モバP「ありす・イン・アイドルワールド」 (63)

シンデレラガールズのSSです。読む人は以下を念頭に置いてください

・オリジナル設定あり
・前作との矛盾点があることもあるかも(時間の流れ的な物)
・メタ発言があるかも
・多分ロリる
・みくに○ん

前作の『モバP「杏のために飴はある』のありすにプロデューサー着任直後の話です。
ちなみに前回は小説のタイトルをパロりましたが今回は映画からパロりました



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397231343

P「ありすちゃん………遅いなぁ」

P「この時間に授業が終わると聞いてたから迎えに行くって言っていたのに、一向に出てくる気配がない」

P「心配になって校門まで来ちゃった、他の子供たちは普通に下校してるし………」

P「にしてもいいですねぇ小さい子は。なんかこう、初々しくて。可能性が感じられて」

P「ありすちゃんもきっと立派なアイドルに………ん? なんですか?」

P「え? この学校の教師? そうなんですかこんにちは。え? 私が誰だって? 父兄の方かと?」

P「いや違うんですけどね。ですけど一応保護者的な者ではありますよはい。決して怪しいものではありません」

P「え、事務室に来てほしい? ちょっと待ってください。何か勘違いされてませんか? ちょっと、触らないでくださいよ!」

P「ですからほんとに違うんです! この小学校に知人が居ましてその子の帰りを待ってるんです! ちょ、待って! 聞いてください!」

ありす「何をしているんですかプロデューサー」

P「ありすちゃん! いいところに来てくれました! 先生方に説明をお願いしたいんだけど………」

ありす「………」

P「ありすちゃん?」

ありす「すみません。その人と今から用事があるんです。離してもらっていいですか」

P「あ、はい。そういうことです。お騒がせしてしまってすみません。ありがとありすちゃん。いらない手間をかけさせちゃったみたいで」

ありす「謝らなくてもいいです。私も少し負い目を感じてますから」

P「何で? もしかして遅れたから? それなら別に気にしてないって」

ありす「違います。ありすちゃんと言われた時に一瞬「私をありすちゃんと呼ぶ人に知り合いはいません」と言いたいと思ってしまったからです」

P「おぉう………」

P「クール部署に転属されて早一週間………全然違いますね。キュート部署に居た時とは全然違いますよ」

ちひろ「そうなんですか。例えばどんな違いがありますか?」

P「やっぱり結構一人でも大丈夫みたいな自立した精神を持つ子が多い気がしますよ。さすが三つの部署の中で一番平均年齢が高いだけありますよ。生の神崎さんも拝めましたし」

ちひろ「蘭子ちゃんもあなたを「正しきを持つ下僕(いい人そう)」だって言ってましたよ。よかったですね」

P「下僕………? 下僕に正しいも何もあるのか………と言うより、この部署に来て真っ先に疑問に思ったことを言っていいですか?」

ちひろ「なんですか?」

P「ちひろさんってキュート部署の所属でしたよね? 何でクール部署にいるんですか?」

ちひろ「何を言ってるんですか。私は最初からクール部署の所属ですよ」

P「なるほど。ではキュート部署で見たちひろさんを今度から「ポルターガイストちひろ」と呼ぶことにします」

ちひろ「プロデューサーさん………入社当初と比べて随分と冗談を言うようになりましたね」

P「ほらー! 何でクール部署のあなたが入社当初の僕を知ってるんですか! やっぱりキュート部署のちひろさんじゃないですか!」

ちひろ「それはそうとありすちゃんとは仲良くなりましたか? あの子も杏ちゃんに負けず劣らず問題児ですから」

P「露骨に話を変えたのにキュート部署の事情を平然と………! それに関しては行き詰ってますよ。あの子、あの歳でいろいろと達観し過ぎじゃないですねぇ」

ちひろ「そう感じましたか?」

P「………いや、無理してるって感じもしました。なんかこう、無理して大人ぶってる感じ」

ちひろ「そうですか。そう感じましたか」

P「とりあえずあの子のプロデューサーになってまだ日は浅いですし。僕自身あの子のことを知ろうと思います」

ちひろ「ありすちゃんのところへ行くんですか?」

P「友好関係を築かなきゃいけませんから」

ありす「………」

P「ありすちゃん何してるの~? お、勉強? 偉いな」

ありす「名前で呼ばないでください」

P「あ、ごめん。にしても勉強かぁ。僕は勉強より外で遊ぶのが好きな子供だったからいつも勉強をしろって言われてたよ」

ありす「学生の本分は勉強ですよ。そんなんじゃダメですね」

P「ゴハっ。いや、小学生の時くらいハシャぎたいってのもあったし。そのころの夢はプロ野球選手だったから」

ありす「でも今はアイドルのプロデューサー。夢は叶わなかったんですね」

P「ぐあぁ。でもほら! アイドルのプロデューサーになってアイドルになりたい女の子たちの手助けをするって仕事だから。人の夢を手伝う仕事ってすごくやりがいがあるなぁ!」

ありす「なら早く歌の仕事がしたいです。期待してますよ」

P「ン………ンフ。それって、数学? いや、小学生だから算数かな? この問いの答えは、」

ありす「やめてください。勉強とはまず自分で解いてみることが大事なんです。わからなければその時聞きます。手伝いたいと思って先に答えを言ってしまうと自分タメにはなりませんから」

P「お、おぉう………そうだね」

ありす「………何でプロデューサーは私のところに来たんですか?」

P「ちょっと………話をしようかなって」

ありす「そうですか。ですけど宿題をしてますから無理です。今は集中したいので少しの間だけ待ってください。その間はプロデューサーは自分の仕事を頑張ってください」

P「あ、あぅ………」

ちひろ「論破されて帰って来たのですか?」

P「………ハイ」

ちひろ「小学生に言い負かされて帰って来たのですか?」

P「………正論ぶつけられました」

ちひろ「なっさけないですね~。いい大人が子ども相手に言い負けて、私に泣き言を言いに来るなんて。プロデューサーさんおいくつでしたっけ?」

P「もっと罵ってください。その方が気が晴れます。と言うより、あの子やっぱり僕のこと嫌いなんですかねぇ。なんかこう、意図的に仲良くされないようにしてる気がしてならないんですよ」

ちひろ「それはないでしょう。ただ論破されただけですよ」

ありす「論破するのは得意ですから」

P「うわびっくりした! 唐突に隣にいたからびっくりした! 勉強は終わったの?」

ちひろ「お疲れ様ですありすちゃん」

P「名前で呼ばないでください。あと、こんなところでしゃべってますけど、ちひろさんは仕事の方は大丈夫なんですか?」

ちひろ「う………」

P「ちひろさんも言い負かされてるじゃないですか」

ちひろ「別に、あと少しなので休憩ですよ休憩」

ありす「そうですか。で、プロデューサーは私に話があるんじゃないですか?」

P「別に何か用があるってわけじゃなくてちょっと話がしたいなって思っただけだよ」

ありす「………つまり特に用もなく勉強の邪魔をしたと」

P「ぐ、なんて可愛げのない子なんだ。じゃあ聞こう。何でありすって呼ばれたくないのさ?」

ありす「そんなの決まってます。みんな珍しい珍しいって言ってくるからです。中には変な名前と罵倒する人もいましたし」

P「ん。まあ確かに珍しい名前だよね」

ちひろ「しかもひらがなですからさらに拍車をかけてますよね」

ありす「だから呼ばれるのも嫌で、嫌いなんです自分の名前が。学校の先生にそう言っても親からもらった名前だから大事にしろって言うだけなんですよ。確かにそうなんですけど………」

ちひろ「それはそうですよ。自分の名前を嫌いになっちゃいけませんよ」

P「いや、自分の名前が嫌いなのは別に悪いことじゃないですよ。親からもらったにしろ、今は個人の物なんですからいろんな考え方がありますって」

ありす「プロデューサーは、名前を嫌うなとは言わないんですか?」

P「言わないって。嫌うんならそれでいい。でも君はアイドルだ。言わせてもらうけど、君がアイドル活動をするにあたってまずその名前をアピールポイントとして使わせてもらうことを念頭に置いておいてね」

ありす「話、聞いてたんですか? 私は名前が嫌いですし、歌や音楽の仕事を、」

P「僕がプロデューサーになった以上、君の方針は僕が決める! 君の魅力はその整った容姿は当然として、そのありすと言う稀有な名前。嫌いであろうとなかろうと、その名前は君のアイドルとしての魅力であり大きな武器だ。有効活用させてもらうよ」

ありす「魅力、ですか? そんなこと言われたことがありません」

P「魅力的だよ。とても君らしい」

ありす「魅力的、ですか。私の名前が魅力的………プロデューサー。今度から、ありすって呼んでもいいですよ」

P「何でいきなり?」

ありす「プロデューサーは私の名前を魅力的だと言ってくれました。ですけど私自身今までそんな風に思ったことがなかったのでどこがどう魅力的かいまいち分からなくて。ですけど魅力的と思ってくれる人に呼ばれると、少し嬉しい気がして………とにかく、名前がどう魅力的かどうか知るために呼んでもいいと言いました。別に嫌ならいいですよ」

P「………わかった。ありすって名前がどう魅力的なのかわかるまで君をありすちゃんと呼ぶことにするよ」

ありす「言っておきますけど、名前は嫌いなんですからね」

ちひろ「じゃあ私も呼ばせてもらいますねありすちゃん」

ありす「………どう魅力的か知るために呼んでもらうだけですから、ちひろさんは名前で呼ばなくてもいいですよ」

ちひろ「えぇー………」

>>8
P「名前で× ありす「名前で○

P「この前の一件で少し打ち解けたかもしれないけど、やっぱりうまくいかないのが現代の子なんだよねぇ」

ありす「プロデューサー! なんですかこれ!? 仕事とどういう関係があるんですか!」

P「いや何かの仕事に結びつくかーってのはわかんないけど、とりあえず可能性の追求。君のキャラクターの模索だよ」

ありす「だからと言って………何で猫耳があるんですか!」

P「いや、キュート時代の仲が良かったアイドルにかわいいって何だと思うって聞いたら「そんなの猫耳に決まってるにゃ!」って言われて布教活動と称して渡されたんだよそれを。僕が持ってるだけじゃ意味ないからこういう時に有効活用しないと」

ありす「何で私がつけなきゃいけないんですか!」

P「じゃあ、ありすちゃんは僕につけてほしいの? 嫌だよ」

ありす「そういうことを言ってるんじゃありません! 第一私は歌や音楽の仕事をしたいんです! 猫耳に関係性があると思えません。不必要です。そんなものをつけるなんておかしいです」

P「人によってはそうかもしれないけど、それは聞き捨てならないよ。猫耳をくれた子は、猫耳こそ自分を生かす道だって常日頃から着用して猫キャラを心がけている。その甲斐あって業界じゃ猫キャラ=その子ってイメージも付いてる。その子にとってのアイデンティティだ。まだ何も始まってない君が批判できることじゃないよ」

ありす「それは分かります。ですけど、私には必要ないと思うんです。その子はその子。私は私ですから。それにその子はキュート部署の所属で私はクール部署です。猫耳との親和性はないと思います」

P「うーん。結構いいこと言ったつもりなのに、まだ食い下がるか。まあ確かにあの子はキュート部署でも随一の魅力を持つ。けど、クールとは程遠いものがあるのも確か。あの子自体キュートを極限まで切り詰めた売り方をしてるしね。セクシーやチャーミングを魅せられてもかっこいいやクールは無理だ」

ありす「猫耳自体カワイイものと言ってるんでしたらクールな私には必要ないですね」

P「なら高峰のあは知ってるよね」

ありす「はい。アイドルの中でも特に歌唱力が評価されている、きってのシンガーアイドルと聞いてます」

P「その通り。彼女の歌唱力はアイドルの域を超えて評価されている。しかしそれでも彼女はアイドルだ。彼女自身、自分をアイドルと自覚して活動している」

ありす「何が言いたいんですか」

P「アイドルはまず見た目が大事だ。いくら歌唱力が良くてもアイドルとしてそれを怠ったらアイドル失格だ」

ありす「だから何が言いたいんですか」

P「言ってしまえば、ありすちゃんはこの写真を見て同じセリフを言えるかってことだよ!」

ありす「! なんですかこれ? のあさんが………猫耳?」

P「しかもメイド服。ネコミミメイドのブロマイドだ。しかもこの恰好でライブを行ったこともある。結果は、大反響の大盛況。多方面からいろんな意味で話題をかっさらったライブだったよ」

ありす「………」

P「高峰さんは歌や音楽を中心に活動している、いわば君の目標だ。だけど、彼女はアイドルとして本質も忘れていない。アイドルとはまず外見でファンを魅了しなくちゃいけない。君はクール部署に猫耳は不必要と言ったけど、それは大きな間違いだ。猫耳はかわいいだけにあらず、この写真を見て誰もがこう思うだろう。「かっこいい」って」

ありす「………」

P「わかったかい? 抵抗はあるかもしれないけど、こういう風に魅せるやり方もあるんだ。アイドルになった以上あんまり食わず嫌いはいけないよ」

ありす「………わかりました」

P「どこ行くの?」

ありす「宿題があるので、してきます」

P「行っちゃった………明らかに元気なかったよな。言いすぎた?」

のあさんの苗字は高峯よ

>>16以後気を付けます

ありす「ふぅ。これくらいですか」

P「宿題お疲れ様」

ありす「………」

P「なんだよぅ。そんなにむくれんなって」

ありす「いえ。別に怒ってるわけではありません。別に論破されて怒ってるわけじゃないんですよ」

P「根に持ってるのか………ところで勉強の後は疲れるよねー。うん、糖を欲してるはずだきっと」

ありす「なんですか?」

P「じゃじゃーん。イチゴのショートケーキ。三時のおやつにどうぞ」

ありす「これで私の機嫌よくしようというのですか? 別に怒ってないのにいちいち買いに行ってくるなんて」

P「いやいや、これ僕が作ったんだ。クール部署に変わってから作るのは初めてかな」

ありす「ケーキ作れたんですか?」

P「ケーキ問わずお菓子類なら大体は。キュート時代に師匠がいたからね」

ありす「じゃあ、せっかくなのでいただきます」

P「紅茶淹れてくるね。よし淹れた。ん?」

ありす『おいしい………ふぁ』

P「ありすちゃんがいつもからは想像できない蕩け顔でケーキを食べてる………しかもイチゴに手を付けず………まさか」

晴『帰ったぞー。ん? あ! ありす! 何でケーキ食べてるんだ!』

千枝『ほんとだー。ケーキなんてあったかな?』

雪美『………羨ましい』

P「年少組が帰って来た。やばいみんなケーキに釘付け………大丈夫だよ三人とも。ちゃんと君たちの分もあるから。えっと、手を洗ってきた子からあげるよ。ほら行った行った」

ありす「プロデューサー………おいしいですよこれ」

P「もしかしてありすちゃんって、イチゴが好きなの?」

ありす「別に、そういうわけじゃありません」

P「………いいこと思いついた」

後日

ありす「イチゴ狩りですか?」

P「そう。今日のレッスンはお休み。今からイチゴ狩りに出かけようと思う」

ありす「そんなことしててもいいんですか? 息抜きが理由なら別にいいですよ。まだ仕事と言う仕事をしてませんし」

P「違う違う。実は今もしかしたらひっくい確率だけどいい感じの仕事が入りそうでさ。レポーターの仕事。でもどんな感じかありすちゃん分からないだろうし、ちょっとした予行練習も兼ねてイチゴ狩りに行こうって言ってるのさ。これもいわゆるレッスンの一つだよ」

ありす「そう、ですか。レッスンなら仕方ありませんね。行きましょうイチゴ狩り! それで………私とプロデューサーの、二人きりで」

P「それは違うよ。そんな大人の男と二人で行くのも息苦しいものだろうと思って晴ちゃんと千枝ちゃんと雪美ちゃんの三人を誘ったんだ。担当のプロデューサーさんにも話してあるし、レッスンも兼ねて同年代の子と楽しくイチゴ狩りをしようってことさ。そしてあわよくば同年代の子に揉まれて感受性豊かな子になってもらおうって魂胆なんだけどね」

ありす「二人きりじゃないんですか………と言うより最後何か言いましたよね」

P「言ったけど気にするな。じゃあ行こう! 三人はすでに車のところで待ってるみたいだし………ん? まだ乗ってないじゃないか。鍵は開けてあるはずなのに」

晴『だーかーらー。オレが前に乗るんだ!』

千枝『私も前がいいよ! 前の方が酔いにくいっていうし』

雪美『………Pの隣』

ありす「何してるんですかあの三人は」

P「どうやら助手席の取り合いをしてるみたいだね。そんなに争うことなのかね」

ありす「皆さんプロデューサーの隣に座りたいんじゃないですか」

P「マジか。僕が子供に好かれる質とは思えないけど。でもこの前ケーキあげてからやたらとなつかれてるのも事実だしなぁ」

ありす「………わかりました。私があの三人に解決案を提案しましょう」

P「やってくれるの? 頼りになるなぁありすちゃんは」

ありす「論破は得意ですから。皆さん聞いてください。そんな言い争いをしても仕方ないですよ。そこで折衷案として運転するのは私のプロデューサーなので私が助手席に座るべきかと」

P「折衷案もクソもない第四勢力の投下………! あぁ、しかも言い争いが激化した………何で駐車場でどうでもいいお題の真剣10代しゃべり場が出来上がってんのさ」

P「はいとうちゃーく。みんな降りろー」

雪美「………いい景色だった」

P「雪美ちゃんご満悦だね。さすがじゃんけんで勝ち得た助手席。勝利のVサインに平和のピースだ」

雪美「………イチゴ、楽しみ」

P「そう言えば最初のケーキの時からずっと「イチゴ………食べたい…」って言ってたね。今日は存分に楽しみな」

雪美「………Pも一緒」

P「そうだね。で、後部座席の三人は………」

千枝「プロデューサーさん………私、少し酔っちゃったみたいです」

晴「聞いてくれよ! ありすずっとiPadいじってた! こんな時くらい我慢しろよ!」

ありす「いいじゃないですか別に。誰にも迷惑かけてません」

P「ずいぶんと混沌だったみたいだ。はいはいケンカしないケンカしない。えっと、今からルールを言うから。イチゴ狩りは一定時間食べ放題だけど、このビニールハウスだけで、他のビニールハウスのは食べちゃダメだからね。あと、トイレに行きたくなったらまず僕に一声かけてから行くように。以上。ほら解散! 楽しんできなさいうぁ!」

晴「何言ってんだよ! あんたも一緒に行こうぜ。一緒に食べようぜ」

P「わかった。わかったから引っ張るなって」

千枝「ハイ練乳ですプロデューサーさん」

P「ありがと。千枝ちゃんは気が利くなぁ。さて、肝心のありすちゃんは………どうせすっごいキラキラした目でイチゴを見てるんだろうな」

ありす「見てくださいプロデューサー! こんな大きなイチゴ! こんなに真っ赤なイチゴ! 私見たことがないですよ!」

P「予想以上に満喫してる………! あんなありすちゃん見たことねぇ………ん?」

雪美「P………あげる」

P「食べさせてくれるの? ありがと。んー………なんか、家族サービスしてるパパさんになった気分だ」

晴「にしてもまさかプロデューサがイチゴ狩りに連れて来てくれるなんてなー」

千枝「でも、少し悪い気もするかな」

晴「気にすんなって。オレたちのプロデューサーにも話通ってるし、楽しんでこいって言われてるじゃんか。いまは目一杯食おうぜ」

ありす「………三人は私のプロデューサーと仲がいいんですか?」

晴「ん? おう。あいつはよく休憩時間とかにサッカーの相手してくれるんだ」

千枝「私はお菓子作りを教えてもらってるよ。最初に食べたケーキが手作りだって聞いたときすごいって言ったら教えてくれるって」

ありす「そうですか………雪美さんは?」

雪美「心………繋がってる」

ありす「心ですか………そういえばプロデューサーはどこに?」

晴「そう言えば、いつの間にかいなくなったな」

ありす「探してきます。まったくプロデューサーは無断で私から離れて………いた。誰かとしゃべってる」

P『ハイ、ハイ。ありがとうございます』

ありす「何の話なんだろ………終わったみたい。プロデューサー」

P「ん? おぉありすちゃん。どうしたのさ? イチゴ狩りは楽しんでる?」

ありす「ハイ。おかげさまで」

P「うんうん結構結構。楽しんでるならいいことだ。横目に見てたけど、いつもより笑ってたしね」

ありす「笑って、ましたか?」

P「すっごい笑顔だったよ。いつもからは想像できないはしゃぎっぷりだったし。ありすちゃんの新しい魅力を発掘したってわけだ」

ありす「もう。からかわないでください!」

P「からかうもんか。子供っぽくてかわいかったよ」

ありす「子供っぽいって………仕方ないじゃないですか。子供だもん」

P「ん。素直が一番。ありすちゃんの笑顔はアイドルとしていい武器になるよ」

ありす「笑顔は………武器ですか。ねぇプロデューサー」

P「何?」

ありす「プロデューサーのこと、今度からPさんって呼んでもいいですか?」

P「………呼びたくなったの?」

ありす「別に、プロデューサーって呼ぶのが最初からやりづらかっただけです」

P「じゃあ、呼んでいいよ」

ありす「あ、頭をなでないでください………えへへ。それはそうと、今Pさんは誰と話してたんですか?」

P「ああ。今の人は………聞いてくれありすちゃん。仕事が決まった」

ありす「決まった? 決まったと言うとレポーターの仕事ですか?」

P「いや違う。実は僕自身も驚いてるんだ。まさかこんな、いきなりこんな仕事が舞い込んでくるなんて」

ありす「じゃあ、どんな仕事ですか?」

P「それが………」

ちひろ「ドラマですか!?」

P「そんなところです」

ちひろ「イチゴ狩りから帰ってきていきなり仕事取って来たーって報告を受けた時は驚きましたけど、一体何があってそんなことになったんですか?」

P「簡単に言えば、イチゴ狩りで知り合いと会いまして。その人、杏さんの関連で知り合ったんですけど今度するドラマの監督さんで子役に悩んでたらしいんですよ」

ちひろ「監督さんって、その監督する今度のドラマはその監督や脚本家だけでなくてスタッフや今決まってる俳優陣も超一流が揃ってる、話題性だけなら抜群のドラマですよね?」

P「ええ。でも子役のイメージと合わないって。かなり揉めてたらしくて、そのイメージとしてイチゴの似合う女の子らしいんです。あのイチゴ狩りのビニールハウスも撮影の舞台の一つらしくて、視察がてらプライベートで来てたみたいです」

ちひろ「一人でイチゴ狩りに来たんですか………」

P「そこでボクとばったり遭遇。ドラマの子役が決まらないって愚痴られたので「うちのありすどうです?」って冗談交じりに言ってみたら、イメージにぴったりと気に入ったみたいで。イチゴを食べるときの笑顔がグッドと」

ちひろ「決まっちゃったんですか」

P「まさに鶴の一声ですよ。まだ大した仕事もしてないのに、まさかこんなことになるなんて。運がいいってレベルじゃないですよ」

ちひろ「でもこれがうまくいけばランクRを飛び越えてランクSRの上位は確実ですよ」

P「そんなの他の要素に助けられてですよ。知名度は抜群に上がりますけど、まだトップアイドルとしての技量はありません」

ちひろ「でもこの仕事はものにしたいんですよね」

P「そうなんですけど………ありすちゃんは大丈夫なの?」

ありす「問題ありません。言われた仕事はこあ、こが、こなします」

P「………不安要素は大ってところですねちひろさん」

ちひろ「まあ、まだ新人ですし」

ありす「大丈夫でしゅよ………あれ?」

P「不安だ。とりあえず、ありすちゃんは明日から特別レッスンをしよう」

ありす「特別レッスンですか?」

P「ドラマに対してのレッスンはもとより、ありすちゃんは仕事場、現場慣れをしてなさすぎる。だから、他のアイドルの仕事にいくつか同行してもらうよ」

ありす「わかりました。ですが、他のアイドルと言うのは?」

P「それは目星をつけて………ん?」

晴「そんなの嫌だからなー!」

P「どうしたの晴ちゃん? そんな逃げてきたように」

晴「P………ちょっと付き合ってくれよ! 暇だろ!」

P「ちょ、引っ張らないでよ! 別に暇ってわけじゃ、」

晴「いいから!」

P「わかったって! 君は良く引っ張る子だな! とりあえず、明日から頑張ってねありすちゃーん!」

晴「よし、ここでいいよな」

P「いいよなって、近場の広い公園じゃん」

晴「だからいいんだろ。ほら、サッカーしようぜ!」

P「まあ、君に連れ出されたんならそれだけだけど。わかったよ」

晴「おういくぞ! 聞いてくれよP! オレのプロデューサー、オレにバニーガールを着ろって言うんだぜ! オレのキャラじゃあないって! Pもそう思うだろ!」

P「晴ちゃんのバニー姿かぁ。僕は見てみたいなぁ。晴ちゃんは普段かわいい恰好とかもしないしね」

晴「見たいのかよ! アンタもしかして………ロリコン?」

P「昔そんなこと言われた覚えがありますけど、なるほど。取ってきた仕事が気に喰わなくて憂さ晴らしに僕とサッカーね」

晴「いいだろ。オレのプロデューサーは歳とってるし、何より女だからな。アンタなら遠慮なくぶつけられるんだ!」

P「ぶつけること前提って………ずいぶんと乱暴者あ」

晴「ダッセー素被ったな! 前々から言おうと思ってたけど、Pって運動音痴なのか?」

P「ほほう。ボールがトモダチ寂しくないを合言葉にこの平成のタッキー&翼君と言われた天才イケメンストライカーに対し、あらぬ言葉を吐きかけてくるか。いいだろう。子供相手だから手加減してたけど、今から全力でやってあげるよ」

晴「なんかいろいろと間違ってないか」

P「間違っていても、もう晴ちゃんは僕からボールは取れないよ」

晴「はん。運動から遠ざかった大人から取れないなんて、あれ? 取れない!」

P「そんなものですかぁ晴くぅ~ん」

晴「この………! さっき言った天才ストライカーって本当なのか!」

P「ナチュラルにイケメンを取ったね。別に天才なんてもんじゃないけど休み時間とか体育の時のチーム分けじゃ「そっちにPいんじゃねーかズリー! ハンデくれよ!」って言われる程度には上手かったと思うよ」

晴「なんかわかる気がするのがいやだ………!」

P「………そうだ。晴ちゃんがもし僕からボールを取れたら君のプロデューサーに仕事のことをどうにかしてほしいって進言してあげるよ」

晴「ほんと!?」

P「ただし、僕が勝ったら素直に仕事を引き受けること。どうよ?」

晴「いいぜ。やってやる! くっ! この! 少しは手加減しろよ!」

P「手加減したら意味ないでしょーが。と言うより、そんなにバニー嫌なの?」

晴「嫌に決まってんだろ! こうなったら………おりゃ!」

P「ん、ちょ、お? うわぁ!」

晴「へっへーん! オレの勝ちだ!」

P「んーなわけないだろ! いきなりとびかかって押し倒しやがって! いつまで上に乗ってんだよ!」

晴「そっちが大人げないからだろ!」

P「だからって反則すんじゃねーよ。あーあーせっかくの一張羅が汚れちゃうよほんとに」

晴「だってよー。バニー嫌だし………」

P「………嫌だ嫌だって。ありすちゃんにも言ったけど、君はまだ新人アイドルで仕事を選べる立場でもないんだよ」

晴「でもよー」

P「だってもでもも………晴ちゃんは今度の仕事で一緒に出演する人を知ってるの?」

晴「しらねーよ。さっき言われたばっかりだからな」

P「バニーの仕事はたしか晴ちゃんが最後の枠で………クール枠からは三人。後の二人は高峯さんとヘレンさんだったかな」

晴「のあさんとヘレン!? あの二人!? クール部署の中でもかなり大人の部類じゃん」

P「言っとくけどなぁ。バニーガールなんてもともと大人っぽさの色気を前面に出すために作られた大人向けの衣服だ。今思うとカワイイよりセクシーが前提ってわけよ。まあ高峯さんもヘレンさんもクール部署どころか我がプロダクションきってのプロポーションだ。見栄えは確実。目を惹くものになるのは間違いなしだ。だけど、それ以前に彼女らと君とでは決定的に違うものがある」

晴「なんだよ」

P「彼女たちは自分の行うことに躊躇もなければ後悔も迷いもない。今回のバニーガールだって与えられたものを全うし、アイドルとして果たすべき仕事をするだろうね。けど君にはその姿勢がまるでない」

晴「だ、だってよぉ」

P「さっき言った通り、バニーガールは大人っぽさを前面に押し出した衣服だ。言っちゃうと君に色気も大人っぽさもなければ少女らしさも少々難がある」

晴「ひどい言いようだ。オレだってこんな仕事したくないし」

P「そう思うかもしれない。でも君は選ばれた。おそらく大人っぽさの中に君のような少女のバニー姿に需要があるのはもちろんのこと。君の言うロリコン受けは確かにあると思う。しかし、この仕事に選ばれたのは君の将来の可能性を見出したものでもあるだろうね」

晴「可能性?」

P「そう。晴ちゃんは将来きっと彼女たちのようなきれいな女性になるだろうね。だからこの仕事は君にとって大きな経験となると思う。それに高峯さんとヘレンさんから学ぶべきものもたくさんあるし、この仕事は受けるべきだ。きっと次の仕事に繋がるよ」

晴「でも………カッコイイアイドルの方が」

P「バニーだって着方次第で………まあのあさんくらいかカッコいいって言われるのは。やっぱり納得してくれないか。だったら」

晴「何? これ、拓海さん?」

P「向井さんの写真。我がプロダクションの中でもその性格と恰好からカッコいい路線の似合うアイドルの一人だろうな。他には木村さんとか兵藤さんあたりがいるけど、まあ向井さんはその一人だ」

晴「確かに、何かこう、強そうって感じだよな」

P「しかーし。彼女の歩む道は険しいものだった。請け負った仕事は大きいものだったが、子供向け番組の料理コーナーだった。その時のたくみんスマイルは今でも伝説として語り継がれるほどのものだ。ほら、動画サイトにもあげられてるよ」

晴「うわぁ………やっぱり、アイドルはこういう路線ばっかりなのかよ」

P「まあ最後まで話を聞きなって。彼女の場合。そのキャラから一回そういった仕事をさせるべきだって思われたんだろうね。でも、ちゃんと正当な道を歩んでいるよ。ほら、この以前のひな祭りの仕事、彼女だって納得のできる、カッコイイ仕事を勝ち取ることができた」

晴「ほんとだ………カッコイイな」

P「彼女だってカワイイ恰好をしたいなんて思ってなかったさ。でもそれも乗り越えて、きちんとこういう仕事もやってる。誰でも通る道だよ。君もきっと、向井さんみたいに頑張ればなれるよ」

晴「オレも………こんな風になれるのか。だったら、少し頑張ってみるかな」

P「おう頑張れがんばれ。僕は応援してるからね」

晴「頭撫でるなって! うぅ………やっぱりなんか決心がつかない! もう一回だ! もう一回勝負! 今度の勝負で決心をつける!」

P「いいよ。何回だって相手をしてあげるさ。君が迷ったときはいつだってね」

晴「………っ!」

P「似合うじゃん晴ちゃん。ええとっても」

晴「オレはアンタに負けて、アンタの言葉を信じて、この仕事に取り組もうとした。だけど、なんでPが付き添いなんだ! オレのプロデューサーはどうしたんだ!」

P「どうやら千枝ちゃんと雪美ちゃんの仕事で忙しいみたいで、ありすちゃんの同行を頼みに行ったときにその間面倒を見てくれと頼まれたんだ。ほら、ありすちゃんも物陰に隠れてないで出てきなって」

ありす「Pさん………私は仕事に同行するだけじゃなかったんじゃないですか?」

P「何言ってんのさ。見学だけで仕事の度胸がつくと思ってんの? 無理言って衣装も借りたんだし、そのまま衣装で今日は過ごしてもらうよ」

ありす「そんなの聞いてないです! ふざけないでください!」

P「そんなこと言って~。着替えてるみたいじゃん」

ありす「それは、Pさんが見てみたいって言ったから………」

P「じゃあ見せてよ。そんな物陰に隠れてないで今の君を見せてよ」

ありす「言い方がいやらしい………!」

P「え、そう。なら上品に………君の姿を瞳に映したい」

ありす「気持ちわるい」

P「あれ?」

晴「ええいまどろっこしい! ありす! オレも覚悟決めてこんな恰好Pにさらしてるんだ! お前も着たんなら往生しろ!」

ありす「ちょっと、引っ張らないでください! わぁ!」

P「ん? おお~。ありすちゃんもいい感じだ」

ありす「Pさん………あまり見ないでください。恥ずかしいです」

P「うーん。その恥ずかしさに勝て! それでこそアイドルだ! それに今の君は魅力的だ! 恥じることはない」

ありす「魅力的………ですか。えへへ」

晴「何Pに褒められて鼻の下伸ばしてるんだよ!」

ありす「下品な言い方は辞めてください。言っときますけどあなたにだけは言われたくありません」

晴「なんだとー!」

P「ケンカするほど仲がいい。仲良きことは美しい。ついでにツーショット写真とっとこ。パシャ」

二人「やめて!」

P「さぁて。ドラマの撮影も始まって。こうして事務所に来るのも久しく感じでしょありすちゃん。そう言えば晴ちゃんはバニーの仕事の後に疾風のストライカーって仕事を取れたみたいだよ」

ありす「なんですかそれ?」

P「まあ元気いっぱい走り回って、最終的に靴の性能とかデカデカとテロップを出す………靴のCMだね。嬉しがってたなぁいい仕事だって。ありすちゃんは調子どうよ?」

ありす「忙しくて宿題をする暇もなくて困ってますよ」

P「仕方ないさ。でもきちんと時間の合間合間に片付けてるんだから偉いもんだよ。文句の一つもなしに。僕なら文句を言うね」

ありす「自信満々に言うセリフじゃないですね。じゃあ文句を言わずに頑張ってください」

P「さすがに社会人になった今文句は言ってもやることはしっかりするよ。よっこいしょと」

ありす「どこに行くんですか?」

P「千枝ちゃんとお菓子教室をするんだ。最近ありすちゃんの仕事で忙しいから久しぶりなんだよ。だからちょっと特別なメニューを教えてあげようと思っててさ」

ありす「………私も宿題が終わった後でそちらに行きます」

P「お、お菓子作りに興味出た? あの子もボクと先生が作ってる時に混ざって来たからなぁ。なんだか懐かしい感じだ」

ありす「あの子?」

P「何でもありません。あとドラマのことに関してだけど、もうちょっと活発な感じの方がいいと思うよ。ちょっといたずらっ子な感じの役だから。慣れてないのは仕方ないけど、もう少し崩す感じでって言われたからね」

ありす「………努力します」

千枝「あ、Pさん!」

P「早いね千枝ちゃん。もうエプロンに着替えてるんだ」

千枝「はい。すっごい楽しみにしてたんですよ」

P「僕もだよ。それにほら、エプロンを新調してさ。やる気が出るってもんよ。じゃあ始めんぞー」

千枝「………Pさん。ちょっと相談したいことがあるんですけど」

P「ん? 相談事? 自分のプロデューサーじゃなくて僕に?」

千枝「私のプロデューサーさんにも聞いたんですけど、このことはPさんに聞いた方がいいって言われて」

P「僕に聞いた方がいい?」

千枝「………悪い子になるにはどうしたらいいでしょうか?」

P「つまり………僕は悪い大人に見えるってこと? そりゃ昔は悪ガキだったかもしんないけど………子供に悪影響を及ぼさない程度にはいい子になったはずだけど」

千枝「ち、違います! プロデューサーさんが言ってたのもありますけど、晴ちゃんも「あいつは昔やんちゃだって言ってた」って言ってたので」

P「別にそんな悪い子って言われるほどじゃ………もしかして今度のデビリッシュゴシックの?」

千枝「………みんな言うんです。千枝は悪い子にはなれないって」

P「そりゃ悪い子にならないほうがいいけど………仕事なら仕方ない。つっても何を教えればいいか………」

ありす「宿題終わったので見学に来ました」

P「あ、そうだ。ありすちゃん。ありすちゃんの思う悪い子ってどんなイメージ?」

ありす「何ですかいきなり?」

P「じゃあ悪い子を演じる仕事が来たら、どんなことをする」

ありす「どんなことって………人の話を聞かずにずっとタブレットでゲームをします」

P「千枝ちゃん。これが悪い例だ」

ありす「え?」

千枝「人の話を聞かないのは悪いことですよね?」

ありす「その前になんですか? いきなり悪い例と言われるのは心外です」

P「ありすちゃんも今度の役柄はちょっといたずらっ気が入った子だから即座になんて答えるかって思ったけど、いいかい君たち! 悪い子、ここではいたずらっ子と同義としておこう。悪い子にとって何が大事か。僕の独断で言ってしまえば第一に「他人に迷惑をかけること」だ」

千枝「………そうかもしれないですけど」

P「しかし言い換えよう。他人に迷惑をかけるということは関わりを自分から作ることであり他人から注目されること。だから悪い子とは人の目につきやすい! ある意味「悪い子系アイドル」も悪くないな」

ありす「そういうのは世間的に小悪魔系と言うんじゃないでしょうか?」

P「しかしありすちゃん! 君の言う悪い子はタブレットをカチカチすることなのか? 違う。それじゃただ集中してるだけ迷惑をかけるもない。だけど迷惑をかけるといっても限度がある。迷惑をかけるうえで大事なのは許してもらえる範疇を理解することだ。まあいたずらして許してもらえるのが子どもの特権ってやつ。そこ道の人は………小関さんあたりかな?」

千枝「麗奈ちゃんですか?」

P「あの子はいたずら好きのキャラで親しまれてるけど、あの子のいたずらは結構許されてるね。誤爆多いからいろんな意味で愛されキャラだし。でもいたずらっ子には真骨頂がある。これこそが小悪魔系でも何でも長年愛されてる理由だ」

ありす「またPさんの変な偏見な考えですか?」

P「まあ聞きなって。言ってしまえば、人に迷惑をかける子ってのは逆に言えば人に見てもらいたい、かまってもらいたいという寂しがり屋さんなんだ。手を付けられないいたずらっ子には秘密がある。実は孤独を感じ誰かに見てもらいたいという寂しさからくる自己主張のためにいたずらをする。僕は一人じゃない。一人じゃないと言い聞かせる。うん、泣ける話だね」

二人「………」

P「と言うわけで僕の悪い子教室はおしまいって、あれ? 何二人とも黙って」

千枝「いえ、結局のところ………」

ありす「長いので要点だけ言ってください」

P「あー………簡単に悪い子を演じるならとりあえず人にちょっかいをかけること。作業の邪魔をするとかでも、程度によっちゃ全然大丈夫。自分が子供であることを生かして「許されるいたずら」をすることが悪い子として大事なことかな」

千枝「作業の邪魔ですか………」

P「ん? 何さ千枝ちゃん? いきなり僕とキッチンの間に入ってきて」

千枝「………私、お菓子作りしてるPさんの邪魔をしてますよね? 悪い子ですか?」

P「!?」

ありす「………Pさん?」

P「何この子? 別の意味で子供の特権使って来た………! やばい。おどおどしながら勇気を振り絞ったように頬を赤らめて慣れない行動をして、なおかつ密着しながらうしろ向きの下からのアングル………! 魔性………! 別の意味で悪い子かもしれない………!」

千枝「………どうしたんですか?」

P「違います杏さん。僕はロリコンじゃないですそんな目で見ないで………あ、ゴホン。それじゃあ悪い子とは言えないかな。かわいさが勝ちすぎてる。むしろ全面的に許しちゃう人の方が多いと思うよ。うん」

千枝「そう、ですか」

P「でも目の付け所は悪くないよ。いろんな意味で悪い子だったし………僕の言ったことを守りさえすればいい結果にはつながるはず」

千枝「許されるいたずら………ありがとうございます! 頑張ってみます!」

P「頑張れがんばれ応援してるよ。じゃあお菓子作り再開しよか。ありすちゃんもやってみる?」

ありす「………」

千枝「ありすちゃん?」

ありす「例えば私がここで大音量のゲームをしてるじゃないですか」

P「え、うん」

ありす「それが私のいたずらでお菓子作りをしてるPさんに構ってほしい意思表現だったとします。ですけど、それはいたずらとして認識されるんですか?」

P「え………どうだろう」

ありす「言ってしまうと、大衆の認識が大事だと思うんです。Pさんの言う通り寂しいからいたずらをするというのも一つの考えですけど、それはあくまで客観的な見方であって当事者になって、いたずらをされる側になってみると認識の仕方が変わるのではないかと」

P「おう………」

ありす「ただ「許されるいたずら」と言うだけではあまりにも不明確だと思います。他にも、」

P「わかった。わかったよ。確かに僕の考えには穴があった。それは認める」

ありす「その上で私の考えを言いたいんですけど、」

千枝「お菓子作り始まらない………もしかしてこれがありすちゃんのPさんを困らせるいたずらなのかな?」

P「ふぅ。ドラマの撮影も佳境に入ってさらに忙しくなってきました。こうして事務所に来るのも久しく………ん?」

雪美「これ………重い………パフェ………」

P「大丈夫? 危ないからやっぱり僕が持つよ」

雪美「大丈夫………Pは………座ってるだけで………いい」

P「雪美ちゃん………」

ありす「何やってるんですか?」

P「ありりん! おはよう。いや、雪美ちゃんが今度メイドの仕事があるらしくておもてなしの心を学びたいって言って僕に泣きついてきたんだよ。なんか年少組の相談多いなー」

ありす「ありりんはやめてください」

P「そう言えばさ。千枝ちゃんマーチングメジャーの仕事取ったらしいよ。デビリッシュゴシックの仕事で年少組としては大人っぽさが垣間見えたのかリーダーポジションだって。これは負けてられないねありりん」

ありす「ありりん言わないでください」

雪美「………あ」

ありす「! 体勢が、」

P「あぶなーい!」

雪美「………大丈夫」

P「うおぉおおおおおおお!?」

ありす「飛び出した勢いでそのままデスクに突っ込んだ!? 大丈夫ですか!?」

雪美「P………! 大丈夫………?」

P「うぅ、大丈夫。お母さんに産んでもらったこの体の頑丈さが僕の取り柄の一つさ。それよりも華奢で、きれいな雪美ちゃんの体にけがの一つでもされたら………君のプロデューサーに殺されちゃう」

雪美「P………」

P「雪美ちゃん」

ありす「なんですかこの茶番。と言うよりPさんってそんなキャラでしたっけ?」

P「別にちっちゃい子に合わせて楽しいお兄さんって感じをしてるだけだよ。根はすごい真面目だよ」

ありす「言っときますけどすごいバカっぽいですよ」

P「え?」

雪美「P………パフェ………運んだ」

P「ん。よしよし。じゃあ一回休憩ね。ありすちゃんも来たことだしみんなでおやつにしよう。イチゴパフェだ」

ありす「イチゴ! しょうがないですね。御呼ばれします」

P「じゃあ手を洗ってきな。雪美ちゃんも座って座って」

雪美「P………ご褒美に………」

P「ご褒美?」

雪美「メイド………仕事………ギブ&………テイク」

P「またちゃっかりしてるな。ご褒美って何してほしいの?」

雪美「膝の上………乗せて………一緒に食べる」

P「ん? いいよ。ほら来な」

雪美「頭………撫でて」

P「はいはい。超いい子いい子」

ありす「洗ってきました………ん?」

P「じゃあ座って。食べよう」

ありす「………」

P「とりあえず。ドラマの仕事は無事すべて終えました。スタッフの人たちとも打ち上げはしたけど。今日は僕とありすちゃん二人の食事会ってことで。カンパーイ。じゃんじゃん食べなさい。今日は奮発するよ」

ありす「言われなくても遠慮なく。すみません。イチゴと名の付くメニューをすべて注文したいんですけど」

P「デザートは食後にしようよ。楽しみにとっておこうよ」

ありす「ですけど、せっかくの食事に誘ってもらったので」

P「成長期って言ってもアイドルなんだからある程度は考えて食べなくちゃ。すみませーん。マンボウのから揚げください」

ありす「じゃあ私はミックスグリルのCセットで」

P「『ミック』スグリルかぁ。猫耳くれたあの子は元気かなぁ」

ありす「何の話です?」

P「こっちの話だ。しっかし、こんな短期間で、しかも段階を踏まずにランクSRの17になっちゃうなんてね。雪美ちゃんもメイドの仕事やってかしずくよりかしずかれる方が向いてるってことでプチ・マドモアゼルの仕事取ってたし。同年代は全員ランクSRに到達したね。君はまだ知名度だけの実力が伴わないものだけど、ほんとにありすちゃんはアイドルの申し子かもしんないな」

ありす「ありがとうございます。ですけどここまで頑張れたのはPさんが頑張ってくれたからです。私はPさんを信じただけですから」

P「言ってくれるねぇ。最初のつんけんしてたころに比べたらほんとに素直になったもんだ」

ありす「それは………! 忘れてください」

P「ふふ。それと次の仕事のことなんだけど、どうやら世間様はありすちゃんを完全にイチゴ大好きキャラとして認知したらしい。そこで今の君にあったおあつらえ向きのものがあった」

ありす「イチゴの、おあつらえ向きですか」

P「チャレンジクッキング。我がプロダクションが主体のテレビ番組のコーナーの一つで、部署から何人か出演して料理をしてもらうんだけど。ありすちゃんはイタリア料理を作ってもらう」

ありす「………イチゴとどう関係があるんですか?」

P「いくつか料理と作ってもらって。その中で一つイチゴの料理を作ってもらいたいんだ。イチゴアイドルとしてきっとファンのみんなもそれを望んでるはずなんだ!」

ありす「わかりました。じゃあさっそく家に帰ったらレシピを考えます」

P「いいやる気だ」

後日

P「へ? 味見?」

ありす「はい。今度のチャレンジクッキング。いくつか料理を作ってみました。でも、まだ他の人に食べてもらったことがないので、Pさんに味を見てもらいたいんです」

P「ほー。作ってみたんだ。いいね。ぜひごちそうになりたいよ」

ありす「でしたら、今日の仕事が終わった後私の家に来てください。それまでに用意しておきますから」

P「でも、少し遅くなるかもよ。親御さんに迷惑じゃない?」

ありす「それは大丈夫です。では、今日の夜に」

P「お、おう。で、今家の前だけど………でっかい家だなぁ。やっぱありすちゃんって育ちがいいのか………とりあえずインターホンを」

ありす「入っていいですよ」

P「うわぁびっくした! インターホン鳴らす前に出てきた! あ、こんばんわ。お邪魔してもいいのかな?」

ありす「今言った通りです」

P「じゃあ………親御さんに挨拶したいんだけど」

ありす「両親なら………いません」

P「え?」

ありす「入ってください」

P「お邪魔します………ゴミ箱に、大量の弁当のごみ?」

ありす「ウチの両親は家にいることがほとんどないんです。二人とも仕事が忙しくて。父に至っては海外に。母の料理ももうずいぶん食べてません。ですから、こうして私以外が食卓に座るのも久しぶりです」

P「………」

ありす「いらない話でしたね。待っててください。今料理を運んできます」

P「ありすちゃんにそんな事情が。もしかして、それも自分の名前を好きになれない理由なのか」

ありす「お待たせしました。一品目です」

P「お、ピザ? これまた難しい料理を。トマトの色がこれまた。いただきまーす………っ!?」

ありす「どうですか?」

P「………これ、何?」

ありす「イチゴピザです」

P「トマトじゃないのー!?」

ありす「じゃあ次の品も行ってみましょう」

P「牛肉をトマトソースで煮込んだのか。これまた………甘っ!?」

ありす「牛肉のイチゴソース煮込みです」

P「イチゴ100%!?」

ありす「最後に………これを」

P「ずいぶんとピンク色のパスタだね………」

ありす「イチゴパスタです」

P「ストロベリーパニックじゃないかー! イチゴ多すぎ!」

ありす「大丈夫です。布陣は完璧。橘流イタリアンに死角はありません」

P「橘流イタリアンに死角はなくても食べる側に死格が与えられるものだよこれは。と言うより、これは却下! ダメ没!」

ありす「何でですか!? こんなにおいしいのに!?」

P「ダメなものはダメ! 口ン中赤くなっちゃうよこれじゃ!」

ありす「ダメって言うのはPさんだけです! 他の人はおいしいって言うと思います!」

P「いーや言わないね! だったらこうする? 事務所の誰かに食べてもらって、その人がおいしいって言ったらこれを番組で作っていいよ。ただしダメなら僕の言うものを作る。いいね?」

ありす「いいーですよ望むところです! その鼻っ柱折ってあげます!」

ありす「誰もいませんね」

P「何でこういう時に限って事務所に誰もいなんだよ。ちひろさんに食べてもらおうと思ったのに」

ありす「全くですよ。この手のイチゴパスタを持ち続けるのも疲れてきました」

P「何で見た目が一番艶めかしいそれを選んじゃうかな。と言うより何で僕たちは物陰に隠れてるの?」

ありす「Pさんが隠れようって言ったんじゃないですか?」

P「え?」

ありす「ん? 誰か来ましたよ」

P「来ちゃったかぁ。この塗装された小麦粉のお供え物を食す勇気ある者が………んん?」

巴『なんじゃ。誰もいないんか』

P「ぶわぁ! 村上さん!? 何でクール部署に?」

ありす「誰ですかあの人」

P「パッション部署の子だよ。他の部署だからってアイドルの子たちの顔ぐらいは覚えてるよ」

ありす「そうですか。他の部署なら公平な意見を聞けそうですね」

P「待つんだ。聞けばあの子は極道の娘。しかも根っこからの筋金入りの任侠肌。きっと甘いものなんてクソッたれと言うに違いない。もしあの子の機嫌を損ねてみろ。お手軽な湾に沈されるか、美しいの森の栄養分にされるかもしれないんだぞ」

ありす「映画の見すぎです。でしたらPさんはここで待っててください。私だけで」

P「待て! ほんとに待て。あの子はクール部署の子じゃないんだ。変なもん食わしやがってと言ってくるかもしれない。変なもめごとは避けたいんだ。僕が渡してくる。君はここで待ってるんだ」

ありす「何でですか。別に悪いことはしてませんよ」

P「いいから! 渡してくるね。やあ村上さん。クール部署に何か用?」

巴「なんじゃお前は?」

P「いやここのプロデューサーの一人だよ。今僕以外出払ってるみたいみたいだよ」

巴「ほうか。木場の姉御に話があったんじゃが………手に持ってるそれはなんじゃ?」

P「やっぱり気になります?」

巴「そりゃぁ気になる。そがぁなけったクソ悪い色したそうめんなんて見たことないからのう」

P「そうめんじゃないですよイチゴパスタです。僕の担当アイドルがさっき作ったんですけど、僕以外の人の意見を聞きたいって言われまして。食べてみませんか? せっかくクール部署に来て用事も済ませられなかったんですし、ささやかなお詫びってことで」

巴「ほお。なかなかおもろい考え方じゃの。見た目はあれじゃが勝負は水物、物は試しじゃ。目の前の見た目だけでしっぽ振って帰んのも癪じゃ。もらったるけぇ」

P「そうですか? ありがとうございます」

巴「ただし。見た目通り味の方もけったクソ悪かったら、わかっとるやろのう」

P「………はい、フォークです」

巴「じゃあ………っ!?」

P「済みませんでした! せめて東京湾なんてベタな場所に沈めないでください!」

巴「こりゃあ………イケるのう!」

P「え? イケんの?」

巴「イチゴのパスタなんぞ気色悪いと思うたが、甘味と酸味の見事な『はーもにー』が味の奏を演じておる! これを作ったやつは天才じゃな」

P「天才? こんなもの商品として売り出したら店災物な気が」

巴「これを仕事の差し入れにすれば誰もが押し黙るわ。んー。お前もどうじゃ? 一口食ってみんか? 一口食え。一口だけ」

P「え? 僕が? ちょ、待って押し付けないでください頬に当たってますネチャッてますわかりました。あー」

巴「よしよしええこじゃ。どや、あ? 世界が変わるじゃろ」

P「そう、ですね………緑色の、お花が見え、ます」

巴「ほうか。しかしこの斬新な発想。うちも見習わないかんのう」

巴「うん。ええもん食わせもらった。用事の方はまた今度にするけぇ。えっと………」

P「Pです」

巴「Pか。またな」

P「さよならー………どうしよ」

ありす「私の勝ちですね」

P「いや、勝ちって。ちょっとあの子味音痴なのかもしれないし違う人にも」

ありす「Pさんはおいしいと言ったら番組で作っていいと言いました。約束が違う気がしますが?」

P「う………た、確かにいろんな意味で話題にはなるけど………」

ありす「私の勝ちです」

P「畜生。その無表情で高々とピースサインを掲げやがって」

ありす「勝ちです」

P「ピースサインをこっちに向けるな」

ありす「こうなった以上私がすべきことは料理の腕を少しでも上達すること。この絶賛されたイチゴパスタを極めることだけです。Pさん。今からもう一度作りますので味見の方お願いします」

P「あぁ………イチゴに染まっていく」

P「なんとかチャレンジクッキングの仕事が終わって。ありすちゃんは見事にイチゴアイドルとしての地位を獲得しました」

ありす「光栄です」

P「そんな君に贈られる称号は『ストロベリーチャレンジ』だ。まあ僕から言わせればジャンキーの域だけどね」

ありす「光栄です」

P「光栄なんだ………まあ今回もスタッフやアイドルたちと打ち上げはしました。でも例によって二人だけの食事会なんだけど………ほんとにいいの? 僕なんかの料理が食べたいって。お菓子作りは得意だけど普通の料理は苦手なんだよ」

ありす「Pさんの料理が食べたいんです」

P「強情っ張りだねぇ。ハイ出来ました。牛肉のトマトソース煮込み」

ありす「イチゴじゃないんですか? パクリですね」

P「ふざけんな! イチゴとは違うんだイチゴとは。僕なりのイタリアンだよ」

ありす「そうですか………あ、デザートにイチゴかってありますから食後に食べましょう」

P「イチゴから離れようよ。やっぱ君はジャンキーだ」

ありす「光栄です」

P「光栄に思ったらダメなんだよほんとは。まあ食べよう食べよう。いただきます」

ありす「いただきます。思ってたよりおいしいですね。あ、醤油取ってください」

P「イタリアンに醤油かけるものってあんまない気が………」

ありす「いいじゃないですか。それにしてもこうしてると家族みたいですね」

P「さすがにパパさんに見られる年齢じゃないと思うんだけど。そんなに老けてる?」

ありす「………やっぱり醤油いいです」

P「あれ?」

ありす「でも、今回の仕事は本当に良かったです。自分の進むべき道がわかった気がして」

P「イチゴ大好きアイドルねぇ。初めて君を見たときはこんなになるなんて微塵にも思わなかったよ」

ありす「私もですよ。Pさんには本当に感謝してもしきれません」

P「なんだよお子様のくせに改まって。ここは千枝ちゃん見習って「ありがとうございますPさん!」って元気よく言えばいいんだよ」

ありす「今、他の子の名前を出さないでください。せっかくの二人きりなんですから」

P「お、おぅ。でも、僕から言えばまだまだだよ。君はあのドラマのおかげで知名度はあるけどトップアイドルとしてはまだまだだ。うん」

ありす「………私は昔から言われなくてもできる子だって言われていました」

P「いきなり回想?」

ありす「親も家にほとんどいないので自分一人で頑張ってきました。学校では名前をからかわれてましたけど、先生が良く話を聞いてくれて、褒めてくれました。ありすって名前が好きではないと話した時も、嫌いになっちゃだめだとは言われましたけどいつも真摯に聞いてくれてました」

P「いい先生だ」

ありす「ですけど、それが重荷だったのかはわかりませんけど聞いてしまったんです。職員室でほかの先生に「橘は面倒な子だ」って話してるところを。いつでも話し相手になってやるって言ったのに、嘘つきだって思ってしまったんです」

P「………」

ありす「ですけど、Pさんは違いました。大人はみんな自分の名前を嫌いになっちゃだめだって言いますけど、Pさんは私の考えを理解してくれましたし、その上で魅力的だとも言ってくれました。今でも好きと言うわけではないんですけど、ありすって名前でよかったって思うときもあるようになったんですよ」

P「そう、か」

ありす「Pさんの言う通り私なんてアイドルとしてまだまだです。ですから、これからもずっと、私と一緒にいてくださいね」

P「………わかってるよ。約束する」

ありす「約束です」

P「………あ、ちょっと待って。社長から連絡が………席外すね。はいもしもし………え?」

ちひろ「異動、ですか?」

P「ええ。キュート部署に戻って今一度杏さんの担当になるみたいです」

ちひろ「転属はたまにありますけど、元いた部署に戻るなんて聞いたことがありませんよ」

P「特別措置だそうです。一応仕事はやってるみたいなんですけど異様なやる気のなさに耐えられなくなってすでに二人が辞め、今の担当も辞職届を出したそうですよ。そこで唯一手なずけに成功した僕を戻したとのことです」

ちひろ「他のプロデューサーたちとの連携はどうだったんでしょうか。うちのプロダクションは部署配属で担当アイドルこそ決められますけど、部署自体がアイドルをプロデュースって認識で、プロデューサーを全体でサポートするという方針なんですよ」

P「確かに、キュート時代は新人ってこともあってほとんど杏さんだけの面倒を見ましたけどクール部署に変わってから一時的に預かることもあれば預けることもありましたし………杏さんの場合、彼女自身のやる気のなさが担当プロデューサーの熱意をどん底に叩き落としたんでしょうね。にしても参りますよ。杏さんにはお互いの道を歩むって宣言しちゃったのにまた担当になるなんて」

ちひろ「でも、うれしそうですよ」

P「そりゃあもう一度杏さんをプロデュース出来るのはうれしいですよ。それに今回からかな子先生の担当にもなるそうです。なんかこう………複雑です」

ちひろ「かな子ちゃんのプロデューサーはあれでしたっけ? 寿退社?」

P「そう聞いてます。日取りはまだ決まってませんけど二週間以内には変わるそうです」

ちひろ「でもいいんですか? ありすちゃんのことは」

P「いいわけないじゃないですか」

ちひろ「ありすちゃんは今日からしばらく休みって聞いてますけど、このことはもう伝えてあるんですか?」

P「まだです。と言うより言えないですよ。昨日ずっとプロデュースしてあげるって約束したばっかりでその翌日に担当を外れるなんて言えません。あの子を裏切れないです」

ちひろ「でも、言わなきゃならない時は来ます。先延ばししてもお互いつらいだけではないですか?」

P「怖いんですよ。また担当のアイドルに嘘つきだって言われるのが。杏さんの時もずっとプロデュースするって約束した矢先に外されましたから………ん? ん!? ありすちゃん!? 何で?」

ちひろ「え? あ、ありすちゃん」

ありす「おはようございます。タブレットの充電器を忘れて取りに来たんです」

P「今の話、聞いてた?」

ありす「………」

P「あ………社長から通達があって、ありすちゃんの担当は今度から晴ちゃんたちのプロデューサーに、」

ありす「嘘つき」

P「嘘……違う。これは上からの辞令で」

ありす「わかってます。事情は分かってます………大人に約束を破られるのは慣れてますから」

P「言い訳はしたくないけど。杏さんの時と同じで、」

ありす「杏さんって誰ですか? 目の前にいるのは私なんですよ。もういいです。用は済んだので帰ります。さよならプロデューサー」

P「プロデューサーって………ありすちゃん」

ありす「………やっぱり、私はありすって名前を好きにはなれません」

P「ありすちゃん!」

ちひろ「帰っちゃいましたね。ですけど、あんなありすちゃんを見るのは久しぶりですよ」

P「あの子は信用していた人に裏切られたことがあると言ってました。今回もそれに当てはまるんだと思います。あの子はああ見えて、すごい依存性なんです」

ちひろ「見ていればわかりますけど」

P「両親は不在が多くて、頼りになる………甘えられる大人を探しているんだと思うんです。以前は学校の先生だったみたいですけど」

ちひろ「裏切られた、と言うのは?」

P「裏切られたほどじゃないんですけど、ありすちゃんのことを面倒と陰で言っていたのを聞いたらしくて」

ちひろ「そして今回………」

P「僕が危惧してたのは僕が担当を外れてあの子がまた他人と距離を作ってしまうってことなんです。クソっ社長も何考えてんだ。と言うより杏さん何でまた僕が来る前と同じ轍踏んでるの? 問題児過ぎですよあの子!」

ちひろ「えっと………強引ですけど、やる気を出さないようにしてたらあなたが戻ってくると考えてるのでは?」

P「それはあり得ません。杏さんは僕を担当にするために策を考えるならサボる策を練りますよ。もしそうだとしても、自分の地位を利用したあくどい計画です」

ちひろ「そうなんですか?」

P「一応杏さんの一番の理解者だって自負してますから。このままだとありすちゃんが出合った時の正確に戻るかもしれません。ランクSRの17認定のトップアイドルと言ってもあの子はまだまだ子供なんです。もしかしたらこれが原因で不振に陥るなんてことも考えられません」

ちひろ「確かに………それぞれの部署は離れてますし基本的に他の部署にプロデューサーが出向くことはありません。他部署のアイドルが言ったように以前、プロデューサーが変わってから不振とまでは言いませんけどスランプに陥った子はいます。最近では愛梨ちゃんがそうです」

P「十時さんのプロデューサーは途中で変わったんですか?」

ちひろ「シンデレラガールに選ばれた直後に違う部署に配属されました。今はどの部署にも属さない事務仕事をしています。決定的に違うのは杏さんの時と違いアイドル活動自体には積極的だったのであなたみたいに担当を戻すことはありませんでしたけど。プロデューサーが変わった直後は少々のスランプ期に」

P「でも、ありすちゃんはまだ子供。スランプどころかアイドルそのものを辞めるなんて事態もあり得ます」

ちひろ「うちのプロダクションは一人でも多くトップアイドルを育てるように徹底したシステムを敷いています。三部署に分かれて、それぞれに合った属性を磨いて。アイドルを育てるのに重要なのはプロデューサーとしています。その中でも特に優秀なプロデューサーは今までのアイドルの担当を外され違う新人アイドル育成に当てられます。育てた子は違う担当がつくと同時に部署そのもののが全面的にバックアップする体制になります。それを決めるのは社長です。プロデューサーは杏さんを短期間で育てた実績が評価され新人アイドルを育てる力があると思われたのでしょう」

P「でも、社長は現場を見ていません。現にプロデューサーを外されて不振に陥る子もいる………ちひろさん。今から言う資料を集めてもらっていいですか?」

ちひろ「今からって、何をするんですか?」

P「今までこのシステムを敷いてきて、数多くのアイドルを育てたのは分かりますけど。このままだとありすちゃんが心を閉ざすかもしれませんから。それを放っておくわけにもいきません。ですから、社長に交渉するんです。そのためには材料がほしいんです。引き受けてくれますか?」

ちひろ「………わかりました。引き受けましょう」

P「ありがとうございます。じゃあ、」

ありす邸

ありす「………やっぱり。大人の人は嘘つきなのかな」

ピィーンポォーン

ありす「………誰だろ。はーい」

P『ありすちゃん! ちょっといい?』 

ありす「………なんですかプロデューサー。休日まで押し掛けて」

P「決まったよ」

ありす「決まったって次の仕事がですか? でもその時にはプロデューサーじゃなくて」

P「違う。特別措置だ。僕は君の担当を外れない。オフが明けたら君はキュート部署に通ってもらう」

ありす「………え?」

P「あ、キュート部署に通うってだけで一応所属はクール部署だ。部署変更自体はできないからさ」

ありす「待ってください! どういうことですか?」

P「あの後。ちひろさんに部署が変わったプロデューサーの担当していたアイドルの実績を集めてもらって、部署を回って署名を集めたんだ。でもアイドルたちは内緒で。あんまり騒ぎ立てたくなかったからね」

ありす「署名って、何の署名ですか?」

P「プロデューサーの担当アイドルの部署統一だよ。と言うよりキュートはキュートらしく、クールはクールらしくって方針だからあんまり部署同士の関わりを持たない建物構造だったんだけど。ちひろさんの集めた資料から結構部署が変わった直後に不振に陥る子が結構いたみたいでさ。それと署名を手に社長に直談判したってわけ。そしたら社長自体部署統一を一つの案として考えてたらしいんだ。そこに僕が来て、特別措置をしたんだ」

ありす「それが、私をキュート部署に通わせるってことですか?」

P「社長が危惧していたのはキュート、クール、パッションの三つに分けたのに他の部署に感化されて自分自身の配属部署の方針を見失うんじゃないかってことだったらしい。だから君を試しにキュート部署に通わせて、クールとしての本分を忘れなければ、部署統一ラウンジを作ることを考えるらしい」

ありす「じゃあ私は、」

P「そうだ。君はこのプロダクションを新しく変えるための希望だ。だから、」

ありす「違います! プロデューサーは、守ってくれるんですか? 約束を?」

P「約束………そうだね。嘘つきになりたくないから行動を起こしたんだけど………これからもずっと一緒だよ」

ありす「………Pさん」

P「まあそんなことがあってこの子がキュート部署に来たってわけですよ」

杏「フーン。この子がクール部署にいたころの担当アイドルなんだ」

かな子「この子………チャレンジクッキングに出てた子ですよね?」

ありす「橘ありすです。名前で呼ばないでください」

かな子「え?」

P「その子は名前で呼ばれるのが苦手なんですよ。僕が呼んでも平気なんですけど」

杏「でも、この子が問題児には見えないね。結構いい子そうじゃん」

ありす「いい子かどうかは分かりません………Pさんにいっぱい迷惑をかけましたし。でもそのたびに助けてもらって。尊敬しています」

杏「え? 尊敬? プロデューサー………小さい子まで毒牙にかけて」

P「待って杏さん。何でそこまで僕をロリコン扱いするんですか? あなたありすちゃんより小っちゃいじゃないですか。かな子先生も何か言ってあげてください」

かな子「え? 私ですか? えっと………ちっちゃくても魅力的だよ」

杏「慰めだしそれ………」

ありす「杏さんでしたっけ?」

杏「え、そうだけど」

ありす「ほんとに私より年上なんですか?」

杏「年上だよ! 花も恥じらう17歳だよ」

P「あっはっは言うようになったねありすちゃん! じゃあ今から杏さんとかな子先生は降りたら現地の人と合流してください。ありすちゃんは今から僕と仕事場に直行です」

ありす「今日の仕事は………写真撮影と聞いてますけど」

P「ああ、とびっきり女の子な写真撮影だよ」

ありす「まさか………ウェディングドレスドレスの撮影だなんて………」

P「でも女の子の憧れでしょウェディングは」

ありす「小学生の私には分不相応ですよ。結婚できる歳でもないですし」

P「でも好きでしょこういうの」

ありす「それはそうですけど………わかってください………浮かれてませんよ」

P「うんうんそうかそうか。でもほんとにきれいだよありすちゃん。きっときれいな女性になるよ」

ありす「きれい………ですか。ねぇPさん。待てますか?」

P「ん? 何が」

ありす「いいから、待てるか答えてください」

P「………いいかいありすちゃん。これは答えになってないかもしれないけど。待つのは君だ」

ありす「私、ですか?」

P「そうだ。君が待つことができるか。待って、待ち続けてその先でもう一度その言葉を口にできたら僕もちゃんと答えてあげる」

ありす「そうですか………待ってくれるんですね」

P「いや、違うけど」

ありす「Pさん。少し腰を下ろしてもらっていいですか?」

P「うん。何うわぁ。どうしたのさ。突然抱きついてきて」

ありす「Pさんと出会えてよかった。今まで困らせてしまってごめんなさい。助けてもらってありがとうございます。約束を守ってくれてうれしいです」

P「そう言ってもらえるとうれしいよ。ほら、もうそろそろ撮影が始まるよ」

ありす「最後にこれだけ。Pさんに褒めてもらったありすって名前………Pさんが呼んでくれるから…大好きです!」

クールストーリー 終わり

終わりました
正直最後の設定を無理やり書き出すところは無茶しましたしまとめられませんでした。
今回はありす編と言うことで構成がばがばに書かせてもらいました。
一応キュート、クールときてあとはパッションなんですけど書くかどうか考え中です。
案としてはとときんか早苗さんかきの子あたりを書こうかなって思ってます

今回はみくにゃんの名前は直接出せませんでした。けどみくにゃんを示唆するセリフは多々ありますのでノルマ達成です
以上みくにゃんこスキーPでした。

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