【まどかマギカ】神名あすみ「…この宇宙の為に死んであげる」 (167)

神名あすみ主人公のまどマギssになります。
時系列的には、ほむらループ時のifです。

安価スレでの設定↓

名前:神名あすみ(12)
色:銀
魔法少女の衣装:ゴスロリ
願い:自分の知る周囲の人間の不幸
魔法:精神攻撃
武器:モーニングスター
髪型:ボブ
魔女名:Entbehrliche・Braut
性質:鬱屈
決め台詞:サヨナラ勝ち
性格:実に陰湿

大体この通りでいきますが、経歴については多少オリジナル要素入ります。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396072955

ーにゃーん


毛並みの良い真っ黒な猫が、人懐こく足元にすり寄ってきた。

野良猫だろうか。首輪のないその子の首元をそっと撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら嬉しそうに目を細めた。


「ふふ。駄目だよ。私の事好きになったら」


同じように目を細め、撫でる手を止め話しかける。

その子は何も答える事なく、その身体と同じく真っ黒な瞳でただこちらをじっと見つめていた。

そのままどの位の時間が経っただろうか。
ふと、何かを察知したように、猫はどこかへと走り出した。

目線だけでその行方を追うと、その先には近くの中学校の制服に身を包んだ少女が一人。

そしてその手前では、先程までチカチカと点滅していた横断歩道の信号が、既に赤に変わっていた。

「あ」




ー駄目だよ。私の事好きになったら。

ーだってね





ー不幸に、なっちゃうよ


同時に発せられた、トーンの違う二つの「あ」。
それは重なるように鳴り響いたブレーキ音に、いとも簡単に掻き消されていった。

一瞬手品でも見せられたような感覚に陥った。

送った目線の先には、首を傾げながら急停止した車を発進させる運転手。

その向こう側には、髪を二つに結った少女が、自分と同じように目をぱちくりとさせながら、その車が過ぎ去った後の道路と足元を交互に見比べていた。

少女の足に纏わり付く黒い塊は、何事もなかったかのように、にゃあにゃあと可愛らしい声で鳴き声をあげていた。


目の前の信号が、青に変わる。


横断歩道を渡り終えると、今だに不思議そうな顔で立ち尽くしているその少女の横を通り過ぎる。

すれ違い様にチラリと、その少女がこちらを見たような気がしたが、立ち止まる事なく、そのまま真っ直ぐとその場を後にした。

ーにゃーん


少し後ろで、先程聞いたものと同じ声が聞こえる。


あの子は、たった今自分の身に起こった奇跡にきっと気付いていないのだろう…。



「ふふっ」


何だかおもしろい事が起こる予感がして、少しだけ勢いを付けて走り出す。


背中では赤色のランドセルが、まるでこれから起こる出来事を暗示するかのように、ガチャガチャと騒がしく跳ねていた。


「ね、あの子がそうなの?」


ー神名ー

その表札が掲げられた門の前で立ち止まると、塀の上にそっと佇む真っ白な“猫”を見上げた。

先程の子とは対象的なそいつは、ふわふわとした尻尾を揺らしながら、赤い瞳でこちらを見つめる。

「鹿目まどかの事かい?」


ーーカナメ マドカ

先程の少女の事を思い浮かべながら軽く頷く。


「普通の子みたいだったけど、確かに“ソシツ”はありそうね」


普通の子だった。
何の不幸も苦痛も知らないような、普通の子。

それでも、あの子を取り巻く得体の知れない“モノ”には、多少の興味がある。


「ふふっ」

「ちょっとおもしろくなりそう」


ふわり。と、目の前のそれの尻尾と同じように、銀色の髪が微かに揺れた。

ー神名ー

もう一度そう書かれた表札を一瞥し、そのままその家のドアノブへと手をかける。


(…開いてる)

鍵のかかっていないそれを少し躊躇いがちに開けると、出来るだけ明るい声を作り、中に向かって声を掛けた。


「ただいまぁ」


ーおかえりなさい。

優しく応えてくるその声に少し安心すると、脱いだ靴をきちんと揃え、声の主の待つリビングへと向かう。


「おかえりなさい。学校はどうだった?」

優しい声にぴったりの、これまた優しそうな笑顔を浮かべる女性が問いかけてくる。


「…うん。とっても楽しかったよ」

それだけ言うと、宿題があるからとその女に背を向けた。


リビングから出て数歩歩いた所の階段を上がった先が自室である。

そこへ向かう為に今まさにその段差に足を踏み出したという瞬間だった。


ゴツッいや、ガツンだろうか…身体に衝撃が走ったのは。

ーランドセルを降ろしていなくて良かった。


真っ白な天井を見上げながら、そんなのんきとも取れる事をぼんやりと考えていた。

何が起こったかというと、そう。ひっくり返った。
背負ったままだったランドセルというクッションがあったお陰で、頭を打たずに済んだのは幸いだろう。


(まぁ、打った所でどうなる訳でもないけど…)

こうなる事になった原因である、その女がこちらを能面のような顔でこちらを見下ろす。

階段を上がる瞬間に、この女に髪を引っ張られたのである。それはもう思いっきり。

それが今こんなみっともない格好をしている原因だ。

ー今日は一体何が悪かったんだろうか。


服装は今朝この女が選んだものを着ている。
いかにも女の子らしい、白のAラインワンピースだ。


表情にも声色にも気を付けたはずだし、一体何を間違えてしまったのか、一人反省会をしながら、はぁと深い息を吐いた。


ーゴホッ


思ったより衝撃が強かったらしい。
吐いた息が咳へと変わる。

その咳込みにハッとしたように、女が慌てて身体を抱き起こしてきた。


「ごめんなさい。…私また」


女の手は震えていた。
同じように、その声も。


(こういう時は無闇に動かさない方が良いんじゃなかったっけ?)


もうどうでも良かったので、ぼーっとする頭で女の言葉に耳を傾ける。


ごめんなさいごめんなさい。と繰り返すその女は時折、足音が***ちゃんと違ったから…と免罪符のようにそう呟いていた。

ーあぁ、足音か…。


今回はそんな些細な事が逆鱗に触れてしまったらしい。

泣きそうな顔をしたその頬にそっと触れる。


ーあったかい。


そのまま何事もなかったかのように女に向けて笑いかけた。


「大丈夫だよ」

「…次は気を付けるね」


ーお母さん


後頭部を優しく撫でる手の温もりを感じながら、心底この狂った女と血の繋がりがない事を嬉しく思った。

「ねぇ。この一家最大の不幸って何だと思う?」


ようやく辿り着いた自室のベッドに腰を下ろすと、枕元に飾られたぬいぐるみに混じってこちらを見つめる赤い目に問いかける。


先程まで隠れるように姿を消していたかと思えば、また目の前に急に現れる…。


「あなたってチェシャ猫みたい」

「ルイス・キャロルかい?」


抑揚のない声に少し笑みが漏れる。

“不思議の国のアリス”ではなく、真っ先に作者の名前が出てくるなんて、彼らしいといえば彼らしいような気がしないでもないが。


「なら、君はアリスかな?」


ちょっと考えてから、それは違うと首を振った。


「…アリスじゃなくて」





ーマリス、かな。なんてね。


「話しを戻すけれど」

もう一度、同じ質問を投げかける。


ーこの一家最大の不幸って何だと思う?



「不幸や幸福の感じ方なんて人それぞれなんだろう?なら、第三者が一概にこれだとは決め付けられないんじゃないかな。“一家”という括りもどうかと思うしね」


つまり、この家の住人が同時に事故にあったとして、それを住人全員が“これが最大の不幸”だと思うとは限らない。という事だろう。


全くその通りな訳だけれど、いささかその答えはおもしろくない訳で。



「まぁ、“世間的”に“この家の娘が突然姿を消した”なんて出来事は、充分悲劇的であると言えると思うけどね」


表情のない顔、抑揚のない声が続ける。


ーあくまで、第三者からの視点で言わせて貰うとだけど。

ー“世間的には行方不明”
随分含みのある言い方だ。


ふと、机の上に並べられた写真立ての内の一つが目に入る。

木製のフレームの中では、自分と同い年くらいの少女が、白いワンピース姿で微笑んでいた。



ーねぇ、奇跡ってあると思う?



目を閉じると、どこか懐かしい声が鮮明に蘇った。

この家にはかつて娘が二人いた。
と言っても、二人は姉妹という訳ではない。

そして、“いた”という事には、既に二人はこの世に存在していないという事が前提な訳だけれど。



一人はこの家の夫妻から産まれた娘。
その子は、数年前に事故でこの世を去っている。

歳は確か4つだか5つだか、小学校にすら上がらないくらいのまだまだ可愛い盛りの時期だったらしい。


そしてもう一人は、まるでその穴を埋めるかのように後からこの一家の一員となった、当時小学校高学年だった少女。




ーーこの少女は、ある日を境に突如姿を消したという。



この家の夫婦は、数年の間に娘を二人も失っているという事になる。

「それを言うなら、その娘の両親が夫婦になった事がそもそもの間違いなんじゃないかい?」

まるでキリがないよと彼が口を挟む。


そう。大元を辿ろうとするとキリがないし、突き止めた所で時間が戻る訳ではない。


そして一度壊れた幸せは、どんなに取り繕おうと元通りには戻らないのだ。


それに気付かず負の連鎖に陥っていく…それこそ、この一家最大の不幸と言えないだろうか。



「君の中ではそれが答えな訳だね。所で…」

ーこの会話には、何かしらの意味があるのかい?


その問いに「さぁ」と返事をすると、彼はやれやれというように「君達人類はよく生産性の無い話しをしたがるね」と呟いた。



ーまぁ、たまには良いじゃない。
自分がここにいる意味を、ちょっと確かめたくなっただけなんだから。


後ろに倒れ込むようにベッドに仰向けになると、写真の中の少女に思いを馳せた。


「…ねぇ、幸せだった?」


その問いに対して、答えが返ってくる事はなかった。

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