大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」 (1000)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★どちらかの作品を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~前スレまでのあらすじ~

〈 Prologue 〉
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
クマのぬいぐるみのような不可思議な物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

〈 Chapter.1 〉
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。Kが警戒する中、第一の事件が発生する。 Kは重傷を
負った舞園さやかを手術で救い、また日頃の素行不良を糾弾された桑田怜恩を励まし信頼関係を築くのだった。

〈 Chapter.2 (非)日常編 〉
一度事件が起こったことで今後のことを危惧したKは、授業と称し応急処置の知識を生徒達に与えた。
その中で、石丸清多夏は政治家になる前にまず人間として成長する!と苗木と共にKに医学を教わり始める。

〈 Chapter.2 医療編 〉
舞園退院のタイミングを狙い、モノクマによる二度目の招集がかかる。事件が起きなければ生徒達の秘密を暴くという
内容だ。モノクマは学級裁判のルールを説明すると共に舞園を追い詰め、江ノ島盾子の殺害を図ったがそれはKが防ぐ。
しかし暴走した桑田によって生徒達の心はバラバラになってしまった。限界を迎えた舞園は、全員を脱出させることこそ
自分の成すべきことと定め、そのために自分を駒だと自己暗示をかける。そしてその夜、再び事件が発生してしまった。

〈 Chapter.2 非日常編 〉
Kが席を外している間に、大和田紋土は衝動的に不二咲千尋を襲い、石丸がそれを庇って重傷を負う。手術したものの、
薬品が足りず石丸の顔には大きな傷跡が残ってしまうことになった。大和田は自分を責め、石丸は自分の失言が事件を
招いたと強く後悔する。生徒達が混乱する中、モノクマは秘密の公開を三日延長すると宣言したのだった――



前々スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/)

前スレ:桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387896354/)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395580805

KAZUYA:スーパードクターKという漫画の主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。
       2メートル近い長身と筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。
       現在部分的に記憶喪失を患っている。外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜く。

K一族とは:KAZUYAの祖先は代々世界的な外科医であり名門医師一族。
       全員イニシャルがKのためK一族と呼ばれている。あまりにも
       凄腕なため裏世界から目をつけられがちであり、体を鍛えている。



参考画像(KAZUYA)
http://i.imgur.com/t8DhmHa.jpg
http://i.imgur.com/8pEysnQ.jpg

ニコニコ静画でスーパードクターKの1話が丸々立ち読み出来ます。
http://seiga.nicovideo.jp/book/series/13453


現在の状況

【物語編】

・三階までの全ての施設が解放済み。
・保健室から薬や道具を確保し、最重要な物以外は桑田と苗木に分散して預けた。
・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
 また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
 「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
 引き起こしたのではないかとKは考えている。

【生徒編】

・桑田が改心し、かなり真面目になった。
・江ノ島が黒幕の味方だと気付いた。
・霧切はKから情報を得たためだいぶ記憶が戻っている。
・不二咲が現在脱出に向け何らかのプログラムを組んでいる。
・石丸が医者を目指し、苗木も巻き添えの形で現在医学の勉強中。
・舞園は自身を「脱出のための駒」として定義し演技している。
・石丸の顔に大きな傷痕が出来た。麻酔が足りないので今は消せない。

【現在の仲間】

苗木、桑田、舞園

《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【かなり良い】桑田 、石丸

【結構良い】不二咲、苗木、舞園

【そこそこ良い】大和田、朝日奈、霧切、大神

【普通】セレス、葉隠、山田

【イマイチ】十神、腐川

     ~~~~~

【江ノ島への警戒度】かなり高い


― 大和田の部屋 AM8:56 ―


悪夢のような放送は終わったものの、大和田にとっての悪夢はまだ終わっていなかった。


大和田「なんだよ…あれ…ウソだろ…」


床に座り込み、頭を抱え呻く。実は、あの放送の後大和田は石丸の部屋に向かったのだった。


・・・


大和田「やっぱり…まずは謝るべきだよな…謝って済む問題じゃねえし、
     土下座したって許されねぇだろうけど…」


いや、正確にはこの表現は正しくないだろう。
何故なら、最初から石丸は怒ってなどいないからだ。許さないのは自分自身の心だ。


大和田(いや……あの話を知ったらさすがの兄弟も怒るかもしれないな。まさか、
     俺があんなくだらない、情けない理由でダチを殺そうとするなんて……)


告白せねばならない。親友に全てを告白し、その上で謝らなければならない。
だが大和田にはどうしてもその決心がつかなかった。とりあえず謝らなければという
不純な気持ちで向かったから、余計な物を見る羽目になったのかもしれない。


――面会謝絶。








大和田「…………ハ?」


その紙は昨晩KAZUYAが念のためにと用意しておいたものだった。
石丸は意識もはっきりしているし処置も完璧に施してある。だが、怪我をした場所が
場所だけにとにかく傷が塞がるまで出来る限り安静にしていなければならないのだ。

特に、あの放送のせいでただでさえ情緒不安定だったのが更に酷くなった。ほんの少しの
外部刺激がどんな結果をもたらすかわからないため、やむなくKAZUYAは面会謝絶にしたのである。


大和田(面会謝絶ってアレだろ…アイツ、そんな悪いのかよ……
     ……そういや本来なら失明してるレベルの重傷っつってたな)

大和田(まさか、死にかけてんのか…?!)バッ


石丸の姿を表したドット絵の下に貼られた紙をジッと見つめる。KAZUYAが書いたのだろう、力強く
それでいて丁寧な文字だ。用がある場合はドアの下からメモを入れるようにとも書かれていた。


大和田「あ…ああ……」


思わず大和田は数歩後ずさり、自分の部屋へと逃げ戻った。


・・・


大和田(俺のせい……俺のせいで兄弟が……)


よしんば命が助かっても顔に傷が残る。彼の輝かしい将来を自分が奪ってしまった。
かえってその方が残酷かもしれない。鏡を見るたびに親友の裏切りを思い出すのだから。

大和田自身も昨晩の出来事を思い出していた。


――思い出す。友人を殺そうとした瞬間を。

――思い出す。信じられないと言った顔で自分を見上げる親友を。


頭が真っ白だった。本当に自分がやったことなのか疑った。ただ足元にひれ伏す血まみれの
親友が、大きな赤い目をいつも以上に大きく見開いて、微かに口を動かしている。


石丸『……きょ……だい……』

大和田『い、石丸』

石丸『ど……して……?』

大和田(う、ウソだウソだウソだウソだウソだウソだっ!!!)

大和田『ち、違うんだ…石丸…こんな…こんなこと俺は…』


どこまでも見苦しい姿だ。自分を信頼する友を殺そうとした挙げ句、全く無関係の親友に
重傷を負わせたのに関わらずまだ保身しようとする。なんと醜く浅ましい姿だろうか。
……だが、石丸は少しも大和田を責めたり恨んだりはしなかった。


石丸『う、く……ぼ、僕は大丈夫だ……兄弟は、気にするんじゃあない……』

大和田『気にしないワケねえだろ……お、俺がまた……』

石丸『これは事故だ! 不幸な事故が起こっただけなんだ……自分を責めないでくれ……』

大和田(また、やっちまった……)


人を殺してまで大和田が守りたかった秘密。それは敬愛する兄が自分のせいで死んだことだった。
大和田の脳裏にあの夜の出来事がフラッシュバックする。兄が死んだ日。自分が兄を殺した日。
石丸はあの時の兄と全く同じ目をしていた。大和田のことを心から心配している優しい瞳だ。

何故だ。全て自分が悪いのに。何故責めない。何故許す。何故心配する。何故……


大和田『きょ、兄弟! 兄弟! しっかりしてくれよ! 死なないでくれええええええ!!』


記憶の中の自分の絶叫から逃げるように大和田は耳を塞いだ。


大和田(どうしてだよ……なんで……なんでこんなことになっちまった!)

大和田「誰でもいい! 助けてくれ……!」


辛い時、苦しい時、決まって大和田の脳裏に浮かぶのは偉大な兄・大亜の姿だった。


大和田「あ、兄貴……兄貴ィィ! なんで死んじまったんだよぉ! 弟を守るのが当然なら
     助けてくれよ! いっそあの時見捨ててくれりゃこんなことにはならなかったのに!」

大和田「兄貴! 兄貴! うぅ…クソッ! 兄貴ィィィィ!」


床をダンダンと殴りつける。手の皮が向け、血が出てもやめることはない。自分なんか
生きている意味はない、死んで償うべきだと答えは出ている。…出ているのにどうしても
死ぬ覚悟が出来なかった。そんな自分の弱さを改めて目の当たりにし、大和田はただ嘆く。

ピンポーン。


大和田「……誰だ」


モノクマによって自分の所業はバラされている。そんな自分の元へやって来たいと
思う物好きは片手で数えられる程度しかいない。しかもそのうち一人は動けないのだ。


大和田(西城か不二咲だな……今はどっちのツラも見たくねえ……)


大和田の予想通り、扉の外にいたのは不二咲だった。桑田と霧切までいるのは想定外だろうが。


桑田「……出ねえな」

霧切「当然ね」

不二咲「どうしよう……大和田君と話さなきゃいけないのに……」

霧切「大丈夫。少し間を空けて、次は全力で鳴らして」


十分ほど間を空け、霧切の指示通り桑田がインターホンを連打する。

ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン! ピンポーン!


大和田(なんだ?! 一度やんだと思ったら、今度は急に激しく鳴らしはじめやがった…)


とめどなく続くインターホンの音に、大和田は不安感を募らせていく。
そして、先ほど見た面会謝絶の札を思い出した。


大和田(まさか……兄弟の容態が急変したんじゃ……)


今わの際に自分を呼ぶ石丸の姿が浮かび、いてもたってもいられなくなった大和田は扉を開けた。


大和田「…………」


お互いにお互いの姿を見てギョッとしただろう。大和田は一睡も出来ていないのか、目の下に
黒々とした隈が出来、顔色も頗る悪い。大和田は大和田で、不二咲の顔を見てサッと顔色を変えた。

ガッ!


桑田「おっと!」


大和田がすぐに扉を閉めようとするのを見越していた霧切と桑田が二人がかりで扉を掴んで開く。


桑田「逃がさねえぜ!」

大和田「……なんの用だ。兄弟は?!」

霧切「今は大丈夫よ、今はね。インターホンは無視しない方がいいわよ」

大和田「…………」


霧切が扉を押さえ、桑田がバットを構えて不二咲の前に立つ。その様子を見て、
大和田は自分が警戒されているという空気を痛いほど感じた。


桑田「不二咲がどうしてもお前と話がしたいんだってさ。男ならちゃんと向き合えよ」

大和田「…………」

霧切「大和田君……不二咲君に何か言わなければならないことがあるんじゃないかしら」

大和田「…………」


二人に促されても、大和田は黙り込んだままだった。沈黙を破ったのは不二咲だ。


不二咲「ごめんねぇ、大和田君!」

大和田「…!」

不二咲「僕、気付かないうちに何か大和田君を怒らせるようなこと言っちゃったんでしょう?
     思えば、いつもいつも大和田君に頼りっぱなしだったし、迷惑だったよね…ごめんね」

大和田「…………」


仮にも自分の命を奪おうとした男に対して言える発言だろうか。昨晩自分の中にあった
どす黒い感情が、またドロドロと沸き上がり始めたのを大和田は感じていた。


大和田「な……んで、なんでオメーが謝るんだ……」


不二咲「大和田君…?」

大和田「本当に謝んなきゃいけないのは……俺の方だろーが……」

大和田(どうして……どうしてコイツはこんなに強いんだ! 兄貴も、兄弟も、コイツも……
     そして、どうして俺だけ弱い?! どうして俺以外のヤツはみんな強い?!)


思えば、不二咲だけではない。監禁当初から全く動じていないKAZUYAや霧切は当然のこと、
今目の前にいる桑田があのチャラチャラした軟派男と同一人物だというのが信じられなかった。
不二咲を庇う姿は勇ましく、武器を構え鋭い目線で自分の一挙手一投足を見張っている。


不二咲「僕ねぇ、同じ過ちをしたくないの……何が大和田君を傷つけたのかわからないと、また
     気付かないうちに傷つけてしまうかもしれないから……だから、辛いかもしれないけど
     あの時のことをちゃんと話し合いたいんだ」

不二咲「お願い……僕達がいつまでも喧嘩してたら、きっと石丸君も悲しむと思うの。早く仲直りして、
     一緒にお見舞いに行ってあげよ? そうすれば、石丸君だってきっとすぐに元気になるよぉ!」


そう言って大和田の顔を覗き込む不二咲の目は、とても優しかった。目の前の男が、
自分の命を狙ったことなど気にも留めず、ただ大和田と石丸のことだけを思いやっている。
この弱々しい少年の瞳が、昨晩の石丸の瞳に、そしてあの夜の兄の瞳に――重なった。

不二咲の優しさと芯に秘めた強さが、再び大和田の劣等感を槍のように鋭く貫く。


大和田(俺だけが弱い。俺だけが変わらない…! 俺だけ! 俺だけが同じ過ちを繰り返す! 何度も!!)


大和田「…っとけよ」

不二咲「大和田君?」

桑田・霧切「…!」


異変を察知した桑田と霧切に緊張が走った。二人は構えに力を入れる。


大和田「俺のことなんかもうほっといてくれ! 俺はなぁ、クズ野郎なんだよ!」

不二咲「そんなこと…!」

大和田「クズじゃなきゃ一体なんなんだ?! 大の男がオメーみてえなチビに殴りかかるか?!
     兄弟…いや、石丸にも伝えといてくれ! 俺はお前の兄弟には相応しくなかったってな!」

不二咲「大和田君!」

桑田「ちょっと待て! テメェ逃げる気か! 石丸にも不二咲にもまだちゃんと謝ってねーだろーが!」

大和田「…石丸には今度詫びに行く。でも、それで終わりだ! 俺みたいな危険人物は、
     部屋に閉じこもるか縛って監禁でもされてた方がいいんだよ!!」

桑田「あ、おい、待てって…!」


大和田「うるせぇ! もうテメェらと話すことなんかねえ! …全部俺がわりぃんだ」

霧切「大和田君、問題から逃げても根本的な解決には…!」

大和田「もう俺に関わるなって言ってるだろ!」

霧切「!」


ドンッ!


桑田「あ、てめ…うわっ!」サッ


バタンッ!

大和田は扉を押さえていた霧切を突き飛ばし、桑田に牽制の蹴りを放つと扉を閉めてしまった。


不二咲「大和田君…」

桑田「あんの野郎! こっちが下手に出りゃ調子のりやがって!」

苗木「大丈夫、二人共?!」


様子を見ていた苗木と舞園が三人の元に駆け寄る。


霧切「大丈夫よ。流石に今回は本気じゃなかったようだから」


だが、それは桑田と霧切がいたからだろう。その空気は離れていた所から見ていた舞園も感じていた。


舞園「……でも今の感じですと、もし不二咲君と二人だったらまた襲っていたかもしれないですね」

不二咲「そ、そんな…!」

桑田「アイツちっとも反省してねぇな」

苗木「そんな単純な問題じゃないんじゃないかな」

霧切「…どうやら想像以上に根深い問題があるみたいね。過去に何かあった可能性が高いわ。例えば
    何らかのトラウマとかコンプレックスとか、不二咲君を見ると思い出してしまうのかもしれない」

桑田「どうすりゃいいんだよ。アイツは部屋にこもってるし、ムリヤリ外に
    連れ出したってあの感じじゃどーせしゃべんないだろ」

霧切「鍵は大和田君の秘密よ。今まではあんなそぶりを見せなかったんだから、あの動機のせいで
    何かを思い出した可能性が高いわ。だから秘密さえわかれば手のうちようはあるはず…」


苗木「じゃあ、三日後に大和田君の秘密がわかるまで僕達に出来ることはないのかな?」

霧切「残念ながらそうなるわね」

不二咲「それまで、大和田君を部屋に放置するのぉ…? 一人っきりに…?」

桑田「心配なのはわかるけどよ…こればっかりはな…」

苗木「自殺しちゃったりとか…ないよね?」

霧切「…わからない。彼は自分を危険人物と認識してしまっているし、自分の存在意義や
    価値が極端に下がっている状態。こういう心理状態で何をするかは予想出来ないわ」

不二咲「お、大和田君…」


涙ぐむ不二咲の肩に手を置いて、舞園が優しく慰める。


舞園「大丈夫ですよ。しばらく一人になれば、冷静になれると思います。
    それに……大和田君は自殺とか出来る人ではないと思いますよ」

桑田「なんでそんなことお前がわかるんだよ」

舞園「私だからわかるんですけど、過ちを犯す人って共通点があると思います。……怖がりなんですよ」


桑田「…………」


自分から積極的にやったことではなかったとはいえ、人を刺した経験のある
桑田は鳩尾を素手で掴まれたような、そんな寒気を背中に感じていた。


舞園「死ぬなんて一番怖いじゃないですか。だから、今の段階で生きているのなら余程
    追い詰められないと自殺はしないと思いますよ。……怖いのはモノクマですね」


実際に自分が追い詰められた経験から舞園はモノクマの存在を警戒していた。
しかし、こればかりはこちらで対処のしようがない。


苗木「モノクマは鍵をかけても入ってこれるしな…」

霧切「とりあえず私達に今出来ることはないわ。今日はもう解散しましょう」

苗木「そうだね…」


そして彼等は何の収穫もないままその場を離れざるを得なかった。


ここまで。

何ですか、この流れ(驚愕)

大和田がこの先生きのこるには駒化しかないということですかね?!


投下


― 娯楽室 AM9:47 ―


娯楽室の中にはいつも通りセレスと、甲斐甲斐しくその世話をする山田がいた。
まさしくその様は女王と従者のそれにしか見えない。


セレス「ご苦労様、もう下がってよろしいですわ」

山田「え、ええ~。せっかくですし、もうちょっとなにかこうお話でも…」

セレス「わたくしを楽しませられるなら構いませんが、山田君のお話と言えばアニメや漫画の
     ことばかりではありませんか。はっきり言ってつまらないし興味もありません」

山田「……で、では一緒になにかゲームでも」

セレス「二人で出来るゲームは限られていますし、わたくしが勝ってしまうので面白くありませんわ」

山田「えーと、では…」

セレス「お下がりなさいな」ニコ

山田「ええー?」

セレス「さっさと下がれって言ってんだよこのブタァァァ!」

山田「ひ、ひぃ~! 失礼しましたー!」ドタドタドタ…


セレスの迫力に押され山田は娯楽室から追い出されてしまった。


セレス「フゥ、やっと邪魔者がいなくなりましたわ」


一息つくと、セレスはチェスの駒を盤上に並べる。


セレス(折角今は西城先生のいない好機。この機会を逃す手はありませんもの!)


チェスの駒を手に、まずKAZUYAの陣営を白、そして自分達敵対陣営は黒に設定した。
次にKAZUYAを中心にして白い駒の担当を振り分けて並べていく。


セレス(キングは勿論西城先生ですわね。クイーンは霧切さん。ナイトは……桑田君と
     大和田君でしょうか。人材不足で気の毒になりますわ。ビショップは石丸君と
     舞園さん、ルークは苗木君、不二咲君は体が弱いからポーンでしょうか)

セレス(対するこちらは、クイーンは勿論わたくし。キングは十神君。腐川さんは十神君の
     専属ナイト。山田君も臨時でわたくしのナイトにしてあげましょう。あとは…)


正直残っているメンバーは適当でいいのだが、ふと思うことがあってセレスは横にあった
将棋の駒を取り出した。そして、王将を大神、飛車と角行をそれぞれ朝日奈と江ノ島に当てる。


セレス(葉隠君は動きに予想が出来ないから適当に桂馬でも当てておきますか)


何故大神達を別枠にしたか。それはKAZUYA達とも自分達とも違う、別の第三勢力と見なしたからだ。

白は明確に敵。黒は、味方ではないが思考が近いため大まかに動きが予想出来るメンバー。
そして、全く動きが予想出来ない将棋の駒の三種類でセレスはこの学園の勢力図を描き出す。


セレス(所属陣営を明らかにした所で、次は各人の行動分析です)


葉隠の占いのように、セレスは監禁当初から自分の中でとある賭けをしていた。それは、今
ここにいるメンバーのうち誰が殺人を犯すかの賭けだ。セレスが絶対に殺人をしないと賭けたのは、
KAZUYA・苗木・霧切・石丸・不二咲の五人のみ。それ以外の人間は殺人の可能性ありと判断した。


セレス(だてに超高校級のギャンブラーを名乗っている訳ではありませんわ。人間観察には
     それなりに自信がありますの。成功する人、破滅する人は見れば大体わかります)


同じ殺人の可能性ありと判断しても二種類の人間に分けた。勝率によって賭け金の額を変え
リスクコントロールするのはギャンブルの基本だ。自分や十神のように計画を立てて行う人間と、
その場の流れで間違いを犯してしまう人間に分け、桑田・大和田・葉隠を後者と見ていた。


セレス(実際に問題を起こした桑田君と大和田君のお陰で、わたくしの予想が
     そこまで的外れではないという確信が持てましたわ)

セレス(それにしても…)


一列に並んだ白い駒を見てセレスは顔をしかめる。KAZUYAはいつの間にこんな大きな
勢力を作っていたのだろうか。石丸と大和田に該当するビショップとナイトをそれぞれ
一つずつ指で弾き倒したが、それでもまだ六つも駒が残っているのだ。


セレス(狙うはやはり最弱のポーンである不二咲君ですが、隙がありませんわね…)


今朝不二咲が桑田と一緒に現れたのを思い出す。恐らくKAZUYAが護衛につけたのだ。


セレス(となると、もう一人の最弱……苗木君ですか。しかし、苗木君には
     常に舞園さんが影みたいについていますしねぇ)


ここで目線を変えて黒と将棋の駒の方を見る。


セレス(いっそのこと守りの固い白ではなくこちらを狙ってみますか?)


しかし、こちら側でも殺せる相手はかなり限られていた。十神と大神は論外。
アスリートの朝日奈もよほど上手く不意打ちしないと難しい。


セレス(いえ、超高校級の運動能力というものを甘く見ない方がいいですわね…)


自分よりずっと運動神経がいいだろう舞園の奇襲を鮮やかに返り討ちにした桑田を思い出す。
まだ殺人など到底起こりそうにない中、完全に油断していた相手からの攻撃を避けたのだ。
つまり、舞園よりずっと体力の劣る自分に朝日奈の殺害は厳しいと判断した方がいいだろう。


セレス(……かと言って江ノ島さんも侮れないですわね)


駒を指で弄びながらセレスはドッジボールの時の江ノ島を思い出す。
あれは各生徒の身体能力を観察するには絶好の機会だった。


セレス(モデルをやっているだけあって大柄でガッチリしてますし、身のこなしが
     意外と素早い。負傷していますが、左腕以外は大したことなさそうですしね)

セレス(葉隠君は正直少しどんくさいと言いますか、そんなに運動神経は良くないですが、
     占い師だけあって勘がいいのか逃げ足だけは異様に早いですわ。それに大柄ですし)


そうなると、もう選択肢が限られていた。


セレス(山田君か腐川さん…ですか。一番楽そうなのは腐川さんですかね。
     彼女はインドア派で華奢ですし、特に運動神経が良い訳でもない…)


唯一気になるのは彼女がいつも十神といることだった。
結局の所、殺せそうな人間は必ず誰かと組んで行動しているのだ。


セレス(…ターゲットよりもまず殺害方法から練った方がよろしいかもしれませんわね。
     毒でもあればこんなに苦心しなくて済むのですが。もういっそのこと駄目元で
     モノクマさんに交渉でもしてみましょうか?)


色々と策を巡らせながらセレスは頭を唸らせる。頭脳派を自称している彼女だが、
所詮ギャンブラーはギャンブラーであり、場の流れを読んだり読心術には長けていたが、
頭を捻って殺人計画を立てるのは完全に門外漢だったのだ。


セレス(……賭けてみましょうか。わたくしが上手く計画を立てて実行出来るかを)


当分セレスの苦心は尽きないようだ。


・・・


山田「ハァ~。いつもあれだけ尽くしてる僕に、あんまりじゃないですかね…」


娯楽室を追い出された山田は自分の居城である美術室へ戻ってきた。
同人誌の続きを描きながら溜め息をつく。


山田(……こう空気が重いと妄想もはかどりませんなぁ)


何かと個人行動の目立つ山田ではあるが、セレスと行動を共にすることも多いし、
人の集まる場にはそこそこきちんと顔を出している。常に飄々と根無し草のように
漂う葉隠と違って、山田は一人の時間に少しずつ寂しさを覚え始めていた。


山田(話し相手がほしいですなぁ。せめて一人くらい趣味が合う友達でもいれば違うのですが)


しいて挙げるなら苗木や桑田は漫画やゲームの話も普通についてこれるのだが、山田の
ディープなオタク話に若干引いているというか、桑田に至ってはいつも馬鹿にされる。

…それ以前に、今はなんだか生徒間に見えない派閥のようなものがあって、自分はどちらの
中心部にもいないというか、もっと言えばのけ物になっているのを薄々感じていた。


山田(一応西城医師には昨日謝りましたし、この際僕も向こうに入ろっかなぁ…)


KAZUYAや不二咲は話が合わないなりに自分にも気を遣ってくれるし優しい。
特に不二咲は男だという衝撃的過ぎる秘密を知ってしまったものの、かえって男の娘とか
おいしいというか、逆に以前より濃厚に付き合えるんじゃないかと下心もあった。


山田(向こうに入れば憧れのちーたんと無条件でお近づきになれる。男の友情だとか言えば
    多少の馴れ馴れしさも許されるでしょうし、久しぶりに萌え成分の補給が出来ますよ!)


しかし、山田がKAZUYAの派閥に入るにはどうしても見過ごせない問題が一つあったのだ。


山田(…問題はアレですよ、アレ! メンバーの中に犯罪者多すぎなことですよ!
    どんだけいるんですか?! 西城医師もお人よしというかなんというか…)


KAZUYAの派閥に入りたい。だがその場合、舞園、桑田、大和田の三人とも仲良くしなければならない。
山田は元々桑田と大和田のことが嫌いだし、舞園はなんか怖い。なんだかよくわからないが怖い。


山田(拙者の第六感が告げている。舞園さやか殿から桂言葉並のヤンデレオーラを感じると。
    ハッ! そういえばどちらも黒髪長髪美少女で敬語キャラではないですか?!)


その事実に気付くと山田はブルリと震えた。舞園にはけして逆らわないようにしよう。
いや、むしろなるたけ近寄らないようにしようと固く決意する。


山田(他のメンバーと言えば…苗木誠殿は空気のようなと言いますか、良くも悪くも普通ですな)


苗木は全く問題ない。最後は石丸でこれも実は問題だったが…ただ、今回の事件で山田は石丸の
評価を少し改めていた。元々口うるさくて偉そうで好きではなかったが、山田は内心ではそれが
オタク特有のエリートに対する僻みであり嫉妬だと言うことをわかっていた。身を呈して不二咲を
守ったことは純粋に評価出来るし、その結果顔に重傷を負ったことは素直に同情もしている。


山田(やっぱり、前科組が問題ですな…)


いっそ孔明の罠よろしく離断工作でもしてみるか?!などと一瞬恐ろしい考えがよぎったが、
桑田や舞園が命の恩人であるKAZUYAから離れることなど有り得ないし、逆にKAZUYAが彼らを
見捨てることも有り得ないというのは山田の頭でもすぐにわかった。


山田「こう考えると、メリットとデメリットがトントンですなぁ…
    いや、下手したらデメリットの方が大きい?」


人数が多いということは、内通者が中に潜んでいるという恐るべき事態の可能性も高いのだ。


山田(あー……一人は寂しいし、でも内通者は怖いし、前科組はもっと怖いし。
    僕はこれから一体どうすれば……助けてぶー子……)


身の振り方を真剣に悩む山田であった。


ここまで。

残姉ははむしろこの時点では脅威に思われてない方がいいだろ。
そして、こんな状況でも葉隠はふらふら根無し草やってんのか。
底が浅いんだが深いんだか分からん奴だな。

>>60
もしかして: 何も考えていない


再開。今日は久しぶりに安価あります



               ◇     ◇     ◇


K「…そうか。二人共ご苦労だったな」


とりあえず桑田と不二咲は石丸の部屋へと戻って来ていた。鎮静剤のおかげで石丸は
眠っていたため、今までのことをKAZUYAに報告していたのである。


不二咲「ごめんなさい、先生……僕が大和田君と仲直り出来れば、石丸君だって
     きっと落ち着けるのに。僕、全然役に立てなくてぇ……」


また涙を流す不二咲の頭をKAZUYAは優しく撫でた。


K「そんなことはないさ。不二咲が無傷でここにいるだけで俺は嬉しいし、
  石丸だって無茶をした甲斐があったというものだろう」

不二咲「でも、石丸君の顔の傷…」

K「モノクマが言ったことは嘘だ。お前達全員を追い詰めようとしているんだ」

桑田「ほーら言ったじゃねえか。せんせーの言ってる方が正しいんだよ!」

不二咲「うん、うん、そうだよねぇ…」

K「…それにしても舞園には驚かされたな」


大和田の件を解決出来なかったのは想定の範囲内だが、舞園が積極的に事態の
収拾に動いているのが信じられなかった。あんなに弱かった彼女が何故短期間で
そこまで強くなったのだろう。昨夜の不自然なまでに綺麗な笑顔を思い出す。


桑田「ぶっちゃけ俺も結構ビビッてるよ。確かに昨日ちょっと持ち直したけどさ、
    まさかいきなりあんな頼りになるなんてよ。俺にも普通に話しかけてくるし」

K「…まあ、有り難い話ではないか。彼女も彼女なりに色々思うことがあるのだろう。
  むしろ、お前は平気なのか? まだ気持ちの整理はついていないと思うが」

桑田「んー……別に。頼りになるならなるでいいじゃん? アイツには今まで
    散々迷惑かけられたんだし、これからはバンバン動いてもらおうぜ!」


正直な話、わだかまりも葛藤もあった。騙されて刃物で襲われたトラウマは急には消えない。
だが桑田も少し大人になっていたので、KAZUYAに余計な心配をかけさせたくないのと、彼女の
力が今は必要だという冷静な判断で嘘をついた。…が、表情でKAZUYAにはバレバレなのだ。


K「フッ、お前も大分大人になったではないか」ポンポン

桑田「やめろよ、ガキじゃねえんだからさ!」


KAZUYAが桑田の頭に手を置くと、桑田は照れて逃げる。


桑田「…で、どうすんだよ? 部屋にこもってりゃ俺達は安全だけど、それじゃ事件は防げないだろ?」

K「苗木が舞園と組んで動いているなら、お前は霧切と組んで怪しいメンバーの監視をしてくれないか?」

K(戦力的に考えたら桑田は腕が立つし手負いの舞園と組むのが望ましいが、そこまでさせるのはな…)


桑田が自分に好意的なのをいいことに、昨日から散々無理をさせているのをKAZUYAは内心申し訳なく
感じていた。それに今の舞園はなんだか調子が良いようだし、苗木なら任せても大丈夫だろう。


桑田「わかった。で、誰を特に見ればいい?」

K「十神と江ノ島だ」

桑田・不二咲「!」


KAZUYAは即答した。先程話題が出た江ノ島の名前が挙がり、二人は顔を見合わせる。


桑田「十神はわかるけどよ……江ノ島はなんで?」


江ノ島はけして軽傷ではない怪我人である。その江ノ島の名前が挙がったことに不信を
感じるのは当然だ。内通者だということは伏せたままKAZUYAは適当な理由を述べる。


K「まあ、消去法だな。ルーデンベルクと腐川はそこまで力が強くなさそうだから、
  不二咲と苗木さえガードすれば問題ないだろう。大神と朝日奈は常に二人一緒に
  いるから、もし片方が内通者でないなら昼間は事件を起こせない」

K「江ノ島は怪我人ではあるが、両足と利き腕はほぼ問題なく使える。それに今までの動きで
  わかるが、ああ見えて運動神経が良さそうだ。ギャルだからと舐めてかからない方がいい」

不二咲「朝日奈さんが内通者の可能性もあるのかなぁ…」


不二咲もKAZUYA同様、あの太陽のように明るい少女だけは
内通者であって欲しくないと思っているようだ。


K「俺は大神と朝日奈の両方が内通者という可能性はないと考えている」

桑田「あん? どうしてだよ?」

K「あの二人はとても仲が良いだろう? 内通者同士が必ず組んで行動するとは
  限らないが、あの二人がもし共に内通者なら確実に組んで事を起こすはずだ」


K「一人で足がつかないよう殺人を犯すのは難しいが、二人で協力すればさほど難しくはない。
  今まで事件が起こっていないのなら、あの二人が両方内通者という可能性はかなり低い」

桑田「なるほどなー……前から思ってたけどさ、せんせーってホント頭いいよな」

K「まあ、狡賢い悪人と何度も戦ってきたからな。頭を使わねば生き残れんのだ」


そう言うとKAZUYAは不二咲に向き直る。


K「不二咲、頭脳は時に腕力を凌駕する。お前は力はないかもしれんがとても頭がいい。
  今は場が混乱してしまっているが、落ち着いたらきっとみんなの役に立てる時が来る」

K「だから、みんなの力になりたい、事件を防ぎたいと思う気持ちはわかるが、
  今しばらくはなるべく出歩かずみんなを励ます係に回ってくれないか?」

不二咲「僕なんかが励まして、元気になれるのかなぁ…?」

K「お前の笑顔は人を元気にさせる力がある。俺を信じろ!」

不二咲「うん、わかったよぉ」


そう言って不二咲が微笑むとKAZUYAと桑田もつられて笑う。
今一番必要なのは癒しなのだ。そして不二咲はそれをみんなに与えることが出来る。


K(これも立派な才能だな)


だが実の所、今誰よりも癒しを求めているのはKAZUYA自身かもしれなかった。生徒の手前
悩んでいる表情は絶対に出せないが、少しずつ追い詰められ始めているのを感じていた。


K(もう二人ほど協力者がいれば、俺も自由に動き回れるのだが…)


だがないものねだりをしても仕方がない。むしろ、最初の方に比べれば
KAZUYAを信じ、付き従ってくれる仲間が出来ただけ有り難いのだ。


K(頼む。誰も死なないでくれ――)


               ◇     ◇     ◇


苗木誠は舞園を連れて廊下を歩いていた。


舞園「それで苗木君、私達はどうしますか?」

苗木「……僕はね、舞園さん。事件を防ぐためには、怪しい人とかそうでない人とか今は
    置いておいて、とにかくみんなをよく見ないといけないんじゃないかって思うんだ」


苗木「昨日の事件もそうだけど、必ずしも殺人を計画してる人が事件を起こす訳じゃない。
    みんなの不安や恐怖が原因で、思わぬ事故が起こってしまうこともあるよね?」

舞園「そうですね。あからさまに怪しい十神君などは逆にみんな警戒しているから
    かえって事件を起こしにくいですが、事故は事前に予測が出来ませんし」



― 苗木行動 ―


皆さん、お待たせいたしました。いよいよ我らが苗木君のターンですよ!

苗木君はKAZUYAじゃないので生徒達と会っても親密度は変動しませんが、
その代わり生徒のもう一つの隠しゲージ「絶望度」を下げることが出来ます。

絶望度は毎日溜まっていき、数値の上がりやすさは個人差があります。
また、事件のような悪いイベントが発生すると一気に上昇します。
自由行動と違って、仲間キャラを選んだ方が良い時もあったり…


苗木「先生じゃないけど時間の許す限り何人か会ってみようよ。
    とりあえず、最初は>>70の所に行ってみようかな」


大和田はさっき会ったので除く。

腐川


苗木「腐川さんの所へ行こう」

舞園「どうして腐川さんを選んだんですか?」

苗木「腐川さんて、確かに暗くて卑屈な所はあるけど、ホントは寂しがりやだと思うんだよね。
    今回のことで不安を感じているかもしれないし、様子を見た方がいいんじゃないかなって」

舞園「なるほど。では行ってみましょうか。腐川さんと言えば図書室ですかね?」


・・・


二人は図書室の前をたむろしている腐川を発見した。


苗木「あ、いたいた。腐川さん!」

腐川「ヒッ。苗木に舞園……なによ。アタシに一体なんの用よ?」


腐川は二人を見て、特に舞園の姿を認めるとあからさまに警戒する。


苗木「いや、特に用はないんだけどね」

腐川「用もないのにアタシの所に来た……アタシをからかいに来たのね? そうなのね?
    どうせアタシなんて、からかうくらいしか役に立たないブスだし」

苗木「そ、そんなことないよ!(相変わらずめんどくさい性格だなぁ…)」

舞園「昨日のことや今日のモノクマの件で、腐川さんが不安になっているんじゃないかって…」


舞園がそう言うと、腐川は半歩後ろに下がって舞園を睨みつける。


腐川「不安に決まってるでしょ! …というか、あんたがここにいるのが既に不安よ!」

舞園「そうですね、ごめんなさい」


神経過敏になっている腐川をなるべく刺激しないよう、舞園はすぐ申し訳なさげに謝る。
だが、そんな舞園の姿でさえ腐川は気に入らないようだった。


腐川「帰んなさいよ。あんた達と話すことなんて特にないから」

苗木「まあまあ、そう言わずに。動機の件でイライラしてるのはわかるけど…」


苗木が動機、という単語を出した時だった。腐川が白目を剥いたのは。


腐川「ヒィィィィ!」

苗木「え、な、何?!」

舞園「どうかしましたか?」


腐川は両手で自分の体を抱きしめるようにしてガタガタと震えだす。
苗木は訳が分からず混乱したが、舞園はこれは何かあるなと見抜いていた。


腐川「あ、あ、あんた達…」

苗木「何? どうしたの?」


動揺する苗木と舞園に腐川が突きつけた言葉は二人にとって完全に予想外なものだった。


腐川「アタシを殺しに来たのね!」

苗木「……え?」

舞園「違います! そんなことは…!」

腐川「びゃ、白夜様ぁぁっ!」


バタバタ、バタン!

引き止める間もなく、腐川は図書室へと駆け込んで行ってしまった。


苗木「ふ、腐川さん! 待っ…!」

舞園「苗木君、待ってください! 今腐川さんは怯えています。追いかけるのは逆効果ですよ」

苗木「そうかな…? それにしても腐川さん、急にどうしちゃったんだろう…」

舞園「あの怯えよう…もしかしたら、何か人に恨まれるような動機なのかもしれないですね」

苗木「恨まれる…」

舞園「断定は出来ませんよ? その可能性があるというだけです。とにかく、腐川さんと
    これ以上話すのは無理みたいですね。時間も惜しいし次の人の所に行きませんか?」

苗木「あ、うん」


>>76(大和田・腐川以外)


あとご飯行ってきます。

山田


苗木「じゃあ、次は山田君の所に行ってみようか」

舞園「山田君も内通者騒ぎの時にパニックを起こしていた人の一人ですからね」

苗木「(あれ、舞園さん先生から聞いたのかな?)うん、行っといた方がいいかなと思って」


そして二人は最も山田がいそうな場所、美術室へと向かった。


・・・


ガラッ。


苗木「あ、いたいた。山田くーん」

山田「おお! これはこれは苗木誠ど……ってぬおおおおっ?!」

苗木「え、何?! どうしたの?!」

山田「い、いえなにも…(ま、舞園さやか殿おおおお。ヒイィ、会いたくなかったのに…)」


舞園「どうかされましたか?」

山田「(ブンブンブン!)なにも! なにもありません! 本当に!」

舞園「そうですか。ちょっと、私達と一緒にお話しませんか?」ニコ

山田「え、ええ。構いませんが…(目をつけられたー! 拙者ピンチですぞ!)」


少し前に関わるまいと決意した舞園にいきなり近寄られ、山田は汗が止まらなかった。


山田(チッ、せっかく苗木殿といういい話し相手が来たと思ったのに…なんで舞園殿まで)

苗木「山田君、なんか汗がすごいけど大丈夫?」

山田「い、いいえぇ。ほら、僕ってちょっと太いし暑がりだから。いやあ。ここも暑い暑い」

苗木「? そうなの? モノクマに言って空調強めてもらおうか」

山田「いや、それには及びませんぞ」

舞園「…………」


山田「ところで、僕になにか用ですかな?」

苗木「えっと、特に用はないんだけど。ほら、昨日の今日だしちょっと不安だよね」

山田「その気持ちは良くわかりますぞ! あの忌々しいモノクマが煽ったせいで、
    誰がいつ僕達を殺そうと企んでいるかわかりませんからな!」

苗木「うん、それで…」

山田「ああ、怖い怖い……既に犯罪者が三人も出てますし、きっとこれからだって……」

苗木「……え」


言ってから山田はしまったと口を押さえた。


山田「あ、い、いや! 今のは失言といいますかなんというか…」

舞園「いいですよ。本当のことですしね。私が殺人を犯そうとした事実はけして消えません」

山田「」ダラダラダラ


舞園「大丈夫ですよ。ここでまた事件が起きれば前科者の私は真っ先に
    疑われる訳ですから。そんな状態で事件なんて起こすと思いますか?」


そう言って舞園は山田を見るが、山田にとってその目が既に怖かった。


山田「そ、そうですよねぇ。は、ははは」

山田(テラヤバス…こ、これ以上ここにいられるとますます墓穴を掘りそうだ)

山田「あの、せっかく来てもらったのになんですが僕は今同人制作に忙しくて…」

苗木「あ、そうなの? ごめんね、忙しいのに邪魔しちゃって」

山田(うわあああ、苗木誠殿にはいてほしいのにいいい。舞園殿のせいでぇぇ!)

山田「今描いてる作品が完成したら苗木殿にもきっと見せますぞ!」

苗木「楽しみにしてるね。じゃ、僕達はこれで…」

山田(ああ。話し相手が去って行く……これが孤高の戦士として生まれた宿命なのか)


苗木が去って行く後ろ姿を切なげに眺めながら、山田は心の中でそう呟くのだった。


ここまで。

…あれ、おかしいな。絶望度下げてるはずなのに逆に上げてる気が…
ま、まあ気にしないで行こう。希望は前に進むんだ。うん

乙!
というか思ったんだが、>>75で安価(とられてないけど)されてる石丸は面会謝絶だったよな?実際安価とれてたらどうなってた

>>87
実はどちらにしろ一度石丸君の所には行くので、イベント追加って所ですかね


リアルタイム投下はやっぱり自分にはあまり向いてないみたいなので、
次回分の安価もしておこうかな

KAZUYAの指令を受けた桑田が霧切さんと共に調査に行きます


>>安価直下(十神or江ノ島で)


               ◇     ◇     ◇


KAZUYAに不審なメンバーの監視を頼まれた桑田は、霧切を探して寄宿舎を歩き回っていた。
そしてトラッシュルームを調査している霧切を発見し、簡単に事情を話す。


霧切「それで、あなたは私の所へ来たと」

桑田「そーゆーこと」

霧切「…………」

霧切(流石ドクター…やはり江ノ島さんを怪しんでいるのね。何か証拠を掴めればいいのだけど)

桑田「でさぁ、俺達はどっち行く? 強さ的にはやっぱ十神か?」

霧切(私の推理が正しいのなら、江ノ島さんは恐らく何らかの訓練を受けている。
    でも十神君も十神家の人間である以上、護身の腕はかなりのものと見ていい)

霧切「私達は……十神君は行っても無駄でしょうし、江ノ島さんの方へ行くわ」

桑田「江ノ島ちゃんかぁ。まあ十神よりはいいかな」

霧切「ちなみに私は行かないわよ」

桑田「へ?」

霧切「前にも言ったはずよ。私はあくまで中立の存在だと。自分の力で頑張ることね」

桑田「ちょ、マジか……」


ガッカリする桑田に対し、霧切は小さな声で早口で話す。


霧切「そもそも普段他の生徒とあまり関わらない私が、ドクターと近い存在の
    あなたと一緒に彼女の前に現れたら警戒されるに決まっているわ」

桑田「まあ、そうだな」

霧切「私は食堂にいるから、あなたが上手いこと彼女を連れてくるのよ」

桑田「え、マジで?」

霧切「ナンパは得意でしょ?」

桑田「いやぁ、その……ここに来てからはちょっと調子が悪いっつーか」

霧切「男の子でしょ。いちいち言い訳しないでさっさとやりなさい」

桑田「ハァ……お前ってホント性格キツいよな」

霧切「……そうかしら」


キツいと言われて若干心外という顔をするが、すぐに霧切は気を取り直す。


霧切「とにかく、何を言われても今は協力出来ないわ」

桑田「わーったよ」


けんもほろろに断られた振りをして霧切と別れると、桑田は江ノ島を探しに出かけた。


桑田(つってもなぁ……江ノ島って普段どこでなにやってんだ?)


普通に社交的で明るい性格なのに特に仲の良い友人というものがおらず、江ノ島はいつも
単独行動ばかりしているような気がする。よくよく考えればこんな状況で不自然ではないか?


桑田(なんか、考えれば考えるほど怪しく見えてくるな……モデルだからインドア系かと思えば
    ドッジボールの時はノリノリだったし、かといって朝日奈達とつるんだりはしないし)

桑田(……一緒にいるとボロが出るからわざと距離取ってるとか?)


疑惑は深まるが、まずは本人を探してみないと始まらない。


桑田(部屋にいねーだろうな……いくらなんでも突然親しくもない男子が女子を
    誘いに部屋まで押しかけたら警戒されるなんてレベルじゃねーぞ……)


まず食堂を覗き、次に桑田はランドリーを覗いてみる。


江ノ島「お、桑田じゃん」

桑田(……いたよ)


あっさり見つかりすぎて桑田は些か拍子抜けするが、すぐに表情を作った。

あれ、あがらない?テスト


桑田「よう。元気?」

江ノ島「別に、フツー。……あんた一人なの? なんか珍しいじゃん」

桑田「まあな。そんな時もあんだろ」


意外にも江ノ島は桑田を警戒していなかった。内通者云々が全くの濡れ衣だとしても、
桑田の過去について嫌悪感や恐怖心を抱いたりはしていないのだろうか。


江ノ島「で、そんなとこでなにやってんの?」

桑田「えっとさ……」


まさか正直に探りをいれにきたとは言えない。こんなことなら探す前に
言い訳の一つも考えておけば良かったと後悔しながら桑田は頭を回転させる。


桑田「さっきまでせんせーんトコにいたんだけど、うるさいからって追い出されちまってさ…
    ほら、せんせーって今石丸に付きっきりじゃん? 俺がいると目を覚ますからってよ」

桑田「最初は苗木探してたんだけどさぁ、あいつ舞園と一緒にいてな……かと言って、
    他の男子とは今上手くいってねえし。誰でもいいから話し相手探してたんだよ」

江ノ島「ふーん」


江ノ島は桑田の嘘を特に疑ってはいないようだが、興味も持っていないようだった。


桑田「でさぁ、この際女子でもいいから誰か話し相手になってくんねえかなって……」

江ノ島「“女子でもいいから”…?!」


ギョッとしたような目で江ノ島は桑田を見返し、思わずその顔を凝視した。


桑田「なんだよ……俺、なんかおかしいこと言ったか?」

江ノ島「う、ううん! 別に!」

桑田「でさぁ、その……もし良かったら、ちょっと付き合ってくれね?」

江ノ島「いいけど」

桑田「えっ、マジ?!」


正直かなり駄目元で聞いてみたのだが、江ノ島はあっさりとOKを出してくれた。


江ノ島「ハァ? あんたなに自分から誘ってきたくせに驚いてんの?」

桑田「いや、俺ってあんま女子受け良くないみたいだし、断られるって思っててさ」


江ノ島「だっておしゃべりするだけでしょ? なんか昨日からみんなバラバラに行動してて
     アタシも暇だし、それくらいなら付き合うよ。それとも、変なことでも考えてんの?」

桑田「いや、そういうワケじゃねーけど……」

江ノ島「言っておくけどね、アタシは外見が派手だからよく誤解されるけど、こう見えて
     貞操は堅いしあんたみたいにチャラチャラしてないから! 同類扱いしないでよね」

桑田「わかってるって! 純粋にただの時間潰しだよ」


冷静に考えればこれもかなり失礼な発言なのだが、
江ノ島は特に気にせずむしろもの珍しげに桑田を眺めるのだった。


江ノ島「話してたらちょうど終わったから、洗濯物部屋にしまって来るね」

桑田「! じゃあ俺、食堂にいるから来てくれよ」

江ノ島「了解。待ってて」


桑田はランドリーを出て食堂に向かう。打ち合わせ通りそこには霧切がいて一人静かに
コーヒーを飲んでいた。目で問い掛けてきたので桑田はウインクをして返す。


江ノ島「お待たせー」

桑田「おっす」

江ノ島「あれ、あんた紅茶なんて用意してくれたの? 気が利くじゃん!」

桑田「んー、まあな」

桑田(飲み物でも飲んでリラックスしたら余計なことしゃべってくれないかなって作戦なんだけどな)


江ノ島はすっかり機嫌が良くなったようで笑顔を浮かべながら座ろうとし、ふと振り返った。


江ノ島「あ、そうだ。せっかくおしゃべりするなら人数多い方が良くない?
     ねえ! 霧切もどうよ? こっちで一緒におしゃべりしない?」

桑田(マジかよ! 願ったりかなったりってヤツだぜ!)

桑田「どうよ、霧切?」

霧切「折角のお誘いだけど私は遠慮させてもらうわ。今は静かにコーヒーを飲みたい気分なの」


霧切は桑田の目を見据えながら即座に断り、再び目線を逸らす。


桑田(自分がいたら警戒されるからあくまで俺が前に出ろってことか)

桑田「ちぇー。せっかく江ノ島ちゃんが誘ってくれたのに感じわりぃな、あいつ」

江ノ島「まあ、いいよ。霧切っていつもあんな感じじゃん?」

江ノ島(良かったぁ……無視するのも不自然かなと思って一応声かけたけど、霧切さんを
     相手に演技するのって正直キツイんだよね。盾子ちゃんにも散々注意されたし)

桑田「だな。で、誘っといてなんだけどなに話すか。そうだ、仕事の話とか聞かせてくれよ」

江ノ島「仕事、ね……」

江ノ島(えーっと、仕事の話はよく聞かれるから盾子ちゃんの真似をして……)

江ノ島「まあ、あんなんテキトーよテキトー! アタシクラスになるとノリでなんとか
     なっちゃうみたいな? それっぽくポーズ取ればもう形になっちゃう感じ!」

桑田「でも修正はあるんだよな」

江ノ島「ま、まあね~。別にアタシだけじゃなくて今時みんなやってるし! アハ、アハハハハ!」


内心傷ついているが、半分ヤケッパチになって偽の江ノ島は笑い飛ばす。


桑田「フーン。そんなもんか……」

桑田(その割に舞園はテレビのまんまだったけどな)


オシャレにうるさい桑田は色々な雑誌を頻繁に買うし、モデルの江ノ島についてもよく知っている。


桑田(……なんか怪しくねーか? プリクラの詐欺修正知ってっから目とかそばかすはいいぜ?
    でも体まで修正するか? あんまかわいくないごり押しアイドルがグラビア撮る羽目に
    なって修正とかならともかく、最初から写真ありきのしかも現役トップモデルが?)


怪しまれない程度にチラリと体に目をやりまた考える。


桑田(江ノ島っていやぁ、今時の男子高校生が抱きたい女断トツの一位だよな。
    ふっくらムチムチかつメリハリのあるボディが売りなのに……)


貧相、は言い過ぎかもしれないが目の前の女性はお世辞にも豊満な体とは言えないし、
ガッチリしてるというか筋ばっているというか、男の桑田的に表現すると……


桑田(なーんか固そうだよな。正直、あんま抱き心地良くなさそう)


その時、桑田はある恐ろしい考えが閃いたのだった。


桑田(まさか――江ノ島の偽物、とか?)


スパイ映画で変装した人間が別人に成り済ますのはよくある展開だ。勿論、普段なら
馬鹿げた考えだと一蹴しているだろう。もし自分以外の誰かがそれを言ったのなら、
映画の見すぎだと即座に切り捨てるくらいには有り得ない考えだった。

だが、今自分達は謎の組織に捕らえられコロシアイを強制させられるという、
まさしく映画のような世界にいるのだ。だったら有り得ないとは言えないのでは?


桑田(俺達は所詮本物の江ノ島を知らないんだし、ある程度顔とか身長の近い人間に
    化粧させたらいくらでもごまかせるんじゃねーか? 女は化粧で化けるっていうし)


流石に本人そっくりのマスクを被って、というフィクションで
よくある手法は却下したが、それでも一度抱いた疑念はなかなか消えない。


桑田「なあ、やっぱ江ノ島クラスのモデルだとあのめっちゃ有名な写真家にも
    撮ってもらったことあんの? ほら、なんつったっけ? 篠なんとか」

江ノ島「え?! えっと……ヤバっ! アタシも名前ド忘れしちゃった。かなーり昔に
     撮ってもらったと思う。緊張してたから細かいことはよく覚えてないけどね」

桑田「あの人の写真集はマジですげーよな! 江ノ島もお約束のアレ、撮ってもらったの?」

江ノ島「(アレ?! アレってなに?! どうしよう……わかんないよ)ま、まあね!」

桑田「へー、すげえじゃん」

桑田(バーカ。名前はド忘れすることもあるかもしれねーけど、あの写真家がヌード写真で
    有名ってことを業界人が知らないワケねーよ。江ノ島はヌードなんてやってないし)


心の中で舌を出すが、同時に桑田は青ざめるのだった。


桑田(……ヤバイ。マジでニセモンだった。てことは、こいつ内通者じゃねーか!!)


映画の中で、変装して敵陣に潜入するのはどんな人間か。凄腕のエージェントが大半だ。しかも、
先程桑田が聞いたことは別に業界人でなければ知らないようなマニアックな知識ではなく、そこそこ
一般常識に近い内容である。一般常識を知らないくらい俗世間からかけ離れたプロのスパイが、
目の前に座っている。もしかしたら、今も服の下には銃を隠し持っているのかもしれない……


桑田(お、落ち着け、俺! ビビるな……!)


桑田は元々とても臆病な人間である。軟派さやいい加減さは大分改善されたものの、生来の性根が
そう簡単に変わるはずがない。恐怖と緊張で体が震えないよう、桑田は必死に仲間の顔を思い浮かべた。


桑田(気付かれたら一巻の終わりだ! 生きて戻って、ぜってえせんせーに知らせねーと!)


もはや会話など出来る状態ではなかった。流石の江ノ島も桑田の異常に気付く。


江ノ島「……わた。桑田! あんた人を誘っといて話ちゃんと聞いてんの?!
     ていうかさ……なんか、顔色悪くない? 大丈夫?」


桑田「あ、わりぃ! ちょっと、考え込んじまって……」

江ノ島「考え込むってなにを?」

桑田「(あ、ヤバ!)いや、ほら、石丸と大和田のことふと思い出しちまって。大丈夫かなってさ」

江ノ島「…………」


以前の桑田だったら、江ノ島ちゃんがかわいいから見とれてたんだよ、などと適当な
調子の良い嘘をサラリと言えたものだった。しかし、ここ最近は不慣れな頭脳労働ばかり
していたため、すっかり頭が真面目モードになってしまって白々しい嘘をつけなかった。


江ノ島「……桑田君、変わったね」

桑田「あ?」


言い訳で頭がいっぱいだったため半分聞き逃したが、江ノ島がとても驚いているのはわかった。


桑田「変わった? 俺が?」

江ノ島「え? あ、その……あんたここに閉じこめられた時とキャラ違い過ぎじゃね?!
     どーしちゃったの? 桑田イコールどーしようもないチャラ男って感じだったのに!」

桑田「……俺ってそんなどーしようもない印象だったんだな。ハハ……」


過去の自分は黒歴史にしよう、と密かに桑田は誓う。


江ノ島「ま、まあいーんじゃない? 今の方が全然いいよ。……やっぱあいつのせいなワケ?」


あいつと言われて思い浮かぶのは一人しかいない。


桑田「KAZUYAせんせーか。そうだなぁ……石丸ほど頭固くはないけど、真面目が服着て
    歩いてるタイプには違いねえし、やっぱ一緒にいると影響受けんのかもなぁ」

江ノ島「なんか意外。あんたとあいつってめっちゃ相性悪そうだったのに」

桑田「うーん……最初はなんか恐そうだしヤバそうだし、近寄らないようにしようって
    思ってたけどさ……話してみたら意外と人の話ちゃんと聞いてくれるし優しいし」

桑田「あと、悪いことすりゃキッチリ叱るし結構厳しいことも容赦無くバンバン言うんだけどさ、
    基本的に相手を否定しないんだよなぁ。少し離れたトコロから見守ってくれるっつーか」

江ノ島「……尊敬してんの?」

桑田「え? いや、リスペクトって言われたらちょっと違うような、あーでも……」


最初はグチャグチャと煮え切らなかった桑田だが、ふっと力を抜くと最終的には肯定した。


桑田「まあ……そーなのかもな」ニカッ

江ノ島「フーン。そうなんだ……」


桑田の楽しげな顔を見て、今度は江ノ島が物思いにふける番だった。


江ノ島(……私は西城先生についてあんまり知らない。たった二ヶ月しかいない臨時の
     先生なのにやけに人気あるなとは思ってたけど、興味なかったから保健室にも
     全然行かなかったし、なんか大っきくて強そうくらいのイメージしかなかった)

江ノ島(だから盾子ちゃんが西城先生をやたら警戒する理由がわからなかったし、私自身
     ちょっと気を抜いてるトコロはあった。でも、こういうことだったんだね……!)

江ノ島(盾子ちゃんは桑田君を『あいつは才能に溺れてる典型。救いようがない』って言ってた。
     なのに先生は、その桑田君をここまで更生してみせた。流石に十神君やセレスさんは
     無理だと思うけど、下手したらそれ以外の全員を取り込んでしまう可能性がある)


軍人としての本能が騒ぎ始める。一度敵と認めた者は殲滅せよと告げている。


江ノ島(今なら私にもわかるよ、盾子ちゃん。西城先生は――危険だ!)


江ノ島(どうする? 今すぐにでも消した方がいい? 今ならきっと怪我で動けない石丸君を
     庇うだろうから簡単に殺せる。でも、今はマズイんだっけ? どうしたら……)

桑田「……しま。おい、江ノ島! 聞いてんのか?」

江ノ島「あ、ゴメンゴメン! なに話してたっけ?」

桑田「ったくよー。人のこと言えねーじゃんか」

江ノ島「だから悪かったってば。もっかい最初からお願い!」

桑田「しゃーねえな」


お互いがお互いを警戒し腹を探ろうと会話を続けるが、
頭脳労働が苦手な者同士、結局何の成果も得られないのだった。

ただ唯一、江ノ島の姿をした戦刃むくろにとって計算外だったのは……


霧切「…………」


ドクターKと並んで本物の江ノ島が最も警戒する人物、霧切響子に会話を全て聞かれていたことだった。


ここまで。

前半エラー出まくり、後半やっとまともに書き込めたかと思えば毎回異様に読み込みが遅いので
途中でやめようかと思った。書き込み自体は出来たので結局最後まで投下しましたが

あと、久しぶりの残姉回でした

>>1のおかげでKを一気読みしているんだが、死に神博士ワロタ

やっぱ接触回数が多い分、桑田が強キャラ化してるんだな・・・
他のメンツもこれからの持ってき方次第で化ける可能性は充分にあるってことか

今から考えると、前回異常に重かったのはエイプリルフールネタでスレがたくさん立ったり
書き込みが通常より増えてたからでしょうね。うちはめっちゃ平常運転でしたが

>>131
読んで下さりありがとうございます。この調子でドクターKの知名度上がれ!上がれ!

ちなみに1はシルバラ編、バグラン編、香港編など海外で活躍する話が特に好きですね
特にシルバラ編はハリウッド映画を思わせるような内容だしTETSUがカッコイイし一番好きかも


               ◇     ◇     ◇


葉隠は特にやることも見つからず、ブラブラと学園内をフラついていた。
ふと足音が聞こえそちらに目をやると、廊下の向こうから人影がやって来る。


大神「ム、葉隠か」

葉隠「よう、オーガか。朝日奈は一緒じゃないんか?」

大神「一緒に泳いでいたのだが、朝日奈はまだ泳ぎ足りないと言ってな。我だけ早くあがった」

葉隠「フーン、そっか。こんな時だってのにあの元気さは羨ましいべ」

大神「逆だ。今朝の件で混乱し、フラストレーションが溜まっている。
    だから体を動かして無理矢理その感情を発散させているのだ」

葉隠「そんなもんか」

大神「ああ。余程ショックだったのだろうな。まるで試合でもしているかのように今も
    一心不乱に泳ぎ続けている。モノクマもとんでもない置き土産を残したものだ」

葉隠「そうだよなぁ。ただでさえ事件が起こって空気が重ったるいってのに、秘密の
    公表を三日延期だなんて事件を起こしてくれって言ってるようなもんだべ」

大神「言ってるようなものではなく実際にそう言っているのだが……」


他愛もない会話だったが、葉隠はふと血相を変えて大神を見た。


葉隠「ま、まさかオーガ……俺を殺そうとか考えてねえよな?」


大神「…………」

大神(偽装用の凶器もなく、こんな時間にこんな所で素手で殺せば我が犯人だとすぐに
    わかる。そもそもモノクマから指令も出ていないというのにやるはずもない)


だが、全く殺す気がないと言えないのは武人として些か情けない気持ちだった。


大神「見ての通り我は丸腰だ。安心せよ」

葉隠「で、でも! オーガだったら素手でも十分だべ!」

大神「素手で人が殺せる人間など我か西城殿しかおらぬからすぐに犯人がわかるだろう。
    そもそも怖いのならこんな所を一人で歩かず、部屋にいた方が良いのではないか?」

葉隠「そ、そうさせてもらうべ」


まだ警戒しているのか葉隠は背中を見せずに後ずさり、一気に寄宿舎へと駆け戻って行った。


大神(皆少しずつ疑心暗鬼が酷くなってきているな。……当然か。昨日から我等の
    周りには、いつ殺人が起こってもおかしくないという空気が蔓延している)


そもそも指令さえ下れば真っ先に人を殺すのは自分の役割なのだ。内通者である自分が
誰よりも冷静に周囲を見ているという皮肉な事実に、大神は苦笑せざるを得なかった。


大神(絶望は感染する、か)


一昨日、呼び出しを受けた大神はモノクマと対面していた。その時に言っていた言葉だ。
きっとその時からモノクマは今の事態をあらかた予想出来ていたのだろう。

やり切れない思いで大神はため息を吐いた。



               ◇     ◇     ◇


―どうしてどうしてどうして……

―なんでなんでなんで……


朝日奈は自分の限界を追い求めるようにただひたすら泳ぎ続けていた。考えたくなかった。
体を動かせば、酸欠になれば、余計なことを考えずに済む。だが、そんなものは所詮その場
凌ぎにしかならず、力尽きて陸にあがればまた朝日奈は深い思考の渦に飲み込まれるのだ。


朝日奈(……大和田と不二咲ちゃんは、あんなに仲が良かったじゃん)


プールサイドに仰向けに倒れて朝日奈は天井を見上げる。
いつもなら心地好いはずの疲労が、今日に限っては体を鉛に変えていた。


朝日奈(本当は違ったの? 本当は嫌いだったの? ……違う! そんなはずない!!)

朝日奈(だって、大和田が本当に悪いヤツなら不二咲ちゃんは庇ったりしない。
     不二咲ちゃんは好きになったりしない。石丸だって仲良くなったり……)


そこまで考えると、朝日奈の頭には許容出来ない大量の疑問符が浮かんで止まらなくなる。


朝日奈(でも、じゃあなんでよ。なんでよ……)


疲労のせいでもはや思考も限界だった。朝日奈は力なく立ち上がる。


朝日奈(……ドーナツ食べよ。それにさくらちゃん……さくらちゃんといれば……)


フラフラと朝日奈も大神を追いかけてプールサイドを後にした。



― 図書室 PM3:17 ―


桑田から話を聞いた苗木と舞園は十神を見張るため、図書室に来ていた。だが、江ノ島と
違って十神は二人が何をしに来たかわかっているだろうし、特に会話などをすることも
なかったので、二人は本を読みに来た振りをして実際に十神を見張りながら勉強していた。


舞園「苗木君」


十神に聞こえないように、舞園は苗木にそっと耳打ちをする。


苗木「ん? どうしたの?」

舞園「ずっと警戒していたら疲れませんか? 気分転換を兼ねて、
    石丸君のお見舞いに行くのはどうでしょう?」

苗木「うん、いいね。舞園さんはやっぱり気が利くなぁ」

舞園「恩返しみたいなものですよ。石丸君は、私が入院していた時に積極的にお見舞いに
    来てくれた数少ない人の一人ですからね。やっぱり誰か来てくれたら嬉しいですし」

苗木「……うん。そうだよね。部屋にこもりっきりじゃ寂しいし、気分も落ち込んじゃう」

舞園「先生達の分の紅茶やお菓子も持って行きましょう」


・・・


面会謝絶の紙が貼ってあるため少し躊躇ったが、見舞いの旨を書いたメモを
扉の下から差し込むと、すぐに扉が開いてKAZUYAが顔を出してくれた。


K「よく来たな」


苗木「入っても大丈夫ですか?」

K「構わん。……が、なるべく刺激しないようにな」ボソ


頷くとKAZUYAは二人を中へ通した。KAZUYAが大柄なため最初は全く見えなかったが、
室内にはベッドから上半身のみ起こした石丸と、そのすぐ横に不二咲がいた。


石丸「……誰だい?」

苗木「僕だよ。あと舞園さん」


苗木は顔の左半分を包帯で覆った痛々しい石丸の姿を見て、顔を引きつらせないように精一杯
努力しなければならなかった。無理矢理作り笑いをして、なんとか平静に見えるよう努める。
一方、苦心する苗木とは反対に舞園の笑顔は実に鮮やかなものだった。


舞園「こんにちは、石丸君。お見舞いに来ました。調子はどうですか?」ニコッ

石丸「ま、舞園君……?!」


例によって、完全に普段通りの姿となった舞園を見て石丸は仰天する。


石丸「舞園君の方こそ……その、もう大丈夫なのかね?」


舞園「ええ、もう大丈夫です。心配して何度もお見舞いに来て頂いてありがとうございました」

石丸「昨日は本当にすまなかった」

舞園「いいえ。むしろ、わざわざ謝りに来てくれるなんて凄く嬉しかったです」

苗木「なんのこと?」

舞園「昨日の夜、苗木君が帰った後に石丸君が訪ねて来て謝られたんですよ。
    モノクマに色々言われている時、庇えなくてすまなかったって」


初耳だった。どうやら不二咲は勿論のこと、KAZUYAも知らなかったらしく少し驚いている。


K(……石丸の奴、俺よりよっぽどこまめにみんなの所を回っているんじゃないか?)

苗木(そういえば石丸君、僕の次に舞園さんのお見舞いにも来てくれてたしなぁ……)

不二咲(石丸君は自分のことを責めてばかりだけど、やっぱりここに必要な人だよ!
     なのに、僕のせいで大怪我させちゃってごめんなさい。ごめんなさい……)


こんな状況でもこの男は風紀委員たろうと、常に全力で活動していたのだ。
その挙句が今の姿だと思うと、KAZUYAも苗木も不二咲もなんとも言えない気持ちになる。


石丸「僕は無力だった……モノクマがあれだけ好き勝手しているのを止められず、
    ただ見ていただけだった。……超高校級の風紀委員の名が泣いている」

石丸「今回だって……元を正せば僕のせいで……」

K「石丸、その話はもうしないと約束したはずだ」

石丸「…………」


いつもあれだけ自信に溢れ力強かった石丸が、今は随分と弱々しく小さくなっていた。
その姿は苗木達にとってとても衝撃的なものであり、次にかける言葉が思い浮かばない。


舞園「あの、不二咲君……ちょっと」

不二咲「…!」


舞園に呼ばれ、不二咲は苗木達の方へとやって来る。何を聞かれるかはわかっていた。


舞園「さっきのことなんですが……」

不二咲「話してないよ。……先生が、話さない方がいいって」


苗木「……うん、そうだよね」

不二咲「なるべく刺激を与えたくないから、大和田君の話はしないってことになってるの」

苗木「わかった。じゃあ僕達も気をつけるね」


最低限の確認をすると、二人はテーブルの上に持ってきた物を広げる。


舞園「ジャーン! 以前山田君に教わったロイヤルミルクティーをいれてみました。
    教わってから全然作る機会がなかったので、味にはちょっと自信ないんですが」

K「フム、とても良い香りだ」

不二咲「わあ、凄くおいしいよ!」

舞園「そう言ってもらえると何よりです。……石丸君はどうですか?」

石丸「……おいしい」

舞園「お口に合ったようで良かった。お代わりもありますよ」

苗木「倉庫からお菓子も持ってきたんだ。みんなで食べようよ!」

石丸「…………」


石丸(僕は被害者という立場だから、みんなこうして心配して気遣ってくれる。でも兄弟は、
    兄弟はきっと今も部屋に一人だ。助けてあげたいのに、僕は何も出来ない……)


KAZUYA達四人は和やかに談笑しつつテーブルを囲むが、石丸の心がここにないのは明らかだった。
少しでも石丸が余計なことを考えないように、苗木達は引っ切りなしに話しかけていく。


舞園「一週間ぶりに図書室に行ったんです。料理のレシピ本もたくさん置いてあったので
    今度お菓子も作って来ますね。何かリクエストとかありますか?」

苗木「僕は舞園さんの作った物なら何でも好きだよ! 石丸君はどう?」

石丸「……僕も、特には」

舞園「確か和食が好きでしたよね? では和菓子とかどうでしょう?」

石丸「……舞園君に任せよう」

不二咲「これ、おいしいよぉ。石丸君もどう?」

石丸「……すまない。朝からジッとしているから、あまり食欲がないんだ」

K「…………」


上の空の石丸をKAZUYAは複雑な顔で見つめると、少しキツ目の声を上げた。


K「石丸、あまり食欲がないならさっさと課題の続きをやれ。ペースが遅れてるぞ」

石丸「あ、はい」


KAZUYAが急かすと、石丸は横に置いていた布と持針器を急いで手に取り課題を始める。


苗木「え、先生」


安静にした方がいいのではと言いかけたが、KAZUYAは黙ったまま首を横に振る。


舞園「きっと、何かに集中させていないとダメなんですよ」ボソッ

苗木「…………」


確かに、課題に取り組み始めると石丸は余計なことを考えずそちらに集中するようだった。
不二咲がこっそり教えてくれた所によれば、目を覚ましてからはずっとこうらしい。


苗木(……大和田君が心配なのは勿論だけど、大和田君を早く説得出来ないと
    なんだか石丸君も大変なことになりそうな気がする……)


焦る気持ちばかりが、彼等の心に雪の如くただ静かに降り積もっていく――


ここまで。


>>134
接触回数というか、覚醒イベントですね。桑田・改は伊達ではないということで
…あと、桑田は最初が酷かったからギャップ効果で強く見えているだけだったり(ボソッ)


・・・


苗木と舞園が帰り、更にしばらくしてからKAZUYAはふと立ち上がった。


K「俺も少し見回りに行ってくる。俺が戻るまで不二咲は絶対ここから出るなよ」

不二咲「はい。いってらっしゃい」


その時、課題に集中していたはずの石丸が顔を上げKAZUYAの顔を見つめる。


石丸「先生……兄弟をお願いします」

K「……俺はただ見回りに行くだけだ」

石丸「お願いします」

K「――不二咲、俺のいない間頼んだぞ」

不二咲「はい!」


不二咲に見送られ部屋から出ると、KAZUYAは大きく息を吐いた。


K「……フゥ」

K(バレていたな。……まあ当然か)


見回りも嘘ではないが、KAZUYAの本当の目的は大和田に会うことだった。霧切によれば大和田の
秘密がわかるまで打つ手なしとのことだが、だからと言って何もせず放置する訳にもいくまい。

ピンポーン。ピンポーン……シーン。


K(まあ、出ないだろうな)


KAZUYAは用意しておいたメモ用紙を扉の下に差し込み、もう一度インターホンを押す。

…………ガチャリ。


大和田「先公……」


たっぷりと間を空けて、大和田は顔を見せたのだった。


K「……少し話がしたい。入っていいか?」

大和田「…………」


無言で大和田はKAZUYAを部屋に入れる。


大和田「きょうだ……いや、石丸の具合は?」

K「大丈夫だ。今は安定している。……ただ問題なのは肉体ではない。精神の方だ」

大和田「…………」

K「俺はお前のことを一方的に責めに来た訳でも許しに来た訳でもない。
  以前舞園にも話したが、過ちは過ちだ。なかったことには出来ん」

大和田「……わかってる。全部、全部俺がわりぃんだ」

K「それは違うな。確かに過ちを犯したのはお前だが、そもそもこんな状況を作り出したのは
  モノクマだ。それに、お前の精神が不安定なのを知りつつ目を離した俺にも責任がある」

K「責めは確かに負うべきだがお前が全て背負うのは間違いだ」


真っ直ぐ大和田の目を見ながら理路整然と話すKAZUYAの姿は、大和田にとってあまりにも
大きすぎた。その瞳を直視出来ずに顔を逸らしながら、大和田は苦しげに呻く。


大和田「……あんたは、なんでそんな強いんだよ」

K「…………」


大和田「俺は昨日あんたと約束した! 絶対に事件を起こさないって男の約束をな……!
     ……なのに、俺は約束を守れなかったばかりか……ダチに大怪我させちまった」

大和田「あんたはこうなることをわかっててちゃんと釘を刺したのに、俺が勝手に約束を
     破ったんだ。俺が全部わりぃし、あんたには俺を責める権利があるだろ!」

K「大和田……」

大和田「あいつは……石丸は俺を止めようとしてた。止まるべきだった。でも俺は
     自分を止められなかったんだ! ……責めを、負うべきじゃねえのか?」


やっと大和田がKAZUYAの目を見た。その瞳には強い感情が込められている。だが……
だからこそKAZUYAはここで引いてはいけないのだ。たとえ肉体は健康だとしても、
救いを求めるものはKAZUYAにとって皆等しく患者に変わりないのだから。


K「その責めとは何のことだ? お前はどうやって償う気だ?」

大和田「わかんねえ……それがわかんねえんだ! 俺はいったいどうしたらいい…?!」

K「……石丸は、以前と同じように過ごしたがっているぞ」

大和田「出来るワケねえだろ! 俺があいつの顔を潰しちまったっていうのに!」


イライラと髪を掻きむしりながら頭を振る大和田を見下ろしながらKAZUYAは問い掛ける。


K「大和田よ、俺が何でここに来たかわかるか?」

大和田「また、俺がなにかしでかさないように釘をさしにきたんだろ……」


口ではそう言ったが、KAZUYAが自分を心配して様子を見に来てくれたのは明白だった。
KAZUYA自身、大和田がそれをわかっている前提で言葉を続ける。


K「それもあるが、俺は心配なんだ。お前達が」

大和田「お前“達”?」

K「お前と石丸だ」

大和田「…………」


石丸の名前を出すと、大和田は途端にピタリと動きを止めた。性格も外見も
何もかも対照的な二人のはずなのに、こういう所は凄くよく似ている。


K「お前は知っているか知らんが、石丸はここに来るまで友人が一人もいなかったそうだ」

大和田「聞いたぜ。……俺が事件を起こす前に、あいつは自分から秘密を告白した」


K「あいつにとってお前は初めての大切な友人なんだ。あいつから友人を
  奪う権利は誰にもないはずだぞ。それが他ならぬお前自身であってもな」

大和田「…………」

K「償いとは、お前の自己満足ではなく相手の望むことをしてやることではないのか?
  そしてあいつはお前が側にいて、また前みたいに楽しく過ごせればと望んでいる」

K「……たとえ顔の傷を見るたびにお前の胸が締め付けられたとしても、あいつのために
  笑って見なかったことにするのが、今お前が真にすべきことではないのか?」


大和田はギュッと唇を引き結び、拳を強く握り締めた。


大和田「それが、俺の償いか……」

K「そうだ。どんな罰よりも辛い償いだ。だがお前が本当に償う気なら出来るはずだろう?」

K「石丸に顔を見せてやれ。あいつはお前のことを心から心配している。
  俺もそこそこ長く生きているが、あんな真っ直ぐな奴は見たことがない」

大和田(俺だって……俺だって兄弟に会いてぇ。でも、まだダメだ! 俺は兄弟に
     本当のことを言えねえし、外に出たらまた誰かを襲っちまうかもしれねえ)


苦悶の表情を浮かべながら、大和田は首を横に振った。


大和田「今は……ダメだ」

K「――秘密か」


コクリと大和田は頷いて再び顔を逸らす。


K(根深いな……事ここに至っても言えないとは……)


KAZUYAは逡巡していた。無理にでも聞き出した方がいい気もするし、大和田を信じたい気持ちもある。


K(どうする? 今この場で聞き出すか、信じるか)



※重要選択肢

1 無理矢理聞き出す
2 もう一度大和田を信じる
3 KAZUYAの気持ちを聞いてみる

>>165


答えがすぐに出ない時、そういう時は自分がどうしたいかを考えて見ればいい。
KAZUYAは心を静かにして己の中に問いかけてみた。


K(大和田は一度約束を破っている。その上で信じるというのは愚かかもしれん)

K(……だが、俺としては無理矢理聞き出すようなことはあまりしたくない)



1 無理矢理聞き出す
2 もう一度大和田を信じる

>>168

2


そしてKAZUYAは決断した。

たとえそれがどのような結果をもたらしたとしても、後悔しない――


K(もう一度だけ大和田を信じよう……)

K「ではいつなら良い? いつまでも先送りは出来んぞ」

大和田「……三日後だ。俺は、どうしてもあの秘密を自分から言うことが出来ねえ。
     知られたくない……今だって誰か殺してでも隠したいって思ってる……」

K「…………」

大和田「だから、この三日間は誰にも会わねえことにした。誰かに会ったらまた自分を
     抑えきれなくなっちまうかもしれねえから、部屋に引き込もらせてくれ。頼む……」

K「……わかった。それがお前の望みならそうしよう。だが、秘密が明らかになり
  お前が少し落ち着いたら、必ず石丸と……不二咲に会いに来い。今度こそ約束だ」

大和田「男の約束だな……今度こそ、今度こそ絶対に守る……!」


目と歯を食いしばって、唸るように大和田は答えた。


K「さて、最後にもう一つ俺から言わねばならんことがある」

大和田「なんだ?」

K「……モノクマについてだ」

大和田「ッ!」


大和田は目を見開いて震え出す。KAZUYAがこの先何を言うかはもう予想が付いていた。
昨日体育館でモノクマになじられる舞園と桑田を見て、自分はこうはなりたくないと
あれだけ強く思っていたのに、とうとう今度は自分の番がやって来てしまった。


K「鍵をかけて部屋に篭っても、奴はここに入ってこれる。そしてお前を追い詰めるだろう」

K「色々なことを言うだろうな。石丸の輝かしい将来や不二咲の心を二度も傷つけたこと、
  死んで償えと言うかもしれんし、逆に卒業してなかったことにすればいいと言うかもしれん」

大和田「…………俺は」


既に心が揺れ始めている大和田の肩を掴み、KAZUYAは強く言い聞かせる。


K「あれは悪魔の囁きだ。絶対に耳を貸すな。石丸の顔の傷が治らないと言うのも嘘だ!」


大和田「?! 本当か?! あいつの顔の傷、消せるんだなっ?!」

K「ここには麻酔が足りないが、外に行けばいくらでも手は打てる。奴は揺さぶりをかけているのだ」

大和田「……俺は、耐えられるか?」

K「厳しいだろうな。お前は俺の想像以上に繊細な奴だ。だから、どうしても辛くなったら
  俺を呼び出せ。俺はしばらく石丸の部屋に泊まり込む。ドアの下からメモをいれろ」


そしてKAZUYAはカメラに聞こえにくいように低い声で囁く。


K「名前は書くな。石丸に見られたらまずいからな」

大和田「……わかった」

K「昼間なら俺以外の誰かが石丸のことを見ていてくれるから、呼び出されたら
  すぐに行ける。……もっと俺を、仲間を頼れ。ここでは強がる必要はないんだ」

大和田「わかって……わかってはいるんだよ。けど……!」


この言葉に大和田の全てが集約されている気がした。大和田も頭ではわかっているのだ。
だが心がついていかない。だから自分は強いと、自己暗示に近いくらい嘘をつき続け
身を守ってきた。しかし、この過酷な監禁生活で嘘で作った殻が限界に達している。


K(頼む、大和田。この三日間、保ってくれ……)

K「もう一度言う。モノクマの言葉には絶対に耳を貸すな。なんなら布団をかぶって耳を
  塞いでもいい。見苦しかろうが情けなかろうが、今はとにかく身を守るしかないのだ」

大和田「…………ああ」


大和田の目は既に虚ろだった。だが、いつまでもここにいる訳にはいくまい。


K「そろそろ俺は行く」

大和田「もう、行っちまうのか?」


弱りすぎてもはや虚勢も張れなくなったのか、大和田は縋るような目でKAZUYAを見上げた。


K「……いや、まだ時間はあるからもう少し話そうか」


結局、後ろ髪を引かれたKAZUYAは時間いっぱい大和田と話をしたのだった。


ここまで。

いつも感想とかありがとうございます。最近ずっとガチシリアス続きで先の展開とか
結構悩むことが多いので、ちょっとした感想がアイディアに繋がっていつも助かってます
1は人の感想とか意見を見てネタを着想するタイプなので

そろそろ大きく話動きます。とりあえず、このスレ内で二章が終わるように頑張ろう…


               ◇     ◇     ◇


KAZUYAが石丸の部屋に戻ると、中では桑田がKAZUYAのことを待っていたようだった。


桑田「あ、せんせーちょっとちょっと!」

K「! どうした?」


桑田がKAZUYAを引っ張って部屋の外に連れ出す。


K「中では話せないことか?」

桑田「……ここでもまだヤバい。こっちだ!」


そのままぐいぐいと男子トイレの中に連れ込まれてしまった。


桑田「ここなら監視カメラもねえし、誰かに盗み聞きもされねーだろ?」

K「重要な話みたいだな。何か掴んだのか?」

桑田「聞いて驚くなよ?」ニヤッ

桑田「なんと俺、内通者が誰かわかっちまったんだよ!」


K「何だと?! 誰だ?」

桑田「間違いねぇ! アイツ、江ノ島だ!」

K「……!」


そして誉めてくれと言わんばかりの得意げな顔で、桑田は少し前の会話の内容を説明する。


K「成程、よくわかったな」

桑田「だろ? だろ?」

K「ちなみにその会話を他に聞いていた人間はいたか?」

桑田「霧切だけだ。そもそも最初は二人で行くつもりだったんだけどさ、霧切が自分がいたら
    警戒されるからって言い出して、俺が江ノ島を霧切のいる食堂に連れてったんだよ」

K「流石霧切だな。俺も何度か江ノ島に探りをいれたことがあるが、その度に警戒されて
  逃げられてしまった。もし霧切が同席していたらきっと口を滑らせなかっただろう」

桑田「おう! ……っつーかアレ? なんか反応薄くね? ……もしかして、知ってた?」

K「……黙っていてすまなかった」

桑田「なんだよ! 俺チョーお手柄だと思って戻ってきたのにバカみてーじゃん!」

K「すまん。そう怒るな。まさかお前が一番最初に気付くとは思わなかった。凄いじゃないか」


K(だが考えてみれば、この中で一番オシャレにうるさいのは間違いなく桑田だろうし、
  ファッション雑誌などに目を通すことも多いだろう。モデルの江ノ島についても
  一番よく知っているはずだし、桑田が真っ先に気付くのは必然だったかもしれん)

桑田「でもさぁ、知ってたのになんで黙ってたんだよ?」

K「一つは、江ノ島が口封じに消されることを心配したのだ。もし俺達に正体が
  知られているとわかれば、黒幕は即座に消しにかかるだろうからな」

K「二つ目は、みんなが早まった真似をしないかが心配だったのだ。江ノ島の
  正体を知れば、当然捕獲して情報を聞きだそうと考えるだろう?」

桑田「それがなんでマズイんだよ。仮に銃持ってたとしても不意打ちしちまえば平気だろ?」


相手がいかに強かったとしても、こっちにはKAZUYAがいるのだからどうとでもなる。
そう桑田は考えていたが、対するKAZUYAは深刻な顔をして桑田に問い返す。


K「お前は偽江ノ島の正体は何だと思う?」

桑田「正体? ……どっかの秘密工作員とか?」

K「……俺は江ノ島の正体に気付いた時、ぼんやりと襲撃された際の記憶が戻ってきたんだが、
  俺を襲った相手は女一人だけだった。いいか? 女一人が俺相手に互角以上に戦ったんだ」

桑田「えっ」


K「……しかも、いくら不意打ちだったとは言え俺は反撃一つ出来なかった。つまり、
  彼女は見た目に反して相当戦闘に特化している工作員なのだろう。彼女を捕えるには
  それ相応の準備が必要だが、今のように生徒達がバラバラに動いている状況では無理だ」

桑田「マジかよ。大神以外でせんせーと戦える女とかいるんだなぁ……」

K「下手をしたら、いや間違いなく、お前と大和田と石丸が同時に襲い掛かっても勝てんぞ」

桑田「えぇっ?! ……じゃあさ、そこにせんせーが加わったらどうよ?」

K「……難しいな。向こうの武装がどれほどかわからんし、俺達は人を殺せない。対して
  相手はプロだ。人を殺すことに躊躇がないはず。この差は実戦では想像以上に大きい」

K「江ノ島を捕えるならトラップが必要だ。……大神が仲間に加われば心強いのだが」


ボソリとKAZUYAは本音を漏らす。大神さえ仲間に出来れば戦力面でもう悩まなくて済むし、
いつも落ち着いていて仲間に対するフォローもしてもらえると良いことづくめなのだが。


桑田「あいつは大丈夫じゃねえの? いつも俺達寄りの発言してるし
    コロシアイも嫌がってる感じじゃん。なんか疑う要素あんのか?」

K「何の根拠もないし俺も疑いたくはないのだが、冷静に考えると彼女は有力候補なのだ……」


桑田「ハァ?! な、なんで?!」

K「考えてみろ。いくら江ノ島の戦闘力が凄くても、俺と大神が二人がかりで不意打ちすれば
  勝てるはず。そして黒幕にとって江ノ島は、見せしめに殺してもいい程度のいわば捨て石」

K「俺達にあっさり正体を看破されるくらいだ。はっきり言って江ノ島は頭はあまり良くない。
  黒幕の立場で考えたら、情報を漏らさないために一刻も早く口封じをすべきじゃないか?」

桑田「それをしないのは、大神も内通者だからってことかよ……」


桑田の言葉に対し、KAZUYAは溜息混じりに答える。


K「……わからん。ただの邪推かもしれん。だが無条件に相手を信用するよりはマシなはずだ」

桑田「マジかぁ……あーあ、じゃあせっかく内通者わかったのにしばらく放置かよ?」

K「事件が頻発しているからか、幸い江ノ島は積極的に動かないようだ。最低でも
  生徒の三分の二を団結させることが出来れば捕獲も考えられるのだが……」

桑田「三分の二? えーと、ムリめなヤツから数えると十神、腐川、セレス、江ノ島……それ以外か」


朝日奈と大神はなんとかなりそうだが、葉隠と山田に関しては自分の存在が
ネックになることを薄々感じ取り、今度は桑田が嘆息する番だった。


桑田「あ、そーいやさ。あの江ノ島がニセモノってことは、本物はどこにいるんだ?」

K「考えられるパターンは三つ。一つは運良く一人だけ捕まらず逃げられた。
  二つ目は今も尚捕まっていて、下手をすればこの学園のどこかにいる。
  そして三つ目は、一番最悪だが江ノ島自体が敵の仲間というパターンだ」

桑田「……なあ、捕まって殺されてる可能性ってあんの?」

K「その可能性は限りなく低いだろう。もし江ノ島が死んでいるなら、わざわざ偽の江ノ島を
  殺すなどと回りくどい手を使わず、そのまま江ノ島の死体を見せて見せしめにすればいい」

K「直接の知り合いではないが、江ノ島のような有名人の死体を見せれば恐怖感を煽るには十分のはず」

桑田「なあ、せんせー……せんせーはぶっちゃけどの可能性が一番高いと思ってんの?」

K「…………」

桑田「せんせーは頭がいいから、どうせもう見当つけてんだろ? 俺ぜってえ
    誰にも言わないし顔にも出さないからさ、こっそり内緒で教えてくれよ」


桑田の指摘通り、実はKAZUYAはどの可能性が一番高いか見当をつけていた。元々寡黙な上、
いい加減なことを言うのを好まない性質のKAZUYAは、ハッキリしたことがわかるまであまり
言いたくはなかったが、ここで黙るのは相手の信頼を失うだろう。そして、重い口を開く。


K「……良かろう。俺は――三番目の可能性が一番高いと思っている」

K(男子トイレの隠し部屋の資料によれば、この学園は外の暴動から生徒を守るために
  シェルター化していたはず。その中にすんなり入り込むには手引をした内通者がいたと
  考えるのが妥当。そうなると不自然に姿をくらましている江ノ島は怪しすぎるのだ……)

K「俺としては、学生がこのような恐ろしい計画に加担しているとは思いたくないが……」

桑田「マジかよ~……せんせーがそう考えるってことはいろいろ難しい理由があんだろ?
    多分まったくの見当ハズレってことはないだろうから、ほぼ確定じゃねえか」

K「……もしかすると、今もモニター越しに本物の江ノ島がいるのかもしれないな」

桑田「俺けっこーファンだったんだけどなぁ。――そーいや、声が全然違うから今まで
    気にならなかったけど、モノクマの変な笑い方って前にテレビで見た江ノ島盾子の
    笑い方にちょっと似てるかもしんねぇ。あのうぷぷぷってヤツ」


桑田が何気なく漏らした重要情報にKAZUYAは震撼した。


K「それは本当か?! では……」

K(モノクマを操っているのは江ノ島……? やはり俺の予想通り監視者は女だったか。
  しかし、女子高生が一体何故? どうやってそんな組織に関わり地位を得たのだ?)


思えば、偽江ノ島とて少女に見える。にも関わらずあの戦闘能力なのだ。以前、自分達を
捕らえている組織は少数精鋭のプロフェッショナル集団だと推理をした。ならば、本物の
江ノ島もその組織の構成員たるに相応しい何らかの特殊な技能を持っているのかもしれない。


K(モデルはあくまで表の顔で、裏の顔があるということか……油断しない方がいいな)

K「さて、話は終わりだ。内通者問題も重要だが、今は正直それどころではない。
  ここでした話はたとえ仲間内であっても他言無用と思ってくれ」

桑田「でもさぁ、苗木達には話しちゃってもいーんじゃねえの?」

K「俺もあまり秘密主義は良くないと思っているのだが、苗木は正直者ですぐ顔に出てしまうからな。
  敵に感づかれたくない。全員で事に当たれるまで、江ノ島にはなるべく近寄らないようにしろ」

K「今俺達がしなければならないのは、この三日間を無事乗り切り全員を団結させることだけだ」

桑田「わかったよ。内通者も脱出も今の状況じゃどうしようもないもんな」

K「では俺は戻る。この三日間、見回りは任せるぞ」

桑田「任せとけって!」


― モニタールーム AM0:57 ―


そこには本物の江ノ島盾子がまさしくゲームのラスボスのように鎮座していた。
その前には変装を解いた戦刃が立ち、江ノ島の機嫌を見ながら言葉を選ぶ。


江ノ島「で、話って何よ? 怪しまれるからあんまりこっち来るなって
     言ってあるでしょ? まさかまだ文句があるんじゃないでしょうね」


昨日の晩、戦刃はグングニルの件で江ノ島の元に行った。当初の打ち合わせでは落とし穴に
落とされ、表向きには監禁されるという名目で完全に裏方に回る手筈だったからだ。


戦刃「わかってるよ。その件についてはもう怒ってないから」


妹に頭が上がらない戦刃だが、流石に命の危機とあっては抗議せざるを得なかった。
江ノ島の説明では、やっぱり槍の方がスリルがあるし生徒達に与えるショックが大きいから
直前に変更した。戦刃の運動能力なら簡単に避けられると思った。他意はない、だった。

妹の気まぐれさや無茶な性格を知り尽くしている戦刃としては、こう言われてしまうと
もう反論出来ない。せいぜい危ないからもうやらないでと言うのが関の山だった。


江ノ島「で、その件について片付いてるなら何の用よ。アタシもそろそろ仮眠取りたいんだけど」

戦刃「私、やっと盾子ちゃんの言ってたことがわかったんだよ。西城先生は厄介だってこと」


江ノ島は嘆息した。心から嘆息した。彼女の未来予知に近い高度な分析能力は人の思考を
先読みすることすら可能にする。そもそもそんな能力がなくても戦刃は非常に単純で残念なのだ。
これから言う言葉を予測してしまって、既に江ノ島はげんなりとしていた。


江ノ島「……それで?」

戦刃「うん。消そう! このまま先生を放置しておくのは危険だよ! 私がなんとかするから」

江ノ島「ハァ」


やはりと頭を抱える。


戦刃「でもでもほら、私は盾子ちゃんみたいに頭が良くないし、勝手なことをするとプランが
    崩れるかもしれないでしょ? だから一応聞いておこうと思って。作戦は盾子ちゃんが……」

江ノ島「バッカじゃないの?!」

戦刃「……え?」


江ノ島「それでもアタシのお姉ちゃん? 超高校級の絶望? 全くどんだけ残念なの……」


予想外の言葉と剣幕に戦刃はしどろもどろになる。


戦刃「え? え? だって……先生が危険だって言ってたのは盾子ちゃんが……」

江ノ島「危険よ。危険だったわよ。でも今はアタシ達が絶対的に有利な状況ってわからない?」

江ノ島「私様が蒔いた絶望の種が今人間共の中で芽を生やし実を結び始めている。
     ドクターKにもこの流れはもはや止めることは出来ないだろう」

江ノ島「この最っ高にイカすシチュエーションに西城はいてもらわねえとダメなんだよ!
     むしろ役者の務めを果たしてもらいたいのにそんなこともわかんねーのか、ファック!」


相変わらずコロコロとキャラが変わっていく妹の言葉を聞きながら、戦刃も理解した。


戦刃「盾子ちゃんは、西城先生も絶望させたいんだね?」

江ノ島「やっと正解です、残念なお姉さん。私様はああいった正義感が強くて熱苦しい、
     でも現実の厳しさや汚さを知っているいわゆる強い大人というものが大嫌いです」


江ノ島「あいつが絶望する時はどんな顔を見せてくれるんだろ。あー楽しみ。
     そんなワケだから、勝手に殺そうとか余計なことしないでよ?」

戦刃「うん、わかった。それが盾子ちゃんの見たいものなら」

戦刃(盾子ちゃんの絶望好きは仕方ないなぁ。……西城先生は消しておいた方がいいと思うのに)


江ノ島の分析力と戦刃の軍人としての本能。どちらが正しいかは今の時点ではまだわからない。



               ◇     ◇     ◇


その晩。KAZUYAは桑田と不二咲を石丸の部屋に泊めさせ、自身は夜中に何度も見回りを行った。

事件はなかった。

次の日の晩、苗木が桑田と組んで見回りを行った。

事件はなかった。


事件はない。事件はないが、こう警戒ばかりしているとストレスが溜まり気が立ってくる。

モノクマが姿を現して引っ掻き回す訳でもなく、ただ長く重苦しい時間を過ごすだけだが

それは決して楽なものではなく、生徒達はただじっとその時が来るのを待っていたのだった。


ここまで。

最近思い浮かんだシーンから書き溜めすることが多くて前回の続きのシーンを
直前に書いたりするので、投下に時間がかかってしまい申し訳ないで候


あがらなかった。もっかい!


― コロシアイ学園生活十三日目 食堂 AM8:32 ―


朝食会の後、苗木達はこっそり集まって打ち合わせをするのが常になっていた。


苗木「じゃあ、また二手に別れて見回りしよう」

桑田「おう」

不二咲「ね、ねぇ……ちょっといいかな?」

舞園「どうかしましたか?」

不二咲「大和田君のことなんだけどね……僕が行ったらまずいのはわかってるけど、
     誰か代わりに様子を見に行ってもらうのはダメかなぁ?」

不二咲「だって、もう三日も誰とも会ってないんだよ? 部屋の前に置いたご飯は
     ちゃんと食べてるから具合は悪くないと思うけど、やっぱり心配だよぉ……」

桑田「あぁ、そうだなぁ……」

舞園「顔を出せないだけで、本当は寂しいし人恋しいでしょうしね……」

苗木「じゃあ、僕と桑田君が様子を見に行くのはどうだろう?」

桑田「そうだな! そうしようぜ。じゃあ後で……」



霧切「私は反対だわ」

私も反対だ


話がまとまりかけた所に、霧切の言葉が刃物のように鋭く切り込む。


桑田「は? なんでだよ」

霧切「まだ大和田君の秘密は明らかになっていない。精神は不安定のままよ。
    もし話してる最中に何らかの要因で彼が激昂したらどうするの?」

桑田「いくらなんでも俺や苗木は大丈夫だろ。原因は不二咲の言葉みたいだし。
    それにもし襲ってきたって俺なら殺されはしねえよ」

霧切「相手は仮にも暴走族の総長であり腕の立つ大和田君よ? 確かに警戒さえ
    怠らなければ命は取られないかもしれないけど、怪我をする可能性はあるわ」

霧切「ただでさえ今はドクターが自由に動けないのに、これ以上こちらの戦力を
    削る訳には行かないのよ。軽率な行動はなるべく控えてちょうだい」

不二咲「あ、ご、ごめんなさい……僕そこまで考えてなくて……」

桑田「軽率って言い方はないだろ。不二咲はただ大和田のことを気遣かっただけじゃねえか!」

霧切「軽率には違いないわ。あなた達は大和田君のことを仲間だと思っているから
    気を遣うけど、彼がその仲間を裏切って殺人をしようとした事実は消えないの」

霧切「私に言わせれば大和田君は今も危険人物よ。体格的にも技術的にも圧倒的に
    勝っているドクター以外の人間が気軽に会いに行っていい存在じゃないわ」

霧切「……しかもドクターが問題ないと言っていることから、恐らくは時々様子を
    見に行ってるわね。私達が危険を犯してまで会いに行く必要性は感じないわ」


舞園「残念ですけど確かに霧切さんの言う通りですし、仕方ないですね……」

苗木「明日が過ぎれば会えるし、きっと大丈夫だよ」

不二咲「そっか……そうだよ、ね……」

不二咲「…………」

不二咲(僕が余計なことを言ったばっかりに、大和田君がみんなに危険だと
     思われちゃってる……僕のせいで……ごめんなさい……)


霧切の冷静な指摘により話は終わったかと思われたが、桑田が噛み付いた。


桑田「ツメテー女」

苗木「く、桑田君……」

桑田「そりゃお前の言うことはいつも正しいけどさ、人の気持ちもちょっとは
    考えろよ! 確かに大和田のやったことは許されることじゃねえけど、
    なにも不二咲の前でそんな言い方しなくてもいいじゃねえか!」

霧切「あなた達に危機意識が足りないからよ。私達が今置かれている状況は普通じゃない。少しの
    油断で簡単に死んでしまうのよ? たとえ仲間だろうと危険なものは危険と考えないと」

桑田「だからっ! そんなことは百も承知だっての! 前々から思ってたけどお前ちょっと
    冷てえんだよ。いつも異常に冷静で無表情だし。人の気持ちわかんねえのか?」

霧切「…………」


ピクリ、と霧切の整った眉が動く。不穏なものを感じて苗木が間に入った。


苗木「桑田君、今のは流石に言い過ぎだよ!」

不二咲「き、霧切さんごめんねぇ……僕のせいで」

霧切「……安心して。私が冷たいのは事実だし、別に怒ってなんかいないから」

苗木「き、霧切さん! そんなことないよ! ほら、桑田君も謝って!」

桑田「…………」フイッ

霧切「……どうやら、私がいるとチームワークが乱れるみたいね。
    これからはあまり一緒にいない方がいいかもしれないわ」


そう言うと霧切は無表情のまま席を立つ。


舞園「そんな……霧切さんは私達に必要な人です! 行かないでください!」

霧切「……大丈夫。見捨てる訳じゃないわ。私の力が必要ならいつでも手を貸すから。それじゃあ」


そういうと霧切は去って行った。


苗木「追いかけないと……桑田君、霧切さんに謝った方がいいよ」

桑田「本人が怒ってないっつってんだしいいだろ。あいつもちょっとは痛い思いした方がいいって」

苗木「でも……」

舞園「私が追いかけて霧切さんと行動します。苗木君は今日は桑田君と組んでください」

苗木「わかった。霧切さんのことは舞園さんに任せるね」

舞園「任せてください」


・・・


舞園は廊下の先を歩く霧切を見つけ駆け寄った。


舞園「霧切さん!」

霧切「……舞園さん。あなたが来ると思ったわ」


相変わらず表情を微動だに動かさず、霧切は静かに振り返って舞園と対面する。


舞園「桑田君は少し疲れてイライラしているんです。許してあげてくれませんか?」


だが、言った側から舞園は霧切の本当の感情に気付いた。


舞園「――いえ、霧切さんは本当に怒っていないんですね?」

霧切「流石舞園さんね。人の感情を見抜くことにかけては私達の中でも群を抜いている」

舞園「エスパーですから……なんて、今はふざけている場合ではありませんね」

霧切「……桑田君の言ったことは間違ってないわ。正論を振りかざすことが常に正しいとは
    限らない。確かに私は大和田のことで傷ついている不二咲君に対して配慮が足りなかった」

霧切「いつからかしらね……何事にも中立であらねばと周りの人から距離を取るうちに、人との
    付き合い方がわからなくなって、こんな当たり前の配慮すら出来なくなるなんて」

霧切「……私は今、とても情けない思いをしているのよ」


珍しく、霧切が感情を露わにしていた。とても哀しげだった。


舞園(霧切さんは、怒っているのではなく傷ついているんですね……)


舞園「気にすることはないですよ。だって、霧切さんは落ち込んだ私のことを
    励ましに来てくれたじゃないですか。あの時、私は凄く嬉しかったです」

舞園「人間なんだから、苦手なことも失敗することも当然ありますよ。元気を出してください」


そう言って舞園は笑う。霧切を励ますために笑ってみせる。


霧切「……不思議ね」

霧切「以前は私が桑田君にお説教をして舞園さんを励ましていたのに、
    今は桑田君からお説教されて舞園さんに励まされるなんて」

舞園「それが人間なんじゃないですか?」

霧切「そうかしら?」

舞園「そうですよ。苗木君や西城先生ならきっとそう言うと思います!」

霧切「……そうね。そういうものなのかもしれないわね」

舞園「はい。私、今まで散々迷惑をかけてしまったから、今度はたくさんみなさんの
    役に立ちます。つらい時はいつでも励ますので遠慮なく言って下さいね!」


ふっと肩の力を抜いて霧切は微笑んだ。
良かった、元気になってくれたと舞園が安心した時だった。


霧切「舞園さん。私、あなたと友人になれて本当に良かったわ」

舞園「……!」


瞬間、舞園の心に生々しい感情が湧き上がりかけるが、その気持ちを無理矢理封じ込める。

何故ならまだ自分は役割を終えていない。今の自分は舞園さやかという人間ではなく、
舞園さやかという名の一つの役なのだ。脱出という悲願を達成するために、駒として
その場に最も相応しい表情で最も相応しい台詞を読み上げ役を演じ続けなければいけない。


舞園(私は駒。脱出のための道具。私は人間じゃない……)


さあ、続きの台詞を読もう。


舞園「……私も、霧切さんとお友達になれて本当に良かったです。さ、今日は
    私が霧切さんと組みますよ! どんどん見回りに行きましょうね!」

霧切「ふふっ。同性で組むとやっぱり落ち着くわね。行きましょ」



               ◇     ◇     ◇


苗木は桑田と共に不二咲をKAZUYAの元に送り届け、現在は学園内を当てもなく歩いていた。


桑田「…………」

苗木「…………」

苗木(ハァ、桑田君はさっきからこんな調子だし気まずいなぁ)

苗木「そうだ。ねぇ、プールに行ってみない?」



― プール AM11:36 ―


大神「ム、苗木に桑田か」

苗木「やあ、大神さん」


プールには苗木の予想通り、大神と朝日奈がいた。


苗木(この二人のことはあんまり疑いたくないけど、一応容疑者だしな。見ておかないと)

朝日奈「あ、苗木と桑田。……どうかしたの?」

苗木「いつもみたいに学校内の見回りをしてて、何となく寄ってみたんだ。
    ほら、女子をほっとく訳にもいかないしね」

朝日奈「そう……」

桑田「…………」


苗木・大神「…………」


苗木と大神は目が合う。きっとお互い似たような表情をしていることだろう。


大神「桑田よ、何かあったのか?」

桑田「……別に。なんもねえし」

苗木「実は、喧嘩ってほどじゃないんだけど、さっき霧切さんと軽く言い合いしちゃって」

大神「そうか……」

苗木「それより朝日奈さん、元気ないけど大丈夫かな?」

朝日奈「えっ……?! そ、そんなことないよ! ほら、元気元気!」

苗木(作り笑いされても痛々しいだけだよ……)

苗木「無理しなくていいよ。こんな状況だもん。元気ないのが普通だよね」

朝日奈「まあ、その……ちょっとこたえてるかも。最近みんな暗いし、あんまりしゃべらないから」

苗木「そっか……」


朝日奈「…………」

桑田「…………」

大神「…………」

苗木(空気が重いなー……)


いつも賑やかな朝日奈の所に行けば少しはマシになるかと思ったが、むしろますます
空気は重くなり、多少のことでは堪えない苗木も流石に内心で苦笑せざるを得なかった。
そう言えば、ここ最近の朝日奈はいつもより少し大人しかった気がする。


朝日奈「……あ、そういえばさ。桑田はKAZUYA先生と毎日会ってるんでしょ?」

桑田「おう。毎回メシ食ったら不二咲を石丸の部屋まで送ってるからな」

朝日奈「私達も石丸のお見舞いに行きたくてさ。ほら、行こうにも今までずっと面会謝絶の
     紙が貼られてたじゃない? 今朝は紙が外れてたからもういいのかなって」

大神「西城殿は何と言っていた?」

桑田「ああ、そういや見舞いを解禁するとか言ってたな。フツーに会いに行って平気だぜ。そもそも
    面会謝絶ってのも別に具合が悪い訳じゃなくて、単にあいつ刺激したくないってだけだし」

朝日奈「刺激かぁ。……やっぱり大和田のこと?」


大和田の名前を口に出すと、朝日奈の顔は意図せずに暗くなっていた。


苗木「うん。今はだいぶ落ち着いてるみたいだけど、大和田君の話はなるべくしないようにね」

大神「他に気をつけた方がいいことはあるか?」

苗木「あとは特にないかな。あんまり長時間いない方がいいくらい」

朝日奈「差し入れにドーナツ持ってっても大丈夫かな?」

桑田「持ってっても多分食わねえと思うぞ。あいつ最近ほとんどメシ食ってねえから」

苗木「多分……まず顔色の悪さと包帯でギョッとすると思うけど、あんまり驚かないであげてね」

朝日奈「う、うん。わかった……」

大神「……ウム」


会話が終わり再び重い空気が漂い始めたのを感じ、苗木は空元気を振り絞って明るい声を出す。


苗木「そうだ。もうすぐお昼だし、良かったら一緒に食べない?」


朝日奈「あ、食べる食べる! じゃあ、急いで着替えてくるからちょっと待ってて!」

大神「食堂で待っていてくれ」


朝日奈が慌てて更衣室に駆け込み、その後を大神が追って行く。
少し前までとの落差に、残された二人はポカンとしていた。


桑田「……急に元気になったな、アイツ」

苗木「みんなお互いに警戒しあうようになっちゃって他の人とあんまり話せないみたいだし、
    大神さんがついているけどやっぱり寂しいんじゃないかな。桑田君のことも、最初は
    ちょっと気まずそうにしてたけど、昨日くらいから普通に話すようになったよね」

桑田「ホント今バラバラだからな、俺達……」

苗木「僕がもっと懸け橋にならなきゃいけないんだけど、力不足で……」

桑田「んなこたねーよ。とりあえず明日一日凌げばなんとかなんだし、もっと気楽に行こうぜ」

苗木「そうだね」




――秘密公表まで、残り36時間。



ここまで。

画面を更新したら>>204に絶妙な合いの手が入ってて吹いた


― コロシアイ学園生活十四日目 石丸の部屋 PM8:21 ―


K(今日ももうすぐ終わりだ。モノクマは何も仕掛けてこなかった。……平和なものだな)


KAZUYAは与えられた一時の平和を噛みしめる。だが、それももうすぐ終わりだ。
横で一心不乱に医学書を読みあさっている石丸の方をチラリと見た。


石丸「心タンポナーデとは心嚢(しんのう)内に血液や心囊液が溜まったため、心臓が十分に
    拡張出来なくなり、全身から心臓への血液還流が障害されショック状態から死に……」ブツブツ

K(意外だったのが、試しに面会謝絶を解いたら十神、腐川、大和田を抜いた全員が石丸の
  見舞いに来たことだ。まあ……本気で見舞いに来たのは朝日奈と大神くらいで、江ノ島と
  ルーデンベルクはこちらの様子見、葉隠と山田は半分暇潰しのようではあったが……)

K(何だかんだ言って、やはり人望はあるのだな。本人は友人がいないことを気にしているが、
  時間さえあれば……いや、そもそも俺の記憶通りならみんなとは既に友人だったはずだ)

K「…………」


嫌なことを思い出し、KAZUYAは目を閉じて嘆息する。


K(秘密の公表は明日か。だが、奴は明日の何時にするかまでは言わなかった。
  だから、明日一杯を想定しあと一日。明日さえ無事に過ごせれば……)


石丸「先生」


ふと、石丸が本から顔をあげてKAZUYAを見ていた。何か聞きづらいことを聞く時の顔だ。


KAZUYA「どうした?」

石丸「この三日間、僕はジッとしていました。傷も少し塞がりかけてきたし、
    その……明日の朝食会には出てもよろしいでしょうか?」

K「――正気か?」


渦中の人間の一人である石丸が生徒の前に出れば、確実に事件の話が再燃するだろうし、中には
酷い誹謗中傷を言ってくる者もいるだろう。そんな場所にむざむざ出向くと言うとは。


K「一体何を考えているんだ。お前は怪我人だし、それに……」

石丸「……わかっています。先生が何を仰りたいのかは。でも、昨日も今日も何も
    起きなかった。モノクマが何か仕掛けてくるなら、明日だと思いませんか?」

K「そうだ。そんな場所にお前を連れていける訳がない」

石丸「だからこそです! みんなが危険な時に風紀委員の僕が一人安全な場所に
    隠れている訳にはいかない。それに僕の元気な姿をみんなに見せれば、
    コロシアイが起きるような重い空気を吹き飛ばせるかもしれませんよ!」


K「大和田について何か言われたらお前は耐えられんだろう?」

石丸「その件については僕から兄弟の潔白を説明します。僕の怪我は僕の失言が
    原因だったとわかれば、みんなの兄弟への印象も少しは良くなるはずです」

K「だが、しかし……」

石丸「行かせて下さい!!」

K「駄目だ! お前の主治医として許可する訳にはいかん!」

石丸「お願いします!」

K「駄目だと言って……!」


ガチャ。


モノクマ「行かせてあげればいいじゃーん」

K・石丸「!!」


振り向くと、そこにはドアを開けたモノクマが立っていた。


K「貴様ッ!」

モノクマ「もうっ、先生のイケズ~! 石丸君が行きたいって行ってるんだよ?
      朝食会だって三日も休んでるし、いい加減みんなも顔忘れちゃうよ」

K「石丸は怪我人だ! ドクターストップをかける!」

モノクマ「ま、別にいいけどね。……でも来ないと逆に大変なことになっちゃうかもよ?」

石丸「な、何だと?! まさか、みんなに何かする気では……!」

モノクマ「ま、じっくり相談して決めたら? どっちを選んでも後悔するのが君達人間なんだし」

モノクマ「じゃ、僕は帰るクマ。明日を楽しみにしてるよ~!」


パタン。


K「クッ……」

石丸「先生、行きましょう! 止められても僕は行きます!」

K「あれが奴のやり方だ! その手に乗ってはいかん!」


しかし、石丸を止めながらもKAZUYA自身迷いが生じていた。


石丸「僕は堪えます! モノクマに何を言われても絶対に堪えますから」

K「しかしな……」

石丸「それに、他のみんなはどうするのですか?! 先生がその場にいれば対処も出来ますが、
    僕に気を取られてみんなが事件に巻き込まれたら意味がないのではないですか?!」

K「…………」


確かに石丸や大和田にばかり気を取られては不味いという考えはKAZUYAの中にもあった。
霧切や舞園から話を聞く限り、一部の生徒達の様子がおかしいのはほぼ間違いない。

また、霧切からこんな話も聞いた。


K『大体状況はわかった。助かる』

霧切『それともう一つ。気になることがあるので伝えておきます』

K『何だ?』

霧切『桑田君に江ノ島さんの相手をさせていた時のことですが……彼女ドクターについて
    探りをいれてきたわ。大分警戒されているようです。何か仕掛けてくるかもしれません』

K『……わかった。気をつける。忠告ありがとう』


いよいよ江ノ島が動くのかもしれない。それは即ち黒幕が積極的に仕掛けてくるということに
他ならなかった。そういう意味では、KAZUYAもその場にいて何が起こるか監視しておきたい。


石丸「西城先生! お願いします!」

K「……わかった」

石丸「本当ですか?!」

K「だが、何もしないで出向くのは自殺行為だ。きっと奴はあの手この手で
  お前の心を傷つけようとするだろう。……そこでだ」

石丸「……何でしょうか」


KAZUYAの重い表情を見て、石丸は嫌な予感を感じていた。


K「お前は授業を受ける前に、必ず予習をして行くだろう? それと一緒だ。明日奴や他の
  みんながお前に言うだろう言葉を俺が言うから、お前はそれに対する返事を考えろ」

石丸「明日に備えた想定問答演習、と言う訳ですね……」

K「ああ。事前に覚悟をしておけば、当日いきなり言われるよりはまだマシだろうからな」

石丸「……お願いします。何を言われても僕は絶対に我慢してみせます」


KAZUYAは本日何度目かの深い深い溜息を付く。今から自分はモノクマや十神になりきって
石丸に酷いことを言わなければならないのだ。これが嘆息せずにいられるだろうか。


K「では……お前は事件がお前の失言のせいだとみんなに説明するだろう。そこで、
  風紀委員のくせにそんな失言をするなんて思いやりがないと言われたら?」

石丸「……言い訳しません。僕が至らないせいでこんな騒ぎを起こしてしまい、
    不二咲君にも怖い思いをさせ、申し訳ないとひたすら謝ります」

K「俺の言葉は嘘だ。顔の傷は一生治らないと言われたらどう答える?」

石丸「先生は外に出れば治せると仰った。僕は先生の言葉を信じます!」

K「十神辺りが言いそうだが、外に出られる保障などどこにもない」

石丸「そんなことはわからない。みんなで力を合わせればきっと脱出出来る!」

K「たとえお前の失言が原因だとしても、大和田がやったことは決して
  許されることではない。一体どう責任を取らせる気だ」

石丸「それは……兄弟が落ち着いたら僕から話をしてみんなに詫びさせる。
    僕からも謝るのでどうか許してほしいと。とにかく謝り続けます」


不謹慎な話だが、なんだか不祥事を起こした政治家の謝罪会見のようだなとKAZUYAは思った。
正確には謝罪会見の練習だが。ならば今の自分は石丸の秘書か。そういえば石丸の本来の夢は
政治家だったな、などとぼんやり思いながらKAZUYAは更に追及の手を厳しくしていく。


K「……舞園や桑田の時のように、大和田を犯罪者呼ばわりされたらお前はどうする?」


石丸の顔からサッと血の気が引き口元が引き攣った。やはりこの男は自分のことより他人のことを
言われる方が弱いのだ。だが、明日のためにもKAZUYAは容赦なくそこを攻めなくてはならない。


石丸「その時は……人が過ちを犯してしまうことはある。舞園君や桑田君も犯罪者ではないと」

K「それで納得してくれればいいが、実際は犯罪者を許すなの大合唱だろうな。
  それもモノクマに言われるだけでなく、仲間である人間達に言われる訳だ」

石丸「あ、相手にしません! きっとみんな頭に血が上っているだけなのです。
    だから……明日はとりあえず受け流して、後日冷静になって話し合いを……」

K「本当に我慢出来るのか?」

石丸「し、します! 我慢すると先生に誓ったのですから……!」


既に石丸の顔は真っ青だったが、目から覇気は消えていない。KAZUYAはその姿に
石丸が将来政治家となった姿を垣間見た気がした。願わくばそれが幻ではないこと、
そしてその時には自分の手で石丸の顔から傷が消えていることを切に願う。


K「では次に俺の責任だ。今回の事件は全て責任者でありながら率先して
  夜間外出禁止のルールを破った俺の責任だと責められるだろう」


石丸「そんな! 先生はただ頼まれただけです。先生こそ、本当に何も悪くないではないですか!」

K「……お前は何も言うな。俺が謝るからお前は横でただ黙って見ていろ」

石丸「しかし……!」

K「いいから黙れ。それが約束出来ないなら明日は行かせられん」

石丸「う、く……わかりました。黙って見ています……」

K「……そんな顔をするな。俺は元々患者のためならいくらでも頭を下げられる人間だ。
  お前は俺の患者であり、教え子でもある。頭を下げて済むならむしろ良い方だ」

石丸「も、もしそれ以上のことを要求されたらどうするんです…?」

K「どんなことでもするさ。それにあまりに無茶を言われたら苗木達が黙ってはいまい」

K「ただ俺達は、何を言われても黙って堪え謝り続けることだけ考えろ」

石丸「……はい」


しかし、高い理想を持ち人間の良心を信じているこの男にとって、それが一番難しいのを
KAZUYAはわかっていた。それに、KAZUYAはモノクマや十神、セレスを特にイメージして
想定問答を行ったが、腐川達が突然どんなことを言い出すかまでは予測しきれない。


K「さあ、まだ終わりではないぞ。問答を続けよう」


――結論を先に言うと、この練習はそこまで役には立たなかった。

何故ならKAZUYAは根が優しいのだ。どうしても、最後の最後で残酷にはなれなかった。
それに、普通の人間であるKAZUYAに悪魔と同じ発想など元より出来るはずもなかったのだ。



               ◇     ◇     ◇


最後の朝、KAZUYAは石丸の部屋の前に立っていた。生徒達が朝食会に現れる時間は
大体決まっているので、逆算すれば何時に誰がここを通るかはおおよそわかる。

カチャリ。


舞園「あ、おはようございます。西城先生」

K「おはよう」


舞園「そんな所でどうかされたんですか?」


言ってから舞園はすぐに気が付いた。


舞園「もしかして、私を待っていたんでしょうか?」

K「そうだ。実は……今朝の朝食会に石丸を連れて行くことになった」

舞園「えっ?! 本当ですか?」

K「ああ。そのことを全員に伝えて欲しいのと、君の部屋の車椅子を借りようと思ってな」

舞園「それは構いませんが、大丈夫でしょうか……?」


舞園は不安げな顔でKAZUYAを見上げるが、こればかりはどう転がるかKAZUYAにもわからない。


K「俺も最初は反対したんだが……押し切られてしまってな。それに、モノクマがどんな
  揺さぶりを掛けてくるかわからない以上、俺が現場にいた方が良いとも思ったのだ」


舞園「そうですか……あと、私からも先生に伝えておきたいことが」

K「何だ?」


舞園は昨日、桑田と霧切が口論したことをKAZUYAに伝えた。


K「そんなことがあったのか……」

舞園「霧切さんは怒っていなくて、むしろ桑田君が気まずくなってしまうことを心配して
    いました。先生から一言言ってもらえればきっと桑田君も素直になれると思います」

K「わかった。俺から伝えておく。最近の君は随分と頼りになってくれて俺も助かるよ」

舞園「……ありがとうございます。でも、今日が終わるまで気を抜かないで行きましょうね!」


KAZUYAが誉めた時、舞園は一瞬動揺したような暗い顔をした気がしたが、KAZUYAは
それをこれから起こることに対して緊張しているからだと解釈した。

そしていよいよ、KAZUYA達は緊迫の朝食会を迎えることになる。


ここまで。

>>224のコロシアイ学園生活十四日目はミスです。正しくは前の投下分と同じ十三日目

おっ、モノクマちゃん久しぶり~

スーパードクターK(電子書籍)全巻読了
K2(電子書籍)20巻まで読了
しかし、Docter Kが電子書籍で読めないのが痛っつこてっつだよ‥
もし電子で読めるのなら誰か教えなさください


石丸が大変なことになるフラグが立ちすぎてて本当に心配になる…

しかし秘密の暴露って本当なら、
モノクマ『大和田クンはお兄さんを殺しましたー!』
全員「大和田やばすぎじゃん!!」
モノクマ『次に、腐川さんは連続殺人鬼ジェノサイダー翔です!』
全員「連続殺人鬼がいるとかもう大和田なんか構ってる暇ねぇ!!」

ってなりそうなもんなんだけどな…
原作は事件あってうやむやにされただけで、普通に発表されたら身近に殺人鬼いるなんて話やばすぎる

でも腐川は十神がいる限り無闇に事件は起こさないかな?

>>239
モノクマ「おひさ~☆ やっぱりこのSSの主人公って僕だよね! ちょっと目を離すとトロトロたらたら
      つまんない日常ばっか書いちゃってさ。僕がいないとろくに話が進まないんだから」

モノクマ「って訳で、今日からしばらく僕が大活躍しちゃいまーす! 楽しみにしてね~!!」


>>243
ありがとうございます! ドクターK読んだとか面白かったという声を聞く度に
このSS書いて良かったなと心から思います。この調子でアニメ化でも…

ちなみに自分でも探してみたのですが、DoctorKの電子書籍版はないみたいですね
K2はあるのになんでだろう…やっぱり妹はちょっと無理があると思ったのかな
どうしても暗い話が多くなっちゃうけど、あのエンドは本当に壮絶で必見だと思います


もうちょっとしたら再開


― コロシアイ学園生活十四日目 食堂 AM8:00 ―


実に丸三日ぶりに石丸のよく通る大きな声が食堂に響き渡った。


石丸「やあ! 諸君、グッモーニンだ!」

「…………」

石丸「実に三日ぶりだな。諸君が僕の顔を忘れてしまうのではないかと心配だったよ。ハッハッハッ!」

「…………」

石丸「怪我のことだが、この通り体はピンピンしている。傷口が開くとまずいのでしばらくは
    安静にしなければならないが、大きな問題はない。見舞にも来てもらい、感謝感激雨霰だ!」

「…………」


全員、視線を下に向けたまま押し黙っていた。車椅子に乗せられ、顔の半分に
包帯が巻かれた石丸が空元気を出して無理に笑う姿は痛々しい以外の何物でもない。

……一つだけ空いている空席が、場の空気を更に重いものとするのに一役買っていた。


セレス「元気な怪我人ですこと。とても重傷患者とは思えませんわ」

江ノ島「アタシと違って急所を怪我してるもんね……」


葉隠「ま、まあでも元気そうでなによりだべ。命あってのものだねっていうしな!」

朝日奈「う、うん! そうそう! 生きていればどうとでもなるって!」

石丸「ウム、二人共良いことを言う! その通りだ。今日も一日元気に行こう!」


彼等が何とか冷えきった場を盛り上げようとしている中、石丸の横に立って注意深く
周囲の観察をしていたKAZUYAは、しかしモノクマの気配を感じて戦慄していた。


K(来た! 今回は一体どんな手で……!)


視線を巡らせモノクマの姿を見つけたKAZUYAは――全身から血の気を失い、茫然とした。


モノクマ「イエーイ! みんな楽しそうだねー! 僕も混ぜてよ!」

「きゃあああっ!」  「わああああっ!」  「ひぃっ!」


いつの間にか空いていた大和田の席にモノクマが座っている。


モノクマ「久しぶりにみんな揃ったからかな? あ、でも一人いないんだっけ?
      まあいいかあんなヤツ。いなくても誰も困らないもんね!」


「…………」


悲鳴の後に場を支配したのは沈黙だった。誰もがモノクマの姿を見て言葉を失う。
石丸に至っては憐れな程狼狽し、モノクマの言葉に反論しようにも声が出ないのか、
ただ口をパクパクと動かすばかりだった。仕方なく、KAZUYAが沈黙を破る。


K「――貴様、それは一体なんのつもりだ」

モノクマ「え? これのこと? イメチェンだよ! ほら、優等生の石丸君がなんかワイルドな
      外観になっちゃったから僕もマネしてイメチェンしてみたんだけど、どお? 似合う?」


モノクマの顔の黒い左側には……大きな二つの傷痕の形になるよう白いテープが
貼りつけられている。それが何を表しているかは誰の目にも明らかだった。


K「貴様ァ! ふざけるのも大概にしろッ!!!」


予想外の攻撃に思わずカッとなってKAZUYAが怒鳴ると、
モノクマは少しも悪びれずにテープを剥がしながらぼやく。


モノクマ「ちぇー、やっぱり不評かぁ。そうだよね。でっかいムカデが
      二匹顔に張り付いてるみたいで気っ持ち悪いもんねっ!!」


石丸「ッぁああ!!」

桑田「テメェエエエェッ!!」

苗木「モノクマァァァァァ!!」


あまりの暴言に桑田と苗木が椅子を蹴り飛ばしモノクマに駆け寄る。


K「いかんッ!」


KAZUYAが制止しようにも距離があって間に合わない。


大神「待て!」

霧切「いけない!」

舞園「駄目です!」


寸での所で大神が桑田を、舞園と霧切が苗木を止めた。


桑田「離せよ! コイツっ!」

苗木「こいつだけは許せない!」


K「二人共やめるんだ! 江ノ島の件を忘れたのか!」


一気に場が騒然となるが、KAZUYAが江ノ島のことを出すと生徒達は少し冷静になる。


山田「そ、そうです! 串刺しにされてしまいますぞ!」

江ノ島「アタシの二の舞になっちゃうよ!」

セレス「ここで怒るのは逆効果ですわ」

朝日奈「気持ちはわかるけど二人とも落ち着いて!」

葉隠「あ、あわわわわ!」

不二咲「ダメだよぉっ!」

桑田「く、くそぉぉっ!」

苗木「フーッフーッ!」

石丸「っ……うぐぁぁあっ……!!」

「!」


石丸が声にならない悲鳴を上げ、全員が振り向く。目に涙を溜め、痙攣しながら
尚堪えようと必死に唇を噛む石丸の肩を、KAZUYAが強く掴んで支えた。


K「石丸! 俺がついている。しっかりしろ!」

石丸「わかって……わかっています。そうだ、僕は……先生と約束した……!」


話しながら限界を超えたのか、露出している右目からはボロボロと涙がこぼれ
顔は涙と鼻水でグシャグシャになったが、それでも石丸は屈しなかった。


石丸「つ、辛くなんかないぞっ! 外に、外に出たら必ず消すと先生が約束してくれたのだ!」

モノクマ「外? 外ねぇ……まあ、仮に外に出たら治せるにしてもさぁ、脱出の手がかりなんて
      まるでないのにまだ夢を見てるの? 全く、君は教科書なんかより現実見た方がいいよ。
      どうせだから頭の中も先生に治してもらったら? ぶひゃひゃひゃひゃっ!」

石丸「っ!」


似たようなやりとりは昨晩KAZUYAと練習していた。だが、同じ内容を言っていたとしても
発言者や込められた悪意によってこうも辛さが違うのかと石丸は歯を食いしばる。


K「悪魔め……!」

石丸「とにかく、お前が何を言おうと僕は絶対に折れたりしない! みんなで必ず脱出するのだ!!」


石丸が滝のように涙を流して吠えると、それを援護するように周囲からも声が上がる。


桑田「そうだ! 出てけ!」

苗木「僕達は絶対諦めたりしない! 諦めたりなんてするもんか!」

朝日奈「帰ってよ!」

葉隠「いい加減諦めるべ!」

山田「かーえーれ! かーえーれ!」

モノクマ「…………」


石丸の決死の覇気が通じたのか、生徒達は口を揃えてモノクマを糾弾し始めた。
思わぬ猛バッシングを受け、モノクマがたじろいでいる。……とKAZUYAは解釈した。


K「もういいだろう? いくら貴様が揺さぶりをかけても無駄だ!」

モノクマ「ショボーン。つまんないのー」

K「諦めてさっさと秘密の公表をしたらどうだ? 今日まで事件は起こらなかったのだ。
  今更いくら往生際悪く粘っても、お前の望む事態になどならん!」


勢いづいたKAZUYAが秘密の公表をモノクマに迫る。しかし、モノクマは
最初からこうなることを読んでいたようで、素早く攻撃の仕方を変えてきた。


モノクマ「もう、先生ったらせっかちさんなんだから。こういうのはまずお互いの気持ちを
      十分に盛り上げてから本番に行くものでしょう? それとも早漏タイプ?」

山田「この状況で下ネタ?!」

モノクマ「ま、お楽しみは夜までオアズケってことで……」


そこでモノクマは石丸の方を見てニヤリと笑う。


モノクマ「じゃあそれまで暇だし、次は大和田君と遊ぼうかなぁ~」

石丸「! よ、よせ! 兄弟をこれ以上追い詰めるな!」

モノクマ「兄弟? まだ君はそんなことを言ってるの? 君の顔にでっかい傷を創った張本人なのに?」

石丸「あ、あれは全部僕が悪いんだ! そうだ、みんな聞いてくれ! 実は……」


だがモノクマは石丸の決死の告白すら嘲笑うように遮った。


モノクマ「石丸君が大和田君にうっかり秘密を聞いてしまったから? だから本当は
      全部僕のせいなんだーごめんなさいとでも言うつもり? バッカじゃないの!」

石丸「何だとっ?!」


モノクマ「確かにこの状況で秘密聞くとかKYなんてレベルじゃないけどさ、
      それが直接の動機なら何で大和田君は石丸君を襲わなかったの?」

石丸「そ、それは僕の失言でカッとなっても、その一瞬は抑えたから……」

モノクマ「君って本当に救いようのないバカだねぇ。君はバッチリ見てたはずだよ」

モノクマ「――大和田君が殺意を込めた目で不二咲君を睨んでいた姿をさ」

不二咲「!!」

石丸「ち、ちがっ……! あれは……」

モノクマ「全く、唯一その場にいた第三者のくせに私情で加害者庇ったりして、
      風紀委員失格じゃないの? ……まあでも、それも仕方ないか」

モノクマ「だって、認める訳にはいかないもんね? 認めちゃったら、大和田君が本当は
      君達なんて何とも思ってなかったってことも認めることになっちゃうもんね?」

不二咲「っ……!」

石丸「ち、違うッ!! 兄弟はそんな人間じゃないッ!」

K「黙れ、モノクマ!」


だが当然のことながらモノクマは止まらない。むしろエンジンを全開にして
その場を駆け抜け、嵐のように何もかもを滅茶苦茶にして行く。


モノクマ「何が違うの? だってそうでしょ? 直接の動機がなんであれ、大和田君にとって
      君達は自分の秘密やカッとなった怒りで切り捨てられてしまう程度の存在なんだよ?」

モノクマ「友達だと思ってたのは君達だけで、最初から大和田君と君達の間に友情なんてものは
      なかったんだよ。或いは、友情自体はあったとしてもちっぽけな見栄やプライドの
      ためにあっさり切り捨てられる程度の価値しかなかったんだ。反論出来るかい?」

石丸「反論だと?! あるに決まっている! お前の言葉なんてさっきから全部、全部デタラメだ!」

モノクマ「じゃあ証拠を見せてよ! 違う違うって騒いでも、結局君は僕を納得させる証拠の
      一つも出せないじゃない。僕はいくらでも証拠を出せるよ。例えば、大和田君は
      この三日間で一度でも君のお見舞いに来てくれたかい?」

石丸「!! そ……そ、れ、は……」

モノクマ「お友達が自分のせいで大怪我して入院してるのに、大和田君はお見舞いにすら
      来てくれません。へぇー、石丸君はそれがお友達のすることだと思ってるんだ?」

石丸「きっと……き、気まずいから……」

モノクマ「気まずかったら謝りにも来れないの? 大切な友達に? ふーん」

K「石丸、相手にするんじゃない! お前を刺激するのは良くないから来れなかったんだ!」

モノクマ「あ~、また始まったよ。先生のウ・ソ。この間だってみんなを騙して自分は
      夜時間外出禁止のルールを破ってたくせに、一体何回ウソつくつもりなの?」


K「俺は嘘などついていない!」

モノクマ「じゃあ大和田君が外に出てこない一番の理由を今ここで言いなよ!」

K「それは……」


KAZUYAは口ごもった。これを言ってしまえば大和田の立場は確実に
悪くなるどころか、石丸や不二咲を大いに傷つけることになるのは明らかだった。


石丸「一番の理由? 一番の理由とは何ですか、先生?!」


駄目だ。会話は全て監視カメラで記録されている。嘘をついたら自分の首を絞めるだけだ。


K「……アイツは自分が情緒不安定なのをよくわかっていて、外に出たらまた誰かを
  襲ってしまうかもしれない。だから、秘密が明かされる今日まで部屋に篭りたいと」

石丸「そんな……」

モノクマ「60点。大和田君は友達を怪我させた今でも秘密を……何かな?」


冷酷に続きを促すモノクマが本当に憎い。額から脂汗を流しながら、KAZUYAは渋々続けた。


K「……秘密を知られたくない。今だって誰かを殺してでも隠したいと思っている、と」

不二咲「ああ、大和田君……!」


不二咲の嘆く声が聞こえた。石丸の呻き声も。


モノクマ「はい、満点です。やっと正直に言いましたね。学園長のボクも大変満足です!
      ……さて、ニブい石丸君にもわかったかな? 大和田君にとっては怪我を
      負わせた君よりも自分の秘密を守ることの方が遥かに大事だってことがさ!」

石丸「ああああ……!」

K「違う! そういう訳では……!」

モノクマ「大和田君は秘密が明かされるのが怖い! だから誰か殺してでも秘密を守りたい!
      大切なはずの友達に怪我を負わせた今でもその気持ちは変わっていない!」

モノクマ「つまり、友情なんてなかった!!」

不二咲「そんなぁ……」

石丸「あ……あぁ……」


モノクマ「はい、論破論破。納得してくれたかな、みんな?」

K(クッ……どうする? 何を言っても上手く反論されてしまう。どうすれば……)

「……………………」


誰もが言葉を失った、かと思えた。だが、


朝日奈「い、いい加減にしなさいよね!」

苗木「朝日奈さん?」

K「朝日奈?」


KAZUYAにとって完全に予想外の場所から声が上がった。一体何を言うつもりなのか。


朝日奈「石丸達には確かに友情はあったよ! 私達から見ても本当に仲が良かったもん!
     あんたはそうやっていつも人を傷つけることばっかり……勝手なこと言わないで!!」


モノクマの表情が、いやモニターの向こうの誰かの口が吊り上がった気がした。

――後にKAZUYAは思う。自分が止めなければならなかったと。


ここまで。モノクマの暴走は止まらない!


話は変わりますが、今回ちょっと投下が遅れたのはちょっと準備していまして
今回の話は石丸君の顔の傷がどんなもんかわからないと少しわかりづらいかなぁと
思って、拙作ですがイメージ図を用意していました。下手ですが参考にはなるかと。

傷丸
http://i.imgur.com/pUh8lU0.jpg
包帯グルグル丸
http://i.imgur.com/lgjHs1X.jpg

顔の傷ですが、暴れたために傷口が若干ズレているのを表現しようとしたのですが、
開き過ぎですね…Kの腕が悪いからではありません。こんなに傷口が開いていたら
感染ヤバイし再縫合妥当ですよ。ちなみに、絵だとあんまり大したことないように
見えますが、実際は患部が炎症起こして腫れ上がってるし相当酷いことになってます

乙乙

イメージ図描いてくれてありがとう!
傷どれくらい酷いのか気になってたからありがたい…しかしこれは痛々しいな…

これもしかして大和田のとこの選択肢間違えたとか無いよな…?無いって言ってくれ…

>>265
もう3スレ目まで来て皆さん忘れてるかもしれませんが、仮にアウトだったとしても
Chapter2だから!まだChapter2だから!これから挽回していけばいいんですよ

…と言いつつ、1も昔とあるアニメがドロドロ激鬱展開で視聴やめてしまったことがありまして
(まあ風の噂では好きなキャラ全滅したみたいなので見るのやめて正解だったかもしれないけど)

でもストーリーが決まっているアニメと違ってこのSSはみんなで作るSSですからね!
せめてChapter4くらいまではどんなにハード展開来てもなんとか読んで頂けたらなーと思います

>>259
二枚目上手いな

>>272
ありがとうございます。


酉も変わって心機一転頑張ろう。再開します


モノクマ「おやおやぁ、どうしたのかな朝日奈さん? 急にムキになっちゃったりして~。
      舞園さんや桑田君が責められてた時は他人事って感じで見てたのにさぁ?」

朝日奈「べ、別にその二人の時だってヒトゴトだった訳じゃ……」

モノクマ「他人事だったよ。そして今は他人事じゃなくなったから慌ててるんじゃない?」

朝日奈「なによ、それ……どういうこと?!」


動揺する朝日奈に対して、モノクマは意地の悪い笑みを浮かべて答えた。


モノクマ「親友がいるのは何も石丸君だけじゃないもんねぇ?」

朝日奈「!!」

モノクマ「君は最近やけにイライラしてなかった? 今だってそう。前は積極的に
      犯罪者を庇ったりなんてしなかったのに、今回に限って変に口出しして」

モノクマ「僕がその理由を教えてあげようか?」

朝日奈「り、理由……」


なぶるような、からかうような声色でモノクマは朝日奈に話しかける。ぬいぐるみのような
愛らしい姿から発される正体不明の威圧感に飲まれ、朝日奈は声が出せなくなった。


モノクマ「君は無意識に感じているんだよ」

朝日奈(感じてる……? 感じてるってなにを?)


わからないはずなのに、朝日奈の口は無意識に動いていた。


言わないで、と。


だがモノクマはそこで止めるような優しさなど欠片も持ちあわせてはいない。


「そう――今の石丸君の姿が未来の自分だってことをさ!!」

朝日奈「っ……!!」


ガタン!と反射的に朝日奈は立ち上がった。
顔は蒼白で、いつもは愛らしい赤い唇が今は紫になってブルブルと震えている。


K「朝日奈! 聞くな! 聞くんじゃない!」

大神「あ、朝日奈……」


モノクマは牽制するように大神にチラリと視線を送る。


大神(グッ! 黙れということか……)

朝日奈「ふ、ふざけないでよ……さくらちゃんは私のことを絶対に裏切ったりしないし、
     コロシアイにだって乗ったりしないもん。そうだよね、さくらちゃん?!」

大神「……あ、ああ。勿論だ」

朝日奈(なに、今の間……?!)


親友だからこそ、大神の僅かな違和感に気付いてしまった。そこへモノクマが畳みかける。


モノクマ「そもそもさ、自分で散々言ってるじゃん。さくらちゃんだって普通の女の子なんだって。
      その普通の女の子にいつも依存して頼り切って、大神さんだって内心では迷惑だよね?」

朝日奈「や、やめ……やめてよ……やめて……」

モノクマ「相手の気持ちなんてお構いなしにさ。自分ばっかり助けてもらって、
      それって本当に友達って言えるの? 君達の気持ちって重いんだよ!」

朝日奈「お願い……やめてよ……さくらちゃんは、そんな……」


K「朝日奈、耳をふさげ! 朝日奈!!」

モノクマ「大和田君が不二咲君を襲ったのだってそういう理由なんじゃないの? 最初は頼られて
      いい気持ちになってたけど、いつもいつも頼られて本当はうっとうしかったんだよ!」

朝日奈「や、やめ、やだ……」

舞園「朝日奈さん! 聞いちゃ駄目です!」


苗木はもう大丈夫だと判断した舞園が急いで朝日奈の耳を塞ごうとするが、
錯乱した朝日奈が抵抗するためになかなか上手くいかない。


モノクマ「相手を思いやってるフリして本当は自分を守ってるだけなんじゃないの? 自分の
      保護者がいなくなったら困るから気を遣ってるポーズをしてるだけなんでしょ?」

朝日奈「ち、違う! 違う!! 私は、そんなつもりじゃ……!!」

大神「(駄目だ、もう見ていられぬ)モノクマ、いい加減に……」


だが大神が遮る前にモノクマはトドメを刺した。


モノクマ「友情って便利な言葉だよね! 綺麗な言葉でごまかせば相手は簡単に騙されちゃうもん!
      自分自身だって騙せちゃうから、相手をいくら苦しめたり傷つけたりしても全然平気だし!」


朝日奈「やめて、もうやめて……やめてええええええええええええええええええええっ!!」


食堂に朝日奈の絶叫が響き渡る。だが、誰も彼女に救いの手を差し伸べられなかった。
何故なら、この言葉が突き刺さったのは朝日奈だけではなかったからである。


不二咲「大和田君、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

石丸「許してくれ……許してくれ、兄弟ィィィ!」

K「しっかりしろ、お前達!」

モノクマ「今更謝ったって遅いよ! 結局君達にあったのは友情じゃなくて独りよがりな依存だけ!
      本当は対等な友達じゃなくて自分に優しくしてくれる人が欲しかっただけなんだよ!!」

朝日奈「違う! 違う違う違う違うッ!」

霧切「相手にしてはいけないわ! みんな落ち着きなさい!」

モノクマ「まあ認めたくないなら認めなくてもいいけどね。それで事件が起きようが
      君達自身の問題だし。今まで通り自分の気持ちを押し付ければいいじゃーん」

朝日奈「押し付け……私がしていたのは依存……」

石丸「僕の存在は、兄弟にとって重かっただけだというのか……」


桑田「このヤロオオオオオオオ! 好き放題言いやがって! ブッ壊してやる!!」

大神「桑田!」

K(不味い! 桑田がもう限界だ!)

K「モノクマ! もう言いたいことは済んだだろう。とっとと出て行け!」

モノクマ「はいはい。じゃあ一人ぼっちの大和田君の所に行きますよ、と」

石丸「ま、待て! 行くな! 行くんじゃない!」

モノクマ「んもう! 行けって言ったり行くなって言ったりどっちなんだよ!
      今度こそ本当に僕は行くからね! バイバーイ!」

石丸「待て! 行くなと言ってるだろうっ! 待てええええ!」


立ち上がりかけた石丸の肩をKAZUYAは無理矢理押さえる。


K「石丸! 落ち着け! 大和田の様子は後で俺が見る。今はお前達が
  落ち着かないと俺もどうしようも出来ん!」

石丸「僕は大丈夫です! 僕は大丈夫ですから早く兄弟の元に!」


「――バッカみたい」


思わず全員の視線が声の主に集中する。それは、今までずっと押し黙って俯いていた腐川だった。


桑田「ああ?! バカってなんだバカって!」

K「桑田! 落ち着け!」

石丸「腐川君……何が、馬鹿なのかね? 確かに僕の気持ちは重かったし押し付けもあったかも
    しれない。だが、だとしたら尚更兄弟は悪くないではないか! 助けに行かなければ……!」

腐川「そういうのが全部馬鹿だって言ってんのよ! 兄弟? 所詮赤の他人でしょ?」

石丸「違う! 僕達は義兄弟の契りを交わした……」

腐川「その兄弟は自分が怪我をさせたあんたの見舞いにも来なかったじゃない。
    いつまでお友達ごっこしてんのよ。いい加減気付いたらどう?」

石丸「…………」


いつもは自信なさげにどもり気味に話す腐川が、今日に限って
やけに流暢に話す。その瞳にはハッキリと影が映っていた。


腐川「アタシは……自分が友達だと思ってた人間から裏切られたことなんて、何回もあるわよ」


石丸「!」

K「……!」

腐川「元々クラスの鼻つまみ者だってことは知ってたけど、アタシが賞をとってから殊更に
    露骨になった。嫌いならハッキリ言えばいいじゃない。いつも陰でヒソヒソ話して……」

腐川「聞こえないと思ってるの? 知らないとでも? そのくせ表向きは友達のふりして。
    アタシの教科書や上履き隠したり靴に画鋲入れたりさ。知らないと思ってんの?」


バン!と両手で机を叩いて腐川は立ち上がった。


腐川「アタシは全部知ってんのよっ!!!」


――シィィィン


「…………」

「…………」


鬼気迫るその表情に、誰もが息を呑む。


見たことのない顔だった。いつものヒステリックな表情ではなく、深い怒りと悲しみが込められたいた。


腐川「ふっふふ……結局、真の友情なんてものは存在しないのよ。美しい恋愛も崇高な友愛も
    作家が書く物語の中だけのもの。みんな天才小説家の友達っていうステータスが
    欲しくてアタシを利用してただけ。自分が一番大事。そのために利用する……」

腐川「友達だけじゃない。アタシが学校に行かなくなっても……親は何も言わなかったわよ。
    アタシに興味なんてないから。アタシを利用出来るかどうかでしか見てないから」

腐川「どんなに綺麗事言ったって、人間なんて所詮自分勝手な生き物なのよ。わかった?」

K「……腐川、それは違う! 今まで君の周りにいた人々がどうだろうが……」

腐川「大人のあんたが一番よくわかってるんじゃないの、西城?」


KAZUYAの言葉を遮り、腐川はまっすぐに見つめてきた。
思えば、腐川と目を合わせて正面から話すのは始めてかもしれない。


K「…………」

腐川「特にあんたは医者だから、人間の醜い姿なんてそれこそ腐るほど見てるはずよ」


腐川「本当はあれだけ自分が色々してるのに反発するアタシ達のことも嫌いなんでしょ……?
    純粋に誰かのためなんかじゃなくて、自分が感謝されたいから頑張ってるだけなのよ」

K「違う」


落ち着いて、明確に、断固としてKAZUYAは否定した。
だが、そんな言葉一つで腐川の冷えきって凍りついた心を溶かせるはずがない。


腐川「何を言おうがアタシは信じない。あんたもそこの石頭も他の奴らも結局みんな偽善者なのよ!」

K(……腐川の異常なまでの人間不信や猜疑心は過去の人間関係に原因があったのか。
  俺がもっと早く気がついてフォローしてやっていれば……)


悔やんでも遅い。そして、最悪のバトンを渡されて王者が舞台上に堂々たる登場を果たす。


十神「フン、腐川にしてはなかなか良いことを言うじゃないか」

腐川「びゃ、白夜様……!」

十神「貴様が今までさえずってきた気持ち悪いどの言葉よりも俺の胸に響いたぞ」

腐川「お、お褒めに預かり……こここ、光栄ですぅ」

十神「愛、正義、友情……愚民はいつもそういったありもしない抽象的なものを絶対視する。
    フン、まるで宗教だ。自分に自信がないからそう言うものを拠り所にするのだろう」


いつも他人を見下している十神だが、今回はいつも以上に冷めた表情で淡々と話す。
その瞳に映っているのは石丸とKAZUYAだった。二人の顔を見据えながら、十神は続ける。


十神「俺は自分しか信じない。何故なら自分だけが百パーセント俺が理解出来る存在だからだ。
    自分は絶対に俺を裏切らないし、俺も自分自身を裏切ることはないからな」

十神「石丸、お前はさっきこう言ったよな? 自分が失言したから事件を引き起こしたのだと。
    それはつまり、貴様がありもしない友情を盲信したから事件を引き起こしてしまったと
    自分で白状しているのと同義ではないのか?」

石丸「あ……」

十神「モノクマの言った依存もそうだが、本当は友情や大和田を心から好きな訳ではなくて、
    それらを盲信している自分が好きなんだろう? 綺麗なものを好きな振りをすれば、
    自分自身も綺麗だと錯覚出来るからな。貴様は心の底から偽善者なんだよ!」

石丸「あ……あ……!」


石丸は頭を抱え、目に見えて錯乱し始めた。


K「十神! それ以上石丸を追い詰めるな!」

十神「いい加減自分の間違いを認めたらどうだ? 貴様の顔に刻まれたその醜い傷が何よりの証だ!」

石丸「あ、あ……ああああっ……!」

K「とが……!」


「ざっけんなてめええええええっ!!」


バッ! ガシィッ!


大神「しまった!」

K「いかん! 桑田、よせっ!」


桑田はモノクマが去ったことで力が緩んでいた大神の手から一瞬で飛び出ると十神に掴みかかった。
慌てて大神が二人を引き離そうとするが、桑田の強靭な握力は十神の襟首を掴んで離さない。


十神「このォッ! 汚い手を放せ愚民がッ!」

桑田「誰が放すかこのクソボケウンコ野郎ォォォ!」

腐川「びゃ、白夜様! 放しなさいよ、このバカ!」

石丸「……………」


その騒動の最中、石丸は無言で立ち上がり食堂から走り出てしまった。


K「石丸!」

霧切「私が追うわ! ドクターはこちらを!」

舞園「私も行きます!」


K「すまん、頼む!」


霧切と舞園が石丸を追って食堂から駆け出した。


K(クソッ! 追い掛けたいのは山々だが、今は桑田を止めねば……)


正直、十神がどうなろうがKAZUYAは全く気にしていなかった。いい加減堪忍袋の尾が
切れそうだったし、ここで十神が殴られたとしても自業自得だと思われるだろう。
……だが、桑田が殴るのはまずい。ただでさえ殺人犯の汚名を負っているのだから。


K(これ以上他の生徒の心証を悪くさせる訳にはいかん!)


恐らく激怒した桑田を止められるのはKAZUYAだけだろう。現に、大神ですら
怪我をさせずに引きはがすのは難しいのか、必死な形相で桑田の右腕と体を掴んでいる。


桑田「いい加減に! ほんとにいい加減にしろよテメェ!!」

K「桑田! やめろ!」

桑田「イヤだ! 今回だけはぜってぇ許せねぇ!」

K「離すんだ!」


桑田「はなさねえ!」

苗木「桑田君、駄目だ!」

江ノ島「え、なんかヤバくない?」

葉隠「ちょ、桑田っち! 落ち着けって!」


葉隠が十神を、大神が桑田の体を押さえKAZUYAが四苦八苦して桑田の手を引きはがす。


桑田「はなせよ! いっぺんこいつをぶん殴らなきゃ気がすまねえ!」

K「不二咲! すまないが桑田を部屋まで連れていってくれないか?」

山田「あ、危ないですぞ! 不二咲千尋殿が怪我をしてしまいます!」

不二咲「大丈夫。僕、やります! 桑田君、行こう。ね?」

桑田「うっぐぐ……」


不二咲が小さな手で桑田の手を掴むと、流石に小柄な不二咲では怪我をしかねないと
わかったのか桑田は大人しくなる。だが、その目はいまだ燃えるように十神を睨んでおり、
KAZUYAが間に入って二人を外へ促した。


K「早く行くんだ!」

不二咲「桑田君、行こうよぉ」

桑田「十神、覚えてろよ……!」

十神「フン、負け惜しみだけは一流だな」


チッ!と盛大に舌打ちをして、桑田は不二咲と共に食堂を去って行った。
だが今度はKAZUYAが十神に相対する番である。


K「十神……何故石丸にあんなことを言った! 理由によっては俺が容赦せん!」

十神「俺は思ったことを言っただけだ。貴様に俺の発言を制限する権利でもあるのか?」

腐川「そ、そうよそうよ! 白夜様は悪くないわ! 大体、一番悪いのは大和田でしょ?!」

K「…………」

K(確かに、事の発端は大和田だし彼等の言い分にも一理ある。だが……)

K「その通りだ。だがだからと言って傷ついている人間を追い詰めて良い理由にはならん!
  もしこれが原因で石丸が早まったことをしたら、お前は責任が取れるのか?!」

十神「責任? 責任だと? ククッ。ここは人殺しを推奨されている空間だぞ? 自分の
    手を汚さずに一人ゲームから降ろせた。むしろ俺としては好都合だ。馬鹿らしい」

K「これはゲームではない! 現実だ!」

十神「現実だからこっちも負けられないんだよ……! そんなこともわからないのか!」


炎の塊のような瞳と氷の刃のような瞳がぶつかり合い、無言のまま二人はしばらく睨み合う。


K「…………」

十神「…………」

苗木「先生、今は石丸君を追いかけた方が……」

K「……そうだな」


KAZUYAはまだ十神のことが許せていなかったが、苗木がおずおずと
提案してきたのでこの場は怒りを収め、石丸捜索へと向かうことにした。


苗木「みんなで手分けして探そう!」

セレス「全く、世話のかかる方ですわね」

山田「探す気ゼロのあなたがそれを言いますか……」

江ノ島「ちょっと! 今は非常事態っしょ! ちゃんと探しなさいよね」

葉隠「まあ、霧切っち達が追いかけていったから最悪のことはねえだろ。それより……」


全員の視線の先には、生気を失って微動だにしない朝日奈と不安げに彼女を見る大神がいた。


朝日奈「…………」

大神「朝日奈……」

K(こちらはこちらで重傷だな……石丸と大和田の件が落ち着いたら即刻フォローしなければ)

K「すまない、大神。朝日奈のことも心配だが、今は君に頼んでもいいか?」

大神「構いませぬ。朝日奈は我に任せ、早く石丸の元へ行ってやってくだされ」

K「すまない。それではみんな、手伝ってくれないか。一応居場所に心当たりはあるんだが」

霧切「その必要はないわ」


声のする方向を振り向けばそこには霧切がいた。


苗木「霧切さん! 石丸君は?」

霧切「舞園さんが見張ってくれているから大丈夫。……それに、どうせ私達では
    手が出せない場所だから結局ドクターのことは呼びに来たでしょうけど」

K「あそこか……」


ここまで。

桑田がだんだん強化剥がれて来てね?ww
友情云々でさらっといい事言うかと思ったらキレた

どっちかって言うと朝日奈と大神が原作より弱体化すらしてるように見えるから、安価で選ばなすぎた結果じゃない?

安価回数限られてるし全員と会いつつっていうのほんと難しいよなあ
ところでゲームオーバーになったらコンテニューとかあるんですかね(チラッ

鋭いレスがたくさん来てるな。いつも参考になります

>>299
>友情云々でさらっといい事言うかと思ったらキレた
悲しいかな。反論したくても出来なかったのですね。この時点ではKAZUYA含め誰も大和田の
秘密を知らないし、正直いくら秘密が大事でも不二咲を襲うとか今もまだ誰かを襲いそうとか
桑田達も内心ではありえないと思っているので、大和田を庇いきれなかった事情があります

それにモノクマと十神は常に理論で語っているので、感情論で反論したらどうなるかは朝日奈を見たら
一目瞭然ですし、十神については前々から苛々させられていたのでいい加減我慢の限界だったのでしょう

>朝日奈と大神が原作より弱体化すらしてるように見える
Exactly(その通りでございます)。
・原作と違って前科組が残っているせいで生徒間に見えない派閥が生まれてしまっている
・大和田が不二咲を襲ったことにより、たとえ相手が友人でも事件が起こるという認識が出来た

この緊迫状況でモノクマが秘密の公開を延長したことにより、派閥に入っていない生徒達は孤立
→朝日奈はいやでも大神にひっつかざるを得ないので、依存という言葉がこたえてしまったのですね
仲間になっていれば展開が変わっていたでしょう。この辺については本編で後々詳しく書きます。

あ、間違えて上げちゃった。スマソ
最近本編進めるのに精一杯になって前スレのエピ0をすっかり放置してたので
しばらくそっちを進めます。こっちはちょっと待っててくださいね

>>300
モノクマ「まったくこれだから最近の子供は。人生はゲームじゃないんだよ? ゲームオーバーに
      なったからって簡単にコンティニュー出来るほど世の中は甘くないんだよ!」

ウサミ「……でもこれSSでちゅからね。1は善処しますとのことでちゅ」

モノクマ「要はゲームオーバーになんなきゃいいんだよ!」

>>312
クラスメイト時代も親友だったかどうかはわからないけどね
写真だけ見ると大和田は桑田ちーちゃんと仲良さそうにしてたし

センセーッ!!
どこぞの風紀委員は家庭環境の性で空気が読めない男ですが、学ぶ環境を整える事に全力に取り組んでます!
どこぞの暴走族は兄弟友人関係が不良で血の気が多いですが、都道府県番長と拳を交えてマブダチになった熱い漢です
どこぞの御曹司は敗者を踏み台にする事をなんとも思ってませんが、踏みしめた重みは誰よりも自覚してます
どこぞの殺人鬼は人殺しですが、記憶を失う前の写真では楽しく学園ライフをエンジョイしてたようです

どこぞの占い師は3割占いが当たるスゴイ奴ですが、友好を深めた級友をセミナーに参加させる葉隠です!!

いいんだ俺、楯子ちゃんにパイゾリしてもらうから‥

前スレにエピ0の中編投下しておきました。それにしても、いやぁ…
やはりというかなんというか、やっぱりモノクマが出ると盛り上がりますね

モノクマ「当然だよ! 僕がこのSSの救世主だからね!」

>>316
希望ヶ峰でも実は石丸ぼっち説とか1の心がえぐれそうになるのでやめてください!
ほら、写真では石丸君はちーたんと並んでることが多いから、ちーたんと仲の良い大和田君とも
普通に仲が良いということでいいじゃないっすか! いやほんと、マジで

>>330
K「俺の専門外だッ!!」

>>331-332
このスレは超健全なスレなのでえっちぃのは禁止です
あとクズを葉隠と呼ぶのも禁止です


今日は仕事休みなんで、いつもより早いけど投下


― 男子更衣室 AM8:51 ―


食堂から逃げ出した後、石丸清多夏はあの忌まわしい事件の現場に来ていた。

あの夜から三日も経ったからか、血の跡は全て綺麗に消されている。だが、壁にかけられた
鏡には事件の際の大きなヒビ割れが残っており、ここで惨劇があったことを見る者に示していた。
苗木の部屋はいつの間にか綺麗にされていたのに、ここだけ残したのは間違いなく当てつけだろう。


石丸「…………」


割れた鏡に、自分を映す。そこには無力でミジメな自分の姿が映っていた。


石丸「っ!」


石丸は乱暴に顔の包帯を外し、再度鏡を見た。モノクマや十神に醜いと揶揄された、
大きな顔の傷が目に入る。未だ炎症が引かず腫れあがり、動いたために創面がズレて至る所から
赤い物が微かに見えていた。顔を触れれば黒い糸に指が当たり、凸凹とした感触を与える。


「…………」


ぽろぽろ……


「うううっ……!」


ボロボロボロ……


「うああああああああっ!!」


二つの眼から幾筋も涙が溢れ、いつしか滝のようにとめどなく流れていた。床にうずくまり、
激しく慟哭する。傷が出来たから悲しいのではない。実の所、石丸は顔に傷が出来たこと自体は
そこまでショックではなかった。何故なら、傷は消すことが出来るとKAZUYAが言ったからだ。
石丸は尊敬するKAZUYAのことを愚直なまでに信じていたし、その言葉を心から信頼していた。

では何が石丸の心を深く傷つけたのか。


石丸「僕は……馬鹿だ……大馬鹿者だ……!」


傷を見るたび、存在を意識するたびに凶行に走る大和田の姿が脳裏に浮かぶ。

友情などないと、自分が信じていたものが否定されたことが何よりも悲しかった。
自分の至らなさや盲信が、友人を殺人犯にしてしまったのが許せなかった。



―友達が出来たとのぼせ上がって、僕は相手の気持ちなどこれっぽっちもわかっていなかった!

―僕がしてきたことは、ただ相手に依存してきただけだったのだ!

―僕の重い気持ちのせいで、兄弟は今までどれほど辛く苦しい思いをしたのだろうか……

―これだけではない。いつだって僕は独りよがりで自分を押し付けてばかりだった。

―僕は自分勝手で、思いやりがなくて、一人では何も出来なくて、その上周りの足を引っ張ってばかりで……


僕がここにいる意味はあるのだろうか――


「…………」


石丸は目の前の鏡を見た。首の傷が開きかけているのか、包帯が微かに赤くなっている。
もう一度、この鏡の破片で一思いにその傷を裂いてしまえば、今度こそ……

そこまで考えて、扉が開く音がした。視線をやるとそこにKAZUYAが立っている。


K「やはり、ここだったな」

石丸「…………せん、せぃ」


震えながら、搾り出すように自分を呼ぶ石丸の姿を見てKAZUYAは何を言えば言いのかを
必死に考えた。しかし、本当に深く傷ついた人間をどう慰めればいいのだろうか。
顔の傷は消せる。だが、今傷だらけで真紅に染まっているのは石丸の心なのだ。

――心にどうメスを届ければいい?


K「戻ろう。みんな心配している」

石丸「…………」


しかし石丸は膝をついたまま立ち上がらない。ただ背中を震わせて泣いていた。
KAZUYAは屈むとその肩に手を乗せ、優しく背中をさすってやる。


K「自分が、嫌いか?」

石丸「…………」


石丸は顔を上げずに頷いた。


K「自分なんていなくても良いと思っているな?」

石丸「…………」


再び石丸は頷く。


K「――そうか」


三日前、KAZUYAは自棄を起こす石丸を怒鳴りつけた。奮起してもらいたかった。
……だが、今はもうそれを望める段階をとうに超えてしまっているのは明らかだ。

KAZUYAが黙ってしまうと、あとは石丸の嗚咽だけが広い部屋に響いた。


K(石丸は、重傷だ……だが、俺は何としてもお前を助けねばならん)


それは医者としての義務感か、保護者としての責任か、それとも。


K(いや、救ってやりたいのだ――)


KAZUYAは石丸の横にそっと腰を下ろし、その肩を無言で抱く。思えば、石丸はいつも人に
飢えていたのだ。だから一人になることを極度に恐れ、折角出来た友人が去っていくことに
恐怖している。お前は一人ではないと最も効果的に伝えるためには、人の温もりが一番だろう。

そんなKAZUYAの温かさが伝わったのか、石丸は少しだけ落ち着いたようだった。


K「俺は、ずっとお前を見てきた」


――KAZUYAの魂を懸けた説得が始まる。


K「覚えているか? ここに来たばかりのことを。俺はモノクマに内通者の疑いを掛けられ、
  孤立していた。訳も分からず不安だったのは何もお前達だけじゃない。俺だってそうだ」

K「そんな俺に、お前は自分から積極的に話しかけてくれたな。……俺はとても嬉しかった」

石丸「…………」

K「シャワーを借りに行った時、男同士の裸の付き合いをしたのを覚えているか? その後二人で
  色々と深い話をしたな。事件を防ごうと共に誓い合って、何度も一緒に校舎の見回りをした」

石丸「…………」

K「それから、こんな状況にも関わらずお前は暇を見つけては俺の所に熱心に勉強に来ていたな。
  お前ほど努力家で自分に厳しくて、何事にも一生懸命なやつを俺は知らん」

石丸「…………」

K「確かにお前は類を見ない不器用な奴だし、何度も失敗したり空回りしていることもあった。
  だが、それは俺だって同じだ。お前達から見れば俺は強くて立派な大人かもしれんが、
  ここに来てから俺はいくつもミスを犯してしまった。今だって色々後悔している」

K「だがそれは仕方ないのだ。人間なのだから失敗したり欠点があるのはどうしようもない」

石丸「でも……でも僕は、何度も、何度も同じミスをして……」

K「前より減ったさ。お前が言ったんじゃないか。自分には才能はないが努力があると」


しかし、ここで石丸は予想だにしない名前を出した。


石丸「十神君は……」

K「十神? 十神がどうしたんだ?」

石丸「……彼の言っていることは、全て正しいのです」

石丸「僕は……才能がないから努力を、友人がいないから友情を……そうやって、
    ただ自分が持っていないものを盲信して縋り付いているだけに過ぎない……」

K「…………」

石丸「十神君の言っていることは、言い方は悪いけれどいつも正しい。倫理的に
    おかしいことも多いですが、それが今僕達に求められているものですし……」

石丸「十神君は現実を受け止めて、冷静に正しいことを判断することが出来る。僕はどうしても
    自分にとって受け入れがたい現実を受け止めることが出来ず、感情のままに動いて何度も
    間違える。……やはり、凡人の僕は天才の十神君には勝てないのでしょうか?」

K「そんなことはない」

石丸「僕もずっとそう思ってきました! 才能にあぐらをかいている天才などというものに
    努力という確固たる実力を持つ僕が負ける訳はないと……ですが、この間話したのです」

K「話した? 十神とか? 一体何を……」

石丸「……彼は、あの傲慢な態度とは裏腹に大変な努力家のようでした。むしろ、自分に自信が
    あるからああなのかもしれません。……努力する天才に、凡人はどう勝てばいいのです?」


石丸「元々才能のある天才が努力してしまったら、もう凡人に勝ち目などないではないですか……」


弱々しく縋りつく石丸に、KAZUYAはここぞとばかりに力強く語る。


K「本当に大切なことは勝ち負けじゃないだろう! 確かにアイツの発言は正しいことも多いし、
  俺も正直耳が痛い時がある。――だが、あいつの周りに腐川以外の人間はいるか?」

石丸「……!」

K「俺はお前のことが好きだぞ。俺だけじゃない。舞園と桑田はモノクマになじられた後様子を
  見に来たお前にとても感謝していた。他のみんなだってお前の見舞いに来てくれたじゃないか」

石丸「でも、きょうだ……大和田君は見舞いには来ませんでした。本当に、情緒不安定だという
    理由だけなのでしょうか……? 冷静に考えると、たかが秘密でおかしくはないですか?」

石丸「僕は、親友を自称しながら彼が何を考えているのか全く理解出来ない……」

K「大和田が見舞いに来なかったのはお前がどうでもいいからではない。あいつは怯えているのだ」

石丸「怯え……?」

K「お前には言わなかったが、俺は毎日密かに大和田と会って話をしていた。俺もまだ内容は
  聞かされていないが、あいつの秘密は亡き兄と交わした自分の命よりも大事な秘密だそうだ」


K「だから友人を傷つけていいとは言わないが、死んだ人間との約束は重い。生きている人間と
  喧嘩しても後で謝れば済むが、死んだ人間に対して出来ることはないからな……。あいつは
  兄との約束に縛られ、ともすればまた誰かを傷つけてしまうのではないかと怯えている」

石丸「兄弟……」

K「ただ大和田はこうも言っていたぞ。許されるなら、お前とまた以前のような関係に戻りたいと――」

石丸「!!」

K「親友だから、家族だから隠し事がないとか何もかも理解し合えるとかそんな関係は有り得ない。
  時にすれ違い喧嘩しぶつかり合い、そうやって時間をかけてお互いを理解していくものなのだ。
  ……いや、それでも完全に理解することは出来ないだろう。俺達は違う人間なのだから」

K「それ自体は少しもおかしいものじゃない。だから人は信じるのだ! 盲信ではなく信頼によって」

石丸「信頼……」

K「大丈夫だ。今は周囲の雑音が大きすぎて互いの声が聞こえていないが、心は今も繋がっているさ」


そしてKAZUYAは渾身の力と熱い想いを込めて、叫んだ。


K「俺を信じろ!!」


石丸「うう……ふぐぅっ……ひっく……へっく……」


石丸はKAZUYAの手を強く握りしめ、しゃくりをあげて泣き始めた。


K「――人は弱い」

K「悲しいかもしれんがこれは事実だ。俺だって、お前達を守るという信念がなければ
  折れていたかもしれん。お前が今冷静ではないように、他の生徒達も冷静ではないのだ」

K「何でもお前が背負い込むのではなく、過ちを犯した大和田の弱さを受け入れてやれ」

石丸「さいじょ、せんせぃ……ううぅ……ぐずっ……」


泣きすぎて上手く喋れていなかったが、確かに石丸は頷いた。KAZUYAはまた背中をさすってやる。


K「立てるか? 無理ならもう少しここにいるが」

石丸「だい、じょうぶ……です」


KAZUYAは傍らに落ちていた包帯を拾い、石丸の顔に再び巻き直して立ち上がらせた。


K「お前に今必要なのは休息だ。薬を出すから今日一日は部屋でゆっくり休め」


寝てしまえば、もうモノクマからの干渉を受けなくて済む。今朝の感じではモノクマは
往生際悪く今日一杯秘密の公開を伸ばすつもりだろうから、夜まで寝かせてしまおう。
あとは秘密の公開さえ終われば、明日には大和田が会いに来てくれるはずだ。


K(何とか、繋げた。危ない所だった……)


KAZUYAの優しさと包容力でぎりぎり石丸の精神を繋ぎ留めることが出来たが、
それは一本の糸のような頼りない存在だった。


K(まさしく蜘蛛の糸……! ほんの些細な衝撃で切れ、一度切れたら地獄へ真っ逆さまだ)

K(細心の注意が必要だな……)


KAZUYAが石丸の体を支えて二人で部屋に戻る。
途中、階段の前で間の悪いことに十神と腐川に出くわした。


「…………」


ギロリとKAZUYAが目で威圧したため二人は何も言わなかったが、
すれ違いざまに十神が石丸だけに聞こえるよう囁いた。


十神「無様だな」

石丸「……!」


石丸は目を伏せ、KAZUYAの服の裾を無意識に掴む。


腐川「…………フン」


腐川は二人に目も合わせることはなく黙って十神の後を追って行った。


・・・


KAZUYAの説得は一見上手く行っていた。いや、上手く行っていたのだ。

しかしモノクマの放った言葉は毒草の棘の一刺しのように、傷口は小さいものの
その毒は内部に深々と広がっていき、生徒達の心を腐食させていっていた。



『依存』――これほどモノクマにとって都合が良く、絆を簡単に否定出来る言葉もない。


石丸(ああ……僕は兄弟に依存して、今度は西城先生に依存し始めている……)

石丸(僕は、僕は一体いつになったら……)


石丸の中に広がった闇は、未だ晴れない。



               ◇     ◇     ◇


―― 一方、その頃。


大和田「…………」

舞園「…………」


大和田はモノクマではなく、舞園さやかと対峙していた。


ここまで。


― 大和田の部屋 AM9:04―


大和田は檻の中の猛獣のように落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりしていた。


大和田(もう、朝食会が終わってだいぶ経つ……そろそろアイツがやってくるはずだ)


アイツとは勿論モノクマのことである。KAZUYAと何度も話しシミュレーションもしたが、
本当に自分はモノクマの揺さぶりに堪えられるか、大和田の心臓は今にも破裂しそうだった。


大和田(来るんじゃねぇ……来ないでくれ……)


既に額から尋常でない汗を流し悪寒すら感じる中、突然インターホンが鳴った。


大和田「来た! …………いや」


ビクリと反応するが、待てども待てども扉は開かない。そもそもモノクマなら
自由に扉を行き来出来るのだから、インターホンなど鳴らす必要がない。


大和田(誰だ? 先公か? 不二咲か?)


KAZUYAなら開けたいがそれ以外の人間だとまずい。悩んでいる間に扉の下から一枚のメモが入る。


大和田「これは……は?! 舞園? なんでまた……」


メモにはシンプルに『大事な話があります。開けてください。舞園』とだけ書かれていた。


大和田(なんで舞園が俺に会いに来るんだ……?)


舞園はこの監禁生活の実に半分以上を入院していたし、最初の三日間も挨拶くらいしか会話を
したことがない。硬派を気取る大和田としては桑田のようにアイドルだからと鼻の下を伸ばしたく
なかったし、アイドルとどんな会話をすればいいのかわからなくて内心遠慮していたからだ。


大和田(舞園が俺に会いに来るなんておかしい。十中八九ニセモンだろ。じゃあ誰がこんな真似……)

大和田(……そうか、十神! アイツだな! 舞園の名前をかたって俺を殺しに来たのか!)


メモを見ながら一瞬だけ、殺されればもう楽になるのだろうかと大和田は考えた。
秘密は守れるし、石丸と不二咲に対しての贖罪にもなるし、何も困らないではないか。


大和田(……なに考えてんだ俺は! 明日になったら兄弟達に会ってちゃんと謝るって
     先公と約束したじゃねえか。また男の約束を破るつもりか?)

大和田(今俺が死んだら兄弟が立ち直れなくなるだろうし……第一、十神に殺されるのはシャクだ)


大和田「へっ、ちょうどムシャクシャしてたんだ。アイツは前から気に入らなかったし、
     二度とナメた口きけねえようにここいらで一発シメてやるか」


指をポキポキと鳴らし息を整えると、大和田は一気に扉を開けて相手に殴りかかった。しかし、


大和田「オラアアアアアアアッ!」

舞園「きゃっ!」

大和田「ァアッ?!!」


扉を開けた瞬間、人違いに気付いた。体格が違って本当に良かったと心から思う。
十神と身長の近い葉隠だったらきっと殴ってから気が付いたはずだ。


大和田「あ…………ま、舞園?」

舞園「はい、そうですけど……」

大和田「……十神は?」

舞園「十神君ですか? さっき食堂を覗いたらまだいましたけど……」


お互いの間に気まずい空気が流れる。


舞園「! あ、もしかして十神君が私の名前で呼び出したと思ったんですか?」

大和田「お、おう。てっきり俺を殺しにきたのかと……驚かせて悪かったな」

舞園「いえ、大丈夫です。そうですよね。いきなり私が来たら驚きますよね」

大和田「そうだ。なんでまたお前が俺の所に来たんだ? 一体なんの用だ?」

舞園「少しお話がしたくて……中に入ってもいいですか?」

大和田「は……はっ?! ここでいいだろ。というか、俺は話すことなんてねえ! 帰れ!」


人と会うとまた襲い掛かってしまうかもしれない。それを危惧した大和田は
すぐに扉を閉めようとしたが、舞園が半身を中に入れるのが先だった。


大和田「どけ! 挟まるぞ!」

舞園「どきません。嫌だと言っても無理矢理入らせてもらいます!」


清楚なアイドルだと思っていた舞園の強引な姿に大和田は驚くが、
よくよく考えたら意志の強さは最初の事件の時から既に垣間見えていた。


大和田「俺はな! 自分でいうのもなんだが今は危ねえんだ! 怪我させるかもしれねえぞ!」

舞園「大丈夫ですよ。大和田君は女性には絶対暴力を振るわないんでしょう?
    現に今だってちゃんと止めてくれたじゃないですか」

大和田「たまたまだ! 出てけオラっ!」


しかし舞園の力は思ったより強く、力ずくで押し出すのは可能だがかえって
怪我をさせかねない。結局、大和田は舞園に押し切られて彼女を部屋に入れた。


大和田「俺になにを話しにきたってんだ……それを言ったらソッコー出てけ」

舞園「そう焦らないでください。私がここにいればモノクマも来ないかもしれませんよ?」

大和田「あ、オメーもしかしてそのために……」

モノクマ「そんなことはないけどね!」バターン!


モノクマは颯爽と現れて二人の間に割り込む。


大和田「モ、モノクマ?!」

モノクマ「さあ、今日はバンバン行っちゃうよ! 今日の僕はとっても調子いいもんねー!」


舞園「それでお話なんですが……」

モノクマ「あれ? ちょっと! 無視? 無視って酷くない?!」

舞園「……別にそこにいたいならいてもいいですよ?」


冷めた口調だった。誰にでも愛想の良かったアイドルとは思えぬほどに。


モノクマ「…………」

舞園「…………」

モノクマ「…………」

舞園「…………」

モノクマ「……な、なんかお呼びじゃなかった感じ? 舞園さんがハンパなく
      怖い顔してるから一旦引いてあげるよ。どうせ何話してるか聞こえてるし」

モノクマ「十分間待ってやる!」


そういうとモノクマは空気を読んで退室したのだった。


大和田(このアマ、気迫でモノクマ追っ払いやがったぞ……)タラリ…

舞園「では、邪魔者もいなくなりましたしゆっくりお話しましょうか」ニコ♪

大和田「あ、あぁ……」

舞園「私が何のお話をしに来たか大和田君はわかりますか?」

大和田「わ、わからねぇ。なに言いに来たんだよ」

舞園「アドバイスに来たんですよ。私は大和田君と一番立場が近いですからね」

大和田「ハ? 立場?」


問い掛けると、舞園は口元を吊り上げて笑い冷たい声で囁いた。


舞園「――殺人犯という立場ですよ」

大和田「!!」


大和田は無意識に後ろへ下がる。目の前に立っているのは超高校級とまで称された
国民的美少女のはずなのに、今はどんな不良やヤクザよりも恐ろしかった。


大和田「お、お前……」


舞園「安心してください。今の私は西城先生の元、脱出に向けて動いていますから、もう誰かを
    傷つけたり殺そうとはしません。私はあなたの味方で、あなたを助けに来たんです」

舞園「そもそも、私が大和田君に襲い掛かった所で敵うと思いますか?」

大和田「…………」


そうは言うが、影を帯びた笑顔が怖い。


舞園「私はあなたがどうすればモノクマの揺さぶりに堪えられるようになるかを教えに来たんです」

大和田「! そりゃ本当か……?」

舞園「はい。気付きさえすれば案外簡単ですよ。ただ事実を認めればいいんです」

舞園「――自分は仲間を裏切って人殺しをしようとした、最低な殺人犯だという事実を」

大和田「!!」


大和田の額から汗が流れ、頬を伝って床へ落ちた。


舞園「……二回目の動機が配られた日、私は頭がおかしくなりそうでした。モノクマの
    言っていることは全て真実なのに、どうしてこんなに苦しいんだろうって……」


舞園「考えて考えて……考えて考えて考え抜いて……そこでわかったんです。
    ごめんなさいって口にするくせに、私は本心では事実を認めたくないんだと」

大和田「…………」

舞園「大和田君もそうなんでしょう? 自分のしたことは悪いことだ、謝らなきゃって
    頭ではわかっているけど、本心では認めたくないんです。全部モノクマが悪いって」

大和田「ちげえのかよ……元はと言えばこんなことになったのも、俺が兄弟に大怪我負わせることに
     なっちまったのも……全部全部俺達を閉じ込めたアイツのせいじゃねえか!」


そんな大和田の瞳の奥を覗こうとするかの如く、舞園は大和田の顔を見上げた。


舞園「そうですね。モノクマは確かに悪いですね。……でも実行に移したのは私達ですよ?」

大和田「い、一緒にするんじゃねえッ!! お……俺は確かに不二咲に襲いかかっちまったり
     したけど、なにもオメェみたいに最初から計画立てて裏切ったワケじゃ……!」

舞園「ほら、やっぱり認めたくないんじゃないですか」


舞園の真っ暗な瞳の奥が、一瞬輝いた気がした。まるで喉元に冷たい刃を突き付けられたようだ。
淡々と紡がれる言葉は平坦で、それでいて一つ一つが大和田の心を深くえぐっていく。


大和田「……!!」

舞園「私達、五十歩百歩ですね。計画を立てていた訳ではないにしても、あなたが
    明確な殺意をもって不二咲君を殺そうとしたのは事実なんでしょう?」

大和田「う、ぐ……」

舞園「今朝モノクマが現れて、あなた達の間に友情なんてなかったと言ったら、石丸君が非常に
    狼狽したんです。彼は友人を本気で殺そうとしたあなたの姿を実際に見て知ってしまって
    いたから、あんなに激しく取り乱してしまったんじゃないですか?」

大和田「…………」

舞園「口でいくら謝ったって、そんなものは何の意味も持たないんです。行動に
    移さないと。そのための第一歩が、まず自分の立場を認めることなんです」

大和田「そんなことは……」

モノクマ「いやぁ! 実に素晴らしい演説だねぇ!」

大和田・舞園「!」

モノクマ「約束通り十分経ったから入って来たよ。それにしても……プークスクス!
      随分思い切り良く開き直ったね、舞園さん! 居直り強盗も真っ青だよ」

モノクマ「まあでも、君は元々そういう人だったのかな? だって、自分に好意を寄せている男性を
      二人も一度に利用して切り捨てるなんて普通は出来ないもんね。全く大した悪女だよ!」


舞園「否定はしません。確かにあの時の私はどんな犠牲を払っても外に出ようと考えて、
    実際にそれを実行に移したのですから。罰は受けるべきだと思います」

モノクマ「罰ってなにさ? 本来は日陰をコソコソ歩かなきゃいけない立場なのに
      堂々と犯罪論語って仲間増やそうとして、それで許されると思ってんの?」

舞園「苗木君も桑田君も許してくれると言いましたよ?」


いけしゃあしゃあと言い放つ舞園の姿にモノクマは些か押されているようだった。


モノクマ「被害者が許したら罪にならないって言うなら検察はいらないんだよ!
      まったく、君に良心てものはないのかい?!」

舞園「その言葉、そっくりそのまま返させて頂きます。こんな酷いことをしている
    あなたに私達を責める権利なんてないはずですからね」

モノクマ「……あーあ、かつては超高校級とまで呼ばれた天下のアイドルが心まで
      犯罪者に成り下がっちゃって。ファンはガッカリするだろうね~」

舞園「犯罪を犯した時点でファンには見限られていますし――第一、もう私はアイドルではありません」

モノクマ「え……まさかそれ本気で言ってんの?」

舞園「はい。だからそのためにもう無駄に悩む必要性はなくなったんです。
    今の私は目的も存在意義も全て脱出すること、ただそれだけにあります」


モノクマ「あー、そう」

モノクマ(あんだけアイドルであることに執着してた舞園に一体何があったって訳?
      まさか桑田のバカの安っぽいお説教で目が覚めたとかある訳ないし)

モノクマ(舞園に対してはもう何を言っても無駄か。……今は分が悪いみたいだね。出直そう)

モノクマ「はいはい、わかりましたクマ。犯罪者は犯罪者同士せいぜい傷の
      舐め合いでもしててください! もう僕は知らないから。じゃあね!」


バタン。

モノクマが去って行った扉を見遣り、舞園は大和田を振り返った。


舞園「どうでしたか? 言った通りだったでしょう?」

大和田「ああ……」

大和田(マジでモノクマを追い返しやがった……)


呆気に取られていた大和田だったが、すぐに正気を取り戻し沈黙する。


大和田「…………」


舞園「わかりますよ。罪を認めるのは辛いって。私もそうでしたから」

大和田「オメェは……どうして……」

舞園「私はこう考えたんです。足手まといにだけはなりたくない。先生やこんな私を支えて
    くれたみんなの役に立ちたい。そう考えたら、罪も楽に認められるようになりました」

大和田「…………」

舞園「大和田君は少し乱暴な所もあるけど、流石に何の理由もなく殺人なんかする人じゃ
    ありません。何か理由があるんじゃないですか? 自分の全身全霊を懸けた大切な物が」

大和田「……わかるのか?」

舞園「わかります。私もそれで道を誤りましたから」

舞園「私の場合は幼い頃からずっと見ていた夢でした。……もうなくなってしまいましたけど」

大和田「そうか……」

舞園「……私達似た者同士じゃないですか? こう言ったら怒るかもしれませんが、
    きっと本当は誰よりも弱いんです。大切な物を失うのが怖いんです」


そう言って大和田を見つめる舞園の瞳を見返せなくて、やはり大和田は顔を逸らした。


大和田「……オメェはもう弱くなんかねえよ」

舞園「ありがとうございます。あの、私なんかで良ければいつでも話し相手になりますよ? 先生が
    以前言ってました。親しい人間より、親しくない人間の方が話せることも時にはあるって」

舞園「お話は以上です。モノクマは秘密の公表を今日一杯伸ばすつもりみたいなので、
    今日一日ゆっくり考えるといいと思います。……負けないでください」

大和田「……ああ。わかってる」


そして舞園は大和田の部屋を出た。


舞園(上手くいきましたかね? これでなんとか今日だけでも保ってくれるといいんですけど……)


同じ立場だから、似た者同士だから、だからこそわかることがある。

舞園の作戦は実に効果的だった。






……かに思われた。


・・・


ドゴォッ!


大和田「クソォォォッ!!」


自分以外誰もいなくなった部屋で、大和田は壁に拳をたたき付ける。


大和田「まただ……また……!」


霧切やKAZUYAにすら認められている舞園の対人観察能力だが、今回に限れば一つ大きな穴があった。
この監禁生活において、舞園は大和田と面と向かって話したことがほとんどなかったのである。最初の
三日は粗暴な大和田を避けがちだったし、それ以降はどちらかが部屋に篭っていて会うこともなかった。

だから舞園は気が付けなかった。大和田が強さそのものに異常なこだわりを持っていることを。


大和田(桑田に続いて舞園まで……なんでだ? なんで俺だけ取り残されるんだよ……)


大和田の記憶に残る舞園と言えば、苗木や桑田を利用したしたたかさを持つが、泣きながら
桑田に謝り続ける儚さや、モノクマになじられて錯乱する弱さも持った普通の女だった。


大和田(西城か? アイツの力なのか? でも俺は弱いままじゃねえか……
     なにがいけないんだ?! どうして俺だけダメなんだ?!)


……舞園にとってもう一つ悪かった点がある。脱出のための駒と化した彼女は、常にその場で
最適解と思える行動を取っていた。同じ立場の自分がモノクマに強く立ち向かう姿を見せれば、
大和田を勇気付けられると舞園は考えていたが、そんな彼女の毅然とした立ち居振る舞いは、
かえって大和田の心を追い詰めることになってしまったのだ。


大和田(俺は弱い! 弱い弱い弱い弱い!!)


同じように悩み苦しんでいた弱い舞園なら、先程の自分の行動がいかに大和田を追い詰めるか
わかるはずだった。だが、人間である自分を封印し弱さを捨てた今の舞園にはわからなかったのだ。

ハラリ。


大和田「! なんだこりゃあ……」


そんな時、大和田の目には一枚の紙が映った。A4程の大きさで部屋に備え付けの
メモ用紙ではない。いつの間にかドアの下から差し入れられていたらしい。

また誰か訪問者だろうか。もう誰にも会いたくないのだが……と大和田が億劫に紙を拾い上げた時。


――まるで機械仕掛けのように運命の歯車が音を立てて廻り始めた。


ここまで。

1は忘れっぽいので自分が書いた内容でも結構細部を忘れてしまっていたりするので
(だから感想やツッコミで思い出したりするから皆様のレスは非常に有り難いのですが)
矛盾が出ないように連休を利用して久しぶりに最初から読み直していたら、我ながら長っ!

最初からずっとついてきてくれた皆様、新たに一気読みしてきてくれた皆様、こんな無駄に
長いSSを読んで下さり本当にありがとうございます。思えばもう半年以上連載してるんだなぁ……

そういえば、もう今日終わるけど今日は十神君の誕生日だそうですね
彼には今後とも色んな意味で頑張ってもらいたいなぁと思います


ではでは投下


― 石丸の部屋  PM00:47 ―


部屋には睡眠薬で眠りについている石丸とそれを見守るKAZUYA、そして緊迫した空気の
桑田と不二咲の四人がいた。彼等に会話はない。ただ一刻も早く夜になるのを待っていた。


K「……ム」

桑田「なんだよ、せんせー」


KAZUYAは返事をせずに扉に近付き、部屋に入れられたメモ用紙を拾い上げた。
メモ用紙にはシンプルにたった一行だけ文字が書かれている。

『西城、一人で体育館に来てくれ』


K(これは……!)


咄嗟にメモを握り潰してポケットに押し込む。


桑田「誰からだ?」

不二咲「どうかしたのぉ?」

K「……すまん。至急の用事が出来た。俺は外に出るが、お前達はここから出るんじゃないぞ」

桑田「おい……誰からだよ」

K「危険な用事じゃない。お前達は石丸を見張っていろ。すぐに戻る」

不二咲「先生……」

K「大丈夫だ。俺を信じろ」

桑田「……わかった。じゃあここは俺が守るから行って来いよ」

K「すまんな。……ああ、そうだ。もし霧切がここに来たら、無愛想にしないで
  ちゃんと話すんだぞ? 彼女は怒っていないそうだが、一応謝っておけ」


今朝の騒動ですっかり忘れていたことを桑田に言うと、桑田は途端に渋い顔になる。


桑田「……誰から聞いたんだよ」

K「舞園だ。お前には負い目があるから、心配なのだろう。あまり心配をかけてやるな」

桑田「わーってるよ! ……ったく、余計なこといいやがって」ブツブツ


桑田は口を尖らせて何かモゾモゾ言っているが、本気で怒っている訳ではないだろう。


K「では二人共、任せるぞ」

不二咲「いってらっしゃい。気をつけてくださいね!」


そしてKAZUYAは部屋を出ると、小走りで脇目もふらずに体育館へ向かった。


「来たかよ、先公。待ってたぜ……」


そこで待っていたのは――殺気を全開にして木刀を持った大和田だった。


K「大和田、一体どうした?! 何があったんだ!」


KAZUYAは先程のメモの内容を思い出す。あの文面だけならただの呼び出し状であり、誰かが
自分のことを狙っているとも取れるが、名前がなかったのですぐに大和田だとピンと来た。

―― 勿論、KAZUYAが大和田だと判断した理由はそれだけではないが。


大和田「やっぱ、ダメだな俺は……あんたの顔見りゃ勇気も出るかと思ったけどよ……」

K「一体何の話だ……?!」


メモを見た時、KAZUYAは全身の毛が逆立つのを感じた。文面だけなら極めて普通である。
……だが、文字が普通ではなかった。それはぎりぎり判読出来るか出来ないかの汚い文字で、
まるで逆の手で書いたかのようだ。いくら大和田の字が汚いと言っても限度を超えている。

こんな字を書くのは考え得る中で二通りしかない。余程慌てて急いで書いたか、或いは……


K(やはり! 文字もまともに書けないくらい震えている……! だが一体何故?!)


激しい胸騒ぎを抑え、なるべく平静な声になるようKAZUYAは問い掛けた。


K「どうしたんだ? 何をそんなに慌てている?」

大和田「……こいつを見てくれ。さっき俺の部屋に入ってたんだ」

K「これは!」


大和田が広げたA4程の紙には、一面ラクガキのような汚い字で何かが書かれていた。手紙のようだ。


『ヤッホー☆

 まったく、オマエラってば人の一人も殺せないチキンばっかしでボクもう飽きてきたよ。

 なので、ボクはとってもいいことを思いつきました! オマエラにとってもいいことだと思うよ?

 なんと、今誰かを殺せばサイコロで出た目の数だけみんなを外に出してあげます!!

 どう? 最高で六人、最低でも確実に一人。悪くない話だと思うけど? 僕ってとっても太っ腹~。

 ……ああ、別に殺す相手は誰でもいいよ。僕はいい加減人の死ぬ所が見たいだけだし。

 そういうことだから、まあせいぜい悩んでちょーだいな。バイビー☆』


最後にはサイン代わりにモノクマの似顔絵やサイコロの絵が書いてあった。


大和田「へへ……どうだ? 悪くない話だろ……? 最低でも兄弟は確実に出せる。六分の五で
     不二咲もだ。四人以上が出る確率は50%。いくら俺の頭が悪くてもそんくらいはわかるぜ」


大和田がこれから何をしようとしているか瞬時に理解したKAZUYAは叫ぶ。


K「大和田! 馬鹿なことをするんじゃない!」

大和田「今日中に誰かを殺せばいい。そうすれば俺の秘密も守れるし兄弟達を外に出してやれる。
     兄弟の傷も治せるし、上手く行きゃ外から助けも呼んでこれる。いいことづくめじゃねえか」

大和田「誰を殺してもいいんだろ? ……だから俺は決めたんだ。俺自身を殺せばいいってな!」

K「馬鹿な?! あんな奴の言葉を信じるのか?! 嘘に決まっている!」

モノクマ「ウソツキ先生と一緒にしないでよ! 僕はいつも本当のことしか言わないクマ!」


いつの間にかモノクマが二人の間に立っていたが、KAZUYAにとって今はそれどころではない。


K「お前は引っ込んでいろ!!」


大和田「ちょうどいい、モノクマ。テメエ確かに約束は守るんだろうな?」

モノクマ「もっちろん! 僕はクマ界一約束にはうるさい男だからね。約束は絶対に守るとここに誓おう!」

大和田「俺が死んだ後サイコロは誰がふる? それにオメェ1しか出ない改造サイ使わねえだろうな?」

モノクマ「そんなに疑うなら使う道具とか振るのは全部先生に任せるよ。それなら公平でしょ?」

モノクマ「じゃ、そういう訳だから! バイナラ」


それだけ言うとモノクマはあっさり去って行った。


K「待て! ……クッ、逃げたか」

K(ここにいたらボロが出ると踏んだな。どこまでも狡賢い卑怯者め!)

大和田「……だそうだ。先公、あんたが証人になってくれれば俺も安心出来る。兄弟と
     不二咲を出してやってくれ。その他のメンツに関してはあんたに任せる」


そう言うと、大和田は木刀の両端を持って見つめる。


大和田(ハァ……ハァ……覚悟を決めろ! チームとダチのためだ。男だろ、紋土!!)

おそらく六面のサイコロを振って4人以上が出られる確率が50%……?(殺した人間を無条件で出すとは言っていない、そもそも自分を[ピーーー]つもりなら自分は出られない)
それに石丸の傷を治すにはKも出さないとだろうに、やっぱり大和田は駄目だな


大和田は覚悟を決めると愛用の木刀を膝蹴りで真っ二つに叩き折った。本当は刃物が良かったのだが
食堂には複数人の生徒がおり、万一誰かに見つかって騒ぎを起こすのは本意ではないので、持って
来れなかったのだ。木刀は当然ながら綺麗には割れず、所々が鋭利にささくれ立っている。


大和田(折れた木刀も十分凶器になるってことはケンカで散々知ってる。こいつで
     兄弟に怪我させちまった所と同じ場所を思い切り突けば俺は、俺は……)


死ぬと決めた時から、今に至るまで少しも震えが止まらない。怖かった。みっともないと何度も
自分に言い聞かせているのに、ちっとも震えは止まってくれないのだ。逆に涙が滲み出てくる。

走馬灯のように、色々なことが次々と頭に思い浮かんで来た。
亡き兄のこと、愛犬のこと、チームのこと……そして、ここで出会った最高の友人達のこと。


大和田(兄弟とは最初はケンカばっかしてたな……)


つまらない意地の張り合いをしていたが、サウナでお互いの本心を知ってからは、掛け替えのない
親友となった。期間こそあまり長くはないものの、過ごした時間は何よりも濃厚だったはずだ。


大和田(まずはお互いのことをたくさんしゃべって、次にいろんな勝負をしたな。筋トレで
     まさかの敗北して、腕相撲なら勝てると思ったのに利き手が違うとか言い出してよ……)

大和田(……もっといろいろ二人でバカ騒ぎしたかったぜ)


次に頭に浮かんだのは、小柄でいつも泣きそうな顔をしてるのに、芯に強いものを持つ少年だった。


大和田(不二咲は、暴走族である俺を怖がらずによく話しかけてきたよな……)


今から思えば自分を強さや男らしさの象徴として見ていたのだろう。だがそれだけならKAZUYAでも
良かったはずだった。不二咲は、大和田のことを尊敬しつつ一人の友人になりたかったのだ。


大和田(不二咲……すまねえ。オメェに関しては本当にすまねえとしか言えねえ。
     守ってやるって決めたのに、オメェはなにも悪くないのに俺は……)

大和田(……先公、頼むから1だけは出してくれるなよ)


そして、大和田は折れた木刀を思い切り首筋に突き出した。


大和田「うおらああああああああっ!!」

K「大和田!! やめろおおおおおッ!!!」


ザシュッ!! ………………ポタ、ポタ。


大和田「あ、ああ……」


普通に止めるのでは間に合わなかった。だから迷うことなくKAZUYAは左手で尖った木刀を掴んだのだ。
幾つにも分かれた鋭いささくれがKAZUYAの手に突き刺さり、骨のない何箇所かは貫通すらした。だが
KAZUYAは木片が自分の手を貫通したことより、その先端が大和田を傷つけていないことに安堵する。


K「クッ! フンッ!」


そしてKAZUYAは力付くで木刀を奪い取ると、それを力いっぱい投げ飛ばした。


K「この……大馬鹿者ッ!!」


ドゴォッ!

KAZUYAは思い切り大和田の横っ面を殴り飛ばし、床に落ちているもう片方の木刀を遠くに蹴飛ばす。


K「大和田! 俺はお前がここまで愚かだとは思わなかったぞ!」

大和田「……先公、これが一番いい方法なんだ。わかってくれよ!」

K「立て! こうなったらお前がいかに間違っているか拳で教えてやる! かかって来い!」

大和田「クソッ! いかにあんただろうとこれだけは譲れねえ……あんたを倒す!」


殴り合いが始まる。

……だが、それは一方的なものだった。

シュッ! シュッ! パアン!


大和田「グッ!」

K「…………」

大和田(なんでだ?! なんで一発も当たらねえんだ?!)


大和田はKAZUYAに接近し何人もの敵対チームの総長を沈めた自慢のストレートを叩き込もうとするが、
KAZUYAはその巨体には見合わぬ軽やかなステップを踏んで大和田の拳を避け、時にいなしていく。


K「お前の本気はそんなものか。ならばこちらから行くぞ!」

大和田「!」


ゴッ! ドガッ! ガッ!


大和田(な、なんだ?! 速え!)


大和田の攻撃はちっとも当たらないのに、KAZUYAの拳は的確に自分の急所を打ち抜いてきた。
しかも一発一発が異様に重い。ジャブだからまだ立っていられるが、渾身のストレートでも
喰らおうものなら一撃でダウンは必至だ。しかし、大和田も伊達に喧嘩慣れしている訳ではない。
やられながらもKAZUYAの動きを注意深く観察していた。


大和田(こいつ、この動き……ボクシングか!)


大和田はKAZUYAのことをただ趣味で体を鍛えているだけの男だと考えていた。
あくまで本業は医者だから実戦経験は自分の方が上で、乱戦になれば有利に持っていけると。
だがしかし、KAZUYAは大和田が考えている以上の鍛え方をしているし実戦経験も豊富なのであった。


大和田(ボクサーなら狙いは足だ! 下半身さえ止めちまえば……!)

K「気付いたか。だがもう遅い。これで終わりだ!」


ゴウッ! ドッダァァァンッ!

フィニッシュブローはいつものストレートではなくアッパーカットだった。アッパーで
脳を揺らすことにより、必要以上のダメージを与えずに動きだけ封じることが出来る。
現に大和田は軽い脳震盪を起こして立ち上がれなくなっていた。


K「俺は医者だがボクシングのセコンド資格も持っていてな。スパーリングはそれなりにしている」

大和田「テメエ、一体なんなんだよ……」


仰向けになって倒れたまま大和田は恨めしげに呻く。


かなりキリが悪いですが、今回のシーンは長いのでとりあえずここまで。


>>414
昨今では傷の修復を専門に行う形成外科が発達してきておりまして、完全に綺麗にするのは
K含めた一部の名医でないと厳しいですが、ある程度目立たなくする程度なら普通の病院でも出来ますよ

乙乙
ドクターK知らないけど面白いな、これって漫画が原作であってるよね?読んでみようかな。

ちょっとワンテンポ遅れてる感想になるけどセレス、十神、腐川の考え方や行動がこの状況下なら一理あると思った俺はきっといつか痛い目を見る
……それと、どうでもいいけど殴り愛っていいよね

そういえば大和田くんヤンキー漫画のノリの人だったね
男同志の決着もこれしかなかったことを失念してたwww
クロ高だったらメカ沢と神山とフレディでオチがギャグになってたな

すみません…しばらく急展開続きになるので、あまり投下間隔を開けないようにしようと
現在書き溜め分の推敲中なのですが、何分量が多いしシリアスなので展開に矛盾がないかとか
チェックしていたら時間が…という訳で、今週はお休みかもしれないです

待っている人達、ごめんなさい。投下の目処が立ったらお知らせします。

>>433
漫画が原作で、正式な名称はスーパードクターKです。笑いあり、超展開による呆然あり、
熱血あり、ガチ泣きありの名作マンガです!オススメですよ~。

テンポ遅れの感想も全然大丈夫です。一気読みした人は前スレとか前々スレで
ツッコミしそこねたこともあるだろうし、おかしな点があったら修正しなきゃいけないので
十神君達もそれぞれの立場があるので悪ではないというスタンスで1は書いてます
…まあ、十神君は必要以上にちょっと煽り過ぎだなと思いますけどねw

>>434
メカ沢「拳でしか己を語れない、か。フッ、不器用な男の生き様よ」

神山「大変だ。大和田君が西城先生に襲い掛かっている。校内暴力だ!」

前田「いや、どう見てもやられてんの大和田だろ……」

神山「フレディ、二人を止めるんだ!」

フレディ「…………」スッ


ドカドカッバキッ! ゴスッ! グチャッ! グエエッ!


神山「あ」

大和田「」

前田「大和田ーーー!!」

林田「まあそんな心配するなって。どうせ西城が治すだろ。センコー、出番だぞ」

ゴリラ「ウホ?」

神山・林田・前田「……アレ?」

北斗「どうした? 西城ならさっき保健室に帰って行ったぞ」

前田「校医が怪我人放置して帰るなよ!!」


…同じマガジン繋がりだったので

そういやクロ高とのクロスあったなあ

焦らなくていいですよ、ゆっくり自分のペースで頑張れ!
なんだかんだ言って俺らは「見せて貰ってる側」の人間だから、謝る事なんてなんもないよ

>>438
モノクマ「お前らにはコロシアイをしてもらいます」 神山「は?」

↑ですね。前にも読んだけど懐かしくなってもう一度読みに行ったらまた爆笑してしまった
読んでない人いたらオススメ。クロ高知らない人はアニメ見るといいです。短編アニメだし気軽に見れます


>>439
応援ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります


そして投下の目処がついたので、再開


大和田「うっ、くそ……俺は死ななきゃなんねえのに……!」

K「まだそんな馬鹿なことを言っているのか。いい加減に目を醒ませ!」

K「前に言ったはずだ。石丸から友人を奪う権利はないと。あいつはお前のために泣いていたんだぞ!」

大和田「……!」

K「今朝の朝食会で、モノクマはお前達に友情などないと言った。お前は結局
  友人よりも自分の都合を優先する自分勝手な奴だと」

大和田「……事実だろ」

K「だが! 裏切られた側にも関わらずあいつはあくまで自分が悪いと言い切った! お前が
  悪いのではなく気付けなかった自分が悪いと。もっと出来たことはあるはずだと」

K「お前も知っている通り、あいつは涙もろくて何かにつけてすぐ涙ぐんでいるが、
  それは必ず誰かのためであって、自分が可哀相で泣いたことは一度だってない!」

K「常に自分より他人を優先する。お前もよく知っているはずだ!!」

大和田「…………………………」

大和田「………………俺だって」

大和田「……俺だって」




大和田「本当は死にたくなんかねえよぉっ!!」


K「なら生きろ! 誰かを犠牲にしなければ脱出出来ないと言うのなら、
  一生ここでみんな揃って平和に暮らしていく方が百倍マシだ!」

大和田「でもそれじゃなんの解決にもなんねえだろうが!」

K「お前が死ねば石丸と不二咲は一生お前の死という十字架を背負って生きねばならんのだぞ!
  ……確かにお前の言う通り、今の段階では明確な打開策はない。これからもないかもしれん」

K「だが、閉じ込められていてもお前達は共に学び、遊び、笑えていたではないか!
  一人では辛いが、誰かと一緒ならば耐えられる。仲間とはそういうものだろう?」

K「お前が死ねば石丸はもう笑わん。仮に脱出出来たとしても、笑えない人生になど意味がない!!」

大和田「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだ」

K「俺にもわからん。わからないことは教えられん。確かに、誰かが犠牲にならなければ
  ならないことも将来的にはあるかもしれないが……だが、今はまだその時ではない」

K「俺とした男の約束を忘れたのか? 石丸と不二咲にちゃんと謝れ。まずは仲直りすることだ」


仰向けに倒れたまま大和田は目を閉じて呟いた。


大和田「かなわねえなぁ……あんたにゃ本当かなわねえ……」


K「当然だ。俺とお前では歳も経験も段違いだし、お前のような小僧に負けてたまるか」

大和田「……そういやあんたに聞きたいことがあったんだ」


大和田は半身を起こすと神妙な顔でKAZUYAを見上げる。


K「何を聞きたいんだ?」

大和田「どうしてアイツらは強くなったんだ?」

K「アイツら?」

大和田「桑田や舞園のことだ! 不二咲だって、最初は泣いてばっかだったのに……どうして俺だけ……」


ああ、とKAZUYAは得心した。


K(そういえば大和田は以前から異常なほど強さに固執していたな……)

K「秘密を告白出来ないから自分は弱いと……それがお前のコンプレックスなのだな?」

大和田「…………」


目線を逸らしながら、コクリと頷く。


K(強くならなければならないのになれない。その焦りからこんな馬鹿な真似を……)

K「俺はお前の秘密を知らん。だが、自分の命を懸けても守りたいと思うのなら、
  その秘密を言えないからと言ってお前を弱いなどと非難したりはしないさ」

K「俺が非難するとしたら、何故不二咲を襲ったかだ」

大和田「! それは……」

K「今は無理に言わなくてもいい。だが、不二咲と石丸にはちゃんと正直に言うんだ」

大和田「……言えねえかもしれねえ。俺は弱えんだ」


バッと立ち上がって、大和田はKAZUYAに縋り付いた。


大和田「なあ! あんたは知ってるんだろ?! どうすりゃ俺は強くなれるんだ?!
     どんなことでもする! 俺をアイツらみたいに強くしてくれ! 頼む!!」

K「大和田……」


KAZUYAは困った顔をして、大和田の手を外し背を向ける。


K「……残念だが、それは俺にはどうしようもないことだ」


大和田「?! なんでだよ! 舞園や桑田にも、あんたがなにかやったんだろ?! 俺にも……!」

K「俺は何もしていない。彼らは自分の力で成長したのだ。俺がやったのは、
  せいぜい辛い時に側にいたり励ました程度のことだ。お前にやったようにな」

大和田「そんな……」

K「なあ、大和田。お前は何故そんなに焦っているのだ? 人にはそれぞれ成長する速さと
  いうものがあるだろう? お前はたまたま人より遅かった、それだけじゃないか」

K「取り残されたような気がして寂しいとか、こんな状況だから強くならなければ、と
  自分を追い込んでしまっているようだが、焦る余り他者を傷付けたら結局……」

大和田「そんなんじゃねえ! そんなんじゃ……ねえんだ……」

K「…………」


愕然とする大和田をKAZUYAは諭すつもりでいたが、何かの中でもがいているような苦しげな
その表情に、KAZUYAは感じ取るものがあった。大昔、確か自分もこんな顔をしていた。


K「……何故だろうな。俺はお前の姿に、昔の自分を見ているような気がする」

大和田「先公の? 一体どこが?」

K「それはわからん。何となく昔の俺と似ている気がするとしか。ただ、だとしたら……」


KAZUYAは回想する。自分が今の自分になったキッカケとは何であったか。


K「今のお前に足りないのは変わらざるを得ない決意――本当の後悔かもしれない」

大和田「ハァ?! 後悔? 後悔なら腐るほどしてるだろうが!」

K「そうだろうか? お前は本当に何もかもを失ったことがあるか?」

大和田「……なんだと?」

K「石丸は顔に大きな傷を負ってしまったが、あれはいつか消せる傷だ。また、不二咲の心を
  傷付けてしまったものの、殺してしまった訳ではない。何より二人はあれだけのことを
  しでかしたお前を、無条件に許し受け入れてくれている」

K「何だかんだ言って、お前は本気で捨て身になったことはまだ一度もないんじゃないか?」

大和田「…………」


大和田は何も言い返さず、黙って俯いた。KAZUYAは溜息をついて医療カバンから包帯を取り出す。


K「とにかく、安易に死のうとするのは強さでも何でもない。ただの逃避だ。それを忘れるな」


簡単に左手の止血をして凶器と化した木刀の破片をカバンに突っ込むと、大和田を外に促した。
そのまま項垂れる大和田を部屋まで送ろうと廊下を歩いている時に、その異常は発生する。


――悲鳴が聞こえた。


― 石丸の部屋 PM00:51 ―


桑田「……あ、やべえ」

不二咲「どうかしたの?」

桑田「いよいよ秘密公開だーって、緊張してたからかな。部屋にバット置きっぱだった」


最終日。最も危険な日。部屋に篭っていれば問題ないはずだが、KAZUYAが急な
呼び出しで顔色を変えたこともあり、桑田は武器を手放したことに不安を感じ出した。


桑田(石丸は薬でぐっすり眠ってるし、すぐに戻れば問題ないよな)

桑田「わりぃ、不二咲。俺、部屋にバット取ってくる。すぐに戻っから」

不二咲「わかった。あの……気をつけてね」

桑田「ハハッ! 任せろよ。俺を誰だと思ってんだ。超高校級の野球選手だぜ?
    誰か襲ってきても、返り討ちにするかソッコー逃げっからへーきへーき!」


そう言って桑田は石丸の部屋から出てしまった。それが運命の分かれ道だとは知らずに。


桑田(誰もいねーだろうな……)


桑田はKAZUYAと話し合った結果、最重要危険人物に江ノ島。次に危険な人物は大神と
定めていた。十神も勿論危険ではあるが、逃げるくらいなら何とかなりそうである。


桑田「これでよし、と」


誰にも会わず部屋に戻り、愛用のバットを手にして桑田は部屋から出る。
そこで運悪く人に出会ってしまったのだった。


葉隠「う、うわああああ! 桑田っち!」


葉隠は桑田の隣の部屋なので、偶然戻ってきた所に出くわしただけである。だが、葉隠からしたら
自分が部屋に戻ろうとしたタイミングで桑田が武器を持って飛び出てきたように見えた。


葉隠「こ、殺さないでくれえええええ! なんでもするからよおお!」

桑田「は? なに言ってんだ。殺すわきゃねーだろ」

葉隠「ウソだべ! さっきだって十神っちに襲いかかったし!」

桑田「あれはアイツが石丸にひでえこと言ったからだろ!」


しかし桑田が何を言っても葉隠は聞かない。葉隠は他の生徒より年長のため、普段は
余裕があり落ち着いている方なのだが、それは自分の身の安全が保障されている時であって、
生来臆病な彼は自分の身に危険が迫るとパニックに陥りがちな所があった。


桑田「だーかーら! 人の話聞けっての! あんま騒ぐといい加減殴るぞ?」

葉隠「お、脅してきたべ! やっぱり桑田っちは犯罪者なんだべ!」

桑田「あのなぁ……」


以前の桑田ならこの辺りで激怒したものだったが、流石に似た状況を何度も
体験したことや今暴れることのデメリットを考えて、桑田は冷静さを取り戻していた。


桑田(ほっといてもいいけど、パニック起こして他のヤツらに襲いかかられでもしたら
    マズイし、まずは落ち着かせるか。大丈夫だ。俺にだってできる)

桑田「あー、うん。わかったわかった。好きなだけ俺の悪口言えよ」

葉隠「ぶ、不気味だべ……油断させて後ろからそのバットでズガン! てする気だな」

桑田「はいはい」


こうして基本的に受け流しつつ宥めすかして、まだ完全に信用された訳ではないものの
葉隠を落ち着かすことに成功した。ついでに少し雑談したりもした。


桑田(ハハッ、俺もやりゃあできるじゃん。それにしてもバカの相手してたら
    ずいぶん遅くなっちまった。不二咲が心配してるだろうな)


そう思いつつ石丸の部屋に戻る。


桑田「…………え?」


               ◇     ◇     ◇


不二咲(桑田君、遅いなぁ。バットを取りに行っただけのはずなのに)


眠っている石丸の顔を見ながら不二咲は待ちぼうけをしていた。


不二咲(もしかして、バットを取ってくるは僕に対する言い訳で本当は別の用事があるのかな?)


パッと浮かんだのは先程のKAZUYAの様子だ。桑田はKAZUYAの様子を見に行ったのかもしれない。


不二咲(……僕、守られてばかりで何の役にも立ててない)


思えば、ここ数日不二咲のやったことと言えばせいぜい石丸の話し相手くらいだった。
桑田達別動隊のように直接事件を阻止するために動いた訳ではなく、KAZUYAのように
他の生徒の精神的支柱になることも出来ない。悲しいくらいにひ弱な存在。


不二咲(僕も……僕も何かやらなきゃ……頼ってばかりじゃ駄目だ! だって……
     僕が弱いから、頼ってばかりだったから大和田君はあんなことに……)


朝日奈や石丸の過剰過ぎる反応に隠されてしまっていたが、実はモノクマの言葉に
最も強い衝撃を受けていたのは不二咲だと言っても過言ではなかった。

元々弱さを気にしていた彼にとって、頼られて迷惑だったという言葉は他の二人より更に
重い意味を持ち、被害者にも関わらず大和田が自分に殺意を持つのは当然だとすら考えていた。

――しかし、やはり根っこの部分で不二咲は強かったのだ。


不二咲(もう依存なんてしない。僕がみんなを助けるんだ! それで、今度こそ本当に
     対等な友達に……でも、どうすればいいんだろう。僕に出来ることって……)


この最悪のタイミングでKAZUYAの言葉が頭に浮かぶ。

『不二咲、頭脳は時に腕力を凌駕する。お前は力はないかもしれんがとても頭がいい。
 今は場が混乱してしまっているが、落ち着いたらきっとみんなの役に立てる時が来る』


不二咲(アルターエゴ……そうだ! 僕にはアルターエゴがある! あれから
     三日も経ってるし、何か一つくらいは解析出来たかもしれない!)


直接脱出に繋がるまではいかなくても、もし何か一つでも有用な情報を得ることが出来れば、
それがキッカケとなってもうコロシアイなどする必要がなくなるかもしれない。

そしてこの後にKAZUYAが続けて言ったことを、最も大切なことを不二咲は忘れてしまった。


不二咲(……石丸君はしばらく起きないよね。すぐ戻ってくればいいし)チラッ


そして不二咲は桑田が心配しないように書き置きをすると、石丸を一人残し部屋を後にした。
向かう場所は脱衣所である。石丸の部屋のすぐ近くなこともあって不二咲は油断していた。


不二咲「スリープ解除」

アルターエゴ『あ! ご主人タマ、おはよう。三日ぶりだね。何かあったの?』

不二咲「うん、実は大変なことがあったんだ……」


不二咲は手短に今までの経緯と状況を話す。


アルターエゴ『……そんなことがあったんだ。大変だったね』

不二咲「うん。それで、僕は僕の出来ることをしようと思ってここに来たんだ。
     ねえアルターエゴ、何か解析出来たものはある? 何でもいいんだ」

アルターエゴ『あるよ! 一つだけロックが外れたファイルがあるんだ。開くね!』

不二咲「本当?!」


興奮気味に不二咲が画面に顔を近付けると、そこに映ったのは細かい文字が
びっしりと書かれていた何かの書類だった。人体と思われる絵も描かれている。


不二咲「これ……何だろう? 何かの実験レポートみたいだけど」


不二咲は仕事の関係で海外の同業者と話すことも多いため、英語はそこそこ堪能である。
しかし馴染みのない専門用語が羅列され、時に英語以外の言語も飛び交うその書類は
頭のいい不二咲でも完全に理解することは出来なかった。


不二咲「英語と、ドイツ語かな? ……でも、西城先生ならきっと読めるよね!」


きっとこれは何か重要な意味があるのだ。凄い! 凄い発見だぞ! と不二咲は大いに浮かれた。


不二咲「お手柄だよ、アルターエゴ!」

アルターエゴ『本当?! 嬉しい。やったね、ご主人タマ!』

不二咲「うん。今西城先生は出掛けてるんだけど、すぐに連れてきて読んでもらうよ!」

アルターエゴ『いってらっしゃい!』


不二咲は脱衣所を出ると、KAZUYAを探しに学園側に向かおうとし……


不二咲「あれ?」


               ◇     ◇     ◇


石丸はKAZUYAが処方した睡眠薬のおかげで深い眠りについていた。
しかしここ数日、常に誰かが自分の部屋にいるという状況にすっかり慣れきってしまったためか、
人の気配がしないことに逆に違和感を覚え、薬がまだ残っているにも関わらず目が覚めてしまった。

薄目を開けて部屋の中を見渡す。


石丸(誰もいない……)


誰もいないということに強烈な不安を感じて石丸は起き上がり、不二咲の
残した書き置きを読まず鍵も開けたままふらふらと部屋を出て行った。

そして夢遊病患者のように朦朧とした意識のまま廊下を歩き出す。


               ◇     ◇     ◇


「…………ハ?」


え? なんでなんでなんで?

長らく葉隠の相手をしていた桑田がやっとの思いで石丸の部屋に帰ってくると、待っていたのは
もぬけの殻となった室内だった。布団は石丸にしては珍しくめくれたままになっている。


桑田(そういや、鍵が開いたままだった……まさか誰かが入って来たんじゃ?!)


慌てて何か手がかりがないか部屋中を見回すが、襲われたにしては綺麗だ。
また、桑田はすぐに机の上に置かれた書き置きを発見した。


桑田(『用が出来たから少し部屋に戻ってるね。すぐに戻るから心配しないで。不二咲』
    なんだよ、心配させやがって! ビビり損じゃねえかよ!)


きっと不二咲は何か急用を思い出し、一人で外出するのは危険なのでやむなく石丸を起こして一緒に
行ったのだろう。全くこんな時に人騒がせな奴だ、と桑田は座って二人が戻って来るのを待つことにした。



               ◇     ◇     ◇


「…………う」


強い頭痛と共に石丸は目を覚ました。いつの間にか倒れていたようだ。頬に冷たく固い床の感触がある。
周りにたくさんの机と椅子が目に入った。机と椅子の半分は教室の後ろに運ばれ空間が作られている。
実習の時に邪魔にならないようにと以前みんなで運んだから、つまりここは1-A教室なのだろう。

どうやら自分は無意識に教室に来ていたらしい。
頭を押さえて起き上がりながら、石丸は自分が何かを握っていることに気が付く。


(これは……?)


紐状の何かだ。起き上がってそれを見て、思考が飛んだ。

だって、そこにあるはずのないものがあったから。

絶対にあってはならないものがあったから。


「不二、咲、君……」


仰向けに倒れた不二咲がそこにいた。いや、あったという表現が正しいか。何故なら彼は……


「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 何かの間違いだ!!」


彼の青白い顔の上へ、授業で習ったように手をかざしてみる。息をしていない。

――そう、不二咲千尋は確かに死んでいたのだ。


「うわああぁあああぁぁあああぁあぁぁぁああぁああぁあぁぁあぁあああぁああああッッ!!!!!」


石丸清多夏は絶叫した。

弱った自分のどこにこんな気力があったのかと思うほど、体の奥底から叫んだ。


叫んで、泣いた――






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  非日常編  ― 完 ―


ここまで。



ここまで。



ここまで。

前スレの>>1000の願いが早くも叶わなかったな…
ちーたんの死はどこで決まったんだろう
見た感じだと>>363の時点では既に決まってたみたいかな?

そしてこのままChapter.3突入とか絶望的ィ!!!

あうう、申し訳ない申し訳ない。掲示板って直に反応が見れるのはいいけど
こういう時辛いなぁ…この展開になったのは実はちゃんと重要な意味がありまして

ただ衝撃的展開として安易に採用した訳ではないのはどうかご理解とご容赦を…


>>465
ネタバレになるから詳しくは言えませんが、結構早めの段階でフラグ立ってます

いやいや、絶望的な展開ではあるけど、これからの展開も凄く楽しみだ
個人的にダンロンssで一番好きだ
後、さっき言い忘れたけど乙です


ちーたん……

ちーたん自身にフラグがあったわけじゃなくて、物理的に一番殺しやすくなっちゃったんだろうな
となると犯人は……

おつ…

嘘だろおおおおおおおおおおおおどうしてだよおおおおおおおおおおおお
えっ待って1様これコンティニュー選択したらちーたん生き残るルートに挑戦できるの?変更できるの?
できるんだよね?できるんだよね?
できなかったらしんじゃう

おつ
ちーたんに死亡フラグが建ったというより犯人に殺人決行フラグが建ったって感じ?
もともと危ない橋を渡ってるような状況だったのに、今回の殺人が引き金になって一気に崩れていきそうで怖いな

とりあえず、ここから先は二週間推敲を重ねた1渾身の展開なので
ここで読むのやめたらオマエラぜってぇ後悔すっぞ!とだけは胸を張って言えます


>>470
たくさん名作、良作SSがあるのにうちを一番と言ってもらえてとても光栄です
これからもご期待に添えるよう頑張って書いていきます

>>477>>480
いえ、犯人にフラグが立ったのではなく直接ちーたん事故というフラグが
立ちました。つまり、誰が犯人であろうとちーたんが必ず死んでます

ちなみにフラグはちーたん自体でもなくてかなり予想外の場所に…
多分みなさん聞いたら確実に「えええええっ?!」て言うと思います

>>479

「希望は前に進むんだ!」

「俺を信じろ!」



1もね、働いてるからね、書き溜めとの関係もあるし本当は連日更新は
辛いんだけど、みんなのちーたんいないとかふざけんな!コンティニューはよ!
っていう心の声が痛いくらいよく聞こえるからね。今日も更新しちゃうよ

…こんなことなら週末にまとめて投下すりゃ良かった






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  学級裁判編





食堂では落ち込む朝日奈の横で大神が励ましていた。


朝日奈「ありがとう、さくらちゃん。もう……もう大丈夫だから」

大神「そうは見えぬ」

朝日奈「本当に大丈夫だって」

大神「ならば何故我の目を見て言えぬのだ」

朝日奈「それは……」


モノクマに依存という言葉を言われた時、朝日奈は肝を潰された気がした。
正直に言うと思い当たることがあったのだ。

朝日奈は特定の派閥には属していないが、大神以外にも当然親しくしている人間はいる。
それが朝食会の前に集まるメンバー、早起き組なのだが……まず舞園が事件を起こして
消えてしまった。次に、二つ目の事件で石丸が負傷し、看病のためにKAZUYAも消えた。
不二咲は元気だが、桑田と行動を共にするようになり早朝には現れなくなってしまった。


朝日奈(私には今さくらちゃんしかいない……)


このギスギスとした空気の中、朝日奈が頼れるのはもはや大神一人しかいなかった。
それでこの三日間、いつも以上に側にいて寄り掛かり負担をかけていた自覚があったのだ。


朝日奈(もうさくらちゃんに迷惑かけられない……さくらちゃんだって本当は不安なんだから……)

朝日奈「さくらちゃんは優しすぎるんだよ! 私ももっとしっかりしないと。だから……!」


「――――!!」


背筋が冷えるのを感じて、朝日奈は大神と顔を見合わせた。


朝日奈「ねえ……今、なにか聞こえなかった?」

大神「声が聞こえたな。それも、悲鳴のような……」

朝日奈「だ、誰かふざけてるだけだよ! きっとそうだよ!」

大神「だと良いが……」


               ◇     ◇     ◇


桑田「ハアッハアッ! なんでだよ! なんでどこにもいないんだよ!」


あの後、桑田はしばらく部屋で待っていたのだが一向に二人が戻って来ないので心配になり、
部屋を飛び出して不二咲の部屋を訪れていた。しかしいくらインターホンを鳴らしても反応がなく、
初めて異常を感じ寄宿舎の中を飛び回っていた。そもそも、冷静に考えればおかしいのだ。


桑田(どんな急用があったとしても不二咲が怪我人の石丸を連れて行くワケねえ!
    どこ行ったんだ?! 寄宿舎はクマなく探した。まさか学園の方にいるのか?)

桑田(先生の所に行ったとか? でも、不二咲だって場所は聞いてねえはずだし……)


KAZUYAが行き先を告げなかったので皆目見当がつかなかった。下手に遠くまで行って
入れ違いになりたくないので、結果桑田は寄宿舎の中を右往左往するということになる。
思い切って学園の方に行くべきかと、学園との境で二の足を踏んでいた時だった。

石丸の悲鳴が聞こえ、桑田は頭が真っ白になる。


桑田「まさか……?!」


               ◇     ◇     ◇


音だった。余りにもわかりやすく、事件が起こっていることを明白に伝える音。


K「何だ、今の悲鳴は?!」

大和田「兄弟の声だ……兄弟ッ!!」


KAZUYAと大和田が悲鳴が聞こえたと思われる場所に急いで向かうと、
廊下の向こうから同じように血相を変えた桑田が走って来るのが見えた。


桑田「せんせー!! 今のって……?!」

K「どこだ?!」

桑田「多分こっちだ!」


桑田はスポーツマンとして優れた動体視力を持っているが、ミュージシャンを
目指しているだけあって耳もそれなりに良かった。桑田を先頭にして教室に駆け込む。


K「どうした、何が……!!」


すぐさまKAZUYAと大和田も飛び込んだ。そこにあったのは……


石丸「…………」


不二咲に縋り付き、茫然自失となって震えている石丸と倒れたまま微動だにしない不二咲の姿だった。


『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


桑田「お、おい……ウソだろ……なぁ……?」

大和田「不二、咲……?」


聞きたくないダミ声で妙な放送が流れたが、今はそんなものに構っている余裕はなかった。
桑田と大和田は真っ青になって立ちすくんでいたが、沈黙を破るようにKAZUYAが怒号を発する。


K「何をしている! 蘇生処置だ! 授業でやっただろう!!」

大和田「(ハッ)そ、蘇生……」

石丸「ッ!!」


蘇生と言う言葉に反応して、石丸が不二咲に飛び付く。素早く気道を確保すると、以前配布された
ハンカチも使わずに直接心肺蘇生を試みる。その横でKAZUYAは、肌身離さず持っている医療カバンと
桑田が背負っているリュックサックから次々と必要な道具を取り出し、準備を始めた。


K「それでは効率が悪い。まずは気管挿管する!」


KAZUYAは必死に人口呼吸する石丸をどけると、慣れた手つきで不二咲の気管に管を挿入し、
管の先をバッグバルブマスク(大きなエアポンプのようなもの)に繋いで石丸に持たせた。


K「一分間に十(10回/分)! 回数より一回一回を強く押して確実に換気することを第一にしろ!」

石丸「は、はい!」


次にKAZUYAは不二咲のブラウスを開き、胸部を露出させてメスを構える。


大和田「お、おい?! なにやってんだ?!」

K「開胸心マッサージを行う!」

石丸「! 先生はメスで胸部を切り開き直接心臓を手で掴んでマッサージする気なのだ!」


※実際に存在する治療法です。


大和田「そ、そんなムチャクチャな方法あるのかよ……?!」

石丸「ある! このやりかただと心臓が動いているのと同様の効果があるからより効率的に
    血を全身に回せる。医療の現場ではよく使われる手法だ……授業でも少し触れていた」


知識としては知っていたが、それでも不安なのか石丸の声は小さくなる。三度の手術を経て
KAZUYAの技術が確かなのはわかっているが、麻酔もなしに生徒の体にメスを入れる姿は異様だった。


桑田「な、なあ麻酔は? まさか麻酔なしでやんのかっ?!」

K「心肺停止したらもはや痛みなど感じん! スピード勝負だ!」

「…………」


ゴクリ、と三人の喉が鳴る。


K「……石丸、よく見ていろ。ここ、第四肋骨と第五肋骨の間の皮膚を肋間筋ごと一気に切る」


言いながらKAZUYAはメスで不二咲の胸を切り開いた。出血はほとんどない。


K「出血が少ないだろう。心臓が止まっているからだ。開胸手術の際は壁側胸膜を丁寧に剥離し
  開胸器で創を固定するのだが、今は心臓に手が届けばいいからこれ以上切り開く必要はない」

大和田「で、でも骨があるんじゃ……」

K「肋骨は細く多少の可動ならば問題ない。こう、押し広げながら無理矢理手を突っ込む!」

大和田「ム、ムチャクチャだ!」

石丸「…………」

K「石丸、目を逸らすな。よく見ろ! お前が進みたいと言っている道はこれが日常なのだぞ!」


石丸は舞園の手術の時、他の生徒を呼びに行っていたので実質最後の縫合くらいしかまともに
見ていなかった。だからKAZUYAは石丸が怖じけづいていると思い喝を入れたが、実際は違っていた。


石丸「……出来ません」


誰にも聞こえない程の小さな声で呟く。


石丸(僕にはもう医療の道に進む資格なんてない。何故なら僕は、僕が……)

K「頬に赤みがさしてきた。血が回っている証だ。桑田、他の生徒達をここへ!」

桑田「わかった!」


桑田がバタバタと駆け出すと同時に、朝日奈と大神、山田が駆け付けてきた。


朝日奈「ね、ねえ?! さっき変な放送があったけどなにが……不二咲ちゃん?!!」

大神「不二咲?!」

山田「不二咲千尋殿?!」

朝日奈「な、なにやってるの先生っ?!」

大和田「心臓マッサージだ。直接胸ん中に手ェ突っ込んだ方が効率がいいらしい」

山田「そ、そうなのですか……?!」

大神「しかし、心臓マッサージをするということは不二咲の心肺は現在止まっているということか……」

朝日奈「そんな……ウソだよね……?」

大神「助かりますか?」

K「……まだなんとも言えん。五分五分だ」


桑田に声を掛けられ、すぐに生徒達は教室へと集まって来た。そして、不二咲の小さな体に
直接手を突っ込んで心臓を掴んでいるKAZUYAの姿に絶句し、説明という過程が数度繰り返される。


K(クソッ! 体の表面は冷たいが内部はまだ温かかった。呼吸が止まってからさほど時間が
  経っていないということだ。カウンターショックが使えれば蘇生確率も上がるのだが)


全員が息を呑んで見守る中、場にそぐわない能天気な声が響く。


モノクマ「ちょっとちょっと! オマエラ放送聞かなかったの?! 不二咲君は死んだんだよ?!
      無駄なあがきとかやめて早く捜査開始しなよ! このまま学級裁判始まっていいの?!」

K「貴様は黙っていろ!」


振り向きすらせずKAZUYAは怒鳴った。もし今手が空いていたら、今度こそ殴っていたかもしれない。
そのくらいKAZUYAは頭に来ていたのだ。こんなに怒ったのは宿敵・真田武志と三度対峙した時以来だろう。


モノクマ「でもさぁ、捜査しないで学級裁判始まったらマズイのは僕じゃなくてオマエラじゃないの?
      学級裁判のルール覚えてる? 犯人間違えたら犯人以外のオマエラ全員処刑だよ?」

葉隠「ヒッ! しょ、処刑!」


十神「モノクマの言う通りだな。一刻も早く捜査すべきだ。処置は西城一人でも出来るだろう?」

霧切「待ちなさい。私達の目がここにある間にあなたが証拠を処分する可能性だってあるわよね?」

十神「俺を疑うのか」

桑田「むしろ疑わねえワケねーだろ! 散々ゲームゲーム言っておいてよ!」

舞園「捜査に参加出来る人間と出来ない人間がいるのは不公平です!」

苗木「そもそもさ、モノクマは僕達の命を懸けた本気の裁判が見たいんじゃないの?
    捜査しないで犯人間違えるだなんてつまらない結果、損するのはそっちだろ!」

モノクマ「うっ、それはまあそうなんだけど……」

霧切「通常、死亡時刻というのは医師が診断し死亡したと判断した時刻を指すわ。ドクターは
    まだ不二咲君が死亡したとは判断していない。つまり捜査時間は始まらないはずよ」

モノクマ「う、くぅ~。屁理屈ばっかりこねて……」

モノクマ(ちきしょー。霧切の奴、相変わらず小賢しい。何のために記憶消したかわかりゃしない)


モノクマ「わかりました、わーかーりーまーしーたー! じゃあせいぜい無駄な
      作業してて下さい! バッカみたい。どうせ生き返りやしないのにさ」

モノクマ「現実は君達の大好きな漫画やゲームと違って厳しいんだよ!」

大和田「うるせえ、黙ってろ! ぜってぇ生き返るに決まってる!」

間違えた。修正


>モノクマ「う、くぅ~。屁理屈ばっかりこねて……」

>モノクマ(ちきしょー。霧切の奴、相変わらず小賢しい。何のために記憶消したかわかりゃしない)


>ブツブツとモノクマは心の中で文句を言うが、無駄な作業をして駄目だった方が
>より絶望的な展開なのではないか、と考え直し黙認してやることにした。


>モノクマ「わかりました、わーかーりーまーしーたー! じゃあせいぜい無駄な
      作業してて下さい! バッカみたい。どうせ生き返りやしないのにさ」

>モノクマ「現実は君達の大好きな漫画やゲームと違って厳しいんだよ!」

>大和田「うるせえ、黙ってろ! ぜってぇ生き返るに決まってる!」


モノクマ「そう思うのは勝手だけどね。先生はわかってるんじゃない? ま、いいや。
      じゃあ諦めた頃にまた来るから、それまでオマエラここで待ちぼうけしててね」


そう言うとモノクマは去った。後に残ったのは規則正しい作業音のみだ。
お互いにお互いの顔を見合わせ、何を言えばいいのかわからず黙り込む。
大和田は三日ぶりの、酷くやつれた石丸の横顔を見て側に近寄った。


大和田「石丸、代われ」

石丸「……いや」

大和田「代われ。お前も怪我人だろーが。ほら」


半ば奪うようにして大和田が石丸からバッグを受け取る。
石丸はただ呆けた顔をして交代した大和田の顔を眺めていた。


苗木「みんなで交代してやろう。十分おきに代わることにして」

桑田「せんせーはどうする?」

K「俺は大丈夫だ。手を替えれば丸一日でも問題ない」


そうは言うが、本当は負傷した左手がズキズキと痛んでいた。古い木刀だったから
放置すれば炎症を起こすかもしれない。白いゴム手袋の下では包帯が血に染まっていた。


十神「手袋の下から出血しているようだがその左手はどうしたんだ、西城?」

K「お前に話す義理はない」

十神「フン、流石にすぐバレる嘘をつくのはやめたらしいな?」チラ

大和田「…………」


どうせ後でまたモノクマが面白おかしく言うのはわかっていたが、
それでもKAZUYAは大和田のせいで怪我をしたなどとは言いたくないし言えなかった。


「…………」

「…………」


時々バッグを交代したり、KAZUYAが不二咲に昇圧剤を打ち込んで様子を見たりと多少の動きはあったが、
生徒達は基本的に無言でKAZUYAの動向を見ていた。それはもはや何かの儀式のようにすら見える。


K「(クッ、目に汗が……)汗を……」

桑田「え? なんだ?」

K「誰でもいい。汗を拭いてくれ。目に入る」


今までは腕で拭っていたが、KAZUYAは袖のないシャツを着ているため拭っても拭っても汗が垂れるのだ。
……勿論、プレッシャーから尋常でない量の汗が吹き出ているのが一番の原因なのだが。


舞園「これでいいですか」


舞園がハンカチを出して丁寧にKAZUYAの顔の汗を拭き取っていく。


K「すまん」


そして心臓マッサージを開始してから二時間以上経過した。KAZUYAは長年色々な患者を診てきた
経験から、その患者が助かるか助からないかを大まかに見抜く目のようなものを持っていた。


K(……手応えがない。命を掴んでいる感覚がまるで感じられん)


たとえKAZUYA程の名医であっても、救えない命は今までにも数多くあった。
この瞬間を何度も何回も経験してきた。だが、何度体験しても慣れないのだ。

――人の死というものは。


K(情を……移し過ぎてしまった。こういうことがあるから、距離を取らなければならないのに……)


KAZUYAの脳裏には、不二咲の顔が、声が次々と浮かんで消えなかった。
よく懐いてくれた。優しくて、素直で、純粋に良い子だった。芯の強い子だった。


K(駄目だ。生徒達が見ている……)


KAZUYAは唇を強く強く噛み締める。口の中は既に血まみれだった。
悲しんでいる場合ではないのだ。KAZUYAにはここにいる生徒達を悪の手から守るという使命がある。

……たとえその生徒が一人減ってしまったとしても、KAZUYAが折れてしまう訳にはいかない。


K「今、何時だ?」

石丸「3時56分です」

K「4時になったら教えてくれ」


なまじっか知識があるばっかりに、KAZUYAの言葉の意味がわかってしまったのだろう。
石丸は泣きながら腕時計をじっと見つめる。


石丸(不二咲君! 不二咲君! 頼む……生き返ってくれ! 君は僕の友達になってくれたではないか!)


カチ、コチ、カチ、コチ……


石丸(兄弟だけでは駄目だ! 君もいないと! ここには君もいるべきなんだ!!)


カチ、コチ、カチ、コチ……


石丸(頼む! 頼む頼む頼む頼む頼む!! 神様仏様! この際悪魔でもいい!
    僕の命と引き換えでもいいから、どうか不二咲君を生き返して下さい!!)


(どうか……!!!)


カチ、コチ、カチ、コチ、コチ、コチ。


石丸「……4時に、なりました」

K「そうか……」


KAZUYAは不二咲の胸部から右手を引き抜く。


大和田「お、おい……何で手ェ抜くんだよ……まだ、不二咲は……!!」

K「開胸心マッサージの限度は大体1、2時間だ」

「……!!!」


全員がその言葉の意味を察した。


「本日午後4時をもって……」




















「不二咲千尋の死亡時刻とする――」


ここまで。


KAZUYAの下した残酷な宣告により、ついに出てしまった被害者。
次回、大和田が取った衝撃の行動とは?!


つづく

乙です本当に乙です

俺も一番このSSが好きだ書いてくれて本当にありがとう
しかし無理だけはしないでくれ1のやりやすいペースでやってほしい

石丸が犯人はまずないと思うし身を呈して守った相手を[ピーーー]訳がないと言えば周りも納得するか…?
犯人候補は腐川と十神かな

Kがちーたんを蘇生してくれると思ってたけどそんなことなかった。
>>1の影響で、某微笑静画にあったスーパードクターK昨日読み終わりました。

続きがなかったから、K2読んで絶望してます。


遅くなってしまってすみません。少し体調を崩していました
本当は昨日には投下に来る予定だったのですが。

今回は一つお願いがあります。1は投下中にレスがついても特に気にしない派ですが、
むしろレス一杯あると嬉しい派ですが、今回は内容がいつも以上に超弩級のシリアスで
出来れば皆様に一気に読んでもらいたいので、投下終了宣言までレスはお控えくださると
幸いです。多分皆様もその方が読みやすいんじゃないかなと思うので

ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。

それでは再開


>>514-515
ありがとうございます。これからも頑張ります!

>>516
着々とドクターKの読者が増えて1も嬉しいです
かくいう自分も早くK2を手に入れなければ…


KAZUYAの宣告が下りた。確かに不二咲千尋は死んだ。


大和田「ウ、ウソだろ……だって、まだ顔が赤いじゃねえか!」

K「俺が人工的に血を回していたからだ。直に冷たくなる」

大和田「ウソ言ってんじゃねえぞ!!」

K「本当だ。今回は本当に本当だ。……嘘だったらどんなにいいか!」


自分の胸ぐらを掴む大和田にKAZUYAもつい怒鳴る。大和田の手から力が抜けた。


大和田「う、そだ……」


……ただ悲しみが辺りを支配する。


石丸「っわああああああ……あああああああああああああ……!!」

朝日奈「不二咲ちゃん……そんな……ひっ、ぐすっ、うえええええええええん!」

大神「不二咲……」

山田「……ウソです、ウソですぞ……ちーたんが、こんな……信じません……」

葉隠「なにかの、間違いだべ……」

桑田「そんな……俺のせいだ。俺が部屋を出たりしたから……」

苗木「う、ああ……わあああああああああああああああああああああ!」

腐川「あ……ああ……嘘でしょ……」


舞園「…………」

霧切「…………」


感情を封印したはずの舞園やいつも冷静な霧切ですら、今はただ青い顔をして顔を伏せている。
しかし、悲しみと絶望に襲われている者がいれば、その反面ただ淡々と死を見つめる者達もいた。


江ノ島(これでやっと一人目、か。……なんでだろう。人が死ぬのなんて別に
     珍しくないのに、軍人にとっては当たり前の光景なのに、少し胸が痛い……)

江ノ島(みんなが泣いてるから、かな……)

江ノ島(……もう考えるのはよそう。盾子ちゃんの望んだ通りにするって決めたんだし、
     盾子ちゃんに目をつけられた時点で、みんなは既に死んでるも同然なんだから)

セレス「…………」

十神「ようやく認めたな。捜査開始と行くか」

霧切「……待って。その前に全員のアリバイを確認しましょう。アリバイのない
    人間を単独行動させて証拠を隠滅させる訳にはいかないわ」

十神「チッ、まあそれもそうだな」

大和田「待てよ……」

十神「なんだ、プランクトン。西城が死亡宣告したのにまだ言い張るつもり……」

大和田「当たり前だ、どけぇ!!」

K「大和田……」


大和田はKAZUYAを力づくで押し退けると―― 自分の右手を不二咲の開いた胸部に突っ込んだ。


K「……!!」

大和田(俺に医者の知識とかねーけど心臓の位置くらいわかる! これが心臓か……)


掴んだのは、自分の掌より一回りは小さい肉の塊だった。学園に監禁されてからは流石の大和田も
男子厨房に入らずなどと言えず何度か包丁を握ってきたが、その時に掴む肉の感触に似ていた。


大和田(死ねば肉の塊ってことかよ……)


不二咲の小さな心臓を潰さないように細心の注意をしながら、大和田は心臓マッサージを始める。


十神「おい西城、不二咲はもう死んだのだろう? 時間の無駄だ。止めさせろ」

K「…………」

K(大和田……いくらやっても無駄だ。もうよせ……)


あまりの痛々しい姿に、最初はKAZUYAも大和田を止めようと思った。

――しかし、いくら言おうとしてもその言葉は声にならないのだ。


K「……気の済むまでやらせてやれ」


そう絞り出すのが精一杯だった。


十神「全くいつまで足止めさせるつもりだ」

朝日奈「あんた……あんたねぇ?! 不二咲ちゃんが死んじゃったんだよ?! わかってんのっ?!」

十神「わかってるさ。殺人事件が起こった。だから学級裁判の準備を……」


冷静に言葉を返す十神だが、その態度が逆に他の生徒の火に油を注ぐ。


桑田「お前……お前が不二咲を殺したんだろ! だからそんな冷静なんじゃねえのかっ?!」

十神「何を馬鹿な……」

苗木「いくらなんでも酷いよ! あんまりだよ、十神君!」

山田「ちーたんが死んだっていうのに、ふざけたことヌカしてんじゃねえぞッ!」

大神「十神……!」

霧切「……十神君、頭の良いあなたなら学級裁判のルールは当然覚えているわよね?」


スッと霧切は手で周りを示す。敵意の込められた視線が十神の体を中心に交錯した。


霧切「……周りを見なさい。今のままだと真相はどうであれあなたが犯人になるわよ?」

セレス「学級裁判は多数決……あなたが馬鹿にして軽んじている方々にも等しく投票権は
     ございますわ。犯人でないならこれ以上の挑発的言動はマイナスではありませんの?」

十神「……チッ」


それ以降は流石の十神も何も言わなくなった。全員の視線が再び大和田に戻る。


「…………」


大和田は、彼等の会話などもはや微塵も聞いていなかった。ただ、無我夢中だった。


(小せえなぁ……それに思ってたよりなんかこう、やわらけえ)

(オメエ……こんなのでずっと動いてたんだなぁ……)


自分が少し力を入れれば簡単に握り潰せてしまう。
そんな小さくか弱い心臓を必死に動かして、この小さな少年は大きな強い意志を見せていたのだ。
そして自分はそんな勇気ある少年を、つまらない感情一つで殺そうとしたのだ。

己の犯した業の深さを、大和田は改めて思い知らされていた。


(いや、不二咲だけじゃねえ……みんなそうなんだ……)


以前KAZUYAの授業で習ったが、人間の心臓の大きさは大体握り拳と同じくらいらしい。
つまり、自分と不二咲では体の大きさは全然違うが、心臓の大きさはさほど変わらないのだ。


(一分間に60回くらいだっけ? 60×60で一時間に3600。一日だとその24倍で……何回だ?)


一日に86,400回。一ヶ月で2,678,400回。一年で31,536,000回。十年で315,360,000回 ――


(わかんねえけど……わかんねえけど……とにかくすげえ数のはずだよな?)


みんな小さなか弱い心臓を休みなく動かして生きているのだ。だから人の命とは尊いのだ。

――大和田は今ここに、初めて命の重みを心から学んだのだった。


「不二咲……不二咲……」

「なあ、頼むよ……生き返ってくれよ……」

K(大和田……)


いつしか大和田の双眸からは止めどない涙が溢れ出ていた。


「俺ぁ、バカだ。大バカモンなんだ……」

「俺……絶対に事件を起こしたりしないって先生と男の約束してたのに、破っちまった……」


空いている左手で大和田は不二咲の右手を強く握る。少し冷たかった。


「お前は何も悪くねえ……全部俺がわりいんだ。でも、先生はこんなバカな
  俺なんかをもう一度信じてくれて、また男の約束をしてくれたんだ……」

「明日になったら、兄弟とお前にちゃんと謝るって……全部話すって、約束を……」

K「…………」


「ここでお前が死んじまったら……また男の約束破っちまうじゃねえか……」

「頼む、頼むよぉ……! 俺を最低野郎で終わらせないでくれ! ちゃんと謝らせてくれ!!」

「俺に男の約束を守らせてくれよ! 不二咲ィィィィッ!!!」


大和田は外見に反し義理人情に厚く涙もろい男だが、人前で泣くのは男らしくないからと、
今までは何があっても絶対に涙を見せようとはしなかった。その大和田が滝のように涙を流し
絶叫する姿は、見る者の胸を酷く締め付ける。石丸が大和田の向かいに立った。


「不二咲君!」


屈んで、大和田と同じように不二咲の左手を掴む。


「君は折角僕の友達になってくれたのに、僕達はまだ何も友達らしいことをしていないではないか!」

「一緒に遊んだり、時にふざけあったり……君とは、君とはまだ何もしていない!!」

「そんなのあんまりだろう! 僕達を置いていかないでくれ! 頼むから目を開けてくれ!!」

「不二咲君ッ!! 不二咲君ッッ!!!」


二人が泣き叫ぶ姿をKAZUYA達は心痛な面持ちで見ていた。


他方、十神は苛々とセレスは淡々とその様子を見下ろしている。


十神(……愚かな奴らめ。涙で生き返る陳腐な展開は物語の中だけだ。あのドクターKが無理だと
    判断した以上は絶対に無理だし助からん。そんなこともわからないのか。いい加減にしろ)

セレス(まあ、気持ちはわかりますし可哀相だとは思いますけど、致し方ありませんわ。
     これがここでのルール。わたくし達はゼロサムゲームの真っ只中なのですから)

セレス(現実とは――斯様に残酷なものなのです)

K「二人共……もういいだろう……」


KAZUYAが二人に声をかけるが、絶叫に掻き消されてしまって届かない。
仕方なく、KAZUYAは大和田と石丸の肩に手を置いた。


K「もう……やめるんだ」

石丸「ひぐっふぐっ、うううう……わああああああん!」

大和田「不二咲ィ……不二咲ィィ……! わああああああああああ!」

K「お前達は、よくやった……よくやったんだ……」



いくら泣いた所で不二咲は帰って来ない。もう二人に笑いかけることはない。

――とうとう、大和田はその手を止めた。だが、名残惜しくて不二咲の心臓から手が離せない。


「不二咲、すまねぇ……すまねぇ……」


泣き過ぎてしゃがれた声で謝った。謝った。何度も。しつこいくらいに。


もし、もう一度やり直せるのならばその時はちゃんと――


……そんな都合のいい展開なんて起きないとわかっているのに。


「不二咲……ごめんよぉ……ごめん……ごめん……!!」

「…………」


KAZUYAは泣きじゃくる生徒達の肩を黙って抱いた。


――――――――――――――――――――――――――――――


あれぇ? ここ、どこだろう? 確かに僕は死んだはずなのに……

……あ、教室か。みんなもいるしね。って、あれ?! 窓が開いてるよ!

それに、みんな凄く楽しそうにしてる……


――ああ、そっか。これは、夢なんだね。


きっと、僕達がもしあんな事件に巻き込まれなかったらっていう、幸せな夢なんだ。

休み明けっていう設定みたい。久しぶりだーって桑田君が首に腕を回してきた。

その後は大和田君が同じように桑田君にじゃれついて、仲がいいのは良いことだ!って

笑いながら石丸君が携帯で写真を撮って僕に見せてくれた。

……楽しいなぁ。

ここが天国なのかな? こんな場所なら、僕ずっとここにいてもいいや。


――そう思ったのに、急に外が暗くなって音が何も聞こえなくなった。


外はまだ夏のはずなのに、なんだか凄く寒い……


あぁ、わかった。ここって、ゲームで言うエキストラステージみたいな場所なんだね。

もうすぐ終わりなんだ……でも、死ぬ前にこんな素敵な夢を見せてくれるなんて

神様は優しいなぁ。天国って一体どんな所だろう? 楽しい所だといいな。


「――――ィ!」

「――――ン!」


あれぇ……? どうしたのぉ?! 

相変わらずみんな楽しそうにしているのに、いつのまにか大和田君と石丸君が泣いてた。


「――二咲ィ!!」

「――咲君ッ!!」


目の前に立ってるはずなのに、凄く遠くから声が聞こえる気がする。

どうしたんだろう。二人共、何がそんなに悲しいんだろう。

二人が泣いてると、僕も悲しくなってきちゃうんだ。




――体は相変わらず寒いのに、なんだか両手がとっても熱い。


慰めてあげないと。

励ましてあげないと。

辛い時は側にいて支えてあげるんだ。

僕に出来ることがあったらなんでもしてあげるよ。


――だって、二人は僕の大切な友達だもん!


まず、僕が泣くのをやめなきゃ。

僕が笑って二人を安心させてあげなきゃ。

だから、お願い。もう……


「泣かないで――」


http://i.imgur.com/hIflhZh.jpg

――――――――――――――――――――――――――――――



























――トクン。


大和田「……………………あ」


急に、大和田はガクガクと震え出してKAZUYAを振り返った。


K「……どうした?」


トクン。


大和田「い、今……な、な、なにか、う、動……」


大和田が手を引き抜くと同時にKAZUYAは大和田の首根っこを掴んで力いっぱい
後ろに投げ倒し、不二咲の脈を測る。微かに息を吐くような音も聞こえた。


K(馬鹿な……?! 二人の声が呼び戻したというのか?!)

K「不二咲の心拍が戻ったぞ! 桑田、強心剤を出せ! 赤のラベルのッ!!」

「!!」


風船が割れたように叫び声が弾ける。だが、もうそれは悲しみからのものではない。


桑田「えっと、ちょ、待って……あった! これだな!」


以前KAZUYAは薬品や器具を分散させて苗木と桑田に預けたが、すぐに取り出せないのは
困ると思って、空いた時間に色のついたビニールテープを貼りマジックで効能を書いておいた。
赤のラベルは昇圧剤など手術時に使う緊急性の高いもの、青のラベルは抗生剤などの
重要だが緊急性はあまりない物、黄色は栄養剤などの緊急性も重要性も低いものだ。


「――――で」


ゴホッ! ヒュー、ヒュー……


K(何か言おうとしている! 脳がまだ生きている証だ!!)

K「よし!! 呼吸が戻った! あとは強心剤を直接心臓に打ち込み、弱った心臓を後押しする!」


受け取った薬品を注射器に入れ、KAZUYAは不二咲の心臓に打ち込む。
久しぶりに手が少し震えていたかもしれない。


石丸「ぜ、ぜんぜぃ……ふ、ふじざぎぐんは……」

K「これでもう大丈夫だ。不二咲は助かるぞ!」

石丸「きょ、きょうらい……」

大和田「石丸……」


一瞬、KAZUYAが何を言ったのかわからなかった。
……だが、夢ではない。確かにドクターKが助かると言ったのだ。


「わああああああああああああああああああああああんっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!」


石丸と大和田は思わず抱き合って盛大に泣く。
それを皮切りとして、他の生徒達も再び大声で泣き出した。

絶望からではなく、力いっぱいの笑顔を浮かべながら――


ここまで!

ぶっちゃけちーたん死亡回で1の奴やらかしやがったなこんちくしょおおおおおおって思った人、
先生怒らないので正直に手を挙げなさい

…ほんと、マジで、あの時は皆さんの悲鳴で1の罪悪感が凄くて
リアルに冷や汗めっちゃかいて凄く胃が痛くなりました

昔ジャンプで和月先生がね、重要キャラの死亡回で巻末に「でも先生はハッピーエンドが好きです」って
書いて一部の読者からネタバレすんな!って怒られてたけど、その気持ちわかるよ!言いたくなるよ!

乙。
ネタに対する下調べがプロ並みに入念だとは思っていたが…
話の盛り上げ方も上手いし、やっぱ本職は凄いわ。

>>523
某天秤座の虎「わしの心臓は一年に10万回しか動かん」

>>566
いえいえ、自分は単なる1ワナビですよ。ちょっと凝り性なのと、中途半端にやるのは
ファンに失礼だから実力以上に頑張ってるだけです。両方共好きな作品ですしね

>>567
廬山百龍覇!!


投下


その日、久しぶりに学園に笑顔が戻ってきた。


朝日奈「よ、良かった……良かったよおおおおおおお! うわあああああああああん!」

山田「ちーたん復活キタアアアアア! ホワアアアアアアアアアアアアアア!!」

桑田「し、心配かけやがっって……ううっ、グスッ……ちきしょお……」ボロボロ

苗木「良かっ、た……本当に、良かった……!」ぽろぽろ

舞園「う、う……うううぅ……」ぽろぽろ

霧切「良かった……」

葉隠「いいもん見れたべ。なんか、久しぶりに心が洗われたっつーか……」

腐川「や、やるじゃない……あんたのこと……ちょ、ちょっとは認めてやってもいいわよ!」


葉隠と腐川も目頭に指を当てている。
そんな中、動揺している人間が二人いた。


江ノ島(信じられない……確かに不二咲君は死んでたはず。はっきり死相が浮かんでたのに)


戦場で何度も死に逝く人間を見てきた戦刃も、KAZUYAのように死を感じ取る能力があった。
不二咲は助からないはずだったのだ。自分の勘が初めて外れたことに戦刃は驚きを隠せなかった。


江ノ島(これがドクターKの力なの? でも、西城先生は確かに一度諦めたし
     死亡宣告までしたのに……なにがなんだかわからないよ、盾子ちゃん……)

江ノ島(でも、みんなすごく喜んで嬉しそう…………ダメ。考えたらダメ)

江ノ島(今回助かっても、どうせほんの少し寿命が延びただけなんだから――)

江ノ島「よ、良かったじゃん! アハハ!」


もう一人の動揺者はあくまで認めないと言うように首を振る。


十神「馬鹿な……こんなこと、起こるはずがない。有り得ん……!」

K「いや、ある!」


KAZUYAは珍しく困惑する十神の顔を見据えて言い切った。


K(俺も長年この業界にいるが、医療の世界では時々不可思議なことが起こる)

K(軽い病気や発作の、絶対助かると思われた患者の容態が急変してしまったり、
  逆に今回のような何らかの力が働いたとしか思えない奇跡が起きたり……)

K(それは俺達人間の医者にはどうすることも出来ない――いわば神の領域!!)

K「不二咲はここで死ぬべき人間ではなかったということだ」


言ってから、KAZUYAは思うことがあってあえて言い直した。


K「いや……大和田と石丸、二人の思いが、絆が不二咲を呼び戻したのだ!」

K「お前達が散々否定してきた友情の力でな!」

十神「ぐっ! ……認めん。認めんぞ、俺は!!」

石丸「僕達の間には、確かに友情があった……」


この上なく嬉しい言葉のはずなのに、石丸は力無くポツリと呟く。
だが、周囲が石丸の様子に気付く前に乱入者が現れた。


モノクマ「あのさー、いい感じの雰囲気な所悪いんだけど……」

K「厭味ならさっさと言え。そして帰れ」


顔も上げずにKAZUYAは不二咲の開いた胸部を縫合していく。


モノクマ「いやね、厭味じゃなくて学級裁判の話なんだけど……」

セレス「あら、死人がいなくなったのですからもう裁判をやる必要はなくなったのでは
     ありませんこと? 殺人事件は起こっていないということになったのですから」

モノクマ「そうはいかないね! 死体発見アナウンスしちゃったし、見てる方も納得出来ないし!
      つーか僕が一番ガッカリだよ! いい加減こっちは裁判やりたいんだよ!!」

モノクマ「大体ねぇ、いくら助かったとはいえ不二咲君をこんな酷い目に
      遭わせた犯人、クロはオマエラの中にいるんだよっ?!」

苗木「嘘だ! どうせお前が不二咲君を襲ったんだ!」


モノクマ「天地神明に誓って僕じゃない! なんなら裁判の後に証拠の映像を見せてもいいよ。
      裏切り者は今もオマエラの中にいるんだ。そいつを放置しておくつもりかい?」

霧切「捜査も何も不二咲君が目を覚ましてから犯人を聞けばそれで終わりだわ」

モノクマ「僕の予想では不二咲君はしばらく目を覚まさないと思うんだけど。違う?」

K「確かに。元々体が弱いのにギリギリまで死に瀕していたのだ。当分は目を覚まさないだろう」

大和田「当分てどんくらいだよ? まさかせっかく助かったのにこのまま目を開けないとか……」

K「……可能性は低いがゼロではない」

大和田「そんな……」

モノクマ「少なくとも今日中には無理ってことだよね? じゃあ裁判出来るじゃない!
      やったね! 僕はこの時を待っていたんだよ!!」


大喜びになるモノクマに反して、一同は背筋が冷えるのを感じた。


K(グッ、まずい……このままでは下手すれば全員が処刑されてしまう……)

K「ふざけるな! 校則には仲間の誰かを“殺した”クロとある! 被害者が生きているのに
  処刑するのは明確なルール違反だ! ゲームマスターのくせに自分の作ったルールを破るのか!」


無駄な足掻きとわかりつつも、KAZUYAは足掻かざるを得なかった。だが、所詮は無意味な行為だ。
この世界のゲームマスターはモノクマだ。自分達がどんなに主張してもルールを変えることは出来ない。


K(こうなったら最悪、俺自身を交渉材料にするしか……)


死人すら生き返したのだ。黒幕から見て最も邪魔な存在なのは明らかにKAZUYAだろう。
そのKAZUYAが自身の身柄を引き渡すのであれば、黒幕にとってそこまで悪くない提案のはずだ。

――しかし、ここで予想外の展開になった。


モノクマ「そこが問題なんだよねぇ……」


モノクマは心底困った声を出してあからさまに焦った表情を見せる。またKAZUYA達を
罠にかけるために演技でもしているのかと思ったが、どうも様子がおかしい。


K「……何?」

モノクマ「不二咲君は間違いなく一度死んだけど、今は確かに生きてる。事件が起こったら裁判を
      しなきゃいけないけど、人を殺してないクロを処刑する訳にもいかないし……」

葉隠「そ、そうだべ! そんな死に方納得いかねえ!」

桑田「ふざけんな! これで死んだら化けて出てやるぞ!」

モノクマ「うーん。この事態は流石の僕もちょっと考えてなかったなぁ。どうしようか……」

K(モノクマが珍しく悩んでいる。これはチャンスだ……!)


付け入る隙を感じ、KAZUYAは禁断の案を出した。


K「ではこうしたらどうか。予定通り学級裁判を開き、裁判後にはお仕置きも行う」

K「――ただしお仕置きの内容はぎりぎり死なないレベルにする。これでどうだ?」


桑田「お、おお! さすがせんせーだぜ」

山田「それなら問題ないですな!」

霧切「…………」

十神「…………」

モノクマ「成程、折衷案て訳ねぇ。……でもさぁ先生、自分が何を言ってるかわかってるの?」

K「……ああ。わかっているさ」

朝日奈「え? どういうこと? 普通に名案だと思うけど」

苗木「何か問題でもあるの?」

江ノ島「もったいぶってないで早く説明しなさいよ!」

モノクマ「つまりさ、先生は学級裁判自体を開かないようにするのは無理だと踏んで……」

モノクマ「自分達を守るためにクロ一人を生け贄に差し出そうって提案をしてる訳!」

「!!」


動揺する生徒達を見上げながらモノクマは嫌らしい笑みを浮かべる。


モノクマ「笑っちゃうよね? 今まで散々生徒達は俺が守る! 俺は生徒全員の味方だ!って
      ヒーローぶってたのに、自分の身が危うくなったらこれだもん!」

桑田「で、でも……しかたねえじゃん……不二咲を襲ったヤツが悪いんだし……」


モノクマ「おや? 君が言うの、クロになりかけた桑田怜恩君? あの日あの晩たまたま
      見回りをしてたKAZUYA先生が挙動不審な君を発見して舞園さんを治療したから
      助かっただけで、本来ならあの後学級裁判が開かれてたんだよ?」

モノクマ「そうなったら君か他のみんながオシオキされてた訳だけど、その点については
      どう言及する気? バッチリ証拠隠滅したうえ口封じまでしようとしてた癖にさぁ?」

桑田「だって! あの時は学級裁判のこと言ってなかったじゃんか! 後出ししやがったくせに!!」

K「桑田、そのへんにしておけ。俺はお前達を守るためなら、どんなに
  冷酷にだってなる。死にさえしなければ俺が治してみせるさ」


固い決意と共にギンッと目を吊り上げると、KAZUYAはモノクマの前に立った。


K「それでモノクマよ。この条件を飲むのか、飲まないのか?」

モノクマ「う~ん、そうだねぇ……」


たっぷりと時間を掛けて思案し、最終的にモノクマはKAZUYAの提案を飲むことにした。


モノクマ「……うぷぷ。いいよ。飲んであげるよ。みんなに裁判ボイコットでもされて
      全員オシオキじゃあまりにもつまらないからね。死にはしなくてもそれなりに
      きつーいオシオキを用意して待ってるから、せいぜい頑張って犯人当てしなよ」

大和田「ま、待て、待てよ! 裁判なんかより不二咲だ。このままで大丈夫なのか?!
     ここじゃろくな設備もねえし、本当は病院に運ばねえとヤベエんじゃねえのかよ!」

K「当然、病院に運んだ方がいいに決まっているが……」

大和田「なら……やっぱり、俺が死んだ方が……」


K「まだそんな馬鹿げたことを言うのか!」

石丸「待ってくれ」


突然聞こえた単語に全員がギョッとする中、割って入ったのは石丸である。


石丸「僕の聞き間違いでなければ……今、何やら不穏な言葉が聞こえた気がするのだが……」

桑田「唐突になに言い出してんだお前? なんでお前が死ななきゃなんねーんだよ?」

大和田「これを見てくれ!」


思い詰めた顔で、大和田は例の紙を全員が見えるように広げて見せた。
大和田のしようとしたことを察し誰もが青ざめるが、特に石丸の様子は酷かった。


石丸「……どういうことだ?」

大和田「すまねえ……お前の顔の傷を消すにはこうするしかなかったんだよ。よほど運が
     悪くなければ不二咲も出してやれるし、それが罪滅ぼしになると思ったんだ」

石丸「ふざけるなッ!! そんな……そんな方法で自分だけ脱出して、僕が本当に
    喜ぶとでも思ったのか?! 君には僕がそんな卑怯者に見えていたのか?!」

K「落ち着け、石丸! 傷に障る!」

大和田「同じことを先公にも言われたぜ。確かにあの時の俺はどうかしてやがった…………でも!
     今は話が別だ! 不二咲の命が掛かってるなら、俺の命を犠牲にする意味もあるだろうが!」

舞園「落ち着いてください、大和田君。そもそもモノクマは本当に約束を守る気はあるんですか?」


大和田「守るっつったよなぁ?! さっき俺と先公の前で確かに!」

モノクマ「僕は一度した約束は絶対に守るよ」

大和田「ほら見ろ、なら止めるんじゃ……」


しかし、その後にモノクマが告げた言葉はKAZUYAにとって予想通りであり大和田にとって予想外だった。


モノクマ「でも僕は君と約束なんてしてないけどね。いくら僕でもしてない約束は守れないよ」

K「…………」

大和田「…………はぁ?」


思わず大和田は間の抜けた声を出す。


大和田「な、なに言ってやがんだテメエ……だってこの紙にちゃんと……」

モノクマ「ああ、それ? 僕が書いたラクガキだけどそれがどうかした?」

大和田「ら、らくがきぃ??!」


あまりにも堂々と言い放たれて、大和田は声が裏返るのも気にせずただ呆然とする他なかった。


モノクマ「うん。あぁ、そっかぁ。廊下のどこかに捨てたつもりだったけど、“偶然”
      大和田君の部屋に入ってそれを自分宛ての手紙だと勘違いしちゃったんだね!」

大和田「テメエ……俺を、騙しやがったのか……」


モノクマ「騙すなんて人聞きの悪い。宛名も差出人もない単なるラクガキを
      君が勝手に手紙だと勘違いしただけでしょ? 逆恨みはやめてよね!」

舞園「……石丸君達の件で焦っていた大和田君の気持ちを利用したんですね」

朝日奈「ひ、ひどい……ひどすぎるよ……」

桑田「この野郎……!!」

モノクマ「ま、勘違いは誰にでもあることだよ! ドンマイ!」テヘ♪

「テメエ……きたねえぞぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


とうとう怒髪天を突いた大和田は絶叫してモノクマに飛びかかる。その進路を妨げるように
大神が立ち塞がって受け止め、すぐさまKAZUYAが大和田を後ろから羽交い締めにして引き離した。


大和田「はなせええええええええ! ぶっ殺してやるッ!!」

K「よさないか、大和田!」

大和田「きたねえ! きたねえぇぇ! クソ野郎があああああ!」

K「大和田!」


その時、荒れる大和田に対しセレスが淡々とした口調で話し始めた。


セレス「ギャンブルの世界ではカモを誘う場合、まずは相手に有利な状況を提示します。
     そして相手が勝負に乗ってからこちらに都合の良いように操作するのです」

セレス「日本人は平和ボケしているからわからない感覚かもしれませんが、世界では自分の身は
     自分で守るのが常識。冷たい言い方かもしれませんが、引っ掛かる方が悪いのですわ」

モノクマ「その通り! セレスさん、良いこと言った!」

モノクマ「大体そんなルール校則には書いてないし、現にKAZUYA先生は早まった君のこと
      しっかり止めてたじゃない。これだから頭の悪いヤンキーは困るよ」

大和田「ふ、ざけんなよ……先生がとめてくれなかったら……俺は、俺は今頃……」


そうだ。もし冷静なKAZUYAがあの場にいなければ、自分はもうこの世にいなかったはずなのだ。
大和田は、今回ばかりはKAZUYAをあの場に呼んだ自分の弱さに救われたのであった。


モノクマ「ま、死ななくて良かったんじゃん? 後で先生によくお礼を言っておくことだね」

大和田「ちくしょお……ちくしょおおお……!」

K「…………」


モノクマの言葉でとうとう気力も折れたのか、大和田は膝から崩れ落ち、床を殴りながら悔し涙を流す。
確かに、敵の言うことをあっさり真に受け騙されたことは大和田に非があるだろう。だが、今回の件で
大和田が相当追い詰められていたことを思うと、KAZUYAはもう何かを言う気にはなれなかった。
石丸は真っ青な顔をして突っ立ち、ただ哀れでミジメな親友の姿を見下ろしている。


霧切「でも今回の件で一つはっきりしたことがあるわね」

苗木「どういうこと?」

霧切「たとえ学園長のモノクマであっても、校則には行動を縛られるということよ」

霧切「大和田君の件は、校則に書かれていないことを根拠に無効を主張しているわ。そして人が
    死んでいないのにオシオキをするのは校則違反だからと今回のみルール変更を認めた。違う?」

モノクマ「その通り。この学園にいる限り、たとえ校則を定めた僕自身であっても
      一度決まった校則を自由に変更することは出来ないよ」

葉隠「はぁ? そんなこと信用できるかいな」


当然モノクマの言葉など信用出来ない者が大半だったが、十神は一人得心する。


十神「成程。あくまでゲームということだ」

山田「はい? どういう意味です?」

セレス「ゲームというのは定められたルール内で行うから面白いのです。モノクマはイカサマは
     することがあっても、ルールそのものを都合良く変えることはしないと言うことですわ」

セレス「ゲームの途中で自由にルールを変更されたら、ゲーム自体が成り立ちませんもの」

K「……相手に勝ち目が全くない時点で、それはもはやゲームとは呼べないからか」

K(憎たらしい奴ではあるが、変にフェアな所があるな。狂人とは概して妙なこだわりがあるものだが)


モノクマ「さあさあ、大和田君のせいで余計な時間取っちゃったけど、
      捜査時間には限りがあるんだから、早く捜査を始めなさい!」

K「待て! 最後に捜査時間と集合場所を教えろ」

モノクマ「……念入りだねぇ。ま、僕だって鬼じゃないからさ! オマエラの捜査状況を見て
      もう犯人を絞れるなーと思ったり、逆にこれ以上は無駄だなーと思ったら放送いれるよ」

K「全ては貴様の匙加減一つという訳か」

モノクマ「そういうこと。あと、みんなの電子生徒手帳に事件の概要を記したモノクマファイルを
      配っておいたから、それも参考にするといいよ。では学級裁判でお会いしましょう!」


そしてモノクマは去って行った。
捜査などやりたくはなかったが、やらない訳にもいかない。


K「とりあえず、俺は不二咲についていなければならんから捜査にはほとんど参加出来んな……」

苗木「大丈夫です。僕等が絶対に犯人を見つけます!」

霧切「とりあえず、先程出来なかったアリバイの確認をしましょう」

石丸「……その必要はない」


K「どうした? まさか犯人を知っているのか?」

石丸「はい」

大和田「だ、誰だ?! いったい誰が不二咲のヤツを襲ったんだ?!」

石丸「……僕だ」

大和田「は?」

K「……石丸?」

大和田「お、おいおいおい……いくらオメエが空気読めないからって、まさか
     こんな状況でつまらないジョーク言ってんじゃないよな?」

石丸「違う……」








石丸「僕が不二咲君を殺したんだ――!!」


ここまで。

ちーたんがうっかり自爆したか、石丸がトリガーになってピタゴラスイッチが発動したか、
そのぐらいしか可能性がないよな…
あるいは、誰かが誰かをコロそうと仕掛けていたデストラップに
予期しない形でちーたんと石丸が引っ掛かったか

いずれにせよフラグが…フラグがわからん…

捜査編やるのかな?
やるとしたらここの>>1がどうするか楽しみだ


そういや、ちーたん原因の事故だった場合がヤバイな、オシオキ耐えられるんかいな

今日投下の予定でしたが、捜査編手間取ってるのでもうちょいお待ちを

事故って言葉のせいで余計な議論を招いてしまったようですが、言葉の綾でちゃんとした事件です
いつもは単独行動を取らないちーたんが単独行動してしまったのが一種の事故みたいな感じで

>>594
絶対わかるわけないのでご安心を
このフラグが単独で立ったのではなく、別のフラグに追従して生まれたフラグなので

>>595
やりますよ、捜査編も裁判もちゃんと……

SS開始前の1「なるべく裁判は起こさない方向で行こう。万が一どうしても裁判しなくちゃならなくなっても
         捜査と裁判全カットでいいや。動機や演出が大事なんだ。このSSはあくまで医療SSだし」

SS連載後の1「ヤベエ! どのダンガンSSも裁判やってるじゃん! うちだけやらない訳にはいかねえ…」


事前に言っておきますが、1はミステリめっちゃ苦手です。犯人は基本フィーリングで選ぶ人間です
恐らくダンガンロンパで推理力を鍛えた皆様ならあっという間にトリックも犯人もわかるかと思いますが、
ネタバレや過度の予想はお控えくださると助かります。ほら、中には1みたいに全然わからない人も
いるかもしれないし、ね。ほんと、裁判は準備に一ヶ月以上かけてるんでよろしくお願いします…

たったひとりぶちこめばなんとかなる


真田武志

K「お前は死んだはず……」

真田「俺はクローンでそのガキの生態系を調べるために云々」

このSSを読んでドクターKも読んだ
読んだからこそ、Kが焦るこの状況がどれだけやばいのか分かった

>>599
いやいやいやwwやりませんよ?やるとしてももっと終盤でないと

>>600
ありがとうございます。最近ドクターKの輪が少しずつ広まりつつあるか?

ついでに、前々から気になってたのでこの場を借りてちょっと聞いてみるけど、
このSS読んでからドクターKを読んだ人達に質問です。面白かったですか?
原作やKAZUYAの雰囲気をこのSSはちゃんと再現出来てるでしょうか

今後の参考にしたいので、お暇な時にでもレスくれたら幸いです



「不二咲君を襲ったのは、僕だ……」


誰もが言葉を失って呆然としていたため、聞こえなかったと勘違いでもしたのだろうか。
石丸は言い回しを変えてゆっくりと、再度その衝撃的な告白を繰り返した。


「?!?!!」

大和田「な、なにを突然……」

桑田「ハアアアア?! なに言ってんのお前?!」

舞園「待ってください、話を聞いてみましょう」

K「その前に俺も一つ確認したいことがあるんだが……」


混乱する生徒達を制すように、KAZUYAは一歩前に出る。


K「俺が部屋を出た時、お前は薬で寝ていた。そして横には桑田と不二咲が
  いたはずだ。何故揃って三人とも部屋の外に出ていたのだ?」

桑田「あ、そ、それは……実は俺が最初に部屋を出たんだ。バットを自分の部屋に忘れてさ。
    すぐに戻るつもりだったんだけどよ、その時葉隠に会って立ち話しちゃって……」

桑田「戻った時には不二咲も石丸もいなくなってたんだ。少し自分の部屋に戻るって
    不二咲の書き置きがあったから、最初は二人で出かけたんだとばっかり……」

桑田「クソッ! 俺があの時すぐに探しに行ってりゃこんなことには……」


K「過ぎたことを悔いても仕方ない。不二咲は助かったのだ。今は学級裁判を最優先にしろ」

桑田「…………」

霧切「それで、石丸君の話を聞きたいのだけれど」

石丸「あ、ああ。全体的に頭が朦朧としていたからどこまで信用出来るかはわからないが……」

石丸「僕が部屋で目を醒ました時、側には誰もいなかったのだ。何かあったのかと不安を
    感じて部屋を出たことまでは覚えている。その後は曖昧で、気が付いた時……」

石丸「ここで僕が凶器を握り締め、不二咲君が倒れていたのだ……」


目線の先には、一本の延長コードが落ちている。KAZUYA達が駆けつけた時、確かに不二咲の首に
これがグルグルと巻かれていた。それを握りしめていたのなら、石丸が犯人の可能性は高いが……


K「では犯行の瞬間は全く覚えていないのだな?」

石丸「そうなります……」

大和田「なにかの間違いだ! 兄弟が不二咲を襲うワケねえ!」

十神「しかし現場の状況的には石丸が犯人だな」

大和田「た、たまたま倒れた不二咲を発見して凶器を手に取っただけかもしれねえじゃねえか!」

葉隠「石丸っちが犯人だべ! 俺の占いがそう言ってるべ!」

桑田「オメエの占い三割しか当たんねえだろ!」


朝日奈「ウ、ウソでしょ? まさか、本当に石丸が……?!」

大神「信じがたいが、確かに状況的には石丸が犯人だろう。しかし……」

山田「よ、よくもちーたんを!」

江ノ島「あんた風紀委員でしょ?! サイテーだね!」

石丸「すまない……」

K「待て! 状況証拠だけで犯人を決めつけるのは早い。まずはアリバイの確認だ」

腐川「ア、アリバイって言っても、犯行時刻もわからないのにアリバイなんて……」

霧切「桑田君、部屋を出たのは何時か覚えてる?」

桑田「せんせーが部屋を出てからそんな経ってないから12時50分くらいだ。部屋に戻って
    来たのは1時15分。途中から心配になって何度も時間確認したから間違いねえ」

K「そして俺達が現場に到着したのは1時40分。つまりこの間が犯行時刻だな」

十神「先程配られたモノクマファイルとも一致するな」

セレス「モノクマファイルとはそもそも何ですの?」

舞園「ほら、電子生徒手帳のここに項目が出来てるんです。事件の簡単な概要が書いてあります」


全員が電子生徒手帳を取り出し、言われた通りにモノクマファイルを開く。
そこには数行だけの簡単な事件の概要が書かれていた。


モノクマファイル:犯行時刻は午後1時から1時30分の間。被害者は不二咲千尋。死因は絞殺。
           現場は1-A教室で、延長コードを握った石丸清多夏と共に発見された。


苗木「何だこれ……ほとんど情報なんて書いてないじゃないか! それに不二咲君は生きてるのに!」

K「ほとんど情報がないのは自分達で捜査して真相を推理しろということだろう」

霧切「重要なのは嘘が書かれていないかよ。絞殺に見せかけて真の死因が毒殺だったりしたら厄介だわ」

モノクマ「その心配はないよ! モノクマファイルには本当のことしか書いてないから。
      今回の事件は監視カメラの前で堂々と行われたから僕もバッチリ目撃してたしね」

K「絞殺される前に薬物で眠らされたりした可能性は?」

モノクマ「その可能性はないとは言えないけど……まあ、捜査で明らかにしてください」


KAZUYAの鋭い指摘に、モノクマは目線を逸らしつつ曖昧に答える。


霧切「つまり、モノクマファイルに書いてあることは確実な事実。ただし、ここに
    書かれていないことが行われた可能性も考慮しなければならないということね」

K「あくまで参考程度ということだ」

霧切「ではアリバイ証明に行くわ。私はその時間はずっと苗木君、舞園さんと一緒に
    舞園さんの部屋で話していた。誰も席を立たなかったから私達はアリバイ成立よ」

江ノ島「え? 舞園の部屋に三人でいたの?!」


葉隠「苗木っち、草食系な顔してなかなかやるべ」

苗木「そ、そんなんじゃないよ! 本当にただおしゃべりしてただけだって」

苗木(本当は今後の方針について話し合ってたんだけど……それは言えないし)

朝日奈「私はさくらちゃんとずっと食堂にいたよ。厨房には山田が篭ってた」

山田「僕は厨房と食堂の間を行き来していましたが、外には出ていません」

K「山田は厨房で何をしていたんだ?」

山田「セレス殿にしごかれたおかげで、最近すっかりロイヤルミルクティーを作るのが
    上達しましてねぇ。次はお茶菓子でも作ってみようかと試行錯誤していた次第です」

大神「それで、我らに試食を頼んできたのだ」

山田「甘いものでも食べれば元気になるかと思いまして……」


そこで山田は、チラリと朝日奈の方を見る。山田なりに気を遣ったのだろう。


K「では、三人はアリバイ成立だな」

山田「あ、でも! 大神さくら殿は一度だけ席を立ちましたよ」

大神「……手洗いに行っていた。時間は1時10分くらいだったか」

朝日奈「で、でもすぐに戻ってきたもん! 二、三分くらいだし殺人なんてムリだよ!」

十神「私情を挟むな。大神の力があれば不二咲程度簡単に殺せる」

セレス「大神さんなら石丸君を気絶させて運ぶのも容易いでしょうしね」


霧切「では朝日奈さんと山田君はアリバイ成立で、大神さんは不成立ということね」

朝日奈「そんな……」

葉隠「次は俺か? 俺は桑田っちとしゃべってたからアリバイがあるべ!」

舞園「でも、桑田君は途中で石丸君の部屋に戻ったんですよね?」

桑田「ああ。だから俺と葉隠のアリバイがあるのは1時15分までだな……」

苗木「葉隠君はその後どこで何をしてたの?」

葉隠「部屋にいたべ」

霧切「じゃあそれ以降のアリバイは不成立ね」

K「俺は例の件で大和田から呼び出しを受けた後、現場に行くまではずっと一緒だった。だから成立だ」

江ノ島「でもさぁ、怪しくない? 大和田は不二咲襲った前科があるし、本当は
     大和田が犯人で石丸も西城も大和田を庇ってんじゃないの?」

石丸「馬鹿な! 僕はそんなことは……!」

K「俺と大和田が一緒にいる時モノクマが現れた。動向が気になってずっと監視してたのだろう。
  奴に頼るのは癪だが俺達の前に現れた以上、奴に聞けば証言するはずだ」

江ノ島「ふーん。あっそ」


実際はモノクマが証言するとは到底思えないが、KAZUYAはハッタリとしてモノクマの名前を出した。
案の定内通者だからか単に頭が弱いからか、江ノ島はモノクマの名前を聞くとすんなり引く。


霧切「ちなみに江ノ島さんはどうしてたの?」

江ノ島「え? アタシ? ……えっと、ずっと部屋にいたからアリバイはないかな」

セレス「わたくしも、いつも通り娯楽室に一人でいましたからアリバイはありませんわね」

苗木「十神君はやっぱり図書室にいたの?」

十神「ああ、ずっと本を読んでいた」

舞園「それを証明出来る人はいますか?」

十神「いないな。腐川は一度図書室を出ているからアリバイは成立しない」

霧切「時間は?」

十神「さあな。何でこの俺が腐川の行動をいちいち把握せねばならんのだ」

腐川「た、確か1時20分か30分くらいだと思うけど……白夜様に紅茶をいれて
    差し上げようと、食堂に行ったわ。あ、あんた達も見てたわよね?!」

朝日奈「うん、確かに腐川ちゃんは一度食堂に来たよ」

山田「拙者もお会いしましたぞ。正確な時間は覚えていませんが、確かにそのくらいでしたな」

桑田「え、でも待てよ……」

舞園「ということは……」

K(腐川はちょうど犯行時刻に犯行現場の前を通っていたということか……)


腐川「な、なによ……ま、ままままさか、アタシを疑っているのね?! そうなのね?!
    そ、そうよね……アタシみたいな根暗で陰険なブスなら、平気で人殺しも出来そうって
    そう思ってるんでしょ?! 人を殺しても罪悪感なんて感じなさそうって……!」

K「落ち着け。まだ君が犯人だとは言ってない。その時に不審な人物を見たか?」

腐川「だ、誰にも会わなかったわ……」

霧切「現場の教室には誰も見かけてない?」

腐川「いなかったはずよ……まあ、いちいち覗き込んだりしないから中で
    倒れてたりしたら、どうせ気付かなかったでしょうけど……」


全員のアリバイの確認を終え、KAZUYAは顎に手を当てる。想像以上に厄介な事件であった。


K「フム……」

K(……何ということだ。俺が現在信頼をおいているメンバーのほとんどに
  アリバイがあるとは……逆に言えば、桑田以外誰が犯人でも全くおかしくない)


アリバイのないメンツを順に見ながら、KAZUYAは考え始める。


K(内通者の江ノ島に、殺人肯定派の十神、不審な点が目立つルーデンベルク……
  腐川も秘密が配布された時過大な反応を見せていたから、それが動機かもしれん)

K(葉隠は普段なら到底人殺しなど出来るような奴ではないが、パニックに
  陥りやすい所がある。何かの拍子や誤解で道を間違えないとは断言出来ん)


K(大神は……普段の様子的にも人間的にも本来なら絶対に有り得ない所だが……
  だが、もし俺のあの邪推が当たっていたら……ゼロとは言い切れんだろう)

K(……最後に石丸だが、確定的な証拠が出るまでは俺は信じたい。この男は、自分は平気で
  傷つけられるが人を傷つけたり殺せるタイプの人間ではないのだ。無論、事故の可能性も
  残っている……が、死因が絞殺ならかなり明確な殺意がなければ厳しいはずだ)


捜査時間はもう始まっているのだが、何分初めてのことであり手順もよくわからず、
アリバイの確認が終わると生徒達は互いの様子を伺いながら固まっていた。
一方、霧切は手慣れたもので既にテキパキと捜査を開始している。


霧切「山田君、あなたカメラを持っていたわよね? 貸してもらえないかしら?」

山田「もしかして、現場を撮影するのですかな? お安いご用です」

K「終わったら俺にも貸してくれ。裁判に役立つよう、写真付きの詳細なカルテを作る」

葉隠「それで、結局俺達アリバイのない人間はどうすりゃいいんだ?」

霧切「ここに残って現場の保全をするか、二人以上で行動してもらいたいのだけれど……」

十神「断る。ここに犯人だと自白した男がいるのに何故そこまで行動を
    制限されなければならない。俺は一人で行動するぞ」

セレス「同感ですわ。足を動かすことは向いておりませんし、捜査にも特に興味は
     ありませんので、部屋に戻らせてもらいます。終わったら呼んでくださいまし」


腐川「ア、アタシもよ! どうせ犯人は石丸なんだから別にいいでしょ?!」

大和田「ハァ?! テメエら勝手なこと言ってんじゃねえ! 兄弟が犯人なワケあるか!」

桑田「そうだ! 石丸が犯人とかマジありえねーし」


再び場が荒れ出したので、やむなくKAZUYAが間に入って二人を諌めた。


K「いい加減にしないか! ここで言い合いをしても所詮は水掛け論だ。自白した石丸が
  この場の最重要容疑者であるのは確かに事実。彼等を拘束する権利は我々にはない」

大和田「だけどよ……!」

K「まだ物的証拠は何もないのだ。石丸が犯人だと思う人間はその証拠を、
  違うと思うならそれを証明する証拠をそれぞれ探し出せばいい」

大和田「チッ、わかったよ……」


ぞろぞろと出て行くメンバーを見ながら、江ノ島は内心悩んでいた。


江ノ島(ど、どうしよう?! どっちにつくのが自然かな?!)

葉隠「俺は別にどっちでもいいべ。ま、頭使うのは苦手だからここで現場の保全すっかな」

大神「我もそうさせてもらう」

江ノ島「……ア、アタシも!」


桑田「俺はもちろん捜査に参加するぜ! 絶対に石丸の潔白を証明してやる!」

大和田「桑田……」

K「よし。俺は保健室で不二咲を見ている。ついでに裁判まで石丸の身柄も預かろう」

苗木「絶対に僕達が助けるよ」

石丸「……君達が僕を信じてくれる気持ちは嬉しいが、出来る訳がない。僕が犯人なのだから」

大和田「いい加減にしろよ! いつまで寝ぼけてやがるっ?!」

K「よせ」


石丸の胸倉を掴んだ大和田の手をKAZUYAは即座に外し、目で制す。


K「石丸、行こう。不二咲を早く休ませなければ」

霧切「ちょうど現場の撮影も終わった所よ」

K「(流石、手慣れているな)俺は保健室にいる。何かわかったり用があったら来てくれ」


KAZUYAは不二咲をそっと抱き抱えると、石丸を連れて教室を出て行った。


苗木「よし、頑張ろう!」


ここまで。次回から捜査編となります



            ―  捜  査  開  始  ―


真っ先に動いたのはやはり霧切響子だった。


霧切(現場と被害者の様子は調べた。あとは倉庫と石丸君の部屋と不二咲君の部屋。
    それに一人ずつもっと細かく証言を裏取りして、それから……)

「霧切!」

「!」


顎に手を当てながら足早に廊下を歩いていた霧切だったが、唐突に声を
かけられ立ち止まって振り向く。そこには桑田が立っていた。


霧切「何の用かしら?」


ああ、またやってしまったと霧切は内心顔をしかめる。折角桑田が話し掛けてきたのだ。
この間のことを謝るチャンスだっただろう。しかし、探偵としての本能は今は少しでも
時間が惜しいと自分を急かす。何より、霧切は今回の事件に対して責任を感じていたのだ。

不二咲は今まで一度だって勝手な行動を取ったりはしなかった。自分があの時厳しい言葉を
言ったせいで、不二咲が自分を責めて早まった行動を取ったのではないかと霧切は感じていた。


霧切「悪いけど、今は捜査に集中したいから用があるなら後で……」

桑田「今じゃなきゃ困んだよ。その、霧切――俺と一緒に捜査してくれ!」


霧切「!」


唐突な申し出に、いつも冷静な霧切も流石に戸惑った。桑田は自分を怒っていたはずだ。


霧切「この間のことはもう怒っていないの?」

桑田「いや、まだ少し怒ってるけど」

霧切「…………」


桑田が何を言いたいのかわからない。怒っているのに何故自分と捜査したいなどと言うのか。


霧切「なら、どうして……」

桑田「俺は自分が言ったことが間違ってるとは思ってねえし、そこは譲らねえぞ?」

桑田「……ただ、お前がお前のやり方で事件を防ごうって頑張ってたのは知ってるし、
    俺もイラついてて、その……ちょっとキツい言い方しちまったのは謝るわ。わりい」

霧切「……そう」


本来は自分から謝るべきなのに、先に謝られてしまった。ここで自分も悪かったと素直に
言えばいいのだが、対人経験の薄い霧切は何を言えばいいのかわからずに話を戻してしまう。


霧切「それで、どうして私と捜査したいと思ったの?」


桑田「そりゃあ、お前の方が俺よりずっと頭が良くて冷静だし捜査とか得意そうだからだよ」

桑田「俺は絶対に不二咲を襲った犯人を見つけなきゃなんねえんだ!!」

霧切「そうね。その気持ちは私も同……」

桑田「ちげーよ! 俺には犯人見つけ出さなきゃなんねえ責任があんだよ!」


同意しようとした霧切の言葉を桑田は遮った。その表情はどこか思い詰めている。


桑田「……俺はせんせーからずっと不二咲のこと頼まれてたのに、
    俺が不用意に部屋から出たせいでこんなことになっちまった……」

桑田「しかも、なにトチ狂ったか知らねえけど石丸のバカは自分が犯人だとか
    ワケわかんねえことヌカすしよ。……どう考えても濡れ衣だろあれ?」

霧切「…………」


いつもの霧切なら、証拠がない以上自白した石丸が犯人である可能性は高いと言うはずだった。
……だが、以前石丸に庇ってもらった恩義がある桑田に対してそんなことは言える訳がない。
それに霧切自身、石丸が犯人だというのはどうしても信じられなかったのだ。


桑田「あいつが犯人なワケねーんだ。あんな生真面目で風紀風紀うるさいヤツが不二咲襲うかよ!」

桑田「頼む、霧切! 俺に手を貸してくれ! 二人の仇をとりてえんだ!!」


そう言って霧切の瞳を見据える桑田の目は真っ直ぐで、それでいてギラギラと輝いていた。
そうだ。霧切ですら責任を感じているのに、不二咲の面倒を任されていた桑田が今回の件に
責任を感じていないはずがないのだ。霧切は痛いほど今の桑田の心境が理解出来た。


霧切「そうね。確かに、この事件の真相はあなたが掴むべきかもしれない……」

霧切「いいわ。一緒に捜査しましょう」

桑田「サンキュー! 助かるぜ! ……っつっても、俺は肉体労働専門だろうけど」

霧切「十分よ。捜査は意外と体を使うから……」


話しながら、ふと霧切は思い出す。


霧切「……そういえば、私の肩書をまだ話してなかったわね」

桑田「え? 教えてくれんの?」

霧切「今のあなたになら教えてもいいわ」


そう言ってファサリと、霧切は長い髪をかきあげた。いつもなら、綺麗だけどなんか自信満々で
可愛げないよなーと思うその仕草だが、今回ばかりはそんな所でさえ頼りになって仕方がない。


霧切「私の肩書は【超高校級の探偵】よ」

桑田「っ?! ちょ、マジかよ!」

桑田(ヤバい……頼りになるなんてレベルじゃなかった……!)

桑田「……どーりでいろいろ手慣れてるっていうか、いつもクールなワケだぜ」


霧切は少しだけ笑った。そして、十神君じゃないけどと前置きして彼女は宣言する。


霧切「超高校級の探偵・霧切響子の名にかけてあなたを真相に導くわ。行きましょう」

桑田「おっしゃ!」


そして二人は正式にコンビを組んだのだった。


               ◇     ◇     ◇


一方教室では、取り残されたメンバーで別の動きがあった。


苗木「じゃあ、僕らも捜査を始めようか。……って言っても何から始めればいいかさっぱりだけど」

舞園「やっぱり、まずは現場をよく見ることじゃないですかね。現場百ぺんて言いますし」

苗木「うん、そうだね。えっと凶器は……」

大和田「お、おい! お前ら」

苗木「大和田君?」

舞園「どうしたんですか?」


問いかけられて、一瞬気まずそうに目線を落とす大和田だが、意を決して口を開く。


大和田「なあ、オメエらは……兄弟が犯人だって思うか?」

苗木「うーん、本人がそう言ってるしなぁ……」

舞園「第一発見者の上、凶器を握ってたらしいですからね」

大和田「そうか……」

苗木「でも、待って! 僕は石丸君は犯人じゃないと思うんだ!」

大和田「! ホントか?!」

苗木「うん! だって、いくらなんでも状況が不自然過ぎるよ。石丸君が不二咲君を襲う
    動機もないし、第一石丸君は過去に自分の身も顧みず不二咲君を庇ったじゃない」

苗木「そもそもあんな真面目な石丸君が不二咲君を襲ったなんて、僕には到底信じられないよ」

大和田「苗木……」


その会話に割り込んだのは、現場保全のため残った三人組である。


江ノ島「でも本人がやったって言ってんじゃん。なんかの拍子にぐいーってやったんじゃないの?」

葉隠「本当、苗木っちはお人よしだべ。いいか? 人を騙すにはなぁ、まずはいい人の振りをして
    近付くんだべ。いい人に見えるから、そんなことしそうにないからなーんてなんの根拠もねえ」

大和田「そうか……オメエには兄弟が他人を騙すためにいい人ぶってたように見えてたんだな」ビキビキ!

葉隠「ヒッ! ち、違うべ! 別に石丸っちのことを言ったんじゃなくて一般論だべ。
    苗木っちはカモにされやすいから気をつけなーって話をだな!」

苗木「あ、ありがとう(この中で一番胡散臭いのって葉隠君なんだけどな……)」

舞園(私もそう思います)


大和田「大神、オメエはどうだ?」

大神「わからぬ……確かに石丸が人を、それも不二咲を傷つけるようには到底思えぬが、
    事件当時は意識がなかったと言っている。殺意はなくとも事故なら有り得なくもない」

大和田「そうか……」

舞園「元気出してください……私は苗木君と同じ意見です。確かに状況証拠的には石丸君が犯人ですし、
    本人の自白もありますが、彼は人殺しなんて出来るタイプではないと思います」

苗木「僕達で石丸君の無実を証明しよう!」


そんな二人を見て大和田は少しだけ安堵するが、同時に強い決意も湧いてくる。


大和田「あ、それで……オメエらに頼みがあるんだけどよ」

舞園「何ですか?」

大和田「その……俺と一緒に捜査してくれねえか? 俺は見ての通り頭使うことはからっきしで……
     でもよ、兄弟の無実は俺の手で証明してやりたいんだ! あいつが人殺しなんて出来るワケねえ!」

苗木「いいよ! 一緒に頑張ろう!」


即決して大和田を仲間に加えると、三人は改めて現場へと向き直った。


舞園「では早速現場検証と行きましょうか?」

大和田「犯人の使った凶器は……この延長コードだな。流石の俺でもわかるぜ」

舞園「でもおかしいですね」


苗木「どうしたの?」

舞園「……いえ、私の記憶違いでなければ教室に延長コードなんてなかったと思うんですけど」

苗木「そういえば……教室で電化製品なんて使わないし、なかった気がする」

大和田「犯人がどっからか持って来たってことか?」

苗木「そうだね」

大和田「よし! 手がかりが一つ掴めたな! 問題はどこから取ってきたかだが」

舞園「……私、この延長コード見覚えがある気がします。確か、図書室にあったような……」


・コトダマGET!

【延長コード】:不二咲の首にグルグルと巻かれていた凶器と思しきコード。図書室に置かれていた。


苗木「現場検証が終わったら図書室に行ってみよう」

大和田「他に、なんか手がかりになりそうなもんはねえか?」

苗木「そもそも現場はここなのかな? モノクマファイルにはそう書いてあるけど、抵抗した跡もないし」

舞園「不二咲君は小柄ですからね。不意をつけば女子でも十分殺せると思います」

苗木(……そこが問題なんだよな。恐らく女子で一番弱いセレスさんや腐川さんでも出来そうなのが)

大和田「なんか痕跡探さねえとな。つっても痕跡ってーと……」


大神「サスペンスドラマでは血痕などが重要だったりするな。余計なことかもしれぬが」

苗木「そんなことないよ。アドバイスありがとう」

苗木(というか、大神さんドラマとか見るんだ……)


後に朝日奈から聞いた話だが、意外とテレビは見てるらしい。ラブコメとかは恥ずかしくて
見ていられないそうだが、純愛物が好きで腐川の小説が原作の映画では度々もらい泣きしてるとか。


舞園「調べてみましたが、絞殺ですし血痕などは特にないようです。他に気になるものは
    ありませんし、次は被害者をよく見た方がいいかもしれないですね」

大和田「じゃあ、保健室に行くか」


               ◇     ◇     ◇


倉庫。そこそこ広い空間にも関わらず、天井近くまで所狭しとダンボールが並んでいるせいで
どこか息苦しさすら覚える空間。そこに霧切と桑田の二人組は訪れていた。


桑田「で、なにを調べに来たんだ?」

霧切「凶器についてよ」

桑田「あん? 凶器? 教室にあった延長コードだろ? 不二咲の首にも巻いてあったし」

霧切「あの延長コードは元々教室にあったものではないわ」

桑田「え? そうなのか?」


霧切は鋭い光を瞳に宿しながら、順を追って桑田に説明していく。


霧切「ええ。図書室にあったはずよ。もしあれが真の凶器なら犯人はわざわざ図書室から
    延長コードを持ってきたことになるけど、何故倉庫のロープを使わなかったのかが
    気になるわ。だから、倉庫に手掛かりがあると思って調べに来たのよ」

桑田「ふーん」

霧切「そこで、あなたの出番ね。ここにあるダンボールを順番に取り出してくれないかしら」

桑田「お、おい……まさか、これ全部調べんの……?」

霧切「……早めに手掛かりが見つかることを祈ってるわ」

桑田「マジかよ……」


手伝うと言った以上桑田は不満を言ったりはしなかったが、既に表情はげんなりとしていた。
だが、これで何か手掛かりが見つかるならと手近なダンボールを次々に引き出していく。


霧切「…………」

桑田「よっこらせっ、と……」


霧切のなんとなくこの辺が怪しい、という直感を頼りにいくつもダンボールを調べていくが、
当然すぐに手掛かりなど見つからない。しかし、それでも二人は黙々と調べ続けていった。


桑田「……あ? なんだこりゃ?」

霧切「! 見せて頂戴!」


十数個目のダンボールを調べていた時、突然桑田が声を上げる。
その手には白いリボン状の物が握られていた。


桑田「これ、この箱の中身とは関係ないよな……?」

霧切「…………」


霧切はリボンを手に取りジッと見つめる。そしてフッと笑った。


霧切「桑田君、お手柄ね」

桑田「お、なんかの手掛かりなんだな?!」

霧切「これでもう倉庫に用はないわ。行きましょう」

桑田「よし!」


・コトダマGET!

【リボン状の物】:白いリボン状の物。端がすっぱり切れている。


               ◇     ◇     ◇


KAZUYAは不二咲の傷に丁寧に包帯を巻き、点滴で抗生剤を打っていた。


K(レスピレーターがないと厳しいかと思ったが、存外呼吸はしっかりしている。もう大丈夫だな)


レスピレーター:人工呼吸器のこと。昨今ではベンチレーターという呼び方が主流。


K「…………」

石丸「…………」


テキパキと処置をしながら、KAZUYAは俯いたまま立ちすくむ石丸の方にチラリと目をやった。


K(何と声をかけたものか……ん?)

K「……石丸、お前その手首はどうした?」

石丸「え……?」


言われて石丸は両方の手首を見る。少しだが赤く腫れ上がっていた。


石丸「あ、痛っ。……おかしいな。どこかにぶつけた覚えはないのですが……」

K「見せてみろ。他に異常はないか?」

石丸「……今まで気付かなかったのですが、何だか全身のあちこちが痛いです。少しですが」

K「フム、きっと真犯人がお前を現場まで引きずったせいだろうな」

石丸「真犯人などいません! 僕が犯人なのです!」


自分を犯人だと言い張る石丸の姿に、KAZUYAは僅かに狂気めいたものを感じ怪訝に問い掛ける。


K「……石丸、犯行時の記憶がないのに何故お前は自分が犯人だと断言出来る。たまたま
  お前がその場に居合わせた可能性もあるだろう。大体お前が不二咲を襲うはずは……」

石丸「――僕が弱いからです」

K「何?」


予想外の言葉にKAZUYAはピクリと眉を動かした。


石丸「西城先生も言っていたではないですか! 人は弱い! 誰でも過ちを犯すものだと!」

K「違う。あれは、そういう意味では……」

石丸「僕はきっと……どうにもならない現状にずっと不満を感じていたのです。どこかに
    逃げたかったのです。だから、たまたま目についた不二咲君をこの手に……」

K「殺人という行為は強い決意がなければ到底出来ん。そんなぼんやりした意識で出来る訳が……」

石丸「なら、自分で意識していなかっただけで僕はきっと他人を憎んでいたのです!」

K「お前は一体、何を言っているんだ……」


KAZUYAの言い分などまるで聞かずに滔々と話す石丸の姿は、一言で表すと“異常”だった。


石丸「……そうだ。僕はずっと天才が憎かった。何の努力もせず世の中を動かす天才が憎かった。
    だからこの学園の生徒達のことも内心ではずっと憎んでいて、それで殺したのだ!!」

K(違う……違うぞ、石丸……!)

石丸「僕の中の弱さが不二咲君を傷つけてしまった!」


KAZUYAは確かに人間は弱いと言った。だが弱さしかないのではなく、人が持つ弱い一面を
認めてやれという意味で言ったのだ。しかし石丸はKAZUYAの言葉をそのままに受け取り、
人間は弱いものだと……必ず過ちを犯してしまうものだと思い込んでいる。


K「違う! 確かに人間は弱い生き物だが、強い一面もあるのだ!」

石丸「でもあんなに強かった兄弟だって間違いを犯したし、西城先生程強い人間も
    自分を弱いと言っていたではないですか! やはり人間は弱いものなのだ!」

K(駄目だ。タイミングが悪すぎる! 今何を言っても石丸を説得出来ない)

石丸「人は弱い! 罪深い生き物なのです! 許してください! 不二咲君、許してくれ!!」

K「石丸……」


――超高校級の不器用。

その単語が脳裏に浮かんだ時、KAZUYAはどうしようもない程の強烈な眩暈を覚えたのだった。


ここまで。

Q.捜査パートは誰視点?


A.仲間全員だよ!


・・・


そこへ、苗木・舞園・大和田の三人がやって来た。KAZUYAは先程のショックを忘れようと
既に淡々とカルテを書く作業に移っていたが、彼等の姿を見て少しだけ気力を取り戻す。


大和田「先公! 不二咲と兄弟の様子は?」

K「見ての通りだ。不二咲は安定している。石丸は……今は何を言っても無駄だ。そっとしておけ」

石丸「…………」

大和田(兄弟……絶対、俺がオメエの無実を証明してやるからな!)

苗木「不二咲君の体を見てもいいですか?」

K「ああ。色は薄いがしっかりと鬱血痕が残っている。何かの手がかりになるだろう」

苗木「不二咲君、ちょっと見せてね……痛々しいな。ん? ここに傷があるぞ」

K「それは引っ掻き傷だな。首を絞められた際についたものだろう。指にも微かに血が付いている」

大和田「首締めてるモンを外そうと思って必死に暴れたんだな……」

舞園「鬱血痕は、幅四センチくらいですかね」

苗木「グルグル巻きにされてたしな」


・コトダマGET!

【不二咲千尋のカルテ1】:KAZUYAが作成した不二咲のカルテ。正面部分についてである。

『正面から見て左側の首筋に二センチほどの擦過傷(さっかしょう:今回の場合引っかき傷)あり。右手の
 指にも若干血液と体組織が付着している。首筋には幅四センチほどの鬱血痕が薄いがしっかりと残っている』

・コトダマGET!

【不二咲千尋のカルテ2】:KAZUYAが作成した不二咲のカルテ。背面部分についてである。

『背面から見て鬱血痕は左が上部、右が下部となっている。患者に他の目立った外傷や薬品等による
 反応等はなく、純粋に首を締められたショックで心肺が停止したと見てほぼ間違いない』


               ◇     ◇     ◇


霧切「!」


廊下を歩いていた霧切は、何かを発見して急に屈みこんだ。


桑田「お、どうした? なんか見つけたか?」

霧切「桑田君、見て。この消火器」

桑田「ん? ただの消火器だろ?」

霧切「ここよ。ほんの少しだけど、血がついているわ」

桑田「えっ?! ……マジだ。こんな小せえの、よく気付いたな」


霧切の洞察力の鋭さに流石本職だと桑田は舌を巻くが、同時にあることに気が付く。


桑田「あれ? ……でも、不二咲は首を絞められたんだよな? なんで血なんか……」

霧切「私の予想だけど、これは石丸君の血じゃないかしら?」

桑田「石丸の? なんで……そうか! 真犯人がこれで石丸を殴ったんだな?」

霧切「その可能性は高いわね。その消火器持って来てくれるかしら? 石丸君の所に行くわ」

桑田「任せろ。よっと。……お、結構重いな」

霧切「少し貸してくれない? 重さを調べたいから」


桑田「まあ、重いって言っても女子は持てないって程じゃねえな」

霧切「……運が悪ければ、この一撃で石丸君も死んでいたかもしれないわね」

桑田「縁起でもねえこと言うなよ……」


・コトダマGET!

【消火器】:底の近くに微量だが血が付着している。少し重いが女子でも十分持てる重さである。


               ◇     ◇     ◇


苗木達が不二咲の体をよく調べている時、桑田が霧切と共にやって来た。
大和田は少し意外そうな顔をしたが、どうやら組んでいるらしいとすぐ理解する。


桑田「せんせー!」

苗木「あ、桑田君に霧切さん」

K「消火器なんて持ってどうした? 何か見つけたのか?」

桑田「おう! スゲー発見だよ!」

霧切「見てください。ここに血がついているわ。犯人が石丸君を殴った時の
    血ではないかと思って、確認に来ました。診てもらっていいかしら?」

大和田「マジかよ?! 大発見じゃねえか!」

K「よく見せてくれ。……フム」


KAZUYAは消火器と血痕の大きさをよく観察し、黙り込んだまま動かない石丸の後頭部を診る。


K「確かに後頭部に真新しい打撃痕が見受けられる。カルテに書いておこう。カルテは
  モノクマファイルと同じように、電子生徒手帳に送ってくれるそうだ。参照してくれ」


コトダマアップデート【消火器】→【石丸清多夏のカルテ】

・コトダマGET!

【石丸清多夏のカルテ】:KAZUYAが作成した石丸のカルテ。

『後頭部に打撃が原因と見られる挫創(ざそう:今回の場合打撃による傷)と皮下出血あり。傷の大きさは
 現場近くの廊下に設置されていた消火器の底面とほぼ一致しており、微量だが血液も付着していたため、
 これによる打撃痕だと思われる。消火器はやや重いが女子でも十分に持ち上げられる重さである。
 また、両手首に捻挫とみられる炎症が見られ、全身に軽い痛みも訴えている。引きずられた可能性有』


舞園「色々見つかってきましたね」

苗木「うん。順調だと思う。……でも、次はどこを調べたらいいかな?」

霧切「倉庫を調べるといいわよ」

苗木「倉庫? どうして?」

霧切「行けば、どうして犯人が凶器にロープを用いなかったかがわかるはずよ」

舞園「言われてみれば、わざわざ図書室の延長コードを取りに行って殺すのは不自然ですね」

霧切「あとこれを渡しておくわ。ダンボールの中に隠すように入っていたの」

苗木「白いリボンだね。これが何かはわからないけど、ありがとう」

大和田「よし、行こうぜ!」


・・・


そして、先程桑田と霧切が訪れたように三人は倉庫にやって来ていた。
時間が惜しいからとダンボールの大半は出しっぱなしになっていたので中は大分荒れている。


苗木「霧切さんに言われて倉庫に来てみた訳だけど……」

舞園「これだけたくさん物があるとロープを探すのも一苦労ですね」

大和田「ああ、そっか。オメエらは知らねえのか。ロープはこっちだぜ」

苗木「え? 大和田君は知ってるんだ?」

大和田「倉庫が開いたのは最初の事件の後だろ? 舞園は入院、苗木はその付き添いで
     いなかったから知らねえだろうが、俺達で一度倉庫の中を調べたことがあんだよ」

大和田「ロープはこの奥の、ちょっとわかりづれえ場所にあるんだ。よっと」ガサゴソ

苗木「あ、本当だ。それにしても、文房具とかの日用品までこんな所にあるなんて困るなぁ」

舞園「……ちなみに大和田君、その時いたメンバーを覚えていますか?」

大和田「えーっと……男子は俺、兄弟、不二咲、桑田の四人で女子は朝日奈と大神かな」


・コトダマGET!

【ロープの場所】:ロープは奥の少しわかりづらい場所に、文房具などの日用品と共に置いてある。
          場所を知っているのは大和田、石丸、不二咲、桑田、朝日奈、大神の六人。


苗木「あとおかしなものは……」

舞園「あ! 二人共、見てください」

大和田「どうした?」


舞園に呼ばれ、二人は入り口付近の衣装ラックに近寄る。舞園が指し示したのはエプロンだった。


舞園「この白いエプロン、リボンの部分が切られてます。かわいいのに酷いことをしますね」

大和田「朝日奈が気に入ってたヤツだな。腰の後ろで結ぶ部分が付け根からバッサリ切られてるぜ」

苗木「もしかして、この切られた部分がさっき霧切さんに渡されたリボンかな?」

舞園「切り口がピッタリ一致しますね」

大和田「これも事件になんか関係あんのか?」

苗木「関係ない物を霧切さんが渡すとは思えないから、多分関係あるんじゃないかな」


コトダマアップデート【リボン状の物】→【切り取られたリボン】

・コトダマGET!

【切り取られたリボン】:倉庫の入り口付近にあった朝日奈お気に入りの白いエプロン……の
               腰で結ぶ部分のリボン。根本からバッサリ切り取られている。


               ◇     ◇     ◇


一人一人地道に証言を集め終えた霧切と桑田は、話しながら保健室へと向かう。


霧切「証言は大体集めたわね」

桑田「でも大半はさっきのアリバイ証明の時に聞いた話と同じだったけどな」

霧切「何度も確認するのが大事なのよ。人の記憶は曖昧だから、一度聞いてから何かを
    思い出すこともあるし、一度目と二度目では微妙に言い回しが変わることもある」

桑田「そこに新しいヒントがあったり?」

霧切「ええ。ちなみに今度はあなたの番よ。事件前後の話を詳しく聞かせて頂戴」

桑田「つってもなぁ。全部知ってることだと思うぞ? 俺はせんせーに頼まれて、
    大和田が事件起こした後はずっと不二咲と一緒に行動してたんだよ」

霧切「三日間、常に?」

桑田「おう。見回りの時だけせんせーの所に不二咲預けてたけど、
    不二咲が部屋の外に出る時はいつも俺が一緒だったぜ」

霧切「そうね。私達も、不二咲君が単独行動をしていた所は一度も見ていないわ」

桑田「…………」


桑田が視線を落としたのに気付くが、気付かない振りをして霧切は質問を続ける。


霧切「今日のことを教えてもらえる? 12時50分に部屋を出て、葉隠君に会ったのね?」

桑田「ああ、そうだよ。あいつ俺が武器持って待ち伏せしてたって勘違いしてさ。大変だったんだぜ?」

霧切「年長なのだし、彼のすぐパニックに陥る所はなんとかしてもらいたいものね」

桑田「まったくだぜ。で、1時15分くらいに部屋に戻ってきて最初は部屋で待ってたんだよ。
    書き置きがあったからさ。あとは、十分後に部屋から出て寄宿舎の中をうろうろしてた」

霧切「具体的に寄宿舎のどこにいたの?」

桑田「どこって、いろいろだよ。不二咲の部屋見に行ったり、食堂とランドリー覗いたり、
    あとは風呂場やサウナ、倉庫、果てはトラッシュルームにまで足運んだんだぜ?」

霧切「つまり、ずっと学園側を監視していた訳ではない。あなたがいない時に
    犯人が寄宿舎に来て倉庫に行くことは不可能ではない訳ね」

桑田「そういうことになるな。……わりぃ。俺がずっと監視してりゃあ良かったのに」

霧切「事件がいつどこで起こるかなんてわからないもの。あなたは悪く無いわ。
    それに、あなたの証言はきっとどこかで役に立つ気がする。勘だけどね」

桑田「……そっか。お前の勘を信じるよ」


コトダマGET!

【桑田の証言】:大和田の事件の後、桑田は常に不二咲と一緒に行動していた。
          部屋を出てからは、一箇所に留まらず寄宿舎中を捜索していた。


― 図書室 PM5:47 ―


苗木「……十神君」

十神「…………」


十神白夜は事件などまるでなかったかのように、いつも通り図書室で悠然と本を読んでいた。


舞園「十神君、捜査はしなくてもいいんですか?」

十神「捜査も何も、犯人は石丸だろう?」

大和田「ふざけたこと言ってんじゃねえ! そういうお前が犯人なんじゃねえのか?!」

苗木「大和田君、落ち着いて!」

十神「フン。感情的になって殺人を図った男が、今度は証拠もなく俺を犯人扱いか。
    今までずっとプランクトンと呼んできたが、プランクトンよりタチが悪いな」

大和田「んだとぉっ?!」

舞園「大和田君、駄目です!」


二人がすぐ横で押さえているため暴れたりはしなかったが、大和田はギリギリと歯を鳴らす。
一方、苗木と舞園は十神の態度に何やら不審なものを感じ取っていた。


苗木(……なんか、変だな。いくら石丸君の自供があるって言っても、犯行時の記憶はないって
    言ってるし、何より犯人を間違えたら僕達全員オシオキなのに捜査をしないだなんて)

苗木(十神君らしくないというか……いや、そもそも僕が十神君のことを
    どれだけわかっているかは自分でもよくわからないけど……うーん)


苗木「その、犯行時刻に何をしていたか詳しく聞かせてもらっていいかな?」

十神「聞いてどうする? たとえ俺がずっと図書室にいたと言っても、腐川が外に出た時点で
    俺のアリバイは成立しない。ならばずっと外にいたとでも思っていればいい」

苗木「本当か嘘かわからないかもしれないけど、それでも僕は十神君の証言が聞きたいんだ」

十神「…………」

大和田「行こうぜ、苗木。コイツと話しててもラチがあかねえよ」

苗木「僕は、十神君の言葉が聞きたい」


そう言うと、苗木は高圧的に睨む十神の目をジッと見返す。


十神「……フン。俺も一度図書室を出た。腐川がいない時にだ」

苗木「ありがとう、十神君!」

舞園「あと私も一つ確認をしたいのですが、犯行に使われた凶器……あの延長コードは
    元々図書室にあった物ですよね? いつまでここにあったか覚えていますか?」

十神「俺が出るまでは確かにここにあった。戻ってきたらなくなっていたがな」


・コトダマGET!

【十神の証言】:腐川のいない時に一度図書室を出た。また、それまで延長コードはあった。


十神「これで用は済んだだろう。俺は時間になるまで読書をする。早く出て行け」

苗木「うん……あ、あともう一つだけ聞きたいことがあるんだけど」

十神「何だ?」

苗木「十神君て、本当に捜査してないの? ……そもそも、本当に石丸君が犯人だと思ってる?」

十神「質問が二つになっているぞ、愚か者め」

大和田「で、どうなんだよ?」

十神「その質問に俺が答えてやる必要は感じんな。……全く、何故あんな奴のために
    貴様等がそこまで一生懸命になるのか俺には理解出来ん。無意味だ」

大和田「無意味なんかじゃねえよ! 兄弟は人殺しなんて出来るヤツじゃねえんだ!」

十神「何故そう言える? 人間なんて所詮は皆エゴイストだ」


冷めた眼差しの十神とは対照的に、大和田は燃えるような目をしながら低く呟く。


大和田「俺にはわかる。俺は……自分が道を踏み外しかけたからな」

十神「フン。仮に奴が犯人でなかったにしても、だ。奴がこの学園生活で何らかの役に
    立ったことなどあったか? すぐに取り乱し、リーダーぶる割にろくな指示も出来ん。
    今回とて、横で大切な友人が死んでいるのに意識を失っているとはお笑い草だ」

大和田「テメエっ!!」

苗木「大和田君、駄目だ!」

舞園「ここでの用事は済みました。もう行きましょう!」


・・・


あらかた証言を聞き終えた苗木達三人は、KAZUYAが待つ保健室に再び戻ってきた。
そこでは、既に捜査を終えていた桑田と霧切が待機している。


霧切「お帰りなさい。倉庫は見たわね?」

苗木「うん。大体証拠は揃ったと思う」

K「さて、捜査が終わったなら俺に報告してくれないか? 俺は何も見ていないのでな」

苗木「はい」


持ち帰った証拠を一つ一つKAZUYAに見せて丁寧に説明し、集めた証言は霧切と舞園が要点をまとめ
わかりやすく伝える。そしてそれが終わった頃、見計らったかのようにチャイムが鳴り響いた。

キーンコーンカーンコーン。


「……!」

『ええ~、僕も待ち疲れたんで、そろそろ始めちゃいますか? お待ちかねの学級裁判を!』

『ではでは、学校エリア一階にある赤い扉にお入りください』

苗木「そんな……まだ情報共有しただけで、何も話し合えていないのに!」

K「仕方あるまい。推理も議論も、全て裁判で行えと言うことだろう」

大和田「不二咲はどうすんだ? 安静にしとかなきゃマズイんだろ?」

石丸「……そうだ。不二咲君は?」


今まで全く反応を見せていなかった石丸も、不二咲の名前には反応を見せた。


K「不二咲は欠席でいいとのことだ。俺達がいない間に不二咲を人質に取らないかが不安だが……
  モノクマは校則違反以外で生徒に手を出すことは絶対にないと断言し、今回は正式に約束した」

大和田「んなもん信用出来るか!」

K「……そうだな。俺も同感だ。だが奴は不二咲を裁判場に連れて来るなと言ったのだ」

桑田「はあ? なんで?」

霧切「決まってるわ。折角楽しみにしてた学級裁判が開かれるというのに、万が一
    裁判の途中で不二咲君が目を覚ましてしまったら台無しでしょ?」

K「……逆らえばどうなるかわからん。心配だが、従う他ないだろう」

石丸「そんな……」

舞園「でも、寄宿舎の個室以外で寝るのは校則違反なんですよね?」

K「今は寝ているのではなく気絶だから問題ないらしい。……が、やはり心配ではあるな。運んでおこう」


KAZUYAは不二咲を抱えると、不二咲の個室に運んで寝かせた。
不二咲は、今は容態も安定し穏やかな呼吸をしながら静かに眠っている。


K「行くぞ。お前達」

K(……不二咲、見守っていてくれ)


学校エリア一階の端にある、今まで何があっても開くことのなかった不気味な赤い扉。
その中に入ると、既にKAZUYA達以外のメンバーが全員揃っていた。


十神「遅いぞ。この俺を待たせるつもりか」

大和田「うるせえ。テメエこそ首は洗って来たんだろうな?」


K「大和田」

大和田「…………」

十神「…………」


それ以上は一言も発せず、二人は無言で睨み合う。


K「これは……エレベーターだな」


小さな部屋の奥にはエレベーターの扉があった。


苗木「乗れ、ってことなのかな?」

桑田「じゃねーの?」


生徒達が訝しげにエレベーターを見つめていると、再度モノクマの放送が流れた。


『うぷぷ。みんな揃いましたね? そいつがオマエラを裁判場まで連れてってくれるよ』

『――オマエラの運命を決める裁判場にね!』


扉が開き、生徒達は続々と中へ乗り込んで行く。


舞園「ボタンは一つで、行き先は地下ですか」

セレス「地獄行きかもしれませんわね?」


腐川「お、脅かすんじゃないわよ……!」

葉隠「そ、そうだべ! こえーこと言うなって……」

大神「だが存外間違ってはおらぬかもしれぬ。誰か一人は必ずオシオキを受けるのだからな」

石丸「…………」


そしてエレベーターは長い長い降下を始める。
KAZUYAは目を閉じ、深呼吸をしながら思考を整えていた。




            ――そして、幕は開く。




              命懸けの裁判。


     命懸けの騙し合い。

                       命懸けの裏切り。

         命懸けの謎解き。

                   命懸けの言い訳。

   命懸けの信頼。



               命懸けの――




              学 級 裁 判 ! !



ここまで。

捜査編少し手間取ってしまった。投下遅れて申し訳ない
さて、コトダマも出揃い賢明なる読者様は犯人もトリックもわかってしまったかと
思われますが、中にはわからない人もいると思われますのでけしてネタバレされませんよう、
むしろ撹乱するレスして作者支援してやるぜ!くらいの心持ちでよろしくお願いします。

次回 裁判開始


  ― 軍曹によるわかりやすい学級裁判の進め方講座 ―


大垣「よお。このコーナー、とうとう俺にもお鉢が回って来たって訳かい」

大垣蓮次:KAZUYAの帝都大時代の先輩で、後輩達からは軍曹というアダ名で呼ばれている。
      社長令嬢の佐知子と結婚し、作中唯一のキスシーンを披露している勝ち組。

大垣「なんか次回から学級裁判?って奴やるんだって? で、それの進め方を
    説明して欲しいとかなんとか言われたが……なんで俺なんだか」

大垣「まあ、頼まれた以上ちゃんとやるけどよ。えーっと、基本的には他のダンガンSSと同じだそうだ」

大垣「台詞の中に【】で囲まれた部分がいくつかあって、そのどれかが手持ちの証拠(コトダマ)と
    矛盾してるらしい。だから、適切なコトダマを使ってその台詞を撃ち抜けばいいそうだ」

大垣「同意と吸収はなし。他にも、適宜選択肢とか出るそうだが安価で正解を示せば先に進むらしい」

佐知子「あなた、答えがわからなかった場合もちゃんと説明しておかないと」

大垣「おっと、いけねえ。忘れてたぜ! どうしてもわからない時用に二つコマンドがあるそうだ」

佐知子「一つ目は「助けて霧切さん」。このコマンドを使うと霧切さんがヒントをくれるの。
     そして二つ目は「教えてKAZUYA先生」。このコマンドを使うと答えを教えてくれるそうよ」

大垣「別に何度も間違えたからってゲームオーバーになったりはしないけどよ、あんまりグダグダすると
    進行に関わるだろ? あと、良い評価でクリアすると親密度とかにボーナスがかかるって話だ」

佐知子「何度も間違えるよりはいっそコマンドを使った方が減点は少ないわ」

大垣「ま、KAZUYAも頑張ってるみたいだしなんとかなるだろ。上手く立ち回ってくれや」


投下は今度

遅れて申し訳ない。1が投下遅れている時は十中八九何らかの作業を
しているせいであって決してサボっている訳ではないのです

それでは長らくお待たせいたしました。裁判編開幕です


エレベーターを降りると、そこは広い空間だった。いくつか扉があるが鍵がかかっていて
入ることは出来ない。廊下も分かれ道はあったが、物が置かれて通れないようにされていた。
床や壁に描かれていた矢印を頼りに、一番奥のやけに豪華な扉をくぐり抜ける。

……全員が中に入ると、まるで逃げ場はないと暗に示すかの如く扉が閉まった。


苗木「ここが裁判場?」

モノクマ「やあやあ。やっと来たね」


一同が見渡すと、一番奥にある豪勢な大きい椅子に、モノクマはゆったりと座っていた。
部屋の中央には裁判で使われる証言台を模した席が16席、円状に並ぶように配置されており、
そこに立ってお互いの顔を見ながら議論を行なえと言うことだろう。


モノクマ「どう、これって? いかにも裁判場って感じじゃない?」

K「フン、悪趣味だな」

霧切「ちょっといい? 議論の前に聞いておきたいんだけど、あれってどういう意味?」


霧切が指し示した席の一つを見て、一同は顔が引き攣った。

そこにあったもの――それは不二咲の遺影だった。ご丁寧に顔には赤インキで×が描かれている。


大和田「不二咲は死んでねえッ!!」

モノクマ「半分死んでるようなもんだし、昏睡状態だからって仲間ハズレは可哀想でしょ?」

桑田「野郎……!!」

石丸「ひ、酷い……」

K「……本当に悪趣味だ」


明らかに嫌がらせだろう。或いは本当は死んでいて欲しかったというモノクマの願望かもしれない。
呆気にとられている一同を無視して、モノクマは楽しそうに着席を勧める。


モノクマ「はいはい。じゃあ、オマエラは自分の名前が書かれた席に着いてくださいな」

苗木「……人数分の席があるね」

舞園「一つ一つ席に名前が書いてあります」

桑田「お、先生はやっぱ真ん中なんだな」


KAZUYAは入り口から見ると一番奥、モノクマの前にある席に着いた。


K「…………」


生徒達の席は木の札にそれぞれの名前が金文字で彫られた小洒落た物だったが、KAZUYAの席だけ
名前を手書きされた紙がセロハンテープで貼り付けられている。……しかもやけに字が汚い。
露骨なまでに邪険にされているのを感じ、KAZUYAは何とも言えない心持ちになる。


K(……まあ、俺は元々ここにはいないはずのイレギュラーな存在だからな)


気にしてない。子供かよ、なんて思っていない。少しも。


モノクマ「では皆さん席に着いた所で、そろそろ学級裁判を始めましょう!」

苗木「本当に、この中に犯人がいるのか?」

モノクマ「当然です! それは間違いありません」

K「それで、どうする?」

モノクマ「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!」


KAZUYAに促されると、モノクマは一同に再度学級裁判のルールを説明し始める。


「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

「正しいクロを指摘出来れば、黒だけがオシオキ。だけど……」

「もし間違った人物をクロとした場合は……クロ以外の全員がオシオキされ、
 みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」

「さてと、前置きはこれぐらいにして……そろそろ始めよっか!」


モノクマの説明が終わると、KAZUYAは生徒達の緊張している顔を順番に眺めていった。


K「席の位置的にも年齢的にも俺が議長役を勤めるのが妥当だろうな。たとえ内通者疑惑があろうと
  今回の事件に関して言えば俺にはアリバイがある。確定シロなら誰も文句はなかろう」

K「俺はあくまで議長としてなるべく進行役に徹する。議論はお前達に任せるぞ」

K「お前達なら必ず真実に辿り着けると信じている」

苗木「はい!」

桑田「おうよ! ったりめえだぜ!」

苗木(先生は僕達を信頼してくれているんだ!)

桑田(信頼されたら応えねーとな!)

舞園(……必ずみんなを救ってみせます)


          !  学  級  裁  判  開  廷  !


          裁判席

          モノクマ

       朝日奈 K 葉隠 

   大和田            不二咲               

  霧切                 十神

大神                      セレス

  江ノ島                桑田

    石丸            腐川

       舞園 苗木 山田



コトダマリスト

>>629
【延長コード】:不二咲の首にグルグルと巻かれていた凶器と思しきコード。図書室に置かれていた。

>>648
【不二咲千尋のカルテ1】:KAZUYAが作成した不二咲のカルテ。正面部分についてである。

『正面から見て左側の首筋に二センチほどの擦過傷(さっかしょう:今回の場合引っかき傷)あり。右手の
 指にも若干血液と体組織が付着している。首筋には幅四センチほどの鬱血痕が薄いがしっかりと残っている』

【不二咲千尋のカルテ2】:KAZUYAが作成した不二咲のカルテ。背面部分についてである。

『背面から見て鬱血痕は左が上部、右が下部となっている。患者に他の目立った外傷や薬品等による
 反応等はなく、純粋に首を締められたショックで心肺が停止したと見てほぼ間違いない』

 写真:http://i.imgur.com/jZWRel7.jpg

>>651
【石丸清多夏のカルテ】:KAZUYAが作成した石丸のカルテ。

『後頭部に打撃が原因と見られる挫創(ざそう:今回の場合打撃による傷)と皮下出血あり。傷の大きさは
 現場近くの廊下に設置されていた消火器の底面とほぼ一致しており、微量だが血液も付着していたため、
 これによる打撃痕だと思われる。消火器はやや重いが女子でも十分に持ち上げられる重さである。
 また、両手首に捻挫とみられる炎症が見られ、全身に軽い痛みも訴えている。引きずられた可能性有』

>>652
【ロープの場所】:ロープは奥の少しわかりづらい場所に、文房具などの日用品と共に置いてある。
          場所を知っているのは大和田、石丸、不二咲、桑田、朝日奈、大神の六人。

>>653
【切り取られたリボン】:倉庫の入り口付近にあった朝日奈お気に入りの白いエプロン……の
               腰で結ぶ部分のリボン。根本からバッサリ切り取られている。

>>655
【桑田の証言】:大和田の事件の後、桑田は常に不二咲と一緒に行動していた。
          部屋を出てからは、一箇所に留まらず寄宿舎中を捜索していた。

>>657
【十神の証言】:腐川のいない時に一度図書室を出た。また、それまで延長コードはあった。



山田「裁判と言われても初めてですし、どのように進めればいいんでしょうかねぇ」

腐川「そもそも、犯人はもうわかりきってるじゃない!」

葉隠「だよなぁ」


ジロリ、と腐川が視線を向けるとその他の生徒達も項垂れている石丸に目をやった。


石丸「その通り……犯人はこの僕、石丸清多夏だ。【それで間違いない】!!」

朝日奈「ほ、本当にあんたなの? なんだか信じられないんだけど……」

石丸「ああ……風紀委員でありながら、みんなには本当にすまないことをした……
    許してくれなどとは言わない。ただ……黙って見送ってくれないか?
    僕のせいでみんなを酷い目に遭わせる訳にはいかない……!」

K「それは違うぞ! お前はまだ犯人と確定した訳ではない」

石丸「何を根拠にそのようなことを仰るのですか?! みんなと、そしてあなたの命が
    かかっているのですよ、西城先生?! 僕が犯人なのは状況証拠から見て明らかだ!」

霧切「本当にそうなのかしら?」


冷水のように冷ややかな声で霧切が疑問を投げかけると、
KAZUYA達石丸の潔白を信じるメンバーが力強く後に続いていく。


K「状況証拠はあるが物的証拠はない。証拠もなく犯人を決めつけるのは間違いの元だ。
  全員の命がかかっている以上軽率な行動は取れん。お前が真犯人だというなら
  この議論で俺達全員を納得させてみせろ」

苗木「そうだよ。落ち着いて、石丸君。先生の言う通り、君が犯人なのか
    そうでないかは、この議論ではっきりするはずだから」

桑田「おめえの潔白は俺達が晴らしてやるからよ、お前は黙って見てろって!」

石丸「みんな、しかし……!」

大和田「兄弟……頼む。俺達を信じてくれ……!」


  ― 議論開始 ―


K「では、これより議論を開始する」

江ノ島「で、最初はなにについて話すワケ? あんた議長なんでしょ? 仕切ってよ!」

K「これが殺人未遂である以上、まず凶器について話すのが妥当だろうな」


[ 凶器について ]


朝日奈「えっと、モノクマファイルと先生のカルテによると、
     不二咲ちゃんは首を締められて殺されかけたんだよね?」

大神「他に【致命傷はなかった】からな」

十神「絞殺は時間もかかるし抵抗も大きい手間な殺し方だが、長い紐があれば簡単に
    実行出来る上、返り血もない。不二咲のような非力な人間を殺すには最適だ」

江ノ島「そうだね。もしアタシが殺すとしても多分そうしてるよ」

セレス「物騒ですわね」

K「…………」

山田「凶器は【教室に置いてあった】延長コードでしょうね」

葉隠「延長コードの先制攻撃だべ!」

石丸「僕があのコードで不二咲君の首を絞めて殺した…」


>>694
適切な台詞をコトダマで撃ち抜け!

kskst

すみません。どのコトダマで撃ち抜くかも一緒によろしくお願いします
ちなみに、コマンド減点は微々たるものなのでそこまで気にしなくてもおk

安価直下


【延長コード】ドンッ! ====⇒【教室に置いてあった】BREAK!!


苗木「それは違うよ! あの延長コードは元々あの教室にあったものじゃないんだ」

葉隠「え? じゃあどこにあったんだ?」

舞園「図書室にあったはずです」

セレス「では、石丸君は不二咲君を殺すために図書室に寄って延長コードを持ち出し、
     その後不二咲君を殺したということですね? 立派な計画殺人ではないですか」

桑田(? 今の発言、どっかおかしくねーか? ああ、でもなにで否定すればいいかわかんねえ…)

霧切「桑田君、落ち着いて考えて。あなたは答えを知っているはずよ」

桑田「答え?」

霧切「犯人は何故不二咲君が単独行動を取ることを知っていたのかしら? ここまで言えばわかるわね?」

桑田「いや、全然」

霧切「(サッ)苗木君、わかるわね?」

苗木「え」

桑田「ちょ、待て! お前、俺が答えられないことわかって聞いただろ?!」


>>701
どのコトダマで反論する? 適切なコトダマを選べ!

【桑田の証言】であってる?


大和田(桑田が知っているってことは桑田が持ってる証拠の中に鍵があるはずだ!)

セレス「何をぐだぐだ言ってるんですの。この事件は石丸君の【計画殺人】に間違いありませんわ」


【桑田の証言】 ドンッ! ====⇒ 【計画殺人】BREAK!!


大和田「待て! そりゃあ違うだろうが!」

大和田「不二咲は先公の指示で必ず誰かと組んで行動してたはずだ。だから、計画的に不二咲を
     殺そうなんて考えてたヤツはいなかったはず! なにしろ隙がねえんだからな」

朝日奈「えーっと、つまりどういうこと?」

大和田「つまりだな……」

大和田(……落ち着け、よく考えろ。こういう状況を指す言葉があったはずだ)


閃きアナグラム開始!


つ で じ ぱ つ き

さ ら っ と が ん

○○○○○○○○

>>705

セルフksk

わからない場合は安価下を駆使して相談すると色々はかどるよ!
あと、あんまり答える人がいない場合は連続で安価取ってもいいよ!

とっぱつさつじん


【とっぱつさつじん】正解!


大和田「つまり今回の事件は完全な偶然……突発的な犯行ってことだ!」

十神「それが何だと言うんだ。むしろ、不二咲が一人だったことは同じ部屋にいた
    石丸が一番わかっていたはずだ。奴が犯人ではないという根拠にはならん」

桑田「で、でも俺が部屋を出た時石丸は寝てたぜ?」

腐川「そ、そんなの……その後起きただけでしょ……」

葉隠「やっぱ石丸っちが犯人だべ!」

江ノ島「そうかもね。第一発見者のうえ最初から犯行現場にいた訳だし。アヤシすぎ」

大和田(クソッ! かえって兄弟が犯人だっていう空気が強くなっちまった……
     俺はまた助けられないのか……? 不二咲だけじゃなくて、兄弟まで……)


焦る大和田をKAZUYAは冷静に諌める。


K「焦るな、大和田。焦るのはお前の良くない癖だ」

大和田「……わかってるよ」

大和田(そうだ。あの時だって俺が焦って先走ったから兄貴は死んだんだ。冷静になれ!
     俺が一番わかってるだろ? 兄弟が犯人じゃねえってことだけは間違いねえんだ!!)


K「状況を整理しよう。もし石丸が真犯人ではないなら、今わかっている情報と
  こちらにある証拠に必ず齟齬が存在するはずだ。逆に矛盾が一切存在しないなら
  石丸が犯人ということになる。舞園、現在主張されている事件の流れを言ってくれ」


[ 事件当時の状況 ]


舞園「はい。今現在わかっていることを順に説明していきます」

舞園「午後0時50分頃、桑田君はバットを取りに部屋に戻りました。
    その時、葉隠君と会って廊下で立ち話をしていたんですよね?」

葉隠「間違いねえべ」

舞園「その間に目を覚ました石丸君が部屋に誰もいないことに気付き、不二咲君を探しに外へ出た」

石丸「……あやふやな記憶だが、それは間違いないと思う」

舞園「途中【図書室】に立ち寄って延長コードを手に入れ、不二咲君を【教室】で殺そうとした」

大神「その際誰かに会わなかったのか?」

石丸「ああ。【誰にも会っていない】」

山田「ムム~、これは……やはり犯人は石丸清多夏殿で確定か?」


>>712
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!

【誰にもあっていない】に【十神の証言】かな?


苗木「いいや、石丸君は十神君と会っているはずだよ」

十神「は? 俺は石丸となど会っていないが」

苗木「え、だって証言で……」

十神「俺の証言をよく思い出すんだな、愚民め」


みんなから刺さる視線が痛い。発言力が落ちたようだ……


>>718
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!
コトダマリスト>>689

【図書室】で【十神の証言】
どうだ!


苗木「それに同意するよ! 十神君は一度図書室を出ているからその間に延長コードを……」

モノクマ「あのさ、苗木君。同意はなしって事前に言ったよね?」

大和田「つーかそれだと兄弟が延長コードを取ってきたってことになっちまうだろうが!」

苗木「……ゴメン、今のナシで」


みんなから刺さる視線がry。発言力がry


霧切(助けるべきかしら? でももう少し様子を見てもいいかもしれない)

K(不味いな……俺が出るか?)


>>722
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!
コトダマリスト>>689

わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ!

【助けて霧切さん】


苗木(どうしよう?! さっぱりわからないよ!)

霧切「苗木君、落ち着いて頂戴」

苗木「霧切さん……」

霧切「さっきの証言で嘘を付いている人はいないわ」

霧切「でも、根本的に認識を間違えていたり本人が気付いていないことはあるかもしれないわね」

苗木「本人が気付いていない……」

霧切「ここまで言えばわかるわね?」


>>726
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!
コトダマリスト>>689

わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ!

【誰にも会っていない】を【石丸清多夏のカルテ】で論破か?

誰にも会ってないのに誰かに殴られてる
だが安価下

安価下なので本来は727なのですが、正解出てるので今回は特別に728でいきます
(でも折角だしもう打っちゃったので台詞はKバージョンにする)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【石丸のカルテ】 ドンッ! ====⇒ 【誰にも会っていない】BREAK!!


K「それは違うぞ、石丸」

石丸「?! ……どういうことです?」

K「俺のカルテの情報と齟齬が出ている。苗木、わかるな?」

苗木「! そうだ。事件現場付近の廊下にあった消火器に血が付いていたんだよ。石丸君の
    後頭部にある傷と消火器は大きさも一致するし、誰かに背後から襲われたんだ!」

山田「偽装のため、自分でやった可能性はないのですか?」

K「位置的には限りなく0だ。意識の朦朧とした怪我人にそんな真似が出来るとは思えん」

セレス「ですが、0ではないのですよね?」

K「……まあ、そうだな」

霧切「鍵は誰が延長コードを持ちだしたのか、ではないかしら?」


[ 延長コードを盗んだ犯人 ]


江ノ島「誰がもなにも、石丸でしょ」

朝日奈「本当に他の人には出来なかったのかなぁ?」

桑田「待てよ! 図書室にはいつも十神や腐川がいるはずだろ。こっそり
    延長コードを持ち出すなんて【誰にも出来ない】じゃねえか!」

腐川「……じ、事前に盗んでたら石丸にも出来るわよ!」

山田「なるほど。あらかじめ盗んだコードを【教室に隠していた】のですな!」

大和田「でも兄弟はこの三日間ずっと入院してたんだぜ!」

十神「今朝奴は朝食会の後、食堂を飛び出して単独行動していただろう」

石丸「その時僕は真っ直ぐ水練場の更衣室に行った。……いや、覚えていないだけか?」

K「あまり感情的になるな。真相を見過ごしてしまうぞ」


>>733
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!
コトダマリスト>>689

わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ!

【誰にも出来ない】←十神には出来るが……【十神の証言】でいけるのかしら?

安価下


今日はここまでです。少しずつ事件の全貌が見えて……来ないか

裁判すっごい長いんだよね。これでまだ五分の一も行ってないという
あと、さりげなくコトダマリストの中にカルテの写真を追加しておきました
文字だけでもわかると思うけど、見た方がよりわかりやすくなると思うので
絵の下手な1が頑張って描いて色も塗ったよ……疲れたよ

次辺りからちょっとイジワル問題みたいなのも入ってくるので、
わからなかったらバンバンコマンド使っちゃってください

それではまた次回!


まだ5分の1も終わってないのか…
このスレ内に2章が終わることが出来るのか?

2章長すぎワロエナイ

>>738
終わらせたい(真剣)。というか終わらせる
最近1レス内の分量を五割増しにしていたのもそのため

>>740
でも、冷静に考えると二章は二回事件が起こっているので
一章で二章分だと考えれば長いのも仕方ないのではないかと…(震え声)

事件の概要はわかっても論破の正解はわからないもんだな
ゲームでもそういうことあったから、再現されてるのか?ww

乙~


助けて霧切さんや教えてKAZUYA先生の方は使用回数に制限があったり1回ミスしてからじゃ使えないとかだったりするのかな?

>>744
上手い具合に原作再現が出来てるなら光栄です。裁判はかなり試行錯誤したので

>>745
コマンドは進行をスムーズにするためのツールなので何回使ってもいいし
全く答えの見当つかないならしょっぱなから使っても大丈夫です


出掛けるのでその前にちょっとだけ投下


苗木(それに同意するよ! ……て言うとまた怒られるんだろうな)

苗木「舞園さん、十神君がいない間にコードを取って来て教室に隠せないよね?」コソコソ

舞園「え? 普通に出来るんじゃないですか?」

苗木「え」

舞園「え」


>>750
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け!
コトダマリスト>>689

セルフksk

珍しく早い時間に来たから人いないかな…?

ううん、人は居るよ!


【十神の証言】 ドンッ! ====⇒ 【誰にも出来ない】BREAK!!


舞園「それは違います、桑田君。腐川さんも十神君もほぼ同じ時間に一度
    図書室を出ています。つまり、その間なら延長コードを盗み出せるんです」

桑田「ああ、そっか……」

苗木「ちなみに、十神君が図書室を出るまで延長コードは図書室にあったみたいだ」

セレス「つまり、コードを盗まれた時間はお二人がいなくなった時で間違いないという訳ですわね」

K「…………」

霧切「逆に考えてみて。つまり十神君と腐川さんがいない時間、
    誰でも延長コードは手に入れられたということよ」

大和田「! つまり、兄弟に限らずアリバイのないヤツなら犯行は可能ってことだな!」

葉隠「ああ~、一体誰が犯人なんだべ! これじゃあアリバイのない石丸っち、十神っち、
    セレスっちに腐川っち、江ノ島っち、桑田っち、オーガの全員が犯人候補だべ!」

桑田「さりげに自分抜くんじゃねえ!」

山田「うーむ、手詰まりですなぁ。他に役に立ちそうな証拠もないですし」

苗木(本当にそうなのかな……?)


>>758
状況を打開するコトダマを選べ!
コトダマリスト>>689

これはちょっと難しいかもしれない

わからなかったら最初からコマンド使ってもいいと1は思うよ

>>757か?
でもわざわざ1が難しいって言ってるので念のために助けて霧切さん!


霧切「このカルテ……」

苗木「霧切さん、カルテがどうかしたの?」

霧切「何か妙じゃないかしら?」

K「カルテに書かれていることは全て真実だ。不自然な部分があるというなら、
  それは俺達が事実を誤認してしまっている……ということかもしれんな」

苗木「僕達が今現在議論している内容とカルテの内容に齟齬がある、ということですか?」

K「そうだ」

霧切「写真を見るとわかりやすいかもしれないわね」


>>762
状況を打開するコトダマを選べ! コトダマリスト>>689

わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】

みんな間違ったらごめん
【不二咲千尋のカルテ2】


苗木「先生、このカル……!」

K「苗木、カルテの写真を落ち着いてよく見るんだ」

苗木(穏やかに、でも明確に違うと言われてしまった)


※二択なので安価なしで続行します。


苗木「待って! まだ話せることはあるよ。さっき舞園さんが整理してくれた情報と僕達が
    持っている証拠の中で、絶対見過ごすことの出来ない大きな食い違いがあるんだ!」

朝日奈「食い違い?」

大神「それは何だ?」

苗木「そもそもさ……本当に延長コードが凶器なのかな?」

桑田「ああ? なに言ってんだよ。だって俺達が現場についた時、
    不二咲の首にバッチリコードが巻き付けられてたんだぜ?」

石丸「そうだ! しかも……僕が目を覚ました時、僕はそれをこの手でしっかり
    握っていたのだ! これこそ僕が犯人だというこの上ない証拠ではないか!」

苗木「でもさ、先生のカルテを見て。不二咲君の首には首を絞められた時の鬱血痕が
    あるんだけど、明らかに延長コードより太いよ。これっておかしくないかな?」

「!!」

大和田「そ、そうだ! なんで延長コードの幅が四センチもあるんだよ!」

葉隠「そりゃあグルグル巻きにしたからだべ?」

K「たとえ細い紐を巻いたとしても紐の内側と腕の力がモロにかかる外側では力の
   かかり方は不均等になる。あのような綺麗な跡が残ることは物理的に有り得ん」


大神「そもそも不二咲とて暴れるし、これが突発殺人ならそんな時間のかかることをする
    メリットがない。延長コードは真の凶器を隠すための偽装と見るべきか」

朝日奈「あれ? じゃあなんで石丸は延長コード持ってたの? それに本当の凶器はどこ?」

山田「大方石丸清多夏殿が偽装のために用意したのでしょう」

舞園「それは不自然です。延長コードを取りに行く際に十神君や腐川さんに見つかる
    可能性がありますし、これが突発的に起こった事件だということを考えたら
    そんな無駄な偽装を行う余裕はどこにもないはずです」

霧切「犯人にとっては無駄な偽装ではないのかもね」

苗木「え、それってどういう……?」

K「議論が錯綜してきたな。では、次は延長コードが何故現場にあったのか議論してみろ」


[ 延長コードの謎 ]


霧切「何者かが延長コードを不二咲君の首に巻き付け凶器と誤認させようとした」

山田「推理漫画的に考えたらなんらかの【偽装】目的じゃないですか?」

江ノ島「なにを偽装すんの? 【傷跡】?」

舞園「確かに、私達もすっかり騙されてしまいましたしね」

大和田「あれだ、【本当の凶器を隠すため】だ! そうだろ?!」

葉隠「あー、そういや本当の凶器ってどこにあんだ?」


>>767
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689

わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】


今回もかなり難しいというかひねっています。しょっぱなKでいいかも
あと、出掛けるのでここまで。可能なら夜に来るかもしれません。それでは

【教えてKAZUYA先生】
ここは先生に聞いてみる


【エプロンのリボン】 ドンッ! ====⇒ 【本当の凶器を隠すため】BREAK!!


K「それは違う」

大和田「あ? どういう意味だ?!」

K「そもそも、これは突発殺人だ。凶器は処分出来ないならその場に捨てるか適当に
  隠してしまえばいい。現に犯人が隠したと思しきリボンをお前達は発見しただろう?」

苗木「わざわざ十神君達に目撃される危険を犯してまで延長コードを
    取ってくる理由にはならないってことですよね?」

K「そうだ」

朝日奈「リボン? リボンてなんのこと?」


苗木は朝日奈に促されて、霧切から預かったリボンを出した。


朝日奈「あれ、そのリボン……なんか見覚えあるような……」

大神「朝日奈がよく使っていたエプロンのリボンだな」

朝日奈「あ……あああああー! ヒドイっ! 誰がそんなことしたのっ?!」

K「朝日奈、落ち着……」

朝日奈「私愛用してたのにぃぃ~!! 誰よっ?! 誰がやったのよっ?!」

石丸「よし、みんなで目を閉じよう! そして犯人は挙手したまえ!」

大和田「挙げるワケねーだろ、兄弟……」


K「気持ちはわかるが時間も限られている。議論を再開したいのだが……」

大神「我が後で縫い付けておくから、今はそれで収めてくれ」

朝日奈「うう~……私のエプロン~……」


KAZUYAに注意され大神に宥められ、朝日奈は仕方なく引いたのだった。


十神「それをどこで拾った?」

苗木「倉庫のダンボールの中に隠してあったよ」

舞園「リボン自体、倉庫に置いてあったエプロンの物ですから誰でも入手可能です」

セレス「倉庫の入口近くにありますものね」

腐川「い、意味がわからないわよ! なんで犯人はそんな無意味な行動したっていうの?」

苗木(わからない……。でも、そこには必ず何かの意味があるはずなんだ)

K「意味なんてないかもしれんぞ?」

苗木「……え?」

桑田「はぁ? なに言ってんだ、せんせー?」

大和田「時間もねえのに意味のねえことなんてするワケないだろ!」

霧切「苗木君、逆に考えてみて」

苗木(意味なんてない……犯人は無意味なことなんてしない……)

苗木(考えろ! 考えるんだ! みんなの命がかかってるんだぞ!)


考えに考え、突然の閃きと共に苗木はある一つの可能性に思い至っていた。


苗木「ねえ……延長コードを巻いたのって、本当に犯人なのかな?」

葉隠「間違いないべ。犯人の石丸っちが図書室から取ってきたんだべ」

桑田「おめーちょっと黙ってろ」

大和田「……どういうことだ、苗木」

苗木「うん。仮に……事故か何かで石丸君が不二咲君を傷つけてしまったとしても、
    距離の離れた図書室から延長コードを取ってくる意味がないんだ」

苗木「それは犯人が他の人でもね。……でも、犯人ではない全くの第三者が
    事件を撹乱させるためにやったと考えたらどうだろう?」

石丸「いや、その理屈はおかしい!」


苗木の主張に猛然と食って掛かったのは、現在嫌疑を掛けられている張本人・石丸だった。


石丸「仮にその第三者とやらが存在して、一体何のために事件を撹乱するのか! 裁判で
    犯人を当てられなかったら自分もオシオキされるのだぞ! 共犯も存在し得ない!」

石丸「逆にこれこそ僕が犯人だという証左ではないか! 僕は頭が朦朧としていて
    理性的な判断など出来なかったからな。だから無意味な行動を取ったのだろう」

苗木「それだけじゃないよ。実は、この中で一人だけ妙な発言をした人がいるんだ」


>>775
誰の発言か。

なんの根拠もないが撹乱といえば十神
十神なら、十神ならきっとやってくれる…!


苗木「そうだよね、十神君」

十神「フン、俺だと? 馬鹿馬鹿しい。だが、ここはそういう場のようだな。
    たまには愚民の戯言でも聞いてやるか。言ってみろ、苗木」

苗木「ありがとう。十神君は確かあの時こう言っていたよね?」


『横で大切な友人が死んでいるのに意識を失っているとはお笑い草だ』


苗木「石丸君は気が付いたら凶器を握り締めていた、としか言ってない。
    なのに、何で十神君は石丸君が意識を失ってたって知ってたの?」

十神「フン、つまらん揚げ足取りだな。俺くらいの頭脳があれば
    気付いたら、という言葉から気絶を連想するのは容易いことだ」

腐川「そ、そうよ! 変な言い掛かりはやめなさいよ!」

苗木「それだけじゃないよ。おかしいんだ。この事件は突発殺人で時間に余裕がないのに
    意識が朦朧としていた石丸君が素早くコードを取って現場に戻って来れると思う?」

苗木「かと言って別に真犯人がいて石丸君に罪を被せようとしている場合、延長コードを
    使うのは不自然なんだ。図書室に行けば十神君達に目撃される可能性があるし、
    凶器を延長コードにしなければ罪を被せられない訳じゃない」

苗木「むしろ延長コードを凶器に仕立てるなら、罪を被せる相手は十神君や腐川さんのはずなんだ!」

霧切「そもそも、いつも使っているコードがなくなれば十神君はすぐに気が付くはずよね?
    コードがなくなったことを不審に感じた十神君に事件を目撃されたら本末転倒だわ」

大和田「そ、それによお! 確か十神は腐川が図書室を出た後に図書室から出たんだろ?
     十神なら誰にも見つからずに延長コードを持ち出せたんじゃねえのか?!」

十神「…………」

腐川「白夜様……」


霧切「どう、十神君? 一つ二つなら偶然で済むけどこれだけあなたに不利な状況が出ている。これらを
    上回る真犯人のメリットをあなたは私達に提示する義務があるわ。……そんなものがあればね」

K「どうなんだ、十神? 真犯人が別にいるというなら、さっさと白状した方が
  お前のためになると思うがな。ここで否定すればお前も犯人の有力候補に挙がるぞ」


だが追い詰められていたはずの十神は、逆に攻撃に出るような勢いで笑う。


十神「ク、ク、クハハハハ! 貴様ら愚民も最低限の思考回路は持ち合わせているようだな」

苗木「やっぱり……」

石丸「な?! と、十神君……?」

大和田「テメェ……なんでそんなワケのわかんねえことしやがった……テメェのせいで
     危うく兄弟が犯人になる所だったんだぞ! 理由によってはタダじゃおかねえ!」

十神「クックックッ、俺は貴様らと違って現実を見ているとだけ言っておこうか?」

霧切「そう……そういうことなのね」


いつも感情を押し殺しなるべく無表情に徹している霧切が、珍しく嫌悪の眼差しで睨んでいる。


桑田「どういうことだよ?」

霧切「……測っていたのよ。私達の推理能力を」

K「…………」

葉隠「は? なんで?」

セレス「敵の技量を正しく把握するのは兵法の基本ですわ。そんなこともわかりませんの?」


江ノ島「つまり、十神にとってはアタシ達全員敵ってこと?」

朝日奈「あ、あんた! まさかそのためだけに石丸を利用したのっ?!
     犯人当てに失敗したら自分だって危ないのに!」

K「……十神は自信があるのだろう。絶対犯人を間違えないという自信がな」

桑田「なんだよ、そりゃ。まさか犯人知ってるとか?」

霧切「そうなんでしょ? 十神君……あなたは真犯人を知っている。だからこんな
    ふざけた罠を仕掛けて私達の反応をゆっくり観察出来た。違うかしら?」

苗木「あくまで何も知らない振りをして議論を眺めて、推理が間違った方に行ったら
    犯人を告白して自分は助かる……最初からそのつもりだったんだね」

十神「話が早くて助かる。お前達は合格だな」

桑田「テ、テメェエエエエエ!」

大和田「ブッ殺す!」


弾かれたように大和田と桑田が席から飛び出す。大和田はKAZUYAが止めたが桑田は十神に掴みかかった。


K「桑田! よせ!」

桑田「とめんなよ、せんせー! 今回だけは殴ってもいいだろ!」

大和田「そうだ! ソイツだけはぜってえに許さねえ!」

K「ここは議論の場だ。気まぐれな裁判長がいつ裁判を切り上げるかわからん。
  後で好きにしても構わないから今だけは抑えてくれ! 頼む!」


桑田「でもよ……!」

モノクマ「ああ~、いつまで偽装について議論してんの? もう十神君がやったで結論出たんでしょ?
      真犯人当てる気ないならさっさと投票タイムにしちゃうよ? ほら、席に戻った戻った」

大和田「クソッ!」

桑田「……!」ギリッ


渋々二人は席に戻る。だがその目は獰猛な獣のように未だ十神を睨み続けていた。


K「では次の議論だ。真犯人についてだが……」


だがここで十神は更なる攻撃に出た。


十神「おい、石丸の犯人疑惑はまだ解けていないぞ」

大和田「ハァ? なに言ってんだテメェ?!」

十神「俺は真犯人を見たとは言ったが、真犯人は別にいるなどとは言っていない。
    つまり、いまだに石丸が犯人の最有力候補に変わりはない」

桑田「なに言ってんだよ……お前、石丸が気絶してたの見てんだろ? じゃあ犯人なワケ……」


十神「犯行を行った後力尽きて気絶しただけかもしれんだろう?」


小馬鹿にしたような顔でいけしゃあしゃあと言い放つその男に、大和田と桑田はいよいよ殺意に
近い感情を抱き始めていた。普段は温厚なKAZUYAでさえ、額とこめかみに青筋が浮き上がっている。
逆に中心人物である当の石丸はと言うと、ただ青い顔をしておろおろとするばかりだった。


大和田「テメェ……ふざけるのも大概にしろ……!!」

山田「あの~、一つよろしいでしょうか」


また、泣きっ面に蜂とはこのことだろうか。嫌なことは大抵連続してやって来るものである。
山田の提案はKAZUYA達の努力を全て水泡にと帰すものであった。


山田「十神白夜殿が真犯人を知っているなら、さっさと投票を始めて
    答えを教えてもらえばいいんじゃないでしょうか?」

葉隠「そりゃあいい。そうすればもうこんな裁判する必要ねえしな」ウンウン

大和田「ちょ、ちょっと待てよ。それじゃあ兄弟の犯人疑惑が取れねえじゃねーか!」

江ノ島「ハァ? 石丸が犯人なら犯人。違うなら違うでいいじゃん。なにこだわってんの?」

桑田「で、でもお前らくやしくねえのかよ! それじゃ十神にバカにされっぱなしじゃねーか!」

セレス「桑田君。これはただのお遊びではなく、まさしく文字通り命を懸けたゲームなのですよ?
     プライドのために無駄なことをするよりも、確実な勝利にベットする方が賢明ですわ」

大和田「確実って……こんなヤツが本当のことを言うと思うか?!」

セレス「言いますわ。失敗したら自分もオシオキですもの。十神君の
     性格を考えればこんな所で嘘をつく必要性がありません」


桑田「だからってなぁ!」

K「まあ待て。まだ時間はあるのだろう? だったら時間いっぱい議論を続ければいい。
  とりあえず次は石丸の犯人疑惑を晴らすぞ! お前達、用意はいいな?」

霧切「構わないわ。石丸君が犯人じゃないという証拠は既に持っているもの」

石丸「なに……そんな馬鹿な?!」

苗木「大丈夫だよ。僕達に任せて」

舞園「心配しないでください!」


もうすぐ容疑が晴れると二人は優しく声をかけるが――その当人の様子がおかしかった。


石丸「そんな……」


石丸「そんなそんなそんな……」




石丸「そんなはずないんだああああああああああああああああッ!!!」




苗木「い、石丸君……?!」

大和田「兄弟、どうしたッ?!」

K「石丸……!!」



            ―  裁  判  中  断 ―


ここまで。

安定の十神君でした。そして石丸君は一体どうなっちゃったのか。


次回に続く。

乙おつ
セレスさんがやけに十神君の肩を持つね、いや言うほど庇ってる訳じゃないけど
この二人を懐柔するのはもう無理な気がする...とくに十神君はこちらの心情的にもあれなレベルだろうし...
全く相容れない考えを持つキャラを根気よく訴えて仲間にするカタルシスとか好きなんだけどなー...
まぁでもまずは真犯人さんのオシオキ後のケアか、石丸君の反応...K側の生徒とかいう鬱展開はさすがにアリバイ的にもない...よね?
事件については馬鹿だからさっぱり分かんねーべ

というかこれ犯人逃げおおせたら(一応)誰も死ぬことなく一人は出られるんだよね?

十神「真犯人はあいつだ」

まったくの見当違い

十神「どういうことだ!?説明しろ苗木!!」

Kって本編でも結構高い推理力を発揮してるからな、ほぼ勘に近いときもあるけど

読者のヘイトを一身に集める十神君は果たしてこの先生きのこれるのか!
ま、まあ多分…十神君だって、今後いいところが…きっと…あると、思う…よ?


>>791
セレスさんは十神君と思考が近いから結構わかっちゃうんでしょうねー
まあ頭脳や大胆さでは負けちゃうし、何より彼女はめんどくさがりやだから
仮に同じ状況になったとしても同じことはまずやらないだろうけど

>>792
モノクマ「質問にお答えしましょう。出られます」

モノクマ「最初は不二咲君生きてるから卒業はナシ!って方針だったんだけど、
      よくよく考えたら一度は確実に死んでるんだし、先生の反則技というか
      ウルトラCのせいで卒業なしにするのはフェアじゃないなーと」

モノクマ「ま、その場合はトラウマになるぐらいじっくり傷めつける所を鑑賞させるけどね。うぷぷ」

>>798
医療って結構推理力問われますからね。常に病気の原因考えなきゃいけないし
見えない脅迫者だっけ?病院脅迫事件の時のKの名推理は鮮やかだった


一同が呆気にとられている中、石丸は再び叫んだ。


石丸「僕が犯人のはずなんだ! 僕が図書室からコードを盗んで不二咲君の首を絞めたんだ!」

霧切「石丸君、落ち着いて。コードは十神君がやったのよ! 彼が自白したわ!」

桑田「なんなんだよ! どうしたんだお前?!」

石丸「だって、だって人は弱いんだ! そうでしょう、先生?! 先生も言ってたじゃないですか!」

朝日奈「え、な、なに……?」

江ノ島「マジこいつヤバくね?」

石丸「兄弟だってあんなに自分を慕っていた不二咲君を殺そうとしてしまったんだ!
    なら僕だって……僕だって今回のキッカケを作った不二咲君を、逆恨みで
    傷つけてしまったのかもしれないじゃないかっ!」

大和田「きょ、兄弟……なに言いだしてんだよ……おい?!」


盛大に錯乱し始めた石丸の元に大和田が駆け寄り、両腕で肩を掴む。
この三日間ろくに食事を取っていなかったのか、その体は明らかに痩せていた。


石丸「僕がやったんだ……僕がやってしまった……」

大和田「しっかりしろよ! オメエはそんなことするヤツじゃねえだろうが!」

石丸「でも人は弱いんだ! 過ちを起こすものなんだ! 兄弟だってそうなんだろう?!
    あんなに男らしくて強かった兄弟だって、こんな環境では道を間違えて……」

大和田「!!」


大和田は気付いた。気付いてしまった。何故石丸がここまで錯乱してしまったのか。
何故弱者を守るべき風紀委員の自分が過ちを犯したと思い込んでいるのか。


大和田(強い強いと思っていた俺も時と場合によっちゃ弱くなる……そう思い込んでるからか!
     だから自分だって同じように道を間違えるって、バカな思い違いをして……!)


それくらい石丸は大和田のことを深く信頼していたのだ。兄弟とまで呼び合った男を
自分はずっと騙していたのだ。そのツケが最悪の事態を引き起こしてしまった。


大和田「違う! 違う違う違う! 違うんだッ!!」

大和田「オメエは俺とは違う! 超高校級の風紀委員だろうが! 風紀とか正義とかとにかく
     大好きでそのために命かけてるようなオメエが、人殺しなんてするわきゃねえだろ!」

石丸「そんなことは関係ない。君だって……!」

大和田「だからそれがちげえっつってんだろ! オメエは俺みたいに弱い人間じゃねえんだよ!
     オメエは一番強いだろ! 誰よりも周りのこと考えて、自分を犠牲にできる男だろ!」

石丸「でも人は弱いんだ!」

K「石丸、違うんだ! その言葉の真意は……!」


もはや裁判が続行不可能なほど議場は混乱の渦に包まれる。
焦る者、困惑する者、冷ややかに眺める者の三者三様だった。


十神「フン、くだらん……もはや裁判の体をなしていないな。答えを言ってやるからさっさと投票を開始しろ」

セレス「同感ですわ。これ以上は無駄な時間です」

山田「そうですね。騒いでる所申し訳ないですけど」

腐川「も、もうあいつが犯人でいいんじゃないの……?」

モノクマ「お? じゃあ行っちゃう行っちゃう?」

葉隠「俺はどっちでもいいべ。自分が楽な方につくし」

江ノ島「まあ、なんであんな錯乱してるかはちょっと気になるけどね」

朝日奈「ちょ、ちょっと! みんなそんな言い方しなくても!」

桑田「待てよ! もうちょっとだけ待ってくれ、頼むって! 必ず大和田が説得するからよ!」


苗木「そ、そうだよ! とうとう僕達の間で事件が起こってしまったんだ!
    この事件の答えは僕達自身の手で解き明かさなきゃいけないはずだよ!」

霧切「お願い。証拠は揃っているはずなの。私達に証明させて!」

舞園「話を聞いてください!」

K(クッ、ここまでか……?!)


その時、存在感のある静かな声が騒ぎの続く議場に響いた。


大神「我は待つ。どの道時間が来れば投票せざるを得ないのだ。ならば待とう」

苗木「大神さん……!」

朝日奈「私も待つよ。あいつがいつもムダに一生懸命でみんなのために頑張ってたの知ってるし、
     今回もいつもの空回りでしょ。あんたもさぁ、いい加減に素直になりなよ!」


朝日奈は石丸に声を掛けたつもりだが、返したのは大和田だった。


大和田「ちげえんだ……」

朝日奈「え?」

苗木「大和田君?」

大和田「ちげえんだよ! 今回の事件を引き起こしたのも、兄弟が妙なことを言い出したのも、
     元はと言えば全部全部ゼ・ン・ブ俺のせいなんだよぉぉおおおお!!」


ダァン!と大和田は両手を席に叩きつけ絶叫する。


大和田「聞いてくれ、オメエら!! これを知られるくらいなら死んだ方がマシだと思ってた!
     墓まで持ってくつもりだった!! 特に、兄弟……オメエには絶対知られたくないことだ!」


石丸「な、何を……一体何を話すつもりなんだ、兄弟?!」

霧切「大和田君……!」

K(とうとう話す時が来たか、大和田……!)


大和田は項垂れてしばらく荒い息を吐いていたが、ついに意を決して顔を上げた。


大和田「俺が絶対に隠したかった秘密と――俺が不二咲を襲った理由だ」

石丸「!!」

桑田「お前、やっぱり……わざとだったのかよ……」

朝日奈「そんな……」


衝撃的過ぎる告白に石丸は一瞬静止したが、その言葉の意味がわかると逆に大和田に掴み掛かる。


石丸「嘘だ、そんな、何で……何であんな馬鹿な真似をしたんだッ!!! 君達は僕の目から見ても
    とても仲が良かったではないか! 何故だッ?!! 何故弱い不二咲君を殺そうとしたッ!!
    何故失言をした僕を襲わなかったんだ!! 何故だあああああああッ!!」

大和田「俺がよええからだよおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


石丸の絶叫に負けじと大和田も叫ぶ。その二つの眼からは滝のように涙が溢れ出ていた。


大和田「俺はな! 本当はよええんだ! よええんだよ! お前や不二咲が思ってるような人間じゃねえんだ!」

石丸「兄弟……」


大和田「俺の秘密、それはな…………兄貴を殺したことだ」


「?!!」


苗木「えっ?!」

葉隠「え、ちょ、マジで殺人してたんか?!」

大神「皆、落ち着くのだ! 話を聞こう」


ざわめきが治まると、一同を代表してKAZUYAが問いただす。


K「――お前の兄は、確か事故で死んだはずだな?」

大和田「ああ、事故だった。……でも、俺が殺したも同然なんだ! すまねえ、兄貴……
     俺は今から男の約束を破る。約束を守れなくて、本当にすまねえ……」


大和田は強く目をつぶる。ハアハアと荒い息を吐いていたが、呼吸を整え天を仰いだ。
そしてようやく覚悟が出来たのか、大和田は目を開いて告白を始めたのだった。


「俺の兄貴はな……弟の俺から見ても本当によく出来た、立派な兄貴だったよ。
 強くて男らしくて頼もしくて、カリスマ性に溢れた自慢の兄貴だった」

「――だが、その反面プレッシャーもあったんだ」


兄・大亜の引退が近付くにつれて、一枚岩だったチームにさざなみが立ち始めた。


『弟はしょせんナンバー2だしな……』

『このチームは大亜が一人で作ったチームだ。弟の紋土はおまけだよ……』

『そんなヤツに二代目が務まんのか……?』

『この先チームは弱くなる一方だな……』


チーム内で囁かれる陰口が、毎日のように大和田の耳に入ってきたのだ。


「弟なんておまけ。身内だから二代目になる。……腐るほどそんな陰口を聞いた。そんな
 言葉は無視すりゃ良かったのに……出来なかった。俺は弱くて臆病者だったからだ……」


だからこそ。


『オレは……兄貴より強くなんなきゃなんねえ……』

『最後に一度だけ……どうしても勝つんだ……』

『どうしても勝たなくちゃなんねーんだッ!!』


「あの引退式の夜……俺は兄貴に勝負を挑んだ。そして案の定、負けそうになったんだ。
 勝負を焦った俺は、ムリな追い越しをかけようと反対車線に飛び出て、それで……!」


ファアアアアアアアン!!

甲高いクラクションの音が耳を貫き、ヘッドライトが眩しく自分を照らす。
しまった!と思った瞬間、次に聞こえたのはガシャアアンという一つの衝突音。


『わ、わりぃ……ドジっちまった……すまねぇな……』

『……後は頼むぞ……ぜってーに、チームは潰すんじゃねーぞ……
 “俺とお前”で……作ったチーム……なんだからな……』

『男の……男同士の……約束……だぞ……』

『兄貴! 兄貴ィィイイイイイイ!!』


「トラックに轢かれかけた俺を庇って……兄貴は死んだ」


明らかに弟の過失にも関わらず、兄は一言も恨み言を言ったりはしなかった。
ただ自分と弟の二人で作ったチームを、弟である紋土に託したのである。

――それは絶対に破れない男の約束だった。


「チームでは弟に負けかかった兄貴がムリな走行をしたから死んだってことになった……」

「言えなかった……! 本当のことを知られるのも怖かったし、兄貴との約束が守れないのも
 怖かった! 俺はチームを託されたんだ! だから、この秘密は絶対に言えなかった!!」


大和田の苦しい心境を理解して、誰もが黙り込む。だが、話はこれで終わりではない。
同じく蒼白な顔をした石丸が、再び大和田に問い掛ける。


「聞けば聞くほどわからない……何故秘密を聞いた僕ではなく不二咲君なんだ?!
  君は……僕を殺せなかったから八つ当たりで不二咲君を……!!」

「それだけは違う! 俺はあの時……秘密を聞かれたから怒ったワケじゃねえんだ……」

「違う……? 命を懸けても守らなければならない秘密以上に、君が殺意を抱く動機などあるのか?!」

「だから、俺は弱えんだよ……」


ポツリと呟くと、大和田は一度だけ深呼吸をして続けた。誰もが固唾を呑んで見守っている。


大和田「あの秘密を突き付けられた時、俺は混乱した。誰か殺さなきゃいけないって思った。
     でも、やめたんだ! 兄貴は俺が人殺しになってまで約束を守ることを望んじゃいねえって
     先公に言われて、俺も気付いた。絶対に人殺しなんかするかって一度は誓った……!」

大和田「でも俺は……俺は…………つまんねえ嫉妬をしちまったんだ! 不二咲に!」

石丸「嫉妬……」

大和田「そう、嫉妬だ。それも、ぶっ壊れた嫉妬だよ……」


その眼差しには、悲しみと狂気が入り交じっていた。


大和田「不二咲の秘密は俺と同じくらい……もしくはもっと言いづれえ秘密のはずだった……
     でも! あいつは自分の弱さに気付いて、認めて、立ち上がった! 変わろうとした!」

大和田「ちっぽけなプライドに縋って、秘密を暴露されることに怯えてる俺にとって
     あいつの存在は眩しかった。それで……それであの時……!」


『秘密なんてへっちゃらだもんね?』

『大和田君はとっても男らしくて強いんだから』

『いつまでも“嘘に逃げてた弱い”僕なんかとは違うんだよ!』


大和田「バカにされたと思った……悔しかった……俺が今まで築き上げたものも、全部
     嘘っぱちだったのかと思って……そしたら突然、頭の中が真っ白になったんだ」

大和田「気が付いた時には……兄弟が血まみれになって倒れてて、側で不二咲が泣いてた……」

「…………」

大和田「俺のつまんねえ嫉妬で……兄弟の顔にバカでっけえ傷を残した挙げ句……!
     まったく悪くねえ不二咲を危うく死なせちまう所だった……!」

大和田「俺が、俺が弱くて情けねえばっかりに!! うう……!」

石丸「兄弟……」

大和田「俺はそんなヤツなんだ! 本当はオメエに兄弟なんて呼んでもらう価値のねえ男なんだよぉ!」


膝を折り、声をあげて泣き続ける大和田を石丸は見下ろす。石丸自身とめどなく涙を流していた。


K「大和田……よく全部話してくれた。辛かったな……もうお前は弱くなどない」


いつの間にかすぐ近くに来ていたKAZUYAが、大和田の肩に優しく手を置く。


大和田「兄弟……これでもうわかっただろ……人間が弱い生き物だからじゃねえ。俺個人が
     弱くて醜いんだ。俺は元々こういう人間だったんだ。騙しててすまねえ……」

石丸「そんな! しかし、僕は……!」

大和田「いい加減わかれよ! オメエみたいな根っからの善人が人を傷付けたり出来るか!
     オメエも……不二咲も、俺と違って強い人間なんだ。俺とは違うんだ!」

石丸「しかし……!!」

舞園「石丸君」


尚も食い下がろうとする石丸の右腕を、隣の席の舞園が掴んだ。そして、強く強く握りしめる。


石丸「舞園君……?」

舞園「……知っていますか? 石丸君みたいに性善説を信じている人には受け入れがたい
    事実かもしれませんが、人間には二種類の人がいるんですよ」

舞園「窮地に陥った時に……自分を犠牲にする人と他人を犠牲にする人です」

石丸「…………」


舞園「石丸君は前者ですよ。後者代表の私が保証します」

石丸「僕は……僕は……」


ミシミシと、痕が付かんばかりに舞園は強く腕を握る。有無を言わせぬ迫力が舞園にはあった。
未だ石丸は混乱したままだったが、裁判を再開出来る程度には落ち着きを取り戻す。


大和田「すまねえ、舞園」

舞園「謝るのは後です」

霧切「ええ。まだ裁判は終わっていない。石丸君の容疑を完全に晴らして、
    そのまま一気に真犯人の正体まで迫るわ」

江ノ島「勿体ぶらずにさっさと言いなよ!」

葉隠「ま、そう焦らんと黙って見てようや。どうせよくわからんしな」

山田「いや、参加しましょうよ。一応全員でやることになってるんですから……」

腐川「あ、アタシ達がわからないからって……馬鹿にしてるんでしょ?!」グギギ

K「では第二ラウンドだ。議論を再開する!!」




            ―  裁  判  再  開 ―


ここまで。


[ 石丸の潔白を証明せよ! ]


十神「それで、意気揚々と宣言したはいいがどうやってそいつの潔白を証明するつもりだ?」

大神「もしや真犯人が石丸を襲った時に使った【消火器に何か手がかりがある】のでは?」

江ノ島「よくわかんないけど、【犯行時刻】とかじゃない?」

セレス「そもそも、何故リボンなのでしょう? ロープはなかったのですか?」

桑田「本当は十神が犯人なんじゃねえの? いくらなんでも【偽装なんてやり過ぎ】だろ!」

朝日奈「本当だよ! 私も十神が怪しいと思う!」

山田「まさか、自ら撹乱を名乗ることで真犯人の疑惑から逃れるという作戦?!」

石丸「だが、現時点で僕が犯人ではないという【証拠はない】」

霧切「そうかしら? 証拠をよく見てみてちょうだい」

石丸「そんなもの、存在するはずが……」

大和田「いいや! ぜってぇに、あるはずだ!」


>>832
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689
わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ

安価近すぎたね…

再安価>>835

【証拠はない】に【ロープの場所】


苗木「ロープの場所とかどうだろう? 石丸君はロープの場所を知っているよね?」

山田「知っているのにあえて使わない。推理モノではお約束ですな!」

腐川「ど、どうせそれも偽装でしょ……」

セレス「反論としては弱いですわね」

苗木(駄目だ……もっと直接的で、致命的な証拠を叩きつけないと……)


>>838
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689
わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ !

>>834だと同意になるんちゃう
消火器で殴られて引き摺られた偽装まではさすがにしないだろうと認めてくれるんかな?
だったら普通に【証拠はない】に【石丸清多夏のカルテ】でいいんじゃない安価下


大和田「きょ、兄弟は誰かに引きずられた跡があるんだよ! つまり誰かが……!」

葉隠「そんなん、自分でやっただけかもしれんべ!」

江ノ島「怪我の偽装なんて簡単でしょ」

朝日奈「信じてあげたいけど、ちょっとそれだけだと弱いかな……」

大神「確実に石丸ではないと断言出来る証拠が欲しい所だ」

十神「フン、貴様等の友情とやらはやはりその程度だったようだな。ハハハハハッ!」


>>842
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689
わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ !

ラストチャンスです。次間違えた場合は自動でKAZUYAが論破します
ついでに1はちょっと外します。再開は夜の予定

心象とかちょっと無理気味でも頑張れば出来る偽装、で返されるんだったらもうもっと怪しい人物に目を向けさせるしかないんじゃない?

安価下


苗木(どうすればいいんだ……? 決定的な証拠……そんなものあるのか?)

舞園(何を主張しても、偽装だと言われてしまったら反論出来ない……!)

桑田(霧切は証拠はもうあるって言った……どれだ? どれがその証拠なんだ?!)

霧切「落ち着いて、みんな。石丸君が犯人でないということを証明するには
    石丸君が犯人ではおかしい点を指摘すればいいのよ」

大和田「んなこたわかってんだよ! でも、おかしい点なんて腐るほどあるじゃねえか!」

霧切「他の生徒にはない、彼だけの特徴を考えて。……ここまで言えばわかるわね?」



>>856
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689

これちょっと難し過ぎたかもしれませんね……反省

不器用な石丸がエプロンのリボン切れるわけねーとか?
安価下


【不二咲千尋のカルテ2】 ドンッ! ====⇒ 【証拠はない】BREAK!!


苗木「それは違うよ! このカルテがその決め手なんだ!」

石丸「カルテ? 西城先生の作ったそのカルテが一体何だと言うのだね?!」

苗木「このカルテに、山田君からカメラを借りて撮った写真が付いているよね?
    不二咲さんの首の後ろの跡を見てほしいんだ」

石丸「僕が首を絞めてしまったせいで残った跡か……」

桑田「だから、お前じゃないっつーの!」

山田「このうっすら残った跡がなんだというんですか?」

苗木「これが真犯人が本物の凶器で絞めた跡だっていうのは異論はないね?
    よく見て欲しいんだけど、左側の跡がやや上で右側の跡がやや下なんだ」

十神「…………」

大神「成程……!」

セレス「そういうことでしたか……」


何人かが得心して頷くが、大半のメンバーは訳がわからない。


江ノ島「え? なになに?」

山田「どういうことですかな?」

朝日奈「さくらちゃん、教えて!」

大神「うむ、それはだな……」

葉隠「左側が上……つまり真犯人は左利きなんだべ!」

朝日奈「あ、そういうこと?!」

山田「そうでしたか! 左利きの人間なんてそういないですからな」

江ノ島「あんたたまにはまともなこと言うじゃん!」

葉隠「へへへへ! 誉めるだけならタダだべ?」

霧切「盛り上がってる所悪いけど……」

石丸「……僕は左利きだが?」


……シーン。


葉隠「や、やっぱりか」

腐川「あんたが犯人……!」

大和田「違うだろうが! 苗木の話を最後まで聞けや!!」

苗木「えっとね、葉隠君の発想は良かったんだけど……逆なんだ」

葉隠「逆? 逆ってことは……」

朝日奈「! 犯人は右利きってこと?!」

苗木「うん。実際に手を動かしてみればわかりやすいんだけどね、右利きの人がやるのと
    左利きの人がやるのじゃ跡が違うんだ。右利きでやった場合、右手に持った紐が必ず
    上になる。だから、首の左側に残る跡も必然的に上になるんだよ」


〈 わかりやすい図解 〉http://i.imgur.com/pENGo2O.jpg


山田「なるほど~。それなら確かに犯人を絞れますな」

K「この場にいる左利きの人間は石丸ただ一人だ。本来ならあまり
  役には立たない証拠だが、今回に限っては有用に働いた訳だな」

セレス「ですが、わたくし一つ疑問がございますわ」

セレス「石丸君はいつもお箸を右手、お茶碗は左手に持っていたはず……
     確かに左利きという証拠はあるんですの?」

苗木「僕は石丸君と一緒に医療実習に参加して、石丸君が左利きだって知ってるよ」

桑田「俺はアイツと一緒に野球したから左投げだって知ってるぜ」

霧切「偶然私もその現場に居合わせたから間違いないわ」

腐川「でも、あんた達が結託して話を合わせてないとも限らないじゃない……!」

大和田「はぁ?! ふざけんな! 兄弟は確かに左利きなんだよ!」

K「大和田、落ち着け。いつも一緒にいたお前なら石丸の潔白を証明出来るはずだ。
  誰か第三者の前で、石丸が左利きだと話したことはなかったか?」

大和田(そんなことあったか? ……いや、考えろ! 考えるんだ……このままじゃ
     十神の野郎に負けっぱなしだぞ? 兄弟の不名誉を晴らせねえ!)



大和田「…………そういや、そうだ! 確か食堂で兄弟と腕相撲の勝負をしようとしたことがあってな。
     その時、兄弟は自分は本来左利きだから正確な勝負は出来ないって言い出したんだ」

K「その話を他に聞いた人間はいるか?」

大和田「勝負の見届け人を大神と朝日奈に頼んだから二人は知ってるはずだぜ!」

朝日奈「あ、覚えてるよ! えっと、『僕は矯正されているから普段は右手で過ごしているが、本来は
     左利きなんだ。正確な勝負にはならないがそれでも構わないか?』って、確かに言ってた!」

大神「我も覚えている」

K「全体の半数が石丸を左利きだと認識している。これでもまだ言い張るか?」

江ノ島「でもさあ、普段は右手で過ごしてるんでしょ? だったら殺人だって右手で出来るんじゃないの?」

山田「これすらも偽装の可能性がありますぞ!」

K「いや、それはないな。普段は右手で過ごしているが、石丸は咄嗟の時や無意識の行動では
  必ず左手を使っている。朦朧とした意識で殺人などという行為を右手でやるとは思えん」

大神「武道も訓練しているからこそ逆手で行える。普段からしている
    動作以外をいきなり逆手でやらせて上手くいくとは到底思えぬ」

K「仮に犯行時刻が一時なら、発見まで時間的に余裕がある。お前達の言う通り、自分の体を
  傷付けて偽装するくらいなら、いかに不器用な石丸でも不可能とは言い切れないかもしれん」

K「だが、『突発的な犯行で時間に余裕が無い』中で、『抵抗する不二咲千尋相手』に
 『不器用な石丸』が『利き手と違う手』で犯行を行えるか? 断言しよう、それは不可能だ」

葉隠「あー、んー……そう言われれば、そうかもしれねえなぁ」

山田「確かに石丸清多夏殿は頭に超がつくほどの不器用ですし……これは確定ですかね」

セレス「わたくしも納得いたしましたわ。確かに石丸君は犯人ではなかったようです」

朝日奈「やっぱり……うん、そうだよね! 石丸に人殺しなんて出来ないって!」

大和田「よし! 兄弟の潔白が証明出来たぞ!」

苗木「良かったね、石丸君!」

石丸「では……では、僕は本当に犯人ではないのか……? しかし……」

K「石丸、お前一人で泥をかぶらなくてもいい。もう真犯人を庇う必要はないんだ」

十神「……何だと?」


桑田「真犯人を庇うってどういう意味だそりゃ?!」

苗木「石丸君は真犯人の正体を知ってるの?!」

K「いや、知らないさ。だが自分が犯人でないなら別に真犯人がいることくらいわかるだろう?」

K「石丸はな、朦朧とした意識の中でこう思ったのだろう。この中に不二咲を殺した者がいる。
  だがその人間だってきっと大和田のように何か事情があったに違いない。だったら
  自分が真犯人で自分一人が罰せられて全てが終わればいいのにと……」

K「お前達も知っての通り、石丸は非常に心身が弱っていた。だから、いつしか
  その願望と現実が混ざって自分が不二咲を殺したと思い込んでしまったのだ。
  だからあんなに真犯人を追求するのを拒否していたのだろう」

大和田「兄弟……オメエってヤツは……どこまでお人よしなんだよ……!」

石丸「みんな……すまない。僕のせいで無駄に場を混乱させてしまった……」

桑田「いいんだよ! イインチョがKYなのなんて今に始まったことじゃねえだろ!」

苗木「うん、困った時はお互い様だよ。気にしないで」

霧切「みんな、安心するのは早いわ。石丸君が潔白だったということは、真犯人がいるということよ」

K「明かさねばなるまい。……真相を全て」


・・・


真犯人が誰かについて全員があれやこれやと議論している中、石丸は別のことを考えていた。


石丸「僕は……不二咲君を襲った犯人などではなかった……」

石丸(良かった、はずだ……兄弟達があれだけ一生懸命潔白を証明してくれたのだから……)


まだ側にいたKAZUYAが、石丸の心情を察して肩に手を置く。


K「……石丸。現実を受け入れがたいのはわかる。だが、ここには確かに真犯人がいるのだ。
  不二咲のためにも見つけなければならん。そして俺達は最後まで真実を見届ける義務がある」

石丸「――はい」


そしてKAZUYAも元の席に戻った。その様子を見ながらも積極的に議論に参加しているのは桑田だ。


桑田(石丸の潔白は証明出来た。でも、まだだ! ぜってぇに不二咲を襲ったヤツを見つけてやる!)

K「もう一度整理しよう。真犯人に繋がる手がかりと言えば、やはり凶器についてだろうな」



[ 真の凶器について ]


大神「【延長コード】は十神による偽装だった訳だな」

葉隠「えーっと、真の凶器ってなんだったか?」

セレス「それはさきほど苗木君が出した【エプロンのリボン】ではないのですか?」

舞園「でも、なんで犯人はそんな物を使ったんでしょうか。倉庫にロープが置いてあるのに」

大和田「犯人は、ロープの場所を知らなかったからだろうな」

十神「甘いな……だから貴様等は愚民なのだ」


>>868
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689
わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ !

朦朧としてる原因が頭部の殴打なら、当然朦朧とした後で戻しに行かないといけないわけで……犯行に時間的余裕がないならそこも余裕なくないか

そして論破の方は同意無しなんだよな……どうするか

安価下


【不二咲千尋のカルテ1】 ドンッ! ====⇒ 【エプロンのリボン】BREAK!!


霧切「それは違うわ。さっきは直接関係ないし議論の邪魔になるから
    黙っていたけど、実はそのリボン――本当の凶器じゃないのよ」

大神「何だと?!」

霧切「カルテの記述をよく見て……首に引っかき傷ありって書かれてるわよね?
    これは、首を絞められた時に不二咲君が抵抗した時についたものよ」

山田「ロープを外そうとして引っ掻いてしまう。よくある話ですな」

苗木「こんな真っ白なリボン、少しでも血がついたらわかると思わない? 洗う時間もなかったはずだし」

舞園「つまりそのリボンは犯行には使われていないんです」

腐川「で、でも……じゃあなんでそんな物が落ちてる訳?」

十神「簡単なことだ。真犯人が本当の凶器を偽装するために用意した。そうだろう?」

葉隠「あれ? 偽装の偽装だべ?」

石丸「……何と。つまり、この事件は二つの異なる人間による二重の偽装があったということなのか!」

苗木「うん。つまり、本当の凶器は別にあるはずなんだ」

セレス「それで、肝心の凶器はどこにあるんですの?」

苗木「それは……」

苗木(どうしよう……僕らが掴んだのはここまでなんだ。これ以上は……)

K「決め手に欠ける、か……」

桑田(おいおいおいおい……冗談じゃねえぞ! もうすぐそこまで来てんだ! ここで
    諦めてたまるかよ! 考えろ! 俺の頭でも思いつくことがあるはずだ。考えろ!)


桑田は焦っていた。桑田は今日、積極的に議論に参加しているのにも関わらず、
何一つ味方の役に立つ発言を出来ていなかったからだ。


桑田(俺じゃあダメなのか? 俺がバカだから……いや、諦めたら終わりだろ!
    考えろよ。そもそも、なんでこんなアホみたいな事態になったんだっけ?)

桑田「!」


十神「何だ。偉そうなことを言ったのにここまでか。もう俺に頼るしか方法がないようだな」

桑田「ま、待てよ!」

十神「またか。お前みたいな馬鹿が一体何の役に立つというんだ。いい加減に……」

桑田「秘密! 今ここでみんなの秘密を暴露しねえか?」

江ノ島「ハァ? 今? なんでよ?」

桑田「だってよ、大和田だって秘密が原因で問題起こした訳じゃねえか。
    犯人が秘密のために殺人を起こそうとした可能性はあんじゃねえの?」

腐川「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そ、そんなのなんの証拠にもならないじゃない!
    まさか秘密の内容で犯人を決めるっていうんじゃないでしょうね?!」

桑田「別に秘密がヤバいから即犯人だなんて言わねえよ。ただ、参考になるかもしれねえだろ」

K「成程、考えたな」

霧切「一理あるわね。どうせ言われるはずのものなんだし」

腐川「じょ、冗談じゃないわ! アタシは言わない。絶対に言わないわよ……!」

桑田「俺から時計回りに行くぞ!」


そうして秘密の暴露大会が始まった。


山田「拙者実は二次元オンリーと言っておりましたが……申し訳ない! 本当はリアルにも興味あります~!」

大和田「……知ってた。つか、それが普通なんだから気にするこたねえだろ」

山田「なにをおっしゃいますか?! いいですか? 僕はコミケ界の帝王的存在なんですよ?!
    なのにリアルに興味あるとかアイデンティティの放棄というかファンへの裏切りというか……」

セレス「いつまでグダグダ言ってんだ! 一度認めたんだからさっさと諦めろブター!」

山田「ブヒィィ! そんなああああ!」

K「……次」


江ノ島「あたしのはー、みんな知ってるっしょ? 雑誌のカバーショットを
     フォトショでいじってること。どうせ偽造モデルですよ」

舞園「今のままでも十分可愛らしいのに」

江ノ島「……あんたにそれ言われるとか嫌みでしかないんだけど」

苗木「それは違うよ!」

江ノ島(え、なに? なにが違うの? むしろこっちの方が好きとか?!)

苗木「確かに江ノ島さんは雑誌よりちょっとツリ目でそばかすあるし胸も控えめかもしれない。
    でもそれが本来の江ノ島さんの姿であり、それを僕らに晒したのだから僕らは真の……」

桑田「はい、ストーップ! ストーップ!」

石丸「どうしたのかね? 苗木君は江ノ島君に素顔の美しさを説こうとしているのでは……」

大和田「兄弟、ちょっと黙っててくれ」

セレス「修正するのでしたらお顔か体型、どちらかにすればよろしかったですわね?」

江ノ島「……あんた、後で女子トイレに来て」ギロッ!

K「つ、次だ!」


当然、その中にはとんでもない秘密が紛れ込んでいるもので……


大神「我の秘密はこれだ」ピラッ

苗木「写真?」

桑田「うおおおっ! すっげー美人じゃん! 誰? 親戚? 今度紹介してくれよ!」

K「おい……」

霧切「桑田君……」


KAZUYAと霧切の冷たい視線が刺さるが、約束を取り付けるだけ!とあえて無視する。


大神「残念だがそれは無理な話だ」

桑田「なんでだよ? もしかして彼氏持ち?」

大神「いや、そうではなく不可能なのだ……」

桑田「え、まさか……既にお亡くなりになられてるとか……?」

大神「ある意味ではそうだな……これは中学時代の我の写真だ」

「?!?!」


裁判場の時が――止まった。


大神「今の我を紹介されても困るだろう?」

桑田「あ、いや、そのぉ…………なんかいろいろごめんなさい」

朝日奈「ちょっと! 今のさくらちゃんだって十分かわいいでしょ!」

K「次だ!」クワッ

霧切「私の秘密はこの手袋についてよ」

苗木「そういえば、いつもつけっぱなしだね」

石丸「何か外せない事情でもあるのか?」

霧切「昔、事故で酷い火傷をしたの。その傷痕を隠しているのよ」

K「何? 何故俺に言わん! ここから出たらすぐに綺麗に手術してやる」

霧切「……その時が来たらお願いします」

葉隠「次は俺か。長いんで、上から読んで行くべ。えーと詐欺、マルチ商法、恐喝……」ツラツラ


葉隠は次々と犯罪や裁判の内容を挙げていくが、なんと全て自分の過去の行いであった。


桑田「テ、テメェ……人を散々犯罪者呼ばわりしたくせに、自分だって犯罪者じゃねーか!」

葉隠「俺には殺人と放火だけはしないってポリシーがある!」キリッ!

桑田「なに堂々と言ってんだ! お前、ふざけんのもたいがいにしろよ!」

K「桑田、落ち着け」

桑田「だって、せんせー……!」

K「文句は後でまとめて言え。今は裁判に集中しろ」

十神「フン、俺の秘密は貴様ら愚民とは訳が違うぞ」

モノクマ「えー、十神君の秘密は小学生の時の作文です。僕が代わりに読んであげますね」


 いちねんいちくみ とがみびゃくや

 ぼくのゆめは、十神家の嫡男として世界をせんどうするリーダーとなることです。
いえ、これはもうけっていじこうなのでせいかくにはゆめではありません。
おろかなみんしゅうをただしいほうこうにみちびくため、いまから帝王学をたたきこまれ、
りっぱな指導者となるべくひびけんさんしています。
 ぼくがおもうつよいリーダーとは……(以下延々と続く)


石丸「流石十神君だ……小学一年生から既にあのような思想を完成させているとは……」

大和田「いや、冷静に考えて小学生があんな作文書いてたら怖いだろ……」

朝日奈「ちょっとかわいげないよね……」

苗木「十神君らしいと言えばらしいけど、流石にビックリしちゃった……」

桑田「ぶっちゃけこんなこと偉そうに言ってる小1とかうぜえだけだわ」

山田「禿同」


ヒソヒソ、ヒソヒソヒソ。


十神(くっ、俺の崇高な理念がわからぬ愚民共が……だから知られたくなかったのだ)プルプル…

K「……次」


次の秘密も、別の意味でなんとも言えない空気を醸し出していた。


一同「…………」

セレス「…………」

K「そうか。君の本名は安広というのか。呼びやすくなって良かった。正直、
  ルーデンベルクは長いし呼びづらくてなァ。今度からは安広と呼ばせて……」

セレス「わたくしの名前はセレスティア・ルーデンベルクだ、このビチ……!」

K「どうかしたか?」ゴゴゴゴゴ…


流石に教員に対して暴言はまずいかとセレスも自制するが、納まりがつかない。


セレス「クッ、この筋肉ダルマ! ノッポ! ウドの大木! ダッせえボロマント!」

K「何と言われようと俺は本名で呼ぶからな」

苗木「あ、あの次は……」


一通り秘密の暴露が終わり、最後に一人だけが残った。


K「さて、これで後は……」

腐川「い、言わない……絶対に言わないわよ……!!」

苗木「腐川さん、別にこれで犯人を決める訳じゃないから……」

霧切「変に意固地になると、逆にあなたが犯人ではないかと疑われてしまうのよ?」

K「言いづらいのはわかるが、今言っておいた方が心証がいい。もうあまり時間もないぞ」

腐川「い、言える訳ないじゃない……! アタシの秘密はあんた達のとは次元が違うのよ!」


桑田「でも、もう犯罪者まで出てるんだぜ? それ以上に言えないことってなによ?」

舞園「桑田君。相手は女性ですし、体のことや親戚関係かもしれません。
    言いたくない気持ちもわかります」

霧切「全員に言うのが憚られるなら、私が代表で聞くわ。口の堅さには自信があるから」

苗木「そうだね。霧切さんなら信頼出来るんじゃないかな?」

腐川「だ、ダメよ! 誰が相手であってもダメ! い、言える訳ない!!」

大和田「なんだぁ、腐川のヤツ……?」

K(腐川の奴、妙に頑なだな……下手をしたら自分が犯人扱いされるかも
  しれんというのに、それでも言えない秘密とは一体……)


案の定、生徒達は腐川を疑念の目で見始めた。


江ノ島「あー、めんどくさー。腐川が犯人なんじゃないのー?」

葉隠「まさか、腐川っちが犯人なんか?!」

山田「確かに、いささか往生際が悪すぎますな」

朝日奈「本当はムリさせたくないけど、裁判のためには聞かないとダメだし……」

十神「さっさと言え、腐川。貴様のせいで余計な時間を取られているのだぞ」

腐川「びゃ、白夜様……で、でも……あれはですね……その……」

十神「貴様が言わないなら俺が代わりに言ってやる。そいつの正体はジェノサイダー翔だ!」

「ジェノサイダー翔?!!」


ジェノサイダー翔とは、世間を賑わせている連続猟奇殺人犯のことである。


K「ば、馬鹿な……まさか、腐川が本当にあのジェノサイダー翔だというのか……?!」


ちょっとキリ悪いけどここまで。


>>868
朦朧としている原因はKAZUYAの出した睡眠薬ですね。薬が抜けきっていなかったので

ただ、朦朧としているとか記憶が無いとかは全部石丸君の自己申告で、体の傷とかも
別に全身にアザが出来てる訳ではないし、手首も軽く捻った程度なので石丸君が嘘を付いて
体の怪我を偽装した、と言われると答えに窮する訳です。

…でもまあ、今回は全体的にちょっとイジワル問題みたいなのが多すぎたかもしれません
ごめんなさい。そろそろ裁判も佳境です。無駄に長かった裁判ですが、もう少々お付き合い下さいませ


あまりにも衝撃的過ぎる秘密に、流石のKAZUYAも表情が固まる。


K(確かに、もしそうなら絶対に言える訳はないが……だが、腐川に人殺しが出来るか?)

桑田「マジかよ……」

朝日奈「え、嘘だよね? だって腐川ちゃんは血液恐怖症だし……」

石丸「そ、そんな?! まさかクラスメイトに本物の殺人犯がいただと……?!」

腐川「ああああああ!! 言わないでってあれほど言ったのにぃぃぃ! もう終わり! 終わりよぉぉぉ!」


そう叫ぶと腐川は真後ろに倒れた。


K「腐川!」


慌てて駆け寄ろうとした刹那、物凄い勢いで腐川は立ち上がる。その口からは長い舌を覗かせて。


ジェノ「呼ばれて飛び出てジェノサイダー! アッハッハッハッ!」

K「な……!(これは、いつぞやの?!)」

苗木「あ、あの腐川さ……」

ジェノ「アタシをあの根暗の名前で呼ぶんじゃねーよ! アタシにはジェノサイダー翔っていう
     とーってもイカす名前があんだよ!」

石丸「こ、これは一体……いつもの腐川君とはまるで違う……」

K「そうか、乖離性人格障害か……!」

大和田「カイリ……なんだそりゃ?」

K「所謂多重人格のことだ。ここの図書室の書庫に何故か警察の極秘資料があり、
  その中にジェノサイダー翔についての記述もあった。乖離性人格障害が疑われると
  書いてあったが、まさか本当だったとはな……」


ジェノ「へぇ~。アタシってば有名人! 他にはなんて書いてあったの?」

K「ジェノサイダー翔は単なる連続殺人犯ではなく、その犯行にはいくつかの共通点がある。被害者は
  全て若い男性、凶器のハサミで張り付けにする、側には必ずチミドロフィーバーの血文字……」

ジェノ「イエース! さすがKAZUYAセンセ! アタシのことよくわかってるぅ!」

大神「多重人格……これほどまでに違うものか」

葉隠「これで決まりだな! ジェノサイダー翔が不二咲っちを襲った真犯人だべ!」

ジェノ「ハァ?! テメエの脳みそウニで出来てんの? 今の話聞いてなかったぁ?」

ジェノ「アタシが殺すのは萌える男だけって決めてんのよ!
     なにせ貴腐人コースまっしぐらな腐女子ですからぁ!」ゲラゲラゲラ!

山田「でも、不二咲千尋殿は男の娘でれっきとした男性ですぞ? しかも萌える」

ジェノ「え?! マジ~?! あちゃー、そうだったんだぁ。男の娘とか盲点だったわ!」

K「…………」

朝日奈「で、でも! あんたが犯人じゃないなら他に一体誰がやったって言うのよ!」

ジェノ「知らねーよ。テメーらの誰かじゃないの?」

朝日奈「信じられないよ! だってあんた連続殺人犯じゃない!!」

ジェノ「うっせー! 違うって言ってんだろ、この乳牛女!」


ジャキィィィン!

ジェノサイダーはバサリとスカートを翻すと、いつのまにか両手に鋏を取り出し身構える。
太ももにホルダーがあり、そこに愛用の鋏を収納しているのだ。ちなみに、早技過ぎて
誰も気付いてはいないが、太ももには殺した男の数を正の字の刺青で彫りこんでいる。


ジェノ「女は襲う趣味ないけど、あんまりしつこいならマイハサミで切り刻んじゃうわよん?」

朝日奈「ヒッ!」


大神「ジェノサイダー! 朝日奈に手を出したら容赦はせんぞ!」

ジェノ「そっちが先につっかかってきたんだろうがよぉ!」

K「よせ! 確かに証拠もなく決めつけるのは良くない。議論を再開しよう」

ジェノ「……えーっと、今はなにについて議論してたんだっけ?」

桑田「凶器が見つからねえってことだよ!」

ジェノ「ふーん? それって単に今も犯人が持ち歩いてんじゃね? アタシのハサミみたいに」チャキチャキ

苗木「そうか! それならどこを探しても見つからない訳だね!」

大和田「でもよぉ、ある程度太めの長いものを持ち歩いてるヤツなんているか?
     俺はサラシ巻いてるけど……ん、サラシ? まさか……大神?!」

朝日奈「さくらちゃんが不二咲ちゃんを襲うわけないでしょ! いい加減なこと言わないでよ!」

舞園「江ノ島さんも包帯を巻いていますね? 腐川さんの制服のリボンも」

江ノ島「え?! アタシィ?!」

ジェノ「これ、縫い付けてあって取れないからハズレだよーん」

K「では、二人はどうだ?」

大神「……我は違う」

江ノ島「ア、アタシだって違うわよ!」

桑田「でも、凶器持ってるしアリバイもないし……」

霧切「二人共、サラシと包帯を見せてもらってもいいかしら?」

大神「構わぬ」シュルッ

江ノ島「いいよ(毎朝包帯取り替えてて良かった……)」シュルルル

霧切「……さっきのリボン同様、血の跡がないわ。犯人じゃないわね」


ちなみに、アリバイのないメンバーの部屋は事前に調べているため、部屋に隠しているということはない。


桑田「あ~、振り出しかぁ」

山田「んーむ……ピコーン! 閃いた! この山田一二三、閃きましたぞっ!!」


その時、メガネをキラリと輝かせながら唐突に山田が叫び出す。


大和田「なんだよ……しょーもねーことだったら殴るぞ?」

山田「フッフッフッ、灰色の脳細胞が冴え渡りましたよ!」

K「脳の色は通常薄い桃色から橙色だ。灰色では死んでいるぞ」


少々野暮なツッコミが入るが、そんなことで山田は止まらない。


山田「聞いて驚くなかれ。ズバリ! 推理漫画で時々ある、髪の毛とかどうですかな?!」

葉隠「ム、ムリだぞ! 俺のドレッドで首を締めるなんてことは……!」

K「安心しろ。それはわかっている」

朝日奈「あんたねぇ、髪で人を殺せるわけ……っ!!」


話している最中に、朝日奈の血相が突然変わり大きく息を吸い込んだ。


K「どうした、朝日奈?」

朝日奈「ウィッグ……」

江ノ島「へっ?!」

朝日奈「お風呂の時見たんだけど、ここにウィッグを使ってる人がいる……」


朝日奈の言葉に、珍しく大神も動転した。


大神「そうか……セレス! お主のその髪、確かウィッグであったな!」

セレス「!!」

桑田「マ、マジで? おりゃっ!」ブチッ!

セレス「このっ! 髪は女の命ですのよ! 汚い手で触んじゃねえビチグソがあああああああああ!」

山田「な、何とぉぉぉ! 実はセレス殿は黒髪ショート娘だったのですな! 萌えますぞ!」

セレス「っるせえ! この腐れラードォ!!」

朝日奈「そんな、セレスちゃんが犯人だなんて……」

セレス「ふざけんなっ! わたくしは犯人なんかではありません! 確かにこの髪は
     ウィッグですが、これが凶器だという証拠がないではありませんか!」

桑田「確かに証拠はないけどよぉ、もう手がかりねえし……」

K「いや、ある!」

苗木「! まさか、まだ手がかりが?!」



[ 最終ノンストップ議論 ]


セレス「このウィッグが【凶器だという証拠】なんてありませんわ! わたくしは潔白です!」

ジェノ「でもさぁ、正直な話【反論出来ない】っしょ?」

江ノ島「もうセレスが犯人でいいじゃん!」

葉隠「【アリバイもない】し、凶器もあるし完璧だべ!」

朝日奈「本当に、セレスちゃんが……?」

山田「セレス殿! 見苦しく言い訳してないで早く自白してくだされ!」

十神「早くこの下らん茶番を終わらせろ。あくびが出そうだ」

苗木「待ってよ。きっと、これが最後だと思うんだ!」


>>898
適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689
わからない場合は【助けて霧切さん】か【教えてKAZUYA先生】だ!

【教えてKAZUYA先生】


K(俺が出るか……ん?)


口を開いて反論しようと思った矢先、KAZUYAは桑田と目が合った。


桑田「待ってくれ、せんせー! もう少し……もう少しだけ俺に時間をくれねえか?」

桑田「俺の手で……不二咲を襲った犯人を突き止めてえんだ!」

K「桑田……」


KAZUYAは桑田の気持ちを察して頷くと、無言で引いた。


桑田(クソッ! あとちょっとだ! もう少しで不二咲を襲ったヤツがわかるのに……)

桑田(やっぱり俺の頭じゃムリなのか? 俺じゃあ不二咲の仇は取れないのか?)

霧切「……桑田君」

桑田「なんだよ……」

霧切「焦らないで。今手元にある証拠をじっくり見比べて」

霧切「――リボンが、あなたを答えに導いてくれるはず」


適切な台詞を適切なコトダマで撃ち抜け! コトダマリスト>>689

安価直下

……ごめん。コトダマ見直してみたらこれかなりの難問だったわ。つーか普通に考えたら
まずわからんイジワル問題でした。ごめんちゃい。元々安価でK出てるし、話進めちゃいます

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【ロープの場所】 ドンッ! ====⇒ 【反論出来ない】BREAK!!


桑田「それはちげえよ! セレスは確かにアリバイもねえし凶器に使えそうな物も持ってる。
    でも犯人じゃねえ。セレスが犯人ならどうしても出来ねえことが一つだけあんだよ」

ジェノ「出来ないこと~?」

桑田「このリボンは真犯人が本物の凶器を隠すためのダミーとして用意したもんだ。ロープの場所が
    わからなかったから、倉庫の入り口にあったエプロンのリボンを切って代用したんだろうよ」

朝日奈「それがどうかしたの?」

大和田「そうか! ハサミとかの文房具類はわかりづれえ場所にあるからな!」

セレス「その通りですわ。わたくしにはそのリボンを切り取ることは出来ません!」

山田「ええっ?! と、いうことは……セレス殿は犯人ではない?!」

セレス「最初からそう言ってるだろうが、この腐れブタ野郎があああああっ!」

桑田「そんで、逆に考えるとそこから一人怪しいヤツが出てくるんだよ」


怪しい奴を指名しろ!

安価下2

(裁縫セットにハサミあるよね……)


桑田(ハサミの場所を知っているのはこの中で五人。そのうちアリバイがないのは三人で、俺は違う)

桑田(石丸は犯人じゃねえ。……そうなると、大神は怪しい。だけど、サラシには
    血がついてなかった。そもそも大神はロープの場所を知ってるんだ。
    石丸だってロープの場所は知ってんだし、普通にロープを使えばいい)

桑田(そうなると、アリバイがなくてリボンを切り取れるのは一人しかいねえ……)


>>915
糸切りバサミじゃリボンをすっぱりとは切れません


もうわかるんじゃないかな?

怪しい奴を指名しろ!安価直下


桑田「なあ、お前さ……そのハサミいつも持ち歩いてんの?」

ジェノ「当たり前! 大事な大事な仕事道具は片時も離さずいつも一緒よん!」

桑田「つーことはさ――お前が犯人だろ」

ジェノ「ハ? だから殺人鬼だからって決めつけんなって……!」

桑田「決めつけじゃねえよ。そのハサミが証拠だ。リボンを切り取るのは
    いつもハサミを持ち歩いてるヤツじゃなきゃ出来ねえ」

ジェノ「そんなの、倉庫にあるハサミで切りゃいいだろうがよ!」

舞園「それはありません。文房具類とロープは非常に近くにあるんです。ハサミの
    場所を知っていたら、そもそもリボンなどではなくロープを用いるはずです」

苗木「ロープやハサミの場所を知ってるのは、この中では石丸君、大和田君、桑田君、
    朝日奈さん、大神さんの五人だけ。その中でアリバイがないのは石丸君と桑田君、
    大神さんだけど、大神さんのサラシには不二咲君の血液は付着してなかったしね」

ジェノ「ふーん、でもさあ……そもそも凶器はどこ行っちゃったワケ? まずそっからだろうよ!」

K「凶器の在りかはさっきお前が自分で喋ったじゃないか」

ジェノ「へ?」

霧切「何故真犯人はリボンを用意したのか……それは本当の凶器を現場に置いていくことが
    出来なかったからではないかしら? かと言って、凶器がなければ石丸君を犯人に
    仕立てあげることは出来ない。だから急いで偽の凶器を用意する必要があった」

ジェノ「焦らすわねぇ……で、なにが真の凶器だっつーの?」

苗木「先生……大和田君や大神さんならサラシを巻いてるけど、腐川さんには何も……」

舞園「制服のリボンは取り外しの出来ないものですし……」

桑田「一体なにで絞めたっつーんだ?」


K「腐川が身につけている長いロープ状の物体で絶対体から切り離せないもの――つまり、髪だ」

江ノ島「ハアア?! 髪なんかで殺したっていうの?!」

山田「キタコレ!! 僕の推理が当たってましたよ! やはり僕には名探偵の才能が……」

セレス「お黙りなさいこのブタ! 何が名探偵ですか、わたくしを犯人呼ばわりしたくせに!」

大和田「腐川……オメエが不二咲を殺そうとした犯人なのか……?」


しかし、犯人呼ばわりをされているにも関わらず、ジェノサイダーは不敵な笑みを崩さなかった。


ジェノ「……甘えよテメエら。じゃあ、こう考えてみたらどうよ。現場にはきよたんが倒れてたでしょ?」

石丸「き、きよたん?!」

ジェノ「倉庫のハサミの場所を知ってるきよたんが、いつもハサミを持ち歩いてるアタシに
     罪を被せようとリボンを用意して襲われた振りをした。これでどうよ!」

大和田「ふざけんな! 十神以外はお前がジェノサイダーなんて知らなかったんだぞ!」

ジェノ「でもなんかの時にアタシがハサミを持ち歩いてることを知ったかもしれないじゃない?」

十神「確かに、石丸は一度倒れた腐川を運んだことがある。その時に気付いてもおかしくないな」

石丸「なっ?! ……そうだ。腐川君を運んだ時、スカートから妙な金属音が聞こえたのは
    覚えている。だが、この僕が気になったからと言って女子のスカートをめくるとでも?!」

苗木「うん、ないよね……」

セレス「桑田君じゃあるまいし、それはないでしょう」

桑田「さりげに俺バカにされてない?!」

ジェノ「しかもさぁ……ちょうど都合良くきよたんの頭に巻いてあるじゃなーい?
     首絞めるのにピーッタリなリボン状の物がさ」

石丸「ほ、包帯……」

葉隠「やっぱり、石丸っちが犯人か!」

山田「ぬあんとぉぉ! 散々違うと否定されてからのまさかの大どんでん返しですかなっ?!」

石丸「ち、ちが……」

朝日奈「え、でも石丸は左利きだからってさっき……」


場が再び荒れだす中、議長としてなるべく口を挟まないように見ていたKAZUYAが初めて前に出た。


K「それは違うぞ!」

ジェノ「ハァ? なにを根拠に言うワケ? 流れとしては完璧でしょ!」

K「流れとしてはな。だが……石丸にはそれが実行出来ない」


KAZUYAはゆっくりと一同を見渡して、問い掛けた。


K「お前達……石丸が、自分で包帯を巻けると思うか?」

「あ」  「あ!」  「そうか!」  「ムリだべ」

ジェノ「は?」

K「お前は授業に出てないから知らないのだろうが、石丸は超高校級と呼んでもいい程の不器用だ。
  練習して手足くらいなら何とか巻けるようにはなったが、自分の頭を綺麗に巻ける訳がない」

ジェノ「じゃあ、首の包帯でもいいけどさ。首なら流石の不器用でも巻けるっしょ?」

K「見ての通り、石丸は動いたせいで傷が開いて包帯に血が付着している。
  それを全くズレないように綺麗に巻き直すのはこの男には無理だ」

ジェノ「ああ、そ…………でもアタシが犯人だっていう証拠はないもんね!!
     たまたまハサミの場所を知ってた他のヤツだって犯行は可能でしょ?!」

朝日奈「それにさ……腐川ちゃんの長いおさげなら、確かに首だって絞められそうだけど……
     腐川ちゃんに出来るかなぁ? 腐川ちゃんって華奢だし、運動とか苦手そうだし」

K「出来るさ。“超高校級の殺人鬼”ジェノサイダー翔ならな」

ジェノ「お? なに? 根暗の方じゃなくてアタシ限定?! 言っとくけどアタシはこの事件が
     起こった時から今までずっと根暗の方の人格だったから。やったとしたら根暗でしょ!」

K「いいや。大体俺は最初から素人のやり口ではないと疑っていたのだ。
  そしてお前の正体が明らかになった時確信した。――お前が真犯人だとな」

ジェノ「聞かせてもらおうじゃなーい? 根暗じゃなくてアタシが真犯人だっていう根拠をさ!
     言っとくけどアタシは男しか殺さないし、殺しにはハサミを使うってマイルールがあるから!」

K「いつもならそうだろう。だが状況が違えば殺しの手法が変わるのは当然だ」


K「まず、俺が最初に妙に思ったのは不二咲の鬱血痕だ。俺は職業柄、縊死死体や絞殺死体を何度か
  見ているがそのどれもが黒々と跡が残っている。それに対し、不二咲の鬱血痕は非常に薄かった」

K「何故だと思う?」

苗木「絞める力が弱かった、とか?」

K「いや、この場合重要なのは時間だな。真犯人は殺しに慣れていた。だから不二咲の
  心肺がショックで停止したのを見抜き、無駄に絞めることなくすぐに手を外したのだ」

ジェノ「ほうほう、それでそれで? まさかそれだけってことはないわよねん?」

K「もう一つ気になったのは石丸の後頭部の傷だ。綺麗に一撃が入っていた」

セレス「もしやそれが根拠ではありませんでしょうね?」

K「お前達テレビやゲームに慣れた世代には実感がないかもしれんが、人を気絶させるというのは
  殺すのよりよっぽど難しい。殺すのはただ力任せに殴ればいいが、気絶はそうはいかん」

K「あんな重くて硬い物で普通に殴れば人は死ぬ。かと言って手加減が過ぎれば一撃では
  倒せず何度も殴る羽目になる。その点、石丸の傷は綺麗に一撃で決まっていた」

ジェノ「ハア、そんだけ?! で、肝心の証拠は?!」


しかし気にせずにKAZUYAは続ける。


K「通り魔的に不二咲だけ襲って立ち去っていれば解決の仕様がなかったものを、罪を
  被せようと石丸を襲ってしまったのがお前の運の尽きだったな。ジェノサイダー翔よ」

ジェノ「だから証拠証拠証拠ぉ! 証拠出せっつってんだよぉ!」

K「今の言葉でわからなかったか?」

ジェノ「……は?」

K「その前に、念のため確認しておこう。お前、腐川と記憶を共有していないな?」

苗木「え? そうなの?!」

舞園「そう言えば、不二咲君が本当は男性であることを知りませんでしたね」

大神「石丸の左利きの件も知らないようだったな」


ジェノ「ピンポーン。正解。アタシとあの根暗は記憶を共有していませーん。でもそれがなにか?」

K「お前、腐川から教わったか誰かに聞いたか知らんが、学級裁判については予め知っていたのだろう。
  だから即座に今が学級裁判中であること、不二咲殺しの犯人に自分が疑われていることに気付いた」

ジェノ「そんなことより証拠見せろってのぉ!!」

K「お前、何故現場に石丸がいてしかも倒れていたことを知っていたんだ?
  先程入れ替わるまで捜査中も裁判中もずっと腐川の人格だったのだろう?」

ジェノ「?! ……あ、ゴメーン。捜査中に一回入れ替わってたの忘れてたわ!
     たまたま誰かが話してるのが耳に入ってさぁ……誰だったかは覚えてないけど」

「……!!」

ジェノ「……………………あら、ら?」


流石のジェノサイダーも、周囲の雰囲気が一変したことに気が付き表情を変えた。


霧切「どうやら墓穴を掘ったようね、ジェノサイダーさん?」

十神「間抜けが」


あまりに呆気ない幕引きに、心底不満だと言う表情で十神はジェノサイダーを蔑む。


十神「石丸が気絶していたと明らかになったのは裁判中だ。何故貴様はその事実を知っている?」

ジェノ「あ、やっべ……」

苗木「もしあれが君の演技だったって言うなら、今日の裁判の流れを最初から言ってくれないかな」

ジェノ「…………」


もはや反論はなかった。

今までハサミによる刺殺(?)しかして来なかったジェノは、他の殺し方とかには疎いんじゃ

あと、髪の毛で首絞めてあんな綺麗な跡になるんかな
跡とか関係なく絞めるだけなら服とかでもいけるし、さくらちゃんはサラシだけじゃなく赤いリボンも付けてるよね


K「さて、では最後に――この事件の概要を整理して終りにするとしよう」



               ― クライマックス推理 ―


桑田「まず俺が部屋までバットを取りに行って、その帰りに葉隠とちょっと話し込んじまった」

舞園「その間に何らかの用事で不二咲君は石丸君の部屋を出て、腐川さんと出会ったんです」

苗木「でも、その腐川さんは実はジェノサイダー翔だったんだ! そしてジェノサイダーの
    思惑に気付かなかった不二咲君は1-A教室に連れて行かれ、髪で首を締められた」

石丸「その頃だろうか……僕は目を覚まし、部屋に誰もいなかったことで不安を覚え、
    朦朧とした意識の中、不二咲君を探しに一人部屋を出てフラフラと歩いていた」

大和田「そこで運悪くジェノサイダーに会っちまったんだな……。で、ジェノサイダーは兄弟を
     犯人に仕立てようと考えて、廊下にあった消火器で兄弟を殴って気絶させたワケだ」

霧切「これは私の推測だけど、この時何らかの拍子で腐川さんに人格が戻ってしまったのでは
    ないかしら? あなたは石丸君の包帯を見てそれを凶器と主張しようと考えたみたいだけど、
    腐川さんは授業で石丸君の不器用ぶりを知っていたから、それは無理だとわかっていた」

K「凶器がなければ石丸を犯人に仕立てられない。故に、腐川は倉庫に凶器となるものを探しに
  行った。だが、ロープは分かりにくい場所にありすぐには見つからず、焦った腐川は入口に
  あったエプロンのリボンをハサミで切り取って、それを凶器の代用とすることにした」

桑田「……でも、偽の凶器を持って腐川が急いで戻った時には、犯行を知ってた十神の野郎が
    延長コードで事件を偽装した後だったワケだ。腐川のヤツ、マジで焦っただろうな」

苗木「それで、仕方ないから腐川さんは倉庫に戻ってリボンを隠したんだ。でも、何の用事もないのに
    図書室を離れたら不自然だから、十神くんに紅茶を持っていくという建前で食堂に寄った」

K「そして、放送が鳴ってから何食わぬ顔で合流したのだろう」


K「――これが事件の真相だ!」


ジェノ「お見事な推理で……」

K「そもそもこの裁判自体時間稼ぎというか、無意味なものだがな。お前は裁判の途中から
  参加したから知らんのだろうが、実は不二咲は蘇生して生きている。そろそろ目覚める頃だ」

ジェノ「…………ハ? エッ?!」


桑田「あれ、でも不二咲は昏睡状態でいつ目を覚ますかわからないって……」

K「あれは嘘だ。不二咲が目を覚ますとわかれば犯人が狙ってくる可能性があったし、何より
  犯罪に手慣れている犯人だ。ヤケを起こして他の生徒に襲い掛からないか心配だった」


そしてKAZUYAはしたり顔で言い放つ。


K「敵を騙すなら味方から、だ」シレッ

桑田「ちょ、マジかよー!」

苗木「良かった……」

大和田「助かるのか……不二咲は助かるんだな?!」

石丸「不二咲君……」


KAZUYAは頷き、ジェノサイダーに向き直った。


K「……で、どうする? なんなら俺が不二咲の所に行って直接犯人の名前を聞いてきてもいいが?」

ジェノ「ア、アハハ……まさかこのアタシが殺しをしくじるとはね……
     やっぱり慣れない殺り方なんてするもんじゃないわ……」

ジェノ「ハイ、ピンポンピンポ~ン! 正解です! アタシがちーたんを殺っちゃいました!」

山田「ひぃっ!」

桑田「うおおおっ」


ジェノサイダーの側から人が離れ、恐怖と緊張混じりの視線で遠巻きに眺める。
十神だけは全く気にせず、ただひたすらつまらなそうにしていた。


十神「フン。殺人鬼のお喋りに救われたな、ドクターK?」

K「いや、仮にそいつが口を滑らせなくても決め手はあった」

江ノ島「え? でも物的証拠がなにもないじゃん」


K「今回の事件で最も問題だったのは凶器が行方不明だったことだ。そのせいで議論が無駄に
  煩雑化したと言っても過言ではない。だが逆に凶器さえわかればさほど難しくはなかった」


要はお前のせいで議論が紛糾したのだ、とKAZUYAは暗に言って十神を睨んだ。


K「凶器が見つからなければ捕まらないという発想は悪くなかったが、凶器を持ち歩くのは
  両刃の刃だったな。凶器がわかればその瞬間に自分が犯人だと確定してしまう」

苗木「でも、白い布なら不二咲君の血でわかるけど髪の毛じゃあわからないんじゃ……」

霧切「カルテをよく読み直してご覧なさい」

桑田「えーと? ……わかんねえ」

K「不二咲の右手の爪には視認出来る程はっきりと皮膚の細胞がついていた。
  凶器が編み込んだ髪なら……当然内部にも入り込んでいるだろうな」

「!!」

K「物理準備室に顕微鏡が置いてあった。俺ならどんなに小さい細胞片でも見つけ出せる自信がある」

ジェノ「ちぇー、他のメンバーだけならアタシの勝ちだったのにねぇ。
     センセを敵に回した時点でアタシの負けだったってことかー」

ジェノ「……でもさぁ、一個だけ不思議なんだよねー。アタシ結構しっかり締めてたはずなのに
     なんで助かっちゃったワケ? センセがスーパードクターだからってだけじゃないっしょ?」

K「種明かしをしよう。そもそも、首を締めて殺すのはお前達が思っているよりずっと時間がかかる。
  これについては首を締めて殺害するには二通りの方法があることからまず説明せねばなるまい」

霧切「縊死(いし)と絞殺ね。縊死は首吊り、絞殺は普通に首を絞めて殺すこと」

K「そうだ。手っ取り早く殺すには脳に酸素を送る椎骨動脈(ついこつどうみゃく)を圧迫すればいい。
  脳に酸素が届かなければ人は簡単に生体活動を停止する。しかし、ここから先は解剖学の話になるが、
  椎骨動脈は椎骨の中を通っているため通常の圧迫では閉塞することが出来ないのだ」


椎骨動脈:頚部(けいぶ:首)にある脳に酸素や栄養を運ぶ動脈の一つ。脳の中でも
      主に生命維持を担っている部分に直結しているため、非常に重要な血管である。

椎骨(ついこつ):頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎5個、尾椎4個の計五種類33個からなる、
            人の胴体の中心部を支える骨群のことである。

頚骨(けいこつ):首の椎骨。上から見ると中央に一つ、両脇に一つづつの計三つの孔(あな)が
           開いており、中央に脊髄、両脇の孔には椎骨動脈が通っている。


K「縊死では動脈が頭蓋骨に入る無防備な部分を圧迫し閉塞するため、一瞬で意識が落ち脳の
  活動停止により短時間で殺せるが、絞殺では気道を圧迫する通常の窒息死となり、心臓が
  動いている以上脳に血が回るため、体内の酸素がなくなる数分間締め続けなければならない」

K「お前達はドリンカーとカーラーの救命曲線というものを知っているか?」


ドリンカーの救命曲線:呼吸停止してから何分以内に蘇生処置を施せば助かるかのグラフ。
              四分を超えると急速に生存率が下がることで知られる。

カーラーの救命曲線:心臓停止、呼吸停止、大量出血の経過時間と死亡率の目安をグラフ化したもの。
             わかりやすいので救命講習などで目にすることが多い。 


石丸「ドリンカーの救命曲線では、呼吸停止してから三分以内に蘇生処置を施せば生存率は75%。
    四分で50%となる。カーラーの救命曲線では呼吸停止以外も扱い、心停止後三分、
    呼吸停止後十分、多量出血後三十分で生存率は50%となります」

K「その通り。よく勉強出来てるな。そこから導き出せる解は一つ」

K「――本来なら不二咲は助かるはずがなかったということだ」


気絶させた石丸を運んだり偽の凶器の準備をしていた時間を考えると、犯行時刻は一時二十分頃か
その少し前となる。KAZUYA達が発見し救命処置を施した時には、既に手遅れのはずだ。


大和田「じゃ、じゃあなんで助かったんだよ?!」

K「あくまで俺の推測だが、ジェノサイダー翔が不二咲を死んだと判断した時……正確には
  不二咲はまだ死んでおらず、一時的に呼吸と心拍が止まっただけの仮死状態だったのだ」

K「首を絞められてはいたが、心拍が止まる直前まで脳に血液が循環されていたため、
  脳に対するダメージが最小で済んだ。だから、縄を解かれ放置された直後……
  一時的にだが、不二咲は微弱な呼吸や心拍を取り戻していたのだろう」

大神「なんと! その時点ではまだ生きていたというのか!」

ジェノ「うっそーん! マジでー?!」

K「最も、負荷が大きすぎて完全な自発呼吸を取り戻すには至らず、また止まってしまった訳だが」

石丸「成程……直前まで生きていたから、犯行から時間が経っていたのに関わらず蘇生出来たのですね」

K「殺しに慣れていた奴だったからこそ、必要以上に締めることがなく助かった。逆に言えば、
  素人だったら無駄に長時間首を絞め続けて脳が完全に壊死し、助からなかったことだろう……」


皮肉なことにな、と最後に付け足す。場が静まり返った。



ちなみに、当初KAZUYAは同じ理由で江ノ島と大神を疑っていた。


K(だが、江ノ島と大神では一つだけ不可解な点があった。それは、石丸の手首や肩の痛みだ)


石丸の体には手首を掴んで乱暴に引きずった痕跡が見受けられた。


K(女性にしては大柄でガッチリした体型且つ工作員の江ノ島が、自分より大きい人間を運ぶ
  訓練を積んでいない筈がない。石丸程度なら軽々と運べるはずだ。大神は言わずもがな)


また、この時点で石丸より大きい十神と葉隠も犯人ではなくなる。十神なら、石丸のことが
嫌いだから引きずって運ぶのでは……とも考えたが、如何に嫌いな相手だろうと引きずるよりは
背負って運んだ方が効率がいいはずだ。十神はあんな性格だが感情に流される男ではない。


K(犯人は女で、江ノ島と大神ではない。そうなるともはや安広か腐川の二択だ)


怪しいのはセレスだと思った。内通者疑惑が濃厚であり、前々から不審な点も多かった。


K(……ただ、俺はもう一つどうしてもおかしな点に気付いてしまった)


KAZUYAは以前授業で負傷して動けない人間の救護を教えた。その時に、人間の運び方も教えたのだ。
両脇の下から両腕を差し入れて運ぶ方法……何故石丸を運ぶ時にこれを使わなかった?

この運び方を使った方が絶対効率的だし、もし手首を乱暴に引っ張って脱臼でもさせれば、
それが根拠となって冤罪が証明されてしまう可能性だってあったのに。


K(安広は頭が回る。こんな簡単なことに気が付かないとは思えなかった。かと言って、
  同じ理由で腐川でもない。この場に俺の授業を受けていない人間などいない……)


だから、『16人目』の存在が明るみになった時にKAZUYAは確信した。コイツが真犯人だと――

犯人は腐川だろうけど、髪だと縄の跡みたいなのが残るけどない→薄い布っぽい→爪とか調べて「白い」リボンがフェイク、「赤い」スカーフが凶器(中央あたり引っ掻いても巻けば見えない)…けどちーちゃんの爪の中調べなかったしあれ?って感じだった。
ジェノは微塵も疑ってなかった。

(´-`).。oO(エプロンだけで朝比奈が犯人だと思ってたなんて言えない)

裁判前:絶対腐川だコレ→裁判中:あれ、違う…?→結果:ジェノサイダーでしたー!で見事に騙された…
しかしジェノの犯行でオシオキ受けるハメになりそうな腐川マジとばっちりで泣ける。「死なない程度のオシオキ」で死ぬより悲惨な目に合わされないように祈ってます。

K「――これが事件の真相だ!(バーン)」
http://i.imgur.com/e9Z7u4x.png

>>928>>948
鬱血痕については、元々薄かったのが時間経過で更に薄くなって幅と位置くらいしかわからなくなったって
脳内補正して下さい。服については、生徒の服装を見てきたのですが割りと固めのジャケットを着ている子が
多いので、細い鬱血痕に合わせると袖を引き絞らないとならず、片方だけシワだらけだとバレるんじゃないかな
セーラー服なら生地が柔らかいけど、流石に突然脱ぎだしたらちーたんに気付かれるだろうし

>>651
志村ー! アリバイー!

>>653
うおおおおおおおおおおお! 神速で保存した。ありがとうございますありがとうございます!
ネット広しといえどもKAZUYAの二次絵なんてガチで数えるほどしかないからマジで嬉しい
(というかTETSUの方が多いってどういうこと…)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さて、投下の準備は出来ているのですがそろそろレスも少なくなってきたので
先に次スレのスレタイを決めます。

①セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が視えねえ…」山田「カルテ.4ですぞ!」
②セレス「正念場ですわね」山田「僕達とドクターKの命運は如何に!」葉隠「カルテ.4だべ」
③葉隠「未来が視えねえ…」セレス「後がないですわね、ドクターK?」山田「死のカルテ.4」


1的には1かなーと思ってるけど、このスレタイだと誰かさんが必ず事件起こしそうなのがなんともw
もし他にいいスレタイ案あったらそれ書き込んでもおk。夜にまた来るので、投票お願いします

セレス「…All or Nothing」葉隠「ドクターKが勝つと出たべ!」山田「カルテ.4ですな」

みたいなギャンブル用語?とか

とりあえず次スレ立てときました。万が一スレ埋まったらこっちによろしくです


セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403356340/)


ちょっと変えちゃった。テンプレ途中までしか落としてないけど、
一部今回のネタバレがあるので、今回の投下をしたら続きを落とします


>>963
ごめんなさい。かっこいいなと思ったのですが先に6票も集まっちゃったので
既存の方で行かせてもらいました。次回はもう少し早くスレ立てする予定なので、
是非次回も良い案があったらよろしくお願いします!

あと盛大に安価間違えてた……>>956の安価は>>951>>953ですね

それでは恐らく今スレのラスト投下です


K「動機は……聞かずともわかるか。あの秘密だな」

セレス「当然ですわ。まさか人気作家の正体が連続殺人犯だなんて……事実は小説より奇なりですわね」

ジェノ「は、秘密? なんのこと?」

苗木「え……腐川さ、いや君が不二咲君を襲った理由だよ。秘密をバラされたくないからじゃないの?」

ジェノ「え、知らんけど。つか、違うし」

大和田「はああ?! じゃあ一体なんで不二咲を襲ったんだ! お前男しか殺さないんだろ?」

ジェノ「まあ、強いて言えば……これがゲームだから?」

石丸「何だと?!」

舞園「そんな……」

K「…………」


あまりにも軽すぎるジェノサイダーの口ぶりに、生徒達は言葉を失った。


ジェノ「まずさあ、あの根暗。根暗に相応しく日記とか書いてて、それで今がどんな状況かは
     アタシもまあまあわかってたのよねぇ。ただ、三日前からその日記がおかしかったのよ」

K「どのようにだ?」

ジェノ「なんか、どうしよう……とかこれで終わりだ、とか。根暗らしくウジウジ悩んでたってワケ。
     どうせなら詳しく書けばいいのにさ! まあ、動機がどうのって書いてあったから
     またなんかあったんだなー程度に思ってたのよ」

ジェノ「で事件の前、図書室でいつもみたいに白夜様と戯れてたらこーんなこと言われたのよね」

十神『うるさいぞ! 本に集中出来ん』

ジェノ『またまたぁ。そんなこと言って白夜様ったらツンデレなんだからん』

十神『……フン、まあいい。どうせ貴様がのうのうとしていられるのも今日までだからな』

ジェノ『ん? どゆこと?』


十神『腐川に聞いていないのか? 今日中に事件が起こらなければ腐川の身は間違いなく破滅。
    一心同体の貴様も一緒に破滅という訳だ。実に愉快だな。わかったら大人しくしていろ』

ジェノ『……ふーん』

十神『全く、早く誰か事件を起こさないものか。こっちは退屈で仕方がないというのに』

ジェノ『…………』

ジェノ「というワケで、ほっておくとなんかアタシピンチらしいし白夜様は退屈がってるし、
     じゃあここいらでアタシが一肌脱ぎますかーって思ってターゲットを探してたら
     たまたま一人でブラついてるちーたん発見! こりゃ殺るしかない!ってなったワケよ」

石丸「そ、そんな軽い理由で……そんな理由で不二咲君を殺そうとしたのか?!」

K「落ち着け、石丸!」


いまだ精神が乱れている石丸を心配してKAZUYAは駆け寄り羽交い締めにする。


石丸「不二咲君は……いや、人の命は! とても重い、尊いものなんだ!
    そんな勝手な理由で奪って良いものではないのだぞ!!」

ジェノ「はいはい。まーたお説教ね。でもさぁ、きよたん……聞いた話なんだけど、もんちゃんだって
     あんなに仲良かったちーたん殺そうとしたんでしょ? あんたの顔の傷もそれが原因だとか」

石丸「う……そ、それは……」

ジェノ「殺人鬼に命の尊さ説くとか無駄なことしてるヒマがあんなら、そもそも
     こんなこと仕組んだそこのぬいぐるみなんとかすべきなんじゃあないの?」

石丸「それとこれとは別問題だろうッ!」

K「落ち着け! 確かにジェノサイダーの言葉にも一理ある」

ジェノ「さっすがセンセは理解が早くて助かるぅ。あ、そうそう。面白いこと教えて
     あげよっか。実はねぇ、最初はアタシあんたのことも殺そうと思ったのよ?」

石丸「なっ?!」

大和田「なんだとテメエ! どういうことだっ?!」


ジェノ「いやぁ、最初はね? ちーたん殺して逃走して、凶器も見つからないだろうし事件は
     迷宮入りヒャッハー!って思ってたのよ。ところが、なんか焦点の合わない目でふらふら
     歩いてるきよたんと遭遇しちゃったワケ。でさぁ、意外よね。意外も意外!」

ジェノ「いつもウザいくらい熱苦しいきよたんがなんか憂い顔して弱々~しくふらふら歩いてる姿見て、
     アタシちょっと萌えちゃったのよ! もーうビックリ! これがギャップ萌えってヤツ?!」

「…………」


これには予想外過ぎて流石のKAZUYAも茫然とした。そんな理由で危うく殺される所だったとは……


ジェノ「なんかこっちのこと見えてないというか全然気付いてないっぽいし、後ろに
     回り込んで胸元にこうハサミを突き立ててやりたい衝動に駆られたんだけど……」


実際にハサミを持ってその動きを再現すると、周囲の人間は声も発せず息を呑む。


ジェノ「その時、きよたんの頭の包帯が目に入って名案が受かんじゃったのよ! そうだ!
     きよたんを犯人に仕立てればいいじゃなーいって。凶器になるもの持ってるし」

ジェノ「で! 殺したい願望必死に抑えて抑えて近くにあった消火器掴んでそぉい!って。あとは
     センセ達の推測通り、きよたん運んだ所でうっかりくしゃみして根暗と交代ってワケ」

K「くしゃみ?」

十神「……不気味なことにな、腐川はくしゃみをすると人格が入れ替わるんだよ」

K「そうか……」

山田「と、言いますか……そんな理由で殺すならここにいる男子全員殺害対象になるのでは?!」

ジェノ「イエース! あ、でもヒフミンは対象外だから安心して。でも他のヤツらは
     結構いい感じ。普段威勢のいい男が怖がって怯える顔ってなんか萌えるわぁ……!」

ジェノ「こう……グッと来る!」ギラッ!


長い舌をチラチラさせながら、なめ回すように順に顔を見ていくその姿に一同は戦慄する。


葉隠「キ、キチガイだべ……」

桑田「ヒッ!」

K「怯えるな! 俺にはその萌え、るだか萌えないとかいう言葉の意味はよくわからんが、
  要はいつもは対象外なのだろう? なら普段通りにしていれば問題ない」

桑田「んなこと言ってもよぉ……相手はマジモンの殺人鬼だぜ……?」

苗木「桑田君、しっかり!」

ジェノ「え?! なになに?! まーくんがレオちゃん庇った? まさかのまーくん攻め?!
     まーくん×レオちゃんとか予想外過ぎて……いい! 案外イケる! 萌えるわぁ!」

桑田「は、はぁ?」

朝日奈「え、なに? どういうこと? 誰か説明して!」

セレス「山田君! こういうのはあなたの得意分野でしょう? 対処法を教えなさいな」

山田「えっとですねぇ、BLは僕の専門ではないのですが……ただジェノサイダー翔殿は生粋の
    腐女子だそうで。腐女子を甘く見てはいけません! 彼等は親の仇である因縁同士の
    宿敵すら勝手にカップリングして萌える生き物。その究極が鉛筆と消しゴムですが」

霧切「……もっとわかりやすく説明してくれないかしら」

山田「つまり外見がアウトでない限り、シチュエーションによってはどんなキャラでも
    萌えることが可能! 対処法は――彼等の視界に入らないこと、です」

「…………」


全員がなんとも言えない表情で同時に俯いた。


ジェノ「ああ、いい! いいわぁ! 男の情けない顔って大好物なのよね! 濡れてきちゃうっ!」

K「いい加減にしろ、ジェノサイダー! お前が他の生徒に危害を加えるなら俺が容赦しないぞ!」

大神「如何に殺しに慣れている手練れだろうと、西城殿と我二人を同時に相手は出来まい!」

ジェノ「チィ! せっかく最高にハイって気分になってたのによぉ!」


霧切「それより一つ聞かせて欲しいのだけれど」

ジェノ「なぁにぃ? まあ今は機嫌がいいから、なんでも答えてあげるわよん」

霧切「学級裁判について知っているということは、当然オシオキについても知っているのよね?
    なのに何故殺そうと思ったの? それもいつもと違うやり方までして」

ジェノ「ゲラゲラゲラ、そんなことぉ? 決まってるじゃない!」


ジャキィィィン!


ジェノ「アタシにとって殺人はこだわるべき芸術でもあるけど、それ以上に趣味なの! 楽しいから
     殺るワケ! 白夜様が退屈しててアタシもピンチ! ならどちらが勝つかゲームしようってね!」

石丸「し、しかし……それでは君か十神君のどちらかは必ず死んでしまうではないか!」

ジェノ「生きるとか死ぬとか殺人鬼にとっちゃどうでもいいんだよぉッ! 白夜様の退屈しのぎに
     なって死ぬのもヨシ! 白夜様がここで負けるような雑魚なら外行って別の男探すだけ!」

大和田「イカれてやがる……」

一同「…………」

十神「もういいだろう。こいつの耳障りな言葉は聞き飽きた。さっさと投票にしろ」

モノクマ「やーっと僕の出番が来たよ! ジェノサイダーさんの腐ったエグイ下ネタで尺が
      潰れたらどうしようかと思った。まあそれも楽しいからいいけど。あ、僕は鬼畜攻めね」

江ノ島「あんたの性癖なんてどうでもいいから!」

モノクマ「では、議論の結論も出たようですし、いよいよ投票タイムと行きましょうか!
      オマエラ、お手元のスイッチで投票してください」


言われて席についていた液晶パネルを見ると、そこには16人分の名前が映し出されていた。


K(腐川とジェノサイダーは二人分か。もし、腐川が多重人格者だと明らかになっていなかったら……)


恐ろしい想像が浮かぶが、考えないようにした。今はただやるべきことだけやっていればいい。


モノクマ「あ、念の為に言っておくけど必ず誰かに投票するようにしてくださいね!
      こんなつまらないことで、罰を受けたくないでしょ?」

苗木「わかってるさ……」


生徒達は言われるままタッチパネルのボタンを押していく。


モノクマ「……はいっ! では張り切って参りますよ!」

モノクマ「投票の結果、クロとなるのは誰か?! その答えは、正解なのか不正解なのか――?!」

モノクマ「さあ、どうなんでしょーーー?!」


裁判場の壁にかかっている大型パネルと席のパネル、両方にスロットマシーンの映像が
映し出された。スロットの絵柄はKAZUYAや生徒達の顔写真だ。そして、徐々に絵柄が揃う。




                VOTE


  【ジェノサイダー翔】【ジェノサイダー翔】【ジェノサイダー翔】


                 GUILTY


見事絵柄は三枚揃い、ファンファーレの音と共に画面の中でメダルがジャラジャラと溢れた。


モノクマ「大正解ッ! 今回、不二咲千尋君を襲ったクロは――ジェノサイダー翔さんでした!」

モノクマ「……まあ、正直意外性はないよね。ただ殺人鬼が殺人しようとしただけだし。
      ボクとしてはもっとこう、私利私欲や秘密のために仲間を裏切って……とか
      そういう絶望的にドラマティックなのを期待してたんだけど」

モノクマ「まあ、緊張感を煽るって意味ではなかなか良かったかな? 他にも、内通者とか色々
      ワケありメンバーはたくさんいる訳だし、油断したらいつ誰に殺されるかわからないね!」

K「…………チッ」


わかりやすいモノクマの煽りに生徒達は不安げな顔をする。KAZUYAは珍しく不快な顔で舌打ちをした。


モノクマ「……てな訳で、学級裁判の結果、オマエラは見事クロを突き止めましたので
      クロであるジェノサイダー翔さんのオシオキを行いまーす」

モノクマ「うぷぷ。それじゃ、さっさとオシオキを始めちゃおーか。みんな、待ってるんだしさ!」

ジェノ「あ、これアタシ処刑される感じ?」

K「モノクマ、俺との約束は覚えているだろうな!」

モノクマ「わかってるよ。ちゃんとぎりぎり死なないレベルに調整するの大変だったんだからね!」


「今回は――」

「超高校級の殺人鬼であるジェノサイダー翔さんのために」

「スペシャルな」

「オシオキを」

「用意させて頂きました!」

「では張り切っていきましょう! オシオキターイム!」


いつの間にか持っていたハンマーで、モノクマはオシオキスイッチを押す。

スイッチの下の部分についていた液晶画面と、裁判席のパネルに一昔前のゲームのような
ドット絵が映り、モノクマを模したドットキャラがジェノサイダー翔のキャラを引きずっていく。


               GAMEOVER

       ジェノサイダーショウさんがクロにきまりました。
              おしおきをかいしします。


ジェノ「ハッ! 言っておくけど、腐ってもアタシは殺人鬼! ただでやられるワケ……」


ハサミを構えるジェノサイダーに、どこからか飛んできた首輪が繋がれ奥へ奥へと引きずって行く。
そのまま妙なデザインの椅子に張り付けられ、全身を拘束された。





        ― 初めてのチュウ ~ジェノサイダー翔ver.~ ―


椅子に拘束されたジェノサイダーの前に十神が現れる。ジェノサイダーは大喜びだが、
振り返った十神の顔はモノクマだった。そう、マネキンだったのだ。

ガッカリする間もなく、ジェノサイダーの頭に大きなハートが上に載った
ヘルメット状の物が落ちてきた。たくさんコードが繋がれている。


―好きな人と初めてキスをする時って、とってもドキドキして全身に電流が流れるみたいだよね!


背中に羽を生やしキューピッドの格好をしたモノクマがやたら大きなレバーを引くと、
ジェノサイダーの全身に高圧電流が流れ始めた。モノクマは楽しげにダンスを踊りながら、
先端がハートの形になっている矢を何本も十神のマネキンに打ち込んで行く。

―やったね! これで両思いになれるよ。……手遅れかもしれないけどね!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


辺りにジェノサイダーの絶叫が響き渡る。KAZUYAと生徒達は
その地獄絵図のような光景をフェンス越しに眺めさせられていた。


K「おい! もうやめろ! これ以上やったら死ぬぞ! 約束が違う!!」

モノクマ「はいはい。わかりましたよ~」


嫌そうな顔をしながらもモノクマはレバーを戻した。まだパチパチと放電している。
フェンスが開かれ、すぐさまKAZUYA達がジェノサイダーに駆け寄った。


K(殺人犯に電気椅子か……くだらん。笑えないジョークだ!)

K「腐川! 腐川! しっかりしろ!!」

ジェノ「だから……アタシの名前は、ジェノサイダー翔だっての……」

K「大丈夫か?!」


ジェノサイダーの体からなんだか焦げくさい臭いがする。制服が一部焼けていた。


ジェノ「まあ……なんとかね……今後、殺人鬼としての身の振り方を
     考え直す程度にゃ堪えたわ……いや、やめないけど、さ……?」

K「減らず口を叩ける程度なら問題ないな。傷口を見せてくれ」

ジェノ「無駄だね。低温でジックリ焼かれたからさぁ……中が焦げてんのよ。
     中は流石のセンセでも……どうしよう、もないっしょ?」

K「……そうだな。だが、恐らく部分的に火傷をしているはずだ。後で軟膏を渡そう」

ジェノ「アイツに渡しといてよ……アタシちょっと疲れちゃったからさ……
     このまま休むわ……じゃあ、おやすみ……」


そう言うとジェノサイダーは目を閉じた。


モノクマ「エクストリーム! アドレナリンが染み渡るー!」

モノクマ「これだよ、これ! 僕が待っていたのはさ!
      疑惑に裏切り、殺人、オシオキ! 最高に興奮するでしょ?」

葉隠「ひ、ひぃぃぃ!」

舞園「……酷いですね」


生徒達はモノクマから離れてKAZUYAの後ろに回る。


桑田「ま、まさか俺がクロになってたら……俺もあんな風に……?」

モノクマ「君のオシオキはもっと凝ってるよ。その名も千本ノック! 全身の至る所に高速の球を
      ぶつけるのさ。勿論、すぐに死んじゃったらつまらないから軟球でジワジワと、ね!」

桑田「……!!」

モノクマ「色んな意味で二度と野球が出来なくなってただろうね~! あー残念」

桑田「っあ、ああああ……!」

大和田「ま、まさか俺のオシオキも……」

モノクマ「聞きたいかい? 大和田君のオシオキはね、猛多亜最苦婁弟酢華恵慈
     (モーターサイクルデスケージ)って言って……」

大和田「い、いや言わなくていい!」

モノクマ「……まあ、それが賢明かもね。君ってホントはすっごく弱虫だから、聞いたら二度と
      バイクに乗れなくなっちゃうだろうし。あ、でもここにいたら同じか。うぷぷ!」

舞園「…………」

モノクマ「今回のは突貫で慌てて作ったけどさ、その割にはなかなかじゃない?
      寸止めなのが唯一残念な所かな? ま、またすぐ機会は来そうだけどね」

K「次の機会などない! 俺が防いで見せる!」

モノクマ「どうかな~? 今回みたいに裏切られるのが関の山じゃないの~?」

モノクマ「うぷぷぷぷ、ぶひゃひゃひゃ、アーハッハッハッハッハッ!!」


やり切れない思いを抱きながらも、KAZUYAは生徒達を振り返る。


K「……もうここに用はない。戻ろう」

十神「――待て」

「?」


その場を後にしようとしていた全員が振り返った。


十神「俺達にはまだやらなければならないことが残っているだろう?」


K「やらなければならないことだと? 裁判は終わったのだから、もうやることなどないだろう?」

桑田「なんだよ? 早くこんな所から帰りたいっつーのによ」

十神「全く、お気楽な奴ばかりだな」


その男はいつものように鼻で笑う。しかし、ある一点を猛禽類のような鋭い目で見つめていた。


十神「犯人でもないのに自分を犯人だと誤認して裁判を無駄に引っ掻き回し、
    議場を大混乱に陥れた人間に対する責任追及がまだだろう?」

石丸「!!」

K「何……?!」

大和田「…………ハ?」

桑田「ハアアア?! なに言ってんのお前?!」

苗木「今回一番引っ掻き回したのは十神君じゃないか!」


いつもは中立寄りな発言を心がけている苗木でさえ、我が耳を疑い思わず反論した。
そのくらい十神の発言は想定外であり突拍子もなくにわかには信じがたいものだった。


十神「お前達は馬鹿か? 俺はお前達にとって敵に当たるだろう? 戦争中に敵国がした
    侵略行為に対して、我が国ではそれは違法行為だ!などと貴様等はのたまうのか?」

十神「その点、そいつがやったことは言わば味方に対する背信行為だ。愚民なりに賢く俺の意見を
    聞こうとしたから良かったものの、もし俺を無視し推理も誤っていたらどうなった?」

山田「は、犯人以外全員オシオキ……」

十神「しかも、聞く所によるとオシオキの内容は一人一人違うらしいな。……もし手足が
    欠損するような甚大な被害を受け、しかも手当すべき医者までも負傷していたら?」

十神「すぐに死ぬことはなくてもいずれ死ぬ。――下手したらそこで全滅だ」

「…………」


意識しなくても、ゴクリと喉が鳴る。


大和田「ふざけんな! 兄弟はなにも俺達を陥れようとしたワケじゃねえだろ!」

十神「この場合悪意の有無は問題にならん。そのような事態を引き起こしたことが問題なのだ」

K「石丸は薬のせいで意識が朦朧としていたのだ! 仕方ないだろう!」

十神「しかし犯行時の記憶がないのなら、犯行を否定すればいいだけの話だ。記憶もないのに
    勝手に泥を被って事態を最悪の方向に持っていきかけた、言わば戦犯だろう」


石丸「あああああ……許してくれ……すまない……許してくれ……!」

十神「貴様はいつもそうだった。自分の思い込みで突っ走り自分のルールを相手に押し付け……
    それで何が成し遂げられた? 結果的にいつも足手まといになっているだけではないか!」

K「十神! それ以上は!」

十神「この機会にハッキリ言ってやる。石丸――貴様にリーダーの資格などない!!」


石丸は見回した。恐らく、現実の時間にしたら二秒にも満たない僅かな時間だろう。
だが、石丸にとってはその二秒がまるで数十秒のように感じられた。声は非常にゆっくりとなり、
何と言っているか上手く聞き取れない。耳が頼りにならないので、必然的に視覚情報が
全てとなる。生徒達は実に様々な表情をしていた。

十神の告げた言葉に対する恐怖、困惑、怒り、憎しみ。

その負の感情が、自分の外で飛び交う罵声が、今の石丸には全て自分に向けられているように感じた。


石丸「すまない。申し訳ない。ごめんなさい。許してくれ……許してください!」

K「い、石丸……?!」

大和田「兄弟?!」

苗木「石丸君?」

桑田「石丸!」

石丸「嗚呼、許してッ! 許してくれぇぇぇッ!!」

舞園「し、しっかりしてください!」

霧切「石丸君、落ち着いて!」

朝日奈「なに? どうしたの……?!」

大神「いかん、様子がおかしい……!」

江ノ島(あぁ……これはもうダメだな)

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

K「石丸! 待て!」

大和田「どこ行くんだ、兄弟?!」


走り去る石丸を一同は慌てて追い掛けるが、一足遅くエレベーターの扉が閉まってしまった。


大和田「クソがっ! 早く来い!」

苗木「大丈夫かな……」

桑田「なんか、ヤバくなかったか……?」

舞園「……最悪の事態になっていないといいのですが」


舞園は先程の石丸の様子にかつての自分の姿を重ね、焦燥を感じていた。あれはまずい。
今までとは訳が違う。一刻も早く捕まえなければ……手遅れになるだろう。


葉隠「だ、大丈夫だって! ……多分」

江ノ島「十神の言ってることが正論過ぎて、穴に入りたくなったんじゃない?
     少しほっといて冷静になったらまたケロッとするよ」


そう言ったが、江ノ島は内心では真逆のことを考えていた。……既に手遅れだと。


十神「フン、奴の逃げ癖は何も今回に限ったことじゃないだろう。騒ぎ過ぎだ。だから愚民なのだ」

大和田「こんのォッ!」

K「十神イイィィィイイイイイッ!!」


ドッゴォォッ!!


「!」


大和田が動くより前にKAZUYAが飛び出し、思い切り十神を殴りつけた。細身の十神は
小枝のように宙を舞うと地面にたたき付けられその勢いでゴロゴロと転がる。
衝撃で弾き飛ばされた眼鏡のガラスの割れる音が、生徒達の耳にも届いた。

KAZUYAは今までにない程本気で怒っている。今までどんな暴言を言われようとも、けして
手を上げることのなかったKAZUYAの初めての激怒は、生徒達にとっても衝撃であった。


K「俺は……俺は何度も言ったはずだぞ!!」


KAZUYAは起き上がろうとする十神の胸倉を力付くで掴んで持ち上げた。
十神はかなりの長身であるにも関わらず、踵が宙に浮いている。


K「俺は何度お前を庇ってやった?! 俺は何度お前に警告したっ?!」

K「弱い者虐めが趣味など、大した覇者だな!!」


青筋を浮かべながら力の限りKAZUYAは怒鳴った。今まで積もりに積もった怒りを全てぶつける。

しかし、当の十神は――


十神「ク、クククククク……」

K「何がおかしいっ?!」


笑っていた。


十神「……ちだ」

K「何?」

十神「俺の勝ちだ! クククククク、クハッハッハッハッハッハッ!!」


十神は乱暴にKの手を振りほどき自由の身となると、心底面白いというように力一杯哄笑を上げる。
眼鏡がなく頬が腫れているためただでさえいつもと大分雰囲気が違うのに、初めて見せた
その恍惚とした表情に何とも言えない気味の悪さを感じ、思わずKAZUYAは怒鳴るのを忘れた。


K「勝ちだと?」

十神「そうだ。結局貴様は暴力でしか俺に反論出来なかった! 何故なら俺の言葉が正しいからだ!」

十神「今ここで貴様等は俺に完全敗北したのだ! これが笑わずにいられるか! ハハハハッ!」


そう言って声高らかに笑う十神とは対照的に、KAZUYAの頭はすっかり冷えていた。
周囲の生徒も十神の尋常でない様子に動揺して嫌な沈黙に包まれている。


K「……何故お前はそこまでして勝利にこだわる?」

十神「勝たなければ意味が無いからだ。負けたら俺に存在価値などない」

K(……今朝石丸は、十神はああ見えて努力家だと言っていたな)

苗木「そんなのおかしいよ! 負けちゃいけないなんて……!」

十神「黙れ、平民が! 俺と貴様等では立場が違うのだ! 俺は十神を、
    いや世界を背負っている! こんな所で敗北する訳にはいかない!」

十神「俺には勝利する責任がある!!」

K「…………」

「…………」


胸倉を掴んだ時は興奮していて気が付かなかったが、よく見れば十神は微かに震えていた。

武者震いか、勝利による高揚か、オシオキという新たな恐怖への戦慄か。
或いはその全てがドロドロと入り混じった至極複雑な感情なのかもしれない。


K(そうか、この男は……)


ここにきて、KAZUYAは初めて十神白夜という人間を理解した。

十神は自分が正しいと思うことしかやらない。そして自分が正しいと感じたら、たとえそれがどんなに
非倫理的で不道徳なことでも妥協せず徹底して行う。周りに悪だと思われても自分の正義を貫くのだ。


K(十神は十神一族の後継者として生まれた。一族を、引いては世界を率いるという重い責任がある)

K(故に、自分が生き残って脱出するという目的のためには手段を選ばないのだ――)


大和田が強さに異常な執着を見せていたように、十神は勝利に対して異常な執着を見せている。

……勿論、それが受け入れられるものかどうかは別だが、果たして十神は『悪』なのだろうか。


モノクマ「かーっこいい! 十神君てゲームの悪役やらせたらすっごい似合いそうだよね」

十神「フン。黙れ、モノクマ。言っておくが最後に勝つのはこの俺だぞ。お前は俺が殺す」

モノクマ「うぷぷ。ま、本当は主人公っぽいモブなんだけどさ!」

十神「!! 何だと……?!」

十神「勝利を宿命付けられた“十神”の名にかけて……貴様を殺す。絶対にだ……!!」


               ◇     ◇     ◇


ダダダダッ、バタン!

電気もつけずに石丸清多夏は部屋に飛び込み、床にへたり込んだ。


「もう、駄目だ……」


何度もKAZUYAが励ましてくれた。大和田が自分のために全てを告白してくれた。
不二咲は助かる。裁判も無事に切り抜けた。……良いことはいくつもあったはずだ。

だが、傷付き過ぎた石丸の心にはそれらの出来事すら彼を蝕む震動であった。
思えば、最初に大和田が事件を起こした時から既に石丸の心にはヒビが入っていたのだ。
そして何か事が起こる度に、そのヒビは少しずつ広がり、無数に増えていった。
KAZUYAのその場凌ぎの補修では、もはや如何ともしがたい状態になっていたのだ。


(ああああ……)


頭を抱え呻き声を上げる。浮かんだのはあの凄惨なオシオキだった。
ジェノサイダーの、いや腐川の悲鳴が蘇る。自分のせいで、あれが危うく
仲間達の悲鳴になっている所だった。自分が仲間を殺す所だった。

……折角出来た友人を、自分の手で殺すのか。


「うああぁあああぁぁああああぁあああぁぁぁあ! っ……あぁぁ……」


再び絶叫するがその声は途中で力尽き、途絶えた。


(何が超高校級の風紀委員だ! 何がリーダーだ! みんなに迷惑ばかりかけて……!!)


髪をかきむしる。唇を噛み切る。血が出てももはや何も感じなかった。


(僕に出来た事など何もなかった……僕が何かすれば必ず悪いことが起こるのだ……!)


ならば、どうするべきか。

死ねばいいと思った。自分が消えても誰も損などしないだろう。
むしろ勘違いで仲間を殺そうとする危険人物は、いなくなった方がいいに決まっている。


(僕は……ここにいるべきではない。もう、二度と誰かに迷惑をかける訳にはいかない)


しかし残された大和田や不二咲は、KAZUYAはどう思うだろうか。
自分が死ねば、優しい彼等は一生責任を感じ続けるだろう。

ならば、どうするべきか……!


――死ねばいい。


生体活動だけ残して、生きながらに死ねばいいのだ。


そしてその日、石丸清多夏は生きるのをやめた。その目は――もう何も映さない。


               ◇     ◇     ◇


地上に戻ってきたKAZUYA達は石丸の部屋に全力で駆け込んだ。


K「石丸!」

大和田「兄弟!」


鍵は掛かっていなかった。更に言うなら部屋の電気もついていない。


大和田「おい、石丸ッ?!」


KAZUYAが冷静に電気をつけ部屋を見渡すと、


「…………」

「石丸……」

「兄、弟……?」


石丸はいた。部屋の隅に座り自身の膝を抱えてうずくまっていた。
何より目を引いたのは、度重なって与えられた極度のストレスがとうとう限界を超えたと
周囲に示すように――髪が真っ白になっていたことだった。瞳に全く生気がない。


(これは……)

「お、おい兄弟……どうしちまったんだよ……」

「…………」


「な、なあ、なんか言ってくれよ。おい……」

「……てくれ」

「あ? なんだって……」

「許してくれ許してくれすまない申し訳ないすみませんごめんたすけてごめんなさい……」

「おい、兄弟? お前俺の声聞こえてんのか?! おい! おい!!」

「すまないすまないごめん許してください申し訳ありません許してくれ……」


まるで壊れたラジオのように、石丸は何度も同じ言葉を繰り返した。
その言葉は全て謝罪の言葉か許しを請う言葉だった。


「石丸……!」

「兄弟……なあ、しっかりしてくれよ……なあ!!!」


駆け付けた他の生徒達も、変わり果てたクラスメイトの姿に言葉を失っていた。

KAZUYA達は忘れていたのだ。この学園では、勇気も、友情も、努力も、何の意味も持たないことを。


失ってしまってから、思い出したのだった――






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  学級裁判編  ― 完 ―



― Chapter Result ―


【物語編】

・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
 また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
 「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
 引き起こしたのではないかとKは考えている。
・黒幕メンバーに本物の江ノ島盾子がいることに気付いた。
・アルターエゴがPCから何らかのデータを解析した。
・初めて学級裁判が開かれた。

【生徒編】

・石丸が医者を目指し、苗木も巻き添えの形で現在医学の勉強中。
・不二咲の擬似人格プログラム・アルターエゴが完成した。
・舞園は自身を「脱出のための駒」として定義し演技している。
・大神は実は内通者であることを隠している。
・江ノ島が黒幕の味方だと桑田も気付いた。
・石丸の顔に大きな傷痕が出来た。麻酔が足りないので今は消せない。
・不二咲が本当は男だと告白した。
・大和田が自身の秘密を告白した。
・腐川が実は二重人格者で裏人格は超高校級の殺人鬼「ジェノサイダー翔」だった。
・石丸の精神が崩壊した。

【その他】

・『石丸 清多夏』が仲間になった(ただし精神が崩壊している)!
・『不二咲 千尋』が仲間になった(ただし負傷している)!
・『大和田 紋土』が仲間になった!
・『霧切 響子』が仲間になった!





       【14人】

        ↓ カタッ

       【11人】


     to be continue...



ここまで。フウ、なんとか入りきったぜ。やっと長かった二章終わったあああああああああ

……正直、十神君はやりすぎかなとも思ったけど、二章の裁判の時の
台詞考えたらマジでこれぐらいやりそうだなと思ったので、やってしまった

ああ、エピ0どうしよう……この際小ネタ用のスレでも立てようかな
おまけデータも色々作ってたのに……次スレに回すか


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それでは、たえちゃんがやたらスレタイで殺る気満々な次スレでお会いしましょう!
3スレ目もお付き合い頂きありがとうございました!

セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403356340/)


ED「絶望性:ヒーロー治療薬」
http://www.youtube.com/watch?v=E4xPtdJdNTU


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