鳴護アリサ「アルテミスに矢を放て」 ~胎魔のオラトリオ~ (917)

ここはとある禁書目録&とある科学の超電磁砲のSSです
メインは鳴護アリサさんと、『新たなる光』や上条さんを軸に進んでいくんだと思います
基本台本形式ですが、その場のノリで小説っぽくなります
また内容は比較的ダークなものですので、グロい描写が多々あるかも知れません
敵側は基本オリジナル、プロローグが若干長いかも?まぁお気になさらず

ともあれ最後までお付き合い頂ければ幸いです。いぁいぁ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396305392

『プロローグ』


――2013年11月某日 『必要悪の教会』 英国女子寮

配達員「すいませーん?お荷物でーす!」

神裂「はーいっ!今行きますっ」

配達員「こちらにお荷物をお届けに参りましたー」

神裂「……と、失礼しました。判子を探していたら」

配達員「……ハンコ?なんでスタンプがここで?」

神裂「はい?」

配達員「え?」

オルソラ「あらあら神崎さん、それは日本のしきたりで御座いますよー」

アンジェレネ「ね、ねぇシスター・ルチアぁ!神裂さんの持ってるアレってなんですかねぇ?」

ルチア「なんでしょうねシスター・アンジェレネ。紙巻き煙草に似てはいますが」

配達員「サインで結構なんですけど?」

神裂「……あぁ、分かりました!ついうっかり!」 カキカキ

配達員「どーもー、あ、こっちにもお願いします」

配達員「しかしこんな毎日、大量の手紙のやりとりなんて大変ですねー」

配達員「やっぱりアレですか?シスターさんだけに、ご家族との会話が携帯電話禁止だって訳で?」

神裂「いえいえ、そんなファンシーな理由ではありません。むしろ、こう、なんでしょうね」

神裂「ある意味、ファンレターみたいなのもの、でしょうか。かなり良く言えば、ですが」

配達員「若い娘さんばっか住んでますからねー――と、どーも。それじゃまたー」

神裂「お疲れ様でした」 パタン

アニェーゼ「やっぱり今日も多いんですかね。ダンボール、神裂さんが持ってる分には軽く見えちまいますが」

アンジェレネ「し、しーっ!シスター・アニェーゼ!ダメですよぉっ神裂さんがゴリ――聖人パワーだって言うのはっ!」

神裂「気にしてませんよ?って言うか別にこれは聖人としての力であって、私がどうこうって話では無いですし」

神裂「というか、今聖人じゃなくゴリラって言いかけませんでしたか?シスター・アンジェレネ?」

ルチア「いけませんよシスター・アンジェレネ!人が気に病んでいる事を言うのは神がお許しになりません!」

神裂「いえ、ですから特にどうとも思っていませんが」

神裂「逆にそう気を遣われると、『あ、やっぱり気にしてるんだ?だよねー』的な誤解がですね」

アニェーゼ「分かってます分かってます。幾ら食べてもお腹には行かず、全てその対男性誘惑術式に蓄積されっちまいますからね」

神裂「なんですかっそのいかがわしい霊装は!?後それは私が戦闘訓練を積んでいるだけで、他意はありませんよ!」

アンジェレネ「な、なるほどー、そのプロポーションを維持するには、KATANAの素振りが必要だと……!?」

アニェーゼ「前々から疑問に思っていましたが、対男性誘惑術式の秘密はそれだったんですかい!」

神裂「ですから誘惑誘惑言うのは、神に仕える身としてはちょっと」

アンジェレネ「り、理に適ってますねーっ!」

神裂「いえあの、それだったらシスター・ルチアやオルソラはどうなのでしょうか?特にルチアはお二人にも生活環境が同じ――」

シスター一同(※除く巨乳)「……チッ」

神裂「盛大に舌打ちされたっ!?オルソラからも何か言ってやって下さい!」

オルソラ「あれは判子と申しまして、日本では荷物を受け取る際によく使われておりますのですよー」

神裂「判子の説明は遅いでしょう!?言うべきタイミングでは無い!」

オルソラ「ちなみに補足致しますと、この間神裂さんは大分悩まれて『Kaori, K』の判子をお店に注文されていました」

ルチア「それのどこが何の補足になるのでしょう、シスター・オルソラ?」

神裂「そうですよっ!別におかしくないじゃないですか!」

オルソラ「『こうしておけば、いざ籍が変わっても同じ判子を長く使い続けられるな』との神裂さんの乙女回路が発動――」

神裂「違いますから!っていうか、何でも恋愛に結びつけるのは良くないですよ!」

神裂「って言うかオルソラの中の私はどれだけ乙女ですか!?小学生じゃあるまいし!私もこう見えて色々とですね!」

アニェーゼ「あ、やっぱそうなんですかい。てっきり噂が正しいもんだとばかり」

神裂「……なんです、その噂って?もう嫌な予感しかしませんが」

アニェーゼ「『女教皇は“騎士団長(※特A級玉の輿)”からのお誘いをいっつもお断りしているのよな!』」

神裂「ぶはぁっ!?」

アンジェレネ「『な、何度も花束を持って誘いに来る男を千切っては投げ千切っては投げ……まさに“鋼鉄処女”の名に相応しいのよッ!』」

神裂「それもう噂じゃ無いですよね!?どう考えても口調が知り合いに酷似していますし!」

ルチア「『っていうかそろそろ女教皇も、次代の教皇をこしらえて欲しいのよ。宜しく頼むのよな!』」

神裂「最後は噂じゃなくて言づて!?そもそも天草式は世襲って訳じゃありませんし!」

アンジェレネ「そ、そーなんですか?っていうかっていうか、空――聖人の人って結婚とか出来るんですかねー?」

神裂「今、『空○先生』って言おうとしませんでしたか?」

神裂「あと、先ほどからあなた達の言動に意図的なものが見え隠れしてますけど、それは私の気のせいなんですよね?」

神裂「……いやいや、そうではありませんよ、皆さん」

神裂「あなた達もシスターもそうですが、私も皆さんと同じくまだまだ修行中の身」

神裂「従って愛だの恋だのと、うつつを抜かす暇などはありません」

オルソラ「あ、それは問題ないで御座いますよ」

神裂「あの、オルソラ?どうしてこういう時には的確に返答出来るんでしょうか?」

アンジェレネ「あ、やっぱりそーなんですかーっ!?」

オルソラ「『使徒12人』の方々の中には既婚の方も居られますし、それで聖人としての資格を失う訳ではないとの報告が」

オルソラ「『必要悪の教会』の中にも主婦と兼業されている方も御座いますよ」

アニェーゼ「あー、いましたね。テオドシアさんってんでしたっけ?」

ルチア「家庭を守るのが女性の勤めでは?」

オルソラ「そうではない価値観の方がいらっしゃる、だけのお話で」

オルソラ「ですから神裂さんも、周囲の視線やご自身の立場がどうではなく、ここは一つ素直に気持ちを表わすのが宜しゅう御座いますのですよ?」

神裂「いえ、ですからそういう話ではないとさっきから主張しているんですけど」

神裂「皆さん既成事実的なものを埋めようとしていませんか?もしくは面白半分でけしかける雰囲気とでも言いますか」

神裂「小学校でそれっぽい話が持ち上がった時、『告白しちゃいなよ!』と無責任に推すような感じでしょうか」

神裂「娯楽に乏しい女子寮で、『他人の恋愛話をネタに楽しもう』的な雰囲気が……」

アニェーゼ・アンジェレネ・ルチア「……」

神裂「やっぱり図星なんですか!?」

オルソラ「それはそうとアイソン彗星の話で御座いますが」

神裂「どちらの引き出しを開けたのですか、オルソラ?」

アンジェレネ「あ、あれちょっと楽しみですよねーっ!屋上で観測会をしよう、って話になってまして」

神裂「で・す・か・らっ!何度も言っているようにですねっ、私はあの少年に懸想している事実はありませんし!」

アニェーゼ「皆無ってぇ事ですかい?」

神裂「いや、まぁ皆無という訳、でないと言えば偽りになりますが……そうですよっ!友情とか信頼とか、そういう類のものですよ!」

神裂「同じ敵を相手にした、言わばある意味で戦友みたいな感じであって!決してそれ以上は、はい!」

アンジェレネ「あっ、上条さんだ!」

神裂「げふっ!?いやいやいやいやっ!違いますっ!今のは対外的なアレコレであってですね!?」

神裂「奥ゆかしい日本女性としてはあまりそのっ、殿方に対する慕情を表わすのは色々問題がっ!」

神裂「いえ別にですね、お互いが引かれあった上で歳の近い、歳の近いっ!大切なので二回言いましたけど!」

神裂「歳もそう離れぬ若い男女が、最初は敵味方に分かれて争っていたのに、その内次第に引かれ合って結ばれるのは王道だと思います!」

神裂「ですからこう前に向きに善処するのであれば、私もこう――」

神裂「……?」

神裂「……おや……?」

アンジェレネ「あ、あーっ!やっぱりそーなんですかーっ!怪しいと思ってたんですからねーっ!」

アニェーゼ「隠そうとしたってバレバレですって。つーかその定義だとわたし達も入っちまってんですが」

オルソラ「私は最初から最後まで味方で御座いますよー」

ルチア「味方……まぁ、その割に少年の邪念をかき立てていたように見えましたが」

神裂「……嘘?来てない……ん、ですか」

アンジェレネ「だ、だいたい神裂さんもですねーっ!もっと素直になれよっていうか、ですけど――あ、あれ?」 ギュッ

神裂「どうしましたか、シスター・アンジェレネ?」

アンジェレネ「ど、どうして神裂さん十八歳はわたしの頭を掴んでい、いるんで――」

神裂「――シスター・アンジェレネ。ご存じでしょうか、ゴリラの握力は約500kgあるそうですよ?」

アンジェレネ「そ、そうなんですかー?いやーすごいですけど、それとこれとは一体なんの関係が?」

神裂「ちなみに成人男性は50kg程、女性に至っては30kg程度と言われています」

神裂「現役のプロ野球選手は60kg前後、元関取――スモウレスラーの元魁皇関は、中学生の頃で100kg越え、ハンマー投げの室伏は120kg以上です」

アンジェレネ「い、いえいえですからわたしの質問に――って、なんか、頭が痛いんですけど?締め付けてませんか?」

神裂「そして聖人の握力は――ゴリラを超える……ッ!!!」 ギリギリギリッ

アンジェレネ「いたいイタイ痛い!?神裂さん頭が割れるように痛いでっす!?」

神裂「やかましいこのド素人が!」

アンジェレネ「それはだって神裂さんが煮え切らないからぁぁっ!?ってか助、助けて下さっ!?」

ルチア「人を欺くと罰が当たります。反省しなさいシスター・アンジェレネ」

アニェーゼ「それじゃ、さっさと仕分け始めちまいますか」

ルチア「シスター・アニェーゼまでえぇっ!?」

神裂「……大丈夫、シスター・アンジェレネ」

アンジェレネ「で、ですよねぇっ!わたしの知ってる神裂さんは許してくれますもんねっ!」

神裂「建宮斎字も直ぐに後を追わせますから」

アンジェレネ「もっと歳が近くてイケメンの方が良かったですっ!?」

アンジェレネ「せ、せめてアフロ!アフロだけはなんとか!」

――同時刻(時差9時間) 学園都市XX学区 多目的コンサートホール・控え室

鳴護「こ、こんにちはー?」 ガチャッ

先輩アイドル「あ、『おはようこざいまーす』」

鳴護「ですね、おはようございますっ」

先輩アイドル「ARISAちゃんダメだよー?この業界厳しいんだから、ちゃんと挨拶しないとー?」

鳴護「はい、ごめんなさい」

先輩アイドル「事務所、大変なんでしょ?だったら余計にね」

鳴護「あぁいえ、そっちの方も一応どうにかなるみたいで、はい」

先輩アイドル「そうなの?……チッ」

鳴護「ハマ○さん今舌打ちしませんでした?」

先輩アイドル「ハ○ダじゃないですから!名前違いますから!」

先輩アイドル「グループ抜けた瞬間にファンが消えていった人と一緒にしないで!」

先輩アイドル「……いや、そうじゃなくてさ。何だったらウチの事務所のオーディション受けてみれば?って思ってたのよ」

先輩アイドル「ウチはグループでやってる分、歌が下手な子もチラホラ居るでしょ?」

先輩アイドル「だからARISAちゃんが新メンで入ってくれればいっかなー、って」

鳴護「とんでもないですっ!あたし――私そういうのは無理って言うか!」

先輩アイドル「あぁ本当は歌専門でやりたかったんだっけ?」

鳴護「枕を売るとか、そういうのはちょっと」

先輩アイドル「してねぇよな?対外的にはそういう事になってんだから、な?」

鳴護「違うんですか?あるマンガで抱き枕がどうって話聞きますけど」

先輩アイドル「あー、うんそっちの話ね」

鳴護「関係者だけ集めてライブパーティしたり、Pが脱法ドラッグに手を出したとか、良い評判ないですし」

先輩アイドル「ARISAちゃん知ってるよね?さっきからチクチク突いて来てるよね?」

先輩アイドル「ってかここは『先輩から地味に弄られる』ってトコでしょ?違うのか?」

鳴護「○マダさんの主役のドラマ、最低視聴率3.2%だったでしたっけ」

先輩アイドル「最初天然かと思ったけど、割とタブーな所攻めてくるな?グイグイ突っ込んでくるよな?」

先輩アイドル「つーかなんだかんだで投票一位取ったんだし、もうちょっとファンは責任取ろう?面倒看よう?応援してもいいよな?」

先輩アイドル「あと、ハマ○じゃないから!堀○さんと同じ土俵にチャレンジしただけで評価されるべきだし!」

鳴護「ノリツッコミも出来るアイドル……新機軸ですねっ!」

先輩アイドル「別に新しくはないけどな!色々言われるSMA○だけども、コントじゃ必要以上に体張ってるし!」

先輩アイドル「……つかさ、ぶっちゃけるけどアンタもアレじゃない?今の立ち位置、実力じゃねぇんだから、あんま調子に乗んなよ?」

先輩アイドル「『88の奇蹟』?『エンデュミオンの奇蹟』?……はっ!笑わせんなっつーの。たまたまそこに居合わせただけじゃんか!」

先輩アイドル「アンタの歌が何をしたって訳じゃねえのに、チヤホヤされていい気になってんのを見ると滑稽だわ」

鳴護「……」

先輩アイドル「『奇蹟の歌姫』だっけか?ご大層な名前貰ってっけど、この芸能界はカネとコネなんだよ、分かる?」

先輩アイドル「ぶっちゃけカラオケ未満のあたしらが、アンタよりも大御所だっつーの。オーケー?」

鳴護「……」

先輩アイドル「あ?何とか言ってみろ」

鳴護「……あなたは可哀想」

先輩アイドル「あぁ!?ナメてんのかコラあぁっ!」

鳴護「私もいきなりオーディションに受かった訳じゃない。孤児院に居た頃からずっと歌や音楽の勉強を続けてきた」

鳴護「少なくとも今この場で、私を形作っているものは全部、私が、私らしくあり続けようとした結果で」

鳴護「夢を諦めずに続けてきて、たまたま結果が出ただけ」

鳴護「奇蹟があるとするのなら、そう言う事だと思う」

先輩アイドル「意味分かんねーよ。電波キャラ気取ってんじゃねぇ」

鳴護「それで?あなたはどうなの?」

先輩アイドル「ナメんな!こっちはミリオン連発する国民的美少女なんだよ!アンタみてーな一発屋と違――」

鳴護「あなたは――」

先輩アイドル「あぁ?」

鳴護「――あなたは、何のために歌うの?」

先輩アイドル「はぁ?ドルは歌歌ってナンボだろうがよ。定期的に円盤出してアピールしねぇとトップは張れねぇだろ」

鳴護「私は――私の歌を楽しみにしてくれる人のために、歌います」

鳴護「アイドルだから、とかじゃなくて、売れるからとかも関係なくて」

鳴護「歌うのが、好きだから。それを応援してくれる人のために」

先輩アイドル「……クソが!現実見てねーだろ!何も分かってねぇし!」

先輩アイドル「チャンス貰えるだけ恵まれてんだよ!普通はまともにやったって叶う訳がねぇ!」

先輩アイドル「叶えたい夢のために頑張ってんじゃねぇのか!?みんながみんなテメーみてーなデビュー出来る訳じゃねぇんだよ!」

鳴護「……」

先輩アイドル「つかな、つーかな?誰もお前の歌なんか興味無ぇよ。お前の『商品価値』ってぇのは、アレだ」

先輩アイドル「『奇蹟』ってだけだ。お前はそれの付属物、オマケみてーなもんだよ」

鳴護「……!?」

先輩アイドル「欲しいのは『奇蹟』ってだけ。災害をダシにしてメジャー狙ってる奴や、平和な国で反戦歌ってるラッパーもどきと一緒だよ

コンコン

スタッフ「す、すいませーん、ARISAさん準備お願いしますーっ」

鳴護「……はい、今行きます――それじゃ、失礼します」

パタン

先輩アイドル「……」

先輩アイドル「あたしが!あたしらがどんな思いで――クソったれ!」

先輩アイドル「……ムカつくな……あん?」

先輩アイドル「バッグ置いてった……また安そうな」 ゴソゴソ

先輩アイドル「なんか珍しーもんは……男とのツーショットでもありゃ完璧なんだけど……」

先輩アイドル「ケータイの待ち受けも……なんじゃこりゃ?シスターと?」

先輩アイドル「他には……ブローチ?またガキっぽい」

先輩アイドル「……」

先輩アイドル「……これ、捨てっちまおうか?」

先輩アイドル「……いやー……?流石にそれは……」

コンコン

先輩アイドル「はいっ!?」 ゴソッ

マネージャー「お疲れ様でーす。ステージ衣装、スタイリストさんから貰ってきましたよー」

先輩アイドル「あ、あぁ、そうだな」

マネージャー「それでですね。明日の話なんですけど――」

先輩アイドル(……ヤバい。返せない……)

――10分後 『必要悪の教会』女子寮

神裂「……全く、なんで荷物一つ受け取るのにこれだけ疲れるんですか」

アニェーゼ「そりゃ女子寮ってのは姦しいってぇ相場は決まってるもんです」

アニェーゼ「ましてや若い小娘が集まってんだから、色々あるでしょうに」

神裂「意外ですね。否定するものとばかり思っていました」

アニェーゼ「大所帯なもんで、気苦労もあるってぇもんです、えぇそりゃね」

神裂「私も天草式の一員でしたが、あまりそういう事は無かったような……?」

ルチア「構成の違いでしょう。あちらは家族、みたいなものでしたか」

神裂「それを言われると……一度飛び出した身としては辛いものがありますが」

アニェーゼ「それ言うんだったらわたし達も放蕩娘みたいなもんですし。あんま気にしねぇで下さいな」

アニェーゼ「可愛い子には旅をさせろってぇもんで、小さな枠に入ってちゃ見えねぇもんもありますからね」

神裂「……なんでしょうね。今日のアニェーゼ、輝いてませんか」

アニェーゼ「……いやまぁ?なんだかんだでアレがアレしてこうなって、当初の予定とズレちまいましてね」

アニェーゼ「元々ウチらが取る筈だった仕事がポッカリと、ってな具合に」

神裂「は、はぁ……?」

オルソラ「皆様、お茶が入ったので御座いますよー」

神裂「ありがとうございます、オルソラ――さて、ではやってしまいますか」

アンジェレネ「……うへぇ。またこれは相当な量で」

ルチア「弱音を吐いてはいけませんよ。神は常に私達をご覧になっていますから」

アンジェレネ「い、いやいやいやっ!これってわたし達の仕事じゃあなくないですかっ?」

アンジェレネ「こんな段ボール箱一杯の手紙なんてどうしろって!」

神裂「前にも言ったと思いますが、ここは腐っても『必要悪の教会』の寮です。しかも少し魔術かその手の事情に通じた者ならば分かる程度の」

神裂「言ってみれば『ルアー』みたいなものでしょうか?わざと居場所を知らせ、敵が食いつきのを待つ役割もあります」

アンジェレネ「そ、それはっ理解出来ますしっ、感謝もしてますよぉっ!行き場のないわたし達を受け入れてくれたんですしぃ!」

アンジェレネ「でもこの手紙の仕分け作業はなんか、こう、違うって気がします!」

神裂「と、言われましても。この脅迫文やら犯行声明モドキの中に、たまーに本物の魔術テロ予告が混じっている以上、放置する訳にも行きませんし」

アンジェレネ「だ、だったら当番制にするとか?」

神裂「一人でこの量を捌いていたら、多分気を病むと思いますよ?」

アンジェレネ「むぅー……」

神裂「……後で日本直送の萩の月を差し上げますから」

アンジェレネ「まっかせて下さい!わたしこーゆーのは前々から大得意だったんですからねっ!」

ルチア「……あの、すいません。色々とウチの子がご迷惑を」

神裂「いえいえ、ある意味真っ直ぐに育っててちょっと和みます」

アンジェレネ「いいえっシスター・ルチア!わたしと神裂さんは『スイーツ同盟』として鉄の結束がですね!」

アニェーゼ「その話はやっちまいながらにしましょう。じゃねーと終わらねぇですし」

神裂「それでは各自、いつものように二人か三人で取りかかるように。何かおかしな記述や魔力の流れを感じたら、私かオルソラに言って下さいね?」

シスター一同「はーい」

神裂「ではオルソラ、私達も始めましょうか」

オルソラ「それで神裂さんは、あの方に恋文などは渡されたのでしょうか?」

神裂「どうしてこのタイミングでそれが出るんですかっ?!その話題は終わった筈でしょうに!?」

オルソラ「女性から男性の方へ想いを伝えるのには、やはり手書きの文が一番だと思うのですが」

神裂「そ、そうですかね?オルソラもやっぱりそう思いますか?」

オルソラ「それはそうと一度書いた手紙の内容は何だったので御座いますか?」

神裂「どうしてオルソラがそれを知っているのですか?というよりも、あれ?もしかして怒ってます?」

アニェーゼ「なーにを話してんですか、お二人とも。遊んでねぇでお仕事しましょうよ」

アニェーゼ「ってな訳で、それっぽいお手紙が。ちっと見て下さいな」

神裂「では術式に耐性のある私が――『前略、これは警告である。守られるべきであろう』」

オルソラ「まぁ、これは怖いので御座いますよー」

アニェーゼ「どう見てもいつもと変わらねぇんですがね」

神裂「最近珍しいストレートな脅迫文ですね。大抵こういう場合は無理難題をふっかけ、その上で妥協出来るラインにまで落とし込むのですが」

神裂「……ま、相手が“正気”ならば、の話ですけど。さて、要求はどのような――?」

神裂「『――そっちの寮に住んでいるガーターミニスカのシスターはエロ過ぎるんだろ!』」

神裂「『踏んで欲し――いや!せめて隠して欲しい!マジでお願いします!』……」

オルソラ「男の方にはシスター・ルチアの脚線美は目に毒なのですねっ」

アニェーゼ「ね?」

神裂「『ね?』じゃねぇですよっ!?これタダの注意の手紙じゃないですか!?」

アニェーゼ「口調が移っちまいましたけど、まぁでもこれはある意味警告じゃねぇかなと」

神裂「いやまぁ確かにルチアのあの格好はどうなんだ、と思わないでもないですけど」

シスター一同「……ちっ」

神裂「ですから!私がこの格好をしているのは信仰上の理由からです!決してハレンチな意味合いはありませんから!」

アンジェレネ「か、神裂裂さぁん。これこれ、見て下さいよ-」

神裂「裂が一つ多くなって必殺技みたいですが……はい、承りますよ。えっと」

神裂「『世界はユダヤによって動かされている……!』……はい?」

アニェーゼ「あっちゃー、また痛々しい話が」

神裂「『その証拠に世界の政経財界には多くの――』……あぁ、すいません。これよくあるユダヤ陰謀説じゃないですか」

アンジェレネ「そ、そうなんですよっ!実はわたし達の世界もユダヤ人に仕切られているんですっ!」

アニェーゼ「な、なんだってーーーーー」(棒読み)

神裂「はい、そこ煽らないで!この子は純粋なんですから!」

アンジェレネ「ち、違うって言うんでしょうかっ!?」

神裂「そうですねー……あぁ、例えば日本の高級官僚には東大などが多いのですが、それは『陰謀』でしょうか?」

アンジェレネ「やだなぁ神裂さん、頭のいい人が役人になるのは当然、ですよね?」

神裂「同じく何処の国の政治家や官僚を見ても、その国の最高学府出身の人間が多い。それは当然ですよね?」

神裂「同様に『ユダヤ陰謀論』もタダのネタですからね?統計的に多いかも知れないってだけの話で」

アンジェレネ「う、うわーっ!ここにも一人コントロールされた人が居ますよーっ!?」

アニェーゼ「たいへんだー、どーしよー」(棒読み)

神裂「というか、その手の陰謀論は良く聞きますけど――仮に、その手紙やらネットに書いてある事が本当だったとして」

神裂「『彼らの権力が、たかがその程度の情報操作すら出来ない証拠』だって、分かりますか?」

アンジェレネ「……は、はぃ?」

オルソラ「例えば昨日のバラエティでやっていたので御座いますが」

アンジェレネ「み、見ましたっ!二時間の特番の奴ですよね!」

オルソラ「もしも彼らにそれだけの力があるのであれば、事前に差し止められたりするのではないでしょうか?」

アンジェレネ「――あ」

オルソラ「世界経済を牛耳り、メディアにも多大な権力を持っているのであれば、そんな事態にはならないので御座いますよ」

神裂「そもそも人口比だけであるならば、多くの国の指導者が十字教徒でしょう?それを証拠に私達が世界を牛耳っているとはなりませんよね?」

シェリー「……ま、チビッ子の言ってる事も間違いじゃなくてだな。確かに事実上の寡占企業ってぇのはあるんだわな」

シェリー「ただそいつぁ大航海時代から築き上げた重商主義のなれの果て、って感じなんだけどよ」

オルソラ「おはよう御座いますのですよ、シェリーさん」

神裂「そろそろお昼なんですが……」

シェリー「悪ぃオルソラ。朝メシ貰えねぇか?」

オルソラ「それで、メールには何と書くおつもりで御座いますか?」

シェリー「何処まで巻き戻ってんだ。つーかエレーナとイワンはもう家に帰ってんだよ」

神裂「ま、まぁともかく分かって頂けましたか?別に納得しろとは言いませんけど」

神裂「特定の職種に特定の人種や信仰が多いからと言って、それだけを以て証拠とするのは暴論を通り越して差別ですからね?」

アンジェレネ「そうだろうと思っていましたよ、えぇっ!」

神裂「最近、ようやくシスター・アンジェレネが自由に生きている理由が分かりました」

アニェーゼ「はい、まぁ多分ご想像の通りだと思います」

神裂「あぁもうっ!こうもっと真面目な!深刻な手紙は無いのですか!?」

オルソラ「それではこちらをどうぞ――『ペンネーム・フルーツポンチ侍(○)』さん」

神裂「止めましょう?それ明らかに違うものが混じってますよね?」

オルソラ「『ネタ予告では出番があったのにどうして削るんですか?やっぱり九兵○殿とキャラが被るからですか?』」

神裂「――はい!と言う訳で話を戻しますが!」

オルソラ「『ずっとスタンバってます』」

神裂「……なんでしょうね。『必要悪の教会』宛の犯行声明、もしくは手紙を使った攻撃が来るかと思えば毎日毎日ネタに特化した手紙ばかり!」

神裂「基本オカルトマニアか、中二病が治らないオッサンの寝言しかないじゃないですか!?」

アニェーゼ「本気だったら余計怖いんじゃないですかねー。あぁいえむしろ“素”でやってる可能性の方が高いかと」

神裂「たまに本気でストーカーっぽい内容もありますけど、それ普通に警察の仕事ですからね……」

アニェーゼ「まぁ悪の道に入りそうな方をオシオキをするのも、ある意味私らの仕事っちゃ仕事だと思わなくもねぇですけど」

神裂「……いやいや、いけませんいけません。平和なのは良い事ではないですか」

神裂「安寧を貴びこそすれ、まるで危険を呼び込むような真似はなりません。私も未熟――おや?」

アニェーゼ「そういえばシスター・アンジェレネの躾役兼ツッコミのシスター・ルチアが静かなような……どうかしましたんで?」

ルチア「……えぇ、この手紙がちょっと」

神裂「何か危険な術式でも書かれてあるとか?」

ルチア「そういうのじゃないんです。魔力も微かに感じなくはないですけど、それとは少し違うって言いますか」

アニェーゼ「だったら熱烈なファンからのメッセージカードって奴ですかい?」

ルチア「いえ、それでもありません。カテゴリーからすれば、まぁ脅迫文でしょうか?」

アニェーゼ「んじゃちっと拝借をっと」

神裂「あ、私が」

アニェーゼ「いいじゃねぇですか。ドSのシスター・ルチアを引かせる手紙ってんですから、どんだけだと」

ルチア「シスター・アニェーゼ。その補足語は余計ではないでしょうか」

アニェーゼ「きっとミニスカートとガーターの良さをネチネチ説いた痛々しいポエム――」

アニェーゼ「……」

アニェーゼ「――むぅ?」

神裂「……どうしました?」

アニェーゼ「……何なんでしょうねぇ、これ。駄文っちゃ駄文なんですけど」

神裂「では私も拝見致します。そこまで言われると逆に興味がわきますし……と?」

神裂「これ――」

――某音楽番組 学園都市より生中継

タモ「はい、次は初登場ARISAちゃんです」

タモ「えっと、ライブ会場のARISAちゃーん?繋がってますかー?」

鳴護『はい、こんばんはー……じゃなかった、おはようございます?』

タモ「髪切った?」

鳴護『あ、いや特には切ってないです』

タモ「シングルでミリオン達成だって?すごいんだねー」

鳴護『ありがとうございます。応援してくれた皆さんのおかげです』

タモ「髪切った?」

鳴護『切ってないです』

タモ「まだ学生さんなんだよね。どう、勉強もしてる?」

鳴護『ボチボチですかねー。選択問題は強いんですけど、筆記問題は得意じゃなくて』

タモ「髪切った?」

鳴護『切ってないです。っていうか「似合ってない」って言われてるんですか、あたし?』

アナウンサー「――はい、曲の準備が出来ました。ARISAさんどうぞー」

鳴護『あの、基本髪切った話しかしてないんですけど……』

タモ「はい、という訳でARISAさんの新曲――」

タモ「――『髪切った?』」

鳴護『切ってないです。あと曲の名前と違いますし、順番間違えてるんじゃ?』

鳴護『っていうか柴崎さんから、「ツアーの宣伝して来てね」って言われて――』

――プツッ

――XX学区 多目的ホール

チャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンッ

鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』

鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』

鳴護『神様が意地悪をして、私とあなたを引き離したけれど――問題はない』

鳴護『だってもう心を伝える方法は知っているから』

ワァァァァァァァァッ……

鳴護『私達が子供の頃、もどかしく考えてなかった?』

鳴護『うん、それはきっと今では答えを見つけている――その手に』

鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』

鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』

鳴護『言葉は要らない。手を伸ばせば届くよ』

鳴護『この世界にまだ言葉が無かった時代にも愛はあった』

鳴護『――そう、そのまま抱きしめるだけで……』

ジャジャァァンッ………………

ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

鳴護『――はい、って言う訳でテレビ中継は切れちゃったみたいです。電波が悪いのかな?』

鳴護『けどライブはまだまだ終わらないから、安心してねー?』

ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『――みんなーーっ、あたしのライブに来てくれてありがとーーーーーーーっ!』

鳴護『「お休みの日ぐらい大事な人といようぜ」、ってあたしの大先輩は言ってたけど』

鳴護『あたしも大切なファンのみんなと一緒で幸せだよーーっ!』

ファン『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

浜面「あっりっさ!あっりっさ!」あっりっさ!」

ファン『あっりっさっ!あっりっさっ!あっりっさ!』

鳴護『でも来年のクリスマスぐらいは好きな人と一緒にいたいかなー、なんて?』

鳴護『どう?ダメ?アイドルが恋しちゃうのはNG?』

浜面「上条もげろ!」

ファン『もっげっろ!もっげっろ!もっげっろ!』

鳴護『えっと、個人名を出すのはちょっとアレだよね。うんっ』

鳴護『みんなー、恋はいいよ?好きな人に好きだって言えるんだし』

鳴護『こんなに良い事って他にないよ。うん、ほんとにっ』

浜面「好きだーっ!結婚してくれーっ!」

鳴護『……さっきから彼女持ちさんの声がする気がするけど、メインスクリーン見て?』

浜面「おぅ?」

鳴護『MC中のアレコレがカメラで抜かれて、世界にLIVE発信されてるんだけど。いいのかな?』

浜面「やだ撮らないでっ!?」

鳴護『それじゃ、次の曲行くよーーーーっ!』

オオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『曲名は――』

――あるファミレス

滝壺 ガクガクガク

絹旗「なにやってんですか、超何やってんですか浜面。滝壺さん置いて一人でライブなんて超有り得ないでしょう」

麦野「ま、常識的に考えりゃペアチケット取る筈が一枚しか当たらなくてさ。それでコッソリ行ったとかじゃないの?」

絹旗「……むぅ。合同ライブとは言え、ARISAのコンサートは超プレミアですけど」

麦野「だからって彼女置いて行くかよ?あのクソったれ、帰ってきたら顔面無くすまでぶっ飛ばす」

滝壺「……かめらに抜かれているのに、必死に百面相してごまかそうとしている」

絹旗「これはこれで超面白そうですね。あ、超録画してツベにアップロードしましょう」

麦野「つかこれ学園都市の……どっかの学区からの生中継なんでしょ?」

絹旗「ですね。タ○さんの音楽番組中継は超途中でキレてしまいましたが」

麦野「あからさまにツアーの宣伝しようとしたから切ったんじゃないの?電波障害かもだけど」

絹旗「ま、学園都市の有線の超強度と比べるのは酷でしょう……って、滝壺さん?」

滝壺「……これ、なに……?」

麦野「どうしたのよ、凄い汗――滝壺?滝壺っ!?」

滝壺「暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の葉っぱが敷き詰められて――」

滝壺「――海から押し寄せるのは――違う!あれは、あれは――っ!」

絹旗「超落ち着いてく――い!」

滝壺「押し寄せるんじゃ、ない!違う、違、血が、地が、智が!」

麦野「救急車を――早く――!」

滝壺「――大海原より帰り来たる。慟哭と怨嗟と、赤子の泣き声、それは――」

滝壺「――凱旋、だ」

――同時刻 XX学区 コンサート会場 来賓用駐車場

 完全防音を謳うコンサートホールにして野外音楽堂でもあるライブ会場。
 しかし鳴護アリサの歌声は人工的に調整された音の流れを無視し、僅かながら会場周辺にも漏れ聞こえていた。
 時として多数のクレームで回線がパンクする程、ホールの苦情係は激務であるのだが、今日に限っては楽なものだった。

 プレミアチケットとなった招待券がないのに、微かにではあるがおこぼれにありつけた。感謝こそすれ、クレームが入る気配すらなかった。
 野球やサッカーの試合が行われているのであれば、適度に“市民の声”を捌く必要があったのに、随分と現金なものだと軽く思っていた。

 しかし、それは暫くすると一つの疑念に思い当たる――「静か“すぎる”のではないか」と。
 ホールの外を通る車の影も、出待ちかチケットを手に入れられず、未練がましくたむろしている人影も。
 普段、普通にしていれば嫌でも目にする影が、当たり前のように存在する雑踏や人の生活音が、何故かポッカリと欠けていた。

 今日はクリスマスイブ。冬至も過ぎたばかりだと言うに、得体の知れない恐怖が背筋を這い上がり、暑くないのに汗がぐっしょりシャツを濡らす。
 気のせいだと言い聞かせても、どうにも不安で不安で溜らなくなってくる。

『――あー、コーヒーでも買って来るわ』

 そう言って出て行った同僚の姿は、未だにあるべき所に帰ってきてない。
 所か、休憩時間を大幅に過ぎ、これ以上ないほどに怠慢――。

 いや――怠慢なのか?もしかして、得体の知れない何か、よりにもよって鳴護アリサのコンサートの日にたまたま当番になったため、巻き込まれたのではないか?
 人影が誰一人と見えず、また同僚も某かのトラブルに襲われてどこかへ消えてしまったとか?

 そう思って、警備員か誰か、とにかく人の居る所まで出ようと思い、部屋を後に――。

「……ァ」

 バタン。

「あっ、す、すいませんっ!」

 部屋のすぐ前に誰かが突っ立っていたらしい。思いのほか勢いよくドアを開けたせいで、相手を転倒させてしまったようだ。
 その証拠に半分開いたドアから上半身と下半身が見える。

 あぁなんだ、その制服は同じ従業員の同僚のもの。丁度帰って来ていた所に、たまたまぶつけてしまったのか。間が悪い。

「え、っと。どうし、た――」

 上半身と下半身?……どうして、それが、別々にあるのだろうか?
 普通は、一般的には、それは別セットで数えられるものじゃない。必ず二人で一つ――と言うか、分けては存在しない。出来ない。

 けれど、ここから見えるパーツ達は明らかに別の方向を向いていて。
 上半身は壁にぶつかり、下半身は床に転がり――あぁ、これはそうか。

 同僚の体は、上下に引き千切られていた。

「ひっ!?」

「……ぁっ、ぁっ」

 まだ生きているのだろう。壁に寄りかかったまま言葉にならない言葉を紡いでいる。
 血の痕が水溜まりを徐々に作り、そこかしこに考えたくもない赤黒い何かが飛び散っていた。生理的にとても受け付けない血臭に胃液が上がってくる。

「く、ぷっ……!?」

 ダメだ、まだ、ダメだ。吐くのは後からでも出来る。今は少しでも早くこの状況を伝えなければいけない!
 警備員でもアンチスキルでも良い!通報が早ければ同僚の命も助かるかも知れない!
 だから、ただ、早く……!

 慌てて部屋に駆け込み、内線用のアナログな電話を取り――音が、しない。
 カチャカチャと適当にボタンを押しても、受話器からは何の反応も返っては来なかった。

 次に私物の系帯電を取り出して、耳に当て――やはり音はしなかった。これは、どういう。

 ふと、思いつく。“そういえば”と。
 少し前に行われてたテレビ中継がぶつ切りになった。それは外部の何かが原因だと思っていた。
 けれど、それは、違う。
 “あの時から既に、ここで何かが起きていた”のではないだろうか?
 大規模なテロとか、暴走した能力者だとか、反学園都市の組織とか。

 だとすれば、ここにいるだけで、危険だ。これ以上踏み留まるべきではない――そうだ!自分には異常を外部に知らせに行かなければいけない!

 そう自分に言い聞かせながら、変わり果てた同僚の側を通――。

「――オイ、そこで何をやってんだ!?」

 第三者の声にビクリとしながら、“そういえば”と再び思う。

 どうして同僚が殺されてる必要があったのか?
 どうして自分は殺されなかったのか?

 血溜まりが“広がりつつあった”のを察するに、同僚が部屋のドアを一枚隔てた外で殺されたのは間違いない。
 ならつまり、そこまで犯人は来ている。

 この、目の前にいる少年の所までは。

上条「――聞いてんのかよ!?こっちに人が倒れてんだ!アンチスキルを呼んでくれって!」

上条(こっちの……あぁ、手遅れか。息をしてない以前に、この血溜まりじゃ)

社員「あ、う……ぁぁっ!」

上条「アンタ、おいっ!?待てよっ!」

社員「お、お前は何なんだよっ!?ソイツみたいに殺すのか、なあぁっ!?」

上条「あぁ!?」

社員「お前がやったんだろ!?お前以外に誰もっ!」

上条(錯乱してやがる……無理もないけど)

上条(バゲージでの経験がなかったら、俺も似たようなもんか)

上条「落ち着いて考えろよっ!俺がもしお前の同僚?かなんかを殺してたとして、わざわざ話をする意味がないだろ!」

上条「第一俺はお前みたいに汚れてないし!返り血を浴びずに、どうこう出来るってのか、あぁ!?」

上条(……人体切断なんて、能力か魔術で簡単に出来るとは思うけど、まぁそれ言ったらどうしようもないしな)

社員「あ、あぁ」

上条「だったらそのまま聞いてくれ!俺はこっちから近寄らない、いいかっ!?」

社員「あ、あぁ……」

上条「取り敢えず何があったんだよ?コイツは誰に殺されたんだ!?」

社員「わ、分からない!ソイツがコーヒー買いに行って、戻ってこないから探しに行こうと思ったんだ……」

社員「そ、そうしたら、ドアの前で!」

上条「アンチスキルに通報は?」

社員「出来なかったんだよ!有線がダメ!携帯もダメ!一体何がどうなってるんだ!?」

上条「落ち着けって!俺もよく分かってないんだから」

社員「お前は、誰なんだ……?」

上条「俺はバイトで観客誘導してたんだよ。島村さんだかって知らないか?スタッフの人で、『島村なのにユニクロ着てる』が持ちネタの」

社員「同期だ!俺と!」

上条「そうそう。んで、コンサート始まって休憩室――ロビーの脇んトコでテレビ見てたら、急に電源が落ちてな」

上条「何かホールや会場は無事なんだけど、こっち側の施設がダメになったみたいで。手分けして見回ってる最中だよ」

社員「明かりが?気づかなかった……」

上条「……何?」

社員「こっちはずっと電気は点いてるぞ……?」

上条「点いてる、って……?お前、そりゃおかしいだろ」

社員「な、何が?」

上条「――こっち“も”真っ暗じゃねぇか」

社員「……はい?」

上条「俺がマグライト持ってくるまで、照明なんて無かったんだぞ?今だって、ホラ」

社員「……」

上条「つーかお前、電気が完全に消えて、真っ暗闇になってんのにさ」

上条「何をどうやったら、お前の相方が死んでいたって事が分かるんだ?」

社員「見え、るだろう?ほらっ!電気なんか消えてない!」

社員「壁に持たれているのは上半身で!床に転がっているのは足でっ!」

社員「お、俺は外へ出ようとしたら、ぶつかって!それで驚いて!」

上条「……そうか。それじゃもう一つだけ聞いても良いかな?」

社員「な、なんだよっ!?」

上条「今の話から察するに、アンタはこっちの人に指一本触れてないようだが――」

上条「――だったらどうして、『アンタの体は返り血で真っ赤に染まっている』んだ?」

社員「……」

上条「内線が通じないのは当然だ。だってさっきからずっと停電してるんだからな」

上条「非常灯の明かりもここには届かないのに、どうやってアンタは俺を“視て”るんだよ!」

 少年の指摘に息が詰まる。欠損していた記憶が甦る。
 同僚は確か気の良いヤツで、喉が渇いたと呟いたのを聞いて自販機へ向かったんだった。

 けれど自分はその行為を無碍に踏みにじり、蹂躙し、ハラワタに顔を埋め。
 香しい血の臭い。恍惚とした一時を過ごしたのではなかったのか?

 “そういえば”と三度思う。
 忘れていた大事な事。それは。

「帰らなきゃいけないんだった――海へ」

上条「お前――クソッ!」

上条(皮膚が――鱗?急に緑色になりやがった!)

社員「ゲゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ!」

上条「よく分からねぇが――ぶん殴れば!」

パキイィンッ!

上条「ふう、これで元に戻る――ら、ない!?」 ガッ

社員「――ッ!アーァァァァァァァっ!?」

上条「何でだよっ!?どうして元に戻らな――」

パァンッ

上条(俺の後ろから軽い音が響き、それに合わせて男がノックバックした)

少女の声「うー、わんわんっ!がおーっ!」

上条(思いっきり状況に合ってない呑気な――というか、少し萌える唸り声が背後からする)

社員「ぐ、ぐぐ――!」

少女「あっちゃー、やっぱり効かないかぁ。この程度でどうにかなるんだったら『猟犬部隊』出す必要は無かったよねぇ」

少女「筋力の異常増大と知能の低下。テロには有効かも知れないけど、兵士としては無能って所かな?」

上条(女の子?能力者?)

上条(ライトを少し傾けると、丁度その子は右手に持ってた拳銃を無造作に投げ捨て、もう一方の何かを両手で構える)

上条(――ってかアレ、棒状の蛍光灯じゃないのか?どこかからひっぺかして持ってきたんだろうけど、武器になるとは思えない)

上条(相手は銃弾も弾く能力かなんかの持ち主、ぺきぺき折れるガラスの棒じゃ意味が無いだろ!)

社員「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

上条「危ない!」

上条(より優先順位の高い“敵”を見つけた男――だったモノ――が、四つん這いの体勢から獣のように跳躍し――)

少女「うん、うんっ!そうだよね、こんな時、『木原』ならこうするんだよね……ッ!」

少女「れーざーぶれーーーどぉっ!」

上条(そう言って彼女は持っていた蛍光灯を突き刺した。勿論レーザーでもブレードでもない、ただのガラスの棒を)

上条(男の大きく開けた口の中へ。口内から胃まで突き抜けるように)

ザク!ペキペキペキペキペキペキペキペキペキペキペキッ!

上条(当然、蛍光管は容易に折れる。男の口や気道や食道や胃の中で)

上条(無数の破片に姿を変え、内部から切り刻み続けるだろう)

男「――ッ!?アァ――――――……ッ!?」

上条(激痛が効いたのか、男は何も出来ずに固まってしまう)

上条「エゲツねぇ……つーか想像するだけで痛い」

少女「おーいえー?」

上条「褒めて――は、ないけど、とにかく助かった。ありがとう」

少女「お仕事だしねぇ――って、ごめんね?ちょっと右手出して、ね?」

上条「握手?」

少女「ううん。再チャレンジ、みたいなの」

……パシュー-……

男「……」

上条「あ、戻った」

少女「接触時間なのかな?さっきはダメだったみたいだけど」

上条「意識がないから、とか?この人、痛みで気絶してるみたいだし――ってお前」

少女「なぁに?」

上条「『さっき』って事は、もしかして傍観してやがったのかよ!?」

少女「うん……ッ!!!」

上条「全力で肯定しやがった!?」

少女「意味もなく危険に巻き込まれるお兄ちゃんを見てるとゾクゾクするよねっ!」

上条「しかも反省の欠片もないですよねっ!?」

少女「あ、でもでも。違うかも」

上条「何がだよ?」

少女「意味もなく、かな?わざわざ学園都市でする必要があったのかな?」

上条「もそっと簡潔に頼む」

少女「アリサちゃんは大丈夫なのかなぁ、って」

――多目的コンサートホール・控え室

「おはようございまーす……?お疲れ様です?」

 恐る恐る扉を開ける。しかし返事はない。
 先ほどは少しだけ言い過ぎてしまった。紛れもなく本音なのだが、立ち位置も生き方も違う相手に向ける言葉ではない。鳴護アリサはそう反省していた。
 人がどれだけ居ようとも、そして居なかろうとも他人は何処まで行っても他人に過ぎない。
 先輩には先輩の生き方があり、それを否定するのは良くなかったかも知れない。

 ……ただ、自分は厳密な意味で『ヒト』であるかどうかは、曖昧なままであるが。

 ともあれ謝るのであれば早いほうが良い。ライブ後にシャワーも浴びずに急いで戻る。
 幸いにも楽屋は他に誰もおらず、込み入った話をするのには丁度良いだろう。

 先輩グループの出番は大トリ、時間は充分にある。
 楽屋は小分けにした上、元々個室であった鳴護と相部屋だと聞かせられたのは前日。
 あれだけ大所帯だと色々あるんだろうなー、とぼんやりとは考えていたものの、まぁ邪魔されずに話をするのには良かった……と、思うべきなのか。

「えっと、ハマダさん?さっきはすいませんでした。あたしもなんか言い過ぎちゃったみたいで」

 鏡台の前に突っ伏している先輩に声をかける。しかし返事はない。
 寝落ちした――と、再度考える。そういえばネットで仕事量に報酬が見合ってないという記事があったか。
 CDを売ろうが握手をしようが、自分の所には何も入ってこない。事務所としても旨味がないんだそうで。

 激務の割にはリターンが少なく、かといって知名度を得るため――で、あっても卒業後に大成した話は稀である。
 あくまでも『ユニット』としては商品価値があるが、それを離れればファンが引いていく。それもまた現実だろう。

 そういう過酷な状況の中、しかも人気が露出に直結するようなシステムに於いて疲れない訳がない。一番の仲間であり、理解者である筈の同じグループが競争相手。それはつまり。

(身内が、敵……)

 少ないながらも、インデックスや上条当麻、シャットアウラのような知己を得ているだけ、幸せなのかも知れない。そう判断して今は声をかけるのをやめておいた。
 近くにあった自前の服をかけて上げよう、そう思って近寄ると。

 グラリ、と。彼女の体が真後ろに向かって倒れ込んだ。

「ちょっ――ハマダさん!?」

 まるでそれが糸の切れた人形のように無機質で。
 命の宿らないモノのようにあっけなく。

 彼女の手からポロリと落ちたブローチへ意識が行ってしまい。

「……これ、あたしの、だよね……?」

 だから鳴護アリサは理解するのに遅れた。
 あるべき所にあるべきものがついていない事に。

「どういう事ですか!なんであなたが私の――」

 だが返事は返ってこない。
 何故ならば彼女は――彼女だった“モノ”は。

「私の、ブローチ、を……」

 ――下顎を引き抜かれて、絶命していたのだから。

――同時刻 『必要悪の教会』女子寮

神裂「『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』」

神裂「『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』」

神裂「『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』」

神裂「『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』」

神裂「『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』」

神裂「『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

神裂「『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』……ですか」

アニェーゼ「よく分からねぇ内容ですがね。電波さんにしちゃ、随分と……なんか、違うって言うんですか」

アンジェレネ「で、ですかねー?わたしにはタダのアレな手紙にしか思えませんけど?」

ルチア「どうでしょうか、神裂さん?」

神裂「脅迫文の体裁を取っては居ますが、内容は無いよ――無いみたいですからね」

神裂「『星を射る』だの、『竜尾』だのありますが、具体的な被害がなければ特段の対応を取るべきでないでしょう」

神裂「しかし少し気にかかりますね。特に星がどうこうの下りは」

シェリー「確かにな。今丁度アイソン彗星が来ちまってんだし」

アンジェレネ「た、楽しみですよねーっ!」

シェリー「違ぇよ。そうじゃなくって、昔っから彗星ってのは凶事の予兆だっつわれてんだよ」

シェリー「ギルガメシュ叙事詩然り、ヨハネ黙示録然り。後は……近年のヘヴンズ・ゲートの集団自殺事件か」

シェリー「日本でもハルマゲドン起こそうとしたテロあっただろ?バカどもが引き金にしたのも彗星だったんだよ」

神裂「それらを同列に扱いのはどうかと思いますが」

シェリー「一応それ自体は氷か塵の塊だって話だけどなぁ。魔術的には『天体図の配置を乱す』って訳で、的外れじゃない」

アニェーゼ「そうなんですかい?」

シェリー「昔っから星、天体ってのはそれ自体を暦にしたり、神話を作ったりしてんだろ?」

シェリー「そこに普段とは違うイレギュラーが入っちまうと、どうやったって不協和音の元になっちまう」

神裂「イギリスではストーン・ヘンジ、アジアではピラミッド、アメリカでもマヤのピラミッドなど、天体と連動した施設は古くからありますしね」

神裂「日本でも伊勢神宮を筆頭に、出雲大社(おおやしろ)や各地の星宮神社。果ては天津甕星に至るまで多種多様と」

シェリー「そいつぁジャパンが他民族からの侵攻を受けていなかった事。後、宗教的なキチガ×が少なかった、てのか理由だな」

シェリー「ともあれ、それらが儀式魔術に使われていたのは想像もつくしなぁ。ま、詳しくは暇な時オルソラに聞きなさいな」

神裂「丸投げですが……それで?専門家としての意見はどうですか?」

シェリー「あー……ぶっちゃけ、ニューカルトと同じだろうよ。『危険だ危険だ』つって煽って信者こさえる方法」

シェリー「『××年後には世界が終わる!』って煽るだけ煽る」

シェリー「『そのためには“俺が考えた××”するしかない!』って結論づける手口だ」

シェリー「どっかのバカが血迷ってこっちにまで送りつけてきた、ってぇとこじゃねぇの?」

神裂「で、しょうかね」

シェリー「……ま、実際に何か起こるってんなら要注意だろうけどよ。それが無いウチは放置――ってメシ遅ぇな」

神裂「用意して貰ってるのにその言いぐさはどうかと思いますが」

シェリー「良いんだよ。ダチに何言っても、そりゃそーゆーもんだからな」

神裂「そう、でしたっけ?シェリーさん、こんなに打ち解けてしまたか……?」

シェリー「おーいオルソラ――って、テレビつけてどうしたんだ?どっかでテロでもやってんのか?」

オルソラ「いえいえ。そういう訳ではないのですよ」

ルチア「しかし速報が出ていますね。何々――」

アニェーゼ「『アイソン彗星、その大半が消失』……?」

アンジェレネ「へ、へぇー。見れなくなっちゃったんですかー」

一同「……」

アンジェレネ「あ、あれ?皆さんどうしました?」

シェリー「神裂!そいつを出した奴らはなんて!?」

神裂「待って下さい!えっと――」

神裂「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

神裂「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん――』」

神裂「『――我ら“濁音協会(Society Low Noise)”の名の下に』」


-続-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を


読みにくいけど面白い

乙です!
『新たなる光』の面々は出るのですか…?

>>39-42
ありがとうございます
>>42
次の章から参戦します。まぁシリアスっぽいハーレムもんみたいな、えぇ

あ、断章の人かな?
続き物だったりするのだろうか…

新作キタ━━(☆∀☆)━━!待ってました!

この作者さんのSSにはどれも原作っぽさ、鎌池らしさがある
あまり他のSSでは見ない魔術サイドのキャラをキャラ崩壊させず違和感なく上手く動かせる作者さんの手法に脱帽
原作禁書を相当深く読み込んでる事が分かる

そして読む度に思うんだがこの作者さんは本当に博識だな
世界の神話、説話、童話、民話、民謡、都市伝説、そういった民俗学?の類に相当精通してる
そればかりか漫画やらゲームやらのサブカル全般もバリバリ
幅広い知識と造詣の深さに嫉妬を禁じ得ない

>>46
作者さんの過去作が全てまとめられてるHPが放課後綺譚になっててビビったwwwwwwww
PCがバグったのかと思って慌てたわwwwwwwwwwwwwwwww

ああ、雑談スレに突撃してきた人か
ssの内容以前に>>1の気持ち悪さが露呈してるから、あんまり読む気がしないわ

>>49
何について?

>>50
そういう事をわざわざ言いに来るお前も十分気持ち悪い

雑談スレ?
ああたまに開いてみりゃキャラディスばっかしてるスレのことか

――次章予告

「――まぁ、なんだ。怖い話ってモンはある程度定番みたいなのが決まっていてだ」

 唐突に、そう何の脈絡もなく男はそう切り出した。
 EUが誇る高速鉄道の個室、いつの間にか正面に座っている。うたた寝をした訳でもなく、特にモバイルを弄っていたでもないのに。

 ほんの僅か、窓の外の流れる風景へ目をやっていたら現れた――などという話ではない。
 ノックをするかしないかは置いておくとしても、彼は堂々とドアから入ってきたのだろう。

 それそこ幽霊でも無い限りは。

「必ずイイ格好見せようとするC君とか、見た瞬間何が憑いてんのか分かっちまうスーパー住職とか」

「他にもアレだ。バカでお粗末なガキを村民総出で助けた挙げ句、村の秘密を親切丁寧にペラッペラ喋る巫女さん」

「でもって命を助けられながら、『所々フェイク入ってるけど』とか言って、ネットで拡散させる恩知らずもお約束だ」

 流暢な言葉で、時々意味不明の単語が入る。響きからするとアジア?
 男の見た目は西洋系、イタリア辺りに多い、やや浅黒くて精悍な顔つきをしている。

 ただし軽薄そうな笑みと着崩したスーツが全て話題無しにしていたが。

「つーかさつーかさ、俺いっつも思うんだけど寺――Church?の息子とかいんじゃん?なんか知んないけど、スッゲー霊感高いの」

 こちらの当惑はお構いなしに話し続ける。話しかけているのだろうが、見覚えはない。

「今更血統主義でもあるまいし、修行も何も詰んでない奴がおかしくね?出家してるっ訳でもねーしさ」

「そもそも仏教――ブッティストって確か、ガキ作るの禁止だったよな?明らかに色欲に負けまくってんだけど、そんなクズにも神様は手ぇ貸すん?」

「まぁ?そこいら辺はウチらも人の事ぁ言えねぇ――じゃねぇな。何の話だっけ?」

 とはいえこの客室には二人しか居ないのだから、独り言にしてはおかしい。不気味すぎる。

「なんか怖い話とかってさぁ、作り物って分かった瞬間冷めるってあるよな?いや基本フィクションなんだろうけども、だ」

 “基本フィクション”の所で男の笑顔に影が差した――気が、した。
 どこか、なにがか、は分からない。

「中でもいっちばんムカつくのが、『話している本人が被害者』ってパターンだよ。そこは譲らねぇし」

 ただ、少し。心の底へ何か、ピンのようなものを打ち込まれたような違和感。
 まるで目の前に居る男が、どこか作り物めいて人によく似た人形にすら思える。

「……そうだな。じゃあ一つ話をしようか。俺が大っ嫌いな『作り物の話』をだよ」

 コンコン、と彼は窓ガラスを二度叩く。

――

これはある子供の話なんだが――そうだな、名前……どうでもいっか。どっちみち死ぬんだし

オチ言うな?いーじゃん別に。これはそーゆー話なんだからな

ジャンルとしちゃ、あー……アレだ、『語り手が死んでんのに、なんで話が広まってんの?』系だな

だよな?語り手居ないんだから、それこそ霊媒師でも呼ばない限りは分からない

……で、だ。可哀想な子供の話に戻るんだけどな

この子供――あぁ少年、ってしておこうか。色々とアレなご時世でアレだから

……ま、どっちでもヤバい奴はあんま関係ねぇんだ。むしろ俺ら的には少年の方が使いやすいっつーか

牧童は兄に弑されて、神へ供物として捧げられせる運命だしなー……それが真っ当な神様とは限らねーけど

あー、いやいや?こっちの話こっちの話。何でもねぇよ

それでどこまで話したっけか?全然?マジかよ

あー……おけおけ、そいじゃ話を続けようか

少年の名前なんだっていい。気になるんだったらお前ん中では好きに呼びゃいいさ

少年の家は、アレだな。どっかの田舎町にあんだよ

空気が良くって、緑が多くて――そのくせ住民は排他的、とテンプレ的な田舎町

そこへ一家が引っ越しする所から話は始まる

もしかしたら家族の誰か、少年が病気だったのかも知れねぇし、単にじーちゃんちがあっただけかも知れない

可能性としちゃ母親が暴力振るう旦那から逃げてきた、のはアレか?少年に取っちゃ不幸なんかねぇ?

両親が揃ってりゃいいってもんじゃねぇけどなー。だからってアル中ヤク中の親父が居ても不幸になるだけだし

……ま、大人の思惑は色々あるだろうけどさ。都会じゃ味わえない醍醐味みたいなのに、少年は喜んでいたんだわ

大人同士ではイマイチ上手く行かなくても、ガキ同士なら一緒に遊んでいる内、仲良くなるだろ?

そっから大人を通じての付き合いも広がったりして、まぁまぁ楽しく過ごしてたんだとさ

けど、だ。どこの町でも、どこの村でもタブーの一つや二つはあるんだわ、これが

例えば決して近寄ってはいけないと言われている『家』とか

日が暮れたら避けるように勧められる『桟橋』とか

どんな飢饉に見舞われても入ってはいけない『森』とかがな

理由を聞くと大人達は顔を見合わせた後、見た事無いような怖い顔で、「ダメなものはダメなんだ!」って怒鳴るような

そんな、場所がだ

そして少年の住む村にも『それ』はあった。居たっつーべきか迷うけど

『それ』が何かは分からない。いつからあったのか、どこから来たのか

気がつけばそこにあったと人は言うし、呼ばれた者は帰っては来なかったんだよ

とにかく『廃屋』か、『桟橋』か、『森』か。そのどれかへ少年は不用意に近づき――

――『それ』を見てしまったんだ

朽ち果てた家具の中で埃に真新しい跡をつけて這いずる『それ』を

月の無い夜空に川面から桟橋に触腕を伸ばす『それ』を

鬱蒼と茂る木々の間からどんな動物にも似ていない咆哮を上げる『それ』を

……少年は慌てて逃げ出した。後ろも見ずに、前も見ずに

背後から唸り声を上げて迫ってくるのが、何であるのかも知らず

……どこをどう走ったのかは分からない。少年は全身泥だらけになりながら自宅へとたどり着く

家族は尋常じゃ無い様子を見て驚き、母親は何も聞かずに風呂を入れ――る、前にだ

どんどんどん!どんどんどんどん!

誰かが激しく戸口を叩いている。青ざめた表情の母親は少年に隠れているよう言い聞かせたんだ

「いい?わたしがいいって言うまで隠れていなさい!」

「ノックを二回、二回、一回の順番にするから!それまでは絶対に出て来ちゃいけない!」

そう母親は言い聞かせられ、少年は自分の部屋に隠れる事にした

どこに隠れたのか?それは俺も知らないよ。だって俺少年じゃねーもの

つってもまー、そうだな。ベッドの下?クローゼットの下?

少し意表を突いて天井裏?ロフトっつーと意味合いは少し違ってくるが、まぁ隠れたんだろうさ。母親の言う通りに

その時、少年は確かナイフか何か、刃物を持っていたんだってな

悪い知り合いから貰ったのか、親のをちっと拝借していたのか、それとも誕生日プレゼントだったのか

場合によっちゃ母親を助けに行く気満々だったらしい。らしいってのは推測だからな

実際には来なかったんだけど。来る気も失せたんだろうし

最初は悲鳴。それが誰のかは想像にお任せするが、次には奇妙な音

こう、アレだ。くっちゃくっちゃ、的な?

……そうだよ、ガムとか噛んだりする時のアレだ

ぶっちゃけ、他人のそういうマナー違反は殴りたくなるぐらいムカつくわな。つーか殴る事にしてっけど

でもまぁ普通はさ、まず聞こえねぇじゃん?同じ部屋で静かにメシ食ってるとか、そういう時でもない限りは

それが聞こえてきたんだよ。隠れている部屋とは全然遠いってのに

どけだけデカい音立ててんだって話だわな、これが

ま、年端もいかねぇガキの心折るには充分だったようで。少年は隠れている所から一歩も出ずにブルってた

それが良い事なのか悪い事なのかは分からねぇ。何度も言うようだけど、俺は少年じゃねーから

ただまぁ気がつくとさ。増えてるんだよ、呼吸が。一人分

真っ暗な部屋の中で、聞こえるんだって、誰かの息を吐く音が

自分しか居ない筈の部屋に。いつの間にか入って来てたんだ、『それ』が

こん、こん

二回、ノックする。まさに少年が隠れている、その扉を

こん、こん

また二回だ。お母さんだ!お母さんが助けに来てくれたんだ!

こん、こん

間違いだ。きっとお母さんは間違ったんだろう!だからきっと次は――

ガリガリガリガリポリガリガリガガガガガガガガカッ!!!

――

「――翌日、近所の人間が様子を見に来たんだが、少年の住んでいた家には誰も居なかったんだそうだ」

「以上でこの話は終わり――って何?怒ってんの?なんで?」

「いやいや。これまたお約束じゃねぇか。最後はデカい音出してビックリさせるってのも、パターンの一つだぜ」

 悪びれもせずに男は笑う。定番と言えば定番の展開ではあるが、急に大きな声を出されれば誰だって驚く。
 それこそ話の内容は関係ない。

 こんこん、こんこんこんこん。

「うひょうわぁっ!?」

 ノットされたのは客室のドア。何故か語り手の方、男が盛大に転んでいた。

「――すいまっせーん……?今の声、ウチの愚兄が――って、何やってんですか兄さん?」

 入ってきたのも同じ顔、ではないがよく似ている。こちらは兄と呼ばれた方と違い、着崩していないため、ビジネスマン風に見える。

「べ、別に何にもしてねーし!これはちょっと時間より早かったらビックリしただけで!」

「あー、はいはい。その話は向こうで聞きますから。つーか団長と安曇さん待たせて遊ばないで下さいな」

 腕を取って起き上がらせる弟。こちらの視線に気づくと綺麗なお辞儀を一つ。

「いやなんかすいません。ウチの愚兄がご迷惑かけたようで」

「人をどっかの怪談オヤジみたいに言うんじゃねぇ」

 怪談話――というか、この中途半端なホラー映画にありそうな展開は、兄の方の作り話か。それはそうだろう。
 この話で語り手たる『少年』は居なくなってしまったのだから、この物語が成立する訳は無い。

 それは当然だ。

「てな訳で僕らはお暇します。失礼しました……って、ほら兄さん、自分で立ちなよ」

「『それとも俺にくっついていたいのかよ?とんだ淫乱だな!』」

「兄さんそーゆーネタ振り止めよう?こっちはマジモンの人達多いんだから、洒落にならないんだからね?」

「あとその設定だと僕らゲイな上に変態もこじらせているから、ドラ乗りすぎじゃないかな?もっと属性控えめでもいいじゃない」

 仲が良い兄弟だか双子は客室を後にする。
 妙な訪問客はもうご免なので、再び鍵をかけようと彼らを見送ろうと戸口まで歩く。

 あ、そうそう言うの忘れてた、と男は嗤う。

「今のは『語り手たる被害者が消え、存在が矛盾する』ってパターンだったが――」

 さぁっ、と窓の外の景色が黒一色に塗り潰される。海底トンネルへ電車が乗り入れたのだろう。

「――実はコレ、逆の立場ならきちんと成立すんだわな」

 プシューと閉じられたドアに遮られ、その表情は見えなかった。
 今のはどういう意味だろうか?

 男が語った話では生還者はいない。少なくとも話が出来る人間は消えてしまった。
 主旨からすればモンスター的な何かに、という事だろう。冷静に分析するのもアレだが。

 翌日、少年の家を訪れた村人が語る……?それはない。村人は少年では無く、事件にも巻き込まれていないのだから、語るのは不可能だ。
 出来て精々なのは推測に過ぎない。状況証拠を積み重ねて、こうであると想像するだけだ。

 何故ならば当事者ではないから。少年やその家族と違って。

 違って……?当事者じゃないから、哀れな被害者ではない……。

 ……いや、そうじゃない。あの話に出て来たのは何人だった?

 少年、母親、祖父。家族が他にも居たとして数人か。
 事件の『被害者』は確かにそれだけだ。他には居ない。

 けれど事件の『加害者』側はどうだろう?

 事件を知る事が出来るとすれば、もう一人。加害者たるモンスターは可能だ。
 少年を追いかけていた側、得体の知れない何か、後日誰かに語ったとすれば――。

こんこん

 びくり、と突然のノック音に体が動いてしまう。何はバカな、と慌てて取り繕う。

 きっとあの少々趣味の悪い兄弟か、または車掌でも来たのだろう。
 場合によっては鉄道警察に突き出す選択肢も考えながら、ドアを開けた。

 ……、……?

 しかしそこには誰も居ない。悪戯だろうか?首だけを出して見渡すが……近くにそれらしい人影はなかった。

 通路には少々不釣り合いなぐらいな光が点っているものの、それに映し出される乗客の姿はない。遠くの方、前の車両の方からは喧噪らしきものが聞こえてはくるが。
 少し前まで廊下を誰かがバタバタと駆けていたのに辟易していたのに。

 ……いや、『居なさすぎる』、か?
 個室は限りなく満員に近かった筈なのに。
 どうしてここまで周囲が静かな――。

こん、こん

 予想に外れてドアを開けたままでもノック音は止まなかった。
 それは決して隣の部屋から聞こえたものでも、テレビやモバイルから聞こえてきたものでは無い。

 また隣室や近くのドアを誰が叩いている訳でも無く、それはとても近くから。
 そう、それは今、丁度背を向けている後ろ側、窓のある辺りから響いている。

こん、こん

 時速数百キロで走る。EUが世界に誇る高速鉄道の車両の。

こん、こん

 外側から。誰かが。
 絶対に聞こえてはいけない筈の音が!声が!
 完全防音に近い窓ガラスを経ても尚、自身の存在を誇っていた!

「てけり・り」

 グシャア、と名状しがたい粘液の塊がガラスを突き破り、全てを呑み込み――。

「――お待ちなさいっ!!!」

ドゥンッ!

 狭い室内で火炎が炸裂する――が、周囲へ撒き散らす事もなく、不自然な方向へと収束していく。
 粘液の塊は溜まらず再び外へと放り出される。常識的に考えれば衝撃で一溜まりもないだろうが、何故かこれで終わっていない確信があった。

 それでも一応は恩人らしき――原理は不明だが――彼女たち。お揃いのユニホーム、一番前にいた黒髪の子に声をかけようとした。

「いつもニコニコあなたのお側に這い寄――」

 ベキッ、と側に居た背の高い女生と少女の中間ぐらいの子が、すかさずその頭をシバキ倒す。

「アンタって子はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!それさっきからスベってるって言ってるのだわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぎぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?予想外の戦闘でテンパってますよ!誰か助けておかーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 ……何故か頭をグリグリと締め付け始めた?余裕がないのは理解出来るが。

「いやぁワケわかんないだろーけど、実はワタシらにもよく分かってなかったり」

 今一やる気のなさそうな子が槍を肩にかけてぼやく。が、その視線は言葉とは裏腹に周囲に警戒していた。
 どう答えたものか迷っていると、最後尾の――ネイルアートを盛りすぎたような『爪』をした少女が、二人に注意を促す。

「ふ、ふひひっ!やっぱダ、ダメみたい。ひひっ」

 良く言えばくすぐったそうに。悪く言えばドラッグ的なものをキメているように。

「あ、『あれ』は相当強いバリア的なものを張ってる感じ、私じゃ感知は無理っぽい」

「何なんだろうね-、『あれ』。どう見てもゴーレムにしか見えないんだけど――もしかして!?」

「はいはい、陰謀陰謀。学園都市もイギリス清教とローマ正教のど真ん中で実験かますほど終わってはねぇわよ」

「あ、今『やるかも?』って思ったっしょベイロープ?」

「だから名前を!呼ぶなとっ!言ってぇぇぇぇぇっ!」

「たーすーけーてーっ!?つーか担当違う!?シバかれるのはレッサーだってば!?」

「だーかーらぁぁぁぁぁっ!!!」

 ふう、と頭グリグリ攻撃からようやく逃れた黒髪の子が、手櫛で乱れた髪を整える。

「んじゃま、私達も本格的に武力介入するってぇ事にしましょうか。どう見てもこちらさんカタギですしね――でわでわ」

 こめかみにはしっかりと跡を残しつつも、何故かキメ顔でこう言った。

「古きものはより古きを誇り、朽ちるものは朽ちるがままに――」

「――されど千夜に褥を重ねようとも、旧き燭台の火は消えず――」

「――『ブリテンの敵』に報いの慟哭を、願わくば安寧の死を――」

「――『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」


――次章『狂気隧道』予告 -終-

今週は短いですがこの辺で。お付き合い頂いた方に感謝を

>>44
断章書いた中の人です
一応リセットした別の話です。てか他のも基本そうじゃないと酷い事に。例えば

『アイテム』の続きだと“強くてニューゲーム”
『学探』じゃ“佐天「どんなシリアスもギャグでgdgdにする能力かぁ……」”状態
『向日葵』は“あの後二人でセカイにケンカ売る”ので無理
『村』は無かった事にしたい。他ジャンルのSSは書いた事もない

特に『断章』の続き物だと、魔術・科学両方の専門家&組織力持ってるからお話になりません
いや話も出来るし楽しそうですが。バランス的なモノが崩れるのがまず一つ
マークさん以下多数の実戦派(魔術師なのに忠誠心高い)多く、“本気で活動”するのであれば、グレムリン並みの勢力にもなり得ますし
(“グレムリンでは無く、『明け色の陽射し』が敵になったSS”も楽しそうですが)
そして何より問題なのが、あれ以上バードウェイさんの好感度上げると……うんまぁ、大人になるんですね、色々な意味で

去年の第四四半期頃、寝ても覚めてもバードウェイさんを考えていたら、こう癖(へき)的ものがですね。知らず知らずに一速に入ってたみたいな
こないだ『英雄×戦○G』ってゲームの伊達政○のニーソ見て、「あれ?俺の癖変わってる?」と気づいた時の絶望感と来たら、えぇもう

ってかネタで作ったADV、上司に「アップローダってどこがいいの?」と訊ねた所、
「Ryushareが熱いよね!」と言われたのでアップロードした所、僅か5日後にサービス停止……
私、悪くないですよね?

>>51
それタダの荒しですね。”Dts77xAd0”でグクってみると

>10 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 00:29:34.89 ID:Dts77xAd0
>そもそも原作の白井が一般人が無闇に事件に首を突っ込むことを良しとしない性格なのに、好き勝手やってるのに凄い違和感

>610 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 18:34:07.85 ID:Dts77xAd0
>荒らしはともかく、批判は普通の読者から出てもおかしくないような内容だからな
>まあもう来ることもないだろうし、今さら気にしても仕方ない

>50 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 19:15:31.27 ID:Dts77xAd0
>ああ、雑談スレに突撃してきた人か
>ssの内容以前に>>1の気持ち悪さが露呈してるから、あんまり読む気がしないわ

>21 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 19:16:57.56 ID:Dts77xAd0
>寧ろ原作読んでるからこそ、こういうことが起こってもおかしくないと思ってる自分がいる

>43 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 21:41:37.52 ID:Dts77xAd0
>さすがにほかの人が書いたssをまるまるコピペするのは
>人として最低限の礼儀くらいはわきまえようよ

んで日付変わってIDリセットされて>>55で自分のレスにアンカーつけたんだと思います

>>50
あーうん、面倒臭いからぶっちゃけるな?
詳しくは別スレ↓でも書いたんだけど、お前そんなに俺嫌いで書いた物気に入らねぇんだったら、自分で書けよ
つーかあっちで粘着してんのもお前じゃねぇのか
(禁書・超電磁砲ss雑談スレ6の>>435-436)
禁書・超電磁砲ss雑談スレ6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392298695/))

んでお前が書いた「気持ち悪い」ってのは、『第三者が俺の内心を勝手に決めた』事に対して反論しただけなんだけどな

乙、次回も楽しみにしてます

あと上でも言われてるけど、確かにあまり余計なレスはしない方がいいかも
ssの内容以前にこういう部分が荒らしの元になるから
自覚があるか分からないけど、一々こんなこと書いてるから繰り返しになっちゃう
たまに言われてることだけど書き手は必要最低限のレスをするのが読み手からも好まれるらいしよ

また見るの遅れた……(  ω )

雑談スレ6も見てきたけど、……基本正論だった気がする
あと、キレちゃうのも仕方ないよね、我慢の限界ってあるもの。論破で潰すのはこっちも気分良かった(*´ω`)b

田中(ドワーフ)さんもSSも好きだから、次回も楽しみに待ってます

すいません、色々とご迷惑をおかけしています
誤解されている方もいますが、批判された事に反論した訳ではありません

「インデックスが嫌いである」と『私の内心を勝手に決め付けられ、それが事実であるかのように言われた』のに対して反論しました
雑談スレにも書いていますが、それは『作品批判ではなく作者批判であり、差別だろう』と
作品が嫌い、面白くない、つまらないと言うのは勝手。しかし『私がインデックスを嫌いだという決め付けはやめろ』と

批判は受け止めます。反論もしません。誰がどう考えようとも、この国では自由ですからね
しかし『誰それが嫌い(しかも証拠が無い)』は『中傷』であり、私は受け入れられません


で、何よりも気に食わないのがもう一つ
実際に私のスレをご覧になって頂ける方は多分他の方のレスも読んでいると思いますが、
ほぼ必ず『>>1はインデックスのヘイトだからな』と書き込みがありましたよね?
それが今回は無いんですよね。『アイテム』のスレから『断章』までヘイトヘイト言い続けた相手が来ない

その代わりに>>50の「気持ち悪い」と。多分こっちもあっちも同じ人なんでしょうが、結局、

『インデックスのファンだったのではなく、フリをして人格攻撃していた』

と『論破されたから今度は”気持ち悪い”に切り替えた』のが気に入らない
禁書ファンとして、ファンのフリをしていたのが絶対に許せない。それだけです


とはいえ『作品も書かず、トリップも名乗らず、自身の作品を誇れない相手』に構うのは確かにやりすぎだったかもしれません
結果としてスレがSS以外で荒れるのは良くないでしょうし、気分を害された方に心からの謝罪を。大変失礼致しました
出来れば以後、この話題は持ち出さないように宜しくお願い致します

あと、皆さんが賛否両論色々と書いて下さったのはとても嬉かったです。ありかとうございました



――胎魔のオラトリオ・第一章 『狂気隧道』

――回想

――ロンドン ブロムリー特別区 コンサートホール

チャンチャンチャンチャンチャン

鳴護『――僕は忘れないよ。君が宝物だって事が』

鳴護『――だからもうサヨナラは言わない。もう必要がないから――』

鳴護『――君はきっとこう言ってくれよね――「おかえり」って』

鳴護『――僕は忘れないよ。君が宝物だって事は』

鳴護『――僕を全部あげるから、君をくれないか?』

鳴護『――君だけは僕がずっと守る――!』

チャン、ジャジャーン……

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『イギリスの皆さんコンニチワーーーーーっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『元気でっすっかーーーーーーーーーーーーーーっ!?』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『いいよね、元気って!うん、あたしはちょっと飛行機、速すぎたんだけど――』

鳴護『みんなと逢えるって思ったら、テンション上がってへーきだったみたいだよーーーーっ!』

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護『ありがとーーーーーーフランスーーーーーーーーーっ!!!』

オ、ォォォォォォォォォォォォォォッ!?

鳴護『……えっと』

鳴護『そ、それじゃ次の曲――』

――コンサートホール控え室

上条「間違っちゃった!?最後でイギリスとフランス間違えてんぞアリサっさーん!?」

シャットアウラ「……」

上条「いいの?ボケがダダ流れの上、MC100%日本語でやってんだけどさ?」

上条「てか前から思ってたんだけど、アリサって結構天然だよね?頭に『ド』が着くぐらいの」

シャットアウラ「問題ない」

上条「そ、そうかな?」

シャットアウラ「アリサは可愛いからなっ!!!」

上条「やっべー問題しかねぇよ!?この姉にしてあの妹って感じで!?」

シャットアウラ「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ガシッ

上条「な、何だよ!?お前らまだ仲良くないのかよ!?」

シャットアウラ「『似たもの姉妹』だなんて、て、照れるじゃないか……!」

上条「うん、まぁ仲が良いのは結構なんだけどね?結局、そこに着地したんかい」

シャットアウラ「妹を愛さない姉など居ないっ!」

上条「……キャーリサに聞かせてやりてー……バードウェイは……まぁ、仲は良いよな。仲は」

上条「雲川先輩……は、うーん……?」

シャットアウラ「姉というものは大概にして妹可愛さに暴走してしまうものなんだよ」

上条「そりゃいい事だと思うけどさ」

シャットアウラ「妹を迷わす悪い男が居るんだけど、排除してもいいよな?」

上条「何さらっと言ってんの!?つーか俺むしろお前らのケンカ仲裁した立役者じゃんか!?」

シャットアウラ「それはそれ、これはこれ」

上条「うん、意味は分からないけど、俺達の敵対関係は解消してないって事ですかね?」

シャットアウラ「よくもまぁヌケヌケと顔を出せたものだなっ!」

上条「違うよね?俺達学園都市からずっと一緒だったよね?」

上条「夜中に襲撃喰らってインデックスとSUMAKIにされて、超音速飛行機で輸送された上、引き離されたんだけど」

上条「ってかそろそろ俺達、学校とかあるから一緒に帰りたいんですけど。つーかおウチ帰して、な?」

シャットアウラ「すまない。そろそろ時間だ」

上条「……何?」

シャットアウラ「このままお前がここに居ると、アリサが着替えられな――ハッ!?まさか!?」

上条「多分イマお前が考えてる事は違うと思うよ?俺、どんだけゲスいんだって話だからね?」

シャットアウラ「『だ、ダメだ……アリサ!私達は姉妹なんだから……!』」

上条「ゲスいけど俺登場してないよね?出演オファーすら来てねぇからな」

上条「……ってかちょい見回りしてくるわ。しないよりはマシだろ」

シャットアウラ「ダメだダメだダメだ!」

上条「何?狙われてんのは俺じゃなくってアリサだろーが」

シッャトアウラ「『ま、まぁ血縁じゃないし?』」

上条「ごめんな?俺ちょっと席外してるから、うん?ゆっくり妄想してってな?」

――ホール エントランス

アニェーゼ「あ、お疲れ様です」

上条「おっす、お疲れ様――って、日本っぽい挨拶だよな」

アニェーゼ「神裂さんに習いましたんでさ」

ステイル「……ちっ」

上条「ステイルもおっつー。ってかあからさまに機嫌悪そうだな」

ステイル「君に会う時は今まで上機嫌だった事はないし、これからもそうだろうけどね」

上条「相変わらず俺の扱い雑だな。って?」

アニェーゼ「……これが本場のツンデレですかいっ!?」

上条「そんな要素なかったよね?俺あんま言いたくないけど、本気で嫌がられて結構ヘコでるぐらいだし」

上条「ってか今回のこれ、どういう流れ?いい加減拉致られるのも、トラブルに放り込まれるのに馴れたけどさ」

ステイル「……うーん。なんて言ったもんかな。君にも説明はすべきなんだけど」

上条「魔術師じゃないから理解出来ないってのかよ」

ステイル「そっちは期待していないから大丈夫だよ」

上条「そっか!期待されてないから大――あれ?今スルーしちゃいけない単語が……?」

ステイル「ってか君は持ち場に戻る時間じゃないのかい?異常は無かったんだから、そろそろ戻りなよ」

アニェーゼ「分かりました。そいじゃまた後で」

上条「他の隊の連中も来てんだ?だったら挨拶したい――」

ステイル「――って待て待て、君は行くなよ。話はまだ始まっても無いんだから」

上条「長いの?」

ステイル「長い、というよりは――『よく分からない』が、正解かな」

上条「敵がはっきりしてないのか?そんなのいつも事じゃねぇか」

ステイル「いや……場所を移そう。ここじゃちょっと」

上条「なんで?別に誰かが通るって訳じゃ――」

アンジェレネ「(う、うわーっ!アレですよっ!あの二人、人気の無い所へ行くつもりですって!)」

ルチア「(しっ!静かにシスター・アンジェレネ!今いい所なのですから!)」

アニェーゼ「(やっぱり敵味方ってぇのが萌えるんでしょうかねぇ。王道っちゃ王道ですかい)」

アニェーゼ「(ステ×上?いやいや、上条さんはある意味オールラウンダーっぽいですか)」

上条「……ごめん。早く行こうか」

ステイル「……流行ってるらしいんだよ、神崎が言ってた」

ステイル「それに館内じゃ煙草は吸えないからね、丁度いい」

――コンサートホール 喫煙所?

上条「吹き抜けの、中二階?」

ステイル「元々はオペラハウスだったからね。ここからステージへ荷物を運んでいたそうだよ」

上条「いや搬入口使えよ。こっからだとクレーン使わないと無理だろ」

ステイル「昔はなかったから、天井に滑車を架けて――日本の『釣瓶』みたいにしたそうだよ。ほら、あそこに跡がある」

上条「ホントだ。でも遠回りになんねぇの?」

ステイル「舞台セットを作る時、特に大がかりな物であればあるほど、時間がかかるだろう?」

ステイル「けれどステージをずっと占拠して作り続ける訳にはいかない。支配人は他の出し物で稼ぎたいからね」

上条「……あぁ!だからステージとかを余所で作って小分けにして!」

ステイル「人が通る入り口じゃ狭いから、上から吊って出し入れをすると――って、僕が懇切丁寧に説明してやる義理も無いんだけど」 シュバッ

上条「おいっ館内禁煙って」

ステイル「あぁ心配はいらないよ?ここに火災報知器は無いから」

上条「いやそーゆー脱法的な事やってるから、普通の喫煙者まで嫌われる訳で……ま、いいけどな。それで?」

ステイル「あー……どう話したもんかな。全てはこの手紙が『必要悪の教会』に届いた時に始まった」 ピラッ

ステイル「……いや、そうじゃないかも知れないな。それはきっと、ずっと前に始まっていたのかも知れない」

ステイル「潜水艦のようにずっと潜り続けていたのが、急浮上したかも知れないね」

上条「……これは!」

ステイル「神裂が日本語訳をしておいたから、君にも読める筈だけど?」

上条「今の必要かな?ここで一本ギャグ挟む必要なくないか?」

ステイル「まぁ、電波だろ?」

上条「『星を射る』とか、『簒奪』とかな。中二病をくすぐるけど、意味が分からない」

ステイル「まぁその類の妄想系犯行予告は定期的にウチへ届くんだけど。決定的に違っていた事が一つ」

ステイル「丁度アイソン彗星がその大半を失った日と同じなんだよ」

上条「……はい?」

ステイル「つまり、手紙を受け取ったその日、予告した通りに彗星を撃ち落と――しては、ないけどね。欠けたのは事実だね」

上条「……いやでも違くないか?あれ、太陽に近づきすぎただけって事だろ?」

上条「つーかその瞬間見たぞ俺、真ん中に丸っぽいアレがあって全部は見えなかったけどさ」

ステイル「認めたくは無いが、今の学園都市はありとあらゆる科学技術の最先端を行く」

ステイル「この間、確か宇宙が誕生した時に発せられた重力波、だかも観測したんだっけ?」

上条「そうなの?あー、バードウェイの読んでた本に書いたあったような?」

ステイル「……宇宙は国境が定められていない分、アメリカを筆頭に『科学の進歩』のお題目を抱えて軍事技術に転用可能なアレコレをしてるんだけど」

ステイル「また別に、僕たちはコペルニクスの時代からずっと星を見続けてきた。今でも星辰は魔術と密接な関わり合いを持つ」

ステイル「言わば二つの軸、横方向に広がるX軸、縦方向に伸びるY軸の二つから彗星は観測されていたんだけどね」

ステイル「だっていうのに、だ」

ステイル「じゃあどうして『今回の彗星が途中で削がれるって予測出来なかった』んだい?」

上条「……!」

ステイル「それこそ数万人の研究者達、魔術師達が見守っていたのに、だよ?」

ステイル「ま、それが一つ。次にこの写真を見てくれ」

上条「なんか旧い写真……赤いペンキで、どっかの壁に『C』……か?」

上条「――ってこれ、俺も見た、っつーか知ってるし!」

ステイル「いや、違う。それは君が知ってるものとは違うが、同じものだ」

上条「……どういう事だよ」

ステイル「そうだね。アイソン彗星が消えたあの日、君たちは学園都市にいた」

ステイル「そこで連中と接触しているよね?」

上条「あの、蛇人間……!?」

ステイル「多目的ホールで起きたテロ事件、どこの組織も犯行声明を出していないけど、君はその中心にいた筈だ」

ステイル「いや、正確にはその隣、かな」

上条「鳴護――アリサ」

ステイル「連中が何をしたいのかは分からない。けれど、あの日僕たちは一度敗北しているんだよ」

ステイル「奴らはホールの人間達を『汚染』し、ちょっとした騒ぎを起こしているその間」

ステイル「鳴護アリサは下顎を引き抜かれて死ぬ――その、筈だったんだよ」

上条「身代わり……」

ステイル「たまたまそこに居たアイドルが、当日になってダダをこねた。控え室が狭いとか小さいとか」

ステイル「それで向こうの完封は避けられた訳だけど」

上条「ふざけんじゃねぇ!そんな、そんなクソッタレな理由でか!?」

上条「ヒト一人の命を……!」

ステイル「本来彼女『だけ』が使う控え室にもこれが書かれてあった。ま、多分?」

ステイル「――『Cthulhu』の、“C”だね」

――現在

――セント・パンクラス駅 昼間

上条「……」

上条(時間と場所は合ってるよな……?)

上条(ってかアリサ芸能人だから目立ってんじゃねぇの?)

鳴護「おーいっ!こっちこっちーーーーっ!こっちっだよーーーーーーーーーーっ!」

上条「最初っから隠す気ゼロじゃねぇか!?ってか声よく通りますよねっ!」

鳴護「伊達にボイトレしてないからねっ!」

上条「褒めてないからね?ってか明らかに周囲の注目浴びてんだけどさ」

鳴護「え?でもお姉ちゃんが『東洋人だし別に目立たない』って言ってくれたよ?」

上条「おい出て来いシャットアウラ!仲良くなるんだったら社会常識も憶えさせとけ!」

男「――すいません。リーダーは別の仕事で席を外していまして」

上条「そなの?――て、こちらは?」

鳴護「紹介は――してなかったっけ?あたしのマネージャーの柴崎信永(しばざきのぶなが)さんです」

柴崎「初めまして、ではないですね。柴崎です」

上条「あ、はい、上条当麻です。どこで会いましたっけ?」

柴崎「いえ、自分がクロウ7の時に少し。クルマからチラッと見ただけで」

上条「クロウ……?」

柴崎「いや、公園でアリサさん守る時とか。リーダーと一緒に」

上条「あぁはいはい!居た居た、うん!シャットアウラの元部下の人!」

柴崎「本当は?」

上条「……すいません、シッャトアウラが濃くて今一憶えていません」

柴崎「敬語は結構ですから、えっと……パイロキネシスとやり合った時にちょっとだけですから、憶えてないのも仕方が無いです」

上条「パイロ?何?」

柴崎「赤い神父服の、ほら」

上条「あー……」

上条(魔術サイドの事、知らないのか?つーか言っちまっていいもんかどうか)

上条「なぁ鳴護さん?」

鳴護「あたしのファンなの?昨日ライブ来てくれんだ?ありがとー」

鳴護「写真?うん!いーよいーよ、撮ろっ!」

上条「空気読もう?そこで速攻子供に囲まれて握手会してるアイドルの子?」

上条「てか今なんでマネージャーやってんの?つーか出来るのか、って話」

柴崎「そこら辺はユーロスターに乗ってからしましょうか。アリサさーん!」

鳴護「あ、はーい!今行きまーす!……ごめんね、今からお姉ちゃんフランスに行かなきゃならないから!」

鳴護「あーもうっ可愛いなぁっ!行く?行こうか?」

鳴護「あ、柴崎さん、チケットもう一枚取れます?」

柴崎「帰してきて下さい。こっちでソレやると確実に10年単位でブチ込まれます」

鳴護「はーいっ!」

上条「……うん、はい、すいません。なんつーか、お疲れ様です……」」

柴崎「……まぁ?大体こんな感じですかね。自分、『黒鴉部隊』に入る前はSP――ボディガードやってたんですが」

柴崎「マネージャーする前にも少し揉めましてね。主に対人コミュで」

柴崎「『アリサさんフリーには出来ないだろ?』『私が守るさ』『つってもクロウって戦闘バカばっかじゃね?』みたいな感じで」

柴崎「『あ、そういや柴崎さん?櫻井さん大好きな柴崎さん出待ちやってましたよねー?』『いやだから私が守ると言って』『ちげーよ出待ちじゃねーよ!SPだよ!』」

柴崎「『だったら柴崎さんいいんじゃないですかねぇ』『おいお前達どうして私を無視』『決定!柴崎さんオナシャース!』――と」

上条「明らかにシャットアウラらしき人がガン無視されてるんだけど……」

上条「……苦労、してるんですね、柴崎さん」

柴崎「大丈夫。今日から君も同じ苦労を背負うから」

上条「ちょっと待てやコラ?事後承諾にも程があるからな?」

――回想

――コンサートホール 臨時喫煙所

ステイル「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

ステイル「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん』」

ステイル「これは20世紀の作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが書いた小説に登場する一節だ」

上条「小説家、の人だよな?クトゥルーって名前と一緒にゲームとかで聞いた事がある」

上条「雲川先輩曰く、『20世紀のラノベ』だって話だっけ?」

ステイル「暗黒神話大系と俗に呼ばれる一連のシェアワールド。彼らの創った世界では、人間とは強大な旧支配者と呼ばれる存在のオモチャだからね」

ステイル「要は『すっごい化け物がいて、人間が謳歌している平和なんて泡沫の夢でしかない』って事かな」

上条「俺もメガテンから入ったクチだから、短編集は文庫で持ってる。つかお前も詳しい――あれ?」

ステイル「どうしたんだい?マヌケ面が酷くなったけど」

上条「小説なんだよね?蒸気船に轢かれてノコノコ退散した化け物ってフィクションなんだよね?」

ステイル「彼の代表作、『クトゥルフの呼び声』だね。蕃神が住まうルルイエが浮上し、死して夢見るクトゥルーが暫し微睡む」

上条「世界各国で同じ夢を見て発狂する人達が続々、って背景だったよな」

ステイル「だね。でも『そんな出来事は有史に於いては無かった』けどね」

上条「……えっと、つまり、その『濁音協会』ってのは、ネタじゃねぇの?暇人の妄想っていうか」

ステイル「うんまぁぶっちゃけると、タダのカルト教団かな。金儲けのためにクトゥルーを語っただけに過ぎない」

ステイル「正確には過ぎなかっ“た”と言うべきなんだろうけど」

上条「過去形?けど今アリサが狙われてるのって」」

ステイル「10年前、奴らはローマ正教によって壊滅させられているんだよ」

ステイル「記録に寄れば……『神の右席』のテッラって憶えているかな?」

上条「小麦粉のギロチン」

ステイル「そうそう、その彼が『右席』に上がる直前に手かげた事件なんだけど――」

ステイル「ちなみに、その時の彼は『異教徒にも寛容な聖職者』だって話だね」

上条「いやいやいやいやっ!?あいつって確かローマ正教じゃない相手に!」

ステイル「と、いうか、“当時の右席”自体は教皇を補佐するのが名目だから。魔術の腕よりも人格が重視されていたんだろう」

ステイル「穏健派だったテッラが就けば、交渉のテーブルに――と最大教主は思ってたそうだ。ざまあ見ろ」

上条「……人格が、変わった?」

ステイル「直ぐにフィアンマ、ヴェント、そしてあの男。他の右席が加わり、イギリス清教最大の難敵へ格上げされたんだけど」

ステイル「テッラは魔術的な洗脳を受けた、と判断していたんだが。実は違うのかもね」

ステイル「もしかして『口に出すのも憚れるおぞましい儀式』を目にして、それからローマ正教への狂信に変わった、とか」

上条「嫌な話だぜ……」

ステイル「とはいえテッラのしていた事は許されるべきでは無いと僕は思うけど。それとこれとは別の話だ」

上条「まぁ、な……待て待て。テッラは置いとくとして、壊滅させられたんだろ?『濁音協会』は」

ステイル「インクランドのサフォーク地方、ダンウィッチのはウチが片をつけたみたいだけどね」

ステイル「というか、ここまでの流れで何となく分かってはいるんだろう?君もいい加減、こちらの流儀に染まって居るんだろうし」

上条「馴れたくて馴れた訳じゃねぇよ!?」

ステイル「同じ事だね、それは。知識というのは一度口にすれば、二度と『知らない』とは言えない果実だよ」

ステイル「今までは『知らなかった』で免責されたかも知れないのに、一度知ってしまえば見て見ぬフリは出来ないからね」

ステイル「どんな上手い嘘で他人を騙せたとしても、結局自分に嘘はつけないんだから」

上条「含蓄のある言葉だよなぁ……」

ステイル「ま、面倒だしこれ以上引っ張るのも嫌だし、何よりも君が大っ嫌いだから結論を言うけど」

上条「最後の一つ必要かな?お前はもう少し対人コミュをだね」

ステイル「10年以上前に潰した魔術結社――で、すらなかったカルト教団が、今になって活動を再開した訳だ」

ステイル「しかも連中、僕たち『必要悪の教会』と学園都市、両方に喧嘩を売ってきた」

上条「『本物の魔術師』なんだからタチも悪ぃが」

ステイル「目的・規模・構成人数・本拠地等々全て不明。ただし鳴護アリサをターゲットへ定めているのは判明している」

上条「……だよな」

ステイル「ただし『クトゥルー教団』の性質上、『ムシャクシャしてやった』が動機である可能性すらある。というか、高い」

上条「……だよな」

ステイル「向こうは何らかの動機があるんだろうけどね、それが他人に理解出来るかどうか、ってのはまた別だから」

上条「んー……?それじゃさ、発想を変えてだ」

ステイル「うん?」

上条「逆に今、積極的に問題起こしてる魔術師とか、魔術結社ってねーの?」

上条「ほら、取り敢えず事件現場に近くに居た怪しい奴に職質する感じで」

ステイル「……成程、それは盲点だった。確かに君の言う通りかも知れないね」

上条「珍しいな。お前が俺を褒めるなんて」

ステイル「って事で、今から容疑者だと疑われているブラックロッジを読み上げてあげるよ。感謝するんだね」 ガサガサ

上条「……へ?」

ステイル「まずは魔術結社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』の『ウェイトリィ兄弟』だね。こっちの発音じゃウェイト“リー”か」

ステイル「噂によると双子の兄弟で、『錐』を使った魔術を得意とするらしい」

ステイル「結社はマフィアの用心棒だったり、マフィアそのままだったりするんだけど」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としている」

上条「うんうん」

ステイル「次は『安曇阿阪(あずみあさか)』、同じく魔術結社『野獣庭園(サランドラ)』の首領」

ステイル「獣化を得意する魔術師集団の長であり、人の形態を目撃された例はない」

ステイル「こちらは魔術結社、というよりも毒や暗殺のエキスパートして有名、かな?」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としているね」

上条「うんう……あれ?」

ステイル「後は『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』の『団長』。通り名としてそう呼ばれている」

ステイル「姿は鉄仮面を被った大男で、猟奇殺人が起きた場所には彼の姿があるという」

ステイル「『ハロウィン・ザ・ブリテン』の際、混乱に乗じて『騎士派』どもを素手で殴り倒した後」

ステイル「『ふなっし○』のぬいぐるみを店頭から盗み出した所が目撃されている」

上条「ステイルさん?読む報告書間違えてないかな?今のは酔っ払ったオッサンの行動だよね?」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』としているんだよ」

上条「ねぇ、その『正式に肯定』云々って、それただの噂って事じゃねぇのか?なぁ?」

上条「つーかこれ伏線じゃねぇの?どうせ今の中に犯人いるって展開なんだよな?」

ステイル「そして次は『明け色の陽射し』。ボスは『レイヴィニア=バードウェイ』」

ステイル「所謂『黄金』系の魔術結社を名乗るゴロツキ、一説にはどこかの学園都市のツンツン頭に籠絡されたらしい」

上条「人聞き悪っ!?ってか事実無根だしねっ!」

ステイル「お姫様抱っこしたんだって?」

上条「そういやお前もあの前後は学園都市に居やがりましたよねっ!」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』と」

ステイル「後は『棚川中学・放課後突撃隊』。隊長は佐天涙子」

ステイル「暇な中学生がダベってオチのない話を延々とする、ある意味最も恐ろしいとも言えるだろう」

上条「俺の知り合いの知り合いじゃねぇかな?つーかお前らJCまで監視してんの?」

上条「そりゃ恐れられる筈だよ、『必要悪の教会』。俺だって怖いもの」

ステイル「ただ『必要悪の教会』の見解としては、『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難し――』」

上条「ダメじゃねぇか『必要悪の教会』!?つーか最後のと一個前は実在してるし!?非実在少年じゃねぇから!」

ステイル「蠢動中の魔術結社なんて腐るほどあるって話だよ。素人が思い付く事なんて、プロは当然抑えている。弁えろ」

ステイル「ま、頑張ればいいんじゃないかな?最悪、骨は僕が焼いてあげるから」

上条「火葬決定!?しかもなんか八つ当たりの感じがする!せめて拾ってあげてね!」

上条「……いやいや、違うよね?アリサのコンサートツアー、お前らも行くんだからもう少し打ち解けてだな」

ステイル「……はぁ?君は何を言ってるんだい?」

上条「仲良くしろとは言わねぇけど、お互いにリスペクト的な住み分けを」

ステイル「いやそうじゃなく。リスペクトなんて死んでもごめんだけど」

ステイル「聞いてないのかい?というか、君本当に何にも知らないで来たんだね」

上条「待て!?嫌な予感しかしねぇからそれ以上はヤメロっ!多分言うとフラグが確定するから!」

上条「せめて俺が覚悟を決まるまでは言うなよ!?絶対だぞ!絶対だからな!?」

ステイル「うん、僕らが手伝えるのはここまでだから。フランス以降は精々頑張って」

――ユーロスターS 四人用客室

鳴護「思っていたよりも、広い、かな?」

上条「俺のアパート……うん、なんでもないよ?別に気にしてなんか無いんだからねっ」

鳴護「捨てられた犬のようなっ!?」

柴崎「はいはい、そこまでにして下さい。ってかアリサさんベッドあるからといってトランポリンしない。大体100分しか乗っていませんからね」

鳴護「次はパリで下りるんでしたっけ?だったら普通の席でも良かったんじゃ?」

柴崎「あー、そこら辺はお姉さんに話して下さい。自分がどうこう出来る話では無いので」

上条「過保護過ぎんだろ」

柴崎「とは言っても、自分からも同じ提案をするつもりでしたが」

柴崎「込み入った話をするにはうってつけ、ですからね」

鳴護「あ、当麻君、久しぶりだねー?この間はありがとうございました」

上条「ん?あぁ別にたまたま居合わせただけだから」

柴崎「おや?アリサさんだけでも天然だったのに、話を聞かない子が増えましたね?」

上条「……一人、助けられなかったけどな」

鳴護「……うん」

柴崎「そこで話は個室を選んだ所に戻るんですがね、と。上条さん、お話はどこまで?」

上条「『濁音協会(Society Low Noise)』って奴らがケンカ売ってきてる所まで」

柴崎「オービット・ポータルの顛末は?」

上条「そっちは聞いてない。ネットで調べたんだけど、会社のHPは更新されてねぇし。ニュースサイトも全然」

柴崎「一応は外国資本ですからね。ガーディアンとフィナンシャルの英語記事は“割と”マシです」

柴崎「日本の経済紙はビットコインが飛んだその日に、『社会革命である』とぶち上げて嘲笑され続けてますから。時間の無駄です」

柴崎「色々あったんですが、なんやかんやでリーダー――シャットアウラ=セクウェンツィアが代表になっています」

上条「また唐突だなー。ってかそんなに簡単になれんのかよ?」

柴崎「『エンデュミオンの奇蹟』は死人も出しませんでしたし、またオービット社に瑕疵はない、とされています。表向きはね」

柴崎「が、ビジネスの世界は非情で」

柴崎「社運を賭けた一大プロジェクトが頓挫し、株は暴落。金融機関からも貸し剥がし――融資の前倒し返済を迫られて大変でした」

上条「そりゃ……まぁ仕方がないんだろうな」

柴崎「レディリー会長の個人資産は膨大にあるんですが、勝手に手をつけたら犯罪ですしね……リーダーはやろうとしましたが」

柴崎「生憎、筆頭株主の方が首を縦に振ってくれないものでして、はい」

上条「へー?そんな状況でも会社を見捨てない奴居たんだ?偉いな」

鳴護「そ、それほどでもないかなっ?」

上条「あ、ごめん?今こっちの話をしているから」

鳴護「本当になのにっ!?」

上条「あ、これ、アニェーゼから貰ったべっこう飴。喉に良いんだって」

鳴護「嬉しいけど!ホントなんだってば!」

柴崎「上条さんマジです。こちらがオービット・ポータルの筆頭株主さん」

鳴護「どうも、鳴護アリサです」

上条「マジで!?お前いつから金持ちになったんだ!?」

柴崎「レディリー会長、いや前会長が悪人なのは間違いないでしょうけど、酷い悪人とまでは行かなかったようで」

柴崎「『あの日』、に、個人資産の幾つかを鳴護さんへ譲渡していたんですよ」

上条「罪滅ぼし、か?」

柴崎「リーダーは『偽善』だと言ってました」

上条「まぁ、そうだよな」

鳴護「あたしは違うと思う、って姉さんには言ったんだけどね」

上条「そうかぁ?」

鳴護「最初に契約書にサインした時、『もしも何かあった場合、誰が遺産を受け取りますか?』って項目があったの」

上条「マグロ漁船並みの怪しさだと思うんだが」

鳴護「その時は『契約ってこういうものかな?』って、育ててくれた孤児院を書いちゃってて」

鳴護「最後にレディリーさんに会った時も、もしそれが偽善だったらあたしに言うよね?『お前が死ぬ事で助かる人が居るよ』って」

鳴護「それをしなかったんだから……うん」

上条「どう、だろうな」

鳴護「ま、あたしがそう思ってるだけ、かも?思いたいからとか?」

柴崎「SPとしての経験上、『完全な悪人』はそういませんよ。マフィアであっても自分の孫には甘いし、愛を叫ぶようなドラマを見て泣きます」

柴崎「だからといって善人かと言えばそうではないでしょうし」

柴崎「むしろ大切なものがあり、他人の痛みを知っている分だけ罪は重い。そう自分は考えますがね」

上条「俺はアリサに一票。レディリーも仕方がなかった部分もあるんじゃないのか?」

柴崎「各々が某かの事情を抱えている、それは当たり前の話です」

柴崎「共通の歴史認識やら、普遍的な正義なんてものは幻想ですしね」

柴崎「数千、下手すれば数万単位の犠牲を出してまで、その『事情』を正当化出来る話はないでしょうから」

上条「それを決めるのもアリサじゃねぇかな?一番の被害者だったんだし」

上条「てか『黒鴉部隊』は元々レディリー側じゃねぇかよ」

柴崎「いやもうぶっちゃけますと、エンデュミオンの侵入者排除に失敗した上、依頼主裏切ったんで信用ボロッボロでして」

柴崎「で、そんな自分達がどうしたか、の話がオービット・ポータルの顛末に繋がります」

鳴護「殆どの事業を切り売りして、残ったのがあたしの個人事務所?みたいな感じで」

上条「事務所そのものがオービット預かりなのか?よく分からないけど」

柴崎「そこはリーダーがアレした感じで。下手にアレでも学園都市や『あっち側』からつけ入れられるので、心配はないと思います」

上条「それで傭兵部隊がマネージャーに転職したんだ?へー」

柴崎「『鴉』へ入るまではボディガードでしたからね。ま、色々とありまして」

鳴護「お姉ちゃんが好きなんですよねっ」

柴崎「げふっ!?げっほげほっごほごほごほごほごごほっ!?」

上条「水飲んで下さいよ、ほら」

柴崎「げふっ、すっ、すいません、んっくんっくんっく――はぁふっ……ふう」

柴崎「――それでスケジュールについてなんですが」

上条「無理だからね?『え、何が?』みてぇ顔してんじゃねぇよ」

上条「盛大なリアクションありがとう、ってぐらい取り乱したみてぇだけど、見なかった事にはしてあげられないからな?」

鳴護「そこは武士の情けでスルーした方が良いんじゃないかな?」

上条「うんまぁ、アリサと『黒鴉部隊』の立ち位置は分かった」

上条「柴崎さんがなんだかんだでしっかり保護者してんのも含めて」

柴崎「どうも。出来ればリーダーには内密に」

上条「納得出来ないのが、どうしてお前ら?力不足かどうかは分からないけど、もっと適材適所があるんじゃねぇのか?」

上条(相手が魔術師なら、こっちも魔術師の方が対抗しやすいだろ)

柴崎「イギリスの『協力機関』の方々の話ですよね。それはスケジュールの話に戻るんですが」

柴崎「どこへ行くかは知っていますか?」

上条「外国」

鳴護「当麻君、私が言うのもアレなんだけど、もうちょっと計画性とかあるんじゃないかな?」

柴崎「ARISAの海外ライブツアー、『Shooting MOON』は計四カ所」

上条「ロンドン――つかイギリス、フランス、イタリア、ロシア」

柴崎「それぞれ第三次大戦で中核を担った国家ですよね?」

上条「そうだな」

柴崎「……うん、もう一声!」

鳴護「何となく分かりそうな気がするんだけどなぁ」

上条「『ケンカしてたけど、仲良くなりましたよー。ほらほら学園都市のアイドルとも交流ありますし』?」

鳴護「――ファイナルアンサー?」

上条「ファイナルアンサー」

鳴護「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

上条「……」

鳴護「ファッファァーンっ!!!」

上条「!」

鳴護「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

上条「ドラムロールに戻るのかよ!?じゃ今どうしてファンファーレ流したのっ!?」

上条「てか昔のクイズ番組のネタをする意味が分からない!?」

鳴護「友達の佐天さんが――」

上条「もういい分かった!いい子だけど、色々TPO考えろ!ツッコミで喉枯らす身にもなれ!」

上条「いやまぁ、確かに観光だけならテンション上がっけどさ。このツアーって要は学園都市のプロパガンダだろ?」

鳴護「当麻君は、不満?」

上条「仲良くするのは賛成。でもアリサが巻き込まれるのは……あんまり」

上条「それに時期も時期だよ。何も狙われてる今しなくたって、もう少し待つとか、延期するとか出来なかったのか?」

鳴護「それはダメだよ、当麻君。今じゃないと、すぐやらないと意味がない事ってあるよね?」

鳴護「もしかしたら効果がないかも知れない。もしかしたら逆に怒らせちゃうかも知れない」

上条「だったら!」

鳴護「けど、『もしかしたら上手く行くかも知れない』。違うかな?」

上条「……アリサ、お前」

鳴護「私が歌で誰かが仲良く出来るんだったら――」

鳴護「――私は、歌うよ」

上条「……アリサ」

鳴護「でも、本当はちょっと怖いんだけどね。よく分からない人達が」

上条「……あぁ、そっちは心配すんな。俺がナントカすっから」

上条「影でコソコソやってるような連中の、狂った『幻想』なんか俺がぶっ殺すから!」

鳴護「……当麻君」

上条「エンデュミオンでも約束したじゃねぇか。お前の歌を邪魔する奴は俺がぶん殴る、って」

鳴護「お姉ちゃん、怒ってたけど」

上条「つーか嫌だったらさっさと断って日本に帰ってるし。んな捨てられた子犬みたいな顔は止めてくれ」

鳴護「……ごめんね、当麻君」

上条「友達が困ってんの助けるのは当たり前。じゃなかったらダチなんて呼べねぇよ、だろ?」

鳴護「そっちじゃなくて――その、あたし、当麻君だったらきっとそう言ってくれるだろうな、って思ってて」

上条「んん?それって信用してくれてありがとう、でいいんじゃねぇのか?」

上条「つーか俺が勝手にやってんだから、別にいいって」

鳴護「そうじゃなくて!そのっ……うん、っていうか」

鳴護「あたしが、ツアーするって決まったら、当麻君と一緒に居られるかな、って」

上条「あ、アリサ……?」

鳴護「当麻君っ!」

上条「は、はいっ!?」

鳴護「あた――」

柴崎「――はいストップー」

鳴護「って柴崎さん!?いつの間に!?」

柴崎「君らが雰囲気作る前からずっと一緒でしたが」

柴崎「部屋をコッソリ出るべきか、リーダーに緊急通信するか迷ったぐらいです」

鳴護「お、お姉ちゃんには内緒にしてくれるとっ」

柴崎「一人忠臣蔵しそうですしねー」

上条「あれ?討ち入られるの俺?赤穂の浪人に襲撃されちゃうの?」

柴崎「自分は上条さんの事、データ以上は知らないんですけど、47人ぐらいは直ぐに集まりそうですね」

上条「人聞きが!?……あ、そういや、つーかシャットアウラは?聞かれてたら、色々とヤバかった予感がするけど」

柴崎「あぁですからリーダーは、っていうかスケジュールの話がまだ終わってないんですよ」

柴崎「えっと……あぁ、まぁそんなこんなで学園都市と対立していた国家を巡り、コンサートをするのが今回のミッションです」

柴崎「ただし現時点でロシアとウクライナ東部の情勢が非常にきな臭いため、これからの状況次第ではイタリアで終りになるかも知れません」

上条「ロシアもなぁ」

柴崎「で、上条さんが疑っておられた、『どうして「黒鴉部隊だけ」なのか?』については、まさにそこですね」

上条「どこ?」

鳴護「インデックスちゃんはイギリスの人だよね?学園都市と仲が良い」

上条「あぁ昨日ステイルには『同行は許可されなかったよざまあ見ろナイス牝狐!』って言われた」

鳴護「あたし達、『学園都市が和平を望んでいるのに、他の国の協力者や武装した人を連れてはいけない』し?」

鳴護「もしそうしちゃうと――例えば、信頼して欲しい人の所へ、武器を持ったまま会いに行ったら警戒するよね?されちゃうよね?」

上条「そりゃまぁ……そうか、そうだけどさ」

上条「最新科学で武装した人を護衛につけてったら、『お前らを信用してない』って言ってるようなもんか」

上条「なるほどなー。理屈に合ってると思う」

上条「でも『黒鴉部隊』は?どう考えてもアンチスキル以上の実戦部隊じゃねぇの?」

柴崎「そこでオービット・ポータル買収の話に戻ります。今の自分達はただの『芸能会社の社員』に過ぎません」

柴崎「アイドルの側にマネージャーが着くのは当然の話。心配性の社長が首を出すのも、まぁ仕方がないと」

柴崎「また『事務所が個人的に依頼した警備会社』が出張ったとして、学園都市が関知している訳ではありませんからね」

上条「……うっわー、汚い。汚いぞ『黒鴉部隊』」

柴崎「流石にそうじゃなかったらアリサさんもOK出しませんって。ねぇ?」

鳴護「え、当麻君がいれば、別にいいかなって」

柴崎「……と、言う訳で護衛は自分達がしますから。任せて下さい」

上条「すいません柴崎さん!今のはちょっと天然なだけで!悪気はないんですよ、悪気はねっ!」

柴崎「約半年、嫌々ながらもマネージャーやってたのに、素人未満の信頼度って……?」

柴崎「ともあれ経緯は以上です。あぁこちらの事情はある程度先方、訪問先には伝えてあるので、現地に着けば心配はいらないでしょう」

上条「って事は着くまでが勝負、か?」

柴崎「警備が厳重になる前に。そう考えるのが妥当です――さて、これからは注意事項について」

柴崎「そうですね、上条さん右手を出して貰えますか?」

上条「握手?」

柴崎「ですね。あなたの能力についても――ふむ」 ギュッ

上条「柴崎さんはどんな能力なんだ?」

鳴護「あたし達と同じ『レベル0』だよ」

上条「だったら確認とかしなくても」

柴崎「サイボーグの定義って知っていますか?」

上条「あぁうん。体とか骨格とかを機械に置き換えた、じゃ?」

柴崎「広義では歯のインプラントやコンタクトレンズもサイボーグに含まれます。ネタではなく大マジで」

上条「そうなのかっ!?俺こないだ骨折った時に、ボルトで固定したんだけど!」

柴崎「定義からすればあなたもサイボーグです。もう少しだけ自分は弄ってますが」

柴崎「ま、こうやって手を繋いでも支障がないみたいですし。打ち消すのは『異能』だけなんでしょうかね?」

上条「へー」

上条(そういや『幻想殺し』って、アンドロイドとかサイボーグとか、どう見てもオーバースペックな奴にも反応しないよな?)

上条(あれは『自然』って扱いなんだろうか?)

柴崎「それでは話を続けます――よっと」 ギリギリギリギリッ!

上条「アタタタタタタっ!?極まってる!腕が極まってるって!」

鳴護「柴崎さんっ!」

柴崎「はーい彼の命が惜しかったら動かないで下さいねー?あ、そのまま、ドアからも離れて下さい」

柴崎「もう少しで自分の仲間達が駆けつけますから」

上条「逃げろ、鳴護!こいつは敵だっ!」

柴崎「おや上条さん、それは誤解というものです」

上条「……テメェ……!」

柴崎「最初から自分は『味方』だなんて言った憶えはありませんから」

――ユーロスター 現在

鳴護「柴崎さん!?そんな、どうして柴崎さんが……!?」

柴崎「柴崎さん?それは一体どなたの事を言っているのでしょうか?」

柴崎「……あぁ成程。この顔の前の持ち主がそんな名前でしたっけ?」

鳴護「――え」

柴崎「それがねぇ、彼。こうやって顔の皮を剥がされながら、必死でね?」

柴崎「最後の力で身分証を呑み込んでしまいまして――中から取り出すのに、少し苦労しましたよ」

鳴護「あなたは、誰――?」

柴崎「『黙示録の獣(ヨハネ666)』の一人、冠持ちと言ってもご存じでないでしょう?」

柴崎「そもそもあなたには関係無いでしょう、鳴護アリサさん」

柴崎「これから夜よりも暗い場所へ行くのですから、他人を心配する余裕はないかと」

柴崎「――さて、少し名残惜しいですが、そろそろ仲間が来る時間ですね」

コンコン

柴崎「どうぞ」

鳴護「!?」

ガラッ

車掌「チケットを拝見しまーす」

鳴護「――っ!?………………はい?」

柴崎「あ、すいません。これどうぞ。上条さんも」

上条「ちょっと待ってこっちのポケットに」

柴崎「無くしたらここで発行して貰いますので、心配しなくて良いですよ?」

上条「それはありがたいけど……あぁ、あったあった。はい」

車掌「拝見しまーす」

鳴護「……えっと?」

車掌「そちらは?」

鳴護「あ、はい。これ」

車掌「確かに。ではよい旅を」 ガララッ

柴崎「――と、言う訳で!……どこまで話しましたっけ?」

柴崎「――この『黄昏きゅんきゅん騎士団(らぶらぶシャットアウラ)』の恐ろしさを!」

鳴護「違いますよね?今のは絶対にお芝居ですよね?」

鳴護「ってか完全に投げやりな組織名になってますし、それあたしのファンクラブにいますよね?」

鳴護「もしかして二人であたしを担いだのっ!?もうっ!」

上条「悪い!……つーか俺は半信半疑だったけどさ」

鳴護「感じ悪いよ!ドッキリだったら前もって言って欲しいなっ!」

上条「いやそれドッキリ成功しねぇだろ。俺も聞いてた訳じゃねぇよ」

上条「腕極められても全然痛くなかったから、もしかしてって」

柴崎「途中から会話に参加してませんでしたもんね」

鳴護「……どう言う事ですか?内容によってはお姉ちゃんに抗議します!」

柴崎「すいませんっしたっ!!!」

上条「なんだかんだで馴れてんじゃんか」

柴崎「男女で揉めたら、取り敢えず男が謝っておけば何とかなります――と、冗談はこのぐらいで、今のアリサさんの点数を発表します」

上条「ドコドコドコドコドコドコドコドコ……」

鳴護「え、点数って何?」

上条「ぱっぱぱーん」

柴崎「――0点です、残念。人質取られて相手の言う事を聞くのは、全てに於てダメです」

柴崎「昨日も言いましたが、SPとして周囲に何人か着いていますから、そちらと合流して下さい」

柴崎「っていうか護衛対象の前で、人質を取られた場合のシミュレーションは何回もしましたよね?」

上条「よくある事なんですか?」

柴崎「割と頻繁に。嫌になるぐらいベタな話です」

鳴護「でもそれじゃ当麻君が酷い目に遭っちゃう!」

上条「アリサ」

柴崎「ご褒美でしょう?」

鳴護「そっか……」

上条「違うよな?真面目な話をしていたよな?」

柴崎「と、リーダーが」

上条「シャァァァァァァァァァァァァァァットアウラ!!!根に持ってるじゃねぇかよ!思いっきりな!」

柴崎「じゃマジ説教になりますけど――アリサさん、上条さん」

柴崎「あなた達の前に、友達なり知り合いなり、通りすがりを人質にしたテロリストが居たとしましょう」

柴崎「さて、どうします?」

上条・鳴護「「助ける」」

柴崎「はい、不正解。ってか冗談でも止めて下さい。それは最悪手です」

上条「いやでも助けるよな?」

柴崎「どうやって?」

鳴護「ナントカして、は正解じゃない。ですよね?」

上条「だってそいつらは巻き込まれただけなんだろ?だったら俺が人質になるのが筋じゃね?」

鳴護「当麻君に同意です」

柴崎「それがダメなんですってば。理由は二つ、いいですか?しっかりと聞いて下さい」

上条「あぁ」

柴崎「まず一つ目。『相手が信用するに値しない』です」

柴崎「『人質を取る』という卑怯な行為をした相手が、約束を守る訳がない」

柴崎「大抵身代金なり、テロリストの釈放なり、役目を果たした後には人質は殺されます」

柴崎「顔を見られたから、アジトを知られたから、またはただ単に用済みになったから。それだけで人質は命を絶たれます」

上条「待ってくれよ!?それじゃ見殺しにしろって言うのか!」

鳴護「中には無事帰ってくる場合もあります、よね?」

柴崎「それはまぁ『無事に帰した方が利益になる』と判断された場合だけです」

柴崎「つまり理由の二つ目にかかる話なんですが、じゃまぁ改めて二つ目」

柴崎「仮に人質が助かったとしましょう。彼らが望んだのが金品なのか、誰かの命なのかはともかく、それを差し出し無事に解放されました」

柴崎「時に二人は、『お前が死ねば人質は助かる』と言われ――」

上条・鳴護「「行く!」」

芝崎「――完全に喰われてありがとうございました。その覚悟だけは立派ですけど、それは『使い所を間違えて』います」

上条「……無駄死にだって?」

柴崎「いえ、とんでもない。勇敢なあなたの命と引き替えに、人質の命は救われた。それはとても尊い事だと思います」

柴崎「そういった意味で『あなたが死ぬ事で誰かの命を救えた』と」

上条「全然そんな事思ってないぞ、って顔してるけどな」

柴崎「まぁでも『あなたが死ぬ事で失われる命』だってあるんですけどね」

上条「え」

柴崎「いやだから、何度も言いますけど『人質を取るなんて人間未満のクズ』ですからね?」

鳴護「だから約束を守らない、でしたっけ」

柴崎「加えて『繰り返す』んですよ。一度の成功体験を延々ね」

柴崎「『あなた』のお陰で成功した人質という手口を。それこそ何度も」

柴崎「『あなた』は誰かを助けられて幸せかも知れません。自己満足は満たされたのでしょうね」

柴崎「しかし『あなた』が応じてしまった事で、テロリストは『これは効果がある』と何度も何度も繰り返す」

柴崎「そして勿論応じられる訳はなく、人質は可能な限り無残に殺されます――『次』の布石としてね」

柴崎「『応じられなければこうなるぞ』という脅しという形で」

上条「でも――」

柴崎「例えばアフガニスタンにイラク等々、付け加えるのであればロシアでも学校をテロリストが占拠した事件がありましたよね?」

柴崎「アレは応じたら負けです。仮に一度は助かったとしても、次々に人々が浚われ続けて要求はエスカレートするから」

柴崎「それだけならばまだしも、類似犯がどこまで増殖するでしょうね」

上条「――だったら」

芝崎「はい?」

上条「だったら黙って見てろ、逃げ出せって言うのかよ!?」

上条「友達を!知り合いを!全然関係無い俺達のケンカに巻き込まれた奴を!」

鳴護「当麻君……」

芝崎「はい、そうです。その通りです」

上条「――っ!」

柴崎「あなた達は、警察権も、逮捕権も無い。ましてや『力』を持っている訳でもない。ただの子供だ」

柴崎「『能力者』には少し厄介な右手を持っているかも知れないが、自分でも1分もあれば両手をヘシ折れる」

柴崎「専門家じゃない素人が調子に乗るんじゃない――と、言葉が過ぎました。すいません」

柴崎「確かにあなたは――あなた『達』は死んで代わりの人間は助かるかも知れない」

柴崎「けれど二度三度、そういった連中は繰り返しますからね?」

柴崎「あなたが勝手に居なくなった世界で、連中は『あなたの犠牲によって学習した』お陰で」

柴崎「次々と犠牲者を量産する訳です」

柴崎「そして生憎世界は厳しい。あなたほどには物わかりも良くなく、そして周囲も止めるでしょう」

柴崎「被害者はそのまま無残に殺される。その責任は誰か?」

柴崎「あなたという成功体験があったから、あの時突っぱねていれば起きなかった」

柴崎「言ってみれば『自己満足で誘拐・人質被害者を増やす』訳ですからね?」

柴崎「……ま、これはおじさんから若人への愚痴ですけどね」

柴崎「もしもあなた達に大切な人が居て、自分の命よりも大事だったとしましょう。それこそ命を捨てられるぐらいだとしても」

柴崎「しかしだからといって安易に命を捨てないて下さい。それは、確実に無駄死にですから」

柴崎「……ねぇ、上条さん。あまり言いたくないんですがね」

上条「はい」

柴崎「調子に乗るな、このアマチュアが」

上条「……っ!」

芝崎「この世界には嫌って言うほどヴィランは居るけど、ヒーローは居ないんだよ」

柴崎「自分は人よりも色々見てきたつもりだが、一度たりとも『正義のヒーロー』なんてものは――」

柴崎「――来もしない相手を待つより、さっさと逃げた方がいい――」

柴崎「――自分は、ずっとそうしてきました」

今週はこのぐらいで。お付き合い頂いた方に感謝を

乙です!
いつも火曜日更新でしたが、今回は前倒しで投下されたと受け取って宜しいでしょうか?

>>124
えぇまぁ雑談スレ7へ反論する気で来たんですが、既にhtml化してたので持ち返す話でもないかなと
一応来週も5000字ぐらいは投下できると思います

>>78-79
仕事の都合上、週一でネトカフェ通ってしか繋がらないのでレスがまともに返せなくて恐縮です
出来れば全レスしたいんですが

>>48
過大評価です。何度も言いますが、そんな大したもんじゃありません
専攻は……文化人類学の宗教神話学・比較神話学・都市人類学でしょうか
ちなみに上三つへ政治人類学を加えるとバードウェイさんの専攻になります

『そっち』に興味があるんでしたら、柳田国男先生、折口信夫先生の本は『近代デジタルライブラリー』と『青空文庫』で無料公開されているので、是非どうぞ
(※著作権の保護期間切れ。例えば明治初期に出た新撰組の読本があって、当時からある種の英雄視されていた事が分かる)
現代では小松和彦先生・今野圓輔先生・五来重先生の本が『比較的』読みやすいです

>>55
ごめんなさい。“ヘイト”の主語がこのスレかと思いました。違うのにすいませんでした

あと業務連絡。一年と少しお世話になったSS速報さんですが、場合によっては余所様に移籍するかも知れません
理由は色々ありますが、実は3月の半ばぐらいから運営(荒巻さん)へメール出していまして
嫌事書き込む”読み手様”をどうにかしろではなく、もっと悪質な荒らしが放置されていると
具体的には以下のスレをどうぞ

上条「アイテムの正規メンバーですか」絹旗「超2です」
上条「アイテムの正規メンバーですか」絹旗「超2です」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391605673/)

で、何度か似たようなケースのアドレスなり実例なりを出して来たのですが、
『メールを受け取った』『近日中に返事をする』以外のお返事は今日時点で頂いておりません
このまま放置され続けるのであれば、抗議の意味も込めて引っ越そうと思います
妥当な所は深夜、Pixiv?でも似たような事は出来るって聞いた気も。HPで細々と続けてもいいですしね

……まぁ上司から「カネにならないテキスト書くのヤメロ」と、嫌味を言われ続けるのもいい加減飽きましたし、
スッパリ足を洗うのもまた選択肢の一つであると思いますが

リアルとか考察という問題じゃなくて、当たり前のことを書いただけなんだがな
問題はそういう感想を抱いた人を馬鹿みたいに攻撃したことだよ
要するに田中ドワーフは情緒が育ってないただのバカってことだ

賛美両論ありがとうございました。雑談スレも読みましたが、擁護して下さった方ありがとうございます

上にも書きましたが、『荒らしは荒らすのが目的』であってこのスレで扱うのは相応しくないと私は思います
『荒れれば荒れる程、私を気に入らない人間は喜ぶ』と思いますので

そううですね、例えば>>143の場合、

>175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/13(日) 13:42:26.39 ID:nyBHAy820
>19歳でかなりのペースで投下できて、忙しい理由がバイト
>ニートではないんだろうがフリーターって楽でいいね

とまぁ『他所様のスレでもレッテル貼りと人格攻撃という中傷』をしており、ただの荒らしに過ぎませんから
構うだけ時間の無駄ですので、どうか以後スルーでお願い致します

――ユーロスター 現在

鳴護「……と、すいません。あたしちょっとお花摘みに」

柴崎「どうぞ。ブザーは持ちましたよね?」

鳴護「はい」

柴崎「ではお気をつけて」

プシュー、パタン

上条「……あのさ。柴崎さん?」

柴崎「なんです?あぁ追いかけたいのであればどうぞ」

柴崎「あまりいい趣味ではないですよ?他の隊員が警護していますしリーダーに報告が上がるかも知れません」

上条「そうじゃねぇよ!そんな話してんじゃねぇ!」

柴崎「では何か?」

上条「アリサ、凹んでただろ?何もあんな事言わなくたって、俺達でフォローすりゃ良かったじゃねぇか!?」

柴崎「クイズです、上条さん。護衛任務で最も大切な事とは何でしょうね?」

上条「はぐらかすな!俺が言ってのはそういう話じゃねぇんだよ!」

上条「ただでさえ不安になってるアリサビビらせて!そこまでする必要があったのかって聞いてんだ!」

柴崎「それは『護衛対象に危機感を持って貰う事』です」

上条「それが――!」

柴崎「……これは知り合いの話なんですがね。何年か前、もしかしたらもっと昔にある少女の護衛を請け負います」

柴崎「依頼主からの要望で本人には知らせず、家庭教師として付き添う事になりました」

柴崎「最初は戸惑ったそうですね。小さい頃から荒事に特化し、あまり人の温もりを知らず、馴染めない」

柴崎「始めて触れる人の暖かさ、仮定というものの有り難み……まぁおっかなびっくり慣れていき、どうにかそれっぼく振舞えるようになりました」

柴崎「……何と言いますか、妹、でしょうかね?あまり年の離れていない相手に懐かれ、満更でも無かったそうですよ」

柴崎「将来は音楽関係の仕事に就きたい。そう笑ってピアノの練習をする姿を眺めるのが、彼は大好きだったようです」

柴崎「ですがね、上条さん。ある日、少女は攫われてしまったんですよ」

柴崎「何を考えたのか、彼女はいつもよりも少しだけ違う道を通り」

柴崎「行方が分からなくなってしまいました」

上条「……その子は、その」

柴崎「一日目は電話がかかってきました」

柴崎「要求は……何でしたっけ?そう、あまり……いやまぁ、いいでしょう。どっちにしろ応えられませんでしたし」

柴崎「二日目は何もありませんでした。その代わりに家の前には封筒が置かれていました」

柴崎「『危険物かも知れない』――ご両親の代わりに開けた私が見たものは、切り落とされた彼女の小指、でした」

上条「――っ!?」

柴崎「三日目は薬指、四日目は中指」

柴崎「そして五日後にはこのぐらいの、そうですね、お弁当箱ぐらいの箱が配達されてきました」

柴崎「中には、誰かの名前と知らぬ誕生日が刻まれた真新しい手帳が入っていました」

柴崎「間違いか?と一瞬悩んだ後――それは自分が彼女の前で使っていた偽名と、聞かれて慌てて口走った出た誕生日と同じです」

上条「女の子はあんたへのプレゼントを買いに行った、ってのか……」

柴崎「そんなものを!そんな下らない物を買うために!いつもと違った行動を取ったって言うんですよ!?」

柴崎「あの時、自分が事前に告げていれば!嘘を吐かずに護衛していると予め断っていれば!」

柴崎「あんな、下らない事には……!」

上条「……柴崎さん」

柴崎「……いいですか、上条さん。人間は決して万能ではありません」

柴崎「万全とは『期す』ものであり、『成す』事は出来ない」

柴崎「だから注意する。出来る限り――そして出来なくても危険になりそうな芽は全て潰す」

柴崎「そのためには護衛対象にも一定の危機感を持って貰わないと、無理なんですよ」

上条「理屈は、理解したよ……ごめんなさい、柴崎さん。なんか俺誤解してて」

柴崎「ん?いやいや自分に頭を下げないで下さいよ。失敗談一つに恐縮ですから」

上条「いやでも、必要だってんなら」

柴崎「ま、今のは嘘なんですがね」

上条「そっか……そっ、か……?」

上条「……」

上条「ど、どっから?」

柴崎「『上条さんは攻められるがご褒美だとリーターが話していた』、ぐらいから?」

上条「何分前からだっ!?つーか嘘かよっ!?ギャグで流す程軽ぃ話じゃねぇよな!」

上条「あとシャットアウラさん疑ってごめんなさいよっ!けど責任はこの人にねっ!」

柴崎「……ま、今のはよくある話ですよ。メキシコくんだりじゃありふれた事件です」

上条「あっちってそんなに治安悪ぃの?」

柴崎「気になるならどうぞ調べてみると良いでしょう」

柴崎「一切の誇張無し、ネタ抜きで『魔術結社』が大手を振るって猟奇事件を起こしているのは、あの国ぐらいです」

上条(海原の地元、だよな。確か。機会があったら……いや、故郷の悪口は良くないか)

上条(それが事実だったとしても、好奇心から聞くのは無神経だ、と)

上条「あーっと、だな」

柴崎「あぁ知ってます。『そっち』も居るって事は」

上条「シャットアウラから?」

柴崎「言われてみれば、と腑に落ちる所もありますしね」

柴崎「学園都市“外”の研究機関だと考えていましたが、まぁどちらにしろ同じでしょうね」

上条「あんまり心配してないな?」

柴崎「自分の仕事は『守る』主体ですから。交戦せず全力で脱出するのに、科学も『それ以外』もないですし」

柴崎「ともあれそういった訳でアリサさんを宜しくお願いします、上条当麻さん」

柴崎「女の子を守るのは男の子の仕事、ですから」

上条「そりゃ良いけどさ。でもだったらあそこまで強く言う必要が」

上条「今の話をきちんとすりゃ……ってダメか。必要以上に怖がらせちまうし」

柴崎「いいんですよ、これで。自分はアリサさんに嫌な事を言うのがお仕事」

柴崎「でもってあなたは慰めるのがお仕事。適材適所と行きましょう」

上条「つってもなぁ?柴崎さんだってアリサと長いんだろ?『エンデュミオンの奇蹟』から数ヶ月経つけど」

柴崎「マネージャーとしてですが」

上条「アリサはもうあんたを信頼してる感じがするけどな。だから、こう、仲良くやっていったらいい、っていうか」

柴崎「生憎自分は護衛対象を『ビジネス』とか見ていません。契約が終わるまでの関係でしかない」

柴崎「表向き仲の良い演技をする事があっても、それだけですから」

上条「……なんか悲しいけど、そーゆーもんなのか?」

柴崎「でもなければ『黒鴉部隊』なんて入ってませんって」

上条「そか」

柴崎「だからまぁ、別に仲も良くない自分は、護衛対象の個人情報を漏らす事にも躊躇いもないですが」

上条「はい?」

柴崎「自分がアリサさんに着いてから、ワガママを言ったのは“この”一回だけですかね」

上条「“この”?ふーん、具体的にはどんな?」

柴崎「さぁ、どうでしょうか?」

――ユーロスター 個室

鳴護「……」

鳴護「……はぁ」

鳴護(まだ、ちょっと手が震えてる……)

鳴護(格好悪いなぁ、『頑張る!』って決めたばかりなのに)

鳴護「……」

鳴護(柴崎さんのお話、わかる、けど)

鳴護(……アレも、『エンデュミオン』も、うん)

鳴護(当麻君やインデックスちゃんのお陰で、あとお姉ちゃんも入るのかな?逆?)

鳴護(私が居た“せい”で、多くの人達が……)

鳴護(『奇蹟』が起きなかったら、いっぱい、うん)

鳴護「……」

鳴護(……じゃあ、『これ』も同じ事なの?)

鳴護(私が居る“せい”で、また危険に晒される人が居る、出る、かも知れない)

鳴護「……」

鳴護(けど、けどっ!『奇蹟』を起こせば!またっ!)

鳴護(私の歌で『奇蹟』を……!)

鳴護「……」

鳴護「でもそれじゃ、『奇蹟』があれば――」

鳴護「私の『歌』は関係無――」

 こん、こん

鳴護「あ、すいませーんっ!今出まーす!」

鳴護「え、英語?カンペカンペっ、えっと」

鳴護「ぷりーずうぇいとすらいりー?いっとかむずあうと、じゃすとあうとさいど?」

 こん、こん

鳴護「……つ、通じた?」 パタンッ

鳴護「……?」

鳴護「……あれ?誰も、居ない、よね?」

鳴護(気のせいかな?気のせいだよね?うんっ)

鳴護(ちょっと怖い話を聞いたから神経質になっているだけであって、全然全然?そういうんじゃないからっ!)

鳴護(ダメだなー、気分を切り替えないと)

鳴護(あたしは、あたし。そう決めたんだよ!あの日に!)

鳴護「……」

鳴護(……手を洗って……あぁ、なんか酷い顔しているかも)

鳴護(……うん!次はフランスで頑張らなくちゃいけないのに、ダメだぞアリサ!)

鳴護(あたしの歌を楽しみに来てくれる人が居るんだから、しっかりしないと!)

鳴護(私の『奇蹟』じゃなく――)

 キュ、キュッ

鳴護「……?」

鳴護(蛇口ひねっても水が、出ない?あれ?日本と違うのかな?)

鳴護(チップとか必要なの?……あ、お財布柴崎さんに預けたままだった)

鳴護(どうしよっか……あ、お守りの中に少し入ってたような?何かあったら大使館行けるよう――)

 ごぼっ、ごぼごぼごぼごぼごぼごぼっ

鳴護「な、何、これ……?隧道から、濁った――」

鳴護「粘液、が」

鳴護「タール、だっけ?真っ黒で、ドロドロとした」

 くぷっ、ぷぷぷぷぷぷっ

鳴護「葉っぱが浮んで、来て……?え、えぇ?」

鳴護「葉っぱじゃない!赤くて、違う!葉っぱじゃないよ!」

鳴護「人の唇が!タールの中に!泡だっ――」



「――てけり・り――」

――同時刻

男「『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』」

男「『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』」

少年「『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』」

少年「『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』」

くぐもった声「『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』」

くぐもった声「『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

?「『……』」

男「あぁお前は無理すんな。まだ早い」

男「体がなっちゃいねぇんだから、しようとしたって無理だろうよ」

男「張り切んなくても俺がすっから……えっと、メモメモ」

男二「兄さん、もうちょっと空気読もう?そこは別に黙って読んだ方が格好つくよね?」

男二「てかこの痛々しい詩書いたの兄さんだよね?書いた本人がド忘れしてるってどういう事?」

男「あーウルサイウルサイ。いいんだよ、こーゆーのは適当にフカシときゃ」

男「知ってるか?嘘ってのはどんなそれっぽい嘘を吐くよりも、たくさんのホントの中に紛れ込ませた方がすんなり通る」

男「逆も然り。ホントを嘘ばっかりの福袋に入れとけば、スルーされるってシロモンだぁな」

男「んじゃ続き……『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』」

男「『久遠に臥したるもの、死することなく――』」

男「『――怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎えん』」

男「『――我ら“濁音協会(S.L.N.)”の名の下に』、ってか」

男「……ま、そいじゃ行くとすっかね」

男「このクソッタレな世界に、『終焉(おわり)』を」

少年「……おーにさん、こっちらー」

少年「てっのなる、ほうへー……」

以上は今週の投下は終了。お付き合い頂いた方に感謝を

で、ご覧になっている方に聞きたいんですが
というか、指摘されるまで気がつかなかったのですけど、レスは返した方がいいんでしょうか?
基本ネトカフェ週一三時間でやりくりしなければいけないので、全レスは不可能なんですけど
(周回遅れではまぁなんとか?)

あともしかして潜在的にROMってる人って結構いらっしゃいます?
レス数が『アイテム』から徐々に減ってきているので、飽きられたんだな、と判断していたのですが、
HPのカウンター見る限り増えてきている気がしないでも?

人格批判は論外ですが、銀魂スレのノリでも構いませんので、何か一言残して頂ければ嬉しいです

>>48
……すいません、いきなり専門書から入るのも厳しいでしょうから。そうですね

【マンガ】
足洗邸の住人たち。(いつかSS書く予定)
大復活祭
√3= (ひとなみにおごれやおなご)
うしおととら
朝霧の巫女
物の怪らんちき戦争
HAUNTEDじゃんくしょん

【マンガ・ギャグ主体】
怪異いかさま博覧亭
奇異太郎少年の妖怪絵日記

【マンガ・グロあり。キツめ】
当て屋の椿
宗像教授伝奇考(※ただし推理はギャグ)
木島日記(※同上)

【個人的にオススメ。ネパール風の架空国家を舞台にした伝奇アクション】
カミヤドリ
神宿りのナギ(※カミヤドリの続編)

【ラノベ】
あなたの街の都市伝鬼!
ほうかご百物語
神様のおきにいり
もふもふっ珠枝さま(※神様のおきにいりの続編)
Missing(※ラノベだけどかなりキツい)
断章のグリム(※同上。この中では一番エグい)

【小説・図説】
京極夏彦・百鬼夜行シリーズ(※小説以外、特に映像化されたものは絶対に見ない事)
多田克己・百鬼解読

【別格・資料としての価値は高い。特に後者は色々あって”触れない”事が多々ある】
水木しげるの遠野物語
水木しげるの憑物百怪(※カラー版は上下巻)

※化物語みたいな「妖怪は出てくるけど文化人類・民俗学とはあまり関係無い」のは外してあります

乙。アリサさんの歌か奇跡かってのはちょいっと混同しちまってる気がしますな。
どういう答えを出して折り合いをつけるか期待。

おどろおどろしい作品群だけど、解釈次第ではって思うわ。

乙!

>>164
あざっす!参考にさせて頂きます!

――ユーロスター 客室

上条「少し遅いけど、大丈夫かな……?」

柴崎「護衛ポイント減点1。ボディガードは可能な限り護衛対象にストレスを与えない」

上条「気を遣って護衛失敗の方が怖いだろ」

柴崎「紳士ポイント減点10。アリサさんには内緒ですけど、ウチのスタッフが固めていますから」

上条「どっちにしろ減点なのな」

柴崎「紳士であるのと護衛は両立しがたいですから。ベタベタくっついていれば嫌われて当然」

上条「あの映画結構好きだったのに」

柴崎「政府系要人であれば人並み以上の分別は持っていますが、私的なSPはもう最悪ですね」

柴崎「大抵周囲をイエスマンで固めているので、こっちの意見を聞いてくれない」

上条「ヒロインが最初だだこねてたっけか」

柴崎「『彼女と逢うから二時間外してくれないか?』」と言われた事すらありますよ」

上条「すっげーなソイツ!……あぁまぁ男として気持ちは分からないでも……?」

柴崎「ま、結局その恋人に刺されるんですけどね。未遂で終わらせましたが」

上条「泥沼だなぁ……あれ?どうやって防いだの?外してたんだよね、席?」

柴崎「『席を外すとは言ったが、本当に外すとは言ってない』」

上条「……うんまぁ、うんっ!働くって難しいですよねっ!」

上条「つーかさ思ったんだけど、こういうのって同性のSPが着くんじゃないの?」

上条「今の話――は、流石に参考にならないけど、それ以外じゃ同性同士の方がやりやすくはあるよな?」

柴崎「それは、正しくもあり間違ってもいますね」

上条「どっちだよ」

柴崎「アイドルの護衛兼マネージャーとしては、少々強面の方が『諦めて』くれます。相手――というか、仮想敵はファンや同業者ですからね」

柴崎「アリサさんは良くも悪くも目立つので、まぁ色々と」

上条「あんま聞きたくないけど、やっぱそういうのってあんの?」

柴崎「全てお断りしているので何とも。でもどこかのグループの社長さんが、脱法ドラッグを使用しても報道されないなど、『お察し下さい』です」

上条「……うっわー、芸能界怖いわー」

柴崎「覚醒剤からの復帰は当たり前、詐欺も脱税もよくある話。真っ当な親御さんだったら止めるでしょうな」

柴崎「ファンを自称する方だって、やってる事はストーカー紛い方もいます」

柴崎「住所特定から彼氏彼女の有無まで。いやー、アイドルと恋愛するのは大変そうですよねー?」

上条「そこでどうしてニヤニヤしながら俺を見るの?」

柴崎「ともあれ『そういうの』には、堅物そうな年上のマネージャーが睨みを利かせると」

上条「超心配性なお姉ちゃんもいるしなー」

柴崎「オフレコでいいですか?ここは『絶対』盗聴されていませんから」

上条「内容によるけど、はい?」

柴崎「リーダーの溺愛っぷりも、実はあれ寂しさの裏返しだと思うんですよね」

上条「……あぁそっか、シャットアウラも、だったよな」

柴崎「最初は徹底して拒絶していたのも、『身内に対する接し方を知らない』だけなのかも知れませんし」

上条「つー事はあれか?デカすぎる愛情が『エンデュミオン落とし』に繋がったって?」

上条「つーかさつーかさ、俺今一納得行ってなかったんだけど、レディリーは『死にたかった』んだろ?」

柴崎「3年前の『88の奇蹟』が、まさにそうらしいですが。リーダーの敵でもあります」

上条「シャットアウラは妨害するためにアリサを襲った、けどアリサは『奇蹟』――つまり、他の人達を助けるために歌った、と」

柴崎「でしたね」

上条「……シャットアウラ、妨害した意味なくね?」

柴崎「――はい、と言う訳でもう一つの理由、『同性のSPが着いた方が良いのかどうか』についての質問に戻りますが!」

上条「おいテメー話を逸らすな?割と核心的な話してんだよ!」

柴崎「タレントの護衛と要人警護はまた別なんですよ。カテゴリ的に」

上条「……そうなのか?」

柴崎「そうですね、例えば上条さんが誰かを暗殺しようと思いました」

柴崎「ライ麦畑で捕まえる本を読んだり、丸山ワクチンで一発逆転を狙ったり、動機はさておくとして」

柴崎「ちなみに丸山ワクチンは、同じ成分の薬が免疫増加薬として認可されています。陰謀論を言うと笑われますから」

上条「あんまそういう一発逆転には……うんまぁ、アレだけど!結構薄氷渡っては来たけどさ!」

柴崎「大抵『そういう人』は『確固とした信念』を持っていて――」

柴崎「――『あ、護衛の人強そうだから、今日はやめておこっかな?』とはなりません」

柴崎「ていうか、その程度の正気が残っていれば、普通はしませんからね。襲撃自体」

上条「まぁな。確かに言われてみればそうだろうけど」

柴崎「だから要人警護は能力優先で決まり、外見はあまり斟酌されません」

上条「言われてみればイギリスの女王さんに会った時も、厳つい野郎より女――の子、の方が多かった気がする」

柴崎「何故今『子』をつけたんです?」

上条「深い意味は無いけどなっ!別に18歳なら女の子っつってもいいじゃないっ!」

柴崎「上条さんの妙なコネクションに興味はあるんですが、蛇が出て来そうなので突きません。怖いので」

上条「……俺は別に一般人なんだけどね。特別な力を持ってる訳じゃねぇし」

柴崎「それで最初の質問、『アリサの護衛には同性の方がフラグ立てられたんじゃね?』の答えなんですが」

柴崎「一説には百合厨だとの噂がある上条の疑問にお答えしますと」

上条「聞いてないですよね?一っ言も裏の意味はねぇからな?」

柴崎「自分が護衛をするのはフランスまでです。コンサートが終わってからはリーダーとの旅になるでしょうね」

上条「やっぱシャットアウラか。いやでも柴崎さん、一緒に来ればいいんじゃねぇの?」

柴崎「野暮用が少しだけ」

上条「え、いいじゃん。行こうぜ?つーか女の子二人に男一人だとキツい」

柴崎「バトー・ラヴォワールに行きたいんですよ」

上条「どこか分からないけど観光ですよね?」

柴崎「貧しい時代のピカソやモディリアーニが住んでいた安アパートです。日本で言えばトキワ荘ですか」

上条「画家さんと漫画家さんはジャンル違いじゃ?」

柴崎「知り合いがマリー・ローランサンの絵を見たがっていまして」

上条「やっぱ観光じゃねぇか。意外にシャットアウラへの忠誠心低いな!」

コォォォォォォォォォッ……

上条「トンネルへ入った……あれ?耳がツーンってしないな?」

柴崎「今居るのが英仏海峡トンネルですね。ユーロスターは機密性が高いので、そうそう気圧が変わりませんし」

柴崎「先程の駅がアシュフォードなので、次のカレー・フレタンまで約25分」

上条「意外に早いのな?」

柴崎「トンネルか、えぇっと……37.9km。ユーロスターは最大時速300kmなので」 ピッピッ

上条「普通列車とは違うか。りょーかいりょーかい」

柴崎「去年のテロから復旧も早かったですし――って、どうしました?何故遠くを見つめるので?」

上条「……いやぁ世界って狭いよなって」

柴崎「あぁそういえば上条さん、ピコピコに詳しいですか?」

上条「言い方が古すぎる!?今時じーちゃんばーちゃんだって普通に使うだろ!」

柴崎「スマフォのアプリで、常駐設定が難しくて。見て貰えませんかね?」

上条「いや、俺はガラケーだし。あんまアプリも入れてないって言うか」

柴崎「そう言わずに、どうか、ね?見るだけでいいですから」

上条「いいけど。出来れば知ってる人に頼んだ方が良いと思うけどな……?」 スッ

上条(うわこれ最新型っぽい。携帯っつーかハンディパソコンみたいだ)

上条(……いや、逆にPCと同じだったらイケるかも?仕様は共通してんだろうし)

上条(どれどれ、タスクマネージャ開い――ありゃ?メモ帳が開いてる?)

メモ帳『盗聴の可能性があるので、このままケータイを直すフリをして読み進めろ』

柴崎「どうです?分かりそうですか?」

上条「……うん?あぁはい、何とか見れそう、かも」

上条(……喰えない、っていうか。伊達にシャットアウラから信頼されてる訳じゃねぇのな)

上条(会話に出てた『アイドルの護衛としてたまたま選ばれた』、のが柴崎さんじゃなくってだ)

上条(外見が厳ついとか、堅物だとか、そーゆーのは全てフェイク)

上条(『鳴護アリサの実力ある護衛者』として、性別関係無く任命されたのが柴崎さんって事か)

上条(今にして思えば『これはオフレコで』発言も、盗聴してるかも知れない相手に、『油断してますよ』って過信させるため……)

上条(……そか。なんかフランクに話してくると思ったら)

上条(土御門に似てんのな。得体の知れない胡散臭さと、時々覗かせるクレバーさっつーか)

柴崎「良かったー。中々相談しにくくて大変だったんですよね」

メモ帳『トンネルへ入って外部からの光学的な盗撮は出来なくなった。ただし今までの会話を全て盗聴されている可能性は捨てきれない』

メモ帳『従って以下、重要な事を“これ”で伝えるので遵守されたし』

上条「やるだけやってみますけど、出来るかどうかは、はい」

柴崎「結構ですよ、それで」

メモ帳『第一に優先すべきなのは「鳴護アリサの安全」』

メモ帳『安易なヒューマニズムに負けて、命を粗末にしない事――』

メモ帳『――例えそれが鳴護アリサから恨まれる事になっても』

上条(……あぁ、人質云々はこの話に繋げたかったのかよ)

柴崎「どうしました?あー、そのアプリ入れようか迷ったんですけどね」

上条「……いや、正解だと思うけど。あんまりオススメは出来ないっていうか」

柴崎「少しぐらい重くたって後々後悔しない方が、と思いましてね」

メモ帳『基本的に先方車両と後方車両へ「黒鴉」を配置しているため、柴崎に何かあったらどちらか、出来れば先頭へ向かえ』

メモ帳『そして速やかに脱出を計られたし。それが最善手』

上条「……悪いんだけど、ここちょっとおかしくねぇかな?ここなんだけどさ」

上条「どーにも納得行かないんだけどさ」

柴崎「そうでしょうかね?あぁ、もう少し下までスクロールさせないとヘルプは出て来ませんよ」

メモ帳『理由は二つ。彼らの目的は「鳴護アリサ」である』

メモ帳『従って「鳴護アリサが逃走した場合、彼らは追跡へ入る」ので、ここで起きる被害を最小限に留められる』

上条「……」

柴崎「どうですか?」

上条「――んなわけ」

柴崎「はい?」

上条「そんなわけねぇだろうがよ!どこをどう考えたら――」」

柴崎「でしょうか、自分もそれはないと思ったんですが」

柴崎「取り敢えず、見るだけは見て下さい。見るだけでいいですから」

上条「……」

メモ帳『理由二つめ。この世界には「意味があれば人を殺す奴」と「意味が無くても人を殺す奴」の、二つに分けられる』

メモ帳『大抵は前者、しかし決して後者も少なくはない』

メモ帳『恐らく君は「鳴護アリサが逃げた後、野放しになった彼らが腹いせと見せしめを兼ねてするであろう事」を危惧しているんだろうが」

メモ帳『それはきっと「鳴護アリサという理由がなくても連中はする」』

メモ帳『たまたま理由が「鳴護アリサだっただけ」に過ぎない』

メモ帳『もし仮に「居残った人々を助けるため、鳴護アリサや君が残った」としよう』

メモ帳『彼らは嬉々として関係無い人間を次々巻き込むだろう』

メモ帳『そういう「人質」が君達に有効だと知ってしまったならば』

上条「……そういうことかよ……!」

上条(だから俺とアリサへ人質の話なんかしてたのか!……いや、違う、そうじゃない)

上条(『俺に非情な決断をさせるため』、かよ!クソッタレ!)

メモ帳『逆に「人質が通用しない」と証明してしまえば悲劇は起きない』

メモ帳『徒に話を大きくして、他の組織、最悪欧州連合に付け狙われるのは宜しくないからだ』

メモ帳『だから君達は逃げなければならない』

上条「……ちょっと、いいですかね?」

柴崎「はい」

上条「正直、よく分からないっていうか、理解したくないっていうか」

柴崎「分かりませんか?でしたら仕方が無いかも知りませんね」

上条「俺だったら別のアプリ入れますよ、きっと」

上条「最善はないかもしれない。だからって次善を探さないで良い訳ないからな」

上条(最悪、アリサの安全確保を『黒鴉部隊』にやって貰ってだ)

上条(他の護衛の人に任せた後で、残った連中をぶっ飛ばす!そうすりゃ問題はねぇよな)

上条「――そこは、譲りません」

柴崎「まぁ取り敢えずは暫く保留でいいかも知れま――おや、これ何でしょうね?」

上条「えっと……?」

上条(まだ下に……?)

メモ帳『多分君は「鳴護アリサの安全を確保しておいて、自分は残る」という発想へ至っているだろう』

上条(……笑っちまうぐらい読まれてんじゃねぇか、俺)

メモ帳『リーダーからおおよその性格を聞いただけなので、推測に過ぎないが気持ちは理解出来る』

メモ帳『自分も理想論と感情論を天秤にかけた上、同じ行動を取る可能性はある』

上条(あ、なんだ。同じじゃんか)

メモ帳『だが「今回は相手が悪い」んだ』

メモ帳『学園都市の協力機関からの情報だが、彼らは精神汚染と肉体改造のエキスパートらしい』

メモ帳『よって「君が黒鴉部隊だと信じていても、それが本物であるとは限らない」と』

上条(……なに?)

メモ帳『外見は光学的、または視覚的に化ける事が可能であるし』

上条(海原とかそうだな。その可能性は充分か)

メモ帳『肉体が同じでも精神が全く別であるのも可能だそうだ』

メモ帳『だから君が「安全な相手だと思った鳴護アリサを引き渡したら、実は敵だった」も、充分に有り得る』

メモ帳『だからもし、君が柴崎抜きで他の「黒鴉」に接触した場合、まず隊員の名前を聞いて欲しい』

メモ帳『そしてどんな答えであっても「シャットアウラさんに次ぐ能力の、と柴崎が褒めていた」と言え』

メモ帳『その反応を肯定するのであれば敵。決して鳴護アリサの側を離れてはいけない』

メモ帳『しかし同時に君達だけでは危険なので、他の隊員が駆けつけるまでは味方のフリをして敵の指示に従う事』

メモ帳『向こうも無茶な要求はしないだろうから、信用したフリをさせて油断させるように』

上条「一応聞くけど、ここはなんで?」

柴崎「……えっと、ですね」 トントントン

上条(キータッチ超早いな)

メモ帳『隊員は “さん”や名前付けはしない。普段は「リーダー」「サブリーダー」、コードネームで、それ以外の敬称はつけない』

メモ帳『敬称は邪魔だから、公の場所でも無い限り呼んでいる人間は居ない』

上条「……成程。分かった、うんまぁ、全部は納得してないけどな」

上条「ここを、こうすれば……あぁっと、落ち着く所に、落ち着く、よな」

柴崎「別に全部綺禮にしなくても大丈夫ですよ。なんでしたら騙し騙しやってきますから」

上条「……だな。優先順位は分かるけど」

上条(一番はアリサ。向こうさんが狙ってるのもそうだ)

上条(……けど、いざ人質を取られたとして――)

上条(――割り切れねぇよな。自分達だけ逃げろってのは)

柴崎「答えがある問題じゃないですしね。問題があって、解決方法が一つとは限らない」

上条「最善、良かれと思ってやったとしても」

柴崎「問題が発生したとして、原因がOSや他のブログラムとの競合とか複数であったりね」

上条(に、しても怖いおっさんだな。つーか今一頼りないのも演技か)

ガッタン、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条「……地震?」

上条(一度軽く列車全体が揺れ、妙な音が断続的に響く)

上条(確か……おっきな地震があったら、新幹線は止まるんだよな?)

上条(けど急ブレーキでかかるような圧力はないし……なんだろ?)

柴崎「『――はい。今は――えぇ』」

上条(片手を耳に当てて誰かと話している柴崎さん。その相手は見えない人、な訳はないか)

上条(多分通信機なんだろうけど、骨伝道とか下手すれば『内側』に何か仕込んでいるんだろう)

上条「……?」

上条(窓の外は相変わらず真っ暗で、時折光って見えるのはトンネルに設置されている非常灯ぐらい……)

上条(何となく数えたくなってくるよな?一、二、三……)

上条(四、五、六、七八九……)

上条(おかしくねぇかな?なんか、非常灯の間隔が狭くなってるっつーか)

柴崎「『ではそちらは後から――はい、それで宜しくお願いします。では』」 ピッ

柴崎「「えっと、ですね?上条さん、実は」

上条「あーもうなんかトラブルの予感しかしねぇんだけど!」

上条「アレだよな?『良い話と悪い話、どっちから聞きたい?』的な展開になるんだよな?」

上条「分かっちゃったもの!なんかこうそーゆー雰囲気だし!さっきから列車もご機嫌で揺れてますしねっ!」

柴崎「凄く悪い話ととても悪い話、どっちが良いですか?」

上条「どっち選んでも行き詰まりですよねっ!……いやいや、んなボケかましてる訳じゃなくてだ」

柴崎「それじゃ移動しながら話しましょうか。あぁアリサさんの荷物は」

上条「俺が持つよ。手、塞がっちゃうだろ」

柴崎「すいませ――」

『……!』

『――、――!』

『……』

上条(通路側から人の声……?争ってる、っていうよりも)

上条(たくさんの人が、騒いでる、か?)

――ユーロスターS 個室

ガリ、ガリガリガリガリガリガリッ!

 得体の知れない音が――正直想像したくもない鉤爪の音が立てこもっているドアを削る。

 ドリルで穴を開けるのではなく、カッター一で切りつけるのとも違う。
 鉤爪――下手をタダの爪でステンレスの扉を絶え間なく傷つけている。

 実際の所、それはあまりにも途方もない行為であり、同時に意味を成してなどいない。
 隠れた個室の上下は開いており、また適当な膂力さえ持っていればドア一枚を引き剥がした方が早い。

 だがそんな『常識』が通じるのは普通の、それも人間の貌(かたち)をした相手だけだろう。

 伸縮自在の黒い粘液の塊にそんなもものはない。
 ただ押し潰し、磨り潰し、同化する。
 そこに悪意はなく、ましてや善意もない。

 あるとすれば――『欲』だけだ。
 この世界に生命という概念が産み落とされてから、常に存在し続ける『欲』。
 万物を突き動かす衝動。

 殺す・盗む・奪う、などといった甘ったるい欲求では無い。
 ただ、喰う。それだけの行為。

 映画に於いてその黎明期から交わされる議論がある。「自分であればこうする」、「もっと上手く立ち回れる筈だ」、そう多くは言うだろう。
 時としてショッピングモールー籠城したり、サメの出る海から逃げ出したり、極限の基地への赴任を断ったりするかも知れない。
 フィクションを眺める第三者は、えてして物語が境界を超えるであろう事を夢見る。

 だが――しかし。
 こうやって『境界』を乗り越えてきた相手には、呆然と立ち尽くす。またはパニックに陥って泣き叫ぶ。
 現実を現実と受け入れられず、無闇矢鱈にわめき散らすのが精々だろう。

(怖い!怖い!怖い――)

 護衛からは「広くて人の多い所へ逃げろ」と何度も念を押されにも関わらず、こうして個室に逃げ込むしか出来なかったのが証明している。
 それも反射的だったのかも知れない。まだ十代の少女であれば、とっさに体が動いただけで僥倖と呼べるだろう。

 けれど幸運はそう続かない。逃げた先には映画のような窓は無く、あったとしても最大時速300kmを誇る電車の中。悲惨な結末を迎えるだけ。

 だからといって無謀に飛び出せば、それ以上に後悔する事も間違いない。

 完全に『詰んだ』状況。普通であればそのまま発狂する――比喩では無く、常軌を逸して身罷るのか精々。
 残された時間を神に祈るか、自身の運の無さを呪うか、取れる選択肢は少ないだろう。

 それは鳴護アリサでも例外たり得なかった。
 あの『奇蹟』で大勢を救った人間ですらも。

(当麻君!当麻君!当麻君!)

 両手を胸の前で組み、神には祈らず――彼女にとっては――人の身へ一心に祈る。
 何回、何十回、何百回繰り返したのかも、分からないまま……ふと、鳴護は気づいてしまう。

 ドアを掻き毟る醜悪な音が、粘液を撒き散らす恐ろしい音が、もう聞こえなくなっている事に。

(……?)

 長く――永く感じられたのは恐怖に戦いていたせいか?それとも現実に過ぎてしまっていたのか?
 安堵の溜息をこぼす、その一瞬に。

「……アり、さ?」

 自身を呼ぶ声がする。

「当麻君っ!?当麻君なのっ!?」

 祈りが通じた!そう歓喜したのもつかの間であり。

「良かったぁ、来てくれたん――」

「そう、ダ……俺が、カミジョウ。ゴボッ」

 声は丁度人の背丈の中程、腰辺りから響き、

「めい、ゴ……たすけに、キた」

台詞は人によく似た醜悪なものであった。台詞の単語自体は。

 大雨の日に下水から吹き出す雨水に混ざった気泡。
 深い海の中から湧き出る不気味な泡。

 到底人の発音とは似ても似つかない。

「メイゴ、めいご、あ、リサ……ゴボゴボッ」

 絶望するのは、まだ早い。このドアの直ぐ外にいる――ある『何か』は、

「めいご。おい、で?」

「めいごめいご、呼ばれてる、かえろ?」

「たいま、たいま仕事……ゴボゴボゴボッ」

『口々』に、そう囃し立ててきた。
 一つであったモノが、二つ、二つであったモノが、三つ。

 もしくは一つであったモノに、多数の口を生やしていない限りは。

「……なんで、なんであたしなのっ!?」

「私なんか!あたしなんかっ!……どうしてっ!?」

 狂気に追いやられながらも、最後の理性を動員させて鳴護は叫んだ。
 ……いや、ただの現実逃避なのかも知れない。

 常識的に考えて、ここで悪党が口を滑らす必然性は無い。

「ムスメ、たいどう……おらとりお」

「アリ、さ。かみを産む」

「さるんは……ゴボッ、お前をひつヨウとして、る」

「分かんない!分かんないよ!?」

「そんなにあたしの『奇蹟』が欲しいんだったら――」

 ゴボ、ゴボゴボゴボッ。鳴護の台詞を遮るように――実際にそういう意図があったのかは不明だが――泡の音が一層大きくなる。
 腰辺りで響いていたのが、くぅっと伸び。

 もう、扉の上の隙間に届かんばかりに。

「……ゴボッ……キセキ、ひつよう、ない」

「――え?」

 意外とまともな返答が返ってきた。それはただの偶然なのかも知れないが。

「いきもの、いきる、すべて、キセキ」

「おかしなトコ、ろ、ない」

「きせき、みんな……ゴボ、もって、ル」

「……え?それって一体――」

 その問いに答えは無く。
 不気味な水溜まりの、奇妙な水音は扉を越え――。

「――何、やってんだテメェェぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

パキィィィィィン…………。

――ユーロスターS 女子トイレ

上条「アリサっ!?アリサ大丈夫か!?」

鳴護「当麻、君……!?本当に!?ニセモノじゃ無くって!?」

上条「落ち着け、なっ?俺も柴崎さんも来て――どわっ!?」 ガシッ

鳴護「……」

上条「……悪い。怖い思いさせちまった」

鳴護「……ゴメン。強くならなきゃ、って」

上条「それは……無理してまで突っ張る必要はないって」

上条「殴り合わない戦い方だって、ある。アリサはそっちでやってくれれば」

上条「こっちは俺が何とかするから、別の方で気合い入れればいいさ」

鳴護「……あたしは、強くない、よ……」

上条「……アリサ?」

柴崎「――はい、どうも。そこまでです。続きは後で宜しくお願いします」 ズズッ

上条「あ、すいませんっ!?……って、それ」

上条(柴崎さんが両手で引きずっているのは大の男二人。意識がない、か?)

上条(あまり広くない女子トイレの手洗い場に、総勢5人が集まって……まぁ、狭い)

アナウンス『……!――――!――!』

上条(超早口の車内放送が流れ、ザワザワとした気配が広がって――)

上条(――来ない。通路の方を走って行く足音が時々聞こえるだけ、だ)

……ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条(妙なギシギシ音は相変わらず。これも意味が分からないよな)

上条(パニックになってもおかしくない内容じゃなかったのか?)

柴崎「『後方車両に火事があったみたいだから、前方車両へ非難しろ』、だそうですね」

上条「マジですかっ!?」

柴崎「アナウンスの内容は、ですけど。現実はまた別です。ちょっと待ってて下さい、今縛っちゃいますから」

上条「……俺達も逃げた方がいいんじゃ……?てか、手際いいですね」

上条(プラスチックのコード束ねバンド?あれの超太い奴で男達の関節を固定し、目隠しをする)

上条(これをするって事は敵だったって事――だけど、一体どうやって倒したんだ?)

上条(俺とアリサが話してたのって10秒ぐらいだってのに)

柴崎「今、他の隊員からも情報が上がっていますが、火事が起きたのではありません」

柴崎「結論から言うと、後方車両が切り離されました」

鳴護「切りっ!?」

上条「連結している所から、ですよね?」

鳴護「……あぁそっか、そうだよね」

柴崎「アリサさん、正解」

鳴護「や、やったねっ……?」

上条「喜んでる場合かっ!?……待て待て!内容が剣呑すぎるだろ!?」

柴崎「落ち着いて下さい。慌てて騒いで取り乱して、事態が解決するのであれば別ですけど」

柴崎「子供を通り越して狂人みたいに、他人から笑われているのも理解出来ないのはよして下さいね」

上条(と、言いつつも柴崎さんは男二人の身体検査をしている……礼状ないんだけどなぁ)

鳴護「逃げなくて、いいんですか?」

柴崎「その前に現状説明を幾つか。後々必要になるでしょうから」

上条(と言ってさっき見たモバイルを取り出す)

柴崎「このユーロスターSは前後に機関車2台、客車が18台の計20台から構成されています」

【イギリス←→フランス】
■□□□□-□□※□□-□□□□□-□◇◇◇■

■ 機関車
□ 客車
◇ シャトルサービス

※ 現在位置

上条「シャトルサービスって何だ?」

柴崎「車やバイクが詰んである車両です。まぁフェリーとかで自家用車やトラックも運ぶじゃないですか?それと同じ」

鳴護「じゃこっちの“-”って記号は?」

柴崎「連結器ですね。緊急時や災害時には乗客を移動させた上で、後続の車両を切り離せるようになっています」

上条「今、俺達はフランス行きだから、一、二……13両目に居る?」

柴崎「機関車はカウントされないので12両目です――で、今航行しているのは、こんな感じ」

□※□□-□□□□□-□◇◇◇■

上条「少なくなって、る?」

柴崎「後方車両で何人か暴れだし、突然客車と客車の間をぶった斬ったんだそうで」

柴崎「連結器のない所を、こうバッサリと」

上条「人間業じゃ――うん、まぁ良くありますよね?別に珍しくはないですよね、はい」

鳴護「えっと……あ、あははー」

柴崎「お二人がどちらのリーダーを思い出したのかはさておくとして、ユーロスターの乗務員はテロだと判断」

柴崎「火災を理由に乗客の速やかな避難を進めています。賢明な判断ですな」

鳴護「それで私達はどうすればいいんでしょうか?」

上条「てか悠長に話してていいのか、って事なんだけど」

柴崎「さっき上条さんに『お願い』した通り、先頭車両――シャトルサービスで待機している隊員と合流します」

上条「いやだから、のんびりして場合じゃねぇだろって話なんだが」

柴崎「はい護衛ポイント減点5」

柴崎「パニックになった乗客に挟まれて、すし詰めになった挙げ句、ドサクサで刺されて終りですね」

上条「……う」

柴崎「あちらの強みは一般人と構成員の境が分からない事ですから」

柴崎「現にこっちの二人は陽動狙いだったようで、アリサさんを助けた後に――と、するつもりだったんでしょうが」

柴崎「いい傾向ですね。向こうはアリサさんを無傷かそれに近い状態で欲しており、護衛排除の優先順位を高めています」

鳴護「あのー?それって私が脅かされて、二人が引っ張り出されるって話です、よね?」

柴崎「アリサさんを確保しても、ほぼ密室状態であるユーロスターSから逃走は困難」

柴崎「ならば囮にしてでも我々を先に始末、と」

上条「それを分かってて襲撃した奴ら瞬殺するアンタも結構怖いんだけどな」

柴崎「人聞きの悪い。殺していませんし」

柴崎「しかもこの二人、雇われたのではなく『あちら』関係なようですよ、ほら」

上条(男達の袖をめくると――)

上条「ウロコ、だよな?」

柴崎「ナイフは勿論、拳銃ぐらいは効果ないでしょうね。上条さん、タッチ」

上条「お、おぅ?」 ナデナデ

鳴護「……あたし?なんであたしの髪撫でてるの?」

上条「いやなんとなく?」

柴崎「後でしなさい、後で。てかこっちの二人に決まってるでしょうに」

……

上条「あ、あれ?能力じゃねぇのか?」

……パキィィィィン……

鳴護「無くなった、よね。それとも解除されたのかなぁ?」

柴崎「話に聞いていたよりも遅いのは気になりますが、もう一人も宜しく。意味は無いと思いますけど」

上条「去年のアレと同じで操られていたんじゃ?」

柴崎「こちらさん、身元を証明するものが何もないんですよ。財布、携帯電話、免許証とか」

上条「どう見てもカタギじゃねぇよな」

鳴護「日本だったら、まぁ『バッグの中に忘れてきちゃった』も、あるかもだけど。こっちじゃ流石に、うん」

柴崎「代わりに持ってるのがSIG――オートマチックの拳銃と予備マガジンが幾つか」

柴崎「……ま、取り敢えず縛って捨てておきましょうか」

上条(っていう割に首をキュッてしてるけど……うん、俺は何も見てない見てない)

上条「……俺、銃持ってた方がいいのか?」

柴崎「絶対に止めて下さい。下手に撃ってアリサさんに当たるのがオチです」

柴崎「訓練された人間以外が持つべきではないですし、逆に銃を持っていると優先的に攻撃されますから危険です」

柴崎「どうしても、と言うのであれば落ち着いた後に自分かリーダーが教えますから」

上条「……分かった」

鳴護「あの、さっきから通路の方、人が走ってるんですけど、私達も急がなくていいんですか?」

柴崎「現時点で分かっている事。それは『向こうはユーロトンネルから脱出する方法がない』と」

柴崎「アリサさん一人を攫い、さっさと逃走出来たのに、しなかった」

上条「それどころか俺達の排除優先させた、ってのは」

柴崎「はい、正攻法でしか出られないんでしょうね。イギリス・フランス側のどちらかしか」

柴崎「……ここだけの話、何かトラブルが発生した場合、後方車両の隊員には『切り離せ』と打ち合わせはしていたんですけどね」

鳴護「何でですか?それだと逃げ道を塞いでしまうんじゃ?」

柴崎「後続車両を切り離すのは、『背後から別の車両で急襲する』手段を防ぐためです」

上条「思ったんだけど、反対車線?からちょっかいかけられたら、ヤバいんじゃないのか?」

柴崎「ユーロトンネル、正式名称英仏海峡トンネルは高さ8mぐらいのトンネルが二本、そしてその中間にメンテナンス用のトンネルが掘られています」

柴崎「それぞれのトンネルとの間には、連結用の通路が掘られていますけどね。巨大な車両が通れる幅はない」

鳴護「……わかりました。それじゃ西部劇の列車強盗みたいに、他の車両が乗り付けてくるのはないんですね?」

柴崎「『真っ当な手段』では前か後ろから、ですね」

柴崎「既に切り離された『黒鴉部隊』には、何者も通すなという命令を与えていますし……ふむ?」

上条「なんか、おかしいよな?」

鳴護「なんか、ってなに?」

上条「連中のやり方がさ。最初、後続を切り離したって聞いた時は、こっちの逃げ場を絶つ、みたいな作戦だと思ったのに」

上条「その割にはアリサ確保にも手間取るし……バタバタしてる?行き当たりばったり?」

柴崎「そもそも、で言えばアリサさんにコッソリ張り付いている筈の他の隊員も居ない」

上条「そういや、そういう話だったよな」

鳴護「あのー?あたしそれ初耳なんですけどー?」

柴崎「すいません嘘でした」

鳴護「いやあの、出来れば事前に言って欲しかったような、はい」

柴崎「防犯ブザー型の発信器持っていったのに、鳴らさないアリサさんもどうかと思いますが」

鳴護「う」

柴崎「過大な安心は慢心に繋がりますからね。自分達とあなたはお友達でも、ましてや仲間でもありません」

柴崎「それがあなた方の安全に繋がるのであれば、これからも伏せるべき情報は伏せますし、嘘も吐きますよ」

鳴護「……はい」

上条「柴崎さん、必要なのと嘘はまた別だと思うけど」

柴崎「とにかく。手練れ達、とまでは言いませんが、少なくとも奇襲程度でどうにかなるような人間達ではな――」

上条「どったの……?」

ゴリゴリ、ゴリパキュゴリゴリゴリゴリッ

鳴護「――っ!」

柴崎「……上条さん?ゆっくりでいいですから、そのままゆっくり振り向いて下さいね?」 ジリジリ

上条「待ってよ!?何で二人とも俺の後ろを見て顔引きつらせてんの!?何?何が居んだよ!?」

柴崎「いやそれは、はい。見た方が早いと。ぶっちゃけさっさと見ないとそのまま溶か――いえなんでもないです」

上条「言っちゃってるよ!?『溶かす』以外に解釈のしようがねぇもの!?」

鳴護「か、かみじょー、後ろ後ろー」

上条「あぁもうアリサさんったら昨今のアイドルっぽくお笑いもイケるクチなんですかねっ!」

上条「ただ俺は個人的にもイメージは大切ですよね的な大切さ――」

?「――テケリ・リ」

上条(圧力に耐えきれず、振り向いた俺が見たものは――)

ゴリゴリパリゴリパキュパキュ

上条(たった今拘束したばかりの男二人を『喰って』いる黒い粘液だっ――)

上条「う――」 キュッ

上条(なんだ……?首が急に絞まった――糸?)

柴崎「(はい、お静かに。それ以上はお口チャックマンでゆっくり、こちらへ)」

鳴護 コクコク

上条(俺の首を柴崎さんが指差して……てか苦しいな) パキィィンッ

柴崎「(おや『暇人殺し』?)」

上条「(字、間違ってる。多分だけど、何か違う)」

鳴護「(このままゆっくり、ゆっくりー)」

パシュー、パタン

上条(ドアが閉まるその瞬間、俺ははっきりと見ないようにしてた『それ』)

上条(黒い粘液の塊が、男二人分にまで大きくなり、ハンバーグをこねるような……いや、止めよう)

上条(同情する気にはならない。けどこれは――!)

柴崎「(……上条さん、もう手遅れですから)」

上条「(分かってるよ!……あぁ、分かってるさ)」

パタン

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>170-171
ありがとうございます
>>172
少しでもお役に立てれば幸いです

――ユーロスターS 通路 移動中

柴崎「――さて、ではさっさと車両移動して切り離してしまいましょうか」

上条(そう言いつつ柴崎さんはアタッシュケースから何か――小さめのマシンガン?を取り出す)

上条(誂えたようにピッタリとはまる特注品か?)

柴崎「MP5短機関銃、サブマシンガンと言った方が分かりますかね」

柴崎「命中精度が高く、銃身も短いので振り回しに長けている」

柴崎「ちなみにこのモデルは要人警護用、アタッシュケースとセットになってるK(コッファー)シリーズです」

鳴護「いえ、あの一般人が銃器振り回すのはマズいんじゃ?」

上条「『現役アイドルのマネージャー、車内で乱射!?』的な感じだろ」

柴崎「面倒なので端折りましたが、今の自分の立場は『SP』だと言いましたよね」

柴崎「あれは『Security Police』の略――名義だけ公務員なんですよ」

上条「民間の警備会社が?」

柴崎「最新式の武装は無理だとしても、必要最低限の装備は出来るように学園都市からちょちょっと政府へ掛け合いまして」

上条「いや、必要だけどさ……いやでも、うーん?」

柴崎「……ただまぁ正直言って、気休め程度だと思いますがね、『アレ』相手だと」

上条「『アレ』を放置すんのは抵抗しかねぇんだけ――」

柴崎「では今のウチに避難しましょうか。幸い人も居なくなりましたし」

上条「聞けよ!今大事な話をしてたでしょーが!」

柴崎「『右手』でどうにかならない以上、自分達に出来る事はありませんよ」

柴崎「……最悪の最悪、前方車両も切り離してトンネル内に籠城してもいい、とは考えて居たんですが」

柴崎「『アレ』は無理です。あなたの『右手』ですら殺しきれない以上、手の打ちようがない」

上条「そもそも殺しきれなかったのかよ?手応えはあったんだけど」

鳴護「一回はバラバラになったんだよね」

上条「つーかさ、前から思ってたんだが、連中の『ウロコ』消すには一瞬じゃ無理だったよな?」

鳴護「あ、学園都市でも」

上条「そうそう。あっちは巻き込まれた方で、ハウンド?とかと一緒に何とか捕まえたんだけどさ」

柴崎「……『暗部』の始末屋も動員されていたんですか」

上条「けど今の『アレ』は文字通り『幻想殺し』が徹った――ように、見えた」

上条「何が違う?それとも同じ相手なのに、俺が変わってんのか?」

鳴護「どういう事?」

柴崎「『異能に介入する異能』、または『異能に抵抗力がある異能』ですか」

鳴護「あぁ成程、当麻君の『幻想殺し』は『異能キャンセル』だから」

鳴護「『異能キャンセルをキャンセル出来る能力』って事?」

上条「長いな」

柴崎「それも含めて現段階では何とも」

柴崎「おそらくは『あちら側』なのでしょうが、そっちのエキスパートのご助力も欲しい所です」

上条「つってもそれぞれの教会関係者に頼んでも、手を貸してくれないっぽいか……」

柴崎「どなたか居ませんかね。出来れば知識だけでもあれば」

上条「バードウェイんトコ……あぁ大きすぎるか」

鳴護「おっきい所の方が頼りやすい、よね」

上条「イギリスの魔術結社と、ガチでやりあって数十年の組織だって言えば分かるか?」

鳴護「大きすぎないかな?色々持て余す、って言うか」

柴崎「親善使節で派遣された外交官へ、国際指名手配中のテロリストを混ぜるようなもの、ですね」

鳴護「ていうか当麻君の交友関係って一体……?」

柴崎「あっちもこっちも良い顔して、引っ込みがつかなくなったんですね。分かります」

上条「人聞き悪!あっちみこっちもって!?」

鳴護「あ、良かったー、違うんだよね?」

上条「――そんな事よりも今は大切な話があるだろうっ!?」

鳴護「話の変え方が強引すぎやしないかな?」

柴崎「あー、ほら。落ち込んでるアリサさんを励ます的なアレじゃないでしょうかね、多分」

鳴護「そっかぁ、当麻君……うんっ」

上条「やめてくんない?分かってて追い込むの止めてくれないかな?」

上条「……いやマジ話。『アレ』を放置したまま行くってのは」

柴崎「上条さんと自分の能力だけでは如何とも。銃器でどうにかなる相手とも思えませんし」

鳴護「てか柴崎さん、レベル0だったんじゃ?」

柴崎「レベル2の『(ブリトヴァ)』。ほんの少量の鉱物を操れる能力です」

鳴護「半年以上の付き合いなのに、次々と新事実が出て来ますよねぇ」

柴崎「ダメですよ、アリサさん?いつも『他人を信じてはいけません』と言ってるじゃないですか」

鳴護「ご、ごめんなさい……?あれ、なんであたし怒られてるんだろ?」

上条「『釘を刺している本人も含めて』ってのは、珍しいケースだと思うぜ」

上条「……つーか声出なくなるぐらい、俺の喉を絞めてなかった?あれでほんの少し?」

柴崎「『細く』と『絡む』ぐらいしか能が無いので。黒い泥水相手には相性が悪い」

上条(つーか男二人、さっさとオトしたのもあれなんだろうけどさ)

鳴護「ゾンビ映画でお馴染みの、火炎放射器的な武器があるとかっ?こんな事もあろうかと、的なっ」

柴崎「アタッシュケースに流れ弾が当たって護衛もろとも爆発炎上。歴史に名を残す大失態ですね」

柴崎「繰り返しますが、自分の仕事は『護衛対象をひっつかんでさっさと逃げ出す』でして」

柴崎「それ以外は専門外、荒事は好きじゃないんですよね」

上条「確かに対人戦闘では銃が有効。だけど『アレ』には効果が薄い、か」

柴崎「――仕方が無い。ここは一つ発想を変えましょうか」

上条「ポジティブシンキングでどうにかなる場面を越えてる気がするんだが……」

柴崎「まず上条さんがここに留まります」

上条「おうっ!……おぅ?」

鳴護「お約束だよねぇ、悪い意味で」

柴崎「『アレ』が囮に気を取られている隙に、アリサさんは安全な場所へ」

上条「よしまずアンタの幻想ぶっ殺す所から始めようか?表出ろ、あぁ?」

柴崎「野生動物の前にエサを差し出すのは当然の事では?」

上条「無茶ブリじゃねぇか!?つーか自分でやれよ!?」

柴崎「――分かりました。ではそれでお願いしますね」

上条「緊急事態にボケる意味が分からねぇよ」

柴崎「冗談だったら良かったんですが。『アレ』を」

『――テケリ・リ』

上条(閉めたドアの隙間から黒い粘液が染みだしてくる)

上条(密閉されている筈なのに――?)

柴崎「隙間はゴム素材で密閉されているので、消化したか同化したのか」

柴崎「ドアを開け閉めする知能は無い――『今の所は無い』、みたいですがねぇ」

鳴護「……さっき喋ってたような?」

上条「あの個体は俺がぶっ飛ばしたから、チャラになったとか?」

柴崎「考えるだけ無駄です。とにかくお二人は先頭車両へどうぞ」

上条「……柴崎さんは?」

柴崎「少しだけ時間を稼いだら後を追います」

上条「え、一緒に行けばいいだろ?」

柴崎「そして一緒に自分達を追ってきた『アレ』を、先頭車両まで誘導するんですか?」

鳴護「それは……けどっ!」

柴崎「恐らく向こうは獣未満の知能しか持っていない『筈』ですから、誰か一人残れば一番近い相手を狙い続ける」

柴崎「また同様に、車両を切り離すにしても問題がある。上条さんは分かっていますよね?」

上条「……取り残された人、だよな」

柴崎「と、言う訳で二人は先に避難して下さい。囮も兼ねて逃げ遅れた人の確認もしておきますから」

『テケリ・リ』

柴崎「てかさっさと行って下さい。じゃないと自分も行動出来ません」

上条「……分かった、けど」

鳴護「当麻君?」

柴崎「自分は別に慈善家を気取るつもりはありません」

柴崎「この状況下に於いて、鳴護アリサを守るためには『アレ』の足止め役が居た方が良い。そう判断しただけに過ぎませんので」

上条「言ったけどさ」

柴崎「心配は有り難いんですけど、『さっき』のも忘れないで下さいね」

上条「さっき……あぁ!」

上条(『本当に黒鴉部隊なのかどうか、引っかけで確かめろって言われてたっけ)

柴崎「なら結構。ではまた後で」

鳴護「柴崎さん、その……」

柴崎「ここは自分に任せて先に行って下さい!」

鳴護「死亡フラグですよね、それ?」

柴崎「自分、この仕事が終わったらプロポーズするんです!」

鳴護「難易度上がってませんか?お相手も是非聞き出したい所なんですけど」

上条「てか意外と余裕あるじゃねぇか」

柴崎「いや実際に余裕ですし?黒い水溜まり、少し早く歩けば追って来られない程度の早さですから」

鳴護「あー……納得です。密室だと逃げ道がないんですけどね」

柴崎「と、言う訳で」

鳴護「……当麻君」

上条「すいません、ちょっと行ってきます、俺」

柴崎「えぇ危なくなったら逃げ出しますから」

上条「柴崎さん、その……」

柴崎「大丈夫、上条さん」

上条「だってさ!」

柴崎「――いい加減にしろ、上条当麻」

柴崎「はっきり言って足手まといだ。能力者でもないお前が『アレ』へ対抗出来るのか?」

上条「そりゃ大した事は出来ないかも知れないけどさ!」

上条「だからって見捨てていい理由になんか――」

柴崎「『最善は出来ない、だけど次善を尽くす』、そう言った自分の言葉を思い出せ」

柴崎「『最善』は今この場で『アレ』をどうにかする事。しかし自分達にはどうにもならない」

柴崎「『次善』は少しでも時間稼ぎをする事。好き嫌いじゃなく、しなくてはいけないから、する。それだけの話」

上条「……」

柴崎「今この状況下に於いてお前が出来る事は何だ?」

柴崎「君が守りたい相手は、誰だ?」

柴崎「間違えるな上条当麻、『優先順位』を」

上条「……分かった。行くよ、俺」

柴崎「早く。そろそろ『アレ』が移動し始めている」

『テケリ・リ』

鳴護「えっと」

柴崎「あぁ自分の心配は結構。危険手当も報酬に含まれていますからね」

上条(口調をまた元の今一頼りなさそうなオヤジへ戻し)

柴崎「ただまぁ個人的に一つだけお願い出来るのでしたら――」

柴崎「――リーダーの前で『良くやっていた!』と言ってくれたらな、と」

上条(あまりにも場違いな台詞に、俺とアリサは顔を見合わせて吹きだしてしまった)

――カーゴ3

□□□□-□□□□□-□※◇◇■

※ 現在位置


鳴護「うっわー、結構広いよねぇ」

上条「だな」

上条(カーゴ、正式名称シャトルサービスだっけ?)

上条(列車っていうよりは、貨物車だな。数メートル間を開けてバンやデカいバイクが並んでる)

上条(……その間に後ろから避難してきた人がチラホラと)

上条(学園都市で言えば日中の電車ぐらいかな?座れる席はないけど、ぐらいの混み合い方)

上条(俺が見た限りだと、もっと多かった気がする)

上条(切り離された方の列車に居たのか、それとも――)

上条「……」

上条(考えても仕方が無い。だとしても今出来る事でもなければ、やれる事でもない)

上条(……さて、結構早く『カーゴ』に着いたんだが)

上条(つっても途中の車両で避難し遅れた人を探してたから、言う程早くはなかったけど)

上条(『連中』や『アレ』が居なかったのは幸い。ただし手放しでも喜んでられないか)

上条(もしも『黒鴉部隊』と入れ変わってんだったら、アリサの側を離れられない)

上条(……あっちもこっちも問題だらけだよなぁ)

青年「『――?」』」

鳴護「当麻君っ、とーま君ってば!」

上条「……ん?あぁごめん、って、誰?」

上条(アリサが話しかけられているのは……男。柴崎さんよりは若い)

上条(着崩しているのか、避難のゴタゴタでよれたのか。だらしない格好のラテン系、か?)

青年「『――, ――?』」

上条(そして話しかけてくる言葉は英語じゃない。てか『黒鴉部隊』の人じゃないっぽい)

上条「よし、鳴護。俺に任せろ」

鳴護「お勉強は私と同じぐらいの当麻君に、自信満々で言われるとちょっと不安になるんだけどな……」

上条「こう見えても英語が得意な友だちに、『カミやんはこう言っとけばいいにゃー』と授った台詞がある!」

鳴護「フラグだよね?てかその語尾の『にゃー』が不安になるっていうか」

上条「大丈夫だよ、アリサ。俺は土御門を信じてる!」

鳴護「う、うん?」

上条「I've been seeing her with a view to marriage!」

青年「『彼女とは結婚を前提に付き合っています』?お、おめでとう?」

鳴護「やだ……当麻君」

上条「やっぱり違ってたかコノヤロー!?何となく『マリッジ』って入ってたから、おかしいなーとは思ってたんだけど!」

鳴護「もっと先に前に気づいてもいいと思うんだよ、うん」

青年「てかお前の友だち、一体どんな場面でそれが有効だと思ったんだ。ナンパされてる子を助けるぐらいの応用しか効かねぇだろ」

上条「ですよねー――て、日本語?」

青年「イタリアンの方がいいんだったらそっちに変えるけど」

上条「あぁいや大丈夫。続けてくれ」

青年「もしくは相手の親御さんへ『娘さんを下さい!』って言う時ぐらい?」

鳴護「憧れるよねぇ、そーゆーの」

上条「そっちじゃねぇよ。土御門のウソ英会話は置いておこう?鳴護さんも『だよねぇ』みたいな顔しないのっ」

青年「あー悪い悪い。そうじゃなくって、ちょっと聞きたくってさ。こっちに来るまで俺の知り合い見なかった?」

上条「知り合い……?」

青年「あいつらもどっかに避難してるんだろうが、前のカーゴにはいなくってさ」

上条「いや……どうだろう。俺達が一番最後だったみたいだし」

上条(ここへ来る途中、逃げ遅れた人を探してはみたけど、居なかったんだよな)

青年「……そか。悪かったな、手間取らせて」

鳴護「えと、後ろの車両?にも大丈夫な人が居るみたいだし、きっとそっちに!」

青年「だと良いんだけどな。どーにも手間ばっか取らせやがって」

青年「つーかさ火事、なんだよな?」

上条「そうらしいな」

青年「それにしちゃおかしくね?普通は客避難させるために乗務員が避難誘導したり、消火活動してるって訳でもない」

青年「なーんか嘘臭いんだよなぁ、これ。そう思わないか?な?」

上条(普通はそう考えるだろう。事情を知ってなければ俺もこの人に同意してたんだろうけど)

上条(少し前だったら面白半分で「じゃ見に行こうか?」とか言ってたかも。けど)

上条「――いや、火事はあったみたいだな」

青年「そうなのか?」

上条「あぁだから後続車両を切り離したって聞いたよ。詳しくは分からないけど」

青年「そかそか。だったらちょっと安心だな」

上条「てか集団の中から一人外れたって事は、あんたの方が迷子になってるパターンじゃねぇの?」

青年「ヒデぇな!うすうす気づいてたんだけど、敢えて知らないフリしてたってのに!」

鳴護「向こうも探してくれてるだろうし、待ってた方が良いと思うよ、うんっ」

上条「あー……ラグランジュポイントは遠かったよなー」

鳴護「成層圏突き抜けてたよねっ!」

青年「なにソレ超格好良い!?」

上条(これ以上犠牲者を出さないためにも、俺達ははぐらかすしかなかった)

――ユーロスターS カーゴ3

男「鳴護アリサさんと上条当麻君ですよね」

青年「違うぜ?」

上条「アンタじゃねぇよ。つーか勝手に答えんな」

上条(さっきの人と何か意気投合していたら、別の人達――男女の二人組が話しかけてきた)

上条「ああっと、その」

女「柴崎から話は聞いています。こちらへ」

青年「え、誰?」

上条「だからアンタは関係ないだろ、つーか首突っ込んで来んな」

青年「何言ってんだよカミやん。俺も混ぜろって」

上条「勝手に愛称呼ぶんじゃねぇよ!?つーか馴れ馴れしいなガイジン!」

青年「え、何々?込み入った話?俺も一緒じゃ駄目?」

上条「後で相手したげるから!こっちも大事な話してんだよ!」

鳴護「ご、ごめんね?」

青年「んー、後で遊んでくれるんだったら、まぁいいけど」

男「……二人とも、どうぞこちらへ」

上条(よく分からない外人さんに絡まれつつも、二人は近くに止めてあった黒いバンまで誘導される)

上条(ぱっと見、地味な感じ。けどまぁ、防弾ガラスとかで魔改造してあんだろう)

女「では現状確認へ移ります。質問があれば――」

上条「その前に確認させて欲しい」

女「――その都度どうぞ、と言うつもりでしたが。では、何か?」

上条「あんた達は、その」

男「『黒鴉部隊』のクロウ9、そっちがクロウ8です」

女「悠長に挨拶するのも時間が惜しいんですが」

鳴護「……そんなに酷いんですか……?」

女「いえ、酷い酷くないと言うよりも、『よく分からない』というのが正しいでしょうか」

上条「柴崎さんも同じような事言ってた」

男「『アレ』という不可解な、敵味方問わずに捕食する生物兵器としても全く取り柄のない欠陥品」

男「統制の取れていない敵、目的不明のまま切り離された後続車両」

上条「全部混乱させるため、とか?攪乱させるため、陽動目的とかあるだろ」

女「ここまで出来る戦力を揃えていたら、ハナっから全力でぶつけています」

女「小出しにすれば適宜撃破される可能性があり、仮面ライダ○に悪の組織が負けるのと同じ構図ですよ」

鳴護「わかりやすいけど、その例えもどうだろう。うんっ」

上条「何をしたいのかが分からない。目的があるかどうかも不明、と。あー面倒臭い」

男「しかし向こうは鳴護さんを指名しているのですから、こちら側は守る他に取れる手段はありません」

男「お二人は車の中へ。そちらで待機していて下さい」

上条「ちょっと待って欲しいんだ」

女「何か?」

上条「あぁいやいや、大した話じゃなくってさ」

上条「クロウ9、だっけ?前にどっかで会ったような?」

鳴護「……あのー、上条さん?そうやってナチュラルにフラグを立てるの良くないと思いますっ!」

上条「違ぇよ!?てか俺が今話しかけてんのは男の人だって!」

女「まぁリーダーが安心出来るし、コイツでいいならどうぞどうぞ」

男「待ってくれ!せめてコイツで何とかならないかな?」

上条「意外と結束力低いな!」

鳴護「お姉ちゃんへの忠誠心は凄いんだけどねぇ、うん」

男「……冗談は良いとして、急に何を?私と上条君は面識はないと思います」

上条「そうだっけか?どっかで聞いたような……あぁそうだ!思い出した思い出した!」

上条「柴崎さんが誉めてたんだよ――『シャットアウラに次ぐ能力の』ってな」

上条(――と、カマをかけてみたんだが)

上条(これを肯定するようであれば、偽物。外面から違うのか、中身ごと変わってるのかは分からないけど)

男「柴崎が、ですか?」

上条(男は女と顔を見合わせた後、少し言い淀んでから)

男「そう、ですね。それは多分私の事でしょう」

――ユーロスターS カーゴ3

上条「へー、そうなんだ?」

男「少し照れますが」

鳴護「当麻君たち、そんなお話ししてたんだー?」

上条「ちょっとだけな。護衛の方じゃ、って話だけど」

上条(『能力優先』で選ばれた”らしい”柴崎さん。シャットアウラの性格上、それ以上のヒトを遊ばせたりはしないだろう)

上条(俺のデタラメにどう答えるのか……少し怖い)

男「いえ、私はまだまだ不調法ですから」

上条(……あぁ『アタリ』なのな)

男「そこら辺の話も、詳しくは車の中で聞きますから。どうぞ?」

上条(さっきからバンの中へ誘導しているのも怪しい――けど、逆の立場だったら遮蔽物のある場所へ護衛対象を連れて行きたいのも分かる)

上条(あと、こっちの男の人は『アタリ』だとしても、もう一人も『アタリ』だとは限らない――って面倒臭いな!)

上条(とにかくトンネルを抜ければシャットアウラ達、別働隊と合流出来るだろう)

上条(それまではアリサの側を離れられない)

上条「あぁいや俺達は柴崎さんが来るのも待ちたいし、このまま――」

青年「――つーかさつーかさ、俺思うんだけどさ、ガキの情操教育ってあんじゃん?」

上条(車の外で待ちたい、と続けようとしたのを遮られる。さっきの人、だよな……?)

青年「例えばテメェのトコのガキの躾にしたって、いつ頃『死』って概念教えるか迷うんだろーなー?あ、俺は子持ちじゃねぇけど」

青年「でもそれが『いつか必ず知る必要がある』ってんなら、親はガキに教えてやる必要があるって思うんだけど」

女「……誰ですか?」

青年「アルフレド――アルって呼んでくれ。な、カミやん?」

男「お知り合いですか?」

上条「少し話しただけだよ。知り合いを探してんだって」

アル(青年)「親が知らせないのもまぁ?自由だと思うがね」

アル「だけどそれで子供が幸せになるか、つったら別の話だわな」

アル「俺には『不幸の先延ばし』にしているだけにしか思えねぇんだけどよ」

上条(流暢な日本語で、しかし脈絡もなく話を展開するアルフレド)

上条(何がしたい?何が目的だ?)

アル「――で、さっきの話へ戻るんだけど。カミやんは『後続車両を切り離した』っつったよな?」

上条「それが、なんだよ」

アル「『一回もアナウンスされてない状況』なのに、どーやって分かったのかなー?って思ってさ」

上条「そりゃ、俺が後ろの車両に乗っていたから、それで」

アル「だとしたら『不自然』じゃねーの?」

上条「どこがだよ」

アル「後ろの車両に居た、しかも『切り離した』のを知ってる――のに、だ」

アル「火事があった『らしい』のはちょっとおかしくね?なぁ?」

男「すまないが、余計な詮索は――」

アル「いやだから!それが良くねぇだろっつってんだよ!」

アル「カミやんを甘やかすのは止めて、そのシバザキってのに『騙された』って教えてやろうぜ?」

上条「……何?」

女「……すまないが、それ以上は」

アル「黙れって?んー、まぁいいけどさ。カミやんは聞きたいって顔してるが?」

アル「なぁ、どーすんの?別に俺は黙っててもいいんだけどさ」

アル「んな信頼もクソもねぇ状況で『護衛』が成り立つって――あぁそうかそうか!」

アル「そうだよな、シバザキは『わざわざカミやんに護衛が疑われる状況を作った』んだっけか?」

アル「だったら今の状況、『お前達が敵か味方か曖昧しておいた方が都合が良い』よな」

上条「おい!どういう意味だよ!?」

アル「いやぁ別に俺もよく知らねぇんだけどさ。つーかカミやんに詳しい話聞こうと思ったら、取り込み中だったって事だけど」

アル「そっちの子がお偉いさんのお嬢ちゃんで、カミやんが友だち、でもってそっちがSSかボディガードなんだろ?」

アル「そいつらがカミやんの『引っかけ』、つまり『仲間の名前を聞いたり、スキルを教わってたってブラフ』を仕掛けたんだわな」

上条(正解。けどそれのどこがおかしい?)

アル「……でもなぁカミやん、よくよく考えてみ?」

アル「『誰が聞いているかも分からない状況で、仲間の名前やスキルをペラペラ喋るバカ』が居るってのか?」

上条「……あ」

アル「そりゃシバザキがプロ意識に欠けたり、無能だってなら分かるけど、話を聞くにそういう感じでもねぇな」

アル「だっつーのになんでソイツは『通用しないブラフ』をカミやんにさせたのか?」

アル「そして護衛二人は『通用したフリ』をしたのか?」

アル「その答えはカミやんが持ってる筈だぜ」

上条「俺が?」

アル「シバザキは『もしもブラフが肯定されたら、こーしろ』って言ってなかったか?」

アル「シバザキとそいつらはカミやんに、それをさせたくって下手な芝居をアドリブで打ったんだよ」

上条「もしも相手が肯定するようであれば――」

上条「――それは『ニセモノ』だから鳴護アリサの側を離れるな……?」

アル「成程成程。嫌な野郎だよなぁ」

上条「なんだって?」

アル「つまりアレだぜ、そいつぁカミやんに護衛二人を疑わせたんだよ。勿論わざとだ」

上条「何のために?護衛対象が護衛を信じられなかったら、逆に動きにくくなるだろ」

アル「だから『この場』ではって事なんじゃねーの?」

アル「少なくともそう言っときゃ『カミやんはその子の側を離れられない』から」

アル「結果として『安全地帯』に留まるしかなくなるわな」

上条「て、事は――」

上条「俺が柴崎さんの所に行かせないようにしたって言うのかよ……!?」

アル「ま、ぶっちゃければ足をくじいた親が『後から合流するから先に行って、この子の面倒を見ろ』と同じだろうさ」

アル「それをちっと複雑にした感じで、素人はまず引っかかるが、プロには絶対に看過される程度のブラフを用意してだ」

アル「そいつらもブラフの真意に気づいて一芝居打ったんだろうさ。プロとしちゃ当たり前すぎてバレバレだったんだろうなー」

上条「……あぁクソ!あんの嘘吐きが!」

上条「散々人にああしろこうしろ言っときながら、テメェは好き勝手やりやがったのか!?」

鳴護「……当麻君」

上条「分かってる!」

男「――待ちなさい!どこへ行くつもりだ!」

上条「決まってる。そりゃな」

女「柴崎はあなたを危険から遠ざけるためにしたのよ!それを分かってて!どうして意志を汲み取らないの!?」

男「……それはダメだよ!子供のする事だ!」

上条「いや、そんなに難しい事じゃねぇだろ。何一つ、どれ一つ」

上条「自分を犠牲に誰かを助けようとしてって奴を、助けられないんだったら――」

上条「――俺は『ガキ』でいい!大人なんてクソッタレだ!」

男「……仕方が無い。おい」

女「えぇ――」

鳴護「待って下さい!」

男「イタタタタっ!?噛みつ――」

女「アリサさんまで何を!」

鳴護「ほーまふん、いっへ!」

鳴護「はたひのかわりにっ!しわさきさんをっ!」

上条「りょーかい!」

女「ちっ!」

アル「待て待て、ここは俺が引き受けた」

アル「決心した男止めるなんざ、ダセェ真似してんじゃねーよ」

女「退きなさい。ゲカをしてもこちらは関知しませんよ?」

アル「おっといいのか?まっさか丸腰の相手に発砲する程、クレイジーじゃねぇんだよな、アンタら?」

アル「どーみても非公式かそれに近い状態で、SSが素人相手にドンパチやって目立つのは得策じゃねーしな」

女「部外者が口を挟むな!」

上条「悪い!」

アル「気にすんなって。実はこーゆーの一回やってみたかっただけだから」

上条「アリサ、ちっと行ってくる!」

上条「散々人に説教くれやがった、大人って『幻想』――」

上条「――ちょっとぶち殺してくるわ」

――ユーロスターS カーゴ3

男「……行きましたね。あ、鳴護さん離して下さい」

鳴護「ほんほひ?ほわなひ?」

男「追いません。つか痛覚切ってありますから、痛くもありませんでした」

女「あなたも退いて下さって結構です」

アル「……あるぇ?意外と淡泊、つーかこの後腹いせにボコられるってガクブルだったんだけどよ」

鳴護「あたしが言うのも何なんだけど、追いかければ直ぐに追いつくんじゃないかな?」

鳴護「――あ!それとも今の”も”引っかけだった、みたいな感じですか?」

男「あー、いやいや。今のは本気、っていうか本音って言いますか」

女「じゃ、ないですけどね。鳴護さんと素人一人、体術だけで瞬殺出来ます」

アル「だよなぁ、実力行使するんだったらもっと早くカマせた筈だよな」

鳴護「えっとそれじゃ、どうして当麻君を行かせたんです、か」

鳴護「もしかして――?」

女「リーダーからの命令、原文ママでどうぞ」

男「『バカな方はバカだからバカな行動をするかも知れない。その時は殴ってでも止めろ!なんだったら撃ってもいい!』」

鳴護「うわぁ……」

男「『ただし!本当に奴が行きたいのであれば、好きにさせておけ。どうせ何をしても止められる訳がない!』」

鳴護「お姉ちゃん……天の邪鬼なんだから」

男「いや、リーダーは上条さん、最初から高評価でしたよ」

男「でもないとウチのサブリーダーと一緒に、あなたの護衛へ収まる訳がない」

男「単純に実力が無ければ幾らあなたの希望でも、聞き入れなかったでしょうから」

鳴護「……そっか。お姉ちゃんも」

アル「良い事言うなぁアンタのねーちゃん。俺も弟じゃなくって、そんなねーちゃん欲しかったぜ」

アル「つーかさ、ガキが悪いんじゃねぇし、ガキだから悪いっつーつもりもねぇけど」

アル「テメェが気に入らねぇからって、ジジイのチャリンコみてーにキーキー叫き散らしたって、一体何が変わるって言うんだよ?」

アル「ダタこねてワンワン泣きじゃくったって、誰からもシカトされて終りだろーが」

アル「それでセカイが変わるか?テメェが偉くなるか?キチガ×扱いされるだけじゃねぇか」

アル「結局人間ってのは、結果と経過に対してのみ評価されるもんであってだ」

アル「テメェが世界を変えたいんだったら、テメェが変えるしかねぇんだよ」

アル「それが『ガキ』がとうがは関係ねぇ。つーか『格好良い』なんて一々気にしてテメェに縛りつけてる方が『ガキ』だ」

アル「何もしねぇで批判ばっかしてる『卑怯者』が、誰かに評価される日は永遠に来ない」

アル「カミやんみてーに突っ走っちまえ。そうすりゃ良くも悪くも結果はついてくる」

アル「――それが望んだものかどうかは別にして、だが」

鳴護「はい?」

アル「突っ走って、死に物狂いでやらかした結果、評価されたとしても、だ」

アル「その『期待』が重すぎるって話もあるんじゃねーのか」

アル「もしくはテメーの期待とは全然別の評価が一人歩きしたり、とかな」

鳴護「……あ」

鳴護(あたしの――『奇蹟』)

女「……ともあれ、これで信じて頂けたでしょうし。鳴護さんは車の中で待機して貰えませんか」

鳴護「ここで待ってちゃダメ、ですか?」

アル「護衛さんはアンタらのワガママ聞いたんだから、次スジ通すのはどっちだって話だよな」

アル「つかカミやんは少なくともそっちの偉い人から信用されてて、アンタはされてない」

アル「つまり『持ってない』って訳だよ。だからプロに任せて、自分に出来る事をすりゃいい」

鳴護「私に出来る事、ですか?」

アル「戦争はケンカの強い奴に任せればいい。テストは勉強の出来る奴に頼めばいい」

アル「ジャンル違いにアレコレ口出しすんな。何にでも首突っ込める奴は……まぁ、居ない事は無いけど、フツーはそうじゃねぇだろ」

鳴護「そう、ですね」

男「えっと、それであなたは?この件はどうか内密に」

アル「自慢してぇんだけど、その連中が見つからねぇんだよ。もっかいカーゴ探して来るわ」

アル「まったく、どこで何やってんだろーな」

鳴護「多分、向こうも同じ事考えてると思います……」

アル「そいじゃまた、後で」

鳴護「えっと……ありがとうございました?」

女「礼を言うのも何か違う気がしますが」

男「調べましょうか?」

女「いや、無駄でしょう」

男「……ま、本名で堂々とチケット取ってる訳がありませんしね。あれだけ怪しい人が」

鳴護「怪しい?いい人じゃないかな?」

男女「「……」」

鳴護「え、何?だって当麻君を助けてくれました、よね?」

女「……あぁ確かに。これはリーダーが過保護になって当然、と言うか」

男「むしろそうしないと精神衛生上宜しくないですよね……」

鳴護「ヒドい事言われている気がするよねっ!?」

――ユーロスターS 10両目 一般座席

「――シッ」

 ヒュゥ、と空中に光が舞い、限界まで伸び上がろうとしていた『アレ』を千々に裂く。

 『剃刀(ブリトヴバァ)』、ほんの少量の鉱物を扱える”程度”の能力だと言ったが、それだけではない。
 扱える物質、柴崎の場合は銀だけであったが、それを極限にまで細く、肉眼では不可視なまでに薄くすれば充分な凶器となる。
 時として意図せず紙で手を切るように、『薄い』だけで充分に肌を裂く威力を持つ。

 それが分子単位で縒り上げた糸を鞭の要領で振り抜けば、指や腕程度は軽く落とせる。
 SFでは単分子繊維鞭(モノフィラメントウィップ)と呼ばれ、また能力の一環であるから貨幣一枚あれば、容易に持ち運び出来る武器となる。

 また柴崎自身、『黒鴉部隊』として銃器や格闘、それ以外の車両戦闘にも長けているため、下手な戦闘特化の能力者よりも強い――そう、自負していたつもりではあった。

「……キリがない」

 人の弱点はどこか、と問われれば心臓だと答える者は多い。次に目、内臓、手首……色々と上げられるだろうが、どれも正しく、間違っていると柴崎は考える。
 人は大抵どの部位であっても痛みを感じ、切り裂けば血が流れ、打たれれば硬直するからだ。
 対人戦、特に対能力者では少し手傷を負わせれば、集中が乱れて能力のコントロールが失う事もしばしばある。

 従って不可視に近い糸と各種現代兵器を用いた戦闘スタイルは、多くの場面で有効だった。自身の能力を過信せずに、そう思う。
 実際の所、元々外様だった柴崎がサブリーダーとしての地位にあるのも、実力に裏打ちされた所が大きい。実力・成果主義を地で行くリーダーの性格もあるだろうが。

 とにかく柴崎信永は決して弱者ではない。なかった。

 しかし。

『テ……ケリ・リ』

 相性が悪すぎる。相手は粘液、アメーバのような『アレ』を切ろうが、直ぐに繋がってしまう。なまじ切断面が鋭い分、傷口は再生しやすい。
 銃器も数発撃って諦めた。黒いドロドロの中はぼんやりと透けていて、中には意味不明の器官がデタラメに発光しているだけで、意味があるとは思えなかった。

 こうなると膠着状態に陥る――にも、また違う。

 相手は『液体』であり、その体を押しつけ『消化』しようと擦り寄ってくる。
 本来はアメーバなどの原生生物の補食行動であり、そのサイズから人類の脅威になるとは有り得ない。病原体の一部としては別にしてもだ。

 しかしここまで大きければ避けるのは困難。また飛び散った粘液も強酸か、消化酵素であるらしく、飛沫が付着しただけで溶け始める。
 体に強化ステンレスを埋め込み、対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)の直撃を受けても、死なない”かも”知れない柴崎にとって、徐々に消化される攻撃方法は防げない。

 直撃を避けられてもジワリジワリと飛沫で溶かされる。こちらに打てる手段はない。
 全てに於て『未知』の相手との相性が悪すぎる。

(とは、いえ)

 救いがあるとすれば、『アレ』の知能が著しく低い事か。現在分かっているルールは、

1.目の前に『エサ』がある場合、それを優先して捕食する
2.無い場合は何らかの方法で索敵、一番近い有機物を探し出す
3.索敵方法は不明。感覚器は見当たらない

ぐらい。食堂車で何かを溶かしていた『アレ』はこちらへ見向きもしなかった。

(セオリーでは『火』なんでしょうが、ふむ?)

 生物にとっての天敵は『火』だ。
 動物であっても恐れるし、恐れないのであれば抵抗されずに焼ける。『アレ』にそんな知能があるかは知らないが。
 鳴護の意見は一蹴したが、火炎放射器が装備にあったら躊躇いなく使っていただろう。無い物ねだりをしても仕方が無いのだが。

(と、すれば現地調達、でしょうか……?いや)

 小さい火であれば起こせるかも知れない。

 そこら辺に散らばった小物――『アレ』が消化出来ず、食い残した無機物の中には金属製のオイルライターらしきものが混ざっている。
 また食堂車へ戻れば、例えばオール電化であってもそれなり――電子レンジの破壊を前提として――火種を手に入れるのは容易ではある。

 だが、ユーロスターSには当然最新式であり、突発的な災害についてのセーフティが多くかけられている。
 地震が発生すれば20秒以内に自動減速して停まり、不意の事故へも対応が成されている。
 また車内での火災にも適宜鎮火剤を含んだ水が撒かれ、大きな火災になる事はない。

 つまり。

(……詰んでますね、これ)

 二人分の人間を消化し、比例して体積が大きくなっている『アレ』。圧倒出来るだけの火を用意するのは不可能に近い。
 火災警報器を切ればまだ望みはあるが、車内で爆発的な炎を起こしたら、そのまま列車火災へ繋がるのが目に見えている。

 フィクションの世界だとすれば。半裸の中年刑事がデタラメに配線を切っていけば、都合良く止まるだろう。
 が、現実にそんな事をすれば停まるのが列車の方だ。エラーが起きれば『安全に停止する』と最初から組み込まれており、それが実行されるだけ。

 高速輸送システムに於いて、『停まる』と言う課題は最も重要視されるべき事柄だ。
 ただし、今回は逃げ道を断たれて『アレ』に美味しく捕食されるのか精々だろうが。

 ボディガードもまた同様に。
 よく分からない『アレ』は、何とか出来る範疇を優に超えている。

(……次からは『トンネル内で得体の知れない何かに襲われた場合』も、想定しておくべきでしょうかね、っと)

 キキキキキキィンッ!

 突きだした指先の一本一本から、超極細のワイヤーが絶えず『アレ』を切り刻む。
 しかし粘液の塊には通じず。細切れにした所で直ぐまた――。

『ギギギギギギギギギギギキ……ッ!?』

「……おや?」

 ――再生するだろう、と半ば自棄になって放った一撃が思いの外効果があった、のだろうか?

『ギ……ゴボ、ゴボゴボゴボゴボ……」』

 『アレ』は表面張力を失い、酷く臭う血とも体液とも分からぬ知るに撒き散らしながら、少しずつ小さくなっていく。
 針で穴を開けられた水風船が地面に落ちたように、転がれば転がる度に縮んでいった。

(何が効いた?たまたま急所に当たったのか?これだけ刻んでいたのに?)

 徐々に黒い染みとなって消えていく『アレ』に警戒を怠らず、柴崎は考える。

(攻撃方法は変えていない。パターンも同じ。威力はむしろ疲労と緊張で若干弱まっている)

 先程の上条当麻の『右手』――は実際に自身の能力が掻き消されるのを体験した。
 また鳴護アリサを助けに入った時も、『アレ』を染み一つ残さず消えていった。

 何か共通項があるのか?それとも偶然が重なっただけなのか?

(分からない。情報も分析する時間も少なすぎる)

 尤も、トイレでは一端と消えたと思った『アレ』が、また直ぐに天井から落ちてきたものだが――。

『――テケリ・リ』

 背後から気配もなく声がした――そう判断する前に体は前へ転がっていた。

「……同じ、なのか……?」

 そこには今し方倒した『アレ』より小ぶり、子供程の大きさの『アレ』が居た。
 しかし体積に比例するであろう危険度はより低い。

(……やれやれ。リーダー待ちは変わらず、ですか)

 再びルーチンワーク――対処を間違えれば即死だが――へ、戻ろう――と。

『テケリ・リ』

 第二の声は右側の荷物棚の上から。

『テケリ・リ』

 第三の声は左側の座席の下から。

『テケリ・リ』

 第四の声は背後から。

『テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ』

『テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ』

 四方のから響く鳴き声は――。

「……あ、はは、あはははははははっ!」

 ――諦めさせるには充分で。

 仲間が殺された事への腹いせか、『アレ』達がゆっくりと近づく姿は恐怖を助長させているつもりなのか。

(それともこれは走馬燈で、スローになって見えるのは本当だった、と)

 柴崎信永の脳裏に浮かんだのは、己が『黒鴉部隊』へ入った時の事。
 全てを捨てても負債を返すと誓ったあの日の事。

「……コンサートには行けそうにもない、ですか」

 せめてあの少年には、アレが事実だと言っておいた方が良かっただろうか?
 そうすればきっと、自分の代わりに行ってくれたのに。

(まぁ、それも良い。自分のような人間と関わり合いにならなければ、それで)

 黒い粘液が殺到する中、柴崎は瞬きもせずにその様子を見つめ――。

「――いや、行けばいいじゃねぇかよ?」

パキイイイィィィィィィィン……!!!

 『アレ』に覆い尽くされ、強酸のようなものでズタズタに溶かされる瞬間。
 殺到する粘液を振り払い、打ち砕き、捻り潰して――『アレ』は痕跡すら残せず、消えてしまっていた。

 『彼の』右手によって。

「な――!?」

「どうも、上条当麻です」

 居る筈の無い、居てはいけない人物の名前を聞き、柴崎は激昂する。

「何で来たっ!?ここはお前が来るべき所ではないだろう!?」

「お前には守るべきものがあって!選択は既に成されたんだ!だから、だからっ!」

 んー、と上条は頭をポリポリ掻くと、柴崎の後ろを指す。

「柴崎さん、うしろっ!」

「ちぃっ……!」

ヒュウッ、キキキキキキキキキィンッ!

 咄嗟に糸を張り巡らし、体を広げて上条へ飛沫が飛ばないように身を挺して守る。
 だが、全ては空振りに終り、飛んでくる筈の飛沫も強酸も存在しなかった。

 最初からそこには『アレ』など居ないのだから。

「えっと……?」

 どういう事かと上条を問い詰めよう。そう振り返ろうとした時に、

「あ、ごめん。柴崎さんはこうでもしないと無理っぽいから」

ガッ!聞こえるが早いか柴崎の頬に衝撃が走る!……殴られた?誰に?

 何一つ理解出来ないまま、振り返った先で見たものは。
 今し方柴崎を殴りつけた拳を握る少年の姿だった。

「そりゃぶち殺しに来たんだよ、アンタのそのふざけた『幻想』を」

 理解出来ない理屈をそも常識であるが如く語る上条だが。

「……行ってやりゃいいだろ、『その子』のコンサート」

 知らない筈の事実を伝えたのは誰だ?

「聞いてやれよ、リハビリ頑張ってピアノもまた弾けるようになったんだろ?」

 未練を断つために切ったままの無線で誰が話した?

「だから、だからさっ!」

 それともいつか鳴護アリサに相談した内容を、この短時間で話してしまっていたのか?

 初対面で話題に困った彼女へ対し、ついつい共通の話題が無いかと言ってしまったのが裏目に出たのか。
 あんな世間話程度の事を。鳴護アリサは憶えていたのか。

「アンタに死んで貰っちゃ困るんだよっ!なあぁっ!?」

 柴崎には何も分からなかった。

 『アレ』もそうだが、目の前で幼稚な理論を振りかざす上条当麻についても、何一つ共感出来るような、自身が納得出来るような理屈など無いのに。

 恐らく同じような状況に置かれれば、また嘘を吐いて一人孤独に戦うだろう。
 それが仕事であり、生き様なのだから。

 しかし、結局の所。ただ、分かっている事は。

「……自分は、あなたに助けられたんですね」

 それ以上でも無く、以下でも無い。

 ――だが、しかし、けれども。
 この世界にヒーローは居ない。誰が言った台詞だったろうか?それとも誰も言ってなかっただろうか?

『テケリ・リ』

『テケリ・リ』

『テケリ・リ』

 今までどこへ隠れていたのか、天井から座席から荷物から、次々と黒い粘液――いや、ちょっとした雨のような勢いで降り注ぐ『アレ』。

「マズい!柴崎さん、俺の後ろへ!」

「上条さん!?」

「おおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 パキィィィィン、と『右手』は『アレ』を打ち消し、霧散させる。
 しかし黒い汚濁は止まらず、止められず大質量を持って迫って来ている。

 その大半は消せるが、消しきれずに飛び散った飛沫が上条の体を、灼く。

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 傷口を抉るような痛み――いや、実際に飛び散った破片の一つ一つまでもが、『アレ』であり、体内へ入ろうと皮膚を溶かしていく。

「……ちょっと痛いです、よっと!」

ヒュンッ

「っつ!?」

「心配しないで下さい。今のは自分の能力で傷口を切り飛ばしただけですから」

 右手が塞がっている以上、上条に対処は出来ない。かといって手を離せば『アレ』に呑まれる。
 この勢いであれば濁流は一気に先頭車両にまで届くだろう。

 つまり、上条が根負けすれば鳴護アリサも含む乗客は全滅する。逃げ出す事も出来ずに消化されるだけだ。

「そのままどうか持ち堪えて!リーダーが来ればどうにかなります!」

「あぁもう勝手な事言いやがって!つーか、もう限界っぽ――」

ゴォウンッ!

 上条が弱音を吐き終える前に、人の背丈程の火球が『アレ』に炸裂する!

ゴォウンッ!ドォウン!ゴオォォォウゥンッ……!!!

「な、なんだぁ……?」

 『右手』が無ければ一緒に黒焦げになってもおかしくない勢いで、二発、三発と連続で『アレ』を削っていく。
 躊躇など一切見せず――上条に累が及ぶのはお構いなしで――爆炎の嵐が収まった後、呆然としていた柴崎が身構えた。

「これは……新手の敵?それとも能力者?」

 蒸発し、痕跡すら無くなった『アレ』の心配よりも、新たな乱入者に対処しようとする辺り、流石だなと上条は思ったが。

「いや、アレは味方」

「お知り合いで?」

「うん、まぁ多分?俺達がイギリスの敵じゃ無い限りは、だけど」

 はい?と微妙な顔をしている柴崎を放置し、助かった礼を言いに『彼女たち』へと近寄る上条。

「――いつもニコニ――」

「だからっ!スベってると!言っているのだわ……っ!」

「ギャース!?お笑いはテンドンなのにまだ二回しか重ねて助けておかーさーんっ!?」

 黒髪の子が年長の子ににシバキ倒されている

「おっす、元気だったかいジャパニーズ――ワタシは大変だったけどさ」

「……んー、ビリビリこないなぁ。霊装なのにー……」

 一方は皮肉を込めて、もう一方は興味など皆無であり。

 あぁ、と上条は誰かへ感謝をした。誰であったのかは神のみぞ知るであろうが。
 足りなかった『あちら側』の協力者が来てくれたんだな、と。

「……えっと、あの、上条さん?そちらはどなたで?」

 訳分からない行動に思考を放棄した柴崎に聞かれ、改めて少女がピシっと背を伸ばす。

「『新たなる光』のレッサーちゃんですが何か?」

「知りません。つーか誰で――」

『――テケリ・リ』

 再度現れる脅威であったが、彼女たちは動じない。

「さぁっ、行きますよっ!ガイ○、マッシ○、オルテ○!」

「――今こそジェットストリームアタッ○です!」

「「「お前誰だよ」」」

「白い悪魔です」

「踏み台にする気満々じゃねぇか」

「じゃあ白い恋人で」

「白、しか合ってないよね……?」

「では恋人――ラバーズでお願いします上条さん!さぁさぁさぁさぁっ!?」

「ドサクサに紛れて恋人になるな。そもそも話の持っていき方が脈絡ゼロじゃんか」

 軽口を飛ばしながら、先端に炎を灯した槍で次々と薙ぎ払って行く彼女達。

 呆然と無双っぷりを眺めていた上条の肩へ、ぽん、と手が置かれる。

「……護衛ポイント減点100。アリサさん放り出して何やってんですか、ホントに」

「……いやあの、はい、まぁ勢いで?つい」

「紳士ポイントも減点100。女の子を騙すのも程々にしないと」

「してねぇよっ!?つーかこの子らの半分は初対面ですからっ!」

 ともあれ苦戦していたのが馬鹿馬鹿しくなるぐらい、あっさりと片が付いた。

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

夏コミ「埋蔵金」に決まったんですが、上司と『重護×天災』or『天災×ダルク』で超モメています
いやうん、ダルクさん出した方が絶対に売れるのは分かるんですけど、なんかそれも違う気が

俺的には『重護×天災』を推す。ゴリ推す。

……いや、?…『重護×ダルク』……っ!?

重護×ダルクもいいじゃないか!!やっべぇ!!ちょ、これキタんじゃねマジすg(ry

――ユーロスターS 10両目 一般座席

レッサー「初めて逢った時から好きでした!結婚して下さい!」

上条「嫌です」

レッサー「最初は敵同士だった二人が次第に引かれ合うって王道だと思います!」

上条「神裂、姫神、五和、アニェーゼ、バードウェイ、サンドリヨン……」

レッサー「――てのは冗談ですよねっ!今時何番煎じだっつー話ですよね、えぇっ!」

上条「二秒ぐらい前に言った事ぐらい責任持ちやがれ」

レッサー「ちょっとだけで良いですから、ね?ちょっとだけ?お試しで!」

レッサー「国際結婚した後、ブリテン国籍になってMI6へ入るだけでいいですから!」

上条「完全にスカウト目的だよね?その結婚に愛はねぇよな?」

レッサー「IはHの次にありますよ?」

上条「日本ローカルネタをイギリス人が語るな!」

柴崎「ええとそれで、あなた方はどちら様で?まさかMI6?」

上条「スルーしちまったけど、有名なの?」

柴崎「ジェームズ=ボンドを擁するイギリスの秘密情報部。かれこれ成立から100年以上経っている老舗、ですかね」

ペイロープ「その答えは『No』だ。レディにあれこれ詮索するのは野暮ってもんでしょーが」

柴崎「……ですね。確かに失礼しました――上条さん」

レッサー「今なら何と――ランシスがオマケで付いてきますよっ!」

ランシス「うっふーん……あっはーん……」

上条「超絶やらされてる感&やる気ない感で、むしろ逆効果なんだが」

柴崎「そこの人身売買の相談している人達、話聞いて下さい。というかちょっとこっちへ」

レッサー「今なら何とこっちの巨乳お姉さんももれなくセットで!」

上条「……は、話だけなら聞こう!いいか、話だけからな!絶対だからな!?」

ベイロープ「人を勝手に付属品扱いすんな」

フロリス「ちゅーかハブられたワタシはどーしろと。女のプライド的なモノが、アレつっーかさ」

柴崎「いいからこっち来やがって下さいコラ」

上条「……はい」

上条(レッサー達から少し離れる)

レッサー「それで?何を企んでるんですかいお頭?」

上条「お前はあっち!」

フロリス「レッサー、ハウスっ」

レッサー「あおーんっ!」

上条「えっと、もう大丈夫ですよ……て、膝ついてどうしました?」

柴崎「……いや別に?あれだけ苦戦していた『アレ』を、あっさり消滅させたのがティーンのお嬢さん方だと思うと……」

柴崎「しかもかなーり軽い感じで!サークル活動じゃないんですから!」

上条「ま、まぁ複雑ですよね」

上条「でもホラ!学園都市のレベル5は若いじゃないですか、御坂とか!」

柴崎「……ですかねぇ?別に、自分、精一杯やってますもんね?」

上条「それよりも、俺になんか話かあったんじゃ?」

上条(多分叱られるんだろうけど、柴崎さんならそんなには怖くないだろうし?)

柴崎「……あぁはい、えっと、上条さんに説教したい事は山程あるんですが」

柴崎「まぁそれはリーダーに譲ります。適材適所で一つ」

上条「ごめんなさいっ!?それだけは許して下さい!?」

柴崎「自分は報告するだけですから――『鳴護アリサの護衛を放り出して、オッサン助けに向かった』と」

上条「アンタ性格結構陰湿ですよね?」

柴崎「……ま、そういう訳で自分はアリサさんの方へ回ります。戦力的に偏った状態――」

上条(少し考えるようにした後)

柴崎「――と、見栄も張って仕方がないのですが、結構あちこち穴が開いてしまいましたので、リペアしないと」

上条「……すいません」

柴崎「ですから給料の内だと。ま、だから――」

柴崎「――『ここはあなたに任せ』ましたからね、上条さん」

上条「……あぁ!」

――5分後

上条(柴崎さんは俺にスマートフォンを預け、『カーゴ』へ引き上げた)

上条(非常時には連絡しろ、って事なんだろうけど。地下で電波通じるの?)

上条(――って俺の疑問は「中継器を”たまたまあちこちへ落とした”」ため、無線と同じ感覚で使えるんだそうだ)

上条「……」

上条(落としたんだったら仕方がない、よな?あっちと連絡されなくなるのは困るし)

上条(……まぁ、少し大人になった俺は突っ込まず、レッサー達と情報交換を)

レッサー「――それでですね、今なら何とフロリスがもう一人付いててお得なんですよねー」

上条「はいそこ勝手に友達を景品にしない。てかその話は終わってるから」

フロリス「あー、そだそだジャパニーズ!ワタシ、言う事あったんだ!」

上条「何?つーか俺に?」

フロリス「うんうん、アンタに。あ、ちょっと屈んで?もうちっと左左」

上条「こう?」

フロリス「おーけ、バッチリ――ワタシの怒りを喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 ゲシッ

上条「OHHHHHHHHHHHHHUっ!?」

ベイロープ「『キーン』みたいな効果音入りそうな一撃よね」

ランシス「フロリスの『子孫殺し(キドニーブレイカー)』……これでカミジョー家は断絶……なむなむ」

レッサー「ちょっとフロリス!?あんたなんつー事をしやがってんですか!?」

上条「……」

レッサー「上条さんの股間にクリーンヒットて!顔色が青を通り越して土気色に!?」

フロリス「あー、すっとした。やっぱり我慢は体に良くないよねぇ」

レッサー「あぁもうブリテンの貴重な戦力になるかもしれない子が生まれなくなったら、どうしてくれるんですか!?」

上条「……お前も……ヒドい、事……言っているからな……?」

フロリス「んー?泣く女が減る?」

レッサー「でっすよねー!」

上条「……金的喰らう意味が……分からないんだけど……?」

フロリス「いち、ワタシを騙した」

フロリス「に、川にダイブさせて死ぬ程ビックリした」

フロリス「さん、ついてったら天草式にとっ捕まった」

ランシス「ギルティー」

レッサー「あぁこりゃ擁護出来ませんね。責任取って私の婿になるしか道はないですなー」

上条「……」

ベイロープ「『繋がりねーだろ、超ねーだろこのドグサれパリオット』と唇だけで言ってるわ」

ランシス「回復魔法、かける?」

レッサー「基本効かないですからねー……残念っ!!!」

上条「……」

ベイロープ「『なぁお前根に持ってないか?色々あって「ベツレヘムの星」で別れたの、根に持ってんだよなぁこのロリ巨乳?』」

フロリス「それだけ言う元気があればダイジョーブじゃない?」

レッサー「てかさっきから台詞の終り、浮いてませんかね?明らかに上条さんが言ってる時間よりも長いって言うか」

上条「……」

ベイロープ「『確かにアレは悪かったよごめんなさい。あとレッサーは若いからって何でも許されると思うなよ?』」

フロリス「良い事言うなぁ、ジャパニーズ。うむ、この心意気に免じてこれでチャラにしてあげようじゃないか!」

ランシス「過剰な仕返し……だと思う、けど」

レッサー「おやおやー?これちょっとベイロープさんとは話し合った方が良いのかなー?」

上条「……つーかさ、お前らなんで居んの?」

レッサー「何割盛ります?トッピングはどの程度に?」

上条「盛る意味が分からねぇ」

フロリス「200%盛り、トッピングはタンドリーチキンで」

レッサー「そうですねぇ、あれは私達四人で旅をしていた時の話なんですが」

上条「おい、どうして回想入んだよ」

レッサー「ある夜、突然の雨にやられっちいましてね。近くにあった民家へ雨宿りを頼みに行ったんですよ」

レッサー「その民家というのが、これまた推理小説に出て来そうな大きくて古い、けれどどこか退廃的な印象を受けるお屋敷でして」

上条「……おう」

レッサー「お屋敷のドアを開けると、それはもう豪華なエントランスが出迎えてくれました」

レッサー「今では博物館にでも行かないとお目にかかれないような調度品」

レッサー「何世紀もの間、灯りを灯し続けてきたシャンデリア」

レッサー「そして何人に仕えたか分からない市原悦○」

上条「家政婦は見ちゃったの?つーか日本のドラマに出る人が、なんで居た?」

レッサー「……ですが、我々を暖かく受け入れたのには理由があったのです」

レッサー「たかだか雨宿りと高をくくっていた私達が、通された部屋で見たものとは……っ!」

上条「み、見たものは……?」

レッサー「そこでご馳走になったタンドリーチキン、いやぁ絶品でしたー」

上条「事実だけを話せ!事実だけを!」

上条「てか今の話のどこにユーロスターに乗り込んできた下りがあった!?」

上条「あと流れだと『実はこんな怖い体験を』みてーなオチじゃねぇの!?」

上条「どう考えても『雨宿り先で親切な人にタンドリーチキン食べさせて貰った』だけだよねっ?」

レッサー「いやぁ、来てたじゃないですか、ARISA?」

上条「……あぁうん、前の車両に居るけど」

レッサー「え?それだけですけど?」

上条「……」

レッサー「あんだすたん?」

上条「アイドル見たさかよっ!?つーかそんだけの理由で!?」

ベイロープ「当然でしょ?でもないと『わざわざ魔術結社モドキが出張る』意味はないのよ」

上条「……うん?」

上条(そう言って巨乳のお姉さんは、自分の耳をツンツン突いた。霊装っぽいものが付けられてる……けど、話には関係ないか)

上条(つまり……分かった!そういう事か!)

上条「ピアスよりもイヤリングの方が、親御さんから貰った体を傷つけないので好印象ですよねっ!」

ベイロープ「だぁかぁらっ!盗聴されてると言ってぇぇぇぇぇっ!」 ガックンガックン

上条「こ、こここここうそくうんどう!?」

フロリス「おぉ、胸ぐら掴んでガックンガックン。いいぞもっとやれ」

ランシス「スマフォから絶対盗聴されてんぞ、って遠回しに言ったのに……」

上条「……いや、別に聞かれても良くね?あの人らは俺達の味方だし」

レッサー「チッチッチ、チが三つ」

上条「だからどーした」

レッサー「『上条さん達の味方』であって、『私達の味方』はノットイコールです」

レッサー「だから都合が悪ければやんわりと、それで聞かなかったら強制的に排除しに来る。違いますか?」

レッサー「だからま、これには裏も何にも無いんですよねー、実際に」

レッサー「『どこの勢力にも距離を置いている私達』が」

レッサー「『ARISA見たさに同じ車両に乗り込んだ』だけですって、えぇ」

フロリス「ワタシ的にはちゃっちゃと借りを返したかったけどねー」

上条「えっと、どういう意味だ?」

ランシス「例えば『ARISAを守るためにイギリス清教か学園都市の人間がガートしている』……これは、問題」

上条「一応親善使節なんだからな……つーか『黒鴉部隊』もオーバーキルっぽいが」

フロリス「てーかさぁ、さっきみたいな食えないオッサンばっかなの、『学園都市』って?」

上条「食えない。まぁ、一筋縄じゃないけど。つーかお前ら見てかなり凹んでたぜ?」

フロリス「演技に決まってんじゃんか。『糸』バシバシ飛ばしてたし、何かあったらぶった切る気満々だったでしょー?」

フロリス「敵か味方かもわっかんない相手の前で、背中見せるなんて有り得ないってば」

レッサー「『機械化小隊(マシンナーズ・プラトゥーン)』」があの精度で量産されたら、嫌ですよねぇ」

上条「いやだから、ただのオッサンだよ?ちょっと嘘吐きで心配しぃってだけで」

レッサー「向こうさんは『対能力者戦闘』のスペシャリストでしょ?『対異能』って事は、私達ともある程度応用効きますし」

レッサー「むしろ学園都市としては、そっちが本命かも?かもかも?」

上条「……うーん」

ベイロープ「脱線してるわよ」

フロリス「おぉうサーセン。続けて続けて?」

ランシス「ん。でも『たまたま乗り込んだ得体の知れない魔術結社モドキが、巻き込まれて反撃する』のは……まぁ、よくある」

ランシス「……かも、しれない」

上条「それじゃお前ら――」

レッサー「私達は『ブリテンの国益に叶う事』しか、しません」

レッサー「それは魔術師である私達の存在意義もありますし」

フロリス「いやぁワタシはちょっと」

ランシス「右におなじく」

ベイロープ「黙ってろ外野二人」

レッサー「だ、もんで今回介入させて貰ったのも『アレを放置するのはブリテンのためにならない』からであって」

レッサー「言ってみりゃ『ケンカを売られたんで買った』ってもんですよ、えぇ」

上条「……レッサー……!」

レッサー「お?なんです?レッサーちゃんに惚れました?」

上条「それはない」

ベイロープ「てかさ、何がどうなってるのよ?『アレ』は結局何?学園都市のビックリドッキリ変態生物?」

上条「こっちも何が何だか……あぁ今ちょっと『濁音協会』ってのと揉めてるっぽい」

フロリス「だくおんきょうかい?」

ベイロープ「……あぁ、って事は『アレ』は『ショゴス』に決まりか」

レッサー「ですねぇ。ホラやっぱり『クトゥルー』だったでしょうが」

ランシス「『スライムは服しか溶かさないんですよね、分かります!』つって突っ込んだのは誰……?」

レッサー「危うく見せる相手も居ないのに、内臓までご開帳する有様でしたよ」

上条「そうか、そっちでも有名な奴らだったのか」

レッサー「いや、聞いた事無いですよ。つーか私らも言う程情報戦に長けている訳でも」

レッサー「ただ『だくおん』って響きで大体アレだなぁと」

上条「濁音ってガギグゲゴとか、日本の概念じゃねぇのか?どうしてお前らが直ぐに分かんの?」

レッサー「唐突ですがクイズのお時間でーす!今日の回答者は学園都市からはるばる戦場に来たハッピートリガー上条当麻さーん!」

上条「ど、どうも?」

レッサー「好物は女の子の作った手作りクッキー!しかし現実には従妹さん以外から貰った事がありません!」

上条「オイ待てプライバシーを尊重しやがれ!」

レッサー「ちなみにベッドの下の『抗い難しアドニスの園(※ホプ○クラブ)』は既に禁書目録へ登録済みですねー」

上条「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

レッサー「ではそんな上条さんに10回クーイズ!」

上条「あぁ、ガキの頃流行ってたのな。ピザを十回言わせて」

レッサー「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ……」

上条「じゃあここは?」

レッサー「エェルボゥ」

上条「巻き舌でお約束を裏切られた!?」

レッサー「てな訳で問題!『だくおん』を10回言って下さい!さあ早く!ハリーハリーっ!」

上条「だくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおんだくおん……」

レッサー「『勇者指令』?」

上条「それはダグオ○」

レッサー「正解!正解者には――」

ベイロープ「真面目にやれ、な?」 ギリギリギリギリッ

レッサー「すいませんっしたっ!だから私のおっぱいを鷲掴みはご勘べイタイイタイイタイイタイっ!?」

フロリス「超見てるよね?」

上条「……さぁ?」

ランシス「……嫌い?」

上条「大好きさっ!あぁ嫌いな男なんていない!」

レッサー「……てな訳で『だくおん』を縮めていくと、なるんですよ。例の奴に」

レッサー「『濁音協会』……そう、『ダゴン教会』に!」

――ユーロスターS 食堂車

フロリス「おおぅ、ロクなもの残ってないなぁ」

ランシス「缶詰は、あるけど……食べ、られる?」

ベイロープ「『ショゴス』の食い残したものだぞ?ヌメヌメベトベトが通過してんのに、食う勇気があればどうぞ」

レッサー「むしろプレミアつきそうですけどね、『ショゴスの強酸にも耐えきった○○!』とか」

上条「――おい。そこで漁ってるお前ら」

レッサー「はいな?」

上条「説明はどーした!?つーかさっきのダジャレじゃねぇか!?安易だな魔術結社!」

レッサー「いやそれなら私がドヤ顔で言い切りましたし、納得して頂かないと」

上条「意味が分からねぇよ!元々濁音なんちゃらは日本語の発音だろーが!」

フロリス「それねー、『理解しようと思ったら負け』だから、考えるだけムダだってば」

上条「……だから、そこを詳しく頼む」

ベイロープ「魔術師にとっては『名は力』なんだよ。だからころころ変えたりはしない、つーか出来ない」

上条「魔術名を偽るとか、そういう次元の話か?」

レッサー「ですかねぇ。例えば『グレムリン』、いますでしょ?あそこさんの幹部は、みんな北欧神話系を名乗っているそうですけど」

ランシス「噂じゃ、霊装や使う魔術も自分達の名前と同じ……だっけ?」

上条「だな。トールも『雷神の槌(ミョルニル)』使ってたわ」

レッサー「そうそう――って、うえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?マジですかそれ!?」

上条「負けちまったけどなー」

ベイロープ「『戦争屋』とやり合って生きてる方がスゲェっつーのよ……いやまぁ、そういうバケモノがゴロゴロしてんだけど」

ベイロープ「連中、トールはどうして『トール』を名乗ってると思う?」

上条「使う術式や霊装が、北欧神話のそれと同じだから、かな?」

ベイロープ「じゃあ『自分の手の内をわざわざ特定出来るような真似を晒してる』、ってのも理解出来るよな?」

上条「あー……うん。理由までは分からないけど」

レッサー「ま、そこら辺は一部の能力者と一緒で、『バレたからってなにが問題なんですか?』的な自信もあるでしょうけど」

フロリス「効率からすりゃ、ウソの名前で騙してた方がネタバレが防げるしねー」

レッサー「だがしかぁし!そこを敢えてわざわざ名乗る必然性があるとすれば!」

上条「あ、あれば?」

レッサー「超格好良いじゃないですか」

上条「あ、これ美味いな?なんて食べ物?」

ランシス「チュロス。ドーナツの変形、みたいな」

上条「冷凍したのポリポリ食うのも、アイスケーキみたいでアリかも」

フロリス「紅茶とコーヒーどっちがいいかね?どっちもコールドだけど」

上条「コーヒーで。つーかイギリス来て思ったんだけど、みんな紅茶飲まないよな?」

ベイロープ「なんか知らないけど、イギリス=紅茶みたいなイメージは止めて欲しい」

ベイロープ「ホームステイに来た奴がまず驚くのが、『紅茶以外の飲み物があった』だからな」

上条「え?アヘン戦争って習ってないの?」

ランシス「マジレスすると、今の教科書には載ってない……」

上条「へー、スゲェなイギリス」

レッサー「……あのぅ、私と致しましてはそろそろ話を続けるか、『なんでやねーん』的なツッコミを頂きたい所なんですが」

ベイロープ「……ま、結論から言えば『名は体を表わす』みたいに、そうそう自分達の本質とかけ離れた名称は使えないのよ」

ベイロープ「メンタルに依存する部分が大きいから、本質と変わってしまう、って言うのか」

フロリス「それでも本質を隠すために全然違う通り名を、てのもよく聞く話だけど」

ランシス「反対に『バアル・ゼブル』みたいな、『複数のルーツを持つ一つのモノ』も、ルート分岐し放題……」

上条「それじゃ今回の『クトゥルー』は、やっぱり」

レッサー「あぁ上条つん違います違います、今までのは一般的な話で連中の話はまた別口です」

上条「上条つんて何?誤字なの?ツンツン頭っては最近よく言われるけどさ」

上条「つーかステイルにもそこら辺を濁されたんだが、クトゥルーってフィクションだよな?」

レッサー「うーむ……上条さんにはそこら辺を一から説明かー。超面倒なんですけど」

上条「俺だって理解出来るか分かんないけど、いつ必要になる知識か分かんないだろ」

レッサー「ですかねぇ……ま、いいですけど」

レッサー「私は説明によって好感度が上げるからいいんですがっ!」

上条「本音がダダ漏れしてんぞ。むしろ打算的で下がってる」

レッサー「まぁまず上条さんはクトゥルーを『フイクション』だと仰いましたが――」

レッサー「――じゃ、逆に聞きますけど『フィクションじゃない神話』ってどれだけありますかね?」

上条「そりゃ……答えに困るわなぁ」

レッサー「つーかですね、そもそもおかしいんですよ。魔導書ってあるでしょ?禁書目録さんが抱え込んでいるの」

ランシス「禁書じゃない魔導書も、ある、けど……」

フロリス「教会の庭イコール世界って訳じゃないからねぇ、うん」

レッサー「あれに書かれている『知識』――つまり術式or霊装なりの情報、ってどこから来てると思います?」

上条「階層がほんの少しずれているだけの、異界、だっけ?」

上条「俺達の世界とは重なってるんだけど、目に見えないだけで存在はしているって言う、別世界」

レッサー「Exactly……が、しかぁしっ!」

レッサー「『その中にクトゥルーはない、って誰が確かめた』んです?」

上条「それは……経験則だろ?昔の人が色々試した結果、クトゥルーはないって」

レッサー「じゃ『なんでこれからも見つからないと断言出来る』のでしょうか?」

上条「……『無い、と証明出来ないから、ある』、ってのは悪魔の証明だろ?」

レッサー「ですよねぇ。それはその通りだと思いますよぉ、けどね?」

レッサー「――『今、一般に知られている魔術だけ”しか”存在しない』と、誰が決めたんでしょうねぇ?」

上条「ある『かも』知れない、って事か……?」

レッサー「てか不自然なんですよ、全てが。今まで文明がどれだけ滅んでると思ってんですが」

上条「四大文明、全部滅んでるからな」

ランシス「四大文明?なにそれ?」

上条「世界史で習っただろ?メソポタミア、エジプト、インダス、黄河、だっけ」

上条「『大きな河を基点に出来た文明』だった筈だけど」

フロリス「あー、それジャパンじゃ常識なんだ?つーかウチらの教科書どーたら言える立場じゃないっしょ」

上条「え、間違ってんの!?」

ベイロープ「間違ってないけど、人類のまほろばはそれだけじゃねぇわよ」

フロリス「つーかメソアメリカとアンデス入ってないじゃんか」

上条「あ、そういや確かに」

レッサー「スキタイのように名前だけ残って、その遺跡はおろか、実態が殆ど残ってない民族も多々あります」

レッサー「当然、それらには失われた神々や術式、霊装があった訳ですよ」

上条「昔のシルクロードで伝わってきた品物とか、結構残ってるけど?」

上条「他にも土御門が……えっと、えんぎしき?だかって1000年前から神社が2千7百ぐらいあるって」

ランシス「日本が、おかしい……最低でも1400年以上遡れる王朝が、今も統治してるなんて有り得ない」

上条「別にギリシャだって残ってんだろ」

ベイロープ「今住んでるギリシア人と、ギリシア文明を興したギリシア人は別物なんだよ。人種的にはアナトリア、トルコの方が近い」

ベイロープ「そもそもさっき出た『ダゴン』とは、元々古代パレスチナに住んでいたペリシテ人が崇めていた神だ」

ベイロープ「お前が今言ったギリシアのミケーネ文明も、そいつらが興したんだって説もある」

上条「えー……それじゃ、連中は」

レッサー「『過ぎ去りし忘れられた旧い神』――『旧神』だという可能性が!」

上条「……!?」

レッサー「……いや、無いですよねぇ」

上条「散々引っ張ってそのオチかい!?」

レッサー「そこら辺はタイムリミットと言いますか。お名残惜しいですが、来週のこの時間にまた会おうぜって感じで、えぇ」

……ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条「車体が……キシんでる……?さっきから揺れが大きくなってる……か?」

ランシス「……あれ?まだ気づいて無かった?」

フロリス「あー、まぁ外見てる余裕なんてないだろーしねー」

上条「外?」

上条(言われて俺は窓へ目を向ける)

上条「……?」

上条(トンネルの中、外は真っ暗だし……別におかしなトコはないよな?)

上条(何か見えたらそれはそれで怖い、っつーか嫌だ)

上条「特に何も見えないけど?」

ベイロープ「こういうトンネルん中は、万が一の時の非常灯が等間隔で並んでんのよ。日本は違うの?」

上条「あぁいや日本も同じだけど。てか、言われてみればさっき座ってた時には、見た」

上条「でも今は、全然見えない?なんで?」

ランシス「黒いまま……見えない。そう、黒いまま……!」

上条「あ、なんかツボったよこの子」

レッサー「つーかですね、さっきはボトボトボトボト、天井から床下から『ショゴス』が沸いてきてんですが」

レッサー「連中、『どっから来てやがったの?』とか、『食欲しかねー筈なのに隠れられたんか?』的な疑問がある訳ですけど」

レッサー「まぁまぁその疑問もスッパリ解決出来る答えが見つかりましたっ!やりましたねっ!」

上条「……やっべ、超聞きたくない話かっ」

レッサー「戦わなきゃ、現実と!」

上条「ウルセェっ!?こちとら結構無茶やってきたけど、食われそうになるのは――」

レッサー「なるのは?」

上条「……無かった訳でも、無いけどですね……」

レッサー「てなワケで上条さんにもご納得頂けた所で、出て来て貰いましょーか」

レッサー「本日のメェインイッベントゥゥゥゥッ!」

レッサー「赤コーナー、『狂犬レスラー』かぁみじょおおぉぉぉぉぉっとぉぉまァァァァッ!」

上条「え!?対戦カード組まれてんの俺か!?つーかそのリングネームは柴田勝頼だ!」

レッサー「対する挑戦者ァァァァァッ!青コォナァァァァッ!」

ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……

上条(車両が軋む……何か――何に締め付けられている?)

レッサー「『車両に巻き付く程デカい』、親ショゴスさんの入場でぇぇぇぇぇすっ!」

上条(俺は見た!窓の外に浮かぶ巨大な『目』を!)

上条(窓枠いっぱいに広がる単眼は、瞳孔を細めて細めて細めて細め――)

親ショゴス『デゲリ・リィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!』

上条「俺の人生こんなんばっかかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※-□◇◇◇■

※ 現在位置

上条「つーかナニ?あれナニっ!?窓の外でうねうねしてるのは、な・ん・だ・よっ!?」

上条(窓ガラスをぶち破って流れ込む――雪崩れ込む『ショゴス』を、どうにか躱し絶賛逃走中!)

レッサー「いやですから、『親ショゴス(仮)』じゃないかなー、と」

フロリス「ワタシらも後ろの車両に出て来た『子ショゴス』をぷちぷちやってたんだけど。倒しても倒してもキリがなくてねー」

上条「……そか!だから後ろの車両に他の人達を避難させて、バッサリと!」

ランシス「あ、それ違う。ぶちキレたベイロープが車両の間を、ズバっと」

上条「勢いでやっちゃったの!?」

ベイロープ「大丈夫だっての。その後、逃げ遅れが居ねぇか、フォローしてたんだから」

レッサー「ま、正確には『避難誘導中にぶち切れたベイロープ』ですかねぇ」

ベイロープ「ちまちましたの好きじゃねーんだわよ」

ランシス「……知ってた」

フロリス「てか避難誘導が『ちまちま』……?」

上条(ちなみにこんなバカ会話をしている間にも、『ショゴス』の群れの断続的な襲撃を受けている)

上条「よっ、と」 パキィィンッ

上条(『幻想殺し』は充分に通じる。拳が当たればぶちまけた酸ごと瞬殺)

レッサー「ディーフェンスッ!弾幕薄いよっ何やってんですか!」

ベイロープ「やっかましいボケ!つーか詠唱乱れるから黙っとけ!」

上条「……君ら、仲悪いの?」

ランシス「見てて……?」

ベイロープ「『アドリス、アドロス、フランクカァベル――』」

ベイロープ「『――狂人の子らよ、我が前に集いて橋を渡れよ――』」

ベイロープ「『――”炎の巨人(ファイヤートーチ)”!』」

ゴオゥゥゥゥッ!

上条(巨乳のおねーさんの前に一塊の炎が浮かび上がり、それを『槍』で掴むと)

ベイロープ「センターっ!」 ブンッ

ランシス「ひ、ひひっ、お、おーけー」 パシッ

上条(中継役の子がまた『槍』で器用につかみ取る……オリアナん時を思い出すなぁ)

上条(てか、何かブルブルしてんのは、何?そういう霊装かなんか?)

レッサー「ヘイ!かもーん!」

フロリス「ほいよっと」 ブゥンッ

レッサー「――サンキューでーす」 ゴゥンッ

子ショゴス『ギギギギギギギギギギギギギギイィ……』

上条(流れるようなパスワークで最前線のレッサーに中継。んで、その炎は『子ショゴス』を灼いていく)

上条(途中で横合いから敵が出て来た場合には、パス回しを止めてそっち優先したり)

上条(……息の合ったコンビネーションだなぁ。つーか本物のラクロスみたい――さて!)

上条「頼りっぱ、ってのも――情けねぇよなっ!」 パキイイィンッ

上条(当然撃ち漏らす『子ショゴス』は出てくる訳で、俺は遊撃担当に収まった)

レッサー「ナイスアシスト!お礼にワタシをフ×××して構いません!」

上条「残念。日本にそんな風習はない」

ベイロープ「ブリテンにもねーよ。てかそのおバカをウチの標準だと思うな」

――ユーロスターS 5両目

上条(――と、暫く掃討&逃走を続けていると、次第に『子ショゴス』の沸く間隔が短くなっていき)

上条(10分もすると襲撃は収まり、辺りには肉の焼けるいやーな匂い以外は見当たらない)

上条「これで、終り?」

ベイロープ「なわきゃないでしょうが。『親ショゴス』が追いついてきてないだけだと思うわ」

フロリス「『まだ』、だけどね」

上条「追いついてないって」

レッサー「食堂車に絡みついてたのが多分本体でしょーかね。大本って言いますか」

レッサー「あれから切り離された個体が、今まで私達を襲撃していたんではないか、と」

上条「……つまり、俺が『幻想殺し』で倒したかと思ったら、暫くして現れていたのは」

レッサー「同一個体ではなく、別の個体でしょうな。見分けがつきませんから」

上条「無限に再生すんのかってビビったんだけど。ま、良かった、のか?」

ランシス「ところがどっこい……そうも言ってられない」

レッサー「『知っているのか雷○!?』」

ベイロープ「余計なボケはいらん」

ランシス「……?」

上条「この子も自分で分かってなかったの!?」

レッサー「(ここでボケて下さい……!)」

フロリス「いやぁそんな無茶ブリされても」

上条「……思った以上に仲良し組織だな、『新たなる光』」

レッサー「ちっちっち、牙を抜かれ飼い慣らされたロリペ×どもと比べられちゃ困りますぜ?」

上条「それ多分バードウェイんトコ言ってんだろうけど、牙を抜かれたロリ×ドって矛盾してねぇかな?」

上条「牙抜く前にもっと抜いとくべきもんあんだろ。もいどくっつーか」

ベイロープ「話戻すけど、『幻想殺し』で一撃必殺は難しいと思うわよ」

上条「なんで?『子ショゴス』に効いたんたぜ?」

ベイロープ「核心は無いわ。けど、それ『が』トラップの予感がする」

フロリス「こんだけおっきいテロ仕掛ける連中が、ワンパンで沈むクリーチャーで満足するんだー?へー?」

上条「かも知れないけどよ。でも実際に『幻想殺し』は大抵どこでも有効だったし」

レッサー「でっすよねぇ、『大抵』は。無敵な『幻想殺し』は『大抵』通用してきたんですよねー」

ランシス「『継続的に供給され続ける火力は消しきれない』のがひとつ……」

フロリス「『消せる・消せないの境が曖昧』のもあったよ、うんうん」

上条「いやだなぁ俺超有名じゃないですかー、あははー」

レッサー「有名税みたいなもんでしょうから、ちゃっちゃと諦めて下さい。考えるだけムダですってば」

上条「分かってたさ!前マークからも似たような事言われたもんねっ!」

ベイロープ「男が『もんね』は止めろ、気色悪い」

ベイロープ「――とにかく、私の推論では『親ショゴスは群体』になるんじゃねぇか、って話だよ」

上条「ぐんたい?群れで集まってる方の?」

ベイロープ「どっちかっつーと定数群体か」

上条「根拠は?ただバカデカいショゴスじゃなく、ショゴスが集まったって理由は何?」

フロリス「『統率が中途半端に取れすぎている』?」

ベイロープ「よね」

レッサー「んーむむむむ、では上条さん。野生の狼が居たとしましょう、それも複数」

レッサー「彼らがエモノを仕留めようとしますが――どんな風に?」

上条「そりゃ、集まってわーって。群れで狩りをした方が効率的だし」

レッサー「正解。では第二問、『仕留めた後は誰から食べる』んでしょーかね?」

上条「そうだな……」

レッサー「ちなみに『みんなで仲良く均等に分配する』という答えは、フィクションですからブッブーとなります」

上条「それじゃ、群れのボス、とか?」

レッサー「はーい二問目も正解!続いて三問目!」

ランシス「……じゃ、『あいつら』の群れのボスは誰……?」

レッサー「それ私の台詞ですよっ!」

上条「……『親ショゴス』……?」

フロリス「せいかーい、よくやったねーパチパチパチパチ」

上条「ど、どーも?」

フロリス「でも、『実際に親ショゴスは”エサ”を食べに来ないし、”狩り”にも来ない』よねぇ」

ベイロープ「普通はな。狩りをした連中が真っ先に捕食するんだよ、子持ちでもない限りは」

ベイロープ「だっつーのに知能は無きに等しい――ただ『食欲』以外に見当たらない奴が、自分は遠見に徹しているって不自然よ」

レッサー「現状、『親ショゴス』が『子ショゴス』をこっちへ送り込んできているように見えます」

レッサー「もしも相手が『知能を持った動物』であるなら、狡猾な相手だと判断するのが妥当でしょう」

ベイロープ「だが、脊椎動物未満の捕食行動にしては、おかしい。おかしすぎる」

ベイロープ「だからきっと連中は『個」と『群』の区別すら曖昧なんだろうさ」

上条「曖昧なのと、群体がどう関係する?」

ベイロープ「『個』であれば『我』が発生する。他の生物よりも、同種族よりも生き残ろうって本能が」

ベイロープ「もし『親ショゴス』が『我』がありゃ、とっくに本体が乗り込んで来てるわね」

上条「……そうか」

レッサー「まぁ推論でしかありませんけど、わざわざここでブラフ噛ます必要は無いでしょうしねぇ」

上条「もしかして『アレ』に知能があって、って話か?」

レッサー「あい、そーです」

上条「それは俺も考えた。確かに生物学的な方向から見れば、そっちのおねーさん――」

ベイロープ「ベイロープよ」

上条「ベイロープさんの推測は正しいと思う。けど」

上条「『アレ』は本当に生き物なのか?誰かの術式なんじゃないのか?」

ランシス「……そこは、曖昧……びりびり、来ないし……」

上条「えっと――」

ランシス「ランシス……」

上条「なんでランシスはそう思ったんだ?」

ランシス「……なんでベイロープは『さん』で、私は呼び捨て……?」

レッサー「おっぱいですね」

ランシス「そっかーそれじゃ仕方が無い――」

ランシス「……『死の爪船(ナグルファル)』……!」

上条「待て待て待て待てっ!?物騒な霊装起動させんじゃねぇよっ!?第一俺言ったんじゃないしぃっ!」

フロリス「男なんてアレだよねー、顔とおっぱいと腰と髪しか見てないもんね?」

上条「それ男女関係ないと思います!」

ベイロープ「その子は魔力を感知するのか得意、というか性癖って言うかな」

レッサー「だから『アレ』から魔力が放たれていれば、超フィーバー状態なんですがね」

ランシス「んーん、来て、ない……」

上条「それじゃ『アレ』は魔術サイドのバケモンじゃない――訳が、ねぇよな」

ランシス「『魔力を関知されないようにする術式』もある、から。何とも言えない、けど」

ランシス「少なくとも……今まで、外部からの魔力は感じられなかった、気がする」

上条「あぁそっか。ラジコンと一緒で、外側から操るには電波飛ばさなきゃいけないもんな」

レッサー「『関知阻害』がかかっていたとしても、私達みたいな『魔術サイド』にバレないようなカモフラージュかも知れませんし……はっ!?」

上条「どうしたっ!?」

レッサー「『カモフラージュかも』って二回『かも』が出てますよね?」

上条「うん、緊張ほぐそうとしてんだろうけど、他に方法あるよね?オッサンが言いそうなダジャレの他にさ」

ベイロープ「……まー、結局現時点で出る推論なんてこんなもんだわ」

上条「『ショゴス群体説』のままで対策を取るのか?」

ベイロープ「実戦中に完璧な情報なんて見込めねーんだよアホが」

ベイロープ「『万全』な情報なんざ、戦闘終わった後に調べた所で出てくるかどうか怪しいっつーの」

ベイロープ「どうやった所で手持ちのカードで勝負賭けるしかないでしょーが」

フロリス「いやぁその割にはこないだの『ブリテン・ザ・ハロウィン』で、盛大にシクったよねー」

レッサー「ベイロープ、そこら辺甘いですから。男運も悪いですし」

ランシス「やーい……バッドラックファレー」

ベイロープ「男運関係ねぇだろ。つーか振ったバカどもが好き勝手に言ってるだけで、私は無関係だ」

上条「見通しの甘さは否定しないんだな」

ベイロープ「うっさいわね。ありゃあん時『次善』だと思ったんだっつーの」

上条「また、『次善』かよ……」

ベイロープ「キャーリサ王女殿下も私らも、あれが悪いだなんて思ってないわ」

ベイロープ「『最善』は別にあったんでしょうね。否定するつもりもないけど」

ベイロープ「ただ、『最善を模索している間に、最善が最善でなくなる』なんつーのもよくある話」

ベイロープ「目の前でレ××されそうになってんだったら、暴力以外で止める以外に方法はねぇんだわよ」

上条「……アレが良かったってのかよ!?色んな人が傷ついたりしたんだぞ!」

ベイロープ「――去年、イングランドのテレビ局がグライダーをドーバー海峡を横断する企画を立てた」

上条「ラジコンみたいなのか?」

ベイロープ「グライダーってのは動力の無い、デカくて丈夫な紙飛行機みたいなもん。それをイングランドから飛ばそうって番組」

フロリス「大の大人が必死こいて流体力学が強度が重さが、ってグライダー作ってるのはマジうけたし」

上条「ちょ、ちょっと参加してみたい」

ランシス「……ロマンだもんね」

ベイロープ「で、二時間番組の真ん中、司会者がなんか突然深刻そうな顔で言い出すのよ」

レッサー「『……実は、ここで皆さんに大事な事を告げねばなりません!』」

レッサー「『とても残酷な事実なのですが、これを伝えなければ私達は前へ進めない――だから、私は勇気を持って告白したいと思います!』」

上条「やだそれ死亡フラグじゃない」

ベイロープ「ある意味そうだけどな」

上条「へ?」

レッサー「『それというのも――フランス側から、グライダーの飛行許可が下りませんでしたっ!!!』」

上条「番組全否定かっ!?つーか企画立てる前に許可取っとけよ!何でギリギリになって申請してんの!?」

ランシス「……マジ話なんだから、業が深い……」

上条「やっべー超興味出て来たその番組」

レッサー「ちなみにその後、ブリテンで大体ドーバー海峡と同じぐらいの海峡、てか海の上を飛行する事になりました」

レッサー「下からモーターボートでカメラと司会者が追いかけ、必死に実況するのですが――」

レッサー「如何せん、その絵が地味すぎ&司会者はしゃぎすぎで視聴者置いてきぼり、という後半も見所満載の番組でした」

上条「……分かろう?作る前に分かるよね?」

上条「結局、延々海の上を飛んでるだけだから、絵面が地味になるって分かりそうなもんじゃん?」

上条「飛行許可云々も、フランス側に電話一本メール一通出せば分かったよね?見切り発車もいい加減にしないと」

ベイロープ「ま、『ハロウィン』前からそんな感じだし、冷戦終わっても仮想敵国同士なんだよ」

レッサー「実際『たまたまドーバー海峡に潜んでいた国籍不明の原子力潜水艦』が撃沈されて、カエル食い野郎超ザマミロですしねー」

上条「フランス、そんな事してんの?」

レッサー「原潜+核ミサイルのコンボは、領海をウロつくのがお仕事です」

フロリス「本土が焦土爆撃喰らっても、原潜が報復の一発かます仕組みってワケだよ」

ベイロープ「『降伏するサル(Surrender Monkey)』だけじゃく、他の国もやってっけど。こっちは虎の子潰せて万々歳だ」

上条「サレ……なんだって?」

レッサー「正しくは『Cheese-eating surrender monkeys』、日本語訳『チーズを食べながら降伏するサル野郎ども』ってぇ意味ですな」

上条「文化的なアレコレ言うのは良くねぇだろ」

フロリス「この名前は95年?だかのイラク戦争、フランスが参戦しなかった時に広まったんだよねぇ」

フロリス「『テメこの臆病モンが!』的な意味で」

上条「それは……何とも言えないけど」

ベイロープ「今やってるウクライナに侵攻してるロシアへの経済制裁も、フランス野郎が反対してお流れになりそうだし」

ベイロープ「つーかロシアから受注してる揚陸艦、予定通りに引き渡すってのはどういう事よ!?」

ベイロープ「有り得ないでしょーが!今っから黒海で向き合うかも知れない相手に!」

フロリス「今のベイロープの叫びは、各国の軍関係者の魂の叫びなんだよねぇ」

レッサー「てか『これから新冷戦だよ、やったねっ!』と盛り上がるってぇのに、空気読んで欲しいですよ、えぇ」

上条「不謹慎な事言うんじゃありません!」

レッサー「いやでもマジ話、ウクライナ一つでNATOが戦争かます程コストが釣り合ってない訳でして」

レッサー「だもんで、経済制裁で何とか退いて欲しかったんですけどねぇ」

ランシス「無理っぽい、よね」

レッサー「……まぁ、なんだかんだ言って、政治も経済も国際関係も『最善』であった試しがありません」

レッサー「ある国にとって良かれ、けれどとある国では悪しかれ。利害関係が絡めばフランスみたいに一抜けする所もありますよ」

レッサー「今着々と独立が進んでいるウクライナを置いてきぼりにして、ですが」

フロリス「いっくら平和ボケのジャパニーズでも、自称『親ロシア派の一般人』がライフル持って襲撃かますなんて思わないでしょー?」

フロリス「装甲車を乗り回し、ウクライナ軍の武装ヘリを撃ち落とす『一般人』……まぁ、学園都市の護衛さんでもあるまいし」

レッサー「国家は自国民の国益が一番。そういった意味でウラジミール氏はよくやっています――我々の『敵』として」

上条「……平和な世界云々、ってのは何だったんだ?そもそもEUは過去のしがらみを断ち切るためにしたんじゃないのか?」

レッサー「やっだなぁそんな訳ないじゃないですか。単に大国同士が利益を得られるからしただけですってば」

レッサー「取り残されるなと同じバスに乗ったは良いものの、行き先が同じじゃなくってパニクってるだけ、と言いましょうかね」

ランシス「ブリテンはー、ユーロ採用してないしー……」

レッサー「経済も外交も全部、形を変えた戦争なんですよね……ただ、今回は西側が負けただけの話」

上条「……ブラックな話だ」

ベイロープ「……ま、分かった?理解出来た?これもまた、現実だわ」

レッサー「『戦争を知らない世代』とか、日本以外でも結構使われるフレーズですけどね」

レッサー「じゃ逆に聞きますが、その理屈だと『戦争経験がある人間・国家の方が、しない人間よりも倫理的に上』」って事になりますな」

フロリス「『戦争を知らない=平和守れない』んだったら『平和を守る=戦争する』って事になって」

フロリス「『平和のために戦争をし続けなければいけない』って、延々戦争が続くだけなんだけどね」

ランシス「卵が先か、鶏が先か……」

ベイロープ「『偽善』、『最善』、『次善』……ま、言葉は色々あるけどさ」

ベイロープ「結局は、するか、しないかの二択なんだわ」

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※-□◇◇◇■

※ 現在位置

ベイロープ「ってな感じでそろそろ。あぁ移動頼む」

レッサー「上条さんは、私とこっちへどうぞ」

上条「車両移動?……あぁそっか」

上条(手を引かれるようにして、俺とレッサーは一つ前の車両へ移る)

上条(途中、連結器らしい物々しい構造物があった。非常時にはここで切り離すのか)

上条「次の車両からは『カーゴ』だもんな。ここでケリつけなきゃいけない、よな」

ベイロープ「まぁ、不本意ではあるけどね」

上条「不本意?」

ベイロープ「フロリス」

フロリス「……うん」

ベイロープ「おバカとやる気の無いの面倒頼むわ」

レッサー「言われてますよ、やる気の無い子さん」

ランシス「……だね、おバカの子」

フロリス「んー、まぁ適当にやってみるよ。メンドーだけどさ」

ベイロープ「アンタは本当に……ま、いいわ。ランシス!」

ランシス「……はい」

ベイロープ「……変えられた、か?」

ランシス「……うん」

ベイロープ「なら、良かった――レッサー!」

上条(会話が終わった子は一人ずつ、こっちの車両へ移ってくる)

上条(……でもこの挨拶、おかしくないか?)

レッサー「はいな」

ベイロープ「あー……やっぱいいわ」

レッサー「ヒドっ!?最期の最期でこの扱いですかねっ!?」

ベイロープ「アンタは直ぐ会えそうな気がするわ。フロリスじゃ手に負えないだろうし」

レッサー「失敬な!この『人の話を良く聞きましょう!』とよく言われたレッサーちゃんに何と言う暴言を!」

上条「今まさに人の話を聞けよ」

ベイロープ「後は、ま、ジャパニーズ」

上条「上条当麻」

ベイロープ「ウチの子らを、頼んだわよ。悪い子――も、いるけど、まぁ何とか外面は悪くないし」

レッサー「そこでどうして一斉に私を見るんですか?」

レッサー「そろそろ白黒つけましょうよ?ぶっちゃけ今の私達に必要なのは、肉体言語で理解し合う事ですよね?」

ベイロープ「――それじゃ」

レッサー「――えぇ、ベイロープ。良い旅を」

ガキンッ

上条「ちょっと待てよ……?今何を――」

フロリス「見りゃわかんじゃん。切り離したんだよ」

ランシス「後ろの列車の、車両を……」

上条「それじゃ――!?」

ベイロープ「……」

レッサー「あぁもうどうしようもないですから、ちゃっちゃと諦めて下さいな」

レッサー「連結器が一度離れてしまうと、人力で戻すのは不可能ですからね」

上条「まだ――あっちの車両にはベイロープが居るんだぞ!?」

ランシス「……じゃ、ないとダメ」

上条「あぁ!?」

ランシス「『ショゴス』は『一番近い人間』を捕食対象にする。つまり」

フロリス「『現時点で火力の足りないワタシ達』が出来る『次善』が」

上条「……まさか」

レッサー「そうしませんと、『親ショゴス』は直ぐにでも追いついてしまうでしょうから、はい」

上条「ベイロープさんを囮にする、か……?」

レッサー「……はい」

フロリス「意外と冷静だね、ジャパニーズ。さっきは散々取り乱したってのに」

フロリス「やっぱり見ず知らずの相手との別れには、納得しちゃうクチかな?」

ランシス「……フロリス」

レッサー「……あんまり言わないで下さいな、それは上条さんが酷薄って話じゃなく」

レッサー「この世界、『いつだってどこだって、誰かは犠牲になっている』んですから」

レッサー「今、たまたま目の前に――って、上条さん?」

上条「あ、レッサーゴメンな?もう少し左に退いてくれっかな?」

上条「そっちの子、フロリス――」

フロリス「”さん”をつけろ、”さん”を」

上条「――”さん”も、もうちっとだけ後ろ……あぁおけおけ、いい感じいい感じ」

上条(連結器から切り離された車両と車両の間は3m弱)

上条(向こうに動力がないから、次第にその差は広がっていく――のは、当然だっと)

上条「……いっちばーーん、学園都市、上条当麻――」

上条「――いっきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!!」 シュダッ

レッサー「上条さん!?」

上条(レッサー達が止める間もなく――ってかこの馬鹿な事はしないと踏んだんだろうけど――俺は、車両から車両まで飛び移る!)

上条(走り幅跳びでは……まぁ、何とか――?)

上条「――て、風が!?」

上条(マズい!予想以上に風圧が――!?)

上条(格好つけて落ちましたー、じゃ最悪すぎるだろ!?)

パシッ

上条(半ば諦めかけた俺の手を)

上条(列車から殆ど乗り出した格好で、ぶっちゃけ落ちんじゃねぇかって心配なるになるぐらい身を乗り出し)

上条(しっかりと握ったままで彼女は叫ぶ)

ベイロープ「お前――バカじゃないの!?」

ベイロープ「納得したんじゃなかったの!私や、アンタのツレの生き様見てたんでしょうが!」

上条(と、こうしている間にも列車と列車の間は離れていく)

上条(レッサー達も何か言ってるけど、聞く必要も無かった)

上条(俺が言わなきゃならない相手は、目の前に居るから)

上条「あぁうん、納得したし理屈も理解したよ。俺が同じ立場だったら、アンタや柴崎さんみたいな行動したかも知れない」

上条「なんつーか、散々『覚悟』っていうか、生き様みたいなの見せられて、正直スゲーなっては思ったよ」

上条「尊敬もしてるし敬意も払う。少なくとも俺みたいな『ガキ』には真似出来ないから」

ベイロープ「だったら――」

上条「……でもな」

上条「――『納得したからって黙って見てる義理もない』んだよ、こっちは!」

上条「俺は俺の理屈で動く!気に入らなければ殴ってでも止めるし、気に入ったんだったら殴ってでもする!」

上条「それ以上でも以下でもないんだ!」

ベイロープ「お前……」

レッサー「――上条さん!」

上条「……てかさ、そもそも間違いだったんだよ、最初っから」

上条「学園都市だの、十字教だの、魔術結社だの。下らねぇよな、ホント」

上条「女の子一人助けるために、ごちゃごちゃ理屈こねてる方か間違ってんだよ!」

上条「大の大人達が縄張り気にしている場合じゃ無かったんだ!――なぁ、聞いてんだろ?柴崎さん!?」

上条(渡されたスマートフォンへ向かって叫ぶ)

上条「ここから、こいつらが敵じゃねぇかって探ってんだよな?」

上条「そんな場合じゃねぇんだよ!誰が味方で誰が敵だとか――」

上条「――俺達が力を合わせなきゃ!バラバラの状態でやったって勝ち目は薄いんだよ!」

上条「目の前に大切なモノがあって!それを守り抜くためだったら何だってするんだろ?」

上条「命懸けで俺達を守ろうとしてくれた!アンタは証明してくれた筈だ!」

上条「だったら今度は!俺が信じた相手を!こいつらが味方だって信じてくれよ!」

上条「証拠も何もないけど!多分アンタが嫌う魔術師サイドの人間達だけどさ!」

上条「少なくとも見ず知らず人間一人守るために!仲間一人が笑って犠牲になるぐらい!真の通った人間なんだからさ!」

ベイロープ「……」

上条「だから、今度は――」

上条「――俺達と一緒――」

プツッ

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
次回で第一章終り(予定)です。6万語ぐらい留めて置く筈が、気がついたらもう7万6千五オーバー (´・ω・`)

>>240-241
上司が本気になるからヤメロ

おつ。熱いな。どわーふさんのは軸っつーか芯がちゃんとあるから面白いわ

ベイロープさんがいいキャラしてていいなって思いましたまる

乙~

これでベイロープにフラグ建つといいなー

あ、ところで上司さんはダルク推しなの?俺はどっちも喰えるけど。とりま重護とのCPを希望

~あとがきにて~
鎌池「ところであの子のデレはいかがでした?」

俺「オティヌス愛してるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

こう答えること間違いなし!

みんなは読んだか? 新約とある魔術の禁書目録第10巻!!

泣いた! 叫んだ!! 服を脱いだ!!! 15㎝の定規を探した第10巻!!!!



ひっさしぶりに星も見れるぜ☆ まだならはやく買っちゃいなよyou!

>>271-275
ありがとうございます

>>273
上司はペド&ショタ&BLいける派(売れれば書く)、私は基本ノーマル
個人的には重護と天災(の、掛け合い)が面白いとは思います

――ユーロスターS 5両目

□□□-□□□□※

※ 現在位置

ベイロープ「――最初に恋した時の事って憶えてるか?私はよーく憶えてる方よ」

ベイロープ「近所に住んでた雑貨屋のお兄さん、ガキの時にはよく遊んで貰ってたから、って理由だけで好きになったわ」

ベイロープ「……ま、私が告白する前、カート密売で捕まったけど!」

上条「……えっと、うん、そのカートって」

ベイロープ「別名『チャット』、中東で使われてるドラッグよ」

上条「初恋は実らないって言いますよねっ!?きっと、それじゃないかな!」

ベイロープ「……まぁそれはガキの話じゃない?実家に居た頃の話だし、なんてーか年上の異性に憧れるなんてよくある話よ」

ベイロープ「でもね、これはゴードンに入ってからの話なんだけどさ」

上条「ゴードン?」

ベイロープ「ゴードンストウン、スコットランドにある全寮制の学校。私らが籍を置いてる所」

ベイロープ「所謂、王室関係者の出身が多いってんで、そっちにコネを作るにはもってこいの学校」

上条「コネて」

ベイロープ「つーかキャーリサ王女殿下ともそっち繋がりなのよ。学校のOG」

ベイロープ「そもそも私らみたいな、得体の知れない魔術サークルと懇意にしてるなんて有り得――」

上条「なくはないよなぁ。アイツの性格だと」

ベイロープ「とにかく!これはゴードンへ入った時の話なんだが!」

ベイロープ「こう、線の細い色白――って言うか、病的なぐらい肌の白い先輩が居たのよ」

ベイロープ「実際病弱キャラで『守ってあげたい!』みたいな、保護欲をそそられる先輩が!」

上条「あ、オチ何となく読めた」

ベイロープ「……初恋がアレだった。だからきっと!今回は神様も祝福してくれる!そう思って私は告白したわ!」

上条「したんだー、しちゃったんだー」

上条「完璧フラグ立ってる――てか、ベッキベキに折れてる気がするんだけどなー」

ベイロープ「ま、同室の野郎とデキてたんだけどな!」

上条「アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!?」

ベイロープ「フラれたよりもショックが大きすぎで、もうレッサー殺して私も死のうかと」

上条「助けてあげて!?レッサーさん逃げてぇぇぇぇぇっ!?」

ベイロープ「……その後も『あ、ちょっといいな?』って思った男どもがマザコンだったりシスコンだったりブラコンだったり」

上条「男でブラコンて。アッ!率多いなイギリス」

ベイロープ「……だからもうコリゴリじゃない?キー・ステージ上がってくと、今度は逆に告白されるようになったんだけどさ」

上条「キーステージ?」

ベイロープ「ブリテンのパブリックスクール――公立校の義務教育の学年、みたいなもんよ」

ベイロープ「ちなみにステージ4卒業が16歳ね」

上条「日本より一つ上か」

ベイロープ「ま、あの子達の世話もあるし?先生――私達に魔術を教えてくれた人から、面倒看るのも修行だー、みたいな」

ベイロープ「今にして思えば面倒を押しつけられた気も……?」

上条「まぁいいんじゃないか?他人に教えるのも復習になると思うんだよ」

ベイロープ「ま、ね。そんで時間もサークルっていう建前で拘束されるし、告白されてもフッてたら――」

ベイロープ「……今度はレ×疑惑が」

上条「てかそれ男運じゃなくって、男見る目がないだけじゃ……?」

上条「あと別に百合はいいと思うよ?当人同士の強い想いがあれば、うん」

ベイロープ「黙ってやがれ百合厨疑惑。アンタの性癖でどんだけのレッサーが泣いてると思ってんだわ」

上条「少なくともオタクのレッサーさんは泣いてないと思うな。あの子にあるのは打算だけだもの」

ベイロープ「ん、私も自分で言ってて、『それはねぇな』って思った」

上条「……あれ?」

ベイロープ「何?」

上条「いつの話だ?てかどうしてレッサーさん居んの?」

ベイロープ「ゴードンは全寮制、でもってレッサー・フロリス・ランシスとは寄宿舎が同じ」

ベイロープ「つっても私は上級生だから面倒看る方だけど――」

上条「へー」

ベイロープ「……思えばアイツに告白した時も、あのおバカが邪魔しくさりやがって……!」

上条「……一応聞くけど、どんな人?」

ベイロープ「何か、こう一匹狼って感じで。孤独なのよ!」

上条「コミュ障だよね?」

ベイロープ「何かあると『俺の右手が!?』って言い出す人」

上条「あ、ゴメン今の無し。よく居るよねー、珍しくもないもんねー」

ベイロープ「そういや最近見ないけど、退学したんだっけ……?」

上条「キャラ作りで失敗したんだと思うよ?学校デビュー間違ったとも言うかも」

ベイロープ「とにかーく!私は別に男運が悪い訳じゃないのよ!分かる!?」

上条「繰り返すけど、見る目の問題じゃねぇの?タイプが一人ずつチェンジしてる」

上条「つーかさ、聞いていいかな?」

ベイロープ「何度もどうしたのよ」

上条「俺ら今、絶賛取り残され中だよね?バリケードとか作んなくていいのか?」

ベイロープ「天井と壁と床から染み出してくる連中に壁作ってどうすんのよ。そのまま逃げ場失って食われるパターンよね」

上条「かも、知んないけどさ!車両の中で男運の悪さ嘆くのも何か違うだろっ」

ベイロープ「私達がここから離れる訳にも行かないし、他に出来る事もないわよね」

ベイロープ「アンタのお友達でも居りゃ、ギャーギャー騒ぐんでしょうけど」

上条「あー……『無駄死にするな』って」

ベイロープ「それそれ」

上条「ベイロープさん、あんま怒ってない、よな?つーか普通?」

ベイロープ「ん?あぁ別に?つーか怒る方がおかしいでしょ」

ベイロープ「だってアンタ、ここへ『戦い』に来たのよね?私を止めるとか言い出したら、遠慮無くぶっ飛ばすけど」

上条「しねーよ。死なせたくないし、死ぬつもりもないだけだ」

ベイロープ「私も同じく。『新たなる光』の中じゃ、高火力の私が足止めとしちゃ適任だっただけ」

上条「てっきり叱られるもんかと思ってた」

ベイロープ「あぁ『命を無駄にするな』とか言われると思った?ナイナイ、言う訳がない」

ベイロープ「んー、まぁ『死ぬ』のは『結果』であって、『目的』じゃないワケよ」

上条「うん?」

ベイロープ「だーかーら、こうやって足止めやってるけど、別に『死ぬ』のが目的じゃない、分かる?」

上条「あぁ時間稼ぎっつーか、他の解決方法を誰かか持ってくるまで被害を抑えるんだよな」

ベイロープ「『目的』が時間稼ぎであって、『死ぬ』のはあくまでも『結果』よ」

ベイロープ「力が及ばないんだったら、それは自分の責任だわ。生きるだけの力が少しだけ足りなかったって事」

ベイロープ「少なくとも『戦場』に来るんだったら、覚悟はしておかなければいけないのよ」

上条「厳しいな、そりゃ」

ベイロープ「それが『戦場へ往く』って事だからね。自分自身で選んだ以上、出たダイスの出目が悪かったからって、無しには出来ない」

上条「……俺が言うのも何なんだけど、つーかさっき言われた事でさ、そういうの適材適所があるんじゃねぇかって」

ベイロープ「『仕事はプロに任せる』?」

上条「……俺みたいな一般人が出て行っていいもんか、っては結構悩んだり」

上条「今だけじゃなく――」

ベイロープ「……あのさぁ、上条だっけ?」

上条「うん」

ベイロープ「例えばの話、目の前で困ってる人が居た。どうする?」

上条「助ける」

ベイロープ「いい返事。それじゃ『戦う』んだった――あぁいえ、言わなくていいわ。ロシアまでウチの子と行ってきたんだし」

ベイロープ「バゲージシティみたいな地獄の一歩手前にも顔出してたわよね、確かに」

上条「いやぁ割と気がついたら巻き込まれてる時も、うん」

ベイロープ「じゃ聞くけど、どうして行ったの?ロシアとバゲージへ」

ベイロープ「魔術と科学の間でフラフラしてきたアンタが、大した力も無いのに何で?」

ベイロープ「それこそ誰か、『もっと強い専門家』へ任せた方が良いとか思わなかった?」

上条「……あぁそうか、そういう事か」

ベイロープ「確かに『誰かが助けてくれる”かも”しれない』」

ベイロープ「『自分じゃない誰かが、上手く収めてくれる”かも”しれない』……ま、可能性はあるわよね」

ベイロープ「道で倒れたおばあさんを、たまたま通りかかった医者が助けてくれる”かも”しれない」

ベイロープ「傷ついて動けない人が居ても、誰かが通報してくれる”かも”しれない」

ベイロープ「世界が悪い魔王に征服されそうになったら、英雄が現れて救ってくれる”かも”しれない」

上条「……」

ベイロープ「そして『自分が戦わなくっても、誰かが自分の思い通りの世界を創ってくれる”かも”しれない』って」

ベイロープ「ゼロじゃないってだけで、限りなくゼロに近い他力本願を」

ベイロープ「でも、アンタはそれで納得行かなかったってクチでしょ?」

ベイロープ「だから拳を握って、たったそれだけの武器を持っていつもいつも『戦場』へ来やがった、と」

上条「……ま、そうだけどさ。それ言ったらベイロープさん達だって同じじゃねぇの?」

上条「『魔術師』は、みんなそうだって事だろ」

ベイロープ「そう、ね。うん、それはそうよ」

ベイロープ「力があればするとか、無ければしないとか、そうじゃない。そういう甘ったれた話じゃない」

ベイロープ「『魔術師だから』も、この際関係ないわ」

上条「……」

ベイロープ「『戦場』に立つだけの勇気があれば、それはどんなガキだろう、老いぼれだろうと『戦士』なのよ」

ベイロープ「アンタ――あなたは『それ』を行動で示した」

ベイロープ「自ら進んで死地に降り立った。覚悟を見せたわね」

ベイロープ「そんな『戦士』相手に、今更説教タレんのもダサいって話よ」

ベイロープ「世界を変えたいけど、『来るか分からない英雄なんか待ってらんねぇよ』って動いたのか、あなた。そして――」

ベイロープ「――私。OK?」

ベイロープ「ちなみに似たようなおバカを、あと三人知ってるわ」

上条「……ベイロープさん男前っすね」

ペイロープ「……止めて。トラウマが甦る」

上条「えっと……?」

ベイロープ「レ×疑惑が出た時、あのおバカが」

ベイロープ「『まっかせてください!この私にお任せ頂ければ噂の一つや二つは75日!』」

上条「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

ベイロープ「止めろっつってんのに、あのおバカが勝手に噂操作?だか噂の上書きだか、やりやがったんだよ」

上条「うわぁ……」

ベイロープ「次の週、何か会う奴会う奴、全員から同情された視線が飛んでくるな、って思って問い詰めたら」

ベイロープ「私は『外に恋人が居たが、両親から猛反対されて全寮制の学校にぶち込まれた』って設定んなってた」

上条「なんつーか、その時レッサーが読んでた小説だかマンガだかの内容が分かる……」

ベイロープ「バカじゃねぇのか!?こっちはハイランダーの末裔名乗ってるけど、別に貴族じゃないわよ!?」

ベイロープ「つーか入学したのってまだちっちゃかったし、どんだけウチの親が大人げないんだって話だ!?」

上条「……昔っから仲良かったんだなー、君ら」

ベイロープ「吊ったけどね」

上条「どこにっ!?」

ベイロープ「――ま、その話は帰ってからどうぞ」

……ギシッ、ギシギシギシギシギシギシッ!

上条「……いや、死ぬつもりはない。ないって思ってんだが――倒せるのかよ、『アレ』」

上条「最新式の車体揺らす程の大質量の群体、俺の『幻想殺し』で殺しきれんのか……?」

ベイロープ「少しでも勝ち目があんだったら、『新たなる光』全員でやってるのだわ」

ベイロープ「ゼロじゃない。が、ゼロに限りなく近い」

上条「難しいから他の乗客を先に行かせて、か」

ベイロープ「ま、ブリテンを敵に回した時よりかはマシよね、よくよく考えれば」

上条「だな。『騎士派』と怖いドレス女から逃走しながら、イギリス駆け回った思い出に比べれば、まだまだ」

ベイロープ「最悪、ある程度保てば死んじゃっても、『時間稼ぎ』は達成される、か」

上条「俺としちゃ不本意っつーか、今っからアリサのコンサートツアーに同行しなくちゃいけないんだけどなー」

ベイロープ「『ショゴス』が出た時点で中止決定じゃないの?」

上条「……いやぁ、どうだろう?ウチらの運営、無茶大好きだからねー」

上条「前もパラシュート一つでイタリアに投下されたり……うんっ!」

ペイロープ「ま、最悪死ぬだけだから」

上条「美味しくいい頂かれるのは嬉しくねーよ!」

親ショゴス『……デゲリ・リィィィィィィィィィィィィィィィッ……!』

ベイロープ「さて、と。そろそろお喋りは終りみたいね」

ベイロープ「他に何か、聞きたい事でも?」

上条「んー……?」

ベイロープ「冥土の土産代わりに一つだけ答えてあげるわよ。あんま長いのはダメだけど」

上条「……あぁ!」

ベイロープ「どうぞ?」

上条「結局、ベイロープって今付き合ってる人って居るのか?」

ベイロープ「……やっぱり私は男運が悪いわー……」

上条「どういう意味だよっ!?何で失望すんのさ!?」

ベイロープ「ここは『生き残ったら恋人になろう』とか、言っとく地面よね?」

上条「意外と余裕だなっ!」

ベイロープ「ま、ね?」

ベイロープ「一人でおっ死ぬと思ってたら、どっかのマヌケが付き合ってくれて、正直嬉しいわ」

上条「言葉を選べ、な?下手すれば最期なんだから」

ギシ……ギシギシギシギシギシギシッ!

ベイロープ「来るわよ!」

上条「あぁっ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
急な仕事が入ってしまって大幅に少なくなってしいました。すいません

――同時刻 『カーゴ3』

柴崎「――ふむ、共闘、ですか」

レッサー「悪い話ではないかとも思いますよ」

柴崎「でしたらまず、その物騒な物を仕舞って頂けませんか。こちらには一般の方も居られるんですから」

フロリス「だったらそっちの『糸』も引っ込めろよジャパニーズ。鬱陶しいったらありゃしない」

柴崎「いと?」

フロリス「空調が動く度にチカチカ光ってるしー、感知余裕だっしー?」

柴崎「すいません。不調法な上、小心者ですので」

柴崎「お嬢さん達に槍を突きつけられて平静で居られる程、メンタルは強くないのですよ」

フロリス「つーかそのジャパニーズ特有の気持ち悪い微笑みもナントカして。ワタシ、大っ嫌い」

ランシス「フロリス……」

柴崎「それは文化の違いでしょうなぁ、単純に」

柴崎「『どんな程度の低い相手にも、表面上は一定レベルの礼儀を持つ』のが、私達の社会では美徳とされていますから」

柴崎「それが例え、『共闘の誘い持ってきたにも関わらず、いきなり喧嘩を売った礼儀知らず』であっても例外ではありません」

フロリス「この……っ!」

柴崎「外面すら友好的に振る舞えない相手が、心底信じられる訳がない」

フロリス「……ダメだよレッサー。やっぱジャパニーズなんて相手にするだけ時間のムダっしょ」

レッサー「そう言わないで下さいな。私だって好きでやってるんじゃありません」

ランシス「……じゃ、なんで?」

柴崎「私も聞きたいですね。どう見ても私達は『お友達』ではないというのに、何故?」

レッサー「仲間を助けるのに理由が必要ですかね?」

柴崎「……いやまぁ至言であるとは思いますがね」

柴崎「ですが、一度は切ったお仲間でしょう?被害を最小限に抑えるために」

柴崎「話を聞くに、一度納得済みの案件を今更『やっぱり気が変わった』で、助けに行くのもねぇ?」

レッサー「いえ、そうではありません。私達は先程の時点では最善の判断を下した、そう思っています」

柴崎「心中お察し致します」

レッサー「これはご親切にどーも。思いっきり『言うだけ言っとけ』的な感じがしますけど」

レッサー「で、ま?また似たような状況下に置かれれば、同じ選択をするでしょう」

レッサー「その程度の覚悟は持ち合わせているつもりですから」

柴崎「まだお若いのにご立派な信念です」

フロリス「持ってる?」

ランシス「……ないない」

レッサー「空気お読みなさいなアンタ達っ!折角人が真面目モードへ入ってるというのに!」

柴崎「そちら側の決意は分かりました。ですが、なら何故」

レッサー「事情が変わったじゃないですか、さっきと今とは」

レッサー「勝算があるんだったらそれに賭ける――悪い話じゃないとも思いますがねぇ?」

柴崎「それも共感はします。しかし理解は出来ません」

柴崎「変化があったとすれば……そうですね、時間的な余裕が出来た、ぐらいでしょうか」

柴崎「このまま走り続けていけば、これ以上乗客に被害は出ないとは思います」

レッサー「いえいえそっちじゃありません。変わったのはもっと別――私達、ですよ」

柴崎「と言うと?」

レッサー「『共通する一つの脅威』を目の前にして、文字通り同じ船に乗っていれば共闘出来ませんかね、って話ですよぉ」

レッサー「助けたいんでしょ?ウチのベイロープはともかく、上条さんは」

柴崎「……それは、そう、ですがね。しかし……」

柴崎「買い被られても困る、と言いましょうか。『アレ』相手に私は――私達は有効な手立てを持ちません。それが現実です」

柴崎「更に言わせて貰うと、ユーロスターSは時速300km――多少減速はしているでしょうが――なので、飛び降りたら命が危ない」

柴崎「音速並の速度へ身を投げ出し、生身で耐えきる自信は流石にないでしょう?」

フロリス「だよねー、ギャグ一本で済ませて良い場合じゃないんだよーホントはさー」

ランシス「よしよし……」

柴崎「また切り離した車両とは一分経過する度に5km離れる――つまり無事に飛び降りても、現場へ着くまで時間がかかってしまいます」

柴崎「だからといって列車を減速したり、停めてしまっては本末転――」

レッサー「――これは私の友達の友達から聞いた話なんですがね」

レッサー「とある貸しボート屋さんでバイトしていた時の話です」

柴崎「いやあの、一刻を争っているのでは……?」

レッサー「まぁまぁ聞いて下さいよぉ」

レッサー「どーせバンの中で色々作業やらせててヒマなんでしょ?違います?」

柴崎「仰る意味が分かりかねますが」

レッサー「だって『助けに行かない』なんて一言も言ってませんもんねぇ、そちらさんは」

レッサー「『共闘は出来ない』と拒んでいるだけであって」

レッサー「ここまで間が開いてしまえば『アレ』からは充分に逃げ切れる。だから後は上条さんを拾いに行こう、そう考えてるんじゃありませんかね?」

柴崎「魅力的な推測ではありますが、どうやって?」

レッサー「――で、ある時ボートの貸し出しをしていると、青年が来ました」

柴崎「すいません。この子バッファが足りていませんよ?」

フロリス「仕様だから、うん」

柴崎「はぁ」

ランシス「仕様だけに……!」

レッサー「突っ込みませんよー?スベるのが丸わかりなトラップに手ぇ出す程、私はボケに飢えていませんからねっ!」

フロリス「ボートの話はどうなったん?」

レッサー「その男がボートへ乗り込んだ際、『あるぇ?おっかっしいにゃんにゃん?』と首を傾げました!」

フロリス「なにその面倒臭い語尾」

柴崎「……イギリスにもキャラ付けのために語尾変える、っていう概念があるんですか?」

ランシス「レッサーはフリークスだから……良い意味で」

レッサー「何とぉぉっ!青年が乗り込んだボート、一人しか乗っていないのにやったら沈む!これは二人分の体重がかかってるに違いない!」

フロリス「要は『一人しかボートに乗ってないのに、どして二人乗ったくらいに船が沈むん?』って話でしたー、ぱちぱちー」

柴崎「……ここまで風情の欠片も無い怪談、始めて聞きました。せめてもう少し順序立てた方が」

ランシス「ブリテンは結構幽霊話ある、けど」

フロリス「ケルトの妖精達とエッダ繋がりだよねぇ」

レッサー「――んで!レッサーちゃんからの疑問なんですけどー、このバン、一体『ナニ』を積んでいるのかなーっと?」

柴崎「特に何も?要人警護用の偽装装甲車であり、特に面白い物は積んでいませんが」

レッサー「だったらどうしてその『タイヤ』がやったら潰れてるんですか?」

レッサー「『装甲車仕様にして増えたにも関わらず、驚きの走行性能!』」

レッサー「カーゴ見た時にググってみたら、そうサイトには書いてありましたけどね」

レッサー「仮にも装甲車程度の対弾対爆対BC戦用装備を持つんだったら、最初っからタイヤも想定している筈ですよ」

レッサー「多分対人地雷を踏み抜いても破裂しないような頑丈なタイヤ。それが大きく凹むって、想定外の『プツ』を積み込んでるんじゃないですかねー?」

レッサー「それともARISAちゃんが、数トンもある超メタボってぇ話でも無い限りは、ですが」

柴崎「……」

レッサー「おっと『糸』はゴメンですからね?あぁ嫌だなーって意味じゃなく、通用しません」

レッサー「術式『いばら姫の糸紬き(デッドデッドスリーピングビューティ)』があれば、『糸』属性は無効化されるって意味で」

レッサー「何でしたら試してみます?どーぞどーぞご自由にお気軽に是非是非やってみてはどーでしょーかねー?」

レッサー「ただし即座に反撃した後、『ナニ』を強奪してさっさと引き返しますが」

柴崎「……『学園都市謹製』をそちら側の人間が扱えるとでも?自動車でもあるまいし」

レッサー「やってみなくちゃ分かりませんよ?それに脅して協力させるって手もありますからね」

フロリス「殺さない程度に殺してやるから、さっさと乗せてけっつってにゃんにゃん?」

ランキス「……『学園都市を裏切れない』んだったら、私達のせいにすれば、いい……!」

柴崎「……これはまた頭の良いお嬢さん方ですな。さて、どうしたものか……」

レッサー「はっきり言いますけど、私は、あなたを信じていません」

柴崎「……はい?」

レッサー「どうせあなたもそうでしょう?私達が『濁音協会』の一員ではないか、そしてARISAを狙ってるんじゃないか。そう考えていますよね?」

レッサー「目の前の超絶ぷりちーなロリ巨乳は自分を引き離そうしているのでは、と」

柴崎「不要な形容詞以外は概ね会っていますね」

柴崎「……ま、ぶっちゃけてしまえば、今までの一連の事件はこの状況へ追い込むための伏線かも知れない、とも考えています」

柴崎「あなた方が『主犯』でない証拠がどこにもない」

ランシス「……それ、『悪魔の証明』」

フロリス「やっぱコイツムカつくな。ぶっ飛ばして行こうよ、レッサー」

レッサー「――が、しかしです」

レッサー「『あなたは信頼に足る人物である』とも、私は考えます」

柴崎「それは、どういう」

レッサー「くっだらねー理由ですよ――『上条さんが信用してるんだったら、信頼に値すんじゃね?』ってだけの」

レッサー「面と向かって言うのは失礼でしょうが、あなたを信用するのではなく、信頼する人が信じてるってだけの理由で」

レッサー「ただそれだけのお話です、えぇ」

柴崎「……」

レッサー「聞いていたんでしょ?上条さんに渡した通信機か何かから」

レッサー「『女の子一人助けるために、ごちゃごちゃ理屈こねてる方か間違ってんだ』って言葉」

柴崎「それは……」

レッサー「さっきも言いましたが、もしも学園都市側からのペナルティが怖いのであれば、適度に半殺しにした後」

レッサー「私達が『脅迫した』という形で従ってくれても構いません。てかこのまま同意を得られなければ、そっちへ移行するんですが」

柴崎「……」

レッサー「あなたは、どうです?どうしたいんですか?どうするんですか?」

レッサー「私達は何かを成し遂げるために魔術を得ました。対して」

レッサー「あなたは、どうです?」

レッサー「あなたが今手にしている『力』、それは一体何のために得たモノですかね……?」

――切り離された列車にて

 ズバチイッ!とルーンを伴った雷撃が車内を一掃する。巻き込まれた『子ショゴス』が瞬時に灰燼へと姿を変えた。
 ベイロープの『知の角杯(ギャッラルホルン)』。遠距離砲撃用の霊装。

 絶大な威力と長い効果時間、的確な砲撃能力――本来であるならば距離を取って迫撃砲のような使い方をするのが最適である――そうベイロープは教わっていた。
 仲間を前衛(アタック)へ配置した上、自身は距離を取って高火力の霊装の制御に徹する。それが『新たなる光』が得意とする攻撃パターンの一つ。

 いつぞや天草式の少女へやってのけたように、近距離戦、しかもタイマンで使える――が、アレでは本来の威力には程遠い。
 威力も精度も効果時間も、接敵したままで十二分に振える程、『知の角杯』は安くはない。

「ベイロープ後ろ!」

「分かってるのだわ……ッ!」

 『槍』を薙いで距離を稼いだ後に雷を叩き込む。酷く嫌な匂い――肉の焼ける悪臭と引き替えに粘液は蒸発する。

 人が力を込めて攻撃するとしよう。それは誰かを殴る時でも、または大口径の銃を撃つ時でもいい。
 当然殴る側も発砲する側も、『自身にかかる負担』が存在する。
 殴りつける際に全力で踏み込んだり、射線がぶれないように脇を締めたり。
 カメラでシャッターを切るのと同じく、写真がぶれないよう『体を硬くする』のと似ているだろうか?

 同様に『知の角杯』も攻撃時にはそれ相応の『溜め』と『硬直』がある。
 仲間のフォローがあれば無視出来るような弱点が、ここへ来て少しずつ負担となっていた。

 四方八方、文字通りに『湧いて出る』規格外の敵には相性が悪い。威力を数段階落とした上で行使しなければ、とてもじゃないが使えるものではなかった。

 だがベイロープの体に傷一つついていない。それは上手く立ち回ったから――では、無い。決して。
 『戦士』である所を称する少女は誰かに傷を負わせる事も、また自身が負う事も躊躇いはしない。
 上条へ語って聞かせたように、生死すらも『戦いの結果』であると俯瞰している。
 力が足りなければ死ぬだけ、でなければ生きる。シンプルな理由ではある。

 だから年相応の――戦いの中へ身を置くものとしてはあるまじき事だが――感傷とも言える、傷つくのを躊躇う気持ちは持ち合わせていない。
 負傷すれば動きが悪くなるため、率先して当たるつもりもないが、必要であれば死地へ赴く。

 それは彼女がまだ未熟ながらも『戦士』としても素養を持ち合わせている証拠――だが。
 『戦士』が必ずしも孤独であるとは限らない。

 目の前でベイロープの行動をフォローする上条当麻も、その一人ではある。

 上条にとってすればベイロープの動きは『分かりやすい』の一点だ。
 敵が居れば蹂躙し、殲滅する。近くに居るモノが片付けば遠くのモノへ、と。

 自分の体を顧みない蛮勇を、女の子なんだからもう少しあるんじゃねぇのか――そう何かを棚に上げて感想を抱いていたりするが。

 救われているのは敵の単調さにもある。ここへ来てすら『アレ』は攻撃方法を変えていない。
 近寄り、這い寄り、のしかかって消化をする。それだけ。

 しかし相手が粘液の塊である以上、一度接触してしまうとまともな方法では引き剥がせない。触れた所から急速に『消化』されていく。
 同時に少しでもこちらの動きが遅くなれば、『アレ』が殺到し、押し潰す。
 人程の塊の液体が次々と押し寄せて押し潰す。当然体積にあっただけの質量を伴って。

 『幻想殺し』が無ければ――個々の『アレ』が崩れた後にも飛び散る体液を消す力が無ければ、疾うに力尽きていただろう。

 ――にも関わらず、上条の体には大小様々な裂傷を負っていた。腐食による火傷や酸の熱傷とは違う。何かに切られ、刺された痕が。

 何故ならば『アレ』は『牙』を生やしていたからだ。
 いや『牙』と呼ぶべきか、『骨』なのだろうか?

 黒い粘液の塊からデタラメに尖った何かが生えている。10cm程の杭のような棒、1m程の錐にも見える『牙』、と大きさはまちまちだ。
 その色は本体と同じ漆黒。哀れな犠牲者の物を『流用』していない所だけは、まだ安心出来るかも知れない。

 繰り返すが『アレ』の攻撃方法自体は変わっていない。体当たり、押し潰し、消化する。単調なのは変わりが無い。
 だが『体のあちこちへ牙を生やした状態』で同じ事をされれば――犠牲者は串刺しのままで消化されるだろう。

 尤も、ジワジワ溶かされるよりはマシかも知れないが。

「こいつら――『学習』してやがんのかっ!?」

 どこから調達したのか知らないが、彼らの『牙』は異能殺しでは消えなかった。
 『アレ』を消した後にも残り地面へ落ちる。これが何を表わしているか。

『テケリ・リ!』

「……あぁクソ!キリがねぇな……!」

 勢いそのままに突進して来る相手を『右手」でいなす。最初、『牙』の生やした相手を見てもあまり不安視はしていなかった。
 しかしそれが間違いだと知ったのは、『アレ』を打ち消した後も、そのままの勢いで『牙』が上条の体に刺さった時だ。

 幸い『牙』の向きも鋭さもバラバラ、致命傷には程遠いが――脅威には違いなかった。

 誰かの持論にもあった通り、人間はある意味全身が急所である。血が流れれば体力を失い、痛みがあれば集中を欠かす。
 何よりも『死』を実感する事によって心が折れる。
 それは本能に刻まれた生き残るための術なのだが、この局面では――『戦わないと、死ぬ』状況下では不要なものだ。

「――ってんじゃねぇよ!」

 パキィィンッ!ベイロープを優先して守っているため、上条の体にはまた新しい傷が刻まれる。
 度重なる強敵の戦いを経て、また死線をかいくぐってきたお陰で心が折れないとしても、肉体に蓄積させていくダメージまでは誤魔化されない。

 対して『アレ』の方は終りを見せず、また『牙』を得てから心持ち動作が速くなった気もする。

(……そろそろ限界かしら)

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ズゥンンンッ!!!車内に木霊する残響を残し、雷電が『アレ』を焼き払う!

「来い上条!」

 片側だけの敵を一掃出来たのを確認すると、ベイロープは『槍』を床へ突き刺――そうとする前に、『槍』の鉤爪がカパと開いて地面へ刺さった。

「え、何?来いってどこ――うぉおぉっ!?」

「戦略的撤退って奴だ!喋るな!舌噛むわよ!」

「お、おいやめろ!?それはどう考えてもフラ――ンググッ!?」

 そのまま『槍』の柄へ腰を落とし、上条を引っ掴んで逃げる――『槍』は『鉤爪』をワシャワシャと生き物のように動かして移動し始めた。

『テケ――』

「邪魔なのだわ!」

 懲りずに湧く『アレ』を蹴散らしながら、二人は列車後方へ逃走――戦略的撤退を試みる。
 彼らはまだ――生きている。

――ユーロスターS 8両目

□□□-□※□□□

※ 現在位置

ベイロープ「生きてる?おーい、もしもーし?」

上条「……うんまぁ、まだ大丈夫。まだ」

ベイロープ「取り敢えず服を脱げよジャパニーズ」

上条「俺達まだ会ったばっかりだし、そういうのはもっと段階を踏んでからの方がいいと思うんだ」

ベイロープ「違うっつーのよ。冗談言う元気があんのは分かったから、脇腹見せやがれ」

ベイロープ「……っ!酷いわね、今すぐ治癒術式を――」

上条「悪い。体質上効かないんだって」

ベイロープ「……そう、じゃ、待ってて」 ビリビリッ

上条(近くに落ちていた衣服を適当に破り、傷口の応急手当をしてくれる)

上条「……うん?落ちてた?」

ベイロープ「消化出来なかった、が正解でしょうけどね。使えるんだから文句言わない」

ベイロープ「悪いと思うんだったら、『アレ』をぶっ飛ばして敵討ちしてやりゃいいわ」

上条「……誰かの肩身なんだからな、これ」

ベイロープ「じゃ、生き残れたら家族に頭でも下げれば良いわ。つーか」

ベイロープ「私がスカート破った方が良かったの?どんだけだよ」

上条「うん、聞くけど君らは一体俺をどんな目で見てるの?つーかレッサーさんの台詞を鵜呑みにしちゃダメだと思うよ」

ベイロープ「『釣った魚に餌をやらないクソヤロー』?」

上条「あれ?おかしいなぁ、傷口とは別に胸の奥がシクシク痛むんだけど……」

ベイロープ「自覚があるのは良い事だわ。つーかレッサー泣かせたら三枚に下ろすからな?」

上条「100%打算で近づいてくる相手だぜ!?そこまで面倒看きれ――つっ!?」

ベイロープ「止血中に興奮しない。致命傷じゃ無いとはいえ、処置が必要なんだからね」

上条「……まぁケガすんのは慣れちまってるけどさ」

ベイロープ「んー……?ま、こんなもんで良いか」

上条「……雑」

ベイロープ「うっさい。いつもは魔術だから応急処置は慣れてないんだっつーのよ」

上条「ま、まぁありがとう。助かった――けど」

ベイロープ「あの『牙』ね」

上条「常識的――って言葉はどうかと思うけど――に考えれば、進化してるって事かよ」

ベイロープ「学習してるのは間違いないわ。てかさ、あなたの異能は『異能キャンセル』よね?」

上条「連中の『牙』は対象外……どういう事だ……?」

ベイロープ「多分、そこら辺が『アレ』の本質的な所だと思うわね。出来れば死ぬ前に知りたい」

上条「……シェリーって知ってる?」

ベイロープ「シェリー=クロムウェル、『必要悪の教会』の非戦闘員でカバラ系霊装のエキスパート、よね」

上条「シェリーが有名なのか?それとも『新たなる光』の情報網が凄い?」

ベイロープ「前者ね。『ハロウィン』の時、敵に回るかも知れないって、ある程度王女殿下から教わってたから」

上条「その人のゴーレムと戦った時、『幻想殺し』でゴーレム”は”倒せたんだよ」

ベイロープ「ふぅん?」

上条「ただ、そのゴーレムの体は大量の土と砂でさ。押し潰されそうになってヤバかった、っつーか」

ベイロープ「『魔術』も打ち消されれば元の材料へ戻る?」

上条「例えば、魔術でボールを操ったとしてだ」

上条「俺がボールを触れば魔術の干渉を打ち消し、タダのボールに戻る。それが基本的なルールだ」

ベイロープ「じゃ、そのボールが時速150kmで右手へ投げつけられれば――」

上条「触った瞬間に魔術は解ける。けど時速150kmのままボールは止まらない」

上条「……と、思う」

ベイロープ「自信ねぇのかよ」

上条「しようがないじゃん!?俺だって謎能力なんだから!」

上条「精神攻撃無効かと思えば残念な子のは角度で喰らったりすんだからねっ!」

ベイロープ「あー……体調、とかもあるんじゃないの?」

ベイロープ「能力者は知らないけど、生理で使えなくなる子とか居るわよ」

上条「体育のマラソンじゃねぇんだからな!」

ベイロープ「いやマジマジ、マジ話なのよ。昔っから月の満ち欠けと魔術ってのはリンクしてるから」

ベイロープ「特に魔女系統――ウィッカは特定の月しか出来ない儀式魔術とかザラにあるわ」

上条「……あー……そういや、能力者も体調悪いと威力が上下したような……?」

ベイロープ「聞くなよ?知り合いだからっつって、女の子に確認しちゃダメだからな?」

上条「どんだけ常識無いと思われてんだよ……」

ベイロープ「ちなみに今さっきの高速移動も、『魔女の箒』を概念に取り入れたの」

ベイロープ「ウチらの北欧系とウィッカは相性良いからね。てかまぁ同じっつーか」

上条「言われても『ふーん?』ぐらいしか言えな――なぁ、ちょっといいか?」

ベイロープ「何か思い付いたの?」

上条「そうじゃなくて『アレ』――『ショゴス』か。そっちの方面から探れないのか?」

上条「神話に出てくる弱点がそのまま通るとか、何かに弱いとかあるだろ!」

ベイロープ「あー、無理よそれ。だって『アレ』、ショゴスじゃないし」

上条「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ちょっと待ってくれよ!?群体がどうこうって言ってたのは!」

ベイロープ「そっちの仮説は今でも有効。けど『アレ』は『クトゥルフ神話のショゴス』ではない。有り得ないのだわ」

上条「……創作だから?」

ベイロープ「違う。『ショゴスはあんなに知能が低くない』のよ。それが証拠」

上条「どういう事?」

ベイロープ「元々は『古のもの(エルダー・シンク)』って呼ばれる種族が、奴隷として造られたのが『ショゴス』なの」

ベイロープ「……ま、クトゥルー神話では地球の生き物全てが『古のもの』の創造物なんだけどさ」

上条「人間も?」

ベイロープ「そ、人間も動物も植物もって設定なのよ」

上条「あれが地球上の生物とは思えねぇんだが……まぁいいや。ホラー小説に突っ込んでも仕方が無い」

上条「それよりも『違う』のは、なんで?」

ベイロープ「思いっきりかいつまんで言うと、『ショゴス』は奴隷生物だったのに、ある時『脳』を造って知恵を得た」

ベイロープ「エデンじゃまず『恥ずかしい』だったけど、ショゴスは『古のもの』へ全面戦争を仕掛け、相打ちに終わった」

ベイロープ「ショゴスの殆どは地下深く、南極大陸に封印されたわ」

上条「……だから?」

ベイロープ「『古のもの』は高度な文明、他の生物を作り上げる程度のものは持っていたのよ。当然創造以外にも応用出来るでしょうし」

ベイロープ「そんな連中と『相打ち』したんだってなら、それ相応の高い頭脳を持ってる筈でしょーが」

上条「……あぁ」

ベイロープ「少なくともアメーバと同じ、『近づいたら食べる』だけだったら、『古のもの』は滅んでないでしょうね」

上条「そっか……確かにおかしいよな」

ベイロープ「もしも人並みの知能があれば、さっさと運転席――は、流石に分からないでも、牽引車襲って足止めするでしょうしね」

上条「……何かがおかしいのは分かる。でも何がおかしいのかは分からない、か」

上条「さっきも言ったけど動機が不明だよな。なんでわざわざフィクションの『ショゴス』に似せるのか、って話」

上条「レッサーは『まだ見つかってない魔術体系』とは言ってたけど……いや、逆か!」

上条「俺達が『ショゴス』だって勘違いしただけで、全然別の何かだったってオチはどうだろ?」

ベイロープ「外見はそっくりだけど、別物でしたーって事?絶対に違うわ」

上条「何でだよ。つーか断言出来る証拠は何?」

ベイロープ「『テケリ・リ』って鳴き声、あれは『ショゴス』しか有り得ないの」

ベイロープ「故意か必然は分からないけど、『濁音協会』は明らかにクトゥルー神話に影響を受けている」

上条「だったら俺達が誤解させるように、仕掛けた側が言わせてる、とか?」

上条「本質を隠すために擬態してる。そうすりゃ対抗策も練りにくい」

ベイロープ「それが妥当な線よね。他に選択肢がないって言うか」

ベイロープ「……けどね、だったらさっきの『牙』はどこから調達してきたの、って話に戻るわよね?」

ベイロープ「列車の中にあんだけの杭や錐、乗せてる訳がない」

上条「工業規格に合致するとも思えないしなぁ……うーん」

ベイロープ「頑張れー科学サイド、魔術側の見解出したんだから、次はそっちが働く番よ」

上条「無茶ブリだな!?つーかこっちはタダの学生なんですからねっ!」

上条「そうそう解決策が思い付くなんて……」

ベイロープ「お?」

上条「……ちょい待ち。今検索すっから」 ピッ

ベイロープ「スマフォが使える訳ないでしょうが」

上条「いや、これは柴崎さんのだから――あぁダメだ。中継器から離れすぎてて、向こうと連絡は取れないっぽい」

上条「だったら他に……あった!」 ピッ

ベイロープ「どら」 スッ

上条「あのぅ、ベイロープさん?そのですね、腕にあたってるっつーか、そのはい」

上条「思春期の男子高校生にまぶしすぎるアレが、圧倒的ボリュームのワガママな質量がキライじゃない!」

ベイロープ「意識してんじゃねぇーよ。つーか戦う方が先」

上条「……」

ベイロープ「……なんで前屈み?」

上条「よーしっ!見つけたぞ!オフラインでも使えるユーロスターSの仕様書があって助かったなぁっ!」

ベイロープ「だから、どうして前屈み?あと不自然なんだけど……?」

上条「この車体はカーボンファイバー――航空機とかにも使われてる、強くて軽い素材が材料になってんだよ!」

ベイロープ「てか仕様書の日本語訳なんて、普通データとして入れとくかって話よね」

上条「俺に見せるため、かな……?」

ベイロープ「てかこれ、強度の弱い所とかにマーカー付いてるわ。テロでも起こす予定だったとか?」

上条「あってたまるか。ここでテロ起こしたって学園都市は何も得しねーぞ!」

ベイロープ「あー、はいはい。分かったからカーボンがどうしたかって?」

上条「だーかーらっ!あいつの『牙』って車体に使われてるカーボン――炭素を取り込んで作ったんじゃねぇのか!?」

ベイロープ「はぁ!?」

上条「さっきからおかしいとは思ってたんだよ。車体がギシギシ軋んだり、『アレ』が天井から床から出てくるだろ?」

上条「よく考えてみ?確かにあいつらゲル状のドロドロだけどさ」

上条「だからって完全防水の、えっと――」 ピッ

上条「重層ステンレス?だかを染み出てくるのは無理だ」

ベイロープ「……つまり最初から強酸だか消化液で車体の外側を溶かしてて」

上条「今は『牙』として取り込んだ、みたいな形になるんだろうな」

ベイロープ「ここまで来ると術式か霊装ってより、まるで生き物みたいだわ」

ベイロープ「あの子のビリビリにも最初から無反応だし、一体どんな手で造ったんだか」

上条「ビリビリ?御坂か?」

ベイロープ「ウチの、ホラ、カチューシャつけた子居るわよね?」

ベイロープ「ランシスは魔力に対して敏感で、少しでも周囲で使われるとビリビリするんだって」

上条「ふーん?」

ベイロープ「つっても本職の感知系には数段劣るから、無いよりはマシ程度なんだけどね」

ベイロープ「つかそもそも初めっから感知出来てさえ居りゃ、アレコレ対策も出来たんだっつーのよ」

上条「……」

ベイロープ「『必要悪の教会』も詰めが甘いし、まぁだからこそ――て、どうしたの?」

上条「あの、さ。例えばの話なんだが」

ベイロープ「うん?」

上条「俺の右手、『幻想殺し』で打ち消せるのって、魔術だったら魔術で創った炎とか氷、また操られてるのも打ち消せる訳だよな」

ベイロープ「何よ今更」

上条「いいから付き合ってくれ!何かスゲェ事思い付きそうなんだよ!」

ベイロープ「んー……?まだ時間はあるみたいだし、付き合うけど」

上条「で、まぁ『素材が元からあった場合』、シェリーのゴーレムとかなら土に還るだけで消したりは出来ないんだわ」

上条「そう考えると『アレ』の『牙』――」

ベイロープ「車体に使われていたカーボンだわ」

上条「――も、『アレ』が多分加工したか作り替えたかした」

上条「例えば――あー、そのさ、イスとか冷蔵庫に加工された……えっと、犬とか居たとしようぜ」

ベイロープ「なんだその猟奇的な例えは。ホラー映画見過ぎよ」

上条「まぁ、似たようなケースが実際にあったと思ってくれ……んで、俺は『右手』で元へ戻すの手伝ったんだ」

上条「ま、結論から言えば元へ戻れたんだよ。でもこれおかしくないか?」

ベイロープ「何でよ、つーか何を言いたいのか分からないわ」

上条「だって『家具に作り替えられた時点で、術式は終了している』訳だからな。それをキャンセルさせるのって、出来ないよな?」

ベイロープ「でも、出来たんでしょ?だったら良かったじゃない」

上条「あぁ出来た。それはまぁ良いんだよ」

上条「知り合いの魔神未満が『右手』について教えてくれた。奴が言うのには『自然な状態へ戻す効果』があるんだってさ」

ベイロープ「……ツッコミ所は別にあるけど我慢するわ。それで?」

上条「だから『魔術で組み替えられたサンドリヨンも元へ戻った』んだ。自然な形に」

ベイロープ「あー……最近活躍聞かねぇなぁって思ったら、そんな罰ゲームやっちゃってたかー……」

上条「まぁ聞けって!俺が聞きたいのは、『じゃ俺が触ったらカーボンも元へ戻るんじゃないか?』って話だよ!」

ベイロープ「魔術によって加工されたんだから、元へ戻ってもおかしくはない……」

ベイロープ「いやでもその理屈で言ったらシェリー=クロムウェルのゴーレムはどうなのよ?」

ベイロープ「もし元へ戻るのがデフォだったら、コンクリまで逆再生されなきゃおかしいでしょうが」

上条「そこら辺の区別は分からないよ。ただコンクリが『自然』かって言われると、そうじゃない気がする」

ベイロープ「『生命の復元力』みたいなのも関係するかも……?一度どっかで調べて貰った方が良いと思うわよ、その『右手』は」

上条「暇があったらその内に――で、まぁ別のケースだよ」

上条「俺が魔術で造った、または霊装のなのか分かんねぇけど――自動人形をぶん殴ったら、一部が壊れた」

ベイロープ「多分複合式の術式だわ。部位ごとに別々の魔術が働いているタイプの」

上条「それとは別の日、学園都市製のアンドロイドに触ったんだが」

上条「これまた、全っ然効かねぇでやんの。もう少しで沸騰して死ぬとこだった」

ベイロープ「科学サイドに『右手』は効かないの?」

上条「『異能』には効く。けど、アンドロイドとか最新式のメカは微妙だ」

ベイロープ「興味深くはあるわ。でも」

上条「……それでさ、俺が言いたいのはだ」

上条「『幻想殺し』って『異能で造られたモノ』に対しては効果が薄いみたいなんだよ」

ベイロープ「ふーん?それとこの件は関係な――」

上条「うんまぁ前置きが長かったのは悪いが、結論は、だ」

上条「そう考えるとランシスのビリビリが働かなかったり、『牙』に効果が無かったって説明が付くんだよ」

ベイロープ「つまり?」

上条「『アレ』は、結局魔術サイドで造られたバケモンじゃなく――」

上条「――科学サイドの『能力者』なんじゃねぇの?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
……しかし人気無いですね、このスレ

乙です!

毎週楽しく見させてもらってます!

>>308-311
ありがとうございます
雑談っていうか、禁書スレを中心に変な雰囲気ですよね

――ユーロスターS 8両目

□□□-□※□□□

※ 現在位置

ベイロープ「話が唐突――でも、ないわね」

上条「思えば『生物としての形質』が強く出てる時点で疑うべきだったんだ、俺達は」

ベイロープ「生物として……?」

上条「まず、『アレ』の初見での判断はどうだった?」

ベイロープ「魔法生物に決まってるわ。あんな『自然』があってたまるかっての」

上条「だよな、『アレ』は普通じゃない。普通じゃないからそう思って当然」

上条「『濁音協会って魔術結社』なんだから『魔術を使って当然』だって思い込む訳だ」

ベイロープ「あの時点で私らにその情報は入ってなかったけどね……で?」

ベイロープ「一体何がしたいの?狙いは?目的は?」

上条「『アレ』を魔術だと思い込ませてる目的は……対抗手段、じゃないかな?』

上条「もしも物理的な手段――て、言うかどうか分からないけど、『アレ』を倒すんだったら炎、だよな?」

上条「火炎放射器なんて無いにしても、軍を動員させてナパーム?とか延焼系の兵器を使えば一掃出来る」

上条「俺みたいな民間人でも、最悪ガソリン撒いて火をつける、とかで対抗出来そうな相手だ」

上条「……それが、『トンネルの中』や『大量の乗客』を抱えていなければ」

ベイロープ「そう、よね。外に出さえすれば、普通の軍隊でどうにかなりそうな相手よ」

上条「でもユーロスターの中じゃそうはいかない。最新式の消火設備で下手な火は直ぐに消される」

上条「外部からの応援を引き込むのも出来ないし、派手に動けば乗客まで巻き込む恐れがある」

上条「そして『普通はそんな状況下で炎なんて持っていない』だろ?」

ベイロープ「必要ないしね。実際にそちら側のボディガードさんは盾代わりにもならなかったのだわ」

上条「んで、考えて欲しい。逆に言えば”『アレ』にとっての天敵は魔術師だ”、とも言えるんじゃないか?」

上条「重たい装備も何も無し、術式か霊装一つあれば無尽蔵に炎を扱えるアンタ達を」

ベイロープ「そりゃどーも。制約はクソ程あるんだけどねー」

上条「でも戦ってみて分かったと思うけど、『アレ』は異常な再生力、密閉空間でゴリゴリの物量で力押し」

上条「仮に魔術師が居合わせた幸運があったとしても、きっとそいつはこう思うだろう」

上条「『チマチマ炎で炙ってても埒があかない。ならば相手の正体を見極めて、対抗出来る術式か霊装で一掃したい』――」

上条「そう、思うよな?」

ベイロープ「……成程、そこで出て来たのが『クトゥルー』かよ……ッ!」

上条「『クトゥルーなんてある筈がない!だからきっとこれは別の魔術のカモフラージュ”だろう”!』ってミスリードさせるための」

上条「魔術師は答えの出ない問題にハマっちまって、対処が甘くなる、と」

ベイロープ「……巫山戯た真似しやがって!これだから『学園都市』は!」

上条「あの、俺も学園都市なんですけど……?」

ベイロープ「てか『アレ』が能力者なの?学園都市、未来に生き過ぎるにも程があるでしょーが」

上条「可能性は高い、と思う――けど能力者『そのまま』ってのは考えにくい」

ベイロープ「どういう意味?」

上条「『アレ』が生物的な反応、単調な行動パターンを繰り返しているだけ、てのは非効率だ」

上条「人並みの知恵があるんだったら、もう少し効率的な行動するだろ?」

ベイロープ「つーこたアレ?天井裏にへばりついてる粘液ドロドロが能力者だってか?」

上条「もしくは『能力で造られた何か』かも……?」

ベイロープ「了解了解。で?」

上条「はい?」

ベイロープ「だから対策だよ、P・ro・vi・sion!」

ベイロープ「能力者相手にドンパチやった経験なんざ初めでだから、どうすりゃいいって話なのよ」

上条「えっと……そうそう!」

上条「――俺がその『幻想』をぶち殺す!」

ベイロープ「……長々と役に立たない現状分析どーも」

ベイロープ「本当に能力者だとして、『牙』の次に来る『進化』がどんだけだと思ってんの」

上条「待ってくれよ!?相手の正体が分かれば弱点とか傾向とか分かるんじゃん!?」

ベイロープ「……あのねぇ、今あなたが言った事を総合するとよ?」

ベイロープ「『学園都市”勢力”がEUでテロ起こしてる』って事になるの、分からない?」

上条「……あ」

ベイロープ「分かる?オッケー?」

ベイロープ「イカれた超科学で状況証拠はバッチリだわ、おめでとーパチパチパチ」

上条「待て待て!そういう意味で言った訳じゃねぇよ!学園都市の能力者かも知れないが、無関係だって!」

ベイロープ「言い切れる?」

上条「矛盾してんだろ!アリサのEUツアーは学園都市側から持ちかけたって聞いたぞ!」

ベイロープ「……ま、そうよね。一応の当事者同士が和解して仲直り――は、絶対してないけど、表面上だけでも繕いましょうつってんだわ」

上条「表面上言うな。オルソラぐらいしか信じてないだろうけどもだ!」

ベイロープ「その最中に『魔術だと”思われる”異能』が、ARISAに危害を加えようとしたらどうなると思う?」

上条「相手にもよる、んじゃないのか?十字教じゃなかったら、まぁ面子を潰されたってだけで大勢には影響しねぇだろ」

ベイロープ「ま、そりゃそうよね。魔術師なんて自分が魔術師だと気づいて無いのもハブいたって、相当数居るんだから」

上条「……魔術って知らないのに使ってんの?」

ベイロープ「『奇蹟』、『仙術』――突き詰めればヴィジャ盤だって降霊術よ。民間で『たまたま』残ってる場合も結構あるし」

上条「生活密着型かー」

ベイロープ「シントウで一年を初めて、ボンとヒガンにはブッティストになって、クリスマスに十字教のフリをするアンタらに言われたくねぇな」

上条「よくそれ海外掲示板でもネタにされっけどさ、お前らもハロウィンやイースターで結構はっちゃける気がするんだよなー?」

ベイロープ「まぁ旧い神様が精霊や妖精に墜とされるのはよくある話なのだわ」

上条「別に十字教は一枚岩じゃないだろうし、ましてやそこら辺の奴らが暴走したって、問題にはなんないだろ」

上条「最悪、関係者だったとしても『ハグレもんですからー』で誤魔化……いやいや。俺も何か毒されてんな……」

ベイロープ「ま、結構よ。魔術サイドだったらそれで通る話よね」

ベイロープ「だったらその妨害が『魔術に似せたトンデモ科学』だった場合は、どう?」

上条「学園都市の自作自演を……か!?」

ベイロープ「主流派じゃないとしたって反対派……後はグレムリンとか、反学園都市の勢力かも知れない」

ベイロープ「絶対的な情報量が少ない上、私もあなたも解析系は得意じゃないし、裏情報や背景も知らない」

ベイロープ「シェリー=クロムウェルみたいなプロ達が、時間を掛けて調査すれば『こちら側』じゃないって分かるでしょうね?」

上条「……一度疑われたら」

ベイロープ「現在、『まぁ暫くは様子見でいいんじゃね?』的な意見が占めていたのが、取って代わるわ、きっとね」

ベイロープ「んで、一度始まったら事実がどうだって事は関係ない」

上条「戦争が終わったばかりだってのにか!?」

ベイロープ「『戦争は外交の一形態に過ぎない』」

ベイロープ「私らの先生が言った言葉だけど、真実だと思うわ」

上条「……っ!」

ベイロープ「どこの国だってそう。戦争は国家間の問題解決のために、する」

ベイロープ「善悪や人権が入り込む余地はない、のよ。悲劇かしら?喜劇かしら?」

上条「止める方法は、ないのかよっ……!?」

ベイロープ「落ち着け上条当麻。まず深呼吸しやがれ」

上条「……」

ベイロープ「いいからやれ、ほらハリーハリーっ!」

上条 スーハー

ベイロープ「……良し、いいか?落ち着いて聞け?」

上条「……あぁ」

ベイロープ「私の出身はスコットランド、グレート・ブリテン島北部の、まぁ高地が多い所だ」

上条「……何?」

ベイロープ「ハイランド(高地地方)とも呼ばれ、ほら聞いた事無い?ハイランダーって?」

上条「ある、けど。今その話が」

ベイロープ「ノーザンバーランドつってイングランド領よ、『今は』ね」

上条「聞けよ!」

ベイロープ「歴史的には、荒い。地政学としちゃイングランドやローマ帝国とずっとやり合ってきた訳よ」

ベイロープ「攻めたり攻められたりで、ついたあだ名が『Highlander(高地連隊兵)』」

ベイロープ「『スコットランド人の戦士は死を恐れない』――なんて、まぁ大層な評価貰っちまってるけど」

ベイロープ「――それは、違う」

ベイロープ「死ぬとか生きるとか、それは結果であって目的じゃあ、ない」

ベイロープ「目の前に敵が居たら、全部ぶん殴ってきたのが『私達』なのだわ」

ベイロープ「……わかる?」

上条「何となく、は」

ベイロープ「死は確かに怖いし、恐れもする。けれど」

ベイロープ「『それ』を理由に信念を折るのが、死ぬよりももっと怖い。それだけよ」

上条(……あれ?前にも聞いたような……?)

上条(ここじゃないどこかで、彼女じゃない誰かに――)

ベイロープ「でもって上条当麻。あなたは戦争を防ぐために『伝え』なきゃいけないわ」

ベイロープ「『学園都市』のあなたがここで見て聞いた事を伝えれば……ま、自作自演だとは言われないでしょう」

ベイロープ「……向こうが最初っから開戦目的じゃ無い限りは、ね」

上条「あんた、何をしようって」

ベイロープ「天草式十字凄教のガキにも言ったけど、私の『知の角杯』は『トールとは違う雷』の霊装よ」

ベイロープ「……なんかまぁ『あんだけ引っ張ったのにショボっ!?全能神関係ないなっ!』みたいな感もするけどね!それとは別に!」

上条「落ち着け!本気で何の話だ!?」

ベイロープ「ギャッラルホルン――『角笛』という単語には『傾聴』という意味があったの」

上条「傾聴……注意して聞くって事か?」

ベイロープ「所有者であるヘイムダルの傾聴、来たるべき神々の黄昏で担うべき彼の役割にも関わらず」

ベイロープ「しかしこの角笛は『オーディンの片眼と共に泉の底に沈んでいる』とされてるわ。つまり!」

ベイロープ「ヘイムダルが差し出したのは『自らの聴力』」

ベイロープ「オーディンは『知の泉』へ片眼をくれてやる事でルーンを識った!ならばヘイムダルは何を手に入れたの?」

ベイロープ「答えは簡単、世界を破滅へ導く先触れを伝える角笛。それは高らかに響き渡り!鳥の嘶きや鬨の声よりも早く!大きくなければ意味が無い!」

ベイロープ「――そう、ヘイムダルの角笛は『稲妻』だったのよ!」

ベイロープ「一度かき鳴らさせば三千世界に響き渡り、鴉を殺す暇も無い」

ベイロープ「最大出力でぶっ放せば存在全てを雷へ昇華して滅びの道を撒き散らす」

上条「……おい、それってまさか!?自爆するとかじゃねぇのかよ!」

上条「ダメだからな!幾ら『最善』つったって、俺はそんなの認めない!」

ベイロープ「……それ以外、私の持っている『火力』で滅ぼしきれる自信は無いのよ」

ベイロープ「あなたを死なせる訳にも行かなくなった」

上条「他に!もっと別の方法はないのかよっ!?

ベイロープ「……」

上条「……ベイロープ?」

ベイロープ「――あぁもうウルセェっ!さっきからアレもダメコレもダメって!」

ベイロープ「自爆もダメ!逃げるのもダメ!だったらどうしろっつーのよ!?」

ベイロープ「無能なコメンテーターどもじゃあるまいし!否定否定否定否定で打つ手がないのよ!分かる!?」

上条「……はぁ?」

ベイロープ「はぁ、じゃねぇのだわ……ッ!具・体・的・にっ!」

上条「――信じろ」

ベイロープ「……何?ギャグ?ジャパンで流行ってんの?」

ベイロープ「信じるのも何も、まだこの状況で助けが来るって思ってんの?」

上条「来るよ、そりゃ。何言ってんだ?」

ベイロープ「いやいやいやいやっ!何言ってんだ、はあなたの方でしょーが!」

上条「いやだからさ、確かにあの時、誰かが残って『アレ』を引きつけるのは当然の判断だと思う。だろ?」

ベイロープ「え、えぇそうよ!決まってんでしょうが」

上条「でもよく考えてみ?レッサー達が『アレ』放っておく訳ないじゃん?」

ベイロープ「まぁ、そう、よね?あのおバカの性格上、やるなっつったら余計やるわね」

上条「要は『アレを倒す算段がまとまったら、速攻引き返してくる』よな?」

ベイロープ「うん?」

上条「だから俺達はレッサー達が来るまで持ち堪えりゃいい。そんだけの話だよ」

上条「おけ?」

ベイロープ「……Dig your grave……」

上条「いやぁ誉めるなよ?」

ベイロープ「誉めてないのだわっ!つーか絶句してんだわバカ野郎!」

ベイロープ「あの子達も結構アレだと思っていたけど!何!?私はあの手のアレな連中に突っ込むために生まれてきたのか!?」

ベイロープ「命は平等だー、とか聞くけど!命をすり減らして突っ込んでるのは人生に何回もしないじゃない!」

上条「あー……お疲れ様です」

ベイロープ「ポジティブにも……あぁはい、レッサーと同じ人種か……」

上条「あるぇ?俺とレッサーさんがバカにされた気がしますよね?」

ベイロープ「……まぁ確かに?あなたの言い分も理解出来るし、私が自爆して『殺しきれる』かどうかも怪しい」

ベイロープ「だったらここで歯ぁ食いしばった方が良策、か……?」

上条「雷の出力が足りないとか?」

ベイロープ「『子ショゴス』に効くのは散々実験済み。けど『親ショゴス』を殺しきれるかは未知数」

ベイロープ「てか殺虫剤みたいなモン?一気に殲滅しないと、生き残った奴らが増殖しかねない」

上条「その電気って他からの供給は出来ないの?別に命削らなくたってさ」

上条「例えば――架線から取り込んだり?」

ベイロープ「……あのさぁ、普通そう言うのって事前の準備が必要なの。分かる?」

ベイロープ「水使いだったら水辺での戦闘が得意だし、逆に砂漠には近寄らないのと一緒」

上条「そりゃつまり応用出来るって事だよな!だったら――」

ベイロープ「一体どこの世界で『雷を供給出来るシチュ』ってのがあんのよ?言ってみ?」

上条「ないですよねー、ある訳ないですもんねー」

ベイロープ「やって出来ないまでは言わないけど、やった事がないからどうなるかは分からないわ」

ベイロープ「……んー……?」

上条「いやでも自爆とかノーサンキューだけど、ダメ元で架線から補充すりゃ足りるんじゃねえの?」

上条「アリサ達の乗ってる車両だって大分開いてる筈だし、最悪停まっちまってもいいだろうし」

ベイロープ「あー……うん、いや、まぁ、今のは無かった事にね?うん」

上条「急に歯切れが悪くなったなHighlander?どうした?何があった?」

ベイロープ「巻き舌は止めろ。つーかハイランダー言うな。ジャパニーズに『SAMURAI』つってんのと要は同じだから」

上条「んで、どったん?――もしかしていい手があるのかっ!?」

ベイロープ「いや、その、ない訳じゃ無いっていうかな。無いようなあるような、みたいな感じよ?うん」

ベイロープ「要は経験の無さと扱えるだけの魔力が乏しいって、だけだから。ある程度魔力を嵩上げすりゃ、力業でねじ伏せる、みたいな?」

上条「例えると?」

ベイロープ「野球のルールを知らなくてもホームランは打てる」

上条「ナメんな!中には草野球に人生賭けてる奴だって居るんだからなっ!」

ベイロープ「……だから、この話は無かった事で。まぁあんまり気が進まないし、やったってムダよね」

上条「……」

ベイロープ「ヘイ、どーしたジャパニーズ?」

上条「……あのさ。俺、ずっと考えてたんだけども」

ベイロープ「うん?」

上条「正直、ベイロープ達はスゲェって思うんだよ」

ベイロープ「な、何よ突然」

上条「前の『ハロウィン』じゃ敵同士だったが、それでもお前らの行動力は驚いた。同世代の連中が国を変えようって、どんだけなんだって」

ベイロープ「そりゃどーも」

上条「今回、ベイロープ達に助けられた時も、俺達だけじゃ逆立ちしても適わなかった『アレ』をバッサリだったろ?」

上条「……なんつーか、ありがとう。俺達を助けてくれて、本当にありがとうな!」

ベイロープ「……止めてよ。私らはブリテンのためにやってるんであって――」

上条「……いや、それでもさ。人は誰かから助けられれば感謝もするし、お礼は言うべきだ」

上条「別に嫌味になるって訳じゃ無いんだから、貰っとけば良いと思うぜ?」

ベイロープ「そ、そっかな?」

上条「――で、そんな俺にとって恩人であるベイロープにお願いがあるんだ」

ベイロープ「……」

上条「『死んで欲しくない』って、そんなに難しい願いじゃねぇよな?」

ベイロープ「……言っただろ。私は『戦士』だって」

ベイロープ「生き方は変わらない――いや、変えられるかも知れないが、私は――」

上条「違う!そういう事じゃ無い!」

上条「ベイロープがその、『手段』を嫌がってるみたいだけどさ、それはそんなに酷いモノかよ!?」

上条「死を恐れない『戦士』が躊躇う程に!そんな魔術だって言うのか!?」

ベイロープ「あー……いやその、なんつーか」

上条「……こういう言い方は良くないけど、つーか全部俺のワガママかも知れないけどっ!」

上条「アンタには生きてて欲しいんだよ!俺を生かすって言ったけど、生き残る身にもなってくれよ!なあぁっ!?」

ベイロープ「……」

上条「俺一人が生き残ったってレッサーになんて謝ればいい!?どんな顔でアイツと話をしたらいいのかわかんねぇんだよ!」

上条「だから、だから――っ!」

ベイロープ「……分かったわ、分かったからそう怒鳴るな、あと泣くな」

上条「泣いてなんかねぇよ!これは、その夜空に穴を開けてたんだよ!」

ベイロープ「マスターかよ……あー、そのなんだ、分かったわ。あなたの言いたい事は」

ベイロープ「要は『あっさり死ぬより死力を尽くせ』でしょ?しかも自分のワガママのために」

上条「……ワガママかな?無茶を言ってるつもりは無ぇよ」

ベイロープ「……分かったわよ、使えばいいんでしょ、使えば」

ベイロープ「クソッタレ、あぁクソッタレ!何でよりにもよってブリテンですらねぇジャパニーズ相手に!」

上条「俺がどうしてって?」

ベイロープ「……こっちの話よ。全部実力が足りなかった私が悪い」

上条「いやあの、言っといてアレなんだが、すっごい副作用があるんだったら無理には……」

上条「つかカミカゼも辞さなかった人が躊躇う程の魔術って何?」

ベイロープ「……スコットランドにはロバートⅠ世という偉大な王が居た」

上条「……何?急に?」

ベイロープ「黙ってろ。今から魔術をかけんだから!」

上条「すいません……?」

ベイロープ「彼の指揮の下、ハイランダーは自国を取り戻したが、やがて戦いの中で死んだ。それはいい」

ベイロープ「だが彼らには果たすべき義務があった!戦うべき戦場には未だ同胞の姿があるからだ!」

ベイロープ「だからロバートⅠ世は遺言にこう書き残した――『神の敵との戦いへ我も連れて行かん!』と」

ベイロープ「彼の死語、その胸腔を切り開き、血に染まった心臓を取り出される」

ベイロープ「心臓は銀の箱に収められ、彼の戦友の手へ渡り、そして――」

ベイロープ「数々の戦場で!異教徒を葬る聖戦で!戦友は箱を掲げてこう叫んだ!」

ベイロープ「『勇者の心臓よりも前に!汝に続かなければ我らは死ぬであろう!』」

ベイロープ「敵陣のまっただ中、死してすら同朋と友を守ったロバートⅠ世!彼は即ち――」

ベイロープ「――『Braveheart(勇者の心臓)』と!」

上条(なんだ?ベイロープの胸の所に何か、銀色の塊が――)

上条(――定期的に脈打つ『それ』は人の拳の程の大きさの――)

上条「――心臓、か!?」

ベイロープ「Those days are past now(栄えたる国は過去となりしも)」

ベイロープ「And in the past they must remain(過去には確かに存在した我が国)」

ベイロープ「But we can still rise now(今だ再起の力を失わず)」

ベイロープ「And be the nation again!(今こそ国家の独立を果たすのだ!)」

ベイロープ「That stood against him, Proud Edward's army(エドワード軍への決死の抗い)」

ベイロープ「And sent him homeward, Tae think again. (暴君は退却し 侵略を断念せり)」

ベイロープ「Warrior can die by putting up ――(掲げて死ねよ戦士――)」

ベイロープ「――Braveheart!(ブレイブハートを!)」

ズゥンッ!!!

上条(室内で雷!?いやこれは魔力か!?)

ベイロープ「るおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

上条(銀の心臓から吹きだした雷のようなものが、ベイロープにまとわり、そして帯電するかのように漂う)

上条(『力』が満ちているのが、俺にすら感じられる……!)

ギシッ、ギギギギギギギッ!!!

上条「クソ!こんな時に来やがったのかよ!?」

ベイロープ「……ん、あぁ大丈夫。もう『銀塊心臓(ブレイブハート)』の術式は終わってるわ」

上条「あれ……その剣?持ってたっけ?」

ベイロープ「んー、まぁ説明は面倒だから省くけど、そーゆーもんよ」

ベイロープ「『ケン――』じゃなかった、『クレイモア』って言う両手剣の一種」

上条「……ふーん?」

上条(そう言ってベイロープは左手に『槍』を、右手に『両手剣』を構える)

上条(女の子の腕で扱えるのか――なんて、一瞬思ったが当然杞憂に終わるんだろうな)

『テケリ・リ』

ベイロープ「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

上条「待て!一人で突っ込むな!」

上条(さっきとは打って変わって突っ込むベイロープ。当然囲まれて)

ズパチィィッ!!!

上条(る、前に雷電が一蹴していた!どうやら『知の角杯』は左手の『槍』を通じて使わなくても制御出来るっぽい)

上条(まぁイヤリング状の霊装なんだから、ある程度自由は効くよな。普通は)

上条「……あのぅ、ベイロープさん?」

ベイロープ「何、よっ!今ちょっと立て込んでんだけどおっ!」

上条「てか凄いっちゃ凄いし!今までの『溜め』が無くなった分強いとは思うんだけどさ!」 パキイィンッ

上条(邪魔しないように俺も参戦)

上条(戦い方としては『牙』をベイロープがへし折ってくれるてっから、そっちを撃ち漏らさないように!)

上条「なんで今まで使うの渋ってたんだよ!?スッゲー疲れるとかそういう話かっ?」

ベイロープ「違う!ハイランダーは消耗を恐れはしないのだわっ!」

上条「だったら命を――」

ベイロープ「無い訳じゃ無い。がっ、戦いの中で出し惜しみをしないのがハイランダーよ!」

上条「だったらなんで!?最初っから使えれば楽になったのに!」

ベイロープ「……『銀塊心臓(ブレイブハート)』の効力は魔力と体力の底上げ、ただし『誰か』を守る時にしか発動出来ない」

上条「誰か……?あぁそっか、守られてるのは俺かよ」

上条「いやでもそれにしたってさっ!縛りがキツくない割に強いじゃんか!」

ベイロープ「縛り……そうね、縛りよね。呪いって言えなくもない」

上条「……おいおい何かいやーな予感がしてきましたよ?」

ベイロープ「あなたは悪くないし、聞く必要もないんだけど……聞く?一応?」

上条「それ絶対後悔する流れじゃねぇかよ!?しかも断れない系のヤツ!」

上条「第一熱湯風呂で『押すなよ!絶対に押すなよ!?』って言われてんの同じじゃねぇか!」

ベイロープ「あー、うん。曖昧にしといた方が、良いような気も……」

上条「良いよ聞くさっ!煽ったのは俺だし!」

上条「何かヤバい反動があるんだったら、俺がナントカするから!」

ベイロープ「う、うん。だったら言うわね?」

ベイロープ「まぁ結論から言う命の危機とか、後遺症が残るとか、そういう次元の話じゃ無いの」

上条「……良かった。ちょっと安心した」

ベイロープ「術式を発動させる時に『誰か』が近距離に存在している事が、絶対条件なんだけど」

上条「近くに人が居ないと――『味方』が居ないと無理だって事か」

ベイロープ「術式発動中に『誰か』が死ぬと各種のペナルティ。ま、それは別にどーだっていいのよ。この際無視出来るわ」

上条「高めの能力の割に、縛りが緩め、か?」

ベイロープ「その、『誰か』ってのは『一生に一人しか設定出来ない』のよね、うん」

上条「へー、一生に一人?そうなんだー?」

ベイロープ「そうなのよ、ねぇ?今時おかしいわよねー」

上条「だよなー、一生に一人なんて今時流行らないって、あっはっはっはー」

上条「――って大事じゃねぇかよっ!?笑ってる場合じゃねぇって!笑う所ねぇもの!」

上条「つーかなんで一生に一人!?どんだけ面倒臭い術式なんだよ!?」

ベイロープ「『私の心臓を捧げてでも守ります』って術式だから。心臓が二個三個あったらおかしいでしょ?」

上条「そうだけどさっ!」

ベイロープ「そもそも!『銀塊心臓』そのものが『死んだ人間の遺体がベース』だし!」

ベイロープ「守る『誰か』が生きようが死のうが関係ねぇのだわ!」

上条「超欠陥品だなオイ!」

ベイロープ「ま、生涯に二君三君に使えるつもり無いから、別に良いかなーって思うでしょ!?普通は!」

上条「……マジかよ……」

ベイロープ「……ま、色々あるとは思うけど、これからヨロシクしてやるのだわ」

ベイロープ「――マイ・ロード(私の君主サマ)?」

上条(彼女はそう言って凄惨に笑う)

上条(『槍』を下段に構え、『両手剣』を上段に構え――)

上条(――『敵』へ向かって名乗りを上げる!)

ベイロープ「私は『新たなる光』――」

ベイロープ「――『Balin189(双剣の騎士よ汚名を濯げ!)』の――」

ベイロープ「――『戦士』だ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

ベイロープさん、デレる

ベイロープのデレとか貴重

乙これは期待。銀の魂か…術式かっけー

ハイランダー、ブレイブハートと聞いて何故かブレイブストーリー思い出したww

>>331-337
恐縮です

>>332
『銀”塊”心臓(ぎんかいしんぞう)』です

スコットランド王、ロバート一世が死後、「俺が死んだら十字軍に参加したい」と言い残したんで、
友人兼副官のジェームズ=ダグラス郷が心臓を銀の箱へ入れてクルセイドに参加
その際、ダグラス郷が戦闘中に>>325の言葉と逸話を残しました

郷が参加したクルセイドは第9次十字軍(最後の十字軍)終了後、更にテンプル騎士団壊滅直後だったため、
そうとう『キツい』状況だったでしょう。なのに突っ込んだハイランダー怖い。超怖い

その後、ダグラス郷も戦死したので、心臓はスコットランドのメルローズ修道院へ埋葬されます
以上は全て実話ですが、1996年に調査が入り彼の心臓が見つかるまでフィクションだと思われていました

ちなみに映画ブレイブハート(ロバート一世ではなく、彼によって騎士の叙勲を受けたウィリアム・ウォレスが主人公)の
映画が公開されたのは199”5”年ですね

尚、この映画は史実とはかけ離れている部分が多くあるにも関わらず、高い評価を受けていますが、
スコットランドの独立を望む声が高まり、97年にはスコットランド出身のブレア首相が誕生します
彼の主導の元にスコットランド議会の設立が国民投票で決定されました

……ただねー、禁書SPでパトリシアさんが乗ってた海洋調査船、並びに調査先の北海油田があって
そっからパイプラインで引っ張る石油の精製施設ってスコットランドなんですよね
つまり『イギリスがスコットランドを失う=油田を放棄』って事で、黙って見てるかは超怪しい

――取り残された車両にて

「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

 裂帛の気合いと共に『クレイモア』が空を切る。それは両手剣としてはやや短く、幅広剣には大きい。
 高地人と呼ばれるスコットランド人は山岳戦闘に長け、特に森林での戦いで大きな戦果を上げた。
 地の利と共に彼らが有利であったのは、この短い両手剣が木々の間での戦闘に適していたからだ、と言う説がある。

 それが事実であったかどうかは分からない。ハイランダーは歴史の流れと共に姿を変え、剣から銃への持ち替えてしまう。それでも『高地連隊兵』の二つ名を得てしまうのであるが。

 しかし今この光景を目にした歴史学者が居れば、仮説が正しかったのだと思うであろう。『クレイモア』と言う武器は狭い空間での戦闘に有利であったと。

(まぁ、ご先祖様もまさか電車の中で振り回すなんて考えてねーだろ)

 圧倒的な物量差を目にしても、ベイロープの士気は萎える事は無かった。
 一車両を埋め尽くす――ある意味満員電車――相手に対峙してすら尚、笑みが浮かぶ。

(この程度か……この程度なのか……ッ!)

 戦争は数、物量、絶対数で勝敗が決する。それは戦闘とは違い、幾度も戦いを積み重ねる事により、『マグレ』が無くなるからだ。
 個々の戦闘では時折イレギュラーが起きては戦況が変わる。ほんの些細な偶然で結果は大きく左右されてしまう。
 見せ場でダイスを振っても必ずファンブルするように、マーフィーの悪魔は実在する。

 なので可能な限り分母を増やし、振るダイスの数を多くする。些細な失敗を笑い飛ばせる程に物量を増やし、偶然を笑い話で済ませようとする。

 敵に幸運の女神が付いていようとも、神を殺す程の力を持って圧倒する。そこに偶然の介入する余地が無くなる程に。
 それが、戦争。

 だというのに、だ。

(つまり――連中は『これだけの大群を用意しないと、私らには釣り合わない』って思ってんのかよ)

 ここへ来て『アレ』の心理が手に取るように理解る。それは――。

 『恐怖』、という感情。

 誰だって――生存本能を持つ個体であれば、死の恐怖は感じる。
 『死』という概念を理解出来ずとも、『痛み』や『欠ける』事を生命は恐れる。
 その動機は単純だ。

 『痛み』とは生存を続ける上での欠損を示し、突き詰めれば死に至る。
 『欠ける』にしても同種の別個体より大きなハンデを生み、引いては自己の生殖能力に関わるからである。

 だから生物は『怖れ』る。自身が傷つく事を。

(……まぁ、ね?よくよく考えればどーってこたぁないんだけど、さ)

 何のことは無い。『アレ』はずっとずっと。

(私らを――『怖がって』いやがったのか)

 遺伝子に刻まれた生存本能の中、『アレ』は全てを『食欲』で占められている――そう、一度は仮説を立てた。
 実際の行動もそれに沿ったものである。そう判断してきた。

 しかし現実に、単細胞生物レベルであっても、天敵が来れば食欲よりも優先して回避行動を取る事がある。
 乾きであったり、環境の変化であったり、別の捕食者の存在であったり。
 自身を傷つけるモノが側にあれば、大抵は逃げ惑うのだろう。

(なら、コイツはどうなの?何がしたい?何がしたかったの?)

 一見してタダの捕食行動に見えるのは、今にして思えば『攻撃』だったのでは無いか?
 逃げ場を失った動物が破れかぶれに攻撃してくるのとどう違う?

 自身は戦場に立たず、いや『立てず』遠くから攻撃する醜くふくれあがった『アレ』のどこが、『戦士』だと言うのか?

「……あぁムカツクのだわ。こんなしょーもないヤツに手を焼いてたなんて!」

 『銀塊心臓』により引き上げられた身体能力は、文字通り全身へ血液と魔力を運んでくれる。
 少々、悪酔してハイになってはいるが、その反面戦闘自体に余裕が出来ていた。

 襲いかかる 『アレ』の数は減らず、だが気力も体力も衰える事を知らない。
 彼女にとって『守るべきもの』がある限り、預けた心臓が脈打つ限り、膝を折ったはしない。
 ましてや、それが。

「『戦士』じゃない!兵士』ですらない卑怯者に!――」

 『クレイモア』へ渾身の魔力を溜める。

「――後れを取る訳、ないだろうがっ!!!」

 バチチチチチィッ!
 ルーンを伴った『知の角杯』の雷光が蹂躙する。

 そうだ、その通りだ。
 『アレ』は必死に自身の一部を切り無し、兵隊を造る。
 つまり、目の前の『コレ』は。殺到してくる黒い水溜まりは、それだけこちらを脅威だと思っている証拠だから。

「……ダメよ、それじゃ足りない!全っ然足りてなんかていない!」

 『クレイモア』で近くに居た敵を薙ぎ払い、『槍』で『牙』をへし折る。
 それでも消化としようとする相手には雷撃を叩き込んで蒸発させた。

「あっ――がっ!?」

 物量差に押し切られそうになると、ベイロープ自身をすら巻き込んで術式は嵐を呼ぶ。
 流れた血をぬぐう事すら無く、彼女は戦う。

 嘗て――十字教がスコットランドで布教を始めるよりずっとずっと昔の話。
 そこに住まうハイランダー達はその死を怖れぬ戦いぶりに敵は恐怖し、味方ですらも畏怖の対象となっていた戦士達が居たという。

 敵を殺し、味方を傷つけ、特には自身の命を散らしても尚、戦場で戦い続けた『獣憑き』の戦士達。
 戦いぶりを称賛され、忌み嫌われ、羨望され、こう呼ばれたという。

 ――ベルセルク、と。

 血の成せる業が、それとも初めて得た君主に狂喜したのは分からない。
 だが、今の彼女に相応しい称号に違いなかった。

 悪夢のような一方的な戦闘、ある意味虐殺と言って良い程の惨状の中、上条当麻は考えを巡らせていた。

 上条もベイロープの出した結論――戦闘中に語るような事では決してないのだが――に同意していた。
 しかし、ならば、どうして、と言う疑問も残る。

 『アレ』が怖れているのは理解出来た。言われてみれば一貫性に乏しい。『牙』を生やした敵を殴りつけながら、そう考える。

 向こうが本気を出して捕食行動を取るのなら、『全力』でこちらを潰しに来る筈だ。捕食対象である所の人間の反撃など顧みず、ただ物量で押し切る。
 相手が『脅威』と感じていなければ出来た、筈だ。

 その仮説はかなり真実に近いのであろう。的を射た推測……では、あるが。しかし。
 まだ『足りない』気がする。何か見落としがあるような。大切な何かを見落としているような。

「――いいから、眠っとけ!」

 ズバチィッ!と幾度目かになる雷電が一掃。視界の中に動く『アレ』は消え去り、静寂が帰ってきた。
 ふぅぅ、と息を吐く彼女に、お疲れさん、と声をかけた。

「ん、あぁ、いーのよ。あなたを護る時に一番強くなる術式だからね」

「……遣いづらいだろ、それ」

「分かってるわよ!他に手が無いっつーんだからしょうがないでしょ!?」

「すいませんっ!ホっントにすいませんでしたっ!」

 頭を下げつつも、どうにか襲撃を凌ぎきった事に安堵する。こちらから本体に手出し出来ない以上、場当たり的な時間稼ぎだが、この調子でいけば助けを待つのは余裕か。

「……そういや、完全に撃退出来たのって初めて、だよな?」

 ベイロープへ問いかける。顔に付いた血を上着で拭いながら、あきれたような声を出した。

「後方車両ぶった切る前は連戦連勝だったのだわ。つーか『アレ』の本体が出張らない限り、各個撃破は難しくないのよ」

「そか。確かに時間稼ぎだけだったら俺達でもどうにか出来たしな」

「逆に言えば余裕があるのは本体が出張ってこない証拠、って話。今も来なかったみたいよね。本当に」

 一つ間を置き。

「私らが怖いのに、どうして向かってくるのかわっかんないわよね。こっちの基準で判断するのが間違いかも知れないけど」

「だなぁ。俺だったらさっさと逃げ出――」

(逃げる?時間稼ぎ……?)

「ホントホント。こっちも他の乗客が居なかったら、さっさと通報してトンズラしてるっつー――上条?」

「……なぁベイロープ。ちょっと聞きたいんだが」

「うん?『銀塊心臓』の効果時間?」

「それも聞きたいけどそうじゃない。今までさ、『アレ』が襲撃してきた時って、車体がギシギシいってたよな?」

 少なくとも上条らが出くわした限りではそうだった。
 重みで車両に負荷がかかっているのか、それとも『牙』を精製するためにはぎ取っていたのかは、まだ分からない。

「あの『音』、殆どしなかったよな。今?」

「言われてみれば、うーん……?」

 しかし――最後に『音』が聞こえたのは何時だ?
 車体が『アレ』の重さで悲鳴を上げたのは、何時だったであろうか?

 今し方の襲撃ですら、最初の方に少しだけ――。

「……ベイロープ!」

「はい?なに?」

「早く前の車両へ行かないと!」

 言うが早いか走り出す。

「……オイ、正気か!こっちは時間稼ぎに徹するんじゃ無かったの!?」

「て、言う割には付いてきてるけど……」

 直ぐに隣に並ぶ――僅かに前へ出ている――ベイロープ。

「そういう術式なのよ!仕方が無いじゃない!」

「『幻想殺し』でキャンセル出来そうな気もするけど……」

「かけ直す時間が勿体ない!それより何?何なの?」

「多分、だけど、分かった気がする!俺達だけじゃなかったんだ!」

「どういう意味?」

「――『アレ』も時間稼ぎしてたんだよ!」

――ユーロスターS 5両目よりも先

□□□-□□□□□   ※

※現在位置

 ユーロトンネルの中は定期的に非常灯が置かれ、万が一の場合でも非難しやすい構造になっている。
 海面下を通るトンネルとしての長さは世界二位、ましてや国と国を繋ぐ架け橋となっているのだから、関係各国の面子も絡む――その割に、イギリスとフランスの仲はお世辞にも良好とは言えないのだが。

 橙色の非常灯に映し出された『アレ』――恐らく、ユーロスターに張り付いていた『親ショゴス』の姿は、端的に表現すれば『異物』の一言であった。
 胴体は芋虫のように脈打ち、節々が限界にまで腫れ上がっている。
 黒色をベースに中身が僅かに透けているのだが、用途不明の内臓によく似た何かが、内側から心をかき乱す周期で発光を繰り返している。

 ぶよぶよの胴体なら伸びる『牙』は、クモやゲジのような、一度上へ伸び上がった後、地面へ突き刺すコンバスの如くそびえる。
 しかし節足動物が一部の人間に機能美と持て囃されるのに対し、『ショゴス』に誉められるべき所はない。
 『牙』――と言うよりも『脚』の大きさはまちまち、しかも体の至る所から生やしており、とても正視に耐えがたい代物であった。

 『ショゴス』がまだ、数十センチのバケモノであったならば人によっては可愛いというかも知れない。
 けれど目の前に鎮座しているのは、胴体部分だけで大型トラック程もある異形。
 チグハグな足をデタラメ――交互ですらない――に動かし、人が走るぐらいの早さで移動していた。

 既存の生き物の枠を越えたフォルムに、比喩無しで目眩と吐き気を催す。遠近感が狂い、自分達がそこに立っているのかも怪しくなる。
 しかしそれでも気力を絞ったのはベイロープの方だった。傍らに『護るべきもの』が立つせいかどうかは分からないが。

「なぁ、私達は正気なのか……?」

「……俺は、まだ、何とか。それよりそっちは大丈夫かよ?」

 上条もどうにか返事をする。『幻想殺し』で悪夢は殺せるのか?と半信半疑であったが。

「……まぁ、ブレイブハートには『戦場での士気向上』って効果もあるし、素面で見るよりはまだマシ……か?」

 戦場で敵味方の屍を乗り越えてるのを良しとする術式。『正気』かどうかは判断に困る所だが、一応は耐えているベイロープ。
 上条の方は右手で額を押さえているが、効果は怪しい。

「てか能力者かもって話はどこ行ったの?つーかあんなんが授業受ける学園都市も大概よね」

「勘弁しろよ!あんなん教室居たら怪獣映画の世界じゃねぇか!」

「校門で会って告白イベント?」

「どう考えてもそのまま喰われるバッドエンドしか思い付かねぇよ……!」

 時間を稼いでいたのは人間達――だけ、では無かった。
 『ショゴス』が思わぬ反撃を受けた時か、それとも最初からそうであったのかは分からない。
 しかし明確に『恐怖』を感じてしまった後、彼または彼女も『逃げ』ようとしたのだ。

 けれど体そのものが粘液の塊、動くのも億劫で早く移動するなどとても不可能。
 従って『ショゴス』は『待った』のだ。

 自身が素早く動く手段を得る――『牙』という外骨格を得るまで。
 僅かな時間で進化するまでの時間稼ぎ。そう居残った人間達は判断を下していた。

「……単純な話なのだわ。森で熊さんに出逢ったら、お逃げなさいと言うのが普通」

「その例えは正しいのか?」

「こっちも怖いけど、向こうも怖い。よくよく考えればシンプルよね」

 軽口を叩く割に気は重い。心が奮い立たない。勇気を振り絞れない。

 目の前の異形へ対する『怖れ』で躰がこわばり、動作が鈍る。
 絶叫して逃げ出したくなる程の、名状しがたい冒涜的なオブジェであった。

 銃口や魔術師、聖人相手にした時とは異なる。言わば『本能へ訴える恐怖』が二人を襲う。
 姿ある敵ならば殺せる。死なない相手であっても無力化は出来る。

 だが『自身の恐怖』を前にして何が出来る?何が役に立つ?
 戦うのは独り。ねじ伏せる相手は自らの心。生命の尊厳を賭けてまで、振り絞れるのは少数である。

 が、しかし。

『――――――としても』

「……上条、何か言ったか?」

「いや、俺は別に何も」

 薄い暗闇に聞こえた声は空耳か?

『立て――を失ったとして――』

「聞こえる……?つーかどっか聞いたような……?」

「――知ってる!この声は――!」

 この場に居ない。居る筈のない。
 彼女の『歌』を

――少し前 『カーゴ2』

乗客A『――, ――――.』

乗客B『――, ――――?――!』

鳴護「うーん……?」

鳴護(ちょっと騒がしくなってきた、かな?前の車両で何かあったのかも?)

鳴護(……まぁ『あれだけ』やっちゃったんだから、他の人が不安になるのも分かる、よね?)

アル「――おい!ちょっとアンタ!」

鳴護「はい?……アルフレドさん?」

アル「悪い!アンタの取り巻きっ、つーかSSっぽい奴らに話がある!」

鳴護「話、ですか?えっと、どういう?」

アル「出来りゃ直に説明したいんだが、今どこに?」

鳴護「後ろの車両でスタンバってますけど、何かあったんですか?」

アル「あー……っと、ぶっちゃけ、クビ切られてたんだわ」

鳴護「――はい?」

アル「あぁいやリストラ的な意味じゃなくって、そのまんまの意味」

鳴護「首って!」

アル「あんま騒ぐなって!……てか、無理か。悪い、騒ぐなっつー方が無理だよな」

鳴護「どうしたんですか?一体何があってそんなっ!?」

アル「『火災が発生して後ろの車両切り離してました』ってアナウンス入ったよな?最初の方に」

アル「でもって次は何の予告もなくもっかい切り離したよな?それで他の乗客がぶち切れた」

鳴護「それじゃ……」

アル「いやいや、そいつらがやったんじゃねぇ。鍵のかかってない運転席開けたらって事だわな」

鳴護「……」

アル「後は無責任な伝言ゲームの繰り返しってヤツ?中には『バケモンが乗ってて人を食ってた』って話も」

アル「まさに『人を食った話』ってヤツ――あぁ悪い。女の子に話すようなこっちゃねぇよな」

鳴護「いえ、大丈夫です、から」

アル「とても大丈夫だっつー顔色には見えないがね。で、そっちのお連れさん、どーにもメカニックとかに詳しかったりしないか?」

鳴護「メカニック、ですか?」

アル「あぁ。運転席がメチャクチャにされててさ」

アル「どっかが壊れてるのは間違いねぇんだよ、スピードが上がりっぱなしになってんだから」

アル「でもどこかは分からない。素人が手ぇつけていい状態かどうかも分かんねぇんだわ、これが」

鳴護「『クルマが専門分野だ』とは聞いたような……?」

アル「本当か!?だったらイケるかもしんねぇ!助かったぜ!」

鳴護「――待って下さい!」

アル「何?今ちょっと急いでんだけどよ?」

鳴護「その――このまま、だったらどうなります、か?」

アル「どう、ってそりゃ――速度落とせないままだったら、どっかのカーブで曲がりきれずに突っ込むだろ」

鳴護「……」

アル「あー違う違う!そんな事にはならないって!こーゆう高速鉄道には二重三重にセーフティがかかってんだよ!」

アル「最悪本体がイカレちまっても、別電源で動くブレーキとか搭載されてるから!な?心配は要らないんだわ!」

鳴護「で、ですよね?」

アル「――ただ、まぁ?それを『信じられない』ヤツが居るかも知んねぇけどな」

鳴護「――え?」

アル「見てみろよ、周りを」

鳴護「周り、ですか……?」

アル「おう。あっちでガキを抱きしめてる母親とか、恋人っぽく雰囲気出してる奴とか」

アル「あいつら、『いざとなったら飛び降りる』つってんだよ。いやマジで」

鳴護「そんな事したら!」

アル「ま、どんだけ幸運だったとしても死ぬだろうね」

アル「想像してみ?音速よりかちょい遅い速度で生身の人間が撃ち出されんだぜ?絶対ヤバいって」

鳴護「……」

アル「あー、ムダムダ。説得するにも言葉が伝わらねぇだろ、つーか俺が通訳してやっても良いんだけどさ」

アル「なんつーかムダだってば、だって連中正気じゃねぇもん」

鳴護「……どういう、意味ですか……!」

アル「そう怒るなよ。別にバカにしてる訳じゃねぇってば。そうじゃなく」

アル「混乱?パニック?『有り得ない』って状況に放り込まれて、おかしくなってんだよ。それだけ」

アル「よく災害の場で無謀な行動とって自滅する奴いるじゃん?まさに、それ」

アル「だって連中、『アメーバみたいなクリーチャーに襲われた!』なんつってる奴が居るんだぜ?んな妄想に付き合ってる暇はないし」

鳴護「……止めないと!」

アル「だから無理だって。『暇はない』つったじゃん?つーかこうやってる時間も惜しいぐらいんだけどさ」

アル「パニックになってる奴ら、一体何人居ると思ってんの?それを鳴護ちゃん一人で止めようって?」

アル「無理だよ、そんなの。止められっこない。止められる訳がない」

アル「もしも出来るとすれば『奇蹟』ぐらいじゃねぇのかな?」

鳴護「奇蹟が、あれば」

アル「昔っからパニックった奴を冷静にさせるのって、平手でキツいのお見舞いするか」

アル「もしくはママンの子守歌って相場って決まってんだよ」

アル「……ま、それが効果あるかは知らねぇが」

鳴護「あたし――私が、歌えば」

アル「非日常にぶち込まれた連中は、『日常』を無理矢理感じさせる事で正気付かせる、と」

アル「言ってみれば『休みの日にテンション上がってんのに、明日会社だと思って鬱になる』みたいなもんだ」

鳴護「……」

アル「あーウソウソ!今のはラテン系のノリだから!思い付いたから言っちゃったみたいな!」

鳴護「えっと、アルフレドさん?」

アル「お?」

鳴護「私も……戦わせて、下さい」

――少し後 『カーゴ1』

 最も人が集まる『カーゴ1』であったが、今は血臭漂う陰惨な場と化していた。
 別に乗客同士で流血沙汰が起きた訳ではない。むしろ後方の車両から逃げ出してきた『訳あり』の人間達は、正気を失ったかのように茫然自失としている。

 原因は運転席から引きずり出された遺体、少々ならずともショッキングな死に方のそれらへ、どこからか調達したカバーシートがかけられている。
 しかし漂ってくる血の匂いは、エアコンをフル稼働させても中々消えるものでは無い。

 だというのに、人々はそこを離れようとはしなかった。
 何故ならば『ここが一番先頭』であるという理由で――『アレ』から最も離れている。そう言い換えても良いだろうが。

 が、その判断も長くは続かない。何かが侮蔑を込めて嘲笑ったように、人々の多くは目先の今年か見ていない。いや、より正確には目先の事すら見えてはいない。
 閉塞状況へ追い込まれれば容易に逃げを打ち、簡単な答えを求める。それが正しいのでは無く、正しそうだからでも無く、信じる。

 人々の囁きの間に「バケモノに食べられる前に――」と極めて不穏な単語が混じり出し、混乱は混沌を呼ぶ。
 「死に方ぐらいは自分で選びたい――」、無知で勇気ある人間が、最初の一歩を踏み越える――その、瞬間。

 奇蹟は、起きる。

『――立てよ、世界を敵に回したとしても』

『立てよ、全てを失ったとしても――!』

 突然スピーカーから流れてきたアカペラの歌。殆どの者は歌詞の意味すら理解出来ない。

『誓いや言葉は要らない』

『英雄になりたかったわけじゃない』

 アップテンポの音楽は流行りの楽曲であると想像は出来るが、それもこの場では筋違い。
 だと、言うのに。

『僕はただ君のために』

『抱きしめた誇りを友に――今、戦おう……!』

 人々の心を取り戻すには、自らが身を置いていた『日常』を感じさせるには。
 充分だった。

 それは『奇蹟』ではない、必然。

――切り離された車両周辺

上条「なんだこれ……アリサの――!」

『人と人を縛るのは絆――それは誓い』

『君が居るだけで価値があるこの星』

ベイロープ「……体が……動く?どうして?」

上条「決まってんだろ!俺達だけじゃ無いからだよ!」

上条「アリサも一緒に戦ってんだ!」

『ガキにすら劣る卑怯者は震えて眠れ』

『伸ばした手を振り払われて』

ベイロープ「待てよ!こっちの内線は死んでる上にトンネルの中だぞ!?」

ベイロープ「そんな『奇蹟』起こる訳が――!」

上条「……違う!これは奇蹟なんかじゃ無い!」

ベイロープ「それ……さっき受け取ったスマフォ、だよな?」

『立てよ、世界を敵に回したとしても』

『立てよ、全てを失ったとしても』

ベイロープ「電波が途切れる筈なのに、どうして――?」

『守られなかった約束を果たすため』

『命であがなえ、血の枷に囚われて』

上条「決まってるだろ!そんなの!」

『勇者を目指して剣を取れ』

『魂に刻んだ誇りを友として――今、戦おう……!!!』

上条「来たんだよ!ここへ!俺達のために!」

上条「『中継器を積んだ奴が』な!」

……ゥィィィィィィンンンッ

ベイロープ「モーター音?まさか新手か!?」

ジジッ

柴崎『――ご無沙汰しております』

上条「来てくれたんだ!」

柴崎『てか、そこに居ると危険ですので離れて下さい――なっと!』

ガギイィィィィイインッ!!!

上条(ライとの一つも点けずに闇を切り裂いて現れた鋼鉄製の『異形』が、『ショゴス』を派手に牽き散らかす!)

上条(黒いバケモノが二度三度バウンドして転がった所へ、上から更に踏みつけにかかる!)

上条(四足歩行のクモに似たデザインの、『それ』を俺はよく知っていた!)

柴崎『婚后インダストリィ謹製、「ヤタ2式」――所謂”多脚戦車”』

上条(半透明のキャノピーに誰が乗っているのかは見えないが、スマフォのスピーカーを通じて柴崎さんの声がする!)

柴崎『公園でリーダーに襲撃喰らってますよね、上条さんは』

上条「つーかテメーそんな便利兵器あるんだったら最初っから出しやがれ!何渋ってんだよ!」

柴崎『回答一、最低でも二桁の協定違反&法律違反の産物ですからね、これ』

柴崎『あと自分は「クルマの中から上条さんを見た」と言ってます、乗れない・持ってきてない、なんて一言も』

上条「そりゃそうかもしんないけどさっ!」

柴崎『回答二、バンの荷台に積める程度のものなので、武装は最初から積んでいません』

上条「じゃ、丸腰なのか!?」

柴崎『なので物理攻撃無視の相手には通用しない――と、思ったんですがね』

ギギッ、ギギギギギギッ!

上条(多脚戦車の下でジタバタともがき、抜け出ようとする『ショゴス』)

ベイロープ「おかしくないか?液状なんだったら形変えて逃げられるのに」

上条「……進化、し過ぎたんだと思う」

ベイロープ「進化?」

上条「『アレ』が科学サイドだってなら、当然科学的な法則の下に成り立ってる訳で」

上条「……異様に早い進化のスピードと、名状しがたい外見のせいで、ついつい忘れそうになるけど――『アレ』も生物なんだろうさ。一応」

ベイロープ「要点を簡潔にしやがれマイ・ロード」

上条「敬ってる気配が微塵もねぇな!?……じゃ、なく」

上条「普通はさ、『脚』だけ生やしたって歩けるんじゃないんだよ」

上条「骨格、筋肉、神経組織ってハードウェア、後はそいつらをオートで制御する交感神経と副交感神経」

上条「『アレ』は確かに原始的な生物、つーか能力者なのか、その一部を移植されたのかは分からないが」

上条「だからっつって物理法則をブッちぎるような無茶も出来ない……と、思う」

ベイロープ「ジャパンのテレビで見た、『アリはどんな高い所から落ちても死なない』みたいな?」

ベイロープ「生き物としてシンプルだからこそあった利点が、成熟しちまうと失われる」

上条「けど逆に、チャンスでもある――ベイロープ!」

ベイロープ「時間を稼げ!……あと、クルマん中の奴は逃げ出せ!じゃないと巻きこまれる!」

柴崎『そう、したい所なんですがね、どうにも厳しいようです』

ショゴス『デケリ・リィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!』

上条(窓ガラスを詰めで引っ掻いたような耳障りな咆哮を轟かせ、『多脚洗車』を撥ねのける!)

上条(その勢いのまま逆にのし掛かる『ショゴス』!)

上条「柴崎さん!?」

柴崎『……上条さん、先程、自分が言った事、憶えてらっしゃいますか?信じろとかなんとか、言ってましたよね』

柴崎『その言葉、今この場でお返ししようかと存じます』

上条「……信じてぶっ放せって事か?でも!」

上条「結局、来たのは一人で――ッ!」

柴崎『……生憎、このクルマは一人乗り。魔術サイドの方へ貸しても運転出来る訳も無し』

柴崎『説明している暇はありません!さぁ、早く!』

ギギギギッ、ギチギチギチギチギチッ!

上条(不吉な音を立てて『ショゴス』がキャノピーへと『脚』をかける……こじ開けるつもりか!)

上条「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

ベイロープ「止せっ!?」

パキィィンッ……!

上条(俺の『幻想殺し』で殴りつけるも、触れた部分から半径数十センチが消滅するだけで!)

上条(デタラメに生えた『脚』の迎撃が――)

ベイロープ「はああぁぁぁぁぁっ!」

ギッギィンッ!

ベイロープ「無茶だ!奴らを滅ぼしきる前にこっちが穴だらけになるわ!」

上条「……クッソ……!」

上条(マズい!こうしてる間にも多脚戦車が潰されっちまう!どうしたら……!)

ベイロープ「――オイ!聞いてるか上条当麻!?」

上条「……あ、あぁ」

ベイロープ「命令しろ!私に!」

ベイロープ「『アイツをぶっ飛ばせ』って言うだけでいい!他に何も要らない!」

上条「ベイロープ……」

ベイロープ「そうすりゃ後はあなたが目を瞑ってる間に、全部、終わらせる!」

ベイロープ「私は『戦士』であり、あなたの『剣』だ!勢いとはいえそうなっちまった以上、汚れ仕事でも何でも私が引き受けるわ!」

ベイロープ「だから、早く!中の奴が人であるウチに!」

ベイロープ「あのクソッタレのドロドロ野郎と溶けて一つになっちまう前に!終わらせてやるのが筋ってもんなのだわ……っ!」

上条「……」

ベイロープ「あなたの言っていた『助け』は来なかった!それは仕方が無いし強制されるようなもんじゃ無い!けどっ!」

ベイロープ「それでも!勝算も何も無いのにやってきやがった騎兵隊の意志を!ムダにするんじゃねぇ!」

ベイロープ「『ショゴス』が気を取られてる機会なんて、次にどれだけあるのかも分からないんだから!」

ベイロープ「今のウチに焼き尽くすのが最善でしょうが!」

上条「……そう、か。そうだよな……分かったよ、ベイロープ」

ベイロープ「えぇ」

上条「……ただ一つだけ、訂正させてくれないか」

ベイロープ「……あぁ?」

上条「お前は剣なんかじゃない。ただの『戦士』だよ」

上条「成り行きとは言え、『死んで欲しくない』って理由でベイロープが死なせず、そして『ショゴス』も殺せなかった」

上条「その結果が今の『これ』だよ!俺があの時、我が儘言ったせいだ!だからっ!」

上条「俺がベイロープにするのは命令じゃ無い、『お願い』だ。そしてお前に責任なんかある訳がない!」

ベイロープ「『お願い』、か」

上条「さっきと同じく、俺はまた我が儘を言う。それ以上でも以下でもねぇよ!」

ベイロープ「それは『命令』?」

上条「……いや、『お願い』だよ。そんなつもりは、ない」

ベイロープ「……そか――『ギャッラルホルン』!」

上条「……悪い」

ベイロープ「いいって。あなたが納得しようがしまいが、『これ』以外に方法ないのだし」

ベイロープ「……ま、私の男運もそう悪くは無かったって確認出来たし、ね」

上条「……うん?」

柴崎『――あの、ご歓談中申し訳ないのですが、そろそろ宜しいですかねぇ?』

上条(俺達が言い争ってる間にも、多脚戦車の装甲はボロボロになっていた)

上条(得体の知れない素材は、未だ貫通するせずには居るようだが)

上条(それでも僅かにある隙間へ『脚』を入れ、テコの原理でキャノピーをこじ開けようとしていたっ……!)

ベイロープ「少し待て!詠唱が必要よ!」

上条「任せろ!うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

パキイインッ!!!

上条(通じた!――けど、足りない!届かない!)

上条(『ショゴス』の一部分を切り取るだけで、全部を消滅させられない!)

上条(やっぱり――俺の『幻想殺し』には対処済みって事かよ!?)

ググギッ!ギギギギギギギシィイッ!

上条(そうこうしている間にも、非情な『ショゴス』の脚――だか、牙がついに運転席を少しずつ開いていく!)

上条「間に――合わなかったのか……っ!?」

上条(限界が来たのか、急にハッチが勢いよく跳ね上がり、中に乗っていた人間が露わになる)

上条(柴崎さんの言っていた通りに、人一人分しか入れないキャノピーから出た人物へ『牙』が殺到する。しかし)

上条「お前――!?」

???「――学園都市の『機械化小隊(マシンナーズ・プラトゥーン)』だと思った?残っ念っ!」

???「中身はぁ――」

上条(俺は『勝利した』と確信しながら、”彼女”の名前を呼ぶ!)

上条「レッサー!」

レッサー(???)「――エロ可愛いレッサーちゃんでしたっ!」

上条(悪びれもせずにレッサーは持っていた『槍』を突き出し、先端に巨大な業火を生む!)

ショゴス『ギギギギギギギィイイイイイッ!?』

上条(突然現れた『天敵』に『ショゴス』はあからさまに怯み、その『脚』を使って大きく跳び上がる!)

レッサー「逃がさねーですよこぉのドちくしょーがっ!!!」

ゴォウンッ!!!

上条(空中で伸び上がり、逃げ場のないままレッサーの生んだ業火が腹へと突き刺さり――)

上条(――当然、その反動で『ショゴス』は天井へ叩き付けられる――)

上条(――そう、『ユーロスターの架線がある』天井へ、だ!)

バチチチチチチチチチチチチチチチチチチチッイィィィィィンッ!!!

ショゴス『――!?』

上条(衝撃で爆発、飛散する『ショゴス』――その一体一体が生きており、同時に再生する能力があるのだろう。が)

ベイロープ「『知の角杯を持つヘイムダルよ、見よ!』」

ベイロープ「『火のビフレストを渡る炎の巨人を、天空を喰らう狼を!』」

ベイロープ「『影のビフレストからは憂鬱な死者の軍勢どもを!』」

ベイロープ「『さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん!』」

ベイロープ「『戦いを告げる先触れを!全ての戦士を喚び起こすのだ!』」

ベイロープ「『――神々の黄昏が来た!(ラグナロク、ナウ!)』」

――イイイイイイイイイィィン――!!!

上条(周囲から音が消え失せる程の爆音!『架線から供給される電力』も巻き込んだ強烈な雷撃!)

ショゴス『デケリ……リィ……』

上条(稲妻の雨を全身に受け、狂ったように身もだえする『ショゴス』達……)

上条(彼らの放つ雄叫びは、どこか胸が苦しくなった。けど)

上条(嵐が過ぎ去った後には染みの一つすら残さず、残せず)

上条(まるで悪夢が過ぎ去ったかのように、現実感に乏しかった)

上条「……やった、のか……?」

ベイロープ「つーかこれでダメだったら私らの手に負える相手じゃないわ」

ベイロープ「どっちにしろ『時間稼ぎ』って意味でも充分でしょうし、さっさと出るわよ」

上条「……だな。行くか」

ベイロープ「つか、まさかマジ助けが来るとは思わなかったわー」

上条「言ったじゃんか」

ベイロープ「聞いたけどさ」

上条「お前が仲間を大切に思ってるみたいに、仲間も同じだって」

ベイロープ「言ってねぇよ。つーか聞いてないわ」

上条「だっけ?ま、いいって結果は同じだし」

上条「ホラ、見てみろよ?レッサーだってあんなに喜んで――」

レッサー「ダイジョーブですかー?ベイロープ?上条っさーん?」

レッサー「いけませんからね?もしもこれでちょっと良い感じになったとても、それはきっと幻想ですから、幻想ですよね、幻想なんですね分かります!」

レッサー「てっきり二人だけのシチュエーションになって、あんなーこーとー、こんなーこーとーとかあったりしませんよねぇ、ねぇぇっ!?」

レッサー「嬉しかったこーとーとか、面白かったーこーとーとか、いーついーつまーでもフォーエーバー!的な立てられたフラグに流されたりは許しませんからねっ!」

上条「……て、照れ隠しだよ!きっと!」

ベイロープ「に、しては必死に見えんだけど」

レッサー「いけませんいけません!そりゃきっとアレです吊り橋効果です!よくあるんですよねー、この業界」

レッサー「今回のお二人が体験しやがった事も、きっとその類の妄想ですってば、はいっ!」

レッサー「一次の気の迷いっつーか、まぁまぁ男女間であったって友情成立しますしね!えぇっ!」

上条「……えっと」

ベイロープ「……心配、されてるみたいね。別の意味で」

レッサー「それともアレですか!?Dですか!?Dカップがあなたを迷わせるんですかカミジョーさん!?」

レッサー「いけませんいけません。そいつぁ黙って見ていられませんよ!」

レッサー「そもそもですねぇ、昨今の業界では年上キャラ出しても、『え、需要ないでしょ?』の一言でバッサリ切られますからね」

レッサー「だもんでここは一つ!私と真実の愛を育みましょ――」 ガシッ

ベイロープ「……」

レッサー「おおっと!どうしましたかベイロープ?私のおっぱいを鷲掴みしても、好感度は上がりませんよ?」

ベイロープ「まぁ、アレだわ。なんだかんだ言いつつ助けに来てくれたのは感謝するわ。それは、アリガトウ」

レッサー「やだなー。当然じゃないですかー、仲間を助けるのに理由なんて要りませんってば」

ベイロープ「で、だ!それとは別にちょぉぉぉぉっと疑問があんだけどぉ、答えて貰って良いわよね?ん?」

レッサー「な、なんですかっ!この私に後ろ暗い所なんてありませんよっ!」

ベイロープ「最後、あなたが乗ってんだったら、別に最初からにバラしても問題ないわよね?」

ベイロープ「つーかさっきのオッサンが乗ってるブラフかける必要がどこにあったのよぁぁぁぁぁぁんっ!?」

レッサー「ヘルプーーーー!?至急応援を頼むーーーーーーーっ!」

レッサー「てかマジでおっぱい千切れますからっ!痛い痛い痛い痛い痛いっ!?つーか痛いですってば!?」

ベイロープ「……最期に言う事は?」

レッサー「やっぱり若さって嫉妬の対象なんですかねぇ」

ベイロープ「死ね」

レッサー「んぎゃーーーーーすっ!?」

上条「……仲、良いよなぁ。やっぱ」

柴崎『ですかねぇ』

上条「つか、どういう事?今まで流れって、ノリだったの?」

柴崎『自分が「糸」で多脚戦車を遠隔操作出来るってのは、割と秘密にしておきたかったのも確か』

柴崎『また、想定では多脚戦車の攻撃が通じないと思っていましたから。レッサーさんには主砲として乗って貰いました』

柴崎『それともまさか上条さん、自分が勝算も無しに助けに来るとでも思いましたか?』

上条「そりゃ……」

柴崎『そんな人道的な理由で「黒鴉部隊」は動きませんよ。残念でしたね』

上条「……この嘘吐き」

柴崎『よく言われます』

レッサー「ヘェルゥゥゥゥゥゥゥプッ!誰か助けてフォローミーィィィッ!?」

上条「……ま、疲れたー……」

柴崎『――あ、そうそう上条さん。伝言が一つ』

上条「あー、そかアリサからか。何々?」

柴崎『「アリサほったらかして何やってんんだ、あぁっ!?」』

上条「アリサじゃねーし!超怖いねーちゃんじゃねぇかよおぉっ!?」

柴崎『大丈夫ですよ。自分がよく言っておきましたから」

柴崎『「妹系アイドルより、年上のお姉さんの方を助けに行った」って』

上条「テメーも根に持ってやがんなチクショー!憶えとけよっ!いいなっ!?』

上条(……と、まぁいつものように)

上条(やったら疲れる日常へ、俺達はどうにか帰還しましたとさ)

――ブリュッセル南駅(ベルギー)

上条「着いたー……長かった!」

鳴護「当麻君、そんなに感動する所かな?」

上条「いやまぁ大変だったじゃんか!」

レッサー「ま、いっつもこんな感じではありますけどねー」

上条「そうだけどさ――って何でレッサー居んの?」

レッサー「ヒドっ!?利用するだけ利用しといて用が済んだらポイですかっ!?どんだけオニチクなんですっ!?オニっ!アクマっ!高千穂っ!」

上条「鬼畜な?」

フロリス「『ベツレヘムの星』でも、レッサーはカミジョー見捨てて逃げなかったかっけ?」

ランシス「むしろレッサーが利用するだけしといて、って突っ込まれる方……?」

レッサー「おっと中々やりますね上条さん!この短時間で私の仲間を味方に引き込むとは!」

レッサー「流石は私が終生のライバルと認めただけはアノニマス!」

ベイロープ「だから私ら前から言ってるけど、あなたのその無闇矢鱈なプロポーズに引いてんのよ」

レッサー「やだなぁそんな私がまるで空気読めない、みたいなの止めましょうよ、ねっ?」

フロリス・ランシス・ベイロープ「……」

レッサー「良し!話し合いましょうか!肉体言語でねっ!」

鳴護「えっと、お友達……?」

上条「柴崎さんはどっこかなーっ!さっさと合流して次の街へ行かないと!」

鳴護「あ、それだったら『警察の取り調べがあるから、先にこの駅でお姉ちゃんと合流してて』って」

上条「あんだけ暴れた上、学園都市の兵器持ち込んでんだしなぁ……」

鳴護「『もしかしたらこれが会える最後になるかも』っても言ってた、かな?」

上条「冗談になってねぇ……ん?」

鳴護「どうしたの?お手洗い?」

上条「ちょっと行きたいけど、この駅おかしくないか?」

鳴護「どこが?」

上条「いや、ホームに俺達以外、人の姿がないってのが」

鳴護「あ、言われてみれば――あ、居る居る!ほら、あっちに外人さん達!」

上条「居るな……つーか俺もらも含めて全員外人だ」

アル「うぉーいカミやーーーーんっ!」

上条「カミやん言うな。て、アル、さん?」

鳴護「さっきはありがとうございました」

上条「アリサ?何かあったのか?」

アル「いやいやお礼なんて良いって。大した事してねぇし」

アル「前のカーゴでさ、何かパニックになって飛び降りとかやらかしそうだったから、ちっと言っただけだし」

アル「実際に車内放送でアカペラ歌って落ち着かせたのは、鳴護ちゃんだしなぁ」

上条「……そっか。アリサも戦ってたんだよな」

鳴護「私にも、出来る事があったから、うんっ!」

レッサー「あのぉ、そちらさんはどなた様で?」

アル「俺?好きなタイプは岸田メ○」

レッサー「嫌いじゃないですけどっそういうネタは!」

アル「『抱きしめる』と『岸田○ル』って似てね?アナグラムで付けたんかな?」

上条「おい!出逢っていきなりボケ倒すのは面倒臭いんだよ!ツッコミの負担も考えろ!」

アル「『堕騎士メル』ってエロマンガにありそうなタイトルじゃね?」

上条「何の話?本気で何言ってんの?」

レッサー「それだったら『打岸メル』ってした方が新しいボーカロイドっぽい響きで」

ベイロープ「黙っとけレッサー」

アル「何、って何が?」

青年?「兄さん兄さん、多分自己紹介的なものをしろ、って言ってるんだと思うよ」

上条(アルの後ろにはよく似た男の人が立っていた。顔立ちも着てる服もそっくりの双子だろう)

上条(……でも普通、兄弟で同じ服、着るかぁ……?)

上条(他にもコートを着てパナマ帽を深く被って顔が見えない人……いや超怪しいな)

上条(あと子供――か?どっちでも通用しそうな、綺麗で病的なぐらいに色白な子が一人)

上条(そういや仲間を探してるっつったっけか)

アル「うえぇ?名乗るの?マジで?ホントに?」

上条「今更出し惜しみすんなよ。つーかアルフレドって自己紹介してるじゃねぇかよ」

アル「あー……うん、まぁカミやんがそう言うんだったら、言うけどな。んじゃ改めて」

アル「俺はアルフレド、アルフレド=”ウェイトリィ”」

フロリス「ウェイトリィ……?」

アル「他人からはアルって呼ばれたり――」

ランシス「『ダンウィッチの呪われた双子』……!?」

アル「――っても言われるなぁ?ま、どっちでもいーんだけどさ」

上条「呪われた、双子?」

レッサー「下がって上条さん!」

上条「えっ?何で?」

レッサー「いいから、早くっ!こっちへ!」

アル「魔法名、『Geat013(門にして鍵)』」

上条「――待てよ!何言ってんだ!?」

アル「んでもって魔術結社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のボスもやってんだわ、俺は」

上条(その名前、確かステイルから聞いた――)

上条(――現在活発に動いてる魔術結社が、ここで繋がるのかっ!?)

アル「……ま、面倒だからぶっちゃけるとだな。俺は――」

アル「――『濁音協会』、四幹部の一人――」

アル「――お前らの、敵だよ」



――胎魔のオラトリオ・第一章 『狂気隧道』 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

ちなみに>>262の話はイギリス-フランス間のグラインダーの話はマジです

――次章予告


「世の中とは実に不思議に満ち溢れているね」

 唐突に、そう何の脈絡もなく男はそう切り出した。
 ある大学の研究室、アポイントも無しに訪ねていったにしては、少々対応がおかしかった。

「ま……かけたまえ」

 彼――こちらへ椅子を勧めてくれる男性自体は、それ程珍しくもない。
 壮年をやや過ぎたぐらい、髪の殆どが薄い銀色になりかけているぐらいの年齢の男性。
 研究職らしく、やや薄汚れた白衣へ袖を通していたが、招かざる客に対してはある意味適切か。

 人間という種族の体のピークが30代と言われるのであれば、蓄えた知識が最も活かせる年代。そう言えなくもない。
 もう少し経てば後進育成へ力を入れるであろう――成果を出していれば、その限りではないだろうが。

「……そうだね。何から話したものか……いや、最初に言っておこうか」

 非常に疲れた容貌のまま、彼は告げる。

「恐らく、私は君の期待には添えないだろう――それも、悪い意味で」

 次に壁の一部分を指し示す。そこには海の写真が幾つか、それと巨大な『顎』の骨格標本があった。
 人間ぐらいならば一噛みで半身かせなくなるぐらいの。

「サメ、だよ。軟骨魚綱板鰓亜綱」

 ……どうしたものか。全く興味がなかった。
 ここに飾ってる『顎』は見事ではある。けれどそれが仕留めた獲物を剥製にするような、そんな趣味で陳列しているのではない。
 ただ某かの研究目的なんだろうが……だから、それ故に『潔さ』が感じられない。

 そんなものは――道端に落ちていたセミの抜け殻をひけらかす子供と同じだ。

「……いや、その、なんだね。君がきっと善意で訪問してきてくれたんだろう。そこは疑っていないさ」

 興味のない話は終わらない。

「だが!だからこそ君には聞くべきなのだ!そう――」

――

まずサメ――と、言ってもエイとの違いは分かるかね?

……興味がない?……学生にも多いよ、そういうのは、良くないんだろうけどさ

……まぁ言ってしまえば、『エラが体の横についているのがサメ』で、『下についてるのがエイ』って区別に過ぎない

近親種であるのは間違いない……だからといって何なんだ、という話になるが

サメはエイを食べる。ただしエイが持ってる針は消化出来ないらしく、胃袋の中からよく出てくる

そもそもサメに分類される種は世界に約500、その中でも人を襲うのは2、30程度だ

積極的に捕食される事はない――が、逆に言えば空腹であればその限りではなくなる

……数年前、オーストラリアの海岸へ大量の鯨が打ち上げられていた『事件』があった

まぁ、これが『事件』かどうか、未だに結論では出ていないのだが

とにかく、打ち上げられた鯨を調べてみると――

――『飢餓状態』との事実が判明した。これがどういう意味か?

個体数が増えすぎたのか、それともエサとなる魚類が枯渇し始めているのか。どちらにせよ重大な問題であると私は考える

私は彼らの研究者として、一つの危惧を示されねばならない

……本来、サメも鯨も海の捕食者としては上位群に位置している。そんな彼らが、飢餓状態にあるとすれば

そうだな。一つの推論へ達せざるを得ない

『鯨が飢える海で、サメだけが肥ゆる訳がない』んだ!

食肉性の鯨とサメは、捕食する対象がほぼ被っている以上、サメも飢えるのが必然

ここで『空腹であればその限りではない』話へ繋がるんだ

……実に頭の痛い事に、ここヨーロッパでもサメによる被害は増える一方

想像してみて欲しい。現在地球上で人類にとって最も脅威となる捕食獣!サメが人類の敵へ回るんだ!

しかも連中は意図的に人を襲う!増えすぎた人を減りすぎた獣がね!

……そこで私達研究者が彼らの生態を詳しく調査する事になった、というかお鉢が回ってきたというか

前々から似たような調査はしていたのだけれど、今回は大かがりな予算が付き、実験も大かがりになったと

ふむ……まぁ、それだけの話なのだがね

……

……ただ、その、君は実験をする、サメの生態の調査をする、と言っても具体的にどうするのか、分かるかね?

捕まえて解剖したとしても、食べている物ぐらいしか分からない。だからといって話の通じる相手でもない

……で、まぁビーコンを撃ち込むんだよ。こう、空気銃を使って

定期的に位置情報、深度、対象の体温。それらを数分刻みで送られてくる

見るかい?ホラ、ここの――そうそう、これだ。この数字が地図上の座標を示し、こっちが体温――そう

36.7℃――この意味を、君は理解すべきだろう

元々調査するサメは数十種類、若い個体から老齢のサメまでサンプルは豊富だ

調査の結果、サメがどういった周期で海遊しているのか、また繁殖期の場がどこであるのかが判明した

それ自体は今まで未知数であった行動様式を明らかにさせると共に、サメからの害を未然に防ぐために役立つであろう

……

だが、しかし!中にはビーコンからの情報がおかしくなってしまう時も、あった

そうだな、これを見て欲しい。グラフにある通り、位置・深度・体温、全てが一定のままで動きがない

と言うか海水並みに低い――恐らく死んでしまったんだろうな。捕食されたか、寿命か、病気かも知れないが

ビーコンを撃ち込んだせい、も、また否定出来ないが……それは『本題』とは関係ない

この……あぁそうそう、最初に示した個体のログを遡って見てみよう。分かるかい?

途中、サメの体温――約30℃前後から、一度18℃前後まで下がってる。大体数分の間だ

この後、急に36.7℃へ跳ね上がり、以降その前後をキープし続けている

次はこちらの……あぁ深度のグラフでは水深1900mの所だな。相当深い所が現場だったようだ

以上の情報から、このサメは別の何かに捕食され、ビーコンごと喰われてしまったのだ、と私は判断している

何故ならばこのサメは全長4mを越え、また人間の年齢で言えば壮年の雄。言わばこの海域のヌシとも言える存在だからだ

これ以上となるとオルカぐらいしか無い。また実際に現在も観測され続けている体温も、魚類ではなく哺乳類のものだ

従って犯人はオルカしか有り得ない――の、だが、な

確かに自分達よりも大きい獲物を襲う事はあるし、ホホジロザメの天敵でもある。それは理解しよう

よってサメ殺しをしたのはオルカであるのは疑いようもない!私も同意してはいたんだ!

けれど、こっちの、そう!現在位置を示すグラフが異常な値を出してきた!

ここだ!ここが海岸線の位置!そして深度がプラスになっているだろう?

ビーコンは海抜1mの所から時速4kmで移動している!分からないか!?

……

これが何を示しているかと言えば――

――サメを殺した『犯人』が、陸へ上がって来ているんだよ!

――

 さて、どうしようか、酷く迷う。

 少々タガが外れた――か、緩んだ――老人へ対し、笑うのも礼を欠いている。
 だからといって知らんぷりするのも誠実ではないだろう。

 ならば、だ。

「――安曇(あずみ)は謝らなければいけない」

 そう安曇は黙礼すると、片手を口へ突っ込み、ごぎゅっ、と顎を外した。
 続けて喉、食道、胃を人間ではないそれへ変化させ、手探りで探す。

 すると、消化しかけたサメの骨に混じって、棒状の何かが手に触れる。

 ギュボッ。

 人体構造を無視し内容物を引き抜く。ずぞぞぞ、と食道を逆しまに通る際に出血する。
 それは1m程の黄色いビーコン。目の前の研究者がサメへ撃ち込んだ、大切な実験器具の筈だ。

「安曇はこれを返そう。本当にすまなかった。うん」

「――ひっ!?」

 短い悲鳴を上げて後ずさる彼。

「安曇に他意は無かった、と言って信じて貰えるだろうか。証明も何も難しくはある」

 『必要悪の教会』に目を付けられている。そう『双頭鮫』から連絡が入ったのは少し前の事。
 空を行っても目立ちすぎる安曇の容姿は隠しきれるものでは無く、仕方なしに『海中』を進む事にした。

 日本からの船便へ――文字通りの意味で――飛び乗り、ドーバー海峡で途中下車する。
 その途中、少々腹が減ったので通りかかった魚を食べた。それだけに過ぎない。

 安曇は少し首を傾げながら、改めてビーコンのモニタを覗き込む。

「――あぁ確かに。天球座標軸は『ここ』を表わしているな」

 GPSは”ここへ来る前に調べた通り”の数字と一致していた。

「安曇は気にしていなかったのだが、まぁアルフレドが、な?」

 消化液で滑ったビーコンを床に置き、安曇は彼へ近づいた。

「『落とし物は落とし主へ!』と、言うものだから。安曇は返しに来た」

 しかし問題も生じてしまった。

「すまないが、安曇が魔術師であると知られるのは少々宜しくない……らしい」

「わ、私を殺すのか……っ!?」

 大学で教壇へ立つ身でありながら台詞は凡庸だった。少しばかり失望しながら、安曇は笑いもせずに話しかけた。

「心配ない、無駄にはしないから。あなたたちの好きな、りさいくる?だかの精神でもあるように――」

 逃げ出そうとする彼を捕まえ、その首筋に指を這わせる。

「『――イタダキマス』」

「………………え?」

 ゴキュバリバリバリバリバリバク……ッ!!!

 研究室に物騒な音が暫し響き、人類史のタブーを意図も容易く破った安曇は、口元を拭いながら、あぁ、と思い出して呟いた。

「教授、あなたは『現在地球上で人類にとって最も脅威となる捕食獣』と言ったな。だがそれは間違いだ」

「サメは決して”それ”じゃない。水という制限がある限り、彼らは鎖の着けられた囚人に等しい」

「自由自在に動けない『脅威』など、どこが脅威であろうかよ」

「ならば虎が『脅威』だと?またはサバンナに住まう獅子が人類にとって『脅威』なんだろうか?」

「――否、それも、否だ」

「彼らは食物連鎖に最上位にはある。然れどもその枠を脱していない」

「言わば『限られた世界の中で脅威』となり得るが、そんなものはサァカスの檻に近づいた人間が喰われてしまう程度」

「それは違う。脅威とはそんなものではない」

「人に近しく、人に親しき、だが決して相容れない存在」

「都市伝説のように姿を見せず、対面した時には捕食されているのと同義――」

「――”それ”は『安曇』の事なのだよ、うん」



――次章『竜の口』予告 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

来週からフロリスさんメインで

乙でっす??

――フランス 某放送局

司会者『――はい、では続いてゲストのコーナー』

司会者『次世代を担うアーティストを紹介するってぇ主旨ですが!今日は何とはるばる学園都市からお客さんだよ!やったねチクショウっ!』

司会者『うっさいな!さっさとゲスト呼べってないでしょお!そんなにブーブー言うなよっ高木かっ!?……え、知らない?』

司会者『Great Old Five(ザ・ドリフターズ)の一人に、高木ブーという偉大なコメディアンが――』

司会者『死ねとか言うな!お前らに言われなくたって死ぬわ!長生きしてから死ぬわ!』

司会者『バツ一だけどねっ!一人娘も浮気しくさったクソアマに取られたけどなっ!それでも精一杯生きてるわ!』

司会者『つーかパパは頑張ってるからな!だから新しい野郎の事をそう呼んじゃダメだからねっ!』

司会者『――て、おいスタッフなんで止めやめよせ――』

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

……

司会者2『――はい、で、本日のゲストは学園都市からお越し頂いた――』

レッサー『ハーイどうも「Frog Eater(カエル食い野郎)」の皆さんはじめましてっ!そしてサヨウナラっ!』

レッサー『テロとの戦いに「ミーは怖いザンス」と逃げを打った、サレンダーモンキー(土下座するサル)の方々っ、生きてて楽しいですかー?』

レッサー『世界がテロと戦ってる時にお仕事しないで食べるご飯は美味しいですかねー?イタリア料理をパクったフランス料理、大人気ですしねー」

レッサー『それでもまぁ前サルコジ大統領は史上最悪の大統領で済んだんですけど、オランドみたいな俗物が国のトップって!』

レッサー『ねぇどんな気持ち?いまどんな気持ち?同性婚を国民投票せずに通して、EU議会選挙で保守政党に第一党を取られたのってどんな感じですかー?』

レッサー『こないだフランス国営放送――つーかここ見てたら、「オランド首相が世界の中心になる日がやってきました」ってジョークカマしてたんですけど』

レッサー『要は4時間以内に、エリザベート女王・ロシア大統領・アメリカ大統領と会談するっつーニュースでして』

レッサー『それどう見てもコウモリ野郎ですから!残念っ!』

レッサー『しかもサミットでアメリカとロシアへ良い顔するため、「二回昼食を取ったオランド」なんて書かれてんですけど、正気なんですか?』

レッサー『てーかBNPパリバ――あー、テニスのマスターズ主催社っつった方が良いですかね?まぁほぼ最高峰の大会運営してるフランスの銀行』

レッサー『パリバがイランやスーダンなどの制裁対象国相手に取引やってたらしく、100億ドル強(1兆1000億円強)の罰金払え、って言われてんですよ』

レッサー『オランド首相はそのケツを拭くために、クツを舐めに行ったってだけの話です、えぇ』

レッサー『加えてカエル食い野郎は強襲揚陸艦をロシア制裁決議ブッチして売ろうってぇハラなんですよね――この卑怯者』

レッサー『流石はフランスさん!現実を把握する能力が無く、チラ裏に書いた妄想を事実だと思い込む異能力!それに痺れる憧れる!』

レッサー『テロ支援国家を援助しているサレモンの皆さーん、頑張って下さいな。頑張ってフランスのGDPの5%超を差し出して下さいねー?』

レッサー『てかまた負けちゃうんですかね?フランスはまたまたまたっ負けちゃうんですかねぇ?』

レッサー『ガリア戦争で負けて、百年戦争でどうにか引き分けて、イタリア戦争で負けて、ユグノー戦争で負けて、三十年戦争で同盟国に潜り込んで、ネーデルラント継承戦争で引き分けて、オランダ侵略戦争で引き分けて、アウクスブルク同盟戦争で負けて、スペイン継承戦争で負けて、ナポレオン戦争で負けて、普仏戦争で負けて、第一次・二次世界大戦で同盟国に潜り込んで、第一次インドシナ戦争で負けてっ!』

レッサー『ファシスト野郎に首都が占領されて思いっきりナチスへ荷担していたのに、同盟国に取り戻されてからあっさり掌返した弱虫のみっなさーん!』

レッサー『戦後「あ、これじゃ流石にマズくね?」つってレジスタンスを持ち上げたのいいけど』

レッサー『実際には「軍人以外の戦争行為」かつ「戦闘地域以外でのテロ行為」であって、明らかな戦争犯罪でー』

レッサー『しかも一部のバカが「レジスタンスする俺超カッコいい!」と勘違いしちゃったせいで民間への圧力が強化されちゃったヒトー?』

レッサー『対テロ戦争で敵前逃亡したSurrenderMonkeysのみなさーんっ!生きてて楽しいですかーーーーーっ!?』

レッサー『あ、それはさておき「濁音協会」さんは潰しますんで、そこんとこヨロシク』

レッサー『あースッキリした。ってあなた達どなたさん――って離して下さい!私にはブリテンの未来を担う旦那様以外に触らせるつもり――』

レッサー『てか酷いコトするつもりでしょーが!エロ同人みたいに!……あ、嘘嘘、ジョーダンですってば、はい』

レッサー『いやですから頭を鷲掴みにはやめて下さぁwせdrftgyふじこlp』

……

アナウンス『暫くお待ち下さい』

アナウンス『……尚、以上の事をフランス人へ言うとマジギレされます』

……

司会者2『――はい、そんなこんなでARISAさんです。こんにちわーっ!』

鳴護『……え、はい、どうも、こんにちは』

司会者2『今のは、そのどちら様で……?』

鳴護『知らない人です!「生放送なんで連中に宣戦布告かましてやりましょーよ!」とか言ってましたし!』

マネージャー『てか95%フランスの悪口じゃねぇか』

鳴護『これ生放送だよね?色々とマズいんじゃ……?』

司会者2『さっきから抗議と絶賛する電話が鳴りっぱなしだと受付からクレームが来ています』

司会者2『でも一番多いのは「さっさとARISA出せ」だったんで、まぁ出しとけ、みたいな』

鳴護『えっと……恐縮、です?大丈夫かな?翻訳されてる?』

司会者2『学園都市の翻訳アプリ、きちんと動いてるみたいなので問題は無いですよ』

司会者2『と言うかそちらは?さっき同じく意味も無く乱入した一般の方、ではないですね』

マネージャー『かみ――マネージャーです!ARISAの専属の!』

司会者2『ずいぶんとお若いですねー、東洋人はまぁこんなもんでしょうが』

司会者2『さて!では何から――あぁ、台本これ?いいの?』

司会者2『まず「エンデュミオンの奇蹟」で有名なARISAさんですが、つい先日ユーロトンネル崩落事故でも見た、という噂があります』

司会者2『パニックになって、列車から飛び降りようとした人達を助けるために、車内放送で歌ったとか』

司会者2『その辺りの真偽の程はどうなんでしょうね?』

鳴護『あ、はい。私もユーロスターへ乗り合わせていた所までは事実です』

鳴護『ただ、それ以外はフィクションかなーと』

司会者2『やってらっしゃらない?』

鳴護『……その、私も正直憶えていない、と言いますか。落ち着こうとするので精一杯でしたので、あまり……』

鳴護『誰かを落ち着けるために歌を歌う、のは理解はしますけど……でもそれはスタッフの方が判断すべき事で、第三者が割って入るのは良くないと思います』

司会者2『でもですよ?実際にARISAさんなら「また歌が奇蹟を呼んだ!」みたいな感じで――』

マネージャー『すいません。その質問はそれぐらいで』

マネージャー『今も怪我で入院されている方も居ますし、あまり不謹慎なのは』

司会者2『ですかねぇ?そも現代であれば動画か写メの一つでも残ってそうなもんですしね』

司会者2『無い、って事はそんな事実存在しなかったんでしょうか。失礼しました』

マネージャー『(良い仕事してんな「黒鴉部隊」!)』

鳴護『(お姉ちゃん、その……いつも、やってるから)』

鳴護『(カメコさん?とかのアップロードする動画を削除したりとか)』

マネージャー『(予想を裏切らない過保護っぷりですよねっ!あと削除したり”とか”の内容が気になるが!)』

司会者2『では続いて――視聴者から質問が届いています。えぇと――』

司会者2『「――ARISAさん、こんにちはっ!いつもアルバム買ってます!」』

鳴護『こんにちはー、ありがとー』

司会者2『「あたしはARISAさんと同じ夢を持っています。その夢に向かって努力を続けているのですが、どのようにすればいいでしょうか?」』

司会者2『――あー、この方もARISAみたいになりたいようですねー』

鳴護『ありがとうございます』

司会者2『まぁジュニアハイスクールからシンガーデビューして、一年経たずにEUツアーですからね』

司会者2『それはもう大成功している、って訳なんですが』

鳴護『そんな事ありませんよ。私なんてまだまだ、っというか全然でっ』

鳴護『むしろどっちかって言えば、その、ダメダメな方ですからっ!』

司会者2『そう、でしょうかね……?』

マネージャー(……あれ?何か話が噛み合ってなくね?)

マネージャー(『ARISAみたいな歌手になりたい!』って話なんだよ、な?)

司会者2『まぁいいや、とにかく、ARISAさんと同じ夢に向かってる、P.N「友達はボール!」さんへアドバイスをお願いします!』

マネージャー(友達少なっ!?)

鳴護『そうですねぇ、まず大切なのは――笑顔、だと思います!スマイル!』

司会者2『笑顔、ですか?』

鳴護『誰だって、どんな人だって、キツくて、辛くて、嫌になっちゃって』

鳴護『怖くて怖くて仕方が無い時、逃げちゃいたいなって事ありますよね?』

鳴護『そんな時にはですねっ、こう優しくお姫様だっこなんかして貰って』

鳴護『「間一髪か」みたいに、笑いかけられたら、うんっ!』

司会者2『え、あ、はい?』

鳴護『他にも相手を信じる事!それだけで、もう充分ですからっ!』

司会者2『相手……?』

マネージャー(やっぱ、何か食い違ってるような……?)

司会者2『えぇっと、ARISAさん?それじゃ、具体的に何か言ってあげて下さい』

鳴護『取り敢えず、はい、頑張って機会を作る事だと思います!遠くからじゃなくって、直接逢う!これ、大事です!』

鳴護『後はちょっとした事でもきちんとお話ししたり、他にもですね――』

鳴護『なんか、少し触ってみる、みたいなの?白井さん――友達が言ってたんですけど、タッチを増やしてみる、とかって』

マネージャー(え?何で白井の名前が出てくんの?)

鳴護『――とにかく!ライバルが居てもメゲないで!頑張りましょう!ねっ?』

司会者2『……あの、すいません?一体何のお話をしてるんでしょうか?』

鳴護『はい?叶えたい夢の話ですよね?』

司会者2『念のために聞きますけど――ARISAさんの、夢というのは?』

鳴護『お嫁さんですけど?』

マネージャー『空気読めよっ!?っていうか空気読みなさいよっ!』

マネージャー『普通分かるじゃんか!?何でこの「友達はボール!」さんがアリサに結婚相談持ちかけんだよ!?』

マネージャー『つーか音楽番組に呼ばれて婚活聞かれる筈がねぇさっ!なあぁっ!?』

マネージャー『そもそも話の内容が俺の話であって恋愛じゃねぇだろ!』

鳴護『……当麻君も、もう少し空気読んでもいいんじゃないかな、と思いました!マル!』

マネージャー『俺関係ねーじゃんか!?……ないよね?悪い事してないもんね?』

司会者2『……チッ』

スタッフ『……チッ』

観客『……チッ』

マネージャー『何かスタッフと観客さんがおもっくそ舌打ち始めたんだけど、これ俺が原因じゃないよね?』

マネージャー『贔屓のチームが浦和スタジアムで試合する時の雰囲気になってんだが、俺には責任ないよな?』

鳴護『……むしろ取って欲しい、っていうか?』

マネージャー『……はい?』

司会者2『――はい!と言う事でリア充は死ねば良いと思いますが!そろそろお時間です!』

司会者2『ではARISAさん、一言頂いてから歌へ行きましょうか!はいどーぞ!』

鳴護『え、あ、はいっ。そうですねー、んー?』

鳴護『鈍感な相手でも、追い詰めれば大丈夫!きっと何とかなるって!』

マネージャー『宣伝しよう?それ歌番の曲の前振りで使う言葉じゃないよね?』

鳴護『歌はARISA、曲は「笑顔の向こうへ」。英語verで、どぞっ」

マネージャー『ねぇ俺の話聞いてる?つーか柴崎さんこんな無理ゲーいつもやって――』

○To the other side of the smile(笑顔の向こうへ)

A gentle voice affects, and my mind is shaken.
(優しい声が響き、私の心を揺らす)
It is scary and more than others slow to be damaged by good at vomiting of the lie nevertheless.
(嘘を吐くのが得意で、だけど傷つくのが怖くそのくせ人一倍鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to end it sadly. Because I am on the side.
(悲しい微笑み、終わらせたいよ。私が側にいるから。)
A vague smile unexpectedly strikes it ..me...
(曖昧な笑みは私を不意に殴りつける。)
You in the other side of the smile that it wants you to teach
(教えて欲しい、その笑顔の向こうにある君)

It grieves in a sad voice, and my mind is tightened.
(悲しい声で嘆き、私の心を締め付ける。)
The distances are long and slower well in the good laughter than anyone nevertheless.
(上手く笑うのが得意で、だけど距離は遠くそのくせ誰よりも鈍い。)
There is no other way any longer.
(もうしょうがないよね?)
I want ..seeing with a smile.. to start gently.
(優しい微笑み、始まりたいよ。)
A straight glance that I am on the side makes me puzzled.
(私が側にいてあげるまっすぐな視線は私を戸惑わせる。)
I want you to tell it. You in the other side of the smile …….
(伝えて欲しい。その笑顔の向こうにある君……。)

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー) 『N∴L∴』vs『S.L.N.』

上条「……なに?」

アル「いやいや難聴のフリは止めよーぜ?」

アル「現実を把握出来ないってんなら、そのまま何も知らないままで死んじまいな。そうした方が幸せだぜ」

上条「敵、なんだよな……?」

アル「だからそう言ってんじゃねぇか」

上条「『濁音協会』じゃ――!」

ウェイトリィ弟「……何?兄さん、説明してなかったの?」

ウェイトリィ弟「つーかだったらなんで一人で接触してたの?どこで遊んでたの?」

アル「何かアレじゃん、よくあるパターンの『こいつ絶対敵だろ!』みたいな正体不明の登場人物ゴッコやってました!」

ウェイトリィ弟「取り敢えず殴っていい?」

レッサー「『双頭鮫』――確か、シチリア系マフィアの魔術結社だったと記憶していますが」

レッサー「そちらさんが出てくるってぇのは、一体どういう訳でしょーかね」

フロリス「クトゥルー教団はハッタリ、つーか誤魔化しでそっちが本体だってオチ?安易だねー」

アル「……んー?何か誤解されてるみてーだから、最初に名乗って方が良いかな」

ウェイトリィ弟「あ、そちらのは結構ですよ。『ハロウィン』で盛大に騒いだようですし、お噂はかねがね」

レッサー「いやぁそれほどでも」

ランシス「多分誉めてない……」

フロリス「あとレッサーは速攻で捕まりそうになったのを反省した方がいーよ」

ウェイトリィ弟「いやいや。『必要悪の教会』を出し抜いたんだから、大したもんですよ」

アル「――で、俺が『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のアルフレド、こっちが最愛の弟で愛人のクリストフ」

クリストフ(ウェイトリィ弟)「兄さん止めよう?いい加減ホモネタは自粛しないと」

クリストフ「あと別に『愛』ってつけば、なんでかんでもポジティブな単語にならないからね?日本語難しいけどさ」

レッサー「二番目の形容詞をもっと詳しく!」

上条「お前も超反応するなよ」

クリストフ「まず『壁ドン!』から――」

上条「よく分かんねぇけどそれ以上は言うなっ!よく分かんないけどもだ!」

上条(――みたいな、ふざけた会話しながらも隙が無い)

上条(俺はアリサを背後に庇い、レッサー達はジリジリと間合いを詰めている)

アル「こっちのちっこいの、男だか女だかわかんねーナマモノは『野獣庭園(サランドラ)』の阿阪安曇(あさかあずみ)」

安曇(少年?)「逆。安曇は『安曇阿阪(あずみあさか)』と言う。見知りおくと嬉しい」

上条(色素の薄い少年――は、身じろぎも愛想笑いもしない。一見陽気なウェイトリィ兄弟とは対照的か)

上条(赤く澄んだ瞳を見てると、底の知れない深淵を覗いているような……確か、『深淵を覗くものは、深淵からも覗かれる』んだっけか)

アル「面倒臭い名前着けてんじゃねーよ。外人か!」

安曇「名前を付けたモノへ言って欲しいな、外つ国の魔術師」

クリストフ「……バカは放って最後にこちらが『団長』さんです。本名は知りません」

団長「……」

上条(四人目は更に異質だった)

上条(この季節にトレンチコーチを着て、中折れ帽を目深に被る長身の人間)

上条(それだけでも不審者まっしぐらなのに、彼を危険だと思わせているのは――)

上条(頭全体をすっぽりと覆う『鉄仮面』)

クリストフ「『殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)』のボス、というか団長をやってらっしゃいます。無口ですけどね、兄さんにも見習って欲しいぐらいで」

上条「……待てよ、お前ら!」

アル「だが断る!」

クリストフ「兄さんはちょっと黙っててくれないかな?反射的にボケる癖止めよう?」

上条「ステイルから聞いてたんだよ、俺は!今頻繁に動いてる魔術結社の話を!」

上条「『野獣庭園』も『殺し屋人形団』も!『双頭鮫』だって聞いてた!」

上条(『どうせこの中に一つ”アタリ”がある』みたいなオチだと思ってたのに――)

上条「それが『全部敵だった』って事かよ!?」

クリストフ「やっぱり僕たちの敵はイギリスさんですかねぇ」

アル「だーねぇ。その理解で合ってると思うぜ」

レッサー「自分達の組織の身元バレるのが怖くて偽装してました、でファイナルアンサー?」

アル「いやいや、そっちが勘違いしてたんだろ。つーか俺ら全員揃って出て来たんだから、隠すも何もねぇよ」

アル「――俺達が『濁音協会』だ」

ベイロープ「幹部、幹部ねぇ?『目撃者は全員ぶっ殺す』、みたいな剣呑さを感じるのよ」

安曇「話し合いによる交渉が決裂すれば、武力での交渉を始めよう」

安曇「安曇は争いを好まない。が、必要であれば否やはないぞ、うん」

アル「待て待てカミやんの疑問に答えてねーだろ。まずはそっちから片付けようや」

アル「こっちも誠意を示してるって理解してくれよ、なっ?」

フロリス「オンナノコ一人捕まえるのに、大のオッサンどもが一般人巻き込むのが誠意ねー?」

ランシス「『誠意』って言葉も軽くなった、よね?』」

アル「だよなぁ?笑っちまうよな?」

クリストフ「兄さん僕たちがdisられてるって気づいてあげて?ほら、ボケでスルーされると嫌味言った方が気まずくなるんだから」

クリストフ「言えた義理じゃないでしょうけど、一応こっちも幹部全員揃えて顔合わせ、みたいな感じですし」

クリストフ「今でも問答無用で襲撃しない辺り、話し合いの余地は残してる――と思って頂けだらな、と」

ベイロープ「……だから!仮にそっちの四人が結社のボスだったとしての話」

ベイロープ「それ要は『最大戦力が一堂に介している』のよね。警戒して当然でしょうが」

クリストフ「そうですが、まぁ?こちらは『味方以外は全て敵』状態、イギリスさんもフランスさんも敵な訳ですし、はい」

クリストフ「ぶっちゃけ事故直後のホームなんて、囲まれてボコられる可能性もですね、えぇ」

上条「それは!お前らがユーロスターに攻撃を仕掛けたからだろうが!?」

上条「大勢巻き込んで!敵を作らない訳がない!」

アル「くっくどぅーどるどぅー?」

クリストフ「直訳すると、『今日はよいお天気になりそうですよね?』だ、そうです」

上条「……こいつら……!」

レッサー「(落ち着いて上条さん!『これ』がクトゥルーなんですよ)」

レッサー「(一見マトモそうでマトモじゃない、異常そうで中身はもっと狂ってる。それが彼らです!)」

上条「(じゃあどうしろって言うんだ?)」

レッサー「(様子見と時間稼ぎですかね。向こうさんの言う通り、こっちはホームであっちはアウェイ)」

レッサー「(フランス当局が囲むのを待つのがベターでしょうな)」

上条「(ベストは?)」

レッサー「(駅のホームなのにアウェイとはこれ如何に?)」

上条「(取り敢えず思い付いたままボケるのは止めよう?俺の知り合いの可愛いけど残念な子にも言いたいけどさ)」

ランシス「(実家へ戻ったら、ご近所の誰それが、親戚の誰々が続々と結婚した話を聞かされ)」

ランシス「(『ホームへ帰ってきたのにアウェイだった!』……如し!)」

上条「(お前も無表情のまま乗っかってくんな!?てかなんだよその身につまされるような嫌な話は!)」

レッサー「(私らが今ここでぶっ潰すのが、一番後腐れは無いでしょうねぇ)」

上条「(やれんのか)」

ベイロープ「(――勝てねぇ喧嘩しかしねぇのかよ、マイ・ロード?)」

上条「(ベイロープ……)」

レッサー「(あ、あれ?いつの間に上条さん呼び捨てになってるんですか?)」

ベイロープ「(勝ち負けじゃなくて、必要だから、する)」

ベイロープ「(一度立てて誓いを破るな!それはあなたが救ってきた人を裏切る事にもなるのだわ)」

上条「(……悪い)」

ベイロープ「(弱いのは罪じゃない。弱さにつけ込むのが、罪よ)」

ベイロープ「(あなたが暴虐に腕を振り上げるなら、私はその手に握られた剣になる)」

ベイロープ「(怖れるな!あなたがどこの戦場でノタレ死んでも、私がその側で死んでやるから!)」

上条「(……あぁ!)」

レッサー「(あのぅ、すいませーん?ちょ、ちょっといいですかねぇ?)」

レッサー「(ベイロープがヅカっぽい呼び方をしてるとか、妙になーんか通じ合っちゃってるみたいなんですけど!)」

レッサー「(そこら辺の事情ですね、レッサーさんにちょぉぉぉっと話して見やがれ、みたいな)」

ベイロープ「(――レッサー)」

レッサー「(は、はい?)」

ベイロープ「(ごめん)」

レッサー「ごめんってなんですか!?ごめんって!?」

レッサー「いやそりゃ『ゴメンナサイ』の略だって事ぁ知ってますがね!そういう事じゃなくて!」

レッサー「なんで今!今今今っ!謝罪の言葉が出て来たかってぇ話ですよえぇもうっ!」

レッサー「密室!閉ざされた空間!若い男女!絡み合う視線!乱れた衣服!Dカップ!」

レッサー「このキーワードが表わしているものとは――ッ!!!」

フロリス「レッサー、声大きいよ」

ランシス「……あと後半は、ほぼ捏造」

安曇「交尾だな、うん」

アル「この安曇さん意外とノリノリである」

団長「……」

クリストフ「すいませんすいませんっ!真面目にやりますからっ帰ろうとしないで!」

クリストフ「ほら上条さん、今のウチに質問をどうぞ!団長さんがマジギレして見境無く暴れ出す前に!」

上条「……頭イタイな、別の意味で」

フロリス「フリークス程タチが悪いんだよねー、何をするか分からないから」

上条「魔術師なのに?」

フロリス「知識があんのと知能があんのは別問題じゃんか。何言ってんの?」

レッサー「ベネッ!その態度ディ・モールト宜しいですよっ!」

レッサー「フロリスはデレのないツンの姿勢のままでお願いします!」

ランシス「それ、ただの態度悪い人」

鳴護「――どうして」

上条「アリサ?」

鳴護「どうして私なんですかっ!?」

鳴護「私なんて、ただの無能力者なのに――なんで!」

アル「うーむ。まぁ核心的な質問、つーか疑問だよなぁ、そりゃ」

アル「てか予告状送ったじゃん?読んでねぇの?折角書いたのにさ」

上条「……あの電波10割のポエムをどう理解すりゃよかったって?」

鳴護「関係ない人達を一杯傷つけて――そこまで私に拘って!」

鳴護「そうまでしてやりたい事って、一体何なんですかっ!?」

アル「――『シィ』の帰還だ」

上条(『シィ』……?もしかして『C』か?)

上条(クトゥルーの、『C』)

アル「ルルイエで死して夢見る『シィ』、どうせだったら起こしてみようじゃん?的な」

鳴護「……えと」

レッサー「すいまっせーん、あの質問なんですけど良いですかね?」

アル「どうぞ」

レッサー「どうもです。あ、もしかしたらキツい聞き方になるかもですけど、他意はありませんから、あんま気を悪くしないでくださいな」

レッサー「つーか多分私ら一同を代表しての疑問なんですけど――」

レッサー「――頭おかしいですよね、あなた達?」

アル「実は俺らもそうなんじゃないかと薄々思ってたりもする」

ランシス「薄々なんだ……?」

上条「自慢するような事じゃねぇ!」

フロリス「クトゥルーなんて居るかどうかも怪しいイカを、何でまた?ムシャクシャしたー、みたいな?」

ベイロープ「第一、『帰還』を果たしたとして人間全員発狂エンドなんでしょーが」

アル「問題じゃない。存在するかしないか、『帰還』した後にどうなるのも、関係ない」

アル「だって俺達は答えを持ってない。証明する証拠を出すのも無理だし、帰還した例が無いんだから、どうなるかまでは保障出来ない」

アル「――ま、『今までの世界』なんてのが吹っ飛ぶのは確実だろーがな」

レッサー「『やった事がないから試してみよう!』ですか?まぁたタチの悪いどこぞの学園都市並の発想ですなー」

ベイロープ「また魔術師らしい自己中が……」

上条「魔術師連中こんなんばっかかよ!」

クリストフ「言わせて貰えるんでしたら、『グレムリン』のやろうとしている世界も大差ないでしょうに」

クリストフ「あっちは新世界の構築へ対し、僕らは『シィの顕現』」

安曇「むしろ安曇はこちらの方が穏当だ、と考えているな」

フロリス「だからクトゥルーがアルハザードが幻視た通りであれば、全員狂うんだってば」

アル「……でも、まぁ俺達は狂っちゃいるが、分別を持ってない訳でもないんだわ」

アル「だからこうして『お願い』へ来たんだよ」

上条「信用出来ねぇ――第一!」

上条「『ショゴス』みたいなバケモンけしかけといて、何が『お願い』だよ!脅迫の間違いじゃねーか!」

クリストフ「ですから、そこはですね?ウチの愚兄がチョロチョロしてましたよね、あなた方の周りを」

クリストフ「でもって実際に上条さんと学園都市の能力者、そして僕たちにとって最も脅威だった『多脚戦車』が分断できて、隙だらけでした」

クリストフ「手薄になった時点で鳴護さんを奪う事はしなかった、そこを考えて頂ければ」

アル「あ、ごめん。それ最初の計画じゃそうだったんだけど、『N∴L∴』の居残り組にガードされてて無理だったんだわ」

クリストフ「兄さんその説明要るかな?せっかくブラフかましてるんだから、少しぐらいは話し合わせてくれたっていいじゃない?」

フロリス「そらそーでしょ。あんだけ怪しいシチュでARISAの側離れたら、ベイロープに百叩きされるよ」

ランシス「……って、言ったのは私。フロリスは飛ぶ気満々……」

フロリス「ヤだなぁ、そんなことなっいてば」

安曇「と、いうよりもだ。アルフレドが『アレ』を制御出来なくなって逃がしたのが、今回の発端だと安曇は聞いている」

クリストフ「……あの、すいません。安曇さんも?ちったぁ黙ってろ、な?」

レッサー「予想以上にグダグダですねぇ」

アル「――と、言う訳で俺達の誠意は伝わったと思うが!」

上条「伝わってないよ。映画のキャッチコピーの『等身大の○○』ぐらい伝わってこないな!」

アル「てな感じで鳴護アリサ、渡してくんねぇかな?『穏便』に――」

上条「断る」

アル「――頼んでるウチに、って台詞完全に喰われちまったんだが、まぁいいや」

上条「お前らみたいな人の道踏み外した連中に、アリサ――いや、アリサじゃなくてもだ!」

上条「真っ当に生きてる人間を、はいそーですかって渡せる訳がねぇだろ!」

クリストフ「ですよねぇ?ほら、兄さん言ったじゃない。最初はもっと穏便に行こうって」

安曇「無理だろう。『神漏美』となれと言っても、うん」

上条「かみろみ……?」

クリストフ「まぁ仕方がない――でしたら、EUのあちこちで『アレ』が活動しますけど、それでも構いませんね?」

上条「……テメェら、バカにしてんのかよ!?」

アル「うんまぁぶっちゃけしてるけど」

クリストフ「兄さん、ぶっちゃけすぎ」

鳴護「あたしが犠牲になるんだったら――」

レッサー「――とか、は考えない方がいいですよ、鳴護さん」

鳴護「え」

レッサー「もしも、『それ』が出来るのであれば最初からしています。テロを起こしておいて、その後堂々と身柄を寄越せと言ってきたでしょう」

ベイロープ「そもそも、あそこで出し惜しみする必要はなかった筈よ。計画が杜撰すぎる」

クリストフ「どうでしょうねぇ、それは。たまたま制御不能だっただけで、本当は似たような『アレ』を何体も有している可能性は?」

クリストフ「指向性を持たせた襲撃には適さない。が、無差別攻撃であれば出来る――なんてのはどうですか?」

アル「うんまぁぶっちゃけハッタリなんだけどな、全部」

アル「そもそも『アレ』が量産出来たり、遣い勝手がいいんだったら、もっと別の所でテロやってんよ」

クリストフ「兄さん?後でお話があるからね?ご飯食べても寝ちゃ駄目だからね?」

アル「……よせよ、周りが見てるじゃねぇか」

クリストフ「やめてくんない?その『実は兄弟でイケナイ関係なんです』みたいなリアクション止めてくれないかな?」

クリストフ「ってかいい加減にしないとぶっ飛ばすよ?」

レッサー「出来れば動画を所望します!!!」

アル「ダメダメ。俺は独占したいタチなんでね――っていうかまぁ、ネコなんだけど」

レッサー「――で、まぁまぁどうします?こっちとそっちの利害は対立している、ですが」

アル「なんだかんだ言ったところで。解決方法は簡単だし。しかもそっちは一致してんだわな」

レッサー「でっすよねぇ?お互いにしたい事は同じ、って言いますか。まぁまぁ?」

レッサー・アル「「あっはっはっはっーーーーーーっ――」」

レッサー・アル「「――ここで、潰す――ッ!!!」」

――回想 ブリュッセル南駅(ベルギー)

アル「俺の壁になれ!盾一号二号三号!」

団長「――」

安曇「安曇はきゃら的に四号が好きだ、うん」

クリストフ「真面目にっ!皆さんどうか真面目にお願いしますよ!特に兄さん!」

上条(アルフレドは魔術詠唱――だが、その前に潰す!)

上条(キレてたのはレッサー――だけじゃない!)

上条(とっくの昔に会話を諦めた俺はずっと突っ込むのを抑えてた、っつーか!)

上条(『取り敢えず』で人殺すような相手、一回はぶん殴らないと気が済まない……ッ!)

上条(レッサー達よりも先んじて、俺がアルフレドへ殴りかかる!――しかし!)

団長「――」

上条(鈍重そうな図体には似合わない素早さ、どっかの学園都市の機械兵士さながらのスピードで『団長』が踏み込んでくる!)

上条「まずはっ、お前からだっ!」

上条(体格からすれば建宮やアックアよりもデカい!どう見ても直接戦闘向けの魔術師――て、色々矛盾してるような気がするけど!)

上条(だがデカいだけあってモーション自体は大きい!動作自体はまだ何とか見切れる――かっ!)

団長 ヒュゥッ!

上条(振りかぶった拳を紙一重で避け――)

ズゥン……ッ!!!

上条「んなっ!?」

上条(コンクリが軽く陥没程度の威力!?アックアのメイス並の威力じゃねぇか!)

上条(素手で受けたら即戦闘不能!あんだけの馬鹿力で捕まれてもアウト!)

上条(……ま、でも?慣れっこなんですけどねー、こっちは)

上条(こういう威力重視の直接戦闘タイプは大抵過信する事が多い!)

上条(高い攻撃力と防御力!どっちも魔術で物理法則無視してんだろうが――)

上条(――『右手』なら!)

上条「がら空きだっつーの!」

団長「――!」

上条(俺はそのまま団長の背中側から一撃を――!)

上条(入れよう、として『目』が合った)

安曇「――やあ、安曇は同情を禁じ得ない」

上条「背中に――張り付いて!?」

安曇「『綿津見ニオワス大神ヘ奉ル(しょくじのじかんだな)』」

安曇「『同胞ノ血ヲ以テ盟約ト成セ、我ラガ安曇ノ業ヲ顕現セン(では、いただきます)』」

上条(かぱ、と安曇の口が開く。背丈相応の小さな口が開く、開く、開く)

上条(――顎が外れ口は倍に広がり、中にはワニのような牙がビッシリ生えそろっ――)

ギャリギャリギャリキ゚ャリッ!

フロリス「――ぼーっとしてんなジャパニーズ!精神にクる攻撃すんのは『アレ』で体験済みでしょうが!」

上条(文字通り『呑まれ』そうになった俺を、フロリスの『槍』が安曇を一閃!軽い体は弾き飛ばされる!)

上条「すまん!恩に着る!」

フロリス「それよりっ前前っ!?」

団長「――!」

上条「クソっ!」

上条(立った今割ったばかりのコンクリートの塊を!優に1mを越えるソレを!)

上条(団長は素手で投げつけ――)

上条(『これ』は魔術じゃない!だから防げ――)

ランシス「ほいよっと」

上条(俺を後ろから抱きしめるような形で、ランシスの両手が、にゅっと石塊へ伸びる!)

上条(その十指の一本一本には、禍々しい色をした『爪』の霊装が填められていた!)

ジッ、ザザザザザザザザッイィンッ!

ランシス「……ま、こんなもの、かな?」

上条「……助かった」

上条(飛礫へ『爪』が触れた途端、さわった側から石片は砂へと姿を変える)

上条(初めて見る霊装、だよな?)

団長「――!」

フロリス「だから、前っ!」

上条「分かってるっつーの!」

上条(何とか距離を取りたい俺と離れたくない団長。多分ベイロープの『知の角杯』対策だろう)

上条(敵味方が密集している所へ範囲攻撃は撃ち込めない!)

上条(が、最悪、俺は『右手』で打ち消せば――あ、でも『持続的に続く力』とは相性悪いか――?)

上条(と、背中を見せて退くべきか迷っている所に)

レッサー「うっえっかっら、ドーーーーーーーーンッ!!!」

ズゥゥゥンッ!!!

団長「……!?」

上条(団長の砕いた石片の大きさはまちまち。小さなもので数十センチ、大きなものではメートル越え)

上条(その、大きめの破片をレッサーは『槍』で掴んだ上、死角へコソコソ回り込み)

上条(こう、後頭部へ、がーんって、うん)

上条「正義側の攻撃じゃねぇな……」

レッサー「どうでっすかっ上条さーん!私達の愛のコンビネーションを!」

上条「いや君、背後からぶん殴っただけだよね?」

フロリス「仲間を囮にしてなー。愛されてるネェ?」

上条「こんな愛はいやだっ!?切に!」


安曇「あぁ痛い。安曇は痛いのは好きではないのだけれども」

団長「……」

上条「……だよなぁ、まさか魔術結社のボスかこんだけでくたばる訳がねぇよな」

上条(両者は何事もなかったように――団長は首が曲がってるが――立ち上がる)

安曇「安曇は少しやる気を出そうと思う。勝負に負けるのは嬉しくない」

上条「――あぁいや、勝負は付いてると思うぜ?」

上条「てかもう終りだよ、お前らは」

安曇「うむ?」

上条「ベイロープ!」

ベイロープ「『さぁ吹き鳴らせギャッラルホルン!その音は雷鳴と化して蛇の中庭に響きわたらん――』」

ベイロープ「『――神々の黄昏が来た!(ラグナロク、ナウ!)』」

――イイイイイイイイイィィン――!!!

上条(ルーンを伴った雷光が!邪悪を打ち払う雷が!)

上条(ずっと後ろで術式の準備をしていたベイロープから放たれる!)

上条「……」

上条(だが、しかし、それは)

上条(向こうも同じ条件だって、俺は気づいた!気づいてしまった!)

アル「『Gate of open hollow through chaos. (混沌を媒介に開け虚空の門)』」

アル「『The intellect of the original first word of known the barrel strange appearance. (原初の言葉を知りたる異形の知性)』」

アル「『1 by one ..all.. and the person who becomes it. (全にして一、一にして全なる者)』」

アル「『Give birth to thick shadows and utter one's first cry!(漆黒の闇に生まれ落ちて産声を上げろ!)』」

アル「『――Shout. BattleRam!(叫べ、破壊槌!)』」

ウジュルズズズズズズスッ!!!

上条(俺は見た)

上条(アルフレドの翳した掌から、肉色の蔦が伸びた瞬間を!)

上条(まるで動物の臓物の如く絡み合い、うねり、蠢動する肉の蔦!)

上条(名状しがたい触手が雷光に囚われ――そして、両者は共に消え去る)

上条「……相打ち、なのか……?」

アル「だーねぇ。こう見ても殺し技だから、結構自信あったんだけど、まぁまぁ?」

アル「けど、まぁ?そっちは『もう限界みたい』だし、もう撃てないよな?」

ベイロープ「……くっ!」

アル「……なんかなぁ、あんまり格好つかねぇよなぁ。『前の戦闘で息切れしてたんで』みたいなーオチ?」

アル「出来ればどっかで再戦したいトコなんだろうけど、こっちも遊びじゃねぇんだよ、これが」

レッサー「……ですかねぇ?試してみたらどうです、お付き合いしますから」

上条(そうか……!こっちは『ホーム』なんだから、時間を稼げば――)

クリストフ「『時間稼ぎ』も良いんですが、でもやっぱり有利になるのは僕らの方ですよ?」

上条「な」

フロリス「……どーゆーイミ?」

安曇「安曇達は魔術結社の長だと言った。なら」

安曇「その『構成員』はどこに居る?」

ベイロープ「どこって、そりゃ」

アル「足止めしてんだよ、俺らに邪魔が入んねぇようにな」

アル「考えてみろ。命からがらトンネルから逃げ出したっつーのに、他の乗客はなんで降りて来ねぇ?」

クリストフ「物量じゃ分が悪いですがね」

アル「んで、カミやんプラス『明け色』さんよぉ、一応聞いとくけど――」

レッサー「やってらんねーですな、こりゃまた」

フロリス「だっよねぇ、随分ワリに合わないって感じだし」

ランシス「かーらーのー?」

ベイロープ「『戦士』は逃げないのだわ」

上条「……はは。イギリスの女性”も”強ぇな」

鳴護「……当麻君、みなさん」

レッサー「ここまで言わせてんですから、『私が犠牲に!』みたいな事ぁ言いっこ無しですよ、鳴護アリサさん?」

レッサー「つってもま、私らはそれぞれ自分達の利益を確保するため、たまたまそうしているだけですからね、えぇ」

鳴護「……ごめ――」

レッサー「その言葉も嫌いじゃないですが。でも、どうせだったら別の言葉の方が嬉しいでしょうか」

鳴護「ありが、とう……?」

レッサー「お礼はブリテンの国益に適う事一つでお願いしますよ」

鳴護「えと」

レッサー「もっかいウチでコンサート開けっつってんだよ言わせんな恥ずかしい」

フロリス「あ、レッサーずるっこだ。ワタシサインほしーし」

ランシス「抱き枕……いっかいぶん」

ベイロープ「『スコットランドの花』、アンセムフルボーカルのWAVEデータでヨロシク」

レッサー「ちょっ!?なに私に便乗しようとしてんですかっ!恥を知りなさい、恥をねっ!」

上条「お前が言うな」

鳴護「当麻君は?」

上条「友達助けるのに理由は要るか?」

レッサー「ダメダメですなー。こういうのはノリで何かかるーくて、しょーもないお願い言っとくのが通ってもんです」

上条「つってもCDはいつも貰ってるし、今更これっつって……」

上条(インデックスとメシ奢って貰ったり、そーゆーのはたまにあるし。むしろ借りが溜まってんのは俺達の方で)

上条(何か適当で、それでもって大した負担になんないようなの……?)

上条(あ、そういやこれからEU回るし、メシもご当地料理ばっかになんだよな、当然)

上条(たまには日本のご飯も食べたくなるだろうし――よし!)

レッサー「決まりました?」

上条「おけおけ、俺に任せとけって!」

レッサー「……なーんか、いっやーな予感がするんですけど……?」

上条「――アリサっ」

鳴護「うん?」

上条「俺に味噌汁を作ってくれ!」

鳴護「――ふぇっ!?え、えぇっ!それはっ、どういう意味でっ!?」

鳴護「ま、まさか『毎日』みたいな!そゆことじゃないよねっ!?」

上条「毎日?いや、作ってくれるんだったら、そりゃスッゲー嬉しいけどさ」

鳴護「……不束者ですが、うん」

レッサー「『うんっ』、じゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇですよおぉぉぉっ!」

レッサー「てーか上条さん!上条さんあなたって人は地雷を踏み抜くにも程があるでしょうが!?」

上条「え?」

レッサー「天然な分、難聴主人公よりもヒドいな!てーか鳴護さんも嫌なら嫌って言いませんと!」

レッサー「てかコレなに!?割と悲壮な場面だっつーのにコレて!」

レッサー「ここは勢いで私を口説く流れじゃないんですかねっ!」

レッサー「『俺、この戦争が終わったら実家へ帰ってパン屋を継いで、幼馴染みのあの娘と結婚してから裏の水門を見に行くんだっ!』」

ベイロープ「ドサクサに紛れて自分の欲望を全うしようとすんな。てかブレわね、あなた」

ランシス「てかベッタベタな死亡フラグ……」

フロリス「あと水門関係ないよね?パン屋なのか農家なのかよく分からん」

アル「……ねぇ、お話続けていーい?ラブコメ終わった?」

アル「なーんか俺ら悪役っぽくて、超気分悪いんだけどさ」

上条「悪役だろうが、徹頭徹尾」

アル「悪役?俺らが?なんで?」

上条「……本気で言ってんのか!?」

アル「そりゃまぁ手段がアレだけどな。ま、伊達にクトゥルー教団名乗ってはねぇよ」

アル「が、お前らが俺達の敵だからって、『正義』だとか『正気』を名乗るのも、おかしな話じゃねーの、あ?」

上条「どこがだよ!だって――」

アル「――だって、『それ』、人間じゃねーじゃん?」

上条「……あん?なに?」

アル「お前の後ろで、それっぽい顔作ってる『それ』だよ、『それ』」

アル「そんな『バケモノ』を後生大事に護ろうとしてるお前らってさぁ、本当に正気なんかなー?」

上条「お前は――っ!」

アル「俺らは『バケモノと呼ばれたヒト』。それは否定しねぇし、その通りだと思うぜ?けどな」

アル「鳴護アリサは『ヒトと呼ばれたバケモノ』だ!そいつを使って何が悪い!」

鳴護「――っ!?」

アル「言ってみりゃ『生物』の枠に入るかうかも怪しいっつーの」

上条「関係ねぇだろ!そんなもんは!」

上条「意志があって疎通が出来て!誰かを大切に思う事が出来りゃヒトだろうがそうじゃやなかろうが!」

上条「お前らみたいに誰彼構わず傷つけるような奴らが言ってんじゃねぇよ!」

上条「……アルフレド、アルフレド=ウェイトリィ……っ!」

アル「おっす」

上条「お前のらクソッタレな『幻想』は――」

上条「――俺が絶対にぶち殺す!」

アル「……良し!そう来ないとな!そうじゃねぇと『正義』じゃねぇよ!!」

アル「――が、だ。カミやん、どうすんのこの状況?気張ってみたって、詰んでんだろ」

アル「ウチの兵隊どもはバカばっかだが、基本イカれてる分死ぬまで動く」

アル「ましてやちっとぐらい銃を囓った武警が来たって、お前らの足を引っ張んが関の山って訳で」

アル「俺達は確かにMinorityだが、バカじゃねぇんだよ」

アル「わざわざイギリスとフランスの泣き所で事件起こして、最凶最悪の異端審問機関『必要悪』の介入を遅らせた」

アル「『専門外』だった学園都市の兵器も、護衛の能力者共々トンネルの中で足止め」

アル「よくある『悪の科学結社』とは違って、戦力を出し惜しみなんてしねぇ。最初から幹部四人と兵隊揃えてタマ取りに来てんだわな」

アル「……あぁやっぱつまんね。面白くねぇ」

アル「優勝が決まった後のプレミアリーグっつーか、消化試合みたいな?」

???「――ほう、随分と大口を叩くな、魔術師ども」

アル「あぁ?」

???「――だったら私が面白くしてやる……ッ!!!」

鳴護「――お姉ちゃんっ!?」

上条(物陰に隠れて近寄っていたシャットアウラは、円盤状のレアメタルを無数に撃ち出す)

上条(ずっと狙っていたのか、それらは的確にアルフレド達を囲むように配置され)

シャットアウラ(???)「上条当麻ぁぁぁっ!!!」

上条「――任せろ!」

上条(彼女の呼びかけで、俺は、右手を突き出した!)

上条(今から起きる大爆発から『みんな』を守る盾に!)

ズズズズズズズォォンッ!!!――パキィィッン!

上条(連鎖する爆発を『右手』で打ち消し、次第に爆音が遠ざかっていく!)

上条(妹思いの能力者の爆炎が収まった時、そこには大きなクレーターと粉々になった駅のホームがあって)

上条(アルフレドを筆頭とした奴らの遺体は影も形も、痕跡すら残せず消え失せていた)

上条「……終わった、んだよなぁ?……つい、さっきもトンネルん中で言ったけどさ」

レッサー「えぇ、終りですとも。『今』は、ですがね」

フロリス「メンドー……」

上条(皮肉っぽく笑うレッサーとへたり込むフロリス)

ランシス「……」

ベイロープ「――」

上条(ぼーっとしているランシスと周囲の警戒を続けているベイロープ)

鳴護「お姉、ちゃん?」

上条(アリサがシャットアウラを気遣う、という妙なシーンに耳を澄ませば)

シャットアウラ「……これ、保険下りるかな……?」

上条(心からの呟きに、俺達は笑みを零していた)

シャットアウラ「――で、貴様がアリサを放置していた件についてだが」

上条「締めたじゃん!?今のでオチてるからこれ以上はっ!」

シャットアウラ「あと貴様には私の味噌汁をお見舞いしてやろうかっ!」

上条「結構前から隠れてたんじゃねぇか!?だったら助けろよ!」

レッサー「遠回しなボロネーズっ!?ぐぎぎぎっ……ここにもまたブリテンの敵が居ましたね!」

フロリス「レッサーそれプロポーズ。ボロネーズはイタリアのボローニャ発祥のパスタ」

ランシス「日本語だとミートソース……あと、ブリテンの敵認定を量産しないで」

ベイロープ「そんなトリビアはいいのだわ。それよりこちらさんは――」

シャットアウラ「……自己紹介の前に場所を移そう。ここは少々埃っぽい」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>387-390
ありがとうございます
個人にフロリスさんは「外見は綺麗で協調性の欠片も無いけど、好きな話をしてたら首突っ込んでくる」系の子かと
野郎同士でサッカーのの話してたら、いつの間にか混ざってくるみたいな

――フランス 某病院 六人病室

シャットアウラ「――と、以上が今回の顛末だ」

上条「……そか、大変だったよな」

レッサー「いやぁ、あのあと警備室に連行されて大変でしたよー?」

レッサー「屈強なオッサンどもに捕まって可憐な少女の貞操がピンチに!」

上条「おい、フランス舐めんな。よく知らねぇけど、そんな事態にはならない」

ランシス「でもロルカに荷物を盗まれても、追っかけてはいけない、のは結構有名……」

フロリス「大使館へ駆け込むと、『荷物だけで済んで良かったよねぇ』って言われんだっけ?」

ベイロープ「つか具体的に何されたの?」

レッサー「『いやぁよく言ってくれた!』とジュース奢って貰って帰されました、えぇ」

上条「寛容すぎるな!国際問題間違い無しなのに!」

フロリス「頭イタイ子だと思われたんじゃないのー?」

鳴護「あー、たまにー生放送で見切れる人、居るよねぇ」

ベイロープ「中継とかで携帯片手にドヤ顔で映り込む奴かよ。私が身内なら絶交してるけど」

レッサー「でよねぇ。育てた親の顔が見たいってぇもんです」

ベイロープ「だからっ!あなたの事をっ!遠回しに言っているのだわ……ッ!!!」 ギュウゥッ

レッサー「ヘルゥゥゥゥゥゥゥゥゥプッ!?ハァイロゥンダァ(超巻き舌)が攻めてきたぞォォォォォォッ!!!」

ベイロープ「いい加減ケリつけてやろうかああぁぁぁあぁん!?」

鳴護「な、仲良しなんですね?」

上条「ですよねー」

レッサー「助けて下さい上条さん!私のケツが割れて半分になりましたっ!?」

上条「もう一々突っ込むのも面倒だよ!」

鳴護「……当麻君、不潔」

上条「アリサもこの子のテンションを分かってあげて!大体いっつもこんな事言い出すんだから!」

レッサー「……むぅ!中々やりますねっ鳴護さん!まさか私の『ケツ』と『不潔』を被せてくるとは!」

鳴護「してないよ!?」

上条「あと被せる意味が謎だな。つかARISAのイメージ悪くなるから止めろ」

ランシス「……レッサー、言葉言葉」

フロリス「うーむん。普段っから男っ気がないもんだから、ワタシも気をつけなきゃいけないのかも」

上条「っていうかベイロープが執拗にレッサーのお尻を狙う意味が分からん」

ランシス「ヒント、『女子校』……!」

上条「うん、まぁ別に興味は無いんだけど、一応話の流れっていうか社交辞令で聞くよ?べ、別に興味ある訳じゃないからね?」

上条「具体的なエピソードを頼む!」

フロリス「ペイロープの弱点はふくらはぎだと言っておこう」

上条「良かったら弱点を知った過程を詳しく。出来る限る情緒溢れる表現で頼む」

フロリス「最初はじゃれていただけなんだよねぇ。別に好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくって」

フロリス「ホラ、オンナノコ同士で腕組むってあるじゃんか?あれの延長みたいでさ」

フロリス「たまたまベッドの上で、二人で寝っ転がってDVD見てた時の話」

フロリス「ワタシは別にまぁ、そんなに乗り気じゃなかったけど、なんかこうついつい盛っちゃってー、みたいな?」

上条「うん、それで?一線を越えたのはどっちから?」

上条「心理描写で感情を豊かに表現しつつ、比喩の少ない肉感的で写実的な表現で頼む!」

ベイロープ「オイ堂々と捏造とするんじゃないレズ予備軍。あとそこの百合厨は食い付き良すぎだろ」

鳴護「……その、リアルな体験談っぽい話に引くって言うか、当麻君の見ちゃいけない一面だったのなのかも……!」

レッサー「あ、レズるの好きなら絡みましょうか?地の文アリアリでこう、終わった後に『まったくこの子ったら』みたいな感じで!」

上条「やめろ!そんな事するんじゃないぞ!絶対にな!絶対だからなっ!」

レッサー「よーしそこまでネタ振るんだったらやってやりますよっ!さぁっベイロープ!」

ベイロープ「近寄るな」

レッサー「フロリス、私達の絆を見せてあげましょうよっ!」

フロリス「あ、ごめん。そういうのノーサンキューで」

レッサー「では『新たなる光』のお色気担当!ランシスと私の生き様を――」

ランシス「……また裏切るから、いや」

レッサー「見たか!我らの血で結ばれた円卓の絆を!」

上条「涙拭けよ。悪ふさげたした俺が悪かったから、なっ?」

上条「つーか円卓ってアーサー王伝説なんだろうが、あれ結局『嫁を寝取られた挙げ句負けました』ってオチじゃねぇか」

ベイロープ「あー……うん、そのなんだ。反省はしてるわよ?反省は」

ランシス「……ムシャクシャしてやった。でも割と満足している……」

上条「何の話――」

鳴護「あのー、当麻君?ちょ、ちょっと良いかなぁ?」

上条「はい?なに?」

鳴護「さっきからお姉ちゃんが下向いてブツブツ言ってるんだけど、そろそろ本題へ戻ってくれると……」

上条「ごめんなさいシャットアウラさんっ!?俺ら、ホラ!何か色々あって疲れちゃってて!」

シャットアウラ「上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス上条コロス……!」

上条「え、俺限定で殺意がっ!?」

レッサー「お、ナイスな殺気ですな」

シャットアウラ「アリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってるアリサが私以外と笑ってる……!」

フロリス「愛されてるねぇ、アリサ?」

鳴護「いやぁ」

上条「愛されすぎだろ!つーかどっから脱線した!?」

レッサー「私らの通ってるゴードンストウンは共学ですよ?」

上条「もっと前だ。てかお前らが学生やってた事に驚きだけどな」

ベイロープ「てか学校行ってないのにユニフォーム揃える方がイタイだろ」

レッサー「おやおやー?ご自分の事を棚に上げて第三次世界大戦の爆心地へ突っ込んだ高校生が居ますよー?」

上条「ありますよねー、そういう話。珍しくもないですもんねー」

鳴護「当麻君、少しは自覚しよ?まず認める所から始めるべきだよ」

レッサー「そしてこちらにも『エンデュミオンの奇蹟』を起こした歌姫さんが一人」

レッサー「これで騒ぎにならない、って方がおかしいでしょーなぁ」

鳴護「いやでも、地味だよ。ね?」

上条「だよなぁ?別に目立ってはない、よな?」

ベイロープ「一般人とそれ以外を一緒にすんな――てか、そろそろ話を戻しましょうか」

シャットアウラ「感謝する。ベイロープ、で良かったのか?」

ベイロープ「こっちも確認したい事ばっかだし。つーかさ」

ベイロープ「本当に『学園都市の協力は得られない』の?」

上条(あの後、俺達はシャットアウラに連れられて車――護送車で移動させられた)

上条(爆睡した俺が次に目を覚まして見たものは、フランス語で書かれた病院の門)

上条(そこそこ有名な大学病院なんだそうだが、そこで検査・検査・検査)

上条(夕方になって連れ出されて、前っから決まってた情報番組に出張。何故かついてくるレッサー)

上条(……そして『やらしかた』後、何故か俺しっレッサーだけが説教を喰らう)

上条(夜遅くになって解放されてから、通訳付きでイギリス当局の人から事情聴取)

上条(つっても最初から根回しがあったらしく、『大変な事故でしたねー?HAHAHA!』みたいな茶番だった)

上条(……んで、深夜にさしかかる頃に解放されて、用意された六人部屋へ――)

上条(――来たと思ったら、病院着に着替える女の子達がねっ!つーかアリサ達なんですけどね!)

上条(……うん、ボッコボコにされて気がついたら今と)

上条「……」

上条「……着やせ、してたよなぁ……」

鳴護「うん?どしたの?」

上条「思い出してないですっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

シャットアウラ「黙れ、外野」

上条「はい」

シャットアウラ「……と、今話したように最初から決められていた事だ――が」

シャットアウラ「私達『黒鴉部隊』が”勝手に”、持ち込んだ兵器とクルマが問題となっている」

ベイロープ「兵器ぃ?」

シャットアウラ「機械的に改造した能力者。要人警護用の対爆対弾対BC戦機能があるのが気に食わないんだと」

鳴護「柴崎さん……」

シャットアウラ「あのバカは命令違反を繰り返した上、『クルマ』の無断使用に無理な遠隔操作で神経系がズタズタ」

シャットアウラ「これでアリサに怪我でも負わせていたら、首の一つでも切ってやる所だ」

上条「リストラって意味だよね?深い意味は無いんだよな?」

鳴護「今、どちらに?」

シャットアウラ「一度学園都市へ戻ってオーバーホール――というか、休養を命じておいた」

シャットアウラ「肉体部分の損傷はともかく、それ以外はどうしても、な」

鳴護「……そっか。じゃ、良かった」

上条「すまん。俺が無茶頼んだばっかりに」

シャットアウラ「いや、お前に謝られる筋合いは無い。そもそも護衛対象でもあるお前を護るのは仕事の内だ」

シャットアウラ「むしろ部下の命を助けてくれた事を感謝しよう。ありがとう、上条当麻」

上条「……っ!」

上条(……そう言ってぎこちなく笑うシャットアウラの顔は、どこかアリサに似ている)

上条(元々が同じで、今は『姉妹』としてそれぞれを大事に思ってるんだから、それは当たり前なんだろうが)

上条(その『無防備さ』ってのが、なんか、こう、アレだ)

上条(なーんか『勘違い』しちまいそうになる、っていうかですね?)

シャットアウラ「どうした?」

上条「ん!?あぁいやいや別に何でも!」

上条「ただ『聖地巡礼してー」みたいな事言ってたけど、どうしたんかなーって」

シャットアウラ「ローランサン巡りは有給でも取ってくればいい。申請は取りやすいようにしてやる、と言っておいた」

鳴護「えっと、一人で?お姉ちゃん何か言われてなかった?」

シャットアウラ「うん?……あぁ、確か『一緒にどうですか?』とは言われたな」

鳴護「そ、それでっ?」

シャットアウラ「『なんで?』と応えておいたが?」

鳴護「……お姉ちゃん」

上条「あー……うん、まぁ!まだまだチャンスはあるし!」

レッサー「横からで恐縮ですが、シャットアウラさんはそちらさんがお嫌いで?」

シャットアウラ「特に何とも。それがどうした?」

レッサー「あっちゃー……他人事とは言え、聞いてて痛々しいですな」

上条「……えっと、どうしようこの惨事……?」

鳴護「言っても分かんないと思うけど、当麻君にも責任はあるからね?自覚はしなくていいけど、ってかされると困っちゃうけど」

上条「すいません……?」

シャットアウラ「――話を戻そう。さっきも言ったが、これ以降私達がアリサと行動を共にするのは不可能だ」

上条「そんなっ!?」

レッサー「仕方がありませんよ、上条さん。右手で握手しようって時に、後ろへ回した左手にハンマー持ってるようなもんですから」

レッサー「申告しなければ『あ、言ってませんでしたっけ?』で済む話なんですが、バレちまったら、はいオシマイ。そればっかりはどうしようも」

上条「俺が、余計な事を言ったから、か?」

鳴護「当麻君、そんな事無いよ!」

シャットアウラ「繰り返すがお前は関係ない。『敵』を甘く見すぎていた私達――ひいては学園都市に落ち度がある」

シャットアウラ「決して、決してお前達がやった事に間違いじゃない」

ベイロープ「その証拠が『コレ』なのよね?」

シャットアウラ「そうだな。あれだけの事をしでかしたのに『コレ』で済んでいるのが僥倖でもある……いいや、必然か?」

上条「『コレ』ってのは?」

ベイロープ「問題、あなたはユーロトンネルの中でど派手なドンパチを繰り返しました」

フロリス「具体的には列車をぶった切る×2、架線にモノぶつけて運行に多大なロスを与えたりー」

ランシス「明らかに条約ブッチした『戦車』を乗り回したり……」

上条「……怒るよねー、普通は。治安機関にケンカ売ってるよなぁ」

シャットアウラ「私も、というか私”達”は全員その場で射殺されても文句が言えないレベルの事をしでかしている」

シャットアウラ「公になれば確実に外交問題確定、連日連夜ネットニュースで人気者となるな」

レッサー「だってぇのに取り調べはヌルいは待遇は良いわ。しかも女五人に男一人放り込んでハーレム状態ですか!薄い本ですか!」

上条「前半と後半繋がってねぇ――事も、無いか?」

上条「ハタから見りゃ非常識な対応、厚意的な待遇を受けてるのって」

シャットアウラ「それはお前達がユーロスターへ留まり、多くの乗客の命を救ったからだ――上条当麻」

シャットアウラ「もしこれが『自分達だけ逃げました』なんてものだったら、今頃留置所だったろうに」

上条「……無駄、じゃなかったんだな……!」

レッサー「ま、私らはトンズラしますけどね」

フロリス「だっよねぇ」

ランシス コクコク

ベイロープ「黙ってろおバカども。や、まぁ私も逃げるだろうけどさ」

上条「でもさ、それっておかしくないか?確かに俺達は、つーか『黒鴉部隊』は武器やクルマを隠してたけど」

上条「自分達を護るためにしてた武器が、オーバーキルだから取り締まるってのは!」

シャットアウラ「そっちは政治的な駆け引きだな。何と言うべきか……」

レッサー「本音と建て前の使い分け、国内法と国際法との兼ね合いとでも言うんでしょうかねぇ」

レッサー「例えばテロリストを摘発するためには証拠を集めて、裁判所へ逮捕状を請求してから検挙と相成ります」

上条「あぁ、お前らも元テロリストだもんな」

レッサー「うっさいですね!あんま騒ぐとちゅーで口を塞ぎますわよ!」

レッサー「いや、悪くないですな……むしろ率先して喋って下さいねっ!」

上条「……」

レッサー「あ、あれ……?そこでお口チャックマンするんでしょうかっ!」

フロリス「だからさぁ?レッサーのアプローチ、どっから情報仕入れてんのか分かんないケド、引くじゃん?つか引いてんじゃんか?」

フロリス「そもそも『抱いて下さい!』つって『喜んで!』みたいに即答するようなヤツが、ブリテンのためになる人材なわきゃないでしょー」

ベイロープ「それ、普通に駄目男よね」

レッサー「……うーん、うぬぬぬぬぬっ?」

ランシス「……どったの?」

レッサー「いえ、なんつーんでしょうかねー?こう、なんかフロリスのツッコミが、いつもにまして厳しいような……?」

フロリス「ん?ワタシ?」

レッサー「い、いやっ気のせいですね分かります!まっさか『新たなる光』のツン担当がデレる日なんて来ませんもんねっ!」

フロリス「勝手に決めんな。つーか誰がツンだ、誰が」

ベイロープ「それで?続きは?」

レッサー「あー、テロの話でしたっけ?あー、そうそう、アレですよ、アレ」

レッサー「実際にテロを取り締まる方は様々な法的制約が生じるんですよね。国内法・国際法のどっちもが」

レッサー「軍事行動でぶちかますにしても、する側は関連法を整備した上で、遵守しながら戦わなきゃいけません」

レッサー「当然、他の国のお伺いを立てなきゃ必要もありますし、場合によっては羽織ゴロから反対喰らうんですよ、えぇ」

レッサー「資金にしたってとどのつまりは税金ですしね。ヘタに不透明な使い道をすれば突き上げられますし?」

レッサー「けどテロリスト側は、違う」

レッサー「資金も強盗・脅迫・人身売買に麻薬の密売、ずっと囁かれている東側からの援助等々。実に他材で、多罪」

レッサー「昨今じゃ中東の盟主を気取る所がやってんじゃねぇの?みたいな事が公然と言われ始めて来ました」

レッサー「テロの方法も脅迫してやらせたり、子供を誘拐して洗脳したりと人道なんか知ったこっちゃあーりません。それが、現実」

レッサー「テロをする方は縛りなんて皆無なのに、彼らと戦う方は縛りプレイが多すぎってぇ話です」

上条「……テロリスト――この場合は『濁音協会』か」

レッサー「えぇ。あっちには制約もクソもありません――が、それを取り締まる側はそうじゃない」

レッサー「ブリテンじゃブリテンの法に、フランスじゃフランスの法の下で」

レッサー「ただ、それだけの話でしょう」

上条「……よくよく考えれば酷い話だよな」

シャットアウラ「だが、それもまた理屈ではあるのさ……アリサ」

鳴護「はい」

シャットアウラ「これ以上、『黒鴉部隊』――学園都市はお前についてはいけない」

鳴護「……はい」

シャットアウラ「加えて、イギリス清教の魔術師達も力を貸してはくれない」

シャットアウラ「私にとってすれば下らない理由だが、『そう』じゃないと友好もなにもなくなってしまうからだ」

レッサー「……コートの中に何を隠しているのか、それが分からない状態ならば握手も出来るでしょうが――」

レッサー「――あからさまに『銃を持ってる』ってバレちゃいましたからねぇ」

シャットアウラ「……なぁアリサ、よく聞いて欲しい」

鳴護「……」

シャットアウラ「お前は『逃げ』だと言うかも知れない。確かにそうなのだろう。否定はしないさ」

シャットアウラ「けれど、どうしてアリサでならないんだ?他にも適役は居るだろうし、その」

シャットアウラ「……私の父親は『奇蹟』で命を落とした。お前が生まれた時に、戦って、死んだ」

シャットアウラ「私は父を誇りに思い――それ故にアリサにも牙を剥いた!『奇蹟』なんて要らないと!」

上条「シャットアウラ……」

シャットアウラ「けれど、お前は!あの時戦ったろう?『奇蹟なんて起きない!』と私を叱り飛ばして――」

シャットアウラ「――『奇蹟』を起こした。助けられない大勢の命を、助けてくれただろう?」

シャットアウラ「だから――帰ろう?」

鳴護「帰る、の……?」

シャットアウラ「……あぁそうだ。学園都市側からの許可も下りている」

シャットアウラ「ここまで大事になってしまった上、守りようがないんだったら仕方が無――」

鳴護「……私は、帰らないよ」

シャットアウラ「アリサ!」

鳴護「お姉ちゃんも知ってるよね?私が学園都市と『取引』した内容」

上条「……『取引』?」

鳴護「レディリーさんの帰還をお願いしたんだよ……伝えたい事が、あるから」

上条「エンデュミオン上層階に取り残されてるんだったっけ?」

上条「ラグランジュポイントを漂う、残骸の中で――独りで」

鳴護「……あの時、私は――あたしは『みんなが助かりますように』って祈ったんだけど――」

鳴護「――レディリーさんは、助けられなかった、よね」

上条「……そう、だな。それは確かに、そうだ」

シャットアウラ「だが!レディリーはアリサを!」

鳴護「お姉ちゃんも、だけどね?」

シャットアウラ「……」

鳴護「あ、ごめんごめん!責めてるんじゃなくて!そういうんじゃなくって、そのっ」

鳴護「お姉ちゃんとも仲直り出来るんだったら、レディリーさんとも出来るんじゃ、って」

シャットアウラ「アリサ……でもっ!」

鳴護「あたしは暴力へ何も出来なかったよ。レディリーさんに捕まってから、逃げ出せないままで」

鳴護「お姉ちゃんと争った時だって、当麻君が助けてくれるまでは。ただ、無力だった」

鳴護「……けど、あたしも、戦った!」

鳴護「誰かを誰かの代わりに殴りつける強さや」

鳴護「不当な暴力から誰かを庇える強さも」

鳴護「そんなものは無かった……でも!」

鳴護「あたしにはすべき事があって!あたしにしか出来ない事があったの!」

鳴護「だから……ッ!」

シャットアウラ「……アリサ」

上条「……強いんだよな、アリサは」

シャットアウラ「……当然だ、馬鹿者」

上条「おう?」

シャットアウラ「私の自慢の妹なんだからな」

上条「……だな」

――数分後

シャットアウラ「――とはいえ、だ。いざ現実的にどうしたものか、という問題がある」

シャットアウラ「大きな敵は五人。魔術師が四人とそこの冴えない男が一人……うむ」

上条「あれ?俺も敵にカウントされてんの?」

鳴護「学園都市側は、全然援助してくれないのかな?」

シャットアウラ「と、言う訳でもない。ないが……まぁ、望み薄だ」

上条「俺の知り合いの能力者とか、はマズいんだよなぁ」

シャットアウラ「『ほんの少し』の私達ですらこの有様だ。御坂美琴辺り呼んでバレてみろ、下手すれば第四次世界大戦だ」

上条「そーかぁ?アイツ結構海外旅行とかしてっけど?」

シャットアウラ「学園のカリキュラムで当たり障りのない観光地を点々とするのと、一応の外交使節を混同するな!

上条「ビリビリはヘンな事しない――と、思うが!多分!」

鳴護「御坂さんはいい人だけど、他の人が信じるかって言えば……うん」

シャットアウラ「対爆対弾のキャンピングカーはこちらで用意するし、衣食住にかかった費用もあちら持ち」

シャットアウラ「加えて必要な人員――通訳と”称し”てボディガードを雇うのもアリだそうだ」

上条「……ま、普通のコンサートツアーなら妥当なんだろうけどさ」

鳴護「レディリーさんみたいな魔術師さんだと、うーん?って感じかなぁ」

上条「俺の知り合いの――」

シャットアウラ「却下だ」

上条「まだ言ってねぇ!?知り合いの魔術結社のボスに頼るっつー話なんだけど!?」

シャットアウラ「下手な部外者呼んでこれ以上の騒ぎになってみろ。『ARISA』の活動もし難くなる」

鳴護「あたしは別に。アイドルじゃなくってもインディーズで歌えるんだったら」

シャットアウラ「それに今回の抗争、相当な借りを作る事になるぞ?お前がもし『学園都市を離れて私のイスになれ』とか言われたらどうするんだ?」

鳴護「あー……ありそう」

上条「いやいや、ナイナイ。バードウェイ良い子だもの、口じゃ文句言いつつ付き合ってくれるって」

鳴護「当麻君にはちょくちょく注意しているけど、『好き過ぎてこじらせる』みたいのも注意した方が良いと思いますっ!」

シャットアウラ「その内刺されてしまえ」

上条「シャットアウラさんは本気で言ってますよね?その『叶ってくれれば良いなー』みたいな顔どーよ?」

レッサー「あのぅ、すいまっせーん?ちょっと良いですかねぇ?」

レッサー「今までのお話をまとめさせて頂くと、ぶっちゃけ『ある程度の関係者で一定の能力を持ったぷちりーなボディガード』であればいい、と」

フロリス「もすこし謙遜したほーがいいんじゃなーい?」

シャットアウラ「ぷりちー成分は要らん」

上条「言ってやって。シャットアウラさんガツンと言ってあげて!」

シャットアウラ「アリサで充分過ぎる程満たされてる、っていうかカブるわっ!」

上条「やっべェ!いつの間にか四面楚歌!?」

鳴護「あたしも当麻君サイドだと思うんだけど、っていうかお姉ちゃん人前でぷりちー言わないで欲しいかも」

レッサー「――ま、別に難しい話じゃないんですよね、これが」

レッサー「私達は所謂『魔術結社未満』の、団体」

レッサー「言ってみりゃ趣味が高じてやってるような『テキトー』な連中であり――」

レッサー「そんな私達が『好きなアイドルの追っかけ』て、EUを渡り歩く――なんて話、よくあると思いません?せんせん?」

鳴護「……危ないよ、そんなのっ」

フロリス「最初はねー、ワタシらも『あ、知り合いが来てる!』ってノリで顔出したんだケドー」

ベイロープ「ぶっちゃけそんなノリじゃ済まなくなってんのよ、これが」

上条「どういう事?」

シャットアウラ「ユーロトンネルでテロを起すような組織。連中の目的が世界平和である筈がない」

シャットアウラ「むしろ中心人物らしき『双頭鮫』の活動範囲を考慮すると、騒ぎを起こすのはEUだろう」

レッサー「んー、まぁ本音を言いますと私達――てか、私も世界がどうなろうと知ったこっちゃあないんですね」

レッサー「てーか上条さんも『知り合いのために戦う』事があっても、『世界にために戦おう』とはあんまりー、ですよね?」

上条「当然だ。『セカイのため』に戦うヤツって、ロクな事しなかっただろ」

上条「……だからって『個人のため』でもアレなヤツばっかだった気が……?」

レッサー「んがっしかぁし!私達は知り合いのため!たかだか乗り合わせた鳴護さんのために細やかながらお手伝い致しましょう!」

レッサー「それが義侠心ってもんですからねっ!えぇっ!」

鳴護「レッサーさん、ありがとう!」

ランシス「で、本音は?」

レッサー「鳴護さんへ恩を売るついでに上条さん籠絡出来たらラッキー、みたいな?」

上条「また思惑が軽いな!分かってたけどさ!」

シャットアウラ「信用出来るのか?能力的にも、信条的にも」

ベイロープ「こっちのおバカの下心はさておき、そんなに悪い話じゃないでしょう?」

フロリス「少なくともワタシら”そっち側”じゃ無理だった連中を倒したしー?」

フロリス「むしろアリガトウと言いたまえよ、ウン?」

シャットアウラ「なら、こっちも婚后インダストリィ製が半壊被害を受けている」

レッサー「あれはホラっ!共闘してる立場ですし、何よりもコントロールはそちらさんだったじゃないですか」

レッサー「外装甲がヘコんだのも、私が操作したんじゃありませんとも!」

シャットアウラ「火気厳禁のキャノピーの中で、焚き火をかましたバカが居てな」

シャットアウラ「”ガワ”だけが破損していれば、予備パーツを換装すれば修繕費は安く済んだんだよ」

シャットアウラ「お陰でコンパネから全部オーバーホールしなくてはいけなくなったんだが……?」

レッサー「そ、それはっ仕方がないでしょう!?私だって必死でやってんですから!」

シャットアウラ「――余談だが、”クルマ”の中は常にモニタされていてな」

レッサー「へ、へぇー?それがなんだって言うんです?」

シャットアウラ「移動中に暇だったのか、デタラメにスイッチを入れたり消したりした上」

シャットアウラ「シフトレバーを『レッサー!一番機、吶喊するでありますよ!』とか言ってガチャガチャやった姿が映っているんだが?」

レッサー「よぉしっ!過ぎた事は水に流しましょうかっ!明日とは『明るい日』って書きますしねっ!」

上条「話題の逸らし方が他人とは思えない。つーかビルよじ登るわジャンプはするわ」

上条「アホみたいな超起動兵器なのにあっさり捕まったのおかしいと思ったら、お前のせいか!」

シャットアウラ「ま、なんにせよあの状況では、逃げ出す『アレ』を止めるためにはチャージが最適だろうがな」

ベイロープ「なんか、ゴメンナサイね?後でシバいとくから」

レッサー「ともあれっ!選択肢なんかないんじゃないですかねぇ?」

レッサー「考えてみてくださいな!今回のツアーなんて危険が危ないに決まっています!」

上条「お前の脳の方がピンチだと思うよ?」

レッサー「若い男女!助け合う二人!ピンチの中で育まれる絆!あと、着やせっ!」

鳴護「あの、最後のいるかな?」

レッサー「いつしか二人は護衛とアイドルを超えた間柄に……ッ!!!」

上条「危険だと思う所が間違ってるよ!そんな話してたんじゃねぇし!」

シャットアウラ「一理あるな!」

上条「ヤッベぇこの部屋ボケしかいねぇぞ!?また俺ツッコミで喉を涸らす日々が帰ってくるのか!?」

ランシス「『へーい、レッサー。隣の家に塀が出来たってねぇ……!』」

上条「唐突に何言い出した!?」

レッサー「『よし、それじゃ記念にミントの苗をプレゼントしようか!向こうの庭をミント畑にしてあげよう!』」

ランシス「『このテロリストめ!』」

上条「オチてねぇしお約束じゃねぇし!つーかお前それ園芸ネタだから分かるヤツ少ないだろっ!?」

鳴護「当麻君、芸人さんばりに拾わなくても」

レッサー「で、どうです?この二人っきりで旅をさせるよりか、安心出来ると思いますよ?」

レッサー「今ならなんと!必要最低限のご予算で魔術結社未満がお仲間に!」

フロリス「未満言うな」

ランシス「レッサー、逆に胡散臭い……」

シャットアウラ「……そうだな!まずはアリサの身の安全が最優先だ……!」

上条「ねぇ?ちょっと聞いて良いかな?俺、シャットアウラさんの中でどんだけ危険人物だと思われてんの?」

シャットアウラ「いや、特にどうって事はない。気を悪くしていたら謝ろう」

上条「だ、だよねっ?オートマタん時から、どっちかってつーと共闘してたもんな?」

シャットアウラ「ただちょっと『私の本当の敵は魔術結社よりもまずお前だろうな』ぐらいにしか」

上条「随分具体的に嫌われてるじゃねぇかよ!?そこまで言われる程何かしたか!?」

鳴護「相性悪いもんねぇ、当麻君とお姉ちゃん」

レッサー「ま、ぶっちゃけ旅が終わる前に私がオトすんで、色々な意味で安心出来ると思いますよ?」

上条「打算的すぎるわ!愛情の欠片もないっ!」

レッサー「いやでも10代の恋愛ってそんなもんじゃないですかねぇ?なんかこう、『ちょっといいなー』で付き合ったり」

レッサー「自慢じゃありませんがおっぱい大きいですし、将来性も考えると先行投資しておいて損はないんじゃないかと」

レッサー「ね?一回だけでいいですから、一回だけノリで付き合いましょーよ、ね?」

上条「フザケんな!人生には取り返しのつかない一回があんだよ!」

レッサー「こう見えても尽くしますよー?ご奉仕しちゃいますよー?」

上条「だーかーらっ!」

鳴護「レッサーさん、押し強い……」

ベイロープ「ま、あの子の持ち味みたいなもんだし。本当にブリテン好きっつーか」

鳴護「本当に当麻君の事好きなんだねぇ」

フロリス「多分その『好き』は珍しい動物の『好き』だと思うンだよね」

鳴護「え?違うよ、それ」

ベイロープ・フロリス・ランシス「え?」

シャットアウラ「――分かった。ならば正式に――ではなく、非公式に――」

上条「マジで?こんな流れでいいの?」

シャットアウラ「大事だろう、そこも」

上条「否定はしないけど……いや、否定するよ!俺そんなに節操なくないもん!」

レッサー「”もん”て」

シャットアウラ「だがしかし貴様からアリサを守りつつ、ついでに魔術結社へ対抗出来る人材なんて貴重だろ?」

上条「逆逆、優先順位逆じゃないですかね?いい加減俺のハートが傷つきっぱなしなんだけど」

シャットアウラ「『勝手についてくる』、しかも『あやふやな連中』なのでグレーゾーンだからな」

上条「そりゃそうかもしんないが、納得がね?」

男「――話は全て聞かせて貰ったのよな……っ!!!」

ベイロープ「誰よッ!?」

男「カステラ一番!電話は二番!三時のおやつはチラメイドっ!」

上条「歌詞違ぇよ。てーかお前はコスプレに拘りすぎだろ!」

男「天草式十字せ――」

シャットアウラ「――っと捕まえた」 ギリギリギリギリギリッ

男「名乗りは最後まで言わせて欲しいのよなっ!?って締まる締まる締まってるのよ!」 タシタシタシタシ

シャットアウラ「見るからに怪しげな大男!『濁音協会』の幹部かも知れないぞ!」

男「誤解なのよな!?俺はこう見えて由緒ある魔術結社の教皇代理を――」

シャットアウラ「よし、ギルティだ」 プチッ

男「ノォォォォォォォォォォウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

上条「……あの、すいませんシャットアウラさん?その人知り合いだから、そのぐらいで勘弁してあげて!」

シャットアウラ「私達にも気配を掴ませずにここまで接近出来た相手なのにか?味方相手にするなんて怪しいだろうが!」

上条「いや、まぁ、うん。『どう見てもそのアフロと服、隠密どころか写メされまくるよね?』とか思うけど、それも多分術式の一つだと思うし、うん」

上条「な、そうだよな?建宮?」

建宮斎字(男)「まだまだあぁっ!この俺を屈服させるにはシメが足りないよのな!」

ランシス「……要約すると?」

建宮「黒髪ロングって最高なのよ!」

シャットアウラ「取り敢えず、落とすな?」

建宮「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

――10分後

建宮「――ま、とどのつまりはメッセンジャーなのよな」

上条「つまりアレか?ステイル達が不用意に動けないから、天草式が代理で来た?」

建宮「いんや。もしヘマしたら『個人の独断でやった』で足切りなのよ」

レッサー「相変わらずエゲツないですなー、『必要悪』さんは」

建宮「そう心配はいらんのよ。『普通』の病院へ潜り込んなんざ。我らに取っちゃ朝飯前なのよ」

上条「んじゃ五和や神裂達も来てんの?」

建宮「いやー何人かは来てるが……女教皇は禁書目録のガード、五和は……ま、その、アレがアレして槍振り回しそうだから、自重させたのよ」

フロリス「うえ?禁書目録が『聖人』頼る程ピンチなの?」

上条「つーか五和の方はさっぱり分からない」

建宮「お前さん方の敵が『クトゥルー』である以上、禁書目録がターゲットである可能性も否定出来ないのよな」

建宮「何せ記憶する10万3000冊の中には『ネクロノミコン』も含まれるのよ」

シャットアウラ「ネクロノ?」

ベイロープ「クトゥルー神話に登場する魔導書、狂えるアラブ人が夜に鳴く魔神の声を書き綴った書物ね」

上条「そーいや最初の頃、そんな名前の本も憶えてるってドヤ顔で言われた気が……?」

建宮「連中の狙いが禁書目録で、こっちは大がかりなフェイク。女教皇達はそう考えてるのよな」

シャットアウラ「すまん。ちょっといいだろうか?」

レッサー「どぞ?やっぱり科学サイドには荷が重いですかね?」

シャットアウラ「正直その通りだ。お前達が何を言っているのかすら、分からない。というか――」

シャットアウラ「――お前達の方こそ、正気なのか?」

レッサー「何を根拠に?自身の正常性を疑うのは良い事だと思いますがねぇ」

シャットアウラ「初めて話を聞いた時にも思ったが、『それら』はフィクションだろう?個人が作って暇人が広めた創作物だ」

シャットアウラ「……私も日本での生活が長い分、多少はオリエンタル・アミニズムにも詳しくなっている。例えば、そうだな」

シャットアウラ「ツクモガミ?全てのモノに神が宿り、神性を持つという思考も理解出来る」

ベイロープ「汎神論ね。インドや古代ギリシャ辺りが発祥の」

上条「オリエンタル関係ねぇな」

フロリス「オリエント文明って習わなかった?欧州から見れば『東っぽい蛮族』を一括りでそう呼んだんだよ」

フロリス「もっと勉強した方が良いんじゃん?」

上条「……お前、俺に厳しかねぇかな?チャラにするとかって聞いたんだけど」

レッサー「んぅ良し!良い感じのツンですよフロリス!」

レッサー「そのまま適度に痛めつけ、傷ついた所を私が慰める!これこそ完璧ですなっ!」

ランシス「……汚れた思惑がただ漏れになってる……」

上条「たまーにこの子、ネタでやってんじゃないかって思うんだよなぁ」

シャットアウラ「日常品に感謝して供養したり、土木作業の時に祈祷するのも理解はする。だけれども!」

シャットアウラ「『そんなモノ』に神は宿ると?フィクションに過ぎない存在にもか?」

建宮「そうよなぁ……まず結論から言うと、『ネクロノミコンは実在し、それ相当の力を持った魔導書』なのよ」

シャットアウラ「信じがたい話だ」

建宮「あ、そこら辺は絶対なのよ。なんせ俺達が戦ったんだから」

上条「そうなのか!?日本にも連中が居たって!?」

建宮「いやいや。やり合ったのはイギリスなのよ。『必要悪の教会』の入団試験で攻撃されたのよな」

建宮「そこら辺の事情も含め、『敵』の情報を託すに相応しいと思われたのが天草式なのよ」

レッサー「ほへー、って事は既に『濁音』とやりあってたと?そいつぁ初耳です」

ランシス「(多分ニホンダルマの出店準備で忙しかったころ……)」

ベイロープ「(よね)」

建宮「それも違うのよ。別口の魔術師であって、クトゥルー教団じゃないのよな」

シャットアウラ「意味が分からん」

建宮「そっちのおねーちゃんの疑問には答えた筈なのよ――『ある』と」

建宮「実際、魔術的にもネクロノミコンは力を持った魔導書なのよな」

シャットアウラ「納得出来るか!私はよく知らないが、世界が滅びるような魔術が使えるんだろう!?」

シャットアウラ「そんなものが存在して良い訳がない!」

建宮「あー……混同してるのよな、お前さんはよ」

シャットアウラ「何が!?」

建宮「『ある』と『できる』は別の話なのよ。これが」

ベイロープ「……あぁ成程。そういう事ね」

上条「すいません、俺にも分かるように」

レッサー「さぁっ!言っておやりなさいな、ベイロープさん!」

フロリス「いやアンタも分かってないじゃんか」

レッサー「いやですよぉ。人が折角見せ場を作ってやろうって配慮してんのに、言わせんな恥ずかしい」

ランシス「……魔導書は『ある』。そして『できる』と書かれてる」

ランシス「……ても、本当かどうかは分からない、って話…?」

レッサー「まさかのランシスが核心を突いたっ!?」

上条「やっぱ分かってなかったんじゃねーか。つーかアリサ大丈夫か?」

鳴護「うーん?お勉強しなきゃいけないのかなぁ?」

上条「専門分野は専門家に任せておいた方が良いぞ。素人が首突っ込んだって邪魔になる」

レッサー「――と、毎回首突っ込んでる方が言うと説得力ありますよねっ!流石ですっ!」

上条「グーで殴るぞこの野郎」

建宮「そうさな、あぁっと……おねーちゃん、アステカ神話は知ってるのよ?」

シャットアウラ「今ある世界は第四の太陽であり、世界はジャガーが呑み込む、だったか?」

シャットアウラ「あと私を『お姉ちゃん』と呼ぶんじゃない」

建宮「エッダ、北欧神話は?」

シャットアウラ「フェンリル狼が太陽を呑み込む――と、こっちも狼なのか……?」

建宮「あ、それは本題と関係ないのよ。んじゃヒンドゥーは?」

シャットアウラ「ヒンドゥー……?あぁインドは確か」

上条「シヴァって破壊神が全部ぶっ壊す?」

建宮「正解。で、最後に仏教、ブッティズムの『オワリ』はどんななのよ?」

シャットアウラ「あれに明確な終りは無かった筈だが……?」

ベイロープ「ブッダの入滅から56億7千万年後に現れる弥勒菩薩、よね」

建宮「大体合ってるのよな。釈迦の入滅後、定期的に末法思想が広がり、それらは信仰に影響を与えてきた」

建宮「キリ――十字教でも黙示録や千年王国は有名なのよな」

上条「ま、確かに世界各国、色んな所で色んな終末論はあるわな。それが?」

レッサー「あるぇ?まだ分からないんですか?」

上条「レッサーさんはご存じなの?出来れば教えてみろや、出来るんだったらば」

レッサー「さぁっフロリスさんあなたの出番ですよっ!」

フロリス「おっけー。まーかせて。えっとねー」

レッサー「ここでまさかの裏切りがっ!?」

鳴護「どっちかって言えば、レッサーさんの方が裏切って言うか、なすりつけようとした、って言うか」

フロリス「今言った全部の『神話』は例外なく魔導書が作られ、実際に魔術が使われてんだよ、うん」

フロリス「ワタシらだって北欧神話をベースに――あ、逆か。ベースにしたのを北欧神話でアレコレしてんだけど」

ベイロープ「余計な事は言うな。先生にシバかれる」

フロリス「これ、つまりそれぞれの魔導書や魔術が『ある』って証明だよねぇ?ねっ?」

上条「少なくとも神話を模して霊装や魔術使ってんだから、まぁ、証明にはなるのか……?」

フロリス「でも――あ、こっちからがキモだかんね?よく聞いててね?――世界にはイッパイ魔術があって、そのオリジンになった神話もある」

フロリス「ついでに言えばその殆どが『終末』が書かれてるんだけどぉ――」

フロリス「――その『オワリが来た』のって一回もないじゃんか」

フロリス「具体的に『世界が終わった』事は」

上条「……確かに」

建宮「その通りなのよな。魔術は『ある』のよ、それは絶対に」

建宮「だがしかし『できる』かどうかは別問題」

建宮「例えそれが魔導書に載っていたとしても、『過去一度も世界を終わらせた魔術師は存在しない』のよな」

シャットアウラ「クトゥルーは『ある』。が、世界全てを発狂させるような事が『できる』かは未知数、だと?」

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのエロい下乳魔神みたいに尊大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」



ジジッ

建宮「……ま、術者が力及ばず、どっかのお美しい魔神様みたいに莫大な魔力を持たない限り、絵に描いた餅なのかも知れんのよ」

上条「なんでお前二回言ったの?てか今ノイズが……?」

建宮「俺達が出会った『クトゥルーの魔術師』も、効果範囲は精々数十メートルってトコだったのよな」

ベイロープ「『人類全てを発狂させる』だけの効果を得んのに、どんだけのテレズマ遣うかって話よね」

上条「……そっか。確かに得体の知れない相手だが、だからって『魔術サイドのセオリー』からは逃れられないのか……!」

建宮「そもそものネクロノミコンだって、どっかの誰かが『造った』シロモノなのよ」

レッサー「裏を返せば『20世紀の魔導書書きの技術で造られた』のであり、決して例外やキワモノではない、と」

建宮「俺が個人的に睨んでいるのは、クトゥルーに関わった者が例外無く『発狂』するのよな」

建宮「あれ、何かに似てると思わないのよ?」

上条「頭がおかしくなる……?」

レッサー「なんかありましたっけ?つーかなんで皆さん私を見てんですか?」

ベイロープ「――そうか!『原典』の精神汚染よ!」

フロリス「レッサー、もうちょっと勉強しなよ」

ランシス「素人と同レベルて……」

レッサー「ぐぎぎぎぎ……」

建宮「巷にある『クトゥルー』の魔導書、それらは本当に『クトゥルー』なのか?」

建宮「――『読んだ者は力を得て、同時に身の破滅を呼ぶ』――」

建宮「――それは『原典』の魔導書と同じなのよな」

シャットアウラ「待ってくれ!その言い方だとクトゥルー神話の作者が『そっち』の知識を持っていて!」

シャットアウラ「『既存の魔導書の関係をクトゥルーの設定に引用した』みたいな言い方に聞こえるぞ!?」

建宮「可能性はある、とだけ言っておくのよ……ま、別に力を求めた者が破滅する話なんぞ、古今東西珍しくも無いのよな」

上条「とにかく脅威は脅威だけど、既存の魔術師とそんなには変わりが無い、って事なんだよな?」

ベイロープ「対策がやりにくいっちゃやりにくいけど、そんなもんは誰が相手でも同じよね」

レッサー「とはいえですよ、知ってるに越した事こたぁないでしょーがねぇ。うむむむ」

フロリス「今っから全員で小説でも読む?ワタシはちょっとパスしたいなぁ」

建宮「あー……”それ”が来た理由の二つ目なのよ。向こうさんの出方を教えに来たって言うのよな」

上条「あぁ、こないだやりあったからって?」

建宮「そっちは一つ目なのよ。禁書目録の『非公式見解』は伝え終わったのよな」

上条「え!?今のインデックスの解釈だったの!?」

ベイロープ「向こうさんの立場上色々あるのだわ」

フロリス「てかボカしてんだっからツッコムの止めなよ。つーか空気読めっての」

鳴護「誰かに責められる当麻君って新鮮……!」

シャットアウラ「いいぞもっとやれ!」

建宮「いやでもアレ、なんつーか――アレ、なのよな?」

ランシス「やっぱ、そう思うよね……?」

建宮「どう見ても――まぁ、五和には言わないでおくのよ。そっちの方が面白そうだし」

建宮「ともかく!こっからは俺達が日本に居た頃の話に聞いた話!」

建宮「『野獣庭園(サランドラ)』の安曇阿阪、別名”墓穴漁り”――」

建宮「――野郎は『タダの魔術師』なのよな」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

なんかこのSSウンチクばっかですいません。で辻褄合わせないと伏線等々ポシャるんで、えぇ

乙です

>>446-451
ありがとうございます

――六人病室 深夜

上条「待て待て。連中クトゥルー教団名乗ってるよな?だってのに他の魔術遣うってのかよ?」

建宮「んー、ま、そこら辺は結構難しいのよな。考えられる点は二つ」

ベイロープ「そうね、アイナオ・クルス――ケルト十字って知ってる?十字架の背後に丸い輪っかくっがついたデザインの」

レッサー「所謂、『太陽を示す円環』と『太陽と地平が交わる十字』の融合した形です」

ランシス「……あれ、太陽じゃなくって、月」

レッサー「大昔は月信仰も盛んでしたからね。ま、そこは意見が分かれていますが」

上条「あぁ何か映画で見た事ある気がする」

ランシス「あれ、『キリスト教が布教されるよりもずっと昔から使われてきた』、の……」

フロリス「十字教言いなよ。てーかぶっちゃけんのイクナイ」

鳴護「……はい?十字教が信仰されるより前から、十字架使ってたんですか?」

ベイロープ「元々はルーンと同じ魔術様式の一つだったのよ。一説にはアレ自体もある種のルーンだって話もあるぐらいだし」

建宮「『十字架』ってぇのは『神の子が我らの罪を背負われた』という象徴。それが十字教の根底にある『原罪』の概念なのよ」

建宮「が、それとは別にアイルランドでは『死と再生のシンボル』としてケルト十字が使われていたのな」

上条「ウロボロスの蛇のような『円環』……?」

レッサー「おっ、よくご存じですねー。系譜は同じですよ」

上条「昔――いや、最近誰かから聞いたような……?」

ランシス「聖パトリックがアイルランドで布教を始め、私達は受け入れた……」

ランシス「……その時にケルト十字は十字教のシンボルに代わった、の」

上条「へー?同じ十字架だし大事だから、一緒くたに崇めたみたいな?」

レッサー「だけじゃないですね」

フロリス「ワタシの地元でも『ウェールズの赤い竜(Y Ddraig Goch――ア・ドライグ・ゴッホ)』って伝承があんだけどさ」

上条「イギリスっつったら竜退治?」

フロリス「半分アタリ。でもってハズレ」

フロリス「『赤い竜』は『白い竜』を退治した正しい竜であり、ウェールズの象徴になってんの」

上条「あれ?十字教のドラゴンは悪者じゃなかったっけ?」

フロリス「そんだけワタシらとは切り離せなかったって事っしょ、多分」

ベイロープ「ちなみにそっちのアフロが着てる赤十字ロングTシャツ、聖ゲオルギウスのシンボルってのが有名だけども」

ランシス「アーサーの赤十字でもある、うんうん」

建宮「『異教を取り入れる』ってのはどこの国でも当たり前のようにしているのよ。十字教の悪魔は元々シュメールの悪魔」

建宮「日本の仏教はインドの神様。シヴァ神も大自在天や大黒天として崇められているのよな」

建宮「我ら天草式十字凄教も十字教の聖母信仰へ観音様を取り入れ、マリア観音とか生み出しているのよ!」

シャットアウラ「……それ逆に失礼じゃないか?」

フロリス「てーか隠れキリシタンは『原罪も許した』って超解釈してたから、ローマ正教との仲はあんま良くなかったのだわ」

建宮「兎にも角にも!魔術師が他の信仰を取り入れてアレンジするのは珍しくも無いよな!」

上条「そっか。じゃ安曇は『元々別の魔術系統を使ってたけど、クトゥルー風にアレンジしている』で合ってるか?」

ベイロープ「それが一つ目の推測。もう一つは『偽装』よ」

鳴護「自分達の正体を知られないようにするため、でしょうか?」

建宮「俺はどーもその説が合っているとは思えないよのな」

レッサー「ありそうな話ですけど、どしてまた?」

建宮「安曇阿阪はお前さんがたの前で術式を使っているし、名乗りも上げているのよな」

建宮「そっから野郎の身元がバレで、禁書目録に解析されて、日本の魔術師界を知ってる俺が派遣された」

建宮「隠すんだったら徹底的にしなければ意味が無いのよ」

ベイロープ「……いや、なんか、おかしい。納得がいかない。腑に落ちない」

レッサー「ベイロープさんの『勘』は今一精度に欠けますけどねっ!」

ベイロープ「結果的には『ブリテンのため』になったんでしょーうがっ!あぁっ!?」

レッサー「おーけー落ち着きましょうベイロープ?まずはその花瓶を離す所から対話を始めるべきだと思うんですよ、えぇ」

レッサー「花瓶を離して話すとはこれ如何にっ!?」

上条「やめろ無理矢理ボケるな」

鳴護「ふなっし○プリッツを買ったら、丁度頭の所が切り込み線になってて、『え!?頭を切断するのっ!?』って思いましたっ」

上条「ARISAそんな日常あるあるは要らん!つーかアリサふなっ○ー好きか!?」

ランシス「……切っちゃったの?ざっくり?」

鳴護「袋の底の方をこう、チョキチョキって」

レッサー「現役アイドルの方がインパクトが強い!これはなんとかしなければ……!」

上条「いいから話を聞け。文字通り雷落とされっから」

ベイロープ「てーか話す機会が遅れたけど、トンネルの中に居た『アレ』の事なんだけど」

ベイロープ「『アレ』は科学サイドのバケモノよね?」

シッャトアウラ「待ってくれ!私達の世界でもあんなのは聞いた事が無いぞ!?」

ベイロープ「行動原理が『生物』に限りなく近い。尚且つ『進化』する」

ベイロープ「何よりもテレズマ――『魔力』が感じられない」

ランシス「ビリビリ……無かった」

シャットアウラ「『術式』よりも『生物』らしいと?」

建宮「俺達の流儀はよ。自分達の良いように、変えたいように世界を改変するってぇのが根底にあるのよな」

建宮「例えば『生ける鎧(リビングアーマー)』を作るんだったら、鎧へ仮初めの命と自我を与える。シンプルな話なのよ」

シャットアウラ「フィクションではよくあるが、目にした事はないぞ」

上条「シェリーのゴーレム――ほら、夏頃学園都市で土人形の騒ぎがあったろ」

シャットアウラ「あれもお前たちの仕業だったのか」

ランシス「一纏めにされると、うーん……?」

建宮「けどそちらさんはまず、『鎧状の命を産み出す』って所から始まる」

建宮「脳を造って、筋肉を開発して、骨格を拵えて――んで、仕上がったヤツも『生物』である以上、その特性に付随するアレコレからは逃れられんのよ」

ベイロープ「私とマイ――こっちのアレはアイツから『恐怖』を感じた。なりふり構わずに混乱するのは、とても生き物らしいと」

建宮「対してゴーレムは魔力が切れるまで命令をこなすのよ。筋肉も血も通っておらず、生存本能も無い」

レッサー「なーるほど。そう考えると『アレ』はそちらさんの生体兵器と考えてもおかしかないですよねぇ」

シャットアウラ「しかしっ非効率的だ。どう考えても『兵器』として非効率的過ぎ――」

シャットアウラ「――いや、違うな。だからこそ、か」

鳴護「お姉ちゃん?」

シャットアウラ「学園都市は無駄一つ無い合理主義――合理”原理”主義で動いていると思われがちだが、それは誤りだ」

シッャトアウラ「実験をすれば成功するまで、相応の無駄や失敗は出来上がる。誰しもが一直線に答えを出せる訳もない」

シャットアウラ「1の目的へ対し、100のプロジェクトチームを作り、それぞれの方法で研究を進める」

シャットアウラ「成果を上げたチームが評価され、他のチームは全て失敗」

シャットアウラ「何らかの分野で再利用出来そうであれば横滑り、そうでなければ破棄される」

シャットアウラ「そんな過程で造られたのが、『アレ』と考えれば……!」

上条「『兵器』としちゃ失敗作……けど、”だからこそ”『濁音協会』みたいな人の連中が使える……!」

シャットアウラ「……自虐を承知で言えば『失敗作も手を汚さずに廃棄出来る』という、超合理主義の考えなのかも知れないが」

上条「それはちょっと考えたくないな……あちこちに『失敗兵器』がバラまかれてるって事だろ?」


レッサー「そうじゃなかったら改めて『鬼灯様に代わって呵責しちゃうぞ(はぁと)』って事で」

上条「……ふーん?」

ランシス「ちなみに今のは”月”と”鬼灯”が被ってるレッサー渾身のネタ……っ!」

レッサー「やめてとめて滑ったギャグを解説しないでプリーズ!」

ベイロープ「んで、二つ目の『偽装だったんじゃね?』論について。私の意見なんだけど」

ベイロープ「『隠す』にしちゃ甘い所あるわよね?堂々と自己紹介カマしたり、術式披露したり」

ベイロープ「何かを『隠してる』ような気はするんだけど、『何か』が分からないのだわ。それが気持ち悪い」

建宮「そいつぁ考えすぎだと思うのよ。だって連中が出張ってきたのは『ここでケリつけるため』よな?」

建宮「あん時白黒つけるんだったら、そりゃ出し惜しみもしないのよ」

ベイロープ「うーん……?」

シャットアウラ「ブラフ、ではないのか?名の知れた異能者でも、実際の能力が知られているなんてまず有り得ないぞ」

シャットアウラ「『発火能力者(Fire Starter)』が二つ名なのに、実は温度変化が得意でした、という例もある」

建宮「ま、考えるのは結構なのよ。相手に隙を突かれない程度には」

レッサー「それよりか今は分かってる事だけでも聞きたいですよねぇ、つか私ジャパンの魔術師界に興味津々なんですけどっ!」

上条「実は俺も気になってた。日本の魔術師は天草式以外二、三人しか知らないし」

シャットアウラ「結構多いだろう、それ」

建宮「あー、まぁぶっちゃけ十字教みたいな影響力は無いのよ。デカい団体が統轄してる訳でも無く」

建宮「戦前は神社庁って国の機関があったんだが、戦後解体されて民間の神社本庁へと姿を変えたのよ」

建宮「そこら辺の『隙間』を突かれて学園都市が出来って背景もあるのよな」

レッサー「悪い魔術師とか出て来たらどうするんです?まさかスルー?」

建宮「大抵は地方ごとに『顔役』と言われる結社が幾つかあって、そこが人の道を外れた連中を締めているのよな」

上条「何か、うん」

建宮「言いたい事は分かるが、仕方が無いのよ。刑法じゃ呪いは大した罪には問われないのよな」

建宮「しかも全てが全て適切に裁かれる事もないのよな。最近は魔術師そのものが減少傾向にあるのよ」

レッサー「これまた意外ですなぁ。ニンジャとかメッチャ憧れますけど!」

鳴護「それ、魔術師かな……?」

建宮「……まぁ、個人的に言わせて貰えれば?仏道には八斎戒――俗に八戒という戒めがあるのよな」

レッサー「西遊記の猪八戒さんが守ってる奴ですね」

鳴護「あ、だから八戒さん?」

レッサー「ですです。原作じゃ割と真面目なブッティストなんですよー」

建宮「まず基本となる五戒――殺すな、盗むな、色欲に溺れるな、嘘を吐くな、酒を飲むな」

建宮「加えて特定の時間に抱き合うな、食事をするな、豪華な寝具を使うな――で、八戒なのよ」

建宮「これ、どれだけの『聖職者』が守ってるのよな?」

上条「あー……まぁ、なぁ?」

シッャトアウラロープ「程度じゃないのか?堅持するのが難しいからこそ、戒めとされてるんだろうし」

建宮「袈裟の色と檀家の数で座る順番を変え、休みの日には高級外車を乗り回す連中が?」

建宮「実際、開祖である釈迦は妻帯して子も居たのに、全て捨てて修業の道へ入ったのよな」

建宮「それに比べて『真っ当』かどうかは知らんのよな」

建宮「……ま、本来、その土地土地の者が果たすべきだった役割を放棄し、今じゃ魔術や霊装すら知らない奴らか殆ど」

建宮「その分、『老舗』――所謂『お山』と呼ばれる所へ負担が行っているのよ」

レッサー「具体的に聞きたい所ですねぇ。やっぱり秘密なんで?」

建宮「おっとこれ以上は言えないのよな!」

建宮「高野山には裏高野、闇高野、元祖・高野、BB高野、高野幻想アリスマチックがあるなんて口が裂けても喋る訳には行かないのよ!」

レッサー「マジか……!?MANGAは本当にあったんですよねっ!」

ベイロープ「そんだけあったらバレるだろ。どんだけMt.KOUYA広いんだ」

上条「途中からもう高野関係ねぇよ、てかさ」

上条「神裂は確か、戦いの中で『自分を守ってくれた仲間が死ぬのが辛い』みたいな事言ってたけどさ、それ」

上条「お前達の『戦ってた相手』ってのは、一体――」

建宮「――『救われぬ者に救いの手を』」

建宮「それが我らの全てであるのよな、上条当麻」

建宮「この世界はお前さんが知らない所で、いつも誰かか何かと戦っているのよ。それは天草式だけじゃないのよな」

上条「……ヤバそうになったら、またぶん殴ってでも手伝いに行くぞ?」

建宮「二度も冤罪で殴られたくはないのよ、その時はこっちも本気出すのよな!」

レッサー「♂×♂の友情ってアリだし嫌いじゃ無いと思いますっ!!!」

上条「突然どうしたっ!?つーかむしろ野郎同士の間には友情しか芽生えない!」

建宮「五和に知られたら無言で撲殺されそうなのよ……」

レッサー「まぁそちらさん割かし末期ですけど、こっちもそんなにゃ変わりはないですよねぇ、はい」

レッサー「聖職者の幼児性愛スキャンダルに、バチカン銀行と揶揄されるマネロン用の地下銀行」

ベイロープ「年利6%で非課税だっけ?ただし数パーセントは『信仰のため』に使うの義務づけられてるって」

レッサー「何を以て『信仰』とするのかってぇ問題ですよねー」

フロリス「果てはマフィアとの癒着もおおっぴらに言われてるからねぇ」

建宮「どこの世界も世知辛いのよな。代わりにペイガニズムが台頭しているのよ、嘆かわしい話よ」

鳴護「ペイガニズム?」

シャットアウラ「古い信仰――ウィッカやドルイドなど、十字教じゃ異端とされた信仰の復活、だったか?」

建宮「いんや。黒髪のどう見ても日本人にしか見えないねーちゃん、それは違うのよな!」

シャットアウラ「おい、私の外見に文句があるんだったら話を聞こうか?なぁ?」

建宮「連中は『新興』宗教なのよな。所謂カルトと呼ばれる異端者なのよ」

上条「あれ?ウィッカ?は知らないけど、ドルイドってケルト系の、十字教以前の宗教だよな?」

レッサー「んーむむむむむむむ、どう説明したもんでしょうなぁ」

レッサー「あ、じゃいっその事結婚しましょうか?」

上条「あ、そっかー、そうすれば――ってバカ!?どこをどう超飛躍させればその結論になんだよ!?」

レッサー「上条さん上条さん、私こないだ日本へ行った時、”洞爺湖”って書いた木刀買ったんですよ!学園都市製の!」

鳴護「意外に流行りへ乗るよね、今思ったんだけど」

建宮「ちなみにそれ洞爺湖サミットで各国要人のSPが、土産物さんへ殺到してマジ買ってったのよな」

レッサー「空港のお土産物売り場には、他にもシンセングミ?のショールも売ってたんですが――」

レッサー「――もし私が”それっぽい格好したら、シンセングミになれる”んでしょうかね?」

上条「……はぁ?ガワだけ似せるのは出来るだろうけど、でも似てるだけでホンモノじゃねーだろ」

鳴護「歴史的には100年以上前になくなってる組織だしねぇ」

レッサー「それと同じですよ。『外見は似せる事が出来るが、本質は全く違う』存在です」

ベイロープ「言ってみればコスプレして”それっぽく”騒ごうってだけ。信仰の欠片もない宗教モドキよね」

フロリス「たーとーえーばードルイドなんか-、ウィッカーマンって-、儀式があるのさー」

フロリス「大きなヒトガタを造ってから、中へ生け贄を入れて燃やしちゃうの。ぼーっと」

上条「うわぁ……」

レッサー「引くかも知れませんけど、当時のドルイド僧や信者にとっては大真面目、つーか生け贄求めて戦争カマした記録もあるぐらいですよ」

ランシス「ケルトにとって、短い夏の到来を祝う大事なお祭り……」

ベイロープ「アメリカのおバカお祭りに『ファイヤーマン』ってのがあんのよ。デッカイ巨人作って、その周りでドラッグパーティ開くヤツ」

ベイロープ「フィナーレはその巨人に火を灯して盛り上がる――これが『ドルイド』だっつーんだから、鼻で嗤うわ」

建宮「元々『 Pagan(ペイガン)』ってのは”田舎者”や”異教者”を示す言葉だったのよな。十字教”系”から、それ以外を呼んだ蔑称」

ベイロープ「正確には『田舎者過ぎて十字教を崇める知恵がない』的なニュアンスね」

鳴護「ザビエルさん達も、そんな感じだったのかも?」

上条「どこの国も自分の国が世界の中心だって思うよなぁ」

シャットアウラ「今も居るがな――『アイツらは××だから理解出来ない』とか言う奴は」

建宮「にも関わらず、最近じゃ『ペイガン』が『復活させた異教の祭司』みたいな使われ方をしているのよな」

フロリス「而してその実体は、タダのヒッピーとアナキズムを煩った、社会不適合者の集まりなんだけどねー」

フロリス「日本でも『数百年の前の文明へ戻ろう!』とか言う人ら、居ない?あめ玉舐めてガン治しましょうっての」

上条「言われてみれば思い当たる点が……」

レッサー「文化自体をね、継承しようってぇ考えには共感出来るですよ。歴史的にも価値がありますからね」

レッサー「百歩譲って全然縁も縁もない民族が祭司……も、まぁ良いでしょう。信仰自体は自由ですからね」

ランシス「……でも、魔術師的にはない。てか遊びにしか思えない」

ランシス「彼らが連綿と信仰を続けてきた訳でもなく、祭祀の一部のみ、上っ面だけ……醜悪な模倣」

ランシス「信仰も無く儀式も間違い――そんな彼らに神が応える事は、ないの」

建宮「さっき言った新撰組も同じなのよな。幕末の動乱で敵味方粛正しまくった連中、彼らは彼ら以外に存在しないのよ」

レッサー「個人的な見解なんですが、もしも現代に彼らが復活したとしても、そう名乗る事はないでしょうね」

レッサー「一度終わってしまったもの、過ぎ去ってしまったものを偲ぶのは大切。けれど囚われるのは別」

レッサー「当時の思想を大事にして、現状を無視してまで同じ事を繰り返しても、それはただの人殺しですからねぇ」

ベイロープ「ま、別に剣を振るうだけが戦いって訳じゃ無いでしょうし、現代には現代の戦い方があるのだわ」

ベイロープ「……それしか出来ない、って不器用な奴もいるかも、だけど」

レッサー「ともあれ既存の宗教家、特に権威ある方々の劣化が激しくなったんでって」

レッサー「人は弱いですからねぇ。今までは信仰である程度カバー出来ていたのが、出来なくなるとバグを起こす。バッファでも足りてないんでしょうかね?」

レッサー「『古代の信仰の復活』へ”逃げ”たんでしょうな。現実と戦わず、戦えずに『理想のアレコレ』を造り上げて、そっちに縋る」

レッサー「笑っちゃいますよね-、あっはっはっはー!」

上条「笑えねぇよ、つーか痛々しいもの!」

建宮「かくしてどこの国でも宗教家の劣化で信仰離れが激しいのよな……少ない『本物』の負担は上がるばっかりなのよ」

シャットアウラ「……このまま行けば学園都市が何もせずに勝ちそうだな?」

シャットアウラ「残った側を『勝者』と呼べるのであれば、だが」

建宮「なぁに学園都市が出来てからたかだか半世紀。我ら天草式はその五倍も忍んだのよな!」

建宮「その程度で廃れる信仰であればそれもまた運命なのよ!」

ランシス「不思議だよねぇ。信仰の自由は大体の国家で認められてるのに、カミサマ離れが進むって」

レッサー「そう割り切れる方ばっかりなら良いんでしょうけどね」

ベイロープ「『オレ達がモテないのはアイツらが悪い』ってな具合に、一回は反学園都市運動起こされっちまってるし」

建宮「――最近、妙に霊障事件が起こるとは思わないのよ、少年」

建宮「都市伝説にしろ、心霊現象にしろ、神がかりな事件が多発している」

上条「都市伝説、つーかそれただのデマだろ?口コミで広がった無責任な噂話」

建宮「『それが本当だ』としたら、どうする?」

建宮「本来鎮護をすべき人間達が力を失い、異形のモノが氾濫していると、と言ったら?」

上条「んなっ!?大事じゃねぇか!」

建宮「――なーんつって!ってのは冗談なのよ!だーまさーれたーっ!」

上条「よし、取り敢えず建宮さんの幻想をぶち殺すか?あ?」

建宮「……でもま、俺は時々思うのよな。学園都市のような、ある意味科学万能の時代が来たって言うのによ」

建宮「科学の進歩と文明の成熟により人類の生活水準も、有史以来最高まで高まってるのよな」

建宮「だってのに『この虚しさはなんだ』と」

建宮「人が信仰を捨てる事は……ま、自由なのよな。神も仏も無い。そう断ずるのも勝手なのよ」

建宮「我らのように絶望して縋る者も居れば、棄てるの者も居る。むしろそちらの方が多いのかも知れんのよ」

建宮「また病や怪我に倒れたとしても、最先端医療やリハビリで大抵は治る」

建宮「不治の病と呼ばれたエイズであっても、今では正しく薬を投与する事で平均寿命程度まで寿命を延ばせる――しかし!」

建宮「未だ怪異は存在するのよ。人類にまとわりついた呪いのように」

建宮「『鰯の頭も信心』の、言葉があるようになんだって信心さえあれば、容易に克服出来る”筈”なのに」

建宮「どういう訳か怪異の噂話はネズミ算のように広まり、脅威が氾濫していく。それは――」

建宮「――『信仰』を人間が捨てる事によって、精神的に脆弱になってしまった証左じゃないのよ?」

建宮「人は闇を嫌い火を灯し、神を造って魔を打ち払ったのよな」

建宮「されど時代が進み、科学の進歩により神は時代後れとなった。その、顛末が『これ』かよ」

上条「納得行かないなぁ、それ」

レッサー「納得行く話の方が少ないですよ――ってどうしました、鳴護さん?」

鳴護「うーん……?思ったんですけど」

鳴護「『誰かに理解して欲しい』とか、『認めて欲しい』とか、切望する気持ちありますよね?」

レッサー「あー、自己顕示欲ですか?フリッフリの衣装着て踊るアイドルさん程じゃないでしょうが、皆さんお持ちでしょうな」

鳴護「違うの!?あたしは別にシンガーソングライター枠で応募した筈なの!」

鳴護「気がついたら、『あ、お洋服こっちの方が似合うわよ?』って言葉巧みに!どくろラビットの先輩さんみたいな衣装を着てたの!」

ベイロープ「……なんだろ、これ。この子見てるとレッサーと同じような目眩を感じるっていうか」

フロリス「あー、わかるわかる。なんなかチョロそうって感じだ」

建宮「悪い奴に『デビューさせて上げるから、分かってるよね?』とか騙されそうで怖いのよ」

上条「……もしかしてレディリーって悪いのは悪いけど、最悪っつー訳でもなかったんじゃ?」

シャットアウラ「一応夢自体は叶えているし、遺産関係も配分されるようになっていたからな」

シャットアウラ「――ま、なんであろうと落とし前はつけるが」

鳴護「……そうじゃなくって!その、なんて言うかな、孤独な人、結構多いよね?」

鳴護「普通に暮らしてるだけなのに、何か不安で不安でたまらないー、みたいな人」

上条「誰だって大なり小なりそうなんじゃねぇの?学校に職場、友人関係や上下関係」

上条「生活レベルが上がったからって、考える事自体はそんなには変わんないだろ」

鳴護「昔の人はさ。神様が見てるから真面目にしようーとか、神様が突いてるから大丈夫だよー、とかして頑張ってきたんだよね?」

建宮「ま、端的に言えばそういう話なのよ」

鳴護「でも今、神様を信じる人は少なくなってるかな?」

鳴護「その、昔々にあった『本物』とは違うけど、間違ったとしても動機自体は同じだと思うんだよ」

鳴護「『誰かに助けて貰いたいよ!』、『私をもっと見て欲しいなっ!』って感じで」

シャットアウラ「……アリサ、やっぱり超可愛いな」

上条「話違うよな?んな話してなかったよな?」

シャットアウラ「既存の信仰は減っては居るが、全体としてはそう変わっていない、か?」

鳴護「あと、人が信じるのは友達とか家族とかもそうだし、そこら辺は変わらない――変わって欲しくないなぁ、って思います、はい」

レッサー「……」

ランシス「……どったの?両手で顔を塞いで……?」

レッサー「まぶしくて」

ランシス「あー……」

レッサー「『次はどうボケようか?』とずっとずっと考えていた私は恥ずかしい!」

上条「やっぱそうだったのかコノヤロー」

ベイロープ「……真面目にやれ、真面目に?一応あなたは看板なんだから」

レッサー「何でですかっ!?つーかゲームバランス悪すぎでしょうが!」

レッサー「天然!ぽわぽわ!歌上手い!可憐!着やせ!属性揃いすぎじゃないですかねっ!?」

上条「属性言うな」

鳴護「うぇ?あたし天然じゃない、けど?」

レッサー「ホォラ見なさい!アレが天然のテンプレですよ!どうしろっつーんですか!どう戦えば良いんですか!」

レッサー「明らかにヨゴレの私には分が悪すぎやしませんかねっ神様!」

上条「自覚はあったんかい」

レッサー「確かに歌以外は私といい勝負ですけども!」

上条「待てやコラ?いつ誰がお前に可憐っつったんだ?あぁ?」

レッサー「こないだ駅前でタベっていたらですね、知らない男の人が近づいてきまして」

上条「待てよ!?これ完全にしょーもない小話へ行く方向じゃねーか!」

レッサー「『やぁKaren、どうしたんだいこんな所で?』」

上条「やっぱり可憐違いだよ!てかオチは読めてた!」

レッサー「……くっ!可愛い私がナンパされたという話をちょい盛って、嫉妬を煽らせる作戦だったのに……!」

建宮「ちなみに盛らないと?」

ランシス「『マックでご飯食べてから、本屋回って帰った』、だけ……」

上条「ナンパされたという事自体が盛りか!?」

レッサー「まぁ事実を捏造してまで気に引きたい、的なポジティブな評価をお願いしますよ」

フロリス「うーん、まぁ、頑張りたまえよ。てか、そこまでする価値無いと思うけど、コレに」

上条「コレ言うなよ!俺が一番分かってんだからな!」

レッサー「フロリスの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!」

レッサー「折角人が”鬼 悪魔”と検索したら、『もしかして;高千穂?』ってなるようコッソリ広めてたのに!」

レッサー「何バラしてんですか!しまいにゃ怒りますよ自称17歳のオッサンどもめ!」

上条「お前は誰と戦っているんだ。てか誰?」

レッサー「落選したのに国会議員気取りの家事手伝いさんへ」

レッサー「『お前は自分を有能だって言うけど、お前は失言カマした元大臣より比例順位低いし、何よりも有権者から一番無能だって審判受けてんだよ』と宣ったり」

レッサー「他にも『労働者の党なのに党首が一回も労働経験無しって何?党役員が労働だって言い張るんなら、無償で新聞配達する人らにも報酬支払え』と言い放つ猛者です」

ランシス「ブラックなのかレッドなのか、いい加減はっきりさせるべき……」

レッサー「例えるなら――そうっ!空を駆ける一筋の流れ星!」

ランシス「るぱんざさーっ……」

上条「収集つかねぇよ!?ボケる時はツッコミの負担も考えてあげて!」

建宮「――と、ここで休憩を入れるのよな。そっちの嬢ちゃんはクールダウンするのよ」

ベイロープ「オーケー、レッサー顔洗ってきなさい」

フロリス「レッサー、ハウスっ!」

レッサー「わふーっ!」

上条「全然堪えてない!?」

レッサー「ネタを振られたら反射的に体が動く……!?」

ランシス「……それ、ただの芸人気質」

上条「俺ら、深夜の病棟で思いっきり騒いでんだけど、いいんかな?」

シャットアウラ「そこら辺も含めて『特別待遇』なんだろう」

上条「てか気になってたんだけど、さ」

シャットアウラ「警備体制はそれなりだ。フランス当局から派遣されている軍人がツーチームで常時待機」

シャットアウラ「後は『たまたま同じ病院に検査入院している』私の部下達が6人程」

建宮「丸腰なのよ?」

シャットアウラ「当然だ。私達はゲストなのだから。無理が効く訳が無い――ものの」

シャットアウラ「仮にテロリストと接敵した場合、『相手の武器を奪って反撃』するのは自衛の内、という事で話がついている」

シャットアウラ「テロリスト達は『そんな武器持ち込んでいない』と言うかも知れないな――開く口が残っていれば、だが」

建宮「中々腹芸が得意なのよ」

上条「あぁいや、そっちは別に心配してねーんだけど。アリサの方で」

鳴護「なになに?何でも答えるよ?」

シャットアウラ「……チッ」

上条「せめてちょっとぐらい隠そう?今一応味方って設定なんだから」

鳴護「まぁまぁお姉ちゃんも、ね?」

上条「あー……さっきの話聞いてて思ったんだけどさ。アリサはアイドルになりたかったんだよな?昔っから?

鳴護「アイドル路線があたしの夢、みたいなのはちょっとアレだけど……うん、まぁ、そうだよ?それが?」

上条「うーん、まぁ大した事じゃ無いんだけど、どうしてアイドルになりたいのかなって思ってさ」

鳴護「……あー……」

上条「あ、ごめん。何か言いにくい事だったのか!?」

鳴護「って訳でもないんだけど、うーん……」

鳴護「願掛けって、口に出すと叶わないって言うよね?」

上条「あーはいはい!まだ叶ってないのな、そかそか、そりゃ悪かった」

鳴護「今もね、ある意味叶っちゃったようなものだけど」

上条(そう言ってアリサはシャットアウラを見る)

上条(シャットアウラが叶えた?)

鳴護「……当麻君がなってくれるんだったら、話しちゃってもいいかなー、なんて思ったり。思わなかったり?」

上条「どっちだよ」

鳴護「……まぁ、一番叶えたかったお願いは――」

鳴護「――もう、叶わないんだけど、ね」

――深夜の病棟 廊下

上条「……」

上条(病院って所はつくづく殺風景だと思う)

上条(入院が慣れてる――って誉められた話じゃないが――俺でも、やっぱり違和感が拭いきれない)

上条(昼間とも違い、また夜とも違って、照明の多くは必要最低限を残して消してしまっていた)

上条(目立つのは非常灯の灯り。それが無機質に白い壁を橙色に染め上げていた)

上条(つい最近、夜の学校や病院へ忍び込み時にも感じた。なんて言ったらいいのか、こう、アレだよ)

上条(普段騒がしい所から急に静かになったような?形容しがたい澄んだ空気ではある)

上条(とは言っても自然に囲まれた清々しさはなく、病的なまでに異物が排除した感じ)

上条「……」

上条(カエル先生に聞いた事がある。「どうして夜は照明を落としてのしまうのか?」と)

上条(……まぁ「予算削減」みたいな答えが返ってくると思ったんだが、意外にも俺の予想は外れた)

上条(『患者の中にはずっとここで暮らしている人が居るね?何ヶ月も、下手をすれば何年も』)

上条(『昼夜を問わず、衰えない照明を点けたままだったら、体内時間が乱れてしまうね?』、だそうだ)

上条(だからこうやって光量をギリギリまで落としている……例えるならば、そうだな)

上条(街中のスクランブル交差点。大抵は人で一杯のそこを、夜何気なく通りかかったとしよう)

上条(人影も無く、信号機が黄色く点滅しているのが、どこか物悲しい)

上条(……いつだっけかな?黄泉川先生に車で送って貰った時、見た光景)

上条(檻に入ってない猛犬と狂犬、あとライオンと同乗していた……?まぁ、いいか)

上条(人は居ないのに、人のために造った何かが黙々と動いているみたいな?)

上条(……不安?違和感?焦燥感?)

上条(どれでもなく、どれにも近い……強いて言えば感傷、か)

上条(寂しいような、悲しいような、何とも表現しにくい)

上条「……」

上条(……旅に出てからのアリサは、少し変だ)

上条(頭のアレな連中に狙われてるんだから、当然と言えば当然だけどさ)

上条(慣れてない海外で緊張しているせいもあるんだろう。けど、それにしては)

上条(テンションの上下が激しいって言うかな?うーん……?)

上条(こんな時、土御門や青ピだったら、適当に遊びに行けばどうにかなるんだろうけど)

上条(アリサを同じような扱いにするのは……マズい、んだよな。きっと)

上条(そうなってくると頼みの綱はレッサー達……)

上条(あぁ見えてレッサーは気ぃ遣いだし、少なくとも俺よりかは上手くやってくれそうな――)

上条「……」

上条(だ、大丈夫だよ!ベイロープとかも居るしっ!)

上条(俺に出来る事っつたらメシ作るのと『連中』の露払いか)

上条(建宮の話はまだ途中だけど。それなりの光明も見えてきた。一方的に振り回されずに済みそうだ、ってのはデカい)

上条(四幹部っつったっけ?アルフレドにクリストフ、安曇に団長)

上条(向こうの居所さえ掴めれば、政府公認で魔術師の討伐隊が動くって言うし)

上条(次行くイタリアはローマ正教のお膝元。ヴェント達が守ってくれ――)

上条「……」

上条(――る、かどうかはまだ分からないけど!少なくとも連中にとっては難敵なのは間近いない!)

上条(そもそも連中が一番力を入れていた”最初の一撃”――存在を気取られぬようにしながら、最大戦力で不意打ちするのは凌いだ)

上条(現地の機関も敵対者ありきで守ってくれるし、あの規模で仕掛けられるのはまず不可能……)

上条(……なんだ。そう考えると怖くもないか。そんなには)

上条(逆に言えばユーロトンネルがどれだけ薄氷踏んでたか、って事になるが。まぁいいや)

上条(さってと。あんま遅れない内にコーヒー買って戻ろう)

上条(あ、全員分買った方が……いや、深夜だし。あと数時間で夜が明けるっつーの)

上条「……?」

上条(……つーかさ、俺今思ったんだけど。てかスッゲー根本的な話なんだが)

上条(外国って、自販機あったっけ……?)

上条(病院が舞台のアメリカのドラマじゃ、紙コップのコーヒー自販機が出てたけど)

上条(よく分かんないけど、ロビーの方に行けば何とかなる、か?)

上条(このまま戻るのも、何か格好悪いし)

上条「……」

上条「……ロビー、ってどっちだっけ?」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(パンプスの音……あ、誰か居るな?白衣?病院のスタッフだよね?)

看護婦「……」

上条「あ、すいませーん?ちょっと聞きたいんですけど」

上条「コーヒーの自販機って、どこにありますかね?」

看護婦 スッ

上条「あっち?どうも、ありがとうございましたっ」

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(良かったー、日本語が通じる人が居て。つーか言ってみるもんだな。うん)

上条(……あ、そか。プレインストールした翻訳アプリ使えば良かったんだ――)

上条(――って、病院だから鞄の中に電源切って、カバンに入れっぱなしだっけ?普段からあんま使わないしなー)

上条「……うん?」

上条(そういや今の看護婦さん、どうしたんだろうな?)

上条(なんで”顔全体を包帯でぐるぐる巻きにして”たんだ?怪我?病気?)

上条「……」

上条(……いやいや、違う違う!そうだよ!アレだって!ドッキリ的な!)

上条(まっさか深夜の病院でだよ?そんなベッタベタなオバ――いやなんでもない!それっぽいのが出る訳が無いって!)

上条(だって居ないの分かってるし?つーか子供じゃないんだから、そんなにビビる必要は――)

………………

上条「……うん……?」

上条(俺とすれ違った看護婦さんの向かった先、つーか方向からすれば真後ろ)

上条(遠ざかった足音が消えたのと引き替えに、何か、別の、音が聞こえる……?)

………………キュル………………

上条「……車輪……?」

上条(おかしな、音だ。三輪車を回しているような感じ)

上条(まさか深夜の病院に三輪車が、っていうか子供がキュルキュル漕いでる筈が無い)

……キュルキュル…………キュル………………

上条「……?」

上条(遠くの非常灯に映し出されたのは、当然三輪車ではなく。もっと病院に相応しい)

上条(車椅子、だった)

上条「……驚かせんなよ」

上条(だよなぁ。病院だもんな?ド深夜に三輪車乗ってる子供が居たら怖いよな)

上条(……ま、入院患者の誰かなんだろうけど、)

……キュルキュルキュルキュル……キュルキュルキュル……

上条「……あれ?」

上条(確かにあってもいい、ってかむしろ車椅子は病院にピッタリだ)

上条(勿論、席には人が座ってる。無人だったってオチもない。けど――)

上条(――どうして『搭乗者の両手が動いていない』んだろう?)

上条(この廊下には別段キツい傾斜がある訳でもなく、ビー玉を落としたら直ぐに止まりそうだ)

上条(慣性――おばちゃんが自転車に乗る時、何か二・三回漕いでから乗るのってあるよな?)

上条(アレみたいに、勢いがついている――に、しては速すぎる!)

上条(人が軽く走る程のスピードで!車椅子はこっちへ向かってきていた!)

上条「お、おい、これってまさか――」

上条(”ホンモノ”の幽れ――)

フロリス「モモンガーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

上条「のわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

フロリス「……」

上条「………………え?」

フロリス「……」

上条「フロリス……?なんでお前車椅子に乗っ」

フロリス「………………ぷっ」

上条「あ、テメっ!?騙しやがったな!?」

フロリス「ぷ、くくくくくくくくくくくくっ!やったよ!大成功!」

フロリス「『のわーーーーっ』だって!『のわーーーっ』って」

上条「テメこらやって良い事と悪い事があんだろうが!?本気で『濁音協会』かと思ってビビったんだからな!?」

フロリス「いやぁ?今のリアクションは違ーくない?ないない?アレでしょ?」

フロリス「『深夜の病院でオバケに出会った』ってぇ反応じゃない?ね?ねぇ?違う?」

上条「だってしょうがないじゃない!誰だって驚くさ!」

上条「つーかお前どうやってんの?助走つけて車椅子走らせたにしちゃ速いんだけどさ」

フロリス「ん?ワタシの霊装見せなかったっけ?これこれ」

上条「肩んトコに翼の……?」

フロリス「座ったまま『金の鶏冠(グリンカムビ)』をパタパタと」

上条「……お前、霊装まで使って脅かしに来るって魔術師としてどうよ?」

フロリス「異能者はイタズラで能力使わないのかにゃー?」

上条「あー……使いますねー。むしろそっちがメインなんじゃねぇの?的な頻度で使いますよねー」

上条「てかフロリスの貸しは利子つけて払ったじゃねぇか!だってのにこの仕打ちはなんだよっ!蹴られ損か!?」

フロリス「それはそれ、これはこれ」

上条「出たよ!それ母さんがよく使う台詞だよ!」

フロリス「あと”さん”をつけろよジャパニーズ」

上条「……で、なに?フロリス”さん”は俺のSAN値をゴリゴリ削るために着いてきたの?暇だねー?」

フロリス「なーんか言葉にトゲがあるなぁ?折角ワタシが親切で来てやったってのに」

上条「イギリスじゃ人様をドッキリさせるのが親切かあぁコラ!?」

フロリス「逆ギレよくないと思いまーす」

上条「正統な怒りだよ!レッサーといいお前といい、どっかズレてませんかねぇっ!?」

フロリス「ちゅーか、ここでどったのジャパニーズ?トイレはあっちだよ?」

上条「……いや、ここで素のテンションに戻られてもアレなんだが」

上条「何か喉渇いちゃってさ。コーヒーでも飲もうかと」

フロリス「おっ、いいねぇ。付き合おう」

上条「帰れよ!俺の心の平穏のために帰ってくれよ!?」

フロリス「あっちゃー、そんなに邪険にしなくってもいいじゃんか。ワタシかなんかしたっけ?」

上条「文書と口頭どっちがいい?俺的には裁判所もアリだと思いますけどねっ!」

フロリス「ノーサンキューで。つーか興味ないし」

上条「待てコラテメー!あんな包帯ナースまで用意しやがって!」

上条「どう考えても事前に用意してなっきゃ無理だろうがよ!」

フロリス「あーはー?ナースぅ?」

上条「そうだよ!お前が来た方に行った人だ!」

フロリス「知らない。ナニソレ?」

上条「……え?マジで?」

フロリス「マジでマジで、うん」

上条「冗談だよね?実は知ってましたー、ってオチなんだよね?」

フロリス「つーかワタシ誰ともすれ違わなかったし。それこそ『ホンモノ』にでもあったんじゃなーい?」

上条「……」

フロリス「……」

上条「あのぅ、フロリスさん?ちょ、ちょっとお願いがあるんですけどね?」

上条「いやあの、俺達って不幸な出会いをしたじゃないですか?まぁ、ある意味時代が生んだ悲劇って言うか、運命の悪戯的な?」

フロリス「うん、それで?」

上条「ですからね、俺としてもいい加減仲直り的なアレですね、した方が良いんじゃないかって思いましてね」

フロリス「頭が高いぞジャパニーズ!人にモノを頼む時には態度ってモンがあるよねぇ?」

上条「自販機まで付き合って下さい!お願いしますっ!」

フロリス「Pardon, Aha?(もっかい言ってみ、あん?)」

上条「実は最初っから思ってました!フロリスさんって優しくて美人で気立ても良い娘だなぁって!」

フロリス「そこまで卑屈になられると、ちょっと引くけど……」

上条「そこをなんとか!俺一人じゃ厳しいですから!」

フロリス「てかそこまでしてコーヒー飲む意欲はナニ?シールでも集めてんの?」

上条「映画とかの定番でさ。ここで『……なんかアレだし、戻ろっか?』とか言う奴が真っ先にヤラれるからだよ!定番じゃねぇか!」

フロリス「あるけど。映画じゃないしリアルだし、やれやれ」

上条「みてーなモンだろうが!伊達に列車でパニック映画ゴッコしてねぇよ!」

フロリス「シチュ的には定番だーよねぇ。てかビビりすぎだって」

フロリス「天草式の人やこっちの人らが警備してんだから、そうそう心配しなくってもさー」

フロリス「……や、まっいっか。病室で話聞くのもダルいし、サボリに付き合ってあげようじゃないか、んー?」

上条「俺は別にサボるつもりはないんだが」

フロリス「二人ぐらい居なくっても、別に良いっしょ?ほら早く行こう、さっさと行こう!」 キュルキュルキュキュル

上条「……車椅子は置いてきなさい。つーかどっから持ってきたんだ、それ」

フロリス「廊下の真ん中にポツンって。あ、邪魔だから脇に寄せとこうか」

上条「……ふーん……?」

――六人病室

建宮「その中、有力な一派に『安曇氏族(クラン・ディープス)』がある」

建宮「『安曇氏』とは古事記や日本書紀にも名を残す古参中の古参。由緒正しい氏族なのよ」

レッサー「せんせー!質問です!」

建宮「なんなのよな?」

レッサー「上条さんとフロリスさんが居ませんっ!あんチキショウは抜け駆けしてどこへ行ったんですか!」

ベイロープ「自分を基準に物事を考えるな」

建宮「つーか我らも暇じゃないのよな。この後日本へ戻って『安曇氏族』から直接話を聞いてくるのよ」

建宮「五和がアポ取りへ行ってるとはいえ、一介の魔術師がホイホイ話を聞けるような相手じゃないのよな」

シャットアウラ「アズミ?それは敵の名前じゃないのか?」

建宮「いんや、彼らは極々普通の連中――というか、ちょい待つのよな」 ゴソゴソ

建宮「ある筋から聞いた話なのよ」

鳴護「メモ帳?……あ、この印刷したみたいな字、インデックスさんの」

建宮「消息筋から聞いた話によると!この一族は日本全国に散らばっているのよ!」

建宮「その証拠に、彼らが根を下ろした地方には『アズミ』の名が多く冠されているよな!」

鳴護「メモには……えぇと」

鳴護「安曇、安住、安積、阿曇、飽海、熱海……最後関係なくないかな?」

建宮「滋賀には『安曇』と書いて『あど』と呼ばせる所もあるのよ」

レッサー「滋賀……大きな湖がある所ですね。『水』関係と」

建宮「一番有名なのは長野県の安曇平(あずみだいら)よな。安曇氏族は阿墨氏を氏とする一族なのよ」

シッャトアウラ「ウジ?」

建宮「祖先、先祖、氏神。つまりは『阿曇磯良(あずみのいそら)』という地祇(くにつかみ)がルーツの一族なのよ」

レッサー「あー、一杯いますもんねー日本の神様。そりゃ子孫も居るってぇ話ですか」

建宮「安曇氏族は『海洋民族』だと言われているのよ」

建宮「福岡辺りを中心に活動した海の民。彼らは海洋活動に長け、高い操船・造船技術を持ってたのよな」

ベイロープ「海洋技術って事は、アレ?ミクロネシア辺りからの流入?」

建宮「DNA的にはそっちとされているのよな」

シャットアウラ「お前らがそれを言うのか……?」

鳴護「ま、まぁまぁ。科学で分かる所もあるし、ね?」

建宮「時代が下る連れ彼らは次第に姿を消す。具体的には日本と同化していったのよな」

建宮「そうして彼らが移り住んだ先へ自らの氏族名をつけた、とされているのよ」

レッサー「にゃーるほど。それで日本列島各地に名前が残ってんですな」

鳴護「あのー、先生?」

建宮「おっと現役アイドルにそう呼ばれると興――すいません言いませんからその物騒なものを下ろすのよ!?」

シャットアウラ「二度目はないぞ?いいな?」

レッサー「聞きましたかっ建宮さん!二度目はないんですって、二度目は!」

レッサー「だから絶対フザケちゃいませんからね?絶対ですから!絶対ですよ!?」

建宮「……ぬぅ、見事な、『押すなよ!絶対に押すんじゃないぞ!?』って前振りなのよな!」

建宮「これに答えずして何が天草式、何が教皇代理なのよ……っ!」

鳴護「いやあの、そういうの別にいいんで疑問なんですけど」

建宮「うん?」

鳴護「その、安曇さん達って海の人達なんですよね?船で移動してたり、航海技術が得意な人達」

建宮「と、言われているのよな」

鳴護「長野県の安曇地方って、陸の真ん中ですよね?富士山に近いっていうか、結構な高地だったような?」

鳴護「だったら、どうやって移動したのかなって」

建宮「――それは”川”だと言われているのよ」

シャットアウラ「船で遡ったと?」

建宮「長野には木曽川ってデカい川があるよな。そこを遡って行ったと考えられているのよ」

建宮「その証拠に安曇平にある諏訪大社、熊野神社、穂高神社には『お船祭り』という祭祀が執り行わせるのよな」

鳴護「船、なんですか?」

建宮「そうよ!大体は『近くの川から豊穣をもたらすように!』との願いを込められているのよな!」

レッサー「川ですか?日本はコメの民族じゃなかったでしたっけ?」

ベイロープ「古代農法でも米の栽培には水が必要でしょうが。てか勉強しなさいよ」

レッサー「ぶーぶー、いっくら何でも私らが極東の魔術師とかち合うなんて、有り得ないでしょう?」

建宮「全くその通りなのよな!By天草式、inロンドン!」

レッサー「……あのぅ、ベイロープさん?戻ったら、お勧めの本願い出来ませんかねぇ?よかったらでいいんですけど」

ベイロープ「先生に頼め、先生に」

レッサー「いやでも最近ボケが進行してるらしくてですね。こないだなんか、たこ焼きと明石焼き間違って食べてましたっけ」

建宮「それ、日本人も結構間違うのよな。てか俺は分からんのよ」

鳴護「レッサーさん達の先生、凄く気になるよねっ」

ランシス「んー……癒やし系……?」

シャットアウラ「おい、ツッコミが一人居ないだけで脱線しまくってるんだが」

シャットアウラ「……そうか。安曇氏族が持っていたのには、航行技術だけじゃなく治水スキルもあったのか」

建宮「だから外様であっても現地の住人から歓迎され、名前も残せたのよな」

レッサー「今と違って、キャベツキャベツ騒げば人権派弁護士に守って貰える訳じゃないですからねぇ」

レッサー「そりゃ技術の一つでも無い限り、自分達が有用だって示さないと安心して定住は出来ないでしょうね」

建宮「繰り返すのよ。安曇氏族自体は極めて古い一族であり、国のまほろばにも顔を出す程の有力な一派なのよ」

建宮「しかも移住した先で名を残す程、異物粛正上等の古代であっても『共存』を尊しとした連中なのよな」

建宮「興味がある奴は馬食文化を調べてみると良いのよな。大抵その風習が残っている地域には、『アズミ』と呼ばれた何かがあるのよ」

建宮「黒髪の嬢ちゃんよ。そこいら辺が知りたいんだったら中山太郎先生の『日本巫女史』辺りを読むのよな」

建宮「……ただ、素行がアレな人物だったので、主流派からは嫌われているお人なのよ」

レッサー「こりゃご親切にどーもです――ともあれ!」

レッサー「話を聞くに割と真っ当そうな方々ですな。少なくとも――『表』は」

建宮「『裏』もそう変わりは無いのよな。『安曇氏族(クラン・ディープス)』として全国津々浦々にネットワークを持ち、影響力も深い」

建宮「……が、時として多様性は異端を産んでしまうのよな」

シャットアウラ「種の多様性とはそういうものだ」

シャットアウラ「鼻の短い一族の中に、ある時鼻の長い個体が産まれる」

シャットアウラ「鼻が長い個体は他よりも生存競争で有利であれば、次第に数を増やし」

シャットアウラ「最後に群れは鼻の長いゾウだけになる。それが淘汰だ」

ランシス「……平和な国にシリアルキラーが生まれてしまうのも、その一例……」

建宮「――そう、安曇阿阪は」

建宮「ヌルい日本の魔術界が産んだ『鬼子』なのよ」

――深夜病棟 ロビー

上条「ってあったあった自販機。つーか缶じゃないな?紙コップがポコンって降りてくるタイプ」

フロリス「LEDライトも点いてるし、売ってるみたいだね」

上条「ん、まぁこういう所は誰かが起きてなくちゃいけないだろうから、その人ら向けなんじゃねぇの」

フロリス「ウチの国じゃ新聞のVending machine――ジハンキ、もあるよ」

上条「へー?それはちっと見てみたい。日本にも雑誌――つーか、まぁ、特殊な本の自販機はあるけど」

フロリス「ショッボいけどね。んーと、まずお金を入れるじゃない?カチャンカチャンって」

フロリス「一定額貯まったらパカって開いて、そっから新聞を引き抜く仕組み」

上条「Autoの概念どこ行った!?ほぼ手動じゃねぇかよ!」

フロリス「言ったじゃんか。ショボいって」

上条「買う人居るんか……?」

フロリス「見た事無い」

上条「だっよなぁ。日本でもオッサンがエロ記事目当てで買ってる感じするもんなー」

フロリス「マジ?日本でもそうなの?」

上条「スポーツ紙は、まぁ。てかイギリスにもある方が驚きだな」

フロリス「”The SUN”って日刊タブロイド紙にトップレスのおねーちゃん日替わりで載ってる」

フロリス「しっかもあれ、英語で出る日刊誌だと発行部数最大らしくてさぁ」

上条「日本のHENTAIにもまだまだ敵があるって事か……!」

フロリス「誇るな。むしろ恥じなよ」

上条「……」

フロリス「……どったん?サイフ落とした?」

上条「あの、何書いてあるか、ですね?」

フロリス「英語でも書いてるのに!?てか準備しないにも程があるだろジャパニーズ!」

上条「いえ、あの、種類ぐらいだったらまぁ、分かるんだけど。ここの、これあるじゃん?」

フロリス「この☆印?」

上条「☆×1とか☆×5まであるんだけど、これ何?最大五個出て来んの?それとも豪華って意味?」

フロリス「バッカだなぁ、そんな訳ないじゃんか。これ砂糖の数だってば」

上条「マジで?てか最大五倍ってどういう事だよ」

フロリス「あぁフツーのが☆3、無糖が☆1、砂糖アリアリが☆5ってコト」

上条「成程成程。アメリカみたいにやったら甘い訳じゃないのね」

フロリス「まぁ試してみなよ。くっくっく……」

上条「フロリスさん?お前なんか企んでるよね?リアクションがもう、振ってるもんね?」

フロリス「いやマジで☆5はオオスメだって。騙されたと思って、ミルクアリアリで」

上条「……悪い意味でフラグっぽい気がするが……まぁ試しに」 ピッ

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……どれどれ、ってお前何勝手に――」 タシッ

フロリス ゴクゴクゴクゴク

上条「ってお前が飲むんかい!?」

フロリス「……あ、意外と美味しいかも、☆5つ」

上条「やっぱりお前もぶっつけ本番じゃねぇか!てか知らないのに堂々としやがって!」

フロリス「まぁまぁ、奢ってあげるからさ」 ピッ

上条「……なんだろうな、こう?納得行かねっつーか、何かおちょくられてるっつーか」

上条「てか君お金入れてないって事は、今から出るのも俺のお釣りであってだね」

ドポドポドポドポ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……

上条「……んじゃ、頂きます……」

フロリス「どーそ……どう?」

上条「……美味いな、超甘いけど。何かコーヒーじゃなくってカフェオレになってる」

フロリス「昼間あんだけ騒いだからねぇ。染みるっしょ?ん?」

上条「あー……まぁ、疲れた時には甘いモン欲しくなるけど」

フロリス「それともアレか。『男だったら黙ってブラック!』気取りか!」

上条「ん?あぁいや別にンなこだわりはないなぁ。男だろうが女だろうが、好きなものは好きで良いだろ」

フロリス「レッサー居たら大喜びしそうな台詞だーよねぇ」

上条「コーヒーに牛乳入れた方が美味く飲めるんだったら、そうすりゃいいし」

フロリス「へー?ちょっと見直したかも」

上条「なんで?飲み方一人で印象変わるって、お前ん中で俺の評価はどんだけ低かったの?」

フロリス「いやぁ、ジャパニーズの特性から考えると、またヘラヘラ笑って同調しとけ、みたいな感じかなーって」

上条「オイオイ日本人だって真剣になる時はなるぞ?」

フロリス「例えば?具体的にプリーズ?」

上条「そうだな……メシの時、とか?」

フロリス「あ、それ聞いた事ある!どんだけ悪口言ってもキレなかったのが、ついにキレたのって食べ物だって話!」

フロリス「都市伝説じゃなかったかー、そっかそか」

上条「他には……まぁ、食い物、か?」

フロリス「言ったよねぇ?それ今言ったばっかだよね?つーかナメんての?」

上条「知らねぇよ!てかそんなにキレねぇだろ、普通は!」

フロリス「ロシア人のジョークで、こんなのがあってだね」

フロリス「『ロシア人同士が自分トコの首相の文句を言っていたので便乗したら、「ロシアをバカにするな!」ってキレられた』――」

フロリス「――的な逸話とかないの?」

上条「俺ロシア人じゃないけど、どこの国だって余所の連中が詳しい事情も知らずに批判してたら、普通は良い気分じゃなくね?」

上条「てかレッサー辺り、ボッコボコにしそう」

フロリス「あー、そう見える?んまぁレッサーは誤解されやすいかんねー、仕方が無いけど」

フロリス「でも多分、『国家』じゃなくって『政治家』だったら別になんも言わないよ」

フロリス「むしろ肩組んで盛り上がると思うなぁ」

上条「レッサーがキレる所って想像つかないんだけど、どんな感じになんの?」

フロリス「笑顔でキレる」

上条「あー……それ、日本人と似てるかも」

フロリス「そなの?」

上条「俺らって大抵、まぁ大人しいじゃん?良くも悪くも引いてるっつーか」

上条「嫌な事されても、大体困った笑顔なんだけど――それが一定のレベル過ぎると、『笑顔でお断り』するんだ」

フロリス「あっそ」

上条「あ、すまん。興味ないか」

フロリス「んー……むむむむむむむ」

上条「……どったの?紙コップの中に溶け残った砂糖の塊でもあった?」

フロリス「いゃぁそんなんじゃないだけど、妙にイラついててさ。こう」

フロリス「もっかい蹴って良いかな?」

上条「嫌に決まってんだろうが!?てかそれで『あ、どうぞどうぞ?』って言い出す奴はどっか壊れてるぞ!」

フロリス「なんてーかなー……うん、よくわっかんないんだけど、こないだの件あるじゃんか?『ハロウィン』の」

上条「いやだから、それも謝ってんでしょうが」

フロリス「分かってるし。そうじゃなくって、つーか、んー……?」

上条「どうした?お前ホントにおかしいぞ?」

フロリス「あ、いやホラ。ワタシ、どんな風に見える?どんな感じに見える?」

上条「……質問に質問で返されまくってんだが」

フロリス「マジで答えて」

上条「あー、うん。まぁ、そうだな。言えっつーんだったら、言うが」

上条「どっちかっつーと、綺麗系だよな」

フロリス「――へ?」

上条「クラスの一人ぐらい居るじゃん、綺麗なんだけど鼻にかけないで、あんまツルむのも好きじゃないっぽい子」

上条「別に女子からハブられる訳じゃないんだけど、なんか、こう孤立してる感じの」

上条「でも何か俺達がサッカーとかゲームとか、その子の好きそうな話してたら混ざってくる感じでさ」

上条「……で、自分の容姿とかにも、あんま興味ない感じだから。距離感とかも無造作?無頓着?」

上条「卒業して何年か経って、『あ、そういや俺、あの子好きだったかも?』って思い出すの」

フロリス「妙に具体的だなっ!?」

上条「ベイロープまで行っちまうと『無理めの美人』って感じだけど、フロリスさんだと、まぁ『ちょい無理めの不思議系』?」

フロリス「どっちにしろ無理ジャンか」

上条「ごめんなさいねっ!だって俺彼女居た事ありませんしぃっ!」

フロリス「ちゅーか、意外だなぁ。似たような事レッサーにも言われたよ」

上条「総評として『外見は良いんだが、どっから話を持っていったら分からない系』じゃね?」

フロリス「そのナンパ師みたいな言い方はどうかと思うんだけどさ……まぁ、大体合ってるっちゃ合ってる、かも?」

上条「つか俺何恥ずかしい事言ってんだよ!?」

フロリス「もっと速く気づきなよ。こっちは『え、遠回しにコクられてんの!?』ってドキドキなんだから」

上条「いやごめん、そういうつもりは今んとこはないって言うか」

フロリス「おい。そこは笑顔で肯定すんの流れじゃないのか、あ?空気読めよ、ったく」

上条「お前は俺のキャラをどうしたいんだ……で?俺に人物評価させて何がしたかったの?」

フロリス「いや、何ってワケじゃないんだけどさ。まぁ大体合ってるし、つーか別に拘る事なんて少なくない?」

フロリス「遊びたくなったら、遊ぶ相手を探せばいーし。そのために普段からツルんでるのって、逆に不自然じゃないかな?」

上条「ま、そういう考えもありだろうとは思うが」

フロリス「ま、ぶっちゃけワタシ、そんなに拘りはないんだよねぇ、うん。友達もそうだけど、その他にもそんなにはー、みたいな?」

フロリス「その場その場できーーーっ!ってなる時もあるけど、大抵は暫くすると『ま、いっか』みたいな?」

上条「そんな感じあるよな。つか猫みたいだぞ」

フロリス「それも良く言われんよ。気分屋ってニュアンスで」

上条「どういう環境で育ったんだ、って聞くのはダメ?」

フロリス「ん、いーよ別に?隠すよーなこっちゃないしなぁ」

フロリス「ウェールズって知ってる?ブリテンの西側で、元々別の国だったんだけど、700年ぐらい前に併合したんだ」

上条「ベイロープからもスコットランドの話、チラッと聞いたんだが、イギリスって一つの国家じゃないのな」

フロリス「イギリス”連邦”だったからねぇ。一時期は大英帝国名乗ってんだよ、これが」

フロリス「んでもやっぱさー、無理があったみたいでさー」

フロリス「ちょい前まで北アイルランドで独立テロばっかだったジャン?」

フロリス「経済が上向きになってようやく収まったと思ったら、今度はブレアのチクショウがスコットランド自治とか言い出すし」

フロリス「もー散々なんだよね、ホンットに迷惑って言うか」

上条「ウェールズも独立したがってんのか?」

フロリス「どうだろ?一緒んなって長いしねー、ワタシら」

フロリス「Union Flag(イギリス国旗)は聖ジョージ十字とスコットランド国旗、アイルランド国旗が合わさって出来たデザインなんだ」

フロリス「でもブリテンを構成してんのはイングランド・スコットランド・北アイルランド、そして」

フロリス「ウェールズの四つ。てか正しくは四ヶ国なのにウェールズの国旗は入ってない」

フロリス「……ま、同化する時期が早かったから、だっては言われてるけどね」

上条「ふーん。ウェールズなぁ……?」

フロリス「そんなにイングランドとの違いは無いし――あるとすれば『赤い竜』ぐらい?」

上条「さっき言ってた『竜殺しの竜』……ラノベにありそう」

フロリス「おっと、こちとら約1800年前から語られてたんだから、一緒くたにするのはやめてもらおうっ!」

フロリス「対してイングランドじゃ聖ジョージ――ゲオルギウス信仰が盛んだったから、そこは一線引いてるかも?」

フロリス「でも、ま、今更独立って感じでもないしねー」

上条「拘らない割に拘ってねぇか。やっぱ国が絡むと別か」

フロリス「いやいや、そんな事ぁないさ――ってそんな事も無いな。別に国だってどうなろうと関係ないし」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「レッサー達と遊べなくなるのイヤじゃんか。それだけですが何か?」

上条「……いや、充分過ぎる理由だと思うぞ、そいつは」

フロリス「『新たなる光』で魔術師するのも楽しいしねー。こないだのクーデターごっこも良い感じだった」

上条「動機がまた軽いなっ!?」

フロリス「いやいやいやいやっ!大切じゃないですか、人生楽しまなっきゃいかんでしょーし」

フロリス「『楽しいか・楽しくないか』って結構重要だと思うんだよ、ウンウン」

上条「それもまぁ理屈は分かるが……うーん?魔術結社へ入って命賭けるのは……?」

フロリス「あ、ゴメ。それは無い、無いよー。命まで賭けるのはノーサンキューだってば」

上条「フロリスさん、テメェらこないだイギリス全部にケンカ売ってませんでしたっけ?あれが『軽い気持ちでやった』と?」

フロリス「うんっ!」

上条「やっぱ軽いなお前!動機も思想もフワフワしすぎじゃねぇかよ!?」

上条「てかお前らの魔術教えやがった野郎にも一回挨拶させろ、な?言いたい事が山ほどあっから」

フロリス「いやでも先生は『フローレンスがそう考えるんやったら、それで良いんとちゃう?』って言ってくれてるし」

上条「フローレンス?」

フロリス「や、今の無し。フロリスね?フロリス!」

上条「妙な関西弁にも突っ込みたいが……まぁいいや、これ以上地雷を踏み抜こうとは思わないし」

フロリス「――んがっ!そんなワタシもずっと引っかかってた事があんですよ、これが」

上条「へー、それちょっと興味あるかも。何々?」

フロリス「『ハロウィン』の時、ジャパニーズに裏切られたジャン?」

フロリス「利用するだけしといて、命を賭けないのがポリシーのワタシを無理矢理したじゃんか?ね?」

上条「人聞きがっ!?深夜であってもロビーでする話じゃねぇ!」

フロリス「そっちからだよ、なーんかおかしいのは」

上条「……何が?」

フロリス「いつもだったらさ、『ま、命は助かったし酷い事もされなかったから、別にいっかー』で済ますんだけど」

フロリス「なんか、こうイラつくって言うか、釈然としないって言うか」

上条「そんなにお怒りだったんですかねぇ、あれ」

フロリス「ん、あぁマジな話そんなには?元はと言えばやらかしたのもワタシらだし、そもそも最悪殺されるぐらいは思ってたし」

上条「珍しいな。そこまで覚悟はしてたんだ」

フロリス「死ぬのはイヤだけど、レッサー達と遊べなくのはもっとイヤだしねー――って、オイコラ!何ニヤニヤ見てんだよ!」

上条「あ、悪い悪い。他意は無いって!」

フロリス「……やっぱこれ殺意なのかなぁ……?何か妙に拘るって心底アンタを憎んでる証拠かもねー?」

上条「だからそこまで恨まれる程はっ!」

フロリス「あー……思い出した!その前から何か引っかかってたんだ!」

フロリス「ぶっちゃけ最初にヘラヘラ笑ってた時から、『あ、コイツ殺してー』ってイラついてたかも!」

上条「……そこまで来ると、もう前世からの因縁レベルじゃねぇのか?俺お前の親でも殺したんか、あぁ?」

フロリス「あ、ソレはもう許した」

上条「……うん?」

フロリス「てか今はのワタシの話でしょーが!聞けってば!」

上条「お前も落ち着けよ!つーかそんなに俺が嫌いか!?」

フロリス「好き嫌いで言えば――多分、嫌いじゃ無いと思う」

上条「……はあぁっ!?だってお前今、散々イラつくとか言ってたのに?」

フロリス「なんて言うんだろ、『馬が合う』でいいの?合ってる?」

上条「気が合うって意味だけど、その言葉は」

上条「……まぁ、言わんとしている事は分からんでもない、か?」

フロリス「だっよねぇ?話しているのはそこそこ楽しいし、波長が合う?みたいなの?」

フロリス「ワタシが時々遊ぶ相手も、大体ジャバニーズみたいな感じだよ、うん」

上条「そりゃどーも。ってか俺嫌われてんの?それとも好かれてんの?」

フロリス「だーかーらっ!イラつくんだって!その笑い顔が!」

上条「顔は親からもらったもんだしなぁ、どうしようもな――待て待て、『最初に会った時』?今そう言ったよな?」

フロリス「ん」

上条「……あぁそうだ!俺も何か思い出してきたよ、列車ん中の事!」

上条「あん時お前、何かピリピリしてなかったか?妙にツンツンしてる子だな、ってのが俺の第一印象だったんだよ、確か」

上条「もしかして、『たまたま機嫌の良くない時に俺と出会った』から、その印象が焼き付いてるだけじゃねーの?」

フロリス「いやいや、そんなまさかないでしょー。てか有り得ない」

フロリス「確かにあん時はレッサーのおバカに激怒してたさ、でもそれを引っ張るなんて――」

上条「あぁレッサーがあっさりと捕まったから?」

フロリス「いや、別にそれはどーでも」

上条「……まぁな。友達が仲間だった筈の『騎士派』から粛正されそうになってんだ。そりゃ怒らない方が――」

フロリス「ん、いやいや。ワタシが怒ってたのはレッサーにだよ。『騎士派』なんか最初っかに信じてもないし」

上条「失敗したから?」

フロリス「それもNO!……や、あっさりバレたのには無くはないが!」

上条「んじゃまたどうして?」

フロリス「あー……その、魔術的な通信機みたいなの、ワタシらの霊装にあんだよね。これなんだけど」

上条「ペラいメモ用紙。表面に何か描いてある」

フロリス「コレを使えば音声だけじゃなく、当人同士が許可すれば簡単な五感をリンク出来る仕組み――で」

フロリス「見てたんだよ、ジャパニーズに取っ捕まった時。レッサーの『眼』で」

上条「……そりゃ第一印象最悪だわなぁ……」

フロリス「あ、ごめん。興味なかったから顔と名前と声は全然憶えてなかった」

上条「……おい。ほぼ全てスルーしてんじゃねぇか。残ってんの性別ぐらいだよ」

フロリス「このおっぱいどうしてくれようって」

上条「そっち同行者な?別の意味で気持ちは分かるけども!」

フロリス「ワタシがイラついたのって、そん時のレッサーだよ」

フロリス「レッサーはあの時、『ロビンフッド』で狙撃されそうになった時」

フロリス「『笑った』んだよね、レッサー。それが――」

フロリス「――ワタシは理解出来ない。だから無性にイラついたんだと、思う」

フロリス「『何やってんの!?バカじゃないの!?なんで笑っていられるの!?』ってさ」

上条「……」

フロリス「……思えば、その後直ぐにジャパニーズと出会った時か」

フロリス「ヘラヘラした笑い顔が、なーんかレッサー思い出して気分悪くなったのかもねー」

フロリス「……あぁ、これじゃ完全に八つ当たりだよね、ゴメ――」

上条「――なんだ、お前”そんな事”も分からないのかよ?」

フロリス「――え」

上条「そうかそうか。成程な、だから笑ってたのか、アイツ」

フロリス「え、何?分かるの?なんで?どうして?」

上条「簡単だろ、そりゃ――」

上条「――レッサーは『お前らのために笑った』に決まってるじゃねぇか」

――深夜の病棟 ロビー 明け方近く

 なんで、という言葉が出るよりも速く。
 どうして、と問う台詞よりも早く。

 ベシャッ、とフロリスは飲みかけの珈琲をぶちまけていた。

 上条当麻の顔面へ向けて。正確無比に。

「熱っ!?……何しやがるんですかね?つーかテメーいい加減にしやがれ!」

「――あぁっと、ジャパニーズ。ワタシ、今、ちょぉぉぉっとぶち切れてるから、さ?」

 ジャキジャキジャキ、と『槍』が凶器へ姿を変える――戻す。

「素直に答えなよ?あ、別にイヤだってんならいいけど?」

「……なんだよ。つーかティッシュ持ってない?」

「何がどうしてどーなったら、レッサーのおバカが『笑った』のを無責任に言えるのかにゃー?」

 怒気を隠そうともせず――つい今し方まで談笑していたのに――言外に物騒なものを忍ばせる少女。

(これがフロリスの『素』?……いや、どっちも、か)

 猫と評した少女の一面。普段は拘らないと言っている反面、何かしらの”芯”はあるだろう。
 魔術師としても人格としてもサッパリとしているが、その分怒りを溜め込む事も少ない。

 だが『これ』は彼女にとってすれば例外中の例外――そう。

(やっぱ『友達』が絡むと熱くなってんだろうなぁ、うん)

 上条はそう判断する。

「あーのさぁ。死んじゃったら終りじゃない?ってか絶対に嫌だけど」

 理不尽に怒りをぶちまけているのかと言えば、そうではない。決して。
 有り触れた偽善者のように、我が身可愛さで理を曲げようとするのも違う。

「なーんであの状況であのおバカが、わざわざワタシのタメに笑えんだっーの」

 もしもそうであれば『自分』のために怒る筈であり、『他人』の生き死に拘泥する訳がない。
 とどのつまりフロリスという少女は、彼女の本質とは。

「お前、実は友達好きすぎるだろ?」

「よっし歯ぁ食い縛れジャパニーズ」

「待って下さいよ!?誉めたじゃないですか!」

「いやぁ?」

「いや、そこで改めて照れるのもおかしいっ!?」

 『他人のために怒れる』――その特性は目の前の『幻想殺し』と酷く似通っていた。

「あー……うん、何となく分かるよ。お前が怒ってんのはさ。要はアレだろ?」

 従って上条当麻も然程言葉を選ばずに済む。

「『コイツ人の気も知らないので、何ニヤニヤ笑ってやがったんだ』みたいな感じだろ?合ってるよな?」

「まぁ、そうだけどー」

「……俺も、似たような事言われるからよーく分かる。つーか座ろうぜ?」

「……うん」

 自動販売機のイスに並んで座る二人。『槍』は展開したままで。

「つーかスッゲーベタベタするし、流石☆5つ、砂糖たっぷりか。やっぱティッシュ持ってないか?」

「ハンカチならあるけど」

「……どっちみち後で着替えるからいいや。んで、だ」

 どこから話したものか、どう話したものか。
 自分と極めて近い思考回路を持つ彼女へ対し、どう話せば納得が行くだろうか?

(まずは、そうだな、結論から話しちまった方が早いよな)

 そう考えて、飲み終わったのとぶつけられた紙コップを広い、右手で近くのゴミ箱へ突っ込む。
 丁度ペットボトルの大きさ程度に開いたゴミ箱の穴。日本の自販機のそれよりも、一回りぐらい大きいそれに手を入れ――

 カコン――にちゃあぁっ。

「……うん?」

 手が、抜けなくなる。かすかな痛みが手首へ走り、何かがつっかえているような感触。

「どったん?」

 不審に思ったフロリスへ対し、上条は首を振った。

「あぁいや、なんか抜けない……みたい?」

「ローマの休日ネタ来たーーーーーーーーーーっ!」

「しねぇよ!夜の病院で趣味悪すぎんだろうが!」

「まったまたぁ?アレでしょ?好きな子に心配してもらおうってハラなんだろ?」

 また感情がくるくると変わる。ちょっと前までは馬鹿話、少し前までが殴り合い寸前。

「……どうしてこうなった――イタっ?」

 チクリと手の甲に何かが刺す感触。ガラスの破片でも入っていたのだろうか?

「ダストボックスん中で何か掴んでんじゃないの?ほら、子供が『おかしつかみ取り放題!』ってアレで、腕が抜けなくなるのと一緒で」

「……あのぅフロリスさん?一体俺がゴミ箱の中で何を掴んでんのか、またそれを離す程度の知能が無いとか、冗談ですよね?」

「あーぁ、そろそろ夜が明けそうだなぁ。完徹しちまったい」

「だかに聞きなさいよお前らはっ!?人の話をきちん――」

 ぶちっ。

「――と、抜けた抜けた。何だったんだよ、一体」

 上条当麻が引き抜いた『腕』。
 その手首から先が――。

「ちょ――ジャパニーズ!?」

 ”それ”にいち早く気づいたのはフロリス。そして次に声を上げたのは上条――。
 では、なかった。居る筈の無い、居て良い筈の無い。異物の、声。

「言った筈だぞ、ニンゲン――」

 メキメキゴリメキゴリゴリッ!

 やや大型とはいえ、子供ですらも入りきれないサイズのゴミ箱から、体中の関節をねじ曲げて脱出する少年。いや。

 『少年の形をした何か』。

「――『”安曇”は少し本気を出す』と」

 バキッ、ゴキュッ、バリバリバリバリ……!

 二度三度、安曇阿阪は血塗れの顎を開閉させる。その度に咥えていた肉片は小さくなり、ついには咀嚼され、呑み込まれる。

 それは、その肉片は?どこから来たのか。
 『幻想殺し』が『幻想殺し』たる由縁であり、相棒でもある。

 『右手』を喰った。

「う、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 上条の千切れた右手が激しい痛みを訴えかける。激痛と言うよりも灼熱へ手を翳しているような錯覚に、彼は悲鳴を上げる事しか出来なかった。

「一応神経毒――蛇の持つ麻痺毒を撃ち込んでおいたが、まぁ痛むだろう。許せ」

「こ――のおぉっ!!!」

 ワンテンポ遅れて正気へ返ったフロリスが飛びかかる。だが、安曇は避けもしない。

 ギャリギャリギャリギャリィッ!

 『槍』の『爪』が安曇を引き裂く――事は、無かった。

「”それ”は昼間見た、と言うか安曇に効かなかったのを憶えていないのか?」

 駅構内で安曇阿阪へ攻撃をしたのもフロリス。あの時は吹き飛ばせはしたものの、目立った外傷は与えられなかった。
 その理由が――腕と顔を覆い尽かせんばかりに広がる鱗、鱗、鱗。

 条件さえ整えば最新式の高速鉄道すら切断出来る『槍』を防いだもの、それは安曇が生やした『鱗』だった。

「――と、いうかだな。安曇は余計な殺生を好まないので、一つ忠告をしてやる」

 うずくまって右手を押さえる上条を顎で差す。

「大量出血における初期治療が後の生存率を左右する、と安曇は知っているな」

「何言ってんだ!」

「応急手当をするなり、魔術で傷を癒やすなりした方が良いのではないか?」

「――っ!」

「治療の隙を突かれる――とでも考えているのだろうが、『それ』はない」

「……どうしてよ」

「虎がネズミを狩るのに隙を伺う必要は無い、と言っている」

「――このっ!」

「……か、は……」

「今なら『右手』は無い。簡単な術式でも十分に効果を見込めるだろうな」

「――黙ってろ!」

 フロリスは上条へ肩を貸し近くの椅子へ運んでから、口の中で二・三語詠唱し、術式を組み立てる。
 ぼぅ、と上条の右手首――喰い千切られた辺りに光りが宿り、激痛と出血が収まっていく。

「お前、は――!」

「出血多量とは大量に血液が失われる事で起きる。安曇はそう教わった」

 どうにか声を出せるようになった上条が問うも、明確な返事は無い。

「末端組織へ供給される血液の減少、心拍の低下、そして酸素欠乏。ちあのーぜ、を引き起こし、ゆっくりと死へ至る」

 安曇は二人とは少し離れ、今し方飛び出てきたゴミ箱の蓋を拾い、元の位置へと戻した。

「優先順位は止血。主に患部への直接圧迫が相応しい――時として壊死を怖れて処置を躊躇うが、そうすると手遅れになる場合がある」

 更に飛び散った紙コップを集め、重ねてからゴミ箱へと捨て始めた。

「次に大切なのは輸血。人類がこの技術を会得する以後と以前で、大分様変わりはした――が、実は輸血にも危険性が付きまと――」

「オイっ!」

「なんだ『幻想殺し』。これからが大事だぞ?輸血量を間違えると腎梗塞や脳梗塞にな――」

「……なんで!お前が……ここに、居るっ……!?」

「傷口が塞がったとは言え所詮は応急処置。術式が切れる前に、最低限輸血をしないと倒れるぞ、と安曇は言ってやる」

「ふざけるな!……クソッ!『濁音協会』の連中がもう追いついて――」

「あぁそれは勘違いだ、元『幻想殺し』。それは違う」

「何が?アンタ達、ストーカーして来たんじゃないのー?」

 フロリスの軽口に力は無い。それなりの自信があった『槍』の一撃を弾かれ、不安が胸をよぎっているからだ。

「『濁音協会』はもう、ない。昼間の戦闘でアルフレドが死んだからな」

「――は?」

「転移魔術を行使した影響か、直前の爆発のせいか。アルフレドはバラバラになっていたぞ」

「――うぇ、死んだ、の?」

「生命活動は停止していたな」」

「……え、ちょっと待てよ。マジで?だったらもう戦う理由なんか」

「だから後は好きにする事にした。好きにやる事になった。だから安曇はここへ来た」

「ジャパニーズの『右手』を食べに?いー趣味してるよねー」

「よく言われる、それは」

 皮肉を介さない安曇。ポリポリと頭を掻き、あぁそうだ、と思い出したように声を上げた。

「憶えているか?安曇は一度、『幻想殺し』に遅れを取っている」

「……俺、にか?つってもお前なんかと関わった憶えはねぇよ!」

「多目的ほーる、だったか。お前は安曇の眷属を破っただろう」

「――あの、蛇人間かっ!?」

「だから”これ”は意趣返しでもある。『神漏美』は後回し、今はりべんじ、という奴だな、さて――」

 パチン、と両手を合わせて祈りを捧げる。その姿は古今東西、どこの文化でも大差は無い。
 けれど安積の口から漏れる言霊は、全てが冒涜的で退廃的なものであった。

「『綿津見ニ眠ル我ラノ大神ヘ奉ル(そろそろいいじかんになった)』」

「『天ニ甕星、地ニ悪路、海ニ阿曇磯良(とはいえやくしゃがあずみだけではすこしさびしい)』」

「『天球ガ穿ツ星ノ光ニテ、同朋ノ血ヲイザ甦ラサン(せっかくのしこみだ、もっとひとをよぼうか)』」

「『我ガ名ハ、ミシャグジ――ソノ名ヲ以テ禍原ヘ弓引ク悪神ノ血統(もっと、もっとだ。けものなんてどこにだっているさ)』」

「『人ハ魚、人ハ蛇、人ハ虫(ひとというけもの、ひとというけもの、ひとというけもの)』」

「『五穀ヲ吐キ捨テ原始ノ獣ヘト帰還サセヨ(りせいをすててたのしくやろう)』」

「『血ト肉ヲ捧ゲ聞コシ召セ給ウ、思シ召セ給ウ(どうせおわりのひはそこまできている)』」

「『――海ヨリ還リ来タル!(――くるえ、そしてかわれ)』」

 ぞわり。

 世界が変わる。安曇を中心に弛緩していた世界が異質のものへと造り替えられる――元々居た住人達をも巻き込んで。

「テレズマ?……あ、でも別に変化は、ないかな……?」

「俺も……特に、は……」

 瞬間的に漏れた魔力が二人に影響与えることは無かった。二人には、何も。

「思い出せ、『幻想殺し』。あの夜の事を」

 ホール内の人間が『変化』した悪夢の夜を。

「『帰還った』のは誰だ?鳴護アリサを襲ったのは誰だったか?」

「何――コレ!?気配が、あちこちに」

 ホールの陰、カウンターの隅、エアダクトの中。
 その全てから獣の息づかいが、荒々しい鼓動が聞こえる。

「ミ