紡「ちさきがコスプレにはまった」(63)

紡「はまったんだ」

要「……」

光「……」

紡「聞いてるのか?」

光「聞いてるって!」

要「大学から戻ってきたと言うから来てみたら……」

光「いきなり何でその……下ネタから始まるんだよ!」

要「全くの同意見」

紡「昨日、少し帰るのが予定から早まってな」

光「平然と続けるのな」

紡「爺さんが庭先にいたから声かけて、俺はそのまま荷物を置きに自分の部屋へと戻った」

光「普通だな」

要「それで?」

紡「ちさきの部屋の電気が点いてたからいるのかと思って開けたら」

光「開けたら?」

紡「看護服姿のちさきがいた」

光「実習前とかじゃねーの? 忙しいんだろ?」

紡「いや、俺も最初はそうかと思って学校か? と声を掛けたんだが」

光「何でお前が恥ずかしそうなんだよ……」

要「……」

紡「ど、どう? って」

要「いいね!」

光「いきなりどうした!」

紡「癖になったらしい」

光「癖って、そういうの前にもあったってことか?」

要「あれ?」

紡「あれだ」

要「第二弾ってこと?」

紡「第二弾だ」

要「ナイスだね」

紡「ああ」

光「頼むから俺にも分かる様に説明してくれ!」

紡「光」

光「何だよ」

紡「学校から帰ってきたとする」

光「おう」

紡「部屋に戻ろうとするとまなかと美海の声がしてきた」

光「……」

紡「興味本位のまま、襖を少し開けたその中で」

要「看護服姿のまなかと美海ちゃんが」

要「ナースだね!」

光「それが言いたいだけだろお前! 大体、俺は覗きなんてしねえよ!」

紡「本当に?」

光「ほ、本当だ」

紡「実は昨日、ちさきの看護服をまなかに貸した」

光「何してんだよ!?」

紡「ちさきの許可は得た」

光「ちさきも何やってんだよ! 19歳しっかりしてくれよ!」

要「僕にもいいかな?」

紡「さゆか?」

要「自分で着る」

紡「ああ、そういうのもありだな」

光「変態揃いかよ! 気色わりいよお前ら!」

紡「俺からの話はここまでだ」

光「そんな事の為に呼び出したのかよ……」

紡「帰ってみれば分かる」

光「帰ってみればねえ……紡の野郎もよく分かんねえし要は何故か上機嫌だし」

あかり「お帰り、紡くん元気そうだった?」

光「まあ、元気ではあった」

あかり「そうだ、美海とまなかちゃんが部屋に来てくれって言ってたよ。行ってあげな」

光「え」

あかり「何か楽しそうだったから聞かなかったけど、何か約束でもしたの?」

光「し、してねえよ!」

あかり「行ってあげな色男」

光「ったく、からかいやがって……あー、いるか?」

美海「いるよ」

光「まなかもいるのか?」

まなか「うん……でも、笑わないでね」

光「紡か」

まなか「……」

光「紡に何を言われたか知らねえけど、俺はまなかが何をしようと絶対に笑わねえ」

まなか「じゃあ……いいよ」

光「……よし!」

美海「……」

まなか「……」

光「スクール……水着……だと」

美海「水泳の授業……また暖かくなったら始まるかと思って」

まなか「それで紡くんがひーくんが見たがってるって言うから」

光「お、おお」

まなか「ひーくん、どうかな?」

光「ど、どうって」

美海「女の子の水着姿見て何の感想も無いの!?」

光「何を言えってんだよ!」

美海「何をって……き、綺麗とか」

光「あー、うん。きれ――」

晃「かんちょー!」

光「ああー! って何すんだよ!」

あかり「女の子を独占するから晃が拗ねちゃったんでしょ、ほら晃こっち行ってましょうね」

晃「ぶー!」

光「うん、まあいいんじゃねえか」

まなか「さっきと言おうとしてる事が違うよ!」

光「いいんだよ! 言葉にしなくても伝わるんだから!」

美海「言葉にして欲しい時もある!」

まなか「ある!」

光「いいだろもう!」

ちさき「ただいまー」

紡「お帰り」

ちさき「つ、紡!? あの、昨日のあれは……その」

紡「分かってる」

ちさき「それなら、いい。いやよくないんだけど」

紡「今日は爺さん町の会合にでるから夕飯は二人で食えって」

ちさき「そ、そう。何がいい?」

紡「何でも」

ちさき「そういうのが一番困るの、どうせ寮じゃ適当に済ませてるんでしょ?」

紡「作ってはいる」

ちさき「どうだか、ちゃんとしたもの食べないと体に悪いんだから」

紡「なあ」

ちさき「なに?」

紡「ああいうの、好きなのか?」

ちさき「いきなり何!?」

紡「考えてた、ずっと」

ちさき「もうその話は終わりでいいでしょ!」

紡「着るのが癖になったのか、見られるのが癖になったのか」

ちさき「何よそれ!」

紡「違うのか?」

ちさき「違うに決まってるでしょ!」

紡「……」

ちさき「考えても無駄なんだから」

紡「そうか、俺に見られるのが癖になったんだな」

ちさき「な……」

紡「馬鹿じゃないの、か?」

ちさき「馬鹿じゃないの!」

紡「くっ、ふふふ」

ちさき「むむー!」

紡「今日は作らなくていい」

ちさき「紡が作ってくれるの?」

紡「あかりさんの家で、この前は行けなかったからな。ここに来る前に美海と向井戸に話はしておいた」

ちさき「あ……」

紡「もう、大丈夫か?」

ちさき「うん、大丈夫。支度するね」

紡「次は高校の制服か?」

ちさき「絶対に着ない!」

要「ふんふふーん♪」

要母「要? 帰ってきたなら――」

要「」

要母「」

要「いま、いつですか?」

要母「父さん要が壊れた!」

終わり
落ちる前に何か思いついたらここで書きます
凪あすSS増えないかなあ

凪あすSSその2
うろこ様を探せ

紡「向井戸」

まなか「紡くん」

紡「今、帰り?」

まなか「うん、紡くんは?」

紡「ちょっとちさきの両親に挨拶に」

まなか「ちーちゃんの?」

紡「写真とか渡してきた、5年間の」

まなか「高校の時のとか?」

紡「まあ、色々と驚いてたよ。当然だけどな」

まなか「そっか……」

紡「そういば聞こうと思ってたんだけど」

まなか「何?」

紡「光のこと何て呼んでる?」

まなか「ひーくん」

紡「ちさきは?」

まなか「ちーちゃん」

紡「要は?」

まなか「要」

紡「何でかーくんじゃないの?」

まなか「何でだろう?」

紡「自覚ないの?」

まなか「聞かれた事なかった」

紡「要からも?」

まなか「うん」

紡「かーくんって感じではないんだ?」

まなか「うーん、何か違うかも」

紡「じゃあ、ちゃんづけとか」

まなか「かーちゃん?」

紡「似合わないな」

まなか「似合わないね」

紡「かーさんもちょっと」

まなか「他に何かあるかな?」

紡「かー……かーたん」

まなか「かーてん?」

紡「かーとん?」

まなか「しっくりこないね」

要「他人の名前で遊ばないでよ」

まなか「あ、要」

紡「聞いてたか?」

要「最初から、相変わらず二人ともずれてるね」

紡「要は疑問に思った事ないのか?」

要「小さいころからそうだったから、今更だよ」

まなか「それを言うなら紡くんもそうだよ」

紡「俺?」

まなか「私だけ名字」

紡「ああ、それか」

要「そういえばそうだね、付き合いなら僕も光も変わらないのに」

紡「光が気にするだろ」

要「ああ、嫉妬?」

紡「今は大丈夫だろうが」

まなか「じゃあ呼んでみて」

紡「まなか」

まなか「なーに? 紡」

要「つーくんじゃないの?」

まなか「つーくんかあ」

紡「紡でいい」

要「まあその方が似合ってるかな」

紡「そういえばしてなかったな」

要「何を?」

紡「マタアエタネ」

まなか「マタアエタネ」

要「何それ?」

まなか「ぎょめんその真似」

要「そういえば紡、心なしか嬉しそうだったよね。餌まであげて」

紡「ああ、だから都会で少し仕入れてはきた」

要「何を?」

紡「エロ本」

まなか「えろ!?」

要「19歳の余裕だね」

紡「少し過激なのを、見る?」

要「僕は別に」

まなか「見る!」

要「まなか!?」

紡「なら二人で」

要「ちょ、ちょっと待って!」

まなか「ドキドキ」

要「声に出さなくても」

紡「まず一冊目、団地妻がナースになったら」

要「紡のそういうところ僕は嫌いじゃないよ」

まなか「わあ、大きい」

要「ちさきくらいはあるね」

紡「ああ、次のページ」

要「うっわ」

まなか「こ、こういうのが好きなの?」

要「どうなんだろう、よく分からない」

紡「俺や要の趣味は問題じゃない、うろこ様が気に入ればそれでいい」

要「うろこ様の好きなのってお女子様だよね?」

紡「……あ」

まなか「お女子様ってどんな人なんだろう?」

紡「知っていそうな人に心当たりがある」

要「誰?」

紡「今から行ってみよう」

美海「三人とも、暇なの?」

要「乗り掛かった舟というか何というか」

まなか「あははは……」

美海「要さんもまなかも本当に、まあ一番の問題は」

紡「俺なのか」

美海「どう見てもそう! お女子様に似ている人をこの中から教えろって、中学生に見せる内容じゃない!」

紡「この二人は見た」

美海「二人ともなにしてるんですか……」

紡「で、どうなんだ?」

美海「……」

まなか「どうなんだろう?」

要「うーん、何とも」

美海「まあ……この人……うーん」

要「中学生三人でエロ本囲んで何やってるんだろうね」

紡「本当にな」

要「君のせいだよ」

美海「あんまり言いたくないけど、強いて言うなら」

紡「言うなら?」

美海「この人」

紡「よし」

要「凄く嬉しそう」

美海「それ、うろこ様に見せるの?」

紡「ほこらに置いておけばいいかなって」

美海「何の為に?」

紡「呪われるために」

美海「私が呪いたい」

紡「それであいつが戻ってきてくれるなら」

要「ちさきとそれとどっちが大切なのさ」

紡「……ちさきだ」

要「やっぱり助けなきゃよかったかも」

美海「魚と恋人を比べた!?」

紡「明日が楽しみだ」

まなか「ちゃんと呪われたかな?」

美海「もう魚になっちゃえばいい」

要「本当になったらなったで喜びそうだけどね」

紡「よう」

要「つ、紡?」

美海「うっわ……」

まなか「ひゃあ……」

光「どうしたんだよ三人で固まってううぉ!」

さゆ「タコ助急に止まるなってええ!?」

紡「美海のお蔭だ、ありがとう」

光「大丈夫か紡!」

さゆ「よりによって鼻って」

要「呼吸とか大丈夫なの?」

紡「ああ、協力してくれてありがとう」

要「いいのかな、これで」

美海「もう目にもつけばいい」

まなか「紡くん凄く楽しそう」

要「本当、幸せって人それぞれだよね」

光「それで済ませていいのかよ」

ちさき「今すぐ戻して!」

うろこ様「あれはもう手遅れじゃ、諦めろ」

ちさき「だって、だって顔を合わすたびにあれが……あれが」

うろこ様「本人が飽きるまで待つ事じゃな」

ちさき「飽きると思う!?」

うろこ様「それはわしにも分からん、所詮わしは海神様のうろこじゃからな」

ちさき「顔を合わせるたびに臭くて! 近寄れないし!」

うろこ様「魚に負けたか」

ちさき「紡のばかあ!!」

終わり
実際、鼻についたらどうするんだろ

凪あすSSその3
頭だけが全てじゃない

光「あ……うーん」

要「……」

美海「……」

さゆ「……」

光「何でお前らそんな集中できるんだよ」

美海「何で光はそんなに集中できないの?」

要「さっきから唸りっぱなし」

さゆ「少しは黙ってみたら?」

光「うっせー、どうせ俺は頭もわりぃよ」

美海「もう」

光「それにまなかはどこ行ったんだよ、一人だけさぼりかよ」

要「ちさきのところ」

光「ちさき?」

要「勉強、見てもらうんだって。中学生レベルなら教えられるからって」

光「ちさき賢いんだな」

さゆ「それを言うなら紡さんもね」

美海「凄いよね、大学の偏差値知ってびっくりした」

要「自分にエナができた事もあっさり発表してマスコミが殺到してるって」

美海「私のはまだ伏せてくれてるのに」

さゆ「自分が海と陸を繋ぐ一石になればって答えてたね」

光「へっ、どいつもこいつも紡ばっかりかよ」

要「それをこれからの5年で埋めるんだよ」

光「待てよ」

要「なに、さぼる口実でも思いついた?」

光「違う、そこまで頭いいなら紡に先生やってもらえばいいじゃねえか」

美海「紡に?」

さゆ「今、こっちにいるの?」

光「聞いてみようぜ、えっとあいつの家の番号は」

紡「はい、木原です」

光「もしもし、俺だよ俺」

紡「光か、勉強中じゃないのか?」

光「ぐっ……まなかか」

紡「お前もちさきに見て欲しいのか?」

光「それもありか」

紡「も?」

光「いや、紡に頼もうかと思ってたんだけど。あんまりあの二人の邪魔したくねえし」

紡「俺か……」

光「何だよ、都合悪いのか?」

紡「いや、分かった」

光「来るってよ」

要「へえ、面倒見いいね」

さゆ「光の頭で教えてもらってどうにかなるの?」

光「なる!」

美海「先生役がいるのはいいかも」

要「じゃあそれまで少し休憩しようか」

光「おっ、賛成賛成」

美海「光はずっと休憩みたいなものでしょ」

光「これから本気出す!」

紡「来たぞ」

光「お、先生のご登場……」

要「ああうん、予感はしてた」

さゆ「パワーアップ……」

美海「勉強するなら風呂場でね、光」

光「何でお前この前からさらに増えてんだよ!!」

紡「鼻からは取れた」

光「両頬に二匹つけて言う台詞じゃねえ!」

まなか「ちーちゃん、紡くんあれでいいの?」

ちさき「よくない……」

まなか「大変だね」

ちさき「いい、出てきたら捌くから」

終わり
何故だろう、どうしても紡がオチ要員になってしまう

凪あすSSその4
私にもエナがあったら

さゆ「私にもエナがあったらなあ」

美海「めんどくさいよ、色々」

さゆ「でも紡さんにもついたんだよ? 私にもついていいよね?」

美海「どうなんだろう、まだそういった例はないみたいだけど」

さゆ「飛び込んだらついたんだよね?」

美海「紡もそうだったから、そうなんじゃないかな。光に聞いた方が早いかも」

さゆ「光?」

美海「私の時も紡の時もいたから」

さゆ「頼りになるのかなあ」

美海「聞くだけ聞いてみようよ」

光「エナがつく方法?」

さゆ「見てたんでしょ? 美海と紡さんの時」

光「うーん、でもなあ」

美海「煮え切らないね」

光「だっていつのまにかって感じだったぜ、美海も紡も」

さゆ「やっぱり役に立たない」

光「何だと!」

美海「まあまあ、生命の危険だった事は確かでしょ?」

光「美海の時はそうだけど」

美海「紡は違うの?」

光「あいつは自分から飛び込んだから」

美海「あの寒い時に!?」

光「ちさき追っかけて」

美海「紡って馬鹿?」

光「で、一人で溺れて勝手にエナついた」

さゆ「……」

光「訳が分かんねえ」

美海「自由だね」

光「自由過ぎだ」

さゆ「私も飛び込んでみればいいんだ」

光「本気で言ってんのか?」

美海「濡れちゃうよ?」

さゆ「光と美海が見ててくれるなら、やれる」

光「待て待て待て待て! それで何かあったら」

美海「せ、せめてもっと人を増やそうよ、ね?」

さゆ「人を?」

要「なるほどそれで」

ちさき「溺れちゃったらどうするの!?」

まなか「さゆちゃん本気?」

さゆ「はい、本気です!」

紡「海に光と要とちさき、陸に俺と美海。これだけいればすぐに助けられる」

光「本当にやるのかよ」

ちさき「紡もどうしてやる気なのよ」

紡「もしこれで本当にエナができればいいデータになる」

ちさき「データって」

要「まあ、今日はそれなりに暖かいし」

美海「無理しないでね」

さゆ「平気、見ててよ」

紡「じゃあ始めよう」

さゆ「いっきまーす」

光「おい! こっちに飛び込んでくる――」

まなか「ひーくん!!」

美海「さゆ!!」

要「ああもう何でこうなるかな!」

さゆ「TAKE2!」

光「今度はこっちに来るなよ!」

さゆ「あらかじめ潜ってればいいでしょ!」

要「そうしようか、紡よろしく」

ちさき「濡れてるけどいいの?」

さゆ「エナができれば乾くんですよね?」

ちさき「……できたらね」

美海「念の為に着替え、取ってくる」

さゆ「あ、じゃあちょっと待ってるね」

要「まだかな?」

光「おせえ」

ちさき「このまま諦めてくれたらいいんだけど」

光「ちょっと見てくる」

要「そうだね、やっぱり中止って事かもしれないし」

美海「取ってきたよ」

さゆ「ありがと、よしそれじゃ」

光「おいまだか――」

さゆ「どけえええええええええええええええ!!」

光「うわああああああああああああああああ!!」

美海「何これ」

ちさき「もうやめない?」

さゆ「まだ一度もまともに試してません!」

要「配置も逆にしたし、これで大丈夫だよ」

まなか「何かいつもと立場が反対で面白いね」

光「この二人にエナがあるのが奇跡みたいなもんだからな」

美海「いつでもいいよ」

紡「距離をもう少し置くか」

美海「助けられる?」

紡「大丈夫だろう」

さゆ「よし、これなら」

美海「入った!」

紡「追うぞ」

さゆ「これで私にも……エナが……」

さゆ「エナ……が……」

光「できなかったな」

さゆ「うっさい!」

要「まあまあ、ほら拭いて」

さゆ「あ、ありがと」

美海「やっぱり上手くはいかないね」

紡「偶発的なのかも」

まなか「皆で汐鹿生に行けたらいいね」

さゆ「そう、絶対に行きたい」

要「何か理由でもあるの?」

さゆ「り、理由は……」

美海「うん、いつか行ける」

紡「ああ、そういう事か」

ちさき「どういう事なのよ?」

紡「秘密だ」

光「何だよ教えろよ」

要「僕も気になるな」

紡「今日はもういいだろう」

美海「そうだね」

光「おい待てよ!」

さゆ「いつか、うん、いつか」

終わり
作中でそんな様子はありませんでしたが、好きな人が生まれたところって興味あるかなあと

凪あすSSその5
海の匂い

紡「今日も見てるのか」

美海「ここで待ってたら、帰ってくる気がして」

紡「光?」

美海「今日、小学校の卒業式だった」

紡「そうか、あっという間だな」

美海「紡は大学?」

紡「来月から、月末には家を出るつもりだ」

美海「光達がいた場所に行ける、けど」

紡「けど?」

美海「私も追い越しちゃうのかな、光を」

紡「……」

美海「このまま、私の時間も止まっちゃえばいいのに」

紡「俺は進みたい」

美海「海の研究?」

紡「少しでも早くあいつらが目を覚ますように」

美海「ちさきさんも待ってるの?」

紡「ああ」

美海「紡は進むんだ」

紡「どうだろうな」

美海「違うの?」

紡「動いていないと、不安に押し潰されそうになる」

美海「帰ってこない事に?」

紡「……さあな」

美海「紡?」

紡「色々と世話になった、ありがとう」

美海「私は何もしてない」

紡「あいつらは戻ってくる、そう信じ続けてる」

美海「それだけだよ」

紡「充分だ」

美海「こっちには戻ってくるの?」

紡「爺さんのこともある、見舞いに来たんだろ?」

美海「知らなくはないから」

紡「また来い、嬉しがってたから」

美海「そうは見えなかったけど」

紡「そういう人だ」

美海「紡と一緒?」

紡「俺と?」

美海「ううん、それじゃ」

紡「ああ、また」

ちさき「お帰り。海、どうだった?」

紡「美海に会った」

ちさき「美海ちゃん?」

紡「今日、小学校の卒業式だって」

ちさき「……そう、あっという間ね」

紡「ああ」

ちさき「本当に、あっという間」

紡「……」

ちさき「入学式の時、覚えてる? 庭先で二人で写真撮ってもらって、桜が綺麗で」

紡「爺さんが手間取ってたな」

ちさき「春なのに咲かないんだよ、桜」

紡「気温も下がってるから」

ちさき「あんなに綺麗だったのに」

紡「中学の制服、どうする?」

ちさき「え?」

紡「残しておいた方がいいか?」

ちさき「うん、何だかもったいないから」

紡「サイズが合うか分からないけど」

ちさき「……ありがと」

紡「何が?」

ちさき「紡が……この家が無かったら私は一人だった」

紡「そんな事はない」

ちさき「お母さん達が冬眠して、光達もいなくなって。あかりさんに誘われた時、迷ったの」

紡「何で?」

ちさき「あかりさんだって辛い、美海ちゃんだって辛い。その中に私まで入ったら」

紡「辛いなら、悲しいなら泣いたっていい」

ちさき「駄目、私がいたら二人とも……光を思い出しちゃうんじゃないかって」

紡「あかりさんは、そんなつもりでちさきを誘ったんじゃないと思う」

ちさき「分かってる、だから……だけど」

紡「美海は今日も海を見てたよ」

ちさき「海……」

紡「あいつは明日も見るだろう、明後日も……ずっと」

ちさき「大学、楽しみ?」

紡「研究のためだ」

ちさき「遊んだっていいんだよ、折角の都会なんだから」

紡「ちさき」

ちさき「縛りたくない」

紡「そんなつもりで選んだんじゃない、それを言うならちさきもだ」

ちさき「私は大丈夫だから、安心して」

紡「あいつらは戻ってくる」

ちさき「うん」

紡「爺さんも元気になる」

ちさき「紡は……帰ってくるよね?」

紡「ここが俺の家だ、それに」

ちさき「それに?」

紡「俺は海が好きだ」

ちさき「本当、変わらないね」

紡「この5年間で、強くなった」

ちさき「……うん」

紡「それは変わらない」

ちさき「……うん」

終わり
この5年間のドラマCD出ないかなあ

凪あすSSその6
私達はここにいる

要「波中も久しぶりだね」

美海「あの、誘ってくれたのは嬉しいんですけど」

光「この前はゆっくり案内できなかったし、ゆっくりとな」

まなか「私達のクラスはここ!」

ちさき「懐かしいなあ」

紡「へえ、ここが」

光「あんまり変わらないだろ?」

要「まあ、学校は学校だからね」

美海「一学年で四人だったの?」

まなか「ま、まあ」

ちさき「だから廃校になっちゃった」

紡「流石に四人はな」

要「確かに、あのまま続けててもね」

光「少なすぎたな、うん」

まなか「あ、あれ残ってるかな?」

ちさき「あれ?」

光「身長か」

美海「あ……」

紡「美海?」

美海「え、ううん何でもない」

要「……」

光「えーっと、これだこれ!」

まなか「ちーちゃん凄く大きいね!」

ちさき「5年もあればね」

光「すぐに追い越してやる……ん?」

ちさき「わたしはここ?」

紡「これは?」

要「僕らの身長、ほら名前もここに」

まなか「わたしって誰?」

美海「あー、えーっと」

ちさき「このくらいの身長だと……」

光「波中にそんなのいなかったぞ」

まなか「もしかして……」

光「もしかして、何だよ?」

まなか「幽霊とか」

光「なっ、何を馬鹿なこと言ってんだよ! いる訳ねえだろそんなの!」

要「わっ!」

光「うぉおお!!」

ちさき「光、驚き過ぎ」

光「笑うな、くそっこうなったら突き止めてやる!」

要「突き止めるって?」

光「犯人に決まってるだろ!」

まなか「誰かの悪戯ってこと?」

光「そうに決まってる! 俺達の思い出に割り込みやがって」

美海「……」

要「その犯人も悪気があった訳じゃないかもしれないよ」

光「何で要に分かるんだよ」

要「何となく、ね」

ちさき「でも、これだけじゃ」

光「手がかりその1」

まなか「何?」

光「身長は美海くらいだ」

美海「そ、そうかな」

紡「いや、そうとは限らない」

光「何でだよ?」

紡「俺が犯人ならそんな簡単に手がかりは残さない」

要「そうだね、僕も同意見」

まなか「要も紡くんも頭いい!」

光「ぐっ、確かに」

ちさき「筆跡は?」

紡「わざと崩してる可能性もある、筆圧とか測れば分かるかもしれないが」

要「ここにそんなものはない」

光「じゃあどうすんだよ、いきなり迷宮入りか?」

美海「あの光――」

要「犯人を見つける方法ではないけど、手はあるよ」

まなか「あるの?」

紡「どうする気だ?」

要「新しく作ってしまえばいい」

ちさき「作る?」

要「僕ら、冬眠前にここに刻んだよね? 僕らのいた証」

光「……ああ」

要「きっとこの人も入りたかったんじゃないかな」

光「寂しかったのか?」

要「さあ、それは僕にも分からない」

まなか「だから作るんだね!」

ちさき「ちょっと待って、どういうこと?」

紡「そのままだ、新しく作る」

要「こうして同じ時間に僕らは目覚めた、紡も美海ちゃんもいる。もう四人だけの世界じゃない」

まなか「こっちにしようか、こっちの方がいいかも」

光「そんな簡単に決めていいのかよ」

要「どうせ廃校になった場所だし、ちさきもいい?」

ちさき「皆がいいなら」

要「僕はちさきに聞いてるんだよ」

美海「あの嫌でしたら別に私は」

ちさき「ううん! うん、作ろう。入ってくれる?」

美海「……はい!」

紡「うまくやったな」

要「何のこと?」

紡「いや、俺も入っていいのか?」

要「君をのけ者にしたらちさきから怒られるよ、だから6人分」

紡「7人だろう」

要「……気を遣ってるの?」

紡「そういう仲間のくくりなら、7人だ」

要「身長、聞いてくるよ。ここは任せていい?」

紡「ああ」

光「くそ、紡の野郎……高すぎだろ」

美海「制服も大きかったしね」

光「……勝てる気がしねえ」

まなか「低くてもひーくんはひーくんだよ!」

ちさき「まなか、それは」

まなか「ちーちゃん紡くんの身長が低くても好きだよね?」

ちさき「えっ!?」

まなか「だよね?」

ちさき「えーっと、あ、私も書かないと!」

光「誤魔化されてるぞ」

紡「勝てるといいな、ちさきに」

光「このっ……余裕かよ」

要「お待たせ」

光「どこ行ってたんだ?」

要「さゆちゃんのところ」

美海「さゆの?」

要「うん、でも女の子って身長も恥ずかしいの?」

美海「え? あ、それは」

紡「相手より高かったりすると気を遣うらしいが」

要「なるほど、僕も気を付けないと」

光「まなか! それ以上は伸びるなよ!」

まなか「そんなの無理だよ!」

光「何が何でもだ!」

要「はい、美海の番」

美海「あ、はい」

要「ちゃんと名前を書くんだよ」

光「そんなの分かってるだろ」

ちさき「あ……」

まなか「なーるほど」

要「しー」

美海「……これでいいですか?」

要「うん、立派」

光「まなかにも美海にも負けたら洒落になんねえ」

ちさき「大丈夫、男の子はこれから大きくなるんだよ」

光「本当か?」

ちさき「うん、紡もどんどん大きくなっていったから」

紡「光もそうだとは限らないが」

ちさき「紡!」

光「ぜってー見下ろしてやる!」

まなか「頑張れひーくん!」

美海「あの」

要「何?」

美海「ありがとうございました」

要「あの時、かな?」

美海「はい」

要「ごめんね」

美海「はい?」

要「一人にしちゃった僕らが悪い、不安だったよね」

美海「いえ、そんな」

要「光と一緒だったから、僕も」

美海「怖かったんですか?」

要「そう思っちゃった、冬眠してる人なんて見た事なかったから。本当に起きるんだろうかって、自分達は起きてるのにね」

美海「要さんは嫌じゃなかったんですか? 勝手に私……」

要「そんな風に見える?」

美海「いえ!」

要「正解、仲間が増えて嬉しいよ」

美海「強いですね、要さん」

要「僕が?」

美海「私より早く、その……」

要「ちさき?」

美海「すみませんこんな話」

要「好きになってよかった、強がりじゃないよ。美海ちゃんもそうでしょ?」

美海「はい」

要「好きがなくなったらって光から聞いて、僕はあの時それでもいいんじゃないかって答えた」

美海「今は、どうですか?」

要「人それぞれかな」

美海「それぞれですか」

要「うん、自由でいいと思う。だけど僕はやっぱり嫌かな。この気持ちがあるから、向き合おうと思えた」

美海「私も、そう思います」

光「おーい! 要も早くしろって、何そこで二人で笑ってんだよ」

要「ごめん、すぐにするから」

美海「要さん」

要「何?」

美海「わたしはここにいます」

要「うん、僕もここにいる。これからもね」

終わり
何かのフラグかと思ったら別にそんなことはなかった

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