【モバマスSS】僕は君が好き (36)



――その姿に、僕は恋をしたんだ……



※短編です
※モバマスアイドルと一般人との絡みです
※リハビリ作につき荒いです
※さくさく投下します

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395863693

「……はあ」


夕焼けの赤色に包まれ、僕は公園のベンチにひとりきりだった。

北風と、時折通り過ぎるクルマの騒音以外は何も聞こえない。

公園のそばを通り過ぎる人たちは足早に歩を進めている。家に帰っているのだろう。


「…………はあ」


僕はもうひとつ大げさにため息をついた。

視線を落とす。

僕の手に握られているのは小さな箱。きれいにラッピングが施されている。

数日前、箱の中身を買ったお店のお姉さんに拵えてもらった。

薄いピンクの桜模様が映える包装紙と青いリボンは僕が選んだものだ。

これが悩みの種だった。

「………………はあ」


一体どれくらいの時間をここで過ごしただろうか?

ふと思った僕は胸ポケットにしまっているスマートフォンを取り出し待ち受け画面を開く。

3月の終わり、時刻は17時に近い。

僕がこのベンチに座ってまだ20分も経っていなかった。

でも、時は確実に進んでいた。

タイムリミットが近づいている。

「………………」


もはやため息をつくことすら億劫になった。

僕はこれを、『プレゼント』をじいっと見つめることしかできなくなっていた。

そうだ、僕はこれを渡したいのだ。

……誰に?

決まっている。


――僕の通っていた中学校の、同じクラスのあいつに……



「……あのぉ……」


か細い、女の子の声が聞こえたような気がした。


「ね、あなた……どうかしましたか……?」


今度ははっきりと聞こえた。

はっとして前を見た。

いつの間に現れたのか高校生くらいの女の子が一人、僕を心配そうな顔でじっと見つめていた。

「え……あ、あの……」


突然のことで言葉にならなかった。

僕が予想以上にうろたえていたのか、女の子は申し訳なさそうな顔をして、


「ごめんなさい……。ひとりで公園にいたあなたが気になって、つい……」


僕はかぶりを振った。


「い、いいえ!その……僕、人見知り、な、もので……」


幼い頃からコンプレックスに思っていたことだ。

おかげで人付き合いは苦手だし、自分に自信が今ひとつ持てない。

……あいつは、そんな自分にも気兼ねなく話してくれてたっけ。

僕が押し黙ってしまったのを見てか、彼女はしゃがみ込み、私と視線を合わせて尋ねた。


「となり、座ってもいいですか?」


僕に断る理由などなかった。




「…………」

「…………」


しばらく、沈黙が続いた。

僕はまだ手元のプレゼントを見つめたままだ。

北風が吹くたびにラッピングのリボンがかたかた音を立てた。

先に沈黙を破ったのは彼女のほうだった。


「ね……それ、プレゼントですか?」


彼女は僕の持つ箱を指差した。


「……はい」


僕はそれだけ答えた。

「誰かにあげるの?」

「…………はい」

「……それって、あなたの好きな人に、ですか?」

「………………」


僕は言葉につまった。

実際、そうであるのだ。僕はあいつが好きだった。

いや、最近になってようやく「好きだ」という感情を自覚した……と言った方がいいのか。

……言葉にするのがとても恥ずかしかった。

彼女はそれを察したのか、慌てて付け加えた。


「あ、ごめんなさい……、答えづらいですよね、男の子が見ず知らずの女の子にこんな話……」


僕は、突然話しかけてきた彼女に黙っていることしかできなかった。




「……ね、あなたはとし、いくつ?」


数分を置いて彼女がまた口を開いた。

僕は黙ってばかりでは居心地が悪いので素直に答えることにした。


「……15歳、です」

「ということは、もしかして4月に?」

「はい、高校生です」

「そうなんだ、おめでとう」


祝われて悪い気はしなかった。

ただ、それが問題でもあった。


「私、あなたよりひとつ年上なの……だから、私のほうが先輩ね」

ふふっと彼女は笑った。

彼女の声はどこか甘ったるくて、僕はだんだんと彼女と話すことに対する抵抗がなくなるのを感じた。

何か魔法をかけられたかのような、ある種の催眠効果?とでも言うのだろうか。


「……あの」


そう、不思議と、僕のことを彼女に話したい感情が湧いてきたように思う。

この気持ちはなんだろう?

そう思い返すより早く、僕の唇が想いを綴っていった。




「……聞いて、くれますか?僕のこと……」

僕の好きな人……それは、幼いころから付き合いのあった子であった。

幼稚園からずっと同じ学び屋で勉強してきたし、そもそも家が近いこともあって親同士も仲が良かった。

お互いの家で寝泊りをすることなんてしょっちゅうだったし、

一年に数回、どちらかの親が同伴で一緒にいろんなところに出かけることもあるくらいの間柄だった。

クラスのみんなも僕とあいつとの関係はよく知っていて、時折皆して「オアツイね」などとからかっては僕たちを困らせていた。



半年前、僕に転機が訪れた。

それは本当に些細な出来事だったと思う。

進路のことでその日はいつもより帰る時間が遅くなったのを記憶している。

いつものように二人で一緒に帰り道を歩いていると、道端にダンボール箱が打ち捨てられていることに気付いた。

近づいて二人してしゃがみ込み箱を開けると、中には親子の猫の死骸が入っていた。

どちらも腹の部分が無残に裂かれていて、内臓がごろんと飛び出していた。

どうしてそこに置いてあったのか、誰が、何が原因なのかはわからない。

それでも僕は言いようのない嫌悪感を覚え、後ずさりしてしまった。

恐怖で、直視できなかったのだ。涙さえ出なかった。

でも、あいつはそんな僕には目もくれず、ただただじっと箱の中の猫たちを見つめていた。

瞼には涙を湛え、そのうち嗚咽が抑えられなくなった。

数瞬の後、あいつは泣きながら箱を持って立ち上がり、家まで運んだ。

そのまま黙って庭に穴を掘って、親子の猫を土に葬った。

あいつはずっと泣いたままだった。

僕は、その姿を後ろからぼうっと眺めるだけだった。




――その姿に、僕は恋をしたんだ……



どうやって僕のこの気持ちをあいつに伝えようか、と僕はその時から思い悩むようになった。

この気持ちを早く伝えたい、伝えて、受け入れてもらいたい。

でも、どうやって?

言いたいことを普段からはっきりと言えない僕が、ましてや恋の告白なんてできるわけもなく……

そうして半年も経ちあっという間に卒業式を迎えて……


「……あいつ、県外の高校に行くらしくて、明日に引越しをするってことを……ちょっと前に、聞きました」

「……卒業して、もうあなたの好きな人に会えなくなる、ですか……」


彼女はどもりがちな僕の語りに口を挟まず、ただ相鎚のみを打ってくれていたが、

僕が喋りすぎて疲れてしまったようすを見て、最後の一言を引き取ってくれた。



「……今日、クラスのみんなであいつのお別れ会をするんです」


今日の夜、仲の良い数人が集まって近くのレストランで食事会をする予定だった。

それが恐らく、あいつに会う最後の機会……。

明日には引越しの作業で忙しくなるだろうから、どの道告白するには向かないのだ。


「その時に……いや、その後に…………、言おうかと」

「その子にあなたが好きだってことを?」


こくん、と僕は頷いた。

不思議なものである。

初対面の女の子にここまで自分のことを話してしまったのだ。

僕は自分のしていることを改めて認識した。とても恥ずかしくなった。

彼女はそんな僕の様子を見て、くすりと笑った。


「あなたの真剣な気持ち……とてもよく伝わったよ」


彼女の手が僕の手を握り、そのまま僕の胸元まで導いた。

突然体を動かされて僕ははっとした。

そして、意識して視線を逸らしていた彼女のことを、ようやく見つめた。

彼女は穏やかな顔をしていた。

赤いカチューシャが夕陽を反射して眩しかった。



「私もね……、あなたと同じ。恋をしているの」


彼女の手が僕から離れ、彼女は立ちあがった。

そのまま訥々と、薄暗くなった空を仰ぎ彼女は語り出した。



「私ね、こう見えてアイドルなの」


僕は少し驚いた。

テレビで見たことはなかったけど、僕の目の前にアイドルの女の子がいるという事実が軽い衝撃だった。


「そのお仕事でお世話になっている人……その人が、私の好きな人」

「私のことをいつも見守ってくれている、優しい人」

「初めて会った時から、私はあの人のことしか見えないの」


彼女の言葉一つ一つに熱を感じる。

実際気持ちが昂っているように僕には見えた。

彼女は続ける。



「その人……ううん、言っていいかな?」

「……うん、言っちゃえ」

「その人ね、私のプロデューサーさんなの」

「私の他にもいっぱいアイドルたちを受け持っててね……」

「たぶん、私の他にもプロデューサーさんのこと好きな子、いると思う」

「……もしかしたら、プロデューサーさん、その子のことを好きになっちゃうかもしれないって、たまに思うの」


彼女の声色に翳りが差す。

それに呼応してか、ひときわ強い風がざあっとあたりを撫でた。



「おかしいことなのかもしれない」

「アイドルが、誰かを好きになるっていうことが……」


彼女はここではないどこかを見つめているようだった。

……彼女は何故こんなことを言いだしたのだろう。

僕にはその真意をわかりかねていた。

そんな疑問をよそに彼女は一人僕にその想いを語る。



「私ね……たとえこの恋が許されないものだったとしても……」

「そう、私を応援してくれてるファンの方々の気持ちを裏切る行為だったとしても……」

「私がプロデューサーさんを好きな気持ちは、誰にも邪魔させない」

「みんなが誰を好きになったとしても、私はプロデューサーさんのことが好き」

「絶対、ぜーったい……プロデューサーさんを振り向かせてみせるの」



僕は、彼女がとてもうらやましかった。

あんなにも自分の気持ちに正直になれることが、とてもうらやましかった。


――でも、僕のこの恋には一つ、致命的な問題があるんだ

――僕が好きな人は


「……だからね、キミ!」


僕がそう思いを巡らせていると、彼女がいきなり僕の両手を掴み、無理やり立ちあがらせた。

右手に持っていたプレゼントを危うく落としそうになったが、なんとか持ちこたえた。




「思い悩むことなんてないの」

「あなたが誰を好きでもいいんだよ」

「あなたの気持ちは、あなただけのもの」

「相手に自分の気持ちを伝えなきゃ、いつまでもいつまでも……苦しいよ」






「だからね、自信を持って『彼』に好きだって言ってあげて」





……驚いた。

僕は本当に驚いた。

彼女の言葉に僕は目を見開いた。


「……え?」

「……?」


彼女は僕の顔を見て首をかしげた。


「なん、で……」


僕はどうにか言葉を紡ごうと口を必死に動かす。

どうしても聞きたい。聞きたかった。





「どうして、僕の好きな人が「男」って、わかったの……?」


彼女は合点がいった表情で僕にウィンクをしてこう言った。






「恋する女の子は、何もかもお見通しなんですよ?」



「あ、そうだ」


僕は仕事があると言って公園を出る彼女の後姿に大声で呼びかけた。


「君の名前は?」

「私?」


彼女は振り返り、笑顔で答えた。




「私、まゆ。佐久間まゆ」




その人を惹きつける表情が、甘い声が、僕の頭から離れることはないだろう。

僕は彼女……佐久間まゆを絶対に忘れないだろう。

僕のこの気持ちを認めて、応援してくれる「仲間」を。

叶わぬ恋と諦めず、自分の気持ちを伝えることを恐れないでと励ましてくれた「アイドル」を。

僕も彼女に笑顔を返した。

と、


「あ!あなたのお名前、そういえば聞いてなかったです!」


佐久間まゆは声を張り上げた。


「せっかく出会ったんですもの、同じ恋する者同士、あなたのお名前を覚えておきたいわ」


僕は何故だか嬉しくなった。


「僕は――――」


もう迷いはない。





おわり



少しSSを書かないと一つ書くだけでも苦労しますね
というわけで、佐久間まゆと名も無い男の子とのお話でした
タイトルから展開を類推できた方、握手しましょう

巷では月末ままゆ説が流れてますね
やめてくださいちひろさん(ガチャガチャ


直近の過去作3作

鷺沢文香「図書館はどこですか」
和久井留美「猫の森には帰れない」
有浦柑奈「ゆりかごの歌」

初めて画像先輩の支援を頂きましたので丁重に感謝いたします
ではhtml依頼行ってきます

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