勇者「定食屋!」僧侶「始めました!」 (231)

勇者「国から任命を受け勇者として旅に出ようとした矢先、他の勇者が戦争を終わらせたとのことでお役御免となった」

勇者「どうせだからちょっとだけ出た報奨金で昔からの夢だった自分の店を持つことにした」

勇者「と、それももう数年前の出来事」

勇者「今はそこそこ軌道に乗って、お客さんの笑顔を見るのが一番の楽しみだ」


僧侶「勇者さーん、注文入りましたー」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396969615

・注意書き

これは
勇者「定食屋はじめました」
勇者「定食屋はじめました」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365500381/)
の続編です、多分

私の他のSSのキャラが大量に出てくるのでワケわからんことになるのはご了承ください

勇者「珍しいな、客来たのか」

僧侶「勇者さん、今軌道に乗ってた都とか言ってませんでしたか?」

勇者「細かいことはいいんだよ!で、久しぶりのお客さんはーっと……」チラッ


黒髪少女「去年来た時と全くメニュー変わっていないのですが」

金髪少女「どれもこれもパスタパスタ……パスタ専門店の脱却が出来ていないみたいですね」

眼帯少女「……もう何でもいいから飯食わせー」


勇者「」

勇者「おい僧侶!ちょっとこっち来い!」

僧侶「はいはい何ですか?」

勇者「俺はあの連中をどこかで見た覚えがあるんだが?」

僧侶「去年の今頃でしたっけ?来てましたよね確か」

勇者「確定で来てたよ!?変なクレーマー3人組!!」

僧侶「よく覚えてますね」

勇者「まぁそれほどまでに客が少ないってことだ、言わせんな恥ずかしい」

僧侶「だから冒頭のアレは何だったんですか」

黒髪少女「ま、変わらないのは自信の現れと取りましょうか。すみません、注文いいですか」

僧侶「はーいただいま」

勇者「なるべく刺激するようなことはするなよ?あいつら俺の心を抉る発言をしてくるからな!」

僧侶「勇者さんがまともな料理を出せば問題ないんじゃないですか?」

勇者「俺にそれができると思うか?」

僧侶(……まるで成長していない)

黒髪少女「それじゃあ私は……そうですね、魚介パスタを」ニヤリ


勇者(あの黒髪こっち見て笑いやがったぞ畜生)


金髪少女「もやし炒めと卵焼きが美味しかった記憶があるが……私はそれで」

黒髪少女「ダメです、全員パスタでお願いします」

金髪少女「ハァ!?お前何勝手に決めてるんだ!」

黒髪少女「知る人ぞ知るジンクスというものがありましてね。まぁお金を出すのは私ですし、素直に従っておきなさいな」

金髪少女「チッ……ごめんなさい。じゃあそれでお願いします」

黒髪少女「あなたもそれでいいですね?」

眼帯少女「……ういー」

僧侶「勇者さーん、注文は……」

勇者「魚介パスタ三つだな?……ふ、フフフ」

僧侶「何ですか気味が悪い」

勇者「あの黒髪、去年と同じものを注文するとは面白い……」

勇者「だがな!この俺を甘く見るなよ!!この1年でどれだけ成長したかを見せつけてやる!」

勇者「来る日も来る日も滝で打たれ、ギプスを装着し茹で時間を目測で正確に測れるようになったこの俺のパスタを!!」

僧侶「あ、努力はしてたんですね」

勇者「ああ!今まで食わせて笑顔を見た回数より絶望させた回数のほうが多いからな!俺だって反省はするさ!」

僧侶「それにしてもその努力の方向性は間違っていると思いますよ」

――――――
―――


勇者「お待たせいたしました。当 店 自 慢 の、魚介パスタでございます」キリッ

黒髪少女「随分時間がかかりましたね。ゆで時間長すぎるんじゃないですか?」

勇者「みっちり作りこんだ結果です。今回は具に力を入れておりますゆえ」

僧侶(だったらさっき言っていた修業は何だったのか)

金髪少女「あ、スープパスタになってますね」

眼帯少女「……いい匂い」

勇者「小さめに切った魚介を煮込み、その出し汁の風味からトマトソースと当店秘蔵のソースを混ぜ合わせたものです」

黒髪少女「なるほど、それでその切った魚介は直接具に」

金髪少女「そのソースからスープが作られたというわけですね」

眼帯少女「……このスープ、うーまーいーぞー」ズズー

黒髪少女「手を出して食べなさいな、お行儀が悪い」

勇者「俺としてはスープとパスタを一緒に食べて欲しいんだけどな」

金髪少女「女性の口の大きさに合わせて小さ目なんですね。あ、ホントだ美味しい!」パクパク

黒髪少女「へぇ、腕を上げたようですね。定食屋の勇者さん?」

勇者「フッフッフ、俺だってあそこまで言われたら黙っちゃいられねぇからな!ってか頼むからパスタと一緒に食べてくれ、具だけで食べないで」


僧侶(す、すごい……!あの勇者さんの料理が褒められている!!パスタに一切手を付けてないですけど)

黒髪少女「では、ちょっと気も引けますがメインに手を付けましょうか」

勇者「何で気が引けるの?ねぇ何で?」

眼帯少女「……この悪名高き噂の麺……誰が消えるかわからないデスゲームッ」

金髪少女「大丈夫ですよ、私たち強いですから……死ぬことはないと思います。多分」

勇者「俺の料理って世間でどんな認識を受けてるの?誰か教えて?」

黒髪少女「……」ススス

金髪少女「……」ツルツル

眼帯少女「……」ズルズルズルズルズルズルズルズル


勇者「……」ゴクリッ

僧侶「何ですかこの緊張感は」

勇者「うるせぇ!今ここに俺の今後の扱いが掛かってるんだ!黙って見てろ!」

僧侶「はいはい、皆さんの舌がおかしくならない様に濃い目のコーヒー入れてきますねー」

勇者「それで!お味は!!」


黒髪少女「不味い」

金髪少女「てんでダメ」

眼帯少女「死で償え」

勇者「なんでだよ!!?さっきはアレほど美味しいって言ってたじゃないかよ!?」

黒髪少女「それは具なら具、スープならスープに限った話です」

黒髪少女「まったく、全然進歩してないですね。以前に比べたら麺の茹ですぎです」

勇者「うぐう!ぐうの音も出ないッ!」

金髪少女「自覚あったんですか」

僧侶「はーい、みなさん。当 店 自 慢 の、ブレンドコーヒーですよ」

眼帯少女「……これを待っていた」

黒髪少女「ま、私たちは本当はこれを飲みにここへ来たんですけどね」

勇者「ひでぇ」

僧侶「旅行か何かのついでですか?近くに大きな港がある程度でここら辺は特に目立ったものは無かったような……」

黒髪少女「ま、そんなところです。というかあなたたち知らないんですか?この近くにある観光スポット」

勇者「観光スポット?ここに住んでから3年は経つけどそういうのは聞かないな」

僧侶「辺りが森ですからねぇ。何か近場に出来たんですか?」

黒髪少女「ああ、移り住んできたのなら知らないのも当然か」

勇者「なによ?」

黒髪少女「この森の中心部に大木があるのはご存知ですか?とても大きな」

僧侶「あーはい、町へ行き来するときによく見ますよ。やたら存在感がありますので」

黒髪少女「その大木、実は大きな桜の木だったりするんですよ」

勇者「サクラ……?何それ」

僧侶「チェリーの木ですよ勇者さん。ここらへんじゃ見ない物ですね」

黒髪少女「ええ、普通ならこの気候では生息はしないので」

勇者「その木が何でこんな場所にあるんだよ」

黒髪少女「その木は別名"化け物桜"と呼ばれてまして。100年に1度、この季節に大満開の花を咲かせるそうです」

僧侶「へぇー、なんだか素敵ですねぇ勇者さん」

勇者「そんな花なんて興味ないけどな俺は」

黒髪少女「今日の午後がまさにその100年に一度というわけです」

僧侶「よし!勇者さん!今日はお店閉めましょう!そして見に行きましょう!」

勇者「えー、めんどくさいなー」

黒髪少女「ここにある理由としては化け物の桜ということで生息地に捕らわれない、と言ったところでしょうか」

黒髪少女「あなた達みたいに自由な生き方をしている大木ですよ」

勇者「なんか馬鹿にされてる気が」

僧侶「そうと決まれば早速!」

黒髪少女「ダメですよ、まだお店開いたばかりでしょう?」

黒髪少女「今日はその桜の話を聞きつけた色々な冒険者がここを訪れるでしょう」

黒髪少女「あなた達はあなた達の決められた役割をしっかりとこなしてください」

僧侶「むー、そんなこと言ったら桜が逃げちゃいますよ!」

勇者「逃げやしねぇよ。わかったから落ち着け」

僧侶「ふん!勇者さんなんてもう知らない!私一人で行きますからね!」

黒髪少女「いくら親しいとはいえ、女性の扱いを間違えるとすぐに破局へ向かいますよ?」

勇者「うるせぇ!お前に言われる筋合いなんてねーよ!」

勇者「ゴホン、あー僧侶」

僧侶「ふん!」プンプン

勇者「悪かったよ。最近仕事以外でどこかに行くことなんてなかったからさ、俺も照れてついそんなこと言っちまったんだ」

勇者「確かにこの人の言う通り、今日はまだ人が来そうだから今すぐにはいけないけどさ。早めに店閉めて二人で見に行こう……な?」

僧侶「勇者さん……」キュンッ


金髪少女「あの娘チョロイですねー」ズズー

眼帯少女「……私並にチョロイ」ズズー

黒髪少女「はいはい茶化さない茶化さない。人を待たせてますし、私たちはとっとと退散するとしましょう」

――――――
―――


勇者「で、気付いたらいなくなってるし」

僧侶「お金は置いて行ってるからまぁいいじゃないですか」

勇者「……不味いなんて言ってたのにちゃんと全部食べてくれたんだな」

僧侶「何だかんだでいい人たちだと思いますよ、私は」

カランカラン


勇者「お、さっそく客が来た」

僧侶「あの人の言う通り冒険者さんかな?いらっしゃいませー!」


側近「国王様、この後のスケジュール全部キャンセルしてまで桜を見に来て一体何がしたいのですか」

真勇者「休暇だよ休暇!働き詰めで死んじまいそうだからいいだろそれくらい!」

側近「ハァ……サボってこんな場所へ来ているとリザード総隊長とエルフ部隊長が知ったらどんな顔をするやら」


勇者「なんか俺の名前が悲しくなるような名前の人が来ちゃった」

側近「あ、どうも仮面の人と鎧の人から紹介を受けてここに来ました」

僧侶「ああ、えっと……あ!あの人たちですね!」

勇者「すげぇビジュアルのあの二人組か」

真勇者「ここの店の料理は格別に美味いって聞いてな。それでここで飯でも食って待ってろって言われてな」

僧侶「あなた達も化け物桜を見に?」

側近「はい、数百年も存在し続けている大樹なので気になりまして」

真勇者「そんな花の話なんてどうでもいいよ。ヴェイドも来るっていうからワザワザ抜け出してきたんだからな」

真勇者「それより腹減っちまったな。なんか頼もうぜ」

側近「いいですよ。すみません、適当に軽食をお願いします」

勇者「えっと、メニューあるから選んでほしいんだけど……」

側近「あなたはここのシェフですよね?でしたら私たちが望むものを見た目だけで判断して出してください」

勇者「そんな無茶苦茶な……」

勇者(……ってあれ?そういやこの二人どこかで……)

真勇者(あれ?この人どこかで会ったことあるような……)

側近「お二人とも、細かいことは忘れてください。さ、国王様、お疲れでしょうし早く席へついてください」

真勇者「お、おう。ってか人の思念読むなよ。お前そんな能力無いだろ」

側近「どれだけ一緒にいると思ってるんですか。顔を見れば何を考えているかくらいわかりますよ」

勇者「いやこっちの思念も読み取ったよね今!?」

僧侶「勇者さん勇者さん、そんなことより早く作ってくださいよ。待たせちゃったら悪いですよ」

勇者「おう!こうなったら腕の見せ所だな!たまにはパスタ以外も作ってみるか!」

僧侶「おお!やる気十分!勝算は?」

勇者「大ありだ!あの鉄面皮っぽい女の子の方の頬を緩ませてやるぜ!」

勇者「女の子の方は害のないものを!野郎の方は作り置きのパスタを!」

僧侶「ちょっとでも勇者さんを見直した私が馬鹿でしたよ」

――――――
―――


勇者「お待たせいたしました。当 店 自 慢 のサンドイッチとパスタでございます」キリッ

真勇者「パスタ……ねぇ」

側近「私がサンドイッチの方をもらっていいですか?国王様」

真勇者「別にいいけどさ……嫌な予感が」

側近「……さて、私には何のことかさっぱり」

僧侶「コーヒーとご一緒にどうぞ」コトッ

真勇者「あ、どうも」

側近「おや、私とそちらのコーヒーの色が随分と違うみたいですが」

僧侶「あなたの方は少し甘目にしています。そちらのサンドイッチの味を阻害しない程度になっています」

側近「ふむ……お心遣いありがとうございます。私、甘い飲み物好きなもので」

真勇者「へぇ、料理に合わせて出してくれるのか。で、俺のコーヒーが滅茶苦茶濃いどろどろのコールタールのような状態の理由は?」

商人「……」

真勇者「……」

商人「……」ニコッ

真勇者「なんか言えよ!?」

>>39
林檎ちゃんフライングーーーーーーッ!!

>>39修正

僧侶「コーヒーとご一緒にどうぞ」コトッ

真勇者「あ、どうも」

側近「おや、私とそちらのコーヒーの色が随分と違うみたいですが」

僧侶「あなたの方は少し甘目にしています。そちらのサンドイッチの味を阻害しない程度になっています」

側近「ふむ……お心遣いありがとうございます。私、甘い飲み物好きなもので」

真勇者「へぇ、料理に合わせて出してくれるのか。で、俺のコーヒーが滅茶苦茶濃いどろどろのコールタールのような状態の理由は?」

僧侶「……」

真勇者「……」

僧侶「……」ニコッ

真勇者「なんか言えよ!?」

側近「シェフ、このサンドイッチの具材は」

勇者「無農薬のレタスと最高級の国産牛のローストビーフを使用しております」

勇者「パンは柔らかく噛めば芳醇な香りが広がり肉とシャキシャキの歯ごたえのレタスが調和するものとなっています」

側近「これは……はい、驚きました。確かにおいしいですね」

勇者「お褒めにあずかり光栄です」

真勇者「……俺のパスタは?」

勇者「作り置きです」

真勇者「随分正直だな!?客にそんなもん出して弁明も無しか!?」

勇者「嘘がつけない性格なもので」

側近「つべこべ言わない。シェフが選んだものです、間違いは無いはずですよ」モグモグ

真勇者「ま、まぁお前がそういうのなら……」

側近「……」

真勇者「……」オソルオソル

側近「ッ……」

真勇者「おいお前何で今笑いを堪えた」

側近「いえッ……そんなことは無いですよ」

真勇者「声上擦ったろ!?お前はこのパスタの何を知っているんだ!?」

勇者「……あ。あーやべえ」

僧侶「どうしました勇者さん?あのパスタは今回どんなミスをしたものか思い当たる節でもあったんですか?」

勇者「いや、あの人達の事思い出したわ」

僧侶「はて?どこかで会ったことありましたっけ?」

勇者「うん、ちょっと前にさ」



―――
――――――

リザード兵「ええと、内容は」

真勇者「パスタだらけだな……」

リザード兵「他がもやし炒めと卵焼きしかないのか」

真勇者「じゃあ俺はそれでいいよ。パスタの気分じゃないし」

リザード兵「俺はカルボナーラだな、すみません店員さーん!」


勇者「ん?んー?おっかしいなぁ、煉獄鳥の卵の調理法これであってたよな?ソースの色が……ま、いっか」


その後、リザード兵は口にパスタを含んだまま数時間意識不明となった

――――――
―――


勇者「やべぇよ!?隣国に出張定食屋しに行ったときに出くわした人たちだよ!?」

僧侶「あー、そんなことありましたねぇ」

勇者「確かあの男の人の方はその国の国王で戦争を終わらせた勇者の一人だって隣の女の子の方に聞かされたんだよ」

僧侶「ってことは本物の勇者ってことですか!」

勇者「やばいって!幸い前回は付き人が被害にあっただけで俺もお咎めが無かったけど今アレを食ったら……!!」

僧侶「何でそんなもんお客さんに出すんですか」

勇者「止めなくては!もしそれで国王様に何かあったら国際問題どころの話じゃなくなる!!」

僧侶「よく考えたらその場で首を刎ねられてもおかしくはない行為じゃないですか!!勇者さんの料理で命が危ない!!(こっちの)」


側近「食べるんですか?食べないんですか?ハッキリしないと私が無理矢理にでも食べさせてあげますが?」

真勇者「お前は何を拘る!?俺の何が見たいんだ!?」

側近「吐瀉物まき散らして苦しむ様です」

真勇者「やっぱり分かっててやってたのかテメェ!?」

カランカラン


騎士「おー、ここも変わってないなぁ」

竜少女「といっても1年足らずじゃ、何も変わるわけなかろうて」


僧侶「ここで新たなお客さん!?」


真勇者「おおっと!!手が滑って偶然通りかかった親友の顔面目掛けてパスタをぶちまけちまったああああ!!」ガシャンゴトンッ‼

騎士「うげあッ!?」

側近「あ、ヴェイドさんお久しぶりです」

騎士「ゴポプッ……ゴパッ……カフッ」

竜少女「ぬわーーーーー!?お主ら!突然何をする!?」

側近「チッ……スケープゴートが偶然通りかかりましたか」

真勇者「非力な俺を許してくれ、友よ……」


勇者「さ、最悪の事態は回避したか」

僧侶「勇者さん、それに伴って一人が死にかけていることを忘れないでくださいね」

――――――
―――


騎士「ったく、酷い目にあったぜ」

真勇者「白目向いて泡吹き出すほどだなんて知らなかったんだ」

僧侶「」ドゲザ

勇者「」ドゲザ

側近「頭を上げてください。この人たちはそんなことじゃ怒ったりしませんよ。それに。大事には至りませんでしたし良しとしましょう」

竜少女「何をしておったのじゃお主らは」

竜少女「それよりも、久しぶりじゃのう。ワシらの事を覚えておるかはわからんが」

僧侶「忘れていませんよ、竜さん達……ですよね?」

騎士「へぇ、案外覚えられているもんだな」

勇者「目の前で竜に変身して飛び立たれたら誰だって忘れられないっての」

騎士「こっちもアンタのパスタの不味さは忘れられねぇよ」

勇者「褒めるなって!」

騎士「これが褒めているように聞こえたのならちょっと病院紹介するから行って来い」

僧侶「みなさんお知り合いなんですか?」

真勇者「ああ、まぁ」

騎士「同期の友人だ二人ともな」

側近「この人に同期扱いされると不愉快ですね」

竜少女「お主、辛辣じゃのう……」

勇者「過去の客の仮面の人たちの紹介でここに来た国王とその側近の知り合いが俺たちの店に来たことのある人たちか。世間って狭いんだなぁ」

僧侶「奇妙な繋がりですねぇ」

騎士「それよりも、とっとと待ち合わせの場所に行くぞ」

竜少女「うむ、お主らを迎えに来るためにここに立ち寄ったのじゃからな」

勇者「あれ?何か食べていかないの?」

竜少女「むぅ、食べたいのはやまやまなのじゃが……化け物桜の場所取りもしなければならなくてのう」

僧侶「ありゃ、そんなに混むんですか?」

騎士「そう知れ渡っているものでもないけど、名のある冒険者なら一度は見に来ようって連中は多いと思うぞ」

竜少女「ワシらもその内の1組じゃからな」

僧侶「勇者さん……」

勇者「わ、わかってるって。今後の客入り次第でだな……」

真勇者「場所取りが心配ならあっちで俺たちに声でもかけろ」

僧侶「え?」

側近「ま、そこそこ面白い絵面は見れましたのでそのお礼です。一緒に花見するくらいは誰も文句は言いませんよ」

騎士「被害者俺だけだから言えることだろお前ら」

竜少女「男が女々しいことを言うでない。そうじゃ、美味い料理でも振る舞ってもらえばいいじゃろうて」

側近「そうですね。ではもし化け物桜に訪れる時は料理を持参してきてください。とびっきり美味しいものを」

真勇者「それで今回の件はチャラだ。いいだろ?」

竜少女「もちろんじゃ!」

側近「国王様の仰せの通りに」

騎士「異議ありー」

僧侶「みなさん……」

勇者「……おう!任せておけ!今度はうまいもん食わせてやるから待ってなって!」

騎士「おーい」

――――――
―――



僧侶「いい人たちですね」

勇者「ハハ……自分自身の行いが恥ずかしくなってきたよ」

僧侶「私は料理はできないからお手伝いできませんけど……皆さんを満足させられるようなもの、作っていきましょうね!」

勇者「ああ、わかってるよ!」

カランカラン


僧侶「あ、お客さんですね」

勇者「あの黒髪怖いな、預言者か何かか?」

僧侶「いいじゃないですかそんなことは、いらっしゃいませー!」


商人「いやー、お腹空きましたねぇ」

幽霊「定食屋があってよかったねー」

剣士「どうでもいい、早く飯にするぞ」

子ウサギ「ウキュウ!」


勇者「こりゃまた大所帯で」

小休止
明日は着物商人一行、没夫婦、機械男、その他でお送りします

再開

勇者「随分と可愛い子達だな、変なのが2ほどいるけど」

僧侶「ウチってペット禁制でしたっけ?」

勇者「連れ込んだ人なんて初めてだしなぁ。一応衛生面からしてアウトだけど」


剣士「さて、何を食うか」ペラペラ

幽霊「歩き詰めだったからねー、私浮いてるけど」

子ウサギ「ウキュウ」ツカレタ

商人「あんたずっと私の頭の上乗ってただろうが」

勇者「すみません、こちらのペットの連れ込みはご遠慮いただけますか?」

商人「ん?ああ、この子はペットじゃないですよ」

剣士「家族だ」ペラペラ

勇者「お、おう?」

幽霊「まぁまぁそう仰らずに、毎日綺麗に毛づくろいしてあげてますんで」

勇者「いや、アンタがペット筆頭な気がしないでもないんだけど」

幽霊「酷い!いくら猫の顔が付いた球体だからってこんな愛くるしい生物をその扱い!」

商人「いやアンタ生物ですらないだろ」

勇者「つってもなぁ、ここは一応食品取り扱ってる所だし」

商人「何ですか?獣がダメっていうなら私だってアウトですよ。ほら、耳と尻尾」

僧侶「あら可愛い!犬の獣人さんですね!」

商人「狼です。これでダメなら流石に出ていきますけど、どうします?」

剣士「許可しなければ斬るぞ」チャキン

商人「おいやめろ!?そこまで事を荒立てる気はないぞ!?」

勇者「わかったわかった!俺だってそんな人種で客選ぶような前時代的な店主じゃない!だからその剣を仕舞え!喉に突き立てるな!?」

僧侶「脅しには屈するんですね」

僧侶「それではご注文がお決まりになりましたらまたお呼びください」

勇者「畜生、何でこんな目に……」

僧侶「まぁ堅苦しいことはいいじゃないですか。あの人達、ちゃんと迷惑にならないようにしてるみたいですし」

勇者「あーあのウサギ、獣人の子の頭の上に待機してるね」


商人「それじゃあ何にしましょうね」

剣士「……パスタしかないぞ」

子ウサギ「ウキュッ!ウキュッ!」バシバシ

商人「叩くな叩くな!なに、これが食べたいって?」

子ウサギ「ウキュッ!」

剣士「ん、卵焼きか。少し軽すぎやしないか?」

子ウサギ「ウッキュウ!」

幽霊「どのみちこの後に化け物桜でお花見するからそこで食べればいいんじゃない?」

商人「そうですね、軽めに済ませておきましょうか」

僧侶「サービスのコーヒーお持ちしました。あなた達もお花見ですか?」コトッ

商人「お、ありがとうございます。そうですね、珍しい景観だと聞いたものですから。何かレアなアイテムの臭いがプンプンと……」

僧侶「レアな?」

剣士「私たちは旅商人をしている。自分達でレアアイテムを見つけてそれを売りさばく、それが私たちのやり方だ」

幽霊「大抵は骨折り損に終わるけどねー」ズズー

商人「横槍が多すぎて毎度毎度失敗続き……まぁ経営状態に関しては私の手腕で黒字ですけどね!」

僧侶「へー、ウチとは大違いですね、勇者さん」

勇者「僧侶?冒頭の俺のセリフ覚えてる?これでも一応儲けは出てるからね?」

商人「ま、今回はレアアイテム見つける以前に花見客相手に堅実に商売しようと思ってますけどね」

僧侶「来る方々はほとんど冒険者って聞きましたけど、それを見越したものを売るんですか?」

商人「そりゃもちろん!そこら辺は抜かりなしですよ!」

僧侶「わー!見せてください!私買い物と言ったら通販ばかりでそういう旅の商人さんの売ってるものとかすごく興味あります!」

商人「乗って来ますねぇ!いいでしょう!特別にお見せいたします!!」


勇者「注文とれよ……」

剣士「この卵焼きともやし炒めをくれ、一皿ずつでいい」

幽霊「あ、それじゃあ私はこの小盛りサラダパスタいただけますか?」

子ウサギ「ウキュッ!?」ヤセイノカン

商人「まずはこちら!ユニコーンの角!!」

僧侶「おお!ファンタジー物の回復アイテムの定番ですね!」

商人「いやはや苦労しましたよこれを手に入れるのは。山越え谷越えその先に偶然出会ったユニコーンのお嬢さんから譲り受けた逸品ですからね」

僧侶「へぇ~、ユニコーンって気難しいって聞きましたけどよく貰えましたね」

商人「あー、なんか角の生え変わりの時に苦しんでいたのを介抱してあげたら快く譲ってくれました」

僧侶「生え変わり!?生え変わるの角!?」

商人「こいつの効力はなんと!お肌に擦り付ければ美肌効果!齧り付けば歯ごたえのある甘み!」

僧侶「おお!なんかお得な感じがしますね!」

商人「そしてなんと!!額い付ければユニコーンの気分!!」

僧侶「素敵です!!お値段は!!」

商人「ま、ザッとこんなもんで」カタカタチーン

僧侶「買った!!」

勇者「おいちょっと待て!?100万って文字が見えるぞ!?ウソだろ流石に!?」

商人「万病に効く妙薬でもあるんですよ?このくらいして当然です!」

幽霊「出たよお得意のボッタクリ」

剣士「タダ同然で手に入れた物を相場の価格で売る。ボッタクリではないぞ」

勇者「他に売れる見込みがないからここで捌こうとしてるだけだろそれ……やめとけやめとけ、いくら親父の金だからってその額はデカすぎる」

僧侶「えー、いいじゃないですかー!たまにはこういう無駄遣いだってしてみたいですよ!」

勇者「やめてくれ、ウチの財布握ってるのお前だからお前の財布の紐が緩むと家計が火の車になるの」


幽霊「今父親の金っつったぞこの人ら」

幽霊「家庭事情に首突っ込むのはやめましょう」

>>78修正、戦姫分身すんな

商人「万病に効く妙薬でもあるんですよ?このくらいして当然です!」

幽霊「出たよお得意のボッタクリ」

剣士「タダ同然で手に入れた物を相場の価格で売る。ボッタクリではないぞ」

勇者「他に売れる見込みがないからここで捌こうとしてるだけだろそれ……やめとけやめとけ、いくら親父の金だからってその額はデカすぎる」

僧侶「えー、いいじゃないですかー!たまにはこういう無駄遣いだってしてみたいですよ!」

勇者「やめてくれ、ウチの財布握ってるのお前だからお前の財布の紐が緩むと家計が火の車になるの」


幽霊「今父親の金っつったぞこの人ら」

商人「家庭事情に首突っ込むのはやめましょう」

僧侶「ちぇッ!それで、他にはどんなものがあるんですか?」

商人「あー、ハイハイ。今のは冒険に役立つアイテム類でしたが、今度は戦闘に役立つアイテム!」

僧侶「戦闘ですか……私にはあんまり関係なさそうですねぇ」

勇者「お前俺より強いしな」

商人「そう思ってるあなた!こいつは一味違いますよ!」

商人「その名も!防衛装置マモル君(Mk-Ⅲ)!!」

勇者「その(Mk-Ⅲ)ってなんだよ。カッコ付ける意味無いだろ」

僧侶「ほほう。これは小型の防御装置ですね」

商人「フッフッフ、お目が高いですねお嬢さん!その通り!こいつぁどんな攻撃からも身を守ってくれるナイスガイな商品!」

僧侶「一見戦闘でしか使わないようなものと見せかけておいて暴漢なんかに襲われた時に便利そうですね!」

勇者「それ戦闘に入っちゃってるじゃん」

商人「はいじゃあコレ、テスターの山田さんに登場してもらいましょう!」ピピーッ‼

山田「呼ばれて飛び出てなんとやらってね!」

僧侶「誰!?」

商人「なんかよくわからない狼男の幽霊の山田さんです。存在そのものは気にしないでください」

山田「男も女も食べちゃうよ☆」


剣士「相変わらず気持ちが悪いな、アイツ」

幽霊「私アレと同類なのかー」


勇者「よし、卵焼きともやし炒め完了!あとはパスタっと……」

山田「で、僕は何をすればいいんだい林檎ちゃん?」

商人「はい、この防衛装置持って」

山田「ハッハッハ!僕は幽霊だから物は持てないんだよ!」

商人「チッ、使えねぇな。まあいいや、このようにして守りたい人に向けてレーザーポインターを照射します」ビーッ

僧侶「ほー、随分近代的ですねぇ」

商人「で、目標をセンターに入れてスイッチ!」ポチッ

山田「おお、光の膜が!霊体のこの体にもちゃんと作用するんだねぇ」

僧侶「これは?」

商人「光学兵器の応用で対象の体を通して一定時間魔力を帯びさせているんです」

商人「そうすることで魔法に対して耐性がある程度つき、物理攻撃に対してはあふれ出た魔力で反撃します」

僧侶「勇者さん!これ買いましょう!!」

勇者「だーから何でもかんでも欲しがるなって!どうせそれも落とし穴的なオチがあるんだろ?」

商人「失礼な!これでも全うな商売してるんですよ!そんなことある訳……」

山田「ね、ねぇ林檎ちゃん。体がなんか熱くなってきたんだけど……」

商人「はい?」

商人「どうしたんですか?あなた暑い寒いなんて感じる人じゃなかったでしょ」ビーッ

山田「いや、多分、その射出し続けてるビームが……」

商人「え?これ?何言ってるんですか、安全面では問題ないって取扱説明書にも書いてあったんですよ!それを疑うんですか?」ビーッ

山田「だから……やめ……」

僧侶「あの、なんだか山田さんの体が膨れ上がっていませんか?」

勇者「これちょっと危ないんじゃないか?」

商人「大丈夫ですよ、いつもこんな変な感じの人ですし」ビーッ

山田「止めて!!ちょっと止めてよ!?ねぇ頑なに射出し続けてる理由は何!?ワザとやってるでしょ!?」

商人「これはまさか!?」

剣士「知っているのか?」

商人「霊体に対して使った場合、その透過する体で一度通してからエネルギーを感知して出入りを繰り返す!」

商人「山田さんの体の中にはこのレーザービームのエネルギーが蓄積され続けているんですよ!!」ビーッ

僧侶「つまり……?」

幽霊「電子レンジに入れられたダイナマイトだ!」

剣士「山田が爆発するぞ!みんな逃げろ!!」

山田「ほああああああああああああああああああ」

――――――
―――



勇者「お待たせいたしました。卵焼きともやし炒め、小盛りサラダパスタでございます」キリッ

商人「まぁおいしそう!」

剣士「ああ、これを楽しみに待っていたんだ」

幽霊「アレ!?山田さんどうしたの!?」

商人「山田?ああ、そんなのいましたっけ?」

幽霊「呼び捨て!?」

剣士「気にするな、アイツは使い捨てのデコイだ。またすぐに蘇る」

子ウサギ「ウキュウ‼」

山田(扱い酷いなもう)

商人「……うん!おいしい!」

剣士「程よい焼き加減だ。シンプルが故に腕の良さが分かるな」

勇者「いえいえ、そんな」

僧侶「こういう時によくキャラ変わりますよね勇者さん」

勇者「せっかく褒めてくれたんだ、形だけでも丁寧にしておかないとな」

僧侶「で、問題はパスタですが」

勇者「今回は!今回こそは大丈夫だ!女性に出す料理だ!味見もした!」

僧侶「おお、珍しく気合いが入ってる!」

剣士「私たちは食べないがな」

商人「ええ、見た目的に嘔吐とかはNGなんで私たち」

僧侶「屈辱的なこと言われてますけど」

勇者「聞こえなーい!!聞こえなーい!!」

子ウサギ「モッキュモッキュ」ガジガジ

勇者「それで!お味は……!」

幽霊「……」




幽霊「ほあああああああああああああああああああああああああああ」

ボンッ!!

剣士「爆発した!?」

勇者「え!?何で!?」

商人「こ、これは!」

剣士「知っているのか?」

商人「このパスタから重度の魔力が検出されています!戦姫がパスタを食べたときにその魔力が体中を駆け巡って暴走して爆発したんです!!」

僧侶「そんな魔力どこから……ッ!」


勇者「あ、さっきの防衛装置スイッチ入れっぱなしだ」

商人「パスタに向かってビーム出っ放しですね」

勇者「……」

商人「……」

――――――
―――


商人「いやぁご迷惑おかけしました」

僧侶「いえいえ、大事には至らずよかったですね」

幽霊「」プスプス……

剣士「こっちはしばらく再起不能だな」

子ウサギ「ウキュウ」ガジガジ

商人「それじゃあそろそろ化け物桜へ向かいましょうか」

剣士「他にも商売敵がいるかもしれん、早めに場所を陣取っておく必要があるだろう」

僧侶「あ、私たちも後からお花見に行くんでまた会えたらよろしくお願いしますね!」

商人「はいもちろん!その時はもっと私の商品紹介しちゃいますよ!」


子ウサギ「ウキュウ!」ガジガジ

勇者「おーい、ちびっこ。お前さっきから何齧ってるんだ?」

子ウサギ「ウキュ!」サッ ユニコーンの角

勇者「」


商人「さーて!レアなアイテムと愚かな客共が私を待っている!!」

剣士「精々赤字にならんようにな。私たちの生活がかかっている」

商人「アンタ、全員私が養ってやってるってことわかってて偉そうにするなよ。なに、さっきの角さえ売れればしばらく優雅に暮らせますよ!」

商人「ほら、ウサギちゃんも何やってるんですか!早くいきますよー!」

子ウサギ「ウッキュウ!!」タッタッタ



勇者「100万の角……ああも簡単に……」

僧侶「勇者さん?どうしたんですか?」

――――――
―――


僧侶「勇者さん、お皿洗い終わりましたよー」

勇者「お、サンキュ」

僧侶「そろそろ私たちも行きませんか?お昼回っちゃってますし、今が満開とかそんな感じじゃないですか?」

勇者「そうだなー、行きたいのはやまやまなんだけどなー」





仮面男「……」ペラペラ

鎧少女「……」ピコピコ


勇者「よりにもよって気難しいのが来ちゃってるんだよなこれが」

僧侶「あー……」

勇者「よし!行って来い!」

僧侶「私がですか!?」

勇者「注文聞きに行かなきゃダメだろ、それはお前の仕事」

僧侶「いや、だって何か以前に増して近寄りがたい雰囲気漂わせてますよ……」



仮面男「ハル」

鎧少女「んー?」ピコピコ

仮面男「こんなところにまで来てゲームするのはどうと思うよ」

鎧少女「チッ……わかったよ」プチッ

僧侶「マズいですって!あの夫婦なんか今にも喧嘩始めそうな勢いですよ!私が立ち入ったら巻き込まれそうですよ!」

勇者「前回あんなに仲好さそうだったのに何があったんだ……」


仮面男「ところで、注文を取りたいのだがまだ店員はこないのかな?」

鎧少女「知らん、呼べばいいだろ。そうやって待ってばかりだからいつも機を逃すんだお前は」

仮面男「……」

鎧少女「……」


勇者(近寄りたくねぇーッ!!)

僧侶「ええい!女は度胸!男は愛嬌!私、突貫します!」

勇者「あ、あれ?そんな言葉だっけそれ?」


僧侶「いらっしゃいませー!ご注文をどうぞー!今ならパスタがお安くなってます!」

仮面・鎧「「コーヒー」」

僧侶「あっはい」


勇者「何事だよマジで……」

小休止
ダメだ、S・Nまで書ききれなかった

再開

僧侶「勇者さん!ダメでした!」

勇者「うん、知ってた。ってかあれはもう近寄らない方がいいだろ」

僧侶「時間が解決してくれるでしょうか」

勇者「夫婦のことだからなー。俺たちにはわかりそうもないな」

僧侶「いつかそういうのが分かる日が来るといいですねー」

勇者「サラッと告白しないで、ちょっとドキッとしちゃった」

僧侶「そもそも何が原因なんでしょうか」

勇者「気にはなるな。あの二人の見た目的に血なまぐさい惨劇があったとかそういうのありそうだけど」

僧侶「ちょっと聞き耳立ててみましょう!」コソコソ

勇者「ほ、ほどほどにな?」コソコソ


仮面男(聞こえてるって)

鎧少女(隠す気はないのかこいつら)

仮面男「だから、私が悪かったと謝っているじゃないか。なのにどうして君はそういつまでもいつまでも……」

鎧少女「気にしていないと言っているだろう。私の機嫌が悪く見えるのか?それならお前が過剰に見すぎているだけだ」

仮面男「だったら私の目を見て話してくれ」

鎧少女「下らん理由で付ける必要の無い仮面をいつまでも付けてるお前の目を見ろって?笑わせるな、ならお前から仮面を外して私の目を見ろ」

仮面男「ほーら、機嫌が悪い」

鎧少女「そうやって煽る!グチグチと……お前のそういうところが嫌いなんだ!!」

仮面男「君のすぐムキになるところ、直した方がいいよ」

鎧少女「ぐぬぬ……」

仮面男「ぐぬぬ……」

勇者(わーお、ヒートアップ)

僧侶(勇者さん、なんか楽しそうですね)

勇者(人の不幸で飯がうまい)

僧侶(それ、クズの発想ですよ)

勇者(ってのは冗談。ちょいと二人の仲を取り持つ方法を思いついてな)

僧侶(ありゃま、珍しい。人のために働くなんて)

勇者(……これでも人の子だからね?そんな感情俺に無いと思ってたの?)

僧侶(はい)

――――――
―――


勇者「お待たせしましたお客様、本日のおススメでございます」キリッ

仮面男「ん?頼んだのはコーヒーだけだったはずだが」

鎧少女「花見で食べるつもりだからな、軽食でも私はいらんぞ」

勇者「季節のデザートでございます。重いものではありませんしお食事には差し支えありませんので、一口でいいので是非お召し上がりください」

鎧少女「どういう風の吹き回しだ?」

勇者「ま、言っちゃうと、依然アンタらが俺と親父の仲を取り持ってくれたように、俺も二人をどうにか仲直りさせようと思ってな」

鎧少女「余計なお世話だ。口に出すと鬱陶しがられるだけだぞ、そういうのは」

勇者「これでも恩義は感じてるんだ。お互いにそういう事を自覚してもらった上で俺のやり方で二人の助けになりたいと思ったの」

仮面男「……ああ、君の心遣い感謝しよう」

鎧少女「お前……」

仮面男「人に当たるのはよくない。こういうものは素直に受け取っておこう」

鎧少女「ふん」

勇者「そうそう!美味いもん食って嫌なこと忘れて!過ぎた後は全部元通り、これでいいじゃん!」

仮面男「美味い物?」

鎧少女「美味い物?」

僧侶「……どこにそんなものがあるんですか?」

勇者「ごめん、僧侶まで参加して標的を俺に変えないで、そういう理由で出しゃばった訳じゃないの」

鎧少女「それで、これは何だ?」

勇者「チェリー酒のシャーベットだ、ジュースで作ろうと思ったけど大人な雰囲気を出すために酒の方を使った」

鎧少女「酔ったりはしないだろうな?」

勇者「それは人によりけりだけど……度数は高くはないから、結構すんなり入るハズ。ひょっとしてお酒飲めなかった?」

鎧少女「いや、強い方だ。いただきます……」モッキュモッキュ

僧侶(かわいい食べ方するなぁ)

仮面男「酸味が強いと思っていたが……なるほど、さっぱりしているね」

勇者「食後に胃に優しい物を、と思って開発したやつだからな。まぁディナーとかそっち向けだけど客も少ないし材料もマチマチだから没にしてメニューに入れなかったけど」

鎧少女「ぼッ!?」ピクッ

仮面男「没……ッ」ピクッ

勇者「あ、アレ?何か?」

仮面男「いや……」

鎧少女「何でもない……」

僧侶(没って言葉に反応したように見えたけど気のせいでしょうね、うん)

仮面男「しかしまぁ……季節のデザートか。確かに今は"ハル"だね。君にピッタリだ」

鎧少女「なんだ突然?ご機嫌取りか」

仮面男「うん、そうだよ。私は君のそんな顔よりも笑顔が見ていたいからね」

鎧少女「……そんな歯の浮くようなセリフを言うな、恥ずかしい」

仮面男「君の為なら何だってできる。恥ずかしくなんてないよ、私は」


僧侶「キャーッ!!勇者さん!ラブラブですよラブラブ!!」

勇者「はいはい黙ってようねお前は」

仮面男「だからもう一度、謝らせてくれ」

鎧少女「まったくお前は……もういいよ、ホントに気にしてないから」

仮面男「いや、言わせてくれ……ごめんよ、君の」






仮面男「君のゲームのセーブデータを間違って消してしまって」

勇者「!?」

僧侶「」

鎧少女「だぁーッ!!もうその話題やめろ!!思い出せばそれだけ時間をかけたあのセーブが惜しくなってくる!!」

仮面男「ハッハッハ、本当は君のそういう顔が見たくて煽ってるからね、ワザと」

鎧少女「一度痛い目見なきゃわからんかお前は?」メキメキッ

仮面男「力は五分五分なんだ、やれるもんならやってみなって」メキメキッ


勇者「あ、ちょっと、そんな素手で破壊しそうな勢いで机を持たないで、備品だから」

僧侶「く、下らない……下らなさすぎる……」

仮面男「フッ、久しぶりに一戦交えるかい?」

鎧少女「望むところだ!今だけ魔剣返せ!」バッ


勇者「まぁでもアレだ!うん!仲好さそうなのは変わりないし好としよう!」


仮面男「集いし聖剣!輝け刃よ!!」ゴゴゴゴ

鎧少女「唸れよ魔剣!轟け刃よ!!」ドドドド


僧侶「勇者さん、なんかお二人が武器の解放呪文らしきものを唱えるほどに白熱しているのですけど」

勇者「もうボク知らない!外でやってもらって!」

――――――
―――


仮面男「さて、久々に暴れてスッキリしたし」

鎧少女「目的地へ向かうか、連中も待ってるようだし」

勇者「恐ろしいものを見た……」

僧侶「一撃で草木が消し飛んでいった……」

鎧少女「いいじゃないか、木々に囲まれて立地的に不便だったんだ。このくらい平地の方が客も来やすいだろう」

勇者「店に被害はなかったからいいけどさ……」

勇者「そうだ、あんたらが来る前に連れ?か何か知らないけど本物の勇者と思われる人たちが来たんだけど」

仮面男「ああ、そういえば店を紹介したな。何か食べていったかい?」

勇者「いや、途中に来た背の高い騎士の人に偶然を装って食べさせてた」

仮面男「業を移し替えたか。もがき苦しむ様を見たかったのだが、彼を向かわせたのは間違いだったな」

勇者「人の料理に対して業ってアンタ酷いな」

僧侶「あの方々とお二方ってどういった関係何ですか?」

鎧少女「ん?お前たちが話した勇者ってのは私たちの息子だが、それがどうかしたか」

勇者「え?」

僧侶「あのー……失礼ですが年齢の方聞いてもいいですか?」

鎧少女「35だ」

仮面男「正確なことはわからないが、私はたぶん40代前半だ」

僧侶(ず、随分若く見えるけど)

勇者(鎧の方、少女って歳じゃねーだろ。名前にウソついてんじゃねーぞ)

鎧少女「何か言いたげだなオイ」

僧侶「息子さんおいくつですか?そこそこのお歳に見えたんですけど」

鎧少女「今年で20だったか?」

仮面男「もう成人か、早いものだね。それがなにか?」

勇者(アウトーーーーーーッ!)

僧侶(この人ロリコンだーーーーーーッ!)

仮面男「うん、言いたいことはわかるよ。顔を見れば」

鎧少女「もういいだろ、とっとと行くぞ。早めに済ませておきたいしな」

仮面男「そうだね、それじゃあ私たちはこれで」

僧侶「あ、私たち息子さん達から料理持参で参加してもいいって言われたので後から行きますね」

鎧少女「ほう、気が利くな。それならパスタ以外だったら食べてやるぞ」

勇者「おう!任せろ!あとパスタも持ってくから!見てろよ!」

仮面男「いや、それは見せつけなくていいから」

――――――
―――


僧侶「勇者さん、あの人たち早めに済ませておきたいって言ってましたけど、それってどういうことでしょうか?」

勇者「さぁ?何か他に用事でもあるんじゃねーの?まぁ俺たちが気にすることでもないと思うけど」

僧侶「ハァ……早く行きたいですね」

勇者「そうだねー、早く行きたいねー」


機械男「……」ペラペラ


僧侶「今日一日で懐かしい人たち網羅しちゃいましたね」

勇者「超迷惑だけどね」

機械男「注文いいかな?」

僧侶「あ、はいはいただいまー」

勇者(まぁ黒髪が皮切りになったって思うのが妥当な線か?偶然にしても出来すぎてるし何か裏で糸を引いているんじゃ……)

機械男「ミートソースパスタで」

僧侶「あのー、前も思ったんですけど。ウチのパスタ不味くないですか?無理して食べなくてもいいんですよ?」

機械男「え?僕は美味しいと思うけどな。不評なの?」

僧侶「はい、そりゃあもう」

勇者「おい、ちょっとは弁明しろよ」

僧侶「危うく死者さえ出しかねない料理作っておいてどの口が言うんですか」

勇者「はいはい、ミートソースね。すぐできるよー」パパーッ


僧侶「ロボットさんもお花見で今日は来られたんですか?」

機械男「ロボットさんて……一応名前あるんだけどなぁ。まぁいいけど」

機械男「お花見目的ではないね。というか僕は道に迷ってここに来てるだけだし」

僧侶「アレ?ほんとにただの偶然でしたか」

機械男「?」

僧侶「あ、いえいえ、こちらの話です」

機械男「まったく困ったもんだよ。仕事帰りに一杯やっていこうかと思ったのに、気が付いたら森の中。それで見覚えのある店ときた」

僧侶「お仕事されてるんですか!?」

機械男「小さいし子供っぽい見た目だから驚いたでしょ?これでも立派な社会人さ」

僧侶「へぇ~、確かに強力な魔法とか使ってましたもんね」

機械男(魔法?なんだそれ)

僧侶「職業は何ですか?見た目からして……西武のガンマンさん!」

機械男「ハズレだよ。この格好は趣味」

僧侶「それじゃあ護衛や傭兵とかそんなのですか?」

機械男「んー、遠からずも近からず。いや、全然違うか」

僧侶「もったいぶらずに教えてくださいよー」

機械男「そうだね。答えは簡単さ」

機械男「僕は殺し屋。ただそれだけだよ」

僧侶「おお!カッコいいですよね殺し屋!今熱い職業ナンバー1ですよ!アサシン!」

機械男(あ、あれ?信じてない!?それともからかわれてる?)

僧侶「私も一時期憧れて鍛えてたんですよ!ほら見てください、仕込み杖」チャキンッ

機械男「う、うん。物騒だね」

機械男(何で一般人がそんなもん持ち歩いてるんだ!?アレか?僕の考えが古いのか?おかしいのか?)

機械男(よく考えたらおかしい話だよなぁ、魔法だの剣だのと)

機械男(そして彼らの服装。まるでアニメや漫画の中のファンタジーな世界に入り込んだみたいだし)

僧侶「こうやって、スパーンッと斬るんですよね!アサシンって!」

機械男「そ、そうだね。僕は自前の技と銃を使うからよくわからないけど……」

機械男(……ま、これはこれで面白いからいいか。どこにいたって僕自身がイレギュラーだしね)

僧侶「あ!すみません何か飲みますか?もちろんオイルを入れて!」

機械男「あ、うん。オレンジジュース貰おうかな?オイル入れないでね」

――――――
―――


勇者「はーい、ミートソースパスタおまちー」

僧侶「なんかテキトーになりましたね……」

勇者「いいよもう、なんか話題ある訳じゃないしオーソドックスな料理だし」

僧侶「身も蓋もないこと言わないで下さいよ」

機械男「ん、いただきます!」

勇者「さて、前もおいしくいただいてくれたが今回はどうよ?」

僧侶「どうですかー?無理なら無理って……」

機械男「んー、やっぱりおいしい。このグズグズの茹で加減、マスターが作るのより美味しいかも」

勇者「ほら見ろほら見ろ!美味しいってさ!今までの奴らの舌がおかしいんだよ!時代が俺に追いついてないんだよ!」

僧侶「決して勇者さんの時代が世界に追い付くことが無いと思いますよ。本当に美味しいんですか?」

機械男「うん、少なくとも僕はそう感じるね」

勇者「へへッ!後でこれを大量に作って連中に食わせてやる!」

僧侶(惨劇になるの目に見えてるのになぁ)

機械男「ところでさ、さっきお花見って言ってたけど。どういう花が咲いてるの?」

僧侶「私もまだ見てないんですけど、桜の花が咲き乱れているそうですよ」

機械男「サクラ……チェリーか。その花は日本が綺麗だってよく聞くね」

僧侶「ニホン……?なんですかそれ?」

機械男「……驚いた、やっぱり通じないか。いいよいいよ、忘れて」

僧侶「はぁ……」

勇者「なんか、化け物桜って言われてる木らしいけどさ。100年に一回だけ花を咲かせるみたいなこと言われてたな」

機械男「へぇ、そりゃ不思議だね」

僧侶「きっと綺麗なんでしょうねー!早く見に行きたいなー!」チラッ

機械男「早く出て行けと言わんばかりにチラ見するのやめてくれないかな」

機械男「しかしアレだね。そういう花や木というと大抵いわくつきだったりするもんじゃない?」

勇者「あー、まぁ確かに」

機械男「例えばさ、実はその木の下に大量の死体が埋まっていて、100年周期でその魂たちが自分の存在を知らせるために花を咲かせたり……」

僧侶「イヤーッ!!そんな夢も希望も無いこと言わないで下さいよ!」

怪人男「そうそう、怖い話はやめてくださいよ。そういう時期じゃないんですから!」

勇者「だなー、仮にそうだとしてもワザワザ100年に一回にする必要とか無いしな」

怪人男「全くですよ、ハッハッハ」

機械男「……」

機械男(誰ッ!?)

勇者「あ、運送会社の社長さん。どうも」

怪人男「はいこんにちは。ご注文の品お届けに来ましたよ」

僧侶「おお!今回も色々来ましたねー」

勇者「ああ、最新型のエアバイクにちょいと値が張ったが車も購入だ!」

怪人男「支払いはすでに終わってますんで私はこのまま失礼しますねー」

勇者「はいご苦労さん!」

僧侶「もちろんお金の出どころは」

勇者「親父のクレジット!」

僧侶「クズめ……」

機械男「えっと……誰?」

勇者「ああ、その身一つで箸から飛行機まで何でも届ける運送会社の社長さん」

僧侶「もとい!異次元魔王さんです!」

怪人男「いやぁ、照れますな☆」

機械男「突っ込みどころが多々あるけど、まぁ抑えておくよ」

怪人男「しかし貴方、中々鋭いですね」

機械男「ん、何が?」

怪人男「化け物桜の事話していたんでしょ?アレ、実はあなたの言う通り裏話があるんですよ」

僧侶「裏話?ホラーかなにかですか?」

怪人男「いえ、ちょっとしんみりした話なんですけどね」

怪人男「あの桜、100年の内に溜め込んだ厄災を糧に花を咲かせる。と言われているんです」

機械男「へぇ、面白い話だね」

怪人男「言い換えれば、その100年で失われた命が咲かせた花。つまり、生きている人にとっては亡くなった人たちの"生きた証"とも言い換えられるんです」

勇者「随分と重く見られてるんだな」

怪人男「ええ、文字通り"死に花"のようなものですからね」

怪人男「昨今、大きな戦争もあって多くの人々の命が失われていきました」

機械男「天災で失われた命も多い。その魂は、救われる事なくどこへ向かうんだろうね」

勇者「……」

僧侶「……」

怪人男「ま、あくまでそういった噂のある桜ってだけですよ。ホントかどうかはわかりませんし」

機械男「長い年月の中で噂が大きくなったってだけの話かもしれないしね。そう考えることで生きている人にとっては慰めにはなると思うよ。僕は」

怪人男「あ、本当にしんみりしちゃいましたね!気を取り直しましょう!」

機械男「面白い話が聞けたからいいよ、ありがとう」

怪人男「それじゃ私はこれにて失礼します。約束がありますので」

僧侶「社長さんもひょっとしてお花見ですか?」

怪人男「ええ、友人に誘われていましてね。先に娘だけ預けてきたんですが」

機械男「それじゃあ僕もお暇しようかな。ごちそうさま」

勇者「あいよ、お粗末様」

勇者「……そろそろ店閉めるか」

僧侶「行くんですか?」

勇者「ああ、お前が行きたいって言ったんだろ?」

僧侶「ちょっと、複雑な気分になっちゃって」

勇者「あくまで噂は噂。俺たちは花見を楽しもう」

勇者「ナーバスになってる連中に飛びっきり美味い料理をお見舞いしてやろうぜ!」

僧侶「勇者さん……そうですね!皆さんを卒倒させちゃいましょう!!」

勇者「ちょっと待ってそれはおかしい」

小休止
明日でラスト

再開
今日中に終わらせる

――――――
―――


ワイワイ
ガヤガヤ

勇者「おー、人が沢山いるな」

僧侶「結構有名なものだったんでしょうね、ざっと見て100人以上いますね」

勇者「こんなに人が来てるのに何で近場の俺たちが気が付かなかったんだろうな」

僧侶「普段外に出ませんし何より店に寄り付く人が圧倒的に少ないってのが問題だと思いますけど」

勇者「しかしなんつーか……すっげぇ圧巻だな。20メートルくらいないか?」

僧侶「想像以上ですねぇ、あの大きさ」

勇者「世界の一部を切り取ったみたいに、ここだけまるで違う場所だ」

僧侶「綺麗ですねー」

勇者「……生きた証の花か。そう言われるのも納得だな」

僧侶「この散っていく一枚一枚の花弁が、とても儚く尊いものなんですね」

勇者「おっと、そんなことより連中を探さないとな。わざわざ誘ってくれたんだ、こっちも早いとこ料理届けないとな」

僧侶「あれ?勇者さん料理作ってきましたっけ?そんな時間なかったような……」

勇者「ああ、それはだな……」


騎士「お、いたいた!おーいパスタ男!こっちだ!」


勇者「パスタ男って何!?」

僧侶「大多数の皆さんがたぶん勇者さん=パスタで認識してるからじゃないですか?」

パスタ男「酷い話だな。俺だって四六時中パスタ作ってる訳じゃないっての」

僧侶「勇者さん、名前名前」

竜少女「随分遅かったのう。待ちくたびれてしまったぞ」

僧侶「ごめんなさい、今日は妙にお客さんが多かったもので」

騎士「それはいいよ。俺たちだって幹事が今さっき来たばかりだからな」

勇者「幹事?」

竜少女「仮面の者、さっきお主の店にいた男の親じゃ」

僧侶「へぇー、お花見自体あの人の提案だったんですか」

勇者「なんか似合わないな」

騎士「なんだ、知り合いだったか」

竜少女「あの者たちは目的があってこの化け物桜を見に来たいと言っておったからのう」

僧侶「そういえば済ませたいことがあるって言ってましたけど」

勇者「それで?連中はどこにいるんだ?」

騎士「あそこに一味総出で整列してるよ」

勇者「一味?」

竜少女「うむ、よくわからん連中じゃ」

仮面男「……」

鎧少女「……」

真勇者「……」

側近「……」

リザード兵「……」

エルフ「……」



騎士「ったく、桜の目の前陣取って何やってんだか」

竜少女「何も知らされておらんワシらからしたら奇行以外の何物でもないわ」

僧侶「勇者さん……あれって」

勇者「黙祷……か」

仮面男「ん?来たか」

鎧少女「ああ、遅かったなお前たち」

僧侶「すみません、遅れてしまって」

勇者「えっと……今のは」

真勇者「気にすんな。形式的なもんだ、意味はない」

仮面男「その反応、桜の噂を聞いたみたいだね」

勇者「ん、まぁ。小耳にはさんだ程度だけど」

仮面男「ならば忘れた方がいい。都市伝説に近いような話だ、我々も信じてやっているわけではない。形だけ……形だけだ」

勇者「わかった、言及はしないよ」

竜少女「そんなことより飯じゃ!いつまで待たせる気じゃお主ら!」プンスカ

鎧少女「ふてぶてしいぞセルフィナ。息子の友達の嫁だから誘ってやったようなもんだ、ありがたく思えよ」

竜少女「なんじゃと!?大口叩くと冒険者ギルドの登録情報でお主が身長を詐称しておる事を皆に言いふらすぞ!!」

鎧少女「ンな!?何で知ってるんだお前!!」

竜少女「フフン!長寿の知恵じゃ!年寄なめんなよ!!」


僧侶「あの、喧嘩始めちゃったんですけど」

騎士「あー、いいのいいの」

仮面男「いつものことだよ、喧嘩友達」

側近「それよりもリザード総隊長、エルフ部隊長。なぜあなたたちもここにいるのですか?城に待機してろと命令した筈ですが」

エルフ「いや……アタシは止めたんだけどねぇ」

リザード兵「ウチの国王が堂々とサボり入れられたのに俺たちが万年働きづめってどういうことだよ!?だから俺もサボった!」

側近「理由になってません。後で総隊長だけ摂関ですね」

リザード兵「何で俺だけ!?」

真勇者「そりゃエルフはいつもお前の数百倍は働いてるし……」

側近「日ごろの行いの悪さの違いです」

リザード兵「んもぅ!!何なんだよ!!」


勇者「あはは……」

僧侶「勇者さん勇者さん!なんだか賑やかになってきましたよ!」

騎士「そういやさっきあいつ等この木に何かしてたみたいだけど……」

竜少女「拝んでいたように見えたのう」

勇者「いや、違うと思うよ!?」

竜少女「なんじゃ、この木にご利益でもあるのか?ホレホレ」サスサス

僧侶「あー、そういうの知ってますよ。擦ったり撫でたりすると何か効能が現れるんですよね?」

竜少女「リュウマチが治ったり水虫が完治したりするアレか!!」

鎧少女「そりゃ温泉だ」

竜少女「ヴェイド拝め!!ワシらの今後の行く末のために!!」ハハー

騎士「桜の木よ!どうか俺たちを幸せにー!!」ハハー


勇者「何か本気で始めちゃったよ!?」

僧侶「ああ!周りの人たちが何か勘違いして同じように木を崇め始めました!!」

勇者「こうして噂とか都市伝説とか歪んで後世に伝わっていくんだな……」

幽霊「あ!!なんかあっちで木に土下座してる人たちがいる!!」

剣士「そういうご利益でもあるのか?」

商人「木に土下座て……何かの新しい宗教ですか。一体どんなアホな人たちがそんなことしてるのやら」

妖狐「これ林檎、人に構っている暇があったらちゃっちゃと働け!」

商人「はいはーい!……ったく、ここに来て何で人の店の手伝いしなきゃいけねぇんだコンチクショウ!!」

妖狐「本音がダダ漏れじゃぞ。お前さんがどれだけ成長したか見てやるとわらわが言っているんだ、素直に従え」

商人「ヘイヘイわかってますよ」

吸血鬼「あ、あれー?この商品ってどれと抱き合わせでしたっけ?」

座敷童「……」コッチコッチ

雪女「息抜きに旅行でも、と思ったけど商売かー。瑪瑙お姉さんキャリアウーマンってやつだねー」

妖狐「林檎も麗華も……女性陣はみんなよく働いてくれるね。それに比べてウチの男どもは……」


着物男「あーい、お客さんコレどうよコレー。あちょっとまって!逃げないで!ねぇ買ってよカラーひよこ!!」

青年「俺売り子なんてしたことないのに……」

垢舐め「チックショウ!!何で花見に来たのにこんなことやらせれてんだよ!!ヤらせろよ!!」

蜘蛛男「情け容赦のない男!!」

小鬼「いやー、何事も経験だヨ」

地獄鳥「貴様らああああ!!何を売っている!!ひよこを売るな!!我の仲間を売るなああああ!!」

鬼娘「なぁお父、働きもせずに飲む酒は美味いか?」

蛙「ブッフォ!?待て娘よ!?俺はお前の眼に自宅警備員として映っていたのか!?」

鬼娘「だってなぁ。いつまで経っても元の姿に戻らないし」

蛙「一回戻った!!なのにまた間違って呪いをかけられてこの姿になった!!OK!?」

鬼兄「お父、どうでもいいから俺の酒注いでくれよ」

鬼娘「今のウチの党首は兄貴だからな、当然だ」

蛙「父親に対してその態度はなんだーーーーーッ!!」

妖精「この木を資材にしたらどれくらいのお金に変わるんだろうなー」

精霊「この子いきなり物騒なこと言い始めちゃった!?」

妖精「自然と共に生きるものとして植物のあり方を考えてるんですよ!当然じゃないですか!」

精霊「文面だけ見ると真っ当ですけど前後の文と合わせるとまったく意味の違う言葉になるからやめて!!」

商人「ゲッ!!悪徳商売人のニーア!!」

妖精「ウワ!?極悪闇売人の林檎!?」

剣士「なんだ?」

精霊「知り合いですか?」

商人「え、ええ……商人ギルドに所属してる時にちょっと……」

妖精「ちょっとも何もあるか!!私がギルドの金横領してアミューズメントパーク経営してたの上にバラしやがって!!」

商人「ハァ!?犯罪告発して何が悪いんだ!?お前だって私がギルドの探索隊とヴォーグの工房から斬姫持ち逃げしたのギルドマスターにチクったろ!?口止め料渡したのに!!」

妖精「そっちも私と大差ねーよバーカ!!一度やられたらやり返す!!当然だボゲェ!!」

剣士「そういえばこの刀、盗品だったな……」

妖狐「そんなことしてたのかウチの妹は……」

幽霊(元は私の刀だったんだけどなー)

妖精「ハッ!ところでおたくら誰の許可貰って商売してんだ?」

妖狐「もちろん自治体から許可は取ってあるぞ?他に何か?」

妖精「私たちは4日前からここ陣取ってんだ!商売しゃきゃショバ代払いな!!占めて100万だぁ!!」

妖狐「林檎、コイツはヤーさんか?」

商人「それに近い…いえ、もっとどす黒い何かです」

妖精「ダーッハッハッハ!!延滞料合わせて10倍だ!!払えなきゃその体で……」

精霊「妖精ちゃーん?いい加減にしようねー?」ゴゴゴゴ

妖精「あ、ちょっとストップ、今の冗談、OK?パードゥン?わかった、謝る。謝るからその斧を――――――!!」

精霊「 ギ ル テ ィ 」

ユニコーン「なんだか楽しそうな人たちがいますねー」バリバリ

ペガサス「いや、アレどう見ても血の惨劇だから。あーあ、周りの人が悲鳴あげちゃってるよ」

ユニコーン「あちらさんの商売はうまくいっているみたいなのに私の角は誰も買ってくれませんねー。なんででしょう?」

ペガサス「そりゃ値段が100万ポッキリな時点でねぇ」

ユニコーン「なんだか100万って表記が多すぎて商品としての自主性が無いですねー、101万にしておきますかー」バリバリ

ペガサス「まずアンタは自分の角を食べるのやめな?ね?」

ユニコーン「はいー、それにしてもお客さんいないですねー」

ペガサス「そりゃまぁ……」

「すみませーん、商品みせてくださーい」

ユニコーン「はーい」ズザザザザッ

「……」

ペガサス「……私たちが処女厨で男と非処女には近づけないからねぇ」

ユニコーン「私たち絶対に結婚とか出来そうにないですよねー」バリバリ

吟遊詩人「あぁ、美しい花の吹雪だ。そこなお嬢さん、まるで君を彩り飾るかのように舞い散っている」ポロロン

側近「そうですか、ありがとうございます。そしてお久しぶりですね、戦士さん」

吟遊詩人「め……メイズちゃん……?」ポロン

側近「はい、20年とちょっとぶりくらいですね。いい年したオッサンが恥ずかしくないんですか」

吟遊詩人「オッ……!?い、いや僕はへこたれないぞ!これしきの事何度も言われてきたからね!」ポロロロン

仮面男「あれ、戦士。また会ったね。今日は息子も来てるから紹介するよ」

吟遊詩人「うわあああああ!!来るな同年代既婚者子持ち!!君が近くにいるだけで僕が惨めになる!!」

真勇者「誰?」

鎧少女「昔の勇者パーティの一員だそうだ。お前の大先輩に当たるから無礼の無いようにな」

真勇者「あ、そうでしたか!すみません、後輩になります勇者シキです!親父のパーティのメンバーに会えるなんて貴重な体験だなぁ」

吟遊詩人「やめて!!途中で逃げ出した僕にそんな熱い眼差しを向けないで!!もう僕のライフはゼロだから!!」

仮面男「君は本当に面白いなぁ」

機械男「……生きている人たちへの慰めか」

機械男「僕らしくもない事を言ったもんだ」

機械男「ダン……僕はこうして生きているよ」

機械男「君の罪の意識と苦しみを背負って、これからも」

機械男「ずっと……」

死神「ご主人様、お呼びですか」

機械男「ん?あ、いや。キミの事じゃないよ」

死神「でも今私の名前……」

機械男「昔の友達の名前だよ。気にしないで」

死神「はい……気にしません。それより、ご主人様は桜の下でお花見はしないのですか。ここからだと少し離れすぎている気もしますが」

機械男「いいんだよ、僕は。もうこのまま家に帰るだけだし」

死神「帰るだけですか。帰れますか?」

機械男「ま、帰れるんじゃないかな?歩いていけば……ね」

勇者「さてお待ちかね!!料理のお時間だ!!」

騎士「ちょい待ち!今ここで作るのか!?」

勇者「フッフッフ、作ってくる時間が惜しかったからな。さっきそこで食材も捕まえてきたことだし生きのいい料理ができるぜ!!」

竜少女「食材?」

触手「ちょっと!!何縛り上げてるのよ!!足りないわよこんなのじゃ!!もっと強く!!激しく!!あなたのリビドーを感じさせて!!」

仮面男「食材……?」

僧侶「食材です!!」

勇者「伸縮自在簡易キッチンってのを購入したんだ、親父の金でな!」

僧侶「なるほど!ここで直接料理を作って皆さんに振舞うんですね!」

勇者「冷蔵庫ごと持ってきたから基本的に何でも作れるぜ!注文をどうぞ!」

騎士「俺寿司っての食ってみたいー!」

リザード兵「俺分厚いステーキ!」

勇者「はいパスタいっちょ上がり!!」

騎士「」

リザード兵「」

幽霊「パスタ……爆発……うっ、頭が」

剣士「林檎、あの男が路上で料理を始めたぞ」

商人「何!?ちょうどいい!ウサギちゃん!ちょっとパスタ貰ってきて!」

子ウサギ「ウキュウ!?」

商人「ニーア、斧で殴られてかわいそうでしたねー、私がパスタ奢っちゃいますよー」

妖精「何!?タダで!?だったら喜んで貰ってやらんでもないぞ!」

精霊(絶対裏がありそうですねぇ)

雪女「にーちゃん、私も何か買ってこようか?」

青年「ん?俺はいいよ、麗華が作った弁当あるしな」

座敷童「……♪」ピトー

吸血鬼「はいはい惚気惚気」

雪女「ペッ」

妖狐「女の嫉妬は見苦しいぞお前さんたち」

着物男「あー、地獄鳥。お前手が空いてるんだったら何か買いに行って来いよ」

地獄鳥「その隙にひよこを売りさばく気か!!その手には乗らんぞ!!」

吸血鬼「あ、ごめんなさい。地獄鳥さんのお弁当忘れてきちゃいました」

地獄鳥「そんなピンポイントな……仕方ない、買いに行くか。貴様ら!ひよこ、売るなよ!」

鬼娘「お父、このパスタとかいう食べ物貰ってきたぞ」

蛙「なに?ウチで用意した食事じゃ足りんというのか?」

鬼娘「んにゃ、お父に食ってもらいたくてな。さっきの詫びだ」

蛙「お、お前ってやつぁ……」

鬼娘「この程度で懐柔されるなんてチョロイな」

蛙「上げて落とすなよ」

僧侶「勇者さん」

勇者「ん?何?今注文が入りまくって忙しいんだけど!」

僧侶「こういうのっていいですよね」

僧侶「勇者さんの料理で皆が笑顔になってる」

勇者「……ああ、そうだな」

僧侶「ほら、また一人笑顔になろうとして来てくれた人がいますよ」

勇者「あ?」

父「……」

勇者「と、父さん!?来てたのか!?」

父「卵焼きだ!早く出せ!」

勇者「お、おう……」

父「……」

勇者「何しに来たんだよ」

父「桜に願掛けだ。母さんのな」

勇者「……ああ、そういうこと」

父「決してお前の様子を見に来たわけじゃない、断じてない」

勇者「ンなもん知ってるよ、俺も別に父さんに来てもらっても嬉しくは無いからな」

僧侶(二人とも素直じゃないんですから)

父「……生きているうちに、母さんとこの桜を見る約束をしていたんだけどな」

父「まさか100年の厄災の中に入っちまうとは、つくづく代わりもんだよ。彼女は」

勇者「離婚しといてよく言うよ……ったく。ほら出来たぞ、さっさと持ってけ」

父「ああ、悪いな……お前たちはよかったな」

勇者「はぁ?何が?」

父「最愛の者と二人でこの景色を見られて」

勇者「ッ!!何言うんだアンタ!!」ニヤニヤ

僧侶「もうやめてくださいよお父さん!!」ニヨニヨ

父「あ、隠す気はないんだな」

勇者「……あのさ」

僧侶「はいはい、何ですか兄さん?」

勇者「いや……来てよかったな」

僧侶「今更ですか?」

勇者「この満開の化け物桜の木の下」

勇者「亡くなった人たちの思いと、残された人たちの思い。沢山の感情が入り混じっていると思うんだ」

勇者「それでも、そんな中でも。俺の料理は誰かを笑顔にすることが出来たんだなって、実感した」

勇者「母さんは俺が生まれる前、貧しい人たちへ炊き出しをしてたらしいんだ、親父の金で」

僧侶「最後、余計な一言入りましたね」

勇者「その時の母さんも、俺と同じ気持ちだったのかな」

勇者「誰かを喜ばせる料理、誰かの笑顔を見るために作り続けて、その生涯を捧げた」

勇者「俺も、そんな人になりたい」

僧侶「勇者さん」

僧侶「なれますよ、きっと!」

勇者「そうかな?……いや!なって見せるさ!必ず!!」

僧侶「そうですね、でしたらまず」



騎士「ガ……ア……」

リザード兵「ギグ……ガバァ……」

吟遊詩人「ナゼ……ボクマデ……」

妖精「」ピクッピクッ

蛙「」コヒューコヒュー

地獄鳥「シシテ……シカバネ……ヒロウモノナシ……」

触手だったもの「」



僧侶「パスタ作るのやめましょ?」

勇者「パスタも母さんの得意料理だったんだ、今更やめられない(使命感)」

怪人男「おやおや、みなさん楽しそうですね」シュバッ

仮面男「今更到着かい?一番面白いものが見られなかったね」

怪人男「ほほう?何か催し物がもあったんですか?」

鎧少女「おい、お前の娘が何かプレゼントしたがってるぞ」

怪人男「おお!我が娘よ!パパにプレゼントなんて嬉しいなぁー。それで、何をくれるのかなぁ?」

娘「ああ、パパに地獄への参加権をだな」バシュンッ

怪人男「……」バタッ

仮面男「何をしたの?」

娘「胃にパスタを転移させた。これ面白いな」

側近「えげつないことしますね、この子」

勇者「さて、最後の蛇足の犠牲者が出たところで!これにて弾切れだ!勇者の定食屋さん!これにて閉店!!」

僧侶「蛇足の犠牲者!?」


仮面男「そうだね、もういい時間だし我々も行こうか」

鎧少女「そうだな。達者でな、お前たち」

真勇者「ああ、またな。親父、母さん」

側近「お元気で、ハル。アキさん」

リザード兵「ゲホッ、ゲホッ……今回は軽傷で済んだ!!」

エルフ「強靭だねアンタ……」

リザード兵「困難でオチオチ寝てられるかよ」

リザード兵「……みんなで見たかったな、この桜」

エルフ「叶うのなら……そうしたかったね」

竜少女「ほれ起きろヴェイド。ワシらも帰るぞ」

騎士「……ハッ!?シルフィアが俺を迎えに来た!?」

竜少女「馬鹿者、ワシはセラじゃ寝ぼけおって」

騎士「あ、もうこんな時間か……」

竜少女「楽しい時間は過ぎるのが早い。こうして1秒1秒を大切にしていかねばな」

騎士「こういう後に残る余韻って、なんだか切ないな」

竜少女「ああ……じゃが、また新しく始まるものもある。だからワシらはどこまでも行ける」

竜少女「この手をつないで、な」

妖狐「ほれほれ店じまいだ、早くしないと終電に間に合わなくなるぞ」

着物男「旅行なんだから一晩くらい泊ってってもよかったじゃねーか」

妖狐「この大所帯で宿なんて取ったらそれこそ大損だ。妾の旅行プランなら伝手で1日とかからずに我が家に帰れる、それでいいだ」

着物男「今度出歩くときはホントにただの旅行がいいなぁー」

妖狐「だったら早く妾を娶れ、そしたら新婚旅行でも何でも考えてやる」

着物男「な!?お、おう!!」

>>187
妖狐「この大所帯で宿なんて取ったらそれこそ大損だ。妾の旅行プランなら伝手で1日とかからずに我が家に帰れる、それでいいだ」

何このジョナサン

座敷童「……」

青年「どうした?」

座敷童「……ううん、何でもない。ただ、散っていく桜が儚く見えたから」

青年「……桜の季節って、新しい出会いの季節なんだよな。儚いっていうのは違うんじゃないか?」

座敷童「新たな旅立ちの季節でもある。誰かとの別れも含めて」

青年「始まりと終わりか、なんだか哲学的だな」

座敷童「人の出会いは一期一会、私たちの出会いもきっと……」

商人「花弁が……」

剣士「無くなっていく……」

幽霊「一日だけしか咲かない花か」

商人「なるほど、化け物桜は100年に一度だけ見せる顔」

剣士「役目を終えればただの木に戻る」

幽霊「また100年、誰の目にも留まらずまたヒッソリとここで過ごす」

剣士「一人は寂しいな、私は嫌だ」

幽霊「私もだよ、ずっと一人だったもん」

子ウサギ「ウキュウ……」

商人「なーに暗くなってるんですか!」

商人「メリアもウサギちゃんも戦姫も!もう一人じゃないんですよ!」

商人「姉貴分の私がいるんですから!寂しい思いはさせません!絶対に!」

剣士「林檎……」

子ウサギ「ウッキュウ!」

幽霊「あーもう!!私の方が200歳くらい年上なんだからお姉ちゃんは私だって!!」

商人「言動が当時のままなら私の方が精神年齢年上だコンチクショウ!今年で23だよ!!出会いもなくこうやって女として腐っていくのか私は!!」

剣士「まったく、誰も何も言ってないぞそんなことは」

子ウサギ「ウッキュウ」ヤレヤレ

――――――
―――



勇者「みんな、それぞれの場所に帰るんだな」

黒髪少女「ええ、彼らは彼らのシナリオを進んでいますので」

僧侶「うわ出た!?」

黒髪少女「あら?お邪魔虫でしたか?」

勇者「このタイミングで出てくるだろうなってことは想像してたよ。音沙汰無かったしな」

黒髪少女「一日だけのお祭り、人は出会いそして別れ」

黒髪少女「新たな旅立ちを望む者、これから先訪れる別れに悩む者」

黒髪少女「それぞれの思いを胸に秘め、また彼らは歩き出します」

勇者「まったく、狂言回しみたいだなアンタ」

黒髪少女「私は"傍観者"、それは私にとって褒め言葉ですよ。定食屋さん?」

黒髪少女「不思議ですよね、人の出会いって」

勇者「まーた問いかけか」

黒髪少女「いつの間にか隣に居て、一緒に過ごして友人になったり恋人になったり」

黒髪少女「一度関わってしまったら決して縁は切れなくなります。親兄弟友人恋人家族その他もろもろ」

僧侶「それって……」

勇者「俺たちのことか?」

黒髪少女「さぁ、どうでしょうね?」

黒髪少女「では改めて貴方に聞きます」

黒髪少女「料理、好きですか?」

勇者「前みたいに適当な返事はしないよ。好きだよ、今ならハッキリ言える」

黒髪少女「それは重畳。今日1日……いえ、この1年、あなたにとっていい経験になったみたいですね」

勇者「何かお前のその全部知ってますよ的な態度が気に入らない」

黒髪少女「あら酷い、突然その物言いですか。ま、よく言われますけど」

黒髪少女「それでは私はこの辺で。私にも帰る場所がありますので」

勇者「へいへいそうですかー……よかったらまた何か食べにこい」

僧侶「サービスしますよ!色々と!」

黒髪少女「フフ……仲睦まじいことで。楽しみにしていますよ、また出会える日まで」

金髪少女「それじゃあまた」シュタッ

眼帯少女「……また会おーぞ!」シュタッ

勇者(思い出したかのように出てくるなよ……)

……

僧侶「皆さん行っちゃいましたね」

勇者「忙しい1日だったな、なんか4日分働いたみたいな感覚だ」

僧侶「それ以上いけない」

勇者「そんじゃまぁ……」

僧侶「帰りましょうか、勇者さん」

僧侶「私たちの場所へ」

勇者「また明日から退屈な毎日の始まりかー」

僧侶「ふふっ、また定食屋出張サービスでもしましょうか」

勇者「気が向いたらなー」

――――――
―――


勇者「数日経ったが暇だなぁ」

僧侶「やっぱり暇ですねぇ」

勇者「うーん……やっぱさ、そろそろ全国チェーン店にすべきだと思うんだよね、この店」

僧侶「何言っちゃってんのこの人!?」

勇者「実際さ、出張定食屋してる時はお客さん結構入ってたから親父の金に頼らなくても結構余裕あるんだよね」

僧侶「飛躍しすぎですよそれ。まずは店の場所をどうにかした方がいいと思うのですが」

勇者「えー、ここ誰も来ないからすみやすいんだけどなー」

僧侶「勇者さん、さっきから自分の発言が矛盾だらけだということわかってます?」

勇者「楽して稼げないかなー、もうインスタントとかでもいいからさー、店舗だそうよー」

僧侶「クズめ……客の笑顔が何だかんだと言っていたのにこれですか」

勇者「とまぁ、冗談はさておきだ」

僧侶「私には本音にしか聞こえませんでしたが」

勇者「ここの店、畳もうと思う」

僧侶「まーたそんな変なことを……え?」

勇者「さっき言ってた出張の延長線だよ。しばらくここに戻らないで世界を旅するんだ」

僧侶「ど、どうしてまたそんな……」

勇者「1つ、料理の修行。壊滅的なパスタを治したい」

僧侶「あ、真っ当だ」

勇者「2つ、俺の料理でみんなを笑顔にしてやりたい」

僧侶「これまた冒頭から掲げてきた目標」

勇者「そして3つ、母さんがそうしてきたから」

僧侶「お母様が?」

勇者「ああ、料理一つで世界を回った人なんだ。俺も同じ景色を見てみたい」

僧侶「そっか、そうですか……」

勇者「そこでだ、まず俺一人では旅先で上手く出来るかどうかが不安だ。ものすごく不安だ」

僧侶「はいはい、着いてこいっていうんでしょ?行きますよ、まったくもう」

勇者「いや、不安なんだけどそこはグッと我慢して一人で行こうと思う」

僧侶「はぁあああ!?勇者さん一人で世界を回れるほど甘くはないんですよ!?何言ってるんですかこの世間知らずは!?」

勇者「え?あ、はい、すみません。最後まで聞いてください」

僧侶「いやいやいやダメですよ!兄さんは私がついてなきゃ何もできないんですから!」

僧侶「洗濯は一人でできないですよね?私がいなきゃ朝まともに起きられないじゃないですか!」

僧侶「それに接客は?全部私に任せっきりだったくせに!」

僧侶「それにほら!道中は危険ですよ!私よりよわっちい癖に生き残れる訳がないじゃないですか!」

勇者「お、おいだから……」

僧侶「それなのに……一人で行くんですか」

勇者「うん……お前には実家に帰っていてほしいんだ」

僧侶「……兄さんは私が必要じゃないんですか?」

勇者「ひ、必要だ!それはわかってる!」

僧侶「だったらなんで……ッ!!」

勇者「だからだな、その……」

勇者「今まで俺は、お前に甘えすぎてたと思う」

勇者「兄妹のように育って、いつも隣にいることが当然で、いつの間にか友人になって家族になって」

勇者「でも、それじゃダメなんだ」

僧侶「……全然ダメなんかじゃないですよ」

勇者「だから!俺は母さんが辿った道と同じ道を辿って!一人前になって、お前に……」

僧侶「私に?」

勇者「けっ……結婚を申し込もうとっ……思うっ!!」

僧侶「……」

勇者「だ、ダメかな?」






僧侶「それ私がついていっちゃいけない理由にならないじゃないですかーッ!!」

勇者「えー」

僧侶「結婚するだのなんだのって、もうお互いの気持ちわかりきってるのに何を今さら」

勇者「ですよねー」

僧侶「でもまぁ……勇者さんがどうしてもって言うのなら私、ずっと待ってますよ」

僧侶「勇者さんが納得の出来るその日が来るまで」

勇者「お前……」

僧侶「それじゃあ約束です。旅が終わったその時にすぐに私を訪ねてください」

僧侶「その日に結婚式挙げちゃいましょう、それでお父様を安心させてあげましょう」

勇者「うん……約束するよ」

僧侶「幸せにしてくださいね、兄さん!」

勇者「ああ、もちろんだ。必ず……」

僧侶「それで、いつ旅立つんですか?今週中ですか?それとも来週?」

勇者「あー、それね。"いつか"」

僧侶「あ、来月の5日ですね。わかりました、それじゃあ色々と準備しなきゃ……」

勇者「違う違う、"いつか"気が向いたとき」

僧侶「……は?」

勇者「アレだよな、捻くれてる奴に限ってさ。遊園地とか遊びに行くまでが面倒くさくてすっげぇ憂鬱になるけどさ、いざ遊びだすと誰よりもはしゃいでるっての」

勇者「今まさしくそれなんだ、俺。正直口には出してみたものの行くのが面倒」

僧侶「……」

勇者「ん?あれ?どうした?おーい、大丈夫かー」

ゴッ

勇者「」

僧侶「こっちは新しい旅立ちを涙で送り出そうと思ってたのに!!このクズ!!もう知りません!!」



拝啓、天国の母さん、まだ生きている父さんへ
勇者としてお役御免となった俺は、また勇者を名乗らせてもらってます
昔よりもずっと料理に紳士的に向き合えるようになっています。自分自身でもビックリするくらいに
好きな人に対してちょっと素直になれないのがたまに傷ですが、それでも彼女のことを大切にしていきたいと思います
……この旅を終えたら、必ず彼女を幸せにすると誓います
決して死亡フラグではありませんのでご了承ください

そして、いつまでも元気で行こうと思います!!



勇者「定食屋!」僧侶「始めました!」 完結!!

終わった
1周年ってことで可能な限りキャラ出したけどグチャグチャ過ぎて酷評の嵐が舞い降りるのが目に浮かぶ(震え声)
定食屋はこれで完結、今後彼らの出番はありませんって2作目の着物商人の時に言ったのにごらんのありさまだよ!
ブログでミス修正と一部セリフ追加があるんでよかったら見てください

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
http://blog.livedoor.jp/innocentmuseum/

乙ー
たけど質問

1.序盤でテリアが言ってたジンクスって?

2.パスタと僧侶って何歳?

3.機械男は結局どうやってこの世界に来てるの?

>>218
1 パスタが殺人的になるのはほかの料理と一緒に出てきたときだけ。ブログのコメで言われて初めて気が付いた
2 パスタ22歳 僧侶19歳
3 気にしない

失礼

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