【艦これ】日向「ああ、新しく入る五航戦姉妹か。よろしく頼む」 (159)

※『艦娘は機械、あの姿のまま外洋で戦い、提督は艦娘には乗らない学派』です。
よろしくお願いします

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歴史だけは古い某鎮守府、その担当領域はあまりに広すぎるため、ここでは鎮守府にある四つの艦隊ごとに更に細かい四分割を行い、それぞれの担当艦隊が警備を行うことにより、よりミクロな深海棲問題にも対応できるよう組織が構築されていた。

その名を主力艦艇から「日向艦隊」
五航戦『瑞鶴』『翔鶴』は日向艦隊に比較的最近配属された新兵であり、『翔鶴』はその不幸オーラに一瞬で魅入られた提督の寵愛を欲しいままにし、妹『瑞鶴』は秘書艦『時雨』がキス島レベル上げのため急遽不在となり、代打で秘書艦を無理やり勤めさせられているところから物語は始まる。

ちなみに提督と『瑞鶴』は最初の挨拶含め三度しか提督と会話をしたことが無く、
姉『翔鶴』を慕う妹として提督のことを比較的疎ましく思っている事実(設定)を頭に入れておいてほしい。

提督「あー、瑞鶴」

瑞鶴「ん? 何、提督さん」

提督「翔鶴って良いよな」

瑞鶴「攻撃隊、発艦はじめ!」

提督「おい!」

瑞鶴「翔鶴ねぇが良いのは当たり前だけど、今の提督の言い方はやだ」

提督「プロペラは危ない! プロペラは回転数が凄いんだぞ!!」

瑞鶴「なーんか言い方がえっちぃのよね。……もういいわよ。お疲れ。着艦どうぞ」

提督「指に当たると本当に危ない」

瑞鶴「はぁ……何でこんな人が提督なのかなぁ」

提督「組織には闇がある。これは歴史の必然。故に私は提督なのだ」

瑞鶴「海軍黎明期からの古参、だっけ?」

提督「終身雇用制、年功序列制度万歳」

瑞鶴「この国の混乱ぶりが目に見えた気がする」

提督「今日、翔鶴はいつ帰ってくるんだ?」

瑞鶴「今日もキス島でしょ。だったら四時には戻ってくるわよ。多分」

提督「多分とは何だ」

瑞鶴「私がみんなのスケジュール全部管理してるわけじゃないし」

提督「それが秘書艦の言葉か」

瑞鶴「提督だって、忘れたから私に聞いたんでしょ」

提督「お前の秘書艦としての素養を試したまでだ」

瑞鶴「はいはい。昨日の資材収支表できました。サインください」

提督「ああ、お疲れ」

瑞鶴「次は何するの?」

提督「総司令部への戦況報告書頼む。損害報告と戦果報告、資料はこれだ」

瑞鶴「りょーかい」

提督「お前、敵をどう思う」

瑞鶴「抽象的で答えにくいでーす」

提督「回答の幅を広げて答えやすくしてるんだ」

瑞鶴「うーん、一言で答えるなら……気持ち悪いです」

提督「気持ち悪いか、直感的でいい感想だ」

瑞鶴「いえ、あなたが気持ち悪いんです」

提督「やはり、あまりにも抽象的過ぎて具体性が無い。良い感想ではないな」

瑞鶴「何で急に敵の事を聞くんですか」

提督「敵を知り、己を知れば百戦危うからずという」

瑞鶴「すぐ故事を引用する大人は信用するな、って翔鶴ねぇに言われてます」

提督「俺の好奇心だ」

瑞鶴「最初から正直に言えばいいのに」

提督「で、実際どうなんだ」

瑞鶴「気持ち悪いのは本当です」

提督「もっと具体的に言ってくれると嬉しい」

瑞鶴「制服とか加齢臭キツいし、書類は締切ギリギリまで取り掛からないし」

提督「俺じゃなくて敵の気持ち悪い話だぞ?」

瑞鶴「はぁ、敵ですか」

提督「その顔は、今ようやく考えてる顔だな」

瑞鶴「私達の今の存在理由は深海棲艦と戦う事です」

瑞鶴「それで彼らは深海棲艦です」

瑞鶴「だから私は戦うし、そこに感情を挟んだりしません」

提督「それらしい事を言っているが、単純な思考停止だからな、それは」

瑞鶴「……どういう事ですか」

提督「……俺もお前の言う存在理由って奴は知っている。敵と戦う事だ」

瑞鶴「は? だからそう言って、」提督「だがその理由は俺達が決めた存在理由だ」

提督「今から言うのは司令部の総意でなく、俺個人の意見だ」

提督「俺は、お前たちはもっと自分の考えを大切にすべきだと思っている」

提督「お前らの事を単なる兵器だ、と言う奴も居るが俺はそうは思わない」

提督「例え作られた存在であったとしても、お前らには感情がある」

提督「上からの命令だけで、思考停止して戦えばいつの日か、必ず矛盾が起こる」

提督「根拠は俺の経験則だ」

提督「だから自分の感覚って奴を大切にして欲しい。自分で感じ、考えて欲しいんだ」

提督「他の提督には絶対に言うな。奴らの頭は固いから」

瑞鶴「考えた結果敵に愛着持っちゃったり、戦えなくなったらどうするつもり?」

提督「その時は俺に相談しろ。敵を殺さずの海上護衛、戦わずに済む方法考える」

瑞鶴「……ほんっと、提督さんって適当な人ね」

提督「適切な判断を適切なタイミングで下せる、という意味だな」

瑞鶴「そんな訳ないでしょ。そっちじゃない方よ」

提督「夜に翔鶴に慰めてもらおう」

瑞鶴「はぁ!? なんでそこで翔鶴ねぇなのよ!?」

提督「うん? 言ってなかったか。今日は翔鶴と約束をしてるんだ」

瑞鶴「……確かに今日は夜予定があるって言ってたけど、てっきりまた木曾さんかと……」

提督「残念だな。時雨ではない。俺だ」

瑞鶴「……」

提督「朝には帰らせるから心配するな」

瑞鶴「……全機爆装、準備出来しだい発艦! 目標、母港執務室の提督、ヤッちゃって!」

提督「だから瑞鶴! プロペラは危ない!」

提督「という事があった」

翔鶴「それは……妹がご迷惑をおかけしました」

提督「いいんだ。俺がふざけたんだから。お前も飲め」

翔鶴「あっ、酌なら自分で」

提督「遠慮するな。ほら」

翔鶴「……ありがとうございます。では、頂きます」

提督「おう」

提督「いつも秘書艦は時雨だからな。瑞鶴と二人だと少し緊張してしまった」

翔鶴「あの子は良い子なんですが、提督と一緒に居ると少し意地を張ってしまうんです」

提督「分かるよ。姉想いの良い子だ。また、その意地も可愛いじゃないか」

翔鶴「そう言って頂けると、姉として本当に嬉しいです」

提督「ま、今は妹の事は忘れて俺と酒を楽しめ」

翔鶴「提督、飲みすぎてはいけませんよ」

提督「分かっている」

翔鶴「以前の二日酔いの前日もそうおっしゃっていました」

提督「お前と一緒だと、官品の不味い安酒も美酒に変わる。仕方ない」

翔鶴「はいはい。いつもありがとうございます」

提督「今日は戦績一位を取る事が出来たか?」

翔鶴「はい。提督が調達して下さった流星改のおかげです」

提督「はは! そうか! それは良かった」

翔鶴「天山とはまるで別次元の性能で……搭乗員の妖精たちも喜んでいました」

提督「雷撃機は少し損耗が激しいのが玉に瑕だが、その分効果も高い」

提督「今は大規模な攻勢計画も無いからな。練度を上げる事に集中しろ」

翔鶴「はい」

翔鶴「でも提督、紫電改二といい流星改といい……鎮守府全体でも数はそれほど揃っていない筈なのに」

翔鶴「一体どういうルートで入手されたのですか?」

提督「我が艦隊は激戦区担当、尚且つ正規空母級が二人いるからな」

提督「多少融通は利く」

提督「大体そんな事、お前は気にしなくていい」

翔鶴「……申し訳ありません」

提督「……」

翔鶴「……」

提督「……少し酔った」

翔鶴「えっ?」

提督「翔鶴、……膝枕をしてくれ」

翔鶴「……はい、どうぞ」

提督「おう」ゴロッ

翔鶴「何か不都合はございませんか?」

提督「無い」

提督「相変わらずここは気持ちが良い」

翔鶴「ふふ」ナデナデ

提督「お前の手も冷たくて心地よい」

翔鶴「提督が熱いのですよ」

提督「お前の顔がよく見える」

翔鶴「私にも提督の顔がよく見えます」

提督「相変わらずお前は綺麗だ」

翔鶴「……ありがとうございます」

提督「俺はその白い髪が好きだ」

翔鶴「提督は、少し飲み過ぎです」

提督「お前は酔ってないのか」

翔鶴「私も少し酔ってしまいました」

提督「わはは! 当然だ。俺が酌をしたのだから」

翔鶴「……」クスッ

提督「笑った顔も可愛い」

翔鶴「はいはい」

提督「お前は深海棲艦をどう思う。あいつらを見て何を感じる」

翔鶴「そうですね、人類に対する敵意……とでも言うべきでしょうか」

翔鶴「凄まじい憎悪を感じます」

提督「我々、ではなく人類に対する、か」

提督「賢明なお前の事だ。含むところがあるのだろう」

翔鶴「さすがは提督です」

提督「よせ。嬉しくなる」

翔鶴「人間の乗った船に対する彼らの攻撃は異常です」

翔鶴「憎しみをぶつけるような激しさがあります」

提督「お前たちに対しては違うのか」

翔鶴「はい。あと、これは私の個人的な感覚と意見なのですが……」

提督「言ってみろ」

翔鶴「艦娘は人への攻撃を邪魔する、だから私達と戦う、という感じがします」

提督「艦娘に対してはそこまで攻撃的ではないのか?」

翔鶴「はい。あくまで私の感覚ですが」

提督「ふーむ」

提督「……」

翔鶴「提督、眠いのですか」

提督「うーん……いかんな……少し……寝る……」

翔鶴「はい」

提督「少し……経ったら……起こし……」

提督「……Zzz」

翔鶴「……おやすみなさい、提督」

瑞鶴「ちょっと提督さん」

提督「何だ瑞鶴」

瑞鶴「何で翔鶴ねぇと揃って朝帰りなわけ?」

翔鶴「瑞鶴! 提督になんて口のきき方してるの!」

提督「良いんだ翔鶴」

翔鶴「ですが……」

瑞鶴「……」

提督「お子ちゃまでも、子供なりにお前の事を気遣っているのだ」

提督「優しい俺は、それを無碍には扱えん」

瑞鶴「」ブチッ

瑞鶴「だーれがお子ちゃまですって!?」

提督「ほら、行くぞ翔鶴、お子ちゃま。朝の集合時間に遅れてしまう」

瑞鶴「提督!!! あんた絶対許さないんだからね!!!!!」

翔鶴「ええっと」オロオロ

提督「わはは」

提督「おはよう時雨」

時雨「おはようございます提督、今日の予定表です。昨日の出撃の報告書は机の上に」

提督「ありがとう。昨日の出撃はどうだった?」

時雨「それはやっぱり、僕の感覚での答えを求めてるんだよね?」

提督「そうだ。データじゃなくて、お前の感想だ」

時雨「昨日は敵の駆逐艦を主砲の一撃で沈めてやったよ。凄いでしょ?」

提督「日頃の訓練の賜物だ。偉いぞ」ナデナデ

時雨「えへへ」

提督「さて、他の艦娘達は揃っているか?」

時雨「遠征班、出撃班共に準備完了してるよ」

提督「よし、今日も仕事開始だ」

時雨「うん!」

出撃班

瑞鶴「あのクソ提督クソ提督クソ提督クソ提督」

曙(クソ提督って酷いなぁ)

翔鶴「こら瑞鶴! 口が悪いですよ!」

瑞鶴「だってあいつ私の事お子ちゃまって!」

翔鶴「そんなの冗談に決まっているじゃない」

瑞鶴「でも」

翔鶴「いつも提督は瑞鶴の事を大切に思って下さっていますよ」

翔鶴「昨日も私に瑞鶴のことばかり話していました」

瑞鶴「……」

翔鶴「……本当よ?」

瑞鶴「翔鶴ねぇ、あんなダメ男のどこがいいわけ?」

翔鶴「えっ?」

瑞鶴「提督の話になると口角上がりっぱなしなの気付いてる?」

翔鶴「やだ、嘘」

瑞鶴「はぁ……もうやだ。何よ、二人して私をイジメて」

翔鶴「そんなつもりじゃ……」

瑞鶴「わーかってる! 翔鶴ねぇは天然なんだから!」

日向「楽しそうだな」

翔鶴「日向さん」

日向「そろそろ戦闘海域だ。気を引き締めた方が良い」

翔鶴「そうですね。ごめんなさい。偵察機飛ばします」

瑞鶴「あーもー、このイライラを敵にぶつけてやるんだから」

日向「その意気だ。母港に帰ったら一緒に風呂でも入ってゆっくりしよう」

翔鶴「はい」

木曾「おっ、風呂か。いいねぇ」

長月「こらー! 仕事に集中しろー!」

曙「あー早くお風呂入りたーい」

日向「おいおい曙、まだ汗もかいてないだろう」

翔鶴「敵艦発見!」

翔鶴「重巡2、軽巡2、駆逐艦2、単縦陣で突っ込んできます」

日向「近いな。進路変更の余裕は無さそうだ。反航戦になる」

翔鶴「航空戦始めます。瑞鶴、用意はいい?」

瑞鶴「任せて!」

翔鶴「行くわよ、全機突撃!」

出撃班帰港 大浴場にて

日向「風呂は命のなんとやら」

長月「洗濯じゃないか」

日向「さて、そうだったかな」

瑞鶴「日向さんって不思議な空気あるよね」

翔鶴「私たちの艦隊でも古参ですから」

日向「聞こえているぞ。五航戦姉妹」

翔鶴「す、すいません」

日向「なに、謝ることは無い」

日向「古参といっても君達より少し前に入っただけに過ぎないさ」

瑞鶴「なーんだ。そうなんですか」

翔鶴「こら!!! 瑞鶴!!!!」

瑞鶴「な、なによ翔鶴ねぇ」

翔鶴「日向さんは沖ノ鳥奪還作戦にも参加した英雄よ!」

瑞鶴「えっ!? 沖ノ鳥ってあの!?」

日向「私が主力……だったっけ?」

木曾「なーにすっとぼけてんだ日向さん。アンタ抜きじゃ、絶対に成功してなかったぜ」

瑞鶴「すいません……大戦の英雄様とは知らず……」

日向「別に気にするな。私自身が気にしていない」

長月「いや、アンタはもうちょっと気にしなよ」

日向「では少し古参ぶった話でもしてみるか」

木曾「おっ、珍しいな」

日向「さっき長月に指摘されたからな」

日向「私がこの艦隊に配属された時、提督は本当に喜んでくれた」

日向「何せ私が彼にとって初めての戦艦だったからな」

日向「木曾も長月も既に居たな。曙は……確か居なかった」

曙「私が配属されるのはもう少し後ねー」

木曾「そうだな。この中では俺と長月しか居なかったな」

長月「あの頃は戦力が全く整って無くて大変だった」

日向「なにせ鎮守府自体も一つしか無かったからな」

瑞鶴「鎮守府が一つ!?」

翔鶴「それは……」

日向「今は17か16くらいあるんだろう?」

木曾「らしいな」

日向「それだけ人類が生存圏を奪い返しているという事だ。喜ばしい事だぞ木曾」

長月「昔は右も左も分らなかったからな。装備や戦略なんて、酷いもんだった」

木曾「何か古参っぽいぞ長月。で、そんな中、日向さんが配属されたわけだよ」

長月「うるさいぞ木曾。戦艦ってのは存在するだけで全然違うんだ」

曙(ぶくぶく)

日向「そう言ってもらえると嬉しい」

日向「我々もだが、提督自身も右左が分ってない時期だった」

日向「私はこんな性格だから、秘書艦なんていう細やかな仕事は向いてないんだ」

日向「それでも提督は私を使ってくれた」

日向「『お前が居てくれるだけで元気が出る』と言ってな」

翔鶴「……」

瑞鶴「……」

日向「私は戦って戦果を挙げて勲章を貰うよりも」

日向「彼の戦艦として在れる事、彼と共に戦えることがよっぽど嬉しいし誇らしい」

木曾「……」

長月「……」

曙(ブクブク)

日向「……」

日向「ま、いわゆる片想いという奴かな」

日向「気付いたら私の中で大きな存在になっていたよ」

日向「こんな鈍感な私でも気付けるほどに」

翔鶴「日向さん……」

日向「あー、柄でもない事を皆に喋ってしまったな」

日向「勘違いしないでくれよ」

日向「別に提督とどうこうしたい、という訳ではないぞ」

日向「提督はどうやら今は翔鶴の事が好きみたいだしな」

瑞鶴(これは日向さんの、感情?)

瑞鶴(嫉妬?)

翔鶴「……提督は、日向さんの事も大好きです」

日向「ふむ?」

翔鶴「あの人は特定の艦娘に優しくしたり、愛したりする訳ではありません」

翔鶴「艦娘を気遣いすぎて、私達からは逆に見えていないだけです」

翔鶴「本当はみんな幸せにしてあげたいんです」

翔鶴「私と、提督は似てるです」

翔鶴「それがお互い嬉しくて、他の人達にはもしかすると仲睦まじく見えるのかもしれません」

翔鶴「けど単に、私たちは似たもの同士で分かり合えているだけなんです」

翔鶴「断言できます。提督は、皆さんの事が大好きです」

翔鶴「でもちっとも伝えることが出来ない人なんです」

日向「翔鶴」

日向「お前を泣かせるつもりは無かったんだが」

翔鶴「……」グスッグスッ

日向「どうやら少し意地悪な事を言ってしまったようだ」

日向「勘違いしないでほしい」

日向「別にお前と提督が恋仲だろうと、私は別にいいんだ」

日向「私は兵器だ」

日向「私は彼の戦艦でありさえすれば満足なんだ」

日向「うん。その筈だ」

日向「提督の気持ちも、お前の気持ちも分かった」

日向「新兵なのに、私も気付かなかった提督の心の内を見るとは……凄いぞ翔鶴」

日向「私は今、凄く嬉しい」

日向「……でもやっぱり、私はお前が羨ましいな」

日向「……」

日向「……何を言っているんだ私は」

翔鶴「そんな思いをさせてしまって……日向さん、ごめんなさい」

日向「私は少し混乱してしまっている」

日向「胸がもやもやするんだ」

日向「なんだこの感覚は」

日向「……」

日向「すまん翔鶴」

日向「先に出る」

翔鶴「……」グスッ



瑞鶴(感情って何なの)

瑞鶴(私たちは一体何なの)

瑞鶴(兵器なの?)

瑞鶴(人間なの?)

提督「おっ、日向。風呂上りか」

日向「……」

提督「また俺が誰だか忘れたのか? ほら、いつも指揮してる」

日向「提督、そんな事は分っている」

提督「……何かあったか?」

日向「何でもない」

提督「嘘を吐くな。どれだけ長い付き合いだと思ってる」

日向「……」

提督「言ってみろ。というか言え。上官命令だ」

日向「提督は、私の事を、すき、か?」

提督「……」

提督「好きだ」

日向「ッ」

日向「……」

日向「翔鶴よりもか」

提督「比べてどうする」

日向「……」

提督「俺が翔鶴よりお前の方が好きだと答えれば満足なのか」

提督「あれは傷つきやすい女だ」

提督「昔の俺によく似ている」

提督「はっきりと言っておく」

提督「俺は艦娘に優劣や順番をつけるつもりは無い」

提督「もしそう見えているなら謝罪する」

提督「俺はお前も、翔鶴も、同じように大切だ」

日向「提督」

提督「何だ」

日向「久し振りに酒でも飲もう」

提督「……良いぞ」

提督「お前は相変わらず甘い日本酒ばかり飲んでるんだな」

日向「よく意外だ、と言われるよ」

提督「一見豪傑だからな日向は」

日向「私はそんなつもり無いのだが」

提督「くくっ」

日向「その笑い声も久しぶりに聞いた気がする」

提督「ほれ、杯を出せ」

日向「ん、すまんな」

提督「全く。これじゃどっちが上官か分かったもんじゃない」

日向「そう言うな。ほれ、今度は私が」

提督「おう」

提督「何に乾杯する」

日向「今に」

提督「重い積み重ねを感じる。良いな。それでいこう」

提督「今に乾杯」

日向「乾杯」

提督「お前には世話になった」

日向「まるで私がいなくなるみたいな言い方だな」

提督「単に改めて、だよ」

日向「私は何もしとらんさ」

提督「総司令部に送る報告書の作成をお前に任せたら」

提督「参考データを全くまとめずに丸ごと総司令部に送った事覚えてるか?」

日向「……多少」

提督「あれは大目玉くらったんだぞ」

提督「で、それをお前に言ったら」

提督「『あれ、君、誰だっけ』と来たもんだ」

日向「向き不向きは誰にだってあるさ」

提督「まあ、そうなるな」

日向「真似しないでくれ」

提督「北方海域奪還戦を覚えているか」

日向「ああ、忘れるものか。苦しい戦いだった」

提督「あの頃の俺は、まともじゃなかった」

日向「誰だったかは忘れたが、大破でボス戦に突入したのは覚えている」

提督「赤城だ」

日向「赤城か、懐かしいな」

提督「あの頃は我武者羅に戦っていた。お前たちの被害など気にせずに」

日向「戦い方がよく分かってなかっただけさ」

提督「いや、そうじゃない」

日向「……」

提督「俺は海を見たことも無い総司令部の連中の命令に従ってただけさ。」

日向「今は違うのだろう。結構な事じゃないか」

提督「こうなる為に大きな犠牲を払ったがな」

日向「自暴自棄になるな。もう終わった事だ。何度も言ったろう」

提督「結局、酒を飲んで弔い忘れる事しか出来ないんだな。俺は」

日向「君に弔ってもらえるだけ幸せ者だよ。あいつらは」

提督「……」

提督「赤城、加賀、飛龍達が出て行ったのは随分前の事みたいだな」

日向「実際そうさ。もう何年も前だ。元気にやっているのか」

提督「鎮守府を転々として、今は作戦行動の為に単冠だ」

日向「単冠、そういえば例の新型空母、大鳳だったか? あいつも単冠じゃないか?」

提督「御名答。良く知ってるな」

日向「伊勢が大鳳と同じ艦隊でな。極秘の大規模な作戦行動があるのか」

提督「伊勢ちゃんか。お前と違って素直で可愛い子だった」

日向「戦艦パンチを食らいたいのか?」

提督「正確には大鳳だけじゃない。色んな空母が単冠には集結中だ」

提督「俺にも情報が正確に伝わってないのだが……どうやら次はハワイらしい」

日向「敵の一大根拠地じゃないか」

提督「聨合艦隊長官が、『死んでもやる。やらないなら辞職する』と言ったそうだ」

日向「あまり分のある勝負じゃなさそうだ」

提督「俺もそう思う」

提督「大東亜戦争でハワイ攻撃が成功したのは、この世の奇跡の一つだよ」

日向「二度目は無いと?」

提督「それでもやらねば」

日向「組織というのは融通が利かなくていかんな」

提督「そう言うな。だからこそ俺みたいなのも生き残れる」

日向「さすが、宮様は言う事が違うな」

提督「おい、それ他の艦娘に言ってないだろうな?」

日向「分かっている。その辺は分別もある」

提督「参考資料全部送っちゃうような奴に言われてもな」

日向「面舵と取り舵が分らなかった奴に言われたくない」

提督「くくっ」

日向「ふっ」

提督「お前、北方海域奪還戦の時駆逐艦ばっかり狙いやがったな」

提督「他の艦娘が忘れても俺は忘れてないからな」

日向「……」

提督「何とか言え!」

日向「いや、誰だったかなと思って」

提督「俺だよ! 提督だよ!」

日向「ああ、提督か。で、キス島での経験値稼ぎの話だったかな?」

提督「ちがう!」


日向「分かっている。冗談だ。北方海域奪還作戦だろ?」

提督「そうだ!」

日向「確実に当たる方を狙ったまでだ。何も問題はない」

提督「雑魚の相手なんて駆逐艦や軽巡で十分だ!」

日向「すまんすまん」

提督「笑うな! ばか日向!」

日向「お互い、成長したな」

提督「なんだ急に改まって」

日向「ふと実感しただけさ」

提督「俺は一人前の提督になれたかな」

日向「まだまだ」

提督「やかましい」

提督「最近お前と話してなかったな」

日向「君は可愛い正規空母に夢中だったからな」

提督「」ブッー

日向「何故吹き出す。本当の事じゃないか」

提督「ようやく今日の飲み会が始まった理由を思い出したよ」

日向「私は以前君に言われた」

日向「何でお前は戦うんだ、と」

日向「あの時、私は生まれて初めて自分の頭で物事を考えた気がする」

日向「あれから私は君が言ったように、自分の感情や感覚を意識しながら生きてきた」

日向「心の成長と共に世界の色がどんどん変わっていった」

日向「嬉しかった」

日向「でも今はただ苦しい」

日向「君と翔鶴が仲睦まじくしているのを見ると胸が痛いんだ」

日向「これは私が君の事を好きだからだろう」

日向「翔鶴が来なければ、今の彼女の位置は私のものだった」

日向「辛いんだ」

日向「翔鶴が憎い」

日向「こんな自分が嫌だ、でも、どうしようもないんだ」

日向「助けてくれ」


提督「……」

提督「俺はどうすればいい。何をしてやれる」

日向「大切にしてくれ、私を誰よりも、私だけを見てくれ」

日向「いや、もうこの際嘘でもいい。私が一番大切だと言ってくれ」

日向「私は君と一緒に居たい」

提督「俺が指揮官である時、お前は兵器だ」

日向「分かっている」

提督「指揮官である俺は艦娘を平等に扱う。これは俺のポリシーだ。譲るつもりはない」

日向「ああ」

提督「だが、俺がお前を混乱させてしまったのも事実」

日向「……」

提督「一個人として、責任を取りたい」

提督「……」

提督「日向、俺はお前が一番大切だ」

提督「これからも一緒に居よう」

日向「……」

日向「……くくくっ」

提督「……」

日向「その一度きりの嘘が君の回答か」

提督「……」

日向「本当に最低だな。君は」

提督「……」

日向「でもありがとう」

提督「……」

提督「くそっ!!!!!!!!!」

日向「君は正しいよ。間違いなく」

日向「最高の指揮官だけど、最低な男なだけさ」

日向「そして最悪なのは我慢できなかったこの私だ」

日向「これからも他の艦娘たちを平等に大切にしてやってくれ、提督」

日向「何度も言うが君は間違ってない。私が確信を持って保証する」

提督「……」

日向「酔いが醒めてしまったな」

提督「酒を持ってくる」

日向「おっ、あるのか」

提督「ドイツからの派遣艦が手土産に持ってきたビールだ」

日向「いいね」

提督「チーズとベーコンもあるぞ」

日向「早く持って来い」

提督「おう」

日向(彼は翔鶴に対する自分の気持ちに気付いてないのか?)

日向(もしくは敢えて無視しているか……まぁ恐らくこっちだろう)

日向(本当に仕方のない奴だ。多少手伝ってやる必要があるか)

日向(だが)

提督「ほれ、これだ」

日向「資材の備蓄はあまりない癖に、何故食料はこれ程あるんだ」

提督「やかましい」

日向「冗談。私もおこぼれに預かろう」

提督「ふん」


日向(今はもう少しだけ酒を楽しもう)

時雨「提督、また二日酔いですか」

提督「う、うむ」

時雨「ちょっと待っててください。食堂から味噌汁貰ってきます」

提督「ありがとう時雨、頼んだ」

ピーピー

提督(こんな時に司令部から通信?)

提督「どれどれ」

提督「……」

提督「……嘘だろう」

コンコン

提督「入れ」

翔鶴「失礼します」

提督「御苦労」

翔鶴「いえ。お話とは一体何でしょう」

提督「今、我が軍は深海棲艦に対して大規模な反攻作戦を企てている」

翔鶴「……」

提督「今回の目標を効果的に叩くためには奇襲、
   つまり遠距離からの先制攻撃が可能となる航空母艦が多数必要であると上層部は判断した」

提督「我が艦隊からも正規空母一隻作戦によこせ、との司令がたったいま下った」

提督「私はお前を派遣するつもりでいる」

提督「今日呼んだのはその報告の為だ」

翔鶴「……翔鶴型航空母艦、一番艦翔鶴」

翔鶴「その任務、謹んでお受けします」

提督「よし、分かった」

提督「極秘作戦だ。作戦の概要は集合地点に到着してから伝える。今日の夜には出るぞ」

翔鶴「この任務について瑞鶴に話してもよろしいでしょうか」

提督「ならん」

翔鶴「はい。分かりました」

提督「翔鶴」

翔鶴「なんでしょう。提督」

提督「……」

翔鶴「……」

提督「行ってよし」

翔鶴「はい。失礼しました」

提督(指揮官の俺が「行かないでくれ」なんて言えるわけあるか)

提督(翔鶴でなく瑞鶴を派遣する事は、私が艦娘を指揮官として平等に扱う精神に反す)

提督(軍記を守る上でも重要な事だ)

時雨「翔鶴さん……」

翔鶴「大丈夫よ、時雨」

翔鶴「では行ってまいります」

提督「作戦の成功を祈る」

翔鶴「提督、瑞鶴をよろしくお願いします」

提督「分かっている」

コンコン

日向「開いている」

提督「……」

日向「何だ君か」

提督「酒に付き合え」

日向「私は良いが君は弱いのだから。今日だって、」

提督「……」

日向(ただ事じゃないか)

日向「では付き合おう」

日向「なに!? 翔鶴を援軍として送った!?」

提督「うん」

日向「馬鹿なのか君は」

提督「……馬鹿だと?」

日向「そうだ。こんな無謀な作戦に翔鶴を送るなんて、一体何を考えている」

提督「上からの命令だ。仕方あるまい」

日向「そこだ」

提督「なんだ」

日向「今回の君はそこがらしくない」

日向「普段の君ならナメクジのようにうねうねとし、上からの命令を断るだろう」

日向「なのに今回はあっさりと要請にも従う」

日向「おまけに送ったのは自らが一番愛す正規空母翔鶴」

提督「」ブッー

日向「頭がおかしくなったのか? 若くして老害に成り果ててしまったのか?」

提督「愛すとは何だ日向!! 俺はあくまで艦娘を平等に!」

日向「それは指揮官としての君だろう」

日向「私に情けない嘘の告白をした個人としての君はその限りではない」

日向「君だって本当は気付いてるんだろう? 翔鶴の事が好きだと」

提督「……ここからは、個人としての俺の意見だ。断じて指揮官としてでない」

日向「おう。最初からそのつもりだが」

提督「俺は彼女の憂いげな笑みを見ると胸が張り裂けそうになる」

提督「周りに対していつも感謝を忘れず、自らを省みない異常な献身に惹かれてしまう」

提督「何とかして彼女に喜んでもらいたい」

提督「俺が彼女と一緒に居る時は、常にそんな事ばかり考えてしまうのだ」

日向「……振った女の前で意中の人の惚気話をする男か」

日向「最低だ」

提督「俺は友人としてのお前に相談しているんだ」

日向「冗談だ」

提督「さっきのは本気の声だった」

日向「私が教えてやろう。それは恋というやつだ」

提督「これが恋か」

日向「良かったな恋だぞ」

提督「すんなりと腑に落ちた」

日向「自分で気づいていても、他人から言われたい時もあるさ」

日向「すまない。私も、もう少し早く指摘すべきだった」

提督「お前に非は無い」

日向「そうさ。全面的に君が悪い」

提督「やってられんぞ全く」

日向「で、これからどうする。」

提督「うん。単冠に行こうと思う」

日向「そうだな。行くべきだ。今回の作戦は十中八九失敗する」

提督「だが、我々が居ない間の海上護衛はどうする」

日向「お留守番艦隊を編成すればいい」

提督「うちに余力は無いぞ」

日向「駆逐艦三隻残しておけば大丈夫だ」

提督「漣と皐月と文月」

日向「いいんじゃないか」

提督「では出撃は三隈、時雨、木曾、瑞鶴、長月、日向」

日向「まぁ自動的に決定だな。出発は?」

提督「根回しが必要だ。明日の朝になる」

日向「面倒だ」

提督「そう言うな必要な措置だ。運が良ければ補給地点も確保できる」

日向「仕方ないか」

提督「うん。決まりだ」

11月23日

翔鶴「翔鶴型一番艦、翔鶴と申します。よろしくお願いします」

赤城「あら、あなた……日向さんの艦隊に居たの?」

翔鶴「はい!」

赤城「そう。日向さんは元気にしてるかしら」

翔鶴「はい」

赤城「あ、こっちは加賀」

加賀「……」チッ

飛龍「よろしく~」

翔鶴「よろしくお願いします」

翔鶴「残りの空母の方にもご挨拶を……」

赤城「行かなくても大丈夫ですよ」

翔鶴「えっ?」

飛龍「私も昔は驚いたもんだよ~」

加賀「……普通の艦娘は、ほとんど感情を持たない機械なのよ」

赤城「日向さんの艦隊に居た子たちは全然違ったのだけれど……」

赤城「壊れたラジカセを相手にしてるみたいなのよ」

翔鶴「????」


加賀「……実際に喋った方が早いのでは?」

飛龍「そうかもね。じゃあ翔鶴ちゃん、そこの雪風ちゃんに話しかけてみて」

翔鶴「はぁ……?」

翔鶴「雪風さん。初めまして翔鶴と申します」

雪風「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です。私たち主力艦隊型駆逐艦の中で、
十数回以上の主要海戦に参加しながらも、唯一ほとんど無傷で終戦まで生き残りました。
奇跡の駆逐艦って?ううん、奇跡じゃないですっ!」

翔鶴「お噂はかねがね。雪風さんは一人で単冠へ来られたのですか?」

雪風「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です。私たち主力艦隊型駆逐艦の中で、
十数回以上の主要海戦に参加しながらも、唯一ほとんど無傷で終戦まで生き残りました。
奇跡の駆逐艦って?ううん、奇跡じゃないですっ!」

翔鶴「えっ、いや、あの」

雪風「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です。私たち主力艦隊型駆逐艦の中で、
十数回以上の主要海戦に参加しながらも、唯一ほとんど無傷で終戦まで生き残りました。
奇跡の駆逐艦って?ううん、奇跡じゃないですっ!」

翔鶴「……」

赤城「という事なんです」

飛龍「壊れたレコードみたいだよねぇ~」

加賀「……一つ言っておきますが、異常なのは私たちの方ですよ」

翔鶴「私たちが異常?」

加賀「雪風さんは、艦娘として立派にコミュニケーションをしているのです」

翔鶴「でも、会話が全く成立しません」

加賀「名乗られたから名乗り返す。それで終わりです」

翔鶴「そんなの、まるで」

加賀「まるで、何かしら。私達も様々な鎮守府を回るまで忘れていたけれど」

加賀「私たちは単なる兵器なのよ」

赤城「艦娘は人間の言葉を喋るけど、コミュニケーションは人間のものとは違うの」

赤城「他の動物、例えばイルカだって狩りをするとき群れの中で会話をする」

赤城「けれど仮に彼らが日本語を話していたって、私達と日常会話が成立すると思う?」

飛龍「無理でーす♪」

加賀「高度な意思疎通をするというのは言葉が同じだけじゃだめ」

加賀「土台にもっと根本的な、共通の価値観の認識が無いと不可能なの」

赤城「私たちは日向さんの艦隊で、人間に近い物事の捉え方を覚えてしまったのでしょう」

加賀「そして、以前は覚えていたはずの艦娘同士のコミュニケーションを忘れてしまった」

飛龍「あそこの提督は『自分の感情! 感情!』うるさかったもんねぇ」

加賀「本来艦娘にあるのは『喜怒哀楽』、未発達で原始的、野蛮と言っても良い感情です」

加賀「悪く言えばとても動物的、良く言えばとても戦闘向き」

加賀「あとは何故か、必要以上に提督や姉妹艦に対して愛着を抱きます」

加賀「これは恐らく兵器としてのセーフティか戦闘力向上の為でしょう」

加賀「気付けば即座に理解出来るけれど、気付くまでが困難」

飛龍「コロンブスの卵ってやつだねぇ~♪」

加賀「といっても私は、気付いてしまった事を後悔していませんが」

赤城「あら、勿論私もですよ」

飛龍「満足な豚より不満足なソクラテス、ってやつだねぇ~♪」

加賀「飛龍、五月蝿い」

飛龍「あらら」

翔鶴「そんな、事って」

赤城「……この作戦前のタイミングで言うのは不味かったでしょうか」

加賀「別に大丈夫ですよ。五航戦ですし」

飛龍「戦いの最中に気付くよりはマシでしょ」

翔鶴(私の瑞鶴に対する気持ちは偽物……?)

翔鶴(瑞鶴だけじゃない。提督に対する気持ちも)

翔鶴(そんな……)

赤城「翔鶴さんは今、どれが自分の本当の思いか分らず混乱していると思うけど」

赤城「大丈夫よ。貴女は日向さんの艦隊に居たのですもの」

赤城「今の自分を信じて」

飛龍「そうだよ! 私達も通って来た道だよ~」

加賀「ま、未熟な五航戦だから。多少の迷惑は我慢してあげるわ」

赤城「加賀さん、五航戦への差別意識も仕組まれた考え方ですよ」

加賀「わざとです」

ドガン!!!!!!!!!!!

飛龍「むっ!?」

赤城「事故!?」

加賀「……いえ」

ウゥゥゥゥウゥゥゥゥ~~~~!!!!!!

加賀「敵襲です」

落下する瓦礫の音が講堂の中にも大きく響く。
しかし艦娘たちは動こうとしない。

陸奥「だから、私の中で火遊びはやめてって言ったでしょ!ねぇ、聞いてる?」

比叡「ひえー!」

雪風「雪風は沈みません!」

龍田「あはっ♪何か気になる事でも~?」

翔鶴「これは……」

赤城「まさか単冠が攻撃されるなんて、しかもこのタイミングで!!!」

飛龍「みんな到着したばっかりで、指揮系統の統制が滅茶苦茶だよー」

遠征提督A「長官はどこだ! 早急に指揮系統を回復させろ! 有効な防御が出来んぞ!」

遠征提督B「上級指揮官は自宅で宴会やってます!」

遠征提督C「くそっ! 指揮権が無きゃ自分の艦娘も動かせねぇ!!」

遠征提督D「味方の誤爆だ! 単冠が攻撃される訳がない!」

遠征提督E「おい、しっかりしろ! 正気を保て!」

遠征提督F「単冠のレーダーサイトは何やってんだ!!」

金剛「紅茶が飲みたいネー」

蒼龍「航空母艦、蒼龍です。空母機動部隊を編成するなら、私もぜひ入れてね!」

大鳳「はい。最近式の密閉型の格納庫です。流星でも烈風でも問題ありません」

武蔵「どこを見ている?私はここだぞ?」

翔鶴「何故貴女達は戦おうとしないのですか!? ここは危険です!」

赤城「翔鶴さん! 無駄よ! 彼女たちは命令が無いと動けないわ!」

翔鶴「そんな……」

加賀「絶望しても無駄。この場で戦えるのは私達しか居ないと考えた方が良い」

飛龍「いっちょ、やっちゃいましょう!」

加賀「ここに居る艦娘たちは各戦線で一線級の戦力ばかり。沈められれば今後に関わるわ」

赤城「旧型空母をコキ使うのはこの国らしいけれど……頑張りましょう」

飛龍「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ!」

加賀「飛龍、今は夜です」

飛龍「空晴れてるし、基地が燃えて明るいから夜でも問題ナッシング!」

赤城「攻撃隊、全機発艦!」

加賀「基地を直掩します。烈風、全機発艦」

飛龍「見よ! 東方は赤く燃えている! 攻撃隊、直掩隊、全機発艦!」

翔鶴「……負けません! 攻撃隊、全機発艦!」

加賀「その意気ですよ、五航戦」クスッ

11月19日

日向「というわけで翔鶴を助けに行くぞ。明朝には出撃だ。出撃の準備をしてくれ」

提督「弾薬をケチるなよ。厳しい戦いになる」

木曾「北の海か、懐かしいな。俺の庭だぜ」

長月「沈むなよ。心臓発作起こして死ぬぞ」

木曾「はぁ!? 沈むわけねーだろ!?」

時雨「まぁまぁ二人とも」

提督「戦うのは温かい海だ。だが念のため防寒着も持って行け」

三隈「クマリンコ♪」

漣「三隈はここに来て日が浅いから、まだ何言ってるかわかんねーです」

提督「どうせ大したことは言ってない。お洋服の心配だろう」

瑞鶴「……提督さん。お話がある」

提督「ふむ。長くなりそうだから行きの船で聞こう。お前も乗船しろ」

提督「後の者は自分で走ってけ。俺の乗る駆逐艦はもう出るぞ。速攻で追いつけよ」

木曾・時雨・日向・三隈「「「「了解!」」」」

提督「この速度なら翔鶴に追いつけるかもな」

瑞鶴「提督さん」

提督「何だ」

瑞鶴「あなたが翔鶴ねぇを勝手に戦場に送ったのは作戦だから別にいい。許す」

提督「許されるまでもない」

瑞鶴「ねぇ」

瑞鶴「私達って一体何なの」

提督「兵器だ」

瑞鶴「簡単に言いきらないで」

提督「……」

瑞鶴「じゃあ何でこんな思いをさせるの!」

瑞鶴「単なる兵器なら考える事なんてしなくてもいい、何も感じなくてもいい」

瑞鶴「でもあなたは私達に『考えろ、感じろ』と言う」

提督「……」

瑞鶴「日向さんは貴方のせいで苦しんでた。いえ、多分今も苦しんでいる」

瑞鶴「翔鶴ねぇは泣いてた。苦しんでる日向さんを見て泣いていた!」

瑞鶴「私わかんないよ! ここまでして心を大切にしなきゃならない意味が!!」

提督「質問に質問で返す」

提督「瑞鶴、お前は不公正を知っているか」

瑞鶴「……意味分かんない」

提督「例えば資本家に不当に搾取される労働者、例えば黒人奴隷、彼らは社会的に公正か」

提督「否」

提督「不公正極まりない。そんなものが公正であって良い筈がない」

提督「質問その2」

提督「では社会的な公正とは一体何だ」

瑞鶴「わかんないよ!!! そんなの!!!!!!」

提督「公正に明確な定義は無い」

提督「何故なら公正とは、不公正が全て打ち消された先にある未来だからだ」

提督「不公正を乗り越えようと努力し、生じる理解だからだ」

提督「幸せ、不幸せも同じだ」

提督「世界は不幸に満ちている」

提督「本当は幸福だって満ちている」

提督「だが幸せは、不幸せを乗り越えた先にしか存在しない、見えない」

提督「考え、感じなければ届かない場所にあるのだ」

提督「許せとは言わん。俺を恨みたければ恨め」

提督「俺にお前たちを苦しめる権利は無い。これはただのエゴだ」

提督「俺はお前たちに幸せになって欲しい、という糞のような願いだ」

提督「例え深海棲艦との戦争が終わろうと、兵器としての存在価値が無くなろうと」

提督「お前らには幸せであって欲しい」

提督「その為であれば俺は何でもやる」

瑞鶴「そんなの酷いよ……提督さん。私、苦しいよ」

提督「苦しみがお前の存在そのものだ」

提督「慣れることは無い。一生苦しいままだ。俺にはどうにも出来ん」

提督「今は泣け。少しはマシになるはずだ」

瑞鶴「……」

瑞鶴「う、うぅ。うううう!!!!!!」

瑞鶴「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! うぁぁあぁ!!」

瑞鶴「畜生っ!! ちくしょぉおおおおおお!!!!!」

瑞鶴「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!! 苦しい!!!苦しい!!!苦しい!!!!」

瑞鶴「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

提督(本当に素直に泣くとは……)

瑞鶴「うぁああああああああああ!!!!!!!! ああああああああ!!!!!!!」

11月21日

瑞鶴「……」

提督「……どうだ」

瑞鶴「……ホントにちょっとマシかも」

提督「だろう。これも年の功って奴だ」

瑞鶴「ぷっ、あはは、提督さんって意味不明だよね」

提督「そんな事は無いと思うが」

瑞鶴「自分で気づいてないだけで、滅茶苦茶な人だよ」

提督「無茶苦茶さについての自覚ならあるぞ」

瑞鶴「あはは…………Zzz……」

提督(感情を爆発させて、疲れたら眠るか)

提督(まるで動物、いや、以前本で読んだ宇宙の「びっぐばん」のようだ)

提督(この素直な子には、一体どんな未来が待っているのだろう)

提督「……なぁ、翔鶴」

11月23日

単冠基地は夜半、完全に意表を突かれる形で大規模な空襲に晒されていた。

赤城「くっ、何て数!!」

加賀「これは艦載機タイプです。近くまで敵の航空母艦が来ています」

飛龍「ちょいちょいちょい! あの青いの! 敵の新型だよ! 凄い強いよ!」

翔鶴「このままじゃ物量に押しつぶされます!」

赤城「分かっています! 他の艦娘を有効に活用できれば少しは違うのに!」

飛龍「あーっ! 私の艦載機半分やられちゃった!」

加賀「烈風でも抑えきれない……ッ!」

翔鶴「……私が囮になります。その間に艦載機の補給を。基地には搭乗員妖精も居ます」

飛龍「そんな!? 翔鶴ちゃん死んじゃうよ!?」

加賀「五航戦、冗談はやめなさい」

翔鶴「このままじゃ他の人たちが死んでしまいます!」

加賀「くっ」

加賀(五航戦の言う通りだ。このままじゃ皆死ぬ)

赤城「翔鶴さん、五分だけお願いできる」

翔鶴「……はい」

赤城「加賀さん! 飛龍さん!」

加賀「翔鶴さん、必ず戻ってきますから」

飛龍「死んじゃ駄目ですからね! 翔鶴さん!」

翔鶴「赤城さん、加賀さん、飛龍さん。よろしくお願いします」

提督に調達して貰った紫電改二は良い働きをしてくれている。
敵の新型には敵わないが、従来型に対してであれば一対三で負けていても互角に戦っているのが何よりの証拠だ。艦載機搭乗員である妖精さんの腕も良いのだろう。

だが敵の数は非情な程に多く、五分持ちそうにない。
雨のような急降下爆撃にばかり意識を持っていかれ、避けられたはずの雷撃を食らってしまう。

翔鶴(しまっ)

鈍い爆発音と共に艤装が吹き飛ぶ。飛行甲板は確実に中破以上、もう離着陸は不可能だ。

身体は重く、視界は狭まる。
冷たい海に倒れ込めば、さぞ気持ちが良いのだろう。
あまりの気持ちよさに機械仕掛けの心臓が止まってしまう位に。

もう十分頑張った

良くやった。
奇襲の混乱にも関わらず反撃をし、敵に少なからず出血を強いた。

翔鶴(新型の大鳳さんも、最強の戦艦である武蔵さんも、動けなかったのに私は動いた)

翔鶴(兵器としての役目は十分に、十二分に果たした)

眠ろう。この海が私の墓場だ。



俺はその白い髪が好きだ

翔鶴「提督!?」

提督、提督、提督、提督
それしか知らない
名前も知らない私の指揮官
感情を、感覚を、心を大切にしろと常に言い続けた人
私を困らせ苦しめる人

会いたい
また会いたい

会ってこの白く醜い髪を褒めてもらいたい
私を全部無条件で肯定してもらいたい

翔鶴「うああああああ!!!!!!!!!!!!」

私はまだ[ピーーー]なかった
死ぬべきでは無かった

今なら分かる
あの人が言い続けていた言葉の意味
苦しみを乗り越えた先にある光が、私には見える

翔鶴「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

既に放つべき艦載機は残っていない
上空に私の直掩機は一つも残っていない
代わりに空を隠す雲霞の如き敵艦載機の群れが見える

翔鶴「まだぁ!!!! 私は死にたくない!!!!!!!!!!」

急降下してきた敵の艦爆を矢の切れた弓を振り回し追い払う
木製の棒など振り回したところで大した威力にもならず、当てても破壊は出来なかった
敵艦載機は鬱陶しそうに、振り回す弓の射程外を飛び回る

翔鶴「助けて!!!! 誰か助けて!!!!」

兵器としてでなく、人間としていきたい
この時私は強く思った

「随分と良い女になったな翔鶴」

後ろから声がした

「自己犠牲でない、我がままを言える良い女に免じて俺が助けてやろう」

ああ、やっと来てくれた

提督「日向艦隊! 攻撃開始!」

雷鳴のような轟の後、私の上に存在していた敵艦載機群は一瞬で燃え尽きた


日向「うむ。我ながらいい着弾だ。そう思うだろう? 三隈」

三隈「クマッ!」

提督「うむ。三式弾の威力、あっ晴れ!」

時雨「敵空母機動部隊を視認! 座標送ります!」

長月「これは駆逐艦の間合いだよ! 行くぞ時雨! 酸素魚雷用意!」

時雨「待ってよ長月! 僕も正規空母を沈めるんだからね!」

重雷装巡洋艦・木曾「ほらほらほら! この雷撃避けられるか!」

敵奇襲部隊は、後方からの奇襲により完全に浮足立った

提督「単冠の指揮系統はどうなっている! 使える艦娘は居ないのか!」

遠征提督B「先程長官が到着された! あと少しだ! 何とか持ちこたえてくれ!」

提督「聞いたか私の艦娘諸君! 我々は無能を愛そう! 攻撃せよ、攻撃せよ、攻撃せよ!」


日向「どれ、敵の新型戦艦……ワ、カ、ヨ、タ、……レ級でいいのか? 相手になろう!」

三隈「クマリンコ……」

日向「よし、三隈、その意気だ」

赤城「翔鶴さん、お待たせしました!」ゲップ

加賀「翔鶴さん! 無事!?」

飛龍「凄いよ! 奇跡だよ!」

提督「おっ、お前ら久しぶりだな」

赤城「あら提督、奇遇ですねこんなところで」

加賀「来るのが遅いですよ」

飛龍「すっごい久しぶりだね!」

提督「まぁ今はいい。南雲機動部隊の栄光、再び俺に見せてくれ」

赤城「お任せっ!」

加賀「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

飛龍「友永隊、発艦してください!」

時雨「そこっ!」

ヲ級「……ッ!?」

長月「良くやった時雨! これで正規空母三隻目だ!」

木曾「どうしたー? こんなもんかー?」ドンッドンッ

木曾(敵が態勢を立て直しつつある。あと雷撃三回、いや二回が限界だ)

木曾「時雨! 長月! あと二回だ!」

時雨「了解!」

長月「了解だっ!」

提督「翔鶴、無事か」

翔鶴「はい。おかげさまです」

提督「今回はお前の粘り勝ちだ。誇れ」

翔鶴「……はいっ!」

瑞鶴「まーったく。いっちゃいちゃなら後でやれば良いじゃない」

翔鶴「瑞鶴!」

瑞鶴「そうです。貴女の妹、瑞鶴です」

提督「翔鶴、お前の為の予備装備がこの駆逐艦には積んである。使え」

翔鶴「はい!」

瑞鶴「翔鶴ねぇ準備いい?」

翔鶴「瑞鶴は先に出撃してていいのに」

瑞鶴「こういうのは見せ方が大切なのよ」

翔鶴「……なるほど。確かにね」

瑞鶴「……」クスッ

翔鶴「もう、笑わないで!」

瑞鶴「じゃあ行くよ?」

翔鶴「ええ」



瑞鶴「五航戦!」

翔鶴「翔鶴!」

瑞鶴「瑞鶴!」

翔鶴・瑞鶴「「出ます!」」

 後に単冠湾夜戦と呼ばれるこの戦いにおいて、人類側は大攻勢前の油断から、
深海棲艦側に逆に奇襲を食らってしまう。混乱する戦場、
圧倒的不利な状況下において勇戦し味方側の損害を最小限に留めた一部艦娘の英雄的行為は、
通常の艦娘ではありえない指揮系統からの逸脱を咎められ相殺された。

 最終的に人類側(艦娘側)は大破判定を大多数の艦艇が食らったが、
奇跡的に沈没艦は無く、各艦ともに修理を終えると自らのあるべき鎮守府へと戻って行った。
ハワイへの大攻勢は当然ながら中止となった。

 深海棲艦側の損害は明らかになっていない。
駆逐艦二隻、重雷装巡洋艦一隻により正規空母級六隻の撃沈が報告されているが、
総司令部は偽証報告として取り合わなかった。尚、敵側には戦艦レ級なる存在が新たに確認されており、
今後も各戦線で詳しい情報を求め続けるものである。

提督「やはりこの場所は良いな」

翔鶴「特に、どこが良いのですか」

提督「……太ももの柔らかさ、とか」

翔鶴「へぇ、そうなんですね」

提督「君は相変わらず美しい」

翔鶴「私くらいなんていくらでも居ますよ」

提督「俺は君の白い髪が好きだ」

翔鶴「ありがとうございます。私も提督のごわごわした髪の毛、実は嫌いじゃないです」


提督「……」


提督「ふっ……」


提督「くくくっ……」


提督「あーっはっはっはっは!!!!!」


翔鶴「……」クスッ


提督「ははは!!! あーははっはは!!!!」

日向「ま、話はこれで終わりだな」

END

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月26日 (水) 09:31:55   ID: DbmTFfLZ

最後の受け身でない翔鶴さんの成長を感じた。

日向さんは良い悪友だな

2 :  SS好きの774さん   2014年03月26日 (水) 18:27:54   ID: 0OdXbxkE

いやー、久しぶりに感動できるSSだったわ
乙でした!

3 :  >>1   2014年07月04日 (金) 09:13:47   ID: 22tOLFuY

作者です。宣伝です。

【艦これ】日向「ああ、新しく入る五航戦姉妹か。よろしく頼む」
【艦これ】日向「もうこれ翔鶴に言わせろよ」
【艦これ】日向「あー、暇だな」
【艦これ】日向「ふーん、三隈か。よろしく頼む」
【艦これ】日向「さよなら」←現行

の上から順に続き物になっています。
よろしければ他のも見てね

4 :  SS好きの774さん   2015年05月09日 (土) 23:31:42   ID: KeiBgJ_u

昔読んだな
このss好きだわ

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