」

イケメン「おお、確かにそうだ。気をつけないと駄目だ」

男「…ったく」

遠く、橙色に染まりゆく雲ひとつない空を見上げて、彼は微笑う。
何時もどおり表情。変わらない雰囲気。

けれど、コイツが零した言葉が気になった。


『──今年は楽しめるといいな、文化祭』


男(それじゃあまるで、去年の文化祭は──)

イケメン「お。何時ぞやのクレープ屋があるよ男君、食べていくかい?」

男「…え、あ、うん」

分からないけれど、酷く心にこびりつく不安はきっと勘違いだって思うことにした。
今年の文化祭は楽しく過ごせるのだと──


~~~~~~

男「よっと。これで全部かな、報告書は」

イケメン「ごめんね。用事を終わらせたらすぐに向かうから」

男「役割分担だろ。そっちは手配の準備、こっちは報告」

イケメン「ん。そうだね、けれどオレがそっちをやっても──」

「イケメンくーん! 早くしないとお店の人、怒っちゃうよー?」

男「…そら、互いに得意なことをした方がいい、それとも俺をあの中に放り込むつもりなのかよ」

「きゃっきゃっウフフ」
「ねーねー? これどーおもう?」
「いいんじゃなーい?」

イケメン「…わかった。じゃあくれぐれも気をつけて」

男「気をつけるって、何をだよ。わかったから早く済ませてこいって」トン

イケメン「ああ…じゃあこれで」

男「……さて、さっさと報告を済ませに行くか」


生徒会室 前


男「すみませーん」コンコン

ガチャガチャ

男「あれ? 鍵が閉まってる…」

男(おかしいな。この時期は報告やら雑務で、無人な訳がないと思うんだけど──)チラリ

男「…ん…?」

男(窓の外。校舎裏に居るのは……会長さん? なんであんなところに、でも、丁度いいか)クルッ


校舎裏


会長「…あら」

男「えっと、会長さんですよね? その二年B組の報告書を持ってきたんですけど…」

会長「鍵が閉まっていたのね。ごめんなさい、仕事があったので席を外していたの」スッ

男「そ、そうなんですか。あ、こ、これが報告書です…」

会長「ありがとう。少し目を通させてもらってもいいかしら?」

男「…ど、どうぞ」

会長「すぐに済むわ。時間は取らせないから」パラパラ

男「………」

会長「………ふむ。良い出来ね、けれど珈琲を作る際の道具の準備が曖昧ね」

男「そ、そうですか? 確か準備は……えっと、自分がするんですけども」

会長「ええ。だから心配なの」

男「……。あの、確かに不慣れなことも沢山あると思いますけど…準備ぐらいは…」

会長「きっと上手く出来るはず、かしら」

男「……はい」

会長「一つ。良いことを教えてあげるわ、希望的観測は結局のところ希望でしない」

会長「──生み出すのは最初から最後まで、結果という答えで決まるものなの」

会長「私は少し不安に感じるわ。貴方に上手く事を運ぶことが出来るのか」チラリ

男「…っ…」ビクッ

会長「どうかしら。ここまで言われて貴方に『絶対に成功させることが出来る』なんて言える?」

男「い、いやしなきゃ駄目じゃないですか。クラスで決まったことなんですし、俺がどうこう言える立場じゃないって…」

会長「なるほどね。じゃあ貴方は人の意見で、個人の感情が変わってしまうのね」

男「っ……なに…」

会長「出来る出来ないは元より関係ない。貴方は他人の意見が最重要、可能ごとを最初から──他人任せにしている」

男「っ…」

会長「貴方自身は一体何をしたいのかしらね。何を望んで、何を行いたいのか。もしかして自分でも気づいてない?」

会長「ねぇ気になることがるのだけれど。聞いてもいいかしら」

男「な、なんですか…?」

会長「貴方どうして実行委員会に立候補したの?」

男「それは…っ」

会長「私の見立てだと、どうにも貴方が自主的にやったようには思えない。きっとそれって、他人からの意見だったからじゃないかしら?」

会長「その意見に流され、身を任せ、なんら疑いもなく課せられた仕事をこなす。本来の意思とは無関係に」

会長「──貴方は何も決めていない、ただ、周りの意見に良かれと従う奴隷……ふふふ」

男「ッ」

会長「そんなに泣きそうな表情をしないで頂戴。少し、楽しくなってきてしまうから」

男「……なっ、なんですか一体…! 急にこんなこと言われて、俺…!」

会長「困る? いえ、貴方は困らないはずよ。だってそれが良かれと思ってるのだから、困るわけないじゃない」

会長「──それが貴方の生き方なのよ。身分相応に存じた行動基準、立派だわ」

男「…っ……」

男(駄目だ、この人に言い返したい。何を言ってるんだって、でも、凄く心がざわついて…)

会長「一体、こんな子に──あの子は何を救われたんだか」ボソリ

会長「ねえ男くん」スッ…

男「な、にっ?」ビクッ

会長「貴方のこと、私はずっと前から知っていたわ。それはもうずっと前から」

男「……っ…」

会長「どうしてなんて、気になってしまう? ええ私だって不思議なの、こんな一般生徒でしかない人を」

会長「私が記憶に留めておこうなんて、今までの私じゃあり得ないことだから」

男(顔が近いっ)

会長「それにはきっと理由がある。貴方を憶えておかなくちゃイケない、それ相当な訳が」

男「っ………イケメン…」

会長「……」

男「イケメンが…何か、関係あるんですか…?」

会長「あら意外──誰かから、私と彼の関係性を耳にしてたの?」

男「貴方とイケメンが…付き合っていた、ことぐらいは…」

会長「ふーん。会って間もないはずなのに、なるほどね。じゃあ愚弟かしらね」

男「…っ…」

会長「あの性格なら言い兼ねない──けれど、貴方はどうして彼が関係あると思うのかしら?」

男「……それは…」

ああ、眼が怖い。
唯一彼女に対して思えた感想だったものは、そう、それだけだった。
けれど違う。己に対して向けられた瞳を怖がってるわけじゃない。

自分を見るときの瞳は普通だった。そう、今も同じく普通の人だった。

けれど、イケメンを見る時の目は違って──鷹のよう。
猛禽類を想像させる双眸は、静かに、一切なんら感情を纏わさせず。

食い殺さんばかりに、鋭かった。

会長「へぇー」

男「うっ…」

会長「過去を知った上での答えではなく、ただ私自身を視た瞬間に導き出した答えってことかしら」

会長「人の意見に流されるのは躊躇いないのに、人を見透かすことは慣れているのね」

会長「──むしろ観察眼を得たからこそ、そんな唐変木な人間性になり得たのかしら」

ただただ、思う。
きっと勘違いじゃない。むしろ勘違いであって欲しいが。

男(この人。俺のこと嫌ってる)

わかっていたことだった。初めから顔を突き合わせた時に、とっくに気づいていた。
理由がわからないけれど、会話をしていた限り、イケメンが関わってることは何となく理解できた。

会長「……」

男「…っ」

見つめられる。
自分とは到底ランクの違う観察眼を持って、心の隅から隅まで覗かれている。

会長「理由は一つよ男君」

男「…なん、ですか」

会長「彼は貴方と居ても救われない」

男「救われない、って……一体何のことですか」

会長「貴方は彼から望まれたんじゃなくて? 自分を救って欲しいと、助けて欲しいと、なんら恥ずかしげもなく頼んできた」

男「っ? それはたしかにそうでしたけど、それは──」

会長「冗談に思えた? 人とは違いすぎる悩みに、ネジの一本でも足りないやつだと感想を抱いた?」

男「……っ…」

違う。そうじゃない、その話が今とどんな関係があるのかと。

会長「そう思えたのなら、貴方は忘れているのね。彼が一回貴方から救われてることを」

男「救われてる…?」

会長「今から一年前。文化祭があった頃に」

男「…一年の時の文化祭…?」

会長「あら、これは本当に──ふふふ。だからあの子も出向いたって訳ね。変わっても心はしたたか、ふふっ」

男「なにを、言ってるんですか…!」

会長「そういうことよ。貴方が分からないことを私達は知っているの。私と彼は、そういった関係なのだもの」

…何故か、カチンと来てしまった。

男「それは…っ! 以前の関係性じゃないですか、今は違うっ」

会長「元よりスキ合っていたことは変わりないわ。接吻だってしたし、勿論、その後のことも済ませてる」

男「うっ…! だ、だとしても! 今更イケメンに何を…!」

会長「あら心外ね。私は彼に何かさせようとしているわけじゃないわ、ただただ、心底心配をしているだけ」

男「一体それは…!」

会長「言えるわけないわ。さっき言った通り、私達が知り得ることだもの」

男「…っ…」

会長「それとも貴方は秘め事を除きたがる、野次馬根性の塊なのかしら」

男「…違う、そうじゃなくて、俺に関係あるような口ぶりだった…!」

会長「──ふふふ、そうよ」

男「っ…!」

会長「私は貴方に用がある。彼にとっても重要な事だけど、それでも、貴方に言いたいことがあるの」

男「…それは、」

会長「ねぇ聞いたことあるかしら? 彼から、彼にとっての一番秘密に従ってるコト」

男「…秘密にしたがってる、こと?」

それは──突っ込み不足のことだろうか。
いや、そんなのは決して隠し通そうとするまでのことじゃないはずだ。

会長「ふふふ。なら教えてあげましょうか、彼にとって人生最大のトラウマとなってることを──」

スッ

男「ッ…~~!」


会長「──彼は過去に叔母を殺してるのよ」


男「こ、殺し…ッ?」

会長「まぁ嘘だけど」

男「…からかわないで、くださいっ」

会長「からかってないわ。本当のことをいってるだけだもの、けれど、本当でもない」

男「なん、ですかそれは…!」

会長「なにかしらね。けれどそれは──貴方に望んだことでもあるのよ?」

男「俺に…?」

会長「そう望まれたんじゃなくて? 助けて欲しいと、こんな自分の助けてくれるのは君しかいない──なんて」

男「そ、そんなたいそれた話じゃなかったですよっ」

会長「そうでしょうね。だけど、彼にとってはたいそれた話だった。貴方にはちゃんと伝わらなかっただけだから」

男「…っ…そんな、こと…」

会長「ふふふ。言えるのかしらね、そんなことないなんて。他人の意見に流されることが基本の貴方に」

会長「──だから言わせて頂戴。そんな無知な貴方はきっと彼にとって、大きなキズを与える人間となり得る」

会長「…ねぇ、ねぇでも実は貴方は気づいているんじゃなくて?」

男「……」

会長「彼が望んでることが、何処か違うんだと。言葉にしているより、もっと重たいものなんじゃないかと」

会長「…そう知り得た貴方は、慣れないことをし始めようとしてるんじゃなくて?」

会長「こんなちっぽけな自分でも彼の手助けになるのなら、頑張って身に余ることでもなんだってしようなんて」

会長「──思って、こんな場所に居るんでしょう?」

会長「けれど流されることが普通だった貴方に、出来ることは限られている。言葉にすること自体難しいんだって、わかっている」

男「……違う」

会長「違わないわ。貴方はとっくに気づいてる、気づいてないふりを続けてるだけ」

会長「だって楽しいものね。彼と付き合いを続けていれば、貴方が望めなかった生活が得られるんだもの」

会長「彼が望んだことだけを、やれることだけをやっていれば、自分は幸せでいられる」

会長「…そう、だから貴方は『彼が本当に望んでることを知らないふり』をすればいい」

会長「難しいとわかってるから、今の生活が壊れることを恐れ躊躇い、踏み出せないならいっそ」

会長「──彼が抱える問題を、知らないで付き合ったほうが楽だと」

男「違う…っ」

会長「なら教えて頂戴。貴方は知り得た機会はたくさんあったはずよ? けど、何もしなかったのは何故?」

男「っ……」


『それも含めて、イケメンの様子も気がかりだったし。ここんところ元気なかったしなー』
『……。アイツをあんな楽しそうにさせるなんて、魔法以外に何があるっていうのよ』


男「…違う、それはきっとアイツがただ突っ込みが足りないって…!」

会長「突っ込み?」

男「そ、そうだ! アイツは突っ込まれる機会が…全然なくって、それを俺に求めただけで…!」

会長「ふ。ふふっ、あははは! ははは!」

男「…ッ…!!」

会長「突っ込みを求めた…? ただ、それだけですって…? ふふふ、なるほどね。確かに周りにはその程度にしか思われないかもね」

会長「彼の重要な悩みなんて結局は他人にとってその程度。彼にしか分からない疑問なのだから、いい理由付けを思いついたものね…尊敬するわ」

会長「アレはその程度じゃないものなのに。誰彼望んで得られる問題じゃない、むしろ他人が羨むものでしょうから」

会長「決まったわ。これでもう貴方を彼に近づけてはいけないと、私の中で決定づけられたわ」

男「なにを…」

会長「役者不足よ大根芝居さん。貴方の思惑なんてとっくに彼にバレているし、そもそも私が告げなくても、きっと彼が何時かに自爆していたはず」

会長「…ならいっそ、私がその着火点になったとしてもいいわよね?」グイッ

男「なに、え、なんです、か……?」



会長「──私と付き合いなさい、男君」

男「なっ…えっ!?」

会長「分かる? 男女の関係、アイラブユーなこと」

男「ちょ、なんでそうなるんですか…?!」

会長「何故かしら。事の真相を気づくことは──もう貴方に権利はない」

会長「…生徒会室の鍵。実はわざと閉めていたの、貴方をここに誘導させるために」

会長「告白するなら校舎裏。定番じゃなくて?」

男(意味がわからない…!!)

会長「私と貴方が付き合えば、きっと彼は動かざる負えない。それは彼にとって──」

会長「──いえ、言葉にする必要は無いわね」

男「なんですか一体…! 俺、もう教室にっ」

会長「……」

ぐいっ

男「あ…」

やばい。この距離、近すぎる、口が──

会長「………」

男「んっ」


これは、案外、硬いというか、ボコボコというか、


男「……」

手のひらにくちづけしてるよな、

男「って、手のひらだこれ!」

会長「気配──が全く感じられなかった。何時の間に、貴方、」

男「えっ?」


唇に感じた感触。会長と俺との間に挟み込まれた大きな手のひら、その持ち主がすぐとなりに居た。


眼鏡「……」ムッスー

男「…せ、先生?」

会長「先生?」

男「ど、どうしてここに──って違うんですこれは」

男「ど、どうしてここに──って違うんですこれは! なんていうか、違くてその!」

眼鏡「……」フルフル

男「え…? 浮気は良くないって、違いますよ!? 浮気だなんて、えっ!? そもそも誰を恋人基準で…!?」

眼鏡「……!」ピクッ

男「…?」

眼鏡「っ……」カァァ

男(なぜ顔を真赤に…?)

会長「貴方…」

眼鏡「………」チラ

会長「…隣のクラスの」

眼鏡「……」フイッ

男「あの…」

眼鏡「……」クイクイ

男「え、もう帰ろうって…いや、まだ話し合いっていうか…その報告書を出してないんで…」

眼鏡「……」スッ パンパン

会長「……」

眼鏡「……」グイッ

会長「……」スッ

眼鏡「……」

会長「……」

眼鏡「……」

会長「……なにかしら」

眼鏡「……」スッ

グイッ スタスタ

男「あ! ちょっと、待ってください! そんなに引っ張らないで…!」

会長「男君。私は諦めないわよ」

男「…!」

会長「きっと彼から貴方を引き離してみせる。貴方は救い手じゃなくて、希望をちらつかせるだけの──悪魔なんだってことを」

~~~~

男「……えっと、ありがとうございます」ペコリ

眼鏡「……」フルフル

男「色々と…思う所があると思いますけど、その、聞かないでくれたら…」

眼鏡「……」カチャ

男「あ、ありがとうございます! すみません!」

眼鏡「……」スッ

なでなで

男「あ…」

眼鏡「……」なでなで

男「えっと…くすぐったい、です」

眼鏡「……」なでなで

男「っ……」

眼鏡「……」スッ

びしっ!

男「あいたっ」

眼鏡「……」コクコク

男「あ。ハイ……そうですよね、気をつけます!」ペコリ

眼鏡「……」フリフリ

男「……」

怒られてしまった。
なぜか口を開かなくても、あの人が言ってることがわかってるのが不思議でたまらないけれど。

あんなこと、しないほうがいい。
きっとよくないことが待ってる。

男「…ありがとうございます」

男(…けど、どうしたらいいんだろう)

生徒会長が言ったことを、俺はどう受け止めたらいい。
否定したいことだらけだったのに、言葉は上手く口からでなくて。

男(…まるで俺がイケメンを利用してるみたいな、言い方)

違う。俺は一度もそう思ったことなんて、無い。

男「ただ──」


俺はアイツが抱えることを知らないふりをしてたいたことは──


──ありえるのだろうか。わからなくて、ただ、ただ、怖くて。


男「……」


ポロリと崩れ始めた日常は、きっとみるみるうちに崩壊を続けて。
きっとその後に出来るものは元通りなモンじゃなく。

変わり果てた、違う未来が待ってるのだろう。



第十話『俺の突っ込みの突っ込み』

上編 終

今回は三部作で、上中下となってます。
終わりも近づき、物語は本題へ。

次は楽しい文化祭!
当初のノリは違えどやりきるつもりなのでお付き合い頂けたら

ではではノシ

「よし。みんな看板完成したぞー」

「おー! やっとか、開始十分前とか絶望モンだったのにさぁ」

「あーだこーだ言わないで、さっさと飾れ飾れ!」

「皆着替えたかー? ならそろそろお客さん入れちゃうぞー」

男「い、良いよー……? 大体の人はもう着替え済ませてるからっ」

「おっし。んじゃー行くぜぇ!」

イケメン「うむ。ではでは──我がクラス『漢のディアマンテ』を開始する!!」



「「「へいっ!! ラッシャイ!! ご注文どうぞーっ!!」」」



ワイワイ ガヤガヤ



男(漢のディアマンテってなんだ……)

~~~~~~

男「ちゅ、注文入りしましたー! 漢のたこ焼き2つに、淑女が嗜むクレープセットっ!」

イケ友「へいへーい! アリガトウゴザイマース!」


「おおっ…来るぞイケ友の神業たる秘技が…!」

「瞬時にソフトボールほどのデカさがあるたこ焼きを十個、カリカリふわふわに回転させる……!!」


イケ友「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」ガガガガガガガガガ


「ッ……!! そ、そして返す手で鉄板の上の二メートルほどもあるクレープの生地を空へ放る……!!」

「お客様ご注目! 我がクラス、マスターの神業をご覧あれ!」


イケ友「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」カカカッ


「おおおおおっ」


男(盛り上がってる…イケ友頑張るなぁ…一時はどうなるかと思ったけど、みんなのお陰で事無く進んでるみたいで良かった)

「男くん手が止まってるよ、注文取りに行ってー」

男「あ。ごめん!」だだっ

男(最初は普通の喫茶店の予定だった。本当にただ珈琲を出して、セットに甘いものを出すみたいな)

男(──けれど予定だった珈琲を作る道具を用意できなかった。それは……どう言い訳をしようとも、俺の責任)

男(…けれどみんなが機転を利かせてくれて、ああじゃないこうじゃないと、話し合いを続けた結果)

男「…何故かラーメン屋みたいなノリの喫茶店が出来上がってしまった、と」

男(神がかってたなあの話し合い。皆悩みすぎてて脳みそとろけていたのかもしれない…けれど)


ポンポン


男「っ?」びくっ

イケメン「どうしたんだい? 浮かない顔をしてるけれど」

男「あ、そのっ……すまん、考え事してた」

イケメン「そっか。それにしても大反響だ、これだけ盛り上がってると他のクラスも視察にくるぞ」

男「………」

イケメン「……まだ引け目に感じてるの? 皆はもう気にしてないさ」

男「……っ」

イケメン「勿論。喫茶店の要である道具を用意できなかった君にも問題があった、けれどそれを補おうと…」

イケメン「君が人一倍頑張ってたことは、クラスの皆が気づかなくてもオレは知っているよ」

男「……」

イケメン「さぁ頑張ろう。文化祭はまだまだ続くんだ、楽しんでやりきろう!」

男「……お、おう」スタスタ

イケメン「…………」


~~~~~


イケ友「男ちゃーん! 休憩いってこーい!」ガガガガガガガガガ

男「あ。うん、もうそんな時間か」カチャカチャ

イケ友「こっからは一日目の自由時間だぜー? 二時間めっさ楽しんで! オレも後で合流すっから!」

男「おっけい。適当にぶらぶらしてくるよ」

男「……」キョロキョロ

イケメン「あ。男くん」

男「あ、イケメン…」

イケメン「休憩時間? じゃあ楽しんでおいで、オレは今日一日手が離せないからさ」

男「…うん」

イケメン「ごめんな。でも明日は暇が出来るはずだから、一日中遊び回ろうか」

男「…お前も楽しんで来いよ」

イケメン「当たり前さ。じゃあこれで」フリフリ

男「…………」


屋上


男(そう言われつつ、結局は屋上に来るのでした)チュルルル

男「…一人で周るのも良いけど、出来れば皆で楽しみたいしな」

男(皆で……楽しみたい、か)

あれから、そう──会長と出会ってから、数日と経って。

男「………」

何事も無く文化祭は始まった。
正直に言えば──何事もなかったわけじゃない、皆が気にしないでいいと言ってくれただけであって。

男「…あの人が言うとおり、俺は準備できなかった…」

校舎裏で言われた『貴方では不安』というものが、事実として起こってしまった。
準備できると言い切ったのに、あの人自体を心から否定したいのに、けれど、俺には出来なかった。

男「……ばか…」

心に響く。あの冷たい瞳が嫌でも離れない。


──けれどあの人は何も言わなかった。


ほぼ全部書き換わった企画書を改めて提示しても、何事も無かったかのように受け取った。
まるでそれは予定調和だったと言わんばかりに──それがなんとも、悔しくて。


男「………」

文化祭は始まった。
あの人はいまだ何もしてこいない。自分と付き合えと、言ったきりで何もしてくる様子は無かった。

そのことが頭から離れず、ずっとずっと、チラついて取れることもなく。

だんだんと、少しずつだけど──イケメンと会話するのが辛くなってきた。

男「…俺は結局、何がしたかったんだろう」

それでも頑張って文化祭を盛り上げようとした。
何時もより数倍近く人と会話をしたような気がする。

手も動かし、疲労で汗を流して、今まで関わりあいもなかった人たちと日が暮れるまで話し合った。

そうなる一方で──アイツとは着実に距離は開けていったのだろう。

男「頑張れば、あの人が言ったことも嘘になる…なんて思ってたのに」

結局は、あの人が言ったとおりなのでないだろうか、なんて。



バタン!!


男「うっ!?」

女「はぁっ…はぁっ…! ま、撒いたかしら…!?」キョロキョロ

男「…えっと」

女「ふざけるんじゃないわよ…絶対に着るもんですか、ってきゃああああああああああああああ!?」

男「ど、どうも」

女「び、びっくりした! なによアンタ!! あたしの心臓止める気!?」

男「むしろ止められかけたのはこっちだよ…」

女「えっ!? あ、そうね……急に飛び込んできたのはあたしか……っていうか、あんたもクラスの差金だったりする!?」

男「差金」

男「むしろ止められかけたのはこっちだよ…」

女「えっ!? あ、そうね……急に飛び込んできたのはあたしか……っていうか、あんたもクラスの差金だったりする!?」

男「差金?」

女「…なによ違うみたいね。あーもう疲れた、どんだけあたしにメイド服着させたいのよ…」ブツブツ

男「良くわからないけど、大変そうだ」ズズズ

女「大変よ滅茶苦茶大変。…それにくらべてあんたは暇そうね」ジィー

男「…サボってるわけじゃないぞ」

女「じゃあ休憩時間? だったらこんな所居ないで、楽しんできなさいよ」

男「………」ズズズ

女「無視するなっ」ぐいっ

男「んぐ。え、ちょ……」

女「いい度胸じゃないあたしを無視するなんて、良い? こっちは苛立ってんのよ! 放っておいたら噛み付くわよ!」

男「噛みつくってなにさ。それよりも飲んでるんだから返してくれってば…」

女「…………」ジィー

男「…何?」

女「あんた何か、元気ない?」

男「えっ!?」

女「ここ数日だけど、見かけるたんびに思ってた。準備で疲れてるだけかと思ってたけど……なんかあったの?」

男「べ、別に何も…特になにかあったわけじゃ…」

女「イケメン」

男「っ…!?」ビクゥ

女「はぁ、やっぱ関係あるのね。良いよ、良いわよ、そう続くと思ってなかったし」ズィッ

男「うっ…どういうことだよ、言ってる意味がわからないんだけど…」

女「アイツが無茶事言い出したんでしょ。それにムカついて喧嘩したとか?」

男「っ……アイツは何もしてない!」

女「そう? じゃあ、とうとう……え、えっちしたの…?」

男「だからホモじゃないって!」

女「じゃ、じゃあなによ!? 意味分かんない! なんで元気ないワケ!?」

男「女さんには関係ないだろ…っ!? 俺のことは別にどうだいいじゃないか、放っておいても…!」

女「ばっそんな事言う!? 言っちゃうワケ!? あ、あああんたが言い出したんでしょ友だちになろうって!!」

男「…あ」

女「なによ恥ずかしいこと言わせてばっかじゃないの! っもう…そういうこと言うんだったら、良いわよ、フン! バイバイあんぽんたん!」くるっ

男「…っ…──ま、待って! 待ってください!」

女「なによ」チラリ

男「そ、そのー……えっと、実は……」

女「………」

男「ううっ…少し相談したいことが、ありまして…」モジモジ

女「…相談? 変態チックなモンだったら殴るけど」


~~~


女「──最近、イケメンと気まずい?」

男「…うん」コクリ

男(会長のこと抜きにして、その他のことを正直に言ってみた、んだけど…)

女「へぇー気まずいねぇ。不思議なもんね、あんだけ仲良かったのに」

男(…だって言ったらこの人、乗り込んでいきそうで、生徒会室に)

女「むしろ急に親しくなったのが不思議だったんだけども。まぁ気まずくなるもの訳ないか」

男「…ワケない? どういうこと?」

女「変態がそれ程めんどくさい奴ってこと。顔立ちが良いばっかりに言い寄ってくる奴らが沢山いるだろうけど」

女「──こと本性を知ってるかと言えばそうじゃないでしょ?」

男「…まぁ、変態なのは認めるけど」

女「変態の中の変態よアレは。周りが認めなくてもあたしが言い切ってみせるわ」

女「だからアンタも知らないような変態ぶりを見せちゃって。あんたが引いたのだったら……まぁわからないでもない」

男「い、いや。そうじゃないけど……その、本当にイケメンのこと嫌ってるんだ」

女「…そう見える?」

男「………。いや、言ってみただけ、むしろ誰よりも心配してるように……実は思ってた」

女「んぐっ! 本当にあんたっば馬鹿正直に言うわよね…! なに、人としての恥が無いわけっ?」

男「も、勿論ある。言ったら困るだろうなって、駄目だろうなって…むしろ人一倍気にしてると思う」

女「…じゃあなによ、思ってるクセして言い切るのが趣味になった?」

男「えっ? お、おお。趣味じゃないけど、いいなぁって…思えるようになった、かも」

女「とんだ変態ね。ばっかじゃないの」

男「……何も言い返せない」

女「ったく。じゃあハッキリと言っちゃいなさいよ変態のやつにも。なんか気まずいから殴っていい? とか」

男「横暴過ぎる…」

女「それぐらいやんなきゃ響かないわよ。知ってるでしょあんたなら」

男「…まぁそうだけど、言えたら女さんに相談してないっていうか」

女「そーでしょうね。言いたいこと言える癖に、ココ一番になる時に動ける癖に。どーでもいいことでアンタ、画期的な間違い起こすし」

男「それ、以前の勘違いのこと言ってる?」

女「それ以外になにがあるってのよ。はぁーあ、ほんっと今思い返すだけで腹が立つ」

男「…ごめん」

女「けど、感謝もしてるから」

男「え…?」

女「ここ。屋上のこと、ほら告白の時……あんたが頑張ってくれたじゃない」

男「お、俺は別になにもしてないと思うけど」

女「何もしてないわけ無いじゃない。アンタが居たからどうにかなったことでしょ」

男「…そうかな。居なくてもなるようになった気がするけど」

女「変に腰が低わね。じゃあ、あたしがああいった結果を感謝してるって言えば、言いワケ?」

男「…感謝してるの?」

女「だからそう言ってるでしょ。互いに言いたいこと言って、スッキリ終わる。十分な結果よ」

男「そっか。それは良かった、実は少し……というか大分引け目に感じてた」

女「だと思った。良いわよー全然、あれから堅物くんとは気まずくなってないし。むしろ奇異な目で見られてるし」

男「うぐっ」

女「ふんだ。まぁあたし一人で上手くいったかはどうかは別にして、それでも──あんたは、言いたいことを言えるやつよ」

女「変に関係がこじれる前に、まぁこじれたほうがアンタはやりやすいかもだけど。…出来れば後悔する前にさ」

女「──ちゃっちゃと仲良くなりない。じゃなきゃ、あたしも嫌だから」

男「………」

女「…なによ、変な感じね」

男「あ、ありがとう。まさかそうまでいってくれるとは思わなくて…」

女「そ、相談してきたのはあんたじゃない! ったく、どーにも…こう…普段らしくなれないわよね…アンタと居ると…っ」ブツブツ

男「……」

純粋に嬉しかった。
人に相談するのは、人生の中で二人目──同世代となるとこの人が初めだ。

だから素直に、言わなくちゃイケナイと思った。
本当の悩みを聞けるなら今、聞いておくべきだと。

男「…じゃあひとつ最後に聞きたいことがあるんだけど、良いかな」

女「未だあるわけ? だったらもう言い切っちゃいなさいよ」

男「その、多分冗談だと思うし、冗談にしてはタチが悪すぎるけど…知ってるのは女さんかイケメンぐらいだろうから」

女「……?」

男「…イケメンが小さい時、叔母さんが居たと思うんだけど…」


急激に、この場の暖かな空気が死に絶えた。


男「その人は…」

女「誰から聞いたの、それ」

男「えっ? 誰からって…」

女「教えなさいよ。ねぇ誰から聞いた? 変態から?」

男「ちょ、ちょっと待って! なに、どうした急に…?」

女「良いから早く。叔母さんがどうして、ここに来て出てくるワケ?」

男「い、いや……イケメンの奴が……その、」

女「──殺したって?」

男「っ……ち、違うって! そうじゃなくて、」

女「何が違うのよハッキリ言いなさいよ! なに、変態からじゃないわよね。じゃあ他に知ってる奴…?」

男「待ってくれ! ちょっと、落ち着いてくれって!」

女「じゃあきっちり言いなさいよ!! 誰から聞いたのかそれぐらい言えるでしょ!?」

男「うっ……だ、駄目だ。言えない、言ったら絶対に女さん…その人のところ行くだろ…っ?」

女「へぇー行かせないってワケ? じゃあどんなことをしても、あんたから聞き出すけど? どう?」

男「っ……嫌だ、殴られても言わない!」

女「頑固モノ…! 良いわ直接、変態から聞き出すから! 知ってるやつを片っ端から…!」

男「だめだって! 本当に!」グイッ

女「っ……アンタも本当にどうしようもないやつね! なによ止めたいなら言えばいいじゃない!」

男「…駄目だ言えない。言って女さんに迷惑かかるなら、絶対に言わないっ」

女「ぐぬぬ」

男「…ごめん、だから、その」

女「だぁあもうっ! そうねっそうよね! あんたらの問題なら、あたしも変に出しゃばらないわ! ふんっ!」

男「え? あ、うん」

女「…けど、本当にこじれてきたら出るわよあたし。良い? 問答無用に聞き出すから、わかってる?」

男「…分かった。けれどその、伯母さんのことだけど…どうして…」

女「…あんたはよく分かってない感じ?」

男「女さんが言ったことしかわからない、と思ってる。いや、全然わからないが正しい」

女「なによそれ。だーもう、あんたってば変なことばっかり関わりあい持つわね……それで? 何が聞きたいの?」

男「…事実を」

女「……。叔母さんを変態が……みたいな、ことは、ハッキリ言えば違う」

男「あ……じゃあ嘘、なんだ」

女「けど、本気でそう思ってる。変態のやつはね」

男「え? こ、ころ……叔母さんを?」

女「そうよ。とんだ変態よ、ばっかじゃないのって何度も言ったのに。ずっとアイツは心に抱えてる」

女「…アイツは一回だけ、伯母さんに言ったらしいのよ」



『──あんたなんか、きらいだ! しんじゃえっ!』



男「え、それって幼い時?」

女「小学生の頃かしらね。アイツにとって一番大切な人は──うん、叔母さんだった。優しかったし、強い人で、あたしも大好きだった」

女「けど病気で亡くなったのよ。心臓の病気…だったかしら、突然亡くなったから当時のあたしも相当ショックだった」

男「…じゃあイケメンは全然関係ないじゃないか」

女「そう全然関係は無い。無いけど、そうじゃなくて……上手く言えないけれど、なんて言えば良いのか、その」

男「……」

女「──【それっぽい】って、意味わかる?」

男「それっぽい?」

女「うん、まぁ、詳しく説明すると……変態が【こうするべきだ】って言うと、あーなんか正しいなて思える。みたいな」

男「…なんとなく、わかるかもしれない」

女「例えばアイツが、『皆で鬼ごっこやろう。そっちのほうが楽しめる』なんて言えば、それまでバラバラだった意見がまとまったり」

女「『それをするなら、こっちのほうがいい』なんて助言すれば、その人が心から認めちゃったり」

男「…そういう雰囲気を持ってる人、ってこと?」

女「まぁね。絶対じゃないけど、なんかこう……この人がいうことなら正しいかも、なんて思える感じ」

男「……」

女「そのことをアイツも自分自身で分かってた。わかってたから変態行為をやりまくってたのよ」

男(女さんにも凄い過去があったっぽいなこれは…)

女「それがとうとう、叔母さんにバレたの。大好きで優しかった人に、まぁ徹底的に怒られたんでしょうね。それでアイツ…」

男「…死んじゃえと、言ったわけか」

女「事実、本当に亡くなってしまった。全然関係なんて無いのに、確かにアイツが言ったことはそれっぽくなるけれど、でも…」

男「…まったく関係無けど、心に残ったまま」

女「うん。けどアイツ自信も折り合いをつけれてたと思ってた。いいとしだし高校生だし、正直何年まえのこと抱え込んでるのよって馬鹿にもしてきたし」

女「……けど、なんで急にその話が出てくるのよ。もう関係ないじゃない、だって…アンタが居るんだから」

男「俺が…?」

女「…少なくともアンタには救われてた気がする。だって笑ってた、あんな素直に笑ってる顔久しぶりに見たのよ?」

男「……」

女「どうやったかは知らない。けど、あんたはやり遂げた。ずっとあたしにはできなかったことを…あんたはやってる」

男「…俺が、救えてる」

女「ねぇ本当に言ってくれないの? アンタに叔母さんのことを言った人。そいつ相当性格悪いわよ、マジで殴り飛ばしたいわ」

男「うっ、ダメだって」

女「今のあたしだって自己嫌悪半端ないもの。変態が言うべきことじゃない、こういうことって。あんたが知りたがってたから言ったものの…」

男「ありがとう。迷惑をかけてるのも、悪いことをしたって…思ってる」

女「…良いわよ別に感謝しなくても。けど、言わないでよ変態には」

男「ああ、うん。絶対に言わない、女さんから聞いたってことは」

女「違う。そうじゃなくて、叔母さんのことを言ったやつのこと──その性悪のことを、変態には言うなってコト」

男「え? ま、まぁ言わないっていうか……言えないっていうか」

女「そ。ならいいわ、アイツなにしでかすかわかったもんじゃないから」

男「わかった。…そっか、そんなことがあったのか」


救われていた。この言葉を聞くのは──三回目だ。

一回目はイケメンから。
二回目は会長から。

そして彼女から言われ、その三回がそれぞれ違う原因を持っていた。

ツッコミ。去年の文化祭。叔母さんのこと。

もしこれら全てが──実はひとつの原因だったとしたら。
わけは違えど、理由は一緒。


男「………っ…」


ああ、心が重い。耐え切れずに膝をついてしまいそう。
見たくない知りたくない、掻き分けた先に待つ現実を直視して──自分に何が出来るのか。

それならいっそ何も知らずに、アイツの側にいられたほうがよっぽどマシじゃなかったのか。


男(俺がイケメンのやつに何が出来るんだよ…元より求められてるわけじゃない、俺はただツッコミを…)


『彼が望んだことだけを、やれることだけをやっていれば、自分は幸せでいられる』

『…そう、だから貴方は『彼が本当に望んでることを知らないふり』をすればいい』

『難しいとわかってるから、今の生活が壊れることを恐れ躊躇い、踏み出せないならいっそ』

『──彼が抱える問題を、知らないで付き合ったほうが楽だと』

男「あ……」

何を考えてるんだ。違う、そうじゃないだろう俺。
これじゃあまるであの人が言ったとおりではないか。

男「…っ…」

そんなことは違う。俺はちゃんとイケメンのことを見ている。
自分勝手に物事を捉えてなんかいないんだ。だから、だから──


女「ちょっと、なによその顔」

男「…え」


額に冷たい感触。


女「馬鹿ね。思いつめなくたって良いじゃない、たかがアイツの事なんだから」

男「あ、えっと…」


そっと彼女から伸ばされた手が、優しく額に添えられていた。


女「アンタがそうまで抱え込んで、喜ぶ奴は居ないわよ? もっと気楽に考えなさいよ、じゃなきゃ文化祭が楽しめないんだから」

男「………」

男「…わかってる」コクリ

女「そ。結局は案外簡単に物事は終わるもんよ。アンタが一々気にしてても、なるもんはなるモンなの」

男「…」

女「何がどーして悩んでるかは聞かないで置いてあげる。言いたくないんでしょ? だったら、ちゃんとやりなさいよね」

男「…ありがと」

女「どういたしまして。んー……」

男「ん?」

女「そうねだったら、明日一緒に文化祭周らない? アンタどうせ暇でしょ?」

男「え、ま、まあ暇だけど、なんでまた」

女「いーじゃないのよ、気まぐれよ気まぐれ。変な勘違いはしないこと、本当に気まぐれなんだから」

男「わ、わかってるよ。ただ単に気が向いただけ、だろ」

女「その通り。それじゃああたしはもうクラスに戻るから……あんたも何抱えてるか知らないけど、頑張りなさい」フリフリ

男「……」フリフリ

~~~~

男「…あ。そういえばイケ友の所に行かなくちゃ」

教室

男「おーい。イケ友──って、イケ友は?」

「もう休憩行ったけどー?」

男「…そうなんだ、ありがとう」

男(入れ違いになっちゃったか。仕方ない、見当はついてるし探そう)


たこ焼き屋


イケ友「もぐもぐ。味がなってねぇな…そもそもタコが小せぇ! やり直し!」

男「あ。居た、イケ友なにやってるの…?」

イケ友「おー男ちゃんチッス。いやなによ、ライバル店の偵察ってやつ? こりゃウチのクラスがてっぺん取れるぜ~」

男(そう言いつつ、なんで他のクラスの出し物に指導してるんだろう)

イケ友「学校ナンバーワン賞は貰ったも当然だな。なははははははは」

男「そりゃ頼もしい。見た感じだと結構見て回っちゃった感じ?」

イケ友「んにゃ。出し物にゃ食いもんばっかよ、それでも全部回りきれてないなぁ…男ちゃんも行く?」

男「是非に。あまり量は食べれないけど」

イケ友「おれが喰う。なはは、んじゃ行こうぜ」


~~~~


イケ友「もぐもぐ──イカ焼きもなかなか、海産物系は保存がチト面倒だし」

男「わたあめは?」

イケ友「ありゃ機材が無いと無理だわ。どっかで科学部の奴が空き缶に穴開けて作ってたけど、イマイチわからんかったのよ」

男「なるほど。やっぱり元の機材でお手軽に作れるのがいいか」

イケ友「今でも十分やっていけるけどな。たこ焼きクレープ、どちらも姉ちゃん直伝で一級品ものだぜ!」

男「ははっ知ってるよ。あの味をよく引き出せてるよ、イケ友は」

イケ友「だろだろー? なはは、腹減ったら何時でも食ってたし。味の保証はおれがする!」

男「俺も保証する」

イケ友「男ちゃんに言われたら自信も持てるってモンよ! うっし、ちとここらで休憩だーい」トスン

男「…俺もちょっと歩き疲れたかな」ストン

イケ友「もぐぐ。今年も盛り上がってんなー、去年も凄かったけど。今年はそれ以上だぜ」

男「なんだか一般のお客さんが多い気がする」

イケ友「お~確かに。ん、そりゃまあ会長様が直々に宣伝しまくってたしな」

男「…会長が?」

イケ友「おうよ。地域新聞にも声がけしてたらしいぜ。一面トップにでかでかと乗ってたわ。他の学校押しのけて」

男「そりゃ凄い…宣伝効果出まくってる訳だ」

イケ友「やると決めたらトコトンする姉ちゃんだったし。つか、妙に張り切ってんなーとは思ってたけど、もぐもぐ」

男「…………」

イケ友「ん。食べる男ちゃん?」ぐいっ

男「ありがと」

イケ友「いいぜ。お返しに──イケメンと何があったのか教えてくれたら」

男「ぶふぅっ! ごほっ! げほっ! …えっ? 何?」

イケ友「隠し事はナシだぜ男ちゃん。良いか、これでも親友の顔色ぐらい判別出来るってもんよ」

男「っ…そんなに顔色悪い?」

イケ友「例えるなら、二日酔いならぬ四日酔いの姉ちゃんぐらい顔色が悪い」

男(上手く想像ができない。壮絶たるものなのは理解できる、気がする)

イケ友「喧嘩した感じ? だったら問答無用に仲裁に入るけど」

男「…許可を得るつもりはないんだな」

イケ友「当たり前よ。つか喧嘩は駄目だ、殴り合いは良いけど。喧嘩ってだけなら後腐れが残っちまう」

男「殴り合いもダメだ。人が怪我する」

イケ友「けど納得は出来るだろ? 相手も痛い、こっちも痛い。ちゃんとした実感が湧きやすいモンはすんなり納得しやすいんだ」

男「…殴り合いなんてしたことないし、わからないけど。そういうもんなの?」

イケ友「まあおれはそうだけど、男ちゃんはダメだな。喧嘩も殴り合いもどっちも似合わなすぎる。なはははっ」

男「自分でもそう思う」

イケ友「…その感じだと喧嘩じゃないっしょ? どうしたん?」

男「…別に何かあったわけじゃない、けど」

嘘だ。なぜ嘘をつく。

イケ友「そうなんか、もぐ」

男「…けど、一つだけ聞いていいかな」

イケ友「どーぞどーぞ」

男「去年の文化祭。一年目の時、俺らは同じクラスだった…と思うんだけど」

イケ友「うんうん。確か劇やったよな、イケメンが主人公で──おれは確か、ライバルの王子様」

男「…あの時の事、覚えてる?」

イケ友「? つまり男ちゃんの配役ってコト?」

男「いやいや、俺はやった役覚えてる……草役だったし」

イケ友「ぶほぉっ!? そ、そうだおもいだした! 草役だったよな男ちゃん! くっくっくっ」

男「ううっ、草役って言っても黒子みたいなもんだったし。背景動かし役みたいな」

イケ友「そっかそっか。それで? 何を覚えてるって男ちゃん?」

男「ああ、うん。当時のイケメンが……その、なんていうかさ」

楽しんでなかったんじゃないかって。

男「…上手く言えないけど、おかしなところはあったかなって」

イケ友「ふむ。言われてみれば今よりは楽しんでなかったな、言い換えればずっとそんな感じだったかもしれん」

男「ずっと? どういう意味?」

イケ友「いやなぁ…文化祭と言わずに、高校生一年目。じゃなくとも知り合った中学当時を思い返せば───」

イケ友「──今よりは楽しそうじゃないとは言い切れるな。うん、そんな笑ってなかったし」

男「…そう、なんだ」

イケ友「けど、確かに去年の文化祭の後は──少しずつ笑ってたかもしれない、なんか憑き物が落ちた感じつーの?」

男「そんなにか。だったら変わりように周りも驚いてたんじゃない?」

イケ友「なんで? そんな違いが分かる奴がいたら、とっくにイケメンの奴も笑ってるだろ?」

男「……そ、そっか」

時折、イケ友のこういった意見は身が竦んでしまう。

イケ友「まぁ笑わせてやれなかった、おれが言うのもなんだけどな。小難しい話はちと苦手なもんで、なははは」

男「うん。俺も…難しい話は苦手だよ」

イケ友「だよなぁ。あ、けど! 一つだけ思い出したことがある!」

男「え、なに?」

イケ友「イケメンが言ってたんだよ。『やっと自分が駄目なやつだと思えた気がする』ってな」

男「自分が、駄目なやつ?」

イケ友「おれも ? ってなったわ。そもそも何がどうダメだったのかも分からなかったし」

男「そう、だよな。けど確かにイケメンはそう言ったんだよな…?」

イケ友「おうよ。おれはー……うん、初めてイケメンの笑顔って奴をそこで見たかもしれない」

男「…文化祭でなにかあったのは間違いないよな、それって」

イケ友「うむむ。なによ男ちゃん、今回に関係してくるってワケか?」

男「……多分」

イケ友「そりゃあ良い。一年越しにもう一度だ、今度は男ちゃんの番ってわけだな」

男「俺の番? どういうことさ?」

イケ友「イケメンの次に男ちゃんが笑わないといけないってことだぜ。んふふー、おれっちはまだ男ちゃんの満面な笑みを拝んでないんだぞー?」

男「うっ……べ、別に俺のことはどうだっていいだろ…っ」

イケ友「いーやダメダメ。おれは一度見たいって思ったら裸足で剣山駆け上がって、お日様拝みに行くタイプだ。絶対に見る、絶対だ」

男「うぐぐ、知ってたけどイケ友は結構しつこいよなっ」

イケ友「そりゃおれの専売特許だからな。なはは」

男「…わかった、じゃあ一つだけイケ友にバラすから、今はそれで許してくれ」

イケ友「一つだけぇ? それじゃあ満足できないって、全部全部!」

男「だめだ! 今は…その、お願いだから一個だけだ」

イケ友「…男ちゃんがそこまで言うなら、ん。仕方ない」

男「その、俺は何か忘れてるらしい。なのにイケメンの奴は……それを凄いことだと受け取ってるんだ」

イケ友「忘れてることが? それとも、忘れてるコト自体が?」

男「わからない。もしかしたらどっちも…なのかもしれないし、結局はイケメンに聞くしか無いと思う」

イケ友「んーつまり、なんかそれが気まずくてイケメンと色々ある感じか」

男「…うん」

イケ友「おれが言うのもなんだけど、男ちゃん。ばかじゃないの? 言っちまえよそんなもん、ごめんってさ」

男「…絶対に言うと思った」

イケ友「いやね、違うよ男ちゃん。おれだから言ってるんじゃなくて、おれが知ってる男ちゃんなら言えるって話よ」

男「俺、だから?」

イケ友「そうよ当たり前。忘れてることが悪いって思ってる、だったら謝れるのが男ちゃんだとおれは思うわけよ」

男「…それは」

イケ友「けど今は違う。今は出来無いってか? でも出来ないって思う自分が──嫌だって、あの時のおれに言ってくれたじゃん」

男「あ…うん」

イケ友「たこ焼き食いながら言ってくれたろ? 言いたいこと言える自分になりたいって、そんなカッコイイ自分になりたいってよ」

イケ友「そう信じてる男ちゃんをおれは知ってる。そうなりたいって目指してる、カッコイイ男ちゃんをおれは──あの時に見たぜ?」

男「……」

イケ友「怒ってるわけじゃーねーから、嫌なら聞き流していい。あの時の男ちゃんは…自信の無いおれに、」


『逆に言ってやる! イケ友が周りを凄いって言うのなら、俺はイケ友が凄いって思いたい。だから、もっと自分に自信を持って欲しい!』


イケ友「…って言ってくれた。なら今度はおれが言っちゃる」

イケ友「男ちゃんのことおれはカッケーと思ってる。だから、ちゃんとしないと本気で怒るぞ?」

男「…結局怒ってるじゃないか」

イケ友「んぉ? なははー! たっしかに怒ってるわおれ。男ちゃんいい加減にしとけよっ?」コツン

男「あいたっ」

イケ友「しょーもねーことを悩んでないでさ。また皆でワイワイ楽しもうぜ」

男「…しょうもないこと、なのかなこれって」

イケ友「だって悩んでんの男ちゃんだけだろ?」

男「まぁ、確かにそうだ…うん」

女さんも言っていた。
なるようになる、アンタが気にしてても仕方ないこと。

男「……」

なのに、どうして俺はこんないも悩んでいるんだろう。

男「…わかった、ちょっと頑張ってみる」

気づけば簡単なことなんだ。そう、何時もどおり口にすればいいだけ。
アイツ相手に何を引け目に感じているのか、なんて馬鹿らしいことだ。

イケ友「おうよ。けど、そろそろ休憩時間は終わりだもんで、放課後にいっちょ出向いてみ」

男「おう。わかった…」

放課後

男「あれ?」

男「イケメンの奴が居ない…まだ用事があるのかな…」

イケ友「男ちゃーん! 今日の片付けはおれっちやっとくから、ほれ! いっていって!」

男「え、でも俺は実行委員だし…」

イケ友「気にすんなって。お礼に明日も一緒まわってくれたら、うむ、許しちゃる」

男「明日? えーあー……うん、確か用事なかったし大丈夫だと思うけど」

イケ友「おっけー。楽しみにしてるぜ、ではでは頑張ってきなされ」ポンポン

男「お、おう」


~~~~~


男(考えるだけ探したけれど、やっぱり居ない。何処行ったんだアイツ)

男「あと探してないのは…えーと」

「誰を探しているのかしら」

男「っ」くるっ

会長「こんばんわ」

男「…会長さん…っ」

会長「あら。えらく警戒されてるわね、何か私に思う所があって?」

男「…今は用事があるので、すみません」

会長「……」

男「……」スタスタ

会長「…彼ならもう学校に居ないわよ」

男「っ! な、なんですか…?」

会長「資材確保と材料管理。二日目以降の確認に行った所だから」

男「そう、なんですか。ありがとうございます…」

会長「いえどういたしまして。そういえば貴方のクラス──中々反響が良いらしいわね、ふふっ」

会長「失敗は成功のもと、なのかしら。貴方が道具を用意できなかったからこそ、最良の結果が待っていたわけね」

男「……っ」

会長「あら? …傷ついちゃった? ふふっ」

男「…なんですか、まだ何か俺に言いたいことでも」

会長「ええ勿論。沢山あって時間が足りないほどに」

男「…俺はもう貴女に用なんてありません、何も聞きたくないし、何も知りたくない」

会長「そうやって見て見ぬふり、知って知らないふりが一番の失態だということ──今回の実行委員で気付かなかった?」

男「それは…っ」

会長「やれて当然。なんてどうして思えるのかしら、貴方は当然だと楽観視していた所を突かれたんじゃなくて?」

男「……はい」

会長「ふふふ。正直な性格は人に好かれる要因よ。勿論、私も中々の好印象を感じるわ」

男「…あれは冗談だったんでしょう」

会長「付き合えって言ったコト? まさか、本気で告白させてもらったわよ。貴方と愛を誓い合いたい──それは嘘じゃなく真」スッ

男「うっ…だってそれは、イケメンのことを…!」

会長「何も関係ない。ああは言ってしまったけれど、今になって思えば……蛇足でしかなかった」

会長「貴方のことが好きすぎて、愛しすぎて、想い過ぎて、少し不器用な言い方になってしまったのよ。ごめんなさい、反省してるわ」

男「ち、違う…あれは本当に貴方が言いたかったことで、俺はっ」

会長「何をそんなに悩むことがあるのかしら?」サワリ

男「っ」びくっ

会長「私のこと嫌い?」

男「…き、嫌いです」

会長「ふふふ。じゃあ年上の人と付き合うのには抵抗ある?」

男「…貴方は嫌だ」

会長「つれない子。でもそんな所も───んふふ、私は愛してあげる」

男「…っ…」

会長「怖がらなくてもいいの。きっと貴方の思い描く全てを得られる、そうしてみせると誓ってあげる」

会長「…怖くなんてない、貴方はひとりぼっちじゃないのよ。ちゃんと貴方を認めてくれる人たちの中で──笑って過ごせられる」

会長「隣のクラスの委員長の娘とも、仲の良いクラスの友達とも。それに──文化祭で親しくなった人たちの仲で」

男「……あ…」

会長「私はその空間に、ちょっとだけお邪魔させてもらえればいいだけ。貴方に迷惑はかけない、むしろプラスとして働かせてもらうわ」

男「だ、駄目だ!」ぐいっ

会長「んっ!」ピクッ

男「あっ…ご、ごめんなさ…!」

会長「…案外強引なのね。感触、気持ちよかった?」

男「うぐッ」

会長「ふふふ。でも良いの、付き合うならもっと凄いことも…するんだから」

男「だ、だから俺は…!」

会長「……彼のことがそんなにも引っかかる?」

男「そ、そうです…! なんか、その、ダメな気がして…!」

会長「今、あなた達は少し疎遠になってるようね」

男「なっ! なんで、それを……」

会長「観察すれば分かることよ。けれど、そうね……だったら私が掛け持ってあげましょうか?」

男「え?」

会長「あなた達をすれ違いを、私が訂正させてあげると言ったの。そうすれば貴方はすっきりする?」

男「なん、で…てっきり俺はイケメンと仲違いをするのが…」

会長「んもう、失礼よそれって。そんなワケないでしょう、私は元からそんなつもりなんてないわ」

男「じゃあ…俺にどうして…」

会長「だから言ったじゃない。後悔してるって、不器用な言い方になってしまったのは事実なのよ」

会長「私はただ──貴方に気づいて欲しかった」


会長「…貴方の存在の意義を知らしめるのは、彼には無理だと」


男「存在の意義…? ま、待ってください、言ってる意味が全然わからなくて」

会長「彼は君にとても感謝してる。そのお返しに、彼は貴方を周りに見せつけようとしている」

会長「──そうなるように、彼の『問題』をあえて使ってまで、やっている」

男「問題───それって、もしかして、」

会長「ふふふ。誰からか聞いたようね、そう彼は『言えば周りは従う』という問題を、自ら使用してる」

男「……っ…」

会長「彼はね。そういった暴虐非道になりえる──自分といったのが嫌いだった。嫌悪してると言ってもいいわ」

会長「軽い気持ちで言った言葉が、心から信用されるってどんな気持ちだと思う?」

男「…わかりませんよ、そんなこと」

会長「じゃあ亀のフンを食べたらいい、それを信じられたら?」

男「…!」

会長「好きでもないのに好意をもって接したら、告白され、断り疎遠となる気持ちは?」

会長「怒ってもないのに冗談で怒ったら、心底怖がられ怯えられてしまった気持ちは?」

会長「たのしくもないことを、楽しいと言ったら周りも賛同された時の気持ちは?」


会長「死んでしまえと──言った相手が原因でなくても、死んでしまったら?」


会長「どうして、と思うでしょう。なんで自分はこうも周りから『正しい者』だと思われなくちゃいけないのかしら」

会長「顔が良いから? 性格が素晴らしいから? 物腰が柔らかいから? 纏う雰囲気が優しいから?」

会長「──そうやって悩んで、考えて、けれど答えなんてものは見つからない。辛くて、周りは『勝手な解釈で自分を見てる』ことに苦痛を憶える」

会長「見方によっては贅沢な悩み。だけど彼には抱え込んで二重の性格を持ちえてしまい掛けた程に、悔やんでいた」

会長「………なのに、ふふふ。貴方にはそれを使っている」

男「俺には…使っている…」

会長「そうよ、だって救われたのだから。貴方は一度そんな彼を救ってる、何があったのかは知らないけれど──」

会長「──だからこそ、その御礼に更に問題を使用している」

男「…お礼の為だけに、自分の悩みの部分を使ってるなんて、」

会長「ええとっても変よね。大変よね、それを貴方は見過ごせられるのかしら?」

男「…それは…俺は…」

会長「貴方は少しだけ気づいてたはず。彼が本当に望んでること──そんな自分が居るということを」

男「………」

会長「けれど貴方は出来ないから、きっとどうにか出来ないから、知らないふりをしていた」

会長「そんな問題知ってどうしたらいいのかわからない。時間は流れていくばかりで、そのうちに彼は…自滅を迎えるわ」

会長「そんな自分に後悔する。やってしまった現実を直視できなくなる。…それは貴方と居る限り、ずっと続く後悔」

男「…だから、あの時はイケメンから俺を離そうと…」

会長「言い方は悪かったと思ってるわ。これでも昔の恋人のことを──とても心配しているの」

男「…じゃあ言えばいいじゃないですか、直接イケメンに。俺から離れろと」

会長「言って聞く彼だと思う? 彼の頑固さは身にしみてわかってるつもりよ、私程度じゃ聞きやしないわ」

男「……そうかもしれない、けれど」

会長「むしろ自分で気づいてない可能性もある。己の過ちを分からず、自滅の一歩を踏み出していることを」

男「……」

会長「だから私は貴方に頼みたい」

男「…っ…だから俺に告白したんですね」

会長「ええ、その通り。けれど本気で貴方を愛してあげることも出来る」

男「…なんですかそれ、意味がわからない」

会長「言ってくれれば、もう金輪際今のような関係をやめたいと言えるのなら──その心意気に、私は惚れてしまう自信があるわ」

男「っ…え?」

会長「辛いわよね。嫌だって思うはず。けど相手の事を思って言える貴方の強さに、私は好きになれる」

男「言える…強さに…」

会長「そんな貴方が居るのなら、私はきっと惚れてしまう」

男「…………」

会長「…貴方には出来ると信じてるわ。貴方にしか出来ないことだと、私は直感で理解してる」

男「…その後のことはどうするんですか、イケメンと仲が悪くなるなんて、俺は嫌だ」

会長「させないわ。私が全力を尽くして仲を持ってあげる、つまりは私の恋人──の関係であれば、の話だけれど」

男「……そうなれば、誰も傷つかない?」

会長「その通り。貴方も平穏な学校生活を送れて、彼もまた自分の過ちに気づけるはず」


頭がぐるぐる、と周る。
何が正してくて何が間違いなのか。

この人が言ってることは信用出来ない。けれど、心がわかってしまう。
アイツは何かを抱えてた、そんなの、屋上で契約を結んだ時から──きっと気づいてた。

自分は求められることだけをすればいいって思ってた。
どんどん人間関係の輪が広がって、大変だけど、とても楽しかった。


それは──自分の力じゃなくて、もしかして、イケメンのお陰だったのかもしれない。

男「…ぅあ…」

俺はイケメンの負担になってたんだろうか。
いやなっていたんだ。ならざるを得ない程に、アイツは感謝してるんだ。

なのに、俺はそのことを、忘れてしまっている────


男「…俺は」


なんて、馬鹿だ。
真剣なアイツに対して俺は何もしてやれてない。なにも、なにも、なにも、なにも、なにもしてない。


男「………」


だったらいっそ、無かったことにすればいい。
何も出来ないのなら、なのもしないのなら、今だけを思ってアイツに知らせておくべきだと思った。


会長「…あら」

男「っ……!?」


「何をしてるんだ、男君?」

何も出来ないのなら、今ここで最後のチャンスを。


イケメン「もう君は帰ってたとばかりに…」

男「あっ……うっ…」

会長「……」

イケメン「こんばんわ会長。既に日は落ちかけてますが、良いんですか?」

会長「ええ大丈夫よ。生徒会の仕事が残っているから、今日は夜通しね」

イケメン「そうですか。…よっし男君、今日は一緒に帰るかい? んふふ、実は明日の出し物で新メニューを──」

男「………」

イケメン「男君? どうしたんだい?」

男「あ…えっと…」

会長「…男君が君に、言いたいことがあるそうよ」

イケメン「え? オレに?」

男「っ……!」

会長「そうでしょう? なら、ここで言うしか無いわ」

男「俺は…っ」

会長「大丈夫平気よ。悩んで居たって、ものごとはそれなりになっていくもの。けれど…今は貴方が動かないと駄目な時」

イケメン「…ちょっと黙っててもらえますか」

会長「ん、冷たいわね。けどその通りかしら」

イケメン「……。何かあったのかい? 怖いことでもされた?」

男「………」

会長「男君」

男「……!」

イケメン「男君?」

男「っ…!?」


わからない。わからない、正しいことなんてわからない。

何が良いんだ。やめてくれ、俺はそんなことを任されるほど強いやつじゃないんだ。

出来る事なんてこれっぽっちもない。やれることなんて人並み以下だ。

友達なんて出来やしない。彼女も親しい人間関係も築けない。

一人で生きたいの願ったんだ。
誰に手助けもいらないと誓ったんだ。

だからこのまま、学校生活が終わって、道端に生える草のように一生を終えると思ってたんだ。

誰も要らない。面倒臭い。嫌だ。悲しくない。辛くない。平気だ、大丈夫。一人で行きてられる。

こんなこと俺に押し付けるな。俺に何が出来る。なにも出来やしない。俺は俺だ。誰のことも知ってやれることは出来無い。


俺は───何も強くない、ただの弱虫なんだよ。

そんなこと──周りの奴らは知ってるクセにどうして俺に頼るんだ!



『周りから惨めに思われて何なんだ。周りから馬鹿にされてなんなんだ』

『君は周りから見られないと生きられない人間なの?』


『俺は君だけが欲しいんだよ』


『周りなんて関係ない。俺は君だけが必要としている。君のその素質を、君の突っ込みを、ただ君だけを…なのに、君は』


『どうして───オレ以外のことで悩んでるんだッ!』

男「───俺はぁ!!」


会長「っ…」ピクリ

イケメン「っ…!」ビクゥ


ふざけるな、違う、そうだ俺は。
こんなこと悩む必要なんて、無い。これっぽっちもない。ふざけるな、馬鹿にするんじゃない。


男「俺はお前のことで、なんでこぉおおおおおおおも悩まなくちゃいけないんだよ!?」

イケメン「うぇっ?」

男「ふざけるなっ! 周りは関係ない? オレ以外のことで悩んでる? ばっかやろう! 俺は全然関係ないだろ!?」

会長「ちょっと男君…?」

男「アンタは黙ってろ! 今は俺が話してるんだ! …良いかイケメン? 俺に対してどれだけ感謝してるかは知らないよ、けどさ!」 

男「俺もお前に感謝してるよ!! 今までのこと!! たっくさんたっくさん感謝してる!!」

イケメン「男君…?」

男「イケ友と出会えたことも! 女さんと出会えたことも! こうやって文化祭を盛り上げられたことも! 全部だ!」

過去のことなんて、俺は知らない。
覚えてないものを後悔していたって、何も始まらない。


男「それがお前の問題で出来上がったことだったとしても! 俺はそれでもお前に感謝する! そんなお前のことを…俺は凄いって思いたい!」


コイツがどれだけの悩みを抱えていても、
俺が知っているイケメンは、今のイケメンだ。

だったら『今の俺がコイツに好き勝手言って何が悪い!!』


男「俺はっ……俺はイケメンのお陰で変われたんだ! こうまで言えるように、楽しいことを楽しいって言えるように!!」

男「なのにそれは駄目なことなんて、違う間違ったことなんて、ふざかるなっ……馬鹿野郎、わかったようなこと言うんじゃねぇ!」

会長「っ…」ビクッ

男「俺は正しいと思ってる! アンタが間違ってるなんて言うのなら、コイツがやってることは正しいって俺が証明してやる! 絶対に間違ったことなんて起こさせやしない!!」


そう、俺にはアレがあるんだ。
冗談であってもいい、馬鹿なことをなんて蔑んでもいい。けど、俺とコイツは──それが【契約】なんだ!


男「──イケメン馬鹿じゃねぇの? 叔母さんのことも、前の文化祭も! 全部全部お前はばぁあああああああああああああああああああああかだよっ!」

それでいい、それがいい。
俺が求められてるのは──そんな俺だ。

男「はぁっ…はぁっ…お、俺は……絶対にツッコミを続ける、お前が間違ったことをするなら、絶対に忘れない」

イケメン「………」

男「お前が今を間違いだと思い続けるなら! 俺はそれに突っ込み続ける!」


男「──それがお前との契約だ…っ!!」


男「わかったかこのっ………冷徹鷹の目おんなっ!!」

会長「ッ…冷徹鷹の目女…っ?」ヒクッ

男「あとお前も! 返事!」

イケメン「えっ、あっ、うんっ!」

男「…………」

イケメン「……わん?」

男「よろしい」フンスー

会長「っ待ちなさい、貴方が言ってること無茶苦茶よ…!?」

男「うるさい」

会長「うるっ──!? 貴方よくもまぁ言えたものね、それがどれだけ希望的観測か…それを後悔した貴方が…!!」

男「後悔したよ。けど結局は一人で抱え込んだのが悪い」

男「なら、これからは俺はコイツに頼る。突っ込んで、なんで助けなかったって怒る」

イケメン「くぅーん」

会長「んっ、なっ!? そんなコトが救いになるとでも…!」

男「救いとか救われるとか、正直まどろっこしい。俺はやりたいからやるだけ、それだけなんだ」

男「──アンタは余分だよ、俺達の学校生活に。邪魔でしかないから、出て行ってくれ」

会長「なに、を───イケメン!」

イケメン「わん?」

会長「くっ…なによその緩みきった顔はぁ…!? 良いから聞きなさい、貴方はそれで良いの!?」

イケメン「…何を言ってるかわからないけれど、別に良いんじゃないか?」

会長「なっ…!」

イケメン「何があったのかは知らない。特に意味もないことなんだろうなって、正直な感想だな」

会長「意味が無いこと…っ? 私は貴方のことを思って、」

イケメン「いいや違うな。自分の為だろ、会長」

会長「っ……」

イケメン「またオレを懐柔させたかったんだろう。言えば周りが従う、そんなオレの雰囲気を欲しがっていただけと見た」

男(コイツ凄いこと言ってるぞ…)

会長「…違う、それは」

イケメン「けど、ごめんオレはもうアンタと付き合うつもりなんて無い。もう誰かに頼らなければ生きられない、弱い自分なんて居ないんだ」

イケメン「───オレはとっくに変わったんだ。アンタが知っている【救われたがってるオレ】は存在しない」

男「……」

イケメン「だろう? 男くん?」

男「…お前もしかして、今までのことどっかで──」


会長「──認めないわよ!! 絶対に認めない!!」

会長「私は何も得ていない! あなた達が変わったと言っても…! 私はなにも納得出来ない!」

男「うっ…」ビクッ

会長「私はそんな希望的な言葉に惑わされない! なにが突っ込みですか、なにが意味ないことよ!!」

イケメン「……」

会長「貴方はっ……イケメンは、だって、だって、違うじゃない……貴方はこんなやつで解決できるほど………」ギリッ

イケメン「…そっか」

会長「っ……」ギュッ

イケメン「なら、納得してもらうしか無いな」くるっ

男「っ?」

イケメン「ねぇ男君。もう一度、オレに突っ込んでくれないか」

男「え、なにを…?」

イケメン「君が思ってる気持ちで良いよ。例えば、そうだな。君が知ったオレに関することで、ムカつくこととか」

男「………良いの?」

イケメン「勿論。よろしくたのむ」

男「…わかった、じゃあ言うけど」

イケメン「…」

男「伯母さんのこと。抱え込みすぎ、お前の責任じゃない」

イケメン「うん」

男「なに偉くなったつもりでいるの? お前は一般人で、誰もお前のこと偉いとか思ってないから」

イケメン「…うん」

男「去年の文化祭。何があったかのしらないけど、覚えてないから感謝するなんてアホだろ」

イケメン「ははっ、うんうん!」

男「お前はお前だよ。だったら正直に生きて、黙って……その、俺と友達、してればいいじゃん」

イケメン「…ああ、勿論だよ。オレは素直な気持ちでここに居る、だから」

くるっ


イケメン「オレはもう大丈夫なんだよ。会長、だから」


──もう良いんだ。平気だよ、って。

会長「………っ…」

イケメン「そういうことだから、もう良いよ。オレはオレで好き勝手生きるから」

イケメン「…そろそろ貴女も、好き勝手生きたら良い」

会長「……ばか…っ」

イケメン「そうとも、オレは馬鹿だ。馬鹿だから突っ込みが無いと生きていけない!」ぐいっ

男「うわっ!?」

イケメン「──オレはこれからも、全ての日々を沢山楽しんでいく、青春を過ごしていく」

イケメン「それが君との契約だろ? なっ?」

男「……う、うん」テレテレ

会長「………」

男「だからその、会長さん。そのーえっとー……すみません、滅茶苦茶言ってしまって」

会長「…うるさい」キッ

男「ひっ」

会長「うるさいうるさいうるさい! ばーかっ! 馬鹿ばっかばーーーーかっ!!」ブンブン

男「うぉぉぉっ!?」

イケメン(久しぶりに見るな、この光景)

会長「何よ変態共ばっか! 良いわ、だったら変態同士仲良くしてないさい! 知らないんだから! もうもう知らないんだからぁーーーーー!!」

イケメン「言われなくてもそうするつもりさ。なぁ?」

男「え、ええ……あっハイ……」

イケメン「おーい、引いてるぞ会長ー」

会長「私のことはもう放っておいて結構! そっちで勝手に…ぐすっ…勝手に明日の計画でも練ってなさい!」

イケメン「お。そうだそうだ! 明日は一緒に周るんだろう? 午前? 午後? どっちにするかい」ワクワク

男「えっ………?」


待って、何か忘れてる気がする。


男「…あ。ごめん、明日はイケ友に…女さんと、埋まってる…」

イケメン「……………え?」

男「ご、ごめん。忘れてたっ! 今日は色々とあって……その、気もそぞろだったていうか…っ」

イケメン「……なにそれ、だってオレ今までずっっと明日のこと楽しみしてて…」

男「…イケメン…?」

イケメン「準備期間も男君オレに冷たいし、話しかけてくれないし、何があったのか聞きたくても仕事忙しくて聞けなくて…」

イケメン「だからいっぱいいっぱい本番は楽しもうって、なのに、それなのに、君は違うやつと約束してるなんて…」

男「それは、その……色々と考え事があって…」

イケメン「だったらなんでオレに相談してくれなかったんだ!!」

男「……ええ、実にそのとおりですね…はい…」

イケメン「今回のことが原因だったら! オレに言ってしまえば済む話だったろ!? なのに、なのにっ…君はまたそうやって……!!」

会長「……あの、二人共?」ダラダラダラ

イケメン「アンタは黙ってて! 男くん、じゃあ悪いと思ってるならオレと明日は過ごしてくれるよね?」

男「………。ごめん、それは無理かも」

だって、相談乗ってもらったし。それはちょっと…

イケメン「……………………そっか」

男「その、イケメン?」

イケメン「もう知らないよ君なんか友達でもなんでもない!! ばーーーーーーーかっ!!!」だだだッ

男「えっ、ちょっとイケメぇええええええええええええええ!!」

会長「…………」

男「ひっぐ…ぐすっ…ごめんよぉ…イケメン…」ドサッ

会長「……………」ダラダラダラ


【「あれ? 作戦成功した?」 と一番動揺する会長なのでした】


第十一話『俺の突っ込みは好きでやってます』

中編終


これにて無事にしりあすは終わり下編を迎えます
残り数話、もって四話でしょうか。ご付き合いできたら

また月曜日…月曜日? にお会いしましょう

ではではノシ

屋上

ガチャ キィ──

男「……」ソロリ

男「…やっぱり居た」


イケメン「…………」ぼー


男(今日一日は文化祭の仕事はお休み。まるまる全部自由時間、なのにアイツは…)

男(屋上でひとりぼっちに空を見上げてる。ああ、それは何があっても俺の責任なのだった…)



【前回までのあらすじ。イケメンが拗ねる】



男「どうしよう…本当にどうしたらいいんだ…うおおっ…何も思いつかない…!」

男(このまま放っておいて良いわけがない! そうだ、俺が作ってしまった問題…なら俺がどうにかしないとっ)

男「でもどうしたらいい…謝っただけで解決できるほど、アイツは単純に怒ってないだろうし」

男「いやそれでも、謝ろう。謝って駄目だった時に、色々と考えるんだ…!」

男「よし──行くぞ!」


会長「待ちなさい愚生徒」スッ


男「ぴゃあああーーーー!?」ビクゥッ

会長「貴方程度の思考限度でも、言葉だけの謝罪がまかり通らないことぐらい理解してるでしょうに」

男「かっ、会長さん!? どうしてここに!?」

会長「…今更過ぎる質問ね。数分前から貴方の後ろに居たのよ、まるっきり無視してくれたけれど」

男(ぜ、全然気づかなかった…)ドキドキ

会長「それで、彼は今までずっとあのような風居るのかしら?」

男「えっ、あっはい……そうですけど、いや、その……会長さんは何故ここに……?」

会長「なるほど。それは重症だわ」

男(無視された…)

会長「邪険に扱いはしてしまったけれど、貴方には実は秘策となるものがあって?」

男「…いえ、だからその謝ることしか思いつかないですけど」

会長「チッ」

男「………」

会長「では退きなさい。今から私が彼を慰めに入ります、ええ、私が何とかしてみせますとも」スッ

男「ま、待ってください! なんとなく会長さんがここに居る理由がわかりましたけど……!」

男「……もう俺達には関わらないでください。これは本気で言ってます、だから…」

会長「…まだ私が貴方達の不仲を望んでいるとでも?」

男「ち、違うんですか?」

会長「ええその通りです」

男「…帰ってください」

会長「話は最後まで聞きなさい。確かに私は彼から貴方を引き離すことを望んでいます、それはもう心からの願いよ」

男「…なにか他に意図があるとでも?」

会長「その通り。この件に関して、この落ち度は──実に私好みじゃない。私の計画に反する結果となっているわ」

男「好みじゃない…? 待ってください、一体何を言ってるんですか…っ?」

会長「──良いでしょう既に計画は終わっている、全てを語っても支障は無いのでバラしてあげましょう」

男「は、はぁ…なんですか、計画って」

会長「数日前。貴方が私の告白によって、彼とすれ違いが起こることは予定通りでしたわ」

会長「そして文化祭当日まで、貴方は珈琲道具を準備できずに後悔を引きずり、そして彼に悩みを打ち明けられないことも」

会長「後に……貴方が隣のクラスの委員長、そして私の愚弟によって彼の【問題】の情報を手に入れることも計画の内」

会長「最後に彼へと別れを告げ、後は私が貴方と付き合いこっぴどく振り、一人ぼっちになった彼を──私が手に入れる」

会長「後は適当に委員長当たりをあなたと突き合わせれば、全ての問題は解決する。はずだったのだけれど……フフフ、上手くはいかないものね」

男(お、恐ろしい…その計画を本気で考えてるこの人が恐ろしいし、それをやってのけかけたがもっと恐ろしい…)

会長「けれど作戦は失敗に終わってしまった。これは私の理に反する」

男「…その、簡単に言えば自分の責任だから…自分でどうにかしたいと…?」

会長「……。貴方よく人から馬鹿正直と言われたりするでしょう」

男「…今は俺のことは放っておいてください。じゃあイケメンを元気つけられること、出来るんですね?」

会長「ええ、貴方には出来ないでしょうけど私には出来るわ。見てないさい、これが三年連続で生徒会長に就任した──私の本来の実力…」



会長「───よく見ておきなさい、一般生徒」バッサァアア



数分後


会長「……ぐす」プルプル

男「あの、えっと…」

会長「…今は話しかけないで頂戴っ……良い、絶対よ…っ」ぐしぐし

男(頑なに顔を見せてくれない。この人イケメンの事になると大分弱い人だ…)

会長「……」ブルブル

男「…じゃあ、えっと次は俺が行ってきます。なんやかんやあっても、俺が謝らないと駄目だろうし」

会長「…行ってきたら良いじゃないの。それで結局は終わりでしょう!? どーせ私なんて要らないんでしょう!?」

男「ちょ、そんなこと無いですって! だって会長さんはイケメンの元彼女じゃないですか…だから、うーん…」

会長「自信がないなら根拠を言わないでくださる!? うわぁあああっ…あああっ…ううっ…!」

男(しゃがみ込んでしまった…ううっ、行きにくいけど行くしか無い…っ)ギィッ


男「──もうイケメンに隠し事は無しって、決めたんだ」



数分後


男「……ぐすっ」

会長「へっ! それ見なさいやっぱり駄目だったようね! フフフ、フーハハハハハ!」

男「取り付く暇もなかった…何も聞いてくれなかったです、イケメンの奴…」

会長「ククク。でしょうでしょう、その程度が貴方と彼の絆なのでしょう──やっと現実を直視できたようね」

男「………」

会長「な、何? 何よその顔は…?」

男「………」

会長「そ、そんな目で私を見ないで下さらない? 私は、その……ええ悪かったわね! 結果は違えど私が原因でしょうから!」

会長「なら、ここは──不承不承ながらも共同関係を築きましょうか。お互い意見を出し合い、最良の解決策を導き出すのよ」

男「…何か案でもあるんですか?」

会長「あったら言い出さないでしょう。少しは考えてから口に出しなさい」

男「……はぁ、そうですね」

会長「例えば彼の好きな食べ物をもって行く。それを私と貴方が美味しそうに食べて、彼が興味をもった瞬間……連れ出すのは?」

男「犬ですかイケメンは」

会長「犬っぽく無くて?」

男「た、確かに! それじゃあ本当に行ける可能性も…?」

会長「やって見る価値はあるようね。では、さっそく出店に向かい調達しに行きましょう」

男「は、はい!」

男(…やることやってみるんだ。諦めたりはしない、そういうのはもう…終わりにしたんだ)

男(よし。頑張ろう───あれ? でも何か忘れてるような……)


~~~~


女「……………」タンタンタンタンタンタン

ダン!

女「おっそい! とっくに待ち合わせ時間過ぎてるっていうのに、何やってんのよアイツはぁーーーーー!!」スタスタスタスタ


~~~~


男(一番忘れちゃいけないことを忘れてる気がする…)

会長「3つほど。良いかしら」

「会長さん!? え、ええどうぞ貰ってください! お金なんていいですからどーぞどーぞ!」

会長「いえ、会長であれど生徒は生徒。文化祭を盛り上げる一員に変わりない、立場を利用するつもりは無いわ」

「でもでも! その、ここで出店をやれるのは会長さんの一言があったお陰で……!」

会長「なら結果で見せて頂戴。貴方の収入がどの学級よりも優秀であれば、私も嬉しい限り」

「うっ……ありがとうございます! 頑張らせて頂きます! うぉおおおおおおおおおおおお!!」

会長「期待しているわ」

「かいちょー! こっちのかき氷も美味しいですよー!」

会長「後で頂くわ」

「イカ焼きも丁度いい感じに焼けてますー! 試食いかがっすかー!?」

会長「勿論」

男「……」

会長「ん。何かしら」

男「…いや、その…人望あるんだなって、思いまして」

会長「あって損がないものは、どれだけ多くても際限なく得る──それが私のモットーなのよ」ボソリ

男「それは何とも…凄いですね」

会長「生徒一人一人の願望は、イベント事により色めき立つ。生徒会長とはその願いをリアリティに近づけた結果として残すべき」

会長「…それは怠っていては、三年連続就任は無理だったでしょう」

男「………」

会長「貴方もボーとしないで、彼のことを思うなら調達しに行きなさい。事は早急に片付けなければならないものよ」

男「あ、はい! 頑張ります!」


『キーンコーンカーンコーン──放送部からの呼び出しの連絡です、二年B組の男、二年B組の男、至急放送部までお越しください、繰り返します』

『二年──早く着なさいよあんぽんたん! なにやってんのよアイツ…!──え、声拾ってる?──ちょ女友アンタなにやっ──プツン』


会長「……」ピキィ

男「…あ」

会長「神聖な放送部で、一体彼女は何を…」ピキピキ

男「わ、忘れてた!? だぁー! どうしよう!?」


数十分後 屋上ドア前 階段の踊り場


女「……」じぃー

男「ごめん! 本当にごめんなさい! すっかり忘れてて、いや、本当に俺ってなにやってんだろう…!」

女「別にいいわよ。大体の状況は聞かせてもらって把握出来てるし──で、隣の奴はなんなの?」

会長「生徒会長よ」

女「知ってるわよッ! それにあんた等が持ってる文化祭エンジョイしちゃってる物々は一体どういうワケ!? 言ってみなさいよこの仮面優等生!」

会長「年上に向かってなんて言い方なのかしら。わが校にこんな野蛮な生徒が居るなんて、悲しい限りだわ」

女「よく言ったものねこの腐れ外道…ッ! 昔に変態を誑かせただけじゃ飽きたらず、今度は眼つき悪男までちょっかい出し始めたってワケ!?」

会長「言いがかりはよして頂戴。一体、貴女が、私と彼の関係について、何を知っているのかしら?」

女「うぐっ……ちょっと男!? これはどういうことよ!? アンタはこいつのこと許したっていうの!?」

男「許したっていうか、その、今は共同関係を組んでるっていうか……」

女「共同関係!? 今すぐやめなさいそれ! コイツと組んでても何も得られることはないわよ!」

会長「それを決めるのは貴女じゃないわ。女さん、昔から変わってないようね──そういった自己中心的思考は身を滅ぼすわよ」

女「ッ……アンタの知れ顔が張り付いた人生よりも断然! マシよ仮面怪人…!」

会長「仮面怪人…ッ?」ピキッ

男「今は喧嘩は駄目だって! 二人が過去にどんなことがあったのかは知らないけど、今はイケメンの為に動かないと…!!」

女「…だったらアンタが謝れば終わる話でしょーが。さっさと謝って着なさいよ、そして文化祭周るわよ一緒に!」

男「もう謝ったよ…けど、話を聞いてもらえなかった」

女「はぁ? じゃあもういいわよ、アタシが諦めるから二人で行こうって言えば?」

男「うっ…で、でも……」

女「馬鹿ねあんぽんたん。あたしのことなんて気にしなくていいのよ、仲が悪いのは嫌だってあたし言わなかった?」

男「…言った」

女「わかってるなら、ちゃんと言う! すれ違いは駄目だってことはあんたとあたしがよく知ってることでしょうが! ほら行く行く!」グイグイ

男「…うん」ガチャ

会長「…随分と男君を面倒見るわね、貴女」

女「色々あるのよ。てーいうか勝手に観察しないでくれる?」

会長「そう──彼が貴女を差し向けるワケだわ」

女「何?」

会長「いえ。何も」

女「……アンタがどんなつもりかは知らない。けど、これから先は男を巻き込んでしかも変態にちょっかい出すのは、絶対に許さないから」

会長「あら。今回のことは許してくださるのかしら?」

女「ゆるさないわよ。男に変態の──叔母さんこと言ったことも、全て全部、ドロップキック決めたいぐらい怒ってる」

会長「ならどうして?」

女「………。アイツが怒ってないからよ、あの眼つきの悪い男がアンタを怒ってないし、それよりも今はアンタを怒るより変態をどうにかしないとって思ったワケ」

会長「…出会った当時よりも幾分、落ち着きを持ったようね貴女」

女「うるさい仮面怪人。アンタも変態以外に関心を持つなんて変わったわね」


ガチャ キィ…


女「! どうだったイケメンのやつなんだって…?」

男「……」フルフル

会長「でしょうね。今更虫がよすぎる、のではなく──後に引けないが正しいかしら」

女「なんなのよアイツッ!? いっちょぶん殴ってわからせてやったるわ……ッ!!」

男「ま、待った! ここは最初の作戦通り行こう!」

女「…なによ作戦って」

男「会長さんと俺が考えた、作戦。イケメンに興味を引かせてって奴、それが今は…一番の方法だと思う」

会長「あら。貴方も事の次第を掴めてきたようね──ふふふ、嬉しい限りだわ」

女「アンタは黙って。じゃーいいわよ、アタシも手伝うわ」

男「え、良いの…? せっかくの自由時間なのに…」

女「ばっかじゃないの? 放って置けるわけないじゃない!」

男「あ、ありがとう…その、感謝してる」

女「えっ? あ、うん……いっいいわよ別に、これぐらいっ」

会長「あら。あらまーそういう…」

女「アンタは黙ってなさいよ…ッッ?」

屋上

イケメン「………」


男「あーたこ焼き美味しいなぁ」

会長「こっちの綿飴も最高よ」

女「ちょ、ちょこちっぷの降りかかった……ちょこばなな! もサイコー!!」

男「…へ、へーどんな感じ? 俺も食べてみたいんだけど…」

会長「綿飴よりも美味しい?」

女「へっ!? あ、うんうんうん! マジで美味しいからた、たべたべてみなさいッ!!」スボァッ

男「おごぉっ!?」ドスッ

会長「あら。まるごと口に入ったわ」

女「ぎゃあーーーー!? ご、ごめっ! 手元狂って大丈夫アンタ!?」

男「」

会長「しんでる…」

女「死んでない! 息してるじゃないのよ! 本当にごめんなさい! あ、ああ…っ!」

イケメン「………」


男「…やっぱり女さん、俺の命狙ってるだろ……前の時も屋上で…」ムクリ

女「ちっ違うわよ!? 違う違う!」

会長「実は過去に私も狙われたことがあるわ」

男「え……」ソロリ

女「狙ってないわよばっかじゃない!? それは軽く…後ろから延髄蹴りをきめようとしただけであって…っ」

会長「こっちの綿飴も美味しいわよ?」

男「あ、頂きます」

女「ちょっと聞きなさいよ! あ、あー!? それって間接キスってやつじゃない? ふったりともラブラブー!」

会長(お子様みたいなことを)

男「うえっ? あ、そのその…ごめんなさい、会長さん…っ」

会長「良いわよ別に。そもそもチョコバナナの時点で間接キスは始まってるんじゃなくて?」

女「へっ? っ~~~~!! ばか! あんぽんたん!」スパン

男「むごぉっ!?」

~~~~~

会長「駄目ね」

男「……」ヒリヒリ

女「ううっ…アイツまったくの無表情でことの成り行き見てたじゃない…」

会長「もっと彼が興味を引くことをしなければ…」

男「あ。そうだ、女さんのクラスって確か──」

女「や、やだ!」

男「──まだ何も言ってないけど」

女「どーせ着ろって言うんでしょう!? メイド服を!」

会長「やりましょう」

女「アンタは黙ってて! じゃなくて、だめよっ! あれはもう着ないって決めたんだから…っ」

男「痛いなぁ頬…後、口の中で血の味がするし」

女「おっ!? おっうっ……ううぅぅぅうっ……ッ!」

会長(やるわね男君。素敵よ)

~~~~

屋上

イケメン「………」


女「っ……っ……」モジモジ

女「いらっしゃいませー……こちら男女共同メイド喫茶、ワンダフルオフェンダーですぅ……」

女「男も女も関係ないっ! 秀麗と可憐に満ちたーっ……ワンダフルなひと時を、ご主人様に……」


イケメン「……」


女「…お届けしまっす☆」キラリン

イケメン「……」

女「……」

イケメン「……ふっ」

女「いい度胸じゃないアンタッ…! その顔が今の原型を留めないほどのに殴り倒すことになるわよ…!!」ダダッ

男「だ、駄目です止めます!」がしっ

会長「こらえ性のない子ね」

~~~~~

女「もうやだ」プルプル

男「ど、どうします? なんかもう、色々と滅茶苦茶になって来てるような…」

会長「……」

男「…会長さん?」

会長「何か、聞こえる──貴方の携帯鳴ってないかしら?」

男「え。本当だ着信が入ってる」ピッ

『おっとこちゃーん。そろそろ待ち合わせ時間だっけど、大丈夫かー?』

会長「それよ!」びしっ

男「あ。うん、今は…えっ?」

『んあ? この声……姉ちゃんか?』


~~~~


イケ友「ほっほっほー! 女っちいい格好してんなー! なははははは!」

女「ぐっ…! 黙ってなさいアホ!」

男「大体のことはそんな感じ。けど、イケ友を呼んでどうするんですか…?」

会長「事は急を要するわ」

男(あ。考えてないなこの人)

イケ友「まぁわかったけど、姉ちゃんちょい色々やり過ぎだわ。怒るぞオレ」

会長「黙ってなさい愚弟。文句があるのなら後で聞いてあげますから」

イケ友「そっか。じゃあ男ちゃんに謝ったらやってやんよ、話はそれからだ」

会長「……」

イケ友「おいおい意外そうな顔して、当たり前だろ舐めてんのか? オレの親友困らせておいて、あーはいそうですかって認められるわけねーだろ」

男「イケ友…」

イケ友「男ちゃん。こーいうのは流れに任せて終わらせていいもんじゃねーよ? なっ?」

男「…うん」

女(ていうか謝ってないのねこの仮面怪人…)

会長「…貴方も変わったわね、なにがあったのかしら」

イケ友「そりゃ変わるさ姉ちゃん。アンタと姉弟だったの何年前だと思ってんの? じゃーほら謝る謝る!」

会長「…男君」

男「あ、はいっ」

会長「ごめんなさい。私の身勝手に使ってしまって、本当に申し訳なく思ってるわ」

男「…大丈夫です、だって本当のことだったから」

会長「本当のこと?」

男「はい。貴女が言ってくれたことは全部…俺にとって考えるべきことだったのは、本当だったんです」

男「結局はああいった感じで──否定する形になりましたけど、それでも、俺は大丈夫です」

会長「………」

男「なので、今はイケメンのことを考えましょう。えっと、これで良い? イケ友?」

イケ友「おっけー!」

女「…そのモノマネ気持ち悪いわよ」

会長「お人好しね貴方」

男「そうでしょうか。俺よりも貴方が…そう見えたり、しますけど」

会長「何をわかったようなことを。…まぁ許してくださるのなら、結構」

女「それでアホには案でもあるワケ?」

イケ友「ようするに! イケメンのやつを笑わせればいいんだろ?」

会長「結論から言えばそうなるわ…笑わせるとなれば、この子の出番でしょうけども」

男「……。え? 俺ですか?」

女「今は駄目でしょ」

会長「そうね。確かに無理だわ」

男「ううっ…そうですよね…」


イケ友「ならおれっちがやるぜ!」ピカリン


女「はぁ? アンタに出来るんだったら、とっくにあたし達が出来てるわよ」

会長「待ちなさい。愚弟とあっても、こと馬鹿らしい案を導き出す天賦を持った弟だったわ」

イケ友「くっくっくっ──見てろ男ちゃん! 分かりやすい笑いはおれに任せろ!」

男「が、頑張ってくれ!」

イケ友「おうとも! んじゃいっちょ女っち。ちょいお願いがあるんだが…」

女「…まさかアンタ」

~~~~~


イケ友「やりますわよ」バッサァアア


女「やりやがったわコイツ…」

会長(眼が腐る)

男「に…似合ってるよ、イケ友…」

イケ友「ウフフ。皆様褒めてくださるなんて、嬉しい限りだわ」

女「アンタ…ごめん笑えないわちょっと。メイド服がぱっつんぱっつんじゃないの…」

イケ友「体作りは乙女の嗜みですわ」

男「ブフッ! ごめ、ちょっとその口調やめてくれイケ友、ブホォ」ピクピク

イケ友「えー? 似合ってない男ちゃん? 姉ちゃんのモノマネしてるんだけどなぁー」

会長「……!?」

女「さっさと行って来なさいよ。こっちは見てるだけで疲れるから…」

イケ友「よっしゃー! 行ってきますわよ!」ダダダッ

男「くっぷ…! ふふふっ」プルプル

屋上


イケメン「……!?」

イケ友「リーリー、逃げられると思うなよイケメン」ザッザッザッ


女「ぎゃあああ!? がに股してるからパンツ見えてるじゃない! きもぉおおおお!」

会長「あの動く汚物は誰が生み出したのかしら…ううっ、見てるだけで妊娠しそう…」

男(本当にこの人達は歯に衣着せないよな…)


イケメン「っ……」プイッ

イケ友「お? イケメン今笑っただろ? おーん? 笑ったですわよね?」

イケメン「………」

イケ友「ほお…無視するのですわ? すわすわ~ふんふ~んくるくる~り~ん♪」クルクル

イケメン「……?」

イケ友「イェイ☆ 今の誰かのモノマネだったんだけど、わかるか?」

イケメン「………」

イケ友「なんとだな──中学生の頃の、姉ちゃんだ」

イケ友「イケメンと付き合ってる時どういったふうが可愛いか、鏡の前で研究してた。その後『違うわねこれは…』と自己嫌悪してたぜ」

イケメン「……っ…」プルプル


会長「命が惜しくないようね愚弟ッ!!」ダダッ

女「ブホォッ! あははははははははは!! ひぃー!!」

男「ちょ、待ってください会長さん! ヤバイですって流石に鉄パイプは!」がしっ

女「なによそれっ…アンタも女の子らしい悩みがあったわけね、ブフッ! うひひひひひ!」バンバンバン

会長「あの馬鹿も殴って私も死にます!! 止めないでくださる!? いやぁあああああああ!!」ガチャ ダダダダダ

男「あ……かいちょおおおお!! イケ友! ヤバイヤバイ後ろ! 後ろ見て!」


イケメン「……!」ビクゥ

イケ友「んぁ? なんだよ男ちゃん、いい感じに空気温まって来たってのに───」

会長「……ッ!」ブンッ

イケ友「──洒落になってないぜ姉ちゃん!?」ヒョイ

~~~~~~

イケ友「死ぬかと思った…マジ勘弁、姉ちゃん剣道段持ちだろ…よく避けれたわおれっち…」グテー

会長「……………」

男(これ以上追求しない形で、話題を流す方向性だろうな、うん)

女「あー笑わせてもらった。それで、案外効果あったみたいね。女装ってやつも」

男「効果っていうのか…確かにイケメンの奴も笑いかけてたけど」

会長「──名案が思いついたわ」

男「えっ? 本当ですか!?」

女「あら奇遇ね。実はあたしもよ」

男「え…? 女さんも…?」

会長「失敗は成功のもと。この件で私達は学ぶべき教訓は、更なる高み」

女「鍛えるべき要因は新たな人柱。って所かしらね?」

男「……………ま、待って! なんだって言うんだその笑みは! 会長さん!? 女……さん…?」

会長「うふふ」ずいっ

女「あはは」ずいっ


男「いっ…嫌だ! やめてくださっ、ちょやだぁーーーーーーーー!!」



数十分後


女「おお…なによこれ…」

会長「あら」

男「ううっ…何するんですか、二人共…っ」ギュッ

女「なんで似合ってるワケ、なんで可愛いのよ!」

会長「背も男性に比べ小さめ。小顔で童顔、眼つきの悪さも一味買って──ふむふむ」ジッ

男「か、観察しないでください! ジロジロとみないで!」

女「ある意味とんでもないもの生み出しちゃったわコレ…アホ、これどう思う?」

イケ友「抱けるな」

男「ひぃっ!?」

会長「不純正校友は停学、または退学よ」

イケ友「なら男ちゃん。この格好で客引きしようぜっ? アホどもバンバン釣れるぜ!」

男「やだ!」

女「くっ、一々仕草が可愛いわね」

男「なんでさっ!? ううっ…こんな格好嫌だってば…っ」

女「っ…今のもっかい言ってくれないっ? その格好で、いやだって…」ゾクゾク

男「なんか顔が怖いけど!?」

会長「さて、早速行きますわよ。これほどのクオリティであれば彼も動くでしょう」

イケ友「襲ってきたら任せろ! 助けてやっから!」

男「襲われる前提なの!? 嫌だ嫌だ…! 行きたくない…!」ブンブン

女「ほらさっさと行って来なさい!」ぐいっ


屋上

イケメン「……!?」ポカーン

男「ううっ……あの、その……えっと……」もじもじ

イケメン「………」

男「色々と理由があって、こんなメイド服着たくなかったんだけど、ううっ」


女「あんぽんたん! さっさと練習したセリフ言いなさい!」

会長「貴方がやらなければ誰がやれると言うのですか!」

イケ友「やっちまえ男ちゃん!」


男(滅茶苦茶なことを言って……ぐぅうっ! もう良いなるようになれ、だっ!)がばぁ

イケメン「……」

男「あの! その……ご主人様…っ」ギュッ

男「自分のようなドジでおっちょこちょいなメイドですが、末永くご主人様に…っ」

男「──仕えたいと思ってます、よ?」


イケメン「……!」がばぁ ぎゅううううう


男「うひぃいいいいいいいい!?」

女「あっ! あの変態、変態になった!」

会長(彼はメイド服が好み、っと)

イケ友「ぉぉおおおおおおおっ! 待ってろ男ちゃん助けるぜぇぇえええええええ!!!!」ダダダダダ


男「ちょ、やめっ! 頭を撫でるな! あっ…いやっ…!」ピクン

イケメン「……」なでなで

男「なんで俺っ男なのに、そんなこと、うわああああっ…ああああ…ああっ…!!」ボロボロボロ

イケ友「男ちゃんをなかすんじゃねえええええええええええ!!」ピョン ズバァ!!

イケメン「…」ヒョイ

イケ友「うごっ!?」ドサァァアア

男「うっ…ひっぐ、イケ友ぉ!?」

イケ友「ああっ…待ってろ男ちゃん! おれは絶対に救ってみせる!!」

男「イケ友ぉ…!!」

イケメン「フン」

イケ友「うぉおおおおおおおおおお!!」ダダダダダ

女「ナニアレ」

会長「楽しそうね、ん」prrrrr

女「電話?」

会長「生徒会の子からだわ。もしもし、なにかしら?」

女「………」

会長「──なん、ですって! もう来てるって言うの!? 今何時──既に約束の時間…っ!?」

女「ど、どうしたの?」

会長「くっ…下手に時間を使用しすぎたわ」ピッ

女「誰かと会う約束してた感じ?」

会長「ええ、そうよ。貴女がよく知っている人物」

女「あたしが?」

会長「前会長よ」

女「………。お姉ちゃん来てるの!?」

校門前

店員「全くあの子は肝心な時にヘマするもんなー」

「そういう所が可愛いの。普段しっかりしてるのに、ここぞというときにドジをする。素敵よ~うふふ」

店員「あんたの懐は深いわ。私には無理無理。わざわざ駅前クレープ屋休業してまで来たってのに」

「へぇ~そうなの~それは困ったわねぇ」

店員「いや待って。女姉が無理矢理連れてきたから休業したんだけど…わかってんの?」

「え? そうだったっけ? んー……あ、来たよ店員ちゃん! きゃー会長ちゃーん!」フリフリ


会長「す、すみません前会長! 私としたことが、このような失態を…!」ペコペコ

女姉「良いのよ良いのよ、うんうん! 何時もどおりドジっ子で安心したわ~」

店員「相変わらずだなドジっ子。周りを困らせてねーだろね?」

会長「うっ…店員さんも居らしたのですか、お久しぶりですわ」

店員「私に至ってはコイツが付いて来いって言うからさ。仕方なくだっつーの」

会長「それはそれは…私も近々、買いに行かせて貰います」

店員「しっかりと買え。たんと買え。私に裕福な生活をもたらせろ」

女姉「うふふ! 何だか四年前に戻った気分ね~貴女が入ってきた時のこと、覚えてるわ~」

店員「そういった風に思い返せるほどいい思い出だったかな…」

会長「…当時の私は井の中の蛙でした」

女姉「過ぎたことは全部、いい思い出よ? それでそれで会長ちゃん。一つ気になることがあるんだけど~?」チラリ

会長「なんでしょうか?」

女姉「後ろの人達、なんなのかな?」

会長「えっ?」くるっ


女「……うう、なんでこの格好で来なくちゃいけないのよっ」

イケ友「イカ焼きは何度食ってもうめぇな。男ちゃんも喰う?」

男「待って…どうして平然としてられるの…? この格好凄く目立ってるよ!」


会長「………」ピシィッ

店員「……。あの馬鹿は何をやって──男くん!? きゃあああああああああなにそのかっこぉおおおおおおおおお!!」ダダッ

女姉「あらあらうふふ」

会長「貴方達、一体何故そのメイド服のまま…」

女「アンタが制服入った紙袋持って行っちゃうからでしょうが!!」

イケ友「何時帰ってくるかわかったもんじゃねーってことで、追いかけてきたんだぜ。って姉ちゃん居るじゃん!」

店員「男くぅううん! なになになにっ? どうしちゃったの? なにがあったていうのっ? はぁはぁ…そっち方面に路線変更!?」

男「ひぃっ!? て、店員さんがどうしてここに…っ?」

店員「いや~来てよかった、マジで。眼福眼福、ほらほら女姉! この子が噂の男くんだって!」

女姉「あらまあまあ。この子がそうなの~? それはそれは~同人誌でお世話になってます、作家の女姉です」ペコリ

女「お姉ちゃんどういうこと!? この前描いてた漫画ってもしかして……男がモチーフってワケ!? ぎゃあああ! なんていうもの手伝わせるのよ!!」

男「手伝うって何…?」

女「いや!? なんでもないって、言うか……そのあんたが知ったら傷つくっていうか……」そわそわ

女姉「どうして言い淀むの? 内容は男君がイケメン君のイチモ【バキューン】をして星空のもと互いの直腸を【ドーン】で攻め合いと言った感じの~」

男「え」

店員「あれ新作出来たの? 今度見せてよ」

女「ち、ちちっちちちちがうのよ男ぉ!? お姉ちゃんのジョークジョーク! 忘れなさい全てを!」

会長「…あの前会長、そろそろ校内を案内したいと」

女姉「ん~けど、会長ちゃん忙しいじゃない? 当時のわたしも忙しくて忙しくて、秘密に販売してた同人誌店も見回れなかったしねぇ」

会長「なん、ですか…初耳なのですが、それは」

店員「あれ知らないのドジ子? この学校じゃ伝統になってるやつだけど、把握できてないとなると──優秀な生徒会委員が居るなこりゃ」

会長「……!?」


男「もう何も信じない…友達なんて要らない…一人でいいんだ…」

女「ちょ、待って本当に待って! だぁーもうお姉ちゃんほんっとあんぽんたん!」

イケ友「それおれっちも出てるの? 出てるなら読ませて!」

女「出てないわよ馬鹿ね! 純愛ラブストーリーだから出るわけないじゃない!」

男「純愛…? 俺とイケメンが出て…純愛…?」

女「あっ」


女姉「そうねぇ~あの子達に案内してもらおうかしら。うんうん、そうだわそれがいいと思っちゃった!」ぽんっ

店員「でたぞー女姉のきまぐれがー」

会長「し、しかしそれでは約束が…」

女姉「うふふ。良いのよ約束なんて、素敵なことがあったら破ってもいいの。忘れちゃった? わたしが言ってたことだけど」

会長「…ですが」

店員「私はドジ子より男君に案内してもらったほうが楽しそうだわ」

会長「……」

女姉「こら、そんなコト言わないの店員ちゃん。だからね? 会長ちゃんも、頑張ってお仕事やってくれたほうが嬉しいと思うから」

会長「…はい」ペコリ

女姉「うん! じゃあひと通り済んだら、ここで待ち合わせね」ぽんっ

会長「えっ? なんですか、ひと通りとは…」

女姉「う~ん? 会長ちゃんはやらなくちゃいけないこと、あるんでしょう? ほら、誰かに謝らなくちゃいけない~とか」

会長「そ、それは…! 何故…?」

女姉「顔をみればわかるわよ~うふふ、スッキリして来なさいな。ちゃーんと悔いなく終わらせること、いいわね?」

会長「………」コクリ

店員「話は終わったわね。んじゃー男ちゃーん! 着替えちゃ駄目! そのカッコで案内して!」

会長「…前会長」

女姉「うん?」

会長「私は会長として務まる、身丈を持っているでしょうか」

女姉「もちろん! どんなことがあっても、会長ちゃんが何を思ってても」


女姉「──素敵な生徒会長さんなのは、見ててわかっちゃうんだから!」


会長「………」

女姉「あと数ヶ月。頑張ってね」フリフリ

会長「はい。ありがたいお言葉、感謝しますわ」ペコリ

会長「……」

会長「……見てるんでしょうから、すぐに行くわ」スッ チラリ


イケメン「……」フリフリ


会長「……」スタスタ

屋上

イケメン「貴方が今年の文化祭に気合を入れてたのは、女姉さんが来るからだったんだ」

会長「…見窄らしいものを見せたら、今後一笑顔見せ出来ないもの」

イケメン「実に会長さんらしい考え方だね。出会った時から変わってないようだ」

会長「………」

イケメン「ありがとう。さっきまでの屋上での流れ、心底笑わせてもらったよ」

会長「…単に貴方が怒ってないことぐらい分かってたわ。あの委員長の子も、愚弟ですらも気づいてたはずよ」

イケメン「だろうね。くっく、気づいてないのは男くんだけと見た」

会長「満足いただけたようで嬉しい限りだわ。それで、その……今回のことは、許してもらえたのかしら」

イケメン「勿論だとも。そもそも貴女に対して怒ってもないし、男君の件も、青春のひと味の為に使わせてもらっただけ」

会長「……」

イケメン「貴女が舞台と段取りを上手く回してくれたから、あんな風に──男君が楽しめた、感謝でいっぱいだよ」

会長「貴方は?」

イケメン「オレ? オレのことはどうだっていいんだ、今は男君だからね」

会長「私は──彼の為にやったわけじゃないわ。貴方が喜んでくれると思ったから…」

イケメン「ふぅん。そのことを初めに全否定したら、泣きそうになったのに諦めて無かったんだ」

会長「…言わないで頂戴」プイッ

イケメン「素直が一番だよ会長さん。悔しいなら頑張る、負けたくないなら頑固になる。案外楽しいよ、そういった生き方も」

会長「…貴方にはそう見えないのかしら。私の生き方は」

イケメン「ああ、見えないね。そればっかりは当時から何も変わってないよ、貴女は」

会長「……」

イケメン「本音を隠し、仮面をつけて優等生を気取る。見え見えならまだしも、完璧になりきってたら手がつけられない」

イケメン「そんな貴女に──当時のオレは好ましいと思えていたけど、今じゃ違うよ。少し可愛そうだ」

会長「可哀想…ですって?」

イケメン「そうとも。可愛そうだ、貴女はもっと本音をさらけ出してもいいはずだと思う」

会長「そんなの、誰が望むというのよ。私は私であるからこそ、周りから求められている…」

イケメン「その私は本当に貴女なのかな? …オレにはそうは思えない」

会長「何をわかったようなことを…付き合っていたとは言え、そこまで言い放たれるほど許したワケじゃないわ」

イケメン「そっか。じゃあ今回のこと楽しくなかった?」

会長「…え?」

イケメン「屋上でのことだよ。男くんと女、イケ友にやったこと──貴女は楽しくなかった?」

イケメン「久しぶりに見たよ。貴女が叫んでいた所、泣いていた所も、怒っていた所もだ」

イケメン「オレには随分と楽しそうに見えた。勘違いじゃなかったら、いいんだけどな」

会長「…楽しく、なんて」

イケメン「楽しいって思えることは、素直になれた時なんだと思うんだ」

会長「……」

イケメン「臆面もなく叫んで、泣いて、喚いて、やりたいことを言ってのけて──周りが認めてくれる空間ってのは」

イケメン「実に青春だと思わないか? 楽しくて笑みが溢れるよ」

会長「……」スッ


喜怒哀楽。それら全て不要なもの。
私という存在を作り上げる素材には要らない。

会長「…私は冷徹な女で良いのよ」


望まれていない。だから不必要。
笑うことも怒ることも泣くことも楽しむことも、一時の道具でしか無い。


会長「それを知っているから、私は切り捨てた」


誰にも分かってもらわなくてもいい。
知って慰めにでもあったら、警察沙汰になり得るほどの暴力をふるう自信がある。

誰にも生き方を否定させはしない。
望まれないから、私はそんな【私】を心から望んだ。


会長「…それは」


大切な大切な本心。
屈強で頑固な私は、一切の余裕を許さない。



イケメン「だけど、オレは信じるよ」

イケメン「新しい自分を信じる。誰かが救ってくれるでもいい、そういった環境で変わるでもいいさ」

イケメン「そういった自分を探そうという──頑張ることは、絶対に悪いことじゃないんだ」

イケメン「…オレは歩き出す。過去の自分は置いていかないさ、ちゃんと連れて行ってやるつもりだよ」

イケメン「駄目な自分はダメだって怒ってやればいい。出来なければ、他人に頼んだって良いんだ」


イケメン「そう男君は──言ってくれたからね」


会長(…ああ、そっか)


私は嫉妬していたんだ。
彼も私と同じだと思っていたのに。何故、彼は笑えるんだと。

先の見えない現実に囚われていた彼を、何故救えたんだと。

私には出来なかったことを。共に頑張ろうと思っていた人を。

あの彼が──救えたことに、悔しかったんだ。


会長「…これが本音かしら」

イケメン「うん?」

なら、どうしたらいい。
なにが一歩になり得るのか。本音を知って、私はなにを望めばいい。

会長「教えて頂戴。私はなにをすればいいのか…どう一歩を踏み出せばいいのか」

イケメン「そんなの簡単じゃないか」

会長「簡単じゃないわ。難しくて、何も分からない…慣れてないもの、自分のことを考えるなんて」

イケメン「そうかな? オレにはわかっているように思えるけど」チョンチョン

会長「え…?」ポロポロ

イケメン「さっきからずっと、出てた」

会長「うっ…なんで、どうして涙が…ひっぐ…」


悔しい。ああ、悔しい。
好きだった人を、心から愛した人を取られるなんて。

別れたくなかった。もっと彼と好きあっていたかった。
けど彼は私から離れていった。それは新しい自分を望んだから。

私では彼を救えないと、お互いに知ってしまったから。

私は絶対に彼を、イケメンを笑わせて見せると思ってたのに。

会長「うっあぁっ……どうして、なんで…っ」


でも駄目だった。私には彼を救うことは出来なくて、ぽっと出の彼が笑わせた。
辛くて窮屈で、胸が今にも破裂しそう。

ああ、私は彼が本当に大好きで、今のいままでもずっとずっと──


会長「ごめ、んなさい…私は本当に不器用で、貴方に何もしてあげられなかった…っ」

会長「やりたいこともできないで、イケメンを困らせてばっかりだった…でも、本当に……イケメンのこと好きだった」

イケメン「うん」

会長「信じて、お願い。これだけは貴方に誓わせて───……私は貴方を救いたかった」

イケメン「ああ、わかってるよ」

会長「だから、だから……ぐすっ! じゅるるるる! っはぁ~、私は……」


私は、心から望もう。
きっとこの言葉は私の一歩となるだろう。


会長「──貴方が今でも好き。だから、男君には負けないっ」

イケメン「……」

会長「それが、私の本音よ」

イケメン「そっか。それが会長さんの本音か」

会長「ええ。私が望む生き方として、やらせてもらうわ」


イケメン「なるほどね。──らしいんだけど、どうする男君?」ヒョイ


会長「へっ?」

『えーあー…熱い告白でしたね、はい』

イケメン「数年越しの本気の告白に、思わず頬が熱いよ」

会長「ちょっとー!? なんですかその携帯は!?」

イケメン「スピーカーモードで、あちらに生中継。それぐらい許してもらってもいいだろ? 男君だけだから安心して良いよ」

会長「何も安心できないわよ!? 何時の間に貴方達は話を…!?」

『会長さんと別れた後直ぐです。俺もあの人達と分かれて、今はトイレに入ってます』

会長「なっ……!?」

イケメン「はてさて。会長さんは置いといて、男君」

『なんだよイケメン…このまま電話切ろうかと思ってたのに…』

イケメン「良いじゃないか。それよか、どうしよっか? 男君のオレが取られる要因を放って置けるのかい?」

『俺のじゃないから、イケメンはイケメンだから。…というかそういったネタ今はやめて、女姉さんのこと思い出すから…』

イケメン「なんで?」

『いいから!』

会長「…とんだ恥をかかせてもらいましたわ。憶えておきなさい、男君」

『どうして俺だけなんですか!? 主犯はイケメンですよ!?』

会長「言ったでしょう。ライバルは貴方だと…イケメンが貴方を望む限り、私は立ち向かわせて頂くわ」

イケメン「おお…我が事がながら、面白い展開だ」

会長「面白くない!」
『面白くない!』

イケメン「ふふっ、青春だよこれも!」

会長「くっ…では先手必勝。この紙袋に入ってる制服をどこかに隠しましょう。恥をかきなさい貴方も」

『ええぇっー!? なんですかそれは!?』

イケメン「埋めるってのは?」

会長「ふむ。けれどグラウンドに限定されてしまう──それは些か面白く無い」

『面白くない!? ちょっと止めろイケメンー!? いや、俺が直接向かったほうがまだ──んっ!?』

イケメン「どうした男君?」


『いや…静かに、誰か入ってきた』

『男ちゃーん? 見つけだぜー?』『あらあらうふふ。男子トイレって何度入っても緊張するわ~』
『お姉ちゃん!? ちょっと何躊躇いなく入ってるわけ!?』『初めてじゃないのか…流石だな女姉』

『うわぁあああああプツン ツーツー』


イケメン「おお…」

会長「流石です前会長」

イケメン「この流れに乗らなきゃ損だ。大損だ、そろそろ拗ねたふりやめて楽しもうか」

会長「そうね。それが一番だわ」

イケメン「ああ、じゃあ行こうか会長さん」

会長「…ええ、行きましょうか」


ガチャ キィ …



パタン


【文化祭は無事に終わりました】


第十二話『俺の突っ込みライバル』

後編 終

これにて文化祭三編終わりです。
残り3話となり、頑張っていかせて頂きます故にお付き合えい願えたら


月&火曜日だなもうごめんさない! お会いしましょう!


ではではノシ

それと大昔の過去作の幾つかご紹介


男「最近、変な声が聞こえるんだけど」
小鷹「いてっ...」竜児「いたっ...」
京介「正直めちゃくちゃ気まずい」


お暇な時に、お読み頂けたら。
ではこれにてノシ

プルルルルル

ガチャ


『あらあらうふふ。こんばわ、こんな時間にごめんなさいね~大丈夫だったかしら?』

『うんうん。改めてお電話を掛けたのは、今回の『裏文化祭』の委員長役お疲れ様でしたってことを言いたかったの~』

「………」

『今年の反響は私の耳にも届いてるわ。うん、いい出来で仕上がったみたいで──立案者共々、大変満足しちゃってますよ』

『やっぱり! 貴方を見込んで頼んだ私の眼に狂いはなかったみたい! うふふ、それでそれで、当の貴方も楽しんでいただけたかな?』

「………」コクリ

『そうなの~良かったわ~うふふ。それじゃあ私の作品も浮かばれるわ~! ああ、うん、それと最後にだけど…』

「……?」

『貴方はまだ自作の同人誌、手元に無いんですって? 駄目よ~自分の作ったものなら大事に保管しておかないと』

「……」ペコリ

『うんうん。なのでして、私が独自のルートで手に入れた貴方の本を──とても可愛いドジっ子ちゃんに渡しておきました! 明日には受け取れると思うから~』

「?」

『大丈夫よ~その子とってもいい子だから、貴方にいち早く届けてくれちゃったりするわ』

「……」ペコリ

『うんうん。言いたいことはこれだけかな? よーし! 私も張り切って新作を作っちゃうぞ~! なのでして、貴方も楽しみにしててね? うふふ』

「……!」コクコク

『ありがとぉ~あと最後に一つだけ言いたいのだけど、あのね』

眼鏡「……」フンスー

『電話越しだと流石にジェスチャーわからないから、わたしてきにちゃんと伝わってるか大変困惑気味だわ~』


~~学校・放課後~~


眼鏡「……」スタスタ

「あ。先生!」

眼鏡「……」ピクッ

男「えへへ。どうも、今からおかえりですか? それとも図書室へ?」

眼鏡「……」クイクイッ

男「図書室なんですね。俺も用があるんです、一緒に行きましょうか」

眼鏡「……」コクコク

男「はい!」

眼鏡「……」スタスタ

男「…、あの先生。ちょっと良いですか?」

眼鏡「……」コクリ

男「ありがとうございます……少し前のことなんですけど、文化祭の準備期間の時…」

眼鏡「……」

男「…先生に助けてもらった時のこと憶えてますか…?」

眼鏡「……」コク

男「そ、そうですよね。当たり前か……えっと、あのことなんですが──もうすっきりさせましたので、ご心配なくと伝えたくて」

眼鏡「……」ジッ

男「ほんとうですよっ? なんだか自分でも信じられないぐらいに、あの人とは、ああ生徒会長さんとは仲良くさせてもらってます」

眼鏡「……」カチャ

男「その節は大変ありがとうございます」ペコリ

眼鏡「……」フルフル

スッ

男「ふわぁっ…!」

眼鏡「……」ナデナデ

男「…あ、はいっ…その、なんだか先生には何度も迷惑かけてしまって、申し訳ないです」

眼鏡「……」ぽんぽん

男「…ありがとうございます」カァァ

男「えっと、先生! 実は今度出る新作のことで聞きたいことがあって────」

眼鏡「……」ピタ!

男「ど、どうかなされたんですか? いきなり立ち止まって、え? あっちの廊下の角に誰か居る…?」チラリ



会長「…………」じぃー

男(え、何、めっちゃ見られてる。何やってるんだあの人…)

眼鏡「……」スッ

男「え? 先生…?」

眼鏡「……」コクコク

男「…ここは俺に任せて逃げろって、だから先生、別に会長とはもう何も!」


会長「……」じぃー


男(ああすっごくややこしい! お互いにいい印象持ってないもんな…)ギュッ

男(よし。二人の知り合いとして、あの時の印象を払拭させるんだ。まずは会長に話しかけよう)スタスタ


眼鏡「……!」

会長「……!」


男「…あの会長さん? そこでなにしてるんですか?」

会長「や、やるわね男君。どうして私が居ることがわかったのかしら?」

男「いや、見えてましたよ。まるっきり」

会長「──そう、それは私の不手際ね。バレてしまっては仕方ないでしょう」スッ

男(あ、あれ? なんだか今日の会長さん少し大人しい…?)

会長「……」モジモジ

男「会長さん?」

会長「ぇ、あ、はい? なにかしら?」

男「それはこちらのセリフというか…その、どうして見てたのかなって」

会長「っ……いえ、特になにも」ゴクリ

男「?」

眼鏡「……」ズンズンズン

男「わわっ! あ、先生──その…」

眼鏡「……」じぃー

会長「なっなにかしら?」

眼鏡「……」じぃーーーーーー

会長「……なによ」

眼鏡「……」ゴゴゴゴゴゴ

会長「……」ゴゴゴゴゴゴ

男(あれ!? 知らず知らず絵面が睨み合ってる感じに!)

男「待ってください…! その、先生も会長も! なんでそう喧嘩腰何ですか…!」

眼鏡「……」

会長「いえ、男君。貴方が居ては話が円滑に進まないわ。出来れば席を外してもらってもいいかしら」

男「先生に用事があるんですかっ? 邪魔ならそりゃ居なくなりますけど…」

眼鏡「……」フルフル

男「え、先生? ここに居ろって、でも俺がいたら話が進まないって…」

眼鏡「……」ガシッ

男「わわっ」

会長「!」

眼鏡「……」フルフル


【大切な後輩を守ろうとする一人】

男「先生…いや、あのですね?」

眼鏡「……」

会長「…貴方はもしや──成る程、では私も立ち向かわせていただくわ」キッ

男「会長さん!?」

会長「黙ってなさい。こうも面前でアピールされて大人しくしているほど、私は優しくなくてよ」

男「いやいやいや! 違うでしょう! なんでそういう感じになるんですか…!」

会長「貴方は知らなくていいこと。私としても見過ごせない要因がそこにはある」ガサリ

男「? なんですかその紙袋は…もしかしてそれを先生に渡そうと?」

会長「えっっ!? ち、違いますわ! これは別に彼に渡すものではなくて、えっと、そのー…」

男「…なんで誤魔化すんですか」

会長「違うったら違うと言ってるでしょう! もう! 貴方は黙ってなさい!」


【尊敬する人からの頼み事(同人誌)を渡そうとする一人】

会長「──こんな危険物を貴方に見られたまま渡すなんて、出来るわけ無いでしょう…っ」ブツブツ

男「え? なんですか?」

会長「なんでもないわっ」

眼鏡「……」

会長「貴方も少しいい加減にしないさい。どういう権利があって、貴方が彼に近づくことを許されるとでも?」

眼鏡「……」ジッ

会長「…貴方が非情に非生産的な趣味を持っていることは、知っている。しかし、そんな趣味をもった貴方が──」

会長「──彼の側にいることが実に不愉快ですわ」

会長(前会長から、あの薄い本を彼に渡すよう頼まれた。しかし前会長がお読みになられている本は、ほとんどが…その、男同士の絡み合いだった…っ)


女姉『あらうふふ。みてみて会長ちゃん~これ何処に入ってると思う?』

女姉『実は【ドーン】ルで亀【ババババ】で前立【ドドドン】刺激して快感を得てるの~キャー! わくわくするわ~!』


会長「…不愉快ッ! あの人は許されど、貴方のような輩が男君の側にいるだけで実に不愉快ッ!」

眼鏡「……?」

男「な、何を言ってるんですか!?」

会長「正直に行ったまでです」

男(なんでこうもこの人は億面もなく堂々と…! 嫌いなのはわかってるけど、なにもそこまで…!)

会長「っ……」ブルブル

男(あれ、でも震えてる…緊張してるのか? でもなんで緊張なんか…渡すもの…俺が邪魔…緊張…)

男(──もしかして、会長さん……先生に告白、しようとしてるのか……?)


【類まれぬ勘違い度もつ一人】


男(言いづらいから会長さん口が悪くなってるんだ…! お、女さんも時々、言いづらい時口が悪くなるし…!)

男「…な、なるほど。じゃあ俺が居たら言いづらいですよね…」

会長「!?」

眼鏡「!?」

男「わかりました。じゃあ俺はここで…」スッ

会長「ま、待ちなさい! なに、この中身は察したとでもいうのかしら…っ? それは違うわ!」

男「え?」

眼鏡「……」ブンブンブン

男「行っちゃダメだって、いや先生も会長も俺が居たら──あはは」

会長「どうしてそこで乾いた笑いを浮かべるのですか!」

男「いやいやいや…先生、俺は大丈夫ですから。むしろ先生の邪魔になると思いますし」

眼鏡「……」シュン

男「先生?」

眼鏡「……!」キッ

会長「っ! なんですか? なにか私に文句でも? 私は貴方に問題があると言ったまでで、」

男「まあまあ。会長さんも素直になってください」

会長「ええ、だから素直に言ってると──」

男「きっと渡したら分かってくれると思いますよ、要らぬお世話かもしれませんけどね」

会長「本当に要らないお世話ね! ええもういいですからとっとどっかに行きなさいな!」

眼鏡「……」フリフリ

男「…え、でも」

会長「それも貴方も望むことでしょう? それとも、貴方の趣味が彼にバレてもいいと?」

眼鏡「……?」

男「趣味? 趣味ってなんですか?」

眼鏡「? ……?」カキカキ

男「あー! 物を書くってことですか、いや知ってますよ俺?」

会長「なん、ですって……!? 貴方知ってて彼と付き合ってたの……!?」

男「え、ええ。趣味というか仕事というか…」

眼鏡「……」シィー

男「あ。ごめんなさい、内緒でしたねそういえば」ニコニコ

眼鏡「……」ニコリ

会長「なにイチャイチャし始めてるのです!? ああっ…汚らわしい!! 不潔!!」

男「不潔!? …会長さん、貴方は先生のことしっててそんなこと言ってるんですか…?」

会長「勿論当たり前よ! 私はこれを持ってるのだから…!」ガサリ

男「そうですか…別に人それぞれですけど、俺は──先生の仕事を馬鹿にする人、嫌です」

眼鏡「……!!」パァァアア

会長「なっ…ぐっ…なんということかしら、貴方も侵されていたなんて…っ」

男「会長さん。今は例え正直に言いづらくても、だったら尚更貴方はキチンと言ったほうがいいんじゃ無いですか」

男「…変な誤解を生む前に、思いの丈を言ったほうが」

会長「ぐっ……貴方はイケメンがいるでしょう! このような輩にうつつを抜かしている暇があるの!?」

男「? どうしてイケメンが出てくるんですか、アイツは関係ないでしょうに」

会長「関係が、ない?」

男「アイツは何も関係なんて──待ってください、関係あるんですか?」

会長「……あるにッ…あるに決まってるでしょう!!」

男「ええっ!? なんでイケメンの奴が…!?」

眼鏡「?」

会長「貴方が不潔極まりない事実を、彼が黙ってるはずがない…っ……それとも騙し通せているのかしらっ? だったら、」

男「不潔極まりない事実…ッ? イケメンは先生の仕事を馬鹿にしたりしないですよ!」

会長「……いや確かに貴方が言ったら認めそうだけれど……そもそも…そんな気質を感じもするけど……だめだめだめ! イケメンはそっちじゃありません!」

男「なっ──そっちとかあっちとか、人の趣味を差別的に捉えるなんて……会長さん、俺は本当に貴方のことを見損ないました…っ」

会長「なん、ですって…?」

眼鏡「……」オロオロ

男「貴方は別に俺に好かれようとも思ってないと思います…けど! それでも、俺は貴方のことを尊敬はしてました…!」

会長「……っ」

男「生徒会長としての貴方は…俺にとって素晴らしい人格者のよう見えたのに、違うんですね、やっぱり」

会長「ぐ……え、ええ、違うわ男君。いくら私が会長としての身分を誇りにしていたとしても、」

会長「──私は彼と貴方の趣向を、認める訳にはいかないわ」


男「…………」バチバチバチ

会長「………」バチバチバチ


眼鏡「…っ…?」わたわた

男「この趣味を貴方が不潔だというのなら、それは良い。けれど先生の仕事を真っ向から否定することは──俺は聞き逃せません」

会長「ええ、貴方にどう思われようと結構。けれどイケメンに関するのであれば、私は見過ごせないわ」

男「またイケメンイケメンって…! 貴方はイケメンの何なんですか!? またこの話をぶり返させるつもりなんですかっ!?」

会長「えっ…いやその……わ、私はその件についてはちゃんと彼と話をつけて…」

男「…俺はそうは見えませんけどね。何かとアイツをダシにして、今度は先生のことまで馬鹿にしてるようにしか見えませんけど」

男(告白なんてとんでも無い! この人はまた、この手立てでイケメンと俺をどうこうしようと考えてたんだ…!!)キッ

会長「……。そうですわ、貴方の考えてる通り私は今回も作戦を企てています」キッ

男「やっぱり…!!」

会長(嘘だけど、ここまで疑われるなら乗ってあげましょう…っ…これは私がやってしまった問題でしょうから)

会長「──今回は良い材料を得られたわ。ですから、フン! とっととイケメンと別れてそこの眼鏡と付き合えばいいじゃない!」

男「なんでそんな話になるんですか!?」

眼鏡「!?」

会長「え、だから──」


イケメン「何やってるんだい二人共?」

会長「え…っ?」

男「い、イケメン…!」

眼鏡「?」

イケメン「なにやら騒がしいと見に来れば──ふむ。ふむふむ」キョロキョロ


イケメン「……おもしろいことになってそう?」


男「なってない!」

会長「うっ…ち、ちがうわ!」

イケメン「いーや、なってるね。やっとか…やっとオレもこういった場面に出くわすことができたんだね、ははっ」

男「とにかく聞いてくれイケメン! この人がまた色々とちょっかい出してきて…!」

会長「あ、ううっ…ち、ちがうわ……その……」ギュッ

イケメン「ふむ。そうなの会長?」

会長「っ───……ッ…」コクリ

イケメン(嘘だな。引くに引けなくなって、今の立ち位置に成り立ったに違いない)

男「なにか言ってやってくれよ…」

イケメン「うん。それで男くんは怒ってる感じ?」

男「…まぁ、けど、俺はこの人のことを馬鹿にされたのが一番の原因かもしれない」

眼鏡「……」ソワソワ

イケメン「ほう──なるほどね…」

イケメン「すみませんが、少しお話いいですか?」

眼鏡「?」

イケメン「あちらで、いえ手間は取らせませんので」

眼鏡「……」コクリ

イケメン「あのですね貴方は──なるほど、作家をされていると──では文化祭の時は?──ほうほう…」

眼鏡「……」コクコク

イケメン「ありがとうございました。大変貴重なお話、とても勉強になりました」

イケメン(男君は趣味をバカにされたと勘違い。かつ仕事をする彼のことを貶したと怒り、)

イケメン(会長が持ってる紙袋──あれは女の実家のパン屋の袋、もしや誰かから頼まれて彼に渡そうとしている? …女の姉さんぐらいか? 頼めるのは?)

イケメン(ならたいそう凄いものだろう。また男同士の本と見た、あの人も相分からずだな。それに会長は男君が見てる手前渡せずに居る)

イケメン(しかし中身はまだ断定できないな。けれど会長は趣味=男好きと勘違いと見て、否定したら男君が怒ってしまったから泥沼化──つまり、こんなところか)

男「イケメン…?」

会長「………」ずーん

イケメン(よくもまぁ綺麗に勘違いするもんだよ。仕方ない、ここはひとつ──)


イケメン(──もっと面白いことにしよう!)ニコリ


男(なんで笑ってんだコイツ)

会長「…?」

イケメン「わかったよ。じゃあすみません先輩、少し報告──といったモノなんですけど、いいですか?」

眼鏡「……」コクリ

イケメン「あのですね、実はオレ──男君と付き合ってるんです!」

男「え」

イケメン「なのでして、出来ればちょっかいのようなことはしないで頂きたく──ぶはぁっ!?」バシーン

男「おま、おまままままっ」

会長「なん、ってことを…!?」

眼鏡「!? ……!?」

イケメン「良いッ…突っ込みだよ、男君……いいスナップだった、くくっ…腕を上げたねぇ…」

男「何を言ってるんだよお前はっ!? ううっ…まだそんな変なこと言うつもりなのか…!?」

イケメン「──そんなに照れるなって、何時もはもっと素直だろ?」スッ

男「なんだそれ!? え、そんな眼で見ないでください会長さん…!!」

会長「やっぱり…」

男「やっぱり!?」

イケメン(はは、良い展開だ──うむ?)

眼鏡「……」ジッ

イケメン(…おやおや)

会長「…そういったことなのなら、使える材料も無さそうね。フン、とんだ時間の無駄だったわ───そこの貴方」

眼鏡「?」

会長「頼まれたものを渡すわ。ええ、好き勝手に使いなさい」

眼鏡「……?」

会長「良いから受け取りなさい。中身を確認すれば分かるはずよ、それでは私はこれで──」

イケメン「あ。手が滑った」ぱしん

パサリ! シュサー!

会長「え」

眼鏡「…」

男「え、これって本…」


『彷徨える男根~俺らには言葉は要らない~』


会長&男&イケメン&眼鏡「!!!??!!?」

会長「きゃああ───!!!!??」

イケメン「…俺の予想だと先輩の作品だったんだが、これは…」

男「さまだん…こん? 言葉は要らないって、待って会長なんで、持ってるんですかこんなの、えっ?」

会長「待ちなさい! これには理由がって、わ、私自身の持ち物ではなく…!」

眼鏡「…」

会長「──コイツのよ! 私のじゃない! コイツの持ち物なのよ!」

眼鏡「っ!?」ブンブン

男「先生の持ち物なわけ無いじゃないですか!!」

イケメン「そうだそうだー」

会長「くっ…!! 私はただ彼に渡すよう頼まれただけよ! そんな目で見ないで頂戴!!」

眼鏡「!!」プンスカ

会長「なに貴方まで知らんぷりしてるのよ! これは貴女のでしょう…? だから、私は持ってきたのであって」

眼鏡「……」フリフリ

会長「え、嘘、じゃあなんで」

男「……」じぃー

眼鏡「……」じぃー

会長「私のじゃありませんってば!!」

イケメン「──しかし、会長が言ってることも一理あるかも……?」

男「えっ?」

イケメン「先輩。本当にこれは貴方のじゃあないんですよね?」

眼鏡「…」コクコク!

イケメン「ふむ。ではこの出処を調べてみましょう、会長も気になりませんか?」

会長「……。私はその持ち主は」

イケメン「あれ? 知ってるんですか?」

会長「!! し、知らないわ」

イケメン「なるほど。じゃあ調べてみましょう、なにすぐわかると思いますよ」

眼鏡「………」

眼鏡「……!?」ブンブン

イケメン「おや、どうしました先輩? 顔色が優れないようですが…」

眼鏡「っ……」ゴクリ

会長「そういえば私も少し気になるわね──この同人誌、どこで販売されたのかしら…文化祭…?」

男「文化祭でこんなトンデモナイもの売られてるんですか…?」

眼鏡「……」ダラダラダラ【トンデモナイ物を売ってた祭りを仕切ってた人】

イケメン(やっぱりな、この人が今年の裏文化祭の委員長か、くっく)

会長「…まさか前会長が言ってたことは、これなのでは…?」

眼鏡「……」ソロリ

男「せ、先生? 本当に顔色悪いですけど……大丈夫ですか?」

眼鏡「……!」

男「──先生?」キラキラ

眼鏡「っ…!」ゴクッ

くるっ ダダダダダダダ!

会長「逃げた! 成る程──やはり何か彼が知っていると…!!」ダダッ

男「ちょっと!? 二人共どこへ…!」

イケメン「まあまあ。ここはひとつオレが説明してあげよう」

男「え、説明…?」

~~~

プルルルルルルル ガチャ

『あらあら。貴方から電話してくれるなんて、とってもびっくりよ~どうしたのかしら?』

眼鏡「…ッ…!!」

『うんうん。なるほどねぇ、うん! 全然わからないわ! メールか何かじゃ、だめ?』

眼鏡「…ッ~~…」

『でも凄く大変そうなのは伝わってくるわ。もしかして──うんっと会長ちゃんに追われてる?』

眼鏡「…!」コクコク

『そっかバレちゃったか~これは私の不手際よ、ごめんなさいね。でもでも、会長ちゃんもそこまで怒ってなかったでしょ?』

眼鏡「……」チラリ


会長「……」ドドドドドドドドッ


眼鏡「っ…!?」ブンブン

『よね~激おこよね~うふふ。会長ちゃんってば初なんだから~』

眼鏡「!」ブンブン

『うんうん。会長ちゃんは裏文化祭、つまり秘匿された同人販売会を知らないの』

『だから何とか聞き出そうと、眼鏡君のことを必死に追いかけてるのね。そこまでは良いかしら?』

眼鏡「……」コクコク

『だから出来れば君にうまーく説明してもらったら、お姉さんもすっごく嬉しいなぁって思うわけです』

眼鏡「!?」

『大丈夫よ~後で私も謝るわ……うん……ちゃんとね、めちゃくちゃ怒られそうだけど』

眼鏡「……っ」

『あ、それと会長ちゃんに貴方の本と一緒にね? 私の作品も入れておいたから是非、読んでくださいね!』

眼鏡「」

『ではでは~いいお返事、というか良い展開を待ってまーす』プツン

眼鏡「ッ!? ……!!」くるっ

会長「…ようやく観念したようね」ズシャッ

眼鏡「……」

会長「貴方には聞きたいことがたくさんあります。ええ、それはもう色々と」

眼鏡「っ……」

会長「全て洗いざらい吐き出してもらうわ。覚悟することね──」

眼鏡「…ッ」ギュッ


「──待ってください!!」


眼鏡「──……!」

会長「貴方は…」

男「はぁっ…はぁっ…少し、先生とお話させてください…っ」

会長「私がまず最初です! 貴方は後からにしなさい!」

イケメン「会長」

会長「…なによ」

イケメン「しぃー」

会長「うっ…なんですか、まったく…」

男「…先生。今から少し話させて貰ってもいいですか?」

眼鏡「……」こ、こくり

男「その、実は知ってしまったんです。先生が…裏文化祭と呼ばれる祭りの、委員長だって」

眼鏡「…!!」

男「この本ですけど…」ガサリ

眼鏡「ッ──……?」

男「トンデモナイ本の下にありました。これ…先生の作品ですよね?」


『人より頑張ったものが言えるコトバ』


眼鏡「…っ…」コクコク!

男「やっぱりそうなんですね」

眼鏡「………」シュン

男「そのですね、あの! どちらにしたって俺は先生が委員長でも嫌いになったりしませんよ…!」

眼鏡「──……」

男「先生は、先生です。あんなのが売ってる祭りをしきってたとしても…俺が知っている先生は、尊敬できる人ですから…」

眼鏡「……」

男「先生。だから気にしないで、これからも頑張ってください! ずっとずっと…応援しますから!」

眼鏡「っ…!」パァァアア


会長「…どういうことよ」

イケメン「ややこしい問題の一部をスッキリさせたのさ。後は会長だね、あのドキツイ本は彼の持ち物じゃないよ」

会長「え、そう? 嘘、あ…でも確か本は二冊…」

イケメン「もう少し状況を捉えてから発言しようね会長。悪い癖だよ」

会長「ぐっ、大きなお世話です!」


男「えへへ。俺も先生の作品の感想を沢山言いたいですから、こういったものがあったら教えて下さいね」

眼鏡「……!」コクコク!

男「ありがとうございます。じゃあその、さっそくなんですけど…」

眼鏡「…?」ニコリ

男「こっ……この、あんまり慣れてない分野ですけど…っ」スッ


『人より頑張ったものが言えるコトバ』
『彷徨える男根~俺らには言葉は要らない~』


男「どちらも先生の作品ですから! う、うん! 頑張って考えてきますね!」キラキラキラ

眼鏡「」


イケメン(ああ。素敵だよ男君、それでこそ男君だ)ウンウン

会長「…。話は終わったようね、それでは聞かせてもらうわよ」がしっ


眼鏡「」ズリズリズリ

男「センセぇーーー!! 感想を言えるその日まで、楽しみにしててください!!」


【数日後。全てを知った俺は土下座をしました、後イケメンの奴もさせました】


第十三話『彷徨える突っ込み~俺らには突っ込みは必要~』



ぐぉぉ…

残り二話です! 来週は最終話と最終話前を合わせて二本立て!
つまり最後となります。最後までお付き合い願えたら!

ではではノシ

昼休み・保健室

イケメン「失礼します」ガラリ

先生「おや。こんにちわ」

イケメン「こんにちわ。あれ、先生だけですか。おかしいな男君は何処行ったんだろう」

先生「あの子は職員室に呼ばれてるね。再来月の修学旅行の話し合い」

イケメン「あ、そういえばそうだった」

先生「時が立つのも早いもんだね。もうあの子も修学旅行のシーズンだ、そりゃ私も年を取るわけだよ」ギィッ

イケメン「……。待ってるのもなんですし、先に食べちゃいましょうか」ガタ

先生「お。先生と二人っきりで食べるの? おっほほー、いい度胸だね」

イケメン「なにがですか…?」

先生「根掘り葉掘り聞いちゃうってこと。君と彼の今の、関係性とか」

イケメン「聞くも何も彼とは、フツーに友達ですよ」

先生「またまた。ホモのくせにねー」

イケメン「違いますってば」

~~

先生「いただきます」

イケメン「いただきます」

先生「もぐもぐ。ひょーら、いいふぁいらふぁらひぃふぇふぉこっこ」

イケメン「な、なんですか? 食べきってから喋ってください…」

先生「むぐぐ。えっとね、いい機会だから聞いておこうかなって」

イケメン「いい機会?」

先生「うん。そろそろ聞いても喋ってくれるかなと。キミってば、何かとあの子に感謝感激してるみたいだけど───」

先生「──その『発端』を聞いてみようかなってね」

イケメン「………」

先生「良いじゃない。だめ?」

イケメン「…いえ、ダメじゃないですけど」

先生「それとも私みたいな人間には言いたくないとか」

イケメン「…そんなことありません。先生には、色々と個人的に感謝してますから」

先生「へぇーそうだったんだ。へぇー」

イケメン「…そういった飄々とした性格だから、男君に好かれるんでしょうね」

先生「ただの役得だよ。実生活は結構面倒臭い性格さんだ。まぁーつまり、先生は常に生徒の見本であれってコト、もぐもぐ」

イケメン「そうですか、んー……まぁ良いですよ、先生には全部げろっちゃいましょう」

先生「お。じゃー去年の文化祭の話お願いします」

イケメン「…………」

先生「舐めないでね。これでも数十年教師やってる身だから、ふふっ」

イケメン「…話が早く済みそうで良かったです」

先生「うむ。じゃあ聞かせてくれるかな、キミとあの子が出会った出来事のことを」

イケメン「はい。あれは去年の文化祭で、オレのクラスが何をするかを話し合ってた時でした───」


去年 一年教室


イケメン「じゃあ劇をしようか」

そう口にした時──ああ、やってしまったと心から後悔してしまった。

何気なく言った一つの提案。
一時間と過ぎた話し合いに辟易し始めた教室の空気は、皆の思考回路を鈍くさせていた。


「喫茶店がいい。みんなでコスプレをしよう!」
「面倒臭いから休憩所でいんでね」
「映画とろう映画! タイムスリップした織田信長が学校を周るっての!」


どれもコレも現実味のない、希望的観測だけであげる提案。
準備や期間など考慮に入れてない。ただやりたいだけのことを皆言い立てて、具体案などを聞けば閉口。



「じゃあ劇をしようか」



その時、言ってしまったのだ。
一番それを言ってはいけないオレが──言ってしまえば会議など全く意味をなくしてしまうのに。

ただただ後悔。
放課後に待っていた会長との約束の時間が迫っているという、たったそれだけの理由で。


「…ああ、なんかそれいいな!」
「劇ね劇! なんか盛り上がるんじゃね!」
「劇も良いな…映画も良いけど、劇なら良いのなりそうな気がする…」

イケメン「……っ、待ってくれ。まだちょっと色々と話しあう必要があると…」

時既に遅い。
凝り固まっていた場の雰囲気は、オレの一言で融解をし始めていた。

灰色が橙色に広まっていく。クラスの皆はもう劇を始めようといった形で収まりつつあった。


~~~


イケメン「……」

あの会議から二週間が経った時。

あの時の発言は決して間違いじゃなかった、なんて自分で納得はしていたつもりだった。


悪いことではない。自分が主役で選ばれて、己の時間が割かれることも。
悪いことではない。突然の体育館私用に、伝統の軽音部の演奏時間が削れようとも。
悪いことではない。クラスの中で不遇の役どころにつく人が居たとしても。


みなは納得の上でオレの提案を飲んだのだ。
決してオレだけの責任じゃない。問題じゃない、それは──皆が抱えるべきことなのだ。

イケメン「……はぁー」


「ああ、うん。今は皆で──そうそう、劇の練習中。帰る時間は遅くなるけれど、晩御飯は先に食べてて」


そう、納得していたんだ。
そこに新たな問題が生まれても、オレには関係ない。全く関係なんて、無い。


「…劇の役? えーっと、あはは。良いよ大した役じゃないんだ、うん。見に来るって? いやいや、仕事じゃんその日は」


イケメン(練習の休憩時間に販売機に来てみれば──彼は確か同じクラスの…)

劇で役についた生徒は音楽室で個別に練習していた。
他の生徒は教室で衣装の準備、また舞台道具の制作。

彼もまた裏役の一人なのだろう。時間は既に──七時を過ぎていた。


「…はぁ、わかった。じゃあ俺も頑張って文化祭のために頑張る、母さんも無理しないように」


彼は困った顔をしながら、携帯電話を切った。
その様子を少し離れた廊下の角で盗み見る。わざとじゃないが聞き耳立てる形になったのが申し訳なくて、オレは彼の面前に姿を表した。

イケメン「やあ。休憩中?」

「…あ、うん」


彼は戸惑いながらも、自販機に用があると察したのかズレてくれた。


イケメン「ありがとう。今日もみんな遅くなりそうだね」

「……そ、そうだな」

イケメン「……」

「……じゃ、じゃあこれで」

イケメン「あ。ちょっと待ってくれないか」


気まずそうに去ろうとした彼に、何も考えず思わず後ろから声をかけてしまった。
──いや本当は気になっていたんだ。何もオレには関係ない、そんなこと分かっていても。


イケメン「えっと、君は今回の劇で何の役どころについてるの?」

「っ…く、黒子だけど…?」

イケメン「そっか。じゃあ色々と、大変だね」

事実そのとおりだろう。
彼の役どころ程難しい物はない。

本番の舞台で影の薄いにも関わらず、進行中で把握するべき順序と舞台道具の設置。

無論、劇を把握している生徒が指示をだすのだろうが、彼自身も多くを理解しなければいけない。

経過と結果が見合わない役どころ。
それが彼が今回の文化祭で背負わされたものだ。

「……、」

イケメン「実はさ、さっきの電話聞いてしまったんだ。決してわざとじゃないことだけは信じて欲しい」

「あ。うん……それは何となく、わかってる」


俺も大声で電話してたのが悪いし、と言ってくれた言葉にオレは苦笑を零して、


イケメン「──ごめんな。オレが劇しようなんて、言わなければ」


君を困らせることなんて、無かったのに。

もしオレが言わなければ、君は早く家へと帰り晩御飯の準備ができたいただろう。
母親に目立たない姿を晒すこともなかっただろうに。


イケメン(──ああ、関係ない。オレには全く関係ない)


そう、彼の人生なんてオレにとって全く関係ない。
何が起ころうとも、オレがなんて言ったとしても、彼には全く関係ない。

関係ないから、関わりあいなど全くない──きっとだから、こう思ってしまうのだろう。


イケメン(ごめんなさい。オレに関わりあいを持たせてしまって)


オレと同じクラスになったせいで、オレがあんなことを言ってしまってせいで。
オレがこんな体質のせいで、オレがあの時迷わなかったせいで。


イケメン(いくら関係などなくっても──彼が困ってることにオレは関わっている)


経過と結果は見合わない。
オレが言ったことは事実として因果関係など無くても、オレ自身がそう思ってしまったのなら、それはもはや責任が発生するんだ。

イケメン(…オレは一体何を言ってるんだろうか)

自分で自分のことがわからない。
関係なんて無い、そう思ってたはずなのに。

彼のこともまた、責任持つことなんて無いはずなのに。


イケメン(──面倒臭い。あやふやで現実味のない感覚がずっと続いてる、オレは一体なにをしたいんだ…)

「……あの、」

イケメン「あ、ごめんごめん。だからさ、そのオレが言うのもなんだけど適当にやってもいいんじゃないか?」

「……」

イケメン「キリがいいところで終わらせて、自分がやりたいことをやるべきだよ。学生の文化祭なんて、その程度じゃないか」


ああ、言ってしまった。あやふやのままでの発言──こんなオレに彼は怒るだろうか。
自分を困らせている決定的な当人が、その仕事を適当にやってしまえと言ってる事実に。


「…そうかもな」

イケメン「………」

──そう、人は絶対に【怒らない】。

イケメン「だろ? 別に完全に成功させなくても良いんだ、モチロン皆に迷惑をかけるのもアレだけどさ」

イケメン「自分がやりたくないことを、やるべきだとは言い切れないじゃないか」


──昔からそうだった。

オレは【人が考えたくないコト。自信が無いコト。本心が嫌がってるコトを、何故か納得させる事ができた】。


まるで長年付き添った尊敬する人のように。

まるで目標にしてきたライバルの一言のように。

まるで親からの躾のように。


──只の赤の他人であるオレが、何故かたった一言で人の意見を歪曲させる。


イケメン(これで、また『納得』させた)


スッと心のなかのモヤが溶け落ちていく。
彼に対する後悔と遺恨が、無意味だと散っていく。

イケメン(…オレの一言で変わってしまうのなら、またオレの一言で変わらせてしまえばいい)


オレは知っている。
彼が望まない黒子になっていることを、劇が決定された時、困っていたことも。


だが言葉に出来ない。周りは劇をやるべき雰囲気だったし、
彼の発言で変更できるほどの彼自身に立場があるわけでもない。


イケメン(だから、納得させる。それで良い、それで彼も心のなかもスッキリするだろうし、オレもまた──)


オレがテキトーにやればいい。と言えば、彼もまたテキトーに文化祭を続けるだろう。

そういうことなら、それでいい。それでいいんだと、オレも納得できる。


「じゃあ、教室に戻って練習続ける……から。あ、アンタも……が、頑張ってくれよな」

イケメン「あ、うん──え…?」


納得、出来るはずなのに、

イケメン「ま、待ってくれ。あの、聞いてなかったのかい? どうして練習なんか続けて──」

「え? お、おう……いや、だって、応援してくれたんじゃないの?」

イケメン「お、応援?」

「違う? だって適当にやれって、ははっ──アンタ、ゴホン、君の冗談だろ?」

イケメン「──冗談?」


なんだろう、冗談って。


「あれだけ盛り上がってるのに、俺だけ適当ってのもありえないし……つかやりたくなくても、やらなきゃ駄目だろうし」

イケメン「いや! けど君はそれだと困るんじゃないかっ? 家の用事もあるだろうし…っ」

「そりゃ大変だけど、すぐにでも家に帰りたいけれど……ああ、違うな。こう言いたいじゃなくって、」


「──俺は俺で楽しむけど。誰になんて言われても、俺は俺で文化祭を盛り上げようと、頑張るから」


きっとそれは本当に彼の本心なんだろう、とオレは思った。

イケメン「そ、そっか。そうだよな、一人だけ……楽しようとしても、周りから良い風に思われないし、な」

「ああ、うん。そうそう」

イケメン「…そう、だよな」

正直、怖いなコイツ──と思ってしまった。

オレの言葉が、体質が、通じないということでもなく、
ただただ、その『素直さ』が珍しくて、まるで小学生のように無垢に感じた。

楽しみたいから、俺なりに文化祭を盛り上げる。

誰もがそう思って文化祭に取り組むのだろう。
けれど望める形で、自分の思いをそのままに動ける人間なんて──高校生で居るはずもない。

人は何処かで諦めをつける。
自分がやりたくないことを、自分がしたくないことで、素直さを犠牲に周りへと同調させる。


けれど彼は違う。
周りに合わせて素直さを犠牲するのではく、素直さで周りに同調させていた。


イケメン(…この子は傷つかずに、何を強さに生きてきたんだろうか)

イケメン「えっと、じゃあ……これで、練習が頑張って」

ああ、この彼の前にオレは居ちゃいけないな。と本能的に悟った。
彼の素直さにとってオレは毒でしか無い。またオレにとって彼の素直さも毒だ。

一年限りの出会いであってくれと、オレは心から願って、彼に背を向ける。


「なぁ! えっと、その!」

イケメン「…なんだい?」


いち早く音楽室へと戻ろうとしたオレに、彼は引きつった笑みを浮かべていた。

場の空気を思って一言オレに言うべきだと思ったのだろう。だから、これで最後だとオレも素直に応じた。


イケメン「うん? どうした?」

「えっと、あの、だな……うん、こんなこと言うのも何だけど」


彼は戸惑いながら口を開く。
一体彼のような性格の人間が、オレに対して何を言うつもりなのだろうか。少しだけ、気になった。


「──もっと楽しもう、文化祭。高校で三回しか……ないんだしさ」

イケメン「…そうだね」

「だから、その、……ああ、言っちまうか」


ひとつ覚悟を決めたように苦笑いを浮かべて、彼は言った。

その一言を、たった一言だけなのに。

これから先、一生オレは忘れることなど出来ないであろう──その言葉を。


男「──申し訳ないと思いすぎだから、誰も、お前なんて気に留めてないぞ」


それは何気ない一言だったんだろう。
彼にとって他愛もない印象、オレに対するたった一つの言葉。

むしろオレに対するあてつけでもあるんだろう。
文句の一つでも零してやろう。そんな気軽な気持ちで言ったに違いない。


イケメン「──…………」


だからこそ、すんなりと心に響いた。

彼の言葉だから、だろうか。
素直に生きることを基本とする彼が言った言葉だから、オレは無垢に受け止められたのだろうか。

今でもはっきりした答えは見つからない。

けれど、それでもオレは、


男「じゃ、じゃあ俺練習あるから……」

イケメン「…あ…」


遠ざかる背中。高校生にしては小さめの、眼つきの悪い同級生。


イケメン「誰も、オレのことなんて気に留めてない……?」


そんなはずはない。じゃあ何故、皆はオレの言ったことを信じきる。


『──申し訳ないと思いすぎ』


イケメン「あ──そっか」

オレが気にしすぎてた、のか。
自分が何もかも悪いと思っていた、自分がやってしまったことは抱えるべきことだと。

オレが変えてしまったものは、またオレが変えないといけないと。
それが唯一のオレの救いになると思っていたのに。


イケメン「…なに主役を気取ってんだ、って事か。ははっ、確かにその通りだ」


いくら劇の主役に選ばれたとしても、世界の主役ではない。
人は一人でちゃんと考えて、そして答えを導き出せる。

物語と違う。現実の世界はきちんと個人個人で回っているんだ。


何もかも、オレの責任じゃない。

結局のところ──そんな単純な話。


イケメン「うん」


分かってしまえば簡単な事だったのに、何をここまで悩んでしまっていたのだろう。

イケメン「……それは多分」


彼が言える人間だから。
そんな単純なことを気づかせてくれる言葉を──彼は言える人なんだ。


イケメン「君の冗談だろ──か、ふふっ……オレの言葉を冗談だって言った奴は初めてだ」


オレの言葉は冗談だというのなら、その間違いを指摘した君の言葉は──果たしてなんと呼ぶのだろう。

それは、単純明快。


イケメン「ああ、そっか──突っ込みか、くくっ」


オレが間違いを起こして、彼が指摘する。
オレが冗談を言って、彼が突っ込みを入れる。


イケメン「なんてオレにとって理想的だろうか。ああ、なんて嬉しい事なんだろう──」


そんな日常を望めるのなら、手に入れることが出来るのなら、これほど嬉しい事はない。

イケメン「…なんてこった」

物凄く欲しい。喉から手が出るほどに、欲してる。
彼がオレの側にいて、オレのことを見てくれるだけで、オレは本当に救われる。

イケメン「なんてこった、だ……ははっ、くくっ」

楽しい。そんな未来を想像するだけで、身体が打ち震えてる。
素直に笑みが溢れるのは、一体何時ぶりだろう。

イケメン「──望めるのなら、臨みたい」

そんな願いを口にして、オレは自販機の蓋をあける。


イケメン「あ。珈琲が無い…」


彼が去って行く時、自分のと合わせて持って行かれてしまったのかもしれない。


イケメン「…何時か君と飲める日が来たら、嬉しいんだけどな」


~~~~~

保健室

イケメン「何気ない一言で、オレは彼に救われた──と言った感じです」

先生「ふむ。なるほどねぇ…そりゃあの子も忘れてるよ、マジで」

イケメン「あはは。でしょうね、でもそれでいいんです。その程度のことだから、オレは気づいたんだ」

先生「その程度ね。キミはキミ自信の問題を大きく見過ぎてたと、そんな単純なことをキミは気づかなかった」

イケメン「…誰だってそう思うはずです。けど、」

先生「うん。キミにその指摘を言う人は誰一人と居なかっただろうね、あのガールもボーイも」

先生「──そんな簡単なこと言ったら駄目じゃないかって、キミの抱える問題はもっと大きいはずだって」

イケメン「……」コクリ

先生「けど結局は単純なことだった。キミの間違いを指摘するだけで、キミの問題は解決できる」

先生「その一歩を踏み込むのは、簡単そうで難しい。結果は淡白であれど、経過は違う」

先生「そんな簡単で、難しくて、小さくて、大きなコト。うん、あの子はキミに言えたんだね」


先生「──良かったねイケメン君。本当に、変われて良かった」

イケメン「はい」

先生「うん。いい話を聞けたよ、あの子ももうちっと当時から積極性があれば──二年から友達ってのも無かったろうに」

イケメン「いやいや、彼がああだからこそ、オレが契約を結べたんです」

先生「青春ってやつ? そうだね、キミはまだお互いに利用関係でしかないものね」

イケメン「うっ……」

先生「正確にはキミの本心が──未だあの子と友達、なんて思えてない。思えることが出来ない、が正しいかな?」

イケメン「………」

先生「素直じゃない子だ。キミは本当に──あの子と一緒だよ、イケメン君」

イケメン「……何時か、言えたらいいんです」


オレが本当の気持ちで、彼と友達になったと。
その素直な気持ちで──彼に、たった一言だけ伝えられたら。


先生「きっと来るよ。キミは頑張ってるんだもの、こなきゃおかしい。だから頑張りな、青春教様」

イケメン「なんですかそれ、聞き捨てならない」

先生「青春青春で色々と片付けてるキミだからこそ、送らせてもらう名前だ」

イケメン「…なるほど」

先生「あはは。納得されても困るんだけどね、ま。頑張り給え」

イケメン「モチロン頑張らせていただきます。絶対に手放したりしませんよ、オレは」


そろそろ冬服へと変わりつつある、季節の変わり目。
世界はきっと変わりつつある。

だからこそ、オレは今という瞬間を大切に生きよう。

君に救われ続けてるこの時を、この高校生活を──ひたすら謳歌するんだ。


イケメン「…ずっと見てるよ。オレはね」


特別話『オレの突っ込み待ち』

ちょい休憩
次で最終話です

図書室・夕方

女「はい。東京の観光スポットの有名どころよ」ドサリ

男「あ、ありがとうございます」

女「どーいたしまして。てか何やってんのよアンタ、この時期になってまで決めてないとか」

男「ううっ…面目ない…」

女「まあイイケド。それよりも、修学旅行の自由時間は何処に行くつもり?」

男「え? ああ、うん。普通にスカイツリーとか、その付近の浅草回ろうかなって」

女「爺クサっ!! なんでよもっといい場所回りなさいよあんぽんたん!!」

男「ええっ!? …じゃあちなみに、女さんは何処を周るつもりなのさ」

女「えっ? …っ~~~あ、あきばだけど…っ?」

男「へぇー」

女「な、なによその顔は!? 違うわよお姉ちゃんのような趣味あたしは持ってないんだから!」

男「え、何? どういうこと?」

イケメン「男君。渋谷に行きたいな、オレは」

男「ん、ああ、良いけど制服で行ったら浮かない? ああいった場所って」

女(よかった…墓穴を掘らずに済んだ…)

イケメン「じゃあ私服を仕込んでいこう! 何処かで着替えて、さも東京民のように買い物をするとか!」

男「そこまでして渋谷に行く必要がわからないんだけど…」

イケメン「青春っぽいから」

男「うん。とりあえず却下で」

イケメン「ぬぁー冷たい男君!」

女「ミッキー見に行けば良いじゃない、ミッキー」

男「みっきー? ああ、ディズニー・ランドね…というか遊園地らしき所に俺行ったこと無いや」

女「あたしもだ」

イケメン「オレも」

男「じゃあディズニー・ランドでいいかな。時間も過ごせそうだし」

イケメン「なんだ、結構簡単に決まったね」

男「…お前とイケ友が、彼処も行きたい此方も行きたい、言うからだって」

女「アンタらの班大丈夫なワケ? まとまりなさすぎるでしょ…」

イケメン「えっと、オレと男君とイケ友。あとクラスで有名な不良くんに、クラスで有名なお金持ち君」

女「嫌なメンバーね、ほんっと」

男「今から修学旅行のことを考えるだけで胃が痛む…」

イケメン「女の方はアキバだけなのかい?」

女「班の子が原宿で買い物したいっていうから、基本、買い物中心よ」

イケメン「成る程な」

男「…良いな買い物、俺も買い物だけで良いのに」ボソリ

女「じゃああたしの班に来る?」

男「な、なんでっ?」

女「オトコに飢えてる奴らばっかり居るのよ…面倒臭いから、あんたが相手して」

男「なんで俺なんだ…イケメンのやつに頼んでくれよ…」

女「コイツは駄目でしょ」

イケメン「うん。駄目だ、オレが入ろうものなら酷いことになる」

男「え、なんで?」

女「ただえさえ面倒臭いのに、面倒臭い奴が入ってきたら手が付けられないじゃない」

イケメン「断言できる。オレは絶対に面白い展開にしてみせると」

男「…ああ、うん。わかった、じゃあイケ友でも誘って様子見るよ」

イケメン「そういった流れならオレを誘ってもいいんだよ!?」

男「やだやだ。絶対に俺が大変な目にあうから」

イケメン「ううっ…」

女「日頃の行いの性じゃない。あんぽんたん」

イケメン「…うるさいぞ」

男「──よし、報告書出来た。これを後は職員室に持っていくだけだ」

イケメン「ようやくか。これで後は修学旅行を迎えるだけだ」

男「…うん。最初は班のリーダーになった時はどうなるかと思ったけど」

女「しっかりしなさいよー? 現地に行ったら計画通り進むわけ無いんだから、入念に計画建てないとなんだから」

イケメン「ちなみに女の班の計画表は?」

女「ん、コレよ。コピーのやつだけど、役に立つと思って持ってきた」ガサリ

男「うわっ……なんだこれ、文字が細かすぎてヨメない…」

イケメン「これ、女が考えただろう?」

女「モチロン」

イケメン「昔から旅行や買物の時、みっちり気持ち悪いほどに計画立ててたもんな…」

女「気持ち悪いってなによ!!」

男「…俺そこまで考えてないけど、大丈夫かな」

イケメン「大丈夫、平気だよ。イケ友の奴が小学生の頃まで都内に住んでたらしいし、詳しいって行ってたからね」

男「え、そうなのか? なら少し安心……出来無い! イケ友に案内任せるつもり!?」

イケメン「大丈夫、うん、きっと大丈夫」

男「……」

女「…やっぱもう少し考えたら、アンタ」

男「そ、そうする。少しだけ女さんの班の計画表を参考にさせてもらおう──えっと、朝九時から、なになに…」

イケメン「ふむふむ、『朝ごはんを食べる。マックで』」

男「マックで…?」

女「マックで」

イケメン「男君。オレがいうのもなんだけど、参考にしちゃ駄目だと思うぞ」

男「…う、うん」ソッ

女「なによその反応!? あたしの班の娘達はみんな賛同してたのに!」

イケメン「丁寧なのかガサツなのか…」

女「全然っわかってないわねアンタ達! 都内で良い物食べようなんて、そんな甘い期待は絶対に裏切られるわよ!」


~~~~~

イケメン「ふぁ~~~~っ……」

女「眠たそうね変態」

イケメン「うんっ? ああ、ちょっとね」

女「何かやってるの?」

イケメン「まぁね。修学旅行の時のことを計画立ててる」

女「…やっぱり何か企んでるワケね。あんま無茶なことしないでよ」

イケメン「わかってるさ。あくまで男君の為だ、彼の為に考えてる」

女「そ。相変わらず変態ね」

イケメン「うーんっ……男君が職員室から戻るまで、少し、寝てようと思う」コテリ

女「はいはい。帰ってきたら起こしてあげるわよ」

イケメン「サンキュ」

女「……」

ガラリ

男「お待たせー、ちょっと時間かかりすぎちゃったよ──あれ?」

女「おかえり。ああ、変態ならさっき寝た所、も少しだけ寝させてあげて」

男「あ、うん。わかった」ガタリ

女「どお? 大丈夫そうだったの?」

男「一応、先生に見せたらオッケーは貰った。多分このまま通ると思う」

女「そっか。良かったじゃない、これで安心ね」

男「そうだね。ありがとう女さん、助かったよ本当に」

女「いいってば別に」

男「うん、そっか」

女「……」

男「……」

イケメン「すー…すー…」

女「えらく楽しそうじゃない、アンタ。変態の寝顔そんなに面白い?」

男「えっ? 楽しそう? …そう見える?」

女「じっと見つめて、ニヤニヤしてたわよ。気持ち悪いわね」

男「にやにや……うん、それは本当に気持ち悪いな」

女「まぁコイツの寝顔は、普段より幼く見えるし、なんかこう見てて面白いってのは分かるケド」

男「あ、うん。俺もそう思ってた、コイツの寝顔って初めて見るからさ。なんか新鮮で」

女「……」

男「なんだか、少し──楽しいかもしれない」

女「アンタもトコトン変態よね、知ってたけど」

男「ううっ…言い返せないのが、なんとも」

女「──あ、そうだ! いい機会だしさ、聞かせないさよちょっと!」ぐいっ

男「え、なに急に…」

女「本当のところ、アンタって変態のことどう思ってるワケ?」

男「は、はぁっ!? 本当になに急に!?」

女「なによ、変な感じね。友達友達行ってるけど、やっぱり怪しいのよね~うんうん」

男「まだ疑ってるって言いたいの…?」

女「当たり前でしょ」

男「だから、違う。俺とイケメンは友達だから、それ以上もそれ以下もないよ!」

女「なーんだ」

男「…最初はそんな仲じゃないかと怒ってたくせに、どうしたのさ」

女「あはは。確かにそうだったわね、ド変態共って怒ってたっけ、クスクス」

男「どういう心境の変化なんだよ…」

女「べっつに。ただ、あんた達って他から見ると──凄く安心できるのよね、なんかこう、支えあってるみたいな?」

男「支えあってる?」

女「うん。マジで人の字みたいな感じよ、見ててそう思うの」

男「…支えあってるか、いや、どうなんだろう」

女「なによ?」

男「確かに俺はコイツのお陰で…色々と大変なことも、面白いこともあったし」

男「俺も俺で──コイツに何かしてあげられたかなって、思ったりもするけど」

男「──俺はもうちょっと、イケメンのこと知れたらいいなって思う」

女「…なんかホモっぽいわよ、それ」

男「う、うるさいな! そう思ったんだから仕方ないだろ…!」

女「ふーん。じゃあアンタ的には、もう少しだけお互いに歩み寄れたら良いなとか思っちゃってるワケか」

男(…いや本当になに言ってるんだろう、俺)カァァ

女「じゃあ修学旅行でもっと仲良くなりなさいよ。三日間、一緒に過ごすんだから」

男「あ、うん。そうだ、その通りだと思う」

女「そしたら一つあたしに宣言しなさい。なにか目標を決めて、それを絶対にやりきるって」

男「…どういうこと?」

女「また文化祭の時みたいに、面倒臭い展開にならないように言ってるのよ」

女「──コイツに嘘はつかない、とか。正直に言っておく、とか。修学旅行中に何か目標を決めるってワケ」

男「……。目標…」

女「そしたら少しはマシに動けるんじゃない? アンタも思ってもないことで悩んだりするから」

男「…うん、じゃあ一つ決めた」

女「お。なになに?」

男「──絶対にイケメンのやつに好き勝手させないよう、見張っておく」

女「おーいい目標じゃない。任せたわよ、そして最終日確認するわよ?」

男「任せとけ。全力で阻止してみせる!」

女「ふふっ」

男「…ははっ」

女「っ──びっくりした、アンタの笑い顔初めて見た」

男「えっ?」

女「いっつも無情顔っていうか、小難しそうな表情ばっかしてるじゃない。だから、ちょっと意外ね」

女「好きよ、そういった表情方があたし的に」

男「えっ──あ、うん、……ありがと」

女「……。ばっ! 違うわよ今のは!? なに照れてるのよ!? なに顔を赤くしてるのよー! あんぽんたん!!」

男「だ、だってす、好きだなんて急に言うからさ…!」

女「っ~~!? だ、だって意外に笑い方可愛いなんて思って、だぁああああああ!!」

男「うわぁっ!?」


イケメン「うーんっ…むにゃむにゃ…」


女「うっ」ぱしっ

男「しぃー! 静かに…!」

女「…あたしも少し落ち着くわ。うん」

男「たった笑み一つで怒らないでくれよ…びっくりした」

女「な、なによ…じゃあアンタは普段から笑ってるとでも言いたいワケっ? 珍しくないと言えるワケ!?」

男「うっ、言われてみれば確かに……イケ友の奴にも、笑った所みたことないって言われた……」

女「でしょーが。誰だってそう思うの、だからあたしは変じゃない、全然変じゃないっ」

男「…わかりました、そう思っておきます」

女「だから、変態にも絶対に思われてるわよ、それ」

男「ああ、うん。コイツにも言われたことあるよ、君の満面な笑みは見たことがないって」

女「…でも、おかしいわね。単純な感情の一つなのに、アンタが笑うってことを皆気にしてる」

男「気にしてるのかな。まぁ気になってることは有り得るかもだけど…自分じゃ満面な笑みなんて分からないんだけど」

女「嬉しい事があったら笑うものでしょ。自然と心から笑えるものよ」

男「そっか…考えたこともなかった」

女「じゃあ今を感謝しなさい。笑えるってことは、幸せってことよ、きっとそれは大切なことに決まってるんだから」

男「大切なこと…」

男「ああ、うん、そうだな……きっと……それは、」チラリ


イケメン「すやすや…」

男「──コイツのお陰、なんだろうな…」ニコ



女「───………なんだ、出来るじゃない」

男「え? なに?」

女「なーんにも無いわよ、なによ、心配して損したわ」フリフリ

男「む。そんな言い方だと気になるだろ」

女「気にしない気にしない。さて、そろそろ良い時間ね──」

男「あ。気づけば空が真っ赤だ」

女「あたし達もう鞄用意してるから、あんたもさっさと教室に取りいってくれば」

男「あ、うん。わかった──あと、これ感謝の印」

コトリ コトリ

女「別に良いのに、ま、でもありがたく貰っておいて上げる」

男「うん。じゃあ行ってくる──」ガタ


スタスタ ガララ パタン


女「……」

イケメン「ぐー…」

女「…夕方で良かったわね」

女「眼つき悪男は気づいてなかったみたいだけど、」

女「──アンタ今、顔が真っ赤よ」



イケメン「っ…~~~~!!」カァァァ



女「どんだけ嬉しいのよ。アイツに感謝されてるって言われただけじゃない、ったく」

イケメン「…うるさい、ばか」モゾリ

女「はいはい。戻ってくる前に、さっさと調子戻して起きなさいよ。あ、ほらコレでも飲んで」コトリ

イケメン「……」チラリ

女「缶コーヒーですって。感謝の印だそうよ」

イケメン「──……ははっ」

女「? なによ、急に笑って、もうほんっと変態よねアンタ」

イケメン「ああ、そうかもな。オレは変態だよ……こんな缶コーヒー一個で、凄く嬉しいんだ」ギュッ

女「そ。良かったわね」

イケメン「──うん、本当に良かった」

 
本当に、良かった。


イケメン「………」


本当に、本当に。



~~修学旅行当日~~~


男「ううっ…胃が痛い…」

イケ友「ひっこうき! ひっこうき!」

イケメン「お、おおとととここっ! くん! 大丈夫かな!? この鉄の塊本当に浮くのかい!?」

男「大丈夫だってば。ちゃんと浮く、飛行機は浮くって」

イケ友「でも案外事故も多いらしいぜ?」

イケメン「あわあわわわわ」

男「…イケ友、本当にやめて」ドスッ

イケ友「あいて! なははー冗談だってのイケメン! つか、飛行機苦手とかウケルべ!」

イケメン「全然おもしろくない。笑える所まったくない」ガクガクガク

男「あ。ほらシートベルトつけろってさ、イケ友もそっち向いて──イケメンも早く、もうつけてる!」

イケメン「し、死んじゃうぞほら早く付けないと!」

男「死なないから、わかったから付けるって」カチャ

イケメン「ううっ…お願いがあるんだけど…手を握ってもいいかい…っ?」

男「やだ」

イケメン「うぉぉっ」

男「ったく、もーお前って本当に…」

ぎゅっ

イケメン「…う?」

男「手は握らない。また誤解されるの嫌だからな、だから、うん」

イケメン「…袖の端?」

男「そ、そうだ」


イケメン「………」じぃー

男(めっちゃ見られてる…)


男「…なにさ」


イケメン「ううん。なんでもないよ、ただ──」

イケメン「──君が友達で、本当に良かった」ニコ


男「……っ…ばか、そういったことを言うから誤解されるんだよ!」

イケメン「ああ、そうかもしれないな。ははっ」

キィイイイイイイイイン


男「あ、動き始めた」

イケメン「うん、そうだね」

男「あのさ、修学旅行……俺達、楽しめるかな」

イケメン「当たり前だよ。高校生活のビックイベント、楽しめないわけがない」

男「…うん。まぁそっか」コクリ

イケメン「ん?」

男「それがお前と俺の契約──だもんな」

イケメン「ああ、そうだね。それにもう一つだけ理由はあるよ」

男「え? なに?」

イケメン「あはは。それはね、男くん───」


イケメン「──オレが君の親友だから、だよ」

第十五話『オレと俺の突っ込み』



長らく続きましたが、これにて終わりです。
楽しく書けたのは支援と乙を下さった、皆様のお陰。


何時ぞやまた会えましたら。
質問があったら聞きますゆえに、 ではではノシ

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