勇者「勇者とは魔王を倒した後……」(525)

師匠「遂にこの日が来たか……」

勇者「はい」

師匠「夢に現れた神々のお言葉、その神託を受けて孤児だったお前を育ててきた」

師匠「私から教えられる事は全て教えた。後はお前次第だ」

勇者「分かっております」

勇者「しかし、未だに師匠の全力の太刀筋を捉えられもしないのに……」

師匠「っは、お前は自慢の息子だが……四半世紀も生きておらんお前に追いつかれてたまるか」

勇者「しかしそれでは……」

師匠「いいか……私が教えた事全てをお前がこなせる、身につけているとは思わん」

師匠「だが確かに教えたし、お前も見聞きしてきた」

師匠「何れ、それがお前の中に生きる事もあるだろう」

勇者「師匠……」

師匠「捉えきれなかった太刀筋を幾度と無くお前に叩き込んだ」

師匠「何時の日かそれも、お前の体が思い出しお前の力になるやもしれん」

師匠「行け。そして見事、魔王を打ち倒すのだ」

勇者(聞く話によれば、魔王城は雪の国より更に北東)

勇者(極寒の地にあるらしいが……遠いな)

勇者(ここ、森の国から真っ直ぐ北に向かえればいいが、吹雪く山岳地帯を超えるのは……)

勇者(やはり一度南西の水の国に向かい、そこから北北西の雪の国……)

勇者(魔王城へはそれから考えるとしよう)

勇者「さて……」

森の城 王の間
国王「この者が? まだまだ若いな」

側近「しかし火の国の剣豪が預かった神託の子である事は間違いありません」

国王「ふむ……」

勇者「……」ゴクリ

国王「現状、各国が兵を派遣し、雪の国に対し支援を行っている」

国王「が、あの銀世界だ。各国の兵の力は半減もいいところ」

国王「何とか戦線を維持しているが、それも何時崩れさるのやら……」

勇者「そ、そのような緊迫した状態なのですか?!」

国王「他言は無用だぞ」

勇者「は、はい!」

国王「私はな、そなたの様な若者が魔王を倒すなど絵空事を信じてはおらん」

国王「が、それでもこれより魔王討伐に向けて旅立つのだ。必要な事を話しておる」

国王「この意味、分かるな?」

勇者「……」

国王「やはり若者には分からん話か」

側近「陛下」

国王「む、もう良い下がれ。支度金程度は用意してある。精々無駄死にしなんよう気をつけるといい」

勇者「2,000Gに薬草袋が五つ……これは、火炎魔法の魔石が三つか」

勇者「……いや、何処の馬の骨とも知れない者に支援して下さったのだ」

勇者「これだけでも多大なご支援賜ったものだと思わねば」

勇者「さて、次に目指すべきは」


酒場
主人「仲間ぁ? 荒くれ者ならいるが……流石になぁ」

勇者「そう、ですか」

荒くれA「よう、兄ちゃん! 腰の袋が重たそうだなぁ!」

荒くれB「俺らが軽くしてやるよぉ」サッ

勇者「!」バッ

荒くれB「いででででで!!」

勇者「止めて下さい」

勇者「自分は騎士にして剣豪であった火の国の者より訓練を受けた者です」

荒くれA「ひぃ!」

主人「へぇ」

主人「実力申し分無しって所か」

主人「だが、残念だがそれでもあんたについてく人はいないだろうな」

勇者「いえ……分かっています」


勇者「やはり一人か……」

勇者「行くか……」

ゴブリンA「フゴフゴ」

ゴブリンB「フゴーー!」バッ

勇者「……」ギィン ガッ

ゴブリンB「ゴ?!」

勇者「たあっ!」ザン

ゴブリンB「ゴフッ」

ゴブリンA「!」

勇者「はっ!」ザッ

ゴブリンA「ブフッ」ブシュァ

人食い鳥A「ゲェェェ!」

人食い鳥B「キェェェ!」

猛犬「ウルルル」

勇者「火炎魔法!」ボボォ

人食い鳥A「グゲエエエエ!」

人食いB「ギョギョ!」バサァ

猛犬「ウウウウ!」バッ

人食い鳥B「ゲゲゲ!」バササ

勇者「遅い!」バシュッ

猛犬「ウルル……ガウ」ダッ

勇者「風矢魔法!」ビュ

猛犬「キャイン!」

勇者「……ふう」

勇者「流石にこんな戦い方では魔力がもたないな」


勇者(得意ではないが強化魔法を習得しないとな……)

勇者(道中少しでも魔道書を読み進めて理解していかないと)

勇者「……」

勇者「筋力強化魔法」ポスン

勇者「……」

勇者「成功しないんだよなぁ……」

オークA「人間だぁ! ぶち殺」ザンッ

勇者「たあああ!」ヒュンヒュヒン

オークB「があっ!」

オークC「ぐぉ!」

オークD「こ、こいつ、つぇぇ!」

オークE「囲め! 袋叩きに!」

勇者「風圧魔法!」ボボォ

オークD「うお!」ドテ

オークF「吹き飛ばされ……!」

勇者「駆け抜け斬り!」ババッ

オークD「があ!」

オークE「ぎぃっ!」

オークF「う、おお……!」ノタノタ

勇者「逃がすか!」バッ

勇者「たああ!」ザン

オークF「ぐあああ!」

勇者「ふう……だいぶ来たな」サラサラ

勇者「小川が増えてきたし、水の国の領土内目前か?」

勇者「……建物? あれは……」


水の国-森の国 関所

兵士A「何者だ」

勇者「魔王を倒すべく旅をしている者だ。森の国の王より手形も賜っている」

兵士B「ふむ……本物のようだな」

兵士A「一人で旅を……? それも魔王を倒すだと?」

勇者「できるかどうかは分からないがな」

兵士B「大きな戦闘は雪の国だが、魔物達の部隊は各地に入り込んできている」

兵士A「こちらの領土内でもオークの軍団が確認されている。気をつけろよ」

勇者「ああ、そうさせてもらうよ」


店員「お待たせしましたー白身魚のムニエルとパンのセットメニューです」

勇者「どうも」

勇者「そういえば、オークの軍団がいるらしい話を聞きましたが、どの辺りと言う話とかってありますか?」

店員「うーん、この辺りはあまり聞きませんね」

店員「あ、北の森に大きな魔物が現れたらしいですよ」

店員「何でもすっごい硬くって出撃した軍と膠着状態らしいですよ」

勇者(大きな魔物か……)

北の森
勇者「……ここが」

勇者「静かだ……鳥も獣もいない。件の魔物所為か?」

勇者「おっと」ガッ

勇者「なんだ?」

兵士「」

勇者(腹部から右肩にかけてザックリと抉られている……)

勇者(鎧ごとか……膠着状態? 情報操作でもされていそうだな)ザッ

兵士A「く、くそ! せめて援軍が来るまで!」

鎧甲虫「無駄、だ……人間、如き。貫いて、やる」キチキチ

兵士B「く!」ビュッ

鎧甲虫「無駄、無駄」カァン

兵士C「せめて後ろに回りこみさえすれば……」ギリ

勇者「ここか」ガザザ

鎧甲虫「!」

兵士A「な……」

兵士A「逃げろ! こいつはただの魔物じゃない!」

勇者「私は魔王討伐の旅をしている勇者という者だ。あの魔物の相手をする」

兵士C「勇者……? 森の国で噂されていた?」

兵士B「一人? いや伏兵くらい……すまない、任せるぞ!」

兵士A「すぐに援軍と共に再戦する! 無理はするな!」

勇者「……」

勇者「待っていてくれたのか?」

鎧甲虫「勇、者……最優先、殺せ……邪魔者は要らず」キチキチキチ

勇者(虫型……初めて見るがあの外骨格は厄介そうだな)

鎧甲虫「死ね」ダッザザザザザ

勇者(早い! だが!)バッ

鎧甲虫「!」ザザザーー

鎧甲虫「避けた? 早い。勇者、強い?」キチキチ

勇者「……」スッ

鎧甲虫「殺す、勇者。殺せ、殺せ」ギチギチギチ

鎧甲虫「勇者ぁ!」ダッ

勇者「ふっ」バッ

勇者「たあっ!」ギィィン

鎧甲虫「効か、ない。無駄」ザザァァ

鎧甲虫「ここで、死ね」ザッダダダ

勇者「火炎魔法! 氷結魔法!」ゴゴォ カッ

鎧甲虫「無駄、無駄、無駄」ボボォ ピシ

鎧甲虫「!」ピキピキピキ

鎧甲虫「ふんっ」バキパリーン

勇者(凍結さえもか……)

鎧甲虫「お前、無駄」ドッ

勇者「……」スゥ

鎧甲虫「諦めろ、死ね」ドドドド

勇者「!」ヒラリ

鎧甲虫「また、避け」

勇者「いや」クワッ

勇者「鎧通し!」ヒュン

鎧甲虫「グアッ」ドザァ

鎧甲虫「な、に?」

勇者「完全に体表が硬化しているモノと違い、お前達にしろ人間にしろ鎧には僅かながらも隙間がある」

勇者「そこを通し、その外殻と中身に傷をつける……それが鎧通しだ」

鎧甲虫「一撃、食らっただけ……お前、一撃で死ぬ」ググ

鎧甲虫「お前より、早く、早く」ドゥッ

勇者(しかしその直線攻撃は見切りさえすれば)

勇者「鎧通し」シュン

鎧甲虫「ガアッ!」ドドン

勇者「背中を見せたな」

鎧甲虫「ウグ、グ」グググ

勇者「鎧通し!」ザン

鎧甲虫「ガッ!」

勇者「三点通せばいかに巨体と言えど」グッ

勇者「鎧剥き!」バリッ

鎧甲虫「!!!」ビグン

外殻「」ガラァンガラァァン

鎧甲虫「ア、グ……勇者、強い」

勇者「……無防備であれば」スゥ

勇者「百烈斬!」ザザザザン

鎧甲虫「ガアア! ガ、ア……」ドザァァ

勇者「……」ヒュン ッチン

勇者「一先ずは勝てたか……しかしこんな所で居座る敵がこれほどとは」

勇者(先が思いやられるな……やはりもっと強くならねば)


勇者「……」ザッザッ

兵士A「え? あれ?!」

兵士B「無事だったのか?!」

勇者「あの魔物ならこの奥にいます。絶命しているはずですが念の為に焼き払った方がいいでしょう」

勇者「自分の魔法では焼ききれないのでよろしくお願いします」

勇者(ここから首都である水の城下町まで一本道か……ん?)

行商「傭兵募集中だよぉ! 行き先は水の城下町だ! 魔物との戦闘をしてくれるなら乗せていくよ!」


勇者(これで一週間以上かかるだろうところが三日程度でつけそうだな)ガラガラガラ

行商「助かるよ。しかも勇者ってやつなんだって?」

勇者「ええ、まあ」

行商「もうその話が出てから十年ちょっと……早いもんだなぁ」

行商「大変なんだろうけども頑張ってくれよぉ」

勇者「ええ、ありがとうございます」

行商「ん……? え? あれ?!」

勇者「どうしま……なっ」


オークA「おー? 人間の馬車かぁ?」

オークB「へっへへ、美味そうな女でもいねぇかな」

オークC「気合いれてくぞぉ!」

オーク兵「貴様ら! 魔王様の御威光、奴らに見せてやるのだ!」

オーク達「おおおおおお!!」

行商「お、終わった……終わった」

勇者「流石にこの数は……逃げて下さい。俺が時間を稼ぎます」

行商「えええ?! 無理無理無理! 一緒に逃げようよ!」

勇者「いいえ」バッ

勇者「これでも魔王を討つ勇者ですから」

勇者「……」スゥゥ フゥ

勇者「俊敏強化魔法!」カッ

勇者「……」シュゥゥゥ

オークA「そぅらひとぉぉり!!」ブォン

勇者「」シュン

オークA「?!」スカッ

オークB「がああ!」ブシュァァ

勇者(成功した……強化魔法、まともに!)

オークG「があ!」

オークI「ぎゃああ!」

オークJ「こ、こいつなんて強」ザッ

オークK「単体で突っ込むな! 複数で叩け!」

オークL「うおおお!」

オークN「よっしゃあ!」

オークO「取り囲めぇ!」

オークM「退路を封じるぜぇ!」ババ

勇者「……」

勇者「風塵魔法!」ブアァァァ

オークL「ぐお!」

オークM「目、目がぁ!」

勇者「……」ヒヒュン ヒュンフォン

オークO「があっ!」

オークN「げぁ!」

オーク兵士「ふむ……」

オーク兵士「下がれ」

オークK「へ、兵士さん……」

オーク兵士「これ以上部下を失う訳にはいかない」

オーク兵士「人間よ、貴様を強敵とみなし私自らが相手をしてやろう」

勇者「……」

勇者(不味い……強化魔法がきれる)

オーク兵士「いくぞぉぉ!!」ゴァァ

勇者「筋力強化魔法!」プスン

オーク兵士「! この好機、見逃さんぞ!」

勇者「しゅ、俊敏強化魔法!」カッ

オーク兵士「ちっ……しかし、先ほどと同じであれば!」ブァ

勇者「ふっ」ガギィィン

勇者(避けられなかった……オークとは思えない速さだ……)グググ

勇者「だがっ!」ガギィン

オーク兵士「! 押し返すか!」

勇者「いくぞ!」

勇者「たあ! やあ!」ギィィィンヒュン

オーク兵士「く! たあ!」ガギィンギィィン

オークK「支援したいが……これでは到底」

オークQ「あ、ああ……」

オーク兵士「たああああ!」ガギィィィン

勇者「くっ」ヨロ

オーク兵士「もらったぁぁ!!」ブォ

勇者「」フッ

オーク兵士「!?」ォン

オークK「また消え……」

オークQ「大振りになったところを! 見切られた!?」

勇者「……っふぅ!」ザッ

オーク兵士「……」

オーク兵士「ぐぅふ」ザシュゥゥゥ

オーク兵士「敵ながら見事、だ」ドザッ

勇者「ふぅ……ふぅ……」チラ

オークK「お、おお……」

オークQ「に、逃げ」ドッ

兵士達「射れーーー!」

商人「うおおおい! 大丈夫かーー! 兵士に来てもらったぞぉ!!」

オークR「く、くそ!」

勇者「追撃は……必要無さそうだな」

勇者「……」ガラガラガラ

商人「にしても一人であれだけの数を半分以上倒しちまうだなんて」

商人「本当に凄いなぁ」

勇者「いえいえ、そんな」

勇者「とは言えあの程度、一人で乗り越えられないで魔王なんてとても勝ち目がありませんからね」

勇者「まだまだ精進が足りませんよ」

商人「せめて仲間でいれば勇者様ももっと楽できるだろうになぁ」

勇者「ははは、無い物強請りはしませんよ」

水の国 城下町
商人「これ、持っていっておくれ」

勇者「上級薬草……いいのですか?」

商人「俺にはこんくらいしか勇者様の助けはできないけどもさぁ」

勇者「いえいえ、ありがとうございます」

商人「達者でなぁ」

勇者「はい、ありがとうございます」

酒場
主人「残念ながらそういう連中はここらにはいないよ」

勇者「そうですか……」

主人「よっぽど城の騎士とかの方が仲間になってくれるんじゃないかねぇ」

勇者「それなら初めから付き人がいるのでしょうね」

主人「ちげえねぇな」

主人「ま、何にせよあんま気張んなよ。無理したってそう変わるもんでもねぇ」

勇者「そうですね……」

「お、マスターが珍しく饒舌じゃねぇか」

「なんだこの坊主は」

「聞いていたぜ。噂の勇者様なんだろ? 森の国からここまで一人か……大したもんだよ」

「マジか?! すげえなぁ……俺らにぁできねえな」

「おっしゃ景気付けだ! マスター! 勇者様にエールを一杯!」

主人「あいよ」

勇者「え? え? いや、自分は」

「俺達はあんたの助けになれねえからよ。せめてこんぐれえさせてくれよ」

「いや、てか勇者様呑めなかったら迷惑じゃねえか?」

「じゃあ食いもんだ! 魚の揚げもんだ! 水の国の魚は美味いぞお!」ドン

「水が綺麗だから作物もよく育つ。そら揚げ豆腐だ!」ドン

「ここの山葵超美味いんだぞ。このまま食ってみろよ」コトン

勇者「おおう、おお……」

勇者「げっふぅ」フラフラ

勇者「う~食べ過ぎた……今日は大人しく宿屋で寝よう」

勇者「……」

勇者「たまにはこういうのもいいな……はは」

勇者「明日からまた頑張らないとな……うっぷ」

勇者(ここから北に向かい、雪の国への山道を抜けて……そこからだな、ある意味本番は)


勇者「たあああ!」ザンッ

ゴーレム「ゴゴゴ」

勇者「鎧通し!」ザッ

ゴーレム「ゴ!」

勇者「剥くまでも無い、疾風突き!」ヒュッ

北の町
「これが地図となっております」

「……今、あちらは緊迫した状況ですよ」

勇者「だからこそ行くんですよ……」


勇者「だからこそ、か……」

勇者(そもそも勇者とは、今までは何かをなした者に国王より賜る称号)

勇者(だからこそ……自分が道化ではないかと不安になる……いや、弱気になるな)

勇者(師匠から教わった事は決して価値の低いものではない。だからこそ、一人旅でここまで来れた)

勇者(これから先も……)

勇者「……」ザッザッザッ

勇者「ふう……だいぶ来たな」ハラ

勇者「雪か……」ハラ ハラ

勇者「森の国でも時たま積もるが……こちらではこんなに早く降り出すのか」

勇者「……連合軍はもっと深い雪の中で戦っているのか」

勇者「連合軍でさえ退けられない魔王軍」

勇者「それを束ねる魔王……本当に俺一人で倒せるのだろうか……」

勇者「いや、弱気になるな。勝つだけだ」

ホワイトベアー「ガアアア!!」ドォ

勇者「くっ!」バッ

勇者(雪で足を取られる! 戦い辛い!)

ホワイトベアー「ゥゥゥ……ガアア!」ドドド

勇者「筋力強化魔法!」カッ

勇者「うおおおおお!」ドッ

ホワイトベアー「グゥ!」ドガァ

勇者「避けられないのなら受け止める!!」

勇者「そして!」クワッ

勇者「兜割り!!」シュン

ホワイトベアー「ガ……」ブシュアァァ

勇者「く……」バッ

ホワイトベアー「」ドザァン

勇者「はぁ……はぁ……あれで力負けしていたら一分の勝機も無かったな」

勇者「……急ごう」

勇者「早く連合軍と合流して、敵軍を破らないと魔王城まで辿り着けないぞ……」

兵士A「ぐあああああ!」

兵士B「くそ! 吹雪が強くなってきた! 退け! 退くんだ!」ビュァァ

兵士D「分が悪い……力負けしているのに風下とは」

騎士A「全部隊、転進し交代せよ! 魔法部隊! 雷撃系魔法で支援砲撃! 前衛の撤退を助けろ!」

騎士B「弓兵部隊は周囲にトラップを仕掛けろ! 追いつかせるな!」


勇者「何て酷い戦況だ……」

勇者「俺はどう動くべきだ……敵に奇襲? しかし支援砲撃がある……巻き込まれるわけには」

勇者「別の方角から魔法で攻撃して注意を引き付けるか……」

勇者「雷撃魔法! 雷球魔法!」ビシャア バヂ バヂヂヂ

勇者「……どうだ?」

勇者「! 進路を変えた! って、おいおい多すぎだろ! 二発の魔法でどんだけ向かってくるんだ!」

勇者「……しまった、本隊の追撃諦めて陽動部隊だけでも壊滅させる選択もあったか」

勇者「くそ……逃げ切れるか? 追いつかれたら物量差で勝てない!」ザザザ

魔王軍「どっちだ! どっちへ行った!」

魔王軍「陽動だ! 味方の方には向かうまい」

魔王軍「探し出せ! 必ず殺せぇ!」


勇者「はぁ! はぁ! はぁ!」ザッザッザッザッ

勇者「失敗した、くそ……不味い、距離が縮まっていく……」

勇者「やり過ごす? 敵が多い! 探し出されるのがオチか!」


魔王軍「! 人影を視認!」

魔王軍「方角は!」

魔王軍「真方位1-9-5!」

勇者「!」ゾワッ

勇者「なんだ、この殺気……完全に見つかったか!?」

勇者「……! 雷撃魔法! 雷撃魔法!」


魔王軍「ぐああああ!」ビシャアア

魔王軍「攻撃? 見つかった事がばれたか」

魔王軍「第二、三班は真方位1-8-0、第六班は真方位2-1-5より回り込め!」

魔王軍「絶対に逃がすな! 殺せ!」

勇者「駄目か……! ならば、せめて」バッ

勇者「せめて! 敵の数を!」

勇者「筋力強化魔法! 俊敏強化魔法! 魔力強化魔法!」カッ

勇者「……」ィィン

勇者「雷撃魔法!!」カッ


魔王軍「ぐおおお!」ビシャアアアア

魔王軍「ぐがっ!」ァァァァ

魔王軍「さきほどまでと威力が……迎え撃つつもりか?! それほどの戦力があるとでも……」

魔王軍「構うな! 最後の足掻きだろう!」

勇者「来た!」

魔王軍「いたぞ! 一人だ!」

勇者「駆け抜け斬り!」ドゥッ

魔王軍「ぐああ!」ザシュゥ

魔王軍「ぐぉ!」ブシュ

魔王軍「馬鹿め! 自分から飛び出してき」

勇者「爆破魔法!」カッ

ドドドォォォン
魔王軍「く……自身の周囲にだと……」

魔王軍「あの男、装備が連合軍のものとは違った……それに単独行動だと」

魔王軍「まさか勇者と呼ばれる男……!」

魔王軍「気をつけろ……そうであれば今までの相手とは違うぞ!」


勇者(ヒットアンドウェイで取り囲まれないようにしなければ)ザザザ

勇者(そろそろもう一回反撃と行くか)

勇者(同じ手は危険だろうな……であれば)


魔王軍「突き進め! 奴の戦力は脅威だ! 必ず討ち取るぞ!」

魔王軍「うおおお!」ドドド バヂ

魔王軍「な、なん」バヂヂヂヂ

魔王軍「ぐあああああ!!」

魔王軍「雷球魔法?! 飛ばさずにここに置いていたのか!」

魔王軍「ぐああああ!」ザシュゥ

勇者「……」ヒュンヒャン

魔王軍「ぐお!」ザン

魔王軍「こいつ……!」

勇者「風塵魔法!」ドバァァァァ

魔王軍「雪で視界が!」

魔王軍「く!」

魔王軍「面白い……環境を逆手に取るか。強い……そうでなくては!」


勇者(考えろ……奇襲と撤退の策を……尽きたら負ける!)ドザザ

魔王軍「ようやく回りこめたか!」ザザザ

勇者「な!」

勇者(初めから回り込もうとしていた部隊がいたのか!)

勇者(迂闊! なんとしてでも抜けなければ挟撃にあう!)

魔王軍「周囲を固めろ! 時間を稼げ! 行くぞ!」

勇者「ふ、風塵魔法!」ドバアアアアア

魔王軍「なに?!」

魔王軍「目暗まし?! 小癪な!」

魔王軍「広く展開しろ!」

勇者(抜けきれない!)ザザ

勇者「邪魔だ!」ヒン

魔王軍「とぉっ!」ガギィィン

勇者「くそ……」

勇者「爆破魔法!」カッ


勇者「はぁっはぁっはぁっ!」ザザザ

勇者(同じ策が効いた……奇襲前に別れた部隊だったのか! 助かった!)

魔王軍「来たぞ!」

魔王軍「先の戦闘、見させてもらったぜ」ババッ

勇者「な……」

勇者(他にも部隊が……どう抜ける……どうしたら)

魔王軍「終わりだ!」ドドド

勇者「くっ!」ヒュン

魔王軍「ぐ!」ザシュ

魔王軍「貴様の気力が尽きるまでぇ!」ドド

勇者(不味い不味い不味い不味い)ダラダラダラ

魔王軍「見つけたぞー! 急げ!」

魔王軍「別の部隊が足止めをしている! 好機だ!」

勇者(ここまでかっ!)

ドドドドドォォォン
魔王軍「ぎゃああああ!!」

勇者「え?!」

魔王軍「なんだ?! 魔法?!」

魔王軍「しかし今のは!」


兵士「近、近、遠、夾叉!」

騎士「砲撃、開始」バッ

魔法部隊「爆撃魔法、撃ち方ぁ始め!!」キィィィン

勇者「何故……撤退をしていたのでは」ドドドドンドドン

騎士「魔法部隊は支援魔法に移れ! 突撃開始!」

兵士「うおおおおお!」ドドドド

魔王軍「馬鹿な! こんな!」

魔王軍「誘い込まれただと!?」

勇者「っは! 今こそ反撃の!」クワッ

勇者「たあああああ!」ヒュヒュンヒョォン

魔王軍「ぐあああ!」

魔王軍「こ、後退しろ! 本隊と合流し迎撃に当たらねば!」

兵士「前方より敵本隊を確認! 周囲に散開しつつ向かってきます!」

騎士「この戦線、数でさえ負けているというのに……取り囲むつもりか」

勇者「……」

勇者(恐らく……この敵戦力には戦線を維持できないほどの打撃を与える事はできるだろう)

勇者(しかしそれはこちらも……彼らも多くを失う事になる……何か、何かできないのか……俺は)


魔王軍「小賢しい真似を……」

魔王軍「総員特攻せよ! 仮にここで我が部隊が大打撃を被ろうとも、敵戦力を大きく削ぐ事ができれば」

魔王軍「後方部隊の進軍を大きく有利にさせられる!」

魔王軍「うおおおおお!! 玉砕しようとも人間を殺し尽くせぇぇ!! 勇者を殺せぇぇぇ!」

騎士「何と言う気迫だ」ビリビリ

兵士「い、一部で士気が落ちています!」

騎士「それでも誇り高き国王陛下の兵士か! この者はただ一人で魔王軍の陽動を行おうと決起していたのだぞ!」

勇者(このままでは……)ギリ

勇者(あ……なんだ……意識が……)キィィン


『聞こえますか……この声が……』

勇者(これは……なんだ)

『今こそ貴方の中に眠る力を目覚めさせる時です』

勇者(これが神の声か……師匠が聞いたという……)

『……貴方には人の身でありながら、それ以上の重荷を背負わせてしまい本当に申し訳ありません』

『ですが……貴方の中にある力がどうしても必要だったのです』

勇者(そうか……それが……これが神が定める勇者)

『そうです……我々が勇者とみなす者、貴方はその初めての一人なのです』

勇者(現状を変える力、魔王を倒せる力であるならば……何でも縋ります)

『違います……貴方が生まれもった力です。我々はそれを目覚めさせる手助けするに過ぎません』

『その力をもって魔王を倒してください……ずっと一人でよく頑張って下さりました』

『今しばらく、あと少しでいいのです……戦い抜いてく下さい』

勇者(……。それは……)

勇者(……それは違います。旅は一人でしたが一人だけで戦ってきていません)

勇者(自分を息子として育て、その人生で学んだ事全てを継がせようとしてくれた人)

勇者(少しでも力になろうと手助けしてくれた人……道中に親切にしてくれた人々)

勇者(そして今こうして……自分を助けに来てくれた人々)

勇者(自分は一人だ戦っていません)

『……だからこそ、貴方に力が眠るのでしょうね』

勇者(え?)

『いえ……さあ、目覚めなさい。その時には、貴方の真なる力が芽吹いている事でしょう……』


騎士「……! ……りしろ! 大丈夫か!」

勇者「! あ、あれ……?」

兵士「不味い……取り逃がした上に合流された!」

騎士「……く! やはり、撤退すべきか……しかし今からでは」

勇者「……」トクン トクン

勇者(これが力……俺の……)

勇者(この……湧き上がる力が!)クワッ

兵士「え?」

勇者「……」ドゥッ

騎士「ま、待て! ひと……なんだ、あの速さは!」

魔王軍「あれは……? 勇者か!」

魔王軍「馬鹿め! 一人で……待て、なんだあれ」

魔王軍「は、速い! く、来るぞ! 迎えう」ザシュ

勇者「おおおおおお!!」

魔王軍「ぐああああ!」ザザン

魔王軍「な、これが人間だという」ザシュ

勇者「これが、俺の……!」

魔王軍「どうなってやがる……何故こんな急に……」

魔王軍「速さだけの雑魚などっ!」ドォォ

魔王軍「我が巨体からの一撃ぃぃ!!」ブォ

勇者「っふ!」ガギャァァン

魔王軍「う、受け止めた……馬鹿な! この体格差だぞ!」

勇者「爆撃、魔法!」キィィン

魔王軍「使えたのか!」ォォ

魔王軍「爆破だけじゃな」カッ

ドドドォォン
兵士「な、何て強さだ」

兵士「俺達必要なくないか」

騎士「妙だ……今までの動きとは違いすぎる」

騎士「まさか……これが神々に選ばれた勇者の力なのか」

兵士「目覚めた、みたいなか?」

騎士「……」

騎士「総員突撃準備! 勇者様の支援を行うぞ! この戦線、奪い返す!」

勇者「はあああ!」

魔王軍「く、くそおおお!」ザシュゥ

魔王軍「貰ったぁ!」

勇者「!」

勇者(流石にこれは!)

魔王軍「ぎゃああ!」ザン

勇者「……え?」

兵士「背後は任せてくれ! 総員! 勇者様の近辺を固めろ!」

魔法部隊「回り込もうとしている敵を狙撃するぞ!」

魔法部隊「おおおお!」

魔王軍「駄目だ……これは最早!」

魔王軍「撤退! 完全に退くぞ!」

魔王軍「し、殿は任せろ! お前達は逃げろ!!」


魔法部隊「束縛魔法を撒き散らせ!」

騎士「これ以上の深追いはよそう。ここまでで十分だ。我々は勝ったのだ!!」

兵士「うおおおお!」

勇者「……はぁ、はぁ」

兵士「凄かったですよ!」

兵士「勇者様、貴官の協力感謝します」

勇者「いえ……俺の勝手の行動に対し助力を頂き、こちらからも感謝の言葉も出ません」

騎士「いえ、貴方がいなければこの地を奪われておりました。本当ありがとうございます」

勇者「……」

勇者「それでは自分はこれで」

兵士「え?!」

兵士「一人で行かれるのですか?」

勇者「今ので敵戦力も大々的に攻め入る事はできなくなったでしょう」

勇者「自分は隠密に徹して魔王の元に迫ります」

騎士「……」

騎士「我々も助力したい所ですが、少数精鋭というのも難しい所でして」

勇者「いえ、これは俺の役目です。防衛線……よろしくお願い致します」

騎士「分かりました、魔王の事はお任せします」

雪原
勇者「……」ザザ

連合軍「」

魔王軍「」


廃墟
勇者「……」ザザザ

連合軍「」

魔王軍「」


勇者「……」ザザザ

勇者「……」ザッザッ

魔王城 ゴゴゴゴォ
勇者「……」カツーン カツーン

勇者(敵がいない……全て戦力を投入したのか?)

勇者(負ける訳には、いかないな)ギィ


魔王「来たか……」

勇者「フルコンデションで戦わせてくれるとは粋な計らいだな」

魔王「ふはははは、部下が手酷くやられたそうだが、この私を殺せるだけとも思えんからな」

魔王「さあ戦おうか。我が死ぬか、貴様が死ぬか……それとも人間の制圧が先か、人間が制圧するのが先か」

勇者「飽くまで予想でしかなかったが……やはり、お前を倒せば魔物も魔族も」

魔王「当然だ……我が力によりこの地に顕在させているのだ」

魔王「故に強いのだ!」カッ

勇者「そうか……それを聞けて安心した」

勇者「魔王……止める!」クワッ

勇者「うおおおおお!!」ガギガギギギンガギャガギィン

魔王「はあああああ!!」ガガギャインガギィンキィンギィン

勇者(強い! 全力で切りかかっているのに!)

魔王(これが勇者と謳われた者の力! 素晴らしい!)

勇者「だがまだだ!」バッ

勇者「全強化魔法!!」カッ

魔王「魔力開放!」ドドォ

勇者「一閃!!」スンッ

魔王「はっ!」ガギィン

魔王「闇の波動!」ドドォ

勇者「!」ガタガタ

魔王「所詮は人間、心の暗部より溢れる恐怖には抗えんよ!」ヒン

勇者「」フッ

魔王「消えた?!」

勇者「確かに人は脆い!」フォ

勇者「だからこそ一人では戦っていないのだ!!」ヒン

魔王「く!」ギィィィン

勇者「鎧通し!!」ヒャン

魔王「届かぬわ! 魔光線!!」バッ

勇者「はぁ!」ギィィィィィン

勇者「たあ!」バシィン

魔王「剣で弾いた!? ふははは面白い! 爆熱魔法!!」カッ

勇者「凍土魔法!!」カッ

オオオォォォン...

勇者「まだ、足りないのか!」

魔王「相殺……流石だ! 楽しいぞ、勇者よ!」

勇者「……」スゥ

魔王「む?」

勇者「っ!」ゴァァ

魔王「なっ!」

魔王(まるで無数の刃が同時に襲い掛かるが如く!)

魔王「おおおおおお!」ギギギギギギン

勇者「……っふ!」ドゥッ

魔王「たあ!」ギィィン

勇者「っはぁ! はぁっ! はぁっ!」フラ

魔王「ぐぅ……」ブシュァァァ

勇者「く……まだ、足りないのか」

魔王「ふ、ふふ、流石に今のは焦ったが殆どを捌いたぞ」ドクドク

魔王「まるで幻影のような技、見事であった」

勇者(師匠の言う無我の境地……無数の刃が瞬時に襲い掛かるという死の牙……)

勇者(成功、したはずなのに)ギリ

魔王「流石にこれは手傷と言えるな……ふ、ふふふはははは!」

魔王「だがまだ戦えるぞ! さあ来るがいい! 戦いとは! 王との戦いとはこうでなくてはならんのだ!」

勇者(体に負荷が大きい……二発目は本当に最後の切り札だ)スッ

勇者「百列斬!!」

魔王「はああああ!」ギギギギィン

勇者(死の牙を防いだこそか! 全て捌かれた!)

魔王「そろそろ私もとっておきといこうか!」バッ

勇者「雷刃魔法!!」ズババババ

魔王「無駄よ!」ギギィン バッ

魔王「さあ受けてみよ!」キィィィン

魔王「魔力を帯びた剣圧を!」ヒヒュヒュヒュン

勇者「くっ!」スッ ザクン

勇者「え……」

勇者「く! そお!」バッササ

勇者(魔力を帯びた! そういう事か!)

魔王「そうだ……物理的には止められん! 詠唱体勢に入っていなかった貴様では避ける他に」ドッ

魔王「な……」

勇者「……」バババッ サッ

勇者「風矢魔法!」ヒュ

魔王「ぐっ!」

魔王(敢えて避けきる事にし、集中力をかけずに撃てる弱い魔法をこちらに!)

魔王「ふははは! 何処までも面白い男なんだ!」

魔王「だが! これまでよ!」ヒュヒュヒュンヒヒンフォンヒン

勇者「!」

勇者(落ち着け! 集中しろ! 避けろ! 奴の剣の、軌道ごと!!)タッ

勇者「ふっはっ!」ササッタタ

魔王「!」

魔王(この短時間で太刀筋そのものを避けるほどに?! この男のポテンシャルは)

勇者「詰めたぞ!」

魔王「! しまっ」

勇者(無我の境地……)スッ

勇者(死の牙!)ゴァァァ

魔王「まだ……まだぁぁ!」ガギギギギィンヒヒン

魔王「!」ギギギギィン

魔王「ぐああああああ!!!」ブシュアァァァ

魔王「なんだ、今のは……今の太刀筋は……見えた……が、対応まではっ!」

勇者「はっ! はぁっ! はっ!」ブルブルブル

勇者「あれが……! 師匠の! そうか、あんな太刀筋……は、ははは!」

魔王「く……」ドザ

勇者「はあ……はあ……魔王」

魔王「く、くくく! まさか、我が負けるとは……」

魔王「殺せ! それこそが王というものだ!」

勇者「ああ……言われなくても」スッ

魔王「文字通り最期であったか……だが楽しかったぞ、人間よ」ヒン


勇者(終わった……全てが)

『大いなる人の子、勇者よ……』

勇者「!」

『今こそ、魔王とはなんなのか……その全てをお伝えします』

勇者「……」ザッザッ

「見ろ! 勇者様だ!!」

「うおおおお! 勇者様万歳! 勇者様ばんざぁぁい!!」


森の城

国王「よもや……本当に魔王を打ち倒すとはな」

勇者「……」

国王「随分と偉そうな事を言ってしまったな。最早、貴公に足を向けて寝られんわ」

勇者「いえ、そのような事。それに私は一人ではありません」

勇者「各地で戦ってくれた人々のお陰です」

国王「宴の準備だ! 英雄を讃えよ!」


「勇者様ーー!」

「見て! あの方が英雄の!」

「あんたのお陰で平和がやってきたぞーー!!」

勇者「は、はは……」

師匠「遂にやったな」

勇者「師匠!」

師匠「お前のご両親も草葉の影で喜んでいてくれているだろう」

師匠「……なんだ? 浮かない顔だな?」

勇者「……。今まで、本当にありがとうございました」

師匠「止せ止せ。お前にとっても晴れの日に頭なんぞ下げるんじゃない」

勇者「……」

師匠「……」

師匠「何か、までは聞かん。お前の信じる道を行きなさい」

勇者「師匠……」

師匠「言ったはずだ。お前は俺の息子だと。お前の事はよぉく分かっている」

勇者「師匠……ありがとうございます」

師匠「おう、頑張れよ。達者でな」

師匠「……」

師匠「……あの野郎、一丁前になりやがって」


宴が終わる頃、勇者の姿は何処にもなかったという。
多くの者が彼を探したが、遂に見つかる事も無かったそうだ。

勇者はその宴を最期に一切の痕跡も残す事無く消えてしまったのだった。

それから数十年後

水の国 城下

兄勇者「ここが水の国の……」

妹勇者「城下町まで来たのは初めてですね」

兄勇者「ああ、凄い人混みだな」サッ

妹勇者「子供じゃありませんが、素直に厚意は受け取っておきましょう」ギュ

水の城
国王「そなたらが神託を受けた者達か」

兄勇者「はい。私達は双子でして双方に神託を授かりました」

側近「噂には聞いていましたが本当に双子とは」

妹勇者「私達は初代勇者とされる方に比べれば微々たる力です」

妹勇者「初代勇者は万能だと聞き及んでいますが、私達は兄が肉弾戦、私が魔法を主としております」

側近「互いにフォローし合っているという事ですか」

兄勇者「私達は二人で一人、個々としては初代勇者より遥か劣ります。が」

妹勇者「二人で一人故、手数は多くなると言うものです」

国王「……うむ、二人とも。よろしく頼むぞ」

兄勇者「必ずや私達の手で」

妹勇者「魔王を討ち取ってみせます」


兄勇者「とは言えやはり不安だよなぁ」

妹勇者「何を弱気になっているんですか。シャキッとして下さい」

妹勇者「初代勇者は神々に選ばれた最初の一人であったが為、周りからもあまり期待されていなかったそうです」

妹勇者「が、その初代勇者が偉業を成した結果、私達にも期待の眼差しが差し向けられているのです」

妹勇者「失態醜態……そんなもの、晒せませんからね」

兄勇者「魔王城はここから南西か……」

妹勇者「活火山が多くある西南西の火の国、広大な砂漠を領土とする南の砂の国」

妹勇者「その間にある荒野と砂漠の地から魔物、魔族が現れていると予測されていますね」

兄勇者「魔王軍は火の国より展開されているらしいな」

妹勇者「やはり敵も灼熱の砂漠では戦いたくないのでしょうか?」

兄勇者「それもあるだろうが、遮蔽物の少ない砂漠だ」

兄勇者「鳥型の魔物を飛ばせば敵兵を確認するのも難しくないだろう」

妹勇者「なるほど……常に戦線を張る必要はない、という事ですか」

妹勇者「では、砂漠から進む意味は無いと?」

兄勇者「だろうな。行くにしても砂の国の兵士達と共に突き進まなければ袋叩きにされるだろう」

兄勇者「とは言え、流石に実戦経験が少なすぎるし、今のままで魔王に敵うほど私達も有能ではない」

兄勇者「一度、火の国の城下町まで進もう。そこで情報と、可能であれば軍との共同作戦の下」

兄勇者「魔王に接近しようじゃないか」

妹勇者「そう簡単に話が進めばいいのですけどね……」フゥ

兄勇者「各地で少数の魔物が散り散りになって進んでいるようだ」

妹勇者「完全な防衛線など貼れませんからね」

兄勇者「見つけ次第魔物は全て叩くぞ」

妹勇者「分かっていますよ。その為の私達でもあるのでしょう」

妹勇者「兄さんこそドジを踏まないようにして下さいよ」

妹勇者「基本的に私は非力なんですからね? 兄さんがいなかったらろくに戦えません」

兄勇者「君はどうしてそう清々しく自分を蔑めるんだい?」

妹勇者「冷静な分析です」

怪鳥A「ゲッゲゲ!」

怪鳥B「ゲェーゲッゲ!」

インプ「ケッケケ、つまらねぇ鳥の世話かと思ったら、美味そうな女がいるじゃねーか!!」

妹勇者「兄さんはインプを」

兄勇者「ああ。対空戦力ないからなぁ」

インプ「そらいけぇぇ!」

怪鳥A「ギエエエエエ!」

怪鳥B「ギョエエエエ!」

兄勇者「一閃!」シュン

インプ「ゲァッ!」ブシュアアア

妹勇者「火炎魔法!」ゴォォォ

怪鳥A「ギョアッ!」ボボォ

怪鳥B「ギッギギ!」ヒラリ

妹勇者「風矢魔法」ヒュヒュヒュン

怪鳥B「ギェ!」ドドドシュ

兄勇者「相変わらずのお手並みだな」

妹勇者「褒めても何も出ませんよ」

兄勇者「いや、ほんとだよ。剣を切り返すかのように別々の魔法を立て続けに撃つ、って難しいんだろ?」

妹勇者「ええ。ただ、私は魔法一筋でみっちりと叩き込まれましたからね」

妹勇者「扱いなれている魔法なら比較的に楽にできますよ」

兄勇者「熟練度次第って事か」

妹勇者「そんなところですね」

忍び猿「キキッ、あれが勇者か!」

骸骨剣士「初代勇者の件もある。一度戻って報告すべきでは?」

鎧蠍「いや……奴らはまだ旅立って間もないと聞く。むしろ好機ではないだろうか?」

忍び猿「追跡だ。野営したら最期、夜襲をかけるぞ」


兄勇者(……何やらつけられているな)ヒソ

妹勇者(一網打尽にしましょうか?)ヒソ

兄勇者(頼む。討ち漏らしは俺が切り伏せるから)

妹勇者(……)ィィィ

忍び猿「ん?」ピリ

鎧蠍「なんだ……この魔力?」

骸骨剣士「……。散れ! ばれているぞ!!」


妹勇者(全力……)

妹勇者「凍土魔法!!」カッ ドドドォォォン

兄勇者「大魔法使い級だなぁ……」

妹勇者「私、魔王を倒したら王宮魔術士になりますので」

兄勇者「それはいい。是非とも養ってもらいたいな」

妹勇者「兄さんは兄さんで騎士になられればいいじゃないですか。十分に生活していけるでしょう?」

忍び猿「キキッ! やってくれるじゃねえか!!」シュタタタタ

兄勇者「……」

兄勇者「居合い抜き!」ヒン

忍び猿「!」バッ ヂッ

忍び猿(剣圧?! この距離でか! とんでもない野郎だ!)

忍び猿(これは……報告を優先すべきかっ!)

兄勇者「一閃!」ズバァ

忍び猿「キッ!」ズバァァ

丸太「」ボフン

兄勇者「何?!」

忍び猿「キキッ、ここは戦略的撤退とさせてもら……」チリッ

忍び猿「ギャアアアアア!!」ボボボォォ

妹勇者「……」チリ

兄勇者「業火魔法……君に足りないの容赦だと思うな」

妹勇者「情けをかけるに値しない敵に容赦は不要だと思いますが?」

兄勇者「一応はそれなりの敵だったのかだろうか?」

大きな炭「」ジュゥゥゥ

妹勇者「でしょうね。ただ剣の天才、魔の天才という私達の前ではこの程度、障害でもなんでもないようですが」

兄勇者「天才……それも冷静な分析かい?」

妹勇者「当然です。業火魔法を撃てる人間なんてそう多くはおりません」

妹勇者「兄さんにしてもその居合い抜き、あれほどの距離にあれだけの切断力をもった剣圧を飛ばすなど」

妹勇者「化け物じみていますし、そもそもそれはもう剣圧と呼べるかすら甚だ疑問です」

骸骨剣士「」カキィン

鎧蠍「」ピキィン

兄勇者「氷を砕けば死ぬかな?」

妹勇者「でしょうね。兄さんお願いします」

兄勇者「切るのは得意だけど砕くのはなぁ」

妹勇者「わがままですね……仕方がありません」

妹魔法「衝撃魔法!!」ドゥッ

兄勇者「君の魔法、人間相手なら殆ど即死させられるよね」ドガラガラガラァン

兄勇者「今日はここらで野営するか」

妹勇者「川が近いですし魚をとってきますね」

兄勇者「保存食も大量にはないし頼むよ。俺は薪を集めてくる」


兄勇者「……」パチパチチ

妹勇者「……」ホー ホー

妹勇者「こうして全く見知らぬ土地で野営するのは初めてですね」

兄勇者「なんだ? もうホームシックか? 先は長いんだぞ」

妹勇者「そうですね、ちゃっちゃと魔王を倒して戻りたいですが、現実はそうはいかないでしょうし……」

妹勇者「……今日は暗いですね」

兄勇者「新月が近いのかなぁ……。あー明日も晴れますよーに」

妹勇者「……」モゾモゾ

兄勇者「……うん? やれやれ、いい加減兄離れをしてくれないか?」

妹勇者「やはり環境が違う土地の夜は怖いのです」

兄勇者「何ていうか言動やら態度やら、本当に不一致な子だねぇ君は」

妹勇者「む……とにかく兄さんの左手、お借りしますよ」

ボフッ
兄勇者「敵襲!?」バッ

妹勇者「焚き火を撃たれた?」ガザザ

兄勇者「……来る!」ザザザザ

妹勇者「風矢魔法!」ドシュシュ

影兵A「……」バッ

影兵B「……」ヒン

影兵C「……」スッ

妹勇者「くっ!」

兄勇者「はあ!」フォン

影兵D「!」ブシュァァ

妹勇者「光線魔法!!」カッ

影兵A「……」サッ

影兵B「……」バッ

妹勇者「くぅ~~!」

兄勇者「……ここは任せろ!」バッ

兄勇者「駆け抜け斬り!」バッ

影兵A「……」バッ

影兵B「!」ザシュ

影兵C「……」ガギィィン

兄勇者「間合いが詰まれば」

影兵A「……」ダッ

影兵C「……?」グググ

兄勇者「乱刃乱舞!」ヒヒンヒュヒャン

影兵A「!?」ザザン

影兵C「!!」ザッザシュ

兄勇者「……」シャーッチン

妹勇者「……」ムスゥ

兄勇者「時々、絶不調な時があるよな」

妹勇者「不思議とですね……」

兄勇者「……もしかして女性のデリケートな話?」

妹勇者「いえ、それは先週でしたので。それに私は軽い方ですし」

兄勇者「オープン過ぎる……」

妹勇者「ほんと何なんでしょうね、これ」

兄勇者「俺も調子が悪い時もあるさ。そういえば雨の日って大概よくないな」

妹勇者「分かりやすい例ですね。私には共通性があまり無いので理解に苦しんでいるんですよ」

妹勇者「吹雪魔法!」ゴゥゥ

兄勇者「雷刃!」ズバァァ

ゴブリンABCDE「」

兄勇者「さて、先に行くか」

妹勇者「もう少し燃費を考えた戦いを覚えないとなりませんね」

兄勇者「そうかな? 今のままでも十分にやっていk」

妹勇者「それは今が小競り合い程度の戦闘しかないからです」

妹勇者「先々を考え、兄さんは特殊な技を使わず純粋に剣技だけで戦って下さい」

兄勇者「君はどうするのさ」

妹勇者「風矢魔法で常に頭部だけを狙います」

兄勇者「えぐいな」

兄勇者「お……」ポ ポ

妹勇者「降ってきましたね……この辺りに洞窟なんてないですし」ポツツツ

兄勇者「あの木の辺りにするか……」


妹勇者「はぁ……」ドザァァァ

兄勇者「今日はもうここで野営だな」ザアアアア

妹勇者「流石にこの雨は憂鬱にさせますね」

兄勇者「だなぁ……」

兄勇者「……」ザザァァァ

妹勇者「……」ザザザァガザァァァ

兄勇者「……」スゥ

妹勇者「……」ィィン

骸骨騎士A「カカカ!」バッ

骸骨騎士B「コココ!」バッ

兄勇者「疾風斬!」ヒン

骸骨騎士A「ガガ!」ギィィン

兄勇者「はあああ!」ギィンギィンギギン

骸骨騎士A「カアアア!」ギギィィン

妹勇者「雷撃魔法!!」ビシャアア

骸骨騎士B「グガガガ!」バヂヂ

骸骨騎士B「ガァァ!」バヂン

骸骨騎士B「カカ! クカ?」キョロキョロ

骸骨騎士B「ク?」ペタ

妹勇者「零距離、雷撃魔法!!」ヂ ヂヂヂ

骸骨騎士B「ガガガ!! ガガガガァガガァァ!!」ダヂヂヂ ヂヂヂ

兄勇者「は! たあ!」ギィィンギィン

骸骨騎士A「ガカ! クカ!」ガギィィィン

兄勇者「ちぃぃ……」ギリギリギリ

骸骨騎士A「カカ、コココ!」ギリギリギリ

骸骨騎士A「ゴガガ?!」ドドドシュ

妹勇者「風矢魔法」ドシュシュシュ

骸骨騎士A「ギギ!」バッ

兄勇者「たあああ!」ザンッ

骸骨騎士A「ガッ!」

妹勇者「風刃魔法!」ヒン

骸骨騎士A「ケ、アッ」ズパッ

兄勇者「はああぁぁ……助かったよ、ありがとう」

妹勇者「どういたしまして。本当に雨の日は見違える程ですね」

兄勇者「ああ……何なんだろうな。もしかしたら俺達の力は神々から与えられた力なのかもな」

妹勇者「何が言いたいんです?」

兄勇者「自身の力じゃないからある条件下でペナルティ……いや逆か?」

妹勇者「そうやって帳尻が合わせられている、と?」

兄勇者「飽くまで予測でしかないけどね。普通、雨だからってこんなに動けなくなる人はいないし」

妹勇者「それは……経験がある以上納得ですね」

兄勇者「ふぅ……」ザッザッ

妹勇者「山、見えてきましたね」

兄勇者「だね。というか思ったのだけれど、これだけ動けるんだし近接格闘もできるんじゃないかな?」

妹勇者「避けるという意味合いでならですね。物理攻撃能力は皆無ですよ?」

兄勇者「そうかな。君ならナイフを持てば必ず動脈に一太刀いれてくれそうだけど」

妹勇者「それはどういう意味でしょうか? お兄様?」ニコ

兄勇者「いや、うん、君のその冷静な分析力と言うのかな。が、的確に相手の急所を貫く的な」

ドドン ドドドドド
兄勇者「お……」

妹勇者「牛型の魔物の群れ……」

兄勇者「大きいな……ちょっとしたボスだな」

妹勇者「やりますか?」

兄勇者「当然だ。兵士に全て任せる気は無いさ」

妹勇者「分かりましたわ」キィィィン

兄勇者「あれ? 奇襲だと俺要らない?」

暴れ大牛「ブモォォォォ!!」

大牛A「ブモモォォ!」ドドォン

大牛B「ブモォ!」ドン


妹勇者「撃つ前に気付かれた!?」

兄勇者「思いの外、苦戦を強いられそうだな……さてこの状況下、どうしようか?」

妹勇者「あんなもの、私には正面から来られたらどうしようもありません。守って下さい」

兄勇者「斬馬ぁ!!」ドンッ

大牛D首「!」ゴドン

妹勇者「風矢魔法!」ドドド

暴れ大牛「モモォ!」ドッドド

大牛C「ブモォ!」ドシュシュ

大牛E「ブブゥ!」ドシュ

妹勇者「避けた!?」

兄勇者「これは予想以上に……」

兄勇者(初代勇者であればこの状況訳では無いのだろう)

兄勇者(初代勇者は全て能力が高かったという記述がある……本当に天に愛された武人だったのだろう)

兄勇者(俺にはそれなりの身体能力と剣しかない……この状況を打破する為には)

兄勇者(……)

兄勇者(なにも思いつかない……終わった)

妹勇者「何諦めているんですか。時間を稼いできてください」

兄勇者「流石我が妹、やっぱりブレインは君だよ」

兄勇者「俺は大人しく肉体労働に徹しますよっと」

暴れ大牛「ブフゥゥゥ!」ガッガッ

兄勇者(あれ、近くで見るとでか……止められなくないかこれ)


妹勇者「俊敏強化魔法、対物障壁」キィン

妹勇者「さて……」

暴れ大牛「ブモォォォ!」ドッ

兄勇者「とうっ!」バッ

暴れ大牛「ゥゥゥ!」ザザァ

兄勇者「俺をターゲットにしてくれたか?」

暴れ大牛「ブルルル!」ガッガッ

兄勇者「嬉しいけど有り難くは無いよねぇ」

兄勇者「よっと」バッ

暴れ大牛「ブモオオォォ!」ドド

兄勇者「流石にこの状況を続けるのは危険だな」スッ

兄勇者「もう一丁来たらどうだ」

暴れ大牛「フゥゥゥ! ブモオ!」ドドッ

兄勇者「よっと」ヒラリ

兄勇者「岩切斬!」ヒン

暴れ大牛「!」キン

角「」スコーン

兄勇者「これで怖いのは左側の角と突進力とその脚力に踏み潰……多いなぁ」

暴れ大牛「ブルルゥゥ! ブモォォォォ!!」

兄勇者「そして怒り、更に俺に執着する……嬉しいけど嬉しくないね」


妹勇者「……」ィィィ

妹勇者「そろそろいいか、な」

妹勇者「石壁魔法! 対魔反射魔法!」

石壁「」ズゴゴゴゴ

兄勇者「なんだ?」

暴れ大牛「モォ?!」


妹勇者「烈風魔法!」ゴゥ


兄勇者「え、俺ええぇぇぇ……!!」ドビュァァァ

暴れ大牛「?! ブモォォ!」キョロキョロ


妹勇者「爆熱魔法」カッ

オオオォォォォン...

妹勇者「兄さん、お疲れ様でした」

妹勇者「いい加減そのでんぐり返しの途中みたいな格好、止めたらどうです?」

兄勇者「君が吹き飛ばしたからだろうに」ヨタ

妹勇者「なら、あの場所にいたかったですか?」

兄勇者「……」ゾォ

兄勇者「あれは一体なんなのさ」

妹勇者「石壁に魔法を反射する魔法を施し、そこに爆熱魔法を撃ち込みました」

妹勇者「予想以上の効果でしたが今後も使えそうですね」

大きな炭「」ジュウウウウ

兄勇者「全く、君は怒らせたくないよ」

妹勇者「兄さんが従順だった試しも無いように思えますが……?」

妹勇者「山が見えてきましたね」

兄勇者「だね。今見えている山を越えると火の城がある」

妹勇者「初めて他国に行きますね」ワクワク

兄勇者「俺もちょっと楽しみだな」

兄勇者「少し道が険しいが火山が多いから温泉もあるだろうし」

妹勇者「それはいいですね。ゆっくり浸かりたいものです」

オークA「おーっと!」

オークB「ここから先はぁ!」

オークC「いかさねぇぜ!」

鎧オーク「……」

妹勇者「……うん? あれ? 一人だけ静かですね」

兄勇者「あいつ、苛められてるのかな」

鎧オーク「我は鎧オーク、盾と知れ。盾たるもの寡黙を徹」ヒュン

兄勇者「駆け抜け斬り!」

オークA「ぐああ!」

オークB「ぎゃああ!」

オークC「こいつ急所にあがぁぁ!」

兄勇者「……」ザザァ

鎧オーク「……」

妹勇者「……」ィィィン

鎧オーク「……」ダラダラダラ

鎧オーク「うおおおお!」

兄勇者「鎧通し!」ザザザ

鎧オーク「ぐあああ!」ドザ

兄勇者「からの鎧剥き!」ズバァァン

鎧オーク「がはぁ!」ブシュァァァ

妹勇者「相変わらず剣が効く相手には敵無しですね」

兄勇者「自信はあるけどそこまでじゃあないよ」


妹勇者「山間部にこんな町があるんですね」

兄勇者「平地育ちの俺達には少しきついが、ここらの人にはこの辺はまだ大して険しくないんだろうな」

妹勇者「私達としては助かりますからいいですけどもね」

妹勇者「少し薬類の補給をしておきますか」

兄勇者「そういえば剣も買い換えないとだったなぁ」

妹勇者「え? そうなんですか? まだ使えそうに見えますが」

兄勇者「一応はね。ただ長旅でこれ以上、命を預けられるかと言えばそうでもないからね」

妹勇者「それ……結構長い事使われていましたよね? いいんですか?」

兄勇者「愛着はあるさ。けれども、それで命は守れないからね」

店員「ご注文は以上でよろしいですか?」

兄勇者「はい、どうも」

妹勇者「……」モグモグ

兄勇者「山が多いから野菜類が豊富だね」

妹勇者「ええ、私も嬉しい限りです。これで魚があれば大満足なのですが」

兄勇者「俺は肉がいいかなぁ」

妹勇者「この間の牛型の魔物、まさに牛肉でしたね」

兄勇者「美味しかったなぁ……」

数日後
妹勇者「はぁ……はぁ……」ザッ ザッ

兄勇者「ふぅ……ここを登りきれば」ザッ ザァ

妹勇者「ひぃ……ひぅ……」ザァァァ

火の城下町

妹勇者「ひあぁ……なんでこんな所に城なんて……」

兄勇者「一休みしたら一気に下ろうか」

火の城下町 ザワザワ
兄勇者「なんだ?」

兵士達「……」ザカザカザカ

妹勇者「なにやら不穏ですね……」

兄勇者「すみません」

兵士「なんだ? お前達……もしや勇者様か」

妹勇者「はい。それでこの様子は?」

兵士「……」

兵士「戦線が決壊した……」

……
兄勇者「聞いた限りじゃデザードドラゴンか……」

兵士「恐らくはな……だが規格外の強さ。恐らく、魔王の影響か何かしやがったな」

兵士「砂の息吹……デザートブレスの威力も範囲が尋常じゃなかったそうだ」

妹勇者「貴方は生還された方なんですか?」

兵士「詳細な報告書を見ただけだ……そしてこれから俺達はそのデザードドラゴン攻略に向かう」

兵士「奴が倒れない事には後続の魔王軍も対処できないからな」

兄勇者「しかしデザードドラゴンと言えど、地形は砂地からでるのではないか? であれば」

兵士「それでも強い……強すぎるんだよ。尾を軽く振るうだけで大量の死傷者が出たという」

兄勇者「なるほどな」

兄勇者「その攻略、俺達も参加できないだろうか?」

兵士「……有り難い申し出だが俺なんかにその権限はねえよ」

兵士「ついてきな。俺でもそうそうお目にかかれない人に会わせてやる」


騎士団長「ふむ……」

騎士「確かに有り難いが……個人的には反対だな」

兄勇者「実績足らず、ですかね」

騎士「いや、むしろ君達の話は聞き及んでいる。ただの二人で中々やるそうじゃないか」

妹勇者「その言い方ですと、訓練中の私達を指していそうですね」

騎士「事実そうであろう?」

妹勇者「傲慢に聞こえてしまう事でしょうが、その通りです」

騎士団長「であれば尚更反対するしかないな」

兄勇者「お聞きしても?」

騎士「それだけの力があるならば、戦線の為ではなく魔王討伐に注力して頂きたい」

騎士「件の魔物も魔王軍も我々と各国の兵士達が受け持つ」

騎士「君達は迂回し、敵戦力の進行ルートから離れて魔王がいるであろう魔王城に向かってもらいたい」

妹勇者「なるほど……」

兄勇者「あっちの人達は大丈夫かな……」ザザザ

妹勇者「……巨大デザートドラゴン、魔法部隊が束になっても倒せるか分からない相手でしょうね」ザザザ

兄勇者「だよね……」

妹勇者「書物によれば魔王の死亡と共に魔王軍も消滅するとのことです」

兄勇者「俺達は早急の討伐……」

妹勇者「彼らは魔王軍進行を食い止める為の……」

兄勇者「遣る瀬無いね」

妹勇者「……ええ」

兄勇者「……」ポツポツ ポポサアアア

妹勇者「……」ギリ

兄勇者「焦っちゃあ駄目だよ」

妹勇者「分かってはいます……がっ!」

兄勇者「落ち着いて。それに……甘くは行かないみたいだ」

魔王軍「……」ザッザッ

妹勇者「!」

妹勇者(こんな状態で……まだ小降りですがこれでは兄さんも)チラ

兄勇者「ふぅぅ……やるよ」

妹勇者「……はい」

兄勇者「たああああ!」ザザン

魔王軍「ぐああああ!」

魔王軍「なんだこいつらは?!」

魔王軍「まさか……勇者!?」

魔王軍「突撃! 突撃ぃぃ!!」

妹勇者「烈風魔法!!」ゴァァァ

妹勇者「雷刃魔法!!」ヴン

魔王軍「あっ」ヒュンパッ

魔王軍「がっ!」ズッ

兄勇者「きりが無いな! 退くぞ!」バッ

妹勇者「え?! は、はい!」バッ

妹勇者「しかしこれではっ!」

兄勇者「この先……少し北に回った所に崖があったはずだ」

妹勇者「それではジリ貧になりますよ?」

兄勇者「この状況……少しでも囲まれたら勝機が断たれる。それに比べれば崖っぷちなんて」

兄勇者「いざとなったら飛び降りて君の烈風魔法で浮力を得ようじゃないか……君ならできる事を信じているさ」

妹勇者「まあ、できますけどね」

兄勇者「既に試した事あるの?!」

妹勇者「さて、ここで踏ん張ると決めた以上、今の兄さんでは色々と足りませんからね」サアアアア

妹勇者「俊敏超過魔法!」

兄勇者「速さでカバーって事か」

妹勇者「俊敏強化魔法より持続時間が短いです。気をつけてください」

兄勇者「ああ、分かった。俺が引くタイミングに」

妹勇者「攻撃魔法をあてて支援致します」

兄勇者「たああああ!!」ザザンヒン

魔王軍「ぐああああ!」

魔王軍「は、速がああ!」

兄勇者「……」チリ

兄勇者(そろそろ効果が切れるな……)バッ

妹勇者「……」

妹勇者「雷光魔法!!」クワッ

ドドォォォン
魔王軍「くそ……奴らめ」

魔王軍「地の利を逆手に……航空戦力はどうしたぁ!」

魔王軍「あっちは砂漠地帯に回ってるだろ! 対地戦力しかここにはいないんだよ!」


兄勇者「はぁ……はぁ……」

妹勇者「流石にそろそろ……逃げないと厳しいですね」

兄勇者「……は、はは。飛ぶか」

妹勇者「ええ、どうやらこの周辺に戦力は集結しているようですし」

兄勇者「とうっ!」バッ

妹勇者「……」ヒラリ


魔王軍「なっ!」

魔王軍「飛び降りた?! 自決?!」

魔王軍「崖向こうが見える者は?! 連中はどうなった!」


兄勇者「ぐううう!!」ガザザザザァ

妹勇者「木々の事を考えていませんでしたね……」

兄勇者「つう……」

妹勇者「すみません……盾にしてしまって」

兄勇者「いや、君が無事ならいいさ。それより早くここを離れようと……」

妹勇者「はい」


兄勇者「……」ザッザッザッ

妹勇者「雨が……」ザッザッザッ

兄勇者「とにかく今は離れる事をだけを考えよう。例えこれが真逆の方向だとしてもまだマシだ」

ドドォォン
兄勇者「何の音だ?! 追いつかれた?」

妹勇者「いえ……前方の方から聞こえ……」

巨大な影「」モモォ

兄勇者「あ……んだあれ」

妹勇者「ま、まさかあれは……」

デザートドラゴン「」ズモモモォ

兄勇者「勝て、勝てる訳ないだろ……あんな大きさ」ゴクリ

妹勇者「……」ブルル

兄勇者「!」

兵士達「」

妹勇者「あ……う」ガタガタガタ

兄勇者「これは……戦線の維持どころか……足止めにも」

妹勇者「……逃げましょう。逃げましょう兄さん! こんなの……最早戦いじゃありません!」

兄勇者「……」

妹勇者「転移魔法で逃げましょう! まだ魔力はあります! 兄さん!」

兄勇者「それでは……彼らが本当に犬死だよ」

妹勇者「!」ビクッ

妹勇者「です、が……」

兄勇者「このまま進むにせよ……この先には魔王軍の後続がいるだろうし……やるしかない」

兄勇者「いや、元々そうだったのかもね。あれが倒せないのに魔王を倒す方が無理なのかも」

妹勇者「しかしあれは……絶対的な力の差が……え?」

魔王軍「」ゾロゾロ

兄勇者「早い……違う、そうかドラゴンの近くにいて支援しながら侵攻していたのか……」

兄勇者「俺達はこの軍隊を相手にしつつ、強化デザートドラゴンを相手にしないとならないのか……」

……
兄勇者「はぁっはっはぁっ!」

妹勇者「はぁっ……はぁっ……」

兄勇者「どのくらい、凌いだかな」

妹勇者「もう、三波は迎撃したかと」

兄勇者「ここ、までかな……やっと雨が上がった、てのに」

妹勇者「ドラゴンに見向きも、されなかったのは幸運ですが……結局は」

兄勇者「覚悟を、決めようか」

妹勇者「まだ、ギリギリできます、転移魔法」

兄勇者「……」

兄勇者「彼らを踏み付け逃げ帰れないよなぁ……愚かな選択だと分かっていてもできないよ。俺の弱さだ」

兄勇者「ごめんね」

妹勇者「兄さんを切り捨てられない私も私の弱さです。お互い様でしょう」

兄勇者「そっか。それじゃあ……」

妹勇者「ええ……死ににいきましょう……」クラ

兄勇者「なん、だ……この感じ……意、識が……」クラァ


兄勇者(?!)

妹勇者(これは……一体)

『ようやく我々の声が届くか』

『そのようですわね』

兄勇者(……この声は。もしやこれが神々の)

妹勇者(話に聞いた通りですね)

『察しがよくて助かる。お前達に足りなかったもの、大きな挫折とそれを超えようとする力』

『それを経た貴方達には我々の真なる力を授ける事ができます』

兄勇者(真なる力……勇者とは神々の力を与える器たる人間という事ですか?)

『いいやそれは違う。お前達が初代という勇者は彼自身の中に眠る大いなる力ゆえ、我々が勇者と定めた』

『あれほどの者は他にいません。ですから剣と魔法の才覚に富む貴方方を選んだのです』

『最も、我々も双子と気付かず一人の人間だと思っていましたが……』

『故に我、太陽神とこの者月の女神の力が別れてお前達に流れ込んでいるのだ』

兄勇者(なるほど……雨の時に調子が上がらないのは……)

妹勇者(ああ……つまり私が調子が悪いのは新月だったからでしょうか?)

『本当に察しがいいな』

兄勇者(それで……私達に与えられる力と言うのは? すみません、何分事態緊迫していまして……)

『おっとそうだったな』

『二人であるのは想定外でした……想定した力も効果がなくなってしまいました』

妹勇者(え? ええ?!)

『だからこその使い道はある。想定はしていなかったがこれはこれで強力だぞ。なにせこれは……』

兄勇者「っは!」パチ

妹勇者「!」ビクッ

魔王軍「」ドドドド

兄勇者(時間にして数分も経っていないのか?)

妹勇者「兄さん!」

兄勇者「ああ……俺の前に出てくれ!」

妹勇者「何時でも……いけます!」

兄勇者(日食みの力?)

『日蝕というものを知っていますか?』

妹勇者(え、ええ……ですがそれが何の力に?)

『二人であるが故の特権だ! しかも月の女神の力はお前にある!』

妹勇者(は、はあ……?)

『貴方の中に眠る太陽神の力を放ちます。それを正面に立つ貴女が遮るのです』

妹勇者(えぇ?!)

『ここからが肝だ。それを全て魔力に変換し放出させるのだ。本来広範囲に降り注ぐはずの太陽の力を』

『お前が受け止め凝縮させて解き放つ』

『効果範囲は狭まるだろうが、その威力は比べ物にならんだろう』


兄勇者「はああああ!」ドォッ

妹勇者「くっ!」ドゥッ

妹勇者(熱い……身が焼かれるくらいに……これが太陽神様の……兄さんが放った)ゾクゾク

妹勇者(これだけの力を私が……)キィィィィン

妹勇者「放つ!!」ドッ

ゴゴゴオォォォォ
兄勇者「……す、ご」

魔王軍「」

妹勇者「まるで……焼け野原ですね」

兄勇者「ああ……だが連続では撃てないな」

妹勇者「どれくらい時間がかかりそうですか?」

兄勇者「俺自身は問題が無いんだけど……何ていうか空っぽみたいな感覚だ」

兄勇者「完全に太陽神様の力なんだろうね……充填までかかる時間はさっぱりだ」

兄勇者「だけど与えられたのはこれだけじゃないようだね」

妹勇者「ええ……今までに無い力が漲っている感じが……。凄い高揚感があります」

兄勇者「炎刃!!」ドゥッ

デザートドラゴン「グルルル」

デザートドラゴン「ガァッ!」ゴアアアアア

妹勇者「暴風魔法!」ドォォ

兄勇者(これでデザートブレスは封じた……が」

デザートドラゴン「ルルル」ヒュン

兄勇者「!」バッ

尾「」ドゴォォォン

兄勇者(一撃でも当たったら……)ゾク

兄勇者「疾風斬!」ザンッ

デザートドラゴン「ウル?」プシッ

兄勇者「そしてこのサイズ差か……大きすぎる!」

妹勇者「とても致命傷を与えられませんね……同じ箇所を攻撃し続けて下さい」

兄勇者「了か」フォ

兄勇者「うおおお!」ドォォォン

兄勇者(尾が邪魔だが対応する余裕は無い。ならば動き続けるしかない!)

兄勇者「駆け抜け斬り!」バッ ザザン

デザートドラゴン「グルルル」

兄勇者「もう少し痛がってくれてもいいんだけどなぁ」

妹勇者「いえ、それで十分です」

妹勇者「……」ィィィィ

兄勇者「? そう? じゃあ」

兄勇者「百列斬!!」ザザザザ

デザートドラゴン「!」

デザートドラゴン「グルアァァァ!!」

兄勇者「これは……痛いというより、蚊に刺されて怒っている感じだなぁ」ビリビリビリ

デザートドラゴン「ゴアアアア!」ブバァァァ

兄勇者「衝波刃!」ドンッ

兄勇者「うおおお!!」ドドァァァ

兄勇者(流石に相殺なんて夢のまた夢か!)ダアアアア

兄勇者「う、ぐ……」ヨロ

デザートドラゴン「グルルルルル」

兄勇者「や、やば……」

妹勇者「壊死魔法」ポァ フヨフヨ

デザートドラゴン「ウル? ガウ! ガウ!」

兄勇者「ちょ……妹ちゃん、溜めに溜めてそんななの? ドラゴンも笑っているよ……?」

妹勇者「……」フヨフヨフヨ

兄勇者(操作型の魔法……? だとしてもあんな小さな魔球でどうにかなるもんじゃ)

傷口「」ヒト

傷口「」ブニボァ

デザートドラゴン「ギャウ?! ガアアア! ガアアアアア!!」ボボボボァ

兄勇者「……」

妹勇者「ふう……成功しましたか」

デザートドラゴン「ガアアアアアアア!!!」

兄勇者「なに、あれ」

妹勇者「壊死魔法です。毒系魔法最上位魔法……相手の体内に放った魔法球が入り込んだ瞬間」

妹勇者「そこから肉は腐り爛れていきます」

妹勇者「命中の難しさは絶大の効果裏付けという訳ですね」

デザートドラゴン「ガウ……ガ」ブジュブコボジュジュ

兄勇者「……」ゾォ

妹勇者「月の女神様が授けて下さった魔力無しには唱える事も敵いませんでしたよ」

兄勇者「ああ……そう。君はもうなんていうか人外だね」

妹勇者「失礼な。兄さんだって常軌を逸していますよ」

兄勇者「そりゃあどうも」

兵士達「」

魔王軍「」

デザードドラゴン「」ゴポ グジュ

兄勇者「行こうか」

妹勇者「はい」

兄勇者「恐らくだが魔王もかなりの戦力を注ぎ込んだ出撃だったはず」

兄勇者「思いがけず攻めるチャンスになった訳だ」

妹勇者「既にこちらも数多の命を犠牲にしています。この好機、絶対に失敗は許されませんね」

兄勇者「うおおおおお!」ドゥッ

妹勇者「はっ!」ドッ

魔王軍「な」ジュッ


焼け野原

兄勇者「はぁっ……はぁっ……」

妹勇者「ずっと思っていたのですが、暑苦しく叫ばないでもらえませんか?」

兄勇者「あのね、俺のを吸収して放ちなおしてる君には分からないだろうけど、これ結構体力使うし気合いれなきゃなんだよ」

兄勇者「お……」

デザートドラゴン「グルルル」ズシ ズシ

兄勇者「前のより小さいな。魔王も倒された事に気付いたか?」

妹勇者「どうします?」

兄勇者「ここからだと生活圏まで一週間はかかる」

兄勇者「魔王城は既に見え始めているわけだ」

妹勇者「じゃあ温存という事で」

兄勇者「ああ、放置で構わないね」

魔王軍「であるからに我々はここで人間どもに……!!」

兄勇者「おー……これまた……」

妹勇者「先のドラゴン後続部隊並ですね」

兄勇者「彼らもこれが限界なのかもしれないな」

妹勇者「どうします? 出発を待ちますか?」

兄勇者「……透明化、みたいな魔法ってある?」

妹勇者「光の屈折を利用した擬似透明化ならありますが」

兄勇者「どういう事?」

妹勇者「ある一方からは見えなくするものだと思って下さい。今の私ですと1分が限界でしょうね」

兄勇者「久しぶりにおんぶしてあげるよ」

妹勇者「それはどうも、と言いたいですが鎧が痛そうなので抱き上げて下さい」

兄勇者「……え? いいの?」

妹勇者「別に構いませんが」

兄勇者「そうかそうかぁ。でもちゃんと兄離れしないとだよぉ」ニマニマ

妹勇者「そういう反応されますと本気で鼻に指を突っ込んで差し上げたくなりますね」

兄勇者「……時折君の好感度がよく分からなくなるよ」


兄勇者(これ本当に見えていないんだよね)タタタ

妹勇者(どうでしょうか? まだ他者にかけて客観的に見る事まではしてませんので)

兄勇者(ちょ、あの兵士こっち見てる!)

魔王軍(なんだ……? 一瞬景色が揺らめいたような)

魔王軍「貴様ぁ! 何処を見ている!!」

魔王軍「おわぁしまった!」

妹勇者(とまあ、私達は見えていない訳です)

兄勇者(ちょっと彼が気の毒だなぁ)

城内 シーン
兄勇者「……」コソ

妹勇者「……」コソ

妹勇者(どうなっているんですかね)

兄勇者(全戦力を投入した、かな?)

兄勇者(念の為に隠密行動で進もう)

妹勇者(消耗はしたくありませんしね)

兄勇者(……!)コソ

兵士A「おい、そっちの荷物」

兵士B「大丈夫だよ。さ、行こうか」

兵士C「これで俺達は城からおさらばか」

兵士A「勇者が見つかるまで周辺地域を延々と巡回だな」

妹勇者(なるほど……まだ猶予があると思って)

兄勇者(しかしそれなら城内の警備を強化した方が消耗に繋がるとも思うが……)

妹勇者(ああ……そういう事ですか)

兄勇者(どうした?)

妹勇者(毒霧、麻痺霧、催眠霧まで……様々な所から漏れてきています)

兄勇者(兵士達をも突破されたら、という事ね)

妹勇者(対状態異常障壁)キン

妹勇者(恐らく城内には魔王のみでしょうね)

兄勇者(ここまでしてるんじゃあね。急ごうか)

兄勇者「……」ギィ

妹勇者(この部屋……霧がない)

兄勇者(障壁を解除してくれ)

妹勇者(はい)パキン

兄勇者「……」カツンカツン

妹勇者「……!」ゾク


魔王「やはり、止められんか」

魔王「だがこれこそが王道というものなのかもしれんな」

兄勇者「お前が魔王なのか」

魔王「その通りだ。だが先代のように倒せるなどと思わんことだ」

魔王「我も貴様も先代とは違う。状況は同じであれ」

魔王「これは我々だけの戦い、我々だけの物語だ」

魔王「そこに過去の物語など介在する余地は無い」

妹勇者「リアリストな魔王ですね。いっそ侵略など止められたらいかがですか?」

魔王「そうはいかん。これが我々の存在理由だとも言える」

兄勇者「存在理由?」

魔王「我々は個々に親たる存在がいる訳ではない」

魔王「気付けばここに在り、自らの居場所を求める」

魔王「その為にも! 貴様達人間を滅ぼさなければならない!」

魔王「我々が築く世界の為にぃ!!」

妹勇者「……多少は話が通じる相手かと思いましたが」

兄勇者「とんだサイコ野郎ってところか」

魔王「貴様達がどう思おうとも我々の在り方は変わらん」

魔王「そして我々と貴様達人間との衝突の果ては、魔王と勇者の対峙が待っているだけなのやも知れぬ」

魔王「であれば、今此処こそがその終着点! この戦いの結末を迎えようではないか!」ゴァァァ

兄勇者(あの一撃は一度放つと30分近くは撃てない)

妹勇者(絶対の好機、そこに最大収縮率で貫かなくては)

魔王「行くぞ!!」ドゥ

兄勇者「雷刃!!」ザン

魔王「ふん!」ガギィィン

兄勇者「う、受け止めた?!」バヂヂヂヂ

魔王「我が剣は全て魔力を断ち切る。貴様自身意図しておらんだろうが、その剣技は魔力が錬られている」

魔王「接した所でこちらまで電撃は届かんぞ!」

兄勇者「くっ!」バッ

妹勇者「雷刃魔法!!」ズバババァ

魔王「無駄だぁ!」ヒンズバザン

妹勇者「本当に魔法を……断ち切った」

兄勇者「だが」ヒン

魔王「ぬぅ!」ギィン

兄勇者「腕の数は変わらない。剣も一本」

兄勇者「全てを防ぐというのであれば防ぎきって見せろ!」

魔王「守るだけだと思ったか! 愚かな!!」

魔王「雷撃魔法!!」ドッ

兄勇者「ぐあああああ!!」

妹勇者「治癒魔法!」カッ

兄勇者「くっそ」ザッ

兄勇者(剣もそれなり……魔法も強い上に防げる。なんて厄介な相手)

兄勇者「だが! それでも負ける訳には!」ガギィィン

魔王「諦めぬか……そうだそれでいい! それでこそが戦いだ!」ギィィン

妹勇者「……」スゥ

妹勇者「!」クワッ

魔王(愚かな……確かな殺気、それでは意味が)

妹勇者「業火魔法! 雷撃魔法! 光線魔法! 風塵魔法!」ズドドド

魔王「ぬぁっ!」バッ

魔王「ぐお!」ザザザン ヒン ザシュゥ

兄勇者(あれだけやって一撃だけか……だが!)バッ

兄勇者「縦横無刃!!」ザザザザン

魔王「ちぃぃ!!」ギギギィンザシュギンザンギィン

兄勇者(手強いな!)バッ

魔王「逃がさ」

妹勇者「凍結魔法!」ビュ

魔王「しまっ足が!」ビキビキビキ

兄勇者「たあ!」ザンッ

魔王「くおっ!」ザッガラァン

兄勇者(剣を落とし、足が凍る)バッ

妹勇者(ここしか、無い!)ザッ

魔王「!?」

兄勇者「これが止めだああぁぁ!!」カッ

妹勇者「たあああああ!」ドゥッ

魔王「!!」

ジュオォォォ
魔王「……」

魔王の左腕「」ジュォォボトッ

兄勇者(避けた……? 馬鹿な……いや、これはまさか腕を盾に軌道を)

妹勇者(縮小し過ぎた! 確実に貫く一撃になった分……完全に私の)ワナワナ

魔王「ふ、は……ふはははは!」

魔王「これで切り札は当分使えまい」バキバキン

魔王「凍結もこれで終わりだ」

兄勇者「やはり……知っていたのか」

魔王「あまりの猛攻であったからな。偵察ぐらいいれていたのだよ」

妹勇者「に、兄さん……すみません、私の」

兄勇者「落ち着け。確かに一撃必殺の技は封じられたが俺達には剣と魔法がある」

魔王「面白い……この一撃にかけて引き伸ばした戦闘だと言うのにか」

兄勇者「そうだ。だがお前も左腕を失った。コストパフォーマンスは散々だが」

兄勇者「一分の勝機も無いわけではない!」カッ

兄勇者「百列斬!!」ヒヒヒン

魔王「その程度、最早通用はせん!」ギギギィンガギィン

妹勇者「風矢魔法!」ビビビュ

魔王「はっ!」ザザンザン

妹勇者「風矢魔法! 雷球魔法! 風刃魔法!」

魔王「ぐ……」ザザザザン

魔王「ぐあっ!」ザシュ

妹勇者「確かに貴方の剣と剣技は脅威だわ」

妹勇者「けれどもどうやら……私の魔法は一応までにもそれを上回るようね」キィィィン

魔王(この小娘……何故これだけの魔法を連続して)

兄勇者「うおおおおお!!」ブォ

魔王「ぐ!」ガギィィィン

兄勇者「ぐぐ!」ググググ

魔王(この男にしても何故……! さきほどの太刀とは重みが!)

兄勇者「はっ!」ギィィン

魔王「くっ!」バッ

妹勇者「……」ィィィン

魔王(衰えるどころか……そうか、己の力でのみで戦う事を決意したからこそ)

魔王(更には温存の意味がなくなったからこそか!)

妹勇者「……」スゥ

妹勇者「雷球魔法」ポポポポポポ

兄勇者「え゛っ」

魔王「な、なんだその数は……!」

妹勇者「……」ツィ ドドゥ ドド

魔王「!」ヒュン

魔王「ぐ! 時間差で飛ばし」ヒヒュン

兄勇者「っしぃ!」ヒン

魔王「あぐ!」ブシュ

魔王(こ、この二人!!)

兄勇者「忘れていたよ」

妹勇者「やはり強大な力と言うのは人を駄目にしますね」

魔王「な……?」

兄勇者「俺達は昔から二人で一人」

妹勇者「昔から二人の剣と魔法で超えてきた」

兄勇者「例え魔王が相手でもそれは変わらない」

妹勇者「神々の力だけに頼ろうなどそもそもが間違いだった」

兄勇者「さあ行くぞ! ここからが本当の戦いだ!」ザッ

妹勇者「これが私達の戦い方、双子の勇者の力です」カッ

魔王「ちぃっ!」バッ

魔王「たああああ!!」ヒヒヒン

兄勇者「なんだ? 受け止め……!!」バッ ザシュ

妹勇者「治癒魔法!」

兄勇者(俺と同じ剣圧による斬撃! いや、こちらの剣を貫通して斬られた!)

兄勇者「面白い!!」ヒン

魔王「これは!?」バッ プシッ

魔王「……なるほど、剣ならば右に出る者は無し。噂違わぬという事か」

魔王「だがしかし、それだけでは足らんぞ!!」ゴァァァ

兄勇者「魔力が膨れ上がって……!」

魔王「はああああああ!!」ドォォ

妹勇者「対魔障壁!」カッ

兄勇者「っとと」ザザァ

妹勇者「つ、強い……!」ピキピキピキ

妹勇者「しょ、障壁が持たな……」バキバキバキン

兄勇者「妹!」ガバッ

兄勇者「ぐぅぅぅぁぁ!」ジュアアアァァァ

妹勇者「兄さん!」ゴゴ ゴ ゴ

魔王「! まだ生きているのか!」

妹勇者「治癒魔法!」

兄勇者「よし!」バッ

魔王「ぐっ!」

魔王「だが!」ヒヒン

兄勇者(避ければ妹に当たる。であれば!)

兄勇者「ぐ!」ザッザシュ

魔王(やはり受け止めたか! であれば!)ヒヒヒュン

兄勇者「っ」ザンザザン

妹勇者「治癒魔法! 治癒魔法!」

魔王(これであの魔法使いは足止めできる!)

妹勇者「兄さん!」

兄勇者「ああ!」

魔王「魔力が尽きるまでそうしていろ!!」ブォ

兄勇者(上段からか、これを受け止めるのは……だが!)ドシュ

魔王「がっ!」ドッ

魔王「な、何故?」ドグドグ

兄勇者「ごふっごほっ」ドグドグ

魔王「……! 光線魔法で男ごと貫いたのか!」

兄勇者「……」ニタ

兄勇者「……」ドッ

魔王「ぐ!」ドシュ

妹勇者「治癒魔法」

兄勇者「……」ダッ

魔王「くっ!」

兄勇者「……」ザンザシュドッ

魔王「がぅっ!」ドッ

魔王(この男が邪魔で動きが見えぬ! 光線魔法を感知してからでは対応など……!)

魔王「はぁ……! はぁ……!」

兄勇者「……」ダダダ

魔王(これではこちらが……こちらも命を賭さねばならんか!)

魔王「うおおおおおお!!」ヒン

兄勇者「! ああああああ!!」ガギィィン

魔王「おおおおおおお!!」ギギギィンギィィン

兄勇者「あああああああ!!」ギギィンガギィン

魔王「ふうううう!」ギギギギ

兄勇者「ぐううう!」ギギググ

妹勇者「……」

妹勇者「俊敏超過魔法!」

兄勇者「!」ダッ

妹勇者「爆熱魔法!!」カッ

魔王「貴s」カッ

ゴゴゴォォォォォン
妹勇者「はぁっ……はぁっ……」

兄勇者「……やった、か」

妹勇者「これだけ、傷を負わせてまだ生きていたr」ドッ

兄勇者「? どうし……魔王!」

魔王「ふー……ふー」グッ

妹勇者「くっ……」

魔王「流石に……これは駄目かもしれんな」ドグドグドグ

魔王「だが只では死なんぞ!!」

兄勇者「妹!!」

妹勇者「う、うぅ……」

魔王「さあ我と共に」ドズ

魔王「な、なん……」

妹勇者「風刃魔法」スッ

魔王「だ」ズシャアァァ

魔王「ば、かな」ヨロ

兄勇者「……」スラン

魔王「っひ、あっ!」

兄勇者「たあっ!」ザシュッ

魔王「ぁ」ドザ

魔王「」ドグドグドグ

兄勇者「紙一重、だな」

妹勇者「ええ……あそこで一気に畳み掛けられていたら私は」ブルル

兄勇者「本来であれば離れた位置に飛ばす刃系魔法」

兄勇者「それを維持し近距離攻撃に転化……君にしかできない事だからね」

妹勇者「そして、唯一私に出来る近接戦ですからね。とは言え、ああも隙を与えて貰わなければ何もできませんがね」

兄勇者「諦めと慢心……最後の最後で敵に助けられるとは」

妹勇者「しかしこれで……私達の……」

兄勇者「ああ、俺達の……人間の勝ちだ」

『魔王を倒したか……』

妹勇者「あ、あれ? 普通に聞こえ……」

『全てを……お話します』


兄勇者「そうか……そういう事だったのか」

妹勇者「……次の満月」

兄勇者「後一週間ほどか……城にも家にも帰り着けないな」

妹勇者「……兄さん」

兄勇者「仕方が無いさ。こればかりは」

兄勇者「君は帰ってもいいんだよ」

妹勇者「兄さんが残るのにそんな事できませんよ」

兄勇者「なら……」

妹勇者「ええ……」


魔物・魔王軍が消えうせた事で人々は新たな勇者が魔王討伐を果たした事を知る。
が、いくら待てども二人が戻ってくる事は無かったと言う。
まるで初代勇者のように、彼らもまた消えるように居なくなってしまった。

それからも魔王は現れ勇者も現れ、そして魔王討伐成功の後、勇者は消えていった。
何時しか勇者は希望であり、彼ら彼女らの家族にとっては失意の象徴ともなった。

そして、様々な勇者が現れた。
特異体質、特殊な能力、秘める才能、与えられた力、そうしたものから二つ名を与えられる者も多くいた。


グランドラゴン「ガアアアア!!」ゴァアァアァ

勇者「俺に炎は効かねぇ!」コォォォ

火食勇者「このフレイムイーターにはなぁ!」ドッ

ゴーレム「ゴゴ」グググ

ギガンテス勇者「ふんぬ!」ゴッ

ゴーレム「ォォ」ドドォォン


骸骨将軍「カカ!」キキィンギィィン

聡明勇者「ふぅん」キィィンギィン

骸骨将軍「ガ!」ブォ

骸骨将軍首「」ゴトッ

聡明勇者「残念だけど君の隙は把握させてもらったよ。ま、もう聞こえていないだろうけどね」


それから気の遠くなるほどの時が経つ。
依然として、目的不明の魔王は現れ、勇者もまた現れては消えていった。

そしてまた新たな勇者が誕生した。

師匠「フハハハハ! ようやく今日で旅立ちかぁ!」

勇者「……」

師匠「どうした? 随分と暗い顔をしているじゃないか?」

勇者「いえ、本当に僕が勇者でいいのでしょうか……それに僕が魔王を倒せるんでしょうか?」

師匠「全て勇者は初めから魔王を倒しうる力を持っていたわけではない」

師匠「勿論、戦い上での才能や神々に見初められて力を与えられた者もいる」

師匠「だが、旅の間に成長し、魔王を倒すに到っているのだぞ」

師匠「今お前がそう思っている気持ちは、少なからず多くの勇者達が考え通り過ぎていったものだ」

師匠「自信を持て! お前も立派な勇者の一人だ!」

勇者「しかし……師匠の方がよっぽど」

師匠「うむ! 単体での戦闘能力であればそうだろうな」

師匠「だがそれだけが正しい訳ではない。私は神々に選ばれなかった。それが全てだ」

勇者「それは……そうですが」

師匠「なに、君の周りには信頼できる仲間がいるだろう」

師匠「仲間と共に力を合わせる。それを是としない訳ではないのだ」

師匠「私は私が君に教えるべき事を教えてきたつもりだ。安心しろとは言わんが、もう少し強気になるといい!」

火の城 王の間
国王「魔王城は水の国を超え森、荒野の国を超えた東の果て」

国王「最早領地とすら機能していない荒野に存在している」

国王「厳しい旅になるだろうが……やってくれるな」

勇者「自分に何ができるかは分からないですが……力の限り、頑張らせて頂きます!」


勇者「とは言ったものの……」ガタガタ

魔法「はぁ……しっかりしてよ。あたし達もついているんだからさぁ」

僧侶「そうです、シャキッとしなさい」

剣士「まあまあ二人とも……前衛2の後衛2。バランスとしてもいいんだ」

剣士「どっしりと構えてくれよ」

勇者「一先ず……出発は明日から。今日はもう休もう……」

魔法「え?! 随分悠長ね」

勇者「お、王様と謁見したんだよ? もう疲れたよ」ガタガタ

剣士「あー……まあ気持ちは分かるよ」

僧侶「もう……そんな事でどうするの」

剣士「だけどまあ一旦落ち着いてからっていうのはありじゃないか?」

魔法「うーん、そう?」

僧侶「剣士さんがそう仰るなら……」

宿屋
勇者「……」

剣士「さっきから塞ぎこんでどうしたんだ?」

勇者「いや、僕より剣士のがリーダーっぽいなって……」

剣士「馬鹿を言え。俺があの二人をまとめられるかよ」

勇者「そうかな……」

剣士「俺はさ。お前の事を信頼しているし高く買っているんだ」

剣士「お前は俺の事を信頼して高く買ってくれている。お前が思っている気持ち、俺もお前に抱いているんだ」

剣士「そこら辺分かってくれると嬉しいんだがなぁ」

勇者「……ごめん、何時も励ましてもらってばっかで」

剣士「そういうお前だから俺はついていくと決めたんだ」

魔法「……はぁ」

僧侶「どうかしたの?」

魔法「これからの事を考えるとね」

僧侶「不安?」

魔法「そりゃあね。僧侶は不安じゃないの?」

僧侶「まあ無くはないわ。でも剣士さんがいて勇者もいる」

僧侶「今のところは差しあたって危険という事もないでしょう?」

魔法「信頼しているんだね……」

僧侶「ふふ、昔は魔法使いが家に篭って、私と勇者が野山を駆けるように遊んでいたからかな」

魔法「……最近はあたしと勇者で行動する事が多いけども、頼りないっていうのかなぁ」

僧侶「そうなの? 勇者だってあのお師匠さんのところで生活していたんだし」

魔法「いやあ……別にねぇ」

僧侶「そう……それは残念ね」

魔法「頼りになってくれればいいんだけどもねぇ」

翌日
ゴブリンABCDE「」ゾロゾロ

勇者「! 皆、茂みに」バッ

剣士「……」ザッ

魔法「?」ササ

僧侶「どうかしたの?」ササ

勇者「ゴブリンの群れだ」

剣士「で、隠れたのか?」

勇者「僕が敵の注意を引きつける、僧侶は僕を支援……だけど極力温存で」

勇者「剣士と魔法使いは回り込んで敵を攻撃」

僧侶「……」

魔法「……へえ」

剣士「しかし、そこまでするほどの相手か?」

勇者「できるだけ消耗はしたくない」

剣士「……」

勇者「……と僕は思うんだけど」

剣士「いや、そこで弱気になるなよ。その考えは正しい」

剣士「いざ窮地に陥った時にそうした戦い方ができなくては話にならんしな」

魔法「それじゃあよろしくね」

勇者「……」ザザ

ゴブリンA「なにっ!」

勇者「たあっ!」ヒュォン

ゴブリンB「ぎゃあああ!」ザシュゥ

ゴブリンC「や、やろう!」

ゴブリンD「人間だ! 殺せ!」

勇者「……」バッ

ゴブリンE「イヤアーァ!」ブォン

勇者「く!」ガギィン

ゴブリンC「でやあああ!」

僧侶「対物障壁魔法!」ギィン

ゴブリンD「あの女を殺せ!」

ゴブリンA「この男が邪魔だぁ!」ガギィン

勇者「ふう……ふう……」バグバグバグ

僧侶「勇者、落ち着いて」

勇者「うん……分かっているよ」

ゴブリンD「でやああ!」ガギィン

勇者「!」ビシン

勇者「ちょ、そ、僧侶?! 今障壁が!」

僧侶「あー……ごめんなさいね。障壁魔法は苦手なの……」

勇者「え? 嘘?! 聞いて」バリィン

ゴブリンA「へっへへ」

ゴブリンE「袋にしちまえ!」

ゴブリンC首「」ドッ ゴロッ ゴロンゴロ

ゴブリンA「え?」

ゴブリンE「どうし……なに?」

ゴブリンD「! 別に敵がい」

ゴブリンD首「」ゴトッ

勇者「たああ!」ザン

ゴブリンE「ぎゃあああ!」

剣士「ふっ!」ヒン

ゴブリンA「ひぎゃっ!」ザシュゥ

勇者「ふう……来るのが早くて助かったよ」

剣士「え? なにギリギリだったの?」

魔法「相変わらず障壁系は苦手なのね」

僧侶「治癒魔法と棍術なら自信があるのだけどもね……」

剣士「え? 僧侶さん? ……本当なのか」

勇者「うん……でも僧侶、前衛には出さないからね?」

僧侶「えー」

……
勇者「……」コク

僧侶「……」コクリ

勇者「……」バッ

僧侶「……」ザッ

インプA「ぎゃあ!」ザシュ

インプB「ゲッ」ゴッ

インプC「伏h」ザンッ

剣士「よし」ヒュォン

魔法「勇者……伏兵に慣れすぎじゃない?」

勇者「師匠にみっちり鍛えられたからね」

魔法「焼けたよー」

僧侶「近くに水場があって助かりましたねー」

剣士「ああ、野営するにはもってこいだな」

勇者「……」サラサラサラ

魔法「勇者は何やっているの?」

勇者「今日の戦闘結果と新しい作戦の考案」サラサラ

僧侶「……ちょっと意外よね。お師匠様からそうするように言われたの?」

勇者「うん……僕はあまり強くないからさ。こうした方面も伸ばすべきってさ」

剣士「あの人、作戦や陣頭指揮もできるって事か……なんかイメージ違うな」

勇者「そうだね、僕も驚いたよ。ただ師匠自身、戦う方が好きだって事だからね」

魔法「へ~」

僧侶「てっきり剣ばかりを教わっているのか思っていたわ」

勇者「……あの人、一部上級魔法までなら使えるんだよ」

剣士「あ、あの筋肉質で斧を振るう人が……」

魔法「何気に万能じゃない、それ」

勇者「うん、三面六臂ぶりを見た時には唖然としたよ」

魔法「さて、そろそろ寝ましょ」

勇者「見張りは僕と剣士でやるよ」

僧侶「え、それじゃあ……剣士さんにしたって申し訳ありませんし」

勇者「僕はいいのか……」

魔法「旧知の仲だしね」

僧侶「ねー」

剣士「俺達の事は気にしないでくれ。二人はしっかりと休んで欲しい」

魔法「んー……そういうのなら」

僧侶「お先に休ませて頂きますね」

剣士「……」ウトウト

剣士「おっと……」ハッ

勇者「ふっ……ふっ……!」ヒュン ヒュン

勇者「はぁっ!」ヒュォン

剣士「……」

魔法「んー」モゾ

僧侶「おはよう、ございます」

剣士「ああ、お早う」

僧侶「……」ボー

勇者「ふぅ……ふぅ……ん? あ、ごめん。起こしちゃった?」

僧侶「ふぁー……まあそうだけども、そろそろ時間だしね。おはよう勇者」

勇者「うん、おはよう僧侶」

魔法「おはよー……」ボー

剣士「お早う。二人とも朝は苦手か?」

僧侶「低血圧ではないんですけどもね」

勇者「今日中に次の町に行けそうかな?」

剣士「昼までには着けるだろうな。あまり城下町から離れた事はないのか?」

僧侶「私達はここより北の方で暮らしていましたので。こちら方角にはあまり来た事がないんですよ」

魔法「まあ勇者はあの師匠の所に修行しに、何年も前に城下町で暮らすようになったんだけどさ」

剣士「へえ……あれ、でも今は二人とも城下町住みだよね。ははーん」

魔法「何その顔」

剣士「いやあ、つまりそれは二人が勇者を追いかけてきたって事じゃないか?」

僧侶「私は回復魔法が得意でしたので教会に」

魔法「昔は病弱で引きこもって本読んでいる内に魔法がメキメキと」

剣士「……勇者、お前泣いていいと思うぞ」ヒソ

勇者「は、ははは……」


師匠「遅かったなぁ! 我が弟子よ!!」

勇者「」

剣士「え? えぇー……?」

魔法「なんでいるの」ヒソ

僧侶「さ、さあ」

師匠「全くこの程度、一日で来なくてどう……いや同行者もいるし問題の無いペースか。ふぅむ」

勇者「し、師匠はなんでここに!? ていうかどうやって!」

馬「ブルルル!! ヒヒィィィン」

師匠「私の愛馬だ!」

勇者「えー……」

剣士「お一人で……? 魔物は?」

師匠「この辺りの魔物など取るに足らんな!」

剣士「いえ、お一人の場合、魔物に狙われる可能性が非常に高まります。その場合、馬が暴れ」

馬「ヒヒィィィィン!」ドゥ

魔法「ひっ!」ビクッ

僧侶「凄い興奮していますね」

師匠「何せ私の力を分け与えていたからな」

勇者「……あ。以前話されていた」

剣士「剣に魔法に頭脳に……これ以上まだあるのか?」

師匠「私にはパワージョインという力が神々より与えられているのだ!」

剣士「なんと……え? ちょっと待って? あれ? 勇者?」

勇者「師匠は今まで自身の力だけで武勲を立てて続けた結果、遂に神々の神託を受けるまでになったんだよ」

魔法「でも勇者じゃないんだ……」

師匠「うむ、私は確かに高い能力がある。だがしかし、それは今までの研鑽によるものだ」

師匠「今までの勇者のように特別な力を与えられた、あるいは眠らせている・才能を秘めている訳ではない」

師匠「それ故に神々が勇者の称号を認めたものとし、褒章として力を与えられたというだけだ」

僧侶「それはそれでとても凄い事ですよね……」

剣士「あ……ああ。魔王が現れる以前は、武勲によって勇者の称号が国王より授けられたそうだ」

剣士「つまり……神々に勇者の称号を実力でもって認めさせたんだ。とんでもない話だよ……」

魔法「それでその神々の力で……? ジョイン……自身の力を馬に与えて全速力で切り抜けて、とかですか?」

勇者「師匠に与えられた力、パワージョインはその通り相手に自身の力を与えるんだけど、精神面も通じやすいんだ」

剣士「馬が臆する事がなくなる……なるほど」

勇者「うーん……まあそうなんだけど師匠の場合は……」

師匠「敵ならば30ほど薙ぎ払って踏み抜いてやったわ!」

勇者「全力で倒しますよねぇ……」

僧侶「よく見ると馬具に凄い物々しい装備が……」

勇者「師匠は斧とポールアーム系の武器を中心に戦うんだよ」

勇者「……ってあれ? 師匠がここにいる理由までは聞いていませんよね?」

師匠「馬鹿者ぉ!! 旅立ったとは言え、お前はまだまだひよっこだ! いや、まだ卵ですらある!!」

勇者「この間の激励は?!」

師匠「そんなお前を放り出すような真似、この私がすると思っているのか!」

勇者「し、師匠!」ウル

魔法「ねえ……これは笑えばいいの? 感動すればいいの?」

剣士「何でもいいと思うぞ。結構いつもこんなテンションだよ、俺が見た事ある限りは」

師匠「ではまた何処かの町で会おうぞ! さらばだああぁぁ!」ザカッザカッザカッザカッ

勇者「……」

剣士「……」

魔法「……」

僧侶「……」

魔法「で、結局何がしたかったって?」

勇者「ごめん、正直よく分からない」

剣士「特別何か教えている風でもなかったよな……」

僧侶「あれで陣頭指揮ができるのね……」

勇者「うん……一応」


勇者「ここからは少し山が続く」

勇者「街道のが歩きやすいだろうけども、それは同時に魔物との遭遇率も高める事になると思う」

剣士「しかし避けてばかりでは話にならないだろう」

勇者「そうなんだよね……二人はどう思う?」

魔法「いや、あたし達に振られても」

僧侶「そういう知識は無いし、勇者と剣士さんに任せるわ」

剣士「俺もそこまで詳しくは無いんだけどなぁ」

僧侶「え? そうなんですか?」

剣士「前衛戦力としてしか鍛えていないんだよ」

魔法「勇者としてはどう考えているの?」

勇者「正直良い案が浮かばないよ」

剣士「本当にそうなのか?」

勇者「……できるだけ敵から逃げる」

勇者「途中に設けられている休憩所、野営地で体勢を整え迎撃する……あまり現実的じゃないけども」

剣士「正面から敵とぶつかった場合は?」

勇者「素直に戦うしかないかな……」

勇者「周囲の地形を熟知しているなら二手に分かれて挟撃や支援もできるだろうけど」

勇者「僕達でそれをやったら確実に足元を掬われるだろうし……」

魔法「決まりだね。正々堂々正面から進み戦う事」

僧侶「そうね……一方的に有利な状態でばかり戦う訳にもいかないし、丁度いいんじゃない?」

勇者「でもそれは危険が伴う事だよ……」

剣士「僧侶さんの言う通りだ。俺達は実戦経験が乏しいのは否めない」

剣士「策を講じるにせよ正面から戦うにせよ、経験値を積まない事には仕方が無いからな」

勇者「……」

剣士「お前は誰かが傷つく事を極端に恐れているな」

勇者「当たり前だよ……とても、怖い事だよ」

剣士「けどこれは命をかけた旅なんだ。割り切るどころか切り捨てる覚悟も必要だ」

勇者「……それは」

剣士「勇者……俺達はもっと強くなってやる」

剣士「だからお前も、もっと強くなってくれ」

魔法「勇者……」

僧侶「勇者」

勇者「……うん、ごめん。もっと頑張らないとだね」

剣士「いや、お前の場合は肩の力を抜けよ」

僧侶「それじゃあ私達は先に」

魔法「おやすみ、勇者、剣士」

勇者「うん、おやすみ二人とも」

剣士「おやすみ」

剣士「聞きたい事があったんだけどいいか?」

勇者「何かあった?」

剣士「この魔王討伐隊、志願者はかなりいたはずだけど、なんで俺達三人だったんだ?」

剣士「勇者の怖がるそれも、仲間が多く居れば分散するしフォローもし易くなるんじゃないか?」

勇者「あー……それか」

勇者「確かにそうなんだけど数が多くなると統制が取り辛いし、此処の能力の把握も難しくなる」

勇者「それに団体行動で一番の障害は人間関係なんだ。だから共同生活をし訓練をしている兵士ならいざ知れず」

勇者「僕達みたいなスタイルで大人数は効果的とは言えないんだ」

剣士「しかしそれは旅をする内の経験が実っていくのでは?」

勇者「うん……だけど僕にはそれをまとめるだけの実力が無いからね……」

勇者「考えはしたけども、やはりお互いの背中を預けられるある程度見知った相手同士で、と考えたんだ」

剣士「……そうか。そこまで考えていたんだな」

勇者「う、うん……ごめん、臆病で」

剣士「いや、それこそお前の強さなのかもな」

勇者「え?」

剣士「考えて考えて、出来るだけ最善を求めていく」

剣士「勇者がそんな性格だからあの二人も、この旅の同行を快諾したんじゃないかな?」

勇者「そうなのかな……? だといいんだけど」

剣士「俺もそろそろ寝ようか」

勇者「だね。明日に備えないと」

勇者「……」カチャカチャ

剣士「そう何度も単眼鏡を覗いたって変わらないって」

勇者「索敵するに越した事はないし木々が多い……ある程度距離がある上で発見したい」

魔法「……何ていうか最前線で戦うタイプじゃないね」

勇者「うん……まあ、うん……ん?」

勇者「50m先、何か居る」

僧侶「一旦茂みに隠れる?」

勇者「うん、お願い」

巨大蛇「……」シュルル

剣士(でかいな……)

勇者(蛇型……不味いな。あまり隠れても意味がないだろうね)

魔法(そうなの?)

僧侶(嗅覚が発達しているのだっけ?)

勇者(うん、そんな感じ。だから多分……こっちにいるのもバレているんじゃないかな。魔物だし)

剣士(だが襲ってこないな)

勇者(うーん、距離があるからかな? 近づいたら襲われるかも)

勇者(魔法で遠距離から攻撃した方がいいかもしれない)

オークA「うおっと……蛇型の魔物か」

オークB「珍しいなぁおい」

巨大蛇「……」ジー

オークA「お、おいこいつ……」

オークB「こいつって……魔王軍とは完全に別の魔m」ガッ

巨大蛇「……」シュルル ギリリ

オークB「ぐ……が……」ギリリリ

オークA「う、お……てめぇ!」ブゥン

巨大蛇「……」ザザッ シュルル

オークA「ひぁっ」

巨大蛇「……」モグモゴ モゴ モゴ

オークA「」ズ ズ ズル


勇者「……」

剣士(早いな……正面から倒せる相手じゃないな)

魔法(魔物が魔物を襲った……)

僧侶(野良魔物、というもののようね。行動原理が野生の動物と大差が無い……)

剣士(どうする……?)

勇者(戦闘を回避すべきだろうね)

巨大蛇「……」

魔法(沈黙した……)

巨大蛇「……」ノタノタ

僧侶(とぐろを巻いた?)

勇者(大きく迂回しよう)

剣士(あ、ああ……)


勇者「何とか抜けた……」

剣士「とんでもなかったな……あれは」

勇者「野良の魔物にとって人間も魔物も魔族も関係無い。餌か捕食者かの違いだけ、らしい」

魔法「……恐ろしい話ね」ゴクリ

夜 次の町
剣士「ようやくか……」

勇者「蛇さえいなければ夕方には着いたね……」

魔法「愚痴っても仕方ないよ」

僧侶「そうね、無事着いた事を喜びましょ」

兵士「誰かーー! そいつを捕まえろーー!!」

盗賊「ちぃ!」ダダダ

勇者「!」ジャキ

剣士「……」スラン

勇者「え?! 抜いちゃうの?!」

勇者「たああ!!」ブォ

盗賊「とう!」ヒラリ

剣士「……っふ!」ヒュン

盗賊「ぐあ!」ザッ ズザァァァ

魔法「足に一撃……お見事」

剣士「いやいや」

兵士「すまない! 助かった!」ダダダ

僧侶「何かあったんですか?」

兵士「ここの領主の館に盗みを働いたんだよ!」ガッ

盗賊「ぐっ」

兵士「キリキリ歩け!」

盗賊「くそっ……」

僧侶「治安、悪いのかしら?」

剣士「そうでもないが……盗みに入った気持ちは分からなくも無いな」

勇者「……領主。確か」

剣士「ああ、成金で裏じゃ悪さしてるってさ」

魔法「そうなの? うちの国は取り締まらないの?」

勇者「グレーや分かり辛いところでやってるんだって……師匠もだいぶ苛立ってたよ」

僧侶「それは……想像し難く無いわね」

剣士「はー……食べたなぁ」

勇者「……」

魔法「勇者……」

僧侶「……何を考えているの?」

勇者「さっきの彼は……義賊というやつなのかな」

剣士「……気持ちは分かるが勇者、それは正しくないぞ」

勇者「……」

深夜
勇者「……」コソ

勇者「すー……はー……」

勇者(これでも師匠から訓練を受けたんだ)

勇者(背後から首を狙い昏倒させ……この町は治安が悪いという訳ではない)

勇者(領主は悪い事をしてはいるが、自身に降りかかる面倒ごとを嫌って治安に対してはきつくしている)

勇者(つまり……牢屋近辺とは言え、軽微はそこまで厳重じゃない……と思いたい)

勇者「……よし」

魔法「じゃないでしょ」

剣士「全く」

僧侶「本当にやる時は危なっかしくて目を離せないわね」

勇者「み、皆……」

剣士「これで俺達は夜逃げ如くこの町を去らなければいけないな」

魔法「ゆっくり寝れると思ったのにぃ……」

勇者「ご、ごめん……」

僧侶「……」

勇者「そ、僧侶……もごめ、ん……」ビクビク

僧侶「ふー……」

僧侶「いいわよ。そうでなくっちゃ勇者じゃないものね」

剣士「で、どうするんだ?」

勇者「え?」

剣士「俺達がいるんだ。確実性のある作戦が立てられるんじゃないか?」

勇者「……」

勇者「僧侶は催眠魔法、魔法使いは開錠魔法に集中」

勇者「僕と剣士で……兵士の首を狙い昏睡させる。隠密行動、出来るだけ見つからないように行こう」

僧侶「その場合、私は広範囲に魔法を放った後は退避していたほうが無難そうね」

魔法「あ、あたしは最後までかぁ」

魔法「でも本当にいいんだね」

勇者「覚悟は、決めた」

僧侶「私達が言いたいのはそれもあるけれども本当に彼を助けていいの? という事よ」

勇者「彼があの時、本気で逃げるつもりだったならば、僕らに切りかかっていたはずだ」

勇者「でも彼は腰の短剣を抜く事は無かったし、兵士に取り押さえられてからも抜こうと足掻きもしなかった」

剣士「それが彼に対する信頼か?」

勇者「そこまでは言わないよ。だけど信用はできる……と思う」

魔法「はあ……決まりだね」

ただの峰打ちが何時の間にか
急所狙いになっていたでござる

どうしてこうなった

兵士「すー……すー……」

艦首「すー……すー……」

勇者(意外とゆるゆるでいけたね)

剣士(僧侶の睡眠魔法がそれだけ強力だったって事か)

魔法(開錠魔法をかけておいたわよ」

盗賊「う……うぅ」ウツロウツロ

勇者(耐えてる……)

剣士(魔法耐性があるのか……気力なのか。何れにせよ凄いな……)

勇者「ここら辺で大丈夫かな」

盗賊「て、め……な、に……」ユラユラ

僧侶「覚醒魔法」

盗賊「っは! 手前ら……さっきの!? 何故助けた!」

剣士「我らがリーダーの采配だよ」

盗賊「あ? 何でだよ!」

勇者「君は悪人じゃないと思ったからだ」

盗賊「……」

勇者「……」

盗賊「へ? は? それだけ?」

勇者「え? あ、うん」

盗賊「はああああ?! それだけで犯罪犯すのか手前!」

魔法「そうなのよねぇ……意外に」

剣士「え? 昔からなのか」

盗賊「え……?」

勇者「そんな訳で助けたんだ……えと、ごめんね」

盗賊「謝ってんじゃねえよ……助けられたのはこっちだ」

盗賊「……手前ら旅人か? 何処かに向かっているんだろ。俺も手を貸してやる」

盗賊「はああああ?! それだけで犯罪犯すのか手前!」

魔法「そうなのよねぇ……意外に」

剣士「え? 昔からなのか」

盗賊「え……?」

勇者「そんな訳で助けたんだ……えと、ごめんね」

盗賊「謝ってんじゃねえよ……助けられたのはこっちだ」

盗賊「……手前ら旅人か? 何処かに向かっているんだろ。俺も手を貸してやる」

勇剣魔僧「えっ」

盗賊「俺は貸しを作らねえ。作ったのならすぐ返す。手前らに拒否権はねえ!」

勇者「ちょちょちょ、あ、あれだ。じゃあ次の町までとか」

盗賊「ざけんな! そんな半端な真似できるかよ! 手前らの旅が成就するまでついていってやるよ!」

剣士「わぁ……」

僧侶「一先ず落ち着いて……ね? そういうつもりで助けた訳じゃ」

盗賊「男に二言はねえ!」

魔法「あの……あたし達、というか彼、勇者よ」

盗賊「……」

盗賊「え?」

盗賊「……魔王討伐中?」

勇者「うん……」

盗賊「……マジで?」

剣士「そうなんだよ……」

盗賊「……」

魔法「えーと」

盗賊「お、男に二言はねえ!」

勇剣「えーーー!?」

魔法「ま、まさかの……」

僧侶「本気ですか? 死ぬ覚悟を持っているのですか?」

盗賊「んなっ! だったら手前はどうなんだ!」

僧侶「勿論ありますよ」

勇者「……」

剣士「……」

魔法「……」

僧侶「今まで勇者に同行した者達の生還率は決して高いものではありません」

僧侶「当然と言えば当然ですよね」

盗賊「っけ! 女が覚悟決めてるってのに俺が気後れする訳にはいかんだろ」

勇者「ほ、本気かい?」

剣士「別に俺達は手を貸して欲しくて助けた訳じゃない」

剣士「お前が悪人ではないはずだ、と勇者が助ける事を決めただけだ」

盗賊「関係ねえよ。俺は貸しを作らねえ。それだけだ」

魔法「どうするの?」

勇者「……」

勇者「そこまで言われちゃ仕方ないよ。盗賊、これからよろしく頼むよ」

盗賊「けっ……こちらこそな」

ゾンビソルジャーABC「アー」

勇者「彼らの剣には毒がある! 気をつけろ!」

勇者「二人は後方に! 下がりながらダメージを与えていこう!」

剣士「ああ!」ギィィン

ゾンビソルジャーA「ゥァー」

僧侶「たぁっ!」ヒュッ

ゾンビソルジャーA「ガゥッ」ゴッ

勇者「だから前出ちゃ駄目って!」

剣士「杖が近接格闘術のような動きを」

僧侶「ふふっ」ヒュンヒン

魔法「僧侶! 下がりなって」ガシッ

僧侶「えー……?」ズリズリ

ゾンビソルジャーB「アーー!」ダッ

剣士「行かせるか!」ヒン

ゾンビソルジャーB「ウーーー」キィィン

ゾンビソルジャーAC「ア゛ーー」

勇者「うわああぁぁ二体は無理ぃ!」

ゾンビソルジャーA「ガッ」ゴッ

ゾンビソルジャーC「ウ゛」ガッ

剣士「てやああ!」ザン

ゾンビソルジャーB「アー……」ブシュァァ

剣士「にしても……あの短時間で敵に気付かれずに回り込むだなんて」

盗賊「当然よぉ」

ゾンビソルジャーAC「」ピクピク

勇者「はぁ……あれ、この二体まだ生きている」

盗賊「そりゃそうだろ」

剣士「え? そうなのか?」

盗賊「お前……俺を暗殺者か何かかと思っていねーか?」

剣士「でも盗賊であれば一撃で仕留める必要はあるんじゃないのか?」

盗賊「仕留めたろ。必殺はしていねーけども」

勇者「そうか……姿を見られる前に意識不明にすればいいだけだもんね」

魔法「あ、なるほど」

僧侶「それにしてもとてつもなく素早いですね」

盗賊「まあな」

剣士「だがこれで戦術の幅が広がるんじゃないか?」

勇者「うん……盗賊の機動力なら様々な状況に対応できるだろうね」

26日に言ったけどもやたらと家族連れがいた
何かのツアーとか、か……?
園児もいたから学校行事じゃあるまいし

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オオハシとトキの水辺にキンムネオナガテリムクが
紛れていたのもそういう事なのだろう

あああああああああ
うわああああああああああ


盗賊「まさかこうして違う町に来る事ができるたー思わなかったぜ」

僧侶「……指名手配とかされていないといいのですが」

勇者「……あっ」

剣士「え? 考え無しなのか? 俺はてっきりそれぐらいは案があるかと思っていたぞ」

魔法「ちょ、どうするの?」

盗賊「バレたらバレただ。魔法使い人質に取って逃げてやるよ」

勇者「僕達を脅していた体にするつもり? 駄目だよ、そんなの」

僧侶「というか私すら候補に上がらないのはなんででしょうかね」ピキピキ

盗賊「あんた、それなりに力あんじゃねーか」

師匠「フゥーハハハハハァ!!」

盗賊「おわぁ!」

勇者「師匠!」

剣士「また突然現れますね」

師匠「全く、我が弟子ながらいきなり問題を起こして行きおって」

師匠「それも法的にはどっぷりとだ! 成長したな!」

魔法「成……え?! そういう解釈?!」

僧侶「ああ……勇者の行動の悪化には理由があったという事なのね」

勇者「というかもしかして師匠、僕らを捕まえに……?」ブル

剣士「……全力で追いかけてきた、か?」

師匠「フッフフン」

勇者「師匠!」パァ

師匠「そぉい!」ゴッ

勇者「がぁっ! アアアアァァア頭ァァァァ!」バタバタ

魔法「げ、拳骨」

僧侶「痛そう……」ゾォ

剣士「あの……どういう状況ですか、これ」

師匠「うむ、順に追って話そう」

勇者「アアア……アァァァ」ゴロゴロ

盗賊「勇者のやつ放置かよ……」

僧侶「あ、忘れてた……回復魔法」パァ

勇者「はぁ……はぁ……」ズキズキズキ

師匠「知っての通り、あそこの領主は悪事を働いていてな。今回、ついでで実態調査も行おうと思っていたのだ」

師匠「そうしたら色々とやらかしてくれた事後処理であったり、盗品は本来あそこにあるべき物でなかったり」

師匠「強行調査となったがボロボロと出てな。待ったなしで富、地位その他諸々没収だ」

魔法「……あれ? あたし達責められる事ないんじゃ」

剣士「脱獄させたのは罪だし、本当はもっと穏便に事を運ぶべきだった、ていうのは想像できるね」

師匠「そういう事だ」

勇者「……う、すみません」

師匠「お前も君達も無事なのだ。これ以上言うまい。しかしあまり周りを巻き込むような事はするんじゃないぞ」

勇者「はい……」

盗賊「つーか、この人って超有名人だよな」ボソ

剣士「まあな。勇者の師匠を務めるって事も考えるとそう不思議でもないだろ」

僧侶「まさかこれだけの為に急いでこちらに?」

師匠「うむ、間に合いそうであったからな。これからも油断せずに進むのだぞ」

師匠「では達者でな! とう!」バッ

馬「ヒヒイイィィン!」

師匠「せやぁっ!」ザカザ ザカザ

魔法「相変わらず嵐のような人ね」

勇者「うん、まあ……とっくに慣れたから僕は平気だけど」

盗賊「……あの人のところで修行を? お前、見た目以上に怪物なんだな……」

勇者「え? いやぁそんな事ないと思うよ」

勇者「また無事に町に着けたね」

剣士「ああ、このまま快進撃が続けばいいんだけどな」

盗賊「別に苦戦している風には見えねーが」

魔法「何時まで敵があたし達で対処できる保障はないしねぇ」

僧侶「現状に胡坐をかいてはいられないわ」

勇者「うん、僕ら自身もっと強くならないと……」

盗賊「……へえ」

盗賊「改めて言わせて貰う。この魔王討伐の旅、終わるまでよろしく頼むわ」

勇者「え? ああ、うんこちらこそ……でもなんで?」

盗賊「俺は飽くまで貸し借りでお前に協力しようと思った。がやめた」

盗賊「俺は俺の意思で、あんたらの戦いに参加したい。そんだけだ」

剣士「……どうだ、勇者?」

勇者「……え? あ」

勇者「うん、盗賊はもう僕達の仲間だよ。信頼できる大切な仲間だ」

盗賊「こいつ大丈夫か……いきなり信頼とか騙されんじゃねーの?」

勇者「ふふ、そういう事する気ないくせに」

勇者「これからだけども、このまま水の国に進み、城下町で装備を買い換えようと思う」

剣士「恐らくそこでの装備が最終決戦まで持っていく事になるな」

盗賊「そういや魔王ってどこにいるんだ?」

魔法「東南東、森の国と荒野の国の先って話」

盗賊「僻地じゃねーか」

僧侶「ルート的には森の国を通るのに、装備が水の国って?」

勇者「森の国だと弓矢とかなら多いけども、君らみたいな魔法型や僕達前衛型の装備ってあんまりないんだ」

盗賊「あー美味かった」ゲフッ

勇者「さて、と。後は各自自由行動で」

剣士「そういえば、盗賊はなんで義賊をしているんだ?」

盗賊「あー? 成金野郎どもが気に食わねぇから」

盗賊「後は孤児だったからな。そういうところの教会やら何やら、見てるとほっとけねえんだよ」

魔法「根は善人だね」

盗賊「はっ。犯罪は犯罪だろうが」

僧侶「それを込みで行っているのでしょう? だったらやっぱり」

盗賊「だああうっせえぇ! こそばゆいんだよ、なんだよお前ら!」バッ

盗賊「俺ぁ寝る!」

勇者「あちゃあ……怒らせちゃったかな」

剣士「そうか? 本気で怒っているわけじゃないだろう」

魔法「さぁてあたし達もそろそろ寝ようかな」

僧侶「そうね、それじゃあおやすみなさい」

剣士「ああ、おやすみ」

勇者「おやすみ、二人とも」

魔法「うん、また明日ね」

剣士「勇者はこの後どうする?」

勇者「あー僕はちょっと用事があるかな」

剣士「……また素振りか」

勇者「……。流石に気付かれてたか」

剣士「野営の時だって朝早くからやっているだろ」

剣士「少し休まないと体を壊すぞ」

勇者「……」

剣士「焦らなくたっていいさ。俺達だっているんだからいくらでもフォローできる」

勇者「でも、やっぱり慢心はしたくないよ」

剣士「それが素で怪我をされても困るって話だよ」

剣士「ほら今日はもう寝るぞ。休める時に休むんだ」

マスクを外してブラストオフッ
ショーはお肉付き擬似獲物を仕留めるという内容
会場中心でお兄さんが擬似獲物をブンブン回してます

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勇者「ここから先は街道が続く。戦闘は減りそうだね」

剣士「次の町を超えると水の国の領内か」

盗賊「川や湿地が増えてくるな。水棲の魔物が這い出てくるわけだ」

魔法「そこはあたしの雷系の魔法に任せてよ」

僧侶「水辺での戦闘ね……大丈夫なの?」

勇者「うーん……相手が魔物だと分が悪いよね」

勇者「可能であれば遭遇しても水辺から離れて戦うべき、ていうのは皆も覚えておいてほしいかな」

盗賊「そういうもんなのか?」

剣士「昔、大洪水と共に魔物達の進撃があった際は、川から際限なく魔物が現れたと言われているな」

勇者「……」ザッザッ

剣士「……」ザッザッ

盗賊「……」ザッザッ

魔法「ほ、本当に敵いないね」

僧侶「たまにはのんびり旅というのもいいわね」

勇者「これで平和だったらいいんだけどなぁ……」ハァ

盗賊「それ俺いる意味なくね?」

剣士「まあ……そうなっちゃうよな」

……
リザードマンA「シャアアアア」ギィィン

剣士「流石に! 重いな!」キィン

リザードマンB「ヤアアアア!」

勇者「くっ」バッ

盗賊「……」サッ

盗賊「とうら!」ザッ

リザードマンB「ガアア!」

魔法「雷撃魔法!」ビシャアア

リザードマンB「ギャアアアア!」

剣士「ふったっ! はぁっ!」キィンキィィンギィン

リザードマンA「シャアアアア!」ギィィンキィンガギィィン

勇者「たああ!」ヒュン

リザードマンA「!」バッ

リザードマンA「シャアッ」ヒン

勇者「く!」

僧侶「対斬障壁魔法!」

勇者(助かった!)ギン

リザードマンA「シャアアアア!」ズンッ

勇者「え……」ブシュァァ

剣士「くそ!」

盗賊「ちぃっ!」

リザードマンA「シャァッ!」バッ

リザードマンA「シィッ!」ヒュン

剣士「ぐ!」ギィィン

盗賊「動けねーってんなら」スン

リザードマンA「カハッ」ブシュァッ

盗賊「喉も狙いやすいぜ」

僧侶「回復魔法! 回復魔法!」

勇者「はぁっ! はぁっ! あり、がとう。大丈夫だ」

剣士「お、おい……真っ青じゃないか!」

盗賊「大丈夫なのかこれ?! 死ぬんじゃねーか?!」

僧侶「出血は止まっています。命に別状はないですが出血性のショック状態に陥っています」

勇者「え? 嘘、ほんと?」ハァハァ

僧侶「勇者、落ち着くまで横になって休んでいて」

魔法「それにしても一撃で障壁が破られるなんて」

盗賊「障壁の方に問題があったんじゃねーの?」

僧侶「む、試してみますか?」

剣士「たあああああ!」ギィィンガギィィィン

盗賊「おお……確かに機能しているな」

剣士「はあああ!」ギィン

対斬撃障壁「」ボフッ

剣士「はぁ……ふぅ、しかしリザードマンもそこまでは強くなかったはずだ」

魔法「……」

盗賊「一撃で敗れるはずないってか?」

剣士「少なくとも力の上ではさ」

僧侶「でしたらなんで……」

魔法「あーやっぱり」

剣士「どうかしたか?」

魔法「リザードマンの剣、魔力を帯びているよ」

魔法「対障壁用ね。障壁に対して貫通力が高まる魔法剣だよ、これ」

勇者「うーん……だからかぁ」

剣士「これ、使えるか?」

魔法「障壁を張る敵だけならね。でも魔王軍が障壁を貼って戦うって聞いた事がないかなぁ」

僧侶「魔王ならいざ知れず、といったところですね」

盗賊「対人剣かよ……売れねえのか?」

魔法「用途が用途だからねー……多少は高くなる程度だと思うよ」

剣士「無いよりかはマシか……」

盗賊「ま、荷物的に問題になったら捨てりゃいいしな」

勇者「基本的に貧乏よりだし、少しでも利益があるなら持っていくしかないよねぇ……」

魔法「あれ? もう大丈夫なの?」

勇者「うん、あまり激しくは動けないだろうけども……」

魔法「それって駄目じゃない?」

僧侶「出血が原因だから、こればっかりはすぐには回復できないのよ」

剣士「動物でも狩ってきた方がよさそうかもな」

盗賊「だな」

数日後
勇者「ふう」ザッ

剣士「少し休憩にするか?」

勇者「いや、明日中には町に着きたいしもう少し進もう」

盗賊「お前、一応病みあがりなんだし無理すんじゃねえぞ」

勇者「はは、気をつけるよ」

僧侶「……? ねえあれ」

魔法「青い岩? 動いてる!」

ブルーシザーズ「キチキチ」シャキンシャキン

盗賊「おい! 蟹の化け物だぞ! どうすんだありゃあ」

勇者「……足は速くない、後退する! 盗賊は僧侶達の前へ!」

盗賊「あいよ」バッ

剣士「了解!」

魔法「あれ……本当にあたし達で勝てるものなの?」

勇者「今考えている!」

勇者(ブルーシザーズ。巨大な蟹の姿をした魔物……シザーズ系最弱、には見えないよなぁほんと)

勇者(ブルーシザーズなら甲羅に魔法反射の効果は無い。けどもかなり軽減されるんだっけ……)

勇者(ジリ貧で魔力を消耗するのも得策じゃない……かといって物理的な堅さも……どうする)

勇者(失敗すれば死、だけど逃げ切るにはかなりの距離が必要だし、果てしなく遠回りする事になる)

勇者(……)

勇者「盗賊と僕とでブルーシザーズの前に出て囮になる」

盗賊「マジか……」

剣士「俺が要か……」

勇者「うん」

勇者「彼らは体が大きい分、あの鋏は脅威になる」

勇者「反面、僕達ぐらいの大きさだと背後に回れば死角に入れる、はず」

剣士「はずってお前……」

勇者「恐らくあれ相手に僧侶の障壁は役に立たない。俊敏強化魔法で支援してほしい」

僧侶「うっ」グサ

魔法「本当の事だからねー」

勇者「剣士はあれの目を潰して欲しい。如何に鋏が大きいとは言え、目を奪いさえすれば背後から攻撃できる」

勇者「勿論これは賭けに近い危険な戦法だ……だけど成功すれば町まで無事辿り着ける確率は格段に上がる」

剣士「分かったよ……お前達も死ぬなよ」

盗賊「俺よか勇者だけ心配してやれよ」

ブルーシザーズ「キチキチキチ」ヒッ

勇者「ふあっ!」ドゥンッ

魔法「いきなり鋏ではなく鈍器として?!」

勇者(なんで? 振り下ろす方が隙が生まれるんじゃ……)

ブルーシザーズ「キチチ」ヒュッ

盗賊「ちぃっ!」ドゴォン

僧侶(近づけはしないけども囮としては……それに打撃ならまだかわし切れなくても生存率が)

勇者(しかし何故打撃……何か引っかかる)

剣士「……」ギリッ

剣士(隙が見つけられない! ……俺にも歴代勇者達のような剣技があれば……堅い外殻を持つ相手でも)

剣士(だが……俺にはそれが無い。だからこそ勇者が命じたのは目を狙え……か)

剣士(一瞬の隙をも逃すわけには!)


盗賊「この程度避け、うおっ」ガクッ

魔法「!? 突風魔法!」

盗賊「ぐお!」ジャキン

勇者(!? ……しまった! ブルーシザーズの狙いは!)

ブルーシザーズ「キチキチ」ジョキンシャキン

勇者「足場を悪くして一撃必殺を……」ゾッ

勇者(射程外に退けばいいがそうしたら……後方の剣士が気付かれる!)

盗賊(こりゃあ不味いな……退けもできない足場も悪い……こいつ、事実上剣士を人質に取っているものじゃねえか!)

ブルーシザーズ「キチチ」ヒュン

勇者「くぁっ!」バッ

盗賊「っらぁ!」ギィン

ブルーシザーズ「ギヂヂ」ギギギ

僧侶「関節に! でも切断には……」

盗賊「やはり……駄目か!」

勇者「! 魔法使い! 僕達を切れ!」

魔法「! 分かったわ!」シュン

盗賊「俊敏強化魔法が、切れた……?!」グググ

僧侶「魔法使い!?」

魔法「……俊敏強化魔法!」


剣士(相手の動きは大幅に制限されたとは言え、片腕だけでも脅威だ)キュオン

剣士(が、魔法使いの全力の俊敏強化魔法があるならば)バッ

ブルーシザーズ「ギヂヂ」ザシュッ

盗賊「なっ」

勇者「魔法使いは剣士に筋力強化魔法を。盗賊はそのまま片腕を抑えていて」

勇者「僧侶は即座に回復魔法を撃てる準備!」

勇者「剣士は……任せる!」

剣士「……一番困る命令だな」

剣士(だが勇者らしい……相手を信頼してこそ)

勇者(そして魔法の効果が切れた今、もう片方の腕は僕が受け持つしかないが……)

ブルーシザーズ「ギギ」ブンブォン

勇者「うおっと!」ブァン

勇者「そうだ、こっちだ!」ギィィン

盗賊「うん?」ググ

盗賊「うあっ!」ブン

僧侶「盗賊さんを放り投げた!」

剣士「!」ブァ

勇者「剣士! 避け」

魔法「雷撃魔法!!」ズガァン

ブルーシザーズ「ギヂヂヂヂ」バチ バヂヂ

勇者「! 剣士!」

剣士「ああ! たああああ!」ザンッ

盗賊「腕を両断しやがった……できるんだったらもっと早くにしやがれよ……」

僧侶「回復魔法。目がある状態では成功しないかと思いますよ。それに雷撃魔法で怯んでくれたのは運が良かっただけですし」

勇者「だからこその好機!」バッ

剣士「見過ごす訳にはいかない!!」ダッ

……野営
僧侶「はい、勇者」

勇者「ありがとう。わー蟹鍋だなんて初めてだ」

剣士「沿岸部に住んだ事もないし俺もだな」

魔法「いっぱいあるし保存も効かないだろうからいっぱい食べてねー」

盗賊「んじゃ有り難く食わせてもらうぜ」

勇者「肝を潰したけど何とか勝てて良かったなぁ……」

剣士「全くだな」

ホーホー
盗賊「んじゃあ初めは俺な」

勇者「うん、任せるよ」

魔法「おやすみー」

僧侶「よろしくお願いします。おやすみなさい」

剣士「じゃ、頼むよ」

盗賊「おうよ」


盗賊「しっかし暇だな」

盗賊(そういやぁ今日は満月か。索敵にゃあもってこいだな)

「」ノゾ

「」ノゾノゾ

盗賊(? なんだありゃ。馬鹿でかいスライムか?)ユサ

勇者「……ん?」

盗賊「なんかいるがどうするよ」ヒソ

勇者「……? なんだあれ……」

盗賊「お前でも知らないのか」

勇者「……うーん」

「」ノゾノゾ

「」グニョニョニョ

人形ゲル「」ノソ

勇者「! ブルーシャドウ!?」

盗賊「なんじゃそりゃ」

勇者「様々な耐性を持っていてその体は有機物を腐敗させる毒を大量に含んでいる」

勇者「攻撃が効き辛い為、悠然と向かってきて相手を取り込み腐敗融解して捕食すると言われている……」

勇者「好戦的ではないがこれは……」

ブルーシャドウ「」ノタ ノタ

盗賊「逃げるか? 向かってきているぞ」

剣士「あれも魔物なのか」

ブルーシャドウ「」ノタ ノタ

魔法「勇者の話どおりなら危険な相手だね。だけどもあれ……」

僧侶「逃げ切るのも難しくないように思えるわね」

勇者「うーんそうなんだよね」

剣士「でも一応戦ってみるんだろ?」

勇者「うん」

魔法「えー……」

勇者「町まで追いかけられても困るからね」

勇者「たあああ!」ギャイン

魔法「雷撃魔法!」ビシャァァ

ブルーシャドウ「」ノタ ノタ

僧侶「本当に効いていないわね」

勇者「これはむしろ障壁か……」

ブルーシャドウ「」グニャグニャ

剣士「待て、なんか様子が……」

盗賊「蜘蛛みたいな格好になっ」

ブルーシャドウ「」ザカザカザカ

勇者「は、走れ!」

剣士「ど、どうするんだあれ!」

勇者(不味い不味い不味い不味い不味い)ダラダラダラ

魔法「俊敏低下魔法!」

ブルーシャドウ「」ザカザカザカ

盗賊「効いてねえなぁ! そらっ!」ヒュン

ブルーシャドウ「」ヒュン

盗賊「流石に大人しく縄に絡まってくれねえか!」

僧侶「勇者!」

勇者(あれの耐性、そもそもこちらの攻撃が本体まで届いていなかったように見える)

勇者(しかし障壁は一度に一種。魔法や斬撃を同時に防ぐ事は……その一瞬ごとに張り替えてる?)

勇者「盗賊、投石! 魔法使いは魔法攻撃! 同時にお願い!」

魔法「風矢魔法!」

盗賊「そらっ」

ブルーシャドウ「」ガッドドシュッ

勇者(駄目か。なら何で……)

勇者(万能な障壁……? だがそんな魔王でも無いのに)

勇者(害意……もしや全ての害意を。なら!)

勇者「魔法使い! あの木を爆破魔法!」

魔法「もーさっきから何なのよ! 爆破魔法!」ドォォン

ブルーシザーズ「」ガラガラガガ

勇者(降り注ぐ木々すら……効いていない)

勇者「まさか本当に万能……そんな」

剣士「焦りすぎだ勇者」

勇者「だけどこれじゃあ」

魔法「噂程度だけどあらゆる攻撃に対する障壁が存在するって話は聞いた事があるわ!」

勇者「本当に……なら……どうやって」

盗賊「おい、こいつ使っちまうぞ」スラァン

僧侶「それは……でも確かに障壁であれば」

剣士「リザードマンの剣? そうか!」

勇者「一本だけお願い!」

盗賊「おう、とぅっ!」ビュ

ブルーシャドウ「」ズッ

ブルーシャドウ「」ボフゥッ

剣士「障壁が……!」

勇者「それでも接近は危険だ! 魔法使い!」

魔法「りょーかい! 雷撃、魔法!!」ビシャァァ

ブルーシャドウ「!」バヂヂヂ

ブルーシャドウ「」バフッ

僧侶「弾けた!」

盗賊「倒したのか? あれは」

ブルーシャドウ「」ブクボゴ

勇者「……」

剣士「なんとかやれたな」

魔法「それにしても、この魔物の情報って少ないの?」

勇者「詳細はよく分かっていないんだけども、何となくこれで分かったかな……」

勇者「投げただけで障壁を貫通した……対障壁貫通力を持つ力には軽く破れる障壁」

勇者「その代償としてその他に対する防御能力を持つ……そんな所かなぁ」

剣士「……今までそういう情報無かったのか?」

勇者「超耐久で高い耐性を持つとしか……」

盗賊「今まで力プレイで破っていたのかよ……」


勇者「はあ……疲れた」ドザァ

僧侶「昨日はあまり眠れなかったものね……」

剣士「大して魔物に襲われるでもなくてよかったな」

盗賊「確かにあの状態で戦闘になったらきつかったな」

魔法「あたしもう寝たいー!」

勇者「そうだね……ゆっくり休もう。出発は明後日、明日もゆっくりしよう」

勇者「と言うわけで今日は休暇! 自由行動だけど皆、くれぐれも気をつける事!」

剣士「ハメを外しすぎないと、だな」

盗賊「別に俺は酒飲んでるだけだから外でねーし」

魔法「ふ、不健康だ!」

僧侶「あたしは何をしようかなぁ……勇者はどうするの?」

勇者「えーと物資補給に新しい戦法を考えたり、あ、魔物の情報もまとめておきたいかな」

剣士「……ちゃんと休めよ?」

剣士(とは言え一日暇を弄ぶのもな……少し外で稽古でもしてくるか)

剣士(ブルーシザーズの時だって俺にもっと力があれば……)


魔法(うーん、この魔法試して見たいけど流石にここじゃあ……)

魔法(魔物に向けて撃ちたいけども我慢するかぁ)


剣士「あ」

魔法「あ」

魔法「あははー……ごめんね、つき合わせちゃって」

剣士「いや、俺も剣の稽古をしたかったしな」

魔法「え? もう結構凄いんじゃなかったっけ?」

剣士「慢心するにはまだまだだよ。力を抜きにしても勇者の師匠には足元にも及ばないよ」

剣士「その為にも……まだなっ!」ザンッ

ハイオーク「がああっ!」ブシュァ

剣士「強くならなくちゃいけない」

魔法「……ふーん。勇者と同じだね」

剣士「え?」

魔法「というか男って皆そー。気負い過ぎ。もっと力抜けばいいのに」

剣士「俺が勇者と……いやいやそんな」

魔法「あたしからすれば変わらないよ。なーんか凄い気負っててさー」

魔法「もっとこうさ! 初めて来た町なんだからもうちょっと滞在してさ! 美味しい物とか甘いものとか!」ギリギリ

剣士「……」

魔法「! それは置いといてほらなんていか、ほらあれ」

剣士「っぷ、あははは! いやいいよ、勇者にも話しておくよ」

剣士「でもそうだよな。もっと俺も気楽にいくべきなんだろうな」

剣士「……俺も勇者もせっかちだったな」

盗賊「……」

僧侶「……」ギュッ

盗賊「……」ジリ

僧侶「……」ジリ

盗賊「おい……おい! その杖の相手を短剣の俺っておかしいだろ!」

僧侶「剣士さんがいないのですから仕方が無いじゃないですか!」

盗賊「くっそ、手前の稽古に付き合うなんて言うんじゃなかった!」

僧侶「男に二言はないんでしたよね! 体を動かしたいんです! いざっ!」バッ

勇者「……」サラサラサラ

勇者「そうか……シャドウ系は遭遇率そのものが低いのか」

勇者「水辺近くに生息……魔王軍じゃないから軍勢も捕食するのか」

勇者「じゃあ魔王軍の中に天敵? ああ、あのリザードマンか」

勇者(もう長い事魔王との戦いは続いているけども、不明な事もあるんだなぁ……)

勇者(不明と言えば……勇者は皆、魔王を倒した後に行方不明になる……あれは一体)

勇者「ふああ……結局何も見つからない、か」

盗賊「……」ムスッ

僧侶「だからごめんなさいって」

勇者「何してんのさ」

僧侶「ちょっと訓練に付き合ってもらったのよ」

盗賊「訓練だと? あれが?!」

勇者「滅多打ちにされたんだね……」ホロ

盗賊「昔からかよ……」

勇者「僧侶、昔から凄いやんちゃだよ。僕と一緒に野山を駆け回っていたし」

盗賊「なるほど……」

魔法「ただいまー」

剣士「ただいま、回復魔法頼むよ」

僧侶「ではいきますね」

盗賊「なんだ? お前ら外に行ってたのか?」

剣士「ちょっと稽古をな」

勇者「今日は早めに休もうか?」

剣士「明日に備えてそうするか……」

魔法「あーあたしも結構疲れたし」

盗賊「晩飯どうすんだよ」

僧侶「それも各自かしら?」

勇者「それでいいんじゃないかな……僕は下の食堂で食べてくるよ」


勇者「……」

剣盗魔僧「……」

勇者「え? 結局?」

剣士「いや……一々他で食べてくるのもあれだと思ったら」

盗賊「だな」

……
勇者「さて、これから水の国の城下町に向かうけども」

勇者「何度も言うようにこれからが水辺の魔物の脅威を見る事になる」

勇者「皆、気を抜かないで欲しい」


勇者「! 敵影確認!」

剣士「戦闘準備!」バッ

盗賊「っしゃあ!」

勇者「敵……数5! あれは……」

哨戒部隊「敵構成、リザードマン4、ブルーシザーズ1!」

哨戒部隊「魔法部隊砲撃開始、前衛部隊槌にてブルーシザーズを穿て!」

哨戒部隊「おおおお!!!」

魔法「わぁぉ……」

僧侶「ゎー……」

剣士「よくよく考えたらそれだけ地の利が相手にあるなら、戦力が集結しないようにするよなぁ」

勇者「うん……何時から僕らだけが戦っていると錯覚していたんだろうね」

盗賊「あいつらすっげぇな……」

勇者「うーん、でも数で押さえている感じかな。何だかんだであの人達と比べると魔法部隊は一人あたり0.5魔法使いくらいだし」

盗賊「え? マジで?」

剣士「魔法の事はからっきしだが本当なのか?」

僧侶「ええ。魔法使いはこれでも優秀なんですよ」

魔法「これでも?! 酷くない?!」

魔法「こう見えてある程度難解な魔法も読み解いているんだよ!」

魔法「後は……まあ……魔力さえあれば……何とでも」ブツブツ

勇者「でも魔力操作が凄い上手いんだよ。本来必要とする魔力以下で魔法が使えるし、高位の魔法だってね」

僧侶「昔は引きこもりでずっと本読んでいたものねぇ」

魔法「うるさいっ」

盗賊「よく分かんねーが魔法に関して天才とか、か……?」

魔法「や、そこまで言われると恥ずかしい。けどまあ同年代の中ではかなり上位にいるはずだよ」

剣士「……二年くらい付き合いがあるのに知らなかった」

魔法「まーあまりそういう話しなかったしねぇ」

魔法「うーん、次の戦闘でちょっとそのお手並み見せようかなっ」

僧侶「でも魔法使いは簡単に乗せられちゃうのが玉に瑕なんですよね」

勇者「そして大抵碌な事が無いし」

盗賊「ほうほう。俺も気をつけるわ」

魔法「ちょっと!」

剣士「だけど今回のは多分大丈夫だ」

勇者「なら安心だ」

僧侶「剣士さんがそう言うのなら楽しみにしますね」

魔法「ちょっとぉぉ!!」

勇者「という時に限って敵って出てこないよね」

剣士「だな」

僧侶「因みにその魔法ってどういうものなの?」

魔法「一度に複数放つ魔法を一点に射出するっていうもの」

盗賊「……そんだけか?」

勇者「ぱっと聞くと普通っぽく聞こえるけど、そんなことができるって聞いた事無いよ」

盗賊「そういやぁそうだな」

僧侶「でもそういう魔法って命中率を高める為に連続射出するものよね」

魔法「ふふん、これでもあたしはそれ系の魔法を一発も外した事は無いのよ」

勇者(凄いんだけど地味なんだよね……それ)

剣士(凄いが今まで全く気付かなかった)

盗賊(気付かねえよんなもん)

僧侶(本当に自慢できる話なんだけども、魔法が使える人で無いと共感はしてもらえないのよ魔法使い)

魔法「収束風矢魔法!!」ビュッ

リザードマン「」ドゥッ

顔面に穴の空いたリザードマン「」ドザァ

勇盗「」ガタガタガタ

僧侶「流石にドン引き」ゾォ

剣士「こ、こんな威力あったのか……」ゴクリ

魔法「う、うっそ! 全力とは言え風矢魔法よ! 何今の威力!」ブルル

勇者「火球魔法って確か複数投げつけるタイプあったよね……」

盗賊「それはあれか……? 炎っつーか一瞬で肉も蒸発する光とかか?」

剣士「光線魔法化か……光線魔法の乱射型もあったしあれも収束したら……あれ、俺達ほぼ無敵になった気がする」

僧侶「多分、今この瞬間に魔法使いは界隈でトップクラスに登り詰めたわよ」

魔法「そんな顔しないでよ! あたしが一番驚きなんだから!」

僧侶「例えば地面に向けてとかやってみなかったの?」

魔法「いやだってこれそれなりに疲れるんだもん。あんまり無駄撃ちはさあ」

勇者「世界の魔法学を覆した一撃をそれなりに疲れる、だなんて」

剣士「これが天才というものか」

盗賊「間違った意味で向こう側に行っちまってんじゃねえか? これ」

水の国 城下町
勇剣盗僧「……」

魔法「……」

勇者「ブルーシザーズの甲羅を……貫通した……」

剣士「ブルーシャドウの障壁も……貫通した……」

盗賊「あの苦戦はなんだったんだ、なあ」

魔法「そ、そんな事あたしに言わないでよ! ほ、ほらあれだよ。あれであたし活躍できなかったし」

魔法「もっと頑張らないとなーと思ってさ! 結果的にあれがありき、みたいな!」

僧侶「……あ。範囲にかける強化魔法も収束したら」

剣士「範囲超過魔法を習得したら……」ゴクリ

勇者「もうなんか魔法使いさえ強ければ良くなってきたなぁ」

騎士「君達、もしや勇者殿ご一行では?」

勇者「え? ああはい。そうですが貴女は……」

騎士「私はこの国の騎士だ。が、この度、勇者殿の魔王討伐の旅への同行が許可された」

騎士「もし、貴方方さえよろしければ是非、加わらせてもらいたい」

剣士「水の国の騎士が……凄い事じゃないか」

魔法「そうなの?」

僧侶「そうね。水の国の騎士と言うと、魔法も剣も使えると聞くし相当の技量が無いとなれないとも言うし」

盗賊「ほー……どうすんだ?」

勇者「え、あー……」

勇者「んー……」

剣士「随分と歯切れが悪いな……」

勇者「いやだって、そんないきなり言われたって。そうほいほい人の命を預かれないよ」

盗賊「そういうもんか?」

魔法「葛藤ぶち抜いて押し切った人が何か言ってる……」

僧侶「でもなんだかんだで盗賊さんもすっかり馴染んでいますよね」

盗賊「お前ら良い人過ぎんだよ」

勇者「正直言って僕はこれ以上はちょっと指揮を執る自信ないなぁ」

盗賊「あ? 全然余裕だったろうが」

勇者「いや……背負ってるもののプレッシャーがさ」プルプルプル

騎士「お気遣い無く。私とて命を張る気無しに同行の許可を頂きに来た訳ではない」

騎士「勇者殿が最善と判断するのであれば、この命切り捨てる策も受け入れますとも」

勇者「そういう重たいの止めて!」

僧侶「胃、大丈夫?」

勇者「だから嫌なんだよ……」

騎士「今なら私の全てを捧げてもいいぞ!」

勇者「ぶぅっ!」

盗賊「水の国の人間って頭おかしいのか?」ヒソ

僧侶「そんな話は無いのですけども」

剣士「必死過ぎじゃないか? なんでまたそこまでして同行したいと……」

騎士「……私にとって幼い頃から、歴代勇者の物語は文字通り英雄譚。どれほど胸焦がれたか」

騎士「そして私が今こうして剣を振るう時代にもその時が来た。是非とも、その旅に加わりたいのだ」

勇者(よ、予想以上に……)

剣士(考えが私利な……)

魔法「んーいいんじゃないかな」

勇者「ちょっと魔法使い」

魔法「正直に言ってあたしの魔力尽きたらこの先、全滅しそうじゃん」

魔法「ブルーシザーズ戦だって僅差というか運の領域だったし。雷撃魔法とか盗賊が片腕抑えたとか」

魔法「どれ一つ賭けても勝機に結びついていなかったよね?」

勇者「そ、それは」

僧侶「確かに戦力強化は必要ね……」

盗賊「あの新魔法だって魔法使い一人に依存だしなぁ。あ、魔力が尽きたらってそういう事か」

魔法「そうそう」

騎士「どう、だろうか?」

勇者「う~~~~……はぁ。分かったよ。ただもし少しでも嫌になったら抜けていいからね?」

勇者「本当はね、そう簡単に仲間を増やしたりしたくないんだよ……?」

騎士「ふむ……ならば仲間に引き入れて良かったと思わせる働きをすればいいのだな」

勇者「……」

魔法「すっごいポジティブ」

僧侶「本当ね……」

剣士「まあ何にせよ、今後は背中を預ける仲間だ。よろしく頼むよ」

騎士「ああ、こちらこそよろしく頼む」

勇者「ええと、騎士さんの能力を知りたいんだけど何が得意なんですか?」

騎士「私は剣がそこそこ、そして障壁魔法なら一級品と言われています」

盗賊「剣がそこそこっていいのかよ」

騎士「ぱっとはしないが上位の近くには食い込めるのだがねぇ」

勇者「ん~、申し訳ないけども剣士と手合わせしてもらってもいいかな?」

騎士「構わないぞ」

剣士「水の国の騎士を相手とかお前馬鹿か……」

魔法「どう思う?」

僧侶「どうかな。剣士だってかなりの腕前だけど、相手は軍属として訓練を受けているし……」

剣士「いざ!」

騎士「尋常に!」バッ

騎士「たああああ!」ヒン

剣士(速い、だが!)

剣士「ふっ!」ギィィン

剣士「やあああ!」ガギィンギィィンギィィン

騎士「ぐっ!」ギィィンガギィィィン

騎士(速さなら私のが上だが、太刀筋も重さも圧倒的に!)

騎士「たああああ!」ギィィンギィィィン

剣士「くっ! はぁっ!」ギィィィン

騎士「ちっ!」サッ

剣士「! そこぉっ!」ガァァン

騎士「っ!」ガラァン ガラン ガラガラ...

僧侶「決まった!」

勇者「勝負有り! というか剣士も凄いじゃない。以前見た時よりもずっと強くなってるよ」

剣士「まあ、な」

騎士「はぁ……はぁ……」

剣士「ふぅ……」

魔法「剣士、すっご……」

僧侶「ええ、騎士さんよりも数歩先程度とは上をいっていたわね」

勇者「……」

剣士「立てるか?」

騎士「ああ、かたじけない」

騎士(数歩……そうだな。傍から見ればそうなのだろう)

騎士(馬鹿な……。私は全力で息も切れているのに彼は少し息が上がっている程度)

騎士(これが殺し合いの場であったら私は到底……世界は広いな。これで彼は兵としての訓練を受けていないのか)チラッ

剣士「? どうか?」

騎士「いや、勇者様のお仲間は優秀な方ばかりなのだろう、と私如きが同行など恐縮な思いになってしまってな」

盗賊「つってもあんた、障壁の方が得意なんだろ?」

僧侶「……」ギクッ

魔法「僧侶と障壁対決かぁ」

僧侶「……」ビクッ

僧侶「……」

騎士「……」

勇者「魔法使いの障壁、剣士の攻撃に9発耐久」

剣士「騎士の障壁は25発」

僧侶「……負けた、騎士に負けた、本職なのに」ガタッガタガタ

盗賊「どういうこった?」

勇者「一応はね、神に仕える人達の方が障壁の力が大きくなるんだよ」

魔法「それ故あって障壁魔法は神のご加護あっての事ってね」

盗賊(……魔物でも使えてんじゃなかったっけか)

騎士「ま、まあ私はほら、これのお陰で騎士の位みたいなものだから」

僧侶「……」ズーン

剣士「どう思う?」

勇者「んー剣士と共に最前線で強力な火力となり、障壁の力は非常に強い。心強いよね」

僧侶「勇者までそういう事を言うの?!」

勇者「辛辣な事言って無いよね」

魔法「むしろ周りが酷い事言っている事になっているよね」

勇者「そ、僧侶は回復魔法や支援魔法に集中してもらったほうがいいかな」

僧侶「魔法使いのが支援魔法上手いじゃない……」

剣士(フォローが追いつかないな……)

……
勇者「と言う訳で今後はこのルートを通っていく」

騎士「その辺りは哨戒部隊の全滅しやすいポイントですね。くれぐれも各自警戒を怠らないで下さい」

勇者「えっ」

剣士「全滅って……国は何もしていないのか?」

騎士「何度か討伐部隊を向けているのですが戦況はよろしくないようですね」

魔法「大丈夫なのかしらそれ」

盗賊「地図で見る限りあまり遮蔽物もねえよな。どうなっていやがるんだ?」

勇者「うわぁ……不安だ」

勇者「! あれは……」ガササ

剣士「何かいたのか?」

騎士「哨戒部隊?」

勇者「いや……あれはリザードマン!」

魔法「リザードマンの部隊? まさか哨戒部隊を迎撃したのって」

騎士「いや、上級のリザードマンとは言え全て全滅させるのは難しいだろう」

剣士「上位種であればその対策を取る。とすれば、全滅するまで戦うような事はないはずだ」

盗賊「じゃあそれとは別のって事か」

勇者「待って! これは……魔王軍!」

盗賊「そりゃあ魔王軍だろ。野良魔物じゃなけりゃあよ」

剣士「いや、まさか……正規軍!?」

勇者「間違いない……正規軍の形状の鎧だがあれは一体」

騎士「? その単眼鏡を貸してもらえないか」

僧侶「何か問題でもあったの?」

勇者「……問題というかよく分からないんだ。あれは……」

騎士「青い……動く度に揺れている? 堅い物ではない」

勇者「ま、まさか……ブルーシャドウ……」

剣士「はっ?」

騎士「そんな事が……しかしどうやって」

勇者「確かに書物にはブルーシャドウの天敵はリザードマンとされているけども理由までは明記されていなかった」

勇者(とすると、リザードマン種は持つ剣は対障壁破壊能力を備えている?)

勇者(いや、リザードマンが持つと剣にその能力が帯びる……ある意味対人特化型の魔物だったのか)

勇者(そしてブルーシャドウは魔王軍ではない魔物。徘徊する魔物を捕食するから数が増えると討伐されていた)

勇者(その具象が天敵とされていたのか……)

剣士「つまり天敵に捕らえられ、ああして協力させられているのか……」

魔法「それはおかしいよ。障壁を破られてもブルーシャドウの体自体が有害なんだよ?」

魔法「ウィザードリザードマンでも無い限り、近接戦ではリザードマンだって危険なはずだよ」

盗賊「天敵ってんだからそれが効かないとかじゃねーの?」

僧侶「あるいは手足出せない状況に追い込まれて魅了魔法か束縛魔法か……」

騎士「どうするのだ……? こちらには気付いていないようだがもう時間は無いはずだ」

勇者「ブルーシャドウがついていると思しき箇所は盾と鎧か……」

魔法「遠距離砲撃で片付ける?」ムン

勇者「駄目だ。気付かれたら盾を掲げるだけで防がれる」

剣士「? ブルーシャドウの障壁も貫通したよな?」

勇者「うん。だけど今のブルーシャドウは自身が戦う必要が無い」

勇者「もし全力で障壁を貼られていたら……」

僧侶「なるほど……確かにその可能性は考慮しなくてはならないわね」

僧侶「あるいは手足出せない状況に追い込まれて魅了魔法か束縛魔法か……」

騎士「どうするのだ……? こちらには気付いていないようだがもう時間は無いはずだ」

勇者「ブルーシャドウがついていると思しき箇所は盾と鎧か……」

魔法「遠距離砲撃で片付ける?」ムン

勇者「駄目だ。気付かれたら盾を掲げるだけで防がれる」

剣士「? ブルーシャドウの障壁も貫通したよな?」

勇者「うん。だけど今のブルーシャドウは自身が戦う必要が無い」

勇者「もし全力で障壁を貼られていたら……」

僧侶「なるほど……確かにその可能性は考慮しなくてはならないわね」

勇者「一度退いて体勢を立て直し攻撃を行う」

剣士「了解」

盗賊「哨戒部隊ってのは相手がリザードマンだってんで戦ったらてんで勝てず、気付けば全滅一直線だったって事か?」

騎士「状況を考えるとその可能性が高そうですね」

僧侶「どう戦うつもり?」

勇者(この辺りは茂みが多い……これを使わない手は無いが)

勇者(確実に魔法使いの攻撃を当てて、可能な限り一撃で無力させないと……)

勇者(剣士達で敵を誘導してもらう……だけど魔法使いの攻撃は? 剣士達にまで……あ)

勇者「騎士さん、障壁は一通り貼れますか?」

騎士「うむ、任せて欲しい」

僧侶「……」

魔法「よしよし」ナデナデ

勇者「現在リザードマンは西に向けて進行。恐らく町まで食い込む事は無いと思うけどもこれ以上の被害は避けたい」

勇者「彼らをここで討伐するにあたり、茂みを用いて奇襲を行う」

勇者「剣士、騎士、盗賊、僧侶。南から大きく回りこんで注意を引き付けて欲しい」

勇者「僕と魔法使いで北から回り込み、雷撃魔法を放つ」

騎士「なるほど、私の障壁でそれを防いでの攻撃と言う訳ですね」

盗賊「それ、貫通したりしないよな……」

勇者「収束魔法じゃないから流石にそれはないはずだよ」

魔法「え? 違うの?」

勇者「この茂みだ。地面すれすれに撃って欲しい」

剣士「足具にブルーシャドウが付いていたら?」

勇者「障壁は完全に無力化するものじゃないよ。特に電撃なら逸れるだけだ」

僧侶「盾で上手く軌道を逸らさない限りは当たるという事ね。でも横に逸れたらそのリザードマンは無傷じゃないの?」

勇者「そこは魔法使いの腕次第だよね。一呼吸の内に何発撃てるんだっけ?」ニコ

魔法「あー……勇者も結構えげつない事考えるよねー」ニヤ

勇者『攻撃タイミングはそちらが交戦3分後くらいかな? 騎士さんに任せるよ』

勇者『全力の障壁を貼って貰えれば魔法使いが魔力に気付いて魔法を撃つ』

勇者『こちらが先に魔力を放出するとリザードマン達に気付かれるかもしれないしね』


騎士「素晴らしいお方だ。一国の指揮者よりもよっぽど頭が回るのではないか?」

剣士「流石にそこまではどうかな」

僧侶「でもこのくらいの少人数の規模だったら逆に強いと思いますよ」

盗賊「そーいや俺も慣れちまって忘れていたけど、普通じゃあねえよなあれ」

剣士「たああああ!」ギィン

リザードマンA「クックク」ニタニタ

僧侶「やっぱり届いていないわ……」

剣士(だがそれでいい。俺達は陽動だ)

騎士「はああ!」ギィン

盗賊(もうちょいで三分か?)ヒョイヒョイ

リザードマンB「こいつちょこまかと!」

リザードマンC「くそっ! 当たらねえ!」

騎士(そろそろか)バッ

剣士「前は俺達で!」

盗賊「おうよ」

騎士「はっ!」キィィン


魔法「……」ピクッ

勇者「魔法使い」

魔法「ええ」ゴォ

魔法「……」スゥ

魔法「雷撃魔法!!」ドドド ドンッ

バヂヂズザザザ
リザードマンG(障壁とは違う魔力っ!)

リザードマンF「伏兵k」ヂヂ

リザードマンA「ガアアアアア!!!」ズガガバヂヂ

「なっアアアアア!」
「グアアアア!!」
「ガガガガ!!」

剣士「来るっ!」グッ

盗賊「流石にこりゃあ……」

騎士(魔法使いさん……恐ろしい方だ。まさか四発同時に放つなんて)

騎士(私に耐えられるか……? それほどの人の魔法四発……敵が間に入っているとは言え)ゴクリ

騎士「ぐっぐぐ……!」バヂヂヂガガガガ

盗賊「お、おお……」ゴクリ

剣士「……」

騎士(もう、もたないかっ)バヂヂバシュッ

剣士「障壁が!」ジジ

盗賊「くっそ……!」ヂヂヂ

騎士「すまな」バヂヂヂ

バヂン
剣士「……?」

盗賊「止ま、った?」バシュゥ

騎士「もう一枚障壁……?」

僧侶「はぁっ……はぁっ……」ガクガク

剣士「まさか僧侶が障壁を?」

僧侶「あ、当たり前じゃない。惹き付ける間の回復役以外であれば障壁しかできないわ」

盗賊「あんだけ俺をボコっといて」

剣士「いや、この茂みじゃあな。近接格闘だってちゃんとした流派ではないって話だし」

僧侶「ええ、勇者と遊んでいるうちにある程度の力がついただけですもの」

騎士「……? え? 僧侶さんは近接格闘が出来る? え?」

勇者「だ、大丈夫だった?」

魔法「ご、ごめん!」

剣士「ああ、何とか無傷だ」

騎士「私ならば耐えられるだろうと……慢心でした。本当に申し訳が無い」

魔法「? え? 障壁破った?!」

盗賊「僧侶のフォローのお陰で無傷だがよ」

勇者「そうか……残りを僧侶の障壁で防ぎきったのか。魔法使いの全力雷撃魔法四発は二人分の障壁か」

僧侶「まあ……私の障壁なんてね、紙っぺらみたいなものだけど。ふふ」

勇者「そう卑下しないでよ。僧侶がいなかったら皆無事じゃすまなかったんだからさ」ナデ

僧侶「……うん」

盗賊「つーかこっからどうすんだ? ブルーシャドウも全部潰さないとだろ?」

勇者「障壁に関して初めて分かった事があるんだ……障壁の範囲外にまで内部から物体が延びていると」

勇者「その物体を通して迫る力は防げないみたいなんだ」

剣士「……もう少し割りやすく」

魔法「障壁って基本術者を中心に球状に展開するの。地面みたく完全に密着している部分は完全に途切れる」

魔法「だから普通は障壁に対し、地面から電撃魔法等を当てても効果が無いし地面から何かーっていうのもね」

勇者「だけど装備化されたブルーシャドウの障壁は装備者のリザードマン全体を覆う事ができない」

勇者「矢のような直線型の攻撃なら問題ないだろうけど、電撃だからね」

勇者「障壁から出ている部分に命中し、そのまま体をかけ上り障壁との境を突破……」

騎士「ブルーシャドウにも電撃が? ある意味内側から攻撃した、という事ですか」

勇者「稀なケースだろうからね。こんな事誰も知らなかったんだよ」


盗賊「どうだったよ」

勇者「流石に正規軍の装備だったからね。そこそこの値で売れたよ」

剣士「それは良かったな」

勇者「結構な金額になったしたまには美味しい物をいっぱい食べようか」

騎士「……」

勇剣魔僧盗「……」

勇者「あ、嫌味じゃないからね?」オドオド

騎士「いや……うむ、勇者殿がそういう意味で仰る方ではないと心得ているよ」

盗賊(多分、一番金持ちだよな。あいつ)

剣士(よくよく考えたら上流階級なんだよなぁ)

僧侶(あまり頓着していないけども、このメンバーって貧富の差が激しいわね……)

魔法(結構それなりの所に雇われているなんて言えない)ビクビク

勇者「え?」

門番「だからこの先は通行止めだ」

騎士「私はこの国の騎士をしているものだ。更にはこの方は勇者殿であられる。理由を明確にしたまえ」

門番「え?! し、失礼致しました!」

剣士「それで、何かあったのですか?」

門番「こ、この先に巨大な魔物が出現しました」

魔法「ここから先って水の国と森の国の国境だよね」

僧侶「……まさか魔王軍の侵略部隊?」

門番「目だった侵略行為はありません……が、水の国と森の国の軍隊の同時攻撃を行うも」

盗賊「おいおい……まさか負けたのかよ」

門番「……」

僧侶「どうするの?」

勇者「とにかく先を進もう。問題の魔物を見てみない事には判断ができない」

騎士「相手が巨大であれば巨大であるほど、少数精鋭は不利となる訳ですがどうお考えなのですか?」

勇者「それは分かっているよ。今はそこまで侵略行為をしていないっていうし」

勇者「この人数ではどうにもならない相手なら、申し訳ないけど迂回しようと思う」

盗賊「ほー……ちと意外な判断だな」

勇者「勇気と無謀は違うんだよ。魔王を倒せば魔物は消える。マンパワーが必要な相手なら僕達だけでどうにかする必要は無い」

勇者「あのリザードマンのように、本来マンパワーが必要でもどうにかできるのなら話は別だけどさ」

盗賊「……改めてお前ってすげーと思うわ」

剣士(そうか……そういう直向だけど愚直じゃないって所が、皆を惹き付ける要素なのかもしれないなぁ)

勇者「……? あれかな」

盗賊「おお……なんだありゃ」

勇者「……」カチャ

剣士「……」カチャ

魔法「あれ? 剣士も単眼鏡買ったんだ」

剣士「あると便利だしこの人数だと複数個あるべきだと思ってさ」

剣士「にしても……」ゴクリ

勇者「これは厄介だね」

勇者「相手は龍とゴーレムだよ」

騎士「何と……」

勇者「多分……色からして水竜とウォーターゴーレムだ」

魔法「ウォーターゴーレム? ゴーレムって鉱物や土を体にするんじゃないの?」

僧侶「書物では砂を使った物もあったとされているわ。形にするとしてああいう流動的なものでもできるのでしょうね」

勇者「だとしてもそれはかなり高度なはずだ……本気で責めてこないのは有り難いけど、撃破は相当難しいだろうね」

盗賊「じゃあ回避か?」

勇者「うん」ン  ン

剣士「?」ゥン ゥン

魔法「地響きが近づいてくる?」ゥン ゥン

騎士「急いで回避しないと間に合わないな……」ゥン ズゥン

勇者「!」カチャ

勇者「違う! 既にこっちに気付いている!」

僧侶「え!」

騎士「な……では……」

剣士「戦うしか、無いのか……」

盗賊「龍って飛んでんのか?」

剣士「ああ、飛んでいたよ……」

盗賊「どうすんだ?」

勇者「……」

勇者(水龍がネックだ……どうすればいい。ゴーレムは倒せない事も無いだろうと思うけども)

勇者(迂闊だった……どうすれば)

勇者(水龍は魔法使い……とすればゴーレムは近接格闘か)

勇者(いや騎士さんに防御も任せれば無理ではないはず。と、すれば後は水龍を惹き付けるのは……)

勇者「前回と同じメンバーで行こう。剣士達はゴーレムを。僕と魔法使いで龍を」

剣士「つまり水龍は勇者一人で囮になると?」

盗賊「俺のが良くないか?」

勇者「あの水龍がどういった攻撃を仕掛けてくるか分からない。魔法主体であれば魔法に対する知識も必要になる」

魔法「ああ、なるほど」

盗賊「物理特化なら俺の出番だがそうじゃねえのなら駄目だわ」

騎士「しかし、私達だけでゴーレムを……」

勇者「足を狙い、切り崩して欲しい。そうすれば胴体や頭部への攻撃も可能になる」

勇者「水だからあまりダメージらしいものは与えられないと思うけど、切り崩された体はただの水に戻るから」

剣士「少しずつでもゴーレムの体積を減らして無力化しろって事か」

勇者「うん」

水龍「グオオオォォォン!!」

勇者「く……」

盗賊「あいつの注意惹き付けるっつっても、お前で出来るのか?」

勇者「弱い魔法なら、ね。行くよ」

魔法「ええ」バッ

剣士「上手く行くといいのだが……」

僧侶「やるしかないわ。私達も行きましょう」

騎士「そうですね……気合を入れてかかりましょう」

水ゴーレム「オオオォォ」ズゥン ズゥン

剣士「やるぞ! 散開!」バッ

盗賊「おっしゃあ!」バッ

僧侶「え? 散らばるの?!」

騎士「いや正しい。あれほどの巨体、固まっていた方が危険だ!」バッ

剣士「一斉に斬りかかるぞ!」

盗賊「おう!」

騎士「たああああ!」

勇者「火球魔法!」

水龍「ガアアアアア!!」ブアァァ

魔法「速い! 閃光魔法!」ビッ

水龍「グウウウゥゥゥ!」ビッ

勇者「閃光魔法さえも?!」

勇者(なんて速さなんだ! こんなのをどうやって)

水龍「ウウウ、ガアアアア!!」ブァァァ

勇者(水のブレス! 一撃で致命傷にはならないだろうけども水撃で全身!)

魔法「爆発魔法!」

勇者「うあぁっ!」ドゴォォォン

勇者(爆発でブレスを消したのか!)

勇者「ありがとう魔法使い! 火球魔法! 火球魔法!」ボッボッ

水龍「オオオオォォォン」ビュアァ

勇者「……?」

魔法「……」キィィン

魔法「爆散魔法!」ドゥン ドバンドバババババ

水龍「オオオオォ!」ビュォォ

魔法「広範囲魔法も……上昇して逃げるなんて卑怯だ!」

勇者「……」

勇者(妙だ……どうして全ての攻撃をかわすんだろう)ババッ

勇者「ぐう!」ドゴォォォォ

勇者(ブレスなら岩陰に隠れれば何とか凌げる……けどそれしか攻撃してこないのは?)

魔法「雷撃魔法!」ビシャ

水龍「グオオオオン!」ドゥ

魔法(当たらない……!)ギリ

勇者(もしかしてこの水竜……)

水ゴーレム「オオオオ!」ブォォ

盗賊「とうっ!」バッ

騎士「! 対物障壁!」ドガァァ

剣士「腕を一振りするだけでこれほどの範囲か……思いの外苦戦しそうだな」

僧侶(既に片足の足首まで切り崩し、ゴーレムも立つの諦めて膝立ちの状態で……)

僧侶(今のところ攻撃を当てられる事は無いけども、早く決着をつけないと危険だわ……)

剣士「たああああ!」ズザザザン

ゴーレム「オオォォ……」

盗賊「せあっ!」ザン

ゴーレム「ゴオオオオオオオ!!」ボッ ドドォォン

騎士「腕を落とした……あの俊敏、素晴らしい」

盗賊「時間かかっちまったがこれで楽になんだろ」バッ

剣士「もう片腕も行くぞ!」

勇者「魔法使い! 爆散魔法を空から地面に向けて発動させられない?!」バッ

魔法「出来ない事はないけどもどうするの?」

勇者(出来るんだ……)

勇者「地面には周囲に時間差で空に向かって放たれる魔法を!」

魔法「あたし一人で挟撃しろって? 酷い」

勇者「僕がもっと引きつけるからお願い!」バッ

水龍「ググゥゥガアアアア!」ドバァァァ

勇者「うひぃ!」ドドドドォ

魔法「……」キィィィィン

魔法「良し、同時に一気に……畳み掛けるわよ」ザッ

魔法「そっち終わっ……」ゾォ

人型水ゴーレムA「アー」

人型水ゴーレムB「オー」

魔法「くっ! 爆散魔法!」ドッ

人型水ゴーレムD「アー」バッ

剣士「!? つあっ!」ヒン

人型水ゴーレムD「アッ」スン ゴパッ

剣士「な……何が」


人型水ゴーレムF「アー」
人型水ゴーレムG「オー」
人型水ゴーレムO「ウー」

僧侶「な……」

僧侶「たああああ!!」ヒヒヒヒン

人型水ゴーレムF「ガー」ドドド ボジュドパ

僧侶「なんで……こんな」ギリッ

人型水ゴーレムX「ウー」

勇者「!?」

水龍「ガアアアアア!!」ドバァァァ

勇者「くっ! ブレスだけでも!」バッ ドバァァァァ

人型水ゴーレムX「ウ」ドパッ

勇者「えぇ?!」

勇者(味方ごと……しかも耐久力は低い……あのゴーレム。これが目的か!)

勇者(もしかしたらまともに水があれば回復も……確かにこれじゃあ数で押して勝てるものじゃ)

勇者(いや何よりもこの状況が不味い……! 決して強くないとは言え……)


魔法「風矢魔法!」ビビビ

人型水ゴーレムR「ガ」ゴパ
人型水ゴーレムAD「ヌ」ドポ
人型水ゴーレムBC「ア」ボコ

魔法「不味い……水龍に集中できない!」

盗賊「こいつら! 一太刀で倒せっけども!」シュパッシュパパ

水ゴーレム「ゴオオオオ!」ズオオオ

盗賊「こいつを避けながらだと……」ブァァァァ

騎士「対物障壁!」

盗賊「ぐお! すまねぇ!」ゴガアアアァン


勇者(かといってこれを放置するなど……一旦小さいゴーレムを掃討? ゴーレム攻撃後また?)

勇者(何て……何て気が遠くなる長期戦なんだ)

勇者(勝てるのか……こんな戦況……考えを変えるべき?)ダラダラ

勇者(水龍のブレスさえ魔法使いか騎士の障壁で防げばゴーレムからは逃げられる)

勇者(体勢を立て直すべきか……いや、魔法使いにゴーレムを先に撃破させるべきか)


水ゴーレム「ゴオオオオオ!」ブオオオオ

剣士「しまっ」ボフッ

剣士「が、あっ」ドォォン

盗賊「剣士!」

僧侶「! 回復魔法!」

剣士「すま、助かる!」

剣士(直前に僧侶の障壁が入らなかったら致命傷だった)ゾク

剣士(どうする……ジリ貧だぞ。勇者)

「! たったの六人で戦っている?」

「あの方達は一体……どうしますか?」

「加勢するに決まっているよ」スッ

「移動魔法、お願い」

「まだ……そこまで訓練していないんですけどねぇ……」

「お願い。どういう状況か分からないけども、今助けないと彼らも多分……」

「……分かりました。移動先はそこの平地。移動したら標的はこちらになりますよ?」

「それでもやるしかないよ」ギリリ ビュッ

水ゴーレム「オオ?」ドッ

水ゴーレム「」ヒュン

剣士「?! 消えた?! 何故?!」

騎士「あ、あそこに!」

盗賊「何が起こってんだよおい」

僧侶「? あのゴーレム、攻撃を受けている?」

剣士(あの方角からすると森の国からの援護か……)

剣士(人型ゴーレムなら盗賊の方が数多く撃破している……)

剣士「盗賊、ここは任せる!」ダッ

盗賊「え? お、おう」


剣士「たああああ!」ザザン

魔法「剣士?!」

剣士「状況は分からないがゴーレム本体と戦う必要が無くなった。援護する」

水龍「グゥゥゥ」

勇者「火球魔法!」ドン ドン

魔法(このタイミングなら……)キィィィィン

魔法「風矢魔法! 爆散魔法!」カッ

水龍「グルゥ!」ビュァ

勇者(降下した! これで)

水龍「! グオオオオオン!!」ドッ

剣士「下から飛んでくる風矢魔法さえ……」

魔法「拡散風矢魔法!」ドドドゥ

勇者「え?」

水龍「ウウウウウ!」ドッ

水龍「ガアアアアア!!」ブシュァァァ

剣士「一本の風矢魔法だけでか?!」

勇者「……きっとあの体はナイフ一本でもズタズタにできるほどに脆いんだ」

勇者「というか収束できれば拡散もできるかぁ……」

魔法「まあね」

水龍「グウウウ」グネグネ

魔法「ダメ押しの爆撃魔法!!」ドドドドン

水龍「ガアアアア!!」ドドドドドン

水龍「」ゴオォォ ドゴォォン

剣士「落ちたか……しかしなんでそんな脆いんだ? 龍ってもっとこう……」

勇者「うん、それが凄い弱かったんだ」

勇者「いやブレスも怖いし、とても速かった。だけどそれだけだったんだ」

剣士「えーとつまり……一方的に上から攻撃できればそれなりだった。例え攻撃されても当たらなければ、か?」

勇者「簡単に言っちゃえばね。ただあのゴーレムにしても特殊な能力があっただけで、戦力自体は凄いわけじゃなかったでしょ」

剣士「……分散したゴーレムは弱かったな」

勇者「多分、あれはゴーレムの試験運用だったのかもね。龍はついでで弱いのをつけてとか」

魔法「そういうものなの?」

勇者「多分だけどね」

勇者「そっちは?」

騎士「小型ゴーレムは片付いたよ」

僧侶「それにしても一体誰が……」

盗賊「まだ戦ってるみてえだな」

剣士「援護に行くか?」

勇者「魔法使い、魔力は?」

魔法「爆散魔法」カッ

勇者「ちょ……」

「……」ドシュ ドシュ

「爆発魔法! くそ……まだ倒れないのか!」

「君、魔法を物に乗せたり一癖二癖ある操作が出来るのに、威力は低いよね」ドシュ

「い、言わないで下さいよ!」

「これならもっとまわりに話して誰かと来てもらえば良かったなぁ」ドシュ ドシュ

「ええー……」

水ゴーレム「ゴオオオオオ!」ズゥン ズゥン

「やば、こっち来ちゃった」

水ゴーレム「オオオ?」ドゥン

水ゴーレム「ガアアアアア!」ドドドドドン

「凄い! 爆散魔法! 初めて見た!」

「君ね……ほら。本体倒しても分散したのがいるんだから」

「了解です!」

剣士「どうやらこれで片付いたようだな」

僧侶「そのようですね」

勇者「あのね、まだ聞いているだけなんだからさ。魔法を放つ事で返答しないでよ」

魔法「だってあの状況で勇者の反応なんて分かりきってるじゃん」

勇者「だからってね……はあ」

騎士「それよりあちらに挨拶をしなくてよろしいのですか?」

勇者「おっとそうだった」

勇者「手を貸して頂きありがとうございます。僕は神託を受けた勇者です」

「貴方が?! それでその人数であの魔物と……」

狩人「僕は森の国の狩人という者です」

魔法A「自分は魔法使いです。狩人に良いように使いまわされてます」

狩人「……」スゥ

魔法A「ひぃ! ごめんなさい! 嘘です!」

勇者(今殺気が!)

剣士(可愛い顔しているのに今のは……)

狩人「城下町まで案内致しますよ」

盗賊「あん? ここって国境近くじゃねーのか?」

狩人「森の国は広大な森の領土である為、城下町はあまり明確にされていないんですよ」

狩人「だから城下町の末端はただの町のようなものなんですよ」

僧侶「それでも城下町……」

勇者「やっぱり他国は様々な文化があっていいね」

狩人「こちらが形式的には城下町となります」

盗賊「……話の通りにただの町だな」

魔法「いやぁ……この光景はただの町じゃないよね」

騎士「何故木々を切り開いた土地ではないのだ?」

狩人「国が国ですからね。木々に対する信仰のようなものがありますので」

狩人「住まう地の為に切り開くという考えが無いんですよ」

剣士「これ……生活できるのか?」

勇者「物流大変そうだね……」

狩人「あははは。奥地の町なんて木々の上に居住していますからね」

狩人「ここなんてまだまだ甘いですよー」

勇者「えぇっ?!」

騎士「因みにここには宿のようなものは無いのだろうか?」

狩人「ありますよ。僕が泊まっていた所がありますのでご案内しますね」

僧侶「いた、というのは?」

狩人「今回の件、こちらの軍隊は僅かながらも生存者がいたんです」

魔法A「国が再度作戦を建て直している間、居てもたっても居られず、ここに住む自分を拉致して……」フルフル

剣士(苦労しているなーこの人……)

勇者「けれども流石に軽率だったんじゃないかな。ただの二人、あの二体は相手に出来なかったよね」

狩人「拡散型の魔法は彼も使えますからね」

魔法A「一応ですがね」

狩人「ゴーレムさえ排除できれば、あの水龍もこの木々の中避けきれるものではないでしょうし」

魔法「上空に逃げられたお終いじゃない?」

狩人「それは逆に向こうも攻撃できませんよ。あのブレスでは上空から地面まで直撃させる事はできません」

勇者「これが森の国の地の利か……なるほどなぁ」

騎士「長年、知恵と戦略で魔王軍を退いてきた力は本物だという事か……」

剣士「にしても、君は別の所に暮らしているのかい?」

狩人「はい、僕は本当に城下町の方で暮らしていますよ」

狩人「なのでこっそり軍の話も聞いていたんですよ」テヘッ

勇者「!!」ビクッ

剣士(う、いかんいかん。一瞬でも時めいてしまった)フルフル

魔法「なにこの子、勝てない……」

騎士「……それはそうだろう」

僧侶「……ん? というか勇者、反応しすぎ」

勇者「……」ワナワナワナ

僧侶「勇者?」

勇者「なん、だ……これは」

狩人「どうかされ、ああその看板ですか」

「この者、文化財である遺跡等を荒らす者とし、指名手配をする」
「師匠:金貨千枚」

剣士「……はあ?! 馬鹿な!」

盗賊「おいおい……こりゃあ」

狩人「お知り合いですか?」

魔法「勇者のお師匠様だよ……」

僧侶「最近、見かけないとは思っていたけども。勇者、どういう事?」

勇者「僕が聞きたいよ! こんな事……」

騎士「この方は確か、勇者にあらずして勇者の称号を得た方では?」

剣士「やはり知っているか……有名人だものな」

勇者「これ……本当?」

狩人「分かりませんが先日、水の国の使者が早馬にて報せを。今のところ遺跡等の破壊だけで負傷者は無しとの話ですよ」

狩人「あれ? そういえば僕の連れは」

魔法「え? さっき挨拶して帰っていったわよ?」

狩人(逃げたな)ギリッ

狩人「とにかく宿で休みましょう。皆さんもお疲れでしょう」

勇者「そう、だね……」

魔法「そういえば泊まっていたって言ったけど宿は引き払ったの?」

狩人「まさか今日中に件の魔物を倒せるとも思っていませんでしたので……」

僧侶「なるほど……」

狩人「それでですね。もしよろしければ」

勇者「」ピシッ

狩人「僕も同行させて頂ければと思うのですがどうでしょうか?」

勇者「ダメ」

狩人「えっ」

勇者「君は僕達よりも年下じゃないか。命を賭けた戦いだよ。連れて行けないよ」

狩人「これでも僕は弓の扱いだったらそれなりですよ?」

勇者「そういう問題じゃない」

魔法「ふと思ったんだけど、同行を希望する人って少ないよね」

騎士「そうでも無いと思うが……」

僧侶「今まで集団で戦っていた例は多くても、これだけも大勢は稀だったしね」

剣士「この人数見て諦めている人が大勢いるって事か」

盗賊「そういうもんなのか?」

騎士「実際、勇者殿含め四人なら満員と思われても不思議でないからな」

剣士「ふーむ。ん? 勇者、お前が以前言っていたのはそこら辺もあるのか?」

勇者「え? ああ、初めの人選? 記録としては知っていたけど、最終的な理由は話した通りだよ」

僧侶「何の話をされているんですか?」

剣士「以前、何で俺達だけ。それも少数の人選だったのかって話」

勇者「とにかくダメだからね」

狩人「えぇー。あ、そちらの魔法使いさんは凄腕なんですよね? 僕、矢に魔法乗せて飛ばすの得意ですよ」

狩人「僕自身は魔法が使えませんが、一度定着して頂ければしばらく維持してられますよ」

剣士「即決だ」

魔法「決まりだね」

僧侶「ええ」

騎士「満場一致だ」

盗賊「どんまい勇者」

勇者「なんなのその満場一致って。不一致は排他するの?」

狩人「よろしくお願いしますね」ペコ

魔法「うっ、可愛いっ」

騎士「うんうん」コクコク

勇者「話進めないで!」

剣士「因みになんで同行したいんだ?」

狩人「正直な話、現状は防戦一方なんですよ。この国」

狩人「でまあ、僕はさっきも言いました通り、魔法を維持させるのが得意? という感じなので」

狩人「これを最大限活かすには、攻勢でなければと考えています」

魔法「ああ……この地の利を活用すれば、奇襲やだまし討ちを直撃させるだけでいいものね」

狩人「そうなんですよねー。矢で放つ分の魔法の飛距離とかもあまりプラスにならないですし」

盗賊「で、なし崩し的に仲間にすんだろ?」

勇者「なんで決定事項のように言うの?」

剣士「いや、今までの経緯がなぁ」

騎士「その筆頭ゆえ、あまり私は言えないな」

狩人「駄目、でしょうか?」

勇者「う、ぐっ」

勇者「ぐぐぐぐ!」

魔法「あーあ、お人よしスキルが……」

僧侶「そんなの常時発しているじゃないの」

狩人「改めてよろしくお願いします!」ペコ

剣士「ああ、こちらこそ」

盗賊「つーかお前の連れはいいのかよ」

狩人「流石にそこまで巻き込めませんよ」

魔法「あれを二人で倒すっていうだけで、十分巻き込んでいるんじゃないかなー?」

勇者「……」

僧侶「でもいいじゃない。魔法使い以外の後衛ってありがたいでしょ?」

勇者「そうだけどさぁ」

勇者「一旦荷物を置いて今後の事を考えよう……師匠の事ももう少し詳しく聞きたいし」

剣士「だな」

狩人「? あれ? 勇者さん達四人部屋?」

盗賊「は? そりゃそうだろ」

騎士「? こちらが四人部屋じゃないのか?」

魔法「え?」

僧侶「?? 勇者達が四人部屋で何か問題があるのですか?」

勇者「……え? 嘘、まさか」

狩人「僕……女の子、だよ」モジ

剣士「なっ……」

盗賊「……マジかよ」

騎士「え? 皆気付いていなかったのか?」

魔法「騎士はなんで分かるの……」

騎士「え? や、うむ……」

狩人「そっかぁ……やっぱり僕って男の子っぽいかぁはは」ズゥン

盗賊「悪かったな。僕っつってるし戦線にいるしで分かんなかったんだよ」

盗賊「つーか顔も顔だからな。ま、数年も立てば間違われる事もねーんじゃねえか?」

狩人「えっ。あ、はい……ありがとうござい、ます?」

剣士(相変わらず言い方が……)

勇者(僕より年下の女の子の、い、命を背負ってしまっ)ガタガタガタ

……
狩人「僕が知っているのはこれくらいですね」

勇剣魔僧「……」

勇者「……駄目だ。聞けば聞くほど師匠しかありえなくなってくる」

剣士「というかそんな高笑いの仕方するの、あの人だけだよなぁ」

騎士「……私はお会いした事が無いのだが、勇者殿からしてもそうなのか?」

勇者「ほぼ、というか師匠本人だよ……」

魔法「問題は何故そうしたかよね」

僧侶「遺跡を破壊する意味……どれも結構な所らしいし」ペラ

剣士「……なあ。これ全部、過去の勇者と所縁のあるところじゃないか?」

勇者「……あれ? 本当だ……」

狩人「偶然とは考えにくい、と国も考えていますが、目的が見えないんですよね」

剣士「そうした地に魔物が破壊活動」

勇者「魔物ごとその場所も破壊」

勇剣「「ありえる」」

騎士「ご、豪快な方なのだな」

魔法「どうするつもり?」

勇者「……」

勇者「僕達は僕達のすべき事をしよう。師匠の考えがあるはずだ」

勇者「……多分」

盗賊「おい、目ぇ泳いでんぞ」

勇者「僕達はここから荒野の国との間を抜けて魔王城を目指す」

勇者「……本当に来るの?」

狩人「勿論です!」

僧侶「七人……ふふ、旅立ちには考えもしなかったわね」

勇者「全くだよぉ……」

狩人「……七。じゃあ一人溢れるんですね」

魔僧騎「」ピクッ

剣士「何の事?」

男部屋
剣士「今日は疲れたな……」

盗賊「ちと死ぬかと思ったしな」

勇者「……正直、狩人が助太刀してくれなかったらと思うと、ちょっと怖いよね」

剣士「今日も素振りするのか?」

勇者「流石に今日は疲れたなぁ」

盗賊「あ? お前、何時もそんな事してんのかよ」

勇者「やー……僕非力だからさ」

盗賊「そうか? それなりに腕はあんだろ」

勇者「……それなりじゃ駄目なんだよ。僕達は魔王を倒さないといけないんだから」

勇者「……」

剣士「実際問題、やはりショックか……」

勇者「いや……何でそうするのかって考えていたんだ」

盗賊「俺は付き合いねーからさっぱり分かんねーな」

勇者「……師匠は飽くまで遠方にて強力過ぎる、危険な敵の排除をしていた」

勇者「それを止めて遺跡等を破壊する……は確実に誤って捉えているよね。何かしなくちゃいけなくなって」

勇者「その副産物に遺跡の破壊がある……」

剣士「魔物が住み着いていた……にしては数が多すぎる」

盗賊「なあ、逆なんじゃねーの?」

勇者「え?」

盗賊「破壊された場所ってのは全部、過去の勇者に繋がりあんだろ?」

盗賊「俺はそういうの疎いから知らねーけど、例えばそこに備えてある何かを持ち出す為とかあんじゃねーのか?」

剣士「しかし……特別な物なんて」

勇者「いや、極秘裏に供えられていてもおかしくないと思う。それに師匠は神々に勇者の称号を与えられたんだ」

勇者「もしかしたら、何かの使命も受けているのかもしれない……」

女部屋
魔法(ああ言われるとちょっと焦る!)

僧侶(誰かと、か。あまり考えた事無いけども溢れるのも何か嫌ね)

騎士(そんなつもりで同行している訳ではない。何より)ギュ

狩人「あ、あのぉ……そろそろ離して頂けませんか?」

騎士「いやなに、その、そういう訳にもだな」ナデナデ

魔僧「!?」

魔法「騎士って……そっち?」

騎士「ち、違う! 純粋に可愛いものが好きなんだ!」

僧侶「それも性質が悪いと思うのですが……」

魔法「部屋にぬいぐるみとかありそう」

騎士「!」ギクッ

翌日
勇者「これから先は城下町は無い……まだ最前線までは距離があるにしても敵も軍として動いていると思う」

剣士「長い正念場だな」

勇者「だけどこれを超えない事には魔王にも近づけないよ」

勇者「皆、辛い戦いになると思う……」

魔法「初めっからそのつもりだよ」

僧侶「ええ、考え無しに勇者と旅に出るだなんて考えていないわ」

盗賊「命預ける覚悟はしてるしな」

騎士「右に同じくっ」

狩人「僕もそのつもりですよ」プルプル

勇剣盗「……?」

勇者「何かあったの?」ヒソ

魔法「ちょっとね」

勇者「何があったの?」

僧侶「個人の沽券に関わる事だから」

勇者「何してたの?!」

盗賊「お前大丈夫なんかよ」

狩人「だ、大丈夫ですっ」

盗賊「ったくよぉ、無理そうなら言えよ。負ぶってやっから」

狩人「……」

勇者「ここからは……」ザッザッ

剣士「となると……」ザッザッ

騎士「しかしその地域は……」ザッザッ

盗賊「……」ザッザッ

狩人「……」ザッザッ

盗賊「……」ピタ

狩人「……」ピタッ

盗賊(なんだこれ……)

狩人「……」ニコニコ

盗賊「なんで俺の後ろをついてくんだ」

狩人「駄目ですか?」

盗賊「……うぜえんだよ。付き纏ってんじゃねーよ」

狩人「そうですか」ニコニコ

盗賊「何で笑ってんだよ」

魔法(すっごい懐かれてる)ヒソ

僧侶(微笑ましいわね)

狩人「盗賊さんってちょっと怖い言い方しますけど、凄い優しい人ですよね」

盗賊「はっ、アホくせ」

狩人「私、そういう盗賊さんの事、好き、かも……」モジモジ

盗賊「……は?」ダラダラ

僧侶「ちょっと魔法使い。テレパシー的な魔法ってないのかしら?」

魔法「伝達魔法っていうのがあるよ。全力で兵士さんや衛兵さんに伝えて見るよ。通報通報ー」

盗賊「手前ら! 冤罪だろぉがよぉ!」

勇者「何騒いでんの?」

盗賊「おい、勇者! どうにかしろぉ!」

狩人「盗賊さん♪」スリスリ

勇者「と、盗賊……君は何て事を」

剣士「現役の騎士さん。ジャッジ」

騎士「ギルティ」スラァン

盗賊「」

騎士「とまあ冗談はこれくらいにして」ッチン

盗賊「目ぇ、マジじゃなかったか?」

勇者「盗賊……倫理は守ってね?」

盗賊「信用無さ過ぎだろ、おい」

剣士「集めていた情報で話し合っていたんだが、どうも敵の主力部隊が結構近い位置にいるんじゃないか」

剣士「って結論に到ったんだ」

狩人「え?! そんな話聞いた事無いですよ」

勇者「いや、飽くまで予想地点よりってだけだから、今日明日にぶつかる訳じゃ無いよ」

魔法「どういう事?」

勇者「何だか魔王軍の目撃報告、戦闘場所を見た時の敵本隊の予想位置がちょっとね」

僧侶「それって問題なの? 遅かれ早かれぶつかるんでしょう?」

勇者「うん……だけど思った以上にこっちに近いんだよね」

騎士「とすれば何か企んでいるのか、単純に戦力として勝ちが堅いのか」

盗賊「なるほどな……で、どうするよリーダー」

勇者「どの道避けては通れない……と言いたいけど様子見かな」

勇者「逆にやり過ごせれば、魔王城周辺は手薄な訳だしね」

魔王軍「……」ザッザッ

魔王軍「!? 奇襲か!」ドゴォォン

魔王軍「北に敵影3! 蹴散らすぞ!」

魔王軍「こちらは後方援護に徹する! 気を抜くな!」

魔王軍「我に続け! うおおおおお!」ドドドド

剣士「……」ザッ

魔王軍「前衛1! 馬鹿が!」ドガァッ

魔王軍「な、何だ?」グググ

騎士「……」グッ

狩人「……」ギリギリ シュパッ

魔王軍「ぐあああ!」ドゴォォン

魔王軍「西からも攻撃魔法! 魔法使いが何人いるんだ! こいつら……小隊規模か?!」

魔王軍「よもや取り囲まれているのか?!」


魔法「狩人の魔法矢……この戦法、やっぱり強いわね」

盗賊「収束魔法ってのでばばーっとやっちまえばよくねえか?」

勇者「あれは魔力消費激しいからね。可能な限り普通の魔法で戦うべきなんだ」

勇者「何より敵部隊が多数いる区域に入っているからね……不意の連戦もありえる」ゴクリ

勇者「まあ部隊相手だからこそ、これはかなりの揺さぶりになるんだよね」

勇者「分隊規模じゃあ魔法使いって二人いるの珍しいし」

僧侶「そろそろ遠距離による反撃が来るかしら……」キィィン

魔王軍「」

盗賊「すっげぇな……俺らだけでこいつら倒したんだもんな」

剣士「ほぼ無傷だが少し魔法に頼りすぎたか」

魔法「あたしは殆ど消耗していないよ」

勇者「……問題は相手が中隊クラスになると物量的に倒せなくなるんだよなぁ」

騎士「勇者殿は軍隊編制についてもお知りで?」

勇者「師匠にみっちり叩き込まれたからね……」

僧侶「因みにその中隊って何人くらいなの?」

勇者「三桁突破する」

魔法「うん、倒せない」

勇者「……? あれ? 本隊移動している?」

僧侶「……何で分かるのよ」

勇者「いや師匠に……いやそれよりも、敵部隊との交戦位置や回数がおかしい」

騎士「まさか散開して進撃してきているのでは?」

剣士「確かにそれなら交戦回数が激増しているのもおかしくないな」

魔法「でもそれだと敵も個別に切り崩されるって事だよね? 本隊が魔王城周辺にいなかったのは侵略するつもりだったんじゃないの?」

騎士「……敵の意図があまりにも不明確ですね」

勇者「……ん」

狩人「何か気付いたんですか?」

勇者「いや……もしかして時間稼ぎ? でもこれだけの戦力がいて本隊じゃないなんていうのも」

勇者「時間稼ぎだとしたら奥の手は魔王? でもそんな事例今までに無いし、何を企んでるんだろう」ガシガシ

剣士「……ここ数日はめっきり敵がいないな」

魔法「いても爆散魔法乗せた矢でかなりの敵を蹴散らせるしね」

狩人「いやぁ……あんな凄い事になるなんて」

勇者「爆散魔法はこちらから放った魔法が空中や敵真上で爆破、その破片の魔力が更に爆発を起こす広範囲型魔法」

勇者「弾道が見えちゃう分ある程度、防御行動も取れるけど矢に乗せて飛ばされると隊の中央で爆ぜるからねぇ」

盗賊「つっても不意打ちなら普通に魔法を撃っても効くんじゃねーの?」

僧侶「魔法は放つ瞬間が一番魔力を発しますので、即時発動型の魔法じゃないと気付かれるものなんですよ」

僧侶「既に放った魔法を矢に定着して射る、というのは相手にしてみたら完全に不意打ちの魔法なのですよ」

剣士「へえ」

狩人「随分と荒野な景色になってきましたね」

盗賊「もうこの先に町はねえんだろ?」

剣士「五日前の町が最後だ。そしてここら辺は……」

騎士「ええ……早い段階で本隊がいるであろうと予想した地点です」

魔法「何も無いね……」

僧侶「確かに野営をしていたような跡はあるけども……どう考えるているの?」

勇者「……」

勇者(明らかに大軍がここにいた。それが何故……)

勇者(……そもそも何故大軍がここに集まった?)

勇者(もしや大軍での進行を本当に計画していた……が状況が変わり散会した)

勇者(その状況の変化とは……まさか精鋭出陣)バッ

狩人「……勇者さん?」

剣士「……? あれはっ!」ガササ カチャ

剣士「人型……? ただの一人か?」

騎士「一人……馬鹿な」

盗賊「つまりあれだろ。四天王の一人とかよ」

僧侶「遂に……始まるのね」

魔法「……」ゴクリ

触人「ようやく来たか……勇者よ」ウネウネ

魔法「ひああぁぁ! キモイ! 絵的に超キモイ!」

剣士「なっ……」

騎士「両腕が幾本もの触手か……これが触人というものか」

僧侶「流石におぞましいものがあるわね」ブル

剣士「三人は後ろに」ズイ

触人「舐められたものだ……この私が牝如きに息を荒げてこの腕で蹂躙するとでも?」

触人「低脳な触手ならばいざ知れず、我々触人はこの触手こそに素晴らしき戦闘能力を見出した種族だ」

触人「と……余計な話をしてしまったな。改めて歓迎しよう。ここがお前達の墓場だ」

魔法(あたしの収束魔法を狩人と共に放てば)チラッ

狩人「……」コク

触人「冥土の土産に良い事を教えてやろう……私の後方より過去最大級の戦力が侵攻して来ている」

勇者「……は? 最大級……?」

触人「貴様ら勇者たるものは神に選ばれし、祝福されし……見定められし者達」

触人「ならば我々はなんだ? 我々は何故生まれる? 何故侵略を繰り返す?」

剣士「それはお前達が勝手にして……いや出現に関しては未だに何も分かっていないな」

盗賊「何が言いてえんだよ! 時間稼ぎのつもりか、ああ!?」

触人「お前達同様、我らも神によって生み出されているのだ。これは神々達に代わり行われる代行戦なのだよ!」

騎士「馬鹿な……何故神々がそのような事を!」

勇者「まさか……そうか……それなら確かに辻褄が合う」

僧侶「な、何を言っているの……勇者!」

勇者「神は様々いる。僕達を助けようとしてくれる神々と相反するものも……つまり彼らの神は」

触人「流石は聡いな。そうだ我らの神は魔神だ! そして我らの先駆者が積み重ねてきた敗北は無意味にあらず!」

触人「全ては貴様らを淘汰すべく布石なり! そう! 今まで滅ぼされた魔族魔物、全てとまでいかずとも」

触人「その多くが再び蘇ったのだよ!!」

勇者「……な」

魔法「……じゃ、じゃあ各地は、町は」ワナワナ

狩人「み、皆……」ブルル

剣士(魔王城の位置に規則性が無かったのは、より各地に散らばらせる為だったのか……なんて事だ)

火の国 城下町 カァーン カァーン カァーン
門番「んだよ……あのでかさ」

兵士達「こりゃあ……俺達終わったかもな」

魔法部隊「馬鹿な事を言っているな。何としてでも食い止めるぞ」

兵士達「はっはは……どうすんだよ、ありゃあ」


エンシェントドラゴン「フシュゥゥゥ」ズゥゥンッ ズゥゥンッ

兵士達「今から出撃しては相手に先制を取られる」

魔法部隊「我々が一撃を食い止める! その後……魔力は残っていないだろうな」ブルル

兵士達「生き残っていれば俺達次第か」

兵士達「!」ビリビリ

魔法部隊「何てプレッシャーだ……来るぞ!」


エンシェントドラゴン「フウウゥゥスハアアァァァ」

エンシェントドラゴン「ガアアアアアア!!」ボォゴアアアアアア

水の国 城下町
兵士達「これは……流石に終わったな……」

兵士達「陛下よりのご命令だ……軍は全戦力で以って正面の敵を攻撃せよ、と」

兵士達「仕方が無いよな……こればかりは」

魔法部隊「よもやこれほどの魔物を抱えていたとはな」

魔法部隊「あれだけの大きさ、障壁を張るにも超広範囲……無理だな」


ブルーゲル「」ズォン ズォン

兵士達「何十メートルだ……?」

兵士達「いや、流石にそこまでじゃないだろ」

魔法部隊「だとしても勝ち目が無いな……」

魔法部隊「ブルーシャドウの変異種……存在していたなんて」

魔法部隊「ここが我らの橋頭堡である! 全魔力を攻撃に当てるぞ!」


ブルーゲル「」ズオオオオ

森の国 城下町 ズォンズォンズォン
兵士達「はっはは……終わったぜ」ズォンズォン

弓兵部隊「ああ……だがただでは死ねん」ズゴンズゴン

魔法部隊「無論だ。せめて一矢報いねばならんだろう」ズゴンズゴン

兵士達「守りは捨てろ! 我らは奴の足を狙う! 長槍構えぇ!!」


ジャイアントギガント「」ズガンズガンズガン

兵士達「5メートルぐらいか……勝てそうな気がするが、そんな事は無いんだろうな」

兵士達「精々踏み潰されてやろうぜ」

弓兵部隊「我々は奴の目を射抜く! 全力で射れ!」

魔法部隊「脚部、顔面を狙うぞ! 行動不能に出来れば我々の勝ちだ!」

兵士達「行くぞおおおお!!」

兵士達「ああああ!!」

ジャイアントギアント「グオオオオ!」ズガンズガンズガンズガン

勇者「……」ギリィ

触人「良い顔だ。だが良いのか? たった七人でこれから、歴代勇者"達"が倒してきた軍勢を相手にするんだぞ?」

盗賊「お……こいつぁやべえ流れだぜ」

触人「無論」シュルル

触人「逃がすつもりなど毛頭無い! いっそ私が滅してくれようか!!」ヒュンヒヒンシュル

僧侶「触手が……あんなに伸びて……」

勇者「触人の触手は強力な一撃だ! 気をつけて! 安易に近づくと捕らわれもする!」

触人「ふっふふ」ビュァッ

剣士「くっ!」バッ ドゴォン

騎士「岩を貫いた?!」

盗賊「なんて威力だよおい! どうすんだ!」

勇者「魔法使い、狩人! 爆散魔法!」

魔法「もう乗せたわ!」

狩人「行きます!」ビュッ

魔法「爆散魔法!」カッ

触人「ほう」カッ ドドドドドォォン

勇者「一気に切り捨てる!」

僧侶「範囲俊敏強化魔法!」

勇剣盗騎「」シュィィン

勇者「皆!」

勇剣盗騎「駆け抜け斬り!」ヒンッ

勇者「?!」

剣士「なっ」

盗賊「どうなってやがる!」

騎士「手応えが……避けられた?! しかし」

触人「……」ストン

勇者(僕達の連携を読んで……いや動き出してから読みきられたのか!)

剣士(最低限の高さを跳躍して、避けたというのか)

盗賊(こいつもやべえぞ……)

騎士(不味い……しかも先制の魔法も効いている様子が)

触人「……」シュルルヒュンヒュン

触人「さあ抗いなさい!」ドドゥッ

勇者「ぐっ!」バッ

剣士「つぁっ!」ズバン

騎士「く!」ザンッ

盗賊「切れるか、んな太いもん!」ダッ

勇者(不味い……やばい、どうしよう)ハッ ハッ

勇者(これ以上の相手が軍を成してくるなんて……)ハァッ ハッ

勇者(勝ち目が無さ過ぎる……玉砕覚悟でも相打ちにすら!)ダッ ドゴォォン

勇者(それにこの相手も……何としてでも退かないと、退いて、どうなる?)ハァッハァ

剣士「勇者! 落ち着け!」

勇者(……あまりにも強すぎる、いや……触人はこれほどの能力なんて話)

勇者「まさか、君も蘇生された……!?」

触人「!」ビタッ

触人「驚いた……よくそこまで理解が追いつく。いかにも私もまた、過去に勇者に敗れ、魔神様のお力で蘇った者」

勇者「そして蘇った者は生前よりも強くなる……」

触人「!? ふっはは! 何という事だ。なるほど、これでは多くの部隊が破れる訳だ」

触人「その頭脳、賞賛に値する。だが……立つべき戦を間違えたな。それで今この戦況を変える事はできんぞ」

勇者(そうだ……これは突破口になり得ない。状況がより把握できたに過ぎない)

勇者(それでも絶望的だ。これほどの戦力が個の部隊が近づいてくる……はったりじゃない)

勇者(この肌を刺すような殺気は間違いなく……)

触人「さあどうする! 人間の、神々の希望よ!」ゴァァッ

狩人「勇者さん……」

騎士「勇者殿……」

魔法「収束爆熱魔法!!」カッ

触人「くおっ!」ゴァッ ドッ

ゴオオオォォォン

剣士「命中したか?!」

狩人「直撃はしていません!」

触人「ぐ、ぬぅ!」ジュゥゥゥ

盗賊「! おっらああ!」ダッ

騎士「触手の大半が焼け落ちた……いや盾にしたのか!」バッ

勇者「! 駄目だ! 行くな!!」

盗騎「!」バッ

触人「やり辛い。今ので二人を串刺しにできたものを」シュァァァ

剣士「な……もう触手が再生して……」

勇者「触人の触手部分の再生能力は高い……それが強化されていれば当然」

騎士「あ、危うかったのか」

盗賊「あ、ああ……」

触人「だが……隙だらけだ」ビュッ

僧侶「! 対物障壁!」キィィン ッボフ

僧侶「一げ……あぁっ?!」シュルルル

勇者「僧侶!」

狩人「くっ!」ビッビュッ

触人「ふん、まずは一人」ビュンビュン

盗賊「空中の触手なんぞ当たるか!! 本体の根元を狙え!」

狩人「! はい!」ビッ

触人「はんっ。当たらんよ」バッ 

触人「死して悔い改めよ……いや、すぐに皆追いつく。寂しくなかろうて」ビュァッ

僧侶「うっ!!」グッ

騎士「!」キィィン

剣士「間に合わ」

勇者「僧」


ザンッ

ヒンヒン

バトルフランキスカ「」ガァァン ガラン ガラガラガラ

僧侶「きゃあ!」ドンッ

勇者「僧侶!」ザザッ

僧侶「ど、どうなってるの……何で私」

触人「く……」ボタッ

触人「まさか投擲武器で斬られるとは。一体何者だと……」

剣士「投擲斧……まさか」

勇者「ああ……間違い無いよ」

「フゥーーハッハッハッハッ!」

師匠「待たせたな! 我が愛弟子よ!!」

勇者「師匠……」ホロ

触人「……ふむ、少々焦りはしたが所詮は一人。この先の軍勢相手にどうするという」

触人「私に勝てれば満足か……ふっふふ」

師匠「うむ、そうだな。蘇りし魔王軍。何とも厄介にして脅威な」

触人「……む? 何故知っている!」

師匠「その為に遅れてしまったのだからなぁ!」

騎士「あの方は何を言っているんだ……」

僧侶「わ、私達にもさっぱりでして」

剣士「援軍……いやしかし、この状況を打破できる援軍なんて」

盗賊「超魔法使いで砲撃とかか? そりゃあいいぜ」

魔法「あのーあたしの魔法効いてなかったんだよ……」

狩人「?? それと遺跡の破壊が一体」

師匠「ああいった物の多くは彼らが最後にいた場所……彼らが眠る場所」

勇者「! まさか……壊す事……いや目覚めた結果、壊れただけ……」

剣士「え?」

師匠「……」コクリ

師匠「そう、彼らの助力を借りるのに手間取っていたのだよ」

「……」ザザザザザッ

勇者「あ……あぁっ」

火の国 城下町
兵士達「……。なんだ、この音」ズアアアアア

兵士達「ま、まさか、障壁が耐えて?」パチ

魔法部隊「障壁に接触していない……一体何が」ズアアアアアア

魔法部隊「炎が……こちらまで届いていない?」

兵士達「!? あそこに人が! 何故……いや、まさかそんな事が……彼はもう千年前の!」


エンシェントドラゴン「フルルゥゥゥ、マサカ、コノ力」ゴゥゥゥ..

「おうよ……久しぶりだな」ズォォォォ..

火食勇者「残念だがパワーアップしても手前の炎は俺にゃあ効かねえよ!」

火食「さあっ! 因果の対決だ! 雌雄を決しようじゃねえか!」

水の国城下町
ブルーゲル「」グニャニャニャニャ ボボン ボン


兵士達「な、なんだ?」

兵士達「自壊?! しかし何故」

魔法部隊「見ろあそこに人が!」

魔法部隊「! あれは……まさか、水龍の巫女、様……」

魔法部隊「既存の魔法に無い……あらゆる水を操る勇者様……馬鹿な、彼女はとっくの昔に」


水龍の巫女勇者「……」キィィィンッ

水龍の巫女「故郷の破壊は……許さない」ボォォンッ ボタタタ

森の国 城下町 ドガァァァ
兵士達「ゆ、夢でも見ているのか」ァァァン..

兵士達「そりゃあいい……俺らはガキの頃の御伽噺の世界に飛んだ訳か」

魔法部隊「奇遇だな。私もそうだがそれは御伽噺じゃなかったはずだぞ」

弓兵部隊「ああ……しかし、史実は本当だったんだな……巨人の勇者……」

ギガンテス勇者「ぐううう!」ググググ

ジャイアントギガント「ウウウウ!」グググ

ギガンテス「5mほど、か。エンシェントゴーレムに比べればこの程度ぉ!!」グググ

ギガンテス「でやあああああ!」ブォン

ジャイントギガント「ガアアアアア」ドガァァァ

初代勇者「……」

勇者「あ、あれは……初代、勇者……」

剣士「俺は夢でも見ているのか?」

騎士「わ、私もなのか、これは」

触人「馬鹿な! 何故、貴様らが!!」

初代「……何故、我々がいなくなる事に不審を覚えない。いや、それはお前達が知らなかったからか」

触人「!? 勇者達は末裔というものがいなかった……まさか……それは」

勇者「神々の力で……消えていた」

触人「な、ならば……」

兄勇者「そういう事さ。何も長期的な戦いを意識していたのは魔神だけじゃない」

妹勇者「そちらは一柱。こちらは何柱もついているのですよ? そこに気付かない訳がないじゃないですか」

触人「!!」ゾワッ

触人(馬鹿な……これでは……いや待て、我々は力を増して蘇ったのだ! まだ好機は!)

兄勇者「残念ながら君達は雑兵のままなんだよ」バッ

妹勇者「好機とするならば……それは魔王そのものの部隊にしかありえませんからね」

初代「全ての者、ではないが多くの者が終局にて力に目覚めたり、授かった力を開放させる」

初代「その場にいない君達、兵士は知らない力を得た者が多いんだ」

魔王軍「」ザザザ


兄勇者「と、話している内に」

触人「くっ!」バッ

妹勇者「兄さん」

兄勇者「ああ、分かっているとも」バッ

勇者「まさか……あの技を」

騎士「……」ゴクリ

初代「……しまった、私が初めな分他の勇者達の力を知らないぞ」

聡明勇者「初代さん、危険なのでこちらにどうぞ」グイ

聡明「とは言えこのまま撃っても避ける者達が多いだろうね」

兄勇者「牽制の意味では良いんじゃないか?」

聡明「やるんだったらきっちりやりたいよね。という事でその狩人の子」

狩人「!? は、はひぃ!」

聡明「別に取って食いはしないよ。この袋を括りつけるから矢を前方に飛ばして欲しいんだ」

聡明「魔法使いっぽい君はその矢を魔法で爆発させて欲しい。できる?」

魔法「ば、爆破ですか? 出来ますけどもいいんですか?」

聡明「そうして貰わなくちゃあ困るしね」

聡明「で双子勇者のお二人には爆発して、拡散する袋の中身目掛けて収束して放ってほしいんだ」

妹勇者「意図が見えてきませんね。何が起こるんですか?」

聡明「それは見てのお楽しみだね。ああ、そこの拒絶勇者。全力で対魔力障壁張っておいてね」

拒絶「わ、分かった。しかし何故、私がそうだと分かったんだ?」

聡明「一度見た物は忘れ無いよ。貴女の次代にも勇者図鑑とかあったでしょ」

勇者「凄い……本当に全て覚えて……図鑑通りだなんて」

聡明「ま、これで戦ってきたからねぇ」

聡明「さて、用意の方はいいかい?」

狩人「はい!」

魔法「何時でも!」

兄勇者「こちらも問題無しだ」

妹勇者「私は兄さん次第ですからね」

拒絶「全てを弾く障壁とやら、拝ませて差し上げましょう」キィィン

聡明「はいじゃあ……射れ」バッ

狩人「……」ビッ

聡明「……撃て」

魔法「爆発魔法」カッ

聡明「放て」ォォォン

兄勇者「はああああああ!」ズァッ

妹勇者「……」ギュォッ

妹勇者「たあ!」ドゥゥッ

ゥゥゥ カカカカカッ
拒絶「ぐっ!!」ズガガガ

勇者「な、ななな?!」

魔法「光線が乱射?! どうなって!!」

妹勇者「! 貴方! なんて事を!」

聡明「ふふん、だけどこれで」


触人「!? なんだこの攻撃は!」

触人「避け」ボッ

魔王軍「な、なん」ジュォッ

魔王軍「くあ」ボジュッ

兄勇者「い、一体何が」

妹勇者「オリハルコンの欠片です……。私も実物など初めて見ますがオリハルコンそのものに魔法や魔力が帯びています」

妹勇者「純粋に魔力を放出させる私達の力はオリハルコンに乱反射し……」

魔法「それでさっきのような……」

聡明「双子勇者の力の欠点は完全に直線にしか飛ばない事」

聡明「それ故に強力だし弾道も早いんだけど、収束させればさせるほど回避は容易くなってしまう」

聡明「なら避けずらくしてしまえばいいのさ」

初代「しかし、彼女の障壁無しでは」

拒絶「ええ、相当な人数の術者無しにあれを防ぎきる事は難しいでしょうね」

聡明「さて、現代の勇者君」

勇者「え? は、はい!」

聡明「ここからは君が先導に立ってもらわないと困る」

勇者「……。え?」

聡明「ここにいる勇者はかなりの戦闘能力を有している事は間違い無い」

聡明「とは言え、この先に迫り来る大軍だってそう簡単には倒されない兵だ」

聡明「一対一ならそうそう負けないだろうね。だけど今はそういう訳じゃない」

聡明「であれば優秀な指揮者が必要だとは思わないかい?」

勇者「そ、それが僕だと……」

師匠「その通りだぁ! 特に武に秀でる事も魔に秀でる事も無い」

師匠「それでもお前は勇者に選ばれた。私も勇者の称号を与えられた時、神々さえお前に眠る力がなんなのか」

師匠「それを理解する事はできなかった言う」

剣士「それってあまり……」ヒソ

魔法「だ、だよね……」ヒソ

師匠「故にお前の様子をずっと見てきた。お前は友に恵まれてきた」

師匠「気付いてはおらんのだろうが、城下町でもお前の事を信頼する者は多い」

師匠「だからそこにお前の力と可能性を見出したのだ!」

盗賊「……言ってる事がさっぱり分かんねーんだが」

騎士「……他者を惹きつける力、カリスマ性のようなものか?」

狩人「何となく分かります。でもカリスマ性と言われると何か違うような……」

勇者「皆言いたい放題だね……」

師匠「だからこそ、なのだろうな。何よりその裏づけが今なのやもしれん。だからこそ胸を張るんだ!」

初代「君は自身が勇者である事に戸惑い不安を覚えているのだろう」

勇者「は、はい……」

初代「だがそれは歴代勇者と呼ばれた者全てに通ずるものなのだ。私だってそうだ」

初代「今でも正直、勇者などと奉りたてられるのは恐れ多い。勇者と名乗るのが気後れしそうなくらいだ」ハハ

初代「だがそれでも君は勇者だ。理由は様々であれど君もまた神々に見定められたんだ」

初代「私を含め、ここにいる全員と同じように」

勇者達「……」ズラッ

初代「だから胸を張って欲しい。そして君が今までしてきたように、この戦いを切り抜けて欲しい」

初代「個々の力は秀でていても、集団戦に慣れた者は少ないだろうしな」

勇者達「全くだ」

勇者達「俺いつも一人だったな」

勇者達「勇者の大半って一人旅だしな」

聡明「とは言えこのままじゃ君も指示も何もできないだろうしね」

魔術勇者「お任せ下さい」

魔術「伝達魔法」ピーーン

勇者「!? な、なんだ……これ」

聡明「僕の知識と記憶全てを君に接続させた。流石にこれほど事となると、彼はもうこれ以上動けないだろうね」

聡明「でも優秀な指揮者である君が僕の全てを得ているんだ。その穴なんて大した事がないだろうね」

勇者「凄い……こんな……で、でもそれなら聡明勇者さん自身が!」

聡明「残念ながら僕には集団をまとめる経験も実力も無いよ。大規模な戦略、戦術なんて僕の記憶に無いだろう?」

勇者「僕が……歴代勇者に指示……」ワナワナワナ ポン

勇者「……?」

剣士「落ち着けって言ってるだろ」

魔法「勇者ならできるよ」

僧侶「大丈夫。何時も通りにしてくれればいいのよ」

盗賊「ここにいる全員、俺らより強いんだぞ? んなに心配する事かよ」

騎士「少し上手く立ち回ればごり押しでいけそうなのも否めませんね」

狩人「勇者さん」

勇者「……」

勇者「僕が……歴代勇者に指示……」ワナワナワナ ポン

勇者「……?」

剣士「落ち着けって言ってるだろ」

魔法「勇者ならできるよ」

僧侶「大丈夫。何時も通りにしてくれればいいのよ」

盗賊「ここにいる全員、俺らより強いんだぞ? んなに心配する事かよ」

騎士「少し上手く立ち回ればごり押しでいけそうなのも否めませんね」

狩人「勇者さん」

勇者「……」

師匠(やはり私の目に狂いは無かった。さあ我が愛弟子よ、最終決戦にしてお前の晴れ舞台だ!)

勇者「……探査魔法、最前線の敵構成を確認」

魔法「探査魔法」ピィィン

魔法「前方……きょ、巨大な魔物群れ……なに? こんな魔物、見た事が無い」

初代「だとすれば私達の時代のものか……」

兄勇者「全くしつこい事だ……」

妹勇者「デザートドラゴンとかいそうですね」

勇者「あの、すみません……聡明勇者さんの記憶があっても、その、即座に対応も照らし合わせも上手くいかないんです」

聡明「ま、僕の頭脳全てだからね。仕方が無いよ」

勇者「なので、前衛として立てる方は全て前に出てください」

勇者達「へえ……」

勇者達「おい……あまり脅してやるなよ」

勇者達「この状況でその策は仕方が無いだろう」

勇者「状況に合わせて後衛部隊より支援、ならびに対策を行います」

勇者「各自、配置について下さい」

勇者(……)ドクン ドクン

勇者(やるんだ、僕が)スゥゥ ハァァァ

魔王軍「」ドドドドド

勇者「戦闘開始!!」

勇者達「おおおおおお!」

初代「!」

鎧甲虫「勇者、殺、す」

初代「なるほど……因果なものだ。だが……力をつけて蘇ったところ悪いが」

鎧甲虫「殺す」ドッ

初代「お前が眠っている間に私も力をつけてね……鎧通し」ヒン

初代「鎧?き!」バン

鎧甲虫「があっ!」

兄勇者「縦横無刃!!」ザザザザン

魔王軍「ゴオオオ!!」ズゴォォ

兄勇者「くぉっ!」バッ

兄勇者「さ、流石にきりがないな!」


勇者「……方位0-3-0.ドラゴンに弓にて援護射撃!」

狩人「はいっ!」ビッ

弓勇者「たぁっ!!」ドゥッ

ゴールドゴーレム「ゴオオオオ!!」ズドドド

勇者達「あれ……流石に止められないぞ!」

勇者達「今の勇者の采配に期待だな」


勇者「魔法使い、狩人の矢に移動魔法、次いで爆破魔法を正面距離5の地面!」

魔法「移動魔法、爆破魔法!」ドォォン

狩人「たあっ!」ビッ

魔術「なんだ今のは……魔法を物質に定着させた? 凄いなっ現代は」

勇者達「うおおおおお!!」ドゴォォ

魔王軍「怯むな! 押せぇっ!」

勇者達「くぅ!」ジリ

勇者達「流石にこのままじゃ……」


勇者「魔法使い、方位3-3-5に地雷魔法!」

勇者「ドラゴン部隊周囲の勇者は援護!」

勇者達「陣形に穴が開くぞ……」

勇者達「いや、ドラゴンに突破される方が厄介だ! いくぞ!」


魔王軍「馬鹿め!! 後衛部隊を頂くぞ!」

魔王軍「特攻! 特攻!!」

魔王軍「突き進」カッ

魔王軍「な」ドドドォン ドォン

双剣士勇者「やああああ!!」ザザン

魔王軍「ぐおおおお!」ブォ

双剣士勇者「はっ!?」

槌勇者「おおおおお!!」ドゴォォン

双剣士勇者「ありがとっ! 助かった!」

槌勇者「困った時はお互い様だ」

勇者「! 双剣士、槌! 後退!!」


双剣士「?! 何故?」

槌「指揮官のご命令だ! 散れ!」バッ

双剣士「……了解っ」ダッ


勇者「魔法使い!」

魔法「収束……」ギュォォォ

勇者「ってぇ!!」

魔法「散光線魔法!」ギャォン

魔王軍「な、この魔力の高」

槌「なっ!?」ギョォォ

双剣士「きゃあっ!」ォォォォ

魔王軍「」ボッ
魔王軍「」ジュッ
魔王軍「」ドッ


聡明「何をやったんだ?!」

魔術「……はぁっ、とんでもない魔力、今のまさか、そんな事が」

魔法「あ、はい。広範囲魔法を収束させました」

聡明「そんな理論すらないものを……」

勇者「魔法使い、魔力は?」

魔法「流石に半分を切ったわ……」

師匠「うむ、うむ……ここで全力を賭す訳にもいかんしな」

勇者「……」

師匠「だがこれで十分だ」

勇者「え?」

師匠「第二波が来たようだな」


勇者達「既に始まっていたかっ」

勇者達「今から前線に行くのでは被害も出ているだろうな」

爆撃勇者「遠距離からの攻撃で支援とするか」

火竜の巫女勇者「火の手をあげて頂戴。後はあたしがいくらでも敵を焼き払ってあげるわ」

灼熱勇者「魔力でもって火を自在に操る、だったか? 面白い、俺の全てを焼き払う炎で存分に暴れてくれっ!」クワッ

魔王軍「ぎゃあああ!!!」ドドォォン

魔王軍「なんだこの炎はぁっ!」

魔王軍「馬鹿な! 凄い勢いで燃え広が」ボッ

魔王軍「おのれぇぇ!! 勇者ああぁぁ!」ゴゴォォォ


勇者「……凄い」ドドォォォン ドゴォォン

師匠「うむ、第二波は遠距離攻撃が可能な者で編成していたからな」

師匠「流石にここまでやられて魔王も黙ってはおらんだろうな」

勇者「魔王……」ピリ

僧侶「でも……魔王も分散しているのでは無いでしょうか?」

師匠「魔王城であればな。だが流石に戦力まで分散して蘇ってはいないだろう」

師匠「勿論、こちらの動きを全て見ているであろう事も織り込み済みだ」チラッ

現代魔王城
魔王「ど、どうするのだ……私は蘇りでもないんだぞ」

魔王達「おのれ神々め……更に裏をいくとは」

魔王達「今ここでそれを言っても始まらん……恐らく、最大戦力でぶつかる事となるだろう」

魔王達「が、牽制も必要だな」ギロ

貧弱魔王「ひぅっ」

魔王達「? こやつは?」

魔王達「魔力ばかりで肉体的には多くの勇者にも劣る」

魔王達「そんな魔王がいたのかよ」

魔王達「ある勇者に魔力も封じられ……あやつでさえ肉体的には強くないというのに惨敗しおった恥知らずよ」

貧弱魔王「ま、待て……私の魔力の高さは集団戦でこそ活きる! そうは思わんか!?」

魔王達「要らぬ。貴様の脆弱さなど当てにならん。奴らへの餞別だ。送り出せ」

貧弱魔王「待ってくれ! 私はもう死に」ヒュン


勇者「……」スゥゥハァァァ

勇者「これより魔王城に向かいます……総力戦となる事でしょう。皆さんの命、僕が預からせてもらいます」

勇者達「いいって事よ」

勇者達「案外楽に戦えたか? このまま一気に魔王も蹴散らしちまおうぜ」

勇者達「本当にやばくなったら退くさ。気楽に指示してくれ」

脆弱魔王「たくないんだぁぁ!」パッ

勇者「はっ?」

勇者達「え?」

聡明「おやおや」

聡明「これはこれは……僕如きに負けに負けた魔王様ではございませんか」

脆弱魔王「き、ききき貴様!! ぐ、ぐぬ、ぐふふふ! ここが会ったが百年目!!」

勇者達「……」ズラァッ

脆弱魔王「あうぁぅ……」

聡明「あー皆、殺気立たなくていいよ。彼、ものすごーく弱いから」

脆弱魔王「う? ふ、ふふっ私と一騎打ちとは見上げた根性だ!」

聡明「自画自賛かい? 見苦しいね」

脆弱魔王「ふははは!! 我々は魔神様より更なる力を得て蘇ったのだ! 貴様如き、魔力を封じる前に一捻りだわ!!」

聡明「これはこれは……僕如きに負けに負けた魔王様ではございませんか」

脆弱魔王「き、ききき貴様!! ぐ、ぐぬ、ぐふふふ! ここが会ったが百年目!!」

勇者達「……」ズラァッ

脆弱魔王「あうぁぅ……」

聡明「あー皆、殺気立たなくていいよ。彼、ものすごーく弱いから」

脆弱魔王「う? ふ、ふふっ私と一騎打ちとは見上げた根性だ!」

聡明「自画自賛かい? 見苦しいね」

脆弱魔王「ふははは!! 我々は魔神様より更なる力を得て蘇ったのだ! 貴様如き、魔力を封じる前に一捻りだわ!!」

脆弱魔王「ふぁーーはっはっはっ、はっ?」シュルヒュル

脆弱魔王「い、糸? なんだこれは?! か、体に纏わりつい……」シュルル ピンッ

聡明「……」グッ

脆弱魔王「……ま、待て、待ってく」

聡明「っふ! ん!」ギュギィッ ギンッ

脆弱魔王「れ」シュパッ

脆弱魔王「」ズルルルボタタタ

聡明「ま、僕達も全身全霊全てをかけていた訳じゃないけどね」

勇者達「?!」

勇者達「何が起こったんだ?」

聡明「……」ヒュルル シュパッ

妹勇者「……貴方、何処のブルジュワなんですか?」

聡明「なに、魔王倒したのが満月の晩だったお陰でね。時間があったんだよ」

聡明「何より過去の例より、行方不明というより神隠し的だったからね。何かしらの事を予想できる」

聡明「って所で布石を残すに残してきたんだよね」

兄勇者「妹よ、今のは何か分かったのか?」

妹勇者「あんな細い物で物体を切断なんてオリハルコン製の糸ぐらいしか想像できませんよ」

勇者達「お、オリハルコンで?!」

聡明「ご明察」ピンッ

魔法「そんな技術、未だに無いはず……」

騎士「ええ、聞いた事がありませんね」

聡明「ま、莫大な費用を投資して何代かけてでも、って条件だったからね」

聡明「費用持ち逃げだって出来たのに……本当に有り難い職人一派ってところだね」

勇者「にしても……今のはどういう意図が」

剣士「……強さ的に体のいい厄介払いと宣戦布告じゃないか?」

僧侶「……宣戦布告ってさっきの軍団でいいんじゃ」

勇者「兎にも角にも魔王達もやる気って事だね……」

師匠「そのようだが立ち止まる事はできん」

師匠「まあ、これだけの人数がいるのだ。どうとでもなろう」

初代「……」コクリ

兄勇者「こんななりでも大先輩だしなぁ」

妹勇者「もう少し胸を張って下さい」

前衛勇者達「先陣は任せてくれよ」

前衛勇者達「蹴散らして来てやるよ」

後衛勇者達「いくらでもフォローしてやるよ」

後衛勇者達「負傷したら後退して下さいね。この距離じゃ回復魔法届かないからね」

剣士「さあ勇者」

魔法「勇者」

盗賊「任せるぜ、リーダーよ」

騎士「勇者殿、さあ」

狩人「勇者さん」

僧侶「……」バシッ

勇者「痛っ」

僧侶「ほら、胸張ってシャキッとして」

勇者「……うん。うん」

勇者「全軍」

「……」ピリッ

勇者「突撃ぃっ!!」

「」ニタァッ

かくしてその戦いは史上最大の決戦となり、長きにわたる魔王との戦いは終結した。

帰還する事の無かった勇者も多く居たものの、多くの勇者の尽力の果てに、
町や城下町等の居住地が壊滅的な被害を受けた場所は何処も無かったという。

多くの勇者達はその後、様々な分野で活躍したり、姿を見せなくしたり、名を残したりと
自由気ままに生きていったという。

そして……


勇者「そこの廃鉱は複数の出口がある。全てのルートから攻撃、選抜は剣士と騎士に任せる」

勇者「この洞窟の先は様々な水晶がある。入り口から光線魔法で敵を殲滅」

盗賊「見てきたぜ。ほれ、配置と詳しい地図だ」

勇者「やっぱり敵の数が多い……一撃を加えて撤退、爆散魔法を乗せた矢で迎撃」

僧侶「そろそろ休んだらどう?」

勇者「もう一踏ん張りしてからかな」

その戦いの全てを双肩に背負った者は、その後においては原生の魔物との戦いでも、
その才覚を遺憾なく発揮し、後世に語り継がれる名軍師となったと言われる。


   勇者「勇者とは魔王を倒した後……」   終

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