コナン「光彦が妊娠して日本が世界から孤立した」 (352)

光彦「なんだか気持ち悪いです…」

その言葉が全ての始まりだった。
食中毒だと思った俺たちは病院を勧めるも原因は不明、精神的なものだろうということで自宅療養になる。
1ヶ月もすると光彦はケロっとした顔でやってきた。

光彦「みなさんご心配おかけしました!もう大丈夫です!」

しかし3ヶ月を過ぎた頃から下腹部に張りが出始め、急激な感情の変化を見せるなど情緒不安定な状態が続く。
クラス中が腫れ物を扱う様なまま5ヶ月を迎える、光彦のそれは妊婦のそれそのもので、心配した家族が大学病院へ入院の手続きを。

光彦「僕は一体どうしたのでしょう…」

結果は妊娠。

大学病院は問題解決の名目で家族に了承を得て学会への発表を決定、前代未聞の出来事に連日のニュースは光彦の名前が出ていた。
レントゲン、CTの結果から前立腺のある位置に子宮と卵巣と思わしき部位の発見。

9ヶ月、面会謝絶となり外見の状態は不明、守秘義務の面から家族以外への情報は遮断。

10ヶ月、家族すら面会謝絶、報道はゴシップ週刊誌の眉唾記事のみとなる。
記事タイトルは「現代の人体実験?!人権を無視したM少年へ治療と言う名の投薬!」

あれから1年、まだ光彦には会えていない。

コナン「なあ博士、男が妊娠なんてあり得るのかよ」

博士「現に光彦君がしとるんじゃ、あるんじゃろう」

博士「それじゃ思考停止じゃがのう…」

博士「そもそも人類は有性生殖じゃ、単体生殖ではない、生殖行為がなければ妊娠なんてあり得ん」

博士「それに生理があるはずじゃ、膣もないのに経血はどこへ排出されるのじゃ、体内サイクルだとでも?」

博士「それに加え身体的にも未成熟過ぎる、7歳の生理もあったはずじゃがそれは女の子の話じゃ」

コナン「本当に妊娠なのか?」

博士「…どういう事じゃ?」

コナン「新種の病原菌やウィルスの感染、奇病だとかよ」

博士「ないとは言い切れんが…」

コナン「…そうでもなけりゃ、訳がわかんねーよ…」

なんとなくつけていたTVに光彦の入院する大学病院のニュース速報のテロップが流れる。

「○○大学病院にて感染症の発覚、関係者以外の立ち入りを禁止を発表」

コナン「…言っちゃなんだが、単なる感染症でニューステロップ…?」

博士「そう言われると、確かに変じゃのう…」

不意にリビングのドアが開く。

灰原「あら、工藤君きてたの」

コナン「おう、光彦の事でな」

その名前を口にすると、口元へ運ばれようとしていたコーヒーはその唇へ辿り着く事なく机へと置かれた。

灰原「…そう」

灰原が言うには、大学病院のPCへクラッキングを試みたがニュースに流れていた論文以降の情報は抹消されており、何も確認出来なかったそうだ。

灰原「だからこそ、怪しいのよね」

溜息をひとつ、机のコーヒーを口に含むと「コーヒー、冷めちゃったわ」「淹れ直してくる」そう言って灰原はキッチンへと向かった。

コナン「博士は、灰原の話聞いてたのか…?」

博士「いや、ワシも今聞いた所じゃよ………哀君…」

なにも出来ない無力さをごまかすように、とっくに冷めた、ホコリの浮かぶコーヒーを飲み干した。

その頃

大型掲示板に立てられ

伸びることなく消えていったスレッドを

コナン達は、知らない。



「俺の幼馴染が突然ソバカス少年になったったwwwwwwww(26)」

ちょっと構成練る…

再開しまーす。

関係者以外立ち入り禁止から2週間、またも速報テロップにて「○○大学病院、完全隔離を政府が決定」とだけ、流れた。

そこからは早かった。

各報道機関にて情報が入り乱れていたが、おおまかな流れはこうだった。

円谷光彦(7)由来の感染症の発症。

症状は頭痛、全身に打撲のような鈍痛、斑点状の内出血、意識の混濁。

1週間前後を経過を経て

外見等肉体の変異、精神異常。

女性においては

性別の

転換

もっと簡潔に述べるのなら、光彦になってしまうという事。
対処法は未だ不明。

それから1ヶ月、病院、もとい光彦達から声明発表があった。

「平等な、争いのない世界へ」

世界を照らす子供たち、そして彼の名前から取って付けられた団体名。

Sons of the sunの結成。
通称SOS

光彦から直接産まれた光彦達は、感染症のキャリアであり、自分達をこう呼んだ。

The first generation
Sons of the wound life

通称SOWL(ソウル)

そして、感染して光彦になった物達はこう呼ばれていた。

Second generation
Obedient sons

通称OS(オズ)

彼等に感染の力はなく、忠実に母体となる光彦を守るべく行動をしているとの事。
以前の記憶を残したまま、光彦へと変貌し、母なる光彦を最優先に行動する。

彼等の目的は、全人類の同一化と世界平和。

日本を中心に世界は混乱を極めた。

各国に報道が流れ

それを笑い

真実と気付いてからは

堰を切ったように日本への渡航禁止、日本からの受け入れ拒否が発表された。

発展途上国では、感染の心配のない日本人・日系人への暴行殺害が問題となり。他の国でも差別が横行した。

日本人・日系人の安全の確保、自国民の不安を煽るとの名目から、殆どの国強制退国を発表した。

しかし、航空会社の日本便ストライキの為、政府の船便で送られる事になったのだが船員が着岸を拒否、排他的経済水域内にてボートにて放流されるという新たな問題が発生。

各国政府はそれを非難するも、実質の黙認。

日本国内においては政府は国会を開くも機密情報として口外を厳禁、各種報道機関へ箝口令の発令。webにおいても検閲により光彦関連のワードを禁止語句に指定。

在日米軍は基地への不干渉を要求、市民団体が射殺され問題となるも米国は軍とは無関係であると切り離しを発表。

アジア勢力も同じだった。
某国の民団・総連それぞれの団体が統一し、防衛団体と言う名の無法組織を設立。
アジア某国マフィアは不法滞在の外国人を囲い、同じく無法組織の設立。

各暴力団、右翼団体は手を組みアジア系無法組織との対立。
抗争、殺傷事件が日夜報道され続けている。

窓や入口を厳重に溶接された博士の自宅にて、3人は考えていた。

情報が入ってこないにしても、現状の悪化は認識せざるを得なかった。

米花町を歩く人はもういない、みんな自宅に篭っている。

歩いているとすれば

灰原「……工藤君、博士、外のカメラを見て」

灰原「そっちにモニターを回すわ」

コナン「…オズか、また増えていやがる……」

博士「対策を練ろうにも、情報が少な過ぎるわい……」

3人編成の光彦達が、何組も歩いて回っていた。

これまでにわかった事と言えば、ソウルとオズの見分け方だ。

オズは感染時の名残か、大きさに個体差があり、斑点状のあざがうっすらと見える。ソウルは気味が悪い程光彦に酷似していて、張り付いたような笑顔をしている。

灰原「食料もそろそろ尽きるわ、なんとかしなければ……」

コナン「兵糧攻めなんて、この日本で喰らうとは思いもしなかったぜ……」

博士「兵法の基本じゃな……」

コナン「よし、今夜あたりスーパーに“買い出し”にでも行くか」

灰原「危険よ、この地区のオズの多さは前回の比じゃないわ!」

博士「しかし、そうでもしなければもう食料はないぞい……」

コナン「餓死しろってのか?」

灰原「わかってるわよ……」

コナン「仕方ねーんだよ……」

そして、夜。

コナン「灰原、博士、武器は持ったか?」

コナン「………博士?どこだ?」

みんなきてくれ~い

灰原「地下の研究室からだわ」

コナン「…行ってみよう」

博士「これを見てくれ」

コナン「……これは?」

灰原「銃、かしら」

博士「銃と呼ぶには粗末なものじゃがな、ないよりはましじゃ」

コナン「一体どうやって……」

博士「新一の麻酔銃の応用じゃよ、規格はそれより大きいがの」

博士「ガス圧でベアリング弾を発射する空気銃みたいなもんじゃ、玉は10発入れてあるが……」

博士「まだ試射しておらんからのう、内蔵ガスで全て撃てるかどうかはわからん、計算上では問題ないはずじゃが……」

コナン「替えのマガジンだとかボンベはあるのか?」

博士「いや、そこまでは作れんかった…撃ち終えたら分解して補充、充填が必要なんじゃ」

灰原「…贅沢は言ってられないわね、とりあえず距離を稼げるようになっただけでも有利だわ」

コナン「そう、だな」

コナン「念のため近接武器も忘れないようにな」

博士「一応、こんな物もあるぞい」

博士「麻酔を直接打ち込めるアンプルじゃ、ソウルはわからんがオズには効くじゃろう」

博士「それぞれ1本じゃが……」

コナン「いや、充分だ、さすが博士だな」

裏口

コナンが「止まれ」「静かに」のハンドサインを出す。

ソウルか、オズか。

見分けは付かないが近くにいるようだ。

通り過ぎるのを待って裏の壁を乗り越える。

博士「年は、とりたく、ない、のう……」

息も切れ切れに言う。

コナン「この大通りを横切らなきゃ駄目だ…時間は掛かるが遠回りして街灯ななく、かつ遮蔽物があるあそこまで移動しよう」

遠くに光彦の影が揺れている。

灰原「なんとかこれたわね、タイミングを見て渡るわよ」

コナンが石を拾って光彦の奥の車へと投げ付けた、ぶつかった音を合図に走り出す。

光彦「誰ですか!」

見当違いの方向へ叫ぶ、光彦達が集まってくる。

コナン「なんとか、半分、だな…」

灰原「ええ…博士、大丈夫?」

膝に手をつき、肩で息をしながら大袈裟に頷く。

コナン「!」

またもハンドサイン「静かに」「隠れろ」のふたつ。

光彦「あっちの僕たちが呼んでいるみたいです」

光彦が近付いてくる。

コナン達は瞬きもせず、暗闇から光彦の同行を伺う。

光彦「この辺りから何か聞こえたような…」

光彦「でもあっちで何かあったみたいですよ?」

光彦「あ、メールです!」

光彦「車に傷があったのと、石が落ちていたそうです」

光彦「では、やはりこの辺りに誰か隠れているのかもしれませんね」

光彦「探しましょう!」

光彦「じゃあやっぱりさっきの物音は非光彦ですかね?」

光彦「さっきあなたが言っていたものですね!」

光彦「見付けますよ~!」

光彦「早く、平和な世界を築くのです!」

光彦達「「「お~!」」」

光彦「みなさ~ん、こっちで物音がしたようです!」

コナン達は光彦達が話している間に距離を稼いでいた。

博士「あ、危なかったわい…」

送ってしまった…
疲れてるな、続きは今日の夜にでも投下します。
酉付けた方がいいですかね?

とりあえず…
予定としてはまた日付の変わる頃になると思います…

遅くなりました…
再開します!

コナン「思ってたより多いな……」

灰原「そうね、でも止まっているのは得策じゃないわ、動きましょう」

博士「老体には、堪えるわい……」

コナン「遠回りした分、ルートを戻そう」

灰原「ええ、急ぎましょう」

博士「……いや、このまま直線で動けないじゃろうか」

コナン「確かに、あいつらのいる通路を歩くよりは安全かもしれねーけどよ……」

灰原「もし見付かったら逃げ場もないのよ?」

博士「それは向こうも同じじゃ」

博士「周囲の住宅に集まっていない限り囲まれる事もなければ、こちらから仕掛ける事で……」

灰原「…仕掛ける事で?」

博士「無力化、できるはずじゃ」

灰原「呆れた、この状況に酔っているのならよしてちょうだい」

灰原「あたし達はまともな装備もなければ強靭な身体能力もないのよ?」

灰原「それどころかおいぼれ一人に低学年ふたりよ?」

灰原「ヒーローやヒロインに憧れている場合じゃないわ、博士も科学者なら科学者らしく冷静に考えなさい」

コナン「おい、灰原」

灰原「っ」

灰原「……言い過ぎたわ、ごめんなさい」

博士「いや、哀君の言う通りじゃ……この非日常な感覚に酔っていたのかもしれん」

コナン「……でもよ、博士の気持ちちょっと、わかるぜ」

コナン「ちょっとな」

また基地外ネタかと思ったら予想外でした

予定通り、元のルートを目指し、3人は地道に進む。

いつもの通りがこんなに長いなんて。

いつもの通りがこんなに静かだなんて。

いつもの通りがこんなに、こんなに怖いなんて。

疲労からか、思考力が鈍る。

不意に立ち止まるコナンに灰原はが躓く、博士が遅れて灰原の影からコナンを覗き込む。

コナンの視線の先には非常灯の光だけがぼんやりと漏れるスーパーが。

周囲を警戒しながら覗き込む、駐車場にはひとりのオズがいた。

コナン「やっぱりな、食料を狙ってくるやつらが多いんだろう」

コナン「この調子じゃ中にも見回りがいそうだな……」

博士「入り口さえやり過ごせれば、なんとかなるかもしれん」

灰原「どういうこと?」

博士「さっきのさっきじゃ、言い出し辛いんじゃが……」

コナン「中のオズをひとりひとり無力化していく、てわけか」

博士「そうじゃ、あそこはそんな大型スーパーでもないじゃろう、中にいるオズも一組がせいぜいじゃ」

博士「もしかすれば正面入口・中・裏口での一組かもしれん」

博士「だとすればじゃ、ワシらの持ってるアンプルで充分対処できる」

灰原「……確かに、それが現実的だわ」

灰原「諦めたところで安全に帰れる保障もなければ、帰れたとしても数日で食料が尽きて2週間もすれば餓死できるわ」

灰原「行くしか、ないのよね」

コナン「あくまでも目標は食料の調達、無駄な戦闘は避けて体力の消耗を防ごう」

スーパーの駐車場に放置されたワンボックスカーの影からオズの様子を伺っていた、建物沿いに行ったり来たりを繰り返している。

コナン「見る限り、提示連絡なんかはしてねーみたいだな…」

灰原「まだ安心はできないわ…そう言いたいけれどここで1時間も待っているわけにもいかないものね」

コナン「これ以上は考えても仕方がねー、次の往復であの割れ窓から入ろう」

コナン「もたついて見付かるのも馬鹿らしい、とりあえず俺が入って様子を見る」

コナン「大丈夫そうなら窓から合図を送る、そしたら灰原、おめーが入れ」

コナン「最後は、博士……」

コナン「その年でこれだけ動いてんだ、疲れてるのもわかる」

コナン「なんなら……」

博士「これ、年寄り扱いするんじゃない……それに」

博士「そういうことなら家を出る前に言っとくれ」

コナン「……大丈夫そうだな」

博士「ワシ、通れるかのう……」

入念に体をほぐし、オズを見つめる。
オズが建物の角に辿り着こうかという時、コナンは静かに走り出す。
絶妙のタイミング、振り返ると同時に窓の中へ身を隠した。

すぐさま壁に身を寄せる、急ぐあまり中の確認などできなかったのだ。
耳をすませるも足音は外のオズのものだけしか聞こえない。

コナン(…中にはいないのか?)

安心はできない、が、今オズが近くにいないのなら灰原達を呼ぶチャンスだ。
足音に注意しながら窓に身を寄せる。

コナン(もう一度、通り過ぎたら合図だ)

窓から「来い」のハンドサインが見えた。
踵で軽く跳ねる、オズへと視線を向けたまま、その時を待つ。
後少し、後少し。心臓が痛いほどに打ち付けている。

深く息を吸って、地面を蹴る。
もう、その目はオズを見ていない、目に映るはあの窓。
何も聞こえない、風を切る音も、足音も何も。

窓へと飛び込んだ。

すぐさまコナンが灰原を抱き寄せる。

灰原「っ」

コナン「(静かに!)」

コナン「(俺は高く飛んで踏まずに済んだが……)」

灰原「(ガラス、片…?)」

コナン「(ああ、踏んだら音で気付かれちまう……)」

コナン(駄目だ!もっと冷静になれ!考えろ考えろ考えろ!)

コナン「(…よし、とりあえず博士を呼ぼう)」

灰原「(ええ、タイミングはあなたに任せるわ)」

灰原「(私は店内を警戒しているから)」

コナン「(頼む)」

コナン(もう一度、もう一度通り過ぎたら…)



不意に灰原が袖を引く。

灰原「(待って、足音が聞こえるわ)」

微かにだが、確かに聞こえる。

窓から見えたのは「待て」のハンドサイン。

博士(どうしたんじゃ…?)

博士(中でなにかあったのか…?)

博士(じゃが、まだ合図を出せる余裕があるというのなら……)

博士(ひとまず様子を見ようかの、どうせできる事は少ない)

博士(体をほぐしながら小休憩じゃ)



一方、店内では。

コナン「(灰原、隠れてろ)」

灰原「(工藤君あなた……!)」

コナン「(正面からくるとしても男の俺の方がまだ対処できる、もし何かあってもおめーが後ろからアンプルを刺せ)」

コナン「(それに、まとまって隠れてたら見付かったときにお互いの動きを邪魔しちまうだろ)」

コナン「(……期待なんてするもんじゃねーが、ふたりいるとは思ってねーだろ)」

灰原「(……わかったわ、そうするしかなさそうね)」

コナン「(アンプルの準備はいいか?)」

コナン「(…来るぞ)」

灰原はコナンを見つめて頷いた後、体を小さくしてアンプルを握り締めた。

姿が見えた、オズだ。



その瞬間、世界はスローモーションのようにゆっくりと流れる。
振り向くよりも早く、声を出すよりも早く。オズの首目掛けてアンプルを突き立てる。
突然の痛みに呻き声を上げようと開いた口はハンカチで塞がれ、右手はアンプルを離れオズの後頭部をしっかりと押さえた。

押さえ込むこと数秒、オズは眠りについた。

ふたりは顔を見合わせる。
灰原は割れんばかりにアンプルを握り締めていた、その手は、体は、小さく震えている。
その手を握り、アンプルを受け取るとその場に座り込んでしまった。
コナンは少年のような(実際少年なのだけれど)笑顔で「(やっぱりおめーも女の子なんだな)」と笑った。

コナン「(よし、とりあえず博士を呼ぼう)」

灰原「(待ちくたびれてるわね)」

コナン「(ずいぶん待たせちまったからな、寝てなきゃいいけど)」



博士(……お?)

博士(なんとかなったみたいじゃの、どれ……)

踏み付けた石が靴底のゴムに弾かれて、ワンボックスカーのドアを叩く。
それは、最悪のタイミングで。

オズと目を合わせてしまった。



いち早く音に気付いたコナンは窓から身を乗り出す、店内から見えた視界にオズはいない。
すぐさま横を向くと、今まさに声を上げようとしていた。



幸いにも、窓のすぐそばで。



光彦「(非光彦!見付けましたよ!)」

突如、延髄に衝撃が走る。
痛みの元を辿ろうと首を向けると、そこには眼鏡をかけた少年の姿があった。
突然の睡魔。瞼は重く、手足も力が入らない。抗おうにも、抗えない。
最後に見えたのは、月の光を反射したふたつのレンズだった。

博士「すまん、助かったわい」

コナン「気を付けてくれ…なんて言えねーな、俺も灰原も頭が回ってねー」

灰原「そうね、とりあえず中に入りましょう、外にいたらまた見付かるかもしれないわ」

灰原「…それも、中に隠さないと」

博士「…こうしてみると、光彦君そのものじゃな」

コナン「ああ、でもそれは光彦じゃねー、単なる紛いもんだ」

コナン「早いとこ運んじまおう」



博士「ほれ、ふたりとも、チョコレートじゃ」

博士「疲れた時は甘いものがいちばんじゃよ」

灰原「考えるだけでも糖分は消費されるものね」

コナン「むしろそれがいちばん使ってんじゃねーのか?」

博士「こんなのもあったぞい、ブドウ糖のタブレットじゃ」

コナン「よし、いくつかポケットにしまって食料を探そう」

コナン「何があるかわからねーからまとまって行動しよう」

コナン「味気ねーがなるべくかさばらないように携帯食料を選ぶ、箱からだして小分けの袋だけを鞄に詰めよう」

コナン「飲み物は電解質を多く含み吸収の早いものが望ましいが、ストレスを貯めない為にもある程度なら趣味のものだって選んじまっていいだろう」

コナン「どうしても食べたいものがあるなら今ここで食ってからでも夜明けには間に合うはずだ」

灰原「いえ、大丈夫よ」

博士「わしもじゃ、この年にもなると食に疎くての」

コナン「わかった、携帯食料も飽きないようにバリエーションを多くしよう、念のため缶詰なんかも入れておこう」

コナン「…準備はいいか?」

灰原「ええ」

博士「大丈夫じゃ」

外にオズは見当たらない、遠くで犬が吠えている。

コナン「出よう」

帰路は思いの外あっけなかった、ローテーションかわあったのか一人のオズにすら出会う事なく博士の家へ。

隠し扉から入ろうと裏庭へ回ると
、そこにはボロボロに汚れたシーツを纏った小さな人影が。隠れようと後ずさると小さな枝を踏み、乾いた音が響く。
気付かれてしまった。

??「だっ誰ですかっ?」

コナン「その声、いや、まさか…」

??「コナン、君…ですか?」

博士「まさか君は…」

??「は、博士!灰原さん!」

灰原「円谷君、なの…?」

光彦「はい!」

すみません、一旦区切ります…
都合が付けば夕方には、遅くとも日付の変わる頃には再開します…

誤字脱字がひどいな…
雰囲気を壊さないようレスはしないけれど、支援ありがたいです。

けれどひとつだけ、
>>41充分キチってると思う…

再開します!

光彦と名乗る人物。
普通のオズならば3人の知識はないはず、しかし知人友人ともなれば成りすます事も可能だ。
ぬか喜びはしていられない、距離を取ったまま様子を見る。

向こうが先に動いた。
ローブのように深く被っていたシーツを取る、顔は光彦そのものだった。泣き笑いのような、不思議な表情をしている。

光彦「みなさ「待つんじゃ」

博士「まだ、動くんじゃない」

光彦「博士!僕です!円谷光彦です!」

博士「すまんのう、確信が取れんのじゃ…元太君や歩美君ならまだしも、その顔ならたくさんおる」

灰原「そうね、そのシーツを取ってみせてくれるかしら」

光彦「そっそんな、僕っ病院から抜け出してきて、その、裸なんです!」

光彦「武器なんて持ってません!」

コナン「……なら、上半身だけでいい、見せろ」

光彦「っ」

光彦「わかりました……こんな、状況ですから、ね……信じてもらえないのも、仕方ないです……」

身に纏っていたシーツをはだけさせ、上半身が露わになる。

内出血の後はなかった。
少しやつれてはいたが、綺麗な白い肌をしていた。ファンデーションや下地で隠したあともない、きめ細やかな肌。走ってきたのか、薄っすらと汗をかいて、薄紅色に染められている。

光彦「……もう、いい…でしょうかっ……」

コナン「ああ、すまねえ、光彦」

コナン「会えて嬉しいぜ、なんだかやつれちまったな」

光彦「コナン君は、変わっていませんね」

光彦「灰原さんも、相変わらずお綺麗です!」

光彦「博士は……博士も、そうですね、変わっていませんね」

灰原「ちょっと老けたわ」

博士「いっ色々あって疲れてるんじゃよ!」

コナン「でも少しは痩せたんじゃねーか?」

博士「……まともに食事も取れないからのう」

灰原「今までが太り過ぎよ」

博士「なんだか今日の哀君は辛辣じゃのう……」

灰原「ふふっ」

光彦「ははは、ははは」

ひさしぶりに笑えた気がした。

コナン「とりあえず中へ入ろう、何があったのか…辛いかもしれねーが…聞かせてくれ」

光彦「っ……はい…」

博士「いや、疲れているじゃろうから今日は休ませてあげんか?」

コナン「そう、だな…すまねえ、おめーの事、考えてなかった……」

博士「碌なものはないがの、あったかいココアでも飲むといい、落ち着くじゃろう」

灰原「あたしが淹れるわ、3人はゆっくりしてなさい」


壁に沿って無造作に積まれたかのような廃材、それはハリボテのような物で下にひかれたシートをずらすと大人一人がようやく潜れるような鉄製のドアが出てきた。
念入りなまでに付けられたテンプルキーをふたつ、解錠。光彦・コナン・灰原の順に中へ入り、博士が最後に中からハリボテを戻してドアを閉める。鍵を掛けてノブをガチャガチャと回す、閉まっている事を確認すると振り返って大袈裟におどけてみせる。

博士「これで大丈夫じゃ、鍵屋のオズでもこない限りのう」

穏やかな雰囲気が流れる、安堵からかそれぞれの顔が緩む。

光彦「……コナン君、あの…その、服を…借りても、いいですか」

コナン「わりーわりー、素っ裸なの忘れてたぜ…いや、忘れちまうくらい似合ってるぜ?」

光彦「もう!コナン君!」

光彦「いつまでもレディの前でこんな格好してられませんよ!」

コナン「冗談だって…こっちにおいてある、着いてこいよ」

光彦「もう、コナン君……」



安堵から漏れ出した小さな綻び、灰原は見逃さなかった。

灰原「駄目!工藤君!」

彼だけは安堵の意味が違っていた。

彼の目に宿る狂気の眼差しは寒気がする程に、冷たく。もう元には戻れない程に、歪んでいた。

コナンが振り返るよりも早く、彼はコナンの襟を掴んで引き寄せる。そして、彼が噛み付くよりも早く、博士がその口に手を捻じ込んだ。

博士「ああああああああああっ!」

噛み付かれた腕をそのままに、彼を羽交い締めにする。突然の妨害に彼の手はコナンの襟を離してしまう、バランスを崩したコナンは膝を付いて倒れ込む。気管支を圧迫されて、呼吸がままならない。

コナン「光っ彦!」

博士「近付くな新一!」

博士の腕は、噛まれている上腕を中心に紫の筋が拡がっている。

灰原「…まさか!そんな!」



博士「……ソウルじゃ!」

ソウルは爛々とギラつかせた目でコナンを見つめている。歯は依然、博士の腕に喰い込んだまま。

博士「上着じゃ!上着のポケットにアンプルが入っておる!効くかどうかはわからんが、試して損はない!」

彼は聞きなれない言葉に危機感を覚えたか、抵抗を始める。

博士「離すか!この!」

博士「早く!急いでくれ!長くは持たん!」

灰原が目を離さずに上着のポケットを漁る、アンプルを取り出した所でコナンがそれは奪う。

限界も近いのか、彼を抱き締めたまま博士が倒れ込む。手の自由もなくなり、その狂気の目だけが、コナンを睨み付ける。

コナン「……おめー、一体なんなんだ…?」

彼の首にアンプルがゆっくりと侵入していく。頭を振るい、博士の腕からなんとか口を離す。

光彦「麻酔…薬、ですか……甘い、ですね……コナン、君……」

力なく頭を地に付ける。

博士「……大丈、夫…かの……」

灰原「博士!」

博士「まだじゃ!」

博士「足を、縛ってからじゃ、棚の中にワイヤーがある」

博士「そして、うっ……」

博士「わしが避けたら、すぐに……手も、縛るんじゃ」



博士「……その後、わしは彼と地下の研究室に入る」

コナン「博士!」

博士「近寄るな新一!」

博士「オズはキャリアでなくとも、今のわしにはソウルの体液が付着しておる」

博士「むしろ空気感染の心配すらしておる、棚にあるマスクを使え……うっぐう…」

博士「頭が、割れそうじゃ……」

博士「感染を防ぐ為にも、ソウルは地下へ封印する…わしも、同じく…地下へ……」

コナン「っ……そうか!け、研究するんだな!治療法、治療法を探す為に研究室に!な、な、そうだよな、そうなんだよな!」

灰原「工藤君……」

博士「……それが出来るなら、いいんじゃがのう」

博士「オズは記憶を残しておるじゃろ…ぐうっ…わしには新一や哀君の記憶がある、この状況で組織がどうなってるかんからんが…あぎっ……」

博士「余計な負担は、掛けたくないんじゃよ……それに、自分でいうのもなんじゃが、この頭脳を悪用されるなんて…まっぴらごめんじゃ」

コナン「駄目だ!それは、それだけは駄目だ!やめてくれ!」

博士「じゃから、わしは、死ぬ」

コナン「っ!」

灰原「っ!」

何も言えなかった。

博士が地下へ潜ってから、1日。
消沈したふたりは話す事もなく、ラジオから流れる、勇士によるゲリラ放送に耳を済ませていた。

『ー仲間の確認した情報によると一部の警官がオズに変貌してしまったようだ、つまり……拳銃を持ったオズかいるってわけだ』

コナン(拳銃だと…?)

『国はもう機能していない、自衛隊のみなさん、どうか…どうか米花町を救ってくれ、頼む』

コナン(拳銃なんて、相手に出来るかよ…)

『我々には武器もない、食料も底を突きそうだ、もう…長くは持たないだろう…頼む、頼む……』

コナン(これから、どうしたらいいんだ……いっそ、オズに……)

『……すまない、取り乱した…今日の放送はこれで終わる……みんなの健闘を祈る、どうか、諦めずに、闘ってくれ…反光彦同盟、定時放送を終了するー』

コナン(諦めずに……?)

コナン(こんな状況で、何を……)

コナン「……なあ、灰原」

その時、地下室から声が聞こえた。

重苦しい空気に、気付かないふりをして、言う。

灰原「…何か、聞こえた…?」

コナン「灰原……」

灰原「研究室からだわ」

コナン「灰原!」

灰原「工藤君!」

灰原「行きましょう」



「コナンく~ん」

「灰原さ~ん」

「助けて下さ~い」

「そこにいるんでしょ~?」

「あの時は~怖くて~」

「錯乱していたんですよ~」

「ごめんなさ~い」

「もうしませんから~」

「僕は光彦で~す」

「正真正銘、円谷光彦で~す」

「帝丹小に通う一年生で~す」

コナン「くっ…!てめー!」

灰原「……信用ならないわ」

「本当ですよ~」

灰原「なら博士はどうして?」

「何がですか~?」

コナン「いい加減にしろよ!」

灰原「…どうして倒れたの?」

「わかりませ~ん」

「疲れていたのではないでしょうか~」

コナン「ふざけるな!」

灰原「江戸川君、少し…話させて欲しいの」

コナン「っ…好きにしろ」

灰原「…じゃあ、博士はまだ、無事で、そこにいるのね?」

「……は~い、元気です~」

灰原「そう、なら声を聞かせてちょうだい」

「……寝ていますから~」

「起こすのも悪いですよ~」

灰原「なら、何故気付いてすぐに私達の誤解を解かないの?」

「……目が覚めた時には夜も遅かったので~」

「寝ているのかと~」

灰原「あら、心配ありがとう」

灰原「でも起きていたわ」

「……………」

灰原「どうかしたの?」

「…コナンく~ん」

「まだいますか~?」

コナン「……」

灰原「ちょっと、江戸川君」

コナン「ちっ…ああ、いるよ」

「聞きたい事があるんです~」

コナン「……なんだ」

「昨日の事なんですが~」



「灰原さんは『工藤君』と」

「博士は『新一』と」

「呼んでいましたよね~?」



コナン「っ!」

灰原「っ!」

「『工藤新一』」

「有名な高校生探偵の名前ですね~」

「コナンく~ん」

「コナン君は、江戸川コナン君ですよね~?」

「何故、そう呼ばれているのですか~?」

「コナン君が転校してきた頃って~」



「『工藤新一』の失踪した頃と同じでしたね~」

「頭が良すぎると思っていたんですよ~」

「一体どうしてそんな姿になったんですか~?」

「僕らのような、感染症や、ウィルスですか~?」



コナン(まずい!この状況はとんでもなくまずい!どうする、どうしたらいい!)

灰原「……そういう遊びよ」

灰原「彼が探偵を目指しているのは知ってるでしょう、憧れていたのよ」

「そうだったんですか~」

「深読みしちゃいました~」

「僕も参加していいですか~?」



「新一さん」

コナン「……」

灰原「ええ、あなたはもう此処から出られないのが残念だけれど」

「え~出して下さいよ~」

コナン「わりーな、この事態が収まるまで、そんでもって博士の無事を確認して、おめーが本物の光彦だとわかったら、出してやるよ」

「そんなに待ってたら博士の死体にウジが湧いちゃいますよ~」

「臭いのは嫌ですよ~」

「新一さ~ん、新一さ~ん」

「出して下さいよ~」

コナン「光彦てめー!」



「うるさいのう」

聞き慣れた声がした、随分と長い事聞いていなかったような、そしてこれから先、聞く事も叶わぬとすら思っていた声が。

「は?!」

「静かにして欲しいもんじゃ、こっちは病み上がりじゃぞい」

「は?!は?!」

「だから声が大きいんじゃよ…」

コナン「っ!」

灰原「博士?!」

「おお、哀君、元気にしておったか?」

「そこに、新一もおるのか?」

コナン「あ…ああ!ああ!いる!いるぜ!博士!」

「元気そうでなによりじゃ」

「あなっあなたは!服毒自殺をしたはずでは!なんですか、なんなんですか!」



「何故若返っているのです!」

コナン「?!」

灰原「?!」

「もう、彼は気付いておるじゃろうし、構わんじゃろ」



「アポトキシン4869じゃ」



「ふたりを助ける為、わしは暇さえあれば研究しておった」

「その為、限りなくオリジナルに近いサンプルをいくつか作り出したのじゃ」

「……昨日は、死ぬつもりで飲んだんじゃがな」

「まあ一か八かの賭けじゃった」

「アポトキシン4869は元々痕跡の残らない毒薬じゃ、細胞組織を破壊する途轍もなく凶悪な毒薬じゃ」

「しかし、副作用で身体の全組織を組換えてしまう、結果としての若返りじゃな…これは復元と再生なのではないかと考えた」

「毒で、感染症を殺し」

「副作用で、復元、再生を促す」

「もし副作用がなくともオズにはならなくて済むんじゃ、やらない手はないじゃろう」

コナン「バーロー!」

コナン「心配っ掛け、やがって…!」

コナン「博士、あんた…本当にっ」

コナン「生きてて、よかった…もう、会えないんじゃねーかって…」

コナン「バーロー……」

「すまんのう、新一」

「こちらから鍵も開ける、そっちの解錠も頼むぞい」

「正直、ソウルと同室は薄気味悪いんじゃよ……」

「そんな……そんな事が……」

コナン「ああ、待ってろ!」

コナン「灰原!」

灰原「鍵?」

灰原「あなたが泣いてるうちに取ってきたわ」

コナン「なっ泣いてねーよ!」

「お~い、新一、こっちはもう開いとるぞい」

コナン「すまねえ博士!」

コナン「……後、泣いてねーからな?!」

「わかったから開けてくれい」

コナン「博士!」

灰原「…博士」

博士「新一、哀君…」

コナン「博士…若返っ……」

コナン「た、のか…?」

灰原は顔を背けて震えている。

博士「なんでじゃ!」

博士「感動の再会じゃろ!」

博士「髪も増えとる!白髪だって少なくなった!それに、ちょっとはスリムになっとるじゃろ!」

コナン「まあ、俺達も10歳くらいしか若返らなかったからな…」

灰原「…やめて、工藤君…ぷふっ」

博士「若いとはいいのう!身体も軽いし!頭も冴え渡る!」

コナン「いや、そんな若返ってねーぞ…」

灰原「やめてったら…ぐひっ」

博士「傷付くぞい……」



光彦「そんな事が…そんな事があっていいと思ってるんですかー!」

縛られたままの光彦が身体をバネのようにしならせて、異常なまでの跳躍力で跳ね上がり、博士の首筋を狙う。

それを左手で受け止めるとこう言った。

コナン「博士!」

灰原「いやっ!」

博士「…わしはもう怖くないんじゃよ」

博士「新一、哀君」

博士「彼の目を見ると、動物的本能か、怖くはならんか?」

コナン「あ、ああ」

灰原「ええ」

博士「わしには、もうそれがないんじゃよ」



博士「抗体とは、知っておるじゃろう」



博士「わしは一度、この感染症を克服しておる」

博士「本来の治癒力ではないがの」

博士「おそらく、おそらくじゃが免疫が出来ておるんじゃ」

博士「その証拠に、ほれ」

博士の腕に、血が出る程に光彦の歯が食い込んでいる。しかし、昨日のように紫の筋も出ていなければ、症状もない。

博士「この通りじゃ」

博士「とは言っても、痛いもんは痛い、離してくれんかの」

博士を睨み付けていたが、諦めて口を離す。どさり、と、床に落ちて恨みがましい目で3人を見渡す。

全てを諦めた光彦は、博士が用意したスチール製の椅子に縛られ、手は後ろに、足もそれぞれ椅子の脚に。身動きもままならない状態で拘束された。

光彦「仕方ないです…」

光彦「でも、それがどうしたんですか?」

光彦「今でも母なる光彦はソウルを産み続けています!それに比例するように!爆発的な勢いでオズも増えている事でしょう!」

博士「光彦君は…その、母なる光彦、とやらは…どうなっておるんじゃ?」

博士「そして、ソウルとは一体なんなんじゃ?」

光彦「…教えるとでも?」

博士「話しては、くれんか?」

光彦「………」

光彦「話した所で、何が出来るわけでもないでしょう…」

光彦「母なる光彦は開腹された状態で大学病院のプールに浸かっています、生命維持装置に繋がれて身動きも取れず、僕らを産むだけの存在になっています、意識があるかどうかも不明です」

博士「なんて、酷い話じゃ…」

光彦「ただ、これは僕が産まれた時に見た風景ですので今もそこにいるのかどうかは…」

コナン「光彦…」

光彦「もうひとつの質問にも答えましょう」

博士「待って、待ってくれ」

光彦「…はい」

博士「産まれた時に見た、とは…どういう事じゃ?まさかそのままの姿で産まれてくるのか?」

光彦「ええ、その通りです」

博士「なんという、なんという事じゃ…」

灰原「もう、めちゃくちゃね…頭が痛いわ…」

灰原「あ、感染とかじゃないわよ?」

コナン「わーってるよ…それで、おめーらは、なんなんだ?」

光彦「はい、僕らは光彦です」

光彦「正真正銘、円谷光彦です」

コナン「おいてめ「冗談や悪ふざけではなく」

光彦「僕なんです」

光彦「ソウルは、全て、円谷光彦なのです」

光彦「この世界の僕は、母なる光彦ですが、僕らは…別の世界での光彦なのです」

コナン「あ…?」

光彦「ある程度までは記憶も同じはずですよ、産まれてから、幼稚園、小学校、コナン君、灰原さん、元太君、歩美ちゃん、博士に出会って、少年探偵団を結成して、事件を解決して、キャンプや旅行にも行きましたね」

コナン「おめー、本当に…」




光彦「殺されるまでは」



.

光彦「この世界に産まれてくる直前に、僕らソウルはみんな殺されているのです」

光彦「あなた達に」

コナン「どういう事だ?俺や、灰原や、博士が…おめーを…?」

光彦「はい、元太君や歩美ちゃんも、ですね」

博士「別の世界では、そんな、酷い事が…?」

光彦「ええ、この世界の僕は幸せですね、あなた達も正義感に溢れている」

光彦「侵略者である僕や、オズすらも手に掛けていない…羨ましいです、僕の世界のあなた達も…同じように、変わらずに…いてくれたのなら…もしくは……」

灰原「…あなたの言う、この世界の円谷君の幸せを壊しているのは…紛れもなく、あなた達よ」

光彦「知ってますよ、でも僕らの意思ではないんです」

光彦「産まれた時に全てを理解しました、全ての僕の……最後を、この世界に産まれた理由を」

博士「それが…争いのない、平等な世界……」

光彦「そうです、人類全てをオズにしてしまえば……」

灰原「暴論だわ」

灰原「それまでの幸せはどうするつもりだったの?」

光彦「世界に幸せが溢れているとでも?途切れる事なく戦争や紛争が続いていて、貧困や飢餓で消えてゆく命が毎日何千、何万」

光彦「小さな幸せくらい…そんなもの大した代償ではありません!世界だけじゃない…小さな町の小さな小学校の小さなグループの中ですら…僕らがどんな最後を遂げたか!あなた達はわからないから!」



コナン「わからねーよ」



コナン「そんなっ…悲しい事がっ友達にっ…起こっているってーのによ……」

コナン「わかって、やれねーんだ…すまねえ、光彦…すまねえ……」

光彦「……謝らないで下さい、あなたは悪くありません…それに、僕は…あなたを、コナン君を……」

コナン「いや、死ぬのは勘弁だが…そうされても、純粋に…文句は言えそうにねーんだ……」

光彦「コナン君……」

光彦「あれっ変ですね、涙がっあれっ…なんでしょう、涙が止まりません…もう、そんなもの…うっ…ないと、思って…うう、ああ…いたのに…ぐう、うう、ああ、ああ、あああああ…ごめんっなさっ…」

光彦「ごめんなさい、ごめんなさいコナン君…ごめんなさい…灰原さん、博士…ごめんなさい…」




光彦「……すみません、落ち着きました」

博士「縛ったままで済まない、君に敵意がないのはわかっておるのじゃが…その」

光彦「わかっています、何かの拍子におふたりを感染させてしまってはいけませんから…」

博士「…すまない……」

光彦「いいんですよ、博士は、いつも優しい、ですからっ…!」



光彦「僕に、研究室を貸しては頂けませんか?」

光彦「他の僕らに、連絡を取れないよう通信機器は外してもらって結構です…見られて困るような資料や実験器具も撤去してもらっても構いません、もちろん…食料と飲料水さえ分けて頂けたら…鍵を掛けてもらっても構いません」

博士「それは、構わんが…」

光彦「母なる光彦を、助けてあげて下さい…僕らを、ソウルを止めて下さい…この世界を、救って下さい」

光彦「博士とだけでも、連絡の取れる通信機器があれば…僕が病院の中の案内をします」

光彦「現在の詳細は不明ですが、大まかな編成・配置は変わっていないと思われます」

光彦「そして、感染経路ですが…血液・唾液・汗・糞尿などの体液が体内に入る事で感染します」

光彦「ゴーグルやマスクなどで顔を覆い、衣服も上下厚手の長袖にする事でいくらか防げるでしょう」

光彦「そして、全てが終わったら…僕を、殺して下さい」

コナン「光彦……」

博士「光彦君……」

灰原「円谷君……」

光彦「僕だけ、生き残るなんて、そんな…都合のいい事っ…出来るわけ、ない…じゃないですか」

コナン「ああ、わかった…俺が、この手で、殺してやる」

灰原「工藤君あなた自分がなにを…!」

コナン「黙ってろ灰原!」

コナン「わかってるよ、そんな事わかってる…」

博士「哀君、ふたりに…しておいてやろう…」



灰原「…所で、専用回線なんて繋げるの?」

博士「わしを誰じゃと思っとる、探偵バッヂをベースに信号を重複する暗号化させ、お互いの端末にのみ解読コードを置いてバッテリーとアンテナを組み込んで完成じゃ、今日の夜までには出来るじゃろうて」

灰原「…手伝うわ、あのふたり…まだまだ話も終わらなそうだもの」

光彦「ありましたね~そんな事!」

コナン「元太のやろーそればっかだもんな!」

光彦「困ったもんですよ!」

コナン「……光彦、おめー…」

光彦「…はい」

コナン「灰原の事好きだろ」

光彦「なっなな、何を、そんなっ…えっ?」

コナン「やっぱりな~」

光彦「ひっかけましたね!」

コナン「おめーが露骨に反応してっからだろ~?」

光彦「ひどいですよコナンく~ん!」

ははははは、ははははは

光彦「……コナン君」

コナン「どうした?」

光彦「僕らの、ソウルの…結成した組織の名前、覚えてますか?」

コナン「ああ、光の子らーSons of the sunーだろ?」

光彦「そうです」

コナン「ちょっと中2くせーな」

光彦「……通称『SOS』」

光彦「……僕らはみんな、助けて欲しかったのかもしれません……」

コナン「……光彦……」



博士「ようやく出来たぞい!」

灰原「さすがに疲れたわ…コーヒー、淹れてくるわね」

博士「おお、ありがとう、哀君」

用事が出来たので一旦ここで区切ります、次の投下で終わらせたい所ですがどうなるか…
出来れば今夜、遅くとも明日の夜には再開します。
支援ありがとうございます!

博士「……新一、光彦君…ちょっと、いいかの」

コナン「……ああ」

光彦「っ……はい」



博士「まず、光彦君」

博士「……君を、解放する」

博士「哀君と相談した結果じゃ」

光彦「っ……ありがとう、ございます…」

灰原「キャリア持ちってだけで、あなたも円谷君だものね」

光彦「灰原、さん…」



博士「……よし、楽にしとくれ」

光彦「ありがとうございます、ひさしぶりに身体を伸ばします!」

博士「すまんかった……」

光彦「いえ、いいんです…いいんですよ、そうするしか…なかったでしょうから……」

博士「では本題に入る」

光彦に専用回線の端末を渡し、大まかな操作方法の説明をした。
そして、研究室の回線は生かしたままにする旨を伝える。地図や病院の見取り図の検索、その指示をさせる為に。信頼の証として。

作戦は明朝に出発。ビートルに乗ってオズやソウルを振り切りながら大学病院を過ぎたあたりまで走らせ、そしてあらかじめ積んでおいたカモフラージュカバーでビートルを隠蔽。徒歩で大学病院へ。

正面入口はガラス張りで目立ち過ぎる為却下、中庭の入口も同じ理由で却下、職員入口においてはオズが複数いる事務室と直通している為却下、比較的見張りが少なく地下プールへアクセスしやすい搬入口から侵入する事が決定。これは光彦との相談の結果である。

光彦が言うには、恐らく母なる光彦の死亡がソウルの持つ感染症の無効化に繋がるという。それも、この世界との繋がりを断たれてしまう事で、干渉する能力も失われてしまうとの見解だった。どうしてかはわからないが、そう理解したと言う。だから、母なる光彦を守っているのだと。

目標は母なる光彦、目的は感染症の殲滅。

灰原「……それなら、やっぱりあなたが…円谷君が死ぬ事はないんじゃないかしら……」

光彦「この世界の、僕の居場所を奪ってまで、僕は生きていていいとは、思えないんです」

光彦「それに、僕は、僕自身を裏切る訳ですから…自分の中に、自分を裏切る部分なんて、残しておきたくはないと思いませんか?」

光彦「それに、こうなってしまった世界で生きていくなんて、そんな悩みどころではなく、難しいと思います」

光彦「……それでも、死にたくなんて、ありませんが……」

コナン「光彦……もし、その時がきたら、さっきの話の続きでもしような……」

コナン「たくさん話して、たくさん、たくさん……同じ話だっていいからよ、腹が痛くなる程笑って、それで……」

光彦「コナン君……約束、ですよ?」

コナン「ああ、あったりめーだろ!」

博士「……よし!今日はもう眠るぞい!明日は早いからの!」

灰原「そう、ね…おやすみなさい」

コナン「……明日の朝な」

光彦「はい、おやすみなさい!」

博士「ゆっくりとは言えんが、休んでくれ…おやすみ、みんな」

今夜は、流星群が、空に幾筋もの、幾筋もの、光の線を、描いていた。

まだ薄暗い、夜明け前。
オズ達の活動が鈍る頃、4人はリビングに集まり、携帯食料を口へ運ぶ。会話はない。

コナン「……そろそろ、だな」

博士「そうじゃな」

光彦「気を付けて、下さい」

灰原「ありがとう、必ず無事で帰ってくるわ」

博士「あの後、ありったけの材料でアンプルを作ったんじゃ、それぞれ7本ずつ…じゃがの」

博士「それに、オズやソウルに関しての効果は……光彦君で、実証住みじゃ」

博士「それと、空気銃も改良してある、ベアリングではなく麻酔弾じゃ、装弾数は5発に減ったがベアリングとは違って即座に無力化出来るのが強みじゃ」

コナン「おいおい博士、眠れたのか…?」

灰原「あの後何かしてると思ったら、そういう事だったのね……」

博士「中々寝付けんくてのう……それに10歳若返ったこの身体ならどうって事ないわい!」

光彦「すごい…すごいです!やっぱり博士の発明はすごいです!」

博士「おお、そう言われると照れるのう…よし、帰りにアイスを買ってきてやろう、もちろん高いやつじゃぞ?」

灰原「あら、昨日手伝ったあたしには何もないの?」

コナン「俺も助けたぜ?」

博士「駄目じゃ駄目じゃ!ふたりは昨日感動の再開を台無しにしたから駄目じゃ!」

ははははは、ははははは

博士かわ運転席に座り、ふたりは後部座席に座る。運転席側の外には光彦が見守っていた。

光彦「頼んでおいて、申し訳ないのですが……本当に危険です、助かる保証はありません……それなのに、みなさん……ありがとう、ございます、本当に…ありがとうございます……」

コナン「ああ、行ってくるぜ」

博士「なあに、すぐ帰ってくるわい…暇なら掃除してくれてもよいのじゃぞ?」

灰原「そうね、ギブアンドテイクの関係でいきましょう…帰るまでに頼み事を考えておくわ」

光彦「……みなさん、それでは……いってらっしゃい……!」

3人「「「いってきます」」」

ビートルのエンジンに火が入る、低い唸り声を上げて走り出した。
見送る光彦が小さくなってゆく、3人は、黙って前を向いていた。
この道を、これからの行く末を、その目でじっと見据えるように。

すみません、明日は早いので今日はここで区切らせてもらいます…
支援ありがとうございます、最後まで頑張ります。おやすみなさい。

おお、増えてる……!
ありがとうございます。
今電車なんで後1時間くらいしたら再開します、それまでに色々考えておきます。

3人を乗せたビートルが、静かに国道を走る。早朝だから、というわけでもなく、1台も走っている車はいない。すれ違う事もない。

あるとすれば、歩道に乗り上げ、捨てられたもの。非常時にも限らず、路側帯へ停めて指示板を立てられているもの。交差点で衝突したであろう事故車、それに追突した後続車。それらをすり抜けて、ビートルは走ってゆく。

3人は話さない。

自分達の住む町を、思い出の地を、いつも歩いたその道を、この米花町の惨状を、忘れてしまわぬように。刻み付けるように。まるで、もう見る事が出来ないかのように。ただ、窓を流れてゆく景色を眺めていた。

少し、ほんの少し。
スピードが緩んだ気がした。

博士「……………ん」

博士「そろそろ、かの……」

ふたりは視線だけを前に向ける。

『←○○大学病院 5km』

何も答えず、また、外を見ている。

東の空が、赤紫に染まっている。何も知らない小鳥達は、楽しげに歌を歌っている。信号機が、非常時に気付いているかのように、赤く点滅を繰り返す。カラス達は、ゴミの出ない集積所で、不思議そうにこちらを眺めている。

こんなにも狂った世界で、時間はいつも通り流れてゆく。

太陽も、月も、順番を間違えたりはしない。犬はニャーとは鳴かない、猫だってワンとは答えない。魚は空を飛ばないし、鳥だって海を泳がない。

こんなにもありふれた世界で、僕らだけが狂っている。



視界の端に、目的地が見えたが、目を逸らした。

ある程度進んだ所で、車を停め、カモフラージュシートを被せる。

博士「……よし、光彦君に連絡しよう」



光彦「………はい、着きましたか」

光彦「すみません、先に伝えなければいけない事が……」

光彦「病院の見取り図ですが、サイトにアクセスどころか…はい、検索すら出来ませんでした……」

光彦「……ええ、きっとそうだと思います……」

光彦「お役に立てず、申し訳ないです…覚えている限りの事は、答えられますので…はい、それでは」



灰原「駄目、だったのね……」

博士「そうかもしれんとは、危惧しとったが……」

コナン「情報統制なんて…民主主義国のやる事じゃねーだろ…」

博士「…まあ、情報公開していた所で、無駄にパニックを煽るだけだったかもしれんがの…」

博士「こんな事になるとは…誰ひとりとして、思うまい……」

灰原「…それもそうね、でも…」

灰原「…この場所から離れましょう、オズの活動時間が近付いているわ…」

大学病院へは、拍子抜けする程、あっさりと辿り着いた。ソウルやオズに鉢合わせる事もなく、これといって、問題も起こらず。

コナン「順調だな、順調過ぎてこえーくらいだ……」

灰原「やめなさいよ、縁起でもないじゃない……」

博士「これ、ふたりとも…ここから、敷地内に入れんかの」

コナン「ああ、俺や灰原を上に上げてくれたらな…でも博士、博士は登ってこれるのか?」

博士「何を言っとるんじゃ…大丈夫じゃよ、今のわしならな」

灰原「……若返ったものね」

博士「それ、ツボなんかのう」



コナン「……トラックの停止線が並んでる、この辺りだな……」

コナン「……ここだ」

外にはオズが歩き始めている。
もう、後戻りは出来ない。

「コナン君じゃないですか~こんな所で会うなんて奇遇ですね~」

突然、背後から声を掛けられた。
恐らく、オズ。ソウルならば有無も言わさず感染させてくるはず。
だとすれば、知り合いか。いや、単にソウルが見下しているからか。余裕を見せたくなる程の、何かしらの、優位に立てる理由があっての事か。ポケットのアンプルを、ゆっくりと、握り締めた。

コナン「ひさしぶり、てか?」

コナン「変わっちまって誰だかわかんねーよ」

光彦「ああ!そういえば!すっかり忘れていました!」

光彦「そうでした、この見た目じゃわかりませんね……」



光彦「欄ですよ、毛利欄です」



光彦(欄)「生きていたんですね、よかったです…博士や、哀ちゃんも、よかったです…お父さんに会いに行きましょう、心配、していたんですよ?」

コナン「……ら、ん……?」

光彦(欄)「もう!駄目ですよコナン君!一応、年上なんですから呼び捨てにしてはいけません!」

博士「(…記憶は、しっかりと残っているみたいじゃの…)」

灰原「(…ええ、驚いたけれど…)」

コナン「欄、欄……」

光彦(欄)「だから!駄目なんですよ!コナン君!」



光彦「何をしているのです!早いとこ彼らをソウルの所へ連れて行きますよ!これは大手柄です!」

光彦(欄)「あ~!お父さん!きていたのですね!」

博士「これは、まずい事になったの……!」

灰原「挟まれたわ……!」

灰原「くどっ…江戸川君!」



振り返るとそこには、欄さんを抱き締めながら、アンプルを突き刺す彼の姿があった。



光彦(小五郎)「なっ…!なんて事をするんですか!娘に傷を付けるなんて、子供と言えど許しません!」



鈍く、空気の弾ける音が聞こえるた。欄さんの脇を抜けて、空気銃の銃身が覗いている

ミスった…
欄→蘭

誤字脱字もひどいし、途中送信してしまった…
今日はここまでにして、明日の夜に再開します。小五郎のシーンあたりから書き直します…

休憩中なので、ちょっとだけ…

博士「これは、まずい事になったの……!」

灰原「挟まれたわ……!」

灰原「くどっ…江戸川君!」



振り返るとそこには、蘭さんを抱き締めながら、アンプルを突き刺す彼の姿があった。



光彦(小五郎)「なっ…!なんて事をするんですか!娘に傷を付けるなんて、子供と言えど許しません!」



鈍く、空気の弾ける音が聞こえた。欄さんの脇を抜けて、空気銃の銃身が覗いている。



光彦(小五郎)「っ!」

光彦「…ちっ……畜生…!」

麻酔の耐性があったのか、コナン目掛けて走り出す。

灰原「あ、あの麻酔で動けるっていうの?!」

ふらふらと、今にも倒れそうな足取りだが、確実に距離を縮めてゆく。

博士「……免疫か!」

コナンの胸倉を掴み上げる、足がだらしなく宙に揺れている。

光彦(小五郎)「…コナン、君…!許しまっ…せん、よ…!」

コナン「……おっちゃん……すまねえ……」

その手に握られたアンプルは、小五郎の胸に。

光彦(小五郎)「蘭、さん…は……無事、なん…でしょう、ね……」

コナン「ああ、単なる麻酔だ……直に、目を覚ます」

光彦(小五郎)「それ、なら…いいん、です…すみませ、ん……早、とち、り…して…しまい……ました……」

光彦「この、感覚……なんだか、懐か…し…です……」

力無く倒れる小五郎を抱き締め、ゆっくりと、地面に下ろす。

蘭と小五郎、並べて寝かせると、見た目こそ光彦だが、親子のように。

コナン「蘭、おっちゃん…すまねえ、すまねえ…」

博士「……新一……」

灰原「……感傷は後にしましょう、ここにいてはまた見付かってしまうわ……」

コナン「……………ああ」

眠るふたりは、なんだか、安らかな顔をしているようにも思えた。

博士「……新一、わかってるとは思うが……」

コナン「大丈夫だ…なんか、知らねーけどよ…今、すげー、落ち着いてんだ」

博士「それなら、いいんじゃが…」

コナン「行こう、もうすぐ…この最低な悪夢を、事件を…解決してみせる」

灰原「……いつもの探偵さんに戻ったみたいね」

コナン「バーロー」

コナン「…いや、バーローは、俺だったな…」

灰原「そうね、バーローだったわ」

コナン「灰原、博士…すまねえ」

コナン「先を急ごう」

その頃、研究室では。

光彦「コナン君、大丈夫でしょうか……」

光彦「僕は、なんの役にも立てません……」

光彦「……そうだ!今からでも追い掛けて、オズになりすまして連行するふりをすれば……!」

ソウル「……おや、そろそろ動き出す頃かと思ってきてみたのですが……」

ソウル「先客がいたのですね!」

光彦「っ!」

光彦(ソウル!どうして!鍵は!)

ソウル「ガレージが開いていました、そちらの僕が開けたのですか?」

光彦(ガレージ!あの時!何故確認しなかったのでしょう!)

光彦は考えた、思考回路が焼き切れる程に。小学生らしからぬその頭脳を、正義の心を取り戻したその灰色の脳細胞を、総動員させて考えた。

光彦「ええ、来た時にはもぬけの殻でしたが……手掛かりがあるかと調べていたのです」

コンマ1の遅れもなく答える。

ソウル「そうですか、何かめぼしい物はありましたか?」

光彦「これですね、調べてみたところ麻酔のようです……傷付けず無力化出来るようにと、この世界の彼らは優しいですね」

ソウル「おや、意外ですね、僕らを爆発させるスイッチでもあるのかと……」

光彦「この世界の博士にはそこまでの科学力はなかったようですね、単なるおいぼれです」

ソウル「碌な発明も出来ないとは、落ちぶれましたね……オズにする価値もあるのかどうか」

ソウル「ところで」



ソウル「テーブルのマグカップが4つありましたが、コナン君、灰原さん、博士……残りは誰でしょうね」

すみません、続きは夜に…!

後1時間くらいで再開出来ると思います。
こんな穴だらけの文なのに、支援ありがたいです。

光彦「歩美ちゃん、いや…元太君でしょうか…?」

ソウル「ん?知らないんですか?」

光彦「何がです?」

ソウル「歩美ちゃんも元太君もオズになっていますよ?」

ソウル「…僕らを、こんな風にした主要メンバーです、通達はあったはずですが、聞いてませんか…?」

光彦(歩美ちゃん、元太君……)

光彦「そうだったのですね、昨日から家に張り込んでいたので知りませんでした」

ソウル「そうだったのですか、それは大変でしたね」

ソウル「では、誰でしょう」

光彦「それでは、蘭さんか…小五郎おじさん、ですかね…?」

ソウル「そのふたりも一昨日オズになっています…変ですね、あなたの話なら一昨日はいたはずですが…何も聞いていないのですか?」

光彦「何時頃でしょう…時間によっては病院にもいませんし、いても休んでいた可能性があります」

ソウル「そうですね、昼過ぎ頃、ちょうど14時くらいでしょうか」

光彦「その時間はオズと巡回に出ていました、一睡もしていなかったので帰ってからはすぐに寝ていましたね、どうやら聞きそびれたようです」

光彦「……ところで、そちらの僕に聞きたい事があります」



光彦「あなたは、本当は母なる光彦を、僕らを裏切ってはいませんか?」

光彦が、攻める。

ソウル「っ?!」

焦っていた。ソウルは「彼は高確率僕らを裏切っている」と、ボロを出すのを待っていた。その、自分の疑っているユダから、裏切りを疑われたのだ。

ソウル「なっ何をっ!何を根拠にっ!そんなっふざ、ふざけた事を言うのですか!」

焦れば焦る程、それは「自分が裏切りものです」と、名乗っているかのように見えた。

光彦「いえ、僕はどんなスイッチがあるのかもわからず、また…殺されるのでは…そう、警戒して入ってきました」

光彦「でもあなたは、至極自然に、入ってきましたね?」

光彦「焦りましたよ、彼らが帰ってきたのかと……」

ソウル「違います!裏切り者はあなたです!あなたに決まっています!僕なわけがないじゃないですか!あなたなんです!」

光彦はまだ外にソウルが待機している事を知らない。知らない事が余計に、そのハッタリを、この部屋のソウルを裏切り者だと、信じ込ませるには充分だった。パズルのラストピースのようにかっちりと嵌った瞬間だった。

光彦「あなたは、僕の行動を把握していたのではないでしょうか」

ソウル「は?!」

光彦「歩美ちゃんも、元太君も、蘭さんも、小五郎おじさんも、オズになった事を知らない僕を裏切り者にしたてたのでは?」

ソウル「っ…!何っ!言って…!」

光彦「いや、もしかしたら意図的に知らせなかったのでは?」

ソウル「は?は?は?」

光彦「自分の裏切りが勘付かれてしまった、そこでこの辺りに区域分けされた僕に目星を付け、情報を与えない事で、あたかも不自然なように仕立て上げ、僕を嵌めるつもりだったのでしょう」

ソウル「は?は?は?は?は?」

光彦「ひとりでこんな敵陣の中心にいたら、それだけでも疑わしいのに、状況証拠まで持ってこられたら弁解のしようもありませんからね」

ソウル「何が?は?何が?」

光彦「いい加減に認めて下さい、犯人はあなたです!」



ソウル幹部補佐「諦めの悪い、見苦しいですよ」

すみません、途中から酉間違ってましたね。本人です。

ソウル「っ!補佐っ!違っ…違います!そう、裏切り者は…裏切り者はこいつです!僕じゃありません!」

補佐「そちらの、僕……いいですか?」

光彦「……はい」

補佐「僕達は、特別、裏切り者を探しにきたわけではありません」

補佐「3人がまだ捕まっておらず、こうして僕が自らソウルを引き連れて探しにきたのです」

ソウル「補佐!聞いて下さい!僕は…僕は…!」

補佐「静かにして下さい、僕は今そちらの僕と話しているのです」

ソウル「補佐!」

補佐「静かに、して下さい」

ソウル「っ!」



補佐「……どこまで、話ましたか……」

光彦「3人がまだ……」

補佐「失礼、そうでしたね」

補佐「そこで、この屋敷には3人はおらず、君がいました」

補佐「最初は、僕達の中から裏切り者が出たのかと思いました」

補佐「しかし、話を聞くに、なんだか様子がおかしい」

補佐「僕達が、研究室に君がいる事を知った時、任せてくれと言ったのは彼でした」

補佐「我ながら、頼もしいと思いました」

補佐「しかし、今思えば…そちらの僕を、陥れる為だったのでは…」

補佐「そう思えるのです」

補佐「私の中では、彼に天秤が傾いています」

補佐「しかし、どちらにも、明白な証拠はありません」

補佐「そこで、一旦、大学病院に戻りましょう」

補佐「ソウル最大の知識量を誇る世界線の僕が、病院内の薬から自白剤を精製してくれました」

補佐「どちらが裏切り者なのか、それとも裏切り者はいないのか、はっきりさせましょう」

光彦は、覚悟した。



3人の役に立てなかった自分が、ようやく、役に立てるチャンスがきたのだと。

博士「……………新一」

コナン「ああ、しっかりと聞いてたぜ」

灰原「彼、すごい度胸ね」

博士「突然、通信がきた時は驚いたわい……」

コナン「最初、ソウルと話しているのを聞いた時は…その、裏切った…っていうか、最初から嘘だったのか…って、思っちまったが…」

博士「…いや、正直わしもじゃ…」

コナン「謝んねーとな…次、会った時によ…」

灰原「彼らがここへ到着するまで、早ければ20分、遅くとも1時間って所ね……車での移動はないと信じて、先に地下プールを探しましょう」

コナン「おめー、あいつを助けるつもりか?」

灰原「あら、違ったの?」

コナン「いんや、あってるけどよ…おめーがそんな風に、言うなんてなあ…」

灰原「ギブアンドテイクの関係だもの、彼があれだけの度胸を見せてくれたのなら、私もそれに応えなければいけないわ」

コナン「ほー、あいつに聞かせてやりてーなー」

博士「これこれ、敵の本拠地でのほほんとしてるんじゃないわい」

コナン「わーってるよ」



視線の先には、地下へと繋がる階段。鉢合わせてしまうかもしれないエレベーターは避けて、ある程度自由の効く階段を探していた。
遂に見付けたかと思われたが、見張りらしきオズが二人一組。これより他を探すには、リスクが高過ぎる。なんとしても、ここを突破する他ない。

コナン「(博士、灰原、少し下がってくれねーか?)」

博士「(…どうしたんじゃ?)」

灰原「(何か策でもあるの?)」

コナン「(……ああ、一か八かだ)」

コナン「(念の為、アンプルを準備しといてくれ)」

少し離れた所で、博士と灰原が身を隠す。



蝶ネクタイ型変声機のダイヤルを光彦に合わせる。

コナン(光彦声)「すみませ~ん!誰か助けて下さ~い!」

見張りA「ん?どうしたんでしょう?」

見張りB「僕、様子を見てきます!」

見張りA「ああ!勝手に離れてはいけませんよ!」

見張りB「なにかあったら大変です!」

見張りA「仕方ないです、何かあったらすぐ応援を呼ぶのですよ?」

見張りB「もちろんです!」



見張りB「どうかしましー」

すぐさま死角へと引き寄せ、アンプルを打ち込む、口にはハンカチを当てられ声も出せない。意識はすぐに手放された。

コナン(光彦声)「こっこれは!大変です!早くきて下さい!」

見張りA「どうしたんです!今!応援を!」

コナン(光彦声)「それどころじゃないんです!いいから早く!早くきて下さい!」

見張りA「何があったとー」

自分を呼んだはずの、倒れている相方。手に何かを持っている眼鏡の少年。その複雑な情報量に、止まってしまう。思考も、身体も。

引き寄せられ、抵抗する間もなく、その胸にアンプル。

身体が動かない、意識が遠のく、バランスが崩れる、手を付く事すら。一体あの少年は。



博士「……うまくいったのう」

灰原「あなた、本当すごいわね」

コナン「いや、もし応援を呼ばれていたら全員終わっちまってたかもしれねー」

コナン「無責任な策だよ」

灰原「でも成功したわ」

博士「そのくらい構わんよ、いつ終わるかもわからん世界じゃ…むしろ感謝すべきじゃよ」

コナン「……わりーな」

博士「ほれ、見付かる前に、地下へ降りるぞい」

博士「この階には、あまりおらんのかのう、全く見当たらん」

灰原「母なる光彦、私達の知る光彦君がいるんだもの、きっと誰も近付けないのね」

灰原「厳重な守りがある辺りが、そのプールに近いはずよ」

コナン「見てくれ、見取り図を見る限りこの階じゃねーみてーだ…もうひとつ下か、その下か…」

コナン「地下2Fへ降りるには、突き当たりの階段だな…ドアがあるみてーだが、鍵だとか必要になりそうだ…」

博士「そうだとしたら、それは、ちょっとしんどいぞい……」

コナン「でも、行くしかねー」



コナン「…やっぱり鍵が掛かってたか、中から開くのを待つしかねーのか…?」

博士「こんなところで待つわけにもいくまい、とりあえず近くの部屋へ隠れよう」

灰原「そうね、鍵はなくとも何か手掛かりがあるかもしれないわ」

コナン「……ああ、そうだな」



3人は第一資料室へと足を踏み入れる。

コナン「これは……」

博士「なんじゃ、何か見付けたのか?」

灰原「……当初の資料、ね……」

〓月〓日
クランケ 円谷光彦(7歳) 男児
妊娠のおそれあり
症状、外見、その兆候が見られる
男が妊〓だって?
馬鹿げてる
馬鹿げてるが……?

〓月〓日
レントゲン、CTの結果
前立〓部分に子宮と卵巣のような器官を発見、妊娠とみて間違いないだろう
あるわけない
ふざけてる

〓月〓日
クランケ〓〓〓
なんて説明すればいい
子宮内部の〓〓
成〓が早い、尋〓ではないスピードで育っている、もうす〓に出産できる〓態まで〓〓〓〓〓
なんなんだ

〓月〓〓
クラン〓がク〓ンケを〓んだ!

腹部は皮〓が裂け〓程に張りクランケとほぼ同様〓大きさ〓で成長し〓ので〓急でおぺ〓を開始す〓もクラ〓〓の子〓からは〓ランケが〓てき〓のだ 僕〓狂っ〓いる?????

〓がつ〓にち
またくらんけがくらんけをうんだ

〓/〓
またうんだ

〓/〓
またうんだ

〓/〓
またうんだ
きょうはふ〓りうんだ

〓/〓
3にんうんだ

〓/〓
5〓んうんだ

〓/〓
18にん
なんかお〓しいやつ〓たか〓しせんせーをかん〓ら
た〓〓しせん〓ーが
よ〓れたからいく

〓/〓
たくさんうんだ
よし〓せんせーもか〓れた

〓/〓
たくさん
さいとーせ〓〓ーもかま〓た

〓/〓
たく〓ん
〓か〓しせ〓〓ーがく〓んけになった!
くるって〓のか?

〓/〓
よしだ〓〓せーがし〓だ
さい〓ーせ〓せーもくら〓〓になっ〓!

〓/〓
かまれた

〓月〓日
井上先生に変わって記す。
書くにあたって、
円谷少年を【甲】
甲より産まれた者を【乙】
噛まれた者を【丙】
と、表記する。

甲は尋常ではない速度で乙を産み続ける、それは日に日に増えてゆく。乙は産まれると同時に泣き叫び、暴れる者がほとんどで、手が付けられない。ある程度落ち着いた所で、大部屋にて隔離。
そして〓/〓に高橋先生が産後の不安定な状態の乙に噛まれる。その直後、頭痛、吐き気などの体調不良を訴え、診察を受けるも不明。
患部から紫の筋が拡がる、何かの感染症ではないかと検査の続行。
続いて吉田先生も噛まれる、同じく体調不良を訴え検査入院。症状は同一の物である。
斎藤先生が大部屋へ隔離する際、待機していた乙に噛まれる。同じく検査入院。ここで高橋先生に変化が現れる、理解し難い事に、円谷少年に酷似した姿へと変貌。記憶はあるようだが性格まで変化してしまったようだ。吉田先生は年齢の為か耐え切れず変異中に死亡してしまう。遂に斎藤先生も丙になってしまう。ふたりが大べ〓をかいほ〓してしまっ〓よう〓

じっけん

かまれた

灰原「……………酷い」

博士「これは……………」

コナン「…ここで、途切れてる…」

博士「改めて、残酷な事だと…考えさせられる、のう…」

灰原「吐き気がするわ……」

コナン「…ああ…っ!」

「静かに」のハンドサイン。



鍵の開く音がする。

すみません、明日も早いので続きはまた日付の変わる頃に…
支援ありがとうございます。

すみません人がくるそうなので更新は明日になります

本当、申し訳ないです……

コナン「バーロー何で謝るんだよリアル優先は当然だろ?」
コナン「何時までも待つぜ」

ありがとうございます、それでは社畜ってきます。今日は早く帰れたら22時頃には、遅くとも日付の変わる頃には……

新一、光彦君…すまんのう…

休憩なので、ちょっとだけ…

ソウル「……こちらからの施錠を完了しました、確認をよろしくお願いします」

ドアの向こうからノブを回す音、そして新しく鍵の閉まる音。

「施錠確認、こちらも施錠完了、それではリストの薬品と機材をよろしくお願いします」

ソウル「了解です、備蓄食料の補給も兼ねていますので少し遅れます」

「了解です、出現が近いのでなるべく急いで下さい、それではお気を付けて」

ソウル「了解です、行ってきます」



ふりかえると同時に口を抑えられ資料室へと引き込まれる。

博士「声を出すな、このアンプルには対ソウル致死性ウィルスが入っておる」

博士「相当な激痛じゃ、遅効性なのが難点じゃが…その間叫ばずにおられるかの…?」

博士「叫んだが最後、集まる仲間へと感染していくじゃろう」

ブラフ。

ソウルは考える。
今噛み付いた所でアンプルを刺されるのがオチ、隙を見てアンプルの奪取と噛み付き。
それしかない。

静かに頷く。

博士「……懸命な判断じゃ」

博士「ふたりとも、そこにある結束バンドで手足とそれぞれの親指を拘束してくれい」

ソウル(まだいましたか、いや…この3人と考えれば妥当ですね…)

博士「声をあげようものならすぐさまアンプルを打ち込む、理解したのならまた頷くがよい」

頷く。

博士「よろしい……わしらには免疫がある、噛み付いても無駄じゃ」

嘘に真実を混ぜていく、そうして真実へと辿り着くまでを遅らせてゆく。

ソウル(免疫、ですか…馬鹿な…しかし感染症を知っていて素手で口を塞ぎに掛かるなんて、賭けにしては無謀過ぎる…まさか…)

博士「身体検査をさせてもらう、通信機器のような物は持っておらんじゃろうな……」

服を捲る、痣はない。
手首に鍵がひとつ。

博士「これは、そこの扉の鍵…合っておるか?」

頷く。

他にはメモ以外、めぼしい物は持っていなかった。

博士「タオル、脱脂綿、ガーゼ、エタノイルオキシベンゼンカルボン酸…これはアスピリンか…それに…強心剤かの…向精神薬まで、このメモは頼まれておったものかのう」

頷く。

博士「……すまんのう、こっちも調べさせてもらうぞい」

ソウルの肛門へガラス棒を挿入する、特に異物は見当たらない。

博士「もう何も持っていないようじゃ……遅くなっても怪しまれてしまうからの、率直に聞く」

博士「扉にカメラの有無、解錠において合言葉や暗号の有無、鍵以外に必要な物の有無、そしてその手順を答えなさい」

ソウル「ありません、ありません、ありません」

ソウル「解錠願います、その一言だけです、向こうが解錠をしたらこちらも解錠……」

博士「助かったわい、コナン君、解錠の方は頼むぞい」

アンプルの注入。

ソウル「なっ?!」

博士「安心してくれい、ウィルスはブラフじゃ、中身は単なる麻酔薬じゃよ、ゆっくり休んでくれ」

3人は外を確認して部屋を出る。

コナン(光彦声)「解錠願います」

「おや、思っていたよりも早かったのですね」

「今開けますよ」

じゃらじゃらと鎖のような音が聞こえる、純粋な二重ロックではなくあり合わせのようだ。

「解錠完了、ではそちらをどうぞ」

コナン(光彦声)「ありがとうございます、こちらも解錠します」

鍵を刺し、左へ捻る。
カチャンと、小気味好い感触。
麻酔銃を右手に構え、左手でドアを引く。

ソウル「共鳴の間隔も狭まってきました、そろそー」

鈍い破裂音を響かせて、麻酔弾はちょうど心臓のあたりへ。
元より伏し目がちだった視線は、胸に釘付けに。
そしてすぐさま顔を上げ、3人を確認。
声を上げようにも、意識はもう。



コナンがドアを押さえながら奥の階段を警戒、灰原は麻酔銃を構えながら元来た道を警戒、博士はソウルを第一資料室へと運び結束バンドにて拘束。

着実に、プールへと。
母なる光彦へと、近付く。

補佐「さあ、着きましたよ」

補佐「自白剤は地下2Fにあります、専用エレベーターで向かいましょう」

補佐「僕はふたりの身の潔白を信じています……その信頼は、裏切られた時、残酷さに変わります」



コナン「…博士…」

博士「……よし、大丈夫じゃ」

コナン「灰原」

灰原「こっちも大丈夫よ」

コナン「……じゃあ、行くぞ」



補佐「お疲れ様です、私用から戻りました」

見張りC「お疲れ様です!」

補佐「裏切りの疑いのあるふたりを連行しています、処置室へ向かいますの通して頂けますか?」

見張りC「はい!」



コナン「(これから先、油断は出来ない、なるべく会話は控えて、ハンドサインを活用していこう)」

ふたりは「了解」のハンドサイン。

博士が視界の端で、ちょっとした変化に気付くも、時既に遅し。

コナンの背中で、エレベーターが到着のベルを鳴らす。

光彦がいち早く状況を理解した。

エレベーターの、ほんの少し開いた扉に、コナンの後ろ姿を見付ける。その瞬間、両ポケットの中で握られた、アンプル。

博士はそれぞれに7本、合計28本のアンプルを作っていた。研究室に残る光彦を心配して、4人分、作っていたのだ。

振り返り、それと同時に、右手に握られたアンプルで、目を丸くした補佐の首を刺す。左を向くと、同じように目を丸くしたソウルがいた、しかし、その刹那、般若の如き形相へと変貌する。無意識か、視線を合わせたまま、右脚を鞭のようにしならせて突き出す。が、光彦はそれを右手でいなし、その流れで半身を翻す。もう目は瞑られている、気が付けば、左手のアンプルは、ソウルの、肝臓近くへ。

この間、僅か3秒。

エレベーターのドアが開く。

麻酔銃を向ける3人に、振り返って声を掛ける。

光彦「みなさん、やっぱり来ちゃいました」

3人「っ?!」

コナン「おまっ…光、彦か…?」

光彦「嫌ですね~コナン君、僕らはみんな光彦ですよ~?」

まだ、3人は状況が飲めずにいた。

光彦「博士、アイスは僕が選びますからね?」

光彦「灰原さん、ギブアンドテイクの件、これでチャラになりますか?」

3人「!!!!!」

博士「あ、ああ!ああ!もちろんだとも!ハーゲンダッツでもなんでも!選びなさい!」

灰原「チャラよ、それどころかおつりがあるわ…帰るまでに考えておきなさい、キスまでならokよ」

コナン「……よく、きたな」

光彦「……はい」

コナン「聞いたぜ、さっきの通信」

光彦「……大丈夫でしたか?」

コナン「……何がだ?」

光彦「突然、繋いだりして…ソウルに気付かれたり…」

コナン「大丈夫だ、それより……」

光彦「……はい」

コナン「その…わりい、俺、おめーの事信用出来てなかった…疑っちまった、すまねえ……」

博士「…わしもじゃ、すまん…」

灰原「あら、私は違うわよ?」

光彦「……いいんです」

光彦「敵を欺くにはまず味方から、とー」



その時、突き当たりにある地下プールから、断末魔にも聞こえる、産声が轟く。4人の鼓膜に、べっとりと纏わり付くように。

光彦(まずい!まずいまずいまずいまずい!)



光彦(しかし、これはチャンスでもあります)

「ああああああああああ!」

光彦「落ち着いて聞いて下さい、時間がありません」

「離っ!離せっ!離せ!離せ離せ離せ離せ!離して下さいよおおおおおおおおお!」

光彦「今、新しくソウルが産まれました…プールには10人前後のソウルがいます…幹部が1人、医療知識のある者が2人、薬品知識のある者が1人、補助におよそ5人…これは僕のいた頃の編成ですが…変わりはないはずです」

「あああああ!僕の!僕の手が!足が!あああああ!」

光彦「幹部1人と医療知識を持つ者1人、その補助に2人を残し、新しく産まれたソウルを連れて、残りのソウルがあの部屋から出てきます」

「ユルシテ!ユルシテ!ユルシテ!ユルシテ!ユルシテ!」

光彦「あの部屋が開かれるのはその時だけです」

「コナン君!灰原さん!元太君!歩美ちゃん!博士!もうやめて下さい!なんなんですか!なんなんですか!なんで僕が!何で僕がたくさんいるんですか!」

光彦「新しく産まれたソウルですが、大抵は不安定な状態です…理由は…察して下さい」

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

光彦「そこに、あなた方が来る訳です…怯えてくれたらいいのですが…もしそのソウルが、復讐心に満ちていたら…身体能力に特化していたら…」

「…………………………」

光彦「コナン君は中心を、灰原さんは左側を、博士は右側を、麻酔銃で狙っていて下さい…近付けるだけ近付きますが…新しいソウルは未知数です、有る程度の距離は取っておきましょう」



ガチャンと音を立て、重々しい扉が開く。その音はまるで、絞首台の足場が開くような。

すみません、お風呂に入ってきます。30分くらいで戻れるとは思いますが……

勢いよく扉が開かれる。

血に塗れ、タオルで包まれたソウルが両脇を抱えられ、足取りも覚束ないままに。左側のソウルが必死に指示を飛ばす。右側のソウルが前に出て鍵束をじゃらじゃらと鳴らす。後ろに居たソウルが脈拍・血圧を測り読み上げる、それをカルテの様なものに書き込むソウル。その間に割り込み、注射器にて何かを投薬するソウル。



異音に気付いた頃には、もう麻酔弾は到着していた。

鍵束を持った者に1発、脈拍・血圧を計っていた者に2発、カルテに記入していた者に1発、投薬していた者に2発。被弾、そして3人を認識すると同時に意識喪失。

光彦は見逃さなかった、その最悪の事態を。

医療知識を持つ者、先程新しく産まれたソウルの計測をしていた者が被弾したのは灰原の1発だけのはずだった。しかし、新しく産まれたソウルを狙ったコナンの1発も、当たったのだ。つまり、反吐が出る程、最低で最悪だが、新しく産まれたソウルは、瞬時に理解し、そして反応、結果として医療知識を持つ者を、盾にしたのだ。

光彦(つまり、驚く程冷静にして冷酷、身体能力も並ではないでしょう……)



左側に居たソウルが腰を抜かし、奥の部屋に叫ぶと同時に、コナンの1発がテンプルに命中する。

それを合図に、新しく産まれたソウルが、腰を落とす。

コナン「畜生!弾切ー」

それは、猫のようにしなやかに、犬のように力強く、地を這う蛇のように、走り出した。

コナン「っ!」

鉄屑と化した麻酔銃を投げ付けるも、腰を軸に、無駄なく、躱す。

距離はもう手が届きそうな程。



光彦「あなたの相手は!」

同時に、奥から補助であろうソウルが顔を覗かせるが、博士と灰原の放つ麻酔弾に沈む。

光彦「僕です!」

光彦の膝が、美しい程の流線を描き、その横顔に叩き付けられる。

そして膝をそのまま振り抜き、ふたりはもつれながら段ボールが積まれた食料庫へと転がり込む。

コナン「光彦!」

博士「わしらが行っても足手まといになるだけじゃ!今!すべき事は!プールへと向かう事じゃ!」

博士「光彦君の勇気を!無駄にしない為にも!わしらが全てを終わらすんじゃ!」

コナン「っ!」

灰原「」

ミス

そして膝をそのまま振り抜き、ふたりはもつれながら段ボールが積まれた食料庫へと転がり込む。

コナン「光彦!」

博士「わしらが行っても足手まといになるだけじゃ!今!すべき事は!プールへと向かう事じゃ!」

博士「光彦君の勇気を!無駄にしない為にも!わしらが全てを終わらすんじゃ!」

コナン「っ!」

灰原「博士の言う通りよ、先へ急ぎましょう…もう、終わりは近いわ…」

3人はプールへと歩を進める。



光彦「…君は、あの3人が憎いのですね…?」

ソウルは、光彦の言う事がまるで理解出来ない、そんな、不思議なそうな表情を浮かべ、口元の血を拭う。

光彦「僕もそうです…いや、そうでした…」

光彦「しかし、彼らは彼らであって、僕らの憎む彼らではー」

ソウルが手を振るう、その指先の血が光彦の両目を潰す。

光彦「っ!」

反射的に顔を覆ってしまう。

続いてソウルの右足が光彦の鳩尾を捉える、胃から心臓までをえぐるように捻じ込まれる。

光彦「ぐっ!」

内蔵を締め上げられるような痛みに前傾姿勢になってしまう。

ソウルの攻撃は止まない。

背骨に右肘が入る、声も出ない。仰け反りそうになった所、頭を押さえられ、顔面に膝が続く。膝を掴むも、今度は肝臓ばかりを狙って肘が続く。その手は膝を離してしまい、地面に顔から落ちる。

ソウルは、その光彦を見て、首を傾げる。そして、プールの方へと視線を移し、ギラついた目を余計に光らせる。

ソウルの足首を光彦が掴む。

振り解いて手の甲に乗ると、軽やかに爪先で肘を弾く。本来曲がるべきでない方向へと曲がる。絶叫。そしてそのまま踵で数本の指を砕く。小さく声が漏れるも、また手を伸ばす。また振り解いて踵で手の甲を踏む、中手骨の殆どが砕けてしまったようだ。しかし、またも手を伸ばす。うんざりしたソウルは、光彦の元へ近寄り、首を締め上げる。



光彦「……この、時を…待って…いまし、た……」

消え入りそうな声で、そう呟く。

膝に小さな痛みが走る、目をやると見慣れぬものが揺れていた。

手足の力が抜け、光彦を離してしまう。またも顔から落ちる光彦、小さく呻き声を漏らす。

ソウルは後ろへ跳び、間合いを取る。

暗闇の中で、その目だけが浮かんでいる。

光彦「まだ…動けるなんて…化け、物…ですか…?」

折れた右腕を庇いながら立ち上がり、ソウルへと歩み寄る。

薙ぎ払うような蹴りが右腕を狙う、しかしその蹴りに鋭さはもうない。左手で受け、その足を潜り抜け、左足で軸足を払う。バランスを崩したソウルが手を付く、その延髄に、アンプルを突き立てる。ソウルは最後の力を振り絞り、光彦の足を掴んで引きずり倒す。膝に刺さったアンプルを抜き、光彦の左目を突き刺した。

光彦「ああああああああああ!」

意識を失ったソウルの下で、光彦が悶える。その身体を跳ね除け、のたうち回る。そして、壁に寄り掛かるようにして立ち上がり、肩で息をしながら「目を潰されるのは、慣れませんね」と笑った。アンプルに残っていた麻酔薬か、疲労からか、その場に倒れてしまう。



幹部「会いたかったですよ、コナン君」

コナン「俺も会いたかったぜバーロー」

すみません、続きはまた明日に…
日付の変わる頃になると思います。
支援ありがとうございます。

休憩なので少しだけ……!

プール脇にあるデスクから、幹部のソウルが立ち上がる。部屋の奥ではもうひとりの医療担当のソウルが白衣を握り締めている、その目には憎しみと恐怖。補助は落ち着かない様子で動向を探る。

プールの中では、開腹され、たくさんのチューブに繋がれた光彦が苦痛に顔を歪ませている。

コナン「……光彦、おめー自分がなにしてんのかわかってんのか?」

幹部「……わかっています」

コナン「わかってねーよ」

幹部「わかっています、あなた達は憎むべきでないという事も、母なる光彦を苦しめるべきでないという事も、この世界を壊していい理由などない事も」

コナン「ならなんで……!」

幹部「あなたは、大切な人を傷付けた相手を許せますか?」

幹部「大した理由もなく、理不尽にその命を弄ばれ、殺されても同じ事が言えますか?」

幹部「それが違う世界だとして、それだけの理由で、その行いをなかった事にして、笑えますか?」

幹部「その絶望から、もう一度チャンスを与えられたら、活用したいと思いませんか?」

幹部「それならば、最後の良心を持ってして、世界を少しでも幸せにしたいとは、思いませんか?」

幹部「それが、もう起こってしまった出来事なら、その責任を自分ではない何かに転嫁したいと、思いませんか?」

幹部「どの世界でも、同じように扱われていたとして、同じように復讐のチャンスを得られるチャンスを、他の自分から奪えますか?」

幹部「幸せな世界の自分を、妬ましくは、思いませんか?」

答えられない。

幹部「……わかって居ただけましたか?」

コナン「おめーの、言ってることは…正しい…正しいかもしれねー、だがおめーのやってる事は、それは正しいのか?」

幹部「正しいなどとは思っていませんよ、狂っています、異常です」

幹部「しかし、この世界も狂っているのなら、この世界そのものが異常なら、それは正常なのかもしれませんね」

答えられない。

幹部「あなたはとても賢い、僕の言葉を理解しているでしょう…理解した上で、その正義を貫こうとしている…その精神は気高く、尊敬に値します」



幹部「しかし、今の僕らにとって、あなたは超えるべき障害でしかない」

幹部「もういいでしょう」

幹部「一瞬にして彼らを制圧されてしまいました、僕らが如何に身体能力が優れていた所で、相手の戦力がわからなくては対応のしようがありません」

幹部「隔離室を解放しなさい」

医療担当が狼狽する。

医療「しっ…!しかし!あれを解放してしまっては…!」

幹部「あなたが、彼らを始末してくれるのですか?」

医療「っ!」

博士「新一、なにやらまずい雰囲気がするぞい」

灰原が我に帰り、補助のひとりを麻酔弾でしとめる。

補助「うっ…あっ…!」

灰原「これであたしも残弾ゼロ」

空になった麻酔銃を医療担当へと投げ付ける。目の前を通り過ぎ、壁に当たって壊れてしまった。

驚いて、すぐに灰原を睨み付ける。

幹部「もう我々ふたりですよ」

医療「……っ!」

忙しなく鍵束を鳴らしながら、なんて事のないドアに付けられた無数の鍵を解錠してゆく。

博士「まずい!あの部屋はまずいぞ!なんだか知らんが、わしの本能がガンガンと警鐘を鳴らしとる!」

麻酔銃を構えて医療担当へ向けて発砲、しかし麻酔弾はその身を掠めて壁を叩く。医療担当が小さく「ひっ」と漏らす、そして失禁。手は止まらない。もう一度。肩に命中、しかし、意識を失う前に、最後の鍵を解除。



医療担当ごとドアを吹き飛ばし、最恐にして最凶のソウルが、姿を現した。

続きはまた夜に……!

ここまで来るとコナンの名前だけ借りたオリジナルだな

一応数々のコナンssで虐殺されてきた光彦達がいてこそ成り立つ
ストーリーだしね多少はねしょうがないね

いやこれは無理だろ
すでにコナンキャラの名前じゃない奴だらけやん

まじかよ……

>>247確かにそれは感じてる
でも思い付いた始まりが>>251だったから……

>>253一応コナン灰原博士以外は全部光彦だから……

まあいいや、また夜に。

毛色は違っても光彦マジキチのつもりで書いてたんだけど、オリジナルって言われるとそれは確かに否めないな
次になんか書くならss速報でも開いてみるとするよ、色々な意見があって参考になる

とりあえずもうそろそろ終わるしここで完結させるよ、ちょっとしたら再開する!

闇彦「んん~」

闇彦「あんな狭っ苦しい所に閉じ込めるなんて、他の僕らも残酷ですね~」

闇彦「コナン君達にやられて理性も壊れてしまいましたか?」

幹部「それはあなたです……他の者はどうしました?」

闇彦「ああ、彼らならこの救いのない、残酷な世界から解放してあげましたよ」

闇彦「辛く、苦しいだけですからね~」

闇彦「せっかく、その世界から解放されたと思ったら、また戻されてしまったなんて、酷すぎますよ~」

闇彦「だから僕はみんなを解放してあげているのです!」



闇彦「もちろん、コナン君達の事も許してはいませんよ」

闇彦「頭を垂れ、許しを請い、泣き叫び、もがき苦しんで、失禁し、脱糞し、脳が痛みを遮断しても、それを超える痛みを与え、完膚無きまでに心を壊し、自尊心という自尊心を粉々に打ち砕き、生きる事を恥じるまで、死ぬ事だけを考えるようになるまで、そしてそこから生への渇望を取り戻すまで、許してあげません」

闇彦「でもやっぱり、それをしたところで許したりはしません」

闇彦「自己満足です」

闇彦「僕の自己満足の為に」

闇彦「苦しんで下さい」



ヤバイなんてもんじゃない、イかれてるだけじゃすまされない。話を聞いていて3人に分かった事がひとつ、彼の精神は一欠片も狂ってはいない。それが、彼にとっての正常。

すいません、豆腐メンタル(絹ごし)の心折れそうなんでまた日を改めて更新したいと思います。
とりあえずいくらか支援してもらえて、批判されるくらいには読まれてるんだとポジティブに考えて夢の世界に逃避してきます……

問題はたくさんあるので荒れるのも仕方ないと思います、不快に思われた方には申し訳ないです。
おやすみなさい。

安価ものじゃない場合は手元でラストまで書きためて
一気に更新して駆け抜けるのが一番楽なやり方、とりあえず乙おやすみ

しかし言い争いになると一気に湧いてくるのな、ROMって

>>277
サンクス
それで頑張ってみる

あいぽんだとそれよくやる

荒らしに負けないで!
楽しく読んでる人もいるから!

更新待ってます!

>>281
荒らしっていうよりは適切な批判が多いからありがたいっちゃありがたい、でもそう言ってもらえるとすごく嬉しいです

全レスもうざったいだろうからこれ書いたら寝ます、本当ありがとうございます
完結出来るよう頑張ります

再開します!

先に動いたのは闇彦だった。

光彦が足止めをした先のソウルよりもずっと速い。

そして飛び道具もない。

かわせるか、否。その身で受けるほかない。



動いたのは博士、後ろからコナンの胸を掴み自分の後ろへと腕力のみで引き下げる。そして、闇彦に真っ向から挑む。が、視界から闇彦が消える。尋常でない跳躍力で博士を飛び越し、おまけと言わんばかりに後ろ足で博士の背中を蹴り飛ばした。体重差で倍以上はあるはずの博士の身体は軽々と飛ばされてしまった。痛みとショックで呼吸がままならない。

コナンは目の前に現れた闇彦に握り締めたアンプルを予備動作0で突き出すも虚しくアンプルを裏拳で砕かれてしまう、その拳はまるでツバメ返しのようにコナンの顔へと折り返す。瞬時に避けるのは無駄と判断し、額で受ける。骨を通して嫌な音が響く、視界はぐるぐると回り、コナンの身体は吸い込まれるようにタイル地の床に倒れ込んでしまう。

闇彦はもう、博士にもコナンにも目はくれず、灰原を見つめている。この一瞬で何が起きたのか理解できるはずもなく、灰原は呆然としていた。



幹部「素晴らしい、素晴らしいですよ!」

幹部「いとも簡単に彼らを無力化するだなんて!」

幹部「……狂ってさえいなければ、もっと早くこの世界を……」



闇彦「灰原さん」

闇彦「灰原さん、この世界の灰原さんは」

闇彦「まだ、処女ですよね?」



闇彦の顔が、いやらしく歪む。

闇彦の容赦ない蹴りが灰原の腹部を襲う。

灰原「っ!」

博士よりも軽い灰原は、まるで人形のように飛ばされ、壁へと叩き付けられた。

灰原「ああっ!」

床に落ちたかと思うともう一度、闇彦の右足が腹部にめり込む。壁と床、ダメージは逃げ場を失い灰原の中を縦横無尽に駆け巡る。胃が痙攣を始め、自分の意思とは裏腹に朝食交じりの胃液を吐き出してしまう。少し、血が混じっていた。

闇彦「灰原さん」

闇彦「灰原さん、そんな目で見ないで下さい」

闇彦「怯えないで下さい」



闇彦「興奮してしまいます」

ふと股間に目をやると、小さいながらも性器は破裂せんばかりに勃起していた。

ショートパンツには粘液が染み出している、今にも垂れてしまいそうな程。

灰原「ひっ!」

コナン「はっ灰原ぁ!」

闇彦「……グッドタイミングです、彼に見てもらいましょう」



闇彦「僕らの、初めての子作りを」



光彦「させるわけないじゃないですか!」

右手は折れ、左目は潰れ、もう倒れたままでよかったじゃないかと、誰もが思うような姿をした光彦が、残された右目で、睨み付けていた。

闇彦「おや、僕ではありませんか」

光彦「あなたなんかと一緒にしないで下さい!」

闇彦「そんなことを言われましても……DNAから記憶からなにからなにまで一緒だというのに」

光彦「僕は、僕は……もう友達を傷つけたりなんかしません!」

闇彦「友達?友達とは?彼らのことですか?」

闇彦「幼子が遊ぶように、虫けらでも殺すかのように、なんの躊躇もなく僕の家族を殺す人の事ですか?」

闇彦「一緒になって笑っていたかと思えば、人の想像し得る苦痛を、思い付く限り、全力で与えてくるような人の事ですか?」

闇彦「死ねない身体にされ、延々と続く苦痛をくれる人の事ですか?」

闇彦「それが当たり前の世界が、宇宙に散らばる星のようにたくさんあると知っていて、そう答えるのですか?」

光彦「そうです、そんな悲惨な世界の中で、唯一といってもいい程……コナン君も、灰原さんも、博士も、僕に優しくしてくれました」

光彦「この世界の僕ではなく、むしろ憎むべき敵といってもいい程の僕に、優しくしてくれました」

光彦「……そんな彼らを、傷付ける事は、僕が許しません!」

光彦「その結果、全ての僕に恨まれようと」

光彦「構いません」



闇彦「変ですね、あなたは僕なのに、僕はあなたの言ってる意味がこれっぽっちもわかりません」

闇彦「……可哀想に、あなたは狂っているのです」

闇彦「僕が、すぐに開放してあげますからね」

反応の追い付かない速度で闇彦が距離を詰める、光彦が顔面に膝を合わせるもその膝を肘で返す闇彦。皿の割れる、軽やかな音が響く。その足が地面に下ろされる前に、折れた右腕を握り締める。絶叫。そしてその腕を思い切り引き伸ばし、鼻に額をめり込ませる。顔が一瞬にして返り血で真っ赤になる程の出血、しかし闇彦は目を瞑らない。胸倉を掴み、もう一度、頭突きを繰り返す。後ろに倒れようとする光彦の右手を掴み、強引に引き戻す。失いかけていた意識は痛みによって覚醒。絶叫。その腕を掴んだ状態で、まるで絵本の中の少女がお花畑でするように、くるくると回りだす。絶叫。絶叫。絶叫。喉が裂け、吐血。朦朧とした意識の中で、左手に確かな感触。闇彦は楽しそうに笑っている。握り締めたアンプルを、闇彦の右目に。

闇彦「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

不意に手を離され、光彦は灰原の上に投げ飛ばされ、倒れこむ。

灰原「うっ!」

光彦「----------っ!」

闇彦「僕が!僕に!なんて事を!」

闇彦「あなたは正気ですか?!」

闇彦「なんですかこれは?!」

闇彦「うっあっ……麻酔ですね?!」

闇彦「ふざけた真似を!!!!!」

コナン「ふざけてんのはおめーだろ」

アンプルを2本、まとめて背中へと突き立てる。

コナン「情けねー事にさっきのでどうやら視神経がいかれちまったらしい、もうなんも見えちゃいねえ」

コナン「でもよ、さっきおめーが叫んでくれたおかげで」

コナン「こいつをプレゼントする事ができた」

コナン「いい加減、眠りやがれってんだバーロー」

闇彦の裏拳が空を切る、コナンの意識は途絶えていた。

コナンを踏みつけようとした闇彦の背中に痛みが走る。

灰原「あたし、これまで使ってこなかったのよね」

灰原の白く、細い、その両手で握られた。

灰原「アンプル」

7本のそれは。

灰原「せっかくだから、初めてを、あげるわ」

確実に、闇彦を捉えていた。

灰原「欲しかったんでしょう?」

灰原を掴もうと手を伸ばすも、闇彦の手はまたしても空を切る。

光彦が抱き寄せていた、王子が姫を守るように。

幹部「結局、こうなるのですか……」

博士「すまんが、わしはわしでいたい」

博士「他人は、自分ではない他人として」

博士「認識していたいのじゃ」

博士「争いのない世界というのは、魅力的じゃがの」

博士「……夢物語と、笑うかもしれんが」

博士「それは、他ならぬわしらの手で、作っていくべきじゃと」

博士「思うんじゃよ」

博士「思想も、人種も、全てが違う、そんなわしらが手を取り合って」

博士「作っていくべきものなんじゃよ」

観念したように、幹部は右手を差し出す。

博士「……?」

幹部「あれ、僕にも打ってください」

博士「…光彦、君…」

幹部「早くしてください、決めたこととはいえ、まだ諦め切れないのです」

幹部「気が変わる前に、して下さい」

博士「ああ、少し、痛むぞい……」

幹部「その程度、なんてことありま…せ、ん…」

幹部「なん、だか…心地、よい…です……」

幹部「そういえば……こんな、優し…発、明…」

幹部「ばっかり、して…まし…た、ね……」

博士「……発明家冥利に尽きるわい……」

博士に手を握られたまま、座り込むようにして意識を失った。

肩を支え、その手を離し、まるで親が子にするかのように、優しく、その身体を地面に預ける。

左手で顔を抑えながら、右手はコナンを探す。

闇彦「せ、めて…コナ、君…だけ、でも……」

闇彦「道連れ、に……!」


遂にその手がコナンを探し当てる。

刺されたアンプルをまとめて乱暴に引き抜く。

そのうちいくつかは割れてしまい、手のひらを傷付ける。

闇彦「コナン、くぅぅぅぅぅうううううぅぅぅぅぅん!!!!!!!!!!」

すみません、続きはまた明日の夜に。

多分>>313で豆腐メンタル(絹ごし)が折れたんじゃ…

申し訳ないです、昨日は疲れ過ぎて熟睡していました……
とりあえず今日の夜にでも終わらせられたらと思っています。

>>315
それだと豆腐メンタル(波乗りジョニー)レベルになってしまう。

休憩なので少しだけ。

闇彦の右手が振り下ろされる。

突き刺さったのは光彦の背中。

光彦「……これで、コナン君の…手を…汚さずに、済み……そう、です……」

闇彦「このっ!糞にたかるっ!蛆以下のっ!矮小なっ!虫ケラがっ!」

力任せに、抉るように、アンプルを押し込んでゆく。そのうち何本かは割れ、闇彦の手と、光彦の背中を傷付ける。それでもその手を止める事はない。

灰原「円谷君!」

博士「光彦君!」

光彦「あな、たは…その…矮小な、虫ケラに、すら……目標を、阻止…される…程度の、存在、だった……と、いう…事です…」

闇彦「っ!っ!っ!」

灰原が動かない身体を引き摺り、闇彦の足にしがみつく。

灰原「やめ、なさい……!」

闇彦「~~~っ!」

闇彦「うっとおしいんですよ!」

灰原を振り払うと、闇彦はバランスを崩し、コナンと光彦の上に倒れ込む。

灰原は壁に頭を打ち、虚ろな目で見つめている。

光彦の背中に刺さったアンプルの破片が闇彦の胸に刺さる、闇彦はもう立ち上がろうとしなかった。

闇彦「……どうして……どうして……」

光彦「……僕も、辛かった、です…コナン君…僕がいた、世界の……コナン君に、とても、ひどい…事を…され、ました……」

闇彦「……………」

光彦「絶対に、許さ…ない、と…許せない、と……思って、いました…思っていました、が…」

闇彦「この世界の……コナン君とは、関係…なかった…んです、この…世界の…コナン君は、優しかった……ん、です……」

闇彦「……………」

光彦「本当は…知って…いました……でも、それでも…僕は……」

闇彦「……やっぱり、僕は…僕…です、ね……」

やりとりを見つめていた博士はゆっくりと立ち上がり、母なる光彦の、この世界の光彦の元へと、向かう。

「……………」

博士「……光彦君……」

「……………」

博士「……すまんのう……」

「……………」

博士「……辛かったじゃろう、苦しかったじゃろう……」

「……………」

博士「……怖かった、じゃろう……」

「……………」

博士「……すぐに、楽に……して、やるからのう……っ!」

「……ん……」

博士「っ?!」

「……コナ…君…」

光彦と闇彦を中心に、風が集まる。部屋の外では異変を嗅ぎ付けた他の幹部やソウルが集まってきている。灰原がドアへと目をやると、倒れた瓦礫で塞がれていた。

「何が起きているのです!」「開きません!」「壊してもいいから開けるのです!」「誰かチェーンソーを持ってきて下さい!」

視線を彼らへと戻し「助かりそうにないわね」と、誰にも聞こえない程に、小さな声で呟いた。

風が、強まる。

闇彦と、光彦が、お互いを吸収するように、足りない部分を補い合うように、ひとつになってゆく。

神彦「「……これは………」」

博士「君は、一体……」

灰原「円谷、君……?」

神彦「「…僕は、僕は…」」



神彦「「この世界を、彼らを、救います」」

続きは夜に。

再開するよー。

その見た目は、両目は潰れていて、手足は折れ曲がり、傷のない所を探すのが難しい程。傷は、増えてゆくばかり。その度、苦痛に顔を歪める。全ての光彦の傷を、受け入れてゆく。

外から声がする。

「どこへ行ったのです!」「ま、また消えました!」「どうしたというのです!」「なっ何が!」

無音。

光と闇がひとつになり、全てを取り込んでゆく。それぞれの苦痛を、恐怖を、憎悪を、受け入れ、許して行く。やがて、完全なる静寂が訪れる。

神彦「「……………」」

もう、人の形を成していないその神は、肩を震わせ、静かに泣いていた。声を殺し、零れる涙をそのままに。静かに。

誰も、声を掛けるものはいない。



神彦「「全ては、元通りに」」



神彦はゆっくりと母なる光彦へ近付いて、慈しみ溢れる表情で、その身体へ沈んでゆく。

全てを吸い込むかのような風が光彦へと集まる、そして、それが収まったかと思ったのも束の間。世界を包むような、温かく、優しい何か。









.

「コナンく~ん!起きなさ~い!」

コナン「……ん~」

蘭「コナン君!学校でしょ!」

コナン「っ?!」

コナン「いっけね!」

蘭「ほ~ら!お父さんも!」

コナン「……?」



博士「」

ミス

「コナンく~ん!起きなさ~い!」

コナン「……ん~」

蘭「コナン君!学校でしょ!」

コナン「っ?!」

コナン「いっけね!」

蘭「ほ~ら!お父さんも!」

コナン「……?」



博士「……」

博士「……っは!」

博士「いかんいかん、仮眠のつもりが寝てしまったわい……」

博士「……何か、夢を見ておったような……」

博士「お、哀君、おはよう」

灰原「あら、博士、遅いお目覚めね」

博士「見た所、哀君も今起きたようじゃが?」

灰原「ええ、なんだか長い夢を見ていたの」



「こらみっちゃん!朝よ!学校よ!」

光彦「う~ん、後5分でいいですから~」

朝美「もう!遅刻しても知らないんだからね!」

光彦「……って、ああ!もうこんな時間です!なんでもっと早く起こしてくれないんですか~!」

「起こしたわよ!」

灰原「おはよう、江戸川君」

コナン「おう、灰原か」

歩美「あ~、おはよ~!コナン君、哀ちゃん!」

コナン「おう」

灰原「おはよう、吉田さん」

元太「おっす!」

光彦「元太くん先に行かないで下さいよ~!」

コナン「おっす、光彦おめー朝からへばってんなー」

灰原「おはよう、小嶋君、円谷くん」

歩美「おはよう!元太君!光彦君!」

元太「おう!光彦のやつ体力ねーからよー、これから俺が特別にガーデニングしてやるんだ!」

光彦「みなさんおはようございます……って勝手に決めないで下さいよ元太く~ん!ていうかそれをいうならトレーニングでしょう!」

元太「そうだったか?」

ははははは、ははははは

これは、ひとつの可能性。

全てを取り込んで、新しく作り直した世界。

誰も覚えてはいない。

この世界は、全ての世界の最期でありながら、全ての世界の始まりでもある。

これからまた分岐して、それがまた、そしてそれもまた、繰り返してゆく。

その結果、また狂った世界もきっと出てくる。それが積もり積もって、また別な世界に影響を及ぼすのかもしれない。

ただ、この世界は、この時だけは、平和であるという事。

それは、とても幸せな事で。





コナン「おいおめーら遅刻すんぞ!」

光彦「待って下さいよ~!」

おわり

くぅ疲w
タイトルと設定だけ思い付いて勢いで書いてしまった、後悔はちょっとしている
SS速報でやればよかったかなーとか、書き溜めるべきだったなーとか
なんか自業自得だけど、荒れちゃったからもう最後とか見てられないくらい駆け足だったけど、これはこれで
正直風呂敷広げ過ぎてもうどうしたらいいかわからなかった……

長々とありがとうございました、名無しに戻ります。

名無しに戻るなんて言ったけれど読み返してみて改めて思った。
反省点は文章の誤字脱字が目立つ。反復がしつこい。韻が重なってしまって醜い。
無法組織やらラジオの拳銃を持ったオズなどの投げっぱなし。他主要メンバーのストーリー。単なる背景には変わりないけれど、もっと本筋と絡めてもよかったのかもしれない。
そしてボツにしたもうひとつのラストシーンも気に入らないわけではなかったので、一応投下したいです。蛇足と思われるかもしれませんが、もう1レスだけ。

これは、ひとつの可能性。

全てを取り込んで、新しく作り直した世界。

誰も覚えてはいない。

この世界は、全ての世界の最期でありながら、全ての世界の始まりでもある。

神は言った。

「彼ら」を「救います」と。

「全てを元通りに」と。





コナン「おいおめーら遅刻すんぞ!」

光彦「待って下さいよ~!」





光彦「走り過ぎたのか……」





光彦「なんだか気持ち悪いです…」

全ての哀しみを前にして、たったひとりのちっぽけな正義なんて。

>>1

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