フリット「戦慄のブルー」 (153)




[Prologue]


これは、「EXAM」に運命を翻弄された者達の、
三世代に亘る物語である。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396694564



A.G.(Advanced Generation)108年。

スペースコロニー“オーヴァン”が、謎のモビルスーツ型機動兵器“UE(アンノウン・エネミー)”によって襲撃された。

彼にとってただ一人の家族である母と暮らしていたフリット・アスノは、燃え盛る炎の最中、死に際の母から“EXAMデバイス”を託される。

それから七年……。

14歳のフリットが住むコロニー“ノーラ”に、再びUEが襲来。

フリットは、EXAMデバイスを基に自ら作り上げたMS“ブルーディスティニー”に乗り、戦いに向かう。

蒼い運命に導かれし者の戦いが、始まろうとしていた……。



-BRIEFING-


コロニー“ノーラ”が、UEと思われる機体に襲撃されている。
アリンストン基地のモビルスーツ隊が応戦しているが、状況は芳しくない。
貴官には、味方モビルスーツ隊の援護に向かってもらいたい。
未完成の機体ではあるが、貴官の奮闘を期待する。


成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:100mmマシンガン



STORY 1 「救世主ブルー」




フリット「まだブルーを動かせないだって!?」

バルガス「そうじゃ。ブルーは試運転どころか、まともな武装もしておらん。姿勢制御プログラムも未完成で、歩くこともおぼつかぬ」

フリット「でも、ジェノアスじゃUEに太刀打ちできないことぐらい、わかってるだろ!」

バルガス「わかっておるよ。だがなフリット、技術屋というのは手がけた機体でパイロットが生きて帰らねば、意味がないのじゃよ。ましてや、まともに動くことを保証できぬモビルスーツで出撃させるのは、機付き整備士のやることではない」

フリット「……歩かしてみせるさ。そして、大地に立たせてみせる! あのブルーを」

バルガス「こ、こら! 待つんじゃフリット! まだこのモビルスーツがどういうものか、解明されていないんじゃぞ!」

フリット「……確かに、ブルーの力は未知数だ。けど、母さんが遺してくれたからには、アスノ家が代々伝えてきたからには、何か意味があるんだろうと思う。このEXAMデバイスに、人類の未来がかかってるんだとしたら……」

バルガス「フリット……」

フリット「お願いだバルガス! 技術者を信じるバルガスなら、アスノの血も信じてくれ!」

バルガス「……よかろう。ブルーディスティニーは、フリット・アスノで出す! 総員、出撃準備を急げ!」






その姿は、まるで蒼い死神。

兵器というよりはむしろ悪魔の像にも似た、蒼き巨像。

だがそれこそ、母の遺してくれた、最後の希望。


フリット「頼むぞ……ブルー!」


EXAMデバイスを取り出し、コンソールにはめる。

奇妙な唸り声と共に、ブルーの全てが動き出す。


フリット「動いた……!」


頭部メインカメラの緑色のバイザーが、その光を帯びる。

それは、蒼い死神が蘇った、確かな証拠である。

遥かな時を超え、封印されてきた禁忌のモビルスーツが。


フリット「歩いてくれよ!」


固定ハンガーから一歩踏み出した。

二足歩行に問題は無く、フリットの組み上げたプログラムは正常に作動している。


フリット「フリット・アスノ、ブルーディスティニー1号機出ます!」


戦場に向かって、蒼いモビルスーツが歩き出す。

その日、血に飢えた死神が、数百年の時を超えて、地上に躍り出た。




フリット「(ブルーの武装は完成していない……! 実弾兵器じゃ足止めが精一杯だが……やれるか?)」


アリンストン基地が、炎に包まれている。

眼の前には、竜の姿に似たモビルスーツ。

間違いなくそれは、かつて“オーヴァン”を襲ったUEそのもだった。


フリット「これ以上やらせるか!」


右腕に構えたマシンガンを構え、トリガーを引く。

今やビーム兵器が主流となる中、実弾兵器はもはや足止めか、注意を引きつける程度にしかならない。

敵UEが、こちらを向いた。

だが、それでいい。


フリット「これならどうだ!」


脚部に格納されたビームサーベルを抜き出し、メガ粒子による光の束を形成させる。

UEがビームバルカンを撃ってきたが、すかさず回避。

蒼いバーニアを噴かし、UEめがけて急接近する。

機動性は抜群で、これまで操縦してきた連邦軍のモビルスーツなど歯牙にもかけない速さ。

それは勿論、UEに対しても同じだった。


フリット「はああぁぁっ!!」


光の刃が、フリットの気迫と共に振り下ろされる。

受け止めようとしたUEだが、いとも簡単にその両腕は切断された。

そのまま振り下ろし、頭上から真っ二つに切り分ける。


フリット「や、やった!」


UEが爆散し、衝撃が伝わる。

初めて戦場に立ち、初の勝利を手にした瞬間だった。


フリット「……勝てる! このブルーディスティニーなら、UEに勝てるぞ!」


彼は勝った。生き延びた。

しかしそれは、この後に人類を巻き込む長い戦いの序章に過ぎない。

ブルーの見せる先に、何があるのか。

この時のフリット・アスノには、その考えすら思いつくことはなかった。



すいませんが、今日はここまでです。
また後日、投下します。


なお、フリット編はどうもTVシリーズの印象が薄いので、アセム編とキオ編に重点を置きたいと思います。

各編の構成は、


フリット「戦慄のブルー」

アセム「蒼を受け継ぐ者」

キオ「裁かれし者」


で行きたいと思います。

それでは。




コロニー“ノーラ”の襲撃。

その犠牲は、あまりにも大きかった。

フリットの後見人であるブルーザー司令は戦死し、彼はまたUEによって大切な人を失った。

だが同時に、救い得た命もある。

フリットは“ノーラ”に取り残された少女、ユリン・ルシェルを救出。

彼女を無事、コロニー“トルディア”に避難させることに成功した。

だがこの時、この一人の少女との出会いが、フリットの生涯を大きく左右するということは、まだ誰も知る由が無かった。



そして今、新造戦艦ディーヴァと共に、フリットは宇宙へと上がる。

そんな中、フリットは一人のMSパイロット、ウルフ・エニアクルと出会う。

彼は“白い狼”の異名を持つ、地球連邦軍のエースパイロットである。

その男が、フリットにブルーディスティニー1号機から降りるように言いつけてきたのだ。

パイロットの座を巡り、対立するフリットとウルフ。

どちらがブルーにふさわしい者か、模擬戦闘で勝敗を決することとなった……。




-BRIEFING-


これより、模擬戦闘訓練を開始する。
宇宙用に改装したブルーディスティニー1号機で出撃、暗礁宙域にてウルフ・エニアクル中尉のジェノアスと交戦せよ。
なお、全銃火器の弾頭には信号弾を使用し、ポイントの高い方が勝者となる。


成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:100mmマシンガン



>>23 訂正


-BRIEFING-


これより、模擬戦闘訓練を開始する。
宇宙用に改装したブルーディスティニー1号機で出撃、暗礁宙域にてウルフ・エニアクル中尉のジェノアスと交戦せよ。
なお、全銃火器の弾頭には信号弾を使用し、制限時間内にポイントの高い方が勝者となる。


成功条件:制限時間経過
失敗条件:制限時間経過

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:100mmマシンガン




STORY 2「その名はEXAM」




フリット「バルガス、ブルーの再調整はどうなってるの?」

バルガス「空間戦闘用のプログラムは実装済じゃ。すぐにでも出せるぞ。だが問題は、EXAMシステムそのものにあるんじゃな」

フリット「問題があるって、どういうこと?」

バルガス「EXAMシステムは、ブルー・EXAMデバイス・EXAMビルダーの三位一体で構成されるシステムのことを言うんじゃが、どうやらまだ隠された機能が、このEXAMシステムにはあるらしいのじゃよ」

フリット「隠された機能? 僕やバラガスでさえも知らないことなのか」

バルガス「アスノの家系が代々秘匿してきた謎のデータが、EXAMデバイスには組み込まれておるじゃろう? そのデータを基に構築された機体こそ、今のブルーなんじゃよ。そして、今後のブルーの戦闘データをEXAMデバイスに回収し、それを基に機体を再構築・復活させる。このことから察するに、隠された機能というのは、EXAMシステム本来の機能なのかもしれん」

フリット「……EXAMの本来の姿、か……。どんなものなんだろう」

バルガス「わからぬ。だが、既存のテクノロジーを凌駕する存在だということは、確かじゃな」






<ブリーフィングルーム>


ウルフ「ほほう。どんな奴がUEを撃破したのかと思ったら、こんなガキとはね」

フリット「(この人は……)」

ウルフ「さてと、話は簡単だ。EXAMデバイスとやらを、俺に渡してもらおうか」

フリット「!? どうしてそんなことをしなきゃならないんですか!」

ウルフ「正規パイロットである俺、エースパイロット“白い狼”ことウルフ・エニアクルが来たからには、最高性能のモビルスーツには最高のパイロットが乗る。理にかなってるだろう? 青色はちと趣味じゃないが、すぐに白く塗り替えてもらうさ」

フリット「……いやです。それに、まだあのブルーをそう簡単に乗せるわけにもいきません。あの機体はまだ、未知の部分が多すぎるんです」

ウルフ「上等だね。じゃじゃ馬な機体ほど俺はそいつを乗りこなしてみたくなる」

フリット「く……」





ウルフ「……わかった。なら、俺と勝負しないか?」

フリット「勝負!?」

ウルフ「俺と模擬戦をやって勝てば、お前がブルーのパイロットだと認めてやるよ。ただし負けたら、お前がブルーを降りるんだ」

フリット「…………」

ウルフ「ハンデをつけてやるよ。勝負には、ブルーを使えばいい。俺は自分のジェノアスで出る。悪くない条件だろ?」

フリット「わかりました。受けて立ちますよ!」

ウルフ「ははっ、そう来なくっちゃ。グルーデック艦長にも話はつける。決まりだな?」



<カタパルトデッキ>


エミリー『フリット、無茶しないでね!』

フリット「ああ」

ディケ『あの“白い狼”とやり合うだなんて、無謀なのか馬鹿なのか……。ま、善戦してくれよ?』

フリット「負けないさ。ブルーは僕が乗りこなしてみせる!」

バラガス『フリット! EXAMシステムは機体に正常に認識されておるか?』

フリット「大丈夫だ、行けるよ!」

バラガス『よーし! ブルーディスティニー1号機、発進!』

フリット「……くっ、う……!」ゴオオオ

フリット「(初の空間戦闘だ……。落ち着けよフリット……!)」



ウルフ「待たせたな、ブルーの坊や!」


後方から、白いジェノアスが接近する。

そのままブルーの横を通り過ぎ、フリットの見据えるメインモニターにその機体が映し出される。


ウルフ「早速行かしてもらうぜ!」

フリット「な……! 早い!?」


白いジェノアスの予想以上の加速に、思わずたじろぐフリット。

バーニア推力をカスタムアップしているのもあるが、それ以上にウルフという男の腕前を証明している。

でなければ、デブリやアステロイドのぶつかる暗礁宙域で、これほどの加速はできたものではない。


フリット「ぐあっ!?」


ジェノアスの回し蹴りが、ブルーの腹部に撃ち込まれた。

コックピットが揺れ、視界が定まらない。


ウルフ「コックピットごしに宇宙を感じろ! それができなきゃ、いつまで経っても俺には勝てねえぞ!」


気付いた時にはもう、ジェノアスが銃を構えていた。

間髪入れずに発射された信号弾が、ぐらついたブルーの横腹に直撃する。


ウルフ「ポイント先取!」

フリット「っ!?」


これがブルーの装甲ではなく、かつ実弾だったら、間違いなく致命傷である。

一瞬、その思考をよぎらせたフリットは思わず歯噛みしてしまった。




フリット「くそっ! 相手の動きさえ見れば、予測はできるはずなんだ……!」


ブルーのセンサーを頼りにジェノアスを追うが、追い切れない。

無論、機体のせいではない。

無重力空間におけるフリットの意識が、完全にウルフの機体を捉えてくれないのだ。


ウルフ「ほらほら! どこを見てやがる!」


ブルーの背後に回っていたジェノアスが、すかさず信号弾を発射する。

振り向いた時には既に遅く、新たなマーカーがブルーの背部に着弾した。


フリット「ちいっ……! 調子にのるなあッ!」


ブルーの放つ信号弾が、ジェノアスを追う。

だがそれらは、辺りにあるデブリや障害物に当たり、破片を撒き散らすのみ。


ウルフ「早くしないと逃げちまうぞ!」


素早く移動するジェノアスを追うべく、フリットも急加速をかけた。

宇宙用に換装したとはいえ、EXAMデバイスに記録されていたデータによれば、このブルーディスティニー1号機は大気圏内における戦闘を想定して設計されていた為か、空間機動には分が悪いのかもしれない。

だがその考えを、フリットは認めたくなかった。

なぜなら、バラガスやエミリー、ディケにまで協力してもらって完成させた宇宙戦使仕様のカスタムパーツやプログラムが役に立たないと言うならば、彼らの努力を真っ向から否定することになるからだ。



>>38 訂正


フリット「くそっ! 相手の動きさえ見れば、予測はできるはずなんだ……!」


ブルーのセンサーを頼りにジェノアスを追うが、追い切れない。

無論、機体のせいではない。

無重力空間におけるフリットの意識が、ウルフの機体を捉えてくれないのだ。


ウルフ「ほらほら! どこを見てやがる!」


ブルーの背後に回っていたジェノアスが、すかさず信号弾を発射する。

振り向いた時には既に遅く、新たなマーカーがブルーの背部に着弾した。


フリット「ちいっ……! 調子にのるなあッ!」


ブルーの放つ信号弾が、ジェノアスを追う。

だがそれらは、辺りにあるデブリや障害物に当たり、破片を撒き散らすのみ。


ウルフ「早くしないと逃げちまうぞ!」


素早く移動するジェノアスを追うべく、フリットも急加速をかけた。

宇宙用に換装したとはいえ、EXAMデバイスに記録されていたデータによれば、このブルーディスティニー1号機は大気圏内における戦闘を想定して設計されていた為か、空間機動には分が悪いのかもしれない。

だがその考えを、フリットは認めたくなかった。

なぜなら、バラガスやエミリー、ディケにまで協力してもらって完成させた宇宙戦仕様のカスタムパーツやプログラムが役に立たないと言うならば、彼らの努力を真っ向から否定することになるからだ。



ウルフ「坊主! お前が戦争なんてする必要はないんだぜ! モビルスーツはガキのオモチャじゃないしな!」

フリット「それぐらい、言われなくたって!」


そんなことはわかっている。

フリットには誰よりもわかっている。

ブルーを作ったのは自分であって、それに乗るのはもっと経験豊富で、タフで、そういった優秀なパイロットが乗るべきだということもわかっている。


フリット「それでも……!」


それでも、このブルーディスティニーと、EXAMを託してくれたのは他ならぬ自分の母である。

そして、それを完成させてくれたのは、自分一人だけの力ではない。

その思いが、フリットを突き動かす。


フリット「……!」


精神が研ぎ澄まされる。

迷いなど、一切ない。

あるのはただ、自分とウルフだけ。


フリット「……そこだッ!!」


虚空を狙ったようにしか見えない弾道。

その時、デブリを避けようとしたウルフの機体が動く。

そして、動いたその機体が、弾道の前に流れ出る。


ウルフ「何っ……!? まさか……動きを読んでいたとでも言うのか!」


着弾していた。

フリットが初めて、その才能を開花させた瞬間だった。



ウルフ「なるほど……いい腕だ」


機体の性能もあるだろうが、それ以上にフリットのパイロットとしての素質に驚かされた。

モビルスーツに乗って間もない少年が、あの状況下であれだけの先読みができるとは大したものである。


ウルフ「面白くなってきたぜ……!」


再度、機体をブルーに向かわせようとしたその瞬間、


フリット「待って下さい! 索敵システムに、ディーヴァが映ってません!」

ウルフ「何だと!?」


思わずレーダーに目を向けるウルフ。


ウルフ「本当だ……! センサーが死んでいる、のか……?」

フリット「……違う。これは多分、通信が阻害されてるんだと思います。だって、僕のレーダーにはちゃんとウルフさんの機体が映ってます。ウルフさんの方でも、僕の機体は確認できませんか?」

ウルフ「……確かに。ということは……」


間違いなく、敵がこの近くに潜んでいる。


フリット「……!! 多数の熱源……これは……!」

ウルフ「……お、おい、マジなのかよ……」


警戒音が鳴り響くと同時に、10機はくだらないと思われる数のUEが姿を現した。


フリット「攻撃……来ます!」


ビームの嵐が、二機のモビルスーツにめがけて殺到する。


ウルフ「これは……かなりヤバそうだぜ……!」



ブルーのすぐ側を、巨大なアステロイドが流れてゆく。

背後では、ビームとミサイルが織りなす幾つもの火球が作り出されていて、収まる気配もない。

白のジェノアスは加速を緩めることなく、ひたすら動き続ける。

それもそのはず、ヒートスティックしかない貧弱な装備でUEを撃退しようなど蛮勇にも程があるし、動きを止めれば瞬く間に蜂の巣にされてしまう。

それは、ビームサーベルしか装備されていないブルーも同じことだ。

ただひたすら、逃げ続けるしかないというのが現状だった。


ウルフ「ちくしょう……! しつこすぎるぜ、コイツら!」

フリット「このままじゃジリ貧だ……。何か手はないのか!?」


いくらスピードが速くて動き回れても、そのうちガタが来る。

そんなことは、フリットとウルフも了解済みだった。


ウルフ「ぬおっ!?」

フリット「ウルフさん!!」


一筋のビームが、ジェノアスの左腰を掠めた。

姿勢を崩し、動きが一瞬止まる。

そこに、容赦なくUEの攻撃が迫る。


フリット「ウルフさん! 今助けに……」

ウルフ「馬鹿野郎! てめぇはこのまま逃げ続けろ!」


動かないモビルスーツなど、ただの的。

フリットが助けようにも、動きを止めた瞬間にやられるのがオチだ。


フリット「…………ッ!」


手が震え、背筋が凍りそうになる。

このまま何もできずに、ただやられるのを待つだけか?

いや、そんなことは絶対にあってはならない。


フリット「……っ、一体どうすれば……!!」



視線を落とし、うな垂れるフリット。


フリット「…………? な、何だ……」


妙な気配を感じ、顔を上げる。

気付けば、コックピット全体が薄赤く変色している。


フリット「何だよ……こんな時に故障かよ!」


思わずメインモニターを睨み付けると、そこには赤文字の羅列が表示されている。


フリット「……こ、これは…………」


直後、聞きなれない音声がフリットの鼓膜を振動させた。







≪EXAMシステム、スタンバイ。≫



緑のメインカメラが血のように赤く染まり、バイザーごしに僅かに見える双眸が妖しく光る。

各部のバーニアからは深紅の炎があふれ出し、きらきらした粒子のようなものが点滅しては消えてゆく。


フリット「……何だ、何が起こってるんだ!?」


計器の針が弾け飛び、微かにスパークを上げる。

機体出力の限界を超えている証拠だ。


フリット「!! ま、まずい!」


小さな光が徐々に大きくなり、目の前に迫る。

思わずペダルを踏み込み、回避行動を取った。


フリット「うわああっっ!?」


思わぬ超加速に全身の肉体が締め付けられ、腹からせりあがってくる不快なものを感じてしまう。


フリット「…………うぅ!」


鼻から血が飛び出し、メットの中で赤いアメーバ状の液体が浮遊する。


フリット「……ごふっ、ぷぁ……」


口の中にどろりとした感触をおぼえて、顔が青ざめてしまう。

それでも、ビームが直撃し、爆炎に呑まれてその身を焼かれるよりはマシだと言い聞かせ、体勢を立て直した。




フリット「……はあ、はあ……。このスピードは……」


今まで体感することのなかった凄まじい加速力に、フリットは戦慄した。

あんなスピードで動き続けていたら、機体よりも先にパイロットの肉体の方が参ってしまうだろう。


フリット「…………」


だが、この速さなら状況を打破できるかもしれない。

装備こそ貧弱なものの、接近してしまえばこちらの方が有利になる。


フリット「……やれるか? この僕が……」


いや、やってみせる。

目を見遣ると、UEの何機かはこの宙域を離れ始めている。

それはつまり、ディーヴァのいる方向へUEが移動し始めているということだ。

今なら、先程の超加速でUEの懐に飛び込み、ビームサーベルを一閃させればそれで終わる。

しかし、このまま行けば加速の過負荷に耐えきれず、どうなるかわかったものではない。

最悪、命を落とす危険もある。


フリット「…………」


だが、これ以上目の前で人を死なせるのはフリットにとって死ぬこと以上に怖く、許せなかった。

このままウルフを助け出し、ディーヴァにいる人達も救うことができるなら、自分一人の命など安いものだろう。


フリット「……ッ、行くぞォ! ブルー!!」


覚悟を決め、ペダルを限界まで踏む。

赤い燐光を迸らせた蒼い機体が、UEの群れへ突貫した。





フリット「沈めェッ!!」


ビームサーベルを、敵UEの土手っ腹に叩き込む。

UEの装甲といえども、高出力メガ粒子の前には紙切れ同然であり、その巨躯を上下真っ二つに切り裂く。


フリット「次ッ!」


嵐のような弾幕を潜り抜け、次の目標に急接近。

次、また次と、秒単位でUEを火の玉に変える。

加速の過負荷により体はボロボロのはずだが、不思議と痛みは感じない。

何度口や鼻から血を噴き出したか、何度内臓が押しつぶされそうになったか、わからない。

もはや痛みなどどうでも良くて、フリットはただ敵を殲滅することに喜びを感じていた。




フリット「あっはははは!!」


思わず笑い声を上げるフリット。

その昂揚感は、今まで散々苦しめられてきたUEに対する優越感から来るものだろうか。

或いは、この機体に秘められた未知なる力が、彼を狂気に走らせているのか。


フリット「殲滅してやる……一機残らず!」


後退してゆくUEの姿を追いかけ、切り捨てる。

最後のUEがレーダーから消えた時でさえ、フリットはまだ笑いを堪えきれなかった。


フリット「…………くくく」

ウルフ「……い、おい! ……こ……えるか、フリット!」


何やら通信が入ってるが、よく聞こえない。

いやそれよりも、あれだけの数のUEを撃破した自分を、もっと評価する方が大事だ。


フリット「……やれる。やってやるさ……。このブルーなら……」


ウルフを守った。ディーヴァのみんなを守った。

それでいいじゃないか。


フリット「…………はは」


コックピット内のあちこちから火花やスパークが飛び交い、煙を巻き上げる。

瞬間、真っ白な視界がフリットの眼前に映し出された。


ウルフ「フリット! 返事をしろフリット!!」


蒼い機体が、煙と炎に包まれていた。


とりあえずここまで

ではまた



ブルーディスティニーの暴走。

それは、模擬戦でUEに出くわすという事態以上に、想像だにしていなかったことだった。

中破したブルーはウルフのジェノアスによって回収され、フリットも無事保護された。

それでもフリットの怪我は想像以上に重く、エミリーやディケ、バルガスを始めとした旧知の仲間は元より、子供を戦場に駆り出すことに不快を顕わにするウルフも、今後フリットをブルーに乗せることに反対していた。

しかし、ブルーを降りるという考え自体が、この少年の頭からは決して生まれることはないのである。

大切な人を守る――。

その為なら、自分はどんな運命だろうと受け入れ、戦うと決意したのだ。

それが、一人の天才少年の思いだった。

しかし運命は、彼を更なる戦禍へと誘う。










>>65 訂正



ブルーディスティニーの暴走。

それは、模擬戦でUEに出くわすという事態以上に、想像だにしていなかったことだった。

中破したブルーはウルフのジェノアスによって回収され、フリットも無事保護された。

それでもフリットの怪我は想像以上に重く、エミリーやディケ、バルガスを始めとした旧知の仲間は元より、子供を戦場に駆り出すことに不快を顕わにするウルフも、今後フリットをブルーに乗せることに反対していた。

しかし、ブルーを降りるという考え自体が、この少年の頭からは決して生まれることはないのである。

大切な人を守る――。

その為なら、自分はどんな運命だろうと受け入れ、戦うと決意したのだ。

それが、一人の天才少年の思いだった。

しかしながら、彼が背負う運命はただの運命ではない。

蒼いモビルスーツと、EXAM。

両者は彼を、更なる運命へといざなう。






フリット「……ブルーを降りろ、だって? そんなの、できるわけないだろ……」

エミリー「……お願いよフリット。こんな目に遭って、どうしてそこまでして戦わなきゃならないの?」

フリット「……僕の母さんは、生きたまま焼かれたんだ」

エミリー「……! フリット……」

フリット「母さんだけじゃない。ブルーザー司令や基地のみんなだって……」

エミリー「……」

フリット「もう、目の前で大切な人が死ぬのはイヤなんだ。だから戦う。それが、僕がブルーに乗る理由だよ」

エミリー「……あなたは、それでいいの? 死んじゃうのかもしれないのに……?」

フリット「…………僕一人の命でみんなが助かるのだとしたら、それでいいじゃないか……」

エミリー「……!!」パチンッ

フリット「っ……」ヒリヒリ

エミリー「フリットのバカ! もう知らない!!」ダッ

フリット「…………」

フリット「(……僕はもう、逃れられないんだ。あのブルーからは……)」


<艦内通路>


エミリー「フリット……」トボトボ

ウルフ「よう、嬢ちゃん。その様子だと、あのガキと一悶着あったようだな?」

エミリー「……」

ウルフ「さっき艦長から話があってな。あのブルーは今後も変わりなく出撃させるそうだ」

エミリー「……! じゃあ、フリットはまた……」

ウルフ「艦長命令による出撃……とは言っても、あの坊主が自ら進んで降りるとは思えないがね。現に反対した嬢ちゃんも、さっきあいつに突っぱねられたんだろう?」

エミリー「それは……」

ウルフ「俺だって反対したさ。何よりもまず、あんなパイロットの命を無視した機動をするモビルスーツに、ガキを乗せるわけにはいかないだろ。いくら物好きな俺だって、あんな機体はごめん被りたいね」

エミリー「それなら、どうしてグルーデック艦長は……」

ウルフ「現状、UE相手に圧倒的な性能を発揮できるのがアレしかいないからだろう。戦力に乏しいディーヴァにとっちゃ、ブルーはUEに対する切り札だからな」

エミリー「そんな理由で……フリットは戦わされるんですか?」

ウルフ「そいつは違うな。あくまであいつは自分の意志で戦ってる。俺や艦長に命令されるまでもなく、あいつは何度でもブルーに乗るだろうよ」

エミリー「……わかっています。だけど……!」

ウルフ「……あいつの昔話は、俺も聞いてる。自分で決めたことだろうし、それなりの覚悟や苦労だってしてきたんだろう。だからこそ今は、あいつの側にいて必要な時に助けてやれ。そうでなきゃ、あいつは何でも一人でやろうとして、結局無茶をしちまう」

エミリー「……はい」

ウルフ「あいつの全てを理解しろとは言わないさ。ただ、気持ちを察してやるだけで良いんだよ。それが、惚れた男に対する接し方ってヤツだ」





<MSデッキ>


フリット「……こ、これは……とんでもないぞ、EXAMシステム……!」

ディケ「ン……どうかしたのか? フリット」

フリット「……EXAMシステム。発動すると機体の各種リミッターを強制解放、システムからの指示に機体の動きを近づけるために機体性能の限界を引き出し、常人では不可能な機体制御を可能にする……。但し、システムは完全ではなく、原因不明の暴走を引き起こすという致命的な問題も残している……か」

ディケ「……暴走って、あれのことか? フリットがUEを撃退した時の……」

フリット「恐らくそうだろう。どうしてあの時システムが発動したのか。そして、なぜ暴走するのか。その原因はわからないけどね……」

ディケ「……そんな危なっかしいモンに乗ってたら、お前、死ぬぞ」

フリット「…………」

ディケ「やめとけよ、もう。エミリーだって、お前のことが好きで死なれて欲しくないからああ言ってたんだぜ?」

フリット「……わかってるよ。けど、やらなくちゃいけないんだ。このブルーで……」

ディケ「……お前、ブルーのことになるといつもそうだな。まるであれだ、ブルーの怨念に憑りつかれてるみたいだ」

フリット「……否定はしないよ。自分で決めたことだしね。それに、今のUEを圧倒できる機体があるとしたら、このブルーだけだ。ディケだって、それはわかってるだろ?」

ディケ「そりゃそうだけどよ……。UEをやっつけてもお前が死んじゃったら、元も子もないだろ……」

フリット「……覚悟の上だよ」






コロニー“ファーデーン”へ入港するディーヴァ一行。

そこでフリットは、不思議な少年デシル・ガレットと出会う。

デシルはフリットからEXAMデバイスを奪うと、ブルーを自由自在に操ってみせた。

しかし、デシルはある程度するとブルーから降りて姿を消してしまう。

何の目的があったのかわからないが、自分よりも年下の少年がブルーを巧みに動かす姿を光景を目の当たりにし、敗北感に苛まれるフリットであった。

一方、“ファーデーン”ではザラムとエウバという二大勢力が対立していた。

関係のない民間人を戦いに巻き込み、UEという人類にとって共通の敵が迫って来ているのにも拘らず、不毛な争いを続ける両者の態度に、フリットは憤りを感じていた。

フリットは自らブルーディスティニーに乗り込み、ザラムとエウバの暴動を鎮圧。

打倒UEを掲げるグルーデック・エイノア艦長の呼びかけもあって、ザラムとエウバは互いに手を取り合い、ディーヴァとの合流を果たす。

人同士の争いが消え、誰もが安堵した矢先、新たな敵が“ファーデーン”に近づきつつあった……。





>>72 訂正


コロニー“ファーデーン”へ入港するディーヴァ一行。

そこでフリットは、不思議な少年デシル・ガレットと出会う。

デシルはフリットからEXAMデバイスを奪うと、ブルーを自由自在に操ってみせた。

しかし、デシルはある程度するとブルーから降りて姿を消してしまう。

何の目的があったのかは不明だが、自分よりも年下の少年がブルーを巧みに動かす姿を目の当たりにし、敗北感に苛まれるフリットであった。

一方、“ファーデーン”ではザラムとエウバという二大勢力が対立していた。

関係のない民間人を戦いに巻き込み、UEという人類にとって共通の敵が迫って来ているのにも拘らず、不毛な争いを続ける両者の態度に、フリットは憤りを感じていた。

フリットは自らブルーディスティニーに乗り込み、ザラムとエウバの暴動を鎮圧。

打倒UEを掲げるグルーデック・エイノア艦長の呼びかけもあって、ザラムとエウバは互いに手を取り合い、ディーヴァとの合流を果たす。

人同士の争いがなくなり誰もが安堵した矢先、新たな敵が“ファーデーン”に近づきつつあった……。





-BRIEFING-


“ファーデーン”がUEの襲撃に遭い、コロニー内はパニック状態である。
残念ながら、我が軍を含めてザラムとエウバのモビルスーツが既に何機か撃墜されている。
敵UEによる殺戮を、これ以上許してはならない。
貴官は速やかにモビルスーツにて出撃し、敵UEの侵攻を阻止せよ。
なお、敵の中にはデータに無い新型モビルスーツが確認されており、これと交戦したパイロットは全て消息を絶っている。
充分に警戒しつつ、任務にあたれ。


成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:ロングレンジ・ビームライフル



STORY 3「激戦の日」


フリット「高出力ライフルによる狙撃?」

バルガス「そうじゃ。ブルーの改修はまだ完全とは言えん。下手に機体を動かすわけにもいかんからな。そこで、ディーヴァにブルーを固定し、そこから敵を狙い撃ちし各個撃破する作戦を立てたのじゃ」

フリット「あの馬鹿でかい銃が、狙撃用ライフル? あんなもの、どうやって開発したんだよ」

バルガス「うむ。EXAMデバイスの中にあるデータを漁っていたら、あらゆる武装の設計図が見つかったんじゃよ。出力は現行のビームライフルの数倍はあるぞい。但しこいつは、発砲時の銃身冷却剤やエネルギー充填を外付けのタンクからパイプチューブを繋いで供給する方式じゃから、事実上固定砲台としてしか運用できん」

フリット「……遠距離支援か。やってみるよ」

ディケ「ライフルの外部装置は俺とバルガスが面倒を見るから、お前は目の前の敵に専念してくれよ」

フリット「ああ。頼むよ、二人とも!」






“ファーデーン”での戦闘が始まってからおよそ10分。

ザラムとエウバ、両軍の旧式モビルスーツは、迫り来るUEの機体に次々と撃破されていった。

ラーガン・ドレイスが操るジェノアスも、あの竜の形をしたモビルスーツの前には持ちこたえるのが精一杯。


ラーガン「くそっ……数が多すぎるんだよ!」


いらついて辺りをなりふり構わず見回すと、見慣れない機体がラーガンの視界に入った。


ラーガン「……あの緑色……新型か?」


鮮やかな緑色の、これまでのUEとは容姿も異なるモビルスーツ。

すかさずビームライフルを放つが、その光条はライトグリーンの機体の胸の前で空しく散った。


ラーガン「電磁装甲……だと!?」


最新式のビームライフルをものともしないUEが、ラーガンの眼前へと迫る。


ラーガン「やばっ……!」


後退し、距離を離そうとしたが、目の前の敵はそのずんぐりとした体型からは想像もつかないスピードで、ラーガンに追いつこうとする。


ラーガン「……おいおい、よしてくれよ……!」


ここまでか――。

そう覚悟した次の瞬間、一筋の光がラーガンの視界を横切り、敵UEの頭部を撃ち抜いた。





フリット「や、やった!」


スコープの先に見える機体が、火の花を咲かせる。

ビームを弾く電磁装甲といえども、通常のそれとは比較にならない出力を誇るロングレンジ・ビームライフルは、エネルギーを一点に集中させることで、いとも簡単に貫通させられるのだ。

その事実をフリットは知っていたのか、それとも、無意識のうちに対象の頭部だけを撃ち抜くことだけを考えていたのか。

後者なら、間違いなく彼は戦闘において非凡な才能を発揮していることになる。


バルガス『エネルギー充填開始! ディケ、冷却装置はちゃんと動いておるだろうな?』

ディケ『問題ない! 銃身の放熱もばっちりだ!』


エネルギーゲージが徐々に回復していき、銃身の温度も下がっているのがモニターで確認できる。


フリット「エネルギー、温度共にオールグリーン! 出力を絞って、次弾発射までの間隔を縮める!」


再度スコープを覗き、次の目標に狙いを定める。

あの見るからに装甲の厚そうな機体を潰してしまえば、残っているのはいつも相手をしている機体だけである。

ならば、ただでさえ連射の利かないライフルで敵の数を減らすには、一発ごとの出力を抑えて次の発射までのタイムラグを短くする必要がある。


フリット「当たれェーッ!」


無我夢中になりながら敵の動きを目で追い、自分の直感にしたがってトリガーを引く。

出力を絞ったとは言っても、大型のライフルから発射されるメガ粒子の威力は、残りのUEを一撃で仕留めるには十分すぎるほどだ。


フリット「墜ちろ、墜ちろッ!」


次々と敵のモビルスーツを撃ち墜すフリット。

パッと煌めく火球が幾つも出来上がり、ただひたむきな少年の目に心地よい感触を与えていることは、本人以外誰も知り得ることはないだろう。






ウルフ「やるじゃねえかフリット! 俺様も負けてられねえな!」

フリット「あ……あれは、ウルフさん!?」


純白の機体“Gエグゼス“。

マッドーナ工房に保管されていた“シャルドール”をベースに、戦闘用の改造パーツを組み込み、ブルーのデータを加えたウルフ専用の新型モビルスーツである。

これまでブルーにしか扱えなかったビームサーベルを標準装備した初の機体でもあり、二本のそれを振るいながらUEの装甲を切り裂いてゆく。


ウルフ「後は任せろ。病み上がりの機体とその体じゃあ、満足に戦えんだろ?」

フリット「そんな……。まだやれますよ!」

ウルフ「お前はよくやってくれたよ。あれだけの数の敵を、あんな遠距離からほぼ撃ち漏らすことなく減らしてくれたんだからな。残りの掃除は俺たちに任せて、お前はゆっくり休め」


事実、度重なるライフルの発砲によって腕部の関節が悲鳴を上げており、これ以上続ければ機体の再修復に余計な時間を費やすことになるのは目に見えていた。

それは、フリットは勿論のことバラガスやディケの望むところではない。


フリット「……わかりました。すみません、後は頼みます!」

ウルフ「おうよ! 野郎共、援護を頼むぜ!」


今は機体の修復を優先し、今後の戦いに備える必要がある。

フリットはブルーをモビルスーツデッキまで後退させて、各種損壊箇所のチェックを行う。


フリット「……ウルフさん、みんなも……」


後は、外のモビルスーツ隊がただ無事に帰って来るのを待つだけであった。






一つの戦いが終わった。

襲い来るUEを見事撃退したディーヴァ、そして、ザラムとエウバ。

三つの力が合わさり、グルーデック・エイノアの指揮の下、UE撃滅の意志を互いに確かめ合う。

しかし、UEは攻撃の手を休めることなく、新たなモビルスーツの大部隊が“ファーデーン”へ迫る。

再び切って落とされる戦いの火蓋。

フリットは改修が終わったブルーディスティニー1号機に乗り、これを迎え撃つ……。



-BRIEFING-


ザラムの巡洋艦がUEの大型艦に捕捉された。
敵艦隊は巡洋艦を追って、“ファーデーン”へと向かっている。
モビルスーツ隊は直ちに出撃し、ザラム・エウバの両軍と協力してUEを迎え撃て。


成功条件:敵主要ユニットの撃破
失敗条件:自機の大破

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:ビームライフル




<メインブリッジ>


ミレース「艦長! 本艦の進行方向に多数のUEを確認! あ、あれは……黒いUE! 指揮官機と思われる黒いUEがいます!」

グルーデック「総員、第一種戦闘配備。ビーム撹乱幕展開後、モビルスーツ部隊発進。敵をコロニーに近づけるな」

ミレース「了解! ブリッジより各員へ。パイロットはモビルスーツデッキに集合後、直ちに出撃準備をお願いします!」

グルーデック「フリット聞こえたな? ブルーディスティニーは出せるか?」

フリット『問題ありません。すぐにでも出撃します』

グルーデック「どうやら、例の黒いヤツが敵の中にいるようだ。十分に気をつけろよ」

フリット『はい!』

グルーデック「…………予想以上に早いお出ましだな」

グルーデック「(やはり……奴らの目的はブルー、なのか?)」



<モビルスーツデッキ>


フリット「装甲の強化、ビーム兵器の出力強化、各バーニア推力の向上……。これ全部、この短期間でやったのか?」

バルガス『EXAMデバイスのデータにかかれば、案外楽にできるもんじゃよ』

ディケ『拍子抜けしたぜ。まさかその小さな端末に、ブルーの強化に対応したパーツの生成方法が全部載ってるとは思ってもいなかったよ。どうしてかはわからないが、やけに実弾兵器が充実してたけどな』

フリット「EXAMは……使えるの?」

バルガス『システムに時限式のリミッターをかけておいたぞい。これで、ブルーのEXAMシステムは通常のの50%しか機能しなくなるがな』

ディケ『長時間の使用を避け、お前の身を守るためなんだ。わかってくれよ』

フリット「ありがとう……二人とも! じゃあ行ってくる!」

エミリー『……待って、フリット!』

フリット『エミリー!?』




>>96 訂正


<モビルスーツデッキ>


フリット「装甲の強化、ビーム兵器の出力強化、各バーニア推力の向上……。これ全部、この短期間でやったのか?」

バルガス『EXAMデバイスのデータにかかれば、案外楽にできるもんじゃよ』

ディケ『拍子抜けしたぜ。まさかその小さな端末に、ブルーの強化に対応したパーツの生成方法が全部載ってるとは思ってもいなかったよ。どうしてかはわからないが、やけに実弾兵器が充実してたけどな』

フリット「EXAMは……使えるの?」

バルガス『システムに時限式のリミッターをかけておいたぞい。これで、ブルーのEXAMシステムは通常の50%しか機能しなくなるがな』

ディケ『長時間の使用を避け、お前の身を守るためなんだ。わかってくれよ』

フリット「ありがとう……二人とも! じゃあ行ってくる!」

エミリー『……待って、フリット!』

フリット「エミリー!?」





エミリー『フリット……また行っちゃうの? また……あんな酷い目に遭うの?』

フリット「大丈夫、もうこの前みたいな無茶はしないさ。それをさせないために、バルガスとディケだって手伝ってくれたんだ」

エミリー『……約束よ、フリット。必ず無事に帰って来て!』

フリット「ああ。約束する」


ウルフ『おい坊主! 先に行ってるぜ!』

ラーガン『あんまり遅れて来るなよ?』


フリット「……了解。フリット・アスノ、ブルーディスティニー1号機、行きます!」バシュウ




ディケ「……EXAM、か。大昔の人間はとんでもないモノを作ってたんだな」

バルガス「……ディケよ。お前はXラウンダーという言葉を知っておるか?」

ディケ「X……ラウンダー?」

バルガス「人間の脳内に点在する“X領域”と呼ばれる部分を活性化させ、行動の予知や他者との交信や常人を遥かに上回る反射神経を発揮する、一種の超能力者のようなことができる人間を指す言葉じゃよ。どうやら旧世紀の人間の中にも、そのようなエスパーみたいな奴がおったようでな。EXAMシステムは、そういった奴らを抹殺するためのシステムらしいんじゃ」

ディケ「……それって要するに、凡人やバカが天才を殺すための道具ってこと?」

バラガス「簡単に言えばそういうことじゃな」

ディケ「どうしてそんな無茶苦茶なことを考えつくんだよ……。昔の人の頭ン中は、相当イカれてたんじゃないか?」

バルガス「知らんよ。しかし現代では、Xラウンダーは人類の進化の形と捉える見方も多いと聞くがな」

バラガス「(そしてフリットには、Xラウンダーとしての才能があるのかもしれぬ。先の戦闘で見せたあの戦い方は、まるで敵の動きを読んでいるかのように見えたのじゃ……)」





>>99 訂正



ディケ「……EXAMシステム、か。大昔の人間はとんでもないモノを作ってたんだな」

バルガス「……ディケよ。お前はXラウンダーという言葉を知っておるか?」

ディケ「X……ラウンダー?」

バルガス「人間の脳内に点在する“X領域”と呼ばれる部分を活性化させ、行動の予知や他者との交信や常人を遥かに上回る反射神経を発揮する、一種の超能力者のようなことができる人間を指す言葉じゃよ。どうやら旧世紀の人間の中にも、そのようなエスパーみたいな奴がおったようでな。EXAMシステムは、そういった奴らを抹殺するためのシステムらしいんじゃ」

ディケ「……それって要するに、凡人やバカが天才を殺すための道具ってこと?」

バルガス「簡単に言えばそういうことじゃな」

ディケ「どうしてそんな無茶苦茶なことを考えつくんだよ……。昔の人の頭ン中は、相当イカれてたんじゃないか?」

バルガス「知らんよ。しかし現代では、Xラウンダーは人類の進化の形と捉える見方も多いと聞くがな」

バルガス「(そしてフリットには、Xラウンダーとしての才能があるのかもしれぬ。先の戦闘で見せたあの戦い方は、まるで敵の動きを読んでいるかのように見えたのじゃ……)」





ビームライフルから放たれる光の矢。

そしてその光が、UEの頭部だけを次々と射抜く。

先の戦闘で狙撃のコツを掴んだのだろうか、フリットは敵機体の頭だけを正確に撃ち抜き、無力化する。

頭を射抜かれたUEの機体は、その動きを静かに止めたまま、真空の宇宙を漂うだけである。


フリット「……!! 後ろか!」


背後に殺気を感じたフリットは、ブルーの胴体を捻りながら、後ろから迫り来るUEに向かってライフルを発射する。

見事、頭に命中させ、敵UEの動きが止まる。


フリット「どこからでも来い! 全部撃ち落としてやる!」


まるで、獲物を見つけ出して狩りを楽しむかのような少年の姿が、そこにあった。

自爆設定ないと話が破綻するんですがそれは……



>>109さん

ご指摘ありがとうございます
完全に設定忘れてました

少し書き直します



>>108 訂正



ビームライフルから放たれる光の矢。

そしてその光が、UEの頭部だけを次々と射抜く。

先の戦闘で狙撃のコツを掴んだのだろうか、フリットは敵機体の頭だけを正確に撃ち抜き、無力化する。

頭を射抜かれたUEの機体は、その動きを静かに止めたまま、爆発して破片を撒き散らす。


フリット「……!! 後ろか!」


背後に殺気を感じたフリットは、ブルーの胴体を捻りながら、後ろから迫り来るUEに向かってライフルを発射した。

顔を失った敵UEの動きが止まり、爆散する。


フリット「どこからでも来い! 全部撃ち落としてやる!」


まるで、獲物を見つけ出して狩りを楽しむかのような少年の姿が、そこにあった。



異変が起きたのはその時だった。

味方機のモビルスーツが突如として真っ二つに両断されたのだ。


フリット「こいつは……黒いモビルスーツ!? マッドーナ工房に持ち込まれたやつか!」


漆黒の影が、フリットの視界を横切る。


ラーガン「あのモビルスーツ、これまでのヤツの三倍以上の加速はあるみたいだ! あんな速さで迫れる機体なんて、あるはずが……!」

フリット「(……いや、EXAMなら、あいつに追いつける……か?)」


火戦が迫る。

とっさに回避したものの、ビームを掠めた左腕のシールドが僅かに融解する。

次に、斬撃がブルーを襲い、肩口から火花が上がった。


フリット「ちいっ! このスピードは……!」


刹那、見覚えのある顔がフリットの脳裏をよぎる。


フリット「この感覚……デシルなのか?」


ブルーを盗み、自分よりも上手に動かしてみせた、あの子供の姿が思い出される。

そんなことを考えている間にも、黒いモビルスーツが、次、また次と、味方のモビルスーツをビームで焼いていた。


フリット「あ……ああ……!」


容赦ない殺戮。

続々と“ファーデーン”へ逃げるモビルスーツを狙っては、飛んでいる羽虫を叩き落とすようなその光景に、フリットは耐え難いものを感じずにはいられなかった。


フリット「……ッ、くっそおおおっッ!!」







≪EXAMシステム、スタンバイ。≫







少年の叫びが、狂気を目覚めさせた。




フリット「行くぞおおッ、 ブルー!」


ビームサーベルを両手のマニュピレーターに握り、居並ぶUEを次々と斬り捨てる。

これまでの戦闘経験に裏付けられたフリットの格闘技術は、UEの装甲の薄い部分を的確に狙って、容赦のない破壊を繰り返す。


フリット「リミッター作動までに勝負をつける!」


EXAMシステムが停止するまで、残り90秒。

それまでに、あの黒い機体を確実に仕留めなければならない。


フリット「当たるか!」


黒いモビルスーツからの砲撃が来る。

が、もはやEXAMのスピードの前では着弾する類のものではない。


フリット「見える……動きが見える!」


全身の感覚が、異常なまでに研ぎ澄まされて、全ての事象が手に取るようにわかり、予測できる。

それを何と表現すればいいか、そしてなぜ、自分にそのようなことができるのか、そんなことはどうでもいい。

ただ、頭から足の指先まで白熱するような熱気を感じて、目の前の敵を捻り潰したいと思っていた。






フリット「どうした、どうしたァ!」


敵の黒い機体が、ブレードによる斬撃を繰り出す。

それを難なく躱しながら、振り降ろしざまにビームサーベルを一閃。

右腕を切り飛ばし、反撃する相手の胸部から放たれるビーム砲を僅かな動きで回避、次いで左脚を切り裂く。


フリット「っらあぁッ!」


握っていたサーベルを宙に放り投げ、左手で敵の頭を鷲掴みにし、右手で相手の左腕を引っ張る。

ギギギ、という耳障りな音がスピーカーを通して聞こえて、スパークを散らす敵の左腕を引きちぎった。


(ひ……ひいいいいぃぃっっ!!)


怯えるような、それでいて幼なさを帯びた声が、フリットの頭に響く。

聞き覚えのある声だったが、そんなことを気にも留めるはずもなく、


フリット「ふははっ、大したことないな! UEの高性能機といってもこんなものかよ!」


両腕と片脚を失った黒い機体を罵り、今度は両手を組み合わせて思いっきり敵の頭に叩きつけようとした。

すると突然、ガクン、とコックピットが揺れ、ブルーはその動きを静かに止めた。


フリット「システムダウンだと!? もう時間が来てたのか!」


紅い輝きを失った蒼いモビルスーツはその場でたたずみ、その隙に黒いモビルスーツは撤退を始めた。

同時に、他のUEもそれに付き従うように母艦へ向かって退却して行く。


フリット「くそっ! あともう少しで仕留められたのに……!」


コンソールを叩きつけ、苛立ちを顕わにするフリット。

さっきまで全身を支配していた“熱”は消え、焦燥感だけが彼の心に残っていた。





“ファーデーン”での攻防を終え、中立コロニー“ミンスリー”に立ち寄るディーヴァ艦隊。

フリット達は、UEの宇宙要塞攻略に向けた会議を秘密裏に行うため、“ミンスリー”を牛耳る大富豪、バーミングス家の屋敷を訪ねる。

そこでフリットは、バーミングス家に養女として引き取られていたユリンと再会。

家族を失ったお互いの境遇を自分に重ね合わせ、次第に惹かれ合う二人。

しかし運命は、後に彼らの幸せを無惨に引き裂くことになる……。



しばらくして準備を終えたディーヴァ艦隊は、“ミンスリー”を出発。

しかし、その行く手には反逆者となったグルーデックを捕えるべく、地球連邦軍の艦隊が待ち受けていた。

そこに、突如としてUEが襲来。

不意をつかれた連邦軍はUEの激しい攻撃に苦戦を強いられ、ディーヴァを捕らえるどころではなくなる。

そこでグルーデックは、人類共通の敵であるUEを撃退するために、自分たちを討伐しに来た連邦軍を援護する。

見事UEを退け、連邦軍の艦隊もディーヴァ追撃を諦め、撤退して行った。



そしていよいよ、UEの根拠地、宇宙要塞アンバットの攻略が始まる。

ブルーディスティニーとEXAMシステムの最終強化を終えたフリットは、人類の救世主となるべく最後の戦いに挑む。







-BRIEFING-


敵UEの宇宙要塞、アンバットへの総攻撃を開始する。
周囲の敵モビルスーツを掃討し、これを殲滅せよ。
人類の未来は、この一戦にかかっていると言っても過言ではない。
貴官の健闘を祈る。


成功条件:敵主要ユニットの撃破
失敗条件:自機の大破

使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:ビームライフル




<モビルスーツデッキ>


フリット「……」カチャ カチャ

ディケ「全く……こんな時間まで熱心なことだな」

フリット「EXAMシステムの最終調整までもう少しなんだ。これが完成すれば、ブルーは更に強くなる……」

ディケ「EXAM自体に、何か細工でも施したのか?」

フリット「これまで蓄積されたブルーとUEの戦闘データを、EXAMデバイスに送り込んだんだ。集めた戦闘データは逐一解析・数値化されて、それを基にシステムが学習と成長を繰り返し、独自の発展と進化を遂げる。今この瞬間に遭遇した未知の敵でも、リアルタイムで戦闘記録を更新・解析するように設定してるから、あらゆる状況に対応できる。 何よりも、今まで以上にシステムを状況に応じて無駄なく使いこなせるんだ」

ディケ「ひえぇ……気が遠くなるような作業だろうな。そんなドえらいこと、全部お前だけでやったのかよ?」

フリット「EXAMデバイスのストレージの片隅に、母さんが残してくれたと思われるプログラムがあったんだ。恐らくは、アスノ家が代々研究してきた生物進化の謎を数値化したデータだろうね。僕はそれを、EXAMシステムに直接組み込んでみただけさ」

ディケ「要するに……進化するEXAM、ってとこだな」

フリット「そうさ。UEもバカじゃない。アイツらは人じゃなくても、知性生命体だってことぐらいは今までの戦いから簡単に推測できる。そうすれば、新たなUEだって出現してくる可能性も大いにあるわけだろうし」

ディケ「……残る問題があるとすれば、EXAMシステムの発動条件、か?」

フリット「ああ。そこの部分だけは全くの謎なんだよ。これがわからない限り、EXAMシステムは不完全なままだろうね」

ディケ「不完全なものを使い続けるなんて、やっぱりお前は危なっかしい奴だ。頼むから、無茶だけはしないでくれよ?」

フリット「わかってるさ。僕だってまだ、こんなところで死ぬわけにいかないよ」

フリット「(……だが、どれだけ不完全な代物だろうと、僕はEXAMを使いこなしてみせる。UEを倒すためには、僕にとってもEXAMは必要なものなんだ……!)」





STORY 4「戦慄のブルー」





決戦の日。

フリットはブルーのコックピット内で、静かに出撃の時を待っていた。


エミリー『フリット……大丈夫?』

フリット「大丈夫だよ、エミリー。バラガスやディケ、それに君がサポートしてくれるんだ。こんなに頼もしいことはない」


モニターに映るエミリーの表情はどこか暗く、そして悲壮だった。

それもそのはず、ここ最近何かに憑りつかれたような日々を送っていたフリットの姿を見続けていれば、彼女が彼をひどく気遣うのは当然であろう。


フリット「あと七日前後で、UEはコロニーに対して大規模な攻勢をかけるだろう。今ここで奴らを叩かないと、また多くの人の命が奪われる。それだけは、絶対にさせちゃいけないんだ。僕とブルーと、そしてEXAMで、必ず阻止してみせる」


フリットの意思は固かった。

彼はこの数日間、UEを駆逐し人々を守ることだけを考え、そしてそうするために、己の全労力をブルーの整備とEXAMシステムの調整につぎ込み、寝る間も惜しんで研究を重ねてきたのだ。

傍から見れば、それはまるで、自身の中に潜む強迫観念に囚われているのではないかと思われても仕方のないことである。


エミリー『……わかってるよ。あなたがそうすることも、そうしてしまうことも。だからもう、私は止めない。私、全力であなたを支えるから。どんなことがあっても、ブルーをサポートするから。だからお願い、必ず生きて帰って来て』

フリット「ありがとう、エミリー……」


そこで通信は終わった。

回線を繋ぎ変えて、今度はディケに話を振る。


ディケ『……本当に、良いんだな?』

フリット「うん……。悪いね、嫌なことにつき合わせちゃってさ」

ディケ『ヒヤヒヤしたぜ。バラガスのじいちゃんやエミリーの目を盗んで小細工するなんて、思ってもいなかったからな』

フリット「……本当に、ごめん」

ディケ『気にすんなよ。俺だって、何度お前に世話になったことか……』

フリット「……ありがとう、ディケ。君はやっぱりいい友達だ」

ディケ『……俺のことはいい。それよりも、エミリーを泣かすんじゃねえぞ。もし泣かしたら、そん時は全力でお前をブン殴ってやるからな。リミッターだけ外しておいて、それができないとは言わせないぜ』

フリット「……ああ。じゃ、行ってくるよ」

ディケ『……気をつけてな』


一歩ずつ前に進み、リニアカタパルトにブルーの足を固定する。

心臓の鼓動が早くなり、無意識のうちに操縦桿を強く握り締めていた。


フリット「ブルーディスティニー1号機、フリット・アスノ、行きまーす!」


蒼いモビルスーツが、まるで真空の宇宙に溶け込むかのように、決戦の地へ駆けて行った。








フリット「……見えた! あれだな」


作戦開始から30分。

ディーヴァに搭載された“フォトンブラスターキャノン”の照射により、UEの艦隊に大きな損害を与え、アンバット要塞内部への侵入口も確保した。

味方モビルスーツ隊が次々と要塞に取りつき、設置された砲台や敵モビルスーツの排除に乗り出す。

それに遅れまいと、フリットが友軍の進路に続こうとした時、漆黒のモビルスーツが目の前に立ち塞がった。


デシル「この間の借りを返しに来たよ、お兄ちゃん!」

フリット「デシル……!? その機体に乗ってるのは、やはりデシルだったか!」


ブルーの通信回線に割り込んできた音声は、間違いなく“ファーデーン”で会ったあの時の少年のものだった。


デシル「そうだよ! 一緒に遊ぼうよ、お兄ちゃん!」


巨大な刃が、ブルーに肉迫する。

デシルが乗るモビルスーツ“ゼダス”のスピードは、ブルーに引けを取らない。

かろうじてビームサーベルで受け止め、火花が暗闇の宇宙を照らす。


フリット「なぜ君のような子供が、こんなところで戦って、UEの味方をするんだ! おかしいじゃないか!」

デシル「理由なんか要らないよ。僕はただ、お兄ちゃんに負けたままなのが嫌なんだよね!」


ゼダスの腹部から拡散ビームが放たれる。

間一髪で回避したつもりだったが、散ったメガ粒子の飛沫が装甲の表面を炙った。





デシル「ふふっ、実はね、今日の戦いには面白いモノを用意してあるんだよ!」

フリット「何……!?」


ブルーのレーダーが接近する熱源を感知し、コックピット内にアラームが鳴り響く。

遥か向こう側からやって来る、桃色のモビルスーツ。

距離が近づいてくるにつれ、心臓の鼓動が早くなる。


フリット「……こ、これは、まさか……」


その、まさかだった。


ユリン「フリットォォー!」


その声を、忘れるわけがない。

その機体に、刃を向けられるわけがない。

“ミンスリー”で再会を約束し、必ず守ると誓った少女が、そこにいた。



フリット「どうして……どうして君が!」

ユリン「こうしなきゃならなかったの! こうしなきゃ、二度とフリットには会えないって……!」


ユリンの乗るモビルスーツ“ファルシア”が、無線式のオールレンジ攻撃用兵器“ファルシアビット”を射出し、フリットに襲いかかる。


ユリン「……い、いや! 勝手に動いて……!」

デシル「君が操縦する必要はないよ。能力者同士が共鳴することで、Xラウンダーの力は何倍にでも跳ね上がる。君は、ファルシアの生体パーツにすぎないのさ!」

フリット「何だと……!! デシル……お前は!」


怒りを顕わにし、ゼダスに向けてビームライフルを連射する。

しかし、その火戦は虚空に吸い込まれるように消え、デシルに当たることはなかった。


デシル「無駄無駄! いくらお兄ちゃんが先読みをしたって、僕はさらにその先を読んでいるのさ! ユリンの力は凄いなぁ! お兄ちゃんの動きがはっきりと見えるよ!」

フリット「くそッ! 射撃がダメなら……!」


接近戦に持ち込もうとするが、ファルシアのビットが放つビームによって動きを牽制されてしまう。


ユリン「フリット!」

デシル「あはははっ! 近づこうたって無駄さ!」

フリット「(まだ……EXAMはまだ使えない! ならば……!)」


ビームライフルを構え直し、狙いをファルシアが操るビットだけに定める。


フリット「! そこだッ!」


先を読んだ一撃。

一筋の光がビットを貫き、爆散させる。






フリット「二つ、三つ! これで最後か!?」


全身の神経をフルに使い、周囲を飛び交うビットをことごとく撃ち落とす。

ビームの嵐はなんとか鎮めたが、更なる攻撃がフリットを待ち構えていた。


デシル「へえ、やるじゃないか! でも、そっちばっかり見てて良いのかな?」

フリット「ッ!」


漆黒のモビルスーツが下方から滑り込み、長大な高周波ブレードが振り上げられる。

即座に反応したフリットは、ブルーをありえない角度で旋回させて、その斬撃を回避した。


デシル「隙ありィ!」

フリット「なっ……!!?」


気付いた時には、もう遅かった。

ファルシアがブルーめがけて突進し、その手から伸びたビームサーベルがブルーの左腕を切り落としていたのだ。


フリット「くッ! まずい……!」

デシル「はははっ! いい気味だね!」

ユリン「やめて……やめて! フリットが、フリットが……!」


ユリンの意思などお構いなしに、フリットを襲うファルシア。

その挙動は先程までとは明らかに違い、鋭い動きでフリットを翻弄する。



ユリン「い、いやああッ!! 私の中に、何かが……入ってくる……! 助けて、フリットォ!」

フリット「ユリィン!」

デシル「どうだい、お兄ちゃん! ユリンお姉ちゃんは、僕の思考波を受信してファルシアに伝えるだけのシステムだってこと、これでよくわかったでしょ!? Xラウンダー二人を相手にして、勝ち目なんてあるわけないよ!」


デシルの哄笑と共に、二機のモビルスーツから斬撃が繰り出される。

片腕のビームサーベルで受けきれるものではない。


フリット「ぐううぅっ!」


いくら動きを読んでも、相手の予測が自分の限界を超えており、一撃一撃を躱せば躱すほど、疲労が溜まって緊張の糸が緩んでいく。

そしてついに、黒い刃がフリットの眼前に飛び込んできた。


フリット「し、しまっ……!」

デシル「僕の……勝ちだァ!!」


その、次の瞬間であった。

ブルーとゼダスの間に割って入った桃色の機体がコックピットを貫かれ、炎の中に消えたのは。









『ただ、もう一度会いたかっただけなの』


声が、聞こえる。

幻聴ではない、一人の優しい少女の声だ。


『でも……どうしてなんだろう。わかってたのに、もう一度会えたら気が済むって、そう思ってたのに……』

「……うん」


涙声だった。

それが自分のものか、少女のものかはわからない。


『私は……フリットとずっと一緒にいたかった……!』


炎が、少女を包み込む。

必死に手を伸ばすが、決して届くことはない。


『もっと生きていたかった……』

「……ッ、ユリン! ユリン!」


声を絞り出す。

行かないで、行かないでくれと、全身の細胞が叫ぶ。


『……フリット』


自分の名前を呼んだ。

少女の頬を涙が濡らしていた。


『生きるのって、難しいね……』


少女の体が爆炎に呑まれ、視界はそこで閉ざされた。







フリット「ユリイイィィィン!!」




デシル「僕の制御を離れるなんて、どういうことかわからないけど、おかげで命拾いしたね! お兄ちゃん!」


今度は、あの無邪気で幼い声が聞こえる。

その声を聞くだけで、全神経がはち切れそうになった。


フリット「デシルウゥゥ!!」


体中の血液がマグマのように沸騰し、怒りが全身を支配する。


フリット「……なんで、なんでユリンが死ななきゃならなかったんだ! ユリンが死ぬ理由なんて、これっぽちも無かったんだ!」

デシル「理由? そんなものはないよ! ただ、場を盛り上げてくれる遊び道具が一つ減っただけさ!」


フリットの頭脳が、ある簡潔な答えを導き出した。


ああ、コイツはもう、殺すしかないんだ――と。


この時、フリット・アスノは生まれて初めて、目の前の“人間”に明確な殺意を持った。

そして、その“殺意”こそが、蒼い死神が最も欲していたものだったとは知らずに――。







≪EXAMシステム、スタンバイ。≫



フリット「命は……、命は、オモチャじゃないんだぞ!!」


紅い輝きと共に、ブルーがその姿を消した。


デシル「!?」


気付けば、ゼダスの左腕が宙を舞っていた。

ブルーが、見えない速さでビームサーベルを一閃させのだ。

一瞬、ただ一瞬の出来事であった。


フリット「…………殺す!!」


血のように紅い炎が尾を引き、ゼダスに迫る。

デシルのXラウンダーの能力など糞の役にも立つことなく、ブルーの動きを目で追うことすらできない。


デシル「な……なんだよこれ……! 一体……どうして、こんなことが!!?」


右脚部、右腕部、左脚部を示すランプが、モニターの表示から瞬く間に消えていく。

次々と、機体各所のパーツが切り落とされていくのだ。

そして、ついに残されたのは、だるま同然となったゼダスの胴体と、その上に繋がっている頭部だけになった。





フリット「おおおぉォッ!!」


ブルーのマニュピレーターが拳をつくり、ゼダスの顔面に炸裂。


デシル「がッ!!」


凄まじい衝撃と共に、コックピット内が激しく揺れる。

デシルは、耐Gシートから投げ出され、顔面をヘルメットごとコンソールに叩きつけらて、額から、鼻から血を流す。


デシル「い……イヤだ! まだ、僕は……!!」


死にたくない、というのが、デシルの本音だった。

デシルは初めて、死への恐怖というのを身を以て感じていた。


フリット「……死ね、死んでしまえ! デシル・ガレットォ!!」


ブルーの右手が、ゼダスの頭を掴んだ。

そのまま、力が込められる。


デシル「あ、ああ……あああっっっ…………!」


コックピット内にヒビが入り、モニターランプや照明も消えた。

薄暗い闇が、デシルの視界を埋め尽くす。

内壁が凹み、自分のいる空間がだんだん狭くなって、


デシル「やだ……ヤダ! いやだああァァァッッ!!」


何も、見えなくなった。




フリット「…………はあっ、……はあっ」


手応えはあった。

機体のマニュピレーターごしに、肉の塊を握りつぶした感触が伝わってきたからだ。


フリット「…………」


ブルーの右手には、赤黒い汚れがびっしりとこびりついていた。

それが、オイルの色かデシルの血の色か、わからない。


フリット「(…………僕が、人を殺した……?)」


一瞬、自身の行った行為に対して戸惑いを隠せなかったが、


フリット「(違う……アイツは人じゃない……。人の皮を被った……ケダモノ、だ。でなきゃ、あんなこと……ユリンを…………できるはずがない……!)」


そう思ったから、あの汚れは決して人間から流れ出るものではないと、信じることができた。


フリット「…………ユリン」


不意に、その名を口にしてしまう。

目と鼻から、水が流れ出る。


フリット「……う、ううッ…………」


ただただ、悲しかった。

もうあの笑顔を、二度と目にすることができないのが、どうしようもなく悲しかった。


フリット「う…………うぅ……、うわああぁぁぁっッ!!」


少年の慟哭が、蒼い死神を鎮める鐘となり、宇宙に響き渡った。








その後、彼がどのような末路に至ったかは、言うまでもない。

UE(アンノウン・エネミー)が“ヴェイガン”を名乗る火星移住計画の生き残りだと知り、そして、その者達が地球へ帰還するためにコロニーを襲って多くの人間を虐殺していたということを知った。

そこで、フリット・アスノは一つの決意を胸に刻んだ。


ヴェイガンを殲滅する――。


彼は、地球へ帰ろうとする者達の魂を赦したりはしなかった。

どんな理由があろうとも、彼が失った多くの仲間達の命は、二度と帰って来ない――。

その理由だけで、彼には十分だったのだ。


この戦いは、長きに亘る混乱の時代の始まりに過ぎない。

蒼い運命も、未だアスノの血を縛り続る。

そして、フリット自身も、ブルーディスティニーとEXAMの力を次代へと引き継いでゆく。


彼は、救世主になると言った。

しかし、蒼い運命は決して、救世主を求めたりはしない――。






次作 アセム編

「蒼を受け継ぐ者」に続く




――完――








所々、途切れ途切れになって駆け足で終わらせてしまいました。

ご不便をおかけして申し訳ございませんでした。

次作も頑張りますので、どうか本SSを読んで下さった皆様には、今後もお付き合いいただけたら幸いでございます。


それでは

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