流子「白雪姫だぁ?」(35)


流子「私の名前は纏流子。父さんを殺した相手を探して本能寺学園に―――」

マコ「流子ちゃぁあーん」

流子「マコ、どうしたそんなに慌てて。喧嘩部はこないだ畳んだばっかりだし」

マコ「そんなのんびりしてる場合じゃないよ。もう始まっちゃってるよっ。ほら、急いで急いでぇっ」

流子「うわっ、ちょ、まっ」

(マコ、流子の腕を掴んで走り出す)


―体育館―

マコ「たのもーっ」

流子「凄い人だな……。無星やら一つ星やら二つ星やら、うじゃうじゃ集まってやがる」

マコ「それだけじゃないよっ。壇上には、皐月様と四天王もスタンバってるよ」

蟇郡「纏流子ぉおおっ。遅いぞ貴様ぁああ。五分遅刻だぁああ」

流子「はぁ?」

蟇郡「そんな意欲の低いものに参加する資格など」

皐月「纏流子か。貴様も参加したいというのならば仕方がない。いいだろう、特別に許す」

蟇郡「えっ。しかし、規則では」

皐月「なんだ」

蟇郡「いえ、なんでもありません」


マコ「じゃ、マコは応援頑張るから、流子ちゃんも、頑張ってねっ。フレー、フレーっ」ドピュンッ

流子「お、おいマコっ。……行っちまった」

猿投山「揃ったところで、これより、『選伐オーディション』を執り行うっ」

蛇崩「あくまで、フェアプレーで勝ち残りなさぁい」

犬牟田「容姿も性別も関係ない。選伐の基準は『強さ』のみ。それが皐月様のご意向だ」

蟇郡「ルールは簡単だ。ひとぉつ、獲物は壁にかけてある剣を使う事。それ以外の武器の使用は失格とする。ふたぁつ、極制服や神衣の変身は認めない。自らの力で戦いぬけぇ。以上だぁあ」

流子「極制服の変身を認めない……? 皐月の奴、どーいうつもりだ」

皐月「勝者はただ一人だ。敗者となりたくなければ、最後まで生き残れ。――それでは、始めっ」

(生徒たち、一斉に壁にかけてある剣を取り、打ち合いを始める。流子、手近の剣を二本掴み、切りかかってきた相手を斬り伏せる)


生徒たち「うおりゃぁあああああ」

流子「何だか知らんが、売られた喧嘩は買うのが信条だっ。いくぜっ」

(生徒同士の争いと、流子の強さで、一人、また一人と生徒が倒れていく)

生徒「くっ、やはり強いな。纏流子は……っ」

生徒「かくなるうえは、」

生徒「ここは一先ず協力して、」

生徒「纏を潰すのが上策だっ」

生徒たち「よし、かかれぇえええええっ」

流子「うらぁあああああっ」

(最後に、残った二十人ほどが一斉に流子に飛び掛かる。瞬殺される)


流子「よぉしっ、勝ち残ってやったぞ、鬼龍院皐月ぃっ」

皐月「ふん。やはり残ったのは貴様だったか、纏流子。……よかろう、今年の学芸会の王子役は貴様で決まりだ」

流子「は?」

皐月「聞こえなかったか。今年の演目、『白雪姫』の王子役は貴様だと言ったのだ。主役の白雪姫は、当然この鬼龍院皐月にしかこなせないが、四天王に優劣をつけるわけにもいかぬ。故に、王子は一般から募ることにしたのだ。しかし、白雪姫がこの鬼龍院皐月だったせいか応募が殺到してな。仕方なく、全員を体育館に集め、選伐を行ったのだ」

流子「へ?」

蛇崩「あーあ、皐月様のお目覚めのキスの相手が転校生なんて。胸糞悪いわぁ。ぺっ」

猿投山「纏、下手なキスで舞台に泥を塗らぬよう、練習をしておけ。何なら、俺が練習相手になってや」

蟇郡「フリだけだぁあああ。皐月様の唇にもしものことがあってみろ、オレは貴様を」

犬牟田「台本は後で担任から受け取るように。まぁ、台詞は三行しかないから大丈夫だと思うけど、できるだけ暗記してくるようにね」

流子「……えっと、わ、私、せっかくだけど、辞退しよっかなーなんて」

皐月「では、通し練習は明日の放課後、この場所でだ。ちなみに、練習舞台は本校の生徒も自由に鑑賞できるようになっている。それまでせいぜい演技力でも磨いておくんだな」

(皐月、照明部の照明に照らされつつ去っていく。四天王それに続く。体育館には、流子と、ゴミのように積み重なったモブ生徒が残される)


マコ「うわぁーっ、すごいね流子ちゃんっ、王子だよ、王子様だよーっ。マコなんて、17年間生きてきて、馬の役と木の役と、潮にそよぐ昆布の役しかやったことないよ。人間の役なんて、すごいよーっ」

流子「マコ、なんで私をここに連れてきたんだ……?」

マコ「え、だって流子ちゃん言ってたじゃない。『鬼龍院皐月の口を割らせてやるっ』って」

流子「それ、そーいう意味じゃねェよっ」

マコ「?」

流子「――え、うぉ、鮮血、お前までなんてこと言うんだっ」

マコ「」

流子「――わ、私は嫌だぞっ。――んだと、バカにすんじゃねぇファ、ファーストキスくらい済ませてらぁっ」ジタバタッ

マコ(流子ちゃん、また鮮血ちゃんとお話してるね。仲良し、なんだねっ)


―教室―

美木杉「あー、纏くん。台本が届いてるねぇ。大変だろうけど頑張ってね」

流子「ちくしょー他人事みたいに言いやがって。ん?」

(台本の裏に、待ち針でメモが止めてある。『放課後、いつもの場所で。美木杉愛九郎♥』)


―いつもの場所―

流子「で? 用事は何だ」

美木杉「悪いことは言わない。今回の王子役、辞退したまえ」

流子「それができたらとっくにやってるよ……」

美木杉「偶然を装ってはいるが、皐月お嬢さんが最初から君を配役するつもりだったのは明確だ。この劇には、もしかしたら様々な思惑が潜んでいるかもしれない。迂闊に飛び込むと危険だ」

流子「いや、そこまで深い考えでやったことじゃないと思うが……」

美木杉「しかし、万が一にも君のファーストキスが」

流子「ファーストじゃねぇよっ。とっくの昔に済ませてんだよ、あんたらは私を何だと思ってんだぁっ」

美木杉「……あ、経験あったのね、うん。ならいいや。うん、ならいいんだ」

流子「な、なんか急にトーン変わったな」

美木杉「うん、うん。17歳だもんね。そりゃそうだよね、うん、それが健全な姿だよ。むしろ安心したよ」

流子「お、おう。じゃぁな、また明日、学校でな」

(流子、部屋から出ていく)

美木杉「ふっ。昔は、あんなに小さかったのにな……」


―スラム街―

流子「ったく、何なんだよどいつもこいつも」

流子「…………」

流子「練習だぁ? 必要ねーよそんなもん。私のキステクをなめるなよ。鮮血、お前にゃ口がねーから教えられねーけどな」

流子「…………」

流子「い、いやいや、今のは言葉の綾であって。もっちろん、ホントにする訳ないだろうがっ!フリだよフリっ」

流子「…………」

流子「た、確かに。今回の劇に乗じて、本当に皐月の口を割らせることもできるかもしれねーな。舞台の上ではお互い神衣は着ないだろうし、四天王さえ何とかできれば―――」

マコ「流子ちゃーん」

流子「お? マコ? どこにいるんだ。こっちか?」

マコ「流子ちゃーん、流子ちゃん流子ちゃん」

流子「ん? 声はこっちからか。マコ、どーしたんだ……ぎゃっ!」

(流子、声を追って抜け道に入る。背後から何者かに後頭部を殴られる)


―闇医者:満艦飾家―

マコ「あ、流子ちゃん遅いよぉ先にご飯食べちゃってるよ。って、うわぁ今日もボロボロだねっ。何部にやられたの?」

流子「あ、いや、今回は部長にやられたんじゃなくて。えーと、転んだんです。道で」

薔薇蔵「おっと、そりゃマズイな。治療するから、とりあえず服を脱いでもらおうか」

流子「ん、ああ。わかりました」

一家「!!!!?」

流子「って、だ、ダメだっ。何言いだすんですかっ」

マコ「流子ちゃん、早く食べないと無くなっちゃうよぉ。今日は、家の裏に復活してたなんだかよくわからないキノコも入ってるよ」

又郎「姉ちゃん、そのキノコは毎日入ってるぜ」

ガッツ「ガッツガッツッ」

好代「お代わりあるから、じゃんっじゃん、食べてねっ」

流子「あ、すいません。今日は晩御飯遠慮しときます」

マコ「えぇえええっ!!?」


流子「え」

マコ「晩御飯を食べないなんて体に悪いよっ。舞台に出るからって、関係ないっ。人間は食べる生き物なのですっ。食べて、寝て、遊んで、起きるっ。それが正しい在り方なのですっ。毎日体脂肪とケンカしてるけど、流子ちゃんは太ってなんかいないよ。体脂肪率のせいで皐月様に勝てないなんてこと、絶対無いよっ」

流子「い、いや違うっ。明日が楽しみすぎて、こう、何と言うか、お腹じゃなくて胸が一杯。いろいろいっぱいいっぱいなんです」

マコ「そっかー。ならいいや」

好代「お風呂わいてるから、先にどうぞ」

流子「あ、ありがとうございます」

(流子、風呂場に行く。薔薇蔵と又郎、食べているので覗きに行けず、苦悶の表情を浮かべる)

好代「……ちょっと心配ね。具合でも悪いのかしら」

又郎「なんか違和感があんだよな。頭でも打ったんじゃねーのか、流子の姉御」

薔薇蔵「下手なダイエットは、胸とお尻を減らすからなぁ」

マコ「心配ないよっ。だって、流子ちゃんだもん」

:翌日の朝:―剣道場―

猿投山「面、胴、小手ェ。面、胴、小手ェ。あー、面胴小手面胴小手面胴小手ェェエ。ん?……誰だ」

流子「名乗らなくったってわかるでしょ、その心眼通とやらで」

猿投山「貴様の殺気、それで隠しているつもりか? 容易に感じ取れる。心眼を開眼させたオレなら、なおさらな」

流子「殺気は感じとれても、こういうのはわからないみたいだねぇ。ポチッとな」

猿投山「へっ?」

(猿投山の足元の床が開き、落下する)

猿投山「お、おのれ貴様卑怯だぞぉおおおおおぉぉぉぉ!」

流子「よし、対極制服用特殊落とし穴。これで厄介な心眼通使いも片付けられた」

猿投山「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

流子「落ちた先には睡眠ガスの充満したガス室が。後で死なないように換気はするけど、一度吸えば、三日は起きれない……」

猿投山「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

流子「……このトラップ、こんなに深かったかしら」

猿投山「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉx」ドサッ zzz

流子「よし、落ちたなっ」


:放課後:

―体育館:舞台上―

蟇郡「呪われし過去と未来とをつなぐ鏡よ、虚像と真実とを等しく映し出す魔法の鏡よ。世界で一番美しいのは、この俺だぁああっ」

犬牟田「さようでございますっ」(裏声)

蟇郡「よろしい」

犬牟田「あっ、違った。白雪姫でございますっ」(裏声)

蟇郡「なんだとぉおおおおおっ」

蛇崩「お呼びでしょうか、女王陛下」

蟇郡「狩人よ、コビットの森に白雪姫を連れて行き、殺してこぃいいいっ」

蛇崩「えー」

蟇郡「このワインレッド女王よりも美しい存在などぉ、あってはならぬのだぁああああっ」


―観客席―

美木杉「なんなんだろうねぇ、このシュールな光景は」

マコ「ウケ狙いで『女王役をやりたい』って言い出した猿投山先輩が、今朝から行方不明なんですよ。でも、皐月様は『予定は変えん。はぷにんぐは行事には付き物だ。これから劇の最中に何が起ころうとも、例えこの鬼龍院皐月の身が危うくなったとしても、劇は最後までノンストップでやり抜く。皆も、肝に銘じておけっ』って言うから、役の無かった蟇郡先輩がドレスを着て女王を演じることになったんです」

美木杉「へぇー」

マコ「じゃぁ、私寝るんで、流子ちゃんの出番になったら起こしてくださいっ」zzz

美木杉「……寝るの、早いねぇ」


―舞台上―

伊織「ああっ、白雪姫が」

裁縫部員「白雪姫が死んでしまったぁああ」

裁縫部員「あんな風にリンゴをがっつくから……」

裁縫部員「うわあああああん」

流子「おや、こんなところに美少女が寝ている」


―観客席―

美木杉「ほら、起きなさいな。満艦飾くん、纏くんが出てきたよ」

マコ「わーい、流子ちゃん流子ちゃん流子ちゃぁーん」


―舞台上―

裁縫部員「あ、あなたは隣の国のチャランポランでデクの坊のバカ王子っ」

流子「よし、この姫、私が買い取ろう、いくらだ」

裁縫部員「売りもんじゃねーよっ。帰れっ」

裁縫部員「そーだそぉーだ」

流子「じゃ、せめてキスだけして帰る」

裁縫部員「ええっ」

(寝ている皐月に顔を近づける流子。その手に、隠し持っていたナイフが光る)

伊織「あっ、危ない皐月様っ」

流子「ちっ。邪魔をするんじゃない、小人っ」

伊織「ぐわっ」

裁縫部員「伊織部長っ」


蟇郡「何をしているかぁっ、纏流子ぉっ。そんな台詞、台本には無いぞぉおお」

流子「あぁーら、纏流子たぁ誰のことだい、女王陛下? 今はあんたの出番じゃないはずだ」

蟇郡「何を……?」

流子「私は隣国の王子。父である先王の仇を探して旅を続けてきた。そして今、ようやく長かった旅も終わる。父の仇、討たせてもらうぞ。白雪姫ぇ!」

(流子、皐月の心臓を狙ってナイフを突き出す。蟇郡ドレスの裾を踏んで転び、間に合わない。皐月、微動だにせず死んだふりを続けている)

蟇郡「皐月様ぁあああああ!」

流子「もらったぁあ!」

(金属音。流子のナイフが、突然乱入してきた騎士に弾かれる)

流子「なにっ。それは、片太刀鋏っ。まさかっ」

騎士「随分と好き勝手やってくれたじゃねーか。なぁ、大暮麻衣子」

蟇郡「大暮だとぉおっ」


―観客席―

マコ「えぇーっ。流子ちゃんが、二人ぃ!?」

美木杉「おやおや。一体いつから入れ替わってたんだろうねぇ」


―舞台―

流子「みんな騙されるなっ。私が本物の纏流子、今出てきた方が偽物だぁっ」

騎士「なにぃ!? 往生際が悪いぞ、麻衣――」

流子「ポチッとなぁっ!」

(流子がガスマスクを付け、ボタンを押す。白い煙が立ち込め、四天王含む生徒たちが次々に倒れていく)

騎士「なっ!?」

流子改め大暮「きょーう力な睡眠ガスよぉっ。昨日お前に嗅がせたのを薄めて、効き目は調節してあるけどね。それにしても、三日は起きないはずだったのに、こんなに早く出てくるなんてねぇ。――だが、これで終わりだ、纏流子ぉっ」

騎士改め流子「麻衣子、てめぇ……。何のために……」

(流子、膝をつく。大暮、変装を解く。換気扇が回り、ガスを外に吸い出す。大暮、ガスが無くなったのでマスクを取る)


大暮「ひゃぁーっはっはっはぁ。冥途の土産に教えてあげるわ。纏流子の姿のまま鬼龍院皐月を倒し、その仇を四天王に討たせれば、纏流子と本能寺学園のトップを一度に片づけることができる。そうすれば、いくら強かろうと所詮は烏合の衆。この大暮麻衣子さまが代わりにまとめ上げ、生徒会になり替わろうっていう寸法よぉ」

流子「鮮血は、どこへやった……」

大暮「今は楽屋よぉ。目が覚めたら、せいぜい頑張って、愛しの鮮血ちゃんを着て四天王を倒すことねーっ」

マコ「ひどいよ麻衣子ちゃんっ。鮮血ちゃんを、ちゃんとハンガーに掛けてあげないから、皺ができちゃってたよっ。マコが携帯用アイロンを持ってなかったら、皺だらけのまんまになるところだったよっ」

流子「マコ、鮮血……」

大暮「なっ、なぜ動けるんだ、このガスを吸った後でっ!!?」

美木杉「君、このガス、睡眠・幻覚作用のある万歓茸の成分から抽出した物だろう?」シュコーシュコー

大暮「美木杉っ。い、いろいろと想定外だわ。ただの担任が、なぜガスマスクなんか持ち歩いているのっ!?」

美木杉「満艦飾くんの家の裏にね、よく生えるんだよ、そのキノコ。それを毎日コロッケとお味噌汁に入れて、少しずつ摂取していたからねぇ。体に、抗体ができているんだろう」

流子「鮮血、私もこのガスは大丈夫だ。……ただ」

マコ「ただ?」

流子「昨日から閉じ込められてて、何も食べてないから、力が……」グーッ


マコ「流子ちゃん、マコの大事な大事なお弁当のコロッケ、分けてあげるよっ」

流子「え、いいのか。だってそれは、マコの大事な」

マコ「いいんだよっ。流子ちゃんは、マコの親友だもんっ」

流子「マコ……」

マコ「それに、これ、もともと流子ちゃんのお弁当の分だしっ」

流子「そ、そうか」

大暮「ふっ、知られてしまったからには仕方がないっ。満ち満ちに満ち満ちる、とまではいかなくとも、スタミナ切れで変身できない纏流子と、無星の生徒、そして、うだつの上がらなそうな教師くらい、この一つ星で十分っ」

流子「衣装の下に、極制服を着ていたのかっ」

大暮「一つ星極制服の威力、とくと知るがいいっ。まずは一番弱そうな、美木杉、貴様からだぁああ」

流子「あ、それは、よした方が――」


大暮「でりゃぁっ」スカッ

美木杉「うわぁー」ヒョイッ

流子「うわぁ何つう白々しい避け方だっ」

マコ「流子ちゃん、今のうちだよっ。はい、あーんっ」

流子「あーん、あむっ」

大暮「うおりゃぁっ」スカッ

美木杉「ひえぇー」ヒョイッ

流子「んぐ、んぐ」

マコ「美味しい?」

流子「美味しい、美味しいよ……。空きっ腹に沁みるよ。ありがとな、マコ」

大暮「ぐおりゃぁああっ」ブンッ

美木杉「ひゃぁあー」ヒョイッ

流子「よぉし、コロッケパワー充填完了っ。行くぞ、鮮血っ」

マコ「頑張れ、流子ちゃぁあーんっ」

大暮「はぁ、はぁ、疲れた、はぁ、はぁ……」

美木杉「うわぁーお助けぇー」ドピュンッ

大暮「くそ、逃がしたか」


流子「人衣一体、神衣、鮮血っ!!!」

大暮「げっ」

流子「お、お、ぐ、れ、ま、い、こぉおお」

大暮「かくなるうえはっ。ポチッとなっ」ガコンッ

流子「自分で落とし穴に落ちただとっ」

大暮「この落とし穴は脱出用よぉーっ。さーらばだ、まーぬけぇ。あーっはっはっはっはっは」

マコ「麻衣子ちゃん、またねーっ」ブンブンッ

流子「逃げられたが、まぁいいや。これでようやく本題に移れるっ」

マコ「本代?」


(流子、死んだふりを続けている皐月に近づき、首元に鋏を突き付ける)

流子「さぁーて、聞かせてもらおうか。父さんの死の真相をっ」

皐月「…………」

流子「ふん。しらばっくれんじゃねェよ。こんなガスで眠りこけるような鬼龍院皐月様じゃないだろ?」

皐月「…………」

流子「参ったなぁ。ホントに寝ちまったのか。うーん……。そうだ。せっかくだから、寝てる間に眉毛整えてや」

(皐月、死んだふりを続けながら気迫を放つ。流子、気迫に押されて吹っ飛ぶ)

流子「うわぁあっ」

皐月「…………」

流子「てめぇやっぱ起きてんじゃねェかっ」

流子「えっ、何だって。で、でもなぁ……」

流子「わ、わかったよ。やりゃいいんだろ、鮮血っ」

(流子、皐月にキスをするフリをする)


皐月「…………」

流子「やれってか!? ガチで口づけしろってか!?」

マコ「流子ちゃん、恥ずかしがらないでっ。あなたの唇は、皐月様のに負けてないっ。むしろ、より桜色でピンク色、ふっくら艶々、感触だって勝ってますっ。だから、思い切って、付けちゃぇー!」

流子「かっ、感触てっ。いつ確かめたんだよっ」

マコ「寝てる間に、ちょっと指で押してみましたっ」

流子「ゆ、指ね。いや、十分変だけど……。ん?」

流子「そ、そうかっ。付けちまえばいいんだっ。いくぞ、皐月ぃ」

(流子、皐月の手を持ち上げ、手の甲に口づけする。皐月、飛び起きて流子を蹴りあげる)


流子「かはっ……」

皐月「遅いぞ王子。いつまで待たせる気だぁっ」

流子「げほっ。白雪姫、てめぇ。父さんの仇について、話聞かせてもらおーじゃねぇかぁあっ」

皐月「ほう。先代の王の形見を持って、わざわざここまで来たということか。だが、それを知ってどうする気だ?」

流子「うるっせぇ。知りたかったら、3話と8話見直してきやがれぇええっ」

皐月「私は、そんなに暇ではないわぁああっ」

(縛斬を構えた皐月と、片太刀鋏に人衣一体状態の流子が切り合いを始める。徐々に、流子が押されていき、片太刀鋏が床に落ちる)

マコ「流子ちゃん!?」

皐月「とどめだ、纏ぃいっ」


流子「ふにゃぁ~」

皐月「……な、なんだその気の抜けた声は」

流子「あー。鮮血ぅ。何か、気持ちが、こう、ふわわああん、って」

皐月「……そこの無星生徒。さっきのコロッケの中身に、キノコは入っていたか?」

マコ「えっ。あっ、はいっ。細かく細かく刻まれて、入ってますっ」

皐月「そうか。おそらく、この舞台の前から嗅がされていた分と、このガスの分、そしてコロッケから吸収した分の成分の総量が、纏の身体が処理できる限界値を超えてしまったのだろう……」

流子「あ、隙あり……」

皐月「っ!!!」

(流子、皐月にマウスツーマウスでキスをする。しかもディープキス。皐月、あまりのキスの上手さに赤面し、流子を突き飛ばす)


流子「すぴー……」zzz

マコ「りゅ、流子ちゃ」

皐月「そこの無星ぃっ」

マコ「は、はいぃいっ」

皐月「このことは、他言無用だぁっ」ピカーッ

マコ「え、あ。はい。って、流子ちゃん流子ちゃん、しっかりしてぇえ」ユサユサ

流子「むにゃむにゃ……」zzz

(皐月、赤面したまま舞台を後にする。誰の操作なのか、幕が降りていく)

:翌日の朝:―本能寺学園―

流子「あー。あったま痛ぇええ」

マコ「流子ちゃん、まるで二日酔いのおじさんだねっ。深夜の最終電車で青い顔してる人みたいだねっ」

流子「それは二日酔いになる前だろ……。っていうか、私、昨日の記憶がまるっきり無いんだ。マコ、舞台の練習で何があったか、覚えてるか?」

マコ「あっ、それはね~」

皐月「きっ、貴様が思い出す必要はないっ。纏流子っ」ピカーッ

流子「あー、わざわざ校門まで迎えに来てくれたのはありがたいが、今日は勘弁してくれ。ホントに頭痛いんだ」

皐月「た、戦いに来たわけでもないわぁっ。このたわけっ」

流子「あー、白雪姫の方もパスで。台詞全部飛んじまった」

皐月「心配無用。学芸会は、無期限で延期することにした。少なくとも、私の在任中に開かれることは無い」

流子「は?」

皐月「ああ、それと。全力を出せない貴様を倒してもつまらないからな。今日だけは、各部活に自重するよう通達を出している。安心してだらけろ」

流子「お、おう。それはどうも、ありがとう」

皐月「ふんっ。では、さらばだっ」ピカーッ


―生徒会室―

揃「お茶でございます」

皐月「ありがとう、揃」

(皐月、お茶を飲み、何かに気づいてカップを置く)

揃「どうかなさいましたか」

皐月「何か、忘れているような気が……。まぁ、忘れるくらいだから、どうせ大したことではないのだろう。気にしないでくれ」

揃「はぁ、さようですか」



―落とし穴トラップ:ガス室―

猿投山「ぐぉー。ぐぉー」zzz



 終わり


―生徒会室―

皐月「――という、夢を見たのだが」

四天王「……う、うん」

皐月「……学芸会をやってみたいとか、思ったことはあるか?」

四天王「…………」

皐月「……無いならいいんだ。忘れてくれ。無いなら別にどうでもいいんだ。うん」



  夢落ち おわり


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