勇者「この世界のやりこみ要素が多くて困る」 (82)

魔法使い「はぁ? あんたね、困ってる人を見てやりこみ要素って失礼だと思わないの?」

 勇者 「そうは言っても、毎日起きるたびに、村人たちがクエストを持って、僕の家に来るのは困るよ」

魔法使い「いいじゃない」
    「報酬はきちんともらえるんだから」

 勇者 「こんな調子じゃ、いつになったら引退出来るかわからないよ」

魔法使い「勇者として生まれたからには、その運命を全うしなくちゃ…」
    「そうでしょう?」

 勇者 「…僕が魔王を倒してから、何年経ったと思う?」

魔法使い「えーと…何年だったかしら…10年くらい?」

 勇者 「…1000年さ! 10世紀さ!」
    「…絶対におかしいだろ」

魔法使い「王様は言ってたわよ、『ラスボスを倒してからが、本番だ』って」
 勇者 「なんだよ、それ…」
魔法使い「それに、今は魔王のひ孫が新しく魔界の神殿に立て籠もってるし」
    「それを放ってはおけないでしょ?」
 勇者 「そのことなんだけど…。倒しても倒しても、なんで新しい魔王が出てくるのかな?」
    「それに魔王は倒す度に強くなってると思うんだ」
魔法使い「そうかしら? いつも同じ強さに感じるけど」
 勇者 「ほら、それがもうおかしいんだよ」
    「僕らが初めて魔王を倒したのがレベル45のとき」
    「でも今、僕達のレベルは350だ。それで同じ強さに感じるってことは……」
魔法使い「魔王が、わたしたちに応じて強くなってるってこと?」

更新遅くて悪い
書き溜めてないんでな……

 勇者 「そういうこと」
    「それとまだあるんだ」
魔法使い「うん」
 勇者 「僕らが良かれと思って引き受けている、村の人達からのクエスト」
    「これがどうにも怪しい」
魔法使い「どういうことよ?」
 勇者 「うまく説明出来ないんだけど…」
    「僕らが、クエストを引き受けることによって、新魔王が現れる気がするんだ」
魔法使い「そんなわけないでしょうが」
 勇者 「ううん…今回も、村人の家宝のペンダントが魔族に奪われたのを助けてさ」
    「そのあとに、村人のペットの犬がペンダントを誤って飲み込んで、それで有力魔族に覚醒」
    「そして、魔界の辺境にいた魔王の子孫を探しだして、神殿に立て籠もったんじゃないか」

なんかカキコすると空欄がズレるな…
読みにくくてスマソ

魔法使い「考え過ぎよ…」
    「大体、そうだとしても、村人のお願いを断る理由にはならないわ」

 勇者 「そうなんだけどさ…」

魔法使い「ほら、そんなこと考えててもしょうがないじゃない」
    「今日は王様に呼ばれてるんだし、戯言言ってないでさっさと準備する!」

 勇者 「…うん」



~王の間~


 
王「よく来たな、勇者よ」

 勇者 「どうも、お久しぶりです、王様」

魔法使い「こんにちは」

王「ふはは、お前たちの城下での活躍はワシも聞き及んでおるぞ」
 「村人たちの依頼を次々とこなしておるようじゃないか」

 勇者 「王様、この仕事は400年間やっていて、王様のそのセリフを聞くのも一万回目です」

王「はて、そうだったか」
 「まあ、いい。褒美に、15万G授けようぞ」

 勇者 「はぁ…」

魔法使い「それより王様、今日はなんの用なのよ?」

 王 「おう、そうじゃった。頼みというのは他でもない」
   「魔界の神殿に立て籠もっておる、魔王を倒して欲しいのじゃ」

 勇者 「はぁ…わかりました」
    「ですが条件があります」

 王 「…ふははははっ! 言うようになったじゃないか、勇者」
   「金か? 女か? それとも名声か? よいよい、なんでも好きなものをくれてやろう」

 勇者 「では、僕が魔王を倒した暁には、魔界の統治権を頂きたい」

 王 「……とうちけん? なんじゃそれは」

 勇者 「魔界を支配する権利です」

 王 「ふむぅ…。貴様、魔界に住みたいのか?」

 勇者 「まさか。ですが王様、初代魔王討伐から1000年間も放置して、魔界は荒れ放題」
    「然るべき支配を速やかに行えば、三人の魔王新政権の誕生を阻止出来たのではないか、と思います」

 王 「…難しいことはよくわからん。よかろう、魔王を貴様が倒したら、ごうち権というのをやろう」

 勇者 「…統治権です、王様」


~勇者の家~



魔法使い「どういうつもりよ、あんた?」

 勇者 「僕は引退したいんだ。そのためにも、まず一石を投じてみた」
    「魔界に秩序を作って、魔王政権が立ちにくい体制にしよう」

魔法使い「…魔物に話が通じるかしら?」

 勇者 「問題ないよ。魔王クラスの上級魔族には、きちんと言葉が通じるのは、やられるときにベラベラ喋る魔王で立証済みだし」
    「ピキーとか言ってる低級魔族には体で教えてやればいい」
    「何だったら滅ぼしてやってもいいしね、雑魚だからそんなに手間取らないと思うよ」

魔法使い「…意外と腹黒いわね、あんた」

 勇者 「でも、実際可能じゃないか」
    「キミの魔法には、一定レベル以下の魔物を一掃する対軍魔法がある」

魔法使い「そうだけど…。それはあまり使いたくないわね」

 勇者 「じゃあ体罰で躾けるかな」
    「まあ、そんなことは魔王を倒したあとで考えるとしよう」

魔法使い「そうね…」

過疎だな…

読んでるぞ頑張ってくれ


~武器屋~


 勇者 「一応、レベルアップストーンを100個くらい全装備に積んでおこうか」

魔法使い「そうね、念には念をってね…」

 勇者 「じゃあレベルアップストーン1000個で」

武器屋「あいよー。一千万Gになりまっせー」

 勇者 「はい」

――ティロティロティロリーン


武器屋「はいよ。革命の剣+1297と絶対防御の鎧+1521と……」

 勇者 「ありがとうございましたー」



~宿屋~


 勇者 「よし、今日はここでゆっくり休もうか」

魔法使い「あら、家には帰らないの?」

 勇者 「明日の朝一番には精霊の泉に行っておきたいしね」

魔法使い「それもそうね…」

――ガラガラっ…

宿屋「いらっしゃーい」

>>14
おう、ありがとう!


宿屋「あー、済まないね」
  「今日は混んでて、シングルが一部屋しか空いてないんだよ」

魔法使い「ええっ!? じゃあコイツと同じ部屋ってこと!?」

 勇者 「寝るのは別々の部屋だけど、一応同棲してるじゃん…」

魔法使い「はぁっ!? つけあがるのもいい加減にしなさいよ、わたしがあんたと同じ家に住んでるのは別に…」

宿屋「あら、わたしったらてっきりお二人さんは夫婦だと思っていたけど…」

魔法使い「夫婦じゃない!」

 勇者 「ま、まあ落ち着いてよ、魔法使い」
    「なんなら、僕は廊下で寝るし」

魔法使い「それは…ダメ」
    (勇者が外で寝てるのにわたしだけベッドになんて寝れないよ…)

 勇者 「同室でいいみたいですよ、宿屋さん!」

魔法使い「わたしの葛藤は無視!?」


~宿屋の一室~


 勇者 「すやすや…」

魔法使い「なによ…同じベッドで寝てるのに、すぐ寝ちゃって…」
    「ドキドキしてるわたしがバカみたいじゃない…」

 勇者 「魔法使い…むにゃむにゃ」

魔法使い「な、なに!? …て寝言か」
    「どんな夢見てんのよ、バカ」
    (寝てるときは、いつもの勇者みたいに無邪気な顔…)
    (だけど、今日の勇者はなんかおかしかった…)
    (いつもは何も深いことを考えずに魔物を倒すだけなのに…今日は…)

 勇者 「むにゃ……」

魔法使い「何を考えてるの、勇者?」

 勇者 「――終わりさ」

魔法使い「…! お、起きてたの!?」

 勇者 「ううん、今起きた」

魔法使い「そ、そう。起こしちゃってごめんなさいね」

 勇者 「魔法使いは、さ。この世界は何を持って終わりだと思う?」

魔法使い「え? 世界の、終わり?」

 勇者 「そう。世界の終わりだよ」
    「こんなにやり込み要素がたくさんつめ込まれた世界の終わり」

魔法使い「そんなの、わたしにわかるわけないでしょ!」

 勇者 「きっとね、終わらせないと終わらない、そう思うんだよ、僕は」
    「終わらせないと、ずっと戦い続けるようになるよ」
    「レベルアップストーンを積むように、村人のクエストを受けて」
    「レベルアップストーンを積むように、魔王を倒して、武器を得て」
    「そして、次に出てくる魔王を倒すためにレベルを上げる」
    「きっと、そうなるよ。そんな作業を永遠に繰り返すことになる」

魔法使い「そんな…そんな言い方ないわ、勇者!」
    「わたしたちは人間で、世界は人間で回っているの!」
    「そんな、機械仕掛けみたいな風に、なるわけないのよ」

 勇者 「どうかな? 千年間、何も変わらなかったんだ」
    「きっと、行動しなきゃ、何も変わらないよ」

魔法使い「……今日の勇者、へんよ」
    「うまく言えないけど…へん」

 勇者 「そうかな、疲れてるのかも」

魔法使い「…寝ましょ」

 勇者 「うん…そうだね…」


~精霊の洞窟~


 勇者 「よっと」ざしゅっ

魔法使い「えいっ」ポカッ

 勇者 「ここらへんは、雑魚ばっかりだな」
    「魔法使い、魔法使ってないよね?」

魔法使い「うん、大丈夫よ」
    「魔力消費はまだゼロ」

 勇者 「よし、このまま休みなしで泉まで行っちゃおうか」

魔法使い「いいわよ、パパっと行っちゃいましょう」



~精霊の泉~


 勇者 「魔法使い、天地の杖貸して」

魔法使い「はい」

 勇者 「よし、革命の剣と、天地の杖を精霊の泉につけて…」バシャっ


――ポワァアアアアア…


 勇者 「よし、蒼白く光ってるね」

魔法使い「えーと、何の効果があるんだったかしら?」

 勇者 「対魔攻撃に神属性の付与と、敵の補助魔法無効、そして会心率10%アップだよ」

魔法使い「そうだったわね」
    「よし、これで準備おーけーってわけ?」

 勇者 「うん」
    「魔界の神殿に行こう」

ちょっと飯食うから落ちます


~魔界の神殿 前~

――ポワンっ

魔法使い「ふぅ…ワープ魔法陣があったおかげで、宿屋がある街から神殿まではひとっ飛びね」

 勇者 「……」

魔法使い「どうしたの、勇者?」

 勇者 「…いや、この魔方陣、誰が書いたのか、と思ってね」
    「魔法使いが書いたわけじゃないだろ?」

魔法使い「それがどうかした?」

 勇者 「確か、旧魔王城の正門の前にもあったよな…この魔方陣」
    「妙だよな…。魔族と人間の魔法は根本的に違うから、この魔方陣を魔族が使うはずないし……」」

魔法使い「さ、ぶつぶつ言ってないで行くわよ!」

 勇者 「う、うん」


~魔界の神殿 内部~


 魔王 「誰も来ませんね、中ボス」

 中ボス「ふふふ、上級魔族とは停戦条約を結んでいる」
    「だから、ここに来るのは勇者一行だけだ」

 魔王 「こんな魔界の辺境に、勇者がわざわざ来るでしょうか?」

 中ボス「来るだろうな。アイツらは何故か魔王が立つたびに、どこからか情報を聞きつけ、すぐに討伐に来る」

 魔王 「それでは、きっと情報を人間界に流しているのは、上流魔族でしょう」
    「わたしたちが消えて、得をするのは魔界統一を目指す上級魔族しかいませんからね」

 中ボス「…? よくわからんが、とりあえず、勇者は来るだろう」

 魔王 「……はぁ」

――ガチャっ

 中ボス「ふふふ、噂をすればなんとやら、だ」
    「早速、勇者一行のお出ましだ!」

 勇者 「…ここか」

 中ボス「――魔王、補助頼むぜぃ! 先手必勝ァアアアア!」ざざっ


 魔王 「呪文詠唱…筋肉量二倍…体力二倍…」

 中ボス「くたばれぇえええええっ!」ぶんっ!

 勇者 「魔法使い! 魔王が補助呪文を詠唱してる!」

魔法使い「あら、――Save-breath」ポァアアア…

 魔王 「むぐっ!?」

魔法使い「魔王のくせに補助系? 変わってるわね」

 魔王 (口封じの魔法ですか!? しかし詠唱が速すぎる……っ!)

 勇者 「せいっ!」ずしゃっ!

 中ボス「グァアアアアアア!? 右腕がァアアアアア!」

 勇者 「魔法補助を前提にした特攻って…」
    「バカなのか?」

 中ボス「ァガッ! クソっ! オラァ!」ぶんっ

 勇者 「斧をバカみたいに振り回しても、当たらないよ?」
    「――ハァッ!」ずぶしゅっ

 中ボス「――ガッ……!」バタッ

 勇者 「…少し、雑魚過ぎないかな…?」


 勇者 「…ふぅ」

 魔王 「……」

魔法使い「あんた、本当に魔王?」

 魔王 「むぐっ! むがっ!」

魔法使い「あ、口封じの呪文解くの忘れてた…-reset」

 魔王 「ぷはぁっ! はぁっ、はぁっ!」

 勇者 「魔法使い、もしかして息吸えてなかったんじゃない?」

魔法使い「え、いや、鼻から吸えるはずだけど」

 勇者 「魔王、鼻ないよ?」

魔法使い「……あ」

 魔王 「殺さ、ないんですか?」

 勇者 「キミが本当の魔王かわからないからね」

 魔王 「私は、魔王ですよ?」

 勇者 「そうは言っても、まだ小さい男の子じゃないか」

 魔王 「こう見えて、200歳を超えています。あなたたちの倍以上は生きているんですよ?」

魔法使い「わたしたちはこう見えて、1000歳を超えてるわよ?」

 魔王 「……は? ご冗談を」
    「人間が、千年も生きられるはずがない」

 勇者 「……」

魔法使い「いや、現にわたしたち生きてるし。ね、勇者?」

 勇者 「……」

魔法使い「…勇者?」

 勇者 「…魔王、それについて詳しく教えてくれる?」

ちょっとだけ落ちるな


 魔王 「私には父親がいませんでした。きっと戦死でもしたのでしょう」

魔法使い「勇者、それって…」

 勇者 「……」コクン

 魔王 「どうかしましたか?」

 勇者 「い、いや、なんでも。続けて」

 魔王 「はい。それで、私は魔界の戦火が届かない辺境で、スライムの一族に育てられました」
 「スライムの一族は弱かった。それゆえに魔界での地位は低く、人間界に逃げ出した者たちもたくさんいました」
  「しかし、スライムは力を持たない代わりに、とても生命力がありました」

魔法使い「生命力? 低級魔法でも一撃ではじけ飛ぶじゃない」

 勇者 「…魔法使い」

魔法使い「あ…ごめんなさい」

 魔王 「いえ、いいんです。それがスライム一族の宿命みたいなものですから」
 「ですが、そのはじけ飛んだ破片…それらは長い時間をかけて集まり、再結晶します」
  「そして、もとの通り、記憶までも保持したまま転生することが出来るのです。それがスライム一族の強みです」


 魔王 「だから、スライム一族に伝わる伝説には、確からしさや説得力があります」
  「その前提でお聞きください」

 勇者 「うん」

魔法使い「わかったわ」

 魔王 「私に、特に良くしてくれたスライム…つまりは育ての親ですが、彼女が、150歳の僕の誕生日に教えてくれたことがあります」
 「その歳で丁度、スライム一族に加わってから100年経ち、正式に私がスライム一族の一人として認められました」
  「だから彼女は、私にスライム一族の悲願を教えてくれたのです」

 勇者 「悲願?」

 魔王 「はい、悲願」
 「それは、一族のみの繁栄でした」


魔法使い「一族『のみ』?」

 魔王 「はい、スライムはその寿命の長さ…一匹で5万年は生きますが…により、他の種が絶滅するまで生きながらえることが可能です」
    「それまでは、いかに虐げられようと、我慢し、いつか来るその日を夢見て辛酸を舐め続ける、そう決意しているようです」
    「そして、その悲願を達成するまでに一番重要なのが、他の種族の平均寿命です」
    「それがまとめられた資料を、拝見する機会があったのですが、人間の欄には80年と書かれていたはずです」

 勇者 「80…年?」

魔法使い「そんな…短すぎよ…」

 魔王 「いや、あなたたちが長生きし過ぎなんですよ」

 勇者 「そういうわけじゃないと思うな」
    「その証拠に、僕らが住む街で、寿命で死んだひとなんてここ1000年は一人もいないんだから」

魔法使い「そうね…魔王が倒れてから人間界は平和になったし、まず死んだ人がいないわ」

 魔王 「では、これはどういうことなんでしょう?」

 勇者 「そのスライム一族が住む場所に連れて行ってもらえるかな?」

 魔王 「いえ…それが……」
    「私を育ててくれたスライム一族は、滅んでしまっているのです」


 勇者 「滅んだ? スライムは不死身なんじゃなかったの?」

 魔王 「いえ…そうなのですが、ある日現れた鎧を着た軍隊に、いとも簡単に滅ぼされてしまいました」
     「あれは特殊魔法の類でしょうか? 軍隊が去ったあとは、家屋も森も全て真っ白な砂になっていました」
     「そのときに知りました……自分には特殊魔法が効かなかった。どうやら、私の身体は普通じゃないらしい、と」

 勇者 「魔法使い、全てを白い砂にする、そんな魔法知ってる?」

魔法使い「いえ…、知らないわ」
     「聞いたこともない。魔族独特のものじゃないかしら」

 魔王 「それは違いますよ」
     「あの軍隊は、確実に人間の軍でした」

 勇者 「…!?」

 魔王 「使っていた言語が、あなたたちと同じでしたからね」

 勇者 「それなら上流魔族も使うはずだよ!」

 魔王 「いいえ、上流魔族は教育により人語も話せますが、普段は彼らの言葉で話します」
     「それに相手は弱小と言っても戦場。さらに魔族相手に人語で接するのは考えにくいです」

 勇者 「……鎧を着てたんだっけ?」
     「なにか、紋章みたいなものはなかったかな?」

 魔王 「そうですね…確か…鷹…ファルコンの紋章だったような…」

魔法使い「それって…」


 勇者 「――ああ、うちの国の紋章だ……」


魔法使い「勇者、どういうことなの!?」

 勇者 「僕にもわからない…。第一、うちの国には僕達がいる」
     「軍隊なんて聞いたこともない!」
     「それに、ファルコンの紋章を刻んだ軍となると、考えられるのはひとつしかない」
     「国王直属軍だ」

魔法使い「ファルコンの紋章は、王家に関する者以外に刻むことはできない」
     「その規則のことを言ってるのね?」

 勇者 「うん…」
     「国王直属軍……聞いたこともない。いや、それよりも――」
     「なにが目的の軍なんだ?」

 魔王 「なにか、混乱されているようですが…」
     「これで僕の話は終わりです」
     「よって、もう用済みになりました」
     「殺さなくていいんですか?」

 勇者 「…うん、キミの話を信用するかしないかはまだ決めてないけど…」
     「僕は自分の国も信用出来なくなってきた」
     「もしかしたら、キミの力が必要になってくるかもしれない…」

 魔王 「ふふふ、話を聞いてると、そのようですね。わかりました」
     「しばらくはあなたたちの捕虜でいることにしましょう」

とりあえずここで、区切りがついたかな
第一章ってとこか

ちょっと休憩しまーす

>>43
頑張れー

>>44
ありがとー
意外と色んな人に読んでもらえてるみたいで嬉しいです


~王の間~

側近「王様、世界の更新を確認しました」
   「ルートβに移行」

 王 「…チッ。そう上手くはいかんか…」
    「さすがのワシも、《世界》が相手では手に余るわい…」



~魔界の都市~


 勇者 「吸血鬼の都市…」

魔法使い「こんな軽い変装でバレないのかしら?」

 魔王 「吸血鬼と人間は型が似ていますからね。ダミーの犬歯と、吸血鬼特有の香水をかけておけばバレないでしょう」

 勇者 「魔王はいいなぁ、変身の魔法が使えて」

 魔王 「スライム族が滅びたあとは、中ボスに会うまでは逃亡の生活でしたからね」

 勇者 「中ボス…アイツは、純正の魔物じゃないんだけど、知ってた?」

 魔王 「ええ、勿論。元は人間に使役されていた使い魔だったとか」

魔法使い「ペットよ。多分、見栄張ってたのね」

 魔王 「…ああ、そうだったのですか」

 勇者 「中ボスは、結局なにがしたかったの?」

 魔王 「人間への復讐、と言っていました」
     「私は、人間よりも上流魔族のほうがずっと厄介だと思っていましたが」
     「スライム一族の幻惑の呪文で私の魔王としての気配は、ごまかされていましたが、それがなくなってから苦労しましてね…」

魔法使い「大変だったのね…」

 魔王 「まあ自分のところに魔王の子孫を囲って、魔王政権を建てるのが、一番他の魔族に影響がありますからね」
    「三種の神器みたいなもんなんですよ、私は」


 勇者 「三種の神器ねぇ……」

魔法使い「ま、確かに魔法はわたしの足元にも及ばないしね、形だけみたいなもんでしょ、あんたは」

 魔王 「私が、励まされたりする流れだと思っていましたが、意外と冷たいんですね…」

魔法使い「簡単に同情されても嫌でしょ?」

 魔王 「まあ、そうですね…」
     「あ、そろそろですよ…」

 勇者 「例の関所?」

 魔王 「はい。現存しているスライム一族の集落に行くには、あの関所を通らなくてはいけません」

 勇者 「人間の寿命がいつから伸び始めたのか知るために、なんとしてでも、あの関所を通らなくちゃね…」

魔法使い「本当に通れるのかしら?」

 魔王 「まあ、私に任せてください」


~南の関所~

役人「通行手形がないと駄目だ」

 魔王 「…ダメでした」

 勇者 「おい!」

魔法使い「はぁ…無能ね、本当に」

 勇者 「出るのに通行手形がいるのに、入るのにはどうしたの?」

 魔王 「この都市は、深刻な人不足ですから、吸血鬼でしたら入国は誰でも可能なんです」
     「しかも審査は必要ありません」

 勇者 「人口流出を抑えるために、出国は規制してるわけだね」
     「魔法使い、近くにワープ魔法陣はある?」

魔法使い「…ないわね。一番近くで、神殿よ」

 勇者 「そうか…」
     「ま、今後のことはあとで考えるとして、宿屋で休もうか?」

魔法使い「そうね…。戦ったあとで、歩きっぱなしだし、疲れたわ」

 魔王 「じゃあ、あの大きな宿屋はどうです?」


~都市の宿屋~

宿屋「いらっしゃいませ!」

 勇者 「すごい大きいね」

魔法使い「ええ、まるでお城みたい」

宿屋「お客様はご家族様でよろしいですか?」

魔法使い「ご家族様って、ちょっと!」

 勇者 「――はい、そうです」

宿屋「わかりました、大部屋のほうに、案内させてもらいますね」

 勇者 「すみません」

魔法使い「なんで肯定しちゃうのよ!」こそこそっ

 勇者 「そっちのほうが安いでしょ?」こそこそっ

魔法使い「……もう、知らない!」

 魔王 「確認しておきますと、私が子供、ということでいいのでしょうか?」

魔法使い「こ、ここここ子供!?」
     「わたしと、勇者の子供…へへ…えへへ…」

 勇者 「バカなこと言ってないで早く行くよー」



~宿屋の一室~



宿屋「ご夕食は、午後6時から、一階ホールにてお待ちしております」
   「どうか、それまでごゆるりとお過ごしくださいませ」

魔法使い「うわぁ…部屋もゴージャスね」

 勇者 「そういえば、僕達、お金はあるのにこういうところって来たことなかったよね」

魔法使い「確かにそうね」
     「ふふふ、こういうのもたまにはいいんじゃない?」

 勇者 「そうだね」

さて、そろそろ寝ます
おーぷんは落ちにくいので、明日も書きますから、気が向いたら来てくださいね!


 宿屋 「ご夕食の準備が出来ました」

魔法使い「ふぅ、もうそんな時間?」

 魔王 「トランプで遊んでたらすぐですね」

 勇者 「頭脳系は魔王の全勝だったから、結局ババ抜きで落ち着いたのがなんとも解せないけどね」

 魔王 「私は頭ひとつで今日まで生きてこれたようなものですから」

 宿屋 「では、案内します」



~一階ホール~


 勇者 「すごい数の人だね」

魔法使い「人、というか吸血鬼なんだけど…」

 宿屋 「夕食の時間だけは、一階ホールのみ、一般の方々にも扉は開いていますからね」

 魔王 「通りで。宿泊客だけにしては、どうにも多いと思いましたよ」

 宿屋 「うちのディナーは、都市全体でも指折りの出来ですから」
 「まず、素材の鮮度に拘って、捌くことからお客様の前で、というスタンスでやっております」

魔法使い「えー、わたしグロテスクなのは無理なんですけど…」

 宿屋 「いえ、当然そのようなお客様もいらっしゃるのは心得ております」
 「苦手なお客様には、申し訳ありませんが、別室で待機していただいております」
  「別室では、厳選した豆のみを使った特上コーヒーを淹れますので、ごゆるりとお待ちください」

 勇者 「いつも魔物をなぎ倒してるのに、今更グロいの苦手とか言われてもなぁ…」

魔法使い「うるさいわね、食事のときに見るのと、戦場で見るのとじゃ、気分が違うのよ!」

 魔王 「私は、勇者さんと一緒に、捌くところを見ておきましょうか」

 勇者 「おーけー。じゃあ、魔法使いまたあとで」

魔法使い「…ふん! じゃあね!」くるっ

 勇者 「捌くって言っても、魚とかだろうしなぁ…」
 「魔法使いも見ていけばいいのに…」

更新して早々ですが、出かけます
多分帰りは夜になると思いますが『逃げてないよー』と言うために少しだけ更新しました
ではノシ


シェフ「レディースアンドジェントルメーン!」
    「本日はご来店アリガトゴザイマース!」

 勇者 「お、始まったみたいだね」

 シェフ「本日の具材はこちらデスッ!」カラカラカラ…

女の子「うぇ…ぐすっ……」

 勇者 「……え?」

 シェフ「見ての通り、新鮮そのものデース!」
  「本日は、この人間の子供を使った、ステーキデース!」ザシュッ

女の子「いやぁあああああああっ……ぁ…っ……」ピクピク

 勇者 「死ん…だ?」

客A「うまそうな、人間のメスだな」

客B「人間界のどこ産だろうな…?」

 魔王 「勇者さん、落ち着いてください。ここは吸血鬼の都市なんですよ?」
  「どこででも行われえいる一般的な料理です」

 勇者 「……そん…な…」


シェフ「セルフサービスなのデース!」
    「ワタシの前に一人ずつ並ぶデース!」

男の子「やだよぉおおおおおおママぁあああああああ!」

 シェフ「よいしょ」ザシュッ

男の子「ぐぁあああ…痛い痛い痛い痛い痛い…」

 シェフ「コイツは血を絞りマース!」
     「当店の自慢の、新鮮第一のワインはいかがデースか?」

客「ペロ……ほう、いい血だな」
  「どこ産だ?」

 シェフ「人間界の都の西の森で、のびやかに放牧された人間ネ!」
     「うまいのは当然ヨ!」

男の子「痛い痛い痛い痛いぃいいいいいい!」

客「ひゃっ…!」

 シェフ「おう、ソーリーね! 新鮮だから、まだ生きてるヨ!」
     「声帯切るから、ちょい待ちネ!」びしゅっ

男の子「ぐがっ!…ひぃ……ひぃ…ひぃ……」

 勇者 「…………」


 魔王 「こらえてくださいよ、勇者さん?」 
     「ここで、暴れたら私たちは終わりですからね」
     「僕は殺されて、あなたたちは骨の髄まで食べられてしまう」

 勇者 「…それはないよ。僕は強いからね」
     「コイツら程度の魔物なら、一振りで終わりだ」

 魔王 「勇者さん!」

 勇者 「大丈夫、やりはしないよ。冷静に考えたら、こんな光景反吐が出るほど見ていたんだ、僕は」
     「さっき僕が言ってた、魚を捌くこともそうだ。魚から見たら、こんな風に見えていたんだね」
     「ここで、僕が暴れたりしたら、僕は人間も全員殺さなくちゃいけなくなる」
     「平等って、そういうものだからね」

 魔王 「……勇者さん」

 勇者 「そういえば、まだ謝っていなかったね、魔王」

 魔王 「……?」

 勇者 「キミの仲間を殺してゴメン」


 魔王 「私に謝ってしまったら、あなたの理屈では全生物に謝らなくてはいけなくなりますよ?」

 勇者 「ははは、そうだね。…参ったな」

 魔王 「それに…私たちは、互いに利用しあっていただけですから」

 勇者 「……魔王。そうやって、自分の心を切り離して損得だけを考えるのは、やめたほうがいいよ」
  「まだ若いのに、さ」

 魔王 「……。あなた、本当に勇者ですか?」

 勇者 「…どうして?」

 魔王 「私が色々な魔族が聞き及んでいた勇者とは、どうにもかけ離れているようにならないのです」
  「私が聞いていた勇者という人物は、困っている者がいたら、魔族であれ助ける、そんな正義漢だったものですから」

 勇者 「…そうは見えないかな?」

 魔王 「……今の勇者さんでは、見えませんね」
  「あなたはたまに、酷く冷静に物事を判断する。魔法使いさんとかと話しているときの雰囲気とかけ離れてね」
   「何があなたをそうさせるんです?」

 勇者 「…わからないよ。ただ…」
 「僕が助けるたびに、人々が不幸になっていく気がするんだ」


シェフ「はーい、これまた活きが良い人間デース!」

女の子「うわぁあああんッ! ヒック…ぐずっ」

 勇者 「例えば、ここで、あの女の子を助けるために、あのシェフを殺すとする」

   「すると、宿屋の使用人たちが飛んでくるだろう?」
   「その人たちも、斬り殺す」
   「そうして、この都市を出るのに何十人と殺すことになるだろうね」
   「当然、その斬り殺した吸血鬼にも家族がいる。その家族たちは、ひどく人間を恨む」
   「そうして、吸血鬼の軍勢が、人間界に攻め入ってくるわけだ。たくさんの人間が死ぬ」

 魔王 「……それは考えすぎでは?」

 勇者 「ううん、違うんだよ、魔王」
 「あの中ボスが生まれたのも、本当に些細なことからだったんだ……」


 勇者 「中ボスが生まれたのはね、僕のせいなんだよ」

 魔王 「…どういうことですか?」

 勇者 「…ある日、村人からクエストを受けたんだ」
  「洞窟の奥にしか咲かない、血液が白くなる難病の特効薬になる薬草を取ってきてほしい、ってね」
   「勿論、僕と魔法使いは取りに行った」
   「依頼人の村人は、ある名家に勤めている使用人だったんだ。そして依頼人は難病に苦しんでいた名家の娘をその薬草で直したんだ」
   「娘は治った。僕達は家に達成感を得ながら、帰ったよ。丁度、そのあとみたいだったね、魔族の襲撃があったのは」

 魔王 「魔族の、襲撃?」

 勇者 「うん、上級魔族にとって変わろうとしていた中級魔族だった。彼らはその名家の家宝を狙っていた」
 「宝物庫を開ける鍵は、名家の娘の血液だった。正常なね。だから、彼らは娘の病気が治ったのを見てすぐに襲撃してきたのさ」

 勇者 「僕たちが駆けつけたのは魔族が見事、家宝のブレスレットを奪ったあとだった」

   「娘はとっくに殺されていて、依頼人までも殺されていた」
   「名家の主人とその夫人は、屋敷を捨て、逃げ出していた。そのあと、彼らがどうなったかは知らない」
  「僕達は、中級魔族たちを追って、ブレスレットを奪い返した」

   「それで、そのブレスレットはどうやら、魔界所縁のものらしかった。僕らは、神父で祓ってもらうことにしたんだ」
   「沈鬱な気持ちだったね、家までの道中は。僕も魔法使いも」
   「だけど、悪夢はそれだけでは終わらなかったんだ。教会で飼っていた犬が、神父が目を離した隙にブレスレットを飲み込んだんだ」
   「そうして、犬はブレスレットの力で、魔族に変化した。それが中ボスさ」

 魔王 「……」

 勇者 「もし僕たちが、薬草を取りに行くクエストを断っていたらなぁ、と思うよ」
  「屋敷の人間は、誰も死ななかったし、中ボスが魔界に行くまでの間に殺した人たちも、死なずに済んだだろうね」

   「僕たちが、関わると、単なる人助けが世界を巻き込んだ争乱に変わっていってしまうんだ」
   「1000年間、こんなことばっかりだったんだ」


 勇者 「だから、きっと、ここであの子たちを助けても、そうなると思うよ」

 魔王 「……どう言っていいかわかりませんが…辛い人生でしたね」

 勇者 「ははは、まったくだよ」
 「やっと気づいたんだよね、最近。目先の人助けじゃなくて、大きな人助けをしたほうがいいってことがさ」

 魔王 「なにか、野望があるのですか?」

 勇者 「うん。僕達がいなくても、平和な世界を作りたいんだよね。そろそろ引退したいってのもあるんだけど」

 魔王 「……そんなこと可能なんですかね」

 勇者 「わからない、でもとりあえずのところ、魔界を統一したいと思ってる」
 「そう思ってた矢先に、国王直属軍の謎とか人類の寿命伸びてる疑惑とかが出てきちゃったわけだけど…」

 魔王 「魔界の統一…の前に、それらの謎を解決しないといけませんね」


男の子「ぁっ…アアアアアアアアア…」

女の子「やだぁああああああ、いたぃ…いやぃよぉ…ぐぎぃいいいいいい!」

シェフ「さて、どんどん捌いていくデースよ!」

勇者「…出ようか」

魔王「はい…」


~待合室~


魔法使い「おっそーい!」

 勇者 「ごめんね」

魔法使い「ってアレ、夕食は?」

 魔王 「意外と混んでいましてね。魔法使いさんのみならず私達すら食べることが出来ませんでしたよ…」

魔法使い「そうだったの…。あれ、ということは?」

 勇者 「うん、今晩は飯抜きだね」ニコッ

魔法使い「ええええええええっ!?」

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