やよい「うっうー!キラリ!とキラメきますよー!!」 (49)

14年前、一人のたいへん元気な女の子が産まれた

両親は初の我が子の誕生を心から喜び、その子に『やよい』という名前をつけた

ここに、高槻やよいという名の一人の人間がこの世に誕生した

やよいは両親に厳しくも大切に育てられ、底なしの元気ととびきり明るい女の子に成長した


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やよいの家は世間一般でいう、いわゆる『貧乏』であった

原因は彼女の父親が一つの職を長く続けられず、職を転々とし、収入が安定しなかったことが理由の一つにあり、

そして両親二人とやよいを含めた子ども五人、合計7人の大家族であることも理由だった

だが、そのことでやよいは親を嫌ったりはしなかった

父親は家族を食べさせるために一生懸命働いていたし、

家族の前で一瞬だけ見せた疲れた顔を、家族に心配を掛けさせまいとしてすぐに笑顔に変えた父のプライドを
子ども心に理解して、そんな父親をやよいは心から尊敬した

母は子に対して厳しい教育をする人であったが、それが愛情からくるものであったことは理解できるものであり

やよいが善行をしたときに普段の厳しい態度からは想像できない優しい笑顔と惜しみない称賛の言葉をやよいは心から嬉しがった

やよいはそんな両親が心から大好きだった


物心ついたとき、やよいは心労で疲れた母を見かねて、小さいながらも家事を覚えようと努力した

そのときの母の笑みは今もやよいの心に根付いている

五人の妹や弟たちもやよいに似て、みな明朗快活な子どもたちであった

大家族のためにさわがしく、五人兄弟の長女であるため、歳が幼い兄弟たちの面倒をみた

両親は共働きをして家を空けることも多かったため、

家事の忙しさは尋常ではなかったが

静かでいるより多人数でにぎやかさを好むやよいには望むところであった

持ち前の明るさと元気からくる有り余るパワーを家族のために惜しみなく使えることがやよいには嬉しかった

小学生のとき、父親が仕事をクビになり、なかなか次の仕事が見つからずに家計が回らず給食費を滞納せざるを得なくなったとき

なんとかやりくりしてやよいの給食費だけ払えない状況になった

やよいは教師に相談するため職員室に行った

そのとき、担任の教師に相談するやよいの隣で、話を聞いていた一人の教師がやよいの両親を咎める発言をした

それはやよいを想っての言葉であったことはやよいにもわかった。だが

教育者に大好きな自分の親を否定される



それは、小学生の時のやよいにとって、想像を絶する恐怖だった



それからのやよいは教師に頼ることをしなくなった

やよいは学校では『貧乏』という、聞いただけで気持ちを悲観的にさせる言葉の存在を忘れさせるほど、学校では活発的な少女だった

ありあまる元気で休み時間に校庭に飛び出し友達と遊び、全力で遊んだ後だというのに

次の授業が体育であっても疲れを見せなかった

やよいは聞き分けの良い子であったが、つい声を大きくしてしまうので騒がしいとよく担任の遠山という名の教師に注意されていた

彼女の元気は貧乏であることを微塵も感じさせなかった

だから

元気をそのまま人の形にしたようなやよいが

職員室に申し訳なさそうな顔をしながら入ってきた姿を見て

何事かと思いながら親身になって彼女の話を聞きながら

彼女の家庭事情を再認識した遠山は

やよいの力になろうと決意した

遠山は学校に給食費の支払いを延ばすようかけあったが、

昨今では給食費未納は家庭事情の如何にかかわらず、未納者が大量に多いため、

例外は認められないとして却下されてしまった

そこで遠山は、やよいに自分の分の給食を食べるように指示した

幸いにも自分の担当のクラスでは給食費未納はやよいだけであったこと、

そして学校の方針で教師も生徒ともに給食を食べることを命じられていた

やよいは先生に悪いとして一度は断った、が、遠山は弁当を持参してそのことを伝え、そしてその代わりとして教室の掃除をするように指示した

遠山はやよいが自分が貧乏であるということを一度も言い訳に使ったことがなかったし、そういう態度で振舞ったこともなかった

その心意気をかい、家庭事情の深刻さを知ってなお、やよいに対して今までどおりに接することを決めた

やよいはそのことを本当に感謝した

だが、小学校を卒業してからは遠山とも疎遠になり、

中学校に進学してからは教師に親を否定されたトラウマがやよいから中学校の新しい教師に頼る気持ちを抑えさせてしまっていた

それからのやよいは誰かに頼るという気持ちを抑えがちになっていった

やよいは歌が大好きだった

自分の元気が人に分け与えられる、錯覚かもしれないがそんな気持ちになれる。メロディに乗せて声を発するだけで気分が明るくなる

公園に行って歌を歌い、知り合いに褒められたこともあった

泣き出した兄弟たちを歌って励まし、時には子守唄を歌う

……調子に乗って家で大声で歌って近所迷惑だとして母にしかられたこともあったが

歌はやよいにとって生活の一部だった

だから

地元の商店街の掲示板に貼られた新人アイドル募集の広告を目にしたとき

やよいはかつてないほど胸が高鳴った

昔、片手の指で数えられるくらいなだけだが、親にデパートに連れて行ってもらえたことがあった

そのとき屋上で見たアイドルが歌う輝かしいステージを、やよいの心をつかんで離さなかった

あのステージに、自分が立てる――――

自分がアイドルになったときの想像に想いふけっていたとき、家のことを思い出してやよいは現実に引き戻された

しかし、募集広告の煽り文句の一つに、アイドルとして成功すれば高額報酬も夢じゃない!というニュアンスの言葉が書かれていた

やよいは自分の浅ましさに少しだけ嫌悪したが、その言葉は実に魅力的であった

アイドルになりたいのは事実だし、こういう話はきちんとしていなくてはならないという考えが、やよいのアイドルへの道を歩くことを後押しした

まだアイドルになれるかどうかもわからなかったので、兄弟には隠して親に相談したところ、OKの返事がでた

やよいは飛び上がって喜び、さっそく広告に書いてあったアイドル事務所に電話を入れた

電話を入れてから数日後、言われて向かった場所にやよいは絶句した

下に大衆食堂、窓にテープで765という字が書かれている小さく華やかさとは無縁なビル

アイドル事務所と聞いていたから、もっと豪華で華やかなイメージを期待していたやよいは、面食らってしまった

場所を間違えたのではないかとさえ思った

765プロのビルから、一人の女性が出てきた

真偽を確かめるため、やよいは女性に話しかけた

やよい「すみません!」

??「はい、なんでしょうか?」

やよい「あの、このビルは765プロというアイドル事務所でいいんでしょうか?」

??「ええ、その通りよ、何も間違ってないわ」

やよいはこの女性を信用しようと思った

というのも、この女性がやよいの質問に答えるときにした行動にあった

この女性はやよいより背が高く、普通にしているとやよいを見下ろす形になる

しかし、この女性はやよいと話すにあたり、膝を曲げて少しだけしゃがみ、やよいの目線に合わせるようにしてから、まっすぐ目を見つめた

やよいはこの行動がどういう意味を示すか知っていた

大人が子どもと話すとき、身長差が生まれる

身長差によって相手を大きく感じると、子どもは威圧を覚えて無意識に心理的に壁を作る傾向がある

だから子どもの目線に合わせるように姿勢を変えてあげると、威圧がなくなり同じ目線になったことで親しみがわくらしい

今でこそ積み上げた経験がやよいを立派な姉に変えたが

やよいが今よりもう少し歳が幼く、兄弟たちの面倒を見る力量が未熟であったころ、

どうすればよりよき姉になれるか必死に模索していた。そのとき、偶然みたテレビでそのことをやっていた

知ってはいたが効果のほどはやよいにとって半信半疑であったし、14歳というやよいの歳を考えればこの行動はそれほどの意味をなさなかったが、

少なくともこの女性が人と話すときそういう努力を怠らない誠実な人間であることは証明された

この人は良い人だ

やよい「私、高槻やよい、14歳です!ここにアイドルの試験を受けに来ました!」

と、まだ会ったばかりで名前も聞いてない女性に自らの名前と目的を口にだして教えたのは、信用できる人だと心で理解できたからだろう

そして、この女性も。深々と頭をさげて礼を言ってきたやよいに対し、礼儀正しい子だと感心した

おじぎをしたときになぜか彼女の腕が勢い余って上にまっすぐ伸びているのを目撃した時、微笑ましくてつい口元が緩んでしまった

ずいぶんかわいい子が来たものだ、と思い、そして頑張ってほしいという応援意欲を湧き立たせた

「私の名前は音無小鳥。この事務所で事務員をやっているの。よろしくね、やよいちゃん」

「はい!よろしくお願いします!!」

音無小鳥と名乗った女性はやよいを中へ案内した

音無小鳥の、物腰穏やかな対応は、出鼻をくじかれたやよいの765プロへの信頼を回復させ、希望の未来を期待させるにまで至っていた

やよいの憧れの大人という心の辞書に、音無小鳥の名が新しく記された

案内された部屋に、待っていたとばかりに中老の男性が子どものようなとびきりの笑顔でやよいを出迎えた

「私がこの事務所、765プロダクションの社長、高木順二郎だ!今日はきてくれて本当にありがとう!よろしく頼むよ」

やよいは緊張した

この緊張は小学校のとき、母親が授業参観に来たときに授業の問題を目の前で解かされたときに匹敵するほど緊張した

なんだその程度、と思うかもしれない

だが、仕事でほとんどやよいの授業参観に参加できなかったやよいの母親が、一度だけきてくれた

そのことを思えば、今の例えがやよいにとって筆舌しがたい緊張を表していたかを物語る

だがアイドルになりたい気持ちはそれを上回った

失敗はできない、絶対にチャンスをものにしなくちゃ

「高槻やよい、14歳です!よろしくおねがいします!!」

やよいは渾身の力をこめて挨拶した

だが、言い放ってすぐ少しだけ後悔した

もしかしたら静かに言うべきだったかもしれないと思ったのだ

やよいはよく声の大きさを注意されるからだ

うるさくて嫌われたらどうしようと悩んでしまった

「はっはっは、キミは元気だねえ!実にかわいらしい子だ!」

心配は無用だったようだ

だが

やよいは高木が口にした「かわいい」という言葉に首をかしげた

やよいには自分を見る他人の評価と自己の評価にギャップがあった

やよいは自分の見た目をかわいいと思っていなかった

周りが自分を認めるのは外見の評価ではなく、

持ち前の元気と明るさで周りを一体にさせる高翌揚感や、それを可能にする自身の歌の力であると信じていた

しかし、観衆が評価しているのは残念ながらやよいの歌ではなかった

やよいの小さな体で懸命に歌う姿が感動的であったためと、外見のかわいらしさからだった

そして今も。やよいは懸命に覚えた敬語を使って明るく元気に大人を前にしても臆せず振る舞うことで

自分がしっかりした人間であるということをアピールしたつもりであったが

高木にはやよいの外見の幼さも相まって、かわいらしい健気な少女に写ったのだった

やよいは他人に自分が子どもに見られること……つまり幼くみられることをあまり好ましく思っていなかった

歳のわりに外見が人より幼く、背も低い。同級生からもそのことでからかわれることがあり、本人はそのことを気にしていた

だが、化粧や恋愛などの思春期の背伸びがやよいに訪れなかったのは、

自身が子どもであることも自覚しているからであり、

その類の話は自分にはまだ早いと自分にブレーキをかけていたからである

なんとかしなければと思い、それをカバーしようと本人は一生懸命なのだが……

私から元気を取ったら何も残らないから、常に明るく元気に!を信条に、
やよいが14年の人生で得たすべての知識と知恵をフル稼働させて、人と対等な関係を作ろうと努力する

「元気が自慢の女の子です!今ならとってもお得ですよ!お買い時ですよー!」

……が、言葉の表現力に乏しかった

やよいが歳よりも幼稚に見られるのは彼女の行動にも原因の一端があったのだ

しかし周りはやよいの何事にも素直でまっすぐで懸命な姿に少なからず心動かされる、そこが彼女の魅力であった

高木も話していくうちに、やよいのアイドルとしての資質の面でその部分を見抜いていた

アイドルとして見る場合、高木のやよいを見る目は正しい

どんなに能力が優秀であっても、ファンの応援がなければアイドルは大成しない

思わず味方に付き、応援する意欲を湧き立たせる……アイドルとして代えがきかないすばらしい資質だった

しかしその懸命な姿ゆえにやよいに対して誰も年齢よりも言動が幼稚であるという事実を指摘できない

それがジレンマとなり、周囲との評価のギャップを招き、コンプレックスを増大させる

これが、やよいがいまいち幼稚さがぬけず、大人になりきれない原因であろう

技術は後からどうにでもなる

今はこの子の素質にかけてみよう

ティンときた、というヤツだ

高木はやよいを採用することに決めた

その夜、やよいは家族に合格したことを話した

「アイドルゥ~!?姉ちゃんが?」

せっかく合格して気分がいいところに水を差された

確かに自分がアイドルなんて自分でも信じられないが人に言われると癪に障る

それが兄弟であればなおさらである

「じゃあ、じゃあ、テレビに出て歌ったりするの?」

「もちろん!」

「すげぇ~!」

だがそれを水に流そうと寛容な気持ちを持てたのは合格が嬉しくて浮かれていたからだ

今すぐにでも小躍りしたい気分だった

待ち受けるであろう輝かしい未来に胸がいっぱいだった

デパートの屋上で見た、夢の世界かと錯覚させるあの輝かしいステージに、自分が立ち、多くの人と自分の歌で元気にさせ、楽しみを共有しあう

夢の未来はすぐそこだと思った

「うっうー!」

「姉ちゃん、それ」

しまった、と思った

気持ちが高鳴るとつい出てしまう

やよいの口癖「うっうー!」

なぜ「うっうー!」なのかと問われればやよい自身も困ってしまうのだが、

出てしまうのだから仕方がない

その変な口癖はやめなさいと母によく注意されるが

抑制しようと思ってもつい出てしまうのが口癖というものだから仕方がない

なるべく家では我慢する努力を続け、ここ最近家では出ていなかったのだが、つい出てしまった

今はそれだけ気分がよかったのだ

だがつい口癖が出てしまうことと母がしからないことは関係がないのも事実である

やよいは母におそるおそる目を向けた

母は末っ子のおしめを代えていて聞いていなかったようだ

ホッと胸をなでおろした

それに、

アイドルで成功すれば、

母を、家族を、幸せにできるだろうから、絶対

その思いさえあれば、どんな苦難も乗り越えていける

強がりではない。このときは心から思えた

それに、

アイドルで成功すれば、

母を、家族を、幸せにできるだろうから、絶対

その思いさえあれば、どんな苦難も乗り越えていける

強がりではない。このときは心から思えた

妹、弟たちを寝かしつけたころ、やよいは母にアイドルをがんばることを告げた

励ましの言葉がでてくるか、気をつけなさい、と少しそそっかしいところがあるやよいに叱咤して気を落ち着けさせるか

やよいは母の言葉を待った








母の口から出てきた言葉は想定していなかった言葉だった

それは





『ごめんね』






だった

「ごめんね、やよい。アイドルのアルバイトなんてさせて」

「ごめんね、あなたには無理ばかりさせて」

いつもはどんな時も強く、厳しい母がやよいにだけ吐露した弱音

その言葉は娘を想うゆえであることはもちろん理解していたが

やよいにとっては、そんな言葉はまったく望んでいなかった

家族である自分に気づかいなんてしてほしくなかった

家事をすることも兄弟たちの面倒をみることもアイドルをすることも

すべて家族に笑っていてほしかったからだというのに

母にとって、自分の行動は、子どもに無理をさせている罪悪感に苛まれることでしかなかったのか

母にとって、自分は頼れる自慢の我が子ではなかったのか



その想いが、どうしようもなくやよいを悲しませた

始まりの朝がやってきた

出かけるとき、先に仕事に出かけた父親以外の家族が玄関まで出迎えてくれた

一人はもう少し寝ていたいと書いてある顔で、目をこすりながら

一人は姉が新たな生活をスタートさせたことで今までと生活が変わる寂しさや不安を感じた顔をさせながら

一人は姉がいなくても姉に変わって自分がしっかりしなくてはと決意を新たにさせながら

一人は姉のアイドルとしての希望の未来に胸を膨らませながら

一人は母に抱きかかえられながら、姉がどこに行こうとしているのか、皆が何をしているのか理解していないが、ただまっすぐ純粋な目を姉に向けながら

そして、もう一人は

「やよい、いってらっしゃい」

実の娘にアイドルの仕事をさせて無理をさせているという罪悪感からの悲しさを隠し、
そして、娘の旅立ちを笑顔で送ってやらなければという親心が見え隠れする顔をさせながら

そして、もう一人は

「やよい、いってらっしゃい」

実の娘にアイドルの仕事をさせて無理をさせているという罪悪感からの悲しさを隠し、
そして、娘の旅立ちを笑顔で送ってやらなければという親心が見え隠れする顔をさせながら

そして、もう一人は

「やよい、いってらっしゃい」

実の娘にアイドルの仕事をさせて無理をさせているという罪悪感からの悲しさを隠し、
そして、娘の旅立ちを笑顔で送ってやらなければという親心が見え隠れする顔をさせながら

そして、もう一人は

「やよい、いってらっしゃい」

実の娘にアイドルの仕事をさせて無理をさせているという罪悪感からの悲しさを隠し、
そして、娘の旅立ちを笑顔で送ってやらなければという親心が見え隠れする顔をさせながら

そして、もう一人は

「やよい、いってらっしゃい」

実の娘にアイドルの仕事をさせて無理をさせているという罪悪感からの悲しさを隠し、
そして、娘の旅立ちを笑顔で送ってやらなければという親心が見え隠れする顔をさせながら

……必ずアイドルとして成功しなくちゃ

そしたら

二度と「ごめんね」なんて言わせない

二度とその悲しい顔をさせない

家族に、不自由な思いをさせない

……必ずアイドルとして成功しなくちゃ

そしたら

二度と「ごめんね」なんて言わせない

二度とその悲しい顔をさせない

家族に、不自由な思いをさせない

そしてなにより


アイドルは


私の夢だから

少女はそう決意して


「行ってきまーす!!」


いつもの明るく元気な笑顔で


アイドルの最初の第一歩を


踏み出した

終わりです

やよい、本当に誕生日おめでとう

見てくれた人、ありがとう

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