鳴護アリサ「アルテミスに矢を放て」 ~胎魔のオラトリオ~ (917)

ここはとある禁書目録&とある科学の超電磁砲のSSです
メインは鳴護アリサさんと、『新たなる光』や上条さんを軸に進んでいくんだと思います
基本台本形式ですが、その場のノリで小説っぽくなります
また内容は比較的ダークなものですので、グロい描写が多々あるかも知れません
敵側は基本オリジナル、プロローグが若干長いかも?まぁお気になさらず

ともあれ最後までお付き合い頂ければ幸いです。いぁいぁ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396305392

『プロローグ』


――2013年11月某日 『必要悪の教会』 英国女子寮

配達員「すいませーん?お荷物でーす!」

神裂「はーいっ!今行きますっ」

配達員「こちらにお荷物をお届けに参りましたー」

神裂「……と、失礼しました。判子を探していたら」

配達員「……ハンコ?なんでスタンプがここで?」

神裂「はい?」

配達員「え?」

オルソラ「あらあら神崎さん、それは日本のしきたりで御座いますよー」

アンジェレネ「ね、ねぇシスター・ルチアぁ!神裂さんの持ってるアレってなんですかねぇ?」

ルチア「なんでしょうねシスター・アンジェレネ。紙巻き煙草に似てはいますが」

配達員「サインで結構なんですけど?」

神裂「……あぁ、分かりました!ついうっかり!」 カキカキ

配達員「どーもー、あ、こっちにもお願いします」

配達員「しかしこんな毎日、大量の手紙のやりとりなんて大変ですねー」

配達員「やっぱりアレですか?シスターさんだけに、ご家族との会話が携帯電話禁止だって訳で?」

神裂「いえいえ、そんなファンシーな理由ではありません。むしろ、こう、なんでしょうね」

神裂「ある意味、ファンレターみたいなのもの、でしょうか。かなり良く言えば、ですが」

配達員「若い娘さんばっか住んでますからねー――と、どーも。それじゃまたー」

神裂「お疲れ様でした」 パタン

アニェーゼ「やっぱり今日も多いんですかね。ダンボール、神裂さんが持ってる分には軽く見えちまいますが」

アンジェレネ「し、しーっ!シスター・アニェーゼ!ダメですよぉっ神裂さんがゴリ――聖人パワーだって言うのはっ!」

神裂「気にしてませんよ?って言うか別にこれは聖人としての力であって、私がどうこうって話では無いですし」

神裂「というか、今聖人じゃなくゴリラって言いかけませんでしたか?シスター・アンジェレネ?」

ルチア「いけませんよシスター・アンジェレネ!人が気に病んでいる事を言うのは神がお許しになりません!」

神裂「いえ、ですから特にどうとも思っていませんが」

神裂「逆にそう気を遣われると、『あ、やっぱり気にしてるんだ?だよねー』的な誤解がですね」

アニェーゼ「分かってます分かってます。幾ら食べてもお腹には行かず、全てその対男性誘惑術式に蓄積されっちまいますからね」

神裂「なんですかっそのいかがわしい霊装は!?後それは私が戦闘訓練を積んでいるだけで、他意はありませんよ!」

アンジェレネ「な、なるほどー、そのプロポーションを維持するには、KATANAの素振りが必要だと……!?」

アニェーゼ「前々から疑問に思っていましたが、対男性誘惑術式の秘密はそれだったんですかい!」

神裂「ですから誘惑誘惑言うのは、神に仕える身としてはちょっと」

アンジェレネ「り、理に適ってますねーっ!」

神裂「いえあの、それだったらシスター・ルチアやオルソラはどうなのでしょうか?特にルチアはお二人にも生活環境が同じ――」

シスター一同(※除く巨乳)「……チッ」

神裂「盛大に舌打ちされたっ!?オルソラからも何か言ってやって下さい!」

オルソラ「あれは判子と申しまして、日本では荷物を受け取る際によく使われておりますのですよー」

神裂「判子の説明は遅いでしょう!?言うべきタイミングでは無い!」

オルソラ「ちなみに補足致しますと、この間神裂さんは大分悩まれて『Kaori, K』の判子をお店に注文されていました」

ルチア「それのどこが何の補足になるのでしょう、シスター・オルソラ?」

神裂「そうですよっ!別におかしくないじゃないですか!」

オルソラ「『こうしておけば、いざ籍が変わっても同じ判子を長く使い続けられるな』との神裂さんの乙女回路が発動――」

神裂「違いますから!っていうか、何でも恋愛に結びつけるのは良くないですよ!」

神裂「って言うかオルソラの中の私はどれだけ乙女ですか!?小学生じゃあるまいし!私もこう見えて色々とですね!」

アニェーゼ「あ、やっぱそうなんですかい。てっきり噂が正しいもんだとばかり」

神裂「……なんです、その噂って?もう嫌な予感しかしませんが」

アニェーゼ「『女教皇は“騎士団長(※特A級玉の輿)”からのお誘いをいっつもお断りしているのよな!』」

神裂「ぶはぁっ!?」

アンジェレネ「『な、何度も花束を持って誘いに来る男を千切っては投げ千切っては投げ……まさに“鋼鉄処女”の名に相応しいのよッ!』」

神裂「それもう噂じゃ無いですよね!?どう考えても口調が知り合いに酷似していますし!」

ルチア「『っていうかそろそろ女教皇も、次代の教皇をこしらえて欲しいのよ。宜しく頼むのよな!』」

神裂「最後は噂じゃなくて言づて!?そもそも天草式は世襲って訳じゃありませんし!」

アンジェレネ「そ、そーなんですか?っていうかっていうか、空――聖人の人って結婚とか出来るんですかねー?」

神裂「今、『空○先生』って言おうとしませんでしたか?」

神裂「あと、先ほどからあなた達の言動に意図的なものが見え隠れしてますけど、それは私の気のせいなんですよね?」

神裂「……いやいや、そうではありませんよ、皆さん」

神裂「あなた達もシスターもそうですが、私も皆さんと同じくまだまだ修行中の身」

神裂「従って愛だの恋だのと、うつつを抜かす暇などはありません」

オルソラ「あ、それは問題ないで御座いますよ」

神裂「あの、オルソラ?どうしてこういう時には的確に返答出来るんでしょうか?」

アンジェレネ「あ、やっぱりそーなんですかーっ!?」

オルソラ「『使徒12人』の方々の中には既婚の方も居られますし、それで聖人としての資格を失う訳ではないとの報告が」

オルソラ「『必要悪の教会』の中にも主婦と兼業されている方も御座いますよ」

アニェーゼ「あー、いましたね。テオドシアさんってんでしたっけ?」

ルチア「家庭を守るのが女性の勤めでは?」

オルソラ「そうではない価値観の方がいらっしゃる、だけのお話で」

オルソラ「ですから神裂さんも、周囲の視線やご自身の立場がどうではなく、ここは一つ素直に気持ちを表わすのが宜しゅう御座いますのですよ?」

神裂「いえ、ですからそういう話ではないとさっきから主張しているんですけど」

神裂「皆さん既成事実的なものを埋めようとしていませんか?もしくは面白半分でけしかける雰囲気とでも言いますか」

神裂「小学校でそれっぽい話が持ち上がった時、『告白しちゃいなよ!』と無責任に推すような感じでしょうか」

神裂「娯楽に乏しい女子寮で、『他人の恋愛話をネタに楽しもう』的な雰囲気が……」

アニェーゼ・アンジェレネ・ルチア「……」

神裂「やっぱり図星なんですか!?」

オルソラ「それはそうとアイソン彗星の話で御座いますが」

神裂「どちらの引き出しを開けたのですか、オルソラ?」

アンジェレネ「あ、あれちょっと楽しみですよねーっ!屋上で観測会をしよう、って話になってまして」

神裂「で・す・か・らっ!何度も言っているようにですねっ、私はあの少年に懸想している事実はありませんし!」

アニェーゼ「皆無ってぇ事ですかい?」

神裂「いや、まぁ皆無という訳、でないと言えば偽りになりますが……そうですよっ!友情とか信頼とか、そういう類のものですよ!」

神裂「同じ敵を相手にした、言わばある意味で戦友みたいな感じであって!決してそれ以上は、はい!」

アンジェレネ「あっ、上条さんだ!」

神裂「げふっ!?いやいやいやいやっ!違いますっ!今のは対外的なアレコレであってですね!?」

神裂「奥ゆかしい日本女性としてはあまりそのっ、殿方に対する慕情を表わすのは色々問題がっ!」

神裂「いえ別にですね、お互いが引かれあった上で歳の近い、歳の近いっ!大切なので二回言いましたけど!」

神裂「歳もそう離れぬ若い男女が、最初は敵味方に分かれて争っていたのに、その内次第に引かれ合って結ばれるのは王道だと思います!」

神裂「ですからこう前に向きに善処するのであれば、私もこう――」

神裂「……?」

神裂「……おや……?」

アンジェレネ「あ、あーっ!やっぱりそーなんですかーっ!怪しいと思ってたんですからねーっ!」

アニェーゼ「隠そうとしたってバレバレですって。つーかその定義だとわたし達も入っちまってんですが」

オルソラ「私は最初から最後まで味方で御座いますよー」

ルチア「味方……まぁ、その割に少年の邪念をかき立てていたように見えましたが」

神裂「……嘘?来てない……ん、ですか」

アンジェレネ「だ、だいたい神裂さんもですねーっ!もっと素直になれよっていうか、ですけど――あ、あれ?」 ギュッ

神裂「どうしましたか、シスター・アンジェレネ?」

アンジェレネ「ど、どうして神裂さん十八歳はわたしの頭を掴んでい、いるんで――」

神裂「――シスター・アンジェレネ。ご存じでしょうか、ゴリラの握力は約500kgあるそうですよ?」

アンジェレネ「そ、そうなんですかー?いやーすごいですけど、それとこれとは一体なんの関係が?」

神裂「ちなみに成人男性は50kg程、女性に至っては30kg程度と言われています」

神裂「現役のプロ野球選手は60kg前後、元関取――スモウレスラーの元魁皇関は、中学生の頃で100kg越え、ハンマー投げの室伏は120kg以上です」

アンジェレネ「い、いえいえですからわたしの質問に――って、なんか、頭が痛いんですけど?締め付けてませんか?」

神裂「そして聖人の握力は――ゴリラを超える……ッ!!!」 ギリギリギリッ

アンジェレネ「いたいイタイ痛い!?神裂さん頭が割れるように痛いでっす!?」

神裂「やかましいこのド素人が!」

アンジェレネ「それはだって神裂さんが煮え切らないからぁぁっ!?ってか助、助けて下さっ!?」

ルチア「人を欺くと罰が当たります。反省しなさいシスター・アンジェレネ」

アニェーゼ「それじゃ、さっさと仕分け始めちまいますか」

ルチア「シスター・アニェーゼまでえぇっ!?」

神裂「……大丈夫、シスター・アンジェレネ」

アンジェレネ「で、ですよねぇっ!わたしの知ってる神裂さんは許してくれますもんねっ!」

神裂「建宮斎字も直ぐに後を追わせますから」

アンジェレネ「もっと歳が近くてイケメンの方が良かったですっ!?」

アンジェレネ「せ、せめてアフロ!アフロだけはなんとか!」

――同時刻(時差9時間) 学園都市XX学区 多目的コンサートホール・控え室

鳴護「こ、こんにちはー?」 ガチャッ

先輩アイドル「あ、『おはようこざいまーす』」

鳴護「ですね、おはようございますっ」

先輩アイドル「ARISAちゃんダメだよー?この業界厳しいんだから、ちゃんと挨拶しないとー?」

鳴護「はい、ごめんなさい」

先輩アイドル「事務所、大変なんでしょ?だったら余計にね」

鳴護「あぁいえ、そっちの方も一応どうにかなるみたいで、はい」

先輩アイドル「そうなの?……チッ」

鳴護「ハマ○さん今舌打ちしませんでした?」

先輩アイドル「ハ○ダじゃないですから!名前違いますから!」

先輩アイドル「グループ抜けた瞬間にファンが消えていった人と一緒にしないで!」

先輩アイドル「……いや、そうじゃなくてさ。何だったらウチの事務所のオーディション受けてみれば?って思ってたのよ」

先輩アイドル「ウチはグループでやってる分、歌が下手な子もチラホラ居るでしょ?」

先輩アイドル「だからARISAちゃんが新メンで入ってくれればいっかなー、って」

鳴護「とんでもないですっ!あたし――私そういうのは無理って言うか!」

先輩アイドル「あぁ本当は歌専門でやりたかったんだっけ?」

鳴護「枕を売るとか、そういうのはちょっと」

先輩アイドル「してねぇよな?対外的にはそういう事になってんだから、な?」

鳴護「違うんですか?あるマンガで抱き枕がどうって話聞きますけど」

先輩アイドル「あー、うんそっちの話ね」

鳴護「関係者だけ集めてライブパーティしたり、Pが脱法ドラッグに手を出したとか、良い評判ないですし」

先輩アイドル「ARISAちゃん知ってるよね?さっきからチクチク突いて来てるよね?」

先輩アイドル「ってかここは『先輩から地味に弄られる』ってトコでしょ?違うのか?」

鳴護「○マダさんの主役のドラマ、最低視聴率3.2%だったでしたっけ」

先輩アイドル「最初天然かと思ったけど、割とタブーな所攻めてくるな?グイグイ突っ込んでくるよな?」

先輩アイドル「つーかなんだかんだで投票一位取ったんだし、もうちょっとファンは責任取ろう?面倒看よう?応援してもいいよな?」

先輩アイドル「あと、ハマ○じゃないから!堀○さんと同じ土俵にチャレンジしただけで評価されるべきだし!」

鳴護「ノリツッコミも出来るアイドル……新機軸ですねっ!」

先輩アイドル「別に新しくはないけどな!色々言われるSMA○だけども、コントじゃ必要以上に体張ってるし!」

先輩アイドル「……つかさ、ぶっちゃけるけどアンタもアレじゃない?今の立ち位置、実力じゃねぇんだから、あんま調子に乗んなよ?」

先輩アイドル「『88の奇蹟』?『エンデュミオンの奇蹟』?……はっ!笑わせんなっつーの。たまたまそこに居合わせただけじゃんか!」

先輩アイドル「アンタの歌が何をしたって訳じゃねえのに、チヤホヤされていい気になってんのを見ると滑稽だわ」

鳴護「……」

先輩アイドル「『奇蹟の歌姫』だっけか?ご大層な名前貰ってっけど、この芸能界はカネとコネなんだよ、分かる?」

先輩アイドル「ぶっちゃけカラオケ未満のあたしらが、アンタよりも大御所だっつーの。オーケー?」

鳴護「……」

先輩アイドル「あ?何とか言ってみろ」

鳴護「……あなたは可哀想」

先輩アイドル「あぁ!?ナメてんのかコラあぁっ!」

鳴護「私もいきなりオーディションに受かった訳じゃない。孤児院に居た頃からずっと歌や音楽の勉強を続けてきた」

鳴護「少なくとも今この場で、私を形作っているものは全部、私が、私らしくあり続けようとした結果で」

鳴護「夢を諦めずに続けてきて、たまたま結果が出ただけ」

鳴護「奇蹟があるとするのなら、そう言う事だと思う」

先輩アイドル「意味分かんねーよ。電波キャラ気取ってんじゃねぇ」

鳴護「それで?あなたはどうなの?」

先輩アイドル「ナメんな!こっちはミリオン連発する国民的美少女なんだよ!アンタみてーな一発屋と違――」

鳴護「あなたは――」

先輩アイドル「あぁ?」

鳴護「――あなたは、何のために歌うの?」

先輩アイドル「はぁ?ドルは歌歌ってナンボだろうがよ。定期的に円盤出してアピールしねぇとトップは張れねぇだろ」

鳴護「私は――私の歌を楽しみにしてくれる人のために、歌います」

鳴護「アイドルだから、とかじゃなくて、売れるからとかも関係なくて」

鳴護「歌うのが、好きだから。それを応援してくれる人のために」

先輩アイドル「……クソが!現実見てねーだろ!何も分かってねぇし!」

先輩アイドル「チャンス貰えるだけ恵まれてんだよ!普通はまともにやったって叶う訳がねぇ!」

先輩アイドル「叶えたい夢のために頑張ってんじゃねぇのか!?みんながみんなテメーみてーなデビュー出来る訳じゃねぇんだよ!」

鳴護「……」

先輩アイドル「つかな、つーかな?誰もお前の歌なんか興味無ぇよ。お前の『商品価値』ってぇのは、アレだ」

先輩アイドル「『奇蹟』ってだけだ。お前はそれの付属物、オマケみてーなもんだよ」

鳴護「……!?」

先輩アイドル「欲しいのは『奇蹟』ってだけ。災害をダシにしてメジャー狙ってる奴や、平和な国で反戦歌ってるラッパーもどきと一緒だよ

コンコン

スタッフ「す、すいませーん、ARISAさん準備お願いしますーっ」

鳴護「……はい、今行きます――それじゃ、失礼します」

パタン

先輩アイドル「……」

先輩アイドル「あたしが!あたしらがどんな思いで――クソったれ!」

先輩アイドル「……ムカつくな……あん?」

先輩アイドル「バッグ置いてった……また安そうな」 ゴソゴソ

先輩アイドル「なんか珍しーもんは……男とのツーショットでもありゃ完璧なんだけど……」

先輩アイドル「ケータイの待ち受けも……なんじゃこりゃ?シスターと?」

先輩アイドル「他には……ブローチ?またガキっぽい」

先輩アイドル「……」

先輩アイドル「……これ、捨てっちまおうか?」

先輩アイドル「……いやー……?流石にそれは……」

コンコン

先輩アイドル「はいっ!?」 ゴソッ

マネージャー「お疲れ様でーす。ステージ衣装、スタイリストさんから貰ってきましたよー」

先輩アイドル「あ、あぁ、そうだな」

マネージャー「それでですね。明日の話なんですけど――」

先輩アイドル(……ヤバい。返せない……)

――10分後 『必要悪の教会』女子寮

神裂「……全く、なんで荷物一つ受け取るのにこれだけ疲れるんですか」

アニェーゼ「そりゃ女子寮ってのは姦しいってぇ相場は決まってるもんです」

アニェーゼ「ましてや若い小娘が集まってんだから、色々あるでしょうに」

神裂「意外ですね。否定するものとばかり思っていました」

アニェーゼ「大所帯なもんで、気苦労もあるってぇもんです、えぇそりゃね」

神裂「私も天草式の一員でしたが、あまりそういう事は無かったような……?」

ルチア「構成の違いでしょう。あちらは家族、みたいなものでしたか」

神裂「それを言われると……一度飛び出した身としては辛いものがありますが」

アニェーゼ「それ言うんだったらわたし達も放蕩娘みたいなもんですし。あんま気にしねぇで下さいな」

アニェーゼ「可愛い子には旅をさせろってぇもんで、小さな枠に入ってちゃ見えねぇもんもありますからね」

神裂「……なんでしょうね。今日のアニェーゼ、輝いてませんか」

アニェーゼ「……いやまぁ?なんだかんだでアレがアレしてこうなって、当初の予定とズレちまいましてね」

アニェーゼ「元々ウチらが取る筈だった仕事がポッカリと、ってな具合に」

神裂「は、はぁ……?」

オルソラ「皆様、お茶が入ったので御座いますよー」

神裂「ありがとうございます、オルソラ――さて、ではやってしまいますか」

アンジェレネ「……うへぇ。またこれは相当な量で」

ルチア「弱音を吐いてはいけませんよ。神は常に私達をご覧になっていますから」

アンジェレネ「い、いやいやいやっ!これってわたし達の仕事じゃあなくないですかっ?」

アンジェレネ「こんな段ボール箱一杯の手紙なんてどうしろって!」

神裂「前にも言ったと思いますが、ここは腐っても『必要悪の教会』の寮です。しかも少し魔術かその手の事情に通じた者ならば分かる程度の」

神裂「言ってみれば『ルアー』みたいなものでしょうか?わざと居場所を知らせ、敵が食いつきのを待つ役割もあります」

アンジェレネ「そ、それはっ理解出来ますしっ、感謝もしてますよぉっ!行き場のないわたし達を受け入れてくれたんですしぃ!」

アンジェレネ「でもこの手紙の仕分け作業はなんか、こう、違うって気がします!」

神裂「と、言われましても。この脅迫文やら犯行声明モドキの中に、たまーに本物の魔術テロ予告が混じっている以上、放置する訳にも行きませんし」

アンジェレネ「だ、だったら当番制にするとか?」

神裂「一人でこの量を捌いていたら、多分気を病むと思いますよ?」

アンジェレネ「むぅー……」

神裂「……後で日本直送の萩の月を差し上げますから」

アンジェレネ「まっかせて下さい!わたしこーゆーのは前々から大得意だったんですからねっ!」

ルチア「……あの、すいません。色々とウチの子がご迷惑を」

神裂「いえいえ、ある意味真っ直ぐに育っててちょっと和みます」

アンジェレネ「いいえっシスター・ルチア!わたしと神裂さんは『スイーツ同盟』として鉄の結束がですね!」

アニェーゼ「その話はやっちまいながらにしましょう。じゃねーと終わらねぇですし」

神裂「それでは各自、いつものように二人か三人で取りかかるように。何かおかしな記述や魔力の流れを感じたら、私かオルソラに言って下さいね?」

シスター一同「はーい」

神裂「ではオルソラ、私達も始めましょうか」

オルソラ「それで神裂さんは、あの方に恋文などは渡されたのでしょうか?」

神裂「どうしてこのタイミングでそれが出るんですかっ?!その話題は終わった筈でしょうに!?」

オルソラ「女性から男性の方へ想いを伝えるのには、やはり手書きの文が一番だと思うのですが」

神裂「そ、そうですかね?オルソラもやっぱりそう思いますか?」

オルソラ「それはそうと一度書いた手紙の内容は何だったので御座いますか?」

神裂「どうしてオルソラがそれを知っているのですか?というよりも、あれ?もしかして怒ってます?」

アニェーゼ「なーにを話してんですか、お二人とも。遊んでねぇでお仕事しましょうよ」

アニェーゼ「ってな訳で、それっぽいお手紙が。ちっと見て下さいな」

神裂「では術式に耐性のある私が――『前略、これは警告である。守られるべきであろう』」

オルソラ「まぁ、これは怖いので御座いますよー」

アニェーゼ「どう見てもいつもと変わらねぇんですがね」

神裂「最近珍しいストレートな脅迫文ですね。大抵こういう場合は無理難題をふっかけ、その上で妥協出来るラインにまで落とし込むのですが」

神裂「……ま、相手が“正気”ならば、の話ですけど。さて、要求はどのような――?」

神裂「『――そっちの寮に住んでいるガーターミニスカのシスターはエロ過ぎるんだろ!』」

神裂「『踏んで欲し――いや!せめて隠して欲しい!マジでお願いします!』……」

オルソラ「男の方にはシスター・ルチアの脚線美は目に毒なのですねっ」

アニェーゼ「ね?」

神裂「『ね?』じゃねぇですよっ!?これタダの注意の手紙じゃないですか!?」

アニェーゼ「口調が移っちまいましたけど、まぁでもこれはある意味警告じゃねぇかなと」

神裂「いやまぁ確かにルチアのあの格好はどうなんだ、と思わないでもないですけど」

シスター一同「……ちっ」

神裂「ですから!私がこの格好をしているのは信仰上の理由からです!決してハレンチな意味合いはありませんから!」

アンジェレネ「か、神裂裂さぁん。これこれ、見て下さいよ-」

神裂「裂が一つ多くなって必殺技みたいですが……はい、承りますよ。えっと」

神裂「『世界はユダヤによって動かされている……!』……はい?」

アニェーゼ「あっちゃー、また痛々しい話が」

神裂「『その証拠に世界の政経財界には多くの――』……あぁ、すいません。これよくあるユダヤ陰謀説じゃないですか」

アンジェレネ「そ、そうなんですよっ!実はわたし達の世界もユダヤ人に仕切られているんですっ!」

アニェーゼ「な、なんだってーーーーー」(棒読み)

神裂「はい、そこ煽らないで!この子は純粋なんですから!」

アンジェレネ「ち、違うって言うんでしょうかっ!?」

神裂「そうですねー……あぁ、例えば日本の高級官僚には東大などが多いのですが、それは『陰謀』でしょうか?」

アンジェレネ「やだなぁ神裂さん、頭のいい人が役人になるのは当然、ですよね?」

神裂「同じく何処の国の政治家や官僚を見ても、その国の最高学府出身の人間が多い。それは当然ですよね?」

神裂「同様に『ユダヤ陰謀論』もタダのネタですからね?統計的に多いかも知れないってだけの話で」

アンジェレネ「う、うわーっ!ここにも一人コントロールされた人が居ますよーっ!?」

アニェーゼ「たいへんだー、どーしよー」(棒読み)

神裂「というか、その手の陰謀論は良く聞きますけど――仮に、その手紙やらネットに書いてある事が本当だったとして」

神裂「『彼らの権力が、たかがその程度の情報操作すら出来ない証拠』だって、分かりますか?」

アンジェレネ「……は、はぃ?」

オルソラ「例えば昨日のバラエティでやっていたので御座いますが」

アンジェレネ「み、見ましたっ!二時間の特番の奴ですよね!」

オルソラ「もしも彼らにそれだけの力があるのであれば、事前に差し止められたりするのではないでしょうか?」

アンジェレネ「――あ」

オルソラ「世界経済を牛耳り、メディアにも多大な権力を持っているのであれば、そんな事態にはならないので御座いますよ」

神裂「そもそも人口比だけであるならば、多くの国の指導者が十字教徒でしょう?それを証拠に私達が世界を牛耳っているとはなりませんよね?」

シェリー「……ま、チビッ子の言ってる事も間違いじゃなくてだな。確かに事実上の寡占企業ってぇのはあるんだわな」

シェリー「ただそいつぁ大航海時代から築き上げた重商主義のなれの果て、って感じなんだけどよ」

オルソラ「おはよう御座いますのですよ、シェリーさん」

神裂「そろそろお昼なんですが……」

シェリー「悪ぃオルソラ。朝メシ貰えねぇか?」

オルソラ「それで、メールには何と書くおつもりで御座いますか?」

シェリー「何処まで巻き戻ってんだ。つーかエレーナとイワンはもう家に帰ってんだよ」

神裂「ま、まぁともかく分かって頂けましたか?別に納得しろとは言いませんけど」

神裂「特定の職種に特定の人種や信仰が多いからと言って、それだけを以て証拠とするのは暴論を通り越して差別ですからね?」

アンジェレネ「そうだろうと思っていましたよ、えぇっ!」

神裂「最近、ようやくシスター・アンジェレネが自由に生きている理由が分かりました」

アニェーゼ「はい、まぁ多分ご想像の通りだと思います」

神裂「あぁもうっ!こうもっと真面目な!深刻な手紙は無いのですか!?」

オルソラ「それではこちらをどうぞ――『ペンネーム・フルーツポンチ侍(○)』さん」

神裂「止めましょう?それ明らかに違うものが混じってますよね?」

オルソラ「『ネタ予告では出番があったのにどうして削るんですか?やっぱり九兵○殿とキャラが被るからですか?』」

神裂「――はい!と言う訳で話を戻しますが!」

オルソラ「『ずっとスタンバってます』」

神裂「……なんでしょうね。『必要悪の教会』宛の犯行声明、もしくは手紙を使った攻撃が来るかと思えば毎日毎日ネタに特化した手紙ばかり!」

神裂「基本オカルトマニアか、中二病が治らないオッサンの寝言しかないじゃないですか!?」

アニェーゼ「本気だったら余計怖いんじゃないですかねー。あぁいえむしろ“素”でやってる可能性の方が高いかと」

神裂「たまに本気でストーカーっぽい内容もありますけど、それ普通に警察の仕事ですからね……」

アニェーゼ「まぁ悪の道に入りそうな方をオシオキをするのも、ある意味私らの仕事っちゃ仕事だと思わなくもねぇですけど」

神裂「……いやいや、いけませんいけません。平和なのは良い事ではないですか」

神裂「安寧を貴びこそすれ、まるで危険を呼び込むような真似はなりません。私も未熟――おや?」

アニェーゼ「そういえばシスター・アンジェレネの躾役兼ツッコミのシスター・ルチアが静かなような……どうかしましたんで?」

ルチア「……えぇ、この手紙がちょっと」

神裂「何か危険な術式でも書かれてあるとか?」

ルチア「そういうのじゃないんです。魔力も微かに感じなくはないですけど、それとは少し違うって言いますか」

アニェーゼ「だったら熱烈なファンからのメッセージカードって奴ですかい?」

ルチア「いえ、それでもありません。カテゴリーからすれば、まぁ脅迫文でしょうか?」

アニェーゼ「んじゃちっと拝借をっと」

神裂「あ、私が」

アニェーゼ「いいじゃねぇですか。ドSのシスター・ルチアを引かせる手紙ってんですから、どんだけだと」

ルチア「シスター・アニェーゼ。その補足語は余計ではないでしょうか」

アニェーゼ「きっとミニスカートとガーターの良さをネチネチ説いた痛々しいポエム――」

アニェーゼ「……」

アニェーゼ「――むぅ?」

神裂「……どうしました?」

アニェーゼ「……何なんでしょうねぇ、これ。駄文っちゃ駄文なんですけど」

神裂「では私も拝見致します。そこまで言われると逆に興味がわきますし……と?」

神裂「これ――」

――某音楽番組 学園都市より生中継

タモ「はい、次は初登場ARISAちゃんです」

タモ「えっと、ライブ会場のARISAちゃーん?繋がってますかー?」

鳴護『はい、こんばんはー……じゃなかった、おはようございます?』

タモ「髪切った?」

鳴護『あ、いや特には切ってないです』

タモ「シングルでミリオン達成だって?すごいんだねー」

鳴護『ありがとうございます。応援してくれた皆さんのおかげです』

タモ「髪切った?」

鳴護『切ってないです』

タモ「まだ学生さんなんだよね。どう、勉強もしてる?」

鳴護『ボチボチですかねー。選択問題は強いんですけど、筆記問題は得意じゃなくて』

タモ「髪切った?」

鳴護『切ってないです。っていうか「似合ってない」って言われてるんですか、あたし?』

アナウンサー「――はい、曲の準備が出来ました。ARISAさんどうぞー」

鳴護『あの、基本髪切った話しかしてないんですけど……』

タモ「はい、という訳でARISAさんの新曲――」

タモ「――『髪切った?』」

鳴護『切ってないです。あと曲の名前と違いますし、順番間違えてるんじゃ?』

鳴護『っていうか柴崎さんから、「ツアーの宣伝して来てね」って言われて――』

――プツッ

――XX学区 多目的ホール

チャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンッ

鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』

鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』

鳴護『神様が意地悪をして、私とあなたを引き離したけれど――問題はない』

鳴護『だってもう心を伝える方法は知っているから』

ワァァァァァァァァッ……

鳴護『私達が子供の頃、もどかしく考えてなかった?』

鳴護『うん、それはきっと今では答えを見つけている――その手に』

鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』

鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』

鳴護『言葉は要らない。手を伸ばせば届くよ』

鳴護『この世界にまだ言葉が無かった時代にも愛はあった』

鳴護『――そう、そのまま抱きしめるだけで……』

ジャジャァァンッ………………

ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

鳴護『――はい、って言う訳でテレビ中継は切れちゃったみたいです。電波が悪いのかな?』

鳴護『けどライブはまだまだ終わらないから、安心してねー?』

ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『――みんなーーっ、あたしのライブに来てくれてありがとーーーーーーーっ!』

鳴護『「お休みの日ぐらい大事な人といようぜ」、ってあたしの大先輩は言ってたけど』

鳴護『あたしも大切なファンのみんなと一緒で幸せだよーーっ!』

ファン『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

浜面「あっりっさ!あっりっさ!」あっりっさ!」

ファン『あっりっさっ!あっりっさっ!あっりっさ!』

鳴護『でも来年のクリスマスぐらいは好きな人と一緒にいたいかなー、なんて?』

鳴護『どう?ダメ?アイドルが恋しちゃうのはNG?』

浜面「上条もげろ!」

ファン『もっげっろ!もっげっろ!もっげっろ!』

鳴護『えっと、個人名を出すのはちょっとアレだよね。うんっ』

鳴護『みんなー、恋はいいよ?好きな人に好きだって言えるんだし』

鳴護『こんなに良い事って他にないよ。うん、ほんとにっ』

浜面「好きだーっ!結婚してくれーっ!」

鳴護『……さっきから彼女持ちさんの声がする気がするけど、メインスクリーン見て?』

浜面「おぅ?」

鳴護『MC中のアレコレがカメラで抜かれて、世界にLIVE発信されてるんだけど。いいのかな?』

浜面「やだ撮らないでっ!?」

鳴護『それじゃ、次の曲行くよーーーーっ!』

オオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『曲名は――』

――あるファミレス

滝壺 ガクガクガク

絹旗「なにやってんですか、超何やってんですか浜面。滝壺さん置いて一人でライブなんて超有り得ないでしょう」

麦野「ま、常識的に考えりゃペアチケット取る筈が一枚しか当たらなくてさ。それでコッソリ行ったとかじゃないの?」

絹旗「……むぅ。合同ライブとは言え、ARISAのコンサートは超プレミアですけど」

麦野「だからって彼女置いて行くかよ?あのクソったれ、帰ってきたら顔面無くすまでぶっ飛ばす」

滝壺「……かめらに抜かれているのに、必死に百面相してごまかそうとしている」

絹旗「これはこれで超面白そうですね。あ、超録画してツベにアップロードしましょう」

麦野「つかこれ学園都市の……どっかの学区からの生中継なんでしょ?」

絹旗「ですね。タ○さんの音楽番組中継は超途中でキレてしまいましたが」

麦野「あからさまにツアーの宣伝しようとしたから切ったんじゃないの?電波障害かもだけど」

絹旗「ま、学園都市の有線の超強度と比べるのは酷でしょう……って、滝壺さん?」

滝壺「……これ、なに……?」

麦野「どうしたのよ、凄い汗――滝壺?滝壺っ!?」

滝壺「暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の葉っぱが敷き詰められて――」

滝壺「――海から押し寄せるのは――違う!あれは、あれは――っ!」

絹旗「超落ち着いてく――い!」

滝壺「押し寄せるんじゃ、ない!違う、違、血が、地が、智が!」

麦野「救急車を――早く――!」

滝壺「――大海原より帰り来たる。慟哭と怨嗟と、赤子の泣き声、それは――」

滝壺「――凱旋、だ」

――同時刻 XX学区 コンサート会場 来賓用駐車場

 完全防音を謳うコンサートホールにして野外音楽堂でもあるライブ会場。
 しかし鳴護アリサの歌声は人工的に調整された音の流れを無視し、僅かながら会場周辺にも漏れ聞こえていた。
 時として多数のクレームで回線がパンクする程、ホールの苦情係は激務であるのだが、今日に限っては楽なものだった。

 プレミアチケットとなった招待券がないのに、微かにではあるがおこぼれにありつけた。感謝こそすれ、クレームが入る気配すらなかった。
 野球やサッカーの試合が行われているのであれば、適度に“市民の声”を捌く必要があったのに、随分と現金なものだと軽く思っていた。

 しかし、それは暫くすると一つの疑念に思い当たる――「静か“すぎる”のではないか」と。
 ホールの外を通る車の影も、出待ちかチケットを手に入れられず、未練がましくたむろしている人影も。
 普段、普通にしていれば嫌でも目にする影が、当たり前のように存在する雑踏や人の生活音が、何故かポッカリと欠けていた。

 今日はクリスマスイブ。冬至も過ぎたばかりだと言うに、得体の知れない恐怖が背筋を這い上がり、暑くないのに汗がぐっしょりシャツを濡らす。
 気のせいだと言い聞かせても、どうにも不安で不安で溜らなくなってくる。

『――あー、コーヒーでも買って来るわ』

 そう言って出て行った同僚の姿は、未だにあるべき所に帰ってきてない。
 所か、休憩時間を大幅に過ぎ、これ以上ないほどに怠慢――。

 いや――怠慢なのか?もしかして、得体の知れない何か、よりにもよって鳴護アリサのコンサートの日にたまたま当番になったため、巻き込まれたのではないか?
 人影が誰一人と見えず、また同僚も某かのトラブルに襲われてどこかへ消えてしまったとか?

 そう思って、警備員か誰か、とにかく人の居る所まで出ようと思い、部屋を後に――。

「……ァ」

 バタン。

「あっ、す、すいませんっ!」

 部屋のすぐ前に誰かが突っ立っていたらしい。思いのほか勢いよくドアを開けたせいで、相手を転倒させてしまったようだ。
 その証拠に半分開いたドアから上半身と下半身が見える。

 あぁなんだ、その制服は同じ従業員の同僚のもの。丁度帰って来ていた所に、たまたまぶつけてしまったのか。間が悪い。

「え、っと。どうし、た――」

 上半身と下半身?……どうして、それが、別々にあるのだろうか?
 普通は、一般的には、それは別セットで数えられるものじゃない。必ず二人で一つ――と言うか、分けては存在しない。出来ない。

 けれど、ここから見えるパーツ達は明らかに別の方向を向いていて。
 上半身は壁にぶつかり、下半身は床に転がり――あぁ、これはそうか。

 同僚の体は、上下に引き千切られていた。

「ひっ!?」

「……ぁっ、ぁっ」

 まだ生きているのだろう。壁に寄りかかったまま言葉にならない言葉を紡いでいる。
 血の痕が水溜まりを徐々に作り、そこかしこに考えたくもない赤黒い何かが飛び散っていた。生理的にとても受け付けない血臭に胃液が上がってくる。

「く、ぷっ……!?」

 ダメだ、まだ、ダメだ。吐くのは後からでも出来る。今は少しでも早くこの状況を伝えなければいけない!
 警備員でもアンチスキルでも良い!通報が早ければ同僚の命も助かるかも知れない!
 だから、ただ、早く……!

 慌てて部屋に駆け込み、内線用のアナログな電話を取り――音が、しない。
 カチャカチャと適当にボタンを押しても、受話器からは何の反応も返っては来なかった。

 次に私物の系帯電を取り出して、耳に当て――やはり音はしなかった。これは、どういう。

 ふと、思いつく。“そういえば”と。
 少し前に行われてたテレビ中継がぶつ切りになった。それは外部の何かが原因だと思っていた。
 けれど、それは、違う。
 “あの時から既に、ここで何かが起きていた”のではないだろうか?
 大規模なテロとか、暴走した能力者だとか、反学園都市の組織とか。

 だとすれば、ここにいるだけで、危険だ。これ以上踏み留まるべきではない――そうだ!自分には異常を外部に知らせに行かなければいけない!

 そう自分に言い聞かせながら、変わり果てた同僚の側を通――。

「――オイ、そこで何をやってんだ!?」

 第三者の声にビクリとしながら、“そういえば”と再び思う。

 どうして同僚が殺されてる必要があったのか?
 どうして自分は殺されなかったのか?

 血溜まりが“広がりつつあった”のを察するに、同僚が部屋のドアを一枚隔てた外で殺されたのは間違いない。
 ならつまり、そこまで犯人は来ている。

 この、目の前にいる少年の所までは。

上条「――聞いてんのかよ!?こっちに人が倒れてんだ!アンチスキルを呼んでくれって!」

上条(こっちの……あぁ、手遅れか。息をしてない以前に、この血溜まりじゃ)

社員「あ、う……ぁぁっ!」

上条「アンタ、おいっ!?待てよっ!」

社員「お、お前は何なんだよっ!?ソイツみたいに殺すのか、なあぁっ!?」

上条「あぁ!?」

社員「お前がやったんだろ!?お前以外に誰もっ!」

上条(錯乱してやがる……無理もないけど)

上条(バゲージでの経験がなかったら、俺も似たようなもんか)

上条「落ち着いて考えろよっ!俺がもしお前の同僚?かなんかを殺してたとして、わざわざ話をする意味がないだろ!」

上条「第一俺はお前みたいに汚れてないし!返り血を浴びずに、どうこう出来るってのか、あぁ!?」

上条(……人体切断なんて、能力か魔術で簡単に出来るとは思うけど、まぁそれ言ったらどうしようもないしな)

社員「あ、あぁ」

上条「だったらそのまま聞いてくれ!俺はこっちから近寄らない、いいかっ!?」

社員「あ、あぁ……」

上条「取り敢えず何があったんだよ?コイツは誰に殺されたんだ!?」

社員「わ、分からない!ソイツがコーヒー買いに行って、戻ってこないから探しに行こうと思ったんだ……」

社員「そ、そうしたら、ドアの前で!」

上条「アンチスキルに通報は?」

社員「出来なかったんだよ!有線がダメ!携帯もダメ!一体何がどうなってるんだ!?」

上条「落ち着けって!俺もよく分かってないんだから」

社員「お前は、誰なんだ……?」

上条「俺はバイトで観客誘導してたんだよ。島村さんだかって知らないか?スタッフの人で、『島村なのにユニクロ着てる』が持ちネタの」

社員「同期だ!俺と!」

上条「そうそう。んで、コンサート始まって休憩室――ロビーの脇んトコでテレビ見てたら、急に電源が落ちてな」

上条「何かホールや会場は無事なんだけど、こっち側の施設がダメになったみたいで。手分けして見回ってる最中だよ」

社員「明かりが?気づかなかった……」

上条「……何?」

社員「こっちはずっと電気は点いてるぞ……?」

上条「点いてる、って……?お前、そりゃおかしいだろ」

社員「な、何が?」

上条「――こっち“も”真っ暗じゃねぇか」

社員「……はい?」

上条「俺がマグライト持ってくるまで、照明なんて無かったんだぞ?今だって、ホラ」

社員「……」

上条「つーかお前、電気が完全に消えて、真っ暗闇になってんのにさ」

上条「何をどうやったら、お前の相方が死んでいたって事が分かるんだ?」

社員「見え、るだろう?ほらっ!電気なんか消えてない!」

社員「壁に持たれているのは上半身で!床に転がっているのは足でっ!」

社員「お、俺は外へ出ようとしたら、ぶつかって!それで驚いて!」

上条「……そうか。それじゃもう一つだけ聞いても良いかな?」

社員「な、なんだよっ!?」

上条「今の話から察するに、アンタはこっちの人に指一本触れてないようだが――」

上条「――だったらどうして、『アンタの体は返り血で真っ赤に染まっている』んだ?」

社員「……」

上条「内線が通じないのは当然だ。だってさっきからずっと停電してるんだからな」

上条「非常灯の明かりもここには届かないのに、どうやってアンタは俺を“視て”るんだよ!」

 少年の指摘に息が詰まる。欠損していた記憶が甦る。
 同僚は確か気の良いヤツで、喉が渇いたと呟いたのを聞いて自販機へ向かったんだった。

 けれど自分はその行為を無碍に踏みにじり、蹂躙し、ハラワタに顔を埋め。
 香しい血の臭い。恍惚とした一時を過ごしたのではなかったのか?

 “そういえば”と三度思う。
 忘れていた大事な事。それは。

「帰らなきゃいけないんだった――海へ」

上条「お前――クソッ!」

上条(皮膚が――鱗?急に緑色になりやがった!)

社員「ゲゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ!」

上条「よく分からねぇが――ぶん殴れば!」

パキイィンッ!

上条「ふう、これで元に戻る――ら、ない!?」 ガッ

社員「――ッ!アーァァァァァァァっ!?」

上条「何でだよっ!?どうして元に戻らな――」

パァンッ

上条(俺の後ろから軽い音が響き、それに合わせて男がノックバックした)

少女の声「うー、わんわんっ!がおーっ!」

上条(思いっきり状況に合ってない呑気な――というか、少し萌える唸り声が背後からする)

社員「ぐ、ぐぐ――!」

少女「あっちゃー、やっぱり効かないかぁ。この程度でどうにかなるんだったら『猟犬部隊』出す必要は無かったよねぇ」

少女「筋力の異常増大と知能の低下。テロには有効かも知れないけど、兵士としては無能って所かな?」

上条(女の子?能力者?)

上条(ライトを少し傾けると、丁度その子は右手に持ってた拳銃を無造作に投げ捨て、もう一方の何かを両手で構える)

上条(――ってかアレ、棒状の蛍光灯じゃないのか?どこかからひっぺかして持ってきたんだろうけど、武器になるとは思えない)

上条(相手は銃弾も弾く能力かなんかの持ち主、ぺきぺき折れるガラスの棒じゃ意味が無いだろ!)

社員「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

上条「危ない!」

上条(より優先順位の高い“敵”を見つけた男――だったモノ――が、四つん這いの体勢から獣のように跳躍し――)

少女「うん、うんっ!そうだよね、こんな時、『木原』ならこうするんだよね……ッ!」

少女「れーざーぶれーーーどぉっ!」

上条(そう言って彼女は持っていた蛍光灯を突き刺した。勿論レーザーでもブレードでもない、ただのガラスの棒を)

上条(男の大きく開けた口の中へ。口内から胃まで突き抜けるように)

ザク!ペキペキペキペキペキペキペキペキペキペキペキッ!

上条(当然、蛍光管は容易に折れる。男の口や気道や食道や胃の中で)

上条(無数の破片に姿を変え、内部から切り刻み続けるだろう)

男「――ッ!?アァ――――――……ッ!?」

上条(激痛が効いたのか、男は何も出来ずに固まってしまう)

上条「エゲツねぇ……つーか想像するだけで痛い」

少女「おーいえー?」

上条「褒めて――は、ないけど、とにかく助かった。ありがとう」

少女「お仕事だしねぇ――って、ごめんね?ちょっと右手出して、ね?」

上条「握手?」

少女「ううん。再チャレンジ、みたいなの」

……パシュー-……

男「……」

上条「あ、戻った」

少女「接触時間なのかな?さっきはダメだったみたいだけど」

上条「意識がないから、とか?この人、痛みで気絶してるみたいだし――ってお前」

少女「なぁに?」

上条「『さっき』って事は、もしかして傍観してやがったのかよ!?」

少女「うん……ッ!!!」

上条「全力で肯定しやがった!?」

少女「意味もなく危険に巻き込まれるお兄ちゃんを見てるとゾクゾクするよねっ!」

上条「しかも反省の欠片もないですよねっ!?」

少女「あ、でもでも。違うかも」

上条「何がだよ?」

少女「意味もなく、かな?わざわざ学園都市でする必要があったのかな?」

上条「もそっと簡潔に頼む」

少女「アリサちゃんは大丈夫なのかなぁ、って」

――多目的コンサートホール・控え室

「おはようございまーす……?お疲れ様です?」

 恐る恐る扉を開ける。しかし返事はない。
 先ほどは少しだけ言い過ぎてしまった。紛れもなく本音なのだが、立ち位置も生き方も違う相手に向ける言葉ではない。鳴護アリサはそう反省していた。
 人がどれだけ居ようとも、そして居なかろうとも他人は何処まで行っても他人に過ぎない。
 先輩には先輩の生き方があり、それを否定するのは良くなかったかも知れない。

 ……ただ、自分は厳密な意味で『ヒト』であるかどうかは、曖昧なままであるが。

 ともあれ謝るのであれば早いほうが良い。ライブ後にシャワーも浴びずに急いで戻る。
 幸いにも楽屋は他に誰もおらず、込み入った話をするのには丁度良いだろう。

 先輩グループの出番は大トリ、時間は充分にある。
 楽屋は小分けにした上、元々個室であった鳴護と相部屋だと聞かせられたのは前日。
 あれだけ大所帯だと色々あるんだろうなー、とぼんやりとは考えていたものの、まぁ邪魔されずに話をするのには良かった……と、思うべきなのか。

「えっと、ハマダさん?さっきはすいませんでした。あたしもなんか言い過ぎちゃったみたいで」

 鏡台の前に突っ伏している先輩に声をかける。しかし返事はない。
 寝落ちした――と、再度考える。そういえばネットで仕事量に報酬が見合ってないという記事があったか。
 CDを売ろうが握手をしようが、自分の所には何も入ってこない。事務所としても旨味がないんだそうで。

 激務の割にはリターンが少なく、かといって知名度を得るため――で、あっても卒業後に大成した話は稀である。
 あくまでも『ユニット』としては商品価値があるが、それを離れればファンが引いていく。それもまた現実だろう。

 そういう過酷な状況の中、しかも人気が露出に直結するようなシステムに於いて疲れない訳がない。一番の仲間であり、理解者である筈の同じグループが競争相手。それはつまり。

(身内が、敵……)

 少ないながらも、インデックスや上条当麻、シャットアウラのような知己を得ているだけ、幸せなのかも知れない。そう判断して今は声をかけるのをやめておいた。
 近くにあった自前の服をかけて上げよう、そう思って近寄ると。

 グラリ、と。彼女の体が真後ろに向かって倒れ込んだ。

「ちょっ――ハマダさん!?」

 まるでそれが糸の切れた人形のように無機質で。
 命の宿らないモノのようにあっけなく。

 彼女の手からポロリと落ちたブローチへ意識が行ってしまい。

「……これ、あたしの、だよね……?」

 だから鳴護アリサは理解するのに遅れた。
 あるべき所にあるべきものがついていない事に。

「どういう事ですか!なんであなたが私の――」

 だが返事は返ってこない。
 何故ならば彼女は――彼女だった“モノ”は。

「私の、ブローチ、を……」

 ――下顎を引き抜かれて、絶命していたのだから。

――同時刻 『必要悪の教会』女子寮

神裂「『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』」

神裂「『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』」

神裂「『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』」

神裂「『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』」

神裂「『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』」

神裂「『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

神裂「『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』……ですか」

アニェーゼ「よく分からねぇ内容ですがね。電波さんにしちゃ、随分と……なんか、違うって言うんですか」

アンジェレネ「で、ですかねー?わたしにはタダのアレな手紙にしか思えませんけど?」

ルチア「どうでしょうか、神裂さん?」

神裂「脅迫文の体裁を取っては居ますが、内容は無いよ――無いみたいですからね」

神裂「『星を射る』だの、『竜尾』だのありますが、具体的な被害がなければ特段の対応を取るべきでないでしょう」

神裂「しかし少し気にかかりますね。特に星がどうこうの下りは」

シェリー「確かにな。今丁度アイソン彗星が来ちまってんだし」

アンジェレネ「た、楽しみですよねーっ!」

シェリー「違ぇよ。そうじゃなくって、昔っから彗星ってのは凶事の予兆だっつわれてんだよ」

シェリー「ギルガメシュ叙事詩然り、ヨハネ黙示録然り。後は……近年のヘヴンズ・ゲートの集団自殺事件か」

シェリー「日本でもハルマゲドン起こそうとしたテロあっただろ?バカどもが引き金にしたのも彗星だったんだよ」

神裂「それらを同列に扱いのはどうかと思いますが」

シェリー「一応それ自体は氷か塵の塊だって話だけどなぁ。魔術的には『天体図の配置を乱す』って訳で、的外れじゃない」

アニェーゼ「そうなんですかい?」

シェリー「昔っから星、天体ってのはそれ自体を暦にしたり、神話を作ったりしてんだろ?」

シェリー「そこに普段とは違うイレギュラーが入っちまうと、どうやったって不協和音の元になっちまう」

神裂「イギリスではストーン・ヘンジ、アジアではピラミッド、アメリカでもマヤのピラミッドなど、天体と連動した施設は古くからありますしね」

神裂「日本でも伊勢神宮を筆頭に、出雲大社(おおやしろ)や各地の星宮神社。果ては天津甕星に至るまで多種多様と」

シェリー「そいつぁジャパンが他民族からの侵攻を受けていなかった事。後、宗教的なキチガ×が少なかった、てのか理由だな」

シェリー「ともあれ、それらが儀式魔術に使われていたのは想像もつくしなぁ。ま、詳しくは暇な時オルソラに聞きなさいな」

神裂「丸投げですが……それで?専門家としての意見はどうですか?」

シェリー「あー……ぶっちゃけ、ニューカルトと同じだろうよ。『危険だ危険だ』つって煽って信者こさえる方法」

シェリー「『××年後には世界が終わる!』って煽るだけ煽る」

シェリー「『そのためには“俺が考えた××”するしかない!』って結論づける手口だ」

シェリー「どっかのバカが血迷ってこっちにまで送りつけてきた、ってぇとこじゃねぇの?」

神裂「で、しょうかね」

シェリー「……ま、実際に何か起こるってんなら要注意だろうけどよ。それが無いウチは放置――ってメシ遅ぇな」

神裂「用意して貰ってるのにその言いぐさはどうかと思いますが」

シェリー「良いんだよ。ダチに何言っても、そりゃそーゆーもんだからな」

神裂「そう、でしたっけ?シェリーさん、こんなに打ち解けてしまたか……?」

シェリー「おーいオルソラ――って、テレビつけてどうしたんだ?どっかでテロでもやってんのか?」

オルソラ「いえいえ。そういう訳ではないのですよ」

ルチア「しかし速報が出ていますね。何々――」

アニェーゼ「『アイソン彗星、その大半が消失』……?」

アンジェレネ「へ、へぇー。見れなくなっちゃったんですかー」

一同「……」

アンジェレネ「あ、あれ?皆さんどうしました?」

シェリー「神裂!そいつを出した奴らはなんて!?」

神裂「待って下さい!えっと――」

神裂「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

神裂「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん――』」

神裂「『――我ら“濁音協会(Society Low Noise)”の名の下に』」


-続-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を


読みにくいけど面白い

乙です!
『新たなる光』の面々は出るのですか…?

>>39-42
ありがとうございます
>>42
次の章から参戦します。まぁシリアスっぽいハーレムもんみたいな、えぇ

あ、断章の人かな?
続き物だったりするのだろうか…

新作キタ━━(☆∀☆)━━!待ってました!

この作者さんのSSにはどれも原作っぽさ、鎌池らしさがある
あまり他のSSでは見ない魔術サイドのキャラをキャラ崩壊させず違和感なく上手く動かせる作者さんの手法に脱帽
原作禁書を相当深く読み込んでる事が分かる

そして読む度に思うんだがこの作者さんは本当に博識だな
世界の神話、説話、童話、民話、民謡、都市伝説、そういった民俗学?の類に相当精通してる
そればかりか漫画やらゲームやらのサブカル全般もバリバリ
幅広い知識と造詣の深さに嫉妬を禁じ得ない

>>46
作者さんの過去作が全てまとめられてるHPが放課後綺譚になっててビビったwwwwwwww
PCがバグったのかと思って慌てたわwwwwwwwwwwwwwwww

ああ、雑談スレに突撃してきた人か
ssの内容以前に>>1の気持ち悪さが露呈してるから、あんまり読む気がしないわ

>>49
何について?

>>50
そういう事をわざわざ言いに来るお前も十分気持ち悪い

雑談スレ?
ああたまに開いてみりゃキャラディスばっかしてるスレのことか

――次章予告

「――まぁ、なんだ。怖い話ってモンはある程度定番みたいなのが決まっていてだ」

 唐突に、そう何の脈絡もなく男はそう切り出した。
 EUが誇る高速鉄道の個室、いつの間にか正面に座っている。うたた寝をした訳でもなく、特にモバイルを弄っていたでもないのに。

 ほんの僅か、窓の外の流れる風景へ目をやっていたら現れた――などという話ではない。
 ノックをするかしないかは置いておくとしても、彼は堂々とドアから入ってきたのだろう。

 それそこ幽霊でも無い限りは。

「必ずイイ格好見せようとするC君とか、見た瞬間何が憑いてんのか分かっちまうスーパー住職とか」

「他にもアレだ。バカでお粗末なガキを村民総出で助けた挙げ句、村の秘密を親切丁寧にペラッペラ喋る巫女さん」

「でもって命を助けられながら、『所々フェイク入ってるけど』とか言って、ネットで拡散させる恩知らずもお約束だ」

 流暢な言葉で、時々意味不明の単語が入る。響きからするとアジア?
 男の見た目は西洋系、イタリア辺りに多い、やや浅黒くて精悍な顔つきをしている。

 ただし軽薄そうな笑みと着崩したスーツが全て話題無しにしていたが。

「つーかさつーかさ、俺いっつも思うんだけど寺――Church?の息子とかいんじゃん?なんか知んないけど、スッゲー霊感高いの」

 こちらの当惑はお構いなしに話し続ける。話しかけているのだろうが、見覚えはない。

「今更血統主義でもあるまいし、修行も何も詰んでない奴がおかしくね?出家してるっ訳でもねーしさ」

「そもそも仏教――ブッティストって確か、ガキ作るの禁止だったよな?明らかに色欲に負けまくってんだけど、そんなクズにも神様は手ぇ貸すん?」

「まぁ?そこいら辺はウチらも人の事ぁ言えねぇ――じゃねぇな。何の話だっけ?」

 とはいえこの客室には二人しか居ないのだから、独り言にしてはおかしい。不気味すぎる。

「なんか怖い話とかってさぁ、作り物って分かった瞬間冷めるってあるよな?いや基本フィクションなんだろうけども、だ」

 “基本フィクション”の所で男の笑顔に影が差した――気が、した。
 どこか、なにがか、は分からない。

「中でもいっちばんムカつくのが、『話している本人が被害者』ってパターンだよ。そこは譲らねぇし」

 ただ、少し。心の底へ何か、ピンのようなものを打ち込まれたような違和感。
 まるで目の前に居る男が、どこか作り物めいて人によく似た人形にすら思える。

「……そうだな。じゃあ一つ話をしようか。俺が大っ嫌いな『作り物の話』をだよ」

 コンコン、と彼は窓ガラスを二度叩く。

――

これはある子供の話なんだが――そうだな、名前……どうでもいっか。どっちみち死ぬんだし

オチ言うな?いーじゃん別に。これはそーゆー話なんだからな

ジャンルとしちゃ、あー……アレだ、『語り手が死んでんのに、なんで話が広まってんの?』系だな

だよな?語り手居ないんだから、それこそ霊媒師でも呼ばない限りは分からない

……で、だ。可哀想な子供の話に戻るんだけどな

この子供――あぁ少年、ってしておこうか。色々とアレなご時世でアレだから

……ま、どっちでもヤバい奴はあんま関係ねぇんだ。むしろ俺ら的には少年の方が使いやすいっつーか

牧童は兄に弑されて、神へ供物として捧げられせる運命だしなー……それが真っ当な神様とは限らねーけど

あー、いやいや?こっちの話こっちの話。何でもねぇよ

それでどこまで話したっけか?全然?マジかよ

あー……おけおけ、そいじゃ話を続けようか

少年の名前なんだっていい。気になるんだったらお前ん中では好きに呼びゃいいさ

少年の家は、アレだな。どっかの田舎町にあんだよ

空気が良くって、緑が多くて――そのくせ住民は排他的、とテンプレ的な田舎町

そこへ一家が引っ越しする所から話は始まる

もしかしたら家族の誰か、少年が病気だったのかも知れねぇし、単にじーちゃんちがあっただけかも知れない

可能性としちゃ母親が暴力振るう旦那から逃げてきた、のはアレか?少年に取っちゃ不幸なんかねぇ?

両親が揃ってりゃいいってもんじゃねぇけどなー。だからってアル中ヤク中の親父が居ても不幸になるだけだし

……ま、大人の思惑は色々あるだろうけどさ。都会じゃ味わえない醍醐味みたいなのに、少年は喜んでいたんだわ

大人同士ではイマイチ上手く行かなくても、ガキ同士なら一緒に遊んでいる内、仲良くなるだろ?

そっから大人を通じての付き合いも広がったりして、まぁまぁ楽しく過ごしてたんだとさ

けど、だ。どこの町でも、どこの村でもタブーの一つや二つはあるんだわ、これが

例えば決して近寄ってはいけないと言われている『家』とか

日が暮れたら避けるように勧められる『桟橋』とか

どんな飢饉に見舞われても入ってはいけない『森』とかがな

理由を聞くと大人達は顔を見合わせた後、見た事無いような怖い顔で、「ダメなものはダメなんだ!」って怒鳴るような

そんな、場所がだ

そして少年の住む村にも『それ』はあった。居たっつーべきか迷うけど

『それ』が何かは分からない。いつからあったのか、どこから来たのか

気がつけばそこにあったと人は言うし、呼ばれた者は帰っては来なかったんだよ

とにかく『廃屋』か、『桟橋』か、『森』か。そのどれかへ少年は不用意に近づき――

――『それ』を見てしまったんだ

朽ち果てた家具の中で埃に真新しい跡をつけて這いずる『それ』を

月の無い夜空に川面から桟橋に触腕を伸ばす『それ』を

鬱蒼と茂る木々の間からどんな動物にも似ていない咆哮を上げる『それ』を

……少年は慌てて逃げ出した。後ろも見ずに、前も見ずに

背後から唸り声を上げて迫ってくるのが、何であるのかも知らず

……どこをどう走ったのかは分からない。少年は全身泥だらけになりながら自宅へとたどり着く

家族は尋常じゃ無い様子を見て驚き、母親は何も聞かずに風呂を入れ――る、前にだ

どんどんどん!どんどんどんどん!

誰かが激しく戸口を叩いている。青ざめた表情の母親は少年に隠れているよう言い聞かせたんだ

「いい?わたしがいいって言うまで隠れていなさい!」

「ノックを二回、二回、一回の順番にするから!それまでは絶対に出て来ちゃいけない!」

そう母親は言い聞かせられ、少年は自分の部屋に隠れる事にした

どこに隠れたのか?それは俺も知らないよ。だって俺少年じゃねーもの

つってもまー、そうだな。ベッドの下?クローゼットの下?

少し意表を突いて天井裏?ロフトっつーと意味合いは少し違ってくるが、まぁ隠れたんだろうさ。母親の言う通りに

その時、少年は確かナイフか何か、刃物を持っていたんだってな

悪い知り合いから貰ったのか、親のをちっと拝借していたのか、それとも誕生日プレゼントだったのか

場合によっちゃ母親を助けに行く気満々だったらしい。らしいってのは推測だからな

実際には来なかったんだけど。来る気も失せたんだろうし

最初は悲鳴。それが誰のかは想像にお任せするが、次には奇妙な音

こう、アレだ。くっちゃくっちゃ、的な?

……そうだよ、ガムとか噛んだりする時のアレだ

ぶっちゃけ、他人のそういうマナー違反は殴りたくなるぐらいムカつくわな。つーか殴る事にしてっけど

でもまぁ普通はさ、まず聞こえねぇじゃん?同じ部屋で静かにメシ食ってるとか、そういう時でもない限りは

それが聞こえてきたんだよ。隠れている部屋とは全然遠いってのに

どけだけデカい音立ててんだって話だわな、これが

ま、年端もいかねぇガキの心折るには充分だったようで。少年は隠れている所から一歩も出ずにブルってた

それが良い事なのか悪い事なのかは分からねぇ。何度も言うようだけど、俺は少年じゃねーから

ただまぁ気がつくとさ。増えてるんだよ、呼吸が。一人分

真っ暗な部屋の中で、聞こえるんだって、誰かの息を吐く音が

自分しか居ない筈の部屋に。いつの間にか入って来てたんだ、『それ』が

こん、こん

二回、ノックする。まさに少年が隠れている、その扉を

こん、こん

また二回だ。お母さんだ!お母さんが助けに来てくれたんだ!

こん、こん

間違いだ。きっとお母さんは間違ったんだろう!だからきっと次は――

ガリガリガリガリポリガリガリガガガガガガガガカッ!!!

――

「――翌日、近所の人間が様子を見に来たんだが、少年の住んでいた家には誰も居なかったんだそうだ」

「以上でこの話は終わり――って何?怒ってんの?なんで?」

「いやいや。これまたお約束じゃねぇか。最後はデカい音出してビックリさせるってのも、パターンの一つだぜ」

 悪びれもせずに男は笑う。定番と言えば定番の展開ではあるが、急に大きな声を出されれば誰だって驚く。
 それこそ話の内容は関係ない。

 こんこん、こんこんこんこん。

「うひょうわぁっ!?」

 ノットされたのは客室のドア。何故か語り手の方、男が盛大に転んでいた。

「――すいまっせーん……?今の声、ウチの愚兄が――って、何やってんですか兄さん?」

 入ってきたのも同じ顔、ではないがよく似ている。こちらは兄と呼ばれた方と違い、着崩していないため、ビジネスマン風に見える。

「べ、別に何にもしてねーし!これはちょっと時間より早かったらビックリしただけで!」

「あー、はいはい。その話は向こうで聞きますから。つーか団長と安曇さん待たせて遊ばないで下さいな」

 腕を取って起き上がらせる弟。こちらの視線に気づくと綺麗なお辞儀を一つ。

「いやなんかすいません。ウチの愚兄がご迷惑かけたようで」

「人をどっかの怪談オヤジみたいに言うんじゃねぇ」

 怪談話――というか、この中途半端なホラー映画にありそうな展開は、兄の方の作り話か。それはそうだろう。
 この話で語り手たる『少年』は居なくなってしまったのだから、この物語が成立する訳は無い。

 それは当然だ。

「てな訳で僕らはお暇します。失礼しました……って、ほら兄さん、自分で立ちなよ」

「『それとも俺にくっついていたいのかよ?とんだ淫乱だな!』」

「兄さんそーゆーネタ振り止めよう?こっちはマジモンの人達多いんだから、洒落にならないんだからね?」

「あとその設定だと僕らゲイな上に変態もこじらせているから、ドラ乗りすぎじゃないかな?もっと属性控えめでもいいじゃない」

 仲が良い兄弟だか双子は客室を後にする。
 妙な訪問客はもうご免なので、再び鍵をかけようと彼らを見送ろうと戸口まで歩く。

 あ、そうそう言うの忘れてた、と男は嗤う。

「今のは『語り手たる被害者が消え、存在が矛盾する』ってパターンだったが――」

 さぁっ、と窓の外の景色が黒一色に塗り潰される。海底トンネルへ電車が乗り入れたのだろう。

「――実はコレ、逆の立場ならきちんと成立すんだわな」

 プシューと閉じられたドアに遮られ、その表情は見えなかった。
 今のはどういう意味だろうか?

 男が語った話では生還者はいない。少なくとも話が出来る人間は消えてしまった。
 主旨からすればモンスター的な何かに、という事だろう。冷静に分析するのもアレだが。

 翌日、少年の家を訪れた村人が語る……?それはない。村人は少年では無く、事件にも巻き込まれていないのだから、語るのは不可能だ。
 出来て精々なのは推測に過ぎない。状況証拠を積み重ねて、こうであると想像するだけだ。

 何故ならば当事者ではないから。少年やその家族と違って。

 違って……?当事者じゃないから、哀れな被害者ではない……。

 ……いや、そうじゃない。あの話に出て来たのは何人だった?

 少年、母親、祖父。家族が他にも居たとして数人か。
 事件の『被害者』は確かにそれだけだ。他には居ない。

 けれど事件の『加害者』側はどうだろう?

 事件を知る事が出来るとすれば、もう一人。加害者たるモンスターは可能だ。
 少年を追いかけていた側、得体の知れない何か、後日誰かに語ったとすれば――。

こんこん

 びくり、と突然のノック音に体が動いてしまう。何はバカな、と慌てて取り繕う。

 きっとあの少々趣味の悪い兄弟か、または車掌でも来たのだろう。
 場合によっては鉄道警察に突き出す選択肢も考えながら、ドアを開けた。

 ……、……?

 しかしそこには誰も居ない。悪戯だろうか?首だけを出して見渡すが……近くにそれらしい人影はなかった。

 通路には少々不釣り合いなぐらいな光が点っているものの、それに映し出される乗客の姿はない。遠くの方、前の車両の方からは喧噪らしきものが聞こえてはくるが。
 少し前まで廊下を誰かがバタバタと駆けていたのに辟易していたのに。

 ……いや、『居なさすぎる』、か?
 個室は限りなく満員に近かった筈なのに。
 どうしてここまで周囲が静かな――。

こん、こん

 予想に外れてドアを開けたままでもノック音は止まなかった。
 それは決して隣の部屋から聞こえたものでも、テレビやモバイルから聞こえてきたものでは無い。

 また隣室や近くのドアを誰が叩いている訳でも無く、それはとても近くから。
 そう、それは今、丁度背を向けている後ろ側、窓のある辺りから響いている。

こん、こん

 時速数百キロで走る。EUが世界に誇る高速鉄道の車両の。

こん、こん

 外側から。誰かが。
 絶対に聞こえてはいけない筈の音が!声が!
 完全防音に近い窓ガラスを経ても尚、自身の存在を誇っていた!

「てけり・り」

 グシャア、と名状しがたい粘液の塊がガラスを突き破り、全てを呑み込み――。

「――お待ちなさいっ!!!」

ドゥンッ!

 狭い室内で火炎が炸裂する――が、周囲へ撒き散らす事もなく、不自然な方向へと収束していく。
 粘液の塊は溜まらず再び外へと放り出される。常識的に考えれば衝撃で一溜まりもないだろうが、何故かこれで終わっていない確信があった。

 それでも一応は恩人らしき――原理は不明だが――彼女たち。お揃いのユニホーム、一番前にいた黒髪の子に声をかけようとした。

「いつもニコニコあなたのお側に這い寄――」

 ベキッ、と側に居た背の高い女生と少女の中間ぐらいの子が、すかさずその頭をシバキ倒す。

「アンタって子はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!それさっきからスベってるって言ってるのだわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぎぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?予想外の戦闘でテンパってますよ!誰か助けておかーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 ……何故か頭をグリグリと締め付け始めた?余裕がないのは理解出来るが。

「いやぁワケわかんないだろーけど、実はワタシらにもよく分かってなかったり」

 今一やる気のなさそうな子が槍を肩にかけてぼやく。が、その視線は言葉とは裏腹に周囲に警戒していた。
 どう答えたものか迷っていると、最後尾の――ネイルアートを盛りすぎたような『爪』をした少女が、二人に注意を促す。

「ふ、ふひひっ!やっぱダ、ダメみたい。ひひっ」

 良く言えばくすぐったそうに。悪く言えばドラッグ的なものをキメているように。

「あ、『あれ』は相当強いバリア的なものを張ってる感じ、私じゃ感知は無理っぽい」

「何なんだろうね-、『あれ』。どう見てもゴーレムにしか見えないんだけど――もしかして!?」

「はいはい、陰謀陰謀。学園都市もイギリス清教とローマ正教のど真ん中で実験かますほど終わってはねぇわよ」

「あ、今『やるかも?』って思ったっしょベイロープ?」

「だから名前を!呼ぶなとっ!言ってぇぇぇぇぇっ!」

「たーすーけーてーっ!?つーか担当違う!?シバかれるのはレッサーだってば!?」

「だーかーらぁぁぁぁぁっ!!!」

 ふう、と頭グリグリ攻撃からようやく逃れた黒髪の子が、手櫛で乱れた髪を整える。

「んじゃま、私達も本格的に武力介入するってぇ事にしましょうか。どう見てもこちらさんカタギですしね――でわでわ」

 こめかみにはしっかりと跡を残しつつも、何故かキメ顔でこう言った。

「古きものはより古きを誇り、朽ちるものは朽ちるがままに――」

「――されど千夜に褥を重ねようとも、旧き燭台の火は消えず――」

「――『ブリテンの敵』に報いの慟哭を、願わくば安寧の死を――」

「――『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」


――次章『狂気隧道』予告 -終-

今週は短いですがこの辺で。お付き合い頂いた方に感謝を

>>44
断章書いた中の人です
一応リセットした別の話です。てか他のも基本そうじゃないと酷い事に。例えば

『アイテム』の続きだと“強くてニューゲーム”
『学探』じゃ“佐天「どんなシリアスもギャグでgdgdにする能力かぁ……」”状態
『向日葵』は“あの後二人でセカイにケンカ売る”ので無理
『村』は無かった事にしたい。他ジャンルのSSは書いた事もない

特に『断章』の続き物だと、魔術・科学両方の専門家&組織力持ってるからお話になりません
いや話も出来るし楽しそうですが。バランス的なモノが崩れるのがまず一つ
マークさん以下多数の実戦派(魔術師なのに忠誠心高い)多く、“本気で活動”するのであれば、グレムリン並みの勢力にもなり得ますし
(“グレムリンでは無く、『明け色の陽射し』が敵になったSS”も楽しそうですが)
そして何より問題なのが、あれ以上バードウェイさんの好感度上げると……うんまぁ、大人になるんですね、色々な意味で

去年の第四四半期頃、寝ても覚めてもバードウェイさんを考えていたら、こう癖(へき)的ものがですね。知らず知らずに一速に入ってたみたいな
こないだ『英雄×戦○G』ってゲームの伊達政○のニーソ見て、「あれ?俺の癖変わってる?」と気づいた時の絶望感と来たら、えぇもう

ってかネタで作ったADV、上司に「アップローダってどこがいいの?」と訊ねた所、
「Ryushareが熱いよね!」と言われたのでアップロードした所、僅か5日後にサービス停止……
私、悪くないですよね?

>>51
それタダの荒しですね。”Dts77xAd0”でグクってみると

>10 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 00:29:34.89 ID:Dts77xAd0
>そもそも原作の白井が一般人が無闇に事件に首を突っ込むことを良しとしない性格なのに、好き勝手やってるのに凄い違和感

>610 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 18:34:07.85 ID:Dts77xAd0
>荒らしはともかく、批判は普通の読者から出てもおかしくないような内容だからな
>まあもう来ることもないだろうし、今さら気にしても仕方ない

>50 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 19:15:31.27 ID:Dts77xAd0
>ああ、雑談スレに突撃してきた人か
>ssの内容以前に>>1の気持ち悪さが露呈してるから、あんまり読む気がしないわ

>21 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 19:16:57.56 ID:Dts77xAd0
>寧ろ原作読んでるからこそ、こういうことが起こってもおかしくないと思ってる自分がいる

>43 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 21:41:37.52 ID:Dts77xAd0
>さすがにほかの人が書いたssをまるまるコピペするのは
>人として最低限の礼儀くらいはわきまえようよ

んで日付変わってIDリセットされて>>55で自分のレスにアンカーつけたんだと思います

>>50
あーうん、面倒臭いからぶっちゃけるな?
詳しくは別スレ↓でも書いたんだけど、お前そんなに俺嫌いで書いた物気に入らねぇんだったら、自分で書けよ
つーかあっちで粘着してんのもお前じゃねぇのか
(禁書・超電磁砲ss雑談スレ6の>>435-436)
禁書・超電磁砲ss雑談スレ6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392298695/))

んでお前が書いた「気持ち悪い」ってのは、『第三者が俺の内心を勝手に決めた』事に対して反論しただけなんだけどな

乙、次回も楽しみにしてます

あと上でも言われてるけど、確かにあまり余計なレスはしない方がいいかも
ssの内容以前にこういう部分が荒らしの元になるから
自覚があるか分からないけど、一々こんなこと書いてるから繰り返しになっちゃう
たまに言われてることだけど書き手は必要最低限のレスをするのが読み手からも好まれるらいしよ

また見るの遅れた……(  ω )

雑談スレ6も見てきたけど、……基本正論だった気がする
あと、キレちゃうのも仕方ないよね、我慢の限界ってあるもの。論破で潰すのはこっちも気分良かった(*´ω`)b

田中(ドワーフ)さんもSSも好きだから、次回も楽しみに待ってます

すいません、色々とご迷惑をおかけしています
誤解されている方もいますが、批判された事に反論した訳ではありません

「インデックスが嫌いである」と『私の内心を勝手に決め付けられ、それが事実であるかのように言われた』のに対して反論しました
雑談スレにも書いていますが、それは『作品批判ではなく作者批判であり、差別だろう』と
作品が嫌い、面白くない、つまらないと言うのは勝手。しかし『私がインデックスを嫌いだという決め付けはやめろ』と

批判は受け止めます。反論もしません。誰がどう考えようとも、この国では自由ですからね
しかし『誰それが嫌い(しかも証拠が無い)』は『中傷』であり、私は受け入れられません


で、何よりも気に食わないのがもう一つ
実際に私のスレをご覧になって頂ける方は多分他の方のレスも読んでいると思いますが、
ほぼ必ず『>>1はインデックスのヘイトだからな』と書き込みがありましたよね?
それが今回は無いんですよね。『アイテム』のスレから『断章』までヘイトヘイト言い続けた相手が来ない

その代わりに>>50の「気持ち悪い」と。多分こっちもあっちも同じ人なんでしょうが、結局、

『インデックスのファンだったのではなく、フリをして人格攻撃していた』

と『論破されたから今度は”気持ち悪い”に切り替えた』のが気に入らない
禁書ファンとして、ファンのフリをしていたのが絶対に許せない。それだけです


とはいえ『作品も書かず、トリップも名乗らず、自身の作品を誇れない相手』に構うのは確かにやりすぎだったかもしれません
結果としてスレがSS以外で荒れるのは良くないでしょうし、気分を害された方に心からの謝罪を。大変失礼致しました
出来れば以後、この話題は持ち出さないように宜しくお願い致します

あと、皆さんが賛否両論色々と書いて下さったのはとても嬉かったです。ありかとうございました



――胎魔のオラトリオ・第一章 『狂気隧道』

――回想

――ロンドン ブロムリー特別区 コンサートホール

チャンチャンチャンチャンチャン

鳴護『――僕は忘れないよ。君が宝物だって事が』

鳴護『――だからもうサヨナラは言わない。もう必要がないから――』

鳴護『――君はきっとこう言ってくれよね――「おかえり」って』

鳴護『――僕は忘れないよ。君が宝物だって事は』

鳴護『――僕を全部あげるから、君をくれないか?』

鳴護『――君だけは僕がずっと守る――!』

チャン、ジャジャーン……

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『イギリスの皆さんコンニチワーーーーーっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『元気でっすっかーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『いいよね、元気って!うん、あたしはちょっと飛行機、速すぎたんだけど――』

鳴護『みんなと逢えるって思ったら、テンション上がってへーきだったみたいだよーーーーっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『ありがとーーーーーーフランスーーーーーーーーーっ!!!』

オ、ォォォォォォォォォォォォォォッ!?

鳴護『……えっと』

鳴護『そ、それじゃ次の曲――』

――コンサートホール控え室

上条「間違っちゃった!?最後でイギリスとフランス間違えてんぞアリサっさーん!?」

シャットアウラ「……」

上条「いいの?ボケがダダ流れの上、MC100%日本語でやってんだけどさ?」

上条「てか前から思ってたんだけど、アリサって結構天然だよね?頭に『ド』が着くぐらいの」

シャットアウラ「問題ない」

上条「そ、そうかな?」

シャットアウラ「アリサは可愛いからなっ!!!」

上条「やっべー問題しかねぇよ!?この姉にしてあの妹って感じで!?」

シャットアウラ「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ガシッ

上条「な、何だよ!?お前らまだ仲良くないのかよ!?」

シャットアウラ「『似たもの姉妹』だなんて、て、照れるじゃないか……!」

上条「うん、まぁ仲が良いのは結構なんだけどね?結局、そこに着地したんかい」

シャットアウラ「妹を愛さない姉など居ないっ!」

上条「……キャーリサに聞かせてやりてー……バードウェイは……まぁ、仲は良いよな。仲は」

上条「雲川先輩……は、うーん……?」

シャットアウラ「姉というものは大概にして妹可愛さに暴走してしまうものなんだよ」

上条「そりゃいい事だと思うけどさ」

シャットアウラ「妹を迷わす悪い男が居るんだけど、排除してもいいよな?」

上条「何さらっと言ってんの!?つーか俺むしろお前らのケンカ仲裁した立役者じゃんか!?」

シャットアウラ「それはそれ、これはこれ」

上条「うん、意味は分からないけど、俺達の敵対関係は解消してないって事ですかね?」

シャットアウラ「よくもまぁヌケヌケと顔を出せたものだなっ!」

上条「違うよね?俺達学園都市からずっと一緒だったよね?」

上条「夜中に襲撃喰らってインデックスとSUMAKIにされて、超音速飛行機で輸送された上、引き離されたんだけど」

上条「ってかそろそろ俺達、学校とかあるから一緒に帰りたいんですけど。つーかおウチ帰して、な?」

シャットアウラ「すまない。そろそろ時間だ」

上条「……何?」

シャットアウラ「このままお前がここに居ると、アリサが着替えられな――ハッ!?まさか!?」

上条「多分イマお前が考えてる事は違うと思うよ?俺、どんだけゲスいんだって話だからね?」

シャットアウラ「『だ、ダメだ……アリサ!私達は姉妹なんだから……!』」

上条「ゲスいけど俺登場してないよね?出演オファーすら来てねぇからな」

上条「……ってかちょい見回りしてくるわ。しないよりはマシだろ」

シャットアウラ「ダメだダメだダメだ!」

上条「何?狙われてんのは俺じゃなくってアリサだろーが」

シッャトアウラ「『ま、まぁ血縁じゃないし?』」

上条「ごめんな?俺ちょっと席外してるから、うん?ゆっくり妄想してってな?」

――ホール エントランス

アニェーゼ「あ、お疲れ様です」

上条「おっす、お疲れ様――って、日本っぽい挨拶だよな」

アニェーゼ「神裂さんに習いましたんでさ」

ステイル「……ちっ」

上条「ステイルもおっつー。ってかあからさまに機嫌悪そうだな」

ステイル「君に会う時は今まで上機嫌だった事はないし、これからもそうだろうけどね」

上条「相変わらず俺の扱い雑だな。って?」

アニェーゼ「……これが本場のツンデレですかいっ!?」

上条「そんな要素なかったよね?俺あんま言いたくないけど、本気で嫌がられて結構ヘコでるぐらいだし」

上条「ってか今回のこれ、どういう流れ?いい加減拉致られるのも、トラブルに放り込まれるのに馴れたけどさ」

ステイル「……うーん。なんて言ったもんかな。君にも説明はすべきなんだけど」

上条「魔術師じゃないから理解出来ないってのかよ」

ステイル「そっちは期待していないから大丈夫だよ」

上条「そっか!期待されてないから大――あれ?今スルーしちゃいけない単語が……?」

ステイル「ってか君は持ち場に戻る時間じゃないのかい?異常は無かったんだから、そろそろ戻りなよ」

アニェーゼ「分かりました。そいじゃまた後で」

上条「他の隊の連中も来てんだ?だったら挨拶したい――」

ステイル「――って待て待て、君は行くなよ。話はまだ始まっても無いんだから」

上条「長いの?」

ステイル「長い、というよりは――『よく分からない』が、正解かな」

上条「敵がはっきりしてないのか?そんなのいつも事じゃねぇか」

ステイル「いや……場所を移そう。ここじゃちょっと」

上条「なんで?別に誰かが通るって訳じゃ――」

アンジェレネ「(う、うわーっ!アレですよっ!あの二人、人気の無い所へ行くつもりですって!)」

ルチア「(しっ!静かにシスター・アンジェレネ!今いい所なのですから!)」

アニェーゼ「(やっぱり敵味方ってぇのが萌えるんでしょうかねぇ。王道っちゃ王道ですかい)」

アニェーゼ「(ステ×上?いやいや、上条さんはある意味オールラウンダーっぽいですか)」

上条「……ごめん。早く行こうか」

ステイル「……流行ってるらしいんだよ、神崎が言ってた」

ステイル「それに館内じゃ煙草は吸えないからね、丁度いい」

――コンサートホール 喫煙所?

上条「吹き抜けの、中二階?」

ステイル「元々はオペラハウスだったからね。ここからステージへ荷物を運んでいたそうだよ」

上条「いや搬入口使えよ。こっからだとクレーン使わないと無理だろ」

ステイル「昔はなかったから、天井に滑車を架けて――日本の『釣瓶』みたいにしたそうだよ。ほら、あそこに跡がある」

上条「ホントだ。でも遠回りになんねぇの?」

ステイル「舞台セットを作る時、特に大がかりな物であればあるほど、時間がかかるだろう?」

ステイル「けれどステージをずっと占拠して作り続ける訳にはいかない。支配人は他の出し物で稼ぎたいからね」

上条「……あぁ!だからステージとかを余所で作って小分けにして!」

ステイル「人が通る入り口じゃ狭いから、上から吊って出し入れをすると――って、僕が懇切丁寧に説明してやる義理も無いんだけど」 シュバッ

上条「おいっ館内禁煙って」

ステイル「あぁ心配はいらないよ?ここに火災報知器は無いから」

上条「いやそーゆー脱法的な事やってるから、普通の喫煙者まで嫌われる訳で……ま、いいけどな。それで?」

ステイル「あー……どう話したもんかな。全てはこの手紙が『必要悪の教会』に届いた時に始まった」 ピラッ

ステイル「……いや、そうじゃないかも知れないな。それはきっと、ずっと前に始まっていたのかも知れない」

ステイル「潜水艦のようにずっと潜り続けていたのが、急浮上したかも知れないね」

上条「……これは!」

ステイル「神裂が日本語訳をしておいたから、君にも読める筈だけど?」

上条「今の必要かな?ここで一本ギャグ挟む必要なくないか?」

ステイル「まぁ、電波だろ?」

上条「『星を射る』とか、『簒奪』とかな。中二病をくすぐるけど、意味が分からない」

ステイル「まぁその類の妄想系犯行予告は定期的にウチへ届くんだけど。決定的に違っていた事が一つ」

ステイル「丁度アイソン彗星がその大半を失った日と同じなんだよ」

上条「……はい?」

ステイル「つまり、手紙を受け取ったその日、予告した通りに彗星を撃ち落と――しては、ないけどね。欠けたのは事実だね」

上条「……いやでも違くないか?あれ、太陽に近づきすぎただけって事だろ?」

上条「つーかその瞬間見たぞ俺、真ん中に丸っぽいアレがあって全部は見えなかったけどさ」

ステイル「認めたくは無いが、今の学園都市はありとあらゆる科学技術の最先端を行く」

ステイル「この間、確か宇宙が誕生した時に発せられた重力波、だかも観測したんだっけ?」

上条「そうなの?あー、バードウェイの読んでた本に書いたあったような?」

ステイル「……宇宙は国境が定められていない分、アメリカを筆頭に『科学の進歩』のお題目を抱えて軍事技術に転用可能なアレコレをしてるんだけど」

ステイル「また別に、僕たちはコペルニクスの時代からずっと星を見続けてきた。今でも星辰は魔術と密接な関わり合いを持つ」

ステイル「言わば二つの軸、横方向に広がるX軸、縦方向に伸びるY軸の二つから彗星は観測されていたんだけどね」

ステイル「だっていうのに、だ」

ステイル「じゃあどうして『今回の彗星が途中で削がれるって予測出来なかった』んだい?」

上条「……!」

ステイル「それこそ数万人の研究者達、魔術師達が見守っていたのに、だよ?」

ステイル「ま、それが一つ。次にこの写真を見てくれ」

上条「なんか旧い写真……赤いペンキで、どっかの壁に『C』……か?」

上条「――ってこれ、俺も見た、っつーか知ってるし!」

ステイル「いや、違う。それは君が知ってるものとは違うが、同じものだ」

上条「……どういう事だよ」

ステイル「そうだね。アイソン彗星が消えたあの日、君たちは学園都市にいた」

ステイル「そこで連中と接触しているよね?」

上条「あの、蛇人間……!?」

ステイル「多目的ホールで起きたテロ事件、どこの組織も犯行声明を出していないけど、君はその中心にいた筈だ」

ステイル「いや、正確にはその隣、かな」

上条「鳴護――アリサ」

ステイル「連中が何をしたいのかは分からない。けれど、あの日僕たちは一度敗北しているんだよ」

ステイル「奴らはホールの人間達を『汚染』し、ちょっとした騒ぎを起こしているその間」

ステイル「鳴護アリサは下顎を引き抜かれて死ぬ――その、筈だったんだよ」

上条「身代わり……」

ステイル「たまたまそこに居たアイドルが、当日になってダダをこねた。控え室が狭いとか小さいとか」

ステイル「それで向こうの完封は避けられた訳だけど」

上条「ふざけんじゃねぇ!そんな、そんなクソッタレな理由でか!?」

上条「ヒト一人の命を……!」

ステイル「本来彼女『だけ』が使う控え室にもこれが書かれてあった。ま、多分?」

ステイル「――『Cthulhu』の、“C”だね」

――現在

――セント・パンクラス駅 昼間

上条「……」

上条(時間と場所は合ってるよな……?)

上条(ってかアリサ芸能人だから目立ってんじゃねぇの?)

鳴護「おーいっ!こっちこっちーーーーっ!こっちっだよーーーーーーーーーーっ!」

上条「最初っから隠す気ゼロじゃねぇか!?ってか声よく通りますよねっ!」

鳴護「伊達にボイトレしてないからねっ!」

上条「褒めてないからね?ってか明らかに周囲の注目浴びてんだけどさ」

鳴護「え?でもお姉ちゃんが『東洋人だし別に目立たない』って言ってくれたよ?」

上条「おい出て来いシャットアウラ!仲良くなるんだったら社会常識も憶えさせとけ!」

男「――すいません。リーダーは別の仕事で席を外していまして」

上条「そなの?――て、こちらは?」

鳴護「紹介は――してなかったっけ?あたしのマネージャーの柴崎信永(しばざきのぶなが)さんです」

柴崎「初めまして、ではないですね。柴崎です」

上条「あ、はい、上条当麻です。どこで会いましたっけ?」

柴崎「いえ、自分がクロウ7の時に少し。クルマからチラッと見ただけで」

上条「クロウ……?」

柴崎「いや、公園でアリサさん守る時とか。リーダーと一緒に」

上条「あぁはいはい!居た居た、うん!シャットアウラの元部下の人!」

柴崎「本当は?」

上条「……すいません、シッャトアウラが濃くて今一憶えていません」

柴崎「敬語は結構ですから、えっと……パイロキネシスとやり合った時にちょっとだけですから、憶えてないのも仕方が無いです」

上条「パイロ?何?」

柴崎「赤い神父服の、ほら」

上条「あー……」

上条(魔術サイドの事、知らないのか?つーか言っちまっていいもんかどうか)

上条「なぁ鳴護さん?」

鳴護「あたしのファンなの?昨日ライブ来てくれんだ?ありがとー」

鳴護「写真?うん!いーよいーよ、撮ろっ!」

上条「空気読もう?そこで速攻子供に囲まれて握手会してるアイドルの子?」

上条「てか今なんでマネージャーやってんの?つーか出来るのか、って話」

柴崎「そこら辺はユーロスターに乗ってからしましょうか。アリサさーん!」

鳴護「あ、はーい!今行きまーす!……ごめんね、今からお姉ちゃんフランスに行かなきゃならないから!」

鳴護「あーもうっ可愛いなぁっ!行く?行こうか?」

鳴護「あ、柴崎さん、チケットもう一枚取れます?」

柴崎「帰してきて下さい。こっちでソレやると確実に10年単位でブチ込まれます」

鳴護「はーいっ!」

上条「……うん、はい、すいません。なんつーか、お疲れ様です……」」

柴崎「……まぁ?大体こんな感じですかね。自分、『黒鴉部隊』に入る前はSP――ボディガードやってたんですが」

柴崎「マネージャーする前にも少し揉めましてね。主に対人コミュで」

柴崎「『アリサさんフリーには出来ないだろ?』『私が守るさ』『つってもクロウって戦闘バカばっかじゃね?』みたいな感じで」

柴崎「『あ、そういや柴崎さん?櫻井さん大好きな柴崎さん出待ちやってましたよねー?』『いやだから私が守ると言って』『ちげーよ出待ちじゃねーよ!SPだよ!』」

柴崎「『だったら柴崎さんいいんじゃないですかねぇ』『おいお前達どうして私を無視』『決定!柴崎さんオナシャース!』――と」

上条「明らかにシャットアウラらしき人がガン無視されてるんだけど……」

上条「……苦労、してるんですね、柴崎さん」

柴崎「大丈夫。今日から君も同じ苦労を背負うから」

上条「ちょっと待てやコラ?事後承諾にも程があるからな?」

――回想

――コンサートホール 臨時喫煙所

ステイル「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

ステイル「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん』」

ステイル「これは20世紀の作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが書いた小説に登場する一節だ」

上条「小説家、の人だよな?クトゥルーって名前と一緒にゲームとかで聞いた事がある」

上条「雲川先輩曰く、『20世紀のラノベ』だって話だっけ?」

ステイル「暗黒神話大系と俗に呼ばれる一連のシェアワールド。彼らの創った世界では、人間とは強大な旧支配者と呼ばれる存在のオモチャだからね」

ステイル「要は『すっごい化け物がいて、人間が謳歌している平和なんて泡沫の夢でしかない』って事かな」

上条「俺もメガテンから入ったクチだから、短編集は文庫で持ってる。つかお前も詳しい――あれ?」

ステイル「どうしたんだい?マヌケ面が酷くなったけど」

上条「小説なんだよね?蒸気船に轢かれてノコノコ退散した化け物ってフィクションなんだよね?」

ステイル「彼の代表作、『クトゥルフの呼び声』だね。蕃神が住まうルルイエが浮上し、死して夢見るクトゥルーが暫し微睡む」

上条「世界各国で同じ夢を見て発狂する人達が続々、って背景だったよな」

ステイル「だね。でも『そんな出来事は有史に於いては無かった』けどね」

上条「……えっと、つまり、その『濁音協会』ってのは、ネタじゃねぇの?暇人の妄想っていうか」

ステイル「うんまぁぶっちゃけると、タダのカルト教団かな。金儲けのためにクトゥルーを語っただけに過ぎない」

ステイル「正確には過ぎなかっ“た”と言うべきなんだろうけど」

上条「過去形?けど今アリサが狙われてるのって」」

ステイル「10年前、奴らはローマ正教によって壊滅させられているんだよ」

ステイル「記録に寄れば……『神の右席』のテッラって憶えているかな?」

上条「小麦粉のギロチン」

ステイル「そうそう、その彼が『右席』に上がる直前に手かげた事件なんだけど――」

ステイル「ちなみに、その時の彼は『異教徒にも寛容な聖職者』だって話だね」

上条「いやいやいやいやっ!?あいつって確かローマ正教じゃない相手に!」

ステイル「と、いうか、“当時の右席”自体は教皇を補佐するのが名目だから。魔術の腕よりも人格が重視されていたんだろう」

ステイル「穏健派だったテッラが就けば、交渉のテーブルに――と最大教主は思ってたそうだ。ざまあ見ろ」

上条「……人格が、変わった?」

ステイル「直ぐにフィアンマ、ヴェント、そしてあの男。他の右席が加わり、イギリス清教最大の難敵へ格上げされたんだけど」

ステイル「テッラは魔術的な洗脳を受けた、と判断していたんだが。実は違うのかもね」

ステイル「もしかして『口に出すのも憚れるおぞましい儀式』を目にして、それからローマ正教への狂信に変わった、とか」

上条「嫌な話だぜ……」

ステイル「とはいえテッラのしていた事は許されるべきでは無いと僕は思うけど。それとこれとは別の話だ」

上条「まぁ、な……待て待て。テッラは置いとくとして、壊滅させられたんだろ?『濁音協会』は」

ステイル「インクランドのサフォーク地方、ダンウィッチのはウチが片をつけたみたいだけどね」

ステイル「というか、ここまでの流れで何となく分かってはいるんだろう?君もいい加減、こちらの流儀に染まって居るんだろうし」

上条「馴れたくて馴れた訳じゃねぇよ!?」

ステイル「同じ事だね、それは。知識というのは一度口にすれば、二度と『知らない』とは言えない果実だよ」

ステイル「今までは『知らなかった』で免責されたかも知れないのに、一度知ってしまえば見て見ぬフリは出来ないからね」

ステイル「どんな上手い嘘で他人を騙せたとしても、結局自分に嘘はつけないんだから」

上条「含蓄のある言葉だよなぁ……」

ステイル「ま、面倒だしこれ以上引っ張るのも嫌だし、何よりも君が大っ嫌いだから結論を言うけど」

上条「最後の一つ必要かな?お前はもう少し対人コミュをだね」

ステイル「10年以上前に潰した魔術結社――で、すらなかったカルト教団が、今になって活動を再開した訳だ」

ステイル「しかも連中、僕たち『必要悪の教会』と学園都市、両方に喧嘩を売ってきた」

上条「『本物の魔術師』なんだからタチも悪ぃが」

ステイル「目的・規模・構成人数・本拠地等々全て不明。ただし鳴護アリサをターゲットへ定めているのは判明している」

上条「……だよな」

ステイル「ただし『クトゥルー教団』の性質上、『ムシャクシャしてやった』が動機である可能性すらある。というか、高い」

上条「……だよな」

ステイル「向こうは何らかの動機があるんだろうけどね、それが他人に理解出来るかどうか、ってのはまた別だから」

上条「んー……?それじゃさ、発想を変えてだ」

ステイル「うん?」

上条「逆に今、積極的に問題起こしてる魔術師とか、魔術結社ってねーの?」

上条「ほら、取り敢えず事件現場に近くに居た怪しい奴に職質する感じで」

ステイル「……成程、それは盲点だった。確かに君の言う通りかも知れないね」

上条「珍しいな。お前が俺を褒めるなんて」

ステイル「って事で、今から容疑者だと疑われているブラックロッジを読み上げてあげるよ。感謝するんだね」 ガサガサ

上条「……へ?」

ステイル「まずは魔術結社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』の『ウェイトリィ兄弟』だね。こっちの発音じゃウェイト“リー”か」

ステイル「噂によると双子の兄弟で、『錐』を使った魔術を得意とするらしい」

ステイル「結社はマフィアの用心棒だったり、マフィアそのままだったりするんだけど」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としている」

上条「うんうん」

ステイル「次は『安曇阿阪(あずみあさか)』、同じく魔術結社『野獣庭園(サランドラ)』の首領」

ステイル「獣化を得意する魔術師集団の長であり、人の形態を目撃された例はない」

ステイル「こちらは魔術結社、というよりも毒や暗殺のエキスパートして有名、かな?」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としているね」

上条「うんう……あれ?」

ステイル「後は『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』の『団長』。通り名としてそう呼ばれている」

ステイル「姿は鉄仮面を被った大男で、猟奇殺人が起きた場所には彼の姿があるという」

ステイル「『ハロウィン・ザ・ブリテン』の際、混乱に乗じて『騎士派』どもを素手で殴り倒した後」

ステイル「『ふなっし○』のぬいぐるみを店頭から盗み出した所が目撃されている」

上条「ステイルさん?読む報告書間違えてないかな?今のは酔っ払ったオッサンの行動だよね?」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としているんだよ」

上条「ねぇ、その『正式に肯定』云々って、それただの噂って事じゃねぇのか?なぁ?」

上条「つーかこれ伏線じゃねぇの?どうせ今の中に犯人いるって展開なんだよな?」

ステイル「そして次は『明け色の陽射し』。ボスは『レイヴィニア=バードウェイ』」

ステイル「所謂『黄金』系の魔術結社を名乗るゴロツキ、一説にはどこかの学園都市のツンツン頭に籠絡されたらしい」

上条「人聞き悪っ!?ってか事実無根だしねっ!」

ステイル「お姫様抱っこしたんだって?」

上条「そういやお前もあの前後は学園都市に居やがりましたよねっ!」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』と」

ステイル「後は『棚川中学・放課後突撃隊』。隊長は佐天涙子」

ステイル「暇な中学生がダベってオチのない話を延々とする、ある意味最も恐ろしいとも言えるだろう」

上条「俺の知り合いの知り合いじゃねぇかな?つーかお前らJCまで監視してんの?」

上条「そりゃ恐れられる筈だよ、『必要悪の教会』。俺だって怖いもの」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難し――』」

上条「ダメじゃねぇか『必要悪の教会』!?つーか最後のと一個前は実在してるし!?非実在少年じゃねぇから!」

ステイル「蠢動中の魔術結社なんて腐るほどあるって話だよ。素人が思い付く事なんて、プロは当然抑えている。弁えろ」

ステイル「ま、頑張ればいいんじゃないかな?最悪、骨は僕が焼いてあげるから」

上条「火葬決定!?しかもなんか八つ当たりの感じがする!せめて拾ってあげてね!」

上条「……いやいや、違うよね?アリサのコンサートツアー、お前らも行くんだからもう少し打ち解けてだな」

ステイル「……はぁ?君は何を言ってるんだい?」

上条「仲良くしろとは言わねぇけど、お互いにリスペクト的な住み分けを」

ステイル「いやそうじゃなく。リスペクトなんて死んでもごめんだけど」

ステイル「聞いてないのかい?というか、君本当に何にも知らないで来たんだね」

上条「待て!?嫌な予感しかしねぇからそれ以上はヤメロっ!多分言うとフラグが確定するから!」

上条「せめて俺が覚悟を決まるまでは言うなよ!?絶対だぞ!絶対だからな!?」

ステイル「うん、僕らが手伝えるのはここまでだから。フランス以降は精々頑張って」

――ユーロスターS 四人用客室

鳴護「思っていたよりも、広い、かな?」

上条「俺のアパート……うん、なんでもないよ?別に気にしてなんか無いんだからねっ」

鳴護「捨てられた犬のようなっ!?」

柴崎「はいはい、そこまでにして下さい。ってかアリサさんベッドあるからといってトランポリンしない。大体100分しか乗っていませんからね」

鳴護「次はパリで下りるんでしたっけ?だったら普通の席でも良かったんじゃ?」

柴崎「あー、そこら辺はお姉さんに話して下さい。自分がどうこう出来る話では無いので」

上条「過保護過ぎんだろ」

柴崎「とは言っても、自分からも同じ提案をするつもりでしたが」

柴崎「込み入った話をするにはうってつけ、ですからね」

鳴護「あ、当麻君、久しぶりだねー?この間はありがとうございました」

上条「ん?あぁ別にたまたま居合わせただけだから」

柴崎「おや?アリサさんだけでも天然だったのに、話を聞かない子が増えましたね?」

上条「……一人、助けられなかったけどな」

鳴護「……うん」

柴崎「そこで話は個室を選んだ所に戻るんですがね、と。上条さん、お話はどこまで?」

上条「『濁音協会(Society Low Noise)』って奴らがケンカ売ってきてる所まで」

柴崎「オービット・ポータルの顛末は?」

上条「そっちは聞いてない。ネットで調べたんだけど、会社のHPは更新されてねぇし。ニュースサイトも全然」

柴崎「一応は外国資本ですからね。ガーディアンとフィナンシャルの英語記事は“割と”マシです」

柴崎「日本の経済紙はビットコインが飛んだその日に、『社会革命である』とぶち上げて嘲笑され続けてますから。時間の無駄です」

柴崎「色々あったんですが、なんやかんやでリーダー――シャットアウラ=セクウェンツィアが代表になっています」

上条「また唐突だなー。ってかそんなに簡単になれんのかよ?」

柴崎「『エンデュミオンの奇蹟』は死人も出しませんでしたし、またオービット社に瑕疵はない、とされています。表向きはね」

柴崎「が、ビジネスの世界は非情で」

柴崎「社運を賭けた一大プロジェクトが頓挫し、株は暴落。金融機関からも貸し剥がし――融資の前倒し返済を迫られて大変でした」

上条「そりゃ……まぁ仕方がないんだろうな」

柴崎「レディリー会長の個人資産は膨大にあるんですが、勝手に手をつけたら犯罪ですしね……リーダーはやろうとしましたが」

柴崎「生憎、筆頭株主の方が首を縦に振ってくれないものでして、はい」

上条「へー?そんな状況でも会社を見捨てない奴居たんだ?偉いな」

鳴護「そ、それほどでもないかなっ?」

上条「あ、ごめん?今こっちの話をしているから」

鳴護「本当になのにっ!?」

上条「あ、これ、アニェーゼから貰ったべっこう飴。喉に良いんだって」

鳴護「嬉しいけど!ホントなんだってば!」

柴崎「上条さんマジです。こちらがオービット・ポータルの筆頭株主さん」

鳴護「どうも、鳴護アリサです」

上条「マジで!?お前いつから金持ちになったんだ!?」

柴崎「レディリー会長、いや前会長が悪人なのは間違いないでしょうけど、酷い悪人とまでは行かなかったようで」

柴崎「『あの日』、に、個人資産の幾つかを鳴護さんへ譲渡していたんですよ」

上条「罪滅ぼし、か?」

柴崎「リーダーは『偽善』だと言ってました」

上条「まぁ、そうだよな」

鳴護「あたしは違うと思う、って姉さんには言ったんだけどね」

上条「そうかぁ?」

鳴護「最初に契約書にサインした時、『もしも何かあった場合、誰が遺産を受け取りますか?』って項目があったの」

上条「マグロ漁船並みの怪しさだと思うんだが」

鳴護「その時は『契約ってこういうものかな?』って、育ててくれた孤児院を書いちゃってて」

鳴護「最後にレディリーさんに会った時も、もしそれが偽善だったらあたしに言うよね?『お前が死ぬ事で助かる人が居るよ』って」

鳴護「それをしなかったんだから……うん」

上条「どう、だろうな」

鳴護「ま、あたしがそう思ってるだけ、かも?思いたいからとか?」

柴崎「SPとしての経験上、『完全な悪人』はそういませんよ。マフィアであっても自分の孫には甘いし、愛を叫ぶようなドラマを見て泣きます」

柴崎「だからといって善人かと言えばそうではないでしょうし」

柴崎「むしろ大切なものがあり、他人の痛みを知っている分だけ罪は重い。そう自分は考えますがね」

上条「俺はアリサに一票。レディリーも仕方がなかった部分もあるんじゃないのか?」

柴崎「各々が某かの事情を抱えている、それは当たり前の話です」

柴崎「共通の歴史認識やら、普遍的な正義なんてものは幻想ですしね」

柴崎「数千、下手すれば数万単位の犠牲を出してまで、その『事情』を正当化出来る話はないでしょうから」

上条「それを決めるのもアリサじゃねぇかな?一番の被害者だったんだし」

上条「てか『黒鴉部隊』は元々レディリー側じゃねぇかよ」

柴崎「いやもうぶっちゃけますと、エンデュミオンの侵入者排除に失敗した上、依頼主裏切ったんで信用ボロッボロでして」

柴崎「で、そんな自分達がどうしたか、の話がオービット・ポータルの顛末に繋がります」

鳴護「殆どの事業を切り売りして、残ったのがあたしの個人事務所?みたいな感じで」

上条「事務所そのものがオービット預かりなのか?よく分からないけど」

柴崎「そこはリーダーがアレした感じで。下手にアレでも学園都市や『あっち側』からつけ入れられるので、心配はないと思います」

上条「それで傭兵部隊がマネージャーに転職したんだ?へー」

柴崎「『鴉』へ入るまではボディガードでしたからね。ま、色々とありまして」

鳴護「お姉ちゃんが好きなんですよねっ」

柴崎「げふっ!?げっほげほっごほごほごほごほごごほっ!?」

上条「水飲んで下さいよ、ほら」

柴崎「げふっ、すっ、すいません、んっくんっくんっく――はぁふっ……ふう」

柴崎「――それでスケジュールについてなんですが」

上条「無理だからね?『え、何が?』みてぇ顔してんじゃねぇよ」

上条「盛大なリアクションありがとう、ってぐらい取り乱したみてぇだけど、見なかった事にはしてあげられないからな?」

鳴護「そこは武士の情けでスルーした方が良いんじゃないかな?」

上条「うんまぁ、アリサと『黒鴉部隊』の立ち位置は分かった」

上条「柴崎さんがなんだかんだでしっかり保護者してんのも含めて」

柴崎「どうも。出来ればリーダーには内密に」

上条「納得出来ないのが、どうしてお前ら?力不足かどうかは分からないけど、もっと適材適所があるんじゃねぇのか?」

上条(相手が魔術師なら、こっちも魔術師の方が対抗しやすいだろ)

柴崎「イギリスの『協力機関』の方々の話ですよね。それはスケジュールの話に戻るんですが」

柴崎「どこへ行くかは知っていますか?」

上条「外国」

鳴護「当麻君、私が言うのもアレなんだけど、もうちょっと計画性とかあるんじゃないかな?」

柴崎「ARISAの海外ライブツアー、『Shooting MOON』は計四カ所」

上条「ロンドン――つかイギリス、フランス、イタリア、ロシア」

柴崎「それぞれ第三次大戦で中核を担った国家ですよね?」

上条「そうだな」

柴崎「……うん、もう一声!」

鳴護「何となく分かりそうな気がするんだけどなぁ」

上条「『ケンカしてたけど、仲良くなりましたよー。ほらほら学園都市のアイドルとも交流ありますし』?」

鳴護「――ファイナルアンサー?」

上条「ファイナルアンサー」

鳴護「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

上条「……」

鳴護「ファッファァーンっ!!!」

上条「!」

鳴護「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

上条「ドラムロールに戻るのかよ!?じゃ今どうしてファンファーレ流したのっ!?」

上条「てか昔のクイズ番組のネタをする意味が分からない!?」

鳴護「友達の佐天さんが――」

上条「もういい分かった!いい子だけど、色々TPO考えろ!ツッコミで喉枯らす身にもなれ!」

上条「いやまぁ、確かに観光だけならテンション上がっけどさ。このツアーって要は学園都市のプロパガンダだろ?」

鳴護「当麻君は、不満?」

上条「仲良くするのは賛成。でもアリサが巻き込まれるのは……あんまり」

上条「それに時期も時期だよ。何も狙われてる今しなくたって、もう少し待つとか、延期するとか出来なかったのか?」

鳴護「それはダメだよ、当麻君。今じゃないと、すぐやらないと意味がない事ってあるよね?」

鳴護「もしかしたら効果がないかも知れない。もしかしたら逆に怒らせちゃうかも知れない」

上条「だったら!」

鳴護「けど、『もしかしたら上手く行くかも知れない』。違うかな?」

上条「……アリサ、お前」

鳴護「私が歌で誰かが仲良く出来るんだったら――」

鳴護「――私は、歌うよ」

上条「……アリサ」

鳴護「でも、本当はちょっと怖いんだけどね。よく分からない人達が」

上条「……あぁ、そっちは心配すんな。俺がナントカすっから」

上条「影でコソコソやってるような連中の、狂った『幻想』なんか俺がぶっ殺すから!」

鳴護「……当麻君」

上条「エンデュミオンでも約束したじゃねぇか。お前の歌を邪魔する奴は俺がぶん殴る、って」

鳴護「お姉ちゃん、怒ってたけど」

上条「つーか嫌だったらさっさと断って日本に帰ってるし。んな捨てられた子犬みたいな顔は止めてくれ」

鳴護「……ごめんね、当麻君」

上条「友達が困ってんの助けるのは当たり前。じゃなかったらダチなんて呼べねぇよ、だろ?」

鳴護「そっちじゃなくて――その、あたし、当麻君だったらきっとそう言ってくれるだろうな、って思ってて」

上条「んん?それって信用してくれてありがとう、でいいんじゃねぇのか?」

上条「つーか俺が勝手にやってんだから、別にいいって」

鳴護「そうじゃなくて!そのっ……うん、っていうか」

鳴護「あたしが、ツアーするって決まったら、当麻君と一緒に居られるかな、って」

上条「あ、アリサ……?」

鳴護「当麻君っ!」

上条「は、はいっ!?」

鳴護「あた――」

柴崎「――はいストップー」

鳴護「って柴崎さん!?いつの間に!?」

柴崎「君らが雰囲気作る前からずっと一緒でしたが」

柴崎「部屋をコッソリ出るべきか、リーダーに緊急通信するか迷ったぐらいです」

鳴護「お、お姉ちゃんには内緒にしてくれるとっ」

柴崎「一人忠臣蔵しそうですしねー」

上条「あれ?討ち入られるの俺?赤穂の浪人に襲撃されちゃうの?」

柴崎「自分は上条さんの事、データ以上は知らないんですけど、47人ぐらいは直ぐに集まりそうですね」

上条「人聞きが!?……あ、そういや、つーかシャットアウラは?聞かれてたら、色々とヤバかった予感がするけど」

柴崎「あぁですからリーダーは、っていうかスケジュールの話がまだ終わってないんですよ」

柴崎「えっと……あぁ、まぁそんなこんなで学園都市と対立していた国家を巡り、コンサートをするのが今回のミッションです」

柴崎「ただし現時点でロシアとウクライナ東部の情勢が非常にきな臭いため、これからの状況次第ではイタリアで終りになるかも知れません」

上条「ロシアもなぁ」

柴崎「で、上条さんが疑っておられた、『どうして「黒鴉部隊だけ」なのか?』については、まさにそこですね」

上条「どこ?」

鳴護「インデックスちゃんはイギリスの人だよね?学園都市と仲が良い」

上条「あぁ昨日ステイルには『同行は許可されなかったよざまあ見ろナイス牝狐!』って言われた」

鳴護「あたし達、『学園都市が和平を望んでいるのに、他の国の協力者や武装した人を連れてはいけない』し?」

鳴護「もしそうしちゃうと――例えば、信頼して欲しい人の所へ、武器を持ったまま会いに行ったら警戒するよね?されちゃうよね?」

上条「そりゃまぁ……そうか、そうだけどさ」

上条「最新科学で武装した人を護衛につけてったら、『お前らを信用してない』って言ってるようなもんか」

上条「なるほどなー。理屈に合ってると思う」

上条「でも『黒鴉部隊』は?どう考えてもアンチスキル以上の実戦部隊じゃねぇの?」

柴崎「そこでオービット・ポータル買収の話に戻ります。今の自分達はただの『芸能会社の社員』に過ぎません」

柴崎「アイドルの側にマネージャーが着くのは当然の話。心配性の社長が首を出すのも、まぁ仕方がないと」

柴崎「また『事務所が個人的に依頼した警備会社』が出張ったとして、学園都市が関知している訳ではありませんからね」

上条「……うっわー、汚い。汚いぞ『黒鴉部隊』」

柴崎「流石にそうじゃなかったらアリサさんもOK出しませんって。ねぇ?」

鳴護「え、当麻君がいれば、別にいいかなって」

柴崎「……と、言う訳で護衛は自分達がしますから。任せて下さい」

上条「すいません柴崎さん!今のはちょっと天然なだけで!悪気はないんですよ、悪気はねっ!」

柴崎「約半年、嫌々ながらもマネージャーやってたのに、素人未満の信頼度って……?」

柴崎「ともあれ経緯は以上です。あぁこちらの事情はある程度先方、訪問先には伝えてあるので、現地に着けば心配はいらないでしょう」

上条「って事は着くまでが勝負、か?」

柴崎「警備が厳重になる前に。そう考えるのが妥当です――さて、これからは注意事項について」

柴崎「そうですね、上条さん右手を出して貰えますか?」

上条「握手?」

柴崎「ですね。あなたの能力についても――ふむ」 ギュッ

上条「柴崎さんはどんな能力なんだ?」

鳴護「あたし達と同じ『レベル0』だよ」

上条「だったら確認とかしなくても」

柴崎「サイボーグの定義って知っていますか?」

上条「あぁうん。体とか骨格とかを機械に置き換えた、じゃ?」

柴崎「広義では歯のインプラントやコンタクトレンズもサイボーグに含まれます。ネタではなく大マジで」

上条「そうなのかっ!?俺こないだ骨折った時に、ボルトで固定したんだけど!」

柴崎「定義からすればあなたもサイボーグです。もう少しだけ自分は弄ってますが」

柴崎「ま、こうやって手を繋いでも支障がないみたいですし。打ち消すのは『異能』だけなんでしょうかね?」

上条「へー」

上条(そういや『幻想殺し』って、アンドロイドとかサイボーグとか、どう見てもオーバースペックな奴にも反応しないよな?)

上条(あれは『自然』って扱いなんだろうか?)

柴崎「それでは話を続けます――よっと」 ギリギリギリギリッ!

上条「アタタタタタタっ!?極まってる!腕が極まってるって!」

鳴護「柴崎さんっ!」

柴崎「はーい彼の命が惜しかったら動かないで下さいねー?あ、そのまま、ドアからも離れて下さい」

柴崎「もう少しで自分の仲間達が駆けつけますから」

上条「逃げろ、鳴護!こいつは敵だっ!」

柴崎「おや上条さん、それは誤解というものです」

上条「……テメェ……!」

柴崎「最初から自分は『味方』だなんて言った憶えはありませんから」

――ユーロスター 現在

鳴護「柴崎さん!?そんな、どうして柴崎さんが……!?」

柴崎「柴崎さん?それは一体どなたの事を言っているのでしょうか?」

柴崎「……あぁ成程。この顔の前の持ち主がそんな名前でしたっけ?」

鳴護「――え」

柴崎「それがねぇ、彼。こうやって顔の皮を剥がされながら、必死でね?」

柴崎「最後の力で身分証を呑み込んでしまいまして――中から取り出すのに、少し苦労しましたよ」

鳴護「あなたは、誰――?」

柴崎「『黙示録の獣(ヨハネ666)』の一人、冠持ちと言ってもご存じでないでしょう?」

柴崎「そもそもあなたには関係無いでしょう、鳴護アリサさん」

柴崎「これから夜よりも暗い場所へ行くのですから、他人を心配する余裕はないかと」

柴崎「――さて、少し名残惜しいですが、そろそろ仲間が来る時間ですね」

コンコン

柴崎「どうぞ」

鳴護「!?」

ガラッ

車掌「チケットを拝見しまーす」

鳴護「――っ!?………………はい?」

柴崎「あ、すいません。これどうぞ。上条さんも」

上条「ちょっと待ってこっちのポケットに」

柴崎「無くしたらここで発行して貰いますので、心配しなくて良いですよ?」

上条「それはありがたいけど……あぁ、あったあった。はい」

車掌「拝見しまーす」

鳴護「……えっと?」

車掌「そちらは?」

鳴護「あ、はい。これ」

車掌「確かに。ではよい旅を」 ガララッ

柴崎「――と、言う訳で!……どこまで話しましたっけ?」

柴崎「――この『黄昏きゅんきゅん騎士団(らぶらぶシャットアウラ)』の恐ろしさを!」

鳴護「違いますよね?今のは絶対にお芝居ですよね?」

鳴護「ってか完全に投げやりな組織名になってますし、それあたしのファンクラブにいますよね?」

鳴護「もしかして二人であたしを担いだのっ!?もうっ!」

上条「悪い!……つーか俺は半信半疑だったけどさ」

鳴護「感じ悪いよ!ドッキリだったら前もって言って欲しいなっ!」

上条「いやそれドッキリ成功しねぇだろ。俺も聞いてた訳じゃねぇよ」

上条「腕極められても全然痛くなかったから、もしかしてって」

柴崎「途中から会話に参加してませんでしたもんね」

鳴護「……どう言う事ですか?内容によってはお姉ちゃんに抗議します!」

柴崎「すいませんっしたっ!!!」

上条「なんだかんだで馴れてんじゃんか」

柴崎「男女で揉めたら、取り敢えず男が謝っておけば何とかなります――と、冗談はこのぐらいで、今のアリサさんの点数を発表します」

上条「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

鳴護「え、点数って何?」

上条「ぱっぱぱーん」

柴崎「――0点です、残念。人質取られて相手の言う事を聞くのは、全てに於てダメです」

柴崎「昨日も言いましたが、SPとして周囲に何人か着いていますから、そちらと合流して下さい」

柴崎「っていうか護衛対象の前で、人質を取られた場合のシミュレーションは何回もしましたよね?」

上条「よくある事なんですか?」

柴崎「割と頻繁に。嫌になるぐらいベタな話です」

鳴護「でもそれじゃ当麻君が酷い目に遭っちゃう!」

上条「アリサ」

柴崎「ご褒美でしょう?」

鳴護「そっか……」

上条「違うよな?真面目な話をしていたよな?」

柴崎「と、リーダーが」

上条「シャァァァァァァァァァァァァァァットアウラ!!!根に持ってるじゃねぇかよ!思いっきりな!」

柴崎「じゃマジ説教になりますけど――アリサさん、上条さん」

柴崎「あなた達の前に、友達なり知り合いなり、通りすがりを人質にしたテロリストが居たとしましょう」

柴崎「さて、どうします?」

上条・鳴護「「助ける」」

柴崎「はい、不正解。ってか冗談でも止めて下さい。それは最悪手です」

上条「いやでも助けるよな?」

柴崎「どうやって?」

鳴護「ナントカして、は正解じゃない。ですよね?」

上条「だってそいつらは巻き込まれただけなんだろ?だったら俺が人質になるのが筋じゃね?」

鳴護「当麻君に同意です」

柴崎「それがダメなんですってば。理由は二つ、いいですか?しっかりと聞いて下さい」

上条「あぁ」

柴崎「まず一つ目。『相手が信用するに値しない』です」

柴崎「『人質を取る』という卑怯な行為をした相手が、約束を守る訳がない」

柴崎「大抵身代金なり、テロリストの釈放なり、役目を果たした後には人質は殺されます」

柴崎「顔を見られたから、アジトを知られたから、またはただ単に用済みになったから。それだけで人質は命を絶たれます」

上条「待ってくれよ!?それじゃ見殺しにしろって言うのか!」

鳴護「中には無事帰ってくる場合もあります、よね?」

柴崎「それはまぁ『無事に帰した方が利益になる』と判断された場合だけです」

柴崎「つまり理由の二つ目にかかる話なんですが、じゃまぁ改めて二つ目」

柴崎「仮に人質が助かったとしましょう。彼らが望んだのが金品なのか、誰かの命なのかはともかく、それを差し出し無事に解放されました」

柴崎「時に二人は、『お前が死ねば人質は助かる』と言われ――」

上条・鳴護「「行く!」」

芝崎「――完全に喰われてありがとうございました。その覚悟だけは立派ですけど、それは『使い所を間違えて』います」

上条「……無駄死にだって?」

柴崎「いえ、とんでもない。勇敢なあなたの命と引き替えに、人質の命は救われた。それはとても尊い事だと思います」

柴崎「そういった意味で『あなたが死ぬ事で誰かの命を救えた』と」

上条「全然そんな事思ってないぞ、って顔してるけどな」

柴崎「まぁでも『あなたが死ぬ事で失われる命』だってあるんですけどね」

上条「え」

柴崎「いやだから、何度も言いますけど『人質を取るなんて人間未満のクズ』ですからね?」

鳴護「だから約束を守らない、でしたっけ」

柴崎「加えて『繰り返す』んですよ。一度の成功体験を延々ね」

柴崎「『あなた』のお陰で成功した人質という手口を。それこそ何度も」

柴崎「『あなた』は誰かを助けられて幸せかも知れません。自己満足は満たされたのでしょうね」

柴崎「しかし『あなた』が応じてしまった事で、テロリストは『これは効果がある』と何度も何度も繰り返す」

柴崎「そして勿論応じられる訳はなく、人質は可能な限り無残に殺されます――『次』の布石としてね」

柴崎「『応じられなければこうなるぞ』という脅しという形で」

上条「でも――」

柴崎「例えばアフガニスタンにイラク等々、付け加えるのであればロシアでも学校をテロリストが占拠した事件がありましたよね?」

柴崎「アレは応じたら負けです。仮に一度は助かったとしても、次々に人々が浚われ続けて要求はエスカレートするから」

柴崎「それだけならばまだしも、類似犯がどこまで増殖するでしょうね」

上条「――だったら」

芝崎「はい?」

上条「だったら黙って見てろ、逃げ出せって言うのかよ!?」

上条「友達を!知り合いを!全然関係無い俺達のケンカに巻き込まれた奴を!」

鳴護「当麻君……」

芝崎「はい、そうです。その通りです」

上条「――っ!」

柴崎「あなた達は、警察権も、逮捕権も無い。ましてや『力』を持っている訳でもない。ただの子供だ」

柴崎「『能力者』には少し厄介な右手を持っているかも知れないが、自分でも1分もあれば両手をヘシ折れる」

柴崎「専門家じゃない素人が調子に乗るんじゃない――と、言葉が過ぎました。すいません」

柴崎「確かにあなたは――あなた『達』は死んで代わりの人間は助かるかも知れない」

柴崎「けれど二度三度、そういった連中は繰り返しますからね?」

柴崎「あなたが勝手に居なくなった世界で、連中は『あなたの犠牲によって学習した』お陰で」

柴崎「次々と犠牲者を量産する訳です」

柴崎「そして生憎世界は厳しい。あなたほどには物わかりも良くなく、そして周囲も止めるでしょう」

柴崎「被害者はそのまま無残に殺される。その責任は誰か?」

柴崎「あなたという成功体験があったから、あの時突っぱねていれば起きなかった」

柴崎「言ってみれば『自己満足で誘拐・人質被害者を増やす』訳ですからね?」

柴崎「……ま、これはおじさんから若人への愚痴ですけどね」

柴崎「もしもあなた達に大切な人が居て、自分の命よりも大事だったとしましょう。それこそ命を捨てられるぐらいだとしても」

柴崎「しかしだからといって安易に命を捨てないて下さい。それは、確実に無駄死にですから」

柴崎「……ねぇ、上条さん。あまり言いたくないんですがね」

上条「はい」

柴崎「調子に乗るな、このアマチュアが」

上条「……っ!」

芝崎「この世界には嫌って言うほどヴィランは居るけど、ヒーローは居ないんだよ」

柴崎「自分は人よりも色々見てきたつもりだが、一度たりとも『正義のヒーロー』なんてものは――」

柴崎「――来もしない相手を待つより、さっさと逃げた方がいい――」

柴崎「――自分は、ずっとそうしてきました」

今週はこのぐらいで。お付き合い頂いた方に感謝を

乙です!
いつも火曜日更新でしたが、今回は前倒しで投下されたと受け取って宜しいでしょうか?

>>124
えぇまぁ雑談スレ7へ反論する気で来たんですが、既にhtml化してたので持ち返す話でもないかなと
一応来週も5000字ぐらいは投下できると思います

>>78-79
仕事の都合上、週一でネトカフェ通ってしか繋がらないのでレスがまともに返せなくて恐縮です
出来れば全レスしたいんですが

>>48
過大評価です。何度も言いますが、そんな大したもんじゃありません
専攻は……文化人類学の宗教神話学・比較神話学・都市人類学でしょうか
ちなみに上三つへ政治人類学を加えるとバードウェイさんの専攻になります

『そっち』に興味があるんでしたら、柳田国男先生、折口信夫先生の本は『近代デジタルライブラリー』と『青空文庫』で無料公開されているので、是非どうぞ
(※著作権の保護期間切れ。例えば明治初期に出た新撰組の読本があって、当時からある種の英雄視されていた事が分かる)
現代では小松和彦先生・今野圓輔先生・五来重先生の本が『比較的』読みやすいです

>>55
ごめんなさい。“ヘイト”の主語がこのスレかと思いました。違うのにすいませんでした

あと業務連絡。一年と少しお世話になったSS速報さんですが、場合によっては余所様に移籍するかも知れません
理由は色々ありますが、実は3月の半ばぐらいから運営(荒巻さん)へメール出していまして
嫌事書き込む”読み手様”をどうにかしろではなく、もっと悪質な荒らしが放置されていると
具体的には以下のスレをどうぞ

上条「アイテムの正規メンバーですか」絹旗「超2です」
上条「アイテムの正規メンバーですか」絹旗「超2です」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391605673/)

で、何度か似たようなケースのアドレスなり実例なりを出して来たのですが、
『メールを受け取った』『近日中に返事をする』以外のお返事は今日時点で頂いておりません
このまま放置され続けるのであれば、抗議の意味も込めて引っ越そうと思います
妥当な所は深夜、Pixiv?でも似たような事は出来るって聞いた気も。HPで細々と続けてもいいですしね

……まぁ上司から「カネにならないテキスト書くのヤメロ」と、嫌味を言われ続けるのもいい加減飽きましたし、
スッパリ足を洗うのもまた選択肢の一つであると思いますが

リアルとか考察という問題じゃなくて、当たり前のことを書いただけなんだがな
問題はそういう感想を抱いた人を馬鹿みたいに攻撃したことだよ
要するに田中ドワーフは情緒が育ってないただのバカってことだ

賛美両論ありがとうございました。雑談スレも読みましたが、擁護して下さった方ありがとうございます

上にも書きましたが、『荒らしは荒らすのが目的』であってこのスレで扱うのは相応しくないと私は思います
『荒れれば荒れる程、私を気に入らない人間は喜ぶ』と思いますので

そううですね、例えば>>143の場合、

>175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/13(日) 13:42:26.39 ID:nyBHAy820
>19歳でかなりのペースで投下できて、忙しい理由がバイト
>ニートではないんだろうがフリーターって楽でいいね

とまぁ『他所様のスレでもレッテル貼りと人格攻撃という中傷』をしており、ただの荒らしに過ぎませんから
構うだけ時間の無駄ですので、どうか以後スルーでお願い致します

――ユーロスター 現在

鳴護「……と、すいません。あたしちょっとお花摘みに」

柴崎「どうぞ。ブザーは持ちましたよね?」

鳴護「はい」

柴崎「ではお気をつけて」

プシュー、パタン

上条「……あのさ。柴崎さん?」

柴崎「なんです?あぁ追いかけたいのであればどうぞ」

柴崎「あまりいい趣味ではないですよ?他の隊員が警護していますしリーダーに報告が上がるかも知れません」

上条「そうじゃねぇよ!そんな話してんじゃねぇ!」

柴崎「では何か?」

上条「アリサ、凹んでただろ?何もあんな事言わなくたって、俺達でフォローすりゃ良かったじゃねぇか!?」

柴崎「クイズです、上条さん。護衛任務で最も大切な事とは何でしょうね?」

上条「はぐらかすな!俺が言ってのはそういう話じゃねぇんだよ!」

上条「ただでさえ不安になってるアリサビビらせて!そこまでする必要があったのかって聞いてんだ!」

柴崎「それは『護衛対象に危機感を持って貰う事』です」

上条「それが――!」

柴崎「……これは知り合いの話なんですがね。何年か前、もしかしたらもっと昔にある少女の護衛を請け負います」

柴崎「依頼主からの要望で本人には知らせず、家庭教師として付き添う事になりました」

柴崎「最初は戸惑ったそうですね。小さい頃から荒事に特化し、あまり人の温もりを知らず、馴染めない」

柴崎「始めて触れる人の暖かさ、仮定というものの有り難み……まぁおっかなびっくり慣れていき、どうにかそれっぼく振舞えるようになりました」

柴崎「……何と言いますか、妹、でしょうかね?あまり年の離れていない相手に懐かれ、満更でも無かったそうですよ」

柴崎「将来は音楽関係の仕事に就きたい。そう笑ってピアノの練習をする姿を眺めるのが、彼は大好きだったようです」

柴崎「ですがね、上条さん。ある日、少女は攫われてしまったんですよ」

柴崎「何を考えたのか、彼女はいつもよりも少しだけ違う道を通り」

柴崎「行方が分からなくなってしまいました」

上条「……その子は、その」

柴崎「一日目は電話がかかってきました」

柴崎「要求は……何でしたっけ?そう、あまり……いやまぁ、いいでしょう。どっちにしろ応えられませんでしたし」

柴崎「二日目は何もありませんでした。その代わりに家の前には封筒が置かれていました」

柴崎「『危険物かも知れない』――ご両親の代わりに開けた私が見たものは、切り落とされた彼女の小指、でした」

上条「――っ!?」

柴崎「三日目は薬指、四日目は中指」

柴崎「そして五日後にはこのぐらいの、そうですね、お弁当箱ぐらいの箱が配達されてきました」

柴崎「中には、誰かの名前と知らぬ誕生日が刻まれた真新しい手帳が入っていました」

柴崎「間違いか?と一瞬悩んだ後――それは自分が彼女の前で使っていた偽名と、聞かれて慌てて口走った出た誕生日と同じです」

上条「女の子はあんたへのプレゼントを買いに行った、ってのか……」

柴崎「そんなものを!そんな下らない物を買うために!いつもと違った行動を取ったって言うんですよ!?」

柴崎「あの時、自分が事前に告げていれば!嘘を吐かずに護衛していると予め断っていれば!」

柴崎「あんな、下らない事には……!」

上条「……柴崎さん」

柴崎「……いいですか、上条さん。人間は決して万能ではありません」

柴崎「万全とは『期す』ものであり、『成す』事は出来ない」

柴崎「だから注意する。出来る限り――そして出来なくても危険になりそうな芽は全て潰す」

柴崎「そのためには護衛対象にも一定の危機感を持って貰わないと、無理なんですよ」

上条「理屈は、理解したよ……ごめんなさい、柴崎さん。なんか俺誤解してて」

柴崎「ん?いやいや自分に頭を下げないで下さいよ。失敗談一つに恐縮ですから」

上条「いやでも、必要だってんなら」

柴崎「ま、今のは嘘なんですがね」

上条「そっか……そっ、か……?」

上条「……」

上条「ど、どっから?」

柴崎「『上条さんは攻められるがご褒美だとリーターが話していた』、ぐらいから?」

上条「何分前からだっ!?つーか嘘かよっ!?ギャグで流す程軽ぃ話じゃねぇよな!」

上条「あとシャットアウラさん疑ってごめんなさいよっ!けど責任はこの人にねっ!」

柴崎「……ま、今のはよくある話ですよ。メキシコくんだりじゃありふれた事件です」

上条「あっちってそんなに治安悪ぃの?」

柴崎「気になるならどうぞ調べてみると良いでしょう」

柴崎「一切の誇張無し、ネタ抜きで『魔術結社』が大手を振るって猟奇事件を起こしているのは、あの国ぐらいです」

上条(海原の地元、だよな。確か。機会があったら……いや、故郷の悪口は良くないか)

上条(それが事実だったとしても、好奇心から聞くのは無神経だ、と)

上条「あーっと、だな」

柴崎「あぁ知ってます。『そっち』も居るって事は」

上条「シャットアウラから?」

柴崎「言われてみれば、と腑に落ちる所もありますしね」

柴崎「学園都市“外”の研究機関だと考えていましたが、まぁどちらにしろ同じでしょうね」

上条「あんまり心配してないな?」

柴崎「自分の仕事は『守る』主体ですから。交戦せず全力で脱出するのに、科学も『それ以外』もないですし」

柴崎「ともあれそういった訳でアリサさんを宜しくお願いします、上条当麻さん」

柴崎「女の子を守るのは男の子の仕事、ですから」

上条「そりゃ良いけどさ。でもだったらあそこまで強く言う必要が」

上条「今の話をきちんとすりゃ……ってダメか。必要以上に怖がらせちまうし」

柴崎「いいんですよ、これで。自分はアリサさんに嫌な事を言うのがお仕事」

柴崎「でもってあなたは慰めるのがお仕事。適材適所と行きましょう」

上条「つってもなぁ?柴崎さんだってアリサと長いんだろ?『エンデュミオンの奇蹟』から数ヶ月経つけど」

柴崎「マネージャーとしてですが」

上条「アリサはもうあんたを信頼してる感じがするけどな。だから、こう、仲良くやっていったらいい、っていうか」

柴崎「生憎自分は護衛対象を『ビジネス』とか見ていません。契約が終わるまでの関係でしかない」

柴崎「表向き仲の良い演技をする事があっても、それだけですから」

上条「……なんか悲しいけど、そーゆーもんなのか?」

柴崎「でもなければ『黒鴉部隊』なんて入ってませんって」

上条「そか」

柴崎「だからまぁ、別に仲も良くない自分は、護衛対象の個人情報を漏らす事にも躊躇いもないですが」

上条「はい?」

柴崎「自分がアリサさんに着いてから、ワガママを言ったのは“この”一回だけですかね」

上条「“この”?ふーん、具体的にはどんな?」

柴崎「さぁ、どうでしょうか?」

――ユーロスター 個室

鳴護「……」

鳴護「……はぁ」

鳴護(まだ、ちょっと手が震えてる……)

鳴護(格好悪いなぁ、『頑張る!』って決めたばかりなのに)

鳴護「……」

鳴護(柴崎さんのお話、わかる、けど)

鳴護(……アレも、『エンデュミオン』も、うん)

鳴護(当麻君やインデックスちゃんのお陰で、あとお姉ちゃんも入るのかな?逆?)

鳴護(私が居た“せい”で、多くの人達が……)

鳴護(『奇蹟』が起きなかったら、いっぱい、うん)

鳴護「……」

鳴護(……じゃあ、『これ』も同じ事なの?)

鳴護(私が居る“せい”で、また危険に晒される人が居る、出る、かも知れない)

鳴護「……」

鳴護(けど、けどっ!『奇蹟』を起こせば!またっ!)

鳴護(私の歌で『奇蹟』を……!)

鳴護「……」

鳴護「でもそれじゃ、『奇蹟』があれば――」

鳴護「私の『歌』は関係無――」

 こん、こん

鳴護「あ、すいませーんっ!今出まーす!」

鳴護「え、英語?カンペカンペっ、えっと」

鳴護「ぷりーずうぇいとすらいりー?いっとかむずあうと、じゃすとあうとさいど?」

 こん、こん

鳴護「……つ、通じた?」 パタンッ

鳴護「……?」

鳴護「……あれ?誰も、居ない、よね?」

鳴護(気のせいかな?気のせいだよね?うんっ)

鳴護(ちょっと怖い話を聞いたから神経質になっているだけであって、全然全然?そういうんじゃないからっ!)

鳴護(ダメだなー、気分を切り替えないと)

鳴護(あたしは、あたし。そう決めたんだよ!あの日に!)

鳴護「……」

鳴護(……手を洗って……あぁ、なんか酷い顔しているかも)

鳴護(……うん!次はフランスで頑張らなくちゃいけないのに、ダメだぞアリサ!)

鳴護(あたしの歌を楽しみに来てくれる人が居るんだから、しっかりしないと!)

鳴護(私の『奇蹟』じゃなく――)

 キュ、キュッ

鳴護「……?」

鳴護(蛇口ひねっても水が、出ない?あれ?日本と違うのかな?)

鳴護(チップとか必要なの?……あ、お財布柴崎さんに預けたままだった)

鳴護(どうしよっか……あ、お守りの中に少し入ってたような?何かあったら大使館行けるよう――)

 ごぼっ、ごぼごぼごぼごぼごぼごぼっ

鳴護「な、何、これ……?隧道から、濁った――」

鳴護「粘液、が」

鳴護「タール、だっけ?真っ黒で、ドロドロとした」

 くぷっ、ぷぷぷぷぷぷっ

鳴護「葉っぱが浮んで、来て……?え、えぇ?」

鳴護「葉っぱじゃない!赤くて、違う!葉っぱじゃないよ!」

鳴護「人の唇が!タールの中に!泡だっ――」



「――てけり・り――」

――同時刻

男「『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』」

男「『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』」

少年「『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』」

少年「『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』」

くぐもった声「『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』」

くぐもった声「『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

?「『……』」

男「あぁお前は無理すんな。まだ早い」

男「体がなっちゃいねぇんだから、しようとしたって無理だろうよ」

男「張り切んなくても俺がすっから……えっと、メモメモ」

男二「兄さん、もうちょっと空気読もう?そこは別に黙って読んだ方が格好つくよね?」

男二「てかこの痛々しい詩書いたの兄さんだよね?書いた本人がド忘れしてるってどういう事?」

男「あーウルサイウルサイ。いいんだよ、こーゆーのは適当にフカシときゃ」

男「知ってるか?嘘ってのはどんなそれっぽい嘘を吐くよりも、たくさんのホントの中に紛れ込ませた方がすんなり通る」

男「逆も然り。ホントを嘘ばっかりの福袋に入れとけば、スルーされるってシロモンだぁな」

男「んじゃ続き……『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』」

男「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

男「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん』」

男「『――我ら“濁音協会(S.L.N.)”の名の下に』、ってか」

男「……ま、そいじゃ行くとすっかね」

男「このクソッタレな世界に、『終焉(おわり)』を」

少年「……おーにさん、こっちらー」

少年「てっのなる、ほうへー……」

以上は今週の投下は終了。お付き合い頂いた方に感謝を

で、ご覧になっている方に聞きたいんですが
というか、指摘されるまで気がつかなかったのですけど、レスは返した方がいいんでしょうか?
基本ネトカフェ週一三時間でやりくりしなければいけないので、全レスは不可能なんですけど
(周回遅れではまぁなんとか?)

あともしかして潜在的にROMってる人って結構いらっしゃいます?
レス数が『アイテム』から徐々に減ってきているので、飽きられたんだな、と判断していたのですが、
HPのカウンター見る限り増えてきている気がしないでも?

人格批判は論外ですが、銀魂スレのノリでも構いませんので、何か一言残して頂ければ嬉しいです

>>48
……すいません、いきなり専門書から入るのも厳しいでしょうから。そうですね

【マンガ】
足洗邸の住人たち。(いつかSS書く予定)
大復活祭
√3= (ひとなみにおごれやおなご)
うしおととら
朝霧の巫女
物の怪らんちき戦争
HAUNTEDじゃんくしょん

【マンガ・ギャグ主体】
怪異いかさま博覧亭
奇異太郎少年の妖怪絵日記

【マンガ・グロあり。キツめ】
当て屋の椿
宗像教授伝奇考(※ただし推理はギャグ)
木島日記(※同上)

【個人的にオススメ。ネパール風の架空国家を舞台にした伝奇アクション】
カミヤドリ
神宿りのナギ(※カミヤドリの続編)

【ラノベ】
あなたの街の都市伝鬼!
ほうかご百物語
神様のおきにいり
もふもふっ珠枝さま(※神様のおきにいりの続編)
Missing(※ラノベだけどかなりキツい)
断章のグリム(※同上。この中では一番エグい)

【小説・図説】
京極夏彦・百鬼夜行シリーズ(※小説以外、特に映像化されたものは絶対に見ない事)
多田克己・百鬼解読

【別格・資料としての価値は高い。特に後者は色々あって”触れない”事が多々ある】
水木しげるの遠野物語
水木しげるの憑物百怪(※カラー版は上下巻)

※化物語みたいな「妖怪は出てくるけど文化人類・民俗学とはあまり関係無い」のは外してあります

乙。アリサさんの歌か奇跡かってのはちょいっと混同しちまってる気がしますな。
どういう答えを出して折り合いをつけるか期待。

おどろおどろしい作品群だけど、解釈次第ではって思うわ。

乙!

>>164
あざっす!参考にさせて頂きます!

――ユーロスター 客室

上条「少し遅いけど、大丈夫かな……?」

柴崎「護衛ポイント減点1。ボディガードは可能な限り護衛対象にストレスを与えない」

上条「気を遣って護衛失敗の方が怖いだろ」

柴崎「紳士ポイント減点10。アリサさんには内緒ですけど、ウチのスタッフが固めていますから」

上条「どっちにしろ減点なのな」

柴崎「紳士であるのと護衛は両立しがたいですから。ベタベタくっついていれば嫌われて当然」

上条「あの映画結構好きだったのに」

柴崎「政府系要人であれば人並み以上の分別は持っていますが、私的なSPはもう最悪ですね」

柴崎「大抵周囲をイエスマンで固めているので、こっちの意見を聞いてくれない」

上条「ヒロインが最初だだこねてたっけか」

柴崎「『彼女と逢うから二時間外してくれないか?』」と言われた事すらありますよ」

上条「すっげーなソイツ!……あぁまぁ男として気持ちは分からないでも……?」

柴崎「ま、結局その恋人に刺されるんですけどね。未遂で終わらせましたが」

上条「泥沼だなぁ……あれ?どうやって防いだの?外してたんだよね、席?」

柴崎「『席を外すとは言ったが、本当に外すとは言ってない』」

上条「……うんまぁ、うんっ!働くって難しいですよねっ!」

上条「つーかさ思ったんだけど、こういうのって同性のSPが着くんじゃないの?」

上条「今の話――は、流石に参考にならないけど、それ以外じゃ同性同士の方がやりやすくはあるよな?」

柴崎「それは、正しくもあり間違ってもいますね」

上条「どっちだよ」

柴崎「アイドルの護衛兼マネージャーとしては、少々強面の方が『諦めて』くれます。相手――というか、仮想敵はファンや同業者ですからね」

柴崎「アリサさんは良くも悪くも目立つので、まぁ色々と」

上条「あんま聞きたくないけど、やっぱそういうのってあんの?」

柴崎「全てお断りしているので何とも。でもどこかのグループの社長さんが、脱法ドラッグを使用しても報道されないなど、『お察し下さい』です」

上条「……うっわー、芸能界怖いわー」

柴崎「覚醒剤からの復帰は当たり前、詐欺も脱税もよくある話。真っ当な親御さんだったら止めるでしょうな」

柴崎「ファンを自称する方だって、やってる事はストーカー紛い方もいます」

柴崎「住所特定から彼氏彼女の有無まで。いやー、アイドルと恋愛するのは大変そうですよねー?」

上条「そこでどうしてニヤニヤしながら俺を見るの?」

柴崎「ともあれ『そういうの』には、堅物そうな年上のマネージャーが睨みを利かせると」

上条「超心配性なお姉ちゃんもいるしなー」

柴崎「オフレコでいいですか?ここは『絶対』盗聴されていませんから」

上条「内容によるけど、はい?」

柴崎「リーダーの溺愛っぷりも、実はあれ寂しさの裏返しだと思うんですよね」

上条「……あぁそっか、シャットアウラも、だったよな」

柴崎「最初は徹底して拒絶していたのも、『身内に対する接し方を知らない』だけなのかも知れませんし」

上条「つー事はあれか?デカすぎる愛情が『エンデュミオン落とし』に繋がったって?」

上条「つーかさつーかさ、俺今一納得行ってなかったんだけど、レディリーは『死にたかった』んだろ?」

柴崎「3年前の『88の奇蹟』が、まさにそうらしいですが。リーダーの敵でもあります」

上条「シャットアウラは妨害するためにアリサを襲った、けどアリサは『奇蹟』――つまり、他の人達を助けるために歌った、と」

柴崎「でしたね」

上条「……シャットアウラ、妨害した意味なくね?」

柴崎「――はい、と言う訳でもう一つの理由、『同性のSPが着いた方が良いのかどうか』についての質問に戻りますが!」

上条「おいテメー話を逸らすな?割と核心的な話してんだよ!」

柴崎「タレントの護衛と要人警護はまた別なんですよ。カテゴリ的に」

上条「……そうなのか?」

柴崎「そうですね、例えば上条さんが誰かを暗殺しようと思いました」

柴崎「ライ麦畑で捕まえる本を読んだり、丸山ワクチンで一発逆転を狙ったり、動機はさておくとして」

柴崎「ちなみに丸山ワクチンは、同じ成分の薬が免疫増加薬として認可されています。陰謀論を言うと笑われますから」

上条「あんまそういう一発逆転には……うんまぁ、アレだけど!結構薄氷渡っては来たけどさ!」

柴崎「大抵『そういう人』は『確固とした信念』を持っていて――」

柴崎「――『あ、護衛の人強そうだから、今日はやめておこっかな?』とはなりません」

柴崎「ていうか、その程度の正気が残っていれば、普通はしませんからね。襲撃自体」

上条「まぁな。確かに言われてみればそうだろうけど」

柴崎「だから要人警護は能力優先で決まり、外見はあまり斟酌されません」

上条「言われてみればイギリスの女王さんに会った時も、厳つい野郎より女――の子、の方が多かった気がする」

柴崎「何故今『子』をつけたんです?」

上条「深い意味は無いけどなっ!別に18歳なら女の子っつってもいいじゃないっ!」

柴崎「上条さんの妙なコネクションに興味はあるんですが、蛇が出て来そうなので突きません。怖いので」

上条「……俺は別に一般人なんだけどね。特別な力を持ってる訳じゃねぇし」

柴崎「それで最初の質問、『アリサの護衛には同性の方がフラグ立てられたんじゃね?』の答えなんですが」

柴崎「一説には百合厨だとの噂がある上条の疑問にお答えしますと」

上条「聞いてないですよね?一っ言も裏の意味はねぇからな?」

柴崎「自分が護衛をするのはフランスまでです。コンサートが終わってからはリーダーとの旅になるでしょうね」

上条「やっぱシャットアウラか。いやでも柴崎さん、一緒に来ればいいんじゃねぇの?」

柴崎「野暮用が少しだけ」

上条「え、いいじゃん。行こうぜ?つーか女の子二人に男一人だとキツい」

柴崎「バトー・ラヴォワールに行きたいんですよ」

上条「どこか分からないけど観光ですよね?」

柴崎「貧しい時代のピカソやモディリアーニが住んでいた安アパートです。日本で言えばトキワ荘ですか」

上条「画家さんと漫画家さんはジャンル違いじゃ?」

柴崎「知り合いがマリー・ローランサンの絵を見たがっていまして」

上条「やっぱ観光じゃねぇか。意外にシャットアウラへの忠誠心低いな!」

コォォォォォォォォォッ……

上条「トンネルへ入った……あれ?耳がツーンってしないな?」

柴崎「今居るのが英仏海峡トンネルですね。ユーロスターは機密性が高いので、そうそう気圧が変わりませんし」

柴崎「先程の駅がアシュフォードなので、次のカレー・フレタンまで約25分」

上条「意外に早いのな?」

柴崎「トンネルか、えぇっと……37.9km。ユーロスターは最大時速300kmなので」 ピッピッ

上条「普通列車とは違うか。りょーかいりょーかい」

柴崎「去年のテロから復旧も早かったですし――って、どうしました?何故遠くを見つめるので?」

上条「……いやぁ世界って狭いよなって」

柴崎「あぁそういえば上条さん、ピコピコに詳しいですか?」

上条「言い方が古すぎる!?今時じーちゃんばーちゃんだって普通に使うだろ!」

柴崎「スマフォのアプリで、常駐設定が難しくて。見て貰えませんかね?」

上条「いや、俺はガラケーだし。あんまアプリも入れてないって言うか」

柴崎「そう言わずに、どうか、ね?見るだけでいいですから」

上条「いいけど。出来れば知ってる人に頼んだ方が良いと思うけどな……?」 スッ

上条(うわこれ最新型っぽい。携帯っつーかハンディパソコンみたいだ)

上条(……いや、逆にPCと同じだったらイケるかも?仕様は共通してんだろうし)

上条(どれどれ、タスクマネージャ開い――ありゃ?メモ帳が開いてる?)

メモ帳『盗聴の可能性があるので、このままケータイを直すフリをして読み進めろ』

柴崎「どうです?分かりそうですか?」

上条「……うん?あぁはい、何とか見れそう、かも」

上条(……喰えない、っていうか。伊達にシャットアウラから信頼されてる訳じゃねぇのな)

上条(会話に出てた『アイドルの護衛としてたまたま選ばれた』、のが柴崎さんじゃなくってだ)

上条(外見が厳ついとか、堅物だとか、そーゆーのは全てフェイク)

上条(『鳴護アリサの実力ある護衛者』として、性別関係無く任命されたのが柴崎さんって事か)

上条(今にして思えば『これはオフレコで』発言も、盗聴してるかも知れない相手に、『油断してますよ』って過信させるため……)

上条(……そか。なんかフランクに話してくると思ったら)

上条(土御門に似てんのな。得体の知れない胡散臭さと、時々覗かせるクレバーさっつーか)

柴崎「良かったー。中々相談しにくくて大変だったんですよね」

メモ帳『トンネルへ入って外部からの光学的な盗撮は出来なくなった。ただし今までの会話を全て盗聴されている可能性は捨てきれない』

メモ帳『従って以下、重要な事を“これ”で伝えるので遵守されたし』

上条「やるだけやってみますけど、出来るかどうかは、はい」

柴崎「結構ですよ、それで」

メモ帳『第一に優先すべきなのは「鳴護アリサの安全」』

メモ帳『安易なヒューマニズムに負けて、命を粗末にしない事――』

メモ帳『――例えそれが鳴護アリサから恨まれる事になっても』

上条(……あぁ、人質云々はこの話に繋げたかったのかよ)

柴崎「どうしました?あー、そのアプリ入れようか迷ったんですけどね」

上条「……いや、正解だと思うけど。あんまりオススメは出来ないっていうか」

柴崎「少しぐらい重くたって後々後悔しない方が、と思いましてね」

メモ帳『基本的に先方車両と後方車両へ「黒鴉」を配置しているため、柴崎に何かあったらどちらか、出来れば先頭へ向かえ』

メモ帳『そして速やかに脱出を計られたし。それが最善手』

上条「……悪いんだけど、ここちょっとおかしくねぇかな?ここなんだけどさ」

上条「どーにも納得行かないんだけどさ」

柴崎「そうでしょうかね?あぁ、もう少し下までスクロールさせないとヘルプは出て来ませんよ」

メモ帳『理由は二つ。彼らの目的は「鳴護アリサ」である』

メモ帳『従って「鳴護アリサが逃走した場合、彼らは追跡へ入る」ので、ここで起きる被害を最小限に留められる』

上条「……」

柴崎「どうですか?」

上条「――んなわけ」

柴崎「はい?」

上条「そんなわけねぇだろうがよ!どこをどう考えたら――」」

柴崎「でしょうか、自分もそれはないと思ったんですが」

柴崎「取り敢えず、見るだけは見て下さい。見るだけでいいですから」

上条「……」

メモ帳『理由二つめ。この世界には「意味があれば人を殺す奴」と「意味が無くても人を殺す奴」の、二つに分けられる』

メモ帳『大抵は前者、しかし決して後者も少なくはない』

メモ帳『恐らく君は「鳴護アリサが逃げた後、野放しになった彼らが腹いせと見せしめを兼ねてするであろう事」を危惧しているんだろうが」

メモ帳『それはきっと「鳴護アリサという理由がなくても連中はする」』

メモ帳『たまたま理由が「鳴護アリサだっただけ」に過ぎない』

メモ帳『もし仮に「居残った人々を助けるため、鳴護アリサや君が残った」としよう』

メモ帳『彼らは嬉々として関係無い人間を次々巻き込むだろう』

メモ帳『そういう「人質」が君達に有効だと知ってしまったならば』

上条「……そういうことかよ……!」

上条(だから俺とアリサへ人質の話なんかしてたのか!……いや、違う、そうじゃない)

上条(『俺に非情な決断をさせるため』、かよ!クソッタレ!)

メモ帳『逆に「人質が通用しない」と証明してしまえば悲劇は起きない』

メモ帳『徒に話を大きくして、他の組織、最悪欧州連合に付け狙われるのは宜しくないからだ』

メモ帳『だから君達は逃げなければならない』

上条「……ちょっと、いいですかね?」

柴崎「はい」

上条「正直、よく分からないっていうか、理解したくないっていうか」

柴崎「分かりませんか?でしたら仕方が無いかも知りませんね」

上条「俺だったら別のアプリ入れますよ、きっと」

上条「最善はないかもしれない。だからって次善を探さないで良い訳ないからな」

上条(最悪、アリサの安全確保を『黒鴉部隊』にやって貰ってだ)

上条(他の護衛の人に任せた後で、残った連中をぶっ飛ばす!そうすりゃ問題はねぇよな)

上条「――そこは、譲りません」

柴崎「まぁ取り敢えずは暫く保留でいいかも知れま――おや、これ何でしょうね?」

上条「えっと……?」

上条(まだ下に……?)

メモ帳『多分君は「鳴護アリサの安全を確保しておいて、自分は残る」という発想へ至っているだろう』

上条(……笑っちまうぐらい読まれてんじゃねぇか、俺)

メモ帳『リーダーからおおよその性格を聞いただけなので、推測に過ぎないが気持ちは理解出来る』

メモ帳『自分も理想論と感情論を天秤にかけた上、同じ行動を取る可能性はある』

上条(あ、なんだ。同じじゃんか)

メモ帳『だが「今回は相手が悪い」んだ』

メモ帳『学園都市の協力機関からの情報だが、彼らは精神汚染と肉体改造のエキスパートらしい』

メモ帳『よって「君が黒鴉部隊だと信じていても、それが本物であるとは限らない」と』

上条(……なに?)

メモ帳『外見は光学的、または視覚的に化ける事が可能であるし』

上条(海原とかそうだな。その可能性は充分か)

メモ帳『肉体が同じでも精神が全く別であるのも可能だそうだ』

メモ帳『だから君が「安全な相手だと思った鳴護アリサを引き渡したら、実は敵だった」も、充分に有り得る』

メモ帳『だからもし、君が柴崎抜きで他の「黒鴉」に接触した場合、まず隊員の名前を聞いて欲しい』

メモ帳『そしてどんな答えであっても「シャットアウラさんに次ぐ能力の、と柴崎が褒めていた」と言え』

メモ帳『その反応を肯定するのであれば敵。決して鳴護アリサの側を離れてはいけない』

メモ帳『しかし同時に君達だけでは危険なので、他の隊員が駆けつけるまでは味方のフリをして敵の指示に従う事』

メモ帳『向こうも無茶な要求はしないだろうから、信用したフリをさせて油断させるように』

上条「一応聞くけど、ここはなんで?」

柴崎「……えっと、ですね」 トントントン

上条(キータッチ超早いな)

メモ帳『隊員は “さん”や名前付けはしない。普段は「リーダー」「サブリーダー」、コードネームで、それ以外の敬称はつけない』

メモ帳『敬称は邪魔だから、公の場所でも無い限り呼んでいる人間は居ない』

上条「……成程。分かった、うんまぁ、全部は納得してないけどな」

上条「ここを、こうすれば……あぁっと、落ち着く所に、落ち着く、よな」

柴崎「別に全部綺禮にしなくても大丈夫ですよ。なんでしたら騙し騙しやってきますから」

上条「……だな。優先順位は分かるけど」

上条(一番はアリサ。向こうさんが狙ってるのもそうだ)

上条(……けど、いざ人質を取られたとして――)

上条(――割り切れねぇよな。自分達だけ逃げろってのは)

柴崎「答えがある問題じゃないですしね。問題があって、解決方法が一つとは限らない」

上条「最善、良かれと思ってやったとしても」

柴崎「問題が発生したとして、原因がOSや他のブログラムとの競合とか複数であったりね」

上条(に、しても怖いおっさんだな。つーか今一頼りないのも演技か)

ガッタン、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条「……地震?」

上条(一度軽く列車全体が揺れ、妙な音が断続的に響く)

上条(確か……おっきな地震があったら、新幹線は止まるんだよな?)

上条(けど急ブレーキでかかるような圧力はないし……なんだろ?)

柴崎「『――はい。今は――えぇ』」

上条(片手を耳に当てて誰かと話している柴崎さん。その相手は見えない人、な訳はないか)

上条(多分通信機なんだろうけど、骨伝道とか下手すれば『内側』に何か仕込んでいるんだろう)

上条「……?」

上条(窓の外は相変わらず真っ暗で、時折光って見えるのはトンネルに設置されている非常灯ぐらい……)

上条(何となく数えたくなってくるよな?一、二、三……)

上条(四、五、六、七八九……)

上条(おかしくねぇかな?なんか、非常灯の間隔が狭くなってるっつーか)

柴崎「『ではそちらは後から――はい、それで宜しくお願いします。では』」 ピッ

柴崎「「えっと、ですね?上条さん、実は」

上条「あーもうなんかトラブルの予感しかしねぇんだけど!」

上条「アレだよな?『良い話と悪い話、どっちから聞きたい?』的な展開になるんだよな?」

上条「分かっちゃったもの!なんかこうそーゆー雰囲気だし!さっきから列車もご機嫌で揺れてますしねっ!」

柴崎「凄く悪い話ととても悪い話、どっちが良いですか?」

上条「どっち選んでも行き詰まりですよねっ!……いやいや、んなボケかましてる訳じゃなくてだ」

柴崎「それじゃ移動しながら話しましょうか。あぁアリサさんの荷物は」

上条「俺が持つよ。手、塞がっちゃうだろ」

柴崎「すいませ――」

『……!』

『――、――!』

『……』

上条(通路側から人の声……?争ってる、っていうよりも)

上条(たくさんの人が、騒いでる、か?)

――ユーロスターS 個室

ガリ、ガリガリガリガリガリガリッ!

 得体の知れない音が――正直想像したくもない鉤爪の音が立てこもっているドアを削る。

 ドリルで穴を開けるのではなく、カッター一で切りつけるのとも違う。
 鉤爪――下手をタダの爪でステンレスの扉を絶え間なく傷つけている。

 実際の所、それはあまりにも途方もない行為であり、同時に意味を成してなどいない。
 隠れた個室の上下は開いており、また適当な膂力さえ持っていればドア一枚を引き剥がした方が早い。

 だがそんな『常識』が通じるのは普通の、それも人間の貌(かたち)をした相手だけだろう。

 伸縮自在の黒い粘液の塊にそんなもものはない。
 ただ押し潰し、磨り潰し、同化する。
 そこに悪意はなく、ましてや善意もない。

 あるとすれば――『欲』だけだ。
 この世界に生命という概念が産み落とされてから、常に存在し続ける『欲』。
 万物を突き動かす衝動。

 殺す・盗む・奪う、などといった甘ったるい欲求では無い。
 ただ、喰う。それだけの行為。

 映画に於いてその黎明期から交わされる議論がある。「自分であればこうする」、「もっと上手く立ち回れる筈だ」、そう多くは言うだろう。
 時としてショッピングモールー籠城したり、サメの出る海から逃げ出したり、極限の基地への赴任を断ったりするかも知れない。
 フィクションを眺める第三者は、えてして物語が境界を超えるであろう事を夢見る。

 だが――しかし。
 こうやって『境界』を乗り越えてきた相手には、呆然と立ち尽くす。またはパニックに陥って泣き叫ぶ。
 現実を現実と受け入れられず、無闇矢鱈にわめき散らすのが精々だろう。

(怖い!怖い!怖い――)

 護衛からは「広くて人の多い所へ逃げろ」と何度も念を押されにも関わらず、こうして個室に逃げ込むしか出来なかったのが証明している。
 それも反射的だったのかも知れない。まだ十代の少女であれば、とっさに体が動いただけで僥倖と呼べるだろう。

 けれど幸運はそう続かない。逃げた先には映画のような窓は無く、あったとしても最大時速300kmを誇る電車の中。悲惨な結末を迎えるだけ。

 だからといって無謀に飛び出せば、それ以上に後悔する事も間違いない。

 完全に『詰んだ』状況。普通であればそのまま発狂する――比喩では無く、常軌を逸して身罷るのか精々。
 残された時間を神に祈るか、自身の運の無さを呪うか、取れる選択肢は少ないだろう。

 それは鳴護アリサでも例外たり得なかった。
 あの『奇蹟』で大勢を救った人間ですらも。

(当麻君!当麻君!当麻君!)

 両手を胸の前で組み、神には祈らず――彼女にとっては――人の身へ一心に祈る。
 何回、何十回、何百回繰り返したのかも、分からないまま……ふと、鳴護は気づいてしまう。

 ドアを掻き毟る醜悪な音が、粘液を撒き散らす恐ろしい音が、もう聞こえなくなっている事に。

(……?)

 長く――永く感じられたのは恐怖に戦いていたせいか?それとも現実に過ぎてしまっていたのか?
 安堵の溜息をこぼす、その一瞬に。

「……アり、さ?」

 自身を呼ぶ声がする。

「当麻君っ!?当麻君なのっ!?」

 祈りが通じた!そう歓喜したのもつかの間であり。

「良かったぁ、来てくれたん――」

「そう、ダ……俺が、カミジョウ。ゴボッ」

 声は丁度人の背丈の中程、腰辺りから響き、

「めい、ゴ……たすけに、キた」

台詞は人によく似た醜悪なものであった。台詞の単語自体は。

 大雨の日に下水から吹き出す雨水に混ざった気泡。
 深い海の中から湧き出る不気味な泡。

 到底人の発音とは似ても似つかない。

「メイゴ、めいご、あ、リサ……ゴボゴボッ」

 絶望するのは、まだ早い。このドアの直ぐ外にいる――ある『何か』は、

「めいご。おい、で?」

「めいごめいご、呼ばれてる、かえろ?」

「たいま、たいま仕事……ゴボゴボゴボッ」

『口々』に、そう囃し立ててきた。
 一つであったモノが、二つ、二つであったモノが、三つ。

 もしくは一つであったモノに、多数の口を生やしていない限りは。

「……なんで、なんであたしなのっ!?」

「私なんか!あたしなんかっ!……どうしてっ!?」

 狂気に追いやられながらも、最後の理性を動員させて鳴護は叫んだ。
 ……いや、ただの現実逃避なのかも知れない。

 常識的に考えて、ここで悪党が口を滑らす必然性は無い。

「ムスメ、たいどう……おらとりお」

「アリ、さ。かみを産む」

「さるんは……ゴボッ、お前をひつヨウとして、る」

「分かんない!分かんないよ!?」

「そんなにあたしの『奇蹟』が欲しいんだったら――」

 ゴボ、ゴボゴボゴボッ。鳴護の台詞を遮るように――実際にそういう意図があったのかは不明だが――泡の音が一層大きくなる。
 腰辺りで響いていたのが、くぅっと伸び。

 もう、扉の上の隙間に届かんばかりに。

「……ゴボッ……キセキ、ひつよう、ない」

「――え?」

 意外とまともな返答が返ってきた。それはただの偶然なのかも知れないが。

「いきもの、いきる、すべて、キセキ」

「おかしなトコ、ろ、ない」

「きせき、みんな……ゴボ、もって、ル」

「……え?それって一体――」

 その問いに答えは無く。
 不気味な水溜まりの、奇妙な水音は扉を越え――。

「――何、やってんだテメェェぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

パキィィィィィン…………。

――ユーロスターS 女子トイレ

上条「アリサっ!?アリサ大丈夫か!?」

鳴護「当麻、君……!?本当に!?ニセモノじゃ無くって!?」

上条「落ち着け、なっ?俺も柴崎さんも来て――どわっ!?」 ガシッ

鳴護「……」

上条「……悪い。怖い思いさせちまった」

鳴護「……ゴメン。強くならなきゃ、って」

上条「それは……無理してまで突っ張る必要はないって」

上条「殴り合わない戦い方だって、ある。アリサはそっちでやってくれれば」

上条「こっちは俺が何とかするから、別の方で気合い入れればいいさ」

鳴護「……あたしは、強くない、よ……」

上条「……アリサ?」

柴崎「――はい、どうも。そこまでです。続きは後で宜しくお願いします」 ズズッ

上条「あ、すいませんっ!?……って、それ」

上条(柴崎さんが両手で引きずっているのは大の男二人。意識がない、か?)

上条(あまり広くない女子トイレの手洗い場に、総勢5人が集まって……まぁ、狭い)

アナウンス『……!――――!――!』

上条(超早口の車内放送が流れ、ザワザワとした気配が広がって――)

上条(――来ない。通路の方を走って行く足音が時々聞こえるだけ、だ)

……ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条(妙なギシギシ音は相変わらず。これも意味が分からないよな)

上条(パニックになってもおかしくない内容じゃなかったのか?)

柴崎「『後方車両に火事があったみたいだから、前方車両へ非難しろ』、だそうですね」

上条「マジですかっ!?」

柴崎「アナウンスの内容は、ですけど。現実はまた別です。ちょっと待ってて下さい、今縛っちゃいますから」

上条「……俺達も逃げた方がいいんじゃ……?てか、手際いいですね」

上条(プラスチックのコード束ねバンド?あれの超太い奴で男達の関節を固定し、目隠しをする)

上条(これをするって事は敵だったって事――だけど、一体どうやって倒したんだ?)

上条(俺とアリサが話してたのって10秒ぐらいだってのに)

柴崎「今、他の隊員からも情報が上がっていますが、火事が起きたのではありません」

柴崎「結論から言うと、後方車両が切り離されました」

鳴護「切りっ!?」

上条「連結している所から、ですよね?」

鳴護「……あぁそっか、そうだよね」

柴崎「アリサさん、正解」

鳴護「や、やったねっ……?」

上条「喜んでる場合かっ!?……待て待て!内容が剣呑すぎるだろ!?」

柴崎「落ち着いて下さい。慌てて騒いで取り乱して、事態が解決するのであれば別ですけど」

柴崎「子供を通り越して狂人みたいに、他人から笑われているのも理解出来ないのはよして下さいね」

上条(と、言いつつも柴崎さんは男二人の身体検査をしている……礼状ないんだけどなぁ)

鳴護「逃げなくて、いいんですか?」

柴崎「その前に現状説明を幾つか。後々必要になるでしょうから」

上条(と言ってさっき見たモバイルを取り出す)

柴崎「このユーロスターSは前後に機関車2台、客車が18台の計20台から構成されています」

【イギリス←→フランス】
■□□□□-□□※□□-□□□□□-□◇◇◇■

■ 機関車
□ 客車
◇ シャトルサービス

※ 現在位置

上条「シャトルサービスって何だ?」

柴崎「車やバイクが詰んである車両です。まぁフェリーとかで自家用車やトラックも運ぶじゃないですか?それと同じ」

鳴護「じゃこっちの“-”って記号は?」

柴崎「連結器ですね。緊急時や災害時には乗客を移動させた上で、後続の車両を切り離せるようになっています」

上条「今、俺達はフランス行きだから、一、二……13両目に居る?」

柴崎「機関車はカウントされないので12両目です――で、今航行しているのは、こんな感じ」

□※□□-□□□□□-□◇◇◇■

上条「少なくなって、る?」

柴崎「後方車両で何人か暴れだし、突然客車と客車の間をぶった斬ったんだそうで」

柴崎「連結器のない所を、こうバッサリと」

上条「人間業じゃ――うん、まぁ良くありますよね?別に珍しくはないですよね、はい」

鳴護「えっと……あ、あははー」

柴崎「お二人がどちらのリーダーを思い出したのかはさておくとして、ユーロスターの乗務員はテロだと判断」

柴崎「火災を理由に乗客の速やかな避難を進めています。賢明な判断ですな」

鳴護「それで私達はどうすればいいんでしょうか?」

上条「てか悠長に話してていいのか、って事なんだけど」

柴崎「さっき上条さんに『お願い』した通り、先頭車両――シャトルサービスで待機している隊員と合流します」

上条「いやだから、のんびりして場合じゃねぇだろって話なんだが」

柴崎「はい護衛ポイント減点5」

柴崎「パニックになった乗客に挟まれて、すし詰めになった挙げ句、ドサクサで刺されて終りですね」

上条「……う」

柴崎「あちらの強みは一般人と構成員の境が分からない事ですから」

柴崎「現にこっちの二人は陽動狙いだったようで、アリサさんを助けた後に――と、するつもりだったんでしょうが」

柴崎「いい傾向ですね。向こうはアリサさんを無傷かそれに近い状態で欲しており、護衛排除の優先順位を高めています」

鳴護「あのー?それって私が脅かされて、二人が引っ張り出されるって話です、よね?」

柴崎「アリサさんを確保しても、ほぼ密室状態であるユーロスターSから逃走は困難」

柴崎「ならば囮にしてでも我々を先に始末、と」

上条「それを分かってて襲撃した奴ら瞬殺するアンタも結構怖いんだけどな」

柴崎「人聞きの悪い。殺していませんし」

柴崎「しかもこの二人、雇われたのではなく『あちら』関係なようですよ、ほら」

上条(男達の袖をめくると――)

上条「ウロコ、だよな?」

柴崎「ナイフは勿論、拳銃ぐらいは効果ないでしょうね。上条さん、タッチ」

上条「お、おぅ?」 ナデナデ

鳴護「……あたし?なんであたしの髪撫でてるの?」

上条「いやなんとなく?」

柴崎「後でしなさい、後で。てかこっちの二人に決まってるでしょうに」

……

上条「あ、あれ?能力じゃねぇのか?」

……パキィィィィン……

鳴護「無くなった、よね。それとも解除されたのかなぁ?」

柴崎「話に聞いていたよりも遅いのは気になりますが、もう一人も宜しく。意味は無いと思いますけど」

上条「去年のアレと同じで操られていたんじゃ?」

柴崎「こちらさん、身元を証明するものが何もないんですよ。財布、携帯電話、免許証とか」

上条「どう見てもカタギじゃねぇよな」

鳴護「日本だったら、まぁ『バッグの中に忘れてきちゃった』も、あるかもだけど。こっちじゃ流石に、うん」

柴崎「代わりに持ってるのがSIG――オートマチックの拳銃と予備マガジンが幾つか」

柴崎「……ま、取り敢えず縛って捨てておきましょうか」

上条(っていう割に首をキュッてしてるけど……うん、俺は何も見てない見てない)

上条「……俺、銃持ってた方がいいのか?」

柴崎「絶対に止めて下さい。下手に撃ってアリサさんに当たるのがオチです」

柴崎「訓練された人間以外が持つべきではないですし、逆に銃を持っていると優先的に攻撃されますから危険です」

柴崎「どうしても、と言うのであれば落ち着いた後に自分かリーダーが教えますから」

上条「……分かった」

鳴護「あの、さっきから通路の方、人が走ってるんですけど、私達も急がなくていいんですか?」

柴崎「現時点で分かっている事。それは『向こうはユーロトンネルから脱出する方法がない』と」

柴崎「アリサさん一人を攫い、さっさと逃走出来たのに、しなかった」

上条「それどころか俺達の排除優先させた、ってのは」

柴崎「はい、正攻法でしか出られないんでしょうね。イギリス・フランス側のどちらかしか」

柴崎「……ここだけの話、何かトラブルが発生した場合、後方車両の隊員には『切り離せ』と打ち合わせはしていたんですけどね」

鳴護「何でですか?それだと逃げ道を塞いでしまうんじゃ?」

柴崎「後続車両を切り離すのは、『背後から別の車両で急襲する』手段を防ぐためです」

上条「思ったんだけど、反対車線?からちょっかいかけられたら、ヤバいんじゃないのか?」

柴崎「ユーロトンネル、正式名称英仏海峡トンネルは高さ8mぐらいのトンネルが二本、そしてその中間にメンテナンス用のトンネルが掘られています」

柴崎「それぞれのトンネルとの間には、連結用の通路が掘られていますけどね。巨大な車両が通れる幅はない」

鳴護「……わかりました。それじゃ西部劇の列車強盗みたいに、他の車両が乗り付けてくるのはないんですね?」

柴崎「『真っ当な手段』では前か後ろから、ですね」

柴崎「既に切り離された『黒鴉部隊』には、何者も通すなという命令を与えていますし……ふむ?」

上条「なんか、おかしいよな?」

鳴護「なんか、ってなに?」

上条「連中のやり方がさ。最初、後続を切り離したって聞いた時は、こっちの逃げ場を絶つ、みたいな作戦だと思ったのに」

上条「その割にはアリサ確保にも手間取るし……バタバタしてる?行き当たりばったり?」

柴崎「そもそも、で言えばアリサさんにコッソリ張り付いている筈の他の隊員も居ない」

上条「そういや、そういう話だったよな」

鳴護「あのー?あたしそれ初耳なんですけどー?」

柴崎「すいません嘘でした」

鳴護「いやあの、出来れば事前に言って欲しかったような、はい」

柴崎「防犯ブザー型の発信器持っていったのに、鳴らさないアリサさんもどうかと思いますが」

鳴護「う」

柴崎「過大な安心は慢心に繋がりますからね。自分達とあなたはお友達でも、ましてや仲間でもありません」

柴崎「それがあなた方の安全に繋がるのであれば、これからも伏せるべき情報は伏せますし、嘘も吐きますよ」

鳴護「……はい」

上条「柴崎さん、必要なのと嘘はまた別だと思うけど」

柴崎「とにかく。手練れ達、とまでは言いませんが、少なくとも奇襲程度でどうにかなるような人間達ではな――」

上条「どったの……?」

ゴリゴリ、ゴリパキュゴリゴリゴリゴリッ

鳴護「――っ!」

柴崎「……上条さん?ゆっくりでいいですから、そのままゆっくり振り向いて下さいね?」 ジリジリ

上条「待ってよ!?何で二人とも俺の後ろを見て顔引きつらせてんの!?何?何が居んだよ!?」

柴崎「いやそれは、はい。見た方が早いと。ぶっちゃけさっさと見ないとそのまま溶か――いえなんでもないです」

上条「言っちゃってるよ!?『溶かす』以外に解釈のしようがねぇもの!?」

鳴護「か、かみじょー、後ろ後ろー」

上条「あぁもうアリサさんったら昨今のアイドルっぽくお笑いもイケるクチなんですかねっ!」

上条「ただ俺は個人的にもイメージは大切ですよね的な大切さ――」

?「――テケリ・リ」

上条(圧力に耐えきれず、振り向いた俺が見たものは――)

ゴリゴリパリゴリパキュパキュ

上条(たった今拘束したばかりの男二人を『喰って』いる黒い粘液だっ――)

上条「う――」 キュッ

上条(なんだ……?首が急に絞まった――糸?)

柴崎「(はい、お静かに。それ以上はお口チャックマンでゆっくり、こちらへ)」

鳴護 コクコク

上条(俺の首を柴崎さんが指差して……てか苦しいな) パキィィンッ

柴崎「(おや『暇人殺し』?)」

上条「(字、間違ってる。多分だけど、何か違う)」

鳴護「(このままゆっくり、ゆっくりー)」

パシュー、パタン

上条(ドアが閉まるその瞬間、俺ははっきりと見ないようにしてた『それ』)

上条(黒い粘液の塊が、男二人分にまで大きくなり、ハンバーグをこねるような……いや、止めよう)

上条(同情する気にはならない。けどこれは――!)

柴崎「(……上条さん、もう手遅れですから)」

上条「(分かってるよ!……あぁ、分かってるさ)」

パタン

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>170-171
ありがとうございます
>>172
少しでもお役に立てれば幸いです

――ユーロスターS 通路 移動中

柴崎「――さて、ではさっさと車両移動して切り離してしまいましょうか」

上条(そう言いつつ柴崎さんはアタッシュケースから何か――小さめのマシンガン?を取り出す)

上条(誂えたようにピッタリとはまる特注品か?)

柴崎「MP5短機関銃、サブマシンガンと言った方が分かりますかね」

柴崎「命中精度が高く、銃身も短いので振り回しに長けている」

柴崎「ちなみにこのモデルは要人警護用、アタッシュケースとセットになってるK(コッファー)シリーズです」

鳴護「いえ、あの一般人が銃器振り回すのはマズいんじゃ?」

上条「『現役アイドルのマネージャー、車内で乱射!?』的な感じだろ」

柴崎「面倒なので端折りましたが、今の自分の立場は『SP』だと言いましたよね」

柴崎「あれは『Security Police』の略――名義だけ公務員なんですよ」

上条「民間の警備会社が?」

柴崎「最新式の武装は無理だとしても、必要最低限の装備は出来るように学園都市からちょちょっと政府へ掛け合いまして」

上条「いや、必要だけどさ……いやでも、うーん?」

柴崎「……ただまぁ正直言って、気休め程度だと思いますがね、『アレ』相手だと」

上条「『アレ』を放置すんのは抵抗しかねぇんだけ――」

柴崎「では今のウチに避難しましょうか。幸い人も居なくなりましたし」

上条「聞けよ!今大事な話をしてたでしょーが!」

柴崎「『右手』でどうにかならない以上、自分達に出来る事はありませんよ」

柴崎「……最悪の最悪、前方車両も切り離してトンネル内に籠城してもいい、とは考えて居たんですが」

柴崎「『アレ』は無理です。あなたの『右手』ですら殺しきれない以上、手の打ちようがない」

上条「そもそも殺しきれなかったのかよ?手応えはあったんだけど」

鳴護「一回はバラバラになったんだよね」

上条「つーかさ、前から思ってたんだが、連中の『ウロコ』消すには一瞬じゃ無理だったよな?」

鳴護「あ、学園都市でも」

上条「そうそう。あっちは巻き込まれた方で、ハウンド?とかと一緒に何とか捕まえたんだけどさ」

柴崎「……『暗部』の始末屋も動員されていたんですか」

上条「けど今の『アレ』は文字通り『幻想殺し』が徹った――ように、見えた」

上条「何が違う?それとも同じ相手なのに、俺が変わってんのか?」

鳴護「どういう事?」

柴崎「『異能に介入する異能』、または『異能に抵抗力がある異能』ですか」

鳴護「あぁ成程、当麻君の『幻想殺し』は『異能キャンセル』だから」

鳴護「『異能キャンセルをキャンセル出来る能力』って事?」

上条「長いな」

柴崎「それも含めて現段階では何とも」

柴崎「おそらくは『あちら側』なのでしょうが、そっちのエキスパートのご助力も欲しい所です」

上条「つってもそれぞれの教会関係者に頼んでも、手を貸してくれないっぽいか……」

柴崎「どなたか居ませんかね。出来れば知識だけでもあれば」

上条「バードウェイんトコ……あぁ大きすぎるか」

鳴護「おっきい所の方が頼りやすい、よね」

上条「イギリスの魔術結社と、ガチでやりあって数十年の組織だって言えば分かるか?」

鳴護「大きすぎないかな?色々持て余す、って言うか」

柴崎「親善使節で派遣された外交官へ、国際指名手配中のテロリストを混ぜるようなもの、ですね」

鳴護「ていうか当麻君の交友関係って一体……?」

柴崎「あっちもこっちも良い顔して、引っ込みがつかなくなったんですね。分かります」

上条「人聞き悪!あっちみこっちもって!?」

鳴護「あ、良かったー、違うんだよね?」

上条「――そんな事よりも今は大切な話があるだろうっ!?」

鳴護「話の変え方が強引すぎやしないかな?」

柴崎「あー、ほら。落ち込んでるアリサさんを励ます的なアレじゃないでしょうかね、多分」

鳴護「そっかぁ、当麻君……うんっ」

上条「やめてくんない?分かってて追い込むの止めてくれないかな?」

上条「……いやマジ話。『アレ』を放置したまま行くってのは」

柴崎「上条さんと自分の能力だけでは如何とも。銃器でどうにかなる相手とも思えませんし」

鳴護「てか柴崎さん、レベル0だったんじゃ?」

柴崎「レベル2の『(ブリトヴァ)』。ほんの少量の鉱物を操れる能力です」

鳴護「半年以上の付き合いなのに、次々と新事実が出て来ますよねぇ」

柴崎「ダメですよ、アリサさん?いつも『他人を信じてはいけません』と言ってるじゃないですか」

鳴護「ご、ごめんなさい……?あれ、なんであたし怒られてるんだろ?」

上条「『釘を刺している本人も含めて』ってのは、珍しいケースだと思うぜ」

上条「……つーか声出なくなるぐらい、俺の喉を絞めてなかった?あれでほんの少し?」

柴崎「『細く』と『絡む』ぐらいしか能が無いので。黒い泥水相手には相性が悪い」

上条(つーか男二人、さっさとオトしたのもあれなんだろうけどさ)

鳴護「ゾンビ映画でお馴染みの、火炎放射器的な武器があるとかっ?こんな事もあろうかと、的なっ」

柴崎「アタッシュケースに流れ弾が当たって護衛もろとも爆発炎上。歴史に名を残す大失態ですね」

柴崎「繰り返しますが、自分の仕事は『護衛対象をひっつかんでさっさと逃げ出す』でして」

柴崎「それ以外は専門外、荒事は好きじゃないんですよね」

上条「確かに対人戦闘では銃が有効。だけど『アレ』には効果が薄い、か」

柴崎「――仕方が無い。ここは一つ発想を変えましょうか」

上条「ポジティブシンキングでどうにかなる場面を越えてる気がするんだが……」

柴崎「まず上条さんがここに留まります」

上条「おうっ!……おぅ?」

鳴護「お約束だよねぇ、悪い意味で」

柴崎「『アレ』が囮に気を取られている隙に、アリサさんは安全な場所へ」

上条「よしまずアンタの幻想ぶっ殺す所から始めようか?表出ろ、あぁ?」

柴崎「野生動物の前にエサを差し出すのは当然の事では?」

上条「無茶ブリじゃねぇか!?つーか自分でやれよ!?」

柴崎「――分かりました。ではそれでお願いしますね」

上条「緊急事態にボケる意味が分からねぇよ」

柴崎「冗談だったら良かったんですが。『アレ』を」

『――テケリ・リ』

上条(閉めたドアの隙間から黒い粘液が染みだしてくる)

上条(密閉されている筈なのに――?)

柴崎「隙間はゴム素材で密閉されているので、消化したか同化したのか」

柴崎「ドアを開け閉めする知能は無い――『今の所は無い』、みたいですがねぇ」

鳴護「……さっき喋ってたような?」

上条「あの個体は俺がぶっ飛ばしたから、チャラになったとか?」

柴崎「考えるだけ無駄です。とにかくお二人は先頭車両へどうぞ」

上条「……柴崎さんは?」

柴崎「少しだけ時間を稼いだら後を追います」

上条「え、一緒に行けばいいだろ?」

柴崎「そして一緒に自分達を追ってきた『アレ』を、先頭車両まで誘導するんですか?」

鳴護「それは……けどっ!」

柴崎「恐らく向こうは獣未満の知能しか持っていない『筈』ですから、誰か一人残れば一番近い相手を狙い続ける」

柴崎「また同様に、車両を切り離すにしても問題がある。上条さんは分かっていますよね?」

上条「……取り残された人、だよな」

柴崎「と、言う訳で二人は先に避難して下さい。囮も兼ねて逃げ遅れた人の確認もしておきますから」

『テケリ・リ』

柴崎「てかさっさと行って下さい。じゃないと自分も行動出来ません」

上条「……分かった、けど」

鳴護「当麻君?」

柴崎「自分は別に慈善家を気取るつもりはありません」

柴崎「この状況下に於いて、鳴護アリサを守るためには『アレ』の足止め役が居た方が良い。そう判断しただけに過ぎませんので」

上条「言ったけどさ」

柴崎「心配は有り難いんですけど、『さっき』のも忘れないで下さいね」

上条「さっき……あぁ!」

上条(『本当に黒鴉部隊なのかどうか、引っかけで確かめろって言われてたっけ)

柴崎「なら結構。ではまた後で」

鳴護「柴崎さん、その……」

柴崎「ここは自分に任せて先に行って下さい!」

鳴護「死亡フラグですよね、それ?」

柴崎「自分、この仕事が終わったらプロポーズするんです!」

鳴護「難易度上がってませんか?お相手も是非聞き出したい所なんですけど」

上条「てか意外と余裕あるじゃねぇか」

柴崎「いや実際に余裕ですし?黒い水溜まり、少し早く歩けば追って来られない程度の早さですから」

鳴護「あー……納得です。密室だと逃げ道がないんですけどね」

柴崎「と、言う訳で」

鳴護「……当麻君」

上条「すいません、ちょっと行ってきます、俺」

柴崎「えぇ危なくなったら逃げ出しますから」

上条「柴崎さん、その……」

柴崎「大丈夫、上条さん」

上条「だってさ!」

柴崎「――いい加減にしろ、上条当麻」

柴崎「はっきり言って足手まといだ。能力者でもないお前が『アレ』へ対抗出来るのか?」

上条「そりゃ大した事は出来ないかも知れないけどさ!」

上条「だからって見捨てていい理由になんか――」

柴崎「『最善は出来ない、だけど次善を尽くす』、そう言った自分の言葉を思い出せ」

柴崎「『最善』は今この場で『アレ』をどうにかする事。しかし自分達にはどうにもならない」

柴崎「『次善』は少しでも時間稼ぎをする事。好き嫌いじゃなく、しなくてはいけないから、する。それだけの話」

上条「……」

柴崎「今この状況下に於いてお前が出来る事は何だ?」

柴崎「君が守りたい相手は、誰だ?」

柴崎「間違えるな上条当麻、『優先順位』を」

上条「……分かった。行くよ、俺」

柴崎「早く。そろそろ『アレ』が移動し始めている」

『テケリ・リ』

鳴護「えっと」

柴崎「あぁ自分の心配は結構。危険手当も報酬に含まれていますからね」

上条(口調をまた元の今一頼りなさそうなオヤジへ戻し)

柴崎「ただまぁ個人的に一つだけお願い出来るのでしたら――」

柴崎「――リーダーの前で『良くやっていた!』と言ってくれたらな、と」

上条(あまりにも場違いな台詞に、俺とアリサは顔を見合わせて吹きだしてしまった)

――カーゴ3

□□□□-□□□□□-□※◇◇■

※ 現在位置


鳴護「うっわー、結構広いよねぇ」

上条「だな」

上条(カーゴ、正式名称シャトルサービスだっけ?)

上条(列車っていうよりは、貨物車だな。数メートル間を開けてバンやデカいバイクが並んでる)

上条(……その間に後ろから避難してきた人がチラホラと)

上条(学園都市で言えば日中の電車ぐらいかな?座れる席はないけど、ぐらいの混み合い方)

上条(俺が見た限りだと、もっと多かった気がする)

上条(切り離された方の列車に居たのか、それとも――)

上条「……」

上条(考えても仕方が無い。だとしても今出来る事でもなければ、やれる事でもない)

上条(……さて、結構早く『カーゴ』に着いたんだが)

上条(つっても途中の車両で避難し遅れた人を探してたから、言う程早くはなかったけど)

上条(『連中』や『アレ』が居なかったのは幸い。ただし手放しでも喜んでられないか)

上条(もしも『黒鴉部隊』と入れ変わってんだったら、アリサの側を離れられない)

上条(……あっちもこっちも問題だらけだよなぁ)

青年「『――?」』」

鳴護「当麻君っ、とーま君ってば!」

上条「……ん?あぁごめん、って、誰?」

上条(アリサが話しかけられているのは……男。柴崎さんよりは若い)

上条(着崩しているのか、避難のゴタゴタでよれたのか。だらしない格好のラテン系、か?)

青年「『――, ――?』」

上条(そして話しかけてくる言葉は英語じゃない。てか『黒鴉部隊』の人じゃないっぽい)

上条「よし、鳴護。俺に任せろ」

鳴護「お勉強は私と同じぐらいの当麻君に、自信満々で言われるとちょっと不安になるんだけどな……」

上条「こう見えても英語が得意な友だちに、『カミやんはこう言っとけばいいにゃー』と授った台詞がある!」

鳴護「フラグだよね?てかその語尾の『にゃー』が不安になるっていうか」

上条「大丈夫だよ、アリサ。俺は土御門を信じてる!」

鳴護「う、うん?」

上条「I've been seeing her with a view to marriage!」

青年「『彼女とは結婚を前提に付き合っています』?お、おめでとう?」

鳴護「やだ……当麻君」

上条「やっぱり違ってたかコノヤロー!?何となく『マリッジ』って入ってたから、おかしいなーとは思ってたんだけど!」

鳴護「もっと先に前に気づいてもいいと思うんだよ、うん」

青年「てかお前の友だち、一体どんな場面でそれが有効だと思ったんだ。ナンパされてる子を助けるぐらいの応用しか効かねぇだろ」

上条「ですよねー――て、日本語?」

青年「イタリアンの方がいいんだったらそっちに変えるけど」

上条「あぁいや大丈夫。続けてくれ」

青年「もしくは相手の親御さんへ『娘さんを下さい!』って言う時ぐらい?」

鳴護「憧れるよねぇ、そーゆーの」

上条「そっちじゃねぇよ。土御門のウソ英会話は置いておこう?鳴護さんも『だよねぇ』みたいな顔しないのっ」

青年「あー悪い悪い。そうじゃなくって、ちょっと聞きたくってさ。こっちに来るまで俺の知り合い見なかった?」

上条「知り合い……?」

青年「あいつらもどっかに避難してるんだろうが、前のカーゴにはいなくってさ」

上条「いや……どうだろう。俺達が一番最後だったみたいだし」

上条(ここへ来る途中、逃げ遅れた人を探してはみたけど、居なかったんだよな)

青年「……そか。悪かったな、手間取らせて」

鳴護「えと、後ろの車両?にも大丈夫な人が居るみたいだし、きっとそっちに!」

青年「だと良いんだけどな。どーにも手間ばっか取らせやがって」

青年「つーかさ火事、なんだよな?」

上条「そうらしいな」

青年「それにしちゃおかしくね?普通は客避難させるために乗務員が避難誘導したり、消火活動してるって訳でもない」

青年「なーんか嘘臭いんだよなぁ、これ。そう思わないか?な?」

上条(普通はそう考えるだろう。事情を知ってなければ俺もこの人に同意してたんだろうけど)

上条(少し前だったら面白半分で「じゃ見に行こうか?」とか言ってたかも。けど)

上条「――いや、火事はあったみたいだな」

青年「そうなのか?」

上条「あぁだから後続車両を切り離したって聞いたよ。詳しくは分からないけど」

青年「そかそか。だったらちょっと安心だな」

上条「てか集団の中から一人外れたって事は、あんたの方が迷子になってるパターンじゃねぇの?」

青年「ヒデぇな!うすうす気づいてたんだけど、敢えて知らないフリしてたってのに!」

鳴護「向こうも探してくれてるだろうし、待ってた方が良いと思うよ、うんっ」

上条「あー……ラグランジュポイントは遠かったよなー」

鳴護「成層圏突き抜けてたよねっ!」

青年「なにソレ超格好良い!?」

上条(これ以上犠牲者を出さないためにも、俺達ははぐらかすしかなかった)

――ユーロスターS カーゴ3

男「鳴護アリサさんと上条当麻君ですよね」

青年「違うぜ?」

上条「アンタじゃねぇよ。つーか勝手に答えんな」

上条(さっきの人と何か意気投合していたら、別の人達――男女の二人組が話しかけてきた)

上条「ああっと、その」

女「柴崎から話は聞いています。こちらへ」

青年「え、誰?」

上条「だからアンタは関係ないだろ、つーか首突っ込んで来んな」

青年「何言ってんだよカミやん。俺も混ぜろって」

上条「勝手に愛称呼ぶんじゃねぇよ!?つーか馴れ馴れしいなガイジン!」

青年「え、何々?込み入った話?俺も一緒じゃ駄目?」

上条「後で相手したげるから!こっちも大事な話してんだよ!」

鳴護「ご、ごめんね?」

青年「んー、後で遊んでくれるんだったら、まぁいいけど」

男「……二人とも、どうぞこちらへ」

上条(よく分からない外人さんに絡まれつつも、二人は近くに止めてあった黒いバンまで誘導される)

上条(ぱっと見、地味な感じ。けどまぁ、防弾ガラスとかで魔改造してあんだろう)

女「では現状確認へ移ります。質問があれば――」

上条「その前に確認させて欲しい」

女「――その都度どうぞ、と言うつもりでしたが。では、何か?」

上条「あんた達は、その」

男「『黒鴉部隊』のクロウ9、そっちがクロウ8です」

女「悠長に挨拶するのも時間が惜しいんですが」

鳴護「……そんなに酷いんですか……?」

女「いえ、酷い酷くないと言うよりも、『よく分からない』というのが正しいでしょうか」

上条「柴崎さんも同じような事言ってた」

男「『アレ』という不可解な、敵味方問わずに捕食する生物兵器としても全く取り柄のない欠陥品」

男「統制の取れていない敵、目的不明のまま切り離された後続車両」

上条「全部混乱させるため、とか?攪乱させるため、陽動目的とかあるだろ」

女「ここまで出来る戦力を揃えていたら、ハナっから全力でぶつけています」

女「小出しにすれば適宜撃破される可能性があり、仮面ライダ○に悪の組織が負けるのと同じ構図ですよ」

鳴護「わかりやすいけど、その例えもどうだろう。うんっ」

上条「何をしたいのかが分からない。目的があるかどうかも不明、と。あー面倒臭い」

男「しかし向こうは鳴護さんを指名しているのですから、こちら側は守る他に取れる手段はありません」

男「お二人は車の中へ。そちらで待機していて下さい」

上条「ちょっと待って欲しいんだ」

女「何か?」

上条「あぁいやいや、大した話じゃなくってさ」

上条「クロウ9、だっけ?前にどっかで会ったような?」

鳴護「……あのー、上条さん?そうやってナチュラルにフラグを立てるの良くないと思いますっ!」

上条「違ぇよ!?てか俺が今話しかけてんのは男の人だって!」

女「まぁリーダーが安心出来るし、コイツでいいならどうぞどうぞ」

男「待ってくれ!せめてコイツで何とかならないかな?」

上条「意外と結束力低いな!」

鳴護「お姉ちゃんへの忠誠心は凄いんだけどねぇ、うん」

男「……冗談は良いとして、急に何を?私と上条君は面識はないと思います」

上条「そうだっけか?どっかで聞いたような……あぁそうだ!思い出した思い出した!」

上条「柴崎さんが誉めてたんだよ――『シャットアウラに次ぐ能力の』ってな」

上条(――と、カマをかけてみたんだが)

上条(これを肯定するようであれば、偽物。外面から違うのか、中身ごと変わってるのかは分からないけど)

男「柴崎が、ですか?」

上条(男は女と顔を見合わせた後、少し言い淀んでから)

男「そう、ですね。それは多分私の事でしょう」

――ユーロスターS カーゴ3

上条「へー、そうなんだ?」

男「少し照れますが」

鳴護「当麻君たち、そんなお話ししてたんだー?」

上条「ちょっとだけな。護衛の方じゃ、って話だけど」

上条(『能力優先』で選ばれた”らしい”柴崎さん。シャットアウラの性格上、それ以上のヒトを遊ばせたりはしないだろう)

上条(俺のデタラメにどう答えるのか……少し怖い)

男「いえ、私はまだまだ不調法ですから」

上条(……あぁ『アタリ』なのな)

男「そこら辺の話も、詳しくは車の中で聞きますから。どうぞ?」

上条(さっきからバンの中へ誘導しているのも怪しい――けど、逆の立場だったら遮蔽物のある場所へ護衛対象を連れて行きたいのも分かる)

上条(あと、こっちの男の人は『アタリ』だとしても、もう一人も『アタリ』だとは限らない――って面倒臭いな!)

上条(とにかくトンネルを抜ければシャットアウラ達、別働隊と合流出来るだろう)

上条(それまではアリサの側を離れられない)

上条「あぁいや俺達は柴崎さんが来るのも待ちたいし、このまま――」

青年「――つーかさつーかさ、俺思うんだけどさ、ガキの情操教育ってあんじゃん?」

上条(車の外で待ちたい、と続けようとしたのを遮られる。さっきの人、だよな……?)

青年「例えばテメェのトコのガキの躾にしたって、いつ頃『死』って概念教えるか迷うんだろーなー?あ、俺は子持ちじゃねぇけど」

青年「でもそれが『いつか必ず知る必要がある』ってんなら、親はガキに教えてやる必要があるって思うんだけど」

女「……誰ですか?」

青年「アルフレド――アルって呼んでくれ。な、カミやん?」

男「お知り合いですか?」

上条「少し話しただけだよ。知り合いを探してんだって」

アル(青年)「親が知らせないのもまぁ?自由だと思うがね」

アル「だけどそれで子供が幸せになるか、つったら別の話だわな」

アル「俺には『不幸の先延ばし』にしているだけにしか思えねぇんだけどよ」

上条(流暢な日本語で、しかし脈絡もなく話を展開するアルフレド)

上条(何がしたい?何が目的だ?)

アル「――で、さっきの話へ戻るんだけど。カミやんは『後続車両を切り離した』っつったよな?」

上条「それが、なんだよ」

アル「『一回もアナウンスされてない状況』なのに、どーやって分かったのかなー?って思ってさ」

上条「そりゃ、俺が後ろの車両に乗っていたから、それで」

アル「だとしたら『不自然』じゃねーの?」

上条「どこがだよ」

アル「後ろの車両に居た、しかも『切り離した』のを知ってる――のに、だ」

アル「火事があった『らしい』のはちょっとおかしくね?なぁ?」

男「すまないが、余計な詮索は――」

アル「いやだから!それが良くねぇだろっつってんだよ!」

アル「カミやんを甘やかすのは止めて、そのシバザキってのに『騙された』って教えてやろうぜ?」

上条「……何?」

女「……すまないが、それ以上は」

アル「黙れって?んー、まぁいいけどさ。カミやんは聞きたいって顔してるが?」

アル「なぁ、どーすんの?別に俺は黙っててもいいんだけどさ」

アル「んな信頼もクソもねぇ状況で『護衛』が成り立つって――あぁそうかそうか!」

アル「そうだよな、シバザキは『わざわざカミやんに護衛が疑われる状況を作った』んだっけか?」

アル「だったら今の状況、『お前達が敵か味方か曖昧しておいた方が都合が良い』よな」

上条「おい!どういう意味だよ!?」

アル「いやぁ別に俺もよく知らねぇんだけどさ。つーかカミやんに詳しい話聞こうと思ったら、取り込み中だったって事だけど」

アル「そっちの子がお偉いさんのお嬢ちゃんで、カミやんが友だち、でもってそっちがSSかボディガードなんだろ?」

アル「そいつらがカミやんの『引っかけ』、つまり『仲間の名前を聞いたり、スキルを教わってたってブラフ』を仕掛けたんだわな」

上条(正解。けどそれのどこがおかしい?)

アル「……でもなぁカミやん、よくよく考えてみ?」

アル「『誰が聞いているかも分からない状況で、仲間の名前やスキルをペラペラ喋るバカ』が居るってのか?」

上条「……あ」

アル「そりゃシバザキがプロ意識に欠けたり、無能だってなら分かるけど、話を聞くにそういう感じでもねぇな」

アル「だっつーのになんでソイツは『通用しないブラフ』をカミやんにさせたのか?」

アル「そして護衛二人は『通用したフリ』をしたのか?」

アル「その答えはカミやんが持ってる筈だぜ」

上条「俺が?」

アル「シバザキは『もしもブラフが肯定されたら、こーしろ』って言ってなかったか?」

アル「シバザキとそいつらはカミやんに、それをさせたくって下手な芝居をアドリブで打ったんだよ」

上条「もしも相手が肯定するようであれば――」

上条「――それは『ニセモノ』だから鳴護アリサの側を離れるな……?」

アル「成程成程。嫌な野郎だよなぁ」

上条「なんだって?」

アル「つまりアレだぜ、そいつぁカミやんに護衛二人を疑わせたんだよ。勿論わざとだ」

上条「何のために?護衛対象が護衛を信じられなかったら、逆に動きにくくなるだろ」

アル「だから『この場』ではって事なんじゃねーの?」

アル「少なくともそう言っときゃ『カミやんはその子の側を離れられない』から」

アル「結果として『安全地帯』に留まるしかなくなるわな」

上条「て、事は――」

上条「俺が柴崎さんの所に行かせないようにしたって言うのかよ……!?」

アル「ま、ぶっちゃければ足をくじいた親が『後から合流するから先に行って、この子の面倒を見ろ』と同じだろうさ」

アル「それをちっと複雑にした感じで、素人はまず引っかかるが、プロには絶対に看過される程度のブラフを用意してだ」

アル「そいつらもブラフの真意に気づいて一芝居打ったんだろうさ。プロとしちゃ当たり前すぎてバレバレだったんだろうなー」

上条「……あぁクソ!あんの嘘吐きが!」

上条「散々人にああしろこうしろ言っときながら、テメェは好き勝手やりやがったのか!?」

鳴護「……当麻君」

上条「分かってる!」

男「――待ちなさい!どこへ行くつもりだ!」

上条「決まってる。そりゃな」

女「柴崎はあなたを危険から遠ざけるためにしたのよ!それを分かってて!どうして意志を汲み取らないの!?」

男「……それはダメだよ!子供のする事だ!」

上条「いや、そんなに難しい事じゃねぇだろ。何一つ、どれ一つ」

上条「自分を犠牲に誰かを助けようとしてって奴を、助けられないんだったら――」

上条「――俺は『ガキ』でいい!大人なんてクソッタレだ!」

男「……仕方が無い。おい」

女「えぇ――」

鳴護「待って下さい!」

男「イタタタタっ!?噛みつ――」

女「アリサさんまで何を!」

鳴護「ほーまふん、いっへ!」

鳴護「はたひのかわりにっ!しわさきさんをっ!」

上条「りょーかい!」

女「ちっ!」

アル「待て待て、ここは俺が引き受けた」

アル「決心した男止めるなんざ、ダセェ真似してんじゃねーよ」

女「退きなさい。ゲカをしてもこちらは関知しませんよ?」

アル「おっといいのか?まっさか丸腰の相手に発砲する程、クレイジーじゃねぇんだよな、アンタら?」

アル「どーみても非公式かそれに近い状態で、SSが素人相手にドンパチやって目立つのは得策じゃねーしな」

女「部外者が口を挟むな!」

上条「悪い!」

アル「気にすんなって。実はこーゆーの一回やってみたかっただけだから」

上条「アリサ、ちっと行ってくる!」

上条「散々人に説教くれやがった、大人って『幻想』――」

上条「――ちょっとぶち殺してくるわ」

――ユーロスターS カーゴ3

男「……行きましたね。あ、鳴護さん離して下さい」

鳴護「ほんほひ?ほわなひ?」

男「追いません。つか痛覚切ってありますから、痛くもありませんでした」

女「あなたも退いて下さって結構です」

アル「……あるぇ?意外と淡泊、つーかこの後腹いせにボコられるってガクブルだったんだけどよ」

鳴護「あたしが言うのも何なんだけど、追いかければ直ぐに追いつくんじゃないかな?」

鳴護「――あ!それとも今の”も”引っかけだった、みたいな感じですか?」

男「あー、いやいや。今のは本気、っていうか本音って言いますか」

女「じゃ、ないですけどね。鳴護さんと素人一人、体術だけで瞬殺出来ます」

アル「だよなぁ、実力行使するんだったらもっと早くカマせた筈だよな」

鳴護「えっとそれじゃ、どうして当麻君を行かせたんです、か」

鳴護「もしかして――?」

女「リーダーからの命令、原文ママでどうぞ」

男「『バカな方はバカだからバカな行動をするかも知れない。その時は殴ってでも止めろ!なんだったら撃ってもいい!』」

鳴護「うわぁ……」

男「『ただし!本当に奴が行きたいのであれば、好きにさせておけ。どうせ何をしても止められる訳がない!』」

鳴護「お姉ちゃん……天の邪鬼なんだから」

男「いや、リーダーは上条さん、最初から高評価でしたよ」

男「でもないとウチのサブリーダーと一緒に、あなたの護衛へ収まる訳がない」

男「単純に実力が無ければ幾らあなたの希望でも、聞き入れなかったでしょうから」

鳴護「……そっか。お姉ちゃんも」

アル「良い事言うなぁアンタのねーちゃん。俺も弟じゃなくって、そんなねーちゃん欲しかったぜ」

アル「つーかさ、ガキが悪いんじゃねぇし、ガキだから悪いっつーつもりもねぇけど」

アル「テメェが気に入らねぇからって、ジジイのチャリンコみてーにキーキー叫き散らしたって、一体何が変わるって言うんだよ?」

アル「ダタこねてワンワン泣きじゃくったって、誰からもシカトされて終りだろーが」

アル「それでセカイが変わるか?テメェが偉くなるか?キチガ×扱いされるだけじゃねぇか」

アル「結局人間ってのは、結果と経過に対してのみ評価されるもんであってだ」

アル「テメェが世界を変えたいんだったら、テメェが変えるしかねぇんだよ」

アル「それが『ガキ』がとうがは関係ねぇ。つーか『格好良い』なんて一々気にしてテメェに縛りつけてる方が『ガキ』だ」

アル「何もしねぇで批判ばっかしてる『卑怯者』が、誰かに評価される日は永遠に来ない」

アル「カミやんみてーに突っ走っちまえ。そうすりゃ良くも悪くも結果はついてくる」

アル「――それが望んだものかどうかは別にして、だが」

鳴護「はい?」

アル「突っ走って、死に物狂いでやらかした結果、評価されたとしても、だ」

アル「その『期待』が重すぎるって話もあるんじゃねーのか」

アル「もしくはテメーの期待とは全然別の評価が一人歩きしたり、とかな」

鳴護「……あ」

鳴護(あたしの――『奇蹟』)

女「……ともあれ、これで信じて頂けたでしょうし。鳴護さんは車の中で待機して貰えませんか」

鳴護「ここで待ってちゃダメ、ですか?」

アル「護衛さんはアンタらのワガママ聞いたんだから、次スジ通すのはどっちだって話だよな」

アル「つかカミやんは少なくともそっちの偉い人から信用されてて、アンタはされてない」

アル「つまり『持ってない』って訳だよ。だからプロに任せて、自分に出来る事をすりゃいい」

鳴護「私に出来る事、ですか?」

アル「戦争はケンカの強い奴に任せればいい。テストは勉強の出来る奴に頼めばいい」

アル「ジャンル違いにアレコレ口出しすんな。何にでも首突っ込める奴は……まぁ、居ない事は無いけど、フツーはそうじゃねぇだろ」

鳴護「そう、ですね」

男「えっと、それであなたは?この件はどうか内密に」

アル「自慢してぇんだけど、その連中が見つからねぇんだよ。もっかいカーゴ探して来るわ」

アル「まったく、どこで何やってんだろーな」

鳴護「多分、向こうも同じ事考えてると思います……」

アル「そいじゃまた、後で」

鳴護「えっと……ありがとうございました?」

女「礼を言うのも何か違う気がしますが」

男「調べましょうか?」

女「いや、無駄でしょう」

男「……ま、本名で堂々とチケット取ってる訳がありませんしね。あれだけ怪しい人が」

鳴護「怪しい?いい人じゃないかな?」

男女「「……」」

鳴護「え、何?だって当麻君を助けてくれました、よね?」

女「……あぁ確かに。これはリーダーが過保護になって当然、と言うか」

男「むしろそうしないと精神衛生上宜しくないですよね……」

鳴護「ヒドい事言われている気がするよねっ!?」

――ユーロスターS 10両目 一般座席

「――シッ」

 ヒュゥ、と空中に光が舞い、限界まで伸び上がろうとしていた『アレ』を千々に裂く。

 『剃刀(ブリトヴバァ)』、ほんの少量の鉱物を扱える”程度”の能力だと言ったが、それだけではない。
 扱える物質、柴崎の場合は銀だけであったが、それを極限にまで細く、肉眼では不可視なまでに薄くすれば充分な凶器となる。
 時として意図せず紙で手を切るように、『薄い』だけで充分に肌を裂く威力を持つ。

 それが分子単位で縒り上げた糸を鞭の要領で振り抜けば、指や腕程度は軽く落とせる。
 SFでは単分子繊維鞭(モノフィラメントウィップ)と呼ばれ、また能力の一環であるから貨幣一枚あれば、容易に持ち運び出来る武器となる。

 また柴崎自身、『黒鴉部隊』として銃器や格闘、それ以外の車両戦闘にも長けているため、下手な戦闘特化の能力者よりも強い――そう、自負していたつもりではあった。

「……キリがない」

 人の弱点はどこか、と問われれば心臓だと答える者は多い。次に目、内臓、手首……色々と上げられるだろうが、どれも正しく、間違っていると柴崎は考える。
 人は大抵どの部位であっても痛みを感じ、切り裂けば血が流れ、打たれれば硬直するからだ。
 対人戦、特に対能力者では少し手傷を負わせれば、集中が乱れて能力のコントロールが失う事もしばしばある。

 従って不可視に近い糸と各種現代兵器を用いた戦闘スタイルは、多くの場面で有効だった。自身の能力を過信せずに、そう思う。
 実際の所、元々外様だった柴崎がサブリーダーとしての地位にあるのも、実力に裏打ちされた所が大きい。実力・成果主義を地で行くリーダーの性格もあるだろうが。

 とにかく柴崎信永は決して弱者ではない。なかった。

 しかし。

『テ……ケリ・リ』

 相性が悪すぎる。相手は粘液、アメーバのような『アレ』を切ろうが、直ぐに繋がってしまう。なまじ切断面が鋭い分、傷口は再生しやすい。
 銃器も数発撃って諦めた。黒いドロドロの中はぼんやりと透けていて、中には意味不明の器官がデタラメに発光しているだけで、意味があるとは思えなかった。

 こうなると膠着状態に陥る――にも、また違う。

 相手は『液体』であり、その体を押しつけ『消化』しようと擦り寄ってくる。
 本来はアメーバなどの原生生物の補食行動であり、そのサイズから人類の脅威になるとは有り得ない。病原体の一部としては別にしてもだ。

 しかしここまで大きければ避けるのは困難。また飛び散った粘液も強酸か、消化酵素であるらしく、飛沫が付着しただけで溶け始める。
 体に強化ステンレスを埋め込み、対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)の直撃を受けても、死なない”かも”知れない柴崎にとって、徐々に消化される攻撃方法は防げない。

 直撃を避けられてもジワリジワリと飛沫で溶かされる。こちらに打てる手段はない。
 全てに於て『未知』の相手との相性が悪すぎる。

(とは、いえ)

 救いがあるとすれば、『アレ』の知能が著しく低い事か。現在分かっているルールは、

1.目の前に『エサ』がある場合、それを優先して捕食する
2.無い場合は何らかの方法で索敵、一番近い有機物を探し出す
3.索敵方法は不明。感覚器は見当たらない

ぐらい。食堂車で何かを溶かしていた『アレ』はこちらへ見向きもしなかった。

(セオリーでは『火』なんでしょうが、ふむ?)

 生物にとっての天敵は『火』だ。
 動物であっても恐れるし、恐れないのであれば抵抗されずに焼ける。『アレ』にそんな知能があるかは知らないが。
 鳴護の意見は一蹴したが、火炎放射器が装備にあったら躊躇いなく使っていただろう。無い物ねだりをしても仕方が無いのだが。

(と、すれば現地調達、でしょうか……?いや)

 小さい火であれば起こせるかも知れない。

 そこら辺に散らばった小物――『アレ』が消化出来ず、食い残した無機物の中には金属製のオイルライターらしきものが混ざっている。
 また食堂車へ戻れば、例えばオール電化であってもそれなり――電子レンジの破壊を前提として――火種を手に入れるのは容易ではある。

 だが、ユーロスターSには当然最新式であり、突発的な災害についてのセーフティが多くかけられている。
 地震が発生すれば20秒以内に自動減速して停まり、不意の事故へも対応が成されている。
 また車内での火災にも適宜鎮火剤を含んだ水が撒かれ、大きな火災になる事はない。

 つまり。

(……詰んでますね、これ)

 二人分の人間を消化し、比例して体積が大きくなっている『アレ』。圧倒出来るだけの火を用意するのは不可能に近い。
 火災警報器を切ればまだ望みはあるが、車内で爆発的な炎を起こしたら、そのまま列車火災へ繋がるのが目に見えている。

 フィクションの世界だとすれば。半裸の中年刑事がデタラメに配線を切っていけば、都合良く止まるだろう。
 が、現実にそんな事をすれば停まるのが列車の方だ。エラーが起きれば『安全に停止する』と最初から組み込まれており、それが実行されるだけ。

 高速輸送システムに於いて、『停まる』と言う課題は最も重要視されるべき事柄だ。
 ただし、今回は逃げ道を断たれて『アレ』に美味しく捕食されるのか精々だろうが。

 ボディガードもまた同様に。
 よく分からない『アレ』は、何とか出来る範疇を優に超えている。

(……次からは『トンネル内で得体の知れない何かに襲われた場合』も、想定しておくべきでしょうかね、っと)

 キキキキキキィンッ!

 突きだした指先の一本一本から、超極細のワイヤーが絶えず『アレ』を切り刻む。
 しかし粘液の塊には通じず。細切れにした所で直ぐまた――。

『ギギギギギギギギギギギキ……ッ!?』

「……おや?」

 ――再生するだろう、と半ば自棄になって放った一撃が思いの外効果があった、のだろうか?

『ギ……ゴボ、ゴボゴボゴボゴボ……」』

 『アレ』は表面張力を失い、酷く臭う血とも体液とも分からぬ知るに撒き散らしながら、少しずつ小さくなっていく。
 針で穴を開けられた水風船が地面に落ちたように、転がれば転がる度に縮んでいった。

(何が効いた?たまたま急所に当たったのか?これだけ刻んでいたのに?)

 徐々に黒い染みとなって消えていく『アレ』に警戒を怠らず、柴崎は考える。

(攻撃方法は変えていない。パターンも同じ。威力はむしろ疲労と緊張で若干弱まっている)

 先程の上条当麻の『右手』――は実際に自身の能力が掻き消されるのを体験した。
 また鳴護アリサを助けに入った時も、『アレ』を染み一つ残さず消えていった。

 何か共通項があるのか?それとも偶然が重なっただけなのか?

(分からない。情報も分析する時間も少なすぎる)

 尤も、トイレでは一端と消えたと思った『アレ』が、また直ぐに天井から落ちてきたものだが――。

『――テケリ・リ』

 背後から気配もなく声がした――そう判断する前に体は前へ転がっていた。

「……同じ、なのか……?」

 そこには今し方倒した『アレ』より小ぶり、子供程の大きさの『アレ』が居た。
 しかし体積に比例するであろう危険度はより低い。

(……やれやれ。リーダー待ちは変わらず、ですか)

 再びルーチンワーク――対処を間違えれば即死だが――へ、戻ろう――と。

『テケリ・リ』

 第二の声は右側の荷物棚の上から。

『テケリ・リ』

 第三の声は左側の座席の下から。

『テケリ・リ』

 第四の声は背後から。

『テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ』

 四方のから響く鳴き声は――。

「……あ、はは、あはははははははっ!」

 ――諦めさせるには充分で。

 仲間が殺された事への腹いせか、『アレ』達がゆっくりと近づく姿は恐怖を助長させているつもりなのか。

(それともこれは走馬燈で、スローになって見えるのは本当だった、と)

 柴崎信永の脳裏に浮かんだのは、己が『黒鴉部隊』へ入った時の事。
 全てを捨てても負債を返すと誓ったあの日の事。

「……コンサートには行けそうにもない、ですか」

 せめてあの少年には、アレが事実だと言っておいた方が良かっただろうか?
 そうすればきっと、自分の代わりに行ってくれたのに。

(まぁ、それも良い。自分のような人間と関わり合いにならなければ、それで)

 黒い粘液が殺到する中、柴崎は瞬きもせずにその様子を見つめ――。

「――いや、行けばいいじゃねぇかよ?」

パキイイイィィィィィィィン……!!!

 『アレ』に覆い尽くされ、強酸のようなものでズタズタに溶かされる瞬間。
 殺到する粘液を振り払い、打ち砕き、捻り潰して――『アレ』は痕跡すら残せず、消えてしまっていた。

 『彼の』右手によって。

「な――!?」

「どうも、上条当麻です」

 居る筈の無い、居てはいけない人物の名前を聞き、柴崎は激昂する。

「何で来たっ!?ここはお前が来るべき所ではないだろう!?」

「お前には守るべきものがあって!選択は既に成されたんだ!だから、だからっ!」

 んー、と上条は頭をポリポリ掻くと、柴崎の後ろを指す。

「柴崎さん、うしろっ!」

「ちぃっ……!」

ヒュウッ、キキキキキキキキキィンッ!

 咄嗟に糸を張り巡らし、体を広げて上条へ飛沫が飛ばないように身を挺して守る。
 だが、全ては空振りに終り、飛んでくる筈の飛沫も強酸も存在しなかった。

 最初からそこには『アレ』など居ないのだから。

「えっと……?」

 どういう事かと上条を問い詰めよう。そう振り返ろうとした時に、

「あ、ごめん。柴崎さんはこうでもしないと無理っぽいから」

ガッ!聞こえるが早いか柴崎の頬に衝撃が走る!……殴られた?誰に?

 何一つ理解出来ないまま、振り返った先で見たものは。
 今し方柴崎を殴りつけた拳を握る少年の姿だった。

「そりゃぶち殺しに来たんだよ、アンタのそのふざけた『幻想』を」

 理解出来ない理屈をそも常識であるが如く語る上条だが。

「……行ってやりゃいいだろ、『その子』のコンサート」

 知らない筈の事実を伝えたのは誰だ?

「聞いてやれよ、リハビリ頑張ってピアノもまた弾けるようになったんだろ?」

 未練を断つために切ったままの無線で誰が話した?

「だから、だからさっ!」

 それともいつか鳴護アリサに相談した内容を、この短時間で話してしまっていたのか?

 初対面で話題に困った彼女へ対し、ついつい共通の話題が無いかと言ってしまったのが裏目に出たのか。
 あんな世間話程度の事を。鳴護アリサは憶えていたのか。

「アンタに死んで貰っちゃ困るんだよっ!なあぁっ!?」

 柴崎には何も分からなかった。

 『アレ』もそうだが、目の前で幼稚な理論を振りかざす上条当麻についても、何一つ共感出来るような、自身が納得出来るような理屈など無いのに。

 恐らく同じような状況に置かれれば、また嘘を吐いて一人孤独に戦うだろう。
 それが仕事であり、生き様なのだから。

 しかし、結局の所。ただ、分かっている事は。

「……自分は、あなたに助けられたんですね」

 それ以上でも無く、以下でも無い。

 ――だが、しかし、けれども。
 この世界にヒーローは居ない。誰が言った台詞だったろうか?それとも誰も言ってなかっただろうか?

『テケリ・リ』

『テケリ・リ』

『テケリ・リ』

 今までどこへ隠れていたのか、天井から座席から荷物から、次々と黒い粘液――いや、ちょっとした雨のような勢いで降り注ぐ『アレ』。

「マズい!柴崎さん、俺の後ろへ!」

「上条さん!?」

「おおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 パキィィィィン、と『右手』は『アレ』を打ち消し、霧散させる。
 しかし黒い汚濁は止まらず、止められず大質量を持って迫って来ている。

 その大半は消せるが、消しきれずに飛び散った飛沫が上条の体を、灼く。

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 傷口を抉るような痛み――いや、実際に飛び散った破片の一つ一つまでもが、『アレ』であり、体内へ入ろうと皮膚を溶かしていく。

「……ちょっと痛いです、よっと!」

ヒュンッ

「っつ!?」

「心配しないで下さい。今のは自分の能力で傷口を切り飛ばしただけですから」

 右手が塞がっている以上、上条に対処は出来ない。かといって手を離せば『アレ』に呑まれる。
 この勢いであれば濁流は一気に先頭車両にまで届くだろう。

 つまり、上条が根負けすれば鳴護アリサも含む乗客は全滅する。逃げ出す事も出来ずに消化されるだけだ。

「そのままどうか持ち堪えて!リーダーが来ればどうにかなります!」

「あぁもう勝手な事言いやがって!つーか、もう限界っぽ――」

ゴォウンッ!

 上条が弱音を吐き終える前に、人の背丈程の火球が『アレ』に炸裂する!

ゴォウンッ!ドォウン!ゴオォォォウゥンッ……!!!

「な、なんだぁ……?」

 『右手』が無ければ一緒に黒焦げになってもおかしくない勢いで、二発、三発と連続で『アレ』を削っていく。
 躊躇など一切見せず――上条に累が及ぶのはお構いなしで――爆炎の嵐が収まった後、呆然としていた柴崎が身構えた。

「これは……新手の敵?それとも能力者?」

 蒸発し、痕跡すら無くなった『アレ』の心配よりも、新たな乱入者に対処しようとする辺り、流石だなと上条は思ったが。

「いや、アレは味方」

「お知り合いで?」

「うん、まぁ多分?俺達がイギリスの敵じゃ無い限りは、だけど」

 はい?と微妙な顔をしている柴崎を放置し、助かった礼を言いに『彼女たち』へと近寄る上条。

「――いつもニコニ――」

「だからっ!スベってると!言っているのだわ……っ!」

「ギャース!?お笑いはテンドンなのにまだ二回しか重ねて助けておかーさーんっ!?」

 黒髪の子が年長の子ににシバキ倒されている

「おっす、元気だったかいジャパニーズ――ワタシは大変だったけどさ」

「……んー、ビリビリこないなぁ。霊装なのにー……」

 一方は皮肉を込めて、もう一方は興味など皆無であり。

 あぁ、と上条は誰かへ感謝をした。誰であったのかは神のみぞ知るであろうが。
 足りなかった『あちら側』の協力者が来てくれたんだな、と。

「……えっと、あの、上条さん?そちらはどなたで?」

 訳分からない行動に思考を放棄した柴崎に聞かれ、改めて少女がピシっと背を伸ばす。

「『新たなる光』のレッサーちゃんですが何か?」

「知りません。つーか誰で――」

『――テケリ・リ』

 再度現れる脅威であったが、彼女たちは動じない。

「さぁっ、行きますよっ!ガイ○、マッシ○、オルテ○!」

「――今こそジェットストリームアタッ○です!」

「「「お前誰だよ」」」

「白い悪魔です」

「踏み台にする気満々じゃねぇか」

「じゃあ白い恋人で」

「白、しか合ってないよね……?」

「では恋人――ラバーズでお願いします上条さん!さぁさぁさぁさぁっ!?」

「ドサクサに紛れて恋人になるな。そもそも話の持っていき方が脈絡ゼロじゃんか」

 軽口を飛ばしながら、先端に炎を灯した槍で次々と薙ぎ払って行く彼女達。

 呆然と無双っぷりを眺めていた上条の肩へ、ぽん、と手が置かれる。

「……護衛ポイント減点100。アリサさん放り出して何やってんですか、ホントに」

「……いやあの、はい、まぁ勢いで?つい」

「紳士ポイントも減点100。女の子を騙すのも程々にしないと」

「してねぇよっ!?つーかこの子らの半分は初対面ですからっ!」

 ともあれ苦戦していたのが馬鹿馬鹿しくなるぐらい、あっさりと片が付いた。

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

夏コミ「埋蔵金」に決まったんですが、上司と『重護×天災』or『天災×ダルク』で超モメています
いやうん、ダルクさん出した方が絶対に売れるのは分かるんですけど、なんかそれも違う気が

俺的には『重護×天災』を推す。ゴリ推す。

……いや、?…『重護×ダルク』……っ!?

重護×ダルクもいいじゃないか!!やっべぇ!!ちょ、これキタんじゃねマジすg(ry

――ユーロスターS 10両目 一般座席

レッサー「初めて逢った時から好きでした!結婚して下さい!」

上条「嫌です」

レッサー「最初は敵同士だった二人が次第に引かれ合うって王道だと思います!」

上条「神裂、姫神、五和、アニェーゼ、バードウェイ、サンドリヨン……」

レッサー「――てのは冗談ですよねっ!今時何番煎じだっつー話ですよね、えぇっ!」

上条「二秒ぐらい前に言った事ぐらい責任持ちやがれ」

レッサー「ちょっとだけで良いですから、ね?ちょっとだけ?お試しで!」

レッサー「国際結婚した後、ブリテン国籍になってMI6へ入るだけでいいですから!」

上条「完全にスカウト目的だよね?その結婚に愛はねぇよな?」

レッサー「IはHの次にありますよ?」

上条「日本ローカルネタをイギリス人が語るな!」

柴崎「ええとそれで、あなた方はどちら様で?まさかMI6?」

上条「スルーしちまったけど、有名なの?」

柴崎「ジェームズ=ボンドを擁するイギリスの秘密情報部。かれこれ成立から100年以上経っている老舗、ですかね」

ペイロープ「その答えは『No』だ。レディにあれこれ詮索するのは野暮ってもんでしょーが」

柴崎「……ですね。確かに失礼しました――上条さん」

レッサー「今なら何と――ランシスがオマケで付いてきますよっ!」

ランシス「うっふーん……あっはーん……」

上条「超絶やらされてる感&やる気ない感で、むしろ逆効果なんだが」

柴崎「そこの人身売買の相談している人達、話聞いて下さい。というかちょっとこっちへ」

レッサー「今なら何とこっちの巨乳お姉さんももれなくセットで!」

上条「……は、話だけなら聞こう!いいか、話だけからな!絶対だからな!?」

ベイロープ「人を勝手に付属品扱いすんな」

フロリス「ちゅーかハブられたワタシはどーしろと。女のプライド的なモノが、アレつっーかさ」

柴崎「いいからこっち来やがって下さいコラ」

上条「……はい」

上条(レッサー達から少し離れる)

レッサー「それで?何を企んでるんですかいお頭?」

上条「お前はあっち!」

フロリス「レッサー、ハウスっ」

レッサー「あおーんっ!」

上条「えっと、もう大丈夫ですよ……て、膝ついてどうしました?」

柴崎「……いや別に?あれだけ苦戦していた『アレ』を、あっさり消滅させたのがティーンのお嬢さん方だと思うと……」

柴崎「しかもかなーり軽い感じで!サークル活動じゃないんですから!」

上条「ま、まぁ複雑ですよね」

上条「でもホラ!学園都市のレベル5は若いじゃないですか、御坂とか!」

柴崎「……ですかねぇ?別に、自分、精一杯やってますもんね?」

上条「それよりも、俺になんか話かあったんじゃ?」

上条(多分叱られるんだろうけど、柴崎さんならそんなには怖くないだろうし?)

柴崎「……あぁはい、えっと、上条さんに説教したい事は山程あるんですが」

柴崎「まぁそれはリーダーに譲ります。適材適所で一つ」

上条「ごめんなさいっ!?それだけは許して下さい!?」

柴崎「自分は報告するだけですから――『鳴護アリサの護衛を放り出して、オッサン助けに向かった』と」

上条「アンタ性格結構陰湿ですよね?」

柴崎「……ま、そういう訳で自分はアリサさんの方へ回ります。戦力的に偏った状態――」

上条(少し考えるようにした後)

柴崎「――と、見栄も張って仕方がないのですが、結構あちこち穴が開いてしまいましたので、リペアしないと」

上条「……すいません」

柴崎「ですから給料の内だと。ま、だから――」

柴崎「――『ここはあなたに任せ』ましたからね、上条さん」

上条「……あぁ!」

――5分後

上条(柴崎さんは俺にスマートフォンを預け、『カーゴ』へ引き上げた)

上条(非常時には連絡しろ、って事なんだろうけど。地下で電波通じるの?)

上条(――って俺の疑問は「中継器を”たまたまあちこちへ落とした”」ため、無線と同じ感覚で使えるんだそうだ)

上条「……」

上条(落としたんだったら仕方がない、よな?あっちと連絡されなくなるのは困るし)

上条(……まぁ、少し大人になった俺は突っ込まず、レッサー達と情報交換を)

レッサー「――それでですね、今なら何とフロリスがもう一人付いててお得なんですよねー」

上条「はいそこ勝手に友達を景品にしない。てかその話は終わってるから」

フロリス「あー、そだそだジャパニーズ!ワタシ、言う事あったんだ!」

上条「何?つーか俺に?」

フロリス「うんうん、アンタに。あ、ちょっと屈んで?もうちっと左左」

上条「こう?」

フロリス「おーけ、バッチリ――ワタシの怒りを喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 ゲシッ

上条「OHHHHHHHHHHHHHUっ!?」

ベイロープ「『キーン』みたいな効果音入りそうな一撃よね」

ランシス「フロリスの『子孫殺し(キドニーブレイカー)』……これでカミジョー家は断絶……なむなむ」

レッサー「ちょっとフロリス!?あんたなんつー事をしやがってんですか!?」

上条「……」

レッサー「上条さんの股間にクリーンヒットて!顔色が青を通り越して土気色に!?」

フロリス「あー、すっとした。やっぱり我慢は体に良くないよねぇ」

レッサー「あぁもうブリテンの貴重な戦力になるかもしれない子が生まれなくなったら、どうしてくれるんですか!?」

上条「……お前も……ヒドい、事……言っているからな……?」

フロリス「んー?泣く女が減る?」

レッサー「でっすよねー!」

上条「……金的喰らう意味が……分からないんだけど……?」

フロリス「いち、ワタシを騙した」

フロリス「に、川にダイブさせて死ぬ程ビックリした」

フロリス「さん、ついてったら天草式にとっ捕まった」

ランシス「ギルティー」

レッサー「あぁこりゃ擁護出来ませんね。責任取って私の婿になるしか道はないですなー」

上条「……」

ベイロープ「『繋がりねーだろ、超ねーだろこのドグサれパリオット』と唇だけで言ってるわ」

ランシス「回復魔法、かける?」

レッサー「基本効かないですからねー……残念っ!!!」

上条「……」

ベイロープ「『なぁお前根に持ってないか?色々あって「ベツレヘムの星」で別れたの、根に持ってんだよなぁこのロリ巨乳?』」

フロリス「それだけ言う元気があればダイジョーブじゃない?」

レッサー「てかさっきから台詞の終り、浮いてませんかね?明らかに上条さんが言ってる時間よりも長いって言うか」

上条「……」

ベイロープ「『確かにアレは悪かったよごめんなさい。あとレッサーは若いからって何でも許されると思うなよ?』」

フロリス「良い事言うなぁ、ジャパニーズ。うむ、この心意気に免じてこれでチャラにしてあげようじゃないか!」

ランシス「過剰な仕返し……だと思う、けど」

レッサー「おやおやー?これちょっとベイロープさんとは話し合った方が良いのかなー?」

上条「……つーかさ、お前らなんで居んの?」

レッサー「何割盛ります?トッピングはどの程度に?」

上条「盛る意味が分からねぇ」

フロリス「200%盛り、トッピングはタンドリーチキンで」

レッサー「そうですねぇ、あれは私達四人で旅をしていた時の話なんですが」

上条「おい、どうして回想入んだよ」

レッサー「ある夜、突然の雨にやられっちいましてね。近くにあった民家へ雨宿りを頼みに行ったんですよ」

レッサー「その民家というのが、これまた推理小説に出て来そうな大きくて古い、けれどどこか退廃的な印象を受けるお屋敷でして」

上条「……おう」

レッサー「お屋敷のドアを開けると、それはもう豪華なエントランスが出迎えてくれました」

レッサー「今では博物館にでも行かないとお目にかかれないような調度品」

レッサー「何世紀もの間、灯りを灯し続けてきたシャンデリア」

レッサー「そして何人に仕えたか分からない市原悦○」

上条「家政婦は見ちゃったの?つーか日本のドラマに出る人が、なんで居た?」

レッサー「……ですが、我々を暖かく受け入れたのには理由があったのです」

レッサー「たかだか雨宿りと高をくくっていた私達が、通された部屋で見たものとは……っ!」

上条「み、見たものは……?」

レッサー「そこでご馳走になったタンドリーチキン、いやぁ絶品でしたー」

上条「事実だけを話せ!事実だけを!」

上条「てか今の話のどこにユーロスターに乗り込んできた下りがあった!?」

上条「あと流れだと『実はこんな怖い体験を』みてーなオチじゃねぇの!?」

上条「どう考えても『雨宿り先で親切な人にタンドリーチキン食べさせて貰った』だけだよねっ?」

レッサー「いやぁ、来てたじゃないですか、ARISA?」

上条「……あぁうん、前の車両に居るけど」

レッサー「え?それだけですけど?」

上条「……」

レッサー「あんだすたん?」

上条「アイドル見たさかよっ!?つーかそんだけの理由で!?」

ベイロープ「当然でしょ?でもないと『わざわざ魔術結社モドキが出張る』意味はないのよ」

上条「……うん?」

上条(そう言って巨乳のお姉さんは、自分の耳をツンツン突いた。霊装っぽいものが付けられてる……けど、話には関係ないか)

上条(つまり……分かった!そういう事か!)

上条「ピアスよりもイヤリングの方が、親御さんから貰った体を傷つけないので好印象ですよねっ!」

ベイロープ「だぁかぁらっ!盗聴されてると言ってぇぇぇぇぇっ!」 ガックンガックン

上条「こ、こここここうそくうんどう!?」

フロリス「おぉ、胸ぐら掴んでガックンガックン。いいぞもっとやれ」

ランシス「スマフォから絶対盗聴されてんぞ、って遠回しに言ったのに……」

上条「……いや、別に聞かれても良くね?あの人らは俺達の味方だし」

レッサー「チッチッチ、チが三つ」

上条「だからどーした」

レッサー「『上条さん達の味方』であって、『私達の味方』はノットイコールです」

レッサー「だから都合が悪ければやんわりと、それで聞かなかったら強制的に排除しに来る。違いますか?」

レッサー「だからま、これには裏も何にも無いんですよねー、実際に」

レッサー「『どこの勢力にも距離を置いている私達』が」

レッサー「『ARISA見たさに同じ車両に乗り込んだ』だけですって、えぇ」

フロリス「ワタシ的にはちゃっちゃと借りを返したかったけどねー」

上条「えっと、どういう意味だ?」

ランシス「例えば『ARISAを守るためにイギリス清教か学園都市の人間がガートしている』……これは、問題」

上条「一応親善使節なんだからな……つーか『黒鴉部隊』もオーバーキルっぽいが」

フロリス「てーかさぁ、さっきみたいな食えないオッサンばっかなの、『学園都市』って?」

上条「食えない。まぁ、一筋縄じゃないけど。つーかお前ら見てかなり凹んでたぜ?」

フロリス「演技に決まってんじゃんか。『糸』バシバシ飛ばしてたし、何かあったらぶった切る気満々だったでしょー?」

フロリス「敵か味方かもわっかんない相手の前で、背中見せるなんて有り得ないってば」

レッサー「『機械化小隊(マシンナーズ・プラトゥーン)』」があの精度で量産されたら、嫌ですよねぇ」

上条「いやだから、ただのオッサンだよ?ちょっと嘘吐きで心配しぃってだけで」

レッサー「向こうさんは『対能力者戦闘』のスペシャリストでしょ?『対異能』って事は、私達ともある程度応用効きますし」

レッサー「むしろ学園都市としては、そっちが本命かも?かもかも?」

上条「……うーん」

ベイロープ「脱線してるわよ」

フロリス「おぉうサーセン。続けて続けて?」

ランシス「ん。でも『たまたま乗り込んだ得体の知れない魔術結社モドキが、巻き込まれて反撃する』のは……まぁ、よくある」

ランシス「……かも、しれない」

上条「それじゃお前ら――」

レッサー「私達は『ブリテンの国益に叶う事』しか、しません」

レッサー「それは魔術師である私達の存在意義もありますし」

フロリス「いやぁワタシはちょっと」

ランシス「右におなじく」

ベイロープ「黙ってろ外野二人」

レッサー「だ、もんで今回介入させて貰ったのも『アレを放置するのはブリテンのためにならない』からであって」

レッサー「言ってみりゃ『ケンカを売られたんで買った』ってもんですよ、えぇ」

上条「……レッサー……!」

レッサー「お?なんです?レッサーちゃんに惚れました?」

上条「それはない」

ベイロープ「てかさ、何がどうなってるのよ?『アレ』は結局何?学園都市のビックリドッキリ変態生物?」

上条「こっちも何が何だか……あぁ今ちょっと『濁音協会』ってのと揉めてるっぽい」

フロリス「だくおんきょうかい?」

ベイロープ「……あぁ、って事は『アレ』は『ショゴス』に決まりか」

レッサー「ですねぇ。ホラやっぱり『クトゥルー』だったでしょうが」

ランシス「『スライムは服しか溶かさないんですよね、分かります!』つって突っ込んだのは誰……?」

レッサー「危うく見せる相手も居ないのに、内臓までご開帳する有様でしたよ」

上条「そうか、そっちでも有名な奴らだったのか」

レッサー「いや、聞いた事無いですよ。つーか私らも言う程情報戦に長けている訳でも」

レッサー「ただ『だくおん』って響きで大体アレだなぁと」

上条「濁音ってガギグゲゴとか、日本の概念じゃねぇのか?どうしてお前らが直ぐに分かんの?」

レッサー「唐突ですがクイズのお時間でーす!今日の回答者は学園都市からはるばる戦場に来たハッピートリガー上条当麻さーん!」

上条「ど、どうも?」

レッサー「好物は女の子の作った手作りクッキー!しかし現実には従妹さん以外から貰った事がありません!」

上条「オイ待てプライバシーを尊重しやがれ!」

レッサー「ちなみにベッドの下の『抗い難しアドニスの園(※ホプ○クラブ)』は既に禁書目録へ登録済みですねー」

上条「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

レッサー「ではそんな上条さんに10回クーイズ!」

上条「あぁ、ガキの頃流行ってたのな。ピザを十回言わせて」

レッサー「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ……」

上条「じゃあここは?」

レッサー「エェルボゥ」

上条「巻き舌でお約束を裏切られた!?」

レッサー「てな訳で問題!『だくおん』を10回言って下さい!さあ早く!ハリーハリーっ!」

上条「だくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおん……」

レッサー「『勇者指令』?」

上条「それはダグオ○」

レッサー「正解!正解者には――」

ベイロープ「真面目にやれ、な?」 ギリギリギリギリッ

レッサー「すいませんっしたっ!だから私のおっぱいを鷲掴みはご勘べイタイイタイイタイイタイっ!?」

フロリス「超見てるよね?」

上条「……さぁ?」

ランシス「……嫌い?」

上条「大好きさっ!あぁ嫌いな男なんていない!」

レッサー「……てな訳で『だくおん』を縮めていくと、なるんですよ。例の奴に」

レッサー「『濁音協会』……そう、『ダゴン教会』に!」

――ユーロスターS 食堂車

フロリス「おおぅ、ロクなもの残ってないなぁ」

ランシス「缶詰は、あるけど……食べ、られる?」

ベイロープ「『ショゴス』の食い残したものだぞ?ヌメヌメベトベトが通過してんのに、食う勇気があればどうぞ」

レッサー「むしろプレミアつきそうですけどね、『ショゴスの強酸にも耐えきった○○!』とか」

上条「――おい。そこで漁ってるお前ら」

レッサー「はいな?」

上条「説明はどーした!?つーかさっきのダジャレじゃねぇか!?安易だな魔術結社!」

レッサー「いやそれなら私がドヤ顔で言い切りましたし、納得して頂かないと」

上条「意味が分からねぇよ!元々濁音なんちゃらは日本語の発音だろーが!」

フロリス「それねー、『理解しようと思ったら負け』だから、考えるだけムダだってば」

上条「……だから、そこを詳しく頼む」

ベイロープ「魔術師にとっては『名は力』なんだよ。だからころころ変えたりはしない、つーか出来ない」

上条「魔術名を偽るとか、そういう次元の話か?」

レッサー「ですかねぇ。例えば『グレムリン』、いますでしょ?あそこさんの幹部は、みんな北欧神話系を名乗っているそうですけど」

ランシス「噂じゃ、霊装や使う魔術も自分達の名前と同じ……だっけ?」

上条「だな。トールも『雷神の槌(ミョルニル)』使ってたわ」

レッサー「そうそう――って、うえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?マジですかそれ!?」

上条「負けちまったけどなー」

ベイロープ「『戦争屋』とやり合って生きてる方がスゲェっつーのよ……いやまぁ、そういうバケモノがゴロゴロしてんだけど」

ベイロープ「連中、トールはどうして『トール』を名乗ってると思う?」

上条「使う術式や霊装が、北欧神話のそれと同じだから、かな?」

ベイロープ「じゃあ『自分の手の内をわざわざ特定出来るような真似を晒してる』、ってのも理解出来るよな?」

上条「あー……うん。理由までは分からないけど」

レッサー「ま、そこら辺は一部の能力者と一緒で、『バレたからってなにが問題なんですか?』的な自信もあるでしょうけど」

フロリス「効率からすりゃ、ウソの名前で騙してた方がネタバレが防げるしねー」

レッサー「だがしかぁし!そこを敢えてわざわざ名乗る必然性があるとすれば!」

上条「あ、あれば?」

レッサー「超格好良いじゃないですか」

上条「あ、これ美味いな?なんて食べ物?」

ランシス「チュロス。ドーナツの変形、みたいな」

上条「冷凍したのポリポリ食うのも、アイスケーキみたいでアリかも」

フロリス「紅茶とコーヒーどっちがいいかね?どっちもコールドだけど」

上条「コーヒーで。つーかイギリス来て思ったんだけど、みんな紅茶飲まないよな?」

ベイロープ「なんか知らないけど、イギリス=紅茶みたいなイメージは止めて欲しい」

ベイロープ「ホームステイに来た奴がまず驚くのが、『紅茶以外の飲み物があった』だからな」

上条「え?アヘン戦争って習ってないの?」

ランシス「マジレスすると、今の教科書には載ってない……」

上条「へー、スゲェなイギリス」

レッサー「……あのぅ、私と致しましてはそろそろ話を続けるか、『なんでやねーん』的なツッコミを頂きたい所なんですが」

ベイロープ「……ま、結論から言えば『名は体を表わす』みたいに、そうそう自分達の本質とかけ離れた名称は使えないのよ」

ベイロープ「メンタルに依存する部分が大きいから、本質と変わってしまう、って言うのか」

フロリス「それでも本質を隠すために全然違う通り名を、てのもよく聞く話だけど」

ランシス「反対に『バアル・ゼブル』みたいな、『複数のルーツを持つ一つのモノ』も、ルート分岐し放題……」

上条「それじゃ今回の『クトゥルー』は、やっぱり」

レッサー「あぁ上条つん違います違います、今までのは一般的な話で連中の話はまた別口です」

上条「上条つんて何?誤字なの?ツンツン頭っては最近よく言われるけどさ」

上条「つーかステイルにもそこら辺を濁されたんだが、クトゥルーってフィクションだよな?」

レッサー「うーむ……上条さんにはそこら辺を一から説明かー。超面倒なんですけど」

上条「俺だって理解出来るか分かんないけど、いつ必要になる知識か分かんないだろ」

レッサー「ですかねぇ……ま、いいですけど」

レッサー「私は説明によって好感度が上げるからいいんですがっ!」

上条「本音がダダ漏れしてんぞ。むしろ打算的で下がってる」

レッサー「まぁまず上条さんはクトゥルーを『フイクション』だと仰いましたが――」

レッサー「――じゃ、逆に聞きますけど『フィクションじゃない神話』ってどれだけありますかね?」

上条「そりゃ……答えに困るわなぁ」

レッサー「つーかですね、そもそもおかしいんですよ。魔導書ってあるでしょ?禁書目録さんが抱え込んでいるの」

ランシス「禁書じゃない魔導書も、ある、けど……」

フロリス「教会の庭イコール世界って訳じゃないからねぇ、うん」

レッサー「あれに書かれている『知識』――つまり術式or霊装なりの情報、ってどこから来てると思います?」

上条「階層がほんの少しずれているだけの、異界、だっけ?」

上条「俺達の世界とは重なってるんだけど、目に見えないだけで存在はしているって言う、別世界」

レッサー「Exactly……が、しかぁしっ!」

レッサー「『その中にクトゥルーはない、って誰が確かめた』んです?」

上条「それは……経験則だろ?昔の人が色々試した結果、クトゥルーはないって」

レッサー「じゃ『なんでこれからも見つからないと断言出来る』のでしょうか?」

上条「……『無い、と証明出来ないから、ある』、ってのは悪魔の証明だろ?」

レッサー「ですよねぇ。それはその通りだと思いますよぉ、けどね?」

レッサー「――『今、一般に知られている魔術だけ”しか”存在しない』と、誰が決めたんでしょうねぇ?」

上条「ある『かも』知れない、って事か……?」

レッサー「てか不自然なんですよ、全てが。今まで文明がどれだけ滅んでると思ってんですが」

上条「四大文明、全部滅んでるからな」

ランシス「四大文明?なにそれ?」

上条「世界史で習っただろ?メソポタミア、エジプト、インダス、黄河、だっけ」

上条「『大きな河を基点に出来た文明』だった筈だけど」

フロリス「あー、それジャパンじゃ常識なんだ?つーかウチらの教科書どーたら言える立場じゃないっしょ」

上条「え、間違ってんの!?」

ベイロープ「間違ってないけど、人類のまほろばはそれだけじゃねぇわよ」

フロリス「つーかメソアメリカとアンデス入ってないじゃんか」

上条「あ、そういや確かに」

レッサー「スキタイのように名前だけ残って、その遺跡はおろか、実態が殆ど残ってない民族も多々あります」

レッサー「当然、それらには失われた神々や術式、霊装があった訳ですよ」

上条「昔のシルクロードで伝わってきた品物とか、結構残ってるけど?」

上条「他にも土御門が……えっと、えんぎしき?だかって1000年前から神社が2千7百ぐらいあるって」

ランシス「日本が、おかしい……最低でも1400年以上遡れる王朝が、今も統治してるなんて有り得ない」

上条「別にギリシャだって残ってんだろ」

ベイロープ「今住んでるギリシア人と、ギリシア文明を興したギリシア人は別物なんだよ。人種的にはアナトリア、トルコの方が近い」

ベイロープ「そもそもさっき出た『ダゴン』とは、元々古代パレスチナに住んでいたペリシテ人が崇めていた神だ」

ベイロープ「お前が今言ったギリシアのミケーネ文明も、そいつらが興したんだって説もある」

上条「えー……それじゃ、連中は」

レッサー「『過ぎ去りし忘れられた旧い神』――『旧神』だという可能性が!」

上条「……!?」

レッサー「……いや、無いですよねぇ」

上条「散々引っ張ってそのオチかい!?」

レッサー「そこら辺はタイムリミットと言いますか。お名残惜しいですが、来週のこの時間にまた会おうぜって感じで、えぇ」

……ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条「車体が……キシんでる……?さっきから揺れが大きくなってる……か?」

ランシス「……あれ?まだ気づいて無かった?」

フロリス「あー、まぁ外見てる余裕なんてないだろーしねー」

上条「外?」

上条(言われて俺は窓へ目を向ける)

上条「……?」

上条(トンネルの中、外は真っ暗だし……別におかしなトコはないよな?)

上条(何か見えたらそれはそれで怖い、っつーか嫌だ)

上条「特に何も見えないけど?」

ベイロープ「こういうトンネルん中は、万が一の時の非常灯が等間隔で並んでんのよ。日本は違うの?」

上条「あぁいや日本も同じだけど。てか、言われてみればさっき座ってた時には、見た」

上条「でも今は、全然見えない?なんで?」

ランシス「黒いまま……見えない。そう、黒いまま……!」

上条「あ、なんかツボったよこの子」

レッサー「つーかですね、さっきはボトボトボトボト、天井から床下から『ショゴス』が沸いてきてんですが」

レッサー「連中、『どっから来てやがったの?』とか、『食欲しかねー筈なのに隠れられたんか?』的な疑問がある訳ですけど」

レッサー「まぁまぁその疑問もスッパリ解決出来る答えが見つかりましたっ!やりましたねっ!」

上条「……やっべ、超聞きたくない話かっ」

レッサー「戦わなきゃ、現実と!」

上条「ウルセェっ!?こちとら結構無茶やってきたけど、食われそうになるのは――」

レッサー「なるのは?」

上条「……無かった訳でも、無いけどですね……」

レッサー「てなワケで上条さんにもご納得頂けた所で、出て来て貰いましょーか」

レッサー「本日のメェインイッベントゥゥゥゥッ!」

レッサー「赤コーナー、『狂犬レスラー』かぁみじょおおぉぉぉぉぉっとぉぉまァァァァッ!」

上条「え!?対戦カード組まれてんの俺か!?つーかそのリングネームは柴田勝頼だ!」

レッサー「対する挑戦者ァァァァァッ!青コォナァァァァッ!」

ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条(車両が軋む……何か――何に締め付けられている?)

レッサー「『車両に巻き付く程デカい』、親ショゴスさんの入場でぇぇぇぇぇすっ!」

上条(俺は見た!窓の外に浮かぶ巨大な『目』を!)

上条(窓枠いっぱいに広がる単眼は、瞳孔を細めて細めて細めて細め――)

親ショゴス『デゲリ・リィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!』

上条「俺の人生こんなんばっかかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※-□◇◇◇■

※ 現在位置

上条「つーかナニ?あれナニっ!?窓の外でうねうねしてるのは、な・ん・だ・よっ!?」

上条(窓ガラスをぶち破って流れ込む――雪崩れ込む『ショゴス』を、どうにか躱し絶賛逃走中!)

レッサー「いやですから、『親ショゴス(仮)』じゃないかなー、と」

フロリス「ワタシらも後ろの車両に出て来た『子ショゴス』をぷちぷちやってたんだけど。倒しても倒してもキリがなくてねー」

上条「……そか!だから後ろの車両に他の人達を避難させて、バッサリと!」

ランシス「あ、それ違う。ぶちキレたベイロープが車両の間を、ズバっと」

上条「勢いでやっちゃったの!?」

ベイロープ「大丈夫だっての。その後、逃げ遅れが居ねぇか、フォローしてたんだから」

レッサー「ま、正確には『避難誘導中にぶち切れたベイロープ』ですかねぇ」

ベイロープ「ちまちましたの好きじゃねーんだわよ」

ランシス「……知ってた」

フロリス「てか避難誘導が『ちまちま』……?」

上条(ちなみにこんなバカ会話をしている間にも、『ショゴス』の群れの断続的な襲撃を受けている)

上条「よっ、と」 パキィィンッ

上条(『幻想殺し』は充分に通じる。拳が当たればぶちまけた酸ごと瞬殺)

レッサー「ディーフェンスッ!弾幕薄いよっ何やってんですか!」

ベイロープ「やっかましいボケ!つーか詠唱乱れるから黙っとけ!」

上条「……君ら、仲悪いの?」

ランシス「見てて……?」

ベイロープ「『アドリス、アドロス、フランクカァベル――』」

ベイロープ「『――狂人の子らよ、我が前に集いて橋を渡れよ――』」

ベイロープ「『――”炎の巨人(ファイヤートーチ)”!』」

ゴオゥゥゥゥッ!

上条(巨乳のおねーさんの前に一塊の炎が浮かび上がり、それを『槍』で掴むと)

ベイロープ「センターっ!」 ブンッ

ランシス「ひ、ひひっ、お、おーけー」 パシッ

上条(中継役の子がまた『槍』で器用につかみ取る……オリアナん時を思い出すなぁ)

上条(てか、何かブルブルしてんのは、何?そういう霊装かなんか?)

レッサー「ヘイ!かもーん!」

フロリス「ほいよっと」 ブゥンッ

レッサー「――サンキューでーす」 ゴゥンッ

子ショゴス『ギギギギギギギギギギギギギギイィ……』

上条(流れるようなパスワークで最前線のレッサーに中継。んで、その炎は『子ショゴス』を灼いていく)

上条(途中で横合いから敵が出て来た場合には、パス回しを止めてそっち優先したり)

上条(……息の合ったコンビネーションだなぁ。つーか本物のラクロスみたい――さて!)

上条「頼りっぱ、ってのも――情けねぇよなっ!」 パキイイィンッ

上条(当然撃ち漏らす『子ショゴス』は出てくる訳で、俺は遊撃担当に収まった)

レッサー「ナイスアシスト!お礼にワタシをフ×××して構いません!」

上条「残念。日本にそんな風習はない」

ベイロープ「ブリテンにもねーよ。てかそのおバカをウチの標準だと思うな」

――ユーロスターS 5両目

上条(――と、暫く掃討&逃走を続けていると、次第に『子ショゴス』の沸く間隔が短くなっていき)

上条(10分もすると襲撃は収まり、辺りには肉の焼けるいやーな匂い以外は見当たらない)

上条「これで、終り?」

ベイロープ「なわきゃないでしょうが。『親ショゴス』が追いついてきてないだけだと思うわ」

フロリス「『まだ』、だけどね」

上条「追いついてないって」

レッサー「食堂車に絡みついてたのが多分本体でしょーかね。大本って言いますか」

レッサー「あれから切り離された個体が、今まで私達を襲撃していたんではないか、と」

上条「……つまり、俺が『幻想殺し』で倒したかと思ったら、暫くして現れていたのは」

レッサー「同一個体ではなく、別の個体でしょうな。見分けがつきませんから」

上条「無限に再生すんのかってビビったんだけど。ま、良かった、のか?」

ランシス「ところがどっこい……そうも言ってられない」

レッサー「『知っているのか雷○!?』」

ベイロープ「余計なボケはいらん」

ランシス「……?」

上条「この子も自分で分かってなかったの!?」

レッサー「(ここでボケて下さい……!)」

フロリス「いやぁそんな無茶ブリされても」

上条「……思った以上に仲良し組織だな、『新たなる光』」

レッサー「ちっちっち、牙を抜かれ飼い慣らされたロリペ×どもと比べられちゃ困りますぜ?」

上条「それ多分バードウェイんトコ言ってんだろうけど、牙を抜かれたロリ×ドって矛盾してねぇかな?」

上条「牙抜く前にもっと抜いとくべきもんあんだろ。もいどくっつーか」

ベイロープ「話戻すけど、『幻想殺し』で一撃必殺は難しいと思うわよ」

上条「なんで?『子ショゴス』に効いたんたぜ?」

ベイロープ「核心は無いわ。けど、それ『が』トラップの予感がする」

フロリス「こんだけおっきいテロ仕掛ける連中が、ワンパンで沈むクリーチャーで満足するんだー?へー?」

上条「かも知れないけどよ。でも実際に『幻想殺し』は大抵どこでも有効だったし」

レッサー「でっすよねぇ、『大抵』は。無敵な『幻想殺し』は『大抵』通用してきたんですよねー」

ランシス「『継続的に供給され続ける火力は消しきれない』のがひとつ……」

フロリス「『消せる・消せないの境が曖昧』のもあったよ、うんうん」

上条「いやだなぁ俺超有名じゃないですかー、あははー」

レッサー「有名税みたいなもんでしょうから、ちゃっちゃと諦めて下さい。考えるだけムダですってば」

上条「分かってたさ!前マークからも似たような事言われたもんねっ!」

ベイロープ「男が『もんね』は止めろ、気色悪い」

ベイロープ「――とにかく、私の推論では『親ショゴスは群体』になるんじゃねぇか、って話だよ」

上条「ぐんたい?群れで集まってる方の?」

ベイロープ「どっちかっつーと定数群体か」

上条「根拠は?ただバカデカいショゴスじゃなく、ショゴスが集まったって理由は何?」

フロリス「『統率が中途半端に取れすぎている』?」

ベイロープ「よね」

レッサー「んーむむむむ、では上条さん。野生の狼が居たとしましょう、それも複数」

レッサー「彼らがエモノを仕留めようとしますが――どんな風に?」

上条「そりゃ、集まってわーって。群れで狩りをした方が効率的だし」

レッサー「正解。では第二問、『仕留めた後は誰から食べる』んでしょーかね?」

上条「そうだな……」

レッサー「ちなみに『みんなで仲良く均等に分配する』という答えは、フィクションですからブッブーとなります」

上条「それじゃ、群れのボス、とか?」

レッサー「はーい二問目も正解!続いて三問目!」

ランシス「……じゃ、『あいつら』の群れのボスは誰……?」

レッサー「それ私の台詞ですよっ!」

上条「……『親ショゴス』……?」

フロリス「せいかーい、よくやったねーパチパチパチパチ」

上条「ど、どーも?」

フロリス「でも、『実際に親ショゴスは”エサ”を食べに来ないし、”狩り”にも来ない』よねぇ」

ベイロープ「普通はな。狩りをした連中が真っ先に捕食するんだよ、子持ちでもない限りは」

ベイロープ「だっつーのに知能は無きに等しい――ただ『食欲』以外に見当たらない奴が、自分は遠見に徹しているって不自然よ」

レッサー「現状、『親ショゴス』が『子ショゴス』をこっちへ送り込んできているように見えます」

レッサー「もしも相手が『知能を持った動物』であるなら、狡猾な相手だと判断するのが妥当でしょう」

ベイロープ「だが、脊椎動物未満の捕食行動にしては、おかしい。おかしすぎる」

ベイロープ「だからきっと連中は『個」と『群』の区別すら曖昧なんだろうさ」

上条「曖昧なのと、群体がどう関係する?」

ベイロープ「『個』であれば『我』が発生する。他の生物よりも、同種族よりも生き残ろうって本能が」

ベイロープ「もし『親ショゴス』が『我』がありゃ、とっくに本体が乗り込んで来てるわね」

上条「……そうか」

レッサー「まぁ推論でしかありませんけど、わざわざここでブラフ噛ます必要は無いでしょうしねぇ」

上条「もしかして『アレ』に知能があって、って話か?」

レッサー「あい、そーです」

上条「それは俺も考えた。確かに生物学的な方向から見れば、そっちのおねーさん――」

ベイロープ「ベイロープよ」

上条「ベイロープさんの推測は正しいと思う。けど」

上条「『アレ』は本当に生き物なのか?誰かの術式なんじゃないのか?」

ランシス「……そこは、曖昧……びりびり、来ないし……」

上条「えっと――」

ランシス「ランシス……」

上条「なんでランシスはそう思ったんだ?」

ランシス「……なんでベイロープは『さん』で、私は呼び捨て……?」

レッサー「おっぱいですね」

ランシス「そっかーそれじゃ仕方が無い――」

ランシス「……『死の爪船(ナグルファル)』……!」

上条「待て待て待て待てっ!?物騒な霊装起動させんじゃねぇよっ!?第一俺言ったんじゃないしぃっ!」

フロリス「男なんてアレだよねー、顔とおっぱいと腰と髪しか見てないもんね?」

上条「それ男女関係ないと思います!」

ベイロープ「その子は魔力を感知するのか得意、というか性癖って言うかな」

レッサー「だから『アレ』から魔力が放たれていれば、超フィーバー状態なんですがね」

ランシス「んーん、来て、ない……」

上条「それじゃ『アレ』は魔術サイドのバケモンじゃない――訳が、ねぇよな」

ランシス「『魔力を関知されないようにする術式』もある、から。何とも言えない、けど」

ランシス「少なくとも……今まで、外部からの魔力は感じられなかった、気がする」

上条「あぁそっか。ラジコンと一緒で、外側から操るには電波飛ばさなきゃいけないもんな」

レッサー「『関知阻害』がかかっていたとしても、私達みたいな『魔術サイド』にバレないようなカモフラージュかも知れませんし……はっ!?」

上条「どうしたっ!?」

レッサー「『カモフラージュかも』って二回『かも』が出てますよね?」

上条「うん、緊張ほぐそうとしてんだろうけど、他に方法あるよね?オッサンが言いそうなダジャレの他にさ」

ベイロープ「……まー、結局現時点で出る推論なんてこんなもんだわ」

上条「『ショゴス群体説』のままで対策を取るのか?」

ベイロープ「実戦中に完璧な情報なんて見込めねーんだよアホが」

ベイロープ「『万全』な情報なんざ、戦闘終わった後に調べた所で出てくるかどうか怪しいっつーの」

ベイロープ「どうやった所で手持ちのカードで勝負賭けるしかないでしょーが」

フロリス「いやぁその割にはこないだの『ブリテン・ザ・ハロウィン』で、盛大にシクったよねー」

レッサー「ベイロープ、そこら辺甘いですから。男運も悪いですし」

ランシス「やーい……バッドラックファレー」

ベイロープ「男運関係ねぇだろ。つーか振ったバカどもが好き勝手に言ってるだけで、私は無関係だ」

上条「見通しの甘さは否定しないんだな」

ベイロープ「うっさいわね。ありゃあん時『次善』だと思ったんだっつーの」

上条「また、『次善』かよ……」

ベイロープ「キャーリサ王女殿下も私らも、あれが悪いだなんて思ってないわ」

ベイロープ「『最善』は別にあったんでしょうね。否定するつもりもないけど」

ベイロープ「ただ、『最善を模索している間に、最善が最善でなくなる』なんつーのもよくある話」

ベイロープ「目の前でレ××されそうになってんだったら、暴力以外で止める以外に方法はねぇんだわよ」

上条「……アレが良かったってのかよ!?色んな人が傷ついたりしたんだぞ!」

ベイロープ「――去年、イングランドのテレビ局がグライダーをドーバー海峡を横断する企画を立てた」

上条「ラジコンみたいなのか?」

ベイロープ「グライダーってのは動力の無い、デカくて丈夫な紙飛行機みたいなもん。それをイングランドから飛ばそうって番組」

フロリス「大の大人が必死こいて流体力学が強度が重さが、ってグライダー作ってるのはマジうけたし」

上条「ちょ、ちょっと参加してみたい」

ランシス「……ロマンだもんね」

ベイロープ「で、二時間番組の真ん中、司会者がなんか突然深刻そうな顔で言い出すのよ」

レッサー「『……実は、ここで皆さんに大事な事を告げねばなりません!』」

レッサー「『とても残酷な事実なのですが、これを伝えなければ私達は前へ進めない――だから、私は勇気を持って告白したいと思います!』」

上条「やだそれ死亡フラグじゃない」

ベイロープ「ある意味そうだけどな」

上条「へ?」

レッサー「『それというのも――フランス側から、グライダーの飛行許可が下りませんでしたっ!!!』」

上条「番組全否定かっ!?つーか企画立てる前に許可取っとけよ!何でギリギリになって申請してんの!?」

ランシス「……マジ話なんだから、業が深い……」

上条「やっべー超興味出て来たその番組」

レッサー「ちなみにその後、ブリテンで大体ドーバー海峡と同じぐらいの海峡、てか海の上を飛行する事になりました」

レッサー「下からモーターボートでカメラと司会者が追いかけ、必死に実況するのですが――」

レッサー「如何せん、その絵が地味すぎ&司会者はしゃぎすぎで視聴者置いてきぼり、という後半も見所満載の番組でした」

上条「……分かろう?作る前に分かるよね?」

上条「結局、延々海の上を飛んでるだけだから、絵面が地味になるって分かりそうなもんじゃん?」

上条「飛行許可云々も、フランス側に電話一本メール一通出せば分かったよね?見切り発車もいい加減にしないと」

ベイロープ「ま、『ハロウィン』前からそんな感じだし、冷戦終わっても仮想敵国同士なんだよ」

レッサー「実際『たまたまドーバー海峡に潜んでいた国籍不明の原子力潜水艦』が撃沈されて、カエル食い野郎超ザマミロですしねー」

上条「フランス、そんな事してんの?」

レッサー「原潜+核ミサイルのコンボは、領海をウロつくのがお仕事です」

フロリス「本土が焦土爆撃喰らっても、原潜が報復の一発かます仕組みってワケだよ」

ベイロープ「『降伏するサル(Surrender Monkey)』だけじゃく、他の国もやってっけど。こっちは虎の子潰せて万々歳だ」

上条「サレ……なんだって?」

レッサー「正しくは『Cheese-eating surrender monkeys』、日本語訳『チーズを食べながら降伏するサル野郎ども』ってぇ意味ですな」

上条「文化的なアレコレ言うのは良くねぇだろ」

フロリス「この名前は95年?だかのイラク戦争、フランスが参戦しなかった時に広まったんだよねぇ」

フロリス「『テメこの臆病モンが!』的な意味で」

上条「それは……何とも言えないけど」

ベイロープ「今やってるウクライナに侵攻してるロシアへの経済制裁も、フランス野郎が反対してお流れになりそうだし」

ベイロープ「つーかロシアから受注してる揚陸艦、予定通りに引き渡すってのはどういう事よ!?」

ベイロープ「有り得ないでしょーが!今っから黒海で向き合うかも知れない相手に!」

フロリス「今のベイロープの叫びは、各国の軍関係者の魂の叫びなんだよねぇ」

レッサー「てか『これから新冷戦だよ、やったねっ!』と盛り上がるってぇのに、空気読んで欲しいですよ、えぇ」

上条「不謹慎な事言うんじゃありません!」

レッサー「いやでもマジ話、ウクライナ一つでNATOが戦争かます程コストが釣り合ってない訳でして」

レッサー「だもんで、経済制裁で何とか退いて欲しかったんですけどねぇ」

ランシス「無理っぽい、よね」

レッサー「……まぁ、なんだかんだ言って、政治も経済も国際関係も『最善』であった試しがありません」

レッサー「ある国にとって良かれ、けれどとある国では悪しかれ。利害関係が絡めばフランスみたいに一抜けする所もありますよ」

レッサー「今着々と独立が進んでいるウクライナを置いてきぼりにして、ですが」

フロリス「いっくら平和ボケのジャパニーズでも、自称『親ロシア派の一般人』がライフル持って襲撃かますなんて思わないでしょー?」

フロリス「装甲車を乗り回し、ウクライナ軍の武装ヘリを撃ち落とす『一般人』……まぁ、学園都市の護衛さんでもあるまいし」

レッサー「国家は自国民の国益が一番。そういった意味でウラジミール氏はよくやっています――我々の『敵』として」

上条「……平和な世界云々、ってのは何だったんだ?そもそもEUは過去のしがらみを断ち切るためにしたんじゃないのか?」

レッサー「やっだなぁそんな訳ないじゃないですか。単に大国同士が利益を得られるからしただけですってば」

レッサー「取り残されるなと同じバスに乗ったは良いものの、行き先が同じじゃなくってパニクってるだけ、と言いましょうかね」

ランシス「ブリテンはー、ユーロ採用してないしー……」

レッサー「経済も外交も全部、形を変えた戦争なんですよね……ただ、今回は西側が負けただけの話」

上条「……ブラックな話だ」

ベイロープ「……ま、分かった?理解出来た?これもまた、現実だわ」

レッサー「『戦争を知らない世代』とか、日本以外でも結構使われるフレーズですけどね」

レッサー「じゃ逆に聞きますが、その理屈だと『戦争経験がある人間・国家の方が、しない人間よりも倫理的に上』」って事になりますな」

フロリス「『戦争を知らない=平和守れない』んだったら『平和を守る=戦争する』って事になって」

フロリス「『平和のために戦争をし続けなければいけない』って、延々戦争が続くだけなんだけどね」

ランシス「卵が先か、鶏が先か……」

ベイロープ「『偽善』、『最善』、『次善』……ま、言葉は色々あるけどさ」

ベイロープ「結局は、するか、しないかの二択なんだわ」

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※-□◇◇◇■

※ 現在位置

ベイロープ「ってな感じでそろそろ。あぁ移動頼む」

レッサー「上条さんは、私とこっちへどうぞ」

上条「車両移動?……あぁそっか」

上条(手を引かれるようにして、俺とレッサーは一つ前の車両へ移る)

上条(途中、連結器らしい物々しい構造物があった。非常時にはここで切り離すのか)

上条「次の車両からは『カーゴ』だもんな。ここでケリつけなきゃいけない、よな」

ベイロープ「まぁ、不本意ではあるけどね」

上条「不本意?」

ベイロープ「フロリス」

フロリス「……うん」

ベイロープ「おバカとやる気の無いの面倒頼むわ」

レッサー「言われてますよ、やる気の無い子さん」

ランシス「……だね、おバカの子」

フロリス「んー、まぁ適当にやってみるよ。メンドーだけどさ」

ベイロープ「アンタは本当に……ま、いいわ。ランシス!」

ランシス「……はい」

ベイロープ「……変えられた、か?」

ランシス「……うん」

ベイロープ「なら、良かった――レッサー!」

上条(会話が終わった子は一人ずつ、こっちの車両へ移ってくる)

上条(……でもこの挨拶、おかしくないか?)

レッサー「はいな」

ベイロープ「あー……やっぱいいわ」

レッサー「ヒドっ!?最期の最期でこの扱いですかねっ!?」

ベイロープ「アンタは直ぐ会えそうな気がするわ。フロリスじゃ手に負えないだろうし」

レッサー「失敬な!この『人の話を良く聞きましょう!』とよく言われたレッサーちゃんに何と言う暴言を!」

上条「今まさに人の話を聞けよ」

ベイロープ「後は、ま、ジャパニーズ」

上条「上条当麻」

ベイロープ「ウチの子らを、頼んだわよ。悪い子――も、いるけど、まぁ何とか外面は悪くないし」

レッサー「そこでどうして一斉に私を見るんですか?」

レッサー「そろそろ白黒つけましょうよ?ぶっちゃけ今の私達に必要なのは、肉体言語で理解し合う事ですよね?」

ベイロープ「――それじゃ」

レッサー「――えぇ、ベイロープ。良い旅を」

ガキンッ

上条「ちょっと待てよ……?今何を――」

フロリス「見りゃわかんじゃん。切り離したんだよ」

ランシス「後ろの列車の、車両を……」

上条「それじゃ――!?」

ベイロープ「……」

レッサー「あぁもうどうしようもないですから、ちゃっちゃと諦めて下さいな」

レッサー「連結器が一度離れてしまうと、人力で戻すのは不可能ですからね」

上条「まだ――あっちの車両にはベイロープが居るんだぞ!?」

ランシス「……じゃ、ないとダメ」

上条「あぁ!?」

ランシス「『ショゴス』は『一番近い人間』を捕食対象にする。つまり」

フロリス「『現時点で火力の足りないワタシ達』が出来る『次善』が」

上条「……まさか」

レッサー「そうしませんと、『親ショゴス』は直ぐにでも追いついてしまうでしょうから、はい」

上条「ベイロープさんを囮にする、か……?」

レッサー「……はい」

フロリス「意外と冷静だね、ジャパニーズ。さっきは散々取り乱したってのに」

フロリス「やっぱり見ず知らずの相手との別れには、納得しちゃうクチかな?」

ランシス「……フロリス」

レッサー「……あんまり言わないで下さいな、それは上条さんが酷薄って話じゃなく」

レッサー「この世界、『いつだってどこだって、誰かは犠牲になっている』んですから」

レッサー「今、たまたま目の前に――って、上条さん?」

上条「あ、レッサーゴメンな?もう少し左に退いてくれっかな?」

上条「そっちの子、フロリス――」

フロリス「”さん”をつけろ、”さん”を」

上条「――”さん”も、もうちっとだけ後ろ……あぁおけおけ、いい感じいい感じ」

上条(連結器から切り離された車両と車両の間は3m弱)

上条(向こうに動力がないから、次第にその差は広がっていく――のは、当然だっと)

上条「……いっちばーーん、学園都市、上条当麻――」

上条「――いっきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!!」 シュダッ

レッサー「上条さん!?」

上条(レッサー達が止める間もなく――ってかこの馬鹿な事はしないと踏んだんだろうけど――俺は、車両から車両まで飛び移る!)

上条(走り幅跳びでは……まぁ、何とか――?)

上条「――て、風が!?」

上条(マズい!予想以上に風圧が――!?)

上条(格好つけて落ちましたー、じゃ最悪すぎるだろ!?)

パシッ

上条(半ば諦めかけた俺の手を)

上条(列車から殆ど乗り出した格好で、ぶっちゃけ落ちんじゃねぇかって心配なるになるぐらい身を乗り出し)

上条(しっかりと握ったままで彼女は叫ぶ)

ベイロープ「お前――バカじゃないの!?」

ベイロープ「納得したんじゃなかったの!私や、アンタのツレの生き様見てたんでしょうが!」

上条(と、こうしている間にも列車と列車の間は離れていく)

上条(レッサー達も何か言ってるけど、聞く必要も無かった)

上条(俺が言わなきゃならない相手は、目の前に居るから)

上条「あぁうん、納得したし理屈も理解したよ。俺が同じ立場だったら、アンタや柴崎さんみたいな行動したかも知れない」

上条「なんつーか、散々『覚悟』っていうか、生き様みたいなの見せられて、正直スゲーなっては思ったよ」

上条「尊敬もしてるし敬意も払う。少なくとも俺みたいな『ガキ』には真似出来ないから」

ベイロープ「だったら――」

上条「……でもな」

上条「――『納得したからって黙って見てる義理もない』んだよ、こっちは!」

上条「俺は俺の理屈で動く!気に入らなければ殴ってでも止めるし、気に入ったんだったら殴ってでもする!」

上条「それ以上でも以下でもないんだ!」

ベイロープ「お前……」

レッサー「――上条さん!」

上条「……てかさ、そもそも間違いだったんだよ、最初っから」

上条「学園都市だの、十字教だの、魔術結社だの。下らねぇよな、ホント」

上条「女の子一人助けるために、ごちゃごちゃ理屈こねてる方か間違ってんだよ!」

上条「大の大人達が縄張り気にしている場合じゃ無かったんだ!――なぁ、聞いてんだろ?柴崎さん!?」

上条(渡されたスマートフォンへ向かって叫ぶ)

上条「ここから、こいつらが敵じゃねぇかって探ってんだよな?」

上条「そんな場合じゃねぇんだよ!誰が味方で誰が敵だとか――」

上条「――俺達が力を合わせなきゃ!バラバラの状態でやったって勝ち目は薄いんだよ!」

上条「目の前に大切なモノがあって!それを守り抜くためだったら何だってするんだろ?」

上条「命懸けで俺達を守ろうとしてくれた!アンタは証明してくれた筈だ!」

上条「だったら今度は!俺が信じた相手を!こいつらが味方だって信じてくれよ!」

上条「証拠も何もないけど!多分アンタが嫌う魔術師サイドの人間達だけどさ!」

上条「少なくとも見ず知らず人間一人守るために!仲間一人が笑って犠牲になるぐらい!真の通った人間なんだからさ!」

ベイロープ「……」

上条「だから、今度は――」

上条「――俺達と一緒――」

プツッ

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
次回で第一章終り(予定)です。6万語ぐらい留めて置く筈が、気がついたらもう7万6千五オーバー (´・ω・`)

>>240-241
上司が本気になるからヤメロ

おつ。熱いな。どわーふさんのは軸っつーか芯がちゃんとあるから面白いわ

ベイロープさんがいいキャラしてていいなって思いましたまる

乙~

これでベイロープにフラグ建つといいなー

あ、ところで上司さんはダルク推しなの?俺はどっちも喰えるけど。とりま重護とのCPを希望

~あとがきにて~
鎌池「ところであの子のデレはいかがでした?」

俺「オティヌス愛してるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

こう答えること間違いなし!

みんなは読んだか? 新約とある魔術の禁書目録第10巻!!

泣いた! 叫んだ!! 服を脱いだ!!! 15㎝の定規を探した第10巻!!!!



ひっさしぶりに星も見れるぜ☆ まだならはやく買っちゃいなよyou!

>>271-275
ありがとうございます

>>273
上司はペド&ショタ&BLいける派(売れれば書く)、私は基本ノーマル
個人的には重護と天災(の、掛け合い)が面白いとは思います

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※

※ 現在位置

ベイロープ「――最初に恋した時の事って憶えてるか?私はよーく憶えてる方よ」

ベイロープ「近所に住んでた雑貨屋のお兄さん、ガキの時にはよく遊んで貰ってたから、って理由だけで好きになったわ」

ベイロープ「……ま、私が告白する前、カート密売で捕まったけど!」

上条「……えっと、うん、そのカートって」

ベイロープ「別名『チャット』、中東で使われてるドラッグよ」

上条「初恋は実らないって言いますよねっ!?きっと、それじゃないかな!」

ベイロープ「……まぁそれはガキの話じゃない?実家に居た頃の話だし、なんてーか年上の異性に憧れるなんてよくある話よ」

ベイロープ「でもね、これはゴードンに入ってからの話なんだけどさ」

上条「ゴードン?」

ベイロープ「ゴードンストウン、スコットランドにある全寮制の学校。私らが籍を置いてる所」

ベイロープ「所謂、王室関係者の出身が多いってんで、そっちにコネを作るにはもってこいの学校」

上条「コネて」

ベイロープ「つーかキャーリサ王女殿下ともそっち繋がりなのよ。学校のOG」

ベイロープ「そもそも私らみたいな、得体の知れない魔術サークルと懇意にしてるなんて有り得――」

上条「なくはないよなぁ。アイツの性格だと」

ベイロープ「とにかく!これはゴードンへ入った時の話なんだが!」

ベイロープ「こう、線の細い色白――って言うか、病的なぐらい肌の白い先輩が居たのよ」

ベイロープ「実際病弱キャラで『守ってあげたい!』みたいな、保護欲をそそられる先輩が!」

上条「あ、オチ何となく読めた」

ベイロープ「……初恋がアレだった。だからきっと!今回は神様も祝福してくれる!そう思って私は告白したわ!」

上条「したんだー、しちゃったんだー」

上条「完璧フラグ立ってる――てか、ベッキベキに折れてる気がするんだけどなー」

ベイロープ「ま、同室の野郎とデキてたんだけどな!」

上条「アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!?」

ベイロープ「フラれたよりもショックが大きすぎで、もうレッサー殺して私も死のうかと」

上条「助けてあげて!?レッサーさん逃げてぇぇぇぇぇっ!?」

ベイロープ「……その後も『あ、ちょっといいな?』って思った男どもがマザコンだったりシスコンだったりブラコンだったり」

上条「男でブラコンて。アッ!率多いなイギリス」

ベイロープ「……だからもうコリゴリじゃない?キー・ステージ上がってくと、今度は逆に告白されるようになったんだけどさ」

上条「キーステージ?」

ベイロープ「ブリテンのパブリックスクール――公立校の義務教育の学年、みたいなもんよ」

ベイロープ「ちなみにステージ4卒業が16歳ね」

上条「日本より一つ上か」

ベイロープ「ま、あの子達の世話もあるし?先生――私達に魔術を教えてくれた人から、面倒看るのも修行だー、みたいな」

ベイロープ「今にして思えば面倒を押しつけられた気も……?」

上条「まぁいいんじゃないか?他人に教えるのも復習になると思うんだよ」

ベイロープ「ま、ね。そんで時間もサークルっていう建前で拘束されるし、告白されてもフッてたら――」

ベイロープ「……今度はレ×疑惑が」

上条「てかそれ男運じゃなくって、男見る目がないだけじゃ……?」

上条「あと別に百合はいいと思うよ?当人同士の強い想いがあれば、うん」

ベイロープ「黙ってやがれ百合厨疑惑。アンタの性癖でどんだけのレッサーが泣いてると思ってんだわ」

上条「少なくともオタクのレッサーさんは泣いてないと思うな。あの子にあるのは打算だけだもの」

ベイロープ「ん、私も自分で言ってて、『それはねぇな』って思った」

上条「……あれ?」

ベイロープ「何?」

上条「いつの話だ?てかどうしてレッサーさん居んの?」

ベイロープ「ゴードンは全寮制、でもってレッサー・フロリス・ランシスとは寄宿舎が同じ」

ベイロープ「つっても私は上級生だから面倒看る方だけど――」

上条「へー」

ベイロープ「……思えばアイツに告白した時も、あのおバカが邪魔しくさりやがって……!」

上条「……一応聞くけど、どんな人?」

ベイロープ「何か、こう一匹狼って感じで。孤独なのよ!」

上条「コミュ障だよね?」

ベイロープ「何かあると『俺の右手が!?』って言い出す人」

上条「あ、ゴメン今の無し。よく居るよねー、珍しくもないもんねー」

ベイロープ「そういや最近見ないけど、退学したんだっけ……?」

上条「キャラ作りで失敗したんだと思うよ?学校デビュー間違ったとも言うかも」

ベイロープ「とにかーく!私は別に男運が悪い訳じゃないのよ!分かる!?」

上条「繰り返すけど、見る目の問題じゃねぇの?タイプが一人ずつチェンジしてる」

上条「つーかさ、聞いていいかな?」

ベイロープ「何度もどうしたのよ」

上条「俺ら今、絶賛取り残され中だよね?バリケードとか作んなくていいのか?」

ベイロープ「天井と壁と床から染み出してくる連中に壁作ってどうすんのよ。そのまま逃げ場失って食われるパターンよね」

上条「かも、知んないけどさ!車両の中で男運の悪さ嘆くのも何か違うだろっ」

ベイロープ「私達がここから離れる訳にも行かないし、他に出来る事もないわよね」

ベイロープ「アンタのお友達でも居りゃ、ギャーギャー騒ぐんでしょうけど」

上条「あー……『無駄死にするな』って」

ベイロープ「それそれ」

上条「ベイロープさん、あんま怒ってない、よな?つーか普通?」

ベイロープ「ん?あぁ別に?つーか怒る方がおかしいでしょ」

ベイロープ「だってアンタ、ここへ『戦い』に来たのよね?私を止めるとか言い出したら、遠慮無くぶっ飛ばすけど」

上条「しねーよ。死なせたくないし、死ぬつもりもないだけだ」

ベイロープ「私も同じく。『新たなる光』の中じゃ、高火力の私が足止めとしちゃ適任だっただけ」

上条「てっきり叱られるもんかと思ってた」

ベイロープ「あぁ『命を無駄にするな』とか言われると思った?ナイナイ、言う訳がない」

ベイロープ「んー、まぁ『死ぬ』のは『結果』であって、『目的』じゃないワケよ」

上条「うん?」

ベイロープ「だーかーら、こうやって足止めやってるけど、別に『死ぬ』のが目的じゃない、分かる?」

上条「あぁ時間稼ぎっつーか、他の解決方法を誰かか持ってくるまで被害を抑えるんだよな」

ベイロープ「『目的』が時間稼ぎであって、『死ぬ』のはあくまでも『結果』よ」

ベイロープ「力が及ばないんだったら、それは自分の責任だわ。生きるだけの力が少しだけ足りなかったって事」

ベイロープ「少なくとも『戦場』に来るんだったら、覚悟はしておかなければいけないのよ」

上条「厳しいな、そりゃ」

ベイロープ「それが『戦場へ往く』って事だからね。自分自身で選んだ以上、出たダイスの出目が悪かったからって、無しには出来ない」

上条「……俺が言うのも何なんだけど、つーかさっき言われた事でさ、そういうの適材適所があるんじゃねぇかって」

ベイロープ「『仕事はプロに任せる』?」

上条「……俺みたいな一般人が出て行っていいもんか、っては結構悩んだり」

上条「今だけじゃなく――」

ベイロープ「……あのさぁ、上条だっけ?」

上条「うん」

ベイロープ「例えばの話、目の前で困ってる人が居た。どうする?」

上条「助ける」

ベイロープ「いい返事。それじゃ『戦う』んだった――あぁいえ、言わなくていいわ。ロシアまでウチの子と行ってきたんだし」

ベイロープ「バゲージシティみたいな地獄の一歩手前にも顔出してたわよね、確かに」

上条「いやぁ割と気がついたら巻き込まれてる時も、うん」

ベイロープ「じゃ聞くけど、どうして行ったの?ロシアとバゲージへ」

ベイロープ「魔術と科学の間でフラフラしてきたアンタが、大した力も無いのに何で?」

ベイロープ「それこそ誰か、『もっと強い専門家』へ任せた方が良いとか思わなかった?」

上条「……あぁそうか、そういう事か」

ベイロープ「確かに『誰かが助けてくれる”かも”しれない』」

ベイロープ「『自分じゃない誰かが、上手く収めてくれる”かも”しれない』……ま、可能性はあるわよね」

ベイロープ「道で倒れたおばあさんを、たまたま通りかかった医者が助けてくれる”かも”しれない」

ベイロープ「傷ついて動けない人が居ても、誰かが通報してくれる”かも”しれない」

ベイロープ「世界が悪い魔王に征服されそうになったら、英雄が現れて救ってくれる”かも”しれない」

上条「……」

ベイロープ「そして『自分が戦わなくっても、誰かが自分の思い通りの世界を創ってくれる”かも”しれない』って」

ベイロープ「ゼロじゃないってだけで、限りなくゼロに近い他力本願を」

ベイロープ「でも、アンタはそれで納得行かなかったってクチでしょ?」

ベイロープ「だから拳を握って、たったそれだけの武器を持っていつもいつも『戦場』へ来やがった、と」

上条「……ま、そうだけどさ。それ言ったらベイロープさん達だって同じじゃねぇの?」

上条「『魔術師』は、みんなそうだって事だろ」

ベイロープ「そう、ね。うん、それはそうよ」

ベイロープ「力があればするとか、無ければしないとか、そうじゃない。そういう甘ったれた話じゃない」

ベイロープ「『魔術師だから』も、この際関係ないわ」

上条「……」

ベイロープ「『戦場』に立つだけの勇気があれば、それはどんなガキだろう、老いぼれだろうと『戦士』なのよ」

ベイロープ「アンタ――あなたは『それ』を行動で示した」

ベイロープ「自ら進んで死地に降り立った。覚悟を見せたわね」

ベイロープ「そんな『戦士』相手に、今更説教タレんのもダサいって話よ」

ベイロープ「世界を変えたいけど、『来るか分からない英雄なんか待ってらんねぇよ』って動いたのか、あなた。そして――」

ベイロープ「――私。OK?」

ベイロープ「ちなみに似たようなおバカを、あと三人知ってるわ」

上条「……ベイロープさん男前っすね」

ペイロープ「……止めて。トラウマが甦る」

上条「えっと……?」

ベイロープ「レ×疑惑が出た時、あのおバカが」

ベイロープ「『まっかせてください!この私にお任せ頂ければ噂の一つや二つは75日!』」

上条「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

ベイロープ「止めろっつってんのに、あのおバカが勝手に噂操作?だか噂の上書きだか、やりやがったんだよ」

上条「うわぁ……」

ベイロープ「次の週、何か会う奴会う奴、全員から同情された視線が飛んでくるな、って思って問い詰めたら」

ベイロープ「私は『外に恋人が居たが、両親から猛反対されて全寮制の学校にぶち込まれた』って設定んなってた」

上条「なんつーか、その時レッサーが読んでた小説だかマンガだかの内容が分かる……」

ベイロープ「バカじゃねぇのか!?こっちはハイランダーの末裔名乗ってるけど、別に貴族じゃないわよ!?」

ベイロープ「つーか入学したのってまだちっちゃかったし、どんだけウチの親が大人げないんだって話だ!?」

上条「……昔っから仲良かったんだなー、君ら」

ベイロープ「吊ったけどね」

上条「どこにっ!?」

ベイロープ「――ま、その話は帰ってからどうぞ」

……ギシッ、ギシギシギシギシギシギシッ!

上条「……いや、死ぬつもりはない。ないって思ってんだが――倒せるのかよ、『アレ』」

上条「最新式の車体揺らす程の大質量の群体、俺の『幻想殺し』で殺しきれんのか……?」

ベイロープ「少しでも勝ち目があんだったら、『新たなる光』全員でやってるのだわ」

ベイロープ「ゼロじゃない。が、ゼロに限りなく近い」

上条「難しいから他の乗客を先に行かせて、か」

ベイロープ「ま、ブリテンを敵に回した時よりかはマシよね、よくよく考えれば」

上条「だな。『騎士派』と怖いドレス女から逃走しながら、イギリス駆け回った思い出に比べれば、まだまだ」

ベイロープ「最悪、ある程度保てば死んじゃっても、『時間稼ぎ』は達成される、か」

上条「俺としちゃ不本意っつーか、今っからアリサのコンサートツアーに同行しなくちゃいけないんだけどなー」

ベイロープ「『ショゴス』が出た時点で中止決定じゃないの?」

上条「……いやぁ、どうだろう?ウチらの運営、無茶大好きだからねー」

上条「前もパラシュート一つでイタリアに投下されたり……うんっ!」

ペイロープ「ま、最悪死ぬだけだから」

上条「美味しくいい頂かれるのは嬉しくねーよ!」

親ショゴス『……デゲリ・リィィィィィィィィィィィィィィィッ……!』

ベイロープ「さて、と。そろそろお喋りは終りみたいね」

ベイロープ「他に何か、聞きたい事でも?」

上条「んー……?」

ベイロープ「冥土の土産代わりに一つだけ答えてあげるわよ。あんま長いのはダメだけど」

上条「……あぁ!」

ベイロープ「どうぞ?」

上条「結局、ベイロープって今付き合ってる人って居るのか?」

ベイロープ「……やっぱり私は男運が悪いわー……」

上条「どういう意味だよっ!?何で失望すんのさ!?」

ベイロープ「ここは『生き残ったら恋人になろう』とか、言っとく地面よね?」

上条「意外と余裕だなっ!」

ベイロープ「ま、ね?」

ベイロープ「一人でおっ死ぬと思ってたら、どっかのマヌケが付き合ってくれて、正直嬉しいわ」

上条「言葉を選べ、な?下手すれば最期なんだから」

ギシ……ギシギシギシギシギシギシッ!

ベイロープ「来るわよ!」

上条「あぁっ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
急な仕事が入ってしまって大幅に少なくなってしいました。すいません

――同時刻 『カーゴ3』

柴崎「――ふむ、共闘、ですか」

レッサー「悪い話ではないかとも思いますよ」

柴崎「でしたらまず、その物騒な物を仕舞って頂けませんか。こちらには一般の方も居られるんですから」

フロリス「だったらそっちの『糸』も引っ込めろよジャパニーズ。鬱陶しいったらありゃしない」

柴崎「いと?」

フロリス「空調が動く度にチカチカ光ってるしー、感知余裕だっしー?」

柴崎「すいません。不調法な上、小心者ですので」

柴崎「お嬢さん達に槍を突きつけられて平静で居られる程、メンタルは強くないのですよ」

フロリス「つーかそのジャパニーズ特有の気持ち悪い微笑みもナントカして。ワタシ、大っ嫌い」

ランシス「フロリス……」

柴崎「それは文化の違いでしょうなぁ、単純に」

柴崎「『どんな程度の低い相手にも、表面上は一定レベルの礼儀を持つ』のが、私達の社会では美徳とされていますから」

柴崎「それが例え、『共闘の誘い持ってきたにも関わらず、いきなり喧嘩を売った礼儀知らず』であっても例外ではありません」

フロリス「この……っ!」

柴崎「外面すら友好的に振る舞えない相手が、心底信じられる訳がない」

フロリス「……ダメだよレッサー。やっぱジャパニーズなんて相手にするだけ時間のムダっしょ」

レッサー「そう言わないで下さいな。私だって好きでやってるんじゃありません」

ランシス「……じゃ、なんで?」

柴崎「私も聞きたいですね。どう見ても私達は『お友達』ではないというのに、何故?」

レッサー「仲間を助けるのに理由が必要ですかね?」

柴崎「……いやまぁ至言であるとは思いますがね」

柴崎「ですが、一度は切ったお仲間でしょう?被害を最小限に抑えるために」

柴崎「話を聞くに、一度納得済みの案件を今更『やっぱり気が変わった』で、助けに行くのもねぇ?」

レッサー「いえ、そうではありません。私達は先程の時点では最善の判断を下した、そう思っています」

柴崎「心中お察し致します」

レッサー「これはご親切にどーも。思いっきり『言うだけ言っとけ』的な感じがしますけど」

レッサー「で、ま?また似たような状況下に置かれれば、同じ選択をするでしょう」

レッサー「その程度の覚悟は持ち合わせているつもりですから」

柴崎「まだお若いのにご立派な信念です」

フロリス「持ってる?」

ランシス「……ないない」

レッサー「空気お読みなさいなアンタ達っ!折角人が真面目モードへ入ってるというのに!」

柴崎「そちら側の決意は分かりました。ですが、なら何故」

レッサー「事情が変わったじゃないですか、さっきと今とは」

レッサー「勝算があるんだったらそれに賭ける――悪い話じゃないとも思いますがねぇ?」

柴崎「それも共感はします。しかし理解は出来ません」

柴崎「変化があったとすれば……そうですね、時間的な余裕が出来た、ぐらいでしょうか」

柴崎「このまま走り続けていけば、これ以上乗客に被害は出ないとは思います」

レッサー「いえいえそっちじゃありません。変わったのはもっと別――私達、ですよ」

柴崎「と言うと?」

レッサー「『共通する一つの脅威』を目の前にして、文字通り同じ船に乗っていれば共闘出来ませんかね、って話ですよぉ」

レッサー「助けたいんでしょ?ウチのベイロープはともかく、上条さんは」

柴崎「……それは、そう、ですがね。しかし……」

柴崎「買い被られても困る、と言いましょうか。『アレ』相手に私は――私達は有効な手立てを持ちません。それが現実です」

柴崎「更に言わせて貰うと、ユーロスターSは時速300km――多少減速はしているでしょうが――なので、飛び降りたら命が危ない」

柴崎「音速並の速度へ身を投げ出し、生身で耐えきる自信は流石にないでしょう?」

フロリス「だよねー、ギャグ一本で済ませて良い場合じゃないんだよーホントはさー」

ランシス「よしよし……」

柴崎「また切り離した車両とは一分経過する度に5km離れる――つまり無事に飛び降りても、現場へ着くまで時間がかかってしまいます」

柴崎「だからといって列車を減速したり、停めてしまっては本末転――」

レッサー「――これは私の友達の友達から聞いた話なんですがね」

レッサー「とある貸しボート屋さんでバイトしていた時の話です」

柴崎「いやあの、一刻を争っているのでは……?」

レッサー「まぁまぁ聞いて下さいよぉ」

レッサー「どーせバンの中で色々作業やらせててヒマなんでしょ?違います?」

柴崎「仰る意味が分かりかねますが」

レッサー「だって『助けに行かない』なんて一言も言ってませんもんねぇ、そちらさんは」

レッサー「『共闘は出来ない』と拒んでいるだけであって」

レッサー「ここまで間が開いてしまえば『アレ』からは充分に逃げ切れる。だから後は上条さんを拾いに行こう、そう考えてるんじゃありませんかね?」

柴崎「魅力的な推測ではありますが、どうやって?」

レッサー「――で、ある時ボートの貸し出しをしていると、青年が来ました」

柴崎「すいません。この子バッファが足りていませんよ?」

フロリス「仕様だから、うん」

柴崎「はぁ」

ランシス「仕様だけに……!」

レッサー「突っ込みませんよー?スベるのが丸わかりなトラップに手ぇ出す程、私はボケに飢えていませんからねっ!」

フロリス「ボートの話はどうなったん?」

レッサー「その男がボートへ乗り込んだ際、『あるぇ?おっかっしいにゃんにゃん?』と首を傾げました!」

フロリス「なにその面倒臭い語尾」

柴崎「……イギリスにもキャラ付けのために語尾変える、っていう概念があるんですか?」

ランシス「レッサーはフリークスだから……良い意味で」

レッサー「何とぉぉっ!青年が乗り込んだボート、一人しか乗っていないのにやったら沈む!これは二人分の体重がかかってるに違いない!」

フロリス「要は『一人しかボートに乗ってないのに、どして二人乗ったくらいに船が沈むん?』って話でしたー、ぱちぱちー」

柴崎「……ここまで風情の欠片も無い怪談、始めて聞きました。せめてもう少し順序立てた方が」

ランシス「ブリテンは結構幽霊話ある、けど」

フロリス「ケルトの妖精達とエッダ繋がりだよねぇ」

レッサー「――んで!レッサーちゃんからの疑問なんですけどー、このバン、一体『ナニ』を積んでいるのかなーっと?」

柴崎「特に何も?要人警護用の偽装装甲車であり、特に面白い物は積んでいませんが」

レッサー「だったらどうしてその『タイヤ』がやったら潰れてるんですか?」

レッサー「『装甲車仕様にして増えたにも関わらず、驚きの走行性能!』」

レッサー「カーゴ見た時にググってみたら、そうサイトには書いてありましたけどね」

レッサー「仮にも装甲車程度の対弾対爆対BC戦用装備を持つんだったら、最初っからタイヤも想定している筈ですよ」

レッサー「多分対人地雷を踏み抜いても破裂しないような頑丈なタイヤ。それが大きく凹むって、想定外の『プツ』を積み込んでるんじゃないですかねー?」

レッサー「それともARISAちゃんが、数トンもある超メタボってぇ話でも無い限りは、ですが」

柴崎「……」

レッサー「おっと『糸』はゴメンですからね?あぁ嫌だなーって意味じゃなく、通用しません」

レッサー「術式『いばら姫の糸紬き(デッドデッドスリーピングビューティ)』があれば、『糸』属性は無効化されるって意味で」

レッサー「何でしたら試してみます?どーぞどーぞご自由にお気軽に是非是非やってみてはどーでしょーかねー?」

レッサー「ただし即座に反撃した後、『ナニ』を強奪してさっさと引き返しますが」

柴崎「……『学園都市謹製』をそちら側の人間が扱えるとでも?自動車でもあるまいし」

レッサー「やってみなくちゃ分かりませんよ?それに脅して協力させるって手もありますからね」

フロリス「殺さない程度に殺してやるから、さっさと乗せてけっつってにゃんにゃん?」

ランキス「……『学園都市を裏切れない』んだったら、私達のせいにすれば、いい……!」

柴崎「……これはまた頭の良いお嬢さん方ですな。さて、どうしたものか……」

レッサー「はっきり言いますけど、私は、あなたを信じていません」

柴崎「……はい?」

レッサー「どうせあなたもそうでしょう?私達が『濁音協会』の一員ではないか、そしてARISAを狙ってるんじゃないか。そう考えていますよね?」

レッサー「目の前の超絶ぷりちーなロリ巨乳は自分を引き離そうしているのでは、と」

柴崎「不要な形容詞以外は概ね会っていますね」

柴崎「……ま、ぶっちゃけてしまえば、今までの一連の事件はこの状況へ追い込むための伏線かも知れない、とも考えています」

柴崎「あなた方が『主犯』でない証拠がどこにもない」

ランシス「……それ、『悪魔の証明』」

フロリス「やっぱコイツムカつくな。ぶっ飛ばして行こうよ、レッサー」

レッサー「――が、しかしです」

レッサー「『あなたは信頼に足る人物である』とも、私は考えます」

柴崎「それは、どういう」

レッサー「くっだらねー理由ですよ――『上条さんが信用してるんだったら、信頼に値すんじゃね?』ってだけの」

レッサー「面と向かって言うのは失礼でしょうが、あなたを信用するのではなく、信頼する人が信じてるってだけの理由で」

レッサー「ただそれだけのお話です、えぇ」

柴崎「……」

レッサー「聞いていたんでしょ?上条さんに渡した通信機か何かから」

レッサー「『女の子一人助けるために、ごちゃごちゃ理屈こねてる方か間違ってんだ』って言葉」

柴崎「それは……」

レッサー「さっきも言いましたが、もしも学園都市側からのペナルティが怖いのであれば、適度に半殺しにした後」

レッサー「私達が『脅迫した』という形で従ってくれても構いません。てかこのまま同意を得られなければ、そっちへ移行するんですが」

柴崎「……」

レッサー「あなたは、どうです?どうしたいんですか?どうするんですか?」

レッサー「私達は何かを成し遂げるために魔術を得ました。対して」

レッサー「あなたは、どうです?」

レッサー「あなたが今手にしている『力』、それは一体何のために得たモノですかね……?」

――切り離された列車にて

 ズバチイッ!とルーンを伴った雷撃が車内を一掃する。巻き込まれた『子ショゴス』が瞬時に灰燼へと姿を変えた。
 ベイロープの『知の角杯(ギャッラルホルン)』。遠距離砲撃用の霊装。

 絶大な威力と長い効果時間、的確な砲撃能力――本来であるならば距離を取って迫撃砲のような使い方をするのが最適である――そうベイロープは教わっていた。
 仲間を前衛(アタック)へ配置した上、自身は距離を取って高火力の霊装の制御に徹する。それが『新たなる光』が得意とする攻撃パターンの一つ。

 いつぞや天草式の少女へやってのけたように、近距離戦、しかもタイマンで使える――が、アレでは本来の威力には程遠い。
 威力も精度も効果時間も、接敵したままで十二分に振える程、『知の角杯』は安くはない。

「ベイロープ後ろ!」

「分かってるのだわ……ッ!」

 『槍』を薙いで距離を稼いだ後に雷を叩き込む。酷く嫌な匂い――肉の焼ける悪臭と引き替えに粘液は蒸発する。

 人が力を込めて攻撃するとしよう。それは誰かを殴る時でも、または大口径の銃を撃つ時でもいい。
 当然殴る側も発砲する側も、『自身にかかる負担』が存在する。
 殴りつける際に全力で踏み込んだり、射線がぶれないように脇を締めたり。
 カメラでシャッターを切るのと同じく、写真がぶれないよう『体を硬くする』のと似ているだろうか?

 同様に『知の角杯』も攻撃時にはそれ相応の『溜め』と『硬直』がある。
 仲間のフォローがあれば無視出来るような弱点が、ここへ来て少しずつ負担となっていた。

 四方八方、文字通りに『湧いて出る』規格外の敵には相性が悪い。威力を数段階落とした上で行使しなければ、とてもじゃないが使えるものではなかった。

 だがベイロープの体に傷一つついていない。それは上手く立ち回ったから――では、無い。決して。
 『戦士』である所を称する少女は誰かに傷を負わせる事も、また自身が負う事も躊躇いはしない。
 上条へ語って聞かせたように、生死すらも『戦いの結果』であると俯瞰している。
 力が足りなければ死ぬだけ、でなければ生きる。シンプルな理由ではある。

 だから年相応の――戦いの中へ身を置くものとしてはあるまじき事だが――感傷とも言える、傷つくのを躊躇う気持ちは持ち合わせていない。
 負傷すれば動きが悪くなるため、率先して当たるつもりもないが、必要であれば死地へ赴く。

 それは彼女がまだ未熟ながらも『戦士』としても素養を持ち合わせている証拠――だが。
 『戦士』が必ずしも孤独であるとは限らない。

 目の前でベイロープの行動をフォローする上条当麻も、その一人ではある。

 上条にとってすればベイロープの動きは『分かりやすい』の一点だ。
 敵が居れば蹂躙し、殲滅する。近くに居るモノが片付けば遠くのモノへ、と。

 自分の体を顧みない蛮勇を、女の子なんだからもう少しあるんじゃねぇのか――そう何かを棚に上げて感想を抱いていたりするが。

 救われているのは敵の単調さにもある。ここへ来てすら『アレ』は攻撃方法を変えていない。
 近寄り、這い寄り、のしかかって消化をする。それだけ。

 しかし相手が粘液の塊である以上、一度接触してしまうとまともな方法では引き剥がせない。触れた所から急速に『消化』されていく。
 同時に少しでもこちらの動きが遅くなれば、『アレ』が殺到し、押し潰す。
 人程の塊の液体が次々と押し寄せて押し潰す。当然体積にあっただけの質量を伴って。

 『幻想殺し』が無ければ――個々の『アレ』が崩れた後にも飛び散る体液を消す力が無ければ、疾うに力尽きていただろう。

 ――にも関わらず、上条の体には大小様々な裂傷を負っていた。腐食による火傷や酸の熱傷とは違う。何かに切られ、刺された痕が。

 何故ならば『アレ』は『牙』を生やしていたからだ。
 いや『牙』と呼ぶべきか、『骨』なのだろうか?

 黒い粘液の塊からデタラメに尖った何かが生えている。10cm程の杭のような棒、1m程の錐にも見える『牙』、と大きさはまちまちだ。
 その色は本体と同じ漆黒。哀れな犠牲者の物を『流用』していない所だけは、まだ安心出来るかも知れない。

 繰り返すが『アレ』の攻撃方法自体は変わっていない。体当たり、押し潰し、消化する。単調なのは変わりが無い。
 だが『体のあちこちへ牙を生やした状態』で同じ事をされれば――犠牲者は串刺しのままで消化されるだろう。

 尤も、ジワジワ溶かされるよりはマシかも知れないが。

「こいつら――『学習』してやがんのかっ!?」

 どこから調達したのか知らないが、彼らの『牙』は異能殺しでは消えなかった。
 『アレ』を消した後にも残り地面へ落ちる。これが何を表わしているか。

『テケリ・リ!』

「……あぁクソ!キリがねぇな……!」

 勢いそのままに突進して来る相手を『右手」でいなす。最初、『牙』の生やした相手を見てもあまり不安視はしていなかった。
 しかしそれが間違いだと知ったのは、『アレ』を打ち消した後も、そのままの勢いで『牙』が上条の体に刺さった時だ。

 幸い『牙』の向きも鋭さもバラバラ、致命傷には程遠いが――脅威には違いなかった。

 誰かの持論にもあった通り、人間はある意味全身が急所である。血が流れれば体力を失い、痛みがあれば集中を欠かす。
 何よりも『死』を実感する事によって心が折れる。
 それは本能に刻まれた生き残るための術なのだが、この局面では――『戦わないと、死ぬ』状況下では不要なものだ。

「――ってんじゃねぇよ!」

 パキィィンッ!ベイロープを優先して守っているため、上条の体にはまた新しい傷が刻まれる。
 度重なる強敵の戦いを経て、また死線をかいくぐってきたお陰で心が折れないとしても、肉体に蓄積させていくダメージまでは誤魔化されない。

 対して『アレ』の方は終りを見せず、また『牙』を得てから心持ち動作が速くなった気もする。

(……そろそろ限界かしら)

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ズゥンンンッ!!!車内に木霊する残響を残し、雷電が『アレ』を焼き払う!

「来い上条!」

 片側だけの敵を一掃出来たのを確認すると、ベイロープは『槍』を床へ突き刺――そうとする前に、『槍』の鉤爪がカパと開いて地面へ刺さった。

「え、何?来いってどこ――うぉおぉっ!?」

「戦略的撤退って奴だ!喋るな!舌噛むわよ!」

「お、おいやめろ!?それはどう考えてもフラ――ンググッ!?」

 そのまま『槍』の柄へ腰を落とし、上条を引っ掴んで逃げる――『槍』は『鉤爪』をワシャワシャと生き物のように動かして移動し始めた。

『テケ――』

「邪魔なのだわ!」

 懲りずに湧く『アレ』を蹴散らしながら、二人は列車後方へ逃走――戦略的撤退を試みる。
 彼らはまだ――生きている。

――ユーロスターS 8両目

□□□-□※□□□

※ 現在位置

ベイロープ「生きてる?おーい、もしもーし?」

上条「……うんまぁ、まだ大丈夫。まだ」

ベイロープ「取り敢えず服を脱げよジャパニーズ」

上条「俺達まだ会ったばっかりだし、そういうのはもっと段階を踏んでからの方がいいと思うんだ」

ベイロープ「違うっつーのよ。冗談言う元気があんのは分かったから、脇腹見せやがれ」

ベイロープ「……っ!酷いわね、今すぐ治癒術式を――」

上条「悪い。体質上効かないんだって」

ベイロープ「……そう、じゃ、待ってて」 ビリビリッ

上条(近くに落ちていた衣服を適当に破り、傷口の応急手当をしてくれる)

上条「……うん?落ちてた?」

ベイロープ「消化出来なかった、が正解でしょうけどね。使えるんだから文句言わない」

ベイロープ「悪いと思うんだったら、『アレ』をぶっ飛ばして敵討ちしてやりゃいいわ」

上条「……誰かの肩身なんだからな、これ」

ベイロープ「じゃ、生き残れたら家族に頭でも下げれば良いわ。つーか」

ベイロープ「私がスカート破った方が良かったの?どんだけだよ」

上条「うん、聞くけど君らは一体俺をどんな目で見てるの?つーかレッサーさんの台詞を鵜呑みにしちゃダメだと思うよ」

ベイロープ「『釣った魚に餌をやらないクソヤロー』?」

上条「あれ?おかしいなぁ、傷口とは別に胸の奥がシクシク痛むんだけど……」

ベイロープ「自覚があるのは良い事だわ。つーかレッサー泣かせたら三枚に下ろすからな?」

上条「100%打算で近づいてくる相手だぜ!?そこまで面倒看きれ――つっ!?」

ベイロープ「止血中に興奮しない。致命傷じゃ無いとはいえ、処置が必要なんだからね」

上条「……まぁケガすんのは慣れちまってるけどさ」

ベイロープ「んー……?ま、こんなもんで良いか」

上条「……雑」

ベイロープ「うっさい。いつもは魔術だから応急処置は慣れてないんだっつーのよ」

上条「ま、まぁありがとう。助かった――けど」

ベイロープ「あの『牙』ね」

上条「常識的――って言葉はどうかと思うけど――に考えれば、進化してるって事かよ」

ベイロープ「学習してるのは間違いないわ。てかさ、あなたの異能は『異能キャンセル』よね?」

上条「連中の『牙』は対象外……どういう事だ……?」

ベイロープ「多分、そこら辺が『アレ』の本質的な所だと思うわね。出来れば死ぬ前に知りたい」

上条「……シェリーって知ってる?」

ベイロープ「シェリー=クロムウェル、『必要悪の教会』の非戦闘員でカバラ系霊装のエキスパート、よね」

上条「シェリーが有名なのか?それとも『新たなる光』の情報網が凄い?」

ベイロープ「前者ね。『ハロウィン』の時、敵に回るかも知れないって、ある程度王女殿下から教わってたから」

上条「その人のゴーレムと戦った時、『幻想殺し』でゴーレム”は”倒せたんだよ」

ベイロープ「ふぅん?」

上条「ただ、そのゴーレムの体は大量の土と砂でさ。押し潰されそうになってヤバかった、っつーか」

ベイロープ「『魔術』も打ち消されれば元の材料へ戻る?」

上条「例えば、魔術でボールを操ったとしてだ」

上条「俺がボールを触れば魔術の干渉を打ち消し、タダのボールに戻る。それが基本的なルールだ」

ベイロープ「じゃ、そのボールが時速150kmで右手へ投げつけられれば――」

上条「触った瞬間に魔術は解ける。けど時速150kmのままボールは止まらない」

上条「……と、思う」

ベイロープ「自信ねぇのかよ」

上条「しようがないじゃん!?俺だって謎能力なんだから!」

上条「精神攻撃無効かと思えば残念な子のは角度で喰らったりすんだからねっ!」

ベイロープ「あー……体調、とかもあるんじゃないの?」

ベイロープ「能力者は知らないけど、生理で使えなくなる子とか居るわよ」

上条「体育のマラソンじゃねぇんだからな!」

ベイロープ「いやマジマジ、マジ話なのよ。昔っから月の満ち欠けと魔術ってのはリンクしてるから」

ベイロープ「特に魔女系統――ウィッカは特定の月しか出来ない儀式魔術とかザラにあるわ」

上条「……あー……そういや、能力者も体調悪いと威力が上下したような……?」

ベイロープ「聞くなよ?知り合いだからっつって、女の子に確認しちゃダメだからな?」

上条「どんだけ常識無いと思われてんだよ……」

ベイロープ「ちなみに今さっきの高速移動も、『魔女の箒』を概念に取り入れたの」

ベイロープ「ウチらの北欧系とウィッカは相性良いからね。てかまぁ同じっつーか」

上条「言われても『ふーん?』ぐらいしか言えな――なぁ、ちょっといいか?」

ベイロープ「何か思い付いたの?」

上条「そうじゃなくて『アレ』――『ショゴス』か。そっちの方面から探れないのか?」

上条「神話に出てくる弱点がそのまま通るとか、何かに弱いとかあるだろ!」

ベイロープ「あー、無理よそれ。だって『アレ』、ショゴスじゃないし」

上条「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ちょっと待ってくれよ!?群体がどうこうって言ってたのは!」

ベイロープ「そっちの仮説は今でも有効。けど『アレ』は『クトゥルフ神話のショゴス』ではない。有り得ないのだわ」

上条「……創作だから?」

ベイロープ「違う。『ショゴスはあんなに知能が低くない』のよ。それが証拠」

上条「どういう事?」

ベイロープ「元々は『古のもの(エルダー・シンク)』って呼ばれる種族が、奴隷として造られたのが『ショゴス』なの」

ベイロープ「……ま、クトゥルー神話では地球の生き物全てが『古のもの』の創造物なんだけどさ」

上条「人間も?」

ベイロープ「そ、人間も動物も植物もって設定なのよ」

上条「あれが地球上の生物とは思えねぇんだが……まぁいいや。ホラー小説に突っ込んでも仕方が無い」

上条「それよりも『違う』のは、なんで?」

ベイロープ「思いっきりかいつまんで言うと、『ショゴス』は奴隷生物だったのに、ある時『脳』を造って知恵を得た」

ベイロープ「エデンじゃまず『恥ずかしい』だったけど、ショゴスは『古のもの』へ全面戦争を仕掛け、相打ちに終わった」

ベイロープ「ショゴスの殆どは地下深く、南極大陸に封印されたわ」

上条「……だから?」

ベイロープ「『古のもの』は高度な文明、他の生物を作り上げる程度のものは持っていたのよ。当然創造以外にも応用出来るでしょうし」

ベイロープ「そんな連中と『相打ち』したんだってなら、それ相応の高い頭脳を持ってる筈でしょーが」

上条「……あぁ」

ベイロープ「少なくともアメーバと同じ、『近づいたら食べる』だけだったら、『古のもの』は滅んでないでしょうね」

上条「そっか……確かにおかしいよな」

ベイロープ「もしも人並みの知能があれば、さっさと運転席――は、流石に分からないでも、牽引車襲って足止めするでしょうしね」

上条「……何かがおかしいのは分かる。でも何がおかしいのかは分からない、か」

上条「さっきも言ったけど動機が不明だよな。なんでわざわざフィクションの『ショゴス』に似せるのか、って話」

上条「レッサーは『まだ見つかってない魔術体系』とは言ってたけど……いや、逆か!」

上条「俺達が『ショゴス』だって勘違いしただけで、全然別の何かだったってオチはどうだろ?」

ベイロープ「外見はそっくりだけど、別物でしたーって事?絶対に違うわ」

上条「何でだよ。つーか断言出来る証拠は何?」

ベイロープ「『テケリ・リ』って鳴き声、あれは『ショゴス』しか有り得ないの」

ベイロープ「故意か必然は分からないけど、『濁音協会』は明らかにクトゥルー神話に影響を受けている」

上条「だったら俺達が誤解させるように、仕掛けた側が言わせてる、とか?」

上条「本質を隠すために擬態してる。そうすりゃ対抗策も練りにくい」

ベイロープ「それが妥当な線よね。他に選択肢がないって言うか」

ベイロープ「……けどね、だったらさっきの『牙』はどこから調達してきたの、って話に戻るわよね?」

ベイロープ「列車の中にあんだけの杭や錐、乗せてる訳がない」

上条「工業規格に合致するとも思えないしなぁ……うーん」

ベイロープ「頑張れー科学サイド、魔術側の見解出したんだから、次はそっちが働く番よ」

上条「無茶ブリだな!?つーかこっちはタダの学生なんですからねっ!」

上条「そうそう解決策が思い付くなんて……」

ベイロープ「お?」

上条「……ちょい待ち。今検索すっから」 ピッ

ベイロープ「スマフォが使える訳ないでしょうが」

上条「いや、これは柴崎さんのだから――あぁダメだ。中継器から離れすぎてて、向こうと連絡は取れないっぽい」

上条「だったら他に……あった!」 ピッ

ベイロープ「どら」 スッ

上条「あのぅ、ベイロープさん?そのですね、腕にあたってるっつーか、そのはい」

上条「思春期の男子高校生にまぶしすぎるアレが、圧倒的ボリュームのワガママな質量がキライじゃない!」

ベイロープ「意識してんじゃねぇーよ。つーか戦う方が先」

上条「……」

ベイロープ「……なんで前屈み?」

上条「よーしっ!見つけたぞ!オフラインでも使えるユーロスターSの仕様書があって助かったなぁっ!」

ベイロープ「だから、どうして前屈み?あと不自然なんだけど……?」

上条「この車体はカーボンファイバー――航空機とかにも使われてる、強くて軽い素材が材料になってんだよ!」

ベイロープ「てか仕様書の日本語訳なんて、普通データとして入れとくかって話よね」

上条「俺に見せるため、かな……?」

ベイロープ「てかこれ、強度の弱い所とかにマーカー付いてるわ。テロでも起こす予定だったとか?」

上条「あってたまるか。ここでテロ起こしたって学園都市は何も得しねーぞ!」

ベイロープ「あー、はいはい。分かったからカーボンがどうしたかって?」

上条「だーかーらっ!あいつの『牙』って車体に使われてるカーボン――炭素を取り込んで作ったんじゃねぇのか!?」

ベイロープ「はぁ!?」

上条「さっきからおかしいとは思ってたんだよ。車体がギシギシ軋んだり、『アレ』が天井から床から出てくるだろ?」

上条「よく考えてみ?確かにあいつらゲル状のドロドロだけどさ」

上条「だからって完全防水の、えっと――」 ピッ

上条「重層ステンレス?だかを染み出てくるのは無理だ」

ベイロープ「……つまり最初から強酸だか消化液で車体の外側を溶かしてて」

上条「今は『牙』として取り込んだ、みたいな形になるんだろうな」

ベイロープ「ここまで来ると術式か霊装ってより、まるで生き物みたいだわ」

ベイロープ「あの子のビリビリにも最初から無反応だし、一体どんな手で造ったんだか」

上条「ビリビリ?御坂か?」

ベイロープ「ウチの、ホラ、カチューシャつけた子居るわよね?」

ベイロープ「ランシスは魔力に対して敏感で、少しでも周囲で使われるとビリビリするんだって」

上条「ふーん?」

ベイロープ「つっても本職の感知系には数段劣るから、無いよりはマシ程度なんだけどね」

ベイロープ「つかそもそも初めっから感知出来てさえ居りゃ、アレコレ対策も出来たんだっつーのよ」

上条「……」

ベイロープ「『必要悪の教会』も詰めが甘いし、まぁだからこそ――て、どうしたの?」

上条「あの、さ。例えばの話なんだが」

ベイロープ「うん?」

上条「俺の右手、『幻想殺し』で打ち消せるのって、魔術だったら魔術で創った炎とか氷、また操られてるのも打ち消せる訳だよな」

ベイロープ「何よ今更」

上条「いいから付き合ってくれ!何かスゲェ事思い付きそうなんだよ!」

ベイロープ「んー……?まだ時間はあるみたいだし、付き合うけど」

上条「で、まぁ『素材が元からあった場合』、シェリーのゴーレムとかなら土に還るだけで消したりは出来ないんだわ」

上条「そう考えると『アレ』の『牙』――」

ベイロープ「車体に使われていたカーボンだわ」

上条「――も、『アレ』が多分加工したか作り替えたかした」

上条「例えば――あー、そのさ、イスとか冷蔵庫に加工された……えっと、犬とか居たとしようぜ」

ベイロープ「なんだその猟奇的な例えは。ホラー映画見過ぎよ」

上条「まぁ、似たようなケースが実際にあったと思ってくれ……んで、俺は『右手』で元へ戻すの手伝ったんだ」

上条「ま、結論から言えば元へ戻れたんだよ。でもこれおかしくないか?」

ベイロープ「何でよ、つーか何を言いたいのか分からないわ」

上条「だって『家具に作り替えられた時点で、術式は終了している』訳だからな。それをキャンセルさせるのって、出来ないよな?」

ベイロープ「でも、出来たんでしょ?だったら良かったじゃない」

上条「あぁ出来た。それはまぁ良いんだよ」

上条「知り合いの魔神未満が『右手』について教えてくれた。奴が言うのには『自然な状態へ戻す効果』があるんだってさ」

ベイロープ「……ツッコミ所は別にあるけど我慢するわ。それで?」

上条「だから『魔術で組み替えられたサンドリヨンも元へ戻った』んだ。自然な形に」

ベイロープ「あー……最近活躍聞かねぇなぁって思ったら、そんな罰ゲームやっちゃってたかー……」

上条「まぁ聞けって!俺が聞きたいのは、『じゃ俺が触ったらカーボンも元へ戻るんじゃないか?』って話だよ!」

ベイロープ「魔術によって加工されたんだから、元へ戻ってもおかしくはない……」

ベイロープ「いやでもその理屈で言ったらシェリー=クロムウェルのゴーレムはどうなのよ?」

ベイロープ「もし元へ戻るのがデフォだったら、コンクリまで逆再生されなきゃおかしいでしょうが」

上条「そこら辺の区別は分からないよ。ただコンクリが『自然』かって言われると、そうじゃない気がする」

ベイロープ「『生命の復元力』みたいなのも関係するかも……?一度どっかで調べて貰った方が良いと思うわよ、その『右手』は」

上条「暇があったらその内に――で、まぁ別のケースだよ」

上条「俺が魔術で造った、または霊装のなのか分かんねぇけど――自動人形をぶん殴ったら、一部が壊れた」

ベイロープ「多分複合式の術式だわ。部位ごとに別々の魔術が働いているタイプの」

上条「それとは別の日、学園都市製のアンドロイドに触ったんだが」

上条「これまた、全っ然効かねぇでやんの。もう少しで沸騰して死ぬとこだった」

ベイロープ「科学サイドに『右手』は効かないの?」

上条「『異能』には効く。けど、アンドロイドとか最新式のメカは微妙だ」

ベイロープ「興味深くはあるわ。でも」

上条「……それでさ、俺が言いたいのはだ」

上条「『幻想殺し』って『異能で造られたモノ』に対しては効果が薄いみたいなんだよ」

ベイロープ「ふーん?それとこの件は関係な――」

上条「うんまぁ前置きが長かったのは悪いが、結論は、だ」

上条「そう考えるとランシスのビリビリが働かなかったり、『牙』に効果が無かったって説明が付くんだよ」

ベイロープ「つまり?」

上条「『アレ』は、結局魔術サイドで造られたバケモンじゃなく――」

上条「――科学サイドの『能力者』なんじゃねぇの?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
……しかし人気無いですね、このスレ

乙です!

毎週楽しく見させてもらってます!

>>308-311
ありがとうございます
雑談っていうか、禁書スレを中心に変な雰囲気ですよね

――ユーロスターS 8両目

□□□-□※□□□

※ 現在位置

ベイロープ「話が唐突――でも、ないわね」

上条「思えば『生物としての形質』が強く出てる時点で疑うべきだったんだ、俺達は」

ベイロープ「生物として……?」

上条「まず、『アレ』の初見での判断はどうだった?」

ベイロープ「魔法生物に決まってるわ。あんな『自然』があってたまるかっての」

上条「だよな、『アレ』は普通じゃない。普通じゃないからそう思って当然」

上条「『濁音協会って魔術結社』なんだから『魔術を使って当然』だって思い込む訳だ」

ベイロープ「あの時点で私らにその情報は入ってなかったけどね……で?」

ベイロープ「一体何がしたいの?狙いは?目的は?」

上条「『アレ』を魔術だと思い込ませてる目的は……対抗手段、じゃないかな?』

上条「もしも物理的な手段――て、言うかどうか分からないけど、『アレ』を倒すんだったら炎、だよな?」

上条「火炎放射器なんて無いにしても、軍を動員させてナパーム?とか延焼系の兵器を使えば一掃出来る」

上条「俺みたいな民間人でも、最悪ガソリン撒いて火をつける、とかで対抗出来そうな相手だ」

上条「……それが、『トンネルの中』や『大量の乗客』を抱えていなければ」

ベイロープ「そう、よね。外に出さえすれば、普通の軍隊でどうにかなりそうな相手よ」

上条「でもユーロスターの中じゃそうはいかない。最新式の消火設備で下手な火は直ぐに消される」

上条「外部からの応援を引き込むのも出来ないし、派手に動けば乗客まで巻き込む恐れがある」

上条「そして『普通はそんな状況下で炎なんて持っていない』だろ?」

ベイロープ「必要ないしね。実際にそちら側のボディガードさんは盾代わりにもならなかったのだわ」

上条「んで、考えて欲しい。逆に言えば”『アレ』にとっての天敵は魔術師だ”、とも言えるんじゃないか?」

上条「重たい装備も何も無し、術式か霊装一つあれば無尽蔵に炎を扱えるアンタ達を」

ベイロープ「そりゃどーも。制約はクソ程あるんだけどねー」

上条「でも戦ってみて分かったと思うけど、『アレ』は異常な再生力、密閉空間でゴリゴリの物量で力押し」

上条「仮に魔術師が居合わせた幸運があったとしても、きっとそいつはこう思うだろう」

上条「『チマチマ炎で炙ってても埒があかない。ならば相手の正体を見極めて、対抗出来る術式か霊装で一掃したい』――」

上条「そう、思うよな?」

ベイロープ「……成程、そこで出て来たのが『クトゥルー』かよ……ッ!」

上条「『クトゥルーなんてある筈がない!だからきっとこれは別の魔術のカモフラージュ”だろう”!』ってミスリードさせるための」

上条「魔術師は答えの出ない問題にハマっちまって、対処が甘くなる、と」

ベイロープ「……巫山戯た真似しやがって!これだから『学園都市』は!」

上条「あの、俺も学園都市なんですけど……?」

ベイロープ「てか『アレ』が能力者なの?学園都市、未来に生き過ぎるにも程があるでしょーが」

上条「可能性は高い、と思う――けど能力者『そのまま』ってのは考えにくい」

ベイロープ「どういう意味?」

上条「『アレ』が生物的な反応、単調な行動パターンを繰り返しているだけ、てのは非効率だ」

上条「人並みの知恵があるんだったら、もう少し効率的な行動するだろ?」

ベイロープ「つーこたアレ?天井裏にへばりついてる粘液ドロドロが能力者だってか?」

上条「もしくは『能力で造られた何か』かも……?」

ベイロープ「了解了解。で?」

上条「はい?」

ベイロープ「だから対策だよ、P・ro・vi・sion!」

ベイロープ「能力者相手にドンパチやった経験なんざ初めでだから、どうすりゃいいって話なのよ」

上条「えっと……そうそう!」

上条「――俺がその『幻想』をぶち殺す!」

ベイロープ「……長々と役に立たない現状分析どーも」

ベイロープ「本当に能力者だとして、『牙』の次に来る『進化』がどんだけだと思ってんの」

上条「待ってくれよ!?相手の正体が分かれば弱点とか傾向とか分かるんじゃん!?」

ベイロープ「……あのねぇ、今あなたが言った事を総合するとよ?」

ベイロープ「『学園都市”勢力”がEUでテロ起こしてる』って事になるの、分からない?」

上条「……あ」

ベイロープ「分かる?オッケー?」

ベイロープ「イカれた超科学で状況証拠はバッチリだわ、おめでとーパチパチパチ」

上条「待て待て!そういう意味で言った訳じゃねぇよ!学園都市の能力者かも知れないが、無関係だって!」

ベイロープ「言い切れる?」

上条「矛盾してんだろ!アリサのEUツアーは学園都市側から持ちかけたって聞いたぞ!」

ベイロープ「……ま、そうよね。一応の当事者同士が和解して仲直り――は、絶対してないけど、表面上だけでも繕いましょうつってんだわ」

上条「表面上言うな。オルソラぐらいしか信じてないだろうけどもだ!」

ベイロープ「その最中に『魔術だと”思われる”異能』が、ARISAに危害を加えようとしたらどうなると思う?」

上条「相手にもよる、んじゃないのか?十字教じゃなかったら、まぁ面子を潰されたってだけで大勢には影響しねぇだろ」

ベイロープ「ま、そりゃそうよね。魔術師なんて自分が魔術師だと気づいて無いのもハブいたって、相当数居るんだから」

上条「……魔術って知らないのに使ってんの?」

ベイロープ「『奇蹟』、『仙術』――突き詰めればヴィジャ盤だって降霊術よ。民間で『たまたま』残ってる場合も結構あるし」

上条「生活密着型かー」

ベイロープ「シントウで一年を初めて、ボンとヒガンにはブッティストになって、クリスマスに十字教のフリをするアンタらに言われたくねぇな」

上条「よくそれ海外掲示板でもネタにされっけどさ、お前らもハロウィンやイースターで結構はっちゃける気がするんだよなー?」

ベイロープ「まぁ旧い神様が精霊や妖精に墜とされるのはよくある話なのだわ」

上条「別に十字教は一枚岩じゃないだろうし、ましてやそこら辺の奴らが暴走したって、問題にはなんないだろ」

上条「最悪、関係者だったとしても『ハグレもんですからー』で誤魔化……いやいや。俺も何か毒されてんな……」

ベイロープ「ま、結構よ。魔術サイドだったらそれで通る話よね」

ベイロープ「だったらその妨害が『魔術に似せたトンデモ科学』だった場合は、どう?」

上条「学園都市の自作自演を……か!?」

ベイロープ「主流派じゃないとしたって反対派……後はグレムリンとか、反学園都市の勢力かも知れない」

ベイロープ「絶対的な情報量が少ない上、私もあなたも解析系は得意じゃないし、裏情報や背景も知らない」

ベイロープ「シェリー=クロムウェルみたいなプロ達が、時間を掛けて調査すれば『こちら側』じゃないって分かるでしょうね?」

上条「……一度疑われたら」

ベイロープ「現在、『まぁ暫くは様子見でいいんじゃね?』的な意見が占めていたのが、取って代わるわ、きっとね」

ベイロープ「んで、一度始まったら事実がどうだって事は関係ない」

上条「戦争が終わったばかりだってのにか!?」

ベイロープ「『戦争は外交の一形態に過ぎない』」

ベイロープ「私らの先生が言った言葉だけど、真実だと思うわ」

上条「……っ!」

ベイロープ「どこの国だってそう。戦争は国家間の問題解決のために、する」

ベイロープ「善悪や人権が入り込む余地はない、のよ。悲劇かしら?喜劇かしら?」

上条「止める方法は、ないのかよっ……!?」

ベイロープ「落ち着け上条当麻。まず深呼吸しやがれ」

上条「……」

ベイロープ「いいからやれ、ほらハリーハリーっ!」

上条 スーハー

ベイロープ「……良し、いいか?落ち着いて聞け?」

上条「……あぁ」

ベイロープ「私の出身はスコットランド、グレート・ブリテン島北部の、まぁ高地が多い所だ」

上条「……何?」

ベイロープ「ハイランド(高地地方)とも呼ばれ、ほら聞いた事無い?ハイランダーって?」

上条「ある、けど。今その話が」

ベイロープ「ノーザンバーランドつってイングランド領よ、『今は』ね」

上条「聞けよ!」

ベイロープ「歴史的には、荒い。地政学としちゃイングランドやローマ帝国とずっとやり合ってきた訳よ」

ベイロープ「攻めたり攻められたりで、ついたあだ名が『Highlander(高地連隊兵)』」

ベイロープ「『スコットランド人の戦士は死を恐れない』――なんて、まぁ大層な評価貰っちまってるけど」

ベイロープ「――それは、違う」

ベイロープ「死ぬとか生きるとか、それは結果であって目的じゃあ、ない」

ベイロープ「目の前に敵が居たら、全部ぶん殴ってきたのが『私達』なのだわ」

ベイロープ「……わかる?」

上条「何となく、は」

ベイロープ「死は確かに怖いし、恐れもする。けれど」

ベイロープ「『それ』を理由に信念を折るのが、死ぬよりももっと怖い。それだけよ」

上条(……あれ?前にも聞いたような……?)

上条(ここじゃないどこかで、彼女じゃない誰かに――)

ベイロープ「でもって上条当麻。あなたは戦争を防ぐために『伝え』なきゃいけないわ」

ベイロープ「『学園都市』のあなたがここで見て聞いた事を伝えれば……ま、自作自演だとは言われないでしょう」

ベイロープ「……向こうが最初っから開戦目的じゃ無い限りは、ね」

上条「あんた、何をしようって」

ベイロープ「天草式十字凄教のガキにも言ったけど、私の『知の角杯』は『トールとは違う雷』の霊装よ」

ベイロープ「……なんかまぁ『あんだけ引っ張ったのにショボっ!?全能神関係ないなっ!』みたいな感もするけどね!それとは別に!」

上条「落ち着け!本気で何の話だ!?」

ベイロープ「ギャッラルホルン――『角笛』という単語には『傾聴』という意味があったの」

上条「傾聴……注意して聞くって事か?」

ベイロープ「所有者であるヘイムダルの傾聴、来たるべき神々の黄昏で担うべき彼の役割にも関わらず」

ベイロープ「しかしこの角笛は『オーディンの片眼と共に泉の底に沈んでいる』とされてるわ。つまり!」

ベイロープ「ヘイムダルが差し出したのは『自らの聴力』」

ベイロープ「オーディンは『知の泉』へ片眼をくれてやる事でルーンを識った!ならばヘイムダルは何を手に入れたの?」

ベイロープ「答えは簡単、世界を破滅へ導く先触れを伝える角笛。それは高らかに響き渡り!鳥の嘶きや鬨の声よりも早く!大きくなければ意味が無い!」

ベイロープ「――そう、ヘイムダルの角笛は『稲妻』だったのよ!」

ベイロープ「一度かき鳴らさせば三千世界に響き渡り、鴉を殺す暇も無い」

ベイロープ「最大出力でぶっ放せば存在全てを雷へ昇華して滅びの道を撒き散らす」

上条「……おい、それってまさか!?自爆するとかじゃねぇのかよ!」

上条「ダメだからな!幾ら『最善』つったって、俺はそんなの認めない!」

ベイロープ「……それ以外、私の持っている『火力』で滅ぼしきれる自信は無いのよ」

ベイロープ「あなたを死なせる訳にも行かなくなった」

上条「他に!もっと別の方法はないのかよっ!?

ベイロープ「……」

上条「……ベイロープ?」

ベイロープ「――あぁもうウルセェっ!さっきからアレもダメコレもダメって!」

ベイロープ「自爆もダメ!逃げるのもダメ!だったらどうしろっつーのよ!?」

ベイロープ「無能なコメンテーターどもじゃあるまいし!否定否定否定否定で打つ手がないのよ!分かる!?」

上条「……はぁ?」

ベイロープ「はぁ、じゃねぇのだわ……ッ!具・体・的・にっ!」

上条「――信じろ」

ベイロープ「……何?ギャグ?ジャパンで流行ってんの?」

ベイロープ「信じるのも何も、まだこの状況で助けが来るって思ってんの?」

上条「来るよ、そりゃ。何言ってんだ?」

ベイロープ「いやいやいやいやっ!何言ってんだ、はあなたの方でしょーが!」

上条「いやだからさ、確かにあの時、誰かが残って『アレ』を引きつけるのは当然の判断だと思う。だろ?」

ベイロープ「え、えぇそうよ!決まってんでしょうが」

上条「でもよく考えてみ?レッサー達が『アレ』放っておく訳ないじゃん?」

ベイロープ「まぁ、そう、よね?あのおバカの性格上、やるなっつったら余計やるわね」

上条「要は『アレを倒す算段がまとまったら、速攻引き返してくる』よな?」

ベイロープ「うん?」

上条「だから俺達はレッサー達が来るまで持ち堪えりゃいい。そんだけの話だよ」

上条「おけ?」

ベイロープ「……Dig your grave……」

上条「いやぁ誉めるなよ?」

ベイロープ「誉めてないのだわっ!つーか絶句してんだわバカ野郎!」

ベイロープ「あの子達も結構アレだと思っていたけど!何!?私はあの手のアレな連中に突っ込むために生まれてきたのか!?」

ベイロープ「命は平等だー、とか聞くけど!命をすり減らして突っ込んでるのは人生に何回もしないじゃない!」

上条「あー……お疲れ様です」

ベイロープ「ポジティブにも……あぁはい、レッサーと同じ人種か……」

上条「あるぇ?俺とレッサーさんがバカにされた気がしますよね?」

ベイロープ「……まぁ確かに?あなたの言い分も理解出来るし、私が自爆して『殺しきれる』かどうかも怪しい」

ベイロープ「だったらここで歯ぁ食いしばった方が良策、か……?」

上条「雷の出力が足りないとか?」

ベイロープ「『子ショゴス』に効くのは散々実験済み。けど『親ショゴス』を殺しきれるかは未知数」

ベイロープ「てか殺虫剤みたいなモン?一気に殲滅しないと、生き残った奴らが増殖しかねない」

上条「その電気って他からの供給は出来ないの?別に命削らなくたってさ」

上条「例えば――架線から取り込んだり?」

ベイロープ「……あのさぁ、普通そう言うのって事前の準備が必要なの。分かる?」

ベイロープ「水使いだったら水辺での戦闘が得意だし、逆に砂漠には近寄らないのと一緒」

上条「そりゃつまり応用出来るって事だよな!だったら――」

ベイロープ「一体どこの世界で『雷を供給出来るシチュ』ってのがあんのよ?言ってみ?」

上条「ないですよねー、ある訳ないですもんねー」

ベイロープ「やって出来ないまでは言わないけど、やった事がないからどうなるかは分からないわ」

ベイロープ「……んー……?」

上条「いやでも自爆とかノーサンキューだけど、ダメ元で架線から補充すりゃ足りるんじゃねえの?」

上条「アリサ達の乗ってる車両だって大分開いてる筈だし、最悪停まっちまってもいいだろうし」

ベイロープ「あー……うん、いや、まぁ、今のは無かった事にね?うん」

上条「急に歯切れが悪くなったなHighlander?どうした?何があった?」

ベイロープ「巻き舌は止めろ。つーかハイランダー言うな。ジャパニーズに『SAMURAI』つってんのと要は同じだから」

上条「んで、どったん?――もしかしていい手があるのかっ!?」

ベイロープ「いや、その、ない訳じゃ無いっていうかな。無いようなあるような、みたいな感じよ?うん」

ベイロープ「要は経験の無さと扱えるだけの魔力が乏しいって、だけだから。ある程度魔力を嵩上げすりゃ、力業でねじ伏せる、みたいな?」

上条「例えると?」

ベイロープ「野球のルールを知らなくてもホームランは打てる」

上条「ナメんな!中には草野球に人生賭けてる奴だって居るんだからなっ!」

ベイロープ「……だから、この話は無かった事で。まぁあんまり気が進まないし、やったってムダよね」

上条「……」

ベイロープ「ヘイ、どーしたジャパニーズ?」

上条「……あのさ。俺、ずっと考えてたんだけども」

ベイロープ「うん?」

上条「正直、ベイロープ達はスゲェって思うんだよ」

ベイロープ「な、何よ突然」

上条「前の『ハロウィン』じゃ敵同士だったが、それでもお前らの行動力は驚いた。同世代の連中が国を変えようって、どんだけなんだって」

ベイロープ「そりゃどーも」

上条「今回、ベイロープ達に助けられた時も、俺達だけじゃ逆立ちしても適わなかった『アレ』をバッサリだったろ?」

上条「……なんつーか、ありがとう。俺達を助けてくれて、本当にありがとうな!」

ベイロープ「……止めてよ。私らはブリテンのためにやってるんであって――」

上条「……いや、それでもさ。人は誰かから助けられれば感謝もするし、お礼は言うべきだ」

上条「別に嫌味になるって訳じゃ無いんだから、貰っとけば良いと思うぜ?」

ベイロープ「そ、そっかな?」

上条「――で、そんな俺にとって恩人であるベイロープにお願いがあるんだ」

ベイロープ「……」

上条「『死んで欲しくない』って、そんなに難しい願いじゃねぇよな?」

ベイロープ「……言っただろ。私は『戦士』だって」

ベイロープ「生き方は変わらない――いや、変えられるかも知れないが、私は――」

上条「違う!そういう事じゃ無い!」

上条「ベイロープがその、『手段』を嫌がってるみたいだけどさ、それはそんなに酷いモノかよ!?」

上条「死を恐れない『戦士』が躊躇う程に!そんな魔術だって言うのか!?」

ベイロープ「あー……いやその、なんつーか」

上条「……こういう言い方は良くないけど、つーか全部俺のワガママかも知れないけどっ!」

上条「アンタには生きてて欲しいんだよ!俺を生かすって言ったけど、生き残る身にもなってくれよ!なあぁっ!?」

ベイロープ「……」

上条「俺一人が生き残ったってレッサーになんて謝ればいい!?どんな顔でアイツと話をしたらいいのかわかんねぇんだよ!」

上条「だから、だから――っ!」

ベイロープ「……分かったわ、分かったからそう怒鳴るな、あと泣くな」

上条「泣いてなんかねぇよ!これは、その夜空に穴を開けてたんだよ!」

ベイロープ「マスターかよ……あー、そのなんだ、分かったわ。あなたの言いたい事は」

ベイロープ「要は『あっさり死ぬより死力を尽くせ』でしょ?しかも自分のワガママのために」

上条「……ワガママかな?無茶を言ってるつもりは無ぇよ」

ベイロープ「……分かったわよ、使えばいいんでしょ、使えば」

ベイロープ「クソッタレ、あぁクソッタレ!何でよりにもよってブリテンですらねぇジャパニーズ相手に!」

上条「俺がどうしてって?」

ベイロープ「……こっちの話よ。全部実力が足りなかった私が悪い」

上条「いやあの、言っといてアレなんだが、すっごい副作用があるんだったら無理には……」

上条「つかカミカゼも辞さなかった人が躊躇う程の魔術って何?」

ベイロープ「……スコットランドにはロバートⅠ世という偉大な王が居た」

上条「……何?急に?」

ベイロープ「黙ってろ。今から魔術をかけんだから!」

上条「すいません……?」

ベイロープ「彼の指揮の下、ハイランダーは自国を取り戻したが、やがて戦いの中で死んだ。それはいい」

ベイロープ「だが彼らには果たすべき義務があった!戦うべき戦場には未だ同胞の姿があるからだ!」

ベイロープ「だからロバートⅠ世は遺言にこう書き残した――『神の敵との戦いへ我も連れて行かん!』と」

ベイロープ「彼の死語、その胸腔を切り開き、血に染まった心臓を取り出される」

ベイロープ「心臓は銀の箱に収められ、彼の戦友の手へ渡り、そして――」

ベイロープ「数々の戦場で!異教徒を葬る聖戦で!戦友は箱を掲げてこう叫んだ!」

ベイロープ「『勇者の心臓よりも前に!汝に続かなければ我らは死ぬであろう!』」

ベイロープ「敵陣のまっただ中、死してすら同朋と友を守ったロバートⅠ世!彼は即ち――」

ベイロープ「――『Braveheart(勇者の心臓)』と!」

上条(なんだ?ベイロープの胸の所に何か、銀色の塊が――)

上条(――定期的に脈打つ『それ』は人の拳の程の大きさの――)

上条「――心臓、か!?」

ベイロープ「Those days are past now(栄えたる国は過去となりしも)」

ベイロープ「And in the past they must remain(過去には確かに存在した我が国)」

ベイロープ「But we can still rise now(今だ再起の力を失わず)」

ベイロープ「And be the nation again!(今こそ国家の独立を果たすのだ!)」

ベイロープ「That stood against him, Proud Edward's army(エドワード軍への決死の抗い)」

ベイロープ「And sent him homeward, Tae think again. (暴君は退却し 侵略を断念せり)」

ベイロープ「Warrior can die by putting up ――(掲げて死ねよ戦士――)」

ベイロープ「――Braveheart!(ブレイブハートを!)」

ズゥンッ!!!

上条(室内で雷!?いやこれは魔力か!?)

ベイロープ「るおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

上条(銀の心臓から吹きだした雷のようなものが、ベイロープにまとわり、そして帯電するかのように漂う)

上条(『力』が満ちているのが、俺にすら感じられる……!)

ギシッ、ギギギギギギギッ!!!

上条「クソ!こんな時に来やがったのかよ!?」

ベイロープ「……ん、あぁ大丈夫。もう『銀塊心臓(ブレイブハート)』の術式は終わってるわ」

上条「あれ……その剣?持ってたっけ?」

ベイロープ「んー、まぁ説明は面倒だから省くけど、そーゆーもんよ」

ベイロープ「『ケン――』じゃなかった、『クレイモア』って言う両手剣の一種」

上条「……ふーん?」

上条(そう言ってベイロープは左手に『槍』を、右手に『両手剣』を構える)

上条(女の子の腕で扱えるのか――なんて、一瞬思ったが当然杞憂に終わるんだろうな)

『テケリ・リ』

ベイロープ「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

上条「待て!一人で突っ込むな!」

上条(さっきとは打って変わって突っ込むベイロープ。当然囲まれて)

ズパチィィッ!!!

上条(る、前に雷電が一蹴していた!どうやら『知の角杯』は左手の『槍』を通じて使わなくても制御出来るっぽい)

上条(まぁイヤリング状の霊装なんだから、ある程度自由は効くよな。普通は)

上条「……あのぅ、ベイロープさん?」

ベイロープ「何、よっ!今ちょっと立て込んでんだけどおっ!」

上条「てか凄いっちゃ凄いし!今までの『溜め』が無くなった分強いとは思うんだけどさ!」 パキイィンッ

上条(邪魔しないように俺も参戦)

上条(戦い方としては『牙』をベイロープがへし折ってくれるてっから、そっちを撃ち漏らさないように!)

上条「なんで今まで使うの渋ってたんだよ!?スッゲー疲れるとかそういう話かっ?」

ベイロープ「違う!ハイランダーは消耗を恐れはしないのだわっ!」

上条「だったら命を――」

ベイロープ「無い訳じゃ無い。がっ、戦いの中で出し惜しみをしないのがハイランダーよ!」

上条「だったらなんで!?最初っから使えれば楽になったのに!」

ベイロープ「……『銀塊心臓(ブレイブハート)』の効力は魔力と体力の底上げ、ただし『誰か』を守る時にしか発動出来ない」

上条「誰か……?あぁそっか、守られてるのは俺かよ」

上条「いやでもそれにしたってさっ!縛りがキツくない割に強いじゃんか!」

ベイロープ「縛り……そうね、縛りよね。呪いって言えなくもない」

上条「……おいおい何かいやーな予感がしてきましたよ?」

ベイロープ「あなたは悪くないし、聞く必要もないんだけど……聞く?一応?」

上条「それ絶対後悔する流れじゃねぇかよ!?しかも断れない系のヤツ!」

上条「第一熱湯風呂で『押すなよ!絶対に押すなよ!?』って言われてんの同じじゃねぇか!」

ベイロープ「あー、うん。曖昧にしといた方が、良いような気も……」

上条「良いよ聞くさっ!煽ったのは俺だし!」

上条「何かヤバい反動があるんだったら、俺がナントカするから!」

ベイロープ「う、うん。だったら言うわね?」

ベイロープ「まぁ結論から言う命の危機とか、後遺症が残るとか、そういう次元の話じゃ無いの」

上条「……良かった。ちょっと安心した」

ベイロープ「術式を発動させる時に『誰か』が近距離に存在している事が、絶対条件なんだけど」

上条「近くに人が居ないと――『味方』が居ないと無理だって事か」

ベイロープ「術式発動中に『誰か』が死ぬと各種のペナルティ。ま、それは別にどーだっていいのよ。この際無視出来るわ」

上条「高めの能力の割に、縛りが緩め、か?」

ベイロープ「その、『誰か』ってのは『一生に一人しか設定出来ない』のよね、うん」

上条「へー、一生に一人?そうなんだー?」

ベイロープ「そうなのよ、ねぇ?今時おかしいわよねー」

上条「だよなー、一生に一人なんて今時流行らないって、あっはっはっはー」

上条「――って大事じゃねぇかよっ!?笑ってる場合じゃねぇって!笑う所ねぇもの!」

上条「つーかなんで一生に一人!?どんだけ面倒臭い術式なんだよ!?」

ベイロープ「『私の心臓を捧げてでも守ります』って術式だから。心臓が二個三個あったらおかしいでしょ?」

上条「そうだけどさっ!」

ベイロープ「そもそも!『銀塊心臓』そのものが『死んだ人間の遺体がベース』だし!」

ベイロープ「守る『誰か』が生きようが死のうが関係ねぇのだわ!」

上条「超欠陥品だなオイ!」

ベイロープ「ま、生涯に二君三君に使えるつもり無いから、別に良いかなーって思うでしょ!?普通は!」

上条「……マジかよ……」

ベイロープ「……ま、色々あるとは思うけど、これからヨロシクしてやるのだわ」

ベイロープ「――マイ・ロード(私の君主サマ)?」

上条(彼女はそう言って凄惨に笑う)

上条(『槍』を下段に構え、『両手剣』を上段に構え――)

上条(――『敵』へ向かって名乗りを上げる!)

ベイロープ「私は『新たなる光』――」

ベイロープ「――『Balin189(双剣の騎士よ汚名を濯げ!)』の――」

ベイロープ「――『戦士』だ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

ベイロープさん、デレる

ベイロープのデレとか貴重

乙これは期待。銀の魂か…術式かっけー

ハイランダー、ブレイブハートと聞いて何故かブレイブストーリー思い出したww

>>331-337
恐縮です

>>332
『銀”塊”心臓(ぎんかいしんぞう)』です

スコットランド王、ロバート一世が死後、「俺が死んだら十字軍に参加したい」と言い残したんで、
友人兼副官のジェームズ=ダグラス郷が心臓を銀の箱へ入れてクルセイドに参加
その際、ダグラス郷が戦闘中に>>325の言葉と逸話を残しました

郷が参加したクルセイドは第9次十字軍(最後の十字軍)終了後、更にテンプル騎士団壊滅直後だったため、
そうとう『キツい』状況だったでしょう。なのに突っ込んだハイランダー怖い。超怖い

その後、ダグラス郷も戦死したので、心臓はスコットランドのメルローズ修道院へ埋葬されます
以上は全て実話ですが、1996年に調査が入り彼の心臓が見つかるまでフィクションだと思われていました

ちなみに映画ブレイブハート(ロバート一世ではなく、彼によって騎士の叙勲を受けたウィリアム・ウォレスが主人公)の
映画が公開されたのは199”5”年ですね

尚、この映画は史実とはかけ離れている部分が多くあるにも関わらず、高い評価を受けていますが、
スコットランドの独立を望む声が高まり、97年にはスコットランド出身のブレア首相が誕生します
彼の主導の元にスコットランド議会の設立が国民投票で決定されました

……ただねー、禁書SPでパトリシアさんが乗ってた海洋調査船、並びに調査先の北海油田があって
そっからパイプラインで引っ張る石油の精製施設ってスコットランドなんですよね
つまり『イギリスがスコットランドを失う=油田を放棄』って事で、黙って見てるかは超怪しい

――取り残された車両にて

「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

 裂帛の気合いと共に『クレイモア』が空を切る。それは両手剣としてはやや短く、幅広剣には大きい。
 高地人と呼ばれるスコットランド人は山岳戦闘に長け、特に森林での戦いで大きな戦果を上げた。
 地の利と共に彼らが有利であったのは、この短い両手剣が木々の間での戦闘に適していたからだ、と言う説がある。

 それが事実であったかどうかは分からない。ハイランダーは歴史の流れと共に姿を変え、剣から銃への持ち替えてしまう。それでも『高地連隊兵』の二つ名を得てしまうのであるが。

 しかし今この光景を目にした歴史学者が居れば、仮説が正しかったのだと思うであろう。『クレイモア』と言う武器は狭い空間での戦闘に有利であったと。

(まぁ、ご先祖様もまさか電車の中で振り回すなんて考えてねーだろ)

 圧倒的な物量差を目にしても、ベイロープの士気は萎える事は無かった。
 一車両を埋め尽くす――ある意味満員電車――相手に対峙してすら尚、笑みが浮かぶ。

(この程度か……この程度なのか……ッ!)

 戦争は数、物量、絶対数で勝敗が決する。それは戦闘とは違い、幾度も戦いを積み重ねる事により、『マグレ』が無くなるからだ。
 個々の戦闘では時折イレギュラーが起きては戦況が変わる。ほんの些細な偶然で結果は大きく左右されてしまう。
 見せ場でダイスを振っても必ずファンブルするように、マーフィーの悪魔は実在する。

 なので可能な限り分母を増やし、振るダイスの数を多くする。些細な失敗を笑い飛ばせる程に物量を増やし、偶然を笑い話で済ませようとする。

 敵に幸運の女神が付いていようとも、神を殺す程の力を持って圧倒する。そこに偶然の介入する余地が無くなる程に。
 それが、戦争。

 だというのに、だ。

(つまり――連中は『これだけの大群を用意しないと、私らには釣り合わない』って思ってんのかよ)

 ここへ来て『アレ』の心理が手に取るように理解る。それは――。

 『恐怖』、という感情。

 誰だって――生存本能を持つ個体であれば、死の恐怖は感じる。
 『死』という概念を理解出来ずとも、『痛み』や『欠ける』事を生命は恐れる。
 その動機は単純だ。

 『痛み』とは生存を続ける上での欠損を示し、突き詰めれば死に至る。
 『欠ける』にしても同種の別個体より大きなハンデを生み、引いては自己の生殖能力に関わるからである。

 だから生物は『怖れ』る。自身が傷つく事を。

(……まぁ、ね?よくよく考えればどーってこたぁないんだけど、さ)

 何のことは無い。『アレ』はずっとずっと。

(私らを――『怖がって』いやがったのか)

 遺伝子に刻まれた生存本能の中、『アレ』は全てを『食欲』で占められている――そう、一度は仮説を立てた。
 実際の行動もそれに沿ったものである。そう判断してきた。

 しかし現実に、単細胞生物レベルであっても、天敵が来れば食欲よりも優先して回避行動を取る事がある。
 乾きであったり、環境の変化であったり、別の捕食者の存在であったり。
 自身を傷つけるモノが側にあれば、大抵は逃げ惑うのだろう。

(なら、コイツはどうなの?何がしたい?何がしたかったの?)

 一見してタダの捕食行動に見えるのは、今にして思えば『攻撃』だったのでは無いか?
 逃げ場を失った動物が破れかぶれに攻撃してくるのとどう違う?

 自身は戦場に立たず、いや『立てず』遠くから攻撃する醜くふくれあがった『アレ』のどこが、『戦士』だと言うのか?

「……あぁムカツクのだわ。こんなしょーもないヤツに手を焼いてたなんて!」

 『銀塊心臓』により引き上げられた身体能力は、文字通り全身へ血液と魔力を運んでくれる。
 少々、悪酔してハイになってはいるが、その反面戦闘自体に余裕が出来ていた。

 襲いかかる 『アレ』の数は減らず、だが気力も体力も衰える事を知らない。
 彼女にとって『守るべきもの』がある限り、預けた心臓が脈打つ限り、膝を折ったはしない。
 ましてや、それが。

「『戦士』じゃない!兵士』ですらない卑怯者に!――」

 『クレイモア』へ渾身の魔力を溜める。

「――後れを取る訳、ないだろうがっ!!!」

 バチチチチチィッ!
 ルーンを伴った『知の角杯』の雷光が蹂躙する。

 そうだ、その通りだ。
 『アレ』は必死に自身の一部を切り無し、兵隊を造る。
 つまり、目の前の『コレ』は。殺到してくる黒い水溜まりは、それだけこちらを脅威だと思っている証拠だから。

「……ダメよ、それじゃ足りない!全っ然足りてなんかていない!」

 『クレイモア』で近くに居た敵を薙ぎ払い、『槍』で『牙』をへし折る。
 それでも消化としようとする相手には雷撃を叩き込んで蒸発させた。

「あっ――がっ!?」

 物量差に押し切られそうになると、ベイロープ自身をすら巻き込んで術式は嵐を呼ぶ。
 流れた血をぬぐう事すら無く、彼女は戦う。

 嘗て――十字教がスコットランドで布教を始めるよりずっとずっと昔の話。
 そこに住まうハイランダー達はその死を怖れぬ戦いぶりに敵は恐怖し、味方ですらも畏怖の対象となっていた戦士達が居たという。

 敵を殺し、味方を傷つけ、特には自身の命を散らしても尚、戦場で戦い続けた『獣憑き』の戦士達。
 戦いぶりを称賛され、忌み嫌われ、羨望され、こう呼ばれたという。

 ――ベルセルク、と。

 血の成せる業が、それとも初めて得た君主に狂喜したのは分からない。
 だが、今の彼女に相応しい称号に違いなかった。

 悪夢のような一方的な戦闘、ある意味虐殺と言って良い程の惨状の中、上条当麻は考えを巡らせていた。

 上条もベイロープの出した結論――戦闘中に語るような事では決してないのだが――に同意していた。
 しかし、ならば、どうして、と言う疑問も残る。

 『アレ』が怖れているのは理解出来た。言われてみれば一貫性に乏しい。『牙』を生やした敵を殴りつけながら、そう考える。

 向こうが本気を出して捕食行動を取るのなら、『全力』でこちらを潰しに来る筈だ。捕食対象である所の人間の反撃など顧みず、ただ物量で押し切る。
 相手が『脅威』と感じていなければ出来た、筈だ。

 その仮説はかなり真実に近いのであろう。的を射た推測……では、あるが。しかし。
 まだ『足りない』気がする。何か見落としがあるような。大切な何かを見落としているような。

「――いいから、眠っとけ!」

 ズバチィッ!と幾度目かになる雷電が一掃。視界の中に動く『アレ』は消え去り、静寂が帰ってきた。
 ふぅぅ、と息を吐く彼女に、お疲れさん、と声をかけた。

「ん、あぁ、いーのよ。あなたを護る時に一番強くなる術式だからね」

「……遣いづらいだろ、それ」

「分かってるわよ!他に手が無いっつーんだからしょうがないでしょ!?」

「すいませんっ!ホっントにすいませんでしたっ!」

 頭を下げつつも、どうにか襲撃を凌ぎきった事に安堵する。こちらから本体に手出し出来ない以上、場当たり的な時間稼ぎだが、この調子でいけば助けを待つのは余裕か。

「……そういや、完全に撃退出来たのって初めて、だよな?」

 ベイロープへ問いかける。顔に付いた血を上着で拭いながら、あきれたような声を出した。

「後方車両ぶった切る前は連戦連勝だったのだわ。つーか『アレ』の本体が出張らない限り、各個撃破は難しくないのよ」

「そか。確かに時間稼ぎだけだったら俺達でもどうにか出来たしな」

「逆に言えば余裕があるのは本体が出張ってこない証拠、って話。今も来なかったみたいよね。本当に」

 一つ間を置き。

「私らが怖いのに、どうして向かってくるのかわっかんないわよね。こっちの基準で判断するのが間違いかも知れないけど」

「だなぁ。俺だったらさっさと逃げ出――」

(逃げる?時間稼ぎ……?)

「ホントホント。こっちも他の乗客が居なかったら、さっさと通報してトンズラしてるっつー――上条?」

「……なぁベイロープ。ちょっと聞きたいんだが」

「うん?『銀塊心臓』の効果時間?」

「それも聞きたいけどそうじゃない。今までさ、『アレ』が襲撃してきた時って、車体がギシギシいってたよな?」

 少なくとも上条らが出くわした限りではそうだった。
 重みで車両に負荷がかかっているのか、それとも『牙』を精製するためにはぎ取っていたのかは、まだ分からない。

「あの『音』、殆どしなかったよな。今?」

「言われてみれば、うーん……?」

 しかし――最後に『音』が聞こえたのは何時だ?
 車体が『アレ』の重さで悲鳴を上げたのは、何時だったであろうか?

 今し方の襲撃ですら、最初の方に少しだけ――。

「……ベイロープ!」

「はい?なに?」

「早く前の車両へ行かないと!」

 言うが早いか走り出す。

「……オイ、正気か!こっちは時間稼ぎに徹するんじゃ無かったの!?」

「て、言う割には付いてきてるけど……」

 直ぐに隣に並ぶ――僅かに前へ出ている――ベイロープ。

「そういう術式なのよ!仕方が無いじゃない!」

「『幻想殺し』でキャンセル出来そうな気もするけど……」

「かけ直す時間が勿体ない!それより何?何なの?」

「多分、だけど、分かった気がする!俺達だけじゃなかったんだ!」

「どういう意味?」

「――『アレ』も時間稼ぎしてたんだよ!」

――ユーロスターS 5両目よりも先

□□□-□□□□□   ※

※現在位置

 ユーロトンネルの中は定期的に非常灯が置かれ、万が一の場合でも非難しやすい構造になっている。
 海面下を通るトンネルとしての長さは世界二位、ましてや国と国を繋ぐ架け橋となっているのだから、関係各国の面子も絡む――その割に、イギリスとフランスの仲はお世辞にも良好とは言えないのだが。

 橙色の非常灯に映し出された『アレ』――恐らく、ユーロスターに張り付いていた『親ショゴス』の姿は、端的に表現すれば『異物』の一言であった。
 胴体は芋虫のように脈打ち、節々が限界にまで腫れ上がっている。
 黒色をベースに中身が僅かに透けているのだが、用途不明の内臓によく似た何かが、内側から心をかき乱す周期で発光を繰り返している。

 ぶよぶよの胴体なら伸びる『牙』は、クモやゲジのような、一度上へ伸び上がった後、地面へ突き刺すコンバスの如くそびえる。
 しかし節足動物が一部の人間に機能美と持て囃されるのに対し、『ショゴス』に誉められるべき所はない。
 『牙』――と言うよりも『脚』の大きさはまちまち、しかも体の至る所から生やしており、とても正視に耐えがたい代物であった。

 『ショゴス』がまだ、数十センチのバケモノであったならば人によっては可愛いというかも知れない。
 けれど目の前に鎮座しているのは、胴体部分だけで大型トラック程もある異形。
 チグハグな足をデタラメ――交互ですらない――に動かし、人が走るぐらいの早さで移動していた。

 既存の生き物の枠を越えたフォルムに、比喩無しで目眩と吐き気を催す。遠近感が狂い、自分達がそこに立っているのかも怪しくなる。
 しかしそれでも気力を絞ったのはベイロープの方だった。傍らに『護るべきもの』が立つせいかどうかは分からないが。

「なぁ、私達は正気なのか……?」

「……俺は、まだ、何とか。それよりそっちは大丈夫かよ?」

 上条もどうにか返事をする。『幻想殺し』で悪夢は殺せるのか?と半信半疑であったが。

「……まぁ、ブレイブハートには『戦場での士気向上』って効果もあるし、素面で見るよりはまだマシ……か?」

 戦場で敵味方の屍を乗り越えてるのを良しとする術式。『正気』かどうかは判断に困る所だが、一応は耐えているベイロープ。
 上条の方は右手で額を押さえているが、効果は怪しい。

「てか能力者かもって話はどこ行ったの?つーかあんなんが授業受ける学園都市も大概よね」

「勘弁しろよ!あんなん教室居たら怪獣映画の世界じゃねぇか!」

「校門で会って告白イベント?」

「どう考えてもそのまま喰われるバッドエンドしか思い付かねぇよ……!」

 時間を稼いでいたのは人間達――だけ、では無かった。
 『ショゴス』が思わぬ反撃を受けた時か、それとも最初からそうであったのかは分からない。
 しかし明確に『恐怖』を感じてしまった後、彼または彼女も『逃げ』ようとしたのだ。

 けれど体そのものが粘液の塊、動くのも億劫で早く移動するなどとても不可能。
 従って『ショゴス』は『待った』のだ。

 自身が素早く動く手段を得る――『牙』という外骨格を得るまで。
 僅かな時間で進化するまでの時間稼ぎ。そう居残った人間達は判断を下していた。

「……単純な話なのだわ。森で熊さんに出逢ったら、お逃げなさいと言うのが普通」

「その例えは正しいのか?」

「こっちも怖いけど、向こうも怖い。よくよく考えればシンプルよね」

 軽口を叩く割に気は重い。心が奮い立たない。勇気を振り絞れない。

 目の前の異形へ対する『怖れ』で躰がこわばり、動作が鈍る。
 絶叫して逃げ出したくなる程の、名状しがたい冒涜的なオブジェであった。

 銃口や魔術師、聖人相手にした時とは異なる。言わば『本能へ訴える恐怖』が二人を襲う。
 姿ある敵ならば殺せる。死なない相手であっても無力化は出来る。

 だが『自身の恐怖』を前にして何が出来る?何が役に立つ?
 戦うのは独り。ねじ伏せる相手は自らの心。生命の尊厳を賭けてまで、振り絞れるのは少数である。

 が、しかし。

『――――――としても』

「……上条、何か言ったか?」

「いや、俺は別に何も」

 薄い暗闇に聞こえた声は空耳か?

『立て――を失ったとして――』

「聞こえる……?つーかどっか聞いたような……?」

「――知ってる!この声は――!」

 この場に居ない。居る筈のない。
 彼女の『歌』を

――少し前 『カーゴ2』

乗客A『――, ――――.』

乗客B『――, ――――?――!』

鳴護「うーん……?」

鳴護(ちょっと騒がしくなってきた、かな?前の車両で何かあったのかも?)

鳴護(……まぁ『あれだけ』やっちゃったんだから、他の人が不安になるのも分かる、よね?)

アル「――おい!ちょっとアンタ!」

鳴護「はい?……アルフレドさん?」

アル「悪い!アンタの取り巻きっ、つーかSSっぽい奴らに話がある!」

鳴護「話、ですか?えっと、どういう?」

アル「出来りゃ直に説明したいんだが、今どこに?」

鳴護「後ろの車両でスタンバってますけど、何かあったんですか?」

アル「あー……っと、ぶっちゃけ、クビ切られてたんだわ」

鳴護「――はい?」

アル「あぁいやリストラ的な意味じゃなくって、そのまんまの意味」

鳴護「首って!」

アル「あんま騒ぐなって!……てか、無理か。悪い、騒ぐなっつー方が無理だよな」

鳴護「どうしたんですか?一体何があってそんなっ!?」

アル「『火災が発生して後ろの車両切り離してました』ってアナウンス入ったよな?最初の方に」

アル「でもって次は何の予告もなくもっかい切り離したよな?それで他の乗客がぶち切れた」

鳴護「それじゃ……」

アル「いやいや、そいつらがやったんじゃねぇ。鍵のかかってない運転席開けたらって事だわな」

鳴護「……」

アル「後は無責任な伝言ゲームの繰り返しってヤツ?中には『バケモンが乗ってて人を食ってた』って話も」

アル「まさに『人を食った話』ってヤツ――あぁ悪い。女の子に話すようなこっちゃねぇよな」

鳴護「いえ、大丈夫です、から」

アル「とても大丈夫だっつー顔色には見えないがね。で、そっちのお連れさん、どーにもメカニックとかに詳しかったりしないか?」

鳴護「メカニック、ですか?」

アル「あぁ。運転席がメチャクチャにされててさ」

アル「どっかが壊れてるのは間違いねぇんだよ、スピードが上がりっぱなしになってんだから」

アル「でもどこかは分からない。素人が手ぇつけていい状態かどうかも分かんねぇんだわ、これが」

鳴護「『クルマが専門分野だ』とは聞いたような……?」

アル「本当か!?だったらイケるかもしんねぇ!助かったぜ!」

鳴護「――待って下さい!」

アル「何?今ちょっと急いでんだけどよ?」

鳴護「その――このまま、だったらどうなります、か?」

アル「どう、ってそりゃ――速度落とせないままだったら、どっかのカーブで曲がりきれずに突っ込むだろ」

鳴護「……」

アル「あー違う違う!そんな事にはならないって!こーゆう高速鉄道には二重三重にセーフティがかかってんだよ!」

アル「最悪本体がイカレちまっても、別電源で動くブレーキとか搭載されてるから!な?心配は要らないんだわ!」

鳴護「で、ですよね?」

アル「――ただ、まぁ?それを『信じられない』ヤツが居るかも知んねぇけどな」

鳴護「――え?」

アル「見てみろよ、周りを」

鳴護「周り、ですか……?」

アル「おう。あっちでガキを抱きしめてる母親とか、恋人っぽく雰囲気出してる奴とか」

アル「あいつら、『いざとなったら飛び降りる』つってんだよ。いやマジで」

鳴護「そんな事したら!」

アル「ま、どんだけ幸運だったとしても死ぬだろうね」

アル「想像してみ?音速よりかちょい遅い速度で生身の人間が撃ち出されんだぜ?絶対ヤバいって」

鳴護「……」

アル「あー、ムダムダ。説得するにも言葉が伝わらねぇだろ、つーか俺が通訳してやっても良いんだけどさ」

アル「なんつーかムダだってば、だって連中正気じゃねぇもん」

鳴護「……どういう、意味ですか……!」

アル「そう怒るなよ。別にバカにしてる訳じゃねぇってば。そうじゃなく」

アル「混乱?パニック?『有り得ない』って状況に放り込まれて、おかしくなってんだよ。それだけ」

アル「よく災害の場で無謀な行動とって自滅する奴いるじゃん?まさに、それ」

アル「だって連中、『アメーバみたいなクリーチャーに襲われた!』なんつってる奴が居るんだぜ?んな妄想に付き合ってる暇はないし」

鳴護「……止めないと!」

アル「だから無理だって。『暇はない』つったじゃん?つーかこうやってる時間も惜しいぐらいんだけどさ」

アル「パニックになってる奴ら、一体何人居ると思ってんの?それを鳴護ちゃん一人で止めようって?」

アル「無理だよ、そんなの。止められっこない。止められる訳がない」

アル「もしも出来るとすれば『奇蹟』ぐらいじゃねぇのかな?」

鳴護「奇蹟が、あれば」

アル「昔っからパニックった奴を冷静にさせるのって、平手でキツいのお見舞いするか」

アル「もしくはママンの子守歌って相場って決まってんだよ」

アル「……ま、それが効果あるかは知らねぇが」

鳴護「あたし――私が、歌えば」

アル「非日常にぶち込まれた連中は、『日常』を無理矢理感じさせる事で正気付かせる、と」

アル「言ってみれば『休みの日にテンション上がってんのに、明日会社だと思って鬱になる』みたいなもんだ」

鳴護「……」

アル「あーウソウソ!今のはラテン系のノリだから!思い付いたから言っちゃったみたいな!」

鳴護「えっと、アルフレドさん?」

アル「お?」

鳴護「私も……戦わせて、下さい」

――少し後 『カーゴ1』

 最も人が集まる『カーゴ1』であったが、今は血臭漂う陰惨な場と化していた。
 別に乗客同士で流血沙汰が起きた訳ではない。むしろ後方の車両から逃げ出してきた『訳あり』の人間達は、正気を失ったかのように茫然自失としている。

 原因は運転席から引きずり出された遺体、少々ならずともショッキングな死に方のそれらへ、どこからか調達したカバーシートがかけられている。
 しかし漂ってくる血の匂いは、エアコンをフル稼働させても中々消えるものでは無い。

 だというのに、人々はそこを離れようとはしなかった。
 何故ならば『ここが一番先頭』であるという理由で――『アレ』から最も離れている。そう言い換えても良いだろうが。

 が、その判断も長くは続かない。何かが侮蔑を込めて嘲笑ったように、人々の多くは目先の今年か見ていない。いや、より正確には目先の事すら見えてはいない。
 閉塞状況へ追い込まれれば容易に逃げを打ち、簡単な答えを求める。それが正しいのでは無く、正しそうだからでも無く、信じる。

 人々の囁きの間に「バケモノに食べられる前に――」と極めて不穏な単語が混じり出し、混乱は混沌を呼ぶ。
 「死に方ぐらいは自分で選びたい――」、無知で勇気ある人間が、最初の一歩を踏み越える――その、瞬間。

 奇蹟は、起きる。

『――立てよ、世界を敵に回したとしても』

『立てよ、全てを失ったとしても――!』

 突然スピーカーから流れてきたアカペラの歌。殆どの者は歌詞の意味すら理解出来ない。

『誓いや言葉は要らない』

『英雄になりたかったわけじゃない』

 アップテンポの音楽は流行りの楽曲であると想像は出来るが、それもこの場では筋違い。
 だと、言うのに。

『僕はただ君のために』

『抱きしめた誇りを友に――今、戦おう……!』

 人々の心を取り戻すには、自らが身を置いていた『日常』を感じさせるには。
 充分だった。

 それは『奇蹟』ではない、必然。

――切り離された車両周辺

上条「なんだこれ……アリサの――!」

『人と人を縛るのは絆――それは誓い』

『君が居るだけで価値があるこの星』

ベイロープ「……体が……動く?どうして?」

上条「決まってんだろ!俺達だけじゃ無いからだよ!」

上条「アリサも一緒に戦ってんだ!」

『ガキにすら劣る卑怯者は震えて眠れ』

『伸ばした手を振り払われて』

ベイロープ「待てよ!こっちの内線は死んでる上にトンネルの中だぞ!?」

ベイロープ「そんな『奇蹟』起こる訳が――!」

上条「……違う!これは奇蹟なんかじゃ無い!」

ベイロープ「それ……さっき受け取ったスマフォ、だよな?」

『立てよ、世界を敵に回したとしても』

『立てよ、全てを失ったとしても』

ベイロープ「電波が途切れる筈なのに、どうして――?」

『守られなかった約束を果たすため』

『命であがなえ、血の枷に囚われて』

上条「決まってるだろ!そんなの!」

『勇者を目指して剣を取れ』

『魂に刻んだ誇りを友として――今、戦おう……!!!』

上条「来たんだよ!ここへ!俺達のために!」

上条「『中継器を積んだ奴が』な!」

……ゥィィィィィィンンンッ

ベイロープ「モーター音?まさか新手か!?」

ジジッ

柴崎『――ご無沙汰しております』

上条「来てくれたんだ!」

柴崎『てか、そこに居ると危険ですので離れて下さい――なっと!』

ガギイィィィィイインッ!!!

上条(ライとの一つも点けずに闇を切り裂いて現れた鋼鉄製の『異形』が、『ショゴス』を派手に牽き散らかす!)

上条(黒いバケモノが二度三度バウンドして転がった所へ、上から更に踏みつけにかかる!)

上条(四足歩行のクモに似たデザインの、『それ』を俺はよく知っていた!)

柴崎『婚后インダストリィ謹製、「ヤタ2式」――所謂”多脚戦車”』

上条(半透明のキャノピーに誰が乗っているのかは見えないが、スマフォのスピーカーを通じて柴崎さんの声がする!)

柴崎『公園でリーダーに襲撃喰らってますよね、上条さんは』

上条「つーかテメーそんな便利兵器あるんだったら最初っから出しやがれ!何渋ってんだよ!」

柴崎『回答一、最低でも二桁の協定違反&法律違反の産物ですからね、これ』

柴崎『あと自分は「クルマの中から上条さんを見た」と言ってます、乗れない・持ってきてない、なんて一言も』

上条「そりゃそうかもしんないけどさっ!」

柴崎『回答二、バンの荷台に積める程度のものなので、武装は最初から積んでいません』

上条「じゃ、丸腰なのか!?」

柴崎『なので物理攻撃無視の相手には通用しない――と、思ったんですがね』

ギギッ、ギギギギギギッ!

上条(多脚戦車の下でジタバタともがき、抜け出ようとする『ショゴス』)

ベイロープ「おかしくないか?液状なんだったら形変えて逃げられるのに」

上条「……進化、し過ぎたんだと思う」

ベイロープ「進化?」

上条「『アレ』が科学サイドだってなら、当然科学的な法則の下に成り立ってる訳で」

上条「……異様に早い進化のスピードと、名状しがたい外見のせいで、ついつい忘れそうになるけど――『アレ』も生物なんだろうさ。一応」

ベイロープ「要点を簡潔にしやがれマイ・ロード」

上条「敬ってる気配が微塵もねぇな!?……じゃ、なく」

上条「普通はさ、『脚』だけ生やしたって歩けるんじゃないんだよ」

上条「骨格、筋肉、神経組織ってハードウェア、後はそいつらをオートで制御する交感神経と副交感神経」

上条「『アレ』は確かに原始的な生物、つーか能力者なのか、その一部を移植されたのかは分からないが」

上条「だからっつって物理法則をブッちぎるような無茶も出来ない……と、思う」

ベイロープ「ジャパンのテレビで見た、『アリはどんな高い所から落ちても死なない』みたいな?」

ベイロープ「生き物としてシンプルだからこそあった利点が、成熟しちまうと失われる」

上条「けど逆に、チャンスでもある――ベイロープ!」

ベイロープ「時間を稼げ!……あと、クルマん中の奴は逃げ出せ!じゃないと巻きこまれる!」

柴崎『そう、したい所なんですがね、どうにも厳しいようです』

ショゴス『デケリ・リィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!』

上条(窓ガラスを詰めで引っ掻いたような耳障りな咆哮を轟かせ、『多脚洗車』を撥ねのける!)

上条(その勢いのまま逆にのし掛かる『ショゴス』!)

上条「柴崎さん!?」

柴崎『……上条さん、先程、自分が言った事、憶えてらっしゃいますか?信じろとかなんとか、言ってましたよね』

柴崎『その言葉、今この場でお返ししようかと存じます』

上条「……信じてぶっ放せって事か?でも!」

上条「結局、来たのは一人で――ッ!」

柴崎『……生憎、このクルマは一人乗り。魔術サイドの方へ貸しても運転出来る訳も無し』

柴崎『説明している暇はありません!さぁ、早く!』

ギギギギッ、ギチギチギチギチギチッ!

上条(不吉な音を立てて『ショゴス』がキャノピーへと『脚』をかける……こじ開けるつもりか!)

上条「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

ベイロープ「止せっ!?」

パキィィンッ……!

上条(俺の『幻想殺し』で殴りつけるも、触れた部分から半径数十センチが消滅するだけで!)

上条(デタラメに生えた『脚』の迎撃が――)

ベイロープ「はああぁぁぁぁぁっ!」

ギッギィンッ!

ベイロープ「無茶だ!奴らを滅ぼしきる前にこっちが穴だらけになるわ!」

上条「……クッソ……!」

上条(マズい!こうしてる間にも多脚戦車が潰されっちまう!どうしたら……!)

ベイロープ「――オイ!聞いてるか上条当麻!?」

上条「……あ、あぁ」

ベイロープ「命令しろ!私に!」

ベイロープ「『アイツをぶっ飛ばせ』って言うだけでいい!他に何も要らない!」

上条「ベイロープ……」

ベイロープ「そうすりゃ後はあなたが目を瞑ってる間に、全部、終わらせる!」

ベイロープ「私は『戦士』であり、あなたの『剣』だ!勢いとはいえそうなっちまった以上、汚れ仕事でも何でも私が引き受けるわ!」

ベイロープ「だから、早く!中の奴が人であるウチに!」

ベイロープ「あのクソッタレのドロドロ野郎と溶けて一つになっちまう前に!終わらせてやるのが筋ってもんなのだわ……っ!」

上条「……」

ベイロープ「あなたの言っていた『助け』は来なかった!それは仕方が無いし強制されるようなもんじゃ無い!けどっ!」

ベイロープ「それでも!勝算も何も無いのにやってきやがった騎兵隊の意志を!ムダにするんじゃねぇ!」

ベイロープ「『ショゴス』が気を取られてる機会なんて、次にどれだけあるのかも分からないんだから!」

ベイロープ「今のウチに焼き尽くすのが最善でしょうが!」

上条「……そう、か。そうだよな……分かったよ、ベイロープ」

ベイロープ「えぇ」

上条「……ただ一つだけ、訂正させてくれないか」

ベイロープ「……あぁ?」

上条「お前は剣なんかじゃない。ただの『戦士』だよ」

上条「成り行きとは言え、『死んで欲しくない』って理由でベイロープが死なせず、そして『ショゴス』も殺せなかった」

上条「その結果が今の『これ』だよ!俺があの時、我が儘言ったせいだ!だからっ!」

上条「俺がベイロープにするのは命令じゃ無い、『お願い』だ。そしてお前に責任なんかある訳がない!」

ベイロープ「『お願い』、か」

上条「さっきと同じく、俺はまた我が儘を言う。それ以上でも以下でもねぇよ!」

ベイロープ「それは『命令』?」

上条「……いや、『お願い』だよ。そんなつもりは、ない」

ベイロープ「……そか――『ギャッラルホルン』!」

上条「……悪い」

ベイロープ「いいって。あなたが納得しようがしまいが、『これ』以外に方法ないのだし」

ベイロープ「……ま、私の男運もそう悪くは無かったって確認出来たし、ね」

上条「……うん?」

柴崎『――あの、ご歓談中申し訳ないのですが、そろそろ宜しいですかねぇ?』

上条(俺達が言い争ってる間にも、多脚戦車の装甲はボロボロになっていた)

上条(得体の知れない素材は、未だ貫通するせずには居るようだが)

上条(それでも僅かにある隙間へ『脚』を入れ、テコの原理でキャノピーをこじ開けようとしていたっ……!)

ベイロープ「少し待て!詠唱が必要よ!」

上条「任せろ!うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

パキイインッ!!!

上条(通じた!――けど、足りない!届かない!)

上条(『ショゴス』の一部分を切り取るだけで、全部を消滅させられない!)

上条(やっぱり――俺の『幻想殺し』には対処済みって事かよ!?)

ググギッ!ギギギギギギギシィイッ!

上条(そうこうしている間にも、非情な『ショゴス』の脚――だか、牙がついに運転席を少しずつ開いていく!)

上条「間に――合わなかったのか……っ!?」

上条(限界が来たのか、急にハッチが勢いよく跳ね上がり、中に乗っていた人間が露わになる)

上条(柴崎さんの言っていた通りに、人一人分しか入れないキャノピーから出た人物へ『牙』が殺到する。しかし)

上条「お前――!?」

???「――学園都市の『機械化小隊(マシンナーズ・プラトゥーン)』だと思った?残っ念っ!」

???「中身はぁ――」

上条(俺は『勝利した』と確信しながら、”彼女”の名前を呼ぶ!)

上条「レッサー!」

レッサー(???)「――エロ可愛いレッサーちゃんでしたっ!」

上条(悪びれもせずにレッサーは持っていた『槍』を突き出し、先端に巨大な業火を生む!)

ショゴス『ギギギギギギギィイイイイイッ!?』

上条(突然現れた『天敵』に『ショゴス』はあからさまに怯み、その『脚』を使って大きく跳び上がる!)

レッサー「逃がさねーですよこぉのドちくしょーがっ!!!」

ゴォウンッ!!!

上条(空中で伸び上がり、逃げ場のないままレッサーの生んだ業火が腹へと突き刺さり――)

上条(――当然、その反動で『ショゴス』は天井へ叩き付けられる――)

上条(――そう、『ユーロスターの架線がある』天井へ、だ!)

バチチチチチチチチチチチチチチチチチチチッイィィィィィンッ!!!

ショゴス『――!?』

上条(衝撃で爆発、飛散する『ショゴス』――その一体一体が生きており、同時に再生する能力があるのだろう。が)

ベイロープ「『知の角杯を持つヘイムダルよ、見よ!』」

ベイロープ「『火のビフレストを渡る炎の巨人を、天空を喰らう狼を!』」

ベイロープ「『影のビフレストからは憂鬱な死者の軍勢どもを!』」

ベイロープ「『さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん!』」

ベイロープ「『戦いを告げる先触れを!全ての戦士を喚び起こすのだ!』」

ベイロープ「『――神々の黄昏が来た!(ラグナロク、ナウ!)』」

――イイイイイイイイイィィン――!!!

上条(周囲から音が消え失せる程の爆音!『架線から供給される電力』も巻き込んだ強烈な雷撃!)

ショゴス『デケリ……リィ……』

上条(稲妻の雨を全身に受け、狂ったように身もだえする『ショゴス』達……)

上条(彼らの放つ雄叫びは、どこか胸が苦しくなった。けど)

上条(嵐が過ぎ去った後には染みの一つすら残さず、残せず)

上条(まるで悪夢が過ぎ去ったかのように、現実感に乏しかった)

上条「……やった、のか……?」

ベイロープ「つーかこれでダメだったら私らの手に負える相手じゃないわ」

ベイロープ「どっちにしろ『時間稼ぎ』って意味でも充分でしょうし、さっさと出るわよ」

上条「……だな。行くか」

ベイロープ「つか、まさかマジ助けが来るとは思わなかったわー」

上条「言ったじゃんか」

ベイロープ「聞いたけどさ」

上条「お前が仲間を大切に思ってるみたいに、仲間も同じだって」

ベイロープ「言ってねぇよ。つーか聞いてないわ」

上条「だっけ?ま、いいって結果は同じだし」

上条「ホラ、見てみろよ?レッサーだってあんなに喜んで――」

レッサー「ダイジョーブですかー?ベイロープ?上条っさーん?」

レッサー「いけませんからね?もしもこれでちょっと良い感じになったとても、それはきっと幻想ですから、幻想ですよね、幻想なんですね分かります!」

レッサー「てっきり二人だけのシチュエーションになって、あんなーこーとー、こんなーこーとーとかあったりしませんよねぇ、ねぇぇっ!?」

レッサー「嬉しかったこーとーとか、面白かったーこーとーとか、いーついーつまーでもフォーエーバー!的な立てられたフラグに流されたりは許しませんからねっ!」

上条「……て、照れ隠しだよ!きっと!」

ベイロープ「に、しては必死に見えんだけど」

レッサー「いけませんいけません!そりゃきっとアレです吊り橋効果です!よくあるんですよねー、この業界」

レッサー「今回のお二人が体験しやがった事も、きっとその類の妄想ですってば、はいっ!」

レッサー「一次の気の迷いっつーか、まぁまぁ男女間であったって友情成立しますしね!えぇっ!」

上条「……えっと」

ベイロープ「……心配、されてるみたいね。別の意味で」

レッサー「それともアレですか!?Dですか!?Dカップがあなたを迷わせるんですかカミジョーさん!?」

レッサー「いけませんいけません。そいつぁ黙って見ていられませんよ!」

レッサー「そもそもですねぇ、昨今の業界では年上キャラ出しても、『え、需要ないでしょ?』の一言でバッサリ切られますからね」

レッサー「だもんでここは一つ!私と真実の愛を育みましょ――」 ガシッ

ベイロープ「……」

レッサー「おおっと!どうしましたかベイロープ?私のおっぱいを鷲掴みしても、好感度は上がりませんよ?」

ベイロープ「まぁ、アレだわ。なんだかんだ言いつつ助けに来てくれたのは感謝するわ。それは、アリガトウ」

レッサー「やだなー。当然じゃないですかー、仲間を助けるのに理由なんて要りませんってば」

ベイロープ「で、だ!それとは別にちょぉぉぉぉっと疑問があんだけどぉ、答えて貰って良いわよね?ん?」

レッサー「な、なんですかっ!この私に後ろ暗い所なんてありませんよっ!」

ベイロープ「最後、あなたが乗ってんだったら、別に最初からにバラしても問題ないわよね?」

ベイロープ「つーかさっきのオッサンが乗ってるブラフかける必要がどこにあったのよぁぁぁぁぁぁんっ!?」

レッサー「ヘルプーーーー!?至急応援を頼むーーーーーーーっ!」

レッサー「てかマジでおっぱい千切れますからっ!痛い痛い痛い痛い痛いっ!?つーか痛いですってば!?」

ベイロープ「……最期に言う事は?」

レッサー「やっぱり若さって嫉妬の対象なんですかねぇ」

ベイロープ「死ね」

レッサー「んぎゃーーーーーすっ!?」

上条「……仲、良いよなぁ。やっぱ」

柴崎『ですかねぇ』

上条「つか、どういう事?今まで流れって、ノリだったの?」

柴崎『自分が「糸」で多脚戦車を遠隔操作出来るってのは、割と秘密にしておきたかったのも確か』

柴崎『また、想定では多脚戦車の攻撃が通じないと思っていましたから。レッサーさんには主砲として乗って貰いました』

柴崎『それともまさか上条さん、自分が勝算も無しに助けに来るとでも思いましたか?』

上条「そりゃ……」

柴崎『そんな人道的な理由で「黒鴉部隊」は動きませんよ。残念でしたね』

上条「……この嘘吐き」

柴崎『よく言われます』

レッサー「ヘェルゥゥゥゥゥゥゥプッ!誰か助けてフォローミーィィィッ!?」

上条「……ま、疲れたー……」

柴崎『――あ、そうそう上条さん。伝言が一つ』

上条「あー、そかアリサからか。何々?」

柴崎『「アリサほったらかして何やってんんだ、あぁっ!?」』

上条「アリサじゃねーし!超怖いねーちゃんじゃねぇかよおぉっ!?」

柴崎『大丈夫ですよ。自分がよく言っておきましたから」

柴崎『「妹系アイドルより、年上のお姉さんの方を助けに行った」って』

上条「テメーも根に持ってやがんなチクショー!憶えとけよっ!いいなっ!?』

上条(……と、まぁいつものように)

上条(やったら疲れる日常へ、俺達はどうにか帰還しましたとさ)

――ブリュッセル南駅(ベルギー)

上条「着いたー……長かった!」

鳴護「当麻君、そんなに感動する所かな?」

上条「いやまぁ大変だったじゃんか!」

レッサー「ま、いっつもこんな感じではありますけどねー」

上条「そうだけどさ――って何でレッサー居んの?」

レッサー「ヒドっ!?利用するだけ利用しといて用が済んだらポイですかっ!?どんだけオニチクなんですっ!?オニっ!アクマっ!高千穂っ!」

上条「鬼畜な?」

フロリス「『ベツレヘムの星』でも、レッサーはカミジョー見捨てて逃げなかったかっけ?」

ランシス「むしろレッサーが利用するだけしといて、って突っ込まれる方……?」

レッサー「おっと中々やりますね上条さん!この短時間で私の仲間を味方に引き込むとは!」

レッサー「流石は私が終生のライバルと認めただけはアノニマス!」

ベイロープ「だから私ら前から言ってるけど、あなたのその無闇矢鱈なプロポーズに引いてんのよ」

レッサー「やだなぁそんな私がまるで空気読めない、みたいなの止めましょうよ、ねっ?」

フロリス・ランシス・ベイロープ「……」

レッサー「良し!話し合いましょうか!肉体言語でねっ!」

鳴護「えっと、お友達……?」

上条「柴崎さんはどっこかなーっ!さっさと合流して次の街へ行かないと!」

鳴護「あ、それだったら『警察の取り調べがあるから、先にこの駅でお姉ちゃんと合流してて』って」

上条「あんだけ暴れた上、学園都市の兵器持ち込んでんだしなぁ……」

鳴護「『もしかしたらこれが会える最後になるかも』っても言ってた、かな?」

上条「冗談になってねぇ……ん?」

鳴護「どうしたの?お手洗い?」

上条「ちょっと行きたいけど、この駅おかしくないか?」

鳴護「どこが?」

上条「いや、ホームに俺達以外、人の姿がないってのが」

鳴護「あ、言われてみれば――あ、居る居る!ほら、あっちに外人さん達!」

上条「居るな……つーか俺もらも含めて全員外人だ」

アル「うぉーいカミやーーーーんっ!」

上条「カミやん言うな。て、アル、さん?」

鳴護「さっきはありがとうございました」

上条「アリサ?何かあったのか?」

アル「いやいやお礼なんて良いって。大した事してねぇし」

アル「前のカーゴでさ、何かパニックになって飛び降りとかやらかしそうだったから、ちっと言っただけだし」

アル「実際に車内放送でアカペラ歌って落ち着かせたのは、鳴護ちゃんだしなぁ」

上条「……そっか。アリサも戦ってたんだよな」

鳴護「私にも、出来る事があったから、うんっ!」

レッサー「あのぉ、そちらさんはどなた様で?」

アル「俺?好きなタイプは岸田メ○」

レッサー「嫌いじゃないですけどっそういうネタは!」

アル「『抱きしめる』と『岸田○ル』って似てね?アナグラムで付けたんかな?」

上条「おい!出逢っていきなりボケ倒すのは面倒臭いんだよ!ツッコミの負担も考えろ!」

アル「『堕騎士メル』ってエロマンガにありそうなタイトルじゃね?」

上条「何の話?本気で何言ってんの?」

レッサー「それだったら『打岸メル』ってした方が新しいボーカロイドっぽい響きで」

ベイロープ「黙っとけレッサー」

アル「何、って何が?」

青年?「兄さん兄さん、多分自己紹介的なものをしろ、って言ってるんだと思うよ」

上条(アルの後ろにはよく似た男の人が立っていた。顔立ちも着てる服もそっくりの双子だろう)

上条(……でも普通、兄弟で同じ服、着るかぁ……?)

上条(他にもコートを着てパナマ帽を深く被って顔が見えない人……いや超怪しいな)

上条(あと子供――か?どっちでも通用しそうな、綺麗で病的なぐらいに色白な子が一人)

上条(そういや仲間を探してるっつったっけか)

アル「うえぇ?名乗るの?マジで?ホントに?」

上条「今更出し惜しみすんなよ。つーかアルフレドって自己紹介してるじゃねぇかよ」

アル「あー……うん、まぁカミやんがそう言うんだったら、言うけどな。んじゃ改めて」

アル「俺はアルフレド、アルフレド=”ウェイトリィ”」

フロリス「ウェイトリィ……?」

アル「他人からはアルって呼ばれたり――」

ランシス「『ダンウィッチの呪われた双子』……!?」

アル「――っても言われるなぁ?ま、どっちでもいーんだけどさ」

上条「呪われた、双子?」

レッサー「下がって上条さん!」

上条「えっ?何で?」

レッサー「いいから、早くっ!こっちへ!」

アル「魔法名、『Geat013(門にして鍵)』」

上条「――待てよ!何言ってんだ!?」

アル「んでもって魔術結社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のボスもやってんだわ、俺は」

上条(その名前、確かステイルから聞いた――)

上条(――現在活発に動いてる魔術結社が、ここで繋がるのかっ!?)

アル「……ま、面倒だからぶっちゃけるとだな。俺は――」

アル「――『濁音協会』、四幹部の一人――」

アル「――お前らの、敵だよ」



――胎魔のオラトリオ・第一章 『狂気隧道』 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

ちなみに>>262の話はイギリス-フランス間のグラインダーの話はマジです

――次章予告


「世の中とは実に不思議に満ち溢れているね」

 唐突に、そう何の脈絡もなく男はそう切り出した。
 ある大学の研究室、アポイントも無しに訪ねていったにしては、少々対応がおかしかった。

「ま……かけたまえ」

 彼――こちらへ椅子を勧めてくれる男性自体は、それ程珍しくもない。
 壮年をやや過ぎたぐらい、髪の殆どが薄い銀色になりかけているぐらいの年齢の男性。
 研究職らしく、やや薄汚れた白衣へ袖を通していたが、招かざる客に対してはある意味適切か。

 人間という種族の体のピークが30代と言われるのであれば、蓄えた知識が最も活かせる年代。そう言えなくもない。
 もう少し経てば後進育成へ力を入れるであろう――成果を出していれば、その限りではないだろうが。

「……そうだね。何から話したものか……いや、最初に言っておこうか」

 非常に疲れた容貌のまま、彼は告げる。

「恐らく、私は君の期待には添えないだろう――それも、悪い意味で」

 次に壁の一部分を指し示す。そこには海の写真が幾つか、それと巨大な『顎』の骨格標本があった。
 人間ぐらいならば一噛みで半身かせなくなるぐらいの。

「サメ、だよ。軟骨魚綱板鰓亜綱」

 ……どうしたものか。全く興味がなかった。
 ここに飾ってる『顎』は見事ではある。けれどそれが仕留めた獲物を剥製にするような、そんな趣味で陳列しているのではない。
 ただ某かの研究目的なんだろうが……だから、それ故に『潔さ』が感じられない。

 そんなものは――道端に落ちていたセミの抜け殻をひけらかす子供と同じだ。

「……いや、その、なんだね。君がきっと善意で訪問してきてくれたんだろう。そこは疑っていないさ」

 興味のない話は終わらない。

「だが!だからこそ君には聞くべきなのだ!そう――」

――

まずサメ――と、言ってもエイとの違いは分かるかね?

……興味がない?……学生にも多いよ、そういうのは、良くないんだろうけどさ

……まぁ言ってしまえば、『エラが体の横についているのがサメ』で、『下についてるのがエイ』って区別に過ぎない

近親種であるのは間違いない……だからといって何なんだ、という話になるが

サメはエイを食べる。ただしエイが持ってる針は消化出来ないらしく、胃袋の中からよく出てくる

そもそもサメに分類される種は世界に約500、その中でも人を襲うのは2、30程度だ

積極的に捕食される事はない――が、逆に言えば空腹であればその限りではなくなる

……数年前、オーストラリアの海岸へ大量の鯨が打ち上げられていた『事件』があった

まぁ、これが『事件』かどうか、未だに結論では出ていないのだが

とにかく、打ち上げられた鯨を調べてみると――

――『飢餓状態』との事実が判明した。これがどういう意味か?

個体数が増えすぎたのか、それともエサとなる魚類が枯渇し始めているのか。どちらにせよ重大な問題であると私は考える

私は彼らの研究者として、一つの危惧を示されねばならない

……本来、サメも鯨も海の捕食者としては上位群に位置している。そんな彼らが、飢餓状態にあるとすれば

そうだな。一つの推論へ達せざるを得ない

『鯨が飢える海で、サメだけが肥ゆる訳がない』んだ!

食肉性の鯨とサメは、捕食する対象がほぼ被っている以上、サメも飢えるのが必然

ここで『空腹であればその限りではない』話へ繋がるんだ

……実に頭の痛い事に、ここヨーロッパでもサメによる被害は増える一方

想像してみて欲しい。現在地球上で人類にとって最も脅威となる捕食獣!サメが人類の敵へ回るんだ!

しかも連中は意図的に人を襲う!増えすぎた人を減りすぎた獣がね!

……そこで私達研究者が彼らの生態を詳しく調査する事になった、というかお鉢が回ってきたというか

前々から似たような調査はしていたのだけれど、今回は大かがりな予算が付き、実験も大かがりになったと

ふむ……まぁ、それだけの話なのだがね

……

……ただ、その、君は実験をする、サメの生態の調査をする、と言っても具体的にどうするのか、分かるかね?

捕まえて解剖したとしても、食べている物ぐらいしか分からない。だからといって話の通じる相手でもない

……で、まぁビーコンを撃ち込むんだよ。こう、空気銃を使って

定期的に位置情報、深度、対象の体温。それらを数分刻みで送られてくる

見るかい?ホラ、ここの――そうそう、これだ。この数字が地図上の座標を示し、こっちが体温――そう

36.7℃――この意味を、君は理解すべきだろう

元々調査するサメは数十種類、若い個体から老齢のサメまでサンプルは豊富だ

調査の結果、サメがどういった周期で海遊しているのか、また繁殖期の場がどこであるのかが判明した

それ自体は今まで未知数であった行動様式を明らかにさせると共に、サメからの害を未然に防ぐために役立つであろう

……

だが、しかし!中にはビーコンからの情報がおかしくなってしまう時も、あった

そうだな、これを見て欲しい。グラフにある通り、位置・深度・体温、全てが一定のままで動きがない

と言うか海水並みに低い――恐らく死んでしまったんだろうな。捕食されたか、寿命か、病気かも知れないが

ビーコンを撃ち込んだせい、も、また否定出来ないが……それは『本題』とは関係ない

この……あぁそうそう、最初に示した個体のログを遡って見てみよう。分かるかい?

途中、サメの体温――約30℃前後から、一度18℃前後まで下がってる。大体数分の間だ

この後、急に36.7℃へ跳ね上がり、以降その前後をキープし続けている

次はこちらの……あぁ深度のグラフでは水深1900mの所だな。相当深い所が現場だったようだ

以上の情報から、このサメは別の何かに捕食され、ビーコンごと喰われてしまったのだ、と私は判断している

何故ならばこのサメは全長4mを越え、また人間の年齢で言えば壮年の雄。言わばこの海域のヌシとも言える存在だからだ

これ以上となるとオルカぐらいしか無い。また実際に現在も観測され続けている体温も、魚類ではなく哺乳類のものだ

従って犯人はオルカしか有り得ない――の、だが、な

確かに自分達よりも大きい獲物を襲う事はあるし、ホホジロザメの天敵でもある。それは理解しよう

よってサメ殺しをしたのはオルカであるのは疑いようもない!私も同意してはいたんだ!

けれど、こっちの、そう!現在位置を示すグラフが異常な値を出してきた!

ここだ!ここが海岸線の位置!そして深度がプラスになっているだろう?

ビーコンは海抜1mの所から時速4kmで移動している!分からないか!?

……

これが何を示しているかと言えば――

――サメを殺した『犯人』が、陸へ上がって来ているんだよ!

――

 さて、どうしようか、酷く迷う。

 少々タガが外れた――か、緩んだ――老人へ対し、笑うのも礼を欠いている。
 だからといって知らんぷりするのも誠実ではないだろう。

 ならば、だ。

「――安曇(あずみ)は謝らなければいけない」

 そう安曇は黙礼すると、片手を口へ突っ込み、ごぎゅっ、と顎を外した。
 続けて喉、食道、胃を人間ではないそれへ変化させ、手探りで探す。

 すると、消化しかけたサメの骨に混じって、棒状の何かが手に触れる。

 ギュボッ。

 人体構造を無視し内容物を引き抜く。ずぞぞぞ、と食道を逆しまに通る際に出血する。
 それは1m程の黄色いビーコン。目の前の研究者がサメへ撃ち込んだ、大切な実験器具の筈だ。

「安曇はこれを返そう。本当にすまなかった。うん」

「――ひっ!?」

 短い悲鳴を上げて後ずさる彼。

「安曇に他意は無かった、と言って信じて貰えるだろうか。証明も何も難しくはある」

 『必要悪の教会』に目を付けられている。そう『双頭鮫』から連絡が入ったのは少し前の事。
 空を行っても目立ちすぎる安曇の容姿は隠しきれるものでは無く、仕方なしに『海中』を進む事にした。

 日本からの船便へ――文字通りの意味で――飛び乗り、ドーバー海峡で途中下車する。
 その途中、少々腹が減ったので通りかかった魚を食べた。それだけに過ぎない。

 安曇は少し首を傾げながら、改めてビーコンのモニタを覗き込む。

「――あぁ確かに。天球座標軸は『ここ』を表わしているな」

 GPSは”ここへ来る前に調べた通り”の数字と一致していた。

「安曇は気にしていなかったのだが、まぁアルフレドが、な?」

 消化液で滑ったビーコンを床に置き、安曇は彼へ近づいた。

「『落とし物は落とし主へ!』と、言うものだから。安曇は返しに来た」

 しかし問題も生じてしまった。

「すまないが、安曇が魔術師であると知られるのは少々宜しくない……らしい」

「わ、私を殺すのか……っ!?」

 大学で教壇へ立つ身でありながら台詞は凡庸だった。少しばかり失望しながら、安曇は笑いもせずに話しかけた。

「心配ない、無駄にはしないから。あなたたちの好きな、りさいくる?だかの精神でもあるように――」

 逃げ出そうとする彼を捕まえ、その首筋に指を這わせる。

「『――イタダキマス』」

「………………え?」

 ゴキュバリバリバリバリバリバク……ッ!!!

 研究室に物騒な音が暫し響き、人類史のタブーを意図も容易く破った安曇は、口元を拭いながら、あぁ、と思い出して呟いた。

「教授、あなたは『現在地球上で人類にとって最も脅威となる捕食獣』と言ったな。だがそれは間違いだ」

「サメは決して”それ”じゃない。水という制限がある限り、彼らは鎖の着けられた囚人に等しい」

「自由自在に動けない『脅威』など、どこが脅威であろうかよ」

「ならば虎が『脅威』だと?またはサバンナに住まう獅子が人類にとって『脅威』なんだろうか?」

「――否、それも、否だ」

「彼らは食物連鎖に最上位にはある。然れどもその枠を脱していない」

「言わば『限られた世界の中で脅威』となり得るが、そんなものはサァカスの檻に近づいた人間が喰われてしまう程度」

「それは違う。脅威とはそんなものではない」

「人に近しく、人に親しき、だが決して相容れない存在」

「都市伝説のように姿を見せず、対面した時には捕食されているのと同義――」

「――”それ”は『安曇』の事なのだよ、うん」



――次章『竜の口』予告 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

来週からフロリスさんメインで

乙でっす??

――フランス 某放送局

司会者『――はい、では続いてゲストのコーナー』

司会者『次世代を担うアーティストを紹介するってぇ主旨ですが!今日は何とはるばる学園都市からお客さんだよ!やったねチクショウっ!』

司会者『うっさいな!さっさとゲスト呼べってないでしょお!そんなにブーブー言うなよっ高木かっ!?……え、知らない?』

司会者『Great Old Five(ザ・ドリフターズ)の一人に、高木ブーという偉大なコメディアンが――』

司会者『死ねとか言うな!お前らに言われなくたって死ぬわ!長生きしてから死ぬわ!』

司会者『バツ一だけどねっ!一人娘も浮気しくさったクソアマに取られたけどなっ!それでも精一杯生きてるわ!』

司会者『つーかパパは頑張ってるからな!だから新しい野郎の事をそう呼んじゃダメだからねっ!』

司会者『――て、おいスタッフなんで止めやめよせ――』

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

……

司会者2『――はい、で、本日のゲストは学園都市からお越し頂いた――』

レッサー『ハーイどうも「Frog Eater(カエル食い野郎)」の皆さんはじめましてっ!そしてサヨウナラっ!』

レッサー『テロとの戦いに「ミーは怖いザンス」と逃げを打った、サレンダーモンキー(土下座するサル)の方々っ、生きてて楽しいですかー?』

レッサー『世界がテロと戦ってる時にお仕事しないで食べるご飯は美味しいですかねー?イタリア料理をパクったフランス料理、大人気ですしねー」

レッサー『それでもまぁ前サルコジ大統領は史上最悪の大統領で済んだんですけど、オランドみたいな俗物が国のトップって!』

レッサー『ねぇどんな気持ち?いまどんな気持ち?同性婚を国民投票せずに通して、EU議会選挙で保守政党に第一党を取られたのってどんな感じですかー?』

レッサー『こないだフランス国営放送――つーかここ見てたら、「オランド首相が世界の中心になる日がやってきました」ってジョークカマしてたんですけど』

レッサー『要は4時間以内に、エリザベート女王・ロシア大統領・アメリカ大統領と会談するっつーニュースでして』

レッサー『それどう見てもコウモリ野郎ですから!残念っ!』

レッサー『しかもサミットでアメリカとロシアへ良い顔するため、「二回昼食を取ったオランド」なんて書かれてんですけど、正気なんですか?』

レッサー『てーかBNPパリバ――あー、テニスのマスターズ主催社っつった方が良いですかね?まぁほぼ最高峰の大会運営してるフランスの銀行』

レッサー『パリバがイランやスーダンなどの制裁対象国相手に取引やってたらしく、100億ドル強(1兆1000億円強)の罰金払え、って言われてんですよ』

レッサー『オランド首相はそのケツを拭くために、クツを舐めに行ったってだけの話です、えぇ』

レッサー『加えてカエル食い野郎は強襲揚陸艦をロシア制裁決議ブッチして売ろうってぇハラなんですよね――この卑怯者』

レッサー『流石はフランスさん!現実を把握する能力が無く、チラ裏に書いた妄想を事実だと思い込む異能力!それに痺れる憧れる!』

レッサー『テロ支援国家を援助しているサレモンの皆さーん、頑張って下さいな。頑張ってフランスのGDPの5%超を差し出して下さいねー?』

レッサー『てかまた負けちゃうんですかね?フランスはまたまたまたっ負けちゃうんですかねぇ?』

レッサー『ガリア戦争で負けて、百年戦争でどうにか引き分けて、イタリア戦争で負けて、ユグノー戦争で負けて、三十年戦争で同盟国に潜り込んで、ネーデルラント継承戦争で引き分けて、オランダ侵略戦争で引き分けて、アウクスブルク同盟戦争で負けて、スペイン継承戦争で負けて、ナポレオン戦争で負けて、普仏戦争で負けて、第一次・二次世界大戦で同盟国に潜り込んで、第一次インドシナ戦争で負けてっ!』

レッサー『ファシスト野郎に首都が占領されて思いっきりナチスへ荷担していたのに、同盟国に取り戻されてからあっさり掌返した弱虫のみっなさーん!』

レッサー『戦後「あ、これじゃ流石にマズくね?」つってレジスタンスを持ち上げたのいいけど』

レッサー『実際には「軍人以外の戦争行為」かつ「戦闘地域以外でのテロ行為」であって、明らかな戦争犯罪でー』

レッサー『しかも一部のバカが「レジスタンスする俺超カッコいい!」と勘違いしちゃったせいで民間への圧力が強化されちゃったヒトー?』

レッサー『対テロ戦争で敵前逃亡したSurrenderMonkeysのみなさーんっ!生きてて楽しいですかーーーーーっ!?』

レッサー『あ、それはさておき「濁音協会」さんは潰しますんで、そこんとこヨロシク』

レッサー『あースッキリした。ってあなた達どなたさん――って離して下さい!私にはブリテンの未来を担う旦那様以外に触らせるつもり――』

レッサー『てか酷いコトするつもりでしょーが!エロ同人みたいに!……あ、嘘嘘、ジョーダンですってば、はい』

レッサー『いやですから頭を鷲掴みにはやめて下さぁwせdrftgyふじこlp』

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

アナウンス『……尚、以上の事をフランス人へ言うとマジギレされます』

……

司会者2『――はい、そんなこんなでARISAさんです。こんにちわーっ!』

鳴護『……え、はい、どうも、こんにちは』

司会者2『今のは、そのどちら様で……?』

鳴護『知らない人です!「生放送なんで連中に宣戦布告かましてやりましょーよ!」とか言ってましたし!』

マネージャー『てか95%フランスの悪口じゃねぇか』

鳴護『これ生放送だよね?色々とマズいんじゃ……?』

司会者2『さっきから抗議と絶賛する電話が鳴りっぱなしだと受付からクレームが来ています』

司会者2『でも一番多いのは「さっさとARISA出せ」だったんで、まぁ出しとけ、みたいな』

鳴護『えっと……恐縮、です?大丈夫かな?翻訳されてる?』

司会者2『学園都市の翻訳アプリ、きちんと動いてるみたいなので問題は無いですよ』

司会者2『と言うかそちらは?さっき同じく意味も無く乱入した一般の方、ではないですね』

マネージャー『かみ――マネージャーです!ARISAの専属の!』

司会者2『ずいぶんとお若いですねー、東洋人はまぁこんなもんでしょうが』

司会者2『さて!では何から――あぁ、台本これ?いいの?』

司会者2『まず「エンデュミオンの奇蹟」で有名なARISAさんですが、つい先日ユーロトンネル崩落事故でも見た、という噂があります』

司会者2『パニックになって、列車から飛び降りようとした人達を助けるために、車内放送で歌ったとか』

司会者2『その辺りの真偽の程はどうなんでしょうね?』

鳴護『あ、はい。私もユーロスターへ乗り合わせていた所までは事実です』

鳴護『ただ、それ以外はフィクションかなーと』

司会者2『やってらっしゃらない?』

鳴護『……その、私も正直憶えていない、と言いますか。落ち着こうとするので精一杯でしたので、あまり……』

鳴護『誰かを落ち着けるために歌を歌う、のは理解はしますけど……でもそれはスタッフの方が判断すべき事で、第三者が割って入るのは良くないと思います』

司会者2『でもですよ?実際にARISAさんなら「また歌が奇蹟を呼んだ!」みたいな感じで――』

マネージャー『すいません。その質問はそれぐらいで』

マネージャー『今も怪我で入院されている方も居ますし、あまり不謹慎なのは』

司会者2『ですかねぇ?そも現代であれば動画か写メの一つでも残ってそうなもんですしね』

司会者2『無い、って事はそんな事実存在しなかったんでしょうか。失礼しました』

マネージャー『(良い仕事してんな「黒鴉部隊」!)』

鳴護『(お姉ちゃん、その……いつも、やってるから)』

鳴護『(カメコさん?とかのアップロードする動画を削除したりとか)』

マネージャー『(予想を裏切らない過保護っぷりですよねっ!あと削除したり”とか”の内容が気になるが!)』

司会者2『では続いて――視聴者から質問が届いています。えぇと――』

司会者2『「――ARISAさん、こんにちはっ!いつもアルバム買ってます!」』

鳴護『こんにちはー、ありがとー』

司会者2『「あたしはARISAさんと同じ夢を持っています。その夢に向かって努力を続けているのですが、どのようにすればいいでしょうか?」』

司会者2『――あー、この方もARISAみたいになりたいようですねー』

鳴護『ありがとうございます』

司会者2『まぁジュニアハイスクールからシンガーデビューして、一年経たずにEUツアーですからね』

司会者2『それはもう大成功している、って訳なんですが』

鳴護『そんな事ありませんよ。私なんてまだまだ、っというか全然でっ』

鳴護『むしろどっちかって言えば、その、ダメダメな方ですからっ!』

司会者2『そう、でしょうかね……?』

マネージャー(……あれ?何か話が噛み合ってなくね?)

マネージャー(『ARISAみたいな歌手になりたい!』って話なんだよ、な?)

司会者2『まぁいいや、とにかく、ARISAさんと同じ夢に向かってる、P.N「友達はボール!」さんへアドバイスをお願いします!』

マネージャー(友達少なっ!?)

鳴護『そうですねぇ、まず大切なのは――笑顔、だと思います!スマイル!』

司会者2『笑顔、ですか?』

鳴護『誰だって、どんな人だって、キツくて、辛くて、嫌になっちゃって』

鳴護『怖くて怖くて仕方が無い時、逃げちゃいたいなって事ありますよね?』

鳴護『そんな時にはですねっ、こう優しくお姫様だっこなんかして貰って』

鳴護『「間一髪か」みたいに、笑いかけられたら、うんっ!』

司会者2『え、あ、はい?』

鳴護『他にも相手を信じる事!それだけで、もう充分ですからっ!』

司会者2『相手……?』

マネージャー(やっぱ、何か食い違ってるような……?)

司会者2『えぇっと、ARISAさん?それじゃ、具体的に何か言ってあげて下さい』

鳴護『取り敢えず、はい、頑張って機会を作る事だと思います!遠くからじゃなくって、直接逢う!これ、大事です!』

鳴護『後はちょっとした事でもきちんとお話ししたり、他にもですね――』

鳴護『なんか、少し触ってみる、みたいなの?白井さん――友達が言ってたんですけど、タッチを増やしてみる、とかって』

マネージャー(え?何で白井の名前が出てくんの?)

鳴護『――とにかく!ライバルが居てもメゲないで!頑張りましょう!ねっ?』

司会者2『……あの、すいません?一体何のお話をしてるんでしょうか?』

鳴護『はい?叶えたい夢の話ですよね?』

司会者2『念のために聞きますけど――ARISAさんの、夢というのは?』

鳴護『お嫁さんですけど?』

マネージャー『空気読めよっ!?っていうか空気読みなさいよっ!』

マネージャー『普通分かるじゃんか!?何でこの「友達はボール!」さんがアリサに結婚相談持ちかけんだよ!?』

マネージャー『つーか音楽番組に呼ばれて婚活聞かれる筈がねぇさっ!なあぁっ!?』

マネージャー『そもそも話の内容が俺の話であって恋愛じゃねぇだろ!』

鳴護『……当麻君も、もう少し空気読んでもいいんじゃないかな、と思いました!マル!』

マネージャー『俺関係ねーじゃんか!?……ないよね?悪い事してないもんね?』

司会者2『……チッ』

スタッフ『……チッ』

観客『……チッ』

マネージャー『何かスタッフと観客さんがおもっくそ舌打ち始めたんだけど、これ俺が原因じゃないよね?』

マネージャー『贔屓のチームが浦和スタジアムで試合する時の雰囲気になってんだが、俺には責任ないよな?』

鳴護『……むしろ取って欲しい、っていうか?』

マネージャー『……はい?』

司会者2『――はい!と言う事でリア充は死ねば良いと思いますが!そろそろお時間です!』

司会者2『ではARISAさん、一言頂いてから歌へ行きましょうか!はいどーぞ!』

鳴護『え、あ、はいっ。そうですねー、んー?』

鳴護『鈍感な相手でも、追い詰めれば大丈夫!きっと何とかなるって!』

マネージャー『宣伝しよう?それ歌番の曲の前振りで使う言葉じゃないよね?』

鳴護『歌はARISA、曲は「笑顔の向こうへ」。英語verで、どぞっ」

マネージャー『ねぇ俺の話聞いてる?つーか柴崎さんこんな無理ゲーいつもやって――』

○To the other side of the smile(笑顔の向こうへ)

A gentle voice affects, and my mind is shaken.
(優しい声が響き、私の心を揺らす)
It is scary and more than others slow to be damaged by good at vomiting of the lie nevertheless.
(嘘を吐くのが得意で、だけど傷つくのが怖くそのくせ人一倍鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to end it sadly. Because I am on the side.
(悲しい微笑み、終わらせたいよ。私が側にいるから。)
A vague smile unexpectedly strikes it ..me...
(曖昧な笑みは私を不意に殴りつける。)
You in the other side of the smile that it wants you to teach
(教えて欲しい、その笑顔の向こうにある君)

It grieves in a sad voice, and my mind is tightened.
(悲しい声で嘆き、私の心を締め付ける。)
The distances are long and slower well in the good laughter than anyone nevertheless.
(上手く笑うのが得意で、だけど距離は遠くそのくせ誰よりも鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to start gently.
(優しい微笑み、始まりたいよ。)
A straight glance that I am on the side makes me puzzled.
(私が側にいてあげるまっすぐな視線は私を戸惑わせる。)
I want you to tell it. You in the other side of the smile …….
(伝えて欲しい。その笑顔の向こうにある君……。)

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー) 『N∴L∴』vs『S.L.N.』

上条「……なに?」

アル「いやいや難聴のフリは止めよーぜ?」

アル「現実を把握出来ないってんなら、そのまま何も知らないままで死んじまいな。そうした方が幸せだぜ」

上条「敵、なんだよな……?」

アル「だからそう言ってんじゃねぇか」

上条「『濁音協会』じゃ――!」

ウェイトリィ弟「……何?兄さん、説明してなかったの?」

ウェイトリィ弟「つーかだったらなんで一人で接触してたの?どこで遊んでたの?」

アル「何かアレじゃん、よくあるパターンの『こいつ絶対敵だろ!』みたいな正体不明の登場人物ゴッコやってました!」

ウェイトリィ弟「取り敢えず殴っていい?」

レッサー「『双頭鮫』――確か、シチリア系マフィアの魔術結社だったと記憶していますが」

レッサー「そちらさんが出てくるってぇのは、一体どういう訳でしょーかね」

フロリス「クトゥルー教団はハッタリ、つーか誤魔化しでそっちが本体だってオチ?安易だねー」

アル「……んー?何か誤解されてるみてーだから、最初に名乗って方が良いかな」

ウェイトリィ弟「あ、そちらのは結構ですよ。『ハロウィン』で盛大に騒いだようですし、お噂はかねがね」

レッサー「いやぁそれほどでも」

ランシス「多分誉めてない……」

フロリス「あとレッサーは速攻で捕まりそうになったのを反省した方がいーよ」

ウェイトリィ弟「いやいや。『必要悪の教会』を出し抜いたんだから、大したもんですよ」

アル「――で、俺が『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のアルフレド、こっちが最愛の弟で愛人のクリストフ」

クリストフ(ウェイトリィ弟)「兄さん止めよう?いい加減ホモネタは自粛しないと」

クリストフ「あと別に『愛』ってつけば、なんでかんでもポジティブな単語にならないからね?日本語難しいけどさ」

レッサー「二番目の形容詞をもっと詳しく!」

上条「お前も超反応するなよ」

クリストフ「まず『壁ドン!』から――」

上条「よく分かんねぇけどそれ以上は言うなっ!よく分かんないけどもだ!」

上条(――みたいな、ふざけた会話しながらも隙が無い)

上条(俺はアリサを背後に庇い、レッサー達はジリジリと間合いを詰めている)

アル「こっちのちっこいの、男だか女だかわかんねーナマモノは『野獣庭園(サランドラ)』の阿阪安曇(あさかあずみ)」

安曇(少年?)「逆。安曇は『安曇阿阪(あずみあさか)』と言う。見知りおくと嬉しい」

上条(色素の薄い少年――は、身じろぎも愛想笑いもしない。一見陽気なウェイトリィ兄弟とは対照的か)

上条(赤く澄んだ瞳を見てると、底の知れない深淵を覗いているような……確か、『深淵を覗くものは、深淵からも覗かれる』んだっけか)

アル「面倒臭い名前着けてんじゃねーよ。外人か!」

安曇「名前を付けたモノへ言って欲しいな、外つ国の魔術師」

クリストフ「……バカは放って最後にこちらが『団長』さんです。本名は知りません」

団長「……」

上条(四人目は更に異質だった)

上条(この季節にトレンチコーチを着て、中折れ帽を目深に被る長身の人間)

上条(それだけでも不審者まっしぐらなのに、彼を危険だと思わせているのは――)

上条(頭全体をすっぽりと覆う『鉄仮面』)

クリストフ「『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』のボス、というか団長をやってらっしゃいます。無口ですけどね、兄さんにも見習って欲しいぐらいで」

上条「……待てよ、お前ら!」

アル「だが断る!」

クリストフ「兄さんはちょっと黙っててくれないかな?反射的にボケる癖止めよう?」

上条「ステイルから聞いてたんだよ、俺は!今頻繁に動いてる魔術結社の話を!」

上条「『野獣庭園』も『殺し屋人形団』も!『双頭鮫』だって聞いてた!」

上条(『どうせこの中に一つ”アタリ”がある』みたいなオチだと思ってたのに――)

上条「それが『全部敵だった』って事かよ!?」

クリストフ「やっぱり僕たちの敵はイギリスさんですかねぇ」

アル「だーねぇ。その理解で合ってると思うぜ」

レッサー「自分達の組織の身元バレるのが怖くて偽装してました、でファイナルアンサー?」

アル「いやいや、そっちが勘違いしてたんだろ。つーか俺ら全員揃って出て来たんだから、隠すも何もねぇよ」

アル「――俺達が『濁音協会』だ」

ベイロープ「幹部、幹部ねぇ?『目撃者は全員ぶっ殺す』、みたいな剣呑さを感じるのよ」

安曇「話し合いによる交渉が決裂すれば、武力での交渉を始めよう」

安曇「安曇は争いを好まない。が、必要であれば否やはないぞ、うん」

アル「待て待てカミやんの疑問に答えてねーだろ。まずはそっちから片付けようや」

アル「こっちも誠意を示してるって理解してくれよ、なっ?」

フロリス「オンナノコ一人捕まえるのに、大のオッサンどもが一般人巻き込むのが誠意ねー?」

ランシス「『誠意』って言葉も軽くなった、よね?』」

アル「だよなぁ?笑っちまうよな?」

クリストフ「兄さん僕たちがdisられてるって気づいてあげて?ほら、ボケでスルーされると嫌味言った方が気まずくなるんだから」

クリストフ「言えた義理じゃないでしょうけど、一応こっちも幹部全員揃えて顔合わせ、みたいな感じですし」

クリストフ「今でも問答無用で襲撃しない辺り、話し合いの余地は残してる――と思って頂けだらな、と」

ベイロープ「……だから!仮にそっちの四人が結社のボスだったとしての話」

ベイロープ「それ要は『最大戦力が一堂に介している』のよね。警戒して当然でしょうが」

クリストフ「そうですが、まぁ?こちらは『味方以外は全て敵』状態、イギリスさんもフランスさんも敵な訳ですし、はい」

クリストフ「ぶっちゃけ事故直後のホームなんて、囲まれてボコられる可能性もですね、えぇ」

上条「それは!お前らがユーロスターに攻撃を仕掛けたからだろうが!?」

上条「大勢巻き込んで!敵を作らない訳がない!」

アル「くっくどぅーどるどぅー?」

クリストフ「直訳すると、『今日はよいお天気になりそうですよね?』だ、そうです」

上条「……こいつら……!」

レッサー「(落ち着いて上条さん!『これ』がクトゥルーなんですよ)」

レッサー「(一見マトモそうでマトモじゃない、異常そうで中身はもっと狂ってる。それが彼らです!)」

上条「(じゃあどうしろって言うんだ?)」

レッサー「(様子見と時間稼ぎですかね。向こうさんの言う通り、こっちはホームであっちはアウェイ)」

レッサー「(フランス当局が囲むのを待つのがベターでしょうな)」

上条「(ベストは?)」

レッサー「(駅のホームなのにアウェイとはこれ如何に?)」

上条「(取り敢えず思い付いたままボケるのは止めよう?俺の知り合いの可愛いけど残念な子にも言いたいけどさ)」

ランシス「(実家へ戻ったら、ご近所の誰それが、親戚の誰々が続々と結婚した話を聞かされ)」

ランシス「(『ホームへ帰ってきたのにアウェイだった!』……如し!)」

上条「(お前も無表情のまま乗っかってくんな!?てかなんだよその身につまされるような嫌な話は!)」

レッサー「(私らが今ここでぶっ潰すのが、一番後腐れは無いでしょうねぇ)」

上条「(やれんのか)」

ベイロープ「(――勝てねぇ喧嘩しかしねぇのかよ、マイ・ロード?)」

上条「(ベイロープ……)」

レッサー「(あ、あれ?いつの間に上条さん呼び捨てになってるんですか?)」

ベイロープ「(勝ち負けじゃなくて、必要だから、する)」

ベイロープ「(一度立てて誓いを破るな!それはあなたが救ってきた人を裏切る事にもなるのだわ)」

上条「(……悪い)」

ベイロープ「(弱いのは罪じゃない。弱さにつけ込むのが、罪よ)」

ベイロープ「(あなたが暴虐に腕を振り上げるなら、私はその手に握られた剣になる)」

ベイロープ「(怖れるな!あなたがどこの戦場でノタレ死んでも、私がその側で死んでやるから!)」

上条「(……あぁ!)」

レッサー「(あのぅ、すいませーん?ちょ、ちょっといいですかねぇ?)」

レッサー「(ベイロープがヅカっぽい呼び方をしてるとか、妙になーんか通じ合っちゃってるみたいなんですけど!)」

レッサー「(そこら辺の事情ですね、レッサーさんにちょぉぉぉっと話して見やがれ、みたいな)」

ベイロープ「(――レッサー)」

レッサー「(は、はい?)」

ベイロープ「(ごめん)」

レッサー「ごめんってなんですか!?ごめんって!?」

レッサー「いやそりゃ『ゴメンナサイ』の略だって事ぁ知ってますがね!そういう事じゃなくて!」

レッサー「なんで今!今今今っ!謝罪の言葉が出て来たかってぇ話ですよえぇもうっ!」

レッサー「密室!閉ざされた空間!若い男女!絡み合う視線!乱れた衣服!Dカップ!」

レッサー「このキーワードが表わしているものとは――ッ!!!」

フロリス「レッサー、声大きいよ」

ランシス「……あと後半は、ほぼ捏造」

安曇「交尾だな、うん」

アル「この安曇さん意外とノリノリである」

団長「……」

クリストフ「すいませんすいませんっ!真面目にやりますからっ帰ろうとしないで!」

クリストフ「ほら上条さん、今のウチに質問をどうぞ!団長さんがマジギレして見境無く暴れ出す前に!」

上条「……頭イタイな、別の意味で」

フロリス「フリークス程タチが悪いんだよねー、何をするか分からないから」

上条「魔術師なのに?」

フロリス「知識があんのと知能があんのは別問題じゃんか。何言ってんの?」

レッサー「ベネッ!その態度ディ・モールト宜しいですよっ!」

レッサー「フロリスはデレのないツンの姿勢のままでお願いします!」

ランシス「それ、ただの態度悪い人」

鳴護「――どうして」

上条「アリサ?」

鳴護「どうして私なんですかっ!?」

鳴護「私なんて、ただの無能力者なのに――なんで!」

アル「うーむ。まぁ核心的な質問、つーか疑問だよなぁ、そりゃ」

アル「てか予告状送ったじゃん?読んでねぇの?折角書いたのにさ」

上条「……あの電波10割のポエムをどう理解すりゃよかったって?」

鳴護「関係ない人達を一杯傷つけて――そこまで私に拘って!」

鳴護「そうまでしてやりたい事って、一体何なんですかっ!?」

アル「――『シィ』の帰還だ」

上条(『シィ』……?もしかして『C』か?)

上条(クトゥルーの、『C』)

アル「ルルイエで死して夢見る『シィ』、どうせだったら起こしてみようじゃん?的な」

鳴護「……えと」

レッサー「すいまっせーん、あの質問なんですけど良いですかね?」

アル「どうぞ」

レッサー「どうもです。あ、もしかしたらキツい聞き方になるかもですけど、他意はありませんから、あんま気を悪くしないでくださいな」

レッサー「つーか多分私ら一同を代表しての疑問なんですけど――」

レッサー「――頭おかしいですよね、あなた達?」

アル「実は俺らもそうなんじゃないかと薄々思ってたりもする」

ランシス「薄々なんだ……?」

上条「自慢するような事じゃねぇ!」

フロリス「クトゥルーなんて居るかどうかも怪しいイカを、何でまた?ムシャクシャしたー、みたいな?」

ベイロープ「第一、『帰還』を果たしたとして人間全員発狂エンドなんでしょーが」

アル「問題じゃない。存在するかしないか、『帰還』した後にどうなるのも、関係ない」

アル「だって俺達は答えを持ってない。証明する証拠を出すのも無理だし、帰還した例が無いんだから、どうなるかまでは保障出来ない」

アル「――ま、『今までの世界』なんてのが吹っ飛ぶのは確実だろーがな」

レッサー「『やった事がないから試してみよう!』ですか?まぁたタチの悪いどこぞの学園都市並の発想ですなー」

ベイロープ「また魔術師らしい自己中が……」

上条「魔術師連中こんなんばっかかよ!」

クリストフ「言わせて貰えるんでしたら、『グレムリン』のやろうとしている世界も大差ないでしょうに」

クリストフ「あっちは新世界の構築へ対し、僕らは『シィの顕現』」

安曇「むしろ安曇はこちらの方が穏当だ、と考えているな」

フロリス「だからクトゥルーがアルハザードが幻視た通りであれば、全員狂うんだってば」

アル「……でも、まぁ俺達は狂っちゃいるが、分別を持ってない訳でもないんだわ」

アル「だからこうして『お願い』へ来たんだよ」

上条「信用出来ねぇ――第一!」

上条「『ショゴス』みたいなバケモンけしかけといて、何が『お願い』だよ!脅迫の間違いじゃねーか!」

クリストフ「ですから、そこはですね?ウチの愚兄がチョロチョロしてましたよね、あなた方の周りを」

クリストフ「でもって実際に上条さんと学園都市の能力者、そして僕たちにとって最も脅威だった『多脚戦車』が分断できて、隙だらけでした」

クリストフ「手薄になった時点で鳴護さんを奪う事はしなかった、そこを考えて頂ければ」

アル「あ、ごめん。それ最初の計画じゃそうだったんだけど、『N∴L∴』の居残り組にガードされてて無理だったんだわ」

クリストフ「兄さんその説明要るかな?せっかくブラフかましてるんだから、少しぐらいは話し合わせてくれたっていいじゃない?」

フロリス「そらそーでしょ。あんだけ怪しいシチュでARISAの側離れたら、ベイロープに百叩きされるよ」

ランシス「……って、言ったのは私。フロリスは飛ぶ気満々……」

フロリス「ヤだなぁ、そんなことなっいてば」

安曇「と、いうよりもだ。アルフレドが『アレ』を制御出来なくなって逃がしたのが、今回の発端だと安曇は聞いている」

クリストフ「……あの、すいません。安曇さんも?ちったぁ黙ってろ、な?」

レッサー「予想以上にグダグダですねぇ」

アル「――と、言う訳で俺達の誠意は伝わったと思うが!」

上条「伝わってないよ。映画のキャッチコピーの『等身大の○○』ぐらい伝わってこないな!」

アル「てな感じで鳴護アリサ、渡してくんねぇかな?『穏便』に――」

上条「断る」

アル「――頼んでるウチに、って台詞完全に喰われちまったんだが、まぁいいや」

上条「お前らみたいな人の道踏み外した連中に、アリサ――いや、アリサじゃなくてもだ!」

上条「真っ当に生きてる人間を、はいそーですかって渡せる訳がねぇだろ!」

クリストフ「ですよねぇ?ほら、兄さん言ったじゃない。最初はもっと穏便に行こうって」

安曇「無理だろう。『神漏美』となれと言っても、うん」

上条「かみろみ……?」

クリストフ「まぁ仕方がない――でしたら、EUのあちこちで『アレ』が活動しますけど、それでも構いませんね?」

上条「……テメェら、バカにしてんのかよ!?」

アル「うんまぁぶっちゃけしてるけど」

クリストフ「兄さん、ぶっちゃけすぎ」

鳴護「あたしが犠牲になるんだったら――」

レッサー「――とか、は考えない方がいいですよ、鳴護さん」

鳴護「え」

レッサー「もしも、『それ』が出来るのであれば最初からしています。テロを起こしておいて、その後堂々と身柄を寄越せと言ってきたでしょう」

ベイロープ「そもそも、あそこで出し惜しみする必要はなかった筈よ。計画が杜撰すぎる」

クリストフ「どうでしょうねぇ、それは。たまたま制御不能だっただけで、本当は似たような『アレ』を何体も有している可能性は?」

クリストフ「指向性を持たせた襲撃には適さない。が、無差別攻撃であれば出来る――なんてのはどうですか?」

アル「うんまぁぶっちゃけハッタリなんだけどな、全部」

アル「そもそも『アレ』が量産出来たり、遣い勝手がいいんだったら、もっと別の所でテロやってんよ」

クリストフ「兄さん?後でお話があるからね?ご飯食べても寝ちゃ駄目だからね?」

アル「……よせよ、周りが見てるじゃねぇか」

クリストフ「やめてくんない?その『実は兄弟でイケナイ関係なんです』みたいなリアクション止めてくれないかな?」

クリストフ「ってかいい加減にしないとぶっ飛ばすよ?」

レッサー「出来れば動画を所望します!!!」

アル「ダメダメ。俺は独占したいタチなんでね――っていうかまぁ、ネコなんだけど」

レッサー「――で、まぁまぁどうします?こっちとそっちの利害は対立している、ですが」

アル「なんだかんだ言ったところで。解決方法は簡単だし。しかもそっちは一致してんだわな」

レッサー「でっすよねぇ?お互いにしたい事は同じ、って言いますか。まぁまぁ?」

レッサー・アル「「あっはっはっはっーーーーーーっ――」」

レッサー・アル「「――ここで、潰す――ッ!!!」」

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー)

アル「俺の壁になれ!盾一号二号三号!」

団長「――」

安曇「安曇はきゃら的に四号が好きだ、うん」

クリストフ「真面目にっ!皆さんどうか真面目にお願いしますよ!特に兄さん!」

上条(アルフレドは魔術詠唱――だが、その前に潰す!)

上条(キレてたのはレッサー――だけじゃない!)

上条(とっくの昔に会話を諦めた俺はずっと突っ込むのを抑えてた、っつーか!)

上条(『取り敢えず』で人殺すような相手、一回はぶん殴らないと気が済まない……ッ!)

上条(レッサー達よりも先んじて、俺がアルフレドへ殴りかかる!――しかし!)

団長「――」

上条(鈍重そうな図体には似合わない素早さ、どっかの学園都市の機械兵士さながらのスピードで『団長』が踏み込んでくる!)

上条「まずはっ、お前からだっ!」

上条(体格からすれば建宮やアックアよりもデカい!どう見ても直接戦闘向けの魔術師――て、色々矛盾してるような気がするけど!)

上条(だがデカいだけあってモーション自体は大きい!動作自体はまだ何とか見切れる――かっ!)

団長 ヒュゥッ!

上条(振りかぶった拳を紙一重で避け――)

ズゥン……ッ!!!

上条「んなっ!?」

上条(コンクリが軽く陥没程度の威力!?アックアのメイス並の威力じゃねぇか!)

上条(素手で受けたら即戦闘不能!あんだけの馬鹿力で捕まれてもアウト!)

上条(……ま、でも?慣れっこなんですけどねー、こっちは)

上条(こういう威力重視の直接戦闘タイプは大抵過信する事が多い!)

上条(高い攻撃力と防御力!どっちも魔術で物理法則無視してんだろうが――)

上条(――『右手』なら!)

上条「がら空きだっつーの!」

団長「――!」

上条(俺はそのまま団長の背中側から一撃を――!)

上条(入れよう、として『目』が合った)

安曇「――やあ、安曇は同情を禁じ得ない」

上条「背中に――張り付いて!?」

安曇「『綿津見ニオワス大神ヘ奉ル(しょくじのじかんだな)』」

安曇「『同胞ノ血ヲ以テ盟約ト成セ、我ラガ安曇ノ業ヲ顕現セン(では、いただきます)』」

上条(かぱ、と安曇の口が開く。背丈相応の小さな口が開く、開く、開く)

上条(――顎が外れ口は倍に広がり、中にはワニのような牙がビッシリ生えそろっ――)

ギャリギャリギャリキ゚ャリッ!

フロリス「――ぼーっとしてんなジャパニーズ!精神にクる攻撃すんのは『アレ』で体験済みでしょうが!」

上条(文字通り『呑まれ』そうになった俺を、フロリスの『槍』が安曇を一閃!軽い体は弾き飛ばされる!)

上条「すまん!恩に着る!」

フロリス「それよりっ前前っ!?」

団長「――!」

上条「クソっ!」

上条(立った今割ったばかりのコンクリートの塊を!優に1mを越えるソレを!)

上条(団長は素手で投げつけ――)

上条(『これ』は魔術じゃない!だから防げ――)

ランシス「ほいよっと」

上条(俺を後ろから抱きしめるような形で、ランシスの両手が、にゅっと石塊へ伸びる!)

上条(その十指の一本一本には、禍々しい色をした『爪』の霊装が填められていた!)

ジッ、ザザザザザザザザッイィンッ!

ランシス「……ま、こんなもの、かな?」

上条「……助かった」

上条(飛礫へ『爪』が触れた途端、さわった側から石片は砂へと姿を変える)

上条(初めて見る霊装、だよな?)

団長「――!」

フロリス「だから、前っ!」

上条「分かってるっつーの!」

上条(何とか距離を取りたい俺と離れたくない団長。多分ベイロープの『知の角杯』対策だろう)

上条(敵味方が密集している所へ範囲攻撃は撃ち込めない!)

上条(が、最悪、俺は『右手』で打ち消せば――あ、でも『持続的に続く力』とは相性悪いか――?)

上条(と、背中を見せて退くべきか迷っている所に)

レッサー「うっえっかっら、ドーーーーーーーーンッ!!!」

ズゥゥゥンッ!!!

団長「……!?」

上条(団長の砕いた石片の大きさはまちまち。小さなもので数十センチ、大きなものではメートル越え)

上条(その、大きめの破片をレッサーは『槍』で掴んだ上、死角へコソコソ回り込み)

上条(こう、後頭部へ、がーんって、うん)

上条「正義側の攻撃じゃねぇな……」

レッサー「どうでっすかっ上条さーん!私達の愛のコンビネーションを!」

上条「いや君、背後からぶん殴っただけだよね?」

フロリス「仲間を囮にしてなー。愛されてるネェ?」

上条「こんな愛はいやだっ!?切に!」


安曇「あぁ痛い。安曇は痛いのは好きではないのだけれども」

団長「……」

上条「……だよなぁ、まさか魔術結社のボスかこんだけでくたばる訳がねぇよな」

上条(両者は何事もなかったように――団長は首が曲がってるが――立ち上がる)

安曇「安曇は少しやる気を出そうと思う。勝負に負けるのは嬉しくない」

上条「――あぁいや、勝負は付いてると思うぜ?」

上条「てかもう終りだよ、お前らは」

安曇「うむ?」

上条「ベイロープ!」

ベイロープ「『さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん――』」

ベイロープ「『――神々の黄昏が来た!(ラグナロク、ナウ!)』」

――イイイイイイイイイィィン――!!!

上条(ルーンを伴った雷光が!邪悪を打ち払う雷が!)

上条(ずっと後ろで術式の準備をしていたベイロープから放たれる!)

上条「……」

上条(だが、しかし、それは)

上条(向こうも同じ条件だって、俺は気づいた!気づいてしまった!)

アル「『Gate of open hollow through chaos. (混沌を媒介に開け虚空の門)』」

アル「『The intellect of the original first word of known the barrel strange appearance. (原初の言葉を知りたる異形の知性)』」

アル「『1 by one ..all.. and the person who becomes it. (全にして一、一にして全なる者)』」

アル「『Give birth to thick shadows and utter one's first cry!(漆黒の闇に生まれ落ちて産声を上げろ!)』」

アル「『――Shout. BattleRam!(叫べ、破壊槌!)』」

ウジュルズズズズズズスッ!!!

上条(俺は見た)

上条(アルフレドの翳した掌から、肉色の蔦が伸びた瞬間を!)

上条(まるで動物の臓物の如く絡み合い、うねり、蠢動する肉の蔦!)

上条(名状しがたい触手が雷光に囚われ――そして、両者は共に消え去る)

上条「……相打ち、なのか……?」

アル「だーねぇ。こう見ても殺し技だから、結構自信あったんだけど、まぁまぁ?」

アル「けど、まぁ?そっちは『もう限界みたい』だし、もう撃てないよな?」

ベイロープ「……くっ!」

アル「……なんかなぁ、あんまり格好つかねぇよなぁ。『前の戦闘で息切れしてたんで』みたいなーオチ?」

アル「出来ればどっかで再戦したいトコなんだろうけど、こっちも遊びじゃねぇんだよ、これが」

レッサー「……ですかねぇ?試してみたらどうです、お付き合いしますから」

上条(そうか……!こっちは『ホーム』なんだから、時間を稼げば――)

クリストフ「『時間稼ぎ』も良いんですが、でもやっぱり有利になるのは僕らの方ですよ?」

上条「な」

フロリス「……どーゆーイミ?」

安曇「安曇達は魔術結社の長だと言った。なら」

安曇「その『構成員』はどこに居る?」

ベイロープ「どこって、そりゃ」

アル「足止めしてんだよ、俺らに邪魔が入んねぇようにな」

アル「考えてみろ。命からがらトンネルから逃げ出したっつーのに、他の乗客はなんで降りて来ねぇ?」

クリストフ「物量じゃ分が悪いですがね」

アル「んで、カミやんプラス『明け色』さんよぉ、一応聞いとくけど――」

レッサー「やってらんねーですな、こりゃまた」

フロリス「だっよねぇ、随分ワリに合わないって感じだし」

ランシス「かーらーのー?」

ベイロープ「『戦士』は逃げないのだわ」

上条「……はは。イギリスの女性”も”強ぇな」

鳴護「……当麻君、みなさん」

レッサー「ここまで言わせてんですから、『私が犠牲に!』みたいな事ぁ言いっこ無しですよ、鳴護アリサさん?」

レッサー「つってもま、私らはそれぞれ自分達の利益を確保するため、たまたまそうしているだけですからね、えぇ」

鳴護「……ごめ――」

レッサー「その言葉も嫌いじゃないですが。でも、どうせだったら別の言葉の方が嬉しいでしょうか」

鳴護「ありが、とう……?」

レッサー「お礼はブリテンの国益に適う事一つでお願いしますよ」

鳴護「えと」

レッサー「もっかいウチでコンサート開けっつってんだよ言わせんな恥ずかしい」

フロリス「あ、レッサーずるっこだ。ワタシサインほしーし」

ランシス「抱き枕……いっかいぶん」

ベイロープ「『スコットランドの花』、アンセムフルボーカルのWAVEデータでヨロシク」

レッサー「ちょっ!?なに私に便乗しようとしてんですかっ!恥を知りなさい、恥をねっ!」

上条「お前が言うな」

鳴護「当麻君は?」

上条「友達助けるのに理由は要るか?」

レッサー「ダメダメですなー。こういうのはノリで何かかるーくて、しょーもないお願い言っとくのが通ってもんです」

上条「つってもCDはいつも貰ってるし、今更これっつって……」

上条(インデックスとメシ奢って貰ったり、そーゆーのはたまにあるし。むしろ借りが溜まってんのは俺達の方で)

上条(何か適当で、それでもって大した負担になんないようなの……?)

上条(あ、そういやこれからEU回るし、メシもご当地料理ばっかになんだよな、当然)

上条(たまには日本のご飯も食べたくなるだろうし――よし!)

レッサー「決まりました?」

上条「おけおけ、俺に任せとけって!」

レッサー「……なーんか、いっやーな予感がするんですけど……?」

上条「――アリサっ」

鳴護「うん?」

上条「俺に味噌汁を作ってくれ!」

鳴護「――ふぇっ!?え、えぇっ!それはっ、どういう意味でっ!?」

鳴護「ま、まさか『毎日』みたいな!そゆことじゃないよねっ!?」

上条「毎日?いや、作ってくれるんだったら、そりゃスッゲー嬉しいけどさ」

鳴護「……不束者ですが、うん」

レッサー「『うんっ』、じゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇですよおぉぉぉっ!」

レッサー「てーか上条さん!上条さんあなたって人は地雷を踏み抜くにも程があるでしょうが!?」

上条「え?」

レッサー「天然な分、難聴主人公よりもヒドいな!てーか鳴護さんも嫌なら嫌って言いませんと!」

レッサー「てかコレなに!?割と悲壮な場面だっつーのにコレて!」

レッサー「ここは勢いで私を口説く流れじゃないんですかねっ!」

レッサー「『俺、この戦争が終わったら実家へ帰ってパン屋を継いで、幼馴染みのあの娘と結婚してから裏の水門を見に行くんだっ!』」

ベイロープ「ドサクサに紛れて自分の欲望を全うしようとすんな。てかブレわね、あなた」

ランシス「てかベッタベタな死亡フラグ……」

フロリス「あと水門関係ないよね?パン屋なのか農家なのかよく分からん」

アル「……ねぇ、お話続けていーい?ラブコメ終わった?」

アル「なーんか俺ら悪役っぽくて、超気分悪いんだけどさ」

上条「悪役だろうが、徹頭徹尾」

アル「悪役?俺らが?なんで?」

上条「……本気で言ってんのか!?」

アル「そりゃまぁ手段がアレだけどな。ま、伊達にクトゥルー教団名乗ってはねぇよ」

アル「が、お前らが俺達の敵だからって、『正義』だとか『正気』を名乗るのも、おかしな話じゃねーの、あ?」

上条「どこがだよ!だって――」

アル「――だって、『それ』、人間じゃねーじゃん?」

上条「……あん?なに?」

アル「お前の後ろで、それっぽい顔作ってる『それ』だよ、『それ』」

アル「そんな『バケモノ』を後生大事に護ろうとしてるお前らってさぁ、本当に正気なんかなー?」

上条「お前は――っ!」

アル「俺らは『バケモノと呼ばれたヒト』。それは否定しねぇし、その通りだと思うぜ?けどな」

アル「鳴護アリサは『ヒトと呼ばれたバケモノ』だ!そいつを使って何が悪い!」

鳴護「――っ!?」

アル「言ってみりゃ『生物』の枠に入るかうかも怪しいっつーの」

上条「関係ねぇだろ!そんなもんは!」

上条「意志があって疎通が出来て!誰かを大切に思う事が出来りゃヒトだろうがそうじゃやなかろうが!」

上条「お前らみたいに誰彼構わず傷つけるような奴らが言ってんじゃねぇよ!」

上条「……アルフレド、アルフレド=ウェイトリィ……っ!」

アル「おっす」

上条「お前のらクソッタレな『幻想』は――」

上条「――俺が絶対にぶち殺す!」

アル「……良し!そう来ないとな!そうじゃねぇと『正義』じゃねぇよ!!」

アル「――が、だ。カミやん、どうすんのこの状況?気張ってみたって、詰んでんだろ」

アル「ウチの兵隊どもはバカばっかだが、基本イカれてる分死ぬまで動く」

アル「ましてやちっとぐらい銃を囓った武警が来たって、お前らの足を引っ張んが関の山って訳で」

アル「俺達は確かにMinorityだが、バカじゃねぇんだよ」

アル「わざわざイギリスとフランスの泣き所で事件起こして、最凶最悪の異端審問機関『必要悪』の介入を遅らせた」

アル「『専門外』だった学園都市の兵器も、護衛の能力者共々トンネルの中で足止め」

アル「よくある『悪の科学結社』とは違って、戦力を出し惜しみなんてしねぇ。最初から幹部四人と兵隊揃えてタマ取りに来てんだわな」

アル「……あぁやっぱつまんね。面白くねぇ」

アル「優勝が決まった後のプレミアリーグっつーか、消化試合みたいな?」

???「――ほう、随分と大口を叩くな、魔術師ども」

アル「あぁ?」

???「――だったら私が面白くしてやる……ッ!!!」

鳴護「――お姉ちゃんっ!?」

上条(物陰に隠れて近寄っていたシャットアウラは、円盤状のレアメタルを無数に撃ち出す)

上条(ずっと狙っていたのか、それらは的確にアルフレド達を囲むように配置され)

シャットアウラ(???)「上条当麻ぁぁぁっ!!!」

上条「――任せろ!」

上条(彼女の呼びかけで、俺は、右手を突き出した!)

上条(今から起きる大爆発から『みんな』を守る盾に!)

ズズズズズズズォォンッ!!!――パキィィッン!

上条(連鎖する爆発を『右手』で打ち消し、次第に爆音が遠ざかっていく!)

上条(妹思いの能力者の爆炎が収まった時、そこには大きなクレーターと粉々になった駅のホームがあって)

上条(アルフレドを筆頭とした奴らの遺体は影も形も、痕跡すら残せず消え失せていた)

上条「……終わった、んだよなぁ?……つい、さっきもトンネルん中で言ったけどさ」

レッサー「えぇ、終りですとも。『今』は、ですがね」

フロリス「メンドー……」

上条(皮肉っぽく笑うレッサーとへたり込むフロリス)

ランシス「……」

ベイロープ「――」

上条(ぼーっとしているランシスと周囲の警戒を続けているベイロープ)

鳴護「お姉、ちゃん?」

上条(アリサがシャットアウラを気遣う、という妙なシーンに耳を澄ませば)

シャットアウラ「……これ、保険下りるかな……?」

上条(心からの呟きに、俺達は笑みを零していた)

シャットアウラ「――で、貴様がアリサを放置していた件についてだが」

上条「締めたじゃん!?今のでオチてるからこれ以上はっ!」

シャットアウラ「あと貴様には私の味噌汁をお見舞いしてやろうかっ!」

上条「結構前から隠れてたんじゃねぇか!?だったら助けろよ!」

レッサー「遠回しなボロネーズっ!?ぐぎぎぎっ……ここにもまたブリテンの敵が居ましたね!」

フロリス「レッサーそれプロポーズ。ボロネーズはイタリアのボローニャ発祥のパスタ」

ランシス「日本語だとミートソース……あと、ブリテンの敵認定を量産しないで」

ベイロープ「そんなトリビアはいいのだわ。それよりこちらさんは――」

シャットアウラ「……自己紹介の前に場所を移そう。ここは少々埃っぽい」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>387-390
ありがとうございます
個人にフロリスさんは「外見は綺麗で協調性の欠片も無いけど、好きな話をしてたら首突っ込んでくる」系の子かと
野郎同士でサッカーのの話してたら、いつの間にか混ざってくるみたいな

――フランス 某病院 六人病室

シャットアウラ「――と、以上が今回の顛末だ」

上条「……そか、大変だったよな」

レッサー「いやぁ、あのあと警備室に連行されて大変でしたよー?」

レッサー「屈強なオッサンどもに捕まって可憐な少女の貞操がピンチに!」

上条「おい、フランス舐めんな。よく知らねぇけど、そんな事態にはならない」

ランシス「でもロルカに荷物を盗まれても、追っかけてはいけない、のは結構有名……」

フロリス「大使館へ駆け込むと、『荷物だけで済んで良かったよねぇ』って言われんだっけ?」

ベイロープ「つか具体的に何されたの?」

レッサー「『いやぁよく言ってくれた!』とジュース奢って貰って帰されました、えぇ」

上条「寛容すぎるな!国際問題間違い無しなのに!」

フロリス「頭イタイ子だと思われたんじゃないのー?」

鳴護「あー、たまにー生放送で見切れる人、居るよねぇ」

ベイロープ「中継とかで携帯片手にドヤ顔で映り込む奴かよ。私が身内なら絶交してるけど」

レッサー「でよねぇ。育てた親の顔が見たいってぇもんです」

ベイロープ「だからっ!あなたの事をっ!遠回しに言っているのだわ……ッ!!!」 ギュウゥッ

レッサー「ヘルゥゥゥゥゥゥゥゥゥプッ!?ハァイロゥンダァ(超巻き舌)が攻めてきたぞォォォォォォッ!!!」

ベイロープ「いい加減ケリつけてやろうかああぁぁぁあぁん!?」

鳴護「な、仲良しなんですね?」

上条「ですよねー」

レッサー「助けて下さい上条さん!私のケツが割れて半分になりましたっ!?」

上条「もう一々突っ込むのも面倒だよ!」

鳴護「……当麻君、不潔」

上条「アリサもこの子のテンションを分かってあげて!大体いっつもこんな事言い出すんだから!」

レッサー「……むぅ!中々やりますねっ鳴護さん!まさか私の『ケツ』と『不潔』を被せてくるとは!」

鳴護「してないよ!?」

上条「あと被せる意味が謎だな。つかARISAのイメージ悪くなるから止めろ」

ランシス「……レッサー、言葉言葉」

フロリス「うーむん。普段っから男っ気がないもんだから、ワタシも気をつけなきゃいけないのかも」

上条「っていうかベイロープが執拗にレッサーのお尻を狙う意味が分からん」

ランシス「ヒント、『女子校』……!」

上条「うん、まぁ別に興味は無いんだけど、一応話の流れっていうか社交辞令で聞くよ?べ、別に興味ある訳じゃないからね?」

上条「具体的なエピソードを頼む!」

フロリス「ペイロープの弱点はふくらはぎだと言っておこう」

上条「良かったら弱点を知った過程を詳しく。出来る限る情緒溢れる表現で頼む」

フロリス「最初はじゃれていただけなんだよねぇ。別に好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくって」

フロリス「ホラ、オンナノコ同士で腕組むってあるじゃんか?あれの延長みたいでさ」

フロリス「たまたまベッドの上で、二人で寝っ転がってDVD見てた時の話」

フロリス「ワタシは別にまぁ、そんなに乗り気じゃなかったけど、なんかこうついつい盛っちゃってー、みたいな?」

上条「うん、それで?一線を越えたのはどっちから?」

上条「心理描写で感情を豊かに表現しつつ、比喩の少ない肉感的で写実的な表現で頼む!」

ベイロープ「オイ堂々と捏造とするんじゃないレズ予備軍。あとそこの百合厨は食い付き良すぎだろ」

鳴護「……その、リアルな体験談っぽい話に引くって言うか、当麻君の見ちゃいけない一面だったのなのかも……!」

レッサー「あ、レズるの好きなら絡みましょうか?地の文アリアリでこう、終わった後に『まったくこの子ったら』みたいな感じで!」

上条「やめろ!そんな事するんじゃないぞ!絶対にな!絶対だからなっ!」

レッサー「よーしそこまでネタ振るんだったらやってやりますよっ!さぁっベイロープ!」

ベイロープ「近寄るな」

レッサー「フロリス、私達の絆を見せてあげましょうよっ!」

フロリス「あ、ごめん。そういうのノーサンキューで」

レッサー「では『新たなる光』のお色気担当!ランシスと私の生き様を――」

ランシス「……また裏切るから、いや」

レッサー「見たか!我らの血で結ばれた円卓の絆を!」

上条「涙拭けよ。悪ふさげたした俺が悪かったから、なっ?」

上条「つーか円卓ってアーサー王伝説なんだろうが、あれ結局『嫁を寝取られた挙げ句負けました』ってオチじゃねぇか」

ベイロープ「あー……うん、そのなんだ。反省はしてるわよ?反省は」

ランシス「……ムシャクシャしてやった。でも割と満足している……」

上条「何の話――」

鳴護「あのー、当麻君?ちょ、ちょっと良いかなぁ?」

上条「はい?なに?」

鳴護「さっきからお姉ちゃんが下向いてブツブツ言ってるんだけど、そろそろ本題へ戻ってくれると……」

上条「ごめんなさいシャットアウラさんっ!?俺ら、ホラ!何か色々あって疲れちゃってて!」

シャットアウラ「上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス……!」

上条「え、俺限定で殺意がっ!?」

レッサー「お、ナイスな殺気ですな」

シャットアウラ「アリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってる……!」

フロリス「愛されてるねぇ、アリサ?」

鳴護「いやぁ」

上条「愛されすぎだろ!つーかどっから脱線した!?」

レッサー「私らの通ってるゴードンストウンは共学ですよ?」

上条「もっと前だ。てかお前らが学生やってた事に驚きだけどな」

ベイロープ「てか学校行ってないのにユニフォーム揃える方がイタイだろ」

レッサー「おやおやー?ご自分の事を棚に上げて第三次世界大戦の爆心地へ突っ込んだ高校生が居ますよー?」

上条「ありますよねー、そういう話。珍しくもないですもんねー」

鳴護「当麻君、少しは自覚しよ?まず認める所から始めるべきだよ」

レッサー「そしてこちらにも『エンデュミオンの奇蹟』を起こした歌姫さんが一人」

レッサー「これで騒ぎにならない、って方がおかしいでしょーなぁ」

鳴護「いやでも、地味だよ。ね?」

上条「だよなぁ?別に目立ってはない、よな?」

ベイロープ「一般人とそれ以外を一緒にすんな――てか、そろそろ話を戻しましょうか」

シャットアウラ「感謝する。ベイロープ、で良かったのか?」

ベイロープ「こっちも確認したい事ばっかだし。つーかさ」

ベイロープ「本当に『学園都市の協力は得られない』の?」

上条(あの後、俺達はシャットアウラに連れられて車――護送車で移動させられた)

上条(爆睡した俺が次に目を覚まして見たものは、フランス語で書かれた病院の門)

上条(そこそこ有名な大学病院なんだそうだが、そこで検査・検査・検査)

上条(夕方になって連れ出されて、前っから決まってた情報番組に出張。何故かついてくるレッサー)

上条(……そして『やらしかた』後、何故か俺しっレッサーだけが説教を喰らう)

上条(夜遅くになって解放されてから、通訳付きでイギリス当局の人から事情聴取)

上条(つっても最初から根回しがあったらしく、『大変な事故でしたねー?HAHAHA!』みたいな茶番だった)

上条(……んで、深夜にさしかかる頃に解放されて、用意された六人部屋へ――)

上条(――来たと思ったら、病院着に着替える女の子達がねっ!つーかアリサ達なんですけどね!)

上条(……うん、ボッコボコにされて気がついたら今と)

上条「……」

上条「……着やせ、してたよなぁ……」

鳴護「うん?どしたの?」

上条「思い出してないですっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

シャットアウラ「黙れ、外野」

上条「はい」

シャットアウラ「……と、今話したように最初から決められていた事だ――が」

シャットアウラ「私達『黒鴉部隊』が”勝手に”、持ち込んだ兵器とクルマが問題となっている」

ベイロープ「兵器ぃ?」

シャットアウラ「機械的に改造した能力者。要人警護用の対爆対弾対BC戦機能があるのが気に食わないんだと」

鳴護「柴崎さん……」

シャットアウラ「あのバカは命令違反を繰り返した上、『クルマ』の無断使用に無理な遠隔操作で神経系がズタズタ」

シャットアウラ「これでアリサに怪我でも負わせていたら、首の一つでも切ってやる所だ」

上条「リストラって意味だよね?深い意味は無いんだよな?」

鳴護「今、どちらに?」

シャットアウラ「一度学園都市へ戻ってオーバーホール――というか、休養を命じておいた」

シャットアウラ「肉体部分の損傷はともかく、それ以外はどうしても、な」

鳴護「……そっか。じゃ、良かった」

上条「すまん。俺が無茶頼んだばっかりに」

シャットアウラ「いや、お前に謝られる筋合いは無い。そもそも護衛対象でもあるお前を護るのは仕事の内だ」

シャットアウラ「むしろ部下の命を助けてくれた事を感謝しよう。ありがとう、上条当麻」

上条「……っ!」

上条(……そう言ってぎこちなく笑うシャットアウラの顔は、どこかアリサに似ている)

上条(元々が同じで、今は『姉妹』としてそれぞれを大事に思ってるんだから、それは当たり前なんだろうが)

上条(その『無防備さ』ってのが、なんか、こう、アレだ)

上条(なーんか『勘違い』しちまいそうになる、っていうかですね?)

シャットアウラ「どうした?」

上条「ん!?あぁいやいや別に何でも!」

上条「ただ『聖地巡礼してー」みたいな事言ってたけど、どうしたんかなーって」

シャットアウラ「ローランサン巡りは有給でも取ってくればいい。申請は取りやすいようにしてやる、と言っておいた」

鳴護「えっと、一人で?お姉ちゃん何か言われてなかった?」

シャットアウラ「うん?……あぁ、確か『一緒にどうですか?』とは言われたな」

鳴護「そ、それでっ?」

シャットアウラ「『なんで?』と応えておいたが?」

鳴護「……お姉ちゃん」

上条「あー……うん、まぁ!まだまだチャンスはあるし!」

レッサー「横からで恐縮ですが、シャットアウラさんはそちらさんがお嫌いで?」

シャットアウラ「特に何とも。それがどうした?」

レッサー「あっちゃー……他人事とは言え、聞いてて痛々しいですな」

上条「……えっと、どうしようこの惨事……?」

鳴護「言っても分かんないと思うけど、当麻君にも責任はあるからね?自覚はしなくていいけど、ってかされると困っちゃうけど」

上条「すいません……?」

シャットアウラ「――話を戻そう。さっきも言ったが、これ以降私達がアリサと行動を共にするのは不可能だ」

上条「そんなっ!?」

レッサー「仕方がありませんよ、上条さん。右手で握手しようって時に、後ろへ回した左手にハンマー持ってるようなもんですから」

レッサー「申告しなければ『あ、言ってませんでしたっけ?』で済む話なんですが、バレちまったら、はいオシマイ。そればっかりはどうしようも」

上条「俺が、余計な事を言ったから、か?」

鳴護「当麻君、そんな事無いよ!」

シャットアウラ「繰り返すがお前は関係ない。『敵』を甘く見すぎていた私達――ひいては学園都市に落ち度がある」

シャットアウラ「決して、決してお前達がやった事に間違いじゃない」

ベイロープ「その証拠が『コレ』なのよね?」

シャットアウラ「そうだな。あれだけの事をしでかしたのに『コレ』で済んでいるのが僥倖でもある……いいや、必然か?」

上条「『コレ』ってのは?」

ベイロープ「問題、あなたはユーロトンネルの中でど派手なドンパチを繰り返しました」

フロリス「具体的には列車をぶった切る×2、架線にモノぶつけて運行に多大なロスを与えたりー」

ランシス「明らかに条約ブッチした『戦車』を乗り回したり……」

上条「……怒るよねー、普通は。治安機関にケンカ売ってるよなぁ」

シャットアウラ「私も、というか私”達”は全員その場で射殺されても文句が言えないレベルの事をしでかしている」

シャットアウラ「公になれば確実に外交問題確定、連日連夜ネットニュースで人気者となるな」

レッサー「だってぇのに取り調べはヌルいは待遇は良いわ。しかも女五人に男一人放り込んでハーレム状態ですか!薄い本ですか!」

上条「前半と後半繋がってねぇ――事も、無いか?」

上条「ハタから見りゃ非常識な対応、厚意的な待遇を受けてるのって」

シャットアウラ「それはお前達がユーロスターへ留まり、多くの乗客の命を救ったからだ――上条当麻」

シャットアウラ「もしこれが『自分達だけ逃げました』なんてものだったら、今頃留置所だったろうに」

上条「……無駄、じゃなかったんだな……!」

レッサー「ま、私らはトンズラしますけどね」

フロリス「だっよねぇ」

ランシス コクコク

ベイロープ「黙ってろおバカども。や、まぁ私も逃げるだろうけどさ」

上条「でもさ、それっておかしくないか?確かに俺達は、つーか『黒鴉部隊』は武器やクルマを隠してたけど」

上条「自分達を護るためにしてた武器が、オーバーキルだから取り締まるってのは!」

シャットアウラ「そっちは政治的な駆け引きだな。何と言うべきか……」

レッサー「本音と建て前の使い分け、国内法と国際法との兼ね合いとでも言うんでしょうかねぇ」

レッサー「例えばテロリストを摘発するためには証拠を集めて、裁判所へ逮捕状を請求してから検挙と相成ります」

上条「あぁ、お前らも元テロリストだもんな」

レッサー「うっさいですね!あんま騒ぐとちゅーで口を塞ぎますわよ!」

レッサー「いや、悪くないですな……むしろ率先して喋って下さいねっ!」

上条「……」

レッサー「あ、あれ……?そこでお口チャックマンするんでしょうかっ!」

フロリス「だからさぁ?レッサーのアプローチ、どっから情報仕入れてんのか分かんないケド、引くじゃん?つか引いてんじゃんか?」

フロリス「そもそも『抱いて下さい!』つって『喜んで!』みたいに即答するようなヤツが、ブリテンのためになる人材なわきゃないでしょー」

ベイロープ「それ、普通に駄目男よね」

レッサー「……うーん、うぬぬぬぬぬっ?」

ランシス「……どったの?」

レッサー「いえ、なんつーんでしょうかねー?こう、なんかフロリスのツッコミが、いつもにまして厳しいような……?」

フロリス「ん?ワタシ?」

レッサー「い、いやっ気のせいですね分かります!まっさか『新たなる光』のツン担当がデレる日なんて来ませんもんねっ!」

フロリス「勝手に決めんな。つーか誰がツンだ、誰が」

ベイロープ「それで?続きは?」

レッサー「あー、テロの話でしたっけ?あー、そうそう、アレですよ、アレ」

レッサー「実際にテロを取り締まる方は様々な法的制約が生じるんですよね。国内法・国際法のどっちもが」

レッサー「軍事行動でぶちかますにしても、する側は関連法を整備した上で、遵守しながら戦わなきゃいけません」

レッサー「当然、他の国のお伺いを立てなきゃ必要もありますし、場合によっては羽織ゴロから反対喰らうんですよ、えぇ」

レッサー「資金にしたってとどのつまりは税金ですしね。ヘタに不透明な使い道をすれば突き上げられますし?」

レッサー「けどテロリスト側は、違う」

レッサー「資金も強盗・脅迫・人身売買に麻薬の密売、ずっと囁かれている東側からの援助等々。実に他材で、多罪」

レッサー「昨今じゃ中東の盟主を気取る所がやってんじゃねぇの?みたいな事が公然と言われ始めて来ました」

レッサー「テロの方法も脅迫してやらせたり、子供を誘拐して洗脳したりと人道なんか知ったこっちゃあーりません。それが、現実」

レッサー「テロをする方は縛りなんて皆無なのに、彼らと戦う方は縛りプレイが多すぎってぇ話です」

上条「……テロリスト――この場合は『濁音協会』か」

レッサー「えぇ。あっちには制約もクソもありません――が、それを取り締まる側はそうじゃない」

レッサー「ブリテンじゃブリテンの法に、フランスじゃフランスの法の下で」

レッサー「ただ、それだけの話でしょう」

上条「……よくよく考えれば酷い話だよな」

シャットアウラ「だが、それもまた理屈ではあるのさ……アリサ」

鳴護「はい」

シャットアウラ「これ以上、『黒鴉部隊』――学園都市はお前についてはいけない」

鳴護「……はい」

シャットアウラ「加えて、イギリス清教の魔術師達も力を貸してはくれない」

シャットアウラ「私にとってすれば下らない理由だが、『そう』じゃないと友好もなにもなくなってしまうからだ」

レッサー「……コートの中に何を隠しているのか、それが分からない状態ならば握手も出来るでしょうが――」

レッサー「――あからさまに『銃を持ってる』ってバレちゃいましたからねぇ」

シャットアウラ「……なぁアリサ、よく聞いて欲しい」

鳴護「……」

シャットアウラ「お前は『逃げ』だと言うかも知れない。確かにそうなのだろう。否定はしないさ」

シャットアウラ「けれど、どうしてアリサでならないんだ?他にも適役は居るだろうし、その」

シャットアウラ「……私の父親は『奇蹟』で命を落とした。お前が生まれた時に、戦って、死んだ」

シャットアウラ「私は父を誇りに思い――それ故にアリサにも牙を剥いた!『奇蹟』なんて要らないと!」

上条「シャットアウラ……」

シャットアウラ「けれど、お前は!あの時戦ったろう?『奇蹟なんて起きない!』と私を叱り飛ばして――」

シャットアウラ「――『奇蹟』を起こした。助けられない大勢の命を、助けてくれただろう?」

シャットアウラ「だから――帰ろう?」

鳴護「帰る、の……?」

シャットアウラ「……あぁそうだ。学園都市側からの許可も下りている」

シャットアウラ「ここまで大事になってしまった上、守りようがないんだったら仕方が無――」

鳴護「……私は、帰らないよ」

シャットアウラ「アリサ!」

鳴護「お姉ちゃんも知ってるよね?私が学園都市と『取引』した内容」

上条「……『取引』?」

鳴護「レディリーさんの帰還をお願いしたんだよ……伝えたい事が、あるから」

上条「エンデュミオン上層階に取り残されてるんだったっけ?」

上条「ラグランジュポイントを漂う、残骸の中で――独りで」

鳴護「……あの時、私は――あたしは『みんなが助かりますように』って祈ったんだけど――」

鳴護「――レディリーさんは、助けられなかった、よね」

上条「……そう、だな。それは確かに、そうだ」

シャットアウラ「だが!レディリーはアリサを!」

鳴護「お姉ちゃんも、だけどね?」

シャットアウラ「……」

鳴護「あ、ごめんごめん!責めてるんじゃなくて!そういうんじゃなくって、そのっ」

鳴護「お姉ちゃんとも仲直り出来るんだったら、レディリーさんとも出来るんじゃ、って」

シャットアウラ「アリサ……でもっ!」

鳴護「あたしは暴力へ何も出来なかったよ。レディリーさんに捕まってから、逃げ出せないままで」

鳴護「お姉ちゃんと争った時だって、当麻君が助けてくれるまでは。ただ、無力だった」

鳴護「……けど、あたしも、戦った!」

鳴護「誰かを誰かの代わりに殴りつける強さや」

鳴護「不当な暴力から誰かを庇える強さも」

鳴護「そんなものは無かった……でも!」

鳴護「あたしにはすべき事があって!あたしにしか出来ない事があったの!」

鳴護「だから……ッ!」

シャットアウラ「……アリサ」

上条「……強いんだよな、アリサは」

シャットアウラ「……当然だ、馬鹿者」

上条「おう?」

シャットアウラ「私の自慢の妹なんだからな」

上条「……だな」

――数分後

シャットアウラ「――とはいえ、だ。いざ現実的にどうしたものか、という問題がある」

シャットアウラ「大きな敵は五人。魔術師が四人とそこの冴えない男が一人……うむ」

上条「あれ?俺も敵にカウントされてんの?」

鳴護「学園都市側は、全然援助してくれないのかな?」

シャットアウラ「と、言う訳でもない。ないが……まぁ、望み薄だ」

上条「俺の知り合いの能力者とか、はマズいんだよなぁ」

シャットアウラ「『ほんの少し』の私達ですらこの有様だ。御坂美琴辺り呼んでバレてみろ、下手すれば第四次世界大戦だ」

上条「そーかぁ?アイツ結構海外旅行とかしてっけど?」

シャットアウラ「学園のカリキュラムで当たり障りのない観光地を点々とするのと、一応の外交使節を混同するな!

上条「ビリビリはヘンな事しない――と、思うが!多分!」

鳴護「御坂さんはいい人だけど、他の人が信じるかって言えば……うん」

シャットアウラ「対爆対弾のキャンピングカーはこちらで用意するし、衣食住にかかった費用もあちら持ち」

シャットアウラ「加えて必要な人員――通訳と”称し”てボディガードを雇うのもアリだそうだ」

上条「……ま、普通のコンサートツアーなら妥当なんだろうけどさ」

鳴護「レディリーさんみたいな魔術師さんだと、うーん?って感じかなぁ」

上条「俺の知り合いの――」

シャットアウラ「却下だ」

上条「まだ言ってねぇ!?知り合いの魔術結社のボスに頼るっつー話なんだけど!?」

シャットアウラ「下手な部外者呼んでこれ以上の騒ぎになってみろ。『ARISA』の活動もし難くなる」

鳴護「あたしは別に。アイドルじゃなくってもインディーズで歌えるんだったら」

シャットアウラ「それに今回の抗争、相当な借りを作る事になるぞ?お前がもし『学園都市を離れて私のイスになれ』とか言われたらどうするんだ?」

鳴護「あー……ありそう」

上条「いやいや、ナイナイ。バードウェイ良い子だもの、口じゃ文句言いつつ付き合ってくれるって」

鳴護「当麻君にはちょくちょく注意しているけど、『好き過ぎてこじらせる』みたいのも注意した方が良いと思いますっ!」

シャットアウラ「その内刺されてしまえ」

上条「シャットアウラさんは本気で言ってますよね?その『叶ってくれれば良いなー』みたいな顔どーよ?」

レッサー「あのぅ、すいまっせーん?ちょっと良いですかねぇ?」

レッサー「今までのお話をまとめさせて頂くと、ぶっちゃけ『ある程度の関係者で一定の能力を持ったぷちりーなボディガード』であればいい、と」

フロリス「もすこし謙遜したほーがいいんじゃなーい?」

シャットアウラ「ぷりちー成分は要らん」

上条「言ってやって。シャットアウラさんガツンと言ってあげて!」

シャットアウラ「アリサで充分過ぎる程満たされてる、っていうかカブるわっ!」

上条「やっべェ!いつの間にか四面楚歌!?」

鳴護「あたしも当麻君サイドだと思うんだけど、っていうかお姉ちゃん人前でぷりちー言わないで欲しいかも」

レッサー「――ま、別に難しい話じゃないんですよね、これが」

レッサー「私達は所謂『魔術結社未満』の、団体」

レッサー「言ってみりゃ趣味が高じてやってるような『テキトー』な連中であり――」

レッサー「そんな私達が『好きなアイドルの追っかけ』て、EUを渡り歩く――なんて話、よくあると思いません?せんせん?」

鳴護「……危ないよ、そんなのっ」

フロリス「最初はねー、ワタシらも『あ、知り合いが来てる!』ってノリで顔出したんだケドー」

ベイロープ「ぶっちゃけそんなノリじゃ済まなくなってんのよ、これが」

上条「どういう事?」

シャットアウラ「ユーロトンネルでテロを起すような組織。連中の目的が世界平和である筈がない」

シャットアウラ「むしろ中心人物らしき『双頭鮫』の活動範囲を考慮すると、騒ぎを起こすのはEUだろう」

レッサー「んー、まぁ本音を言いますと私達――てか、私も世界がどうなろうと知ったこっちゃあないんですね」

レッサー「てーか上条さんも『知り合いのために戦う』事があっても、『世界にために戦おう』とはあんまりー、ですよね?」

上条「当然だ。『セカイのため』に戦うヤツって、ロクな事しなかっただろ」

上条「……だからって『個人のため』でもアレなヤツばっかだった気が……?」

レッサー「んがっしかぁし!私達は知り合いのため!たかだか乗り合わせた鳴護さんのために細やかながらお手伝い致しましょう!」

レッサー「それが義侠心ってもんですからねっ!えぇっ!」

鳴護「レッサーさん、ありがとう!」

ランシス「で、本音は?」

レッサー「鳴護さんへ恩を売るついでに上条さん籠絡出来たらラッキー、みたいな?」

上条「また思惑が軽いな!分かってたけどさ!」

シャットアウラ「信用出来るのか?能力的にも、信条的にも」

ベイロープ「こっちのおバカの下心はさておき、そんなに悪い話じゃないでしょう?」

フロリス「少なくともワタシら”そっち側”じゃ無理だった連中を倒したしー?」

フロリス「むしろアリガトウと言いたまえよ、ウン?」

シャットアウラ「なら、こっちも婚后インダストリィ製が半壊被害を受けている」

レッサー「あれはホラっ!共闘してる立場ですし、何よりもコントロールはそちらさんだったじゃないですか」

レッサー「外装甲がヘコんだのも、私が操作したんじゃありませんとも!」

シャットアウラ「火気厳禁のキャノピーの中で、焚き火をかましたバカが居てな」

シャットアウラ「”ガワ”だけが破損していれば、予備パーツを換装すれば修繕費は安く済んだんだよ」

シャットアウラ「お陰でコンパネから全部オーバーホールしなくてはいけなくなったんだが……?」

レッサー「そ、それはっ仕方がないでしょう!?私だって必死でやってんですから!」

シャットアウラ「――余談だが、”クルマ”の中は常にモニタされていてな」

レッサー「へ、へぇー?それがなんだって言うんです?」

シャットアウラ「移動中に暇だったのか、デタラメにスイッチを入れたり消したりした上」

シャットアウラ「シフトレバーを『レッサー!一番機、吶喊するでありますよ!』とか言ってガチャガチャやった姿が映っているんだが?」

レッサー「よぉしっ!過ぎた事は水に流しましょうかっ!明日とは『明るい日』って書きますしねっ!」

上条「話題の逸らし方が他人とは思えない。つーかビルよじ登るわジャンプはするわ」

上条「アホみたいな超起動兵器なのにあっさり捕まったのおかしいと思ったら、お前のせいか!」

シャットアウラ「ま、なんにせよあの状況では、逃げ出す『アレ』を止めるためにはチャージが最適だろうがな」

ベイロープ「なんか、ゴメンナサイね?後でシバいとくから」

レッサー「ともあれっ!選択肢なんかないんじゃないですかねぇ?」

レッサー「考えてみてくださいな!今回のツアーなんて危険が危ないに決まっています!」

上条「お前の脳の方がピンチだと思うよ?」

レッサー「若い男女!助け合う二人!ピンチの中で育まれる絆!あと、着やせっ!」

鳴護「あの、最後のいるかな?」

レッサー「いつしか二人は護衛とアイドルを超えた間柄に……ッ!!!」

上条「危険だと思う所が間違ってるよ!そんな話してたんじゃねぇし!」

シャットアウラ「一理あるな!」

上条「ヤッベぇこの部屋ボケしかいねぇぞ!?また俺ツッコミで喉を涸らす日々が帰ってくるのか!?」

ランシス「『へーい、レッサー。隣の家に塀が出来たってねぇ……!』」

上条「唐突に何言い出した!?」

レッサー「『よし、それじゃ記念にミントの苗をプレゼントしようか!向こうの庭をミント畑にしてあげよう!』」

ランシス「『このテロリストめ!』」

上条「オチてねぇしお約束じゃねぇし!つーかお前それ園芸ネタだから分かるヤツ少ないだろっ!?」

鳴護「当麻君、芸人さんばりに拾わなくても」

レッサー「で、どうです?この二人っきりで旅をさせるよりか、安心出来ると思いますよ?」

レッサー「今ならなんと!必要最低限のご予算で魔術結社未満がお仲間に!」

フロリス「未満言うな」

ランシス「レッサー、逆に胡散臭い……」

シャットアウラ「……そうだな!まずはアリサの身の安全が最優先だ……!」

上条「ねぇ?ちょっと聞いて良いかな?俺、シャットアウラさんの中でどんだけ危険人物だと思われてんの?」

シャットアウラ「いや、特にどうって事はない。気を悪くしていたら謝ろう」

上条「だ、だよねっ?オートマタん時から、どっちかってつーと共闘してたもんな?」

シャットアウラ「ただちょっと『私の本当の敵は魔術結社よりもまずお前だろうな』ぐらいにしか」

上条「随分具体的に嫌われてるじゃねぇかよ!?そこまで言われる程何かしたか!?」

鳴護「相性悪いもんねぇ、当麻君とお姉ちゃん」

レッサー「ま、ぶっちゃけ旅が終わる前に私がオトすんで、色々な意味で安心出来ると思いますよ?」

上条「打算的すぎるわ!愛情の欠片もないっ!」

レッサー「いやでも10代の恋愛ってそんなもんじゃないですかねぇ?なんかこう、『ちょっといいなー』で付き合ったり」

レッサー「自慢じゃありませんがおっぱい大きいですし、将来性も考えると先行投資しておいて損はないんじゃないかと」

レッサー「ね?一回だけでいいですから、一回だけノリで付き合いましょーよ、ね?」

上条「フザケんな!人生には取り返しのつかない一回があんだよ!」

レッサー「こう見えても尽くしますよー?ご奉仕しちゃいますよー?」

上条「だーかーらっ!」

鳴護「レッサーさん、押し強い……」

ベイロープ「ま、あの子の持ち味みたいなもんだし。本当にブリテン好きっつーか」

鳴護「本当に当麻君の事好きなんだねぇ」

フロリス「多分その『好き』は珍しい動物の『好き』だと思うンだよね」

鳴護「え?違うよ、それ」

ベイロープ・フロリス・ランシス「え?」

シャットアウラ「――分かった。ならば正式に――ではなく、非公式に――」

上条「マジで?こんな流れでいいの?」

シャットアウラ「大事だろう、そこも」

上条「否定はしないけど……いや、否定するよ!俺そんなに節操なくないもん!」

レッサー「”もん”て」

シャットアウラ「だがしかし貴様からアリサを守りつつ、ついでに魔術結社へ対抗出来る人材なんて貴重だろ?」

上条「逆逆、優先順位逆じゃないですかね?いい加減俺のハートが傷つきっぱなしなんだけど」

シャットアウラ「『勝手についてくる』、しかも『あやふやな連中』なのでグレーゾーンだからな」

上条「そりゃそうかもしんないが、納得がね?」

男「――話は全て聞かせて貰ったのよな……っ!!!」

ベイロープ「誰よッ!?」

男「カステラ一番!電話は二番!三時のおやつはチラメイドっ!」

上条「歌詞違ぇよ。てーかお前はコスプレに拘りすぎだろ!」

男「天草式十字せ――」

シャットアウラ「――っと捕まえた」 ギリギリギリギリギリッ

男「名乗りは最後まで言わせて欲しいのよなっ!?って締まる締まる締まってるのよ!」 タシタシタシタシ

シャットアウラ「見るからに怪しげな大男!『濁音協会』の幹部かも知れないぞ!」

男「誤解なのよな!?俺はこう見えて由緒ある魔術結社の教皇代理を――」

シャットアウラ「よし、ギルティだ」 プチッ

男「ノォォォォォォォォォォウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

上条「……あの、すいませんシャットアウラさん?その人知り合いだから、そのぐらいで勘弁してあげて!」

シャットアウラ「私達にも気配を掴ませずにここまで接近出来た相手なのにか?味方相手にするなんて怪しいだろうが!」

上条「いや、まぁ、うん。『どう見てもそのアフロと服、隠密どころか写メされまくるよね?』とか思うけど、それも多分術式の一つだと思うし、うん」

上条「な、そうだよな?建宮?」

建宮斎字(男)「まだまだあぁっ!この俺を屈服させるにはシメが足りないよのな!」

ランシス「……要約すると?」

建宮「黒髪ロングって最高なのよ!」

シャットアウラ「取り敢えず、落とすな?」

建宮「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

――10分後

建宮「――ま、とどのつまりはメッセンジャーなのよな」

上条「つまりアレか?ステイル達が不用意に動けないから、天草式が代理で来た?」

建宮「いんや。もしヘマしたら『個人の独断でやった』で足切りなのよ」

レッサー「相変わらずエゲツないですなー、『必要悪』さんは」

建宮「そう心配はいらんのよ。『普通』の病院へ潜り込んなんざ。我らに取っちゃ朝飯前なのよ」

上条「んじゃ五和や神裂達も来てんの?」

建宮「いやー何人かは来てるが……女教皇は禁書目録のガード、五和は……ま、その、アレがアレして槍振り回しそうだから、自重させたのよ」

フロリス「うえ?禁書目録が『聖人』頼る程ピンチなの?」

上条「つーか五和の方はさっぱり分からない」

建宮「お前さん方の敵が『クトゥルー』である以上、禁書目録がターゲットである可能性も否定出来ないのよな」

建宮「何せ記憶する10万3000冊の中には『ネクロノミコン』も含まれるのよ」

シャットアウラ「ネクロノ?」

ベイロープ「クトゥルー神話に登場する魔導書、狂えるアラブ人が夜に鳴く魔神の声を書き綴った書物ね」

上条「そーいや最初の頃、そんな名前の本も憶えてるってドヤ顔で言われた気が……?」

建宮「連中の狙いが禁書目録で、こっちは大がかりなフェイク。女教皇達はそう考えてるのよな」

シャットアウラ「すまん。ちょっといいだろうか?」

レッサー「どぞ?やっぱり科学サイドには荷が重いですかね?」

シャットアウラ「正直その通りだ。お前達が何を言っているのかすら、分からない。というか――」

シャットアウラ「――お前達の方こそ、正気なのか?」

レッサー「何を根拠に?自身の正常性を疑うのは良い事だと思いますがねぇ」

シャットアウラ「初めて話を聞いた時にも思ったが、『それら』はフィクションだろう?個人が作って暇人が広めた創作物だ」

シャットアウラ「……私も日本での生活が長い分、多少はオリエンタル・アミニズムにも詳しくなっている。例えば、そうだな」

シャットアウラ「ツクモガミ?全てのモノに神が宿り、神性を持つという思考も理解出来る」

ベイロープ「汎神論ね。インドや古代ギリシャ辺りが発祥の」

上条「オリエンタル関係ねぇな」

フロリス「オリエント文明って習わなかった?欧州から見れば『東っぽい蛮族』を一括りでそう呼んだんだよ」

フロリス「もっと勉強した方が良いんじゃん?」

上条「……お前、俺に厳しかねぇかな?チャラにするとかって聞いたんだけど」

レッサー「んぅ良し!良い感じのツンですよフロリス!」

レッサー「そのまま適度に痛めつけ、傷ついた所を私が慰める!これこそ完璧ですなっ!」

ランシス「……汚れた思惑がただ漏れになってる……」

上条「たまーにこの子、ネタでやってんじゃないかって思うんだよなぁ」

シャットアウラ「日常品に感謝して供養したり、土木作業の時に祈祷するのも理解はする。だけれども!」

シャットアウラ「『そんなモノ』に神は宿ると?フィクションに過ぎない存在にもか?」

建宮「そうよなぁ……まず結論から言うと、『ネクロノミコンは実在し、それ相当の力を持った魔導書』なのよ」

シャットアウラ「信じがたい話だ」

建宮「あ、そこら辺は絶対なのよ。なんせ俺達が戦ったんだから」

上条「そうなのか!?日本にも連中が居たって!?」

建宮「いやいや。やり合ったのはイギリスなのよ。『必要悪の教会』の入団試験で攻撃されたのよな」

建宮「そこら辺の事情も含め、『敵』の情報を託すに相応しいと思われたのが天草式なのよ」

レッサー「ほへー、って事は既に『濁音』とやりあってたと?そいつぁ初耳です」

ランシス「(多分ニホンダルマの出店準備で忙しかったころ……)」

ベイロープ「(よね)」

建宮「それも違うのよ。別口の魔術師であって、クトゥルー教団じゃないのよな」

シャットアウラ「意味が分からん」

建宮「そっちのおねーちゃんの疑問には答えた筈なのよ――『ある』と」

建宮「実際、魔術的にもネクロノミコンは力を持った魔導書なのよな」

シャットアウラ「納得出来るか!私はよく知らないが、世界が滅びるような魔術が使えるんだろう!?」

シャットアウラ「そんなものが存在して良い訳がない!」

建宮「あー……混同してるのよな、お前さんはよ」

シャットアウラ「何が!?」

建宮「『ある』と『できる』は別の話なのよ。これが」

ベイロープ「……あぁ成程。そういう事ね」

上条「すいません、俺にも分かるように」

レッサー「さぁっ!言っておやりなさいな、ベイロープさん!」

フロリス「いやアンタも分かってないじゃんか」

レッサー「いやですよぉ。人が折角見せ場を作ってやろうって配慮してんのに、言わせんな恥ずかしい」

ランシス「……魔導書は『ある』。そして『できる』と書かれてる」

ランシス「……ても、本当かどうかは分からない、って話…?」

レッサー「まさかのランシスが核心を突いたっ!?」

上条「やっぱ分かってなかったんじゃねーか。つーかアリサ大丈夫か?」

鳴護「うーん?お勉強しなきゃいけないのかなぁ?」

上条「専門分野は専門家に任せておいた方が良いぞ。素人が首突っ込んだって邪魔になる」

レッサー「――と、毎回首突っ込んでる方が言うと説得力ありますよねっ!流石ですっ!」

上条「グーで殴るぞこの野郎」

建宮「そうさな、あぁっと……おねーちゃん、アステカ神話は知ってるのよ?」

シャットアウラ「今ある世界は第四の太陽であり、世界はジャガーが呑み込む、だったか?」

シャットアウラ「あと私を『お姉ちゃん』と呼ぶんじゃない」

建宮「エッダ、北欧神話は?」

シャットアウラ「フェンリル狼が太陽を呑み込む――と、こっちも狼なのか……?」

建宮「あ、それは本題と関係ないのよ。んじゃヒンドゥーは?」

シャットアウラ「ヒンドゥー……?あぁインドは確か」

上条「シヴァって破壊神が全部ぶっ壊す?」

建宮「正解。で、最後に仏教、ブッティズムの『オワリ』はどんななのよ?」

シャットアウラ「あれに明確な終りは無かった筈だが……?」

ベイロープ「ブッダの入滅から56億7千万年後に現れる弥勒菩薩、よね」

建宮「大体合ってるのよな。釈迦の入滅後、定期的に末法思想が広がり、それらは信仰に影響を与えてきた」

建宮「キリ――十字教でも黙示録や千年王国は有名なのよな」

上条「ま、確かに世界各国、色んな所で色んな終末論はあるわな。それが?」

レッサー「あるぇ?まだ分からないんですか?」

上条「レッサーさんはご存じなの?出来れば教えてみろや、出来るんだったらば」

レッサー「さぁっフロリスさんあなたの出番ですよっ!」

フロリス「おっけー。まーかせて。えっとねー」

レッサー「ここでまさかの裏切りがっ!?」

鳴護「どっちかって言えば、レッサーさんの方が裏切って言うか、なすりつけようとした、って言うか」

フロリス「今言った全部の『神話』は例外なく魔導書が作られ、実際に魔術が使われてんだよ、うん」

フロリス「ワタシらだって北欧神話をベースに――あ、逆か。ベースにしたのを北欧神話でアレコレしてんだけど」

ベイロープ「余計な事は言うな。先生にシバかれる」

フロリス「これ、つまりそれぞれの魔導書や魔術が『ある』って証明だよねぇ?ねっ?」

上条「少なくとも神話を模して霊装や魔術使ってんだから、まぁ、証明にはなるのか……?」

フロリス「でも――あ、こっちからがキモだかんね?よく聞いててね?――世界にはイッパイ魔術があって、そのオリジンになった神話もある」

フロリス「ついでに言えばその殆どが『終末』が書かれてるんだけどぉ――」

フロリス「――その『オワリが来た』のって一回もないじゃんか」

フロリス「具体的に『世界が終わった』事は」

上条「……確かに」

建宮「その通りなのよな。魔術は『ある』のよ、それは絶対に」

建宮「だがしかし『できる』かどうかは別問題」

建宮「例えそれが魔導書に載っていたとしても、『過去一度も世界を終わらせた魔術師は存在しない』のよな」

シャットアウラ「クトゥルーは『ある』。が、世界全てを発狂させるような事が『できる』かは未知数、だと?」

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのエロい下乳魔神みたいに尊大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」



ジジッ

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのお美しい魔神様みたいに莫大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」

上条「なんでお前二回言ったの?てか今ノイズが……?」

建宮「俺達が出会った『クトゥルーの魔術師』も、効果範囲は精々数十メートルってトコだったのよな」

ベイロープ「『人類全てを発狂させる』だけの効果を得んのに、どんだけのテレズマ遣うかって話よね」

上条「……そっか。確かに得体の知れない相手だが、だからって『魔術サイドのセオリー』からは逃れられないのか……!」

建宮「そもそものネクロノミコンだって、どっかの誰かが『造った』シロモノなのよ」

レッサー「裏を返せば『20世紀の魔導書書きの技術で造られた』のであり、決して例外やキワモノではない、と」

建宮「俺が個人的に睨んでいるのは、クトゥルーに関わった者が例外無く『発狂』するのよな」

建宮「あれ、何かに似てると思わないのよ?」

上条「頭がおかしくなる……?」

レッサー「なんかありましたっけ?つーかなんで皆さん私を見てんですか?」

ベイロープ「――そうか!『原典』の精神汚染よ!」

フロリス「レッサー、もうちょっと勉強しなよ」

ランシス「素人と同レベルて……」

レッサー「ぐぎぎぎぎ……」

建宮「巷にある『クトゥルー』の魔導書、それらは本当に『クトゥルー』なのか?」

建宮「――『読んだ者は力を得て、同時に身の破滅を呼ぶ』――」

建宮「――それは『原典』の魔導書と同じなのよな」

シャットアウラ「待ってくれ!その言い方だとクトゥルー神話の作者が『そっち』の知識を持っていて!」

シャットアウラ「『既存の魔導書の関係をクトゥルーの設定に引用した』みたいな言い方に聞こえるぞ!?」

建宮「可能性はある、とだけ言っておくのよ……ま、別に力を求めた者が破滅する話なんぞ、古今東西珍しくも無いのよな」

上条「とにかく脅威は脅威だけど、既存の魔術師とそんなには変わりが無い、って事なんだよな?」

ベイロープ「対策がやりにくいっちゃやりにくいけど、そんなもんは誰が相手でも同じよね」

レッサー「とはいえですよ、知ってるに越した事こたぁないでしょーがねぇ。うむむむ」

フロリス「今っから全員で小説でも読む?ワタシはちょっとパスしたいなぁ」

建宮「あー……”それ”が来た理由の二つ目なのよ。向こうさんの出方を教えに来たって言うのよな」

上条「あぁ、こないだやりあったからって?」

建宮「そっちは一つ目なのよ。禁書目録の『非公式見解』は伝え終わったのよな」

上条「え!?今のインデックスの解釈だったの!?」

ベイロープ「向こうさんの立場上色々あるのだわ」

フロリス「てかボカしてんだっからツッコムの止めなよ。つーか空気読めっての」

鳴護「誰かに責められる当麻君って新鮮……!」

シャットアウラ「いいぞもっとやれ!」

建宮「いやでもアレ、なんつーか――アレ、なのよな?」

ランシス「やっぱ、そう思うよね……?」

建宮「どう見ても――まぁ、五和には言わないでおくのよ。そっちの方が面白そうだし」

建宮「ともかく!こっからは俺達が日本に居た頃の話に聞いた話!」

建宮「『野獣庭園(サランドラ)』の安曇阿阪、別名”墓穴漁り”――」

建宮「――野郎は『タダの魔術師』なのよな」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

なんかこのSSウンチクばっかですいません。で辻褄合わせないと伏線等々ポシャるんで、えぇ

乙です

>>446-451
ありがとうございます

――六人病室 深夜

上条「待て待て。連中クトゥルー教団名乗ってるよな?だってのに他の魔術遣うってのかよ?」

建宮「んー、ま、そこら辺は結構難しいのよな。考えられる点は二つ」

ベイロープ「そうね、アイナオ・クルス――ケルト十字って知ってる?十字架の背後に丸い輪っかくっがついたデザインの」

レッサー「所謂、『太陽を示す円環』と『太陽と地平が交わる十字』の融合した形です」

ランシス「……あれ、太陽じゃなくって、月」

レッサー「大昔は月信仰も盛んでしたからね。ま、そこは意見が分かれていますが」

上条「あぁ何か映画で見た事ある気がする」

ランシス「あれ、『キリスト教が布教されるよりもずっと昔から使われてきた』、の……」

フロリス「十字教言いなよ。てーかぶっちゃけんのイクナイ」

鳴護「……はい?十字教が信仰されるより前から、十字架使ってたんですか?」

ベイロープ「元々はルーンと同じ魔術様式の一つだったのよ。一説にはアレ自体もある種のルーンだって話もあるぐらいだし」

建宮「『十字架』ってぇのは『神の子が我らの罪を背負われた』という象徴。それが十字教の根底にある『原罪』の概念なのよ」

建宮「が、それとは別にアイルランドでは『死と再生のシンボル』としてケルト十字が使われていたのな」

上条「ウロボロスの蛇のような『円環』……?」

レッサー「おっ、よくご存じですねー。系譜は同じですよ」

上条「昔――いや、最近誰かから聞いたような……?」

ランシス「聖パトリックがアイルランドで布教を始め、私達は受け入れた……」

ランシス「……その時にケルト十字は十字教のシンボルに代わった、の」

上条「へー?同じ十字架だし大事だから、一緒くたに崇めたみたいな?」

レッサー「だけじゃないですね」

フロリス「ワタシの地元でも『ウェールズの赤い竜(Y Ddraig Goch――ア・ドライグ・ゴッホ)』って伝承があんだけどさ」

上条「イギリスっつったら竜退治?」

フロリス「半分アタリ。でもってハズレ」

フロリス「『赤い竜』は『白い竜』を退治した正しい竜であり、ウェールズの象徴になってんの」

上条「あれ?十字教のドラゴンは悪者じゃなかったっけ?」

フロリス「そんだけワタシらとは切り離せなかったって事っしょ、多分」

ベイロープ「ちなみにそっちのアフロが着てる赤十字ロングTシャツ、聖ゲオルギウスのシンボルってのが有名だけども」

ランシス「アーサーの赤十字でもある、うんうん」

建宮「『異教を取り入れる』ってのはどこの国でも当たり前のようにしているのよ。十字教の悪魔は元々シュメールの悪魔」

建宮「日本の仏教はインドの神様。シヴァ神も大自在天や大黒天として崇められているのよな」

建宮「我ら天草式十字凄教も十字教の聖母信仰へ観音様を取り入れ、マリア観音とか生み出しているのよ!」

シャットアウラ「……それ逆に失礼じゃないか?」

フロリス「てーか隠れキリシタンは『原罪も許した』って超解釈してたから、ローマ正教との仲はあんま良くなかったのだわ」

建宮「兎にも角にも!魔術師が他の信仰を取り入れてアレンジするのは珍しくも無いよな!」

上条「そっか。じゃ安曇は『元々別の魔術系統を使ってたけど、クトゥルー風にアレンジしている』で合ってるか?」

ベイロープ「それが一つ目の推測。もう一つは『偽装』よ」

鳴護「自分達の正体を知られないようにするため、でしょうか?」

建宮「俺はどーもその説が合っているとは思えないよのな」

レッサー「ありそうな話ですけど、どしてまた?」

建宮「安曇阿阪はお前さんがたの前で術式を使っているし、名乗りも上げているのよな」

建宮「そっから野郎の身元がバレで、禁書目録に解析されて、日本の魔術師界を知ってる俺が派遣された」

建宮「隠すんだったら徹底的にしなければ意味が無いのよ」

ベイロープ「……いや、なんか、おかしい。納得がいかない。腑に落ちない」

レッサー「ベイロープさんの『勘』は今一精度に欠けますけどねっ!」

ベイロープ「結果的には『ブリテンのため』になったんでしょーうがっ!あぁっ!?」

レッサー「おーけー落ち着きましょうベイロープ?まずはその花瓶を離す所から対話を始めるべきだと思うんですよ、えぇ」

レッサー「花瓶を離して話すとはこれ如何にっ!?」

上条「やめろ無理矢理ボケるな」

鳴護「ふなっし○プリッツを買ったら、丁度頭の所が切り込み線になってて、『え!?頭を切断するのっ!?』って思いましたっ」

上条「ARISAそんな日常あるあるは要らん!つーかアリサふなっ○ー好きか!?」

ランシス「……切っちゃったの?ざっくり?」

鳴護「袋の底の方をこう、チョキチョキって」

レッサー「現役アイドルの方がインパクトが強い!これはなんとかしなければ……!」

上条「いいから話を聞け。文字通り雷落とされっから」

ベイロープ「てーか話す機会が遅れたけど、トンネルの中に居た『アレ』の事なんだけど」

ベイロープ「『アレ』は科学サイドのバケモノよね?」

シッャトアウラ「待ってくれ!私達の世界でもあんなのは聞いた事が無いぞ!?」

ベイロープ「行動原理が『生物』に限りなく近い。尚且つ『進化』する」

ベイロープ「何よりもテレズマ――『魔力』が感じられない」

ランシス「ビリビリ……無かった」

シャットアウラ「『術式』よりも『生物』らしいと?」

建宮「俺達の流儀はよ。自分達の良いように、変えたいように世界を改変するってぇのが根底にあるのよな」

建宮「例えば『生ける鎧(リビングアーマー)』を作るんだったら、鎧へ仮初めの命と自我を与える。シンプルな話なのよ」

シャットアウラ「フィクションではよくあるが、目にした事はないぞ」

上条「シェリーのゴーレム――ほら、夏頃学園都市で土人形の騒ぎがあったろ」

シャットアウラ「あれもお前たちの仕業だったのか」

ランシス「一纏めにされると、うーん……?」

建宮「けどそちらさんはまず、『鎧状の命を産み出す』って所から始まる」

建宮「脳を造って、筋肉を開発して、骨格を拵えて――んで、仕上がったヤツも『生物』である以上、その特性に付随するアレコレからは逃れられんのよ」

ベイロープ「私とマイ――こっちのアレはアイツから『恐怖』を感じた。なりふり構わずに混乱するのは、とても生き物らしいと」

建宮「対してゴーレムは魔力が切れるまで命令をこなすのよ。筋肉も血も通っておらず、生存本能も無い」

レッサー「なーるほど。そう考えると『アレ』はそちらさんの生体兵器と考えてもおかしかないですよねぇ」

シャットアウラ「しかしっ非効率的だ。どう考えても『兵器』として非効率的過ぎ――」

シャットアウラ「――いや、違うな。だからこそ、か」

鳴護「お姉ちゃん?」

シャットアウラ「学園都市は無駄一つ無い合理主義――合理”原理”主義で動いていると思われがちだが、それは誤りだ」

シッャトアウラ「実験をすれば成功するまで、相応の無駄や失敗は出来上がる。誰しもが一直線に答えを出せる訳もない」

シャットアウラ「1の目的へ対し、100のプロジェクトチームを作り、それぞれの方法で研究を進める」

シャットアウラ「成果を上げたチームが評価され、他のチームは全て失敗」

シャットアウラ「何らかの分野で再利用出来そうであれば横滑り、そうでなければ破棄される」

シャットアウラ「そんな過程で造られたのが、『アレ』と考えれば……!」

上条「『兵器』としちゃ失敗作……けど、”だからこそ”『濁音協会』みたいな人の連中が使える……!」

シャットアウラ「……自虐を承知で言えば『失敗作も手を汚さずに廃棄出来る』という、超合理主義の考えなのかも知れないが」

上条「それはちょっと考えたくないな……あちこちに『失敗兵器』がバラまかれてるって事だろ?」


レッサー「そうじゃなかったら改めて『鬼灯様に代わって呵責しちゃうぞ(はぁと)』って事で」

上条「……ふーん?」

ランシス「ちなみに今のは”月”と”鬼灯”が被ってるレッサー渾身のネタ……っ!」

レッサー「やめてとめて滑ったギャグを解説しないでプリーズ!」

ベイロープ「んで、二つ目の『偽装だったんじゃね?』論について。私の意見なんだけど」

ベイロープ「『隠す』にしちゃ甘い所あるわよね?堂々と自己紹介カマしたり、術式披露したり」

ベイロープ「何かを『隠してる』ような気はするんだけど、『何か』が分からないのだわ。それが気持ち悪い」

建宮「そいつぁ考えすぎだと思うのよ。だって連中が出張ってきたのは『ここでケリつけるため』よな?」

建宮「あん時白黒つけるんだったら、そりゃ出し惜しみもしないのよ」

ベイロープ「うーん……?」

シャットアウラ「ブラフ、ではないのか?名の知れた異能者でも、実際の能力が知られているなんてまず有り得ないぞ」

シャットアウラ「『発火能力者(Fire Starter)』が二つ名なのに、実は温度変化が得意でした、という例もある」

建宮「ま、考えるのは結構なのよ。相手に隙を突かれない程度には」

レッサー「それよりか今は分かってる事だけでも聞きたいですよねぇ、つか私ジャパンの魔術師界に興味津々なんですけどっ!」

上条「実は俺も気になってた。日本の魔術師は天草式以外二、三人しか知らないし」

シャットアウラ「結構多いだろう、それ」

建宮「あー、まぁぶっちゃけ十字教みたいな影響力は無いのよ。デカい団体が統轄してる訳でも無く」

建宮「戦前は神社庁って国の機関があったんだが、戦後解体されて民間の神社本庁へと姿を変えたのよ」

建宮「そこら辺の『隙間』を突かれて学園都市が出来って背景もあるのよな」

レッサー「悪い魔術師とか出て来たらどうするんです?まさかスルー?」

建宮「大抵は地方ごとに『顔役』と言われる結社が幾つかあって、そこが人の道を外れた連中を締めているのよな」

上条「何か、うん」

建宮「言いたい事は分かるが、仕方が無いのよ。刑法じゃ呪いは大した罪には問われないのよな」

建宮「しかも全てが全て適切に裁かれる事もないのよな。最近は魔術師そのものが減少傾向にあるのよ」

レッサー「これまた意外ですなぁ。ニンジャとかメッチャ憧れますけど!」

鳴護「それ、魔術師かな……?」

建宮「……まぁ、個人的に言わせて貰えれば?仏道には八斎戒――俗に八戒という戒めがあるのよな」

レッサー「西遊記の猪八戒さんが守ってる奴ですね」

鳴護「あ、だから八戒さん?」

レッサー「ですです。原作じゃ割と真面目なブッティストなんですよー」

建宮「まず基本となる五戒――殺すな、盗むな、色欲に溺れるな、嘘を吐くな、酒を飲むな」

建宮「加えて特定の時間に抱き合うな、食事をするな、豪華な寝具を使うな――で、八戒なのよ」

建宮「これ、どれだけの『聖職者』が守ってるのよな?」

上条「あー……まぁ、なぁ?」

シッャトアウラロープ「程度じゃないのか?堅持するのが難しいからこそ、戒めとされてるんだろうし」

建宮「袈裟の色と檀家の数で座る順番を変え、休みの日には高級外車を乗り回す連中が?」

建宮「実際、開祖である釈迦は妻帯して子も居たのに、全て捨てて修業の道へ入ったのよな」

建宮「それに比べて『真っ当』かどうかは知らんのよな」

建宮「……ま、本来、その土地土地の者が果たすべきだった役割を放棄し、今じゃ魔術や霊装すら知らない奴らか殆ど」

建宮「その分、『老舗』――所謂『お山』と呼ばれる所へ負担が行っているのよ」

レッサー「具体的に聞きたい所ですねぇ。やっぱり秘密なんで?」

建宮「おっとこれ以上は言えないのよな!」

建宮「高野山には裏高野、闇高野、元祖・高野、BB高野、高野幻想アリスマチックがあるなんて口が裂けても喋る訳には行かないのよ!」

レッサー「マジか……!?MANGAは本当にあったんですよねっ!」

ベイロープ「そんだけあったらバレるだろ。どんだけMt.KOUYA広いんだ」

上条「途中からもう高野関係ねぇよ、てかさ」

上条「神裂は確か、戦いの中で『自分を守ってくれた仲間が死ぬのが辛い』みたいな事言ってたけどさ、それ」

上条「お前達の『戦ってた相手』ってのは、一体――」

建宮「――『救われぬ者に救いの手を』」

建宮「それが我らの全てであるのよな、上条当麻」

建宮「この世界はお前さんが知らない所で、いつも誰かか何かと戦っているのよ。それは天草式だけじゃないのよな」

上条「……ヤバそうになったら、またぶん殴ってでも手伝いに行くぞ?」

建宮「二度も冤罪で殴られたくはないのよ、その時はこっちも本気出すのよな!」

レッサー「♂×♂の友情ってアリだし嫌いじゃ無いと思いますっ!!!」

上条「突然どうしたっ!?つーかむしろ野郎同士の間には友情しか芽生えない!」

建宮「五和に知られたら無言で撲殺されそうなのよ……」

レッサー「まぁそちらさん割かし末期ですけど、こっちもそんなにゃ変わりはないですよねぇ、はい」

レッサー「聖職者の幼児性愛スキャンダルに、バチカン銀行と揶揄されるマネロン用の地下銀行」

ベイロープ「年利6%で非課税だっけ?ただし数パーセントは『信仰のため』に使うの義務づけられてるって」

レッサー「何を以て『信仰』とするのかってぇ問題ですよねー」

フロリス「果てはマフィアとの癒着もおおっぴらに言われてるからねぇ」

建宮「どこの世界も世知辛いのよな。代わりにペイガニズムが台頭しているのよ、嘆かわしい話よ」

鳴護「ペイガニズム?」

シャットアウラ「古い信仰――ウィッカやドルイドなど、十字教じゃ異端とされた信仰の復活、だったか?」

建宮「いんや。黒髪のどう見ても日本人にしか見えないねーちゃん、それは違うのよな!」

シャットアウラ「おい、私の外見に文句があるんだったら話を聞こうか?なぁ?」

建宮「連中は『新興』宗教なのよな。所謂カルトと呼ばれる異端者なのよ」

上条「あれ?ウィッカ?は知らないけど、ドルイドってケルト系の、十字教以前の宗教だよな?」

レッサー「んーむむむむむむむ、どう説明したもんでしょうなぁ」

レッサー「あ、じゃいっその事結婚しましょうか?」

上条「あ、そっかー、そうすれば――ってバカ!?どこをどう超飛躍させればその結論になんだよ!?」

レッサー「上条さん上条さん、私こないだ日本へ行った時、”洞爺湖”って書いた木刀買ったんですよ!学園都市製の!」

鳴護「意外に流行りへ乗るよね、今思ったんだけど」

建宮「ちなみにそれ洞爺湖サミットで各国要人のSPが、土産物さんへ殺到してマジ買ってったのよな」

レッサー「空港のお土産物売り場には、他にもシンセングミ?のショールも売ってたんですが――」

レッサー「――もし私が”それっぽい格好したら、シンセングミになれる”んでしょうかね?」

上条「……はぁ?ガワだけ似せるのは出来るだろうけど、でも似てるだけでホンモノじゃねーだろ」

鳴護「歴史的には100年以上前になくなってる組織だしねぇ」

レッサー「それと同じですよ。『外見は似せる事が出来るが、本質は全く違う』存在です」

ベイロープ「言ってみればコスプレして”それっぽく”騒ごうってだけ。信仰の欠片もない宗教モドキよね」

フロリス「たーとーえーばードルイドなんか-、ウィッカーマンって-、儀式があるのさー」

フロリス「大きなヒトガタを造ってから、中へ生け贄を入れて燃やしちゃうの。ぼーっと」

上条「うわぁ……」

レッサー「引くかも知れませんけど、当時のドルイド僧や信者にとっては大真面目、つーか生け贄求めて戦争カマした記録もあるぐらいですよ」

ランシス「ケルトにとって、短い夏の到来を祝う大事なお祭り……」

ベイロープ「アメリカのおバカお祭りに『ファイヤーマン』ってのがあんのよ。デッカイ巨人作って、その周りでドラッグパーティ開くヤツ」

ベイロープ「フィナーレはその巨人に火を灯して盛り上がる――これが『ドルイド』だっつーんだから、鼻で嗤うわ」

建宮「元々『 Pagan(ペイガン)』ってのは”田舎者”や”異教者”を示す言葉だったのよな。十字教”系”から、それ以外を呼んだ蔑称」

ベイロープ「正確には『田舎者過ぎて十字教を崇める知恵がない』的なニュアンスね」

鳴護「ザビエルさん達も、そんな感じだったのかも?」

上条「どこの国も自分の国が世界の中心だって思うよなぁ」

シャットアウラ「今も居るがな――『アイツらは××だから理解出来ない』とか言う奴は」

建宮「にも関わらず、最近じゃ『ペイガン』が『復活させた異教の祭司』みたいな使われ方をしているのよな」

フロリス「而してその実体は、タダのヒッピーとアナキズムを煩った、社会不適合者の集まりなんだけどねー」

フロリス「日本でも『数百年の前の文明へ戻ろう!』とか言う人ら、居ない?あめ玉舐めてガン治しましょうっての」

上条「言われてみれば思い当たる点が……」

レッサー「文化自体をね、継承しようってぇ考えには共感出来るですよ。歴史的にも価値がありますからね」

レッサー「百歩譲って全然縁も縁もない民族が祭司……も、まぁ良いでしょう。信仰自体は自由ですからね」

ランシス「……でも、魔術師的にはない。てか遊びにしか思えない」

ランシス「彼らが連綿と信仰を続けてきた訳でもなく、祭祀の一部のみ、上っ面だけ……醜悪な模倣」

ランシス「信仰も無く儀式も間違い――そんな彼らに神が応える事は、ないの」

建宮「さっき言った新撰組も同じなのよな。幕末の動乱で敵味方粛正しまくった連中、彼らは彼ら以外に存在しないのよ」

レッサー「個人的な見解なんですが、もしも現代に彼らが復活したとしても、そう名乗る事はないでしょうね」

レッサー「一度終わってしまったもの、過ぎ去ってしまったものを偲ぶのは大切。けれど囚われるのは別」

レッサー「当時の思想を大事にして、現状を無視してまで同じ事を繰り返しても、それはただの人殺しですからねぇ」

ベイロープ「ま、別に剣を振るうだけが戦いって訳じゃ無いでしょうし、現代には現代の戦い方があるのだわ」

ベイロープ「……それしか出来ない、って不器用な奴もいるかも、だけど」

レッサー「ともあれ既存の宗教家、特に権威ある方々の劣化が激しくなったんでって」

レッサー「人は弱いですからねぇ。今までは信仰である程度カバー出来ていたのが、出来なくなるとバグを起こす。バッファでも足りてないんでしょうかね?」

レッサー「『古代の信仰の復活』へ”逃げ”たんでしょうな。現実と戦わず、戦えずに『理想のアレコレ』を造り上げて、そっちに縋る」

レッサー「笑っちゃいますよね-、あっはっはっはー!」

上条「笑えねぇよ、つーか痛々しいもの!」

建宮「かくしてどこの国でも宗教家の劣化で信仰離れが激しいのよな……少ない『本物』の負担は上がるばっかりなのよ」

シャットアウラ「……このまま行けば学園都市が何もせずに勝ちそうだな?」

シャットアウラ「残った側を『勝者』と呼べるのであれば、だが」

建宮「なぁに学園都市が出来てからたかだか半世紀。我ら天草式はその五倍も忍んだのよな!」

建宮「その程度で廃れる信仰であればそれもまた運命なのよ!」

ランシス「不思議だよねぇ。信仰の自由は大体の国家で認められてるのに、カミサマ離れが進むって」

レッサー「そう割り切れる方ばっかりなら良いんでしょうけどね」

ベイロープ「『オレ達がモテないのはアイツらが悪い』ってな具合に、一回は反学園都市運動起こされっちまってるし」

建宮「――最近、妙に霊障事件が起こるとは思わないのよ、少年」

建宮「都市伝説にしろ、心霊現象にしろ、神がかりな事件が多発している」

上条「都市伝説、つーかそれただのデマだろ?口コミで広がった無責任な噂話」

建宮「『それが本当だ』としたら、どうする?」

建宮「本来鎮護をすべき人間達が力を失い、異形のモノが氾濫していると、と言ったら?」

上条「んなっ!?大事じゃねぇか!」

建宮「――なーんつって!ってのは冗談なのよ!だーまさーれたーっ!」

上条「よし、取り敢えず建宮さんの幻想をぶち殺すか?あ?」

建宮「……でもま、俺は時々思うのよな。学園都市のような、ある意味科学万能の時代が来たって言うのによ」

建宮「科学の進歩と文明の成熟により人類の生活水準も、有史以来最高まで高まってるのよな」

建宮「だってのに『この虚しさはなんだ』と」

建宮「人が信仰を捨てる事は……ま、自由なのよな。神も仏も無い。そう断ずるのも勝手なのよ」

建宮「我らのように絶望して縋る者も居れば、棄てるの者も居る。むしろそちらの方が多いのかも知れんのよ」

建宮「また病や怪我に倒れたとしても、最先端医療やリハビリで大抵は治る」

建宮「不治の病と呼ばれたエイズであっても、今では正しく薬を投与する事で平均寿命程度まで寿命を延ばせる――しかし!」

建宮「未だ怪異は存在するのよ。人類にまとわりついた呪いのように」

建宮「『鰯の頭も信心』の、言葉があるようになんだって信心さえあれば、容易に克服出来る”筈”なのに」

建宮「どういう訳か怪異の噂話はネズミ算のように広まり、脅威が氾濫していく。それは――」

建宮「――『信仰』を人間が捨てる事によって、精神的に脆弱になってしまった証左じゃないのよ?」

建宮「人は闇を嫌い火を灯し、神を造って魔を打ち払ったのよな」

建宮「されど時代が進み、科学の進歩により神は時代後れとなった。その、顛末が『これ』かよ」

上条「納得行かないなぁ、それ」

レッサー「納得行く話の方が少ないですよ――ってどうしました、鳴護さん?」

鳴護「うーん……?思ったんですけど」

鳴護「『誰かに理解して欲しい』とか、『認めて欲しい』とか、切望する気持ちありますよね?」

レッサー「あー、自己顕示欲ですか?フリッフリの衣装着て踊るアイドルさん程じゃないでしょうが、皆さんお持ちでしょうな」

鳴護「違うの!?あたしは別にシンガーソングライター枠で応募した筈なの!」

鳴護「気がついたら、『あ、お洋服こっちの方が似合うわよ?』って言葉巧みに!どくろラビットの先輩さんみたいな衣装を着てたの!」

ベイロープ「……なんだろ、これ。この子見てるとレッサーと同じような目眩を感じるっていうか」

フロリス「あー、わかるわかる。なんなかチョロそうって感じだ」

建宮「悪い奴に『デビューさせて上げるから、分かってるよね?』とか騙されそうで怖いのよ」

上条「……もしかしてレディリーって悪いのは悪いけど、最悪っつー訳でもなかったんじゃ?」

シャットアウラ「一応夢自体は叶えているし、遺産関係も配分されるようになっていたからな」

シャットアウラ「――ま、なんであろうと落とし前はつけるが」

鳴護「……そうじゃなくって!その、なんて言うかな、孤独な人、結構多いよね?」

鳴護「普通に暮らしてるだけなのに、何か不安で不安でたまらないー、みたいな人」

上条「誰だって大なり小なりそうなんじゃねぇの?学校に職場、友人関係や上下関係」

上条「生活レベルが上がったからって、考える事自体はそんなには変わんないだろ」

鳴護「昔の人はさ。神様が見てるから真面目にしようーとか、神様が突いてるから大丈夫だよー、とかして頑張ってきたんだよね?」

建宮「ま、端的に言えばそういう話なのよ」

鳴護「でも今、神様を信じる人は少なくなってるかな?」

鳴護「その、昔々にあった『本物』とは違うけど、間違ったとしても動機自体は同じだと思うんだよ」

鳴護「『誰かに助けて貰いたいよ!』、『私をもっと見て欲しいなっ!』って感じで」

シャットアウラ「……アリサ、やっぱり超可愛いな」

上条「話違うよな?んな話してなかったよな?」

シャットアウラ「既存の信仰は減っては居るが、全体としてはそう変わっていない、か?」

鳴護「あと、人が信じるのは友達とか家族とかもそうだし、そこら辺は変わらない――変わって欲しくないなぁ、って思います、はい」

レッサー「……」

ランシス「……どったの?両手で顔を塞いで……?」

レッサー「まぶしくて」

ランシス「あー……」

レッサー「『次はどうボケようか?』とずっとずっと考えていた私は恥ずかしい!」

上条「やっぱそうだったのかコノヤロー」

ベイロープ「……真面目にやれ、真面目に?一応あなたは看板なんだから」

レッサー「何でですかっ!?つーかゲームバランス悪すぎでしょうが!」

レッサー「天然!ぽわぽわ!歌上手い!可憐!着やせ!属性揃いすぎじゃないですかねっ!?」

上条「属性言うな」

鳴護「うぇ?あたし天然じゃない、けど?」

レッサー「ホォラ見なさい!アレが天然のテンプレですよ!どうしろっつーんですか!どう戦えば良いんですか!」

レッサー「明らかにヨゴレの私には分が悪すぎやしませんかねっ神様!」

上条「自覚はあったんかい」

レッサー「確かに歌以外は私といい勝負ですけども!」

上条「待てやコラ?いつ誰がお前に可憐っつったんだ?あぁ?」

レッサー「こないだ駅前でタベっていたらですね、知らない男の人が近づいてきまして」

上条「待てよ!?これ完全にしょーもない小話へ行く方向じゃねーか!」

レッサー「『やぁKaren、どうしたんだいこんな所で?』」

上条「やっぱり可憐違いだよ!てかオチは読めてた!」

レッサー「……くっ!可愛い私がナンパされたという話をちょい盛って、嫉妬を煽らせる作戦だったのに……!」

建宮「ちなみに盛らないと?」

ランシス「『マックでご飯食べてから、本屋回って帰った』、だけ……」

上条「ナンパされたという事自体が盛りか!?」

レッサー「まぁ事実を捏造してまで気に引きたい、的なポジティブな評価をお願いしますよ」

フロリス「うーん、まぁ、頑張りたまえよ。てか、そこまでする価値無いと思うけど、コレに」

上条「コレ言うなよ!俺が一番分かってんだからな!」

レッサー「フロリスの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!」

レッサー「折角人が”鬼 悪魔”と検索したら、『もしかして;高千穂?』ってなるようコッソリ広めてたのに!」

レッサー「何バラしてんですか!しまいにゃ怒りますよ自称17歳のオッサンどもめ!」

上条「お前は誰と戦っているんだ。てか誰?」

レッサー「落選したのに国会議員気取りの家事手伝いさんへ」

レッサー「『お前は自分を有能だって言うけど、お前は失言カマした元大臣より比例順位低いし、何よりも有権者から一番無能だって審判受けてんだよ』と宣ったり」

レッサー「他にも『労働者の党なのに党首が一回も労働経験無しって何?党役員が労働だって言い張るんなら、無償で新聞配達する人らにも報酬支払え』と言い放つ猛者です」

ランシス「ブラックなのかレッドなのか、いい加減はっきりさせるべき……」

レッサー「例えるなら――そうっ!空を駆ける一筋の流れ星!」

ランシス「るぱんざさーっ……」

上条「収集つかねぇよ!?ボケる時はツッコミの負担も考えてあげて!」

建宮「――と、ここで休憩を入れるのよな。そっちの嬢ちゃんはクールダウンするのよ」

ベイロープ「オーケー、レッサー顔洗ってきなさい」

フロリス「レッサー、ハウスっ!」

レッサー「わふーっ!」

上条「全然堪えてない!?」

レッサー「ネタを振られたら反射的に体が動く……!?」

ランシス「……それ、ただの芸人気質」

上条「俺ら、深夜の病棟で思いっきり騒いでんだけど、いいんかな?」

シャットアウラ「そこら辺も含めて『特別待遇』なんだろう」

上条「てか気になってたんだけど、さ」

シャットアウラ「警備体制はそれなりだ。フランス当局から派遣されている軍人がツーチームで常時待機」

シャットアウラ「後は『たまたま同じ病院に検査入院している』私の部下達が6人程」

建宮「丸腰なのよ?」

シャットアウラ「当然だ。私達はゲストなのだから。無理が効く訳が無い――ものの」

シャットアウラ「仮にテロリストと接敵した場合、『相手の武器を奪って反撃』するのは自衛の内、という事で話がついている」

シャットアウラ「テロリスト達は『そんな武器持ち込んでいない』と言うかも知れないな――開く口が残っていれば、だが」

建宮「中々腹芸が得意なのよ」

上条「あぁいや、そっちは別に心配してねーんだけど。アリサの方で」

鳴護「なになに?何でも答えるよ?」

シャットアウラ「……チッ」

上条「せめてちょっとぐらい隠そう?今一応味方って設定なんだから」

鳴護「まぁまぁお姉ちゃんも、ね?」

上条「あー……さっきの話聞いてて思ったんだけどさ。アリサはアイドルになりたかったんだよな?昔っから?

鳴護「アイドル路線があたしの夢、みたいなのはちょっとアレだけど……うん、まぁ、そうだよ?それが?」

上条「うーん、まぁ大した事じゃ無いんだけど、どうしてアイドルになりたいのかなって思ってさ」

鳴護「……あー……」

上条「あ、ごめん。何か言いにくい事だったのか!?」

鳴護「って訳でもないんだけど、うーん……」

鳴護「願掛けって、口に出すと叶わないって言うよね?」

上条「あーはいはい!まだ叶ってないのな、そかそか、そりゃ悪かった」

鳴護「今もね、ある意味叶っちゃったようなものだけど」

上条(そう言ってアリサはシャットアウラを見る)

上条(シャットアウラが叶えた?)

鳴護「……当麻君がなってくれるんだったら、話しちゃってもいいかなー、なんて思ったり。思わなかったり?」

上条「どっちだよ」

鳴護「……まぁ、一番叶えたかったお願いは――」

鳴護「――もう、叶わないんだけど、ね」

――深夜の病棟 廊下

上条「……」

上条(病院って所はつくづく殺風景だと思う)

上条(入院が慣れてる――って誉められた話じゃないが――俺でも、やっぱり違和感が拭いきれない)

上条(昼間とも違い、また夜とも違って、照明の多くは必要最低限を残して消してしまっていた)

上条(目立つのは非常灯の灯り。それが無機質に白い壁を橙色に染め上げていた)

上条(つい最近、夜の学校や病院へ忍び込み時にも感じた。なんて言ったらいいのか、こう、アレだよ)

上条(普段騒がしい所から急に静かになったような?形容しがたい澄んだ空気ではある)

上条(とは言っても自然に囲まれた清々しさはなく、病的なまでに異物が排除した感じ)

上条「……」

上条(カエル先生に聞いた事がある。「どうして夜は照明を落としてのしまうのか?」と)

上条(……まぁ「予算削減」みたいな答えが返ってくると思ったんだが、意外にも俺の予想は外れた)

上条(『患者の中にはずっとここで暮らしている人が居るね?何ヶ月も、下手をすれば何年も』)

上条(『昼夜を問わず、衰えない照明を点けたままだったら、体内時間が乱れてしまうね?』、だそうだ)

上条(だからこうやって光量をギリギリまで落としている……例えるならば、そうだな)

上条(街中のスクランブル交差点。大抵は人で一杯のそこを、夜何気なく通りかかったとしよう)

上条(人影も無く、信号機が黄色く点滅しているのが、どこか物悲しい)

上条(……いつだっけかな?黄泉川先生に車で送って貰った時、見た光景)

上条(檻に入ってない猛犬と狂犬、あとライオンと同乗していた……?まぁ、いいか)

上条(人は居ないのに、人のために造った何かが黙々と動いているみたいな?)

上条(……不安?違和感?焦燥感?)

上条(どれでもなく、どれにも近い……強いて言えば感傷、か)

上条(寂しいような、悲しいような、何とも表現しにくい)

上条「……」

上条(……旅に出てからのアリサは、少し変だ)

上条(頭のアレな連中に狙われてるんだから、当然と言えば当然だけどさ)

上条(慣れてない海外で緊張しているせいもあるんだろう。けど、それにしては)

上条(テンションの上下が激しいって言うかな?うーん……?)

上条(こんな時、土御門や青ピだったら、適当に遊びに行けばどうにかなるんだろうけど)

上条(アリサを同じような扱いにするのは……マズい、んだよな。きっと)

上条(そうなってくると頼みの綱はレッサー達……)

上条(あぁ見えてレッサーは気ぃ遣いだし、少なくとも俺よりかは上手くやってくれそうな――)

上条「……」

上条(だ、大丈夫だよ!ベイロープとかも居るしっ!)

上条(俺に出来る事っつたらメシ作るのと『連中』の露払いか)

上条(建宮の話はまだ途中だけど。それなりの光明も見えてきた。一方的に振り回されずに済みそうだ、ってのはデカい)

上条(四幹部っつったっけ?アルフレドにクリストフ、安曇に団長)

上条(向こうの居所さえ掴めれば、政府公認で魔術師の討伐隊が動くって言うし)

上条(次行くイタリアはローマ正教のお膝元。ヴェント達が守ってくれ――)

上条「……」

上条(――る、かどうかはまだ分からないけど!少なくとも連中にとっては難敵なのは間近いない!)

上条(そもそも連中が一番力を入れていた”最初の一撃”――存在を気取られぬようにしながら、最大戦力で不意打ちするのは凌いだ)

上条(現地の機関も敵対者ありきで守ってくれるし、あの規模で仕掛けられるのはまず不可能……)

上条(……なんだ。そう考えると怖くもないか。そんなには)

上条(逆に言えばユーロトンネルがどれだけ薄氷踏んでたか、って事になるが。まぁいいや)

上条(さってと。あんま遅れない内にコーヒー買って戻ろう)

上条(あ、全員分買った方が……いや、深夜だし。あと数時間で夜が明けるっつーの)

上条「……?」

上条(……つーかさ、俺今思ったんだけど。てかスッゲー根本的な話なんだが)

上条(外国って、自販機あったっけ……?)

上条(病院が舞台のアメリカのドラマじゃ、紙コップのコーヒー自販機が出てたけど)

上条(よく分かんないけど、ロビーの方に行けば何とかなる、か?)

上条(このまま戻るのも、何か格好悪いし)

上条「……」

上条「……ロビー、ってどっちだっけ?」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(パンプスの音……あ、誰か居るな?白衣?病院のスタッフだよね?)

看護婦「……」

上条「あ、すいませーん?ちょっと聞きたいんですけど」

上条「コーヒーの自販機って、どこにありますかね?」

看護婦 スッ

上条「あっち?どうも、ありがとうございましたっ」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(良かったー、日本語が通じる人が居て。つーか言ってみるもんだな。うん)

上条(……あ、そか。プレインストールした翻訳アプリ使えば良かったんだ――)

上条(――って、病院だから鞄の中に電源切って、カバンに入れっぱなしだっけ?普段からあんま使わないしなー)

上条「……うん?」

上条(そういや今の看護婦さん、どうしたんだろうな?)

上条(なんで”顔全体を包帯でぐるぐる巻きにして”たんだ?怪我?病気?)

上条「……」

上条(……いやいや、違う違う!そうだよ!アレだって!ドッキリ的な!)

上条(まっさか深夜の病院でだよ?そんなベッタベタなオバ――いやなんでもない!それっぽいのが出る訳が無いって!)

上条(だって居ないの分かってるし?つーか子供じゃないんだから、そんなにビビる必要は――)

………………

上条「……うん……?」

上条(俺とすれ違った看護婦さんの向かった先、つーか方向からすれば真後ろ)

上条(遠ざかった足音が消えたのと引き替えに、何か、別の、音が聞こえる……?)

………………キュル………………

上条「……車輪……?」

上条(おかしな、音だ。三輪車を回しているような感じ)

上条(まさか深夜の病院に三輪車が、っていうか子供がキュルキュル漕いでる筈が無い)

……キュルキュル…………キュル………………

上条「……?」

上条(遠くの非常灯に映し出されたのは、当然三輪車ではなく。もっと病院に相応しい)

上条(車椅子、だった)

上条「……驚かせんなよ」

上条(だよなぁ。病院だもんな?ド深夜に三輪車乗ってる子供が居たら怖いよな)

上条(……ま、入院患者の誰かなんだろうけど、)

……キュルキュルキュルキュル……キュルキュルキュル……

上条「……あれ?」

上条(確かにあってもいい、ってかむしろ車椅子は病院にピッタリだ)

上条(勿論、席には人が座ってる。無人だったってオチもない。けど――)

上条(――どうして『搭乗者の両手が動いていない』んだろう?)

上条(この廊下には別段キツい傾斜がある訳でもなく、ビー玉を落としたら直ぐに止まりそうだ)

上条(慣性――おばちゃんが自転車に乗る時、何か二・三回漕いでから乗るのってあるよな?)

上条(アレみたいに、勢いがついている――に、しては速すぎる!)

上条(人が軽く走る程のスピードで!車椅子はこっちへ向かってきていた!)

上条「お、おい、これってまさか――」

上条(”ホンモノ”の幽れ――)

フロリス「モモンガーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

上条「のわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

フロリス「……」

上条「………………え?」

フロリス「……」

上条「フロリス……?なんでお前車椅子に乗っ」

フロリス「………………ぷっ」

上条「あ、テメっ!?騙しやがったな!?」

フロリス「ぷ、くくくくくくくくくくくくっ!やったよ!大成功!」

フロリス「『のわーーーーっ』だって!『のわーーーっ』って」

上条「テメこらやって良い事と悪い事があんだろうが!?本気で『濁音協会』かと思ってビビったんだからな!?」

フロリス「いやぁ?今のリアクションは違ーくない?ないない?アレでしょ?」

フロリス「『深夜の病院でオバケに出会った』ってぇ反応じゃない?ね?ねぇ?違う?」

上条「だってしょうがないじゃない!誰だって驚くさ!」

上条「つーかお前どうやってんの?助走つけて車椅子走らせたにしちゃ速いんだけどさ」

フロリス「ん?ワタシの霊装見せなかったっけ?これこれ」

上条「肩んトコに翼の……?」

フロリス「座ったまま『金の鶏冠(グリンカムビ)』をパタパタと」

上条「……お前、霊装まで使って脅かしに来るって魔術師としてどうよ?」

フロリス「異能者はイタズラで能力使わないのかにゃー?」

上条「あー……使いますねー。むしろそっちがメインなんじゃねぇの?的な頻度で使いますよねー」

上条「てかフロリスの貸しは利子つけて払ったじゃねぇか!だってのにこの仕打ちはなんだよっ!蹴られ損か!?」

フロリス「それはそれ、これはこれ」

上条「出たよ!それ母さんがよく使う台詞だよ!」

フロリス「あと”さん”をつけろよジャパニーズ」

上条「……で、なに?フロリス”さん”は俺のSAN値をゴリゴリ削るために着いてきたの?暇だねー?」

フロリス「なーんか言葉にトゲがあるなぁ?折角ワタシが親切で来てやったってのに」

上条「イギリスじゃ人様をドッキリさせるのが親切かあぁコラ!?」

フロリス「逆ギレよくないと思いまーす」

上条「正統な怒りだよ!レッサーといいお前といい、どっかズレてませんかねぇっ!?」

フロリス「ちゅーか、ここでどったのジャパニーズ?トイレはあっちだよ?」

上条「……いや、ここで素のテンションに戻られてもアレなんだが」

上条「何か喉渇いちゃってさ。コーヒーでも飲もうかと」

フロリス「おっ、いいねぇ。付き合おう」

上条「帰れよ!俺の心の平穏のために帰ってくれよ!?」

フロリス「あっちゃー、そんなに邪険にしなくってもいいじゃんか。ワタシかなんかしたっけ?」

上条「文書と口頭どっちがいい?俺的には裁判所もアリだと思いますけどねっ!」

フロリス「ノーサンキューで。つーか興味ないし」

上条「待てコラテメー!あんな包帯ナースまで用意しやがって!」

上条「どう考えても事前に用意してなっきゃ無理だろうがよ!」

フロリス「あーはー?ナースぅ?」

上条「そうだよ!お前が来た方に行った人だ!」

フロリス「知らない。ナニソレ?」

上条「……え?マジで?」

フロリス「マジでマジで、うん」

上条「冗談だよね?実は知ってましたー、ってオチなんだよね?」

フロリス「つーかワタシ誰ともすれ違わなかったし。それこそ『ホンモノ』にでもあったんじゃなーい?」

上条「……」

フロリス「……」

上条「あのぅ、フロリスさん?ちょ、ちょっとお願いがあるんですけどね?」

上条「いやあの、俺達って不幸な出会いをしたじゃないですか?まぁ、ある意味時代が生んだ悲劇って言うか、運命の悪戯的な?」

フロリス「うん、それで?」

上条「ですからね、俺としてもいい加減仲直り的なアレですね、した方が良いんじゃないかって思いましてね」

フロリス「頭が高いぞジャパニーズ!人にモノを頼む時には態度ってモンがあるよねぇ?」

上条「自販機まで付き合って下さい!お願いしますっ!」

フロリス「Pardon, Aha?(もっかい言ってみ、あん?)」

上条「実は最初っから思ってました!フロリスさんって優しくて美人で気立ても良い娘だなぁって!」

フロリス「そこまで卑屈になられると、ちょっと引くけど……」

上条「そこをなんとか!俺一人じゃ厳しいですから!」

フロリス「てかそこまでしてコーヒー飲む意欲はナニ?シールでも集めてんの?」

上条「映画とかの定番でさ。ここで『……なんかアレだし、戻ろっか?』とか言う奴が真っ先にヤラれるからだよ!定番じゃねぇか!」

フロリス「あるけど。映画じゃないしリアルだし、やれやれ」

上条「みてーなモンだろうが!伊達に列車でパニック映画ゴッコしてねぇよ!」

フロリス「シチュ的には定番だーよねぇ。てかビビりすぎだって」

フロリス「天草式の人やこっちの人らが警備してんだから、そうそう心配しなくってもさー」

フロリス「……や、まっいっか。病室で話聞くのもダルいし、サボリに付き合ってあげようじゃないか、んー?」

上条「俺は別にサボるつもりはないんだが」

フロリス「二人ぐらい居なくっても、別に良いっしょ?ほら早く行こう、さっさと行こう!」 キュルキュルキュキュル

上条「……車椅子は置いてきなさい。つーかどっから持ってきたんだ、それ」

フロリス「廊下の真ん中にポツンって。あ、邪魔だから脇に寄せとこうか」

上条「……ふーん……?」

――六人病室

建宮「その中、有力な一派に『安曇氏族(クラン・ディープス)』がある」

建宮「『安曇氏』とは古事記や日本書紀にも名を残す古参中の古参。由緒正しい氏族なのよ」

レッサー「せんせー!質問です!」

建宮「なんなのよな?」

レッサー「上条さんとフロリスさんが居ませんっ!あんチキショウは抜け駆けしてどこへ行ったんですか!」

ベイロープ「自分を基準に物事を考えるな」

建宮「つーか我らも暇じゃないのよな。この後日本へ戻って『安曇氏族』から直接話を聞いてくるのよ」

建宮「五和がアポ取りへ行ってるとはいえ、一介の魔術師がホイホイ話を聞けるような相手じゃないのよな」

シャットアウラ「アズミ?それは敵の名前じゃないのか?」

建宮「いんや、彼らは極々普通の連中――というか、ちょい待つのよな」 ゴソゴソ

建宮「ある筋から聞いた話なのよ」

鳴護「メモ帳?……あ、この印刷したみたいな字、インデックスさんの」

建宮「消息筋から聞いた話によると!この一族は日本全国に散らばっているのよ!」

建宮「その証拠に、彼らが根を下ろした地方には『アズミ』の名が多く冠されているよな!」

鳴護「メモには……えぇと」

鳴護「安曇、安住、安積、阿曇、飽海、熱海……最後関係なくないかな?」

建宮「滋賀には『安曇』と書いて『あど』と呼ばせる所もあるのよ」

レッサー「滋賀……大きな湖がある所ですね。『水』関係と」

建宮「一番有名なのは長野県の安曇平(あずみだいら)よな。安曇氏族は阿墨氏を氏とする一族なのよ」

シッャトアウラ「ウジ?」

建宮「祖先、先祖、氏神。つまりは『阿曇磯良(あずみのいそら)』という地祇(くにつかみ)がルーツの一族なのよ」

レッサー「あー、一杯いますもんねー日本の神様。そりゃ子孫も居るってぇ話ですか」

建宮「安曇氏族は『海洋民族』だと言われているのよ」

建宮「福岡辺りを中心に活動した海の民。彼らは海洋活動に長け、高い操船・造船技術を持ってたのよな」

ベイロープ「海洋技術って事は、アレ?ミクロネシア辺りからの流入?」

建宮「DNA的にはそっちとされているのよな」

シャットアウラ「お前らがそれを言うのか……?」

鳴護「ま、まぁまぁ。科学で分かる所もあるし、ね?」

建宮「時代が下る連れ彼らは次第に姿を消す。具体的には日本と同化していったのよな」

建宮「そうして彼らが移り住んだ先へ自らの氏族名をつけた、とされているのよ」

レッサー「にゃーるほど。それで日本列島各地に名前が残ってんですな」

鳴護「あのー、先生?」

建宮「おっと現役アイドルにそう呼ばれると興――すいません言いませんからその物騒なものを下ろすのよ!?」

シャットアウラ「二度目はないぞ?いいな?」

レッサー「聞きましたかっ建宮さん!二度目はないんですって、二度目は!」

レッサー「だから絶対フザケちゃいませんからね?絶対ですから!絶対ですよ!?」

建宮「……ぬぅ、見事な、『押すなよ!絶対に押すんじゃないぞ!?』って前振りなのよな!」

建宮「これに答えずして何が天草式、何が教皇代理なのよ……っ!」

鳴護「いやあの、そういうの別にいいんで疑問なんですけど」

建宮「うん?」

鳴護「その、安曇さん達って海の人達なんですよね?船で移動してたり、航海技術が得意な人達」

建宮「と、言われているのよな」

鳴護「長野県の安曇地方って、陸の真ん中ですよね?富士山に近いっていうか、結構な高地だったような?」

鳴護「だったら、どうやって移動したのかなって」

建宮「――それは”川”だと言われているのよ」

シャットアウラ「船で遡ったと?」

建宮「長野には木曽川ってデカい川があるよな。そこを遡って行ったと考えられているのよ」

建宮「その証拠に安曇平にある諏訪大社、熊野神社、穂高神社には『お船祭り』という祭祀が執り行わせるのよな」

鳴護「船、なんですか?」

建宮「そうよ!大体は『近くの川から豊穣をもたらすように!』との願いを込められているのよな!」

レッサー「川ですか?日本はコメの民族じゃなかったでしたっけ?」

ベイロープ「古代農法でも米の栽培には水が必要でしょうが。てか勉強しなさいよ」

レッサー「ぶーぶー、いっくら何でも私らが極東の魔術師とかち合うなんて、有り得ないでしょう?」

建宮「全くその通りなのよな!By天草式、inロンドン!」

レッサー「……あのぅ、ベイロープさん?戻ったら、お勧めの本願い出来ませんかねぇ?よかったらでいいんですけど」

ベイロープ「先生に頼め、先生に」

レッサー「いやでも最近ボケが進行してるらしくてですね。こないだなんか、たこ焼きと明石焼き間違って食べてましたっけ」

建宮「それ、日本人も結構間違うのよな。てか俺は分からんのよ」

鳴護「レッサーさん達の先生、凄く気になるよねっ」

ランシス「んー……癒やし系……?」

シャットアウラ「おい、ツッコミが一人居ないだけで脱線しまくってるんだが」

シャットアウラ「……そうか。安曇氏族が持っていたのには、航行技術だけじゃなく治水スキルもあったのか」

建宮「だから外様であっても現地の住人から歓迎され、名前も残せたのよな」

レッサー「今と違って、キャベツキャベツ騒げば人権派弁護士に守って貰える訳じゃないですからねぇ」

レッサー「そりゃ技術の一つでも無い限り、自分達が有用だって示さないと安心して定住は出来ないでしょうね」

建宮「繰り返すのよ。安曇氏族自体は極めて古い一族であり、国のまほろばにも顔を出す程の有力な一派なのよ」

建宮「しかも移住した先で名を残す程、異物粛正上等の古代であっても『共存』を尊しとした連中なのよな」

建宮「興味がある奴は馬食文化を調べてみると良いのよな。大抵その風習が残っている地域には、『アズミ』と呼ばれた何かがあるのよ」

建宮「黒髪の嬢ちゃんよ。そこいら辺が知りたいんだったら中山太郎先生の『日本巫女史』辺りを読むのよな」

建宮「……ただ、素行がアレな人物だったので、主流派からは嫌われているお人なのよ」

レッサー「こりゃご親切にどーもです――ともあれ!」

レッサー「話を聞くに割と真っ当そうな方々ですな。少なくとも――『表』は」

建宮「『裏』もそう変わりは無いのよな。『安曇氏族(クラン・ディープス)』として全国津々浦々にネットワークを持ち、影響力も深い」

建宮「……が、時として多様性は異端を産んでしまうのよな」

シャットアウラ「種の多様性とはそういうものだ」

シャットアウラ「鼻の短い一族の中に、ある時鼻の長い個体が産まれる」

シャットアウラ「鼻が長い個体は他よりも生存競争で有利であれば、次第に数を増やし」

シャットアウラ「最後に群れは鼻の長いゾウだけになる。それが淘汰だ」

ランシス「……平和な国にシリアルキラーが生まれてしまうのも、その一例……」

建宮「――そう、安曇阿阪は」

建宮「ヌルい日本の魔術界が産んだ『鬼子』なのよ」

――深夜病棟 ロビー

上条「ってあったあった自販機。つーか缶じゃないな?紙コップがポコンって降りてくるタイプ」

フロリス「LEDライトも点いてるし、売ってるみたいだね」

上条「ん、まぁこういう所は誰かが起きてなくちゃいけないだろうから、その人ら向けなんじゃねぇの」

フロリス「ウチの国じゃ新聞のVending machine――ジハンキ、もあるよ」

上条「へー?それはちっと見てみたい。日本にも雑誌――つーか、まぁ、特殊な本の自販機はあるけど」

フロリス「ショッボいけどね。んーと、まずお金を入れるじゃない?カチャンカチャンって」

フロリス「一定額貯まったらパカって開いて、そっから新聞を引き抜く仕組み」

上条「Autoの概念どこ行った!?ほぼ手動じゃねぇかよ!」

フロリス「言ったじゃんか。ショボいって」

上条「買う人居るんか……?」

フロリス「見た事無い」

上条「だっよなぁ。日本でもオッサンがエロ記事目当てで買ってる感じするもんなー」

フロリス「マジ?日本でもそうなの?」

上条「スポーツ紙は、まぁ。てかイギリスにもある方が驚きだな」

フロリス「”The SUN”って日刊タブロイド紙にトップレスのおねーちゃん日替わりで載ってる」

フロリス「しっかもあれ、英語で出る日刊誌だと発行部数最大らしくてさぁ」

上条「日本のHENTAIにもまだまだ敵があるって事か……!」

フロリス「誇るな。むしろ恥じなよ」

上条「……」

フロリス「……どったん?サイフ落とした?」

上条「あの、何書いてあるか、ですね?」

フロリス「英語でも書いてるのに!?てか準備しないにも程があるだろジャパニーズ!」

上条「いえ、あの、種類ぐらいだったらまぁ、分かるんだけど。ここの、これあるじゃん?」

フロリス「この☆印?」

上条「☆×1とか☆×5まであるんだけど、これ何?最大五個出て来んの?それとも豪華って意味?」

フロリス「バッカだなぁ、そんな訳ないじゃんか。これ砂糖の数だってば」

上条「マジで?てか最大五倍ってどういう事だよ」

フロリス「あぁフツーのが☆3、無糖が☆1、砂糖アリアリが☆5ってコト」

上条「成程成程。アメリカみたいにやったら甘い訳じゃないのね」

フロリス「まぁ試してみなよ。くっくっく……」

上条「フロリスさん?お前なんか企んでるよね?リアクションがもう、振ってるもんね?」

フロリス「いやマジで☆5はオオスメだって。騙されたと思って、ミルクアリアリで」

上条「……悪い意味でフラグっぽい気がするが……まぁ試しに」 ピッ

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……どれどれ、ってお前何勝手に――」 タシッ

フロリス ゴクゴクゴクゴク

上条「ってお前が飲むんかい!?」

フロリス「……あ、意外と美味しいかも、☆5つ」

上条「やっぱりお前もぶっつけ本番じゃねぇか!てか知らないのに堂々としやがって!」

フロリス「まぁまぁ、奢ってあげるからさ」 ピッ

上条「……なんだろうな、こう?納得行かねっつーか、何かおちょくられてるっつーか」

上条「てか君お金入れてないって事は、今から出るのも俺のお釣りであってだね」

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……んじゃ、頂きます……」

フロリス「どーそ……どう?」

上条「……美味いな、超甘いけど。何かコーヒーじゃなくってカフェオレになってる」

フロリス「昼間あんだけ騒いだからねぇ。染みるっしょ?ん?」

上条「あー……まぁ、疲れた時には甘いモン欲しくなるけど」

フロリス「それともアレか。『男だったら黙ってブラック!』気取りか!」

上条「ん?あぁいや別にンなこだわりはないなぁ。男だろうが女だろうが、好きなものは好きで良いだろ」

フロリス「レッサー居たら大喜びしそうな台詞だーよねぇ」

上条「コーヒーに牛乳入れた方が美味く飲めるんだったら、そうすりゃいいし」

フロリス「へー?ちょっと見直したかも」

上条「なんで?飲み方一人で印象変わるって、お前ん中で俺の評価はどんだけ低かったの?」

フロリス「いやぁ、ジャパニーズの特性から考えると、またヘラヘラ笑って同調しとけ、みたいな感じかなーって」

上条「オイオイ日本人だって真剣になる時はなるぞ?」

フロリス「例えば?具体的にプリーズ?」

上条「そうだな……メシの時、とか?」

フロリス「あ、それ聞いた事ある!どんだけ悪口言ってもキレなかったのが、ついにキレたのって食べ物だって話!」

フロリス「都市伝説じゃなかったかー、そっかそか」

上条「他には……まぁ、食い物、か?」

フロリス「言ったよねぇ?それ今言ったばっかだよね?つーかナメんての?」

上条「知らねぇよ!てかそんなにキレねぇだろ、普通は!」

フロリス「ロシア人のジョークで、こんなのがあってだね」

フロリス「『ロシア人同士が自分トコの首相の文句を言っていたので便乗したら、「ロシアをバカにするな!」ってキレられた』――」

フロリス「――的な逸話とかないの?」

上条「俺ロシア人じゃないけど、どこの国だって余所の連中が詳しい事情も知らずに批判してたら、普通は良い気分じゃなくね?」

上条「てかレッサー辺り、ボッコボコにしそう」

フロリス「あー、そう見える?んまぁレッサーは誤解されやすいかんねー、仕方が無いけど」

フロリス「でも多分、『国家』じゃなくって『政治家』だったら別になんも言わないよ」

フロリス「むしろ肩組んで盛り上がると思うなぁ」

上条「レッサーがキレる所って想像つかないんだけど、どんな感じになんの?」

フロリス「笑顔でキレる」

上条「あー……それ、日本人と似てるかも」

フロリス「そなの?」

上条「俺らって大抵、まぁ大人しいじゃん?良くも悪くも引いてるっつーか」

上条「嫌な事されても、大体困った笑顔なんだけど――それが一定のレベル過ぎると、『笑顔でお断り』するんだ」

フロリス「あっそ」

上条「あ、すまん。興味ないか」

フロリス「んー……むむむむむむむ」

上条「……どったの?紙コップの中に溶け残った砂糖の塊でもあった?」

フロリス「いゃぁそんなんじゃないだけど、妙にイラついててさ。こう」

フロリス「もっかい蹴って良いかな?」

上条「嫌に決まってんだろうが!?てかそれで『あ、どうぞどうぞ?』って言い出す奴はどっか壊れてるぞ!」

フロリス「なんてーかなー……うん、よくわっかんないんだけど、こないだの件あるじゃんか?『ハロウィン』の」

上条「いやだから、それも謝ってんでしょうが」

フロリス「分かってるし。そうじゃなくって、つーか、んー……?」

上条「どうした?お前ホントにおかしいぞ?」

フロリス「あ、いやホラ。ワタシ、どんな風に見える?どんな感じに見える?」

上条「……質問に質問で返されまくってんだが」

フロリス「マジで答えて」

上条「あー、うん。まぁ、そうだな。言えっつーんだったら、言うが」

上条「どっちかっつーと、綺麗系だよな」

フロリス「――へ?」

上条「クラスの一人ぐらい居るじゃん、綺麗なんだけど鼻にかけないで、あんまツルむのも好きじゃないっぽい子」

上条「別に女子からハブられる訳じゃないんだけど、なんか、こう孤立してる感じの」

上条「でも何か俺達がサッカーとかゲームとか、その子の好きそうな話してたら混ざってくる感じでさ」

上条「……で、自分の容姿とかにも、あんま興味ない感じだから。距離感とかも無造作?無頓着?」

上条「卒業して何年か経って、『あ、そういや俺、あの子好きだったかも?』って思い出すの」

フロリス「妙に具体的だなっ!?」

上条「ベイロープまで行っちまうと『無理めの美人』って感じだけど、フロリスさんだと、まぁ『ちょい無理めの不思議系』?」

フロリス「どっちにしろ無理ジャンか」

上条「ごめんなさいねっ!だって俺彼女居た事ありませんしぃっ!」

フロリス「ちゅーか、意外だなぁ。似たような事レッサーにも言われたよ」

上条「総評として『外見は良いんだが、どっから話を持っていったら分からない系』じゃね?」

フロリス「そのナンパ師みたいな言い方はどうかと思うんだけどさ……まぁ、大体合ってるっちゃ合ってる、かも?」

上条「つか俺何恥ずかしい事言ってんだよ!?」

フロリス「もっと速く気づきなよ。こっちは『え、遠回しにコクられてんの!?』ってドキドキなんだから」

上条「いやごめん、そういうつもりは今んとこはないって言うか」

フロリス「おい。そこは笑顔で肯定すんの流れじゃないのか、あ?空気読めよ、ったく」

上条「お前は俺のキャラをどうしたいんだ……で?俺に人物評価させて何がしたかったの?」

フロリス「いや、何ってワケじゃないんだけどさ。まぁ大体合ってるし、つーか別に拘る事なんて少なくない?」

フロリス「遊びたくなったら、遊ぶ相手を探せばいーし。そのために普段からツルんでるのって、逆に不自然じゃないかな?」

上条「ま、そういう考えもありだろうとは思うが」

フロリス「ま、ぶっちゃけワタシ、そんなに拘りはないんだよねぇ、うん。友達もそうだけど、その他にもそんなにはー、みたいな?」

フロリス「その場その場できーーーっ!ってなる時もあるけど、大抵は暫くすると『ま、いっか』みたいな?」

上条「そんな感じあるよな。つか猫みたいだぞ」

フロリス「それも良く言われんよ。気分屋ってニュアンスで」

上条「どういう環境で育ったんだ、って聞くのはダメ?」

フロリス「ん、いーよ別に?隠すよーなこっちゃないしなぁ」

フロリス「ウェールズって知ってる?ブリテンの西側で、元々別の国だったんだけど、700年ぐらい前に併合したんだ」

上条「ベイロープからもスコットランドの話、チラッと聞いたんだが、イギリスって一つの国家じゃないのな」

フロリス「イギリス”連邦”だったからねぇ。一時期は大英帝国名乗ってんだよ、これが」

フロリス「んでもやっぱさー、無理があったみたいでさー」

フロリス「ちょい前まで北アイルランドで独立テロばっかだったジャン?」

フロリス「経済が上向きになってようやく収まったと思ったら、今度はブレアのチクショウがスコットランド自治とか言い出すし」

フロリス「もー散々なんだよね、ホンットに迷惑って言うか」

上条「ウェールズも独立したがってんのか?」

フロリス「どうだろ?一緒んなって長いしねー、ワタシら」

フロリス「Union Flag(イギリス国旗)は聖ジョージ十字とスコットランド国旗、アイルランド国旗が合わさって出来たデザインなんだ」

フロリス「でもブリテンを構成してんのはイングランド・スコットランド・北アイルランド、そして」

フロリス「ウェールズの四つ。てか正しくは四ヶ国なのにウェールズの国旗は入ってない」

フロリス「……ま、同化する時期が早かったから、だっては言われてるけどね」

上条「ふーん。ウェールズなぁ……?」

フロリス「そんなにイングランドとの違いは無いし――あるとすれば『赤い竜』ぐらい?」

上条「さっき言ってた『竜殺しの竜』……ラノベにありそう」

フロリス「おっと、こちとら約1800年前から語られてたんだから、一緒くたにするのはやめてもらおうっ!」

フロリス「対してイングランドじゃ聖ジョージ――ゲオルギウス信仰が盛んだったから、そこは一線引いてるかも?」

フロリス「でも、ま、今更独立って感じでもないしねー」

上条「拘らない割に拘ってねぇか。やっぱ国が絡むと別か」

フロリス「いやいや、そんな事ぁないさ――ってそんな事も無いな。別に国だってどうなろうと関係ないし」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「レッサー達と遊べなくなるのイヤじゃんか。それだけですが何か?」

上条「……いや、充分過ぎる理由だと思うぞ、そいつは」

フロリス「『新たなる光』で魔術師するのも楽しいしねー。こないだのクーデターごっこも良い感じだった」

上条「動機がまた軽いなっ!?」

フロリス「いやいやいやいやっ!大切じゃないですか、人生楽しまなっきゃいかんでしょーし」

フロリス「『楽しいか・楽しくないか』って結構重要だと思うんだよ、ウンウン」

上条「それもまぁ理屈は分かるが……うーん?魔術結社へ入って命賭けるのは……?」

フロリス「あ、ゴメ。それは無い、無いよー。命まで賭けるのはノーサンキューだってば」

上条「フロリスさん、テメェらこないだイギリス全部にケンカ売ってませんでしたっけ?あれが『軽い気持ちでやった』と?」

フロリス「うんっ!」

上条「やっぱ軽いなお前!動機も思想もフワフワしすぎじゃねぇかよ!?」

上条「てかお前らの魔術教えやがった野郎にも一回挨拶させろ、な?言いたい事が山ほどあっから」

フロリス「いやでも先生は『フローレンスがそう考えるんやったら、それで良いんとちゃう?』って言ってくれてるし」

上条「フローレンス?」

フロリス「や、今の無し。フロリスね?フロリス!」

上条「妙な関西弁にも突っ込みたいが……まぁいいや、これ以上地雷を踏み抜こうとは思わないし」

フロリス「――んがっ!そんなワタシもずっと引っかかってた事があんですよ、これが」

上条「へー、それちょっと興味あるかも。何々?」

フロリス「『ハロウィン』の時、ジャパニーズに裏切られたジャン?」

フロリス「利用するだけしといて、命を賭けないのがポリシーのワタシを無理矢理したじゃんか?ね?」

上条「人聞きがっ!?深夜であってもロビーでする話じゃねぇ!」

フロリス「そっちからだよ、なーんかおかしいのは」

上条「……何が?」

フロリス「いつもだったらさ、『ま、命は助かったし酷い事もされなかったから、別にいっかー』で済ますんだけど」

フロリス「なんか、こうイラつくって言うか、釈然としないって言うか」

上条「そんなにお怒りだったんですかねぇ、あれ」

フロリス「ん、あぁマジな話そんなには?元はと言えばやらかしたのもワタシらだし、そもそも最悪殺されるぐらいは思ってたし」

上条「珍しいな。そこまで覚悟はしてたんだ」

フロリス「死ぬのはイヤだけど、レッサー達と遊べなくのはもっとイヤだしねー――って、オイコラ!何ニヤニヤ見てんだよ!」

上条「あ、悪い悪い。他意は無いって!」

フロリス「……やっぱこれ殺意なのかなぁ……?何か妙に拘るって心底アンタを憎んでる証拠かもねー?」

上条「だからそこまで恨まれる程はっ!」

フロリス「あー……思い出した!その前から何か引っかかってたんだ!」

フロリス「ぶっちゃけ最初にヘラヘラ笑ってた時から、『あ、コイツ殺してー』ってイラついてたかも!」

上条「……そこまで来ると、もう前世からの因縁レベルじゃねぇのか?俺お前の親でも殺したんか、あぁ?」

フロリス「あ、ソレはもう許した」

上条「……うん?」

フロリス「てか今はのワタシの話でしょーが!聞けってば!」

上条「お前も落ち着けよ!つーかそんなに俺が嫌いか!?」

フロリス「好き嫌いで言えば――多分、嫌いじゃ無いと思う」

上条「……はあぁっ!?だってお前今、散々イラつくとか言ってたのに?」

フロリス「なんて言うんだろ、『馬が合う』でいいの?合ってる?」

上条「気が合うって意味だけど、その言葉は」

上条「……まぁ、言わんとしている事は分からんでもない、か?」

フロリス「だっよねぇ?話しているのはそこそこ楽しいし、波長が合う?みたいなの?」

フロリス「ワタシが時々遊ぶ相手も、大体ジャバニーズみたいな感じだよ、うん」

上条「そりゃどーも。ってか俺嫌われてんの?それとも好かれてんの?」

フロリス「だーかーらっ!イラつくんだって!その笑い顔が!」

上条「顔は親からもらったもんだしなぁ、どうしようもな――待て待て、『最初に会った時』?今そう言ったよな?」

フロリス「ん」

上条「……あぁそうだ!俺も何か思い出してきたよ、列車ん中の事!」

上条「あん時お前、何かピリピリしてなかったか?妙にツンツンしてる子だな、ってのが俺の第一印象だったんだよ、確か」

上条「もしかして、『たまたま機嫌の良くない時に俺と出会った』から、その印象が焼き付いてるだけじゃねーの?」

フロリス「いやいや、そんなまさかないでしょー。てか有り得ない」

フロリス「確かにあん時はレッサーのおバカに激怒してたさ、でもそれを引っ張るなんて――」

上条「あぁレッサーがあっさりと捕まったから?」

フロリス「いや、別にそれはどーでも」

上条「……まぁな。友達が仲間だった筈の『騎士派』から粛正されそうになってんだ。そりゃ怒らない方が――」

フロリス「ん、いやいや。ワタシが怒ってたのはレッサーにだよ。『騎士派』なんか最初っかに信じてもないし」

上条「失敗したから?」

フロリス「それもNO!……や、あっさりバレたのには無くはないが!」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「あー……その、魔術的な通信機みたいなの、ワタシらの霊装にあんだよね。これなんだけど」

上条「ペラいメモ用紙。表面に何か描いてある」

フロリス「コレを使えば音声だけじゃなく、当人同士が許可すれば簡単な五感をリンク出来る仕組み――で」

フロリス「見てたんだよ、ジャパニーズに取っ捕まった時。レッサーの『眼』で」

上条「……そりゃ第一印象最悪だわなぁ……」

フロリス「あ、ごめん。興味なかったから顔と名前と声は全然憶えてなかった」

上条「……おい。ほぼ全てスルーしてんじゃねぇか。残ってんの性別ぐらいだよ」

フロリス「このおっぱいどうしてくれようって」

上条「そっち同行者な?別の意味で気持ちは分かるけども!」

フロリス「ワタシがイラついたのって、そん時のレッサーだよ」

フロリス「レッサーはあの時、『ロビンフッド』で狙撃されそうになった時」

フロリス「『笑った』んだよね、レッサー。それが――」

フロリス「――ワタシは理解出来ない。だから無性にイラついたんだと、思う」

フロリス「『何やってんの!?バカじゃないの!?なんで笑っていられるの!?』ってさ」

上条「……」

フロリス「……思えば、その後直ぐにジャパニーズと出会った時か」

フロリス「ヘラヘラした笑い顔が、なーんかレッサー思い出して気分悪くなったのかもねー」

フロリス「……あぁ、これじゃ完全に八つ当たりだよね、ゴメ――」

上条「――なんだ、お前”そんな事”も分からないのかよ?」

フロリス「――え」

上条「そうかそうか。成程な、だから笑ってたのか、アイツ」

フロリス「え、何?分かるの?なんで?どうして?」

上条「簡単だろ、そりゃ――」

上条「――レッサーは『お前らのために笑った』に決まってるじゃねぇか」

――深夜の病棟 ロビー 明け方近く

 なんで、という言葉が出るよりも速く。
 どうして、と問う台詞よりも早く。

 ベシャッ、とフロリスは飲みかけの珈琲をぶちまけていた。

 上条当麻の顔面へ向けて。正確無比に。

「熱っ!?……何しやがるんですかね?つーかテメーいい加減にしやがれ!」

「――あぁっと、ジャパニーズ。ワタシ、今、ちょぉぉぉっとぶち切れてるから、さ?」

 ジャキジャキジャキ、と『槍』が凶器へ姿を変える――戻す。

「素直に答えなよ?あ、別にイヤだってんならいいけど?」

「……なんだよ。つーかティッシュ持ってない?」

「何がどうしてどーなったら、レッサーのおバカが『笑った』のを無責任に言えるのかにゃー?」

 怒気を隠そうともせず――つい今し方まで談笑していたのに――言外に物騒なものを忍ばせる少女。

(これがフロリスの『素』?……いや、どっちも、か)

 猫と評した少女の一面。普段は拘らないと言っている反面、何かしらの”芯”はあるだろう。
 魔術師としても人格としてもサッパリとしているが、その分怒りを溜め込む事も少ない。

 だが『これ』は彼女にとってすれば例外中の例外――そう。

(やっぱ『友達』が絡むと熱くなってんだろうなぁ、うん)

 上条はそう判断する。

「あーのさぁ。死んじゃったら終りじゃない?ってか絶対に嫌だけど」

 理不尽に怒りをぶちまけているのかと言えば、そうではない。決して。
 有り触れた偽善者のように、我が身可愛さで理を曲げようとするのも違う。

「なーんであの状況であのおバカが、わざわざワタシのタメに笑えんだっーの」

 もしもそうであれば『自分』のために怒る筈であり、『他人』の生き死に拘泥する訳がない。
 とどのつまりフロリスという少女は、彼女の本質とは。

「お前、実は友達好きすぎるだろ?」

「よっし歯ぁ食い縛れジャパニーズ」

「待って下さいよ!?誉めたじゃないですか!」

「いやぁ?」

「いや、そこで改めて照れるのもおかしいっ!?」

 『他人のために怒れる』――その特性は目の前の『幻想殺し』と酷く似通っていた。

「あー……うん、何となく分かるよ。お前が怒ってんのはさ。要はアレだろ?」

 従って上条当麻も然程言葉を選ばずに済む。

「『コイツ人の気も知らないので、何ニヤニヤ笑ってやがったんだ』みたいな感じだろ?合ってるよな?」

「まぁ、そうだけどー」

「……俺も、似たような事言われるからよーく分かる。つーか座ろうぜ?」

「……うん」

 自動販売機のイスに並んで座る二人。『槍』は展開したままで。

「つーかスッゲーベタベタするし、流石☆5つ、砂糖たっぷりか。やっぱティッシュ持ってないか?」

「ハンカチならあるけど」

「……どっちみち後で着替えるからいいや。んで、だ」

 どこから話したものか、どう話したものか。
 自分と極めて近い思考回路を持つ彼女へ対し、どう話せば納得が行くだろうか?

(まずは、そうだな、結論から話しちまった方が早いよな)

 そう考えて、飲み終わったのとぶつけられた紙コップを広い、右手で近くのゴミ箱へ突っ込む。
 丁度ペットボトルの大きさ程度に開いたゴミ箱の穴。日本の自販機のそれよりも、一回りぐらい大きいそれに手を入れ――

 カコン――にちゃあぁっ。

「……うん?」

 手が、抜けなくなる。かすかな痛みが手首へ走り、何かがつっかえているような感触。

「どったん?」

 不審に思ったフロリスへ対し、上条は首を振った。

「あぁいや、なんか抜けない……みたい?」

「ローマの休日ネタ来たーーーーーーーーーーっ!」

「しねぇよ!夜の病院で趣味悪すぎんだろうが!」

「まったまたぁ?アレでしょ?好きな子に心配してもらおうってハラなんだろ?」

 また感情がくるくると変わる。ちょっと前までは馬鹿話、少し前までが殴り合い寸前。

「……どうしてこうなった――イタっ?」

 チクリと手の甲に何かが刺す感触。ガラスの破片でも入っていたのだろうか?

「ダストボックスん中で何か掴んでんじゃないの?ほら、子供が『おかしつかみ取り放題!』ってアレで、腕が抜けなくなるのと一緒で」

「……あのぅフロリスさん?一体俺がゴミ箱の中で何を掴んでんのか、またそれを離す程度の知能が無いとか、冗談ですよね?」

「あーぁ、そろそろ夜が明けそうだなぁ。完徹しちまったい」

「だかに聞きなさいよお前らはっ!?人の話をきちん――」

 ぶちっ。

「――と、抜けた抜けた。何だったんだよ、一体」

 上条当麻が引き抜いた『腕』。
 その手首から先が――。

「ちょ――ジャパニーズ!?」

 ”それ”にいち早く気づいたのはフロリス。そして次に声を上げたのは上条――。
 では、なかった。居る筈の無い、居て良い筈の無い。異物の、声。

「言った筈だぞ、ニンゲン――」

 メキメキゴリメキゴリゴリッ!

 やや大型とはいえ、子供ですらも入りきれないサイズのゴミ箱から、体中の関節をねじ曲げて脱出する少年。いや。

 『少年の形をした何か』。

「――『”安曇”は少し本気を出す』と」

 バキッ、ゴキュッ、バリバリバリバリ……!

 二度三度、安曇阿阪は血塗れの顎を開閉させる。その度に咥えていた肉片は小さくなり、ついには咀嚼され、呑み込まれる。

 それは、その肉片は?どこから来たのか。
 『幻想殺し』が『幻想殺し』たる由縁であり、相棒でもある。

 『右手』を喰った。

「う、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 上条の千切れた右手が激しい痛みを訴えかける。激痛と言うよりも灼熱へ手を翳しているような錯覚に、彼は悲鳴を上げる事しか出来なかった。

「一応神経毒――蛇の持つ麻痺毒を撃ち込んでおいたが、まぁ痛むだろう。許せ」

「こ――のおぉっ!!!」

 ワンテンポ遅れて正気へ返ったフロリスが飛びかかる。だが、安曇は避けもしない。

 ギャリギャリギャリギャリィッ!

 『槍』の『爪』が安曇を引き裂く――事は、無かった。

「”それ”は昼間見た、と言うか安曇に効かなかったのを憶えていないのか?」

 駅構内で安曇阿阪へ攻撃をしたのもフロリス。あの時は吹き飛ばせはしたものの、目立った外傷は与えられなかった。
 その理由が――腕と顔を覆い尽かせんばかりに広がる鱗、鱗、鱗。

 条件さえ整えば最新式の高速鉄道すら切断出来る『槍』を防いだもの、それは安曇が生やした『鱗』だった。

「――と、いうかだな。安曇は余計な殺生を好まないので、一つ忠告をしてやる」

 うずくまって右手を押さえる上条を顎で差す。

「大量出血における初期治療が後の生存率を左右する、と安曇は知っているな」

「何言ってんだ!」

「応急手当をするなり、魔術で傷を癒やすなりした方が良いのではないか?」

「――っ!」

「治療の隙を突かれる――とでも考えているのだろうが、『それ』はない」

「……どうしてよ」

「虎がネズミを狩るのに隙を伺う必要は無い、と言っている」

「――このっ!」

「……か、は……」

「今なら『右手』は無い。簡単な術式でも十分に効果を見込めるだろうな」

「――黙ってろ!」

 フロリスは上条へ肩を貸し近くの椅子へ運んでから、口の中で二・三語詠唱し、術式を組み立てる。
 ぼぅ、と上条の右手首――喰い千切られた辺りに光りが宿り、激痛と出血が収まっていく。

「お前、は――!」

「出血多量とは大量に血液が失われる事で起きる。安曇はそう教わった」

 どうにか声を出せるようになった上条が問うも、明確な返事は無い。

「末端組織へ供給される血液の減少、心拍の低下、そして酸素欠乏。ちあのーぜ、を引き起こし、ゆっくりと死へ至る」

 安曇は二人とは少し離れ、今し方飛び出てきたゴミ箱の蓋を拾い、元の位置へと戻した。

「優先順位は止血。主に患部への直接圧迫が相応しい――時として壊死を怖れて処置を躊躇うが、そうすると手遅れになる場合がある」

 更に飛び散った紙コップを集め、重ねてからゴミ箱へと捨て始めた。

「次に大切なのは輸血。人類がこの技術を会得する以後と以前で、大分様変わりはした――が、実は輸血にも危険性が付きまと――」

「オイっ!」

「なんだ『幻想殺し』。これからが大事だぞ?輸血量を間違えると腎梗塞や脳梗塞にな――」

「……なんで!お前が……ここに、居るっ……!?」

「傷口が塞がったとは言え所詮は応急処置。術式が切れる前に、最低限輸血をしないと倒れるぞ、と安曇は言ってやる」

「ふざけるな!……クソッ!『濁音協会』の連中がもう追いついて――」

「あぁそれは勘違いだ、元『幻想殺し』。それは違う」

「何が?アンタ達、ストーカーして来たんじゃないのー?」

 フロリスの軽口に力は無い。それなりの自信があった『槍』の一撃を弾かれ、不安が胸をよぎっているからだ。

「『濁音協会』はもう、ない。昼間の戦闘でアルフレドが死んだからな」

「――は?」

「転移魔術を行使した影響か、直前の爆発のせいか。アルフレドはバラバラになっていたぞ」

「――うぇ、死んだ、の?」

「生命活動は停止していたな」」

「……え、ちょっと待てよ。マジで?だったらもう戦う理由なんか」

「だから後は好きにする事にした。好きにやる事になった。だから安曇はここへ来た」

「ジャパニーズの『右手』を食べに?いー趣味してるよねー」

「よく言われる、それは」

 皮肉を介さない安曇。ポリポリと頭を掻き、あぁそうだ、と思い出したように声を上げた。

「憶えているか?安曇は一度、『幻想殺し』に遅れを取っている」

「……俺、にか?つってもお前なんかと関わった憶えはねぇよ!」

「多目的ほーる、だったか。お前は安曇の眷属を破っただろう」

「――あの、蛇人間かっ!?」

「だから”これ”は意趣返しでもある。『神漏美』は後回し、今はりべんじ、という奴だな、さて――」

 パチン、と両手を合わせて祈りを捧げる。その姿は古今東西、どこの文化でも大差は無い。
 けれど安積の口から漏れる言霊は、全てが冒涜的で退廃的なものであった。

「『綿津見ニ眠ル我ラノ大神ヘ奉ル(そろそろいいじかんになった)』」

「『天ニ甕星、地ニ悪路、海ニ阿曇磯良(とはいえやくしゃがあずみだけではすこしさびしい)』」

「『天球ガ穿ツ星ノ光ニテ、同朋ノ血ヲイザ甦ラサン(せっかくのしこみだ、もっとひとをよぼうか)』」

「『我ガ名ハ、ミシャグジ――ソノ名ヲ以テ禍原ヘ弓引ク悪神ノ血統(もっと、もっとだ。けものなんてどこにだっているさ)』」

「『人ハ魚、人ハ蛇、人ハ虫(ひとというけもの、ひとというけもの、ひとというけもの)』」

「『五穀ヲ吐キ捨テ原始ノ獣ヘト帰還サセヨ(りせいをすててたのしくやろう)』」

「『血ト肉ヲ捧ゲ聞コシ召セ給ウ、思シ召セ給ウ(どうせおわりのひはそこまできている)』」

「『――海ヨリ還リ来タル!(――くるえ、そしてかわれ)』」

 ぞわり。

 世界が変わる。安曇を中心に弛緩していた世界が異質のものへと造り替えられる――元々居た住人達をも巻き込んで。

「テレズマ?……あ、でも別に変化は、ないかな……?」

「俺も……特に、は……」

 瞬間的に漏れた魔力が二人に影響与えることは無かった。二人には、何も。

「思い出せ、『幻想殺し』。あの夜の事を」

 ホール内の人間が『変化』した悪夢の夜を。

「『帰還った』のは誰だ?鳴護アリサを襲ったのは誰だったか?」

「何――コレ!?気配が、あちこちに」

 ホールの陰、カウンターの隅、エアダクトの中。
 その全てから獣の息づかいが、荒々しい鼓動が聞こえる。

「ミシャグジの先祖返り――『獣化魔術』とアルフレドは言っていたが、順番が逆だ」

 のそり、と顔を覗かせたのは――先程の看護婦。顔に巻いた包帯がずり落ち、その下からは鱗まみれになった地肌が露出している。

「人は獣だった――そして、今も本質は何一つ変わりなどしない」

 一人だけでは無い。二人、三人と姿を現す。入院患者が壁を這いずり、医師らしき男が四足でにじり寄る悪夢。

「夜など明けない。仮に天へ日が昇ったとしても、悪夢は終りなどしない――」

「――安曇は『DeepOnes323(深きものども)』、『野獣庭園(カサンドラ)』の首魁――」

「――朝の来ない夜に喰われて眠れ、ニンゲン」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

夏コミ、多数決で天災×ダルクに……うんまぁ、表紙的なアレが……

フロリスかわいいよフロリス
あとシャットアウラは攻略対象外なのかな

いつもありがとうございます
>>495
この世界軸ではないでしょうね

――六人病棟

シャットアウラ「『ただの魔術師』で『鬼子』、ねぇ?随分と評価が分かれる所だが」

シャットアウラ「魔術師界が混乱しているのか、それとも私の日本語理解がおかしいのか、どっだろうな?」

鳴護「お姉ちゃん!」

建宮「……ま、皮肉の一つや二つ言われても仕方が無いのよ。情報が錯綜しているのよな」

レッサー「ってぇと?」

建宮「我ら天草式十字凄教はここ半年程日本を離れているのよ。従ってその間に起きた事には自然と疎い」

建宮「……まぁ我らのポジ的に『外様』なのよな、これが」

レッサー「知り合いが自分探しに出たと思ったら、外国で伴侶こさえて定住した、ぐらいの話ですもんね」

ベイロープ「いや、魔術師らしいっちゃらしいわ。共感はしないけど」

建宮「我らも宗像系とは懇意にしていた繋がりで、安曇氏族とも一部付き合いはあったのよな」

ベイロープ「あぁだから詳しいのな」

建宮「勿論、とある消息筋からも情報を得ては居るのよ!――で、なのよ」

建宮「我らがまだ日本に居た頃、一つの噂話があったのよ」

建宮「『――墓を掘っている魔術師が居る』と」

ランシス「……うわぁ」

レッサー「何となくいやーな感じのオチに着地するって見えましたよ、えぇ」

建宮「……まぁ怪談には良くある話、『墓を暴いて屍体を喰う』って奴なのよな」

鳴護「……」

建宮「元々『死』すらも、ある意味魔術なのよな。中途半端なまま甦らないよう、遺族はキチンと埋葬するのよ」

建宮「死後の裁判で有利になるよう手厚く供養し、丁重な墓を建てる。それは世界でも共通しているのよ」

建宮「だ、もんで魔術師――それも、墓を暴かれるというのは屈辱なのよ、一族にとっては」

建宮「だから――発覚するまでに時間が掛かった」

建宮「家名に傷がつくのを怖れた連中が『無かった事』にしようとしていたのよな」

レッサー「……なーるほど、日本も良い感じで腐ってますね。それもやっぱり?」

建宮「『数代前は高名な魔術師、けれど今は一般人』が狙われたせいもあるのよな」

シャットアウラ「奴の目的は?それにどうして奴の犯行だと分かった?」

建宮「目的は今も不明。安曇の犯行だと分かったのは、重い腰を上げた対策チームが交戦した際、奴が名乗りを上げたからなのよな」

建宮「……ま、そのチームがどうなったのかは、奴が欧州くんだりまで出張している事から推測して欲しいのよな」

建宮「――で、ここで一つ問題が持ち上がるのよ」

建宮「『安曇氏族には安曇阿阪という魔術師は居ない』のよ」

鳴護「……はい?」

シャットアウラ「騙り、なのか?」

建宮「それは違う。安曇阿阪は安曇氏族の魔術を使うのよな」

ランシス「嘘、吐いてる?Klein Deeps?(安曇氏族)」

建宮「それも違う。嘘を吐く意味が無い」

レッサー「家名に傷がつくんでー、とかありそうじゃないですか?」

建宮「……それが、なのよ。おかしな所は」

建宮「『騙りで無ければ安曇氏族でケリをつけるべき!』みたいな、外野から話が持ち上がったのよ。実際、彼らは違うと言っているし」

建宮「ならば汚名を返上するのは自らの手で、と考えるのが普通なのよな。過剰とも言える装備と人員で殲滅に当たった」

建宮「――が、何と安曇阿阪は僅かな手勢であっさり返り討ちにしたのよ」

建宮「安曇は安曇氏族ですら知らない、失われた魔術を使いこなして」

ベイロープ「失われた……?それはどういう?」

建宮「元々、現在の安曇氏族が使うのは身体強化系の術式を得意とし、また航海に纏わる霊装を数多く持っているのよな」

建宮「どちらも大海原では必須。伝説では安曇氏族は『魚のように水中を動く』との記述もあるのよ」

レッサー「ちょっと面白そうですね、それ」

建宮「んが、安曇阿阪が使うのは『獣化魔術』。人体改造――いや、変質のプロなのよ」

建宮「人類以外の動物から形質を取り込み、自在に使う事が出来る。しかも他人へ影響を及ぼせると」

ベイロープ「……なぁ一ついいかしら?」

建宮「どうぞエロいおねーちゃん」

ベイロープ「レッサー、噛んでいいわよ」

レッサー「がうっ!ぐるるるるるるっ!」

ランシス「ボケへ即座に反応する……」

建宮「……どうにも癒やし系が足りないよな。ゴスメイドとか」

シャットアウラ「癒やしと卑しいは別だ」

ベイロープ「そっちの都合はどうだっていいのだわ――で。聞きたいんだけど」

ベイロープ「ジャパンの魔術師界って、そんなに腑抜けなの?たかだか魔術師一人葬れない程度?」

建宮「そう言うのは尤もなのよ。が、それも違うのよな」

建宮「おねーちゃんは多分『獣化魔術”ごとき”』にやられたのが納得が行かないのよ?」

ベイロープ「当たり前でしょうが。どんだけ昔の流行りだって話よ」

鳴護「流行り、なんですか?」

レッサー「ですね、昔流行ったんですよ。えっと、ご存じじゃ無いですかね、EUの『狼男伝説』」

鳴護「ふ、フンガー?」

ランシス「それ、フランケンシュタイン博士の怪物……」

シャットアウラ「可愛いは、正義!」

レッサー「もういい加減にしてくれませんかね?天然で可愛いなんて私とどんだけカブってるかって!」

ランシス「ひとっつもカブってないよ……?」

鳴護「え、はい、ごめんなさい?」

建宮「謝る必要は無いのよ。で、話を戻すと、割かし獣化魔術自体はある話なのよ」

建宮「西洋では……北欧神話の『ベルセルク』が有名なのよな」

シャットアウラ「バーサーカーの原義になった奴だな」

ベイロープ「あー……」

レッサー「一説には古スコットランド人だったって評判ですよねっ!」

ベイロープ「ぶん殴るわよ?」

建宮「中世へ入って錬金術が広まり、『狼男』として無駄に広がったのよ――んが、これ、現代の魔術師としては有り得ないのよな」

鳴護「えと、フィクションでしか知りませんけど、凄く力が強くなったり、素早く動けたりするんじゃないですか?」

鳴護「有名なのは銀の武器でしか傷つかない、っても言われてたような?

レッサー「しますねぇ、はい。大体合ってますよ」

鳴護「だったら強いんじゃ?」

レッサー「でもそれ『他の魔術でも再現可能』なんですよね、これが」

レッサー「確かに狼の牙や爪は鋭いですよねぇ?力も強いし、敏捷性にも長けています――が」

レッサー「わざわざ牙を生やさなくっても、フツーの短剣があれば人を刺せますし、身体能力にしても霊装で調整出来ます」

レッサー「私達がしているように、ですな」

ベイロープ「あー……ベルセルク――つーか、『獣化魔術』も流行ったの。流行ったんだけど、使いづらいのよ。伝承知ってる?」

ベイロープ「『まるで獣のように敵味方の区別無く殺しまくり、最後には戦場の真っ只中で息絶える』んだけど」

ベイロープ「これのどこが”効率的”だって?」

鳴護「あ、そっか」

レッサー「錬金術ブームの時に、割と簡単だからってリバイバルが来ましたけどねー」

レッサー「でも大抵退治されました――”銃を持った一般人”に。その程度なんですよ、所詮はね」

シャットアウラ「……総合すると、だ」

シャットアウラ「獣化術式は割と良くある。しかも神代から使われている?」

建宮「なのよ」

シャットアウラ「欠点は『メンタルも獣同然になってしまうため、折角得た身体能力を生かし切れない』か?」

レッサー「でっすねー。だって獣は剣や銃を使えませんから」

レッサー「多少獣化の度合いを低く抑えれば、ある程度の知能を持ったままでは居られるでしょう」

レッサー「が、今度は『獣化が低いと身体能力のブーストも比例して低い』という悪循環となります」

ランシス「ちなみに弱点の一つである銀の弾丸……それは、『魔術に影響されにくい鉱物』」

ベイロープ「または『十字教によって”聖別”――威力を高められた武器』だってのが真相よね。大体は、だけど」

レッサー「例外としちゃ、ライカンスロープと呼ばれる『人でもなく、獣でもない』種族が居るらしいですが、そこら辺は吸血鬼と同じくUMA扱いですねぇ」

建宮「極端な話、ライオンは強いのよ。人がタイマンしてもまず負ける。女教皇でもない限りは」

建宮「しかし『ある程度の罠を仕掛ける、もしくは銃があれば退けられる』程度なのよな」

シャットアウラ「何ともまぁ、な話だ。道理ではあるが」

レッサー「んー、近代的な魔術戦に於いてはマイナーである、ぐらいの認識でいいと思いますよ」

レッサー「使う所によっちゃまだ現役ですし、何よりも魔術体系が獣化主体である場合、外せられないですからね」

ベイロープ「それが有利不利じゃなくって、自分達の信仰に結びつくんだったらってコトよね」

建宮「インディアンのシャーマン達よな。コンドルやコヨーテを主とした獣化魔術を使うように、なのよ」

鳴護「あの、ネイティブじゃ?」

建宮「んー、そこら編も最近難しくなってきたのよな。最近は部族としてのアイデンティティが薄れてきて、そう自称する人間も増えて来たのよ」

シャットアウラ「かと思えば『レッドスキンズが差別だから取り消せ』という訴訟もやっているらしい」

シャットアウラ「”Early American(先住アメリカ人)”との言い方も聞く」

レッサー「『インドに住む人』でインディアンなのに、どんな悪いジョークなんでしょうね」

ベイロープ「つーワケで。そんな時代後れのシロモンにヤラれる程弱いのかよっ、てぇ話になるのだわ」

建宮「結論から言えばNOなのよ。前にも言ったように『安曇氏族』自体は日本の魔術界でも屈指なのよな」

レッサー「じゃあどうしてまた?」

建宮「『安曇阿阪の獣化魔術は正気を保ったまま行使出来る』のよ」

ベイロープ「……は?それ、術式を抑えてるんでしょ?だったら大した力も出せないで終りでしょうが」

建宮「……まぁ、俺が直接その場に居合わせた訳じゃないから、どこまで行っても伝聞にしか過ぎないよな」

建宮「んが、その後も戦い挑んで『喰い残された』連中からも、似たような証言が出ているのよ」

建宮「二足歩行する爬虫類、しかも術式や霊装を使いこなすバケモノ、だそうなのよ」

レッサー「爬虫類、ですか?そいつぁまた、むむむむ……」

鳴護「おかしい、んですか?」

ベイロープ「獣化と言っても大抵哺乳類なのよ。人間も哺乳類だし、親和性が高いって言うのかしら?」

ランシス「ある種の『先祖がえり』を果たして力を得る、って思想だし……」

建宮「日本には『蟲憑き』も居るが……まぁ、それは別の話なのよ」

レッサー「具体的には天草式十字凄教長編SS、『神裂「あ、あの、もっと強く抱きしめて下さい……!』で絶賛公開未定!」

レッサー「尚、映画館では先着2名様に『かんざきさんじゅうはっさい等身大ねんどろいど』をプレゼント!」

レッサー「またパンフレットには特別書き下ろし、『天災×ダルクの18禁同人誌(※夏コミ売れ残り予定)』がついてくるぞ!」

レッサー「さぁ、今すぐ劇場へ急げ!Now、On、Sale!」

建宮「上映館を詳しく」

ベイロープ「大事な話をしてんのだわ、だ・い・じ・なっ!下手しなくても近日中にドツキ合う相手でしょうが!」

レッサー「ぎゃーーーーーすっ!?私の首は180度は曲がりませんよっ!いや、ですから試そうとしないで!?」

鳴護「先着2名て」

シャットアウラ「等身大のフィギュアは、もうフィギュアと呼べないだろ。別の何かだ、いかがわしいヤツ」

建宮「てな訳で『爬虫類の獣化』というのは珍しい――訳でもないのよ、実は」

レッサー「どっちなんですか」

ランシス「あ、復活した」

建宮「『安曇氏族』の氏神、『安曇射空(あずみのいそら)』とは海神なのよ。海神を表わす、『綿津見(わたつみ)』が転じて出来た名を持つ」

建宮「普段は深海に住み、その醜い容姿を恥じて人前には現れないのよな」

建宮「また海中でも自在に動く事が出来たのよ――そう、まるで魚のように」

ベイロープ「『深きものども(Deep Ones)』?」

シャットアウラ「クトゥルー神話の半魚人か……しかしそれは『魚類』だ」

建宮「日本の蛇、スネークを表わす文字には”虫”偏が使われているのよな」

建宮「それはつまり『古代に於いて、蛇も虫とみなされていた証拠』なのよ」

レッサー「爬虫類も魚類も関係ねぇぜ、って意味でしょうかね?」

建宮「そっちのおねーちゃんが言ったように、ミクロネシア系の住民には『全身へ入れ墨を彫る』という風習があるのよな」

建宮「その効果は『海で鮫から襲われないように』と言う意味合いがあるのよ」

建宮「――それが実は『獣化魔術』だったら?」

ベイロープ「本当は入れ墨じゃなく、安曇氏族は某かの獣の力を借りて居た、のね?」

建宮「ま、推測に過ぎないのよな。五和の調査待ちなのよ」

レッサー「そうですかー……おや?でもそれだと辻褄が合わなくありません?私だけでしょうか?」

ベイロープ「私も同じよ、多分だけど」

レッサー「ですよね、おかしいですもんね?」

レッサー「なんだってまた『安曇阿阪が獣化魔術を使えるんだったら、本家筋の安曇氏族が知らない』んです?矛盾してませんかね?」

建宮「答えは簡単、『切り離した』のよ。散々言ったが、安曇氏は日本人として住む決意をし、覚悟を決めた」

建宮「意図的に封じ、忘れ、無かった事にしようとした術式を、野郎はどっからか引っ張り出してきたのよな」

レッサー「何を?」

建宮「嘗て崇めていた――『ミシャグジ』と言う祟り神を」

――深夜のロビー

上条「……」

上条(状況を、整理、しよう)

上条(夜明けまであと数時間、一番暗い時間帯だ)

上条(ちょっとした気まぐれでコーヒーを買いに来た俺は、同行者に恵まれ――恵まれたか?微妙な所だけど)

上条(軽口を叩きながら割かし和やかな雰囲気になった――所で、安曇は俺の右手首から先を、喰い千切った。というか、喰われた)

上条(さっきまでぶっ倒れそうな痛みと立ちくらみがしたんだが、フロリスのかけてくれた魔術で、どうにか)

上条(……まぁ『傷口へ指突っ込まれる痛み』が『傷口をヤスリで擦る』ぐらいなんだけどな……)

上条(んで直ぐ後に安曇の呼んだ人間――蛇人間?鱗人間?に囲まれている、と)

上条(絶体絶命ですよねっ!えぇもうっ!)

上条(……)

フロリス「……どったの?さっきから顔芸が面白いよ?」

上条「……いや、うん。『別に今更だよねー?』みたいな、諦観がね。割と日常って言うか」

上条「去年下半期から、俺何度死にかけてるのだろ?って感じだよ!好きにすりゃいいじゃねぇかなっ!?」

フロリス「なんで逆ギレ」

安曇「いいのか?では――『いろいろ注文が多くてうるさかつたでせう。お気の毒でした』」

フロリス「Oh, Kenji=Miyazawa」

上条「喰われるのはノーサンキューだ!……つか、テメェは!」

安曇「あぁ”これ”か?こんな中途半端で安曇は申し訳ない。それは腹も立てるだろう」

上条「なんの、話だ……?」

安曇「ここに居るのはただの『生成り(なまなり)』だ。なり損ない、失敗作、そんなようなモノだ」

安曇「ニンゲンの相手をさせるにはあまりにも心苦しい。安曇はそう思う」

上条「お前らのの目的はアリサ――だけ、じゃなかったのか?」

安曇「さるん、との約束も果たすべきではある。つもりもある。安曇には嘘の概念がないし、約定を違えるのも嫌いだ」

上条「さるん?」

フロリス「『Society Low Noise』、濁音協会の略でS.L.N.つっってるだけだよ。あちらさんのエンブレムにも描いてあるし」

安曇「『胎魔教典(おらとりお・かのん)』だな。安曇は読んでいないが」

上条「いい加減しろクソ幹部ども!アルフレドといい、お前ら適当過ぎるんだよ!」

安曇「耳が痛い。流石に二度ともなると余裕があるのだな」

上条「……何?二度目?」

安曇「生成りは学園都市でも安曇は披露した筈だ。憶えていないのか?」

安曇「鳴護アリサを誘拐しそこなかった、『アレ』だ」

安曇「『連れてこい』という命令をどう勘違いすれば、『下顎を引き抜いてこい』と解釈出来るのか、どうにも困っ――」

上条「――代わりに人が死んでんだぞ!?」

安曇「うん?」

上条「アレもお前の仕業だったのか!?あんな、あんなっ下らないやり方で!」

上条「大勢の人を巻き込むのがっ!お前らの正義かよ!?」

安曇「……誤解をしているようだな、ニンゲン」

上条「あぁ!?」

安曇「よく『正義というのは何か?』と言う話を耳にする。それを説くモノも居る」

安曇「中には『一人一人違う』と禅問答のような答えが返って来る時もあるな、うん」

安曇「だが安曇の進んできた道に、”そんなモノ”はなかったぞ?」

安曇「幾人かの魔術師が立ちふさがってはこう言った――『お前の行いは人の道に外れている』」

安曇「『だから我らが正してやろう』と」

上条「……何やってたのか知らないし、知りたくもねぇが。言いたくなる気持ちは分かる」

安曇「だが安曇はここに居る。彼らを弑して対価を踏み倒してだ」

安曇「これは安曇が『正義』だと言う証拠ではないのか?安曇が正しいからこそ、誰も止められないのではないのだろうか?」

上条「力を持ってるヤツだったら、何しても構わないのか!?だったら力の弱い奴らは死ねって言うのかよ!」

安曇「そうだ」

上条「んなっ!?」

安曇「弱いモノは弱さ自体が罪だ。脆弱な生き物に生まれ落ちたのを呪いながら、震えて死ねばいい」

安曇「それが『自然』だろう?安曇は間違っているのか?」

上条「人の発想じゃねぇよ!そんなクソッタレな考えは!」

安曇「人類の歴史、とやらを安曇は知ってるが――『過去、一度足りとて平和な時代』とやらがあったのか?」

安曇「誰しもが戦争を嫌い、争いが無かった時代が一度でもあると?ニンゲンが望んだ世界が、弱肉強食で無い世界がいつ?」

上条「……っ!」

安曇「あぁ責めているのではない。それがニンゲンの本質であるし」

安曇「昼間、確かニンゲンはアルフレドへ『狂っている』と言ったな?他人を食い物にするのが許せないと」

安曇「だがしかし『本当に狂っているのはニンゲン達の方』ではないのか?本能に蓋をし、あれこれ理屈をつけては衝動を抑え込む」

安曇「その割には本質である闘争を止められやしない。誰かに、何かに依存しなくては生きてはいけない脆弱な生き物」

安曇「違うだろう?そうではないだろう?」

安曇「獣は悩まない。喰らうのも、奪うのも、殺すのも。”それ”はそういう生き物だからだ」

安曇「正義がなんだ、そんな幻想を振り翳す事の方が――『獣として狂っている』。安曇はそう考え――」

フロリス「――あのさぁ、口挟むのも、っていうかキモいから会話すらしたくなかったんだけどさー」

安曇「外つ国の魔術師。お前達こそ、それを知っていると思うがな?」

フロリス「まーねぇ、同じ十字教徒同士で殺して殺して殺し合って。異教徒同士で殺して殺して殺し合ったんだから、アンタの言ってる事は分からないでもない」

フロリス「神代から現在までずっと続けてきた事だしねぇ。霊装が兵器に取って代わったってだけかもしんない」

フロリス「でも、だから、何?」

安曇「ふむ?」

フロリス「武器を持って戦おうってのは、裏を返せば誰かを守りたいって事じゃんか?それが悪いの?バカなの?死ねば?」

フロリス「さっきから本能本能つってるけどさ、そりゃ誰だって持ってるよ。人間はね」

フロリス「お腹減ったらハンバーガー食べたくなるじゃん?ムカついたら蹴っ飛ばしたくもなるし」

フロリス「でも、だから何?人間の本質?本能?」

フロリス「アンタの言う通り、人間の本質って奴が動物や獣に近いんだったら、どっくに文明社会終わってるよね?滅びてるよね?」

フロリス「でも今は少なくとも5000年前にはシェメール辺りで神様崇めてたらしいけど、どうなの?間違ってんの?」

フロリス「戦争はイヤだし、どっこのバカが始めたいざこざなんて関係ないけどさ、まぁ興味も無いし?」

フロリス「死ぬのなんか正直ゴメンだし、ぶっちゃけ何かあったら逃げ出すと思うよ、ワタシはね」

フロリス「――でも、それは、それこそが動物だよね?」

フロリス「『勝てない・勝てっこない』って相手に尻尾巻いて逃げ出す――場合によっては子供や仲間が喰われる事によって、種を残そうとする」

フロリス「否定するつもりはないよ、それが『自然』だって話だかんね。けど、さ」

フロリス「仲間や友達、親兄弟や家族、お世話になった人らか」

フロリス「そんな人らがバカの犠牲になるんだっつーんなら、ワタシは戦う」

フロリス「――それが『人間』でしょ」

フロリス「安曇阿阪、アンタはただのフリークス(狂人)だ」

フロリス「人として生きられない――『人としての最低限のルールすら守れない』から、安易に逃げ出した」

フロリス「ニンゲンになりたくてなりたくてしょうがないのに、なれない。アレだよね?『手の届かない葡萄は酸っぱくて不味い』って奴」

フロリス「『手に入らないから』ってだけで、下らない、ダメだ、って決めつけて排除しようとする。それだけ」

安曇「……」

フロリス「てかさ、もしもアンタがニンゲン見下すのも結構だし、お腹が空いたからパクパクしようって言うのも勝手だけどさ」

フロリス「じゃあなんでそのお偉いビースト様が、ニンゲンの言葉喋ってんの?バカなの?」

フロリス「見下してる相手の言葉使って、服着て、魔術使って」

フロリス「『アンタが本当に獣であれば、そんな事に絶対にしない』よね?違う?」

フロリス「つーかさっきから黙ってんじゃねーぞ。反論あったら言ってみろよ妄想野郎」

上条「えっと……」

上条(なんつーか、俺、ずっとフロリスに嫌味ばっか言われて来た、とか思ってたんだけど――)

上条(――今の台詞聞くに、『じゃれてる程度』だったのな?ふざけてるだけって言うか)

上条(……つーか文字通りの人食い相手に理路整然と啖呵切るって……)

上条(怒らせないようにしよう、うん)

安曇「……獣は黙して語らず、そして仲間が死ぬのも構わず、か」

安曇「確かに安曇は考え違いをしていたな。魔術師、言う通りだと安曇は思う」

フロリス「あっそ。良かったね、理解出来て、すっごいねー」

フロリス「で、ついでにお願いなんだけど、そのまま死んでくれないかな?不愉快だから、全てが」

安曇「いや、そうも行くまい。”それ”は獣はしない事なのだから、今更安曇がすべき選択肢では無い」

フロリス「レミングって集団自殺するんじゃなかったっけ?」

安曇「都市伝説だな、うん――っと」

上条「ちょっと待て!お前窓枠に手をかけて何するつもりだ!?」

上条(ここはロビーっつっても入院患者用のカウンターだから、実質十階ぐらいに当たる。落ちたら即死)

上条(……ま、レッサーの『コンクリでどーん』喰らって、『痛いのは好きじゃない』で済ますような相手が、その保障はないが)

フロリス「いよーし、そのままヒモなしバンジー行ってみようか!さぁ張り切って飛びやがれっ!逝けっ!Go to Heeeeeeeeeeeeeell!!!」

上条「……フロリスさん、そーゆー言動見ると『あ、やっぱレッサーの友達なのね』って確信しますよね?フリーダム&イリーガル過ぎるもの」

安曇「飛び降りる、というか『逃げる』が正解だな」

フロリス「えぇー?数でゴリ押し大勝利!ってフラグじゃないのー?」

安曇「前にも言ったが『生成り』では荷が重すぎるし、魔術師の言う通り『配慮』すべきではなかった」

安曇「そもそも、さるん、などに拘るべきではなかった。安曇の蒙を啓いてくれて礼を言おう」

フロリス「どーいしたしまして?あれ?なんか、ヤバくない?大丈夫?」

上条「……聞きたいんだが、何するつもりだよお前っ!?」

安曇「一度巣へ戻って真蛇(しんじゃ)――『野獣庭園』の構成員を解き放つ」

安曇「後は本能の赴くまま狩ろう、それでいいのだろう?」

フロリス「あっちゃー、もしかして地雷踏んじゃったかも?」

上条「”かも”じゃねぇ!確実に踏み拭いて下の地盤まで崩落させとるわっ!」

安曇「では元『幻想殺し』と外つ国の魔術師――」

安曇「――生きていればまたどこかで会い見舞えん」 ダッ

上条(そう言って安曇は躊躇わず窓の外へ身を躍らせる!)

上条「クソッタレ!」

生成り『ゲゴオオオオオォォォォォッ!』

フロリス「じゃんっーーーーーーーーまっ!」 ガッ

上条(俺達が窓へ駆け寄った時には、もう遠くのビルの外壁を走っている安積の姿があった!)

上条(……走ってる?いや、這い回るにしては異常なスピードだ)

上条(バルクール――ビルの壁面から壁面に飛び移るような、トカゲのような動きを見せ――) グッ

フロリス「――いよーーーーぅしっ!抵抗すんなよジャパニーズ!つーか動くだけ無駄だぜ!」

上条「……あのぅ、フロリスさん?なんで俺後ろから抱きかかえられてんですかね?」

フロリス「んー、まぁ考えたんだけどさ。ここで蛇人間の掃討戦するよっか、安曇を潰した方が良いと思うんだよねー?」

上条「こっちは――あぁレッサー達も居るし、アリサの護衛にはシャットアウラや建宮と揃ってるか」

上条「あぁ見えて建宮は教皇代理――天草式のナンバー2だし、頼りになる」

フロリス「だね。それじゃ行こっかー」

上条「あぁ!………………あぁ?」

フロリス「ゴーっバンジーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 ヒュッン

上条「イヤャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

上条(うん、まぁ走馬燈ってあるじゃん?死ぬ前に見るヤツ)

上条(だからま、流暢に考えられるのも、多分それなんじゃないかなって俺は思ってる)

上条(後ろからフロリスに抱きかかえられた俺が、今居るのは空中だ)

上条(足場もなく、こう、飛び出しやがったんですよねー、えぇ)

上条「……」

上条「――って死ぬから!?つーか死ぬからっ!?」

上条「何やってんの!?って言うか何やってんですかふっろっりっすっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

フロリス「あ、霊装発動させんの忘れた」

上条「オイコラテメェェェェェェェェェェェェェェェェェっ!?」

フロリス「ウッサイなぁ、舌噛むよ?」

上条「落ちてるの!死んじゃうんだから!早く、早くっ魔術使えよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

フロリス「へいへい――それじゃ行きますかっと」

フロリス「――あ、その前に霊装の説明しよっか?ねぇねぇ?」

上条「何でもするからっ!利子つけて言う事きくからっ!俺の命が危険でピンチになる前に早くプリーズっ!」

フロリス「やーれやれ、仕方がないなぁ――コホン」

フロリス「『朝焼けに微睡むグリンカムビよ、知れ!』」
(Know Gullinkambi to doze the morning glow!)

フロリス「『我らがアールガルズへ攻め込む巨人の咆哮を、中庭に横たわる毒蛇の舌なめずりを!』」
(Roar of the giant from whom we invade Asgard, Lick your lips by the venomous snake that lies in the courtyard! )

フロリス「『主が吹き鳴らす角笛は粛々と闘争の時代を告げん!』」
(The horn that the main plays solemnly tells the age of the struggle!)

フロリス「『さぁ羽ばたけ金の鶏冠!偉大なるオーディンの勇者へ戦さ場での礼節を思い出させよ!』」
(Now cockscomb of gold must flap!, Remind me of propriety in the battlefield the brave man of a great Odin!)

フロリス「『戦いは始まった!終焉を告げる戦士達よ、鬨の声を上げろ!』」
(The fight started! Raise soldiers who report the end and war cries!)

フロリス「『――神々の黄昏が来た!』」
(――Ragnarok, Now!)

ヴヴゥンッ!!!

上条「――っ!?」

上条(急降下――というか墜落している俺の耳へ、フロリスの澄んだ声はヤケにはっきりと聞こえた)

上条(英語はあまり得意じゃないのに、自動的に意味の通る言葉へ変換されている聞こえる『力ある言葉』)

上条(体へ掛かる重量が急に増し、襟首を掴んで容赦なく引っ張り上げられる感覚!)

上条「……っ、と?……あれ?」

上条「俺生きてる、よね?セーブ地点へ戻ってないよなぁ……?」

フロリス「どーだろーねー、もしかして『金の鶏冠(グリンカムビ)』の起動に失敗したのかも?」

上条「つーか背中の辺りにホワホワっとした男にとってヘブンなものが密着してるんですが!」

フロリス「だったら天国に来てんじゃなーい?」

上条「いやでも、俺の妄想だったらもう少し大きめが」

フロリス「……つーか、落とすぞコノヤロウ!ワタシはレッサーと違って甘やかしたりしないタイプだ!」

上条(――と、落ちるスピードが大分減ったものの、地面に近づいて居るのも事実な訳で)

フロリス「地面、蹴って!」

上条「俺が?」

フロリス「この霊装は『飛んでる』訳じゃない!『滑空』しているだけだから!表向き!」

上条「良く分からんけど――よっと!」 ダシッ

上条(俺がコンクリを軽く蹴っただけで数十メートルは伸び上がる)

上条「……こないだとは大分違うな?」

フロリス「『幻想殺し』がないからだよ!前は霊装の『力場』へ干渉してたせいで、殆ど飛べなかったの!」

上条「あぁ今はないから――つーか、聞いていい?」

フロリス「どぞ?」

上条「割と大ケガした俺を連れてきたのって、一体どんな嫌がらせ?確信犯なの?」

フロリス「いやぁ、なんかノリで?つい」

上条「おウチ帰して!?」

フロリス「――ってのは冗談だけど、半分ぐらい」

上条「あれおかしいぞ?後ろから女の子に抱きしめられているのに、恐怖しか感じないなぁ?」

フロリス「ED?わーかいのに大変だねぇ」

上条「断じて、違う!」

フロリス「レッサーからチラッと聞いたんだけどさ、『右手』って勝手に治るんでしょ?」

上条「あー……再生、すんのかな?あんま自信がないって言うか、死にかけてたから憶えてない」

上条(オッレルスとオティヌスの初顔合わせん時、だっけ?何かもう大分昔の事のような気がするなぁ)

フロリス「けど、今は治ってない――どころか、普段効かない治癒術式も効いちゃってるよねぇ?」

上条(……あぁそうか。さっきのフロリスの詠唱の意味が何となく分かったのも、『右手』がないせいか)

フロリス「それっては要は『右手がまだ残ってる』って意味なんじゃないの?」

上条「えっと、つまり?」

フロリス「『幻想殺し』が二つも三つもあったらバランス崩れるっしょ?だから、一本目が失われない限り、再生はしないと。おけ?」

上条「他人の腕を本言うな」

フロリス「だから今、ジャパニーズの腕が治らないのは『一本目』が残ってる証拠じゃないの?」

上条「残ってる、って……どこに?」

フロリス「にーぶーいーなーーーっ!あれ!あっこのヤツだよ!」

上条(と言って指差す――のは、無理だったが、視線を追うと)

上条(ビルの間を器用に、そして子供が見たら絶対トラウマを残す気持ち悪い動きで跳び回る)

上条(――『安曇阿阪』か)

上条「アイツの体内にあるって事?」

フロリス「ちゅーか、今まで余裕ぶっこいてたのに突然逃げ出すなんて不自然だよねぇ、どう考えても」

フロリス「まるで『いきなり弱くなった』みたいな感じだもん」

上条「ヤツの腹の中で、まだ『幻想殺し』は効果を発揮してる、か?」

フロリス「100%じゃないと思うけどね。じゃなきゃあれだけの身体能力は出ない――ハズ」

上条「……成程な。合ってる、気がする」

フロリス「魔術だけじゃないけど、こういうのは距離が離れると威力も落ちるってセオリーがあってだね」

フロリス「ぶっちゃけアイツが弱ってる内に叩こう、ってハラ。おーけー?」

上条「勝算はあるのか?」

フロリス「ん、さっきからキーキー騒いでる?聞こえない?」

上条「風の音といつ地面に激突するか怖くて……」

フロリス「んじゃちっょと体勢変えてっと」 ムニッ

上条「ちょっと待ったフロリスさん!?それだと、こう、俺の後頭部にアレがアレで当たってますよ!?いい感じにふにゃんって!」

フロリス「当ててんだよ、言わせんな恥ずかしい」

上条「よーしちっと待とうか!というかまず落ち着け俺!」

フロリス「ジャンパーの胸ポケットに、さっき言った通信用霊装入ってんだってば」

フロリス「この体勢で『取っても、いいよ?』っつっても取れないっしょ?」

上条「うん、だからね?そもそもそれ以前にだな、女の子の胸ポケットへ紳士は手を入れないんだよ?」

フロリス「――聞こえない?」

???『――っ!――――――!?』

上条「あ、これって」

???『ちょっと待とうかイヤ待ちますね待ちましょうとも!えぇっ!』

???『てか何やってんですか!?マジで何やってんですか!?交尾ですかっ嫌いじゃないですけどね!』

上条「……うん、俺、誰か分かっちゃったみたい」

フロリス「だーよねぇ。突然通信来た時には驚いたけど、ま、流石って言うか」

上条「追っかけて来てんだよな、俺達の事?」

フロリス「そそ。半分は病院の蛇人間――ナマナリ?を無力化させておいて、他はこっちへ来てるって」

上条「って事は。安曇が行く『真蛇』が居るトコは当然」

フロリス「アジトって事だよねぇ」

上条「よしよし!俺達は斥候って事な?」

フロリス「出来ればワタシ、あんま働きたくないんだよねー」

上条「さっきテンション違っ!?」

フロリス「何か飽きた?レッサー達張り切ってるし、別に任せりゃいーかな?みたいな」

上条「……いや、まぁ仲間に頼るのもアリだとは思うけどさ――っと!」 ダッ

フロリス「ナイスジャンプ!……あー、やっぱりオトコノコは蹴るの強いな」

上条「ん?お前らだって霊装使ってんだろ、てかちょい前俺を羽交い締めにして、窓の外へ心中カマしたのってフロリスさんですよね?」

フロリス「あ、フロリスでいーよ?」

上条「皮肉ってんだから聞けよ!?反省しなさいよっ!自分の行動をねっ!」

フロリス「いよーし!追っかけるよ、ジャパ――上条当麻!」

上条「……りょーかい!」

今週の投下は本当に以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を。来週来られるかは微妙


フロリスさん、ちょいデレる

――六人病室

レッサー「ミシャグジ?あんまり日本語っぽくない響きですね」

建宮「漢字で書くと『御石神(ミ・シャグ・ジ)』――石神井(しゃくじい)って地名、聞いた事はないのよな?」

鳴護「東京にそんな名前の公園ありましたよね」

建宮「あそこら辺は井戸を掘った際見つかった石が、奇瑞があったため奉られ、石神井と呼ばれるようになったのよ」

建宮「また一説にはアイヌの名前とも類似性が指摘されているのよな」

シャットアウラ「シャクシャインとかいう英雄が居たような……?」

建宮「現在の長野県諏訪地方――安曇野には神が御座(おわ)すのよな」

建宮「嘗て在ったのか、それともずっと在ったのかは分からんのよ。とにかく、在った」

建宮「『それ』のルーツは分からんのよ。どこから来たのか、どこへ行くのか、現存する民俗学者には明確な答えが出せていないのよな」

建宮「何故なら『それ』は意図的に隠されたからなのよ」

ベイロープ「それが……さっき言っていた『切り離した』へ、繋がるのか?」

建宮「『それ』は蛇神であったとされているのよ。人を喰い、人を襲い、人を殺める類の」

建宮「人々は人身御供を捧げる事により、難を逃れてきた――と、されている」

鳴護「されている、ですか?」

建宮「この世界には神や仏は居ない――と、されているのよな。少なくともホイホイ出てくるような神格は居ないのよ」

レッサー「魔術的な災害を『神災』と呼ぶ事はあっても、現実に悪魔や妖怪が出たってぇ話は聞きませんもんね」

ベイロープ「魔神は?オティヌスのような魔術師であったと?」

建宮「それも不明なのよ。北欧神話の名を冠した魔術師なのか、オティヌスを見たノルド人がオーディンと呼んだのかは」

レッサー「まさに卵が先か鶏が先か、ってぇ話ですよねぇ」

レッサー「ま、そこいら辺はいつか直接ご本人からお伺いしたい所ですが、ねぇ?」

建宮「そもそも神話的のアーキタイプ、『原型』には共通項が多いのよな」

建宮「『蛇』もしくは『竜』が居て人々へ人身御供を求める。そこへ『英雄』もしくは『上人』が訪れて退治して解決する話」

シャットアウラ「洋の東西で竜か蛇かの差はあれど、大体は同じだな。それが?」

建宮「この場合の『蛇』、つーか『竜』は『水害の神格化』なのよ。現実に怪物が居たのではなく、そう昔の人間は考えたのよな」

鳴護「えっと、どういう意味ですか?」

建宮「例えば何回も氾濫する河川があったとするよな?それを昔の人は『水神様が激おこぷんぷん丸なのよな!』と判断していたのよ」

シャットアウラ「多分、それは言わないと思うが」

レッサー「あとオッサンが若者言葉使うのって痛々しいだけですよ。割とマジで」

建宮「ンァッ! ハッハッハッハー!ネタをしようと思ったんだが、これ意外と汎用性に欠けるのよな……さておき」

建宮「だから定期的に供物を捧げ、お怒りが収まるようにした――のが、まず一つ」

建宮「次に『水害で亡くなった人間は、神に呼ばれた=捧げたものになった』とも解釈したのよ」

鳴護「それじゃ……順番が逆じゃないですかっ」

建宮「そうなのよ?」

鳴護「いや、そんなあっさり……」

建宮「が、お嬢ちゃん。恐らく『神様も居ないのに』とか思ってるんだろうが、それは違う。違うのよな」

建宮「人の手に余る自然災害、少なからず人死には出たのよ。それは古くから災害が多い日本では仕方がない事なのよな」

建宮「当然のように命を落とす者が居て――ここで質問よ」

建宮「残された者は『彼らが災害で無駄死にした』と考えるのと、『水神に捧げられた』と考えるの」

建宮「さて、どっちが前向きなのよ?」

鳴護「それは……」

建宮「……あまり良い話ではない、と前置きをして話すのよ。所謂『人身御供』にはある種の口減らしの側面もあったのよな」

建宮「寒村で体の弱い子供が生まれる。それは現代と違って栄養状態も悪く、医学も呪術じみたものしかないのでは必然なのよ」

建宮「『江戸時代へ帰ろう!』とか抜かすバカどもを見ると殴りたくなるが、あの時代、徳川家すらバタバタ子供が死んでいったのよ」

建宮「当然、『弱い』子は産まれて直ぐに――と、言うのは珍しくも無かったのよな」

建宮「……そこいら辺は『産怪(サンカイ)』を調べてみれば、分かる話なのよ」

建宮「んが、ここへ『生け贄』という因子が加わると――」

レッサー「『未熟児でも生かしておける理由が出来た』、でしょうか?」

建宮「なのよな。場所によっては村集総出で手厚くもてなされたのよ」

建宮「『現代』では勿論犯罪、しかし『古代』ではある種の救いであった。そう俺は考えるのよな」

ベイロープ「それらのファクターが揃って、『諏訪の蛇神』が出来上がった、と?」

建宮「実際に安曇氏族が移り住んできた際、治水技術が格段に発展し、『それ』は一度姿を消すのよ」

建宮「水害によって人死にが出なければ、当然人身御供も――と、する事にした犠牲者も必要ない、と」

建宮「だが『それ』は生き残った。安曇氏族の『御柱祭(おんばしらさい)』って聞いた事が無いのよ?」

レッサー「あっ、あー、ありますあります。大きな木を切り倒してから、社殿へ運ぶんですよね?」

建宮「それなのよ。さっき、お嬢ちゃんが『どうして安曇氏族は山中へ移り住んだのか?』と聞かれて、俺は『川を遡った』と答えたのよな」

建宮「手段じゃ無く目的を答えるとするのなら、安曇氏族は『竜骨』を欲しがっていたのよ」

シャットアウラ「竜骨?大きな船の中心部に添えられる、文字通りの背骨か」

建宮「あれには強度があって粘りの強い木材が最適――しかしそれは山奥にしか無いのよ」

レッサー「自然と海洋民族でも登山しなくちゃいけませんかぁ」

建宮「その行程、『山から巨木を切り出し、下まで移動させる』が神事として定着したのが御柱祭だという説があるのよ」

建宮「彼らが移住した先も、恐らくは船造りの最中にめぼしい所を見つけただけなのよな――と、話が逸れたのよ」

建宮「が、この御柱祭、よく死人が出るのよな。かぁなり無茶な事をやってるから」

建宮「それは諏訪地方で無くとも条件は同じ――が、もしもここで」

建宮「ミシャグジ神の信仰を続ける者が居れば、どうするのよな?」

レッサー「事故が、事故では無い、ですか?」

建宮「勿論、安曇氏族はミシャグジ神を滅ぼした側なのよ。従ってそんな事する意味が無い」

建宮「しかし別系統の『誰か』、もしくは『何か』が居た」

建宮「滅ぼされるのを良しとせず、祟り神が祟り神であり続けるのを望んだ一族。その正当後継者が――『安曇阿阪』」

建宮「――以上が禁書目録の推論なのよな!」

レッサー「ここへ来てまさか人の受け売りだったっ!?」

ランシス「一応隠していた方が……うん」

建宮「我らも情報を出しているのよ。合作なのよな」

ベイロープ「正直だからって誉められるとは限らないんだけど……まとめると」

ベイロープ「諏訪地にはミシャグジ信仰があった。治水がおろそかな時代にはガンガン人が死に、捧げられていた」

ベイロープ「そこへ安曇氏族が治水技術と共に移り住む。ミシャグジ神は信仰の対象から外れる」

ベイロープ「が、これで困った――か、どうかは知らないけど、以前からミシャグジ神を崇めていた一派があった」

ベイロープ「彼らは安曇氏族の宗教儀式をも取り込んで、現代まで生き残ってやがった、よね?」

建宮「に、加えて安曇氏族は自分達の使っていた獣化魔術も封印したのよ。陸の上で使う分には必要ない、と」

建宮「だから彼らの入れ墨文化は廃れ、現在へ至るまで罪人か狂人以外しなくなったのよな。この日本という国では」

レッサー「にゃーるほど。確かにある意味、私らは古い神――『旧支配者』を相手にしてるってぇ訳ですな」

ランシス「ちょっと、テンション上がる、かも」

ベイロープ「安曇氏族の獣化魔術よりも更に旧く、得体の知れない相手、ね」

ベイロープ「歴史的な背景はある程度理解出来た。で、ミシャグジ神は結局なんの神だったのよ?」

ベイロープ「蛇っぽい、って事は安曇阿阪の術式から分かるでしょうが、それだけって事は無いわよね」

ベイロープ「そもそもで言えば蛇なのにシャグジ――『石神(しゃぐじ)』の名前持ってるのが異様なのだわ」

ベイロープ「逆に言えば、そこら辺をクリアすればフロリスが天敵になるでしょうけど」

建宮「それが――分からないのよ」

ベイロープ「……うん?」

建宮「いやぁサッパリ!全っ然!全く以て不明なのよな!」

ベイロープ「だったらなんで!どうして!今まで引っ張りやがった……ッ!」

建宮「何度言ってるように、半当事者の安曇氏族ですら実体が掴めていないのよ。我らに文句を言うのは筋違いなのよな!」

建宮「禁書目録も情報が少なくて動くに動けず、かといって柳田老のように現地調査する訳にも行かないのよな」

シャットアウラ「その少ない情報をかき集めに日本へ行くのか?」

建宮「手足となって働くのよ。里帰りも兼ねて」

レッサー「ちょっと厳しいですかねぇ、こりゃ。私達は日本の術式に不慣れですし、あちらさんはそれをクトゥルー風にアレンジしやがってんでしょ?」

レッサー「『蛇』と『石』についてもう少しご助言頂けませんかね?」

建宮「そうよな……『蛇』に関してはそちらさんと大差ないのよ。『英雄』・『竜』・『鉄』の三竦みはよくある話」

建宮「それに加えて『治水』の概念が加わる、ぐらいなのよな」

建宮「『石』にはついては……あぁ、『六国記(りっこくき)』の『続日本紀(しょくにほんぎ)』、確か常陸国の古史に」

建宮「『少彦名(スクナヒコナ)神の権現が浜辺へ現れ、よく人に憑いた』と」

レッサー「物騒な話ですなー」

建宮「いや、該当する地域を俺のメル友がガルパン巡礼ついでに調べた所、ある社の近くに断層が剥き出しになっている所があるのよ」

ベイロープ「目的が邪すぎる――ん?」

建宮「だ、もんで『海の向こうから渡来した神とは、地震によって隆起した古代の地層じゃね?』と言っていたのよな」

レッサー「それで『石神』ですか。ふむ」

建宮「文献には『一夜にして現れた』とかそれっぽい記述もあるし、まぁ確定だと思うのよ」

レッサー「論文で発表したりは?」

建宮「『夏コミが忙しい』」

レッサー「ある意味新しい文化へのイノベーションですけどね」

建宮「他には時代が下って、石灯籠が幽霊になって人を騙した『にっかり青江』とか、他にも磐座(いわくら)も――」

ベイロープ「――あのクソマスター!何やってやがる!?」

レッサー「どうしました――って手首から血が?リストカットする癖なんてありましたっけ?」

ランシス「普通、ぐるっと一周は切らないと思う……」

ベイロープ「『銀塊心臓(ブレイブハート)』の副効果よ。ってかこれ、大ケガしてんだろーがどう考えても!」

レッサー「すいません、あのぅ、私その話聞いてないんですが詳しくお伺いしてもいいですかねぇ?」

レッサー「てか隠し事作るのやめましょうよ?私達仲間ですよね、ねっ?」

レッサー「こないだベイロープの部屋に入って、『俺ちょっと女子寮に居るんだが質問あるwww?』でスレ立てたのは謝りますし!」

ベイロープ「……ほーう。何か口聞いた事も無いような野郎から、『派手な下着なんですね』とか聞かれるのは、あ・な・た・のっ!せいだったんかぁぁぁあああんっ!?」

レッサー「ぎゃーすっ!?だから隠し事しないって言ったじゃないですがっ!」

ランシス「やれや――ふ、ふひっ、あれれっ?」

鳴護「どうした、の?」

ゾワッ……!

レッサー・ベイロープ・建宮「!?」

鳴護「あれ、今、なんか……?」

シャットアウラ「どうしたんだ、全員で?」

建宮「来やがったのよ、『濁音協会』が」

レッサー「てかこの魔力、安曇阿阪系じゃないですかね?なんかショーユっぽい臭いがします」

建宮「それは分からんのよ――が、まぁ十中八九件の人物なのよな。海の臭いがプンプンするのよ」

レッサー「ではでは皆さん、逝きましょうか――蛇退治に」

ベイロープ「そうね」

レッサー「『ちょっと待とうかイヤ待ちますね待ちましょうとも!えぇっ!』」

レッサー「『てか何やってんですか!?マジで何やってんですか!?交尾ですかっ嫌いじゃないですけどね!』」

ベイロープ「ネタに走るな。つーかシメる時はきちんとシメなさい」

ランシス「フロリスに連絡入れるのは、大切だけど……いひっ」

――深夜のフランス市街地

レッサー『――と、まぁ現時点で分かっているのは”蛇”、そして”石”と言う事ですね』

上条(相変わらず、と言うか俺達は夜の街を疾走している。正確には滑空らしいが)

上条(感じとしちゃアレだな。どっかの怪盗さんになったような気分。ハートを盗んで行った的な)

上条(別の例えなら変身が得意な配管工のオッサン。爽快感は同じかも?)

上条(ちなみにフランスの市街の一部は、『観光のために風景重視』らしくて電線は無い)

上条(法律で規制して景観を守ってるんだそうだ。日本で言えば京都か奈良かのコンビニみたいな)

上条(他には洗濯物も表通りに干しちゃいけないんだとか。そこまで徹底するのもどうかと思うが)

上条(……右手が無くて痛みがズキズキするのを我慢出来れば、楽しいと言えなくもない)

上条「……」

上条(うん、まぁ動画撮られてUPされたらマズいとは思うが!)

レッサー『そこはやっぱり魔術でですね』

上条「聞いてんのかよ、つーか内心聞こえてんのかよ」

上条(『新たなる光』は『必要悪の教会』ですら喉元へ来るまで気づかなかったんだし、隠密行動には一家言あるのかも知れない)

上条(目的が追撃戦じゃなかったら楽しめたのかも――って、あぁダメか。『右手』があると霊装に悪影響与えるんだっけ?)

上条(結構なスピードで滑空&跳躍を繰り返してるのに、殆ど風の流れを感じない)

上条(そこら辺をどうにかするのもセットになってんだろうけど、ちょっと惜しいか)

フロリス「『ふーん?どっちもワタシには関係ないっぽいなぁ』」

レッサー『ならば暫くは様子見でいいと思いますよ。こっちが着くまで余計な事はしちゃダメですからねっ!』

上条「『分かってるって』」

レッサー『くれぐれも上条さんに気をつけて下さい!フラグ立つなんて以ての外ですよっ!』

上条「『分かってないのは確実にお前だな?俺達じゃねぇな?』」

レッサー『何かあったら、ホウ・レン・ソウ!取り敢えずそれを徹底させておけばベターです!』

上条「『報告・連絡・相談?』」

レッサー『法廷・連携・想像妊娠、の略です』

上条「『そのキーワードから”慰謝料ウハウハ”以外の言葉は出ないよね?』」


レッサー「『ニンジャ、殺すべし!』」

上条「『マンガなのな?ある意味間違ってない事はない、つーか間違って』」 ガクッ

フロリス「アイツ、進路変えたみたい!気づかれたかも!?」

上条「……っ!」

安曇「――」

上条(安曇はマンションの壁面で停止したまま、こちらを凝視する)

上条(マズい!目が合って――)

フロリス「……」

上条「……」

安曇「――」 フイッ

上条(……うん?)

安曇「……」

上条(おかしいな?俺達が空中でホバリングしている辺りを思いっきり凝視してたんだが、何事も無かったように動き出した……?)

フロリス「どしたんだろーねー、あれ?」

レッサー『――どうしましたか?何か不測――でも起きました?』

上条「『今、一瞬安曇が振り返ったんだが』」

フロリス「『ワタシら見た筈なのにスルーされちゃったみたい』」

レッサー『そうで――多分、単純に視力の影響――ないでしょ――』

上条(音声が途切れ途切れに?アンテナ――は、無いけど距離の問題か?)

フロリス「『どったの?何かトラブった?』」

レッサー『いえい――心配なく。それより爬虫類の習性――いかと』

レッサー『あちらは動体視力は良い――夜目が利かないらしいんですよ』

上条「『蛇って夜行性じゃ無かったっけ?』」

レッサー『のも、居ます。ピット器官――彼らは熱を感知する感覚器官を持――まして、最初から視力へ頼っていま――ん』

フロリス「ワタシら、風のバリアみたいなの纏ってるし。臭いも遮断はされてる、筈?」

上条「疑問系なのが怖いが……言われてみれば確かに。高速で移動出来る霊装だったら、空気の摩擦とか流さないと洒落になんないよな」

レッサー『第一逃げてる相手に追っ手が掛かったとして、その場で始末しない理由がありませんよ』

レッサー『慎重になるのは良いと思いますけど』

上条「『だな。んじゃ気持ち距離取って追いかけるわ』」

フロリス「んー?」

上条「反対か?」

フロリス「って訳じゃ無いけど……あ、ちょっと耳塞いでて?」

上条「無理だよ!?片手しかねぇのに!」

フロリス「オイオイ、オンナノコ同士の内緒話を聞こうなんて趣味悪いぞー」

上条「物理的に無理なんだよね?つーか帰ってからやれ、帰ってから」

フロリス「ワタシが塞ごっか?両手で、こう」

上条「うん、だからそれすると俺は首を捕まれたままになるよね?つーか死ぬよね最悪折れるよね?」

上条「……いやGは殆ど掛かってないけど、むち打ちぐらいにはなるだろうし」

フロリス「ま、いっか。なるべく忘れてくれればいーや『――もしもーし?』」

上条「ホントにするのかよ!?つーか英語とかで喋れば殆ど分からないんだが」

フロリス「『えっとさーぁ、なんてのか、言いにくいんだけど、話、あるんだよねぇ』」

レッサー『今ちょっと忙しいんですけど、至急ですか?』

フロリス「『出来れば』」

レッサー『ならどうぞ。ただし手短に』

上条(向こうは俺達を追ってるか、病院で掃討してるんだから当然だっつー話)

フロリス「『んーとねぇ、その――レッサーの気持ちは分かってたんだけどさ、ワタシも気に良っちゃったみたいでさ」

フロリス「『もし良かったら、譲って貰えないかなぁ、なんて』」

上条(何を?)

レッサー『言っている意味がよく分かりませんけど、フロリスにとって大事なんですね?わざわざ断るって事は』

フロリス「『だね、うんっ』」

レッサー『……分かりました。思う所もありますけど、ここは私が涙を呑んで譲るとしましょう』

フロリス「『え、マジで?いいの?本当に?Really?』」

フロリス「『ありがとーーーーーーーーーっ!レッサー愛してる!モルドレッドの次に好き!』」

フロリス「『さっすが親友!言ってみるモンだよねぇっ!』」

レッサー『いや絶賛されましても……あ、そろそろいいですか?』

フロリス「『おけおけ、今度ケーキでも奢るからさ』」

レッサー『はい、それじゃまた――』

フロリス「……ふーむ、と」

上条「何の話?」

フロリス「だからナイショっつったんジャン。気ぃ遣いなよ、モテないぞー?」

上条「それは割と今更だから諦めてるが……」

フロリス「直ぐ分かるさ。直ぐに、ね」

――フランス某病院

レッサー「――て、切れましたね。なんだったんでしょ今の?」

ベイロープ「伝える事は伝えたんでしょ?だったら別にいいわ――しかし」

建宮「何か、凄い事になってるのよな」

レッサー「『鱗人間に囲まれっさぁっピンチ!?この先一行の辿る運命とは!闘争の時代に果てに見たものとは……ッ!』」

レッサー「『次回、”最後の力”。慟哭して見よ!』」

鳴護「それ、負けフラグじゃ……?」

ランシス「……ちなみに『囲まれっさぁっ』と『レッサー』が被ってる……!」

レッサー「ランシスさん、あなた昨日から私の背中ばっかり撃ってませんかね?そういえば」

レッサー「ツッコミの無いボケに存在価値などありませんが、かといってスベったギャグを解説されるのも、それはそれで苦痛と言いましょうか」

ベイロープ「オイ遊ぶんだったら終わってからにしろ、終わってからに」

レッサー「って言われましてもねぇ?なんつーか『殆ど終わってる』じゃないですか」

シャットアウラ「当然だな――『報告を』」 カチッ

クロウ7『――長期入院患者用ロビー並びに一階エントランスは制圧しました』

クロウ7『エアダクトや空調施設の中へ入り込んだ敵性体の確保には手間取っていますが、30分以内にはなんとか』

シャットアウラ「『15分でやれ。あと私の”クルマ”はどこにある?』」

クロウ7『地下駐車場にバンと一緒に確保してあります』

シャットアウラ「『玄関先まで寄せておけ。直ぐに出る』」

クロウ7『了解……ご武』 ピッ

鳴護「……えっと、今の柴崎さん、だよね?帰ったんじゃ?」

シッャトアウラ「『帰した』とは言ったが、『本当に帰した』とは言ってない」

鳴護「身内がブラックだったよ!?」

レッサー「『黒鴉』だけに!」

ベイロープ「つーか『クルマ』ってあの『クルマ』なんだよなぁ?」

シャットアウラ「『クルマはもう無い』とは言ったが、『本当に無い』とは言っていない」

鳴護「ブラックって言うか、ダークって言うか」

レッサー「『生成り』以上の生体兵器がバラ撒かれそうってんですから、まぁバレても激怒はされないでしょうがねぇ」

レッサー「つーか、せめて『ご武運を』ぐらい最後まで言わせてあげてもいいんじゃないかと」

シャットアウラ「時間の無駄だ――なっ!」 シュッ

バチチチチチチチチチチチチッ!!!

生成り『――ゲガァァァァァァッ!?』

ベイロープ「おー、効いてる効いてる。流石学園都市謹製のスタングレネード」

シャットアウラ「当たり前だ。『これ』と一戦交えたデータを持っているのだからな」

鳴護「生きてる、よね?」

シャットアウラ「元々は『学園都市で変化させられた学生達を、傷一つなく確保する』ために開発された技術だ。心配はしなくてもいい」

建宮「しっかま、ここら辺が獣化魔術の廃れた原因なのよな。身体能力高くなりし、然れども知能もまた獣へ近づけり、なのよ」

ランシス「鼻と耳が良すぎるから、人間相手には『ちょっと不快』程度の攻撃でも充分怯むし……」

ベイロープ「ジャングルやサバンナじゃ自然に溶け込まれて脅威なのよね、恐らくは」

ベイロープ「人間以外に生物が存在しない、冷たいコンクリートの中だから目立つってだけで」

シャットアウラ「幾ら物陰に隠れようとも、熱源探知・振動感知・臭気判別にドローンを先行させれば物の数では無い」

建宮「それ、普通の人間でも無理ゲーなのよ」

シャットアウラ「しかし本当に効率が悪いな、獣化魔法とやらは」

レッサー「いやですから、さっきから散々言ったじゃないですか」

建宮「まぁ、今魔術をかけられてる相手が巻き込まれた素人さん、ってのも加味して欲しいのよな」

建宮「『本物』は弱点を知った上で、ほぼ完璧にカバーしてくるらしいのよ」

レッサー「何か一昔前の、思考ルーチンが『索敵殲滅』だけのザコ敵っぽいですよね」

ベイロープ「ザコ敵言うな。帰ってきたら『解除』させなきゃいけないんだから」

シャットアウラ「たわいないにも程がある。獣であっても実力差を感じれば逃亡するだろうに。これは、なんだ?」

シャットアウラ「そもそも魔術的な『仕込み』があるのか?これはタダの足止めだと?」

レッサー「どーです、センセイ?何か感じますか?」

ランシス「んー……?ビリビリは、ない、かな?さっきの一回だけ、強いの感じた、けど」

レッサー「てな事ですので、最初の『アレ』ん時、起動+命令でも仕込まれていたのかと」

シャットアウラ「生来の獣であれば、如何ともしがたい実力差を悟れば引くというのに」

シッャトアウラ「奴らはデタラメに襲いかかってくるばかり。どちらが獣だか、分かったものではないな」

ベイロープ「人間だってパニックんなれば取り乱すのは当たり前。誰だって訓練された人間とは違うわよ」

鳴護「……あのー、ちょっといいかな、レッサーさん?」

レッサー「あいあい。てかレッサーちゃんで構いませんよ鳴護さん」

鳴護「あ、だったらあたしもアリサって呼ばれる方が嬉しい、です」

レッサー「んで、どうしました?『やっぱりついて行きたい』ってのは聞けませんよ?」

シャットアウラ「アリサ?」

鳴護「違う違う!そうじゃなくって、っていうか素朴な質問なんだけど」

ベイロープ「おい、レッサー」

レッサー「野暮な事は言いっこなしですよベイロープ。彼女はもう既に関係者です」

レッサー「何も知らず・知らせずに枠外へ置くなんて、それは逆に失礼ってもんですからね」

鳴護「ありがとう……なんだけど。さっきから言ってる『獣化魔術』の欠点は」

レッサー「『能力に比例して知能が下がる』事ですね、はい」

鳴護「だから中世の狼男さんみたいに行き当たりばったりな行動をしたり、今みたいな感じになるんだよね?」

レッサー「前者は噂でしか聞きませんが、ま、似たような感じでしょうな」

鳴護「けどこれ、おかしくないかな?矛盾してるよね?」

レッサー「と、言いますと」

鳴護「えっと、お姉ちゃんが今言ってたみたいに、『動物は明らかに強い相手からは逃げる』よね?」

建宮「同族同士で縄張り争いはするけど、それ以上はあんまないのよ」

ランシス「結果として死ぬ、事はある……けど」

鳴護「だったらさ、『獣化した人達も、適わないって思ったら逃げ出したりする』んじゃないのかな?」

レッサー「……あー……」

ランシス「……」

ベイロープ「へぇ」

建宮「確かに、なのよ」

シッャトアウラ「流石はアリサ!見たか天然のこの威力!」

鳴護「いやだから、私天然違う……」

建宮「言われてみればなのよ。盲点だったのよな」

ベイロープ「よくトチ狂った連中を『獣』に例えるわよね?狂犬とか、狐憑き、とか」

ベイロープ「でもよくよく考えれば、動物の生き方ってのは実にシンプルで理に適っている。少なくとも人間なんかよりはずっと、ね」

建宮「俺達は『獣化が進む=まともな行動をしなくなる』って考えていたのが、確かに言われてみればその通りなのよ」

建宮「獣は決して狂っている訳ではなく、人間とは違うルールで行動しているだけ、なのよな」

ランシス「だったらどうして獣化魔術を発動させると、おかしくなる、の……?」

レッサー「今までは私達が漠然と考えていた図式は、『人←→獣』って一本のグラフがあって、獣化を使えば強度に比例して獣へ近づく、と」

レッサー「でも、言われてみれば確かに『獣化魔術で変身した人間の行動は、獣とは一線を画している』気がしますね」

レッサー「野生で最も重要な生存本能を度外視する、と言いましょうか。妙に好戦的になると言うべきか」

ランシス「中世の狼男伝説では、虐殺とか人食いとかが起きて、いるし」

ベイロープ「獣は必要以上には殺さない。けれど同族食いは獣にしか起こらない、のだわ」

シャットアウラ「なんというか……異質だな」

シャットアウラ「よく似てはいるが、決定的に何かが違う。騙し絵を見ている気分だ」

レッサー「とはいえ違うのが分かっただけでも違いますよ!アリサさん、今のは金言かも知れませんねっ!」

鳴護「あ、はい。ありがとうございます……?」

建宮「安曇阿阪が『獣化しても正気を保てる』のは、そこいらが鍵なのよな。多分」

レッサー「うーむ……私達だけでは結論を下すのが難しいですかねぇ。実際に魔術に触れたのも、下っ端を相手すらさせていませんし」

ベイロープ「あの子へ伝えておきなさいな。直に見たのはまた違うでしょうし……あ、でもあんまり煽るの禁止ね」

レッサー「突っ込まれても困りますしねっ!Double Meaning(二重の意味)でっ!」

ベイロープ「英語にすりゃシモネタも許されると思うな。つか後ろから教育的指導を撃たれるっつーの」

シャットアウラ「人をなんだと思っている、お前達」

建宮「なんかこう、アウェイな感じなのよな……」

ランシス「……うんまぁ、女子校ってこんな感じだし……オンナノコ同士だとエゲツない会話もしている」

レッサー「んでは早速ピッポッパッと」

ベイロープ「余計な擬音を入れない」

レッサー「……」

ベイロープ「……どうしたのよ?」

レッサー「ベイロープ、ランシス」

ベイロープ「分かったわ」

ランシス「……」

鳴護「どうしたんですか?」

レッサー「それがですねぇ」

ベイロープ「――ダメ、繋がらない」

ランシス「探知も……無理」

レッサー「ヤッバいですね、これは――」

レッサー「――フロリス達の位置、ロストしちゃったようです、えぇ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

フロリス編、あと一回か二回で終わりです

乙。レッサーは一体ナニをフロリスさんに…?

面白い。
原作の新たなる光もこんな性格だったらいいな

この作者の上条さんって原作より気持ち弱めだよね

>>533-539
ありがとうございます

>>536
私が書いているのは上条さんの物語ではなく、上条さん”達”の物語ですので
ヒロインを軸に構成を立てています。あー……そうですね。例えば

【原作の構成】
ヒロイン「助けて!」→上条「任せろ!」→ドーン→上条「よしもう大丈夫だ!」→ヒロイン「抱いて!」
→インデックス「とうまは(ry

【SS】
ヒロイン「助けて!」→上条「任せろ!」→ヒロイン「私も戦う!」→上条「……よし、行くぞ!」→ドーン
→上条「よしもう大丈夫だ!」→ヒロイン「抱いて!」→抱く→個別END

なので、上条さん一人で解決しない・出来ない仕様が多いですね
言い方は良くありませんが、ヒロインが活躍する手前、上条さんが有能すぎると……ですから

――フランス 某スタジアム

上条(あれから20程経って、俺達はデカいスタジアムの前にいる)

上条(安曇は尾行を警戒していたのか、何度か唐突な方向転換を繰り返してから、慎重にスタジアムへと入っていった)

上条(まぁ、ビルの壁面から壁面へ飛び移るのを尾行だなんて、空を飛んでない限りは無理だと油断しているのかも?)

上条(……あ、でもレッサーの機動性だったらいい勝負か。あの子、自動車と併走して走ってたし)

フロリス「ついた、っちゃついたけど、ここかぁ、うーん?」

上条「国立競技場?」

フロリス「『Parc des Princes(パルク・デ・プランス)』、直訳すると『王子達の公園』」

上条「ファンシーな名前だなオイ」

フロリス「『HACHIOH-JI』って『八人の王様』って意味なんだよね?」

上条「どの国もどっこいどっこいだな!名前の由来までは知らないけども!」

フロリス「昔はサッカーよりも自転車競技の方が盛んだってんで、元々はオーバル――楕円のレース場だったらしいのさ」

上条「ツール・ド・フランスだっけ?公道レースの」

フロリス「日本人にもBeppuって選手が居たっけかな、確か」

フロリス「でもサッカースタジアムとして改装されて、10年ぐらい前にもっと大きいのが出来るまでは、ずっとホームとして使われてたって」

上条「成程、なんかサッカーの幟みたいなも下げられてるけど」

フロリス「明日のあれでしょー?チェックしときなよ」

上条「つーかお前いまフツーに『日本人』って言わなかった?ジャパニーズじゃなくてさ?」

フロリス「流石にド深夜だし人も居ないし、つまんにゃーいにゃあ」

上条「ネコ化するんじゃないよ!一部の人に受けそうだけども!」

フロリス「ちなみにワタシはどっちかっつーとタチだ!つーかウケじゃなくセメだ!」

上条「自重しよ?俺には君が何を言っているのかサッパリなんだけど、いい加減にしとけ、な?」

フロリス「つーかガードマンもいなさそう。シーズン中じゃないから、鍵かけたまんまなのかな?」

上条「下手に入ってヤンチャするものなら、サポーターに囲まれて『こらっ☆』ってされるからな……」

フロリス「サッカーの試合でマジ死人が出るからねー、ウチらは」

上条「……ま、でも誰も居ないんだったら好都合だ。行こうぜ!」

フロリス「あ、トイレ?だったらあっちでしてきなよ」

上条「そっか、それじゃ後で!――って違うわ!話の流れがそうじゃなかっただろ!?」

フロリス「なんで?」

上条「安曇は?俺達悪い奴らの後追ってきたんだよね?」

上条「こういう時は『よし!今のウチに追い詰めるぞ!』とか言って乗り込む展開じゃないの?」

フロリス「戦力揃ってないジャンか。元々ハーフ――中継役のワタシと『右手なし(Less- Right)』でどーしろっつーのさ?」

フロリス「あ、超巻き舌で言うと『れっさぁ』って聞こえなくもない」

上条「要るか?今の情報必要なくね?」

上条「……まぁなー、『幻想殺し』がぶち切れたまま再生もしない俺が出張ったってなぁ」

フロリス「でっしょー?ワタシもフォワードじゃなくってハーフだから」

上条「あんま強くない?」

フロリス「ムカ。そんなことないですー、ポジションの違いなんですー」

フロリス「ワタシはフォワードとショート(遊撃)回収するってぇ役割があるんですぅー」

上条「ハーフってラクロスの?」

フロリス「ま、やってる事ぁサッカーと変わりないよん。ボール拾って相手にゴールへぶち込むだけだし」

上条「お前ら、イギリスの名門校なんだよな?」

フロリス「ナイショだけどね」

上条「でもってイギリスってクリケットの発祥っつーか本場じゃんか?だったら――」

フロリス「……うん、まぁまぁ、その、先生がね」

フロリス「『あんたら仲良くせんとあかんよー。魔術師言うても結局は仲間やん?友達大事にせんヤツは何も大事に出来ひんでー?』」

フロリス「『だからワイがクリケットやのうて、ラクロスを勧めたんは決して!』」

フロリス「『決っして「あ、ブリテンちゅーたらラクロスやね!」って勘違いしとったんちゃうで?疑ったらあかんよ、いやマジでマジで』」

フロリス「『――ってレッサーアンタ何ワイのアメちゃん食べてるん!?ちゅーかフロリスも帰らんといてよ!?まだ話は――』」

上条「うんまぁ、一度逢わせろ、な?お前らを作り上げたある意味元凶に」

フロリス「先生は会いたがってるみたいだけどねぇ。つーか日本にも行きたがってたし」

フロリス「……あとラクロスはハーフじゃなくてセンターって呼ぶんだけどなぁ」

上条「あぁそういやお前らのジャンケントーナメントで、決勝競ったんだっけか」

上条「……あれ?でもなんでレッサー来た――」

フロリス「んま、ちゅー訳でワタシらは役割分担が出来てんだよね。戦闘でも、誰がどんな動きをするとか、そーゆーの」

上条「統率の取れた魔術師、か?」

フロリス「他の魔術師が超個人主義だって知ってるっしょ?それこそ仲間でも仲間じゃねーぞ何言ってんだコイツ?みたいな」

フロリス「だもんで基本、奥の手とか隠し技の一つや二つ持ってんだーけーど。仲間同士でも手の内晒すの嫌って使わないんだよねぇ」

フロリス「それどころか、お互いがどんな魔術使うのか、ロクに把握してなくって誤爆しまくったり」

上条「あるよねー、そーゆーの」

上条(対オリアナ戦はそうでしたねー、俺とステイル)

フロリス「ま、ぶっちゃけ数の暴力なんだけどさ」

上条「……うん、分かってた。分かってたけどさ、そこはそれ、『チームプレー』って濁したんだし、掘り下げなくても」

フロリス「だからさー、ワタシはあんま直接戦闘好きくナイっつーか」

上条「補助系なのか?空飛べるし」

フロリス「ダルいじゃんか?」

上条「今までの話の流れは!?そういうポジって話じゃねーの!?」

フロリス「補助だったら『死の爪船(ナグルファル)』一択っしょ。あの子のアレは超エゲツねぇぜ」

上条「……多分、知りたくないし、関わり合いにもなりたくないんだけど、無理なんだよね?巻き込まれるんだよね、俺?」

上条「なんだかんだギャーびりびりーかぶぅっドーンっ……」

フロリス「どったん?」

上条「あ、あれ……?そういや、そうだ、そうだよっ!」

フロリス「Ah, Ha?(だから何さ?)」

上条「俺、イギリスに来てから一回もツッコミ&ボケで死にかけてない……ッ!」

フロリス「――で、どうしよっか?このままみんな待つのもアレだし、だからって開いてるお店はホニャララなトコしかないし」

上条「俺、割と真面目な話してるんですが?」

フロリス「夜だしSightseeingってぇのもなんだよね。フォークロア探しに行くのもあれだし」

上条「しつもーん!」

フロリス「なになに?」

上条「フロリスって弱――待て待て!?その振り上げた『槍』をどこへ振り下ろすつもりだっ!?」

フロリス「だから役割分担だっつってんでしょーが!ワタシはいつあのおバカを回収させられるかも、だから余力はのーこーすーのっ!」

上条「これ以上なく説得力のある理由だな!てかやっぱお前らの先生は偉大だよ!」

フロリス「それに今、ホラ、スタジアムの天井閉まってるっしょ」

上条「あー、あっこから飛んでは逃げられないよなぁ」

フロリス「ちゅーかワタシらの霊装も、先生の宝具バラしたもんだしね。一人じゃ扱い切れないからってんで」

上条「ふーん?『爪』だっけ、トールの『帯』とかとセットになってんの?」

フロリス「いやぁ、そっちじゃなくって――っと失敬失敬」 ブブブブブブッ

上条「相変わらず謎の通信機だぜ。つーかもう携帯でいいと思うんだよ」

レッサー『交尾ですかね?』

上条「なにその挨拶?開口一番で訊く事がそれなの?原人同士でもそこまで性に貪欲じゃなかったよね?」

上条「多分、今でも使ってるのって明治と早稲田の学生さんぐらいじゃねぇかな?やりサーでお馴染みの」

フロリス「『もっしー?遅いよーピザ屋さん、こっちはもう何分待ったと思ってんの』」

レッサー『ピザ?』

フロリス「『いんや、こっちの話ぃ。なんかあったん?』」

レッサー『ちょっと進展があったのでご報告を。実はこっちに一人、”真蛇”が残っていまして』

上条「信者?」

レッサー『”Devotee(狂信者)”ではなく”真蛇”――あぁっと、説明が難しいですかね』

レッサー『鎌倉時代頃から乱心して額に角を生やす、と言う説話が広まりましてね。それを取り入れた能で、能面として確立されました』

レッサー『獣化というよりも、蛇化というべきでしょうか。道成寺の安珍と清姫が有名かと』

フロリス「『Pardon?』」

上条「自分を捨てていった僧侶を、女が蛇に化けて焼き殺すって話」

フロリス「あー」

上条「よーしフロリスさん、どうして君が俺を指して『あー』って納得顔で宣ったのか、説明して貰うじゃねぇか」

レッサー『般若って知ってます?こう、角が生えて口が裂けた面の』

上条「ちょっと待て俺は今フロリスさんと大事な話をだな」

レッサー『時間が惜しいんで話は移動しながらで構いませんかね』

フロリス「『何々?切羽詰まってんの?』」

レッサー『もし良かったらでいいんですが、そちらのスタジアムに先行して情報拾ってきて貰えませんか、と。あ、無理には言いませんが』

フロリス「『ワタシフォワードじゃないって知ってるっしょ?』」

レッサー『それがですね、その言いにくいんですが……「エサ」として何人か捕まっている、という情報が』

上条「……行こうぜ」

フロリス「待ってよ!?ワタシと賑やかしの二人で突っ込んだって無理でしょーが!?」

上条「賑やかして……」

レッサー『あくまでも「S.L.N.」の証言ですんで、なんとも信憑性には乏しい所ですが、さて?』

上条「フロリス、頼む」

フロリス「むー……っ」

――パルク・デ・プランス内

上条(夜のスタジアムは昼間の喧噪とは打って変わって――って、それはさっきやった)

上条(うんまぁ、アレだよね?いい加減”夜のなんちゃらシリーズ”も慣れたっつーかさ)

上条(スタジアム入り口から堂々と――警備員のオッチャン居ないし、鍵すらも掛かっていなかった――入った俺たち)

上条(……どころか、入り口脇にある警備室からマグライトを拝借する……)

上条「ひ、非常事態だからねっ!?好きでやってるんじゃないんだから!」

フロリス「Hey、どーしたカミジョー――言いづらいな……トーマ?君は誰に向かってデレているんだいHAHAHAHA?」

上条「なんで英語の例題風?」

上条「いやだから入ってきてから聞くのもアレなんだが、これ、バレねぇかな?」

フロリス「バレッバレに決まってんジャンか。なに言ってんの?」

上条「やっぱりか!?そんな気はしてたげとねっ!」

フロリス「『今っから狩りの時間だぜヒャッハー!』って息巻いてる相手、外に出ちゃったら対処面倒だーよねぇ?」

フロリス「だったらまぁ騎兵隊が来るまで、スタジアムん中で囮になれば――」

上条「時間稼ぎ……おや?昼間も似たようなシチュがあったような……?」

フロリス「つーか来るの遅すぎぃ!何やってんのさ!?」

レッサー『えぇそれについては前向きに検討したいかと存じますよ、はい』

フロリス「『むきーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』」

上条「ま、まぁまぁ!他に手段がないんだったら仕方がないじゃんか、な?」

レッサー『とにかく、今は情報ですね。あ、不要なら説明は止めますけど?』

上条「……レッサーさん怒ってません?なーんか声が堅いっつーか、トゲがあるっつーか」

レッサー『そんな事はないトゲよ?』

上条「センスが昭和だな!?古ぃし誰得だし!」

フロリス「いやだから、そうやって何でもかんでも拾うからレッサーが調子に乗ってボケるんであってさ」

上条「拾わなきゃ拾わないで構うまでボケ続けるだろうが!」

フロリス「って事はツッコんでもボケるし、スルーしてもボケるから結果は同じと」

上条「……”可愛いけど残念な子”に相通じる残念さを感じるぜ……」

レッサー『――ではまず「生成り(なまなり)」と「真蛇(しんじゃ)、どちらも能面の一種でしてね」』

上条「こっちはこっちは俺達をスルーかっ」

フロリス「『No?』」

レッサー『No, ”Noh”、ですね』

上条「橋と箸みたいな面倒臭さがある」

レッサー『日本の伝統芸能の一つ、KABUKIと似たような仮面舞踏、でしょうかねぇ』

レッサー『日本には、と言うか安珍清姫の時代から、”獣化”する人間が数多く報告されています』

上条「色々と端折って簡単にすると『男に裏切られた女が、蛇になって復讐する話』だっけか?」

レッサー『――で、合っています。そうなんですよねー、「蛇」なんですよ』

レッサー『生成りが「鬼のような角が半分生えた姿」であるのに対し、真蛇は「鬼そのまんま」っぽい感じ。般若って言った方が分かりやすいでしょうか』

フロリス「『なーるほど。つまり自分達の獣化魔術の深度で区分けしているって話か』」

レッサー『一般人を無理矢理変化させたのが「生成り」、野獣庭園のメンバーが変化したのは「真蛇」でしょうね』

上条「『はい、質問!』」

レッサー『どうぞ』

上条「『般若って”鬼”っぽいよな?なのに真蛇は蛇なの?』」

レッサー『それはですね。女が嫉妬に狂うと鬼へ変わる、という伝承がまずあります。イザナギ神であったり、鬼子母神やドルゥガーとか』

レッサー『激怒した時に「角を出す」って言いますでしょう?』

上条「『そっちは納得。鬼女とか言われてるのも居るし』」

レッサー『最も知られた「安珍清姫」てには原型があると言われていまして、古事記にある「蛇嫁取り」だと言われています』

レッサー『所謂異類婚姻譚に分類され、ぶっちゃけると「神と人との結婚」でしょうか』

フロリス「EUでもギリシャ神話を筆頭にお盛んだからねー。ラミアとか居るし」

レッサー『蛇女、蛇女房は「嫉妬深い女性が転じてしまった」のか――それとも「最初からそうだった」のか』

レッサー『どっちだと思います、上条さん?』

上条「……それが、獣化魔術?」

レッサー『安珍清姫伝説は更に特殊でしてね。最後大蛇へと転じた清姫が、お寺の鐘へ隠れた安珍を焼き殺すんですよ』

レッサー『口から火を吐いて、ごおぉぉっと』

フロリス「それなんて怪獣映画」

レッサー『清姫の母親は白蛇であったという説話も残っていますしねー』

上条「『なんだかなー。訳分かんねぇよ』」

レッサー『――それですですね、ミシャグジも「白蛇」だったんですよ』

上条「『……え?』」

レッサー『まぁなんですかね、言うじゃないですか昔っから。「白蛇は神様の使いだ」って』

レッサー『あれもまた、順番が逆なんですよ。ぎゃーく』

上条「『レッサー……?』」

フロリス「『……ふーん?どうあべこべだってワケだよ?うん?』」

レッサー『神はどこにだって居たんですよ。山に、川に、海に、田に、花に、風に』

レッサー『朝起きれば天に昇る神へ感謝を捧げ、夜寝る前に昇ってくる神へお休みを言う』

レッサー『だから元々「ソレ」に名前なんてありませんでした。だって必要ありませんからね。そこに居る、と常に感じられていたのですから』

レッサー『それが「神」という概念が入ってきてから一変しました』

レッサー『尊きモノ?畏れるモノ?』

レッサー『それは違う、そんなモノでは決して、無い』

レッサー『人と神を分ける必要なんて無かった!名前を与えて縛る必要もだ!』

レッサー『曖昧なままで良かったのに!彼女はそんな事は望んでいなかった!』

上条「『レッ、サー……?』」

レッサー?『違う、違うのだよ、ニンゲン。その名前は、違う』

レッサー?『と、言うかだな。自己紹介は一度した筈だか、もう忘れてしまったのか?魔術名の名乗りも上げたぞ』

安曇(レッサー?))『この――安曇阿阪の名をだ!』

――パルク・デ・プランス内 深夜

上条「いつから、だ?てかどういう事だよっ!?」

上条「お前、レッサーとどうやって入れ替わったんだ!?」

安曇『音、とは振動である。即ち空気を振るわせ、伝達させて発生している』

安曇『そう安曇氏族が悟ったのは、今からざっと1000年以上前の話だ』

安曇『獣化してエラを生やす事により、一々息づきに水面へ上がらなくても良くなった――ものの、次に出て来た問題は海中での意思疎通だったらしい』

安曇『手振り身振りでも暗い海面下では近づかなければ意味を成さず、クジラのように吠えてみれば他を警戒させるだけ』

安曇『とは言え魚は発声器官を持たない。鼓膜も発達しておらず浮き袋で代用しているのが殆どだ』

安曇『ならば自分達で魔術を使い振動を操り、会話が出来るようにしてしまおう――そう、安曇達は考えた』

安曇『だから空気の流れを”視”たり、”携帯電話の代わりに震えるものを操る”のは難しくもない』

安曇『気配に振り返ってみれば、上空に大きな停止した空気の塊があれば、安曇じゃなくとも気づく』

安曇『侮りすぎなのだよ、ニンゲンと魔術師。安曇は獣の知覚に頼っているが、根本は魔術でもある――雑種、だ』

フロリス「……つーか声色変えて、しかも結構流暢に発音してやがったよねー。キャラ設定ぐらい守れよ」

安曇『ネコ化の動物の一種には、他の生き物の声色を真似ておびき出す習性がある』

安曇『加えて、安曇の地声でないと大和言葉の唄を唱えるのが困難だ』

上条「唄?」

安曇『魔術とは言葉と魔力だけではない。音階や仕草に意味を込めるものもある』

安曇『特に獣化魔術で「こう」なってしまうと、発声が困難になるからな』

上条「……言っている意味が」

安曇『ん、あぁいや、元「幻想殺し」よ。考え違いをしているな』

上条「何?」

安曇『問えば答えが返ってくると思うのは、只々傲慢と知るべきだろう』

フロリス「うっわダサっ!獣がどーたら言ってた癖に、まーさーかーのっPride(傲慢)ですって!Pride(傲慢)!」

フロリス「あれじゃん?何か余裕ぶっこいてるから、難しい単語使ってみました-、的な?あれ?うっわー、引くわー」

上条「お前もいい加減にしろ、な?割と殺傷力高いんだから」

安曇『そうじゃない。これ以上は無駄口になる、と安曇は言っている』

安曇『そもそもお前達がどこに居るのか、最初の設定を思い出して欲しいものだが』

上条「どこってそりゃ……スタジアムだろ?」

安曇『ほぼ正解だな。そこへ「野獣庭園が勢揃いしている」とつけば満点だ、と安曇は評価する』

フロリス「……あーぁ、言っちゃったよ」

上条「……へ?」

安曇『安曇は、ぐらうんど、の中央に居る。この続きが訊きたいのであれば来るがいい』

安曇『強制はしない。罠に填まったと逃げ帰――せんりゃくてきてったい、するのもまた良いだろう』

上条「……お気遣い、どーも」

安曇『どちらも、生き残られれば、の話だが』

真蛇「――」

上条「……トカゲ人間!?」

上条(安曇が病院で見せた鱗だらけの姿。よりも一歩進んだ、それも悪夢めいた方へ)

上条(全体のシルエットは”概ね”人間に近い。顔・体の位置や比率は大差無い)

上条(元々の個体差もあったんだろう。長身のものも居れば、子供ぐらいの大きさまで様々)

上条(これだけなら俺が学園都市で見たヤツと同じ。だが『真蛇』は決定的に違っていた)

上条(奴らの顔は目と目が離れ、口は裂け、何よりも瞳の奥の光りは白く濁っている)

上条(まるでトカゲ、いやイグアナ?マスクを被っているのであれば、まだ救いがあったのかも知れない)

上条(そんなバケモノが、元人間が!)

フロリス「……ま、そーなるよねぇ。そーくるしかないもんねぇ」

――スタジアム通路 深夜

「――っざい、なっ!」

 夜の静寂を打ち破るように、右へ左へ真蛇に『槍』を叩き付けるフロリス。

 ギャリギャリギャリギャリっ!と、安曇阿阪へ斬りつけた時と同じく、鋼の爪は鱗の表面を虚しく削り取るのみ。
 彼女の武器が鈍器、もしくは『叩き斬る』大剣の類であれば、鉄塊で殴ったのと変わらない衝撃を与えられたのだが。

「しゃーない、なっと」

「『Ancestral domains and land of the free. Hometown where poet's song was loved with history.』」
(祖先の土地、自由の地。詩人の歌を愛した歴史ある故郷よ)

「『A brave, manly soldiers dedicated the blood for the mother country.』」
(勇敢なる雄々しき戦士達は祖国のためにその血を捧げた)

「『Wales! Oh, Wales! I pledge one's allegiance to his country.』」
(ウェールズ!あぁウェールズ!私は祖国に忠誠を誓う)

「『It is defended by the sea, and it makes to being in this dear land and the language of getting prays to the way following permanence.』」
(海に守られし親愛なるこの土地で、いにしえの言語が永らえんことを)

「『……』」

「『The thing is a long ages that I want to say. Because such a lovely beloved daughter is embarrassed, could you lend power?』」
(ちゅーか、まぁアレだよ。こんな可愛い愛娘が困ってんだから、力を貸して欲しいなー、なんて思ったり?)

「『――Gallatin here』」
(――オヤジ殿の剣を、ここへ)

 ヒゥンッ、と風が吹く。

 強い光も振動もなく、飾り立てるべき形容詞に恵まれぬまま、気がついた時にはもうフロリスの手には一振りの剣が握られていた。
 後期に作られた西洋剣にはありがちな装飾はなく、至ってシンプルな長剣。やや剣身が幅広いのを除けば有り触れた無骨な剣に見える。

「しぃィッ――」

 だが彼女が『槍』を一振りするだけで、射程外に居た真蛇も薙ぎ払われる。

 もしもその先端をよく見れば――非常灯とマグライト以外に光源はないのだが――僅かに揺らぎがあると見て取れるだろう。
 ベイロープが『知の角杯』で『戦いの始まりを告げる一吹き(ヘイムダル)』の雷電を呼び寄せ、『槍』へ属性を付加出来るように。

 フロリスもまた『ただの魔術師』ではない。揺らいで見えるのは空気が細かく渦を巻いているから。

「ゲガアアアアァァァァァァァァァァァァッ!?」

 『風』を纏った剣は藁束を吹き飛ばすよりも容易く真蛇を薙ぎ払っていく。

「ヘイ、どーしたんだいリザードマン?格好だけグロくしたってコスプレの域を出てないよ、うん?」

 壁を蹴り、天井を這い、例外なく人体からかけ離れた動きを見せる真蛇。魔術知識も事前の報告も無しで奇襲されれば、文字通り致命的となる。
 だが大抵の魔術師がそうであるように、手の内を晒した相手ほど簡単にあしらわれるものは無い。絶大な異能を誇っていたとしても、学園都市では鉛玉数発で沈黙する事だってある。

 最初から――フロリスは『彼ら』を人間扱いなどしなかった。
 そういう獣、人によく似た何か、新種の爬虫類。その程度の認識へと落とした。

 従って何の先入観も無しに――相手が人間の動きをトレースすると思っていなければ、意表も突かれる事はない。
 冷静に、冷徹に。持てる力を用いて対処するだけだ。

(……ま、どうせ手遅れだろうしねー)

 魔術には代償が必要。対価が必要。魔術以外の事にも言えるが、それ絶対のルールである。
 よってここまで見事に、完璧なまでに『獣化』するには相当のものを引き替えにしなければならない。
 例えば――もう二度と元には戻れない、とか。

(恨むんだったら、ま、それもしゃーなし、か)

 『獣化魔術』の長所、それは身体ブーストが大きく、素人でも難しくはない事が上げられるだろう。
 実際に中世ヨーロッパでは錬金術の発達した時期に、どこからか過去の獣化術式――恐らくはウィッカ系であろうが――が持ち出され、ブームとなった。

 しかしその結果は散々。獣人になったのは良いものの、『結果として魔術が使えなくなる』者が続出する。
 何故ならば人の身では唱えられた呪文も、獣や半獣の姿では碌に発音出来なかったからだ。術式にしても魔力の精製や扱いが出来ず、殆どが『獣未満』として駆除されていった。

 目の前に並んだ真蛇とやらも、そう大差は無い。
 動作は獣並み。思考も同じく。当然魔術が使える訳もない。

(っても手加減出来るワケじゃないんだよね、これが)

 後ろに居る同行者を考えれば、とても無理だ。どっからか調達した消火器片手に、ツッコんでくる気満々の足手まとい……まぁ、心配されてると思えば、そう悪い気もしないが。

 そうフロリスは楽観的に分析していた――あくまでも『楽観』していたのだ。

「げ、ぐルルルルルルルっ……!」

「ルルルルルルルルル……っ!」

「ルゥルゥルゥ……ゲゴォッ!」

 リザードマンが一斉に鳴き出す。感情の瞳で虚空を見つめ、カエルのように喉を膨らまして不吉な唸り声を上げる。

(なんだこれ?何しようって)

「『元素集約(ながれ・はじめ)』」

「『神気収斂(ながれ・ひらけ)』」

「『水面切断(ながれ・きれる)』」

「マズ――っ!?」

 ギギギギギギギギギギイィンッ!!!

 空中に現れた水の刃。何十、何百という数の刃が襲いかかってくる!

(獣化したのに術式が使える!?与太話だと思ってたのに!)

 最初の一撃は身をよじって避け、次の一撃は長剣を使って受け止める。
 けれど、それだけでは避けきれない!弾いた水刃は体を掠め、痛みと出血が隙を作る。

(このままだと――!)

 フロリスが死の予感に恐怖する中――空気を読まないバカはどこにでも存在する。
 勿論、ここにも。

「――だっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ちょ待て!?Fire EX(消火器)ぶつけたって――」

「いいから見てろ!」

 上条当麻が片手で放り投げた消火器は放物線を描いて真蛇の群れへ向かう。
 一応はステンレス製の塊であるため当たれば痛い――そう思ったのか嫌ったのかは、爬虫類の表情からは読み取れないものの、とにかく撃ち落とす事に決めたらしい。

 虚空に停滞していた水刃の数本が軌道を変え、エサへ食いつくピラニアの如く殺到する。
 ――そう、圧縮された高圧ガスと消化剤が詰まっている容器へ。

 バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!

 消火器は派手に破裂し、破片と大量の粉塵を巻き上げながら空中で回転する。
 飛び散った消化剤は辺り一面を白い世界に染め上げ――。

「――?……!」

 真蛇達が視覚と嗅覚を取り戻した後には、彼ら以外に誰の姿も残っていなかった。

――スタジアム 入場ゲート前

上条(……俺の考えを一瞬で見抜いたフロリスは、消火器の爆発と共に俺を引っ掴んで跳んだ……飛んだ?)

上条(二人とも消化剤を頭から浴びたが、『翼』の力場のお陰でコントのようなオチは免れている)

フロリス「……ごめん、ちょっとヤバかったかも」

上条「こっちこそごめん」

フロリス「なに?何か悪い事したの?」

上条「俺が行こう、って言ったから!こんな!」

フロリス「いやぁ、それはどーかなー?多分来ても来なくても、似たような展開にはなってたと思うね」

フロリス「ワタシらがあっこで首振ったって、真蛇が出てくるのが早まっただけ」

フロリス「ならこっちで少しでも数減らした方がベタージャンか、違う?」

上条「……だけどな。女の子危険な目に遭わせるなんて!」

フロリス「おっナニナニ?ここで女の子扱いしてくれるんだ?」

上条「真面目な話だよ!」

フロリス「だったらコッチも真面目になるケド、レッサーからの通信に気づけなかったら責任もあるっしょ。誘導されたのもそれが原因だし」

フロリス「おかしいと思ったんだよねー、レッサーがあんな頭良い訳がないもん」

フロリス「ギャグの一つも小話も挟まず、フツーに喋るなんてバレッバレだーよねぇ」

上条「その信頼のされ方もどうかと思うが……いつから安曇とすり替わってたんだろ?」

フロリス「空に居る時、ノイズが走って暫く調子がおかしくなったよね?あれ以外はないかなぁ、なんて」

フロリス「――て、愚痴はここまでにしてと。これからどうしよっか?」

上条「そうだな……まずは本物のレッサー達と連絡取って、救援呼ぶか、逃げ出すか」

フロリス「あーごめんごめん。多分無理だと思うよ、それ」

上条「なんで?通勤用の霊装は無事なんだろ?」

フロリス「試してみよっか?……『――Merlin Lives!』」 ジジッ

フロリス「ほい、話してみ?」

上条「お、おぅ――『もしもし?』」

安曇『――元々、バケモノは同じ単語を二度続けて言えない、という、じんくす、があった』

安曇『由来は不明。だが昔話のパターンとして、「もし、そこの旅の御方」と呼びかけるのが多いため、誰かしらが広めたのだろうな』

安曇『時代が経ち、電話口でも「申し申し」と言うのが慣例になったそうだな、と安曇は教えてや――』

上条「『あ、すいません。間違いでしたーさよならー』」 カサッ

フロリス「ん、まぁ予想はついてたけどねぇ。あっちも伊達で魔術結社のボスやってないみたい」

上条「……何?下手するとコッチの会話丸聞こえだったり?」

フロリス「下手しなくてもそーでしょ?じゃなっきゃ遠隔操作でこっちの霊装へ介入出来ないし」

フロリス「一応聞くけど携帯を持ってきてたりは……?」

上条「……病院、だなぁ……」

フロリス「つっかえねー、超使えないジャン何やってんの?」

上条「まさかジュース買いに行って波瀾万丈の人生になるなんて誰も予測しねーし!」

フロリス「マズったなぁ……多分レッサー達、読み違えてる」

フロリス「相手が獣化魔術一辺倒のクリーチャーだと思って、魔術使われる危険性とかガン無視してそうだし」

上条「……連中のアレ、魔術使ってたよなぁ?」

フロリス「んーとねぇ、あれ多分二重に魔術をかけてたんだと思うな」

上条「二重?重ねがけだったら、二重どころじゃなかったろ」

フロリス「あれは多重術式、賛美歌とかオラトリオを利用して使ってた――ん、だと思う」

フロリス「いやそっちじゃなくってさ。不思議に思わなかった?片言だけど、喋ってたジャン、リザードマンが」

上条「フィクションでは、珍しくもないし?」

フロリス「これだからユトリは!……ユトリって意味分かんないけど!」

上条「んー、『世代格差』、かな?」

フロリス「そっちじゃなくって普通は声帯とかも獣化するから、人間の言葉は喋れなくなるんだっつーの」

フロリス「哺乳類だったらまだ結構頻繁に鳴くけど、爬虫類は声なんか出さないよね?」

上条「カエルっぽく鳴いてなかったか」

フロリス「逆に言えば、出せてもその程度――つまりまず、唸り声を使って『人の声を喋れるようになる魔術を発動』させ」

フロリス「次に『人の声で魔術を使った』んだと思うね」

上条「なんでそんな面倒臭い事まで」

フロリス「人の魔術はさ、『人が使うのに最適な仕様』になってんだよ」

フロリス「人の言葉を使って、二本の手と足で発動させるのがセオリー。霊装も同じ」

上条「……そうか。獣化すると魔術が使えなくなるのって!」

フロリス「精神の後退の他にも、そこいら辺がネックになってんじゃなーい?興味ないけどさ」

上条「軽ーい気持ちで狼になって好き勝手した後、いざ戻ろうとしても動物の口じゃ呪文は唱えられない……」

フロリス「ね?よく考えたら分かると思うんだけどね」

上条「道徳の本とかに出て来そうな展開だ」

フロリス「魔術にかっるーい気持ちで手ぇ出すんだったら、そーなって当たり前だっつーの。業界ナメんなよ」

上条「君も割とナメてるよね?」

フロリス「マジになってどーすんのさ?」

上条「魔術師さんらしい答えありがとう……と、まぁ向こうの手の内は何となく分かった」

上条「問題はどうやって、だよな。どうするかっつーか」

フロリス「敵は二種類、安曇と真蛇」

上条「戦えるのか?」

フロリス「真蛇達はキツいかなぁ。物量的にもだし、ワタシは高機動戦闘メインだからスタジアムの通路じゃ狭すぎ」

フロリス「マップ的に直線多いし、ベイロープがいりゃ楽勝なんだけどねー」

上条「『新たなる光』は一人一人の個性が強すぎて、バラけると弱い?」

フロリス「失敬な!――て、言いたいトコだけど。やっぱりどうしたって『甘え』みたいなのはあるカモ?」

上条「仲間を信頼すんのは良い事だよ……あー、しくじったよなぁ。せめて『右手』があるんだったらアシスト出来たのに」

フロリス「まだ再生してないよね、んーむ……?」

上条「……って、ダベっててもしょうがないか。そろそろ腹をくくろうぜ」

上条「――逃げるか、戦うか」

フロリス「一人で逃げな、つっても従わないんだよね、やっぱ?」

上条「俺はどっちにしろ付き合うよ。邪魔かも知んないけどさ」

上条「どっちみち、俺達が病院飛び出してきたのは伝わってるだろうし、増援ありきで踏ん張るのも悪かない、よな?」

フロリス「――」

上条「どした?まさか敵がっ!」

フロリス「……ん!?あぁいやいやっ、そゆのじゃなくって!」

上条「トイ――」

フロリス「よーしその口の今ナニ言おうとしやがった、あん?」

上条「『槍』を人へ向けちゃいけないっ!?特に丸腰で右手がない相手にはねっ!」

フロリス「……ね、ジャパニーズ?」

上条「呼び方、元に戻ってんぞ」

フロリス「どうして今――笑ってんの?」

上条「ん?……あぁ、さっきもンな事聞かれたっけか」

フロリス「どー考えてもヤバいジャンか?どう頑張ったってワタシらだけでどーにかなる相手じゃないし!」

フロリス「逃げないと死んじゃうんだよ?早くか、遅くかの違いしか無いし!」

フロリス「死にたいの?それとも『俺は絶対に死なない』とかヒーロー気取ってるバカなの?どっち?」

上条「その二択を突きつけられんのもどうかと思うんだが……」

フロリス「Please!(答えなよ!)」

上条「うーん、ま、難しいこっちゃ無くてだな。何にも」

上条「俺だって死ぬのは怖いし――あ、手、出してみ?」

フロリス「ん?」

上条「いいから、ホラ」

フロリス「う、うん……?」

上条(ぎゅっ、とおずおず差し出されたフロリスの手を、俺は握る)

フロリス「え、これ――」

フロリス「震えてんの?マジで?」

上条「……情けねえ話だけどな。俺だって死ぬのは怖いし、嫌だよ。あんなイカれた連中相手にするんだから、余計にな」

上条「逆立ちしたって、みっともなく命乞いして逃げ出したい、なんて考える時だってある。そりゃあな?」

上条「――でも俺は、そんな時には。辛くてシンドくて、吐きそうなぐらいどうしようもない時には――」

上条「――『笑う』んだよ」

フロリス「な、なんで……っ!?」

上条「そうすりゃ周りは救われんだろ。『あぁアイツは笑ってるから大丈夫』だってな」

上条「……大体はさ。俺が一緒に戦ってきた奴らは、余裕なんて全っ然無いんだわ」

上条「俺のワガママに付き合って貰ったり、命を賭けて守ったり守られたりして、スッゲェ良いヤツばっかなんだよ」

上条「憎まれ口を叩きながら背中から撃ってくる奴、敵のフリして仲間を助けようとする奴。俺じゃ出来ない生き方してんのが、イッパイな」

上条「だっての、俺がさっさとヘタれて泣きそうな顔してみろ。んな格好悪い所見せられる訳がねぇ!」

フロリス「あ……」

上条「レッサーも同じだろうな。フロリスが『観てた』のを分かってたから、死ぬ瞬間まで笑ってやがったんだよ」

上条「お前に心配させたくなくて、さ」

フロリス「……あの、おバカ……ッ!」

上条「待て待て!霊装握りしめてどうすんだ!?真蛇に見つかんぞ!」

上条「文句があんだったら帰ってからやれ、帰ってから。なんだったらこのままダッシュで逃げんのも悪かないけどな」

フロリス「……いやぁ?キャラ的に退屈なのはパース。ちゅーかわざわざ動くのめんどージャンか?」

フロリス「だったらワタシは『ここ』でレッサーを待つよ。そっちの方がワタシの性には合ってる気がするな」

上条「まぁ、程々にな」

フロリス「文句を言うつもりはないケド――ま、嫌がらせの一つぐらい仕方が無いよねー?」

上条「……ねぇ、どうしてそこで俺の顔を見るの?しかもなんか『あ、どうやって悪戯しようか?』みたいな空気を感じるんですけど!」

フロリス「んー………………Fight!(頑張れ!)」

上条「いやだから俺を巻き込むなよ!俺を!関係ないじゃねーか、なあぁっ!?」

フロリス「アリアリっしょ、なに言ってんの?バカじゃないの?」

上条「……ナニ?」

フロリス「よーし!気合いも入った所で行ってみようか!」

上条「だから詳しい説明を――」

――スタジアム グラウンド中央

上条(月明かりすら差さぬ――そりゃ天井が閉じてるんだから当然だが――グラウンドへ俺達は降り立った)

上条(妨害して来る真蛇達の姿はない……それもその筈で、入り口付近には人とも蛇とも言えない屍体が散乱していたから、つまり)

上条(ここの”主”は仲間であろうが、同族であろうが、食物連鎖の前には関係無いって事で)

上条「……」

上条(軽口すら叩けなくなった俺達が、マグライトを『それ』へ当てた時には、何かの冗談だと思った)

上条(スタジアム自体、何かのイベントで使うみたいだし、その出し物なんだろう――)

上条(――俺達はそう祈るように願った)

安曇『――幾つか、口上のようなものは考えていたのだが』

上条(……だが、『それ』から安曇の喋り声が聞こえてきた事で、精神を奮い立たさなくてはならないと誓わなければならなかった)

上条(そのぐらい奴は異質だ……!)

安曇『せおりー、としては仲間を呼びに行くのが最善。しかし安曇の挑発に乗ったからには、某かの勝算ありき、か。悪くはない』

安曇『安曇は”この姿”があまり好きではないのだが……まぁ、「幻想殺し」相手に礼を失するのも気が引けただけの事』

安曇『「闘争の時代」である以上、手を取り合うのも頂けない。さぁ――』

上条「……なぁ、聞きたい事があるんだが」

安曇『どうした?安曇は今高ぶっているのだ、手短に願うぞ』

フロリス「(時間稼ぎ、忘れないで!)」

上条「(……おけ)」

上条「お前さ、獣化魔術どうの言ってたよな?ミシャグジの正体が、とかも」

安曇『我が神の名を気軽に呼ぶのは嬉しくはないが、それが?』

上条「祖霊――トーテム?ネイティブの人らが、自分達の祖先と思ってるコヨーテやコンドルの力を借りる」

上条「そういうのが獣化魔術の根本、なんだよなぁ?」

安曇『然り、だな』

上条「んじゃお前は――お前達は、その安曇平に古くから信仰されていた古い神様になるっつーことで合ってるか?」

安曇『さるん、的には旧支配者と言うべきだがな』

上条「……安曇氏族の流れを汲めば『蛇』か、それとも石神(しゃぐじ)の名前を辿れば『石』の神……だけど!」

上条「お前、なんでそんな姿になるんだよっ!?あぁっ!?」

上条(俺達がライトで照らしたバケモノ。それはある種の必然であり、期待を裏切ったと言えなくもない)

上条(ここへ来るまでにフロリスと、『アナコンダかリザードマン、ワニ?』が安曇の正体だという話をしていた)

上条(もう一つの『石』という属性は、生物ではないため『獣化』する事は有り得ないだろうと――が!)

上条(違ってた!そんな生易しいものなんかじゃなかった!)

上条(俺達の想像は外れていたが、どれも掠っていた、からだ)

上条「……」

上条(まず目に入ってくるのは巨大な顎。アマゾン辺りに住む巨大なアリゲーターを彷彿とさせる)

上条(鋭く短い牙が規則的に生えた上下の口。口蓋の長さだけでも1mを優に超え、噛みつかれたら一撃で『持って行かれる』のは間違いない)

上条(次に体の3分の1を占める長い尻尾。それだけでも3、4mはあり大蛇のそれによく似ていた)

上条(先端が小刻みに震え、しなる鞭のように獲物を探しているのか……?)

上条(そして『それ』は立っていた。10mを越える体躯であるというのに、巨大な二本の足だけで!)

上条(足の先から付け根までで充分、俺の背丈よりも高い……踏まれたり蹴られたりすれば問答無用で、終わる)

上条(……予想の中ではリザードマンが一番近かったか……より『悪い』よな、これは)

上条(少年か少女か、中性的な安曇の容貌の面影を探すとすれば――それは体が抜けるように白い。病的なまでに、下の血管が見て取れる程に色白である事ぐらい)

上条「……白い、『竜』……!」

安曇『正確には「”恐”竜」だな、うん』

――スタジアム グラウンド

上条「……有り得ない、つーかアリエナイだろーがよ!」

安曇『それは”そちら”の常識。一つの道理がどこでも通用はしないだろう』

安曇『第一、ニンゲン達は「ミシャグジ」をなんだと思っているんだ?どう捉えている?』

上条「石の神様、もしくは蛇……とか、爬虫類の、だよな?」

安曇『それぞれは合っているな。だがどうして二つに分ける?』

上条「石と、蛇って事か?矛盾するだろ!」

安曇『観ているだろう、実際に。その目で、安曇を』

上条「……何?どういう事だ?」

安曇『居るだろう――「石の蛇」が。ニンゲンの目の前に』

上条「石の蛇……恐竜……」

安曇『あろさうるす、と言うらしいがな』

上条「まさか……『化石』か!?」

安曇『古代の人は「精霊信仰」を持っていた。外つ国の言葉で「あにみずむ」と言う』

安曇『山を崇め、川を崇め、風を崇め、動物を崇め――』

安曇『――そして、「自然石」をも崇める』

安曇『「ミシャグジ」とは原始信仰の一つ、石神信仰の流れの形だな、うん』

上条「だからって!恐竜だぞ!?」

安曇『「竜の牙」やら、「鬼の角」が神体として崇められている社は少なからずある』

安曇『それらには作り物、紛い物もあるのだが――中には「ホンモノ」もある』

上条「いや、本物も何も!竜や鬼はフィクションだっつーの話で!」

安曇『そうだな、と安曇は肯定した上で更に問う』

安曇『ならば「人は”なに”を見た?」と。一体”なに”を牙や角だと勘違いしたのか?』

上条「え?」

安曇『その答えも「化石」だ。人は時折出土される異形のものを、自分達の想像の外にあるものをそう認識していた』

安曇『――だが、不思議に思わないか、ニンゲン?』

上条「……いや、もうどこからツッコんでいいのか……」

安曇『竜、龍、どらごん、と名前は変わるが、想像上の竜はどこにでも居る。どこにだって居た』

安曇『鱗を生やし、巨大な蛇体を持ち、角を有して、鰐のような牙があり』

安曇『火も噴けば空も飛ぶ。安珍清姫もそうだったか。で、ここで疑問が出来るだろう』

安曇『「どうして想像上の産物である竜が、嘗て存在した恐竜に酷似しているのか?」と』

上条「それは……」

安曇『安曇はニンゲンが古くから化石を見ていた、と推測している。断層かどこかに残った彼らの姿を見て、竜を幻視たのだろう』

安曇『地名に骨食(こつじき)、骨食(ほねはみ)と呼ぶ所があり、大抵は「骨食い滝」や川がある。曰く』

安曇『「この滝には主が居て、入るものを食べてしまう。しかしあまりに早いので食べられた側方は骨になっても死んだと気づかない」』

安曇『これは何を示している――』

フロリス「――ッ!!!」

上条(最初の打ち合わせ通り――俺が気を引いている内にフロリスが死角から切り込む!……いや、ぶっちゃけ忘れてたけど俺も!)

ザリザリザリザリッ!!!

安曇『――か、と言えば滝壺なり川の石に化石があり、それを見たニンゲンが「骨を残して食われた」と思い込んだ。それだけの事』

フロリス「なっ!?通じてない!?」

上条「真蛇には効いたのに!」

安曇『と、そろそろいいかな、うん?無駄話にも興味が無いようだし、いい加減決着をつけるのも良いだろう』

上条「どんだけ堅いんだよ……!」

安曇『表皮だけではない、骨格も筋肉も術式で強化してある。よって』

安曇『おりじなる、が持っていたと言われる、すたみなぎれ、を狙うのは望みが薄い』

上条「ブラフじゃないのか?」

安曇『なら試してみればいい。安曇は困らない』

フロリス「――つーかさ、ズルいジャンか!なんだよそれっ!」

上条「ふ、フロリスさん?」

フロリス「(時間稼ぎパート2、仲間待ちで)」

上条「(らじゃ)」

フロリス「魔術が使える獣化なんて聞いた事無いし!どんなチート使ったんだっつーのさ!」

安曇『……ふむ。一々説明してやる義理もないが、まぁ付き合ってやろう』

安曇『結論から言えば安曇が異端なのではない。姿形を変えても魔術が使えるのは当たり前、使えなくなる方がおかしいのだ』

フロリス「いやいや、発音出来なくなるんだったら無理っしょ?」

安曇『ならば、いんく、と紙を使えばいい。霊装だって魔力のみを用いれば可能だろう』

上条「だから、そこはやっぱ頭ん中が獣っぽくなるからであって」

安曇『なってなどいない。それは錯覚だ』

上条「錯覚じゃねぇだろ!第一、生成りにしろ真蛇にしろおかしな行動を――」

安曇『して、いたか?どのように?』

上条「どう、って」

安曇『人が人を襲う?それが”正気でない証拠”ならは、獣化していないニンゲンは人を害さないか?』

上条「……」

安曇『そう、だな。順序立てて話さなくてはならないか。意味は無いだろうが、それもいいかも知れないな』

安曇『人が狂う、とはどんな状態を指す?どういう意味だろうな?』

上条「普通とは違った行動する、だろ?」

安曇『例えば人を攻撃したり、自傷したり――喰ったり、とかだな』

安曇『その点で言えば安曇も狂っているのか?』

フロリス「とーーーーーーーっぜんっ!」

上条「力強い肯定だな。気持ちは分かるけど」

安曇『なら問おう。すぺいん、の、あたぷえるか遺跡、よーろっぱ最古の人類の足跡が刻まれた遺跡がある』

安曇『そこで見つかった人骨、そこには「喰った」痕跡が残っており、しかも「好んで」食べていた跡も見つかったそうだ。さて?』

安曇『これは「人類が狂っていた証拠」だろうか?』

上条「それは……」

フロリス「倫理観がない、とか。他に食べる物がなくて、とかじゃないの?」

安曇『同様に中世よーろっぱ。十字教では「復活」の概念があるため、火葬をしなかった』

安曇『ならば神の子を含め、多くの使徒や聖人達の遺体や骨が残っていそうなものだが、現実には殆どない。理由は分かるか、魔術師?』

上条「んな話聞かれても分かる訳が!」

安曇『ニンゲンじゃない。魔術師へ聞いている』

フロリス「……」

上条「……フロリス?どうした?」

フロリス「先生から、聞いた事があるよ。確か――」

フロリス「宗教的熱狂から、食べた、って……」

上条「!?」

安曇『聖遺物の散逸を防ぐため、との説もあるが安曇は異を唱えよう。わざわざ食さなくとも、焼却するなり損壊するなり、術はあったのだからな』

安曇『あぁ、責めている訳ではない。先程も言ったが、それは自然だ。恥じ入る必要も、後ろめたく感じるのは不要』

安曇『人は理性という名の鎧を着た獣に過ぎない。その本質は変わらないだけの話だ』

安曇『生命の揺り籠、と言えば聞こえは良いが、その実、地球初めての命が産まれたのは硫酸の海の中』

安曇『似たような単細胞生物同志で食い合わねば、とてもとても生き残れなかっただろう』

上条「……それが、魔術とどう繋がる?一部の例外じゃねぇかよ!俺達には関係無い!」

安曇『「過去の話で現生人類には縁遠い」と?それもまた真理ではある。しかし事実ではない』

安曇『なら何故ヒトが獣化魔術を使えば狂うのか?明らかに獣ともヒトとも違う、異質な行動を見せる理由は?』

安曇『学園都市や病院でも見たろう?実力が全く違うのに、必死で掛かってくる生成りの姿を』

安曇『もしも彼らが真実「獣」であれば、無い尻尾を巻いて逃げ出していただろうに』

安曇『おかしいだろう?獣化魔術は「体」を変える能力だ。「心」には影響を与えない』

安曇『だというのに「退化した」だの、「獣に近づいた」と判断するのは推測に過ぎない』

フロリス「なら、どうして?」

安曇『罪悪感だ』

フロリス「は?」

安曇『順序が逆なのだよ、と安曇は首を振ろう――かふか、の「変身」は知っているか?』

上条「えっと……?」

フロリス「あなたはある朝起きたら人間大の昆虫になっていました、まる。って話」

上条「怖っ!」

安曇『あれも「精神はまとも”だった”」な。閉塞的で何一つ救いが無い以上、徐々に気を病むが』

フロリス「フィクションだよね、それ?」

安曇『同様に「実は獣化してもヒトは理性を失わない」と安曇は考えている』

上条「……はぁ?だってお前、中世の狼男伝説では!」

安曇『人を喰ったような話、が数多く報告されているが――そうだな、元「幻想殺し」。ヒトが禁忌を破らない理由は、なんだ?』

上条「禁忌……?犯罪とかか、やっぱり罪に問われるからだろ」

安曇『誰にも分からない。絶対に知られない方法で出来るとしても?』

上条「それでも俺は筋の通らない事はしねぇよ!全員――は、無理だろうけど、普通誰だって同じだ!」

安曇『そうだ、それが「罪悪感」だな』

安曇『誰が罪に問わずとも自身の行いが許されない。それは安曇達にはないものだ』

安曇『――だが、逆に考えろ、ニンゲン』

安曇『「今の姿はニンゲンではない、ならば全てを免責される」――そう、獣化した者が考えたとすれば?』

上条「……なんだって?」

安曇『ニンゲンは罪悪感――十字教で言う所の「原罪」から逃れるための免罪符を手に入れた――』

安曇『――「獣になってしまったのだから仕方が無い」――』

安曇『――「どんな事をしても、それは獣に転じてしまったからである」――』

安曇『――そう自身に嘘を吐いて、狂ったフリをして外道を成したのが獣化魔術の本質だ』

安曇『身体能力のブーストは余禄に過ぎない。別の言い方をすれば「タガを外す能力」でもある』

フロリス「……北欧神話のベルセルク、『獣憑き』って意味もあるけどさ」

フロリス「『人間のリミッターを外してる』って教わったけど、あれは能力的な意味じゃなくって――」

安曇『民俗学に於ける三大禁忌とは「殺人・近親婚・人肉食」』

安曇『獣憑きへ分類される魔術は、たぶー、である「殺人」を畏れぬようにするためのもの』

安曇『――そう、安曇阿阪の一族は、ミシャグジを奉るモノ達は考えてきた』

安曇『禁忌を禁忌とせず、恒常的に取り行う事で、獣の姿になっても理性を手放さす、術式が行使が可能となった、と』

上条「……終わってるな、お前の一族」

安曇『否定はしない。他人へ価値観を押しつけるのは間違っている』

上条「外道の筈なのに割と良心的じゃねぇかよ」

安曇『必要以上の殺生を獣はしない。さて』

フロリス「(大分時間も稼げたよね)」

上条「(だな……気分悪いけど)」

安曇『中世に流行った獣化魔術、狼男伝説にしても、十字教徒の「原罪」から逃れるためである可能性が高い』

安曇『高まる教会権力――正確にはろーま正教への反発が、あんちてーぜ、となり、歴史的にも、ふらんす革命へ繋がるのだが』

安曇『また神の子は「葡萄酒が我が血、ぱんが我が肉」と、多分に食人文化を取り入れている、と』

安曇『……辞世の句としては長々と喋りすぎたが、そろそろ始めようか』

上条「……勝てる気がしねーな」

安曇『あろさうるす、の肉体の強度だけで言えば地球最堅ではある。尤も、体積に比例して自重も多いため、動きは当然鈍くなる』

安曇『みさいる、でも当てれば少し痛いかも知れないぞ?』

上条「……ハッタリ、だよな?本気で言ってないよな?」

安曇『試してみれば分かる』

フロリス「Monsterめ……!」

安曇『試してみれば分かるな、それも』

安曇『――仲間を待つのも結構だが、来ない相手に期待するのも酷だろうな』

上条「――え?」

安曇『魔術師の天球座標、か?定期的に「臭いのある魔力」を発するのは分かっていた』

安曇『だから街中に同じ臭いを撒いて置いたが……さて、効果はどうだろうか?』

フロリス「……ヤッバイかもねー、これ」

上条「……まぁ、いつもの事ではあるよな……」

安曇『では始めようか、ニンゲン達。夜明け前には始末をつけたい』

上条「一応聞くが、終わった後のスケジュールは?」

安曇『特には考えていないな。時間ももう無かろう』

上条「時間?」

安曇『――さぁ、逝かん「幻想殺し」と「魔術師」よ!』

安曇『闘争の時代は幕を開けた!どちらが霊長足るか力にて雌雄を決さん!』

上条「来やがれ!この程度慣れっこだよチクショウが!」

フロリス「――あ、ごめんね?ジャパニーズ」 ヒュンッ

上条「おうっ!行く――お、ぅ……?」

上条「……」

安曇『……』

上条「あ、あれ……?フロリスさん、ふーろーりーすーさーん?」

上条「えっと……」

安曇『……まぁ、その、なんだ』

上条「何逃げてんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

安曇『楽に死なせるから、な?』

上条「気ぃ遣ってんじゃねーよ!むしろ優しさが痛いよアリガトウ!」

安曇『元々は真蛇の狩猟相手に、とは思っていたが。苦しめるのも忍びない、というかいたたまれない、と安曇は思う』

上条「フロリーーーーーーーーーーーースっ!カンバーーーーーーーーーーーーーーク!!!」

――スタジアム 天井

フロリス「……」

フロリス(……さてさて、ここまでは『予定通り』だーよねぇ)

フロリス(時間を稼げるだけ稼いでから、一撃必殺を狙う、と)

フロリス(こっからなら多分距離もあるし、アロサウルスは倒せる――かなぁ?倒せるよね?ダイジョーブだよな?)

フロリス(脅威度からして生成りを量産出来る安曇の方が上、ってか厄介だかんね)

フロリス(問題なのが、その後。絶対に黙っていないであろう真蛇どもか)

フロリス(連中にとって親だか仲間だと知らないけど、魔力スッカラカンのワタシらを放置はしてくれないよねぇ、うん)

フロリス(『右手』が戻ってくれば――ってのも、楽観的すぎる)

フロリス(ゲームじゃあるまいし、直ぐくっついてサァ元通り!なんてのは有り得ないっと)

フロリス「……」

フロリス(ワタシは『ハーフ』だ。フォワードとディフェンスを繋ぐ要。冷静にならなきゃならない)

フロリス(誰かが死んでも『N∴L∴』の円卓が欠けるのは防がないとイケナイ……)

フロリス「……」

フロリス「……見捨てる、のもアリかにゃー……?」

フロリス(ここまで付き合わせたのは、最悪の最悪、捨て駒になって貰う打算もあった)

フロリス(だから足手まといなのに、わざわざ付き合わせてきた――)

フロリス「……」

フロリス(列車での貸しもある。多分ここで逃げても責められはしない……)

フロリス(むしろ不確定要素になり得るジャパニーズが消えれば、それもアリ、かもね?)

フロリス「……」

フロリス「――でも」

フロリス「笑ってたな……アイツ」

フロリス「どう考えてもヤバいのに、唯一持ってた強い力も失ったばっかだってのに」

フロリス「ワタシを心配させないために……」

フロリス「……」

フロリス「……はぁ……」

フロリス「いやまぁ、分かってたよ?なんとなーくだけどねぇ」

フロリス「だから『最初っから嫌いにならないといけなかった』んだよ、うん」

フロリス「だってしょうがないジャンか、こればっかりはどーしよーもないって言うか」

フロリス「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」

フロリス「……レッサーにマジ謝んなきゃなぁ――」

フロリス「――アイツを、ぶっ倒してから……!」

――スタジアム 中央

上条(――と、まぁ一芝居を打った俺だったんだが、うん。アレだよね?)

上条「マズいマズいマズいマズいマズいっ!?死ぬ、死んじゃうから俺っ!?」

安曇『一度は死ぬな、誰しもが』

上条「殺そうとしている張本人の言う事じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

上条(リアルユニバーサルワールドとか、リアルなおばけ屋敷とか、そういうのを思い出して貰いたい)

上条(しかも某配管工ゲームと同じく、敵に触ったり落ちたら死ぬ類の、うん)

上条(恐竜に獣化した安曇は速い!んでもって機動性が明らかにおかしいじゃねぇかよ!?)

上条(昔の映画とかでは時速数十キロで走る車に追いついたりするけど、あんな無茶な俊敏性を持ってるって訳じゃない!断じて!)

上条(ただ、どうやってもタッパやら歩幅が違いすぎる!こっちで20歩走ったとしても、あっちの二・三歩と距離は同じだ!)

上条(現実に居た恐竜と絶対に違う点はもう一つ!その『重さ』だ!)

上条(どう控えめに見ても10トントラックといい勝負のアロサウルス!奴が歩いた跡が陥没していない!)

上条(幾らサッカーグラウンドとしても使えるようになってるったって、トラックが人工芝の上でドリフトカマすようなもんだ!)

上条(柴は抉れ、地面は足跡の形にヘコむ筈が、どういう訳か軽くしか残らない!)

上条(多分何かの術式をしているんだろうが――)

安曇「グルルルルルルルルッ!!!」

上条「――来る!?」

上条(安曇は構造状人間の詠唱が出来ない!だから獣の鳴き声で人の声を出せるようにし、そこからまた呪文を紡ぐ……!)

安曇『水槍招来(ながれ・おちる)』

カ、キキキキキキキキキキィンッ!!!

上条(水の槍が、剣山のように降っ――)

……パキィィッン……!

上条「……?」

安曇『……ちぃ』

上条「……何だ、今の?途中で水が四散した……?」

安曇『「右手」だろう。アレは』

上条「右手――『幻想殺し』か!?何で!?」

安曇『喰いきれなかった、と言うべきか、それとも消化しきれずにいる、と言うべきか。安曇は迷うのだがな』

安曇『「あれ」は「異常なモノを正常へ戻す」んだったな?』

安曇『なら、安曇は存在自体「異常」なものだ。従って安曇の魔力や術式に干渉しているのかもしれん』

上条「だ、だったらお前、元の姿へ戻っているんじゃ……?」

安曇『どうだろうな?ならばニンゲンが触っただけで、かの隻眼の魔神もただの少女へと戻らなくではならない』

安曇『身体能力を上げた相手、あっくあ、辺りでも触っただけで無力化出来る筈だが……こればっかりは、何とも言えん』

上条「……繋がってるのか、まだ!俺と!」

安曇『魔術的にはその可能性があるというだけだ。安曇が謀ろうとしているだけかも知れないぞ?』

上条「お前、嘘の概念がないとか言ってなかったっけ?」

安曇『家畜に嘘を吐くニンゲンは居ないだろうが、オオカミに罠を使うニンゲンは少なくない』

上条「それも何だかなぁ……」

安曇『ともあれ術式が駄目なら直接攻撃で潰すのみ、逝くぞ!』

上条「――さっきの話なんだが!獣化魔術の!」

上条(頼むフロリス!早くしてくれ!こっちはもう後ろが壁に追い詰められた!)

上条(安曇が少しでも本気になったら、終りだ……!)

安曇『……あぁ済まない。今少し急いでいるので、後にして貰えるか』

上条「直ぐに終わるよ。なんだ、そのぐらいの時間も待てないのかよ?」

上条(確かフロリスの挑発にあっさり乗ったり、見た目以上に精神がガキだ!こうすれば乗ってくる筈……!)

安曇『……』

上条「……お前、ハードウェアとソフトウェアって概念、知ってるか?」

安曇『おーえす、でばいすどらいば、ぐらいなら、多少は』

上条「……つーか俺より詳しいんじゃねぇのか。片言なだけで」

安曇『前にも言ったが、安曇が術式を使う上で最適の声帯へ変えているだけだ。横文字も知らない訳ではないぞ』

上条「……で、新しいパソコンにさ、古いソフトをインストールさせるんだけど――大抵、動かなくなるんだよ」

安曇『仕方が無いだろう。おーえす、が違うのだし環境そのものが変われば』

上条「さっき言った獣化魔術も『そう』なんじゃないかって」

安曇『「そう」とは?』

上条「人の体ってのは、人が使う上で最適にチューニングされてるんだ。交感神経や副交感神経、つっても分かんないか……えっと」

安曇『血液の流れや神経の働き、汗をかいたり血圧を上げたりする、無意識の働き、だな』

上条「お前やっぱ俺よりも詳しいな!?」

安曇『一身上の都合で解剖学に長けている――で?』

上条「あぁうん、それでだ。だから例えば、人の脳を爬虫類の脳と取り替えた、つってもまずまともに働かないと思うんだよ」

上条「どっちが上とか優れてるとかじゃなく、それぞれの体には合った脳が必要だからな」

安曇『おーえす、に対応した、そふと、でないと動かない。または動作不良を起こす?』

上条「昆虫の体を操ったとしても、複眼がまともに処理出来るとも思えねーし――翻って『獣化魔術』だ」

上条「アレも要は体を変化させる、って事なんだよな?人の体を造り替える、つーか」

安曇『然り、だ』

上条「ならそん時、『脳の処理ってどうやってんだ』よ?」

安曇『むぅ?』

上条「爬虫類の話だが、人間と違って赤外線を見たり、ピット器官?だかを持ってたり、中には毒を持ってる奴も居るな」

上条「――けど『人間にはそんな概念はない』んだぜ。そこら辺の整合性、どうつけてるんだよ?」

安曇『……』

上条「分からないよな?多分、なんとかしてるんだと思うが――で、こっから推測」

上条「お前が散々言ってた話、『獣化すると人間の本性をさらけ出す』?とか『獣化は免罪符』?ってさ――」

上条「――ただの、ハードウェアのエラーじゃねぇのか?」

安曇『なん、だと?』

上条「人間が尻尾を振るって感覚が分からないように、いきなり魔術で別の生物になっちまうんだろ?」

上条「さっき言ってたカフカ?もそうだけど、なんで変身したその瞬間に、慣れない体、使いこなせるんだっつーの。おかしいだろ」

上条「今まで軽トラ乗ってた奴がF1乗るようなもんだ。事故って当然だと思わないか?なぁ?」

安曇『……』

上条「元へ戻ろうとしても戻れない、ってのは『体がエラーを起こして、思い通りに動かないから』って理由の方がしっくり来ないか?俺はそう思うんだけど」

上条(あ、ヤバ。言ってたらハラ立ってきた)

上条「……まぁいいや。それは別に専門家だっていう、お前の意見が正しいのかも知れない」

上条「そういう下らない奴が獣化しちまって、悪い事すんのかもしれねぇな。それは認める」

上条「――けどな!だからって他の大多数の人間まで同じだと思うんじゃねぇよ!」

上条「大抵の人間は色んな意味で他人を食い物になんかしねぇし、そもそも真っ当に生きてる!違うのかっ!?」

上条「なぁ、安曇阿阪!お前が言ってる事、お前が人間を信じられないのも、見限るのも勝手だ!好きにすりゃいい!」

上条「けどな!お前の言ってるような話が本当だってなら、どっに人類滅びてるだろうが!なあぁっ!」

上条「安曇、お前は竜の形を取った。確かに強いだろうし、文字通り地球の歴史の中でも最強なんだろうさ、それは認める」

上条「けど!だったらなんで!その最強が滅びてんだよ!?」

上条「最強だったら生き残るだろう?最強だったら他を駆逐するだろう?」

上条「当時の俺達――哺乳類は小さなネズミで、相手にもならなかった筈だ。だって言うのに!」

安曇「……」

上条「お前もソイツ、外側のソイツと同じだよ。最強だろうが、何も分かってない。理解していない」

上条「見てみろよ、このザマを!たかだか『右手』もない俺相手にムキになって追い回して!命一つ満足に取れない!」

上条「これが最強か?……はっ、冗談にも程がある!」

安曇『そう、かも知れないな。ニンゲン』

安曇『「コレ」は確かに数億年前に淘汰され、滅んだ存在だ。その一点に置いてすら、最強などでは有り得ない――有り得、無かった』

安曇『だが、ならば、そうするのであれば――証明、すればいい』

安曇『安曇が、安曇達の暴力に勝るモノなど居ないと!霊長を名乗るに相応しいと示せばいいだけだ!』

上条「……悪くない、シンプルで分かりすやい」

安曇『掛かってこい、ニンゲン!その存在を賭けて!生き残るのはどちらかを決めよ!』

安曇『ニンゲンが安曇を打ち倒し、闘争の世紀に終りを告げて見せろ!』

――スタジアム 天井

フロリス「ワタシは魔術師、『新たなる光』――」

フロリス「――Florence243(淑女の守護騎士)の名に於いて命ず――――」

フロリス「――『金の鶏冠(グリンカムビ)』出力最大!」

フロリス「……」

フロリス「……ウェールズには竜が居た」

フロリス「王が塔を建てよと命じた所、二つの箱が埋められていると魔術師は幻視る」

フロリス「王は怖る怖る箱をこじ開けると、中からは二匹の竜が現れ戦いを始めた」

フロリス「魔術師は予言する――『赤い竜はブリテン人、白い竜はサクソン人』」

フロリス「『この争いはコーンウォールの猪が現れて白い竜を踏みつぶすまで終わらない』と」

フロリス「そして王は弑され、『竜の頭』が魔術師へ問い――魔術師はまたも神託を下す」

フロリス「『あの星がユーサーより生まれる偉大な王になる!また子孫は全てブリタニアの王となるであろう!』」

フロリス「さぁ剣を取れ我が同朋!流れる星は凶事にあらず!我らが宿願の成就と知れ!」

フロリス「あれは我らの象徴にして化身!愛するウェールズに咲くリーキの花!」

フロリス「絶対の騎士達を従える王の産声、それ即ち――」

フロリス「――『Red dragon of Wales!(ウェールズの赤い竜!)』」

――スタジアム内

上条「(……フロリス……っ!)」

安曇『ふむ……?』

上条(マズい!注意を引かないと!)

上条「行く――」

安曇『――残念だが、と安曇は何度言えば良いのか、正直気が引けるのだが。まぁ宿敵同士、遠慮する事もあるまい』

上条「お前、何を」

安曇『知っていた、と言っている』

上条「……何を、だよ」

安曇『ニンゲンが先程から待っていた「魔術師」だ。気配も臭いも、捉えたままでずっと注意していた』

上条「……は、あはははっ!」

安曇『何故笑う?安曇は面白い事など言っていないぞ?』

上条「そりゃ笑うだろ。お前はもうオシマイだからな」

安曇『と言うと?』

上条「フロリスがこんだけ自信満々の一撃食らって、倒せない訳がねぇよ」

安曇『成程、それは怖いな。安曇は怖いの好きではない――』

安曇『――ので、ここは一つ「ペテロの対空術式」を使わせて貰おうか』

上条「……んなっ!?使えるのかっ!?」

安曇『むしろ使えない理由が分からない。アレは世界的にも有名な術式で、様々なバリエーションが世界中で使われている』

安曇『亜流であるし、威力は、おりじなる、より低い。東方呪禁道士がオヤウカムイを墜としたヤツだ』

安曇『とはいえ、あの高さから落ちれば即死は免れまい。では――』

上条「テメェっ!」 ガッ

安曇『寄せ、ニンゲン。安曇を殴った所でさして痛痒も無い。正直、触っているのかどうかも分からない程に感じない』

上条「させっ!ねぇっ!よっ!」 ガッ、ガッ、ガッ

安曇『……これが、現実だ。希望があろうとより力の前には無力。喰われるのが嫌ならば、ずっと日陰で隠れていれば良かったのだ』

上条「何やってんだテメェ!?何やってんだよ!」

安曇『……もういい。気の済むようにすればいい』

上条「いい加減働けよ――相棒!」

安曇『――何?』

上条「お前だって分かってんだろ、なあぁっ!今まで俺達がやってきた事、積み重ねてきた事が駄目になっちまうんだ!」

上条「力を貸してくれ!いつもみたいに!俺と一緒にぶん殴るだけで良いんだよ……ッ!」

安曇『まさか――ニンゲン!?安曇の腹の中の――』

上条「中から、キツいの入れてやれ――『幻想殺し』!!!』

パキイイィィィィィンッ!!!

安曇『ゲ……かはっ……!?』 ドスゥン……!

上条(安曇の腹の辺りが一瞬光り――安曇は膝をつく!)

上条(獣化は解けていない。が!片膝をついた地面が大きくめり込んでいる!)

上条(体のあちこちのパースが歪み、変身が綻んでいた!)

安曇『この、ニンゲンがァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

上条「……お前が負けるのは、単純な理由だよ。安曇阿阪」

安曇『な、何……?』

上条「俺は――俺達は仲間を信じた。けどお前は仲間を食い物にしか見なかった」

上条「ただ、それだけだ」

フロリス「――『Red dragon of Wales!(ウェールズの赤い竜!)』」

安曇「Gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……ッ!?」

上条(閉じた天空から落ちてくる断罪の赤い剣、それは一直線に安曇の巨体を貫き、切り裂き、弾き飛ばす)

上条(『金の鶏冠』で生み出した赤く光る力場が全速力で突っ込んで来たからだ)

上条(身を捩る程度の細やかな抵抗すら出来ず、安曇は赤い力の流れでズタズタになっていった)

上条(本来鋭い一撃である筈なのに、本当は武器の一撃である筈なのに)

上条(その光景を間近で見た俺が、後からフロリスに感想を求められたら、きっとこう答えるのであろう――)

上条(――まるで赤い竜が白い竜を踏みにじった、と!)

――スタジアム

フロリス「いっえーい」

上条「おっ疲れー」

上条(戦闘が終わり、フロリスとハイタッチしようと迷ったが、結局しないままで終わってしまった)

安曇「……」

上条(直ぐ側に半分ぐらいになった安曇が居れば、流石にちょっと大喜びする気にはなれない)

上条(半分、と言うのは最初の、少年とも少女とも言えない姿の『半分』、つまりは)

上条(上半身以外は殆ど残っていない――瀕死の状態だから)

安曇「……おめでとう、霊長類。安曇は素直に祝福をしよう」

上条「お前!あんまり喋ったら!」

安曇「心配してくれるのはありがたいが、もう時間は無いだろう。そのぐらいは、分かる」

フロリス「……謝るつもりは無いかんね」

安曇「魔術師。戦いに負けた、それだけの話――なんだ、が」

フロリス「何?」

安曇「申し訳ないが、と言うべきか。ざまぁ見ろ、と言うべきか」

安曇「周囲をよく見てみるといい」

上条「周り……?」

真蛇『ゲゲゲゲゲゲゲゲ……ッ!』

上条「……一難去ってまた一難、かよ!『右手』もくっつかないっていうのに!」

上条(俺の『右手は安曇の側に落ちていた。特に欠損はしていないようだけど、傷口を合わせてもくっつくなんて事も無く』)

上条(フロリスに氷を作って貰って、袋に入れて包んでいる状態だ)

安曇「血の匂いには敏感だからな。いい教育をしたと思うが」

上条「……テメェ、この期に及んで破れかぶれじゃねぇかよ!」

安曇「悔しくないと言えば嘘になる――が、随分と余裕だな。魔術師?」

フロリス「ん、あぁワタシ?まぁ余裕っちゃ余裕だけどさ」 ピッ

上条(そう言って彼女は片手に何かを持っている?通信用の霊装か?)

上条「待て待て、今から連絡したって遅いだろーが!いや、しないよりはいいけどさ!」

フロリス「あー、違うんだなぁ、これが。カミジョー、耳を塞いで口を開けて?」

上条「はい?俺が?なんで?」

フロリス「HurryHurry!(早くいーから!)」

上条「う、うん?」

上条(周囲を真蛇に包囲され――光りが無いからよく見えない――て、もうヤケクソになって耳を塞ぐ。何の意味があるんだ、これ?)

上条(目の前でフロリスが口をパクパク……あぁ、口も開けるん――)

ズゥンっ!!!

上条「――!?」

上条(地震か!?と一瞬ビクつく程の衝撃!胃の辺りが何か見えない鈍器で殴られたような感じか!?)

ズゥンっ!!!ズゥンっ!!!ズゥンっ!!!

上条「――!――!?」

上条(何度も何度も衝撃が!……って俺に塞げと言ったフロリスは、俺と同じポーズのまま、驚いてはいない)

上条(て、事はこれは予定調和なのか?何かの術式?つーかこれ何だ?)

カッ

上条(目の前に大光量が広がり、思わず手を離して目を覆ってしまう――が、衝撃はもう襲っては来なかった)

上条「……何だ、これ……?」

上条(強烈な光にゆっくりと目が慣れていく……目に入った順番にフロリス、安曇、そして真蛇達が見える)

上条(ただし俺達の脅威である筈の彼らは、例外の一つも無く倒れていたが)

上条「今の攻撃、で?」

安曇「何が……起きた?」

フロリス「んーむ、ま、種明かしをするとだねぇ。学園都市の音響設備はスゲーぜって事になるかね」

フロリス「要は、ボリューム上げて、ドーン!ってしただけ」

上条「え、学園都市の?いつ間に設置してたの?」

フロリス「違う違う。次のライブ会場が、『ここ』なんだってば」

上条「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?お前、それ」

フロリス「いや、オフィシャルサイトに載ってたし。つーか気づけよ、ある意味スタッフでしょー?」

上条「いやまぁそうなんだけどな――って違うよ!大音量で伸びたのは!」

安曇「……繊細、なんだよ。爬虫類や魚類は」

上条「繊細て」

安曇「感覚器官がニンゲンよりも優れている……の、と、普段から大音量で、ろっく、を聞く事も無い」

安曇「従って神経の一部が麻痺してしまっている、という所だろうか」

フロリス「ピンポーン、正解っす」

上条「そ、それなら納得……?」

上条「じゃ、ねぇよ!だったらもっと早くやれよ!俺が時間稼がせる前にねっ!」

フロリス「いやだからワタシじゃないし、やったの」

上条「じゃあ誰だよ?」

フロリス「外部からのハッキングだから、そっち側の誰がでしょー?そこまでは知らないなぁ」

安曇「と、言う事は――連絡を取っていた、のか?どうやって!?」

フロリス「いや、ケータイで」

安曇「……」

フロリス「ARISAのメアド知ってるなんて自慢出来るっしょ?だから、護衛にかこつけて聞いといたんだよねー」

フロリス「だーかーらー、最初っからこっちの情報や居場所は向こうも知ってるし……あ、今クルマで正面ゲートぶち破ったって」 ピッ

上条「持ってたのかよ!?つーか言えよ、俺に!最初っからさ!」

フロリス「言ったら即バレするジャンか?コイツが大体盗聴してたみたいだし」

フロリス「……まぁ、最初に喋った時点で、『なんかあやしいなー?』って思ってたからさ」

フロリス「つーかね、安曇だっけ?アンタ、人を舐めすぎ。それが敗因だよ」

フロリス「魔術のプロだし、心理戦にも長けてるし、応用も出来て覚悟もある。それは素直に凄いって思うけど」

フロリス「でもさー、やっぱりワタシらを下に見てるから、文明とかにも理解しないのが出来ないのか知らないけど」

安曇「……安曇、が……切り替わった時、気づいて、なければ……?」

フロリス「あぁあれが大失敗だーよねぇ。あん時気づかなかったら、今のも間に合ってないと思うしさ」

安曇「……友だと、謀るのが……無理、だったか……」

フロリス「あー、ダメダメだったよねぇ。口調も声色も大体完璧だったけどさ、アンタはレッサーの事を何も分かっていない。ナイナイ」

フロリス「参考になるか分っかんないけどさ、模範解答を見せたげるよ――」 ピッ

上条「霊装で通信?」

フロリス「『あー、もっしー?レッサー?オレオレ、オレなんだけど』」

上条「おい、口調変わってんぞ」

フロリス「『えっとさーぁ、なんてのか、言いにくいんだけど、話、あるんだよねぇ』」

レッサー『――っていきなり電話かけといて何なんですかっ!?こっちはバンにぎゅうぎゅう詰めでチーズになりそうですが!』

フロリス「『出来れば今したい。オーバー?』」

レッサー『ならどーぞ。ただし手短にねっ』

上条(割とデジャブを感じる展開だ。ここまでは)

フロリス「『んーとねぇ、その――レッサーの気持ちは分かってたんだけどさ、ワタシも気にいっちゃったみたいでさ」

フロリス「『もし良かったら、譲って貰えないかなぁ、なんて』」

レッサー「『よろしい、ならば戦争です!』」

フロリス「ね?」

安曇「……ほぅ……?」

フロリス「友達ってのはこーゆーモンさ。気に入らないなきゃケンカもするし、気に入ったらもっとケンカになるし」

上条「結果同じだろ」

フロリス「外野ウルサイ!……ん、まぁアンタが負けたのは、どこまで行っても『一人』だって事だと思うよ、うん」

フロリス「現代科学を甘く見るのは手落ちだけどさ、誰かが側に居てアドバイス貰ってたら、こんな結果にはなってなかった、と思う」

安曇「……」

フロリス「つーか聞いてる?もしもーし?人に恥ずかしい事言わせといて、何眠ってやがんだこの野郎!起きろよ、おーきーろっ!」

安曇「……」

上条(安曇は目を開かない。どこか悔しそうに口の端を歪め、眉はヤレヤレと言った感じにしかめられている)

上条(一貫して無表情だった安曇、自らの崇める爬虫類のように生きたかったであろう彼が。最後の瞬間に何を思ったのか、それは分からない)

上条(――けれど、そのどこか笑ったような死に顔は、割と満足していたようにも見える……)

フロリス「あーぁ、つっかれたー。帰ろっか?」

上条「……あぁ。そうだな」

フロリス「腕くっつけないとねー?くっつくと良いよねー?」

上条「不吉な事言うんじゃない!俺だって考えないようにしてんだからな!」

レッサー『あのー?もしもしー?聞いてますか?ねぇ、私なんかスルーしてる感がですね』

レッサー『なんかこう、楽しそうな会話が聞こえてきてイラっとするっていうか――はっ!?これはまさか孔明の罠が!?』

レッサー『いいですかフロリス!私は引きません!胸の違いが戦力の決定的な差だと叩き込んで差し上げますよ!』

レッサー『殿方なんてのは、乳、乳、乳!悲しいけど、これ戦いは乳なんですよね!えぇっ!』

レッサー『って何かそろそろいい加減孤独な一人旅をしている感じが――』

レッサー『ってストーーーープっ!?ベイロープ、それは人に向けて良い――』

レッサー『アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!? 』

ピッ

――スタジアム アリーナ

チャン、チャチャチャン、チャン

鳴護『A gentle voice affects, and my mind is shaken.』

鳴護『It is scary and more than others slow to be damaged by good at vomiting of the lie nevertheless.』

鳴護『There is no other way any longer.』

鳴護『I want ..seeing with a smile.. to end it sadly. Because I am on the side.』

鳴護『A vague smile unexpectedly strikes it ..me...』

鳴護『You in the other side of the smile that it wants you to teach』

鳴護『It grieves in a sad voice, and my mind is tightened.』

鳴護『The distances are long and slower well in the good laughter than anyone nevertheless.』

鳴護『There is no other way any longer.』

鳴護『I want ..seeing with a smile.. to start gently.』

鳴護『A straight glance that I am on the side makes me puzzled.』

鳴護『I want you to tell it. You in the other side of the smile …….』

チャチャンー……

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『フランスの皆さんコっンっニっチっワーーーーーっ!元気でっすっかーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『いやー、フランスってサッカー好きな人おーいんだよねー!昨日スタジアムでヤンチャしちゃった子が居たのはビックリしたけど!』

鳴護『ブラックなスタッフさん達のお陰で予定通り開催出来ましたー!柴ざ――スタッフさん、ありがとーーーーーっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『あとサッカー負けちゃいましたねー、私の所もみんなも』

鳴護『決勝トーナメントのブラジル戦見るに、厳しくファウル取ってた方が正しかったんじゃね?みたいに思いますけど』

鳴護『ま、でも終わっちゃいましたし!また四年後!次は決勝でお会いしましょう、負けませんからねっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『ありがとーーーーーーイギリスーーーーーーーーーっ!!!』

オ、ォォォォォォォォォォォォォォッ!?

鳴護『……えっと』

鳴護『そ、それじゃ次の曲――』

――病室 同時刻

ケーブルテレビ『そ、それじゃ次の曲――』

上条「……なんだろう、これ?デジャブ?いつか見た光景なんだけど」

上条「てかアリサの天然もいい加減にしないと」

フロリス「いやぁ天然って怖いよねぇ。あれで計算だったらもっと怖いけどさ」

フロリス「まぁ前回のLIVE見てた人にはお約束みたいなアレでいいんじゃなーい?」

上条「どこにもでもコアな連中って居るのな!」

フロリス「んで、結局くっついたの?腕?」

フロリス「学園都市からの遠隔操作で、ロボットが手術始めた時には、『何の実験?』ってビビったけど」

上条「……カエル先生の腕は確かなんだが……心臓に悪いよな、うん」

上条(あの後、『右手』は自発的にくっつく事は無かった――って当たり前だ。俺の体はそんなにアバウトじゃねぇし)

上条(だから外科手術で――ってなったんだけど、学園都市へは戻れない。かといって先生も来られない)

上条(んじゃ幸い機材もあるしやっとく?みたいな軽くノリで始まり、成功した……うん、いいんだけどな!)

上条「ギブスは明日までつけとけって言われてる。指先に感覚戻ったし、大丈夫だろ」

フロリス「大変だねー――あ、ご飯」

上条「左手で食べんのは時間が掛かってさ」

フロリス「んー、じゃワタシが食べさせて上げるよ。ほら、アーン?口開けろコラ?」

上条「一人で出来る!つーか恥ずかしすぎるわっ!」

フロリス「HurryHurry! Hey!(早くしなよ、ほらっ!)」

上条「あ、あーん?」

フロリス「もぐもぐ」

上条「ってお前食うんかい!?昨日もこのネタやったよ!」

フロリス「病院食って味薄っ!?てか激マズっ!」

上条「謝れ!確かに同意したくなるけど、その暴言を謝って!」

フロリス「てかまず間接キスした事に照れなよ」

上条「べ、別に意識してる訳じゃ無いんだからね!?」

フロリス「Oh……、本場のツンデーレ」

上条「やっぱジャパニメーションって誤解しか生んでないと思うんだよ?」

フロリス「あー、それでどこ行こうっか?リクエストとかある?」

上条「聞いて?ねぇ何で君、野々村さんみたいにスルーするの?」

フロリス「折角フランスまで来てんだから遊びに行かなきゃ損ジャンか。なに言ってんの?バカなの?」

上条「そ、そうかな?」

フロリス「一人だとまた食べられるからワタシが付き合ったげるし、感謝したまえよ。ワタシに」

フロリス「お礼はデート代、全額そっち持ちでいーからさ?」

上条「やだこの子タカる気満々じゃない」

フロリス「えー、安い方だよー?魔術師一人護衛に雇うのってたっかいよー?具体的には知らないけど」

フロリス「あ、だったらワリカン?半々でどう?」

上条「ま、それぐらいだったら、いいか、な?」

フロリス「オケオケ。そいじゃガイド紙買ってきたから、一緒に見よーぜ。つーかそっち詰めなよ」

上条「おい!ベッドの上に上がってくんなよ!」

フロリス「じゃなっきゃ見れないジャンか。どこ行こうかって予定立てんだから――あ、もしかして?」

フロリス「意識しちゃう?フロリスさん可愛い子だし意識なんかしちゃったりする?」

フロリス「ほーら、正直にいーいーなーよーっ!」

上条「無い!絶対に無い!」

フロリス「むか……あー、だったら別に構わないよね?意識してないんだったら、くっついても問題ないよね?」

フロリス「そっち詰めて詰めて。ワタシまた落ちんのは嫌だかんね」

上条「ったく、しょうがねーなー――ってお前」 フニッ

フロリス「Ah, Ha?(どったん?)」

上条「いや、その当たってるっつーか、うん、その、アレが」

フロリス「当ててんだよ、言わせんな恥ずかしい」

上条「お前もう帰れよ!?何で俺のSAN値ゴリゴリ削りに来てんだよ!?」

フロリス「……いやマジ照れるよね……?」

上条「突然素に戻んな!?グイグイ押して来やがったのに、ちょっとテレる顔が可愛いんだよチクショーっ!」

フロリス「ま、計算だけどさ!」

上条「やだこの子、安曇より肉食系」

レッサー「……くっ、中々やるじゃないですかフロリス!」

レッサー「最初に間接キスだと意識させておきながら、デートの話を切り出し!」

レッサー「あまつさえ『全額オゴれ』と無理難題ふっかけておきながら、ワリカンという当たり前の状態へ持ってくる!」

レッサー「しかも最後、グイグイ押してくるかとは思えば素を見せて『ワタシ清純なんですよ?』とアピールするえげつなさ!まさに匠の技と言えましょう!」

レッサー「確かに分かっていましたとも、えぇ!獅子身中の虫が居るってね!」

レッサー「所詮人類の敵は人類……私もあなたが敵になるんじゃないかと思っていました!」

ベイロープ「それあなた、最初から仲間信用してなかっただけなのだわ」

レッサー「あ、聞いて下さいよベイロープ!フロリスさんってばヒドいんですよ!?」

ベイロープ「何となく分かるけど、どうしたのよ?簡潔に話して」

レッサー「デレました!」

ベイロープ「あ、ごめん。やっぱ詳しく頼むわ」

レッサー「あれだけ私がたらし込もうとしているのに、フロリスがっ!」

ベイロープ「……いやまぁ、分かるけどね」

レッサー「でしょう!?私悪くないですよねぇっ!」

ベイロープ「……フロリスの気持ちが」 ボソッ

レッサー「あれあれー?ちょっとなに言ってるかわっかんないですねー?もっかい言ってみませんかー?」

ベイロープ「いやいや、別にいいじゃない?あなたがマ――あれ、オトそうとしてんのって、ブリテンのためよね?」

ベイロープ「だからフロリスか私が口説き落とせば、結果的にオッケーでしょ?違う?」

レッサー「や、まぁそりゃそうですけどね。でも納得が」

レッサー「ちゅーかあなた今、『私』ってさりげなく自分を混ぜませんでしたか?」

レッサー「ていうかベイロープさんにも、昨日の昼間っから不穏な言動が見え隠れしている気が……?はっ!」

レッサー「――駄目ですよ、上条さん。騙されてはいけません!」

レッサー「彼女達には愛なんてありませんよ!あるのは打算と国益だけ!」

レッサー「あくまでも国のために××開こうって××チどもなんですからねっ!」

ベイロープ「仲間を×ッ×言うな」

上条「あと、お前だけは言っちゃいけない台詞だろ。説得力皆無じゃねぇか」

フロリス「――あー、レッサー。あのね」

レッサー「な、なんです?」

フロリス「――ゴメン」

レッサー「だーかーらーっ!?ベイロープもフロリスも、ゴメンってなんですか!ゴメンって!?」

レッサー「いやそりゃ『ごめんさない』って意味だとは知ってますけども!そうじゃなくって具体的に言いなさいよ!具体的に!」

フロリス「え、言ってもいーの?」

レッサー「駄目に決まってるじゃ無いですか!?何となく想像つきますけど、そんな残酷な現実に私が耐えられるワケありませんから!」

上条「どっちだよ。ただのワガママじゃねぇか」

フロリス「で、やっぱ凱旋門は外せないよねー。あとパリ市庁舎も穴場だよ?」

上条「市庁舎?有名なんだ?」

フロリス「フランス革命って知ってる?王族ぶっ殺して市民革命起こしたっての」

上条「民主主義の始まり、とか教科書で習ったような?」

フロリス「マジか。あれ実は実権握ったヤツが処刑しまくりでさーぁ、恐怖政治って言われる独裁しやがったんだよ」

フロリス「専門の委員会立ち上げて、『反革命行為』なら証拠無しで処刑出来るようにして、パリだけでも千人以上もギロチンにかけたりしてさー」

フロリス「そん時の独裁者がぶち切れた国民から逃げて、立てこもったのか市庁舎なんだって」

上条「スゲェな!何かちょっと興味出て来たし!」

フロリス「よーし!そいじゃ他にも――」

レッサー「聞きなさいなっ!私はあなた達をそんな子に育てた覚えはありませんよ!」

ベイロープ「育てられた覚えもねーわよ」

レッサー「ぐぎぎぎぎぎっ、私に味方は居ないのか……はっ!?ランシス!ランシスはいずこに!?」

レッサー「前は見事なNTRカマしやがりましたが、今度は!今度こそは私の味方に――」

ランシス「……レッサー、うるさい」 モゾモゾ

レッサー「なんで上条さんのベッドへ潜り込んでんですかーーーーーーーーーーっ!?」



――胎魔のオラトリオ・第二章 『竜の口』 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

次はランシスさんvsチャルイズプレイ編ですね

乙です

――『竜の口』蛇章


――パリ市警 モルグ付属室

検死官B「……これ……どうしたものかな」

検死官C「どうもこうもないじゃないですか、私らに出来る事なんてないでしょう」

検死官B「しかしだね君、これは貴重な症例の一つなのだよ?このまま余所に移管されるのは宜しくない」

検死官C「あー、お知り合いの教授さんがこっちの権威でしたっけ?」

検死官B「知り合いじゃない。同期だ」

検死官C「……同じじゃないですか」

検死官B「王立の研究機関だかなんだか知らないが、Limy(ライム野郎)め!フランスで出た遺体だぞ!どうして渡さなきゃならん!」

検死官C「あれ書類に書いてませんでしたっけ?持ってたパスポートがどうのって」

検死官B「彼の遺体をもう一度見たまえ!事故死や病死ならともかく、明らかに殺人だよ!殺人!」

検死官B「彼の無念のためにも我々が調べなくてどうする!?」

検死官C「珍しい症例サンプル欲しさじゃないんですかーあぁそうですかー」

検死官B「ついでに学問が前進するのは良い事だな!あくまでついであるが!」

検死官C「ま、否定はしませんけどねぇ」

検死官A「――お疲れちゃーん、どったの二人して?痴話喧嘩?」

検死官B「違う!」

検死官A「ジョークだよ、ジョーク。ほれ差し入れ持ってきたから、飲めよカフィ」

検死官B「なんでイタリア風発音なんだ……」

検死官C「お、コーヒーの他にドーナツまでありますね」

検死官A「『ARISA』のコンサートスタジアムで売ってた。オフィシャルだから値段は三割増しだっつー話」

検死官C「高っ!?……あぁでも、結構イケますよ」

検死官A「だろ?何でもアイドルご本人様がレシピ作ったっつー設定だと」

検死官C「マジすか!?それじゃ俺もARISAが恋人になったらこれを作って貰える……!」

検死官A「――ってぇファン心理を逆手に取って、実ぁうだつの上がらないツンツン頭に泣きついたんだろーぜ」

検死官A「『当麻君どうしよう!?あたしインタビューで「お料理は得意です!」って言っったら、タイアップ企画来ちゃった!』、みたいな?」

検死官C「俺の純情弄びやがって!……やっぱでも美味いです。しっとりしてる」

検死官A「OKARAが入っててヘルシーなんだそうだが」

検死官B「なんです、それ?」

検死官A「トーフ……Bean Soupを作る時に残った豆の部分だな。ちなみに漢字で書くと雪花菜(Snow Flower Green)……」

検死官A「……中二病患ったDQN親が雪花菜(YUKANA)ってつけそうだな!」

検死官B「日本の名前事情なんて知らん。それより、アリ……?なに?」

検死官C「あぁパリの方でコンサートやってる日本人です。学園都市から来たんだそうで」

検死官B「なんだこのフリフリの衣装は!けしからんな!」

検死官A「まーまーいいからアンタも食えって――あ、検死上がりで食欲無いか」

検死官B「3年続けられれば、あとはもう何も感じなくなるさ。あれはモノだ」

検死官A「まーなぁ、そう思って割り切らないと出来ない業界だからなぁ、ここも」

検死官C「ここ”も”?」

検死官A「んー、あぁいやいやなんでもねぇよ――つか、どうしたんだ、って最初の質問に戻るんだけどよ」

検死官C「あぁなんか今、モルグ(死体安置所)で寝てる患者さん珍しい症例なんですって」

検死官A「どんな?」

検死官B「そうだな――」

検死官A「もしかしてクロイツフェルト・ヤコプ病?それも末期の?」

検死官C「え?CT結果見たんですか?」

検死官A「あー……まぁ、アレだ。ソイツは『呪い』だよ、『呪い』

検死官B「おい、ちょっと待ちたまえ君。何を急に」

検死官A「人類学のタブーは三つ、『殺人・近親婚・人肉食』だな。大体は、っていう注釈がつくんだが」

検死官A「んじゃたまには逆に聞いてみようか。『何故』それらが禁忌とされているんでしょーか?」

検死官B「……何を言い出すんだ、君は」

検死官C「まぁまぁ、休憩時間のお喋りだと思えば、別に」

検死官B「……そうだな……『殺人』はシンプルだろう。動物がしないのと同じだ。数が減れば種族として弱体化するからな」

検死官A「あぁ一応動物もするぜ?ライオンの子殺しや、サメの稚魚の胎内選別とかが有名」

検死官A「ま、ある程度のレベルになると、日常的にする例はぐっと減るかね。人間は例外としても」

検死官C「あー、よく聞きますよね。『人間は戦争って同族殺しをするから、動物よりも劣っている!』論」

検死官A「でもそう言う奴らってニューカルトかネオペイガニズムにやられっちまってんだよなー、これが」

検死官B「異教に憧れる連中か?彼らがどうして?」

検死官A「人間はお前達の――じゃない、俺達のかーちゃんが造ったって事になってんじゃんか?自分によく似せて」

検死官B「おい。母親ではなく主だろうが!」

検死官C「ま、まぁまぁ、そこはマリア様からもお生まれになりましたし、突っ込まない方向で」

検死官A「ペイガンどもに取っては『人間は不完全な存在である。何故ならば不完全な神が造ったからだ』って主張に持っていきたいだけなのさ」

検死官B「グノーシス主義と変わらんな」

検死官A「デミウルゴスの時代から何も変わってねぇよ、そりゃな」

検死官A「既存の価値観や権力を否定するためにゃ、まずそいつらを否定する所から始めなきゃいけない」

検死官C「あぁいますよねー。『アンネの日記を否定するな!ユダヤ人を守れ!』とか言った半年後に、『イスラエルの横暴を許すな!』とか言う人」

検死官B「……結局はユダヤ置いてきぼりで、自分達の都合の良い意見を押し通すためのツールなのだよ」

検死官A「そーゆー奴らは基本、まず結論があってそれに持っていくための手段しかない。相手にするだけ無駄だ」

検死官A「少なくとも真っ当な連中は手段も結論も、普通は複数個あって然るべきだっつー話」

検死官C「戦争もそうですよね?」

検死官A「紛争解決の手段の一つ――であり、生物学的には『自分達の国、一族が繁栄するための方法』なんだがねぇ」

検死官B「動物の縄張り争いと同じだろう。下らない」

検死官A「だったらちょいとパレスチナ行って同じ台詞吐いてこいや。ウクライナでも南スーダンでもいいけど」

検死官C「まぁまぁ、どこも基本数を増やすのが根本ですもんねー……と、『近親婚』は環境に適応出来ないでしょう」

検死官C「劣性遺伝子――普通の組み合わせならは主に出てない形質が、近似種同士だと表へ出ます」

検死官C「それが『劣等』かどうかはさておき、種としては弱い傾向がありますよね」

検死官B「よく勘違いされてるんだが、『劣性』であり『劣等』ではないんだがな」

検死官C「先天的な遺伝疾患が表に出てくる可能性が上がりますしねー」

検死官A「大体ミジンコも本来は単為生殖だが、環境が激変すると両性生殖するってぇ話だよな。そいで?」

検死官B「食人は……言われてみれば、特に、問題は無いのか……?急に思い浮ぶ範囲では」

検死官C「まー、よくホラーもののモチーフになったりしますもんね。ゾンビとかも突き詰めればそっちですし」

検死官A「だぁな。どっちも『種の本能としてのセーフティ』が働いてるんだよ」

検死官B「殺人も近親婚も、種の存続としてはありがたくない話だからな」

検死官A「だからどっちも『罪悪感』やら『倫理観』ってぇ鎖をつけるんだ。鎖の名前は宗教でもいいがね」

検死官A「一線を越えようとトリガーを引いても、セーフティロックがかかってるから、そう簡単には弾丸は出ねぇ」

検死官C「て、事は『食人』も『何らかの種の維持に触れる』んですかね?セーフティが掛かってる以上、何かあると?」

検死官A「ま、そんなに勿体ぶるつもりは無ぇんだが――そこでヤコプ病に繋がんだよ」

検死官A「安曇の野郎、実際にゃどんな感じだったんだ?」

検死官B「あ、あぁ。開頭していないのでスキャン画像しか無いが――ほら、見たまえ」

検死官A「……うっひゃー、こらまた酷ぇな」

検死官B「脳が従来あるべき量3分の1ほどに萎縮している。まともに歩行も出来なかったろうに」

検死官A「……なーるほど。だから獣化で補ってたのな」

検死官C「元々ヤコプ病は脳がスカスカになって、スポンジ状になる病――なんですが、ここで一つ疑問がありまして」

検死官B「ヤコプは発症から死に至るまで長期間かかる病気だ。こんなにも進行が進んでたのに、生きていた症例なんて見た事が無い」

検死官A「そりゃそーだ。だってこいつ、生まれた時から呪われてたんだぜ?」

検死官B「……また呪いかね。君の言っている事は要領を得んな」

検死官C「……クールー病……」

検死官A「おっ、そっちのにーちゃん正解!褒美にARISAのステッカーを進呈しよう!」

検死官C「要りま――やっぱ下さい……あれ、でもこれ『C』って書いてません?」

検死官A「サイン入りラメ超レアなんだぜ」

検死官C「どっかのバンド崩れにありそうな感じですけど……」

検死官B「……なに?クールー?フランス領ギアナのか?」

検死官A「そうそう。そこにヤコプ病に酷似した風土病があったんだよ」

検死官A「慢性進行性神経疾患。歩行失調と震えから始まり、言語障害・情動変化が続いて、最後には歩けなくなって死亡」

検死官A「原因が脳の異常プリオン化――で、クールーには『食人』の風習が残ってた」

検死官B「……食事の時に相応しい話題では無いだろう、これは」

検死官C「てかそれ、狂牛病と同じですよね?異常なプリオンから感染した、っていう」

検死官A「そうだなぁ、その牛どもも肉骨粉っつって、テメーらの同族食わせられてたんだよ、これが」

検死官C「と、言う事は……人類は『同族食いをすると発病すると知っていた』、と?」

検死官A「どーだろねー、そこいらは。まだBSE自体、病気か突然変異なのか決まってる訳じゃねーしな?」

検死官B「ウイルスとは違って媒介者が無く、異常遺伝子を消化したからと言って、同じ異常が起きるか――まだ議論は決着していない」

検死官C「ですよね。だってまだ完全に異常プリオンが原因か、特定されてないですもんね」

検死官A「感染のメカニズムは不明。『食った奴と食われたヤツに、同じプリオン異常が認められるから、原因これじゃね?』以外の根拠はねーしな」

検死官A「異常プリオンが同じってんで、類似種だって言われてるが――逆にヤコプ病はどうやってん感染したの?って疑問がな」

検死官A「……ま、なんにせよ知ってたんだよ、人間はな。他の動物も含めて」

検死官A「同族食いをやらかしたら、相応しい『呪い』がかかるってな」

検死官B「……モルグの彼も、そうだったと?」

検死官A「そもそも『禁忌』ってのは大抵何らかの原因がある」

検死官A「俺達ニンゲン様が、セーフティまで拵えたのはキチンとした理由があるからだよ。大抵はな」

検死官A「極東の島国を筆頭に『死は穢れ、忌み嫌うべきもの』って考えが広まったのも、屍体は雑菌の塊だからだよ」

検死官A「丁重に弔わないと死病が蔓延する。ペストやコレラがいい例じゃねぇか」

検死官A「こないだ読んだ出来の悪い創作怪談に、『病院で切り落とした四肢は食べる』的な話があった」

検死官A「――んが、現実じゃ医者が即業者呼んで速効火葬。じゃないと物凄い量の雑菌でパンデミック引き起こすんだよ」

検死官A「『食うなのタブー』あるよな?特定の動物食うなって宗教の」

検死官B「あるな。牛、馬、豚、鱗のない魚」

検死官A「あれも元々は『その宗教が流行った地域で伝えられていた生活の知恵』だったりする場合が多いんだわ、これが」

検死官A「例えば牛なら育つまでに膨大な水や草が必要だから、豚なら衛生環境が厳しいから、とかそーゆーセーフティが入ってる」

検死官A「そこいら辺の危険性を、それこそ有史以前から引き継いできたからこそ、俺達は『禁忌』としたんだろうがな」

検死官A「……反対に、こいつらが『こういう』生活環境になってたのは、それしか方法が無かったかもしれねぇがな」

検死官A「禁忌をと禁忌とせず、正気保ったまま『使える』ようにしなきゃいけない、てんで」

検死官A「……ま、安曇――じゃない。御石神(ミシャグジ)の一族としちゃ、最後の生き残りだっつー話だし、真相が出てくる事ぁもう無いってね」

検死官B「み、みしゃ?」

検死官A「おっと悪い。ちっと患者のツラ拝んでくる。あ、ドーナツは全部食ってていいぜ?」

検死官A「墓前に好物捧げようかと思ったんだが、アイツぁ無駄な殺生好きじゃないしな――俺と同じで」

ガチャッ

検死官B「……何だったんだ、今の」

検死官C「さぁ?なんでしょうね?つーかですね、疑問に思ってたんですが――」

検死官C「――あんな検死官、居ましたっけ?」

――モルグ

検死官A「……」

安曇「――」

検死官A「……あぁクソ、余計な仕事増やしがったクセに、いい顔でくたばってんじゃねぇか」

検死官A「カミやんとのケンカ、そんなに楽しかったのか?あん?」

検死官A「……」

検死官A「鳴護アリサは『アタリ』だったぜ。お前の『獣神楽(カムロミノギ)』、しっかり感知しやがったよーで」

検死官A「『シィ』の”化身”の一つ――ミシャグジ神の魔力に反応したってぇのは、まぁまぁ『宿主(キャリア)』の素質は充分だっつー話」

検死官A「……」

検死官A「ったく、『シィ』に逢えるからって、さっさと死にやがって」

検死官A「……」

検死官A「今は静かに眠れ、腹違いの兄弟よ――」

検死官A「――望月は輝きを増し、猟犬は獲物を差し出せ、供犠は自ら頭を垂れん――」

検死官A「――死して夢見る我が神の祝福を。そして願わくは――」

アル(検死官A)「――この素晴らしいクソッタレなセカイに、滅びを」

――次章予告


――???

 これはある夜に起きた出来事です。

 あたし達は当麻君の作ってくれた晩ごはんを頂いてからお風呂へ入って、寝る前に少しだけゲームをして、いつものように部屋へと戻りました。
 部屋、とは言ってもキャンピングカー(正確にはモーターホーム?)の個室。
 しかもダブルベッドが置いていたのを改造し、無理矢理個室に分けてシングルベッドを置いたとお姉ちゃんが言っていました。
(そして何故か片側の部屋は『外側から鍵が閉まるオートロック』になってた……あの、お姉ちゃん?もうちょっと信じても、うん)

 そのため部屋は窮屈で、一畳と少しぐらいでベッドの他には、机とあたしの持ってきたキーボードぐらい。
 ちなみに当麻君のお部屋は仕切られた向こう側――というか、レッサーさん達はキャンピングカーの前半分の、固定されているソファー兼簡易ベッドに決まりました。
 数もそうですが、向こうは仕切りが無い大きな部屋(1DK)なので、若干一名の反対を除き満場一致で、個室はあたしと当麻君が使わせてもらえるそうです。
 「隔離か!?」みたいなツッコんでいた人も居ましたけど、もっと当麻君は自覚をした方が良いと思いました、まる。

 まぁまぁとにかくそこまではフツーの夜でした。お風呂に入ってる当麻君の所へレッサーさんが乱入しようとしてベイロープさんに……まぁ、慣れるまでちょっと引いていましたが。ちょっとだけ、ですよ?

 あたしは部屋へ戻ってから、軽い筋トレとボイトレした後、パジャマへ着替えて眠る事にしました――あぁ、そういえばこんな事もあったなぁ。

 初めて泊まった日です。
 慣れない環境のせいでしょうか、中々寝付けなかったあたしは何度か寝返りを打ってたんですけど。

(……うん?頭に何か当たる……?……あ、枕の下になんか挟まって――)

 銃でした。いえ、比喩表現や誇張一切無しのホンモノです。
 あとお姉ちゃんの字で書かれた付箋(これがまた可愛らしいゆるキャラものです)で、注意書きらしきものも、

『右手じゃなく頭を狙え』

……悪い人の、って事だよね……?何かこう、別の意図を感じるのは考えすぎでしょうか?明らかに特定の誰かを(この世から)排除したい、って強い意志が伝わってきます。

 ちなみに翌日みんなへ聞いてみたら、『デリンジャー』って言う護身用の銃なんだそうです。「メカの初期装備ですよねっわかります!」とレッサーさんが……メカって何?

 まぁ……そんなこんなで楽しくやっています、はい。

 毎日が楽しくて、楽しすぎて『私、生きてるよ!』って実感が強すぎて。
 こんな日がいつまでも続けばいいな、って思っちゃったりもしたり。

 ……でも、それは、錯覚でした。
 毎日が同じように過ぎ去っていく?……けれど似ていても『今日』と同じ日は二度とやっては来ません。
 どんなワガママを言っても、誰に望んでみても、『変化』はある訳です。はい。

 夜半過ぎ、ふと目を覚ましたあたしは、今何時だろうと目覚ましへ手を伸ばし――何も手に触れませんでした。
 それもそのはず、プレゼントで貰った目覚まし時計は学園都市へ置いてきちゃいましたから。

 それじゃーと、枕元の携帯電話を取ろうとして――気づいて、しまいます。
 私の上に誰かが覆い被さっている事に。

(――え、えええぇぇぇぇぇぇぇっ!?)

 バラックです。あ、いえパニックです!バラックってなんでしょう?小説か何かで読んだような?

(だ、ダメダメダメダメダメーーーーーーーーっ!当麻君、インデックスちゃんに悪いってば!)

(っていうかシャワー浴びてない――あ、事もないや。フロリスさんが選んでくれたボディソープ、スッゴくいい香りなんだよねー)

(あ、だったら……いいの、かな……?)

 そんな訳ありません。

(――ってダメダメ!第一、直ぐ側にレッサーさん達が居るんだから、声聞こえちゃうからっ!)

(……あ、一応歌のトレーニングも出来るように、あたしの部屋は防音なんだっけ……?)

(うんっ、それじゃ問題ないよねっ!)

 それも違います。というかパニクって訳が分からなくなっています。

「……当麻君、その、あたしでいいの、かな……?」

 埒が明かない――妙な自問自答は変なベクトルへ突っ切ってしまいますので――当麻君へ、あたしは勇気を出して聞いてみました。
 けれどいつまで経っても(もしかしたら凄く短い時間かも知れませんが)答えは返ってきません。

 その代わりに――あたしは、ぎゅっと。

「当麻君っ!?………………ちょっ」

 とても繊細に、けれど決して逃すつもりはないらしく。
 抱き竦められてしまいました、はい。

(……うん)

 ……悪い事をしているのかも知れません。

 今、あたしを守るために当麻君やお姉ちゃん、レッサーさん達に一杯迷惑をかけています。ワガママに付き合わせる形で。
 何も出来ないあたしを守って傷ついて、時には命も落としそうになって――でも、あたしには何も返してあげる事は出来ません。

 ……多分、そんな愚痴を当麻君へ溢したら、返ってくる言葉は想像がつきます。

『困ってる友達助けるのに、理由なんか要らないだろ?』

 きっとあきれた顔でそう頭を掻いてから、しょうがないな、って笑うと思います。

 信じませんか?信じられませんか?
 でもね、『あの時』だってそうだったから。傷ついてボロボロになって、あたしなんかのために必死になったって、何も得なんかしないのに。来て、くれました。

 あたしがまた『こっち』へ来た理由。それは分かりません。
 お姉ちゃんと一緒になった、元の『私』へ戻ったのは憶えています。はっきりと。

 けど、気がついたら当麻君とインデックスちゃんの前に『あたし』が居て、

『――幻想なんかじゃ、ない……っ!』

って言っていたそうです。その後直ぐに大泣きしちゃったから、あんまり憶えてないんですけどね?
 そういえば……誰かに後ろから押されたような……?あれは誰だったんでしょう……?

 ……だからもし、当麻君が、その……あたしを求めてくれるんだったら、それが別に、その――あんまり良くないお付き合い方でも!いいかなって!
 あ、いや!キチンとしたのだったら、やっぱりそっちの方がウェルカムな訳で!勿論違っててもバッチコイではあるんだけど!

 ――だってあたしは、もう『この人のために生きよう』って決めてたんだから、うん。

「……あの、その――不束者ですか、はいっ」

 ……なんて覚悟は決めていたんですけど、やっぱり口から出るのはどこか違っているようなマヌケな台詞でした。
 よく読む――もとい、友達から押しつけられた本では、『あんまり初心だと引く』みたいな感じだったけど、ま、まぁこんなもの?こんな感じだよね?
 ってか場慣れしてる方が嫌なんじゃないかな、って思ったり。

 幸か不幸か。当麻君も同じみたいで、ぎこちない手つきであたしのうなじ辺りに触れてくる……うなじ?なんで?
 そっちの本だと、もうちょっと直接的なアレっていうか――。

「……ん……ふぁ……っ!」

 って不思議に思ったのは一瞬だけで。女の子に触られているような優しいタッチで、でも執拗に何度も何度もゆっくり的確に刺激が与えられてる訳で。

「……声、出……ちゃ……!」

 撫でられている部分から、じゅん、って、気持ちいいのが広がって来る?這い上がって来そう?なんかこう、触れて欲しい所に手が届かないようなもどかしさ?
 体は強烈な快感を欲しがってる――って言うと誤解されちゃうけど――みたいなのに、どこか焦らされてる。

(……当麻、君。もしかして場慣れしてないかなぁ……?)

 なんて考える余裕はすぐ無くなりました。
 クンクン、と当麻君はあたしの髪を嗅ぎ始めた――抱き締められたままだから、まぁ結果として首筋へ顔を近づける感じ。

(あ、あれぇ……?順番、思っていたのよりも、違う、かも?てかこっちが正解?)

 普通はまずキスをしてからー、みたいな感じだと思ったのに。当麻君はやや特殊なのでしょうか?それともこっちが本当?

 スンスン、と鼻先が首筋に触れるか触れないか、そのギリギリのラインを行ったり来たり。不規則なリズムがあたしを徐々に麻痺させていくのか分かります。
 抱き締められた時に広がった時、感覚が敏感になり過ぎちゃったのとは真逆。まるで首筋から甘い、毒、って言うとアレだけど、そんなような何かに囚われる錯覚。

 ……でも、それは、錯覚、かな?本当に?

(……違う、かな……うん)

 囚われていたのはずっと前。路上であたしの歌を聴いてくれて、転びそうになったあたしを抱き留めてくれた。あの時から徐々に始まって。
 あたしの中の、胸の中にあるドキドキは消えてなんかくれなくって。
 お話をしてた直後に、オービットから歌手になれるって舞い上がっちゃったから、それできっと――とか、最初は考えていた。そう、思いたかったのかも?

 ――そして、もう。ずっと前に、この腕の中の不幸な男の人に囚われていたんだって。

 当麻君が誰かと仲良くお喋りするのは、なんか面白くなくて。でもインデックスちゃんが相手だったら、ほんのちょっとだけ妬けるけどいいかな、とか思ったりもした。

 ……そんな嘘をつけるぐらいには、あたしは器用だったから。
 ……そんな本当に思えるぐらいには、私は不器用だったから。

 このまま終りにしよう。実らない初恋なんだし。そう、思い込もうとしていた……それはもう過去形で。
 打算が無かったとは言わない。善意だけだったなんてとても言えない。EUライブツアーの話が出て来た時、レディリーさんを助けられるんだって思うよりも早く、私はこうあたしに囁いたんだと思う。

『――これで、独占しちゃえばいいよね?』

 あたしは、囚われている。自分がそう望んでいるから。

(だから、当麻君も――)

 かり。

「……ん、んんーーーーーーーっ……!?」

 首筋に走る甘い甘い痛み。噛まれたのだと気づくよりも早く、あたしの体は反応してしまっていた。
 噛まれ、なぶられた所を中心に電気のような痺れが波打ち、何度かさざ波が広がっては消えていく。

 けど快楽の激しい波は一度では収まらない。何回も何回も、あたしの神経を打ちのめすように繰り返し襲ってくる。

「く……ぁんっ……くぅ……」

 体全体が鋭敏に――より正確には敏感になっちゃってて、あたしは小さく呻くぐらいしか反撃は許されていなかった。

「……ダメ、だよ……そんなにっ」

 拒絶の声とは裏腹にあたしは当麻君をもっと強く抱き締め――。

「……んぁー?……おぅ……?」

 ――ようとして、とても近くから聞こえていた声が、『女の子のもの』と知った。

「――ぅぇ?」

「……あ、ごめん……寝ぼけて……ふぁぁぁぁぁぁぁふっ……」

 目眩と羞恥心に卒倒しそうになりつつ、どうにか声を絞り出して訊ねます。がんばれあたし。

「ランシス……ちゃん?」

「んー……?なにー……?」

「なんで、あたしの、ベッドに、お居るの……?」

「あー……前、『抱き枕いっかいぶん』って約束。だから」

 ……してました、そういえば。フロリスさん達にもサインとか言われた時に。

「……それだけ……?他に聞きたいの、ある……?」

「……あ、はい。ありがとうございました……えぇ、本当に本当にありがとうございました……」

「……ん、おやすみー……あ、そうだ。アリサ……」

「……はい?」

「ひとりえっちは、ひとりの時にするもんだと思う、よ……?」

「…………………………え」

「……ぐぅ……」

「違うの!?そうじゃないの!?」

 ガックンガックン頭を揺らして弁解しました。

「起きて下さいよっ!誤解されたまんまじゃ幾ら何でもキマズ――ちょっと!ランシスさんっ!?」

 親兄弟に、って痛々しい話はたまに聞きますけど、友達(に、なりたい人)に見られるのはちょっと致命的です。

「そもそも勘違いして臨戦態勢整えたあたしも悪いですけどっ!勝手に潜り込んだ方にも責任があるんじゃないんでしょうかっ!」

「んー……なにぃ?」

「ですから誤解ですってば!そういうんじゃなく、不幸なすれ違いがですねっ!」

 半眼で深海魚を彷彿とさせる”無”表情のまま、ランシスさんが何を考えているのか分かりません。幾ら言っても通じない予感しかしません。

 彼女は、んー?と少し考える素振りを見てた後、ベッドの上でなにやらモゾモゾし始めます。

「あのー……ランシスさん?どうしたんで、しょう、か?」

「……気持ち、分かる。恥ずかしいん、だよね……?」

「はいっ!……いや、違うけど!そんなんじゃないけど!」

「――だったら、私も、見せる。それで、おあいこ……」

「はい?」

「……んぅっ」

「待って下さい!ちょっと待って下さい!?何やってんですかっ!?」

「ひとりえっ――」

「知ってますけど!ってかあたしが言いたいんのはそうじゃなくって」

 先程、あたしの部屋は防音だと言いましたよね?確か。言ったのか書いたのか、それとも脳内バッファなのかは知りませんが、まぁ。はい。
 でも防音って言っても、防犯上の理由で完全な防音にまではしなかったみたいです。

 ……うん、騒いで当麻君が入ってきたから、そこでようやく気づいたんだけどね。その残酷な事実に

「――アリサ!?敵の攻撃の魔術師か!?」

 大丈夫じゃないです。出来れば最初の誤解が誤解じゃない所からリトライして欲しいぐらいです。
 はい、流石に真夜中なので混乱しているようですね。てか、他人がパニックになっているのを見ると、逆に冷静になりますよ。
 だからまぁあたしは努めて冷静に、状況を把握する事から始めました。

※真夜中
※あたし――乱れた衣服
※ランシスさん――パンツ脱いでる

 ……あれ?おかしいですよね?なんかこう、明らかに致命的な勘違いをされる感じがアリアリと。

 けど流石は当麻君でした。あたしとランシスさんを見比べた後、とても爽やかな表情で――お姉ちゃんへ殴り込みに来たのと同じ顔で――こう、親指を立てました。

「……大丈夫!女の子同士も嫌いじゃないさ!」

「当麻君の、バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 勿論、あたしは伊達にボイトレをしておらず、レッサーさん達全員を叩き起こしたのですが……後はもう、はい。いつもの、というか、えぇ。

 ……まぁ、そんな感じの事件が起き、その後数日の間はバッチリ気まずい思いをしました。当麻君も妙にテカテカした顔で、殴りたくなったのは秘密です。
 ランシスさんとは仲良くなれたみたいで、あの後もちょくちょく潜り込んでは来るのが良かったのか悪かったのか……。

 ……はい、そんな訳で頑張ろうと思いました。色々もう、台無しですけど。



――次章『悪夢館殺人事件』予告 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
>>582-586
ありがとうございます
まだ半分終ってないんで、ランシスさん編終ったらスレ2行くと思います
余ったスレで『学探』の調査して欲しい話&リポーター募集するかも?体調次第ですが。夏はキツい

業務連絡ー、業務連絡
http://tanakadwarf.web.fc2.com/images/text.png

――フランス 某病院正面玄関

建宮「――ってな訳で右手は完全にくっついたのよな。良かったのよ」

上条「……なんだろう。全治半年が二日で退院出来るのって、複雑なんだが……」

建宮「まぁそこいら辺は『この病院は学園都市と提携していた』的な裏設定がある事にすればいいのよ」

上条「無茶言うな!シャットアウラが持ち込んだ機材のお陰だよ!」

建宮「ちゅーか、俺も勇んで乗り込んで来た割には今一役に立たなかったのよな」

上条「んなことないって。アリサの事守ってくれただろ」

建宮「ぶっちゃけフランベルジュを一度も振らずに終ったのよ」

上条「あー……」

上条(一昨昨日あった襲撃、夜の部の方。建宮やレッサー達の方は超ヌルゲーだったらしい)

上条(病院で暴れた生成りは学園都市製の音波兵器?高周波?で無力化するわ、スタジアムの真蛇はライブ用に設置してあったスピーカーの一括でスタンさせるわ)

上条(……ま、どっちも『前以て相手の出方が分かっている』状態なので出来たっつーか。対策を取られて当たり前か)

上条(ちなみに両方とも、学園都市の多目的ホールで会った『木原』って女の子が用意したんだそうで)

上条(……何だろう?思い出すと寒気が……?)

建宮「まー、我らも真っ正面からカチ合ったら、ちと辛いのよ」

建宮「姿を隠す場所の多い森や林、船に乗ってる時に攻撃されたら大抵は終るのよな」

上条「だよな。向こうは水中でも平気なんだからなー」

上条「SLGでの水中特性Sのユニットみたいなもんか?特定の場面やシチュで使うと超強い」

建宮「相性の問題なのよな。我ら魔術師は大抵銃や高度な現代兵器に弱いのよ」

上条「誰だって撃たれれば死ぬじゃねーか。火縄銃だったらともかく」

建宮「あ、それ勘違いなのよ。拳銃よりも火縄銃の方が殺傷能力は高いのよな」

上条「え、そうなのか?」

建宮「マジでマジで、なのよ。弾の口径がデカい上、銃弾そのものが柔らかいのよ」

上条「それの何が問題だよ?」

建宮「んー……普通の弾は『硬い』から骨にでも当たらない限り、そのまま体外へと抜けていくのよ」

建宮「それが重要な臓器へ当たれば致命傷。けれど他の武器でも同じなのよな」

建宮「対して柔らかい弾はよ、体内へ入ると『柔らかさ故に変形して砕ける』のよ」

上条「うわぁ……」

建宮「似たような効果を狙ってソフトポイント弾が作られたぐらい、殺傷能力は高かったのよな」

建宮「昔とは医療体制が違うっつっても、直撃すれば拳銃よりもダメージは遙かに高いのよ」

上条「ま、まぁ現実社会で向けられたりはしないよ、ね?」

建宮「当然、魔術武器が銃だって連中も居るのよな。東北のマタギ衆は拝み屋も兼ねているのよ」

建宮「遭うとすれば現代の拝み屋が祓い屋、呪い士つった所よな」

上条「銃って聞くと現代戦のイメージがあるけどな」

建宮「種子島が入ってきたのは400年以上も前なのよな。その間術式へ取り込んだり対策を練るのは当然」

建宮「逆にあれだけの脅威を放置するのは怠慢なのよ」

上条「意外だな。伝統がどうとか、拘りそうなもんだと思ったけど」

建宮「我らは『実戦派』なのよ、昔から。そしてこれからもよ――この日本で魔術師の数が減っているって話を憶えているのよ?」

上条「あぁ。昔は有名所だったのに、今はただの観光名所になっちまったんだっけ?」

建宮「『平和すぎる』せいなのよな。テメェらが何もしなくて――つか、経文読んで銭が入るから、それ以上はしなくなっただけ」

建宮「そんなぬるま湯に浸かった、しかも周囲から格だなんだと持ち上げられて、奢らない訳がないのよ」

上条「僧兵、だっけ?昔は戦ってたような気が……?」

建宮「荘園制と武士の台頭の関係は知っているのよ?」

上条「習った、な。確か、貴族が豪族へ荘園の管理や運用を任せておいて、段々と力をつけてきたんだっけ?」

建宮「それ”も”正解。他にも『僧兵などの寺社勢力へ対抗するために武士を雇っていたら、重用しなくてはいけなくなった』のも正解なのよ」

建宮「つーか比叡山なんか、足利と織田の時代に二回も焼き討ちされているのよな」

建宮「『弱者救済』ってぇ言い分もあるんだろうが、強訴で内裏へ乱入して天皇や貴族を脅迫した事実は変わらないのよな」

上条「でも苦しんでる人が居て、助けるために仕方が無い、んじゃ」

建宮「『本当に苦しんでいる人間は声すら上げられない』のよ、実際の所」

建宮「僧兵っつてるが、彼らが持っている武器、メシ、カネはどこから来るのよ」

建宮「テメェらの荘園から――その『弱者』から出ているとは考えないのよな?」

建宮「……ま、十字教でも教皇が国王を破門するみたいに、信仰を利用してアレコレやってたのは確かなのよ、歴史的にも」

建宮「んが、『それ』が歴史的に有益だった試しは数えるほど」

建宮「むしろ『時勢を読めず、必要な変化を受け入れられずに取り残された』事が往々にしてあるのよな」

建宮「現実を見ず、現実を知らず、現実を言えず、現実を理解出来ず」

建宮「妖怪の『ノヅチ』ってのが仏教説話へ組み込まれてからは、こう言われるのよな」

建宮「『形大にして、目鼻手足もなくして、只口ばかりあるものの、人を取りて食うと言え』とよ」

上条「他人の話を聞かないで口ばっかり達者だった?……誰かから聞いたような……」

建宮「また『人の足に噛みつく』――つまり『人の”悪し”に噛みつく』ってな具合に皮肉られてるのよな」

建宮「これが意味する所は鎌倉自体から『口先ばかりで綺麗事しか言わない連中』と揶揄されていたのよ」

建宮「そもそも念仏唱えて世界がハッピーになるんだったら、お巡りさんは要らねぇって話なのよ」

上条「変化について行けなくなったか」

建宮「……ま、だからこそ我らのような集団が生き残った、も言えるのよな」

建宮「連中が心底尊敬出来るような信仰であれば、我らはとうに存在意義を失っていたのよな」

上条「……俺はお前らと出会えたのは嬉しいけど、そりゃな」

建宮「我らは、いや我らだけじゃなくとも、新しい技術や概念に背を向けなかった連中は居たのよ」

建宮「その結果、鉛玉ぐらいだったら、ま、元素を適当に弄ったりスケープゴートを作ったりで無効化出来るのよ。一応は」

建宮「んが炸薬を撒き散らす無反動砲や榴弾、果てはナパーム辺りでひたすら物量で押されれば厳しいのよな

上条「能力者も似たようなもんだろ。個人戦闘じゃそこそこやれるが、対組織だと逃げんのすら難しい」

建宮「だがしかし!安曇の獣化魔術、『人間の理性を保ったまま、動物の身体能力を扱える』となれば」

上条「超人的な反射神経で対抗出来る?」

建宮「『対人”掃討”戦闘』のスペシャリスト相手に、どれだけ通じるのかは未知数なのよ」

建宮「けど人間がする動きを超越し、上下Y軸を無視して襲撃してくる相手は『想定外』なのよな」

建宮「他にも、機械化するよりもコストは安く抑えられ、住人を無差別に巻き込むのを前提とすれば、兵士は尽きないのよな」

上条「……テロにピッタリだよな」

建宮「ま、今回は運が良かったのよ。相手の得意な場所で、能力を十全に発揮出来ずに――」

上条「建宮?」

建宮「おかしい、のよな?どう考えてもよ」

上条「何が?」

建宮「あの巨乳イヤー・ウィッグ(エルフ耳)ねーちゃんの言ってたのは、これか……?」

上条「ベイロープって言え。その説明だけで分かる俺もどうかと思うが」

建宮「昼間にあった『アレ』の襲撃、続いて夜中の『安曇』の奇襲。どちらも戦略的には正しいのよな」

建宮「だが戦術的には合っていない、どーにも納得が行かないのよ」

上条「どういう意味で?」

建宮「戦術と戦略の違いは分かるのよ?」

上条「えっと、戦術が個々の戦闘での基本方針。でもって戦略が他の戦闘をひっくるめた全部の方針?」

建宮「その理解で正しいのよな。イカレた連中を例えてみると」

建宮「昼夜二回、昼間の襲撃で消耗していた所へ、もう一回攻撃をかける。これは『戦略』としては正しいのよ」

建宮「夜討ち朝駆けは兵法の常道。ましてや相手の油断を誘っておいて一撃を入れるのは定番中の定番なのよ」

建宮「ただし、それを安曇阿阪――ゲリラ戦・水中戦闘のエキスパートにやらせるのは、『戦術』としては下策、というか素人考えなのよな」

建宮「急襲には割と適正はあるんだろうが……ふむ?」

上条「相手がその、おかしいからって理由じゃ説明出来ないか?」

建宮「少年、勘違いをしているのよ、それは」

建宮「確かにの世の中、『コイツどう考えてもンァッ! ハッハッハッハー!』なヤツは居るのよ」

上条「きちんと使ってるじゃねぇか若者言葉……いや、若くもないか?オッサンばっかか?」

建宮「どう考えてもイカレた道理と常識の中に住んでいる、ってのは割と多く――んが!」

建宮「仮に『アイツは気狂いだ』と理解するのを諦めてしまったら、対策も対応も取れないのよな」

上条「いやぁ、でも難しいんじゃね?俺には理解出来ないっつーかさ」

建宮「確かにそれも真理なのよ。『気狂いの真理は気狂いにしか分からない』、まぁそれは間違ってないのよな」

建宮「だけれども、なのよ。その理屈で言えば『俺は女じゃないから分からない』とか、『俺は犬じゃないから分からない』が通用してしまうのよな」

建宮「結局、どこまで行っても自分を完全に理解出来るのは自分以外にはいないのよ。他の誰かに理解されようとしても100%絶対に有り得ない」

建宮「だからこそ『理解しようとする』行為が大切であって」

上条「……あぁ、お前らはそういう生き方してんだよな」

建宮「ま、理解したからっつって、共感するかどうかは別の話なのよ」

建宮「場合によっちゃお互い住み分けたり、正面からぶん殴ってやる方が『救い』になる事もあるのよな」

上条「だな。可哀想だから、って同情するのは簡単だけど、だからって問題を放置したり、そいつが問題起こすのを放置して良い訳がねぇしな」

上条「自分が不幸だからって、他人を不幸にしてもい理屈なんて無い」

建宮「それだけじゃなく佯狂――気狂いを装っていたとすれば?」

建宮「裏で色々画策しているのを悟られないようにするため、わざと狂っているフリをするのよ」

上条「……そうか。その可能性もある、か?そうか、そうだよ!」

建宮「思い当たる所があるのよ?」

上条「安曇は言ったんだ!『学園都市でアリサを連れてこいと命令したら、別人の下顎を引き抜いてきた』って!」

上条「けどよくよく考えてみりゃ、『獣化魔術の専門家』がンな初歩的なミスをするもんか!」

建宮「……そもそも安曇阿阪は何のために学園都市で魔術を使ったのか、って疑問もあるのよな」

建宮「あれだけ突出した身体能力を持っているのであれば、独りで鳴護アリサ誘拐も難しくはないのよ」

上条「攪乱にしたって、あれはもう『警戒してくれ』って言ってるようなもんだし」

建宮「加えてウェイトリィ兄の『空間移動術式』を使えば、大抵はイケるのよ」

上条「ツアーは半分終ったってのに、向こうの出方が全然分からねぇよな……」

建宮「いんや。あんまり悲観するのも良くないのよ、良くないのよな」

上条「なんで二回言った?」

建宮「お前さんはよ、どうやっても独りで戦ってんじゃないのよ。今は頼もしい仲、間?」

建宮「……」

建宮「……が、居るのよな!」

上条「途中で疑問系になってんじゃねぇよ!?俺だって『あれ、もしかして?』とかたまに思うけども!」

建宮「ま、まぁ黒髪おねーちゃんはその内デレるのを期待して――って、ここからはついて行けなかったのよな」

上条「流石になぁ。つーか建宮、本当に行っちまうのか?」

建宮「イタリアはローマ正教の大本山、我らがついていくのはちと難しいのよな」

建宮「――とは、いえ。『我らの同朋を守るため』であれば否やはないのよな!」

上条「……お前、それ『天草式十字凄教へ入ればいいんじゃね?』つってねぇかな、なぁ?」

上条「お前らを見る分に、それもアリっちゃアリな気もするけど」

建宮「ジョーダンなのよ。ジョーダン。信仰とは信じる事であり、強要するのは以ての外なのよ」

上条「……そか。それじゃまた」

建宮「おうよ!」

上条「……」

建宮「……」

上条「……いや、帰らねぇの?」

建宮「――時に少年、我ら天草式は日本まで安曇氏族の話を聞きに行っている、と言ったのよな?」

上条「ん、あぁ五和が行ってんだけど、向こうが乗り気じゃねぇんで大変だって話だったっけ」

建宮「……その、五和が聞き出す前に話が終ってしまったのよ……」

建宮「そのせいで五和さんが激おこちゅんちゅん丸だって情報が入ってるのよな!」

上条「あー……ちゅんちゅん丸?」

建宮「風の噂じゃ、『あー、アフロ抜きてー、この憂さ晴らしにアフロ引っこ抜きてー』」

建宮「『あ、そういや知り合いにアフロいたっけかな?よし、アイツの毛根ごと引っこ抜こう!』」

上条「誰情報?一人で行かせたっつってなかたっけ?」

上条「あと五和はそんな事は言わない」

建宮「祟り神様のお怒りをどうやって静めれば……そうよ!」

建宮「こうなったら『堕天使エロメイド』と『マジカルカナミン・大きいお友達でも変身セット!』をプレゼントすればご機嫌なのよ……ッ!!!」

上条「抜かれちまえ。その爛れた発想ごとアフロ持って行かれてしまえ!」

上条「つーかお前、前々から思ってたんだが、聖職者プラス教皇代理だって言ってる割には煩悩の塊だよね?」

建宮「ふっ……所詮他人とは価値観が合わないのよな!」

上条「そっちか?確信っぽい話してんかと思ったら、結局そっちへ持ってくのか?あ?」

建宮「現在天草式では『堕天使エロメイド派』と『大精霊チラメイド派』で日夜論争が戦っているのよ!」

上条「あれ?『場合によっては殴り合いも必要』ってその話?」

建宮「ちなみに少数派閥として『対馬脚線美ぺろぺろ派』と『香焼よく見たら可愛くね?派』も侮れないのよな!」

建宮「一騎当千とは彼らのためにあるような言葉なのよ!」

上条「一人じゃねぇか。ニッチすぎるだろそいつらの趣味」

上条「なんつーか……あれ?香焼って男の子じゃなかったっけ……?」

建宮「男の娘なのよ?」

上条「なーんかすれ違いがあるような……ま、いいや俺には関係無いし」

建宮「ま、そんな訳で俺はここらで失礼す――」

PiPiPiPiPiPi、PiPiPiPiPiPi……

建宮「……」

上条「鳴ってんぞケータイ」

建宮「通信霊装なのよ」

上条「主旨は同じだろ。出ないの?」

建宮「あぁっと……五和さんだったら……そうなのよ!」

上条「……なに俺にケータイ押しつけてんの?つーか、ストラップの部分、カナミンフィギュアが高速振動してる」

建宮「お前さんが出れば万事解決なのよ!なっ?」

上条「出るぐらいはいいけどさ」

建宮「『救われぬものに救いの手を』よな!」

上条「お前それギャグシーンで使っていい台詞じゃねーぞ?」

建宮「お前さんはよ!五和さんの酒癖の悪さとぶち切れた恐ろしさを知らないのよな!」

上条「そうなのか?てか五和って幾つなの?神裂もあれで18って言うし、どっちが上?」

建宮「おっと!ここで不用意に歳の話をして、『女教皇』と五和に怒られるって罠なのよ!」

上条「いーから、出ろ。マジで怒らすから、緊急かもしんねーだろ」

建宮「……ぬぅ、『折角だし五和さんに声を聞かせてあげよう』とか、コッソリ考えてた俺の思惑を見抜くとは……!」

上条「お前それ絶対とってつけたっぽいんだけど……まぁ、そこまで言うんだったら」

建宮「あ、ストラップを引っ張ると話せるのよ」

上条「フィギュアの首引っ張るのか……あ、『右手』で触ると壊しちまうから――そうそう、そっち持ってて――『あ、もしもし?』」

上条「『いやまぁ、建宮から聞いたけどお疲れさまー、ってか大変なだったろ?』」

上条「『あ、そいじゃ、アレだよ。今度みんなで遊びでも行くか?そっち戻ったら案内とかも出来るだろうし――』」

ステイル『――今、僕の状態を率直に言うと、だよ』

ステイル『全身に湿疹が出て吐き気と寒気と偏頭痛がしているんだが、アレかな?これは新手の嫌がらせか宣戦布告だと思っていいのかな?』

上条「建宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

建宮「じゃっじゃーん!ドッキリ大成功なのよーーーーっ!

上条「タチ悪ぃよ!つーか向こうは『あ、こんにちわ。今日も暑いですねー』感覚で炎剣ブチ込んでくるんですからねっ!」

建宮「いやぁ二人の間はなーんかギスギスしてるみたいだし、たまーには荒療治もいいと思ったのよな!」

ステイル『……事情は察したから、取り敢えずそこのバカアフロに替わってくれないかな?』

ステイル『あ、「僕と君が仲良くする」って幻想もついで殺しといて』

上条「……よし、アフロ食い縛れ!建宮!」

建宮「待つのよな!?あくまでも建宮さんは善意でした事なのよ!」

上条「俺が!その幻想を――」

建宮「つーか『アフロ食い縛る』ってどういう意味なのよ!?」

パキイイィィィィィィィッン……

上条「ま、グーパンチしただけなんですけどね」

建宮「ぜ、全力で人をドツいといて……言う事が、それ、なのよ……?」

――10分後

ステイル『――さて、建宮斎字を病院送りにし損ねたのは残念だけど、まぁ現状分かった事を伝えようか』

上条「ちょっと待てステイル!お前はホンモノか?」

ステイル『うん?……あぁ、安曇阿阪が声色変えてたんだっけ。本人確認なんて今更してもどうかと思うけど』

上条「好きな女の子のタイプは?」

ステイル『尊敬する女性はエリザベス一世、好みのタイプは聖女マルタだ』

上条「……ふぅ、本人か」

建宮「お前さん達、実は仲が良いのよな?」

ステイル『ふざけるな、灼くよ?』

建宮「ふっ、フランスに居る俺をどうやって?」

ステイル『寮のハードディスクを、物理的に』

建宮「ごめんなさい」

上条「いい大人が『ごめんなさい』!?」

ステイル『時間の無駄だからさっさと本題へ入らせて貰うよ。二度手間が省けるとはいえ、君とは話したくない』

上条「二度手間?」

建宮「『君と話したくない』をスルーするのはいい判断と思うのよ、うん」

ステイル『建宮斎字にも話さなきゃいけなかったからね。同じ場所に居てくれて助かったよ』

上条「あのー?俺がみんなに伝える面倒は……?」

ステイル『君の爛れた交友関係には興味は無いね。どこでどうしようと勝手だよ』

上条「言い方!」

建宮「んで、『必要悪の教会』の悪名高い屍体解析で何か分かったのよ?」

ステイル『僕らはただ「有効活用」しているだけであって、文句を言われる筋合いはない』

上条「……たまーに、学園都市の上の人らとお前ら、気が合うんじゃねぇかって思うわ」

建宮「徹底した合理主義が魔術か科学にハマるのか差でしかないのよな。救われない話なのよ」

ステイル『うるさいよ君達――と、まぁ僕らを評価してくれるのは有り難――く、もないか。別に』

上条「どっちだよ」

ステイル『期待を裏切って悪いと社交辞令上言っとくけど、安曇阿阪からは何も情報を得られていない』

建宮「まだ、なのよ?」

ステイル『いいや。”もう”分からないと言うべきだろうね』

上条「珍しいな。インデックスやシェリーとかも揃ってるっつーのに」

ステイル『……まぁ、屍体というのは「物」だからね。それから残された情報を取り出すのは難しくはない』

ステイル『術式で言えば「古い文献から読み取る」ものを応用しているんだが』

上条「……お前ら、やっぱ上層部同士ツーカーになれんだろ。なぁ?」

ステイル『検死解剖も一昔前――いや、今だって「死体を殺すつもりか!?」って反対する奇特なバカもいるんだから、あんまり言ってあげるなよ』

建宮「そんなに来世とやらが約束されているのなら、どうしてさっさと一人で逝かないのよ?」

ステイル『ねぇ?「本当に儲かる話」と同じで、実践して貰いたいものだよ、全く』

上条「おまいらコメントに困るからマジでいい加減にしてくれませんかね」

建宮「それでイシスの話に戻るのよな」

上条「エジプトの神様だよな?特定の頭文字を並べて略したんじゃないよね?」

ステイル『結論から言えば、安曇の脳を読もうとした魔術師が狂った』

上条「……はい?」

建宮「あー……あんなピカデリーな記憶にアクセスしたら、そりゃ壊れるのよな」

ステイル『いや……彼らに問題は無かった。と言うかまぁ、僕らにも「同類」が居るっていうかね』

上条「同類?安曇と?」

ステイル『ま、同好の士をたまたまひっ捕まえたんで、司法取引みたいな感じで読ませたんだよ。そうしたら残念、という訳さ』

建宮『術式に間違いがあったのよ?』

ステイル『こっちの問題じゃなく、あっちの問題さ。何というかな、こう――』

ステイル『――右脳が二つ入ってたんだよ、つまりは』

上条「……なんで?」

建宮「特異体質、なのよ?」

ステイル『フランス側に問い合わせてみた所、同じモルグ――遺体安置所で、「右脳がない死体」が二つ見つかったんだそうだ」

ステイル『そこから盗んで取り替えた、というか、すり替えた、と言うべきか迷うね』

ステイル『司法解剖の結果とかは君らのモバイルへ送ったから、ダイエットしたければ読めばいいよ』

上条「遠回しに超グロいっつってんな」

建宮「犯人は?」

ステイル『監視カメラにはモルグへ検死官A――アルフレド=Wと言う男が入って行った所が映って、出て来てはいない』

上条「W……?」

建宮「アルフレド・ウェイトリィの”W”?」

ステイル『たまたま同姓同名のそっくりさんが遺体漁りに来て、脱出イリュージョンを敢行した――』

ステイル『――なんてオチでも無い限りは、まず本人だろうね』

上条「どんな偶然が起きてもそれだけはねぇだろ」

ステイル『そんな訳で安曇阿阪の体はあるが中身も怪しい。加えて他にも足りないパーツがあるらしくて、目下調査中』

ステイル『幸いなのは屍体へ手を入れられる前に、検死官共が無断で撮ったCTスキャンが一枚あるが、それだけだね』

建宮「まぁ待つのよな。安曇阿阪は確か」

ステイル『ウェイトリィ兄が死んだ、とは言っていたけどね。敵の言い分を信じるなんてマヌケにも程がある』

建宮「……それはそうなのよな。だがしかし」

ステイル『君までなんだい?魔術結社の代表代行なんだから、そこのバカに影響されるとバカになるよ?』

上条「テメコラ言葉を選べよ!俺だって傷つくんだからねっ!」

建宮「認めちゃってるのよな……」

上条「……待て待てステイル。違う、そうじゃない」

上条「死んだ、って思われるんだったらどうして姿を現したんだ?」

ステイル『何?』

上条「油断させるんだったら、俺達に知られるのはマズいだろうが。何でまた防犯カメラに堂々と映っちまってんだよ?」

ステイル『……さぁ?頭のイカれた連中のする事に理由を求めるのは酷じゃないのかな』

上条「『相手の心情になりきって次の手を読む』って発想はねーのかよ、お前」

ステイル『僕が?どうして?』

ステイル『向こうが人だろうが狗だろうが、向かってくる相手には炎をブチ込むだけだよ』

ステイル『大体、「相手の気持ちになってみよう」とか「理解し合おう」っていう輩はね』

ステイル『例外なく「お前達は俺達を理解する義務があるが、俺達はお前達を受け入れない」ってのをそれっぽい言葉で言っているだけだから』

ステイル『「相互理解」とやらが本当にするのであれば、まず自分が譲歩してから相手へ求めるのであり、逆だけ推し進めても理解なんてされないよ』

上条「……Oh、正論が来やがったよ」

建宮「目的意識の差なのよな」

ステイル『ともあれ安曇阿阪はこちらで預かって――ん?』

上条「どした?」

ステイル『……あぁいやいやこれは極東で育った珍しいサルとの会話実験であってだ、君には何の関係も』

上条「電話口の向こうで誰と喋ってるか分かるぜ」

建宮「つーかこっちを隠す気が更々無い上、清々しいほど悪意がダダ漏れしているのよ」

上条「いやでもステイルに恨まれるような覚えは」

建宮「自覚がないのが余計に相手を怒らせるのよな」

ステイル『――だから!君はこの件に関わるなって――』

上条「……アリサはインデックスも友達だからなぁ。危険だっつーのは分かるけどさ」

建宮「今回の場合は相性が悪いのよ。連中の目的が『禁書目録の中のネクロノミコン』だって可能性も充分にあるのよな」

ステイル『分かったよ!あの人類モドキには僕から伝えて――何?言いすぎ?』

上条「よぉし!言ってやれインデックス!つーかたまには痛い目見やがれ!」

建宮「あ、オチ読めたのよ」

ステイル『……そうじゃない?「らっきーすけべはいい加減古い」?』

上条「あれあれぇ?DISられてんのは俺の方かなー?」

建宮「と言うか今まで無事で刺されなかった事の方が驚きなのよな」

上条「やだなー建宮さんまるで俺がヒドいヤツみたいじゃないですかー」

建宮「ちゅーかこれマジ忠告だけど、いい加減にしないと五和に後ろからブッスリ刺されるのよな」

上条「憶えがねぇよ!?つーか彼女居ない歴=年齢の俺がどうしてこんな羽目になってんだよ!?」

ステイル『「あべ・さだ」?アヴェ・マリアの親戚かい?』

上条「イヤアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

建宮「それ、遠回しに『この件にカタがついたら、憶えとくんだよ?』って話なのよな。なむあみだぶつ……」

上条「お前がどんな環境でストレス溜めてんのか分かんねぇけど、俺がハブってる訳じゃねぇさ!関係無いでしょーが!」

ステイル『いや、うん?僕としては擁護をする気なんか全くないんだよ。あぁ先に言っておくけどさ』

上条「ステイルさんが俺の擁護を……!?」

ステイル『なんかね、彼、女の子五人に囲まれて仲良くやってるみたいだから』

上条「お前本当に擁護する気ねぇな!?むしろ煽ってんもんな!」

建宮「いやだがしかし嘘じゃないのよ。核心とも言えるのよな」

ステイル『……分かった。そうするように言ってとくから――ほら、あの気持ち悪い毛羽毛現が来る前に、神裂に遊んで貰えばいい』

上条「誰?けうけげん?」

建宮「『最大主教』と言う髪の長い女がイギリス清教のトップらしいのよ」

上条「らしい、ってお前。会ってもねぇの?」

建宮「所詮は派遣の辛い所なのよな」

上条「なんか、ヒドいな……」

建宮「だがしかし足湯へ入ってる秘蔵写真がここに!」

上条「ホンットに酷いな、主にお前らが」

建宮「あ、一枚欲しいのよ?」

上条「貰うけどさ」

ステイル『――と、言う訳で派遣らしく出張を頼みたいんだけどね』

建宮「任せるのよな!五和と鉢合わせしないんだったらどこへでも行くのよ!」

ステイル『残念。出張先は日本だそうだよ、しかも先に行ってる子と一緒にフィールドワーク頑張って』

建宮「ノオオオォォォォォォォゥッ!?」

上条「イジメ良くないと思いまーす」

ステイル『あぁ違う違う。僕からのオーダーじゃなくって、あの子からのだよ』

ステイル『「情報が足りなさすぎるから集めてこい」っていう話さ』

上条「足りない、ってお前。安曇はもう倒したろ?」

ステイル『……君の事は最初っがバカだバカだ思っていたけど、まさかここまでバカをこじらせていたのとは思わなかったよ、このバカ』

上条「最後の一回は要らねぇな!つーかバードウェイにもそこまで言われ――無かった、よ?」

ステイル『ま、年下の幼女から詰られるのは、また意味合いも違うだろうしね。いいんじゃないかな?フリーダムに生きれば』

上条「……テメー何が何でも俺に変な性癖を持たせようとしてやがんな!」

建宮「……ぬぅ!年上のお姉さん系に反応しなかったのはそういう裏事情が……!?」

上条「反応してたよ?ただ、ほら、それってあんまおおっぴらに言うようなこっちゃないじゃんか?」

ステイル『ま、こちらもオッサンへ嫌がらせをする程暇じゃない。濁音協会対策だね』

ステイル『君みたいな門外漢――いや、バカにどうやって説明すればいいのか迷う所だけど……』

上条「門外漢でよくね?なんで今バカって言い直した?あ?」

建宮「察してやるのよ。ちょい前まで禁書目録が騒いでたんで、嫉妬の炎メラメラなのよな」

ステイル『そうだな……ほら、よく「西洋妖怪大集合」みたいなのあるよね?悪の大物が揃って攻めてきたぞー、ってヤツ』

上条「あー、あるな。お前が妖怪って単語を知っている事が驚きだが、それはスルーするとして」

ステイル『でもあれ「こいつらどうやって知り合ったのか?」とか疑問には思わないかな』

上条「たまたま知り合った、とか?」

ステイル『パブのおっさん同士がサッカー話で意気投合するんじゃあるまいし、その結論は浅慮すぎるだろう』

ステイル『先に言っとくが勿論BBSや出会い系のも有り得ないからね』

上条「いやでも俺、路地裏でバードウェイと出会ったよ?インデックスは落ちてきたし、ビリビリも元は街中で――」

ステイル『幼女ウツボカズラとブラック・ロッジを一緒にするな!』

上条「例えがいつになくヒデェよ!?あとオリアナやオルソラとかも遭ってますぅ!」

建宮「対象範囲が広いのはタチが悪いだけなのよな」

建宮「……まぁ、そのアレなのよな。魔術結社ってぇのは存在すら曖昧なのが殆どなのよ」

ステイル『名前が広く知られるというのは、それだけ相手に対策や警戒をされるのと同義だからね』

ステイル『ましてや「双頭鮫」や「野獣庭園」のような道を踏み外した連中は、人一倍他との接触を避けるよ』

上条「けど実際に手を組んでんだぜ?何かの接点、もしくは利害の一致があったって」

ステイル『そこさ。それを調べる』

建宮「そうよな……薩長連合も坂本龍馬って武器商人が居なければ成らなかったのよな』

上条「そうだな――え?武器商人?」

建宮「薩摩藩に兵器を卸してた人間が仲介役を担う――武器の売買が絡んでたってぇ代物なのよ」

上条「攘夷運動に関わった脱藩者じゃなかったのか?海援隊とかって」

建宮「その資金はどこから出ているのよ?脱藩して後ろ盾もない若造がヒト・モノ・カネを集められた理由は?」

上条「言われてみれば……」

建宮「あの当時アレがベターな選択肢だったのは間違いのよな。後ろ暗いと言われても、必要だったのよ」

建宮「――んが、ちょい前に『マッハGOGO参勤交代!』ってぇ映画があったのよな?」

上条「ん?あぁ、どっかの小藩が幕府の嫌がらせで高速の参勤交代する話だっけ?」

建宮「その話はフィクションなんだが、藩自体は存在した藩なのよ」

建宮「戊辰戦争でも東軍として僅か12歳の藩主自らが戦場に立った、雄藩であるのは間違いなのよな」

上条「随分話と違う」

建宮「……神君家康公様々、葵のご紋を代々崇めておきながら、いざ薩長が攻め上がると、戦いもせずに傍観した連中は『侍』と呼ぶのよな?」

建宮「石高たった1万5千石の弱小藩?幕府にイビられる弱い藩?」

建宮「戦ったのよ、そいつらはな。テメェらの誇りにかけて、賊軍どもと正面からよ」

建宮「笑いたければ笑うがいいのよな。時流も見切れずに無駄死にした連中だとよ」

建宮「実際その藩にゃ戦火で城も城下町も残っちゃいねぇし、今も観光資源に乏しい街なのよな」

建宮「元々弱藩だって事で大したモンもなかったんだが。まぁそこら辺はよ」

建宮「――んが、そのキレーな城や城下町、寺や城が丸々残っている『大名』さん達はよ、一体どこいら辺が『侍』だって話なのよ?」

建宮「城は飾りか?刀は骨董品か?兵士は置物か?」

建宮「抜くべき時に抜かなかった刃、それのどこが侍だって話よな」

建宮「ちなみに今でも当時の藩主、内藤公は慕われており命日には鎌倉の菩提寺へ有志が参るのよな」

上条「菩提寺?」

建宮「……内藤家には子孫が途絶えてしまったのよな。だから無縁仏にならないよう、今でも湯長谷藩の末裔が弔いを欠かさないのよ」

建宮「恐らく『子孫も居ないし抗議も来ない』とか、テキトーな理由でその藩が目を付けられたのよ」

上条「……なーんかなぁ。そうやって真面目な連中を笑いものにするっていうのが、うーん?」

建宮「野母崎のメル友が地元出身らしくてよ。件の映画、旧湯長谷藩じゃ全然盛り上がってないのよな」

上条「出やがったな謎のメル友!」

建宮「そいつんのチのじーちゃんのじーちゃん、高祖父は戊辰で生き残ったんだが、西南へ行ったっきり帰って来ないのよ」

上条「そりゃ……うん」

建宮「そん時の高祖母の台詞が、『阿呆だから余所に女こさえて帰るに帰って来れなくなったんでしょ?だって阿呆だもんあの人』だそうだ」

上条「つえーなばーちゃん!その時代に!」

ステイル『……歴史的な偉人や英雄も、経済的な視点から眺めてみるのもいいかもしれないね』

ステイル『”Boshin War”が実質上日本最後の内乱――ではある。その後急激に近代化を進め、他国からの評価も高い』

ステイル『勿論「脅威」の意味も含まれはするがね』

ステイル『ただ急速に発展したって事は、国策として進められていた事業が結実した裏返しでもある』

ステイル『鉱山開発をIshin側の財閥が受注していたり、今にすれば不透明な部分は多いよね?』

ステイル『中世の十字教もウンザリするぐらい酷いよ。イギリス清教とローマ正教に加えて、それぞれの世俗主義って敵が出る』

ステイル『教会が様々な分野へ幅を効かせていたんだから、それをなんとかしようって運動だね』

ステイル『政教分離と言えば聞こえはいいんだが、それはそれで問題がね』

建宮「資本主義を突き詰めて、植民地やら重商主義に走ったのよ。『バカな王を追放したら、もっとバカな王様が来た』と」

ステイル『……とにかく、革命だなんだ、英雄がどうだ、と言うけれどもその裏には大抵「スポンサー」が居る訳だよ』

上条「濁音協会にも金を出している奴が居る、って?」

建宮「この場合はカネじゃなく『利益』なのよ」

ステイル『鳴護アリサは確かに魔術師的には興味深い逸材――人材だよ。それはね』

上条「お、インデックスに泣かれるから態度変えた人はっけーん」

ステイル『ウルサイな!そういう意味で言い直したんじゃない!』

建宮「……どっちも大人げないのよな……」

上条「お前が言うなよゴスメイド」

建宮「ちっちっちっ。子供はカナミンコスを着ないのよな!」

上条「確かに!……あれ?おかしくね?カナミンって子供向けじゃ……?」

ステイル『……あぁもう面倒臭いから結論を言うけど、彼らには彼らなりの目的があるのさ。金だったり人だったり物だったり』

ステイル『優雅独尊を地で行く魔術師の中で、しかも更にタチが悪いブラック・ロッジが善意やボランティアで結束すると思うかい?』

上条「つまり?」

建宮「『連中を結びつけたヤツ』が居たのは確実なのよ。そして呉越同舟したからには『共通の利益』とやらが存在するのよ」

ステイル『同床異夢かどうかはまだ分からないけど、話を聞くにウェイトリィ兄が要のようだね』

ステイル『彼は一体どんな手段で接触して、何をエサに他の結社を釣ったのか?』

建宮「そこいらを特定、もしくは方向性が分かればあちらさんの目的が分かるのよ」

ステイル『魔術的に分析されてしまえば、対策も容易となるって寸法さ』

上条「それと建宮が日本に飛ぶ理由は?」

ステイル『あの子曰く、「みしゃぐじ神はまだ何かあるかも」、んだそうだね』

ステイル『現在分かっている属性が、「蛇」、「石」、「人身御供」の三つ』

建宮「より正しくはそれらから派生する『水』や『不死』も含まれるのよ」

ステイル『でもこれはおかしいと思わ――ないよね、君は。君は素人なんだから無理だもんね』

上条「……聞くだけ聞いて欲しかったり、うん」

ステイル『安曇氏族の(クラン・ディープス)の神とミシャグジ神と入れ替わった、って話は聞いたよね?』

上条「あぁ」

ステイル『じゃ、どうやって?』

上条「どう、ってそりゃ……どう?何かおかしいのか?」

建宮「古代の場合、以前からの信仰が新しい人間達によって書き換えられる場合、『討伐』か『合一』されるのよ」

建宮「……あ、民俗学的な用語じゃないので注意して欲しいのよな」

ステイル『前は神話とかでよくあるよね?竜やONIを倒し、その英雄が祖先となりましたって話』

建宮「でも実際にゃ竜や鬼は古い先住民が信仰していた神で、後から来た連中の価値観が広まって悪神とされるのよ」

上条「日本にもスサノオがヤマタノオロチ倒した話があるな。あれも元々は神様だって事か?」

ステイル『とも、言い切れないけどね。人が流入して文化が混ざるのもよくある』

建宮「日本だと上人(しょうにん)が魑魅魍魎を退治する話が多いのよ」

ステイル『ま、十字教の悪魔が異教の神ばっかりだった、が一番わかりやすい例かな?』

上条「……いや、でもさ?安曇氏族の方は、『白い蛇を倒しました』みたいな事は言ってなかったよな?」

ステイル『その通り。だからきっと安曇氏族は「合一」したんだろうね』

ステイル『以前から崇められていた神と、我々の崇めているモノが同じでしたねって考え方』

上条「ンな単純な」

建宮「御柱祭に人身御供の側面が残ってる以上、ミジャグジ神はこっちなのよな」

上条「いやぁ……うん、ごめんな?」

ステイル『そうだね、君の新しいお友達へ聞いた方が早いと思うよ――』

ステイル『――「アルテミスの猟犬はどこから来たのか?」ってね』

上条「アルテミスの、猟犬?」

ステイル『って事で建宮には日本で引き続き頼むよ。今は少しでも情報が欲しい』

ステイル『……正直、画像とかを見せてあげられなくてね。ストレスが溜まるのも無理はないんだ』

建宮「了解したのよ。女の無理難題で使いっ走りするのも男の甲斐性なのよな」

上条「待てよステイル。インデックスが何だって?」

ステイル『画像――連中に関する写真や動画の類は一切シャットダウンしてるんだよ。それが何か?』

上条「どうしてまた?」

ステイル『えっと……なんて言えば分かるかな……イコノグラフィー――と、言っても分からないだろうし』

上条「シェリーから……聞いた、な?確か」

上条「画像の中に魔術的な記号を埋め込んで、地雷みたいな霊装や、術式として機能させる……だっけ?」

ステイル『よく知っているね?というかあのクソ売女と君って、そんなに仲良かったっけ?』

上条「そりゃお前――お前、そうだっけ?」

ステイル『ま、いいんだけど――で、当然連中の中二病をこじらせたマークやら遺留品、あの子には一切見せていない』

上条「俺達が平気でも『ネクロノミコン』を記憶しているインデックスには悪影響がある?」

ステイル『そうだね……本当は関わらせたくなんて無かったんだけど、最初から』

ステイル『分かっているよな、上条当麻?』

上条「……あぁ!」

建宮「――てな訳で俺は日本へ行くのよな。他になんか連絡はあるのよ?」

ステイル『そうだね……あ、一つだけ』

建宮「何よな?」

ステイル『君じゃなくって冴えない方だ』

上条「はい?」

ステイル『終った話だが、「生成り」の発生条件は事前に奴の血を飲むのが発動条件らしい』

ステイル『病院の給水タンクからほんの僅か、人間――っぽい血液が採取された』

上条「うげ……」

ステイル『あぁ魔術的には珍しくもないよ。「葡萄酒を我が血、パンを我が肉」って有名なイニシエーションあるじゃない』

建宮「それを通過儀礼っつーのは……まぁ、突っ込まないのよ」

ステイル『ある程度の魔術的な耐性があれば防げるんだが、この先も連中は水や食べ物、果ては空気へ仕込むかもしれない』

上条「タチ悪いな!発想がストーカーだよ!」

建宮「ま、ある意味正しい意味でのストーカーなのよな」

ステイル『だもんで君の「右手」で定期的に解除しとけばいいんじゃないかな、って』

上条「………………うん?」

ステイル『話を聞けよ。だから君が彼女達に触れてだね、魔術効果を打ち消しとけば、って話さ』

上条「……マジか……ッ!つまり――」

ステイル『こっちから言えるのはこのぐらいかな。取り敢えずは』

ステイル『旅費だなんだはいつもの通りに。後、写真を撮ったら、感想を必ず文章で付け加え――』

上条「――つまり、おっぱいかっ!?」

ステイル『違うね?僕はそんなハレンチな事一言足りとも言っちゃいないけど』

上条「仕方がない……っ!うん、うんっ!こういう時、『上条』なら仕方がないんだよね……ッ!」

ステイル『っていうか君、誤解する気満々だよね?あとそれは別の子の持ちネタじゃないのかな?』

上条「全人類の半数が恋い焦がれるおっぱいソムリエの夢が今……!!!」

建宮「その話を詳しくなのよ!」

ステイル『正気に戻れバカども。っていうか、そのカテゴリから僕を外すんだ』

上条「おっぱいが嫌いな男の子なんていませんっ!――ハッ!?お前もしかして……!?」

ステイル『好みのタイプの話はした筈だよ何か?』

建宮「貧乳派は意外と多いのよ」

ステイル『はい君死んだ。君の寮のハードディスク今死んだよ』 ピッ

建宮「待つのよ!?今のは軽ーい天草式ジョークなのよな!」

上条「切れてるし。いやでも流石にネタじゃねーの?」

建宮「くっ!こんな事なら女教皇のあんな姿やこんな姿、少年にお裾分けしていれば良かったのよ……!」

上条「……」

建宮「……少年?」

上条「諦めるなよ、建宮!まだ勝負は終っちゃいないさ!」

建宮「な、何か名案があるのよ?」

上条「取り敢えず他の天草式に連絡を取って、HDの中身だけを入れ替える!そうすれば破壊されてもデータは無事だ!」

建宮「……成程!『意外にスケベ』と二つ名を持つのは伊達じゃないのよな!」

上条「あぁ!……待って?それ誰に言われてんの?俺、誰からむっつりスケベ扱いされてんのかはっきりさせよう?」

建宮「キーワードは……着物……ッ!!!」

上条「着けない、ってのは――」

建宮「都市伝説じゃないのよな!」

PiPiPiPiPiPi、PiPiPiPiPiPi……

上条「お、また電話」

建宮「連絡事項の漏れでもあったのよな?」

上条「有り得るな。つーかさっさと謝った方が良いんじゃねぇの」

建宮「つっても貧乳派と我ら巨乳派には越えられない壁があるのよ」

上条「俺を巨乳派へ入れんな。嫌いじゃないけどさ」

建宮「ここは一つ『貧乳も悪くない』的な、お互いの健闘を称え合う方向で頼むのよ!」

上条「俺が!?……いやまぁ、やれっつーんならやるけど」 ピッ

上条「『あー、もしもし?えっと、今言った話なんだけどさ、その』」

上条「『おっぱいに貴賤は無いって言うか、例外なくアリって言うかさ』」

建宮「(それじゃダメなのよ!もっと熱く貧乳を語るのよな!)」

上条「(……いやだから自分でやれっつーのに……ったく)」

建宮「(寮のエロ画像のご臨終させないためにも相互理解が大切なのよ!)」

上条「(……俺に任せとけ!)」

上条「『最高だよな!ナイチチは人類が生み出した史上の存在だよ!』」

上条「『貧乳バンザイ!貧乳最高!むしろ俺が貧乳――いや!』」

上条「『――俺達が、貧乳だ……ッ!!!』」

上条「……ど、どう?」

五和『……ごめんなさい無駄に大きくてすいませんっていうかご不快ですよね!』

上条「『五和さァァァァァァァァァァァァァァァァァン!?』」

五和『大丈夫ですからっ!私、多分強く生きていけますからそれじゃっ!』

五和『あ、長野って樹海の近くでしたっけ……』 プツッ

ツーッツーッツーッツーッ……

上条「テメコラ建宮ァァァァァァァァァァ!?違うでしょーが!相手ステイルじゃなかっただろうが!」

……

上条「逃げやがったなあんチクショー!?つーか全部テメーの仕込みかコラぁぁぁぁっ!」

――病院前

フロリス「――って何やってんのさ、メーワクだよ。人ンちの前で」

鳴護「玄関から見ると一人でジタバタしているように見える、かな?」

上条「敵の魔術師の罠に填まったんだよ!割とマジな意味で!」

レッサー「分かります分かります。少年が大人になる過程で誰しもが通る道ですよね」

上条「おいやめろ!中二病に理解あるフリをするんじゃない!お前は俺のかーちゃんか!?」

レッサー「義母萌えだというのであればやぶさかで無し!」

上条「人の家庭を壊すな。常に父さんピンチなんだから!」

ベイロープ「……あぁ遺伝だったの、それ。納得」

ランシス「最強の遺伝子、的な……?」

上条「人の家系に妙な業を背負わすな!つか手続き終ったのかよ?」

鳴護「手続き?入院中の荷物まとめてたんだけど?」

レッサー「向こうさんのご厚意でロハで済みましたけどね。有り難いやら割に合ってないやらで」

鳴護「ご、ごめんね?付き合わせちゃって」

レッサー「おぉっと!そいつぁ言いっこ無しですよアリサさん!」

レッサー「一度拳を交えたらもうそれは親友(ダチ)!お互いの健闘を称え合いノーサイドで行きましょうンねっ!」

上条「拳?お前なんかやったのか?」

レッサー「朝、着替える時にですね」

上条「詳しく頼む」

鳴護「レッサーちゃんストーーーーーーーーーーーーーーップ!」

鳴護「あれは事故だし!てかさっきナイショだって言ったよね!?」

ランシス「……ヒント、着やせ」

レッサー「中々ご立派なモノをお持ちでした、えぇえぇ」

レッサー「んまっ!ウチのベイロープには及ばなかったんですけどねっ、ベイロープには!」

ベイロープ「歳が違うんだから当たり前だっつーのよ」

上条「てかなんでレッサーがベイロープ自慢してんだ……」

フロリス「(ま、察してあげなよ。もし勝ってたら自慢しまくりだって事さ)」

上条「(……了解)」

レッサー「聞こえてもますしウルッサイですよそこっ!あと距離が近いんで離れて下さいなっ!」

レッサー「どうせアレてしょーが!?内緒話するフリしてちゅーつもりなんでしょうがこの泥棒キャットめ!」

レッサー「私の目が黒いうちにはキャッキャッウフフなんてさせませんからねっあぁ羨ましい!」

フロリス「ちょっ!?ハードル上げるの禁止だって!」

ランシス「……てかもうそれフリになってる……」

上条「……何の話だよ、それ」

鳴護「当麻君はモデるんだねー?いいなー、可愛い子に囲まれてー」

上条「可愛いって部分を否定するつもりはねぇが、こいつアロサウルス瞬殺するんだぜ?」

ベイロープ「聖人とかトップランカーに比べれば子猫みたいなもんだわ」

ベイロープ「こっちの渾身の一撃を向こうはノーモーションで連発してくるし」

フロリス「うっわヒドっ!こんな華奢なオンナノコ捕まえて、言う事がそれかーい?んー?訂正しろっこのヤロっ!」 ギュッ

上条「抱きつくなっコラっ!?だーかーらーっ!お前はスキンシップが過剰なんだっつーの!」

レッサー「……何でしょうね、こう。危機感って言うか、明らかに周回遅れの雰囲気がヒシヒシと感じるんですが……」

ランシス「ファイトー……デレたツンは強いけどー」

レッサー「励まされている気がしませんね! 」

ベイロープ「――って訳だから、アルビノの恐竜は『白い竜』。ウェールズに現れる二匹の竜の一匹であって」

ベイロープ「この子の『Y Ddraig Goch、ア・ドライグ・ゴッホ』との相性は最悪だって話」

鳴護「あの、聞いて無いと思うよ?」

ベイロープ「……副作用なのよ、これ」

上条「あー、離れろ!」

フロリス「チッ」

レッサー「あぁいけませんいけません。ここは私が消毒をですね」

上条「……てか、何やってんだよ俺ら?何待ちなの?」

レッサー「……あのぅ、ツッコミの義務としてはボケをスルーしちゃいけません、って学校で習いませんでしたか?」

上条「ウチじゃ教えてねーよ!でもちょっと通いたいなその学校!」

鳴護「えっとね。お姉ちゃんがキャンピングカーを用意してくれるんだって」

ベイロープ「公共機関に乗ると襲撃されるから、目立たないように行くのよ」

レッサー「ベイロープ、最後の四文字をリピートして下さい。ファンサービスも必要かと」

ベイロープ「黙れおバカ。方向性が分からないのだわ」

上条「キャンピングカー……逆に目立たないかな?」

ランシス「んー……文化の違い?こっちだと学生が旅行で使う、よ」

レッサー「時間はあるけど金が無い学生が。レンタカーで借りてヒッチハイカーを拾って小遣い稼ぎしながら行くのか通ってもんでしてね」

フロリス「それもうホラー映画のフラグとしか思えないジャンか」

上条「あー、分かる分かる。キャンピングカー=全滅フラグかってぐらい定番なんだよな」

レッサー「J-Horrorなんかでも、白い着物に長い黒髪ってアイコンになってるじゃないですか?定番って言いますか、お約束みたいなの」

レッサー「『よくあるシチュ』だからこそ、身近な恐怖のテーマとして打って付けなんですよねー」

上条「納得」

鳴護「あ、来たみたい!ほらっアレ――」

上条(アリサが指差したまま固まった。どうした?と俺達はそっちへ視線を向ける)

上条(その先には当然話に出たキャンピングカーの姿が――って、俺も言葉を失った)

上条(車の前部はランドクルーザーみたいな、やや平べったい顔をしている。その上にコブのように突き出たひさしのようなモノがある。何?)

上条(想像していたよりも、荷台スペースは大きい。それこそ10トントラックよりかは短く、幅はもっと広いか)

上条(こういうのモーターホーム?とか言うんじゃなかったっけ。キャンプをするよりか住居に近い感じがする)

上条(ん、だが。多分まず間違いなくアリサが固まったのは、それに驚いたせいじゃない。確信を持って言える)

上条(キャンピングカーは全体的にクリーム色をしている。まぁそれは良いだろうさ。別に珍しい色でもない)

上条(……だが!問題なのは!ほぼ全部に描かれた――)

上条「――ARISAの痛車じゃねーかよ……ッ!!!」

上条「車のフロントに『アンコールありがとーのARISA』、サイドにはCDのジャケ――ポラリスの布っぽいのの中に居る絵面だし!」

上条「そして背面にはなんで『ソフトクリーム食ってるARISA』って、オッサンの発想じゃねーか!?」

鳴護「お姉ちゃん……」

フロリス「うっわー……」

レッサー「個人的にはこのセンス嫌いじゃないです。学園都市、恐るべし!」

上条「オイテメ降りてこいシャットアウラ!妹好きこじらせるにも程があるわっ!」

シャットアウラ「――うむ?どうした?衣装が気に入らなかったのか?」

上条「宣伝してどうすんだよ!?お前やっぱ頭良いけどバカだろ、なぁっ!?」

シッャトアウラ「だから『Shooting MOON』ツアーを盛り上げるためにだな」

上条「襲ってくれってんと同じだよ!つーかなんで俺が一々ツッコミ入れなきゃいけねぇんだ!」

上条「出てこいクロウ7!どっかに居やがんだろ!?アンタがついてんのにどうしてこうなった!?」

シッャトアウラ「ち、やかましい奴め」 カチッ

シュゥゥゥゥゥゥゥッ……

上条「あれ――表面の画像が変わってく……?」

レッサー「ネタ抜きで学園都市の技術でしたか」

ランシス「……ぶっちゃけ超技術の無駄遣い」

ベイロープ「限りなく同感なのだわ」

フロリス「――あ、でも次は水着ジャン。露出度30%マシだね」

ベイロープ「増しっていうか、減ってんじゃない?」

鳴護「お姉ちゃんっ!?これ確かNG出した画像なのになんで残ってんの!?」

レッサー「いや別に言うほど際どかぁないと思いますよ?ビキニタイプとしちゃ布地も広いですし」

ベイロープ「フツーは不特定多数に水着見せないのだわ。控えろ変態」

レッサー「失敬な!この純真な乙女に向かって何たる暴言!」

ランシス「……ぶーぶー……」

フロリス「ちゅーかレッサーとフロリスって、学芸都市の路地裏でマッパになんなかったっけ?」

レッサー「一緒にしないで下さいな!私は好きな殿方以外に肌を晒すつもりはありませんよ!」

ベイロープ「もうネタなのかボケなのかわっかんないわね」

フロリス「それ、どっちもボケだから」

上条「……」

鳴護「……なに、当麻君?」

上条「着やせ」

鳴護「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

シャットアウラ「貴様アリサを性的な目で見たなあぁっ!!!」

上条「見てないよ!?仮に見たとしてもお前のせいじゃねーか!」

シッャトアウラ「むぅ……ライブ衣装もダメ、水着もダメなら……後は個人的に撮った寝顔ぐらいしか……ッ!」

鳴護「……あの?お姉ちゃん?ツアー終ったらお話があるからね?」

ベイロープ「てかいい加減注目集めまくりなんだけど、車体の画像消せないの?」

シャットアウラ「あぁ、すまない。つい調子に乗ってしまってな」

上条「”つい”じゃないよね?最初から画像用意してたもんな?」

――10分後

上条(俺達は病院の地下駐車場、それも隔離された一角へと移動していた)

上条(そこにあったのはFS31――キャンピングカーの車種、正確にはそれを改造したらしい――が五台停められている)

レッサー「……何なんです、これ?まさか一人一台とか白物家電みたいな事は言わないでしょうね?」

上条「なんでお前が高度成長期の日本の家庭事情を知っている?」

レッサー「お、お嫁に行く国ですしねっ!」

ベイロープ「嘘吐くな。婿入り以外目的果たせないのだわ」

レッサー「ベイロォォォォォォォォォプッ!どうしてあなたはバラしてしまうかと!」

上条「またとんでもなく底が浅いな……で、本当の所は?」

シャットアウラ「先程も言ったが宣伝目的もあるが、それ以上に『囮』だな」

フロリス「あー、ハイハイ。そーゆーコト」

上条「うん?」

フロリス「まずワタシらがこの中の一台に乗って次のローマへ行きます。オケ?」

上条「そんぐらい分かるわ!」

フロリス「でも一台だとSearch & Destroy?(見つかったらヤられちゃうよね?)、おけ?」

上条「戦いは避けられないだろうな、そりゃ」

フロリス「で、ここでダミーの車を四台走らせる。そーすりゃ本命がどれに乗ってるか分からないって話さ」

上条「……おけ。分かった」

シャットアウラ「概ねその通りだ――では早速乗って貰おうか」

レッサー「いえっさー」

上条「待て待て。俺らはそれで良いとして、他の車が狙われるんじゃねぇかよ」

シャットアウラ「足の速いメンバーを選定しておいた。逃げに徹すれば逃げ切れるだろうな」

鳴護「いいのかなぁ……これ」

ベイロープ「他に名案がある訳じゃなし、これで行くっきゃないでしょうね」

レッサー「ま、最初から危険があるのは覚悟の上ですからねぇ。あんまり心配しすぎるのも返ってプロに失礼ですよ」

鳴護「……うん」

上条「ま、考えてもしょうがないし。無事終ってからさ、手伝ってくれた人には改めてお礼しよう」

上条「俺達のために頑張ってくれてる人らがいるんだ。その努力を無駄にしないためにも、ライブ、成功させようぜ?」

鳴護「そう、だねっ」

レッサー「あれ、おかしいですね?私の方が正論を言った筈なのに、今上条さんの好感度が上がった音がしましたよーな?」

ランシス「……無理、何言っても上がる仕様だから」

上条「勝手な事言ってんなそこ。さっさと乗るぞ」

シャットアウラ「――お前はまだダメだ」

上条「まさかの乗車拒否っ!?」

シャットアウラ「違う馬鹿者――おい!」

クロウ7「上条さんはこちらへどうぞ」

上条「あ、柴崎さん」

クロウ7「初めましてクロウ7です。よろしく」

上条「何?何の冗談?」

クロウ7「身分偽装して再入国してんだから察しろつってんですよ、オーケー?」

上条「……ブラックだな黒鴉部隊。てか体のパーツが壊れたって聞いたんだけど」

クロウ7「……オーバーホール終ってないんですよ。えぇ。換装したのはしましたけど」

上条「心の底からお疲れ様です……」

クロウ7「いえお気遣いなく――で、なんですが、上条さんにはこちらをどうぞ」

上条「サイフとトランクケース?誰の分?」

クロウ7「サイフの中身は現金とクレジットカードです。経費ですので自由にお使い下さい」

上条「マジで?いいの?多すぎないか?」

クロウ7「お忘れですか?アリサさん、超健啖家じゃないですか」

上条「あー……そんな設定あったなぁ」

クロウ7「その分もコミで入ってます。無くすと困るので、出来れば他の方に預けて頂ければ自分達の心労が減ります」

上条「扱いがガキじゃねぇか!ま、分かってるけどねっ!」

クロウ7「で、もう一つのトランクは」

上条「着替え、男物のだ。俺、きちんと持ってきてるぜ?」

クロウ7「上条さんはむしろついででしてね、ほら」

クロウ7「あちらのお嬢さん方はほぼ手ぶらでしょう?今からどこかで買うとしても、危険がありますよね」

クロウ7「ですからこちらでご用意した着替えを、今車の中で選んで頂いている、と」

上条「いやいや。俺はいいけど、サイズとか好みとかあるんじゃ……?」

クロウ7「ですから、大量に。スーツケース数箱分」

上条「あー……」

クロウ7「車内は今、パンツだらけになってるので、上条さんはしばくこちらで待機、と言う流れです。えぇ」

クロウ7「ちなみにリーダーは『放置した方が困るだろ』と仰っていましたが」

上条「アリガトウ柴崎さんっ!幾らなんでも下着だらけの中で気まずい思いはしたくないよ!」

クロウ7「えぇ、ですからリーダーへは『どんな下着を着けるのか知られると、よからぬ妄想をされますよ』とアドバイスを」

上条「テメェやっぱ根に持ってんだろ、なぁ?アンタの言う事聞かなかったのがそんなに気に入らなかったのかよ!?」

クロウ7「発信器付きの携帯電話、『非常時に位置が分かるから手放さないで下さいね?』と何回も念を押したのに、病院へ忘れたのはどちら様でしたか?」

上条「うっ」

クロウ7「あちらのお嬢さんがアリサさんの携帯を知らなければ、死人が出ていましたからね。注意して下さいよ」

上条「……ごめんなさい」

クロウ7「あとついでにお知らせの紙です。どうぞ」

上条「コピー用紙……?何々、『ARISAのロシア公演についてのご報告』?」

クロウ7「主旨だけを言えば、政情不安で中止になりました」

上条「……そか」

クロウ7「驚いていませんね」

上条「ん?あぁ驚いているけど、柴崎さん最初に『中止になるかも』つってたしさ」

上条「アリサが危険になるぐらいだったら、まぁいいかな、とか思っちまうよな」

クロウ7「スケジュール的には学園都市へ帰ってから凱旋ライブを予定しています。なので間が空いてしまう訳ですが」

クロウ7「比較的安全なイギリスかイタリア辺りで会場が確保されれば、そちらで開催するかも知れません」

上条「学園都市必死だな」

クロウ7「……必死ですよ、えぇ。『穏健派』にとってすれば、戦争が終った今こそ最大の好機ですからね』

上条「まさか――また上層部が絡んでるのかよっ!?」

クロウ7「絡んでいますよ、ですから『穏健派』がね」

上条「信じられるのか、そいつ?」

クロウ7「親船最中、という方をご存じで?」

上条「知ってるな。一回撃たれた人だ」

クロウ7「今回のプロジェクトは彼女達が主導で――あ、これは全てオフレコでお願いしますよ?」

上条「話せねぇって、誰にも」

クロウ7「一応、上の方にもそういう方が居るようで。『共存』は出来なくとも『住み分け』が出来るだろうとね」

上条「うーん……?」

クロウ7「今のは裏方の話、お気になさらず――そしてこちらが、自分の独り言」

クロウ7「上条さん、どうしてアリサさんが歌手になりたかったのか、ご存じでしょうか?」

上条「歌が好きで、他に誇れるようモンもなかったとか言ってたような……?そんな事は無いんだけどな」

クロウ7「仰る通りですね……まぁ身元不明の上、孤児院で育ってきた環境を考えれば、何か輝けるものを持ちたくなる気持ちも分かりますよ」

上条「……否定はしないけど、その考えも」

クロウ7「以前、レディリー前会長から鳴護アリサの調査を依頼された時の話です」

上条「柴崎さんが?シャットアウラじゃなくて?」

クロウ7「はい、恐らく前会長はリーダーとアリサさんの関係をご存じだったのではないかと。ですから自分に」

クロウ7「その時は『プロデュースするアイドルの身元調査』ぐらいにしか考えておらず、リーダーにも詳しくは報告しませんでした」

上条「随分ザルだな」

クロウ7「それを言うのであれば、アリサさんと因縁がある『黒鴉部隊』を雇った所からでしょうね」

クロウ7「今にして思えば、リーダーがアリサさんを弑そうとするのも、何か意味があったのかも知れませんよねぇ」

上条「意味?どんな?」

クロウ7「その、確実に手出し出来なくなる手段は幾らでもあったのに、わざわざ生かして、しかも自分の手の届く所へ置きました」

クロウ7「これが『ついうっかり』で済ませるような、甘い業界ではないでしょう?」

上条「姉貴が妹を殺すのが、『エンデュミオン』の術式に組み込まれていたって?」

クロウ7「……流石に自分の専門ではありません。もし宜しければお友達に聞いてみて下さいませんか?」

上条「アリサの前でするような話じゃねぇけど……ま、タイミングが合えば、うん」

クロウ7「ありがとうございます――で、話を戻すんですが」

クロウ7「身辺調査をした際、孤児院に残っていた『子供の頃の夢』みたいな、お絵かきを見てしまいましてね」

上条「あー、ガキの頃に描かされるアレか」

クロウ7「上条さんは『ハーレム制度の復活』でしたっけ?」

上条「捏造してんじゃねーよ!つーかそんな子供居たら怖いわ!」

クロウ7「ですが着々と童心の夢が現実味を帯びて来ていませんかね?」

上条「違う!これはちょっと不幸な事故が重なっただけだ!」

クロウ7「中東辺りじゃ、洒落抜きでカリフ制の復活が囁かれていますが……まぁアリサさんの話です」

上条「ボケる必要なくね?」

クロウ7「――で、なんですが」

上条「『アイドルになりたい』か?」

クロウ7「違います――あ、いや、そうも書かれていましたが、それは”手段”でした」

上条「アイドルが手段?CD売ってお金持ちになりたいとか、芸能人と友達になりたいとかか?」

クロウ7「……いえ、それも違いまして。その――」

クロウ7「――『おかあさんに、あいたい』と」

上条「それって……つーか、アリサには、親なんて」

クロウ7「えぇ、はい。そう、ですよね?」

上条「……そういや言ってた――『一番叶えたい夢は、もう叶わない』って……!」

クロウ7「……その、上条さん」

上条「……出来るかな、俺に?」

クロウ7「あなたでなければ出来ないでしょうね、きっと誰にも」

クロウ7「これは自分の勝手な見解ですが、あなたは、決して最強なんかじゃない」

上条「……」

クロウ7「『右手』があったとしても――いえ、むしろあるからこそ過信し、時として賢明ではない行動を繰り返しては、何度も何度も死にかけてきました」

クロウ7「救えなかった人だって居ますし、逆に他人を危険に晒した事も一度や二度では無い筈です。ですが――」

クロウ7「――その『弱さ』故に、他人との絆や信頼を大切にし、築いて来られました。それはあなたにしか出来なかった」

クロウ7「ですから、どうか!アリサさんを……ッ!」

上条「……何を今更。別に俺は強いからってケンカして来た訳でもねぇし、弱いからって逃げ出した事もねぇよ」

上条「つーかさ、俺は別に珍しい事をやってきたんじゃねぇ。普通の連中が普通にやってる事だからな」

上条「ま、なんだ、アレだよ――」

上条「――困ってる友達助けるのに、理由なんか要らないだろ?」

クロウ7「……上条さん」

上条「あ、ごめん。やっぱり臭かった?」

クロウ7「いえいえとてもご立派な決意でしたよ、はい。少し感動しました」

上条「いやぁそこまで言われると照れるけど」

クロウ7「それでですね、ちょっとここ、このタイピンへ『コラッ!』って大声出して貰えますか?」

上条「いいけど、なんで?」

クロウ7「お早く、ささ」

上条 スゥ

上条「……コラーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ガタンッ!!!

シャットアウラ『――――――――――――ッ!?』

上条「キャンピングカーの方からシャットアウラの悲鳴……?なんで?何かあったのか?」

クロウ7「お気になさらず。事前に『男同士の内緒話』だからって、聞かない約束をしていたにも関わらず」

クロウ7「ボリュームを最大まで上げて聞いてた”お嬢様”が居ただけですから、えぇ」

上条「ふーん?」

クロウ7「……全く、相手にならないな。これは」

上条「何の話?」

クロウ7「――あ、リーダーが激怒して降りてきました」

シャットアウラ「貴様という奴はいつもいつもいつもいつもォォォォォォォォォォォッ!!!」

上条「俺かっ!?なんで怒ってんの!?」

クロウ7「上条さん、女性に対して失礼ですよ」

上条「あぁなんだ、アノ――」

シャットアウラ「――殺す!やはり貴様は私の敵だぁぁッ!」

上条「罠だっ!?今の回答は誘導された形跡があるぞっ!」

クロウ7「おっとかみじょうさーん、くるまのなかはじょせいたちがおきがえしてますよー」(※超棒読み)

クロウ7「いまつっこんだらあられもないすがたじなゃないですかー、だめですよー、ぜったいにだめですからねー」(※超々棒読み)

上条「やだこの人露骨にフッてるじゃない」

シャットアウラ「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

上条「お前も人の話を聞きやがれーーーーーーーーーーーっ!?」

ボスッ――ギィッ……パタン

レッサー「――お、らっしゃいませー上条さん!来ると思っていましたよ」

鳴護「と、当麻君……?」

フロリス「ちょ!?まだ見せるつもりは――っ!?」

ベイロープ「よーし歯を食いしばれクソ・マスター。全力ビンタで勘弁してあげるのだわ」

ランシス「……うん?どうしたの?」

レッサー「あ、ランシスは隠す所無いですから良いですもんね」

ランシス「――死の爪船(ナグルファル)……ッ!!!」

レッサー「ぎゃーーーすっ!?窓に窓に!炎天のビフレストを死者の軍勢が渡ってきますよっ!」

ベイロープ「あーもう収拾がつかない……!」

上条「違うんだっ!?これはシャットアウラにぶっ飛ばされてラッキースケベしたんであって!」

上条「決して!俺の自由意志で突っ込んだんじゃないさっ!そりゃもうなっ!」

シャットアウラ「……さて、遺言を聞こうか?」

上条「俺の!せいじゃ!ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

上条(……うん、まぁこんな感じでね。まぁまぁ、はい。俺達のキャンピングカーの旅は始まったんだが)

上条(おかしいよね?何か不必要なオチを強いられてる感がヒシヒシと、うん)

上条「……」

上条(……俺、ラッキースケベで死ぬんじゃ……?)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>536さんへの答えが>>631ですね

書き込めるかテスト

――キャンピングカー

上条(ってな訳で俺達は荷物をまとめてキャンピングカーへと乗り込んだ)

上条(次の目的地はローマ。ローマ正教のお膝元でヴェントが待っている、らしい)

上条(一度は敵味方……ん-、複雑ではある。アックアにしろヴェントにしろ、テッラもそうだしフィアンマもか)

上条(一度派手にケンカした相手に遭うのは、どーにも何かモニョるっつーか?)

上条(形としちゃこっちの無関係な生徒を巻き込んだり、向こうの十字教徒も反学園都市でコントロールしてだ)

上条(……たかだか一都市を潰すのにそこまでするような『常識』。ある種、『濁音協会』と通じるんじゃねぇのか?)

上条(テメェらの目的のために、誰巻き込もうが平然としてるってのは、やっぱ気に食わなくはある)

上条「……」

上条(……って最初は思ってたんだけどさ。やっぱり)

上条(ちょい前にレッサーが「あ、今通り過ぎた所がアビニョンですねー」とかるーく言い切った)

上条(因縁のあるアビニョンを全くスルーしてしまったんだが、感想としちゃ『他とあんま変わんない?』か)

上条(……まぁ、拘って解決するようなもんじゃねぇし。少なくとも向こうは和解する意志があるから、アリサを受け入れようって)

上条(俺一人が変な気分なのも良くはねぇか。あんま嫌がっても仕方が無いし、態度に出たら失礼だし)

上条(割り切る事にしよう、うん)

上条「――良し!」

レッサー「あ、じゃあじゃあ結婚しますか?」

上条「取り敢えず挨拶感覚で求婚すると、引くからね?」

レッサー「なんと!?これはしたり!まるで恥女が居るような言い方じゃないですか!」

ベイロープ「おい、恥女。そこに立っているとテレビが見えないのだわ」

レッサー「言われていますよランシスさんっ!早く退いて下さいねっ!」

ランシス「レッサー……鏡鏡」

レッサー「おっと今日もキメキメじゃないですか私っ!輝いてる、シャインっ!」

上条「いいから退いてやれよ。ベイロープのこめかみがピクピクしてっから」

フロリス『ちょっとー、なーんか楽しそうだなー』

レッサー「聞いて下さいよランシス!?ベイロープったらヒドいんですよ!」

フロリス『あっそ』

レッサー「最初から聞く気が無い!?」

フロリス『なーに?どしたん?』

レッサー「そうですね――あれは私がジュニアハイスクールに入った頃のお話なんですが……」

上条「戻りすぎ戻りすぎ。つーかそんな話は絶対にしてなかった」

レッサー「学校の近くに『スリーピー・ホロゥ(眠りのうろ)』って樹があったんですよ、これが」

レッサー「場所的には寄宿舎の外れの外れ、てかそもそも寄宿舎自体が学院からすりゃ端っこの方でしてね」

レッサー「しかも私らが住んでる寮がまたこれボロいっちゅー話ですよ、えぇ」

レッサー「扉は鍵閉めても開きますし、冬は隙間風が入ってきて寒いのなんのって」

レッサー「ですから私が夜中コッソリ抜け出すのなんて、そりゃ難しくもありませんでしたよ」

上条「え、マジでこの話続ける流れ?」

レッサー「『噂』、があったんですよ」

レッサー「大人は誰も知らない。子供達の間だけで語り継がれている。そんな、物語」

上条「……」

レッサー「上級生から下級生へ、そして下級生が上級生になった頃、また語り継がれるというロンドのようなループを描く……」

ラシンス「……こぉぉぉぉぉぉぉっ……しゅこぉぉぉぉぉぉぉぉっ……」

上条「おいSEを口で入れるんじゃない!」

レッサー「それが『スリーピー・ホロゥ』の伝説ですね」

レッサー「樹ってぇ奴は不思議なもんですよね、えぇ。日本でも『綺麗なSAKURAの下には屍体が埋まってる』みたいな話があります」

ランシス「梶井基次郎……の、”創作”……」

上条「あ、フィクションなんだ?」

レッサー「そりゃそうですよ。だって実際に屍体が埋まってたら、栄養過多で枯れちゃいますもん」

レッサー「――だからまぁ?『当然木が枯れた』なんてのは、一体何を埋めやがったんでしょうねぇ、ってコトになりますけど」

上条「……」

レッサー「――で、話を戻しますが私達の学院の外れ、樹があったんですよ」

レッサー「枯れた大きな樹でしてね。こう、指を空へ向けるみたいな感じで、枝が伸びているんです」

レッサー「いや私の両手だけでは足りませんねぇ。そう何人、何十人の腕が生えているような感じの」

レッサー「幹の太さは……そうですね、細い枝に比べて随分とずんぐりしてましたね」

レッサー「十人ぐらいが手を繋いで、ようやく一回り出来そうな感じでしょうか」

レッサー「ちなみに『スリーピー・ホロウ』の”ホロウ”とは『洞(うろ)』って意味です」

レッサー「あんま使わない単語ですが、くぼみとか浅い穴とか、そんな意味でしょうかね」

上条「眠りの、って事は」

レッサー「……えぇ眠っているんですよ、そこでね――上条さん!」

上条「な、なんだよ?」

レッサー「おっと失礼、テンション上がってしまいました。いやいやすいませんね」

上条「いいけどさ。何?」

レッサー「今さっき、『桜の下には屍体はない』って言いましたよね?よね?」

上条「言ったな」

レッサー「何故?」

上条「そりゃお前、『栄養が多すぎるから』だろ。つーかなんで確認するんだよ」

レッサー「せいかーい!……で、二問目!」

レッサー「じゃ『スリーピー・ホロゥはどうして枯れた』んでしょーか!さぁ張り切って答えて下さいな!」

上条「――え」

レッサー「え、じゃないですよぉ。あなたはもう答えを知っているでしょう?ね?」

ランシス「……きっきっきっきっ……まっまっまっまっ……」

フロリス『あ、ホッケーマスクの息づかいだ』

レッサー「『枯れた桜』の下には何が埋まってるんでしたっけー?ヒントを上げてるんだから、正解して欲しい所ですよねー」

レッサー「言えません?言いたくありませんか?……なら仕方がない!私が代わりに言う事にしましょう!」

レッサー「なんとぉっ!その樹が枯れた原因は――」

ベイロープ「だぁかぁらっ!邪魔だとぉ!言ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっいるのだわぁぁっ!!!」

レッサー「ひぎゃーーーーーーーーーーーーすっ!?ハァイランドォ(巻き舌)が攻めてきたぞぅぅーーーーっ!?」

上条「……ここまで引っ張ってそんなオチかよっ!?」

鳴護「――どうしてたの?何か大声出して――」 パタン

鳴護「――ってレッサーさんが折檻され!?」

鳴護「……」

鳴護「あ、いつもの事だった」

上条「最近アリサさんもちょっとずつキャラおかしくなってきたよね?」

鳴護「やだなぁ当麻君。あたしなんて全然フツーだよ、フツー」

上条「目の前の惨状、具体的には『見せられないよ!』になってるのに、スルー出来るって普通じゃないからな?」

フロリス『てーかさ、その樹、レッサーがスコップで掘ったから枯れたんじゃなかったっけか?』

ランシス「あったあった……『魔術師がいるかも知れませんよっ!』って」

上条「犯人お前じゃねーかよ!?てか俺に最初から答えの情報が知らされて無かったし!」

レッサー「ちっちっち、甘いですよね上条さん。とんだ甘ちゃんだと言えましょうか!」

レッサー「ミステリーでありがちな『最初から犯人が登場している』なんて事、現実世界でありっこないでしょうが!」

レッサー「大体『閉ざされたロッジで殺人事件が!?』ってなった場合、外部からの侵入者に決まってますってば」

レッサー「探偵役が、いの一番に内部犯行説を言い出すなんて、人間不信にも程があると思いませんか?」

上条「台無しだよ。それ言ったら推理モノが全て終るじゃねぇか」

レッサー「てか復讐しようと思ったら、確実性と隠匿制を考えて通り魔がベストだと思います」

レッサー「クローズドサークルでするなんて、犯人特定して下さいつってるようなもんじゃないですかー、ねー?

上条「だからミステリファンにケンカ売んなっつーの!謝れ、きちんとシナリオ書いてる人らに謝って!」

ベイロープ「……ま、今のもある意味セオリー通りね。語り部が犯人だっつー事で」

鳴護「くろーずど?」

ベイロープ「クローズド・サークル(閉ざされた空間)ってシチュエーションなの。あー、なんつーかな」

ランシス「『この中に犯人が居る……っ!』って言っても、外部から誰かが入って来られる状況だったら、ムリ……」

鳴護「そこまで密室に拘る必要性が感じられないんですけど」

レッサー「そうですね、例えるならば――」

レッサー「――日本の殿方が『SUCU・MIZU』に拘るのと一緒でしょうかねぇ」

上条「それ絶対違う。あとピンポイントでオッサン撃つの止めてあげて?」

ベイロープ「つーかレッサー邪魔よ。いい加減退きなさいな」

レッサー「おっ、失礼しました――ってBBC?BSですかね」

ベイロープ「んー、ウクライナの話がどーたらって話ね」

上条「ロシア公演は中止になったんじゃ?」

鳴護「行きたかったんだけど、仕方が無いよねー」

レッサー「あー、ダメですよ。ダメダメです。ここで行ったら確実に政治利用されますから」

フロリス『だーねぇ。この先もフリッフリの服着て歌いたいんだったら、政治的にはNeutralの方が良いかも』

鳴護「あの、だからね?歌手枠に応募した筈が、何故か衣装はフリフリが置いてあっただけで、別にあたしが着たいって訳じゃ決して」

鳴護「ってか別にあたしはフリフリ着て踊りたかったんじゃないですし!」

ランシス「つべでPV見たけど、結構ノリノリ……?」

鳴護「テンション上がっちゃったんだもん!そりゃ歌だって歌うよ!」

レッサー「まー、お気持ちはお察しですがねー――てか、そもそもこのツアーそのものが紛れもない政治利用な訳ですし、はい」

レッサー「マレーシアの民間旅客カマすなんて最悪しやがりましたしね、暫くは待つのも大切ですよ」

上条「そっち……じゃない、こっちはどんな感じなんだ?EUの見解みたいなのは?」

レッサー「そうですねぇ。ブリテンのキャメロン首相はカエル食い野郎――あ、違ったすいませんね、噛みました」

上条「違う!わざとだ!」

レッサー「ナイスアララギ!――で、SurrenderMonkey(土下座するサル野郎)はですね」

上条「酷くなってるな?悪意しか無いもんな?」

レッサー「ウチの首相がフランスへ『テメコラロシアに揚陸艦売ってんじゃねぇぞ?あ?』つってますね」

鳴護「よーりくかん?」

レッサー「ぶっちゃけホワイトベー○ですね」

上条「説明が面倒になったからってぶん投げるなよ!?」

レッサー「いやいやマジです。あれ強襲揚陸艦って設定なんですってば」

ランシス「……ほんとーに?」

レッサー「まぁあそこまで万能じゃありませんけどね。要は『上陸作戦の主要機能を一艦でカバー出来る』艦船つー事です」

鳴護「あのー、質問いいかな?」

レッサー「好みのタイプは上条さんですっ言わせんな恥ずかしいっ!」

鳴護「うん、知ってた」

上条「……つーかさ、誰かあの残念すぎる子へ、迫れば迫るほど俺がドン引いてるって教えてあげて?」

フロリス『ぶっちゃけ面白いし、スルーする方向で』

ランシス「……そもそもレッサーが、人の言う事聞くと……?」

上条「ごめんな、俺が悪かったよ」

レッサー「なんかDSIられてる感がしますが――それでどうしました?」

上条「DSIじゃなくてDISな?DSの機種じゃねぇんだから」

鳴護「普通の船じゃダメなのかなって」

レッサー「はっ、これだから素人は困りますよねっ!」

上条「あー、俺も思った。揚陸艦?だか使わなくても、車が路肩へ乗り付けるみたいな感じでいいんじゃね?」

レッサー「全く以て仰る通りです!大体揚陸艦とか護衛艦とか掃海艇とか最初に言い出したのは誰なんでしょうねっ!」

ベイロープ「態度変わりすぎよ、おバカ」

鳴護「いえあの、あからさますぎて微笑ましいって言いましょうか、はい」

ランシス「……あと巡洋艦を護衛艦とか、排水量のバカデカい護衛艦とか言って作るのもイクナイ」

上条「言葉の意味は分からないが、海自は頑張ってるんだからいいじゃない!言葉の意味は分からないけど、突っ込んであげなくってさ!」

上条「戦前の空母並みの排水量を持ってる護衛艦だっていいじゃない!だって護衛艦だもの!」

ランシス「どう見てもいずも型は……だよ?」

レッサー「――はぁいっ!では鳴護アリサさんからのお便りに回答しますとねっ!艦船は浅瀬へ突っ込むと船底が着いちゃうんですよねっ!」

レッサー「例えば遠浅の海が広がっていたりすると、敵の真ん前で身動きが取れなくなって詰みます。ネタ抜きでデカい的状態」

レッサー「だもんである程度の浅さでも平気で突っ込んだり、揚陸用の兵器を直ぐに展開出来る艦船か揚陸艦と一括りにしてるんですよ」

上条「へー、詳しいな妙に」

レッサー「今、『平気』と『兵器』をかけてみたんですが、どうですかね?」

上条「誰も気づいて無かったんだから察しろよ、な?」

ベイロープ「別に詳しかないけどね、ニュースで用語が出たら調べたりするでしょ?」

ベイロープ「つーかフランスが今作ってる揚陸艦、ロシア太平洋艦隊、ぶっちゃけウラジオストクに配備されるっつってんだわ」

フロリス『一番艦の名前が「ウラジオストク」だから対日用の艦船だって見え見えジャンか』

上条「待て待て俺ら関係あんのかよ?」

レッサー「ソビエト時代に太平洋艦隊は資金難で低下しましたからね。補充しようと考えるのは当然でしょう」

レッサー「ちなみに作ってる二番艦の名前が『セヴァストポリ』って、ウクライナのクリミア半島にある都市の名前です」

レッサー「もう黒海で運用する気満々じゃないですかーヤダー」

ベイロープ「まぁ、同じ名前の潜水艦も持ってるし、今更だって気もするけどね」

レッサー「そんな感じの揚陸艦、正確にはミストラル級をフランス野郎が引き渡すって先々週辺り問題になってたんですよ」

上条「経済制裁追加してんのに?」

レッサー「それは先週。制裁の中には天然ガスの差し止めは含まれていないんで、どうなるかは分かってないんですけどね――はっ!?」

鳴護「どうしたの?」

レッサー「余談ですけど『フランス人』って言葉自体が『日和見野郎』って意味を持ってますから、そのまま呼んだ方がいいんじゃないですかね?」

上条「本当に余談だな。つーか話に掠ってもなかったが」

上条「つーかレッサー、お前ホントにフランス嫌いな?」

レッサー「いえ、嫌いじゃありませんよ?『フランス人よく自殺しねぇな?』とか尊敬してるぐらいです」

上条「それ、『どうして死なないの?』ってるよね?」

レッサー「てーか勘違いされるとすっげー腹立つんですが、11世紀のノルマン朝はフランス系の王室なんですよ」

レッサー「フランスの地方貴族がブリテン征服して、そのまま居座ったのが始まりです」

上条「そうなのか?なのにフランス嫌い?」

ベイロープ「なんつーかな。ノルマン朝・プランタジネット朝・ランカスター朝・ヨーク朝まで」

ベイロープ「大体500年弱フランス系の王朝だったのよ。つってもまぁ、『子孫』だからノルマン除いてはフランス人が国王になったんじゃないけど」

レッサー「この間、100年戦争やらなんやらでブリテンとフランスは戦争しまくりです」

フロリス『最初はね-、独立戦争みたいなノリでやってたんだけどさーぁ』

ランシス『……段々、やる気になってきた、みたいで……』

フロリス『おっ、助手席へよーこそ。ナビ頼む』

ランシス『いえっさー……』

上条「アメリカの独立戦争みたいなもんか?イギリスからの税金や施政権を勝ち取るために、みたいな?」

レッサー「そのブリテン人の前でゆく言いやがりましたねっ!罰としてキスしますよっ!」

ベイロープ「自重しろ恥女――ま、そんなこんなで致命的になったのが、つーかしたのがヘンリー八世ね」

フロリス『ワタシの故郷、ウェールズの君主の家系だーよねぇ』

レッサー「聞き覚えありません?特に上条さんちの当麻さん、あなたは過去にこの名前を聞いてる筈ですよ」

上条「えっと、その……誰?アリサ知ってる?」

鳴護「……せ、世界史はねっ!あんま得意じゃ無いって言うか!」

レッサー「くっ!?その『胸の前で拳を握ってファイティングポーズ』の嫌らしさったら!騙されてはいけませんよ上条さん!」

レッサー「その乳は悪魔の乳です!無造作に寄せて上げているように見えて、計算に違いありませんから!」

ランシス『……レッサー……語るに落ちる、って言うか』

ベイロープ「『全英大陸』、憶えてる?」

上条「カーテナを持つ者が神の代理人になって、イギリス領土の中で絶大な力を誇れる、だっけ?」

ベイロープ「主旨は大体その通り。補足をすれば『神の代理人として外国勢力からの干渉を防ぐ』と」

レッサー「当時はローマ正教がめっちゃブイブイ言わせてた時代てしたんで」

レッサー「つーか神聖ローマ帝国もぶっ建ててましたからねー。こっちもイギリス清教を興して対抗したっつー話で」

上条「対抗、ねぇ」

レッサー「まっ、そのヘンリー八世、フランス国王も自認してまして、何度か攻め込んでるんですけどねっ!」

上条「大概だなお前ら」

フロリス『――ってのが、”オモテ”の話さ。裏はもっとドロドロしてんの』

レッサー「当時はローマ正教が聖職者の任命と破門を一手に行ってきました。これがどういう意味を持つか分かりますかね?」

上条「分からないな!」

鳴護「開き直った!?」

レッサー「声が大きくて素晴らしい回答ですねっ!」

鳴護「……あのねレッサーちゃん?きちんと突っ込むのも優しさだから、うん」

鳴護「言った本人、『あ、これ俺のキャラじゃねえな』って意外と凹んでるかもだし」

ベイロープ「カノッサの屈辱――神聖ローマ帝国のハイリンヒ四世が破門されて、教皇に平伏した事件」

レッサー「日本で言えば寺請制と本末制度の悪い所をミックスした感じですかねぇ」

上条「えっと……?」

鳴護「寺請制はキリシタンの人達じゃないですよ、って証明するために日本人がどこかのお寺の檀家さんにした制度、だよね?」

レッサー「えぇ。ですから阿漕なボーズの所では戒名代をケチると、寺請制から外され、キリシタン扱い――実質の罪人扱いなんてのがありました」

レッサー「本末制度とは全ての寺社へ『本山と末寺』、つまり『親と子』関係を徹底させるもんでしてね」

レッサー「同様に中世ヨーロッパでも叙任権闘争という争いが起きたんですよ」

ベイロープ「色々と端折ると『私有地にある教会の人事権争い』つートコかしら」

上条「なんでまた任命権如きでそんなにモメるんだよ?私有地の話だろ?」

レッサー「いや、ですからアホみたいに財産持ってたんですって、教会が」

レッサー「俗に『シモニア』って、金で聖職者の位階が売買されたり、相手に不当な労働、逆に便宜を謀ったりする例が横行しましてね」

レッサー「なんつーか『荘園制』って言うんでしたっけ?土地を権力者が保有し、他人に開拓させる、みたいなの」

上条「爛れてんなぁ。ローマ正教」

レッサー「ハイリンヒ王としちゃ自分の所の教会や土地は、自分達の意志で動かしたいんで、司教や管理人を勝手に任命しちゃったんですよ」

レッサー「それにぶち切れた教皇が国王を破門。王は謝りに行ったけど三日三晩放置されたのが『カノッサの屈辱』ですね」

レッサー「あ、でもハイリンヒ王はドイツへ戻るとすぐさま反対派を粛正し、軍隊連れてローマ囲んだりしましたからね」

上条「ふーん。そういった権力闘争、みたいなのがあって」

ランシス『……それを覆そうとイギリス清教を作った……』

ベイロープ「ま、大体150ぐらい経つと清教徒革命が起きるから、自浄作用はそこそこ、みたいな感じよね」

ランシス『……シモニアは罪だってずっと教えられてるから……まぁ、ローマよりは、マシ……』

上条「ローマ正教も大概だよな」

レッサー「いやいやいやいやっ!日本も負けちゃいませんって!『Mount Hiei(比叡山)』何回焼かれてると思ってんですか!」

上条「織田信長だけじゃねぇの?」

ベイロープ「足利義教(1435年)、細川政元(1499年、2回目64年ぶり)、織田信長(1571年、3回目72年ぶり)ね」

上条「高校野球みたいに言うなよ!つーか焼かれすぎじゃねぇか比叡山!」

レッサー「なんて言いましょうか、洋の東西を問わず、宗教家が力を持つのは土地・カネ・人、ですからねぇ」

レッサー「比叡山にしたって膨大な土地の私有、そこから汲み上げられる利益、更には末寺から上がる上納金でウッハウハでしたし?」

上条「上納金ねぇ」

レッサー「まだね、これが好きで傘下に居るってんなら分かるんでしょうけど」

レッサー「時には政府へ強訴して、縁も縁もないテンプルを無理矢理末寺へ加えたり、やり放題な訳でして」

レッサー「そりゃあ神仏分離令でぶっ壊されますよね」

上条「……つーか詳しいですねー、レッサーさんども」

ベイロープ「ん?あぁ常識のウチ……とは言わないけど、その、聞いた事無い?」

ベイロープ「『人類の意識は深い所で繋がってる』って説」

上条「えぇと、あー……世界中で洪水伝説があるみたいなもん、か?」

ベイロープ「文化が伝播したかどうかはともかく、ルーツが同じかどうかもさておくとして」

ランシス『……ミトコンドリア・イヴは同じだから……人はアフリカから来た……』

ベイロープ「『人類の文化はある種の普遍性を持っている』って考え方があるのよ」

ベイロープ「『男神女神の国産み』、『英雄の竜殺し』、『洪水で滅亡する世界』とか。固有名詞は変わるけど、どこの世界にだってあるわよね?」

上条「ベタ、って言い方が正しいかは分からないけど、まぁあるよな」

ベイロープ「それらの普遍性を踏まえた上で、『人類の文化にも共通項があるんじゃないか?』って宣う学問があるの」

上条「文化――歴史って意味だよな?この場合は……うーん?」

レッサー「あ、そこ『全然違うじゃねーか』とか思いませんでしたか?」

上条「日本とイギリス、どっちも島国ぐらいしか共通点無いだろ」

レッサー「いやですからずっと言ってるじゃないですか――『十字教の腐敗』って」

鳴護「……あ、そういう事」

上条「どういう事?」

鳴護「えっと、日本でも織田信長?の比叡山焼き討ち、とかあったよね?もしかしてアレと同じ事が?」

レッサー「当然起きてますね。ローマ正教からの脱却にイギリス清教が出来たのがまず大きな楔を打ち込み」

レッサー「普仏戦争で教皇領を失い、ドイツ帝国のビスマルクが留めを刺したってぇ感じですかね」

レッサー「何が皮肉なのかって、彼が宰相だったプロイセン公国、彼が首相だったヴァイマル共和国」

レッサー「その後に来たのがナチスってオチが着いたという話が」

レッサー「近代化によって教会が権威を失った、どこか民衆から恨まれたり襲撃されたのが『共通』してるんじゃね?と」

ベイロープ「ブリテンでは清教徒革命、他の地域でもプロテスタントへの移行。要は見限られたのよね」

上条「いやいや俺達は別に――」

鳴護「神仏分離令、だよね?」

レッサー「正解。アリサさんにはレッサー印の勝負下着をプレゼント!」

ランシス『なーんか呪われてそう……』

レッサー「失敬な!そりゃ若干ぐぬぬな気持ちがあったりしますけど、これは敵に塩を送ってる所をアピールする目的が!」

フロリス『……浅いなぁ。ネタでやってないから余計に、うん』

上条「あれ、確か『廃仏毀釈』って習った憶えが……?」

上条「『仏教廃止だぞー』って政府が煽ってなんだかんだ、って教わったぞ」

レッサー「じゃお伺いしますけど、だったらなんで残ってんです?」

上条「残るって」

レッサー「ブッティズムのテンプル、日本でも国宝に指定されてますよね?結構な数だったと記憶してますけど」

上条「そりゃ……何でだろ?」

レッサー「もしも徹底されていたら残っていませんよねぇ。ならどうして残っているんですかー?」

上条「……なんでだろ?」

レッサー「えぇまぁ面倒ですから結論から言いますとね。基本的に当時恨まれてたトコが集中してぶっ壊されてんですよ」

レッサー「Edo時代に寺請制と本末制度で民衆からの不満を買いまくってた訳ですなー、怖い怖い」

上条「なら明治政府が扇動したみたいな説は?」

レッサー「状況証拠しかありませんけど――上条さん、日本には『オジゾーサマ』がありますよねぇ」

レッサー「なんであれは丸々残ってんですか?あれもブッティズムの像なのに」

レッサー「『人が守ってる神殿が壊されているのに、道端の石像が無事』って。私だったら反撃しない石像を壊しますけどねぇ」

レッサー「道端に鎮座している道祖神や庚申塔の類、特に地蔵菩薩・如意輪観音・馬頭観音・馬明菩薩・光明供等々」

レッサー「ほぼそのまま残っているのは何故でしょうね?」

レッサー「同様に名のある寺院が打ち壊され、反対に『村の鎮守様』みたいな小さな所は無傷」

上条「襲われるだけの理由があった?金銭とか」

レッサー「それも可能性の一つですかね。ま、それが正しければ『持ってる所全てが襲われていなければおかしい』とも思います」

レッサー「そんな訳であっちもこっちも宗教が腐敗してはぶっ壊されてます。それをまとめた学者はこう思い付きました」

レッサー「『人間が人間として在り続けるためには、幾つかの時代を生き抜き、段階を踏まねばならない』」

レッサー「私達のサイドの『イニシエーション(通過儀礼)』と似た考え方でしょうかねぇ」

上条「……出来ればもっと簡単に」

ベイロープ「『あ、もしかして人類が人類であるために、必要な手順じゃね?』」

上条「必要?どこが?」

レッサー「ま、人類って種が『ここ』まで来るには様々な敵が居ましたよね。それを時代ごとに分けて定義しただけです」

レッサー「一つめが『発生の時代』。マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命が生まれた時代を指します」

鳴護「『ゆらぎ』?」

フロリス『んーとねぇ、生命の揺り籠の中には生き物の材料は満たされてたんだけど、それだけジャン?』

フロリス『何もかもそろってんたんだケド、何も無かった世界。その「均衡」を崩したのが「揺らぎ」だって話さ』

上条「『揺らぎ』つっても……風?対流?」

ランシス『……「月」だって説がある……』

上条「海の満ち欠けか!」

鳴護「そうすると月は私達のお母さん、なのかな」

ベイロープ「月が出来た頃には今よりもずっと近くにあったし、地球の地軸の傾きも補正してるって説もあるしね」

レッサー「そもそも月自体、地球の一部だったって話、聞いた事ありません?」

上条「あ、知ってる。地球に大きい隕石がぶつかって、それで地球の一部が飛び出たって」

レッサー「ですです。アポロ計画で月の組成分析が始まって、今じゃそれが定説になっちゃってますがね」

レッサー「……だとすると地球が月のママンってぇ事なんでしょーかね……?」

上条「詳しいな、お前ら」

ベイロープ「こっちの業界でも月は大きな意味を持つのだわ。地球の双子なのか、子供なのか、ただのご近所さんなのか扱いは変わる」

ランシス『どっかのバカが蛇遣い座言いだして大混乱……』

上条「あー、あったなぁそんな事」

ベイロープ「ブリテンの新聞にネタ記事で出たのが広まって、ってパターンなの」

フロリス『提唱したのが「星座占い否定派の占い師」なんだから、タチが悪いっつの』

レッサー「話が盛大に逸れてますけど、二つめが『闘争の時代』ですな」

上条「前世紀の世界大戦?」

レッサー「いやいや確かにアレも戦いは戦いですけど、人類って種自体の危機ではなかったでしょう?もうちょい前ですよ」

レッサー「単細胞生物から分化、脊椎動物としての形質を獲得として、哺乳類というユニークを得た感じ、でしょうか」

上条「形質を獲得?」

レッサー「『人が人として在るために』ですからね。人が爬虫類や昆虫に恐怖するのも、白亜紀にご先祖様が喰われまくったせいだ、って仮説も」

ラシンス『……人に非ずとも、生物は遺伝子の乗り物……』

レッサー「おっ、ラシンスさん上手い事を仰いますよね!『だからあなたの遺伝子を下さい』とは中々に気の利いたプロポーズですよね?」

上条「それを本気で言っているなら、お前は、どこか、おかしい」

レッサー「いやだなぁ、好きな殿方には特別と思われたい乙女心の成せる業じゃないですかぁ」

上条「特別に警戒されるだけだからな?×印を大きくされるだけだからね?」

レッサー「でもって三つめ!『文明の時代』!」

上条「あー、何となく分かる。文字や発明、建物とか全般?」

レッサー「でーすねぇ。人類は第三時代で大きく他の生き物を引き離しました。それに異論は無いでしょうか」

上条「まぁやり過ぎじゃね?とか、身近な人間に思わないでもないけどさー……」

ベイロープ「それはマ――あなたが歩いた道にはないでしょうが。考えるだけ無駄なのだわ」

上条「……まぁ、そうなんだけどさ」

レッサー「……あのぅ、さっきから、っちゅーかこないだから不思議に思ってたんですがね」

レッサー「お二人の距離、妙に近くありませんかね?私の気のせいでしょうかね?」

レッサー「てーかベイロープ、元々こちら側の情報開示に否定的だったのに、今日はむしろ率先して説明しているような……?」

ベイロープ「――で四番目が『神殺の時代』」

レッサー「誤魔化されませんよ?後で追求しますからねっ!」

鳴護「ま、まぁまぁ。神様……?倒しちゃうの?」

レッサー「……えぇまぁそこで、先程の腐敗した宗教権力をぶち殺す、と言う話へ繋がるんですよねー」

上条「俺の黒歴史掘り返すの止めてあげて!?」

レッサー「人類は硫酸の揺り籠から発生し、弱肉強食の闘争を生き延び、文化を生み出し、宗教からも独り立ちする」

レッサー「以上の四つの時代を経て人間は人間たり得る、んだそーで」

上条「つーか良く知ってんな。この話科学サイドのだろうに」

レッサー「何言ってんですか上条さん。あからさまに宗教じゃないですか」

上条「……はい?いやでもさ、月の成り立ちがどうのとかって話じゃねぇの?」

レッサー「それ自体は科学ですけど、それを恣意的にカテゴリー分けして崇めるのは宗教なんですよ、えぇ」

レッサー「そうですねぇ……寒い地方の生き物、特に犬なんかは耳が小さくなる傾向がありますよね」

フロリス『じゃないと凍傷で壊死しちゃうかんねー。ま、人が連れてった品種は尻尾と一緒に切り落とすんだケド』

ベイロープ「逆に砂漠なんかだと耳は放熱も兼ねて広くなるの。ネコ化の動物なんてそうでしょ?」

鳴護「あー、ドキュメント番組で見ました」

ベイロープ「他にもコリー知ってる?毛の長い犬で、名犬ラッシーで割と有名」

上条「そのぐらいは知ってる。モッサリとしてて結構デカい犬な」

ベイロープ「ウチの――シェットランド諸島原産のシェットランド・シープドッグは、外見そっくりで半分ぐらいの大きさにしかならないの」

ベイロープ「何世代も厳しい気候で育ったから小型化した、ってのが学者の言い分ね」

上条「話を聞くに……進化したんだろ?だったら科学サイドの話じゃねーの?」

レッサー「あのですねぇ、なんつーか勘違いされている方が多いんですけど――」

レッサー「――『進化』って別に必然性はないんですよ、はい」

上条「はい?」

レッサー「ゾウ、居ますよね?おーはなが長いのねー、で有名なの」

上条「その歌は日本だけだと思うが」

鳴護「象さんの鼻が長いのは進化、だよね?」

レッサー「ですが『意図的にやった』んじゃないんですよ。たまたまです、たまたま」

ベイロープ「『環境に適応した訳ではなく、偶然環境に有利な変種が生まれ個体数を増やした』が、正解」

上条「へー。それじゃ人間が二足歩行するのも、体毛が薄くなったのも」

ランシス『視点が高い方が周囲を警戒出来たり……石器を使うのに有利……』

フロリス『他の動物の毛皮を着たり脱いだりすれば、幅広い環境に適応出来るからだーねぇ』

上条「んじゃ俺らがここに居るのも、偶然?」

レッサー「人間が発生した事に意味があるのか?」

レッサー「それは必然であるのか?」

レッサー「――どちらも答えは、NOです!」

レッサー「特に必然と呼ばれるような何かは無く、生物の多様性の産物には違いありません――ですが!」

レッサー「私が今言った四つの時代――『四時代学説(オラトリオ・ドグマ)』はごく一部の文化人類学者が提唱されている『宗教』なんですよねぇ」

上条「え、いや」

レッサー「考えてもみて下さいよ。四時代の一と二は良いでしょう。実際にそれらが無ければ、人間は生存競争で生き残れませんでしたしね」

レッサー「んが三と四、『文明を得て信仰から脱却』するのって、それつまり『文明を持っていなければ人間じゃない』つってんですかね?」

上条「あー……土着の人らとか」

ベイロープ「同じく『信仰から離れないと人間として独り立ちしてない』なんて、ウチの国の皮肉屋でも言わないのだわ」

レッサー「私達――と、一括りにするのは好きじゃないんですけど、所謂先進国の中にはある考え方があります。それは」

レッサー「『○○国は人権意識が低いが、我々とは積み重ねてきた歴史が違うのだから仕方がない。成熟するのを待とう』と」

レッサー「一見正論っぽい聞こえますけど、これ『人間として劣っているからまともな思考が出来ない』と言っているに等しい暴論です」

ベイロープ「より正しく言えば自分達がどんだけ他の文化を見下しているか、って事になるんだけどね」

レッサー「ですから『四時代学説』とは宗教なんですよ。必然性など無かったものへ、無理矢理規則性を当て嵌めただけの」

レッサー「『神が居ない信仰』……まぁ、皮肉っぽい言い方をすれば、ナチスのアーリア人学説と同じでしょうかねぇ」

フロリス『優生学を基軸にした話――これがまたタチが悪いんだよねー』

レッサー「まとめますとね。確かに人類にはある程度の共通項はあるんですよ、特に神話や文化で類似している部分は多々あります」

レッサー「魔術師は他の国の術式へ対して、自分達の用いてる術式のセオリーに当て嵌めて対抗策を取ったりしますしね」

レッサー「でもそれを科学でやろうとするとタチの悪い宗教に早変わりする、と」

レッサー「過剰な人類賛歌は人類を史上のモノと錯覚させ、やがては先鋭化しますでしょ?」

上条「しますでしょ、って言われてもな。つーかさ、これ何の話だったっけ……?」

レッサー「あー、話が飛び飛びになってしまいましたねー。最初は『全英大陸』についてお話ししようと思ってたんですけど」

レッサー「別に調子に乗ってペラペラ喋ってた訳ではなく、『四時代学説』は関係があるんですよ」

上条「関係?何と?」

レッサー「『濁音協会』の教典、十字教徒にとっての聖書みたいなものですかね。怒られそうな例えですが――

レッサー「――『胎魔教典(オラトリオ・カノン)』は『四時代学説(オラトリオ・ドグマ)』を基にして書かれています」

――キャンピングカー

上条「なんだって?って事は、連中は元々――」

レッサー「いえ、そんな事よりもベイロープを追求しましょうよ!サクサクってね!」

上条「大事な話をしてんだよ!?つーかここまで引っ張っといてスルーか!」

フロリス『んー?って言われてもワタシらが掴んだ情報ってこのぐらいだしなぁ』

鳴護「調べてたの?」

フロリス『うんにゃ。全部センセイの受け売り――てか何十年か前、サフォークに連中が出てヤったんだってさ。その時のハナシ』

ベイロープ「『必要悪の教会』は潰すのに執心して背景とかは考えないだろうから、って先生がレポート送って貰ったのだわ」

上条「へー、ちょっと読みたいな」

ランシス『……ラテン語、だけど……?』

上条「さ、残念だなっ!英語だったら読めたのに!英語だったら!」

鳴護「当麻君……」

フロリス『なんかもう痛々しい通り越して哀れだよねー』

ベイロープ「ん、まぁ要約したのが今の話だから、別に今更読む必要は――って何レッサー?」

レッサー「……ですからベイロープが妙に甲斐甲斐しいような……?」

レッサー「最初半分ネタで言っていたのに、んーむむむむむむ……?」

ベイロープ「普通だっての。疑いをかけられても晴らしようがないのだわ」

ベイロープ「フツーよ、フツー?何も変わってないわ」

上条「マジで?体調崩したとか、慣れない集団生活でストレス感じてるとかあるんじゃないのか?」

ベイロープ「まぁ変わったわよね」

レッサー・フロリス・ランシス「……?」

レッサー「……なんでしょうね、これ。一秒前に私へ『つべこべ言ってんじゃねぇ』と宣言したにも関わらず、あっさり翻しましたし」

フロリス『素直になった?しおらしくなった?』

ランシス『……?』

鳴護「……あからさまに、当麻君を贔屓してる、って感じかな」

ベイロープ「してないわよ。勝手な事言うんじゃないの」

上条「だよなぁ?」

ベイロープ「してるわよ、それが何?」

鳴護・フロリス・ランシス「……」

レッサー「あー……なんか読めたようなー……上条さん、ちょいとお耳を拝借」

上条「なんだよ」

レッサー「(四億と五千年前から愛してましたっ……!!!)」

上条「(お前は生物が陸上へ上がる前から好きだったのか――で?)」

レッサー「(最近スルーされるようになって悲しいです……あぁ以前の『も、もしかしてマジ告白かもっ!?』と慌てふためくリアクションをもう一度!)」

上条「(やっぱり俺をからかってただけじゃねぇかコノヤロー)」

レッサー「(ま、それはさておき。今から私がベイロープへ質問しますんで、繰り返して貰えません?)」

レッサー「(私の推測が当たっていればそれで判明すると思います)」

上条「(何か意味があるとは思えないが……)」

レッサー「(付き合ってくれないとご両親の所へ押しかけますよっ!)」

レッサー「(『当麻君に騙されて身も心も調教されました!』と、若干のフィクションを交えながら、えぇ)」

上条「(――よしやろう!さっさと終らせよう!)」

レッサー「(何が何でも『面倒はゴメンだぜ』という姿勢がステキですよねっ!)」

フロリス『もしもーし?どったん?トラブル?』

レッサー「いえちょいと悪巧みを――ベイロープさんっ!質問があります、Pardon?」

ランシス『どうして英語の使い方間違うの……?』

ベイロープ「どうぞ。こっちに答えられない事なんて無いわよ」

レッサー「では第一問。てか実は去年の秋頃から疑問に思ってたんですけど」

上条「なんだその無駄に長い溜め時間は」

レッサー「『新たなる光』――『N∴L∴』のロゴのジャケット作ったじゃないですか?」

フロリス『あったよねー。先生から「ワイのお祝いやで?今度は仲良ぉせなあかんよ」って』

鳴護「……謎の関西弁が入るよね、たまに」

上条「興味あるんだが、突っ込んだら蛇が出て来そうで怖い……」

レッサー「シャツ何枚かとスカート・スパッツ、あとスタジャンみたいなの貰ったんですが――」

レッサー「――どうしてベイロープはジャケット着てないんです?」

ベイロープ「ん?どうして、って言われても深い意味は無いわよ、特には」

レッサー「私達とオソロ着るのに抵抗ある、ってんじゃないですよね。シャツ着てますもんね」

ベイロープ「そうよ。恥ずかしいんだったら、こっちの服も着てないわ」

レッサー「はいここで、マナ2消費して『上条当麻』をフロントへ送り、『さっきの約束』能力を発動!」

上条「人をカードゲームのモンスターっぽく使役すんな……で、なんでジャケット着ないんだ?」

ベイロープ「その――っ!キツい、のよ……!」

上条「はい?」

ベイロープ「胸がキツくなっちゃって前が閉まらないの!」

レッサー「デーブーデーブーっ!ひゃっかんデーブー!お前のかーちゃんひーしょーじょーっ!」

ベイロープ「アナタって子はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

レッサー「うっぎゃぁぁぁああぁぁぁっ!?テンパったおっぱいが私のおっぱいをおっぱいだ!」

フロリス『あと、普通のおかーさんは非処女だと思う』

ランシス『大工の嫁でもない限りきは……うん』

鳴護「……何か今、おかしな現象があったような……?」

レッサー「奇遇ですねぇアリサさん。私も同感です――では第二問!」

ベイロープ「あ、コラっ、逃げるな!」

レッサー「ズバリ、今のカップとサイズはおいくつで?」

ベイロープ「よし死ね!」

鳴護「セクハラの直球――当麻君?」

上条「い、幾つ、かな?」

フロリス『運転席からは見えないけど、セクハラオヤジはっけーーーん』

鳴護「それはちょっとどうかな、って思うよ」

上条「違うんだ!?これはレッサーが『同じ質問を繰り返せ!』って無茶ブリをだな!」

ベイロープ「――87、E、よ……っ!!!」

上条「血を吐くような表情で言う事じゃねぇな!?嫌だったら言わなきゃいいだろうが!」

レッサー「ふーむ。何となく分かってきましたよー――では最後の質問です」

レッサー「『何でこんな状況になっているのか、思い当たる点と理由を述べよ』ですね」

ベイロープ「あ、こらレッサー!」

上条「俺も知りたい。どうしたんだ、ベイローフ?何かちょっと変だぞ?」

フロリス『変……こんだけおかしいの「変」で済ますって』

ランシス『ま、ベイロープのキャラは……うん』

ベイロープ「……多分、てかはっきりとは言えないけど……」

ベイロープ「『銀塊心臓(プレイブハート)』の、副作用、だと思うわ」

フロリス『あー、やっぱりかー』

ランシス『だと、思った……』

レッサー「――え、使ったんですかアレ!?」

鳴護「魔法のお話?」

上条「えっと、確か……『心臓を他人へ託し、戦闘能力を上げる』みたいな話だっけ」

ベイロープ「歴史的にアレコレを省けばその通り。その副作用の一つが、多分、『コレ』よ」

レッサー「逸話じゃ『主君の心臓を掲げ、仲間の士気を上げる』みたいな感じですが、転じて『心臓を預け、その人のために戦う』みたいな」

レッサー「……アレ?そんな副効果ありましたっけ?」

ベイロープ「私が知りたいのだわ!気がついたらフォローしたり近くに居たり、妙な責任感が出て来たって言うか!」

ランシス『……ベイロープ、思い込みやすいから、うん』

鳴護「まとめると……騎士の誓い、みたいなのを魔法的に立てちゃったから、何となく引っ張られてる、かな?」

ベイロープ「……まぁ極端に簡略化すれば、そんな感じよ……」

レッサー「……」

ベイロープ「レッサー?どうしたの、あなたなら指差して大喜びすると思ったのに」

上条「ある意味信頼されてんな」

レッサー「……くっくっく、にゃーるほど。そういう事でしたか、へーぇ?ふーん?はーん?」

レッサー「ベイロープ!あぁベイロープ!今なら許して差し上げますコトよっ!」

上条「なんでお姉様口調?」

鳴護「それ、フィクションの中にしか存在しないんじゃ……?」

ベイロープ「なによ急に」

レッサー「今まで溜まりに溜まった私の恨み!ケツに始まってケツを毎日毎日虐められる毎日は今日終りを告げるのですよ!」

フロリス『言い方が卑猥だなー。てかワタシら直そうって言ったジャンか』

ランシス『女子校なんてこんな感じ……らしい』

ベイロープ「……つまり?何が言いたいのかしら?」

レッサー「あなたはもう私にとって脅威ではないと言う事ですよ、はっ!」

レッサー「ちょっとばかりおっぱいがデカくて、髪の毛がキラキラサラサラしてて、性格も男に媚びないからモテるからと言って調子に乗りやがりましたね!」

上条「それは調子乗っていいんじゃないか?つーか同性から好かれるタイプっつーか」

レッサー「んだが!今日であなたにケツをしばかれる日は終ったのです!」

ベイロープ「……だから、何だと、聞いて……っ!」

レッサー「よぉし上条さん言っちゃって下さいな!先程打ち合わせした通りにリピートアフターミー!」

レッサー「『もうレッサーさんの言う事には服従しなさい』と!さぁ声高らかに告げちゃってくださいなっ……!!!」

上条「……あぁ、そういう事」

鳴護「あのぅ、レッサーちゃん?悪い事は言わないから、今のウチに、ってかまだ致命傷になる前に謝った方が良いって言うかね?」

レッサー「邪魔しないで下さいな!今日という日は『明るい日』って書くんですから!」

フロリス『それ「明日」。今日は「今の日」』

上条「……えっと、ベイロープさん?命令良いですかね?」

ベイロープ「……どうぞ?」

鳴護「よーし!今日があなたのおっぱいの命日ですよ!」

上条「『レッサーに教育的指導』をよろしく」

ベイロープ「……イエッサ……ッ!!!」

レッサー「裏切られたァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

上条「反省しろ馬鹿野郎」

レッサー「くっくっくっ、ペイロープは我が四天王の中でも最も小物です!いい気になっちゃいけませんからね、上条さん!」

レッサー「『幻想殺し』に墜とされるとは、奴は四天王の面汚しでしょうか!」

ランシス『……でもある意味一番の大物……おっぱいとか』

レッサー「四天王にはまだまだ第二第三の刺客が……!」

上条「もう少しキャラ設定固めてから喋れ、なっ?」

フロリス『あ、ごめんレッサー。こないだも言ったケド、ワタシも裏切った方だから、ヨロシクー』

レッサー「また軽ぃですねっ!?……ってアイタタタタっ!?ヘッドロックは、ヘッドロックは地味に痛いです!」

上条「ズタボロじゃねぇか『新たなる光』」

鳴護「何度も何度も言うようだけど、当麻君は反対した方が良いと思うんだよね?人生振り返る、って言うかさ」

レッサー「てーかフロリスもいい加減にして下さいな!?私達の鋼の絆はどこ行ったんですっ!?」

レッサー「……って、STFは止めましょう?あれは素人が掛かったら抜けられませんよ!」

フロリス『いやでもなんかさーぁ、いい歳してオンナノコ同士で連むのって、イタくない?』

レッサー「薄々誰もが思っていたのに、敢えて言えなかった一線を越えてきましたねコノヤロー!ほぼ同意ですけども!」

ランシス『同性同士でツルんでて、気がついたら付き合い悪くなってる……恋人が出来たから、みたいな?』

上条「身につまされる例えだぜ……!」

鳴護「……あれ?今不特定多数から『ぶん殴れ』って意志が届いたような……?」

レッサー「上条さんの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!魔術結社ぶっ壊しといて言う事がそれですかっ!?」

レッサー「やはりここは責任って入社してみては如何でしょうかねっ!」

上条「結論は同じじゃねぇか」

レッサー「って訳でですね!そろそろベイロープも技を解いてほしいなー、なんて思ったりしますけど!」

ベイロープ「ゴメンね、レッサー?『命令』だから私がしたくてやってんじゃないの」

レッサー「嘘だっ!?だって嬉々としてやってるじゃないですか!」

レッサー「……あぁ、若さとはこれほどまでに嫉妬を買うのでしょうか……!」

上条「よし、出力上げていこうか」

ベイロープ「いやー仕方がないわねー、命令されたんだから仕方かないなー」 ギリギリギリギリギリッ

レッサー「ごめんさないもうしません許して下さい私のケツのHPはもうゼロ――」

レッサー「――んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
来週は帰省と夏コミなので多分お休みだと思います

余談ですけど『もし天草式SSやるんだったらハーレムが出来ない(信仰上ムリぽ)』と気づきました
てかよくよく考えたらアニェーゼ部隊&オルソラもダメ

――キャンピングカー

レッサー「とある文化人類学の研究者はこう言いました――『人と幾つかの闘争の時代を繰り返す事で、人になり得たのだ』」

レッサー「『人はどこからか来て、どこかへ旅立つであろう――ならば』」

レッサー「『歩いてきた道があり、神はどこにおわす?』」

レッサー「『我々の”後”なのか、それとも”先”なのか?』」

レッサー「『この長い長いDNAを運んだ先にあるのは、一体……?』」

上条「おい、シャチホコみてーなポーズでそれっぽい事言っても、ネタにしか見えねーからな?」

レッサー「うっさいですよガイア!人が折角Aパートを無かった事にしようとしているのに!」

ランシス『……それ外野』

鳴護「お尻が痛くてフツーに座れないのは分かるけど、無かった事には出来ないと思うよ?」

レッサー「優しいですよねっアリサさん!褒美に私のケツをペロペロする権利を差し上げましょうか!」

鳴護「いえ、あの要らないです」

フロリス「それ、フツーにケンカ売ってるだけだから」

上条「ベイロープ」

ベイロープ「おっとこんな所に新しいイスが」

レッサー「ひきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?なにやってんですかっあなたのケツ下には私のケツがディ・モールトっ!!!」

上条「リアルで『ひぎぃ』初めて聞いた……多分最後になるんだろうが」

レッサー「てーか重いですよ!その安産型でセクシィなケツをどかしなさいなっ!」

ランシス「……パニクって罵倒だか褒め殺しだか、分からなくなってる……」

上条「――んで、結局連中の教義はなんだったんだよ?何したかった?」

ベイロープ「『今』じゃなくて、10年以上前に活動を続けていた連中だから、参考になるかは分からないけどね」

鳴護「カルト、ってヤツなんでしょうか?」

ベイロープ「はっきり言えばそうなんだけど――今のネオ・ペイガニズムもそんなに変わらないのよ」

上条「ペイガニズム、ペイガニズム……えぇっと、昔の信仰を無理矢理復活させよう、って話だっけか?」

ランシス『正しくは「それっぽく」、ってつく……』

フロリス『カルトの定義自体曖昧だからねー。「狂信的な」だったら、あの国のあの宗教とか該当するしー?』

上条「おい、危ない事言ってんじゃねぇ!」

ベイロープ「『信者を騙して資産を巻き上げる』が定義だとすれば、バチカン銀行持ってるローマ正教も該当するわね」

ランシス『DANKA……から、カイミョーダイを巻き上げる日本の宗教もカルト……?』

上条「日本にまで飛び火させやがった!?」

レッサー「んま、そういう柵から抜けたくって飛びついたのが、今のペイガニズムでしょーかねぇ。最近は宗教の体を取ってない宗教、ありますでしょ?」

レッサー「『砂糖水で癌が治った!』とか、『自然のままに生きるのが人間の本来の姿なんだ!』とかとか」

レッサー「個人が個人でやるにはまだ勝手なんでしょうが、親がハマったら子供も洗脳パターンですからねぇ」

レッサー「Naturalistを『装った』変態性癖に巻き込まれて、児童虐待に巻き込まれるのもよくある話かと」

ランシス「原始人だって、服ぐらい、着てた……」

ベイロープ「で、脱線しそうだから話戻すけど、S.L.N.――正確には連中の『前』は一般的なカルトじゃなかったのよ」

上条「魔術結社って事か?……あれ、でもステイルが否定してたような?」

上条「『金儲けのためにクトゥルーを騙った』とか言ってたぞ」

フロリス『あー……アマいなぁ、甘々だってば、それ。騙される方もどうかと思うけどさ』

上条「なんだよ。ステイルが嘘吐いたっつーのかよ?」

上条「そりゃまぁ昔は色々あったけどな、今じゃしっかり共闘した仲でな」

レッサー「男同士での友情!芽生える愛情プライスレス!」

上条「ベイロープ」

ベイロープ「おっとこんな所にロデオマシーンがっ……!」

レッサー「ひぎゃーーーすっ!?これはもうロデオって言うよりは逆キャメルクラッチでは!?」

鳴護「間接が有り得ない方向へ曲がってる!?」

上条「あ、レッサーさんは訓練した魔術師だから出来るんであって、よい子の皆さんは真似しちゃ駄目だぞー?」

レッサー「なんですかそのリアクション芸人を追い込むみたいな前振りはっ!?」

フロリス『聞けよ話。つーか赤信号に突っ込むぞコノヤロー』

上条「逃げてぇぇぇっ!?フランスの歩行者さん早く渡っちゃってーーーーっ!」

フロリス『つーか『必要悪』の魔術師さ、『10年以上前に潰した』っつってなかった?』

ランシス『……時期的にウチの先生がしたのと一緒、だよね』

上条「言ってた。ステイル達の先輩達の時代みたいだな」

レッサー「ステイル・タチなんですねわかりま――げふっ!?」

ベイロープ「あ、ごめんね?続けて?」

鳴護「顔色一つ変えずに絞め続けるベイロープさん、怖いんですけど……」

フロリス『じゃあじゃあ、「どうしてタダのカルトなのに異端審問会が動いてる」んだっての』

上条「へ?」

ランシス『カルトが違法行為へ手を染めても、取り締まるのは警察……』

フロリス『バッカだなぁ。魔術師動員したんだったら、それそーおーの必然性があったって事だーよねぇ』

上条「ステーーーーーーーーーーーーーイルッ!?テメまた騙しやがったな!」

レッサー「『だがそんな所も嫌いじゃないぜ――いや!』」

レッサー「『むしろ愛し――げぼぐはぼごおおっ!?』」

ベイロープ「ちょっと待って……んねっ!今オトす、からっ!」

鳴護「レッサーちゃんの顔色が青を通り越して土気色になってるんですが……?」

上条「つー事は、なんだ。10年前の『濁音協会』も実は魔術結社で、って話かよ!?」

ペイロープ「『必要悪』は何故隠したのかのは分からない。終わった件だと高をくくったのか、自分達だけで始末をつけるつもりか」

上条「始末、って」

フロリス『他国では活動しない、って標榜してるけど実際には動きまくりだしねぇ?天草式とか』

上条「……まーた勝手にやってんのか。やってるよなぁ、あいつらの性格考えると」

ランシス『日本、行ってるんだよね……?それもきっと、本格的に攻撃する前に探りを入れてる……』

上条「あっちは俺に情報入れてる、と思ってたけど、実は小出しにしていたり?」

レッサー「いや、今までの所は無いでしょうね。なんせ、下手に情報隠されるとこちらでの対処は遅れますから」

フロリス『安曇阿阪の『蛇』属性に関しちゃ、ワタシが一番天敵だからねーぇ。対処も出来たし」

ベイロープ「『野獣庭園』の構成員を無力化させたのも、事前情報あって然りなのだわ」

フロリス「そんなワケでワタシ達に負けられると面子に関わるしー、情報を出し渋ったりはしないと思うよ、うん」

レッサー「でも逆に『相手を殲滅出来るチャンス』が来れば、断りもせずに粛々とするでしょうなー」

上条「有り難いような有り難くないような……」

ベイロープ「イギリス清教の組織だからね。ブリテンの国益に沿っている部分は多々ある――し」

ベイロープ「国家そのものの建前としちゃ『大多数の幸福』に動いているのは間違い無いのね。結果論か目的論か、怪しいのはさておき」

上条「『必要悪の教会』の話は分かった。『濁音協会』が粛正対象にあった魔術結社だってのも」

上条「んで結局、連中はなにやらかしたんだ?やろうとしてた?」

レッサー「『神様の降臨』です」

上条「――はい、かいさーん。お疲れ様でしたー」

レッサー「待って下さいよ!?なんですっ人が折角ボケたい衝動を抑えてマジレスしたってぇのに冷たい反応はっ!」

上条「夕飯作っけどリクエストある人ー?」

フロリス『パスタ!ラザニア!』

フロリス『……ボロネーゼ。あ、日本だとミートソース、だっけ?』

上条「アリサは?」

鳴護「お、おにぎりかな?ちょっと多めに」

上条「りょーかい」

ベイロープ「手伝うのだわ」

上条「助かるよ」

レッサー「全員でスルーっ!?今流行りのギルト内イジメですかっ!?」

上条「どういう状況だ。つーか魔術結社をネトゲーと混同するなよ」

レッサー「で、でも好きな殿方に弄られるのであれば……嫌いじゃないですよ、えぇっ!」

上条「どうしよう、段々手がつけられなくなってきた」

ベイロープ「まぁレッサーの言ってる事は本当よ。連中の経典、『胎魔経典(オラトリオ・カノン)』にはそれっぽい話が書かれている」

ベイロープ「日本語で書くと……こう、かしら」 ピッ

鳴護「『退魔』じゃないんですね?あと、『オラトリオ』も『カノン』も、確か聖歌だったんじゃ?」

ベイロープ「オラトリオは『聖譚曲』。カノンは……教会法、しきたり、みたいな意味合いで使っているのよ」

ランシス『……同行していた日本の魔術師のレポートもあるし、私達のレポートへ微妙にノイズが入ってる、かも……』

フロリス『先生から貰ったテキストには両方のが載ってたからねー。ラテン語版と参加した魔術師がそれぞれの国の言語で書いた版と』

レッサー「……すいませーん?あのですね、皆さんは謝罪って言葉をご存じですかねぇ?私に対して言うべき台詞があるんじゃないですかー?」

上条「よく分からないんだが――レッサー!」

レッサー「は、はいな?」

上条「つーまーりー?」

レッサー「説明しましょう!仕方がないですね全く!私が居ないと説明一つロクに出来ないんですからっ!」

フロリス『(れっさー……チョろい)』

ランシス『(これまたどっかでドジってNTRる展開になるんじゃ……?)』

ベイロープ「(あなたが言うな)」

レッサー「昔っからですね、魔術には究極の目的があったんですよ。なんだと思います?――はいっ、アリサさん!」

鳴護「え、あたしっ?」

レッサー「何他人事のフリしてんですか、『早く終わってご飯食べたいな-』みたいな顔してるんじゃないですよ!……って、まさか!」

レッサー「この上まだ腹ぺこ属性まで獲得するつもりでっ!?これ以上キャラ属性増やしてどうするつもりですか!?つーか私に一つぐらい下さいよ!」

鳴護「人を食いしんぼみたいに言わないで!?違うよね、当麻君っ?」

上条「……ちょ、ちょっと、食べる方じゃないかな?女のとしちゃ、よく食うかも、うん?」

鳴護「当麻君が裏切った!?」

上条「いや気にするほどじゃないって!俺の知り合いの女の子と同じぐらいだから!」

ベイロープ「え?食事の量が”アリサ:私達”でトントンになってるわよね?」

鳴護「皆さんダイエットでもしてるのかな-、なんて……違う、んですか?」

上条「レッサーさん、はいはい、はーいっ!問題に答えたいでーすっ!」

レッサー「良いお返事ですよ上条つぁん!では振り切って回答どーぞ!」

鳴護「あ、あの?出来ればウヤムヤにしたくないっていうか、ね?」

鳴護「この前出た食べ歩き番組でも、途中から『ARISAの限界は!?』みたいな主旨に変わっていったし……アイドルとしての方向性が、うん」

フロリス『(……アイドルいやって言ってる訳には、馴染んでるよねぇ)』

ランシス『(アイドル、って……食べ歩きしたっけ……?)』

上条「お金だと思います!やっぱり食うに困らないって最高ですよねっ!」

レッサー「ブッブー!もっと正確に」

上条「え、違うの?んじゃ……不老不死、とか?」

レッサー「それもハズレです!ちゅーか両方とも合ってますけど、もっと別の言い方で!」

鳴護「……万能の力を得る、みたいな感じかな?ほら、おとぎ話に出て来そうな魔法使いのイメージで」

レッサー「ぐぎぎぎぎっ!やりますねアリサさん!流石は某掲示板テレビ実況板で『カヂ大食いタレント十傑』にノミネートされるだけの事はあります!」

鳴護「初耳だけど!?あと心外すぎるよ!」

上条「暇人のネタ書き込みじゃねぇか」

フロリス『あとレッサーの無意味なチェックにちょっと引くわー……』

レッサー「アリサさんので大体合ってます。『万能の魔法使い』、それを言い換えると、さて?」

上条「すっごい魔術師?」

レッサー「お金も寿命も生死も思うがまま!この世に恐れる物はナイナイ!そんな存在は――!?」

上条「ものっそい魔術師?」

レッサー「第三次世界大戦で『右方のフィアンマ』はこう称されました!はい、どーぞ!?」

上条「頭イタイ魔術師?」

レッサー「――はいっ!と言う訳でね、昔から魔術師は大なり小なり『万能』を目指しましたよ、そりゃもうねっ!」

上条「あれ?お前諦めてシメに入ってないか?」

フロリス『せめて掠らせそう、な?チャンス三回で段々遠くなるってどういう了見?』

レッサー「人間の煩悩は百八つとブッティズムでは教えられていますが、とどのつまり要約してしまえば――」

レッサー「永遠の若さが欲しい、力が欲しい、死にたくない、ぐらいでしょうかねぇ」

上条「ま、三つ揃ってれば大抵は何とかなるしなぁ」

レッサー「で、その三つが備わった魔術師はもう魔術師とは呼ばれないでしょうね。あまりにも『人間』の範疇から離れ過ぎています」

レッサー「どれだけその頂きへ立てたかは分かりませんけど、彼らはきっとこう呼ばれたでしょうね――」

レッサー「――『神』と」



――キャンピングカー

上条「――ちょっと待ってなー、今パスタ茹でっから」

レッサー「あんだけ溜めたのにまたスルーですかねっ!?」

レッサー「てかいい加減私の扱いが酷いとPTAに直訴しますよっ!」

上条「謎の組織だなPTA。月極グループと同じで、そのウチ都市伝説として一人歩きしそうだぜ」

ベイロープ「待って。いやマジ話なのよ、大マジ」

ベイロープ「魔術師っては突き詰めると『神を目指す』って思想が根底にあるのよ」

上条「……え?じゃお前らも?」

フロリス『いやぁ流石にズバリそのものになりましょう、ってキチはそうそう居ないと思うぜー?今の時代は』

フロリス『そうじゃなくってさ、前にも話したジャンか――「獣化魔術」』

上条「ありゃハードウェアを変えて、肉体的なブーストしましょう、みたいな発想じゃなかったっけ?」

フロリス『ひょーめんてきにみーれーばー、ま、合ってるっちゃ、合ってる、かも?』

上条「なんで疑問系よ」

フロリス『だけどねぇ、「そいじゃなんで獣になろう思ったのか?」って思わない?どぉどぉ?』

フロリス『もしも当時の人間達が、獣へ下に見ていたらわざわざ獣化してまて力を得ようとは考えなかったんじゃないかな?』

ランシス『ネイティブアメリカンは「レッドマンを門に見立てて媒介にし、祖霊(トーテム)と繋がろう」だから……』

レッサー「そもそも錬金術ってご存じですか?賢者の石とかっつーの」

上条「あぁ。一回ケンカした」

レッサー「……キャリアは凄いのに、どうしてこう無関心なんでしょうかねぇ……?」

鳴護「ケンカ、良くないよ!」

レッサー「そしてまた恐らく生死を賭けた争いに、『めっ!』するアイドル……可愛いなチクショウ!」

ランシス『……レッサー、脱線脱線……』

レッサー「おっと取り乱しました!ポロリしちゃいましたよ!」

上条「その擬音はこんな時には用いないからな?つーか公の場所で言うなよ?絶対、絶対だからな?」

ランシス『どう聞いてもフってるようにしか聞こえない……』

レッサー「あー……西洋の古典魔術は強くオリエント思想を受けていましてね。具体的にはエジプトからメソポタミア辺り」

レッサー「ソロモン王の使役した72柱の悪魔なんて、思いっきりそこら辺の神様をぶち込んだりしていますし」

ランシス『……ネトゲーで「フェニックスは悪魔」って言うと、マジ引かれる……』

フロリス『「Lemegeton(ソロモンの小さな鍵)」にもしっかり載ってんにもねー、よしよし』

レッサー「時に上条さん、『錬金術の究極の目的は金を創り出す』ぐらいはご存じですかね?」

上条「『かね』と『金』をかけた、とか言うなよ?」

レッサー「……べ、別に悔しくなんて無いんですからねっ!?いい気になっちゃいけませんからっ!」

上条「涙拭けよ……予想以上に罪悪感がヒシヒシと」

ベイロープ「よく勘違いされてるんだけど、『金を錬成する』のが目的なのは間違いないのよ。けどその『何故しようとしたか?』は知らないわよね?」

鳴護「そりゃやっぱりお金が欲しいから、でしょうか?」

レッサー「いえいえ。当時の魔術師達にとっては『金を錬成するのが目的そのもの』だったんですよ。資産云々はまた別の話です」

上条「金……あ、もしかして金自体に魔術師的な意味があるのか?」

上条「エジプトっつったらさ、王様の仮面やらの遺産――」

ランシス『副葬品』

上条「――までガッチガチにキンキラしてるよな?」

レッサー「仰る通りですよ!流石は上条さん結婚して下さいなっ!」

上条「散々外していたのにこの持ち上げ方は褒め殺しにしか聞こえないな!」

鳴護「実質ばかにしているようにしか聞こえないよねー」

ベイロープ「……あー、おバカを補足しておくとね。古代エジプトの連中は伊達やジョークでミイラを作ったんじゃない」

ベイロープ「もしもそうなら、あんな大量の金塊を文字通り『死蔵』するよな真似はしないのだわ」

上条「生まれ変わりを本気で実践しようとしていた?」

ベイロープ「内臓を取り出してカノプス壺へ入れ、体をミイラにして復活の日を待った――では彼らに足りない『肉』はどうやって調達する?」

フロリス『その答えが――「黄金は神の肉体」ちゅー考え方だね』

上条「……つまり、『神様になるのに肉体は別の物で再構成すりゃオッケーじゃん!』みたいな感じ?」

鳴護「学園都市にもありそうな考え方だよねぇ」

上条「ありそうっつーか、あったっつーかな」

レッサー「その影響を受けまくったのがヨーロッパの錬金術士達ですなー」

レッサー「古くはメルクリウス派の魔術師達、プトレマイオスの天球観測所の人形ども」

レッサー「自分達こそがカドゥケスの黄金杖を受け継ぐんだ!と息巻いてたんですがね。ま、ノリと勢いだけは評価しますけど

上条「アウレオルスの『黄金錬成(アルス・マグナ)』は完成してたと思うんだけど」

レッサー「よく分かりませんけど、『神になった』って事でしょうかね、その人は?」

レッサー「どんな手段かは存じませんが、こっちのサイドに知られていないって事は失敗したんじゃ?違いますか?」

上条「……あのまま行けば……いや、無理か。万能に近い能力でもメンタルが弱すぎた」

ベイロープ「『獣化魔術』の話の時もしたけどね、結局『イノベーション』なのよ」

鳴護「蒸気機関車が出来て馬車が廃れ、自動車が出来て機関車も廃れ、と同じですか?」

ベイロープ「そうそう。今までは――少なくとも中世ヨーロッパまでの主流は『神へと至る手段』としての『魔術』がポピュラーだったのよ」

フロリス『補足っとくと「近づこう」も含まれるケドねー」

上条「……つまり、なんだ?『右方のフィアンマ』みたいな、『世界を俺様が救済してやろうクハハハ!』がメジャーだったんか……」

レッサー「実際に『救済』一歩手前までは行っていましたしねぇ。ある意味結果を出している訳ですよ、はい」

レッサー「他にも中国の仙道――道(タオ)の金丹作って仙人になりましょう、なんかはそのまんまですしねぇ」

レッサー「一時期はホンっト盛ん”だった”んですよ」

上条「過去形なんだな」

レッサー「はいな。流石に十字教があんな隠し球を持っていたのは意外ですが、あれは例外でしょう」

レッサー「有名どころでは『黄金の夜明け』の『黄金』も神を意識して命名したんでしょーがね」

レッサー「『イノベーション』――剣から銃の時代へ変わったように、魔術も時代が経つに連れて目的や手段も大きく様変わりしていきます」

ベイロープ「イギリス清教の魔術師、シェリー=クロムウェルが得意とする『イコノグラフィ』――」

上条「図像学」

ベイロープ「――は、『絵画の中へ埋め込まれた宗教・魔術的な象徴の解読』なんだけど、これ実は順番が逆なのよね」

上条「逆?」

フロリス『んー、「絵画は元々宗教的な目的で造られていた」んだって話さ。洞窟の壁画とか、明らかに信仰入ってんジャン?』

ランシス『スペインのアラタミラ洞窟壁画とか、ピラミッドなどの墳丘墓の壁画、とか……』

レッサー「昔々は紙自体が超貴重品でしたからねぇ、えぇ。石に彫ったり金属へ刻んだり、魔導書もなくて石版にしたもんですよ」

レッサー「で、現代に生きる魔術師達は『神になろう』なんて目的は……ま、少数派ですね。アンケート取った訳ではないので、推測ですけど」

レッサー「今じゃ術式だけでなく持ち運べる霊装を複数用意し、状況に応じて使い分けるのがメジャーでしょーかね」

レッサー「……ですがねー。なんつーかひっじょーに鬱陶しいんですが、魔術師じゃない分野に増え始めたんだよ、その『神様』が」

上条「……もしかして『ネオ・ペイガニズム』……?」

レッサー「Exactly――てか、前言いましたよね?『ネオ・ペイガニズムとは十字教の神に絶望した者がハマる』って」

ランシス『……神に失望して、逃げ出した先で自分達の理想の神を造り上げる……本末転倒』

上条「一応既存の宗教じゃなかったっけ?」

ベイロープ「っていう『体裁』の別物ね。嘗て崇めていた血すらも流れていない、偽物よ」

レッサー「よくHuman Sacrifice(人身御供)を指して『なんて残酷で野蛮な風習なんだ!』的な風潮がありますが――」

レッサー「いや、だったら十字教徒の神の子は『人の罪を一身に背負った』んであり、生贄と何が違うっちゅー話ですな」

上条「はーい先生!しつもーんでーす!」

レッサー「先生のバストはDですけど?」

上条「聞きたくな――い事はないけども!そっちの話じゃねぇよ!」

レッサー「ちなみにベイロープ→アリサさん→私→フロリス→ランシス→学園都市第三位の序列となっております」

鳴護「人の個人情報勝手に!?」

フロリス『え、何言ってんの?ホームページとフェイスブックに載ってたし』

鳴護「え?あたし、知らない……?」

ランシス『……アイドルのブログは大抵事務所が更新している……』

上条「あとどうしてお前らが御坂の個人情報を把握してんだよ」

ランシス『んー……路上でマッパになった同士……?』

上条「詳し――あ、ごめん、やっぱいいや」

ランシス『おい、どうして食い付かないのか説明して貰おうじゃないか、あ?』

レッサー「ランシスのキャラ作りがバレる前に話を戻しますが、何でしょう?」

上条「安曇氏族の話を聞くと、生贄は『率先して捧げてはいなかった』んだよな?」

レッサー「あの場合は、ですね」

上条「でも南アメリカで、ほら、アステカとかインカとか、あんじゃんか?あれは生贄が目的じゃないの?」

レッサー「うーむむむむむむ……あのアステカ・インカ文明にはまだまだ謎が数多くありましてね」

レッサー「マチュピチュなどの高地遺跡を見る限り、あの規模で人口を維持出来ないんじゃね?みたいな学説が」

上条「えーっと?どゆこと?」

ベイロープ「マチュピチュは標高2400mの高さにある都市なんだけどね。もしもあの都市に規模に合った人数で住んでいたら、人口を維持出来ないのよ」

ベイロープ「あれだけの高地で恒常的に採れる農作物が無いから」

レッサー「インカ・アステカ帝国は低地に農地を持ってましたから、そっちから移送したってのが現在支持されていますがね」

レッサー「ただ同帝国では、他の地でも結構な頻度で人身御供が行われており、それ自体は人口調節――一種の間引きも兼ねていた、とする学説もありますよ」

上条「最初は必要に迫られていたのが、段々宗教的な意味を持つようになった?」

ランシス『……けど、ドルイド信仰は積極的に戦争してまで、生贄を欲しがってた、し?』

ベイロープ「その学説聞く度に思うのだけど、『もしもドルイド達に人口的な余裕があったら戦争を起こさない』じゃないの?」

ベイロープ「自分達のコミュだけで完結出来る――要は、余剰人口があったんだったら、わざわざ戦争仕掛けてまで人欲しがる意味が無いのよ」

レッサー「ま、戦争自体も、そのコミュにあった適正人口を保つ手段かも知れませんがね――で、ですが」

レッサー「今言ったようにHuman Sacrifice一つとっても、民族の歴史や生活、そして環境の多大な影響を受けている訳なんですよ、えぇ」

レッサー「それを全部すっ飛ばして、しかもまず間違いなく信仰の核であった『生贄』要素を排除して騙られる『ネオ・ペイガニズム』」

レッサー「自分達に都合の良い部分を切り取って、時には余所から引っ張ってきたりして、キメラみたいな醜悪な代物」

レッサー「それが『本物』である筈がありません。正統な魔術師から見れば噴飯ものでしょうな」

上条「……結果、勢力を伸ばしたのが、『クトゥルー』なのか?」

レッサー「その殆どは怪しい新興宗教でしたがね。S.N.L.――10年以上前に存在したヤツは、そこそこの”黒”魔術結社だったらしいですよ」

上条「その教義は?連中は何をやらかそうとした?」

レッサー「――ここまで長々と話して、何となく察しはついてるんじゃないですかね?それとも気づいてないフリですか?」

上条「……」

レッサー「嘗ての魔術師が目指した栄冠、そもそも彼らは最初からそう予告していたじゃないですか……ま、そういう意味では一貫していますが。憎ったらしい事に」

レッサー「『濁音協会』がやろうとしていた事、そしてやろうとしている事は今も同じ、そう――」

レッサー「――『Lord is coming!(主は来ませり!)』ですよ」

――キャンピングカー 朝

上条「……」

上条(キャンピングカーの朝は早い……事も、無い)

上条(……ざっくばらんに、超簡単に内装をもう一度把握しておこうか)

上条(元々は”FS31”って市販の車へ手を加えた仕様らしい。通称『モーターハウス』」

上条(広さは……そうだなぁ、リビング兼キッチン兼バストイレ部分が二坪半?細長いけど)

上条(で、車の一番後ろにはダブルベッドが置ける二坪の個室……だったんだが)

上条(アリサ用に一坪半が割かれ、俺用の部屋は細いベッドがあるだけ……最初見た時、トイレ?って思ったぐらいだぜ!)

上条(しかも何故か俺の部屋だけ『外』から鍵がかかる仕様だよ!やったね!)

上条「……」

上条(……うん、信用が、ね?信頼関係って難しいよな……?)

上条(……ま、まぁまぁまぁまぁっ!でも凄いんだよ!停車するとだな、住居部分の床がスライドして広くなるんだよ!)

上条(前の部屋は四坪ぐらいになるし、アリサの部屋だって二坪だ!凄いよな!)

上条「……」

上条(……俺の部屋は狭いままなんですけどねっ!もう少し気を遣ってくれてもだな)

上条「……」

上条(……悪い事したか、俺……?心折れそうなんだけど……えぇっと……)

上条(あぁ、レッサー達は前の部屋のソファを倒してベッドにしている。あと車体の上にある出っ張りがダブルベッドになってるし)

上条(車の運転席へは住居部分からも行ける造り。マイクとスピーカーもあるんで、住居と運転席で会話も出来る……)

上条(備え付けのトイレとバスタブも完全防音設計。ぶっちゃけ有り難いっちゃ有り難――いよ?別に残念だとか思ってないよ?全然全然?)

上条(更に!何とキッチンが超凄い!)

上条(IHコンロにスチームレンジ!しかも市販されてるヤツじゃなくて、学園都市製の最新型だ!)

上条(何とな、最新式のレンジにはホームベーカリー機能がついているんだよ!)

上条(小麦粉その他を入れてスイッチポン!そのまま数十分待つだけで、何とフッカフカのパンが出来上がるんですって!パンが!)

上条(毎日新しいパンが自宅で食べられる!しかも材料さえあれば無限にパンが錬成される……!)

上条「……」

上条(……寮、帰った時、辛いだけじゃねーか……オーブンだけでも貰えないか頼んでみよう……)

上条「……」

上条(……まぁ、その、なんだ。問題がね、一つあってだよ)

上条(キャンピング”カー”なんだよな。車は車だ)

上条(ウチよりも設備・広さ共に上であっても住居じゃなくって車なんですよね、はい)

上条(だから、まぁ、ね?当然なんだよ、当然なんだけど運転する人が必要な訳で――)

上条「……」

上条(今はレッサー達が交代で運転しているんだよ、うん、まぁ、多分もう俺がキョドって訳には気づいたと思うけど)

上条(旅が始まって2日目か。俺は景色が見たからったら、助手席へ載せて貰った時の話だ)

上条(山道を平然と100km超で走らせるフロリスへ、俺はこう切り出したんだ)

上条『しかしアレだな。ヨーロッパってやっぱ変わってるよな』

フロリス『どったの突然?ちゅーかワタシらDISってんのか?あ?お?うん?』

上条『キレる意味が分からんが……じゃなくて、自動車免許取れんの早いんだなって思ってさ』

上条『レッサーやランシスは俺より年下だろ?フロリスは同じぐらいだし、ベイロープは18ぐらい?』

フロリス『あー、うん、大体合ってるねぇ。年齢は』

上条『しっかし全員免許持ってて良かったよなー。よくよく考えてみりゃ、俺達免許取れる歳じゃないし、誰かが運転しなっきゃだし』

フロリス『……は?免許?取れるワケないジャンか、何言ってんの?』

上条『――へ?』

フロリス『つーか知らない?ベイロープなら取れんのかな……あー、取りたいけど、カネ無いっつってたっけ、こないだ』

上条『……えっとぉ、その、お聞きしたいんですがぁ……?』

フロリス『「お伺いしたい」が、正しい聞き方だぜジャパニーズ?』

上条『お伺いしたいんですけど!是非に!』

フロリス『トップ82のアンダー66のCカップだよ言わせんな恥ずかしい』

上条『そりゃ恥ずかしいだろうさ!貴重な個人情報をありがとうな!』

フロリス『ちっちっち、こう見えてもウエストの細さにゃ自身があるっつーの!』

上条『違うもの!?俺そんな話はしてないもの!?』

上条『てか君らは無防備すぎますよ!?もっと危機感持ちなさいな!』

上条『まずそれ以前に今っ!生命の危機に瀕しているんじゃねぇのかっ!?』

フロリス『ウッサいなぁ。昨日からずっと事故ってないジャンか』

上条『結果論じゃん!?つかそれ春先に無免で事故るDQNの理論だ!』

フロリス『まー、感謝したまえよ?こんな事もあろうかと前々から訓練――』

フロリス『……』

フロリス『――よっし!スピード落とそうか!』

上条『テメコラ何言いかけた?俺の予想じゃ、「訓練しようと思ってたんだけど、やっぱ忘れてた」じゃねぇの?あ?』

フロリス『まーね。ま、気にすんなよ、全員無免許だから』

上条『おまわりさんは?ポリスメンに逢ったら逮捕されるよきっと?』

フロリス『あー、そん時はさ。ダッシュボートの下、見てみ?』

上条『お、おう……なんだこれ、輪ゴムで紙束が止められてる?』

上条『映画とかでよく見る感じの、モンモン入った粉物業者が取り扱ってるアレじゃねぇの、これ?』

フロリス『ちょっと取って?……そそ、これこれ』

上条『……なんかもうオチが読めちゃったよ!定番過ぎるし!』

フロリス『それをこう、胸元に挟んでだねぇ――』

上条『おいバカ止めて!?運転中に寄せて上げるポーズでおっぱいを強調するな!?』

フロリス『――ホラ、取ってみ?』

上条『罠だーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

上条『騙されないぞこの悪魔め!きっとそこへ手ぇ突っ込んだら人生詰むに決まってるさ!』

フロリス『ってのはジョークだけどさ。こっちの警官ってゲイばっかだかんね』

上条『あ、でもフロリスさんボリューム的に余裕がないっていうか、逆に俺が余裕が取り戻せたって言うか』

フロリス『甘いぜ!ワタシはまだ変身を一回残しているのさ!』

上条『へー?ふーんはーん?あぁそうですかー?』

フロリス『信じてないねー?後悔しても知らないよー?』

上条『やって貰おうじゃねぇか!ある意味男の憧れるシチュエーションの完全版とも言える、その姿から踏み込めるもんならさ!』

フロリス『あ、下に落ちちゃったぜ』

上条『……下?……下ってどこ?視線からして座席じゃないよな?』

フロリス『ん、取って……いいよ、よ?』

上条『おいバカ上目遣いで見るんじゃねぇ!?帰って来い俺の理性!あれは絶対に罠に決まってるから!』

フロリス『あーもう、ブラの隙間に入っちゃったジャンか。ハンドルから手ぇ離せないから取ってよ。ホラホラ、ハリハリー!』

上条『……くっ!?「ハンドルから手を離せない」なんてそれっぽく聞こえて、全く理屈になってない理屈が凄く尤もらしいぜ!』

フロリス『ちょっと何言ってるか分かんないですね。テンパってるのはよく分かるケド』

上条『「そ、それじゃちょっとお邪魔して……?」なんて言うと思ったか!?』

フロリス『オケオケ。中二病発症者みたいに、左手で右手を抑えてるけど、特に深い意味は無いと』

上条『俺の話はいい!それより君たちは本当にガードが甘すぎる!』

フロリス『てか、マジ取ってよ。なんか挟まっちゃって擦れてイタイし』

上条『あ、そ、そう?フリじゃなくて?』

フロリス『そそ、だからこれ必要なんであって、抜け駆けとかそういうんじゃナイナイ。ナイアルよ?』

上条『そ、そっか?だよな、人助けなんだもんな?じゃ、ちょっと失礼し――』

レッサー『ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

フロリス『お、ナイスタイミング』

上条『違うんだ!?これはきっと敵の魔術師の攻撃が!』

レッサー『それは罠ですよ上条さん!あからさまに罠に決まってるじゃないですか!えぇもう狡猾なっ!勉強になるじゃないですか!』

フロリス『はぁ』

レッサー『そんな中途半端な乳を選ぶんじゃなく、この私の将来性間違い無しのおっぱいで間違いを犯しましょうか!』

上条『うん、だからね?日本では草食系男子とかって言われてるけどさ、別に肉食止めたってワケじゃ無いんだよ、これが』

上条『明らかに毒物混入されてる肉や、蛆が湧いてる腐肉を食卓に載せられて、「さ、新鮮で美味しいですよ?」って言われても食べないだけであって』

上条『回転寿司で干涸らびたネタが延々回ってる側で、同じ値段で握ったばっかりのネタがあれば、誰だってそっち取るに決まってるからな?』

上条『年甲斐もなく美魔女だかなんだか、自分の事客観的に見られないっつーのに』

上条『上から下までブランドものでキメて、バームクーヘン並の顔面工事したって、それはミノカサゴの警戒色にしか見えねぇんだよ!』

上条『夢を見るなとは言わないし、似合ってないとも言わない!好きな服着るのも化粧するのも自由だよ!勝手だよ!』

上条『けどな、せめて!「若い子と同じ格好したら、周囲からどう思われるか?」ぐらいには自力で気づけ!な?』

上条『お前らが参考にしてるであろうアパレル紙は、「小金持ってて生活感に乏しいカモ」ってしか認識してねぇんだからな!?』

レッサー『……実感こもってますねぇ。トラウマでもあったんでしょうか』

フロリス『ババ――えぇっと、Ms.が痛々しいと周囲から浮くかんねー?仕方がない仕方がない』

レッサー『おや?もしかしてこれは「全然関係ない話を振って、何となくごまかそう」って流れじゃないんですかね?私の気のせいでしょうか?』

ベイロープ『――よし、ちょっと、頭冷やそうか?』

上条・フロリス・レッサー「……ごめんなさい」

上条「……」

上条(……あるぇ?何か結局ウヤムヤにされて、免許がどうなのか聞けなかったような……?)

上条(持って無いっぽいのは確実だけど……)

上条「……」

上条(だ、大丈夫さ!こっちは現役の魔術師が四人もついているんだし!)

上条(『若さ≠実力』なのは、嫌ってぐらい思い知らされてるしな!)

上条「……」

上条(……えぇと、だ。何の話だっけ?俺は一体何が言いたかったのか……?)

上条(……そうだよ、回想なんてしてる場合じゃない!俺は現在進行形でピンチに立たされているんだ!)

上条(……分かってたさ、あぁ!どれだけ現実から逃げたって、現実が追いかけて来るって事はな!)

上条「……」

上条(……さて、そろそろ俺の現状を話そうか)

上条(シャットアウラが用意してくれたキャンピングカーは概ね好評だった)

上条(俺達のパーソナルスペース――プライバシーもある程度確保してくれた上で、快適……うんまぁ、快適だよ?俺の扱いがぞんざいな事以外は)

上条(外装も怪しげなARISA痛車に変更出来る。他にも、戦車装甲も貫通する対物狙撃銃にも耐えられる!)

上条「……」

上条(……どんな状況?それもう色々終わってる感が、うん)

上条(……まぁ、キャンピングカー、っつーか。この手の車には欠点があってだ)

上条(やっぱり『燃費』が悪いんだそうで。ファミリーワゴンを重装甲にした感じ?だから余計に重くなっちまう)

上条(学園都市製の技術を使っても、一般的な車と同じぐらいが精々なんだと)

上条(それにプラスして生活用品の重さ。家具や衣料品もそうだけど、一番やっかいなのは『水』だ)

上条(フロにトイレにキッチンに洗濯で。10代の男女六人をカバー出来るのは精々二日、節約して三日が限界らしい)

上条(だもんで、俺達は適度にオートキャンプ場を回っては水を買い、ついでに一泊したりな)

上条(……吶喊走行しちまえばいいんじゃね?と俺は言ったんだが、そうする悪目立ちするのは確実な訳で)

上条(結局、普通の旅行者のように適度な遅さで行くのが怪しまれないと)

上条「……」

上条(……ま、慣れたとは言え、昼夜問わずにずっと移動しっぱなしだと、ストレス感じるしな?道理っちゃ道理だ)

上条(俺違が今しているように、夜は適当な場所へ停めて一泊したりっつーか)

上条「……」

ランシス「……すー……」

上条(今は、あー……朝の6時半、起きるには丁度良い時間だよ。時間はな)

上条(日本と違って緯度が高いから、こっちは日が出ている時間が長い。イメージとしちゃ……そうなぁ)

上条(日本での夕方五時ぐらいの明るさ、あれが夏だと夜九時ぐらいまで続く。昼間が長い……そんなテーマで不眠症になった映画があったような?)

上条(反対に冬は夜が長く、寒さも厳しいんだわ。思ったよりも雪は降らないけど)

上条(ちなみ俺が一番カルチャーギャップ感じてんのは『水』)

上条(イギリスやEUで蛇口をひねって出てくる水は大抵硬水。勿論俺達がキャンプ場で買ってんのもそれ)

上条(鉱物含有量が多く日本人が呑むとエグみを感じる。正直、飲みにくい)

上条(こっちの料理人はわざわざ軟水の天然水を探したり、特殊な処理を加えて料理に使ったりするんだ。少なくとも俺が見てきた限りじゃ)

上条(だからあちこちで水のボトルを持ち歩くのが一般的……軟水が水道水の日本だと、あんま意味ないんだけどなぁ)

上条(「ガイジンよく水のペットボトル持ってる格好良い!」的な、ファッション感覚なんだろうが。逆ダサい)

上条(補にも……ネタでもジョークでもなく、硬水使った洗濯は時間がかかる。全自動式の洗濯で約二時間だ、二時間。嘘じゃないぞ?)

上条(……車にも大型のランドリーみたいなのついてんだけどな、ホラ?一緒に洗う訳にはいかないじゃん?心理的にも?)

上条(……そこはベイロープが率先して手伝ってくれてるから、今んトコラッキースケベは起きてない……あぁ)

上条「……」

ランシス「……くー……すぅ……」

上条(てな感じで朝だ!今日も元気に一日が始まるよ、やったね!)

上条(近くの朝市まで足を伸ばそうか!野菜と牛乳を買って、ついでに肉も売ってればラッキーさ!)

上条「……」

上条(……いやいや、大丈夫だよ?全然全然?俺は落ち着いているさ、これ以上無いってぐらいには)

上条(よぉし思いだぜ俺!昨日の夜は何があったのかを!)

上条(そうすりゃ、さっきから俺の横でくーくー寝息を立ててるランシスさんが理解出来る筈!なぁに楽なミッションさ!何ともないぜ!)

ランシス パチッ

上条(あ、目開いた)

ランシス「………………くぅ……」 ギュッ

 その瞬間、俺は重大な勘違いをしていた事に気づいた――いや、もしかすると知っていたのかも知れない。そうだ、きっと。
 一度知ってしまえば引き返せない道、ってのはあると思う。やり直しがきくとか、潰しがきくとか、そういう話じゃなくって。もっと単純な話。

 俺がさ、戦い続けてきたのは別に大した考えがあった訳じゃない。
 世界平和?人類愛?そんなもんとは常に無縁だったかな、少なくとも俺は見た事がないが。

 目の前の友達や関わった奴、そいつらが理不尽な世界や生き方をしてんのが気に入らねぇ。たったそれだけの下らない自己満足で何度も何度も死にかけてきた。
 ……どう言いつくろったって、俺は俺のために拳を振り上げてきたんだよ。あぁ。

 けれど、でも、しかし。

 俺は、気づいた気づいちまったんだ!
 俺が守ってるつもりだったんは、実は守られているんだって。そんな単純な話なんかじゃないと!

 俺は言いたい。いや、もっと早く気づくべきだった!今まで蔑ろにしていた事が、どれだけの罪であったのかを知るべきだった!
 それをして何が変わる訳ではない。けれど、けれどだからこそ俺ははっきりと言わなきゃいけないんだ……!

上条「……ちっぱいも――」

上条「――アリ、だな……ッ!!!」

レッサー「長々と考え込んで出した結論が『おっぱいに貴賤はない』、ですかコノヤロー」

上条「レッサー!?これは違うんだっ!?」

レッサー「何ですか違うって!?上条さんの不潔っ!えっちっちーーーっ!」

レッサー「どう見てもランシスが上条をだいしゅきホールドしてる以外には見えませんが何かっ!?」

上条「そんな用語はないと言っておく。つーか、これ前にもアリサのベッドへ潜り込んで大騒ぎしたばっかだろ」

レッサー「女の子と男の子じゃ意味合いが違いすぎますよっ!?説明しなきゃ分かりませんかねっ!」

上条「いやまぁ、そりゃそうだけどな」

レッサー「女同士だったら百合でも、男女だったらノーマルじゃないですか!?レア度がダンチですよっ!」

上条「そんなカテゴリー分けはしてない。お前も混乱してんじゃねぇか、落ち着けよ」

ランシス「……んーむぅ……ナニ……?」

レッサー「なにやってんですかランシスっ!?そこは私の特等席だってのに、いつの間にっ潜り込みやがったんですかっあぁ羨ましい!」

上条「俺のベッドは俺のもんだと思うよ?どんな超理論をしてもな」

ランシス「あー……うん、ごかいごかい」

レッサー「五回!?五回もやってたんですかっ昨日はお楽しみでしたよねっ!」

上条「してねぇわ!」

レッサー「前から後からと口で三回!残りはどこでしたんですかっ!?」

レッサー「むしろこっちに回しなさいな!既成事実だけ作れれば用済みなんですからねっ!」

上条「……あれ?朝からレッサーさんの信頼度が下がっていくぞ?」

ランシス「胸……?」

レッサー「え?ついてましたっけ?」

ランシス「私のバストに文句があるんだったら聞こうじゃないか、あぁ?」

レッサー「貧乳はステータスだとか言いますけどねっ、それは敗者の戯言に決まっていますよ!だって持ってたら自慢しますもんね!」

上条「お前いい加減にしとけ、な?『新たなる光』で内部抗争とか起こしたくないだろ?」

レッサー「私が調べた所に拠りますと、『人体の約70%はおっぱいで出来ている』と言っても過言ではありません!」

上条「過言過ぎるよな?なんでおっぱいが水分みたいになってんの?」

上条「つーか謝れ!杉田玄白先生に謝って!?人体構想がそんなに単純だったら、解体新書書いてないもの!」

レッサー「同じく私調べですが、『ミドルティーン男性は、脳の約70%がおっぱいで占められている』と」

上条「過言じゃねぇな?それ確かに過言じゃないけども!俺らはいっつもそんな事しか考えてねぇけど!」

ランシス「……どういう調べ方をしたのか気になる……」

フロリス「……あーもーウルサーイ!何時だと思ってんのさ!?」

ベイロープ「別に早いって訳じゃ無いでしょーが。ほら、さっさと顔洗う」

上条「……」

鳴護「――あ、おはよー当麻君……ってどうしたの、頭抱えて?」

上条「……何でお前ら朝からクライマックスなんだ……?」

鳴護「あー……うん、多分なんだけど、ね」

鳴護「『毎日が修学良好』みたいな感じ?」

上条「一々ツッコミで全部拾う身にもなれよぉぉぉぉぉぉぉっ!?なあぁっ!」

上条(……と、こんな感じにね。全力ツッコミをする一日がまた始まる、と)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

――オートキャンプ場 食堂

レッサー「てか、前々から気になってたんですけど――鳴護アリサさん」

鳴護「えっと……はい?改まって、何かな?」

レッサー「芸能界、てか業界のお話聞かせて貰っても構いませんかね?私、実は興味津々でして」

上条(朝食作るのもタルくて、昨日泊まったキャンプ場でメシ食い終わった後、唐突にレッサーが切り出した)

上条(正直、俺も聞きたかったんだが、ウザがられると思って自重してた)

上条(……ま、そんな余裕が無かったのも確かなんだけども)

フロリス「あー、ワタシもワタシも!」

ランシス「……」 コクコク

ベイロープ「自重しなさいな。あんま聞かれてもウザいでしょうが」

鳴護「あ、いえ、構わないですよ。こっちも色々教わってますし、おあいこって事で」

ベイロープ「……こっちの『業界』は知らないんだったら、それに越した事は無いんだけど、ね」

鳴護「歴史とか苦手なんで、結構楽しいですよ?」

フロリス「まーね。オカルトって突き詰めれば、宗教と文化をミキサーにかけて濾したよーんモンだし?」

ランシス「歴史年表叩き込むより、背景にある文化と一緒に憶えられるから……お得」

鳴護「じゃ、何を話せば良いんですか?業界って歌手って意味ですよね?」

レッサー「あ、いえ、アイドルでお願いします!」

鳴護「アイドルじゃないよ!?枠的には『歌唱力も高い』って褒められてるもん!」

上条「歌唱力”も”っつってる時点で、『本格派!』と言う名のアイドル枠だと思う」

レッサー「なんつーかですね。私もこう見えて、この業界へ入らなかったらアイドルになりたかったんですよ、えぇ」

フロリス「……そーなの?初めて聞いた」

上条「ま、見た目と性格のギャップ考えれば、人気は出そうだよな」

レッサー「ですよねっ!実はおしとやかなのにエロ可愛い小悪魔系美少女のレッサーちゃん、世界ツアー組んじゃいますよねっ!」

上条「そんな事は言ってない。お前のどこにおしとやか要素があるっつーんだ」

ベイロープ「フランスでやらかして国際問題になるわよね、間違いなく」

ランシス「ドイツ公演でハーケンクロイツ掲げて投石されそう……」

レッサー「やだなぁナチなんて眼中に無いですよ。良い感じで復活しそうなのに水を差しに行くなんてとてもとても」

レッサー「私ゃただ『ギュンター=グラスを差別するなヒットラーの尻尾ども!』って中指立てて来るだけで」

鳴護「えぇっと、誰?」

ベイロープ「気にしなくて良いわよ?『人格に関係なくレッテル貼って攻撃するのは戦前戦後と変わってねぇな』とか、関係ない話だから」

レッサー「――んでぇっ!どうなんですかっ、アイドルとしては!」

鳴護「そんなフワフワっとした聞かれ方しても……」

レッサー「ふなっし○の中の人って居るんですかね?」

上条「あれは中の人のキャラで売ってんだから、そこは突っ込まないであげて!」

鳴護「アイドルですらもう関係ないし……」

レッサー「では真面目に……ズバリ、私生活どうなってんですか?」

鳴護「それもうアイドル関係ないよね?プライベートだもんね?」

上条「つーかアイドルの下り全否定じゃねぇか!」

レッサー「あー、すいませんすいまっせーん聞き方が悪かったです」

レッサー「そうではなくてですね、プライベートな時間ってあるんでしょうか、と?」

鳴護「あー……スケジュール大変だよね、って意味?」

レッサー「ですです。ほら、よく秒刻みで予定が組まれてる、みたいなのあるじゃないですか?まだ学生さんなのにスゲェな!的な」

鳴護「えー、ないよ?学校でお勉強しなくちゃだし、学生の間は学業中心だって事務所の方針で」

上条「事務所ってかシャットアウラじゃねぇの?」

レッサー「ほっほぅ。ボイトレされてるのは毎日聞いてますが、平日はあのぐらいだと?」

鳴護「んー、どうだろうねぇ。あたしは歌中心だから、暇な時間――授業中とか、曲書いちゃってたりするしなー」

ベイロープ「授業中は『ヒマ』じゃないのだわ、多分」

フロリス「えー、興味ない授業は持て余すジャン?」

鳴護「あ、あはは。まぁまぁあたしの授業態度はともかく、他のアイドルさんはもっと大変みたいだよ」

上条「大変?歌とか作らない分、楽っぽい気がすんだけど」

ランシス「……そして意外にノリノリである」

上条「ウッサいよ。外見は華やかな業界だし、興味はあるっつーの」

鳴護「そうだねー、お芝居かな?演技の練習」

レッサー「……マジですか?」

鳴護「なんで驚くかな」

レッサー「いやだって、ホラ?あるじゃないですか、こう、『お前棒読みさせたらモンド賞も狙えんじゃね?』みたいな、素人丸出しのヤツ」

レッサー「人混みで石を投げれば当たるレベルの頻度で、ゴミみたいな演技をするアイドルなんて居るのに……あれも『練習』してるってんですか?」

上条「言いたい事は分からないでも無いけどな。つーか海外でもそうなのか?」

レッサー「映画とか見てて気になりません?結構多いですよ、誰とは言いませんが『ンボボボボオォ』の主役とか」

上条「吹き替えか字幕だしなぁ。てか喋りにそこまで注目はしない」

フロリス「てーかね。さっきからアイドル連呼してんだケド、『アイドル』は日本で使われるだけであって、こっちじゃ言わないし」

フロリス「なんか、こう、曖昧な感じのカテゴリだよね?歌なのか、演技なのか、ダンスなのか、統一感無ーい」

ランシス「日本の『アイドル』に近いのは……アヴリル?ジャスティン=ビーバー?」

鳴護「アヴリルさんはオーディションの時、デモテープ送ったよー」

レッサー「こっちだと俳優は俳優、歌手は歌手って住み分けしてますからねー」

上条「日本でもしてるよ、住み分け?ただちょっとブラックバスみたいに、増えすぎて手がつけられなくなってるだけで」

レッサー「演技ならアクター、歌ならシンガー、踊りならダンサー……なんか、こう不思議な感じですよねぇ」

ベイロープ「ま、こっちでもたまに勘違いした役者が出るのだわ。誰とは言わないけどモデル上がりに多い」

上条「やっぱ棒読みなのか?」

レッサー「棒です、まさに棒。『Wooden Actor(木製役者)』って言われてますからね」

上条「あー、海外でも『ヘタクソ』の概念自体はそう変わらないのな」

ベイロープ「反対に演技過剰だと『Ham Actor』とかよね」

上条「大根じゃなくハム役者?」

フロリス「映画とかで気になんないのは、ホラ、日常的に聞き慣れてるかどうかジャン?聞き覚えがあるか無いかってヤツさ」

ランシス「……日本語のイントネーションしか知らない人が、英語を聞いても違和感がナイ、みたいな……?」

上条「外国もあるんだな、そういうの」

鳴護「……えっと、これ、オフレコで?大丈夫かな?」

レッサー「キタァァァァァァァァァァァァァァッ業界話!私はこれを待っていましたよっ!」

鳴護「前にね、ミュージカルのお仕事で劇団の人に演技を教えて貰った、ていうか取材した時の話なんだけどね」

鳴護「『演技は声量と抑揚でする』って、団長さんは言ってたかな」

上条「……当たり前じゃね、それ?言われるまでも無いっつーか」

レッサー「ですなー」

鳴護「えーっと、うん、例えばの話ね?例えばの?」

鳴護「これは別に特定の女性アイドルや俳優さんを差してる訳じゃなくって、一般的なアイドルの話だからね?」

上条「一般的なアイドルは……まぁ、突っ込んだらいけないんだよな、きっと」

鳴護「あたし達が普通にお話しする時は、別に声作ったりはしないじゃない?そのまんまのテンションで喋るし」

レッサー「声、作るんですか?」

鳴護「なんて言うかな……こう、みんな裏声で話すっていうか、妙に高いトーンの子ばっかって思わない?」

上条「言われてみれば確かに……」

鳴護「イメージとしては『ずっと裏声で話してるから、どんな演技でも棒読みにしかならない』かな?」

レッサー「あー……はいはい、分かります分かります。妙にハイトーンで『浮く』演技してる方っていますよねぇ」

鳴護「アイドルとしての日常会話が『作ってる声』だから、歌も演技も融通が出来ない、って言ってました、はい」

鳴護「アイドルで『歌う時にとか声質がガラッと変わる』人とか、えぇ」

上条「はーい、質問。どうしてわざわざ『作る』必要があるんだ?地声でもいいんじゃねぇの?」

鳴護「劇団の先輩曰く、『声が高い方が可愛らしく聞こえるんじゃ?』だ、そうです」

上条「……なに、つまり『可愛いんですよ!』を表現するためのギミックってだけかよ?なんか、納得行かねぇな」

ベイロープ「……マスター、『Pretty(可愛らしい)』と『Beauty(美しい)』の違い、分かる?」

上条「どっちも褒め言葉?」

レッサー「ちょっとタイムしません?今、明らかに不自然な代名詞が……?」

ベイロープ「あくまでも私の実生活、つーか個人の体験の域を出ない話なんだけど、『Prettyは子供にしか使わない』のね」

フロリス「え?大の大人にも使うジャン?」

ベイロープ「えぇ、使うわね。ただし『恋人や家族とか、極めて親しい仲』であればの話だけど」

鳴護「もしかして『プリティ』は『子供っぽい可愛さ』って意味なんですか?」

ベイロープ「そうね。正しくは『基本、子供にしか使わない』みたいな」

ベイロープ「というか英語圏で大人へ対して『可愛らしい』と言うのは、バカにしているニュアンスがあるのだわ」

鳴護「そう言われてみれば思い当たる所もありますね。こっちのファッション誌見てると、大人の人が『可愛い』格好してるのは、あんまり無いですし」

フロリス「んーむ。意識の違いなのかもねぇ?Prettyな物は好きだけど、実際に身につけるかっつったら、どーだろ?」

ランシス「大人になったら、みんなBeauty方向を目指す、よね……?」

上条「……成程。日本じゃ、大人だろうがあんま関係ないか」

上条「大学生は勿論、OLのお姉さんぐらいでも可愛い系の服着るからなー」

レッサー「いい歳のババ――女性が『女子会』と臆面も無く言う文化圏ですからねぇ」

上条「オイやめろ!言うのは勝手だよ!言うだけであれば自由にさせときゃいいじゃない!」

ベイロープ「つーか、ぶっちゃけ『Girlie Fashion』、どうなの?」

鳴護「女の子向けの雑誌から出てますんで、まぁ、うん?女の子だし、良いんじゃないかな?」

フロリス「『ARISA』はそっち系の路線だもんね。Prettyをも少し大人しめにした感じ?」

鳴護「あ、スタイリストさんにお任せしてるんで、詳しい事は、あんまり……」

レッサー「……中の人はこんなもんでしょうかねぇ。同世代のファンは必死で真似するってぇのに」

上条「いやまぁ、アリサだしなぁ?」

鳴護「酷い事を言われてる感じがするけど……」

鳴護「だからこう、演技でも『可愛らしさ』を前面に出せば、ある程度はやっていける、みたいな?」

鳴護「一度人気が出ちゃったら、そのスタンス――てか、キャラを変えられなくってズルズルと、的な、かな?」

フロリス「世知辛い……なんて微妙な世界なんだぜ」

鳴護「ま、まぁでも?ある程度はキャラっていうか、声も作るよね?声を張ったり、歌を歌うには地声じゃ出来ないし」

鳴護「でも場当たり的な発声方法じゃ、抑揚や声量をコントロール出来ないから、劇団へ入ったら『自然』に大声を張れるように目指すんだって」

レッサー「にゃーるほど。聞いていい話なのかは微妙な所ですが、嫌いじゃなかったですよ!良い感じに嫌な話で!」

フロリス「劇団上がりの役者の方が『自然な』演技をするってのも一理ある、って事かー」

鳴護「団長さんから聞いた話だし、『信憑性はあんまないよ』と笑ってたけどね」

上条「(冗談っぽく本音言うパターンだよな、これ?)」

ベイロープ「(よね。わざわざ当のアイドル相手に言う必要ないんだし、何か思う所があったんでしょうけど)」

ランシス「……アリサ、お芝居しないの?」

鳴護「せ、台詞って憶えるの難しいね、うんっ!」

上条「あー……」

鳴護「当麻君、言いたい事はハッキリ言うべきだと思うよ?」

レッサー「……ぺっ」

鳴護「なんでそこでツバ吐くかな!?」

レッサー「何かもう、勝てる気がしないんですよ!これだけ長々と話しておいて!全部持ってったじゃないですか、えぇっ!」

鳴護「もってった?何を?」

上条「アリサは知らなくていい――てか、そのままで居てくれ。頼むから」

レッサー「天然にも程があるってもんじゃないですか!?どれだけキャラ強いんだって話ですよ!」

フロリス「ウッサいよー、ヨゴレの人」

レッサー「ヨゴレてないですよっむしろ輝いてます!Shineッ!」

ランシス「……うんもうそのリアクションでお腹いっぱい……」

ベイロープ「まぁレッサーは放置するとして、ミュージカルみたいなのはどう?歌姫設定なら、あんま憶えなくても平気でしょ?」

鳴護「心配されてるのか、頭心配されてるのか分からないんですけど……その、劇団が潰れちゃいまして」

上条「ふーん?そりゃタイミングが悪かったよな」

鳴護「団員の人が『クモに襲われる』って言い残してから、行方不明になるパターンが続いたみたいで、うん」

上条・レッサー・ベイロープ・フロリス・ランシス「……」

鳴護「変わった話もあるよねー?学園都市の中なのに、どうしてオカルトの話が出るんだか」

レッサー「……えっと、上条さん?」

上条「大体分かってる!……まぁ、その、言わないでやろう?何となく事態は呑み込めたし」

フロリス「格好良い所見せたかったんだよね、多分、その人達は。裏があったのかどうかは分からないケド」

ランシス「……保護者の琴線に触れて……ご愁傷様……」

鳴護「何?何の話?」

上条「あー、うん、まぁアリサは周囲から大事にされてるよね、って事だな」

鳴護「えー、過保護過ぎるよー?」

レッサー「ま、その話は置いておくとして、他になんかありません?タレント特有のアレコレとか」

鳴護「えっとねー……あ、この間食べ歩き番組に出た時か。佐天さんが教えてくれたんだけど」

上条「……不吉な名前が聞こえたけど、俺は絶対に突っ込まないからな!いいか、絶対だからな!」

フロリス「どう見ても見事なフリですThank you for saying(ありがとうございました)」

鳴護「エンデュミオンの時、御坂さんにお世話になって、友達繋がりでお友達になりました、はい」

上条「分かりやすく言えば『後先考えないレッサー』だよ」

レッサー「へぇ?極東の島国にそんなスーパービューティーが居たとは!?」

上条「ビューティ要素皆無じゃねぇか。誰も何も言ってねぇし」

鳴護「学園都市のローカル番組でXX学区の商店街へお邪魔しましたー、って番組に出させて頂いたんですけど」

上条「そしてお前も『奇蹟の歌姫』属性ガン無視じゃね?なんだよ商店街って」

鳴護「え、エンディング曲は歌ったもん!」

上条「ちゅーかそれタイアップ――」

鳴護「商店街のね、隅っこにある空き地でマイク持ってね」

上条「――ですら無かった!?つーかそんな仕事断れよ!?」

鳴護「お友達から頼まれましたんで、はい」

上条「……いや、まぁ、そりゃそうかもだけど」

鳴護「あ、そういえば佐天さん、最後に言ってたっけ?アレ何だったんだろ……?」

上条「可愛いけど残念な子、何言ってたん?」

鳴護「『夏ですねーいやぁー暑いですよねー涼しくなりたいですよねー?』」

鳴護「『おっと!こんな所にハンディカムが!TAKAみちのく製の製品があるなー?』」

上条「それ俺に『第二シリーズやりません?』つってるだけだよ!スッゲー外堀から埋めて来たな!?」

上条「てかいい加減スポンサーさんの名前は覚えよう、な?それ新日のプロレスラーの名前になってるから」

レッサー「ぐぎぎぎき……やりますね、SATENさんとやら!なんと見事な話の持って行き方!」

上条「超露骨なフリじゃねぇか。見えっ見えで隠そうとすらしてねぇトラップだよ」

レッサー「私だったら『じゃ、やっとく?』って即オーケーしそうですよ!」

ベイロープ「あなただけよ、あなただけ」

ランシス「……てか、レッサー、ノリが良いだけ……」

レッサー「ふっ!学生時代『安請け合いさせたらブリテン1!』と呼ばれた私が、そんなフリを見過ごすワケないじゃないですかっ!」

フロリス「最近だよね?こないだ教室で言われてたジャン?」

上条「なぁ、もしかしてなんだが、レッサーのそっちの学園内での評価ってさ」

ランシス「……『可愛いけどとても、とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっても残念な子』……」

上条「あー……意外でもなんでもねぇけど、あー……」

ベイロープ「性格上、男女どっちからも好かれるのよ?でもねー…… 」

レッサー「相手にとって不足は無し!かかって来なさいな!」

フロリス「ってのが、だね。見たまんまってかさ」

鳴護「レッサーちゃん主旨がズレまくってる……」

レッサー「私はまだ二回の変身を残していますんでっ!」

上条「変身ってナニ?しかも二回も」

レッサー「――って、すいませんやっぱ二回でした、はい。寝起きですんでねー」 チラッ

上条「……ねぇレッサーさん?お前今どうしてシャツの中覗いて、変身回数確認したの?」

レッサー「最近またおっきくなってきたんで、寝る時には乳バンド着けないんですよ、はい」

上条「無駄に重力の影響を受けると思ったら、そんなトラップが……っ!?」

ランシス「……少しでも分けて欲しい……」

レッサー「きちんと着目してるのがオトコノコだと思いますっ!」

ベイロープ「黙れ恥女。話が進まないのだわ」

上条「まぁ柵川中学の核弾頭の話は掘り下げないでおこう!ツッコミが足りなくなるからな!」

ベイロープ「んで、その子がどうしたのよ」

鳴護「今言った感じで、学園都市のローカルケーブルTV局のお仕事へ出させて頂きまして。佐天さんと一緒に商店街をブラつく感じで」

上条「見たいような見たくないような……察するにボケがスルーされまくって、収集つかなくなってんじゃ……?」

鳴護「その時に食べ歩きのコーナー、お肉屋さんでコロッケを食べた際のリアクションにダメ出し貰っちゃったんですよー」

上条「違うよね?アリサさんやってのってバラドルの路線だよね?」

上条「てーか佐天さんシロウトなんだから、なんで彼女のダメ出し真に受ける必要があんの?ねぇなんで?」

鳴護「あ、いえいえ!とてももっともなアドバイスだったんで、凄いなぁって」

上条「……一応聞くけど、どんなの?」

鳴護「タレントさんがグルメ番組で、何かを食べてる時ってあるよね?例えば――」

レッサー「『……これがあの、幻のチョメチョメなんですか!?マジで?本当に?存在したってんですか!」

上条「どうして小芝居入れた?必要か?それホントに必要か、あ?」

レッサー「『やー、話にゃ聞いてたんですけどねー!……まさか、ンンッまさかッ!』」

レッサー「『ではワタクシお先に相伴に預かりたく――』」

鳴護「って言って、一口食べます!」

上条「君らこんなに仲良かったっけ?それとも事前にネタ合わせしてやがったのか、なぁ?」

レッサー「『――ンンマァイ……ッ!!!舌先で踊る躍動感!鼻腔へ抜ける芳醇な香り!』」

レッサー「『そして次へ次へとスプーンを止まらせない、飽きない美味!どれをとっても空前絶後!』」

レッサー「『まさにこれは……ッ――』」

レッサー「『――味のフランス革命だ……ッ!!!』」

鳴護「みたいにリアクションするよね?、今のはちょっと大げさだけど」

フロリス「……ちょっと?今のが”ちょっと”なの?」

ベイロープ「どう見ても頭のネジが弾け飛んだガッダの小説としか」

ランシス「……一瞬でここまでノれるレッサーに驚愕を禁じ得ない……!」

上条「アンジェレネの『一人鉄人ごっこ』は余所でやれ!俺達を巻き込むな!」

鳴護「いやぁ、当麻君!当麻君は分かってないよ!」

上条「え、ここで俺怒られる要素あんの?」

鳴護「やってみれば分かるけど、放送事故にならないよう、素早くコメント出さなくちゃいけないんだからねっ」

上条「まぁ、そうだよな。つーかそれじゃ味わってるヒマないんじゃねーの?」

鳴護「佐天さんが教えてくれたのは、『この時に焦ってコメントしようとして、口の中に食べ物が入ったまま喋ると、好感度が上がる』って」

上条「予想以上に現実的な指摘だった!?」

鳴護「言われてみればそうなんだよねー。グルメリポーターの先輩達も、溜めてる時間に全部呑み込んじゃうしなー」

上条「鳴護さんは一体どこへ行くの?歌姫設定がいつの間にか完全バラドル路線移行してるね?」

鳴護「ご飯も頂きながらお仕事出来るなんて凄い事だよっ!」

レッサー「……話を振った私が言うのも何なんですけど、アリサさん仕事選んだ方が良いんじゃないですかねぇ?」

レッサー「事務所の方はコワーイお姉さんが居るとしても、もう少しフォローが必要なんじゃ……?」

上条「……本人がアイドル――じゃない、シンガー希望なのにバラティ枠にハマってるっつーか……」

上条「てかそもそもアリサの性格上、バラエティ向けなんじゃねぇかって気もするしな」

レッサー「かも知れませんねぇ。私のような『ちっょと陰のあるミステリアスな女』と違い、『天真爛漫なド天然』は万人受けしやすいですから」

上条「なぁベイロープ、イギリスの辞書だと『ミステリアス』って単語に『恥女』って書いてあんのか?」

ベイロープ「あなたは今宣戦布告をしているのだわ」

フロリス「どっちかってーと、『Freaks(変態)』?」

レッサー「仲間から変態呼ばわりって――」

上条「あ、ごめん言い過ぎた」

レッサー「――嫌いじゃない!裏切られるのも中々悪い気分ではありません!」

上条「変態っ!変態っ!変態っ!?」

フロリス「さっすが経験者は語る。次は出来れば混ぜてほしーな」

ランシス「……うん、まぁ次はガンバレー……負けるなーCameron」

鳴護「あとあたしは天然じゃないんだけどなー、って何回言ったら」

上条「まぁまぁ。他人からの評価はそれぞれだし、少しぽわっとしてるぐらいの方が可愛いよ?」

鳴護「じゃ、じゃあいっかな……?」

レッサー「……タチ悪ぃですなー。上条さんいつか刺されますよ、ホンっっっトに」

上条「フォローしただけじゃんか!?嘘を吐いてすらいねぇし!」

フロリス「ちゅーさ、ベイロープ。フィードバックが」

ベイロープ「……ま、人間いつか死ぬわ。それだけの話」

ランシス「……ベイロープの方がリーダーっぽい、よね?」

上条・鳴護「――え?」

レッサー「よっし待ちましょうそしてお伺いしましょうかンねっ!あなた方がどうして今!今今今っ!口を揃えて疑問を呈したのはなにゆえに!?」

ランシス「――あ、そういえば」

フロリス「どったん?」

ランシス「向こうの方で、観光客向けの朝市がやるって、張り紙してた……」

ベイロープ「いいわね。軽く覗いてかない?」

上条「マジで?俺ちょっとこっちの食材に興味あったんだよね」

フロリス「あー、野菜とか気をつけないボられるよー?……いよっし、ワタシがついてってあげよう!」

フロリス「感謝するんだぜ?なっ?」

上条「へーへーそりゃどー――ってだから!お前は腕に抱きつくなと!」

フロリス「えー、いいジャンか。減るもんじゃないし?」

上条「俺のSAN値が減るんだよっ!ファンブルしたらどうしてくれるっ!?」

鳴護「当麻君がまた女の子と仲良くなってる……めもめも」

上条「あ、アリサさん?何か食べたいものかとかないですかね?出来ればメモの内容忘れるぐらいので」

上条「こっちの食材で代替出来るんだったら、チャレンジしてみるから」

鳴護「あ、いいのかな?作って貰ってて悪いんじゃ?」

上条「俺も日本の味が懐かしいしなー。口実にして食いたいってのもある」

鳴護「そう?だったら親子丼なんか――」

上条「お、それじゃ三つ葉の代わりにハーブを――」

フロリス「だったら――」

レッサー「……」

レッサー「……おや?おかしいですよね?何か違いますよね?」

レッサー「どうして私がハブられてるっつーか、そもそも『なんだこりゃあ!?』状態なんですけど……」

ランシス「……大丈夫、うん」

レッサー「ランシス……っ!分かってました!心の友よ!」

ランシス「……まぁ、また下克上……」

レッサー「そんなコトだろうとは思ってましたよっ!またあなたがNTRするんでしょうがねっ!」

レッサー「てか不自然に話題を振ったのはあなたじゃありませんでしたか?一度話し合いましょう?」

レッサー「『爪』でね、しっぽりと二人だちょぉぉぉぉぉぉっとお話ししましょう?」

ランシス「……あ、ヤバ――ふひっ」

レッサー「は――?」

――

 ザァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……。

 空を覆う黒雲から涙のように雨が落ちる。降る、というような生易しい勢いではない。
 一粒一粒がショットガンのような勢いを持ち、軌跡が細長く見える程の速さで撃ち付けられる。

(――何、だ、これは……何が、一体――どうして……)

 息をするのも困難な豪雨の中へ突然放り出されて、半ばパニックになる体に思考が追いつかない。
 こうしている間にも体から徐々に熱が奪われ、次のアクションを取るが困難になっていく。
 突然すぎる展開に判断力が追い付かず、雨の勢いに流されないように足を踏ん張る――その行為に大した意味など無く、ただ無為に体力を削がれる。

「――っ――――――……?」

(……人の、声……?)

 水のカーテンの向こう側から響――き、はしないが、気配と息づかいのようなものがする。

「おま――――――は――リサ――――っ!?」

(ダメだ!)

 誰何しようにも雨音で消されてしまって届かない!シルエットと服の色から『新たなる光』の誰かなのは間違いないだろうが。

(――埒があかな――)

 ぐっ、と上条の手が引かれる。『右手』を思ったよりも力強く。
 瞬間、ほんの一瞬だけ。安曇阿阪の凶行が脳裏を掠め、振りほどきそうになるが――それはしなかった。

 何故ならば――その手が思っていたよりも華奢で、しかも僅かに震えていたのだから。

――?

 土砂降りの雨の中を上条ともう一人は進む。少しだけ勢いが弱まった雨を避け、覗かせる風景は黒々とした森の中だった。
 日本のそれと違い、欧州の森は陰鬱としていて、只々暗く。針葉樹林がなだらかな起伏に沿って整然と生えている。

(……てか、どこだよ、ここは……?)

 ……ゴロゴロゴロ……。

(マズいな雷も鳴り出しやがった……!せめてどっかで雨宿りが出来――んっ!?)

 カクン、と繋いでいた手が”後ろ”へ引っ張られる。彼女――おそらくは――立ち止まり、一点を見ていた……と、容易に想像がついた。
 ある意味では違和感極まりなく、だがしかし『お約束』では当然のように登場する。

 人の手も碌に入っていない、黒く生い茂った森林の中。ぽつんと異彩を放っていたのは――。

「――洋館……?」

 カッ、と雷が近くの木へ直撃して樹木全体が燃え上がる。
 暗がりに湧き出た炎に照らし出され、洋館は異様な姿を晒していた。

――洋館 エントランス

 ギィィィイイッ……。

上条(……ほんの少しだけ館へ入るのを躊躇したが、俺達に選択肢はなかった……)

上条(夜以上に暗くなる空、強まる風雨。ずぶ濡れの衣服のままで、ワケ分からんウロつくのはマズい――)

上条(――と、思ったんだがな。それもどうやら怪しいようで)

上条(館の中へ入った俺の感想は、雨風を凌げる場を得た喜び――なんかじゃなかった)

上条(安堵の気持ちとか、ホッとするとか、そういうのは無縁の、ただただ『違和感』だろう)

上条(室内は予想に暗い。外が深夜のように闇に閉ざされている以上、中も当然薄暗い)

上条(ランプのような室内灯が一定の間隔で並んでいるものの、所々刃こぼれしたかのように途切れている)

上条(……現代機器に慣れちまった俺には慣れない……いや、あれは!)

上条(その、仄暗い灯りに映し出されている肖像画!どこかの庭園を背景にして鉄仮面を被ったままの人物がだ――!)

上条「……『団長』……!」

上条(『濁音協会』の『団長』!確か『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』とかって魔術結社のボス!)

上条(どう考えても俺達は向こうの思い通りになってる、って話か!)

上条(……けどまぁ……)

ランシス「――怖い……っ!」

上条「……大丈夫だ!俺がついているから!」

上条(あの雨の中、俺の手を引っ張ってくれた同行者の前で、弱気になんかなれない……!)

ランシス「……仮面を被ったまま、肖像画を描いて貰う天才的なボケの才能が怖い……!」

上条「そこ?確かに恐怖は感じるけど、何?芸人としての視点で怖いって事なの?」

ランシス「……あと、今時ベッタベタな台詞で安心させようとした相方も怖い……」

上条「俺ですよね?あれ、もしかして俺の善意を踏みにじってないかな?」

ラシンス「なんだかんだで巨乳以外もイケる口なのも……!」

上条「なぁ君は遠回しに俺へ『死ね』っつってんのかな?あんま俺ナメんなよ?こう見えてもストレスには強い方だからな?」

上条「てか違うよね?そんな展開じゃないよね?ここはもうちょっと――」

ランシス「……っ!?」

上条「なに?またトラップなんだろ?つーかお前、結構口悪いわボケるわ――」

ランシス「……」

上条「ってお前、まさか――マジ、なのか?本当に調子が悪――」

上条「冷たっ!?お前体スッゲー冷たいじゃねぇかよ!?」

???「あのぅ、お客様?お客様ですよね?如何なさいましたか?」

上条「誰だ――って誰だっていい!着替えと何か、暖かい飲み物でも!」

上条(俺は八つ当たりのような勢いで、脈絡なく――いやある意味合ってるが――現れた人物へ命令する)

???「かしこまりました、お客様。ではこちらへどうぞ、火を入れた暖炉と温かいウミガメのスープをご用意しておりますよ」

上条(そいつ――いや、メイド服を着た女性はスカートの端を持ち、まるでドレス服の淑女がするみたいに礼をする)

メイド「ようこそいらっしゃいました――『悪夢館(Nightmare residence)』へ」

――悪夢館 一号室

上条「……」

メイド「――上条様、お連れ様のお着替えが終わりましたよ。どうぞ中へ」

上条「あ、はい、ありがとうございます」

メイド「敬語など不要で御座いますよ。では」 パタン

上条「……」

ランシス「……」

上条(……さて、どうしたもんか)

上条(ランシスは倒れた……っていうか、顔真っ赤で凄い熱だ)

上条(濡れた服を脱がすのは……流石に俺がする訳にも行かないんで、メイドさんに代わって貰ったと)

上条「……あぁクソ……!」

上条(どう考えてもここはアウェイで敵地のど真ん中だっつーのに……参ったな)

上条(状況が掴めない。場所もそうだが、アリサ達がどうしてるのかっても気になる)

上条(下手に動いて事態が悪化するかも?それとも動くのが正解か?)

上条(……魔術サイドに疎い俺だけが残されたっても――)

ランシス「………………んっ」

上条「ランシス……?良かった、気がついたんだな」

上条「待ってろ。メイドさんが温かい飲み物用意してくれるって――」

ラシンス「……て」

上条「て?」

ランシス「……右手、早く……」

上条「あ、あぁ……?」

パキィィイイイッン……!

上条「……魔術?」

ランシス「……危ない所だった……」

上条「もしかして――敵の魔術師の攻撃かっ!?」

ランシス「……ネタ乙。全然ハズレって訳じゃないけど」

上条「え、ナニソレ?どうゆうコト?」

ランシス「……これは、呪い……大きすぎる『力』を得てしまった代償……」

上条「ランシス……?」

ランシス「必要だから、そうした。それだけの話……」

上条「……あぁ、うん。お前らの覚悟は間近で見てきたから、野暮な事は言うつもりはねぇけどな。今更っつーかさ」

上条「傍目には『無謀じゃね?』って思うんだろうが、いざ横で戦うのを見てりゃ分かる事もある。理解も出来る」

上条「無茶な霊装や術式だって、生きる死ぬかの一線の中、少しでも生き残るために、って感じでだな」

ランシス「……ん」

上条「――けどな、ランシス?俺は黙って見てるつもりもねぇからな」

上条「無茶だって思ったら首突っ込むし、必要だと分かっててもぶち壊しにする事だってするさ!だから――」

ランシス「……詳しく説明しろ?」

上条「嘘吐かれたって分かんないけどなー。出来れば事実を話して欲しい」

ランシス「……」

上条「……」

ランシス「……ナイショ、ね?絶対に」

上条「約束する」

ランシス「……レッサーや、他のみんなにも、だよ?」

上条「あぁ!……いやヤッパちょっと待て」

ランシス「……なに?守れる自信がない、の……?」

上条「それはない。ないんだが、その、な?」

ランシス「……あ、盗聴されてても平気。聞かれても対処は出来ないから……」

上条「まぁ、プロがそう言うんだったら……うん」

ランシス「私の霊装は『負』なの……」

上条「『負』?」

ランシス「……マイナス、陰、邪悪……って特性」

上条「……黒魔術って事か?よく分からん」

ランシス「んー………………」

上条「……なに?」

ランシス「………………ふひっ」

上条「なんで半笑い?」

ランシス「……ごめんごめん、手」

上条「お、おぅ」

パキィィンッ……

上条「……おー、う?」

ランシス「……ふぅ。疲れる……」

上条「手、握ってた方が良いんじゃねぇの?」

ランシス「……う、ん?」

上条「霊装――ナントカの帯着けてるんだったらマズいだろうが、今着替えちまってるしな」 ギュッ

ランシス「……」

上条「……うん?」

ランシス「…………………………ぽっ」

上条「アレ?今どっかで聞き慣れた擬音がしたぞ……?」

ランシス「……は、まぁ――置いといて」

上条「何を置いたの?なんかそれ後回しにすると後悔しそうなんだけど、いいんかな?」

ランシス「……十字教の術式や魔術は『正』や『聖』……『プラス』の属性が殆ど……」

上条「プラス――プラスマイナスのヤツか?」

ランシス「『聖○○の逸話を再現した術式』、みたいな感じ……が、メジャー」

上条「ま、教会なんだから変な真似は……なんかイマイチ自分で言ってて『説得力皆無だな』って、うん」

ランシス「同じく、防御的なものも『プラス』属性……おーけー?」

ランシス「……『武器の聖別(To the blessing roughness arms)』や『着衣の祈り(Chaste and modest and virtue)』……」

ランシス「大体が『プラス』属性……」

上条「イメージとして何となく、分かるような……?」

ランシス「……『電気使い』へ電撃で攻撃しても効果が薄い……?」

上条「よく分かった!」

ランシス「私の使う霊装は、逆。マイナスの方……」

ランシス「……属性的には『負』だから、十字教とかの『正』のベクトルを持った相手にはよく効く……例えば」

ランシス「円卓の騎士が一人、『双剣の騎士』が放った『災いの一撃』……」

ランシス「古城に奉られていた『聖槍』を使ったのに、出た効果は――」

ラシンス「敵へ『永遠に癒えない傷』を与え、古城は崩れ落ち、周囲の草木は死に絶える――陰惨なものだった……」

ランシス「……まさに『負』の霊装……」

上条「じゃ、それを持ってるのが」

ランシス「『それ』を私”は”持ってない……多分、奥の手に取ってるおっぱい」

上条「なにその語尾?俺の知ってる人?それとも”るっぽい”の言い間違い?」

ランシス「でも、その話を聞いて私はひらめいた……『敵が聖人だったら、それ相応の手段がなければいけない』って」

ランシス「……事実、聖槍が傷を与えた相手は、アリマタヤのヨセフの子孫だったのだから」

上条「ヨセフ?」

ランシス「『神の子』の遺体をピラトから受けた聖人……あんまり詳しくはチョメチョメ」

上条「突っ込んだら負けなんだろ?理由は知らないが!」

上条「――つーかまとめるとだ。ランシスはまともな術式ばっかじゃ通用しない、しにくい相手が居ると」

上条「だもんでそいつらに対抗するため、『負』の霊装だか術式をコッソリ用意してるって話?」

ランシス「せーいかーい……うん」

上条「なんでまだ隠れてまでやってんだよ――とか、魔術師に言うのは今更なんかな」

ランシス「……代償がとてつもなく重い、の」

上条「そうなのかっ?そこまでして――」

ランシス「……ベイロープも言ってた筈。これは『覚悟』の問題」

ランシス「命を大切にして、リバウンド――日本語で『逆凪』を最小限に留めるために、弱い術式しか持たなくって……」

ランシス「……いざ戦闘になったら、死ぬ、よね?それは本末転倒……」

上条「トールみたいな事言ってんなぁ」

ランシス「グレムリンの……?」

上条「ちょっとニュアンスは違ったが。『最強が目の前にあって、届きそうだったら背伸びしてでも手ぇ伸ばす』だっけか?」

上条「手段があって目的があったらやっちまえ、みたいな……あれ、逆か?」

ランシス「……私達的には合ってる……」

上条「……でもお前らとは違うよ。トールは強くなって何がしたいとは言ってなかったな。人助けも『経験値』みたいなフザケた事も言ってた」

上条「お前らは目的が仲間を守るって前提があんだから、もっと胸張ってりゃいいんだよ、なっ?」

ランシス「……小さいのに?」

上条「それはそれで嫌いじゃな――違うな?胸の話はしてなかったな?」

ランシス「意外と雑食系……?日本人はHerbivorous(草食)だったんじゃ?」

上条「賞味期限が切れた弁当を『新鮮です!』って自信満々に出されてもな?困るっつーか引くって言うか」

上条「だから俺達も相手を傷つけないように、『あ、自分草食系っスから!』って優しい嘘を強いられているんだ!察しろよ!』

上条「てかランシス、お前誤魔化そうとしてねぇかな?話逸らそうとしてない?」

ランシス「……ちっ」

上条「よーし分かった『右手』を離そうじゃねぇかっ」 パッ

ランシス「――あ」

上条「つーかだな。そもそも『副作用おせーて?』って話なのに、どうし――」

ランシス「……………………ふひっ」

上条「……はい?」

ランシス「け、けっきょく……魔力が足りな――くしゅっ、いひひひひっ」」

ランシス「こりゃもうどーしようも……あは、ひゃう……んうっ」

上条(なんだこれ超エロい……?)

ランシス「周囲の竜脈から『迂回路(ビフレスト)』っ、んぁ……はぅ……ふぁはっ」

上条「え?おまっ!?何これっ!?」

ランシス「ひゃうっ!んう……んぁ……はぅ、ふぁは……んふぅ……ひひっ」

上条「ちょ、待ってろ!?」 パシッ

パキィィィィンッ……!

ランシス「んぅっ……あ、あんっ…………ふぅ……」

ランシス「……もうちょっとだったのに……」

上条「何が――っていいっ言わなくて!何となく分かる!」

ランシス「……見た?」

上条「お前の左手が下の方へ行っていたなんて、全然全然?まっトく完璧に気づかなかったよ?」

ランシス「……噛んでるし……そう、これが私の霊装の恐るべき副作用……!」

ランシス「『負』――『滅び』の力を得る代わりに、私の体は呪われた……っ!」

上条「……なんとなーく分かったけど、具体的には?」

ランシス「えぇと……魔力が足りませんでしたー、周囲から補給しようー、それだと鋭敏な濃度感知が必要ー」

ランシス「感覚で分かると便利じゃんー?あ、でも痛いのは嫌だしー……あ、そうだ。だったら痛覚以外で反応すればいいよねー……?」

上条「痛覚以外?」

ランシス「……直接的に?間接的に?」

上条「じゃ間接的でお願いします」

ラシンス「……魔力に当てられると、くすぐったい、の。すっごく」

上条「ダメじゃね?それ自分の術式や霊装使う時もアレって事だよな?」

ランシス「『周囲の魔力を感知して肌に伝える』術式で、目的が『霊装をアクティブ状態で保持』だから、戦闘の時には切る……」

ランシス「んー……バッテリー効率を考えれば、いつも充電してて、必要な時に電池を入れてる……かも?」

上条「過充電もよくはないんだが……ま、分かったよ」

上条「――いやごめん分かってなかった。根本的な所がだ」

ランシス「ん……?」

上条「どうしてお前がこの館に入った時に倒れたのか?そして今、俺が手を離したら、その『魔力酔い』になっちまう、ん、だ……」

ラシンス「……あ、自分で気づいた……?」

上条「まさか……この館が原因なのか!?」

ラシンス「まだ『普通』の量の魔力だったらどうとでもなるんだけど……ここはちょっと、異常」

ランシス「……館そのもの?壁や天井や家具、あの女の人からも『ピリピリ』来る……」

上条「全部が魔力を帯びてる?」

ランシス「……最低でも『発して』はいる、うん」

ランシス「何らかの霊装なのかも知れないし、術式を発動しているのかも――」

上条「そか。それじゃ俺と一緒でよかったな?」

ラシンス「――うん?」

上条「他の面子とだったらずっと『魔力酔い』でシンドかったろ?巻き込まれたのは災難だが、最悪って訳じゃねぇよ」

ランシス「……そう?」

上条「てか、魔力を感知出来るヤツが居るんだったら心強いし。少なくとも俺はラッキーだったって思うぞ」

ランシス「……ん、私も」

上条「も?」

ラシンス「ラッキー(性的な意味で)だった、よ……?」

上条「あれおかしいな?何か悪寒が……?」

ラシンス「……あ、濡れた服は早く脱がないと」

上条「着替えたよ?どう見ても今俺が着てんのはカッターシャツだよな?」

上条「微妙に撫で肩だから、上にもう一枚欲しい所だが!」

ランシス「……あ、それ和製英語。正しくは『Collar Shirt(襟シャツ)』……」

上条「へー、そうなんだー?」 ジリッ

ランシス「……今、私から離れたらスンゴイ事になる、よ……?」

上条「どんな脅迫の仕方だっ!?ダメージあるのお前じゃねぇか!」

ランシス「……ん、まぁ、ジョークを真に受けられると悲しい……」

上条「あ、あぁ、ゴメンな?今ちょっと『アウェイでオウンゴール狙いの味方が居る』みたいな状態かと思って」

ランシス「……ま、こうなったら仕方が無いし、不可抗力、うん」

上条「まぁ仕方がない……か?」

上条「……」

ランシス「……なに?」

上条「くすぐったい、んだよね?」

ランシス「……間接的に言えば、そう」

上条「……直接的に言うと?」

ランシス「……全、身が性感た――」

上条「よおっし!それじゃまず館の見取り図から書こうかっ!脱出するにしろ、探すにしろ必要だしねっ!」

ランシス「……振っといてスルーよくない……」

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今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
ふと気づいたんですが、

円周がボケる→バードウェイのツッコミ→(巻き込まれて)即死
レッサー達の美人局(含むマジ誘惑)→手を出したら人生即死(結納)

前の話と今の話、あんま致死性は変わってない気が……?

乙!!
キャラクターはアイテム編みたいですね

ベイロープ→麦野
フロリス→絹旗
ランシス→滝壺
レッサー→フレンダ

レッサーは絹旗の積極性とフレンダの残念性を足して2で割った感じ

>>713
鳴護「ちょ、ちよっといいかな?あたしは?ねぇあたしは?」
鳴護「一応イニシャルヒロインって言うか、気がついたら『新たなる光』が前面に出てて、『どんな脚本?』とか思ったけど!」
鳴護「なんか噂じゃレッサーさん編で終りって話も聞くんだけど、な、ないよね?」

――悪夢館 一号室(仮)

上条「……てかさ、地理的にはもうすぐイタリア国境だっつーのに『悪夢館』とか、日本語ぺラッペラのメイドさんとか、違和感ありまくりじゃねーか」

ランシス「あっちの術式の中、だよね……?」

上条「そうじゃない方が怖いわっ!どっかの野良魔術師が意味も無く攻撃――」

ランシス「……心当たり、ある……?」

上条「……うんまぁ、今更ながらに『グレムリンともやり合ってたっけ?』ってな。今更だけどさ」

ランシス「んー……それは心配しなくていーよ、多分」

ランシス「今まで『上条当麻』が標的にされたのって、ないよね……?」

上条「最初の一発以外はな。あれだって直撃すりゃ危なかったんだよ」

ランシス「オティヌスに負けてるしー……相手にされてないんじゃ?」

上条「……だなぁ。それでバードウェイに嫌な思いさせちまったし」

ランシス「……ご褒美、だと思うよ……?」

上条「良い話してたよね?それはアレか、浜面的には、みたいな意味か?」

ランシス「……じゃなくって。『きちんと叱ってくれる人』が居るのは、とっても幸運……」

ランシス「……本当に親身にならなきゃ、言えない事だってある……」

上条「耳が痛い話だが――さて、見取り図を書いてみた。つーかやっつけだが」

ランシス「手書きならこんなもの……そもそも週間2万語+本業+Cプラプラ勉強してるのに、あんま無茶プリされても……」

上条「つっても玄関とここ――勝手に『一号室仮)』しか往復してないもんだから、殆ど白紙のまんまだ」

ラシンス「二階建て、だよね……?外から見れば」

上条「ぱっと見は、な。地下室とかあるかもだが――さて、これからどうするかだけど」

ランシス「……出来ればここで潰してはおきたい。でも……」

上条「可能かどうかは別問題。なら、逃げるのは?」

ランシス「……森の中を堂々巡りするだけ、多分」

上条「……なぁ、根本的な問題なんだけどさ。そもそもココ、現実か?」

ランシス「幻覚の可能性はある。あるんだけど……」

上条「俺の『右手』だけじゃ心理操作は完全に打ち消せない。一回効いた後で頭に触れればキャンセル出来るっぽいけどな」

上条「他にも『普通の状態へ戻す』みたいで、例えば失われた記憶とかは無理――って聞いたな?」

ランシス「……これが誰かの造った『夢』で、私達の意識だけを飛ばしていると……ちょっと、マズい」

上条「と、言うと?」

ランシス「体はどこか眠ってて、その体が見ている夢の中で殺されると、現実の体もロクな事にはならない……」

ランシス「死んじゃう夢を見ると――とか、聞くよね?」

上条「やたそれ超面倒臭い」

ランシス「……うん、面倒臭いよ?だから『なんでこんな面倒な術式をかけたのか』って事に繋がる……」

上条「面倒ってそっちかい――術式が?面倒?」

ランシス「……わざわざ夢の中で殺さなくても、体を殺した方が早いよね……?」

上条「当たり前だろ……当たり前、なのか?」

ランシス「……前にも私達が言った気がするけど、『強い魔術はスタンダードとして定着する』の……」

ランシス「……錬金術然り、北欧系魔術然り……」

上条「お前らも十字教圏なのに北欧系だもんな。俺の知り合いもルーン使いが一人」

ランシス「……違う。私達は『北欧系にアレンジして』るだけ、本質は別……」

上条「――へ?」

ランシス「……逆に『使えない魔術』として獣化魔術は廃れた……し」

ランシス「だから、もし……『相手の夢の中へ入って”楽に”殺せるような術式があれば、もっとメジャーになった』はず、うん……」

上条「ふーん?それじゃさ、失われた謎の魔術師!……とかって可能性は?」

ランシス「?」

上条「安曇阿阪は『安曇氏族(クラン・ディープス)』って正統な魔術師一族の流れを受けついた傍流――て、日本語がおかしいが、そんな妙な奴だった」

上条「その前の『アレ』は魔法生物っぽい科学サイドの生物兵器だった。それを踏まえて」

上条「だから意外と『今じゃ失われた古のナントカ』みたいな、敵じゃないのか?」

ランシス「……」

上条「あ、ごめんな?素人考えだから、あんまり――」

ランシス「……それ、あってるかも知れない。てか、正しい」

上条「え、マジで?当たっちゃった?俺凄い?」

ランシス「褒めてあげたい――んーっ?」

上条「……」 ガシッ

ランシス「……手、どけて」

上条「ごめんな?なんか顔近づけて怖かったから」

ランシス「ちょっとご褒美のキスを……」

上条「ノーサンキューだっ!ジャパニーズは草食系で売ってるもんでねっ!」

ランシス「……さっき違うって言ってたのに……」

ランシス「……で、その想像は合ってると思う。現に、というか……私達は有り得ないぐらいの魔術攻撃を受けてるワケで」

上条「これってやっぱ、そっちのセオリーからしてもイレギュラーなのか?」

ランシス「んー……?流行り、じゃないよ、昔は呪殺にもよく使われた……ん、だけど」

ランシス「……あまりにも非効率すぎて、うん」

上条「なんでまた?超強そうじゃね?」

ランシス「……相手の夢へ入る――つまり、術者も寝る必要がある。隙アリアリ……」

ランシス「しかも……私みたいに、常時起動の霊装や術式をかけていれば、そのまま持ち込む事が可能……」

上条「例の奥の手ってやつな」

ランシス「……本当に正面切って戦える力があれば、最初からそうする……」

ランシス「……それをしない、出来ないのは、それなりの理由が……ある」

上条「ふーむ。その理由がきっと『鍵』なんだろうな」

ランシス「今回は……事前に情報が限りなく少ないから、やっかい」

ランシス「『野獣庭園』は『下位竜(レッサードラゴン)』だったし……」

ランシス「フロリスの『ウェールズの赤い竜(ア・ドライグ・ゴッホ)』はまさに天敵……」

上条「……建宮やステイル達にもっと感謝しとくんだった――あれ?」

ランシス「……?」

上条「ふと気になったんだが、お前らの名前って偽名だよな?コードネーム、みたいな感じの?」

ランシス「…………………………違うよ?本名本名」

上条「やったらタメやがった上に目が泳いでんな。てか『レッサー(Lesser)』なんて名前初めて聞いたわ!パンダかっ!」

ランシス「……レッサーは、ほら、変態だから……?」

上条「そっかー、変態かぁ、じゃあしょうがないよね――って納得しねぇよっ!」

上条「一瞬、『あ、そうだっだよな』って腑に落ちかけたが!」

ランシス「……」

上条「ベイロープも魔術名ベイなんとかっつってたし、フロリスもフローなんとかって言ってたような……?」

上条「多分本名か魔術名をもじったんだろうけど、お前らってなんかこう、よく分からない団体だよなー」

上条「イギリス王室が失ったカーテナ、探し出して掘り出すぐらいの魔術持ってて、しかも『必要悪の教会』を出し抜けるぐらいの力持ってさ」

上条「『魔術師未満のサークル気分』――で、済ませられるような話じゃなくね?」

ランシス「……くー……」

上条「オイっ寝るな!大事な話をしてんだよ今っ!」

ランシス「……朝、早かったから眠くて……」

上条「あー……思い出してきた。メシ食った後に朝市行こうとして――」

上条「……どうだったっけ、あれ?」

ランシス「私もそこまでしか憶えてない……」

上条「あの前後に魔術を喰らったと……うーん、どうしたもんだか」

ランシス「『夢が夢だと気づいて目を覚ます』……のが、セオリー」

上条「条件満たしてんじゃん」

ランシス「他にも、えぇと……幻術系では『確信を持って相手の正体を言う』、みたいなのがあって……」

ランシス「ここの館のルールに沿って、何かしなくちゃいけない、と思う……」

上条「『死ね』とかってルールだったらどうすんだよ?」

ランシス「そう設定するんだったら、最初からしている……」

上条「『永遠に閉じ込めておく』みたいなのは?」

ランシス「術式の維持に膨大な魔力と準備が必要……余程節約するか聖人級の魔術師でもない限り、ムリ」

上条「……よっし。大まかな枠組みは見えてきたか」

ランシス「……ま、クローズドサークルでする事って言ったら……人狼か、もっと古典的な――」


『――キャアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!――』


上条「――悲鳴!?」

ランシス「……そう来るよね。個人的には人狼の一回やってみたかった……」

上条「行くぞ!」

ラシンス「……仕込みだと思う、けど?」

上条「そうじゃなかったらどうすんだよっ!」

ランシス「……自己責に――って、手引っ張っ――」

上条「手ぇ離されたくなかったら、来いっ!」

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――正面エントランス

上条(フロリスの手を握ったまま、全力で音のした方向へ走ってきた!……つもり、ではある)

上条「……」

上条(探偵モンだとここは最速で駆けつけるんだろうが、あっちはフィクションの話)

上条(ちょっとした多目的ホールばりの広さで、悲鳴の出所は大体検討をつける異常は無理ゲーだって!)

上条(……せめて携帯がありゃ音波感知ができ――)

上条「……」

上条(……普段からアプリ着けっぱなしにするとね、バッテリーがね、うん?)

ランシス「……手、痛いかも……」

上条「ん?あぁごめん、強く引っ張っちまったか」

上条「……いやでもお前、俺の全速力フツーに着いてきたような……?」

ランシス「……移動効率が悪い……別の移動方法を提案する……」

上条「移動?」

ランシス「西側――私達が来た側じゃなく、そっちの東側の通路のドアは全部閉まってる……」

ランシス「あれだけ『通った』声だから、きっと遮蔽物の無い所……ドアは閉められてない」

上条「上か!」

ランシス「いやだから引っ張――」

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――二階

上条(階段を上ってきたのは良いけれど、正面から左右、見渡す限りドア・ドア・ドア――)

上条「……こん中から探すのはちっと難しくねぇか……?」

ランシス「……でも、ない」

ランシス「一号室(仮)まで聞こえて、しかも 『籠もってない』声だから――」

上条「……近くにあって、尚且つ開いてる部屋――あそこか!」



――??の部屋

上条「どうしたっ!?何があっ――」

ランシス「……?」

上条(部屋に入った俺達は言葉を失った。『絶句する』なんて単語が頭に浮かんだのは、相当混乱してるって事なんだろう)

上条(多分ここは――主の部屋だ)

上条(整った調度品の数々、趣味の良い――か、どうかは分からない――ベルベットのカーテンの窓の外では、未だに雷雨が届いていたが)

上条(ベッドの側に倒れている人影は二人……あぁいや、一人と一つって言った方が正しいのだろうか?)

上条(……片方は、さっきのメイドさん)

上条(日本の大通りで客引きしているようなヤツじゃなくって、きちんとした長いスカートとエプロンドレス?の、まぁプロって感じ)

上条(バッキンガム宮殿で、護衛やってたメイドさんと似たような雰囲気ではある)

上条「……」

上条(……問題なのはもう一つ……少し前まで『一人』と数えるべきだったんだろうが)

上条(室内でもロングコート姿で襟を立て、分厚い鉄仮面で頭を覆った変質者――)

上条(――『殺し屋人形団(チャイルズプレイ)』のボスである『団長』が――)

上条(――何故床に突っ伏した姿勢のまま、身じろぎもしないんだ……ッ!?)

上条「……おい、立てる……か?」

メイド「――え、あ―」

上条(……こっちの、『これ』はおかしい。生きているのであれば少しは呼吸なり鼓動なり、反応を見せる筈だろ……!)

ランシス「……どいて……えっと」

上条「――大丈夫だ」

上条(『団長』が急に襲い掛かってこられても対処出来るよう、俺は右手を軽く握ってメイドさんを背へ庇う――ん、だが)

上条(杞憂だった、ってのが結論。それが何故か?)

ランシス「……これ」 ズリッ

メイド「――ひっ!?」

上条(ランシスが襟首を掴んで立たせようとする、その瞬間ズルリとコートだけが捲れた)

上条(何故か『団長』は上着を脱いでおり、頸の後ろから背中が見え、そこには――)

上条「――何も、無い……?」

上条(ポッカリと空いた空洞は、今にも朽ちそうな古木のウロ――英語じゃ『hollow』を彷彿とさせる)

上条(本来そこへ収まって無くてはならない脊椎・肉・脂がごっそり抜け落ち、抉り取られた不思議な何か)

上条(血の一滴も飛び散らさず、現実感に乏しい肉の断面を今も晒し続けているのを見て)

上条(……あぁもうコイツは息絶えるんだな、とようやく俺は理解してしまった)

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――1階 食堂

メイド「……お茶を、どうぞ」

上条「その、無理しなくてもいいんだぞ?」

メイド「あ、いえ、はい。働いていた方が、その」

上条「まぁ、好きなようにしてくれ。気持ちは分かるから」

メイド「……ありがとうございます」

上条(呆然とするメイドさんを正気付かせた後、俺達は一階の食堂へと戻ってきた)

上条(場所的には一階東側の大きな部屋。つってもこっちは使用人達が集まる部屋であって、内装は質素極まりなかったが)

上条(併設してあるキッチンで何か飲み物でも入れよう――とは、思ったんだけど、茶葉の場所も知らない俺じゃ役に立てず)

上条(……結局はメイドさんに入れて貰っちまった訳で……まぁ、美味しいアッサム?だったけど)

上条(ちなみに『団長』の遺体にはシーツを掛け、部屋には鍵をかけて来た。『現場保存』は常識の範疇ではある)

上条「……ま、この世界じゃどこまでマトモか分かんねぇんだけどな」

ランシス「……それは言ったらダメ、結局、手持ちのカードで勝負するしかない……」

上条「深いっすねー。ランシスさん」

ランシス「ってスヌーピーに書いてあった……!」

上条「深ぇなスヌーピー!?それとも俺の知ってる犬とは別種かっ!?」

メイド「あのぅ……私はどうすれば……?」

上条「ん、あぁごめんごめん。ちょっと聞きたい事があるんだ。つーか」

ランシス「(多分この事件を”解決”する事が……鍵、だと)」

上条「(りょーかい。まぁやってみようぜ)」

上条「えっと、そいじゃまずメイドさん、なんであの部屋へ行っ――」

ランシス「――犯人は、お前だ……っ!」

上条「手順すっ飛ばすなよ!?てかせめて話を聞こうぜ!?」

ランシス「……いや、なんかもう……容疑者総当たりで行けばいっかな、って……」

上条「探偵もの全否定っ!?」

ラシンス チョイチョイ

上条「ん、なに?」

ランシス「(刑事の取り調べは二人でする……片方が威圧的になって、もう一方が庇うように)」

ランシス「(……そうすれば容疑者は庇う側を『助けてくれる人』と勘違いして……おけ?)」

上条「(……なんか要らん知識が増えるなぁ……まぁ、おけ)」

メイド「……私が?団長を殺した犯人、ですか……?」

上条「そこは『団長』なんだ?別に偽名でも良くね?」

ランシス「ん……あの部屋は開いてた?閉ってた?」

ランシス「……そもそも用事はなに……?」

メイド「はい、お客様方がいらしたのでご報告に伺かうとしたら、鍵が閉っておりましたので」

ラシンス「……不自然、はいギルティ……」

メイド「待って下さい!何度声をかけても返事がなかったので!」

ランシス「主人の部屋に勝手に入るの……?」

メイド「まだ時間も早いので伏せっておられるのかと、それでとっさに!」

上条「鍵はどこから?普段から持ってんのか?」

メイド「マスターキーは、はい、こちらに」 ジャラッ

上条(重そうな鍵束。鍵の数は一、二、三……20は無いな)

メイド「いつもは家令が管理しているのですが、今日は外出しておりまして。私が代わりに任されております」

上条「家令?」

ランシス「……すっごい執事……」

上条「せめて執事長ぐらいは言えよ」

ランシス「……肌身離さず持ってる……訳、ないよね。邪魔だもんね」

メイド「はい、私の部屋に置いてありました……あ、でも部屋に鍵はかけていません」

ランシス「……犯人はお前だ……!」

上条「だから早いっつーの」

メイド「……私が鍵を開け、部屋へ入ったら……あんなっ!」

上条「あー、その後に俺らが来た、か……矛盾はないよなぁ」

上条「あ、それじゃさ。ほら、俺達の他に容疑者、ってか泊まってる人は居ないのか?」

メイド「はい、団長のご友人様方がお二人ほど……ですが」

メイド「元々の予定ではもうお一人いらっしゃる筈でしたが、雨で電車が遅れたと伺っております」

ランシス「……おおぅ、ミステリものではお約束……!」

上条「お約束言うな……うーん、って事はそいつらも犯行は出来た――」

ランシス「――とは、限らない。やっぱりあなたが犯人……」

メイド「そんなっ!?わたしが団長を殺したって言うんですかっ!?」

上条「どうやって?あの傷口を女の人一人で作ったのか?」

ランシス「……でも、この状況で真っ先に疑われるべきは、この人……違う?」

上条「そりゃ……そうだな。『団長』殺した後に叫べば出来ない事じゃないが」

メイド「じゃあなたは『私が団長を殺した』と?そういう結論で良いんですね?」

ランシス「……うんまぁ、総当たりで言ってけば、いつか当たる」

上条「意外にクロいな!意外でもねぇと最近分かってきたが!」

メイド「……」

ランシス「……どう?ハズレ……?」

メイド「……ンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!残っ念!」

上条「メ、メイドさん?」

メイド「残念ながら『私は団長を殺していない』んですよぉ、いやぁ残念でしたっ!」

上条「お前キャラ変わりす――」

メイド「――で、正解出来なかったランシス様には罰ゲームっ!」

ズプッ

ランシス「……か、え?」

上条(その瞬間、俺は見た)

上条(いつの間にかランシスの側まで回っていたメイドさんが、何の躊躇もなくその右手を開き――)

上条(――ランシスの脇腹を躊躇無く抜き手を突き刺した所を!)

上条「テメェえぇっ!」

メイド「おかけになって下さいお客様。ただ今ランシス様の心霊手術の真っ最中で御座いまして」

メイド「手元が狂うと大切な臓器を傷つけてしまうかも知れません――こんな風に」

ランシス「あ……くっ!?」

上条「……お前……!」

メイド「『Sit down, Please?(座るんだ、ボウヤ?)』」

上条「……」

メイド「そうそう。良い反応ですね。私大好物で御座いますっと」

ヌニュウゥッ

上条(そう言ってメイドは手を引き抜き、距離を取る。その手には何か!)

上条(子供の拳ほどの大きさ、赤黒い肉界が載っている……?)

上条「……罰ゲーム?どういう事だ……ッ!?」

メイド「だってお客様全員へ『犯人はお前だ!』、なんてされると困ってしまいますもの」

メイド「チート防止のためにペナルティを課すのは当然でしょ?ね?」

上条「おま――」

ランシス「『……Loki who is the god of the clown.. laug――』」
(……道化の神であるロキよ、嗤――)

上条(霊装を発動させるのか!?)

メイド「おっとタイムです。ちょっとお待ち下さい、ランシス様?」

メイド「確かにその、ロキ神の術式で私を倒すのは簡単でしょう。抵抗致しますが」

メイド「けれどその、こちらの手の中にはあなた様の『腎臓』が、文字通り握られてる訳でしてね」

上条「ハッタリだ!ここは夢の中――」

メイド「『夢の中で死ねば現実でも死ぬ』――同様に」

ランシス「……夢の中で怪我を負えば、現実の体もシンクロする……?」

メイド「嘘だとお思いでしたどうぞお試し下さいませ。私達『殺し屋人形団』の術式が、その程度だとお考えなら」

メイド「即死はしないでしょうが即入院。尚且つ『そこ』から足が着くのは避けられないでしょうが……さて?」

ランシス「……ルール、教えて……?」

上条「ランシス!」

ランシス「……乗る、しかない……!わざわざ臓器を潰してない、って事は、元へ戻せる……!」

メイド「仰る通りで御座います。では今からルール説明を致しますので、おかけになって暫しお待ち下さい」

上条「待て!どこ行く気だよ!?」

メイド「お紅茶が冷めてしまいましたので、入れ直そうかと。あ、上条様リクエストなど御座いますか?」

上条「あんたが煎れたもんでなきゃ、なんだっていい」

メイド「畏まりました。では失礼致します」

――食堂

ランシス「……っく!」

上条「大丈夫かっ……?」

ランシス「……ん、少しだけ痛い、から……」

上条「とても平気そうには見えねぇぞ……ほら、我慢すんなよ」

ランシス「胸が……ちょっと苦しく……んっ!」

上条「胸?胸が苦しいのか?……あれ、腎臓って確か腰の裏辺りじゃ……?」

ランシス「……さすって貰えれば、うん」

上条「そう、だったら――」

メイド「――すいません。私の『心霊手術(Bare-handed anatomy)』は、体外へ取り出しても、意図的に切断しないと入ったまま扱いでして」

メイド「あ、これアルフレドの時空間魔術の応用なんですけどね」

上条「どういう意味だっ!?」

メイド「ランシス様、痛いとか仰ってますけど全然痛くない筈ですよ?物理的には繋がったままですから」

ランシス「……ちっ」

上条「ランシスさんー?どういう事?ねぇ?」

メイド「本当に腎臓抜いた場合に起きる症状は、濾過機能低下により余剰な体液放出をする事での心不全、高カリウム血症と頻尿なので」

メイド「乳腺が痛いとか、おっぱいをさすさすしてほしい、みたいなのは典型的な美人局ですのでくれぐれもご注意下さい」

ランシス「……おのれ『殺し屋人形団』!……なんて恐ろしい敵……!」

上条「お前だな?この期に及んで余計な仕事増やそうとしたのはお前だよな?」

メイド「第一先ほどからお手を繋がれてて、とても仲の良いカップルとしかお見受け出来ませんけれど」

ランシス「……あ、意外に悪い人じゃない……?」

上条「……あれ?ここってそんな穏やかに話して良い場面か?」

ランシス「……殺すつもりなら最初からしてる、筈……それをしなかったのは、出来なかった、だけ……」

ランシス「……多分、『結果的に殺す』しか出来ないんだと思う……間違ってる?」

メイド「ご慧眼です――では、改めまして上条当麻様、ランシス様」

メイド「本日は当館、『悪夢館(Nightmare residence)』へようそこおいで下さいました」

メイド「我ら『殺し屋人形団』一同、心より歓迎申し上げます」

上条「そりゃどーも。それで?このまま無事に帰してくれはしないんだよな?」

メイド「凡愚の身ながら折角趣向を凝らしました故、どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さいますよう」

ランシス「言ったってムダ。多分、人形かNPC……」

上条「ノン……なに?」

ランシス「ノンプレイヤーキャラクター……中の人が居ないタイプのアバター……もしくは疑似人格……?」

上条「今みたいな受け答えしてんのにか?」

ランシス「んー……裏で操ってる人が居て、その人が動かしてるだけだから……ま、半自動……」

メイド「それでは『悪夢館』に置けるルールを説明させて頂きます。まず皆様の勝利条件は『真相の解明』で御座います」

ランシス「……真相?犯人じゃなく……?」

メイド「何度答えを間違われても構いませんが、間違う度にペナルティとして回答された方の臓器をお預かり頂く事となっています」

上条「臓器って……どんなグロいアトラクションでもねぇよ!」

メイド「ご心配なく。肉体から離れましても繋がっております。そういう『設定』の夢ですので、生活に支障は御座いません――が」

メイド「『夢で死ぬと現実でも死ぬ』の通り、そのまま夢が終わってしまえば保証は致しかねます。予めご了承下さい」

ランシス「……で、景品とかは貰える……?」

メイド「何かお望みのものでもあればご用意致します。勿論、現実で」

ランシス「……じゃ、『あなたの本体の場所』……」

メイド「畏まりました。上条様は如何致しましょう?」

上条「俺は保留で」

メイド「ではそのように」

ランシス「時間制限とか、そういうのは……?」

メイド「特に設定は御座いません。現実の体の方は眠っている状態で御座います」

メイド「ただし移動に関しては『他のお客様が居る部屋には同意が必要』であり」

メイド「また現在鍵のかかっている私室に関しても、『第三者の立ち会いが必須』」とさせて頂きます

上条「ゲスト?あぁ他にも二人居るっつったっけか」

ランシス「……私室?」

メイド「物置や書庫、資産を補完してある部屋だと思って下さい」

ランシス「重要なものが隠されている、とか……?」

メイド「常識的に言ってお二人が探偵役とは言えゲストはゲスト、もしかしたら加害者である可能性もあると言う事で御座います」

上条「……まぁな。ミステリもので探偵や相方が犯人だって事は結構あるしな」

ランシス「第三者、って事はあなたじゃなくても……?」

メイド「ゲストの方が同意されるのであれば、鍵はお貸ししましょう」

上条「勿論室外は」

メイド「下手すると『混線』する可能性があるため、GM側としてはあまり行かれない方が宜しいかと存じます」

ランシス「……BAN!……されるとどう、なるの?」

メイド「意識が無意識の海に溶けて消えるでしょうね」

上条「怖っ!?」

メイド「では今後の方針をお聞かせ願えませんか?ゲストを呼んでくるのでしたら、そのように致しますが」

ランシス「……質問。妨害とか、するの?」

メイド「証拠隠滅という意味では致しません。ただし私は日常業務――お二方やゲストのお世話、館の維持管理をしなくてはいけませんので」

上条「その仮定で『偶然片付ける』事はあると?」

メイド「はい。ですが、事件のあった部屋、また関係のありそうな場所は『警察が来るまで手を触れられない』のは当然でしょうね」

上条「ぶっちゃけ教えて欲しいんだけど、警察、来るの?」

メイド「……この雨と雷ですしねぇ。線路も崩れたとラジオでやっておりましたので、早くて2、3日はかかるのではないでしょうか?」

メイド「到着が遅れているお客様も、もしかしたら一緒においで下さるかも知れませんね」

上条「どうだ?」

ラシンス「んーむ……?ミステリの定番としては怪しい警部が到着、場を引っかき回す……」

ランシス「探偵が問い詰めると……実は遅れていた客の成り済ましだった、かな?」

上条「あー、あるある。どっかの天さ――天才とかな」

ランシス「……物語が行き詰まって新キャラ投入するラノベ……!」

上条「ラノベじゃねーぞ!確かに昔の探偵小説は今読むとアレっぽいのいっぱいあっけどさ!」

メイド「では如何なさいます?」

ランシス「……あなたは私達について来る……?」

メイド「ご希望であれば。無ければ通常業務へ戻りたいかと」

上条「今までの話に嘘は?」

メイド「『クレタ人は嘘を吐かないとクレタ人は言った』で、御座いましょうか」

上条「嘘吐きが嘘を言ってないとは言わないし、この先もどうかは分からない?」

メイド「信頼とは美徳であると存じます」

上条「大規模な術式に巻き込んだ奴の台詞じゃねぇな」

ランシス「んー……じゃ、取り敢えず他のゲストに会いたい……」

メイド「畏まりました。では暫くお待ち下さい」

――1階 食堂

アルフレド=W「あ、どーも」

上条「テメェかよ!?もっと他に人居なかったんかっ!?」

アル(アルフレド=W)「オイオイ他人様の顔見た瞬間にご挨拶じゃねぇか、あ?」

アル「挨拶って大事じゃないんですかねっ!おはようからおやすみまで重要なコミュニケーションだと思うんですけどおぉっ!?」

上条「少なくとも敵対してる相手に使うような挨拶は――言ってやれ」

ランシス「……『Shit Happens(災難だと思うんだぜ)』……」

上条「で、充分だコノヤロー」

アル「ウルセぇな、俺だって来たくて来た訳じゃねぇんだっつーの。何か今、みんな忙しくってヒマ持て余してたらな、『団長』が」

アル「『あ、ヒマならちょっと手伝って貰えませんかこのクソヤロー?』って」

上条「意外と喋るんだな。あの顔で」

アル「だよなぁ?意外と喋るんだよ、あの顔で」

アル「こないだなんかな、えっと24時間テレビで小児癌の子供が亡くなったってのをやっててだ」

上条「……おい、危ねー話じゃねぇだろな?」

アル「男の子が頑張って生きたのは良いよ?その子のママが看護婦になったってのも美談だわな」

アル「でもな、その子の写真をバックにして、一体何やるかと思ったら『全然関係ないババアが蕩々と歌う』んだぜ?スタジオで?」

アル「いやいや違うよね?そうじゃないよな?男の子生前ポケモンが大好きらしく、病室には一面ポケモンだらけなんだよ」

アル「だったらポケモンの曲流すのが男の子喜ぶんじゃねぇの?雰囲気ぶち壊しかも知んねーけどさ」

アル「少なくともその子が聞いた事もないような歌歌われてもなぁ、みたいな」

アル「で、そん時『関係ねぇよ、なんで来たババア?』って『団長』が隣で突っ込んだわ」

上条「関係ねぇな!話の本筋に全く必要ねぇ話ダラダラ語りやがって!」

上条「しかもいい歳したおっさんが一緒にチャリティ番組見んなよ!魔術結社のボスじゃねえの!?」

アル「とんでもねぇあたしゃボスだよ」

上条「帰れっ!お前からまともな話が聞ける訳がねぇっ!」

ラシンス「……タイム、仲が良いのは分かったから、イチャイチャしない……」

上条「した憶えはねぇし!テメェも『いやぁそれほどでも』とか恥ずかしがんじゃねぇ!」

アル「ちなみにもう一人の客もクリストフだから、俺と一緒で何も知らん!」

上条「バカじゃねぇの?なんでお前ら狂ってるの?死ぬの?」

上条「ユーロトレインん時も思ったけど、杜撰すぎるわ!あそこで事故ってたらお前も死ぬし!」

アル「……死ねればいいんだけどなぁ、マジで」

上条「何?」

ランシス「……それじゃ尋問するけど……いい?」

アル「どうぞー?つっても何も知らねぇぞ、いや本当で」

アル「『この部屋で待機して下さい』って奴に言われて、そんだけだし」

アル「途中、お前らの声が聞こえて、『あ、うわ面倒臭せー』とか思ってたぐらいか」

上条「メイドさんの悲鳴は聞こえた?」

アル「あー、なんかしたなぁ」

ランシス「……駆けつけなかったの?」

アル「なんで?」

上条「……お前適当過ぎるだろ……!?もうちょっとロールプレイしろや!」

アル「いやいやいやいやっ!俺悪くねぇって!だって突然すぎるわ!」

アル「寝た瞬間ここだぜ?事前に詳しい説明も無し、事後のフォローも無しで手伝えってそれどんなブラック企業だっつーの」

上条「ウルセぇよブラックロッジ(黒魔術結社)。お前らより黒い所はウチの学園ぐらいだよ」

ランシス「クリストフは……動いた、みたいだった?」

アル「いや……ドアの開け閉めの音はお前らしか聞かなかった、筈だな」

上条「ちなみに何してたんだ?」

アル「やる事ねーし、ラジオぐらいしか電気機器もねぇから不貞寝だ」

上条「……夢の中で寝れんのかよ?」

アル「俺は出来たけどなー」

ランシス「……あなたの術式で犯行は可能……?」

アル「待て待て、ちょい待てよマニア向け体型」

ランシス「『Loki who is the god of the clown.. laugh!』」
(道化の神であるロキよ、嗤え!)

ランシス「『The shout of the giant who shakes the earth crowds――』」
(大地を揺るがす巨人の咆吼を――)

上条「ホントに待ちやがれ!?霊装発動させてんじゃねぇよ!」

アル「ロキ?……ナグルファルか。また嫌らしい霊装隠し持ってんなぁ」

アル「まぁ俺の話を聞けってば。つか気になってたんだけども、『犯行』とかってナニ?何か事件でも起きたん?」

上条「マジで言ってのかよ、それ」

アル「時系列思い出してみろよ。登場人物がお前らと野郎、あと俺らだけだったら誰が教えてくれるんだっつーの」

ランシス「……『団長』が殺された……」

アル「――はい?マジすか?いやあの、マジで?」

上条「疑うんだったら見に行くか?もう一回現場調べる必要もあるだろうし、来いよ」

ランシス「第三者……だし、いっか」

――2階 団長の私室

上条(鍵を開けて俺達は入る――が、屍体はそのまま、なくなってたりもしない)

アル「……うっひゃー……なんつーか、マジか?つーかこれ死んでんの?」

上条「触るな触るな……グロいぜ」

アル「……なんだこりゃ、だなぁコイツぁ」

ランシス「死因はなんだと思う……?」

アル「あー……頸椎?首と胴体の付け根からゴッソリ持って行かれんな」

アル「断面図も人体標本のようにクッキリと綺麗なお仕事だ」

上条「人間業じゃねぇが……あ、お前には出来るか?」

アル「出来ない事ぁ無い。無いんだが……今、この状態じゃ無理ぽ」

上条「魔術師なんだろ?」

アル「……あんな、カミやん俺らの流儀に散々付き合ってきたのに、それ言うかね」

アル「俺達は基本不可能を可能にするような、ギネス級のバカがわんさり居んだけど、目的ってもんはあらぁな?あ、能力者でも一緒だけどよ」

アル「『○○したい』って目的がまずあって、それに合わせて努力するってぇのがフツーなんだわ」

上条「お前ら今更言われるまでもねーよ」

アル「だったら『こんな殺し方をするような魔術ってなんだ?』とか思わねぇのかよ」

ランシス「……」

アル「なんでわざわざ頸椎エグる必要性がある?」

アル「人体急所にゃ間違いねーけど、体の真後ろ、どうやっても狙いにくいじゃんか」

上条「……確かにそうだな。こんな魔術をかける意味が理解出来ない」

アル「同じ面積エグるんだったら、顔面狙ってブチ抜いた方が早ぇわな」

ランシス「……いいの?私達が有利になるよ……?」

アル「俺が本当の事を言ってれば、そうなるかも知れねぇよな」

上条「お前は『団長』がどんな魔術を使っていたのか、分かるか?」

アル「死んだ屍体と生きている屍体を加工するエキスパートだな」

上条「生きている屍体って」

ランシス「ブゥードゥー……?」

アル「さぁ?本人からは何も聞いてないから分からん」

ランシス「……」

上条「……これだけ鋭利に切り取っておいて、血の一つも飛ばさない……」

上条「キャトル・ミューティレーション?」

ランシス・アル「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!?」」

上条「息ぴったりだな電波系ども」

ランシス「……酷い」

アル「あー、ないない。アレ確か目とか性器とかくり抜く奴だろ?似てるっちゃ似てっけどよ」

アル「極端な話、目とか性器くり抜かれても即死はしない――し、下手すれば死なないぜ?」

上条「それじゃ何?あの家畜の屍体って、目立つ外傷があったのとは別に、致命傷になるなんかがあったって事か?」

アル「『傷口からは殆ど出血の跡が無かった』のは、裏を返せば『その傷がついた時には死んでいた』つー話だわな」

ランシス「……服、脱がせようか……?」

上条「気は進まねぇけど……するしかないんだよ」

アル「待てよ、服ぐらい自分で脱ぐぜ!」

上条「引っ込んでろ外野!どうしてこの流れでお前の服を脱がせようって話になるか!?」

アル「暇なんだよ!相手してくれよ!」

上条「面倒臭ぇな!だったらそこの本棚でも調べとけ!」

アル「任せろカミやん!」

ランシス「……あ、触りたくないからって逃げた……?」

上条「俺だって嫌だが、あのバカに任せるのはもっと不安で仕方がねぇよ!」

ランシス「それじゃ……」

上条「あぁ」

ランシス「……どうぞ?」

上条「……ですよねー、男の仕事ですもんねー」

ランシス「……あとでご褒美上げるから、うん」

上条「いや。要らねぇけど」

アル「あ、じゃあじゃあ俺が!」

上条「ぶっ飛ばすぞ変態?つーかテメー夢の中でやったって良いんだからな!」

ランシス「本棚は、どう……?」

アル「十字教関係が3割、医学書が2割。後は神聖文字(ヒエログリフ)っつー古代エジプトの文字で書かれた本ばっか」

アル「古いのはパピルスも混じってる……あぁ、これが夢じゃなきゃ高く売れるんだろうがなー」

ランシス「何が書いてあるのかは……?」

アル「詳しく見てないから何とも」

上条「つまり『団長』がエジプト関係の魔術師だって事か?」

アル「さー?どーだろうねー?」

ランシス「質問、あなたが今までに見た『団長』の術式はなに?」

アル「名前は知らねぇが、多分身体強化系の術式?」

上条「フランスの駅で見たアレか」

アル「それそれ。限界がどのぐらいは知らね。後は『心霊手術(Bare-handed anatomy)』か」

アル「素手で人体からガン細胞引き抜いたりする見世物あんだろ?あれの『ホンモノ』だな、これが」

アル「安曇阿阪から脳を抜いたのも奴の仕事だ」

上条「……ちょい前にライブで見たけどな」

上条(なんて言いつつ『団長』のシャツを脱がしにかかる……いや、予想以上に嫌な行為だわ、これ)

上条(敵だったからそれなりに恨みもあんだけどな。実感がないって言うか、そんな感じで)

上条(――そこで、相変わらず手を繋いだままのランシスが、何かの紙を……?)

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上条(……『アルフレド、ホンモノ?』……?)

上条(……あぁ了解。その可能性はあるよな。よく似てるが、向こうが用意したNPCだって可能性も十分ある)

上条(こっちに背中を向けたまま本棚を調べる――というよりは物色するアルフレドは俺達のやりとりに気づきはしない)

ラシンス カサッ

上条(少しだけタイミングを置いてランシスはメモ用紙を裏返す。えっと、何々……?)

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上条(『true→アイシテル、false→キスしたい』)

上条「屍体を前にしてかっ!?このタイミングで言い出すのは変態でも居ないっ!?不自然極まりねぇよ!?」

アル「……なに?どったの?」

上条「あ、いやこれは」

ランシス「……続き部屋に帰ってから、ね?」

アル「……ケッ!爆発しろリア充が!」

上条「違――わねぇけど!お前に言われるのは何か違げーだろ!」

ランシス チラッ

上条(分かってる)

上条「つーかお前すっかりキャラ変わりやがったな!ユーロトンネルの時はもうちっと真面目なキャラだったぞ!」

アル「……いや、俺は昔からこんなものだったぞ……(殺)」

ランシス「……妖怪キャラカブリ良くない……」

上条「俺が悪かったから元へ戻せ。会話のテンポ悪くなっから……あの時はお前がアリサ”に”助けて貰ってたから、イイヤツだと思ったんだがな」

アル「借りがあるがなかろうが、踏み倒すのが俺達の流儀だぜ?悪党に善意を期待する程、滑稽な事はねぇな」

上条「……あっちに戻ったら決着付けるからな」

上条(はいはいニセモノ確定っと。良く出来たアバターでも、記憶は完全に再現されてねぇと)

上条(よしじゃ早速ランシスに伝え――)

上条「……」

上条(――罠だっ!?つーか会話が不自然過ぎるわ!)

ランシス「……どしたの……?」

上条「誰かさんの張ったトラップに行くべきか悩んでんだよチクショー!?」

アル「男だったら戦わなきゃいけない時があるんたぜ、兄弟?」

上条「お前らの同朋なんて死んでもゴメンだが、その心は?」

アル「取り敢えず一回ヤってから考える!」

上条「ラテン系のノリが世界中で通用すると思ってんじゃねぇよ!それで済むんだったら弁護士は食いっぱぐれるわ!」

上条「……て、脱がし終わった、けど」

ランシス「……何もない、よね……?」

アル「どれどれオッサンに見せてみろ――て、確かに何にもねぇな」

上条「外傷は頸の後ろの1箇所だけ。死因の見当はつかない、な。医学の心得はないし」

アル「いや、その判断で間違ってねぇよ。死因らしい死因が見当たらない」

アル「体には圧迫痕も殴られた跡も無ぇ、綺麗な屍体だぜ」

アル「食い込んでる鉄仮面を外さなきゃ断言は出来ねぇが、毒物を飲まされたら口から吐き出す――その跡も無い」

上条「分かるのか?」

アル「あぁコイツぁまともじゃねぇ、どう考えてもおかしい」

アル「そもそも普通、死んだ後には死後硬直つって筋肉が硬化する現象が起きるんだわ。ミステリもんじゃ定番だよな?」

ランシス「現実の間違いじゃ……?」

アル「まー、あれもそんなに早く起きるもんじゃねぇんだが――こいつが殺されたとすりゃ、少しずつ固まってる最中。だってのに」

上条「――あ、マネキンみたいにすんなり服を脱がせられた!」

アル「始まってすらいねーんだよ、死後硬直」

ランシス「室温の差?」

アル「バラしてみねーとよく分からんが、屍体にしちゃおかしいってのが俺の見解」

上条「……いいのか?そんな事言っちまって?」

アル「……あんなカミやん、昔さ、RPG作るゲームってのが流行ったんだわ」

上条「あー……聞いた事、あるような?」

アル「仲間の強さ決めて、敵はどんな攻撃するとか、ステータスだとか決めんだけど――」

アル「――必ず勝つようなゲームやったって、面白くもなんともねぇだろ、な?」

――1階 1号室(仮)

上条「……」

上条(物語と違って、探偵が万能と言う事は有り得ない。欲しい時に欲しい知識が得られる――なんて事はまずなく)

上条(あの後、アルフレドを部屋に帰し、戻ってきたメイドさんと他の部屋を探し回ったが、証拠らしい証拠は出て来なかった)

上条(時計は止まったままで分からないんだが、ランシスがそろそろ疲れた顔をしていたので今日はもう休む事にした)

上条「……」

上条(気晴らしにラジオを付けてみたが、そこから流れるARISAの歌は途切れ途切れのもので……)

『私の虚は満たされない』

『バラを差して飾ったとしても、この心は埋められない……』
『貴方を傷つけ、流れる血潮を飲み干したとしても、喉の渇きは心を裂く』

『墓穴の底から見上げる月はキレイで』
『暗く冥いハコを照らす』
『朝の来ない夜に抱かれ、眠ろう』

『パンドラは閉じられない』
『いらないモノを幾ら詰め込んだとしても、フタが開く』
『貴方を殺めて、溜まった肉を受け入れたとしても、ムネはカラッポだろう』

『墓穴を見下すソラは醜い』
『明るく穢れたハコを映す』
『明けない夜を堪え、眠ろう』

上条(――とまぁ鬱になるっちゅーぐらい暗い歌詞だ)

上条「……でもアリサ、こんな歌あったっけ……?」

ランシス「……考えててもしょうがない。取り敢えず、寝よ……?」

上条「おお、おぅっ!」

ラシンス「……緊張してる?」

上条「ぜ、全然全然っ!?俺はいつも平常心だぜ!」

ランシス「なんかもうツッコムのも面倒……」

上条「疲れる……あぁまぁ疲れるよな、そりゃ」

上条「外は相変わらずの雷雨で真っ暗、時間感覚はマヒしっぱなしだし、どっから監視されるか分かったもんじゃないし」

ランシス「……確実にされてる、よ……?今でも」

上条「だわな。フツーだったらそうする」

ランシス「……だから内緒話をする……ちょっと待ってて……?」

ランシス「『Loki who is the god of the clown.. laugh!』」
(道化の神であるロキよ、嗤え!)

ランシス「『The shout of the giant who shakes the earth crowds it about the dead who change the revolt to foolish Cyclops!』」
(大地を揺るがす巨人の咆吼を、愚かなキュクロプスに反旗を翻す亡者の群れを!)

ランシス「『"The dead dye the sky to the previous notice of the flame in red, and do not raise its fist even if it dispels one's melancholy!』」
(天空は炎の先触れに赤く染まり、死者は憂鬱を晴らそうと拳を上げん!)

ランシス「『Give the mistletoe Now blind to the hero! To dispel thine disgrace, all!』」
(さぁ盲目の英雄へ宿り木を持たせよ!全ては汝の屈辱を晴らすために!)

ランシス「『The dead will come! The dead came! All are mangling!』」
(死人が来るぞ!死人が来たぞ!全てはぶち壊しだ!)

ランシス「『――神々の黄昏が来た!』」
(――Ragnarok, Now!)

ランシス「……最大稼働、『死の爪船(ナグルファル)』」

上条「ここで霊装かよっ!?」

上条(ランシスの両手の爪が赤紫色の鈍い光りを放ち、そのまま30cm程伸びた!)

上条(どう見ても禍々しいそれをこちらへと向け――)

上条(……本当に、というか、そもそも、というか、最初っから、というか)

上条(『彼女は俺の知っているランシス』なのだろうか……?)

上条(この旅行中、なし崩し的に仲良くなったベイロープやフロリスとは違う。俺は彼女の事を殆ど知らない)

上条(だから『彼女』が正真正銘、本物のランシスであるかどうかなんて――)

ランシス「……どう、怖い?」

上条「そりゃ……急、だったしな」

上条「てか、何するんだ?突然霊装なんか持ち出して」

ランシス「……それはきっと、言っても意味が無い」

上条「ん?なんで?」

ランシス「私が何を言おうとも……信じるかどうかはあなたにかかってる、し……?」

ランシス「……口先だけでどんな綺麗事を言っても、本質は変わらない……」

上条「……だな。それはきっと、その通りだ」

上条(どんだけ安心だ安全だ、っつても。言った相手が信用出来ない相手なら、どんなご立派な言葉も上滑りするってだけの話)

上条(……じゃ、俺はランシスを――目の前のランシスの姿をしてる相手を信じられるか……って言ったらまぁ)

上条「……一つだけ、聞きたい」

ランシス「……なに?私のカップ……?」

上条「興味無い――事はねぇが、それは現実に戻ったら拝みこんで聞くさ」

ランシス「んー……?」

上条「お前の故郷の話を聞かせてくれよ。多分それで分かる」

ランシス「……あれ?言った事、無かったよね……?」

上条「ん、まぁそうだけどさ。時間が許してくれるんだったら」

ランシス「……じゃあまぁ、簡単に」

ランシス「……私の故郷は北アイルランド。とても寒くて厳しい所……」

ランシス「夏は短くて陽射しも弱い……冬は雪が降らなくて、飲み水に困る……」

ランシス「……ケルト発祥の地――とか、一時期持て囃されてたけど、今じゃそうでもないって説が有力らしい」

上条「ケルト?」

ランシス「……うん。妖精や精霊、幽霊みたいな神話が多く、て……」

ランシス「ウィル・オー・ウィスプって知ってる……?」

上条「鬼火だっけか?」

ランシス「……私も昔ね、寮の裏手に光る玉を見つけて、学校で喋ったの。でも」

ランシス「……誰も信じてくれなくって、ちょっと悲しかった……」

上条「まぁ……かも知れないよなぁ」

ランシス「……でもその日の夜、『なんであなた早く言わないんですかっ!』って、一緒に探しに行ってくれたのは……」

上条「……すげーなレッサー」

ランシス「……私、虐められてたから……」

ランシス「長い間……北アイルランドはイングランドにテロをしてた……そのせいもある」

ランシス「誰かが起こした戦争で、誰かが死んだ責任を取れ、とか……たまに言われるけど」

ランシス「……殴ってくれるのは……うん」

上条「……」

ランシス「……私は北アイルランドが好き。人が住むには、少しだけ厳しい所だけど……」

ランシス「けど、今のみんなと出会えて……とても、好きになった」

ランシス「……もし私が北アイルランド出身じゃなかったら……きっと、あの夜も怖くて震えてただけで」

ランシス「レッサー達と友達には、なれなかった、かも……?」

上条「……なぁ、俺達この世界から帰ったら記憶がなくなったりはしないよな?」

ランシス「?……大丈夫、だと思う……よ?」

上条「そか。だったら次からは――」

ランシス「……うん?」

上条「――俺もぶん殴る側に回っから、そん時は呼んでくれよ?」

ランシス「……大丈夫。もう必要無いし……」

ザシュッ……!!!

――???

上条「……」

上条(体が動かない……てか、いや、あるのか?体?)

上条(夢を見てるような……夢の中で夢を見る?電気羊どこじゃねぇな、これ)

上条(ランシスの霊装で攻撃された所までは憶えてる――な?現実、とは違うが、ありゃ一体何を――)

?『――私に、裏切り者になれ、と……?』

上条(……喋ってるのは、俺か?視線の先にいるのは誰だ?)

?『あなたはそんな……そんな残酷な命を下されるというのか――』

?『――『王』よ……っ!』

上条(俺……てか、コイツが話している相手は『王』……?)

上条(……霞かがって見えないが……)

王『あー、いやいや気持ちは分かりますがね。相性の問題でしてね、単純に』

王『私達が倒した竜だって、ありゃ「魔」のカテゴリへ入っていた訳で』

王『デミウルゴスが切り離した闇の側面。多神教が一神教へ生まれ変わるための儀式』

王『本来であれば一つの神が持っていた闇の部分を排除し、人格――神格を得た、と言いましょうかね』

上条(王様随分フレンドリーじゃねぇか)

王『ですがまぁ、それ故に。この「剣」にとっちゃ相性は抜群だったんですがね、えぇえぇ』

?『だから!私に!仲間を斬れと!?』

王『……そうですね。斬って下さい』

王『出来れば、この私も――ま、そちらは別口が予定済みですがねぇ』

?『……王よ……!』

王『そうすれば貴方の剣には「仲間殺し」――つまり、「魔」が宿る』

?『そこまでして!どうしてそこまでして「魔」を取り入れる必要がおありか……!?』

?『あなたの「聖剣」!そして「聖杯」で打ち負かせぬ悪などあろう筈が……!』

王『……次の相手は「神」だからですよ。先生の予言に拠ればそう出たと』

王『創聖の力を持ち、世界の有り様すら容易く変えてしまうような、紛れもない存在』

王『彼女相手に私の剣では力不足……』

王『まっ、大ハズレだったらどーしまょうねー?あっはっはっはー!』

上条(突っ込みてぇ、「勝手だな!?」って全力でぶちのめしたい……!)

王『――と、それとは別件なんですが、その、アレがですね?』

王『やはり好きな相手と添い遂げた方がいいんじゃないかなー、なんて思ったりもする訳でしてね?』

?『……王!』

王『あぁご心配なく。私はどうせ本質的な意味で死ねやしませんから』

王『今、この身が死に至ろうとも、それはあくまでも暫しの休息の時に過ぎません』

王『リンゴの園にて死して夢見る永劫の日を重ね――そしていつの日か、きっと』

王『我が王国に危機が及べば、寝床から叩き起こされて、戦場へと馬を駆りましょう』

王『ただそれだけの話ですよ。それだけの、ね?』

?『……』

王『貴方や斬った騎士達も、どうせまた呼んでもないのに駆けつけるでしょうから』

王『それとも……貴方は私にこう言わせたいと――』

王『――最も勇敢で騎士の中の騎士L――よ、我が下命を聞けぬのか、と』

?『……あい分かりました我が王、キャメ――の――よ!』

?『我が忠誠を試されるのであれば、それに応えぬなど騎士の恥!どんな命をも見事成し遂げて見せましょうや……!』

王『……ごめんなさい……貴方に汚れ仕事を押しつけてしまって……!』

?『何を仰る。他人には好きに言わせておけば宜しい――が、もし』

?『逆賊の汚名と引き替えに褒美を賜れるのであれば……ただ一つお願いしたい義か』

王『……えぇ。私に叶えられる事であれば』

?『ならばどうか!貴方の命を受け殉死した騎士、そして私が今から命を奪う騎士――』

?『――次に集う時は彼らの早参をどうかお認め下りますよう……!』

王『また物好きな。どうせB――卿やF――卿の、帰参――』

上条(ノイズ……?段々小さくなっ――)

王『好きにす――L――卿。貴方は戦い――果てぬ――国を――』

王『集う――そう、それが――』

王『――私の、円――へ……!』

――???

上条「……」

上条「……なんだ。今の夢は」

ランシス「……あ、ゴメ……混線した……」

上条「ランシス……ここは?」

ランシス「夢の中の夢……術式が成功していれば、だけど」

上条(視線がどうも横向きになってる――あぁ横向きになってるのか)

上条(どことも知らない狭い部屋の一室で、俺達は向き合って横になっている……正直、恥ずかしいぐらいに近い)

上条(それもその筈、俺は右手で彼女の左手を握り、俺の左手は――)

上条「……なんだ、これ?……剣?」

上条(俺達二人の間には抜き身の剣――それも、漆黒を固めて作ったような、禍々しい色をした剣が一振り)

上条(俺とランシスはその柄を握り合っている……)

上条「えっと、これは……?」

ランシス「……これは誓い……『私』の話じゃなく、『これ』もカーテナじゃないけれど……」

ランシス「……こうすれば、あの時も……」

上条「カーテナ?キャーリサが振り回してた、イギリスの聖剣、だったよな?」

ランシス「時間が勿体ないから、話を進める……結局、『犯人』は誰か分かった……?」

上条「お、おぅ!そうだよな、まずそっちの心配だよ……な?」

ランシス「……ここは大丈夫。夢の中で、夢を見るように隔離してある……先生が得意だった術式」

上条「……色々文句もあるが、基本スペック高いんだな。お前らの『先生』」

ランシス「『あっち』で監視してる人達には、ただ眠ってるとしか映らない……オーケ?」

上条「了解」

ランシス「……じゃまず、何が起こっているのか、を」

上条「魔術的な誘拐、っつーか意識を奪う?まぁとにかく不思議パワーで俺達はこの館に連れてこられた」

上条「どうしたもんかと悩んでいたら『団長』が殺されて、それを見つけるのがゲームだと言われてる……」

上条「……なぁ、今思ったんだけど『団長』は死んだんだよな?」

ランシス「あの部屋にあった屍体が本人のなら、まぁ……」

上条「だったらこの、あぁいやあっちの『館』を維持してるのって、誰だ?」

ランシス「普通に考えれば構成員……?……少し捻ればアルなんとか?」

上条「だよなぁ?順当に考えればメイドさんが最有力候補――あ、そうそう、伝えるの忘れてたけど、あのアルフレドはニセモンだった」

ランシス「……メモにはこっそり伝えるサインを書いたはず……」

上条「言えるかボケっ!?あんな切迫した状況で愛の言葉を囁くのはフランス人か変態じゃねーか!」

ランシス「……ちっ」

上条「……いや、てーかさ思ったんだけど、なんであれ『アルフレドである必要があった』んだろうな?別に他の奴でも良かったのに」

ランシス「……必要?顔なじみのアバターの方が作り易いんじゃ……?」

上条「いや、だからな?俺達に謎解きゲームなり、探偵ゴッコを本気でさせるんだったら、アルフレドと同程度の医者?か元警官?とかでも充分だし」

上条「なんでまた野郎のニセモンなんて作る必要があった?どういう必然性がある?」

ランシス「……考えられるのは……『実在する人間を取り込んでる』って思わせたかったのかも……」

上条「なんで?だったら別にアルフレドじゃなくって、そこら辺の一般人を巻き込むフリをすれば良かったんじゃ?」

ランシス「……このシチュエーション自体、最初からあからさまに不自然だった、よ?」

ランシス「肖像画もそう……『団長』やメイドの演技も、過剰だった……」

ランシス「……だから『この世界”は”作り物だけど、登場人物”だけ”は本物』だと……」

ランシス「私達に思わせたかった……」

上条「……それをする事にどんなメリットが――」

ランシス「……想像は、出来る」

ランシス「例えば、こんな無茶な術式、他人の意識を取り込めば取り込むだけ、制御が難しくなるし……」

ランシス「何より遣う魔力がインフレ……」

上条「と、するとメイドさんもNPC……いや、でも待てよ?おかしいって違和感が」

ランシス「?」

上条「話から察するに、『館』に居るのは俺達を除いて、NPC――『殺し屋人形団』の誰かが操ってる人形なんだよな?」

ランシス「……多分」

上条「『それがバレるのがどうして拙い』んだ?」

ラシンス「……どういう意味……?」

上条「例えば……そうなぁ、最初から全部が全部作り物めいてただろ?シチュにしろ、演技や台詞もだ」

上条「だったら別に、登場人物がマネキンに服着せたとかで良くないか?デフォルメした人形でも充分――」

上条「……」

ランシス「……途中で、どうしたの?」

上条「……必要だったから、か?……いやいや、そうすると」

上条「リアルなNPCじゃないと、俺達は『勘違い』しない……そう、か?」

ランシス「……」

上条「そう考えると筋が通――」

ランシス「……よっ、と」

キィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!

上条「ひぃぃぃっ!?耳が!耳が耳がっ!?」

上条「――ってテメー何引っ掻きやがった!?」

ランシス「剣を、こう……『死の爪船(ナグルファル)』で、きぃぃっと」

上条「大事な剣に何やってやがんだよ!?」

ランシス「……別に、夢の中だし……?」

上条「意外に現実的だった!?」

ラシンス「……あ、でも壊れたら現実にフィードバックする……」

上条「たまーに思うんだけど、なんでお前ら魔術使えるのに後先考えねぇの?B・ハロウィンの時も思ったけどな?」

ランシス「……で?何か分かった……?」

上条「……何となく、だけど。一通りの理屈はついた気がする」

上条「どうして本物と錯覚させるNPCを使うのか?」

上条「そいつらが本物のフリをしなくちゃいけないのか?」

上条「『団長』の体の痕跡や殺したのは誰か?」

ランシス「……ホント?」

上条「……『充分に発達した科学は魔法と見分けがつかない』って、誰かの言った台詞だけど」

上条「『効率を追求しすぎた魔術と科学は同じ方向へ進化する』――つー、話だよ」

上条「ま、なんだ?つまりは――!」

ランシス「謎は全て解けた……ッ!!!」

上条「それ俺の台詞だっ!?」

ラシンス「犯人はこの中にいる……ッ!!!

上条「え?ここへ来てまさかの二択っ!?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

来週でランシスさん編終了。次はレッサー編さんでしょうか。気がついたらこのスレ書き始めて6ヶ月目突入ですね

乙です!
相変わらずクオリティ高くてすごい!
ランシスって原作でほぼ登場してないようなもんなのにうまいな
でも>>718のフロリスって誤字だよね?


そういえば、国のピンチに復活する的な伝承ありましたねアレ

>>748
フロリス「Oh,.......やっちまったぜ。ランシスとワタシって下二文字の母音が『イウ』だから、よく間違えられるんだーよねぇ」
フロリス「何度も何度も名前書くと段々ゲシュタルト崩壊するっちゅーかな、うん」
>>752
フロリス「そいつぁSecretで頼むよジャパニーズ。ワタシらの出番が来ない方が楽ジャン?……ま、どーなるかわっかんないケドさ」

真面目な話、『原作の裏設定(※伏線)食っべっちゃっうっぞー?by木原円周』的なつもりで書いてます

――『悪夢館』 1号室

メイド「大変です上条様っランシス様っ!アルフレド様が――」

上条「――『部屋の外から声をかけても返事がない』?」

ランシス「……それども『食事の時間に姿を見せなかった』……?」

上条「セオリーからすりゃ、そろそろ次の事件が起きないと読者は飽きる頃だけどさ」

ランシス「……最初にライバル宣言した奴、もしくは友好的な協力者がリタイアするのもよくある話……」

ランシス「大体ゲストキャラのヒロインは死ぬか犯人かの二択……」

ランシス「……ま、専門用語で『当て馬』」

メイド「えぇと、どういう事でしょうか。これは?」

上条「ここは狭い。取り敢えず説明すっから場所を移動しようぜ……そうだな、食堂がいいか」

メイド「書庫でスタンバってるアルフレド様は如何致しましょうか?」

上条「の『屍体』だろ?別に中の人が奴って訳じゃねぇんだから、ほっとけ」

ランシス「……一応見ておく……?」

上条「必要無い、時間の無駄だって。俺達の推測が当たってるのなら」

上条「どうせ『団長』と同じく、『鋭利な刃物で頸椎を抉られ、且つ血の一点も流れていない屍体』なんだろうから」

――1階 食堂

上条「んじゃまぁどっから話したもんか。ま、解決編って事になんだろうけどさ」

ランシス「この話の黒幕は……あなた」 ピシッ

メイド「……それ、昨日やりましたから。他の臓器も取って欲しいのであれば、そのように致しますけど?」

メイド「『私が犯人である』――との問いに関して、否定致しましたから」

ランシス「……それは違う。『事件の犯人』”ではない”と言うだけ……」

ランシス「でも、このお話の狂言回しは……メイドさん、違う?」

メイド「具体的には、どのような?」

上条「おかしな話、つーか違和感は最初っからあった訳で」

上条「あんたが一貫して『殺人』とか『犯人』なんて、『自分からは言い出さなかった』のもおかしい」

上条「俺達の言葉を受けて否定する以外じゃ、全くっていうぐらい使ってなかったろ?」

メイド「そうでしたでしょうか?気が動転しておりましたので、あまり憶えておりません」

ランシス「……に、加えてこのゲームの勝利条件が『真相の解明』であって、『事件や犯人捜し』なんかじゃなかった……」

ランシス「これはきっと……私達にミスリードをさせるため……うん」

メイド「ミスリード、で御座いますか……承知致しました。そこまで自信がおありであれば、世間話ではなく『回答』として伺います」

メイド「勿論不正解だった場合には『ペナルティ』が適宜加えられますので、どうかご注意下さいませ」

上条「注意ねぇ?こっちをバラしたくてうずうずしてるようにしか見えねぇが――んじゃ、順番に行くぞ」

ランシス「……ホワイトボードみたいなの、ある……?」

メイド「時代設定と舞台背景としては矛盾致しますが、まぁ――こんな事もあろうとか、こちらにご用意して御座います」 ガラガラ

上条「ご丁寧にどーも。便利だな夢……しかもこれチョーク用のじゃねーか」

ランシス「……おっさんが泣いて喜ぶ昔の学校……」

上条「ウチの学校は今もこのタイプだよ!悪かったな未だに使っててさ!」

上条「……まぁ気を取り直して――この『事件』、大まかに分けて謎が三つある」

1.密室
2.殺害方法(凶器)
3.遺体の傷

メイド「その通りで御座いますね」

上条「それじゃまず密室だ。マスターキーは一つ、部屋の持ち主が持つ鍵は――」

ランシス「……あ、聞くの忘れてた」

メイド「部屋の中にありましたが、というか無かったら指摘しております」

上条「どのようにして密室を作り上げたのか――!」

上条「……いやごめん、全っ然分からなかった」

ランシス「……な、なんだってーーー……」

メイド「……上条様……?」

上条「待て!抜き手のまま近づいてくるな!?せめて話は聞きなさいよっ!」

メイド「あ、いえこれはただの職業病ですのでお気になさらず」

上条「どんな仕事?検視官か猟奇殺人鬼以外にないよな?」

メイド「冗談で仰っているのであれば、質が悪う御座いますよ」

上条「いや、なぁ?だって考えても見ろよ」

上条「魔術師なら鍵の一つや二つ、どうにでもしそうじゃね?最新式の網膜認証システムとかじゃなかったら」

ランシス「ん……?盗り外せば、可能……」

上条「おっと猟奇的な発言は慎んで貰おうか!主に俺が正気でいられるためには!」

上条「……密室にしたってなー。魔術じゃなくても合鍵だ針金だなんだで開けられるもんだし?」

上条「中のロックしてる部分を動かすとか、構造自体を変えちまうとか」

上条「外から入って来る、透明のままで居る、転移を使う……選択肢は腐る程ある」

上条「他にも常識的に考えようぜ?例えば鍵穴一つにしたって、針金で開けたとするな?」

上条「多分探偵役の奴が『不自然に引っ掻いたような痕跡が……!』とか、言うのかもしんねぇけど」

上条「『こっそり開けようとしてる側にとっては想定内だよね?』って」

メイド「えっと、仰る意味が……?」

ランシス「人を殺す……衝動的か計画的なのかは分からないけど、まぁ仮に盗みに入ったとして主人と鉢合わせ……」

ランシス「もみ合ってる内に誤って殺す、のは杜撰な計画でも可能は可能……」

ランシス「……でも逆に『違法行為をしているのだから、最初から痕跡がバレッバレなのはおかしい』……って」

ランシス「鍵穴にしろ、殺すつもりはなくっても……完全犯罪を目指すだろうから、わざわざバレやすい方法は取らない……」

上条「つーかさ、『この世界はフイクションの探偵ものじゃない』んだ。それが大前提」

上条「俺の言っている意味、分かるか?」

メイド「……すいません、理解出来ません」

上条「フィクションの探偵っては『事件の解決させるために居る』もんだろ?」

上条「だから半端ねぇコネがあったり、同世代だけじゃなく人類レベルで卓越した頭脳を持ってたり、天才的な相棒が側に居たりする」

上条「つまり『登場した瞬間に事件を解決出来る能力を持ち合わせている』んだわ」

ランシス「……ヤな言い方をすれば、凄惨な事件も、悪逆な犯人も、悲しみに打ち震える被害者の家族ですらも……」

ランシス「『探偵を華々しく活躍させるためのギミック』、にしか過ぎない……」

ランシス「……他を全部無能にして、常識すらも踏まえていない――踏まえ”られ”ないような衆愚へ落とし……」

ランシス「『探偵がどれだけ有能で素晴らしく』、引き立てるためだけに……」

上条「……ま、そこら辺は他のジャンルも似たり寄ったりだと思うがなー」

メイド「それとお二人のお立場とが、どう関係されてると?」

上条「ん、まぁ難しいこっちゃなくてだ。俺は、素人だ」

上条「持ってる知識は高校生の大半と大差ないし、犯罪についても、医学についても、トリックなんかは特に専門外だ」

ランシス「……私も、本のジャンルとはしては好きだけど……それだけ」

上条「つまり、つまりだ。俺達が言いたいのは――」

上条「――『最初っからこのゲーム、解けるだけのパズルが用意されてない』って話」

ランシス「……だから私達は『真っ当な方法』での解決は諦めた……」

――食堂

メイド「それはまた……ギブアップ宣言なのでしょうか?」

上条「違う。お前のミスだって言ってる。パズルのピースが足りてないんだよ」

上条「必要最低限の情報すら貰えず――それでも解決は出来るだろうな、『探偵』なら」

上条「何故なら『探偵が登場する物語は解決が約束されている』からだよ」

上条「……俺達とは、違う人種だな」

ランシス「……でも、別の方法でなら道はあるかも知れない、それは……」

ランシス「『あなた』の術式の解読……」

メイド「私の、でしょうか?『団長』ではなく?」

上条「惚けるなよ、つーか正確には『お前達』っつった方がいいのか?なぁ?」

メイド「NPCは確かに団員が扮しておりますが」

ランシス「……『団員』の中には『団長』も含まれるよね……?」

メイド「……」

上条「ここで、もう一つ疑問を別口で整理してみる」 カッカッ

1.何故「夢」なのか?」
2.実在の人物を模す意味は?
3.最終目的は何か?

上条「俺達――てか殆どランシスの持ってた魔術知識がベースだけど、大体は見当がついたんだ」

上条「んじゃ順番に追いかけてみると――」

ランシス「……『夢』系の術式は前準備が必要……の、割に、相手は霊装も術式も持ち込めるし、術者本体が無防備になる……」

ランシス「……しかも莫大な無力を消費する上、巻き込む人間が多ければ多い程、制御も困難、消費も桁違い……」

ランシス「造り出す仮想世界……この『館』みたいに、リアルな設定にすると更にヒドい」

ランシス「補足しておくと……『団長』ぐらいの、近接戦闘も出来るタイプなら……直接単身で乗り込んで来られると、ちょっとヤバい」

上条(と、ランシスのダメ出しを箇条書きにする) カッカッカッ

a.事前の準備が面倒。術者本体が無防備
b.相手は霊装を(身につけていれば)持ち込める。術式も使える
c.魔力消費高め+人が増えると比例して上がる
d.リアル設定にすればするほど面倒臭くなる

上条「――と、まぁデメリットだらけで。『今』の魔術サイドじゃメジャーじゃないんだよな?」

ランシス「……うん。獣化魔術と同じ、廃れた技術……」

上条「でも『殺し屋人形団』にとっては、そこまでしてもこの術式を使う理由があった」

上条「以上を踏まえて2の疑問。『登場人物に実在の人物を出す意味』なんだが」

上条「あ、ちなみに昨日会ったアルフレドはブラフかけてニセモノだと判明済みだぜ」

上条「ユーロトンネルの中、奴はアリサに助けて貰ったんじゃなく、助けた側。しかも助けられたのは俺だよ」

上条「外見や性格もよく似てると思ったが、似てるだけで本物じゃない。んでランシス」

ランシス「……あれだけ『精巧なニセモノを登場させる必要性が理解出来ない』、よ……?」

ランシス「知り合いの方がイメージはし易いけど……他の人に違和感ないレベルで再現させるのは、相当の観察と調節が必要……」

上条「極端な話、『団長』やアルフレドを出さなくても、ふなっし○のぬいぐるみでも置いて、ナイフ刺しときゃ意味は同じだった筈だ」

上条「『さぁこれは殺人犯が居ますよー、頑張って解決しましょうねー』ってな感じに」

上条「人狼っつったっけ?あれみたいにな」

ランシス「……逆に『これがお芝居じゃないガチ事件です』って思わせるんだったら、リアリティは必要不可欠……だけど」

上条「最初から『これは真相を解き明かすゲームです』って明言してんだから、下手に凝る必要はないってね」 カリカリ

e.不自然なリアリティのキャスト達

上条「で、ここで最初に戻る――メイドさん、あんたがどうして『断定する言葉を使わなかった』って話に」

ランシス「……『殺人事件が起きた』とか、『死人が出た』とか……そういう事は、決して言わなかった……」

メイド「ですが、そう判断されたのは、部屋を見たお二人ではありませんか?」

上条「その通り。『判断したのは俺達』だ。ここ重要だ」

ランシス「……もひとつ大事……」

上条「なに?」

ランシス「今も……『現場』や『遺体』って言葉を使わなかった……」

上条「あー、成程。回りくどい言い方しか出来ないもんな」

上条「言質を取られないようにするため、具体的にどうこうは言えない縛りがある」

上条「……で、ここで質問だ、メイドさん」

上条「『団長』の部屋、あそこにあった”モノ”。多分あんたが悲鳴を上げた原因でもある」

上条「”アレ”はあんたの目にはなんて映った?」

上条「俺達が『団長の屍体』だと思った”アレ”。あんたはどう思う?一体何に見えた?」

メイド「……」

ランシス「……嘘が吐けないけど、沈黙は許される……まぁ、ミスリードを誘っておいて、今更な気もするけど……」

上条「言いたくないんだったら別に無理に言う必要はない」

上条「どっちみちこのゲームの勝利条件は『真相の解明』だから、正解だったら正解って言う義務がある――」

上条「――よな?正解なのに正解扱いされないとか、まさかそこまでデタラメじゃねぇよな?」

ランシス「……ん、まぁ向こうがルールを守らないのなら……うん」

上条「……まぁ、いいや。話を戻す、えっとだな」

上条「最初に書いた三番目、『最終的な目的は何か?』って……ま、真相の答えだな」

ランシス「……『犯人を捜せ』じゃない……『事件を解決しろ』でもなく……」

上条「何故か『真相の解明』だ。おかしいだろ、っつー話」

上条「……正直言って、俺達に探偵さんが持ってるようなスキル。例えば医学だったり、話術だったり、博識だったりとか?」

上条「そういう知識があったら、逆に正解へはたどり着けなかった。そんな気がする」

上条「いつも得体の知れない相手の、ワッケ分からん魔術師と能力者の攻撃を受けてなきゃねっ……!慣れっこだもんねっ!」

ラシンス「……よしよし」 ナデナデ

上条「……あんたは何かを隠してる――だけじゃない、誤解させようとしていた」

上条「言い方もそうだし、もっと相応しい呼び方も無視している。それは何のためだ?」

ランシス「精巧に造られた屍体……アルなんとかと寸分違わないNPC……それが用意された理由、推測すると――」

ランシス「――最初っから殺人事件なんて、起きてなかった……!」

メイド「……?」

上条「そもそもで言えば、アレだよ。『団長』は死んでなんか居なかった」

上条「もしそうだったらこの館自体の維持なんか出来なかったろうさ。なぁ――」

上条「――『団長』さんよ?」

上条(そう言って俺は奴をはっきり見据える)

上条(俺の真っ正面ら立ち、先程から下を向いて俯く”演技”をしている――)

上条(――『メイド』をだ!)

メイド「……私が、『団長』だと……?」

ランシス「……そ、あなたが『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』のボス……」

メイド「では最初の部屋で見た光景は――」

上条「だから殺人じゃねぇんだよ。ありゃタダの『霊装』だ。違うか?」

メイド「あれが?しかし傷付けられていたように見受けられましたが?」

ランシス「……違う……あれはきっと『元々そうだった』から」

ランシス「……エジプトでミイラを作る際に、心臓以外の臓器は体から抜き出す」

ランシス「それをミイラと一緒に『カノプス壺(Canopic jar)』ってツボに入れて、ミイラの側へ置く……」

ランシス「いつか……ミイラが復活した時に必要だから……」

上条「多分、それの応用なんだろ?発想の転換っつーか、狂っているっつーかな」

上条「『団長の本体はカノプス壺』じゃねぇのか?」

メイド「?それはどういう意味でしょうか?」

メイド「仮にその術式だったとしても、それが一体『真相』へ繋がると?」

上条「んー…?なんつーか、学園都市でも似たような話があってだな……あんまり思い出したくはないが」

上条「体の殆どを機械にしちまって、脳の一部分をカードリッジにまで削減しやがって」

上条「そいつを切り替える事で、何人かの人格を一つの体で使い分ける――みたいな話だ」

ランシス「……効率、悪くない……?」

上条「逆にボディさえ無事なら、連続して作業とか出来るって考えじゃねぇの?……理解しちまったら終る気もするし」

上条「――んで、今回のは真逆。狂ったまでに効率重視しやがった学園都市と、あんたが似たような思考へハマっただけ」

ラシンス「……最初から、この『館』の登場人物はたった三人」

上条「上条当麻、ランシス、あとメイドさん――正確には『団長』だ」

メイド「では私室で倒れていたのはどなたでしょうか?」

上条「あれは『人』じゃない。『団長』の霊装だ」

メイド「アルフレド様の――」

ランシス「……それも『団長』が霊装で演じてた、それだけ」

メイド「では私も?」

上条「お前の『体』は霊装。ただし、多分あと何日か経つと死ぬ予定だったんだろ?」

上条「そん時も頸の後ろに、抉り取られたような痕跡の屍体――の『フリ』をする、と」

上条「学園都市とは違う。ありゃ『一つの体を複数の脳で稼働させよう』って話だった」

上条「お前は反対、『一つの脳で複数の体を切り替えて使う』っつー話」

上条「だから『アルフレドとあんたが一緒に動いていた』事がない。何故なら体は何個かあっても、持ってる脳は一つだからだ」

ランシス「……『抉り取られた傷』……も、そこへ『本体』を装着する仕組みなんだよね……?」

ランシス「あなた――『団長』の本体である『カノプス壺』が」

上条「つまり、以上をまとめると――」 カリカリカリッ

A.館では誰も死んでいない
B.屍体に見えたのは『団長』の霊装
C.その本体は『屍体』の頸の後ろ――『抉り取られた跡』に装着する『カノプス壺』

ランシス「……ついでに言えば、あなたは最初から解決させるつもりなんてなく……だから」

ランシス「……起こってもいない殺人事件……起きたような言い回しをし、あたかもここで事件が起きているかに見せかけたかった……」

メイド「……」

上条「ついでに3――『最終目的は何?』について、あぁこれは完全な憶測でしかねぇけど」

上条「それも『消費効率』なんじゃねぇかと考えてる」

ランシス「……私達に問題を解かせない……つまり、それは『絶対にここから出したくない』って意味だし……?」

ランシス「……こっちの臓器を人質にとって、ずっと立て籠もっていられる――と、思ったら大間違い」

ランシス「これだけ大きな術式、しかも非効率極まりない……」

ラシンス「……だから仮に私達を上手く騙せたとしても、永遠に維持はムリ……だし」

ランシス「だからあなたは『効率的』な術式を組んだ……そう、例えば」

ランシス「『効果範囲を最小限まで絞る』、とか……」

上条「逆に、だ。あんたがテキトーなぬいぐるみや、俺達の知らない第三者をNPCにしたとしよう」

上条「そうすると、そいつらを知らない俺達は『こいつらNPCじゃね』って疑う。ぬいぐるみだったら余計にな」

上条「そうすりゃ『なんでコイツここまで魔力切り詰めてんの?』って疑われて、そこから『解決の出来ない事件』だってバレる」

上条「だからアルフレドのNPCまで用意して、『あ、コイツの魔力ケチってなくね?』と思わせたかった、と」

ランシス「……以上が『真相の解明』……私達の出した、答え」

ランシス「……どう……?」

メイド「……上条当麻様、ランシス様――」

上条「っ!」

ランシス「……」

メイト「――見事、『正解』でございます……!」

上条「よっしゃ!」

ランシス「……うんっ!」

メイド「いや、意外で御座います。僅か二日で真相に至るとは」

メイド「ですが……幾つか足りない所がありましたので補足したいかと存じます」

ランシス「……いいから、体、返して……」

メイド「というかですね。クリストフの『体』を造ったのに、お披露目する機会が一度も御座いませんでした」

上条「そっちの都合だろ」

メイド「いや、双子ですので同じボディを使い回すつもりでしたが」

上条「造ってなくね?」

メイド「ですから『それ』も効率重視なんですよ。霊装を何個も持ち込むと、余分に魔力を消費致しますので」

メイド「その点、双子であれば同じ体を使い回して置けば『効率的』でしょう?」

上条「凄いのかバカなのか……」

メイド「両方でしょう。お話を伺うに学園都市の方々も中々狂っていて好みですよ」

ランシス「……返して」

メイド「より正確にはもう一つだけ間違いもあるのですが……まぁそちらは謎のままにしておきましょう」

上条「負け惜しみにしか聞こねぇが。つか、ランシスの腎臓返せよ」

メイド「ではそのように」 パチッ

上条(ランシスへ近寄りもせず指を鳴らすメイドさん)

ランシス「……?」 ポンポン

上条(と、両手で体を叩いているが、分かるんだろうか?……分かる訳ねぇだろうが)

メイド「――都市伝説の一つにこんなお話が御座います。『親切な医者』というタイトルでしたか」

メイド「ある時、道を歩いていたら調子が悪くなります。すると近くに居た男性が『私は医者だ。診て上げよう』と彼の診療所まで連れて行かれ」

メイド「そこでレントゲンを撮ると『○○が大変だ!これは直ぐに出術をしなければ!』」

メイド「当然お金も持ち合わせていないし、急な話で戸惑いますが。医者はこう言いました」

メイド「『私は大勢の人を助けたい。君からびた一文金銭を取るつもりはない』」

メイド「その後、その日の内に手術が行われ、無事に退院します――が!」

メイド「家に帰って体重計に乗ると、何と昨日とは20kgも痩せているではないですか!」

メイド「どういう事だ、とその医者へ詰め寄ると、彼は平気な顔でこう言いました」

メイド「『言ったじゃないか。”大勢の人を助けたい”って』と」

ランシス「……臓器、抜かれてた……?」

メイド「似たような話は以前から御座います。30年程前には宇宙人、最近は違法臓器の密売とかで」

上条「……で、その心は?」

メイド「酷い事をする人間も居ますね」

上条「お前だよっ!?まさに今!ちょい前まで答えの出ないクイズやらして内臓抜いてたし!」

メイド「あ、いえいえ臓器は結構重いので、体重計に乗って頂ければ軽重で分かると思いますよ、というお話で御座います」

メイド「ランシス様、お気になるようでしたら、丁度いい事に体重計がここに一つ用意しておりますが」

ランシス「……あれは敵の罠……っ!」

上条「まさかっ……!?」

ランシス「旅の間お料理が美味しくて、最近ほんのちょっとだけダイエットしようとか考えてない……!」

ランシス「まさかこれを見越してわざわざ美味しい食事を出していた……!?」

メイド「――『彼』が味方だと、一体いつから思っていました……?」

ラシンス「……くっ!?」

上条「『くっ!?』じゃねーよ!即興でなに人を『実は潜り込んでいた敵』みたいにしやがんだ!仲良いなお前ら!」

上条「……いやいや、そうじゃねぇよ。そんな話じゃなくてだ」

上条「てかさっさと俺達を帰してくれよ、つーか術式解除しろ。今すぐやれ」

メイド「おや上条様、帰してくれ、とは一体?」

上条「惚けんなよ。『真相の解明』をしたら、って約束しただろうが」

メイド「お言葉ですが、私一言足りとも『真相を解明したら術式を解く』なんて約束、した憶えなど御座いませんよ?」

上条「お前……ふざけてんのかっ……!?」

メイド「違いますね、上条様。それは違ごう御座います」

メイド「私達は『狂っている』んですから、くれぐれも誤解などなさいませんよう、謹んで申し上げたく存じます」

上条「……こっちで白黒つけたいんだったら、付き合うけどな?」

ランシス「……ストレス、意外と溜まってる、し?」

メイド「遠慮致します。こちらの『体』は戦闘向けではありませんので――というか、そもそも、お二人は大変な勘違いをなさっているようで」

上条「……なに?」

メイド「『悪夢館(Nightmare residence)が解除出来ると誰が言った』のでしょうか?」

上条「……は?それって――」

ランシス「……ない、の?」

メイド「試せば分かるかと存じます――しかし!」 ズプリッ

上条「――っ!?逃げ――」

上条(とぷん、と。彼女――『団長』の姿は床に沈み、消える)

上条(俺が『右手』を使う前に、そしてランシスが『死の爪船(ナグルファル)』を一閃させる前に!)

メイド「あっははははははははははははははははははははっ!勝ちました!ゲームには負けましたが、私のっ勝ちですっ!」

上条「姿を見せやがれ!」

メイド「ここは『私』の造った夢の世界!物理法則は概ね現実に即していますが、ねじ曲げられる意のままにっ!」

メイド「何が『廃れた術式』か!何が『メジャーじゃない』だ!」

メイド「こんなにも強い!素晴らしいのに!思いのままに動く、私の世界がだ!」

メイド「さぁ私の中で永遠に迷い続けろよ『幻想殺し』!答えなどない!真実すらもねじ曲げる『夢』の中で!」

上条「クソッ……!これじゃ――」

ランシス「……私はランシス、魔術結社『新たなる光』の魔術師……」

上条「……ランシス……?」

ランシス「……魔法名、『Lancelot225(弑逆の騎士は行動で示す)』……!」

メイド「その『爪』は私へ届きませんよ?もうとっくに、あなた方の射程距離からは逃れられていますから」

ランシス「……うん、まぁ、そうだよね?ここからじゃ私の『死の爪船』は届かない……」

ランシス「……けど『今』は、だから」

メイド「と、言いま――あ――」

上条「あん?」

メイド「――くっ!?」

上条(今まで余裕だった『団長』の声が、急に……?一体何があって……?)

ランシス「……えぇと、私の先生はパパが夢魔(アルプ)で大変だったって言ってた……」

上条「夢魔?悪魔って奴か、そりゃ」

ランシス「ママが『夜更かしする子はパパに攫われるわよ?』……可哀想」

上条「即物的だな!しかも仲良さげじゃねぇか!」

ランシス「だから私に『夢』関係の魔術を教えてくれてたし……その時に、言ってた」

ランシス「『夢』って魔術は、どうやっても廃れる運命にあるんだ……って、それは何故か」

ランシス「夢を自由に操れる……それは逆に『現実と乖離する』、そう意味している……」

ランシス「……確かに、素敵な夢を見たり、物語の主人公みたいに、思い通りの生き方を出来る……楽しいかも、知れない」

ランシス「でもきっと……楽しすぎる夢は、二度と目覚めたくはなくなる……」

メイド「な、なんだこれはっ!?私の身に、何が、起きて、いる……っ!?」

ランシス「そうやって『自分が正しいと常に錯覚』すれば……正しい認識なんか出来なくなって……」

ランシス「全部が思い通りに行く世界で……そういう『甘さ』は」

ランシス「……命取り、かも?」

メイド「お前がっ!?私に、何を、したっ……!?」

ランシス「……私の『死の爪船』はニブルヘイム(影の国)に居る、死人達の爪で造られている船……」

ランシス「……神々の黄昏で巨人や死人を乗せてアースガルドへ導き、世界を終焉へと至らせる……」

ランシス「……だからゲルマン系の人達は、黄昏を遅らせるために死者を埋葬する時には、爪を切る習慣がある……これ、余談」

メイド「私の肌が!取り替えたばかりなのに皮膚が剥がれてシミが湧く!?これは何だっ!?」

ランシス「『死の爪船』は『老い』を運ぶ……その爪に切り裂かれたモノへ」

メイド「ゲフっ、ゴッホゴホゴホゴフッ!?気管がっ、どうして異常を見せ、る……?」

ランシス「『死の爪船』は『病い』を運ぶ……その爪に貫かれたモノへ」

メイド「か、体が……動か……ぐっ!?」

メイド「胸の奥を締め付ける鎖のような……!?」

ランシス「『死の爪船』は『憂い』を運ぶ……その爪に触れたモノへ」

メイド「馬鹿な……!?一度も触れてなど……!」

ランシス「……この霊装は私が着けている『爪』が本体じゃない……こっちは『影』……」

ランシス「『影の国』で造られた船だから……『爪』の本体は『影』の方……」

上条「もしかして――その爪の『影』に触れるのが発動条件なのか?」

ランシス「……攻撃なんてずっと前から、していた……」

ランシス「……食堂へ入った時から、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……ッ!」

ランシス「あなたが私達の話を聞いてる内に、ずっと……!」

メイド「……自分の臓器が惜しくないというのか……!?」

ランシス「……あぁ、わかった。ずっとに不思議に思ってたけど」

ランシス「……あなたはきっと、自分が大事、死にたくない、ずっと生きていたい……だから、自分のスペアを造った」

ランシス「だから『そんなモノ』に執着する……の」

メイド「生きていたいだろ!?誰だって死ぬのは怖――」

ランシス「……私は、違う……!」

上条「ラシンス……」

ランシス「死ぬ”なんか”よりもずっと怖い事は、いくらでもある……私は、知ってる……」

メイド「……無茶苦茶だ……!お前達こそ狂ってる……!」

ランシス「かも、しれ――」

上条「――いや、おかしいのはやっぱお前の方だよ、『団長』」

メイド「何?魔術も使えないお前が何を……!」

上条「だな、そこは否定しないし、出来ないんだが。少なくともお前よりかは知ってると思うぜ?」

上条「人間はどうやっても死ぬんだよ。寿命だったり、事故だったり、戦いで死んだり」

上条「……まぁ、納得出来るかどうか別にしても、そりゃ当たり前の話って訳で」

上条「でもな、『それ』は大体どこでも、いつの時代でも同じじゃねぇのか?」

上条「人間、決められただけの寿命、持って生まれたカードで、精一杯生きていくんだよ!誰だってな!」

上条「俺達よりか長生きなんだろうが、そんな事も知らねぇで!分からないまま無駄に生きてお前は!」

上条「もしも誰からも、誰か一人だけでも受け入れられるんだったら、今お前の回りには仲間がいる筈だろうが!」

上条「……魔術のセオリーなんて分かんねぇし、理解も出来ないんだと思う。つーか素人舐めんな!何言ってるか分かってねぇかも知んねぇけど!」

上条「だから――ランシスは異常なんかじゃねぇよ!テメェの命賭けられる――」

上条「――大切な、仲間を持ってるフツーの人間だ!」

ランシス「……」

上条「なっ?そうだろ?」

ランシス「……う、うんうん」 コクコクッ

メイド「……」

ランシス「……ホントの事言えば――この世界、私は嫌いじゃなかった……」

上条「なに?なんでだよ」

ランシス「打算だと思うけど、しようと思えば……例えばグログロでゴアゴアなスプラッタ、出来たよね……?」

上条「……想像したくもねぇけどな」

ランシス「……そうすれば、きっと私達にも余裕がなくて。解決は長引いた……筈」

ランシス「……まぁ、手も繋げたし、独り占め……?」

上条「その例えはオカシイ!?」

ランシス「……うん、まぁ悪いけど……そろそろ帰らなくちゃならない、から」

ランシス「こんな私でも待っている人が居る……世界へ」

上条(ランシスはそう言うと、ずっと起動している『死の爪船』を床へ刺す)

上条(ちなみにこの間、つーかさっき起きてからずっと。俺は彼女の手を握っていなかった。それはつまり)

上条(彼女が『封印していたモノ』を解き放つ準備が出来ている訳で――)

上条(――ランシスは、謳う)

ランシス「『We sing soldier's song. 』」
(我等は歌う 兵士の歌を)

ランシス「『Singing voice exaltedly stirred up. 』」
(意気揚々と奮い立つ歌声)

ランシス「『Burn and while enclosing the flame that stands. 』」
(燃え立つ炎を囲みながら)

ランシス「『It is stars in heaven in overhead. 』」
(頭上には満天の星)

ランシス「『A approaching fight cannot finish being waited for, and while waiting for the light at daybreak. 』」
(来るべき戦いを待ちきれず、夜明けの光を待ちながら)

ランシス「『We sing in the silence at night. 』」
(夜の静けさの中 我等は歌う)

ランシス「『Soldier's song. 』」
(兵士の歌を)

ランシス「『……My sword exists for the friend――』」
(……我が剣は友のために在り)

ラシンス「『――Aroundight expressed in loud voices!』」
(――声高らかに謳おう魔剣よ!)

上条(詠唱が終ると共につぷり、とランシスは自らの影の中へ手を――『爪』を潜り込ませる)

上条(数秒程まさぐる動きがした後、何の抵抗もなくするりと引き抜かれたのは――)

上条(――剣の形をした、おぞましい『何か』だった)

上条「……っ!?」

上条(血がついてる訳でもなく、ただ黒く暗い何か。剣と呼ぶには恐ろしい程の何かを圧縮して造ったような、そんなモノ!)

上条(夢の中の夢――で一度は目にした筈が!同じものとは思えない程に異様だ!)

上条(……俺は知らず知らずの内に『右手』で、自分を庇うように上げていると気づき)

上条(だか、しかし)

ランシス「これは『負』の剣。友を斬り、主の血を吸った罪深い聖剣……」

ランシス「でも、それだから、それゆえに……あくまでも『聖』なる儀式だった、オシリス神の術式に効果は覿面……」

ランシス「……多分のこの『夢』も、エジプトの死後に行われる……『死者の心臓を秤にかける』術式……」

ランシス「……だけど」

上条(『魔剣』を翳すランシスの表情が、僅かに曇ったのを見て)

上条「……ヤベぇ。かっけぇな、それ?」

ランシス「…………え?」

上条「『魔剣・特異点・お兄様』は三大中二病じゃね?俺もパラディンになってガッカリしたクチだし?」

上条「なんつーかロマンだよな!『魔剣』!」

上条(バカはバカなりに意地を見せる)

ランシス「……ダメ、これは……うん、最初は嫌いだったけど、それは……」

ランシス「……でも今は……私の、剣、だから……!」

上条(その瞳に力が宿り、口元に笑みが戻った事で珍しく失敗しなかったのだな、と確信する!)

ランシス「……レッサーになんて言おう……?」

上条(……間違ってないよね?俺、選択肢ミスってないよね?)

ランシス「……ま、一度ある事は二度あるし……?」

上条「よーしランシスさん!俺達の世界へ帰ろっかヒアウイゴーっ!」

ランシス「……なんか間違ってるし……」

ザシュッ………………!!!

上条(『魔剣』の一振りで周囲へ闇が氾濫してい――)

――キャンプ場

ランシス「……あ、ヤバ――ふひっ」

レッサー「は――?」

レッサー「……」

レッサー「……はて?今、膨大な魔力に呑み込まれたような……?」

ランシス「……あー、長かった。てか溜めた魔力、殆ど遣っちゃった……」

レッサー「えぇと、もしかして?」

ランシス「……ん。ザックリしてきた……多分、オシリス神の術式で、『夢』」

ランシス「『殺し屋人形団』の、『団長』……」

レッサー「相性ではあなたが一番有利でしたもんね。まぁ巻き込まれたとは言え不幸中の幸いでしたか」

レッサー「そいつぁ大変お疲れ様でした――よし!上条さんをf×ckする権利をやろう!」

ランシス「……ん、貰っとく」

レッサー「なーちゃってーAHAHAHAHAHAN?ツッコミ役が誰にも居ないからボケばっかで話が進まないじゃないですかー」

レッサー「っていうかですね、このパーティ天然着やせボケという、ある種究極の男の願望的な存在が居て、私の存在価値がイマイチ――」

レッサー「――ってランシス?ランシスさん?あなたイマ何か聞き捨てならない事を言っちゃったりしませんか?ねぇ?」

ランシス「――レッサー……?」

レッサー「な、なんです?」

ランシス「……ごめん、ね?」

レッサー「だから!ゴメンってなんですかっゴメンって!?」

レッサー「ベイロープからフロリスからランシスまで!どうして私へ謝るのかと濃い乳時間問い詰めたい!」

ラシンス「……それ、『小一時間』の打ち間違い……」

レッサー「どんな風俗ですかっ!?興味あるじゃないですかっ!」

ランシス「……そっち?」

レッサー「現実逃避に決まってるじゃないですか!言わせんなよコノヤロー!」

レッサー「てかこれ一歩間違ったら修羅場で死屍累々!しかも私が先にツバ着けといたのに全員で裏切るし!」

ランシス「……あ、そういえば解決したらご褒美貰えるんだっけかな……?」

レッサー「聞いて下さいよ私の話をっ!?つーか『新たなる光』の信頼関係ボロッボロじゃないですか!?」

レッサー「ねぇっ!?確かにキチガ×カルテットの半分は墜としましたけど!あまりにも私達が払った代償が重いじゃないですか!」

レッサー「つーかあなた前の前の前の前の時にも言いましたけど、結構手ぇ早ぇっつーか、計算高かないでしょうかねっ分かりませんっ!」

ランシス「あ、ごめん。先行ってるね……」

レッサー「イクってどういう事ですか!?先にイクって卑猥な!つーか私もイキたいんですけどどうすればいいんですかねっ!?」

――朝市

鳴護「レッサーちゃん、なんか騒いでる……」

ベイロープ「何やってんのだわ、あの恥女」

フロリス「薄い本にありそうな卑猥な台詞を連呼してる……誰得?」

上条「ま、まぁまぁ!日本語だし誰も気づかないって!」

フロリス「昔っから仲が良いからねーあの二人、色んな意味でうんうん」

上条「仲が良いのは結構だが――あれ?」

鳴護「どしたの?何か気になった?」

上条「あぁうん、朝市なんて始めて来たし。気になるのは大体全部なんだけどさ。そうじゃなくって」

上条「今、俺達は夢を見ていたような……?」

フロリス「夢?起きたばっかジャンか」

上条「あぁいや、そうじゃなくって、そういう話でもなくてだ」

ランシス「……どったの……?」

上条「ランシス?あるぇ?ちょい前まで俺達――」

ランシス「……あ、あっちの方にジャムの露天が……」

上条「聞けよ話!?」

フロリス「おっ行く行く!オレンジの買ーおっと」

ベイロープ「ブラッドベリーあるといいけど」

鳴護「へー、手作りなんですねー?」

ランシス「……ん、農家の奥さんが趣味でやってたりする」

上条「聞きなさいよ人の話をさっ!何みんなでスルーしやがる!?」

フロリス「ぶっちゃけ夢がどうこう言い出したらフツー、引く」

上条「……ですよねー」

おばさん「いらっしゃい!ウチで採れた果物をジャムにしたんだよ。一つお土産にどうだい?」

鳴護「わー、瓶に手書きのラベルですかー。なんか可愛い」

フロリス「保存料もとか入ってないから安全だぜ?……ま、足も早いんだけど」

上条「日本語上手いな、お前ら」

ベイロープ「あんまりツッコムのは野暮よね」

ランシス「……ん?」

上条「珍しいのでもあったか?」

ランシス「この瓶……」

上条「……ラベルの代わりにメモが貼り付けられてる、と。何々――」

上条「――『I'm here! 』……?」

上条「……うん?何かの待ち合わせのメモと混じったのか?」

ランシス「ちょっと、それ貸して……?」

上条「いいけど――って重っ!?結構あんぞコレ!」

ランシス「問題ない、こっちじゃ『帯』も霊装も身につけてる――」

ランシス「――あ、手が滑った」

ガシャーーンッ!!!

上条「おまっ!?今絶対に振り上げてたし!手が滑ったってレベルじゃねぇな!?」

ランシス「……ごめんなさい、おばちゃん……弁償する」

おばちゃん「ん?いーのよ、別に瓶の一つぐらい。その代わりに何か買っていきな」

ランシス「……うん、ありがとう」

上条(ランシスが叩き付けて割った瓶から、真っ黒なヘドロっぽいジャムが辺りへ飛び散った。何?何の果物?)

上条(……かと思えば日光に当たった側からジューっと蒸発していく……ドライアイス?メタンハイドレイト?)

おばちゃん「……変だよねぇ。そんなジャム、ウチにおいてあったっけ……?」

レッサー「お、こっちのこれお高いんじゃないですかね?向こうの店では半額でしたよー?」

おばちゃん「残念だったね悪ガキ!この朝市じゃジャム売ってるのはここだけだよ!」

レッサー「やりますねっ露天のおばちゃん――はっ!?まさか月極(げっきょく)グループの使いかっ!?」

鳴護「レッサーちゃん、それ”つきぎめ”」

フロリス「てーかさ中二病発症させるの禁止」

ベイロープ「自制しろ一応リーダー」

レッサー「一応って!?自制をするのが一応なのかっ、それともリーダーなのが一応なのかっ、場合によっちゃ裁判沙汰ですよっ!」

ベイロープ「どう考えても前でしょーが一応リーダー」

レッサー「つまり今のは、一応が『どう考える』へかかるのか、それとも『リーダー』を修飾するのかっ、いやぁ言葉って難しいですねぇ」

鳴護「今度は漢字おじさんになってる」

フロリス「おーい、帰って来ーいレッサー?現実から逃げても、大抵現実は追いかけてくるんだぜー?」

上条(ベイロープに精神的な意味でシバかれそうになってるレッサー、それを見て笑うアリサとフロリス)

上条(その光景を見て『帰って来られた』と俺は一人で安堵の息を吐く――ついでに)

上条(何故か俺の『右手』と手を繋いでいる”彼女”へ、野暮だろうと思ったが、こう聞いたんだ)

上条「な、ランシス」

ランシス「うん……?」

上条「あれは、夢か?それとも現実?」

ランシス「……んーとねーえ、それはー……」

上条「それは?」

ランシス「――『アイシテル』」



――胎魔のオラトリオ・第三章 『悪夢館殺人事件』 -終-

ランシスさん編の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
来週は予告編入れて、再来週からレッサーさん編予定。スレはそのまま使う方向で

去年の今頃、なにやってたんだろう?と疑問に思って前のSSを覗いてみれば、スレ立てたのが9月3日(火)
結構長い事やってんですねー。その割には人気ありませんが

かくして、ナイトメアワールドから生還したランシスさんご一行でした。ラリホー。
さてレッサーさんは「お前の願いを三つ言え!」?

>>780
レッサー「フランス[ピーーー]ドイツ[ピーーー]イタリア[ピーーー]。あとアルゼンチンは直々にぶっ飛ばします!」
レッサー「あ、もしくは三つの願い全部使ってトニー=ブレアのクソッタレが可能な限り無惨な死に方をしますよーに」
(※スコットランド独立の引き金引いた元首相。スコットランド出身の俗物)

口癖は原作で車に乗ってるベイロープがレッサーを怒鳴りつける際、「ケツが邪魔で見えないのだわ!」とだけ
リーダーかどうかは原作ではなくSSの設定だと思ってください

――揺蕩う微睡みは羊水の中に

 その中に、あたしは浮かんでいました。
 とても温かくて、安心出来て、心が満たされてて。

 お布団の中で微睡んでいるような、休日の朝に時間を気にせず、二度寝出来るような。

 ずっと前から知っていて……?そう、これはきっと、”私”が知らない、知らずに居たもので。
 もしも名前を付けるのであれば、『おかあさん』、なのかも知れません。

 人は生まれる前からずっとおかあさんに一緒に居るから。この世界へ生まれ落ちる際には悲しくて泣いちゃうんだって。
 もしも『ここ』がそうであるならば、何となく気持ちは分かっちゃうような……?良くないのかも知れないけど。

 ……。

 えぇと、確かあたしは……”私”と一緒にエンデュミオンを……止め、んだっけ。
 ”私”と一緒になって――うん、そうだった。

 地上への落下は避けられたのかな?インデックスちゃんや当麻君は怪我しなかったかな?
 御坂さん達も――。

……。

 ……なんだろう、凄く、眠くて……。
 意識が……意識が、溶け――。

 このままじゃ……”あたし”が消え――っ!?

 ……。

 ……あぁでも、”あたし”はニンゲンじゃなかったんだっけ……?
 『奇蹟』を望む一人の女の子の願いが――”あたし”を創って。

 ”私”の殆どは元へ戻っ……だから、残った”あたし”は。
 借り物の命だった、あたし、には――。

 ……。

 ――ヤダっ!生きていたいよ……!死にたくなんかない……!

 もっと、もっとインデックスちゃんとお喋りしたいし!
 御坂さん達とも遊びに行く約束したのに!
 このまま消えるなんて……イヤっ!

 ……。

 ……助け……当――。

『……』

 ………………意識が……戻っ……て……?

『……』

 溶け出していた”あたし”がまた、一つに……これは……そうじゃ、ない?あなたは……?
 あの世界に――もう一度”あたし”を生まれて――産んでくれる……?

『……』

 ……待って!あたしまだあなたに何も!
 あなたは!あなたがあたしの――!

 ――おかあ――。

 ザザザザザザザザザザッ――。

――日本 『安曇氏族(クラン・ディープス)』本部

五和「……いいですか、建宮さん?あちらは日本全国数万社の『安曇神社』を間接的に束ねる方です」

五和「くれぐれも、くーれーぐーれーもっ!失礼のないように!分かってますよねっ!?」

建宮「……あぁいやうん、五和さんの仰る事はご尤もだと思うし、俺も最近悪フザケが酷かったのは悪かったのよ?ま、そこいらは反省してるのよ」

建宮「でもなんつーか、教皇代理っつーか、魔術的にも立場的にも先達な訳であり、そもそも『安曇氏族』とは知り合いだった俺」

五和「ホラいらっしゃいましたよ。平伏して下さいっ」

建宮「あ、はい」

安曇棟梁「――畏まらなくていい。立場は違えど魔術師同士、鯱張る必要はない」

建宮「なのよなー」

五和「教皇代理!」

安曇棟梁「……また今回の件、安曇達の与り知らぬ所とはいえ、一族が迷惑をかけた。謝罪しよう」

建宮「おう、受け入れるのよ。天草式十字凄教教皇代理、建宮斎字の名の下に安曇氏族はこれ以上名誉を失わないと宣言するのよな」

五和「建宮さん……」

建宮「政治にはある程度のプロレスも必要なのよ」

安曇棟梁「顔見知りであっても知らんぷりをする事もまぁ……場合によっては有効だろう。さて」

五和「驚かれないんですね、その」

建宮「以前ちょいとした縁で少々なのよな……ま、その話はいつかするとして、今は大事な話をするのよ」

安曇棟梁「と、言われてもな。五和殿にも話したが、我らは可能な限りの情報を開示している」

安曇棟梁「その上、日本の公文書や神社本庁が所蔵している歴史書や神話の類は、禁書目録が記憶している筈だ」

安曇棟梁「これ以上情報を寄越せ、と言われても正直我らには思い当たる所がない」

五和「と、仰るばかりで」

建宮「……うーむむむ、なのよ」

安曇棟梁「そもそも、で言うのであれば……いや、安曇阿阪の『ミシャグジ神』」

安曇棟梁「我らが入植し、彼の神を習合させたのは今から1400年以上も前の話」

安曇棟梁「安曇阿阪は我らの氏族名を名乗っているが、我らとは術式体系からして違う。教えられる事などない」

建宮「ま、そう……なのよな。常識的に考えてもそう言われるのは分かっていたのよ」

五和「ですよねー。無茶ブリですもんねー」

建宮「――が!これはあくまでも一般論なのよ、と前置きをしての話」

建宮「よしんば知っていたとしても、『自分達は”野獣庭園”とは無関係です』っつースタンスを取るために、知らず存ぜぬで通すのがベターなのよな」

建宮「多分『秘術』の一つや二つあるんだろうが、そりゃどこの魔術結社でも同じ」

建宮「下手に手の内をバラすとなれば、対抗策も打たれる……のよ?」

五和「……棟梁さん?」

安曇棟梁「……では私も一般論だが、私の昔の知り合いがこう言っていたな」

安曇棟梁「『救われない者には救いの手を』、だったか。単純な言葉だが、それ故に難しくもある。実行に移すには」

安曇棟梁「その馬鹿者どもは利益にも何にもならない事を進んでする人間達だった」

安曇棟梁「……まぁ正直、羨ましくもあったが。その姿勢には少なからず共感と尊敬を集めていた――が」

安曇棟梁「気がついたら居なくなってたんだが?」

建宮「……あー……」

安曇棟梁「今ではどこか遠くの島国で、文字通りの『狗』に成り下がっていると聞く」

安曇棟梁「そんな相手を警戒こそすれ、胸襟を開けと言うのは無視筋だ」

建宮「……おいおいお前さん、ちぃと言葉が過ぎるのよな?」

五和「教皇代理!」

建宮「分かってるのよ五和。俺はこれぐらいでブチキレたりはしないのよ」

五和「そいつ、殺します!」

建宮「分かってなかったのはお前の方よな?つーか頭を冷やすのよ」

安曇棟梁「……お前達の性格上、この国を離れてでも救いたい者があったのだろう?個人的には理解しないでもないが」

安曇棟梁「だがこの国に産まれ、この国で生き、この国の土へ還る覚悟を決めた人間にとって、甚だ不愉快である、とも」

建宮「覚悟の上なのよ。言い訳も否定もするつもりはないのよ。嘲りたければ、裏切り者と罵るのも好きにすれば良いのよな」

建宮「我らはただ、我らの生き様を続けるだけのなのよ」

安曇棟梁「好きにしろ。九州は元々我らが根拠地でもある」

安曇棟梁「要が消え、濁った泥沼から湧く五月蝿は我らが打ち払う。好きにすれば良いさ」

建宮「恩に着るのよ」

五和「……あのぅ、もしかして、なんですが……?」

建宮「少年とヤンキー神父の関係に似ているのよな、俺達は」

安曇棟梁「例えが分からないが、縁があるとすれば腐れ縁だな。面白い話でもない……さて」

建宮「ちゅー事でいい加減全部ゲロって欲しいのよ」

安曇棟梁「無理だ、というか、無駄だな。それは」

安曇棟梁「我々の氏神――安曇大神の情報は開示してある。分かっているんだろう?」

建宮「綿津見――海神なのよな」

安曇棟梁「そうだ。海の神であり、航海の神でもある」

五和「古事記に出てくる『阿曇磯良(あずみのいそら)』ですよね」

安曇棟梁「五和殿、その、神域で御名をみだりに呼ぶのは」

五和「すいませんっ!……ていうか、ここも神域ですか?」

建宮「建物の屋根の形、あれは崩してあるが寝殿造の寝殿なのよな」

安曇棟梁「……まぁ、今はここにおわす訳ではなし。また一々怒りもしないだろうが」

建宮「あぁ俺らが聞きたいのは彼の神じゃなく、『ミシャグジ神』の方なのよ」

安曇棟梁「何故だ?」

五和「えっ!?そうだったんですかっ!?」

建宮「……五和さん?お前さん一体今まで何をしていたのよ?」

五和「え、えっとですね?」

安曇棟梁「女衆から朝晩料理を熱心に習っている、と評判だな」

五和「ち、違うんです!これは日常の中にある術式を取り入れるためにですね!」

五和「決して『こうなったら胃袋から掴むしか……!』なんって疚しい気持ちじゃ!えぇもう本当に!」

建宮「……まぁ良いのよな。出来ればウチのお嬢様にも見習って欲しいぐらいだが」

安曇棟梁「ミシャグジ神か……」

建宮「イギリス清教の関係者が妙に気にしてるっちゅーか、『濁音協会』の横の繋がりを知りたいそうなのよ」

安曇棟梁「つまり?」

建宮「もしかして『崇める神』繋がりなんじゃねぇか、と当りを付けた寸法なのよな」

安曇棟梁「ミシャグジ神の持っている属性から、相手の傾向を読むか……ふむ」

安曇棟梁「……我らの神は海神であり、そこから派生して航海、暦、天候の神でもあるな」

五和「航海は分かりますけど、暦と天候はどうして?」

建宮「昔の航海術は月や星、天体の動きで自分達の位置を把握していたのよ」

安曇棟梁「船乗りが北極星を頼りに船を動かしたのと同じ。北関東一帯で崇められる彼の蕃神も、元々は古い天候の――」



ジジッ

安曇棟梁「その流れを汲んで、我が神は月の神であったとも言われてはいる」

五和「海の神様が、空に浮かぶ月に関係あると?」

建宮「まーるいお月様も、天へ昇る前は地平線の下――海の向こう側に隠れているのよな?」

五和「……成程。昔は世界が丸いなんて考えもしませんでしたもんね」

安曇棟梁「その神とミシャグジ神は習合され、合一の存在となった。然るにある程度の共通性があり――」

建宮「どうしたのよ?」

安曇棟梁「……なぁ建宮斎字。断片的にしか聞いていない、我らはな」

安曇棟梁「だが、だからこそ。部外者だから言える事があるとも思う」

建宮「何なのよ」

安曇棟梁「連中は『クトゥルー』を崇めていると表しているんだったな?それは本当にか?」

建宮「ん?あぁまぁ一応は、なのよ。専門家はブラフだって結論に行き着きそうなのよな」

建宮「そうじゃなければわざわざ日本へ戻って、知り合いへ頭を下げには来ないのよ」

五和「いや建宮さん、下げてませんよね……?」

安曇棟梁「……そうか。ならばこれは思い過ごしなんだろうな、忘れてくれ」

建宮「何なのよ?笑ったりはしないから、言うだけ言ってみるのよな」

安曇棟梁「……」

五和「手かがりになればラッキーかも知れませんし、教皇代理が笑ったら私がぶっ飛ばしますから!ねっ?」

建宮「五和さんっ!?」

安曇棟梁「……相変わらずお前の所は家族なのだな……まぁ、いい」

安曇棟梁「ただ、これは突拍子もない話。与太話として聞いて欲しい」

建宮「勿体つけるのよな」

安曇棟梁「我らが情報を得ているのは、五和殿から聞いた範囲でしかない。『野獣庭園』がミシャグジ神の術式を持っている事」

安曇棟梁「そしてまた連中がクトゥルー系の魔術師だと標榜している事か」

建宮「他の連中の話をしても良いんだが、そうなると本格的に巻き込むのよ」

安曇棟梁「是非もない――と、言いたい所だが、北関東から東北にかけて別口の魔術結社が暗躍している」

安曇棟梁「そちらの対応で手一杯――な、上に『学園都市』の案件である以上、下手に手が出せない」

建宮「……ま、立場は違えども向いている方向は同じなのよな、きっと」

安曇棟梁「で、あくまでも少ない情報からパッと浮かんだ、あくまでも部外者の与太話なんだが」

五和「……随分回りくどいですね」

建宮「立場上断言する訳にはいかないのよ、察するのよな」

安曇棟梁「我が神は海神、大海原の底に座し、我が国を守り給うモノだ」

建宮「なのよな」

安曇棟梁「当然『習合』されたミシャグジ神も『海』の属性を持っている。ここまでは分かるな?」

建宮「さっさと結論を――」

安曇棟梁「それじゃ、ルルイエはどこにある?」

建宮「……っ!?」

五和「……はい?」

安曇棟梁「こうしている間も死して夢見る邪神は居る――在るのかも知れない」

安曇棟梁「人間が到達出来ない深い深い海の底に」

建宮「待つのよ!それじゃまるで――」

安曇棟梁「『――ミシャグジ神はクトゥルーと同一の存在』じゃないのか?」

――悪夢の残滓

カツ、カツ、カツ、カツ……

アル「……」

アル「……つーかな、アレだよ。カミやんにも言いたいんだけどな」

アル「てーかまぁ?俺自身も無茶な事を言ってる自覚はある。あるんだよ、一応はな。でも」

アル「折角人が体張って『SUKE-KIYO』やってたっつーのに、無視って酷くないか?なぁ?」

アル「スルーってどういう事?折角人が日本からDVD取り寄せて探偵映画研究したのに、無視て!」

アル「てかあの映画『殺すにしても無駄リソース割きすぎじゃね?』って誰も突っ込まなかったのかよ!原作は読んでねーけども!」

アル「他のシリーズも基本活躍するのが少年て!いや大人が働けよ!小林君にほぼ丸投げってどういう事!?」

アル「……それでいいのか日本?そこまでする必要があったのか?」

アル「小学生になったってっても元々は高校生だぞ?逮捕権も捜査権も認可制じゃねぇのかよ……凄ぇなニッポン……」

アル「あの世界の神様が……『もうボスは登場している……!(キリッ)』」

アル「……」

アル「光彦逃げてー!?灰原ファンから死ね死ね言われてる光彦君逃げてー!」

アル「……」

アル「そういやこないだエロゲーをやっていたら、歩美ちゃんの中の人がだな」

アル「てか早く神採系の新作をだな」

ジジッ

アル「……あぁクソ、愚痴ってる場合じゃねぇなぁ」

――1号室(仮)

アル「……」

アル「シーツは………………」 ポンポン

アル「……まぁ、この状況でヤッてねぇよな。このシチュで手を出さないのも尊敬するっちゃするが」

アル「ゴミ箱……あぁいやそうじゃねぇ。こっちだこっち――」

アル「――って重っ!?何でこんなに重いんだ!?設置型っつー訳じゃねぇだろ!」

?『……』

アル「窮屈ってぇ言われても、なぁ?まだ完全に分化してねえんだから、筺ん中に入んのは当たり――なに?分かってる?」

アル「だったら――あぁまぁ文句の一つも言いたくはならぁな。ニンゲンだもの、みつを」

アル「んで、どうだった?間近で見た感想は?」

?『……』

アル「あー……うん、まぁ?分かるけど!」

アル「アレがデフォであって、下手に手を出したらルート決定すんだろ言わせんなよ恥ずかしい」

?「……」

アル「……その通りだぜ。もう少し、あとほんの少しで!俺達の願いは達せられる!」

アル「第一の時代を以て誕生は成り、この暗い闇の中へ嬰児は生まれ堕ちた!」

アル「第二の時代を以て競争を過ぎて、爪と牙の世界で高らかに産声を上げる!」

アル「第三の時代を通り、機械は電気羊の夢を見ないと証明された!」

アル「ルルイエにて死して夢見る我らの王よ!夜の闇から我らを助ける慈悲深き”シィ”よ!」

アル「このクソッタレな世界に永久のシジマ(静寂)を……ッ!!!」

?「……」

?「『彼ら、空を睥睨せよ。”私”は容易く星を射落さん』」

?「『竜尾が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

?「『――静謐な黒き大海原よりルルイエは浮上し、私は再び戴冠せり』」

?「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

?「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん――』」

?「『――我が“SLN”の名の下に』」

?「『……』」

?「…………………………………………………………………………きひっ」

――次章予告

――キャンピングカー 移動中の運転席

レッサー「あのぅ、ベイロープさん?ちょっといいですかね?」 ゴソゴソ

ベイロープ「遊んで欲しいんだったら後ろ行け、後ろ」

レッサー「いやあの、そーではなくちょっとご相談がありまして」

ベイロープ「……どうしたのよ。お金?お小遣い足りなくなっちゃったの?」

レッサー「その反応も失礼だと思うんですが……そーでなく、その」

ベイロープ「いいけど。あ、今マイク切るわね」 カチッ

ベイロープ「てかまた?もしかしておっぱいが大きくなったとかネタじゃないでしょうね?」

レッサー「い、いやいやっ!そういうのではなく!てかあれはあれで大真面目な話だった訳ですし!」

ベイロープ「……あの頃のレッサーは可愛かったなぁ」

レッサー「今も可愛いじゃないですかっ、シャインッ!」

ベイロープ「だかにそーゆートコがダメだっつってんの」

レッサー「や、そうではなく……今度こそ、きちんとした病気、だと思うんですよ」

ベイロープ「まぁ前のもネタじゃないと言えばそうなんだけど」

レッサー「はい。これでボケだったらケツを百叩きして貰っても構いませんよ!」

ベイロープ「……それ前振りにしか……いや考えすぎよね、多分」

レッサー「やあっだなぁそんな訳ないじゃないないないですかーベイロープさーん」

ベイロープ「今、あからさまにナイが大量発生していた気がするんだけど?」

レッサー「はっ!?期待されたらついボケてしまうこの体質が恐ろしい……!」

ベイロープ「前っから言おう言おうと思ってたんのよ、あなたはもう少し自粛しなさい、ね?」

レッサー「そこに熱湯風呂があって前の人が『押すなよ!?絶対に押すなよ!?絶対だからな!』と言われれば、誰だって押しません?」

ベイロープ「芸人だけね?友達とバンジーかスカイダイビングに行った時にそれしたら、まず間違いなく絶交されるわよ」

レッサー「いやでもこないだランシスとバンジーしたら、バンジー後に親指立ててましたが?」

ベイロープ「あなた達は、おかしい。てか昔っから影でコソコソと何やってんだか」

ベイロープ「んで?」

レッサー「実は少し前から胸が痛くって」

ベイロープ「よし、ケツを出せ。デトロイト・テクノのビートを刻んでやるのだわ!」

レッサー「違います違います!ギャー!?『鋼の手袋』出してやる気になっておられる!?」

レッサー「てかテクノとは意外な趣味ですねっ!?」

ベイロープ「なんか『ビョーク好きでしょ?』って言われるのよ、外見だけで」

レッサー「あー……そんな感じですね」

ベイロープ「こっちはアシッド時代、ジャングル入った頃からのリッチー=ホァウティン聞いてんだっつーのよ!文句ある?」

レッサー「イメージと合わないですよねー」

ベイロープ「てがビョークはアイスランドよ!スコットランドを北欧繋がりで括るな!」

ベイロープ「てかボケじゃんネタじゃん真面目じゃないでしょーがっ!!!」

レッサー「ま、待って下さい!?まだ話に続きがありまして!」

レッサー「別に成長痛だって訳じゃないですから!明らかに違いますし!」

ベイロープ「……なに?まだなんかあんの?」

レッサー「その、痛みだけじゃなくってですね、こう、きゅうっ、と」

ベイロープ「……痛いんじゃない」

レッサー「いえ、なんて言いましょう。痛いんじゃなくって、締め付けられるように」

ベイロープ「カップが合ってない?……て、結局同じじゃないの」

レッサー「ですからそういう事ではなく!……ドキドキ、的なのもありますし?」

ベイロープ「動悸か……それだったら医者に診て貰った方がいいんじゃないの?素人にどうこう言ったってしょうがないっつのーに」

ベイロープ「……それとも『呪い』かしら?基本私達の口に入る物は『幻想殺し』が触ってるから」

ベイロープ「空気感染、も術式としてはあるかー……向こうは廃れた魔術のエキスパだから、伝染病関係かも?」

ベイロープ「ローマ正教に借りを作るのは嫌……ま、適当な魔女でも紹介して貰って解除――」

レッサー「いやですよっ!恥ずかしいじゃないですか!」

ベイロープ「恥ずかしいて。別に女医さんか魔女なら平気でしょうに」

ベイロープ「私へ相談するぐらい深刻ってんなら、さっさと看て貰って安心した方がいいのだわ」

ベイロープ「大した事なきゃ笑い話で終るし、そうじゃなくても早期治療が最善だし」

レッサー「だからっ!そうじゃなくて……言うのが、ですよ!」

ベイロープ「……んー?要領を得ない話……」

レッサー「……」

ベイロープ「……あれ?」

レッサー「聞いてますか?ねねっ?」

ベイロープ「もしかして『恥ずかしい』って、『医者に症状を話すのが』って事か?」

レッサー「他にある訳ないじゃないですか!」

ベイロープ「……」

レッサー「……」

ベイロープ「……なぁ、もしかして、なんだけど」

レッサー「な、なんです?」

ベイロープ「胸の痛み、動悸、あときゅーっとするだっけ?」

レッサー「えぇはい、そうですが」

ベイロープ「それってもしかして、あのツンツン頭を見てると――」

レッサー「あーーーっ!ああーあーあーーあーあーああーあーっ!」

ベイロープ「……あんたねぇ」

レッサー「……はい?」

ベイロープ「取り敢えずケツを出せ。全力で引っぱたくから」

レッサー「何でっ!?」

ベイロープ「お約束だからよ」

レッサー「ならしょうがないですよねっ!」

ベイロープ「ツッコミなさいよ」



――最終章『ダンウィッチ・シティ』予告 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
来週からレッサーさん編へ

胎魔のオラトリオ・最終章 『ダンウィッチ・シティ』

――キャンピングカー 昼

レッサー「――と、言う訳でっ!掴みますよ胃袋を!」

レッサー「男性にあると言われている四つの袋!これを征した者が勝負に勝ぁつ!」

ランシス「えっと……」 ピトッ

レッサー「AHAHAHAHA?私の額に手ぇ当たってますよー?」

ランシス「あててんのよ?」

レッサー「じゃあしょうがないですよねっ!確信犯ならねっ!」

ベイロープ『誰かー?運転で今ちょっと忙しいから、ボケ二人へ代わりに突っ込んでやってー?』

上条「……」

鳴護「当麻君、ご指名みたいだよ?ほらほら」

上条「ちょっと待とうかお前ら?ベイロープが運転してるとツッコミが一人しか居なくなるのは、まぁ良いと思うんだよ」

上条「てか話の流れからするに、ツッコムのも俺の仕事みたいな?……まぁ、百歩譲って慣れたよ、それはな」

上条「でも何で俺が『レッサー係』みたいになってんだよ!?ツッコミついでに後片付けしなっきゃ、みたいな空気はナニっ!?」

上条「お前らのチームなんだから付き合ってあげればいいじゃない!ボケもきちんと処理してあげて!?」

鳴護「えぇっと、うん、分かるよ?あたしはね?」

上条「AahRISAさんっ!」

鳴護「そんな外国のアーチストみたいな饒舌に発音されても困るけど……でも、ほら、見て上げて?レッサーちゃん?」

レッサー チラチラッ

鳴護「『四つの袋があります!』からボケが流されて悲しそうにこっち見てるよ?」

上条「だったらツッコんでやりゃいいんじゃねぇかよ!最近のアイドルはお笑いだってするし!」

上条「つーかな!俺が一番ハラ立ってんのはレッサーじゃねぇよ!面倒臭ぇとは思うけども!」

上条「運転放棄しないでツッコミ放棄しているベイロープ!レッサーと一緒に俺”で”遊ぶ気満々のランシス!」

上条「そして着やせしながらも基本天然のアリサ!それは別にいいんだよ!」

鳴護「その情報要らないよね?天然じゃないし、あたし」

上条「何が一番ムカつくかって騒動が起った瞬間、たった今までモノポリーで俺の不動産を奪ってたヤツが真っ先に寝たふりしやがったって事だよ!」

フロリス「……ウーン……ムニャムニャ……」

鳴護「あ、海外でも寝言は『ムニャムニャ』なんだねー」

上条「疑おう?もうちょっとアリサさんは計算さんを疑って上げて?」

上条「ボケてるのにスルーするどころか受け入れるって、ある意味公開処刑だからね?」

ランシス「……がんばー。そろそろレッサーが我慢の限界に来てるとみた」

鳴護「限界を超えると?」

ランシス「んー……?まぁ、脱ぐ?意味も無く」

上条「――おぉっとレッサーさん!袋は四つじゃなくって三つだな!こやつめアハハハー!」

レッサー「……そこで速攻否定されると私の乙女心が折れそうになるんですがっ!」

ベイロープ『乙女は、脱がない』

レッサー「ですが私のリサーチした結果ですと、本を開いて二ページ目にはですね」

上条「薄い本な?どうしてお前がそれを知ってんのかは知りたくもない、つーか予想つくが!」

フロリス「アレを『乙女』だと断言するレッサーのメンタルないなー」

ランシス「カテゴリ的には、まぁまぁ……言えなくも?」

上条「そこっ残念な子に理解を示さない!この子が伸び伸び育っちゃってるのはアンタらの責任もあるんですからねっ!」

鳴護「当麻君、子供の教育方針で言い合ってるお母さんっぽい」

ベイロープ『……私と先生が常日頃どんっっっっっっっっっっっだけっ!苦労してっ!いるかっ……!』

上条「……そりゃ、うん、良くやってるよ?分かってるからさ?」

上条「だからもう少しだけ力抜いてハンドル握れ、な?さっきから微妙に車体がフラフラしてっから」

レッサー「――日本の殿方を射止めるため!奥さんは三つの袋をしっかり握ると言い伝えられています!」

フロリス「へー、そなの?」

上条「あー……結婚式で仲人のオッサンがひと笑い取る、定番のネタっちゃネタだよ」

鳴護「でも最近だと『せくはらー』とか言われて、自重するお父さん多いって」

ランシス「オチ読めたしぃ……」

上条「まあシモでオトすんだろうな-、とは思うけどな」

レッサー「まずは第一の袋――清野袋(せいのふくろ)!」

上条「待てやコラ!最初からボケるってどういう事!?」

鳴護「せいのふくろ……?」

レッサー「アーモリー県にある地名です。キャノンのモーション操作系工場がある所ですねー」

ベイロープ『……ねぇ?そこまでしてボケたかったの?』

ベイロープ『多分辞書かなんかで調べたり、ググってまで探したのよね?○○袋』

レッサー「イエッサ!他には米ヶ袋(よねがふくろ)もありましたっアーモリー!」

鳴護「アーモリー、じゃなくって青森なんだよね?きっと」

上条「袋関係の地名多いな。米処だから?」

ベイロープ『言っとくけど日本……稲作の品種改良と農法近代化が始まるまでは、東北じゃ安定した米の生産なんて出来なかったわよ』

ベイロープ『てか現代に至っても、収穫前に天災が起きれば一年間の努力が水の泡――って、何よ?』

ランシス「詳しいね……?」

ベイロープ『「野獣庭園(サランドラ)」が生まれ育った地盤を調べるのは当然でしょうが』

ベイロープ『大抵同族食ってのは、極めて困窮した経済状況か逼迫した食糧事情が絡んでくるものなのよ。人間以外でもね』

フロリス「よっ、流石はリーダー!きちんと考えてる!」

レッサー「待ちましょうか。取り敢えずこの私からリーダーを奪うにはですね、まずジャンケンで10回勝負に勝った上で、ケイドロで勝利した後――」

上条「イギリスにもあったんかケイドロ」

鳴護「あたしの学校だと『増やし鬼』、だったような?」

鳴護「あたしの学校だと『増やし鬼』、だったような?」

上条「別の遊びじゃねぇのか、それ――てかさ、結構前から思ってたんだが」

ランシス「78のB」

上条「お前ホンッとにブレねぇな!?つーか律儀に夢の中での公約果たしやがった!」

ランシス「『団長』もキルスコアに……」

上条「……あ、俺『解決したら何でも叶えてくれる権利』、行使する前に話が終ってた――じゃ、ねぇよ。そんな話はしてない」

上条「お前らのリーダーってレッサーで良いの?それで本当に後悔しないの?」

フロリス「んーむ?後悔するしないで言えば、たまーにするケド」

ラシンス「……別にリーダーとか決めてなくて、あくまでも魔術”系”のサークルみたいな」

ベイロープ『厳密な意味で私達、イニシエーションやら聖体拝領はしてないのだわ』

鳴護「いにしえ?」

フロリス「魔術師は基本マグス――日本語訳だと『導師』とか『師匠』から教わるんだよ。ま、独学でどうにかなるようなもんじゃないしー?」

ランシス「中には先天的に能力を発揮出来るような『原石』――」

ベイロープ『十字教じゃ「聖人」って呼ばれる人でもなきゃ、無意識的に術式を行使出来ないの』

鳴護「へー……凄い人も居るんだなぁ」

フロリス「――ベイロープ?」

ベイロープ『んー……ま、今は、ね』

ランシス「おっけー……」

上条「今妙な意思疎通が計られてた……?」

ベイロープ『――で、私達は?ご覧の通りにいい加減な結社未満の存在だから』

ランシス「レッサーが『リーダー私がやってあげますよっ!べ、別にあんたのタメじゃないんだからねっ!』と……」

上条「後半要らなくね?1%も盛ってないのは何となく分かるけど」

鳴護「えっと……ユルいよねっ、良い意味で」

上条「見なさいよ!ウチのアリサさんだってだって珍しく言葉を選んだんだからねっ!」

フロリス「やっだなぁ、ARISAちゃん程じゃないぜ?」

鳴護「……あれ、暴言を吐かれているような……?」

上条「お前アリサに冷た――く、もないな。割かしフツーか」

フロリス「『好き』の反対は『無視』だーよねぇ」

上条「……成程。そんなこんなで『リーダーやりたいです!』宣言して、まぁどうぞどうぞ?みたいな、ゆっるーい感じなのな」

レッサー「――最後にフランス大使館へ『さっさと王族ぬっ殺したのにベルサイユ宮殿観光資源にしてるのどうなの?!』」

レッサー「『入り口の説明パネルに”王族処刑してその10年後にナポレオンを皇帝にしたバカどもの巣”って書いた方がいいですよ?』

レッサー「って電凸かまして国際問題に発展させれば、まぁ一人前ですね」

上条「お前はお前でリーダー勝負からズレてきてる。ってか碌な事してねぇな!」

ランシス「マジでするから始末に負えない……」

鳴護「お察しします」

ランシス「でも私も嫌いじゃない。むしろ一緒にする」

鳴護「お察ししません」

フロリス「まー、そんなワケでリーダーはレッサーなのさ。つっても仕事持ってくるのは先生かベイロープが多いんだケド」

ランシス「あと、ま、基本方針も話し合い、だし?」

ベイロープ『現場でどう動くか、ってのも大筋決めた後に個々人が動き回るだけだしね』

レッサー「待って貰いましょうか!それ以上私を追い詰めると大惨事になりますよ!」

上条「具体的には?」

レッサー「なんかもう、ガイアが私へ全裸になれと囁いてる感じですか」

上条「俺、ガイアさんギリシャの神話の神様だ、ぐらいしか知らないけど、そんな事言わないと思うよ」

ランシス「どっちかって言えば……アルテミス、かな?言うとすれば」

ベイロープ『キュベレとフェンリルのハイブリッドよね』

鳴護「まぁまぁ、それで?レッサーちゃんは何が言いたいのかな?」

レッサー「や、まぁ大したこっちゃないんですけど、私達が旅を始めて結構経ちますよね?」

フロリス「だーよねぇ。『ARISAのサイン貰いましょう!なぁに大丈夫です、知り合いジャーマネやってますから!』って」

フロリス「着替えも準備も無しで、気狂い魔術結社とドンパチやるハメになったってのに」

レッサー「まぁ人生罪オーガ馬と言いますし」

上条「『塞翁が馬』な?ちょっと見てみたいぜオーガ馬」

フロリス「ひっつよう最低限の霊装しか持ってないしー?だからって『鞄』で取り寄せる準備もねぇんだっつの」

上条「あれって距離制限あったんじゃ?」

フロリス「Hay boy! Will you combine pants put on to the school with pants when it dates the boyfriend? Aha?」
(おい少年!お前は学校へ履いていくパンツと彼氏とデートする時のパンツを一緒にするんか?あん?)

上条「……ベイロープさん?」

ベイロープ『意訳すると「学校に持っていく鞄とデートの時のは違うよね?」かしら』

鳴護「パンツって単語が入ってた気が……?」

レッサー「あん時は隠密性重視でしたからねー。制限を外しゃもっとロング行けます」

上条「――つかさ、お前らベストの状態じゃないのに魔術結社とやり合えたんだ?そっちの方がスゲー……」

ベイロープ『常在戦場。騎士――じゃなく、魔術師だけに決まった事って訳でもないわよ』

レッサー「ウクライナを見れば少々頭のネジが緩んだ――もとい、外れて無くしてぶっ壊れた人間でも理解出来ると思いますが」

レッサー「『よーいドン!』で始まる戦争なんてどこにもないんですよね-、これが」

フロリス「『ウクライナ正規軍とガチでやり合えるゲリラ兵』なんて、明らかにソチ五輪の大分前から用意したに決まってんジャン」

上条「ウクライナの正規軍がショボイって話じゃねぇの?」

ベイロープ『ウクライナ空軍はロマノフ朝時代から航空産業が発達してた上、ソビエト崩壊時に持ってた機材や人材をそのまま得ているのよ』

ベイロープ『だもんで東側諸国へ航空兵器を売却したりして、ウザかったウザかった』

ランシス「……裏を返せばそれだけ他国にとっても脅威でー」

フロリス「精度については、ん?な部分もあるケド、航空産業に関しちゃ輸出出来るレベルだったと」

レッサー「そしてロシア軍が警戒しすぎた結果、マレーシア旅客機撃墜へ至ります。合掌」

レッサー「出会った二人が突然恋へ落ちる事もあるように、昨日まで平和と融和だった世界が、一転混沌へ叩き込まれるのはある話」

レッサー「ましてや『万全の状態』で始まったりするのなんてとてもとても。いきなり戦場に叩き込まれるのも良くある話」

上条「……否定出来ない……!」

鳴護「……思い当たる節の多い当麻君の今後が、そこはかとなく心配になるよねっ!」

レッサー「てな訳で、いつどこで誰と勝負しても良いように、私は常日頃勝負パンツをですね」

上条「待て恥女。パンツの話はしていない」

フロリス「てか魔術師同士のガチンコの話から、一瞬でエロい話へ持っていく、だと!?」
ベイロープ『いや別にエロくは』

ランシス「……ま、でもタイミングはベスト……スコットランド独立騒動で煩かったし」

ラシンス「こっちに移動したのは悪くない、と」

レッサー「ですなー、私達があのまま残っていればちょっと面倒だったかも知れません」

上条「お前らなら嬉々として投票邪魔しそうだが?」

レッサー「やっだなぁ上条さんテロリストでもあるまいし。まさかそんな大それた事」

上条「うん、イギリスのクーデター実行犯の一人は、流石に別格だよね?」

レッサー「クーデターですって!?よぉしっそんな野蛮なヤツぁレッサーちゃんが懲らしめてあげましょうかっ!」

ランシス「てか、レッサーは悪いとなんて全っ然思ってない……」

レッサー「さぁこの私の前にっテロリストを差し出して下さいなっ!さくさく殺っちゃいますよっ!」

上条「戻って来て下さいベイロープさん!ツッコミ役が俺一人じゃ足りませんからっ!」

フロリス「Heyやめるんだ!ベイロープ本当に戻ってくるんだから!」

ベイロープ『あ、ごめん。なんだって?』

上条「都合の悪い事は聞き流すスルースキルを獲得してるっ!?」

レッサー「いやいや流石にボケを潰すのはイクナイと判断しただけに過ぎませんよ。ジョークに一々構っては居られないと」

フロリス「話戻すけどタイミングは良かったかーもねぇ。ねー?ベイロープ?」

ベイロープ『面倒なだけなのだわ』

上条「あぁスコットランド出身なんだよな」

レッサー「いやいやいやいやっ、今運転席で他人事みたいな顔してやがる女は元スコットランドの王族ですからねっ!」

ベイロープ『おいレッサー!』

上条「マジで?」

鳴護「お姫様ー?あー、言われてみれば」

レッサー「由緒正しいスチュアート朝のお姫様()ですよっ!お姫様っぷーくすくす!」

レッサー「っても王位継承権は今のウィンザー朝のババアが持ってますし、放棄もしているんですがねー」

レッサー「世が世なら、な、なんとぉぉっ!この騎士気取りがお・ひ・め・さ・まっ!」

ベイロープ『……その口を閉じるのだわ』

レッサー「にゃーはっはっはっー!どれだけ吠えようとも!あなたの牙は私には届きませんよ!運転席のベイロープさんにはねっ!」

レッサー「てーかですね、今時姫騎士なんてオークさんか触手さんに前から後ろからエロいコトされるのがお仕事であっですね」

レッサー「マジで目指すなんて有り得ないじゃないですかーやだー」

鳴護「……ね、ちょっと聞いて良いかな?前から少し気になってたんだけど」

フロリス「あに?」

鳴護「明らかに、というかもう最初から崩すためのハンマー置いてあるのに、なんでレッサーちゃんはジェンガを積もうとしているの?」

鳴護「てか常識に考えれば――」

レッサー「さぁっ!悔しかったらかかってカモンっ!運転席を離れられるのであれば――」

キキィィィィィッ!

鳴護「――って、普通はブレーキかけるだけだよね?」

フロリス「まぁ、『レッサーだから』以外の答えはない、かな?」

ランシか「……ま、考えたら負け。感じても……分からない」

レッサー「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!?」

ベイロープ「あなたって子はァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

上条「あ、丁度スーパーに停まったみたいだし、何か食料買ってくるわ」

フロリス「――ならワタシも付き合ったげるさ」 ギュッ

上条「だからくっつくなっつーの!……ってお前も」

ラシンス「んー?」 ギュッ

鳴護「……当麻君?」

上条「いや違うんですよ鳴護さん、これはね?あのーこいつらが俺で遊ぼう的な発想でしてー」

上条「あくまでも俺は受け身って言うか、決してフラグ管理を怠ったつもりもなく」

レッサー「では私もちょっくらイーツ的なものを探しに――」

ベイロープ「――レッサー?」

レッサー「じゃ、ないですよねっ!ジョークですともっえぇっ!」

上条「あ、俺ら外してくるからごゆっくり」

レッサー「いやそのお気遣いなく?ってかむしろ早めに戻って頂かないと、私の貞操的なもの――アイタタタタッ!?」

鳴護「ベイロープさん、何か欲しいものありますー?」

ベイロープ「あ、いや気にしなくて良いわよ?こっちはこっちで楽しくやっとくから」

レッサー「楽しいのはベイロープさんだけですよね?私は恐怖に打ち震えるだけじゃないですかねっ!?」

上条「……まぁ、ごゆっくり」

レッサー「ちょ待っ――」

パタンッ

『……ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!?』

鳴護「ね、当麻君?」

上条「聞こえない聞こえない、俺は何も聞こえない」

鳴護「現実逃避してないで、レッサーちゃんの叫びが断末魔っぽい響きなんだけど」

鳴護「あたし達が戻ってきたら一人だけしか居ないとか、そういうのはないよね?」

フロリス「――つーワケでワタシ達五人の旅もいよいよ佳境だよねー」

鳴護「もう既に一人減ってた!?」

ランシス「リーダーからの命令……プレッツェル食べたい」

上条「へいへい、あるといいなー」

鳴護「えぇっと、次のリーダーも内定済み……?」

フロリス「ヘイ、アリサもジェラード食べる?バニラでいーよね?」

鳴護「あ、トッピング選べるんだったらバニラとチョコとミントとチョコチップとストロベリーでっ!」

上条「盛れんのかよそれ」

――キャンピングカー

レッサー「……ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!?」

ベイロープ「……」

レッサー「……」

ベイロープ「……行ったみたいね」

レッサー「ふっ!どうやらこの私の迫真の演技に騙されたようですねっ!」

レッサー「ちゅーか流石ベイロープさん、年の功より亀の甲!」

ベイロープ「あ、シバくのはシバくわよ?」

レッサー「なんてこった!?チャプターが変わったからリセットする仕様じゃないんですか!?」

ベイロープ「いや、さっさと本題へ入りなさい」

レッサー「つーか私が食事を作ろうって話なのに、まだ本題にすら入れないってのは一体……」

ベイロープ「よし、ケツを出すのだわ」

レッサー「――で、本題なんですけどね!その」

レッサー「アリサさんについてです」

ベイロープ「良い子よね。ウチに欲しいぐらいだわー」

レッサー「これで私とキャラが被らなきゃ、その線もあったんでしょうがね」

ベイロープ「性別と年齢近いぐらいしか共通項ないわよ。てか時間ないんだから簡潔に話なさいな!」

レッサー「脱線させたのベイロープだと思うんですが――今回の件、どーにも妙な感じがしませんか?」

ベイロープ「と言うと?」

レッサー「敵さんの動き全般、ほぼ全てに散見される戦略性の無さ、でしょうか」

ベイロープ「具体的には」

レッサー「ユーロトンネルでの『アレ』を退治するには、高火力での兵器で灼かなければ叶わない」

レッサー「たまたまそこへ乗り合わせたベイロープが、しかも一人囮として居残って勝ちましたね」

ベイロープ「そうね。随分前の出来事に感じるわ」

レッサー「『知の角杯』、しかも『銀塊心臓』なんて奥の手を遣い――そうですねぇ、下手な聖人クラスの威力まで高まりますよね?」

レッサー「そこまでしないと勝てない相手……まぁ、これは偶然としておきましょう」

ベイロープ「何か変な言い方よね」

レッサー「次に『Kingdom that eats frog(カエル食い王国)』」

ベイロープ「自重しなさい。つーかそのスペルでフランスだって分かる私もどうかと思うけど」

レッサー「あちらでも『野獣庭園』の『安曇阿阪』達の襲撃を受けました――が」

レッサー「同じく”偶然”に居合わせたフロリスによって撃破。やったね!」

ベイロープ「いや、だから」

レッサー「下位種とはいえ曲がりなりにも『竜』へ獣化し、相対したのが『DragonSlayer(竜殺し)』の霊装を得意とするフロリスに、ですよ?」

レッサー「これは『偶然』でしょうか?」

ベイロープ「……」

レッサー「んでもって一昨日っ!イタリア国境入る直前ぐらいに奴らは夢の中でかかって来やがったぜBaby!」

レッサー「だがしかぁしっ!ランシスの『魔剣』でスッパリ解決さHAHAHAHAっ!」

レッサー「――『負』の魔剣で『聖』なる術式を――」

ベイロープ「――まるで示し合わせたように?」

レッサー「さて、私達が同じ立場だったらどうでしょうね?」

ベイロープ「私には奥の手があるけど、フロリスじゃ脱出は無理でしょうね」

ベイロープ「普通の魔術師だったら、術式をかけられた瞬間に『詰む』のだわ」

レッサー「上条さんは良い感じに『勘違い』されてますけどねぇ。つーか多分目が肥えすぎてるだけっつー気もしますが」

レッサー「『並の魔術師』じゃなく、『その筋ではトップクラス』の魔術師ばっか見てるから、まぁ誤解したまんまですか」

レッサー「下手に深刻ぶるよりはそっちの方がずっとマシですけども――さてさて」

レッサー「『アレ』はさておき『安曇阿阪』と『団長』、どちらもハマったら全滅レベルの難敵です」

ベイロープ「『物理攻撃』、特に対人戦や対魔術師戦で堅めた相手には、まさに死角からの攻撃となる……」

レッサー「物理的に――って言葉が正しいかどうかさておくとして――ブーストした”だけ”の術式じゃ厳しいと」

ベイロープ「作為的、よね。ここまで来ると」

レッサー「そもそも『アレ』に関しても、ユーロトンネルの中で助かった部分があるんじゃないですかね」

ベイロープ「逆じゃないの?逃げ場が無い――あ、そうか」

ベイロープ「私達に逃げ場が無いって事は、『アレ』だって逃げる所が無いのよね?」

レッサー「地下鉄、メインストリート、デパートに博物館。どこへ放しても大惨事確定でした」

レッサー「無限に分裂しながら逃亡すれば、収集なんかつく訳が無い――ですが」

レッサー「反対に密閉空間の中で戦えば進化の方向性も限定される、と」

ベイロープ「方向性?」

レッサー「えぇっとですね。基本的に洞窟の中にいる節足動物は多足類が多いんですよ」

レッサー「空を飛ぶよりも地面を這った方が入り組んだ地形に対応出来ますし、捕食もし易いと」

レッサー「爬虫類や魚類であっても目が退化した代わりに、別の感覚器官を発達させた種族は多いんです」

レッサー「……んが!日光の元で進化させるとその方向性がどこへ行くのか見当もつきませんよ」

レッサー「羽を生やして天敵から逃れたり、人そっくりに擬態して欺くのか」

レッサー「蟻のようなコロニーを作られたら手がつけられません」

ベイロープ「あぁ成程ね」

レッサー「……ま、そっちに関しても思い当たる点はあるんですが――アリサさん、どうです?最初の質問へ戻りますが」

ベイロープ「どっかの甲斐性無しに入れあげてる以外は、まぁ将来が楽しみよね」

ベイロープ「最初は……無理にテンション上げてたみたいだけど、最近じゃ極々自然体になって――ってのは、多分」

ベイロープ「あなたが聞きたい答えじゃないのよね?」

レッサー「えぇ、私も概ね同意見ですが、一部分は特に同意したい所ですし」

レッサー「気のせいかも知れませんけど、最近妙に明るくなったと言いましょうかね。何となく……違ってきてませんか?」

ベイロープ「別人にすり替わった?有り得ない」

レッサー「それはそうなんですけど……どーにも、普通すぎて」

ベイロープ「遠回しにDISってる?」

レッサー「いえいえ真面目な話。やはり存在の定義からして、なのでしょうかね」

ベイロープ「『奇蹟』」

レッサー「ですんでちょいと先生へお伺いを立てて貰えませんかね?私達だけの知識ではどうにも」

ベイロープ「了解。てか」

レッサー「……えぇまぁ機会を見て話すべきでしょうね。そうしないとアリサさんの命――いえ、存在意義に関わるかも知れませんから」

レッサー「これがアカの他人であれば『ゆっくり生きていってね!』で済ませたんですがねー」

ベイロープ「ま、情は移るわよね……ね、レッサー?ずっと悩んでたんだけど」

レッサー「何です?急に、てか即断即決のあなたにしては珍しい」

ベイロープ「話する少し前ぐらいから悩んでた――って言うと大げさだけどね」

レッサー「おっ!相談ですか?私がスバッと解――」

ベイロープ「アルゼンチンバックブリーカーとカナディアンバックブリーカー、どっちが程良いダメージを残せると思う?」

レッサー「私への処刑の話でしたかっ!」

ベイロープ「あの子達が帰って来た時に無傷だったらおかしいから、仕方なく、ね?」

レッサー「嘘だ……ッ!ベイロープさんは嘘を吐いてませんかねっ!?」

ベイロープ「大丈夫大丈夫?全然全然?人の履歴をバラしやがってとか、根に持ってはないわよ、うん」

レッサー「てーかもう完全にフラグじゃないですかありがとうございましたっ!」

ベイロープ「……私が政争に巻き込まれるってのは、まぁ生まれだし仕方が無いんだけど。慣れてるっちゃ慣れてるし」

レッサー「Bitch of the Wales(ウェールズの売女)ともその繋がりでしたっけ」

ベイロープ「……もし何かあったら、どっこからでも首突っ込んでくるバカを”二人”知ってるのだわ……」

レッサー「あー……奇遇ですねぇ。私も一人そんな奇特な方を知ってますわー、えぇ」

ベイロープ「つーコトで背骨一本で許したげるから、ほら早く」

レッサー「じゃしょうがないですね――なんて言いませんよっ!ペナルティ重くないですかねっ!?」

――キャンピングカー

レッサー「……」

鳴護「あのぅ、レッサーちゃんが逆ツチノコみたいなポーズで固まってるんだけど……?」

ベイロープ『――で、あーまぁ、何よえっと……あぁ、スコットランドの話だっけ?』

フロリス「一応55:45ってスコアで否定にはなったみたいだケド」

ランシス「ベイロープ、利用されそう……?」

ベイロープ『血縁関係があるって言っても、王朝時代は断絶してる訳だから。心配は要らないわよ』

上条「でもなんか利用されそうじゃないか?」

ベイロープ『イングランド人の文学者、「地獄への道は善意で舗装されている」が、有名なサミュエル・ジョンソン』

ベイロープ『彼が残した言葉の一つに、「愛国心は卑怯者の最後の隠れ家」という言葉があるの』

ランシス「日本では何故か『愛国心はならず者の最後の拠り所』と訳される……」

ベイロープ『が、これはサミュエルが「スコットランド出身の首相へ対し、支持率が下がってきたからって愛国心利用してんじゃねぇぞ」と言ったのが残ったのであって』

ベイロープ『今まさにスコットランドじゃ「愛国心」――スコットランドへの帰属意識をわざと高めてる”ならず者”が居るのよ」

ランシス「……一応先進国で、しかも文化水準もトップクラスのブリテンから独立て、何のジョーク?」

フロリス「まー、でもそんなモンじゃないかね?どこの国も分離主義者がダダこねて空手形を切りまくってるカンジ?」

フロリス「声がデカくて論説戦になっても『相手の言っている事が理解出来ない』人間が多くなっちゃってるカンジ?」

ランシス「……ゲーテ曰く、『論戦で絶対に勝つ方法とは、相手の主張を一切受け入れず、最後まで自分の話を繰り返せば良い』と」

上条「……はーい、質問」

ベイロープ『何?』

上条「今スコットランドの首相つったよな?つーかニュースじゃ、300年ぐらい前に併合されたっつーか」

レッサー「ちなみにその時に即位したのがベイロー――アイタタタッ!?首がっ!?」

ベイロープ『ナイス』

ランシス「いぇーい……」

フロリス「それ言っちゃうと色々問題になるから、止めとこうねー?」

鳴護「一体何が……?」

上条「そのサミュエルって人は」

ベイロープ『同じく300年ぐらい前の人よ』

上条「スコットランド、300年前から首相搬出するって事は、イギリスに馴染んでるってコトじゃねぇの?」

フロリス「前の首相、トニー=ブレアもスコットランド系だぜ」

上条「ニュースで見たけど、イギリスとスコットランドの人口比って10:1ぐらいなんだろ?」

上条「それでも首相出るんだから、別に政治的に孤立してたり、経済的に置いてきぼりになってるとか、主張おかしくねぇか?」

レッサー「……いや、ですからおかしいんですよ。最初っからね」

レッサー「独立派の主張は『スコットランドは搾取されている被害者なんだ!』がデフォなんですが――具体的にどうこう、ってのは何一つ」

レッサー「『ロンドンに搾取されている!』が良い例なんですけど――普通、首都って人もモノもカネも集まりますよね?」

レッサー「日本で言えば東京と地方自治体、遣える予算や公共サービス、やっぱり都会の方が有利ですもんね」

上条「そりゃそうだろ。つーか当たり前だろ」

レッサー「北海油田――文字通り海上油田の開発を続けてきたのは、ブリテンの国策としての成果ですし」

レッサー「それを国が『ブリテン国民』へ還元するのは当たり前では?」

ランシス「……反対に『スコットランドだけ』に還元したら非難囂々」

鳴護「あ、難しい単語知ってるんだー?」

ランシス「使いたくなった」

ベイロープ『補足するとアバーディーンってスコットランドの漁村も、油田開発の恩恵を受けて豊かな都市になっているのよ』

フロリス「日本で例えると……そうだねー、ある未開の土地を開発し終わったら、自称先住民族の子孫が湧いて出て、賠償金を支払えー、かな?」

上条「開発したのはイギリスで、でも独立派は寄越せと?」

ベイロープ『一事が万事こんな感じ。正直付き合ってられない』

レッサー「しっかもですねぇ、連中『ポンド使わせる訳ねーだろボケ!』と怒られてビビったらしく」

レッサー「選挙戦の最後の方に『国家元首はエリザベス2世のまま』とか超日和りやがったんですよー……あぁぶち殺してぇ」

鳴護「レッサーちゃん、キャラキャラ」

レッサー「おっと私とした事がついうっかりしちゃったのよな!」

上条「戻せ戻せ、クワガタアフロのオッサンになってんぞ」

鳴護「エリザベス女王さん?って確か」

レッサー「――もといエリザードでしたね。やー、何か今日は変な電波飛んでるなー?」

上条「あのノリの良いおばさんが国家元首……今と変わんなくね?」

ベイロープ『だったら”民族のため”に独立する意味が無いわよね?』

上条「あー……うん。独立派がクズってのはよく分かった」

フロリス「ちっちっちっ!甘いぜ、奴らはもっと怖いんだ!」

ランシス「……怖いってか、まぁ果てしなくドン引き?」

ベイロープ『私達、っていうかスコットランドの一部のバカどもはね。エリザード、もといエリザベス――あぁもう面倒臭い!』

ベイロープ『正式名称エリザベス2世が「スコットランドには居なかった」を根拠にして、2世って呼ぶな運動をしてるのだわ』

上条「ええっと?」

ランシス「スコットランドとイングランド、途中から一つの国になった」

ランシス「だから戴冠する君主は『イングランド王兼スコットランド王』、となる……おけ?」

鳴護「です、よね?日本じゃあまり馴染みがない、ですし」

フロリス「何となくでいーよ。ワタシらも深くは考えないし――で、今の女王が2世、つまり過去にも同じ名前の王様が居たと」

ベイロープ『――でも「スコットランドには居なかった。だから2世と呼ぶな」ってね』

上条「なんつーか……大概だな、それ」

レッサー「えぇまぁ連中裁判を起こして負けたんで、以後スコットランドでも2世と使われるんですがね」

レッサー「ですが、ブリテンの郵便ポストには国王の名が刻まれるのに、スコットランドでは無名のままって事態に」

ランシス「一部の人達が、壊したり、名前を削り取るから……」

上条「はぁー、大変なん――って待て待て、ちょっと待て」

上条「その、スコットランド独立派が、そこまでして嫌がってるエリザードさんを」

レッサー「『心配ないですよっ!スコットランドが独立しても何も変わりませんって!』」

レッサー「『だって君主はあのっ!私達の王様であるエリザベス”2世”さんなんですからねっ!』」

ベイロープ『――を、マジで。何ら一つフィクションで無しにカマしやがったのよ……!』

レッサー「まーさーにーっ!『ならず者の最後の逃げ場は愛国心である』を地で行ってますねー」

上条「……それ、本末転倒じゃね?スコットランドがイギリスから独立したがってるのは、まぁ良いと思うさ」

上条「ぶっちゃけ幾ら自由っつっても、独立する自由があるかどうかはさておき、理解は出来る」

上条「でもそのために今まで散々攻撃していた相手、つーかその様子じゃ無礼な事しまくってたエリザードさん持ち上げるって……」

レッサー「更に補足しておきますと、ブリテンじゃ王族に爵位が授けられます。どこどこ公爵とか伯爵とか」

レッサー「んで割り振られる領地――つっても名目だけですが――が決まってるんですが、なんと!」

レッサー「現在のエディンバラ公爵はエリザード旦那、しかも彼が死んだ暁には彼の長子――つーかリメエアさんが継承するってまとまってます」

レッサー「少なくとも『ブリテンの次の王はエディンバラ公が選ばれる』っつー配慮してんですがね、こっちは」

鳴護「お話聞くに、粗末には扱われてないよね……?」

レッサー「少なくともイギリス領インド帝国よりか格段に大事に扱ってますよっ!」

上条「おーいガンジー!こいつをいっぺんぶん殴ってくれ!」

フロリス「あぁまぁ良い機会だし、こないだはハンパになっちゃったのを、も一度言うとだね」

上条「途中?何かあったっけ?」

フロリス「フランスの王様がブリテンの王様でもあった、みたいなの」

上条「あーはいはい、あれな」

フロリス「……こほん。ぶっちゃけ『ブリテンの王族』の定義はバッカみたいに広いんだ」

上条「広い?」

レッサー「始めてお目にかかった頃、そちらさんは『王族だけを標的にする暗殺術式』だとパニクってらっしゃいましたよねぇ?」

上条「あぁカーテナ争奪戦の時、キャーリサがカマしたやつな」

鳴護「当麻君、さっきからイギリスの女王様とかを妙にフランクに話すよね?呼び捨てるよね?」

上条「違うんだよ……!いや、想像してる通りだとは思うけど!別に俺が好きこのんで首突っ込んだ訳じゃ!」

フロリス「だから『王族だけ』をターゲットにしたら、対象範囲がとてつもなく広いんだーよねぇ、これが」

レッサー「まずは国内に居る王族と元王族。そしてフランス革命で生き残った、言ってみりゃブリテン王室の元になった人達の子孫」

ランシス「……あと植民地。『大英帝国時代に王族だった』人も巻き込まれる……」

ベイロープ『ウチみたいな没落貴族は腐る程居るのよ』

上条「……あぁ、なんか適切な言葉が出て来ない。なんかモニョる!」

レッサー「素直にバカじゃねーの?と言っても構いませんよ?言ったら罰ゲームですけど!」

上条「今更不用意な事はしねぇが……あー、ルーツがフランス。でもってウェールズや北アイルランド、スコットランドの血も入ってる」

上条「しかも植民地時代には他の地域の大々的な王――皇帝になって、現地の植民地とも親戚関係になった、と」

レッサー「あ、『エリザード旦那はギリシャ王族』も付け加えておいて下さいな」

フロリス「今のウィンザー朝開祖ショージ五世のママは、デンマーク王女兼インド皇后だっしー」

ランシス「彼女の妹はロシア皇后になったけど……ロシア革命で家族を無惨に……」

鳴護「日本と違って、ひたすら混血やら婚姻が進んでる、って事?外国との?」

レッサー「まぁそんな訳で『ブリテンの王族だけを狙った術式』があったとしても、恐ろしく対象範囲は広くなってしまいます、えぇ」

レッサー「王位継承権だけを持つ、のであればまだ有効でしょうが、血がどうこうという判別方式でしたら、大量に人が死ぬ事になりますから」

上条「でもあの時、その、俺達が怪しんでいた王族だけ狙う術式があったとしてだ」

上条「キャーリサじゃなくフランスが黒幕だったら、本当に使って……あ」

レッサー「気づきましたか?いや僥倖僥倖。上条さんもこっちの知識に染まって何よりですな」

上条「認めたくはねぇがな……」

鳴護「どういう事?フランスには王様が居なくって、イギリスの王様を――ってするんだったら有効だよね、って話だよね?」

レッサー「……憎いっ!その無意識に『だよね』を二回重ねて上目遣いで首を傾げるその仕草を計算無しでやれる所が……!」

フロリス「落ち着け恥女。取り敢えずシャツ脱ごうとスンナ」

ランシス「……ハウスっ」

レッサー「わふーっ」

上条「ウッサいぞ外野。えっと、俺も良くは分かってないんだが、仮にイギリスの王族だけ狙えるとしよう」

上条「もしも『血』とか『過去の婚姻関係』で絞ったら、対象が大量になっちまうし?」

上条「フランスに友好的な国も巻き込んだりしたら、回り全部が敵に回す可能性だってある」

鳴護「あー、政治家さんの中にも『元○○王室の関係者』とかいそうだね」

上条「フランスにとっては、あぁもし黒幕が連中だったとすればって前提で」

上条「連中が国益であって、エリザードさん達殺しましたハイ終りとはならない。その後どうするのかが問題」

上条「物証突きつけられて四面楚歌にされてもするだけのメリットがあるか、と」

レッサー「……ま、ドーバーの原子力潜水艦から核使おうとしやがったらしいですし、少なからず冤罪でもないんですがね」

フロリス「つーかさー、ユーロトンネル爆破に関しちゃ、間違いなくフランス野郎が関わってたんだし」

ランシス「……あれ、スルーしちゃいけないと思う……」

フロリス「つーかユーロトンルネ爆破も結局。現在に至るブリテンとフランスのいざこざは、イギリス清教とローマ正教の代理戦争って側面があるのさ」

レッサー「こんな感じで、私達の歴史は入り組んでる訳でして、はい――『王族をトリガーに発動する国家単位の破壊を行う術式』でしたか」

レッサー「あったら最初っから使いそうなもんですけどねー」

上条「俺達は最初、お前ら『新たなる光』がその術式を起動しようとしてた、って勘違いしてたよな。でも」

上条「あれ、本当の所はどうなんだ?あったの?」

ベイロープ『レッサー』

レッサー「分かってますってば、そうガミガミ言わないで下さいよ。ベイロープは私のママンですか?」

レッサー「……」

レッサー「もしかしてっ!?あなたが生き別れになった私の――ママンっ!?」

ベイロープ『……後でケツの肉、握り潰す……っ!』

レッサー「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

鳴護「レッサーちゃん……」

フロリス「あ、レッサーのオカンはおバカやらかす度に学校に呼ばれてたから」

ランシス「……その時に言った台詞が『バカな子ほど可愛いのよ!』……って」

上条「遺伝じゃねぇか。ある意味元凶とも言えるが」

フロリス「ワタシから補足しとくけど、はっきり言って『曖昧』」なんだよねぇ、そこら辺も」

フロリス「今の王様もウィンザー朝。ドイツ出身のザクセン公国の流れを継いでるし?」

ラシンス「……だから『ブリテン国王の死』にはフランス・ウェールズ・スコットランド・ドイツの血のどれかが入っていれば、条件を満たす……」

ランシス「もっと言えばブリテンにはもっと旧い『王』が居た、し?」

上条「範囲、広すぎだよなー」

フロリス「えーーーーーーっと……あぁそうそう、古代バビロニアでは『供犠王(King sacrifice』」って制度があった」

フロリス「”Escape”の前に現在の王は退位、罪人を王へ即位させるんだよ」

鳴護「エスケープ?逃げる、の?誰から?」

ランシス「『Solar eclipse, Lunar eclipse』……日蝕と月蝕」

ベイロープ『太陽や月がなくなってしまう、それを再び甦らせるためには王の命が必要』

ベイロープ『だけど一々殺していたんじゃ割に合わない。だったら殺されても当然のヤツを、事前に王につけておこう』

レッサー「ま、日本に多い『穢れ払い』と同じドグマでしょーかね?」

レッサー「『悪いモノが来たら、誰かに押しつけてその他多数を救おう』って考え方ですか」

ラシンス「もっと突き詰めれば、人身御供……」

上条「事前に予測出来てたのがスゲーよ。バビロニアって確か、紀元前……?」

ランシス「約1900年前から、千年ぐらい続いた王朝……」

フロリス「そん時にゃサロス周期が発見されてて、日食月食は100%予知されてたワケで……ま、8時間ズレる時もあったケド」

レッサー「詳しくは省きますけど、アンティキテラ島の歯車ってご存じで?」

鳴護「あ、知ってる!古代ミステリーとかのオーパーツ!」

レッサー「つい最近まで用途が不明だったのですが、復元作業が進んだ結果、あれは月の満ち欠け、天体の運行」

レッサー「更には日食や月食が起きる日時も、正確に算出出来るものだったようです」

レッサー「復元された盤面にはシグマ――月の女神セレーネのシンボルが月を。太陽は太陽神ヘリオスの象徴であるイータが入っています」

レッサー「その機械に使われてた歯車の歯の数、それが223枚。古代バビロニアで確立されていたサロス周期の概念が入っていた、と」

上条「制作年代は?」

フロリス「紀元前150年から100年ぐらい、って言われてる。ま、少なくともバビロニアとギリシアには文化の継続があったとさ」

ランシス「文化の伝播……信仰の変遷。バビロニアでのキュベレ神が、今度はアルテミスへ姿を変えるし」

レッサー「アルテミスというよりはセレーネの方が正しいと思いますよ。旧い、月の神」

ベイロープ『ま、そんな訳で昔から「貴人を殺して災害を防ごう」って魔術儀式があったのだわ』

フロリス「でも実際、一々やってちゃ非効率だっちゅー話さ」

ベイロープ『だから一時的に貴族や国王へ引き上げといて、さぁ処刑!みたいな事』

ベイロープ『その術式が存在してれば、ブリテンでもそういう対抗手段をとった思うわよ。あれば、ね』

ラシンス「だから、うん……ない、よ?」

上条「……なーんか違和感があるんだけど、まぁ突っ込んだら負けなんだろうな――あ、そうだ」

レッサー「な、なんでしょうか?……はっ!?」

上条「確実にお前が思ってる質問とは違うよ!……つーか常々思ってたんだけどさ」

上条「『カーテナ・オリジナル』って一度失われたんだよな?」

レッサー「清教徒革命の時にですね。あん時ゃもう必要ないと思いましたから」

上条「なんでお前ら、オリジナルが埋められてた場所知ってたの?」

上条「タダの魔術結社未満で、少なくともバードウェイ達みたいな老舗って訳でもないのに、どうして?」

レッサー・ベイロープ・フロリス・ランシス「……」

上条「……え、聞いたら駄目だったか?」

レッサー「……えーっと、ですねぇ。まぁ、何と言ったらいいでしょうか、困るのですが――」

レッサー「一言で言えば『神様の見えざる手が働いた』的な?」

上条「デラタメだよな?良く分かんないし、これ以上突っ込むのもアレだから言わないけど、雑だよね?」

レッサー「ウッサイですよ!私達だって頑張ってるんだから奇蹟の一つや二つ起きたっていいじゃないですか!」

上条「てか俺にキレるなよ」

レッサー「ちゅーかどうしていつの間にかこんな話題になったんですかっ!?私が折角張り切ったというのに!」

鳴護「張り切った……?あ、何か言いかけてたよね」

レッサー「……えぇまぁ今更話を蒸し返すのもちょいと照れるんですが」

上条「――って言ってる割にはスキップしてキッチンに移動してんな?」

レッサー「我々の旅、結構続いてますでしょ?長い――とは言いませんが、少なくとも『濃い』のは間違いなく」

上条「ま、そうだよな」

レッサー「んで、気づいたんですが――」

レッサー「――『私達、上条さんだけに料理を任せていて、女子的にどうなの?』と」

上条「レッサーつぁん……!!!」

レッサー「おおっとどうされましたかっ珍しい!?」

上条「……あのなぁ、そりゃな?俺だってさ、ホラ料理は嫌いじゃないよ?」

上条「むしろ最近、上の学校で経営学勉強しながら調理師免許取って、いつかお店を出したい!みたいな考えもあるんだよ」

上条「料理作るのは好きだからな。強いられるとしてもだ」

鳴護「わー、当麻君りっぱー」

上条「んでもっ!違うじゃない!そうじゃないじゃない!」

レッサー「え、えぇっと?どう、しました?」

上条「なんで女の子五人も居るのに、誰一人として料理しようとしないのっ!?女の子の手作りとか憧れるよねっ!」

ベイロープ『あー……』

フロリス「分かる。ケドさ。ウン」

ランシス「……うんうん、まぁ」

レッサー「……あー、それじゃどうしましょうか?私から言います?それともアリサさんから?」

鳴護「私!?はっきり言うのは、ちょっとプライドが……」

上条「……何?何なの?半分以上おふざけだってのに、なんかリアクションが予想と違う……?」

レッサー「んでわっ代表して私が!……こほん、上条さん、心して聞いて下さいね?」

上条「……そんなに深刻?」

レッサー「つー話でもないんですが……あー、例え話をしましょう。例え話」

レッサー「子供の頃にハマってものってありません?ゲームでも良いですし、ベースボールなんか流行ってましたっけ、日本じゃ」

上条「んー……どうだろ?あんま憶えてねぇが……」

レッサー「あ、別に言わなくても結構ですよ。ありましたよねー、的な感じで」

レッサー「でもそのハマってるものって、やっぱり上には上がありますよね?」

レッサー「ゲームでも野球でももっと得意で、しかも熱を入れてやってる人が居ます。そりゃ世界は広いんですから当たり前」

レッサー「んで、仮にハマってたものよりも数段の上の人が出て来たとして――」

レッサー「――その人の前で、腕前を披露する気、なります?」

上条「んー……と。まぁ、ちょっと萎縮するっつーか、気後れする、よなぁ」

上条「ガキの頃ってのは特に世界も狭いから、そうなっちまうような気がする」

レッサー「以上の例えを『料理』で再構成してみて下さい。速やかに」

上条「料理……?」

レッサー「えぇまぁ私達、ぶっちゃけ学生ですし?アリサさんも食事量がハンパ無いので自炊してたと思うんですよ、えぇ」

鳴護「大食いタレントさんと一緒にされるのはちょっと」

フロリス「自覚しよーぜ」」

レッサー「私達も寮ですからね。身の回りはメイドでも居ない限り、自分達でしなきゃいけませんからね」

上条「学園都市でも結構自炊派いるぜ?親元離れてて小遣いも限られるからな」

レッサー「えぇえぇ、そうでしょうとも。そうなんですよね、きっと」

レッサー「ですから私達も少なからず自信的なモノはありましたとも、はい」

上条「ありまし”た”?」

レッサー「……へぇ?上条さん、ここへ来てまだそんな態度なんですか、そうですか」

上条「……え」

レッサー「『メシマズ国』とか『メインメニューは六種類』、『カレー紳士』等々、散々ネタにされ続けてきた我々ですが」

レッサー「……まぁ、それでも?郷土愛と地元料理、結局ブリテン人の口に合うのはブリテン料理――そう、思ってきました」

レッサー「ですが!なんですかっ!?なんなんですかっ!?」

上条「ごめんなさいっ!?つーか俺が何したって言うんだよ!?」

鳴護「反射的に当麻君もどうかと思うよ?」

上条「――はっ!?『取り敢えず謝っとけば即死攻撃はあんま飛んでこない』って処世術が身について……!?」

ベイロープ『大概よね』

レッサー「ホラそこ脱線しない!人の話をきちんと聞きましょうっ!」

レッサー「大体昨日の料理!一体全体何なんですかっ!?」

上条「き、昨日の……?確か――」

上条「――あぁラビオリとラバーブレード――海藻のごった煮とエビのカクテル、だったよな?」

レッサー「あんなねぇ、あんな……!」

上条「イギリスの家庭料理だろ!お前らがそろそろ地元メシ食いたがってると思って、作ってみ――」

レッサー「あんな美味しいモノはブリテン料理じゃ無いんですよ……っ!!!」

上条「はいっ!…………………………はい?」

レッサー「あんなんはブリテン料理じゃありませんよ!散々煮込んだのにパサパサしてないし!ブレードは塩臭くないっ!」

レッサー「エビに至っては食べても砂が入ってないじゃないですか!?」

上条「ナメてんのか?お前が一番イギリス料理にケンカ売ってないか、あぁ?」

レッサー「うんもう面倒だからぶっちゃますと、ヤローのクセにやったらメシ作るのが上手い方が居て、恥ずかしくって料理を披露出来ないんですよ!」

上条「すいませんっしたっ!!!……って、あれ?悪いか、俺?」

レッサー「――だが、しかぁし!私は、このレッサーちゃんは違いますよ!」

レッサー「今日こそは私が!上条さんを料理で上回ってやりましょう!」

上条「……や、あのな?俺は別に料理の上手い下手とか関係なくってだよ?」

上条「女の子が作ってくれるんだったら、文句言うつもりなんて更々ねぇし。そもそもプロの人だって、常に全力の料理ばっか食べてる訳じゃないんだからな?」

上条「カップメンやファーストフードの味が恋しくなるし、実家に帰ってかーちゃんの濃い味付けに涙したりとか、フツーだからな?」

レッサー「……ほぅ?始まる前から上から目線……勝負をしないおつもりですか?」

上条「勝負も何も。俺は作ってくれるだけで有り難いって」

レッサー「ダメですねっ!女のとしてのプライドがある以上、殿方に女子力で劣ったとあっては末代までの恥です!」

上条「待て待て。人を女子力58万みたいに言うな」

上条「あとさっきから凹んで沈黙している他の皆さんの心中も察してあげて、なっ?」

レッサー「逃げるんですか上条さん!」

上条「いや逃げるとか……まぁ、するっつーんならやっけどさ」

レッサー「あ、罰ゲームは『負けた方が勝った方と結婚する』で」

上条「あ、ごめんな?やっぱ俺勝負しないわ」

レッサー「この私の狡猾な罠を見切っただと!?」

上条「辞書でこの単語の意味調べてこい……って、あれ?」

レッサー「どうしました?」

上条「や、その、お前にプロポーズされんの久しぶりじゃね?」

レッサー「そ、そうでしたっけ?」

上条「前は一日一回してたじゃん?それがここ二三日はないなーって」

鳴護「その『遊びに行かない?』的な頻度もどうかと思うよ?」

フロリス「慣れちゃってるのも不憫だよねぇ。ま、関係ないケド」

レッサー「――と、言う訳で早速張り切ってやりましょうか!」

上条「スルーすんなよ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

スコットランド独立のあれこれは一切脚色していません。独立派、本っっっっっっ当にクズです。無責任極まりない
特定のコミュニティへの帰属意識を煽って、他人からの上前はねようとしている良い例です

他の三人は頭文字や語感でなんとなく想像ついたんだけど。
フロリスだけは、どうしてもあの人に繋がらないなあ……などど色々調べていたら。
なーーーーるほどねえ!
こっから繋いできますか。いや、私がその伝説に疎いだけなんだろうけど。
伏線無かったら見逃してましたよ。

とにかく、(想像通りなら)これで有名どころそろい踏み。
ストーリーにどう絡んでくるか、興味津々です!!

>>828
フロリス「しむらー、魔法名魔法名」――>>569
フロリス「つか聖剣召喚の呪文も『直訳』じゃなくって『意訳』なんだケド、よぉーっく英単語見てみ?特に最後の方」――>>560


伏線についてツッコんで戴いて非常に有り難いのですが、
手品師は右手で人の注目を集めている間に左手でタネを用意する訳で
同様に詐欺師の手口は第一話で告られても断るのがベター(定番)だと思っています

が、しかしプロの方――西尾先生は彼氏彼女になってしまう辺り、一流は流石としか言いようがありません

――キャンピングカー

レッサー「で、料理対決はジョークとして、まぁたまには私のお料理なんかも披露したいなー、と」

上条「……あぁうん冗談なんだよね?良かったー」

フロリス「レシピは?」

レッサー「ウサギのミートソースです」

上条・鳴護「「……ぇっ?」」

レッサー「待ちましょうかジャパニーズ?何か不満でもおありで?」

鳴護「ウサギ、食べ、るんだ?」

レッサー「日本でも食べていたって聞きましたけど」

上条「江戸時代な。仏教の影響で獣肉はあんま食わなかった、らしい」

上条「今も……料理としては残ってねぇかなぁ?少なくとも俺は食べた事が無い、と思う」

フロリス「郷土料理、みたいな感じでもないの?」

上条「蜂の子的なアレな料理は残ってっけど、ウサギ料理は聞いた事すら無い。言われてみれば何でだろ……?」

ベイロープ『代用品が出来たんじゃないかしら?チキン・ポーク・ビーフにフィッシュ』

ベイロープ『ウサギを育てて食べるよりも安くて効率的よね』

鳴護「あー、だから代用品のない鯖寿司とか残ってる、のかな?」

上条「発酵食品は地元の文化と一緒になってっからな」

レッサー「んじゃどうします?念のため用意してたチキン辺りで代用しても同じですけど?」

上条「いや、ウサギ肉で頼む。食べ慣れてないだけで興味はある」

鳴護「同じく、です」

レッサー「わっかりました。そいでは取り出したるこのウサギ肉!」

上条「……えっと」

鳴護「手のついてるチキンの丸むしり、みたいな?け、結構そのままなんだねっ!」

レッサー「え、日本じゃ違うんですか?」

上条「あー……部位ごとにブロック単位でパックに詰めて売ってる。だから、その」

上条「そんな”まま”のは見ない、かな。うん」

ランシス「方式としては日本が特殊……普通は”まま”で売られてる方が多い」

フロリス「アジアの露天なんかは生きた鶏をその場でシメてるし?」

レッサー「ま、お気になさらず。では――この寸胴鍋へっ!」

上条「デカっ!?つーかそんなの置いてあったか!?」

レッサー「ウサギにっくドーーーンっ!」 ザポンッ

鳴護「え!?骨は!?割とアレ、首があったら動き出しそうなぐらいに原型留めてたよねっ!?」

レッサー「まぁまぁ見てて下さいってば。このまま終る訳がないでしょう?」

鳴護「だ、だよね?ギャグじゃないんだもんね!」

レッサー「次に用意するのは皮付きのタマネギ、ニンニク、ネギ。新鮮ですよー」

上条「お、おぅ」

レッサー「これも全部おっなっべっへドーーーーンっ!!」 ザボンッ

上条「皮はっ!?剥かないのっ!?」

レッサー「――最後に取り出した大量のトマト!あーんどハーブ!これも――」

レッサー「ぜーんぶドーーーーーンッ!!!」 ザボザボザボザボッ

上条「表出ろテメー!食べ物で遊ぶのは流石に――」 ツンツン

上条「――ランシス?何?今ちょっとレッサーの幻想をだな」

ランシス「……ネタじゃない」

上条「はい?なんて?」

ランシス「本当のあるの、この料理」

上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」

フロリス「現実逃避は止めろ。マジでジョークじゃないんだ。つーかブリテンの有名な料理家がこれ作ってんの」

上条「やだなーフロリスさんまで」

ベイロープ『甚だ遺憾だけれど……本当、よ』

上条「………………マジで?これが?」

鳴護「ま、まぁまぁ?まだだよ!まだ終ってないし、きっとこれからミラクルが起きるのかも!」

上条「ん、あぁ、そう、だよな?まだ材料ぶち込んだだけだもんな!」

上条「そういや前なんかで『皮の部分に栄養素がたっぷり含まれている』みたいな話聞いたし!レッサーの戦いはまだまだ続くんだよな!」

レッサー「それ完全に打ち切りフラグなんですが……まぁ良いでしょう。確かに行程としては100分の1も経過してませんし」

上条「あ、そなんだ?だったら別に」

レッサー「では次の行程へ移ります。このランシス――じゃなかった寸胴鍋を」

ランシス「『Are not you negligently applying the match? Wild Boar?』」 ジャキッ
(いい加減ケリをつけようじゃないか猪野郎?)

ラシンス「『Did not you say by power at "Alondite" though doubted saying you and beforehand? Aha? 』」
(つーかお前、前々から思ってたんだが『魔剣』の時もノリで言ったんじゃないのか?あぁ?)

上条「だから荒れるな!つーかお前も室内で抜くな!」

レッサー「で、煮ます。パチッとな」

上条「あー、イギリス料理は煮るのが多いんだっけか?」

レッサー「……」

上条「……」

鳴護「……」

上条「……いや、待つのは良いんだけどさ。どのぐらい?」

レッサー「13時間です」

上条「よし解散っ!」

フロリス「ベイロープぅ、どっか食べ物屋さんあったら停まってよ」

ベイロープ『おけ。リクエストは?』

レッサー「待って下さいよ!?さっきから何なんですかっ文句ばっかり!」

上条「じゃ言うけど!13時間ってなんだよ、13時間って!?せめて2時間3時間だったら話は分かっけど、半日以上て!?」

ベイロープ『あー……その、言いにくいんだけど』

フロリス「……ネタじゃないんだよ、ウン。ネタじゃないんだな、これが」

ランシス「ブリテンじゃふつーふつー……」

上条「おかしいの俺か!?」

レッサー「ね、上条さん?気持ちは分かりますよ、えぇ。カルチャーギャップと言いますか」

レッサー「高度に効率化された社会に於いて、スローライフが異様に見えてしまうかも知れません」

上条「いやあの、もう効率的以前に『これ料理?』って感じなんだが……」

レッサー「ですが!裏を返せば料理一つにここまで手間暇をかけられる!そういった心の余裕がゆとりなんですよ!」

上条「『余裕=ゆとり』だからな?それっぽい事言ってるつもりなんだろうが、失敗してるからな?」

上条「……いや、まぁ言いたい事は何となく分かる。料理に時間を割けるのって、大切だもんな」

上条「効率やけ追い求めるんだったら一昔前の宇宙食みたいになって、味気ないシロモンだって話か」

レッサー「――で、13時間煮込んだものがここにあります」

上条「良い話してたよね?お前の話に合わせてそれっぽい事言ってたよね?俺の気遣い返してくれないか?」

レッサー「この『魔法の寸胴鍋』を使えば13時間が13分に短縮出来ます!」

上条「個人的にスッゲー欲しい鍋だ!?」

鳴護「当麻君、ツッコミ段々ズレてきてる」

上条「い、いや違うんだよアリサ?確かに『13時間!?』とは言ったけどな」

上条「でも丁寧に煮込めば煮込む程、ダシ――スープに具材の旨味が出てくるんだ」

鳴護「あー、煮込んだカレーも美味しいよねぇ」

上条「確かに効率は良くない!良くないだろうけどさ!」

上条「でもっ13時間も煮込んでるんだったら、きっととても美味い出汁が取れて――」

レッサー「あ、煮汁は邪魔なんで捨てますね」 ザーーッ

上条「レッサァァァァァァァァァァァァァッ!?」

フロリス「待て。手順通りだから!ネタじゃなく!」

上条「……なぁ?これ本当に料理人が考えたレシピなの?」

ランシス「……誇張一切無しで、有名な人」

レッサー「んでお次にゴム手袋を填めまして」

上条「ゴム手?水回りの掃除でもす――」

レッサー「柔らかくなったトマトを――ドーーンッ!」 グシャッ

上条「おまっ!?つーかあれっ!」

ベイロープ『……うん、大体言われたままね。大体は』

レッサー「皮付きタマネギをゴム手のまま皮を取って――そっのまっま、ドーーーーンっ!!」 グシャッア

鳴護「!?」

レッサー「ニンニクもネギも!ほーら簡単に手ですり潰せるぜ!」 グッチャグッチャ

レッサー「そして次にウサギ肉からゴム手のまま骨を取り除く!柔らかくなってて簡単だぜヒャッハー!」

レッサー「――で、グチャグチャになったものを、全部まとめてフードプロセッサーへかけて――」 ウィィィィンッ

レッサー「ペースト状になれば――はい完成!ウサギ肉のミートソースの出来上がりですっ!」

上条「……あの、レッサーさん?」

レッサー「パスタと混ぜて良し!パンに挟んで良し!万能調味料ですなっ!」

上条「お、おぅ……」

鳴護「あー、じゃ一口貰っても?」

上条「アリサさん?」

レッサー「さ、どうぞどうぞ!上条さんも是非っ!」

上条「ん、まぁ見た目が――いやなんでもない、頂くよ」

鳴護「……」 ハムハム

上条「……」 パクパク

レッサー「……どうです?」

鳴護「……あ、美味しい」

レッサー「ですよねっ、良かったー」

上条「……まぁ、うん、美味しい、な?」

上条「脂っぽさが皆無でヘルシーだと思うよ。うん」

レッサー「美味しいなら美味しいとはっきり言ったらどうですかコノヤロー!」

上条(料理の基本は 『旨味』と『脂』で、その両方が吹き飛んでるなんて言えない……!)

レッサー「いやですよぉ泣く程美味しいだなんて!この『幻想ゴ・ロ・シ』!」

上条「人の能力っぽいのをジゴロみたいな言い方は止めて貰おうか」

上条(いやでもこれしかし、どうやってオチをつけたもんか――) チラッ

フロリス・ランシス スッ

上条(目ぇ逸らせやがった!?ベイロープ、ベイロープさんはっ!)

ベイロープ『あ、道混んで来たから切るわね』 プツッ

上条(混んで来たから、の意味が分からない!?むしろそのためのボイスチャットじゃないの!?)

上条(だったらアリサ!このパーティ唯一の良心であるアリサならきっとやってくれる!)

ランシス(――って思ってるんだろうけど、それ、フラグ)

鳴護「えっとね、レッサーちゃん」

レッサー「はいっ!」

鳴護「えぇっと、うん、まぁ、なんていうか」

鳴護「……お、お料理の事は当麻君かが詳しいんじゃないかな?」

上条(良心が丸投げしやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)

フロリス(だーよねぇ)

レッサー ドキドキ

上条「あぁっと、まぁ、アレだよ――」

フロリス「――の、前にレッサーの名誉のため言っとくケド」

フロリス「ブ――イングランドじゃ、これが、マジで、存在する」

レッサー「待ちましょうか?今ブリテンって言いかけてどうしてキャンセルしたんですか?」

レッサー「そしてまた我らが大英帝国の業を一身にイングランドへなすりつけませんでした?」

フロリス「気のせい気のせい」 チラッ

上条「(おけ――なぁ、ランシス?)」

ランシス「(……遺憾ながら、まぁ、有名な料理人がドヤ顔でこの料理を……)」

ランシス「(だから、レッサーは悪くない……し!私達の家庭料理も、まぁこんなもん?)」

上条「(……人気なの、その人?)」

ランシス「(……かなり)」

上条「(んー……日本でこれやったら二日で潰れるレベルの調理方法なんだがな……さて)」

ランシス「(ちなみに私は結構この味が好き)」

上条「(え?この出し汁全廃棄したパッサパサのが?)」

ランシス「(……”だった”とだけ)」

上条「(うん?)」

ランシス「(茶碗蒸しと肉じゃがの味を知った後には……もう!)」

上条「(……あのな?別にガスコンロありゃ誰だって作れるからな?)」

上条「(建宮の差し入れの醤油と鰹節、みりんだって手間かければ手に入るし)」

ランシス「(それは傲慢な考え……ナンプラー(魚醤)とタピオカミルク渡されて、はいどうぞって言われて料理できる……?)」

上条「(魚を照り焼きした後にほぐして、骨とワタは鍋で煮てスープにする)」

上条「(取った身をご飯に混ぜてタピオカミルクと煮ればいいじゃん?)」

ランシス「(……)」

ランシス「(プリンとレモネード渡され――)」

上条「(悪かったよ!無駄に女子力高くてごめんなさいよっ!)」

上条「(あとプリンとレモネードは完成されてる!そっから進化させようがねぇよ!)」

ランシス「(……だからー、レッサーの自尊心を傷付けない方向で一つ。よろしくー)」

上条「(……頑張っては、みる)」

レッサー「おっぱい勝負じゃ負けましたけどねっ、女子力ならまあこんなモンですよねっ!」

上条「勝ち誇ってんじゃねぇよ。いや、確かに勝負かけたのは評価するけど」

上条「あー……っと、レッサーさん?」

レッサー「はいっ!」

上条(あー……でもなんて言おう?不味くはないんだ、美味しくもないってだけで)

上条(だからっつって、わざわざ手間暇かけて作ってくれたのを扱き下ろす……そりゃ、人がやって良い事じゃねぇしな)

上条「……」

レッサー「おぉっと上条さん?焦らすのも嫌いじゃない!嫌いじゃないですよっ!」

上条「取り敢えずボケる癖をナントカしやがれ。話が進まないから――で、なくってだ」

上条(下手に取り繕うのも、逆にレッサーは鋭そうだし……よし!)

上条「あー……やっぱ考えたんだが、俺さ――」

レッサー「よっしゃ!ドント来なさ――」

上条「――俺、レッサーがメシ食ってんのが好きなんだよっ!」

レッサー「――い!?」

ランシス「あっちゃー……」

フロリス「おぉっと!お気の毒ですが地雷原へトラクター乗ってく勇者だ……!」

上条「だからなっ?こう、作って貰ったのは嬉しいけども!」

上条「やっぱりホラっ作る喜び的なねっ!一人で食べるのは味気ないし、誰か喜んでくれる人が居たら良いよなっつー事だよ!」

レッサー「それはつまり――結納ですねっ分かりますっ!!!」

上条「そんな話はしてなかったな?」

レッサー「い、いやいやっ!『俺の手料理を毎日食ってくれるお前が好きだ!』みたいな、ジャパニーズ特有の遠回しなプロポーズでしょうが!」

上条「いやまぁ、する人も居るらしいけどさ。そんなたいそうなモンじゃなくってだ」

上条「ほら?レッサーだけじゃなくって、アリサにベイロープにフロリスにランシス。みんなが食べてくれるのは有り難いよな、って」

レッサー「ご」

上条「ご?」

レッサー「五重婚とは……!……くっ!中々やりますねっ!」

上条「甲斐性ありすぎるだろ、なぁ?確かに全員可愛いとは思うが、お前俺の事どんだけ節操ないって思ってやがる!?」

レッサー「禁書目録さん、御坂美琴さん、神裂火織さん――」

上条「良し!落ち着くんだっ!色々とツラいからこの話題は先送りにしておこう!」

レッサー「戦わなきゃ、現実と!」

上条「現実か?一介の高校生が世界の命運賭けて戦うのが本ッッッッ当に現実だっつーのか?あ?」

上条「たまーに思うんだが、俺なんか夢見てる気がするんだよ。もしくは壮大なドッキリ仕掛けられているとか」

レッサー「あぁありますあります。『実は自分の人生が壮大なリアリティ番組で、実は全て誰かに監視されてる』的な妄想」

上条「映画でもあったっけかな。コメディのようで笑えない話の」

レッサー「まー、実際にキャスト用意して試そうってんなら、親兄弟や周囲の人間まで十年単位で用意しなくちゃですからねー」

レッサー「コストに見合ったリターンがあるとはとても」

上条「……ま、俺の妄想は良いんだよ!それよりも――」

レッサー「あぁいえ、上条さん。分かってますよ、分かってますってば」

上条「え」

レッサー「最初のリアクションで『美味くも不味くもない中途半端』ってのか、何となく分かっちゃいましたからねー。無理にフォローされなくても結構ですよ」

レッサー「むしろ気を遣わせてしまって申し訳ないな、と」

上条「ん、あぁいや?そんな事ない!ただ慣れてないのはしょうがないだろ?」

上条「一生食いたいかはともかく、そんだけ誰かのために時間かけてメシ作ってやれるってのは、幸せだと思うぜ?そいつがな」

レッサー「……ですね。そういった意味じゃ、私はこの料理嫌いじゃないかもです」

上条「まぁ、な」

レッサー「しかしまぁ驚きですよねぇ」

上条「なにが?」

レッサー「まさかテレビで見ただけのネタ料理をここまで褒めて頂けるとは!」

上条「やっぱりじゃねぇかっ!?やっぱお前俺で遊んでただけだろうが!」

――イタリア ローマ市街地某所

上条「……色々あってイギリスとフランスの各都市は回ってきたが――」

上条「――スゲーなローマ、主に人の多さがな!」

上条「地方の通勤ラッシュ並みの混雑が延々続いてるレベル……」

鳴護「えと、旅行の栞によれば……『人口約270万人の都市で、元ローマ帝国の首都です』と」

鳴護「『ですが神聖ローマ帝国(笑)の没落と共に、諸国家へ別れて散り散りになりました』」

ベイロープ「……カッコ笑いカッコ閉じ……?」

鳴護「『前の戦争でWOP野郎はさっさと降伏しやがったので、連合軍の爆撃を免れ、結果として古い建物が数多く残っています』」

鳴護「『とはいえ治安は良くないので、決して裏路地へ入ったり、ツンツン頭の男とは二人っきりにならないように注意して下さい』」

上条「その栞、俺貰ってないよね?つーか妙に攻めてくるよね?積極的に打者へ当てに来てる辺り、誰が作ったかもう分かったが!」

上条「てか海外のゴロツキがたむろってる路地裏と俺って同格なの?言っちゃ何だけど未使用だよ?ほぼ新品だし?」

レッサー「中々エッジの効いた内容ですねっ。宜しければ見せて貰えません?」

鳴護「どうぞどうぞ――てか、私達の街が240万人で。ローマには観光で来た人も受け入れてるから、もっと多いんじゃ?」

ベイロープ「それが正解。しかもやったら滅多に人混みが多いのは、やっぱ街のせいなのよ」

上条「観光名所だから?」

フロリス「それはハーズレー。『古い市街が残ってる=現代の社会インフラが取り入れられてない』ワケさ」

ベイロープ「それも補足すれば道路・歩道共に道幅が狭い……つか年間780万人の観光客が押し寄せれば無理ないわ」

ランシン「良く言えば風情がある……悪く言えば……?」

レッサー「『人がゴミのようだ!』」

ランシス「……正解」

ベイロープ「そこはまだ『ゴミゴミとしている』にしときなさい」

上条「あ、いや建物や街並なんかはいかにも『それっぽい』感じなんだが、整然としてねぇから違和感が」

レッサー「列があったら取り敢えず一列に並ぶ、レミングスの末裔には分からないでしょうねー」

上条「ルールを守るのは自分のためだ。回り回って戻ってくるのが分かるから、俺達はそうしてるだけだっーの」

フロリス「んで?ここに集めてどうすんのさ?」

上条「だな。キャンピングカー郊外に停めて荷物だけ持って集合――って流石に不安になるよな」

フロリス「さっさ観光したいし、ね?」

上条「前っから思ってんだが、レッサーが悪目立ちしてるだけで、お前も相当大概だよな?」

フロリス「ナイナイ?観光気分で日本旅行とか、ゼンゼン?うん」

レッサー「悪目立ち……」

ランシス「大丈夫、目立ってるのに代わりはない」

レッサー「じゃあ良いでしょうかねっ」

ベイロープ「おい、問題児三人。いい加減にしないとケツをしばき倒すのだわ」

鳴護「まぁまぁ。それよりもこれからどうなるんでしょうね?」

ベイロープ「どうもこうも。し明後日にはローマでコンサートよね」

鳴護「はい」

ベイロープ「だったらそれまで、どこか安全な場所でカンヅメが妥当じゃないかしら」

ベイロープ「ローマ正教のお膝元でドンパチやらかそうって程、連中はバカ……」

ベイロープ「……」

ベイロープ「有り得るか。それも」

レッサー「ですなー。『Blitz tactics(電撃作戦)』でカマすのは常道。てか基本ですし」

上条「大丈夫だろ?だってローマ正教みたいな、やったら人員豊富な所が護ってくれるんだったらばさ」

フロリス「いやぁ、それがさー?ウェイトリィ兄弟の『双頭鮫』てばシシリー系マフィアだっつったジャン?」

上条「シシリー?」

ベイロープ「英語だと『Sicily』、イタリア語だと『Sicilia(シチリア)』」

鳴護「ちゃらら、らららら、ちゃらららー?」

上条「ゴッドファーザーのテーマ……あぁ本場なんだっけ、シチリア」

ランシス「が、まさにイタリアの南に浮かんでる島」

上条「……なーる。安全地帯に来たつもりが、向こうさんのホームにも近づいてるって事なのな」

レッサー「加えて前教皇マタイ=リースさん時に色々不祥事が出て来ましてね」

レッサー「具体的にゃ司教レベルでの性的虐待、バチカン銀行がギャングのマネロンに使われていた疑惑付き」

上条「おい大丈夫か?つーかここローマ正教のお膝元だっつってんだろ!」

レッサー「『私、レッサー、脱衣の天才だ!教皇だってぶん殴ってみせらぁ!でも分離主義者だけは勘弁な!』」

上条「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ランシス「……ムダムダ。レッサー、フツーにぶん殴りにいくと思うよ?」

フロリス「てかそれはレッサーだけじゃないよね、別に」 チラッ

ベイロープ「あー……」 チラチラッ

上条「そんな目で見られてたなんて……」

鳴護「てかなんで特攻野郎○チームのネタをレッサーちゃんが知ってるの……?」

ベイロープ「はいはい静かにー。話はきちんと聞く!」

上条「……いいのか?ベイロープさん、完全に保護者の立場と投げやり感になってんだけど、本当にそれでいいのか?」

レッサー「――で、激おこした教皇、てかローマ正教。なんと『マフィアの破門』をしくさったんですよ」

上条「破門?」

レッサー「『震えるぞビィィィィィィィィトォッ!!!』」

ランシス「それ波紋違い……」

上条「ベイロープ?」

ベイロープ「ちょっと待ってね。今『槍』出すから」

レッサー「すいまっせんっごめんなさいっ私が悪かったですもうしませんっ!?」

鳴護「速攻で謝るんだったら、しなきゃいいんじゃ……?」

フロリス「山があったら登るだろ、Lady?」

鳴護「あたしインドア派なんで。お部屋で曲作ってる方が好きかな」

フロリス「んー……新しいキーボードあったら、カタログ欲しくなるよね?」

鳴護「分かるっ!ロールキーボードが出るとあの、ぺこぺこ感を試したくなるっ!」

上条「……この旅でアリサの妙な一面を発見してきたが、それ共感するヤツ居るのか……?」

ランシス「着やせとか?」

上条「こ、個人の大切な個性じゃないかッ……!」

レッサー「――さて、そろそろベイロープの眼の色が警戒色に――いやウソですごめんなさいなんでもないです――真面目に言いますと」

レッサー「今、ローマ正教とシチリアマフィア、ちょっとした冷戦中でしてね」

ベイロープ「一応『裏』からの影響力を削ごうって建前。実際の所はどうか怪しいんだけど」

上条「まぁ、な。マフィアよりもデッカイ闇がゴロゴロしてる訳だし」

レッサー「だもんで、数年前であれば『マフィアとも仲良しさっ!』なんで、『双頭鮫』を自制してくれたんでしょーが、それは期待できないと」

フロリス「てか逆ジャン?シシリーが怒ってるから、ダンウィッチの双子が雇われたって線は?」

ランシス「時系列的には破門された方が早い……ん?そこまで、するかな?」

レッサー「繋がりは知ったこっちゃありませんがね。少なくとも敵対行動を取っても、仲間から突き上げは食らいにくいでしょうね」

PiPiPiPi……

鳴護「あたしのケータイ……『もしもし?あ、お姉ちゃん』」

鳴護「『今、みんなで――うん、六人だよ?今、意図的に誰一人ハブかなかった?』」

上条「おっと!最初っから鋭いジャブが飛んできたぜっHAHAHAHA!」

レッサー「大切にされてるのか、警戒されてるのか、微妙な乙女心と言えなくもないですかねぇ」

上条「乙女心……つーかシャットアウラって幾つよ?88の奇蹟ん時に小学生ぐらいだったから、下手すると中学生?」

上条「どう見ても良家のお嬢様が、どこをどうやったら企業の外付け保安部になってんだか」

鳴護「『こっちに来てる?合流……はいいんだけど、人多すぎで』」

鳴護「『――え?いつもの格好だから直ぐ分かる?』」

上条「いつものってどんな格好だよ。俺らシャットアウラの私服見た事無いし」

ランシス「……あ」

フロリス「あれ、かなぁ……?外れて欲しいケド」

上条「どれど――マジかっ!?」

ベイロープ「……黒い対刃・対弾ジャケットに、金属片で補強したロングコート……」

レッサー「攻殻機動○のコスプレですかね?いやー、気合い入ってますねー」

上条「浮いてるよ!?つーか遠くからでも目立つし!若干回りの観光客も遠ざかってんじゃねぇか!」

上条「てか私服じゃねぇなぁ!いつものって『いつもの戦闘服』って意味か!?」

ランシス「似合ってるのは、うん」

ベイロープ「ま、本人がいいってんならいいでしょうけど――問題は」

フロリス「どーにか、辛うじて同行者と言えなくもない、びっみょーな距離を取って歩いてるShimazaki?」

上条「それ中の人……あー柴崎さん、顔強ばってんじゃねぇか!そこまでして付き合わなくっても!」

鳴護「お姉ちゃん……ま、まぁ真面目な人だから!二人とも!」

フロリス「……あのさ。思ったんだケド」

レッサー「どしましたか?」

フロリス「ワタシら、あの二人に連行されんだよね?こう、コスプレしたねーちゃんの関係者だって羞恥プレイを強いられるんだよね?」

レッサー「あ」

ランシス「……うーん」

上条「……いやでも、それは仕方がな――」

レッサー「――と言う訳で私達はちょっくらローマ観光と行きますんで!上条さんとアリサさん達は、ここから別行動に――」

ベイロープ「――に!になる訳が!ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

レッサー「ビヒギャアアアアァァァァス!?ハイロゥンドォが攻めてきたぞぉぉぉぉぉぉっ!?」

鳴護「レッサーちゃん、余裕結構あるよね?いつも思うけど」

上条「変態だからな」

鳴護「あー……」

シャットアウラ「何を騒いでるんだお前達!目立って仕様が無いだろう!」

上条「お前もな?観光地で特殊部隊の装備そのままって正気か?」

シャットアウラ「何が?」

鳴護「えっと、お姉ちゃん。こっちで話そう、ね?」

シャットアウラ「それは構わないが」

クロウ7「いやダメです。先様がお待ちですから」

ベイロープ「サキサマ?」

クロウ7「お疲れ様でした皆さん。よくぞご無事で」

上条「大げさ、って訳でもないか。だって――」

クロウ7「あ、詳しい話は後ほど伺います。それよりも移動致しますので着いてきて下さい」

フロリス「どこ?ホテル借りたの?」

クロウ7「借りていません。正確には今から国境を越えます」

上条「え!それじゃイタリアから出んの?」

シャットアウラ「そうじゃない。イタリアの『中』にある。お前も聞いた事ぐらいはあるだろう?」

ベイロープ「まさか!?ローマ正教の総本山!?」

シャットアウラ「そのまさかだ。『向こう』が招待してくれたんだ、無碍にする訳にはいかない」

上条「なに?どういう事?」

シャットアウラ「世界最小の独立国にして、信徒20億を超える宗教の本拠地――」

シャットアウラ「――パチカン市国が歓迎してくれるんだそうだ、良かったな?」

――バチカン市国 カンドルフォ城

鳴護「意外と、って言ったら失礼かも知れないけど、質素、かな?」

レッサー「ここ、カンドルフォ城は教皇の別荘ですからねぇ。対外用の文化財バチカン美術館で公開していますし」

レッサー「各国関係者と秘密裏に会談する時なんかに使われている――と、囁かれてます」

ベイロープ「公私で言ったら間違いなく”私”だし、飾ってお披露目するような場所じゃないの」

鳴護「へー……」

フロリス「つーか思ってたよりも、狭い?つーかちっこい?」

鳴護「えっとケータイ――は、ないんだっけ」

レッサー「『電子機器は信じられない』との理由から没収なんてねぇ?」

鳴護「だよねー」

レッサー「学園都市がビッグデータの収集と称して、各種盗聴やってない訳ないですもんねっ!」

鳴護「え!?信じられ方が思ってたのと違うっ!?」

ランシス「……補足すると、東京デスティニーランドよりも狭い……ふひっ」

鳴護「なるほどー……なるほ、ど?」

レッサー「テーマパークと比べるのは、ある意味正しいっちゃ正しい気もしますがね」

フロリス「そんな所に余所者が踏み込んで良いのか、ってのはランシスのプルプルしてる所からお察しだと」

ランシス「……う、うんっ……敵対的な、ものはない……あふ……」

鳴護「……平気?辛くない?」

ランシス「ちょっと、弱い……気を遣って貰うなくていいのに……ひひひっ」

ベイロープ「余計な事を言うな恥女その二」

レッサー「まるでその言い方だとイチが居そうな感じですよねっ!」

ベイロープ「自覚があるんだったら黙ってろイチ」

鳴護「お姉ちゃん達が入れなくって、レッサーちゃん達が居られるのは、なんか、なんかこう納得行かないんだ、うん」

フロリス「あー、そりゃ所属する側の違いじゃないかね。そっちとこっち」

ベイロープ「ローマ正教は魔術サイド、特に十字教関係では最硬最強よ。他の魔術師にとっても鬼門」

レッサー「変な素振りでも見せたら、即座に瞬殺されるでしょうなぁ」

ランシス「けど科学サイドにはこっちの常識が――あぅんっ――通用しな、ぁぁくっ!」

鳴護「無理しなくていいからっ!?色々とお見せできない顔になってる!」

レッサー「科学サイドの仕掛けがあったとして、見破るのは困難です」

レッサー「それに比べれば得体の知れない私達であっても、同じサイドに居る限り、楽に対処出来ると踏んだんでしょう」

鳴護「てかイタリアから特に何もなく入れちゃうし、ちょっと意外」

ベイロープ「文字通り『教皇級』の術式がガンガンかかってるのと、あと警備的な問題かしらね」

フロリス「ショーギにアナグマって戦術あったジャン?キングをガッチガチに固めるの」

鳴護「名前ぐらいは聞きますけど」

レッサー「外から誰も入って来られないようにしちゃうと、反対に外へも出られなくなるんですよ。いざという時に身動きが取れない」

レッサー「それに、ホラッ!Love&Peaceの精神で武装放棄じゃないですかねっ!」

ランシス「(……んっ本当の、所は?)」

ベイロープ「(シハーディストを”騙る”テロリスト達が、ここをターゲットにしない訳がないわよね)」

フロリス「(それでも一切テロ情報が出ないってコトは、つまり?)」

ベイロープ「(『存在しなかった』のであれば、問題にならないわ。そゆコト)」

レッサー「(楽には死ねないでしょうが、まぁ無辜の一般人巻き込もうとしてんだから当然です)」

レッサー「(……むぅ、それとも逆ですかね?)」

レッサー「(わざと一般人にも開放しておいて、何かあったら確実に巻き込まれるようにしておく)」

レッサー「(そうすりゃ反撃する際に宗派を超えて世論も味方に出来る、と)」

フロリス「(よっ、レッサー腹黒紳士っ!)」

レッサー「(いやぁ、それ程でも)」

鳴護「そっかぁ、みんなが仲良く出来るのは良い事だもんねっ」

レッサー「その笑顔がっ!悪意の欠片もない笑顔が私の良心を……ッ!!!」

フロリス「諦めろ。ヨゴレとアイドル比べる方がどうかしてるぜ」

レッサー「アリサさんをヨゴレだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」

ベイロープ「座ってろリアクション芸人枠」

鳴護「……私もね、アイドル板で『最近仕事がふなっし○とカブってる』って意見が……」

レッサー「すんませんっマジですいませんでしたっ!」

鳴護「ふなっ○ーには会いたいよ!会いたいけどキャラ被るし!」

ランシス「これが、天然」

レッサー「……なんでしょうねぇ、こう。ブロンズとゴールドの格を見せつけられてる気が……」

フロリス「天然の宝石とメッキはまた別だよねぇ」

レッサー「アリサさんをメッキだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」

ランシス「ループ禁止……」

鳴護「んー……レッサーちゃん、ちょっと良いかな?単刀直入に聞くけど」

レッサー「はいな?なんでしょうか?」

鳴護「っと、その前に当麻君はまだ帰って来てないよね?」

ベイロープ「トイレにしちゃ長いけど、ここなら敵襲はない筈よ。敵襲”は”」

フロリス「女の子を連れてくるに10ユーロ」

ランシス「乗った……おっさん引っかけてくる」

鳴護「……信頼されてるよねぇ、色んな意味で」

レッサー「あ、じゃ私は男の娘で一口――で、なんですかね?」

鳴護「もしかして――当麻君に、告白、した?」

レッサー「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

鳴護「あ、むせた」

レッサー「い、イヤイヤイヤイヤイヤっ!?待ちましょうか、えぇっ待ちましょうとも!」

レッサー「てか何ですかっ突然藪から棒にっ!『bat in the bush』って話ですよねっ分かりますっ!」

鳴護「言葉の意味はよく分からないけど、混乱しまくってるのは分かるよ」

レッサー「つーかどんな思考をしてたらそーゆー結論になるんですかっ!」

鳴護「そういうって、うーん……最初っから、かな?」

レッサー「言いがかりは止めて貰いましょうかっ!出るトコ出ますよっランシスと違ってね!」

ランシス「おい、さりげなく私をネタにするのは止めて貰おうじゃないか?あ?」

鳴護「――って感じに、レッサーちゃん照れるとボケて誤魔化そうとするもんね?」

レッサー「違っ――」

鳴護「他にも、ユーロトンネルの中で柴崎さんへ”クルマ”を出すように迫ってた時、必死だったじゃない?」

鳴護「ベイロープさんがとっても大事なのは分かったんだけど、”魔術結社”のレッサーちゃんだったら……そうだなー?」

鳴護「まず実力を見せてから相手が断れないようにして話を運ぶ――どう、かな?間違ってる?」

ベイロープ「正解」

レッサー「黙ってなさいなハイロゥンドゥ!」

フロリス「珍しっ!レッサーがツッコミへ回った」

レッサー「あーたも黙っててプリーズ!こいつぁ私の沽券に関わる問題ですからっ」

レッサー「てか、それはアリサさんの勘違いってもんでしょう。あの場面、私達としちゃ『学園都市』との距離を保ったまま」

レッサー「その上で『利用してやる』ためにゃですね、こう必要最低限の礼儀を示しておくのが良し」

レッサー「他は存じませんが、私は少なくともブリテンの国益のためだけに――」

鳴護「あー、ダメダメ。そんなんじゃ誤魔化されないよ。だって見てるもんね?」

レッサー「見てる、ですか?」

鳴護「うん。自分じゃ分からないかな?もしかして無意気かも知れないけど、こう、じぃっと当麻君を見てるなぁって」

レッサー「……そりゃま、見る、ってか見ますよね?別にそれは――」

鳴護「はっきり言った方がいい?」

レッサー「えっと……仰る意味が分かりかね――」

鳴護「例えば!当麻君が誰かと話している時だよっ!」

鳴護「『いい加減こっち向いてくれないかなー?』みたいな感じだよね?」

レッサー「そ、それはっ!」

鳴護「他にも、そうだねー……あ、中々こっちを見てくれないと、ボケて気を引こうとするよね?」

鳴護「構ってくれないと『鎌ってよ、ねぇねぇっ!』みたいな感じで、気を引こうとした――」

レッサー「にゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?にゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

鳴護「はい、まず一人と」

フロリス「床ゴロゴロしてるレッサー初めて――じゃないけど、見た……」

鳴護「んーと、ね。フロリスさんもだよね?」

フロリス「――え、ワタシ!?てーかこっちまでとばっちりが!」

鳴護「なんだろう、フロリスさんは見るとかじゃなくって、何気なくタッチする感じかな?」

鳴護「仲の良い女友達みたいに――やろうとして、時々恥ずかしくって固まったりしてるんもんね?」

フロリス「ベイロープっ!?ここは危険だっ!」

ベイロープ「こっち来んな!これ、どう考えても私まで撃たれる展開なのだわ!?」

ベイロープ「――って、待って。私は別に二人と違って何か特別な事はしてないわよ、これと言ってね」

ベイロープ「っていうか呼び方にしても、それは術式の副作用であって、私の意図した所は大分違う結果に――」

鳴護「あ、ベイロープさんは当麻君の半径2m、きっかり距離取ってますよね?」

ベイロープ「」

鳴護「今もお手洗いについて行こうか、散々迷ってましたよねー」

ベイロープ「……ッ!」

鳴護「で、最後は」

ランシス「……待って欲しい」

鳴護「ランシスちゃん?」

ベイロープ「が、頑張るのだわランシスっ!よくシチュが分からないけど、ランシスまでアレだったら『新たなる光』全滅よ!」

フロリス「……いやぁ、ランシスの場合前科が……」

ランシス「むしろ私は積極的にベッドへ潜り込んでいる……ッ!」

鳴護「うん、知ってた」

ベイロープ「おい、今度は嫁ごと叩き斬るのだわ」

フロリス「なんでこんなのに不覚を……ウン」

鳴護「てゆーか、あたしの所にも結構な頻度で誤爆してるもんね?」

ランシス「……アリサの体温、丁度良い……」

鳴護「……うん、嬉しいのは嬉しいんだけどさ。精神衛生上ね?可能性としては限りなくゼロっていうか、マイナスに突入してるのは分かるんだけど」

鳴護「それでも最初に『あれっ!?』ってするのは仕方がない訳だし」

レッサー「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

鳴護「あ、復活した」

レッサー「待って下さいなアリサさん!ってうか@-RISAさん!」

鳴護「芸名関係あるかな?プライベートの話しかしてないよね?」

鳴護「てか何か売れないネットアイドルみたいな響きが……気のせい?」

レッサー「そこまで言い切れるのはおかしかありませんかねっ!?どんだけ観察眼持ってんだっつー話です、えぇっ!」

レッサー「仮に100歩譲ってあなたが正しいとしても、どうやってそこまで知ったと言いましょうかっ!」

ベイロープ「勝手に肯定すんなっつーよ」

鳴護「え?見れば分かるよ。だってみんな同じ眼をしてるもん」

フロリス「みんな、って」

鳴護「あたしと同じように、同じ人を見てれば――」

鳴護「――嫌でも、分かっちゃうから」

――カンドルフォ城

上条「……」

上条(……荘厳な宮殿、そして珍しくぼっちな俺……まぁ、結論から言おう。いや、言わざるを得ない!)

上条「……迷ったー……」

上条(いや違うんだよ?これはね、俺がドジっ子属性的なものを得たんじゃなくてだ)

上条(待つように言われた部屋から出て、近くに居た衛兵さんにトイレどこ?って聞いたんだ。身振り手振りで)

上条(通じたかどうか心配だったんだが、衛兵さんが着いて来いみたいなジェスチャーをしたんで、後を追っていけば)

上条(ちょっと入り込んだ所にありましたよトイレ!やったねっ!)

上条「……」

上条(……ここまでは良かったんだよ、ここまではな)

上条(別に紙がなかったとか痴漢に間違われたとか、そういう在り来たりの話じゃねぇ……言ってて悲しいが、違う)

上条(トイレから出た俺を襲った現実とは……!)

上条「……衛兵さん、どこ行った……?」

上条(案内してくれたのは有り難いけどなっ!昔らか言うじゃんかっ生き物の世話は最後まで見ましょうって!)

上条(このだだっ広い宮殿に!俺のアパート全部よりも広いであろう所から、前の部屋を探せって?無茶ブリ過ぎる!)

上条(アレでしょ?どうせ「適当に部屋を開ければ!」とかドアを開けたら、着替え中のヴェントさんとか居るんでしょ?)

上条(普段のデーハーな化粧じゃなくってすっぴんで!清楚な下着がDカップなんだろ!)

上条(この鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!もう騙されないぞ!トラップがあるなんて読んでるし!)

上条(分かってるよ!俺はもうその手の話にウンザリしてんだっザマーミロっ!!!)

上条「……」

上条(……良し、落ち着け俺。冷静になって考えようぜ?)

上条(現実的にこの状況を打開出来る方法……ググって答えが――あ、携帯取り上げられてんだった。学園都市製だからって)

上条(シャットアウラと柴崎さんも同じ理由で入国不可……まぁ仕方がない、のか?)

上条(えぇっと、迷子になった時、山で遭難した時には……そうそう!その場を動くな!鉄則ですよねっ!)

上条「……」

上条(……建物の中で迷ったとか格好悪すぎる……!)

上条(つーかな、つーかさ?ただでさえなんかおかしいんだよ、最近)

上条(視界の隅で「え?視線を感じる?」と思ったら、レッサー達と目が合ったり)

上条(自意識過剰なんだろうが、なーんか、こう……うん?)

上条(インデックスや御坂達と遊んでるようなテンションになるっつーの?不安定でイライラ――はっ!?)

上条(……俺、嫌われてる、のか……ッ!?)

上条「……」

上条(……良し!落ち着いた!クールに行こうぜ!よぉく考えろ!)

上条(俺、別に嫌われるような事なんかしてないし!理由がなっきゃ――)

上条「……まさか」

上条(ラッキースケベ起こしているじゃねかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?割と頻繁に!)

上条(つい最近も着替え中のベイロープ見ちまったり!フロリスの肩叩いたら「きゃっ!?」って悲鳴上げられるし!)

上条(ランシスに至ってはがベッド寝惚けて潜り込んできたり!レッサーなんか――)

上条「……?」

上条(そういやレッサーは、ない、よな……?旅が始まってからずっと、そういうのは別に)

上条(ロシアでパンツ見せられそうになった以外には、これっつって特に……ない、ような?)

上条「……はぁ」

上条(……振り返ってみれば事故とはいえセクハラだもんなー……反省しないと)

上条(――ま、いいや。どっちみち今考えても仕方がねーし。今はどうやって部屋へ帰るか――)

汚れた服の女の子「……」

上条「……ん?」

上条(あ、この子に道を聞けば良いか――言葉が通じれば、だけど)

上条(服からして現地の子っぽい……英語、通じるかな……?)

上条(だがしかし!俺には土御門という親友(トモ)が居るっ!)

上条(メールで「困った時には取り敢えずこう言っとけばいいにゃー」と教えて貰った……!)

上条「……」

上条(……あれ?でもユーロトンネルの中だと不発に終ったんじゃ……?)

上条(――まぁいい!今は土御門を信じよう!)

上条(確か道に迷った時にはこう聞けば――!)

上条「『Could you please show the road? ――The road where my life acquaints oneself with you as one! 』」

女の子『――!?』

老人「――直訳すると『道を教えて下さい――あなたと僕の人生が一つに交わる道を』」

老人「更に意訳するのであれば『結婚して下さい』を、やや遠回しに述べているのであり、あまり幼子に対して使うべき台詞ではないな」

上条「やっぱりかチクショーっ!?分かってた!何となく分かってたよ!」

老人「当人同士が良ければ文句も言いがたいが、とはいえ最近出来た年若い友人を失うのは辛い」

老人「出来れば双方共に成人してからが筋というものだろう」

上条「や、あの。ネタにマジレスされるとそれはそれで辛いっていうか……」

女の子『――?』

老人『――, ――』

上条(――と、日本語で話しかけて来たおじさん――というよりか、おじいさん?は女の子と二・三語話し、向こうへ行かせる)

上条(日本語使うって事は探しに来てくれた人か……良かった……心の底から良かった……!)

老人「トーマ=カミジョー、で合っているか?」

上条「あ、はい。俺です」

上条(……てか、なんだ?この人からの威圧感が)

上条(魔術じゃないし、能力でもなく。オーラ?人望?みたいなのがヒシヒシと)

老人「ヴェントが言っていた――女が側に居るから直ぐ分かる、と」

上条「……間違っちゃいないけど、納得行きませんね、それ」

老人「畏まらなくても結構だ。今の私はただの人に過ぎない――さて、では行こうか」

上条「はい――分かった」

――カンドルフォ城 会議の間

老人「遅れて済まなかった。少々道が混雑していてな」

上条「いやぁ、どーも」

ランシス「……私の勝ちー」

フロリス「ちっ」

レッサー「て、また大物が来やがりましたか」

老人「ようこそバチカンへ。非公式ながら出来るだけの歓迎はしよう」

鳴護「ありがとうございます。鳴護アリサです」

老人「知っている。昨年の祈年祭でのアヴェ・マリアは素晴らしかったよ」

鳴護「あ、おじーちゃんもファンなんだ?ありがとー!」

フロリス「アリサアリサー、顔顔ー」

鳴護「なんかついてる?」

ランシス「じゃなくって……その人の顔、見た事なーい?」

老人「……」

鳴護「んー……あっ!分かった!」

ベイロープ「そうそう」

鳴護「スターウォー○でシ○の暗黒卿やってたイアン=マクダーミ○さん!」

ベイロープ「……ねぇ、そろそろアリサもシバいていいかしら?この子の将来考えると、誰かがコラってしてやった方がいいと思うの」

上条「マジで!?サイン下さいっ!」

レッサー「やっちゃって下さいな……天然モノはタチが悪い!」

老人「似ていると言われるが、私ではない。私はマタイ=リース、前教皇と言えば分かるかね?」

鳴護「マタイさん?」

上条「あー……ローマ正教の一番偉い人」

マタイ(老人)「だった、が正しい。今の私は一人の信徒に過ぎない」

フロリス「って割には、あちこちで『教皇級』の魔術師が動員されてる、って話を聞くんだケド?」

マタイ「人違いではないのか?似ていると言っても、それこそマクダー○ド氏が魔術師である可能性も捨てきれまい」

レッサー「意外に狸ですか。『右席』に振り回されていたイメージが強かったんですがね」

マタイ「耳が痛い言葉だが、その通りだと言えよう」

レッサー「っていうかさっきからお茶の一つも出ませんし!ローマ正教は礼儀がなってないんでしょうかねっ!」

マタイ「……運ばせよう。誰か!」

上条「なぁ、俺達以前の問題として、あそこのバカを何とか教育し直す方が優先順位高くね?」

フロリス「出来ると思うかい?ウン?」

上条「そう返されると『ごめんなさい』以外の言葉が出て来ない……!」

レッサー「人を残念な子扱いは止めて貰いましょーか!」

鳴護「今のやりとりがあったにも関わらず、全力で否定出来るレッサーちゃん、メンタル強すぎるよね?」

ランシス「一応リーダー()だし……って、魔術、切っちゃった……」

マタイ「君たちを護るのには必要は無いだろう、『新たなる光』」

レッサー「おっ?私達も有名になったもんで――」

マタイ「――未だ、その円卓は埋まらぬままであろうが、な」

レッサー「……訂正します。狸どころか蛇が出て来たようで」

マタイ「蛇は止めて貰えると心易い。『最初の二人』を堕落し給もうたのは誘惑があったが故に」

フロリス「蛇ねぇ?『だったら最初から創らなきゃ良かった』とか、考えないのかなー?んー?」

マタイ「いと高きあの御方の御心を察するのは不遜にして不敬。代理人に過ぎない我らに出来るのは御言葉を伝えるのみ」

上条「えぇっと……何?何かピリピリしてる?」

ベイロープ「気にしなくて良いわよ。ただの水掛け論みたいなものだから」

ベイロープ「……ただちょっと、二千年ぐらい続けてるってだけで」

鳴護「そ、それよりもっ今日はお招きありがとうございましたっ!」

マタイ「礼は有り難く受けるが、こちらにも考えあっての事。気にする必要はない」

レッサー「(てーかアレですね。『右席』の件で後手後手に回った印象しかありませんでしたが、間違いしたか)」

フロリス「(だ、ねー。多分じーちゃんが居たから『あの程度』で済んだんであって)」

ランシス「(あのレベルの魔術が居たら……完全に乗っ取られている……筈)」

ベイロープ「(何にせよ、礼儀を尽くしなさい。礼儀を)」

レッサー「(礼儀をさせたら私の左に出るものは居ませんよっ!お任せをファッキンっ!)」

ベイロープ「(だから!あなたのおぉっ!そーゆートコがああぁぁぁぁぁぁっ!)」

レッサー「(うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?)」

鳴護「や、あの完全に聞こえちゃっているっていうかね、うん?もう少し内緒話もっていうか」

マタイ「構わんさ。失敗するのも若さの特権だ」

マタイ「他に何もなければ続きを話したいと思うのだが――ある、ようだな」

上条「……あー、まぁあるような?つか腑に落ちないって言うか」

レッサー「まぁまぁ上条さん、お気持ちは分かりますがね」

上条「レッサー」

レッサー「はい、あなたの恋人レッサーちゃんですよ」

上条「なった憶えはねぇがな!」

レッサー「――上条さんにも上条さんの『正義』があります。そりゃ当然の話ですがね」

レッサー「あちらさんにも『正義』ってのはあります。そうでしょう?」

マタイ「正しいかどうかは私達が判断する事ではなく、『信念』は確固としてあるつもりだ」

レッサー「一時は殺してまでどうこうしようとしていたのは確か、ま-、上条さんのこったからどーせ女か女か女のために怒ってんでしょうが」

上条「待て。間違ってはねぇがその表現だと女たらしみたいに聞こえる!」

レッサー「え?」

ベイロープ「あー……」

フロリス「あん?」

ランシス「……う、ん?」

鳴護「えーっと、うーんっと……」

上条「本気で待とう?君らと俺とで深刻な認識の齟齬が起きているからねっ!?」

レッサー「ま、そこら辺は横に置くとして――少なくとも一年ぐらい前までは、本気でやり合ってた仲がこうして同じテーブルに着いています」

レッサー「過去を水に流せ、とは言いませんが、話し合いの余地は充分にある筈。違いますか?」

上条「……どうしよう、予想以上に正論が来やがった……!」

レッサー「失敬な!私はいつも良い事しか言いませんて!」

上条「自覚しとけ恥女」

レッサー「……」

上条「……あ、ごめん。わざわざ説教してくれたのに、なんか」

レッサー「……その、ですね。聞いてくれます?あまり関係はないかも知れないんですが、良い機会ですから」

上条「ん、あぁ聞くよ。折角だし」

レッサー「『ユカタン半島』ってひらがなで書くと何か萌えません?」

上条「本当に関係ねぇなっ!?てか今その話題を振る必要があるんかいっ!」

レッサー「『ゆかたんはントウ』」

上条「あ、ゆかたんがントゥッてしてるような感じに……?」

レッサー「私のイメージとしては野生のゆかたんが多数生息している事から、この名がつけられたと思うんですよねぇ」

上条「謝れ!日本全国のゆかたんに謝って!」

レッサー「ちなみに『ゆかたん』の名前の由来として、現地人の『お前が何を言っているのか分からない』が元になったという説が」

上条「その台詞日常生活ではあんま使――うなぁ、最近は特に」

レッサー「『ゆかたん』?」

上条「オイ、こっち見ろ!テメーやっぱ適当な事ばっ――」

レッサー「いやいやマジ――」

鳴護「あー、やっぱりツッコミが居るとボケが生き生きしてるよねぇ」

ベイロープ「ちなみに語源云々は説の一つにそういうのがあるのは本当」

フロリス「確かにまぁ謎地名だよねー」

ランシス「響きは可愛い」

マタイ「……済まないな。気を遣って貰って」

ベイロープ「あぁ気にしないで。私達も喧嘩を売りに来たんじゃなく、ゲストの付き添いだから」

マタイ「それでも、だ。君たちの口から平和を説かれるとは、世も変わったな」

フロリス「まーね。面倒なのは面倒だから嫌いだしぃ?ワタシらも出来れば表舞台に出たくもないし」

マタイ「そう願いたいものだ。出来れば『アレ』も穏便に返還して欲しい所だが」

ランシス「ベイロープ……?」

ベイロープ「『アレ』を最後に触ったのは私だけど、制御出来なくてどこかへ消えたのよ」

ベイロープ「『影』として術式に取り込みはしたものの、オリジナルにはとてもとても」

マタイ「ではウェールズにまだ?」

フロリス「あー、行方不明。手に入るんだったらとっくに回収してるっつーの」

ランシス「それ以前に『こっち』にあるんだったら、周囲に影響を与えない訳が……」

マタイ「と、すれば誰か強力な魔術師か魔神が持っているのか……ふむ」

ベイロープ「もしくはローマ正教辺りが秘密裏に回収した後、知らないと言い張ってるって線もあるかしらね?」

マタイ「……違いない。よくある話だ」

マタイ「閉じた蕾みの中に隠れているのは、あながち蓮の華とは限らないだろうしな」

ランシス「……あ、レッサー?」

レッサー「っていうか何ですかっ!何なんですかっ!?ローマ正教はお客様にヌルい茶を飲ませるんですかねっ!」

上条「一分前に言った事を思い出しやがれ!つーか自分の言動には責任を持てよ!」

マタイ「……やはり猪は変わらじ、か」

ランシス「それもまた……良し!」

フロリス「ランシスは少しだけで良いから反省しようぜ、な?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

尚、作中に登場した「ウサギのミートソース」はネタではありません。残念ながら、えぇ。本当に残念ですけど
知人が留学中に食べて(´・ω・`)になった上、つい数ヶ月前にも海外の番組でやってました
(ゴム手はともかく、実在する郷土料理なんだそうです)

……他にもねー、ウナギのゼリー煮(煮こごり)ってトラウマ量産機がだね
俺はギュンター=グラスの「ブリキの太鼓」読んでて、事前情報としては知ってた。ウナギの捕り方から
しかも何がアレかって、出す方は『100%善意』だからタチ悪ぃんだ……うん

あれ食うんだったら、殺せんせーの煮こごりの方がまだ美味そう

乙!!です

ウサギのミートソースで気になったんですが…
塩、胡椒は使わないんですか?

ホントにそのまんま?

前教皇の正体がシオンではなくダー○=シディ○スであった、とは……!
もう「Order 66」かましちゃって、I have a bad feeling about thisですねっ

乙です
なぜ肉をプロセッサーにかけるんだよ‥

>>858
知人がお見舞いされたのは汁を捨ててからプロセッサーにぶち込むのと一緒に、
テレビで見たのは下味の時点で一応塩を振っていました
またイギリス料理の「さしすせそ」(基本調味料)、使用頻度の高い順に、
塩・胡椒・ハーブ・酢が殆ど。プラスしてカレー粉とマーマイトが同じぐらい。北へ行くと魚醤が出る場合も

>>859
詳しくは今日投下分ですが、色々と曰く付きの方だったんですよ
パルパティーン最高議長殿は「教理の番犬」と呼ばれたぐらいに超保守の方だったのですが、
その方自ら生前退位(600年ぶり)と名誉教皇(前例無し)ってのをやったぐらい、多分某かの事情はあったかと

>>860
「最終的にグチャグチャになるんだからいいですよねっ!」というアレ過ぎる合理主義の成せる技でしょう
何せ料理番組でゴム手を使う料理人が大人気になれる国ですから

他にも……あぁその調理人、アイスケーキを作る際、中にナッツ的な物を入れるよ!と言い出すんです
で、取り出したのが某チョコバー(海外で人気のヤツ)。あぁスリコギかなんかで潰すんかな、と思ったら
パッケージを剥かずにガンガン叩き潰し、「ほーらこうすれば別の容器も汚さずに粉々さ!」ですから


一応料理も趣味にしてる人間から言わせて貰いますと、総じて『雑』だなという部分がチラホラあります

例えば日本料理で出汁を取る際には、沸騰したお水へ鰹節を入れて『火を止め』ます
これは一番出汁と呼ばれ、香りが良いが旨味成分はやや抑えめです(肉の臭みを取り、素材の味を邪魔しない)

で、一番出汁を取った後の鰹節を水へ入れ、そのまま煮沸させて取る出汁を二番出汁と言います
香りは少ないのですが旨味が強い出汁となります(香りが不快でない素材と組み合わせて使う)

が、イギリス料理で使われ始めている鰹節は『大火力で煮ればオッケーさHAHAHA!』だ、そうです
……いやだから、料理のあら熱取ったり、煮立ったら火力を絞るのには理由があるんですよ

私は魚の臭みを取るために、塩振ったり湯引きしたり、キッチンペーパーで拭いたりするんですが、
イギリス料理は「結果同じなんだから必要無いだろ!」的な考えが多い
(勿論魚の脂がダイレクトに入るから料理全体が生臭い――か、ハーブの匂いしかしないの二択)

なんつーか、地図見りゃ分かると思いますけど、イギリス思いっきり島国ですからね?
だっつーのに下拵えとか面倒臭いからしなかったお陰で、フィッシュ&チップスか、ウナギゼリーぐらいしか名物料理がない時点でアレ過ぎる

――カンドルフォ城 会議の間

レッサー「で、本題なんですけど、ユカタン半島を早口で言うと、『ゆかたんはトゥッ!』って聞こえません?」

上条「終ってるよね?そのネタそのものも前ので終ってるし、それ以上膨らませる事も出来ないよね?」

レッサー「『ユカタン』?」

上条「Pardon?みたいな言い方すんな」

レッサー「現地の人が『お前が何を言ってるのか分からない』って言ってる時点で、もうガイドとしては致命的だと思うんですが」

上条「ゆかたん――ユカタン半島の話はここまでだ!ネタで巻き込むのは身内だけにしときなさい!」

レッサー「イエッサー!」

マタイ「……いいかね、そろそろ時間が惜しくなってきたんだが」

上条「はいっすいまっせん!どうぞ!」

レッサー「おっと上条さん、そんなヤローに気ぃ遣う必要はないですよ」

レッサー「『Congregation for the Doctrine of the Faith(教理省)』出身の魔術師なんですからねっ!」

上条「あ、すいませんねー?今ちょっとベイロープさーん、手ぇ貸して貰えるとー」

レッサー「待ちましょうか!?その女は洒落にならないのでおフザケはここまでにしますから!」

ベイロープ「あー……うん、本当よ。その人が教理省長官に長年就いてたってのはね」

鳴護「教理……?」

フロリス「直訳すると『信頼の教義のための会衆』――んが!古くは『検邪聖省』って呼ばれてた部署」

上条「例えばどんな仕事?」

ランシス「……昔々、異端審問会をやっちゃってたトコ。アレ過ぎて聖務聖省とか、何度か改名してる」

上条「あー……うん、何か分かっちゃったかも。てか積極的には聞きたくない!」

ベイロープ「そこの”長官”職を24年、非公式に籍を置いてた頃から換算すると……まぁ半世紀近く?」

ベイロープ「そしてまた前々教皇が崩御した時には、枢機卿主席っていう実質上のナンバーツーに居た人物」

レッサー「思いっきりぶっちゃけちゃいますと、『必要悪の教会』のヒラ魔術師が、半世紀以上戦い続けたら教皇になった、でしょうか」

上条「コメントし難いよ!何か色々とガチだって事は理解出来るけどさっ!」

上条「てかどう見ても『そっち系』の空気がすると思ったら、ネタじゃなくってマジだってのが!」

ベイロープ「最前線で半世紀戦い続けてきたのは、裏を返せば『それだけの実力を兼ね備えていた』のと同義」

ベイロープ「歴代でも屈指の魔術師なのは間違いないわ」

鳴護「へー、それじゃインデックスちゃんと同じなんですねー?」

マタイ「彼女と関係があるかないかで言えば、ある。ただほんの数日顔を合わせてただけではあるが」

マタイ「バチカンに眠る『禁書』の書庫を開放した時に少しだけ、な」

上条「あ、じゃインデックスの知り合いなんだ?」

マタイ「向こうは憶えてないだろうが、否定はしたくはないよ」

レッサー「(ありゃ?思っていたよりか良心的?)」

フロリス「(ジーサンと孫ってポジじゃないかにゃー?フィアンマにドツかれて耄碌してんだろーすぃ?)」

ランシス「(……いやでも、魔力尋常じゃない……)」

マタイ「少しだけ歴史の話になるが、正史に残る『禁書目録』は私の所属していた教理省――当時『異端審問会』であった検邪聖省が編纂したものだ」

上条「……なに?って事はアレか!?お前達が――」

マタイ「編纂した、と言ったな。1557年のローマで我々は『非道徳な書物』をまとめ、リストを作った」

マタイ「興味があるなら美術館へ行ってみるといい。第1版から32版まで揃っているから」

上条「……ごめん」

マタイ「――まぁ、本物が飾ってあるとは限らないし、『正史』に事実そのままを書くのもまた別の話だが」

上条「俺の謝罪を返せコノヤロー」

ベイロープ「あの、ちょっといいかしら?」

マタイ「差し障りのない事であれば」

ベイロープ「これは純粋な興味なのだけど、本当に今代の禁書目録はローマ正教の秘術全てを記憶してるの?」

ベイロープ「ブリテンとフランス、てか第三次世界大戦でのイギリス清教とローマ正教の代理戦争を見るに」

ベイロープ「そんな切り札があるんだったら、もっとワンサイドゲームになっててもおかしくないわよね?」

フロリス「だーよねぇ。フランスがヘタレなきゃ良いカンジに拮抗はしてたし」

マタイ「その問いへ対する答えは三つ。事実が二つに推測が一つ」

マタイ「一つ。その当時は 『切り札』である禁書目録が機能不全を引き起こしていた」

マタイ「豊富な知識があっても提供する相手が居なければ意味は無い」

マタイ「二つ。『相手の術式』を理解し、また『対処方法』を知ったとしても実行に移せるとは限らない」

マタイ「例えば……俗な言い方をすれば、『ストライクゾーンへ入ってくるボールを棒きれで場外まで飛ばす』事が3割出来れば億万長者」

マタイ「理屈では簡単だが実行へ移せるかは難しい」

上条「……本当に俗だな……」

マタイ「そして三つ。今代の禁書目録へ対し、我々ローマ正教が知識を出し惜しみした事は無い。誓って言おう」

レッサー「大きく出ましたね、これまた」

マタイ「だがしかし『禁書目録』に収められているものは、当然『禁書』の類だ」

マタイ「『あからさまな嘘』や”と、判断されたもの”である『偽書』は対象外」

マタイ「偽書ならば――読むに値しない偽物であれば、彼女へ記憶させる意味は無いだろう?」

上条「(……なぁ、レッサーさん?)」

レッサー「(あいあい)」

上条「(なーんか、こう予想以上に圧倒されるっつーか、スゲェよな?この人?)」

レッサー「(えぇまぁ実はこの人、『選挙で選ばれた』って言われてるんですが……)」

上条「(コンクラーベだっけ?日本語の『根比べ』と語感似てて面白いよねってテレビで言ってた)」

レッサー「(……あくまでも噂ですけど、一度辞退してるらしいんですよ。選ばれたにも関わらず)」

上条「(どうしてまた?ローマ正教のトップ、なりたくなかったのか?)」

レッサー「(『教皇になったら戦えない』とか何とかで)」

上条「(あー……)」

レッサー「(でもその手腕を請われ渋々一線から引いた……って聞いたんですが、あながち根も葉もない噂ではないかもしれませんねぇ)」

レッサー「(伊達に極東のネット世界で『老魔法王』の二つ名は冠していませんぜ)」

上条「(暇人だけな?コラ職人だけとも言うが)」

レッサー「(ちなみにこっちでのあだ名は『教理の番犬』、つまり超保守派ですなー)」

上条「(つーかさ。フィアンマが裏切ってロシアに着いちまったじゃん、前の戦争)」

上条「(あれ別に、この人の下で『右席』全員がフツーに戦ってりゃ、イギリスか学園都市、どっちか陥落してるよな?)」

レッサー「(……有り得る話ですねぇ。ウィンザー朝辺りはぶっ飛んででもおかしかないかも知れません)」

レッサー「(……ま、そん時にゃ古い燭台へ新しい光を再び灯すだけの話――)」

レッサー「(――Rex Quondam Rexque Futurus)」

上条「(うん?英語にしちゃ響きが――)」

レッサー「(いんや何でも。でもそいつぁないと思いますよ)」

上条「(ま、仮定の話だけどさ)」

レッサー「(いえ、そうではなく。フィアンマの野郎、最初から最後まで『俺様の手による衆愚の救済!』だったじゃないですか?)」

上条「(あー……そうだなぁ)」

レッサー「(ンな精神破綻者が一時的にとは言え、自分の見下している人間の下へ着く筈が無いでしょう)」

レッサー「(力を持ったから歪んだのか、はたまた歪んだから力を得られたのか、ひっじょーに興味深い所ではありますがねぇ)」

レッサー「(妄想で整地した土台の上へ、理想って名前の家を建てようとする姿は、見てて痛々しいものでしたよ、はい)」

上条「……」

レッサー「(全く迷惑なテロリストがあっちにもこっちにも居ますよねっ!)」

上条「(お前もな?お前らもな?)」

上条「(つーか四人居て、先生?含めて五人も居たのに誰か止めような?)」

レッサー「(や、まぁ正直、ある種のテスト的な意味合いもあったんですがねぇ)」

上条「(テスト?)」

レッサー「(えぇまぁテスト。辛うじて及第点でしたが)」

マタイ「――内緒話も結構だが、いい加減次の説明へ移りたいのだがな」

上条「はいっ、すいませんでしたっ!」

レッサー「良い所で止めますよねぇ――ってか何かありましたっけ?」

マタイ「とは言っても業務連絡程度。イタリア滞在中の警備はこちらで引き受ける事ぐらいか」

上条「えっと……元教皇さんが……?」

マタイ「マタイでよい。今はただの隠居の身に過ぎない」

ベイロープ「一応補足しとくけど、魔術師の術式や霊装のカテゴリ分けには『教皇級』があるのよ」

ベイロープ「ニュアンスとしちゃ『聖人未満、ただし生身の魔術師が届く”かも”知れない最高峰』って意味よね」

上条「……うん?それじゃもしかして超強いの?このおじいさん」

フロリス「あくまでも一般論だケド、魔術師のピークはTeensからTwentiesだって説があるんだ」

フロリス「基本、『魔力の精製』に必要なポテンシャルが、一番充実してるだろう年頃」

フロリス「ま、それ以上になっても経験や知識でカバーするから、定説なんかじゃないんだケドねー?」

鳴護「えっと……フィギュアスケーターや体操選手が成長し切っちゃうと、手足が長くなりすぎて不安定になる、って話は聞いた事が?」

マタイ「方向性としてはそれで正しいよ。聖歌隊に声変わりする前の子供を揃えるのも似てない訳ではない」

ランシス「……普通、教皇になるのは良くても壮年の終り頃。老年がまぁ当たり前」

ランシス「ピークがとっくに終わっているのに、歴代教皇の活躍が凄すぎて『教皇級』なんて呼ばれるぐらいだから……お察し」

マタイ「持ち上げすぎだろう、それは」

レッサー「――っと言ってますがねぇ、実際の所ローマ、特にバチカンはあちこちに術式・霊装がベッタベタ設置してありまして」

レッサー「それら全てを自在に操れる『教皇級』さんが護りに徹したら、どれだけの人間が勝てるか怪しいもんです」

上条「珍しいな?『私達なら楽勝ですって!』ぐらいは言いそうなのに」

レッサー「そこまで自信過剰ではありませんよ。四人じゃ無理でしょうな」

マタイ「過大な評価は嫌味に繋がる。大昔にローマ皇帝ティベリウスを弑した英雄殿も居た筈だが?」

レッサー「やっだなぁもうっジジイになったってのに、現実とフイクションの区別がつかないなんてお若いんですからっ!」

上条「すいません、この子病気なんです」

レッサー「上条さんが裏切りをっ!?」

ランシス「……いいぞ、もっとやれ」

マタイ「よいよい。私の方が勘違いをしていたようだ」

マタイ「あれも確か『偽書』であり、『創作』に過ぎない。そうでなければいけないのだったな」

上条「うん?」

マタイ「……まぁ、彼女たちの物言いはやや誇張が混じるが、そう的外れでもない」

マタイ「ここは元よりローマ近郊で彼らが事を起こすのは不可能だよ。仮に何か起こったとしても、私達の名に誓って君たちを守ろう」

マタイ「慣れない長旅で疲れただろう?部屋は用意してあるから、ゆっくりと休むが良い」

鳴護「ありがとうございます――ってか、本当にこちらにお世話になっちゃっても良いんでしょうか?」

鳴護「完全な部外者ですし……さっきからメンチを切りまくってる子が」

レッサー「おっと、この調度品中々の一品ですねぇ、へー、流石は天下のローマ正教」

レッサー「で、一体どこから盗んだ物なんですかー?イスラム?アフリカ?それともアジア?」

レッサー「それはさておきジャン=バルジャンってご存じですか?私はあんま好きじゃないんですが」

上条「レッサーさん黙っててあげて!いい加減にしないと全員つまみ出されるんだから!」

ベイロープ「シメに銀の燭台を持ってくる辺り、嫌がらせの芸が細かいのだわ……」

マタイ「言い方は良くないが私達にも打算はある。だが、それ以上に今回の件に関しては業を煮やしている」

マタイ「ユーロトンネルで無辜の人間を手にかけ、フランスでも大勢を巻き込んだブラック・ロッジ……」

マタイ「イギリス清教との抗争のせいで低く見られがちだが、本来私達はそういった『正しくない』者へ道を説くのが信条でもある」

マタイ「……また、それでも手を出してくるのであれば、介入する大義名分が出来る訳だが」

フロリス「……こえー、教理省元長官こえー」

ランシス「……てかイタリアは魔女狩りだし、異端審問会がまさに、それ」

鳴護「ありがとうございます」

マタイ「当然の事をするまでだ」

上条「すんません。俺からもちょっといいですか?」

マタイ「ああ。畏まらなくていいと言った」

上条「マタイさん、魔術に詳しいんで――だ、よな?」

マタイ「人並みよりは、少々」

レッサー「過小評価してもローマ正教で屈指。十字教の知識量と技術で言えば20億人中最高レベル」

レッサー「前の大戦でもバチカンに居ながら『ベツレヘムの星』の機能を大きく削ぎ落としたってのに、何言ってんですかねこのジジイ」

ベイロープ「内容は概ね同意するけど、こじれるから黙んなさい」

上条「そういえば――フィアンマの『右手』が途中からボロボロになってったのも!」

マタイ「私だけではない。『我々』が一役買っただけの事」

上条「……それでも助かった――助かりました、ありがとう」

マタイ「……全てを水に流されるのも、それはそれで辛いのだがね……」

上条「何?」

マタイ「いや、何でもない。それより聞きたい事があったのではないか?」

上条「『濁音協会』について、てか術式とか霊装とかを教えて欲しいんだよ」

マタイ「イギリスには禁書目録が居るだろう?」

ベイロープ「それが今回の件にはほぼノータッチなのよ。『ネクロノミコン』が頭の中にあるからって」

マタイ「……成程。直接関わらないのが賢明ではある。とはいえ」

フロリス「失われた獣化魔術、存在しない筈のイレギュラーが敵に回ったり」

ランシス「……かと思えばマイナー過ぎる術式にハマるし」

ベイロープ「そもそもの旅の始まりが魔術サイドかどうかも怪しい謎生物よ。手に余りすぎるのだわ」

マタイ「興味深い話だ。役に立つかは分からないが、私の知識で良ければ相談に乗ろう――が」

マタイ「まずは部屋へ荷物を置いてきたらどうだ?その間に食事の準備でもさせよう」

――食事後

レッサー「じゃまずローマ正教の聖職者が全員童貞かって質問から始めましょうか」

ベイロープ「何が何でも嫌がらせしようって気迫は認めるけど、食事後にその話題は重すぎるわ!」

レッサー「って事は……今このテーブルに着いているのは全員未使――アタタタタッ!?」

ベイロープ「何を言おうとしたのかは分からないけど、それ以上言ったら酷いわよ?何を言おうとしたかは分からない、け・れ・どぉっ!」

レッサー「明らかに分かってるじゃないですか?!てか最年長だからってそんなに気に病む必要はないですからっ!」

ベイロープ「ちょっと失礼するわね?あ、気にしないで続けて続けて?」

レッサー「私に対しては失礼じゃないんですかね?具体的には今まさに私の頭をかち割ろうとしているアイアンクローとか!」

レッサー「い、いや私も実は反省してるんですよねっ?ノリだとはいえ『ベイロープ婚約者説』とか、『スール説』とか、色々流したのはねっ!」

レッサー「でもあれは男の運の悪い、っていうか明らかに男を見る目がないベイロープさんを守るためのものであって!」

レッサー「私達としては、こう、アレですよっ!大切な仲間を守るために的な話ですから!」

レッサー「ていうか今まさにタチの悪い男にしっかり捕まってる状況――」

レッサー「――だからもうちょっと!ほんの少しだけで良いから!優しさをHandに反映させてあげて下さいなっ!」

レッサー「じゃないと私の頭がザクロのよう――」

パタン……

レッサー『……アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!? ……』

上条「えっと……うん」

鳴護「流れるような手際で、レッサーちゃんが連行されて行った……」

ランシス「悲鳴を上げる元気があるから、大丈夫……」

フロリス「そういう問題?」

マタイ「――一応弁解めいた事を言っておくが、1542年、ローマへ設置した異端審問所は各国の異端審問会の審議と監督」

マタイ「そして出版物の”審議”と禁書目録の作成。と、個人を断罪するものではなく、教会としての見解を出す役割であった」

上条「スルーするの?してのいいの?」

マタイ「当時最も有名なのが『ガリレオ・ガリレイ裁判』だが」

鳴護「あ、地動説を唱えたら怒られちゃった人」

マタイ「ローマ正教として認められないものは認められない、と認定する機関であり、直接を沙汰を下すような事はしていない、と弁明させて貰う」

上条「でもガリレイ処罰してるよな?」

マタイ「後年、ガリレイ裁判が異端審問所主導だったのか、それとも政争の類であったのかという議論が沸き起こっておる」

マタイ「理由は幾つかあるが、禁書登録されたガリレイの『天文対話』が”ローマ教皇庁から発行許可があった”からだ」

上条「え、なのに異端?」

マタイ「その通り。教皇庁が是としたにも関わらず、異端審問所がそれを以て異端だと認定した」

フロリス「要はバチカンでの政争だって事ジャン。くっだらなー」

マタイ「その通りだな。しかも禁書指定したというのに、当時プロテスタントだったネーデルランドで『天文対話』は発行されているし」

マタイ「私も一度、『当時の価値観としては裁判自体は正統なものであった』と言った。後に彼の業績を賞賛しておいたが」

上条「もしかして……魔術絡み?」

マタイ「その質問には答えられない――が、一つ雑談をしようか。鳴護アリサ君」

鳴護「は、はいっ!?なんでしょうかっ!」

マタイ「知識は力である。中世以前の聖書がギリシア語で書かれており、教会が知識を独占していた」

マタイ「読み書きを出来る人間、つまり政治に関わる者、関われる者を限定してしまえば、という考え方……ま、時としてミルメコレオをも生むが」

マタイ「そして魔術も然り、一部で独占していれば他方への抑止力も兼ね備える。真理に近ければ近い程有効な手段だ」

ランシス「……当時の教会は地球が動いているのを知ってて、魔術師のために隠していた……?」

マタイ「何の話をしているか私には分からないが、天動説を元に組まれた術式と、地動説を元に組まれた術式、どちらが脅威であるかは容易く知れる」

鳴護「……あのぅ?」

マタイ「ん、あぁ君に聞きたかったのだが、星空を見ていると何かこう、引き込まれるような感覚に囚われる事はないか?」

鳴護「囚われる、ですか?」

マタイ「吸い込まれるような、とか、目が離せなくなる。些細な事でも構わない」

上条「なんでアリサに聞く……?」

マタイ「後で教えるよ。どうだ?」

鳴護「んー……どう、でしょうねぇ。夜空を見るのは好きですし、星関係で曲も作ってますから」

上条「ファーストアルバムが『ポラリス』だっけ?」

鳴護「星座はよく知りませんけど、まぁ――好きな方、でしょうか」

マタイ「……ふむ、そうか。セプテントリオンとオリオン……分かった」

マタイ「話を戻そう。ともかく異端審問所は聖務聖省もしくは検邪聖省、そして教理省と名前を変えてきた」

マタイ「名前は変わっても役割自体は変わらず、好ましい事ではないが」

上条「魔女狩り、とか?」

マタイ「だからローマでの異端審問会は極めて勢力が弱かった、と言っている。ガリレイ一人極刑へ追い込めず、また著書も隣国で発売」

マタイ「結果としてローマ正教の力を貶める事はあっても、増加には繋がらなかった」

マタイ「どちらかと言えば内部での粛清や方向転換が多かったがな」

上条「内部?」

ベイロープ「――いつの時代も『カルト』が出るのよ、決まってね」

フロリス「おっ、おかえりー」

ランシス「レッサーは……?」

ベイロープ「……疲れたみたい。部屋でぐっすり眠ってるわ」

上条「優しい顔で厳しい嘘を吐くベイロープさんハンパねぇなっ……!」

マタイ「例えばフリーメイソンか。信仰に似た『何か』であり、十字教とは認められないと私は宣言している」

マタイ「現代でもメジュゴリエの聖母やヴァッスーラ……ボフのような者を追放しなければならん……!」

鳴護「えぇっと……?」

ベイロープ「順番に自称聖母の降臨、自称預言者、でもって『解放の神学』の提唱者の一人よ」

上条「あー……頭イタイ人、やっぱ居るのね……」

マタイ「私は、というか我々は他の信仰を否定はしていない。誰が何を崇めるのも勝手ではある」

マタイ「だが何故皆示し合わせたように十字教を名乗るのか?まるで自分達が正統の後継者である如く振舞う」

フロリス「ぶっちゃけ『お前が言うな』って気もするケドねー?」

マタイ「その誹りは正しいものである。聖ペトロの意志を受け継いだ”だけ”の我々が、果たして正統な代弁者であるか否か」

マタイ「過去、人を導く立場にあった者であれば、悩まずに居たものは一人足りとて居ないだろう」

レッサー「……一応、嫌々ながら擁護しますとね、ローマ正教さんはそこら辺の矛盾を『妻帯禁止』で解決してきたんですよ」

レッサー「『彼らには子孫がおらず、遺伝子的に何を残す訳ではない』」

レッサー「『従って彼らが座すのは清貧の華である』と」

上条「レッサー……!生きていたのかっ!?」

レッサー「エピローグ辺りの脇役向けの台詞、止めて貰えません?や、まぁ一度は言ってみたい気もしますけど」

レッサー「ちなみにたった今マタイさんが仰った宣言、実は2007年の『教会論のいくつかの側面に関する問いに対する回答』で、もっと強烈に宣ってます」

レッサー「そうですねぇ……長くなるんで要約しますと」

レッサー「『ローマ正教以外ペトロの使徒名乗ってんじゃねぇぞファッキン!』ですかね」

上条「そんな中指突き上げながら宣言はしない」

マタイ「大体合っているな」

上条「合ってんのかよ!?大概だなローマ正教も!」

マタイ「いや、彼らの言い分は分かる。歴史的な経緯を鑑みて、我々に同調出来ないのもまた理解はする」

マタイ「100歩譲って『教会権威に頼らない社会』とやらの構築もまた、良しとしよう」

マタイ「……だが行き着く先が今の有様。カルトと拝金主義、そして何故か乱立する指導者の群れを見る限り、嘆かわしいとしか」

レッサー「……あんま言いたくないですけど、ウチの教会さんも『ピューリタン革命!やったぜ今日からマルキストだ!』っつってのは、まぁまぁ評価は出来ますよ?」

レッサー「『王権の象徴』たるカーテナを捨てて、あん時ゃ感慨深いもんがあったってぇ話でしたよ、えぇえぇ」

フロリス「ドタバタで収集がつかなくなった、と思って気がついたら実権握ってるのはイギリス清教だしー?」

ランシス「……教会の首長がブリテンの統治者を兼ねる……何のギャグ?」

レッサー「王権が廃れれば、それはそれで独り立ちする事も吝かでは無いなー、と一瞬でも思った我々がバカでした」

マタイ「庇護者が庇護者のままであり、またブリテンの指導者は為政者としては決して凡庸ではないよ」

マタイ「ただ『プリンス・オブ・ウェールズ』を墜とされた時点で、全てが過ちだったと気づくべきだったが」

ベイロープ「耳が痛いわね」

マタイ「時に日本人の二人はクリスマスは好きかね?」

鳴護「まぁ、割と――当麻君?どうしたの?」

上条「……いや別に?何でもないよ?」

マタイ「幸いがなければ幸いを持てる者を祝福すればよい。他人を尊ぶのもまた幸いなるかな」

上条「まぁ、分からないでもないが……あー、でも言っちゃなんだけど、日本人はなんちゃってだぜ?」

上条「クリスマスの意味も『キリストが生まれた日』」も怪しくて、『サンタさんが来る日』ぐらいにしか考えてないと思う』

マタイ「充分だよ。十字教圏でもそういう所は多い。それでも君たちは『HappyChristmas(神の子の聖誕式、おめでとう)』と言ってくれるのだろう?」

上条「多分、字面だけだろうが、一応は」

マタイ「……昨年のアメリカ大統領のスピーチは『HappyHoliday』だったんだよ」

上条「……はい?」

鳴護「えっと、アメリカって十字教徒さん多くありませんでしたっけ?どちらとも」

マタイ「『HappyChristmasは信仰の自由を否定するものだ』として、近年では忌諱される傾向にある」

上条「……すんません、クリスマスって十字教の祝日ですよね?」

ラシンス「正しくは……アイルランド、ケルトの冬至と新年の復活を願った日」

ベイロープ「――っていう説もあるけど、まぁ今では十字教がメジャーよ」

上条「反対してる奴らバカじゃねーのか。人様の祝い事に『信仰の自由』って」

上条「別に嫌なら参加止めて黙ってりゃいいのに、何ケチつけてんだよ」

マタイ「アメリカの場合。完全な祝日になっているのも一因ではある。あるが……」

上条「いや、でも確かアメリカも伝統的な十字教国家なんだろ?だったら十字教の大切な日を祝日にするのもアリだとは思うし」

マタイ「……と、まぁそのような出来事が世界中で起きている有様だ。嘆かわしい」

レッサー「他にも、ローマ正教は妊娠中絶や安楽死、同性愛について一貫して否定してますけど、それで非難囂々でしてね」

レッサー「いや嫌なら好きにすれば良くねと。確かに教義上色々言いますけど、今じゃ反対にローマ正教が時代遅れだとか言われてんですな」

鳴護「その内、『イエスが男性なのは差別だ!』とか言いそう……」

マタイ「ハリウッドで映画を作る際、特定出身の人間を悪役にしてはならず、一定の比率で出さねばならない内規がある」

マタイ「ニック・フューリーが別の人種になっていたり……まぁどちらか差別だという話さ」

上条「前からちっと思ってたんだが――欧米、頭悪いだろ?なぁ?」

ベイロープ「多少の揺り戻しと自浄作用として、保守政権が台頭して居るのだわ」

レッサー「彼らの主張は至極真っ当、『自国民の社会福祉の優先』、ただそれだけですからねぇ」

レッサー「排他的な動きだと言ってみても、国民が住まうべき所は自国であり、国籍を持たなければゲストに過ぎませんから」

マタイ「……その流れ自体は歓迎せざるものであるが、適度に距離を保つのも軋轢を招かぬ真理である」

マタイ「過度に深淵を覗けば深淵からも覗かれているのと同じく」

フロリス「今の教皇猊下、まーさーにー、”そーゆー”系だもんね」

上条「フロリスが他人に敬称を……!?」

フロリス「ぶっ飛ばすぜジャパニーズ?」

マタイ「――さて、愚痴はさておき。ガリレイの話へ戻ろうか」

上条「そっちかよ。てか戻るような話――」

マタイ「――『使徒十字(クローチェディピエトロ)』、君は憶えているかな?」

上条「学園都市を乗っ取ろうとしたヤツか……!」

ランシス「……何、それ?」

マタイ「『聖霊十式』と呼ばれ、我らが有している霊装の事だ。少しばかり強力ではあるが」

上条「都市一つを洗脳するのが、『少し』?」

ベイロープ「ペテロの呪いの十字架……あぁ何となく分かったわ」

マタイ「まさに『あれ』の起動条件は『星辰』――太陽系や星座の並びであるのは既知だろう。魔術的に解説すればだな……」

マタイ「魔法陣ぐらいは……知っているだろうか?」

上条「んー……あぁ、知り合いの陰陽師が使ってた。記号と文字を組み合わせて発動させるのだろ?」

レッサー「それは『魔”方”陣』であって、ジーサンが言ってるのは『魔”法”陣』です。厳密には別モノ」

ベイロープ「『場』の流れを得意とする一派には『方陣』が得意……まぁ、でも?」

マタイ「いや、その理解でも構わないだろう。そうそう魔方陣の使い手と相対するなんて事は有り得ん」

上条「ベイロープさん、後で良かったら詳しく教えて頂けません?」

レッサー「だがここに律儀にもフラグを回収する方が……!」

上条「だって笑い事じゃねぇんだもんっ!南アメリカから北欧ロシアにEUまで結構やり合ってんだからな!」

フロリス「そして今はクトゥルーだしねー?日頃の行いかなー?」

上条「俺はっ!誰に後ろ指指されるような事なんか――」

鳴護「あ、そういえばインデックスちゃんがね」

上条「ごめんなさい」

マタイ「……ともあれ魔法陣と魔法陣の違いは置いておくとして、強力な術式程により大きな魔法陣が必要となってくる」

マタイ「とはいえ儀式魔術であれば、法陣を書かずに済ませる場合も少なくはないが」

上条「はい、質問です」

マタイ「どうぞ」

上条「『術のデカさ=威力』だったら、あの使徒十字は――」

マタイ「『天球に描かれた星辰が魔法陣』となり、都市一つに極めて強い影響を与える」

上条「うへー」

マタイ「だから――『だから我々はガリレイの地動説を禁じた』のだ」

上条「え……っと、そこか?そこへ繋がる、ってのは」

マタイ「天動説でもある程度はカバー出来ていたが、地動説ベースに術式を組まれると威力が桁違いだ。従ってプトレマイオスの説を支持せざるを得なかった」

レッサー「んー……つまり、アレですかね?ローマ正教自体はずっとずっと昔から地動説だと知ってた」

レッサー「じゃなっきゃ『使徒十字』のような極めて複雑で精密に、天球を使った大規模霊装なんて作れないでしょうからね」

レッサー「だが余所様に天球を利用されるのが嫌で、わざと天動説を信奉していたと」

マタイ「そう、だな。聖書に書かれているのも根拠になってはいるが、故意に情報隠しをしたのは間違いではない――し」

マタイ「また、それが過ちだとは思っていない。当時、我々はオスマントルコ帝国の脅威に脅かされていた」

マタイ「まともに対話をする”だけ”ですら力が必要な時代があった……今もそう大差ないがね」

鳴護「……さっきから聞いちゃいけない話が飛び交ってるよな……?」

マタイ「プライベートであればジョークの一つも言うだろう――と、鳴護アリサ君、手を」

鳴護「はい?」

マタイ「上条当麻君も、右手を――そうそう」

上条「あ、はい」 ギュッ

上条(と言って、マタイさんは俺とアリサの手を取って握手させる……)

上条(アリサの手を改めて握って恥ずかしかった――のも、あるが、マタイさんの手が傷だらけだってのが印象深い)

上条(ステイルが半世紀以上戦い続ければ、こうなるんだろうか……?)

マタイ「……ふむ。そうか」

上条「あのー、もう離しても?」

鳴護「え?」

上条「恥ずかしいよ!」

レッサー「中二wwww」

上条「お前もベイロープに握ってて貰え」

レッサー「意味合いが違いますよね?青い春と書いて青春と読む爽やかな一ページではなく、拷問的な意味ですよね?」

マタイ「あぁ好きにすればよい……ふむ、どこから話したものか悩むが――」

マタイ「――まず『消えなかった』のを喜ぶべきだろうな」

鳴護「あたしが、ですか?」

上条「……ちょっと待てテメェまさか!」

マタイ「最初に言うが『消えない確信があった』のは間違いない。過去、幾度か君たちは触れ合っているんだろう?」

上条「そういう言われ方をすると誤解を招きそうなんだが……」

鳴護「誤解、かなぁ?」

上条「黙っておこうな!偉い人なんだから!」

マタイ「足は靴に合わせるのではなく、靴を足に合わせるべきだな」

上条「……その心は?」

マタイ「責任は取りたまえ」

上条「よーし?教皇だって俺は容赦しねぇからな!?意味も無くイジられるぐらいだったらば!」

レッサー「嫌いじゃないですその蛮勇!さっ、ガンガってぶん殴って第四次世界大戦を勃発させましょーよ!」

レッサー「次はフランス野郎を完膚なきまでに叩きのめしましょうンねっ!」

マタイ「――と言った具合に、争いは何も生まんよ。遺恨以外は」

上条「……どうしよう?もしかして俺は今物凄く遠回しに忍耐を試されてんだろうか……?」

ベイロープ「どういう意味よ?」

上条「『濁音協会』の事を聞いてんのに、なんでアリサの”体質”の話になんだっつーの」

マタイ「鳴護アリサ君を狙っている以上、君の言う”体質”とやらが目的ではないのかね?自明の理とも言うが」

マタイ「……と言うよりも、その様子だと学園都市でもイギリス清教でも、きちんとした検査を受けていないように見受けられるが……?」

鳴護「はい、その……怖くて」

マタイ「怖い?」

鳴護「あたしがニン――」

マタイ「人の定義などはそれぞれであり、ましてや誰が決めて良いものではない」

マタイ「例えばES細胞から創られた『ヒト』に人権はあるか?ならクローン細胞は?」

マタイ「定義など幾らでも出来るが、最終的に決めるのは――やはり自分自身ではないか」

鳴護「あたしが、ですか?」

マタイ「自我を持ち、友を得て、家族と呼べる人間が居る――それすらも叶わない人間は決して少なくはない」

マタイ「また聞くが、仮に『ヒトではないからと言ってどうする?』と」

マタイ「誰かに『ヒトではないと言われたから』と言って生き方を変える――のであれば、それもまたおかしな話だよ」

鳴護「……」

マタイ「私が見る限りではここに居る人間達、また少々過保護すぎるきらいがある家族、そのどちらも『だから何だ?』と笑うであろう」

マタイ「そのような『絆』を持つ者が、ヒトかどうかは些細な問題に過ぎない」

上条「まぁ……そんなもんだよな」

鳴護「……当麻君」

上条「悩んでるのは何となく分かってるし、だからって悩むなって言うつもりはねぇけどな」

上条「アリサが誰だろうが、何だろうが、俺やインデックスは友達だし、シャットアウラは家族だ」

上条「それだけは忘れんなよ、な?」

鳴護「……うんっ!」

マタイ「……なんだろうな。至極真っ当且つ、割と背教的な事を言ったにも関わらず。全てをかっ攫われた感がするのだが……」

レッサー「えぇまぁ良くある事としか。珍しかないです、残念な事に」

マタイ「ま、それもまた良かろう――なら君の”体質”や関係する事について、ここに居る人間にも話しても構わないだろうか?」

マタイ「ほぼ全てが推測になる上、少々ならずとも不快な話が混じる。その上でも」

鳴護「はい、お願いします!」

――カンドルフォ城

マタイ「最初に断っておくが、知らねばならないものを知らないままにしておく、という選択肢は割と良くある」

マタイ「政治、経済、外交、歴史……『知らない』のであれば、テレビのコメンテーターが言ったお粗末なロジックに酔いしれ、共に怒る事は容易い」

マタイ「自らを社会正義だと一片の疑いもなく思い込み、間違っているのは誰それだ――それもまた生き方であるよ」

マタイ「……だが、現実の話としてだ。病を患っている者が、初期症状が出ていないからと言って放置していれば……碌な事にはならない」

マタイ「正確に、そして正しい治療法を取れば完治はしないまでも、長い時を生きられる――」

マタイ「――私が若い頃に出始めたエイズなんかがそうだ。教義上色々と言いたくはあるが、それはさておき」

マタイ「今では感染が確認されれば45年――30歳で見つかったとしても、75歳まで延命出来る治療法が確立されている」

マタイ「その年齢は先進国であっても割と高齢に位置する。それに関しては科学の発達と努力をした者達全てへ感謝すべきだ」

鳴護「あたしも、ですか」

マタイ「病と一緒くたにするつもりはないし、また実際にそうでもない」

マタイ「だがしかし、他者との違いを認識した上で、『人』として暮らした方がより安心出来るだろう」

マタイ「現実と向き合い、戦う勇気を持つ君にへ私は少なからず敬意を表そう」

鳴護「止めて下さいっ!?あたしなんて、全然ですからっ!」

鳴護「いっつも他にみんなに助けて貰ってばっかり――」

上条「……まぁ分かるけどな、悪いなって思うのは」

上条「一人前にゃまだまだで、側でスゲェスゲェ言ってる側だから。俺も」

鳴護「……うん」

上条「ま、でも今は甘えようぜ?素直に」

上条「俺達が恐縮がったって仕方がねーし。借りはいつか絶対に返すさて決めてさ?」

鳴護「……うーん、それでいいのかなぁ?」

上条「良いも悪いもねぇさ。肩肘張って一人で生きていけます、なんつったらシャットアウラ号泣すんだろ?」

上条「甘えとけ甘えとけ。アイツだって居なくなったと思ってた家族が増えて、嬉しいに決まってる」

鳴護「……お姉ちゃん」

レッサー「流石ですっ上条さんっ!」

レッサー「所属している学園都市とお世話になってるイギリス清教と天草式十字凄教をブッチしてロシアに単身乗り込んだ人の台詞とは思えませんねっ!」

上条「黙ってようか?今俺、ちょっといい話をしてんだから!」

レッサー「イチャイチャするんだったら私とすりゃいいじゃないですかっ!私のターンなのに!」

上条「憶えがねぇよ!ターンってなんだっ!?」

マタイ「……私も暇ではないのだが……」

ベイロープ「すぐ終るから、ちょっとだけお願いします」

マタイ「――さて、では結論――と言っても推論だが――から言おう」

マタイ「鳴護アリサ君の体質は『レイ・ライン(光の道)』から来ている」

鳴護「レイライン?」

上条「えぇっと、『龍脈』だっけ……?」

マタイ「そちらに馴染みがあるのであれば以後そう呼ぼう。君は、君という存在は龍脈によって『構築』されている」

マタイ「……いや、その言い方もおかしいのであろうな。少なくとも『老化』しているのだから、あくまでも誕生に関わっただけか……?」

レッサー「根拠はどちらから?」

マタイ「上条当麻君の『右手』に触れても平気な点だ。その異能の特性は何か?」

上条「『異能力を打ち消す』のと、『出力し続ける能力を完全に打ち消すのは出来ない』」

レッサー「プラスして『力』の方向性を曲げたりとかも出来ませんでしたっけ?」

上条「一応出来るけど……なんつーか、その場のテンション?狙って出来るようにはなってない感じ」

マタイ「スイッチのオンオフは?」

上条「無理。試した事もない」

マタイ「ならばまず間違いなく、アリサ君は『龍脈から力を永続的に受け続けてきている』存在だろう」

アリサ「……私が、ですか?」

マタイ「勘違いして貰っては困るが、聖人も似たようなシステムで力を得ている」

フロリス「……あれ?聖人は天使の力(テレズマ)じゃなかったっけ?」

マタイ「だから『似たような』だ……というか、似すぎている」

ベイロープ「要領を得ないのだわ。アリサは龍脈から力を得ている根拠は、打ち消されなかっただけ?」

マタイ「だけではない。アリサ君を産み落とした術式――そう、『88の奇蹟』だ」

上条「レディリーか……!?」

マタイ「レディリー=タングルロード――彼女が大規模に仕組んだ術式は二つ。彼女の目的については?」

上条「死にたい、んだっけ。後から聞いた話だけどな」

マタイ「その通り。彼女はクルセイドの一人が持ち帰ったアンブロジアを口にし、”死ねない”体となった」

鳴護「死なない、じゃなく、死ねない?」

マタイ「境遇については同情をするが、しかし現実にレディリーは魔術結社の長として名を馳せている。詳しい説明は省くが」

上条「すいません、アンブロジアって何ですか?」

ランシス「……ギリシア神話に出てくる神々の食べ物……食べると不老不死になれる」

ベイロープ「一説にはアキレウスが無敵になった膏薬の原料、またデメテルが冥界で口にした果実とも言われてるわ」

フロリス「シチュからして後者じゃないかな。どっから持ってきたのかはわっかんないケド」

マタイ「そんな彼女が死のうとして作り上げた、にも関わらずそこで生まれたのがアリサ君だ。それが4年前の『88の奇蹟』」

マタイ「そしてまた去年起こしたのが『エンデュミオンの奇蹟』……ま、願いは叶わなかったのだが」

マタイ「さて、共通項は何か?」

上条「宇宙……!」

マタイ「では、少しだけ頭を休めるとして、そうだ……君たちがもし不老不死になったとしよう」

レッサー「嬉しかないですねぇ、それはきっと」

マタイ「だから永い永い終りのない人生に飽き、自ら死を選ぼうとする」

マタイ「けれども不死の体では死ねない。さて、どうする?」

上条「随分漠然とした話だな……魔術師じゃねぇから分からん」

上条「でもま、『自分がどうして死なないのか?』って所からスタートするんじゃないのか?」

ベイロープ「ってこっちに振られてもね。生憎命を使う――遣う術式は多いけど、伸ばすのは専門外だわ」

フロリス「ちゅーかワタシらにとっては鬼門じゃなーい?基本戦闘ばっかで、寿命を延ばしましょうとかやってないし?」

ランシス「先生が”あぁ”だから、限りなく近い術式はあるん、じゃ?」

レッサー「ですなぁ。切った張ったは十八番として、こっちのは――ってアリサさん?」

鳴護「もしかして――ってか全然見当違いかも知れませんけど」

マタイ「ふむ」

鳴護「『私と同じく、龍脈から力を供給されていた』、ですか?」

マタイ「私の推測と同じだ。そして恐らくレディリーもそうだったのだろう」

レッサー「待って下さいな。それと宇宙とどう関係が――ってまさか!?」

マタイ「場所、そして名前。その両者から推測するに――」

マタイ「――彼女は宇宙空間で術式を発動させ、地球から自身へ注ぐ龍脈をキャンセルしようとした、のではないか」

――カンドルフォ城

上条「……スゲェスケールのでかい話が来たな、また」

マタイ「龍脈が力を発揮出来るのは地形や地磁気、とにかく地球があっての前提だ」

マタイ「その影響力を削げる、極限まで離れた場所――それが宇宙空間だったと」

レッサー「……あぁ成程。だから『88の奇蹟』と『エンデュミオン』なんですね」

上条「お前っ!?今ので分かったのかっ!?」

レッサー「若干失礼なまでの驚きっぷりに腹が立ちますが……まぁ、良いでしょうっ!解説してあげましょうかっ!」

ベイロープ「まず『88の奇蹟』は乗客・乗務員が88人だったって事なんでしょ?」

レッサー「ちょ!?私の見せ場は!?」

鳴護「はい、その筈でした」

フロリス「まんま『星座数と同じ』だーよねぇ、これ」

ランシス「……一人一人を星座に見立てて、擬似的な天球を造り上げる、かと」

上条「天球?」

ベイロープ「星座版の事ね。地球から見える星の動き」

鳴護「それと事故を起こす事と、どう繋がるんですか?」

フロリス「星座の殆どは『ギリシア神話の神々が、○○の死を悼んで星座にした』って話、聞かない?」

レッサー「……ヘラクレスに殺されたカニや獅子なんかが有名ですかねぇ」

ランシス「トレミーの48星座……あ」

マタイ「それを考案したのもまた、天動説のプトレマイオスだ。偶然だかね」

ベイロープ「……だ、もんで。この場合『星座に上げる』ってのは、まぁ……アレするって意味よね」

フロリス「そもそも機体の名前が『オリオン号』――優秀な狩人だったが、自身の猟犬を狩られて怒ったアルテミスに殺される」

フロリス「死後、オリオンは星座になって……そのまま、っていうかな」

上条「……俺、殴っときゃ良かったな」

マタイ「地上からの影響を防ぐために、また逆に天球――星辰からの魔力を取り入れるため、場所を宇宙に定めた」

マタイ「が、最初に彼女は恐らく失敗したのだろうな。しかし全く駄目だった訳ではなく、手応えを感じていた」

マタイ「そうして造ったのが宇宙エレベーター、『エンデュミオン』だ」

上条「軌道エレベーターだっけ?」

レッサー「えぇ、ラグランジュポイントまで物資を送れるドデカいエレベーター……あれ?」

ランシス「何……?」

レッサー「軌道エレベーターが地上と垂直になるのは赤道付近だけで、日本から伸ばすと斜めになるんじゃ……?」

上条「流石は学園都市の技術だ!なんともないぜ!」

マタイ「ま、今更彼らの技術をどうこう言わんよ。それよりも、その名前だ」

ベイロープ「ギリシア神話でゼウスの孫、エーリスの王」

ベイロープ「ある時、山の頂で眠っていたエンデュミオンを、月の女神セレーネが見初め、恋へ落ちる」

ベイロープ「しかし不老不死のセレーネは、エンデュミオンが段々と老けるのを悲しみ、ゼウスへ彼を不老不死にするように頼んだ――が」

ベイロープ「ゼウスは彼を永遠の眠りへ尽かせ、不老不死にしたのね」

上条「……そんな名前を持つ、『塔』か」

マタイ「レディリーの境遇に似ていると言えるかも知れない」

マタイ「エンデュミオンは神の力によって不老不死となり、そこから脱却を図るために――」

鳴護「一度造り上げたエンデュミオンを、壊す……?」

マタイ「それも龍脈の影響の少ない宇宙で、だ。そこへ組み込まれた魔術的な記号は『塔』と『歌』」

マタイ「アリサ君にさせたかったのは多くの魔力を集めるため……まぁ、巫女のような役割だろうか」

マタイ「証拠……と呼ぶには軽々過ぎるが、レディリーの術式は失敗、そしてエンデュミオンの残骸の中、未だ眠っているのだろう?」

マタイ「まさに『不老不死のまま眠り続けるエンデュミオン』のように」

ベイロープ「……乗り越えようとした術式を失敗して、逆に取り込まれる。矛盾はないのだわ」

フロリス「ミイラ取りがミイラってヤツだよねー」

ランシス「『おかーちゃんはミイラ』……」

上条「……?」

ランシス「……『Mammy is Mummy』……ッ!!!」

上条「あ、このお菓子美味しいから食べて良いぜ?出来ればゆっくりな?」

レッサー「……うーむむむむむ。今んトコは矛盾らしい矛盾もありません、ありませんが――そうですねぇ」

レッサー「では逆に、『龍脈の影響の薄い所』なのに、アリサさんが生まれたのは何ででしょうかねぇ?」

マタイ「一つにレディリーの施した術式、それも星座に纏わる何か、セレーネ、もしくはアルテミス関係だと思うが」

マタイ「二つに『高度故に龍脈が純化している』のではないかと私は思う」

上条「純化?」

マタイ「高い山の上へ登ると酸素が美味しい、とは言うかも知れない。実際には薄くなってはいるが、都市より不純物は少ない」

マタイ「また過去の例で言えば、深山に神霊が宿る、という話は聞かないかな?」

上条「あるな、割と多く」

マタイ「山奥へ入って何かに祈って願いを叶える――これはつまり、逆に深山では術式が使い易くなっているのではないか?」

フロリス「日本の修験道、ワタシらのウィッチ。どっちとも山深い場所で暮らしてるかー」

マタイ「以上二つの要因により、アリサ君は『願い』を叶えるために生まれた、と」

マタイ「従って君の能力は『龍脈』を恣意的に操れる能力だと、私は推測している」

鳴護「歌は?どうしてあたしの歌がっ!」

マタイ「そもそも『歌』というものは宗教的な儀式の一環だったのだ」

マタイ「神へ捧げる歌、雨を請う歌、戦いへ赴く歌。絵画などよりもずっと昔から、人類と共に在っただろう」

マタイ「人が声を合わせて一つの旋律を作り、または優れたる音階に耳を傾け、祈りを捧げる」

マタイ「言わば『奇蹟』の方向性を決定づける力、とでも言おうか」

ベイロープ「聞いていい?『異能』を起こせる理屈はそれで良いとして、どうして『奇蹟』なの?」

ベイロープ「人の願望を叶えるのであれば、もっとゲスいのも一杯あるのだわ」

マタイ「命の危機に瀕していれば、人は心の底から助かるように祈る。また他人がそうであっても同じであろうな」

ベイロープ「……誰だって目の前で事故が起きそうになったら、『助かれ!』って思う?」

マタイ「然り。人の本性は完全ではないにせよ、善には違いない」

マタイ「そして上条当麻君の『右手』は『異能力を打ち消すのではない』のかと」

上条「いやいやっ!実際にっ、ほらっ!」

マタイ「時折打ち消せなかったり、ニュートラルへ戻すと言った行為が出来るのも――」

マタイ「――アリサ君と同じく『龍脈へ干渉する力』と考えれば、説明がつく」

上条「俺も、同じ……?いやでもっ打ち消すのって!」

マタイ「推測に過ぎないが――というほぼ全てがそうなのだが、君はきっと『奇蹟』というものを信用などしていないんだろう?」

上条「俺が?どうして言い切れるんだよっ!?」

マタイ「アリサ君は『奇蹟』を信じた。よって『奇蹟』をある程度使えるようになった」

マタイ「しかし君は、その生い立ちから『奇蹟』なんて起こらないと思い込んだ」

レッサー「否定するから使えない、ですか……でもそうすると順序が逆では?」

マタイ「幼き頃には誰であっても魔法や異能には興味があり、実在を確信しているだろう。サンタがそうであるように」

マタイ「しかし年を経るに連れ、好きであり憧れはしても存在するとは考えにくい」

マタイ「……ま、極々一般的な成長を遂げただけ、とも言えるか」

上条「……俺の場合、『不幸』で色々あったらしいからな」

マタイ「考えようによってはそれで良かったかも知れん。『龍脈』を自在に操れるとなると聖人と変わらんからな」

上条「神裂と同じ、ってのはちょっと憧れるけどなー」

フロリス「や、まー気持ち分かるけケド、あっちはテレズマだしねー」

マタイ「いや、同じだ」

上条「はい?」

フロリス「んーむ?」

マタイ「だから『天使の力』と『龍脈』は同系統の力を、別の名で呼んでいる過ぎん」

上条「えぇっと、ちょっといいか?それ、スッゲー大変な事言ってる気がするんだが……?」

レッサー「仰る通りですよ。天動説が地動説でした、ってぇ暴露する並の爆弾発言です」

マタイ「断っておくが、あくまでこれはローマ正教ではなく私の私見。マタイ=リースの非公式発言であり」

マタイ「この世界軸、この時間に於いての推測の一つに過ぎない」

ベイロープ「いやでも、違う、わよね?『天使の力』と『龍脈』は」

鳴護「あのぅ?」

レッサー「そうですなぁ、説明しますと――」

マタイ「……すまない。話疲れたので、私は休憩を入れさせて貰うよ」

鳴護「どうぞどうぞ。あ、じゃお茶を入れますねー」

上条「――って俺がやる!だからそっちは頼んだ!」

ベイロープ「任されましょう。はい、こっちへどうぞ?」

鳴護「……なんか釈然としないんだけど……」

マタイ「適材適所。大工の孫は辺りを灯すだけだな」

ランシス「その例えは……うーん?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

当初の予定では明日完結する筈でしたが、容量が倍になったので年内にはまぁ、何とか?

余談ですけど、字数節約で鳴護さんの台本部分「鳴護」にしたのはマズかったかも知れません
嫁入りしたら上条さんと区別つかなくなっちゃう……(´・ω・`)


ss自体は素晴らしいと思うが誤字脱字(特に脱字)がとても気になる
特に今日の投下された>>871のアリサのセリフで「ような」の「う」が抜けてるだけで口調が変わって誰のセリフかわからなくなる
少なくても4.5レスに数個、いくら分量が多くても少しも減らない、むしろ最近増えているような気もする
気にしすぎだと言われればそれまでだけどもssがいいだけにもったいないなあと思いました

>>883-884
申し訳ありません。注意はしているのですが

そうか、だから切断すると龍が……というのは安易な連想か。

ていうかアリサちゃん、最初から自然にいたからそういう世界なのかなーと思ってましたけど。
ちゃんと理由があって復活してくれたんですね。良かった。

でも、そうすると風斬氷華に触れたとしても―――?
待たれる次号、解明偏!

乙です

今更だけど、上条さんが声かけた『汚れた服の女の子』って、旧約16巻のローマ市街地の子だったりする…?

>>888
私の解釈(※バカの妄想)で言うのであれば、『力が流れ込み続けている』ので消え”は”しないと
ただし『造られた天使』であるために、『現時点では人っぽいモノ』の範疇を出るものではないと思いますが

>>889
マタイ「人は生きるためにパンを作るのであって、パンを作るために生きるのではない」
マタイ「遠方から来る友人を迎えるのに、近くに居る友人を遠ざけてしまえば、友人は須く遠きへ至る」

――カンドルフォ城

レッサー「そいではアリサさんっ!今からご説明致しますねっ!サクサクっと!」

鳴護「はいっ!」

ベイロープ「……や、そんなに恐縮しなくっても良いんだけどね。大した話じゃないし」

上条「魔術理論って大事じゃねーの?」

フロリス「個々の事例に首突っ込むと、おそろっしく細分化して混沌とするケド、概要をサラってする分には、まぁ?」

ランシス「十字教だけで新書1冊書ける……」

上条「オカルトの話なのにか?」

ベイロープ「表の世界じゃキワモノ扱いされてるけど、実際には世界史や宗教史、あと自然科学とかも関わってくるから大変なのよ」

ベイロープ「そもそも流行り廃りがあるように、魔術だってその当時の立派な文化の一形態なんだから、学者が軽んじて良いものではないわ」

レッサー「んではまずっ!この世界とは別に、重なり合った世界があるのはご存じですかっ?」

鳴護「うん。魔術がどうこうって話の時に、聞いてる、かな?」

鳴護「『世界を壊す手段がある』、けど『実際に壊された事はない』って」

レッサー「ですです。つーかどこの神話であっても終末論は在りますからねぇ。もしそれが全て実現してたら、何回地球ぶっ壊れてるって話ですよ、えぇ」

レッサー「んで、何度か登場した『天使の力』ってのは『あちら側の世界から流れ込む力』だと思って下さいな」

鳴護「あれ?その力ってヤバんだよね」

レッサー「ヤッバイですよー?超ヤバいですもん、魔術理論の構築無しに知ったら発狂するくらいに」

レッサー「でもこれ需要はあるんですよ。なんつっても強力ですから、とても」

ベイロープ「あー……っと、私達が魔術を使う際には、例えば呼吸法であったり、血を流したり、制約をつけたり」

ベイロープ「『肉体的な方法から魔力を精製する』のね」

鳴護「はぁ――でも、魔力が自前で取れるんだったら。別に『天使の力』、要らないんじゃ?」

ベイロープ「出力が桁違いなのよ。なんつーか内燃機関と外燃機関の違いっていうかな」

ランシス「人が素手で穴を掘るのと、道具を使うとじゃ、違う、よね……?」

ランシス「……スコップとショベルカー、道具でも全然変わるし」

フロリス「そん時にスコップを用意したり、重機をコントロールするのがワタシらの魔力だって話」

鳴護「……分かった、ような?」

レッサー「ま、実際に術式を使う訳ではなし、何となくで良いですよ。誰かさんと違って魔術師とガチンコするってぇ訳じゃないですからね」

上条「こっちは強いられてんだよ!いつの間にかねっ!」

レッサー「まぁ『人も魔力を持つが、結局外部のを使った方が威力は高くなる』ぐらいのお話で」

ベイロープ「その分制御も難しくなるし、習得も難しくなるけどね」

レッサー「ちなみに『天使の力』とは言っていますが、別に十字教に限った話ではなく、他の宗教でもフツーに使われますからね」

上条「あぁ言ってたな。北欧神話とかでも、『別座標の世界』があって、そっちから力を得てるって」

レッサー「私達の『爪』・『帯』の霊装なんかそのまんまですよねぇ。原理はテレズマで動こくようにチューニングされてますから」

鳴護「北欧系の武器なんだよね、それ。なのに『天使の力』?」

レッサー「です。日本のブッディズムであっても『テレズマ』なんです。実際にそう呼ぶかは別にして」

フロリス「『別時空に存在する力全般』かな?定義っちゅーのもアレだケド」

レッサー「この平行世界は神話の数だけ――あれば、いいわよね。下手をすればそれ以上あるかもだし」

レッサー「クトゥルー系の魔術師が『まだ発見されていない世界からのテレズマ』を行使している可能性も否定出来ません」

レッサー「ちなみに、この力を生まれながらにして行使出来る人間を、『聖人』と言います」

マタイ「……『原石』がより正しいがな……」

レッサー「『天使の力』はそんなトコでしょうかね。『龍脈』はゲームとかと同じで、地球全土を駆け巡る力の流れ……みたいなもんです」

フロリス「『Feng Shui(フェン・スゥ)』とも言われて、EUでもネオペー系中心に大人気さHAHAHA!」

ランシス「……最近はインドのヨーガも広まって……お腹イッパイ……」

鳴護「へー、聖人さんって凄いんですねぇ」

上条「だよなぁ?」

レッサー「(……マタイさんが遠回しに『オマイラも地脈の聖人だよ』ってたのを理解してない方々が居るんですけど、ぶん殴っても良いですかね?)」

フロリス「(ま、自覚がなくてもいいジャン?生き方は変わらないだろうし?)」

マタイ「――解説ありがとう。では後は私が引き継ごう」

マタイ「以前から薄々思っていた事だが、テレズマには矛盾がある。例えば――そうだな。ベーオウルフの霊装があったとしよう」

上条「どちらさんで?」

ベイロープ「デンマークの叙事詩、英雄ベオウルフ。巨人や龍を殺して王になる、典型的な騎士道物語よ」

レッサー「BOO!BOOOOO!」

ベイロープ「気持ちは分かるけど、向こうが気ぃ遣ってくれたんだから自重しなさい!」

上条「つーかベーオウルフってベイロープと似てね?」

ベイロープ「だから!スルーしなさいっと!言ってるのだわっ!」

上条「なんで俺怒られんのっ!?」

マタイ「気にしない事だな、オリジンはそこだろうから。ともあれ」

マタイ「彼の剣、『フルンティング』を再現する術式、もしくは霊装があったとしよう」

マタイ「だがこれをおかしいとは思わないか?」

上条「神話――つか伝説に残るぐらいの武器なんだろ?だったら別に、それを模して使おうってのはそっちの常識じゃないのか?」

マタイ「ならば『そこへ込められるテレズマはどこから来た』んだ?」

上条「……はい?」

マタイ「例えば彼女らの霊装、『爪』は北欧神話を模している――ように、見える。実際にどうかは知らないがね」

マタイ「従って霊装もまた『北欧神話からのテレズマ』を主にして動いている。どうだね?」

ランシス「そう……」

マタイ「ここでベーオウルオの話だ。なら『彼の武器を模するなら、一体どのような世界からテレズマが来る』のだろうな?」

上条「どんな、って……そりゃ、やっぱりベオウルフの世界じゃねぇの?」

マタイ「ベーオウルフは10世紀前後に存在した”かも”知れない英雄の話だ。『あちら側ではなくこちら側』の」

マタイ「だというのに『どうしてあちら側に世界があり、そしてまた望めばテレズマを得られる』のだろうか?」

上条「……それって!」

レッサー「例えばですねぇ。日本でも英雄さん居たじゃないですか、源義経やら八幡太郎義家とか」

レッサー「反対に祟り神として奉られた崇徳院上皇、平将門公やアテルイ」

レッサー「彼らの力を求める術式、彼らの力を持つ霊装。これらは一体どこから力を得ているのか、興味深い所ですよねぇ」

ベイロープ「補足すれば『ホープダイヤ』や『Sacred Death(ジョン=ポールの首刈り鎌)』みたいに呪われた品は多いわ」

ベイロープ「でもそれは一体どこの誰が作ったの?そして何を元に動いてるのか?」

マタイ「他に……オルレアンの乙女、ジャンヌ=ダルクは知っているだろう」

マタイ「彼女の名の元に発動する霊装や術式は多いが、彼女は神話の世界の住人ではなかった」

マタイ「……尤もテレズマを使える聖人ではあったらしいがね」

レッサー「『敵よりも味方を殺すのが得意』なフランス野郎にぴったりですがね」

レッサー「そもそも、って言うのであれば『カーテナ』なんかまさにそうじゃないですか」

レッサー「あの人妻好きのマザコン野郎――もとい、トリスタンの剣だったとはいえ、何であそこまで威力があるんでしょうか」

上条「お前その人になんか恨みでもあんの?」

レッサー「やっつけで作ったセカンドがあの威力ですし、一体どこからどんなテレズマが流れるって言うんでしょうかね?」

マタイ「カーテナは戦術級の核並の威力を見せた……まぁ、元々、トリスタンはそれ自身の伝承を持っていたのだから、矛盾はしないが」

上条「イギリスの王様だけが使える特別な力とかじゃないのか?」

レッサー「いやいやそれ”も”あるでしょうが、それ”だけ”じゃないですね」

レッサー「もしカーテナの力が『ブリテンの王権を基に』って前提があるんだったら、オリジナルとセカンドの違いはなんです?」

レッサー「どちらも『当時の王から正式に認められた』という背景があるにも関わらず、あぁまで威力に差が出るのは何故?」

レッサー「……むしろオリジナル自体は、ピューリタン革命で一度王権ごと否定されています。チャールズ一世の処刑と共に」

レッサー「ある意味国体としての体を失った以上、ブリテン国民がカーテナを見限ったように、カーテナもまたブリテンを見限った――筈、なんですけど」

レッサー「……どーにもあのお人好しのファッキン野郎の事ですから、情が移ったんでしょうねぇ」

マタイ「トリスタンとカーテナの例が出たので言っておくが、中世のアーサー王伝説とは本来とても曖昧なものだ」

マタイ「実在したのもあやふやで、尚且つ話のパターンが幾通りもあり、また時代を重ねる毎に新しい騎士譚が加わっている」

マタイ「彼の円卓に座す騎士達――代表的な所でガウェイン、ランスロット、トリスタン、ベイリン辺りは、全く別の物語がアーサー王物語へ組み込まれた」

フロリス「……Oh, ....」

ランシス「……どんまい。よくある……てか、一応、うん?」

レッサー「後付けで色々統合されたんでしょーね。ある意味日本の空海上人と同じ」

レッサー「彼が日本へ持ち込んだ『不動明王』という神――か、HATOKE?――まぁ面倒なんで概念としておきましょうか」

レッサー「元はサンスクリット語で『アチャラナータ』で、元はインドのシヴァ神がルーツ……なん、ですが」

レッサー「今じゃ日本の神様として、密教から各種の信仰にまで様々な術式や霊装に登場します」

レッサー「はてさて、では不動明王の力を利用したテレズマはどこから?」

マタイ「――と、言った具合にだ。テレズマと言っても非常に曖昧なのだよ」

上条「複雑っていうか、曖昧っていうか……なんだろうな、混沌とし過ぎてる……」

鳴護「卵から孵った鶏が、また卵を産んで増えていく感じかも」

上条「んじゃアーサーの世界のテレズマ――ってか、別空間みたいのもあるのか?」

レッサー「えぇありますね。使っている魔術師も居ますし」

上条「……頭痛ぇな」

マタイ「――さて、以上の事を私は常日頃違和感を憶えていた――まぁ私だけではないようだが」

レッサー「ウッサいですね」

マタイ「ともあれ、そこで出した一つの仮説が『天使の力とは龍脈の別ベクトルではないか?』という推論だ」

鳴護「別の、ベクトルって?」

ベイロープ「お財布からコインが落ちるのと、太陽の後ろにあって見えない筈の星が観察出来るのは、同じ力の仕業って事」

ランシス「……前は地球の重力、後ろのは太陽の重力レンズ……」

上条「元々二つは同じもので、俺達――じゃなく、魔術師が勝手に勘違いしてたって事?」

マタイ「然り。そして龍脈に流れているのは『力』だけではなく、『記憶』も含まれるのではないか、とも」

上条「誰の?人間の?」

マタイ「人間を含めた全てのだ。有機物・無機物問わすに」

上条「……いやいやおかしいだろ!有機物はまだ脳があって、そこへ記憶が溜まるのは分かる!けど!」

マタイ「その通りだ。人の『概念』としての記憶はそうだ――が、最近は遺伝学の分野で新しい報告が出て来たようだ」

マタイ「『人の能力は生まれ育った環境だけではなく、親の素養や記憶も遺伝する』と」

ベイロープ「……『人が本能と呼んでいる部分が、実は継承され続ける記憶』かしら?見た記憶があるわ」

マタイ「そうだ。複雑な行動様式を持つ動物、昆虫などが筆頭であると言える」

マタイ「『Digger wasp』――は、日本名ジガバチの事だ」

マタイ「彼らは地面に巣穴を掘り、そこへ針で刺しマヒさせた獲物を持ち込みんだ後に、卵を産み付ける」

マタイ「これを『本能だから』と一括りにして良い話だろうか?」

上条「複雑、ってか……そーゆーもん、としか」

マタイ「和名の由来は『似我蜂(ジガバチ)』、巣穴に放り込んだ後、『似我似我(ジガジカ)』――つまり『我に似よ我に似よ』と羽音を立てると」

マタイ「彼らに言語もないのに、どうやって子孫へ伝えた?」

レッサー「まぁ確かに。『本能』だけで解決してはいけないような行動も、多々ありますからねぇ」

レッサー「三大欲求に関してはモロにそれが反映されてる気が」

マタイ「……ま、生命の謎を解き明かすのは科学サイドへ任せるとして、今はこちらの話だ」

マタイ「私は龍脈に我々の『記憶』が蓄積されていると推測している」

上条「言いたい事は分かったが……それと、魔術がどう関係する?」

マタイ「イギリスの王権の象徴たる『カーテナ』、あれは円卓の騎士であったトリスタンの剣だ」

マタイ「しかしトリスタン自身は11世紀頃に成立した物語の主人公、元はアーサーと縁も縁もない」

マタイ「だが、現実にカーテナは『トリスタンの武具』という形で、どこからか大量のテレズマを獲得している」

マタイ「この流れを単純化させると……ある英雄が居たとしよう。名前を仮にアックアとする」

上条「知り合いじゃねぇか!分かりやすいけど!」

マタイ「彼は攫われたイギリス王女を救い出したり、国の危機には駆けつけたりする。勿論使う術式や霊装は、過去の英雄達のものだ」

マタイ「彼もまたそこへと列せられるような活躍を上げ、死後その名前と功績は英雄譚として讃えられる――そして『アックアの神話』が生まれる」

マタイ「彼の名前を冠し、彼の力を再現し――そして『彼の存在する平行世界からのテレズマ』を得られるであろうな」

上条「……」

マタイ「従って私は『異層次元など存在しない』という推論を立ててる。その記憶も力も、溶け込んでいるのは龍脈だと」

マタイ「そうすれば――『○○の力を取り出す』際、付随する記憶が流れ込んできて発狂しそうになる説明がつく」

上条「……なんか、こう色々と聞いちゃいけない話が出て来たような……?」

上条「つーか朝イチでカツ丼食うようなヘビィな話なのに、レッサーさん動揺してませんね?」

レッサー「んーまぁ?えぇ、似たような概念は以前から――っていうか、古代の魔術観と同じですからね」

レッサー「内容自体は珍しくも。ただ仰ってる方が方なんで、驚きはしましたが」

レッサー「前々から不思議には思っていたんですよ。『異界からの知識が猛毒』ってのは一体何なんだろうな、と」

レッサー「今でこそ私達人類が世界で文明を築いていますが、もし何かの歯車がズレてナメクジが取って代わったとしましょう」

レッサー「原始的な文明を経て、私達と同じ進化の道を歩んだと仮定して、魔術師が出たとしましょうか。『天使の力』を使える程の」

レッサー「その時、”Xe”が幻視る異界の神様、テレズマの供給先に存在する者達もまたナメクジの姿をしてんでしょうかね?」

上条「……”Xe”?」

ランシス「……カナダでやろうとしている代名詞。heとsheで『男女差別だから』っつって”Xe”。ま、ぶっちゃけ……」

フロリス「メジャーリーグ級のバカ」

ランシス「……って事」

マタイ「ナメクジは雌雄同体だから、こういう時には使えるかも知れんがね」

レッサー「よくある男神女神の昼ドラ的な不倫騒動も、雌雄同体でもっとごっちゃになってるとか」

レッサー「……卵が先か鶏が先か、”彼ら”も我々の創作物である気がするんですよねー」

マタイ「信じようと信じまいとそれは自由だ。各種ある説の一つだと思っている――」

マタイ「――が、『S.L.N.』はそうではないのかもしれん」

マタイ「アリサ君が持つ『奇蹟』、それは今のままでも魅力的には違いない」

マタイ「だが魔術的には然程珍しいものではない、とも言える」

鳴護「そう、なんですか?危険じゃなく?」

マタイ「危険かどうかで言えば、そうでは無い方へ入るだろうな」

ベイロープ「その手の『呪歌』は昔から研究されているのよ。『賛美歌』なんかそのままでしょ?」

マタイ「主の祝福を禍ツ歌と同系列で語らないで貰おうか」

鳴護「シュワッキマセリ?」

フロリス「そいつぁオラトリオだーよねぇ、日本語だと聖誕歌」

マタイ「誤解を承知で言わせて貰えるならば、『奇蹟』という幅があまりにも広すぎて、意図的にどうこうするには難しい」

マタイ「雨を防ぐには傘を差せばよい。風を避けるには建物へ入ればよい」

マタイ「家を建てるには大工へ頼み、先を急ぐのであれば馬車に乗るだけだ」

レッサー「崩落する塔の落下場所を変えるにしろ、別の術式があれば出来ない事はなっちゃない、ですか」

鳴護「……ちょっと安心したような?そうじゃないような」

上条「アリサ?」

鳴護「あたし”だけ”の力とか、怖くないかな?」

上条「んなモン個人差だろ。歌がどうとかも個性の一つって話」

マタイ「実に正しい見解だ――が、向こうはそうは考えていないだろう」

マタイ「方向性は見えないが……いや、漠然とは見えている。それが」

ベイロープ「――『エンデュミオン』、か」

上条「ギリシア神話だろ?しかも星関係の話だっつーんなら、濁音協会と関係が――」

ランシス「……クトゥルーは『死して夢見る』モノ……」

フロリス「エンデュミオンは『死せず夢見る』神様、かぁ」

上条「……多分これ、偶然の一致とかじゃねぇんだよな」

レッサー「連中が喚び起こそうとしているのは『エンデュミオン』……しかし、そいつぁまた」

マタイ「……あぁ、方向性が掴めん」

ベイロープ「エンデュミオンを起こすのが目的か、それとも目を覚まさせる行為に何かあるのか?」

ランシス「……それも『エンデュミオンがクトゥルーと一致していれば』って前提の話だし」

フロリス「実は全然カンケーない神様だったら笑うよーねぇ。笑えないケドさ」

上条「その、『起こす』と何か問題があるのか?今更なんだけどさ」

上条「神様――俺達が知ってる神話の中に居るような奴ら、一応人格?みたいなのと一緒に別次元に居るんだろ?」

上条「……あぁいや龍脈に『記憶』として溶けてるんだっけ」

マタイ「仮説に過ぎないさ。彼らに人格があるかどうかは分からないが、もしも神話の通りであったならば、こちらへ介入をする筈だが」

レッサー「でっすよねー?ロキさんとかルシファーさんとか、黙ってられない厄介な連中がごまんと居ますからねー」

レッサー「少なくとも過去降臨した記録が無いって事は、彼もまた全能にして白痴という存在なのかも知れませんが」

上条「だったら連中が起こそうとしているエンデュミオンだかクトゥルーだかは、あくまでも『概念』って事、だよな……?」

上条「オティヌスみたいな『魔神』がポンっと現れる訳じゃないんだよ、ね……?」

一同「……」

上条「よし待とうか!魔術師さん達!俺の言葉を否定して安心させてくれませんかねっ!?」

マタイ「……絶対に無い、とは言いがたいな。可能性は低いが」

フロリス「なんつっても、超個人主義の魔術師の中でもキワモノ揃いだしぃ?」

ランシス「古い――『旧い魔術』には大量の人身御供を捧げて、神を降ろす話がイッパイ……うん」

上条「待って待って?お前らなんでそこでフラグを積み上げてんの?ジェンガと積み木を一緒にしてない?ねぇ?」

レッサー「前にも言いましたが、古代から近世まで魔術師が目指したのは『神へと至る道』ですから」

レッサー「『不老不死』も当然ステップの一つとして有り得る、と」

ベイロープ「むしろエンデュミオンの不死性を奪って力をつける、と考えると」

マタイ「それもまた有り得る話だ。むしろ自然とも言える」

鳴護「えぇっと、あの質問!いいでしょうか?」

マタイ「どうぞ」

鳴護「神様、なんですよね。エンデュミオンさん?」

鳴護「でしたら『お願いします!』って頼んだら、また眠ってくれたりとか……しませんか?」

マタイ「理屈で言えば可能。が、しかし確率で言えば極めて低い」

ベイロープ「神自体は荒ぶるのがデフォな上、それぞれの主神クラスでも理不尽なのが殆どよ」

ベイロープ「日本だってそうでしょ?国産みの神の片方が冥界へ下って死神になったの」

ランシス「……話し合いで済むんだったら、わざわざ『神殺し』の武器とか存在しない、し?」

レッサー「ですねぇ。ま、それはそれでランシス超オイシイ展開とも言えますが!」

ランシス「『Go out to the table. After all, was the former joke?』」
(表へ出ろ?やっぱりお前冗談だったんだよな?)

上条「……勝てんのかよ、それ」

レッサー「何言ってんですか、勝つに決まってるでしょうか」

上条「マジで?」

ラシンス「……北欧神話では神や巨人がバタバタ死んでる……つまり『神殺し』の術式は結構あったり」

レッサー「有名処では光り輝く英雄”神”バルドルを、盲しいた”人間”のヘズが刺し殺してますからねぇ。方法は幾らでも」

フロリス「エンデュミオンはエーリスの王で武芸にも秀でる……とはいえ人間の範疇だし?」

フロリス「『不老不死』じゃなくなったらイケるイケる」

ベイロープ「――それに勝ち負けどうこうじゃなくて、戦うべき時に戦うだけ。勝負をしない理由にはならないのだわ」

上条「またポジティブだなお前ら!いい加減にしなさいよ!」

マタイ「楽観視は決して宜しくはない。けれど必要以上に悲観視しては見える未来も臨めまい」

上条「いや、そうなんだけどもさ」

レッサー「そもそもで言えば、『異教の神を悪魔に貶めて信奉者ごと虐殺しまくった』十字教の元指導者様が何とこちらに!」

ベイロープ「はーい、アリサは見ない。眼が穢れるから」

鳴護「レッサーちゃん、今チラっとハンドサイン見え……?」

マタイ「君は戦争がしたいのかね?私でも流石にShocXXXぐらいは知ってる」

上条「取り敢えず態度と言葉は選ぼうか?下手すればこちらさんに伝家の宝刀抜いて貰うかもしんねぇんだからな!?」

フロリス「ちょくちょくネタのフリをしてデッドボール当ててるよねぇ。ブレないっつーか」

ランシス「……ちなみに人前で使ったら骨折られても文句は言えない……」

レッサー「しかも相手を間違えるとアッーーーーーーーーーー!?されるのでオトクですねっ!」

上条「真面目に!真面目にやろうぜなあぁっ!?」

――カンドルフォ城 個室 夕方

上条「……」

上条(話し合いはグダグダのまま何となく終った……てか、方針が大雑把すぎるわ!)

上条(……や、まぁ魔術知識すらない俺より、プロが『待ち』でいいって結論づけたんだが)

上条(連中の目的がここへ来てようやく絞れてきた。正直ありがたい)

上条(やっぱり、というか当然のように。話の中心に居るのは――”居させられた”のはアリサか)

上条(……ま、幾ら何でもだ。ここまで来て『嘘でしたーサーセン』とかは――)

上条「……」

上条(――ある、わなぁ?あのデタラメな人間未満なら……!)

上条(……いやいや、落ち着け。考えろ。俺はずっとそうやってきた筈だ)

上条(LIVEまでの日程には余裕がある、し。ロシア公演分もローマですると決まった)

上条(ま、それは結果として和解の象徴になるからって喜んでたが……ロシアはしょーがないよなぁ。やっぱ)

上条(ここで『濁音協会』が襲撃をかけてくる可能性は無――く、はないが、限りなくゼロに近いらしい)

上条(前の戦争で疲弊したとはいえ、20億の信徒を抱える最大宗派ローマ正教。正面からケンカを売れる組織はまず居ない)

上条(もしも真っ向なり搦め手で来るにしても、それだけの戦力を持っているならユーロトンネルで仕掛けてきた筈で)

上条「……」

上条(シャットアウラの『希土拡張』で追い払って――の、直後に安曇が単独行動と)

上条(あいつが言うには『アルフレドは死ん』……だ、だっけ?なんかもっと曖昧な言い方をされた気が……?)

上条(確か転移魔術か爆発でバラバラになってた。だから安曇は『濁音協会』から抜けてって言ってたか)

上条(んでもフランスの検死解剖をした病院へ、潜り込むアルフレドの姿が目撃されてる。つか喋った人も居ると)

上条(安曇が嘘を吐く必要性は薄い。だから『バラバラになった』のは本当だろう。うん)

上条「……」

上条(でも『死んでなかった』、としたら……?)

上条(『野獣庭園』の魔術は『捕食者としての種族反映』が主目的。環境に適応して食物連鎖の頂点に立つ……って、妄想)

上条(……どんだけ強い捕食者の群れであっても、同じコミュだけでは多様性を欠く)

上条(『殺し屋人形団』は『独りで完結した生命』……つーか悪い夢だ)

上条(脳だけがギリギリ生きていて。思い出したくもねぇ――が)

上条(どっちも『不死』に関係するんじゃねぇのか、これ?)

上条(『獣化』はアイツらにしてみれば『手段』じゃなくて『目的』だとすれば――)

上条(――『同朋』を手っ取り早く作るため、の)

上条(同じ思考回路と変わらない生き方を何十代、何百代と繰り返して。外側から見ればある種の『不死』、と言えなくもない)

上条(反対に強すぎる『個』を誇り、肉体を取り替える。どっか聞いた話……あぁそうか)

上条(エジプトのフェニックスは500年を生き、老いると炎の中へ身を投げ生まれ変わる。ってゲームをしていたインデックスが言ってた)

上条(『団長』もエジプト系の魔術師だし、関係はあったのかもな。グロいけど)

上条(と、考えると『アレ』はどういう位置づけになるんだ?まさか無関係って事はないだろうが)

上条(仮に学園都市の兵器だとして、魔術師的な意味を持たせられれば、意味を持つ……)

上条(……ま、俺が気づいているぐらいだし、ステイル達だって当然分かって――)

上条「……」

上条(連絡、来てねぇな!そういやさ!)

上条(フランスの病院前で別れたっきり、進展が無い……?)

上条(なんて、甘い組織じゃねえよな。最初っから10年前の『濁音協会』が魔術結社だって知ってて隠してやがったし)

上条(日本に飛んだ建宮からの連絡も俺には来ねぇ、まーた裏でコソコソやってんだよなぁ、きっと)

上条「……」

上条(あ、そういや建宮から預かった通式用霊装あったっけ?預かったっつーか、逃げやがって言うか)

上条(右手で触んないように、鞄ん中突っ込んで) ゴソゴソ

上条「これこれ」

上条(ケータイとカナミンフィギュアのストラップ。電池はバッテリーごと入ってなかった)

上条(連絡取りたいが……起動方法もサッパリ分からん。レッサー達に頼んでも、多分使ってる術式とは仕様が違うだろうし)

上条(てかそもそも『能力者』の俺が魔術を使える訳が――)

上条「……」

上条(――いや、そうでもない、のか?マタイさんの仮説が正しいとすれば、俺とアリサは『地脈使い』って事になる)

上条(つーか魔術師も使ってる力、特に『異相からの力』もそうだって話。あくまでも『可能性がある』程度だが)

上条(魔術師ねぇ?俺が?)

上条(アリサの『歌』はなんかまぁ、神がかってる感じ。納得出来るような、理解は出来る)

上条(……俺の『幻想殺し』は俺が否定するから打ち消すしか出来ない……か)

上条(神様を信じてないから、『奇蹟』を否定するから……ま、分かる気はする、けど)

上条(アンチスキルに撃たれた時も傷自体は腹だったし、そこだけを治癒する魔術なら効果は出来る筈)

上条(もしも『俺の体全般をキャンセル』出来るんだったら、アウレオルスに一回記憶をイジられた事の辻褄が合わない)

上条(後、それに)

上条「……龍」

上条(一回目はただの偶然。アウレオルスに追い詰められた――追い詰めたアイツが幻視した『竜』)

上条(恐怖心から有り得ない妄想を見た――でも、『二度目』は直ぐに来た)

上条(大覇星祭ん時、削板とビリビリ止めたあの場所で――)

上条(――俺の『幻想殺し』から出たのは『八つの頭を持つ龍』――)

上条(――これは『打ち消す”だけ”の力』なんかじゃねぇ……!)

上条「……」

上条(そういや、削板だっけ?ビリビリから聞いた、レベル7の一人)

上条(暴走したビリビリを『別の世界から来た存在』……能力者が口にする台詞っぽくねぇな)

上条「……と、まぁ悩んだ所で答えは出ない」

上条「パズルを解くんだったら、今持ってるピースだけで動く……」

上条(俺の手札は『右手』と、あともう一つ)

上条(連中が活動していたイングランドのサフォーク地方のダンウィッチ)

上条(連中が”居た”所……調べるぐらいは出来るかもしれ――)

コンコン、コンコン

上条(ノック?誰だ、つってもアリサかレッサー達なんだろうが)

上条(本命アリサ、対抗ベイロープ、大穴ランシス、伏兵フロリス、地雷レッサー)

上条「……」

上条(あれ?誰が来るかって予想なんだよな?何か別の意味を持ってる感が……)

上条(そもそも俺は誰だったら嬉しいんだろ?……?)

上条(ま、考えない事にしよう!多分直ぐ結論を出さなくても大丈夫っ!)

上条(それよりも今はお客様をお迎えしようぜっ!考えるな俺!余計な事はっ!)

上条「はい、どうぞ」

マタイ「――少し邪魔をする」 ギィィッ

上条「予想外だった来やがったよ!?つーか選択肢には無い!」

マタイ「何かの話かは分からないが、期待を裏切って済まなかった」

上条「ん、いえすんません。こっちこそ」

マタイ「現実からどれだけ上手く逃げ出したとしても、現実は君を追いかけてくるが」

上条「把握してんじゃねぇか完璧に!」

上条「しかもなんか聖書の一節っぽい言い回しが余計にダメージ入るわ!」

マタイ「死神が汝の影を踏んだとしても、それは幸いなるかな。汝はまだ汚れを知らないのだから」

上条「え、何?俺、遠からず刺されるって話なの?」

上条「しかもテメェ遠回しに俺がアレだって揶揄してねぇかな?被害妄想?」

上条「もしかしてなんだけど、レッサーに散々嫌味言われてたの気にしてんのか?あん?」

マタイ「それで?私はいつまで立っていればいいのだろうか」

上条「……えぇまぁ、どうぞ?」

マタイ「失礼する」

上条「いや別にいいんですけど、つーかアリサ達だと思った……」

マタイ「食堂で何かやっていたようだが、何をやっているのかまでは知らない」

上条「んー……?飯でも作ってんじゃないですかね」

マタイ「それは重畳。佳きかな」

上条「……つーことは、アレか?ビックリドッキリイギリス飯が出てくるのか……?」

マタイ「イギリス料理は言われる程酷いものではないと思うがね。私は割と好きだ」

上条「あ、そうなんですか?やっぱ美味いトコは美味いのかなー?」

マタイ「ロンドンで食べたタンドリーチキンは絶品だった」

上条「それインド料理。や、でも日本のカレーと一緒で郷土食になっちまって」

マタイ「他にもエジンバラで食べたタンドリーチキンも悪くはない」

上条「料理カブってね?」

マタイ「後は……そうだな。オーモリーの繁華街にあるこぢんまりとした家庭」

マタイ「そこで相伴に預かったタンドリーチキンもまた、懐かしい味だった……」

上条「タンドリー過ぎねぇかな?他にもメニューあったよね?イギリス料理とかイギリス料理とかイギリス料理とかさ」

マタイ「この歳で冒険するのは少し辛いものかある」

上条「てか明らかにイギリス飯をDISってる……まぁ、いいか。それで?」

マタイ「私の魔術師時代の話で、『必要悪の教会』から逃げながらの食事だからな。時間が満足に取れなかった」

マタイ「あの時、我々を壊滅手前まで追い込んだ髪の長い女、今頃どうしているだろうか」

上条「俺はその人知らないけど、多分似たような立場で宜しくやってると思うよ?」

上条「てかそんな話じゃねぇよ。いいから用件をお願いします!」

マタイ「ん、あぁ。荷物をまとめていたようだし、どこかへお出かけかね?」

上条(ヤベ、バレてる!?)

上条「あぁっと、だ。これは――」

マタイ「そちらの事情には詳しくないので好きにすれば良い。急いでいるのであれば手短に話そう」

マタイ「『龍脈』について少々話し忘れた事柄がある」

上条「……ってまたそれ」

上条(悩んでた所だ。随分またピンポイント、いやラッキー、なのか?)

上条(アリサ達には『八竜』の話はしてねぇし……隠してるって訳じゃない。ないんだが。なんかこう、言いづらい……)

上条(あんな、『バケモノ』が俺の中に――)

マタイ「神話や伝説、英雄が登場する物語に『龍』はつきものだ。オリエントから西は基本的に『竜』だが」

上条「『竜』と『龍』?」

マタイ「どちらも英語では『Dragon』。しかし漢字で表すと意味が異なる」

マタイ「『竜』は『知性に乏しい動物』としての意味が強い。恐竜が例だろうか」

マタイ「『龍』は『知性ある神格』を意味しており、中国の皇帝の何代かは『龍』を象徴としている」

マタイ「歴史的に最古の一つされる女禍と伏羲はそれぞれ竜体――蛇体の神だ」

上条「蛇、か」

上条(蛇の神様……?どっかで聞いたか……?)

マタイ「竜と蛇の境目など無かったからな。蛇が大成すれば竜と化し、竜が王となれば龍王へ転じる」

マタイ「歴史的に最古の一つとされるシュメール、そのルーツはティアマトにアプスから始まった」

マタイ「二匹の竜から人類が生まれ落ちた、そう伝えられているな」

マタイ「……科学の無い時代、特に魔術が原始的な生活を支えていた時代の話だ」

マタイ「その当時の魔術師が使っていたのは『龍脈』を遣った大規模なものであった、と考えられている」

マタイ「世界各地に点在する巨石文化、そして龍脈の上に造られた東西のピラミッドや神殿」

マタイ「それらは全て龍脈をコントロールするために用いられた」

上条「ふーん?分かるような、分からないような?」

マタイ「君の国ではあまり残っていない。しかし龍脈を人々が制御下へ置いた、という話は有名だった筈だ」

上条「龍、竜……?」

マタイ「スサノオの八岐大蛇退治、そう――」

マタイ「――『八つの頭を持つ”竜”』を退治した、という伝説だな」



――カンドルフォ城 個室

上条「えっと、これって」

上条(俺の『右手』、なんだよなぁ。やっぱり。ってかどっから調べやがった!?)

マタイ「どうしたかね?何か疑問でも?」

上条「……やー、あのさ?なんでまたその話を俺に、って思っちゃってさ」

マタイ「他意は無い。ただあの場で話すのを忘れていただけだよ」

マタイ「歳はあまり取りたくないものだな。最近物忘れが激しくてね」

上条(『嘘だっ!』って突っ込みてー!?)

上条(だったらわざわざ俺だけに講義するんじゃなく!場を改めてもっかい言えば良いし!)

上条「……いや、あの、本当なんか、スンマセン」

マタイ「何を言っているか分からぬが、よい。そういう事もあろうが――さて」

マタイ「これはまた別の仮説となってくるのだが、神話に登場する『竜』は多い。またそれを打ち倒す英雄もだ」

マタイ「……そこで一つ、疑問に思うのだが――『全ての神話の竜は果たしてフィクションであったのか?』と」

上条「……はい?」

マタイ「アックアの神話の例であれば……そうだな、アックアは物語の中で悪魔のような恐ろしい女に猛然と立ち向かっていった」

マタイ「彼の英雄譚にはそう記されるだろう」

上条「キャーリサですよね?俺もちっとトラウマ残ってるが」

マタイ「彼女はフィクションかね?」

上条「だったら良いなー、ってイギリス駆け巡ってる最中に何度思った事か!」

マタイ「で、あろうな。アックアにせよ、あの女にせよ、当事者からすれば真実の物語だ」

マタイ「――が、百年後、数百年後。アックアの神話を聞いた者はそう思わないだろう」

マタイ「『これはきっと何らかの寓意を示している筈だ。だって現実に人では有り得ない事をしているから』と」

マタイ「アカデミズムに毒された民俗学者であれば、『先人の教え』、そのままを繰り返すだろう」

上条「あー……魔術が廃れればありそうな話だ」

マタイ「その話と同様、嘗ての物語、つまり私達が『神話』と呼んでいるものが『実話』だったとしたら、どうするかね?」

上条「……いやいやっ!竜がマジモンで居る訳ねぇし!」

マタイ「その通りだな。今の地球は恐竜が生存出来た環境だとは言えない」

マタイ「かといって『天使の力』――つまり異相空間からの知識であれば、『こちら側』に実在したとも言いがたい」

マタイ「……だが、それもそれで矛盾しているのだよ」

上条「”実在できっこないんだから、違う空間の知識”って仮定がどうして?」

マタイ「だから、発狂するだろう?準備も素養も持ち合わせていない者が触れれば」

マタイ「そんなギリギリで得た知識を、それこそ吹聴するかね」

上条「あ」

マタイ「ましてや魔術師の特性――いや、人類の習性として富の独占は古代から社会主義まで変わらなかった」

マタイ「だというのに、そうも易々と知識が伝播されるのは異常だと言えるだろう」

上条「……神話、ってのは王権神授説だっけか?確か、統治者が自分達の権威を高めるためにしたっつー話」

上条「でも荒唐無稽にしちゃ、どこもかしこも似ている気がする……」

マタイ「だから恐らく、私達が『竜』と呼ぶ存在は居なかったのだろうな。現実には」

マタイ「だが『何か』は存在した。そして英雄と呼ばれる人間達が退治した」

上条「『何か』、とは」

マタイ「――『龍脈』――」

上条「……ですよねー、そう来ますよねー」

上条「……」

上条「分かりませんがっ!?」

マタイ「神話では荒ぶる竜を抑えるために、よく人身御供が捧げられた」

マタイ「これは治水祈祷の一環――シークエンスとして組み込まれていると言っても良い」

上条「安曇が言ってたな。『元々蛇神への生贄は事故で死んだ人』だった、って」

上条「……待てよ?そうすると『龍脈』と『蛇神』は『災害の体現化』なのか……?」

マタイ「『龍脈』を人の手で操るというのは、多分に地形から手を入れねばならない」

マタイ「強すぎる力を抑えるためには、治水事業をして氾濫を繰り返す水脈を抑えたり」

マタイ「また手のつけられないような場所であれば、『禁足地』や『禁猟区』として入らずのタブーを設けたりもした」

上条「これは例えば、例えばの話なんだけど」

マタイ「――ここで最初の話へ戻るが、八岐大蛇も荒ぶる龍脈であったと推測される」

上条「聞けよ話。言わせてくれないのはむしろ感謝するが!」

マタイ「大抵の首は一本、多くても二つ。それが八つ集まるとは手に負えない龍脈なのだろう」

マタイ「……日本には、古来より『九頭竜(クズリュウ)』の伝説が多い」

上条「地名で聞いた事がある」

マタイ「私が知っているだけで、九つの頭を持つ竜の伝承が10ヶ所以上に存在する。勿論退治したという伝説とセットでだ」

上条「……成程。そう考えると”竜=龍脈”って考えも間違ってないような……?」

マタイ「『龍脈』である以上、竜とは切っても切れない縁がある、ぐらいの理解でも構わない。何にせよ証明されていない仮説だ」

上条(って事は、アレか?俺の『右手』には相当量の龍脈を操るだか、打ち消す力があって)

上条(その力が膨大だから『八つの頭を持つ竜』って形で現れた、と)

マタイ「これは余談だが、というか完全にジョークなのだがね」

マタイ「狂えるアラブ人、アヴドゥル=アルハザードが書き残したネクロノミコン。それに登場する邪神の名前は知っているかね?」

上条「何度も聞いた。クトゥルーだろ?」

マタイ「日本の作家がジョークで言い出したのだよ。『アルハザードは聞き取れなかっただけで、実はしっかりとした単語だったのでは無いか』と」

上条「単語?どういう意味?」

マタイ「『Dragon』と『Dracula』、似ているだろう?流暢な発音をされれば混同してしまう程に」

マタイ「……ま、元々は同じものであったが」

上条「あー、分かる分かる!単語の語尾を略すから聞き慣れてないと間違うヤツな!」

マタイ「当然、他の文化圏にもある。『橋』と『箸』とか」

上条「や、でもクトゥルーだろ?他の単語と間違うようが――」

マタイ「『九・頭・竜(ク・トウ・リュウ)』」

上条「――ッ!?」

マタイ「作家曰く、『触腕に見えたものは九つの頭、不定形に見えたのは躰が腐敗しているからだ』との話だ」

マタイ「大航海時代、時折船に打ち寄せられた『シー・サーペント(海竜)』の屍体は、殆どが酷く腐っていた」

マタイ「翻って現代。残された記録を元にして、海竜の正体を探ってみれば多くは鯨、もしくはダイオウイカの屍体だという結論が出た」

マタイ「イカが竜に間違われるのだ。竜がイカに間違われているのもおかしくは無い――さて、どう思うかね?」

上条「…………………………ユカタン」

マタイ「それもまた、佳い」

――カンドルフォ城

マタイ「――私から話す事は以上だ。邪魔をして済まなかったね」

上条「あ、いえ別に。つーかこっちこそ、ありがとう、ございます」

マタイ「いやなに、伝えるのを忘れたのはこっちだ。礼を言われる筋合いは無い。無いが……一つだけ、頼まれてはくれないか?」

上条「ん、あぁ俺に出来る事なら」

マタイ「玄関――門の所に車を待たせているのだが、生憎都合がつかなくて行けなくなってしまった」

マタイ「良かったら私に代って断りを入れて来て欲しい」

上条「あー、はい。別に構いませんけど。そんなんで良かったら」

マタイ「……」

上条「……はい?まだ何か?」

マタイ「……私の名前を出せば市内観光でも空港でも、好きな所へ行けるだろうが」

マタイ「君はしないのだろう?”そういう”事は。絶対に?」

上条(これ、もしかして……ダチョウ的な?『押すなよ!絶対に押すなよ!』みたいなアレか?)

上条「……いやホンっと何かもうすいません。何から何まで」

マタイ「佳い、と言った。こちらは君に一つ借りがある身。とても返せたとは思っていないが」

上条「借り?」

マタイ「ヴェントへ君の抹殺を命じたのは私だ」

上条「……あぁ、そうだっけ。でも良くしてくれてんだし、別にチャラで良いって」

上条「アリサの『歌』も危険じゃ無いって言ってくれたし……マタイさん?」

マタイ「……そうだな。私は確かにそう言った――危険ではない、と」

マタイ「ただより正確を期すれば『危険”どころ”ではない』んだよ、上条当麻君」

上条「……何?」

マタイ「確かに『歌』を媒介にする術式は数多い。術式起動の詠唱や呪文もまた歌という属性を占めている」

マタイ「だがアレほど純化した『歌』ともなれば、まさに神話の時代にまで遡らないと例を見ない」

上条「待て――待ってくれよ!?それじゃさっきのは嘘だったって言うのか!?」

マタイ「大質量の建造物一つの落下軌道を変える――それ自体は困難ではあるが、不可能では無い。準備の人員と時間を取れれば容易だ」

マタイ「だがしかし『一個人が歌の力だけで退ける』となれば……だ」

マタイ「そもそも、と言うのであれば、彼女が凡庸な”体質”の人間であれば、『S.L.N.』から目をつけられもしなかった。が」

マタイ「たかだか数万、精々数十万人分の『意志の力』を媒介にして、『奇蹟』を起こしてしまったのだから」

マタイ「……悪かった、いや事態をややこしくしているのは科学の力だ」

上条「なんで?アリサも俺と同じ無能力――」

マタイ「いやいや異能の事では無い。通信インフラ――ネットの普及だ」

マタイ「古代、統治者であった異能者はその力を民衆へ見せつけただろう」

マタイ「アリサ君のように『歌』で奇跡を起こした例も当然ある」

上条「だったら別に!」

マタイ「――だがそれも、精々影響を及ばせるのは数千程度。桁違いだ」

上条「……アリサが特別だって話か?」

マタイ「まだ分からないのかね?ネットだよ、ネット。世界中に張り巡らせた電子の網」

マタイ「普通であれば遠くの国で発動した魔術がネットを通して感染する、のは有り得ない出来事である」

マタイ「だがアリサ君の『龍脈』もまた文字通り、世界と繋がっている。どこに居ようが某かの関わりはある」

マタイ「よってその気になれば、億単位の人間の『願い』を凝縮させ、『奇蹟』を起こしてしまう可能性だってある」

上条「ローマ正教も、敵に?」

マタイ「私達は私達の味方だ。ない、とは言いきれないが……私はそうはならないと思うよ」

上条「どういう意味だよ!?」

マタイ「彼女を弑するモノがあるとするならば、恐らくそれは彼女の善性だろうな」

上条「善性……?」

マタイ「いや老人の戯言さ。悲観ばかりしていると碌な事にはならない」

マタイ「テッラを見過ごし、フィアンマに気付けなかった者に、未来を語る資格は無いのだろうな」

マタイ「20億の信徒を一度は束ねた身であっても、この有様だ。情けない」

上条「……」

マタイ「済まなかったな。再度呼び止めてしまって」

上条「――その、マタイさん。一つだけお願いが」

上条「何かお仕着せがましくて嫌なんだけど、『借り』に思ってるんだったら」

マタイ「出来る事ならば」

上条「俺が居ない間、アリサを宜しくお願いします……!」

マタイ「約束しよう。けれどそれは最初の約束事に含まれているので、借りを返せるとは言えないな」

上条「そっか、それじゃ……その、良かったら、で良いんだけどさ」

上条「安曇と『団長』の遺体、元の国へ帰す、ってのは無理かな?」

マタイ「……出来なくは無いが……敵なのだぞ?」

上条「敵”だった”としてもだよ。死んだ後ぐらいには、故郷へ帰っても良いんじゃねぇかなって」

マタイ「……ふむ。道理ではある。灰にした後でも良いのであれば、何とかしよう」

上条「灰……火葬?」

マタイ「と言うよりは復活しないように、また魔術的な記号を持たないように、だ」

上条「分かりました。それでよろしく」

マタイ「汝の進む道に灯明を。願わくば困難が避けて通る事を――」

――カンドルフォ城 前

上条「……」

上条(……すげー人だったなー。何つーか、うん、何つったらいいのか分からんが)

上条(ローマ正教としての立場があるのに、『気をつけろ』ってわざわざ警告してくれた辺り、やっぱ元教皇って感じはする)

上条(危険って言われても、アリサは何も悪くない訳で――なんて言い分を通用する相手じゃないし)

上条(学園都市に居ればまだ、他からの要らないお節介は避けられる……)

上条(最悪引退……いや、曲を作るだけに専念するとか?作詞作曲全部やってるって言うし)

上条(でもそれじゃ『歌うのが好き!』だってアリサの思い否定しちまうよなぁ、やっぱ)

上条(……ユニット組ませるとか?例えば柵川中の核弾頭さんとか、ノリノリでやってくれそう?)

上条(他にも……要はLIVEすんな、って事だよな?知らず知らずの内に『奇蹟』を起こす可能性があるから)

上条(『人数』が問題ってんなら、シークレットライブにすりゃ大した問題も起きないし?)

上条「……」

上条(あ、なんだ。深刻ぶる事はなくね?問題が起きるのが分かってれば、対処は出来る)

上条「……そう『分かっていれば』、か。だからマタイさんはわざわざ警告してくれたと」

上条「……」

上条(『借りを返す』とか言ってたけど、どっちの話だっつーの。ま、いいや)

上条(んな事よりも俺は俺の出来る事――あぁ、あったあった)

上条(フィアットかー……『スゲェ外車だ!』とか思ったけど、こっちのメーカーだから普通か?)

運転手「――てーかイタリアだから国産車ですよね、完全に」

運転手「一時期は車が売れずGMへの売却も考えたらしいんですが、その後に出した軽自動車のパクり――コンパクトカーが大人気」

運転手「今は持ち直して充分にやっていますが、次世代技術の開発に乗り遅れてしまったため、恐らくエコカーでは後れを取るかと」

上条「何かすいません中途半端な知識でねっ!」

運転手「いえいえ、さ、どうぞどうぞ中へ」

上条「あ、はい」 パタン

上条(なんで流暢な日本語?しかも若い女の子――嫌な予感しかしねぇな!)

運転手「お客さん、どちらまで?」

上条「空港までお願いします」

運転手「あ、それじゃこちらのタクシーチケットにサインをお願いします」

上条「チケット?客が名前書くなんて聞いた事無いんですけど」

運転手「あー、領収書みたいなもんですから、えぇ。仕様だから仕方がないです」

上条「そっか仕様なら仕方が――って違うよね?これ違くね?」

上条「この緑で印字された用紙、『婚姻届』ってモロ日本語で書いてあんだけど、これ別の書類だよね?」

運転手「えぇですから『ア、アンタの人生を運んで上げるんだからねっ!』って意味です!」

上条「そんなツンデレ聞いた事ねぇよ!?なんでタクシーの運ちゃん相手と一々エンゲージする必要がある!?」

運転手「ツンデレタクシー、流行ると思うんですがねぇ」

上条「それタダの接客態度の悪いタクシーだろ。会社に抗議来まくりだぞ。つーかさ、何?」

上条「こんなとこで何遊んでんのレッサーさん?」

レッサー(運転手)「流石です上条さん!この私の華麗なる変装を見破るとはねっ!」

上条「変装してないよね?君、いつもの格好そのまんまで運転席座ってたよね?」

レッサー「――と、言う訳でこちらにサインをですね」

上条「……いや、お前んとこの名前に『レッサー』って明らかな偽名が書いてあんだけど、受理されねーだろ」

上条「そもそもで言えばお前は俺を利用したいんであって、入籍が目的じゃねぇだろうが!」

レッサー「えっ?」

上条「えっ?」

レッサー「え、えぇえぇそうですともっ!私はブリテンの国益が一番であって、上条さんの事なんか好きじゃありませんからっ!」

上条「……あれ?迫真のツンデレだな……?」

レッサー「――と、言う訳でしてね、こちらの同意書にサインして魔法使いになって下さいな」

上条「ループ禁止。あと多分この紙にサインした人は、100%の確率で魔法使いとしての資格を失うと思うぜ?」

上条「つーかお前なんでここに?」

レッサー「いやですよぉ上条さん。私を出し抜けるとお思いで?」

レッサー「以前ロシアへ行った時にも、私から逃げられなかったじゃないですか?」

上条「あー……あん時は助かった、けどさ」

レッサー「ロンドンまでの直通便は出ているでしょうが、そっからどこをどう行ったらダンウィッチへ行けるか分かります?」

レッサー「むしろトラブルやラッキースケベに巻き込まれず、すんなり目的地へ行ける自信がおありで?」

上条「ないですよねっ!これっぽっちもねっ!」

レッサー「どうせロンドンへ着けば着いた先でTo LOV○るでしょーしねぇ」

上条「その発言はおかしい。あと”とらぶる”でその単語が一発返還出来るATO○も何か違う」

上条「……いやでも、お前よく分かったよなぁ。それとも霊装かなんかで監視してたの?」

レッサー「またまたー。術式が効かないのはご存じでしょうに」

上条「だったらどうやって?」

レッサー「そりゃ勿論、私はあなたをずっと見てるからに決まってますよ」

レッサー「フィアンマに出し抜かれた後、周囲の人間、誰一人気づかせる事無くロシアへ向かった――」

レッサー「――そんなアナタを……」

上条「……レッサー?」

レッサー「…………あぁ、成程。そういや、そうでしたか。こいつぁまた、中々どうして悪かない、かもです」

レッサー「思えばその時にはずっと”見て”たんですねぇ、上条さんの事」

レッサー「今に想い出してみれば、そういえば、という所は幾つもありましたっけ……」

上条「何の話だ?」

レッサー「いいや別に?そのうちお話しする機会は持てると思いますが」

上条「ふーん?まぁ、今はイギリス行きだよな」

レッサー「ですねぇ。ま、時間はありますので追々に」

上条「よし、それじゃ行こうぜ!」

レッサー「えぇ、行きましょうか」

レッサー「――ま、それはさておき、こちらの航空券チケットの名前欄へサインを」

上条「お前もう帰れよ!?つーか同じ紙じゃねぇか!もっとヒネりなさいよっ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

そろそろ次スレを立てねば。1スレに収まる予定だったんですがね

乙!!
>>マタイ「死神が汝の影を踏んだとしても、それは幸いなるかな。汝はまだ汚れを知らないのだから」

上条「え、何?俺、遠からず刺されるって話なの?」
週単位で重症になるんだから今さらでしょ
刺されたことは無いが

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月01日 (火) 19:21:40   ID: -clM2aQW

この人の作品のできは毎回すごい!笑いのセンスが好きww

2 :  SS好きの774さん   2014年06月12日 (木) 00:11:16   ID: JWEjDC1X

ドワーフさんの作品 大好きっす!

3 :  SS好きの774さん   2014年08月24日 (日) 21:38:54   ID: yU6PFLHn

とてもおもしろいです。

4 :  SS好きの774さん   2014年10月14日 (火) 21:25:06   ID: f8TgPF9z

そちらにも事情があるのは承知していますが、年内完結言うのは少しさびしいです。
これが完結してもインデックスの作品を書いてくれると、とてもうれしいです。(^w^)
ps更新楽しみにしています。

5 :  SS好きの774さん   2014年10月16日 (木) 04:42:42   ID: YtyhV11A

毎週楽しませてもらってますで

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