鋼鉄のサバイバー(204)

十年前、この世界では大きな戦争が勃発した。
西のジェスタ王国、東のトールード連邦。
二大国家がお互いの土地や資源を奪う為に正面衝突したのだ。
ディフォルアームズという20m大の操縦ロボットを用いた戦いは、
否でも応でも周囲の国を巻き込み、戦乱は世界中にまで広がった。
これが後に、機甲大戦と呼ばれる戦争だ。
戦争が残した傷痕は、十年が経過しても消えること無く――。

ヤバいミスってスレ二つに

チビ「お~い、オッサン!」

オッサン「何だチビ?まだ店は開いて無いぞ~?」

チビ「チビゆ~な!」

オッサン「じゃあオッサン言うなっての。俺まだ23よ~?」

チビ「うるせ~オッサン!」ペッ

オッサン「おまっ人に唾吐くなっ」

チビ「くやしかったら追いかけてみろよ!」ダッ

オッサン「おい、何しに来たんだイタズラ小僧~!···まぁったく」

ロン毛娘「また絡まれてるの?オッサン」

オッサン「お~!ロン毛娘!今日も手伝いに?」

ロン毛娘「そうだけど···やめてよそのあだ名···」

オッサン「オッサン呼び止めてくれたらな~?」

ロン毛娘「だって、名前教えてくれないし」

オッサン「お前らにはまだ早い!出直して来いっ」

ロン毛娘「どこに出直せば良いんだか」

オッサン「え~っと···う~ん」

ロン毛娘「いや真剣に悩まなくても」

オッサン「いや~しかし、ロン毛娘くらいだぞ~?こうして店手伝ってくれんの」

ロン毛娘「え、いや、だって···///」チラッ

オッサン「金貰えるからな!···え、違う?」

ロン毛娘「···まぁ、間違いじゃないけど」

オッサン「あれ、なんか機嫌損ねるような事した俺?」

ロン毛娘「機嫌の機微にはすぐ気付くのに···」ボソッ

オッサン「?取り敢えず店開くから手伝ってくれよ~い」

ロン毛娘「は~い···」

もう一個のスレでまったく別の展開のストーリーが始まっててビビった

未だ戦争の傷痕が残る町、エヴォーク。
そこで何故か修理屋を開く男、通称オッサン。
彼は突然この町にやって来て、タダで色んな物を修理していた。
本人曰く「修理を必要としてるとこに修理屋が来て何が悪い」との事。
大人からは変人扱いされ、子供からは何故か好かれ···。

今日も彼は、何時も通り店を開く。
家に家具に玩具に、呼ばれるまま、何でも修理していった――。

>>7
こっちもビビってます。まさかこんな事になろうとは。
でも応援してます!

チビ「おい、これ直せよオッサン!」

オッサン「また壊したのか~?もっと物は大事にしろっての」コツン

チビ「いてっ!うるせぇ俺の勝手だろ!」

オッサン「物は壊さない方が良いだろ~?」

ロン毛娘「そうだよ、いつか直せなくなるんだから」

チビ「いいから直せよ!ロン毛の姉ちゃんはいっつもオッサンの味方しやがって」

ロン毛娘「べ、別に何時も味方してる訳じゃないし」

オッサン「お前が滅茶苦茶やってるからだぞ~?ホレホレ」グリグリ

チビ「頭グリグリすんな!」

チビ「オッサン!今日こそ決着つけてやる!」

オッサン「お!やるか!」

ロン毛娘「ちょっと二人共!」

オッサン「止めちゃいけない男の喧嘩は···ん?」

チビ「おいいくぞオッサン!」ブンッ

オッサン「」ヒョイ

チビ「避けんなコラ!」

オッサン「」カタッ

ロン毛娘「どうしたのオッサン?双眼鏡なんか持って」

オッサン「···」ジッー

オッサン「···おい、ロン毛娘。警鐘鳴らしに行くんだ」

ロン毛娘「え···?」

オッサン「近くでディフォルアームズが戦闘してるんだよ···!」

チビ「でぃふぉるあーむず?」

ロン毛娘「嘘···!平和条約で全部破棄された筈じゃ···!」

オッサン「20m大の戦闘兵器見間違えられるなら幸せなんだけどな···!」

チビ「さっきから何言ってんだ?」

オッサン「逃げろって事だよ!急げ!」トントン

チビ「はぁ!?」

ロン毛娘「良いから!オッサンは!?」

オッサン「商売道具持ってかなきゃなんねぇからな!後でそっち行く!」

ロン毛娘「ちょっと!そんな――」

オッサン「修理屋が修理道具持ってなくてどうするんだよ!良いから行った行った!」グイグイ

チビ「おすなっ!」

ドォォォン

ロン毛娘「きゃっ!」

チビ「うわっ!」

オッサン「爆発って···おい、伏せろ!来るっ!」

ゴッガァァァァァァン!

ロン毛娘「きゃあぁぁ!何!?」

チビ「向こうにでっかいロボが落ちた!」

オッサン「お前ら逃げとけ!ちょっと文句言ってくる!」

ロン毛娘「はぁ!?どこ行く気!?危ないって!」

オッサン「だから逃げろって!俺は平気だ!チビ、ロン毛娘頼んだぞ!」ダッ

チビ「チビゆ~な!」グイッ

ロン毛娘「ちょ、ちょっと引っ張らないで、行くから!」ダッ

―ディフォルアームズ前―

オッサン「ちっ、また対面するなんてな···!···ん」

ウィーーン ガシュ

操縦者「う、うぐっ···」ズルッ

オッサン「!おい大丈夫か!」

操縦者「だ、誰だ···」

オッサン「今良いだろそんな事は!···大した怪我は無いな。じゃあ退け!」

操縦者「な、何を···!」

オッサン「あんたの機体使って戦うんだよ」

操縦者「馬鹿なっ···!素人が使える物じゃ···!」

オッサン「見てりゃあ分かる!」ガッ

ウィーーン ガシュ

オッサン「···まさかまた乗る羽目になるなんてな」

    「で、何処がイカれてる?···背部バーニアだけ?だが装備が無いか···」ピッピッ

    「···敵機捕捉。···二機だけか。ブランクが気掛かりだが、そうも言ってられないな···!」ガキン

    「こいつの機体名は···A.Z?···よし、今だけお前の名はアーミー・ゼロだ」

    「アーミー・ゼロ、起動!」ヴィン

ガシャン グゴゴゴゴ

操縦者「た、立ち上げた···素人ではない、あの男、何者だ···!?」

オッサン「しゃあ!ブチのめしてやんよ!」

<MISSION 0>
染み付いた臭いは消えない

ディフォルアームズのコクピット内で彼は思い出していた。
操縦捍の握る感覚、戦場に立つ時の気分···かつての記憶を。

オッサン「すぅ、ふぅ···、さて、と」

オッサンは深呼吸すると、頭の中で戦略を組み立てる。
この機体は背部バーニアが破壊されている···つまり空を飛べず、地上を高速移動する事も出来ない。
移動能力の低下は即ち死を意味する。···だが。

オッサン「最新機体の癖して昔みたいに結局歩きなんて···逆に手に馴染む」

彼は大胆不敵に笑みを溢すと、前方から接近している敵機に向かって走り出した。

敵側は驚いていた。ディフォルアームズが走行するというのは、戦場では滅多に無いからだった。
だからと言って彼等は慌てる事無く冷静に判断し、二機共持っていたアサルトライフルで
迎撃しようと銃口をアーミー・ゼロに向ける。
だが彼等はそこで予想だにしていなかった光景を目にする事になる。

オッサン「よいっしょおおぉぉぉおい!!」

突如としてアーミー・ゼロは彼等の視界から姿を消した。
飛んでいた。いや跳んでいた。アーミー・ゼロは跳躍をしたのだ。
彼等は余りに異常な光景に思わず反応が遅れてしまう。

オッサン「最近の奴等はジャンプの仕方も知らないのかぁ!?」

オッサンはそのまま落ちる勢いで敵機体の一機の頭を踏み潰す。
頭を潰されるとディフォルアームズは視界を失ってしまう。
視界を失うという事は目隠しされるのと同じ事で、実質動けなくなるのと同義である。

崩れ去る仲間の機体に動揺しつつも、残った一機はその上に立つアーミー・ゼロに銃口を向ける。

オッサン「遅いな!」

オッサンは頭を踏み潰した一機が持っていたアサルトライフルを奪うと、もう一機の頭部に何発も撃ち込んだ。
頭部が爆発を起こし、壊れたのを確認したオッサンは、その機体を蹴り飛ばした。
視界を失った中での突然の振動に、何も出来ずただ倒れる敵の機体。

オッサン「···任務、完了···ってか?」

蹴り飛ばした敵からもアサルトライフルを奪い取ったオッサンは、念の為に敵機体の全関節を撃ち抜く。
下手に動きだして被害を拡大されよう物なら堪った物では無い、と考えた故の行動だった。

オッサンは相手が脱出して逃走するのを確認すると、元々の操縦者が居た位置へと戻る。
戦利品として二つも武器が手に入った事を喜びながら。

オッサン「···意外と覚えてるもんだな、体が」

オッサンは自らの手を少しの間強く握り締めて、すぐさま操縦に戻る。
体に染み付いた過去が、自分と町を守ったのかと考えると、素直に喜べないオッサンであった···。

―修理屋―

オッサン「はいよ、お熱いお茶ですよっと」スッ

操縦者「あ、あぁ、どうも」

オッサン「で、追われてたみたいだけども?」
 
操縦者「···その前に、貴方は一体何者なんだ?あんな操縦方法、見た事が無い」

オッサン「だから、誰だって良いだろ~?しがない修理屋ってだけだ」

操縦者「···そうですか(深くは聞くなという事か)」

オッサン「で、理由は?」

操縦者「···また、機甲大戦が起こると言ったら?」

オッサン「···!それは、本当か」

操縦者「私も嘘だと信じたかった···。しかし結果は、こうして追われている···」

オッサン「···機甲大戦が、また」

操縦者「ここに辿り着いたのは偶然だが···今は貴方に会えて良かったと思う」

オッサン「助かったからか?」

操縦者「勿論。これで生きて報告が出来る···」

オッサン「···そう言えば、あんた、どこの所属だ」

操縦者「所属?もう脱退したよ···強制的にだが。これだと脱走の方が正しいか?」

オッサン「あ~···追い出された訳ね。んで、無所属さんがどこに報告するって?」

操縦者「まずは私が直属していた上官に。あのお方なら···」

オッサン「もし出来なきゃ反対勢力にリークしろ。機甲大戦なんて言っても信用されないかもだけど」

操縦者「確かにな···私は今でも信じたくない、と思っている···」

オッサン「それに、あんたの上官があんたの責任を問われて処罰されてるかも知れないしな···」

操縦者「···!···今は報告を。通信装置は何処に?」

オッサン「店の中にあるけど、ちょっと型が古いぞ。分からなかったら教えるから」

操縦者「ありがとう···」

ロン毛娘「···」ソォ

オッサン「···」チラッ

ロン毛娘「!」サッ

オッサン「···ロン毛はみ出てるぞ~」

ロン毛娘「えっ!···あ」

オッサン「何やってんだよ、ロン毛娘~?」

ロン毛娘「···だって、ディフォルアームズが店の側にあって···」

オッサン「まぁ、気になるよな~。何か良く見ると周りも集まって来てるし」

操縦者「···この町からすれば、私とこの機体は疫病神、かな」

オッサン「お、どうだった?」

操縦者「···繋がったよ。逃げろ、その一言しか聞けなかったが」

オッサン「···そうか」

ロン毛娘「え、えっと、これからどうするんですか?」

操縦者「どうするも何も、身柄と機体を保護してくれる国に逃げ込むしか、な···」

オッサン「背部ブースターが壊れてる状態で?操作出来るのか?」

操縦者「む···だが、何とかする」

オッサン「無理だね。初心者じゃ一歩歩くのに一日掛かるっての」

ロン毛娘「···そんなに難しいんだ。へぇ~」

オッサン「そうだぞ~?ヌルヌル走れる様になるまで一週間は――」

ロン毛娘「オッサン乗った事あったんだね···しかも、凄腕っぽいし」

オッサン「···ジャンプ出来るまで一ヶ月掛かったんだ、うん」

操縦者「···そこまでここに居座る訳にはな」

オッサン「あ~、修理してやんよ最高でも三日ありゃ済む」

ロン毛娘「オッサン!」

オッサン「な、何だよ···早く去って貰った方が町も安全だろ~?」

操縦者「···嫌でも目立つからな、ディフォルアームズは」

ロン毛娘「···それはそうだけど」

オッサン「···確かにこの町に残った傷痕は全部ディフォルアームズが原因だしな」

操縦者「私も分かっている···、だから出来る限り早めに出ていかなくては、と」

ロン毛娘「···修理手伝ったりしたら、オッサンこの町追い出されちゃうかも···」

オッサン「どうせ元々流れ者、前みたいに旅するだけ~、ってな」

ロン毛娘「···じゃあ勝手にすれば!?」ダッ

オッサン「えぇ!?何で怒鳴られたの!?」

操縦者「···この町に居て欲しいのでは?」

オッサン「···そうかねぇ。まっ、修理するわ」スタスタ

操縦者「い、いやしかし」

オッサン「目の前に直す物があんのに無視なんか出来ないね」スタスタ

オッサン「気に病む必要は無いぞ~、ロン毛娘の言う通り、勝手にさせて貰うからな」

操縦者「···自由な人だ」

   (しかし、背部のバーニア制御が壊れている上に、ブースターまで爆発した)

   「一体部品も無いのにどうやって修理を···?」

ロン毛娘「···」ソォ

操縦者「···彼なら修理しに行ってしまったよ」

ロン毛娘「···分かってます。あの人、機械弄るのが一番楽しそうだから」

操縦者「···技術者の鑑だな」

ロン毛娘「···そう言う所、私嫌いなんです。ホントにホントに嫌いなんです」

操縦者「なら私にではなく彼に直接言えばいい」

ロン毛娘「言えませんよ!···言えませんよ、そんな事」

操縦者「···彼はディフォルアームズの操縦者だろう。そんな彼が何故この町に居るのだろうな」

ロン毛娘「え···?」

操縦者「何時か気付かれた時、この町の人達から非難罵倒を浴びる事を怖れなかったのだろうか」

ロン毛娘「···」

操縦者「例えそうなってもやりたい事があったのかも知れない」

オッサン「お~い!ちょっと教えてくれぇ~い!」ブンブン

ロン毛娘「···人が心配してるのに、呑気に手なんか振って。何も考えてないのかな」

操縦者「···さぁ。とにかく行ってこよう」タッタッ

ロン毛娘「···本当に、何考えてるんだか」

チビ「おい、姉ちゃん!」

ロン毛娘「あれ、どうしたの?」

チビ「あのディフォルアームズっていうの、カッコいいな!」

ロン毛娘「え···何で···(だって家と家族をディフォルアームズに···)」

チビ「?だって俺がちっちゃい時に助けてくれた奴だぜ!カッコいいって!」

ロン毛娘「···ラディウス・レイ、だったっけ」

チビ「そうそれ!あん時もカッコいいって思ってたんだ!」

ロン毛娘「···クスッ、そうなんだ」

    (···勝手に味方は私一人だけだって思ってたけど、そうじゃなかったんだ)

―二日後 修理屋―

オッサン「いや~直った直った!中々苦戦したぞ~?」

操縦者「ありがとう、助かった」

オッサン「まぁ、ブースターの部品は急拵えだけどな!」

操縦者「直して貰った分際だ、文句は言わないさ」

オッサン「···それって文句あるって言ってるような」

操縦者「ははは、冗談だよ」

オッサン「ん~、にしてもあんたも隅に置けないね」

操縦者「?何の話だ?」

オッサン「だって、チビと仲良くやってるじゃんよ。俺基本舐められてるからね」

チビ「なめてね~よ、バカにしてんだ」

オッサン「こいつ、急に出てきたと思ったら···それ意味ほぼ一緒だから!」

ロン毛娘「あの~···」

オッサン「お、ロン毛娘。手伝ってくれて助かった!」

ロン毛娘「手伝った、って···私お茶いれてただけなのに」

オッサン「俺の中では手伝いの内だ!それに、ロン毛娘はお茶淹れるの上手いし美味しい」

ロン毛娘「···そう、かな···///」

チビ「オッサン、そんな事よりこれ直せよ!」

オッサン「おいまたそれか。二日振りだぞ、何回壊すんだよ」

ロン毛娘「実は···オッサンに会う口実の為に···」

チビ「姉ちゃんてきと~言うなよ!」

操縦者(···彼も、楽しそうだ。これが彼の幸せなのだろうか···だとしても)

オッサン「はっはっは···、ん?どうしたんだ、あんた。いつ出るかお悩み?」

操縦者「···すぐに出るよ」

チビ「えぇ~、もっとディフォルアームズ見せてくれよ!」

操縦者「悪いね、見せれなくて」

オッサン「お~い、あんまり困らせるなよ~?」

チビ「うっせ、バ~カ!」

オッサン「何で俺には冷たいの?」

ロン毛娘「照れ隠しだよ」

チビ「だから!···何だあれ」

オッサン「···ヘリだな」

ロン毛娘「も、もしかして···この人を捕まえに来たんじゃ···!」

オッサン「違う。···あんた、呼んだな?いつ知った」

操縦者「···今現在、ディフォルアームズで歩行は出来ても、走行し跳躍まで出来る者は居ない」

   「···機甲大戦の英雄以外は」

ロン毛娘「え···!?」

オッサン「···」

オッサン「···ま、機体に乗った時点でバレる覚悟はしてたけど」

ロン毛娘「ちょ、ちょっとどういう···!」

バババババババ

オッサン「う~ん!ヘリに頭上を通られるのは良い気がしなぁい!」

ロン毛娘「か、髪が···何の話!?」

キンキンキンキン···

ロン毛娘「···着地した、けど」

スタスタ

チビ「何か人おりてきたぞ」

オッサン「げっ」

?「···何です?その蛇に捕食される寸前のネズミみたいな顔は」

オッサン「···相変わらず分かりにくいツッコミだ、オペ子ちゃん」

オペ子「···貴方も相変わらずそうですね」

ロン毛娘「む···オッサン、この女の人、誰?」

オペ子「···オッサン···ぷふっ」

オッサン「はいそこ笑わない!」

オペ子「くくっ···そこのオッサンは昔の同僚ですよ···んふっ」

ロン毛娘「貴女に聞いてません」

オペ子「···あら、そうですか?」

ロン毛娘&オペ子「」バチバチ

チビ「ひ、火花が見える···女の戦いってやつだな!」

操縦者「···楽しんで見る物では無いと思うよ」

オッサン「はいはい喧嘩しない。オペ子お前何しに来たんだよ」

オペ子「···一つしか無いでしょう?」

オッサン「···戻らんぞ、俺は」

オペ子「良いですよ、それは別に」

オッサン「···何?じゃあ、一体」

オペ子「···W.O···ホワイト・アウトが鹵獲、彼が捕虜になりました」

操縦者「!?馬鹿な···」

オッサン「···あいつが負けたって?ご冗談を」

オペ子「···私が冗談を言った事がありますか」

オッサン「ありませんね、全く。···マジ、かよ···」

チビ「なぁ、ホワイト・アウトって何だ?」

操縦者「···十年前の機甲大戦、それを終戦まで導いた機体だよ」

ロン毛娘「機甲大戦の···?···捕虜になった人って···まさか」

オペ子「えぇ、そうです。機体名は知らなくても、世界を救った英雄の名前は知ってるでしょう」

オッサン「···英雄、ヴァン・ホープ」

オペ子「···そうです」

ロン毛娘「一体何が起こってるんですか···?ディフォルアームズだって···」

オペ子「平和条約なんて、最初からあって無いような物よ」

操縦者「···自国の自衛の為に、ディフォルアームズを持つのは禁止されてないからな」

ロン毛娘「そ、そんな···でも、破棄されたって···」

オペ子「演出よ、全部。ディフォルアームズは一切無くなってないどころか未だに増えてるわ」

オッサン「···結局、戦争が終わっても、世界はあまり変わってない、か」

オペ子「貴方が居ない間に、世界はまた戦争に向かっているんです」

オッサン「···俺にどうしろって言うんだ」

オペ子「貴方とA.Zの操縦者さんには、ホワイト・アウトと英雄の奪還をお願いしたいんです」

操縦者「保護して貰う立場だ、私は快く協力しよう」

オペ子「ありがとう御座います」

オペ子「貴方は、どうしますか?」

オッサン「···俺のは残ってるか?」

オペ子「···残っていますよ。今も整備されています」

オッサン「···分かった。俺も協力する」

オペ子「···ありがと――」

ロン毛娘「···駄目!」

オッサン「おわっ、何だよロン毛娘」

ロン毛娘「何でそんな···死ぬかも知れないのに!」

オッサン「へ~、じゃあこの人なら死んでも良いって?」グイ

操縦者「···」

ロン毛娘「ち、違···そんなのじゃ···」

オッサン「チビは俺が戦いに行ってどう思う?」

チビ「さっさとくたばれ」

オッサン「オッサン言うならもっと労って!」

ロン毛娘「でも、その···」

オッサン「あ~、すぐ帰ってくるから心配しない!」クシャクシャ

ロン毛娘「う···頭撫でないで···///」

オペ子(本当に相変わらず天然ジゴロ···)

操縦者「取り敢えず、私はヘリに乗っても?」

オペ子「えぇ、構いません。貴方の機体も丁重に運ばせて貰います」

操縦者「···感謝する」

オッサン「···じゃあ俺も乗せてって貰おうかな!」

オペ子「どっちにしても貴方は強制的に乗せるつもりでしたが」

オッサン「え、そうなの?」

オペ子「ホワイト・アウトを止める機体を貴方以外に止められる人が思い付かなかったので」

オッサン「···そうすか」

ロン毛娘「あの!一つだけ···」

オペ子「何かしら」

ロン毛娘「オッサンは···何者なんですか?」

オペ子「···ラディウス・レイ。機甲大戦を終戦に導いた、もう一人の英雄の機体よ」

オッサン「あ、言っちゃうの、それ?」

チビ「俺を助けてくれたやつだ!それとオッサンがどうしたんだよ」

ロン毛娘「···そういう事ですよね」

オペ子「そう言う事よ」

オッサン「そうなんですね~」

操縦者(他人事みたいに言っているが···)

オペ子「···話は終わり?」

ロン毛娘「あの···オッサン、バカなんで頼みます」

オッサン「ちょっと~?」

オペ子「分かってる」

オッサン「ちょっと~?」

ババババババババ

チビ「姉ちゃん、いいのかよ。行っちまったぞ」

ロン毛娘「···良い訳無いし」

チビ「じゃあなんでだよ」

ロン毛娘「···止めちゃいけない男の喧嘩は、だって」

チビ「?」

ロン毛娘「···だから、もう止めない」

チビ「···あ、これ直してもらってねぇ」

ロン毛娘「···ふふっ、大丈夫。私だって直せるから」

    (これで帰って来なかったら···ボコボコにしてやらないと···)

―アルダ基地―

オペ子『聞こえますか』

オッサン「聞こえてるよ」

オペ子『そうですか。通信機能は問題無し、と。···かつての愛機はどうですか?』

オッサン「最高だ。昔より使いやすくなってて良い」

オペ子『十年も経てば嫌でも進化してますよ』

オッサン「何時の間にかブースター関連の装備追加されてて驚いた」

オペ子『今では当然の装備ですから』

オッサン「昔からあったけど、当時は使い辛過ぎた」

オペ子『当時は出力が安定しないのが課題でしたが、今はもうクリア済みです』

オッサン「昔とは違って高速戦闘が基本か···大丈夫かな···」

オペ子『それを今からテストするんです』

オッサン「お手柔らかに頼むぞ~?」

オペ子『無理ですね』

オッサン「はぁい···。あぁ、ところで機体名称なんだけど」

オペ子『U.D.L.R···それがどうかしましたか?』

オッサン「L.Rの所はラディウス・レイで良いけど、U.Dの所はどうしようか」

オペ子『···お好きにどうぞ』

オッサン「あともう一つ、A.Zの操縦者は?」

オペ子『レッソさんですね。今は捕虜という扱いにしていますが』

オッサン「伝えといてくれ、直す意味あった?って」

オペ子『あぁ、背部ブースターですね。謝っていましたよ。私達が来なければそのままだったと』

オッサン「折角直したのに結局正規部品に取り替えられててショック···」

オペ子『落ち込んでいる暇はありません。今はテストに集中して下さい』

オッサン「分かったって···」

<MISSION 1>
戦場は紅に染まる

オペ子『作戦開始まで、十秒前』

オペレーターの声が暗いコクピット内に響く。
彼女は冷静にカウントを切っていく。
秒数が減っていく度にA.Zの搭乗者であるレッソの手が汗で滲んでいく。
だがもう一人は···。

オッサン「オペ子ちゃんそう言うの良いから開始するぞ~」

一切の緊張感を感じさせない彼の口調にオペレーターは溜め息を吐く。
あぁ、本当に昔と変わっていない、と。
だがそんなオペレーターとは裏腹に、レッソは彼の言動を聞いてある程度緊張が抜ける。

オペ子『···作戦、開始します』

オペレーターの言葉を皮切りに、二機のディフォルアームズが動き出す。
目的は、英雄並びにその機体を奪還する事。
敵の与り知らぬ場所で、静かに作戦は開始された――。

アセル山脈。最高で約5000m、最低でも約2000mの標高を誇る山脈である。
自然豊かでかつては登山客も多かったが、今では立派な軍事拠点である。

オッサン「綺麗だよな~、ここの景色」

オペ子『作戦に集中して下さい』

山の自然を呑気に眺めている彼に、オペレーターは呆れつつも冷静に返す。
彼の言動にいちいち腹を立てていると疲れ果てるからだ。
そして···。

バスッ

オッサン「おっし、一機行動不能」

そんな態度でも、確実に仕事をこなすからであった。
彼の機体が持っているスナイパーライフルの弾丸が、敵機体の頭部を見事に貫いていた。
表立った戦争が無い現代で、頭部が破壊された状況で戦える技術を持った兵士は殆ど居ない。
更には通信機能も頭部が司っている為、敵は文字通り行動不能になる。

オッサン「う~ん、良いねぇ。この消音機能付きのスナイパーライフル」

オペ子『分かりましたから次もお願いします』

りょ~かい、と気の抜けた返事をしながらも迅速に、そして正確に行動する彼の姿に、
オペレーターは過去の彼を重ね合わせる。数年ものブランクがあるにも関わらず、
過去と遜色無い動きをする彼に、昔から抱いていた尊敬の念を思い出さずにはいられなかった。

レッソ「こちらA.Z。指定座標に到着、攻撃を開始する」

適当な彼とは反対に、元軍人ゆえか模範回答とも言うべき真面目な通信内容のレッソ。
オペレーターはあのオッサンにも見習って欲しい、この人の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい、
と内心文句を呟いていた。

次の日 下駄箱

リア充「大丈夫か?」

女「元気だしなよ」

キョロ充「ヲタク大丈夫?wwwwww」

ヲタク「」

オタク「お前・・・」

女「泣いてたねwww」ヒソヒソ

リア充「明日はオタクも同じ目にあわせてやるか」ヒソヒソ

キョロ充「お前悪だなww」

リア充(こいつうぜぇなぁ付きまとうなハゲ)

女「楽しみだね」

アセル山脈にある大滝の前、二機のディフォルアームズが無警戒に通信していた。

『なぁ、本当にここへ来る奴がいんのかよ。いくら英雄様が捕まってるからってよ』

『まぁ、英雄だからな。意地でも欲しい国とかが軍けしかけてきたりして』

『怖っ!もしかしてもう近くにいたり···?』

呑気に雑談を繰り広げる彼らの間に、緊迫感は無い。
敵がここに迫ってくる筈が無い、そう信じきっているからだ。
だが、実際には言う通り、すぐ近くにいた···。

『大丈夫だって。もし敵が来てもあの人がッッ』

『おいどうしッッ』

二機の頭部に一つの貫通穴が空く。彼らは撃ち抜かれてから敵が居た事に気付いたが、
それを報告する術が無いと分かるや、情けなくコクピットを降りて逃げ出した。
残された二機の後ろで流れる滝の裏の奥にあった大きな洞窟に、一点の光が輝く。

レッソ「···敵機二機の頭部破壊」

レッソのA.Zのカメラアイが敵を静かに捉えていた。
レッソはそのまま逃げ出した敵兵を捉え続けている。

レッソ「···基地入口を発見。潜入を開始する」

レッソが見ていたのは逃げ出した敵兵の行き先。
オペレーターはレッソの通信を聞いて、今の所作戦通りに進んでいる事に、少し安堵する。

作戦とはこうだった。
まずは敵を減らしつつ、レッソが少し前まで軍人であった経験を生かして潜入、
オッサンがそれの援護、いざと言う時の囮役として敵を撹乱、
そしてもしもホワイト・アウトを倒した機体が現れた場合、その相手をする。
どちらにも負担が掛かる作戦ではあったが、レッソは快諾。オッサンは···。

オッサン「さっさとあいつを倒した奴と会いたいね」

オペ子『···出来れば遭遇しない事を願いますが』

オペレーターは危険な相手と出会いたがる彼を心配するが、
彼の直後の台詞を聞いて心配するのを止めた。

オッサン「···絶対にぶっ潰してやるからな···!」

彼の発言から感じる怒りと闘志が何を意味しているのか、オペレーターは理解していた。

レッソ「···基地内部に潜入した。これより英雄を捜索する」

薄暗い基地内部に潜入したレッソは、無線を用いてオペレーターに報告をする。

オペ子『了解です。今、彼が敵を倒し続けてくれています。襲撃が察知されるのも時間の問題です』

レッソ「その混乱の隙に乗じて最低でも英雄だけは救出する···」

オペ子『そうです。当然警備も厳しくなるでしょう、気を付けて下さい』

レッソは了解と一言告げると、無線を切って拳銃を握り締め、辺りの様子を伺う。
潜入を悟られないよう、壁伝いに音を立てず、ゆっくりと歩いていく。

レッソ(···参ったな、予想以上に広そうだ。これはキツいな)

幾つもあるセキュリティドアを見て、思わず心の中で弱音を吐いた。

突如けたたましく警報が鳴り響く。
レッソは一瞬自分が見つかったのかと思ったが、内容は敵の襲撃を知らせる物だった。
同時に敵の侵入を防ぐ為に全セキュリティドアがロックされる。
だがレッソは却って好都合と、全く意に介さず突き進む。
セキュリティの無いドアはあったが、レッソは無視してセキュリティドアに近付く。

レッソ(済まないが、開けさせて貰う)

ドアの傍にあるカードの読み取り機に、懐からとある装置を近付けるレッソ。
オッサンから鍵を開ける為にと渡された物だ。どういう物かと言われれば···。

レッソ(···!···思いの外、火花が飛ぶな)

カード読み取り機が軽い爆発を起こすと、ドアがスムーズに開いた。
要は電子的な鍵に電圧を掛け、故障させて無理矢理ドアを開かせるという代物である。
レッソは変わった物を作るな、とその効果を直に見て感心していた。

潜入中、何度もレッソの傍を敵が通り過ぎていく。だが誰も隠れているレッソに気付かない。
そこにフラフラと近付く兵士が一人。

レッソ(···良し、聞き出すか)

レッソは近くに居た兵士の首に一瞬で腕を回し、携行していたナイフを兵士の首に当てる。
兵士は突然の出来事に動揺して震え上がっている。

レッソ「英雄ヴァン・ホープは何処だ···」

「しっ、知らな···、や、止めてくれ、言う、言うから!」

兵士の首に一筋の血が流れる。死が自分のすぐ傍に近付いている事を実感すると、
すぐに口を割った。場所が分かったレッソは兵士の首を絞め落とし、気絶させる。

レッソ(···意外と知っている物だな。運が良かった)

ただの一兵卒だと思っていた相手が情報を持っていた事を感謝しつつ
レッソは閉め落とした兵士を物陰に隠し、移動を再開した。

一方その頃、オッサンの方は···。

オッサン「···あれ、敵増えすぎじゃない?」

オペ子『想定内です。対処を』

彼はスナイパーライフルの残弾を気にしながら、その場に留まらずに的確に敵を倒していく。
敵がこちらに気付く気配は一切無かった。が···。

オペ子『···敵機接近!上です!』

オペレーターの焦りを交えた声に、彼は上空を確認する。
そこには目立つ真っ赤な機体がこちらに向かって飛行している姿が見えていた。
その直後、彼に向かって白と黄色が混ざった太い何かが高速で飛んできた。

オッサン「うっおおおぉぉぉ!?」

間一髪でそれを回避すると、先程まで彼が立っていた場所が強烈な蒸気を上げて溶ける。
その光景を見て彼は一つの武装を思い浮かべる。

オッサン「プラズマカノン···実用化されてたのか···!」

昔から構想その物はあったが、技術的に問題が多かったプラズマカノン。
それが今自分の目の前に存在するという事実に、彼は技術者として興奮を、
パイロットとして恐怖を感じていた。

オペ子『戦闘機型のディフォルアームズ···マーキュリーです!』

オッサン「あれが?···赤色の水星···何か不気味だな」

彼の呑気な発言に少し苛立ちを覚えながらも、オペレーターは強く警告する。
飽くまで足止めであって倒そうとしてしくじるな、と。だが彼は何時もの口調でこう返した。

オッサン「傷一つでも付けなきゃ気がすまないんでね~」

敵のプラズマカノンによる砲撃で地面に幾つもの穴が空けられていく中、彼は余裕綽々な態度で
砲撃を回避し続けていく。その内上空からこちらにマーキュリーが接近してくるのを
スナイパーライフルで狙撃していくが、全て高速で回避される。そして···。

オッサン「お、おお?おおお!?へ、変形したぁ!!」

大型の戦闘機が、自分達が見知っている人型のディフォルアームズに変形していく。
見た事も無い技術に大興奮するオッサン。オペレーターは喜んでいる場合では無いと叱責するが、
今彼は目を子供の様に輝かせていて聞いていなかった。

ここまで本格的なのに人名が無いのは勿体無い気がする
仕方ないだろうけど

>>58
名前自体はありますが出てないだけで。いつかは出します、恐らく。

深夜もそうだけどSSって個人名付けるのが嫌われるからなぁ
ここまで設定とかしっかりしてたら逆に無いと不便な気もするんだ

応援してるよ

オッサンはマーキュリーが変形している間も狙って撃ったが、それも避けられて外す。
そして完全に変形しきった後、マーキュリーの手には変形前には胴体に接続されていた、
長い砲身のプラズマカノンが握られており、まっすぐオッサンの機体に向けられていた。
状況的には完全にピンチと言わざるを得ないが、それでも彼は余裕の態度を崩さない。
そんな彼の下に、謎の通信が入る。

『お前は何者だ?見た事が無いが···英雄を手に入れにでも来たのか?』

聞いた事も無い声が、コクピット内に響く。だが、この状況でこんな通信をしてくる以上、
目の前のマーキュリーが送ってきた物に違いなかった。オッサンは向こうに聞こえるかどうかも
分からないまま、いいや、と返事をする。

『ほう、ならば何の為に』

オッサン「可愛い愛弟子を捕らえてくれたあんたに報復をと思ってね~」

絶体絶命の時だと言うのに、陽気な口調のオッサンに向こうは呆気に取られる。
だが油断はしていなかった。余りの余裕さに、何か秘策でもあるのではと疑っているからだった。
向こうは面白い相手だ、と思って一つ通信を彼に返す。

カイ『俺の名はカイ・スバル···本名では無いが、覚えておけ』

オッサン「いや本名言えよ!あっやべツッコんじまった」

カイはオッサンのツッコミにやはり面白い、と笑う。
オッサンが何で笑ってんだと言うのは当然である。

>>60
私が名前を出す時は、その名前が重要な意味を持つとか、名前ネタで弄るとか、
何かそんな感じにする時なので生暖かい目で見守っていて下さい。生暖かい目で。

カイ『しかし、英雄を弟子と言う···さぞかし強いのだろう』

オッサン「いや、全然?随分ブランクあるから今のあいつ···英雄より弱いって」

気軽に会話を広げるオッサンの言葉を、カイは殆ど信用しなかった。
随分ブランクがある者の機体の動きでは無かったからだ。
回避の為にブースターで高速移動をせず、跳び跳ねるだけで避ける···。
間違いなく長年乗り続けたエースであろうと考えていた。

カイ『···ふむ、その余裕が気に食わないが、仕事だ。死んで貰う』

マーキュリーがプラズマカノンの引き金を引く。プラズマカノンの砲口にエネルギーが輝く。
今まさに死ぬであろうその瞬間――。

オッサン「どっせえええぇぇぇぇい!」

オッサンの機体、ラディウス・レイの機体側面に付けられたブースター。
その左側の出力を一瞬だけ最大出力にする事で、オッサンは紙一重で砲撃を避ける。が――。

オッサン「いってぇ!出力強すぎた!」

そのまま物凄い勢いで岩壁に見事に激突し、大きな隙と恥を晒す。
それを見たカイは、一切笑えなかった。普通の人間なら停止状態で急速に動けば、
そのGで少なからずダメージを負う物だ。だが彼は未だ余裕の態度が崩れない。
英雄もスピード重視の機体だったが、それとはまた違った強敵だと、カイは危険視する。

オッサン「やっぱり、殆ど使った事無いのに頼るのはキツいか!」

彼は岩壁を思い切り蹴り、その場から跳ぶ様に逃げる。
カイからすればその光景も先程のオッサンの発言も信じられない物だった。

カイ『ブースターに慣れていない···?そんな人間がこの時代に···!』

オッサン「仕方無いだろ五年程前から乗ってねぇんだから!」

カイの言葉に彼は馬鹿にされた物だと受け取った。だがそれは向こうも同じだった。
五年も乗っていない人間が、自分を翻弄しようとしている···仮にも自分が優秀であるという
自信を持つカイにとっては屈辱だった。

オッサン「だけどな、全く使えない訳じゃない。練習したからな!」

たどたどしくブースターを使い、そう必死に語る彼に、カイは驚くばかりだった。

ブースターは高速で前進する為に背面に、回避する為に両側面に、ブレーキの為に前面に、
上昇する為に足裏に、それぞれ機体の移動を制御する形で付いている。
更にはバーニア制御といってそれぞれの出力を状況に合わせて自動で調節する、
高度な機能も標準装備されている。
だがオッサンの様に一瞬で最大出力までするには、バーニア制御を外して、手動でブースターを
噴かせる必要がある。つまりブースターに関してはド素人のオッサンが、プロでもカイにも
中々真似出来ない事をしていたのだ。カイが屈辱に思うのも無理はなかった。

カイのプラズマカノン、オッサンのスナイパーライフル。どちらもお互いを狙い撃つも、
当たる事は無かった。射撃と回避の応酬を繰り返し、戦闘は終わる気配は無いと思われた。だが···。

オッサン「···!」

オッサンは何度もスナイパーライフルの引き金を引くが、もう弾丸が飛び出す事は無かった。
弾切れを起こしたのだ。オッサンが持つスナイパーライフルは、弾数が一般的なサイズの物より
圧倒的に多い。が、リロード出来ないという弱点がある。つまりほぼ使い捨てなのである。

カイ『ふっ、弾切れか。勝負ありだ···!』

普通ならカイの様に、こちらが射撃武器を持った状態で相手が弾切れを起こしたら、
勝利を確信する物だ。説明せずともカイの方が有利なのは目に見えている。だがオッサン相手には
倒す最後まで油断してはいけないと、カイはすぐ理解する事になる。

オッサン「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

左右のブースターを交互に噴射させ、プラズマカノンの砲撃を回避しながら、
オッサンはカイのマーキュリーに高速に接近していく。そして離れようとカイが後ろに下がった、
まさにその瞬間だった。オッサンのラディウス・レイが、カイの視界一杯に現れる。
オッサンが背面のブースターを一気に噴かせ、急速に接近したのだ。
突然の事態にカイにも一瞬の隙を見せる。

オッサン「そ、こ、だぁぁぁぁぁ!」

オッサンの叫びと共にラディウス・レイが右足を振り上げる。そしてつま先をマーキュリーに向け、
つま先を伸ばしそのまま足裏のブースターを最大出力にする。すると左足を軸にして、
ラディウス・レイが時計回りに回転した。つまりこれは、回し蹴りだ。
マーキュリーは見事に直撃し、吹っ飛ばされる。

オッサン「昔からの俺の得意技だ!どう考えても外しやすいロマン溢れる技だけど!」

せめてやるなら殴った方が早いにも関わらず、彼が回し蹴りを披露したのは、確実に当てる自信が
あったからだ。そして、まずディフォルアームズで殴る事も蹴る事も少ない為、意表を突く
目的もあった。お陰でカイの方は、何をしでかすか分からない、と警戒を最大にしている。

カイ(あの動き···。本当にブランクがあるとは思えない···。もし奴の言う事が事実だとして···)

  『勘を取り戻させる訳にはいかんな』

カイは一瞬笑うと、即座に変形してオッサンに突撃する。彼はそれを回避するが、常に高速で
動く戦闘機を攻撃する方法を失っていた。流石に飛び回る相手に殴る蹴るなど隙を晒すだけの
自殺行為としか言い様が無い。だがオッサンは卑怯だとは思わなかった。勝つ為なら
確実で正しい手段だと評価していた。

オッサン「そう来たなら···俺は逃げる!」

そう高らかに宣言すると、一転して回避優先の戦いに変えるオッサン。
ジグザグに後方へと跳び跳ねて逃げるというその動きは、カイにとっては厄介極まりない物だった。
この動きもブースターを使わない、現代では絶対にしない回避方法である。
見慣れない動きばかりする彼を、カイはビックリ箱と表現した。

オッサンとカイが戦闘をしている最中――。
レッソは確実に英雄の下へと近付いて居た。

レッソ(···あの兵士の言っていた事が正しければ···ここか)

幾つも並ぶ独房の一つの扉から、中の様子を伺うレッソ。そこには項垂れる、
白衣、白髪の若者が一人。レッソはオペレーターに渡されていた英雄の顔写真を取り出す。

レッソ「···顔を上げるんだ」

「···誰だ。知らない顔だな。僕を連れ出しに来たのか」

レッソは向こうに何とか聞こえる声量で、静かに話す。言われた通りに顔を上げる、
威圧感を込めた声を出した若者の顔は、レッソの持っている顔写真と完全に一致していた。
間違いなく、英雄ヴァン・ホープだった。

レッソ「···今開ける」

電子キーでは無くアナログな鍵穴式の独房に、オッサンから渡された鍵開け機は使えない。
だからレッソは独房の鍵穴に向かって、消音器を装備した自動拳銃を何度か撃ち込み、
無理矢理扉を抉じ開けた。そうして中に居る英雄に、耳に付ける小型の無線機を投げ渡す。
英雄はその無線機を素直に耳に付け、電源を入れる。

オペ子『···!ヴァン···?』

ヴァン「···どうやら助けられたみたいですね、僕」

先程とは打って変わって優しい声調のヴァンに、オペレーターは安堵の声を上げる。
だがすぐに持ち直し、冷静な口調で脱出するよう指示する。
家に帰るまでが遠足、という訳では無いが、基地に連れ帰るまで任務が完了したと言えないからだ。

オペ子『貴方の師匠も貴方を助ける為に来ているわ』

ヴァン「師匠が···!なら、何としてもここを出なければいけませんね」

声色から喜びを隠しきれない様子のヴァン。しかしオペレーターはそれを注意する。
依然として危険な状況で喜んでいる場合ではない。まずは生きて帰る事が最優先なのだから。
ヴァンは了解、と申し訳無さそうに呟いて、レッソに無線機を返す。

オペ子『レッソさん、ヴァンには言えない事があります···』

返された無線機から聞こえてきたオペレーターの声は、元気が無くて弱々しい物だった。
ただ事ではないと、オペレーターに聞き返すレッソ。返ってきた答えは···。

オペ子『彼と通信が繋がらないんです···。最悪の事態を考えておいて下さい···』

力の無い声を搾り出しながら、何とか事実を告げるオペレーター。
顔は見えなくとも、レッソにはオペレーターの落ち込む姿が見えていた。
ヴァンに言えない理由は、この事を聞けば暴走しかねないからだと説明していた。

ヴァン「···脱出はどうするんだ?」

レッソ「ホワイト・アウトに乗って脱出出来れば最良だ。格納庫にある筈だ、急ごう」

レッソは道中で敵から奪い取っていた基地内の案内板を取りだし、格納庫へと敵に
見つからないよう最善の注意を払い、二人は静かに独房を抜け出した。

だがそんな彼らを出迎えたのは···。

ヴァン「···血溜まり?」

無事敵に見つからず格納庫に辿り着いた二人の足下には、大量の血液が広がっていた。
死体もそこらに転がっている。余りの臭いに吐きそうになるレッソに対して、
全くそんな様子の無いヴァン。血溜まりも気にせず一直線に自らの機体へと歩み寄る。

レッソ「危険だ···周囲に敵が···うぶっ」

先程から吐き気を抑えきれないレッソ。彼は敵に一切会わなかった事に対して強い警戒を
抱いていたが、ヴァンは彼の忠告を無視して、真っ赤な床とは違って不気味な程真っ白な、
ホワイト・アウトへと近付き、搭乗する。

ヴァン「急いで乗れ!脱出する!」

フラフラと歩くレッソを無理矢理狭いコクピットに押し込むと、ヴァンはホワイト・アウトを
起動し、脱出を開始する。その為に高速で飛び上がり、天井を突き破った。

岩壁をも突き破り、青い空に全身どころか関節も武器も白い、汚れ無き純白の機体が飛翔する。
その中でA.Zよりも圧倒的な加速に、苦しそうにしているレッソに容赦なく質問するヴァン。

ヴァン「あんたの機体は何処だ」

レッソは吐き気を我慢しながら、大滝の裏に置いてある事を伝えると、ヴァンは急いで向かった。
そうして大滝の前に立っている二機の量産型ディフォルアームズを見付けると、それらの前に
着地し、まるで襖を開くように両手で思い切り左右にはね除ける。そうして自らの機体の
コクピットを開けると、レッソに早く出るよう急かす。

レッソ「···荒い子だ」

何とか必死にA.Zへと戻ったレッソは、思わずそう呟いてしまう。ただ、少し微笑ましくも
感じていた。師匠···つまりオッサンに早く会いたいが故の行動だと考えると、そう思ってしまった
のだった。そして、吐き気で忘れそうだったそのオッサンが危険な状態である事を思い返して、
吐きそうなのも気にせずA.Zを起動して、彼を探す為にヴァンと一緒に上空へと浮かぶ。

ヴァン「···!あの赤い機体···その近くを逃げ回っているのは···!」

何処から見ても目立つ真っ赤な機体ととても見覚えのある機体をを視界に捉えたヴァンは、
両肩に装備されている大量の超小型ミサイル···通称マイクロミサイルを発射する。
ミサイルの接近に気付いたマーキュリーは変形してその場から離れるが、一発一発が確実に
マーキュリーを追尾して逃がさない。しかしそれらは、マーキュリーから発射され散布していく、
ミサイルを別方向に誘導させる囮···フレアを使われた事で全て外してしまう。

ヴァン「当てられたら、と思ったが···」

少し悔しく思いながらも、マーキュリーが離れた隙を狙って師匠の機体に接近するヴァン。
だが心配していたヴァンの目に映っていたのは、大したダメージも無いラディウス・レイだった。

オッサン『――お、繋がった。よう、英雄さんよ。お久~』

ヴァン「師匠!お元気そうで何よりです···!」

久方ぶりに再会した喜びを抑えきれず、思わず泣き出してしまうヴァン。
泣く事無いだろ~?と未だ軽い様子のオッサンに、その通信が届いていたレッソは、
呆れつつも無事である旨をオペレーターに伝える。オペレーターも安堵の溜め息を吐いた。

その光景を何もせず静かに見ている、人型に変形したマーキュリーに全員の視線が向く。
レッソとヴァンは銃口を向けるが、オッサンは何も出来ないのでただ見ているだけだった。

カイ『三対一は厳しいのでな···それに、そろそろ時間らしい』

そう言うカイのマーキュリーの背後から、マーキュリーとほぼ同型の灰色の戦闘機型
ディフォルアームズが、空を埋め尽くす程に飛来してきていた。あまりの数と、
戦闘機型が無数に存在しているという事実が、オッサンを震撼させる。
その中に消えていくマーキュリーを追おうとヴァンが勇んで飛んで行くのを、彼が静止する。

オッサン「あの数だぞ、危険とかってレベルじゃない!絶対死ぬ!これは逃げるが勝ちだ!」

ただでさえ高機動の戦闘機型が、徒党を組んだら一機狙う間に落とされる、とヴァンを必死に
説得するオッサン。レッソも彼の意見に賛同し、今は君の安全が第一だ、と説得に協力する。
そうこうしている間に接近してくる戦闘機型を眺めて、悔しそうに了解とヴァンは呟いた。

オッサン「よぅっし、全力で撤退!」

オッサン一言を皮切りに、三機のディフォルアームズは、戦闘機型が雲の様に雪崩れ込む
アセル山脈から撤退していった···。

―アルダ基地―

オッサン「いやぁ~死ぬかと思った」

レッソ「流石に···あそこまで機体が群がる事などないからな···」

オペ子「皆さん、無事ですか!」

オッサン「お、オペ子ちゃん。元気?」

オペ子「貴方という人は···。ヴァンは?」

ヴァン「僕ならここです」

オペ子「···良かった。元気そうね。連れ去られた時はどうなるかと思ったわ」

ヴァン「僕も思ってましたよ。でも、まさか師匠が来るとは···」

オッサン「そりゃ弟子のピンチに駆け付けない訳にはな~···まぁ、ちょっと渋ったけど」

ヴァン「師匠がここを抜けた理由を考えれば、無理もないと思います」

オッサン「そう言ってくれて嬉しいね。しっかし、どうするかね~これから」

ヴァン「···戻るつもりですか?」

オッサン「それを悩んでるんだよ」

オペ子「町に戻るかここに戻るか···貴方の好きにして下さい」

レッソ「···正直、町に戻るのは薦められない」

ヴァン「···何?」

オッサン「睨むなよ、ヴァン。···言ってくれ」

レッソ「考えてもみて欲しい。あの戦闘機型の大群が何処かの街を襲撃すれば···」

オペ子「あの数です。成す術も無いでしょうね···」

ヴァン「そうなる前に全て潰せばいい」

レッソ「その通りだ。しかし、その為には出来る限りの戦力が欲しい···」

オッサン「要は俺に町の未来を守れって事かい?」

レッソ「町が襲撃される可能性がある以上、戻るにしてもディフォルアームズが必要になる筈だ」

オペ子「···ラディウス・レイは貴方専用の機体です。何処へ行くにしても、持っていって構いません」

オッサン「···」

オッサン「···分かった!町には一旦戻る!それでここに帰ってくる!」

ヴァン「!それって···!」

オッサン「奴等を野放しにするには危険過ぎる。何とかしないとな」

レッソ「···しかし、情報が少ない。一体何処の組織なのか不明だ」

ヴァン「変形する戦闘機型を造る技術を持つ組織、限られていると思うが」

オペ子「確かに、かなり高度な技術よね···。ここよりも凄いかも知れないわ」

ヴァン「それに、僕がすんなり脱出出来た事もおかしい」

レッソ「止める筈の兵士が皆殺しにされていた···奴等がしたのだろうが···」

オッサン「英雄さんが逃げられるよう仕向けた···う~ん、変な話だな~」

レッソ「得体が知れない。だが、ろくでもない組織であるのは間違いない」

オッサン「···まぁ、とにかく町に戻ってあいつらに色々言ってくる」

ヴァン「···あいつら?···一体、誰です?」

オッサン「お、一緒に来る?」

ヴァン「···!行きます!」

オペ子(···一波乱起こりそうな気がしてならないわ)

誰が待ってるかは分かりませんがようやくこっち進めます···。

―エヴォーク―

ヴァン「···ここは」

オッサン「覚えてるだろ~?英雄さんよ」

ヴァン「えぇ、勿論です」

オッサン「あの時から随分経つのに、ご覧の通り未だに復興の目処は立ってない」

ヴァン「···どこも支援出来る状況では無いですからね」

オッサン「···戦争の爪跡は深い。この街は、特にな」

ヴァン「世界はまだ戦争から立ち直っていないのに、まだ戦争を望む輩が居る···許せません」

オッサン「そう言う俺達も、ディフォルアームズなんて強大な力を持ってるんだ。使い方は···」

ヴァン「間違えたりなんかしませんよ。僕の力は、師匠から教わった物ですから」

オッサン「う~ん、照れる言い方するねぇ!流石は英雄さん!」

ヴァン「師匠、からかってるなら怒りますよ」

オッサン「手厳しいね。ま、とにかく俺の知り合いに早く会いに行くぞ~」

ヴァン「了解」

ロン毛娘「···オッサン、どうしてるかな。無事、かな」ハァ

オッサン「呼んだ?」

ロン毛娘「んひゃ!い、いつの間に···!」

オッサン「ついさっき」

ロン毛娘「···心配して損した」ボソリ

オッサン「ん?心配してくれてたのかな~?」

ロン毛娘「···それより、あのさ、後ろの···女の人は?」

オッサン「はぐらかされた···。まぁ後ろの奴は···」

ヴァン「ヴァン・ホープだ」

ロン毛娘「···え、嘘」

オッサン「嘘吐いてどうすんだって」

ロン毛娘「だって、男の人じゃ···!」

ヴァン「よく言われる。···女だったのか、と」

オッサン「ヴァン、って名前が女らしきないからな~。俺も最初は男かと···」

ヴァン「師匠まで···」

ロン毛娘「て言うかオッサン、ホントに英雄の人と···」

ヴァン「おい、師匠をオッサンだと?」

ロン毛娘「え、あ、その」

オッサン「待て待~て、ここでの愛称なんだよ」

ヴァン「···気を使っているだけでは」

オッサン「無いね!」

ヴァン「···分かりました。ただ、僕は許せません」

ロン毛娘「そ、そんな···」

オッサン「そう言うなよ~」

ヴァン「師匠にも名前はあると――」

オッサン「言うなよ?」

ヴァン「う、はい···」

オッサン「いや~悪かったなロン毛娘!」

ロン毛娘「い、いや、大丈夫だから」

ヴァン(···師匠、相変わらず誰にでも渾名呼びを···)

ロン毛娘「…で、英雄の人連れて、何しに来たの?」

オッサン「ん?いや~…当分、こことお別れになるだろうから、さ」

ロン毛娘「…軍に戻る、って事?」

オッサン「そうなんだよなぁ。俺が居ないと大変だ、って状況なんだよ、これが」

ヴァン「僕がもっと強ければ、師匠の手を借りずに…」

オッサン「いやあれは絶対無理だから強くても」

ロン毛娘「そんなに危険なの…?」

オッサン「じゃなきゃ俺戻らんぜ」

ロン毛娘「…」

オッサン「ま、そういう事なんで…チビは?」

ロン毛娘「…連れてくるね」

オッサン「頼んだぜ~」

─アルダ基地─

チビ「うおぉぉ~…かっけぇ~…」

ロン毛娘「ちょっと、走り回らない!」

オペ子「…で、どうしてこうなったんです?」

オッサン「いや、着いて行きたいって言うから」

オペ子「だからと言ってただの一般人を…!」

オッサン「ただのじゃあ無い!修理の出来る一般人だ!」

オペ子「軍関係者では無いのに変わりはないでしょう!」

オッサン「そんな怒んなくてもオペ子ちゃん」

オペ子「…もう、良いです。どうせ連れて帰らないんでしょうし」

オッサン「良く分かってるねぇ」

オペ子「…はぁ」

   (まぁ、呆れる位自由じゃないと、この人って呼べないんだけど…)

レッソ「···久し振り、と言うにはあまり期間が空いてないな」

ロン毛娘「あ、あなたは···」

レッソ「レッソだ。よろしく頼む···と言うのも変かも知れないが」

ロン毛娘「はい、宜しくお願いします」

ヴァン「ここに来た以上、働いて貰う。あの子供にもな」

チビ「ん?」

ロン毛娘「手伝い程度、ですよね」

ヴァン「当たり前だ。僕は鬼畜じゃない」

レッソ「そもそも、周りが止める」

チビ「おいオッサン!あれ乗せろ!」

オッサン「お前にゃ無理無理!はっはっは!」

チビ「何だと~!」

ヴァン「···やはり、仕事を増やしてやろうか」

オペ子「んふっ、本人が気にして無いんだから、ふふん、そんなオッサン呼ばわ···ぶふっ」

ヴァン「笑いすぎです」

ヴァン「···師匠。そろそろ、作戦会議を」

オッサン「ん~?分かった」

チビ「おもしろそうだからまぜろ!」

ロン毛娘「こら、邪魔しない!···こっちは任せてね」

オッサン「頼んだぞ~。···じゃ、始めますか」

ヴァン「はい」

オペ子「くふっ、ふ···」

ヴァン「そろそろ落ち着いて下さい」

オッサン「横にさせた方が」

オペ子「···酔っ払いみたいに扱わないでくれますか?」

レッソ「落ち着いた所で、始めても?」

オペ子「はい。失礼しました」

オッサン「···まず、奴等の狙いだ。正体なんか会議してても埒明かないしな」

ヴァン「アセル山脈の基地に現れた目的は···」

オペ子「それなんですが···」

オッサン「どうしたんだ?」

オペ子「···ヴァンを逃がしたかったのかも知れません」

ヴァン「僕を?馬鹿な」

レッソ「英雄にはまだ生きて貰う理由がある、と」

オペ子「はい···牢屋から連れ出した後が、すんなりといきすぎていた物ですから」

オッサン「ん~···奴等はあの後基地を壊していったし···戦力を減らしたいのかなんなのか」

オペ子「不気味な組織ですね···」

レッソ「奴等の目的さえ分かれば、被害を未然に防ぐ事も出来るが···」

オッサン「取り敢えず、あの魚群並の戦闘機型を追うしかなぁ」

オペ子「それが、レーダーには反応しなくて···」

ヴァン「あれだけ居るのに、一機も?」

オペ子「ええ」

レッソ「撹乱させる電磁波でも放出しているのかも知れん」

オッサン「そりゃ何とも···厄介な相手だぜ···参ったな」

ヴァン「後手に回らざるを得ない、と言う訳ですか···くっ」

pipipi

ヴァン「···通信?」

オペ子「今、開くわ」

『――こち――ネフ――』

オッサン「···やたらと音声乱れてるけど···まさか」

『何処か――きゅ――じょ――えん――む!』

ヴァン「余程切迫した状況の様です」

レッソ「位置は把握出来るか?」

オペ子「位置は···ネフェスです!」

レッソ「···何処だ」

ヴァン「あそこは何にも無い、ドが付く程の田舎の筈だ」

オッサン「そうだな、地下に軍事基地がある以外はただのド田舎だ!急ぐぞ!」

レッソ「分かった」

ヴァン「了解!」

ロン毛娘「···あっ、オッサン!」

オッサン「えっ!?何々!」

ロン毛娘「何かあった···から急いでるんだよね」

オッサン「そう言う事!大人しく留守番頼むぞ!」

ロン毛娘「が···頑張ってね!」

オッサン「おう!」

ロン毛娘(···絶対、帰って来てよ)

<MISSION 2>
閃光の名において

 ネフェス。元々は何も無いただの田舎町だったが、嘗ての機甲大戦では大量の基地が
建てられ、ジェスタ王国などの西側の前線基地として機能していたが、
今では地下に規模の小さい基地が存在するだけとなっている。

オッサン「見えて来たぞ!」

 ネフェス周辺の空には、アセル山脈の時ほどでは無いものの、それでも数多い戦闘機型が飛来し、
ここの土地を爆撃していた。その灰色の群の中、ヴァンは目聡く赤い機影を見つける。

ヴァン「マーキュリー···」

 自らが捕まった時の事を思い出すが、ぐっと堪えるヴァン。アセル山脈での時の様に、
ここで冷静さを失えば勝利など夢に等しいと理解していたからだ。

カイ『···また会えたな。ラディウス・レイ』

 前と同じく無線に割り込み、通信を入れるカイ。本来、戦いで個人の情報を明かすというのは
愚かとも言えるのだが、敢えてそれをしているのは彼なりの自信、プライド、拘りである。

オッサン「よっ、パーティーの時間には間に合ったかい?」

カイ『遅刻だな』

 オッサンの、相も変わらない余裕の態度での発言に、態々その必要も無いのに合わせるカイ。
彼がオッサンをいたく気に入っている現れだ。

カイ『お前達が遅いから、もう目的を達してしまった』

レッソ「目的、だと」

 カイの一言に強く反応するレッソ。カイはくくく、と笑い、からかうようにこう返した。

カイ『これはゲームだ。俺達が野望を達成するのが早いか、お前達が俺達を止めるのが早いかのな』

ヴァン「何···!?」

 戦闘をゲームに例え、本当に愉しそうに嗤うカイ。戦争を遊びと捉える彼に、三人の怒りは募る。

カイ『さぁ、折角来たんだ、お前達の為の歓迎会を開こう』

 一頻り笑うと、周囲の戦闘機型を彼等に向かわせ、自身は人型に変型し、何もせずその場に
留まって鎮座していた。

ヴァン「舐めた真似を···!」

オッサン「ヴァン!あいつは任せる!周囲の、まさしく雑魚群は俺達に任せな!」

ヴァン「···!了解!」

 オッサンは自分達の装備を確認し、誰がマーキュリーを抑えるのに最適かを考え、今のヴァンが
一番相応しいと決めて、彼女をカイに向かわせる。彼女自身も、以前負けた事へのリベンジを
考えていただけあって、迷い無く一直線に向かっていった。

 ラディウス・レイ。機甲大戦を戦い抜いた歴戦の機体。元々の機体名はアールレイで、二機まで
開発されたディフォルアームズのプロトタイプだった。その内の一機を、オッサンが設計した案を
基に次々に改造して出来たのがL.R···初期型のラディウス・レイだった。この名称はオッサンが
LとRの頭文字からそれぞれラディウスとレイの名を思い付いたが、ラディウスの頭文字はLでは
無くRだと即座に間違いを指摘されたが、カッコいいからこれで良いと、そのまま変わっていない。

レッソ「俺達に任せな、と言ったが、どうするつもりだ」

オッサン「まぁ見てなよ。フォローは頼むぜ?」

 不安げなレッソと反対に、余裕崩さぬ態度を取り続けるオッサン。その余裕の原因は、前回の
彼には無かった切り札があったからだった。

 切り札···それは、ラディウス・レイの装備にあった。他の機体には絶対に無い、大きな切り札が。

 ラディウス・レイは前述通り、プロトタイプの改造機体だ。幾ら改造機とは言え、プロトタイプ
が終戦まで戦い続けられたのは、オッサンの操縦技術が高かった、元になった機体がコスト度外視
の高性能機だった為、もあるが、それだけが理由では無い。この機体の強さは驚異的なまでの
継戦能力の高さにある。

 ディフォルアームズの銃器には、致命的な欠点がある。それは大体の銃がリロード不可、
と言う点である。特に機甲大戦当時はリロード可能な銃など無かった。つまり、銃に内蔵
されている弾が尽きたら銃も自らの命も終わりだったのだ。ラディウス・レイを除いて。

 ラディウス・レイに採用されたのは、ウェポンラックとハードポイント――要は兵装を格納、
取り付けられる機能を追加した、それだけである。単純に持てる銃を増やせば継戦能力が高くなる
と言う、小学生でも思い付く様な発想で付けられた物だ。だが、オッサン以外にそれを実現する
者は誰も居なかった。使い捨ての高価な銃を一機に幾つも載せる様な真似、する者もさせる者も
現在でも存在しない。数多く持っただけの活躍が出来る者が居ないからだ。逆に、それを実現した
オッサンには、それだけの期待が込められていた、というのが見て取れる。

 今のラディウス・レイには初期型の時よりもウェポンラックとハードポイントが増えている。
前者は背中に六つ、後者は両肩に一つずつ、腰の横に二つ、後ろにも二つ、両脚に一つずつと、
計十四挺もの銃を所持出来るのである。ウェポンラックもハードポイントも今でこそ
ラディウス・レイ以外の機体にもあるが、それでも他の機体と比べれば、圧倒的と言える量だ。
オッサンの言う切り札とは、これの事だ。

 現在ラディウス・レイが装備しているのは十四挺全てアサルトライフルである。オッサンは
腰の後ろのアサルトライフル二挺を手に持ち、向かってくる戦闘機型に二つの銃口を向ける。
同時に全てのウェポンラックからライフルが自動で引き出され、六つの内四つは肩の上から、
残りの二つは脇の間からレールを伝って飛び出す。そしてハードポイントのライフルも共に動き、
戦闘機型の集団に十四挺全ての銃口が向けられた。

オッサン「さぁ、ラディウス・レイの名の通り、光を見せてやるぜ!」

 彼のその叫びと共に全ての銃口から発火炎(マズルフラッシュ)が吹き荒れ、弾丸が嵐の如く
飛来していく。数撃ちゃ当たると言わんばかりに十四挺から放たれる幾多の弾丸は、戦闘機型を
撃墜していく。何体は撃破時の爆発に巻き込まれ誘爆、もう何体かは完全に回避する。

オッサン「流石に全部は当たんないよなぁ···!」

 射撃を停止すると、ウェポンラックのライフルは収納され、ハードポイントのライフルは銃口を
下がった。そして手に持っているライフルで、落とし損ねた敵機をレッソと二人で近付かれない
様に堅実に撃墜していく。

オッサン「そっちの弾切れたら幾らでも俺から取ってくれて良いから!」

 レッソはオッサンの言葉にただ了解と冷静に告げる。この様に味方に銃を渡す事で、
部隊全体の継戦能力を高められるが故にラディウス・レイは終戦まで戦い抜いたのだ。

 因みに、出撃前にそんな機能があるなら最初から使えば良かったのでは、とレッソに言われて
いたのだが、これに関しては十四挺も積めば相当な重量になり移動が不便になる事と、当然
持久戦向けなので、奪還作戦時は持久戦を避ける作戦だった為である。

 オッサンとレッソが戦闘機型を墜としていく中、ヴァンは――。

カイ『英雄か···祭り上げられる気分はどういう物だ?』

ヴァン「貴様に言う事など無い」

 カイの意図の不明な言葉に、ヴァンは一言で冷たく切り捨てる。それを可笑しく思ったか、
再びカイは笑いだす。それを不気味に思いつつもヴァンはその思いを表に出さない。

カイ『この前は人質を取る事でお前を捕らえたが···あれは俺の本意ではない』

ヴァン「正々堂々と戦い勝利したかったとでも?」

 本意ではないという言葉に苛立ちを見せるヴァン。戦争を楽しむ様な人間が何をほざくのか、
噴き立つ怒りを顕にする彼女の問いに、カイはただ一言――。

カイ『違うな···お前で遊んでみたかったのだ、英雄!』

ヴァン「人を···玩具の様に!」

 自分と完全に相反する存在を許せないヴァンの怒りが、カイにぶつけられる。二者の戦いの火蓋
が切って落とされた。

 ディフォルアームズというのは基本的にどんな機体も共通する部品があるが、ヴァン専用機
であるホワイト・アウトには一切無く、完全新規部品のみを用いて組み上げられている。つまり
同じ造形の機体は装備も含めて一切存在しない。銃はID管理されており、ホワイト・アウト以外
では扱えないよう設定されている。背中や肩にあるハードポイントも独自の規格で出来ており、
専用兵装を装備出来るが、逆に従来の兵装は装備出来なくなっている。

ヴァン「貴様のふざけた考えも野望も、今ここで撃ち砕く!」

 ホワイト・アウトが持つ専用銃、ディスネイトガンという“銃弾の無い”銃を向け、引き金を引く。
マーキュリーは銃口の先から逃がれ続ける事で、大きな銃声と共に飛んでくる何かを回避するが、
得体の知れないディスネイトガンを必要以上に警戒し、回避優先で動いている。

カイ『俺を倒した所で、野望が潰える事は無い。俺の仲間が遂行する』

ヴァン「ならば、共にそいつもお前が行くべき場所へ連れていく···地獄へな!」

カイ『それもまた一興···だが、出来るかな?』

ヴァン「楽しみにしていろ!」

 まるで見くびっているかの様な言動のカイに、ヴァンの火を噴くかの如し怒りの口上が痰を切る。
それでこそ、とカイは不敵に微笑む。

 高速で逃げ回るマーキュリーと並走するホワイト・アウト。お互いに銃を向けて撃ち合い、
それを回避し続けている。

 ホワイト・アウトは高速機動をコンセプトに造り出されており、初めてブースターを試験的に
導入した機体である。コックピットもパイロットスーツも耐G処理されており、普通であるなら
人体が耐えられないような高速機動にも、その限界を超えて耐える事が出来る。最高速度で勝る
機体は居ない。例え戦闘機型に変型したマーキュリーであってもだ。

カイ(不味いな···流石にこのままではプラズマカノンのエネルギーが持たんか)

 撃ち続けても埒が明かないと判断したカイは、接近戦を挑む。大型の砲塔であるプラズマカノン
を背部に仕舞った上でだ。

ヴァン「接近戦か!」

 そう考えて銃を撃ちながら、腕に隠されて装備されているエネルギーブレードを構える。
が、接近する瞬間、マーキュリーは変型して急接近し、突撃を仕掛ける。突然の行動に呆然として
一瞬動きを止めてしまったヴァンは、直撃してしまう。

オッサン「!ヴァン!」

レッソ「まだ来るぞ!」

 その光景を見て居ても立っても居られなくなったオッサンが、すぐさま向かおうとするが、まだ
多数存在する戦闘機型に、足を止められる。悔しそうに唸るオッサンに、容赦無く戦闘機型は
差し迫って行く。

 マーキュリーに突撃されたまま高速で運ばれるホワイト・アウト。幾ら耐G処理をしていても、
ダメージは大きい。だが彼女の負けず嫌いが、普通ならあり得ない現象を起こす。

ヴァン「ぐぅうう···!僕を···舐めるな!」

カイ『!?ば、馬鹿な···!』

 ヴァンの雄叫びと共に、ホワイト・アウトの推進力が急上昇していく。それは加速している
マーキュリーを押し戻す程まで。思わずカイも驚愕し、愕然の言葉を口に漏らす。

ヴァン「貴様は、ここで···!」

 マーキュリーにエネルギーブレードを突き刺そうとした瞬間、マーキュリーのプラズマカノンの
銃口に光が灯る。この至近距離で接射されればどんな機体でも耐えられない事を悟ったヴァンは、
マーキュリーを突き飛ばす形でそこを離れる。その一刻、先程までホワイト・アウトが居た場所に
一筋の太い光が通り過ぎた。

オッサン「ヴァン!無事か!」

ヴァン「ごほっ···ご心配無く。まだ、くたばってませんよ」

 出力が切れてそのまま落下したホワイト・アウトをラディウス・レイが受け止める。オッサンは
ヴァンの平気そうな声を聞いて安堵する。

 ホワイト・アウトが離れたと同時に全ての戦闘機型を呼び戻したカイは、そのまま捨てる様に
言葉を吐く。

カイ『少々、舐め過ぎていたな···。流石は大戦の英雄。見事だ』

 まだ余裕の残る口調に、ヴァンは苛立っている。だが彼等はすぐにこの余裕を理解する事になる。

カイ『遊び疲れたな···最後は盛大なショーで締めよう』

 カイがその一言を言い放った途端、地震が起きる。地面が崩れ落ち、土砂が三人を襲う。
その間に、戦闘機型の集団は空の向こうへ消えていった。

ヴァン「待て、逃げるのか!」

オッサン「くそっ、あいつ何しやがったんだよ!」

レッソ「地下の基地を爆破したんだろう···!早く飛ばないと飲まれるぞ!」

 大量の土埃が舞うネフェスの基地から、三人は脱出する。逃げられた悔しさを噛み締めながら。

~~~~

オペ子「皆さん!良かった、通信がまた妨害されていたので···」

 アルダ基地に戻った三人を出迎えたオペ子は、大層安心した様子で安堵の溜め息を吐いた。
それを見たオッサンが彼女をからかったりして、一旦は全員の緊張がほどけた空気になった。
そんな彼等に、一つのニュース報道が流れる。そのニュースはこの場に居る全員を愕然とさせる
には充分過ぎる程であった。

『緊急速報です!ネフェス基地が崩れ落ちました!大変乱れておりますが、映像も残っています!』

 映像には爆破後の大量の土埃から現れる三機のディフォルアームズが映っている。特に、
乱れていても真っ白な機体は目立っていた。誰が見てもホワイト・アウトだと分かるだろう。

『この事件は、機甲大戦の英雄に依頼した、東側の仕業かも知れません!』

 その偏見染みた報道は、まさしく第二次機甲大戦の、幕開けを告げる物だった――。

オッサン「···見事嵌められた、って訳だ、俺達」

レッソ「奴の目的とはこれの事だったか···」

ヴァン「ふざけた真似を···!」

オペ子「まさか、この為にヴァンを···?」

レッソ「···かも知れないな」

ヴァン「この僕を、戦争の引き金に利用するとは···くっ!」

オッサン「···これが目的だったとして、あいつの野望って何だ」

ヴァン「世界中で戦争を起こす事に――!」

オッサン「だったら何で基地を潰していくんだ。あいつの大好きなゲームの駒が減るだけだぜ」

レッソ「···つまり、もっと恐ろしい事を計画している、と···?」

オペ子「機甲大戦が再び起こるより恐ろしい事なんて···」

ヴァン「どちらにしろ、奴を潰さなければこれから何度もこんな報道がされるんだ···」

オペ子「マーキュリー···絶対に止めなければいけないわ」

オッサン(···あれを起動させる準備をしておいた方が良いかもな)

オペ子「しかし、このままだと私達は西側に東側だと判断されてしまいます」

レッソ「東側は関与を否定するだろうが···それが逆に火種となるだろう」

ヴァン「どう言われても、今迄通り中立を保つだけだ」

オッサン「その場合、三組織から狙われる事になるんだよな~」

レッソ「···私が居る以上、トールード連邦は味方にならないだろう」

オッサン「え?あんた東側だったの?」

オペ子「知らなかったんですか?」

ヴァン「僕も初耳ですが」

レッソ「言っていなかったから、知らないのは当然だ」

オペ子「レッソさんは前からトールード連邦の内部情報を流してくれていた人です」

オッサン「へぇ、そんな事してたのか」

レッソ「あぁ···上司の命令でね」

ヴァン「自国の情報を流させるなど、どんな上司だ」

レッソ「穏健派でね。強硬派達を抑える為に、内外から抑えようとしていた」

レッソ「だが私が、強硬派達が戦争を起こす気だと知り、それがバレて···」

オッサン「軍を追われちゃった訳だ」

レッソ「つくづく情けない話だよ···」

ヴァン「東側が戦争の準備を進めている話は聞いていたが、あんたの情報とは」

オペ子「穏健派の人達は···」

レッソ「少なくとも上司は、何らかの罰を下されているだろう···」

オッサン「···助けたくない?」

レッソ「···生きているのなら助けたい。だが私は軍人、最後の命令は···」

オッサン「逃げろ、って奴かい?あんたもう東側の軍人じゃないんだから、命令なんて忘れなよ」

レッソ「···」

ヴァン「師匠がトールード連邦に挑むというなら、僕も手伝います」

オペ子「ちょっと待って下さい!今敵を増やすのは···!」

オッサン「戦うったって、何もロボットバトルするだけじゃないだろ~?」

オペ子「···何を考えているんですか」

オッサン「ま、一旦は休憩!でも、すぐ忙しくなるぞ~!」

チビ「オッサン!」

オッサン「はいはいオッサンですよ~。で、何?」

チビ「ディフォルアームズ!教えろ!」

オッサン「お!流石は男の子、興味があるか!良いね~、教えてやろう」

チビ「早くしろ!」

オッサン「焦るなよ···知り合いの技術者と一緒に教えるからさ~」

チビ「知り合い?」

オッサン「昔からの、さ」

―アルダ基地 技術開発研究部門―

オッサン「どもども~」

ロン毛娘「あれ?オッサン、どうしたの?」

オッサン「ちょっと昔からの知り合いに···って何でここ居るんだ」

チビ「姉ちゃんもディフォルアームズのこと聞きにきたのか?」

ロン毛娘「そんな感じ」

技術者「···今日は何の日だったか」

オッサン「おっとお久~。今日は何の日でも無いって」

技術者「そうか。人が多いが、何の用だと、あ~···オッサン?」

オッサン「こいつがディフォルアームズの話が聞きたいそうで」

チビ「こいつゆ~な!」

技術者「···ま、良いかね。さて少年少女、何が聞きたい」

ロン毛娘「あの、その前に名前···」

チーフ「皆、チーフと呼ぶ。君達も気にせず呼べ」

オッサン「じゃあチーフ、色々宜しく」

チーフ「本来なら一般人には教えないが、この男とのよしみで教えよう」

オッサン「ちょっとは感謝してくれよ~?」

チビ「は?」

オッサン「いやは?じゃなくて」

チーフ「それでも機密情報などは話せんが、で、何が聞きたい」

チビ「どうやって出来てんだ?」

チーフ「技術者の努力だ」

チビ「何だよそれ!」

チーフ「実際そうなのだからそうしか言えん。あれは元々、ある物を再現しようとした結果だからな」

チビ「ある物?」

チーフ「それは知らん。ただ、人型なのは知っている」

ロン毛娘「どうして知らないんですか?」

オッサン「むしろ元になった物があるって知ってる人の方が珍しいんだよ」

ロン毛娘「オッサンは知ってるんだ」

オッサン「まぁね~」

チーフ「その男はディフォルアームズが出来た時から乗っているからな」

ロン毛娘「え?」

オッサン「おいっ、ちょっと」

チーフ「何を隠す必要がある」

チビ「すげーなオッサン!見直したぜ!」

オッサン「そこで見直すの?もっとあると思うんだけど」

ロン毛娘「…オッサン、一体何歳から乗ってるの?」

チーフ「私が知る限りでは」

オッサン「おい!」

チーフ「…どうやらこの話は無しらしい。別の話にしよう」

ロン毛娘「何で、言って…」

オッサン「ふぅ~…何時か絶対、言わなきゃいけない時が来る。その時まで、な」

チビ「とか言って、大した事ないんだろ」

オッサン「あのなぁ…それに、覗きも居るしな~」

ロン毛娘「覗き?」

オペ子「」ビクッ

ヴァン「…流石は師匠、気付かれるとは」

オッサン「いやだってカサカサうるさいし」

オペ子「人をあの虫みたいに言わないで下さい」

オッサン「そりゃサーセン」

レッソ「…本当はそのつもりなど無かったんだが」

オッサン「…あんたは気付かなかったよ。気配隠すの上手いな~」

チーフ「む、パイロット勢揃いか」

ロン毛娘「パイロットって…これだけしか居ないんですか!?」

チーフ「ここは基地とは名ばかりの研究所だから仕方が無い」

チビ「研究所?」

チーフ「そうだ。だからディフォルアームズも最新鋭の技術が詰め込まれている」

オッサン「変型機が無いんですけど」

チーフ「面倒だからな」

オッサン「おい」

チーフ「ラディウス・レイ用に資金を残して何が悪い。まだあれは完成していないぞ」

オペ子「そうなんですか?」

チーフ「コイツの完成案にはまだ続きがある。…よく分からない物だが」

オッサン「大事な奴なんだからちゃんと組み込んでくれよ~?」

チーフ「今漸く組み込める。期待せず待て」

   (あんなブラックボックスを何処から手に入れたかは知らんが、な)

ロン毛娘「あの、パイロットって···」

オッサン「俺と英雄さんといぶし銀の三人だな」

レッソ(私はいぶし銀なのか···)

ロン毛娘「て事は、最近まで英雄さん一人だったって事じゃ」

ヴァン「それが?僕は一人でも問題は無かった。···マーキュリーが来るまでは」

チーフ「確かに英雄はここに所属しているが、飽く迄基地の防衛の為、という名目があるのでね」

ロン毛娘「···機甲大戦当時はどうだったんですか?もしかして、オッサンと英雄さんだけで戦争を」

チーフ「確かにここには二人しか居なかったが、当時は他の国の協力があった」

オッサン「二人だけで終戦させるのは流石に···」

ロン毛娘「···だよね」

オッサン「てか、ロン毛娘よ、何かやたらと俺の事知ろうとしてない?」

ロン毛娘「そ、そんな事は…」

オッサン「まぁ良いや。チーフ、俺がここに来たのはあんたの意見が聞きたいからだ」

チーフ「大方、戦闘機型を作り出した国の事だろう?」

レッソ「!分かるのですか」

チーフ「私を誰だと思っている。私のの予想では──」

チーフ&オッサン「ファイオン」

オッサン「…やっぱあそこだと思う?」

チーフ「当然だ。飛空戦艦を開発しようとした馬鹿げた国だぞ」

ヴァン「あそこは機甲大戦の時、潰した筈では」

チーフ「国が滅んでも、人が滅ぶ訳では無い」

レッソ「生き残りが…彼等だと?」

オッサン「知らないけども、まぁ怪しいよねって」

チビ「どんなとこだったんだよ!」

オッサン「何でそんな怒鳴るんですか…」

チーフ「この世界に多数の傷を残した…と言えば凶悪さが分かるかね」

ヴァン「お前達の住んでいたエヴォークを襲撃したのもそこだった」

オッサン「ちょっ」

ロン毛娘「…!」

オッサン「…あ~、それ聞いて復讐とか考えるなよ~?もう、ぶっ潰れてるから」

ロン毛娘「…うん」

チーフ「何にせよ、最も戦争を望んでいた連中だ。生き残りが居れば…」

レッソ「また、戦争を勃発させると」

オペ子「今は彼等にとっての好機、な訳ですか…」

オッサン「···取り敢えず、他に知りたい事とか」

チビ「ディフォルアームズって操縦ムズいのか?」

オッサン「うん死ぬ程」

チーフ「柔軟な動きを再現する為に、操作を複雑にせざるを得なかったらしい。本末転倒だと思うが」

ヴァン「結局操作出来る人間がかなり限られる結果になったからな」

オッサン「いや本当、比喩抜きで完全に操作出来るまで一ヶ月は最低掛かるからね、あれ。今は···」

レッソ「ある程度は簡略化されている様だが、慣れるまでは私もかなり苦労したよ···」

オペ子「一目見ただけだと何を触れば良いのか分からないわよ」

ロン毛娘「それを手足の様に扱えるって···オッサン、やっぱりスゴいね」

ヴァン「何を言ってるんだ。師匠は初めから素晴らしい人だ」

オッサン「そんな褒められると俺だって照れますよ?」

オペ子「実際にとんでもない人材ですから、受け入れて下さい」

アニメ全26話位の長さなんだろうか

チーフ「で、用は終わりかね」

オッサン「俺はね~」

オペ子「まぁ、私も···」

ヴァン「僕は師匠に着いて行くだけです」

レッソ「私は···」

チーフ「残れ。ロン毛娘とやらも」

ロン毛娘「え」

チビ「もっと教えろ!」

チーフ「ふむ、後で君には現場を見て貰った方が良いか」

チビ「ホントか!」

チーフ「だが今はまずレッソと話をさせて欲しい」

ロン毛娘「わ、分かりました···ほら行くよ」

チビ「約束だぞ!」

>>115
自分でも思ってる以上に短くなりそう···十話も持たないかもです。

オッサン「現場で迷惑掛けるなよ~?俺も一回こっぴどく怒られた事あるし···」

ロン毛娘「何したの···?」

チビ「オッサンのマネなんかするか!」

オッサン「そりゃ~良かった。じゃあ、失礼」

レッソ「···行った様ですが···一体何の――」

チーフ「A.Z」

レッソ「···何でしょう」

チーフ「あの機体は、君の為の機体か?」

レッソ「···仰っている意味が」

チーフ「量産されている訳では無いのか?」

レッソ「どうしてそんな事を」

チーフ「本当に分からないのかね」

レッソ「えぇ···あの機体は特徴の無い機体だと、上司にも言われた程で」

チーフ「···ならば言っておこう。あの機体は――」

レッソ「――!」

ロン毛娘「···あの、良いですか」

チーフ「あぁ。話は長くなる。そこらに座ると良い」

ロン毛娘「は、はい···」

チーフ「堅苦しい話では無いよ」

ロン毛娘「じゃあ、何の···」

チーフ「先ずは君とあの子供の名前だ。私は奴の様に渾名で呼ぶのは気が引けるのでね」

ロン毛娘「···フィーナ、です。チビの方はルーニ」

チーフ「ではフィーナ」

ロン毛娘「···はい」

チーフ「君は奴を···オッサン、か、どう思っているのか気になってね」

ロン毛娘「へ?べ、別に何も···」

チーフ「それでバレないのは鈍感な奴だけだ」

ロン毛娘「う、な、何が聞きたいんですか」

チーフ「なぁに、敵は多い、とお節介を焼いただけだよ」

ロン毛娘「て、敵って···」

チーフ「何、奴は人の弱みに付け込むのが巧いのでね、勿論良い意味で」

フィーナ「それって良い意味あるんですか…?」

チーフ「要は傷付いている相手を支えるのが得意だと言いたいだけだ」

フィーナ「…そうですね。ムカつく程得意です」

チーフ「オペレーターのアルシアもヴァンも、救われたクチだ」

フィーナ(オペ子って人、そんな名前だったんだ…)

チーフ「奴は行く先々でそうやって人を魅了してきた。私達に他国が協力したのは、奴の人望のお陰だ」

フィーナ「つくづく、スゴいんだなぁ…何者なんだろ」

チーフ「さぁね」(奴が何者なのか、分かる人間など…)

~~~~

ヴァン「師匠、これからどうするつもりです?」

オッサン「予定としては、各地に紛争が起きるだろうから、それを止めに行く」

アルシア「嘗ての機甲大戦の時の様に、ですか」

オッサン「ま、俺はまず行くとこあるけど」

ヴァン「行く所?」

オッサン「あぁ、まぁね~」

アルシア「…一人で?」

オッサン「え、駄目なの?」

アルシア「いえ、別に」

ヴァン「では、僕は何時でも出撃出来るよう準備しておきます」

オッサン「頼んだぜ~」

<MISSION 3>
深蒼の砲火

 アルダ基地の面々が戦闘準備を進めている時、ある場所では既に紛争が起こっていた。ただ、
それは決して西側のジェスタ王国、並びに東側のトールード連邦が存在する紛争ではなかった···。

 エヴォークと同じく十年前の傷跡が残り続けている町、ウェング。これら襲撃された町の特徴
として、機甲大戦当時中立の立場に立っていた、という共通点がある。襲われた理由は全て、
武力によって協力を強要させる為であった。何の力も無かったウェングの町は、ただただ服従する
しか無かった。それを疎ましく思っていたこの町は、平和条約によってディフォルアームズが
廃棄されると知っても尚、力を求めた···。

 ウェングの町には一機のディフォルアームズがある。だがある少年によって改悪とも言える
改造機と化していた。機体名L.E、その登場者であり改造者である少年、カジは今、背部に二門の
大型迫撃砲を装備している、深蒼の人型ディフォルアームズの指揮の下、背中に巨大な砲塔を
備える多数の灰色の人型ディフォルアームズに、囲まれていた。が――。

カジ「ドォォォォリィィィィィルゥゥゥゥゥゥ!!」

 両肩に付いていたドリルグローブを取り外し、手に装着して敵機を蹴散らしていく。数ある敵も
何のそのと言わんばかりに突撃していく。この状況に何の恐れも抱いていない様子だ。

 このL.Eはカジの趣味で幾つもの“ロマン”を形にした機体になっている。その一つは今している
ドリルグローブ。この世界には接近戦用の格闘武器が存在しているが、世界広しと言えど、ドリル
を装備する機体はこれ位である。他には――。

カジ「ドリルスラストォ!ブロォォォォォォォ!」

 両腕の肘から先が外れ勢い良く吹っ飛び、ドリルを付けたまま腕が肘との接続部分から火を噴いて
飛んでいく。当たった敵は受け止めようとするが、ドリルの回転を抑えられる筈も無く、そのまま
貫通していく。飛んでいった腕は自動的にL.Eに戻ろうと飛び回る。

 両腕が無くなった事で戦闘力が激減したと思われたか、飛ばした腕が戻る前にまだ敵機が寄る。
だが、この機体の腕にはまだ武器が残っていた。

カジ「甘ぁい!パイルゥ!バンッカァァァァァァァァァァァ!」

 足に付いているキャタピラで近付く敵機に向かって自ら一気に接近し、切り離されて残った腕の
中にあるパイルバンカーを起動させて、装甲など無かったかの様に敵機を貫く。

カジ「町を襲う奴らになんか、容赦しねぇぞ!」

 戻ってきた腕を装着して、壊れた敵機の山の中で吠えるカジを、深蒼のディフォルアームズは
何もせずただじっと見ているだけだった。

(やはり量産型···脆い。AIも知能が低い。もっとデータが必要だな)

 深蒼のディフォルアームズの登場者は、カジが戦う姿を解析しているらしく、自分は何もせず
情報収集に集中していた。戦場で足を止めて立ちすくむ事は普通であるなら死と等しい行為だが、
それでもしているという事は高を括っているのか、余裕の表れか···。

カジ「あぁもう!どんだけ出て来るんだよ!」

 何処から湧いてくるのか、壊れた矢継ぎ早にまた現れる敵機に飽き飽きしてきたカジの事など
気にする事も無く、襲い掛かる灰色のディフォルアームズ達。それでも構わず戦い続けるカジ。
いや、戦わなければ町が襲われるのだから、町を守る為には戦い続けなければならない。せめて
町の人達が逃げる時間は稼がなくてはならない。彼にはそれが分かっていたから、たった一機でも
戦い続けているのだ。

(ふふふ···あの機体、思った以上に強い。良いデータが採れる···)

 そんな考えを持って戦うカジも、深蒼のディフォルアームズの登場者にとってはただの実験体
にしか写っていない様だった···。

カジ「くぅ!先にあの青い奴潰した方が!」

 あまりにも減る気配を見せない敵機に焦りを抱き、司令塔を叩いた方が良いと判断したカジは、
深蒼のディフォルアームズに突撃する。幸いにも相手は近接装備が無く、迫撃砲なんて使えば自機
共々巻き込んで使えないと踏んでいた。

『無駄だ』

カジ「なっうわっ!」

 突然聞こえてきた女の声に、一瞬意識を逸らしてしまったカジ。そんな彼に向けられたのは、
深蒼のディフォルアームズが装備していた二門の大型迫撃砲だった。迫撃砲とは本来砲口を上に
向ける物だが、深蒼のディフォルアームズは肩の上へと迫り出し、水平に向けている。俗に言う
零距離射撃をしているのだ。

『ここで死にたく無ければ戦い続ける事だ。それとも、町を狙った方が良いか』

 深蒼のディフォルアームズは、迫撃砲を一門上へと角度を変える。そのまま撃てば放物線の軌道
を描き、見事にウェングへ落ちる事になる。それが分かったカジは一切の身動きが取れなくなって
しまった。どれだけ戦っても町を直接狙えてしまうのならここで戦っている意味が無い。

カジ「何で···何で町を狙うんだ!」

『そこに我々が求める物があるからだ』

カジ「町一つ壊さなきゃいけない物なのかよ!」

『そうで無くとも町は潰す。もう一度機甲大戦を起こす為に』

 淡々と理不尽な受け答えをする相手に、何も出来ない自分にカジは怒りを募らせる···。

カジ「何でだよ···戦争なんて、何で···!」

『それを言うつもりは無い。さぁ、町を狙われたくなくば戦い続けろ』

 襲い来る灰色のディフォルアームズ達を相手取るしか無いカジは、激しい怒りを敵機にぶつける。
それが意味の無い行為だったとしても。カジの虚しい叫びと、深蒼のディフォルアームズの搭乗者
の微笑みが戦場に響く···。

 それを切り裂くかの如く、幾数もの輝くマゼンタに近い、蛍光色の光の筋が遥か上空から雨の
様に戦場へと降り注ぐ。

『何···!?』

 澄み渡る青空に黒き影が舞い降りる。得体の知れない漆黒のディフォルアームズが、そこに鎮座
していた。背中のブースターからはシアン色の火を翼を思わせる形に吹き荒らし、そのイエローの
眼光で戦場を睨んでいる。その手には身体と同じ漆黒の、両刃剣に銃のトリガーの柄が付いた所謂
銃剣ならぬ剣銃が二挺握られていた。

『何処の誰かは知らないが···邪魔をするなら撃ち落とす』

 深蒼のディフォルアームズが背の迫撃砲を容赦無く使用するが、当たる事は無かった。何故なら
気付いた時には漆黒のディフォルアームズは姿を消していたからであった。目の前の異常な光景に
驚くと同時に興味を引かれる搭乗者。だが意識をそちらに向けた事が彼女を追い詰める結果となる。

カジ「ぶっ壊ぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!」

 L.Eの拳が深蒼のディフォルアームズに向かって文字通り飛んでいく。それには回避こそ出来たが
その後突撃してきたL.Eを避ける事は出来ず、そのまま押し倒される。倒された状態では迫撃砲を
扱えないとカジは予想しての行動だった。

『ちっ』

 カジは深蒼のディフォルアームズから異様な熱源を感知すると、すぐにそこから離れた。
起き上がる相手の掌からは黄色い球状エネルギーが現れていた。それをL.Eに向けて何発も撃って
自らはL.Eから距離を離す。

『そちらがそのつもりなら、町は破壊させて貰う』

カジ「!」

 カジが止めようとした時には迫撃砲は既に発射角が調整されており、距離から見てももう発射を
止められなかった。そして無慈悲に二門の迫撃砲から放たれる砲弾を、何とか破壊してやると腕を
飛ばそうとするL.Eの動きを相手は掌からの攻撃で妨害する。このままでは町が、と危惧するカジの
目に映ったのは、突然爆発する砲弾、その爆煙の中から再び現れる漆黒のディフォルアームズだった。

『くっ、奴は何者だ···!?』

カジ「俺を助けてくれるのか···?」

 深蒼の機体の搭乗者はこのままでは迫撃砲を撃つだけ無駄だと判断し、灰色の量産型達と共に
一時撤退する。町に攻撃しようとした相手を追い詰める為に追撃を行うカジの後ろで、漆黒の機体は
何も語らず、黙ってその場に浮き続けている。まるで最初からそこに居たかの如く、当然の様に
そこで動きを止めていた。

カジ「逃がさねぇぞ!」

『それはこちらの台詞だ』

カジ「···!?」

 カジが追い掛けた先には、ディフォルアームズ並のサイズを誇る深蒼の戦車がそびえ立っていた。
幾つもの砲塔を兼ね備えており、動き出せば町一つどころの騒ぎでは無いのはカジにも一目で理解
出来た。今の内に止めなくては被害は広がるばかりだ、と止める決意をするカジ。一歩踏み出した
彼を出迎えたのは···。

カジ「うわっ!?何だあれ···」

 カジが驚いたのは、多数の灰色の量産型達が変型し始めたからだ。腰から上を百八十度回転させ、
後ろに倒れる様に膝を曲げ、地面にぶつかる前に腕を伸ばして手を突いて身体を支える。背にある
巨大砲塔の横に付いていた脚の様な部位が肩の上に飛び出して、地面に突き刺さる。まるで色も
相まって蟻の様に見えるそれは、巨大砲塔を腰までスライドさせ、前に傾けていき、股の間に接続
されて、最後にその砲塔を伸ばした。男のロマンなど一片もない、気味の悪い変型方法である。
カジが引くのも無理はない。

『ここをお前の、町の人間の墓場にしよう』

 その一言と共に、深蒼の機体を操る搭乗者は、自らの機体と同色の戦車と一体化、辺り周辺を
砲撃し始めた。同時に、変型した量産型達の巨大砲塔がエネルギーを充填、カジへ向けて次々に
発射していく。極太のレーザーが幾つも撃たれるこの状況では、カジも避けるのが精一杯だった。
少しでも掠めれば死ぬのは誰が見ても一目瞭然だ。腕を飛ばして攻撃してもすぐさまに腕が消し
飛ばされるだけだ。

カジ「さっきの黒いのは···!」

 カジは何とか背後を確認するが、黒い機体は影も形も無かった。飽く迄町を守るだけなのだと、
現実は甘くない事を理解する。

カジ(どうすれば止められるんだ···!このままじゃやられる···!)

 極太のレーザーはエネルギーの充填に時間が掛かる分連発出来ないのだが、それを数を以て補う
事で絶え間無く連発している。今のままでは反撃出来ない所か深蒼のディフォルアームズに傷一つ
付けられない事に、カジは脂汗を流す。そこに――。

カイ『そこまでだ。ファティス』

ファティス『···何の用だ、カイ』

 現れたのは真っ赤な機体、カイのマーキュリーだ。ファティスと呼ばれた深蒼の機体の搭乗者は
彼に呼び止められた事に、不満を寄せる。

カイ『もう目的は達した。これ以上の砲撃は無駄にしかならない。帰還しろ』

ファティス『···了解』

 渋々カイの命令に従ったファティスは灰色の量産型の攻撃を停止させて、何と戦車にも関わらず
マーキュリー、量産型と共に空へと上昇し、雲の向こうへと消えていった。

カジ「···今追ったら絶対負ける···。···ま、町!帰ったって事は···!」

 もしもの事態を考え、急いでウェングへと戻ったカジ。彼が見た、町の景色は···。

 無かった。町どころか、土地が。ウェングの町よりも大きな穴が、あるだけになっていた――。

 カジはそれからある場所を目指していた。かつて機甲大戦を終わらせた英雄が居るという場所へ。
一人では町を襲った奴等を止められないから、事情を話せばきっと迎え入れてくれると。涙を堪えて
向かっていた···。

 その頃、オッサンは――。

 光差す事の無い暗く狭い洞窟を一人歩くオッサン。懐中電灯を持って一歩ずつ歩いている。滴る水の
音に、自身の靴の音、蝙蝠か何かの鳴き声が響き、不気味さを引き立てる。

 オッサンは洞窟の奥を目指していた。奥にある物の為に。奥には道中と比べると大きな空間が
存在しており、そこには長く大きい鎖が幾つも落ちていた。それを見たオッサンの表情が、見る間に
青ざめていく。

オッサン(そんな···何処に!?独りでに動いたとでも···!?)カタッ

    「!···誰だ」

 音のなる方に懐中電灯を向けると、そこには···。

オッサン「···女の子?どうしてここに···うおっと!」

 彼が歩み寄ろうとした時、外から衝撃が伝わる。まさか敵かと思ったオッサンは、眠る謎の少女を
お姫様抱っこで持ち上げて急いで外へと駆け出した。しかしそこに居たのは何と、

カジ「ゲホッゲホッ···ここ、何処?」

オッサン「···誰?」

 洞窟に誤ってぶつかったカジだった。

―アルダ基地―

カジ「あ、えっと、どうも···」

少女「アー···ウー···」

ヴァン「···」

アルシア「···今度はどちら様ですか?」

オッサン「俺が聞きたいんだけども」

フィーナ(増えちゃった···)

ルーニ「スゲー!ドリルスゲー!」

フィーナ「あっこらチビ勝手に触らない」

レッソ「あのディフォルアームズに乗っていたのは···」

カジ「あ、俺、カジっす」

オッサン「ここを探してた所を俺が見つけたんだよ。なぁ?」

カジ「は、はぁ」

オッサン「···英雄さんが目の前に居るからってそこまで緊張しなくても」

ヴァン「師匠、それよりこの少女は」

カジ(師匠!?今英雄が、え、この人師匠って!?)

オッサン「何か偶然見つけた」

アルシア「この子もですか」

オッサン「そうなんだよなぁ」

フィーナ「ねぇ、名前、何て言うの?」

少女「ウー···」

オッサン「う~ん、ロン毛娘だったとしても駄目か···」

レッソ「話せないのだろうか?」

オッサン「さぁ···唸るだけだから、話せないのか話さないのかも分からないんだよ」

ヴァン「どうして連れて来たんです」

アルシア「ちょっとヴァン」

オッサン「あれ、何か怒ってる···?」

ヴァン「いえ、別に」

オッサン(怒ってる時の顔なんだけど···)

オッサン「普通子供が何も無い場所で一人で居たら助けるだろ~?」

ヴァン「助けますが···」

オッサン「ま、後は喋らないからっていうのもあるなぁ」

少女「アー···」

ルーニ「こいつ、アーとウーしか言わないのか?」

フィーナ「こいつ言わない!」ゴツン

ルーニ「いづっ」

アルシア「どうして話せないんでしょうか」

レッソ「考えられるのは、元々そうなのか、何らかのショックによる物なのか···か」

オッサン「まぁ専門家じゃないんだから、考えたって答えは出ない」

ヴァン「この子をどうする気です、師匠」

オッサン「え、どうしよう」

アルシア「···考えて無かったんですか、貴方は」

オッサン「取り敢えず連れ帰ってきた、って感じだしなぁ。どうするか···」

ルーニ「おい、何か言えよ!」

少女「ウゴー…アゴー…」

ルーニ「あご?」

オッサン「お、俺が話し掛けた時にはスルーさえしたのに…!」

ルーニ「ざまぁみろ!」

ヴァン「師匠、あの子供を」

オッサン「止めろ止めろ落ち着け俺平気だから」

少女「ハハナ…ダユ?」

レッソ「…何語なんだ」

アルシア「聞いた事が無いですね…」

カジ「あ、これもしかして、古代語…?」

オッサン「こ、古代語…?そんなのが…何言ってるか分かるか?」

カジ「ちょっとは」

アルシア「どうしてそんな言葉を」

カジ「えっと…習ったから…としか」

オッサン「細かい事は良いんだ。翻訳たのまれて」

やっちゃった…

オッサン「翻訳頼まれてくれるか、あ~、カジ?」

カジ「はいっす。…タゲム、カダ?」

少女「…マクタナ…“ディフォル”」

オッサン「!」

ヴァン「ディフォル…!?」

カジ「えっと、名前はディフォルって言ってるっす」

フィーナ「ディフォルアームズのディフォル?」

レッソ「そうではないかな」

オッサン「…」

ヴァン「む…」

アルシア「…ヴァン?」

ヴァン「…何でも無いですよ」

少女「ディフォルゴ···メイア」

カジ「ディフォルの···メイア?」

アルシア「メイア、と呼べば良いのでしょうか」

フィーナ「メイアちゃん、宜しくね」

メイア「?ハビ?」

カジ「あ、と、ナグキソ、タゲム···スダナド···」

メイア「!スダナド!」

フィーナ「何て?」

カジ「よろしく、って」

フィーナ「良かったぁ···悪い事言われてたらどうしようかって」

レッソ「しかし、古代語しか話せないとなると···」

オッサン「カジに頼るしか無いのが···」

カジ「いや良いっすよ」

オッサン「いやだって緊張してさっきからずっと口調変わってるし···」

カジ「落ち着くまで待ってほしいっす」

カジ「すぅ~···はぁ~···おっし、大丈夫!」

オッサン「彼の調子が戻った所で···色々話をしなきゃな」

フィーナ「このメイアって子が何者なのか···だよね」

ヴァン「世界中で起ころうとしている紛争を止める事も、だ」

アルシア「ファイオンについても調べた方が良いですね」

レッソ「奴等の目論見を止める為にも、世界中を飛び回る必要があるかも知れない」

カジ「奴等、って···」

オッサン「あぁ、真っ赤な機体に乗った奴の組織だよ」

カジ「真っ赤な···ウェングを、俺の町を襲った、あいつら?」

オッサン「襲った!?ま、町はどうなった!」

カジ「何か、町よりデカイ穴が空いてて···沈んだんじゃないかって···」

ヴァン「町より大きな穴を空ける···あまりにふざけた、非道な行為だ···奴等め···!」

オッサン「事態は思ったよりかなり早く深刻化してるな···何とかしないとな」

ヴァン「何の為に町を沈める必要がある?そこまでして何を…!」

カジ「世界中で戦争を起こす為に、って…」

レッソ「…何という」

オッサン「…本当にそれだけか?」

カジ「え」

オッサン「町一つ沈める程の大きさって、よっぽど大きな砲弾でも使わないと無理だろ?」

ヴァン「実際、使ったのでは」

オッサン「じゃあカジ、爆音聞いたか?」

カジ「町からはそこまで離れて無いし…砲弾撃ってくる奴と戦ってたから爆音だらけで」

オッサン「そんな状況でも町が沈む程なら地震だって起こる筈なんだよ」

レッソ「…君は、町の下から何か大きな物が急に消えたから、沈んだと言いたいのか」

オッサン「有り得なくは、無い」

フィーナ「じゃあオッサン、町の下に巨大ロボットでも居たとか?」

ルーニ「いたのか!?」

アルシア「そんな非現実的な…」

オッサン「可能性はある。奴等の狙いは戦争と、そのデカブツってな」

レッソ「不自然な大穴がもし数を増やしているのなら…否定出来ない話になるな」

ヴァン「もしそんな奴が本当にいるのなら、戦争どころの話では…!」

オッサン「どっちにしても、止める事には変わりない」

ヴァン「…ですね」

オッサン「まぁ今は、このロマン少年が乗ってきた機体を修理しないとな」

カジ「…俺?ロマン少年」

オッサン「そりゃあドリル付けてるもの」

カジ「…役に立たないとか言って外したりなんか」

オッサン「絶対しない!不便な所があってこそのロマン兵装だからな!」

カジ「わ、分かってくれる人が…師匠!」

オッサン「まさかの師匠呼び二人目」

アルシア「…あの二人は一旦置きましょう」

レッソ「長くなりそうだからな…」

アルシア「…!緊急入電です!」

ヴァン「何処から?」

アルシア「…ジェスタ王国」

レッソ「何?まさか…」

アルシア「トールード連邦に宣戦布告を、しました」

オッサン「マジかよ…!」

ヴァン「師匠!」

オッサン「分かってる!アーシャ!東側へ連絡!西側は俺らが止めるってな!」

アルシア「はい!」

オッサン「カジ!早速だが、手伝ってくれるか?」

カジ「当然!戦争なんて…止めてやる!」

レッソ「東側が聞くとは──」

オッサン「それでも、しないよりましだろ?」

レッソ「…そうだな」

フィーナ「また、戦争…」

オッサン「あぁ、今度のは世界大戦規模だ」

ヴァン「早過ぎると思いませんか」

レッソ「奴等が各地で活躍していたのだろう」

オッサン「ゲーム、ね。クソゲーだ、こんなの」

カジ「戦争を起こす奴らなんかぶっ飛ばしてやる!」

オッサン「全く同意見だぜ。…さぁて、行くぞ」

<MISSION 4>
戦う者共の思惑

 ジェスタ王国と言えば、と聞かれて大概の人は騎士団の名を上げるだろう。実際、歴史の勉強を
すれば嫌でも見る事になる。当然、機甲大戦で活躍したから、それ以外の理由など、正直無い。

 ジェスタ王国は機甲大戦当時、東のトールード連邦と並んで世界有数の国土と人口、資源と技術を
持っていた。それらは戦争をする事で他国の土地を奪った故だ。それが後に戦争の発端となったが、
今回は平和条約を破って攻撃をしたからと、宣戦布告をトールード連邦に向けて発したのだった。
オッサンは、それを言うなら自国の騎士団のディフォルアームズをさっさと廃棄しろ、と文句を
付けている。

レッソ「ジェスタ王国···こんな形で、再び合間見える事になるとは···」

 機甲大戦当時の事を思い出すレッソ。彼は、此度の宣戦布告に強い不安を抱いていた。機甲大戦
の苛烈さを知っている者からすれば、不安を感じない者など居ないだろう。それは、英雄と呼ばれた
ヴァンもオッサンも同じだった。

ヴァン「当時も戦っていたのか」

レッソ「自国を守る為にね。お陰で君達を戦場で見た事は無いが」

 今ではそれは非常に幸いだったとレッソは語る。話だけで無く、実際に目の前でその実力を見た
彼にとって、二人は畏怖をも感じる存在であった。十年前の機甲大戦当時、彼は齢十八であったが、
彼等はオッサンが十三、ヴァンが十の時に機体を繰り出していた事を考えればそれも当然の思いだ。

カジ「ジェスタ王国って、どんな国···なんすか」

 再び緊張に襲われるカジを、オッサンが落ち着かせる。戦場では、状況を掴めず焦って動いた
者から殺られる。出る杭は打たれる、と言うべきか、兎に角戦況を把握出来ない者は致命的である
と言える。

ヴァン「敬語を話そうとしなくて良い。それより、死にたくなければ早く調子を戻せ」

カジ「は、はいっす···じゃなくて、おう!」

 カジの年齢は十七なので別にヴァンとそこまで年が離れている訳でも無いが、英雄相手にタメ口
はどうなのかと思ってつい口調が変わる。ヴァンはあまり敬語を使われるのは嫌らしく、カジにも
少し不快な様子を示していた。

ヴァン「あそこは···一言で言えば、王がろくでなし、だ」

オッサン「考えがどの代も似通ってるんだよなぁ。世界の中心はジェスタ王国であるべきだってな」

 ジェスタ王国について、辿り着くまで語る二人。それは全て真実だった。オッサンに関しては、
長らく軍を離れていたので過去の話しか出来ないのだが、ヴァン曰く王国は昔と変わっていないと
言う事だったので、オッサンも話している。

カジ「詳しい···んだな」

ヴァン「当然だ。アルダ基地は各地にスパイ及び協力者が居るからな」

 ヴァンの言う通り、内部情報をリークしてくれる相手が居るお陰で、アルダ基地は何処よりも
世界情勢を把握してしまっている。それもこれも、機甲大戦で敢えて中立軍として戦った英雄の力
に寄る所が大きい。それだけ世界の混乱を抑える存在として信頼されているのだろう。

アルシア『皆さん、話し合いはそこまでです。…王国騎士団です』

 オッサン達の前に、何十機ものディフォルアームズが立ち並んでいる。

オッサン「おいでなすったな…いや、来たのは俺達か」

 こんな時までボケないで下さいとアルシアに叱られるオッサン。変わらず平常運転の彼を、カジはスゴい人だと素直に感心していた。

アルシア『…向こうから通信です』

オッサン「繋いでくれ」

 それを了解したアルシアが、オッサン達全員に通信を繋ぐ。

『…前大戦の英雄達が何の用だ』

 通信先から聞こえてきたのは、まるで恨み辛みが籠もっているかの様な低い声だった。

オッサン「言わなくても分かるだろ~?」

『邪魔立てするなら容赦はせん!』

 その怒号と共に、騎士団が一斉に襲い掛かる。

『ラディウス・レイ!積年の恨み、果たさせて貰う!』

オッサン「…俺?」

 騎士団の団長機から聞こえる、聞いた事も無い声から恨まれている事に驚くオッサン。ホワイト・アウトと比べてあまりラディウス・レイは知られていないので、実を言うと恨まれにくいのだが。

ヒュース『我が名はヒュース!貴様にやられた同士達の意志を受け継ぐ者だ!』

オッサン「あぁ、そりゃあどうも」

ヒュース『舐めくさりよって…!』

 まるで友達に挨拶するかの様に軽い反応を示すオッサンに、怒りを露わにするヒュース。

オッサン「戦場ではやられた方が悪い。恨むなら自分の実力を恨めよ。第一、俺誰も──」

ヒュース「そうだ!貴様は誰一人殺していなかった!興味も無いと言わんばかりに!」

 オッサンは基本的に相手を戦闘不能にするだけで、機体を撃墜する事はまず無い。理由は単純に撃墜する理由がないから、そして戦いたいなら何度でも相手になる、と言うのが彼の考えだからだ。

オッサン「死んでないなら別に──」

ヒュース『負けたと言うのに戦場で死ねず、のこのこ恥を晒して国へ帰る者の事など貴様には分かるまい!』

オッサン「悪い、全然分からん。生き恥より恥ずかしい事知ってるんでね~」

 お互い話し合った所で平行線にしか進みそうに無いと感じたオッサンは、武器を構えた。

ヴァン「師匠!周りは僕等に任せて下さ──」

カジ「ぶっ飛ばせ、スラストブロー!」

ヒュース『のがっ!』

 空気を読まず、カジのL.Eの腕がヒュースの機体に激突する。カジからすれば、彼等の恨み辛みなど関係無い上、早く戦いを止める為にはそんな事を気にしている場合では無い。

ヒュース『おのれ…!』

 顔が赤くなりそうな程怒るヒュースを周囲が宥める。今奴等を本気で相手取れば後に響くと。

ヒュース『どちらにせよ何れ戦うのだ!ならば今倒す!』

 完全に標的をアルダ基地の面々に定めた騎士団。オッサンは面倒だなぁと文句を言っていた。

アルシア『大体貴方の所為ですよ』

 アルシアにお小言を食らったのは言うまでも無い。

オッサン「そのまま東側との戦争を止めてくれると助かるんだけどなぁ!」

ヒュース『自国をコケにされて怒らぬ者など自国民では無い!』

 ヒュースの機体とラディウス・レイは銃も持たず取っ組み合いをしだす。オッサンは相手に合わせた
だけ、ヒュースはまさに殴りたい程怒りが爆発しているからだ。感情に左右されて騎士団長が務まる
のかと言えば、周りにフォローされる様な立場な為、微妙ではある。しかし、ディフォルアームズで
殴り合いが出来る程の腕前がある故に騎士団長に選ばれたのだ。

 ディフォルアームズの操縦は何度か言っている通り、複雑で難しい物である。柔軟な動きをさせる
為に関節毎の操縦悍が存在しており、これの所為でオッサンの言う通り一歩踏み出すのに一日掛かる
とまで言う理由だ。素人が動かせば一歩動かす間に機体を転ばせる事だろう。カジのL.Eも足に
キャタピラーを装着しているのは、満足に足を動かせないからである。
 今はブースターがある為かなり移動は楽になったが、腕は別だ。殴り合いまでしようと思えば、
それだけ早く複数の操縦悍を動かす必要がある。つまり、取っ組み合いをしている二人はそれだけ
操縦技術が高い事を証明しているのだ。幾ら英雄と呼ばれたヴァンでも殴り合いまでは出来ない。

ヒュース『はぁ!』

オッサン「ぬぐっ···結構効くぜ···だがっ!」

ヒュース『ぐ!』

 思い切り胴体を殴られて軽く頭が揺れた事で、気分が悪くなったオッサンはそれを隠す様にすかさず
突進をかましてヒュースを突き飛ばす。だがオッサンと比べるとダメージは軽い様子だ。

 ジェスタ王国が開発したディフォルアームズ、J.Oは汎用性が高く、様々な改造・強化を加えやすい
利点がある。騎士団にはそれぞれの登場者に合わせたカスタマイズがされており、特にヒュースの
騎士団長専用機体、J.O apendには最新鋭の技術が詰め込まれており、ジェスタ王国の技術と権威を
体現する機体となっている。

ヴァン「さぁ、師匠の邪魔はさせない」

 ヴァンのホワイト・アウトが敵陣を乱す為に高速機動を繰り返しつつ、ディスネイトガンで騎士団の
機体と機体の間を狙う。わざと避けさせ、敵機を単機に“浮かせる”事でそこを狙う考えだ。

レッソ「流石は英雄、狙い撃ちやすい」

カジ「今の内ぃ!」

 ヴァンの動きで浮いた相手に銃弾を撃ち込むレッソ。その影を縫ってカジが接近し、ドリルグローブで
で敵機の頭部を貫いていく。カジはオッサンと違って敵機の撃墜に躊躇いは無いが、今回は数が多い
為、撃墜しなければ残った敵機が弾除けになる、と考えて行動不能までに留めていた。だが、少々
それは甘い考えだった。

『この程度で止まる様な者は、騎士団に居ない!』

カジ「うっ!?」

 頭部を破壊されて視界が失われた筈なのに、敵機は動き出してカジのL.Eの頭部を手で覆い、視界を
隠す。その隙に敵機は腕からブレードを出し、L.Eのコックピット目掛けてブレードを突き出す。
が、その刃が届く事は無かった。

『がっ』

 敵機に強烈な衝撃音が鳴ったと同時に、相手は動きを止めた。どうやら気絶したらしい。安堵する
カジの元にヴァンから通信が入る。

ヴァン「···幾ら戦争が無かったとしても、こいつ等はプロ。油断は禁物だ」

 自分を危機から助け出したヴァンに注意されて少々落ち込むカジだったが、すぐに立ち直り反撃に出る。

『うおおぉぉ!』

ヴァン「甘い」

 ヴァンは敵機のコックピットにディスネイトガンを向けて引き金を引く。すると先程の強烈な
衝撃音が再び鳴る。そして敵機はまた動きを止める。結構な衝撃が伝わったのだろう、棒立ちから
ゆっくりと後ろへ倒れ込んだ。

 ディスネイトガンの見えない弾丸の正体は、“空気”である。銃内に大量の空気を取り込んで溜め、
それを非常に強く圧縮し弾丸として撃ち出している。確かに高い威力を誇るが空気砲な為、機体の
装甲に傷を付ける迄はいかないが、強烈な衝撃によってパイロットを気絶させられる。場合によっては
関節部分からもぐり取る様に頭部、腕や脚を吹き飛ばす事もあるが、基本は非殺傷で敵機体を無傷で
回収して技術やデータを奪う為に作られた銃器である。弱点は空気吸引の効率が悪い事で、ホワイト・アウトの
高速機動によって無理矢理効率性を上げて連射している。その為ホワイト・アウト以外では真価を
発揮出来ないのだ。実質ホワイト・アウト専用銃である。

ヴァン「何機でも来い。僕は負けない。負けられないんだ···!」

 ヴァンの胸の内に潜む憎悪にも似た闘志が黒く燃え上がる。その頭の中には――。

レッソ「負けない決意は良いが、幾ら性能差が大きくてもこのままではジリ貧だ。どうする?」

オッサン「俺達は止めに来ただけで、勝ちに来た訳じゃない!相手に大損害が出せれば撤退する!」

 未だヒュースと取っ組み合いを続けていて喋る方に集中力を向け難くなっているオッサンの言葉に
レッソは了解と冷静に答えた。カジとヴァンは、片や腕を飛ばしまくり、片や高速機動で相手を翻弄
したりと忙しく動き回り、聞いてはいても答える暇が無いのか返事は無かった。

アルシア『···!皆さん!何らかの機影が接近し――』

『楽しそうで何よりだ。そのパーティー、混ぜて貰おう』

 焦った声を上げるアルシアからの通信が突如切れたかと思えば、通信を割って入ってきた、オッサン達には
聞き覚えのある不敵な声が流れ出す。

オッサン「!この声···カイ!」

 上空に鮮血を思わせる真っ赤な機体、マーキュリーが浮いていた。騎士団には見覚えが無い様で、
アルダ基地からの増援と思い、遠慮無く攻撃する。が、彼等からすればホワイト・アウトを思い浮かばせる
程の高機動で一発たりとも掠りすらしなかった。

カイ『ふっ···派手な歓迎だ。では此方もプレゼントを献上するべきだな』

 カイは鼻で笑い、そう言うと大量の戦闘機型を呼び出した。その中には巨大な砲塔を持った人型も
紛れている。そして···。

ファティス『お返しだ』

 なんと上空から深蒼の大型戦車が文字通り降ってきたのだ。そして着地すると砲弾の雨を降らし始めた。
さらに戦闘機型と人型の量産型達の攻撃も加わり、騎士団の中には避けきれず撃墜されていく者が。

カジ「あいつ···町を···ウェングを狙った···!」

ファティス『ふふふ···あの時の機体か。良いデータを提供してくれて有難う。お陰でAIも強化出来た』

レッソ「AI···!?」

 聞こえてきた不穏な言葉に動揺を隠しきれないレッソ。それをファティスは可笑しく思ったか、笑い声を上げる。

ファティス『そう、AI!新たな戦争を産む、人工知能!この灰色の機体達には搭載されている!』

レッソ「感情を持たない兵士達を···!」

ヒュース『突然現れたと思えば、戯けた事を!』

 ファティスの新たな戦争という言葉に反応して、多くの人間が怒りの矛先をそちらへ向ける。

ファティス『ふふふ···だがまだAIは成長の余地がある。協力して貰おうか』

 不敵に微笑むと、大量の量産型達をけしかけるファティス。深蒼の大型戦車による砲撃の雨を
潜り抜けて、オッサン達と騎士団に迫り来る。

カジ「戦争は···お前の実験場じゃない!」

ファティス『来るか。だが私の機体ウラヌスと、このネプチューンに勝てるかな?』

 巨大戦車をネプチューン、それと一体化している機体をウラヌスと呼ぶと、ファティスは戦争を
AIの試験場にしか考えていない彼女に激怒するカジに向かって集中砲火を仕掛ける。それら砲弾を
レッソが援護で撃ち落とし、その間を通ってカジはネプチューンへと向かっていく。

カイ『ファティス。勢い余って俺の獲物を奪うなよ』

ファティス『それが嫌なら早く仕留めろ』

 からかう様に笑うカイに、真面目に返すファティス。そのやり取りを終えた途端に、獣の眼をした
カイが、ネプチューンの砲撃を回避しているヴァンに向かって高速で急降下していく。

カイ『まだ遊びは終わってないぞ、ふはははは!』

ヴァン「煩わしい声だ···失せろ!僕の前から!」

 恍惚染みた高笑いを上げるカイに心底鬱陶しそうな顔を向けるヴァン。再び高機動機同士の戦いが
始まった。

ヒュース『くぅ、何なのだ奴等は!』

オッサン「国なんか関係無い···全世界の···敵だ!」

 カイ達がやって来る迄取っ組み合いを続けていた二人も、ネプチューンの砲撃でそれどころでは
無くなっていた。そしてヒュースはオッサンの言葉に思う所が有ったか、騎士団にこう告げた。

ヒュース『誇り高き騎士達よ!我等が戦場を汚した不届き者に、粛清を!』

オッサン「!あんた、俺の事は良いのか」

ヒュース『今戦うべき敵を見誤る私ではない!』

 ラディウス・レイへの怒りを一度置いて、目標をカイ達に向けるヒュース。オッサンもつい驚く。
先程までむさ苦しい敵意を此方に向けていたにも関わらず、即座に現場を判断したその姿に、オッサンは
流石は騎士団長なだけはあると感心する。

ヒュース『口惜しいが、貴様等にも協力を仰ぐ···!悔しいが奴等は我等だけでは――!』

オッサン「当然手伝う!敵の敵は味方って言うだろ~?···行くぜ」

 恥も捨てて本当に悔しそうに頼むヒュースの覚悟に、オッサンは即答で協力を約束する。今、
先刻まで敵同士だった者達が、共通の敵を前に共に戦おうとしていた――。

!緊急変更!
<MISSION 5>
アルダ・ジェスタ共同戦線

 空も地も、灰色に染まり上がる戦場で大きなそんざいか

またやった…

 空も地も、灰色に染まり上がる戦場で、大きな存在感を誇る巨大戦車ネプチューン。そのボディには幾つもの砲塔が備え付けられている。

オッサン「まずは戦車の砲塔を潰してこの雨を止ませる!」

カジ「分かった師匠!飛んでけドリルゥゥゥ!」

 先に突撃していたカジが率先してネプチューンの砲塔目掛けてドリルを付けた腕を飛ばす。が、それは庇う様に動いた相手の量産型に防がれる。

レッソ「くっ、奴等の所為で射線が…」

 どれだけ撃ち込んでも命無き機兵が壁となって射撃しても攻撃が通らない事に焦るレッソ。向こうはそんな事お構い無しで撃ち込んでくる為、一向に進めない。

カイ『救援に行きたいか?なら俺を止める事だ』

ヴァン「言われなくてもな!」

 最も打開策を講じられるホワイト・アウトにはマーキュリーが行き先を塞いで動きを封じられている。

オッサン「結構キツいか…!」

 強力な兵器を前に思わずたじろぐオッサン。

オッサン「だが、状況を打破する為には···!」

 腰の後に装備してあるアサルトライフル二挺を握り、ネプチューンへとブースターを噴かせる
ラディウス・レイ。それに負けじと対抗意識を燃やしてヒュースも後を追う。

ファティス『ふふふ···何をしても無意味だ』

カジ「師匠!」

 カジに加え、オッサンとヒュースも標的に選び集中砲火を続けるファティス。三機を狙っている
内に騎士団が迫ろうとするが、やはり大量の量産型による壁に塞がれ進めない。

オッサン「舐めるなよ、この俺を!」

 立ち塞がる量産型をブースターの噴射でネプチューンに前進しながら、飛び回し蹴りで敵機をぶっ飛ばし、
回転中に両手のアサルトライフルを連射しながら敵機を次々と撃破していく。誰にも真似出来ない芸当に、
ファティスは関心を示していた。

ファティス(ふふふ···如何にして私を撃破するつもりなのか···)

 余裕の表れか、自身が今追い詰められようとしているにも関わらず、その事さえも実験を見ている
かの様な反応であった。

オッサン(奴のボディと地面の隙間···奴が砲撃出来ない唯一の場所!)

 オッサンは何とディフォルアームズがしゃがんでも入れない程の隙間を潜り抜けようと考えていた。
しかし、その目の前に人型の量産型が数機現れる。そしてあの虫の様な姿になる不気味な変型をして、
背負っていた巨大砲塔、メガブラスターカノンのチャージを始めた。

カジ「師匠!そいつ等は極太のビームを!」

オッサン「知ってるなら先に言ってくれっ···!」

 チャージが完了し、放たれた極太のビームがラディウス・レイに直撃する間近にオッサンはブースターで
急上昇してギリギリで回避する。しかし掠めかけた為に左足裏が少し溶けている。
 
 取り敢えず回避出来た事に安堵して、一瞬油断したオッサンに多数の戦闘機型の量産機に周囲を
囲まれる。だが機転を利かし、少々溶けた左足裏のブースターを噴かし温め、そのままその足で
戦闘機型の一機に蹴りを加え、その上に立った。上に立たれた戦闘機型がラディウス・レイを振り
落とそうとするが、離れる事は無かった。

ファティス『ほう···柔軟な発想だな』

 オッサンがした事は、溶けた足裏が冷え固まる前にブースターを噴いて融解させ続け、戦闘機型に
くっ付けた状態で冷え固まった事で、無理矢理接着したのだ。戦闘機型が動き回っても完全に掴まった
状態なので逆さになったとしてももう振り落とす事は出来なくなっていた。敵の攻撃さえも利用した
オッサンに、ファティスの興味が次第に注がれる。

 移動を戦闘機型に任せて敵機を撃ち落としていくオッサンに、一筋の光が差し向かう。マーキュリーが
放ったプラズマカノンが戦闘機型を破壊し、爆散させる。爆発の衝撃をモロに喰らったオッサンは
上空を墜ちていく。そこに止めを差さんとマーキュリーが、守り通さんとホワイト・アウトが
飛来する。

ヴァン「やらせはしない!」

カイ『フッ、避けるだけでは守れないぞ!』

 プラズマカノンを連発してくるカイの攻撃を避け、ラディウス・レイを掴んで逃げ回るヴァンを
援護する形で騎士団がマーキュリーに引き金を引き続ける。だが、並みならぬ機動力で一切命中しない。

ヒュース『そこの!ドリルを貸せ!』

カジ「えっあっ!ドリルがもぎ取られたぁぁ!」

 L.Eのドリルグローブを無理に奪い取ると、ヒュースはカジの叫びを無視して自機の腕に装着し、
敵機を殴り抉っていく。初めて使った武器であるにも関わらず使いこなしているのは流石の腕前である。

ヒュース『負けん!騎士団は負けん!何にも勝る強さがあるのだ!』

 オッサンの真似をして飛び回し蹴りを敵機に披露するヒュース。ただただオッサンに負けたくない
という一心で騎士団長になり、さらには技の真似までやってのける執念に、端から見ていたカジは
少々引いていた。

カジ「あっちが倒してくれたお陰で···!今なら!ぶっ飛べドリルぅ!」

 ヒュースが開けた量産型による壁の隙間に向かってドリルスラストブローを飛ばす。腕は隙間を
掻い潜り、ネプチューンの砲塔を幾つも破壊していく。しかし、ファティスは未だに余裕の笑みを
浮かべている。まだネプチューンの本体であるウラヌスが残っている事もあるのだろうが···。

ヴァン「師匠!無事ですか!」

オッサン「…多分」

 彼の痛そうな唸り声を聞いて、不安に駆られたが、すぐに何時も通りの調子に戻ったので少し安心したヴァン。

カイ『余所見をしている暇があるのか』

 マーキュリーのプラズマカノンがホワイト・アウトを掠める。幸いにもダメージは少なかったが。

オッサン「ヴァン、降ろしてくれ!」

 半ば自分から振り解く様にしてホワイト・アウトから離される。落下しながら爆発で飛んでもまだ握っていた両手のアサルトライフルで地上の人型を狙い撃つ。そして動きが止まった所を上空から踏み抜いて、着地の衝撃を軽減しつつ、撃破した。

オッサン「この距離なら···行ける!」

ファティス『···!?』

 ネプチューンまで全速力でブースターを噴かせて飛んでいくラディウス・レイを迎撃するファティス
だが、それは巧みに左右へブーストし、攻撃を回避していく彼には通用していなかった。そして
両手にアサルトライフルを携えたままネプチューンに急迫したかと思うと、そのまま体勢を深く
沈めて地面に片脚を伸ばし肘を付け、急速にブースターを噴き荒らし地面をスライディングの要領で
滑っていく。その勢いでネプチューンと地面の隙間に滑り込みながら、ネプチューンのボディの下面に
アサルトライフルの銃弾を次々に浴びせる。隙間を抜けた後は振り返りながら飛び上がり、砲塔を破壊する。

ファティス『···これは中々面白い結果だ』

オッサン「···参ったな」

 かなりの弾数を撃ち込んだにも関わらず、不自由無く動くネプチューンに慄くオッサン。それが
砲塔を失っていたのなら良かったが、何と破壊された砲塔が装備されていた場所から新たに別の
砲塔が現れたのだった。その大きなボディは伊達では無いと身を持って実感させられる。

カイ『ファティス、そろそろだ』

ファティス『何?…確かに、時間だな』

 カイはヴァンと戦いながらファティスに通信を入れる。ヴァンと戦いを余裕だと言わんばかりだ。

ヴァン(こいつ…本気を出していない…!)

 その様子はヴァンにも伝わっていたらしく、この前も最初に遭った時も遊ばれていたのだと、腹立たしい気持ちが湧き上がっていた。

ファティス『折角余興が始められると言うのに…』

カイ『次に取っておけ』

 通信を終えると、二人は量産型を引き連れてその場を去ろうとする。

ヒュース『逃げられると思うな!』

オッサン「ちょっとは痛い目見て貰うぜ!」

ファティス『!』

 ドリルグローブを装着した二機がネプチューンと合体しているウラヌスに向けて、息を合わせて殴り込む。まるでクロスカウンターの様にウラヌスが居る場所を抉る。が、──。

ヒュース『ぐぬっ…!?』

オッサン「何だこりゃ…バリア…?」

 二人の攻撃はウラヌスの頭部へ寸での所で、何らかの薄い膜によって阻まれていた。二人はその場を反撃されないよう急速に離れた。

『無駄だ』

オッサン「!」

ヒュース『新手だと!』

 カイともファティスとも違う、低く重苦しい、威圧感に満ちた声がコックピットを埋める。全員が声の聞こえる上空を見上げると──。

ヴァン「何だあれは…」

 ヴァンが思わずそう漏らす程、そこに居た物は誰が見ても異形の形をしていた。

レッソ「球状の、ディフォルアームズだと…」

 手も足も頭も無い、複雑な模様が描かれた球体だけが、不気味に中を浮いていた。

『愚かな人類よ。受け入れよ』

 球体から放たれる声の主は、球体を黒く光らせる。明らかに異様な雰囲気に、逃げ出す者も現れる。

『何処へ行く?』

 逃げ出した者の前に薄い膜が張られる。それどころかカイとファティスを避けて、オッサン達と騎士団を全員囲う様に張られていた。しかもそれは次第に狭まっている。

オッサン「こりゃあ挟まれたら終わりだな…」

 その声色には、若干の諦めが混じっていたが、それでもバリアに刃向かうオッサン。全員に一カ所を定点攻撃する様に伝えるが…。

『嘆かわしい…』

 どれだけ撃ち続けても、小さな穴一つ空く事は無く、徐々に機体同士が薄い膜に押されてぶつかっていく。

レッソ「ここで終わるとでも…」

 もう機体同士が重なって軋む音がそこら中で鳴り響きだし、誰もが死を覚悟した。

『――!』

オッサン「···何?」

 オッサンにだけ誰かの声が届く。彼は直ぐに球状のディフォルアームズよりも上を見た。そこには
黒い点が少しずつ大きくなり、両手に剣銃を握る人型になっていくのが見えていた。

オッサン「何で、一体誰が!誰があれを!誰が、“F.B”を···!」

ヴァン「師匠···!?」

 何故か取り乱すオッサンを、ヴァン達が心配するが、直ぐ様それどころでは無い事を思い出す。しかし、
足掻いた所でバリアが破れる事は無く、彼等の命はまさに潰されようとしている。だが、漆黒の機体は
彼等を救わんとしているのか一直線に球体の機体に向かっていく。

カイ『ボスには触れさせん』

 漆黒の機体に平然と立ち向かうマーキュリー。漆黒の機体はホワイト・アウト並に機動力が高いと
判断したカイは自らが露払いをと考え漆黒の機体の前に立ち塞がった。···だがそれは、文字通り一瞬で
間違いであった事を理解させる。

 漆黒の機体はマーキュリーのプラズマカノンを易々と回避しながら着実にマーキュリーへと近付く。
カイはプロだ、横を通り抜けようものなら一瞬で仕留められるだろう。だが、それを味わったのは···。

カイ『何っ!?ぐぉ···!』

 消えた。カイの目の前で、漆黒の機体は姿を消した。突然の事態にカイは事態を把握しようと考えた瞬間、
吹き飛ばされる程強い衝撃を背後に喰らい、事態を掴めないまま吹っ飛ばされていく。漆黒の機体は
マーキュリーを蹴り飛ばし、その勢いで球状のディフォルアームズ···を通り過ぎてバリアへ向かう。

バリアに剣銃を豆腐でも刺すかの様に容易く突き刺すと、バリアはまるでシャボン玉みたく弾けた。
自分達が助かった事に、騎士団の面々は安堵に満ちた声を上げる。が、直後にヒュースに怒鳴られる。
戦いは終わっていない、と。実際、マーキュリーとネプチューンは戦闘を止めただけ、球体の機体は
もう一度バリアを張れるかも知れないのだから。

F.B《――》

 バリアを割った漆黒の機体は、球状のディフォルアームズをその黄色いカメラアイでじっと睨んでいる。
まるで何か言葉でも発しているかの様に。物言いたげに、睨み付けている。そして片手の剣銃を構え、
今にも貫かんとしている。

カイ『こいつめ···!』

『良い。下がれ』

カイ『···はっ』

 重苦しい声の主は、漆黒の機体に歯向かおうとしているカイを抑え、ファティスと共に撤退させた。
自身は漆黒の機体と面を向かいながら。どこが正面かは分からないが。

オッサン「F.Bぃぃぃぃぃ!もう良い止まれ!止まってくれ!」

 オッサンは漆黒の機体に向かって必死に叫ぶ。誰にも彼の様子の理由など分からなかったが、
漆黒の機体に動かれると何か不味い事があるのだと、誰もが判断する。

F.B《···》

 だが漆黒の機体はオッサンの叫びも空しく、球体の機体に戦いを仕掛ける。

レッソ「撤退するなら今の内だ!」

 球体の機体との戦闘方法が分からない今、撤退するのは最善の策だったが、オッサンとヒュースは動こうとはしない。ヒュースは敵に背を向けるは恥だと、オッサンはF.Bが、とだだをこねる子供の様に喚いている。

ヴァン「師匠、嫌でも引き連れます!」

 ヴァンはホワイト・アウトでラディウス・レイを無理矢理引っ張り上げ、ヒュースは騎士団に引き摺られて撤退していく…。

─ジェスタ王国─

ヒュース「…顔を合わせるのは初めてだな」

オッサン「…」

ヴァン「…師匠」

レッソ「…まさか、受け入れられるとは」

ヒュース「あんな機体を見ては、過去の蟠りなど気にしている場合では無い」

レッソ(そう簡単には割り切れ無いだろうに…)

カジ「師匠、あの黒い奴、一体何なんだよ」

ヴァン「F.B、と言ってましたが…」

オッサン「…機甲大戦も、今回の事件もそうだ」

レッソ「…?」

オッサン「あれが始まりだった。そもそもこんな時代になったのも、全て…」

ヴァン「全ては、あの機体から…?」

オッサン「The First Body…それがあれに与えられた名称だ…」

レッソ「…どうしてそんな事を知っている」

オッサン「…それは」

カジ「それに、誰が乗ってたんだ、あれ」

ヒュース「少なくとも、人間が出来る動きでは無かったがな」

オッサン「…あれは誰も乗れない筈なのに…一体、何が起こってる…」

ヴァン「師匠」

オッサン「…何だ、英雄さんよ」

ヴァン「あのF.Bという機体について、知ってる事を全て話して下さい」

オッサン「…あれは──」

メイア「ハド!」

オッサン「…え」

メイア「ハソナ、イメソ!」

カジ「メ、メイア!?」

ヒュース「こいつ、何処から!」

レッソ「待ってくれ、この子は…」

ヴァン「アルダ基地に居た筈だ…!」

カジ「も、もしかして、瞬間移動…!?」

ヴァン「そんな馬鹿な…!」

オッサン「…そういう事なのか?メイア、お前が…あれを…」

メイア「ハド!」

ヒュース「…一体何を言っているのだ、こいつは」

ヴァン「カジ」

カジ「えっと…駄目、秘密…?」

レッソ「何を訴えかけているんだ、彼女は」

カジ「いや、そこまでは何も…」

オッサン「···これからどうする?」

ヒュース「どうするも何も――」

ヴァン「東側の事なら誤解だ。それは僕達を利用した···」

ヒュース「奴等の陰謀だとでも言うのか?はっ、信じられるか」

カジ「何でだよ!あいつら···!」

ヒュース「勘違いするな。我らが騎士団は、貴様達を信用した訳では無い。奴等の陰謀だと言う証拠は何処だ?」

レッソ「トールード連邦がしたという証拠も無い」

ヒュース「その通りだ。だがしかし、得体の知れない奴等の仕業だと考えるよりは現実的だろう?」

オッサン「全くだな」

ヴァン「師匠!?」

オッサン「だけどな、そんなのあいつらの思う壷だ。思惑通りなんだよ」

ヒュース「······」

オッサン「今戦争を起こしたら···漁夫の利を狙われるだけだ。あいつらに踊らされて悔しくないのか?」

カジ「そうだ!あいつら放っといたら、戦争より酷い事になる!」

ヴァン「実際、奴等は町や基地を殲滅している。最優先で排除すべき敵だ」

レッソ「私は戦争には正義があるべきだと思っている。奴等のただの破壊行為を正義と認める訳にはな」

ヒュース「···だとして、私に何を求める?東側と手を組めと?貴様達と組むより有り得ん事だ」

オッサン「そんな事は言わないさ。あんただって立場があるだろ?」

ヒュース「なら何を」

オッサン「···宣戦布告した以上、戦争は始まる。けど、戦う兵士が居なきゃさ」

ヒュース「我らに戦いを放棄しろと···!?」

レッソ「待ってくれ、彼らにそれをさせるのは···!」

オッサン「そうじゃない。ただ···俺達を信用して欲しいんだ」

ヒュース「信用だと···?」

オッサン「あぁ。···俺達が、東側を止めるって事を」

レッソ「···!」

カジ「えぇ!どうやって!?」

ヴァン「···成程、先に東側の兵士を倒す訳ですね」

オッサン「ディフォルアームズは当然人が居なきゃ動かせないからな~」

ヒュース「···そうすれば、後はその隙に我らが東側を占領する事になると思うが」

オッサン「それは···ちょっと、止めてくれると助かるかなぁ」

ヒュース「馬鹿げた計画だ。我ら騎士団が協力するとでも?」

オッサン「そこは立場をフル活用でお願いしたいんだけども」

ヴァン「師匠、幾ら何でも都合が良すぎると――」

ヒュース「良いだろう」

ヴァン「な、何?」

ヒュース「その代わり条件がある。王国周辺の被害は東側の仕業では無いという証拠を持ってくるのだ」

オッサン「それがあったらあんた達が東側と戦う理由も無くなる、って訳だ。OK、交渉成立って事で」

~~~~

ヴァン「···師匠」

オッサン「不安か~?」

ヴァン「当然です。西側も、僕からすれば敵です」

カジ「さっきまで戦ってた相手を信じられるかって言ったらさぁ···」

レッソ「···出来る事なら戦争をしたく無いのは、何処も同じなのだろう」

オッサン「あそこの王様は戦争したいんだろうけど」

ヴァン「そこですよ、僕が気にしているのは。騎士団は王の意向に沿うしかないんですから」

カジ「どうして戦争なんてしたがるんだよ···!」

オッサン「過去の栄光が忘れられないんじゃないの?···厄介極まりないけどな」

レッソ「だが、国民が王と同じ考えとは限らない」

オッサン「騎士団長さんも、国を愛してるだけで、王をどう思ってるかなんてのは···」

ヴァン「···それが協力を認可した理由だと?」

オッサン「さぁね~。でも、俺はそう思ってるよ···」

~~~~

団員「団長、本当に良いのですか?」

ヒュース「···過去の恨みを忘れた訳では無い」

団員「···では?」

ヒュース「そろそろ、王には目を覚まして貰わなければな」

団員「団長、まさか、王を···」

ヒュース「何が可笑しい?私は産まれ育ったこの国を愛している。傷付ける者は何人足りとも許せん」

団員「だからと言って彼らと協力するのは···!」

ヒュース「···英雄達は騎士団の誇りを汚したが、この国を汚した事は一切無い」

団員「それが認めている理由ですか」

ヒュース「···それに」

団員「それに?」

ヒュース「奴は···ラディウス・レイのパイロットは···約束を守る男だ」

団員「···?」

―アルダ基地―

フィーナ「オッサン!」

オッサン「どうしたよ」

フィーナ「メイアちゃんが、居なくなっ···!?」

メイア「···」スゥスゥ

フィーナ「え、何で···?」

オッサン「···さぁ、俺知らないよ?古代パワーでも使えるんじゃないの?」

フィーナ「瞬間移動したって事···!?嘘···」

オッサン「嘘って言われても···まぁ、メイア抱えてくれ」

フィーナ「う、うん···」

オッサン「···心配するなって。その子は大丈夫だからさ」

フィーナ「···メイアちゃん、本当に何者なのかな···」

オッサン「···さぁてね。どんな答えでも、確証は持てないのは分かってる事だけども」

アルシア「無事で何よりです」

オッサン「お、オペ子ちゃん、いや~死ぬかと思ったぜ」

アルシア「ヴァンに聞きました。···バリアを張る強力な敵機体に遭遇したとか」

オッサン「防御は最大の攻撃ってのを体現した機体だった。流石に死を覚悟したなぁ···」

フィーナ「オッサンがそう思う様なの、居るんだ···」

オッサン「俺だって無敵じゃないし。そいつはほぼ無敵染みてたけど」

アルシア「つくづく、奴等の技術力の高さを思い知る結果になった訳ですか···」

オッサン「···あいつらも、何者なんだか」

フィーナ「何で、戦ってるんだろ···」

アルシア「理由がどうであれ、危険なのは違いないわ」

オッサン「奴等の相手も大事だけど、今はトールード連邦をどうにかしないとな」

アルシア「会議室に集まる様に言っておきました」

オッサン「ナイスフォロー、アーシャ。助かる」

アルシア「それが仕事ですから」

フィーナ「む···」

―アルダ基地 会議室―

オッサン「今度の作戦は、トールード連邦への潜入、そして敵兵士の無力化だ」

アルシア「聞いてませんよそんなの」

ヴァン「師匠が急に思い付いた物ですから、諦めて下さい」

アルシア「···もう、慣れたわ」

オッサン「戦争を止める為、そして来るべき奴等との戦いに備えて、東側を抑えないとさ」

カジ「じゃないと、世界中が···!」

アルシア「分かってる···しかし、潜入なんて···」

レッソ「地下がある。それもディフォルアームズが入れる程の大きな」

ヴァン「機甲大戦時に造られた避難場所···だったか」

レッソ「そうだ。今はどの様な使われ方をしているのか、知る者は少ないだろう」

オッサン「まずはお掃除から、で良いのかな?」

レッソ「そういう事になる」

カジ「師匠、普通に入国するのは駄目なのかよ」

オッサン「軍の基地とか、入らせてくれって言って入れると思うかい?」

カジ「無理···絶対」

オッサン「だろ?それに、ヴァンは顔が知れてる、レッソさんは脱走兵扱いで狙われてる。二人は入国すら厳しい」

アルシア「英雄が出歩いているだけでその国の人は警戒しますからね」

ヴァン「脱走兵に至っては見つかった時点で処刑されかねない」

レッソ「······」

オッサン「そんな暗い顔しなくても大丈夫だって!あんたの上司を見付けたら、絶対助けるから!」

レッソ「···あぁ」

ヴァン「まだ不満があるのか」

レッソ「···私を捕らえる為の罠が張られている可能性もある」

オッサン「ほう、どんな?」

レッソ「···私の上司をわざと生かし、私を誘き寄せる罠だ」

オッサン「人質って訳だ···そんな事する奴が居るって?」

レッソ「あぁ···一人だけ、軍の中の過激派でも手を焼く程の過激な奴が」

カジ「何だよそいつ···絶対戦闘凶とかだ」

レッソ「そう、人が戦々恐々とする様を見て幸せだと言ってのけた、最も戦場を望む者···」

ヴァン「名は?」

レッソ「···ハヴァン。私の機体であるA.Zと同型機、A.Oを持つ男だ」

<MISSION 6>
一閃

 トールード連邦…この世界の東側の大国であり、西側のジェスタ王国とは機甲大戦が起こる前から関係は冷えており、何時かは必ず戦争が起きると予想されていた。

カジ「…ここがトールード連邦?」

オッサン「その首都ライアス、だよ」

 顔の知られていないカジとオッサンは、作戦を円滑に進める為に、国内の状況を探っていた。

カジ「…何か元気って言うか…覇気って言うか…欠けてる?」

オッサン「西側に宣戦布告されてる状況なんだから当然だろ~?」

 カジは、オッサンの言う事を聞いていても、違和感を拭いきれなかったが、すぐに原因は掴めた。

「どうなっちまうんだ、この国は…」

「戦争だよ、もう」

 何処からか悲壮感漂う話し声が聞こえてくる。二人は顔を見合わせて頷くと、その声に耳を澄ませる。

「レッソさんが居た時は…」

「止めとけよ、今の軍に聞かれたら酷い目に合うぜ」

「…何で脱走なんて」

「知らねえって…ヤバい秘密でも知ったとか?」

 会話から二人はレッソがとても有名で慕われていた人物だと分かった。オッサンはただの一兵士の様に勝手に思っていたので驚いていた。

カジ「…もしかして、結構国内ガタガタ?」

オッサン「みたいだな…。いぶし銀が居なくなった事と、宣戦布告がよっぽど効いてるらしい」

 建物の影に隠れながら、二人はひっそりと会話をする。途中で人が近くを通ったので怪しまれない様適当な雑談をして誤魔化す。

カジ「…にしても」

 上を仰いで建物を眺めるカジ。まず他で見る事が無い高さを誇る建物が、幾つも並んでいる光景に、驚嘆の声を上げている。

オッサン「まぁ、他国じゃあ類を見ない程のビル街だしなぁ」

 ジッと建物を見つめるカジに説明してやるオッサン。何でも建築技術に関してはトップだと言っていた。全面ガラス張りの建物はトールード連邦にしか無いらしい。

オッサン「…こういうのあれだけども…情報探索のついでに、観光でもするかい?」

 オッサンの誘いに、カジは無言で目を輝かせながら頷いた。

カジ「師匠、あれ、あれ!」

オッサン「ちょっと~、観光メインになってないか~」

 今自分がすべき事も忘れてはしゃぐカジを追いかけるオッサンは、観光なんて言った事を早々に後悔し始めていた。

 今彼等が居るのは何故かテーマパーク。これも確かにトールード連邦にしか無い物だが、決して二人は遊びに来た訳では無い。しかしカジは珍しい物を見て非常に喜んでいる模様。

オッサン「…俺がお金払うんだけどナ~」

 子供らしく元気に走り回るカジを遠い目で眺めているオッサンだった。そして同時に、戦争が無ければああやってはしゃぐのが普通だったろうに、と内心嘆いてもいた。

「………」

 その後ろで、オッサンを睨んでいる身嗜みの汚い男が、音と気配を消して近付いていた。

 その男がオッサンの背後に手が届く程近付き──。

オッサン「止めときなよ?」

 その声に驚き、動きを止めるその男。オッサンは振り返って顔を確認する。

オッサン(…随分とみすぼらしい格好だ…そうだ)

 男の濁った様な目を見つめて、一つ何かを思い付いたオッサン。男の手を掴んで抑えながら、カジを呼び戻した。

「は、離してくれ…!」

オッサン「離すよ、話をしてくれたら」

「は、話…?」

 オッサンの顔には、何か企んでいますとはっきり出ていた。

─路地裏の先─

カジ「っ…」

 カジは絶句していた。自らが住んでいたウェングの町では見なかった、先程の輝かしい遊園地と全く逆の、ウェングでは見なかった、まるで掃き溜めとしか表現出来ない程の光景が広がっていたのだ。

オッサン「…ま、これだけ発展した街ならこういうのも普通にあるよな」

 オッサンは髪も髭も伸ばした大人達と、その中に紛れる幼い子供の姿を見て、歯を食いしばりながらも何事も無いかの様に話す。

「昔から貧富の差はあったさ…だけどここまで深刻になったのはつい最近だよ」

カジ「一体、何が…」

「…レッソさん…あの人が居なくなってから、過激派が…」

 再び聞くレッソの名前。一人居なくなるだけでこうなると言う事は、それだけ上の地位だったのだろうとオッサンは予想する、がそれを聞いたりはしなかった。本人の口から聞きたい、と言うのがオッサンの考えだったからだ。

オッサン「で、盗みまでする様になった、と」

「…そうだよ。そうしなければ、皆死んじまう…あんたらには、盗みの言い訳にしか──」

カジ「そんな事無い!」

 カジの怒りが辺りに響く。周りの視線がカジに注がれる。気にする事無くカジは話を続ける。

カジ「悪いのはここまで追い込んだ奴等だ!皆は悪く──!」

オッサン「い~や、それは違う」

 カジの考えをバッサリと否定するオッサン。

オッサン「例え死ぬとしても犯罪は駄目だ」

カジ「何でだよ!」

オッサン「じゃあ聞くけど、それが原因でこういう人達が全員“処理”されたら?」

カジ「え…」

オッサン「生きる為の犯罪は、貧民排除の理由を与えるだけなんだよ…」

 オッサンの悲哀に満ちた声が、周囲を静かにさせた。

オッサン「…生きる為にした事が、かえって死に近付く…そんなの嫌だろ~?」

 前の口調とは反対にやけに明るい声になるオッサン。

カジ「だったら、どうすりゃ良いんだよ…」

「レッソさんが戻ってくれば…きっと、今のこの国を…」

 望みと諦めが混じった声で、男は呟く。救いを求めるも、もうどうにもならないと考えていた。

カジ「…師匠!」

オッサン「分かってる…けど、まだまだ調べたい事があるんだ」

 いきり立つカジの頭に手を乗せて、抑えるオッサン。その目線の先は──。

─地下施設─

 一方、ヴァンとレッソはディフォルアームズと共にライアスの地下施設に潜入して、待機していた。

ヴァン「…暗い」

レッソ「明かりはあるが、一応は使っていない事になっているからな」

 懐中電灯が無いと前さえ見えない地下に、二人の声が反響する。

ヴァン「とても声が響く…」

レッソ「広く、静かなのは昔からだ」

 オッサンからの合図を待ちながら、二人は会話を続けている。

ヴァン「敵は?」

レッソ「基地に近付けば居るだろうが」

 途切れる会話。ヴァンもレッソも真面目に軍人を全うしている為、静かになろうが苦にならない…が、少しでも時間を潰そうとしたか、ヴァンは話し掛ける。

ヴァン「あんたは、この国をどう思う」

レッソ「………」

 答えないレッソ。再び沈黙が訪れる。

レッソ「···私の上司は、軍事関係で発展する前の方が、確かに豊かでは無かったが好きだった、と」

ヴァン「あんたの話を聞いた筈だが」

 すかさず突っ込まれるが、無視して話を続けだす。ヴァンは、レッソはしたい話があるようだから
聞いてやろう、と内心偉そうに思っていた。そして同時に、胸の内に湧いた疑問を口に出した。

ヴァン「何故上司と言う。普通は上官では無いのか?」

レッソ「···軍人になる前から知り合いだった。その時からの癖だよ」

 暗さ故にヴァンには顔は見えていなかったが、レッソは昔を思い出して淡く微笑んでいた。

レッソ「昔は良かった···ディフォルアームズの無い時代は、とても平和だったよ···」

ヴァン「···ディフォルアームズが無ければ僕は存在していない」

レッソ「だが、平和には暮らしていた筈だろう」

ヴァン「···」(···分からなければ、一切伝わる筈も無い。当然だな···)

 思い違う言葉の意味に、ヴァンはただ嘆く。無知は罪だという意味が分かったと。

ヴァン「…で、その上司とやらは何者だ?」

 先程まで話を聞いてやると考えていたヴァンだが、今は話を早く終わらせようと考えていた。その表情には苛立ちが隠れている。

レッソ「…それは──」

 答えようとした時、二人に通信が入る。やはり通信の音もやたらと響いている。

オッサン『こっちは所定の位置についた、準備完了だ。作戦開始』

 二人は了解と答えると、ディフォルアームズに乗り込み、レッソが先導してヴァンを案内する形で、真っ暗闇の中を歩いていく。

 機体が歩行する音も軋む音も、妙に響く。

ヴァン『…止まれ!』

レッソ「!」

 お互い脚を止める二人。だが足音はまだ響いている。

ヴァン『一体誰だ…間違いなく音は此方に近付いているぞ』

レッソ「……ただの見回りならば対処は」

 こうは言っていたが、レッソは確信していた。奴がきたのだ、と。

 音が鳴り止んだ時、暗闇の中からA.Zの足下に何かが放り投げられた。

『忘れ物だぁ…拾えよ』

レッソ「…ニディール・ハヴァン」

ハヴァン『感激だぁ、俺の名前を覚えて下さってたなんて』

 誰が聞いても狂気をはらんでいると感じるその声は、レッソが危険な相手だと伝えていたハヴァンだった。ヴァンはどう動くべきか考えてを巡らせている。

 レッソは足下に落ちている、15メートルはある鞘に収められた刀を拾った。

ハヴァン『予め言っておいてやる。てめぇの大事な大事なお相手はぁ、まだ生きてるぜぇ?』

レッソ「…!」

 鞘を握り締め、柄に手を掛け、今すぐにも戦おうとしているレッソに、ハヴァンが笑いながら告げる。

ハヴァン『てめぇが俺に負けりゃあ、一緒に死ねるぜぇ?』

レッソ「悪いが死ぬ気は一切無い」

ハヴァン『そりゃあ良い!殺りがいがあるってもんだ!』

 下品にも思える程高笑いをすると、自身も持ち合わせていた刀を抜く。機体頭部のセンサーの光が、刀に反射して光らせる。

レッソ「………先に行ってくれ」

ヴァン『そのつもりだ』

 同じく刀を抜いたレッソは、ヴァンを先に行かせ、ハヴァンと対面する。同型機同士が、静かに面と向かい合っていた。

ハヴァン『まさか暗くて戦えないなんて言わねぇよなぁ?』

レッソ「お前こそどうなんだ」

ハヴァン『ほざけぇ!』

 刀と刀がぶつかり合って甲高い音を立てる。キリキリと刃が擦れる不快にも感じる金属音が空間を
支配する。

ハヴァン『てめぇは前から殺してぇと思ってたんだよぉ!こうなってラッキーだぁ!』

レッソ「すぐに不幸だと思い知らせてやるさ」

 レッソが刀を真っ直ぐ降り下ろすも、ハヴァンはひらりと避ける。そこに踏み込んで横一文字に切りつけるが、
既の所でハヴァンのA.Oに刀を片手で掴まれ防がれる。

ハヴァン『本気でやってんのかぁ?』

 A.Oの刀が真っ直ぐレッソのA.Zのコックピットに目掛けて突かれる。だがレッソもそれをA.Oの刀を
握る事で防いだ。一旦お互いの動きが止まる。しかし、少しずつではあるが、A.Oの刀はA.Zの手を滑り
次第にA.Zのコックピットへと近付いていく。

ハヴァン『もう終わりなんて言わねぇよなぁ』

レッソ「あぁ。···作戦は始まっている」

 ハヴァンがあ?と訝しそうに声を上げた時、地下施設の天井が破壊される。何が起こったか判断しようと
した隙を狙ってレッソはA.Oの刀から手を離し、当たらない様に機体を横に滑らせ、そのままA.Oに突撃、
掴んでいる手ごと抜き胴で突き抜ける。が、弾かれる形で飛ばされる。

レッソ「正々堂々と遊んでいる暇は無い」

 ブースターを使い飛び上がって天井を抜けるA.Z。ハヴァンも後を追う。ただ自分の欲を満たす為に。

ヴァン『邪魔だ』

 そこにホワイト・アウトが高速で飛翔し、腕に内蔵されているエネルギーブレードをA.Oに突き立てる。
だがハヴァンは身を捩る様に機体を動かし、装甲に少々傷が付いただけに留めた。

ハヴァン『英雄も相手してくれんのかぁ!』

ヴァン『暇潰しにな』

 楽しみが増えた、とゲラゲラ笑うハヴァンに、名前が似ているだけでも鬱陶しいのに、と不快感を
一切隠さないヴァン。

ヴァン『落とす』

 容赦無くディスネイトガンを撃つも、見えない弾丸を切り裂いてみせたハヴァン。ヴァンは舌打ちすると
肩のマイクロミサイルを連発し、その間を潜り抜けて接近戦へと移行する。それに続きレッソも挑み掛かる。

ハヴァン『急ぐなよぉ、遊ぼうぜぇ?』

 そう言うと突然急降下し始め、街中へと向かっていくハヴァン。レッソは街を戦場にする気かと焦る。
反対にヴァンは落ち着いている。元色んな物に興味を持たない彼女にとっては、街中が戦場になろうが
どうでも良いのだろう。

ヴァン『どうせなるなら被害を減らす為に早々に止めるべきだ』

 淡々と状況を判断し、ハヴァンを追跡するヴァンの意見に賛同したレッソは、街へと降りる。

 市街地に降り立つ二機と宙に浮く一機のディフォルアームズを見て驚く街の人達。先程の爆発と言い、
英雄の機体がそこにあったり、軍の機体である筈なのに街を破壊していく光景と言い、地獄にでも来たのかと
逃げる人達に嘆きの声が広がっていく。

ヴァン『あんたの言う通り無茶苦茶な奴だな』

レッソ「誰かに飼い慣らせる奴では無いのは目に見えていただろうに···!」

 倒壊するビルから高笑いしながら現れる狂気の男は、街中に響く叫び声さえ心地良い音楽にしか聞こえない。
早く止めなければ、カイ達と同じ様に無差別な破壊を繰り返すだけだと、レッソは操縦桿を握る力を強める。

『ハヴァン!貴様何を!』

ハヴァン『階級を呼べよぉ、クソ上官よぉ!ひゃははぁ!』

 上官の言葉に一切言葉を傾ける事無く破壊活動を続けるハヴァン。それを止めに入るレッソを支援する
形でヴァンが上空から射撃を続ける。

ハヴァン『来いよぉ!』

『止めろハヴァン!止めぐびゃっ』

ハヴァン『あ?』

 A.Oの通信機から断末魔と骨の折れる音が聞こえる。ハヴァンはそれもまた心地良い響きに感じ取っている。

『元気かい?』

 通信から届いた声はハヴァンにとっては聞き覚えのある声だった。

ハヴァン『てめぇ、何の用だぁ?』

『酷いなぁ、遊びに来たって良いだろう?』

 通信機の奥から聞こえてくる少年の声は無邪気に笑っている。断末魔があった事から察するに、凄惨な状況の中に居る筈だと言うのに。

ハヴァン『俺の邪魔ぁすんじゃねえぞぉ?』

『むしろ君の邪魔をする奴を消してやったんだから、感謝して欲しいね』

 声の主の顔はハヴァンには見えなかったが、悦んでいる様な話し方から、自らと同じく今の状況を楽しんでいると考えていた。

レッソ「ハヴァン、貴様は···ここで討つ!」

ハヴァン『おっとぉ···今愉しい愉しいパーティーの途中なんだよ···キーアよぉ』

キーア『そうらしいね。じゃあこっちもパーティー、開いとくよ』

 レッソと切り結びながらも、それを意に介さずキーアと言う少年と通信を交わし、そしてどうでもいいかの様にすぐ切ると、レッソとの死合を楽しみだした。命を奪う事こそ、彼の趣味だから。

~~~~

カジ「何なんだあいつ···!」

オッサン「見境無しか···まるで狂犬だ···!」

 崩壊する街の中、二人は瓦礫を避けながら街の人達を避難させていた。

オッサン「ほら、早く逃げた方が――!」

 そんな彼らの下に、口元をひん曲げて殺気を滾らせる少年が、崩れ落ちていく建物の瓦礫の中を歩いてきていた。そこに恐怖や迷いは一切感じられない。

カジ「し、師匠···!」

オッサン「あいつ···只者じゃあ無いのは確かだ···」

キーア「やあ、僕はキーア。マーキュリーに乗ってる奴とかの仲間だよ」

 警戒する二人を前に、キーアはまるで友達にでも話し掛ける様な気軽さで接する。からかいか、余裕か、それとも両方か。オッサンはさらに警戒心を強める。

オッサン「カイの仲間が、俺達に何の用なんだ」

キーア「あれ、名前教えたんだ···て事は君、面白い人なんだろうね」

 そう言って笑うキーアの目は、楽しめそうな遊具を見つけた子供の様だった。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom