女「まずはそこに正座しなさい、男くん」男「は、はい」(48)


がちゃ

男「た、ただいま戻りました……」

ばたん

男(……さすがにもう寝てるか?)キョロキョロ

女「おかえり」

男「うわっ、びっくりした。お、起きてたんだ?」

女「起きてちゃ悪い?」

男「いえ、とんでもない」

女「ふうん。まあ、まずはそこに正座しなさい、男くん」

男「は、はい」チョコン


女「いまは何時ですか」

男「な、なぜに敬語ですか?」

女「いまは何時ですか?」

男「夜の十時です」

女「ほんとうは?」

男「午前二時です」

女「どうしてそんな意味のない嘘を言ったの?」

男「場の空気を和ませようと思って」

女「そんなことで和むと思ったの?」

男「まあ、多少は」

女「あんまりふざけてると蹴るよ?」

男「ごめんなさい」


女「なんでこんなに遅くなったの?」

男「知り合いとお酒を飲んでたらこんな時間に」

女「男くん、ぜんぜん酔っぱらってないよね?」

男「こう見えてもべろんべろんなんだぜえ」

女「ふうん」

男「いまならどんな恥ずかしい台詞でもさらっと言える」

女「たとえばどんなの?」

男「俺のベッドから革命を始めよう」

女「ほっぺた蹴るよ?」

男「もうしわけない」


女「白状しなさい。わたし以外の女の子と遊びに行ってたんでしょ」

男「まさか」

女「ふうん? でも、香水みたいな匂いがするよ」スンスン

男「やだなあ。俺だって香水くらいはつけますよ」

女「男くんみたいな野蛮人は香水なんてつけたりしない」スンスン

男「そんなことはない」

女「正直に言いなさい。いまなら許してあげるから」

男「違う。断じて違う。神に誓ってもいい」

女「神なんかに誓わないでわたしに誓って」

男「はい、誓います」


女「だったらなんでこんなに遅くなったの?」

男「だから、知り合いとお酒を飲んでたんだって」

女「酔っぱらってないよね?」

男「ほら、俺ってお酒に強いから」

女「わたしの記憶が正しければ、男くんはコップ一杯のビールで出来上がるような子だったと思うんだけど」

男「ばれたか」

女「きのうもわたしと飲んだよね、お酒」

男「ごめんなさい、覚えてないです」

女「やっぱり。まあ、すぐつぶれてそのまま寝ちゃったからね、男くん」

女「でもそういうところはかわいくて好きだよ」

男「うわ照れる」


女「さあ、ほんとうのことを言いなさい」

男「知り合いと居酒屋に行ってました。でも俺だけお酒を飲みませんでした」

女「知り合いって誰? 女のひと?」

男「まあ、女のひともいた」

女「……」スッ

男「え、なにそれ」

女「なにって、男くんが愛用してるボールペンだけど」

男「それは見ればわかる。そのボールペンでなにをする気なんですか」

女「うふふ」カチカチカチカチ


男「ちょ、ちょっと待って。言い訳をさせてください」

女「三十字以内で簡潔にまとめよ」カチカチカチカチ

男「女の子といっしょにいたのはほんとうだけど、やましいことはなにもなかったんだって、ほんとうに」

男「だからボールペンを高速でカチカチすんのやめよ? な? ボールペン壊れちゃうから」

女「男くんはわたしよりもボールペンが大事なの?」カチカチカチカチ

男「いや、女さんが世界でいちばん大事だよ」

女「ボールペンじゃなくてわたしの目を見て言ってほしいな」カチカチカチカチ

男「お、俺のお気に入りのボールペンがっ」


女「三十字以内にまとまってなかったけど、まあひとまずはこれくらいにしておいてあげよう」

男「ありがとうございます」

女「居酒屋で、女の子といっしょだったんだね」

男「正確に言うと、俺を含めて男ふたり、その女の子ひとり」

女「女の子の名前は?」

男「え? なんで?」

女「うん? 言えないの?」カチカチカチカチ

男「いえ、そんなことは」

女「だったら早く」

男「後輩ちゃん」

女「住所は?」

男「えっ、住所? な、なにをするつもりなんですか?」

女「うふふ、なにもしないよ」


男「いや、そもそも俺は後輩ちゃんの住所なんて知らないんだけど」

女「うんうん」

女「知ってるだなんて口走ってたら、今ごろは男くんのつぶらなお目々にペン先が突き刺さってるところだよ」

男「あぶねえ、こええ」

女「あれ、もしかすると、ほんとうは知ってたりするの?」カチカチ

男「し、知らない。これはほんとうだって」

女「じゃあ、なにがほんとうじゃないの?」

男「いまのは言葉の綾だ」


女「じゃあ、居酒屋でいっしょだったあとひとりの男の子は誰なの? わたしの知ってるひと?」

男「男友」

女「男くんとは違って背が高くてかっこいい男友くん?」

男「間違ってはいないけど、いまのはちょっと傷ついたかな、うん」ションボリ

女「あ、ええと、でもわたしは男くんがいちばん好きだよ。だから元気だして」

男「うん、ありがとう。うれしいけど、なんか泣きそう」

女「男くんって泣くのをこらえてる時、耳たぶがぷるぷるするよね。ふしぎ」

男「むかしからそういう体質なんだ」プルプル


女「話を戻すと、男くんと男友くんと後輩ちゃん」

女「その三人で居酒屋にいて、いっしょに飲み食いしてたら遅くなったんだね」

男「はい」

女「じゃあ、ご飯は食べてきたんだ?」

男「いや、食べてないです」

女「ほんとうに?」

男「ほんとう。なんなら俺のお腹を見てくれてもいい」

女「どれどれ」

男「……」

女「……」

男「……玄関で正座しながら服を捲りあげられるって、なかなかめずらしいシチュエーションだよね」

女「そうだね」ギュウ

男「お腹のお肉つまむのやめてくれない? 痛いんだけど?」

女「ちょっと太ったんじゃない? 男くん」ポヨポヨ

男「どうだろう。最近は体重計にのらないから、さっぱりだ」


女「ほんとうに食べてないの?」ギュウウウウ

男「痛い。食べてない。痛い。だからお腹が減ってる。痛い痛い、お腹の皮ちぎれる」

女「どうして食べてこなかったの?」

男「女さんが待ってくれてると思って」

女「だから必死になって我慢したんだ?」

男「そういうことじゃない。俺はただ女さんといっしょに家でご飯を食べたかっただけであって」

女「だったらどうしてこんなに遅くになっちゃったの?」

男「めんどくさい酔っぱらいに脅されたというか、なんというか、そんな感じ」

女「それでも食べなかったんだ?」

男「女さんなら待ってくれてるんじゃないかと思って」

女「ふうん……」

男「……」

女「……玄関は寒いからリビングで続きをしよう」スタスタ

男「あ、はい」





女「さて、男くん。まあ、まずはそこの座布団の上に正座しなさい」

男「はい」チョコン

女「そのままでちょっと待ってて」スタスタ

男「ちょっとっていうのは、具体的にいうとどれくらいでしょうか?」

女「五分くらい」

男「わかりました」

五分後

女「はいどうぞ」

男「お、明石焼きだ」

女「男くん好きでしょ、明石焼き」

男「明石焼きとかつおのたたきさえあれば一ヶ月は戦えるよ」

女「いま生姜焼きと味噌汁温めてるから、それつつきながらもうちょっと待っててね」

男「うん」


更に五分後

男「いただきます」

女「いただきます」

男「女さんもまだご飯食べてなかったの?」モキュモキュ

女「男くんが帰ってくるのを待ってたんだよ」ムグムグ

男「ごめんなさい」

女「おいしい?」

男「え?」

女「ご飯、おいしい?」

男「うん、おいしい。完璧だよ。さすが女さん」

女「うふふ、よかった」


女「さあ、お話しの続きをしようか」

男「あ、はい」

女「まずは、なんで三人で居酒屋に行くことになったのかを聞かせてほしいな」

男「帰り道でふたりに会ったんだ。そしたらいっしょに来いって言われた」

女「それでほいほいついて行っちゃったんだ?」

男「まあ、はい」

女「わたしをほったらかしにして」

男「うっ」

女「連絡もいれずにこんな時間まで」

男「そ、それには事情がありまして。あ、でもその事情については話せないんだけどさ」

女「なにそれ、わけわかんない」ムグムグ


女「それで、居酒屋に行ってからはどうしてたの」

男「どうしてたって、烏龍茶をすすりながらアルコールを煽るカップルを眺めてた」

女「カップル? 誰? 知り合い?」

男「男友と後輩ちゃん」

女「男友くんとその後輩ちゃんは、彼氏彼女の関係なの?」

男「話を聞いてる限りではそんな感じだったけど」

女「へえ、男友くんに彼女ねえ。話って、いったいどんな話をしたの?」

男「ふつうの世間話とか、のろけ話とか、将来のこととか、かな」

女「男くんものろけ話をしたの?」

男「まあ、それなりにはね」

女「うふふ、そっかあ」


女「まあとにかく、浮気とかじゃないんだね?」

男「断じて違う」

女「ぜったいに?」

男「ぜったいに」

女「信じてもいいんだよね?」

男「信じてほしい」

女「わたしも信じたいんだけど、男くんってよく女の子に声かけられるし」

男「そんなことはない」

女「謎の空気をまとってるし」

男「なにそれ」

女「女の子が寄ってくる空気」

男「すげえ、俺すげえ」

女「群青色のやつ」

男「すごいのかすごくないのかよくわかんねえ」


女「わかった」

男「なにが」

女「男くんを信じるよ」

男「ありがとう」

女「それじゃあ次。こんな時間まで連絡をいれなかった事情って、なに?」

男「そ、それだけはどうしても言えない」

女「わたしは男くんを信じてるよ?」

男「そ、それでもいまは言えない」

女「いまは? いつになったら言えるの?」

男「その時が来たら言う。ぜったいに言う」

女「それって、いまじゃだめなの?」

男「だめってことはないけれど……ああ、やっぱりいまはだめ」

女「むー」


女「そういう言い方をされると逆に気になるよ」

男「それでもいまは言えないんだ」

女「どうして?」

男「個人的な問題だよ。心の準備がまだできてなくて」

女「どうしても言えない?」

男「いまは言えない。ごめんよ」

女「その事情って、わたしを怒らせるようなことなの?」

男「捉え方によってはそうなる可能性もある」

女「怒らないから言ってごらん?」

男「女さんは優しいなあ。でも言わない」

女「このヘタレ!」

男「なんとでも言ってくれ」

女「ちび! 胴長短足! インポ! ええと、変な耳!」

男「容姿と体質のことを言うのはやめろ。ほんとうに傷つくから」プルプル


女「わたしにも言えないような事情ねえ」

女「このままだとそのことが気になって眠れないよ」

男「大丈夫だよ、女さんは寝付きがすごくいいから」

女「むう……」

ブーブーブーブブーブーブブーブー

女「男くん、携帯鳴ってるよ」

男「ん」

女「こんな時間に誰から?」

男「後輩ちゃんだ」

女「む」


女「電話、出るの?」

男「えっ、出ないの? ああ、まあこんな時間だし出なくてもいいか」

電話「えっ」

電話「」

電話「」ブーブーブーブブーブーブブーブー

男「また鳴った」

女「出てもいいよ。でもスピーカーをオンにしてね」

男「えっ、俺、もしかして疑われてる?」

女「だって隠し事するんだもん、男くん」

男「ああ、まあ、はい。すみません」

女「ほら、早く出ないと切れちゃうよ」


男「もしもし」

後輩『もしもし? まだ起きてますか?』

男「まだ起きてるから電話に出たんじゃないか」

後輩『それもそうですね』

男「だろ」チラッ

女「……」カチカチカチカチ

男「ええと、それで、なんの用? もう夜中の三時なんだけど」

後輩『えっ、もうそんな時間ですか?』

男「時計を見ろ」

後輩『止まってます。電池切れですね!』

男「知るか」

女「……」カチカチカチカチ


後輩『ええと、きょうの居酒屋での話、どうなったんですか?』

男「あーあー、その話はまた今度」

後輩『どうしてですか?』

男「察してくれ」チラッ

女「……」カチカチカチカチ

後輩『もしかして、まだ渡してないんですか?』

女「渡す? なにを、誰に?」

男「また今度って言ったのになんで言っちゃうかなあお前は……」

後輩『えっ? なにかまずかったですか?』

男「もういい、切る」

後輩『えっ、まだ一分もたってないですよ?」

女「そうそう。わたしも、もうちょっとふたりのお話しを聞きたいなあ?」

男「わかった、わかった、もうちょっと話そう」


後輩『まだ渡してないんですか?』

男「そうだよ、渡してないよ」

後輩『いくじなし! ヘタレ! もやし! ひじき! 糸こんにゃく!』

男「なんとでも言え」

後輩『ちび! 胴長短足! インポ!』

男「だから容姿と体質のことを言うのはやめろ。いや、なんでお前が俺の下半身事情を知ってるんだ」

後輩『男友くんから聞きました』

男「なんであいつも知ってるんだ。意味わかんねえ」


後輩『早く渡しちゃえばいいのに、なんで渡さないんですか?』

男「心の準備がね」

後輩『よろこぶと思いますよ、彼女さん』

男「うん」

後輩『当たって砕けてもいいじゃないですか。その時はわたしがもらってあげます』

男「やらん」

後輩『先輩をもらってあげるって意味です』

男「いやだ。そもそもお前には男友がいるだろうに」

後輩『そんなにわたしがいやですか? ちょっとショックです』

男「女さん以外はありえない、です」

女「うふふ」

後輩『なんで敬語なんですか?』

後輩『あっ、もしかしてこの会話、彼女さんに筒抜けだったりします?』

男「そうだよばーか。気づくのおせーよばーか」

男「お前らが女さんにばらすって脅すから付き合ったのにぜんぶ無駄じゃねーかばーか」


後輩『彼女さん? 聞こえてます?』

女「はいよ」

後輩『先輩はいくじなしで脚が短くてインポですけど』

男「もうやめてくれないかな、ほんとうに泣きそう」プルプル

後輩『あっ、ごめんなさい。でもほんとうにいい人ですよ』

女「そんなことわかってるよ。わたしがいちばんよくわかってる」

後輩『それもそうですね』

女「ねえ、男くんは居酒屋でわたしのことなにか言ってた?」

後輩『そうですねえ……あっ、幼児体型って言ってました』

女「ふうん……」カチカチカチカチ

男「……」

女「まあ、いろいろと教えてくれてありがと。あとはふたりでゆっくりと話すね」

後輩『はぶぁぐっいぶにん!』


女「……」

男「……」

女「携帯返すね」

男「あ、はい」

女「幼児体型でごめんね」

男「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」

女「男くんもやっぱりおっきい胸のほうが好きだよね、うん」

女「あ、だからわたしじゃおっきくならないんだね。ごめんね、男くんのせいばっかりにして」

男「違う、違うって。女さんは素敵だよ、文句のつけようがないくらいに。俺の方に問題があるだけで」

女「うん、うん、ありがとね、うん」ニッコリ

男(目が笑ってない)


女「ねえ」

男「はい」

女「さっきの電話で、誰かになにかを渡すって言ってたよね」

男「ええと、言います。ちゃんと今から言います。女さんに渡したいものがあります」

女「その渡したいものっていうのが、事情ってやつ?」

男「そうです。いまから言います」

女「うん」

男「女さん」

女「なに、あらたまっちゃって」

男「結婚してください」

女「……」

女「……」

女「えっ?」


女「ごめん、もう一回言ってくれる?」

男「えっ、け、結婚してください」

女「えっ?」

男「えっ?」

女「ちょっと待って、こういうのって、もっとふさわしいシチュエーションがあるんじゃないの?」

男「だ、だからほんとうはもっとちゃんとした場で言おうと思ってたのに」

女「えっ、じゃあわたしに渡したいものって」

男「ええと、これ」

女「これはなに? よく見えない」

男「指輪。六号」


女「どどどどどうしよう男くん」

男「えっ、どうした。大丈夫?」

女「唇がつり上がってこのままだとチェシャ猫みたいになりそう」

男「それはそれでかわいいと思うよ」

女「お、男くんがそう言うのならこのままでいるね。うふふ」

男「うん。それで、あの、返事は」

女「えっ、返事? あれ? なんの話だったっけ?」

男「えっ」

女「あんまりうれしいもんだから忘れちゃった。あれ、なんでよろこんでるんだっけ、わたし」

男「ええと、もう一回言ったほうがいいかな」

女「おねがい」


男「結婚してください」

女「これは夢じゃない?」

男「そう、夢じゃない」

女「スピッツじゃない?」

男「その夢じゃないじゃないけど夢じゃない」

女「も、もう一回さっきのやつ言ってくれる?」

男「何度でも言うよ。結婚してください」

女「ほ、ほんとうにわたしなんかでいいの?」

男「女さん以外はありえない」

女「でもわたし、幼児体型だし」

男「体型なんて関係ない、俺は女さんが好きだ」


女「うれしい、すごくうれしい。顔が熱くて飛び散りそう」

男「たまにこわいこと言うよね、女さん。そういうところも好きだけど」

女「もう一回言ってほしいな」

男「ええと、結婚してください」

女「うふふ。はい、よろこんで」

男「ほ、ほんとうに?」

女「はい。不束者ですが、これからもよろしくお願いします」

男「こ、こちらこそ、これからもよろしくお願いします」

女「な、なんか照れくさいね」

男「はずかしすぎて消え去りたい」

女「幸せすぎて死にそう」

男「死なないでくれ」

女「男くんが消え去らないのなら死なないよ」


女「男くん」

男「はい」

女「あーん」

男「あーん」

男「んむ」モキュモキュ

女「うふふ」

男「なんだろう、べつにいつも通りなのに妙に恥ずかしい」

女「どきどきするね?」

男「口から心臓こぼれそうなくらいにはどきどきする。もうなんかヤバイ」

女「久しぶりにこんなにどきどきした。すっごい幸せ」


女「いやね、わたしが幸せでも男くんの帰宅時間が遅かったのはなかったことにはならないんだからね?」

男「心得ております」

女「罰を受けてもらうからね?」

男「はい」

女「まずわたしとお風呂に入ること」

男「それっていつも通りなんじゃ……」

女「わたしの胸、おっきくして」

男「そんな無茶な」

女「それと、今日はわたしと同じ布団で寝ること」

男「それもいつも通りなんじゃ……まあいいか」


男「ふう、ごちそうさん」

女「おそまつさん」

男「あー……ねむい」

女「もう夜中の三時半だね」

男「なんかすっげえ疲れた」

女「どうする? お風呂入る?」

男「俺としては、きょうはこのまま眠りたいところ」

女「じゃあそうしよう。だからおんぶしてわたしを布団まで連れていって」

男「意味がわからん」ヨイショー

女「そう言いつつもおんぶしてくれるところが好き」

男「む。この背中に伝わる感触は、肋骨!」

女「なに、遠回しにわたしが幼児体型だって言いたいの?」ギュウウウ

男「あっ、首絞めちゃだめだって。ああ、息が。死ぬう。ががぐごご、ぼごあ」


女「男くん」

男「あ、あい。なんでひょう」

女「好き」

男「うん」

女「好き」

男「俺も」

女「大好き」

男「超愛してる?」

女「超愛してる」





男「あれ、おんなじ布団で寝るのってこんなにはずかしかったっけ」

女「はずかしいね、うふふ」

男「俺のベッドから革命を始めようとか言ってる場合じゃなかった」

女「始められもしないのにね?」

男「どうせインポですよ」

女「投げやりなところも好き」

男「そういえば、なんで男友が俺の下半身事情を知ってたんだろう」

女「知りたい?」

男「えっ。もしかして、もしかしてだけど、男友に教えた犯人って」

女「わたしだ」


男「なんで言っちゃったの」

女「大好きな男くんのことをもっとみんなに知ってもらいたいなあと思って」

男「ものは言いようだなあ。でもそういうことは女さんだけに知っててもらいたかったなあ」

女「というのは建前でね、男友くんにそう言っとけばそのうち広まってさ」

女「それを聞いた女の子は男くんに寄り付かなくなるんじゃないかなあと思ったっていうのが本音だよ」

男「思考回路が危ない人のそれに近づいてるような気がするんだけど」

女「うふふ、冗談だよ」

男「どこからどこまでが冗談なのかさっぱりわからない」


女「そんなことはどうでもいいじゃん」

男「まあ、いまはね。でもいま重要なことってなんだろう」

女「いま重要なのはいまこの瞬間だけだよ」

男「ん、むずかしいな」

女「こうやって同じ布団にいる時間とか、男くんのにおいとか、いま大事なのはそれだけ」

女「ほかのことはどうでもいいんだよ」

男「そっか。まあ、いまはそういうことにしておこうか」


女「うう、はしゃぎすぎたから眠くなってきちゃった」

男「もう朝の四時前だ。俺もほっとしたら眠くなってきた」

女「明日が休みでよかった」

男「ほんとうによかったよ。女さんにうなずいてもらえたし」

女「結婚のこと?」

男「うん」

女「結婚、結婚かあ。なんかあんまり実感湧かないね」

男「そうだなあ。あ、そうなると女さんの家族に挨拶に行かなきゃだめだ」

女「そうだねえ」

男「ううん、なんか一気に実感が湧いてきた。気が重いなあ」

女「がんばってわたしをどこかへ連れ去ってね」

男「言われなくてもそうするよ」


女「ずっといっしょにいようね」

男「もちろん」

女「明日も明後日も来年も再来年もいっしょだよ」

男「その先も」

女「うふふ、起きたらいっしょにお風呂に入るんだよ」

男「わかってるって」

女「ああ、朝が待ち遠しいなあ」

男「寝ちゃえばすぐだよ。寝ても俺はいなくならない」

女「じゃあさっさと寝ちゃおう。おやすみ、男くん」

男「うん、おやすみ」

おわれ

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